判例検索β > 令和1年(行ケ)第10160号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和1(行ケ)10160
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和3年11月29日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨特 判決年月日 令和3年11月29日 担 許 当 知財高裁第1部 権 部 事 件 番 号 令和元年(行ケ)第10160号 ○ 発明の名称を「セルロース粉末」とする特許に係る発明がサポート要件に適合する ものと判断された事例。 (事件類型)審決(無効・不成立)取消 (結論)棄却 (関連条文)特許法36条6項1号 (関連する権利番号等)特許第5110757号 (審決)無効2018-800078号事件 判 決 要 旨 1 本件は,発明の名称を「セルロース粉末」とする被告の本件特許について,原告が 請求した特許無効審判に対し,請求不成立とする本件審決がされたことから,原告が その取消しを求めた審決取消訴訟である。 2 本判決は,概要,以下のとおり判示し,本件審決におけるサポート要件に適合する との判断は,結論において相当であるなどとして,原告の請求を棄却した(なお,同 日判決言渡しの関連事件・令和2年(ネ)第10029号がある。)。 ⑴ 本件訂正発明1の技術的意義について 本件明細書 の発明の詳細な説明には, 本件訂正発明1に関し,医薬用途等におい て活性成分の錠剤化に圧縮成形用賦形剤として使用されるセルロース粉末は,輸送 や使用に際して錠剤に磨損や破壊しない程度の硬度を付与するための成形性,服用 後の速やかな薬効発現のための崩壊性,1錠中の医薬品含量の均一化のために医薬 品と圧縮成形用賦形剤の混合粉体が打錠機の臼に均一量充填されるための流動性の いずれもが高いレベルで満足するものが望ましいが,成形性と崩壊性及び流動性と は相反する性質であるため, 従来のセルロース粉末では,成形性,流動性,崩壊性 の諸性質をバランスよ く併せ持つものは知られていなかっ たという問題があったこ とから,本件訂正発明1は,成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ 持つセルロース粉末を提供することを課題とし,その課題を解決するための手段と して,セルロース粉末の粉体物性である「平均重合度」,「 粒子の平均L/D(長径 短径比)」,「平均粒子径」,「見掛け比容積」,「見掛けタッピング比容積」,「安息角」 及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」 を特定の数値範囲に制御する構成 を採用すること により,全体として成形性,流動性,崩壊性の諸性質をバランス良 く併せ持つという効果を奏するものと したことに技術的意義があることの開示があ るものと認められる。 ⑵ 本件訂正発明1のサポート要件の適合性について ア 本件訂正発明1の「レベルオフ重合度」の意義について -1- 本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本件訂正発明1の「レベ ルオフ重合度」の意義について規定した記載はないが,本件明細書 に, 「本発明で いうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した 後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をいう。」との記 載がある。上記記載は,本件訂正発明1の「レベルオフ重合度」を定義したもの といえるから,本件訂正発明1の「レベルオフ重合度」は,2.5N塩酸,沸騰温 度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測 定される重合度」をいうものと解される。 イ 本件明細書には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセルロース粉末 について,それぞれの原料パルプのレベルオフ重合度が記載されている。 本件出 願当時,酸加水分解時に,非結晶部分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解 されず残り,残った部分の化学構造と結晶構造は,原料セ ルロースのままであっ て,分解されずに残った部分の結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応す ることは技術常識であったことを踏まえると,本件明細書の上記 実施例及び比較 例記載のセルロース粉末のレベルオフ 重合度は,原料パルプのレベルオフ重合度 とおおむね等しいものと理解 できる。加えて,本件明細書の表4には,実施例2 ないし7及び比較例1ないし11のセルロース粉末の平均重合度の記載があるこ とからすると,本件明細書に接した当業者は,上記セルロース粉末が差分要件を 満たすかどうかを把握できるものと解される。 また,本件明細書の表4には, 「 平均重合度」, 「 粒子の平均L/D(長径短径比)」, 「平均粒子径」, 「見掛け比容積」, 「見掛けタッピング比容積」, 「安息角」及び「平 均重合度とレベルオフ重合度との差分」 (差分要件)のいずれもが本件訂正発明1 の数値範囲内にある実施例2ないし7のセルロース粉末の円柱状成形体とそのい ずれかが本件訂正発明1の数値範囲外である 比較例1ないし11とのセルロース 粉末の円柱状成形体について,平均降伏圧[MPa],錠剤の水蒸気吸着速度Ka, 硬度[N]及び崩壊時間[秒]が示されている。 そして,実施例2ないし7のセルロース粉末は,いずれも,安息角が55°以 下,錠剤硬度が170N以上,崩壊時間が130秒以下であり,ここで,安息角 は,55°を超えると,流動性が著しく悪くなり,錠剤硬度は成形性を示す実用 的な物性値であり,170N以上が好ましく,崩壊時間は崩壊性を示す実用的な 物性値であり,130秒以下が好ましいのであるから,実施例2~7のセルロー ス粉末は,成形性,流動性及び崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロー ス粉末であるということができる。 したがって,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載 及び本件出願時 の技術常識から,実施例2ないし7のセルロース粉末は, 本件訂正発明1の課題 を解決できると認識できるものと認められる。 -2-
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2021-11-29
情報公開日2022-02-06 19:24:43
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令和3年11月29日判決言渡
令和元年(行ケ)第10160号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

令和3年9月15日
判決原告
日本製紙株式会社

同訴訟代理人弁護士

荒井俊行三井睦貴横田重信
同訴訟復代理人弁理士

井出桂子
同補佐人弁理士

香島拓也山崎被告旭
同訴訟代理人弁護士

古城春実加治梓子松井佳章川島さ
同訴訟代理人弁理士

主成株式会や社か文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

第1

化亨実及び理由
請求
特許庁が無効2018-800078号事件について令和元年10月18日にした審決を取り消す。

第2

事案の概要

1


特許庁における手続の経緯等
旭化成ケミカルズ株式会社(以下旭化成ケミカルズという。)は,平
成13年6月28日,
発明の名称を
セルロース粉末
とする発明について,
特許出願(特願2002-507894号,優先日平成12年7月5日,優先権主張国日本。以下本件出願という。)をし,平成24年10月19日,特許権の設定登録(特許第5110757号。請求項の数16。以下,この特許を本件特許という。)を受けた(甲1)。
被告は,平成28年4月1日,旭化成ケミカルズを吸収合併し,本件特許の特許権を一般承継し,その旨の移転登録(受付日同年7月20日)を経由した(甲39)。


原告は,平成30年6月20日,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,2及び6に係る発明の特許について特許無効審判(無効2018-800078号事件)を請求した。
被告は,平成30年9月21日付けで特許請求の範囲の請求項2~5,9~16を訂正する訂正請求(以下本件訂正という。)をした(甲2)。特許庁は,令和元年10月18日,本件訂正を認めた上,

請求項1,2及び6に係る発明についての本件審判の請求は成り立たない。との審決

(以
下本件審決という。)をし,その謄本は,同月29日,原告に送達された。



原告は,令和元年11月26日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2
特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2及び6の記載は,次のとおりである(甲2。以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を本件訂正発明1などという。下線部は本件訂正による訂正箇所である。)。【請求項1】
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であって,平均重合度が150-450,
75μm以下の粒子の平均L/D
(長径短径比)

が2.0-4.5,平均粒子径が20-250μm,見掛け比容積が4.0-7.0cm3/g,見掛けタッピング比容積が2.4-4.5cm3/g,安息角が54°以下のセルロース粉末であり,該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,
15分間煮沸して加水分解させた後,
粘度法により測定されるレベル
オフ重合度より5~300高いことを特徴とするセルロース粉末。【請求項2】
平均重合度が230-450であり,該平均重合度が,前記レベルオフ重合度より10~300高い請求項1に記載のセルロース粉末。
【請求項6】
i)
天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより,
a)平均重合度が150-450
b)湿潤状態の平均L/Dが3.0-5.5
であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程,
ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程,を含むセルロース粉末であり,
該平均重合度が,
該セルロース粉末を塩酸2.5
N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いことを特徴とするセルロース粉末の製造方法。3
本件審決の理由の要旨


本件審決の理由は,
別紙審決書
(写し)
記載のとおりである。
その要旨は,
原告主張の無効理由1
(実施可能要件違反)無効理由2

(サポート要件違反)

無効理由3(明確性要件違反)
,無効理由4(本件出願の優先日前に頒布され
た刊行物である特開平6-316535公報(甲12)を主引用例とする本件訂正発明1,2及び6の新規性の欠如)及び無効理由5(甲12を主引用例とする本件訂正発明1,2及び6の進歩性の欠如)は,いずれも理由がないというものである。



本件審決が認定した甲12に記載された発明
(以下
甲12発明
という。,

本件訂正発明1と甲12発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。ア
甲12発明
市販D.P.パルプを細断し,10%塩酸水溶液中で105℃で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過,洗浄,pH調整,濃度調整を行い得られたセルロース粒子水分散体をドラム乾燥機(ドラム表面温度136℃,
溜め部水分散体温度100℃)
で乾燥後,
ハンマーミルで粉砕し,
目開き425μmの篩で粗大粒子を除き,得られた,平均重合度205,酢酸保持率330%,川北の式a0.892,b0.0860,平均粒径47μm,
355μm以上の粒子が1wt%,
見掛け比容積5.4cm3/g,
見掛けタッピング比容積2.7cm3/g,比表面積1.9m2/g,吸着水横緩和時間0.000200sである結晶セルロース粉末。


本件訂正発明1と甲12発明との一致点及び相違点
(一致点)
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であって,平均重合度が205,平均粒子径が47μm,見掛け比容積が5.4cm3/g,見掛けタッピング比容積が2.7cm3/gであるセルロース粉末である点。
(相違点)
セルロース粉末が,
本件訂正発明1では,
75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0-4.5,安息角が54°以下,平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いことを特徴とするのに対し,甲12発明では,本件訂正発明1における上記特定がなされておらず,
市販D.P.パルプを細断し,
10%塩酸水溶液中で105℃
で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過,洗浄,pH調整,
濃度調整を行い得られたセルロース粒子水分散体をドラム乾燥機(ドラム表面温度136℃,溜め部水分散体温度100℃)で乾燥後,ハンマーミルで粉砕し,目開き425μmの篩で粗大粒子を除き,得られた,酢酸保持率330%,川北の式a0.892,b0.0860,比表面積1.9m2/g,吸着水横緩和時間0.00200sである点。
第3

当事者の主張

1
取消事由1(サポート要件の判断の誤り)
(無効理由2関係)


原告の主張
本件審決は,①本件出願の願書に添付された明細書(以下本件明細書という。甲1)の記載によれば,本件訂正発明1の課題は,成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供することにある,②本件明細書には,セルロース粉末の製造原料である天然セルロース質物質のレベルオフ重合度についての記載はあるが,実施例として製造されたセルロース粉末のレベルオフ重合度や差分要件(本件訂正発明1の該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いこととの要件。以下同じ。
)について明示的な記載はないものの,本件明細書の記
載によれば,差分要件を満たしているないし満たしている蓋然性が高く,かつそれ以外の請求項1に規定する粉体物性が,請求項1の数値範囲を満足するセルロース粉末について,そのいずれも成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であることが記載されているといえる,③そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が,本件訂正発明1がその課題を解決できることを認識できる程度に記載されているといえるから,本件訂正発明1は,発明の詳細な説明に記載されている,④これに対し原告は,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明1の発明特定事項である差分要件,平均重合度が150-450」
との要件のうち,平均重合度350超の数値範囲の測定条件,「安息角が54°以下及び平均粒子径が20-250μmとの要件の数値範囲の制御方法についての記載がないから,当業者が,本件訂正発明1がその課題を解決できる程度に記載されているとはいえないと主張するが,原告の主張はいずれも理由がないとして,本件訂正発明1はサポート要件に適合する旨判断し,本件訂正発明2及び6も,サポート要件に適合する旨判断したが,以下のとおり,本件審決の判断は誤りである。

本件訂正発明1の課題の認定等について
本件明細書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明1に関し,従来のセルロース粉末にはなかった,
成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供することを目的とすること【001

2】
)が記載されていること,
硬度170N以上崩壊時間130秒以,下及び安息角54°以下の数値を満たすものは好適な例として記載されており(
【0018】【0019】,実施例はいずれもこれらの数値を


満たしているのに対し,比較例はいずれかの数値を満たしていないことからすると,上記成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つとは,硬度170N以上崩壊時間130秒以下及び安息角5,4°以下の数値をすべて満たすことを意味するものであり,このようなセルロース粉末を提供することが本件訂正発明1の課題であると認定すべきである。
そして,本件訂正発明1は,
平均重合度75㎛以下粒子L/D


平均粒子径見掛け比容積見掛けタッピング比容積安息角



及び平均重合度とレベルオフ重合度との差分(差分要件)という7つのパラメータの数値範囲を発明特定事項とするものであるが,当業者は,これらの数値範囲全体をカバーする具体例の開示なくして,上記課題を解決できると認識することはできない。

しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,かかる具体例の開示はないから,当業者は,本件訂正発明1の上記課題を解決できると認識することはできない。

差分要件について
本件訂正発明1の差分要件は,
該セルロース粉末
に関するレベルオフ
重合度との差分であるにもかかわらず,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたレベルオフ重合度は,いずれも原料パルプのレベルオフ重合度であり,実施例及び比較例の該セルロース粉末のレベルオフ重合度は不明である。そして,本件審決が,甲5(

INDUSTRIALNDENGINEERINGACHEMISTRY,Vol.42,No.3,p.502-507(1950)。以下「BATTISTA論文


という場合がある。
)の記載によれば,温和な加水分解の後,過酷な条件で
加水分解を行った場合には,温和な加水分解を経ることなく過酷な条件下で加水分解を行った場合に比べて,そのレベルオフ重合度は通常低下すると理解されるから,セルロース粉末のレベルオフ重合度が天然セルロース質物質のレベルオフ重合度と同じであると直ちにいえるものでもないと認定しているとおり,
該セルロース粉末と原料パルプのレベルオフ
重合度は,同じであるとは認められない。そうすると,差分要件だけをみても,
本件明細書の発明の詳細な説明において,
当該数値範囲内であれば,
所望の効果(性能)が得られると当業者が認識できる程度に具体例が開示されているとはいえない
この点に関し,本件審決は,①該セルロース粉末のレベルオフ重合度は,
原料パルプのレベルオフ重合度よりも100前後低い値を示
す場合があるとした上で,本件明細書記載の実施例2ないし6は,差分要件を満たしているないし満たしている蓋然性が高い,②そして,実施例2ないし6は,本件明細書において好ましいと記載されている値である硬度170N以上崩壊時間130秒以下及び安息角54°以下の,
範囲内のものであるから,
該セルロース粉末
のレベルオフ重合度が記載
されていなくても,当業者は本件訂正発明1の課題を解決できると認識できる旨判断した。
しかしながら,仮に該セルロース粉末のレベルオフ重合度は,①のとおり,
原料パルプ
のレベルオフ重合度より100低いと仮定した場合,
実施例2ないし6において示されている差分の範囲は150~255であり,その下限値は150である。
しかるところ,本件訂正発明1の差分要件は,差分の下限値が5ないし10の範囲まで広範にクレームされているところ,差分5ないし10という数値は,粘度法による重合度測定の誤差の範囲のレベルであり,実質的にはレベルオフ重合度との差分を技術的有意性をもって認識することはできない。
そして,当業者は,差分要件の作用機序の技術的意味を理解できないから,本件明細書記載の差分がいずれも150以上の実施例のデータのみをもって,測定誤差のレベルである差分5ないし10を下限とする数値範囲の全体にわたり本件訂正発明1の課題を解決できると認識することはできない。
したがって,本件審決の②の判断は,誤りである。ウ
まとめ
以上のとおり,本件訂正発明1は,サポート要件に適合せず,本件訂正発明2及び6も,これと同様である。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。



被告の主張

本件訂正発明1の課題の認定等の主張に対し
原告は,本件訂正発明1の課題における成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つとは,硬度170N崩壊時間130秒,以下及び安息角54°以下の数値をすべて満たすということを意味する旨主張する。
しかしながら,上記成形性,流動性,崩壊性という諸機能をバランスよく併せ持つとは,諸機能全てにおいて,もしくはより多くの機能において,従来知られるセルロースより優れていることを意図するというよりむしろ,互いに相反し,兼ね備えることが難しい機能を医薬用賦形剤としての使用に適した程度で同時に備えてなることを意図するものであり,硬度170N崩壊時間130秒以下及び安息角54°以下と

いう数値は,成形性,崩壊性,流動性という諸機能を個別で評価する場合に好適とみなせる範囲の指標【0018】


【0019】にすぎないから,

本件訂正発明1の課題を解決する上で,これらの数値を満たすことは必須ではない。
したがって,原告の上記主張は失当である。

差分要件の主張に対し
本件明細書記載の実施例及び比較例には,いずれも原料パルプのレベルオフ重合度が明記されている(
【0015】【0016】【0039】ない


し【0047】
,表1ないし8)

また,乙2及び4には,天然の植物セルロース繊維中には結晶領域という酸に耐性を持つ領域が部分的に存在し,セルロース粉末を得るための一般的な加水分解条件の下では,結晶領域は分解されずに残る旨の記載がある。上記記載から,原料パルプのレベルオフ重合度とセルロース粉末のレベルオフ重合度はほぼ等しく,少なくとも両者は大きく異なるものではないことを理解できる。この点に関し,本件審決がセルロース粉末のレベルオフ重合度が天然セルロース質物質のレベルオフ重合度と同じであると直ちにいえるものでもない旨判断したのは,誤りである。

そうすると,本件明細書の上記記載に基づいて,実施例及び比較例のいずれにおいても,原料パルプのレベルオフ重合度からセルロース粉末のレベルオフ重合度を合理的に推認できるから,差分要件についても実施例及び比較例で開示されているといえる。

まとめ
したがって,本件訂正発明1,2及び6がサポート要件に適合するとした本件審決の判断は,その結論において誤りはない。

2
取消事由2(明確性要件の判断の誤り)
(無効理由3関係)


原告の主張

本件審決は,①請求項1,2及び6には,各物性の測定方法を特定する規定はないが,本件明細書の【0032】には,

実施例,比較例における各物性の測定方法は以下の通りである。との記載に続いて,

本件訂正発明
1,2及び6の平均重合度,75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)
,平均粒子径,見掛け比容積,見掛けタッピング比容積,安息角及び湿潤状態の平均L/Dについて,順に【0032】ないし【0034】に測定方法が記載されているところ,実施例は,一般に,特許請求の範囲に記載される発明の実施の態様について記載したものであるから,本件訂正発明1,2及び6を規定する各物性についても,実施例等における各物性の測定方法に従い測定される値として記載されていると解するのが合理的であり,本件明細書には,上記以外の測定方法により各物性を測定すべきことを窺わせる記載は存在しない,②各物性について複数の測定方法が本件出願当時に知られていたとしても,本件明細書の発明の詳細な説明の実施例等における各物性の測定方法に関する記載と離れて,あえてこれと異なる方法により測定されると解する合理的な理由は見いだせないとして,請求項1,2及び6記載の各物性の測定方法が不明であるとは認められず,本件訂正発明1,2及び6が明確性要件に違反するとはいえない旨判断し
た。
しかしながら,
少なくとも,
請求項1記載の
平均重合度
に関しては,
本件明細書記載の
第13改正日本薬局方,結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値【003(
2】
)という記載によっては,
平均重合度は一義的に定まらないから,
不明確である。
すなわち,上記記載中の第13改正日本薬局方,結晶セルロースの確認試験(3)に記載されたとは,銅エチレンジアミン溶液粘度法とい
う粘度測定法を限定する記載であって,粘度から平均重合度を算定する式を限定するものではない。
また,上記結晶セルロースの確認試験(3)は,同確認試験所定の測定条件における濃度によって試料の相対粘度を測定した場合には,別途の算出をしなくても,
平均重合度350以下で,かつ表示範囲内
であれば,
同確認試験所定の相対粘度から極限粘度と濃度の積を求める表
(以下
極限粘度換算表という)を用いて,相対粘度から極限粘度と濃度の積を求めるものであるが,平均重合度350以下で,かつ表示範囲内
でない場合には,極限粘度換算表から極限粘度と濃度の積が簡便に得られず,かつ,
結晶セルロースの確認試験(3)記載の算定式の妥当範
囲外であることが明記されているのであるから,かかる場合には,平均重合度の算定式について,当業者が結晶セルロースの確認試験(3)記載の算定式を選択するとは限られない。むしろ妥当範囲外と明記されていない別の算定式が用いられる可能性が高い。
そして,
結晶セルロースの確認試験(3)記載の計算式と,例えば,
ISO5351の付属書掲載論文に記載された計算式では,算出結果は大きく異なることになるため,平均重合度の計算式として,いずれの式を選択するかによって平均重合度の値は一義的に定まらない。

したがって,
平均重合度
のパラメータ値をもって特定されている本件
訂正発明1,2及び6は,不明確であり,明確性要件に適合しないから,本件審決の上記判断は誤りである。

本件審決は,
①本件訂正発明1の特許請求の範囲
(請求項1)
記載の
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末は,単に加水分解の結果得られたセルロースという物の状態を示すことにより,その物の構造又は特性を特定しているにすぎず,セルロース粉末に係る物の発明をその物の製造方法で特定するものではないから,請求項1は,物の発明についてその物の製造方法の記載がある特許請求の範囲(以下PBPクレームという。)ではなく,本件訂正発明2(請求項2)も,これ
と同様である,②したがって,本件訂正発明1及び2がPBPクレームに係る発明(以下PBP発明という。
)に該当することを前提に,明確性
要件違反をいう原告の主張は理由がない旨判断した。
しかしながら,天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末は,例えば,辞書等に定義の記載が存在する等,物の構造又は特性を特定する用語として概念が定着しているものではない。本件明細書の記載に鑑みても,天然セルロース質物質には,少なくとも,セルロース結晶構造の型,不純物の有無・程度,セルロースの種類・含量比率といった各種要素による特徴があり,また,加水分解処理は,温和な条件や過酷な条件等加水分解条件によって処理後のセルロースの物性に大きな影響を与えうる化学的処理であって,原料となる天然セルロース質物質の特徴に照らして,加水分解の結果,得られたセルロース粉末はどのような構造又は物性になっているか明らかであるとはいえず,当業者は,加水分解処理により得られたセルロース粉末と構造,物性等が同一である物とはどのような物をいうのか理解することができない。
一方,セルロースの構造や物性等は,本件明細書に記載された各種パラ
メータや,前述のセルロース結晶構造の型,不純物や結晶領域の有無・程度,
セルロースの種類・含量比率等の諸要素によって特定することは可能であるから,本件出願時に当該物をその構造又は特性によって直接特定することに不可能ないし非実際的事情が存するとはいえない。
そうすると,
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末を発明特定事項とする本件訂正発明1及び2は,PBP発明であって,本件出願時に当該物をその構造又は特性によって直接特定することに不可能ないし非実際的事情が存するとはいえないから,不明確である。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。

前記ア及びイのほか,本件訂正発明1の安息角が54°以下の発明特定事項は,安息角の下限値の記載がないから,不明確であり,明確性要件に適合しないから,この点においても本件審決の上記判断は誤りである。


被告の主張

第十三改正日本薬局方には,
次式により平均重合度Pを計算するとき,Pは350以下であり,かつ表示範囲内である(甲8)との記載があるも
のの,そもそも日本薬局方は,一般的に認められている医薬品の性状及び品質等についての規格を定めた基準書であることに照らせば,上記記載は,第十三改正日本薬局方,結晶セルロースの確認試験(3)に記載されたとおりの手順に従い確認試験(3)を行った場合に,日本薬局方に収載されている結晶セルロースに該当するというために,結晶セルロースが備えるべき品質について規定したものである。
そうすると,
第十三改正日本薬局方に収載された結晶セルロース
に該
当するというために,上記確認試験(3)に記載された方法に何らの変更も加えることなくその平均重合度を算出できるものでなければならない,平均重合度が350以下でなければならないということができるとして
も,平均重合度の測定限界が350であるとまでいうことはできない。また,平均重合度の算出に用いる計算式についても,日本薬局方に計算式が記載されているのであるから,その計算式を用いて平均重合度を計算することは当然であり,あえて他の文献に記載された計算式に当てはめて平均重合度を計算するということは,不自然である。
したがって,当業者であれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,平均重合度350超の場合でも測定可能であり,その測定結果を一義的に定めることができるから,
平均重合度
のパラメータ値を含む
本件訂正発明1,2が不明確であるとの原告の主張は理由がない。イ
本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)記載の天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末は,単に加水分解の結果得られたセルロースという物の状態を示すことにより,その物の構造又は特性を特定しているにすぎず,セルロース粉末に係る物の発明をその物の製造方法で特定するものではないから,本件訂正発明1及び2はPBP発明ではない。
したがって,本件訂正発明1及び2がPBP発明に該当することを前提
とする原告の明確性要件違反の主張は理由がないとした本件審決の判断に誤りはない。

本件訂正発明1の安息角が54°以下の発明特定事項が不明確であるとの原告の主張は,争う。

3
取消事由3(甲12発明を主引用例とする本件訂正発明1及び2の新規性の判断の誤り)
(無効理由4関係)


原告の主張
本件審決は,①原告主張の天然セルロース質物質を酸加水分解して得られるセルロース粉末であって,平均重合度が100-375,平均粒径が30-120μm,見掛け比容積が4.0-6.0cm3/g,見掛けタッピング比容積が2.4cm3/g以上であるセルロース粉末が,甲12に記載されていると認定することはできない,②本件訂正発明1と本件審決認定の甲12発明とは,セルロース粉末が,本件訂正発明1では,
75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0-4.5,安息角が54°以下,平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いことを特徴とするのに対し,甲12発明では,本件訂正発明1における上記特定がなされていない点を相違点と認定し,その上で,甲12には,実施例1のセルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度(以下,単にレベルオフ重合度という。
)についての記載はなく,また,平均重合度をレベルオフ重合度との関係において特定することについての認識もないこと,甲12記載の加水分解条件は,本件訂正発明1のセルロース粉末のレベルオフ重合度を測定する加水分解条件である塩酸2.5N,15分間煮沸と同等もしくはそれより過酷な条件であるから,甲12発明のセルロース粉末の平均重合度がそのレベルオフ重合度より高くなる余地があるとは認められないことからすると,甲12発明は,上記相違点のうち,
平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いとの点(差分要件)を満足しない,③原告は,甲12の実施例1のセルロース粉末(試料A)と本件明細書の比較例1のセルロース粉末Hとは,同じものであることを前提として,甲12の実施例1のセルロース粉末のレベルオフ重合度は205以下であり,平均重合度とレベルオフ重合度との差分は15~219の範囲となる旨主張するが,本件明細書の【0042】に比較例1のセルロース粉末Hが甲12記載の実施例1に相当との記載があるとしても,その原料パルプが,前者は市販DPパルプ,後者は市販SPパルプと異なるから,上記主張は,その前提を欠くも
のであり,採用することはできない,④したがって,その余の相違点を検討するまでもなく,本件訂正発明1は甲12発明と同一の発明ではなく,同様の理由から本件訂正発明2及び6は甲12に記載された発明と同一の発明ではない旨判断した。
しかしながら,本件明細書の

比較例1のセルロース粉末は甲12記載の実施例1に相当する。

との記載(【0042】,本件出願の審査手続におけ

る意見書(甲3)の本願明細書の比較例1は,本出願人の出願に係る特開平6-316535号の実施例1に相当するものですとの記載によれば,甲12の実施例1のセルロース粉末(試料A)は,本件明細書の比較例1のセルロース粉末Hであるということができる。また,原料や製造方法等が違うからといって,結果としてのセルロース粉末の物としての特性が違うことには必ずしもならない。
そして,セルロース粉末Hの物性は,
平均粒子径47㎛,粒子L/D2.3,安息角56°であるから,平均粒子径30~120㎛である甲12記載のセルロース粉末の相当範囲のものは,
粒子L/D2.0-4.5安,息角54°以下という物性を備えるものといえる。また,セルロース粉末Hの平均重合度は220であるところ,技術常識に照らせば,そのレベルオフ重合度は少なくとも205以下になり,
平均重合度とレベルオフ重合度との差分についても15以上となるから,甲12の実施例1のセルロース粉末(試料A)は,差分要件の構成も備えている。
加えて,BATTISTA論文の表2に照らせば,レベルオフ重合度は平均重合度より少なくとも10以上低下すること,加水分解後の乾燥処理においてもレベルオフ重合度が低下することが技術常識であることからすると,重畳的な加水分解処理による低下と相俟って,甲12記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,その平均重合度に比べて相当程度低くなる。そうすると,甲12発明のセルロース粉末が過酷な条件による加水分解で得られた
ことを理由に,
甲12発明のセルロース粉末の平均重合度がそのレベルオフ重合度より高くなる余地があるとは認められないとする本件審決の認定は,技術常識に反する。
以上によれば,甲12には,甲12記載のセルロース粉末について,75㎛以下の粒子L/D2.0-4.5安息角54°以下平均重合度と,,レベルオフ重合度との差分5~300の構成についても記載されているに等しいから,上記相違点は実質的な相違点ではない。
したがって,本件訂正発明1は,甲12記載のセルロース粉末と同一の発明であり,本件訂正発明2も,これと同様であるから,本件審決の上記判断は誤りである。


被告の主張
本件明細書の比較例1のセルロース粉末Hと,甲12の実施例1のセルロース粉末(試料A)は,原料,製法の点で一致しておらず,同一の物ではないから,セルロース粉末(試料A)が差分要件を満たすものと認めることはできない。
したがって,本件訂正発明1及び2は,少なくとも差分要件の点において甲12発明と相違するから,本件訂正発明1及び2が甲12発明と同一の発明であるとの原告の主張は理由がない。

4
取消事由4(甲12発明を主引用例とする本件訂正発明1及び2の進歩性の判断の誤り)
(無効理由5関係)


原告の主張
本件審決は,①甲12には,セルロース質物質を酸加水分解してセルロース粒子を得る条件について一般的な記載がないこと,差分要件を満足するための加水分解条件として本件明細書に記載されているような温和な条件下で加水分解することについて記載も示唆もないことからすると,甲12に接した当業者が,甲12に基づいて,甲12発明において,差分要件を満足する
セルロース粉末が得られるような加水分解条件を採用する動機付けがあるものと認められないから,上記相違点に係る本件訂正発明1の構成を採用することを容易に想到することができたものとはいえない,
②本件訂正発明2も,
これと同様である旨判断した。
しかしながら,甲12の本発明でいう結晶セルロースとは,精製木材パルプ,竹パルプ,コットンリンター,ラミーなどのセルロース質物質を酸加水分解,あるいはアルカリ酸化分解して得られるものであって,平均重合度は100~375,好ましくは180~220の白色粉末状の物質である。(
【0016】との記載に照らすと,

加水分解
(あるいはアルカリ酸化分解)
によって得られる結晶セルロースの平均重合度は,100~375の範囲になるように調節する必要がある。そして,セルロースの平均重合度は主として加水分解により低下するから,当業者は,この範囲の平均重合度となるように加水分解反応工程を調節すべく,
10%塩酸水溶液中で105℃で30分間と異なる加水分解条件を採用する動機付けがあり,より穏やかな加水分解条件とするかどうかは,目的とする平均重合度にするために当業者が通常行う単なる設計的事項にすぎない。
したがって,甲12に基づいて,甲12発明において,当業者は上記相違点に係る本件訂正発明1の構成を採用することを容易に想到することができたものであるから,本件審決の上記判断は誤りである。


被告の主張
甲12には,差分要件についての開示も示唆もなく,まして差分要件を備えるための具体的な手段の開示もないから,原告の主張は理由がない。
第4
1
当裁判所の判断
本件明細書の記載事項について


本件明細書(甲1)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する表1ないし表6については別紙1を参照)



【0001】

【発明の属する技術分野】
【0002】
本発明は,医薬,食品,工業用途において使用される圧縮成形用賦形剤に適するセルロース粉末に関する。より詳細には,医薬用途において,良好な圧縮成形性を保ちながら,流動性,崩壊性にも優れる圧縮成形用賦形剤に適するセルロース及びそれからなる賦形剤に関する。
【従来の技術】
【0003】
医薬品の錠剤化は生産性が高いということのほか,輸送や使用時に取扱い易いという利点がある。そのため圧縮成形用賦形剤には,輸送や使用に際して錠剤が磨損や破壊しない程度の硬度を付与するための成形性が必要である。また医薬品用途における錠剤は,薬効の正確な発現のために1錠中の医薬品含量が均一であることが求められ,医薬品と圧縮成形用賦形剤の混合粉体を打錠して錠剤化する際には,該粉体が打錠機の臼に均一量充填される必要がある。そのため圧縮成形用賦形剤は成形性に加えて十分な流動性が必要となる。さらに医薬品錠剤はこれらの性質に加えて,服用後の速やかな薬効発現のために崩壊時間が短くなければならない。崩壊が速いほど,医薬品はそれだけ速く消化管液に溶解しやすいため,血中への移行が速くなり薬効を発現しやすくなる。そのため圧縮成形用賦形剤は,成形性,流動性に加え,速やかな崩壊性を備えている必要がある。
多くの活性成分原料は圧縮しても成形ができないために,圧縮成形用賦形剤を配合して錠剤化される。一般に,錠剤中の圧縮成形用賦形剤の配合量が多いほど錠剤硬度は高くなり,また,圧縮応力が高いほど錠剤強度は高くなる。安全性や上記観点より,圧縮成形用賦形剤としては結晶セルロ
ースがよく使用される。
【0004】
ところが,例えば医薬分野において成形性の乏しい活性成分等を錠剤化する場合には,実用的な錠剤硬度を得るために過剰の圧縮応力をかけざるを得ず,打錠機に負担をかけるため臼杵の消耗を早め,また得られた錠剤の崩壊時間が遅延するという問題があった。薬物等の活性成分の配合量が多い場合,漢方薬等の比容積の大きな原末を配合した場合,錠剤の飲み易さを改善するために小型化する場合等では,賦形剤の配合量が著しく制限されるため,所望の錠剤硬度を得られず輸送中の磨損や破壊といった問題が生じる。また,さらには打圧感受性の活性成分,例えば酵素,抗生物質等では打圧による発熱や圧力によって活性成分が失活するため,実用硬度を得ようとすると含量が低下して錠剤化できない等の問題がある。上記の問題解決のためには,十分な流動性や崩壊性を備え,かつ少量添加でも十分な錠剤硬度を付与できる,あるいは低打圧でも十分な錠剤硬度を付与できる等の従来よりも優れた成形性を有する圧縮成形用賦形剤が必要となる。従って医薬用賦形剤として使用されるセルロース粉末の機能としては圧縮成形性,崩壊性,流動性のいずれもが高いレベルで満足するものが望ましいのであるが,圧縮成形性と他の崩壊性,流動性とは相反する性質であるため,成形性が高いにもかかわらず崩壊性,流動性にも優れるセルロース粉末は知られていなかった。
【0005】
従来セルロース粉末としては結晶セルロース,粉末セルロースが知られており,医薬,食品,工業用途で使用されてきた。
特公昭40-26274号公報には平均重合度が15~375,見掛け比容積が1.84~8.92cm3/g,粒度が300μm以下の結晶セルロースが記載されている。また特公昭56-2047号公報には平均重合
度が60~375,見掛け比容積が1.6~3.1cm3/g,見掛け密比容積が1.
40cm3/g以上,
200メッシュ以上が2-80重量%であ
り,安息角が35-42°である結晶セルロースが記載されている。またDE2921496号公報には流動可能な非繊維性,水不溶性のセルロース粉末としてセルロース物質を酸加水分解し,固形分濃度を30-40重量%とし,次いで140-150℃で棚段乾燥することによって平均重合度150のセルロース粉末を製造するという記載がある。さらにはRU2050362号公報には粉末セルロースの安定なゲル生成を目的として,セルロースを含む原料に鉱酸又は酸性塩の溶液を含浸させて,高温で加水分解を行うと同時に原料層を10-1000s-1の剪断速度で1-10分間攪拌することにより平均重合度が400以下の粉末セルロースを得るという方法について記載がある。しかしこれらの公報に具体的に開示されている結晶セルロース,粉末セルロースでは乾燥後の75μm以下の粒子の平均L/D,見掛け比容積,見掛けタッピング比容積が小さく圧縮成形性に劣るという課題があった。
【0006】
また特開昭63-267731号公報には特定の平均粒径(30μm以下)
,比表面積が1.3m2/g以上であるセルロース粉末が記載されているが,粉砕工程を経るために75μm以下の粒子の平均L/Dが小さく成形性が不十分であり,また粒子が小さく軽質なため流動性が悪く,さらには見掛けタッピング比容積が小さくなりすぎて崩壊性が著しく悪いという課題があった。
また,特開平1-272643号公報には特定の結晶形(セルロースI型)を有し,直径0.1μm以上の細孔の気孔率が20%以上で,かつ350メッシュ以上が90%以上であるセルロース粉末について,特開平2-84401号公報には結晶形がI型で,
比表面積が20m2/g以上,

径0.01μm以上の細孔の全容積が0.3cm3/g以上,平均粒径が大きくとも100μmであるセルロース粉末について記載がある。しかしこれらは成形性が比較的高いものの乾燥粉体のL/Dが2.0未満であり本発明のものと異なる。また粒子の窒素比表面積が大きすぎるため,圧縮時に導水管が減少してしまい,崩壊性が悪くなり好ましくない。さらに該発明のセルロース粉末は加水分解後,乾燥前のスラリー媒体として有機溶媒を使用し噴霧乾燥したものであるが,有機溶媒を使用するため防爆構造の乾燥機や有機溶媒の回収システムが必要になる等,コスト高となり実用化されていない。

【0007】
また特開平6-316535号公報には,セルロース質物質を酸加水分解又はアルカリ酸化分解して得られる平均重合度100-375,酢酸保持率280%以上,かつ,定数a及びbがそれぞれ0.85-0.90,0.05-0.10の川北の式で表される圧縮特性を有する結晶セルロースであって,見掛け比容積が4.0-6.0cm3/g,見掛け密比容積が2.4cm3/g以上,比表面積が20m2/g未満であり,実質的に355μm以上の粒子がなく平均粒径が30-120μmである結晶セルロースについての記載がある。該公報の結晶セルロース粉末は成形性と崩壊性のバランスに優れるものとの記載があるが,具体的に開示されている,最もバランスに優れる実施例について安息角を実測すると55°を超えており流動性は十分満足のいくものではない。また該公報の結晶セルロースでは,特に高打圧下で成形した場合に高硬度を付与できるものの,乾燥後の粒子の水蒸気比表面積が低く錠剤中の導水管が減少しているため,崩壊が遅延するという問題や,流動性の不良な活性成分が多く配合される処方等では,流動性に劣るために錠剤重量の変動係数が大きくなり薬物の含量均一性に影響を及ぼすという課題があった。

【0008】
さらに特開平11-152233号公報には平均重合度が100-375,75μm篩を通過し38μm篩上に残留する粒子が全重量の70%以上で,かつ,粒子のL/D(長径短径比)の平均値が2.0以上である結晶セルロースについての記載がある。しかし該公報の結晶セルロースは安息角の記載がなく,具体的に開示されている,特開平6-316535号公報の結晶セルロースを篩分する結晶セルロースでは特開平6-316535号公報の結晶セルロースよりもさらに一層流動性,崩壊性が悪くなるという欠点を有していた。また特開昭50-19917号公報には精製パルプを前処理によって平均重合度が450-650になるまで解重合させ,見掛けタッピング比容積が1.67-2.50cm3/g,200メッシュ篩を50%以上が通過する粒度にまで機械的粉砕処理を行う錠剤成形用添加剤の製造方法が記載されている。しかし該公報のセルロース粉末では重合度が高く繊維性が発現するために,75μm以下の粒子の平均L/Dや見掛け比容積が大きくなりすぎて,崩壊性,流動性に劣るという欠点があった。また見掛け比容積のわりに見掛けタッピング比容積が小さいことも圧縮した錠剤の崩壊性を悪化させる原因である。
【0009】
以上のように従来のセルロース粉末では,成形性,流動性,崩壊性の諸性質をバランス良く併せ持つものは知られていなかった。
また,医薬品は活性成分の安定性改善,薬物放出速度の調整,味のマスキング,あるいは腸溶化を目的としてコーティングを施した顆粒や細粒剤等の粒剤,あるいはコーティング剤と薬物を混合して他の成分と造粒したマトリックスタイプの粒剤の形態をとることが多い。この粒剤が1mm程度以下の大きさの場合は取扱い易さの観点からカプセル剤とすることがほとんどであったが,コストや服用性の観点から賦形剤と混合して圧縮成
形した錠剤とする方が好ましい。しかし,徐放性コーティング顆粒,苦味マスキング顆粒,腸溶性コーティング顆粒等のコーティング皮膜を有する顆粒を圧縮して錠剤にすると,圧縮応力によってコーティング皮膜が損傷を受け,口腔内,胃腸内において溶出速度が増加してしまうために,期待した薬効の発現が達成されないという問題があった。この問題の解決として,特開昭53-142520号公報には結晶セルロースを用いる方法,特開昭61-221115号公報には錠剤に対して約10-50%の結晶セルロースを用いる方法,特開平3-36089号公報には平均粒径30μm以下,
比表面積が1.
3m2/g以上である結晶セルロースを用いる
方法,特開平5-32542号公報には直径が0.01μm以上の細孔容積が0.3cm3/g以上の多孔構造を有し,比表面積が20m2/g以上である結晶セルロースを用いる方法,特開平8-104650号公報には平均重合度が150-220,見掛け比容積が4.0-6.0cm3/g,見掛けタッピング比容積が2.4cm3/g以上,比表面積が20m2/g未満,酢酸保持率が280%以上,355μm以上の粒子が5重量%未満で,かつ平均粒子径が30-120μmの粒度分布を有し,定数a及びbがそれぞれ0.85-0.90,0.05-0.10の川北の式で表される圧縮特性を有し,500mgを10MPaで10秒間圧縮するときに得られる底面積が1cm2の円柱状成型体が,直径方向の破壊強度が10kg以上(SI単位系換算値100N以上)でかつ崩壊時間が100秒以内となる圧縮成形特性をもつ結晶セルロースを用いる方法が記載されている。
【0010】
しかし特開昭53-142520号公報,及び特開昭61-221115号公報の方法では結晶セルロースの圧縮成形性が低いために実用硬度を得るためには圧縮応力をかけざるを得ず,コーティング被膜の損傷を十分
に抑えることができないという欠点があった。特開平3-36089号公報の方法では結晶セルロースの流動性が悪いため,錠剤調製時に顆粒と分離偏析を起こしやすいという問題があった。また特開平5-32542号公報の結晶セルロースは有機溶媒を使用して調製されるため,コスト高となり実用的でないという欠点があった。顆粒強度が低い場合等,圧縮応力をかけられない場合には圧縮応力低減のため結晶セルロース含有量を増す必要があるが,その場合特開平8-104650号公報の結晶セルロースでは,崩壊が著しく悪くなり使用が制限されるという欠点があった。【0011】
また多くの医薬品活性成分は微粒子化して使用することが多く,流動性が著しく悪いため直接圧縮法(直打法)による圧縮成形は容易ではない。特に医薬品活性成分の添加量が多くなるほど圧縮成形が困難となる。上記特開平8-104650号公報には漢方薬粉末又は生薬粉末に対して,上述の通りの結晶セルロースと流動化剤,崩壊剤とを用いると直接打錠法に供することのできる程度の流動性を確保することができ,成形性と崩壊性のバランスに優れた錠剤が得られることについて記載されている。しかし漢方粉末又は生薬粉末に限らず,成形性の乏しい医薬品活性成分についてその製剤中の含有量が増した時には十分な流動性が得られない,また崩壊剤が十分量でないと崩壊遅延や溶出率の低下を起こす等の問題があった。また医薬品活性成分粉末は圧縮成形性に乏しく賦形剤の添加なしには成型物が得られないため,医薬品活性成分に賦形剤を加えて湿式又は乾式の公知の方法を用いて顆粒化する工程を経ることで圧縮成形性,崩壊性,流動性を確保した後に圧縮成形する顆粒圧縮法を用いることが汎用される。また顆粒製造時に顆粒内部とは別に,顆粒外にも賦形剤を添加することにより賦形剤の添加効果を高める手段として,
後末法が用いられることも多い。
特公平5-38732号公報には,
平均粒径30μm以下,
比表面積が1.

3m2/g以上である結晶セルロースを用いる方法,特開平8-104650号公報にも特定の結晶セルロースを用いて顆粒圧縮法により錠剤化する方法について記載されている。しかしこれらの結晶セルロースでは圧縮応力が増した時の崩壊遅延や溶出率の低下を起こす等の問題があった。ウ
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は,成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供することを目的とする。また,このセルロース粉末を含有することで,特に高打圧下で成形した場合に高硬度であり,かつ崩壊遅延を助長しない錠剤や,圧縮成形したときに顆粒の破壊,顆粒の被膜の損傷が少なく薬物放出特性の変化が少ない顆粒含有錠剤,さらには薬物含有量が多い場合においても錠剤重量にばらつきを生じることなく,硬度崩壊のバランスのとれた錠剤を提供することを目的とする。


【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上述した現状に鑑み鋭意検討した結果,セルロース粉末の粉体物性を特定範囲に制御することに成功し,成形性,流動性,崩壊性の諸性質のバランスに優れるセルロース粉末を見出し,本発明を達成したものである。即ち本発明は,下記のとおりである。

(1)平均重合度が150~450,75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0~4.5,平均粒子径が20~250μm,見掛け比容積が4.0~7.0cm3/g,見掛けタッピング比容積が2.4~4.5cm3/g,安息角が55°以下であるセルロース粉末,
(2)平均重合度が230~450である(1)のセルロース粉末,(3)平均重合度がレベルオフ重合度ではない(1)又は(2)のセルロース粉末,

(4)安息角が54°以下である(1)~(3)のいずれかのセルロース粉末,
(5)水蒸気吸着による比表面積が85m2/g以上である(1)~(4)のいずれかのセルロース粉末,
(6)セルロース粉末0.5gを20MPaで圧縮した錠剤の破壊荷重が170N以上であって,その崩壊時間が130秒以下である(1)~(5)のいずれかのセルロース粉末,
(7)セルロース粉末と乳糖との等量混合物0.5gを80MPaで圧縮した錠剤の破壊荷重が150N以上であって,その崩壊時間が120秒以下である(1)~(6)のいずれかのセルロース粉末,
【0014】
(8)ⅰ)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより,a)平均重合度が150~450,かつb)湿潤状態の平均L/Dが3.0~5.5であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程,ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程,を含むセルロース粉末の製造方法,
(9)平均重合度が230-450である(8)のセルロース粉末の製造方法,
(10)平均重合度がレベルオフ重合度ではない(8)又は(9)のセルロース粉末の製造方法,
(11)
乾燥工程が品温が100℃未満の条件下で噴霧乾燥する工程であ
る(8)~(10)のいずれかのセルロース粉末の製造方法,
(12)
(8)~(11)のいずれかの製造方法により得られ得るセルロ
ース粉末,
(13)
(1)~(7)及び(12)のいずれかのセルロース粉末からな

る賦形剤,
(14)
(1)~(7)及び(12)のいずれかのセルロース粉末又は(13)の賦形剤を含む成型体,
(15)
成型体が1つ以上の活性成分を含む錠剤である
(14)
の成型体,
(16)活性成分を30重量%以上含む(15)の成型体,
(17)圧縮に弱い活性成分を含む(14)~(16)のいずれかの成型体,
(18)活性成分が被覆されている(17)の成型体,
(19)
成型体が速崩壊性である
(14)(18)

のいずれかの成型体,
(20)流動化剤を含む(14)~(19)のいずれかの成型体。オ
【0015】
【発明の実施の形態】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明のセルロース粉末は,その平均重合度が150~450,好ましくは200~450,さらに好ましくは230~450である必要がある。平均重合度が150未満だと成形性が不足するので好ましくなく,また450を超えると繊維性が強く現れるため粉体の流動性及び崩壊性が低下するので好ましくない。平均重合度が230~450の場合は成形性,崩壊性,流動性のバランスが特に優れるので好ましい。また平均重合度はレベルオフ重合度ではないことが好ましい。レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をいう。セルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,
レベルオフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(INDUSTRIALANDENGINEERINGCHEMISTRY,Vol.42,No.3,p.502-507(1950)),その後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはならない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。
【0016】
レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めておく必要があるかということについては,5~300程度であることが好ましい。さらに好ましくは10~250程度である。5未満では粒子L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好ましくない。300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって好ましくない。
本発明のセルロース粉末は250μm篩に残留する粒子の割合が50重量%以下であることが好ましい。250μmを超える粒子は造粒され緻密な構造となるので,50重量%を超えて存在すると,成形性低下,崩壊悪化の原因となるので好ましくない。好ましくは30重量%以下,さらに好ましくは10重量%以下,特に好ましくは5重量%以下である。
本発明のセルロース粉末の平均粒径は20-250μmである必要がある。20μm未満だと付着凝集性が増してハンドリングが悪く,さらに流動性も悪くなり,また250μmを超えると活性成分との分離偏析が起こり,製剤の含量均一性を悪化させる恐れがあるので好ましくない。好ましくは,20-120μmである。
本発明のセルロース粉末は75μm以下の粒子の平均L/Dが2.0-4.5である必要があり,好ましくは2.2-4.2である。75μm以下
の粒子の平均L/Dが2.0未満だと,塑性変形性及び成形性が低下し好ましくない。4.5を超えると流動性,崩壊性が悪化するので好ましくない。また繊維性が現れ弾性回復しやすくなるためか,成形性を損なう傾向にある。
【0017】
粉体の塑性変形性の指標として平均降伏圧があり,この値が低いほど塑性変形性が良く,圧縮成形性に優れる。本発明の高成形性賦形剤は,該粉体0.5gを10MPaまで圧縮したときの平均降伏圧が35MPa以下であることが好ましい。平均降伏圧が35MPaを超えると,成形性が低下し好ましくなく,特に好ましくは30MPa以下である。本発明のセルロース粉末は見掛け比容積が4.0-7.0cm3/gである必要がある。見掛け比容積が4.0cm3/g未満であると成形性が低下し,7.0cm3/gを超えると崩壊性,流動性が低下するので好ましくない。また繊維性が現れ弾性回復しやすくなるためか,成形性を損なう傾向にある。好ましくは4.0-6.5cm3/g,特に好ましくは4.2-6.0cm3/gである。
見掛けタッピング比容積は2.4-4.5cm3/gである必要がある。好ましくは2.4-4.0cm3/g,特に好ましくは2.4-3.5cm3/gである。見掛け比容積が4.0-7.0cm3/gの範囲にあっても,見掛けタッピング比容積が2.4cm3/g未満であると,錠剤にしたときに圧密化されすぎて崩壊性が悪化するので好ましくない。
【0018】
また,本発明のセルロース粉末は安息角が55°以下である必要がある。セルロース粉末では安息角が55°を超えると,流動性が著しく悪くなる。特に流動性の乏しい活性成分を多量に加えて錠剤化する際には,圧縮成形用賦形剤の流動性が悪いと錠剤の重量変動が大きくなって実用
に供さない。好ましくは54°以下,さらに好ましくは53°以下である。特に好ましくは52°以下である。本発明でいう安息角とは粉体水分を3.5~4.5%に調整した後,パウダーテスター(ホソカワミクロン㈱製)で測定した安息角である。このような優れた流動性を付与するためには,特定範囲の圧縮度[%](=100×(見掛けタッピング密度[g/cm3]-見掛け密度[g/cm3])/見掛けタッピング密度[g/cm3])を有していることが好ましく,圧縮度がおおよそ30-50%の範囲にあることが好ましい。さらに好ましくは30-49%,特に好ましくは30-47%である。
但し,本発明でいう見掛けタッピング密度及び見掛け密度とはそれぞれ本発明で定義した見掛けタッピング比容積の逆数及び見掛け比容積の逆数である。
また,本発明のセルロース粉末は,水蒸気吸着による比表面積が85㎡/g以上であることが好ましい。85㎡/g未満だと粒子中への水侵入面積が小さいために,錠剤にした時の導水管量も小さくなって崩壊性が低下するため好ましくない。この値の上限は特に限定しないが,乾燥によって減少する値と考えられることから,未乾燥物の値が一応の目安とするとおよそ200㎡/g程度である。
【0019】
また本発明のセルロース粉末は,窒素吸着法による比表面積が0.5-4.0㎡/gの範囲にあることが好ましい。0.5㎡/g未満では成形性が低下して好ましくない。4.0㎡/gを超えると崩壊性が著しく悪化するので好ましくない。好ましくは0.8-3.8㎡/g,さらに好ましくは0.8-3.5㎡/gである。
窒素比表面積が増すと,圧縮時に粒子間隙(導水管)の潰れが起こり崩壊が悪くなる傾向にあるが,一定範囲内であればこの値が高くとも水
蒸気比表面積を一定量以上に制御すれば導水管量を維持でき,崩壊性を損なわないようにすることができる。成形性を示す実用的な物性値は成型体の硬度であり,この値が大きいほど圧縮成形性に優れる。また,崩壊性を示す実用的な物性値は成型体の崩壊時間であり,この時間が短いほど崩壊性がよい。一般に硬度が高いほど崩壊性が悪化すること,医薬品等の活性成分は成形性の乏しいものが多く,高打圧で圧縮せざるを得ないことを考慮すると,高打圧で圧縮した成型体の錠剤硬度と崩壊時間のバランスが実用的に重要である。
本発明のセルロース粉末0.5gを20MPaで10秒間圧縮することによって得られる直径1.13cmの円柱状成型体は直径方向の破壊荷重が170N以上であることが好ましい。さらに好ましくは180N以上である。特に好ましくは190N以上である。またその崩壊時間(37℃純水溶液,ディスクあり)は130秒以下であることが好ましい。さらに好ましくは120秒以下である。特に好ましくは100秒以下である。また,本発明のセルロース粉末と乳糖(DMV社製,Pharmatose

100M)との等量混合粉体0.5gを80MPaで10秒

間圧縮することによって得られる直径1.13cmの円柱状成型体は直径方向の破壊荷重が150N以上であることが好ましい。さらに好ましくは170N以上である。特に好ましくは180N以上である。またその崩壊時間(37℃純水溶液,ディスクあり)は120秒以下であることが好ましい。さらに好ましくは110秒以下である。特に好ましくは90秒以下である。
【0020】
また,本発明のセルロース粉末は,該粉体0.05gを90MPaで10秒間圧縮することによって得られる直径0.8cmの円柱状成形体が,アセトニトリル溶媒浸漬処理後,下式(1)の吸着特性を有することが好
ましい。
ln[θe/(θe-θ)
]=Ka・t(1)
(但しKa≧0.0200min-1であり,θeは相対湿度55%RH下での錠剤の飽和水蒸気吸着率[%]
,θは水蒸気吸着時間t[分]における
相対湿度55%RH下での錠剤の水蒸気吸着率[%]を表す。

本発明でいうアセトニトリル溶媒浸漬処理とは円柱状成形体をアセトニトリル溶媒が十分浸透するよう48時間浸漬した後,25℃,窒素気流下,相対湿度が0%RHになるまで乾燥することをいう。操作の過程で吸湿や吸着が考えられる場合,例えば(1)式の直線性が低い場合には加熱真空乾燥してセルロース表面を清浄する必要がある。Ka値が0.0200min-1未満であると水の吸着速度が遅く,崩壊時間が長くなる傾向にあるため好ましくない。アセトニトリル溶媒浸漬処理の効果は以下のように推定している。セルロース粉末の圧縮では粒子間水素結合の増大と,粒子内ミクロ空隙(導水管)の潰れが起こるが,高密度に圧縮された円柱状成形体をアセトニトリルに浸漬すると,アセトニトリルは粒子間水素結合部位には入らず,粒子内ミクロ空隙(導水管)に侵入し,導水管径を拡大する作用があるようである。
すなわち,セルロース粉末中の粒子内ミクロ空隙(導水管)を圧縮後に多く残している錠剤ほど,アセトニトリル溶媒が浸透してその導水管径を広げるために,その後の水蒸気吸着速度が速くなるものと思われる。そしてこのような錠剤ほど水を速く吸収するため水中崩壊時間が短くなるものと思われる。また,Ka値の上限については特に定めていないが,この値が大きいほど崩壊時間が短くなる傾向があり,好ましくは0.0400min-1以下であることが好ましい。Ka値の好ましい範囲は0.0210-0.0400min-1,さらに好ましくは0.0220-0.0400min-1である。


【0021】
本発明のセルロース粉末の製造方法は,i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより,a)平均重合度が150-450,かつb)湿潤状態の平均L/Dが3.0-5.5であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程,ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程,を含む必要がある。
本発明でいう天然セルロース質物質とは,木材,竹,コットン,ラミー等,セルロースを含有する天然物由来の植物性繊維質物質であり,セルロースI型の結晶構造を有しているものであることが好ましい。製造収率の観点からはこれらを精製したパルプであることが特に好ましく,α-セルロース含量が85%以上であることが望ましい。
平均重合度が150-450のセルロース分散液を得るための条件は,例えば20-60℃,0.1-4Nの塩酸水溶液中の温和な条件下で加水分解することが挙げられる。しかし,セルロース質物質をレベルオフ重合度まで加水分解してしまうと,製造工程における攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。
また,乾燥前のセルロース分散液中の粒子は,湿潤状態で篩過(JIS標準篩使用)したとき,75-38μm篩に残留する粒子の平均L/Dが3.0-5.5の範囲にあることが好ましい。好ましくは3.2-5.2である。セルロース分散液の粒子は乾燥により凝集し,L/Dが小さくなるので,乾燥前の粒子の平均L/Dを一定範囲に保つことで高成形性でかつ崩壊性の良好なセルロース粉末が得られる。乾燥前の粒子の平均L/Dを一定範囲に保つには,加水分解反応中又はその後の工程における溶液攪拌力を特定の強さに制御することにより達成できる。
【0022】

反応中又はその後工程における攪拌は,セルロース繊維を短くする作用があり,攪拌が強すぎると粒子の平均L/Dが小さくなって十分な成形性を得られないので,粒子の平均L/Dが3.0以上となるように攪拌力を抑制する必要がある。また攪拌が弱すぎると繊維性が強くなりかえって成形性が低下し,また崩壊が著しく悪くなるので,粒子の平均L/Dが5.5を超えないように攪拌力を維持するのが好ましい。
攪拌力の大きさは例えば以下の経験式(2)により,求められるP/V(kg・m-1・sec-3)値を参考にして制御することができる。しかしながらP/V値は攪拌槽の大きさ,形状,攪拌翼の大きさ,形状,回転数,邪魔板数等に依存するので絶対的な数値ではない。乾燥前の各工程におけるP/Vの最大値は0.01~10000の範囲内にあり,攪拌槽,攪拌翼の種類毎に回転数を制御することによって上記範囲内で下限,上限値を決定できる。例えばNp=8,V=0.03,d=0.3ではP/Vは0.3~80の範囲に,Np=2.2,V=0.07,d=0.05では0.01~5の範囲に,Np=2.2,V=1,d=1ではP/Vを1~10000の範囲にする等,使用する攪拌漕,攪拌翼の回転数を変えた時のP/Vの値と75μm~38μmの粒子の平均L/Dの大きさを比較して適宜決定すればよい。
P/V=(Np×ρ×n3×d5)/V(2)
ここでNp(-)は動力数,ρ(kg/m3)は液密度,n(rps)は攪拌翼の回転数,d(m)は攪拌翼の径,V(m3)は液の体積である。【0023】
上記操作により得られたセルロース分散液は乾燥によって粉末にする必要がある。反応後,洗浄,pH調整した乾燥前のセルロース分散液のIC(電気伝導度)は200μS/cm以下であることが好ましい。200μS/cmを超えると,粒子の水中での分散性が悪くなり崩壊が悪くなる。
好ましくは150μS/cm,さらに好ましくは100μS/cm以下である。セルロース分散液を調製する際には水の他,本件発明の効果を損なわない範囲であれば,有機溶媒を少量含む水であってもよい。
成形性,流動性,崩壊性のバランスがよいセルロース粉末を得るためには,品温が100℃未満で噴霧乾燥を行うことが好ましい。本発明でいう品温とは,噴霧乾燥時の入口温度ではなく排風温度のことである。噴霧乾燥では反応後のセルロース分散液中の凝集粒子が全方向からの熱収縮応力によって圧密され,緻密化(重質化)して流動性が良好なものとなり,また凝集粒子間の水素結合が弱いために崩壊性が良好なものになる。乾燥前のセルロース粒子分散液濃度は25重量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは20重量%以下である。セルロース分散液濃度が高すぎると乾燥中に粒子が凝集しすぎてしまい,乾燥後の粒子の平均L/Dが低下し,嵩密度が増大するために成形性が低下して好ましくない。またセルロース分散液濃度の下限は1重量%以上であることが好ましい。1重量%未満では流動性が悪化するため好ましくない。また生産性の観点からもコスト高となり好ましくない。
【0024】
品温が100℃未満で噴霧乾燥を行う本発明の乾燥方法に比べて,特開平6-316535号公報,特開平11-152233号公報に記載されたセルロース分散液を100℃以上の温度で加熱後,噴霧乾燥する又はドラム乾燥する方法,あるいは加熱せずに薄膜状態で乾燥する方法では凝集粒子間の水素結合が強固に形成されてしまうため崩壊性が低下して好ましくない。このような乾燥方法ではたとえ乾燥前の粒子のL/Dが特定範囲下限未満であっても,スラリー中のセルロース粒子が粒子の長軸方向に揃った状態で凝集しやすいために,乾燥による粒子のL/D低下を抑制することができ良好な成形性を付与することができるもの
の,同時に崩壊性,流動性を同時に付与することはできない。成形性に加えて流動性,崩壊性の良好なものを得るためには,乾燥前に粒子のL/Dを特定範囲に制御しておき,品温が100℃未満で噴霧乾燥することによって初めて達成される。乾燥前の粒子のL/Dを特定範囲に制御するためには,上述したように平均重合度がレベルオフ重合度とならない条件で加水分解することが好ましい。
また,ドラム乾燥,薄膜乾燥で得られるセルロース粉末では,所望の粉体物性を与えるためには乾燥後に粉砕することが必須であるが,全ての粒子を粉砕してしまうと,粒子表面が緻密でなくなり凹凸が生じるためか,粒子同士の摩擦による静電気の発生量が多いことも流動性が悪くなる要因であり好ましくない。但し,本発明の効果を損なわない程度に,乾燥後に粉砕することは可能である。
【0025】
乾燥前スラリーを有機溶媒により全置換又は必要以上に置換後に乾燥する方法では,有機溶媒が粒子間隙から蒸発する際の毛細管力が水に比較して低くなり,粒子間水素結合の形成を抑制するため,窒素比表面積が増大しすぎて崩壊性が低下して好ましくない。有機溶媒の添加はスラリー溶媒の50重量%以下,好ましくは30重量%以下,特に好ましくは20重量%以下である。また有機溶媒を大量に使用する場合には乾燥設備の防爆化,有機溶媒回収設備等,設備が大がかりとなりコスト高になる観点からも好ましくない。
また本発明のセルロース粉末は乾燥減量が8%以下の範囲にあることが好ましい。8%を超えると成形性が悪くなり好ましくない。
本発明でいう賦形剤とは,医薬,食品,工業用途において,活性成分を公知の方法を用いて製剤化する際に,
結合剤,
崩壊剤,
造粒助剤,
充填剤,
流動化剤等の目的で使用されるものをいう。好ましくは圧縮成形性,崩壊
性,流動性のバランスに特に優れる圧縮成形用賦形剤である。
本発明でいう成型体とは,
本発明のセルロース粉末を含み,
混合,
攪拌,
造粒,打錠,整粒,乾燥等の公知の方法を適宜選択して加工した成型物をいう。成型物の例としては,医薬品に用いる場合,錠剤,散剤,細粒剤,顆粒剤,エキス剤,丸剤,カプセル剤,トローチ剤,パップ剤の固形製剤等が挙げられる。医薬品に限らず,菓子,健康食品,食感改良剤,食物繊維強化剤等の食品,固形ファンデーション,浴用剤,動物薬,診断薬,農薬,肥料,セラミックス触媒等に利用されるものも本発明に含まれる。本発明でいう成型体は,本発明のセルロース粉末を含有していればよく,その量は特に限定しないが,好ましくは成型体重量に対して1重量%以上必要である。1重量%未満では成型体が磨損,破壊するなどして十分な物性を付与できない。好ましくは,3重量%以上,好ましくは5重量%以上である。

【0032】
以下,実施例により本発明を詳細に説明するが,これらは本発明の範囲を制限しない。なお,実施例,比較例における各物性の測定方法は以下の通りである。
1)平均重合度
第13改正日本薬局方,結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値。
2)乾燥前粒子のL/D
乾燥前のセルロース分散液中の粒子の平均L/Dは以下のように測定した。セルロース分散液をJIS標準篩(Z8801-1987)を用いて,75μm篩を通過し38μm篩に残留する粒子について,粒子の光学顕微鏡像を画像解析処理し(
(株)インタークエスト製,装置:Hyper
700,ソフトウエア:Imagehyper)
,粒子に外接する長方形の

うち面積が最小となる長方形の長辺と短辺の比(長辺/短辺)を粒子のL/Dとした。粒子の平均L/Dとしては少なくとも粒子100個の平均値を用いた。
3)乾燥減量[%]
粉末1gを105℃,
3時間乾燥し,
重量減少量を重量百分率で表した。
4)250μm篩に残留する粒子の割合[%]
目開き250μmのJIS標準篩(Z8801-1987)を用い,ロータップ式篩振盪機(平工製作所製シーブシェーカーA型)で試料10gを10分間篩分し,250μm篩に残留する粒子の重量を全重量に対する重量百分率で表した。
5)75μm以下の粒子の平均L/D
エアージェットシーブ(ALPINE製,A200LS型)を用い,JIS標準篩75μmで篩過した粒子について,粒子の光学顕微鏡像を画像解析処理し(
(株)インタークエスト製,装置:Hyper700,ソフト
ウエア:Imagehyper)
,粒子に外接する長方形のうち面積が最小
となる長方形の長辺と短辺の比(長辺/短辺)を粒子のL/Dとした。粒子の平均L/Dとしては少なくとも粒子400個の平均値とした。但し,個々の粒子は絡まりがないように予めばらけた状態にして測定する必要がある。
【0033】
6)見掛け比容積[cm3/g]
100cm3のガラス製メスシリンダーに粉体試料を定量フィーダーなどを用い,2-3分かけて粗充填し,粉体層上面を筆のような軟らかい刷毛で水平にならし,その容積を読みとり,これを粉体試料の重量で除した値である。粉体の重量は容積が70-100cm3程度になるように適宜決定する。

7)見掛けタッピング比容積[cm3/g]
市販粉体物性測定機
(ホソカワミクロン製,
パウダーテスターT-R型)
を用い,
100cm3カップに粉体を充填し,
180回タッピングした後,
カップの体積を,カップに充填されて残る粉体層の重量で除して求めた。8)安息角[°]
粉体水分
(赤外線水分計
(ケット科学研究所製,
FD-220型,
1g,
105℃)で測定する。
)を3.5-4.5%に調整した後,市販粉体物性
測定機(ホソカワミクロン製,パウダーテスターT-R型)でオリフィス径0.8cmの金属製ロート(静電気の発生しない材質であること),振動
目盛1.5の条件で粉体を落下させ,粉体の作る山の稜線角度(2稜線角度測定,測定間隔3°)を測定した。3回測定の平均値で示した。9)圧縮度[%]
圧縮度は上記で定義した見掛け比容積,見掛けタッピング比容積を用いて,下式(3)より求めた。
圧縮度=100×(1/見掛けタッピング比容積)(1/見掛け比容積)[
-

/(1/見掛けタッピング比容積)(3)
【0034】
10)平均粒径[μm]
粉体試料の平均粒径はロータップ式篩振盪機(平工作所製シーブシェーカーA型)
,JIS標準篩(Z8801-1987)を用いて,試料10g
を10分間篩分することにより粒度分布を測定し,累積重量50%粒径として表した。
11)水蒸気比表面積[m2/g]
動的水蒸気吸着装置DVS-1(SurfaceMeasurementSystemsLtd.製)を用い,吸着ガスとして水蒸気を使用し,以下の測定ステップに従って0-30%RHの範囲において試料の水
蒸気吸着量を求め,BET法により算出した。水の分子占有面積は8.1Åとして計算した。
試料はセルロース粉末約0.
10gを5cm3サンプル
管に入れ100℃,
3時間真空乾燥し,
試料中の水分を除去したものを0.
01-0.02g上記装置に入れて測定を行った。
(測定ステップ)
試料を下記の各相対湿度下に下記の測定時間だけ放置し試料の水蒸気吸着量を測定した。
相対湿度測定時間
0%RH200分以下
3%RH150分以下
6,9,12,15,18,21,24,27,30%RH100分以下【0035】
12)窒素吸着比表面積[m2/g]
島津製作所(株)製フローソーブII2300を用い,吸着ガスとして窒素を使用しBET法により測定した。
13)平均降伏圧[MPa]
粉体の水分(赤外線水分計(ケット科学研究所製,FD-220型,1g,105℃)で測定する。
)を3.5-4.5%に調整した後,粉体試料
0.5gを,臼(菊水製作所製,材質SUK2,3を使用)に入れ,底面積が1cm2の平面杵(菊水製作所製,材質SUK2,3を使用)で圧力が10MPaになるまで圧縮する(圧縮機はアイコーエンジニアリング製,PCM-1Aを使用し,
圧縮速度は1cm/分とした)応力Pとその時の

粉体層高さh[cm]をデータ取り込み速度0.02秒でコンピュータに取り込み記録する。
応力Pとその時の粉体層体積V[cm3]から計算されるln[1/(1-D)
]の関係を図示し,応力P[MPa]が2-10MPaの範囲につい
て,最小自乗法で直線回帰し,その傾きkの逆数を平均降伏圧とした。但しV[cm3]は平面杵の底面積(1cm2)と応力Pにおける粉体層の高さh(cm)の積で表され,粉体層の高さhは圧縮機の系の歪み(臼杵,ロードセル,プランジャー等の合計の歪み)がない状態で測定しなければならない。また,Dは以下の(4)式より計算した。
D=[
(0.5×(1-W/100)
)/V]/1.59(4)
ここでDは錠剤の充填率,Wは赤外線水分計(ケット科学研究所製,FD-220型,1g,105℃)で測定した水分[%]
,1.59は空気比
較式比重計(ベックマン社製,ピクノメーター930)で測定した時のセルロース粉末の真密度[g/cm3]である。
【0036】
14)錠剤の水蒸気吸着速度Ka[1/分]
試料0.05gを90MPaで10秒間圧縮することによって得られる直径0.8cmの円柱状成形体(圧縮機はアイコーエンジニアリング製,PCM-1Aを使用し,圧縮速度は29cm/minとした。
)を,アセト
ニトリル(液体クロマトグラフ用)で48時間浸漬処理した後,動的蒸気吸着測定装置(株)

マイクロテック・ニチオン製,
DVS-1型)
に入れ,
25℃,窒素気流下,相対湿度を0%RHに設定し,錠剤重量が十分平衡に達する(5分間の重量変動率が0.0015%/分以下)まで乾燥させる。その後相対湿度を55%RHに設定し,平衡に達する(5分間の重量変動率が0.0015%/分以下)まで1分ごとに錠剤重量を記録する。水蒸気吸着時間tとlnθe/(θe-θ)]の関係を図示し,20-100分の範囲について最小自乗法で直線回帰し,その傾きをKaとする。但し相対湿度55%RHにおける錠剤の飽和水蒸気吸着率θe[%]水蒸,気吸着時間tでの相対湿度55%RHにおける錠剤の水蒸気吸着率θ[%]はそれぞれ以下のように求める。θe=100×ms/m0[%](5)θ=100×mt/m0[%](6)ここでm0は相対湿度0%RHで十分平衡に達した時の錠剤重量[g],mtは水蒸気吸着時間tでの相対湿度55%RHにおける錠剤の重量[g]msは相対湿度55%RHで十分平衡に達したときの錠剤重量,[g]である。【0037】15)硬度[N]円柱状成形体あるいは錠剤をシュロインゲル硬度計(フロイント産業(株)製,6D型)を用いて,円柱状成形体あるいは錠剤の直径方向に荷重を加え,破壊したときの荷重を測定した。試料5個の数平均で示した。セルロース粉末100%の円柱状成型体及びセルロース粉末と乳糖の等量混合物の円柱状成型体は以下のようにして作製した。試料0.5gを,臼(菊水製作所製,材質SUK2,3を使用)に入れ,直径1.13cm(底面積が1cm2)の平面杵(菊水製作所製,材質SUK2,3を使用)で圧縮した。セルロース粉末100%の場合には20MPaで圧縮し,その応力を10秒間保持し円柱状成形体を作製した(圧縮機はアイコーエンジニアリング製,PCM-1Aを使用し,圧縮速度は10cm/分程度とした)。また,セルロース粉末と乳糖の等量混合物の場合には80MPaで圧縮し,その応力を10秒間保持し円柱状成形体を作製した(圧縮機はアイコーエンジニアリング製,PCM-1Aを使用し,圧縮速度は25cm/分程度とした)。16)崩壊時間[秒]第13改正日本薬局方,一般試験法,錠剤の崩壊試験法に準じて崩壊試験を行った。円柱状成形体あるいは錠剤について,崩壊試験機(富山産業(株)製,NT-40HS型,ディスクあり)で,37℃純水中における崩壊時間として求めた。試料6個の数平均で示した。【0038】17)錠剤のCV値[%]錠剤10個を精秤した時の錠剤重量の変動係数とした。18)錠剤の摩損度[%]錠剤20個の重量(Wa)を測定し,これを錠剤摩損度試験器(PTFR-A,PHARMATEST製)に入れ,25rpm,4分間回転した後,錠剤に付着している微粉を取り除き,再度重量を測定し(Wb),(7)式より計算した。摩損度=100×(Wa-Wb)/Wa(7)19)薬物の溶出率[%]自動溶出試験機DT-610(日本分光工業(株)製)を使用し,パドル法で測定した。試験液は第13改正日本薬局方一般試験法崩壊試験法の試験液第1液を用いた。測定は3回行いその平均値をとった。ク【0039】【実施例】実施例1(参考例)市販SPパルプ(重合度1030,レベルオフ重合度は220)2kgを細断し,4N塩酸水溶液30L中に入れ,低速型攪拌機(池袋琺瑯工業(株)製,30LGL反応器,翼径約30cm)で攪拌(攪拌速度10rpm)しながら,60℃,72時間加水分解した。得られた酸不溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し,ろ過残渣をさらに70Lの純水で4回洗浄し,アンモニア水で中和後,90Lのポリバケツに入れ純水を加え,スリーワンモーター(HEIDON製,タイプ1200G,8M/M,翼径約5cm)で攪拌(攪拌速度100rpm)しながら濃度10%のセルロース分散液とした(pH;6.7,IC;45μS/cm)。これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr,入口温度180~220℃,出口温度50~70℃)してセルロース粉末A(乾燥減量3.5%)を得た。【0040】実施例2パルプを市販SPパルプ(重合度790,レベルオフ重合度は220),加水分解条件を4N,40℃,48時間,セルロース分散液濃度を8%,pHを6.0,ICを35μS/cmとする以外は実施例1と同様に操作しセルロース粉末B(乾燥減量4.2%)を得た。実施例3反応中の攪拌速度を5rpm,セルロース分散液濃度を12%(この時の攪拌速度50rpm),pHを6.5,ICを40μS/cm,とする以外は実施例2と同様に操作しセルロース粉末C(乾燥減量3.8%)を得た。実施例4セルロース分散液濃度を16%,pHを6.9,ICを65μS/cmとする以外は実施例2と同様に操作しセルロース粉末D(乾燥減量3.2%)を得た。【0041】実施例5加水分解条件を3N塩酸水溶液,40℃,40時間,セルロース分散液濃度を8%,pHを6.3,ICを38μS/cmとする以外は実施例2と同様に操作しセルロース粉末E(乾燥減量4.0%)を得た。実施例6パルプを市販SPパルプ(重合度870,レベルオフ重合度は220),加水分解条件を3N塩酸水溶液,40℃,24時間,反応中の攪拌速度を15rpm,セルロース分散液濃度を8%,pHを5.7,ICを30μS/cmとする以外は実施例1と同様に操作しセルロース粉末Fを得た。実施例7加水分解条件を3N塩酸水溶液,40℃,20時間,反応中の攪拌速度を20rpm,セルロース分散液濃度を6%,pHを7.1,ICを180μS/cmとする以外は実施例1と同様に操作しセルロース粉末Gを得た。【0042】比較例1市販SPパルプ(重合度790,レベルオフ重合度は220)を3N塩酸水溶液30L,105℃,30分,低速型攪拌機(池袋琺瑯工業(株)製,30LGL反応器,翼径約30cm)で攪拌(攪拌速度30rpm)しながら加水分解し,得られた酸不溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し,ろ過残渣をさらに70Lの純水で4回洗浄し,アンモニア水で中和後,90Lのポリバケツに入れ純水を加え,スリーワンモーター(HEIDON製,タイプ1200G,8M/M,翼径約5cm)で攪拌(攪拌速度500rpm)しながら,濃度17%のセルロース分散液(pH;6.4,IC;120μS/cm)を得た。これをドラム乾燥機(楠木製作所KDD-1型,スチーム圧力0.35MPa,ドラム表面温度136℃,ドラム回転数2rpm,溜め部分散体温度100℃)で乾燥後,ハンマーミルで粉砕し,目開き425μmの篩で粗大粒子を除き,セルロース粉末H(乾燥減量3.9%,特開平6-316535号公報記載の実施例1に相当)を得た。得られたセルロース粉末Hの物性及びセルロース粉末Hを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Hと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。【0043】比較例2市販SPパルプ(重合度1030,レベルオフ重合度は220)2kgを細断し,0.14N塩酸水溶液30L,121℃,1時間の条件で,低速型攪拌機(池袋琺瑯工業(株)製,30LGL反応器,翼径約30cm)で攪拌(攪拌速度30rpm)しながら加水分解した。得られた酸不溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し,ろ過残渣をさらに70Lの純水で4回洗浄し,アンモニア水で中和後,90Lのポリバケツに入れ,スリーワンモーター(HEIDON製,タイプ1200G,8M/M,翼径約5cm)で攪拌(攪拌速度500rpm)しながら濃度17%のセルロース分散液を得た(pH;6.4,IC;64μS/cm)。これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr,入口温度180~220℃,出口温度70℃)後,325メッシュ篩で粗大粒子を除きセルロース粉末I(乾燥減量4.1%,特公昭40-26274号公報の実施例1に相当)を得た。得られたセルロース粉末Iの物性及びセルロース粉末Iを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Iと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。【0044】比較例3針葉樹,広葉樹混合溶解用パルプシート(α-セルロース90.5%,β-セルロース4.7%,銅安相対粘度4.70,白色度93)を解砕後,有効塩素1.6g/lの次亜塩素酸ナトリウム溶液12L中に浸漬してpHを10.9として60℃で310分間処理した。処理後のパルプを十分水洗して遠心脱水後105℃で送風乾燥した。このパルプを振動ボールミルで30分間粉砕してから100メッシュ篩で粗大粒子を除き,セルロース粉末J(乾燥減量2.0,特開昭50-19917公報の実施例2に相当)を得た。得られたセルロース粉末Jの物性及びセルロース粉末Jを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Jと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。比較例4市販KPパルプ(重合度840,レベルオフ重合度145)を0.7%塩酸水溶液中で,125℃,150分間加水分解した後,加水分解残渣を中和,洗浄,濾過して湿ケークとし,ニーダー中で十分磨砕した後,容積比で1倍のエタノールを加え,圧搾濾過した後風乾した。乾燥粉末はハンマーミルで粉砕し40メッシュ篩で粗大粒子を除き,セルロース粉末K(乾燥重量3.0%,特開昭56-2047号公報の実施例1に相当)を得た。得られたセルロース粉末Kの物性及びセルロース粉末Kを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Kと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。【0045】比較例5比較例2のセルロース粉末Iを気流式粉砕機((株)セイシン企業製,シングルトラックジェットミルSTJ-200型)で粉砕し,目開き75μm篩で粗大粒子を除きセルロース粉末L(乾燥減量4.1%,特開昭63-267731号公報の実施例1に相当)を得た。得られたセルロース粉体Lの物性及びセルロース粉末Lを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Lと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。比較例6実施例5のセルロース粉末Eを磁性ボールミルで12時間粉砕し,セルロース粉末M(乾燥減量5.1%)を得た。得られたセルロース粉体Mの物性及びセルロース粉末Mを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Mと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。比較例7加水分解条件を7%塩酸水溶液,105℃,20分とする以外は比較例2と同様に操作し濾過,洗浄した後脱水し,イソプロピルアルコールを加え,日本精機製作所(株)製ゴーリンホモジナイザー15M型で分散させた。10%固形分濃度に調整した分散液を噴霧乾燥し,目開き250μm篩で粗大粒子を除き,セルロース粉末N(乾燥減量3.5%,特開平2-84401号公報の実施例2に相当)を得た。得られたセルロース粉体Nの物性及びセルロース粉末Nを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Nと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。【0046】比較例8比較例1のセルロース粉末Hをエアジェットシーブを使用して75μm篩で粗大粒子を除き,38μm篩で微細粒子を除いてセルロース粉末O(乾燥減量4.0%,特開平11-152233号公報の実施例に相当)を得た。得られたセルロース粉末Oの物性及びセルロース粉末Oを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Oと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。比較例9実施例5で得られたセルロース分散液をTKホモミキサーで攪拌(攪拌速度4000rpm)し,これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr,入口温度180~220℃,出口温度50~70℃)してセルロース粉末P(乾燥減量3.8%)を得た。得られたセルロース粉末Pの物性及びセルロース粉末Pを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Pと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。比較例10市販SPパルプ(重合度790,レベルオフ重合度220)を細断し,10%塩酸水溶液中で105℃で5分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過,洗浄,pH調整,濃度調整を行い,固形分濃度17%,pH6.4,電気伝導度120μS/cmのセルロース粒子分散液を得た。これをドラム乾燥機(楠木機械製作所(株)製,KDD-1型,スチーム圧力0.35MPa,ドラム表面温度136℃,ドラム回転速度2rpm,溜め部分散液温度100℃)で乾燥後,ハンマーミルで粉砕し,目開き425μmの篩で粗大粒子を除き,セルロース粉末Q(乾燥減量4.5%,特開平6-316535号公報の比較例8に相当)を得た。得られたセルロース粉末Qの物性及びセルロース粉末Qを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Qと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。【0047】比較例11細断した市販SPパルプ(重合度1030,レベルオフ重合度220)10gを0.25N塩酸のイソプロピルアルコール溶液10gで含浸した後,原料層の剪断速度が10s-1となるように攪拌しながら90℃で10分間加水分解した後,40℃,24時間棚段乾燥しセルロース粉末R(乾燥減量2.5%,RU2050362号公報の実施例8に相当)を得た。得られたセルロース粉末Rの物性及びセルロース粉末Rを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Rと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。実施例8実施例3のセルロース粉末C20重量%,乳糖(DMV社製,Pharmatose100M)19.5重量%,エテンザミド(岩城製薬(株)製)60重量%,軽質無水ケイ酸(アエロジル200,日本アエロジル(株)製)0.5重量%とをポリエチレンバッグ中で3分間充分に混合し,混合粉体の総重量に対して0.5重量%のステアリン酸マグネシウム(太平化学産業(株)製)を加えて30秒間さらにゆっくりと混合した。この混合粉体の安息角を表3に示す。該混合粉体をロータリー打錠機((株)菊水製作所製,CLEANPRESSCORRECT12HUK)で直径0.6cm,11Rの杵を用いてターンテーブル回転速度24rpm,圧縮力3000Nで打錠し,重量100mgの錠剤を作製した。その錠剤物性を表3に示す。【0048】実施例9セルロース粉末として実施例5のセルロース粉末Eを用いた他は実施例8と同様に操作し混合粉体及び錠剤を調製した。混合粉体の安息角,錠剤物性を表3に示す。比較例12セルロース粉末として比較例1のセルロース粉末Hを用いた他は実施例8と同様に操作し混合粉体及び錠剤を調製した。混合粉体の安息角,錠剤物性を表3に示す。比較例13セルロース粉末として比較例2のセルロース粉末Iを用いた他は実施例8と同様に操作し混合粉体及び錠剤を調製した。混合粉体の安息角,錠剤物性を表3に示す。実施例10アセトアミノフェン(吉富ファインケミカル(株)製,微粉タイプ)60重量%,軽質無水ケイ酸(アエロジル200,日本アエロジル(株)製)0.5重量%とをポリエチレンバッグ中で3分間混合して予め薬物の流動性を改善した後,実施例3のセルロース粉末C30重量%,コーンスターチ(日澱化学(株)製)9.5重量%を加えてポリエチレンバッグ中で3分間充分に混合し,混合粉体の総重量に対して0.5重量%のステアリン酸マグネシウム(太平化学産業(株)製)を加えて30秒間さらにゆっくりと混合した。この混合粉体の安息角を表4に示す。該混合粉体をロータリー打錠機((株)菊水製作所製,CLEANPRESSCORRECT12HUK)で直径0.6cm,11Rの杵を用いてターンテーブル回転速度53rpm,圧縮力5000Nで打錠し,重量100mgの錠剤を作製した。その錠剤物性を表4に示す。錠剤の崩壊時間はディスクなしの値を記載した。また錠剤中の薬物の溶出率はパドル回転数100rpmとした時の値を記載した。【0049】実施例11実施例3のセルロース粉末C30重量%,クロスポビドン(コリドンCL,BASF製)9.5重量%,アセトアミノフェン(吉富ファインケミカル(株)製,微粉タイプ)60重量%,軽質無水ケイ酸(アエロジル200,日本アエロジル(株)製)0.5重量%とをポリエチレンバッグ中で3分間一括混合し,混合粉体の総重量に対して0.5重量%のステアリン酸マグネシウム(太平化学産業(株)製)を加えて30秒間さらにゆっくりと混合した。この混合粉体の安息角を表5に示す。該混合粉体をロータリー打錠機((株)菊水製作所製,CLEANPRESSCORRECT12HUK)で直径0.6cm,11Rの杵を用いてターンテーブル回転速度53rpm,圧縮力5000Nで打錠し,重量100mgの錠剤を作製した。その錠剤物性を表4に示す。錠剤の崩壊時間はディスクなしの値を記載した。実施例12アセトアミノフェン(吉富ファインケミカル(株)製,微粉タイプ)60重量%,軽質無水ケイ酸(アエロジル200,日本アエロジル(株)製)0.5重量%とをポリエチレンバッグ中で3分間混合して予め薬物の流動性を改善した後,実施例3のセルロース粉末C30重量%,クロスポビドン(コリドンCL,BASF製)9.5重量%を加えてポリエチレンバッグ中で3分間充分に混合し,混合粉体の総重量に対して0.5重量%のステアリン酸マグネシウム(太平化学産業(株)製)を加えて30秒間さらにゆっくりと混合した。この混合粉体の安息角を表5に示す。該混合粉体をロータリー打錠機((株)菊水製作所製,CLEANPRESSCORRECT12HUK)で直径0.6cm,11Rの杵を用いてターンテーブル回転速度53rpm,圧縮力5000Nで打錠し,重量100mgの錠剤を作製した。その錠剤物性を表4に示す。錠剤の崩壊時間はディスクなしの値を記載した。【0050】実施例13セルロース粉末を実施例5のセルロース粉末Eとする他は実施例12と同様に操作した。混合粉体の安息角,錠剤物性を表5に示す。実施例14アセトアミノフェン(吉富ファインケミカル(株)製,微粉タイプ)70重量%,軽質無水ケイ酸(アエロジル200,日本アエロジル(株)製)0.5重量%とをポリエチレンバッグ中で3分間混合して予め薬物の流動性を改善した後,実施例3のセルロース粉末C25重量%,クロスカルメロースナトリウム(Ac-Di-Sol,FMC社製造,旭化成(株)販売)4.5重量%を加えてポリエチレンバッグ中で3分間充分に混合し,混合粉体の総重量に対して0.5重量%のステアリン酸マグネシウム(太平化学産業(株)製)を加えて30秒間さらにゆっくりと混合した。この混合粉体の安息角を表6に示す。該混合粉体をロータリー打錠機((株)菊水製作所製,CLEANPRESSCORRECT12HUK)で直径0.8cm,12Rの杵を用いてターンテーブル回転速度53rpm,圧縮力10000Nで打錠し,重量180mgの錠剤を作製した。その錠剤物性を表6に示す。錠剤の崩壊時間はディスクなしの値を記載した。実施例15セルロース粉末を実施例5のセルロース粉末Eとする他は実施例14と同様に操作した。混合粉体の安息角,錠剤物性を表6に示す。錠剤の崩壊時間はディスクなしの値を記載した。ケ【0065】【発明の効果】本発明のセルロース粉末は,良好な圧縮成形性を保ちながら,流動性,崩壊性にも優れているので,特に高打圧下で成形した場合であっても,高硬度であってかつ崩壊遅延を助長しない錠剤を提供することができる。さらには薬物含有量が多い場合においても錠剤重量のばらつきを損なうことなく,硬度と崩壊性とのバランスのとれた錠剤を提供することが可能となる。そのため,本発明のセルロース粉末は,比容積の大きな活性成分を含む錠剤又は活性成分配合量の多い錠剤等の小型化にも大変有用であり,また,被覆した活性成分を含む顆粒含有錠剤においては,圧縮成形したときに顆粒の破壊,顆粒の被膜の損傷が少なく薬物放出特性の変化が少ないという効果も奏する。⑵前記⑴の記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明1に関し,次のような開示があることが認められる。ア医薬用途等において活性成分の錠剤化に圧縮成形用賦形剤として使用されるセルロース粉末は,輸送や使用に際して錠剤に磨損や破壊が生じない程度の硬度を付与するための成形性,服用後の速やかな薬効発現のための崩壊性,1錠中の医薬品含量の均一化のために医薬品と圧縮成形用賦形剤の混合粉体が打錠機の臼に均一量充填されるための流動性のいずれもが高いレベルで満足するものが望ましいが,成形性と崩壊性及び流動性とは相反する性質であるため,従来のセルロース粉末では,成形性,流動性,崩壊性の諸性質をバランス良く併せ持つものは知られていなかった(【0002】ないし【0004】【0009】。,)イ「本発明は,成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供することを目的とするものであり(
【0012】,

本発明者らは,鋭意検討した結果,セルロース粉末の粉体物性(
平均重合度粒子の平均L/D(長径短径比),,平均粒子径見掛け比容,積見掛けタッピング比容積安息角及び平均重合度とレベルオ,,フ重合度との差分)を特定範囲に制御することにより,成形性,流動性,
崩壊性の諸性質のバランスに優れるセルロース粉末を見出し,
本発明

達成したものである(
【0013】ないし【0016】。

本発明のセルロース粉末は,良好な圧縮成形性を保ちながら,流動性,
崩壊性にも優れているので,
特に高打圧下で成形した場合であっても,
高硬度であってかつ崩壊遅延を助長しない錠剤を提供することができるという効果を奏する(
【0065】。


2
本件出願当時のレベルオフ重合度に関する技術常識について



各文献の記載事項

甲5
(O.A.BATTISTA,
“HydrolysisandCry
stallizationofCellulose”INDUSTRIALANDENGINEERINGCHEMISTRY,Vol.42,No.31950。BATTISTA論文)
(下記記載中に引用する図
2,3,6及び表Ⅱ,ⅣないしⅥについては別紙2を参照)
(ア)

セルロースの加水分解及び結晶化温和な条件(5.0N塩酸,5℃,18℃,40℃)及び過酷な条件(2.5N及び5.0N塩酸,沸騰)で加水分解を行い,セルロースの代表的なサンプル10種の重量減少と重合度における時間の影響の包括的な研究を行った。精製綿,漂白綿リンター,綿リンターパルプ,木材パルプ,テキスタイルレーヨン,タイヤヤーン,フォーティサン,ファイバーG,及び2つの実験レーヨンをサンプルとした。酸加水分解後に測定した(残渣の重量に基づく)結晶化度(%)とレベルオフ重合度は,加水分解の条件,すなわち,温和な条件,過酷な条件,あるいは温和な条件の後に引き続き行う過酷な条件,に依存することを示す。この文献に記載された器具と組み合わせた際の,重量減少又は相対結晶化度とレベルオフ重合度を測定するための最適過酷条件として,2.5N塩酸,105℃,15分の条件を推奨する。重量減少及び重合度のデータに基づいて,温和な加水分解条件及び過酷な加水分解条件のそれぞれについて,結晶化を同時に伴うセルロース鎖の分割を説明するメカニズムを提唱する。天然セルロースよりも再生セルロースに対する加水分解の結晶化の影響は,天然セルロースに対する加水分解の結晶化の影響より顕著であることがわかった。(訳文1頁)(イ)

セルロース繊維の分子鎖構造を特徴づけるための化学的方法として酸加水分解が,Nickerson(16-19)及び後のNickersonとHabrle(20-22)による一連の論文を通じて開発された。Nickerson法では,セルロースサンプルを2.45N塩酸と0.6M塩化鉄の沸騰溶液に曝した。この過酷な加水分解処理下では,セルロース鎖は反応可能な(available)1,4-グルコシド結合で速やかに分割し,短鎖セルロースそして最終的にグルコースを生成する。(訳文1頁)2つのかなり異なる反応速度が観測されており,2相の微細構造に基づいて―1相は酸により容易に攻撃される非晶質領域であり他相は酸によって非常に緩やかにしか攻撃されない結晶領域として―2つの反応速度の違いを説明づけている。原料サンプルに存在する非晶質物質が徐々に酸可溶性の最終生成物に変化し,耐酸性の結晶成分が残渣となることが当時提唱された。この理論に基づいて,セルロースの結晶と非晶質の定量的な評価が試みられた。(訳文2頁)BattistaとCoppick(2)は,セルロース微細構造の化学的特徴づけのためのより温和な加水分解条件(5N塩酸,18℃)の使用を提案しており,長時間の温和な条件での酸加水分解では,ほとんどの天然セルロース構造の基本重合度(basicdegreeofpolymerisation)は,再生セルロース構造(40-80)の場合よりも高い値(225-275)で安定化する傾向にあること,及び,マーセル化セルロース構造は(75-125)の間のどこかの基本重合度の範囲で安定化する傾向にあることを彼らは示した。(訳文2頁)
今回の研究では,天然セルロースと再生セルロースの両微細構造の加水分解に対する,時間,温度,及び酸濃度などの変数の効果を研究している。温和な条件及び過酷な条件で系統的に加水分解された多種多様なセルロースに対して,重量減少及び重合度の包括的なデータが得られた。重量減少と重合度のデータの組合せを用いて,加水分解を伴う結晶化のメカニズムが2つの相互依存プロセス-加水分解と結晶化-により制御されることを論証する。温和な加水分解条件は,1,4-グルコシド結合が比較的緩やかに分割する間に,より長く,酸溶解性が低い結晶性物質の形成を促進することを,データに基づいて提唱する。一方,過酷な加水分解条件は,極めて短く,より酸溶解性の結晶性物質の形成を促進する。(訳文3頁)(ウ)

研究サンプルこの研究のために,天然セルロース及び再生セルロースの両微細構造を代表する精製セルロースであるサンプル10種を選択した番号サンプル原料基本重合度Ⅰ精製綿ⅡⅢ漂白リンターリンターパルプ880Ⅳ木材パルプⅤAviscoタイヤヤーン(高強力,Ⅵ高配向再生セルロースヤーン)Aviscoテキスタイルヤーン(再生セルロースレーヨン,中強力,中配向)Ⅶ実験レーヨン(HST)Ⅷ実験レーヨン(LST)ⅨフォーティサンⅩファイバーG(訳文3頁~4頁)(エ)「実験手順470350550
重合度の測定。銅アンモニア溶液中の粘度を測定するために使用した方法は,基本的に著者ら(1)が記載した方法であった。

温和な分解工程。
サンプル10種をそれぞれ,
5N塩酸,
5℃,
18℃,
及び40℃で多様な時間にわたって加水分解した。

全てのサンプルを,標準的な非分解抽出及び精製操作に付して,ワックス及び油剤を除去した。…
2(2.000)g部分(オーブン乾燥)を秤量し,250mLのサンプル瓶に移し,それぞれの温度に維持したストック瓶から,5.0N塩酸200mLを取り出して各サンプルに添加した。サンプルを大過剰量の酸に均一に分散し,瓶に栓をして事前に設定した計画に沿った様々な時間保管した。それぞれ規定された加水分解時間の終わりに,サンプルをフリットガラスフィルターにすぐに移し,蒸留水,5%水酸化アンモニウム,
さらに多量の蒸留水で洗浄して酸を除去した。
残渣を105℃,
5時間,真空オーブン(水銀圧30インチ)で乾燥後,相対湿度58%における平衡状態に調整し,
基本重合度を測定した。訳文4頁~5頁)


(オ)

過酷な分解条件。沸騰塩酸でサンプルを加水分解するために使用する器具を図1に示す。…既知の水分率のサンプルの一部2(2.000)g(オーブン乾燥基準)を秤量し,予め沸騰させた,300mLの5.0N又は2.50N塩酸溶液(示したとおり)に加えた。サンプルは,移動し易いように15mLの各塩酸溶液に浸した。セルロースサンプルは,規定された正確な時間,沸騰した塩酸溶液に浸したままにした。器具は,加水分解処理の終わりに分解し,フラスコの内容物をDポロシティのフリットガラスフィルタに移した。器具を分解し,水和セルロース残渣をフィルターに移すために要する時間は60秒以内であった。その後,サンプルを蒸留水,5%希水酸化アンモニウム,さらに蒸留水で酸が除かれるまで繰り返し洗浄し,その後,105℃で定量になるまで真空オーブンで乾燥した。2.50N塩酸で30分まで加水分解したサンプルの全ての残渣は,上記の洗浄及び乾燥した後,見掛け上,雪のような白色であった。(訳文5頁~6頁)(カ)

結果5.0N塩酸,5℃,18℃,及び40℃並びに沸騰の条件での加水分解時間による基本重合度の変化を,それぞれ,表Iにまとめ,各サンプル(綿リンターパルプ及びビスコースタイヤヤーン)を図2及び3にプロットした。これらのデータが示すように,基本重合度は加水分解温度が低いほど高い値でレベルオフする傾向にある。沸騰温度,5.0N塩酸の条件でセルロースを15分以上加水分解すると,腐食物質を生成することがわかった。重量減少の研究の目的では,それゆえ,腐食分解物質の生成を防ぐか,無視し得る最小量を維持する加水分解条件を選択した。沸騰温度,2.5N塩酸,15分の条件が,これらの即ち,腐食分解物質の生成を防ぐか,無視し得る最小量を維持する,要件を満たすことが分かった。前述の仮説が基礎とする基準は,30分まで加水分解が行われた時でも,極微少量の腐食物質の発生の特徴である,不溶性かつ暗色の物質が見られないことであった。(訳文6頁)
(キ)

レベルオフ重合度。天然セルロース(精製綿)及び再生セルロース(ビスコースタイヤヤーン),それぞれに対する2.50N塩酸,沸騰の加水分解条件の時間依存の重合度の変化を表Ⅱに示し,図5にプロットする。これに関連して,かなり長時間温和な条件で加水分解した後,またはかなり短時間過酷な条件で加水分解した後に到達する比較的一定の重合度を称するために,「限界重合度(limitingD.P.)の代わりにレベルオフ重合度(leveling-offdegreeofpolymerization)という用語を使用することを著者は好む。もし,セルロースが十分に加水分解されたなら,真の限界重合度である1まで減少するはずである。

加水分解による結晶化度%。図4及び5から認識する特に重要なことは,
(1)
かなり一定の値に見える基本重合度にどの程度の速さで到達す
るのか,
(2)
天然構造が再生構造よりもはるかにレベルオフ値が高いこ
と,そして,
(3)天然セルロース構造の加水分解時間に対する重量減少
が再生セルロース構造の重量減少よりはるかに緩やかであること,である。これらのデータに基づいて,加水分解の重量減少-即ち,加水分解による残渣の結晶化度(%)-とレベルオフ重合度の両方を測定する最適条件として,2.5N塩酸,沸騰温度,15分の加水分解条件を基準とする。(訳文7頁~8頁)

(ク)

加水分解の結晶化。温和な加水分解条件の重量減少と過酷な加水分解条件の重量減少を比較することにより,加水分解時の結晶化の仮説を支持する実験証拠が得られた。これらのデータを表Ⅳ及びVに一覧にする。表Ⅳのデータは,(1)温和な加水分解(5N塩酸,18℃)(2)過,酷な加水分解(2.5N塩酸,105℃),そして(3)温和な加水分解の後に引き続き行う過酷な加水分解(5N塩酸,18℃に続いて2.50N塩酸,105℃)に曝したレーヨングレードの木材パルプの重量損失と重合度のデータを示す。上記のレーヨン木材パルプから得られたタイヤヤーンに対する,温和な加水分解のデータ,過酷な加水分解のデータ,そして温和な加水分解の後に引き続き行う過酷な加水分解のデータを対応させて表Vに示す。表Vから,比較的短時間温和な加水分解の後,タイヤヤーンには重量減少がほとんど或いは全くみられなかったことがわかる。重量のわずかな増加は,重量減少を測定する際の実験精度の要求では,重要ではないと考えられる。但し,1,4-グルコシド結合を分割する際に,セルロース分子に対して水分子が付加するので,加水分解がセルロース残渣の重量に対してごくわずかな寄与を有するかもしれないという可能性はある。表Ⅵは,10個の異なるテキスタイルヤーンに対する温和な事前加水分解処理(2.50N塩酸,18℃,10日)が,これらのテキスタイルヤーンの加水分解による結晶化度(%)を顕著に増加するという効果を示している。表Ⅳ,V,及びⅥに示すデータは,セルロースの温和な加水分解は,ほとんど或いは全く重量減少を伴わない結晶化を誘導することを示しているようである。このことは,全てのケースで,基準とした過酷な加水分解処理を直接行った場合よりも,事前の温和な加水分解処理の後に引き続き行う基準とした過酷な加水分解処理に供した場合に,サンプルが実質的にほとんど重量を減少していないという事実で証明されている。但し,この効果は,天然セルロースよりも再生セルロースの場合ではるかに顕著であることが示されている。(訳文8頁~9頁)(ケ)

セルロース微細構造の不均一相酸加水分解に対するメカニズム温和な加水分解条件及び過酷な加水分解条件でのセルロース微細構造の加水分解に対し提唱されたメカニズムの模式図を図6に表す。セルロース微細構造の酸分解のこの図は,この文献で記載した重合度と重量減少の全てのデータを説明可能である。加水分解条件が比較的温和であるときは,図6のA部で図示したメカニズムが適用されると考えられる。この条件下では,アクセシブルなセルロース鎖のごくわずかな1,4-グルコシド結合が単位時間あたりに分割する。これにより,結晶成長が可能となり,そして,更なるセルロース鎖の分割が起こる前に,微細構造の非晶質領域のセルロース鎖のより長いセグメントが「結晶化し得,次第にアクセシビリティに乏しい微細構造となる。
しかしながら,加水分解条件が過酷であるときは,図6のB部で図示
したメカニズムがよりふさわしい。これらの条件では,1,4-グルコシド結合の分割がきわめて速く起こるので,極めて短いセグメントのセルロース鎖しか実質的には結晶化されない。言い換えると,過酷な加水分解により,比較的小さく,塩酸溶解性のより高いセルロース部分が形成される。過酷な加水分解で形成される,短鎖の結晶セルロース部分の溶解性は,1,4-グルコシド結合の遅い分割で得られるより長い結晶成分の溶解性よりかなり高いので,観測されたように,沸騰温度で加水分解した際の重量減少が大きくなると予想される。(訳文9頁」
~10頁)
(コ)

さらに,図6のA部に図示されたメカニズムに従って加水分解された微細構造が,続いて図6のB部に提案したメカニズムを支持する過酷な加水分解条件に付されるなら,A部に図示したメカニズムだけに従った場合や,B部に図示したメカニズムに直接従った場合より,水和セルロース残渣の平均基本レベルオフ重合度と重量減少が低下すると予想し得る。過酷な加水分解単独(PartB)では,残渣の平均基本重合度を下げるよう作用するであろう極めて短鎖フラグメントが除かれ,過酷な加水分解単独の場合の重合度が高くなるはずであるし,一方,温和な加水分解条件の後に続いて過酷な加水分解条件を行う場合,結晶化された短いセルロース鎖の材料は残渣に保持され,平均基本重合度を下げる傾向にある。言い換えると,温和な加水分解後のサンプルの残渣の結晶粒子サイズの分布は,過酷な加水分解後の残渣の結晶粒子サイズの分布と異なり得る。(訳文10頁)(サ)

結論加水分解の重量減少から,(1)加水分解の進行速度と,(2)加水分解と同時に起こるらしい結晶化及び結晶成長,の組合せに依存することが示される。長時間温和な加水分解条件を行うと,短時間過酷な加水分解条件を行う場合よりも重量減少がより少ないことが確認されるが,平均重合度はそれぞれの場合で同じレベルオフ値に近づく。さらに,無秩序で歪んだ(disorganizedandstrained)セルロース鎖における結晶化を支持する温和な加水分解処理が,引き続き行う過酷な加水分解処理における急激な重量減少を低減するのに有効であることがわかる。この結果は,温和な条件では,1,4-グルコシド結合が比較的緩やかに分割する間,酸不溶性であり,さらに速やかな加水分解に耐性を有するセルロース長鎖セグメントの結晶成長と結晶化を支持するとみなすことにより説明される。一方,過酷な加水分解では,反応可能な1,4-グルコシド結合が速やかに分割される間,ごく短いセルロース鎖セグメントしか結晶化せず,結果,酸可溶性であり加水分解の間より速やかに除去される,結晶核(crystallinenuclei)となる。(訳文10頁)

乙15(米国特許2978446号公報。1961年4月4日公開)(ア)

この発明は,レベルオフD.P.セルロース生成物およびその調製方法に関する。天然および再生のいずれも,セルロースの構造の研究においてセルロース系材料は,加水分解によって非晶質セルロース系材料を除去され,結晶とされる残りのセルロース系構造は,現在では,O.A.Battistaによる論文,HydrolysisandCrys「tallizationofCelluloseVol.42IndustrialandEngineeringChemistry,502-7,
(1950)にしたがって,一般にレベルオフD.P.セ
ルロースと呼ばれる。加水分解は様々な具体的な方法によって実行されるが,2次反応を伴わないもっとも直接的な方法は,塩酸によるセルロース系材料の処理である。セルロース系材料に対する酸の加水分解処置
から得られるセルロースは,時間の経過により,実質的に一定の分子量に達する。
レベルオフD.P.セルロースは,
元のセルロース系材料に主
として依存し,加水分解条件の過酷さに依存する程度はより少ない。一般に,
天然繊維のレベルオフD.P.は,
約200~300の範囲であり,
一方,再生セルロースのレベルオフD.P.は,約25~約60の範囲となる。(第1欄15行~37行・訳文1頁)

(イ)

本発明の主目的は,様々な物品の製造に用いるためのレベルオフD.P.セルロース生成物を提供することである。(第1欄41行~43

行・訳文1頁)
(ウ)

精製されたセルロースは,天然セルロースであれ再生セルロースであれ,加水分解によってレベルオフD.P.生成物となる。天然セルロースの精製形態としては,コットン繊維,コットンリンター,精製木材パルプなどの材料があげられ,一方,再生セルロースの具体例としては,ビスコースレーヨンの繊維およびフィラメント,ならびにセロファンなどの非繊維状シート形態があげられる。…セルロースは様々な手段,例えば塩酸および塩化第二鉄,硫酸などによって加水分解されうるが,この発明の目的には純粋なヒドロセルロース生成物が求められるため,本発明の目的のためには,塩酸を使用することが好ましい。加水分解は,過酷(drastic)または穏和のいずれであってもよいことも知られている。本発明の目的のためには,溶液の沸点(約105℃)における塩酸の2.5N標準溶液に15分間,セルロースを供することに行われる過酷(drastic)な加水分解が好ましい。しかし,より長時間の穏和な加水分解も,同じ特徴を有する結晶質凝結体をもたらす。セルロース系原材料は精製した天然セルロースまたは再生セルロースのいずれかであるため,無機不純物の量は極めて少ない。過酷な加水分解は,さらなる量の非セルロース系物質を効果的に除去し,後続の加工において,実質的にすべての無機不純物が加水分解酸における溶液によって除去されるので,結果として得られるレベルオフD.P.微結晶は実質的に純粋であり,おそらく入手可能なセルロースとしては最も純粋な形態である。沸騰している2.5標準塩酸に約15分間,セルロース原材料を供することによって,すべての不純物および非晶質材料が除去され,残留物は実質的に一定の分子量ないしD.P.値となることが知られている。(第1欄59行~第2欄25行・訳文1頁~2頁)ウ
乙2(岩波理化学辞典第3版,1971年,岩波書店)

セルロース(C6H10O5)n繊維素ともいう。植物細胞膜の主成分をなす多糖類。

セルロース繊維はミセル状の構造をもち,セルロース分子が一定の排列をした結晶部分と,乱雑に集合した非結晶部分とから成り,両者の適当な配合により繊維に強度,易撓性,弾力性,染色性,吸湿性などが生ずるものと考えられている。(以上,736頁)

乙4
(セルロース学会編
セルロースの事典
2000年11月10日,
朝倉書店)
b.製造方法結晶セルロースは高純度木材パルプを酸加水分解して得られる。パルプの非結晶部分は酸で分解されやすく,結晶部分は分解されずに残る。高度にコントロールされた条件下で製造された結晶セルロースはほぼ一定の重合度(100~300)であり,酸加水分解により化学的修飾を受けない。その化学構造と結晶構造は木材パルプ由来の天然セルロースのままである。(523頁)

乙3(磯貝明著セルロースの材料科学2001年2月5日,東京大学出版会)
(下記記載中に引用する図については別紙3を参照)


(ア)

セルロース分子の構成単位であるグルコースどうしを結合しているβ―1,4グリコシド結合は酸性下で解裂しやすく,分子量が低下して材料としての強度低下につながる。酸性紙の長期保存中の劣化問題は,このセルロース分子の酸加水分解による分子量低下が原因である。さて,その酸加水分解は,酸水溶液(厳密にはH⁺イオン)が浸透できるセルロース中の非晶領域から始まる。(イ)

セルロース材料中の非晶領域の分布状態を解明する上で重要な実験事実は,希酸加水分解過程でのセルロースの分子量変化挙動にある。セルロース試料を希酸中で加熱処理すると,セルロースは徐々に酸加水分解されて単糖となって希酸中に溶解していく。一方,酸加水分解処理で残存しているセルロースの重合度は酸加水分解初期に急激に200-300に低下し,その後は重量減少が続いても変化しない。この一定になる重合度をレベルオフ重合度といい,高等植物由来の綿セルロース,木材セルロース,麻のセルロース等では常に観察される現象である(図1.9)。この現象を合理的に説明するためには,セルロースのミクロフィブリルに沿って重合度で200-300程度の結晶領域と少量の非晶領域とが交互に存在するモデルが妥当である(図1.10)。
(以上,16頁~17頁)


レベルオフ重合度について

前記⑴の記載事項を総合すると,本件出願当時(出願日平成13年6月28日)
,①レベルオフ重合度とは,セルロースを酸加水分解すると,その重合度は,酸加水分解初期に急激に200-300に低下した後ほぼ一定になり,このほぼ一定になった重合度を意味すること,②原料セルロースは,酸加水分解時に,原料セルロースの非結晶部分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解されずに残り,この分解されずに残った部分の化学構造と結晶構造は,原料セルロースのままであり,分解されずに残った
部分の結晶領域の長さがレベルオフ重合度に対応することは,技術常識であったことが認められる。

この点に関し原告は,BATTISTA論文(甲5)の記載によれば,温和な加水分解の後,過酷な条件で加水分解を行った場合には,温和な加水分解を経ることなく過酷な条件下で加水分解を行った場合に比べて,そのレベルオフ重合度は通常低下すると理解されることに照らすと,加水分解により分解されずに残った部分の化学構造と結晶構造は,原料セルロースのままであり,その結晶領域の長さがレベルオフ重合度に対応するとはいえない旨主張する。
そこで検討するに,原告の主張に沿うように,甲5には,
図6のA部に図示されたメカニズムに従って加水分解された微細構造が,続いて図6のB部に提案したメカニズムを支持する過酷な加水分解条件に付されるなら,A部に図示したメカニズムだけに従った場合や,B部に図示したメカニズムに直接従った場合より,水和セルロース残渣の平均基本レベルオフ重合度と重量減少が低下すると予想し得る。,過酷な加水分解単独(PartB)では,残渣の平均基本重合度を下げるよう作用するであろう極めて短鎖フラグメントが除かれ,過酷な加水分解単独の場合の重合度が高くなるはずであるし,一方,温和な加水分解条件の後に続いて過酷な加水分解条件を行う場合,結晶化された短いセルロース鎖の材料は残渣に保持され,平均基本重合度を下げる傾向にある。(前記⑴ア(コ))との記載がある。
しかしながら,
他方で,
①甲5の11年後に発行された甲5の著者
(O.
A.Battista)を発明者に含む特許公報である乙15には,セルロース系材料に対する酸の加水分解処置から得られるセルロースは,時間の経過により,実質的に一定の分子量に達する。レベルオフD.P.セルロースは,元のセルロース系材料に主として依存し,加水分解条件の過酷さに依存する程度はより少ない。(前記(1)イ(ア))

本発明の目的のためには,溶液の沸点(約105℃)における塩酸の2.5N標準溶液に15分間,セルロースを供することに行われる過酷(drastic)な加水分解が好ましい。しかし,より長時間の穏和な加水分解も,同じ特徴を有する結晶質凝結体をもたらす。(前記(1)イ(ウ))との記載があること,②乙4には,
パルプの非結晶部分は酸で分解されやすく,結晶部分は分解されずに残る。高度にコントロールされた条件下で製造された結晶セルロースはほぼ一定の重合度(100~300)であり,酸加水分解により化学的修飾を受けない。その化学構造と結晶構造は木材パルプ由来の天然セルロースのままである。(前記(1)エ)との記載があること,③乙3には,酸加水分解処理で残存しているセルロースの重合度は酸加水分解初期に急激に200-300に低下し,その後は重量減少が続いても変化しない。この一定になる重合度をレベルオフ重合度といい,…この現象を合理的に説明するためには,セルロースのミクロフィブリルに沿って重合度で200-300程度の結晶領域と少量の非晶領域とが交互に存在するモデルが妥当である(図1.10)(前記(1)オ(イ))との記載があり,上記記載中の図1.10
(別紙3)は,結晶領域と非晶領域とからなるセルロー
スのミクロフィブリルが,酸加水分解により非晶領域で切断され,切断後のレベルオフ重合度は結晶領域の長さに対応することが示されていることに照らすと,甲5の上記記載を踏まえても,本件出願当時,加水分解により分解されずに残った部分の化学構造と結晶構造は,原料セルロースのままであり,その結晶領域の長さがレベルオフ重合度に対応することが技術常識であったとの前記アの認定を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3
取消事由1(サポート要件の判断の誤り)
(無効理由2関係)について


本件訂正発明1の技術的意義について


前記1(2)認定の本件明細書の開示事項によれば,
本件明細書の発明の詳
細な説明には,本件訂正発明1に関し,医薬用途等において活性成分の錠剤化に圧縮成形用賦形剤として使用されるセルロース粉末は,輸送や使用に際して錠剤に磨損や破壊しない程度の硬度を付与するための成形性,服用後の速やかな薬効発現のための崩壊性,1錠中の医薬品含量の均一化のために医薬品と圧縮成形用賦形剤の混合粉体が打錠機の臼に均一量充填されるための流動性のいずれもが高いレベルで満足するものが望ましいが,成形性と崩壊性及び流動性とは相反する性質であるため,従来のセルロース粉末では,成形性,流動性,崩壊性の諸性質をバランスよく併せ持つものは知られていなかったという問題があったことから,本件訂正発明1は,成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供することを課題とし,その課題を解決するための手段として,セルロース粉末の粉体物性である平均重合度粒子の平均L/D(長,径短径比),平均粒子径

見掛け比容積

見掛けタッピング比容積

安息角及び平均重合度とレベルオフ重合度との差分を特定の数値
範囲に制御する構成を採用することにより,全体として成形性,流動性,崩壊性の諸性質をバランスよく併せ持つという効果を奏するものとしたことに技術的意義があることの開示があるものと認められる。


この点に関し原告は,本件明細書記載の成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供すること【001(
2】
)にいう成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つとは,
硬度170N以上崩壊時間130秒以下及び安息角54°,以下の数値をすべて満たすことを意味するものであり,このようなセルロース粉末を提供することが本件訂正発明1の課題であると認定すべきである旨主張する。
しかしながら,本件明細書の【0018】及び【0019】の記載によ
れば,原告の挙げる硬度170N以上崩壊時間130秒以下及び

安息角54°以下の数値は,それぞれ成形性,崩壊性及び流動性を個別で評価する場合に好ましいとされる範囲の指標であって(
【0018】

【0019】,本件明細書には,

成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供するという本件訂正発明1の課題を解決するために,これらの数値をすべて満たすことが必須であることについての開示はないから,原告の上記主張は採用することができない。⑵

本件訂正発明1のサポート要件の適合性について

原告は,本件訂正発明1の課題は,
成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供すること,すなわち,硬度170N以上崩壊時間130秒以下及び安息角54°以下の数,
値をすべて満たすセルロース粉末を提供することが本件訂正発明1の課題であるとした上で,当業者は,本件訂正発明1の平均重合度75,㎛以下粒子L/D平均粒子径見掛け比容積見掛けタッピング,,,比容積安息角及び平均重合度とレベルオフ重合度との差分(差分,要件)という7つのパラメータの数値範囲全体をカバーする具体例の開示なくして,上記課題を解決できると認識することはできないが,本件明細書の発明の詳細な説明には,
かかる具体例の開示はないから,
当業者は,
本件訂正発明1の上記課題を解決できると認識することはできないから,本件訂正発明1は,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかしながら,前記⑴イで説示したとおり,
硬度170N以上崩壊,時間130秒以下及び安息角54°以下の数値をすべて満たすセルロース粉末を提供することが本件訂正発明1の課題であると認めることはできないから,原告の上記主張は,その前提において理由がない。

原告は,①本件訂正発明1の該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いこととの要件(差分要件)は,該セルロース粉末に関するレベルオフ重合度との差分であるにもかかわらず,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたレベルオフ重合度は,いずれも原料パルプのレベルオフ重合度であって,実施例及び比較例の該セルロース粉末のレベルオフ重合度は不明であること,BATTISTA論文の記載に照らすと,
該セルロース粉末と原料パルプのレ
ベルオフ重合度が同じであるとは認められないことからすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,差分要件の数値範囲において,本件訂正発明の1の課題を解決できると当業者が認識することはできない,②仮に本件審決が認定するように
該セルロース粉末
のレベルオフ重合度は,
原料パルプのレベルオフ重合度より100低いと仮定した場合,実施例2ないし6において示されている差分の範囲は150~255であり,その下限値は150であること,差分5ないし10という数値は,粘度法による重合度測定の誤差の範囲のレベルであり,実質的にはレベルオフ重合度との差分を技術的有意性をもって認識することはできないこと,当業者は,差分要件の作用機序の技術的意味を理解できないことからすると,本件明細書記載の差分がいずれも150以上の実施例のデータのみをもって,測定誤差のレベルである差分5ないし10を下限とする差分要件の数値範囲の全体にわたり本件訂正発明1の課題を解決できると認識することはできないとして,本件訂正発明1はサポート要件に適合しない旨主張するので,以下において判断する。
(ア)

本件訂正発明1のレベルオフ重合度の意義について
本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本件訂正発明1
のレベルオフ重合度の意義について規定した記載はないが,本件明細書の【0015】に,

本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をいう。

との記載がある。上記記載は,本件訂正発明1のレベルオフ重合度を定義したもの
といえるから,
本件訂正発明1の
レベルオフ重合度2.5N塩酸,
は,
沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度」をいうものと解される。
なお,本件明細書の【0015】には,レベルオフ重合度に関し,セルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベルオフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(INDUSTRIALANDENGINEERINGCHEMISTRY,Vol.42,No.3,p.502-507(1950)),その後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはならない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。との記載がある。上記記載中の乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。との記載部分は,本件出願当時,
レベルオフ重合度とは,セルロースを
酸加水分解すると,その重合度は,酸加水分解初期に急激に200-300に低下した後ほぼ一定になり,このほぼ一定になった重合度を意味することは技術常識であったこと(前記2(2)ア)に照らすと,レベルオフ重合度に達しているか否かの一般的な判断基準を示したものではないものと理解できる。
(イ)

①について

a
本件明細書には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセルロース粉末について,それぞれの原料パルプ(市販SPパルプ,市販KPパルプ等)のレベルオフ重合度が記載されている(
【0039】な
いし【0047】。

前記⑴イ(ア)のとおり,本件出願当時,酸加水分解時に,非結晶部分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解されず残り,残った部分の化学構造と結晶構造は,原料セルロースのままであって,分解されずに残った部分の結晶領域の長さがレベルオフ重合度に対応する
ことは技術常識であったことを踏まえると,本件明細書の上記実施例及び比較例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプのレベルオフ重合度とおおむね等しいものと理解できる。
この点に関し磯貝明作成の令和2年9月11日付け意見書(甲35)中には,3桁のLODPを報告するときの有効数字は2桁とするのが一般的であるが,実際のところ,2桁目,3桁目の精度は無いといっていほどバラバラになるので,LODPについて十の桁,一の桁を議論することは技術的に意味がない。そして,同一のセルロースでもLODPは酸加水分解条件等によって変化することも常識である,そのため,例えば,市販の木材パルプのLODPを測定したとしても,その木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉末のLODPについては,やはり実際に測定してみなければわからず,原料である木材パルプと同一になるとは推測できないばかりか,具体的にいかなる値になるかも推測することはできない。との記載部分がある。しかしながら,他方で,上記意見書中には,
LODPとは「セルロース試料を酸で加水分解処理した残渣の重合度が一定時間(…)経過しても”ほぼ”一定になる現象であると述べる部分や,BATTISTA論文でも同様であるが,「ほぼ一定になる
という現象を示す以

上に,例えば,
平均重合度が下がりきっている(これ以上全く低下しない)という含意はない。,一定といっても過酷な条件であれば」

少なくとも2時間程度は更なる酸加水分解によって平均重合度が緩やかに低下していくことは常識である。,こうした変化も含めて200

~300程度の粗い幅で「ほぼ一定と言っているのである。
」と述べ
る部分がある。
これらを総合すると,上記意見書の上記記載部分は,市販の木材パルプのLODPとその木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉末のLODPとの間におけるかなり程度の高い同一性を問
題とした上で,木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉末のLODPについては,原料である木材パルプと同一になるとは推測できない旨を述べたにとどまるものというべきであるから,上記記載部分によって,本件明細書の実施例及び比較例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度が原料パルプのレベルオフ重合度とおおむね等しいものと理解できるとの上記判断を左右するものではない。
b
加えて,本件明細書の表4には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセルロース粉末の平均重合度の記載があることからすると,本件明細書に接した当業者は,上記セルロース粉末が差分要件を満たすかどうかを把握できるものと解される。
また,
本件明細書の表4には,
平均重合度

粒子の平均L/D(長径短径比),平均粒子径見掛け比容積見掛けタッピング比容,,積安息角及び平均重合度とレベルオフ重合度との差分,
(差分
要件)のいずれもが本件発明1の数値範囲内にある実施例2ないし7のセルロース粉末の円柱状成形体とそのいずれかが本件発明1の数値範囲外である比較例1ないし11とのセルロース粉末の円柱状成形体について,
平均降伏圧
[MPa]錠剤の水蒸気吸着速度Ka,[N]

硬度

及び崩壊時間[秒]が示されている。
そして,実施例2ないし7のセルロース粉末は,いずれも,安息角が55°以下,錠剤硬度が170N以上,崩壊時間が130秒以下であり,ここで,安息角は,55°を超えると,流動性が著しく悪くなり(
【0018】,錠剤硬度は成形性を示す実用的な物性値であり,1)
70N以上が好ましく【0019】,

)崩壊時間は崩壊性を示す実用的
な物性値であり,130秒以下が好ましい(
【0019】
)のであるか
ら,実施例2ないし7のセルロース粉末は,成形性,流動性及び崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であるということができる。
したがって,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識から,実施例2ないし7のセルロース粉末は,本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから,①は採用することができない。
(ウ)

②について
本件明細書には,

平均重合度はレベルオフ重合度ではないことが好ましい。レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。

(【0015】,)レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めておく必要があるかということについては,5~300程度であることが好ましい。さらに好ましくは10~250程度である。5未満では粒子L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好ましくない。300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって好ましくない。(【0016】,)セルロース質物質をレベルオフ重合度まで加水分解してしまうと,製造工程における攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。…セルロース分散液の粒子は乾燥により凝集し,L/Dが小さくなるので,乾燥前の粒子の平均L/Dを一定範囲に保つことで高成形性でかつ崩壊性の良好なセルロース粉末が得られる。(【0021】
)との記載がある。
これらの記載から,セルロース粉末がレベルオフ重合度まで加水分解されてしまうと,乾燥前のセルロース粒子のL/Dが低下しやすく,その後の乾燥工程でセルロース粒子が凝集して,得られるセルロース粉末のL/Dが小さくなり,L/Dが小さくなると成形性が低下することを理解できる。
そして,本件訂正発明1の差分要件は,レベルオフ重合度までには重合度が低下しないように加水分解することを,セルロース粉末の平均重合度とレベルオフ重合度の差分(差分要件)で表し,その下限を5としたことを理解できるから,当業者は,本件訂正発明1の差分要件の数値範囲の全体にわたり,本件訂正発明1はその課題を解決できると認識できるものと認められる。
したがって,②は採用することができない。
(エ)

まとめ

以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識から,当業者は,本件訂正発明1の差分要件の数値範囲の全体にわたり,本件訂正発明1はその課題を解決できると認識できるものと認められるから,本件訂正発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであることが認められる。
また,これと同様の理由により,本件訂正発明2及び6も,発明の詳細な説明に記載したものであることが認められる。


小括
以上によれば,本件訂正発明1,2及び6は,サポート要件に適合するものと認められるから,本件審決におけるサポート要件の判断は,結論におい
て相当である。
したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
4
取消事由2(明確性要件の判断の誤り)
(無効理由3関係)について


原告は,本件審決は,本件訂正発明1,2及び6の平均重合度とは,本件明細書の【0032】の記載から,
第13改正日本薬局方,結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値である旨認定したが,上記記載によっては,平均重合度は一義
的に定まらないから,平均重合度のパラメータ値をもって特定されている本件訂正発明1,2及び6は,不明確であり,明確性要件に適合しない旨主張する。

そこで検討するに,本件訂正発明1,2及び6の特許請求の範囲(請求項1,2及び6)には,
平均重合度の測定方法を特定した記載はない。
次に,本件明細書の【0032】には,

なお,実施例,比較例における各物性の測定方法は以下の通りである。

との記載に引き続き,1)平均重合度第13改正日本薬局方,結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値との記載がある。また,甲8(第十三改正日本薬局方)の結晶セルロースの項目には,

本品は繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースを酸で部分的に解重合し,精製したものである。,

本品には,平均重合度,乾燥減量値及びかさ密度を範囲で表示する。,

確認試験の⑶として,本品約1.3gを精密に量り,125mLの三角フラスコに入れ,水25mL及び1mol/L銅エチレンジアミン試液25mLをそれぞれ正確に加える.直ちに窒素を通じ,密栓した後,振とう機を用いて振り混ぜながら溶かす.この液について25±0.1℃で粘度測定法第1法により,粘度計の概略の定数(K)が0.03の毛細管粘度計を用いて試験を行い,動粘度νを求める.別に水25mL及び1mol/L銅エチレンジアミン液25mLをそれぞれ正確に量り,その混液について同様の方法で,粘度計の概略の定数(K)が0.01の毛細管粘度計を用いて試験を行い,動粘度ν0を求める.,次式により本品の相対粘度ηrelを求める.ηrel=ν/ν0,
次の表により,この相対粘度ηrelから極限粘度[η](mL/g)と濃度C(g/100mL)の積[η]Cを求め,次式により平均重合度Pを計算するとき,Pは350以下であり,かつ表示範囲内である.との記載がある。本件明細書の上記記載及び甲8の記載に照らすと,本件訂正発明1,2及び6の平均重合度は,
第13改正日本薬局方記載の結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値をいうものと理解することができ,その内容は明確である。イ
これに対し原告は,①第13改正日本薬局方記載の結晶セルロースの確認試験(3)は,平均重合度350以下で,かつ表示範囲内で
ない場合には,極限粘度換算表から極限粘度と濃度の積が簡便に得られず,かつ,
結晶セルロースの確認試験(3)記載の算定式の妥当範囲
外であることが明記されているから,かかる場合には,平均重合度の算定式について,当業者が結晶セルロースの確認試験(3)記載の算定式を選択するとは限られず,むしろ妥当範囲外と明記されていない別の算定式が用いられる可能性が高い,
②そして,
結晶セルロースの確認試験(3)
記載の計算式と,例えば,ISO5351の付属書掲載論文に記載された計算式では,算出結果は大きく異なることになるため,平均重合度の計算式として,いずれの式を選択するかによって平均重合度の値は一義的に定まらないとして,
平均重合度
のパラメータ値をもって特定されてい
る本件訂正発明1,2及び6は,不明確である旨主張する。
しかしながら,①については,甲8の次式により平均重合度Pを計算するとき,Pは350以下であり,かつ表示範囲内であるとの記載は,
結晶セルロースの確認試験(3)に記載されたとおりの手順に従って試験を行った場合に,日本薬局方に収載されている医薬品としての結晶セルロースに該当することを確認できることを述べたものと理解するのが自然であり,上記記載をもって,
結晶セルロースの確認試験(3)に記
載された測定方法における平均重合度Pの測定限界が350であることまでを示したものとはいえない。そして,甲27(
第十三改正日本薬局方-条文と注釈-1996」
)には,
粉末セルロースに関し,

本品は繊維性植物からパルプとして得たα―セルロースを機械的に分解し,精製したものである。,

確認試験の⑶として,

本品約0.25gを精密に量り,125mLの三角フラスコに入れ,水25mL及び1mol/L銅エチレンジアミン試液25mLをそれぞれ正確に加える。以下「結晶セルロース

の確認試験(3)直ちに窒素を通じ以下を準用して試験を
行うとき,平均重合度pは440~2250であり,かつ表示範囲内である。
」との記載があり,上記記載は,平均重合度が440~2250の粉末セルロースについて,
試料濃度を変更する以外は,
結晶セルロースの確認試験(3)を準用して平均重合度を求めることができることを示すものといえることに照らすと,平均重合度が350超の場合であっても,試料濃度を変更して,
結晶セルロースの確認試験(3)に準拠して平均重
合度を測定できるものと理解できる。
②については,ISO5351の付属書掲載論文に記載された計算式に基づいて平均重合度を測定する方法があるとしても,本件明細書に接した当業者において,本件明細書記載の平均重合度の測定方法である結晶セルロースの確認試験(3)記載の計算式に基づいて平均重合度を測定するという測定方法と異なる測定方法を選択するとする合理的な理由は見いだせない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。



原告は,
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末を発明特定事項とする本件訂正発明1及び2は,
PBP発明であって,
本件出願時に当該物をその構造又は特性によって直接特定することに不可能ないし非実際的事情が存するとはいえないから,不明確であり,明確性要件に適合しない旨主張する。


そこで検討するに,本件訂正発明1の天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末とは,その文言から,セルロース粉末が天然セルロース質物質を原材料としてその加水分解によって得られた物であることを理解できる。
そして,前記2(1)記載の各文献によれば,結晶セルロースは,天然セルロース又は再生セルロースを加水分解
(酸加水分解)
して得られることは,
本件出願時の技術常識であったことが認められる。
一方で,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末にいう加水分解の条件を特定する記載はなく,また,セルロース粉末の製造に至る加水分解以降の工程を規定した記載はない。
以上によれば,本件訂正発明1の天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末とは,天然セルロース質物質を加水分解して得られたセルロース粉末という物の状態を示すことにより,その物の構造又は特性を特定したものと解される。
したがって,本件訂正発明1は,PBP発明に該当するものと認めることはできない。本件訂正発明2も,これと同様である。


これに対し原告は,本件訂正発明1の天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末にいう天然セルロース質物質には,少なくとも,セルロース結晶構造の型,不純物の有無・程度,セルロースの種類・含量比率といった各種要素による特徴があること,
加水分解処理は,温和な条件や過酷な条件等加水分解条件によって処理後のセルロースの物性に大きな影響を与えうる化学的処理であることからすると,原料となる天然セルロース質物質の特徴に照らして,加水分解の結果,得られたセルロース粉末はどのような構造又は物性になっているか明らかであるとはいえず,当業者は,加水分解処理により得られたセルロース粉末と構造,物性等が同一である物とはどのような物をいうのか理解することができないなどと主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,その主張自体,本件訂正発明1及び2が,物の発明についてその物の製造方法の記載がある特許請求の範囲(PBPクレーム)に係るPBP発明であることの根拠となるものではない。
他に本件訂正発明1及び2がPBP発明に該当することを認めるに足りる主張立証はない。


原告は,本件訂正発明1の安息角が54°以下の発明特定事項は,安息角の下限値の記載がないから,不明確であり,明確性要件に適合しない旨主張する。
しかしながら,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件訂正発明1の安息角が54°以下とは,セルロース粉末の安息角が54°以下であることを規定したものであり,その内容は明確であるから,原告の上記主張は理由がない。



以上によれば,本件審決における明確性要件の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。

5
取消事由3(甲12発明を主引用例とする本件訂正発明1及び2の新規性の判断の誤り)
(無効理由4関係)について


甲12の記載事項

甲12には,次のような記載がある(下記記載中に引用する【表1】に
ついては別紙4を参照)

(ア)

【請求項1】

セルロース質物質を酸加水分解あるいはアルカリ酸

化分解して得られる平均重合度100~375の白色粉末状結晶セルロースであり,その酢酸保持率が280%以上で,かつ,下記(1)式の圧縮特性を有することを特徴とする高成形性賦形剤。
【数1】

(但し,a=0.85~0.90,b=0.05~0.10であり,そしてPは結晶セルロースに対する圧縮圧力[kgf/cm2]0
,V

は結晶

セルロースの見掛け比容積[cm3/g]
,Vは圧縮圧力Pにおける結晶
セルロースの比容積[cm3/g]を表す)
(イ)

【0001】

【産業上の利用分野】本発明は,圧縮成形用の賦形剤に関する。特に医薬品分野における錠剤の賦形剤に関する。より詳細には,本発明は,結晶セルロースの粉体物性を制御し,成形性と崩壊性のバランスが良い圧縮成形用の賦形剤に関する。
【0002】
【従来の技術】多くの粉体原料は取扱い性の改善や機能の付与を目的として圧縮成形される。圧縮成形物(錠剤)の最も重要な性質は,輸送や使用に対し摩損や破壊が生じない強度を持つことである。医薬品分野における錠剤はこの性質に加えて,服用後のすばやい薬理効果発現のために,崩壊時間が短くなければならない。その理由は,一般的な錠剤は服用後消化管内で崩壊し,ついで薬効成分が消化管液に溶解し,消化管壁から吸収され,血中に溶解し,体内を循環し,そして薬理効果を発揮するので,錠剤が服用後直ちに消化管内で崩壊するということは,それだ
け速く薬理効果が発現するということになるからである。
【0003】
ところで,
多くの粉体原料は圧縮しても成形しないために,
圧縮成形性をもつ賦形剤を配合する必要がある。そして錠剤に所望の強度を付与するためには,賦形剤の配合量,および

圧縮成形力,を適宜

決定することが必要である。通常,賦形剤配合量を増すほど,また,圧縮成形力を上げるほど錠剤強度は高くなる。
【0004】しかしながら,錠剤中の主剤(粉体原料)の配合量を多くしたい場合,例えば医薬品分野における小型錠の製造の場合などには,賦形剤の配合量を著しく制限されてしまうし,また,過剰な圧縮成形力は圧縮成形機(打錠機)に負担を掛け,部品の消耗を早める事になるので好ましくなく,さらにはフィルムコーティングを施した顆粒と賦形剤を混合し,打錠して錠剤(このような錠剤を顆粒含有錠という)を得る場合,あるいは酵素や抗生物質を錠剤化する場合には,フィルムの損傷や酵素,抗生物質の変質を防ぐために,より低い圧縮成形力で成形する必要が生じる。そのために賦形剤はより少量で,より高い圧縮成形性を示すことが要求される。
【0005】従来,このような目的に使用される賦形剤としては結晶セルロースが知られている。結晶セルロースは安全性が高く,高い圧縮成形性を有し,さらに崩壊性が良いことから医薬品分野において広く使用されている賦形剤の一つである。結晶セルロースについては,平均重合度が15~375,嵩が7~34lb/ft3(1.84~8.92cm3
/g)
,粒度が300μm以下の結晶セルロースを医薬品錠剤に使用す

ると錠剤強度が高く,崩壊性が改善されること(特公昭40-26274号公報)
:平均重合度が60~375,見掛け比容積が1.6~3.1
cm3/g,見掛けタッピング比容積が1.40cm3/g以上,200メッシュ以上が2~80%であり,安息角が35~42度である結晶セ
ルロースは主薬や添加剤と混合するとき,混合粉体の流動性が高く,また打錠した場合に崩壊性が早くなる点で好ましいこと(特公昭56-2047号公報,特公昭56-38128号公報)などが知られている。【0006】また,成形性を有するセルロース粉末としては,平均重合度が450~650程度,コンパクト見掛け密度が0.40~0.60g/cm3(1.67~2.50cm3/g)であり,かつ,200メッシュ以下が50%以上のセルロース粉末は錠剤成形用に適した賦形剤であること(特公昭51-17172号公報)
,特定の平均粒径(30μm
以下)
,比表面積(1.3m2/g以上)を有するセルロース粉末は成形性が高いこと(特開昭63-267731号公報)
:特定の結晶形(セル
ロースI型)を有し,直径0.1μm以上の細孔の気孔率が20%以上で,かつ,350メッシュ以上が90%以上であるセルロース粉末は流動性が高く,
成形性もあること
(特開平1-272643号公報)また,

結晶形がI型で,比表面積が20m2/g以上,直径0.01μm以上の細孔の全容積が0.
3cm3/g以上,
100μm以下が50%以上であ
るセルロース粉末は流動性が高く,成形性も高いこと(特開平2-84401号公報)などが知られている。
【0007】しかしながら,これらの中でより成形性の高いものは崩壊性も悪いという欠点を有する。結晶セルロースの成形性を改善するためには見掛け比容積を上げることが効果的であり,そのために従来は結晶セルロースを微粉砕したり
(特開昭63-267731号公報)
:あるい
はセルロース粉末粒子を多孔性にして粒子自身の密度を下げる工夫がなされてきた
(特開平2-84401号公報)特開昭63-267731

号公報に記載の発明品は微粉であるために見掛け比容積が高いが,見掛けタッピング比容積は低いので圧縮により容易に圧密し,高い圧縮成形性を示すものの,錠剤の間隙(導水管)も減少してしまうので,崩壊性
が著しく悪い。
【0008】また同様に,特開平2-84401号公報記載の発明品は多孔性であるためにきわめて比表面積が高く,見掛け比容積も高いが,粒子自身の強度が低いために圧縮により粒子間の圧着のみならず,粒子の変形・圧密が生じてしまい,結局,錠剤の間隙(導水管)も減少してしまうので,崩壊性が著しく悪いものであった。
(ウ)

【0009】

【発明が解決しようとする課題】以上のように,従来の結晶セルロースあるいはセルロース粉末は,成形性が高ければ崩壊性が悪く,また,崩壊性が良い場合は成形性が低いという欠点を有しており,これらの性質のバランスがとれた賦形剤は知られていなかった。前述の通り,医薬品分野において使用される賦形剤は成形性が高く,かつ崩壊性が良いというものである必要がある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者はこうした現状に鑑み,結晶セルロースの粉体物性を制御し,成形性と崩壊性のバランスをとることを鋭意検討した結果,本発明に到達したものである。即ち,本発明は:セルロース質物質を酸加水分解あるいはアルカリ酸化分解して得られる平均重合度100から375の白色粉末状結晶セルロースであり,その酢酸保持率が280%以上で,かつ,下記(1)式の圧縮特性を有することを特徴とする高成形性賦形剤に関する。
【数2】

(但し,a=0.85~0.90,b=0.05~0.10であり,そしてPは結晶セルロースに対する圧縮圧力[kgf/cm2]
,V0は結晶セ

ルロースの見掛け比容積[cm3/g]
,Vは圧縮圧力Pにおける結晶セ
ルロースの比容積[cm3/g]を表す)

(エ)

【0015】以下,本発明について詳細に説明する。本発明の高成
形性賦形剤は実質的にセルロースからなる。
実質的
とはセルロース本
来の機能を失わない程度にヘミセルロース,リグニン,油脂などの成分を含んでいても良いことを意味する。その含有量は水分を除いた本発明物質のおおよそ10%以下である。
【0016】本発明でいう結晶セルロースとは,精製木材パルプ,竹パルプ,
コットンリンター,
ラミーなどのセルロース質物質を酸加水分解,
あるいはアルカリ酸化分解して得られるものであって,平均重合度は100~375,好ましくは180~220の白色粉末状の物質である。この物質は特定の重合度を有するために,セルロース粉末の中でも特に高い成形性を有するものであるが,その平均重合度は100~375の範囲である必要がある。平均重合度が100未満だと成形性が不足するので好ましくなく,また,375を超えると繊維性が現れるため,粉体としての流動性が低下するので好ましくない。平均重合度が180~220の場合は特に成形性と崩壊性のバランスが良好なので好ましい。【0018】酢酸はセルロース粉末に吸収されるが非晶領域に存在する遊離水酸基の水素結合(これは一般に,角質化組織と呼ばれる)を解離するほど強い膨潤力を持たず〔R.HASEBE,K.MATSUMOTO,H.MAEDA,Sen’iGakkaishi,Vol.12,p203~207(1955),また,遠心力をかけて試料を圧密し粒子〕
間隙の酢酸の保持量を制限していることから,結局,酢酸保持率とは粒子自身の多孔性とその強度を示すものである。本発明ではこの酢酸保持率が280%以上でなければならない。
【0019】また,川北の式〔K.KAWAKITA,Y.TSUTSU
MI,Bull.Chem.Soc.Japan,Vol.39,No.7,P1364-1368(1966)
〕とは,粉体の加圧による体積の変化
を表した実験式であり,加圧初期において体積の変化が大きい粉体に,特によく一致すると言われている。結晶セルロースも川北の式によく一致する粉体の一つである。川北の式は下記(1)式で表され,aとbは定数であり,Pは結晶セルロースに対する圧縮圧力[kgf/cm2],
V0は結晶セルロースの見掛け比容積[cm3/g]
,Vは圧縮圧力Pに
おける結晶セルロース〔粉体あるいは錠剤〕の比容積[cm3/g]を表すものである。
【数3】

【0020】結晶セルロースの場合,定数aおよびbは大きいほど成形性が高い傾向があるが,本発明においては定数aは0.85~09.0,好ましくは0.86~0.89,
定数bは0.05~010,
好ましくは0.
06~0.09の範囲内にあることが必要である。
aおよび/あるいはb
がこの値より低いと成形性が不充分である。また,aおよびbが範囲内であっても前述の酢酸保持率が280%未満であるか,あるいはaおよび/あるいはbがこの値より高いと加圧圧縮により錠剤の圧密が著しく進行するために,
錠剤の崩壊性が悪化する。
本発明の高成形性賦形剤は,
酸やアルカリあるいは分解生成物がほとんど存在しない湿潤状態もしくは水分散状態のセルロース粒子を加熱処理し,乾燥させることによって製造することができるが,もし加熱処理を施さない場合は水分散状態のセルロース粒子を薄膜状態で乾燥することによって製造することができる。
(オ)

【0021】まず,加熱処理を施す場合の製造方法について説明す
る。すなわち,セルロース質物質を酸加水分解もしくはアルカリ酸化分解し,必要があればその前あるいは後に機械的処理(摩砕等)を施すことによりセルロース粒子を得る。このセルロース粒子は水の他に,酸やアルカリなどの不必要な成分を含んでいるので,ろ過や遠心分離,膜分離技術などを用いてこれらを除去し,精製する。こうして得られたセルロース粒子は,必要に応じて水を加え,固形分濃度が40重量%以下,好ましくは10~23重量%,
25℃におけるpHが5~8.5,
好まし
くは5.5~8.0,電気伝導度が300μS/cm以下,好ましくは150μS/cm以下の湿潤状態,あるいは水分散状態で加熱処理に供する。
【0026】このようにして加熱処理を施した後,種々の方法で水分を蒸発し乾燥させる。乾燥方法は,ディスクタイプあるいは空気使用の二流体ノズルタイプのアトマイザーを用いる噴霧乾燥や棚段熱風乾燥など,通常の方法を用いることができる。この乾燥処理は一度冷却処理を施した後に行っても良いし,
また,
冷却することなく連続的に行っても良い。
ここでいう連続的とは,水分の蒸発とセルロース粒子水分散体の昇温を同時に行う際に,水分の存在する状態で100℃以上に昇温した後に乾燥が終了することを含む。但し,このときの水分は気体状態であっても良い。
【0028】次に,加熱処理を施さなくてもよい場合の製造方法について説明する。すなわち,本発明の高成形性賦形剤は,加熱処理を施さない場合は,水分散状態のセルロース粒子をガラス板やアルミ板などの支持体に薄く伸展した状態で乾燥することにより製造することができる。その場合は固形分濃度が23重量%以下,
pHが5~8.5,
電気伝導度
が300μS/cm以下の水分散状態であることが必要である。具体的な例としては,ガラス板やアルミ板にセルロース粒子の水分散体を薄く
伸展し,室温乾燥あるいは通風乾燥するか,あるいはドラム乾燥機やベルト乾燥機を用いて乾燥する方法などが挙げられる。加熱処理を施した後に,薄膜状態で乾燥すると特に好ましい。薄膜状態で乾燥することにより成形性が高く,かつ,崩壊性に優れた結晶セルロースが得られる理由は明らかではないが,ガラス板のような支持体に接することで棒状のセルロース粒子が2次元的に配列し,かつ,乾燥収縮が制限される,つまり,角質化が抑えられるためと考えられる。
【0029】結晶セルロース等の製造にドラム乾燥機の使用が可能なことは,例えば特公昭40-26274号公報に記載があるが,圧縮成形性が高く,かつ,崩壊性が良好な結晶セルロースを製造するために上記のような条件を選択しなければならないことについては何等記載がなく,従来知られていない技術であった。また,従来常用されていた噴霧乾燥法や熱風乾燥法などは,たとえ送風温度が100℃以上であっても,水の蒸発潜熱のために品温は100℃まで上がらぬうちに乾燥してしまうので加熱処理が施されておらず,また,薄膜状態も取り得ないので本発明の技術とは異なるものである。
【0030】こうして得られた粉体は必要に応じて粉砕,篩分などを行い,粒度分布を調整して使用に供する。本発明の高成形性賦形剤は,篩分法によって粒度分布を測定する場合,実質的に355μmの目開きの篩にとどまる留分は無く,累積50重量%の粒度で表される平均粒径は30~120μmであることが,特に40~100μmであることが好ましい。
【0032】
さらに,
本発明の高成形性賦形剤は見掛け比容積が4.0~
6.0cm3/g,好ましくは4.5~5.0cm3/g,見掛けタッピング比容積が2.4cm3/g以上,好ましくは1.5cm3/g以上の結晶セルロースであることが好ましい。見掛け比容積が4.0cm3/g未満
であると成形性が低下し,6.0cm3/gを超えると粉体の流動性が低下するので好ましくない。見掛けタッピング比容積が2.4cm3/g未満であると,
錠剤が圧密化されて崩壊性が悪化するので好ましくない。
見掛けタッピング比容積の上限は見掛け比容積の値より自動的に6.0cm3/gと決められるが,この値以下であれば特に支障ない。
(カ)

【実施例】

【0051】
(実施例1)市販DPパルプを細断し,10%塩酸水溶液中
で105℃で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過,洗浄,
pH調整,濃度調整を行い,固形分濃度17%,pH6.4,電気伝導度120μS/cmのセルロース粒子水分散体を得た。これをドラム乾燥機(楠木機械製作所(株)製,KDD-1型,スチーム圧力3.5kgf/cm2,ドラム表面温度136℃,ドラム回転速度2rpm,溜め部水分散体温度100℃)で乾燥後,ハンマーミルで粉砕し,目開き425μmの篩で粗大粒子を除き,試料Aを得た。試料Aの基礎物性を表1に示す。
【0053】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られた酸不溶解残渣を
濾過,洗浄,pH調整,濃度調整を行い,固形分濃度18%,pH7.2,電気伝導度84μS/cmのセルロース粒子水分散体を得た。これを噴霧乾燥機(二流体ノズル使用,水分散体を噴霧化する流体にはスチームを使用,
噴霧圧力4kgf/cm2,
約150℃)
にて乾燥したのち,
目開き425μmの篩で粗大粒子を除き,試料Cを得た。試料Cの基礎物性を表1に示す。
(キ)

【0084】

【発明の効果】本発明の高成形性賦形剤によると,該賦形剤は圧縮成形性に優れるので,錠剤の成形に適用した場合に少量の配合で成形が可能なので,小型錠やかぜ薬のような賦形剤の配合に制限があるような場合
に有用である。また,該賦形剤は低い圧縮力で成形が可能であるから,顆粒含有錠のような高い圧縮力を避けなければならない場合にも有用である。さらに,該賦形剤は同時に崩壊性に優れるので,特に崩壊剤を配合することなく錠剤を製すること可能である。

前記アの記載事項によれば,甲12には,実施例1に示すとおり,本件審決認定の甲12発明(前記第2の3⑵ア)が記載されているものと認められる。



甲12発明と本件訂正発明1との同一性の判断の誤りの有無についてア
本件訂正発明1と甲12発明とを対比すると,セルロース粉末が,本件訂正発明1では,
75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0-4.5,安息角が54°以下,平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いことを特徴とするのに対し,甲12発明では,本件訂正発明1における上記特定がされていない点で相違することが認められるから,これと同旨の本件審決の相違点(前記第2の3⑵イ)の認定に誤りはない。
次に,相違点に係る本件訂正発明1の構成中のレベルオフ重合度とは,
2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度を意味することは,前記3⑵イ(ア)認定のとおりである。
しかるところ,
甲12には,
レベルオフ重合度
についての記載はなく,
結晶セルロース粉末の平均重合度をレベルオフ重合度との関係において特定することについての記載も示唆もない。
そうすると,
甲12発明は,
平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いとの点(差分要件)を備えるものと認
めることはできないから,上記相違点のうち,差分要件に係る相違点は実質的な相違点であるものと認められる。

これに対し原告は,①本件明細書の

比較例1のセルロース粉末は甲12記載の実施例1に相当する。

との記載(【0042】,本件出願の審査

手続における意見書(甲3)の本願明細書の比較例1は,本出願人の出願に係る特開平6-316535号の実施例1に相当するものですとの記載によれば,甲12の実施例1のセルロース粉末(試料A)は,本件明細書の比較例1のセルロース粉末Hであるということができるものであり,また,原料や製造方法等が違うからといって,結果としてのセルロース粉末の物としての特性が違うことには必ずしもならない,②セルロース粉末Hの平均重合度は220であるところ,技術常識に照らせば,そのレベルオフ重合度は少なくとも205以下になり,
平均重合度とレベルオフ重合度との差分についても15以上となるから,甲12の実施例1のセルロース粉末(試料A)は,本件訂正発明1の差分要件の構成も備えているとして,差分要件に係る相違点は実質的な相違点ではない旨主張する。そこで検討するに,本件明細書の【0042】には,
セルロース粉末H(乾燥減量3.9%,特開平6-316535号公報記載の実施例1に相当)との記載があるが,他方で,【0042】には,セルロース粉末Hは,
市販SPパルプ(重合度790,レベルオフ重合度は220)を3N塩酸水溶液30L,105℃,30分,低速型攪拌機で攪拌(攪拌速度30rpm)しながら加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過洗浄し,ドラム乾燥機で乾燥後,ハンマーミルで粉砕し,目開き425μmの篩で粗大粒子を除いて得た旨の記載がある。
次に,甲12の【0051】には,実施例1の試料Aは,市販DPパルプを細断し,10%塩酸水溶液中で105℃で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過洗浄し,ドラム乾燥機で乾燥後,ハンマーミルで
粉砕し,目開き425μmの篩で粗大粒子を除いて得た旨の記載がある。これらの記載によれば,本件明細書記載のセルロース粉末Hと甲12記載の試料Aは,原材料がセルロース粉末Hは市販SPパルプであるのに対し,試料Aは市販DPパルプである点,加水分解の条件がセルロース粉末Hは3N塩酸水溶液30L,105℃,30分であるのに対し,試料Aは10%塩酸水溶液中で105℃で30分である点で異なるから,本件明細書の【0042】に,
セルロース粉末H(乾燥減量3.9%,特開平6-316535号公報記載の実施例1に相当)との記載があるからといって,試料Aのレベルオフ重合度2.5N塩酸,沸騰温(度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度の数値がセルロース粉末Hの)
レベルオフ重合度
の数値と一致するものと認めることはできない。また,これと同様に,甲3の本願明細書の比較例1は,本出願人の出願に係る特開平6-316535号の実施例1に相当するものですとの記載があるからといって,試料Aのレベルオフ重合度の数値がセルロース粉末Hのレベルオフ重合度の数値と一致するものと認めることはできない。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであるから,採用することができない。

以上によれば,本件訂正発明1は甲12発明と同一の発明であると認めることはできない。また,本件訂正発明1の発明特定事項を含む本件訂正発明2も,甲12発明と同一の発明であると認めることはできない。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

(3)

小括
以上のとおり,本件訂正発明1及び2と甲12発明との同一性を否定した
本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由3は理由がない。6
取消事由4(甲12発明を主引用例とする本件訂正発明1及び2の進歩性の
判断の誤り)
(無効理由5関係)について


相違点の容易想到性の判断の誤りの有無について
原告は,甲12の本発明でいう結晶セルロースとは,精製木材パルプ,竹パルプ,コットンリンター,ラミーなどのセルロース質物質を酸加水分解,あるいはアルカリ酸化分解して得られるものであって,平均重合度は100~375,好ましくは180~220の白色粉末状の物質である。【001(
6】
)との記載に照らすと,加水分解(あるいはアルカリ酸化分解)によって得られる結晶セルロースの平均重合度は,100~375の範囲になるように調節する必要があり,セルロースの平均重合度は主として加水分解により低下することからすると,当業者は,この範囲の平均重合度となるように加水分解反応工程を調節すべく,
10%塩酸水溶液中で105℃で30分間
と異なる加水分解条件を採用する動機付けがあり,より穏やかな加水分解条件とするかどうかは,目的とする平均重合度にするために当業者が通常行う単なる設計的事項にすぎないから,当業者は,甲12に基づいて,甲12発明において,相違点に係る本件訂正発明1の構成中の平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いとの構成(差分要件の構成)を容易に想到することができたから,これと異なる本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,甲12には,
レベルオフ重合度2.5N塩酸,沸騰温(度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度についての記載はなく,)
甲12発明の結晶セルロース
粉末の平均重合度をレベルオフ重合度との関係において特定することについての記載も示唆もないことは,前記5⑴で説示したとおりである。そして,甲12に接した当業者においては,原告の挙げる甲12の【0016】の記載から,甲12発明において,相違点に係る本件訂正発明1の構
成中の差分要件の構成を採用する動機付けがあるものと認めることはできないし,また,上記構成を採用することが設計的事項であるものと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
これと同様に,本件訂正発明2において,上記構成を採用することを容易に想到することができたものと認めることはできない。


小括
以上によれば,本件審決における相違点の容易想到性の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由4は理由がない。

第5

結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。このほか,原告
は実施可能要件違反など縷々主張するが,被告の主張の誤りを述べるにとどまり,本件審決の認定判断の誤りを具体的に述べるものでないものであるか,又は本件審決の結論に影響を及ぼさない誤りをいうものであるから,いずれも理由がない。
したがって,本件審決にこれを取り消すべき理由は認められないから,原告の請求は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

大鷹一郎
裁判官

小林康彦
裁判官

小川卓逸
(別紙1)

本件明細書

【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

(別紙2)

BATTISTA論文(甲5)

【図2】

【図3】

【図6】

【表Ⅱ】

【表Ⅳ】

【表Ⅴ】

【表Ⅵ】

(別紙3)

乙3

【図1.9】

【図1.10】

(別紙4)

甲12

【表1】

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