判例検索β > 令和2年(行ケ)第10122号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和2(行ケ)10122
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和4年1月19日
法廷名知的財産高等裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-01-19
情報公開日2022-02-06 19:22:22
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令和4年1月19日判決言渡
令和2年(行ケ)第10122号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

令和3年11月9日
判決原告
メジオンファーマカンパニーリミテッド

同訴訟代理人弁理士

被谷
特許庁長官

告川英次郎
同指定代理人

穴吹智子同井上典之同小暮道明主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は,原告の負担とする。

3
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

第1

実及び理由
請求
特許庁が不服2019-1474号事件について令和2年5月28日付けでした審決を取り消す。

第2

事案の概要

1
特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。



原告は,発明の名称をウデナフィル組成物を用いてフォンタン患者における心筋性能を改善する方法とする発明について,2015年6月30日
(パリ条約による優先権主張
015年6月29日

2014年8月12日

アメリカ合衆国,2

アメリカ合衆国)に国際特許出願をした(日本国にお

ける出願番号は特願2017-504434号。請求項の数23。以下本願という。。)


原告は,平成30年2月20日付けで拒絶理由通知を受けたので,同年9月6日,特許請求の範囲について手続補正をするとともに,意見書を提出したが,平成30年9月14日付けで拒絶査定を受けた。



原告は,
平成31年2月4日,
拒絶査定不服審判を請求し,
同年4月4日,
手続補正をし,さらに,令和元年7月17日付けの拒絶理由通知を受け,令和2年1月23日,特許請求の範囲について手続補正(以下本件補正と
いう。
)をするとともに,意見書を提出した。
特許庁は令和2年5月28日,上記審判請求(不服2019-1474号事件)につき,

本件審判の請求は,成り立たない。

との審決(以下本件審決という。)をし,その謄本は,同年6月20日,原告に送達された。


原告は,令和2年10月19日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2
特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の記載は,請求項1から11からなり,その請求項1の記載は,
次のとおりである
(以下,
請求項1に係る発明を
本願発明

という。。

【請求項1】
フォンタン手術を受けた患者における,最大努力時VO2により測定される運動耐容能の改善用の医薬組成物であって,ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩を含み,該ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の投
与量が1回当り87.5mgであり,前記組成物が1日2回投与される,医薬組成物。

3
本件審決の理由の要旨


本件審決の理由の要旨は,①本件出願の願書に添付した明細書(甲1。以下,図面を含めて本願明細書という。
)の発明の詳細な説明には,その記
載及び本願の出願当時の技術常識に基づいて,本願発明の医薬組成物の使用をすることができることを,当業者が理解することができる程度に記載され
ていないから,特許法36条4項1号の実施可能要件を満たしておらず,②本願発明は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らしその課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないから,同条6項1号のサ
ポート要件を満たしていないので,その余について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものであるというものである。


実施可能要件違反についての本件審決の判断の要旨は以下のとおりである。本願発明の医薬としての用途は,フォンタン手術を受けた患者における,
最大努力時VO2により測定される運動耐容能が向上することを意味するところ,本願明細書の【0179】ないし【0182】には,実施例3として,ウデナフィルによる治療前1日目と治療後5日目に,運動負荷試験による最大努力時VO2の測定が行われ,その結果が表14並びに図2及び図3に記載されているが,
表14の87.
5mg1日2回欄の測定結果を参照しても,

ベースライン測定と追跡調査測定で有意差があるものとは認められず,また,
図2の87.5mg1日2回欄を参照しても,平均値及び中央値共に,最大努力時VO2が有意差をもって正に変化しているものとは認められない。図3には,被験者ごとのベースライン(治療前1日目)及び治療後5日目の結果が示されているが,当該記載によっても最大努力時VO2が有意差をもっ
て正に変化しているものとは認められない。したがって,本願明細書には,当業者が,フォンタン手術を受けた患者において,ウデナフィル又はその薬
剤的に許容可能な塩を,1回当り87.5mgを1日2回投与した際に,最大努力時VO2により測定される運動耐容能を改善することを理解することができるように記載されているとはいえない。
さらに,本願出願時において,ウデナフィルが,フォンタン手術を受けた患者における,最大努力時VO2により測定される運動耐容能を改善すると
いった技術常識が存在するものとも認められない。
そうすると,本願明細書及び出願時の技術常識を参酌しても,ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩を,1回当り87.5mgを1日2回投与することで,フォンタン手術を受けた患者における,最大努力時VO2により測定される運動耐容能の改善用の医薬組成物として機能することを,当業
者が理解できるように記載されているものとは認められない。


サポート要件違反についての本件審決の判断は以下のとおりである。上記(2)において説示したところによれば,
本願発明は,
本願明細書の発明
の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出
願時の技術常識に照らしその課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
第3

当事者の主張

1
取消事由1(実施可能要件の判断の誤り)


原告の主張

本願発明が実施可能要件を満たすことについて
(ア)

本願明細書の実施例3として,ウデナフィルによる治療前1日目と
治療後5日目に,運動負荷試験による最大努力時VO2の測定が行われた結果である図2によれば,
ウデナフィルを87.5mg,
1日2回投与
された(以下本件処方という。
)5名のうち2名は,明らかに最大V
O2が正に変化しており,本願発明の医薬が有効であったことを示して
いる。一方,本件処方を受けた5名中3名は,最大VO2が減少しており,本願発明の医薬が無効であったことを示している。
本件審決は,この結果について,有意差がないとしているところ,5名中2名しか効いていないので,
有意差がない
ということ自体は正し
いと考えられる。しかしながら,有意差がないから,医薬としての有効
性が認められず,
実施可能要件が認められないということにはならない。
(イ)

本願発明は,フォンタン患者のための治療薬であるから,その性質
上,動物実験やインビトロ実験(シャーレ,フラスコ,試験管等で行う生体外での実験)では試験を行うことができず,ヒト臨床試験に限られるという事情がある。

ヒト臨床試験を必要とする発明について,特許出願前に有意差を伴う実験データを出すことは非現実的である。
(ウ)

実際に,実施例3に係る運動負荷試験で本件処方を受けて,症状が
大幅に改善した患者がいる(甲11,12)


小括
よって,本願発明に実施可能要件がないとした本件審決の判断は誤りである。



被告の主張

本願発明が実施可能要件を満たさないことについて
(ア)

本願発明の実験結果
本願明細書の【0179】ないし【0182】には,フォンタン手術
を受けた患者における,最大努力時VO2により測定される運動耐容能」に関する唯一の試験として実施例3が記載されており,ウデナフィルによる治療前1日目と治療後5日目に,運動負荷試験による最大努力時VO2が測定され,その結果が表14並びに図2及び図3に記載されている。(イ)本願発明の医薬組成物によって,最大努力時VO2により測定される運動耐容能が改善できると,当業者が認識し得るか否かについてa本願発明の「ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の投与量が1回当たり87.5mgであり,前記組成物が1日2回投与される
との発明特定事項を満足する,本願明細書の表14における87.5mg,1日2回欄すなわち本件処方の欄には,ベースライン測定の結果が28.0±5.2であり,追跡調査測定の結果が28.2±6.0であり,その差(変化スコア)が0.2±5.0であることが記載されているが,変化スコアの平均値に対して,そのば
らつきを示す±5.0は非常に大きな値である。また,ベースラ
イン測定の結果や,追跡調査測定の結果も,大きなばらつきを持つ値である。
そうすると,比較する群間で観察された結果の差が誤差によるものではないことをいうには,まずはデータにばらつきが少ないことが必
要であるという統計の常識からすると,上記の変化スコアの平均値が誤差によるものではないということはできない。
また,上記表14の本件処方の欄の変化スコアは,ベースライン値に対してわずか約0.71%の正の変化を示したにとどまり,運動耐容能の改善をもたらす最低の数値として本願明細書の【0081】に
記載されている最大努力時VO2の1%にさえ満たないのであるから,本願発明にいう改善を達成し得たことを裏付けるものではない。
さらに,表14には,薬剤を投与しない対照(
運動のみ群)のコ
ホートや投与デザインの異なる4つのコホートを含め,計6つのコホートについて最大努力時ピークVO2測定結果が記載されているが,
本願明細書には,分散分析は変化スコア間に差がないことを示唆する(p=0.85)旨記載されている(
【0180】。変化スコア間に差


がないことが示唆された6つのコホートには,上記のとおり,薬剤を投与しない対照群も含まれているのであるから,本件処方の治療群における最大努力時VO2について,本願発明にいう改善を達成し
得たことが示されているとはいえない。
加えて,本願出願時において,ウデナフィルが,
フォンタン手術を受けた患者における,最大努力時VO2により測定される運動耐容能を改善するといった技術常識が存在するとはいえない。
b
図2によれば,本件処方の治療群の最大努力時VO2の変化スコアの中央値が負の変化を示したこと,当該変化スコアの平均値が0であ
ること,また,当該治療群における各被験者の最大努力時VO2の治療前後の個別変化では,総被験者5名のうち,正の変化を示した被験者が2名であり,負の変化を示した被験者が3名であることが示されている。
そして,前記aのとおり,本件処方の治療群における各被験者の最
大努力時VO2の変化スコアは,ばらつきが非常に大きく,誤差の範囲内といえるから,本願明細書に正の変化が改善を示す【018

1】との記載があるものの,

正の変化を示した2名の被験者の変化ス
コアも誤差の範囲内の数値というべきものであり,必ずしも最大努力時VO2が改善したことを示しているとはいえない。なぜなら,薬剤
を投与しない対照群においても,3名の被験者の変化スコアが正の変化を示しているからである。
また,これらの試験結果によれば,変化スコアの中央値,平均値及び各被験者の個別変化スコアからみても,本願発明の医薬組成物がフォンタン手術を受けた患者の最大努力時VO2を正に変化させるとい
う一定の傾向が示されているとはいえない。
さらに,図3の6つの図のうち,右列中段の87.5mg1日2回との表題が付された図には,各被験者個別の治療前後の最大努力時VO2の変化が示されているが,同じくフォンタン手術を受けた患者でありながら,正の変化を示した被験者2名と,負の変化を示した被験者3名といった正反対の結果がもたらされた理由について,本願明細書には何らの説明もなされていないし,本願出願時の技術常識を含め考慮しても,例えば,被験者の属性等において,それぞれ何らかの共通する要素が存在し,その要素の違いが,正の変化か,それとも負の変化かの結果の違いを生じせしめたといった特段の事情も見いだせない。

そして,仮に,正の変化を示した2名の被験者の最大努力時VO2を改善したというのであれば,負の変化を示した3名の被験者の最大努力時VO2は悪化したということになるから,フォンタン患者に対する本願発明の医薬組成物の使用は,最大努力時VO2が悪化する割合の方が高いという状況のもと,最大努力時VO2を改善させるか悪
化させるか何の予見もないまま行わなければならないことになる。そして,悪化の場合,最大で約36から約31への,約14%悪化という,フォンタン患者にとっては許容できるとはいえない悪化が引き起こされていることが図3から読み取れることからすると,最大努力時VO2を改善させるとの期待をもって,フォンタン患者に対して本願
発明の組成物を使用できると,当業者が認識できるとはいえない。以上のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には,本件処方の場合に,最大努力時VO2が,偶然による誤差の範囲内ではなく,何か意味のある正に変化していることが記載されているとは認められないし,変化スコアが正の変化を示した被験者についても,必ず
しも最大努力時VO2が改善したことが示されているとはいえないから,当業者が,最大努力時VO2を改善させるとの期待をもって,フ
ォンタン患者に対して本願発明の組成物を使用できると認識できるとはいえない。

小括
以上によれば,本願発明について実施可能要件違反があるとした本件審決の判断に誤りはない。

2
取消事由2(サポート要件違反の解釈の誤り)


原告の主張
明細書に有意差を伴う実験データが記載されていなければサポート要件違反があるとはいえないことは,前記1⑴アで実施可能要件について主張したのと同様である。



被告の主張
本件審決は,本願明細書には,フォンタン手術を受けた患者に,ウデナフィルを87.
5mg,
1日2回投与することによって,
最大努力時VO2が,
偶然による誤差の範囲内ではなく,何か意味のある正に変化していることが記載されているとは認められないこと,また,変化スコアが正の変化を示し
た被験者についても,必ずしも最大努力時VO2が改善したことが示されているとはいえないこと,及び本願出願時において,ウデナフィルがフォンタン手術を受けた患者における,最大努力時VO2により測定される運動耐容能を改善するといった技術常識が存在するとはいえないことから,本願明細書に,本願発明の課題であるフォンタン手術を受けた患者における,最大努力時VO2により測定される運動耐容能の改善を解決できると当業者が認識できる程度に記載がなされているとは認められず,本願の特許請求の範囲の記載は,サポート要件を満たしていない旨,判断したものであり,その判断に誤りはない。
第4
1
当裁判所の判断
明細書等の記載事項について



本願明細書の発明の詳細な説明には,別紙のような記載がある。



前記⑴の記載事項によれば,本願明細書には,次のような開示があることが認められる。

本発明は,フォンタン術を受けた患者においてホスホジエステラーゼE5(PDE5)阻害剤を使用する分野に関する(
【0002】。



フォンタン手術又はフォンタン/クロイツェル手術は,機能的単心室先天性心疾患をもって生まれてきた子どもたちに対する緩和的外科的処置であり,右心ポンプ室を必要とすることなく血流を肺循環及び体循環に連続して供給するようにデザインされ,体静脈血が,単心室のインピタスに基づいて,動脈,毛細血管,及び体循環静脈系を通して肺循環に直接流れ
ることを可能にする(
【0003】。


フォンタン手術の後に,
血液を肺動脈に送り出す心室ポンプは存在せず,
血液は体静脈から受動的流れによって肺に戻る。時間と共に心血管効率の予測可能な持続的低下をもたらし,この運動耐容能の低下から,入院,心不全管理の強化,移植の必要性が生じうる(
【0004】。


複数の研究はフォンタン手術後15年を超える生存の減少を示している。単心室生理をもつ小児及び若年成人はフォンタン手術後,運動耐容能が異常であり,心拍出量を改善し,中心静脈圧を減少させることを標的とした戦略がとられてきた(
【0007】【0008】。



当該技術分野において,心不全の発症を遅らせたり,フォンタン手術を受けた患者のクオリティ・オブ・ライフを上げたりする改良治療法に対するニーズがある(
【0020】。



運動負荷試験は最大努力の間又は無酸素性代謝閾値におけるVO2値の評価を含み,この試験は心肺の健康状態に関する最も信頼できる基準であ
る(
【0076】。

フォンタン手術を受けた患者は一般的に,時間経過と共にVO2測定値
の低下を経験することになるので,患者を本発明による方法で治療して,結果として患者のVO2測定値が同レベルに維持されるか,VO2測定値が改善したりすることは,治療が臨床的に有益であり,且つ心血管機能の低下を改善又は予防しうることを示す【0078】。

)幾つかの実施形
態では,本開示の方法及び組成物はフォンタン患者に投与され,最大努力
時VO2を,具体的には1,2,5,10,15,20,25,30,35,40,45,又は50%以上改善しうる(
【0081】。


フォンタン循環では,肺血流は受動的であり,肺血管床を通る血液をより効率的に輸送可能にできる薬剤は,心前負荷の改善を可能にするので,心拍出量を改善できるところ,PDE5阻害剤は,肺高血圧症及び心筋機
能不全をもつ患者において肺血管抵抗を低下させ,かつ,心室機能を改善する【0095】


【0096】。
)PDE5阻害剤のうち,
タダラフィルは,
換気効率及び酸素飽和度を改善したが,
運動耐容能は不変であり【001

2】,
)シルデナフィルは,
換気効率,
酸素消費,
心室収縮期エラスタンス,
心室動脈カップリングなどで改善を示す一方【0009】


【0010】,


半減期が短く,典型的には1日3~4回投与され,患者のコンプライアンスを低下させる可能性がある等の問題があった【0097】。

)心機能が時
間経過とともに低下するのを解消するか,その低下を著しく減少させることができる本発明による方法の成功の鍵は,好ましい服薬スケジュールへの患者のコンプライアンスである(
【0099】。



PDE5阻害剤ウデナフィルは,相対的に速い作用発現及び長時間の作用を有し,様々な病態に対して1日1回治療として有用であることが示されている。
本発明は,ウデナフィルの,フォンタン術を受けた患者への
投与が,有酸素運動能力の低下を防止又は改善するという仮説のもとにな
されたものであり,ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩を投与することを含む,フォンタン術に関連する症状を治療し,最小限にする方法
及び/又は予防する方法を対象とする(
【0017】【0097】【010


7】【0108】。



実施例3は運動負荷試験であるが,治療群ごとの,運動負荷試験の重要なアウトカム-ピークVO2の結果をまとめるのが表14,変化スコアの結果を視覚的に示すのが図2及び図3である(正の変化が改善を示す。。)

表14における分散分析は変化スコア間に差がないことを示唆する(p=0.
85)図2はペア測定

(丸)
をもつ各被験者の個別変化スコアを示し,
2本の線は平均値及び中央値である。図3は各被験者及び各コホートの治療前後の最大VO2値を示す(
【0179】ないし【0181】。

2
取消事由1(実施可能要件の判断の誤り)について


特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないと定めるところ,この規定にいう実施とは,物の発明においては,その物を作り,使
用をする行為をいうものであるから
(同法2条3項1号)物の発明について

実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が,その記載及び出願時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,当該発明に係る物を作り,使用をすることができる程度のものでなければならない。

そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,その有用性を予測することは困難であり,発明の詳細な説明に,有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されていても,それだけでは,当業者は当該医薬が実際にその用途において利用できるかどうかを予測することは困難であり,当業者が容易にその実施をす
ることができる程度に記載されているというためには,明細書において,当該物質が当該医薬用途に利用できることを薬理データ又はこれと同視するこ
とができる程度の事項を記載して,その医薬を製造することができるだけでなく,出願時の技術常識に照らして,当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるように記載される必要がある。
本願発明は,前記1⑵のとおり,フォンタン手術を受けた患者における,最大努力時VO2により測定される運動耐容能の改善のため,シルデナフィルに比べ長い半減期を持つPDE5阻害剤の投与がフォンタン手術後に患者の有酸素運動能力の低下を防止又は改善することになるとの仮説の下に,PDE5阻害剤ウデナフィルが様々な病態に対して1日1回治療として有用であり得ることから,フォンタン患者に対してウデナフィルを特定量投与する
医薬組成物としたものであり,
医薬についての用途発明である。
そうすると,
本願発明が実施可能要件を満たすためには,本願明細書の発明の詳細な説明に,
ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の,
1回当たり87.5mg,
1日2回の投与により,フォンタン手術を受けた患者において,最大努力時VO2により測定される運動耐容能の改善に使用できることが,当業者が理
解できるように記載されている必要がある。
⑵ア

本願明細書には,前記1⑵のとおりの開示があり,これに接した当業者は,
本願発明は,
フォンタン循環において肺血流が受動的であることから,
肺血管床を通る血液をより効率的に輸送可能にできる薬剤は心拍出量を改善できることに基づき,肺血管抵抗を低下させ,心室機能を改善する薬
剤であるPDE5阻害剤であるウデナフィルを,フォンタン患者に投与することとしたものであり,ウデナフィルは,シルデナフィルと比較して相対的に早い作用発現及び長時間の作用という特性をもつことを理解するものといえる。また,本願明細書に接した当業者は,本件処方は,運動耐容能の改善をもたらし得ることを理解するものといえる(なお,本願明細
書では最大努力時VO2測定値が維持される場合と改善される場
合を区別しており【0078】,

)最大努力時VO2測定値の単なる
維持

は改善には含まれないことを理解するものといえる。。


本件処方が,運動耐容能の改善をもたらし得ることに関して,本願明細書には,具体例として,最大努力時VO2を主要アウトカムとした運動負荷試験である実施例3が記載されている(【0180】ないし【018

2】
,図2,図3)

当該試験では,フォンタン患者36名を,
投与量37.5mg,1日1回
(コホート1)投与量37.5mg,1日2回

(コホート2)投与,量87.5mg,1日1回
(コホート3)

投与量87.5mg,1日2回
(コホート4,
本件処方)

投与量125mg,1日1回
(コホート5)


対照(薬剤なし)
(コホート6)
の6つのコホートに分け【0157】,


投与前の最大努力時VO2(ベースライン測定)及び5日間投与後の最大努力時VO2(追跡調査測定)が測定され,試験結果は,表14,図2及び図3に記載されている。
(ア)

まず,表14をみると,6コホートの,
ベースライン測定追跡,調査測定及び変化スコアが記載されており,これらの各数値は,各コホートに属する被験者の平均値である。
本件処方であるコホート4では,ベースラインの平均値が28.0±5.2,追跡調査の平均値が28.2±6.0
,変化スコアの平
均値が0.2±5.0であり,変化スコアの平均値はベースライン
の平均値に対してわずかに0.
71%の増加にとどまっている。
そして,
これは,本願明細書の【0081】に,本願発明が最大努力時VO2を改善するものとして具体的に挙げられている数値の中で最低のものである1%にも満たないものである。
また,変化スコアの平均値0.2に対して,ばらつきを示す標準

偏差の値±5.0は非常に大きな値であるし,本願明細書には分散分析は変化スコア間に差がないことを示唆する(p=0.85)と。

記載されている(
【0180】。

これに,前記アのとおり最大努力時VO2測定値の単なる維持は
改善には含まれないことを併せ考えると,表14に示される結果からは,本件処方により運動耐容能が改善されたとか,本件処方が,他の投与量,投与回数よりも,運動耐容能の改善の点において優れていると
理解することはできない。
(イ)

次に,各被験者の個別変化スコアを示す図2並びに各被験者及び各
コホートの治療前後の最大努力時VO2を示す図3によると,本件処方のコホート4では,
5名のうち,
2名の最大努力時VO2は正に変化し,
3名の最大努力時VO2は負に変化しているところ,正の変化が改善を示すとの記載(
【0181】
)によれば,5名のうち2名については,
最大努力時VO2が改善し,3名については,最大努力時VO2が悪化したということになる。しかし,同じくフォンタン手術を受けた患者の中で,正の変化をした者2名と,負の変化をした者3名という正反対の結果がもたらされた理由については,本願明細書には何ら記載がない。
また,図2及び図3によれば,本件処方以外のいずれのコホートにおいても,
対照(薬剤なし)群であるコホート6を含め,最大努力時V
O2が正に変化した者と負に変化した者が存在することが看取されるが,正あるいは負に変化した例数や程度と,ウデナフィルの投与量や投与回数との間に,一定の傾向や,対応関係,技術的意味があることを看取す
ることはできない。

本願明細書には,PDE5阻害剤の,フォンタン患者における薬効の作用機序として,前記アのとおり,肺血管抵抗を低下させ,心室機能を改善すること等が記載されており,実際,シルデナフィルに関しては,フォン
タン患者の運動能力を改善する重要な薬剤であることが示唆されることも記載されている(
【0009】。


しかしながら,一方で,同じPDE5阻害剤であっても,タダラフィルのように,フォンタン手術を受けた患者における,最大努力時VO2により測定される運動耐容能が不変であった(
【0012】
)ものも知られてい
るところ,本願明細書には,ウデナフィルが,PDE5阻害剤の中で,タダラフィルとは異なって,シルデナフィルと同様に,フォンタン手術を受
けた患者における,最大努力時VO2により測定される運動耐容能を改善する作用機序は記載されていない。
また,ウデナフィルが,フォンタン手術を受けた患者における,最大努力時VO2により測定される運動耐容能を改善するとの技術常識があるとも認められない。


以上のように,本件処方における変化スコアの平均値は小さい一方で,ばらつきを示す標準偏差が非常に大きな値であること,本件処方を受けた者,そのほかの用量・用法の処方を受けた者,ウデナフィルを投与されなかった者のそれぞれについて,最大努力時VO2が正に変化した場合と負に変化した場合があるが,その理由は明らかでないこと,本件処方におい
ては,むしろ最大努力時VO2が悪化した者の方が多いこと,最大努力時VO2が正あるいは負に変化した例数や程度と,ウデナフィルの投与量や投与回数との間の技術的関係についても明らかでないこと,ウデナフィルが,フォンタン手術を受けた患者における最大努力時VO2により測定される運動耐容能を改善することの作用機序が明らかでなく,ウデナフィル
が上記のような運動耐容能を改善するとの技術常識があるとも認められないことを踏まえると,コホート4において,5名中2名の最大努力時VO2が正に変化したという試験結果のみをもって,ウデナフィルの本件処方により,最大努力時VO2が改善したものであるとまで理解することはできない。



原告は,前記第3の1⑴アのとおり,有意差がないから,医薬としての有
効性が認められず,
実施可能要件が認められないということにはならないし,
ヒト臨床試験を必要とする発明について,特許出願前に有意差を伴う実験データを出すことは非現実的であると主張する。
しかし,本件においては,有意性の問題は措いたとしても,ウデナフィルの本件処方により,
最大努力時VO2が改善したこと自体を認め難いことは,

前記⑵のとおりである。原告は,実際に症状が大幅に改善した患者がいるとするが(甲11,12)
,本願明細書には,実施例3における試験結果全体が
記載されているのであり,その記載内容を全体としてみれば,フォンタン手術を受けた患者に対し,本件処方が最大努力時VO2により測定される運動耐容能の改善に使用できることを当業者が理解できるとはいえないというべ
きである。したがって,原告の主張は採用できない。
また,
原告がその他るる主張する点は,
いずれも本件結論を左右し得ない。


そうすると,本願発明が実施可能要件を満たさないとした本件審決の判断に誤りはない。

3
結論
以上によれば,本願発明には実施可能要件違反があるとした本件審決の判断に誤りはなく,原告の請求は,その余の取消事由について判断するまでもなく(なお,前記2における認定説示に照らせば,サポート要件違反に関する原告の主張も採用できないことは明らかというべきである。
)理由がない。よって,

これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官
菅野雅之本吉弘行岡山忠広
裁判官

裁判官

(別紙)
【0002】
本発明は概して,フォンタン術を受けた患者においてホスホジエステラーゼE5(PDE5)阻害剤を使用する分野に関する。具体的に,PDE5阻害剤はウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩である。
【背景技術】
【0003】
I.フォンタン手術に関する背景
フォンタン手術又はフォンタン/クロイツェル手術は,機能的単心室先天性心疾
患をもって生まれてきた子どもたちに対する緩和的外科的処置である。フォンタン術は,右心ポンプ室を必要とすることなく血流を肺循環及び体循環に連続して供給するようにデザインされた。該手術によって,体静脈血が,単心室のインピタスに基づいて,動脈,毛細血管,及び体循環静脈系を通して肺循環に直接流れることができる。この配列は,以前の動脈シャントと比較して,単心室及び肺流出路狭窄を
もつ患者の平均余命を改善してきた。
【0004】
該手術は上下大静脈肺動脈吻合を作り,体循環と肺循環を分離して低酸素血症及び心室容量負荷をともに解消する。しかし,フォンタン術の後に,血液を肺動脈に送り出す心室ポンプは存在しない。代わりに,血液は体静脈から受動的流れによっ
て肺に戻る。これによって,高い中心静脈圧,異常な肺血管抵抗,及び慢性的な低い心拍出量を特徴とする循環が生じる。時間とともに,フォンタン生理のこれらの固有の特徴は,思春期後に始まる運動能力の進行性低下を特徴とする心血管効率の予側可能な持続的低下を結果としてもたらす。この運動耐容能の低下は心血管機能障害の症状の増加と相関し,入院,心不全管理の強化,又は移植の必要性が生じう
る。
【0005】

フォンタン循環を有するものは正常な心臓生理又は機能をもたない。多くの下流(downstream)に影響しうる2つの主な合併症は,その位置(静脈又は動脈)に依存して上昇(高血圧)及び低下(低血圧)する血圧に対する以下の効果である。まず,フォンタン循環があると,体静脈高血圧症が存在し,これは体内の静脈の血圧(心臓に戻る血液)が,正常な(フォンタン循環ではない)心臓機能をもつ個人と比べて高いことを意味する。基本的に体内の流体の分布に関連する,体静脈高血圧症によって引き起こされうる多くのマイナスの結果(鬱血性心不全,浮腫又は腫れ,肝臓の機能障害,もしかすると蛋白漏出性腸症)が存在する。第2の合併症は肺動脈性低血圧症であり,ここでは肺に向かう又
は肺内(すなわち肺)の動脈の血圧が正常な心臓機能をもつ個人と比べて低い。やはり,チアノーゼ(紫色の唇)又は運動耐容能の欠如などの肺動脈性低血圧症に関連したマイナスの結果が多くある。
フォンタン手術に続いて
(短期間又は長期間に)
起こる続発内科疾患及び死は,体血圧及び肺血圧の変化に由来すると考えられている。

【0006】
動脈シャントをよる著しい単心室前負荷及び効率の悪い酸素化の長期の影響から,10歳代又は20歳代より長く生存できることはまれである。40年前は一様に致死的であったが,2010年に単心室型先天性心疾患をもつ新生児は,いまでは生存の可能性があるだけでなく,生存すると予想されている。しかし,これらの子ど
もたちが青年期及び成人期へと成長するにつれて,この方法に大きな制限があることが明らかである。救命はできるものの,フォンタン/クロイツェル手術は結果として非常に重篤な結果を伴う深刻な生理的傷害を生じさせる。時が経つにつれて,多臓器系の広汎性異常が影響を及ぼす。現実的に,幾つかの生死に関わりかねない合併症と無縁で患者が20歳代または30歳代まで生き延びる可能性は低い。よっ
て,フォンタン手術の機能障害に陥った状態を改善しうる治療を見つける明確な必要性がある。フォンタン手術の普及がより進んでいることを考慮に入れると特にこ
れは本当であり,注目すべきことに,フォンタン手術は2歳以降の先天性心疾患に対して行われる最も頻度の高い手術になっている。W.M.Gersony,Circulation,117:13-15(2008)。
【0007】
フォンタン手術の結果を検討する複数の研究は,手術後15年を超える生存の減少を示している。大静脈肺動脈吻合術の術式にかかわらず,継続する自然減ともに進行する高い死亡リスクが存在する。フォンタン手術後の単左心室を形態的に検討する別の研究では,彼又は彼女が20代後半に達するまでに亡くなる可能性は1対4であるという結果が示された。J.Rychik,"FortyYearso
ftheFontanOperation:AFailedStrategy,"PediatricCardiacSurgeryAnnual,96100(2010)。【0008】
フォンタン患者の寿命が延びてきていることを考慮して,研究者たちは,フォン
タン手術の副作用に対処する医学療法を探究してきた。特に,単心室生理をもつ小児及び若年成人はフォンタン手術後,
運動耐容能が異常である。
心拍出量を改善し,
且つ中心静脈圧を減少させることを標的にした戦略は,彼らの健康全般を改善し,且つこの有害な生理の影響を和らげることになる。
【0009】

1つ研究では,PDE5阻害剤シルデナフィルが最大運動及び最大下運動の間,換気効率を著しく改善することが見出された。また,2つの小群において無酸素性代謝閾値における酸素消費の改善が示唆された。これらの知見は,単心室生理をもつ小児及び若年成人においてシルデナフィルがフォンタン手術後に運動能力を改善する重要な薬剤でありうることを示唆する。Goldbergetal,Cir
culation,123:1185-1193(2011)。
【0010】

より最近の研究では,フォンタン循環を用いて緩和された患者においてシルデナフィルが心室収縮期エラスタンスを増加させ,且つ心室動脈カップリングを改善することが確認された。短期間のシルデナフィルは大部分の患者で良好な耐容性を示し,
軽度の副作用のみ伴う。
Shabanianetal.,Pediatr.C
ardiol.,34(1):129-34(2013)。シルデナフィルの構造を下記に示す。
【0011】
【化1】

【0012】
くわえて,フォンタン循環をもつ患者での運動及び運動耐容能への血液動態反応に対するPDE5阻害剤タダラフィルの短期効果が予備研究で評価された。http://clinicaltrials.gov/ct2/show/record/NCT01291069を参照されたい。
発表されているシルデナフィル結果と同様に,

タダラフィルを1日1回投与する短期治療は若年フォンタン被験者において換気効率及び酸素飽和度を改善したが,運動耐容能は不変であった。Menonetal.,Circulation,128:A16024(2013)。タダラフィルの化学構造を下記に示す。
【0013】

【化2】

【0018】
フォンタン手術は一時的に緩和するもので,治癒的ではない。しかし多くの症例において,正常又は正常に近い成長,発達,運動耐性,及び良好なクオリティ・オブ・ライフをもたらすことができる。
20/30%の症例では,患者は心臓移植がいずれは必要となることになる。【0019】
フォンタン手術モデルでの修正がアウトカムを改善する初期段階の1つであった。フェネストレーションの使用,フォンタン手術の多段化,及びより良好な周術期の
管理が,今日の死亡率の著しい低下を導いてきた。それにもかかわらず,不整脈,心室機能不全,並びに蛋白漏出性腸症(PLE)及び鋳型気管支炎のまれな臨床症候群などの合併症をもつ患者の遅発的な自然減がある。悪化するフォンタンの管理としては,フォンタン回路内の狭窄などのいずれの治療可能な病変を治療するための詳細な血液動態及び画像評価,不整脈の早期の制御及び洞調律の維持,PLE及
び鋳型気管支炎に対する対症療法,全身血管抵抗及び肺血管抵抗の操作,並びにあまり好ましくない心房・肺動脈連結法から不整脈手術を伴う心外の上下大静脈肺動脈吻合術へのフォンタン転換が挙げられる。心臓移植が依然として悪化するフォンタン患者における唯一成功している最終的な緩和である。しかし,悪化する肝機能又は腎機能などのフォンタン循環はすでに体を破壊しているので,心臓移植は完璧
な解決法ではなく,よってフォンタン循環をもつ患者は心臓移植後でさえも依然と
して体調が悪いことがある。
【0020】
当該技術分野において,フォンタン患者の寿命を延ばし,心臓移植の必要性を回避又は遅延させる目的としてフォンタン手術の合併症又は副作用に関連する改良治療法に対するニーズがある。また,当該技術分野において,心不全の発症を遅らせたり,フォンタン手術を受けた患者のクオリティ・オブ・ライフを上げたりする改良治療法に対するニーズがある。本発明はこのニーズを満たす。
【発明を実施するための形態】
II.フォンタン患者に関連する臨床測定

運動負荷試験
【0076】
運動負荷試験は最大努力の間又は無酸素性代謝閾値におけるVO2値の評価を含むことができる。VO2max又は最大酸素摂取量は,個人が激しい運動の間に使うことができる酸素の最大量を指す。この測定値は一般に,心臓血管の健康状態及
び有酸素持久力の信頼できる指標とみなされている。理論的には,高いレベルの運動の間に人が使うことができる酸素が多ければ多いほど,人はより多くのエネルギーを作り出すことができる。筋肉は長期の(有酸素)運動に酸素を必要とし,血液は酸素を筋肉に運び,有酸素運動の需要量を満たすように心臓は十分量の血液を送り出さなければならないので,この試験は心肺の健康状態に関する最も信頼できる
基準である。
【0077】
VO2は多くの場合,被験者にマスクを付けること及び吸気及び呼気の体積及び気体濃度を測ることによって測定される。この測定結果は臨床の現場及び研究の両方で使用されることが多く,最も正確であると考えられている。試験は通常,強度を
漸増して疲労困憊するまでトレッドミル上で運動すること又は自転車に乗ることを含み,被験者の最大努力及び/又は被験者の無酸素性代謝閾値における読み取りを
与えるようにデザインされている。
【0078】
以前にフォンタン手術を受けた患者は一般的に,時間経過と共にVO2測定値の低下を経験することになる。患者を本発明による方法で治療して,結果として患者のVO2測定値が同レベルに維持され,VO2機能のさらなる低下がないことを示したり,VO2測定値が治療で改善したりすることは,治療が臨床的に有益であり,且つ心血管機能の低下を改善又は予防しうることを示す。
【0079】
1つの実施形態では,本発明は,フォンタン手術を以前に受けた被験者のVO2
測定値を改善又は維持する方法を対象とする。該方法は,治療有効量のPDE5阻害剤を患者に投与することを含み,ここで,PDE5阻害剤はウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩である。幾つかの実施形態では,VO2は最大努力時に測定され,一方で他の実施形態では,VO2は被験者の無酸素性代謝閾値において測定される。

【0080】
幾つかの実施形態では,本開示の方法及び組成物はフォンタン患者に投与され,時間経過とともに運動耐容能は減少しないか,又は最小限の減少が生じる。より具体的に,本開示の方法及び組成物は,時間経過とともに約40未満,約35未満,約30未満,約35未満,約20未満,約15未満,約10未満,又は約5%未満
の運動耐容能の減少をもたらしうる。運動耐容能の減少を計算するのに用いられる第1の測定と第2の測定の間の時間は,例えば,約1,約2,約3,約4,約5,約6,約7,約8,約9,約10,約11,若しくは約12か月;
約1,約2,

約3,約4,約5,約6,約7,約8,約9,約10,約11,約12,約13,約14,若しくは約15年,又はそれらいずれの組み合わせ,例えば,1年3か月;4年7か月などであることができる。
【0081】

幾つかの実施形態では,本開示の方法及び組成物はフォンタン患者に投与され,運動耐容能の改善をもたらしうる。より具体的に,本開示の方法及び組成物は,最大努力時VO2の,1,2,5,10,15,20,25,30,35,40,45,又は50%以上改善しうる。代替的に,本開示の方法及び組成物は,患者の無酸素性代謝閾値におけるVO2の,1,2,5,10,15,20,25,30,35,40,45,又は50%以上改善しうる。
III.本発明による方法
【0094】
1つの実施形態では,本発明は,フォンタン手術を以前に受けた被験者に関連す
る状態,症状,又は副作用を治療,予防,及び/又は最小限にする方法を対象とする。
該方法は,
治療有効量のPDE5阻害剤を患者に投与することを含み,
ここで,
PDE5阻害剤はウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩である。【0095】
フォンタン循環では,肺血流は受動的であり,体静脈循環と心室拡張期末圧の圧
力差によって送られる。肺血管床を通る血液をより効率的に輸送可能にできる薬剤は,心前負荷の改善を可能にするので心拍出量を改善できる。
【0096】
PDE5阻害剤は,肺高血圧症及び心筋機能不をもつ患者において肺血管抵抗を低下させ,且つ心室機能を改善する薬剤の類である。

【0097】
幾つかの研究がフォンタン手術を受けた小児及び若年成人におけるシルデナフィルの単回使用又は長期使用を評価してきた。しかし,シルデナフィルは半減期が短く,典型的には1日3~4回投与される。そのような投与スケジュールは便利ではなく,患者のコンプライアンスを低下させる可能性がある。くわえて,短い半減期
の薬物の投与は,薬物の治療レベルの大きな変動をもたらし,PDE5阻害剤の血中レベルが1日のうち一部分で治療上有効なレベル未満に落ちることになるリスク
が増える。本発明の発明者らは,より長い半減期をもつPDE5阻害剤のフォンタン手術を受けた患者への投与がフォンタン手術後に患者の有酸素運動能力の低下を防止又は改善することになると仮説を立てる。
【0098】
患者コンプライアンスは最適な治療有効性,特に,数年以上などの長期間毎日接種されなければならない薬物にとって非常に重要である。これはフォンタン患者に特にあてはまる。特に,フォンタン手術を受けた個人はほとんどの場合,心不全,脳卒中
(血栓症)又は幾つかの原因不明の突然死で死亡する。

注目すべきことは,
心不全での死亡のリスクはフォンタン手術の10年以内では非常に低いが,フォン
タン術の10年後から時間と共に増加するということである。http://bendantzer.wordpress.com/2013/03/13/fontancirculation-success-or-failure/。【0099】
当然のことながら,フォンタン手術の日から時間が経つにつれて,死亡のリスク
又は心臓移植の必要性が増加する。これは突然死又は心不全に起因しうるが,心臓機能が徐々に低下することからでもありうる。フォンタン手術後,年が刻々と過ぎるにつれて,
心機能が悪くなり,
それは有酸素運動を行う能力の低下に反映される。
例えば,フォンタンを幼少期に受けた患者に関しては,運動耐容能が正常患者と比較して大きく低下(44%)することがあり,この運動能は毎年直線的に低下する
傾向がある(毎年2.6%低下)。フォンタン循環をもつ患者は,30歳で運動耐容能が大きく減少し(正常より55%未満),健康問題の数及び入院率が劇的に増加する。繰り返すことになるが,1つの心室が2つ分の仕事をしているので,恐らくこれは驚くべきことではない。よって,心機能が時間経過とともに低下するのを解消するか,その低下を著しく減少させることができる本発明による方法は,フォ
ンタン患者にとって非常に望ましい。そのような方法の成功の鍵は,好ましい服薬スケジュールへの患者のコンプライアンスである。

【0107】
ウデナフィルは半減期が7.3~12.1時間であり,シルデナフィル又はタダラフィルと比較して,おそらくより良好な安全性プロファイルをもつと考えられている。ウデナフィルはユニークな特性をもち,Tmaxが1.0~1.5時間であり,
T1/2が11~13時間である
(相対的に速い作用発現及び長期間の作用)

したがって,ウデナフィルの必要に応じた使用及び1日1回の使用の両方が報告されている。ウデナフィルの有効性及び忍容性は幾つかの研究で評価されており,最近の研究及び継続中の研究は,どちらの投与方式でもウデナフィルが有望であることを示している。現在,タダラフィルはFDAに認可された唯一の連日投与薬であ
るが,ウデナフィルは,ホスホジエステラーゼサブタイプ選択性に起因してタダラフィルに耐えることができない勃起不全患者に1日1回投与として使用できる。GuKangetal.,Ther.Adv.Urol.,5(2):101-110(2013)。ウデナフィルの1日1回投与が勃起不全(ED)の治療に対して評価され,その結果は,50mg又は75mgの投与量で1日1回12週間投与したと
きウデナフィルがED患者で勃起機能を顕著に改善したことを示した。Zhaoe
tal.,Eur.J.ofUrology,60:380-387(2011)。これらの報告がウデナフィルがさまざまな病態に対して1日1回治療として有用でありうることを提起する一方で,他の報告はPDE5阻害剤がフォンタン術に関連する症状の治療にさまざまな有効性を示すことを示す。
Sabrietal.,P

ediatr.Cardiol.,35(4):699-704(2014)。【0108】
よって,ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩を投与することを含む,フォンタン術に関連する症状を治療し,最小限にする方法及び/又は予防する方法を対象とする本発明が,好ましくは1日1回又は2回の投与で,望ましい結果を示す
ことは驚くべきことであった。望ましい結果としては,心拍出量の改善,肺血管抵抗の減少,運動耐容能の改善,心筋性能の改善,有酸素運動能力の低下の予防
及び改善,並びに/又は患者のコンプライアンスの向上が挙げられるが,これらに限定されない。
IV.小児患者
【0116】
ウデナフィルの構造を下記に示す。
【0117】
【化3】

VIII.定義
【0149】
本明細書で使用される場合,運動耐容能という用語は,患者が持続できる労作の最大値を指す。運動耐容能は,面接又は直接的な測定を含む多くのさまざまな臨床技法によって測定できる。本発明の方法は,限定されないが,自転車エルゴメーターに乗ること又はトレッドミルの上を歩行することを含む運動耐容能を測定す
るさまざまな方法を包含する。よって,運動耐容能を改善することという用語は,いずれのレベルの労作又は運動を行う患者の能力が上がることを意味する。【実施例】
【0155】
実施例1-第I/II相薬物動態及び薬力学試験

フォンタン緩和を実施した後,単心室生理をもつ青年期の若者におけるウデナフ
ィルの第I/II相投与量漸増治験
【0156】
治験は5か月にわたって行われ,有害事象(AE)についてさらに3か月間の追跡調査期間を伴った。該治験に登録した36名の被験者は表1に記載の6つのコホートから構成された。
【0157】

【0158】
本治験の目的は,5日間にわたる複数回投与レベルでのウデナフィルの安全性,フォンタン生理をもつ青年期の若者におけるウデナフィルの薬物動態プロファイル,並びに運動耐容能,心室機能,及び血管機能の薬力学的評価基準に対するウデナフィルの短期効果を評価することであった。
【0159】
ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の複数回投与を,年齢が14~18歳の男性及び女性フォンタン患者に投与した。

【0179】
実施例3-運動負荷試験
この例の目的は,さまざまな運動負荷試験パラメーターを用いて実施例1に記載の治療プロトコールの有効性を評価することであった。
【0180】

本試験の本治療群の主要アウトカムは,運動負荷試験によって決定される最大VO2であった。表14は,治療群ごとの,運動負荷試験の重要なアウトカム-ピークVO2(最大努力を達成した被験者に限定された)の結果をまとめる。治験に登録した36名の被験者のうち,33名が各時点において運動負荷試験で最大努力に
達し,31名の被験者が両時点において達した。初めの2本の線はベースライン及び追跡調査測定のデータを示し,
一方で3番目の線は2つの測定結果の差を示す
(変
化スコア,この治療群のアウトカム)。分散分析は変化スコア間に差がないことを示唆する(p=0.85)。

【0181】
図2及び3は変化スコアの結果を視覚的に示す(正の変化が改善を示す)。図2はペア測定(丸)をもつ各被験者の個別変化スコアを示し,2本の線は平均値及び中央値である。
プロットは変化スコアが投与量に伴って増加することを示唆しない。図3は各被験者及び各コホートの治療前後の最大VO2値を示す。【0222】
実施例7-フォンタン患者におけるウデナフィルの第III相試験フォンタン患者におけるウデナフィルの第III相試験は,フォンタン手術で緩和された単心室先天性心疾患をもつ青年期の若者集団におけるウデナフィル(87.

5mg,1日2回)の安全性を決定するであろう。また,本試験は少なくとも6か月から最長で1年の範囲の期間にわたってウデナフィルの薬力学プロファイルを評価することになる。薬力学的アウトカムは,運動耐容能,心室機能の心エコー測定結果,内皮機能,及び血清バイオマーカー,並びに機能健康状態/クオリティ・オブ・ライフの測定結果を含むことになる。ウデナフィル(87.5mg,1日2回)
は安全で,運動耐容能及び心血管の健康状態の他の評価項目の改善,並びにクオリティ・オブ・ライフの向上に有効であろうことが予想される。

【図2】
【図3】

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