判例検索β > 平成28年(ワ)第44122号
損害賠償請求事件
事件番号平成28(ワ)44122
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和3年6月24日
裁判所名・部東京地方裁判所
裁判日:西暦2021-06-24
情報公開日2021-08-30 14:00:21
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令和3年6月24日判決言渡

同日原本領収

平成28年(ワ)第44122号

裁判所書記官

損害賠償請求事件,平成29年(ワ)第1004

3号独立当事者参加事件(以下第1事件という。

平成29年(ワ)第4824号
損害賠償請求事件,平成29年(ワ)第17153

号独立当事者参加事件(以下第2事件という。

平成29年(ワ)第5497号

損害賠償請求事件,平成29年(ワ)第20519

号独立当事者参加事件(以下第3事件という。

口頭弁論終結日令和3年1月19日
(第1及び第2事件)同年6月3日

(第3事件)
判主決文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2参加人と原告Aとの間において,参加人の原告Aに対する,Cの診療に関する医療過誤を理由とする損害賠償債務につき,2445万4051円を超えて存在しないことを確認する。
3参加人と原告Bとの間において,参加人の原告Bに対する,Cの診療に関する医療過誤を理由とする損害賠償債務につき,2445万4051円を超えて存在しないことを確認する。
4参加人と被告らとの間において,参加人の被告らに対する,Cの診療に関する医療過誤を理由とする損害賠償債務の共同不法行為者としての負担部分を理由
とする求償債務につき,4890万8102円を超えて存在しないことを確認する。
5
訴訟費用は原告らの負担とし,参加費用はこれを2分し,その1を原告らの,
その余を被告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1原告らの請求
第1事件

被告D及び被告Eは,原告Aに対し,被告F,被告G,被告H,被告I及び被告Jと連帯して7500万円及びこれに対する平成26年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


被告D及び被告Eは,原告Bに対し,被告F,被告G,被告H,被告I及び被告Jと連帯して7500万円及びこれに対する平成26年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事件


被告F,被告G,被告H及び被告Iは,原告Aに対し,連帯して9000万円及びこれに対する平成26年2月21日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。(ただし,7500万円の限度で被告D,被告E及び被告Jと連帯)

被告F,被告G,被告H及び被告Iは,原告Bに対し,連帯して9000万円及びこれに対する平成26年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(ただし,7500万円の限度で被告D,被告E及
び被告Jと連帯)
第3事件

被告Jは,原告Aに対し,被告D,被告E,被告F,被告G,被告H及び被告Iと連帯して7500万円及びこれに対する平成26年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


被告Jは,原告Bに対し,被告D,被告E,被告F,被告G,被告H及び被告Iと連帯して7500万円及びこれに対する平成26年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2参加人の請求
主文2項ないし4項同旨
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,Cが,参加人の開設,運営する東京女子医科大学病院(以下本件病院という。において,頸部嚢胞性リンパ管腫に対する硬化療法(以下本)件施術という。)を受け,本件病院の中央集中治療室(以下中央ICUという。)にて,術後管理を受けていたところ,術後3日目に横紋筋融解症,高CK血症,不整脈,心不全,高乳酸血症を伴うアシドーシスを発症するなどして死亡したこと(以下本件事故という。)につき,Cの相続人である原告らが,Cは,人工呼吸管理中の小児の鎮静に用いることが禁忌とされているプロポフォール(製品名1%プロポフォール注マルイシ
。なお,以下,特に

断りのない限り,
プロポフォールは一般名を指すものとする。)を過剰に投
与されたことにより,プロポフォール注入症候群(PRIS)を発症して死亡したのであり,被告らには,

①術後管理に関する説明義務違

反,②鎮静薬の選択に関する過失,③プロポフォールの使用量及び使用時間に関する過失,④プロポフォール注入症候群の診断,治療に関する過失,⑤術後管理中の補液量に関する過失があり,さらに,⑥プロポフォールの試験的投与を行ったことが故意による不法行為に当たるなどと主張して,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,損害の一部及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
まず,原告らは,本件施術を担当した耳鼻咽喉科医師である被告D及び被告
Eに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,損害の一部である7500万円及びこれに対する平成26年2月21日(C死亡の日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める訴えを提起した(第1事件)。

次に,原告らは,本件施術後の術後管理を担当した中央ICUの医師である被告F,被告G及び被告H並びに看護師である被告Iに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,損害の一部である9000万円及びこれに対する平成26年2月21日(C死亡の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める訴えを提起した(第2事件)。また,原告らは,本件施術後の術後管理を担当した中央ICUの医師である被告Jに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,損害の一部である7500万円及びこれに対する平成26年2月21日(C死亡の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める訴えを提起した(第3事件)。
参加人は,Cの診療に関する医療過誤を理由とする損害賠償債務につき,参
加人の原告らに対する損害賠償債務及び参加人の被告らに対する共同不法行為者としての負担部分を理由とする求償債務は,それぞれ4890万円8102円を超えないことの確認を求めて,
第1事件から第3事件にそれぞれ独立当
事者訴訟参加した。
原告らは,被告D及び被告Eには前記①,④,⑤の過失,被告G及び被告H
には前記③,④の過失及び前記⑥の故意による不法行為,被告Iには前記③の過失及び前記⑥の故意による不法行為,被告Fには前記⑥の故意による不法行為,被告Jには前記②,④,⑤の過失及び前記⑥の故意による不法行為があると主張して,前記第1の1記載のとおりの請求をした。
2前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,後記各証拠又は弁論の全
趣旨により容易に認めることができる。

当事者

参加人は,東京都新宿区河田町8番1号において東京女子医科大学病院
(本件病院)を開設運営する学校法人である。本件病院は,本件当時,厚生労働省から特定機能病院の承認を受けていたが,本件事故後,同承認は平成27年5月27日に取り消された。


Cは,
原告らの長男であり,
平成23年▲月▲▲日生まれ
(本件施術当時,
満2歳10か月,身長88cm,体重12kg)の男児である。Cは,平成26年2月18日,
本件病院の耳鼻咽喉科において頸部嚢胞性リンパ管腫に対して
OK-432(製品名ピシバニール。以下,単にピシバニールという。)
を注入する硬化療法
(OK-432嚢胞内注入療法,
本件施術)
を受けた後,
中央ICUにおいて術後管理中であった同月21日に死亡した。

Cの相続人は,原告らである。

被告Dは,本件事故当時,本件病院の耳鼻咽喉科主任教授及び耳鼻咽喉科部長であった者であり,Cの主治医及び本件施術の執刀医である。

被告Eは,本件当時,医療練士研修生(いわゆる後期研修医)として本件病院の耳鼻咽喉科において研修を行っていた医師であり,入院後のCの担当
医である。

被告Fは,本件当時,本件病院の麻酔科主任教授及び中央ICUの運営部長であった医師である。


被告Gは,本件当時,本件病院の麻酔科助教であり,中央ICUに所属していた医師である。


被告Hは,本件当時,医療練士研修生(いわゆる後期研修医)として本件病院の麻酔科において研修を行い,中央ICUに所属していた医師である。

被告Iは,本件当時,本件病院の看護部に所属し,中央ICUに配属されていた看護師である。


被告Jは,本件当時,本件病院麻酔科准教授であった者であり,中央ICUに所属していた医師である。
事実経過の概要


本件施術に至る経緯
Cは,平成25年6月12日,本件病院の耳鼻咽喉科において,リンパ
管腫疑いとの診断を受け,Cの法定代理人たる原告らと本件病院との間で,リンパ管腫の治療を目的とする診療契約が締結された。Cは,主治医である被告Dの外来診察を複数回経たのち,OK-432嚢胞内注入療法(本件施術)を受けるため,平成26年2月17日に本件病院に入院した。なお,
被告Eが入院後のCの担当医となった。
(争いなし,
診療契約の締結に
つき弁論の全趣旨)
Cは,
同月18日,
被告Dの執刀により本件施術を受けた
(争いなし)



本件施術後の術後管理
Cは,本件施術後,中央ICUにおいて人工呼吸管理を伴う術後管理を受けた。Cが中央ICUに入室した際,被告Jが,Cの鎮静に用いる麻酔薬として1%プロポフォール注
マルイシ以下,1%プロポフォール」

という)を選択した。被告Jの指示を受けた被告Gは,Cに対する1%プロポフォールの初期投与量として投与速度を80mg/hr(6mg/kg/hr)と設定し,同日午前10時30分,Cに対する1%プロポフォールの持続投与を開始した。(争いなし)また,被告Eは,術後のCの補液量について,ソルデム60/hを1500ml/日と定めて,Cに対する補液を開始した(争いなし)。被告D及び被告Eは,本件施術後1日目である同月19日の午前中,Cを診察した。この時,Cには,披裂部に軽度の浮腫が認められるなどしたため,人工呼吸管理を継続し,抜管を翌日に延期することとされた(丙A1・88頁。なお,以下において重複する証拠に関しては,丙号証のみを記載する。。そのため,Cについては,1%プロポフォールの投与による)鎮静が継続された(争いなし)。被告Hは,同月19日,中央ICUの当直を担当し,被告Iは,同日の夜勤帯の看護師として,Cを担当していた。被告Hは,同日午後8時頃から,Cに対する1%プロポフォールの投与量を増加させるとともにボーラス投与(一時的な単回投与)を行うなどし,最終的には,翌日20日の午前0時に,Cに対する1%プロポフォールの投与速度を140mg/hrまで増量するなどした。(争いなし)被告D及び被告Eは,本件施術後2日目である同月20日の午前中にCを診察し,内視鏡検査を行うなどして抜管の可否を検討したが,この時も,抜管を可とする判断には至らなかった(丙A1・103頁)。また,同日午後には,中央ICUの麻酔科医師らもCの抜管の可否を検討したが,抜管は翌日に延期することとされた(甲B2,丙A1・104頁,弁論の全趣旨)。そのため,Cについては,1%プロポフォール(なお,同日,2%プロポフォールに変更された)の投与による鎮静が継続された(争いなし)。被告E及び中央ICUの医師らは,本件施術後3日目である同月21日の午前中,Cを診察して抜管が可能である旨判断し,抜管に備えるため,同日午前8時45分,Cに対する2%プロポフォールの投与を中止した(丙A1・120頁,223頁)。同日午後,Cの容態は悪化し,横紋筋融解症,高CK血症,不整脈,心不全,高乳酸血症を伴うアシドーシスを発症するなどして,Cは同日午後7時59分に死亡した(甲B2)。3主たる争点耳鼻咽喉科医師の説明義務違反及び因果関係の有無(争点1,被告D,被告E関係)プロポフォールを使用したこと自体等に関する過失及び因果関係の有無(争点2,被告J関係)プロポフォールの使用量や使用時間等に関する過失及び因果関係の有無(争点3,被告G,被告H,被告I関係)プロポフォール使用後の横紋筋融解症等の早期診断及び治療等に関する過失及び因果関係の有無(争点4,被告D,被告E,被告J,被告G,被告H関係)補液に関する過失及び因果関係の有無(争点5,被告D,被告E,被告J関係)プロポフォールの試験的投薬及び因果関係の有無(争点6,被告F,被告J,被告G,被告H,被告I関係)損害の発生及び額(争点7)弁済供託の抗弁(争点8)第3当事者の主張1争点1(耳鼻咽喉科医師の説明義務違反及び因果関係の有無)について(被告D,被告E関係)(原告らの主張)説明義務及び説明義務違反についてア一般に,小児の頸部リンパ管腫に対する硬化療法では,気道粘膜の炎症等によって気道閉塞が生じる可能性が高く,その場合には,気管切開又は気管挿管の方法によって気道を確保する必要があり,気管挿管をした場合には抜管の見通しは立ちにくいとされている。したがって,被告D及び被告Eには,原告らに対し,本件施術に先立って,その術後管理について,①炎症が3日から10日間続くことも予想されるため,その間は,麻酔薬により鎮静をかけながら人工呼吸管理を行うこと,②その際,身体拘束をすることを説明すべき義務があった。イ被告Dは,原告らに対し,本件施術の術後管理に関して,「管を入れて念のため一晩のICU管理を行うが,翌日には一般病棟に戻れるため心配はな
い旨説明しただけであった。したがって,被告Dには,上記①,②の説明を怠った説明義務違反がある。

被告Eは,原告らに対し,本件施術の術後管理に関して,上記①,②について説明したことはなかったのであるから,被告Eには,これらの説明を怠
った説明義務違反がある。
因果関係について
Cが受けた本件施術には緊急性がなかったこと,Cが平成24年に埼玉医科大学総合医療センターを受診した際,原告らは鎮静を理由にMRI検査を受けることを断っていたことからすれば,原告らが,被告D及び被告Eから,本件施術の術後管理に関し,
麻酔薬を使用して鎮静しながら人工呼吸管理を行うこ
とについての説明を受けた場合には,
Cに本件施術を受けさせなかった高度の
蓋然性があるといえる。そして,本件施術を受けなければ,Cは,術後管理中にプロポフォール注入症候群を発症して死亡することはなかったといえるのであるから,
被告D及び被告Eの上記説明義務違反とCの死亡との間には相当
因果関係がある。

(被告Dの主張)
説明義務について

小児の頸部リンパ管腫に対する硬化療法では,気道粘膜の炎症等によって気道閉塞が生じる可能性が高いこと,その場合には,気管切開又は気管挿管の方法によって気道を確保する必要があること,気管挿管をした場合には抜管の見通しは立ちにくいとされていることは認める。

また,被告Dには,原告らに対し,本件施術に先立って,その術後管理について,硬化療法により気道閉塞が生じる恐れがあるため,術後管理をする必要があること,
その場合のリスクを説明する義務を負っていたことは認め
る。

しかし,麻酔薬による鎮静は,硬化療法の本質であるピシバニールの注入及び術後の気管挿管に当然に付随する随伴的な医療行為にすぎないこと,専門医の下で小児に対する鎮静と呼吸管理は日常的に行われており,特段危険な行為と認識されているわけではないことからすると,術後の管理を専門医である中央ICUの麻酔科医らに委ねることが予定されていた本件の場合
において,被告Dが鎮静をかけることについてまで説明すべき義務はない。
また,
患者の術中や術後における鎮静は専門医である麻酔科が主体となって行い,
鎮静の際にいかなる拘束をするかについては麻酔科医の指示に基づいて行われる。そのため,本件病院では,患者の手術に先立ち,主科での診察とは別に麻酔科による診察が行われている。したがって,主科である耳鼻咽喉科医の被告Dには,鎮静をする際に拘束することについてまで説明すべ
き義務はない。
説明義務違反がないこと
被告Dは,平成26年2月5日,原告らに対し,術後の管理に関して,ピシバニールの注入後には患部が腫れ,それにより気道が圧迫されるおそれがあるから,呼吸確保のために酸素の管を気道に入れて経過を観察すること(すなわち,
術後に挿管した状態で経過観察を行うこと)気管切開は,

腫れが長引き,
酸素の管を入れたままにすることができなくなったときに行うこと,気管切開は小児の場合には気管切開孔の閉鎖に時間がかかるリスクがあること,術後の管理は中央ICUで行うことを説明し,原告らの同意を得た。したがって,被
告Dは,説明義務を果たしている。
因果関係がないこと

原告らは,本件施術には緊急性がなかったと主張するが否認する。平成25年8月5日の診察時では,腫瘤は小さく,必ずしも手術が必要ではなかったが,同年11月6日の診察時には,腫瘤の増大が見られ,かつ,腫瘤は気道に近い左頸部にあったことから,今後の経過によっては気道閉塞,ひいて
は気管切開を行うことになる可能性があったため,近い将来,硬化療法を行う必要があった。

Cが平成24年に埼玉医科大学総合医療センターを受診した際,原告らは鎮静を理由にMRI検査を受けることを断っていたことは認めるが,本件病
院においては,平成25年7月18日,鎮静薬を使用した上でMRI検査を実施していた。

前記ア,イの事実や,本件施術の術後管理に関し,原告らが強い拒否感を示していたのは主に気管切開の実施であったことからすれば,原告らは,麻酔薬により鎮静をかける必要があるとの明示的な説明があった場合にも,Cに本件施術を受けさせたものと考えられる。
また,
原告らが被告Dに対して術中及び術後に身体拘束をするのであれば
硬化療法を行わないなどと述べたことはなく,被告Dとしても原告らがそのような意向を持っていると認識すべき事情もなかったことからすると,原告らにおいて,
身体拘束の有無は手術を実施するか否かの決定を左右するもの
ではなく,仮に身体拘束をすることの説明があったとしても,原告らは本件施術の実施を選択したと考えられる。


以上からすれば,被告Dが,原告らの主張する説明義務を履行していたとしても,原告らが,Cに本件施術を受けさせなかった高度の蓋然性があるとはいえないのであるから,被告Dの説明義務違反とCの死亡との間に相当因果関係はない。
さらに,
鎮静と呼吸管理は特に危険な行為との認識がされているわけでは

ないところ,被告Dにおいて,麻酔の専門チームである中央ICUの管理下で禁忌薬が使用されることは予見できないことからすると,被告Dに説明義務違反が認められるとしても,Cの死亡との間の相当因果関係はない。(被告Eの主張)
説明義務について


小児の頸部リンパ管腫に対する硬化療法では,気道粘膜の炎症等によって気道閉塞が生じる可能性が高いこと,その場合には,気管切開又は気管挿管の方法によって気道を確保する必要があること,気管挿管をした場合には抜管の見通しは立ちにくいとされていることは認める。しかし,硬化療法では
薬剤の注入量が多いほど炎症の度合いは大きくなるところ,本件施術では,薬剤
(ピシバニール)10ml注入される予定であった

(実際の注入量は3ml
である。。そのため,炎症が3日から10日間程度続くことは考えにくく,)
炎症は1日程度続くことが予想され,問題がなければ翌日には一般病棟に戻れるという予測は合理的なものであった。

被告Eに,原告らが主張する説明義務があることは否認する。
Cが,平成26年2月17日に本件病院に入院するに当たり,被告Eが入院後のCの担当医となることが決まったのは,同月12日頃である。そこで,
被告Eは,
診療記録を閲覧し,
その記載から,
原告らに対しては,
平成25年12月18日に麻酔科医により,平成26年2月5日には,被告Dにより,
硬化療法や麻酔に関する説明が行われていたものと認識していた。
そして,同月17日には,被告Dが,原告らに対し,挿管をしたままで中央ICUでの術後管理を予定していること,挿管が長引いた場合には気管切開を行う可能性があること,術後の挿管が長引く可能性があることを説明している場に被告Eは立ち会った。そのため,被告Eは,気管挿管を行い,人工呼吸による呼吸管理を行うということであるから,原告らとしても麻酔薬を
使用することを理解しているものと考えていた。また,埼玉医科大学総合医療センターでMRI検査を受けなかったことも,飽くまでも治療の前提である検査のために鎮静が行われることを嫌がっているものと認識していた。このように,原告らに対しては,本件病院の他の医師から,麻酔薬による鎮静が行われることも含め,術後の管理に関して適切な説明がされており,少な
くとも被告Eはそのように認識していたのであるから,被告Eが,重ねて,術後の管理に関する説明義務を負うことはない。
また,身体拘束について事前に同意を得ることが適切であったとしても,その態様は通常行われ得るものであり,かつ,気管挿管に際して当然に必要とされる処置であることから,本件施術前にその説明をすべき法的義務があ
ったとまではいえない。
説明義務違反がないこと
被告Eが,原告らに対し,本件施術に先立って,その術後管理について,①炎症が3日から10日間続くことも予想されるため,その間は,麻酔薬により鎮静をかけながら人工呼吸管理を行うこと,②その際,身体拘束をすることを説明しなかったことは認める。
しかし,上記のとおり,原告らに対しては,本件病院の他の医師から,麻酔薬による鎮静が行われることも含め,術後の管理に関して適切な説明がされており,少なくとも被告Eはそのように認識していた。
因果関係がないこと
原告らは,本件施術には緊急性がなかったと主張するが否認する。Cの腫瘍
が以前と比べて大きくなっていたという診療経過からすれば,本件施術を行う必要性があった。
また,Cが平成24年に埼玉医科大学総合医療センターを受診した際,原告らは鎮静を理由にMRI検査を受けることを断っていたことは認めるが,前記り,治療の前提である検査のために鎮静が行われることと,治療自体
のために鎮静が行われることとでは状況が異なるのであって,原告らは,治療自体のために鎮静を行うことについては,説明を受けていれば同意していたはずである。
以上からすれば,被告Eが,原告らの主張する説明義務を履行していたとしても,原告らが,Cに本件施術を受けさせなかった高度の蓋然性があるとはい
えないのであるから,被告Eの説明義務違反とCの死亡との間に相当因果関係はない。
2争点2
(プロポフォールを使用したこと自体等に関する過失及び因果関係の有無)について(被告J関係)
(原告らの主張)

注意義務違反について


小児の集中治療における人工呼吸中の鎮静のためにプロポフォールを使
用することは禁忌とされており,また,本件施術後には,3日から10日間にわたる長期間の人工呼吸管理になることも予想されたことからすれば,中央ICUの責任者である被告Jには,本件施術後の人工呼吸管理を行うに際し,その当初から,禁忌薬であるプロポフォールではなく,長時間作用型の
ミダゾラムを選択すべき義務があった。
仮に,被告Jにおいて,耳鼻咽喉科医師からの情報提供等によって,本件施術を実施した翌日に抜管がされることを想定していたとしても,被告Jには,
プロポフォールの持続投与から24時間以内に抜管できない場合も想定し,
そのような場合には,
他の薬剤
(例えばミダゾラム)
へ変更することを,

あらかじめ中央ICUの医師らとの間で事前に打ち合わせ,決めておく義務があった。

しかしながら,被告Jは,本件施術後の人工呼吸管理を行うに際し,禁忌薬であるプロポフォールを選択し,また,プロポフォールの持続投与から24時間以内に抜管できなかった場合の方針について,あらかじめ中央ICU
の医師らとの間で事前に決めておくことをしなかったのであるから,被告Jには,前記アの注意義務を怠った過失(注意義務違反)がある。
因果関係について

仮に,被告Jが,鎮静薬として,プロポフォールではなく,ミダゾラムを選択していれば,Cは,本件施術後のプロポフォールの過量投与によって,
プロポフォール注入症候群に罹患することなく,これにより死亡することはなかった。

仮に,被告Jが,プロポフォールの持続投与から24時間経過後は他の薬剤(例えばミダゾラム)に変更することをあらかじめ中央ICUの医師らと
の間で事前に打ち合わせて決めていれば,中央ICUの医師らはそれに従っ
ていたはずであり,Cは,プロポフォールの過量投与によって,プロポフォール注入症候群に罹患することなく,これにより死亡することはなかった。ウ
したがって,前記

Cの死亡との間には相当因果関係が

ある。
(被告Jの主張)
注意義務がないこと

被告Jが,本件施術後の人工呼吸管理を行うに際し,鎮静薬としてプロポフォールを選択したこと,プロポフォールの持続投与から24時間以内に抜管できなかった場合の方針について,あらかじめ決めておくことはしなかったことは認めるが,被告Jが,原告らの主張する注意義務を負うことは否認
する。

プロポフォールの選択について
本件当時,プロポフォールの使用とプロポフォール注入症候群発症の機序や因果関係は不明とされており,その使用が危険であるとする根拠は必ずし
も明確ではなかったこと,小児ICUでのプロポフォール使用の実情や使用基準の有無・内容は各国で異なっており,本邦においても,その使用の可否や投与量・投与時間を制限すべきという研究や学会レベルの提言ないし指針は存在しなかったこと,本件当時,国内で小児がプロポフォール注入症候群を発症したとの報告例もなかったことなどからすれば,プロポフォールの使
用は相対的な禁忌にとどまるものであった。
また,小児(特に幼児)の場合,安静指示に従うことができないため,成人と比較して深く鎮静する必要がある。仮に事故抜管となれば,数分単位で死に至るところ,
気道が細い小児に再挿管することは容易ではないことから,
事故抜管の発生を防ぐ必要性は極めて高い。したがって,小児に対しては深
い鎮静を行う必要がある。
そして,本件で鎮静のために使用できた薬剤として,プロポフォールとミダゾラムがあるが,
①深い鎮静に入るまでの時間と投薬中止後に覚醒するまでの時間が短時間で済むことなどから,事故抜管のリスクを避ける点においては,プロポフォールの方が優れていること,②被告Jは,被告Eから翌日に抜管予定である旨聞いており,自己の経験からも術後の管理が長期に及ぶ可能性は低いと考えられたこと,さらに,③本件では,内視鏡で浮腫の状態
を確認することが予定されており,その際の刺激で覚醒して事故抜管が起こらないようにするため,抜管の直前まで深い鎮静を実現する必要もあったことからすると,プロポフォールを選択することは不合理とはいえず,必ずミダゾラムを選択しなければならないという義務はない。
なお,上記②に関し,原告らは,炎症所見が3日から10日間程度続くこ
とも予想される旨主張するが,炎症所見が認められる期間と抜管までの期間は必ずしも一致するものではなく,抜管までの期間は,腫脹の大きさや部位等の個々の事例によって異なるものであり,本件では術後の管理が長期に及ぶ可能性は低いものと合理的に予測されていた。

24時間以内に抜管できなかった場合の方針について
本件では,術後の管理が長期に及ぶ可能性は低いと考えられたこと,中央ICUでの鎮静薬の追加,変更,検査等は,その性質上,現場の医師が,その時々の患者の状況(体動の有無等)
,ICU内の状況(人員,他の緊急案件
の有無等)
を勘案しながら事故抜管等の事故が発生しないように状況判断す

べきであるから,事前にこれらの点について決められるものではないこと,プロポフォールの使用時間を持続投与開始から24時間以内とするような一般的な基準が当時存在していなかったことからすると,プロポフォールの持続投与の開始から24時間以内に抜管できなかった場合についての方針をあらかじめ策定しておくべき義務はない。

因果関係がないこと

Cの死因は急性循環不全であり,それを引き起こした症状はプロポフォール注入症候群の一部に合致するが,プロポフォールの使用とプロポフォール注入症候群発症の機序や因果関係は不明とされており,事故調査報告書においても

プロポフォールの長時間投与が死因に直接関連していた可能性が高い。

との表現にとどまっていることからすると,プロポフォールの使用とCの死亡との間に相当因果関係はない。
3争点3
(プロポフォールの使用量や使用時間等に関する過失及び因果関係の有無)について(被告G,被告H,被告I関係)
(原告らの主張)
注意義務違反について


プロポフォールには重大な副作用があり,この危険性は,投与量(これは,投与速度が速く,投与時間が長くなるほど増える。
)が多くなるほど高
まることに鑑みれば,仮に,本件施術後の人工呼吸管理の際にプロポフォールを使用するとしても,その投与量は必要最小限でなくてはならないのであって,被告G,被告H及び被告Iには,次のとおりの注意義務違反が
ある。

被告Gの注意義務違反について
被告Gは,プロポフォールの投与速度を初期設定するに際し,少なくとも添付文書に記載された成人の適正使用の基準である0.3~3mg/kg/hrC(

の体重では3.6~36mg/hr)を上回る使用をしてはならなかった。また,被告Gには,プロポフォールの持続投与の開始から24時間経過時,遅くとも48時間経過時において,速やかにプロポフォールから他の薬剤(ミダゾラムや筋弛緩薬)に変更し,プロポフォールの積算量が過大になっていることを把握して,プロポフォールを自ら中止し,又は中止の
指示をすべき義務があった。
しかしながら,
被告Gは,
プロポフォールの投与速度を,
0.3~3mg/kg/hr
を大きく上回る6mg/kg/hrで設定した。
また,
被告Gは,
プロポフォールの持続投与の開始から24時間経過時,
さらには48時間経過時以降も,プロポフォールの投与を継続し,他の薬剤への変更をすることなく,また,プロポフォールを自ら減量し,又は減量を指示することもなく,かえって,投与量の上限はないと考え,平成2
6年2月19日
(本件施術後2日目)被告Hに対し,

その旨を指示したも
のである。
したがって,被告Gには,前記
反)がある。

被告Hの注意義務違反について
被告Hには,プロポフォールの持続投与の開始から24時間経過時,遅くとも48時間経過時において,速やかにプロポフォールから他の薬剤に変更し,プロポフォールの積算量が過大になっていることを把握して,プロポフォールを自ら中止すべき義務があった。

また,前記アのとおり,プロポフォールの投与量は必要最小限でなくてはならないところ,当時,研修医であった被告Hにおいて,仮にプロポフォールを増量するのであれば,上級医である被告J又は被告Gの判断を仰ぐ義務があった。
しかしながら,被告Hは,プロポフォールの持続投与の開始から24時
間経過時,さらには48時間経過時以降も,プロポフォールの投与を継続し,他の薬剤に変更することなく,また,プロポフォールを自ら減量することもなかった。かえって,被告Hは,上級医の判断を仰ぐことなく,Cに体動が全くなかったにもかかわらず,合理的理由もなしに,プロポフォールを増量し,ボーラス投与を行った。とりわけ,平成26年2月19日
から翌20日にかけての夜間当直帯には,
最高速度140mg/hrまで増量し,
頻回にボーラス投与を行った。
したがって,被告Hには,前記
反)がある。
被告Hは,証拠調べが全て終わり,口頭弁論が終結された令和3年1月19日の口頭弁論期日において,乙⑷B4の1・2(北米の小児ICUにおけるプロポフォールの使用に関して薬剤師を対象に行われた調査につ
いての文献)を提出したが,これは時機に後れた攻撃防御方法であり,却下されるべきである。

被告Iの注意義務違反について
被告Iは,自己の判断でプロポフォールの増量をしてはならなかった。また,仮に,被告Iが,被告Hからプロポフォールの増量の指示を受け
ていたとしても,
上級医である被告J又は被告Gの判断を仰ぐ義務があっ
た。
しかしながら,被告Iは,医師からの指示に基づかず,自己の判断で,平成26年2月19日午後8時,同日午後8時30分,同日午後11時30分,同月20日午前0時にプロポフォールの増量を行った。

したがって,被告Iには,前記
反)がある。
因果関係について

被告Gについて
仮に,
被告Gが,
プロポフォールの投与速度を4mg/kg/hrを超えないよう
に設定し,かつ48時間以内にプロポフォールの投与を中止し,あるいは中止させていれば,Cは,本件施術後のプロポフォールの過量投与によって,プロポフォール注入症候群に罹患することなく,これにより死亡することはなかった。

したがって,被告Gの前記

Cの死亡との間には相当

因果関係がある。

被告Hについて
仮に,
被告Hが,
プロポフォールの投与速度を4mg/kg/hrを超えないよう
に設定し,かつ48時間以内にプロポフォールの投与を中止していれば,前記アと同様に,Cが死亡することはなかった。
また,仮に,被告Hが上級医である被告J又は被告Gの指示を仰いでいれ
ば,プロポフォールの過量投与の誤りに気づき,速やかにプロポフォールの投与速度を4mg/kg/hrを超えないようにするとともに,
48時間以内にプロ
ポフォールの投与を中止したはずであるから,前記アと同様に,Cが死亡することはなかった。
したがって,被告Hの前記

Cの死亡との間には相当

因果関係がある。

被告Iについて
仮に,被告Iが,自己の判断でプロポフォールの増量を行わず,また,たとえ,被告Hから増量の指示があったとしても,上級医である被告J又は被告Gの判断を仰いでいれば,速やかにプロポフォールの投与速度を
4mg/kg/hrを超えないようにするとともに,48時間以内にプロポフォールの投与が中止されたはずであるから,前記アと同様に,Cが死亡することはなかった。
したがって,被告Iの前記

Cの死亡との間には相当

因果関係がある。

(被告Gの主張)
注意義務がないこと
被告Gが,プロポフォールの投与速度を6mg/kg/hr(80mg/hr)で設定し

たこと,
プロポフォールの持続投与の開始から24時間ないし48時間経過時以降も,他の薬剤へ変更したり,減量したりしなかったことは認めるが,その余は否認する。

プロポフォールの量について
小児ではプロポフォールの注入必要量は成人よりも多く,添付文書の成人に対する使用量の記載が小児に該当するものではないこと,プロポフォールの使用量として0.3~3mg/kg/hrでは,指示のみに従うという程度の鎮静しか得られず(これは覚醒している状態を指す。,この程度では,指示に従う)

ことが困難な小児について適切な鎮静深度が得られているとはいえないこと,1~3歳の小児においては全身麻酔の維持量として当初12mg/kg/hrから開始するとされていたり,0~3歳では12~25mg/kg/hrで開始するとされていること,原告らは,成人の基準として0.3~3mg/kg/hrの投与速度を初期設定とすべきと主張するが,添付文書の表記は飽くまで使用例
とされており,
基準
とはされていないことなどからすると,
プロポフォー
ルの投与速度を初期設定として,添付文書に記載された成人の基準である0.3~3mg/kg/hrを上回る使用をしてはならないとの義務はない。ウ
プロポフォール使用時間等について
被告Gは,被告Jから24時間で薬剤を変更するよう言われていないし,そのようなルールもなかった上,被告Gは平成26年2月20日には勤務しておらず,被告Gが本件患者に関与していたのは,プロポフォールの持続投与が開始されてから48時間が経過する前の同月19日午後5時までのことであるから,
プロポフォールの持続投与の開始から24時間ないし48時

間経過時に他の薬剤に変更したり,プロポフォールを減量すべき義務を負うものではない。なお,被告Gは,プロポフォールの投与開始から48時間経過時点は勤務時間外であり,中央ICUにいなかった。
因果関係がないこと
被告Gによる行為がCの死亡の直接の原因となったものではないから,Cの
死亡との間に相当因果関係はない。なお,臨床麻酔でのプロポフォール中止後にプロポフォール注入症候群を発症したとの報告や,集中治療室において2.6mg/kg/hrといった少ない量でもプロポフォール注入症候群を発症したとの報告もあり,
ガイドラインに沿った用法用量を順守してもプロポフォール注入
症候群の発症は完全に予防しきれない可能性が指摘されている。
(被告Hの主張)
注意義務がないこと


被告Hが,
プロポフォールの持続投与の開始から24時間ないし48時間
経過時以降も,他の薬剤へ変更したり,減量しなかったこと,平成26年2月19日午後8時,同日午後8時30分,同日午後11時30分,同月20日午前0時に上級医の判断を仰ぐことなく,被告Iら看護師に口頭で指示をすることにより,プロポフォールを増量したり,ボーラス投与を行ったこと
は認めるが,その余は否認する。

プロポフォールの減量又は変更について
プロポフォールは,鎮静の効果の発現が早く,鎮静深度の調節性に優れ,覚醒が早いという特徴を有しているため,本件当時の臨床では,少なからず小児に対しても使用されていた。そして,本件当時,プロポフォールの投与
量や投与時間に関し,明確な基準はなかった。そのため,プロポフォールの持続投与の開始から24時間ないし48時間経過時に他の薬剤に変更したり,プロポフォールを減量すべき義務はない。

上級医の判断を仰ぐ必要がないこと
薬剤の増量は現場で緊急的に判断されるものであり,その都度現場にいない上級医に確認していれば,増量の時機を逸し,かえって事故抜管等の危険を生じさせかねないから,プロポフォールを増量するに際して上級医の判断を仰ぐ義務はない。
プロポフォールに限らず,麻酔薬の投与量は必要最小限でなければならな
いが,その投与量は,副作用の危険性だけで判断するものではなく,事故抜管の危険性や当時のCに対する治療方針(事故抜管を起こさないように鎮静を安定させることと,できる限り早期の抜管をすることである。
)等の要素
を加味して検討する必要がある。
因果関係がないこと

被告Hが24時間ないし48時間経過時に薬剤を変更していれば,又は,
プロポフォールを減量していれば,何故,Cがプロポフォール注入症候群に
罹患しなかったのか,その因果関係が明らかではないから,Cの死亡との間に因果関係はない。

また,被告Hは,頸部術後の浮腫が大きい状況で窒息死に直結し得る事故抜管の発生を防ぐために鎮静を安定させるべく,Cの体動を観察し,その体動に合わせて,適宜プロポフォールの投与量を適正に増減し,かつ可能な限
りその投与量が最小限になるように努めていたものであるから,過量投与の誤りということはなかった。
そのため,
仮に上級医に指示を仰いだとしても,
原告らの主張するようにプロポフォールの投与量を調整することになったとは限らないから,被告Hが上級医に指示を仰がなかったこととCの死亡との間に因果関係はない。

(被告Iの主張)
注意義務違反がないこと

被告Iは,
自己の判断でプロポフォールの増量をしてはならないことは認
めるが,その余は否認する。

平成26年2月19日午後8時,同日午後8時30分,同日午後11時30分,同月20日午前0時のプロポフォールの増量は,被告I又は他の看護師が,被告Hの具体的指示に基づき実施したものである。
同月19日分の注射指示書に医師のサインがないのは,当時,中央ICUでは,
夜勤から日勤への交代時に前日分の注射指示書が回収されていたとこ
ろ,
被告Hが,
同月19日分の注射指示書にサインすることを失念したまま,
これが翌20日の朝に回収されたからにすぎず,医師のサインがないことをもって被告Iが自己の判断でプロポフォールを増量したことにはならない。イ
上級医の判断を仰ぐ必要がないこと
看護師は,
保健師助産師看護師法第5条が定める
診療の補助
を行うが,
全身麻酔・鎮静用剤の使用量は,まさに医師が医学的判断において決定すべ
き事項である。そして,禁忌薬でも医師の裁量の下で使用される場合もあるところ,前記アの被告Hによるプロポフォールの増量の指示は,事故抜管という重大な危険を防ぐために,Cの鎮静状況に応じて適切にされた指示であり,少なくとも,適切であると看護師が認識し得る指示であったことからすると,被告Iには,被告Hから増量の指示があったにもかかわらず,あえて
その指示に従わないという義務や,その指示について上級医に報告して指示を仰ぐべき義務はない。仮に上級医に対する報告相談等が必要な状況が生じたのであれば,それは医師間において行われるべきものであって,看護師に対してそのような義務を課すことは,看護師の役割を越えて過度な対応を強いるものであるし,
診療補助業務の実施に際して指示系統の混乱を生じさせ

得るものでもあるから,認められるべきではない。
因果関係がないこと
本件では,
中央ICUの医師である被告JがCに対してプロポフォールを投
与することを決定し,また,被告Gが持続投与の開始時の設定量を4mg/kg/hrを超える80mg/hrとするよう指示していたこと,さらに,被告Jは,被告Gの
投与速度に関する指示を把握しながらも,その投与量は患者の状態に照らし事故抜管を防ぐ上で許容範囲内であると判断していたことなどに照らすと,仮に被告Iが上級医である被告Jや被告Gの指示を仰いでいたとしても,同被告らにおいてプロポフォールの投与速度を4mg/kg/hrとしたとは考えられない。し
たがって,
被告Iが上級医に指示を仰がなかったこととCの死亡との間に因果
関係はない。
4争点4
(プロポフォール使用後の横紋筋融解症等の早期診断及び治療等に関する過失及び因果関係の有無)について(被告D,被告E,被告J,被告G,被告H関係)
(原告らの主張)
注意義務違反について

プロポフォールには重大な副作用があり,この危険性は,投与量が多くなるほど高まるところ,
重大な副作用であるプロポフォール注入症候群ないし
横紋筋融解症の発症をいち早く発見し,その治療を開始するために,CK値の計測,12誘導心電図の測定,ミオグロビン尿検査等の検査を十分に行う必要がある。

すなわち,CK値の測定及びミオグロビン尿検査は,プロポフォールの持続投与開始時(平成26年2月18日午前10時30分)からプロポフォールの投与中止時までの間行う必要がある。また,12誘導心電図の測定は,遅くとも,簡易(モニター)心電図上,異常所見である陰性T波が出現した同月20日午前2時29分からプロポフォール投与中止後心臓に異常が認
められないと判断されるまでの間行う必要がある。
特に,次の各事実は,横紋筋融解症ないしプロポフォール注入症候群を疑わせるものである。
同月19日の午後には,プロポフォール注入症候群の発症を示す緑色の尿が確認され,中央ICUの看護師から,中央ICUの医師に対し,その
旨が伝えられた。
心電図上,陰性T波が断続的(①同月19日午後3時30分~午後3時36分,②同日午後11時6分~午後11時14分,③同月20日午前2時29分,④同日午前7時30分~死亡時(特に同日午後2時13分の心電図の波形は,陰性T波の巨大化,QT波延長,R波減高が見られた。))

に出現していた。
被告Hは,同月20日午前7時30分頃,陰性T波の出現に気が付き,同日の午前中(昼前後頃)に,他の中央ICUの医師であるK医師及びL医師との間で,その情報が共有された。
被告Hは,同月20日午前7時47分に,動脈血液ガス分析を行ったのであり,これは,被告Hがプロポフォールの大量投与がCに何らかの副作用を生じさせたのではないかと考えていたことを示している。
同月20日午後1時25分頃,被告Hが採血していた際,小水バッグの中の尿は,ミオグロビン尿(横紋筋融解)を示す褐色であり,腎小児科のU医師は,この尿を見て,腎生検をしたくなるような色である旨述べた。被告Jは,同月20日午後1時頃に帰院した後(なお,外部調査報告書
では,
帰院の時刻は午後2時30分から午後3時までの間とされている。,)
自ら陰性T波の出現を確認した。
同月20日午後2時13分の心電図の波形は,陰性T波の巨大化,QT波延長及びR波減高との所見であった。これは,心筋障害が進行してきている可能性が高く,薬剤性の心筋障害を疑わせる所見であり,ひいては,
横紋筋融解症が始まっている,更には進行していることを認識する手がかりである。
同月21日午前9時41分頃,L医師は,被告J及び被告Hに対し,同日午前8時46分頃の採血の結果,CK値が2221U/Lと高値であったことを報告した。

同月21日午前11時27分,L医師が行った同日午前10時39分頃の採血の結果,CK-MB値(心筋由来の酵素値)が136IU/Lであることが判明した。
同月19日午後6時04分頃,原告らがCと面会した際,Cの顔はむくみ,まぶたは腫れ,全身に熱感があった。

同月20日午前10時以降,原告らは,診察に来る被告Eに対し,鎮静の麻酔に関する不安等を訴え続けた。

被告Jの注意義務違反について
被告Jには,プロポフォールの持続投与が開始された後,当初,被告Jが想定していたとおり,本件施術を実施した翌日に抜管できたか否か,すなわち,
プロポフォールの投与開始から24時間経過時に抜管できたか否
かを確認する必要があった。そして,本件のように抜管ができていなかっ
たのであれば,それまでの積算量を確認し,横紋筋融解症ないしプロポフォール注入症候群の発症を速やかに診断できるよう,CK値の頻回の計測,12誘導心電図の測定,ミオグロビン尿検査等の検査を行い,仮にCが横紋筋融解症やプロポフォール注入症候群を発症していれば,直ちにプロポフォールの投与を中止して薬剤を変更し,その治療を開始し,又はこれら
の指示をすべき義務があった。
しかしながら,被告Jは,平成26年2月19日の朝に抜管ができなかったことをメールで把握したが,積算量の確認をすることはなく,また,CK値の頻回の計測,12誘導心電図の測定,ミオグロビン尿検査等の検査を行うことも,Cが罹患していた横紋筋融解症等を伴うプロポフォール
注入症候群を疑い,これに対する治療をすることもなかった。かえって,被告Jは,
同月20日午後1時25分に被告Hが行った採血を検査の必要
がないとして廃棄させた。
したがって,被告Jには,前記
反)がある。


被告Gの注意義務違反について
被告Gには,
横紋筋融解症ないしプロポフォール注入症候群の発症を速
やかに診断できるよう,CK値の頻回の計測,12誘導心電図の測定,ミオグロビン尿検査等の検査を行うよう指示すべき義務があった。

しかしながら,
被告Gは,
CK値の頻回の計測,
12誘導心電図の測定,
ミオグロビン尿検査等の検査を行うよう指示したことはなかった。したがって,被告Gには,前記
反)がある。

被告Hの注意義務違反について
被告Hには,自らCの容態を診察し,また,被告EからCの状態について適宜報告を受け,その上で,横紋筋融解症ないしプロポフォール注入症
候群の発症を速やかに診断できるよう,CK値の頻回の計測,12誘導心電図の測定,ミオグロビン尿検査等の検査を行い,仮にCが横紋筋融解症やプロポフォール注入症候群を発症していれば,直ちにプロポフォールの投与を中止して薬剤を変更し,その治療を開始すべき義務があった。被告Hは,CK値の頻回の計測,12誘導心電図の測定,ミオグロビン
尿検査等の検査を行うことも,Cが罹患していた横紋筋融解症等を伴うプロポフォール注入症候群を疑い,これに対する治療をすることもなかった。したがって,被告Hには,前記
反)がある。

被告D及び被告Eの注意義務違反について
被告D及び被告Eには,耳鼻咽喉科の患児であるCの術後管理の責任者として,Cの状態をつぶさに観察し,麻酔科医と合同カンファレンスを行い,
Cの容態の異常
(顔のむくみ,
まぶたの腫れ,
全身に熱感。
前記



がリンパ管腫によるもの又はピシバニールによるものか,あるいは,麻酔薬による術後管理によるものかを見極め,本件のように麻酔薬による術後管理に問題がある場合には,主科の立場で患児に対する適切な麻酔管理がされるよう改善を求める義務があった。
しかしながら,被告D及び被告Eは,Cの容態の異常の原因について診察することなく,合同カンファレンスの際にも,その原因が麻酔薬による
術後管理の問題にあるとの情報共有をしなかった。
したがって,
被告D及び被告Eには,
前記
意義務違反)がある。
因果関係について

麻酔科関係(被告J,被告G,被告H)
心電図

平成26年2月19日午後3時30分以降,心電図上で陰性T波が断続的に出現していたところ,同月20日午前2時29分,同日午前7時30分から死亡時まで陰性T波が断続的に見られた(特に同日午後2時13分の心電図の波形は,
陰性T波の巨大化,
QT波延長,
R波減高が見られた。。

このことは,心筋障害が進行してきている可能性が高く,薬剤性の心筋障
害を疑わせる所見となっており,これは,横紋筋融解症が始まっている,更には進行していることを認識する手がかりであるから,遅くとも同月20日午前2時29分以降,12誘導心電図検査をしていれば,プロポフォール注入症候群の発症を認識できた。
CK値

CK値の正常値は男性(なお,小児と成人の区別はされていない。)で
57~197U/Lとされているところ,Cについては,平成26年2月21日午前8時46分の採血でCK値は2221U/Lであって,2000U/L以上の数値は高度の上昇とされており,急性心筋梗塞で多くみられる数値であるから,上記の数値は心筋炎の可能性が指摘されるものであった。また,同日
午前11時27分に判明したCK-MB値は136IU/Lと高値であった。そうすると,遅くとも,この時点で,プロポフォール注入症候群の発症を認識できた。
尿
平成26年2月19日の午後には,プロポフォール注入症候群の発症を
示す緑色の尿が確認され,同月20日午後1時25分頃には,ミオグロビン尿(横紋筋融解)を示す褐色の尿(プロポフォールにより破壊された筋細胞から流れ出たミオグロビンを含む尿であり,その色は,一般的に赤褐色とされている。が確認されていることからすれば,

遅くとも,
同時刻頃
に,ミオグロビン尿検査をしていれば,横紋筋融解症ないしプロポフォール注入症候群の発症を認識できた。
まとめ

投与開始から48時間経過がプロポフォール注入症候群発症と強い相関関係を持つとされていること,平成26年2月20日午後1時25分頃,褐色のミオグロビン尿が認められていること(前記

月20日午前

2時29分以降,
陰性T波が認められていることからすると
(前記

)C


K値やCK-MB値の計測を待つまでもなく,また,12誘導心電図の結
果を見るまでもなく,同月20日午前10時30分頃にはプロポフォール注入症候群の発症を認識あるいは予見すべきであった。
また,前記



よれば,仮に,適切にCK値の計測,12誘導心電

図の測定,ミオグロビン尿検査等の検査が実施されていれば,どれだけ遅くとも,
同月21日午前6時47分までに横紋筋融解症ないしプロポフォ

ール注入症候群の発症を認識できたといえ,この時点で速やかに治療が開始されていれば,Cが横紋筋融解症等を伴うプロポフォール注入症候群によって死亡することはなかった。
したがって,被告J,被告G及び被告Hの前記

からエの注意義務違

反とCの死亡との間には相当因果関係がある。


耳鼻咽喉科関係(被告D,被告E)
仮に,被告D及び被告Eが,Cの容態の異常の原因を診察し,合同カンファレンスの際などに,
その原因が麻酔薬による術後管理の問題にあるとの情
報共有をしていれば,麻酔科医において,その容態の異常がプロポフォール
によるものと推測され,プロポフォール注入症候群の発症が認識されて,速やかに治療が開始されていたはずであるから,Cが横紋筋融解症等を伴うプロポフォール注入症候群によって死亡することはなかった。
したがって,被告D及び被告Eの前記

Cの死亡との

間には相当因果関係がある。
(被告Jの主張)
注意義務がないこと
本件当時,
プロポフォール注入症候群の早期発見のために特定の検査をすべ
きとの一般的な知見は確立されていなかった(本件事故後の調査研究結果でもその点は明確となっていない。。また,プロポフォールの使用を24時間以内)
とするとの基準も存在しなかった。

中央ICUでは,次のとおり医師と看護師が常に患者の病変をモニタリングしていた。
まず,中央ICUの医師らは,適宜,心電図を確認していた。陰性T波は,プロポフォール注入症候群の特異所見ではない。被告Jは,平成26年2月20日午後3時頃,K医師から,陰性T波の出現をきっかけに心筋障害を疑い,
心エコー検査を実施して異常がないことを確認したこと,電解質異常等もなく経過観察していることについての報告を受け,翌朝に気管支鏡の検査を実施して抜管するまで,
引き続き経過観察とすることを現場にいた医師らと確認した。
次に,中央ICUの医師らは,必要な血液検査(血中乳酸値の測定及び血液ガス分析を含む。を実施していた。

被告Jは,
同月21日午前9時41分頃に

プロポフォールの投与を中止した後,L医師からCK値が2221U/Lと高値であったためCK-MB検査を追加オーダーした旨の報告を受けたため,同人に
対し,CK値は採血時の体動などで上昇することもあるため再検査も念頭に,輸液量を増量して経過観察するよう助言した。
さらに,尿検査に関しては,同月20日までの間に尿の変色があったとの事
実はないし,そもそも,緑色の尿はプロポフォール注入症候群の特異所見ではないため,
いずれにせよ,
ミオグロビン尿の有無を検査すべき事情はなかった。
このように,本件では,必要なモニタリングや検査が実施されていたのであり,これ以上に,CK値の頻回の計測,12誘導心電図の測定,ミオグロビン尿検査等の検査を行うべき義務はない。
因果関係がないこと
CK値は,平成26年2月20日午前8時57分の採血で74U/L,同月21
日午前8時46分頃の採血で2221U/L,同日午後4時16分の採血で10036U/Lであったことからすると,同月21日午前9時30分頃以後に状態が急変したと考えられる。このようなCK値の変動を前提とすれば,同月20日までの時点で,CK値の頻回の計測,12誘導心電図の測定及びミオグロビン尿検査をしていたとしてもプロポフォール注入症候群を疑わせる有意な所見は得られなかったと考えられるから,これらの検査をしなかったことと,Cの死亡との間に因果関係はない。
また,心電図や12誘導心電図における陰性T波やQRS幅の所見は,飽くまで心筋障害の可能性を示すものにとどまり,プロポフォール注入症候群を示
す特異所見ではないことに加え,陰性T波は様々な原因で出現するものであるから,本件において,心電図や12誘導心電図を実施してもプロポフォール注入症候群の発症を認識できたとは考えられない。したがって,これらの検査をしなかったことと,Cの死亡との間に因果関係はない。
(被告Gの主張)
注意義務がないこと


被告Gが,CK値の頻回の計測,12誘導心電図の測定,ミオグロビン尿検査等の検査を行うことを指示したことがなかったことは認めるが,その余は否認する。


中央ICUでは,次のとおり,十分なモニタリングがされていた。まず,心電図は,常時計測されており,連日,午前0時,午前8時,午後5時に看護記録に記録・印刷されたほか,心拍数・酸素飽和度・呼気二酸化炭素は連続的に測定され,血圧・尿量は2時間ごとに測定及び診療録への記載がされ,鎮静状態は2~4時間ごとに評価及び診療録への記載がされた。次に,採血も連日行われていた。原告らが主張するプロポフォール注入症候群発症時の所見である乳酸アシドーシスや高カリウム血症は,平成26年2月19日,同月20において連日測定されていたが,異常はなかった。
プロポフォール注入症候群の早期マーカーとしては,CK値やミオグロビンの有用性は低く,乳酸値が上昇する乳酸性アシドーシスが有用とされている。本件では同月19日,20日と早期マーカーである乳酸値の測定を行っており,さらには乳酸値の異常値もなかった。なお,同月19日,20日の時点ではCK値は測定されていなかったものの,同月20日に採取された血
液を後日調べた結果ではCK値は74U/Lと正常値であった。以上より,仮に同月20日の時点でCK値を確認していたとしても,異常はなかったことから,プロポフォールの投与中止の判断にはならなかった。
このように,本件では,必要なモニタリングや検査が実施されていたのであり,これ以上に,CK値の頻回の計測,12誘導心電図の測定,ミオグロ
ビン尿検査等の検査を行うべき義務はない。
因果関係がないこと

心電図について
プロポフォール注入症候群の心電図変化は12誘導心電図におけるV1
~3誘導の典型的なブルガダ型変化とされ,プロポフォールの添付文書のその他の注意においてはブルガダ症候群に類似した心電図変化(右側胸部誘導(V1~V3)のcoved型ST上昇)がまれに発生する旨記載され,同添付文書の副作用にはST低下と記載されており,いずれも陰性T波の記載はない。

まず,12誘導心電図では,プロポフォール注入症候群の典型的な異常は見られなかった。すなわち,プロポフォール注入症候群の心電図変化は,12誘導心電図におけるV1~3誘導の典型的なブルガダ型変化とされているところ,陰性T波は平成26年2月19日午後3時30分,同日午後11時6分,同月20日午前7時30分に出現しているが,V1~V3誘導を含む12誘導心電図が記録されたのは同月21日午前6時47分が最初であり,その時点でブルガダ型変化は出現していないので,プロポフォール注入
症候群を疑わせる心電図変化はなかった。なお,同日午前10時35分にV3誘導でST変化を認めるが,この時点では既にプロポフォールの投与は中止されている。また,陰性T波は心疾患に限られるものではなく,電解質異常(低カリウム血症)においても出現し得る。そして,本件では,上記のとおり陰性T波が出現しているが,下記のとおり同月20日午前8時57分に
採取された血液のCK値は74U/Lと基準値内で,同日の心臓超音波検査で異常もなかったことに対し,カリウムの値は,同月19日午前11時1分の動脈血液ガス分析で3.47mEq/L(下限値は3.4mEq/L)であったものが,同月20日午前8時57分に2.9mEq/L,同日午後1時25分に3.09mEq/Lと低値であったことからすれば,上記の陰性T波の出現は,低カリウム血症
が原因であった可能性が高い。したがって,仮に同日以前に12誘導心電図の記録をしていたとしても,プロポフォール注入症候群を疑わせる所見はなかったと考えられる。

CK値について
CK値について,2月20日午前8時57分に採取された血液のCKは
74U/Lと基準値内であったこと,CK値の上昇(2221U/L)が最初に確認されたのは,同月21日午前8時46分の採血であったこと,横紋筋融解症が確認される前の同日午前8時45分にはプロポフォールの投与は中止されていることからすると,連日CK値を測定していたとしても,結果は変わらなかったと考えられる。


尿について
ミオグロビン尿検査は特殊な検査のため,当時は外部の検査機関に依頼していた(記憶である)ため,結果が判明するまで最短でも二,三日を要することから,連日同検査を行ったとしても,プロポフォール注入症候群の早期発見にはつながらなかった。

以上によれば,これらの検査をしなかったことと,Cの死亡との間に因果関係はない。
また,
被告Gによる行為がCの死亡の直接の原因となったものではないから,Cの死亡との間に相当因果関係はない。

(被告Hの主張)
注意義務がないこと


被告Hが,CK値の頻回の計測,12誘導心電図の測定,ミオグロビン尿検査等の検査を行わなかったことは認める。
ただし,被告Hは,陰性T波の出現を発見した後に,自身より経験のあるK医師及びL医師に対し,循環器小児科の医師に意見を聞くことや,CK値の計測も含む血液検査を行うことを進言し,実際,L医師はCK値の検査を
追加でオーダーした。

本件当時,
プロポフォールの投与時間や投与量について明確な基準は存在
せず,
プロポフォールを使用した場合にすべき検査についても確定的な知見は存在しなかったから,CK値の頻回の計測,12誘導心電図の測定,ミオ
グロビン尿検査等の検査を行うべき義務はなかった。
因果関係がないこと
心電図や12誘導心電図における陰性T波などの所見は,飽くまで心筋障害の可能性を示す一つの兆候でしかなく,プロポフォール注入症候群を示す特異所見ではない。仮に,平成26年2月20日の午後に12誘導心電図によって
陰性T波を確認したとしても,プロポフォール注入症候群の発症を予期ないし認識できたわけではなく,本件において12誘導心電図の測定を行ったとしても,プロポフォール注入症候群の発症を予期ないし認識できたとは限らない。CK値は,同月21日に急上昇しており,仮に,同月20日にCK値を測定していたとしても,異変に気が付かなかったはずである。
また,緑色の尿や,褐色の尿が確認された事実はない。
したがって,同月20日までの時点で,CK値の頻回の計測及び12誘導心
電図の測定,
ミオグロビン尿検査をしていてもプロポフォール注入症候群を疑
わせる有意な所見は得られないから,これらの検査をしなかったことと,Cの死亡との間に因果関係はない。
(被告Dの主張)
注意義務違反がないこと


Cが中央ICUに入ってからは,
被告Dには,
耳鼻咽喉科の専門医として,
硬化療法の副作用としての反応性腫脹の程度,発熱の程度,気道の状態の観察及び対応をし,中央ICUの麻酔科医らに対してそのことを伝え,情報共有を図る義務があることは認める。


被告Dは,平成26年2月19日午前8時50分頃及び同月20日午前8時頃に,
中央ICUの麻酔科医らと合同診察及びカンファレンスを行っているが,これらの際,耳鼻咽喉科の観点から,Cの容態に特段の異常はなかった。原告らが指摘する発熱やむくみなどは,硬化療法後に生じ得る症状であり,プロポフォール注入症候群とは無関係である。

したがって,被告Dは,上記アの義務を果たしている。
因果関係がないこと
被告Dの診察時において,耳鼻咽喉科の観点から,Cの容態に特段の異常はなく,発熱やむくみなどの症状も,硬化療法後に生じ得る症状で,プロポフォール注入症候群とは無関係であるから,原告らが主張するような被告Dによる
情報提供によって麻酔科医による術後管理が変わったとは考えられない。(被告Eの主張)
注意義務違反がないこと

Cが中央ICUに入ってからは,各診療科の専門的知見に基づき,耳鼻咽喉科医らは自らが行った硬化療法後の患部の経過について,中央ICUの麻酔科医らは術後の全身管理について,それぞれが役割分担をした上で,適切な診療を行う義務があることは認める。


被告Eは,平成26年2月18日,本件施術後,Cが中央ICU入室した際に中央ICUの医師らとともに合同診察をしたが,この時点でCに特段の異常は見られなかった。その後,同日午後5時頃にも診察を行ったが,同様にCに特段の異常は見られなかった。

被告Eは,同月19日,午前8時頃に診察し,午前8時50分頃に中央ICUの麻酔科医らと合同診察及びカンファレンスを行った。この際,Cの咽頭の披裂部に軽度の浮腫が認められたため,中央ICUの麻酔科医らと相談し,抜管は翌日以降にすることが決定された。被告Eは,同日午後0時15分頃に単独でCの診察を行ったが,この時もCに特段の異常は見られなかっ
た。
被告Eは,同月20日,午前8時頃に,中央ICUの麻酔科医らと合同診察及びカンファレンスを行った。この際,咽頭の披裂部に軽度の浮腫が認められるが,前日から増悪していない状態であるとの情報を共有した。また,午後5時頃及び原告Bから診察の要望があった午後8時頃にもCの診察を
行ったが,いずれの診察時にも,中央ICUの麻酔科医らによる全身管理が明白に不適切であることを窺わせるような特段の事情はなかった。被告Eは,同月21日,午前8時頃に診察し,午前8時20分頃に中央ICUの麻酔科医らと合同診察及びカンファレンスを行った。この際,咽頭の浮腫が軽減していたため,抜管に向けて挿入管を細い管に変更し,その後,
プロポフォールの投与を中止するなどの対応がとられた。また,被告Eは,同日午前11時30分頃に単独でCの診察を行ったが,中央ICUの医師から,発熱とシバリングがあったとの報告があり,むくみや発熱は続いていたものの,特段悪い状態であるとの報告はなく,また,麻酔科医による全身管理に問題があると考えられるような異常は見られなかった。なお,この時点ではプロポフォールの投与は中止されていた。
以上のように,被告Eは,前記アの義務を果たしている。

因果関係がないこと
前記

被告Eは,合同診察及びカンファレンスの中で,Cの浮腫

や発熱等の症状について中央ICUの麻酔科医らとの間で情報共有をしており,
原告らが主張するような被告Eによる情報提供によって麻酔科医による術後管理が変わったとは考えられない。

5
争点5(補液に関する過失及び因果関係の有無)について(被告D,被告E,
被告J関係)
(原告らの主張)
注意義務違反について

被告Eの注意義務違反について
本件施術後には,3日から10日間の人工呼吸管理になることも予想されるが,補液量が過量になると,気道浮腫が遷延し,その結果,人工呼吸管理の期間も延びることになり,鎮静のためプロポフォールの使用時間が長期化する原因となる。そのため,補液量を決める主治医の被告Eには,本件施術後の補液量を1000ml/日とすべき義務があった。

しかしながら,被告Eは,1500ml/日の量の補液を行ったのであるから,被告Eには上記義務を怠った過失(注意義務違反)がある。

被告Dの注意義務違反について
被告Dは,本件施術を実施し,Cを中央ICUで術後管理することを決
定し,被告Eを主治医として,その術後管理を担当させたのであるから,被告Dには,その術後管理において,補液量が過量になると気道浮腫が遷延し,その結果,人工呼吸管理の期間も延びることになり,鎮静のためプロポフォールの使用時間が長期化してしまうことを被告Eに注意し,被告Eがその補液量を誤らないように指導監督すべき義務があった。
しかしながら,被告Dは,上記の指導監督を行わなかったのであるから,被告Dには上記義務を怠った過失(注意義務違反)がある。


被告Jの注意義務違反について
被告Jは,中央ICUの責任者であり,耳鼻咽喉科から1日で抜管する予定でCの術後管理を引き受けたのであるから,被告Jには,その術後管理において,補液量が過量になると気道浮腫が遷延し,その結果,人工呼吸管理の期間も延びることになり,鎮静のためプロポフォールの使用時間が長期化
してしまうことを被告Eに注意し,
被告Eがその補液量を誤らないように助
言・指導すべき義務があった。
しかしながら,
被告Jは,
上記の助言・指導を行わなかったのであるから,
被告Jには上記義務を怠った過失(注意義務違反)がある。
因果関係について


仮に,被告Eが,1000ml/日の補液をしていれば,本件施術による気道浮腫が遷延することなく,翌日には抜管ができ,それ以降にプロポフォールが使用されることはなかったから,Cは,本件施術後のプロポフォールの過量投与によって,
横紋筋融解症等を伴うプロポフォール注入症候群に罹患する
ことなく,これにより死亡することはなかった。

したがって,被告Eの前記

Cの死亡との間には相当

因果関係がある。

仮に,被告D又は被告Jが,前記

イ・ウの助言・指導をしていれば,前

記アと同様に,Cが死亡することはなかった。
したがって,被告D及び被告Jの前記
との間には相当因果関係がある。
Cの死亡

(被告Dの主張)
注意義務がないこと
補液は,
口からの水分補給が困難な患者に対して身体の維持に必要な水分やブドウ糖などの栄養素を補給維持する目的で一定量を持続的に静脈内に投与するものであって,
補液の注入によって喉頭部の浮腫が生じるとの医学的根拠
はない。
また,
術後管理においていかなる麻酔薬を使用するかについてはその専門家集団である中央ICUの医師らがそれまでの治療経過やその時点での患者の容態を見極めた上で判断するものであり,被告Dにおいて,事前に鎮静期間が
延びた場合にいかなる麻酔薬が使用されることになるのか予見することは不可能である。
したがって,
補液量が過量になると気道浮腫が遷延し,その結果,人工呼吸管理の期間も延びることになり,鎮静のためプロポフォールの使用時間が長期化するとの機序には論理の飛躍があるといわざるを得ないことから,被告D
には,
被告Eに対して補液量を誤らないように指導監督すべきというような義務はない。
因果関係がないこと
原告らの主張は否認ないし争う。
(被告Eの主張)

注意義務違反がないこと
被告Eが,1500ml/日の量の補液を行ったことは認めるが,その余は否認ないし争う。
因果関係がないこと
本件施術の翌日である平成26年2月19日午前6時30分頃には,中央
ICUの医師の判断によって補液量は減量され,利尿剤の使用もされている。
原告らが主張の根拠とする事故調査委員会による調査報告書は,その性質上,本件事故の要因の一つである可能性があれば,その要因について広く言及するものであるところ,同報告書によっても,気道浮腫の遷延には複数の要因が複合的に関与したものであり,補液量が影響を与えた可能性も否定できない旨が記載されているにすぎない。また,仮に,補液量が,抜管が遅れた要因の一つであり,原告らが主張するとおりプロポフォールの継続使用がCの死亡の原因であったとしても,プロポフォールの継続使用をしなければ死亡事故は避けられたのであるから,補液量がCの死亡の直接の原因となったものではない。したがって,補液量とCの死亡との間に相当因果関係はな
い。
(被告Jの主張)
注意義務がないこと
補液量の初期設定は本件施術に付随するものであるところ,専門である耳鼻咽喉科医であって,本件施術を実施した主治医でもある被告Eが,上級医の被
告Dの指導監督のもとで決定したであろう初期設定量について,中央ICUの医師が助言する立場にはなく,また,手術の経過や状況を詳しく知らない中央ICUの医師が入室時にその量の当否を判断することもできないから,被告Jには,被告Eに対して補液量を誤らないように助言・指導すべきというような義務はない。

因果関係がないこと
原告らの主張は否認ないし争う。
6争点6
(プロポフォールの試験的投薬及び因果関係の有無)
について
(被告F,
被告J,被告G,被告H,被告I関係)
(原告らの主張)

被告Gが,添付文書に違反する初期設定量を指示したこと,被告G及び被告Hが投与開始から24時間経過後もプロポフォールを使い続けていたこと,被告Hが,薬剤師から疑義照会を受けたにもかかわらずこれを無視したこと,被告Hが薬剤師や看護師からCの尿が緑色になっている旨の事実を聞いていたにも関わらず,プロポフォールの投与を継続したこと,被告Hが被告Jに連絡を取ることなくプロポフォールの量を増加し続けたこと,被告Iが医師の承諾なくプロポフォールの増量を行っていること,被告Hがプロポフォールの大量投与後に血液ガス分析を行っていること,平成26年2月19日の当直帯の注射指示書の記載が不自然であること,警察の捜査や外部事故調査時において本件病院が過剰なまでの防御姿勢を見せていること,被告Hが本件事故後,留学し,その留学期間も延長されていること,被告Fはプロポフォールの製薬会社
と関わりを有していること,耳鼻咽喉科の医師がプロポフォールの適応拡大のための投与を疑い調査を依頼していたことなどの事実からすれば,被告F,被告J,被告G,被告H及び被告Iは,プロポフォールの適応拡大のため,Cに対して試験的投与を行ったものといえ,これは不法行為に当たる。このような上記被告らの故意に基づく非医療行為がなければ,Cは死亡する
ことはなかったのであるから,被告F,被告J,被告G,被告H及び被告Iの上記不法行為とCの死亡との間には相当因果関係がある。
(被告F,被告J,被告G,被告H及び被告Iの主張)
原告らの主張は否認ないし争う。
7争点7(損害の発生及び額)について

(原告らの主張)
被告らの不法行為によって,Cには下記ア及びイの合計1億3123万1352円の損害が生じ,原告らは,Cの損害賠償請求権を2分の1の割合で相続した。

死亡慰謝料


逸失利益

1億円
3123万1352円

原告ら固有の損害額

原告Aの損害額
葬儀関係費用

185万円

原告Aの交通費

15万円

親族の交通費
固有の慰謝料

5000万円

10万円

弁護士費用

1177万1567円

原告Bの損害額
原告Bの交通費

15万円

親族の交通費
固有の慰謝料

5000万円

30万円

弁護士費用

1160万6567円

小括(一部請求)
原告Aの損害賠償請求権は合計1億2948万7243円,原告Bの損害賠償請求権は合計1億2767万2243円となる。
原告Aは,上記原告Aの損害額のうち,被告F,被告G,被告H及び被告Iに対して,連帯して9000万円(ただし,7500万円の限度で被告D,被告E及び被告Jと連帯)
の支払,
被告D,
被告E及び被告Jに対して,
被告F,
被告G,被告H及び被告Iと連帯して7500万円を支払うことを求める。また,原告Bは,上記原告Bの損害額のうち,被告F,被告G,被告H及び
被告Iに対して,連帯して9000万円(ただし,7500万円の限度で被告D,被告E及び被告Jと連帯)の支払,被告D,被告E及び被告Jに対して,被告F,被告G,被告H及び被告Iと連帯して7500万円を支払うことを求める。
(被告らの主張)

争う。
(参加人の主張)
Cの死亡によりCに生じた損害は次のとおりである。
アイ
死亡慰謝料

2500万円


死亡逸失利益

2230万8102円

傷害慰謝料

10万円


小計

4740万8102円

原告らの損害

相続
原告らは,法定相続分に従い上記

エの2分の1の額である2370万

4051円の損害賠償請求権をそれぞれ相続した。

固有の損害
葬儀費用

150万円(各75万円)

小括
以上により,原告らの損害賠償請求権は,それぞれ2445万4051円を超えて存在しない。
8争点8(弁済供託の抗弁)について
(被告ら及び参加人の主張)
参加人は,平成27年9月3日,原告らに対して,それぞれ5000万0001円を供託しており,仮に,原告らの被告らに対する損賠賠償請求が認められたとしても,参加人の供託により,原告らの請求権は消滅している。
(原告らの主張)
争う。
第4当裁判所の判断
1認定事実
前提事実,
証拠
(後記証拠のほか,原告本人ら,被告本人ら,M医師,
N医師,

(ただし,
いずれも以下の認定に反する部分を除く。)

及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
医学的知見

リンパ管腫及びその治療方法について
リンパ管腫

リンパ管腫(Lymphangioma)はリンパ管の先天的な形成異常とされている。組織学的には,一層の内皮細胞で覆われた拡張したリンパ管腔とこれを満たすリンパ液,及び拡張したリンパ管腔間を満たす間質組織により構成される。
リンパ管腫は,リンパ管腔の拡張の程度により,嚢胞状リンパ管腫,海
綿状リンパ管腫,単純性リンパ管腫の3つに大別される。このうち,嚢胞状リンパ管腫は頸部(75%)や腋窩(20%)に好発する。リンパ管腫の65%は出生時に,90%は3歳までに認められている。
リンパ管腫に伴う症状には,周辺臓器への圧迫症状,感染に伴う症状,罹患臓器の機能障害,美容上の問題などがあり,時には圧迫による気道閉
塞や,頸部の脈管の絞扼による上大静脈症候群,骨浸潤による骨融解等を生じ死亡の報告例もある。
(以上につき,乙⑹B1)
硬化療法
硬化療法とは,
拡張したリンパ管腔内に炎症を惹起させる物質を投与し,

リンパ管腔内の内皮細胞を物理的・化学的な炎症作用で傷害し,その修復過程で,拡張したリンパ管腔壁が互いに癒着することで,リンパ液の貯留する管腔を消失させ,腫瘍を縮小に導く治療法である。炎症反応を利用する治療法であるため,発熱,局所の腫脹,発赤,疼痛などの副作用が挙げられている。また,リンパ管腫はその70%が頸部に発生するという特徴
を持つことから気管近傍に存在する腫瘍の治療に対しては,一過性腫瘤増大や,気道粘膜の炎症による気道閉塞の可能性が高く,硬化療法の術後腫脹による呼吸停止例も報告されている。炎症所見については3日から10日間程度認められる旨の報告があるものの,症例ごとに差があり,腫脹のピークについては一定の見解は得られていないとされている。抜管については,翌日に抜管することができた例が報告されているほか,7日間挿管し経過観察された例も報告されており,抜管の時期については慎重な判断が必要であるとされている。
(以上につき甲B1,乙⑹B1)
OK-432局注療法
OK-432局注療法とは,A群3型溶連菌Su株の凍結乾燥製剤で,
免疫賦活剤として用いられている薬剤OK-432(製品名ピシバニール)をリンパ管腫内に局所注射してリンパ管腫の縮小・消退を図る治療法(硬化療法のうちの一つ)である。
外科切除困難な部位(縦隔,深頸部,口腔底,耳下腺領域等)に発生したリンパ管腫が最も適応があるとされるが,特に適応外となる部位はない。
ただし,
治療に伴うリンパ管腫の一過性の腫脹により圧迫症状が一時的に
悪化する危険性のある場所に発生したリンパ管腫の治療には注意が必要とされる。具体的には,眼窩内発生のリンパ管腫は視神経を圧迫し,両側頸部発生のリンパ管腫は上大静脈症候群を惹起,
増悪させ,
気管近傍では,
気道圧迫による呼吸障害を生じるなどの危険性がある。

OK-432局注後は,約6時間経過頃より発熱を認め,38℃から39℃台が2日から4日間続くとされる。また腫瘤の発赤,腫脹,疼痛は投与の翌日頃より生じ,疼痛は圧迫すると痛い程度で,自発痛は訴えない。これらの局所の炎症所見は部位により異なるが3日から10日間程度続く。その後,投与前の大きさを約1か月間維持し,ある日を境に急速に縮
小するのが一般的である。
(以上につき,乙⑹B1)

プロポフォール(甲B4,8)
プロポフォールは全身麻酔,鎮静用剤であり,全身麻酔の導入及び維持,集中治療における人工呼吸中の鎮静に効能・効果がある。1%プロポフォールの添付文書上,小児(集中治療における人工呼吸中の鎮静)については禁忌とされており,
因果関係は不明であるが,外国において集中治療中の鎮静に使用し,小児等で死亡例が報告されているとの記載がある。集中治療における人工呼吸中の鎮静の場合の用量は,成人の場合1%プロポフォール0.03ml/kg/hr(プロポフォールとして0.3mg/kg/hr)の投与速度で,持続注入にて静脈内に投与を開始し,適切な鎮静深度が得られるよう患者の全身状態を観察しながら,投与速度を調節する。通常,成人には1%プ
ロポフォール0.03~0.30ml/kg/hrプロポフォールとして0.3~3.0mg/kg/hr)(
の投与速度で適切な鎮静深度が得られる。

プロポフォール注入症候群
プロポフォール注入症候群(Propofolinfusionsy
ndrome:PRIS)が最初に報告されたのは,1990年であり,デンマークにおいて,急性喉頭炎に対しプロポフォール(10mg/kg/hr,4日間)による鎮静下において治療を受けていた2歳の女児が,代謝性アシドーシス,心不全,肝腫大を呈し死亡した例が報告された。その後,1992年には,Parkeらによって,5例の小児でプロポフォール持続注
入開始後に代謝性アシドーシスが進行し,薬剤に反応しない徐脈,心不全へと移行し死亡したことが報告された。
プロポフォール注入症候群は,プロポフォール持続投与中(4~
5mg/kg/hr以上,48時間以上)に,治療抵抗性の急な徐脈から最終的に心静止に移行する病態であるとされる。プロポフォール注入症候群の初期
症状として,
右脚ブロックとV1からV3にてcoved型のST上昇を
呈するTypeⅠBrugada心電図が生じることが報告されている。その他の所見としては,高脂血症,腫大を伴う脂肪肝,著明な代謝性アシドーシス,横紋筋融解,ミオグロビン尿,心不全,腎不全であるとされる。
平成27年時点においても,プロポフォール注入症候群の診断基準はないとされているが,プロポフォールを高用量かつ長時間(4mg/kg/hr以上かつ48時間以上)使用している状況で,予期せぬ代謝性アシドーシス,低血圧,乳酸アシドーシス,徐脈を伴う難治性不整脈,脂肪肝で腫大,急性腎不全,横紋筋融解,ミオグロビン尿,緑色又は血色尿,ケトン尿,高カリウム血症,高脂血症,血中肝逸脱酵素値上昇,血漿クレアチンキナー
ゼ(CK)値上昇,血漿BUN値上昇などが生じた場合,プロポフォール注入症候群を疑うべきであるとされている。
(以上につき,甲B3(ただし,平成27年1月発行)
プロポフォール注入症候群の発症とプロポフォールの投与との関係については,4mg/kg/hrを超える用量かつ48時間以上の持続投与で関連性
があると考えられるとするオーストラリアの論文がある(甲B11の1・2)

プロポフォールの使用に当たっては,それぞれの施設において投与量の上限設定やガイドラインを設定するよう望まれているとされ,プロポフォール使用時の勧告ガイドラインをまとめると次のとおりとなる旨報告さ
れている。


4mg/kg/hrの投与量を上限とする。



48時間以上の投与には注意を払う。成人の鎮静投与でも7日を超えない。


モニターとしてPH,乳酸値,CPKを測定する。



16歳未満のICU鎮静にはプロポフォールを避ける。



他の鎮静薬との組み合わせを図り,プロポフォール投与量が増加することを避ける。


プロポフォールの禁忌薬指定の経緯
本件において使用されたプロポフォールは後発医薬品であり,先発医薬品
は英国の製薬会社であるAstraZeneca

PLC(以下アストラゼネカ社
という。のディプリバンである。

ディプリバンは平成7年12月
に日本国における販売が開始されたが,販売開始当初は鎮静目的での小児への使用は禁忌とされていなかった。ディプリバンの小児に対する集中治療における人工呼吸中の鎮静が禁忌とされたのは,平成13年9月からであり,当時,アストラゼネカ社が出した添付文書改訂のお知らせには,海外でプロポフォール製剤の小児の集中治療における人工呼吸中の鎮静について,禁忌等の措置が行われたことに基づく改訂である旨が記載されている。(甲
B2・23頁)
一方,
後発医薬品である1%プロポフォールは平成15年8月に販売が開
始され,
販売開始当初から集中治療における人工呼吸中の鎮静目的の小児への投与は禁忌とされていた
(甲B2)その後,

1%プロポフォールの製薬会
社である丸石製薬株式会社は,平成17年11月付けの文書でプロポフォール注入症候群について次のとおり記載した。
1992年,高用量プロポフォールを長期間使用した小児で死亡例が報告されました。その後も同様の報告があり,その特徴として治療抵抗性の突然の徐脈,高脂血症,肝肥大または脂肪肝,強度代謝性アシドーシス,横紋筋融解やミオグロビン尿症といった筋肉症状などを主徴としたこの症状を”Propofolinfusionsyndrome”と呼び,主にプロポフォールの長期高用量の投与例で認められています。その原因は不明ですが,最近では成人でも同様の症例が報告されており,先般,本邦においても本症状によると考えられる死亡例の報告がなされました(甲B4)

小児の鎮静におけるプロポフォール使用の実情
日本集中治療医学会の薬事・規格・安全対策委員会が平成26年7月14日に公表した,
日本集中治療医学会認定施設及び小児集中治療室におけ
る鎮静薬プロポフォールの使用状況の調査によれば,回答のあった102
病院,106施設中,20施設(19%)において,小児に対しプロポフォールの持続鎮静が行われていた。このうち13施設では年間症例が5症例以下であった。
また,
使用量の上限を定めているICUは5施設であり,
投与時間の上限を設定しているICUは4施設であって,その投与時間は,最小の施設で6時間,最大の施設で24時間とされていた。小児に限定し
て年齢や体重によりプロポフォールの使用基準を設定する施設が4施設あり,10kg以上で使用可能とする施設が1施設,6歳以上で使用可能とする施設が2施設,12歳以上で使用可能とする施設が1施設であった。(甲B2



Tらが,平成27年3月にプロポフォールの小児集中治療領域における使用の必要性及び適切な使用のための研究としてまとめた報告書によれば,
平成25年1月1日から12月31日の期間に集中治療室に入室した15歳未満の患者8970人のうち鎮静薬を使用された患者は3401人であり,使用された鎮静薬としてはミダゾラムがもっとも多く,デックスメデトミジン,プロポフォールの順で使用されており,集中治療室に
入室した1日目にプロポフォールを使用された症例は171例で,入室4日目以降に使用されている患者はいなかったと報告されている。
また,同報告書によれば,看護単位が独立し特定集中治療を加算するPICU(29施設)の責任者に対する調査においては,平成25年1月1日から12月31日の期間における16歳未満のPICU入室症例数は
7134症例であり,うち人工呼吸管理症例数が4283症例であって,このうちプロポフォールを使用した施設数は,単回鎮静,持続鎮静とも7施設(全施設の30%)
,症例数は,単回鎮静121例(16歳未満のIC
U入室患者の1.7%,人工呼吸患者の2.8%)
,持続鎮静189例(1
6歳未満のICU入室患者の2.6%,人工呼吸患者の4.4%)であったと報告されている
(なお,
単回・持続重複使用例は持続鎮静に含まれる)

さらに,持続鎮静のうち,手術室での投与を含め48時間を超えて投与した症例は3施設8例(16歳未満のICU入室患者の0.11%,人工呼吸患者の0.19%)
,そのうち72時間を超えて投与した症例は3施設
7例(16歳未満のICU入室患者の0.10%,人工呼吸患者の0.16%)
,そのうち1週間を超えて投与した症例は1施設1例であり,長期
投与の一例は,親権者よりインフォームドコンセントを得た上で,59日間の投与がなされ,
プロポフォール注入症候群の発症はなく退院したと報
告されている。
(以上につき,
原告らは,被告Hが令和3年1月19日の口頭弁論期日において提出し
た乙⑷B4の1・2(北米の小児ICUにおけるプロポフォールの使用に関して薬剤師を対象に行われた調査についての文献,以下本件書証という。について,

時機に後れた攻撃防御方法であり,
却下すべきであると
申し立てているので,この点について判断する。
被告Hが本件書証を提出した上記口頭弁論期日は,5期日に及ぶ証人尋
問を全て終えた後,
原告ら及び被告らが最終準備書面を陳述して弁論を終
結することが予定されていた期日であるから,本件書証の提出は,攻撃防御方法の提出として時機に後れたものというべきである。そして,本件書証の作成日が令和元年5月3日であることからすれば,本件書証が英文で作成されており,翻訳の必要があったことを考慮しても,口頭弁論の終結
が予定されていた令和3年1月19日の口頭弁論期日より前に提出しなかったことについて重大な過失があるというべきである(なお,被告Hの尋問が実施されたのは,令和2年10月7日の口頭弁論期日である。。ま)
た,本件書証に記載された医学的知見について,原告らが検討,反論するためには,調査等を含め,相応の時間を要するものであるから,本件書証の提出は,訴訟の完結を遅延させるものと認められる。
以上によれば,本件書証の提出は,時機に後れた攻撃防御方法の提出で
あるから,これを却下する。

本件病院におけるプロポフォール使用の実情
平成20年1月から平成25年12月までの6年間に,本件病院内のICUにおいて,
鎮静目的でプロポフォールの持続静注療法を受けた15歳
未満の患者のうち,
ICU内又はICU退室後1か月以内に死亡した症例

について,
プロポフォールと死因との関連性について外部評価委員会が検
討した結果をまとめた検討結果報告
(甲B5)
においては,
上記期間内に,
本件病院のICUにおいて鎮静目的でプロポフォールの持続静注療法を受けた小児患者症例数は63例であることが報告されている。そのうち,死亡した患者は11例であり,そのプロポフォールの最大投与量は11例
全例で4mg/kg/hrを超えていたとされ,
投与日数は最小で16日,
最多で
308日に及んでいたと報告されている。もっとも,外部評価委員会の検討結果によれば,上記11例については,死亡に直接プロポフォール注入症候群が関与したことは認められなかったとされている。
本件病院の心臓病ICUは,平成24年10月以降,プロポフォールの
禁忌事項を認識し,15歳未満の小児に対するプロポフォールの使用を中止していた(甲B6)

本件施術に至るまでの事実経過

原告らは,平成24年7月頃,Cの頸部(左下顎部及び左鎖骨上)にこぶのような脹らみ(腫れ)が生じたことから,同月10日に埼玉医科大学総合医療センターを受診し,Cは,その後,平成25年5月まで同病院にて治療を受けていた。しかし,Cの病状についての確定診断を得ることができず,病状も改善しなかったことから,原告らは,本件病院の耳鼻咽喉科がリンパ管腫に詳しく治療実績や手術実績を誇っていることを知って,本件病院の耳鼻咽喉科を受診することとした。
(甲A32・2~3頁,丙A1・253頁)

Cは,平成25年6月12日,本件病院の耳鼻咽喉科を受診し,Cの法定代理人たる原告らと本件病院との間で,Cのリンパ管腫の治療を目的とする診療契約が締結された。
(丙A1・253頁,
診療契約の締結につき弁論の全
趣旨)
。この時,Cの病状については,頸部のエコー検査により,左下顎部に約3cm大の弾性軟の腫瘤と,左鎖骨上にも分かれて約1cm大の弾性軟の腫瘤があることが確認され,
Cは,
左頸部リンパ管腫疑いと診断された。
また,

Cを診察したO医師は,原告らに対し,Cの病状の検査のため,鎮静をした上でMRI検査を行うことを提案した。原告らは,CにMRI検査を受けさせることに関し,埼玉医科大学総合医療センターにおいては,鎮静に対する不安を理由に断っており,本件病院においても,鎮静にトリクロリールシロップ(場合によってはエスクレ坐薬)を使用してのMRI検査に不安を示し
たが,
O医師からこれらの鎮静薬については一般的な検査用の鎮静薬であるとの説明を受け,MRI検査に同意した。
(丙A1・253頁)

Cは,同年7月18日,トリクロリールシロップによる鎮静の上,MRI検査を受けた。この時,Cは,鎖骨上から口蓋扁桃レベルの左頸部に嚢胞性病変が認められるなどし,リンパ管腫の疑いがあると診断された。(丙A1・

254頁,259~260頁)

Cは,同年8月5日,被告Dの診察を受けた。この時,被告Dは,診察に同席した原告らに対し,
Cの病状についてリンパ管腫の可能性が高いと述べ,
OK-432嚢胞内注入療法の実施を考慮するが,現在無症状であることを考え経過観察を行うとの方針を説明した。
(丙A1・255頁)


Cは,同年11月6日,再び被告Dの診察を受けた。この時,診察に同席した原告Aは,Cの症状について首のふくらみがだんだん大きくなっていること,Cは翌年4月に幼稚園に入園する予定であり,入園前に手術を行うことを希望することを伝えた(原告A・14頁,甲A33・6頁)
。また,被告
DもCの症状について,左側顎部から鎖骨上まで腫瘤が増大しており,腫瘤部位が気道に近く,
このまま増大が続いた場合には気道閉塞を起こす危険性

があると考え,近い時期に腫瘤に対する治療を行う必要があると判断し,原告らに対して,OK-432嚢胞内注入療法を行う場合,全身麻酔下で行う旨を説明し,手術前に小児科及び麻酔科の診察を受けるよう指示を行った(被告D・7~8頁,丙A1・255頁)


Cは,
平成25年11月21日に小児科の診察を受け,
全身状態は良好で,
手術,麻酔に問題はないと診断された(丙A1・267頁)
。また,同年12
月4日には,入院前検査のため被告Dの診察及び血液検査,尿検査,心電図検査を受け,この時,特に問題は指摘されなかった(丙A1・256頁,261~264頁)



Cは,同月18日,麻酔科の診察を受け,手術中の全身麻酔及び合併症についての診察を受けた。この時,診察を担当したP医師は,耳鼻咽喉科への申し送りとして,リンパ管腫が大きいと思われることから,麻酔導入挿管に注意が必要であること,ピシバニール注入後に呼吸や気道に影響がある場合は,ICU管理も検討することを記載した。
Cは,同日,引き続き耳鼻咽喉科を受診した。この時,診察を担当したO
医師は,
左頸部嚢胞性リンパ管腫であること,
一部多房性となっていること,
気管に近い部分にも嚢胞があることから,OK-432嚢胞内注入療法の適応があること,
気道に近いため術後ICU管理が望ましいことを診療記録に
記載した。
(以上につき丙A1・256~257頁,265頁~266頁)


平成26年1月16日,本件病院の耳鼻咽喉科の医局内で実施されたカンファレンスにおいて,Cの症状や部位を考えると気管切開の実施の可能性があるため,
これを原告らに事前に説明すべきではないかとの意見が出された。これを受けて,被告Dが原告らに対し,長期挿管や気管切開の可能性について説明する場を設けることとされた。そのため,同月22日,Q医師が原告らに架電し,気管切開が必要となる可能性や,気管切開しない場合にも術後
に挿管したまま集中治療室に入る必要があることを説明するため,被告Dの診察日に受診をしてほしい旨を伝えた。これに対し原告らは,気管切開についての説明がこれまでなかったことについて疑問を述べ,また,気管切開が必要との判断がなされるのであれば他院での診察も検討する旨を述べるなどしたが,
最終的に同年2月5日に被告Dの診察を受けることとなった。
(被

告D・8~9頁,

,丙A1・1~2頁)

原告ら及びCは,同月5日,被告Dの診察を受けた。この時,被告Dは,
原告らに対し,ピシバニールの注入後は患部が腫れ,それにより気道が圧迫される恐れがあるため呼吸確保のために酸素の管を気道に入れて経過を観察すること,その際,手術時と同様に気道を確保した状態を維持すること,
気管切開は,
腫れが長引き酸素の管を入れたままにすることができなくなっ
た時に行うこと,
気管切開は小児の場合には気管切開孔の閉鎖に時間がかか
るリスクがあること,術後の管理は中央ICUで行うことを説明した。(被
告D・8~9頁,丙A1・5頁)

原告Bは,同月13日,本件病院に架電し,Q医師との電話内容について確かめたいことがある旨を述べたが,Q医師は外勤が続いておりすぐには対応できないこと,病棟における主治医が被告Eであったことなどから,本件病院は,翌日の午後に被告Eから架電する旨を伝えた(丙A1・11頁)。


被告Eは,同月14日,原告Aに架電し,気管切開の可能性などについて再度説明を行った。また,この時,原告Aからは,ピシバニールの注入量を抑え,副作用が起きにくいようにしてほしい旨の要望が出されるなどした。また,被告Eは,同日,中央ICUへの入室申込書を提出したが,同申込書には呼吸管理を希望する旨の記載はなかった(被告J・4頁,27頁,被告E・16頁)


以上の経緯を経て,Cは,同月17日に本件病院に入院した。このとき,被告Dは,Cを診察し,原告らに対して,ピシバニールの注入量を少なめにすることや長期挿管は避けたいと考えている旨を説明した。また,挿管については,
喉に管を入れる

眠らせた状態で

口から挿管チューブを入れて空気の通り道を確保する旨を説明した。(被告E・5頁,45頁,
1)

また,原告Bは,同日,

気道確保を行ったままICUでの管理を行います。問題がなければ翌日に一般病棟に戻ります。,

気道確保が困難と判断した場合は,気管切開術を行う可能性があります。

などと記載のあるOK-432嚢胞内注入療法に関する同意書に署名した
(丙A1・204頁)さ

らに,
全身麻酔では,チューブを口又は鼻から喉に通して人工呼吸します
との記載のある麻酔に関する説明書及び同意書に署名した(丙A1・205~206頁)


被告Eは,平成26年2月17日の夕方,中央ICUに赴き,被告Jに対し,OK-432嚢胞内注入療法を行うこと,注入に際しては量を少なく設
定していること,
リンパ管腫が気道に近いところにあるため気道閉塞を起こ
す可能性があり気管挿管のままICUでの術後管理をすること,翌日の朝に内視鏡検査を行い,
浮腫がないことを確認の上抜管する予定であることを伝
えた。この時,被告Eは被告Jに対し,抜管の見通しについて,
1日で抜管できればラッキーだと思いますと述べた。
(被告J・4~5頁,27~28

頁,被告E・16~17頁,47頁)
本件施術及び本件施術以降の診療経過

平成26年2月18日(火)手術当日(以下,断りがない限り平成26年は省略する。



午前8時34分,Cに対する麻酔が開始され,麻酔導入薬として,アトロピン硫酸塩0.1mg,フェンタニル20㎍,1%プロポフォール20mg,エスラックス8mgが投与された(丙A1・181~193頁)




午前8時51分,Cの気管に気管内チューブが挿入された(丙A1・181~193頁)




午前9時35分,手術が開始され,執刀医(被告D)らは,頸部超音波検査で隔壁をもつ嚢胞であることを確認の上,太さ21ゲージの注射針で嚢胞を穿刺し,黄色透明な内用液8mlを吸引した。その後,嚢胞にピシバ
ニール0.3KE(1KEを生理食塩水10mlで希釈したものを3ml)を注入し,午前9時42分に施術は終了した。
(丙A1・71頁,79頁,181
~193頁,203頁)
午前10時04分,Cに対し鎮静のためドルミカム2mgが投与され,


Cは手術室を退室した(丙A1・181~193頁)




午前10時10分,Cは中央ICUに入室し,被告Eから中央ICUの医師に対して申し送りがされた。この時,Cの鎮静スコア(以下RASSという。)はマイナス4(深い鎮静状態)であった。
(被告J38~4
0頁,被告G17~18頁,33頁,丙A1・220頁)



午前10時30分,Cに対し,被告Jの指示で鎮静のため1%プロポフォールの持続投与が開始された。この時,指示を受けた被告Gは初期投与量として投与速度を80mg/hr(6mg/kg/hr)と設定した。また,
被告Eは,
補液量について,ソルデム1を1500ml/日(60ml/hr)と定めて,Cに対する輸液を開始した。

(丙A1・211頁)


午前10時50分,Cに対し,鎮痛のためフェンタニル(10㎍/ml)2ml/hrの持続投与が開始された(丙A1・211頁)



手術後,原告らは中央ICUに入室し,Cと面会した。この時のCの様子は,意識がなく,両手首を拘束され,口には気管チューブを入れられ,鼻にもチューブが入っており,
これらのチューブがテープで固定されてい
る様子であった
(原告A・10頁,
原告B・3~4頁,
甲A32・18頁)


被告Eは,原告らに対し,現在,Cの両手首を拘束していることを説明し,
身体拘束の同意書を差し出して,原告Aは,これに署名した(丙A1・210頁)



午後2時00分,CのRASSはマイナス5(昏睡)であることが確認された(丙A1・220頁)



午後5時05分,被告Eは,Cを診察し,Cに体動がないこと,発熱も認められないこと,頸部嚢胞部位は軽度腫脹しており熱感を認めることを確認した(丙A1・81頁)

午後10時30分,Cに対するフェンタニルの投与が2ml/hrから

1.5ml/hrに減量され,そのため,1%プロポフォールが80mg/hrから
100mg/hrに増量されて調整がされた(丙A1・211頁)。

2月19日(水)手術後1日目
午前6時30分,
Cに対する輸液
(ソルデム1)60ml/hrから30ml/hr



に減量された(丙A1・212頁)



午前6時43分頃,Cの鎮静と鎮痛については,1%プロポフォール100mg/hr,フェンタニル1ml/hrで継続されていたが,無刺激でも体をくねらせ横を向こうとする態度が確認されたため,気管チューブの抜管の危険を防止するため1%プロポフォール10mgがボーラス投与された。また,
午前6時46分にも1%プロポフォール20mgがボーラス投与された。(丙A1・221頁)



午前7時30分,Cに対する1%プロポフォールの投与が100mg/hrから120mg/hrに増量された(丙A1・212頁)



午前8時00分,被告EはCを診察したところ,Cの鎖骨上の腫瘤について緊満感を認め,
手術直後よりも腫脹を認めた。
また,
胸部X線検査
(ポ
ータブル)で心胸比の拡大が見られた(本件後に開催された本件病院の医療安全管理特別部会(後記

イ参照。以下特別部会という。
)では右上

肺野に浸潤影の出現を指摘された。。なお,手術当日の水分バランスは約)
12時間で646mlのプラスであった(丙A1・220頁)



午前8時50分,被告Dと被告EがCを診察したところ,超音波検査で嚢胞の腫脹が確認された。この腫脹については血腫ではないため,ピシバニールの反応性変化と判断された。喉頭内視鏡検査所見では,口腔底に腫
脹はなく,披裂部に軽度の浮腫がみられた。そのため,被告Eは中央ICUの医師らと相談の上,抜管については翌日以降に延期することとした。(丙A1・88頁)
また,胸部エックス線写真で心拡大が見られたため,輸液量を減量し,利尿剤を用いて,浮腫の改善を図ることとされた(丙A1・88頁,93
頁)

午前9時00分,Cに対する1%プロポフォールの投与が120mg/hrか


ら100mg/hrに減量された(丙A1・212頁)

午前9時05分,Cに対し,1%プロポフォール5mgがボーラス投与


された(丙A1・221頁)




午前9時20分,Cの抜管が翌日になったため,フェンタニルの投与が1.5ml/hrで再開された(丙A1・212頁)




午前9時30分頃,被告Eは,原告Bに対し,Cの病状について,発熱はなかったものの,頸部の腫脹が出現していること,これはピシバニール
注入の反応があったと考えられること,口腔底には問題がないようだったが,
喉頭には浮腫を認めたこと,
浮腫については挿管の影響によるものか,
腫脹の影響によるものか判断が難しいこと,注入後のピークを考慮すると,同日がもっとも増大する頃と考えられるため,被告Dと中央ICUの医師と相談した上で,
同日は抜管をせずにもう一泊ICUで管理することとな
ったことを説明した(丙A1・88~89頁)


午前10時00分,Cは,BB(全身清拭,更衣)時に手を少し動かしたが,大きな体動は認められなかった(丙A1・212頁)



午前10時40分頃,Cに対する1%プロポフォールの投与が
100mg/hrから80mg/hrに減量された(丙A1・221頁)。
なお,本件後に行われた事故調査委員会

による関係者

へのヒアリングにおいては,同日の中央ICUの定時カンファレンスにお
いて,薬剤師から中央ICUの医師に対して,Cに対する1%プロポフォールの投与量が多いのではないかとの指摘があり,上記午前10時40分頃の1%プロポフォールの減量は,この指摘を受けて行われたものではないかとの意見が示されている(甲B2・13頁)

午前11時00分,Cの血糖値は74mg/dLであった(丙A1・212

頁,229頁)

午前11時10分,
Cに対する1%プロポフォールの投与が80mg/hrか


ら100mg/hrに増量された(丙A1・212頁)


午前11時15分,Cに,無刺激で首を振るなどの体動が認められたため,1%プロポフォール10mgがボーラス投与された。また,Cの輸液が
ソルデム1からソリューゲンFに変更された上,
30ml/hrから20ml/hrに
減量された。
(丙A1・212頁,221頁)
午前11時30分,
Cに対し,
利尿剤
(Lasix1/4A+ソルダクトン1/4V)


が投与された(丙A1・212頁)


午後0時15分頃,被告EはCを診察した(


本件後に行われた特別部会による関係者へのヒアリングによれば,同日)


の昼から午後にかけて,Cの尿の色は緑色(いわゆるプロポ尿)に変色していたとされている(甲B2・20~21頁)


午後1時20分,Cに首振りや寝返りしようとするなどの体動が認められたため,
フェンタニルの投与が1.5ml/hrから2.0ml/hrに増量された(丙
A1・212頁,221頁)


午後2時30分,Cに対し,1%プロポフォール20mgがボーラス投与

された(丙A1・221頁)


午後2時40分,
Cの挿管チューブが巻き直された
(丙A1・221頁)



午後2時45分,Cに,寝返りで反対を向こうとするなどの体動が認められた(丙A1・221頁)



午後3時10分,Cに,モゾモゾするといった体動が認められた(丙A1・221頁)

午後3時15分,Cの血糖値の再検査の数値が42mg/dLと低血糖であ

ったため,50%糖液1Aの静脈注射が行われた(丙A1・212頁,221頁)



午後3時30分,Cの輸液が,ソリューゲンFからフィジオ35に変更された(丙A1・212頁)



また,午後3時30分から36分まで,Cの心電図モニター(モニター心電図Ⅱ誘導)上,一過性に陰性T波が出現していたが,この時点では中央ICUの医師らに認識されていなかった(甲A15・5頁)


午後5時00分,Cの血糖値の再検査の数値が153mg/dLであること

が確認され,以降低血糖は認められなかった(丙A1・221頁)。

午後6時00分,この時のCのRASSはマイナス4(深い鎮静状態)
であったことが確認されていた(丙A1・221頁)


午後6時10分頃,耳鼻咽喉科のR医師は,原告らに対し,中央ICUにおいて,S医師,被告H,被告I同席のもと同日のCの経過について,術後の影響により多少むくみがあり適宜利尿剤を使用して,水分バランスをコントロールしている状況であること,
術後の栄養補給は点滴のみであ
り,低血糖になったこともあったため,ブドウ糖を点滴から追加して適宜血糖チェックを行っていること,挿管チューブを挿入しており,現在も鎮静をかけている状況であることを説明した(丙A1・91頁)


午後7時00分,Cに対し,利尿剤(Lasix1/2A+ソルダクトン1/2V)

が投与された(丙A1・212頁)

午後8時00分,
Cに,
体動が見られたため,
1%プロポフォール10mg


がボーラス投与された(丙A1・221頁)

午後8時15分,Cに対する1%プロポフォールの投与が100mg/hrか

ら90mg/hrに減量された(丙A1・212頁)

午後8時20分,Cに対する1%プロポフォールの投与が90mg/hrか

ら100mg/hrに増量された(丙A1・212頁)


午後8時30分,CのRASSがプラス2(興奮した)であり,無刺激で起き上がる行為が認められたため,
1%プロポフォール10mgがボーラ

ス投与された。また,Cに対する1%プロポフォールの投与が100mg/hrから110mg/hrに増量された(丙A1・212頁,221頁)。

午後9時00分,この時のCのRASSはプラス2(興奮した)であったことが確認されていた(丙A1・221頁)


午後9時30分,
Cに対し1%プロポフォール10mgがボーラス投与さ


れた(丙A1・221頁)


午後11時00分,
Cに,
無刺激でモゾモゾ頭を起こす行為が認められ,
1%プロポフォール10mgがボーラス投与された(丙A1・221頁)。


午後11時06分,
Cの心電図モニター上,
陰性T波が出現していたが,
この時点では中央ICUの医師らに認識されていなかった(甲A15・5頁)

午後11時30分,Cに対する1%プロポフォールの投与が110mg/hr

から120mg/hrに増量された。
また,
Cに対し。
1%プロポフォール10mg
がボーラス投与された。
(丙A1・212頁,221頁)

2月20日(木)手術後2日目


午前0時00分,Cに,無刺激にモゾモゾ体動が認められため,Cに対する1%プロポフォールの投与が120mg/hrから140mg/hrに増量された。また,Cに対し,1%プロポフォール10mgがボーラス投与された。さらに,Cに38.3度の発熱が認められ,クーリングが施行された。なお,このときのCのRASSはマイナス5(昏睡)であった。
(丙A1・212
頁,221~222頁)



午前0時04分,Cの心電図モニター上陰性T波が消失したが,この時点では,
中央ICUの医師らに認識されていなかった
(甲A15・5頁)




午前1時00分,低換気アラームが鳴ったため,Cに対する1%プロポフォールの投与が140mg/hrから130mg/hrに減量された(丙A1・213頁,222頁)




午前2時00分,Cの体温は37度台前半まで下がった。また,鎮静についても達成できていたため,Cに対する1%プロポフォールの投与が130mg/hrから120mg/hrに減量された。
(丙A1・213頁,222頁)



午前2時29分,Cの心電図モニター上陰性T波が出現したが,この時点では,
中央ICUの医師らに認識されていなかった
(甲A15・6頁)




午前4時から6時,CのRASSはマイナス5(昏睡)であった(丙A1・222頁)

午前4時10分,Cに対する1%プロポフォールの投与が120mg/hrか


ら110mg/hrに減量された(丙A1・213頁)

午前4時30分,Cに対する1%プロポフォールの投与が110mg/hrか


ら100mg/hrに減量された(丙A1・213頁)



午前6時00分,同日朝の抜管のため,Cに対するフェンタニルの投与が中止された(被告H14~15頁,丙A・213頁)



被告Hは,同日の午前中,Cのモニター心電図上陰性T波が出現していることを認め,血液ガス分析を行った(甲A15・6頁)



午前7時47分,Cの動脈血液ガス分析の結果,カリウムの値が
2.9mEq/Lと低カリウムであることが判明した(丙A1・222頁,229頁)



午前8時00分,被告Dと被告EがCを診察し,鎖骨上の腫瘤は硬結性であること,
腫脹は前日と比較してやや縮小している印象であることを認
めた(丙A1・103頁)
。この時の診察は中央ICUとの合同診察であ

り,
抜管の可否については午後に再評価することとされた。
(被告E・11
頁)

午前8時10分,内視鏡検査における体動に備え,Cに対しフェンタニル10㎍/hrの投与が開始された(丙A1・213頁)



午前8時40分,被告Eは,Cに対して超音波検査を行った。この時,
嚢胞性病変が確認され,嚢胞内には血液の流入などは認められず,気管が確認された。また,甲状腺には左右差がなく,圧排しているような所見もないとされた。丙A1・103頁)

午前9時00分,Cに対する内視鏡検査が施行された。鼻腔内から喉頭にかけては唾液・鼻汁が多く,観察が困難であったため,口腔より麻酔科の喉頭鏡を用いて,被告Dと被告Eが喉頭内視鏡で観察を行ったところ,喉頭蓋の浮腫は認められず,
披裂部に軽度の浮腫が観察された。
そのため,
Cの利尿を促し午後に再評価することとされた。また,内視鏡検査中,モゾモゾするなどの危険な動きが認められたため,午前9時3分,10分,
11分,25分に,Cに対し1%プロポフォール5mgがボーラス投与された。
(丙A1・103頁,222頁)

午前10時00分,内視鏡検査時に唾液分泌物が多かったことから,Cに対する輸液(フィジオ35)が20ml/hrから15ml/hrに減量された。また,
依然として水分バランスがプラスであったため,
中央ICUの医師は,
1%プロポフォールの濃度を1%から2%に変更し,Cに対する全体の輸液量を減少させた。
(丙A1・213頁)

また,被告Eは,原告らに対し,Cの状態について,気管の腫瘤圧排はないと考えられるが慎重に経過を見る必要があること,午後に再評価を行い問題なければ抜管とすること,
場合によっては抜管した後も中央ICU
での管理とすることを説明した(丙A1・103頁)

さらに,被告Eは,原告Bに対し,Cに使用している薬は安全な薬であ
ることも説明した(被告E・37頁,甲A32・22頁)


午前11時00分,Cに対する胸部X線検査が施行され,心胸比の縮小がみられたことから,
利尿効果があったと評価された
(甲A15・6頁)

午後1時00分,Cに対する輸液(フィジオ35)が15ml/hrから

10ml/hrに減量された(丙A1・213頁)



午後1時25分,Cの静脈採血を用いて血液ガス分析が行われた。この時のカリウムの値は3.09mEq/Lであった。
また,が7.318に低下して
pH
いた。この時,CのCK値については検査されなかった。
(丙A1・229
頁)


午後1時30分,Cに体動が見られなかったため,Cに対する2%プロポフォールの投与が100mg/hrから90mg/hrに減量された。この時のCの体動については,RASSがマイナス5(昏睡)であることが確認されていた。
(丙A1・222頁)
午後1時40分,血液ガス分析の結果,pHが7.318に低下していたこ

とから,Cの人工呼吸器の設定が変更された(丙A1・218頁)。


午後2時00分頃,
Cの心電図モニター上陰性T波が出現していたこと
が,同日の午前中に中央ICUの医師らの間で共有されていたことから,Cに対する心エコーが施行され,心室壁運動に異常がないと判断された(甲A15・7頁)

午後2時11分,Cに対する2%プロポフォールの投与が90mg/hrか

ら80mg/hrに減量された(丙A1・213頁)



午後2時13分,Cのモニター心電図上,R波の減高が見られたが,この時点では中央ICUの医師らに認識されていなかった
(甲A15・7頁)



午後2時30分から午後3時00分,被告Jが帰院後,中央ICUの医師らは,
同日午前中の内視鏡検査の録画画像を確認,
検討し,
Cについて,
声門周辺の浮腫は残存しており抜管は危険であると評価した上で,喉頭浮
腫対策としてプリドール4mgを6時間ごとに投与することとした(甲A15・7頁)


午後3時30分頃,中央ICUの医師は被告Eに電話で上記検討結果を伝えた。これを受けて,被告Eは,原告Bに架電し,Cについて,声帯,披裂部の浮腫が軽快しづらかったため,翌日の抜管を目指すこと,頸部の
腫脹は午前よりもやや縮小している印象であったこと,
抜管後に声門部が
狭窄していたりすると,腫瘍圧排による再挿管が難しくなることがあること,このため上気道を確保した状態での抜管が望ましく,同日はICUでの管理としたこと,
浮腫の軽減が乏しい場合は明日もICU管理となる可
能性があることを説明した。
(丙A1・105頁)


午後3時30分過ぎから午後7時25分までの間に,中央ICUのL医師は,被告Eに対して,生化学検査にCKを追加するように依頼した(甲A15・7頁,甲B2・3頁)



午後3時55分,Cに,手足をピクピクする,足を曲げたりするといった体動が見られた(丙A1・222頁)



午後4時10分,Cに対する2%プロポフォールの投与が,80mg/hrから90mg/hrに増量された(丙A1・213頁)


午後4時30分以降,Cの体動が収まり始めたとことが確認された(丙A1・222頁)



午後5時00分,被告Eは,単独でCの診察を行った(
頁)



午後5時25分,Cにチューブリーク出現が認められたが,持続しなかったため,経過観察とされた(甲A15・7頁)



午後7時20分,Cについて,ケアするも体動がなく,手足が軽度にピクつき,RASSはマイナス4(深い鎮静状態)であることが確認された(丙A1・222頁)



午後7時25分,被告Eが生化学検査にCKを追加してオーダーを出した(甲A15・7頁,甲B2・3頁)



午後7時45分頃,
原告らは中央ICU室にて,
Cと面会した。
この時,
幼いCに長時間麻酔がかけ続けられていることや,
Cの顔面等にむくみが
見られることを不安として述べる原告らに対して,被告Eは,Cに使用さ
れている薬は安全な薬であり,もうすぐ抜管できると思われること,むくみはずっと寝ていることによるエコノミー症候群のようなものであることを説明した(被告E・37頁,甲A32・28頁,甲A33・20頁,丙A1・105頁)

午後9時00分,Cに対し,プリドール4mgが投与された。また,この

日のCの水分バランスは260mlのマイナスであった。丙A1213頁,(

222頁)

2月21日(金)手術後3日目
午前0時00分,Cの尿量が15ml/hrから5ml/hrに低下していること

が確認された。この時のCに対する2%プロポフォールの投与量は90mg/hrで,フェンタニルの投与量は5㎍/hrで鎮静が継続されていた。また,Cの呼吸・循環動態に著明な変化はなしとされていた。
(丙A1・2
14頁,223頁)
午前3時00分,Cに対し,プリドール4mgが投与された(丙A1・2


14頁)

午前6時24分,Cに対し,フロセミド20mg,ソルダクトン100mgが


投与され,40ml/4hrの尿量が確認された(丙A1・214頁)。


午前6時47分,看護師がCの12誘導心電図を記録した(丙A1・248頁)




午前8時00分,被告EがCを診察した。この時のCの鎖骨上の頸部腫瘤は前日と比べて増悪傾向がないことが確認された。
(丙A1・115頁)

午前8時15分,Cに対し,2%プロポフォール5mgがボーラス投与


された(丙A1・223頁)



午前8時20分,被告E及び中央ICUの医師らが,Cに対する喉頭内視鏡検査を実施した。
この時,
Cについては,
浮腫の軽減が認められたが,
チューブリークは認められなかった。
(丙A1・119頁)

午前8時38分,Cに対し,2%プロポフォール20mgがボーラス投与


された(丙A1・223頁)

午前8時42分,Cの挿管チューブを内腔4.5mmから4mmに変更し


たところ,チューブリークが認められたため,抜管が可能であると判断された。そのため,抜管に備えて,プロポフォールの投与を中止し,人工呼
吸器の設定を段階的に自発モードに変更していくこととされた。
(丙A1・
119頁,219頁,223頁)

午前8時45分,Cに対するプロポフォールの投与が中止された(丙A1・223頁)



午前8時46分,被告Eが,採血を行った(丙A1・113頁)



午前9時47分頃,中央ICUのL医師により,Cの血液検査結果は,CK値が2221U/L,
血清クレアチニンの値が0.63mg/dL,
カリウムの値が
5.0mEq/Lであることが確認された(丙A1・113頁,161頁,甲B2・3頁)


午前9時48分,L医師が心筋逸脱酵素(CK‐MB)検査の追加を依頼した(丙A1・113頁)



午前10時前後,L医師が,被告J及び被告Hに対し,CのCK値の検査結果を報告し,被告Jは経過観察を指示した(被告J・16~17頁,甲B2・4頁)



午前10時35分,看護師は,Cの陰性T波が変化していたため12誘導心電図を記録した(丙A1・247頁)


特別部会からは,
この時のCの心電図の波形について正常洞調律ではな
くQRS幅が広く心室頻拍様であるとの意見が出された。

午前10時36分,Cに対するフェンタニルの投与が中止された(丙A1・223頁)



午前11時00分,Cの体温は38.8度まで上昇し,呼吸数40から50回/分,脈拍140回/分,血圧116/68mmHgで,シバリングが出現していることが確認された(丙A1・120頁,223頁)



午前11時27分,L医師により,Cの血液検査結果は,CK‐MBの値が136IU/Lであることが確認された(丙A1・114頁,162頁,甲B2・4頁)



午前11時30分,被告EがCを診察した




午後0時00分,Cは38.8度と高熱のままで,顔色が不良であり,
頭部発汗が出現したことが確認され,解熱のため,アンヒバ坐薬が挿肛された。また,Cの心電図上PVC(心室性期外収縮)が出現していることが確認された。
(丙A1・214頁,223頁)


午後0時14分,看護師がCの12誘導心電図を記録した(丙A1・246頁)


午後1時00分,Cの体温は38.6度,脈拍は130回/分,血圧は92/74mmHgで,シバリングが消失したことが確認された(丙A1・223頁)



午後2時07分,Cに12誘導心電図で2段脈が出現し,また,観血的動脈圧カテーテル挿入が開始された(丙A1・223頁)



午後2時09分,L医師が生化学検査をオーダーした。この結果はCの死亡後に判明し,
CK値10036IU/L,
血清クレアチニンの値が0.79mg/dL,
カリウム値が7.8mEq/Lであった。
(丙A1・167頁,甲B2・4頁)


午後2時20分,Cの心拍数が42回/分へ低下し,観血的動脈圧カテーテル挿入が中止された。また,心肺停止と判断され蘇生(胸骨圧迫)が開始され,調節換気も再開された。中央ICUの看護師から被告Eに対して急変の連絡がなされ,
被告Eが中央ICUに入室した。
(丙A1・115
頁,120頁,223頁)
また,被告Eが,原告Bに対し,中央ICUからCの容態が急変したと
の連絡があったこと,現在小児科,小児外科,循環器科の医師を呼んで懸命に対処しており,危ない状態なのですぐに原告Aを呼ぶよう伝えた。午後2時32分,動脈血液ガス分析の結果,pHが7.165,PaCO2

が30.9Torr,PaO2が324.9Torr,BEが-15.5,カリウム値が7.06mEq/L,乳酸値が8.5mmol/Lと代謝性アシドーシス及び高カリウム
血症が認められた。末梢静脈ラインよりアトロピン,エピネフリン,メイロン,カルチコール,インスリングルカゴン療法が行われたが自己脈40回/分から改善せず,胸骨圧迫が継続された。
(丙A1・223頁,230
頁)
午後2時59分,心エコーで右室拡大はなく,IVCの径は10mm,左

室壁運動は非常に低下していることが確認された。自己脈は40回/分前後のまま,瞳孔は6mmで対光反射は認められなかった。
(丙A1・223
頁)

午後3時10分,耳鼻咽喉科の医師がCK,CK‐MB活性検査をオーダーした。これは,前日20日に採取した血液の残りを検体として検査依頼したものであり,この検査結果は,午後4時34分に判明し,CK値は
74U/L,CK‐MB<4であった。
(丙A1・115頁,118頁,163
頁)

午後3時15分,循環器小児科医に応援要請がなされた(丙A1・223頁)



午後3時30分,麻酔科医に応援要請がなされた(甲A15・8頁)。


午後3時37分,
中央ICUにおいて血液ガス分析の結果,
pHが7.090,
PaCO2が29.8Torr,PaO2が48.0Torr,BEが-18.8mmol/L,カリウム値が8.35mEq/L,乳酸値が12.6mmol/Lと代謝性アシドーシス及び高カリウム血症が悪化していることが認められた。
(丙A1・223頁,
230頁)


午後3時38分,心室頻拍の波形になり,除細動が20J,100Jで2回施行された(丙A1・124頁)



午後3時40分,Cの自己脈が再開(104回/分)したため,胸骨圧迫は停止された(丙A1・124頁)


午後3時46分,
中央ICUにおいて血液ガス分析の結果,
pHが7.615,


PaCO2が30.6Torr,PaO2が47.4Torr,BEが10.2mmol/L,カリウム値が6.75mEq/L,乳酸値が14.3mmol/Lと改善傾向であることが確認されたが,Hbは8.3g/dLと貧血が進行していた(丙A1・223頁,231頁)


午後3時59分,耳鼻咽喉科の医師が尿中ミオグロビン量の検査をオーダーした。
この検査結果はCの死亡後である同月27日午前8時29分に
判明しミオグロビン量は5900ng/mlであった。
(丙A1・116頁,16
9頁,甲B2・4頁)

午後4時00分頃,心臓血管外科に血管確保の依頼がなされた(甲A15・9頁)



午後4時10分,Cは心静止になり,胸骨圧迫が再開された(丙A1・125頁)



午後4時13分,
Cの左大腿動脈に動脈ラインが挿入された
(甲A15・
9頁)



午後4時38分,Cの自己心拍は40回/分前後であることが確認された(甲A15・9頁)



午後5時00頃,心臓血管外科に体外循環の依頼が連絡された。原告らは,被告D,被告Eから,体外循環についての説明を受け,体外循環に関する同意書に署名した(丙A1・235頁)



午後5時30分頃,心臓血管外科医が右内頸のカットダウンを開始し,
その後体外循環用カテーテルが挿入された(甲A15・9頁)



午後5時53分,右内頸動静脈より体外循環(ECMO)が開始された(回転数3000,
血液flow約1L/min)Cの平均動脈圧は40mmHg

台後半を維持するも,徐々に血圧は低下した。
(丙A1・236頁)


午後7時47分,被告Dから原告らに説明の上,体外循環が停止された(丙A1・130頁,157頁)



午後7時59分,Cの死亡が確認された。

C死亡後の事実経過の概要

病理解剖について
平成26年2月22日,原告らの承諾のもと,本件病院の理学教室においてCの病理解剖が実施された。


本件病院による調査について
本件病院は,平成26年2月24日,病院長を議長とする事例検討会を開催し,
薬剤の中でもプロポフォールの投与とCの死亡との間に因果関係があることが疑われたため,警察への届出を検討し(翌25日に警察への届出が行われた)また,

本件病院の医療安全管理運用マニュアルに従い,
厚生労働
省と福祉保健局に対する報告が行われた。

その後,本件病院は,同病院の医療安全管理委員会規定に基づき医療安全管理特別部会を開催し,医療記録,事故後に行われた関係者へのヒアリングにより確認された事実経過に基づき,事故発生の原因及び分析を行い,その結果を平成26年5月30日付けの頸部嚢胞性リンパ管腫術後の死亡事例中間報告書(甲A14)としてまとめた。しかしながら,かかる中間報告書

については,東京都医療安全課から,事象と原因分析,対策が一致していないなどの問題があるとして,
内容の見直し,
追加検討が指示され
(甲B20)

本件病院は平成26年6月30日付け頸部嚢胞性リンパ管腫術後の死亡事例ウ中間報告書(甲A15)を作成した。
事故調査委員会による調査について
第三者により構成された事故調査委員会により,上記イの中間報告書につ
いて中立かつ公正な立場で検証が行われ,その結果が,平成27年2月5日付けの東京女子医科大学病院「頸部嚢胞性リンパ管腫術後の死亡事例調査報告書」
(甲B2)
としてまとめられた。
その結果の概要は次のとおりであ
る。
Cの死因について
Cの直接死因は,横紋筋融解症,高CK血症,不整脈,心不全,高乳酸血症を伴うアシドーシスの症状から,プロポフォール注入症候群と考えられ,
その誘因としてはプロポフォールの長時間,
大量投与が挙げられる
(甲

B2・29頁)

本件におけるプロポフォールの投与について
禁忌薬であっても医学的に合目的的な事由が存在すれば,医師の裁量に基づいて使用する場合があり得るが,Cに対するプロポフォールの投与に関しては,医学的に合目的的な事由の存在に疑義があること,禁忌薬を使用する場合には,患者及び家族に対する十分な説明と同意が必要であり,禁忌薬の使用により発生が予測される有害事象を回避するためのモニタ
リング体制の強化及び診療録への記載が必要であるが,本件ではいずれも不十分であった。
また,中央ICUにおいては,①禁忌薬を使用する際の投与量や投与時間について医療チーム内で十分な検討をすることなくプロポフォールの使用を選択したこと,②文献で危険性が示唆されているプロポフォールの
用法及び用量が存在することについての認識が十分でなかったこと,③抜管の延期に伴って投与時間を延長する際の,麻酔薬の変更等を含めた術後管理の再検討がされることなく,4日間にわたりプロポフォールの大量投与を継続したこと,④プロポフォールの長時間,大量投与に伴う危険性に対する認識が薄く,リスクに対する配慮が不十分であったこと,⑤プロポ
フォールを使用する際に予想される有害事象の発生を回避するためのモニタリング体制の強化がなされず,Cに発生した陰性T波の出現や心電図の異常,生化学データの異常,尿の異常等に対する対応が不十分のまま推移したため,Cが徐脈,心停止に至る前に適切な対応を講じることができなかったことなどの問題点がある(甲B2・29~30頁)



本件病院の特定機能病院承認取消しについて
本件病院は,平成27年5月27日,厚生労働省から,特定機能病院承認の取消処分を受けた(争いなし)



本件病院による供託について
参加人は,
平成27年9月3日,
原告らを被供託者として,
東京法務局に,
参加人が開設する本件病院において,
同病院に勤務する医師らが,
Cに対し,
禁忌薬であるプロポフォールを長期間多量に使用したため,Cが平成26年2月21日にプロポフォール注入症候群を発症して死亡したことについての損害賠償金として参加人が相当と考える各4644万9479円及び本件事故の日からの遅延損害金各355万0522円の合計各5000万0001円について,それぞれ供託した(丙C1,2)


2耳鼻咽喉科医師ら(被告D及び被告E)の過失について


争点1(耳鼻咽喉科医師の説明義務違反及び因果関係の有無)についてア
説明義務違反の有無について
原告らは,被告D及び被告Eには,本件施術に先立って,その術後管理
について,①炎症が3日から10日間続くことも予想されるため,その間は,麻酔薬により鎮静をかけながら人工呼吸管理を行うこと,②その際,身体拘束をすることを説明すべき義務があったと主張するので,以下検討する。
医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するにあたっては,診療
契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状)実施予定の手術の内容,

手術に付随する危険性,
他に選択可能
な治療法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務があると解される(最高裁平成13年11月27日第三小法廷判決・民集55巻6号1154頁参照)


ここで問題とされている説明義務における説明は,患者が自らの身に行われようとする手術につき,その利害得失を理解した上で,当該手術を受けるか否かについて熟慮し,決断することを助けるために行われるものである。仮に,当該手術が術後管理を要するものである場合には,術後管理中に生じうる危険性についても,当該手術を受けるか否かを決断するにあ
たって考慮する重要な一事情であるといえる。そして,本件に即していえば,術後管理の方法として,麻酔薬による鎮静をかけながら人工呼吸管理を行うものであるから,この術後管理については,人工呼吸管理中の事故抜管の危険性や,
麻酔薬による副作用などの危険性を内包するものである。
したがって,本件で問題となっているOK-432嚢胞内注入療法(本件施術)についてみれば,疾患がリンパ管腫であること,その進行程度,実施予定の手術内容のほか,術後管理の方法として,一定期間麻酔薬により鎮静をかけながら人工呼吸管理を行うことも説明義務の対象となると解すべきである。なお,原告らは,身体拘束についても説明すべきであったと主張するが,
手術中及び人工呼吸管理中の身体拘束は治療に当然に付
随するものであり,
これにより患者の生命身体に強い悪影響を及ぼすもの

ではないことから,
この点については説明義務の対象ということはできな
い。
以上を前提に,本件において,被告D及び被告Eの説明義務が尽くされていたか否かを検討する。
前記認定事実によれば,被告D及び被告Eは,原告らに対し,ピシバニ
ールの注入後は患部が腫れ,それにより気道が圧迫される恐れがあるため呼吸確保のために酸素の管を気道に入れて経過を観察すること,その際,手術時と同様に気道を確保した状態を維持すること,
眠らせた状態で口か
ら挿管チューブを入れて空気の通り道を確保すること,術後の管理は中央ICUで行うことを説明したことが認められる。そして,眠らせたままと
いう表現や,酸素の管を気道に入れるという表現は,麻酔による鎮静を行うこと及び挿管して人工呼吸管理を行うことをかみ砕いて説明するものであるから,被告D及び被告Eは一般的な説明は尽くしていたものといえる。
一方,原告らは,当時2歳であったCに対して,MRI検査のための一
時的な鎮静であっても麻酔薬を用いることに強い不安感を抱いていたこと(前記
酔薬の使用は短時間であったからこそ,原告らは本件施術や本件施術前のMRI検査を受けることに同意していたと考えられること(原告B・5~6頁)などからすれば,原告らは,麻酔薬を用いて長期間鎮静を行うことについては消極的で,
特に慎重な考えを有していたものといえる。
そして,
本件病院の医師においても,原告らが埼玉医科大学総合医療センターで鎮静に対する不安を理由として検査を受けなかったことや,本件病院における検査の際も,鎮静薬に対する不安を示したため,一般的な検査用鎮静薬と説明して了承を得たことを認識していたのであるから,原告らの麻酔薬を用いた鎮静についての強い危機感と消極姿勢を当然把握していたもの
ということができる。このような事情からすれば,本件においては,被告D及び被告Eは,上記の一般的な説明に加え,ピシバニールの注入による炎症が3日から10日間続く可能性もあり,その場合には,その間は,麻酔薬により鎮静をかけながら人工呼吸管理を行う必要があること,すなわち,
麻酔薬による鎮静が長期に及び得る可能性があることを明確に説明す
べきであった。
しかし,被告D及び被告Eは,人工呼吸管理が長引く場合のリスクとしては,主に気管切開の必要性についての説明に終始しており,麻酔薬による鎮静が長期にわたる可能性やそれに伴う危険性について明確に説明しなかったのであるから,その説明は不十分であり,被告D及び被告Eが説
明義務を尽くしていたと認めることはできない。
被告Dは,麻酔薬による鎮静は,硬化療法の本質であるピシバニールの注入及び術後の気管挿管に当然に付随する随伴的な医療行為にすぎないこと,
専門医の下で小児に対する鎮静と呼吸管理は日常的に行われており,特段危険な行為と認識されているわけではないことからすると,術後の管
理を専門医である中央ICUの麻酔科医師らに委ねることが予定されていた本件の場合において,被告Dが鎮静をかけることについてまで説明すべき義務はないと主張する。
確かに,一般的には,術後の集中管理中における麻酔薬による鎮静は,専門医である麻酔科医師らに委ねられるものであるから,耳鼻咽喉科医師である被告D及び被告Eが麻酔薬による鎮静の危険性について説明する必要はないと解する余地もある。
しかし,そもそもリンパ管腫の部位が気道を圧迫する場所にあり,ピシバニールの炎症反応次第では人工呼吸管理の期間が長引くことも予想されたことなどからすれば,本件において,麻酔薬による鎮静が長期化する主な要因は,
ピシバニールの注入による炎症反応が長引くことである以上,

ピシバニールの炎症反応の可能性について判断できるのは,主治医科である耳鼻咽喉科であるといえる。したがって,麻酔薬による長期間の鎮静が単にピシバニールの注入及び術後の気管挿管に当然に付随する随伴的な医療行為と評価するのは相当でない。加えて,前記認定事実によれば,術前に実施された麻酔科医師による説明は,本件施術中に使用する麻酔薬等
に関する説明であったものと認められ,術後の集中治療における人工呼吸中の麻酔薬の使用に関する説明は行われていないものと考えられること,中央ICUにおいては,セミクローズドシステム(担当診療科や責任主治医を変更することなく,常駐する集中治療専従医が当該診療科と協力して診療を行う形式)が用いられていたこと,そもそも,原告らが麻酔薬によ
る鎮静に対して慎重な考えを有していたことは主治医である被告D及び被告Eが把握している事情であることなどからすれば,
被告D及び被告E
は,
原告らがCに本件施術を受けさせることについて判断する前提として,人工呼吸管理が長期に及ぶ場合の利害得失として,麻酔薬による鎮静が長期に及ぶ可能性を自ら説明する必要があったといえる。

しかしながら,被告D及び被告Eは,麻酔薬による鎮静が長期に渡る可能性とそれに伴う危険性を説明することを怠り,かかる説明を中央ICUの麻酔科医師に依頼することもなかったのであるから,被告D及び被告Eが説明義務を尽くしていたと認めることはできない。
以上によれば,被告D及び被告Eには,麻酔薬による鎮静が長期に及ぶ可能性及びそれに伴う危険性についての説明を怠った説明義務違反が認められる。


因果関係の有無について
原告らは,Cに本件施術を受けさせるにあたり,気管切開の可能性について追加の説明を求め,セカンドオピニオンを検討するなど,その利害得失を非常に慎重に検討していたものといえる(前記

ないし

サ)
。加えて,前述のとおり,原告らは,Cへの麻酔薬の使用についても慎重な考えを有しており,鎮静を理由にMRI検査を断ったこともあったことなどからすれば(前記
酔薬の使用にとどまらず,手術後の人工呼吸管理中の鎮静のための麻酔薬の使用が長期に及ぶ可能性があることを事前に説明されていれば,Cに本
件施術を受けさせることについて,これを再考し,本件施術を受けないという決断をした蓋然性が高いといえる。
被告D及び被告Eは,本件施術については緊急性があったことから,仮に,
被告D及び被告Eが術後管理中の麻酔薬による鎮静について説明していたとしても,
原告らはCに本件施術を受けさせた可能性があると主張す

る。しかしながら,被告D及び被告Eが主張する緊急性は,近い将来,硬化療法を行う必要があるというものにとどまり,直ちに本件施術を受けなければCの生命に危険性が及ぶといった緊急性までは認められないのであるから,原告らが,Cに本件施術を受けさせないという決断をした蓋然性は十分に認められる。

以上によれば,被告D及び被告Eが,前記

の説明義務を尽くしてい

れば,原告らは,Cに本件施術を受けさせなかった蓋然性が高いものと認められる。
さらに,被告Dは,麻酔の専門チームである中央ICUの管理下で禁忌薬が使用されることは予見できないことからすると,被告Dの説明義務違反とCの死亡との間の相当因果関係はないと主張するので,以下検討する。まず,後記3

イのとおり,Cはプロポフォール注入症候群によって死

亡したと解するのが相当であるから,本件施術を受けなければ,Cは死亡することはなかったといえ,被告Dの説明義務違反とCの死亡との間の条件関係は認められる。
次に,
被告Dの説明義務とCの死亡との間に相当因果関係が認められる
かについて検討すると,後記3

アのとおり,中央ICUの医師ら(被告

J,被告G及び被告H)がCの鎮静に高用量のプロポフォールを長期間用いたことについて過失が認められるのであって,Cの死亡との関係においては,中央ICUの医師ら(被告J,被告G及び被告H)の過失の寄与度が高いといわざるを得ない。しかし,一方で,合目的的な事由があれば人工呼吸管理中の小児の鎮静にプロポフォールが用いられることもあったのであり,また,プロポフォールの使用量に関しても,場合により,長期
れば,
本件におけるCにプロポフォールの使用がとりわけ異常であったとまではいえない。
結局,本件事故は,被告D及び被告Eが原告らに説明すべきであった麻酔薬による鎮静の長期化とそれに伴う危険性がまさに現実化し,
Cの死亡
という結果が生じたものといえる。
(なお,
被告D及び被告Eが,
ピシバニ
ールの炎症反応が長引く場合には,麻酔薬による鎮静が長期間に及ぶこともあるということを中央ICUの医師らに明確に伝えていれば,同医師ら
が鎮静のために用いる麻酔薬としてプロポフォールを選択しなかった可能性も否定できない。

以上の事実からすれば,被告D及び被告Eが原告らに対し,麻酔薬による鎮静が長期に及ぶことを説明しなかった説明義務違反とCの死亡との間には社会通念上の因果関係があるというべきである。
したがって,被告D及び被告Eの説明義務違反とCの死亡との間には相当因果関係が認められる。



小括
以上によれば,被告D及び被告Eに関するその余の点(争点4,争点5)について検討するまでもなく,被告D及び被告Eは,原告らに対し,連帯して,Cの死亡によって生じた損害を賠償する義務を負う。

3麻酔科医師ら(被告J,被告G及び被告H)の過失について


争点2
(プロポフォールを使用したこと自体等に関する過失及び因果関係の有無)及び争点3(プロポフォールの使用量や使用時間等に関する過失及び因果関係の有無)について

注意義務の有無について
原告らは,
小児に対してプロポフォールを集中治療における人工呼吸中
の鎮静のために使用することは禁忌とされており,
また,
本件施術後には,
3日から10日間にわたる長期間の人工呼吸管理になることも予想されたことからすれば,中央ICUの責任者である被告Jには,本件施術後の人工呼吸管理を行うに際し,その当初から,禁忌薬であるプロポフォール
ではなく,長時間作用型のミダゾラムを選択すべき義務があり,
仮に,被告Jにおいて,耳鼻咽喉科医師からの情報提供等によって,本件施術を実施した翌日に抜管がされることを想定していたとしても,被告Jには,
プロポフォールの持続投与から24時間以内に抜管できない場合も想定し,そのような場合には,他の薬剤(例えばミダゾラム)へ変更する
ことを,あらかじめ中央ICUの医師らとの間で事前に打ち合わせ,決めておく義務があったと主張する。
また,原告らは,被告Gは,プロポフォールの投与速度を初期設定するに際し,少なくとも添付文書に記載された成人の適正使用の基準である0.3~3mg/kg/hr(Cの体重では3.6~36mg/hr)を上回る使用をしてはならなかったと主張する。
さらに,原告らは,被告Hには,プロポフォールの持続投与の開始から24時間経過時,遅くとも48時間経過時において,速やかにプロポフォールから他の薬剤に変更し,少なくとも,プロポフォールの積算量が過大になっていることを把握して,プロポフォールを自ら中止すべき義務があり,仮にプロポフォールを増量するのであれば,上級医の被告J又は被告
Gの判断を仰ぐ義務があったと主張する。
以上の原告らの主張について,以下検討する。
証拠(甲B4)によれば,平成26年2月当時,プロポフォールの添付文書には,
禁忌
の項目に
小児(集中治療における人工呼吸中の鎮静)
と記載されており,
使用上の注意の項目に,
集中治療における人工呼吸中の鎮静においては,小児等には投与しないこと[因果関係は不明であるが,外国において集中治療中の鎮静に使用し,小児等で死亡例が報告されている]と記載されている。一方,M医師は,プロポフォールの小児への使用における禁忌は,絶対的に使用できないものではなく,
禁忌という言葉の持つ意味は,

確率としては大きくないが,致命的になる可能性があるので,避けるのが賢明にも同趣旨の記載がある。規格・安全対策委員会が平成26年7月14日に公表した,日本集中治療医学会認定施設及び小児集中治療室における鎮静薬プロポフォールの使用状況の調査によれば,回答のあった102病院,106施設中,20施設(19%)において,小児に対しプロポフォールの持続鎮静が行われていたこと,Tらが,平成27年3月に「プロポフォールの小児集中治療領域における使用の必要性及び適切な使用のための研究としてまとめた報告書によれば,
平成25年1月1日から12月31日の期間に集中治療室
に入室した15歳未満の患者8970人のうち,集中治療室に入室した1日目にプロポフォールを使用された症例は171例であったことが認められる(前記
これらの事実からすれば,専門的知見に基づく上記M医師の意見に疑問を差し挟むべき事情は見当たらず,本件当時,実際に小児の鎮静において
もプロポフォールが使用されていたことからすれば,プロポフォールを人工呼吸管理中の小児の鎮静に使用したこと自体をもって直ちに過失と評価すべきではない。
しかし,前記認定事実によれば,海外において,高用量プロポフォールを長期間使用した小児が死亡した例が報告されていること,プロポフォー
ルの長期高用量の投与例で,治療抵抗性の突然の徐脈,高脂血症,肝肥大又は脂肪肝,強度代謝性アシドーシス,横紋筋融解やミオグロビン尿症といった筋肉症状などを主徴としたプロポフォール注入症候群を発症した症例が報告されていたこと,本邦においてもプロポフォール注入症候群による死亡例の報告がなされていたこと(前記

エ)
,これらを受

けて,
人工呼吸管理中の小児の鎮静にプロポフォールを用いることが禁忌とされていたこと(前記
の小児の鎮静にプロポフォールを用いることが禁忌とされているのは,一定の臨床的な裏付けの下,これによって生じる危険性を防止するためであると解される。

したがって,医学的に合目的的な理由がなければ,人工呼吸管理中の小児の鎮静にプロポフォールを使用することは許されないと解するのが相当である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁参照)

以上を前提に,本件で,Cの鎮静にプロポフォールを用いたことについて合目的的な理由があったか否かについて検討する。
被告Jは,
①深い鎮静に入るまでの時間と投薬中止後に覚醒するまでの時間が短時間で済む点などで,事故抜管のリスクを避ける上で,ミタゾラムよりもプロポフォールの方が優れていること,②被告Jは,被告Eから翌日に抜管予定である旨聞いており,自己の経験からも術後の管理が長期に及ぶ可能性は低いと考えられたこと,さらに,③本件では,内視鏡で浮
腫の状態を確認することが予定されており,その際の刺激で覚醒して事故抜管が起こらないようにするため,抜管の直前まで深い鎮静を実現する必要もあったことからすると,本件で鎮静のためにプロポフォールを使用したことは不合理ではないと主張する。
まず,事故抜管のリスク(上記①及び③)については,M医師及びN医
師は,鎮静にミダゾラムを使用した場合には,覚醒に時間がかかり,その
疑問を差し挟むべき事情は見当たらない。しかし,証拠(前記
によれば,小児の鎮静にはミダゾラムが用いられることが多いことが認められる上に,M医師及びN医師が述べるミダゾラムの使用による事故抜管の危険性は抽象的なものにとどまり,ミダゾラムの使用による事故抜管の危険性が,
プロポフォールの使用による事故抜管の危険性を遥かに
上回るといった具体的な事情を認めるに足りる証拠はないから,事故抜管の危険性を理由に,プロポフォールを使用する必要性があったとしても,
その必要性が高いものとはいえない。
次に,術後の管理が長期に及ぶ可能性(上記②)については,確かに,本件におけるピシバニールの注入量は,0.3KE(1KEを生理食塩水10mlで希釈したものを3ml)と少量であり,Cの主治医である被告D及び担当医である被告Eも,
これによる炎症反応は1日程度であることが予想され

る。これらの事実からすれば,本件においては,術後の管理が長期に及ぶ可能性が低かったとする被告Jの判断には一定の合理性があるといえる。しかしながら,証拠(甲B1)によれば,硬化療法の際の炎症反応については,症例ごとに差があり,腫脹のピークについては一定の見解は得られていないとされ,
抜管の時期については慎重な判断が必要であるとされて

いること,被告Eも,被告Jに対し1日で抜管できればラッキーと述べていたことなどからすれば,必ずしも1日で抜管できる見通しがあったわけではないことが認められる。そうすると,術後の管理が長期に及ぶ可能性が低いと予測したからといって,プロポフォールを使用することが当然に許容されるものということはできない。そして,上記のとおり本件に
おいてプロポフォールを使用する必要性が高いとはいえないことに加え,前述のとおり高用量プロポフォールを長期間使用した小児が死亡した例が報告されていること,小児に限らず,4mg/kg/hr以上かつ48時間以上プロポフォールを使用した場合にプロポフォール注入症候群を発症する可能性があるとされていることに鑑みると,
Cのような2歳の小児の鎮静

に,プロポフォールを使用する場合には,その使用量,使用時間について慎重に検討し,
上限を明確にした上で使用する必要があるというべきであ
る。
しかしながら,被告Jは,プロポフォールの使用量,使用時間について何ら検討することなく,Cの鎮静にプロポフォール用いることを選択した
のであるから,被告Jが,Cの鎮静にプロポフォールを使用したことには合目的的な理由があると認めることはできない。
被告Gは,小児ではプロポフォールの注入必要量は成人よりも多く,添付文書の成人に対する使用量の記載が小児に該当するものではないこと,プロポフォールの使用量として0.3~3mg/kg/hrでは,指示のみに従うという程度の鎮静しか得られず(これは覚醒している状態を指す。,この程)
度では,
指示に従うことが困難な小児について適切な鎮静深度が得られて
いるとはいえないこと,1~3歳の小児においては全身麻酔の維持量として当初12mg/kg/hrから開始するとされていたり,0~3歳では12~25mg/kg/hrで開始するとされていること,原告らは,成人の基準として0.3~3mg/kg/hrの投与速度を初期設定とすべきと主張するが,添付文
書の表記は飽くまで使用例とされており,
基準とはされていないこ
となどからすると,プロポフォールの投与速度を初期設定として,添付文書に記載された成人の基準である0.3~3mg/kg/hrを上回る使用をしてはならないとの義務はないと主張する。
しかし,本件においては,Cの人工呼吸管理中の鎮静にプロポフォール
を用いることについての必要性は高くないこと,その使用量,使用時間については慎重に検討すべきであり,4mg/kg/hr以上かつ48時間以上プロポフォールを使用した場合にプロポフォール注入症候群を発症する可能性があるとされていることなどからすれば,使用量,使用時間の上限が明確に定められていない中で被告Gが設定した80mg/hr(6mg/kg/hr)とい
う量
(鎮静が得られた後も減量されていない。は,

過量であったものとい
わざるを得ない。
(2歳の小児であるがゆえに,適切な鎮静深度を得るた
めに,必要な使用量が成人に比して多量にならざるを得ないのであれば,前述のプロポフォール注入症候群の発症の危険性に鑑みて,プロポフォールを使用すること自体が不適切であったということに帰着する。


証拠(甲B2,丙A1)によれば,被告Hは,本件施術後1日目である平成26年2月19日午後8時以降,次のとおり,Cに対するプロポフォールの投与量を増減させたことが認められる。
(同年2月19日)


午後8時00分,10mgボーラス投与



午後8時15分,100mg/hrから90mg/hrに減量



午後8時20分,90mg/hrから100mg/hrに増量



午後8時30分,10mgボーラス投与
100mg/hrから110mg/hrに増量



午後9時30分,10mgボーラス投与



午後11時00分,10mgボーラス投与



午後11時30分,110mg/hrから120mg/hrに増量10mgボーラス投与

(同年2月20日)
午前0時00分,120mg/hrから140mg/hrに増量



10mgボーラス投与



午前2時00分,130mg/hrから120mg/hrに減量


午前1時00分,140mg/hrから130mg/hrに減量

午前4時10分,120mg/hrから110mg/hrに減量



午前4時30分,110mg/hrから100mg/hrに減量
前述のとおり,4mg/kg/hr以上かつ48時間以上プロポフォールを使用
した場合にプロポフォール注入症候群を発症する可能性がある旨示唆さ被告
Hは,プロポフォールを増量するのではなく,薬剤の変更又は他の薬剤との併用について検討すべきであったといえる。

この点,N医師は,本件についてプロポフォールを120mg/hrから140mg/hr投与することは珍しく,ミダゾラムやデクスメデトミジンの併用を考えてほしかったと述べ
(N医師
にも同趣旨の記載がある。また,M医師も,手術の翌日に抜管できない場合には,
別の薬を追加して徐々に切り替えるという選択肢があると述べる

(M医師・26頁)このように,

プロポフォールと他の薬を併用すること
により,プロポフォールの使用量を減量し,最終的には別の薬剤に切り替えることも十分可能であったといえる。
したがって,被告Hは,Cの体動が収まらない場合に,プロポフォールを増量し,ボーラス投与を繰り返すのではなく,プロポフォールの量が多
量にならないように,別の薬剤を用いるべきであり,仮に,被告Hのみでは切替えに対応できないのであれば,被告Jに応援を要請するか,遅くとも,他の医師が出勤した2月20日の朝,抜管ができないと判明した時点で,プロポフォールの使用をやめるべきであったといえる。
以上によれば,麻酔科医師ら(被告J,被告G及び被告H)が,Cの鎮
静に関して,
プロポフォールを高用量かつ長時間使用したことにつき上記
のとおりの注意義務違反が認められる。

因果関係の有無について
被告J,被告G及び被告Hは,Cの死因は急性循環不全であり,それを
引き起こした症状はプロポフォール注入症候群の一部に合致するが,プロポフォールの使用とプロポフォール注入症候群発症の機序や因果関係は不明とされており,事故調査報告書においても

プロポフォールの長時間投与が死因に直接関連していた可能性が高い。

との表現にとどまっていることからすると,
プロポフォールの使用とCの死亡との間に相当因果関

係はないと主張するので,以下検討する。
一般的に訴訟上の因果関係の証明は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,事実と結果の間に高度の蓋然性を証明することであり,その判定は通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものと解すべきところ(最高裁昭和50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)
,前記前提事実及び認定事実
によれば,Cは,6mg/kg/hr以上のプロポフォールを4日間にわたり投与されたのち,横紋筋融解症,高CK血症,不整脈,心不全,高乳酸血症を伴うアシドーシスを発症するなどして死亡したことが認められるのであり,前記医学的知見(前記

に照らせば,Cはプロポフォー

ル注入症候群によって死亡したと解するのが相当である。
M医師は,プロポフォール注入症候群は,他の薬剤でも一定程度以上の量を使用した場合に生じ得る可能性があり,プロポフォールの使用とプロポフォール注入症候群との間に因果関係はあるという証拠はないと述べ(M医師

また,M医師は,本件施術自体や人工呼吸管理,その他の薬剤の使用が絡み合ってプロポフォール注入症候群とされる症状を引き起こす可能性があるとも述べる(M医師・29~30頁)。加えて,N医師も,プロポフォール注入症候群の病態について,ミトコンドリアの代謝の抑制によるアデノシン三リン酸(ATP)の産生低下が関与している可能性が高いが詳
細は不明とされており,プロポフォールの投与とプロポフォール注入症候群の因果関係は,その使用と結果からの推測にならざるを得ず,正確な因
しかし,本件施術において使用されたピシバニールは,0.3KEと少量であったことからすれば,本件施術自体によってCが,横紋筋融解症,高CK血症,不整脈,心不全,高乳酸血症を伴うアシドーシスを発症したとは考え難く,
その他の要因が複合的に作用することによってプロポフォール
注入症候群を引き起こしたと認めるに足りる証拠はない。むしろ,高用量プロポフォールを長期間使用した小児がプロポフォール注入症候群を発症して死亡したとの報告例があることや,4mg/kg/hr以上かつ48時間以上プロポフォールを使用した場合にプロポフォール注入症候群を発症する可能性があるとされていること,本件では,6mg/kg/hr以上(最大で
11mg/kg/hr)
かつ約70時間にわたってプロポフォールが使用されていた
ことなどの事情に鑑みれば,経験則に照らして,プロポフォールの投与とCの死亡の間に高度の蓋然性があるものと認めるのが相当である。したがって,麻酔科医師ら(被告J,被告G及び被告H)が,Cの鎮静にプロポフォールを用いることを選択し,さらにプロポフォールの投与量
及び投与期間に関し,これを高用量かつ長時間使用しなければ,Cがプロポフォール注入症候群を発症して死亡することはなかったのであるから,麻酔科医師ら(被告J,被告G及び被告H)の前記過失と,Cの死亡との間には相当因果関係が認められる。
小括
以上によれば,被告J,被告G及び被告Hに関するその余の点(争点4,争点5,争点6)について検討するまでもなく,被告J,被告G及び被告Hは,原告らに対し,
連帯して,
Cの死亡によって生じた損害を賠償する義務を負う。
4被告Iの過失及び不法行為について(争点3,争点6)

争点3
(プロポフォールの使用量や使用時間等に関する過失及び因果関係の有無)について

原告らは,
被告Iは,
自己の判断でプロポフォールの増量をしてはならず,
また,仮に,被告Iが,被告Hからプロポフォールの増量の指示を受けていたとしても,
上級医の被告J又は被告Gの判断を仰ぐ義務があったと主張す
るので,以下検討する。


証拠(丙A1・212頁)によれば,被告I(又は他の看護師)により,平成26年2月19日の午後8時,同日午後8時30分,同日午後11時30分,
同月20日午前0時にそれぞれプロポフォールの投与量が増量されているが,注射指示書には,指示医の署名がないことが認められる。しかしながら,被告Iは,上記増量については被告Hの指示により増量を行ったと述べ
(被告I・7頁)被告Hも増量については自ら指示をしたと述べているこ,

と(被告H・9~12頁)
,中央ICUの注射指示書は,カルテ控え,医事課
控え,ICU控えの3枚綴りの複写になっており,午前0時に処理される取扱いとなっていたところ,被告Iは,注射指示書に署名がない理由について被告Hに署名を求めていたものの,被告Hが署名をする前に,注射指示書が回収されてしまったと述べていること
(被告I
・10~11頁)
からすれば,

上記増量はいずれも被告Hの指示により行われたと認められる。したがって,被告Iが自身の判断によりプロポフォールを増量したことを前提とする原告らの主張は,前提とする事実を欠くものであって,理由がない。ウ
また,上記増量はいずれもCの体動に応じて,事故抜管を防ぐために指示されたものであり,当直医である被告Hが,その裁量の下で判断したものであるから,被告Iには,上級医の判断を仰ぐ義務があったということはできない。したがって,被告Iには上級医である被告J又は被告Gの判断を仰ぐ義務があるとする原告らの主張には理由がない。
争点6(プロポフォールの試験的投薬及び因果関係の有無)について
原告らは,
被告Iが医師の承諾なくプロポフォールの増量を行っていること
などから,被告Iは,プロポフォールの適応拡大のため,Cに対して試験的投与を行ったものであると主張しているが,前記

被告Iが医師の承

諾なくプロポフォールを増量した事実は認められないのであるから,原告らの主張は,前提とする事実を欠くものであって,理由がない。
小括
以上によれば,原告らの被告Iに対する請求は,その余の点(争点7,争点8)について判断するまでもなく理由がない。
5被告Fの不法行為について(争点6)
争点6(プロポフォールの試験的投薬及び因果関係の有無)についてア
原告らは,被告Gが,添付文書に違反する初期設定量を指示したこと,被告G及び被告Hが投与開始から24時間経過後もプロポフォールを使い続
けていたこと,被告Hが,薬剤師から疑義照会を受けたにもかかわらずこれを無視したこと,被告Hが薬剤師や看護師からCの尿が緑色になっている旨の事実を聞いていたにも関わらず,プロポフォールの投与を継続したこと,被告Hが被告Jに連絡を取ることなくプロポフォールの量を増加し続けたこと,被告Iが医師の承諾なくプロポフォールの増量を行っていること,被
告Hがプロポフォールの大量投与後に血液ガス分析を行っていること,平成26年2月19日の当直帯の注射指示書の記載が不自然であること,警察の捜査や外部事故調査時において本件病院が過剰なまでの防御姿勢を見せていること,被告Hが本件後,留学し,その留学期間も延長されていること,被告Fはプロポフォールの製薬会社と関わりを有していること,耳鼻咽喉科
の医師がプロポフォールの適応拡大のための投与を疑い調査を依頼していたことなどの事実からすれば,被告F,被告J,被告G,被告H及び被告Iは,プロポフォールの適応拡大のため,Cに対して試験的投与を行ったものといえ,これは不法行為に当たると主張する。

しかし,被告Fは,本件当時,本件病院の麻酔科主任教授及び中央ICUの運営部長であり,中央ICUの患者の治療・投薬に直接関与していなかったこと(被告F・1頁,6頁)
,被告Fが被告Jに,小児に対するプロポフォ
ールの適応拡大を指示したと認めるに足りる証拠はないことなどからすれば,
原告らの上記主張は,
前提とする事実を欠くものであって,
理由がない。

小括
以上によれば,原告らの被告Fに対する請求は,その余の点(争点7,争点8)について判断するまでもなく理由がない。
6損害の発生及び額について(争点7)
Cに生じた損害について

逸失利益について
Cは,死亡当時満2歳の男児であるから,Cの逸失利益については,基礎
となる収入を536万0400円(平成26年男子学歴計賃金センサス),
就労期間を18歳(ライプニッツ係数10.8378)から67歳(ライプニッツ係数19.1611)まで,生活費控除を5割とすると,次の計算式のとおり,2230万8108円となる(1円未満切捨て,以下同じ。)
(計算式)

536万0400円
-0.5)=

×(19.
1611

-

10.
8378)(1
×

2230万8108円

死亡慰謝料について
Cの死亡による精神的苦痛に対する慰謝料は,本件に現れた諸般の事情を考慮して,2500万円とするのが相当である。


損害の合計
以上を合計とすると,Cの損害額は,4730万8108円となる。原告らの損害について

アC
2365万4054円をそれぞれ相続した。

固有の慰謝料
大切なわが子を突然失った原告らの苦痛は計り知れないこと,その他,本件に現れた諸般の事情を考慮して,Cの死亡によって原告らが被った精神的苦痛に対する慰謝料は,それぞれ300万円とするのが相当である。

葬儀関係費用
弁論の全趣旨によれば,原告Aが支払った葬儀関係費用185万円については,Cの死亡との間の因果関係が認められる。

小計
以上を合計すると,原告Aについては2850万4054円,原告Bについては2665万4054円となる。


弁護士費用
原告らは,弁護士に本訴の提起及び追行を委任しているところ,本件の事案の内容,認容額等を考慮すると,本件と相当因果関係のある弁護士費用は上記損害額エの約1割とするのが相当であり,原告Aについては285万円,原告Bについては266万円となる。


損害の合計
よって,被告D,被告E,被告J,被告G及び被告Hは,連帯して,原告Aにつき3135万4054円,原告Bにつき2931万4054円及びこれらに対する平成26年2月21日(C死亡の日)から各支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。
7弁済供託の抗弁について(争点8)
参加人の責任について
前記2及び3において説示したとおり被告D,被告E,被告J,被告G及び被告Hの過失とCの死亡との間には因果関係が認められるのであるから,上記
被告らの使用者である参加人は,Cの死亡によって生じた損害について,Cの相続人たる原告らに対し,これを賠償する義務を負う(民法715条)。
そして,
参加人の原告らに対する損害賠償債務と,
被告D,
被告E,
被告J,
被告G及び被告Hの原告らに対する損害賠償債務は,不真正連帯債務となる。参加人による供託

前記認定事実によれば,参加人は,平成27年9月3日,Cの死亡に関する損害賠償金として,各5000万0001円を,原告らを被供託者として,東京法務局にそれぞれ供託していることが認められる(丙C1,2)。
したがって,不真正連帯債務者の一人による供託により,被告D,被告E,被告J,被告G及び被告Hの損害賠償債務(原告Aにつき3135万4054円,原告Bにつき2931万4054円)及びこれに対する平成26年2月21日から平成27年9月3日までの遅延損害金(原告Aにつき240万5242円,原告Bにつき224万8749円)についての債務(原告Aにつき合計3375万9296円,原告Bにつき合計3156万2803円)は消滅したものと認められる。
なお,この点について原告らは,参加人による上記供託は,参加人が,息子
の死亡の原因を知るために参加人と話合いをしようとした原告らをクレーマー扱いし,謝罪して欲しければ病院に来いなどと心ない対応をしたこと,Cの死亡後に,Cのカルテが外部に不正に流出したことなどにより,原告らに与えた精神的損害について賠償するものであり,本件病院の医師らの過失によりCを死亡させた損害賠償とは無関係である旨主張する。

しかしながら,上記供託金が,本件病院の医師らがCに対して禁忌薬であるプロポフォールを長期間多量に使用したため,Cが平成26年2月21日にプロポフォール注入症候群を発症して死亡したことの損害賠償金の弁済として供託されたものであることは前記認定のとおりであり,原告らの主張は理由がない。

小括
以上によれば,被告D,被告E,被告J,被告G及び被告Hについて,弁済供託の抗弁が成立し,同人らに対する原告らの請求は認められない。8参加人の責任について
参加人の損害賠償債務について

前記7

Cの死亡によって生じた損害について,Cの

相続人たる原告らに対し,これを賠償する義務を負うところ,その額は,前記6
原告Aにつき3135万4054円,原告Bにつき2931

万4054円及びこれらに対する平成26年2月21日(C死亡の日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の合計額となる。参加人による供託
前記7

C
の死亡に関する損害賠償金相当額各5000万0001円を,原告らを被供託者として,それぞれ供託していることが認められることから,前記のとおり参加人の原告らに対する損害賠償債務は供託額を超えておらず,全て消滅したものと認められる。
参加人の求償債務について

前記7

被告D,被告E,被告J,被告G及び被告Hが原告らに

対して負う損害賠償債務は参加人の供託により消滅し,前述のとおり被告I及び被告Fの損害賠償債務は認められないから,参加人が,被告らに対して負う求償債務は存在しない。
小括


以上によれば,参加人が原告Aに対して負う,Cの診療に関する医療過誤を理由とする損害賠償債務は,2445万4051円を超えて存在しない。

また,参加人が原告Bに対して負う,Cの診療に関する医療過誤を理由とする損害賠償債務は,2445万4051円を超えて存在しない。

さらに,参加人が被告らに対して負う,Cの診療に関する医療過誤を理由とする損害賠償債務の共同不法行為者としての負担部分を理由とする求償債務は,4890万8102円を超えて存在しない。

第5結論
以上によれば,原告らの各請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,参加人の債務不存在確認の訴えは,いずれも理由があるからこれらを認容することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第30部

裁判長裁判官

男澤聡子
裁判官

佐藤康平
裁判官

藤原未彩
(別紙)当事者目録は記載を省略

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