事件番号 | 令和3(わ)492 |
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事件名 | 被告人Aに対する加重収賄被告事件,被告人Bに対する贈賄被告事件 |
裁判年月日 | 令和3年12月16日 |
法廷名 | 福岡地方裁判所 小倉支部 |
全文 | 全文 |
最高裁判所 | 〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map |
裁判日:西暦 | 2021-12-16 |
情報公開日 | 2022-02-06 19:19:44 |
被告人Aを懲役2年6月に,被告人Bを懲役1年に処する。 被告人Aに対し,未決勾留日数中30日をその刑に算入する。 この裁判確定の日から,被告人Aに対し4年間,被告人Bに対し3年間,それぞれその刑の執行を猶予する。 被告人Aから金34万8244円を追徴する。 理由 【罪となるべき事実】 被告人Aは,平成31年4月1日から令和3年3月31日までの間,国土交通省九州地方整備局(以下九州地方整備局という。 )関門航路事務所(以下関門航路事務所という。 )C係長として,関門航路事務所が管轄する航路の環境の整備及 び保全,緊急確保航路における災害の防止及び復旧等の業務を行う船舶及び機器の運用に関する事務等を掌理し,これらの事務に関して必要な物品購入,役務提供業務の発注等の職務に従事していたもの,被告人Bは,船舶修理業,工作機械等の販売を業とする有限会社D(以下Dという。 )の取締役としてDの業務全般を統括 掌理していたものであるが 第1 被告人Aは,関門航路事務所が発注する古多関節クレーン修理の役務提 供業務に関し,被告人Bから,前記役務提供業務をDが受注できるように有利かつ便宜な取り計らいを受けることなどに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,別表1記載のとおり,令和2年11月24日頃から令和3年2月17日頃までの間,3回にわたり,北九州市門司区西海岸一丁目3番10号の門司港湾合同庁舎駐車場において,ワイヤレスイヤホン等8点(販売価格合計34万8244円)の供与を受け,もって自己の前記職務に関して賄賂を収受し,よって,Dから当初見積代金額を125万4000円と提示されていた前記役務提供業務の支払代金額を水増ししようと考え,別表2要求書提出年月日欄記載のとおり,同年2月17日頃から同年3月23日頃までの間,同業務の見積代金額の合計を227万2600円とする内容の物品購入要求書3通を作成し,3回にわたり,同要求書3通を関門航路事務所品質管理課に提出し,所定の手続を経て,情を知らない関門航路事務所品質管理課長をして, Dとの間で, 別表2 締結年月日 欄記載のとおり, 同年2月19日頃から同年3月23日頃までの間,3回にわたり,前記業務につき支払代金額合計227万2600円とする随意契約を締結させ,更に情を知らない九州地方整備局総務部経理調達課長をして,別表2振込年月日欄記載のとおり,同年3月5日から同年4月2日までの間,3回にわたり,山口県下関市a町b丁目c番d号所在の株式会社E銀行F支店のD名義の普通預金口座に,前記代金として合計227万2600円を振込入金させ,もって職務上不正の行為をし 第2 被告人Bは,被告人Aに対し,前記第1記載の趣旨の下に,別表1記載のと おり,令和2年11月24日頃から令和3年2月17日頃までの間,3回にわたり,前記第1記載の北九州市門司区西海岸一丁目3番10号の門司港湾合同庁舎駐車場において,ワイヤレスイヤホン等8点(販売価格合計34万8244円)を供与し,もって被告人Aの前記職務に関し,賄賂を供与した。 【法令の適用】 被告人Aについて 罰 条 判示第1の所為 包括して刑法197条の3第1項(197条1項前 段) 未決勾留日数の算入 刑法21条 刑の執行猶予 刑法25条1項 追 刑法197条の5後段(被告人Aが判示第1の犯行 徴 により収受した賄賂は既に費消しているか,現に存 在するか明らかでないから没収することができない) 訴訟費用の不負担 刑訴法181条1項ただし書 被告人Bについて 罰条 判示第2の所為 刑種の選 包括して刑法198条 択 刑の執行猶予 懲役刑選択 刑法25条1項 【量刑の理由】 1⑴ まず,被告人Aは,自己が担当する船舶関係の役務提供業務に関し,事実上,発注先の選定や発注金額の決定ができる立場にあったことを悪用し,Dに優先的に随意契約を回したり,発注金額を上乗せしたりするという有利かつ便宜な取り計らいに対する見返り等の趣旨で,被告人Bに対して自ら積極的に賄賂を要求し,販売価格合計34万8244円の物品8点の供与を受けた上,Dから提出された見積金額に約100万円を上乗せした発注金額でDに受注をさせている。かように,本件は,被告人Aが,計画的かつ主導的に行ったもので,その態様は悪質である上,賄賂である前記物品の価格及び前記上乗せ金額のいずれも決して少額とはいえず,常習性も窺われるのであって,公務の公正さやこれに対する社会の信頼が害された程度も大きい。被告人Aは,前記業務の特殊性について供述するが,結局のところ私利私欲のために判示第1の犯行に及んだもので,その身勝手な動機に酌むべき点はない。 ⑵ また,被告人Bは,被告人Aの要求に応じ,前記見返り等の趣旨で賄賂を供与したものであり,判示第2の犯行は,公務の公正さやこれに対する社会の信頼を損なう悪質なものといえる。被告人Bは,発注者と受注者という関係性から,立場上優位な被告人Aの要求を断れなかった旨供述するが,その要求が違法なものであると認識したにもかかわらず,Dの利益になることもあって同犯行に及んでいる以上,動機として酌むべき余地は乏しい。 2 以上の事情に照らすと,被告人Aの判示第1の犯行の犯情はそれなりに重く,被告人Bの判示第2の犯行の犯情も軽くはない。 もっとも,被告人両名がそれぞれ犯行を認めて反省の態度を示していることに加え,被告人Aについては,前科がなく,内妻が出廷して監督を誓約していること,被告人Bについても,古い罰金前科しかなく,本件発覚によりDの事業を廃業する予定であることなどの一般情状を考慮し,同種事案の量刑傾向を踏まえて検討すると, 被告人両名に対し, 刑事責任の重さに応じて各主文の刑を科した上, 今回に限り,いずれもその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。(検察官の求刑 被告人Aに対し懲役2年6月・主文同旨の追徴,被告人Bに対し 懲役1年,被告人Aの弁護人の科刑意見 告人Bの弁護人の科刑意見 懲役1年6月・4年間刑の執行猶予,被 刑の執行猶予) 令和3年12月16日 福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部 裁判長裁判官 森 裁判官 内 裁判官 鈴 ※別表はいずれも省略 喜史山香奈木紫門 |