事件番号 | 令和3(わ)549 |
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事件名 | 殺人被告事件 |
裁判年月日 | 令和3年12月10日 |
法廷名 | 札幌地方裁判所 |
全文 | 全文 |
最高裁判所 | 〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map |
裁判日:西暦 | 2021-12-10 |
情報公開日 | 2022-02-06 19:19:50 |
令和3年(わ)第549号 判決 上記の者に対する殺人被告事件について,当裁判所は,裁判員の参加する合議体により,検察官大友隆及び同中田和暉並びに国選弁護人宮永尊文(主任)及び同白諾貝各出席の上審理し,次のとおり判決する。 主文 被告人を懲役13年に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 札幌地方検察庁で保管中のサバイバルナイフ1本(同庁令和3年領第763号符号1-1)を没収する。 理由 (犯行に至る経緯) 被告人は,約20年間にわたり,職に就かず,家に引き籠もりがちとなり,同居する両親に経済的に依存して生活していたところ,実父であるA(以下被害者という。)の実母に対する日頃の態度が冷淡であると感じたことや,令和2年6月,実母が亡くなった際,被害者が家族葬の方針に固執したことなどにも反発し,被害者に憎しみを募らせるようになった。被告人は,同年8月下旬頃,実母が被告人のために残した金銭の使い道についての被害者の発言に強い怒りを感じ,被害者の殺害を考えてサバイバルナイフ等を購入した。その後,被告人は,転居していた被害者から毎月手渡される生活費が不十分であることや,自らへの接し方に不満を感じたことなどから,被害者に対する憎しみを更に募らせ,令和3年6月25日,経済的に行き詰まりを感じたことに加え,実母の一周忌の際の被害者の言動を契機に,同サバイバルナイフを用いた被害者の殺害を決意した。 (罪となるべき事実) 被告人は,同年7月25日午前11時53分頃,札幌市a区bc条d丁目e番f 号Bマンションg号室被告人方及び同マンション西側駐車場において,被害者(当時75歳)に対し,殺意をもって,その胸腹部等を前記サバイバルナイフ(刃体の長さ約18.9センチメートル。札幌地方検察庁令和3年領第763号符号1-1)で約7回突き刺すなどし,よって,同日午後0時54分頃,同市h区i条j丁目C病院において,同人を胸腹部刺切創による出血性ショックにより死亡させた。(証拠の標目)省略 (法令の適用) 罰条 刑法199条 刑種の選択 有期懲役刑を選択 未決勾留日数 刑法21条(60日を刑に算入) 没収 刑法19条1項2号,2項本文 用 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担) 訴訟費 (量刑の理由) 本件犯行に至る経緯,犯行動機は判示のとおりである。被告人が,被害者の言動等に怒りを抱いたことには理解できる部分もあるが,被害者は,被告人のため,別居後に生活費を毎月直接届けたり,コロナ禍等のために延期されたものの同居の再開を検討したりするなど,無収入の被告人の生活に配慮していたことがうかがわれ,被告人が,被害者に対し一方的に憎しみを募らせ,殺害まで決意したことは理解できず,身勝手というほかない。被告人は,社交不安障害のために家に引き籠もりがちになって被害者からの影響を大きく捉え過ぎ,憎しみを過剰に募らせたと考えられるが,同障害は,殺害の意味を理解して思いとどまることに影響するものではなく,酌量の余地は少ない。 本件犯行態様は,攻撃力の高いサバイバルナイフで被害者の腹や腰などの身体の枢要部を多数回突き刺すというもので,しかも,複数回の攻撃の後,被害者を追い,胸骨を貫通するほどの強い力で胸を突き刺したことが直接の致命傷となっている。強固な殺意に基づく執ようなもので,悪質というほかない。思いがけず命を落とし た被害者の無念さは計り知れない。 これらの犯情を踏まえると,本件は,親を被害者とし,刃物類が凶器に用いられた殺人の単独犯1件という事案の中で,重い部類に位置付けられる。その上で,他の一般情状についてみると,被告人が,事実を認めるとともに,被告人なりの謝罪の言葉を述べ,社会復帰後は精神科や福祉の支援を受けて稼働し更生する意欲を示していること,犯行後に自首をしていること,前科はないことなどの事情もある。 以上の事情を考慮して,主文の刑期が相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑 懲役15年,主文同旨の没収) 令和3年12月14日 札幌地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官 井下田 英樹 裁判官 山下智史 裁判官 後藤紺 |