判例検索β > 令和1年(わ)第454号
殺人未遂、殺人(変更後の訴因 住居侵入、殺人、殺人未遂)
事件番号令和1(わ)454
事件名殺人未遂,殺人(変更後の訴因 住居侵入,殺人,殺人未遂)
裁判年月日令和3年12月10日
法廷名水戸地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2021-12-10
情報公開日2022-02-06 19:19:52
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令和3年12月10日宣告
令和元年

第454号,第506号
主文
被告人を懲役27年に処する
未決勾留日数中660日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,正当な理由がないのに,令和元年8月24日午前2時頃から同日午前3時頃までの間に,茨城県結城郡(住所省略)所在のA方に,無施錠の浴室出窓から侵入し,その頃,同人方において,
1
A(当時76歳)に対し,殺意をもって,その左胸部等を柳刃包丁(刃体の長さ約20.8センチメートル。令和3年押第6号の1)で多数回にわたり突き刺し,よって,その頃,同所において,同人を胸部刺創に起因する心臓損傷による出血性ショックにより死亡させて殺害し,

2
B(当時73歳)に対し,殺意をもって,その左頸部等を前記柳刃包丁で多数回にわたり突き刺したが,同人に全治不詳の左頸静脈損傷,左頸部刺創等の傷害を負わせたにとどまり,死亡させるに至らなかった。

(証拠)記載省略
(争点に対する判断)
第1本件の争点及び争点に対する当裁判所の判断の結論
本件の争点は,被告人が判示殺人及び殺人未遂の犯人であるか否かである。検察官が,本件現場の状況等から被告人が犯人であると推認できる旨主張するのに対し,弁護人は,被告人の供述に沿って,真犯人は被告人の同僚の農業実習生であるCであり,被告人は無罪である旨主張している。
当裁判所は,審理の結果,判示殺人及び殺人未遂の犯人は被告人であると認定することができると判断した。以下,その理由を説明する。
第2争点に対する判断の理由
1
関係証拠によれば,判示日時頃,何者かが判示A方(以下被害者方と
いう。)に侵入し,判示のとおり,Aを殺害し,同人の妻Bを殺害しようとしたが傷害を負わせるにとどまったこと(以下,これら一連の犯行を本件犯行といい,A及びBを被害者らという。)自体は容易に認めることができる。また,本件犯行後,被害者方から押収された柳刃包丁(令和3年押第6号の1。以下本件包丁という。)に付着していた血痕のDNA型鑑定の結果(同血痕は被害者らのものと考えて矛盾がないDNA型が検出されている。)やBの公判供述(犯人が逃走した後,手に包丁が刺さっていることに気付き,同包丁を抜いて投げ捨てた旨供述している。)などからすれば,判示殺人及び殺人未遂で用いられた凶器は本件包丁であることも容易に認めることができる(弁護人も,以上の事実を前提として上記主張をしているものと解される。)。
2
そこで,前記1の事実を前提として,犯人は被告人であるか否かを検討す
ると,次の事実が認められる。
本件犯行直後に実施された鑑識活動により,被害者方内から,鑑定可能性のある足跡45個が採取された。そのうち33個は,血液で印象された足跡(以下血液足跡という。)であり,血液足跡のうち19個からは,足紋(靴下の破れた部分から露出した足裏により印象されたものとうかがわれる。以下,この足紋を血液足紋という。)も採取された。被害者らの負傷状況や,本件犯行後,被害者方内には大量の血液が遺留されていたことからすると,これら血液足跡,血液足紋は,本件犯行による被害者らの出血を踏んだ者が残したものであることは明らかである。また,多数の血液足跡が遺留されている状況や血液が時の経過により固まってしまうものであることからすると,血液足跡を残した者が上記出血を踏んだ時期は,本件犯行時あるいはその直後であると容易に推認できる。
そして,鑑定の結果,前記足紋のうち10個の足紋と被告人の足紋が一致し,前記45個の足跡のうち21個の足跡(被告人の足紋と一致する9個の血液足紋を含む。)については,同一人物の一連の歩行動作によるものである可能性が大きいとされた(甲3ないし5,47,D,E及びFの公判供述。なお,同鑑定は,鑑識又は鑑定の長年の経験や専門的知見・技能に基づいて実施されたもので,その手法等に特に不合理な点は見当たらず,上記公判供述の際に示された対照や重合の結果について,そのすべてを素人目で確認することまではできないが,一部確認できるものもあることなどを総合考慮すれば,信用に足るものといえる。)。
以上によれば,被告人が本件犯行時あるいはその直後に被害者方内にいたことは明らかである。
前記のとおり,本件殺人及び殺人未遂に用いられた凶器は,被害者方に遺留されていた本件包丁であるが,被告人は,本件犯行の前日である同月23日午後5時10分頃(本件犯行の約9時間ないし10時間前),本件包丁と同種(同じ商品)の柳刃包丁を購入している(甲74)。なお,本件犯行後,被告人の住まいから同柳刃包丁は発見されていない(甲74)。また,被告人は,公判において,本件包丁は自分の物である旨供述している。
3
被告人が本件犯行時あるいはその直後に被害者方内にいたという事実は,
本件犯行の犯人が被告人であることを強く推認させる事情といえる。さらに,本件殺人及び殺人未遂に用いられた凶器が,本件犯行前日被告人が購入した柳刃包丁と同種のもの(同じ商品)であったという事実は,上記推認を強める事情といえる。もっとも,被告人は,公判において,本件犯行の真犯人はCであると述べるとともに,前記2の各事実に関し,本件当夜,すいか等を盗む目的でCとともに外出したが,被害者方付近に至ると,Cは,突然,被告人の柳刃包丁を持って被害者方に浴室出窓から侵入した,しばらくすると,Cは,同じ窓から出てきたが,その際,同包丁を被害者方内に残してきたという仕草をした,そのため,同包丁を取りに行こうと思い,同じ窓から被害者方内に入ったなどと供述している(なお,Cは,公判において,本件当夜,被告人とともに外出したこと自体を否定している。)。そうすると,前記2の各事実により被告人が犯人であると認めるためには,常識的にみて,被告人が述べるような出来事があったとの疑いはないといえる必要がある。そこで,上記被告人の供述を信用することができるか検討すると,次の理由により,上記被告人の供述は信用できない。第1に,被害者方から,被告人の足跡(足紋)が多数発見されているのに,Cあるいはその他の被告人以外の真犯人の存在を疑わせる痕跡は全く発見されていない。この点,弁護人は,真犯人の痕跡が採取できなかった可能性がある,本件犯行後,鑑識作業前に立ち入った救急隊員らにより真犯人の痕跡が変形してしまった可能性がある,現場から採取された痕跡の中にも,被告人のものと特定できないものがある旨などを指摘する。しかし,このような指摘を踏まえても,被告人が被害者方に侵入する直前にCが侵入しているにもかかわらず,被害者方から,被告人の足跡(足紋)が多数発見,採取されている一方,Cが残した疑いがある痕跡が全く採取できなかったというのは不可解である(救急隊員らが立ち入っていない場所からもCが残した疑いがある痕跡は見つかっていない。)。第2に,被告人が上記供述をするに至る経緯が不自然である。すなわち,被告人は,令和元年9月2日,本件殺人未遂の容疑で逮捕されたが,その後,同月20日頃まで,本件犯行の犯人はCであることを供述していなかった。その理由について,被告人は,Cに口止めをされていたからであり,当初はCをかばうつもりであったが,重大犯罪であることが分かったので真実を話すことにした旨述べている。しかし,これも不自然な内容であり,信用できない。第3に,Cが残してきた包丁を取りに行くために被害者方に入ったという供述内容自体が不自然極まりない。この点,被告人は,被害者方内に自分の包丁を残しておくと,事件に巻き込まれるのではないかと思ったからである旨述べている。しかし,被告人は,本件殺人未遂で逮捕された後,しばらくは,Cをかばうために,同人が真犯人であることを話さなかったなどとも述べており,供述内容は一貫していない。また,被告人は,被害者方に侵入する時点では,重大な事件が起きたとは思っていなかった,同包丁は,ベトナムの感覚では高価なものなので,取り戻そうと思った旨などとも述べている。しかし,ベトナムと日本の経済格差を踏まえても,同包丁を失うことを惜しみ,犯罪に巻き込まれる危険を犯して被害者方に入ったというのも信じ難い話である(同包丁の購入価格は2380円である。甲74)。以上のとおりであるから,常識的にみて,前記2の各事実に関し,被告人が述べるような出来事があったとの疑いはない。
4
その他,関係証拠を検討しても,前記2の各事実が,被告人が本件犯行の
犯人ではないのに生じたことを疑う事情は見出せない。前記2の各事実があることは,被告人が本件犯行の犯人でないとすると,合理的に説明することが極めて困難である。そうすると,弁護人が指摘する,本件犯行の態様やBの供述等に基づき推察した犯人像と被告人の比較といった視点及びその他の弁護人の主張を検討しても,本件犯行の犯人は被告人であると認定できる。(法令の適用)記載省略
(量刑の理由)
1
被告人は,他人の住居に侵入し,同人を殺害し,同人の妻を殺害しようとしたが,けがを負わせるにとどまった。いずれの被害者に対しても,鋭利な刃物で身体の枢要部を多数回にわたり突き刺すという執拗なものであった。殺人の被害者は,寝込みを襲われ,ほぼ無抵抗の状態で殺害されたとうかがわれ,殺人未遂の被害者も,素手の状態で,ほぼ一方的に刃物で攻撃されている。犯行の態様は,人を死亡させる危険性が高いものであった。また,あらかじめ用意した包丁で被害者らを執拗かつ一方的に多数回刺していることから,強固な殺意がうかがえる。1名を死亡させた結果が取り返しのつかない重いものであることはいうまでもなく,突如として理不尽に生命を奪われた被害者は無念であったと思われる。同人の妻は,幸いにも一命をとりとめたものの,69日間の入院治療を余儀なくされた上,声帯麻痺などの後遺症が残っており,その身体的,精神的苦痛は大きい。それだけでなく,長年連れ添った夫を失った悲しみや,本件により一変してしまった生活の辛さも見過ごせない。本件の結果は重大であり,生き残った被害者が犯人の厳重処罰を求めているのは当然といえる。被告人が本件犯行に及んだことを否定していることもあって,犯行の動機を明らかにすることはできないが,本件以前に,被害者夫婦と被告人との間に特段の関係はないことなどからすれば,被告人のために酌量すべき事情があるとは考え難い。
2
以上の犯情に基づき,本件の行為責任を検討する。本件の行為類型等に照らし,本件の量刑を,単独犯による殺人で,同一又は同種の罪の件数が2件から4件の事案(以下同種事案という。その科刑状況をみると,有期懲役刑の実刑が,1年単位で区切ると,懲役4年以下から懲役30年以下まで幅広く分布しているほか,無期懲役刑や死刑に処せられているものも相当数ある。)の量刑傾向を踏まえ,併せて,単独で,無関係又は関係不明の被害者1名を殺害した事案や,単独で,無関係又は関係不明の被害者を殺害しようとしたが未遂に終わった事案の量刑傾向なども踏まえながら考察すると,本件は,懲役20年以下に収まる事案であるとは考えられず,同種事案の中で,最上限とまではいえないものの,重い部類に属する事案といえる。加えて,被告人が,本件犯行に及んだことを認めず,反省の態度を示さないばかりか,知人を真犯人であると名指して,刑事責任を押し付けようとしていることなども併せ考えると,被告人の刑事責任は重大であり,相当長期の刑を科すのが相当である。もっとも,同種事案の中で無期懲役刑に処せられた事案は,本件よりも犯情が悪いものが多い。加えて,若年で我が国における前科がないことなども考慮すると,無期懲役刑を酌量減軽して主文の刑を科すのが相当である。(求刑懲役30年)
令和3年12月10日
水戸地方裁判所刑事第2部

裁判長裁判官

中島経太
裁判官

岩﨑理子
裁判官

浅見一輝
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