事件番号 | 令和1(ワ)8905 |
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事件名 | 特許権侵害差止等請求事件 |
裁判年月日 | 令和3年11月18日 |
法廷名 | 大阪地方裁判所 |
全文 | 全文添付文書1 |
最高裁判所 | 〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map |
裁判日:西暦 | 2021-11-18 |
情報公開日 | 2022-02-06 19:24:52 |
令和元年(ワ)第8905号 口頭弁論終結日 同日原本領収 裁判所書記官 特許権侵害差止等請求事件 令和3年9月13日 判決原告 ニプロ株式会社 同訴訟代理人弁護士 知彦 同 岡田 健太郎 同訴訟代理人弁理士 田村 啓同 牧野 大釜 典子 被告 株式会社トップ 同訴訟代理人弁護士 節同 渡邉 佳行 同 鈴木 隆太郎 同訴訟代理人弁理士 佐藤 辰彦 同 吉田 雅比呂 同補佐人弁理士 清水 佐川 智史 主1 原告の請求をいずれも棄却する。 2文 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 1 請求の趣旨 被告は,別紙物件目録記載の製品の生産,譲渡,輸入,譲渡の申出又は輸出をしてはならない。 2 被告は,その占有にかかる前項記載の製品を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,288万3600円及びこれに対する令和元年10月18日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 1 事案の概要 本件は,発明の名称を留置針組立体とする特許(以下本件特許とい い,本件特許に係る特許権を本件特許権という。また,本件特許に係る特許請求の範囲請求項1~3記載の各発明をそれぞれ本件発明1などといい,これらを併せて本件各発明という。)に係る特許権を有する原告が,被告の製造,販売等する別紙物件目録記載の各製品(以下被告各製品という。)は本件各発明の技術的範囲に属し,被告による被告各製品の製造,販売等は本件特許権を侵害す る行為であるとして,被告に対し,本件特許権に基づき,被告各製品の生産等の差止(特許法(以下法という。)100条1項)及び廃棄(同条2項)を求めると共に,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償(民法709条)として288万3600円及びこれに対する令和元年10月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5%の割合に よる遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨より容易に認定で きる事実。なお,枝番号のある証拠で枝番号の記載のないものは全ての枝番号を含む。) (1)当事者 原告は,医療機器,医薬品等の製造,販売等を業とする株式会社である。被告は,医療機器の製造,販売等を業とする株式会社である。 (2)本件特許権 原告は,次の特許権(本件特許権)を有する。 特許番号 特許第6566160号 発明の名称 留置針組立体 出願日 平成31年4月26日 分割の表示 原出願日 平成29年6月2日 優先日 平成28年6月3日(以下本件優先日という。) 登録日 特願2018-521150号(以下原告原出願という。)の分割 令和元年8月9日 特許請求の範囲 別紙特許公報(甲2)中の特許請求の範囲請求項1~3に各記 載のとおり(以下,同公報中の発明の詳細な説明及び図面を本件明細書という。) (3)構成要件の分説 本件各発明をそれぞれ構成要件に分説すると,別紙構成要件の対比表の各欄記載のとおりである。 (4)訂正審判請求 ア 原告は,特許庁に対し,令和2年10月23日付け審判請求書により,本件 発明2及び3に係る特許請求の範囲につき,訂正審判を請求した(以下本件訂正という。)。 イ 本件訂正による訂正後の本件発明2及び3(以下本件訂正発明2などと いい,併せて本件各訂正発明という。)の各特許請求の範囲を構成要件に分説すると,別紙本件各訂正発明の構成要件一覧記載のとおりである。本件訂正が法126条1項,5項及び6項の要件を満たすことは,当事者間に争いがない。他方,本件訂正が同条7項の要件を満たすことについては,後記のとおり,当事者間に争いがある。 ウ 特許庁は,令和3年3月31日,本件訂正につき請求が成り立たない旨の審 決(甲21)をした。これに対し,原告は,知的財産高等裁判所に対し,令和3年5月6日付けで審決取消訴訟を提起した。 (5)被告の行為等 ア 被告による被告各製品の製造販売等 被告は,遅くとも令和元年8月9日以降,被告各製品を業として製造,販売している。 イ 被告各製品の構成 被告製品1は,針刺し事故防止機能付き翼状針である。被告製品2は,針刺し事故防止機能付き翼状針と採血ホルダーがセットになった製品である。被告各製品は,翼状針の部分が同じ構成になっている。原告及び被告が主張する被告各製品の同部分の構成は,それぞれ,別紙被告各製品の構成(原告主張)及び別紙被告各製品の構成(被告主張)に各記載のとおりであり,構成d及びe③を除く各構成は,いずれも当事者間に争いがない。(6)構成要件の充足 ア 被告各製品の構成a~c,d(ただし,当事者間に争いのない構成部分), e①,e②,e④~⑥及びfが,本件発明1の構成要件1A~1E①,1E③及び1F,本件発明2の構成要件2A~2E①,2E③及び2F,本件発明3の構成要件3A~3E②,3E④及び3Fを充足することは,当事者間に争いがない。イ 被告各製品が,本件訂正による特許請求の範囲の訂正部分(別紙本件各訂正発明の構成要件一覧の下線部)につき,被告各製品の針先保護部に設けられた大径部係止手段が弾性変形可能であること(本件各訂正発明につき)及び同係止手段が針先保護部の内部に設けられていること(本件訂正発明3につき)は,当事者間に争いがない。 3 争点 (1)構成要件の充足性 ア 構成要件1E②等の充足性(争点1) イ 構成要件1E④等の充足性(争点2) ウ 構成要件1E⑤等の充足性(争点3) (2)無効の抗弁及び訂正の再抗弁 ア 無効理由1(拡大先願違反)の有無(争点4) イ 無効理由2(乙23発明を理由とする進歩性欠如)の有無(争点5)(3)権利濫用の成否(争点6) (4)損害の有無及びその額(争点7) 第3 1 争点に関する当事者の主張 構成要件1E②等の充足性(争点1) 〔原告の主張〕 被告各製品の針先保護部の拡開部は,相対的に径の小さい小径部と相対的に径の大きい大径部とを備えている。すなわち,被告各製品の大径部側においては,円筒状の胴部が軸方向に基端側に向かってそのまま伸びているだけでなく,それを挟み込むように大径部の骨格を形作る上下の部材が膨らみながら形成され,基端側にお いて両者が繋がる形状になっており,全体として略楕円体形状を形成している。したがって,被告各製品は構成要件1E②,2E②及び3E②(以下,これらを併せて構成要件1E②等という。)の小径部と大径部を備えている。〔被告の主張〕 被告各製品の針先保護部は,基端側の背面は楕円形であるが,拡開部は全体とし て回転楕円体形状ではなく,小径部と大径部は存在しない。特に,大径部側は,針先保護部を構成する円筒状の胴部が軸方向にそのまま伸びており,この胴部からは離れた場所で小径部と小径部を繋ぐ接続部が存在していることによって基端側から見たときに楕円形を構成しているだけであり,基端以外にはこのような接続部はなく,空隙があるにすぎないことから,大径部と呼べる部 分は存在しない。 2 構成要件1E④等の充足性(争点2) 〔原告の主張〕 (1)係止片(構成要件1E④等)の意義 ア 特許請求の範囲の記載 係止片(構成要件1D,2D及び3D(以下,これらを併せて構成要件1D等という。),1E④,2E④及び3E⑤(以下,これらを併せて構成要件1E④等という。))の意義につき,特許請求の範囲の記載によれば,該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた所定位置において,該針先プロテクタに設けられた係止片が該針ハブに対して係止されることで該留置針の針先の再露出が防止されるようになっている留置針組立体であって(構成要件1D等)と規定されていることから,構成要件1D等の係止片は,留置針の針先の再露出を防止する機構であることが必要であり,構成要件1E④等は,これを受けたものである。 また,構成要件1E④等は,前記係止片は,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有しと規定している。これによれば,係止片(構成要件1E④等)は, 前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有していることが要件とされる。したがって,本件各発明における係止片(構成要件1E④等)は,留置針の針先の再露出を防止するための機構であり,かつ,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有している部材である。イ 留置針の針先の再露出(構成要件1D等)の解釈 (ア)以下のとおり,特許請求の範囲及び本件明細書の各記載等を参酌すれば,留置針の針先の再露出とは,留置針の基端側から針先側へ針先プロテクタが移動して留置針の針先が覆われた状態から,再度,針先プロテクタが留置針の基端側へ移動することによって,針先プロテクタの針先側から留置針の針先が再度露出することをいう。針先プロテクタの基端側から留置針及び針ハブが脱落することは, 留置針の針先の再露出に該当しない。 (イ)再露出とは,再び露出することであり,露出していた従前の状態に戻ることを意味している。したがって,留置針の針先の再露出とは,露出していた従前の状態,すなわち針先プロテクタの針先側から留置針の針先が露出する状態に戻ることを意味する。また,再露出するのは留置針の針先とされており, 針先プロテクタの針先側から留置針の針先が露出することを意味すると考えるのが自然である。 (ウ)本件明細書では,留置針の針先が針先プロテクタに覆われた状態から,針先プロテクタが留置針の基端側へ移動することで針先プロテクタの針先側から留置針の針先が露出することを針先再露出と称する一方,針先プロテクタが更に針先側に移動することで針先プロテクタの基端側から留置針が抜けることについては針抜出しと称し,両者を明確に区別している。 本件明細書には,針先露出防止機構と針抜出防止機構が一体的に設けられた実施態様が記載されているが,これらの記載は一実施態様の説明に過ぎず,本件各発明における針抜出防止機構の存在や位置を限定するものではない。本件各発明において,針抜出防止機構は構成要件に何ら規定されていないことから,針抜出防止機構 の位置についての限定はない。 被告主張に係る出願経過については,原告は,針先再露出防止機構である当該部材が可撓性のある部材であることを示すために片の語に補正したものであって,むしろ,原告が当該部材を針先再露出防止機構として捉えていたことを示すものである。 ウ 前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有しの意義 本件明細書では,係止片が針ハブに向かって傾斜した内側面を有することについて,係止片が針ハブ本体から外周側へ押圧されつつ摺動され,留置針の針先側へ針先プロテクタが移動せしめられた所定位置において,係止片が弾性復帰して,係止片による留置針の針先の再露出防止機構が働くようになるとの効果を含めて記載されている。 すなわち,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し(構成要件1E④等)との記載は,構成要件1D等に記載された再露出防止用の係止片につき,針先プロテクタが留置針の針先側に移動した所定位置において,再び基端側に戻らないように針ハブに係止する機能を発揮するように,係止片が針ハブからの押圧によっ て弾性変形し,弾性復帰によって針先の再露出を防止する構造であることを特定したものである。 (2)構成要件の充足 ア 被告各製品の係止片(大径部係止手段。構成e⑤)は,針基に向かって内側 に傾斜し,かつ,大径部側に円筒状の胴部と一体に形成されていることから,構成要件1E④等のうち,前記係止片は,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,前記大径部側に前記円筒状部と一体形成されるに該当する。イ 被告各製品の小径部側壁部について (ア)被告各製品の小径部側壁部(構成e⑤)は,以下のとおり,針先プロテクタ(針先保護部)の基端側から留置針及び針ハブ(針基)が脱落することを阻止するための部材,すなわち本件明細書にいう針抜出阻止のための部材であって,留置針の針先の再露出が防止されるようにするための部材ではない。また,当該小径部側壁部は,前記針ハブに向かって傾斜した内側面も有しない。 したがって,被告各製品の小径部は係止片(構成要件1E④等)に該当しない。 (イ)被告各製品の小径部側壁部が針先再露出防止機構とはいえないこと 該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた所定位置において,…係止される(構成要件1D等)とは,再露出防止を行う所定位置において,針先プロテクタに設けられた係止片が弾性復帰して針ハブ(に設けられた受け部)と係止されることによって,再露出を防止するすなわち留置針が前進しないように止める構造を意味する。 これに対し,被告各製品の小径部側壁部は,針基と針先保護部の位置関係にかかわらず,その突端面により,針基に設けられた回転防止の縦リブの側面を挟持することで針基の回動を防止しているが,これは針基の回動を防止しているにすぎず,留置針が前進しないように止める機能を発揮する構造にはなっていない。したがって,被告各製品の小径部側壁部は,該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた所定位置において,…係止される(構成要件1D等)に該当せず,係止片に該当しない。実際上も,小径部側壁部が針基の縦リブの側面を挟持し,針基を針先保護部に対して回動しないように防止した結果,針先再露出を防止しているのは大径部係止手段であって,小径部側壁部が針基の前進を防止しているわけではない。 そもそも,被告各製品においては,小径部側壁部がなければ針先プロテクタが針ハブの先端側から脱落し針が抜出されてしまい,製品として成り立たないため,小径部側壁部が針抜け出し防止部材であることは明らかである。そのような必要不可欠な部材として針抜出防止機構を設けた上で,これを回動防止としても使用したからといって,これが再露出を防止する係止部になるものではない。また,仮に被告各製品に小径部側壁部が存在しない場合であっても,針基が自由 に回動できるわけでなく,針基を回動させる途中で縦リブが大径部係止手段にぶつかる。このため,回動によって針基の受け部(第2突出部)を大径部係止手段から外すには,小径部側壁部が存在しないだけでは足りず,縦リブを大径部係止手段を乗り越えて回動させることで大径部係止手段と針基の受け部との係止を解除しなければならない。したがって,針先再露出を防止しているのはあくまでも大径部係止 手段と針基の受け部の係止であって,小径部側壁部による回動防止はそのための前提条件になっているにすぎない。本件各発明では,大径部側にのみ針先再露出防止のための係止片が存在することから,針基側に設ける受け部もこれに係止する箇所にだけ設け得ることは当然に予定される設計事項である。その場合に,針基に縦リブを設けた上で,被告各製品のようにその回動を防止する部材を設けたり,小径部 に溝を設けて針基の回動を防止するなどして,係止片と受け部の係止を担保する必要が生じることも当然の設計事項である。本件各発明では,このような設計事項については特段の規定をせず,受け部と係止して再露出を防止する部材を係止片としているのであり,その前提事項について針先再露出防止機構としての係止片に該当するとすることはできない。 (ウ)被告各製品の小径部側壁部が傾斜した内側面を有しないこと被告各製品の小径部側壁部は,前記針ハブに向かって傾斜した内側面(構成要件1E④等)を有しない。そもそも,被告各製品の小径部側壁部は,針先再露出防止機構としての係止片ではなく,前記係止片(構成要件1E④等)に該当しないことから,同部が傾斜した内側面を有するか否かは構成要件1E④等の充足性とは無関係である。 ウ 小括 以上のとおり,被告各製品は,前記係止片である大径部係止手段が前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される一方,前記小径部側には設けられていないこと,小径部側壁部が針先再露出防止機構である前記係止片に該当しないことから,構成要件1E④等を充足する。 〔被告の主張〕 (1)係止片(構成要件1E④等)の意義 ア 特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載によれば,構成要件1D等において係止片を限定しているのは該針先プロテクタに設けられたという部分のみである。該針ハブに対して係止されることで該留置針の針先の再露出が防止されるようになっているとの部分は,このような該針先プロテクタに設けられた係止片の少なくとも一部が果たしている(果たすべき)機能を記載しているにすぎず,文章の構成上,係止片を限定するものではない。また,構成要件1D等により該針先プロテクタに設けられかつ該針ハブに対して係止されることで該留置針の針先の再露出が防止されるようになっている係止片が少なくとも1つ存在することが求められているとしても,それを超えて,該針先プロテクタに設けられているが該針ハブに対して係止されることで該留置針の針先の再露出が防止されるようになっていない係止片,すなわち,針抜け出し防止といった他の機能を果たす係止片が 存在しないことまでは求められていない。 したがって,この構成要件1D等の係止片を指し示す構成要件1E④等の前記係止片も,該針先プロテクタに設けられた係止片であれば足りる。イ 留置針の針先の再露出の解釈 (ア)以下のとおり,構成要件1D等の針先の再露出には,針抜出を防止する機構が含まれる。 (イ)再露出の語は,その文言のとおり,いったん覆われた針先がもう一度露出するという意味しかなく,もう一度露出する際に部品が元の位置関係に復元されるという復元態様まで限定したものとする根拠はない。針先の語も,露出される対象の部品である針の危険な部位を示したものに過ぎず,再露出していく際の露出方向を限定したものとする根拠はない。 (ウ)本件各発明は,特許3134920号(以下原告先行特許という。)を背景技術として改良してなされたものであるところ,原告先行特許は,針先再露出防止機構と針抜出防止機構の双方を備えている。したがって,本件各発明も原告先行特許と同様に双方の機構を備えていることが当然の前提となっている。また,この針先抜出防止機構が存在しなければ,針抜出によって針先が再び露出してしまい,留置 針の針先が安全に保護できて,誤穿刺などのおそれが効果的に防止され得るという,本件各発明の前提となる課題が実現できなくなる。 (エ)本件明細書は,針先プロテクタに針先再露出防止機構と針抜出防止機構を設ける場合,両者を一体的に設けることによって,両者を別々に設ける場合に比べて,構造を簡単なものとすることができる旨を記載している。特に,本件明細書は,こ のような係止部を大径部の内部に設けることで,拡開部の内部スペースを巧く利用することができる旨を記載している。また,本件明細書では,針先再露出防止機構と針抜出防止機構を,一体的に大径部側に設けることを想定する一方で,針抜出防止機構を別に小径部に設けることは予定していない。 構成要件1E④等は,前記係止片は,…前記小径部側には設けられておらず と規定しているところ,これは,上記想定を実現すべく,係止片には針抜出防止機構も含むことを前提に,このような係止片を小径部側には設けない趣旨と考えるのが合理的である。 (オ)出願過程における補正等 原告は,本件各発明の出願過程で,構成要件1D等につき,針先プロテクタに設けられた係止部がとの記載を針先プロテクタに設けられた係止片がと補正したところ,本件明細書において,係止片の語は,針先再露出のための第一係止部である係止爪と針抜出防止のための第二係止部である段差状面を含むものであるから,この補正後の文言は,構成要件1D等の係止片が,針先再露出防止機構のみでなく,針抜出防止機構をも含むことを裏付けるものである。ウ 小径部に設けられてはならない係止片の形状は前記針ハブに向かって傾斜した内側面に限定されないこと(ア)特許請求の範囲の記載によれば,前記針ハブに向かって傾斜した内側面(構成要件1E④)の語は,文章の構成上,本件各発明で実際に大径部側に存在する係止片の形状を説明したものに過ぎず,小径部側に設けてはならない係止片の形状を説明したものではない。 また,本件明細書の記載等を見ても,小径部には係止片が存在しない構成のみが記載されており,小径部側に係止片が存在するが当該係止片が前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有していない構成については,何ら記載がない。(イ)原告は,令和元年5月15日起案に係る拒絶理由通知書(乙14。以下本件通知書という。)に対する同年6月19日提出に係る意見書(乙15。以下 本件意見書という。)において,公知技術である従前の同種製品(針先プロテクタの小径部側に係止片が設けられているもの)と本件各発明の差異として,小径部側ではなく大径部側に係止片を設けることを強調し,同種製品における小径部の係止片の形状を問題としていない。 (ウ)以上のとおり,本件特許権の特許請求の範囲及び本件明細書の各記載並びに 出願経過等を踏まえると,小径部に設けられてはならない係止片の形状は,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有するものに限定されない。(2)構成要件の非充足 ア 針抜出防止機構である被告各製品の小径部側壁部が係止片に該当するこ と 係止片(構成要件1D等及び1E④等)は,針先再露出防止機構に限らず,針抜出防止機構を含むものであるところ,被告各製品の針先保護部の小径部側壁部は,突片と共に針基(針ハブ)の突出部に係止して,針基が針先保護部の基端側から脱落するのを防止するための部材である。 このように,被告各製品は,針抜出防止機構たる係止片を小径部側に設けているものであるから,構成要件1E④等を充足しない。 イ 被告各製品の小径部側壁部は,針先再露出防止機構でもあること (ア)仮に係止片(構成要件1D等及び1E④等)が針先再露出防止機構に限られるとしても,以下のとおり,被告各製品の小径部側壁部は,針抜出防止機構であるだけでなく針先再露出防止機構としての役割を果たすものであるから,被告各製品においては小径部に係止片が存在し,構成要件1E④等を充足しない。(イ)被告各製品の小径部側壁部は,その突端面により,針基に設けられた回転防止の縦リブの側面を挟持することで針基の回動を防止している。 仮に,被告各製品に小径部側壁部が存在しないとすると,針先保護部に針先を収納した後,すなわち,針基を基端側にクリック感が生じる位置まで引いて針先保護部の大径部係止手段と針基の受け部とを係止させ,針先再露出を防止した後で も,針基が針先保護部に対して回動し得る状態となる。この場合,針ハブを90°回動させると,針基の受け部と針先保護部の大径部係止手段との係止が解除され,針基は前進可能となり,針基の受け部は針先保護部の基端部を通過し,針先が針先保護部の先端側から針先再露出することになる。被告各製品の小径部側壁部は,この針基の回転,前進による針先再露出を防止するものであるから,針先再露出防止機能を果たす係止片といえる。被告各製品の小径部側壁部が該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた所定位置(構成要件1D等)以外の位置においても針基の回動を防止しているとしても,上記所定位置においても,該針ハブに対して係止されて針基(針ハブ)の回動を防止し,もって針基の回動・前進による針先再露出をも防止している。また,小径部側壁部が単独ではなく大径部係止手段と共に針先再露出を防止しているとしても,そのことは,小径部側壁部が針先再露出防止機構であることを否定するものではない。 ウ 小径部に設けてはならない形状に限定がないこと 本件各発明において,小径部に設けてはならない係止片が前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有するものに限定されないことは,前記(1)ウのとおりである。 エ 小括 以上のとおり,被告各製品の小径部側壁部は,係止片(構成要件1E④等)に該当し,これが小径部側に設けられていることから,被告各製品は構成要件1E④等を充足しない。 3 構成要件1E⑤等の充足性(争点3) 〔原告の主張〕 (1)凹部(構成要件1E⑤等)の意義 構成要件1E⑤等は,前記小径部の外周面に凹部を設けることにより,前記凹部における前記小径部の肉厚寸法は,前記凹部を設ける前に比べて小さくされていると規定しており,気泡の混入可能性の程度は本件各発明の構成要件に規定されていない。したがって,外周面に凹部が設けられた小径部の肉厚寸法とそのような凹部を設けない場合の小径部の肉厚寸法とを比較して,前者が後者よりも小さくなっていれば,構成要件1E⑤等は充足される。 (2)構成要件の充足 被告各製品の小径部の外周面には相当程度の面積を持った凹部が形成されており,これにより,小径部の肉厚寸法は,凹部を設ける前に比べて小さくなっている。樹脂の肉厚と気泡やヒケ(成形品の表面に凹みを生じる現象。)など(以下気泡等という。)の発生との関係は,樹脂の肉厚を薄くすると気泡等が発生しにくくなるということであり,一定の閾値を下回れば気泡等が全く発生しなくなるというものではない。したがって,被告各製品においても,気泡等の混入という課題自体が存在しないとはいえず,被告各製品は,小径部の外周面に凹部が形成されたことにより,樹脂の肉厚が薄くなり,気泡等が発生しにくい構成になっている。したがって,被告各製品は構成要件1E⑤等を充足する。〔被告の主張〕 (1)凹部(構成要件1E⑤等)の意義 ア 特許請求の範囲の記載 構成要件1E⑤等に係る特許請求の範囲の記載だけでは,小径部の外周面に凹部があることの意義及び効果や,当該意義等を踏まえて当該記載をいかに解釈すべきかは明らかではない。そこで,特許請求の範囲に記載された語の意義については,本件明細書の記載や出願経過等を参酌して解釈すべきことになる。イ 本件明細書,技術常識及び出願経過 原告は,本件特許の出願経過において,先行技術との対比として,本件各発明では,拡開部の小径部の外周面に凹部を設けることにより,当該部位においても部材内へのエアの混入を効果的に防止することができ,寸法誤差を小さくできるなど製品の品質をも向上し得るという効果を奏すると説明していた。 プラスチックの射出成形では,熔解樹脂が冷却して固化する際の体積収縮によって,成形品の肉厚の厚い部分や均一的でない部分においてヒケを生じたり,内部に空洞・気泡を生じたりすることがある。このような気泡等の防止手段として,肉厚部分に凹部を設けて肉厚を薄くする対策(以下肉盗みという。)が一般に行われているところ,本件明細書の記載に鑑みれば,原告が出願経過において説明した エアの混入とはプラスチックの射出成形における空洞・気泡を指すものであり,構成要件1E⑤の凹部はこれを避けるために肉厚を薄くしたもの(肉盗み)と解される。 また,特許・発明は特定の課題を解決するための技術的思想である以上,その構成要件は,解決すべき課題を有する構成であることが前提となる。そのため,構成要件1E⑤等を充足するためには,小径部の肉厚寸法は,凹部を設ける前は,気泡の混入が起こりやすい程度に大きくなっている必要がある。 以上から,構成要件1E⑤等は,前記小径部の外周面に凹部を設けることにより,前記凹部における前記小径部の肉厚寸法は,気泡の混入が起こりやすい程度に大きくなっていた前記凹部を設ける前に比べて,気泡の混入が起こりにくくなる程度に小さくされていることを規定したものと解釈されるべきである。 (2)構成要件の非充足 被告各製品の針先保護部の拡開部の小径部の外周面にある凹みは,ゲート(金型における樹脂の流し込み口)跡の突出を防止するための落とし込みであって,気泡の混入防止を目的とするものではない。また,被告各製品の小径部は,凹みを設ける以前から,気泡の混入が起こりにくい程度に十分に肉厚寸法が小さく均一的(変 化が緩やか)であり,気泡の混入が生じやすいという課題自体が存在しない。このため,当該小径部に凹みが存在していたからといって,被告各製品が本件各発明を利用していることになるわけではない。 したがって,被告各製品は,構成要件1E⑤等を充足しない。4 無効理由1(拡大先願違反)の有無(争点4) 〔被告の主張〕 (1)仮に,本件各発明の構成要件1E⑤等につき被告主張に係る解釈(前記3〔被告の主張〕(1))によらない場合,本件各発明は,以下のとおり,本件優先日前である平成28年4月26日に被告により特許出願(以下被告原出願という。)され,本件優先日後である平成29年11月2日に出願公開がされた特開2017- 196060号公報記載の発明(以下乙2発明という。)と実質的に同一である。(2)特許出願に係る発明と先願の明細書等に記載された発明とが同一である場合には,両者が完全に一致する場合のほか,形式的な相違点があるとしても両者が実質的に同一といえる場合も含まれる。ここで,実質的に同一とは,相違点が,課題解決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないもの)である場合をいう。また,新たな効果とは,単に先願発明の効果と周知・慣用技術自体がもたらす所定の効果との総和では足りず,先願発明に周知技術を適用することによって新たに発生する効果が存在することを要する。 (3)乙2発明と本件各発明との相違点は,前記小径部の外周面に凹部を設けることにより,前記凹部における前記小径部の肉厚寸法は,前記凹部を設ける前に比べて小さくされている点のみである。しかし,プラスチック製品を射出成形により製造するに当たり,気泡等による成形不良を防止するために肉厚部に凹部を設けるのは周知・慣用技術に過ぎない。また,利用者の皮膚に触れる製品やラベルを貼る製品等の製造に当たり,ゲート跡の突出部が皮膚やラベルに触れることを防ぐため,ゲート部分とその周辺を周囲より 低くして凹みを設けることも周知・慣用技術に過ぎない。原告原出願及び被告原出願のいずれの明細書においても,小径部の外周面の形状について,特段の指定・記載は存在せず,任意の方法で採用できることから,この部分は単なる付加・設計事項に過ぎない。 また,大径部の内部を空隙とすることで大径部の厚みを減らし,気泡の混入を防 止するという乙2発明の効果と,肉厚を薄くし,気泡等の発生を防止するという小径部に凹部を設けることによる効果は,それぞれ独立に生じるものであり,前者に後者を付加したとしても先願発明の効果と周知技術の効果の総和が生じるに過ぎず,新たに発生する効果が生じるものではない。 したがって,乙2発明と本件各発明との上記相違点は,課題解決のための具体化 手段における微差に過ぎないから,乙2発明と本件各発明は実質的に同一である。(4)以上より,本件各発明に係る特許は,法29条の2に違反してされたものとして特許無効審判により無効にされるべきものであり(法123条1項2号),原告は,被告に対して本件特許権を行使することができない(法104条の3第1項)。 〔原告の主張〕 (1)本件各発明と乙2発明は,本件各発明が前記小径部の外周面に凹部を設けることにより,前記凹部における前記小径部の肉厚寸法は,前記凹部を設ける前に比べて小さくされている(構成要件1E⑤等)という構成であるのに対し,乙2発明が小径部の外周面に凹部が設けられていないという構成である点で相違する。この相違点は,以下のとおり,周知技術の付加,削除,転換等ではなく,本件 各発明に特有の新たな効果を奏するものであって,課題解決のための具体化手段における微差などではなく,実質的な相違点である。 (2)従来技術においては,針先再露出防止のための係止片が小径部側に設けられていたところ,本件各発明は,係止片を小径部側から大径部側に移動し,小径部には係止片に代えて外周面に凹部を設けるという構造を取ることによって,厚くなり やすい大径部の厚みを薄くして気泡の混入を防止し,従来よりも安全性などの向上を図ることのできる,新規な構造の留置針組立体を提供するという課題を解決したものである。これに伴い,本件各発明は,小径部に凹部を設けてその厚みを薄くしているのであって,その凹部の位置は,拡開部の構造や係止片の位置等と密接に関連した一連の構成である。また,本件各発明では小径部の外周面に凹部を 設けるという手段によって小径部の肉厚寸法を薄くしているが,具体的な肉厚寸法を薄くする手段には他にも選択肢があり得る。 他方,乙2発明は,各別に成形された針本体とプロテクタとを容易に組み付けることができるプロテクタ付き医療用針を提供することを目的としており,肉厚寸法を薄くするとか,気泡の混入を防止するなどという課題は一切記載されていない。 (3)気泡等の防止のために凹部(肉盗み)を設けること自体は周知技術であるとはいえても,その設置位置についてまで一定の周知・慣用技術があるわけではない。ましてや,拡開部よりも内周側でかつ大径部側に係止片が設けられるという本件各発明の具体的な構造において,拡開部の小径部の外周面に気泡等の防止のための凹部を設けることまでが周知・慣用技術といえるものではない。また,本件各発明はゲート跡の落とし込み目的で凹部を設けているわけではなく,製品におけるゲートや落とし込みの場所について周知・慣用技術であることを裏付ける証拠はない。(4)したがって,本件各発明と乙2発明との相違点は,課題解決のための具体化手段における微差とはいえず,実質的な相違点であるから,本件各発明と乙2発明とは実質的に同一とはいえない。 5 無効理由2(乙23発明を理由とする進歩性欠如)の有無(争点5) 〔被告の主張〕 (1) 仮に本件各発明の構成要件1E④等及び1E⑤等につき被告主張に係る解釈 (前記2及び3の各〔被告の主張〕(1))によらない場合,本件各発明は,以下のとおり,本件優先日前公開に係る文献(CN204219517U。平成27年3月25日公開。以下乙23文献という。)記載の発明(以下乙23発明という。)に基づいて容易に発明できたものであるから,本件各発明に係る特許は法29条2項に違反するものとして特許無効審判により無効にされるべきものであり(法123条1項2号),原告は,被告に対して本件特許権を行使することができない。(2)乙23発明の構成は,以下のとおりである。 a2 b2 針22の基端側に設けられた針ハブ20と, c2 針先を有する針22と, 筒状の周壁を有し,針ハブ20に外挿装着されて針先側へ移動することで 針22の針先を覆う外筒10とを備え, d2 移動後の所定位置において,外筒10に設けられた係止受部122が針ハブ 20に対して係止されることで針22の再露出が防止されるようになっている留置針組立体であって, e2 外筒10は, e2① 針軸方向に延びる楕円形の筒状部を有し, e2② 楕円形の筒状部の基端側には,係止受部122と楕円筒状部よりも大径で係 止受部122よりも外周側にあり,小径部と大径部とを備えた拡開部とが設けられ,e2③ 大径部の周壁に,針ハブ20が係合されて針22の針先が突出状態に保持さ れる係合窓14が設けられ, e2④ 係止受部122は,針ハブ20に向かって傾斜した内側面を有し,大径部側 に円筒状部と一体形成される一方,小径部側には設けられていない,f2 留置針組立体。 なお,構成d2に関し,外筒10の係止受部122は,針ハブ20の係止部26と当接して外筒10と針ハブ20とを係止し,針先の再露出を防止する。構成e2②に関し,外筒10の拡開部は,係止受部122よりも外周側に存在する。構成e2④に関し,外筒10の係止受部122は,針ハブ20に向かって傾斜した内側面を有し,大径部側に円筒状部と一体形成されている。また,小径部側には,係止受部,係止片の類は存在しない。 (3)本件各発明と乙23発明との相違点及び相違点に係る構成の容易想到性ア 本件発明1 (ア)相違点 本件発明1と乙23発明を対比すると,両者の相違点は構成要件1E⑤のみである。すなわち,本件発明1では,前記小径部の外周面に凹部を設けることにより,前記凹部における前記小径部の肉厚寸法は,前記凹部を設ける前に比べて小さくされているのに対し,乙23発明では,そのような構成は明示されていない。(イ)相違点に係る構成が容易想到であること 上記相違点について,気泡等防止のための凹部(肉盗み)又はゲート跡の突出防止のための凹み(落とし込み)のいずれと捉えるにせよ,これらは周知技術・慣用 技術の単なる付加にすぎず,実質的相違点とはいい難い。仮にこれを実質的相違点と見るとしても,乙23発明にこのような凹部(凹み)を設ける構成は,少なくとも,本件特許出願当時の当業者であれば容易に想到できる。 しかも,乙23発明では,外筒10の拡開部の小径部が,内側に係止片等の構造がなく,相対的にある程度の肉厚を有していることから,本件特許出願当時の当業者は,気泡等の防止のため,この小径部に凹部を設ける動機を有していたといえる。また,乙23発明は,その形状からして,ゲートを拡開部の小径部側に設けるのが自然・通常である上,医療用の留置針であって,療患者への点滴時等に患者の皮膚に触れることとなるものであるから,本件特許出願当時の当業者は,この小径部側に設けられるゲートにつき,ゲート跡の接触防止のため,その周囲に凹み(落とし込み)を設ける動機を有していた。 (ウ)原告主張に係る相違点1~4(後記〔原告の主張〕(1))は,いずれも相違点でないか,仮に相違点になるとしても,相違点に係る本件発明1の構成は容易に想到できる。 イ 本件発明2 本件発明2は,本件発明1の針先を有する留置針との構成(構成要件1A)を,針先を有する金属製の留置針との構成(構成要件2A)としたものである。 乙23文献には,針の材質について特段の記載はないところ,医療用の針は金属製の針が従来から広く使用されており,一般的である。また,乙23文献には,金属製の針を不可とする事情や敢えて非金属製の針を使用している旨の記載はない。 そうすると,針の材質の点は本件発明2と乙23発明の(実質的)相違点となるものではなく,本件発明2は,本件発明1と同様に,乙23発明に基づいて容易に発明できたものである。 ウ 本件発明3 本件発明3は,本件発明1に,針先プロテクタの先端部分に,翼状部を有しとの構成(構成要件3E①)を加えたものである。他方,乙23発明においても,外筒10の先端部に,針22に隣接した蝶形翼16が設けられている。したがって,本件発明3の針先プロテクタの先端部分の翼状部の点は本件発明3と乙23発明の相違点となるものではなく,本件発明3は,本件発明1と同様に,乙23発明に基づいて容易に発明できたものである。 (4)訂正の再抗弁について ア 本件各訂正発明の技術的範囲への属否 被告各製品は針先保護部の小径部にも係止片を有しており,本件訂正後の構成要件2E④及び3E⑤を充足しない。また,構成要件2E②,2E⑤,3E③及び3E⑥に訂正はなく,被告各製品はこれらの構成要件も充足しない。 イ 本件各訂正発明の進歩性欠如 (ア)原告主張に係る相違点1~4がいずれも相違点でないか,仮に相違点となるとしても,これに係る構成を容易に想到できることは,前記((3)ア(ウ))のとおりである。 また,本件訂正による相違点は,以下のとおり,いずれも設計事項のような些細な差異に過ぎず,本件特許の基準日当時の当業者にとって,乙23発明に,基準日 より前に公表された文献(US2007/0260190A1。2007年11月8日公開。乙36)及び文献(CN200951238Y。同年9月26日公開。乙37。以下,両文献を併せて乙36文献等という。)記載の各発明(以下,両発明を併せて乙36発明等という。)を適用して本件各訂正発明に至ることは容易である。したがって,本件各訂正発明は,進歩性を欠き,なお無効にされるべきものであ る。 (イ)後記原告主張に係る本件訂正による相違点5に関し,乙36文献等には,いずれも,外筒(プロテクタ)側の係止部を弾性変形可能とした構成が開示されている。乙23発明と乙36発明等とは,いずれも翼付静脈留置針というごく狭い分野に属する技術であり,針ハブ(針基)の係止部と外筒(プロテクタ)の係止部とを 当接させて針ハブと外筒とを係止するという構成・機能も同一であるから,当業者には,乙23発明に乙36発明等を適用する動機付けがある。そもそも,針ハブの係止部と外筒の係止部とを一度相互に擦れ違わせた後に当接させて係止するためには,両係止部の少なくとも一方を弾性変形可能にする必要があるところ,いずれの係止部を弾性変形可能とするかは設計事項であって,それによって効果に特段の差異が生じるものではない。また,このような適用・置換を阻害する要因も見当たらない。 したがって,乙23発明に乙36発明等を適用することにより本件訂正発明2の構成に至ることは,本件特許の基準日当時の当事者にとって容易である。(ウ)後記原告主張に係る本件訂正による相違点6に関し,乙36文献等には,いずれも,拡開部と係止部が並列し,係止部の外周側に拡開部が存在する構成が開示 されている。前記(イ)と同様に,乙23発明に乙36発明等の相違点に係る構成を適用し,本件訂正発明3の構成に至ることは,本件特許の基準日当時の当事者にとって容易である。 ウ 拡大先願違反 仮に被告各製品が本件各訂正発明の構成要件を充足する場合,本件各訂正発明が被告原出願と実質同一として拡大先願違反となることは,前記4〔被告の主張〕と同様である。 〔原告の主張〕 (1)本件発明1の進歩性 ア 本件発明1と乙23発明の相違点 本件発明1と乙23発明には,以下の相違点がある。 (ア)相違点1 本件発明1は係止片によって留置針の針先の再露出が防止されるようになっているのに対し,乙23発明はそのような構造になっていない(相違点1)。すなわち,乙23発明における係止受部122は,外筒10の内壁が肉厚になってい るに過ぎず,自由端や固定端を有する片状の部材とはいえず,係止片といえない。(イ)相違点2 仮に乙23発明の係止受部122が本件発明1の係止片に相当するとしても,本件発明1は前記円筒状部の基端側には,前記係止片と,前記円筒状部より大径で前記係止片よりも外周側にあり,小径部と大径部とを備えた拡開部とが設けられている(構成要件1E②)のに対し,乙23発明の係止受部と拡開部と円筒状部の位置関係は,このような構成になっていない(相違点2)。(ウ)相違点3 仮に乙23発明の係止受部が本件発明1の係止片に相当するとしても,本件発明1においては,係止片が小径部側には設けられていない(構成要件1E④)のに対 し,乙23発明においては,係止受部が小径部側に設けられているか否かについて開示がなく,係止受部が小径部側に設けられているか不明である(相違点3)。(エ)相違点4 本件発明1は前記小径部の外周面に凹部を設けることにより,前記凹部における前記小径部の肉厚寸法は,前記凹部を設ける前に比べて小さくされている(構 成要件1E⑤)のに対し,乙23発明はそのような構造になっていない(相違点4)。 イ 相違点に係る本件発明1の構成が容易想到とはいえないこと 乙23発明において,係止受部が外筒の内腔に設けられていることや,係止受部と互いにロック係合し変形可能な係止部が対応して設けられることは,発明の中核部分であるとされている。このような乙23発明を本件発明1の構成に変更することは,乙23発明の中核部分を変更することにほかならないから,相違点1~3の構成を変更することには強い阻害事由がある。 他方,本件発明1にとって,大径部の内周側に係止片を設けることは,拡開部の内部スペースを巧く利用し,部材内への気泡の混入を効果的に防止するという本件 発明1の作用効果に密接に関わる構成であって,まさに本件発明1において創意工夫されている点である。 したがって,乙23発明から出発して相違点1~3に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到できるとはいえない。 また,相違点4につき,小径部の外周面に凹部を設けることは,本件発明1の作用効果とも関連し,本件発明1の構造に特有な技術的意義を有しているのであって,単なる設計事項ではない。さらに,乙23文献によれば,乙23発明は,安全性を高めて自滅を実現し,二次利用を回避することができ,構造が簡単で低コストである安全な自滅式医療用針を提供することを目的とする発明とされており,厚肉を回避するという課題は記載されておらず,小径部に凹部を設けることについての何らの開示も示唆もない。仮に気泡等の防止を意識したとしても,それを回避するため に小径部に凹部を設けるという解決手段を採用するとする理由もない。このため,乙23発明において,小径部に凹部を設ける動機付けはない。以上より,相違点4に係る本件発明1の構成についても,容易想到性を欠く。(2)訂正の再抗弁 ア 被告各製品の本件各訂正発明の技術的範囲への属否 前提事実(前記第2の2(6)イ)及び前記1~3の各〔原告の主張〕のとおり,被告各製品は,本件各訂正発明の技術的範囲に属する。 イ 本件各訂正発明の進歩性 (ア)本件各訂正発明と乙23発明との相違点 本件各訂正発明と乙23発明とは,相違点1~4が存在する。 これに加え,本件訂正発明2と乙23発明は,本件訂正発明2の係止片が弾性変形可能である(構成要件2E④’)のに対し,乙23発明の係止受部は弾性変形しない(相違点5)。 また,本件訂正発明3と乙23発明は,相違点5に加え,本件訂正発明3では係止片が拡開部の内部にある(構成要件3E⑤’)として係止片と拡開部の位置関係 がより明確にされているのに対し,乙23発明の係止受部は,円筒状部の中間に設けられており,拡開部の内部に存在しない(相違点6)。 (イ)相違点に係る構成が容易想到とはいえないこと 相違点1~4に係る本件各訂正発明の構成が容易想到とはいえないことは,前記(1)と同様である。 また,相違点1~3と同様の理由により,相違点5及び6に係る本件各訂正発明の構成についても,いずれも容易想到であるとはいえない。 ウ 拡大先願違反でないこと 本件各訂正発明が拡大先願違反に当たらないことは,前記4〔原告の主張〕のとおりである。 6 権利濫用の成否(争点6) 〔被告の主張〕 原告は,翼付静脈留置針の市場において独占的地位にあるところ,原告による本件特許権に基づく請求は,特許制度の本来の趣旨を目的とするものではなく,被告原出願と被告各製品との些細な設計事項の差異を奇貨とし,被告原出願後であるもののその出願公開前かつ被告各製品発売前の原告原出願をもとに,当該差異を構成 要件とすることを意図した分割出願・特許化を行い,これにより得られた特許権を行使することにより,技術的に優れた被告各製品やそれによる事業を排除・妨害し,もって原告の独占的地位を維持しようとするものである。 このような原告による本件特許権の行使は,私的独占(排除型)(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独禁法という。)3条,2条5項) 又は不公正な取引方法(取引妨害)(同法19条,2条9項6号ヘ,不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)14項)として独禁法に違反する。また,原告による本件特許権の行使は,特許権行使への独禁法の適用除外を定める同法21条の権利の行使と認められる行為とは評価できず,同条は適用されない。 したがって,原告の被告に対する本件特許権の行使は,権利濫用として棄却されるべきものである(民法1条3項)。 〔原告の主張〕 否認ないし争う。 本件訴訟における原告の権利行使は,原告原出願を基礎として適法に分割出願された本件特許権に基づいており,独禁法の適用はなく(同法21条),私的独占(排除型)や不公正な取引方法(取引妨害)に該当する余地はない。7 損害の有無及びその額(争点7) 〔原告の主張〕 被告は,遅くとも,本件各発明が登録された令和元年8月9日以降,現在に至るまで被告各製品の製造販売を継続しており,その間に被告が被告各製品を販売して得た利益は167万円を下らない。 年間売上額2000万円*利益率50%*2/12≒167万円 したがって,法102条2項に基づき,原告は,被告に対し,167万円の逸失利益の損害賠償請求権を有する。 また,被告の侵害行為によって,原告は,本件訴訟を提起することを余儀なくさ れたところ,これに要した弁護士費用は100万円を下らない。 これらに消費税(8%)相当額を加算すると,合計288万3600円となる。〔被告の主張〕 被告が令和元年8月9日以降,被告各製品の製造販売を継続していることは認め,その余は否認ないし争う。 第4 1 当裁判所の判断 構成要件1E④等の充足性(争点2) (1)係止片(構成要件1E④等)の意義 ア 特許請求の範囲の記載 (ア)特許請求の範囲の記載によれば,本件各発明の係止片は,該針先プロテクタに設けられたものであり,該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた所定位置において,該針ハブに対して係止されることで該留置針の針先の再露出が防止されるようになっているものである(構成要件1D等)。これらの記載から,係止片(構成要件1D等)は,針先プロテクタに設けられると共に,該針ハブに対して係止されることで留置針の針先の再露出が防止されるようになっているという構成のものであることが理解される。また,本件各発明の特許請求の範囲には,前記係止片は,前記針先プロテクタが有する針軸方向に延びる円筒状部の基端側に設けられ(構成要件1E②等),前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される一方,前記小径部側には設けられていない(構成要件1E④等)ものであることも記載されている。 (イ)係止片に係る前記各記載のうち,該留置針の針先の再露出の防止に関しては,本件各発明の特許請求の範囲の記載からは,本件各発明に係る留置針組立体が,針先を有する留置針(構成要件1A,3A)又は針先を有する金属製の留置針(構成要件2A),前記留置針の基端側に設けられた針ハブ(構成要件1B,2B,3B)及び筒状の周壁を有し,前記針ハブに外挿装着されて針先側へ移動することで該留置針の針先を覆う針先プロテクタ(構成要件1C,2C,3C)をその構成として備え,該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた所定位置において,該針先プロテクタに設けられた係止片が該針ハブに対して係止されることによって該留置針の針先の再露出の防止が実現される(構成要件1D等)ものであることが理解される。 この記載に加え,再とはふたたび,もう一度の意味を表し,ふたたびとは 「①同じ動作状態などの重なること。にど。②二度目。」 といった意味を有すること(甲10)を踏まえると,針先の再露出とは,針先プロテクタがいったん留置針の針先側へ「移動」し,所定位置において針先プロテクタに設けられた係止片が針ハブに対して係止された後,すなわち留置針の針先が針先プロテクタにより覆われた後に,もう一度留置針の針先が針先プロテクタから露出することを意味していると理解できる。 もっとも,いったん針先プロテクタにより覆われた留置針の針先がもう一度針先プロテクタから露出するに至る機序としては,留置針の針先側へいったん移動した針先プロテクタが,係止片による係止が解除されることにより留置針の基端側へ移動し得る状態となることで,針先プロテクタの針先側から留置針の針先が露出することとなる場合と,留置針の針先側へ移動して針先を覆った針先プロテクタが更に針先側に移動することにより,針先プロテクタの基端側から留置針が脱落する場合とが考え得るところ,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載からは,該留置針の針先の再露出がいずれの場合を意味するかは,必ずしも一義的に明らかとはいえない。 (ウ)係止片に係る前記各記載のうち,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有しに関しては,文章の構成から,少なくとも,前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される係止片の形状を特定するものであることが理解される。他方,当該記載が前記小径部側には設けられてはいない係止片の形状を特定するものか否かについては,そのいずれとも理解し得る余地があり,特許請 求の範囲の記載からは必ずしも一義的に明らかとはいえない。 イ 本件明細書の記載 本件明細書には,次のとおりの記載がある。 (ア)技術分野 「本発明は,血管に穿刺されて留置される留置針の使用後に当該留置針の針先を保護する留置針用針先プロテクタを備える留置針組立体に関するものである。」 (【0001】)(イ)背景技術 特許文献1に記載の針先プロテクタは筒状の周壁を備えており,留置針の使用後に当該周壁を針先側に移動させることで,留置針の針先が針先プロテクタにより保護されるようになっている。具体的には,留置針の使用前には,針先プロテクタと針ハブとが,留置針の針先が露出する状態で連結固定されているが,使用後に針先プロテクタと針ハブとの連結を解除することで,針先プロテクタが針ハブに対して針先側へ移動して針先を保護するとともに,係止部…でかかる状態を保持することができるようになっている。(【0004】。なお,特許文献1とは,特許第3134920号公報(乙1。以下乙1文献という。)である。) 「本出願人は,かかる針先プロテクタを備えた留置針組立体の更なる改良を検討して,上記特許文献1に記載の留置針組立体よりも,安全性などに優れた本発明を開発し得たのである。」 (【0005】)(ウ)発明が解決しようとする課題「本発明は,上述の事情を背景に為されたものであって,その解決課題は,従来よりも安全性などの向上を図ることのできる,新規な構造の留置針組立体を提供することにある。」 (【0007】)(エ)課題を解決するための手段第1の態様は,筒状の周壁を備えており,留置針の針ハブに外挿装着されて針先側へ移動することで該留置針の針先を覆う針先プロテクタであって,前記留置針の針先側への移動位置において前記針ハブに係止されて,該留置針の基端側への後退を阻止することで前記針先の再露出を防止する係止部が,前記筒状の周壁で覆われた内部に形成されていると共に,該係止部が該筒状の周壁に一体成形されていることを特徴とするものである。(【0013】) 「第4の態様は,前記第1~第3の何れかの態様に係る留置針用針先プロテクタにおいて,前記筒状の周壁の基端側に外周に広がる拡開部が設けられており,該拡開部の中に前記係止部が設けられているものである。」 (【0019】)第5の態様は,前記第4の態様に係る留置針用針先プロテクタにおいて,前記拡開部の前端部分には,前記筒状の周壁の内周面において前方に向かって外周側に広がる段差状面が設けられており,該段差状面よりも該拡開部の後端部分において後方に向かって前記係止部が突出形成されているものである。(【0021】)本態様に従う構造とされた留置針用針先プロテクタによれば,周壁の内周面に,前方に向かって外周側に広がる段差状面が設けられていることから,例えば針ハブの外周面に外周側に突出する係止凸部を設けることで,針先プロテクタに対して留置針を基端側へ移動させた際に,係止凸部と段差状面とが係合して,それ以上の留置針の基端側への移動が制限され得る。それ故,係止部を利用して,留置針が針先プロテクタの基端側から抜け落ちることを防止することも可能となる。(【0022】)「第7の態様は,前記第1~第6の何れかの態様に係る留置針用針先プロテクタにおいて,前記筒状の周壁の周方向において互いに離隔して複数の前記係止部が設けられているものである。」 (【0026】)本態様に従う構造とされた留置針用針先プロテクタによれば,周方向において互いに離隔して複数の係止部が設けられていることから,留置針の基端側への後退がより確実に阻止されて,針先の再露出防止効果が一層安定して発揮され得る。(【0027】) 第8の態様は,前記第1~第7の何れかの態様に係る留置針用針先プロテクタにおいて,前記係止部において前記筒状の周壁から延びる自由端側が,前記針ハブへの係止により該筒状の周壁内での前記留置針の針先側への移動による針先再露出を阻止する第一係止部とされていると共に,該係止部において該筒状の周壁によって一体的に支持された固定端側が,該針ハブへの係止により該筒状の周壁内での該留置針の基端側への移動による針抜出しを阻止する第二係止部とされているものである。(【0028】)本態様に従う構造とされた留置針用針先プロテクタによれば,周壁に形成された係止部により留置針の針先プロテクタに対する先端側および基端側への両方向の移動が防止されることから,針先再露出阻止機構と針抜出阻止機構を別々に設ける場合に比べて,構造を簡単なものとすることができる。(【0029】) この留置針組立体において,前記係止部において前記筒状の周壁から基端側に向かって延びる自由端側が,前記針ハブへの係止により該筒状の周壁内での前記留置針の針先側への移動による針先再露出を阻止する第一係止部とされていると共に,該係止部において該筒状の周壁によって一体的に支持された固定端側が,該針ハブへの係止により該筒状の周壁内での該留置針の基端側への移動による針抜出しを阻止する第二係止部とされている一方,該針ハブには係止凹部が設けられており,該係止凹部の基端側の内面によって該第一係止部が係止される第三係止部が構成されていることが好ましい。(【0034】)これによれば,針先プロテクタの係止部における第一係止部や第二係止部が針ハブに対して係止されることで,留置針の針先プロテクタに対する先端側および基端側への両方向の移動が防止されることから,針先再露出阻止機構と針抜出阻止機構を別々に設ける場合に比べて,構造を簡単なもの又はコンパクトなものとすることができる。(【0035】)これらの留置針組立体において,前記係止部において前記筒状の周壁から基端側に向かって延びる自由端側が第一係止部とされており,前記針ハブの外周面に設けられた第三係止部に対して該第一係止部が係止されることで,該筒状の周壁内での前記留置針の針先側への移動による針先再露出が阻止されるようになっている一方,該第一係止部の基端側端面が,前記留置針の針軸方向に対して直角に交差する第一軸直面を有していると共に,該第三係止部が,該留置針の針軸方向に対して直角に交差する第三軸直面を有していることが好ましい。(【0036】)大径部68,68における外周面は,先端側から基端側に向かって外形寸法が次第に大きくされており,円筒状部62の外周面から大径部68,68の外周面にかけては滑らかな湾曲面で接続されている。また,円筒状部62から大径部68,68にかけての肉厚寸法は針軸方向で略一定とされているとともに,小径部66,66の肉厚寸法より小さくされている。これより,拡径部64の内部には,断面が,図6中の左右方向寸法より図6中の上下方向寸法の方が大きくされた略長円形状とされて,且つ,基端側に向かって図6中の上下方向寸法が次第に大きくなる内部空間70が,針先プロテクタ10を貫通する内孔60の基端側に形成されている。(【0056】)かかる内部空間70内において,周壁58の内周面65からは,内部に突出する一対の係止部としての係止片74,74が一体的に形成されている。これらの係止片74,74は,拡径部64における大径部68,68の内部において,大径部68,68に対応する位置,すなわち図6中の上下方向で対応して(周方向で相互に離隔して)設けられている。(【0058】)すなわち,拡径部64の前端部分において,周壁58の内周面65には,所定の寸法C(図9参照)をもって軸直角方向に広がる環状の段差状面76が形成されており,当該段差状面76よりも先端側が基端側よりも大径とされている。…なお,段差状面76における軸直角方向の寸法Cは,係止凹部36の先端側規制面42における軸直角方向の寸法Bよりも小さくされている。そして,段差状面76よりも基端側において,段差状面76から周壁58の基端側に向かって係止片74,74が突出形成されている。なお,かかる係止片74,74は,段差状面76から基端側に向かって針軸方向と略平行に延びているとともに,それぞれ周方向に湾曲しており,その突出先端(針軸方向基端)には内周側に屈曲する係止爪78,78が形成されている。(【0059】) 係止爪78,78の基端側端面(突出先端面)79,79は,内周側が所定の寸法D(図9参照)をもって軸直角方向に広がる79a,79aとされているとともに,外周側が,外周側になるにつれて先端側に傾斜する傾斜面79b,79bとされている。本実施形態では,垂直面79a,79aにおける軸直角方向の寸法Dが,係止凹部36の基端側規制面40における軸直角方向の寸法Aと略同じか或いはわずかに大きくされている。これにより,後述するように,係止爪78,78が基端側規制面40に当接して針ユニット20の先端側への移動(針先プロテクタ10の針軸方向基端側への移動)が制限される際には,基端側規制面40の全面が垂直面79a,79aに当接することとなり,十分に大きな当接面積が確保され得る。更にまた,垂直面79a,79aの外周側に位置する傾斜面79b,79bが,外周側になるにつれて先端側に傾斜していることから,垂直面79a,79aと基端側規制面40とが傾斜面79b,79bに干渉されることなく当接することができて,針ユニット20と針先プロテクタ10の軸方向における相対移動防止効果がより確実に発揮され得る。(【0061】)【図6】 【図9】 「初期状態では,針先プロテクタ10の係止爪78,78が針ハブ本体26の小径筒部32の外周面に当接している。」 (【0065】)留置針16を抜去する場合には,…針ハブ22における係合腕50,50を手指で内側へ押圧する。これにより,フック56,56と貫通窓72,72との係止が解除されて,針ユニット20を針先プロテクタ10に対して基端側へ移動させることが可能となる。さらに,針ユニット20を針先プロテクタ10に対して基端側へ移動させて留置針16を皮膚から抜去することで,針先プロテクタ10が針ユニット20の針先14側に移動せしめられる。(【0067】)この際,何らかの外力により係合腕50,50が内側へ押圧されて針ハブ22(針ユニット20)と針先プロテクタ10との係止が意図せず解除されたとしても,係止爪78,78が当接する小径筒部32により先端側の外周面は,先端側に向かって次第に外形寸法が大きくなるテーパ状面34とされていることから,針ユニット20を針先プロテクタ10に対して基端側へ移動させる外力を加えなければ,針ユニット20が移動することがないようになっている。これにより,意図せず留置針16の針先14が針先プロテクタ10で保護されてしまう不具合が防止され得る。(【0068】) ここにおいて,針ユニット20を針先プロテクタ10に対して基端側へ移動させることにより,係止片74,74が針ハブ本体26のテーパ状面34により外周側へ押圧されつつ係止爪78,78がテーパ状面34に対して摺動せしめられる。これにより,係止片74,74には内周側への弾性復元力が付勢力として及ぼされる。それ故,係止爪78,78のテーパ状面34への押圧力が抵抗となって,使用者が,針先プロテクタ10に対して針ユニット20を引き抜いている感触を確認しつつ,針ユニット20を移動させることができる。(【0069】)図7~9に示されるように,針ユニット20を針先プロテクタ10に対して後退移動させる(針ユニット20の針先14側へ針先プロテクタ10を前進移動させる)ことにより,留置針16の針先14が針先プロテクタ10で覆われるとともに,係止片74,74の係止爪78,78が針ハブ本体26のテーパ状面34を乗り越えて弾性復帰して,係止凹部36内に入り込むようになっている。かかる状態では,係止爪78,78の特に垂直面79a,79aと係止凹部36の基端側規制面40とが当接する(係止爪78,78が基端側規制面40に係止される)ことで針ユニット20の先端側への移動(針先プロテクタ10の針軸方向基端側への移動)が制限されるようになっている。これにより,留置針16の針先14の再露出が阻止されるようになっている。(【0070】)それとともに,係止片74,74の前端部分に設けられた段差状面76と係止凹部36の先端側規制面42とが当接する(段差状面76が先端側規制面42に係止される)ことで針ユニット20の基端側への移動が制限されるようになっている。これにより,留置針16の,針先プロテクタ10の基端側への抜出しが阻止されるようになっている。それ故,針先プロテクタ10に対する針ユニット20軸方向両側への移動が阻止されて,針先プロテクタ10による留置針16の針先14の保護状態が維持されるようになっている。(【0071】)すなわち,本実施形態では,係止片74,74の自由端側に設けられた係止爪78,78が,留置針16の針先14の再露出を阻止する第一係止部とされている。一方,係止片74,74の固定端側を一体的に支持する段差状面76が,針ユニット20の,針先プロテクタ10の基端側からの抜出しを阻止する第二係止部とされている。(【0072】)特に,本実施形態では,一対の係止部(係止片74,74)が設けられていることから,かかる係止部が針先プロテクタ10の周壁58に一体成型されていることとも相俟って,上記の如き針先プロテクタ10を留置針16の先端側に移動させて第一係止部により係止せしめた際に,針先プロテクタ10が針ユニット20に対してがたつく等の不具合が効果的に防止され得る。このように,係止部(係止片)を2つ,または3つ以上設けることで,針先プロテクタ10における留置針16の基端側への後退がより確実に阻止されて,針先の再露出防止効果が一層安定して発揮され得る。(【0073】)ウ 出願経過 本件特許出願につき,特許庁審査官は,本件通知書において,針先プロテクタを,断面が小径部と大径部とを備えた楕円形となるように形成することは周知技術である…。そして,針先プロテクタの断面形状をどのような形状とするかは,使用感,デザイン,材料削減等に応じて,当業者が適宜設計し得た事項である。したがって,引用文献1に記載された針先プロテクタの断面形状を,周知の形状である小径部と大径部とを備えた楕円形とし,大径部の周壁に針ハブ係合部を設け,大径部の周壁で覆われた内部に係止部を設け,小径部の外周面に凹部を設けた構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。などとして,法29条2項の規定 により特許を受けることができない旨の理由を通知した。 これに対し,原告は,本件意見書及び令和元年6月19日提出の手続補正書において,図9において,係止部74が針ハブに向かって傾斜している内側面を有することに基づき,当初の請求項1~3に前記係止片は,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,の記載を追加すると共に,当初図面の図4および図6において,(3)の係止片は,大径部側に前記円筒状部と一体形成され,拡径部の小径部側には設けられていないことに基づき,前記拡径部の前記大径部に対応する位置に,前記筒状の周壁に一体形成された前記係止部が設けられて,の記載を前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される一方,前記小径部側には設けられておらず,とするなど,当初の請求項1~3の記載を本件各発明に係る請求項の記載に補正した。 また,原告は,上記拒絶理由につき,本件意見書において,本願発明と引用文献1の針先プロテクタを対比すると,両者は,少なくとも…(ii)本願発明では拡開部の大径部側に係止片を設けるのに対し,引用文献1では拡開部の小径部側に対応する位置に係止片を設ける点で相違します。とした上で,以下のとおりの意見を述べ,本件各発明は進歩性を有するとした。 小径部と大径部とを備えた針先プロテクタが周知であるとして審査官殿が指摘された引用文献のうち,小径部と大径部とを備えた針先プロテクタの具体的な構造を開示した引用文献2および4では,いずれにおいても針先プロテクタの小径部側に係止部が設けられており,…このことは小径部と大径部とを備えた針先プロテクタを開示した別の例である国際公開2006/123645号においても同様です…。 したがって,引用文献1から出発して,引用文献2~4に基づいて小径部と大径部を備えるように針先プロテクタの形状を改変する動機が仮にあったとしても,拡開部の小径部側に係止部を持つ構成が得られるのみであり,大径部側に係止部を持つ構成(上記相違点(ii))は導かれません。上記相違点(ii)により,「大径部68,68が厚肉となることも回避されて,成形時の部材内への気泡の混入などによる寸法誤差の発生や品質精度の低下が抑えられるという本願発明に特有の有利な効果を奏するから…,これは単なる設計事項ではありません。また,本件発明者等は,針先プロテクタの拡開部を小径部と大径部を有する形状にすると大径部が厚肉となりやすいため,針先プロテクタの成形時に大径部に気泡が混入しやすく,そのことが針先プロテクタの拡開部へのバリ発生や 強度低下の原因となることに着目して,本願発明を想到するに至ったものであり,このような課題を認識することなく,相違点(ii)を導く動機があったともいえません。」 エ 検討 (ア)本件明細書の記載によれば,本件明細書においては,針先の再露出ないしこれと同旨の意味を含む表現(針先再露出阻止機構等)と針抜出しないしこれと同旨の意味を含む表現(針抜出阻止機構等)がそれぞれ用いられている。その上で,針先の再露出等の表現は,針先プロテクタが留置針の針先側への移動位置において針ハブに係止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ後退(移動)すること(【0013】,【0027】,【0070】,【0073】)又は留置針が針先側(先端側)へ前進(移動)すること(【0028】,【0029】,【0034】~ 【0036】)により針先が外部に露出することを意味する場合に用いられている。他方,針抜出し等の表現は,留置針が基端側へ移動し,針先プロテクタの基端側から抜け落ちることにより針先が外部に露出することを意味する場合に用いられるものと理解される(【0022】,【0028】,【0029】,【0034】,【0035】,【0071】)。 このように,本件明細書では,針先の再露出等と針抜出し等の表現が明確に使い分けられていることを踏まえると,留置針の針先の再露出(構成要件1D等)とは,針先プロテクタが留置針の針先側への移動位置において針ハブに係止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ後退(移動)すること又は留置針が針先側(先端側)へ前進(移動)することにより針先が外部に露出することを 意味するものであって,留置針が基端側へ移動し,針先プロテクタの基端側から抜け落ちることにより針先が外部に露出する場合はこれに含まれないと解される。これに反する被告の主張は採用できない。 したがって,係止片(構成要件1D等)は,上記の意味における留置針の針先の再露出を防止する機構を構成するものと理解される。構成要件1E④等の 係止片も,前記係止片として構成要件1D等を受けたものであることから,同様である。 (イ)係止片(構成要件1E④等)につき,本件明細書には,針先プロテクタの大径部側に形成されるものの形状及び機能等に関しては,それが針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,円筒状部と一体形成されることを含めて具体的に記載されている(【0028】,【0034】,【0036】,【0058】,【0059】,【0061】,【0065】,【0067】~【0070】,図9)。これに対し,小径部側に設けられない係止片に関しては,その形状はもとより,係止片を小径部側に設けないことの技術的な意義ないし作用効果やこれを設けた場合の弊害等について,本件明細書には何ら記載されていない。 また,本件特許の出願経過を見ると,本件意見書によれば,小径部に設けられて いない係止片の形状につき,原告は前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有するものを念頭に置いていると理解する余地もあるものの,本件各発明の進歩性を主張するに当たり,本件通知書の引用文献2及び4に各記載の針先プロテクタの小径部側に設けられている係止部の具体的な形状に言及してはおらず,小径部に設けられていない係止片の形状についてはもとより,係止片を小径部側に設け ないことの技術的な意義ないし作用効果やこれを設けた場合の弊害についての言及もない。そうすると,本件意見書の記載については,原告は,公知の発明と構成が異なることを示す趣旨で係止片が小径部側には設けられていないことに言及したに過ぎず,係止片の形状に関しては,拡開部の大径部側に設けられた係止片が針ハブに向かって傾斜した内側面を有することを説明するにとどまり,小径 部側に設けられていない係止片に関しては何ら述べていないものと理解される。このような本件明細書の記載及び本件特許に係る出願経過を参酌すると,係止片(構成要件1E④等)につき,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有しとは,前記大径部側に前記円筒状部と一体形成される係止片の形状を特定したものであって,前記小径部側には設けられていない係止片の形状 を特定するものではないと理解される。これに反する原告の主張は採用できない。(ウ)小括 以上より,本件各発明の係止部とは,該針先プロテクタに設けられたものであり,これが該針ハブに対して係止されることで該留置針の針先の再露出が防止される,すなわち,針先プロテクタが留置針の針先側への移動位置において針ハブに係止された後に,針先プロテクタが留置針の基端側へ後退(移動)すること又は留置針が針先側(先端側)へ前進(移動)することにより針先が外部に露出することを防止するものであって(以上につき,構成要件1D等),針先プロテクタの有する前記円筒状部の基端側に設けられるものであり(構成要件1E②等),かつ,前記針ハブに向かって傾斜した内側面を有し,前記大径部側に前記円筒状部と一体形成されるが,その形状のいかんを問わず前記小径部側には設けられない(以上につき,構成要件1E④等)ものであると解される。(2)構成要件の充足性 ア 被告各製品の小径部の側壁部の構成等 (ア)被告各製品の小径部側壁部につき,針先保護部(針先プロテクタ)の基端側に設けられていること,針抜出防止機構(針先プロテクタが留置針の針先側への移動位置において針ハブに係止された後に,更に留置針が基端側へ移動し,針先プロテクタの基端側から抜け落ちることにより針先が外部に露出することを防止する機構)として機能すること,及び,少なくとも針管と針先保護部が相対移動してクリック感が生じる位置において,小径部側壁部の突端面により針基に設けられた縦リブの側面を挟持することで,針基が針先保護部に対して回動を防止する状態となる ことについては,当事者間に争いがない。 (イ)証拠(甲3~6,乙5)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品においては,小径部側壁部が針基に設けられた縦リブの側面を挟持することで針基の回動を防止しつつ,針先保護部が初期状態の配置位置から留置針の針先方向へ移動し,小径部側壁部が針基に設けられた縦リブの側面を挟持した状態のまま,クリック感が生じる位置(該留置針の針先側へ該針先プロテクタが移動せしめられた所定位置(構成要件1D等)に相当する。)である針基の受け部において大径部係止手段が針基に対して係止されることによって,針管の針先が再度,針先保護部の先端側から露出することが防止されることとなる。 また,証拠(乙63)及び弁論の全趣旨によれば,仮に被告各製品の小径部側壁 部が存在しない場合,針基の受け部においても針基は回動可能な状態にある。この場合,針基が回動したとしても,針先保護部の大径部係止手段に針基の縦リブが接触することにより針基の回動がいったん停止することとなる。この状態ではなお大径部係止手段と針基の受け部が接触しているため,直ちに針先保護部が基端側に移動可能となるものではない。もっとも,この状態において一定の外力が加えられる と,縦リブが大径部係止手段を乗り越えて再び回動するなどして,針基の受け部と大径部係止手段の係止が解除され,針先保護部が基端側に再度移動し,留置針の針先が再露出する状態となり得ることが認められる。 しかも,被告各製品の添付文書(甲5)には,次のような記載がある。・針を収納する際は,ロックが外れたことを確認し,真っ直ぐ引くこと。(針基が曲がったり,折れるおそれがある。)・針が収納,固定された状態でグリップ部を強く引っ張る,回転させる操作をしないこと。(針基が曲がったり,折れるおそれがある。)・針が収納,固定された状態で針先が飛び出す方向に力を加えないこと。(針刺し及び感染のおそれがある。) これらの記載によれば,被告各製品においては,留置針を収納する際や収納・固定された状態において日常的な使用時に作用し得る程度の外力により,針基の屈曲や針先再露出といった状態が生じ得ることがうかがわれる。まして,被告各製品の小径部側壁部が存在しない場合は,更に小さい外力によりこのような状態が生じ得ると考えられる。 (ウ)そうすると,被告各製品においては,針先保護部に大径部係止手段及び小径部側壁部が設けられており,針管と針先保護部が相対移動してクリック感が生じる位置において,針先保護部に設けられた大径部係止手段が針基に対して係止されることと,針基に設けられた縦リブと針先保護部に設けられた小径部側壁部とが相互に係合することにより針基が針先保護部に対して回動することが防止される状態にあることとが相まって,針基が大径部係止手段をすり抜けて針先保護部に対して前 進することができなくなっているものと認められる。すなわち,被告各製品は,大径部係止手段のみならず小径部側壁部が針先保護部に設けられていることにより針先の再露出が防止される構成となっている。 以上のとおり,被告各製品の小径部側壁部は,針先再露出防止機構としての機能をも有するものと認められる。したがって,被告各製品の小径部側壁部は,係止片(構成要件1D等)に該当し,これが小径部に設けられている以上,被告各製品は,前記係止片は,…前記小径部側には設けられておらず(構成要件1E④)を充足しない。 イ 原告の主張について 原告は,被告各製品の小径部側壁部は針先再露出を防止するものではなく,係止片(構成要件1D等)に該当するものではないとして,縷々主張する。しかし,前記のとおり,被告各製品の小径部側壁部は,被告各製品において,針先の再露出を防止する機構としての機能を有する。本件各発明の特許請求の範囲には,針先プロテクタに設けられた係止片が針ハブに対して係止される場合の係止の具体的態様を限定する記載はなく,本件明細書を見ても,係止の具体的態様を限定 する趣旨の記載は見当たらない。また,本件明細書の記載によれば,本件各発明の実施例として,針先再露出阻止機構と針抜出阻止機構を一体に設ける態様(【0028】,【0029】,【0034】,【0035】)が想定されていることや, 「本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものではなく,当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良などを加えた態様で実施可能である。」 (【0094】)とされていることなどを踏まえると,本件各発明において,針先再露出防止効果を安定的に発揮するために,大径部係止手段と相まって針先の再露出を防止する機能を果たす部材や,針先再露出機構と針抜出防止機構を兼ねる部材は,係止片(構成要件1D等)に含まれると解される。その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用できない。2 まとめ 以上のとおり,被告各製品は,本件各発明の構成要件1E④等を充足しないことから,その余の点を論ずるまでもなく,被告による本件特許権の侵害は認められない。したがって,原告は,被告に対し,本件特許権に基づく差止及び廃棄請求権並びに本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権のいずれも有しない。第5 結論 よって,原告の請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 杉浦一輝 裁判官 布目真利子 |