事件番号 | 令和3(わ)111 |
---|---|
事件名 | 殺人,窃盗,詐欺 |
裁判年月日 | 令和3年11月15日 |
法廷名 | 京都地方裁判所 |
全文 | 全文 |
最高裁判所 | 〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map |
裁判日:西暦 | 2021-11-15 |
情報公開日 | 2022-02-06 19:20:13 |
被告人を懲役19年に処する。 未決勾留日数中170日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人は, 第1 令和3年1月8日午前4時55分頃から同日午前9時37分頃までの間に,京都府亀岡市a町b丁目c番d号ef号所在の当時の被告人方において,A(当時25歳)に対し,殺意をもって,その頸部をロープで絞め付け,よって,その頃,同所において,同人を頸部圧迫による気道閉塞又は循環障害により死亡させて殺害し, 第2 同月8日午前4時55分頃から同日午後4時24分頃までの間に,前記当時の被告人方において,A管理の同人名義のクレジットカード1枚を窃取し, 第3 同月8日午後4時24分頃,京都府亀岡市g町hi丁目j番k号B株式会社Cサービスステーションにおいて,同所に設置された給油機に,前記第2記載の犯行により窃取した前記クレジットカードを挿入して同機を作動させ,同機から同店店長D管理のハイオクガソリン78.54リットル(販売価格1万1153円)を窃取し, 第4 不正送金を受けた株式会社E銀行F支店に開設された自己名義の普通預金口座から現金を引き出して窃取しようと考え,同月8日午後4時54分頃,京都府亀岡市l町m丁目n番o号G信用金庫F支店H出張所において,同所に設置された現金自動預払機に,自己名義のキャッシュカードを挿入して同機を作動させ,同支店長I管理の現金7万6000円を引き出して窃取し, 第5 前記第2の犯行により窃取したクレジットカードを使用して商品をだまし取ろうと考え,同月12日午後2時57分頃,京都府亀岡市a町pq番地rJ店において,同店店員Kに対し,真実は,同クレジットカードの正当な使用権限 も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これらがあるように装い,同クレジットカードを提示してお茶等11点(販売価格合計2483円)の購入を申し込み,同人に,被告人が同クレジットカードの正当な使用権限を有し,後日,同クレジットカードシステム所定の方法により代金の支払を受けられるものと誤信させ,よって,その頃,同所において,前記Kから前記お茶等11点の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させ,第6 前記第2の犯行により窃取したクレジットカードを使用して商品をだまし取ろうと考え,同月12日午後3時9分頃,京都府亀岡市a町s丁目t番u号株式会社LM店において,同店店員Nに対し,真実は,同クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに,これらがあるように装い,同クレジットカードを提示してウォッカ1本(販売価格927円)の購入を申し込み,同人に,被告人が同クレジットカードの正当な使用権限を有し,後日,同クレジットカードシステム所定の方法により代金の支払を受けられるものと誤信させ,よって,その頃,同所において,前記Nから前記ウォッカ1本の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させ, 第7 不正送金を受けたO銀行株式会社P支店に開設された自己名義の普通預金口座から現金を引き出して窃取しようと考え,同月13日午後2時37分頃,京都府亀岡市a町pq番地rQ銀行R支店S出張所において,同所に設置された現金自動預払機に,自己名義のキャッシュカードを挿入して同機を作動させ,株式会社Q銀行Tセンター所長Uほか1名管理の現金16万5000円を引き出して窃取し たものである。 (証拠の標目)省略 (事実認定の補足説明―殺意の発生時期について) 検察官及び弁護人は,被告人は本件犯行の直前に,被害者とその知人のメッ セージのやり取りを見て,被害者の殺害を決意した旨主張する。他方,被害者参加弁護士は,意見陳述において,被告人のスマートフォンの検索履歴に照らし,被告人が被害者の殺害を計画していた可能性についても検討を求める旨述べる。 被告人のスマートフォンには,令和2年12月28日に首を絞めて死ぬまで,令和3年1月1日に寝てるときに首を絞める,同月6日にロープ首絞め何秒などと検索した履歴があるところ,本件犯行と検索履歴の時期 が近接していることや,検索内容と本件犯行態様が共通していることからすれば,被告人が被害者を殺害することを想起してこれらの検索を行った疑いがないわけではない。しかしながら,被告人は,これらの検索をした経緯は覚えていない,ゲームやアニメでそのような場面を見て気になって検索したかもしれない旨述べている。また,被告人が見たと述べる被害者と知人のメッセージのやり取りは,復縁を期待する被告人としてはそれだけで殺意を形成したと考えてもおかしくない刺激的内容を含むものである。そうすると,被告人が以前から被害者の殺害を計画していたと断ずることはできない。 (弁護人の主張に対する判断―自首の成否について) 第1 当事者の主張 弁護人は,被告人は,自己の犯罪である殺人罪について捜査機関に発覚する前に自首したと主張し,仮に自首が成立しないとしても,被告人が自ら警察に出頭したことを量刑上評価すべきである旨主張する。 検察官は,被告人は,被害者の同意を得て殺害した旨の虚偽の事実を供述したものであり,自己の犯罪についての申告に当たらず,自首は成立しないと主張する。 第2 当裁判所の判断 本件では,被告人の出頭が捜査の端緒になっており,被告人の出頭が捜査及び処罰を容易にしたことは否定できない。他方,殺人罪における被害者の同意 は,それによって成立罪名が異なる重要な事実であり,法定刑も大きく異なる。また,被害者が死亡している以上,被害者の同意の有無に関する被告人供述の重要性は高く,虚偽供述がなされた場合の捜査に与える影響は大きい。したがって,被告人は,犯罪事実の重要な部分について虚偽の供述をしたといえる。加えて,被告人が被害者を殺害してから出頭するまでの経緯,被告人が出頭直後から虚偽の供述を続け,起訴される前日に客観的証拠を見せられたうえで検察官の取調べを受けて殺人罪で起訴する旨告げられて初めて同意がなかった旨認めるに至ったこと等も考慮すると,本件において自首を認めることは相当とはいえない。 以上より,被告人が自己の犯罪について申告したものとはいえず,自首は成立しない。なお,被告人が捜査機関に虚偽を含むとはいえ犯罪の申告をした事情については(量刑の理由)において判断を示す。 (法令の適用) 罰 条 判示第1の所為 刑法199条 判示第2,第3,第4,第7の各所為 いずれも同法235条(判示第4及び第7の各所為は,いずれも自己名義の預金口座から現金を引き出したものであるので,窃盗罪の成否について検討する。判示第4の金員はA名義のLINEペイを同人殺害後にその承諾なく送金したもの,判示第7の現金は,同人名義の判示第2のクレジットカードを使ってiTunesカードを購入した上で同iTunesカードを換金し,その換価代金の振込を受けたものであり,各被害者の預金規定の趣旨,不正入金から現金の引き出しに至るまでを被告人自身が行っていること,不正入金と引き出しの金額及び日時が近接していること等といった事案の特徴に照らせば,本件においては,いずれ も窃盗罪が成立する) 判示第5,第6の各所為 同法246条1項 刑種の選択 判示第1の罪について所定刑中有期懲役刑を選択 判示第2,第3,第4,第7の各罪についていずれも所定刑中懲役刑を選択併合罪加重 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重) 未決勾留日数の算入 刑法21条 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書 (量刑の理由) 1 犯罪行為に関する事情について 本件は,殺人,4件の窃盗,2件の詐欺の事案である。 殺人について,犯行態様は,酩酊状態で寝ている被害者の頸を,自分の手に巻き付けたロープで絞め,目覚めた被害者に抵抗されてもなお絞め続けるという危険なものであり,強い殺意をうかがわせる。被告人は,被害者とその知人のメッセージのやり取りを見てかっとなり,本件犯行に及んだものであるが,既に離婚して一時的に同居を継続していたに過ぎない被害者に対して一方的に不満を爆発させた動機に酌量の余地はない。 被告人は,被害者を殺害後,被害者の財布からクレジットカードを盗み,被害者の携帯電話から自己の口座に不正に送金し,さらに前記クレジットカードを用いて窃盗及び詐欺を敢行しており,態様が悪質である。 2 犯罪行為以外の事情について 前記犯情の悪質性及び犯行後の事情に照らせば,被害者遺族の処罰感情が強くなるのも無理はない。他方,被告人が自ら警察に出頭し,被害者を殺害した旨申告したことは,犯罪の発覚を早めた点で被告人に一定程度有利に考慮できる事情であるが,出頭後虚偽を述べていたこと等に照らせば,この点をそれほど重視することはできない。出所後の更生環境が整っているとも言いがたい。3 評価 本件の量刑を考慮するにあたっては,男女関係(DV以外)に動機が起因する殺人の事案を基礎に考える。 上記のとおり,犯罪行為に関する事情について,とりわけ,行為態様,犯行に至る意思決定への非難は重く,上記男女関係(DV以外)に動機が起因する殺人の事案において,やや重いものである。ここに,窃盗及び詐欺の犯情も併せて考慮する。その上で,犯罪行為以外の事情を考慮して,被告人を主文の刑に処するのが相当と判断した。 (量刑に関する意見 検察官:懲役20年,弁護人:懲役15年) 令和3年11月22日 京都地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官 伊藤 裁判官 赤坂宏 裁判官 佐藤由寿一美子 |