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各傷害、傷害致死、暴行被告事件
事件番号令和2(わ)542
事件名各傷害,傷害致死,暴行被告事件
裁判年月日令和3年11月5日
法廷名福岡地方裁判所  小倉支部
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2021-11-05
情報公開日2022-02-06 19:25:07
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事件番号

令和2年(わ)第542号,第592号,第644号

事件名

傷害傷害致死,暴行被告事件

宣告日

令和3年11月5日
主文
被告人両名をそれぞれ懲役12年に処する
被告人両名に対し,未決勾留日数中各240日を,それぞれ
その刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人両名は,令和2年3月頃に出会い系アプリを通じて知り合い,同年4月26日,被告人Bが,その実子である3歳男児の被害者を連れて,福岡県中間市(住所省略)の被告人A方(以下A方という。
)に身を寄せて以降,A方において被
害者と同居し,その間,同年5月中旬には婚姻し,被告人Aは被害者の養父となって暮らしていたものであるが,
第1

被告人Bは,
同年7月2日午後2時20分頃,
A方において,
被害者に対し,
その両眼瞼にセロハンテープを貼る暴行を加え,

第2

被告人両名は,共謀の上,同月19日午後6時38分頃から同月20日午前6時38分頃までの間に,同県宗像市(住所省略)付近の漁港若しくはその周辺又はA方若しくはその周辺において,被害者に対し,その顔面を打撲・擦過する何らかの暴行を加え,よって,被害者に加療約2日間を要する左顔面皮下出血及び表皮剥脱の傷害を負わせ,

第3

被告人両名は,共謀の上,同月23日午後5時26分頃から同月24日午前6時37分頃までの間に,A方において,被害者に対し,その下腹部周囲を打撲・圧迫する何らかの暴行を複数回加え,よって,被害者に加療約1か月間を要する恥骨骨折及び加療約1週間を要する左大腿部筋肉挫傷の傷害を負わせ,
第4

被告人両名は,共謀の上,同月31日午前9時53分頃,A方において,被告人Bが,被害者に対し,その頬を手でたたく暴行を加え,
第5

被告人Bは,同日午前10時20分頃,A方において,被害者に対し,その口腔内にペット用トイレ砂若干量を入れる暴行を加え,

第6

被告人両名は,共謀の上,同日午後2時30分頃,A方において,被告人Bが,被害者に対し,その前額部を手でたたく暴行を加え,

第7

被告人両名は,共謀の上,同年8月9日午後零時30分頃から同日午後11時38分頃までの間に,同県中間市内,同県宗像市内又はその周辺において,被害者に対し,その両下肢を打撲する何らかの暴行を複数回加え,よって,被害者に加療約2日間を要する両下肢皮下出血の傷害を負わせ,

第8

被告人両名は,共謀の上,同月15日夜頃から同月16日午前2時31分頃までの間に,A方において,被害者に対し,その頭部を打撲する何らかの暴行を加え,被害者に急性硬膜下出血の傷害を負わせ,よって,同月27日,北九州市八幡東区(住所省略)の病院において,被害者を前記傷害に基づく多臓器不全により死亡させた。

(証拠の標目)
省略
(被告人Bの弁護人の主張に対する判断)
(以下,判示第1ないし第8について,その順序に従い,それぞれ第1事件ないし第8事件ということがある。また,月日は令和2年のそれを指す。)
1
被告人Bの弁護人(以下,単に弁護人という。
)は,①被告人Bは,同

被告人が公判で供述するとおり,起訴された各事件について,各暴行事件(第1及び第4ないし第6事件)における暴行を除いて自ら暴行に及んだことはなく,各傷害事件(第2,第3及び第7事件)においては,被告人Aの暴行を見ていたにとどまるし,傷害致死事件(第8事件)においては,被告人A及び被害者と同じ部屋にいたものの,被告人Aが被害者の頭部に暴行を加えて致命傷を与えた際には既に眠っていた,
②検察官が主張するような,
第2事件(7月19日~翌20日)以前に,被告人両名の間で,被害者が被告人両名の意に沿わない言動をした場合には,その体を殴るなどの暴行を加える旨の共謀が成立していたこともない(以下,この内容の共謀を指して包括的共謀という。,として,被告人Bは,各傷害事件及び)
傷害致死事件(以下,これら第2,第3,第7及び第8事件を併せて傷害致死等事件という。)について,実行も共謀もしていないから無罪である旨主張する。この点に関して,検察官は,画像データ等から被告人Bによる暴行が明白となっていて,同被告人も認めている各暴行事件(第1及び第4ないし第6事件)においてこそ,同被告人自身の暴行があったと断定できるものの,傷害致死等事件における各傷害の原因となった暴行(以下原因暴行という。
)については,その実
行者や具体的態様に関する被告人両名の公判供述のいずれにも依拠することができないとして,原因暴行に及んだ者が被告人両名のいずれであるかを含めて,その具体的態様は特定できないとの前提に立った上で,包括的共謀があったから被告人両名とも傷害致死等事件について共同正犯としての責任を負う旨主張する。そこで関係証拠を検討した結果,
当裁判所としても,
①被告人Aの,
大要
被告人Bも傷害致死等事件に係る暴行をしていて,取り分け傷害致死事件において致命傷を負わせたのは,目を覚ました自分が目撃した被告人Bによる暴行ではないかとする公判供述には,その内容に看過し難い変遷が認められること,逮捕から公判に至るまでの間に被告人両名の関係性が悪化して婚姻関係も解消されており,被告人Aが被告人Bに責任を転嫁しているおそれがあること,特に傷害致死事件については,強度の暴行が致命傷の原因である旨の解剖医の公判供述や,相当に具体的な被告人Aの発覚当初の供述内容に照らして,むしろ被告人Aが行ったとみるのが自然とも指摘し得る状況にあること等の難点があるから,この供述をもって被告人Bも傷害致死等事件に係る暴行をした,まして傷害致死事件において致命傷を負わせたのは被告人Bである,
などと認めることは相当でなく,傷害致死等事件において,
被告人Aが供述するような被告人Bの暴行は認められないという限りにおいて,弁護人の主張は採用できるけれども,②被告人両名の間には,検察官の主張する包括的共謀の成立が認められ,傷害致死等事件に係る暴行は,弁護人が主張するようにことごとく被告人Aによって行われたのだとしても,いずれもその包括的共謀に基づいて実行されたものと認められるから,被告人Bも各共同正犯の責任を負い,弁護人の主張は採用できないと判断した。
以下,②の点につき,その理由を補足して説明する。2
被告人両名のアプリケーションソフトのメッセージのやり取りには,同居
を始めた4月26日から第2事件までの間に,被害者とA方にいる被告人Bが,仕事先にいる被告人Aに対し,
被告人両名の意に沿わない被害者の言動を報告したり,
被害者を怒るように頼んだりし,これを受けた被告人Aが,
舐めとる等と被害者
に立腹して,帰宅したら被害者に暴力を加える旨予告したり,被告人Bに対して被害者にビンタやたたく等の暴力を加えるように指示したりし,これを受けた被告人Bが,
わかった
叩いた等とこれを容認したり,実行して報告したりする,と
いうやり取りを繰り返す様子が浮き彫りとなっている。
そして,被告人Bが被告人Aに報告する被害者の言動の中には,被害者が被告人Bよりも同居する被告人Aの祖母に懐くこと等に端を発する,被告人B自身の被害者の態度に対する不満も数多く含まれ,また,被告人Aが被告人Bに予告する暴力の中には,
ぶちくらす
ボテボテいく
引きずり回す等の,近い将来における
激しい暴力が容易に想起されるものも含まれている。
のみならず,そのやりとりの中には,被告人B自身が現に被害者に暴力を振るったことを前提としたものが含まれているほか,被告人Bが被告人Aに対して,その指示によることなく自ら被害者に暴力を振るったことを一方的に報告するメッセージも複数認められ,特に7月になると,第1事件のとおりセロハンテープを被害者の両眼瞼部に張り付けた様子を撮影して送信したり,
ムカついたけ壁に腕握ってぶん投げたら泣き止まん笑
(9日午後3時17分)

アバラのとこ蹴ったら吹っ飛んだ笑
(19日午前8時33分)等と,激しい態様の暴力を茶化しながら報告するメッセージをも送信しているのであり,第2事件に先立つ頃までの間に,既に被告人両名とも,さしたる抵抗感もないままに,被害者の意に沿わない言動をきっかけとして被害者に自ら暴力を振るうようになっていたものと推認できる。被告人Bは,当公判において,被害者に対し,自分からは,その手の甲を平手でたたく程度のことしかしていない旨供述するが,その内容は曖昧である上,既に指摘した被告人B自身の暴力を指し示す具体的なメッセージのやり取りとの乖離が甚だしく,信用できない。また,被告人Bは,親族に被告人Aの暴力を相談するためにスマートフォンに画像データを蓄積していたなどとも供述するが,実際には何らの相談も画像送信もしていないばかりか,かえって前記メッセージのやり取りや被告人Bの妹の供述調書等によれば,被告人Bが,当時においては最も近しい,同居する被告人Aの祖母に被害者に生じていたあざが気付かれないように,外出先に被害者を同行させるよう被告人Aと相談したり,テレビ電話で通話した被告人Bの妹から被害者のあざについて問われた際に
ぶつけた蚊に刺された」
等と偽り,発覚回避に意を用いていたことすら認められるのであるから,やはり信用できない。3このように,被告人Bは,第2事件までの間に,単に被告人Aの暴行を消極的に容認して止めなかった,というにとどまらず,自分が送信するメッセージにより被告人Aが立腹して被害者に暴力を加えることになると分かっていながら,あえて被告人Aが不在の際に,被告人B自身の不満をも含んだ被告人両名の意に沿わない被害者の言動を積極的に繰り返し報告したり,被害者を怒るように頼んだりし,更には,自らも被害者に暴力を振るってその旨被告人Aに報告したりして,被告人Aの暴行を積極的に誘発,助長,促進していたものといえる。被告人両名が同居する夫婦として,保育園等に通わせるでもない被害者を専らA方において監護養育する立場にあったことに照らしても,前記のやり取り等を介して被告人Bが被告人Aによる暴力の反復,増長に与えた影響は大きく,被告人Aの暴力は,第2事件に先立つ頃には,被告人Bの意向を反映したものともなっていたと解するのが相当である。弁護人は,被告人Bの公判供述に加え,精神医学の専門家の公判供述等も根拠として,被告人Bが被告人Aの心理的ドメスティックバイオレンス(DV)の影響下にあり,その関与は強制されたものであったから,対等性を基礎とする包括的共謀など成立し得ない旨主張する。しかしながら,既に認定説示したとおり,被告人B自身,自身が不満に思う被害者の言動も含めて被告人Aに繰り返し報告し,時に被告人Aによる暴力を頼んでいることや,被告人Aの指示なく自らの判断で被害者に暴力を振るうこともあったことからすれば,いかに被告人Aが被告人Bに対する独占欲ひいては猜疑心を早々に募らせ,アプリケーションソフト等を通じて自己が不在の間の被告人Bの動向を執拗に監視し束縛していたにせよ,被告人Bが当公判で供述し弁護人が援用するような,被害者を思いやりながらも被告人Aに支配されてその暴力を抑止できず,時には自分も暴力を振るってしまっていたかのような被告人両名の関係性については,弁護人の主張を踏まえて検討してみても,見出すことができない。弁護人が依拠する専門家の公判供述は,被告人Aの供述とも大きく異なる被告人Bの供述を所与の前提とした,被告人Aや被告人Bの家族らとの面談等も経ていないものであり,その前提とする資料や事実には偏りがあるといわざるを得ず,心理的ドメスティックバイオレンスの機序等,精神医学上の一般論についてはともかく,本件に即した個別具体的な内容についてまで前提とすることはできない。以上に認定説示したところによれば,弁護人の主張を踏まえても,被告人両名の間には,第2事件までの間に検察官の主張する包括的共謀が成立していたものと推認できるから,この点を争う弁護人の主張は採用できない。4そして,各事件前後の状況や被害者に加えられた暴行の内容等からすれば,傷害致死等事件における原因暴行は,包括的共謀が成立する以前から生じていた暴力の延長線上にあり,いずれも包括的共謀に基づき行われたものと認めるのが相当である。弁護人は,仮に包括的共謀が成立していたとしても,こと傷害致死事件に係る暴行は,日常的に加えられていた暴行とは次元の異なる強烈なものであって,被告人Bがその暴行時には既に眠っていた旨供述していることからすれば,包括的共謀に基づくものとはいえない(包括的共謀の範囲外である)旨をも主張する。しかしながら,前記のとおり,包括的共謀の成立以前から,被告人Aが被告人Bに予告する暴力の中には激しい態様が容易に想起されるものが含まれており,被告人Bが被告人Aに報告した暴力も,特に7月には「壁に腕握ってぶん投げた(9日)ア,バラのとこ蹴ったら吹っ飛んだ
(19日)といった,3歳児を対象とするいかにも
激しい態様のものとなっているばかりか,同月23日の第3事件においては恥骨骨折が生じるほどの激しい暴行が加えられていたのであるから,傷害致死事件における原因暴行である頭部(前額部)への打撲も,それまでに日常的に繰り返し加えられていた暴力との比較において格別異質なものではなく,その延長線上にあるとみるべきであって,包括的共謀に基づき実行されたものと認めるのが相当である。そして,このことは,被告人Aが被害者に致命傷を負わせた時点では眠っていた旨の被告人Bの公判供述を前提としたところで左右されないから,被告人Bが傷害致死事件についても共同正犯の責任を負うことは揺るがない。この点に関する弁護人の主張も採用できない。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
量刑の中核をなすのは被告人両名の共謀による判示第2ないし第4及び第6ないし第8の事案である。
被告人両名は,未だ3歳の幼い被害者に対して,結局は思いのままにならないという身勝手で理不尽な理由から日常的に暴力を繰り返す中,判示第2ないし第4,第6及び第7の各暴行傷害事件を起こし,その挙げ句に判示第8の傷害致死事件まで引き起こし,尊い命を奪い去った。被害者の遺体に残された外傷の数々と胸腺の殊更な萎縮に照らし,3歳児にとって余りに過酷なストレスが加わり続けていたことは揺るがず,幼児虐待に他ならない判示第2ないし第4及び第6ないし第8の各犯行は,死の結果も含めてむごいの一言に尽きる。無力な幼児として,親である被告人両名と離れようもないまま,その暴力に晒され続けて死を余儀なくされた被害者の辛さ,無念たるや,察するに余りある。
その上で,傷害致死等事件の原因となった暴行の実行者とその具体的態様を特定できない点を,
疑わしきは被告人の利益に
の法原則に従って被告人両名それぞれ
に有利な前提として検討を進めても,被告人Aが,被害者に対し日常的に激しい暴力を加えたり,被告人Bに暴力を指示したりしていたことは動かず,また,被告人Bにしても,被告人Aの暴力を容認するのみならず,被害者の言動を報告したり,自らも被害者に暴力を振るったりして,被告人Aの暴力を誘発,助長,促進していたのであるから,被告人両名の共謀に基づく判示第2ないし第4及び第6ないし第8の各犯行は,まさに被告人両名の言動が相互に影響し合い,被害者に対する暴力の抵抗感を失わせていく過程で起こるべくして起こったものとみられるのであって,被告人両名の犯情の重さに大差はないというべきである。
その上で,被告人Bについては判示第1及び第5の各暴行も認められること,被告人Aについて,
自己が起訴された犯罪の全てについてその成立を認めていること,被告人両名について,それぞれ被害者に対する謝罪の言葉を述べており,その祖母又は母が監督を約していることなどを踏まえ,前科のない親が子を虐待して死亡させた傷害致死事案の量刑傾向も参照し,他事案との量刑の均衡,被告人両名の量刑の均衡の観点にも即して検討を進めた結果,被告人両名それぞれの刑事責任に見合う刑として,いずれも主文の刑が相当であるとの結論に至った。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

被告人両名につき懲役13年)

(被告人Aの弁護人の科刑意見

懲役7年)

(被告人Bの弁護人の科刑意見

暴行罪のみ有罪を前提として,執行猶予)

令和3年11月5日
福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部
裁判長裁判官

井野憲司
裁判官

佐藤洋介
裁判官

佐藤いぶき
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