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審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和2(行ケ)10080等
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和3年12月27日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨特 判決年月日 令和3年12月27日 担 許 当 知財高裁第1部 権 部 事 件 番 号 令和2年(行ケ)第1080号・81号 ○ 発明の名称を「5-HT1A受容体サブタイプ作動薬」とする特許に係る発明が実 施可能要件及びサポート要件に適合しないとの審決の判断の一部に誤りがあるとさ れた事例。 (事件類型)審決(無効・一部成立)取消 (結論)成立部分につき審決取消,不成立部分 につき請求棄却 (関連条文)特許法36条4項1号,同条6項1号 (関連する権利番号等)特許第4178032号 (審決)無効2018-800130号事件 判 決 要 旨 1⑴ 本件は,発明の名称を「5-HT1A受容体サブタイプ作動薬」とする原告の本 件特許についてされた特許無効審判請求に対し, 請求項1,4,5に係る発明に ついての特許を無効とする, 請求項2に係る発明についての審判請求は成り立た ないとの本件審決がされたことから,原告(特許権者)が本件審決のうち上記 の 部分の取消しを求め(第1事件),被告(請求人)が上記 の部分の取消しを求め た(第2事件)審決取消訴訟である。 ⑵ 本件特許の請求項1は,「鬱病,…双極性I型障害,…双極性II型障害からな る群から選ばれた5-HT 1A 受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害を治療 するための医薬組成物」との構成を含み,請求項2は,「5-HT 1A 受容体サブタ イプに関連した中枢神経系の障害である鬱病を治療するための医薬組成物」との構 成を含み,請求項4は,「障害が,…双極性I型障害である,請求項1記載の医薬 組成物」と,請求項5は,「障害が,…双極性II型障害である,請求項1記載の 医薬組成物」と,それぞれ構成されている。 2 原告は,審決の取消事由として,取消事由1-1(本件発明1,4及び5に係る実 施可能要件の判断の誤り)及び1-2(同発明に係るサポート要件の判断の誤り)を 主張し(第 1 事件),被告は,取消事由2-1(本件発明2に係る実施可能要件の判 断の誤り)及び2-2(同発明に係るサポート要件の判断の誤り)を主張した(第2 事件)。 3 本判決は,概要,以下のとおり判示するなどして,原告主張の取消事由1-1及び 1-2はいずれも理由があるとして,本件審決のうち本件特許の請求項1,4,5に 係る発明についての特許を無効とするとした部分を取り消し,被告主張の取消事由2 -1及び2-2はいずれも理由がないとして,被告の請求を棄却した(なお,同日判 決言渡しの関連事件として,令和2年(行ケ)第10077号,同第10078号・8 -1- 2号,同第10079号・83号がある。)。 ⑴ 本件 出 願当 時 の5- H T 1 A 受 容 体 部分作 動 薬の 抗 うつ 作 用に関 す る技 術 常識 に ついて 各文献の記載事項を総合すると,本件出願当時,5-HT 1 A 受容体部分作動薬一 般 が 上 記5 - HT 1 A 受 容 体 部分 作 動作 用 に基 づ く 抗う つ 作用 に より う つ 病に 対 し て治療効果を有することは技術常識であったことが認められる。 ⑵ 本件 出 願当 時 の5- H T 1 A 受 容 体 部分作 動 薬の 双 極性 障 害のう つ 病エ ピ ソー ド に対する治療効果に関する技術常識について …上記認定事実と5-HT 1 A 受容体部分作動薬が,脳内のシナプス後5-HT 1 A 受 容 体 に 結 合 す る こ と に よ っ て 発 現 する 5- H T 1 A 受 容 体 部 分 作 動 作 用 に 基 づ いて抗うつ作用を有することは,本件出願当時の技術常識であったこと によれば, 本件出願当時,5-HT 1 A 受容体部分作動薬一般がその抗うつ作用により双極性障 害のうつ病エピソードに対して治療効果を有することは技術常識であったことが認 められる。 ⑶ 取消事由1-1(本件発明1,4及び5に係る実施可能要件の判断の誤り) (第1 事件関係)について 本件 出願 当時, 5 -H T 1 A 受 容体部 分 作動 薬一 般が その抗 う つ作 用に より 双 極 性障害のうつ病エピソードに対して治療効果を有することは技術常識であったこと は,前記認定のとおりである。また,本件明細書の発明の詳細な説明の開示事項か ら,本件発明1の本件カスボスチリル化合物は,5-HT 1 A 受容体部分作動薬であ ることを理解できる。そうすると,本件明細書に接した当業者は,本件明細書の発 明の詳細な説明記載のアリピプラゾールの薬理学的試験(in vitro 試験)の結果及 び上記技術常識に基づいて,5-HT 1 A 受容体サブタイプに関連した中枢神経系の 障害である,請求項1に記載の双極性I型障害又は双極性II型障害の「うつ病エ ピソード」を発症した患者に対して 本件カスボスチリル化合物を投与して,当該「う つ病エピソード」を治療できることを理解できるものと認められる。 したがって,これを否定して,本件発明1,4及び5が実施可能要件に適合しな いとした本件審決の判断は,その前提において誤りがある。 これに対し 被告らは,①本件発明1並びに本件発明1の「 双極性I型障害 」又は 「双極性II型障害」を発明特定事項に含む本件発明4及び5との関係において, 本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合しているというために は,本件カルボスチリル化合物が, 「 鬱病,最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状 態,鬱,又は特定できない症状の発現を有する双極性I型障害,エピソードが軽い 躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性II型障害 」 のいずれにも治療効果を奏することが,当業者が理解できる程度に記載されている 必要がある,②しかし,原告は, 本件カルボスチリル化合物が躁ないし躁症状(原 -2- 告のいう「躁病エピソード」)の治療に使用できるといった技術常識を証明していな いから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に 適合しない旨主 張する。 そこで検討するに,証拠(…)及び弁論の全趣旨によれば,本件審判の審理経過 等として,①本件審判の合議体は,令和元年6月27日付け審理事項通知書( …) で,「請求項1の(中略)記載,及び,本件特許の出願日当時の技術常識からみて, 請求項1,4及び5に係る発明の医薬組成物が『双極性障害の鬱病エピソード』の 治療に有効であるといえるのであれば,当該医薬組成物が請求項1,4及 び5に記 載の双極性Ⅰ型障害,双極性Ⅱ型障害の治療に有効であるといえる,という見解を 持っております。」との見解を示したこと,②同年8月26日付け審理事項通知書(…) で, 「本件発明の医薬用途は,5-HT 1A 受容体サブタイプに関連した中枢神経系の 障害である「鬱病」,5-HT 1A 受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害であ る「最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,或いは特定できない症状の発 現を有する双極性Ⅰ型障害」,5-HT 1A 受容体サブタイプに関連した中枢神経系の 障害であるエピソードが軽い躁症状の発 現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型 を有する双極性ⅠⅠ型障害」のいずれかを治療するための,という医薬用途である と解釈しております。」との通知をしたこと,③本件審決は,上記見解に基づいて, 双極性障害の患者に抗うつ薬を使用した場合,躁病エピソードの誘発,軽躁エピソ ードの誘発,急速交代化の誘発,及び混合状態の悪化等の様々な有害事象が生じる 危険性があることを考慮すると,全ての抗うつ薬が双極性障害の「うつ病エピソー ド」の治療に使用することができるという技術常識があるとは言い難く, 5-HT 1A 部分作動薬を双極性障害の「うつ病エピソード」の治療に使用できることが技術 常識であるとはいえないなどとして,5-HT 1A 部分作動薬を双極性障害の治療に 使用することができることは,本件出願時の技術常識であるとはいえない旨判断し, これを前提に本件発明1,4及び5の実施可能要件の適合性を否定する判断をした ことが認められる。 一方で,本件審決中には,被請求人(原告)の主張に対する判断として, 「本件発 明の詳細な説明には,…本件カルボスチリル化合物が,その5-HT1A部分作動 作用に基いて,本件特許発明の双極性I型障害が発現する「最近のエピソードが軽 い躁」, 「躁」, 「混合状態」, 「鬱」, 「或いは特定できない症状」,並びに本件特許発明 の双極性II型障害が発現する「エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱 症状」及び「循環型」という各種症状のいずれに対する治療効果を有するのかにつ いても全く記載されていない。」, 「本件発明の詳細な説明には,本件カルボスチリル 化合 物に 該当 する アリ ピプ ラゾ ール がシ ナプ ス後 D 2 受 容体 の拮 抗 活性 を有 してい ることは記載されているが(…),本件カルボスチリル化合物がD2受容体に拮抗的 に作用することにより,双極性障害の躁に対して効果を有するという記載はなく, -3- D2受容体拮抗剤が双極性I型障害及び双極性II型障害の躁に治療効果を有する ことについても,全く記載されていない。」, 「そして,上記「第5」で説示したよう に,本件特許発明は,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作 用に基いて,請求項1,2,4及び5に記載の 鬱病,双極性I型障害及び双極性I I型障害のいずれかに罹患した患者を治療するための医薬組成物であるから,D2 受容体拮抗剤が双極性障害の躁に治療効果を有することを当業者が認識していたと しても,当該D2受容体拮抗剤の作用を根拠として,本件カルボスチリル化合物が, その5-HT1A部分作動作用に基いて,本件特許発明の双極性I型障害及び本件 特許発明の双極性II型障害に対する治療効果を有することを,当業者が理解でき るとはいえない。」との判断部分があるが,上記判断部分は,「躁病エピソード」に 関する技術常識の有無等を参酌して 判断したものではないことに照らすと,本件審 決においては, 本件カルボスチリル化合物の 双極性障害の「躁(軽躁)病エピソー ド」に対する治療効果について実質的な判断が示されたものとはいえない。 以上の認定事実によれば,被告らの上記主張は,本件審判において実質的な審理 判断がされていない事項に係るものであるというべきである。 加えて,原告は,本件訴訟において, 本件審決は,本件カルボスチリル化合物が 双極性障害の躁病エピソードに対して治療効果を有すると理解できるか否かという 事項について審理判断していないから,上記事項は,本 件審決の審理範囲外の事項 であり,本件訴訟で審理されるべき事項ではない旨主張していることを考慮すると, 本件発明1,4及び5に係る発明の要旨認定として,本件カルボスチリル化合物が, 双極性障害の「うつ病エピソード」及び「躁(軽躁)病エピソード」のいずれをも治 療するための医薬組成物であると解した場合には,原告に対し,訂正請求の要否を 検討する機会を確保する必要があるというべきであるから,上記事項を 本件訴訟に おいて審理判断することは,上記機会を確保できないこととなって,相当でないも のと認められる。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告らの上記主張は, 本 件発明1,4及び5が実施可能要件に適合しないとした本件審決の判断に誤りがあ るとの前記の判断を左右するものではない。 -4-
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2021-12-27
情報公開日2022-02-06 19:22:47
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令和3年12月27日判決言渡
令和2年(行ケ)第10080号

審決取消請求事件(以下第1事件という。


令和2年(行ケ)第10081号

審決取消請求事件(以下第2事件という。


口頭弁論終結日

令和3年10月6日
判決
第1事件原告兼第2事件被告

大塚製薬株式会社
(以下原告という。)

同訴訟代理人弁護士

重貴光黒田佑輝石津真二杉野文香渡
第1事件被告兼第2事件原告

冨辺洋
MeijiSeikaファルマ株式会社
(以下被告Meijiという。)

同訴訟代理人弁護士

飯郷友良浩森山航洋村山顕人廣田浩一

第1事件被告

秀大
同訴訟代理人弁理士

田上要介
大原薬品工業株式会社
(以下被告大原という。)

同訴訟代理人弁理士

謝主1卓峰文
特許庁が無効2018-800130号事件について令和2年5月12日にした審決のうち,特許第4178032号の請求項1,4及び
5に係る部分を取り消す。
2
被告Meijiの請求を棄却する。

3
訴訟費用のうち,第1事件に係るものは被告らの負担とし,第2事件に係るものは被告Meijiの負担とする。

第1
1実及び理由
請求
第1事件(原告)
主文第1項と同旨

2
第2事件(被告Meiji)
特許庁が無効2018-800130号事件について令和2年5月12日にした審決のうち,特許第4178032号の請求項2に係る部分を取り消す。
第2
1
事案の概要
特許庁における手続の経緯等
⑴ア

原告は,発明の名称を5-HT1A受容体サブタイプ作動薬とする発明について,平成14年1月29日を国際出願日とする特許出願(特願2002-560616号,優先日平成13年1月29日,優先権主張国米国。以下本件出願という。)をし,平成20年8月29日,特許権の設定登録(特許第4178032号。請求項の数6。以下,この特許を本件特許という。)を受けた(乙D35,36)。


原告は,平成30年8月21日,本件特許の特許請求の範囲の請求項3及び6を削除する訂正を求める訂正審判請求(訂正2018-390120号事件)をした。
特許庁は,
同年11月14日,
上記訂正を認める審決をし,
同月28日,
同審決は確定し,同年12月6日,その旨の登録がされた(乙D35,36)。

⑵ア

被告Meijiは,平成30年11月12日,本件特許について特許無
効審判(無効2018-800130号事件。以下本件無効審判事件という。)を請求した(乙D36)。

被告大原は,本件無効審判事件について,平成31年4月11日付けで特許法148条1項の規定により請求人として請求人側への参加申請をし,令和元年6月4日付けで参加許可の決定を受けた。


原告は,令和元年11月28日付けの審決の予告を受けたため,令和2年2月6日付けで,本件特許の特許請求の範囲の請求項2を訂正する旨の訂正請求(以下本件訂正という。)をした。
その後,特許庁は,同年5月12日,本件訂正を認めた上,特許第4178032号の請求項1,4,5に係る発明についての特許を無効とする。特許第4178032号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。特許第4178032号の請求項3,6に係る発明についての審判請求を却下する。との審決(以下本件審決という。)をし,その謄本は,
同月27日,
原告及び被告Meijiにそれぞれ送達された。

⑶ア

原告は,令和2年6月24日,被告両名を相手方として,本件審決のうち,特許第4178032号の請求項1,4及び5に係る部分の取消しを求める第1事件訴訟を提起した。


被告Meijiは,令和2年6月24日,本件審決のうち,特許第4178032号の請求項2に係る部分の取消しを求める第2事件訴訟(以下,第1事件訴訟と併せて,本件訴訟という。)を提起した。

2
特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2,4及び5の記載は,次のとおりである(下線部は本件訂正による訂正箇所である。以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を本件発明1などという。)。
【請求項1】
鬱病,最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,又は特定できない症
状の発現を有する双極性I型障害,エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性II型障害からなる群から選ばれた5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害を治療するための医薬組成物であって,式(1)


(カルボスチリル骨格の3位及び4位の間の炭素-炭素結合は,単結合又は二重結合である)

のカルボスチリル化合物,及び医薬として許容されるその塩又は溶媒和物の治療有効量を含む医薬組成物。
【請求項2】
5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である鬱病を治療するための医薬組成物であって,式(1)


(カルボスチリル骨格の3位及び4位の間の炭素-炭素結合は,単結合又は二重結合である)

のカルボスチリル化合物,及び医薬として許容されるその塩又は溶媒和物の治
療有効量を含む医薬組成物。
【請求項4】
障害が,最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,又は特定できない症状の発現を有する双極性I型障害である,請求項1記載の医薬組成物。【請求項5】
障害が,エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性II型障害である,請求項1記載の医薬組成物。3
本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,本件発明1,4及び5に係る特許は被告主張の無効理由1(実施可能要件違反)及び無効理由2(サポート要件違反)によって無効とすべきものであるが,本件発明2に係る無効理由1及び2はいずれも理由がないというものである。その理由の要旨は,次のとおりである。


無効理由1(実施可能要件違反)について

①特許法36条4項所定の実施可能要件における実施には,物の発明の場合,同法2条3項1号に規定するその物の使用をする行為が含まれるので,発明の詳細な説明の記載が,物の発明について実施可能要件を満たすためには,当業者がその物の使用をすることができる程度のものである必要がある,②本件発明1,2,4及び5は物の発明であり,さらに,請求項1に記載の式(1)のカルボスチリル化合物,及び医薬として許容されるその塩又は溶媒和物(以下,これらをまとめて本件カルボスチリル化合物という。)の治療有効量を含む,請求項1,2,4及び
5に記載の鬱病,双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかを治療するための医薬組成物の発明であり,いわゆる医薬用途発明であるところ,医薬用途発明を使用することとは,当該医薬を,その医薬用途の対象疾患に罹患した患者に投与して,当該対象疾患を治療することであると
解される,③発明の詳細な説明の記載が,当業者が医薬用途発明を使用することができる程度のものであるといえるためには,その未知の医薬用途を何らかの薬理試験結果によらずとも予測することができる物質を用いるなどの特段の事情でもない限り,発明の詳細な説明に,当該医薬の有効量,投与方法,製剤化のための事項に加えて,当該医薬がその医薬用途の対象疾患に対して実際に治療効果を有することを当業者が理解できるに足る薬理試験結果を記載する必要がある,④薬理試験結果の記載については,当該薬理試験結果が,当該医薬をその医薬用途の対象疾患に罹患した患者に投与して,当該医薬が当該対象疾患に対して実際に治療効果を有することが示された臨床試験の結果である場合,当該薬理試験結果から,当該医薬用途発明を使用することができることを,当業者は理解できるものであり,また,当該薬理試験結果が,試験管内実験(以下,
invitro試験
という。や動物実験といった非臨床試験の結果であっても,

特許出願時の
技術常識を参酌してその結果を見ると,当該医薬が当該対象疾患に対して治療効果を有することを当業者が理解できる結果であれば足りる。イ(ア)

本件出願の願書に添付した明細書(以下本件明細書という。
)以

外の他の刊行物(本件審決の第5の3.のアないしオに摘記された刊行物)の記載から,(i)5-HT1A部分作動薬は,うつ状態でセロトニンの量が減少している時に,少なくなったセロトニンの代わりに受容体に結合して細胞内の情報伝達系を活性化させると考えられていること(上記ア)
,(ⅱ)5-HT1A部分作動薬であるタンドスピロン,ゲピロン,ブスピロン及びイプサピロンが抗うつ作用を有することを立証した臨床試験及び非臨床試験の結果が多数報告されていること
(上記ア及びイ)
,(ⅲ)
上記(ⅱ)の5-HT1A部分作動薬以外の5-HT1A作動薬が抗うつ作用を有することを立証した臨床試験や非臨床試験の結果が多数報告されていること
(上記ウ)(ⅳ)5-HT1A受容体遮断薬によって5-HT1A,

作動薬が有する抗うつ作用が阻害されたことを示す非臨床試験の結果から,5-HT1A部分作動薬が,その5-HT1A部分作動作用に基づいて抗うつ作用を奏することは,技術常識であること(上記エ)
,(v)臨床試
験の段階で脱落して抗うつ薬として発売されるまでに至らなかった5-HT1A部分作動薬があり,
5-HT1A部分作動薬が有する抗うつ効果が
どれくらい強力であるかについては懐疑的な研究者がいるけれども,5-HT1A部分作動薬が抗うつ作用を有すること自体は否定されておらず,5-HT1A部分作動薬の臨床開発は続けられているのであるから,5-HT1A部分作動薬が鬱病の治療に用いられる薬物であることは,技術常識であること(上記オ)が認められる。
上記(ⅰ)~(ⅴ)のように,
5-HT1A部分作動薬を鬱病の治療に使用することができることは本件出願時の技術常識であるといえる
(本
件審決の第5の3.のカ)

(イ)

次に,他の刊行物(本件審決の第5の4.のアないしオに摘記され
た刊行物)の記載から,(i)各種の抗うつ薬を双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用することができることは,
技術常識であること
(上
記ア~ウ)
,(ⅱ)しかし,双極性障害の患者に抗うつ薬を使用した場合,
躁病エピソードの誘発,軽躁エピソードの誘発,急速交代化の誘発,及び混合状態の悪化等の様々な有害事象が生じる危険性があることを考慮すると,全ての抗うつ薬が双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用することができるという技術常識があるとは言い難く,
5-HT1A部分作動薬を双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用できることが技術常識であるとはいえないこと
(上記ウ)(ⅲ)双極性障害とセ

ロトニンとの関連性があることは技術常識であること(上記エ)
,(ⅳ)
しかし,双極性障害と5-HT1A受容体サブタイプとの関連性があることや,
5-HT1A部分作動薬
を双極性障害の治療に使用することがで

きることは,技術常識であるとはいえないことが認められる。
上記(ⅰ)~(ⅳ)からみて,
5-HT1A部分作動薬を双極性障害の治療に使用することができることが本件出願時の技術常識であるとはいえない(本件審決の第5の4.のカ)


本件明細書の発明の詳細な説明に記載の薬理学的試験(invitro試験)の結果から,本件カルボスチリル化合物に該当するアリピプラゾールが5-HT1A部分作動薬であることを,当業者は理解できるが,発明の詳細な説明には,本件カルボスチリル化合物を,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の鬱病,双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかに罹患した患者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基づいて,これらの対象疾患を実際に治療できることを示す臨床試験の結果は記載されておらず,上記薬理学的試験(invitro試験)以外の箇所の記載を参酌しても,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件発明1を使用することができることを,当業者が理解できるとはいえない。
これに対し,前記イ(ア)で説示したように,
鬱病の治療に5-HT1A部分作動薬を使用することができることは技術常識であるといえるので,当該技術常識を参酌して上記薬理学的試験(invitro試験)の結果を見れば,本件カルボスチリル化合物を,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の鬱病に罹患した患者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基づいて当該鬱病を治療できることを,当業者は理解できるといえる。

しかし,前記イ(イ)で説示したように,
5-HT1A部分作動薬を双極性障害の治療に使用することができることが技術常識であるとはいえないのであるから,技術常識を参酌して上記薬理学的試験(invitro試験)の結果を見ても,本件カルボスチリル化合物を,5-HT1A受容体サブタイプ
に関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかに罹患した患者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基づいて,これらの対象疾患を治療できることを,当業者が理解できるとはいえない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。これと同様の理由により,請求項4に記載の双極性I型障害に罹患した患者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基づいて当該双極性I型障害を治療できることを,当業者が理解できるとはいえないし,また,請求項5に記載の双極性II型障害に罹患した患者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基づいて当該双極性II型障害を治療できることを,当業者が理解できるとはいえないので,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明4及び5を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。
よって,本件発明1,4及び5に係る特許は,無効理由1(実施可能要件違反)によって無効とすべきものであり,本件発明2に係る特許に対する審判請求は,成り立たない。


無効理由2(サポート要件違反)について

本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件発明1が解決すべき課題は,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の鬱病,双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかに罹患した者を治療することであり,その解決手段は,本件カルボスチリル化合物を,
5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害で
ある,請求項1に記載の鬱病,双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかに罹患した者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-
HT1A部分作動作用に基づいて,これらの対象疾患を治療することであるといえる。
本件明細書の発明の詳細な説明に記載された薬理学的試験(invitro試験)の結果から,当業者は,本件カルボスチリル化合物に該当するアリピプラゾールが5-HT1A部分作動薬であることを認識できるが,発明の詳細な説明には,本件カルボスチリル化合物を,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の鬱病,双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかに罹患した者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基づいて,これらの対象疾患を実際に治療できることを示す臨床試験の結果は記載されておらず,上記薬理学的試験(invitro試験)以外の箇所の記載を参酌しても,発明の詳細な説明の記載から,直ちには,本件発明1の上記課題を解決できることを,当業者が認識できるとはいえない。
これに対し,
鬱病の治療に5-HT1A部分作動薬を使用することができることは技術常識であるといえるので,当該技術常識を参酌して上記薬理学的試験(invitro試験)の結果を見れば,本件カルボスチリル化合物を,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の鬱病に罹患した者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基づいて当該鬱病を治療できることを,当業者は認識できる。

しかし,
5-HT1A部分作動薬を双極性障害の治療に使用することができることが技術常識であるとはいえないのであるから,技術常識を参酌して上記薬理学的試験(invitro試験)の結果を見ても,本件カルボスチリル化合物を,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかに罹患した者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT
1A

部分作動作用に基づいて,これらの対象疾患を治療できることを,当業
者が認識できるとはいえない。
したがって,技術常識を参酌しても,本件発明1により,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかに罹患した患者を治療するという課題を解決できることを,当業者が認識できるとはいえないから,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
これと同様の理由により,本件カルボスチリル化合物を,請求項4に記載の双極性I型障害に罹患した患者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基づいて当該双極性I型障害を治療できることを,当業者が認識できるとはいえないし,また,請求項5に記載の双極性Ⅱ型障害に罹患した患者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基づいて当該双極性II型障害を治療できることを,当業者が認識できるとはいえないので,本件発明4及び5は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
よって,本件発明1,4及び5に係る特許は,無効理由2(サポート要件違反)によって無効とすべきものであり,本件発明2に係る特許に対する審判請求は,成り立たない。
第3

当事者の主張

1
取消事由1-1(本件発明1,4及び5に係る実施可能要件の判断の誤り)(第1事件関係)


原告の主張

医薬用途発明における記載要件適合性の判断基準
医薬用途発明に係る特許出願の記載要件
(実施可能要件・サポート要件)

の適合性は,当該発明の対象疾患に対して当該医薬が治療効果を有するか否かという医薬の有効性によって判断されるべきであり,当該医薬投与に伴って生じ得る副作用や有害事象は,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下薬機法という。
)所定の医
薬品の承認審査において考慮される事柄であって,
医薬の有用性
の問題
であり,記載要件適合性の判断において考慮すべき事項ではない。薬は人体に異物であるが故に,医薬品を投与した場合に,一定の副作用や有害事象が発生することは避けられない。しかし,そのような副作用や有害事象が発生する危険性をもって当該医薬品の治療効果自体が否定されることにはならないことはいうまでもなく,副作用や有害事象が生ずる危険性が存在するからといって医薬の治療効果(発明の作用効果)を否定する理由になり得ない。

本件出願当時の技術常識の判断の誤り
本件審決は,本件出願時において,各種の抗うつ薬を双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用することができることは,技術常識であるが,一方で,双極性障害の患者に抗うつ薬を使用した場合,躁病エピソードの誘発,軽躁エピソードの誘発,急速交代化の誘発,及び混合状態の悪化等の様々な有害事象が生じる危険性があることを考慮すると,全ての抗うつ薬が双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用することができるという技術常識があるとは言い難く,5-HT1A部分作動薬を双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用できることが技術常識であるとはいえないなどとして,5-HT1A部分作動薬を双極性障害の治療に使用することができることは,本件出願時の技術常識であるとはいえない旨判断した。
(ア)

しかしながら,本件出願当時,①単極性うつ病におけるうつ病エピ
ソード,双極性Ⅰ型障害におけるうつ病エピソード及び双極性Ⅱ型障害
におけるうつ病エピソードの定義及び診断基準は同じであり,単極性うつ病,双極性Ⅰ型障害及び双極性Ⅱ型障害において,うつ病エピソードが同じ病態として理解されていたこと
(乙A30の1)②単極性うつ病

に使用できる抗うつ薬は,双極性Ⅰ型障害及び双極性Ⅱ型障害のいずれにおいても,うつ病エピソードの治療に使用できると認識されていたこと(甲A1,2,15,乙A31の1,35,36,86の1,91,98,99,106,乙D1,16,18)
,③5-HT1A受容体部分作
動薬は,抗うつ作用を有し,うつ病エピソードの治療に使用できることは,技術常識であったこと(甲A20,21,乙A13,乙D79)からすると,
5-HT1A受容体部分作動薬は双極性Ⅰ障害及び双極性Ⅱ障
害のうつ病エピソードの治療に使用することができることは,本件出願時の技術常識であったといえる。
(イ)

本件審決が述べる双極性障害の患者に抗うつ薬を使用した場合,躁病エピソードの誘発,軽躁エピソードの誘発,急速交代化の誘発,及び混合状態の悪化等の様々な有害事象が生じる危険性があることは,前記アで述べたように,
医薬の有用性の問題であって,そもそも抗う
つ薬が双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用できること医薬の(有効性)を否定する理由にはなり得ない。
また,抗うつ薬の投与に伴って生じ得る副作用や有害事象は,抗うつ薬の治療効果の問題とは別に,安全性に関する情報として医薬品の添付文書における
使用上の注意
に記載されるものと位置付けられており,
そのような副作用や有害事象を使用上の注意に記載するのは,抗うつ薬が対象疾患に対し治療効果を有し,使用できることを前提に,使用における注意を喚起するためである。実際にも,本件出願当時,日本で承認された全ての抗うつ薬は,
効能・効果がうつ病・うつ状態と
され,
単極性うつ病と双極性障害の双方が含まれており,使用上の注意」

欄に双極性障害の患者の躁転が記載されている(乙A90,91,乙D3ないし15)。そして,本件出願当時,様々な有害事象が生じる危険性

については,気分安定薬と抗うつ薬とを併用することにより,躁転のリスクコントロールが可能であり,躁転発生時には抗うつ薬の中止又は漸減により対応可能であると考えられていた(乙A99)。また,米国精神医学会の治療ガイドライン(甲A1)や,エキスパートコンセンサスガイドライン(乙A98)を始めとする諸文献においても,気分安定薬と抗うつ薬の併用を一般的な治療としていた(乙D16,18)。(ウ)以上によれば,5-HT1A受容体部分作動薬であるカルボスチリル化合物を双極性Ⅰ型障害及び双極性Ⅱ型障害のうつ病エピソードの治療に使用できることは,本件出願時の技術常識であったものといえるから,これと異なる本件審決の前記判断は誤りである。ウ実施可能要件の適合性本件明細書には,本件カルボスチリル化合物が5-HT1A受容体の作動作用を有することが記載されている。そして,前記イのとおり,5-HT1A受容体部分作動薬を双極性Ⅰ型障害及び双極性Ⅱ型障害のうつ病エピソードの治療に使用でき,本件明細書の上記記載に基づいて,5-HT1A受容体部分作動薬である本件カルボスチリル化合物を双極性Ⅰ型障害及び双極性Ⅱ型障害のうつ病エピソードの治療に使用できるものと理解できるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。本件発明4及び5も,これと同様である。したがって,本件発明1,4及び5に係る本件特許は,実施可能要件に適合する。エ被告らの主張について被告らは,本件発明1,4及び5が,実施可能要件に適合するというためには,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件カルボスチリル化合物が,「鬱病,最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,又は特定できない症状の発現を有する双極性I型障害,エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性II型障害のいずれにも治療効果を奏することが,当業者が理解できる程度に記載されている必要があるが,原告は,本件明細書及び本件出願時の技術常識を参酌すれば,本件カルボスチリル化合物が双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用できることを述べるのみで,本件カルボスチリル化合物が躁ないし躁症状(原告のいう躁病エピソード
)の治療に使用できると
いった技術常識を証明していないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合していない旨主張する。
しかしながら,本件審判の合議体は,令和元年6月27日付け審理事項通知書(乙D47の1)で,
請求項1の(中略)記載,及び,本件特許の出願日当時の技術常識からみて,請求項1,4及び5に係る発明の医薬組成物が『双極性障害の鬱病エピソード』の治療に有効であるといえるのであれば,当該医薬組成物が請求項1,4及び5に記載の双極性Ⅰ型障害,双極性Ⅱ型障害の治療に有効であるといえる,という見解を持っております。との見解を示し,本件審決は,上記見解に基づいて,本件発明1,4及び5の記載要件の適合性の判断に際し,本件カルボスチリル化合物の5-HT1A受容体作動作用に基づいて双極性障害のうつ病エピソードに対する治療効果を有するか否かという点のみを問題として判断し,本件カルボスチリル化合物が双極性障害の躁病エピソードに対して治療効果を有するか否かという事項について何ら審理判断していない。
したがって,上記事項は,本件審決の審理範囲外の事項であって,本件訴訟で審理されるべきではないから,被告らの上記主張は,失当である。

小括
以上のとおり,本件発明1,4及び5の実施可能要件の適合性を否定した本件審決の判断は誤りである。



被告らの主張

本件発明1,4及び5の実施可能要件の判断手法
(ア)

本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,医薬用途に関し,
鬱病,最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,又は特定できない症状の発現を有する双極性I型障害,エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性II型障害からなる群から選ばれた5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害を治療するための医薬組成物と規定しているから,本件発明1並びに本件発明1の双極性I型障害又は双極性II型障害を
発明特定事項に含む本件発明4及び5との関係において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合しているというためには,本件カルボスチリル化合物が,
鬱病,最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,又は特定できない症状の発現を有する双極性I型障害,エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性II型障害のいずれにも治療効果を奏することが,当業者が理解できる程度に記載されている必要がある。
しかるところ,原告は,本件明細書及び本件出願時の技術常識を参酌すれば,
本件カルボスチリル化合物が双極性障害の
うつ病エピソード
の治療に使用できることを述べるのみで,本件カルボスチリル化合物が躁ないし躁症状(原告のいう躁病エピソード
)の治療に使用できると
いった技術常識を証明していないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合しない。
したがって,その余の点について検討するまでもなく,本件発明1,
4及び5の実施可能要件の適合性を否定した本件審決の判断に誤りはない。
(イ)

この点に関し原告は,本件審決は,本件カルボスチリル化合物が双
極性障害の躁病エピソードに対して治療効果を有するか否かという事項について何ら審理判断していないから,上記事項は,本件審決の審理範囲外の事項であって,本件訴訟で審理されるべきではない旨主張する。しかしながら,①被告らは,本件審判手続において,無効理由1(実施可能要件)として,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件カルボスチリル化合物が本件発明1記載の障害に対して治療効果を有することを当業者が認識し得る記載が存在が存在しないこと,無効理由2(サポート要件違反)として,本件発明の詳細な説明の記載から,本件発明1が上記障害の治療という課題を解決できると認識できるとはいえないことを主張したこと,
②本件審決は,
本件カルボスチリル化合物が,その5-HT1A部分作動作用に基いて,本件特許発明の双極性I型障害が発現する「最近のエピソードが軽い躁躁混合状態鬱或,,,,いは特定できない症状,並びに本件特許発明の双極性II型障害が発
現する
エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状循及び環型という各種症状のいずれに対する治療効果を有するのかについても全く記載されていない。,

本件発明の詳細な説明には,本件カルボスチリル化合物に該当するアリピプラゾールがシナプス後D2受容体の拮抗活性を有していることは記載されているが(摘記イの段落【0007】,本件カルボスチリル化合物がD2受容体に拮抗的に作用すること)により,双極性障害の躁に対して効果を有するという記載はなく,2受D容体拮抗剤が双極性I型障害及び双極性II型障害の躁に治療効果を有することについても,全く記載されていない。(以上,91頁)との判断を示し,本件カルボスチリル化合物が双極性障害の躁症状に対して
治療効果を有することが理解できるか否かについて検討した上で,原告の主張を排斥したことからすると,原告の上記主張は失当である。イ
原告主張の技術常識の不存在
後記3(1)で述べるとおり,本件出願当時,
5-HT1A部分作動薬を鬱病の治療に使用することができることは,技術常識であったとはいえないし,また,本件カルボスチリル化合物が単独性うつ病に対する治療効果を奏することを当業者が理解していたものとはいえない。
そして,双極性障害については,鬱病相と躁病相があるところ,双極性障害の鬱病相を治療するために抗鬱薬を投与した場合,躁転の可能性を有意に高める結果,双極性障害を治療するどころか,双極性障害の症状を逆に悪化させる可能性が高いという固有の事情が存在するため
(甲A1,2,
31の1,乙A98,106,,臨床上も,双極性障害の鬱病相の治療に)
おいて,抗鬱薬の使用は慎重に行うべきとされていることからすれば,全ての抗鬱薬を双極性障害の鬱病相(うつ病エピソード)の治療に用いることができるなどという原告主張の技術常識が存在しないことは明らかである。
したがって,
5-HT1A部分作動薬を双極性障害の
うつ病エピソード
の治療に使用することができることは,本件出願時の技術常識であるとはいえないとした本件審決の判断に誤りはない。


小括
以上によれば,本件発明1,4及び5の実施可能要件の適合性を否定した本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1-1は理由がない。

2
取消事由1-2(本件発明1,4及び5に係るサポート要件の判断の誤り)(第1事件関係)


原告の主張

本件審決は,
5-HT1A部分作動薬を双極性障害の治療に使用することができることが技術常識であるとはいえないから,技術常識を参酌して薬理学的試験(invitro試験)の結果を見ても,本件発明1により,5-HT1A
受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の
双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかに罹患した患者を治療するという課題を解決できることを,当業者が認識できるとはいえないとして,本件発明1,4及び5は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず,サポート要件に適合しない旨判断した。
しかしながら,
前記1(1)で述べたとおり,
5-HT1A受容体部分作動薬を
双極性Ⅰ障害及び双極性Ⅱ障害のうつ病エピソードの治療に使用できることは,
本件出願時の技術常識であったものであるから,
本件審決の上記判断は,
その前提において誤りがある。


被告らの主張
本件発明1,4及び5の課題は,
鬱病,最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,又は特定できない症状の発現を有する双極性I型障害,エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性II型障害のいずれにも治療効果を奏することにある。前記1(2)で述べたとおり,
本件出願当時,
原告主張の技術常識は存在せず,
また,
当業者が本件明細書の記載及び技術常識に基づいて,
双極性障害の
躁(軽躁)病エピソードを含む双極性障害全般の課題を解決できると認識することはできない。
したがって,本件発明1,4及び5のサポート要件の適合性を否定した本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1-2は理由がない。
3
取消事由2-1
(本件発明2に係る実施可能要件の判断の誤り)
(第2事件関
係)


被告Meijiの主張


医薬用途発明の実施可能要件の判断における考慮要素
中枢神経系は,多数の酵素や受容体,神経伝達物質等が相互に関連する非常に複雑な制御の下で構築され,中枢神経系疾患であるうつ病の病態生理や発症メカニズム,
抗うつ薬が抗うつ作用を奏する作用機序については,
十分な理解が得られていないのが実情であり,中枢神経系医薬の場合,薬効発現までの作用機序を完全に理解することは現時点においてもほとんど不可能と考えられている。中枢神経系の医薬分野においては,invitro試験は,あくまでヒトの中枢神経系における生体反応のごく一部のみを切り出した実験系にすぎず,中枢神経系における細胞相互,各器官相互の機能調節・統合を再現したものではないため,薬効が期待できない化合物を振るい落とすためのスクリーニング試験という位置付けにすぎず,invitro試験の結果のみに基づいて候補化合物のヒトに対する抗鬱薬,双極性Ⅰ型障害及び双極性II型障害の治療薬としての有用性を判断することはできない。もとより,候補化合物のヒト生体内での薬効予測をするためには,ヒトに対する臨床試験を行うことが最も確実かつ理想的である。しかし,実際上,臨床試験の実施に当たっては諸々のコストがあるため,中枢神経系の医薬品開発に携わる当業者は,invitro試験によるスクリーニングの結果を踏まえ,臨床試験に進む前の必須の非臨床試験として動物モデルを用いた動物実験(invivo試験)を行って,生体内での薬効予測を行っており
(乙A13の1,
甲D48ないし52)抗うつ作用を予測するためには,

少なくとも動物実験(invivo試験)を行うことが必須と考えられている。しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,h5-HT1A受容体という単一の受容体のみを取り出し,CHO細胞に発現させたinvitro試験の結果が開示されているにすぎず,動物実験(invivo試験)の結果の開示はない。
そして,上記invitro試験の実験系は,5-HT1A受容体以外の他の受
容体との相互作用の点も含めて,中枢神経系における細胞相互,各器官相互の機能調節・統合を再現したものではないから,本件明細書の上記開示をもって本件カルボスチリル化合物のヒト生体内での薬効予測をすることはできない。
したがって,本件明細書に接した当業者において,本件カルボスチリル化合物を抗鬱薬,双極性Ⅰ型障害及び双極性II型障害の治療薬として用いることができることを理解することはできないから,本件出願時の技術常識を参酌して,上記invitro試験(薬理学的試験)の結果を見れば,本件カルボスチリル化合物を,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の鬱病に罹患した患者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基づいて当該鬱病を治療できることを,当業者は理解できるとして,本件発明2は実施可能要件に適合するとした本件審決の判断は誤りである。

本件出願当時の技術常識の判断の誤り(その1)
5-HT1A部分作動薬に関する本件出願時の当業者の認識は,5-HT1A

アゴニスト(作動薬)は鬱病に対して治療効果を有する可能性が示唆さ
れるという程度であり,5-HT1Aアンタゴニスト(拮抗薬)について抗うつ薬としての可能性を期待するという見解や,5-HT1A部分作動薬は抗うつ薬として定着する可能性が低いとする見解も存在した
(甲A8,
15,
26の1,41の1,甲D1,2,乙A104,乙D78,79)。
すなわち,広く5-HT1A部分作動薬を鬱病の治療に使用することができることについて,コンセンサスが得られた状況にあったとは到底言い得ず,
本件出願時の当業者の認識は,
5-HT1A作動薬は鬱病に対して効果を有する可能性が示唆される(治療効果を示すかもしれないし,示さないかもしれない)という程度であった。そうすると,
本件出願時に5-HT1A部分作動薬がその5-HT1A部分

作動作用に基づいて請求項2記載の鬱病に対して治療効果を奏することが技術常識であったものといえないことは明らかであるから,
5-HT1A部分作動薬を鬱病の治療に使用することができることは本件出願時の技術常識であるとした本件審決の判断は誤りである。
したがって,上記技術常識が存在することを前提に,本件発明2は実施可能要件に適合するとした本件審決の判断は誤りである。

本件出願当時の技術常識の判断の誤り(その2)
本件審決は,
本件出願前の刊行物の記載から,
(i)5-HT1A部分作動薬
は,うつ状態でセロトニンの量が減少している時に,少なくなったセロトニンの代わりに受容体に結合して細胞内の情報伝達系を活性化させると考えられていること,(ⅱ)5-HT1A部分作動薬であるタンドスピロン,ゲピロン,ブスピロン及びイプサピロンが抗うつ作用を有することを立証した臨床試験及び非臨床試験の結果が多数報告されていること,(ⅲ)上記(ⅱ)の5-HT1A部分作動薬以外の5-HT1A作動薬が抗うつ作用を有することを立証した臨床試験や非臨床試験の結果が多数報告されていること,
(ⅳ)5-HT1A受容体遮断薬によって5-HT1A作動薬が有する抗うつ作用が阻害されたことを示す非臨床試験の結果から,5-HT1A部分作動薬が,その5-HT1A部分作動作用に基づいて抗うつ作用を奏することは,技術常識であること,(v)臨床試験の段階で脱落して抗うつ薬として発売されるまでに至らなかった5-HT1A部分作動薬があり,5-HT1A

部分作動薬が有する抗うつ効果がどれくらい強力であるかについては
懐疑的な研究者がいるけれども,5-HT1A部分作動薬が抗うつ作用を有すること自体は否定されておらず,5-HT1A部分作動薬の臨床開発は続けられているのであるから,5-HT1A部分作動薬が鬱病の治療に用いられる薬物であることは,技術常識であることを認定した上で,上記(ⅰ)~
(ⅴ)
から,
5-HT1A部分作動薬を鬱病の治療に使用することができることは本件出願時の技術常識である旨判断したが,以下のとおり誤りである。
(ア)

(i)について
本件出願時,セロトニン受容体には少なくとも14種類のサブタイプ
が存在することが知られており(乙A13の1)
,セロトニンは,これら
14種類の受容体に対して完全な作動作用を示す一方で,5-HT1A部分作動薬は,サブタイプの1つである5-HT1A受容体について,部分的な作動作用を示すにすぎない。そして,5-HT1A部分作動薬は,あくまで部分作動薬である以上,どの程度セロトニンを代償し得るかについても不明である。
したがって,5-HT1A部分作動薬は,セロトニンによる作用効果を直ちに代償するものではないため,5-HT1A部分作動薬はうつ状態でセロトニンの量が減少している時に,少なくなったセロトニンの代わりに受容体に結合して細胞内の情報伝達系を活性化させるなどと単純に整理することはできない。
(イ)

(ⅱ)について

a
本件出願当時の技術的背景として,①5-HT1A受容体への部分
作動作用を有するが,抗うつ作用を示さない化合物があること(1-(2-ピリミジル)ピペラジン(1-PP)
(甲D3,甲A21,26
の1,
76の1)mCPP

(甲D24)S-15535

(甲D26),

②抗うつ効果の予測可能性は,5-HT受容体に対する選択又は非選択の違いにより異なること,
③5-HT1A受容体は,
シナプス前後に
局在し,各受容体の機能・作用機序は異なることが知られていた。①によれば,5-HT1A受容体作動作用があれば抗うつ作用があるということはできない。
②については,複数の受容体に作用する非選択的な抗うつ薬の場合,
主たるターゲットとする受容体以外への作用を通じて,抗うつ効果が減殺されることがあり,例えば,本件出願当時,ドパミンD2受容体拮抗作用は,抗うつ薬の抗うつ効果を減殺し(甲D15,16)
,5-H
T1A受容体作動作用は,5-HT2A受容体(5-HT2受容体)作動作用によって減殺されること(甲D17,18)が知られていた。③については,本件出願当時,5-HT1A受容体の作動作用を有する薬物については,セロトニン作動性神経のシナプス前5-HT1A自己受容体への作用を通じてセロトニン神経を抑制し
(甲D20)5-

HT1A受容体作動作用を有する化合物の中には,シナプス前後で作用特性が異なるものが存在し(甲D39)
,このため,ある化合物に抗う
つ作用が期待できるか否かは,
シナプス前後のアゴニスト作用の強弱

バランスにも依存するとされていた。
b
本件審決が(ⅱ)の根拠として挙げるタンドスピロン,ゲピロン,ブスピロン及びイプサピロンは,いずれも選択的な5-HT1A作動薬であるのに対し(甲A6,30の1,乙A2,甲D6)
,本件カルボスチ
リル化合物に相当するアリピプラゾールは,5-HT1A受容体のみならず,ドパミンD2,D3受容体,5-HT2A受容体にも結合する非選択的な5-HT1A部分作動薬であること
(甲1005,
1006)
,タ
ンドスピロン,ゲピロン,ブスピロン及びイプサピロンは,いずれもアザピロン系と総称される化合物であり,アザピロン系化合物と
本件カルボスチリル化合物とは,化学構造が全く異なることからすると,タンドスピロン,ゲピロン,ブスピロン及びイプサピロンに関する報告をもって,5-HT1A受容体に対する非選択的な作動薬であるとともに,完全作動薬ではなく部分作動薬にすぎない本件カルボスチリル化合物が抗うつ作用を示すことを理解する根拠とすることはできない。

この点に関し原告は,本件出願当時,5-HT1A受容体作動作用を有する化学構造を異にする多数の化合物について,実臨床・臨床・非臨床において,抗うつ作用を有するとの報告が多数されており,これらの化合物は,いずれも化学構造を異にするもので,完全作動薬で統一されているわけでもなく,唯一の共通点が5-HT1A受容体作動作用を有することであった。これらの報告に基づき,当業者は,5-HT1A受容体作動薬が一般的に抗うつ作用を有しており,うつ病の治療に使用できると認識していた旨主張する。
しかしながら,原告が挙げる報告の化合物は選択的な5-HT
上記報告から,
非選択的1A受容体作動作用を有する化合物であって,な5-HT1A部分作動作用を有するにすぎない本件カルボスチリル化合物をヒトに投与した際に抗うつ作用を示すことを認識することはできないし,また,上記報告の化合物の中には,未だ臨床試験の段階において抗うつ作用を示す可能性が示唆されるにとどまるものがある。したがって,原告の上記主張は失当である。
(ウ)

(ⅲ)及び(ⅳ)について
本件出願時に,5-HT1A作動薬が抗うつ作用を有することを示した
臨床試験及び非臨床試験の結果,5-HT1A受容体遮断薬によって抗うつ作用が阻害されたことを示す報告が存在していたとしても,当該報告に係る5-HT1A作動薬は,いずれも本件カルボスチリル化合物とは化学構造が全く異なるものである。そして,5-HT1A受容体に対する選択性,親和性,作動活性の有無及び程度についても,それぞれの化合物ごとに千差万別であるから,5-HT1A作動薬に関する個別具体の報告が,本件カルボスチリル化合物について直ちに妥当するものでない。また,
5-HT1A受容体遮断薬によって5-HT1A作動薬が有する抗うつ作用が阻害されたことを示す非臨床試験の結果が報告されたからと
いって,当該非臨床試験の結果のみをもって,本件カルボスチリル化合物が直ちに医薬として鬱病に治療効果を示すことを理解できることはあり得ない。
(エ)

(v)について
本件審決は,本件出願時,5-HT1A部分作動薬の臨床開発は続けら
れており,5-HT1A部分作動薬が抗うつ作用を有すること自体は否定されていない旨を述べる。
しかし,5-HT1A部分作動薬については,臨床試験の段階で脱落して抗うつ薬として発売されるまでに至らず,5-HT1A部分作動薬が有する抗うつ効果がどれくらい強力であるかについて懐疑的な研究者もいたというのであるから,前記イで述べたとおり,本件出願時には,5-HT1A作動薬の鬱病治療に対する有用性について,
5-HT1A作動薬は鬱病に対して効果を有する可能性が示唆される(治療効果を示すかもしれないし,示さないかもしれない)という程度の認識があったにすぎず,5-HT1A作動薬の鬱病治療に対する有用性について,当業者間でもコンセンサスが得られていなかったとみるのが自然である。
(オ)

まとめ
以上によれば,本件審決が挙げる(ⅰ)ないし(ⅴ)の事項から,5-HT1A部分作動薬を鬱病の治療に使用することができることが本件出願時の技術常識であるとした本件審決の判断は誤りである。
したがって,上記技術常識が存在することを前提に,本件発明2は実施可能要件に適合するとした本件審決の判断は誤りである。

小括
以上のとおり,本件発明2の実施可能要件の適合性を認めた本件審決の判断は誤りである。



原告の主張


医薬用途発明の実施可能要件の判断における考慮要素の主張に対し本件カルボスチリル化合物は,本件出願前に,動物実験(invivo試験)だけではなく,ヒトにおいても,経口投与で吸収され血中移行し血液脳関門を通過して脳内移行し,中枢神経系において薬理作用を示すことが実際に確認されていた(乙D33の1,34の1)
。かかる状況の下,本件明細
書では,本件カルボスチリル化合物が,ブスピロンと比較しても,ヒト型5-HT1A受容体(h5-HT1A受容体)に対して強力な部分作動作用を有することが開示されているのであるから,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件カルボスチリル化合物がヒト生体内において5-HT1A受容体作動作用を発揮し,抗うつ作用を発揮することを優に理解できたものである。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に動物実験(invivo試験)の結果の開示がないから,本件発明2は実施可能要件に適合しない旨の被告Meijiの主張は理由がない。


本件出願当時の技術常識の判断の誤りの主張に対し
(ア)

本件出願当時,5-HT1A受容体作動作用を有する化学構造を異に
する多数の化合物について,実臨床・臨床・非臨床において,抗うつ作用を有するとの報告が多数されていた(実臨床・臨床試験に至ったものとして,フレシノキサン,タンドスピロン,ゲピロン,ブスピロン,イプサピロン。非臨床試験において抗うつ作用が実証されていたものとして,8-OH-DPRT,SR57746A,LB50016,MM199,(3,4-ジクロロフェニル){4-[(6-オキサゾール-5-イルピリジン-2-イルメチルアミノ)メチル]ピペリジン-1-イル}メタノン(70)(3.4-ジクロロフェニル){4-[(6-アゼチジノピリ,
ジン-2-イルメチルアミノ)メチル]ピペリジン-1-イル}メタノン(36)U93385,

S14506,
S14671及びAZ16596)


これらの化合物は,いずれも化学構造を異にするもので,完全作動薬で統一されているわけでもなく,唯一の共通点が5-HT1A受容体作動作用を有することであった。これらの報告に基づき,当業者は,5-HT1A

受容体作動薬が一般的に抗うつ作用を有しており,うつ病の治療に使
用できると認識していた(乙A107,108)

加えて,実際,本件出願当時の多数の総説的論文において,個別の化合物を超えて,5-HT1A受容体作動薬と抗うつ作用との関連性が述べられていた(甲A17,19の1,21,22,26の1,53の1,乙A13の1)
。これらの総説的論文に基づいても,当業者は,5-HT
1A受容体作動薬が一般的に抗うつ作用を有していることを十分に認識す
ることができた。
このような当業者の認識を反映するものとして,本件出願当時,当業者である製薬会社が,5-HT1A受容体作動薬というカテゴリーに注目して抗うつ薬の開発を進めていたことが挙げられる。薬剤の開発においては,特定の酵素や受容体を標的として選択したうえで開始されるところ,
新しいクラスの抗うつ薬の1つとして,5-HT1AA受容体作動薬が挙げられていた(甲A40の1,乙A93,94)

さらに,当業者は実際に5-HT1A受容体作動薬の抗うつ作用に着目した開発を行い,特許出願も行っていた(甲A56ないし62)

このような多面的検討の結果として,本件審決は,
(ⅰ)ないし(ⅴ)
の事項を認定したものであり,その認定に誤りはない。
(イ)

被告Meijiは,
抗うつ効果の予測可能性は,
5-HT受容体に対

する選択又は非選択の違いによって異なるとして,特に,本件カルボスチリル化合物の単剤投与による抗うつ作用が確認されていない点を指摘する。
確かに,受容体に対する薬物の親和性や固有活性等は,化合物の化学
構造により影響を受けるが,前記(ア)に挙げた5-HT1A受容体に対して作動作用を有する化合物は,化学構造が顕著に異なるものであって,各化合物が有する,5-HT1A受容体に対する作動作用の程度
(①完全
又は部分作動(Emax(固有活性),②親和性に関するKi値,③固)
有活性の半分の作動作用を発現するために必要な薬物濃度EC50)や,5-HT1A受容体以外の受容体に対する作用やその程度も異なる一方,5-HT1A受容体に対する作動作用という点でのみ共通する。
このよう
な多数の化合物が,臨床試験又は動物試験において抗うつ効果を示し,5-HT1A受容体以外の受容体作用も有する化合物であっても,5-H
T1A受容体作動作用による抗うつ効果が示唆されるものが複数存在すること,
他の受容体への作用によって,5-HT1A受容体作動作用によ
る抗うつ効果が否定されたといった事情も見当たらないことからすると,5-HT1A受容体に対する作動作用を介して奏する抗うつ効果が,①当
該作動作用が,受容体に対して選択的に作用しているか,非選択的に作用しているか,②当該作動作用が,部分作動作用であるか,完全作動作用であるかにより左右されるとはいえない。
また,ヒト生体内において,本件カルボスチリル化合物が単剤投与により抗うつ作用を発揮することは,本件出願後においても多数の文献で報告されていたところであるから,
本件カルボスチリル化合物は,単剤投与で抗うつ作用を発揮することがヒト生体内で確認されていない旨の原告主張は明らかに事実に反する。そもそも,原告が提出する甲D13の試験を見ても,エンドポイントと設定された時点(第8週)ではプラセボとの有意差は認められなかったものの,試験期間の大半(第1週から第6週)において有意差をもって有効性が認められ,当該試験期間大半において,本件カルボスチリル化合物がプラセボより有効である結果となっており,甲D13の考察においても,本件カルボスチリル化合
物の抗うつ効果は臨床的に意味があるものと評価されている。
したがって,
5-HT1A部分作動薬を鬱病の治療に使用することができることは本件出願時の技術常識であるとした本件審決の判断の誤りをいう被告Meijiの主張は理由がない。
4
取消事由2-2
(本件発明2に係るサポート要件の判断の誤り)
(第2事件関
係)


被告Meijiの主張
本件審決は,
鬱病の治療に5-HT1A部分作動薬を使用することができることは本件出願時の技術常識であるといえるので,当該技術常識に照らして,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている薬理学的試験(invitro試験)の結果を見れば,本件カルボスチリル化合物を,請求項2に記載の
5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である鬱病に罹患した患者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基いて当該鬱病を治療できることを,当業者は認識できるといえるから,本件発明2は本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものである旨判断した。
しかしながら,
前記3(1)で述べたとおり,
本件審決における技術常識の認
定判断に誤りがあり,また,本件明細書には,invitro試験の結果を超えて,動物実験(invivo試験)の結果は開示されておらず,invitro試験の結果のみに基づいて,当業者は,本件カルボスチリル化合物をヒトに投与した場合の治療効果を認識することはできないから,本件審決の上記判断は誤りである。



原告の主張
前記3⑵で述べたとおり,本件審決における技術常識の判断に誤りはないから,
被告Meijiの主張は,
その前提を欠くものであって,
失当である。

第4

当裁判所の判断

1
被告Meijiの本案前の主張について
被告Meijiは,原告は,令和2年8月17日付けの訴状訂正申立書(以
下本件訴状訂正申立書という。)を提出して,第1事件訴訟に係る訴えにおいて被告Meijiのみを当事者とし,被告大原薬品工業を当事者から削除する旨の訂正をし,被告大原薬品工業に対する訴えの取下げをした,これにより本件発明1,4及び5に係る本件特許を無効とする本件審決は,被告大原薬品工業との関係においては,出訴期間の経過により確定しているから,被告Meijiに対する第1事件訴訟に係る訴えは,訴えの利益を欠く不適法なものとして却下されるべきである旨主張する。
そこで検討するに,本件記録によれば,①原告は,令和2年6月24日,被告両名を相手方として第1事件訴訟を提起した後,同年8月17日付けの本件訴状訂正申立書を当裁判所に提出したこと,②本件訴状訂正申立書には,御庁の同月7日付け連絡文書の指示により,被告大原薬品工業株式会社に関する記載を当事者目録から削除する,請求の原因記載の被告大原薬品工業株式会社訴外大原薬品工業株式会社を
に訂正する旨の記載があったこと,
③その後,
原告が当裁判所に提出した同年10月6日付け上申書には,
御庁
に対し,
本件訴状訂正申立書の撤回を予定している旨の連絡をしたが,
御庁
から,本件訴状訂正申立書は,適式な訴えの取下書と評価できないため撤回書の提出は不要であるとの連絡を受けたことに鑑み,撤回書の提出を差し控えることにした旨の記載があったこと,④本件訴訟は,書面による準備手続及び第1回弁論準備手続を経た後,令和3年10月6日の第1回口頭弁論期日において口頭弁論が終結されたところ,原告が口頭弁論終結時までに本件訴状訂正申立書を陳述しなかったため,本件訴状訂正申立書は不陳述扱いとされたことが認められる。
ところで,訴えの取下げは,原告が裁判所に対する請求の当否についての審判の申立ての全部又は一部を撤回する意思表示をいい,
この意思表示によって,

訴訟係属の効果が遡及的に消滅し,
手続が終了すること
(民訴法262条1項)
から,原則として書面でしなければならないとされていること(同法261条3項)に鑑みると,書面による訴えの取下げは,
取下書,
訴えの取下書
などの題名を記載した書面により,当該訴えを取り下げる旨が明確に記載されていることを要するものと解される。
しかるところ,本件訴状訂正申立書の題名及び記載内容(上記②)からは,原告が被告大原薬品工業に対する訴えを取り下げる旨が明確に記載されているものとは認められない。
また,本件訴訟の経過(上記③及び④)に照らすと,本件訴状訂正申立書による第1事件訴状の訂正は,撤回されたものと認めるのが相当である。したがって,被告Meijiの上記主張は理由がない。
2
本件明細書の記載事項について
(1)

本件明細書(乙D35)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある
(下記記載中に引用する表1及び表2については別紙2を参照)


【0001】

(技術分野)
本発明は,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害に罹患した患者を治療するための医薬組成物に関する。有効成分は,カルボスチリル誘導体又はその塩を含む。
【0002】
(関連技術)
米国特許第5,006,528号,欧州特許第367,141号及び特開平7-304740(1995)は,本発明におけるカルボスチリル誘導体として同じ化学構造式を包含しており,それらの薬理学的性質は,精神分裂病に対する治療に有益な薬物である。
【0003】

特開平9-301867(1997)に開示されたカルボスチリル化合物は,不安の治療に有用である。
【0004】
欧州特許第226,441号に開示されたカルボスチリル誘導体は,本発明におけるカルボスチリル誘導体の同類体を有しており,低酸素症の治療に有用である。
【0005】
上記に加えて,米国特許第4,734,416号,カナダ特許第1,117,110号,英国特許第2,017,701号,ドイツ特許第2,912,105号及び同第2,953,723号,特開昭54-130587(1979)
,同55-127371(1980)及び同62-14966
4(1987)に開示されたカルボスチリル誘導体は,本発明におけるカルボスチリル誘導体の同類体を有しており,抗ヒスタミン活性及び中枢神経制御作用を有している。
【0006】
アリピプラゾール(7-{4-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-1-ピペラジニル]ブトキシ}-3,4-ジヒドロカルボスチリル,又は,OPC-14597,BMS-337,039及びOPS-31としても知られている)は,ドーパミンD2受容体に強い親和性で結合し,ドーパミンD3受容体及び5-HT7受容体に中等度の親和性で結合することが報告されている(MasashiSasaら,CNSDrugReviews,Vol.3,No.1,pp.24-33)

【0007】
更に,アリピプラゾールは,シナプス前ドーパミン自己受容体作動活性,シナプス後D2受容体拮抗活性,及びD2受容体部分作動活性を有すると報告されている[T.Kikuchi,K.Tottori,Y.Uwa
hodo,Hirose,Miwa,OshiroandS.
T.
T.
Y.
Morita:J.Pharmacol.Exp.Ther.
,Vol.2
74,
pp.
329,
(1995)
;T.
Inoue,
M.
Domae,K.
YamadaandT.Furukawa:J.Pharmacol.Exp.Ther.
,Vol.277,pp.137,
(1996)。


【0008】

しかしながら,本発明の化合物が,5-HT1A受容体サブタイプにおける作動活性を有することは報告されていない。
【0009】
5-HT1A受容体リガンドを用いた治療介入は,アルコール中毒に対する薬物治療に有用であることが報告されている(MarkKlevenら,Eur.J.Pharmcol.
,Vol.281,
(1995)pp.2
19-228)

【0010】
また,5-HT1A作動薬は,哺乳類における虚血の発生による神経細胞変性に関連した障害の治療及び/又は予防に有用であることが報告されている(米国特許第5,162,375号)

【0011】
5-HT1A受容体過敏性は,ストレスの多い及び不安状態における片頭痛発作の頻度を増加させる生物学的基礎になり得ることが報告されている[MassimoLeoneら,
NeuroReport,
Vol.
9,
pp.2605-2608(1998)。

【0012】
5-HT1A受容体作動薬,
(-)-(R)-2-[4-[(3,4-ジヒド

ロ-2H-1-ベンゾピラン-2-イル)メチル]アミノ]
ブチル]-1,
2-ベンズイソチアゾール-3(2H)-オン

1,1-ジオキシド一塩

酸塩(BAY-3702)は,動物モデルにおいてニューロン保護,不安緩解及び抗欝様効果を有することが最近報告された(JeanDeVryら,Eur.J.Pharmacol.
,Vol.357,
(1998)

pp.1-8)

【0013】
5-HT1A受容体作動薬は,広範囲抗嘔吐剤であると思われることが報告された(MaryC.Wolffら,Eur.J.Pharmacol.,
Vol.340,
(1997)
,pp.217-220;ABAlfier
iら,Brit.J.Cancer,
(1995)
,Vol.72,pp.
1013-1015;MaryC.Wolffら,PharmacologyBiochemistryandBehavior,1995,Vol.52,No.3,pp.571-575;JamesB.Lucot,Eur.J.Pharmacol.
,1997,Vol.253,pp.
53-60)

【0014】
セロトニンは,アルツハイマー病,鬱病,悪心及び嘔吐,摂食障害,及び片頭痛を含むいくつかの神経及び精神障害において役割を演じている(Rasmussenら,
AnnualReportsinMedicin
alChemistry,Vol.30,SectionI,pp.1-9,1995,
第1章,セロトニン5-HT1A受容体活性調節因子(RecentProgressinSerotonin5-HT1AReceptorModulators),AcademicPress)。
WO00/16777号は,5-HT1A受容体作動薬,ブスピロンが,ADHDに関連した種々の症状の治療において効能があり,そして,D2受容体作動薬と5-HT1A作動薬の併用が,ADHD及びパーキンソン病の治療に効果的であることを開示している。

【0015】
5-HT1A作動薬は,アルツハイマー病,パーキンソン病又は老人性痴呆における認知障害の治療に効果的である。米国特許第5,824,680号は,5-HT1A作動薬,イプサピロンが,記憶を改善することによるアルツハイマー病の治療に効果的であることを開示している。
米国特許第4,
687,772号は,5-HT1A部分作動薬,ブスピロンが,治療を必要とする患者において短期記憶を改善するのに有用であることを記載している。WO93/04681号は,5-HT1A部分作動薬の使用が,アルツハイマー病,パーキンソン病又は老人性痴呆に関連した認知障害の治療又は予防に利用されてきたことを開示している。
【0016】
5-HT1A作動薬はまた,鬱病の治療に有効である。米国特許第4,771,053号は,5-HT1A部分作動薬,ゲピロンが重症鬱病,内因性鬱病,メランコリーを伴う大鬱病,及び非定型鬱病のような,ある種の一次抑鬱性障害の緩和に有用であることを記載している。
WO01/5285
5号は,5-HT1A部分作動薬ゲピロンと抗欝薬の併用により,鬱病を効果的に治療することができることを記載している。
【0017】
5-HT1A受容体部分作動薬ブスピロンは,神経遮断薬誘発パーキンソン症候群及び錐体外路症状のような運動不全を緩和する。これらの観察は,米国特許第4,438,119号に開示されている。更に,5-HT1A作動薬は,パーキンソン病においてみられる運動障害によく似た,げっ歯類での神経遮断薬誘発カタレプシーを逆転させる(MarkJ.Millan,J.Pharmacol.Exp.Ther.
,2000,Vol.
295,p.853-861)
。それ故,アリピプラゾールは,D2及び5
-HT1A受容体における強力な部分作動活性を有しているので,老人患者
における精神病,アルツハイマー病,パーキンソン病又は老人性痴呆に治療を施すのに使用することができる。更に,これらの患者は,アリピプラゾールのこの性質の故に,錐体外路症状を経験することはないであろうと思われる。

【0022】

現在,クロザピンが,治療抵抗性精神分裂病に対して有効な抗精神病薬である。クロザピン(クロザリルの名称で市販されている)は,標準的な抗精神病療法に適切に応答しない重症精神分裂病患者の治療及び管理用として,FDAによって1990年に許可された[M.W.Jann:Pharmacotherapy,Vol.11,pp.179,
(1991)。

クロザピンは,治療抵抗性精神分裂病患者における認知障害に対して有効であることが報告された[C.Hagger,P.Buckley,J.T.Kenny,L.Friedman,D.UbogyandH.Y.Meltzer:Biol.Psychiatry,Vol.34,pp.702,
(1993)
;M.A.Lee,P.A.Thompsonand
H.Y.Meltzer:J.Clin.Psychiatry,Vol.55(Suppl.B)
,pp.82,
(1994)
;D.E.M.Fuji
i,I.Ahmed,M.JokumsenandJ.M.Compton:J.NeuropsychiatryClin.Neurosci.
,Vol.9,pp.240,
(1997)。例えば,クロザピンは,

治療抵抗性精神分裂病患者における,注意力,応答時間,流暢な会話等の認知障害を改善することが報告されている[M.A.Lee,P.A.Thompson

and

H.Y.Meltzer:J.Clin.Ps

ychiatry,Vol.55(Suppl.B)
,pp.82,
(19
94)。又,クロザピンは,ウェクスラー成人知能検査-改定フルスケー]
ルの客観的評価尺度において,認知障害の効果的な改善をもたらすことが
報告されている[D.E.M.Fujii,I.Ahmed,M.JokumsenandJ.M.Compton:J.NeuropsychiatryClin.Neurosci.
,Vol.9,pp.240,
(1997)。

【0023】
5-HT1A受容体は,治療抵抗性精神分裂病及び認知障害に対するクロザピンの治療効力における役割を演じていることが報告されている。この関係は,
ヒト5-HT1A受容体を用いた結合実験によって明らかにされた[S.
L.MasonandG.P.Reynolds:Eur.J.Pharmacol.
,Vol.221,pp.397,
(1992)。更に,分

子薬理学の進歩により,
5-HT1A受容体作動作用或いは5-HT1A受容
体部分作動作用は,治療抵抗性精神分裂病及び認知障害において重要な役割を演じていることが明らかにされている[A.Newman-Tancredi,C.Chaput,L.VerrieleandM.J.Millan:Neuropharmacology,
Vol.35,pp.
119,
(1996)。更に加えて,5-HT1A受容体の数が,治療抵抗性]
と分類された慢性精神病患者の前頭葉前部皮質で増加していることが報告されている。この観察は,慢性精神病の重症症状の発現が,機能低下した5-HT1A受容体を介する,神経細胞機能の低下の結果による代償過程によって説明された[T.Hashimoto,N.Kitamura,Y.Kajimoto,Y.Shirai,O.Shirakawa,T.Mita,N.NishinoandC.Tanaka:Phycopharmacology,Vol.112,pp.S35,
(1993)。そ

れ故,5-HT1A受容体を通して仲介される神経細胞伝達の低下が,治療抵抗性精神分裂病患者において予測される。このように,クロザピンの臨床効力は,5-HT1A受容体におけるその部分作動性効力に関係している
と思われる[A.Newman-Tancredi,C.Chaput,L.VerrieleandM.J.Millan:Neuropharmacology,Vol.35,pp.119,
(1996)。5-H

T1A受容体作動作用は,クロザピンの臨床効果に関係していると思われ,この仮説は,クロザピンが治療有効量で脳5-HT1A受容体と相互作用することを示した,霊長類における陽電子放射断層撮影法(PET)での研究によって支持されている[Y.H.Chou,C.HalldinandL.Farde:Int.J.Neuropsychopharmacol.
,Vol.4(Suppl.3)
,pp.S130,
(2000)。更

に,選択的5-HT1A受容体作動薬として知られているタンドスピロンは,慢性精神分裂病患者において認知障害を改善した[T.Sumiyoshi,M.Matsui,I.Yamashita,S.Nohara,T.Uehara,M.KurachiandH.Y.Meltzer:J.Clin.Pharmacol.
,Vol.20,pp.386,
(200
0)。もっとも,動物実験において,すべての報告が5-HT1A受容体作]
動作用が認知障害に関連しているらしいことを必ずしも示唆してはいない。しかしながら,選択的5-HT1A受容体作動薬として知られている8-OH-DPAT[8-ヒドロキシ-2-(ジ-n-プロピルアミノ)テトラリン]は,ムスカリン様受容体拮抗薬として知られているスコポラミンによって誘発される学習及び記憶障害を改善し,このことは5-HT1A受容体作動作用と認知障害における改善が関連することを示唆している[M.Carli,P.Bonalumi,R.Samanin:Eur.J.Neurosci.
,Vol.10,pp.221,
(1998)
;A.Me
nesesandE.Hong:Neurobiol.Learn.Mem.
,Vol.71,pp.207,
(1999)。

【0027】

上記で説明したように,5-HT1A受容体作動作用は,治療抵抗性精神分裂病又は治療抵抗性精神分裂病に起因する認知障害を改善するのに重要である。クロザピンは,治療抵抗性精神分裂病に対して効果的であるが,しかしながら,その使用は,患者に定期的な血液検査を実施する必要がある顆粒球減少症を生じさせるという,重篤な副作用の故に限定される。このような状況下において,強力で,5-HT1A受容体に完全に又は部分的に作動作用を有する安全な抗精神分裂病薬の開発が,真剣に望まれている。【0028】
本発明のカルボスチリル化合物は,5-HT1A受容体と高い親和性で結合し,
強力な部分作動作用を表し,
クロザピンと比較して高い固有の活性
(約
68%)を有している。それ故,本発明の化合物は,クロザピンの作動作用よりも強力な5-HT1A受容体作動作用を有している。このように,本発明のカルボスチリル化合物は,その他の一般に入手できる薬物療法治療薬と比較して,治療抵抗性精神分裂病,治療抵抗性精神分裂病に起因する認知障害,難治性精神分裂病,難治性精神分裂病に起因する認知障害,慢性精神分裂病,慢性精神分裂病に起因する認知障害,その他を治癒するための,より強力で高い安全性を有する薬物となるものである。即ち,本発明の化合物は,クロルプロマジン,ハロペリドール,スルピリド,フルフェナジン,ペルフェナジン,チオリダジン,ピモジド,ゾテピン,リスペリドン,オランザピン,ケチアピン,アミスルプリド等のような,一般に入手し得る抗精神病薬に適切に反応しない,治療抵抗性精神分裂病,治療抵抗性精神分裂病に起因する認知障害,難治性精神分裂病,難治性精神分裂病に起因する認知障害,慢性精神分裂病,慢性精神分裂病に起因する認知障害等に対する,強力でより安全な薬物療法に用いられることを立証するものである。

【0033】

(発明の概要)
本発明の目的は,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害に罹患した患者を治療する方法を提供することである。
【0034】
(発明の詳細な説明)
本発明に従って使用される5-HT1A受容体サブタイプ作動薬化合物としては,以下の式(1)


(カルボスチリル骨格の3位及び4位の間の炭素-炭素結合は,単結合又は二重結合である)

で示されるカルボスチリル誘導体が使用される。
【0035】
上記の一般式
(1)
の化合物は公知化合物であり,米国特許第5,
006,
528号のような刊行物に開示されており,上記刊行物に記載されたプロセスによって容易に調製することができる。
【0036】
本発明の式(1)によって表されるカルボスチリル誘導体は,それと医薬として許容される酸を反応することによって,その酸付加塩に容易に変換することができる。そのような酸の例としては,例えば塩酸,硫酸,リン酸,臭化水素酸,その他,のような無機酸,例えばシュウ酸,マレイン酸,フマル酸,リンゴ酸,酒石酸,クエン酸,安息香酸,その他,のような有機酸を包含する。

【0037】
溶媒和物の溶媒は,再結晶に通常使用される溶媒である。溶媒和物の例としては,半水和物,水和物,及びアルコラート,例えばエタノラート,メタノラート,イソプロパノラート,その他を包含する。
【0038】
上に挙げた反応によって調製される所望の化合物は,溶媒抽出,希釈,再結晶,カラムクロマトグラフィ,分取薄層クロマトグラフィ,その他のような通常の分離手段によって容易に単離精製することができる。
【0039】
本発明の強力な部分5-HT1A受容体作動薬は,双極性障害,例えば最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,或いは特定できない症状の発現を有する双極性I型障害;エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性II型障害;鬱病,例えば内因性鬱病,大鬱病,メランコリー,及び治療抵抗性鬱病;パニック障害;強迫性障害(OCD)
;睡眠障害;性的機能不全;アルコール乱用及び薬物耽
溺;認知障害;アルツハイマー病,パーキンソン病,その他のような神経変性疾患,アルツハイマー病,パーキンソン病及び関連障害のような神経変性疾患に起因した認知障害;嘔吐;乗物酔い;肥満;片頭痛;自閉症;ダウン症候群;注意欠陥多動障害(ADHD)
;治療抵抗性,難治性又は慢
性精神分裂病(一般に入手し得る抗精神病薬に適切に反応しない);治療抵
抗性精神分裂病,難治性精神分裂病又は慢性精神分裂病その他に起因する認知障害,を誘発する,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の種々の障害に有効である。
【0040】
本発明の化合物は,医薬として許容される処方に好適に調製され得る[米国特許第5,006,528号,欧州特許第367,141号及び特開平
7-304740(1995)及び特願2000-194976を参照。これらは参照することによって本明細書の一部に組み込まれる]

【0041】
本発明のこれら医薬品製剤の投与量は,投与方法,患者の年齢,性別及びその他の因子,
疾病の重症度及びその他の因子によって適切に選択される。
しかしながら,一般的には,有効成分の化合物の一日当りの投与量は,好ましくは,
体重1kg当り約0.
0001乃至約50mgの範囲内である。
有効成分の化合物は,約0.001から約1000mg,特に0.01から100mg,更に詳しくは0.1から50mg,より更に詳しくは1mgから20mgの量で各単位投与形態の中に含有されることが望ましい。オ
【0042】

薬理学的試験
1.材料と方法
1.1.試験化合物
7-{4-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-1-ピペラジニル]ブトキシ}-3,4-ジヒドロカルボスチリル(アリピプラゾール)が,試験化合物として使用された。
【0043】
1.2.参照化合物
セロトニン(5-HT)及びWAY-100635(N-[2-[4-(2-メトキシフェニル)-1-ピペラジニル]エチル]-N-(2-ピリジニル)-シクロヘキサンカルボキサミド,5-HT1A受容体拮抗薬,RBI(Natick,MA)製)が,参照化合物として使用された。【0044】
1.3.溶剤
ジメチルスルホキシド
(DMSO)SigmaChemicalsCo.


(St.Louis,MO)製)を溶剤として使用した。
【0045】
1.4.試験化合物及び参照化合物の調製
試験化合物を,100%ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し,100μMの貯蔵溶液を得た(試験化合物を含有するすべての試験管中のDMSOの最終濃度は,1%,v/vであった)
。すべてのその他の参照化合
物は,DMSOでなく二回蒸留した水を用いて,同じ方法で調製された。【0046】
1.5.35S]GTPγS結合アッセイの試験手順

試験化合物及び参照化合物を,10種類の異なった濃度(0.01,0.1,1,5,10,50,100,1000,10000,及び50000nM)で,3回,h5-HT1ACHO細胞膜に対する基礎的[35S]GTPγSの結合への効果を試験した。反応は,GDP(1μM)[35S]GT,
PγS(0.1nM)及びh5-HT1ACHO細胞膜(10μgタンパク質/反応;NENLifeScienceProducts,Boston,MA;カタログ番号CRM035,ロット番号501-60024,GenBankNo.X13556)を含有するバッファ(25mMTrisHCl,50mMNaCl,5mMMgCl2,0.1mMEGTA,pH=7.4)792μlと混合した試験薬物/参照薬物,8μlを含有する5mlガラス試験管で行った。
反応は,
60分間,
室温で進行させ,
Brandelハーベスター及び4×3ml氷冷バッファ洗浄を使用して,WhatmanGF/B濾紙を通す急速濾過によって終了させた。濾紙に結合した

35S放射能を,液体シンチレーション計測(1272Clini
gamma,LKB/Wallach)を使用して測定した。
【0047】
1.6.h5-HT1A受容体における試験化合物(アリピプラゾール)の
結合親和性を求めるための実験的手順
試験化合物を,10種類の異なった濃度(0.01,0.1,1,10,50,100,500,1000,5000及び10000nM)で3回,CHO細胞膜のh5-HT1A受容体(15~20μgタンパク質;NENLifeScienceProducts,
カタログ番号CRM035,
ロット番号501-60024)
に結合する3H]

8-OH-DPAT
(1
nM;NENLifeSciences;カタログ番号NET929,ロット番号3406035,比活性=124.9Ci/ミリモル)の置換を定量した。(396μl)[3H]

を,
8-OH-DPAT
(396μl)

試験化合物又は溶剤(8μl)及びバッファA(50mMTris.HCl,10mMMgSO4,0.5mMEDTA,0.1%(w/v)アスコルビン酸,pH=7.4)を含有する5mlガラス試験管中でインキュベートした。全てのアッセイは,60分間,室温で行われ,Brandelハーベスター及び4×1mlバッファBで氷冷洗浄を使用して,WhatmanGF/B濾紙(バッファBで前もって浸漬;50mMTris.HCl)を通す急速濾過によって終了させた。非特異的結合は,10μM(+)8-OH-DPATの存在下で求めた。
【0048】
1.7.定量されたパラメーター
セロトニン(5-HT)は,組換えCHO細胞膜で,h5-HT1A受容体に結合する基礎的[35S]GTPγSの増加を促進する,完全5-HT1A受容体作動体である。試験化合物を10種類の濃度で試験して,それらの基礎的[35S]GTPγSの結合への効果を10μM5-HTによって得られた効果と比較して定量した。相対活性(EC50,95%信頼区間)及び固有作動作用(10μM5-HTに対するEmaxの%)を,完全濃度-効果データのコンピュータ化した非線形回帰分析によって,各化合物につき計算
した。h5-HT1A受容体における試験化合物の結合親和性は,この受容体を発現するCHO細胞膜に結合する[3H]8-OH-DPATを妨げる能力によって定量した。競合結合データの非線形回帰分析を使用して,3[
H]8-OH-DPATによって特異的に結合されたh5-HT1A部位の半分を占拠する試験化合物の濃度である,阻害定数(IC50,95%信頼区間)
を計算した。
試験化合物に対するh5-HT1A受容体の親和性
(Ki,
95%信頼区間)は,式,Ki=(IC50)/(1+([3H]8-OH-[
DPAT]/Kd)
,ここでh5-HT1Aにおける[3H]8-OH-DP
ATのKd=0.69nM(NENLifeSciences)
,によっ
て計算した。h5-HT1A受容体における薬物結合親和性,力価及び固有の効果の全ての推定値は,Windows(登録商標)用のGraphPadPrismver.3.00(GrapPadSoftware,SanDiego,CA)を使用して計算した。
【0049】
2.結果
試験化合物及び5-HTは,基礎的[35S]GTPγS結合以上に濃度依存的に増加をもたらした。1%DMSOのみでの試験では,基礎的又は薬物誘発[35S]GTPγS結合には効果がなかった。
【0050】
試験化合物
(EC50=2.
12nM)
及び5-HT
(EC50=3.
67nM)
は,基礎的[35S]GTPγS結合を強く促進した。推定された力価及び固有の作動薬効能は,各例において,相関係数(r2)>0.98を有する非線形回帰分析によって導かれた(表1)
。試験化合物は,65~70%の範
囲で部分作動薬効能を発揮した。WAY-100635は,試験した全ての濃度で,基礎的[35S]GTPγS結合における有意な変化を生じなかった(非対スチューデントt-検定)
(表1)
。しかし,WAY-10063

5は,CHO細胞膜のh5-HT1Aへの[35S]GTPγS結合に際して5-HT及び試験化合物の効果を完全に阻害した(表2)
。表1及び2を以下
に示す。
【0051】
試験化合物は,CHO細胞膜のh5-HT1Aに対する高い親和性結合を立証した
(IC50=4.
03nM,
95%信頼区間=2.
67~6.
08nM;
Ki=1.65nM,95%信頼区間=1.09~2.48nM)。
(2)

前記⑴の記載事項によれば,
本件明細書の発明の詳細な説明には,
本件発

明1に関し,次のような開示があることが認められる。

本発明の目的,内容等について
本発明5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障は,害に罹患した患者を治療するための医薬組成物に関するものであり,
有効成分は,カルボスチリル誘導体又はその塩を含む【0001】。(

本発明の化合物に該当するアリピプラゾール(7-{4-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-1-ピペラジニル]ブトキシ}-3,4-ジヒドロカルボスチリルは,ドーパミンD2受容体に強い親和性で結合し,ドーパミンD3受容体及び5-HT7受容体に中等度の親和性で結合すること及びシナプス前ドーパミン自己受容体作動活性,シナプス後D2受容体拮抗活性,及びD2受容体部分作動活性を有することが報告されていたが,
本発明の化合物が,5-HT1A受容体サブタイプにおける作動活性を有することは報告されていなかった(【0006】ないし【00
08】。

本発明
の目的は,
5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害に罹患した患者を治療する方法を提供することにあり,
本発明
の5-HT1A受容体サブタイプ作動薬化合物としては,式(1)(カル
ボスチリル骨格の3位及び4位の間の炭素-炭素結合は,単結合又は二重
結合である)
で示されるカルボスチリル誘導体が使用される【0033】


【0034】。

本発明の式(1)の化合物は,公知化合物であり,公知のプロセスによって容易に調製することができる(
【0035】。


5-HT1A受容体作動薬の治療効果等について
セロトニン
(5HT)は,
アルツハイマー病,鬱病,悪心及び嘔吐,摂食障害,及び片頭痛を含むいくつかの神経及び精神障害において役割を演じている【0014】,(
)5-HT1A作動薬は,
鬱病の治療に有効である。米国特許第4,771,053号は,5-HT1A部分作動薬,ゲピロンが重症鬱病,内因性鬱病,メランコリーを伴う大鬱病,及び非定型鬱病のような,ある種の一次抑鬱性障害の緩和に有用であることを記載している。WO01/52855号は,5-HT1A部分作動薬ゲピロンと抗欝薬の併用により,鬱病を効果的に治療することができることを記載している。(【0016】,)アリピプラゾールは,

D2及び5-HT1A受容体における強力な部分作動活性を有しているので,老人患者における精神病,アルツハイマー病,パーキンソン病又は老人性痴呆に治療を施すのに使用することができる。【0017】,



本発明のカルボスチリル化合物
は,
5-HT1A受容体と高い親和性で結合し,強力な部分作動作用を表し,クロザピンと比較して高い固有の活性(約68%)を有している。それ故,本発明の化合物は,クロザピンの作動作用よりも強力な5-HT1A受容体作動作用を有している。(【0028】,)本発明の強力な部分5-HT1A受容体作動薬双極性障害,は,例えば最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,或いは特定できない症状の発現を有する双極性I型障害;エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性II型障害;鬱病,例えば内因性鬱病,大鬱病,メランコリー,及び治療抵抗性鬱病;…を誘発する,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の種々の障害に有効である。(【0039】。)

薬理学的試験の結果等について,
(ア)

本発明のカルボスチリル化合物に該当する7-{4-[4-(2,3-ジクロロフェニル)-1-ピペラジニル]ブトキシ}-3,4-ジヒドロカルボスチリル(アリピプラゾール)が,CHO細胞膜のh5-HT1A受容体サブタイプに対し,65~70%の範囲で部分作動薬効能等を発揮したことを示すin

vitro試験の結果が記載されている


【0042】ないし【0051】
,表1及び表2)

すなわち,試験化合物をアリピプラゾール,参照化合物をセロトニン(5-HT)及びWAY-100635(5-HT1A受容体拮抗薬)とし,10種類の異なった濃度(0.01,0.1,1,5,10,50,100,1000,10000,及び50000nM)で,h5-HT1A

受容体を発現させた組換えCHO細胞膜
(h5-HT1ACHO細胞膜)

に試験化合物及び参照化合物を作用させたときに,放射性標識されたGTP誘導体である[35S]GTPγSがGタンパク質へ結合する結合量を測定する[35S]GTPγS結合アッセイを行い,相対活性(EC50,95%信頼区間)
及び固有作動作用
(10μM5-HTに対するEmaxの%)
を完全濃度-効果データのコンピュータ化した非線形回帰分析によって計算し,その結果,試験化合物(EC50=2.12nM)及び5-HT(EC50=3.67nM)は,基礎的[35S]GTPγS結合を強く促進し,また,試験化合物は,h5-HT1A受容体に対する固有作動能が68.13±3.16(%±SEM)であり,65~70%の範囲で部分作動薬効能を発揮した(表1)
。一方,WAY-100635は,試験し
た全ての濃度で,基礎的[35S]GTPγS結合における有意な変化を生じなかったが,CHO細胞膜のh5-HT1Aへの[35S]GTPγS結合に際して,5-HT及び試験化合物の効果を完全に阻害した(表2)。

次に,試験化合物について,10種類の異なった濃度(0.01,0.1,1,5,10,50,100,1000,10000,及び50000nM)で,h5-HT1ACHO細胞膜のh5-HT1A受容体に結合する完全作動薬[3H]8-OH-DPATの置換を定量し,3H]8-[
OH-DPATによって特異的に結合されたh5-HT1A部位の半分を占拠することにより,上記結合が50%阻害されるときの試験化合物の濃度であるIC50を計算し,その結果,試験化合物のIC50は4.03nM
(95%信頼区間=2.
67~6.
08nM)阻害定数Kiは1.

65nM(95%信頼区間=1.09~2.48nM)であり,試験化合物は,CHO細胞膜のh5-HT1A受容体に対する高い結合親和性を示した(
【0051】。

(イ)

本件明細書の発明の詳細な説明には,試験化合物等の本発明の

カルボスチリル化合物を使用した動物実験や臨床試験に関する記載はない。
3
本件出願時の技術常識について


各文献の記載事項

5-HT1A受容体部分作動薬の作用等に関するもの
(ア)

日本神経精神薬理学雑誌Vol.17,1997年,p.53-59
(甲A24)
1.セロトニン受容体と不安および抑うつセロトニン(5-HT)産生細胞は中脳の縫線核にあり,脳内の広範な領域に投射している。このうち,大脳辺縁系には神経終末が最も高密度に分布している。一方,5-HT受容体は,1996年のTIPSに従うと,Table1に主なものを示したが,5-HT1(5-HT1A,5-HT1B,5-HT1D,5-HT1E,5-HT1F),5-HT2(5-HT2A,5-HT2B,5-HT2C(従来の5-HT1C),5-HT3,)5-HT4,5-HT5,5-HT6,5-HT7受容体の13種類のサブタイプが知られている(詳細は石原・笹,1997)。このうち,5-HT1A受容体が抗不安と抗うつ作用の標的と考えられ,5-HT2が抗うつと抗幻覚作用の標的と推測されている。(53頁左欄下から3行~右欄9行)
2.Tandospironeの作用メカニズムTandospironeは選択的な5-HT1A受容体親和性を示し(Ki値:25nM),その他の5-HT受容体に対する親和性はほとんどみられない。…Tandospironeは5-HT1A受容体に対し,アゴニストとして働く。一般に,5-HT1Aアゴニストが働いた場合,ニューロンは過分極を起こし,ニューロン活動が抑制されることが明らかになっている。海馬CA1錐体細胞に5-HT1Aアゴニストのbuspironeを作用させると,Gタンパクを介してK+チャネルが開放され,K+が細胞外へ流出することにより過分極を起こす。…tandospironeは主として辺縁系に作用し,5-HT1A受容体を介して(5-HT2A受容体などを介する)ニューロンの興奮を抑制することにより,抗不安作用を示すと考えられる。…tandospironeを慢性投与すると海馬等の5-HT2A容体数が減少することが報告されている。前述したように5-HT2A受容体数の減少は三環系抗うつ薬の慢性投与によって起こることから,この変化あるいは5-HT2A受容体にリンクしたPI代謝回転の抑制が抗うつ効果に関与すると考えられている。もっとも,5-HT1A受容体に対するアゴニスト作用も抗うつ作用に関与するという考えもある。(54頁左欄下から3行~55頁左欄下から9行)
(3)抗うつ作用この評価には,強制遊泳試験が用いられる。これは前試験を15分間,さらに24時間後に薬物を投与して5分間の試験を行う。前試験において,ビーカーに水を満たしこの中にラットを入れると,初めは泳いでいるが,しだいに泳ぎがなくなり,ついには頭だけ出して動かなくなり,無動となる。24時間後にこのラットにimipramineなどの抗うつ薬を投与して,この試験を行うと無動時間が短縮する。この無動時を測定する。Tandospironeの場合,imipramineとほぼ同用量(10mg/kg)によって無動時間の短縮が認められている。(56頁左欄2行~12行)…抑うつ症状に対する効果は,diazepamよりもtandospironeが有意に優れている。さらにハミルトンの不安尺度でも抑うつ気分の改善効果はtandospironeのほうがdiazepamよりも優れていることが示されている。58頁左欄8行~13行)(
7.Tandospironeは選択的に辺縁系の5-HT1Aに作用して,抗不安作用および抗うつ作用を示すと考えられる。さらに連続投与により5-HT2A受容体密度が低下することが抗うつ作用に寄与すると思われる。(58頁左欄下から2行~右欄2行)(イ)

J.
ClinPsychiatry,
52
(12)
(suppl.,


December1991,p.24-31(甲A26の1)
抗うつ薬の薬理における新しい展開により,5-HT取り込み阻害剤などのセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン,5-HT)の神経伝達を増強する化合物に焦点が当てられるようになった。さらに,5-HT1A受容体部分作動薬のブスピロン,および同様の構造を持つアザピロン系化合物も,抗うつ療法の候補である。著者は,抗うつ薬としての5-HT1A受容体作動薬の有効性を裏付ける臨床および前臨床試験の結果をレビューする。抗うつ薬の臨床作用を予測する最初の臨床試験および動物行動試験から,5-HT1A受容体部分作動薬の抗うつ薬様作用を支持する証拠が報告された。動物行動試験では,ブスピロンおよび関連化合物の抗うつ作用の根底にある可能性のある神経化学的メカニズムも検討された。5-HT1A受容体作動薬は,5-HTの放出を減少させる細胞体樹状突起自己受容体も活性化するが,抗うつ作用はシナプス後5-HT1A受容体の活性化に起因するという証拠をレビューする。証拠から,5-HT1A受容体選択的なアザピロン類の抗うつ作用における共通代謝産物1-PPの関与は支持されない。5-HT1A受容体作動薬の慢性投与が及ぼす影響およびその他の受容体,例えば5-HT2受容体との起こり得る相互作用について調べた研究はほとんどない。(24頁1行~14行)
強制水泳試験強制水泳試験は,反復的に水泳テストをさせたラットの無動反応を,抗うつ薬が逆転する能力を測定する試験である。通常,初回水泳試験から24時間以内に薬物を3回注射し,2回目の水泳試験で薬物による無動時間の短縮を評価する。強制水泳試験は,様々な抗うつ薬クラスの作用を検出する感度があり,三環性抗うつ薬,モノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAOI),非定型抗うつ薬の作用は,全て強制水泳試験で検出されている。アンフェタミンなど,いくつかの薬物は自発運動活発を亢進させるため,結果が偽陽性になることがある。これらの偽陽性は,別の試験で薬物の自発運動亢進作用を測定して除外する。5-HT神経伝達を非選択的に亢進する薬物,例えば,フルオキセチンやフェモキセチンなどの5-HT再取込み阻害薬は,ラット強制水泳試験で無動時間が減少したことにより,抗うつ作用が示された。幾つかの試験で,5-HT1A受容体アゴニストである8-OH-DPATの全身投与により,抗うつ剤と同様に無動時間が減少することが報告されている。この無動時間の減少は,自発運動やその他の行動に対する二次的な作用によらない。大部分の報告は標準化されたルーチンな手法として,24時間に3回の注射を行っているが,8-OH-DPATの長期投与(7~21日間,0.25mg/kgを1日1回)でも,抗うつ様の作用を発現した45。さらに,5-HT1A受容体に選択的なアザピロン系薬物-ブスピロン,ゲピロン,イプサピロン,タンドスピロン-は強制水泳試験で抗うつ様の行動効果が示された。別の試験では,これらの薬物を同じ投薬スケジュールに従って投与すると自発運動が減少したことから,強制水泳試験に及ぼす効果が自発運動の刺激に起因しないことが明らかになった。他の受容体に選択的な5-HTアゴニスト,例えば,5-HT1B/1C受容体アゴニストm-CPPや5-HT1C/2受容体アゴニストDOBは,強制水泳試験で無働時間を有意に短縮しなかった。(26頁左欄の「ForcedSwimmingTest」

要約5-HT系は長年うつ病との関連が指摘されていたが,5-HT神経伝達に選択的に作用する化合物が使えるようになったのは,ごく最近である。現在,選択的な5-HT再取込み阻害薬は,臨床的に有効な抗うつ薬として受け入れられており,抗うつ薬としての選択的5-HT受容体アゴニストの作用に,評価の関心が移っている。選択的5-HT受容体アゴニストのヒトにおける行動上の効果に関する現在の知見からは,5-HT1A受容体部分アゴニストのみが,抗うつ薬および抗不安薬としての可能性があると示唆されている。初期の治験結果は,5-HT1A受容体部分アゴニストが抗うつ薬として有効であることを支持している。抗うつ薬の効力を予測する複数の動物モデルの試験からも,5-HT1A受容体アゴニストと部分アゴニストが抗うつ作用を示す可能性を補強する証拠が得られている。これらの作用の根底にある神経化学的な機序の解析により,代謝物1-PPが抗うつ作用に関与しないことが示唆されている。行動試験より,5-HT1A受容体アゴニストは,シナプス前で自己受容体を刺激して5-HT放出を抑制するものの,シナプス後5-HT1A受容体に対するアゴニスト作用が抗うつ薬の行動上の特性に大きく寄与することが示唆された。その他の神経化学的機序の果たす役割(例えば,5-HT2受容体密度の減少と反応),および他の神経伝達物質の役割(ノルエピネフリンなど)未だに完全に考慮されていない。は,さらに,臨床治療では,抗うつ薬が治療効果を発現する前に長期的にわたり投与されなければならないため,5-HT1A受容体部分アゴニストの長期投与後における薬理作用を調べる試験が行われるべきである。(29頁左欄~右欄SUMMARY)
(ウ)

The5-HT1Areceptoranditsligan

ds:structureandfunction,ProgressinDrugResearch,Vol.52,1999,p.103-165及びSummary(乙A13の1)
要約本稿は,1983年に5-HT1A受容体が発見された後の,5-HT1A受容体とそのリガンドに関する研究の進歩について概説する。分子生物学は,クローン化5-HT1A受容体,その変異体とキメラなど,構造と機能を試験するための新たなツールを提供した。異なる化学クラスに属する多くの化合物が,5-HT1A受容体への高い親和性と選択性を示している。これら化合物の大部分は,アゴニストまたは部分アゴニストで,完全アンタゴニストは未だにわずかしかない。アゴニストと部分アゴニストは,不安症とうつ病の様々な動物モデルで効果が認められている。受容体部分アゴニストは,ヒトの全般性不安障害やうつ病で効果が証明されている。5-HT1A受容体アンタゴニストは,例えば認知障害への治療に適用できるかが評価されている。(Summary)

動物において,うつ症状の幾つかはモデル化することができるが,それ以外のうつ症状がモデル化できないことは明白である。したがって,うつ病症状の様々な側面を網羅するモデルは,より高い予測妥当性,表面的妥当性,構成概念妥当性を有し,うつ病の“より良い”動物モデルと考えられる。表15は,幾つかの選ばれたうつ病動物モデルをまとめたものである。比較のため,多くの精神活性薬クラスの効果を示す。一般に,5-HT1A受容体アゴニスト(完全アゴニストと部分アゴニスト)は,表15に示すように,より高度な動物モデルで抗うつ病特性を表す。完全アゴニスト(8-OH-DPAT,フレシノキサン)と部分アゴニスト(ブスピロン,イプサピロン)の両方は,様々なパラダイムで抗うつ作用を発現する[208,209,157]。これは,5-HT1A受容体アゴニストがヒトうつ病で抗うつ作用を発現する可能性を明確に示唆している。(152頁本文1行~最下行の「Itisclear…indepressiveillnessinhumans.)

5.5.1治療の適用不安症とうつ病ブスピロン,ゲピロン,イプサピロン,タンドスピロンなどの様々なアザピロン系薬物は,全般性不安障害や感情障害に効果のあることが証明されている(レビューについては[272-275]参照)。アザピロンの抗不安および抗うつ作用機序は,シナプス後5-HT1A受容体における部分アゴニスト作用で説明される。不安症は5-HT受容体の過剰刺激を特徴とし,アザピロンはシナプス後5-HT1A受容体から5-HTを取り去り,アンタゴニストとして作用する。うつ病はセロトニン作動性神経伝達の機能不全を特徴とし,アザピロンは5-HTと競合することなく,中等度の固有活性を有するアゴニストとして作用する。抗不安薬として,アザピロンはベンゾジアゼピン類と同程度の効果がある。作用発現はベンゾジアゼピンより遅い。その副作用(消化管症状,めまい,頭痛)はベンゾジアゼピン(鎮静,記憶喪失,離脱作用,依存性)と全く異なる。抗うつ薬として,アザピロンは,大うつ病,特にメランコリー型サブタイプに有効である。このサブタイプはブスピロン治療から1週間で有意に改善した。副作用は選択的セロトニン再取込み阻害薬と同様であるが,程度は弱い。(153頁本文1行~最下行の「5.Therapeuticapplications…butlesssever
e.)

(エ)

松下正明総編集
『臨床精神医学講座第14巻精神科薬物療法』平


成11年(1999年)3月31日,p.220-225(甲A6)(下記
記載中に引用する図44については別紙2を参照)

25-HT1Aアゴニスト…(中略)…c.行動薬理Vogel型飲水実験およびGeller-Seifter型コンフリクト実験においてtandospironは用量依存的に抗コンフリクト作用を認める。またうつ病モデルとされる強制水泳実験においても用量依存的に無動時間の短縮を認める。…(中略)…臨床的には心身症における自律神経失調症,本態性高血圧症,消化性潰瘍における身体症候ならびに抑うつ,不安,焦燥,睡眠障害の改善が認められ,抑うつ症状を主訴とする神経症においても改善効果が認められている。d.作用機序…(中略)…tandospironeは脳内の5-HT1A受容体に選択的に結合する。tandospironeの結合部位は情動中枢とされる海馬,扁桃体をはじめとする大脳辺縁系および大脳辺縁系にセロトニンニューロンを投射する縫線核に集中している。これは5-HT1A受容体のfullagonistである8-OH-DPATの結合部位,すなわち5-HT1A受容体の分布と一致している。…tandospironeは大脳辺縁系に局在する5-HT1A受容体のみに結合し選択的に抗不安作用あるいは抗うつ作用を発現していると考えられている(図44)。
(220頁右欄1行~221頁右欄25行)
(オ)

JournalofPsychiatry&Neuroscie

nce,Vol.26No.1,2001年1月,p.37-43(甲A19の1)
セロトニン(5-HT),ノルアドレナリン,またはその両方の神経伝達の増強は,大うつ病の治療に現在利用できるほとんどの薬剤に関連する抗うつ応答の根底にみられる現象である。5-HT系に関して,抗うつ薬は,伝達全般を制御する一部のニューロン要素に即時的な影響を及ぼすが,最終的に治療上の利益を生じるのは,そのような治療に対するニューロン反応の緩やかな変化である。大うつ病では,5-HT1A伝達増強が抗うつ反応の決定的要因であると考えられているのに対し,強迫神経症(OCD)では,眼窩前頭皮質における5-HT2伝達の増強が5-HT再取り込み阻害剤の治療効果を媒介すると考えられている。実験動物の様々な脳構造におけるこのような5-HT伝達の変化を再現するために必要な薬物の用量および投与期間は,外来におけるうつ病およびOCDの症状緩和に必要な状況と完全に一致する。一部の抗うつ薬によって生じる慢性疼痛の緩和は,部分的に,末梢5-HT2A受容体の遮断によって媒介される可能性もある。これらの所見から,5-HT系は,身体各部に様々な適応特性を備えているという概念が強調され,そのため,5-HT受容体の多様性に加えて,多くの疾患においてこの化学特異的なネットワークが重要になる。(37頁6行~19行)抗うつ反応に関与する5-HT受容体サブタイプ抗うつ反応で重要な5-HT受容体は,少なくとも重要な脳構造においては,確かにシナプス後の5-HT1A受容体サブタイプである。これは,以下の前臨床および臨床エビデンスに基づく。大うつ病に悩む患者は様々な症状を呈することから,この障害の病理生理には複数の脳構造における神経機能の混乱が関与するはずである。我々の研究室では実験的試験で様々な大脳構造における抗うつ薬治療の影響を調べたが,なかでも海馬に注目した。海馬は古典的に学習と記憶に関連する脳領域で,恐らく疾病期間に直接比例して大うつ病患者では萎縮することが示されている。興味深いことに,前臨床エビデンスは,5-HT伝達の強化が海馬の形態形成の刺激に寄与することを示唆している。このため,抗うつ薬治療後にこの前脳領域で収集したデータは,大うつ病の治療に役立つ重要な情報と考えられる。第一に,様々なタイプの三環系抗うつ薬(TCA)による長期治療は海馬錐体ニューロンの5-HT1A受容体の反応性を高める。…第二に,5-HT1Aアゴニスト,ブスピロンとゲピロンは,海馬で5-HT1Aの神経伝達を促進する作用と共に,抗うつ作用を有することが示され,シナプス後5-HT1A受容体の一部のサブ集団が抗うつ反応で重要な役割を果たすことを示唆している(図1参照)。
(3
8頁左欄下から13行~右欄下から7行)
(カ)

鈴木勇一他,
最新精神医学,
第7巻第1号,
平成14年
(2002年)

1月25日,p.75-80(甲A21)
(下記記載中に引用する表3に

ついては別紙3を参照)
2.薬理作用Tandspironeは,serotonin神経の自己受容体に対しては部分アゴニストとして作用すると考えられている。そのためtandspironeやbuspironeは,serotonin1A受容体部分アゴニストと呼ばれることもある。完全アゴニストが受容体に結合すると,本来のリガンド(serotoninなどの内因性の化学物質)が結合した場合とほぼ同様の作用を細胞内にひきおこす。それに対し部分アゴニストは,受容体に結合しても本来のリガンドに比べて弱い作用しかひきおこすことができない。そのため,本来のリガンドが少ししか存在しない場合には,部分アゴニストは受容体に働いて不十分ながら作用を及ぼし,足りないリガンドの分を補うことができる。この場合,部分アゴニストはアゴニストとして作用する。しかし,本来のリガンドが十分量存在している状態では,部分アゴニストはリガンドと競合して受容体と結合し,不十分な作用しか及ぼさない。この場合,部分アゴニストはアンタゴニストとして作用することになる。不安障害の場合,中脳の縫線核で過剰のserotoninが産生されていると考えられている。…逆にうつ状態の時はserotoninの量が減少していると考えられている。その場合,serotonin1A受容体の部分アゴニストは,少なくなったserotoninの代わりに受容体に結合して,細胞内の情報伝達系を活性化させる。この場合,serotonin1A受容体アゴニストはアゴニストとして作用する。(75頁右欄下から8行~76頁右欄24行)
6.不安障害以外の疾患への応用Serotonin1A受容体アゴニストが有効な疾患を表3にあげた。Serotonin1A受容体アゴニストには,動物試験と臨床的研究の両方で,抗うつ作用があることが認められている。しかも,臨床データをメタ解析という統計学的な理論をもとに分析した研究グループによって,serotonin1A受容体アゴニストの抗うつ効果は,抗不安効果とは独立していることが示唆されている。つまりserotonin1A受容体アゴニストは不安に伴ううつ症状ではなく,うつ症状そのものに効果があるのかもしれない。また,臨床症状の分析からもbuspironeは,抑うつ感,罪業感,労働意欲の低下,興味の喪失,感情障害の日内変動などのうつ病の中心的な症状に対して効果があるといわれている。(78頁右欄下から4行~79頁左欄12行)(キ)

StephenM.Stahl,精神薬理学エセンシャルズ神経科
学的基礎と応用,第2版第2刷,2004年1月21日p.148-153,191-324(乙D79)
(第1刷は2002年5月9日,原著
〔乙A102〕は2000年)
開発中の新しい抗うつ薬現在抗うつ薬として望まれているのは,効果が2~8週よりも早く発現し,患者の3人に2人以上の割合で効果のある薬物である。この効果は確実で,反応ではなく寛解をもたらし,しかも現在の抗うつ薬よりも長い期間,より多くの患者で寛解が続くものでなければならない。理論的に考えられるいくつかの候補物質が開発中である。先に述べた作用機序に関連したいくつかについてはすでに述べた。これ以外の有望な抗うつ薬の候補をいくつか選んで後述する。これらはほとんど,新しい薬理機序によるアドレナリン神経やセロトニン神経の調節を元にしたさまざまな変形である。ほかに,ペプチド系を調節することによって抗うつ効果をもたらそうと試みられているものもある。A.モノアミン修飾物質a.βアゴニスト…b.2次メッセンジャー系…c.5-HT1Aアゴニスト,部分アゴニスト,アンタゴニスト多くの5-HT1Aアゴニストが臨床試験で広範に試みられたが,抗うつ薬として発売されたものは1つもなく,ブスピロンbuspirone1つだけ全般性不安に対する抗不安薬として承認されている。いくつかの5-HT1Aアゴニストと部分アゴニストは臨床開発から脱落したが,そのほかは臨床研究がまだ続けられている。ジェピロンERgepironeER(ブスピロンと化学的には同類)は米国で臨床開発が続けられており,タンドスピロンtandospironeは日本で発売されている。フレジノキサンflesinoxanなどはいまだに興味がいくらかもたれているようであるが,イプサピロンipsapirone,スネピトロンsunepitron,経皮的ブスピロンなどは,臨床開発から脱落した。理論的には,5-HT1Aアンタゴニストはセロトニン(5-HT)神経を急速に脱抑制するので,即効性の抗うつ病薬である可能性がある。このことは前臨床試験で示されたが,選択的な5-HT1Aアンタゴニストでは,うつ病に対して臨床試験が行われているものはない。d.セロトニンとドーパミン再取り込み阻害…e.セロトニン1Dアンタゴニスト…このような化合物としてCP-448,187が臨床開発に入っている。(256頁1行~257頁18行)セロトニン系の抗不安薬抑うつと不安でのセロトニン(5-HT)の役割を,次のように公式化して説明しようとした初期の試みがある。不安はセロトニン調節異常症候群setotonindysregulationsyndromeであり,抑うつはセロトニン欠乏症候群serotonindeficiencysyndromeであるというものであるが,これらは素朴で過剰な単純化であり,実際抗うつ薬がどのように不安の治療となりうるかは説明できない。さらに,セロトニン部分アゴニストであるブスピロンは抗全般性不安作用を持ってはいるが,うつ病や不安障害サブタイプの治療には認められていない。いくつかのデータでは確かに5-HT1A受容体でのセロトニン部分アゴニストが抗うつ作用の特性を持っているかもしれないことを示してはいるが,このグループの薬物の抗不安効果や抗うつ効果がどれくらい強力であるかについては懐疑的な研究者もいる。(297頁19行~29行)(ク)

StephenM.Stahl,仙波純一訳,精神薬理学エセンシ
ャルズ

神経科学的基礎と応用〔第2版〕
,第2版第2刷,2004年1

月21日,p.192,p.256及びp.263-264(乙D79)(下記記載中に引用する図7-28については別紙4を参照)
ここまで,われわれは「うつ病薬局の多くの治療法1つひとつについて述べてきた(図7-28)(263頁最下行~264頁本文1行)」
(ケ)

臨床精神薬理,Vol.1No.5,1998年5月10日,p.
497-505(甲A22)
セロトニン(5-HT)は精神機能に関与する神経伝達物質の一つとして近年注目を集めてきている。5-HTの受容体には数種類のサブタイプの存在することが知られており,これらサブタイプの中では5-HT1Aや5-HT2受容体が精神疾患との関連が深い。Azapirone系薬剤(tandspirone,buspirone,ipsapirone等)は5-HT1A受容体にアゴニストとして作用する化合物であり,神経症や心身症の治療薬として開発されたものである。Tandspironeは抗不安作用や抗うつ作用を併せ持ち,鎮静作用,筋弛緩作用,麻酔増強作用等を示さない。(497頁抄録6行~12行)5-HT1A作動薬の開発経緯…これらazapirone系抗不安薬はBZ系薬剤とは構造式が異なり,作用機序や薬理特性もBZ系薬剤がBZ/GABA複合体に作用して幅広い効果を示すのに対して,5-HT受容体サブタイプの一つである5-HT1A受容体に作用し,比較的選択性を持った薬理特性を示す薬剤である(図2)。(498頁左欄1行~右欄末行)
抗うつ作用5-HT1A作動薬は抗うつ作用を調べる動物モデルで効果をあらわす。NE取り込み阻害薬が効果を示す抗レセルピン作用などは有さないが,強制水泳法,抗ムリサイド法,分離飼育モデル法などでは抗うつ薬に匹敵する効果を示す。また,DRL-20秒でのオペラント行動での検討で,tandospironeはimipramineと同様に強化数を有意に増加させることが認められている。Diazepamではこれら薬物とは異なり強化数は減少する。従って,5-HT1A作動薬は従来のBZ系抗不安薬や抗うつ薬と質的に異なる抗不安作用や抗うつ作用を示し,中枢性の抑制作用や筋弛緩作用が弱い薬剤と言える。(500頁左欄10行~23行)
Azapirone系薬剤の抗うつ作用機序については明確な解釈がまだなされていない。azapirone系薬剤は従来の抗うつ薬でみられるアミンの取り込み阻害作用を有さないが,長期投与により大脳皮質での5-HT2受容体の数を減少させる。これは三環系抗うつ薬で見られる現象であり,SSRIでも慢性投与により5-HT2受容体の数は変化しないが,この受容体に共役するPI代謝回転の低下することが知られている。従って,azapirone系薬剤の抗うつ作用にはこの5-HT2受容体の数の減少が関連しているのかもしれない。5-HT2受容体数の減少は投射する5-HT神経系の低下により引き起こされることが報告されているので,azapirone系薬剤はオートレセプターに作用し,5-HT神経系の活動の低下を介して,投射部位である大脳皮質等の5-HT2受容体の数を減少させるものと考えられる。(503頁右欄1行~17行)(コ)

PsychiatryandClinicalNeurosc

iences,2000,Vol.54,p.S12(甲A25の1)未治療の大うつ病性障害患者におけるタンドスピロン(セロトニン1A作動薬)の有効性を比較試験によって検討した。タンドスピロン+クロミプラミン投与患者では,ジアゼパム+クロミプラミン投与患者と比べてハミルトンうつ病尺度(HAM-D)の合計スコアが有意に減少した。特に,HAM-D項目の精神運動抑制(retardation)および心気症(hypochondriasis)並びにハミルトン不安尺度(HAM-A)項目の不安な気分,緊張および面接時の行動には有意な改善が認められた。HAM-Aの恐怖心スコアは,タンドスピロンおよびクロミプラミン投与時に,クロミプラミン単独投与時と比べて有意に減少した。タンドスピロンを追加しても,血漿中プロラクチン濃度および有害事象は変化しなかった。(S12頁左欄の「Clinicalefficacyoftandospironeforpa
tientsofmajordepressivedisorder.)

(サ)

ClinicalEffectsofthe5-HT1APa

rtialAgonistsinDepression:ACom
positeAnalysisofBuspironeinth
eTreatmentofDepression,JournalofClinicalPsychopharmacology,Vol.10No.3Suppl.Jun1990,

p.67S-76S
(甲
A30の1)
うつ病治療におけるアザピロンクラスの抗不安薬の臨床使用が評価されている。5-HT1A受容体サブタイプで活性を示すセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン,5-HT)部分作用薬であるブスピロンを,DSM-III大うつ病および重大な関連不安症状を有する(ハミルトンうつ病[HAM-D]尺度およびハミルトン不安[HAM-A]尺度が共に18以上)患者382例を組み入れた5つのプラセボ対照並行群間比較試験のうつ病治療において評価した。ブスピロン療法は15mg/日で開始し,最大90mg/日まで個別に漸増したところ,うつ症状および不安症状の両方が著しく改善した。5試験の複合データベース解析から,ブスピロン投与例における平均HAM-D,HAM-Aおよび臨床全般印象度-全般改善尺度評価に,プラセボ投与患者と比べて有意な(p<0.05)改善が示された。特に興味がもたれることは,抑うつ気分,罪悪感,仕事と興味,気分低下,および気分の日内変動など,主なうつ病症状に著しい改善がみられたことであった。サブセット解析から,メランコリー親和型大うつ病患者および症状重症度の重い(初期HAM-DまたはHAM-A合計スコア高値により判断)患者は,重症度の軽い患者よりもブスピロンに対する反応が良好であることが明らかになった。臨床的に有意な改善と最も多く関連するブスピロン用量は40mg/日であった。5-HT1A受容体サブタイプに対する選択的結合親和性の高いブスピロン類似体であるゲピロンも,予備的な比較対照臨床試験において有望な抗うつ薬効果を示す。これらのデータから,部分アゴニストとして5-HT1A受容体機能を調節するアザピロンは,臨床的に重要な抗うつ特性を備えていることが示唆される。(67S頁左欄1行~同頁右欄2行のTheazapironeclass…clinicallyimportantantidepressantproperties.)ブスピロンは臨床治療で使われる最初のセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン,5-HT)1A型部分アゴニストである。本剤は新たなアザピロン系薬物クラスのプロトタイプで,5-HT1A受容体に高い選択性を示すため,科学的および臨床的に広範な関心を集めている。顕著なセロトニン作動性を有する新世代の抗不安薬としてブスピロン,ゲピロン,イプサピロンなどが挙げられるが,それ以外にも幾つかの薬物で治験が行われている(図1)。ブスピロンは現在,抗不安薬として市販され,抗うつ薬としては第III相開発段階である。ゲピロンも後期の臨床試験が行われており,他にもアザピロン系薬物が抗不安薬または抗うつ薬として開発段階にある。(67S頁右欄4行~17行の「BUSPIRONEis…antidepressants.)

考察これらの試験の第一目標は,うつ病症候群の主要症状として不安症状を経験したうつ病患者において,ブスピロンの抗不安作用を評価することであった。これらの患者における抑うつ症状および不安症状は共に,ブスピロン治療によって著明に改善することがはっきり分かった。これらの所見から,ブスピロンは大うつ病患者の抑うつ症状および不安症状の治療に有効であることが明白に示される。特に興味がもたれることは,抑うつ気分,罪悪感,仕事と興味,気分低下,および日内変動など,特徴的なうつ病症状で,頑強な改善が観察されたことであった。ブスピロンの治療的有用性は,メランコリー親和型大うつ病患者およびHAM-DまたはHAM-A評価でより重度の症状を有する患者サブセットにおいて際立っていた。これらのデータから,このうつ病外来患者サンプルで観察された臨床的改善は,主に不安症状の身体的または精神的緩和による「ハロー効果ではないことが示唆される。むしろ,これらの結果は,ブスピロン治療による真の抗うつ効果を反映している。気分障害におけるブスピロンの有効性をより詳細に説明し,治療的用量範囲を明らかにすることを目的として,プラセボと比較対照薬の両方を投与する追加比較対照試験が進行中である。うつ病治療におけるゲピロンの第III相比較対照試験も進行中である。(73S頁右欄1行~74S頁右欄」
2行のDiscussion…alsoinprogress.)ゲピロンは学習性無力感の動物うつ病モデルで効力が認められ,強いセロトニン作動性の行動特性(げっ歯類におけるセロトニン症候群の誘導)を引き起こすことから,抗うつ作用のプロフィールを評価するうつ病の予備的な第II相,対照比較臨床試験が行なわれた。パイロット試験では,ゲピロンが大うつ病および非定型うつ病の治療で臨床効果のあることを示す予備的なエビデンスが得られた。最近,大うつ病患者でゲピロン2用量とプラセボを比較した二重盲検プラセボ対照比較試験が終了し,予備結果によると,ゲピロンが大うつ病に有効な抗うつ薬であることが示唆された。これらゲピロンの所見は,大うつ病患者のブスピロン治療で観察された所見と似ている。ブスピロンとゲピロンを使った臨床試験の全体的な経験は,5-HT1A部分アゴニストが広範な気分障害や不安障害の治療に有益であることを示している。(75S頁左欄下から5行~同頁右欄14行のBecauseofthepotency…andanxietydisorders.)要約ブスピロンは,新規抗不安薬クラスのアザピロン系5-HT1A部分アゴニストのプロトタイプである。当初GAD(全般性不安障害)治療で試験され,有効な抗不安薬であることが明らかになった。ごく最近の大うつ病の試験では,共に5-HT1A受容体部分アゴニストである,ブスピロンとゲピロンに抗不安作用と抗うつ作用の二重の作用があることが示唆された。GADと大うつ病の二重盲検,対照比較治験では,これら両剤がプラセボと比べて有意に症状を改善することが示された。ブスピロンとゲピロンに固有の抗うつ作用は重大なうつ症状,例えば抑うつ気分,日常活動の障害,アネルギー,日内変動などを有意に改善することが証明されている。(75S頁右欄の「Summary」

(シ)

Effectivenessofipsapirone,a5-

HT-1Apartialagonist,inmajordepressivedisorder:supportfortheroleof5-HT-1Areceptorsinthemec
hanismofactionofserotonergica
ntidepressants,
InternationalJour
nalofNeuropsychopharmacology,1998,p.11-18(乙A3の1)
要約セロトニン1A(5-HT-1A)受容体の脱感作は,セロトニン再取り込みを遮断する抗うつ薬の作用機序の主要仮説である。この仮説は,直接作用する5-HT-1A作動剤も抗うつ特性を示すはずであると予測する。ここで,我々は大うつ病障害(MDD)を有する外来患者における5-HT-1A作動剤の効能および耐薬性に対する最初の大規模な対象研究結果を報告する。MDDのDSM-III-R基準を満たす373人の被験者が,5-HT-1A部分作動剤イプサピロン(5mg,7.5mg,10mgt.i.d)とプラセボt.i.d改善の,無作為化二重盲検比較に参加した。…この研究の結果は,イプサピロンが7.5mgt.i.dの投与量でMDDの治療において効果的な抗うつ薬物であるということを示し,セロトニン再取り込み阻害剤の活性メカニズムでの5-HT-1A受容体の役割に対する仮説を裏付ける。(11頁の1行~14行の
Abstract…serotoninreuptake(ス)1Ainhibitors.)
PilotStudyofFlesinoxan,a5-HT
Agonist,inMajorDepression:Eff

ectsonSleepREMLatencyandBody
Temperature,
HUMANPSYCHOPHARMACOL
OGY,Vol.8,1993,p.279-283(甲A28の1)フレシノキサンは,数種のうつ病モデルで活性を示す,高効能の選択的5-HT1Aフルアゴニストである。本オープンラベルのパイロット試験では,ハミルトンうつ病尺度が少なくとも19のスコアを示している,ほとんどが治療抵抗性の16名の大うつ病入院患者に対して,フレシノキサン(4mg/日)を4週間にわたって経口投与した。週間評価として,ハミルトンうつ病評価尺度,モントゴメリー/アスバーグうつ病評価尺度(MADRS)および臨床全般印象評価尺度(CGI)を用いた。その結果,うつ症候学的にかなりの改善が認められ,治療開始4週間後には,平均MARDSスコア(SD)が35・7(10・0)から13・0(11・9)に,CGI疾患重症度が5・69(1・14)から2.73(1・62)にそれぞれ下がった。さらに,13名の患者が,CGI全般改善度尺度で,改善度大もしくは非常に大として分類された。フレシノキサンの忍容性は優れており,副作用が発症したのは,わずか4名の患者にすぎなかった。5HT1Aアゴニストを用いた急性期における臨床試験とは対照的に,フレシノキサンは,4週間にわたり一日の口腔体温を大きく低下させることはなかった。8名のメランコリー型うつ病患者では,ベースラインの2晩に計測された,それぞれ35・6(15・9)分と40・2(17・9)分の平均REM睡眠潜時が,二重盲検で夜間にフレシノキサン1mgを投与した後には,51・9(20・9)分に大きく上昇した。一方,プラセボ群では42・0(16・1)分であり,治療群における最終2晩ではそれぞれ55・6(29・9)分と55・6(30・2)分であった。これらの結果はすべて,有望な抗うつ薬としてのフレシノキサンのさらなる開発を後押しする内容である。(279頁1行~14行の
Flesinoxanis…asapromisingantidepressant.)これらの知見は,ブスピロン(Rickelsetal.,1990),ゲピロン(Jenkinsetal.,1990),そしてイプサピロン(Helleretal.,1990)に関してすでに実証されている5-HT1A作動剤の抗うつ薬としての可能性を裏付けている。(281頁右欄5行~8行のThesefindingssupport…(Helleretal.,1990).)
(セ)

山田光彦他,新しい抗うつ薬の可能性-特にSSRIを中心に-,
臨床精神薬理,第1巻第4号,1998,p.355-363(乙A104)
5.セロトニン5-HT1A受容体作動薬最近,実験動物を用いた行動薬理学的研究によりセロトニン5-HT1A受容体作動薬が抗うつ効果を有する可能性が示唆されてきた。中でも,MKC-242はわが国において初めて合成され開発が進められている薬物であり,これまでの抗うつ薬とは大きく異なる作用機序を持つことから臨床の現場における真価が注目されている。また,こうした薬物を用いた知見の集積はうつ病のセロトニン仮説に新たな情報を加えるものとして期待される。(361頁左欄下から2行~右欄7行)(ソ)

田島治,抗うつ薬開発のストラテジー,臨床精神薬理,第2巻第5
号,1999,p.455-463(乙A94)
(下記記載中に引用する表
3については別紙5を参照)
2.現在欧米で開発中の新規抗うつ薬新しい抗うつ薬の開発のコンセプトは抗コリン作用がなく,SSRIのような性機能障害や薬物相互作用がなく,しかも効果発現や有効率の高い薬剤であり,以下に示すように種々の薬剤の開発が行われている。例えば5-HT1A受容体刺激作用と5-HT2受容体阻害作用を有するfibanserin(BIMT17)や,melatonin受容体のアゴニストであるS20304,RIMAであるT794,dopamine受容体のアゴニストであるprampipexol,新しいSSRIであるWF31やWF50,選択的なシナプス前部の5-HT1A受容体のアゴニストであるS15535,SSRIと5-HT2受容体阻害作用を有するYM992などの薬剤がある。(458頁3行~16行)
IV.わが国における新規抗うつ薬開発の現状1.停滞する治験現在開発中の抗うつ薬としては表3に示すような薬剤がある。このうちMCI-225とMKC-242を除くといずれも海外で開発された薬剤であるが,いずれも治験の停滞より開発が円滑に進んでいないのが現状である。(458頁下から7行から最下行)イ
双極性障害に関するもの
(ア)

DiagnosticandStatisticalManu

alofMentalDisorders4thedition
DSM-IV,May1994,p.317-338(乙A30の1)

気分障害は,うつ病性障害(単極性うつ病)と双極性障害とに分けられる。(317頁13行~14行)

大うつ病性障害(majordepressivedisorder)1回以上の大うつ病エピソード(majordepressiveepisode)が特徴である(少なくとも4つの追加的うつ病症状を伴う,少なくとも2週間のうつ症状又は興味の喪失)。
(317頁23行
~25行)
双極性障害(bipolardisorder)双極性障害I型普通,大うつ病エピソード(majordepressiveepisode)とそれに伴う1回以上の躁病エピソード(manicepisode)又は混在性エピソード(mixedepisode)が特徴である。(317頁33行~34行)

双極性障害II型少なくとも1回の軽躁病エピソード(hypomanicepisode)とそれに伴う1つ以上の大うつ病エピソード(majordepressiveepisode)が特徴である。

(318頁1行~2
行)

大うつ病エピソード大うつ病エピソードの重要な特徴は,2週間以上持続する,ほぼ全ての日常活動に対する興味や楽しみを失ったり低下した気分状態がある特定期間である。(320頁21行~33行)

躁病エピソード躁病エピソードは1週間以上非正常的で持続的に上昇した,拡張された,過敏性気分状態がある特定期間と定義される。(328頁1行~4


行)

混在性エピソードほぼ毎日躁病エピソード及びうつ病エピソードの基準が全て満たされる時期が1週間以上持続する期間と定義される。333頁1行~5行)


軽躁病エピソード軽躁病エピソードは,4日以上持続する非正常的で持続的に上昇した,拡張された,過敏性気分状態がある特定期間と定義される。(335頁

1行~5行)
大うつ病エピソードの診断基準A.うつ病エピソードは(1)憂鬱な気分又は(2)興味や楽しみの喪失の1つ以上を含みながら,下記の9つの症状のうち5つ以上が2週間持続し,以前の機能からの変化が表れる場合を指す。(1)1日のほとんど,そしてほぼ毎日持続する憂鬱な気分が主観的な報告(悲しかったりむなしいと感じる)や客観的な観察(泣きそうに見られる)で示される。注意:小児と青少年の場合は,過敏な気分として示されることもある。(2)全ての又はほぼ全ての日常活動に対する興味や楽しみが1日のほとんど又はほぼ毎日のように明確に低下している場合(主観的な説明や他人による観察で示される)。(3)体重調節をしていない状態(例:1カ月間体重の5%以上の変化)で意味ある体重減少や体重増加,ほぼ毎日示される食欲減少や増加があるとき。注意:小児の場合,体重増加が期待値に未達となる場合に注意すること。(4)ほぼ毎日示される不眠や過多睡眠。(5)ほぼ毎日示される精神運動性焦燥や遅滞(主観的な不安又は沈んだ感覚が他人によっても観察が可能である)。(6)ほぼ毎日の疲労や活力喪失。(7)ほぼ毎日無価値さ又は過度であったり不適切な罪責感を感じる(妄想的であり得る)単に病気があるということに対する自責や罪責感(ではない)。(8)ほぼ毎日示される思考力や集中力の減少,又は優柔不断さ(主観的な訴えや観察で)。(9)繰り返される死に対する考え(単に死に対する恐れだけでなく),特定の計画なしに繰り返される自殺の考え又は自殺未遂や自殺遂行に対する特定計画。(327頁の表)(イ)

永嶋弘道他,
病態にみる薬物治療躁うつ病
,医学と薬学,第38

巻第2号,1997,p.245-251(乙A106)
(下記記載中に
引用する表1については別紙6を参照)
一般に躁うつ病といわれる場合,大きく分けて,うつ病エピソードだけを持つ大うつ病(単極性うつ病)と,躁病,うつ病両方のエピソードを持つ双極性障害とがあるが,治療については分けて述べる必要がある。単極性うつ病と双極性うつ病の症状は現象学的に似ているし,薬剤も表1の中から選ぶことは同じであるが,薬剤の系統的な選択法が違うからである。つまり単極性と双極性うつ病では気分安定薬に対する反応にいくぶん違いがあることと,より重要なことは,抗うつ薬は双極性うつ病の患者に躁病または軽躁病やうつ病を短期間に繰り返すrapidcycling(急速交替)を起こす危険があるからである。(245頁左欄下から8行~右欄8行)
(ウ)

日本精神神経学会(監訳)
,米国精神医学会治療ガイドライン双極性障害
,平成13年(2001年)5月15日,p.1-3,p.62-65及びp.84-85(甲A1)

うつ病エピソードうつ病エピソードの既往をもつ双極性障害の患者の治療選択肢には,精神医学的マネージメント,気分安定薬の投与,特異的精神療法,抗うつ薬の投与,ECTがある。(63頁1行~4行)

以下のような患者には,気分安定薬に抗うつ薬を追加すると効果的かもしれない。1)気分安定薬が効果を発揮するまでの4~6週間を(安全に)耐えることができないか,耐えることをしぶっている患者,2)以前に抗うつ薬に反応した患者,3)精神医学的マネージメント,気分安定薬,および(適応があれば)特異的精神療法を併用した治療で改善しなかった患者。大うつ病性障害の患者に有効であることが立証されているすべての抗うつ薬は双極性障害のうつ病エピソードの患者にも有効であろう。しかし,これらの薬物は,双極性障害の患者では躁病エピソードを誘発する可能性がある。このリスクを減少させるために,気分安定薬の併用が推奨されている。(64頁15行~25行)

混合性エピソードの治療ガイドラインは,定型的な躁病のガイドラインに準じる。抗うつ薬は混合状態を悪化させることがあり,できれば避けるべきである。(65頁下から5行~3行)

(エ)

井上令一他,
精神科薬物療法ハンドブック
〔第3版〕3
抗うつ薬


2004年1月15日に第3版第2刷発行,2001年5月30日に第3版1刷発行,p.57及びp.62-63(甲A2)

抗うつ薬は主要な治療効果を,とくに大うつ病の治療に対してもつ異種の薬物群である。…表3-1抗うつ薬の適用有効大うつ病(単極性)双極性うつ病大うつ病(単極性)の再発予防…

(57頁)
双極性障害のうつ病相(depressedphaseofdisorder)うつ病を単極性と双極性に分類することは,長期的研究や家族研究,そして治療的研究によって十分支持されている。どの抗うつ薬も双極性障害患者のうつ病相の治療に対して効果がある。しかし,残念ながらこれらの薬物はまた,双極性の患者において不利となることがらをかかえている。1.双極性の患者の30~50%は抗うつ薬の投与中躁病相に移行することがある。リチウムまたは抗けいれん薬の併用療法は,この躁状態への転換をある程度しか防ぐことができない。2.一部の双極性の患者では,抗うつ薬は急速交代型(1年に3回以上の病相ないし2回以上の連続的・完全な周期をもつ状態をいい,しばしばリチウムに対する反応が減退する特徴がある)を引き起こし,これを継続させる。…もし抗うつ薬による治療中に躁状態が誘発されたならば通常,抗うつ薬を中止すべきである。その後うつ状態が生じるならば,抗うつ薬は症状が改善するまでの最短期間に限って用い,それからリチウムまたは抗けいれん薬のような気分安定薬を用いて治療をつづける。ブプロピオン(buporopion)は急速交代型の双極II型障害の患者(たとえば,うつ病の患者や抗うつ薬によって軽躁状態が引き起こされた患者)を急に躁状態に陥らせることが,三環系抗うつ薬よりも少ないという予備的な証拠がある。しかし,この薬物もすべての抗うつ薬と同様,一部の患者の躁状態発現に関与している。躁状態への転換はすべてのSSRIでも観察されるが,これらの薬物と他の新しい薬物は三環系抗うつ薬よりも躁状態へ転換する危険性が低いとする研究もある。少数の臨床研究や症例報告を元に,パロキセチン,フルオキセチン,ネファゾドン,ミルタザピンは従来の薬物よりも躁状態に転換する可能性が低いのではないかといわれているが,この仮説を支持するような,しっかり立案された研究はまだ行われていない。(62頁26行~63頁21行)(オ)

大野裕,エキスパートコンセンサスガイドラインシリーズ双極性

障害の薬物療法2000,平成15年(2003年)5月1日,p.3-5,

p.42-43及びp.94-95(乙A98)

本書は,TheExpertConsensusGuidelineSeries;MedicationTreatmentofBipolarDisorder2000の日本語訳で,双極性障害に関するエキスパートの推奨治療を示したものである。3頁1行~2行)(5B:双極性大うつ病の初発エピソードに対する抗うつ薬の選択一次選択と二次選択の得点は非常に接近していた。大うつ病の初発エピソードには大半の状況に対して,気分安定薬と併用する薬剤としてbupropion,venlafaxine,および選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)がいずれも比較的上位の評価を受けていた。Bupropionは中等度のうつ病に対する最善の治療薬として群を抜いていた。重度の非定型うつ病では,モノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAOI)が上位二次選択にランク付けされていた。重度のメランコリー型うつ病以外の全ての状況で,三環系抗うつ薬(TCA)はMAOIを含めた他のすべての抗うつ薬よりも有意にランクが低かった。Bupropionは明らかに,以前に抗うつ薬治療を受けたことがない患者に対して躁病のエピソードを引き起こす可能性が最も低い抗うつ薬として評価されていた。TCAを除く抗うつ薬は,パロキセンを始めとするいずれの薬剤も,気分安定薬と併用しても比較的安全であると考えられていた。…(中略)…その他の推奨事項:抗うつ薬の用法:抗うつ薬は,非双極性大うつ病(「単極性うつ病)と同じ標的治療用量で用い,同じ速度で漸増するこ
ととする。しかし,抗うつ薬で容易に躁病または軽躁病に転換した病歴がある患者に対しては,臨床医はより慎重なストラテジーを採用したいと考えるかもしれない。(43頁1行~下から4行)

(カ)

JournalofAffectiveDisorders,

Vol.67,2001,p.141-146(乙A86の1)
要約背景:筆者らの日常的文書調査システムを用いて,単極性うつ病患者と比較して,双極性I型うつ病患者の急性期治療における抗うつ薬の効果は低いかもしれないという仮説を評価した。方法:連続して入院した単極性または双極性I型うつ病入院患者2,032例のデータに基づき,両群における抗うつ薬の有効性を比較した。(治療効果)転帰の評価は,包括的評価尺度(GAS)入院期間,,およびAssociationforMethodologyandDocumentationinPsychiatryシステムのApathic-,Depressive-andManicSyndromeサブスコアにより行った。結果:各コホートの治療レジメンおよび入院時のうつ病の重症度は同様であった。退院時,双極性I型うつ病患者と単極性うつ病患者で,転帰(治療効果)基準のDepressiveSyndrome尺度,GASスコアおよび入院日数に関して統計的に有意な差は認められなかった。双極性I型うつ病患者は退院時にApathicSyndrome尺度スコアのわずかな低下と,これを反映するManicSyndrome尺度スコアのわずかな上昇を示した。限界:本研究では,双極性患者への三環系抗うつ薬の使用により生じることが多い躁転や急速交代化などの副作用の差を調べなかった。自然的データを前向きに入手したが,解析は後ろ向きに行っており,選択バイアスの可能性は制限されているが,完全には排除されていない。結論:種々の転帰(治療効果)基準を評価した結果,筆者らが入手した大規模コホートの自然的データは,単極性うつ病患者と比較して,双極性I型うつ病患者の急性期治療における抗うつ薬の効果は低いかもしれないという仮説を否定しているようにみえる。(141頁の「Abstract」

1.序論臨床経験により単極性うつ病に有効な薬剤は双極性うつ病にも有効であることが示唆されている。(141頁右欄「1.Introduct

ion」の1行~3行)
考察我々の大規模自然研究では,単極性鬱病患者と比較し,双極性I型鬱病患者において,抗うつ剤が低い有効性を示す兆候は認められなかった。この結果は,年齢,神経安定剤との併用,鬱病の重症度に関して調整した後でも,正しかった。また,1980-1984年,1985-1988年および1989-1992年における治療を対象とした各種コホート群間でも,差は認められなかった。これらの結果は,抗鬱薬が,単極性鬱病患者と比較し,双極性I型鬱病患者の急性期治療ではあまり有効ではないという仮説を棄却するものであると思われる。本試験の大規模サンプルサイズは,この結論の高い妥当性を補強するものである。しかし,入院患者は,常にすべての鬱病患者集団から選択された集団であるという事実によって,この結果を一般化することには限界がある。この選択上の偏りは,鬱病のより高い重症度や治療抵抗性に特に関係がある。元の表を個別に分析した結果,158名の双極性I型鬱病患者の亜集団を含めた転換率が,25%であることが明らかとなった…。本試験の全母集団に関するデータは,まだ入手できていない。しかし,これらの予備的データから,転換は,入院期間や退院時の他の評価項目パラメーターに大きく寄与してはいなかったようである。(145頁~146頁の4.Discussion

(キ)

広瀬徹也他,臨床精神医学講座第4巻気分障害,平成13年(20
01年)9月30日,p.2-5,p.16-17,p.220-223及びp.390-391(乙A99)
躁状態,うつ状態の治療に関しては,別項が設けられている(総論V項)ので,本項では主として双極性うつ病に特異的な問題点と,病相予防療法について述べる。双極性うつ病の治療においては,抗うつ薬を投与することが躁転や急速交代化を引き起こす可能性がある,とされるものの,他に有効な治療法も少ない,というジレンマがある。軽症の場合は,まずリチウムのみで治療を開始し,効果がなければ抗うつ薬を併用する。リチウム単独でも抗うつ作用をもつことが知られているものの,効果発現には6~8週を要するとされている。リチウム単独でも抗うつ作用をもつことが知られているものの,効果発現には6~8週を要するとされている。中等症以上の場合には抗うつ薬を投与するが,日本で使用可能な抗うつ薬はすべて躁転を引き起こす可能性があるので,必ず気分安定薬を併用する。気分安定薬の中でも,躁転を予防するだけでなく,抗うつ薬の抗うつ効果を増強する作用をもつリチウムが第1選択となる。…(中略)…抗うつ薬は十分量を,作用プロフィ-ルの異なる2剤以上試み,効果がなく難化した場合はECTの適応を検討する。(220頁右欄下から
13行~221頁左欄14行)
(ク)

PSYCHIATRICSERVICES,
May2002,
Vo

l.53,No.5,p.580-584(乙A31の1)
数十年の間,臨床医および研究者は双極性うつ病と単極性うつ病を区別していなかった。単極性うつ病治療における抗うつ薬の安全性と有効性が研究され,そのデータが双極性うつ病治療に適用されていた。その妥当性確認が行われることはなかった。抗うつ薬が双極性疾患の経過に悪影響を及ぼす可能性があるというエビデンスが蓄積してきたため,この問題に焦点を置いた研究が増えてきている。現在得られているエビデンスから,抗うつ薬はI型およびII型双極性うつ病の急性期治療において明らかに有効であるが,様々な有害事象も伴うことが示唆される。抗うつ薬は躁転または軽躁を自然発生率の2~3倍の発生率で誘発する可能性がある。長期使用は疾患を不安定にして躁病エピソードおよびうつ病エピソードを増加させ,急速交代化(1年に少なくとも4エピソード)を誘発し,混合状態の可能性を増加させる可能性がある。双極性うつ病治療では抗うつ薬の使用は慎重に行うべきである。(580頁上段1行~15行のFordecades…bipolardepression.)(ケ)

Serotoninandbipolardisorder,

JournalofAffectiveDisorders,Vol.66,2001,p.1-11(乙A32の1)
1.はじめに気分障害,特に大/単極性(UP)鬱病の発症機序におけるセロトニンの役割については,広く研究が行われており,ほとんどの研究が,大鬱病障害(単極性鬱病)における中枢系セロトニン作動性機能の低下を報告している(MalesandMeltzer,1994)。しかし,双極性(BP)障害における発症機序におけるセロトニンの役割は,あまり注目されてこなかった。その一方で,大鬱病におけるセロトニンの役割に関する多数の研究に,双極性鬱病の症例が含まれており(Asbergら,1984;LewisandMcChesney,1985;Baronら,1986;Coccaroら,1989;Delgadoら,1990;Priceら,1991),解析においてもこの両者はほとんど区別されていなかった。したがって,これらの研究の結果が,双極性障害に何らかの関係があるといっても過言ではないものの,適用しうる程度は不明瞭である。(1頁左欄1行~右欄9行の「1.Introduction…unclear.)

2.方法1970年から1999年にかけて公開された英語の論文を,ser‘otonin’と‘bipolardisorder’というキーワードを用いてMedlineで検索し,関連のある論文を特定した。この時期のほとんどの論文で,両極性/単極性鬱病間の区別が明確に行われていなかったので(Sieverら,1984[12BP/6UP],Asnisら,1988[3BP/12UP],Coccaroら,1989[11BP/14UP]MitchellandSmythe,1990[4BP/23UP],Lichtenbergら,1992[6BP/18UP],はじめに,Medline検索で特定し)た論文の抄訳を詳細に調べた。双極性患者だけに焦点を当てた試験,もしくは相当数の双極性患者を組み込んだ試験を,本総説論文の詳細な検討の対象として選択した。これらの論文の参考文献を確認して,関心のある追加の論文も特定した。(2頁の「2.Method」

8.1選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)SSRIは,双極性障害の治療に効果があり(Benfieldら,1986)3.,7%で躁相が引き起こされたという報告があるものの(Peet,1994),これは治療されていない症例での躁転と比較し,ほぼ同じか若干高い程度である(LewisandWinokur,1982)。(6頁下から11行~5行の8.1Selectiveserotoninreuptakeinhibitors(SSRIs)…(LewisandWinokur,1982).
9.結論我々が論評したエビデンスから,セロトニンが双極性鬱病の発症機序で中心的役割を果たしていると考えられる。この結論が依拠している重要な知見は,下記のとおりである。1.自殺した双極性鬱病患者の脳幹における5-HTおよび5-HIAAの低濃度が報告されており(Traskmanら,1981)また,,セロトニン取込み部位の密度低下が双極性鬱病患者の死体解剖した脳で認められている(Leakeら,1991)。2.5-HTリガンドを用いた予備的SPECT試験では,双極性患者の脳幹におけるセロトニントランスポーターが低密度であることが示されている(Staleyら,1998)。3.5-HT代謝産物(5-HIAA)の絶対濃度は,うつ症状を示す双極性鬱病患者のCSF(脳脊髄液)で低下し(Asbergら,1983),躁相では上昇した(Swannら,1983)。4.双極性障害のうつ病相と躁病相の両方において,5-HTアゴニストに対する視床下部‐下垂体軸の反応が,大きく低下していた(Thakoreら,1996)トリプトファン投与に対するコルチソル反応。の減衰が,寛解時期の双極性患者で報告されている(Nurnbergerら,1990)。5.セロトニントランスポーター遺伝子との関連性が,複数の遺伝子研究で報告されている(Collierら,1996)。6.5-HTの輸送能は,うつ状態の双極性障害患者の(Melzerら,1983)の血小板と躁相の双極性障害患者の血小板で低下している(Marazzitiら,1991)。7.気分安定剤,すなわちリチウムおよびバルプロ酸は,中枢セロトニン作動性伝達を増強させ(Maesら,1997;MoormanandLeslie,1998),リチウム使用により,血中セロトニン濃度が上昇する(Artigasら,1989)。上記特徴のすべてが,セロトニン作動性活性が,双極性鬱病では低下し,この点は,単極性鬱病と類似しているが,後者よりその程度は高いことを示している(1,2,3および6)。躁病では,結果には一貫性が乏しい。症例によっては,双極性鬱病と同じであるが,他の症例では,その逆である(4)。一方で,寛解期の双極性障害症例では,セロトニン機能の低下が認められており,このことは,セロトニン活性の減衰が,双極性障害の気質マーカーでありうることを示唆している。病態生理学におけるこのような類似点は,双極性障害と単極性鬱病の生物学的比較研究から得られた結果と一致している。我々のグループは,アポモルフィン投与試験,MRI試験,およびSPECT試験により測定したドーパミン活性における差はみとめなかった(Silverstoneら,準備中)。今後の研究により,セロトニン機能不全が,双極性障害の発症機序で果たしうる正確な役割の解明が期待される。(8頁の「9.Conclusions」



本件出願当時の5-HT1A受容体部分作動薬の抗うつ作用に関する技術常識について

前記⑴アの記載事項を総合すると,本件出願当時,①セロトニン(5H
T)
が脳内のシナプス後5-HT1A受容体に結合することにより,
5-H
T1A受容体が活性化し,神経伝達を促進(増強)し,抗うつ作用を奏すること,うつ状態の時は,セロトニンの量が減少していると考えられていたこと,5-HT1A受容体作動薬(5-HT1A系薬物)がうつ病の治療に用いられる薬物の一つとして挙げられていたことなどから,
5-HT1A受容
体作動薬は,抗うつ作用を有するものと考えられていたこと,②5-HT1A受容体作動薬(完全作動薬又は部分作動薬)であるタンドスピロン,ゲ
ピロン,ブスピロン及びイプサピロン並びにこれらと化学構造の異なる化合物が抗うつ作用を有することを立証した臨床試験及び非臨床試験の結果が多数報告されていること,③臨床試験の段階で脱落して抗うつ薬として発売されるまでに至らなかった5-HT1A受容体部分作動薬があるが,5-HT1A受容体部分作動薬が抗うつ作用を有すること自体は否定されておらず,5-HT1A受容体部分作動薬の臨床開発は続けられていたことが認められる。
上記認定事実によれば,
本件出願当時,
5-HT1A受容体部分作動薬が,
脳内のシナプス後5-HT1A受容体に結合することによって作動する受容体部分作動作用に基づいて,抗うつ作用を有することは技術常識であったことが認められる。
そうすると,
本件出願当時,
5-HT1A受容体部分作動薬一般が上記5
-HT1A受容体部分作動作用に基づく抗うつ作用によりうつ病に対して治療効果を有することは技術常識であったことが認められる。

これに対し被告Meijiは,①本件出願当時,5-HT1A受容体への部分作動作用を有するが,抗うつ作用を示さない化合物があること(1-(2-ピリミジル)ピペラジン(1-PP)
,mCPP,S-15535)
が知られており,
5-HT1A受容体への部分作動作用があれば抗うつ作用
があるということはできない,②抗うつ効果の予測可能性は,5-HT受
容体に対する選択又は非選択の違いにより異なり,複数の受容体に作用する非選択的な抗うつ薬の場合,主たるターゲットとする受容体以外への作用を通じて,抗うつ効果が減殺されることがあることが知られていた(例えば,本件出願当時,ドパミンD2受容体拮抗作用は,抗うつ薬の抗うつ効果を減殺し,5-HT1A受容体作動作用は,5-HT2A受容体(5-HT2受容体)作動作用によって減殺される。,③5-HT1A受容体は,シ)
ナプス前後に局在し,各受容体の機能・作用機序は異なることが知られており,このため,ある化合物に抗うつ作用が期待できるか否かは,シナプス前後のアゴニスト作用の強弱・バランスにも依存するとされていた,④アザピロン系と総称されるタンドスピロン,ゲピロン,ブスピロン及びイプサピロンは,いずれも選択的な5-HT1A作動薬であるのに対し,本件カルボスチリル化合物に相当するアリピプラゾールは,5-HT1A
受容体のみならず,ドパミンD2,D3受容体,5-HT2A受容体にも結合
する非選択的な5-HT1A部分作動薬であり,アザピロン系化合物と本件カルボスチリル化合物とは,化学構造が全く異なることからすると,タンドスピロン,ゲピロン,ブスピロン及びイプサピロンに関する報告をもって,
5-HT1A受容体に対する
非選択的な
作動薬であるとともに,
完全作動薬ではなく部分作動薬にすぎない本件カルボスチリル化合物が抗うつ作用を示すことを理解する根拠とすることはできない,⑤5-HT1A部分作動薬については,臨床試験の段階で脱落して抗うつ薬として発売されるまでに至らず,5-HT1A部分作動薬が有する抗うつ効果がどれくらい強力であるかについて懐疑的な研究者もいたというのであるから,本件出願時には,
5-HT1A作動薬の鬱病治療に対する有用性について,
5-HT1A作動薬は鬱病に対して効果を有する可能性が示唆される(治療効果を示すかもしれないし,示さないかもしれない)という程度の認識があったにすぎず,5-HT1A作動薬の鬱病治療に対する有用性について,当業
者間でもコンセンサスが得られていなかったとみるのが自然であるなどとして,
5-HT1A部分作動薬を鬱病の治療に使用することができることが本件出願時の技術常識であったとはいえない旨主張する。
しかしながら,①ないし③については,本件出願当時,5-HT1A受容体への部分作動作用を有するが,
抗うつ作用を示さない化合物があること,
アザピロン系化合物であるタンドスピロン,ゲピロン,ブスピロン及びイプサピロンと本件カルボスチリル化合物は,化学構造が異なり,アリピプラゾールは,5-HT1A受容体のみならず,ドパミンD2,D3受容体,5-HT2A受容体にも結合すること,複数の受容体に作用する抗うつ薬の場合,主たるターゲットとする受容体以外への作用を通じて,抗うつ効果が減殺されることがあることが知られていたこと,ある化合物に抗うつ作用が期待できるか否かは,シナプス前後のアゴニスト作用の強弱・バランスにも依存するとされていたことは,5-HT1A受容体部分作動薬が,脳内のシナプス後5-HT1A受容体に結合することによって作動する受容体部分作動作用に基づいて,抗うつ作用を有することが本件出願当時の技術常識であったことを否定する根拠になるものとはいえない。
また,④については,そもそも5-HT1A受容体に対する選択的な作動薬と非選択的な作動薬の区別自体に明確な基準があるものとはいえず,タンドスピロン,ゲピロン,ブスピロン及びイプサピロンに関する報告をもって,5-HT1A受容体に対する非選択的な作動薬であるとともに,完全作動薬ではなく部分作動薬にすぎない本件カルボスチリル化合物が抗うつ作用を示すことを理解する根拠とすることはできないとはいえない。
さらに,
⑤については,
本件出願当時,
5-HT1A受容体部分作動薬が,
脳内のシナプス後5-HT1A受容体に結合することによって作動する受容体部分作動作用に基づいて,抗うつ作用を有することは技術常識であっ
たのであるから,5-HT1A受容体部分作動薬一般が上記5-HT1A受容体部分作動作用に基づく抗うつ作用によりうつ病に対して治療効果を有することは技術常識であったものと認めるのが相当であり,採用することができない。
したがって,被告Meijiの上記主張は,採用することができない。(3)

本件出願当時の5-HT1A受容体部分作動薬の双極性障害のうつ病エピ
ソードに対する治療効果に関する技術常識について

前記⑴イの記載事項を総合すると,本件出願当時,①大うつ病(単極性うつ病)の症状の一つである大うつ病エピソード
(うつ病エピソード)
と双極性障害(双極性障害Ⅰ型及びⅡ型)の症状の一つである大うつ病エピソードうつ病エピソード)(
の定義及び診断基準は同一であったこと,
②大うつ病性障害の患者に有効であることが立証されているすべての抗うつ薬は双極性障害のうつ病エピソードの患者にも有効であると考えられていたこと,
③一方で,
双極性障害の患者に対する抗うつ薬の投与によって,
躁病エピソードを誘発し,
躁転や急速交代化を引き起こす可能性があるが,
このような可能性がある場合には,抗うつ薬の投与量の調整,気分安定薬との併用等により対応していたことが認められる。
上記認定事実と5-HT1A受容体部分作動薬が,
脳内のシナプス後5-
HT1A受容体に結合することによって発現する5-HT1A受容体部分作動作用に基づいて抗うつ作用を有することは,本件出願当時の技術常識であったこと(前記(2))によれば,本件出願当時,5-HT1A受容体部分作動薬一般がその抗うつ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対して治療効果を有することは技術常識であったことが認められる。

この点に関し本件審決は,本件出願時において,各種の抗うつ薬を双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用することができることは,技術常識であるが,一方で,双極性障害の患者に抗うつ薬を使用した場合,
躁病エピソードの誘発,軽躁エピソードの誘発,急速交代化の誘発,及び混合状態の悪化等の様々な有害事象が生じる危険性があることを考慮すると,全ての抗うつ薬が双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用することができるという技術常識があるとは言い難く,5-HT1A部分作動薬を双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用できることが技術常識であるとはいえないなどとして,5-HT1A部分作動薬を双極性障害の治療に使用することができることは,本件出願時の技術常識であるとはいえない旨判断した。
(ア)

ところで,医薬品の開発は,基礎研究として対象疾患の治療の標的
分子(受容体等)を探索し,標的分子(受容体等)に対する薬理作用及び当該薬理作用を有する化合物を探索する薬理試験(invitro試験,動物実験)が実施され,このような薬理試験の結果として,化合物が有する薬理作用が疾患に対する治療効果を有すること(
医薬の有効性
)につい
て合理的な期待が得られた段階で医薬用途発明の特許出願がされるのが一般的であるものと認められる。
一方で,薬機法は,医薬品の製造販売をしようとする者は,その品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない旨規定し(14条1項)
,その承認審査においては,申請に係る医薬
品の名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項を審査し,その審査の結果,申請に係る医薬品又は医薬部外品が,その申請に係る効能又は効果を有すると認められないとき,申請に係る医薬品が,その効能又は効果に比して著しく有害な作用を有することにより,医薬品又は医薬部外品として使用価値がないと認められるときは,承認を与えない旨規定し(同条2項3号),
厚生労働省令で定める医薬品の承認を受けようとする者は,申請書に,厚生労働省令で定める基準に従って収集され,かつ,作成された臨床試
験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければならない旨規定している(同条3項)
。この臨床試験は,臨床試験第1相(少
数の健常人に対する投与であり,副作用などの有無をみる。,臨床試験)
第2相(少数の患者に対する投与であり,効果などが見込まれるかをみる。,臨床試験第3相(多数の患者に対する投与であり,効果などがあ)
ることを確認する。
)の3段階の試験で実施される。このように医薬品の
承認審査では,申請に係る化合物の薬効及び安全性(副作用,有害事象の有無及び程度等)を総合的に考慮し,
医薬の有用性について審査し
ている。
以上のような医薬品の開発の実情,医薬品の承認審査制度の内容,特許法の記載要件(実施可能要件,サポート要件)の審査は,先願主義の下で,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与するとの特許法の目的を踏まえてされるべきものであることに鑑みると,物の発明である医薬用途発明についてその物の使用する行為としての実施をすることができるというためには,当該医薬をその医薬用途の対象疾患に罹患した患者に対して投与した場合に,著しい副作用又は有害事象の危険が生ずるため投与を避けるべきことが明白であるなどの特段の事由がない限り,明細書の発明の詳細な説明の記載及び特許出願時の技術常識に基づいて,当該医薬が当該対象疾患に対して治療効果を有することを当業者が理解できるものであれば足りるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,本件審決が述べる双極性障害の患者に抗うつ薬を使用した場合,躁病エピソードの誘発,軽躁エピソードの誘発,急速交代化の誘発,及び混合状態の悪化等の様々な有害事象が生じる危険性については,本件出願当時,抗うつ薬と気分安定薬とを併用することにより,躁転のリスクコントロールが可能であり,躁転発生
時には抗うつ薬の中止又は漸減により対応可能であると考えられていたこと(前記ア③)に照らすと,
上記特段の事由に当たるものと認められない。
そして,本件出願当時,5-HT1A受容体部分作動薬一般がその抗うつ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対して治療効果を有することが技術常識であったことは,前記ア認定のとおりである。
(イ)

以上によれば,本件審決の前記判断は誤りである。

この点に関し被告らは,
双極性障害については,
鬱病相と躁病相があり,
双極性障害の鬱病相を治療するために抗鬱薬を投与すると,躁転の可能性を有意に高め,双極性障害の症状を悪化させる可能性が高いという固有の事情が存在し(甲A1,2,31の1,乙A98,106,,臨床上も,双)
極性障害の鬱病相の治療において抗鬱薬の使用は慎重に行うべきとされていることからすれば,全ての抗鬱薬を双極性障害の鬱病相(うつ病エピソード)の治療に用いることができるなどという技術常識は存在しない旨主張する。
しかしながら,前記イで説示したところに照らすと,被告ら主張の上記固有の事情があるとしても,本件出願当時,5-HT1A受容体部分作動薬一般がその抗うつ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対して治療効果を有することが技術常識であったことを否定する根拠にならない。したがって,被告らの上記主張は採用することができない。

4
取消事由2-1
(本件発明2に係る実施可能要件の判断の誤り)
(第2事件
関係)について
本件事案に鑑み,第2事件の取消事由から,判断することとする。(1)

本件出願当時,5-HT1A受容体部分作動薬一般が脳内のシナプス後
5-HT1A受容体に結合することによって作動する5-HT1A受容体部分作動作用に基づく抗うつ作用により鬱病に対して治療効果を有することは技術常識であったことは,前記3⑵認定のとおりである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の開示事項(前記2(2))から,本件発明1の本件カスボスチリル化合物は,
5-HT1A受容体部分作動薬で
あることを理解できる。
そうすると,本件明細書に接した当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明記載のアリピプラゾールの薬理学的試験(in

vitro試験)の結果(前

記2(2)ウ)及び上記技術常識に基づいて,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項2に記載の鬱病を発症した患者に対して本件カスボスチリル化合物を投与して,当該鬱病を治療できることを理解できるものと認められ,このことを前提として,本件発明2が実施可能要件に適合するとした本件審決の判断に誤りはない。
(2)

これに対し被告Meijiは,①中枢神経系は,多数の酵素や受容体,
神経伝達物質等が相互に関連する非常に複雑な制御の下で構築され,中枢神経系疾患であるうつ病の病態生理や発症メカニズム,抗うつ薬が抗うつ作用を奏する作用機序については,十分な理解が得られていないのが実情であり,中枢神経系医薬の場合,薬効発現までの作用機序を完全に理解することは現時点においてもほとんど不可能と考えられていることからすると,中枢神経系の医薬分野においては,invitro試験は,薬効が期待できない化合物を振るい落とすためのスクリーニング試験という位置付けにすぎない,②中枢神経系の医薬品開発に携わる当業者は,invitro試験によるスクリーニングの結果を踏まえ,臨床試験に進む前の必須の非臨床試験として動物モデルを用いた動物実験(invivo試験)を行って,生体内での薬効予測を行っており(乙A13の1,甲D48ないし52)
,抗うつ作
用を予測するためには,少なくとも動物実験(invivo試験)を行うことが必須と考えられている,③しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,h5-HT1A受容体という単一の受容体のみを取り出し,CHO細胞に発現させたinvitro試験の結果が開示されているにすぎず,動物実験
(invivo試験)の結果の開示はないから,本件明細書に接した当業者は,本件出願時の技術常識を参酌しても,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件カルボスチリル化合物を抗うつ薬として使用できることを理解することはできないから,本件発明2は実施可能要件に適合しない旨主張する。
しかしながら,前記3⑵ア①ないし③の各事項と5-HT1A受容体部分作動薬一般が脳内のシナプス後5-HT1A受容体に結合することによって作動する受容体部分作動作用に基づく抗うつ作用により鬱病に対して治療効果を有することは,本件出願当時の技術常識であったことに照らすと,本件カルボスチリル化合物の抗うつ作用を予測するためには動物実験(invivo試験)を行うことが必須であるとはいえないから,被告Meijiの上記主張は,その前提において採用することができない。
したがって,被告Meiji主張の取消事由2-1は理由がない。5
取消事由2-2
(本件発明2に係るサポート要件の判断の誤り)
(第2事件関
係)について
被告Meijiは,本件審決が,
鬱病の治療に5-HT1A部分作動薬を使用することができることは本件出願時の技術常識である判断したことに誤りがあり,また,本件明細書には,invitro試験の結果を超えて,動物実験(invivo試験)の結果は開示されておらず,invitro試験の結果のみに基づいて,当業者は,本件カルボスチリル化合物をヒトに投与した場合の治療効果を認識することはできないから,本件審決が本件発明2はサポート要件に適合すると判断したのは誤りである旨主張する。
しかしながら,
本件出願当時,
5-HT1A受容体部分作動薬一般が脳内のシ
ナプス後5-HT1A受容体に結合することによって作動する5-HT1A受容体部分作動作用に基づく抗うつ作用により鬱病に対して治療効果を有することは技術常識であったことは,前記3⑵認定のとおりであるから,被告Mei
jiの上記主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。したがって,被告Meiji主張の取消事由2-2は理由がない。6
取消事由1-1(本件発明1,4及び5に係る実施可能要件の判断の誤り)(第1事件関係)について


本件出願当時,5-HT1A受容体部分作動薬一般がその抗うつ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対して治療効果を有することは技術常識であったことは,前記3⑶認定のとおりである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の開示事項(前記1(2))から,本件発明1の本件カスボスチリル化合物は,
5-HT1A受容体部分作動薬である
ことを理解できる。
そうすると,本件明細書に接した当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明記載のアリピプラゾールの薬理学的試験(in

vitro試験)の結果(前記1

(2)ウ)及び上記技術常識に基づいて,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の双極性I型障害又は双極性II型障害のうつ病エピソードを発症した患者に対して本件カスボスチリル化合物を投与して,当該うつ病エピソードを治療できることを理解できるものと認められる。
したがって,これを否定して,本件発明1,4及び5が実施可能要件に適合しないとした本件審決の判断は,その前提において誤りがある。⑵

これに対し被告らは,①本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,医薬用途に関し,
鬱病,最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,又は特定できない症状の発現を有する双極性I型障害,エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性II型障害からなる群から選ばれた5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害を治療するための医薬組成物と規定しているから,本件発明1並びに本件発明1の双極性I型障害又は双極性II型障害を発明特定事
項に含む本件発明4及び5との関係において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合しているというためには,本件カルボスチリル化合物が,
鬱病,最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,又は特定できない症状の発現を有する双極性I型障害,エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性II型障害のいずれにも治療効果を奏することが,当業者が理解できる程度に記載されている必要がある,②しかし,原告は,本件カルボスチリル化合物が躁ないし躁症状(原告のいう躁病エピソード
)の治療に使用できるといった技術常
識を証明していないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合しない旨主張する。
そこで検討するに,
証拠
(乙D47の1,
2)
及び弁論の全趣旨によれば,
本件審判の審理経過等として,①本件審判の合議体は,令和元年6月27日付け審理事項通知書(乙D47の1)で,
請求項1の(中略)記載,及び,本件特許の出願日当時の技術常識からみて,請求項1,4及び5に係る発明の医薬組成物が『双極性障害の鬱病エピソード』の治療に有効であるといえるのであれば,当該医薬組成物が請求項1,4及び5に記載の双極性Ⅰ型障害,双極性Ⅱ型障害の治療に有効であるといえる,という見解を持っております。との見解を示したこと,②同年8月26日付け審理事項通知書(乙D47の2)本件発明の医薬用途は,5-HT1A受容体サブタイプに関連で,した中枢神経系の障害である「鬱病5-HT1A受容体サブタイプに関連し,
た中枢神経系の障害である
最近のエピソードが軽い躁,躁,混合状態,鬱,或いは特定できない症状の発現を有する双極性Ⅰ型障害,5-HT1A受容
体サブタイプに関連した中枢神経系の障害であるエピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状の発現及び循環型を有する双極性ⅠⅠ型障害」のいずれかを治療するための,
という医薬用途であると解釈しております。と

の通知をしたこと,③本件審決は,上記見解に基づいて,双極性障害の患者
に抗うつ薬を使用した場合,
躁病エピソードの誘発,
軽躁エピソードの誘発,
急速交代化の誘発,及び混合状態の悪化等の様々な有害事象が生じる危険性があることを考慮すると,全ての抗うつ薬が双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用することができるという技術常識があるとは言い難く,5-HT1A部分作動薬を双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用できることが技術常識であるとはいえないなどとして,5-HT1A部分作動薬を双極性障害の治療に使用することができることは,本件出願時の技術常識であるとはいえない旨判断し,これを前提に本件発明1,4及び5の実施可能要件の適合性を否定する判断をしたことが認められる。
一方で,本件審決中には,被請求人(原告)の主張に対する判断として,本件発明の詳細な説明には,…本件カルボスチリル化合物が,その5-HT1A部分作動作用に基いて,本件特許発明の双極性I型障害が発現する「最近のエピソードが軽い躁躁混合状態鬱或いは特定できない,,,,症状並びに本件特許発明の双極性II型障害が発現する,
エピソードが軽い躁症状の発現を伴った再発大鬱症状及び循環型という各種症状のいずれに対する治療効果を有するのかについても全く記載されていない。,本」
件発明の詳細な説明には,本件カルボスチリル化合物に該当するアリピプラゾールがシナプス後D2受容体の拮抗活性を有していることは記載されているが(摘記イの段落【0007】,本件カルボスチリル化合物がD2受容体)に拮抗的に作用することにより,双極性障害の躁に対して効果を有するという記載はなく,D2受容体拮抗剤が双極性I型障害及び双極性II型障害の躁に治療効果を有することについても,全く記載されていない。,そして,上記「第5で説示したように,本件特許発明は,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基いて,請求項1,2,4及び5に記載の鬱病,双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかに罹患した患者を治療するための医薬組成物であるから,D2受容体拮抗剤が双極性障害
の躁に治療効果を有することを当業者が認識していたとしても,当該D2受容体拮抗剤の作用を根拠として,本件カルボスチリル化合物が,その5-HT1A部分作動作用に基いて,本件特許発明の双極性I型障害及び本件特許発明の双極性II型障害に対する治療効果を有することを,当業者が理解できるとはいえない。
」との判断部分があるが,上記判断部分は,
躁病エピソードに関する技術常識の有無等を参酌して判断したものではないことに照らすと,
本件審決においては,
本件カルボスチリル化合物の双極性障害の
躁(軽躁)病エピソードに対する治療効果について実質的な判断が示されたものとはいえない。
以上の認定事実によれば,被告らの上記主張は,本件審判において実質的な審理判断がされていない事項に係るものであるというべきである。加えて,原告は,本件訴訟において,本件審決は,本件カルボスチリル化合物が双極性障害の躁病エピソードに対して治療効果を有すると理解できるか否かという事項について審理判断していないから,上記事項は,本件審決の審理範囲外の事項であり,本件訴訟で審理されるべき事項ではない旨主張していることを考慮すると,本件発明1,
4及び5に係る発明の要旨認定と
して,本件カルボスチリル化合物が,双極性障害のうつ病エピソード及び躁(軽躁)病エピソードのいずれをも治療するための医薬組成物であると解した場合には,原告に対し,訂正請求の要否を検討する機会を確保する必要があるというべきであるから,上記事項を本件訴訟において審理判断することは,上記機会を確保できないこととなって,相当でないものと認められる。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告らの上記主張は,本件発明1,4及び5が実施可能要件に適合しないとした本件審決の判断に誤りがあるとの前記⑴の判断を左右するものではない。7
取消事由1-2(本件発明1,4及び5に係るサポート要件の判断の誤り)
(第1事件関係)について
本件審決は,①5-HT1A部分作動薬を双極性障害の治療に使用することができることが本件出願当時の技術常識であるとはいえないのであるから,技術常識を参酌して上記薬理学的試験(invitro試験)の結果を見ても,本件カルボスチリル化合物を,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかに罹患した者に投与して,本件カルボスチリル化合物が有する5-HT1A部分作動作用に基づいて,これらの対象疾患を治療できることを,当業者が認識できるとはいえない,②したがって,技術常識を参酌しても,本件発明1により,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の双極性I型障害及び双極性II型障害のいずれかに罹患した患者を治療するという課題を解決できることを,当業者が認識できるとはいえないから,本件発明1,4及び5は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず,サポート要件に適合しない旨判断した。
しかしながら,本件審決の上記判断は,本件明細書の発明の詳細な説明記載のアリピプラゾールの薬理学的試験(in

vitro試験)の結果(前記1(2)ウ)

及び本件出願当時の技術常識に基づいて,5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害である,請求項1に記載の双極性I型障害又は双極性II型障害のうつ病エピソードを発症した患者に対して本件カスボスチリル化合物を投与して,当該うつ病エピソードを治療できることを理解できること(前記3⑶)を否定して判断したものであるから,その前提において誤りがある。これに反する被告らの主張は採用することができない。
したがって,本件審決のうち,本件発明1,4及び5に係る部分を取り消すことが相当である。
第5

結論
以上のとおり,第1事件の原告主張の取消事由はいずれも理由があるから,
本件審決のうち,
本件発明1,
4及び5に係る部分は取り消されるべきであり,
第2事件の被告Meiji主張の取消事由はいずれも理由がないから,被告Meijiの請求は棄却すべきものである。
よって,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

大鷹一郎
裁判官

小林康彦
裁判官

小川卓逸
(別紙1)

本件明細書

【表1】

【表2】

(別紙2)

甲A6

(別紙3)

甲A21

(別紙4)

乙D79

(別紙5)

乙A94

(別紙6)

乙A106

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