判例検索β > 平成29年(ワ)第513号
損害賠償請求事件
事件番号平成29(ワ)513
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和3年6月28日
裁判所名・部宮崎地方裁判所
裁判日:西暦2021-06-28
情報公開日2021-08-10 12:00:49
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主1文
原告らの令和2年12月22日以降に生ずべき損害の賠償請求に係る訴えを却下する。

2
被告は,次の各原告に対し,次の各金員を支払え。


別紙2-1損害賠償認容額一覧表1の原告氏名欄記載の原告
らに対し,同原告らに各対応する同表の元利金合計額欄記載の金員及び内元金額欄記載の金員に対する始期欄記載の日付から支払
済みまで年5%の割合による金員



別紙2-2損害賠償認容額一覧表2の原告氏名欄記載の原告
らに対し,同原告らに各対応する同表の元利金合計額欄記載の金員並びに内元金額欄記載の金員に対する令和2年12月21日から支払済みまで年3%の割合による金員



別紙2-3損害賠償認容額一覧表3(訴訟承継人分)の原告氏名欄記載の原告(訴訟承継人)らに対し,同原告(訴訟承継人)らに各対応する同表の元利金合計額欄記載の金員並びに内元金額(年利5%)欄記載の金員に対する平成29年12月18日から支払済みまで年5%の割合による金員及び内元金額(年利3%)欄記載の金員に対する令和2年12月21日から支払済みまで年3%の割合による金員

3
第2項記載の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4
原告番号31,32,58,59,118及び131の各原告の請求をいずれも棄却する。

5
訴訟費用は,全事件を通じ,第4項記載の原告らについて生じた費用は各原告の負担とし,第2項記載の原告らについて生じた費用はこれを4分し,その3を同原告らの,その余は被告の負担とし,被告について生じた費用はこれを4分し,その3を原告らの負担とし,その余は被告の負担と
する。
6
この判決は,第2項に限り,被告に送達した日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。
ただし,被告が,別紙2-1損害賠償認容額一覧表1,別紙2-2損害賠償認容額一覧表2
及び別紙2-3
損害賠償認容額一覧表3(訴訟承継人分)記載の原告らに対し,同原告らに各対応する担保額欄記載の各金員の担保を提供するときは,担保を提供した原告との関係でその仮執行を免れることができる。

第1章
第1
1実及び理由
請求の趣旨及び事案の概要
請求の趣旨
被告は,別紙3居住経過一覧表
(以下本件居住経過一覧表という。)

の原告種別欄に1の記載のある原告ら(以下原告種別1の原告ら
という。)に対し,それぞれ148万8400円及び内金138万7241円に対する平成29年12月18日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2
被告は,本件居住経過一覧表の原告種別欄に2の記載のある原告ら(以下原告種別2の原告らという。)に対し,それぞれ別紙4原告種別2の原告ら・請求の趣旨2項一覧表の請求金額(過去)欄記載の金員及び内請求金額(過去・元金のみ)欄記載の金員に対する平成29年12月18日から令和2年3月31日まで年5%の割合による金員を,同年4月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

3
被告は,本件居住経過一覧表の原告種別欄に3の記載のある原告ら(以下原告種別3の原告らという。)に対し,それぞれ148万8136円及び内金138万7241円に対する平成30年7月2日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

4
被告は,本件居住経過一覧表の原告種別欄に4の記載のある原告ら(以下原告種別4の原告らという。)に対し,それぞれ別紙5原告種別4の原告ら・請求の趣旨2項一覧表の請求金額(過去)欄記載の金員及び内請求金額(過去・元金のみ)欄記載の金員に対する平成30年7月2日から令和2年3月31日まで年5%の割合による金員を,同年4月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

5
被告は,原告種別1及び2の原告らに対し,平成29年12月19日以降,新田原飛行場の使用により,被告が防衛施設について用いている算定方法によるWECPNLの値が75以上の航空機騒音,エンジン作動音その他一切の騒音(以下航空機騒音等という。)を同原告らの居住地に到達させなくなり,かつ,午後5時から翌日午前8時までの間,航空機騒音等を同原告らの居住地に到達させなくなる日まで,平成30年1月1日限り1万6146円及び同年2月1日以降毎月1日限り各3万8500円並びにこれらに対する当該各月の1日から令和2年3月31日まで年5%の割合による金員を,同年4月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

6
被告は,原告種別3及び4の原告らに対し,平成30年7月3日以降,新田原飛行場の使用により,被告が防衛施設について用いている算定方法によるWECPNLの値が75以上の航空機騒音等を同原告らの居住地に到達させなくなり,かつ,午後5時から翌日午前8時までの間,航空機騒音等を同原告らの居住地に到達させなくなる日まで,平成30年8月1日限り3万6017円及び同年9月1日以降毎月1日限り各3万8500円並びにこれらに対する当該各月の1日から令和2年3月31日まで年5%の割合による金員を,同年4月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

7
被告は,原告番号57の原告(α)に対し,平成30年3月29日以降,新田原飛行場の使用により,被告が防衛施設について用いている算定方法によるWECPNLの値が75以上の航空機騒音等を同原告の居住地に到達させなく
なり,かつ,午後5時から翌日午前8時までの間,航空機騒音等を同原告の居住地に到達させなくなる日まで,平成30年4月1日限り3725円及び同年5月1日以降毎月1日限り各3万8500円並びにこれらに対する当該各月の1日から令和2年3月31日まで年5%の割合による金員を,同年4月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要
本件は,宮崎県に所在し航空自衛隊が使用している新田原飛行場(以下本件飛行場という。)の周辺に居住し又は居住していた住民である原告らが,本
件飛行場で運航される自衛隊が使用する航空機(以下自衛隊機という。)が発する騒音等によって,睡眠妨害等による身体的被害や精神的苦痛を被っているとして,国家賠償法2条1項に基づき,原告種別1及び2の原告は平成26年12月18日から,原告種別3及び4の原告は平成27年7月2日から,原告番号57の原告は平成30年3月29日から,それぞれ本件飛行場の使用により,被告が防衛施設について用いている算定方法によるWECPNLの値で75以上となる航空機騒音等を原告らの居住地に到達させなくなり,かつ,午後5時から翌日午前8時までの間,航空機騒音等を原告らの居住地に到達させなくなる日まで,それぞれ,毎月1日限り3万8500円の損害賠償金(内訳は,慰謝料3万5000円及び弁護士費用3500円であるが,本件飛行場周辺地域の居住期間が1か月に満たない部分は日割り計算によって慰謝料額を求め,その10%相当額を弁護士費用とする。また,当該月の損害賠償金が翌月1日に発生するものとし,
同日から遅延損害金が加算されるものとする。及

び同日から各支払済みまで民法
(平成29年法律第44号による改正前のもの。
以下,特段の記載がない限り,改正前民法を指す。なお,特に同法律による改正後の民法を指す場合は,
改正後民法という。
)所定の年5%の割合による
遅延損害金,ないし,改正後民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

第2章

前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,末尾記載の証拠又は弁論の全趣
旨によって容易に認定できる。
第1

本件飛行場について

1
本件飛行場の形成,状況
本件飛行場は,平成30年7月31日現在,宮崎県の児湯郡新富町,児湯郡高鍋町,西都市に所在し,長さ2700メートル,幅45メートルの滑走路,延長3500メートル,幅23メートルの誘導路及び面積12万4300平方メートルのエプロンを有するほか,隊舎,格納庫,弾薬庫及び体育館等の施設が設置され,これらの関連施設も含めると,その総面積は約286万平方メートルである。
(以上,乙A6,7,9,11,13)

2
本件飛行場の設置及び管理の経緯


本件飛行場は,旧陸軍省が,昭和14年から建設に着手し,昭和15年から終戦に至るまで,
熊谷陸軍飛行学校新田原分教所及び大刀洗陸軍航空廠分廠
として管理運営されていたところ,
終戦による旧陸軍省の解体に伴い,
一旦は開拓農地として民間に払い下げられたが,その後,防衛庁が本件飛行場の用地取得を行い,滑走路の新設工事等を開始した(乙A7,弁論の全趣旨)




昭和33年12月3日,防衛庁長官は,本件飛行場の主要施設の工事が完了したことに伴い,自衛隊法(昭和29年法律第165号)107条5項に基づく飛行場及び航空保安施設の設置及び管理の基準に関する訓令(昭和33年防衛庁訓令第105号,乙A8)2条に基づき,自衛隊の飛行場施設として本件飛行場を設置し,同訓令9条1項及び19条に基づき,防衛庁告示第193号及び同第194号(乙A9)をもって,飛行場の名称を新田原飛行場とすること,その他物件の制限にかかわる事項等などを告示した。
3
本件飛行場の機能及び利用状況の変遷


操縦者の養成活動
本件飛行場の設置当時,常駐機関として置かれた第3操縦学校分校において練習機を用いた基本操縦訓練が開始されるなど,本件飛行場では,当初から操縦者の養成が主要目的の1つとされたところ,以後,同学校分校の廃止や,操縦者の養成を担当する常駐部隊の数度の改編を経て,平成29年12月18日現在では,本件飛行場に所在する飛行教育航空隊において操縦者の養成が行われている(乙A7)
。なお,同航空隊は,F-15戦闘機の基本ラ
イセンスを付与する我が国で唯一の教育部隊であり,F-15J戦闘機やF-15DJ等を運用した飛行教育を行っている。



領海侵犯等に対する防空活動
昭和36年7月15日,領空侵犯等に対する措置等を行う防空部隊である第5航空団が,宮城県東松島市所在の松島基地から本件飛行場に移駐され,西部方面の領空の防衛をその任務とするようになったところ,以後,同航空団下での部隊の改編や主要装備品の更新等を経て,平成29年12月18日現在では,第5航空団に所属する第305飛行隊が本件飛行場に常駐し,F-15J戦闘機,F-15DJ戦闘機等の複数の種類の自衛隊機が運用されている(乙A7)




米軍との共同訓練等
本件飛行場は,
昭和55年2月1日,
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定昭和35年条約第7号。日米地位協定(
以下
という。2条1項に基づき,

米軍との共同訓練等のために必要な滑走路等の
一部について,米軍が一時使用することが認められることとなり,平成30年7月31日現在,本件飛行場の一部を在日米軍と共同使用している(乙A6,7)




その他
前記⑴ないし⑶の記載のほか,
平成30年7月31日現在,
新田原救難隊,
新田原管制隊,新田原気象隊,新田原地方警務隊,西部航空施設隊第2作業隊が本件飛行場に常駐しており,航空救難活動や災害派遣活動等の業務を行っている。

4
自衛隊機の運航に関する法律関係


自衛隊機の運航に関する権限
自衛隊法は,自衛隊は,

我が国の平和と独立を守り,国の安全を保つため,我が国を防衛することを主たる任務とし,必要に応じ,公共の秩序の維持に当たるものとする。

旨定めるとともに(同法3条),防衛大臣に対しては,
内閣総理大臣が有する指揮監督権(同法7条)のもと,自衛隊機の運航に関する隊務を統括する権限を付与している(同法8条,107条5項)。防衛大
臣は,同権限に基づき,自衛隊法107条5項の規定により防衛大臣が定めた航空機の使用及び搭乗に関する訓令(昭和36年防衛庁訓令第2号,乙A15)を発し,自衛隊機の具体的な運航権限を同訓令2条6号に規定する航空機使用者(なお,本件飛行場に常駐する部隊では,第5航空団司令,新田原救難隊長及び教育航空隊司令とされている。
)に委ね,さらに,当該航空機
使用者は,自衛隊法第6章の規定により行動を命ぜられた場合又は行動する場合において航空機を使用する必要があるときなど,同訓令3条列挙事由に該当する場合に,それぞれ所属の航空機を使用することができるとされている。



航空法の適用除外等
自衛隊機に関しては,自衛隊の任務を遂行するため,一般の航空機と異なる特殊の性能,運航及び利用の態様等が要求されることから,自衛隊法107条1項及び4項により,航空機の航行の安全又は航空機の航行に起因する障害の防止を図るための航空法の規定が除外され,同条5項により,防衛大
臣は,自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準,その航空機に乗り組んで運航に従事する者の技能に関する基準を定め,その他航空機による災害を防止し,公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならないものとされている。
防衛大臣は,同項に基づき,上記適用除外の代替措置として,航空機の運航に関する訓令(昭和31年防衛庁訓令第34号,乙A16)及び航空従事者技能証明及び計器飛行証明に関する訓令
(昭和30年防衛庁訓令第21号,
乙A17)を定めるとともに,飛行場及び航空保安施設の設置及び管理の基準に関する訓令
(昭和33年防衛庁訓令第105号,
乙A8)
を定めている。
第2

航空機騒音の評価方法等について

1
音の定義及び尺度


音の定義
音は,空気などの媒質(固体,液体,気体)の密度の周期的な変動によって生じ,この変動が人間の鼓膜を振動させて刺激することによって,人はこれを音として知覚できる。媒質の疎密の1秒間における繰り返し回数を周波数と呼び,その単位はHz(ヘルツ)であるが,人間の可聴音の範囲は個人によって若干の差があるものの,20Hzから20kHzまでといわれている。
人間が知覚する音は,音の大きさ,高さ及び音色の3要素によって構成される。音の大きさは音の物理的強弱を意味し,音圧(音によって空気中に生じる圧力で,大気圧(1気圧)に対する圧力の増減量によって定められる。)
によって定まる音波の振幅の程度及び周波数によって決定され,仮に音圧が等しくとも,
周波数が大きくなれば,
音の大きさは増すことになる。
他方で,
音の高さの高低は音波の周波数の大小によって決定されるが,同じ高さの音でも耳に異なった印象を与えることがあり,この異なる印象を生じさせる特性としての音の音色は,周波数の含まれ方,音の強さ,時間的変化などによ
って決定される。


音の尺度
音圧は音の大きさを測る要素であるところ,人間が聴取可能な音圧の範囲は20μPa(マイクロパスカル)から2000万μPa(20Pa)までと非常に広範囲にわたり,人間の感覚に見合った数値に置き換えて把握する必要があること,人間に加わる物理的刺激量とそれに対する感覚的な反応との間には対数関係があり,感覚の変化は刺激の相対変化に比例することなどから,人が聴取可能な最小の音の音圧を基準として,これに比較対象である音の音圧の対数をとることで音圧の大きさを測定し,その単位をdB(デシベル)とした尺度が用いられている。人間の聴取可能な音圧は,ほぼ,0dBから120dBまでである。
なお,前記⑴記載のとおり,客観的数値である音圧が同じでも,周波数が異なれば,人間が知覚する音の大きさは異なるところ,これを定量的に表示するものとしてラウドネスという尺度(単位はphon(フォン))が用いら
れることがある。
(以上,甲B3,乙B2,3,5,6)

2
航空機騒音の評価指標


騒音は,その突発性の有無,程度や周波数成分の相違など様々な特性を有しており,一様ではないから,騒音の測定はそれぞれの特性を踏まえた測定方法によることが望ましい。殊に,航空機騒音は,広帯域雑音に周期的な音が重なった間欠的な音であり,地上の騒音源と比較して音源のパワーが桁違いに大きいため広範囲に影響をもたらすなど,工場騒音,自動車騒音等の他の騒音と異なる特性があることから,これらの特性を十分考慮し,かつ,感覚的評価としてのうるささを適切に反映させることが重要であると考えられるようになった。このような経緯を踏まえ,我が国では,航空機騒音の評価指標として,WECPNLという評価指標が用いられてきた。


WECPNL(加重等価継続感覚騒音レベル)

概要
WECPNLは,
WeightedtinuousPerceivedEquivalentNoiseConLevel(加重

等価継続感覚騒音レベル)の略であり,国際連合の専門機関であるICAO(国際民間航空機関)によって,昭和46年に,航空機騒音の特性を考慮し,公共飛行場周辺のように1日を通して定常的な航空機騒音にさらされている地域の住民が受ける感覚騒音量をより適切に評価する指標として提唱されたもので,
うるささ指数とも呼ばれている。WECPNLの
値(以下W値といい,具体的なW値は70Wなどと数字にW
を添えて表記する。は,

一機ごとの航空機騒音のうるささを表す評価指標
としてこれまで提案されていたPNL(Perceived

Noise

Level(感覚騒音レベル)
)の値に,下記で述べるとおり,継続時間補
正及び純音補正を加え,さらに騒音発生時間帯を考慮し,夜間及び深夜早朝における騒音に対する重み付けを行うなどして値を求めるものである。(以上,乙B2)

基本的な考え方
航空機騒音に対する
うるささ
の感覚は,
音の瞬間的な最大値に加え,
音の継続時間及びジェット機の場合はその金属的な特異音の大きさも影響することから,PNL値に音の継続時間と特異音に関する補正を加える必要がある。加えて,航空機による騒音の特性や,一日を通じた騒音の定常性といった条件の下では,これを一般騒音と同様に,瞬間的な騒音レベル(dB)だけで評価するより,ある期間について,時間帯補正をするなどしてその総暴露量で評価した方が,人間の感覚的な騒音評価として適切であると考えられる。
W値は,上記知見を踏まえ,PNL値に,継続時間補正及び純音補正を
加えるほか,騒音発生時間帯によってうるささの感覚は異なることから,夜間及び深夜早朝に発生した航空機騒音については重み付けを行った上で,1日の航空機騒音の総暴露量を24時間(8万6400秒)で平均するという手順を経ることにより算出され,これにより,等価騒音値としてのW値が求められる。

我が国における導入等
後述のとおり,
我が国では,
昭和48年環境庁告示第154号
(乙B4)
によって,ICAOが昭和46年に採択した国際民間航空条約第16付属書(乙B13)の評価指標を簡略化したW値による航空機騒音の評価方法が導入された。
その後,同告示は平成19年環境省告示第114号(乙B14)によって改正され,平成25年4月1日から,W値に代わる新たな評価指標として,Lden(時間帯補正等価騒音レベル(単位はdB。)が採用される)
こととなった。
(以上,乙B1,2,3,9)

第3

航空機騒音に関する環境基準及びW値等について

1
昭和48年に導入された環境基準


概要及び導入の経緯
公害対策基本法(昭和42年法律第132号)9条1項は,

政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定めるものとする。

と,同条4項は,

政府は,公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより,第一項の基準が確保されるように努めなければならない。とそれぞれ定めていたところ,


れらの規定に基づき,
昭和48年12月27日,航空機騒音に係る環境基準」
(昭和48年環境庁告示第154号,乙B4)が告示された(以下「昭和48年環境基準という。。)
昭和48年環境基準の告示に至る経過は次のとおりである。環境庁長官の諮問を受けた中央公害対策審議会騒音振動部会特殊騒音専門委員会は,昭和48年4月12日,航空機騒音に係る環境基準について
(報告)乙B27)

を提出した。同報告書では,航空機騒音に係る諸対策を総合的に推進するにあたって目標となるべき環境基準の設定につき,航空機騒音の評価単位の国際標準である等の理由から,WECPNLを評価指標として用いることが提言され,
併せて,
地域類型に応じて指針値をW70又はW75とすることや,
指針値達成期間及び達成のための施策等についての検討結果が報告された。中央公害対策審議会は,同年12月6日,同報告書に基づき,環境庁長官に対し,
航空機騒音に係る環境基準の設定について(答申)と題する答申
(乙
B28)を行い,同月27日,昭和48年環境基準が告示されるに至った。⑵

昭和48年環境基準の内容等
昭和48年環境基準は,生活環境を保全し,人の健康の保護に資する上で維持することが望ましい航空機騒音に係る基準及びその達成期間について,次のアないしウのとおり定めた。

基準値
環境基準は,専ら住居の用に供される地域(地域類型Ⅰ)につきW70以下とし,それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域(地域類型Ⅱ)につき75W以下とする。各類型をあてはめる地域は,都道府県知事が指定する。


W値の測定方法
の方法により測定・評価した場合における値とす
る(以下,これに従ってW値を算定する方式を環境庁方式という。。)
測定は,原則として連続7日間行い,暗騒音より10dB以上大きい航空機騒音のピークレベル(計量単位はdB。なお,
ピークレベルと

は,
測定された騒音レベルの最高値のことである。及び航空機の機数を)
記録するものとする。
測定は,屋外で行うものとし,その測定点としては,当該地域の航空機騒音を代表すると認められる地点を選定するものとする。
測定時期としては,航空機の飛行状況及び風向等の気象条件を考慮して,測定点における航空機騒音を代表すると認められる時期を選定するものとする。
のピークレベル及び機数から次の算式により1日ごとのW
値を算出し,そのすべての値をパワー平均して行うものとする。
̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅
dB(A)+10log10N-27
̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅
上記算式のdB(A)とは,1日の全てのピークレベルをパワー平均したものをいい,Nとは,午前0時から午前7時までの間の航空機の機数をN1,
午前7時から午後7時までの間の航空機の機数をN2,
午後7
時から午後10時までの間の航空機の機数をN3,午後10時から午後12時までの間の航空機の機数をN4とした場合における次により算出した値をいう。
N=N2+3N3+10(N1+N4)
測定は,計量法71条の条件に合格した騒音計を用いて行うものとする。この場合において,周波数補正回路はA特性(人の聴感は音の周波数によって異なるため,
物理的な音圧レベルであるdBを人間の聴感
(周
波数特性)を踏まえて補正し,この補正を電気回路に反映させたもの。なお,A特性で測定された数値については,dB(A)と表記されることがある。
)を,動特性(
時間重み付け特性とも呼ばれ,騒音の特性
に応じ,一般的に用いられるfast特性と,航空機騒音の測定に用いられるslow特性がある。
)は遅い動特性(slow)を用い
ることとする。


達成期間
公共用飛行場等の周辺地域においては,飛行場の区分ごとに定める達成期間で達成され,又は維持されるものとする。この場合において,達成期間が5年を超える地域においては,中間的に所定の改善目標を達成しつつ,段階的に環境基準が達成されるようにする。自衛隊等(自衛隊又は米軍)が使用する飛行場の周辺地域においては,平均的な離着陸回数及び機種並びに人家の密集度を勘案し,当該飛行場と類似の条件にある公共用飛行場等の区分に準じて環境基準が達成され,又は維持されるように努めるものとする。


本件飛行場の昭和48年環境基準の達成期間について
防衛庁長官官房長は,
昭和53年3月22日,
自衛隊飛行場に係る環境基準の達成について(通知)(官文第1228号,甲B21)を通知し,同通知によって,
本件飛行場の昭和48年環境基準の達成期間は,
10年をこえる期間内に可及的速やかにとされ,改善目標は,
①5年以内に,85WECPNL未満とすること又は85WECPNL以上の地域において屋内で65WECPNL以下とすること。②10年以内に,75WECPNL未満とすること又は75WECPNL以上の地域において屋内で60WECPNL以下とすること。とされた。(以上,乙B2,5)

2
現行の環境基準
公害対策基本法は平成5年11月19日に廃止され,環境基本法(平成5年法律第91号)が新たに施行されたところ,環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成5年法律第92号)2条により,昭和48年環境基準は,環境基本法16条1項に基づく環境基準とみなされることとなった。ところで,昭和48年環境基準が用いたW値による評価方法,すなわち環境庁方式は,
ICAOが昭和46年に採択した国際民間航空条約第16付属書
(乙

B13)の航空機騒音の評価指標を独自に簡略化したものであったが,騒音測定機器の技術進歩を背景として,国際的には,容易に測定でき,かつ,エネルギー積分を評価できる等価騒音レベルを基本とした評価指標が主流となり,特に航空機騒音については,そのような評価方法に変更されつつあった。このような事情を踏まえ,昭和48年環境基準は,平成19年環境省告示第114号(乙B14)により改正され,改正後の基準(以下現行環境基準という。)
が平成25年4月1日から適用されている。現行環境基準においては,W値に代わる新たな騒音評価指標としてLdenが採用され,基準値について,専ら住居の用に供される地域(地域類型Ⅰ)につきLden57dB以下,それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域(地域類型Ⅱ)につきLden62dB以下とそれぞれ変更された。なお,Ldenは,WECPNLと同様,夜間及び深夜早朝における騒音に重み付けを行うものであり,W値から13を引いた数値とLdenの数値は理論的,実体的に見て,ほぼ等価となる。現行環境基準の基準値がLden57dB及びLden62dBとされたのは,これらが,昭和48年環境基準の基準値であるW70及びW75にそれぞれ対応するからであり,
実質的な環境基準の水準は改正前後で同等である。
(以上,乙B9)
第4

防衛施設である飛行場の周辺地域の騒音に関する法制度とその運用
1
法制度の概要


防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律
防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律
(以下環境整備法と
いう。
)は,自衛隊等(自衛隊又は米軍をいう。環境整備法2条1項)の行為又は防衛施設(自衛隊の施設又は日米地位協定2条1項の施設及び区域をいう。同条2項)の設置若しくは運用により生ずる障害の防止等のため防衛施設周辺地域の生活環境等の整備について必要な措置を講ずるとともに,自衛隊の特定の行為により生ずる損失を補償することにより,関係住民の生活の
安定及び福祉の向上に寄与することを目的として制定され
(環境整備法1条)

これを実現する具体的措置として,
住宅の防音工事の助成
(環境整備法4条)

建物等の移転及び除却時に生じる損失の補償等
(環境整備法5条)緑地帯の

整備等(環境整備法6条)などを定めている。
すなわち,環境整備法4条は,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいと認めて防衛大臣が指定する防衛施設の周辺の区域(以下第一種区域という。
)に当該指定の際現に
所在する住宅について,その所有者等がその障害を防止し,又は軽減するため必要な工事を行うときは,その工事に関し助成の措置を採るものとする旨定めている。
また,環境整備法5条は,第一種区域のうち,航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が特に著しいと認めて防衛大臣が指定する区域(以下第二種区域という。
)に,当該指定の際現に所在す
る建物等の所有者が当該建物等を第二種区域以外の区域に移転し,又は除却するときは,政令で定めるところにより,予算の範囲内において,当該移転又は除却により通常生ずべき損失を補償することができることなどを定めている。
さらに,環境整備法6条は,第二種区域のうち航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が新たに発生することを防止し,あわせてその周辺における生活環境の改善に資する必要があると認めて防衛大臣が指定する区域(以下第三種区域という。また,第一種区域,第二種区域及び第三種区域を総称して第一種区域等という。
)に所在する土地
で前条第二項の規定により買い入れたものが緑地帯その他の緩衝地帯として整備されるよう必要な措置を採ることなどを定めている。


環境整備法施行令及び同施行規則による航空機騒音の基準の策定等ア
W値の測定方法

環境整備法の委任を受けた防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律施行令(昭和49年政令第228号。以下環境整備法施行令とい
う。
)8条は,第一種区域等の指定について,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響の影響度をその音響の強度,その音響の発生の回数及び時刻等を考慮して防衛省令で定める算定方法で算定した値が,その区域の種類ごとに防衛省令で定める値以上である区域を基準として行うものとすると定めている。これを受けて定められた防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律施行規則(乙B25の1。
平成25
年防衛省令第5号による改正前のもの。以下旧環境整備法施行規則といい,同改正後の現行のものを環境整備法施行規則という。
)1条は,
環境整備法施行令8条中の防衛省令で定める算定方法として,次のとおりW値の測定方法を定めた(以下,これに従ってW値を算定する方式を施設庁方式という。。

算定式
̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅
dB(A)+10log10N-27
定義
a
前記

̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅̅
算定式のdB(A)は,1日の間の自衛隊機等の航空

機の離陸,着陸等の実施による生ずる音響のそれぞれの最大値をパワー平均して得た値
b
上記算定式のNは,1日の間の自衛隊機等の航空機の離陸,着陸等の実施による生ずる音響のうち,午前0時直後から午前7時までの間に発生するものの回数をN1,午前7時直後から午後7時までの間に発生するものの回数をN2,午後7時直後から午後10時までの間に発生するものの回数をN3及び午後10時直後から午後12時までの間に発生するものの回数をN4として,次に掲げる式によって算出して得た値をいう。

N=N2+3N3+10(N1+N4)
防衛施設庁長官は,これらの値の算定に当たっては,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等が頻繁に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて行うものとする。

第一種区域等の基準
旧環境整備法施行規則2条は,第一種区域等のW値について,第一種区域は75W(なお,昭和49年の制定当初は85Wであったが(乙B25の1)
,昭和54年総理府令第41号(乙B25の2)による改正により80Wと改められ,昭和56年総理府令第49号(乙B25の3)による改正により75Wと改められた。,第二種区域は90W,第三種区域は95)
Wと定めていた。
なお,平成25年防衛省令第5号による改正後の環境整備法施行規則により,
航空機騒音の算定方法が,
WECPNLから,
現行環境基準と同様,
Ldenに変更され,これに伴い,第一種区域等の値も,第一種区域がLden62dB,第二種区域がLden73dB,第三種区域がLden76dBにそれぞれ変更されたが,これらの変更後の規定が適用されるのは,施行日である平成25年4月1日以後の環境整備法4条の規定による第一種区域の指定,5条1項の規定による第二種区域の指定及び6条1項の規定による第三種区域の指定に対してである。後述のとおり,本件飛行場について,第一種区域等の指定が最後になされたのは,平成15年8月29日のことであり,Ldenを評価指標とした第一種区域等の指定はまだなされていない。


コンターの作成等
旧環境整備法施行細則1条3項は,前記ア記載のとおり,W値の算定に
当たっては,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等が頻繁に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,
飛行経路,
飛行時刻等に関し,
年間を通じての標準的な条件を設定し,
これに基づいて行うものとすると定めているところ,これを受けて,防衛施設庁長官は,
昭和55年10月2日,
防衛施設周辺における航空機騒音コンターに関する基準について(通達)(昭和55年10月2日付施本第2234号(CFS)
。乙B15。以下コンター作成旧通達という。

を定めた。
コンター作成旧通達は,騒音コンターを,各騒音測定点において,同通達が定める航空機騒音評価である施設庁方式により算出したW値を用い,70W以上の地域について,5Wごとに同一のW値を結んだ線とすると定義した(同通達3。したがって,騒音コンターは,いわば,天気図の等圧線や地形図の等高線に相当するものである。。

なお,コンター作成旧通達は,その後,平成16年11月1日に定められた第一種区域等の指定に関する細部要領について(通達)(平成16年11月1日付施本第1589号(CFS)
。乙B16。以下コンター作成新通達という。
)により廃止されたが,コンター作成旧通達における航
空機騒音の評価方法等は,コンター作成新通達におおむね引き継がれている。

第一種区域等の指定に関する指針
防衛施設庁施設部長は,
昭和53年12月16日,
第一種区域等の指定について
(昭和53年12月16日付施本施第913号(CFS)
。乙B
19。
)を定めたところ,同通達は,第一種区域等の指定について,次のとおり定めていた。
第一種区域等の外郭線について
第一種区域等の外郭線は,第一種区域,第二種区域及び第三種区域の
順に,騒音度調査報告書による85W(なお,85Wという数値は,その後定められた『第一種区域等の指定について』
の一部改正について(通達)
(昭和55年3月18日付施本施第192号
(CFS)乙B20)


『第一種区域等の指定について』の一部改正について(通達)(昭和57年3月23日付施本施第206号(CFS)
。乙B21)によって順次
変更され,最終的に75Wに改められた。,90W,95Wのコンター)
に対して,行政区画,集落の状況,道路,河川等に即して最小限の修正を施して定めるものとする。
ただし,コンターの周辺に行政区画,集落,道路,河川等がない場合は,適切な直線をもって区域を画してよいものとする。
地方公共団体の意見の聴取について
第一種区域等の指定を行うにつき,特に関係の深い地方自治体との調和を図るため,第一種区域等の指定素案(図面)について関係地方公共団体の意見を聴取した上で,第一種区域等の告示案を作成するものとする。


環境庁方式と施設庁方式の騒音評価方法の相違点
航空機騒音の評価方法について,環境庁方式と施設庁方式の相違点は主に次の3点である。なお,複数の自衛隊基地ないし米軍基地周辺での測定データに基づいて,施設庁方式と環境庁方式によって算定されるW値をそれぞれ比較すると,前者が後者より3Wから5W程度高くなったとする論文(甲B15)が存在する。

航空機の飛行回数の設定
環境庁方式では,1日の総飛行回数(N)の算出時に,測定日ごとの実際の観測機数を用いるため,測定期間全体の平均のW値は,1日当たりの単純平均飛行回数を用いて算出した場合とほぼ同様となる。
他方で,施設庁方式では,1日の総飛行回数(N)を1日の標準飛行回数と定めた上で,飛行しない日も含め,1日の総飛行回数の少ない方からの累積度数曲線を求め,累積度数90%に相当する飛行回数をその防衛施設における1日の標準総飛行回数とし(以下累積度数90%方式という。,
)これをもとに
1日の標準飛行回数
を算出するとしている
(コ
ンター作成旧通達2⑴イ及びウ)
したがって,1日の飛行回数にばらつきがある場合,施設庁方式により算定される飛行回数は,環境庁方式による飛行回数を上回ることになる。イ
航空機騒音の継続時間の補正
環境庁方式では,航空機の種類にかかわらず,最大騒音レベルより10dB低いレベルを超える航空機騒音の継続時間を,実際の時間に関わらず一律に20秒として騒音暴露量を計算するのに対し,施設庁方式では,このような一律評価を行わず,航空機の機種や飛行態様等に応じて,航空機騒音の継続時間の補正を行うこととされている(コンター作成旧通達2⑵)



航空機の着陸音の補正
施設庁方式では,
ジェット機の着陸時のものと確認できる騒音について,
着陸音補正として2dB(A)が加算される(コンター作成旧通達2⑶)のに対し,環境庁方式ではこのような補正はない。

2
本件飛行場周辺における騒音コンターの作成及び区域指定等


昭和54年から平成5年にかけての第一種区域等の指定の沿革

防衛施設庁長官は,
昭和54年7月14日,
防衛施設庁告示第10号
(乙
E39の1)をもって,本件飛行場について,環境整備法4条及び6条に基づき,第一種区域(85W以上の地域)及び第三種区域に該当する地域の指定及び告示を行った。


防衛施設庁長官は,昭和54年総理府令第41号(乙B25の2)による改正により第一種区域のW値の基準が80Wに引き下げられたことに
ともなって,昭和56年10月31日,防衛施設庁告示第24号(乙E39の2)をもって,本件飛行場について,環境整備法4条に基づき,第一種区域(80W以上85W未満の地域)に該当する地域の追加指定及び告示を行った。

防衛施設庁長官は,昭和56年総理府令第49号(乙B25の3)による改正により第一種区域のW値の基準が75Wに引き下げられたことにともなって,昭和58年3月10日,防衛施設庁告示第7号(乙E39の3)をもって,本件飛行場について,環境整備法4条に基づき,第一種区域(75W以上80W未満の地域)に該当する地域の追加指定及び告示を行った。


防衛施設庁長官は,平成5年7月1日,防衛施設庁告示第10号(乙E39の4)をもって,本件飛行場について,環境整備法4条ないし6条に基づき,第一種区域(75W以上80W未満の地域)
,第二種区域及び第三
種区域に該当する地域の追加指定及び告示を行った。



平成14年における本件飛行場周辺の騒音コンターの作成
防衛施設庁は,本件飛行場周辺の第一種区域等の指定を行うに先立ち,財団法人防衛施設周辺整備協会(以下整備協会という。
)に対し,騒音コン
ターの作成を委託した。整備協会は,以下に述べるとおり,平成13年から平成14年にかけて現地調査を行った上で,コンター作成旧通達に従い,施設庁方式によって算出したW値に基づいて騒音コンターを作成し,その調査結果を新田原飛行場周辺における航空機騒音度調査報告書(平成14年3月)(乙B17)にまとめた(以下,整備協会が行った上記一連の調査を「平成14年騒音調査」という。。


調査期間
平成13年10月2日から平成14年3月29日
なお,現地事前調査は平成13年10月22日から同年10月25日ま
で,現地本調査は平成13年11月11日から同年11月16日(うち現地測定日は同年13日ら15日までの3日間)まで。

調査対象地域
本件飛行場における飛行経路図等を参考にして,滑走路を中心としてその延長方向に17km,垂直方向に11kmの範囲とした。


調査対象機種
調査対象機種は,F-15,F-4,T-4等とした。


調査方法
測定点が適切な場所にあるか否かの確認等を事前調査として行ったのち,現地本調査として,仰角測定及びレーダー航跡による飛行経路の確認及び騒音測定を行った。なお,騒音測定方法は,地上約1.5mの高さにウィンドスクリーンを装着したマイクロホンを設置し,普通騒音計のA特性を通してレベルレコーダーに記録し,ピーク騒音レベル及び継続時間を読み取るとともに,飛行時刻,機種,飛行経路,飛行態様等をデータ用紙に記入した。


施設庁方式による騒音コンターの作成
上記騒音測定で得られたデータ等をもとに,標準飛行経路を設定し,測定点から航空機までの近接距離を求め,それを用いて基礎騒音データから算出する方法により騒音値を算出した。また,飛行回数は,平成13年1月15日から平成14年1月14日までの飛行実績に基づき,コンター作成旧通達が定めた航空機の飛行回数の設定方法(同通達2⑴イ)に従って決定した。これらを踏まえ,コンター作成旧通達2⑵が定めた航空機騒音の継続時間の補正,同通達2⑶が定めた航空機の着陸音の補正をそれぞれ適用した上で,各騒音測定点におけるW値を算出し,75Wから95Wまで,5W毎の騒音コンターを記載した騒音コンター図(乙B17末尾添付の図4。以下,平成14年騒音調査に基づき作成された騒音コンターを総
称して本件騒音コンターといい,個別のW値のコンターは,
75Wの本件騒音コンターなどという。
)を作成した。


本件騒音コンターに基づく第一種区域等の指定
防衛施設庁長官は,平成15年8月29日,防衛施設庁告示第9号(乙A21)をもって,本件飛行場について,本件騒音コンターを前提に,前記1⑵エ記載の修正を加えたコンター(75W,90W,95W)等を記載した図面(各コンターの位置関係等については乙E120参照。
)に基づき,第一
種区域等に該当する地域の追加指定及び告示を行った。
なお,それ以後は,本件飛行場について,第一種区域等の指定及び告示はされていない。

第5

環境整備法に基づく住宅防音工事助成

1
工法区分線及び外郭防音工事の対象となる区域の外郭線の設定


概要
防衛大臣は,
環境整備法4条に基づく住宅防音工事の助成を行うため,
防衛施設周辺における住宅防音事業及び空気調和機器稼働事業に関する補助金交付要綱(平成22年3月29日付け防衛省訓令第10号,乙E33)を定めており,その5条に基づき,防衛省地方協力局長は,
住宅防音工事標準仕方書
(以下防音工事仕方書という。
)を定めた(なお,防音工事仕方書
は,上記要綱の制定以前から順次改正されており,本件では,平成29年3月付け防音工事仕方書(乙E50の1頁目以降)が証拠提出されているが,工法別の計画防音量については実質的に従前と同一である。。防音工事仕方)
書は,住宅防音工事の所在する区域の航空機騒音の程度に応じて,異なる防音工事の工法を定めており,80W以上の区域に所在する住宅については,目標計画防音量を25dB以上とする第Ⅰ工法を,75W以上80W未満の地域に所在する住宅については,目標計画防音量を20dB以上とする第Ⅱ工法をそれぞれ施工することとしている。



工法区分線の設定

防音工事仕方書の上記規定を受けて,防衛施設庁施設部長は,昭和59年10月31日,住宅防音工事に係る工法区分線の設定等について(通達)
(昭和59年10月31日付け施本施第743号(CFS)
,乙E57)を
発出し,
第Ⅰ工法と第Ⅱ工法の適用区域を区分する線
(以下
工法区分線
という。
)の設定方法を定めた。同通達によれば,80W以上の区域を基準とする第一種区域の指定が以前になされている場合には,当該80Wの第一種区域の外郭線を工法区分線とし,そのような第一種区域の指定がなければ,80Wの騒音コンターを基準に,その周辺の集落の状況等による最小限の調整を行ったものを工法区分線とするものとされた。
なお,
その後,
防衛省地方協力局長により,住宅防音工事の標準仕方に係る工法区分線の設定等要領
(乙E50の最後から3頁分。が定められたが,

その内容は,
上記通達と実質的に同一である。


本件飛行場においては,当初,昭和56年10月31日に指定された第一種区域(80W以上85W未満までの地域)の外郭線が工法区分線とされていたが,平成5年8月11日に工法区分線が追加設定された(乙E119(枝番号を含む。。その後,平成14年騒音調査によって得られた8)
0Wの本件騒音コンターの一部が既存の工法区分線より外側に出ていることが判明したため,平成15年8月29日に工法区分線が追加設定され(乙E58(枝番号を含む。,乙E120。なお,乙E120は乙E58)
の1の添付図面である。,その後,現在に至るまで変更されることなく運)
用されている。



外郭防音工事の対象となる区域の外郭線の設定

第1工法及び第Ⅱ工法による住宅防音工事は,いずれも居室を対象にして行うものであるが,防音工事仕方書は,これとは別に,家屋全体を一つの防音区画として工事を施す外郭防音工事について定めている。

外郭防音工事に関する規定は,
平成15年1月14日,
住宅防音工事の助成についての一部改正について(通達)(平成15年1月24日付け施本第63号(CFS)
,乙E48の1)によって導入され,85W以上の区
域に所在する住宅を対象として実施するものとされた。

本件飛行場周辺の外郭防音工事の対象となる区域の外郭線(以下防音工事外郭線という。)には,昭和54年7月14日に指定がなされた第一
種区域
(85W以上の地域)
の外郭線が用いられており,
現在に至るまで,
防音工事外郭線に関する追加変更等はない。

2
各種区域の指定状況


以上を整理すると,本件飛行場周辺において現在指定されている各種区域の外郭線等は,以下のとおりであり,その位置関係等は,
新田原飛行場に係る第一種区域等指定参考図
(乙E42)及び新田原飛行場に係る工法区分線設定図索引図
(乙E120)のとおりである。

第一種区域の外郭線(75W)
平成14年騒音調査による75Wの本件騒音コンターに修正を加え,平成15年8月29日に告示された75Wのコンター


工法区分線(80W)
昭和56年10月31日に指定された第一種区域(80W以上)の外郭線に,平成5年8月11日に追加設定された部分及び平成14年騒音調査を踏まえて平成15年8月29日に追加設定された部分を加えたもの

防音工事外郭線(85W)
昭和54年7月14日に指定がなされた第一種区域(85W以上)の外郭線であり,現在に至るまで,追加変更等はない。


第二種区域の外郭線(90W)
平成14年騒音調査による90Wの本件騒音コンターに修正を加え,平成15年8月29日に告示された90Wのコンター


第三種区域の外郭線(95W)
平成14年騒音調査による95Wの本件騒音コンターに修正を加え,平成15年8月29日に告示された95Wのコンター



本件判決における呼称
本判決においては,前記⑴ア,エ及びオの告示されたコンターを総称して本件告示コンターと,個別のW値のコンターは,
75Wの本件告示コンターなどといい,本件告示コンターに工法区分線及び防音工事外郭線を加えたものを本件告示コンター等という。また,75Wの本件告示コンターと工法区分線の間の地域を
本件75W指定地域工法区分線と防音工事

外郭線の間の地域を
本件80W指定地域防音工事外郭線と90Wの本件

告示コンターの間の地域を
本件85W指定地域90Wの本件告示コンタ

ーと95Wの本件告示コンターの間の地域を
本件90W指定地域95W

の本件告示コンターの内側の地域を本件95W指定地域という。

3
住宅防音工事の概要及び種類


住宅防音工事の概要
住宅防音工事は,住宅の外部開口部の遮音工事,外壁又は内壁及び室内天井面の遮音及び吸音工事並びに冷暖房設備及び換気設備を取り付ける空気調和工事等からなる。被告は,各対象家屋所有者に対して,防音工事に要する経費を補助金として交付するが,その交付額はほとんどの場合工事費全額であり,開口部となる窓が2面,3面あって通常の面積規模に比較して特に大きいとか,建物の構造が通常と異なるなどの特殊な事情がない限り,家屋所有者に個人負担が生じることはない。
(以上,乙E33)



住宅防音工事の種類

新規防音工事,追加防音工事及び一挙防音工事
新規防音工事は,住宅の世帯人員が4人以下の場合は1室,5人以上の
場合は2室以内の居室を対象に実施し,追加防音工事は,既に新規防音工事を実施した居室以外の居室について,当該住宅の世帯人員に応じて5室を限度に世帯人員に1を加えた居室を対象に実施するものであり,いずれも室内における騒音を60W以下にすることを目的としていた。その後,新規防音工事は,補助の対象となる住宅の世帯人員にかかわらず,2室以内の居室に対して実施することとされたが,平成22年3月末をもって新規防音工事は廃止されることとなった。これに伴い,以後,防音工事を実施していない住宅を対象とする防音工事は,5居室を限度として,世帯人員に1を足した数の居室に対して防音工事行う一挙防音工事により実施することとされた。
(以上,乙E43の1,45(枝番号を含む。)
)。

建替防音工事
第一種区域の指定の際に同区域内に現に存在していた住宅が建て替えられた場合に,建て替え後の住宅に対して行う防音工事であり,平成10年度から実施されている。なお,建て替え前の住宅に対して既に防音工事が実施されていた場合,直近の防音工事完了後10年以上が経過していることが建替防音工事の利用要件となる。
(以上,乙E46)


防音区画改善工事
バリアフリー対応住宅や身体障害者等が居住する住宅等を対象にし,対象居室(玄関や廊下等を含む。
)を1つの区画として,その区画について実
施される防音工事であり,平成11年度から実施されている。防音工事を実施していない住宅の場合は,世帯人員が4人以下の場合には5居室まで,世帯人員が5人以上の場合には世帯人員に1を加えた数の居室が対象となり,防音工事が実施済みの住宅の場合は,上記対象居室数から防音工事が実施済みの居室数を減じた居室数が上限となる。

(以上,乙E43の1,47,48の1,49)

外郭防音工事
85W以上の区域に所在する住宅であって,防音工事を実施していない居室があるものを対象とし,世帯人数にかかわらず,全居室を対象とするほか,これまでは対象とならなかった浴室,トイレ,廊下等も防音区画に取り込み,住宅全体を一つの防音区画としてその外郭について防音工事を実施するものであり,平成14年度から実施されている。また,平成22年度からは,75W以上85W未満の区域に所在する鉄筋コンクリート造系の集合住宅であって,防音工事を実施していない住戸があるものについても外郭防音工事の対象とされている。
(以上,乙E43の1,48の1,49,50)


機能復旧工事
住宅防音工事によって設置された空気調和機器及び外部開口部の防音建具のうち,防音工事から起算して10年以上経過し,経年劣化等によってその機能の全部又は一部を保持していないものに対し,機能復旧工事を行うものである。空気調和機器の復旧工事については平成元年度から,外部開口部の防音建具の復旧工事については平成11年度から,それぞれ助成が実施されている。
(以上,乙E33,35ないし37,43の1)

第3章

当事者の主張

第1

原告らの主張の要旨

1
損害賠償請求の根拠
本件飛行場は,被告が設置し,航空自衛隊の基地として使用管理している公の営造物であるところ,原告らは,本件飛行場における自衛隊機の運航によって生じる激甚な騒音や,夜間早朝の騒音により,肉体的精神的な被害を受けているほか,静謐な住環境が侵されるという不利益を被っている。したがって,
そのような被害を生じさせる本件飛行場は,営造物が通常有すべき安全性を欠いているといえ,営造物の設置及び管理に瑕疵があるといえるから,被告は,原告らに対し,国家賠償法2条1項に基づき,原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。
そして,被告は,本件飛行場の運用に伴い,以下の侵害行為を行っている。2
航空機騒音による侵害(原告らの航空機騒音への暴露状況)


原告らの居住状況等

原告らは,いずれも,少なくとも75Wの本件告示コンター内に居住し又は居住していたことがあり,その居住状況の詳細は,本件居住経過一覧表記載のとおりである。なお,原告番号30,57,86,88,107ないし110,170ないし173の各原告の住所及び居住期間は,本件居住経過一覧表の居住状況(古い順に記載)欄の(原告が陳述書等で主張した住所)部分に記載のとおりであり,その全部ないし一部が住民票上の記載と異なる。
また,原告らの居住地が属する本件告示コンター等のW値は,本件居住経過一覧表のW値欄記載のとおりである。


原告らのうち,原告番号16,17及び68の各原告(以下死亡原告らという。は,

いずれも口頭弁論終結日より前に死亡しているところ,
その死亡日は,本件居住経過一覧表の終期欄記載の年月日と同じである。また,死亡原告らに各対応する本件居住経過一覧表の原告氏名欄に承継人と記載された者が,本件に関しそれぞれ相続した。



原告らの年間の騒音暴露状況について

施設庁方式をW値の算定方法とすべきこと
W値の算定方法には,環境庁方式と施設庁方式が存在するところ,前記前提事実第4の1⑶記載のとおり,環境庁方式は,航空機騒音の継続時間やジェット機着陸音の補正がないなど,ICAOの航空機騒音の算定方法
を独自に簡略化したものであったことから,飛行機種や飛行態様が多種多様であり,1日の騒音暴露量が大きく変動する基地飛行場の周辺住民の住民反応を適切に把握することができないものであった。そこで,民間空港と基地飛行場で,同じW値であれば,同じ住民反応が示されるようにするため,音響専門家による調査研究を踏まえて考案されたのが施設庁方式であり(甲B8,14(枝番号を含む。)
),第一種区域等の指定の際のW値の
算定方法にも採用されている。このような施設庁方式の利点及び採用に至る経緯等に鑑みれば,本件でも施設庁方式によって算定されたW値を判断の基礎とすべきである。そして,環境庁方式と施設庁方式のW値を比較すると,後者が前者より4W程度大きくなることから,環境庁方式のW値の場合にはこれに4Wを加えたものを施設庁方式によるW値として扱うべきである。
なお,被告は,施設庁方式について,基地の周辺対策を手厚くするためにその実施範囲が広くなるように環境庁方式を調整したものであると主張するが,第一種区域等の指定の際のW値の算定方法等について定めた環境整備法施行令8条及び旧環境整備法施行規則1条には,このような事情は考慮要素として挙げられていないから,被告の主張には理由がない。イ
原告らの騒音暴露量は本件告示コンター等に基づいて認定されるべきであること
原告らの年間騒音暴露量は,原告らの居住地が属する本件告示コンター等のW値によって把握できること
本件告示コンター等の大部分は,大規模な騒音調査である平成14年騒音調査によって得られた本件騒音コンターに基づいて作成されているところ,
その作成に過程において本件騒音コンターに加えられる修正は,
本件騒音コンターが住宅敷地と重なっている場合には,その敷地の全部又は大部分を取り囲むように外郭線を設定するというものにとどまるか
ら,
少なくとも個々の本件告示コンター等の内側の住宅の敷地の一部は,それに対応するW値の本件騒音コンター内に存在するといえる。
よって,
原告らの年間騒音暴露量は,原告らの居住地が属する本件告示コンター等のW値によって把握することができるというべきである。
本件告示コンター等のW値は屋外で騒音に暴露し続けることを前提としたものである旨の被告の主張に対する反論
被告は,第一種区域等のW値は年間を通じて第一種区域等内の屋外で騒音に暴露し続けることを前提としており,一日の多くを屋内で生活しているなど住民の実際の生活様式の違いを考慮していないから,本件告示コンター等のW値に基づいて騒音暴露量を認定した場合,実態と乖離した過大な認定になる旨主張する。しかし,WECPNLは地域の環境騒音の評価単位であり,当該地域の個々の住民が等しく少なくともその程度までは被っているものと考えられる被害を把握するためのものであるから,被告の主張は理由がない。
本件告示コンターは損害賠償請求対象期間中の騒音を示すものではない旨の被告の主張に対する反論
被告は,本件告示コンター作成時から相当期間経過しており,その間航空機騒音が逓減している旨主張する。しかし,本件飛行場について,本件告示コンター作成時から現在に至るまで,規模の縮小や自衛隊機の運用機種の変化といった事情変更は存在しないのであるから,被告の主張は理由がない。
また,九州防衛局が本件飛行場周辺の個人宅等の6か所(No.1から6までの符号が付けられており,No1及び3が本件85W指定地域内,No.2及び4が本件80W指定地域内,No5及び6が本件75W指定地域内にある。
)で実施している環境庁方式による騒音測定結果
(乙B30,31,38等。以下九州防衛局騒音測定結果という。)

によれば,本件告示コンター作成時以降に騒音量が減少した地点もあれば,増加した地点もあり,全体として減少傾向にあるということはできない。
新富町が実施している環境庁方式による騒音測定結果
(甲B19,
35,36。以下新富町騒音測定結果という。
)や宮崎県が実施して
いる環境庁方式による騒音測定結果(甲B18。以下宮崎県騒音測定結果という。をみても,

一定の範囲で若干のW値の低減はあるものの,
飛行回数の多さ,
ピークレベルの上昇
(平成30年度の最大値は125.
4dBにまで達している。
甲B35)施設庁方式に換算した場合のW値

がおおむね74W程度を超えていることなどが指摘できる。そして,嘉手納基地周辺における騒音測定結果との比較においては,ピークレベルや一日平均騒音発生回数等について,本件飛行場周辺の測定結果が上回っており(甲B32,33)
,他の自衛隊基地や国内の米軍基地との比較
においても,本件飛行場周辺の測定結果はこれらと遜色がないこと(甲B40)などからすれば,本件告示コンターの作成後に騒音状況が大きく改善したということはできない。


本件75W指定地域内であるが,75Wの本件騒音コンターの外側に居住している原告らについて
被告は,損害賠償請求対象期間中,本件75W指定地域内であるが,75Wの本件騒音コンターの外側に一貫して居住している原告ら(乙B32。原告番号31,32,58,59,118及び131の原告ら6名。以下騒音コンター外原告らという。が存在し,

これらの騒音コンター外原告らは,
年間75W以上の騒音に現に暴露しているとは認められない旨主張する。しかし,75Wの本件騒音コンターは,騒音度調査をした地点のうち,その数値が75Wであった地点を点でつないだものであり,各測定地の間には相当な距離をおいて調査が実施されていることからすれば,居住地が75Wの本件騒音コンターの外側に位置しているとしても,その近隣と評価できる
限りは,年間75Wの騒音暴露を受けていることは否定されない。現に,騒音コンター外原告らの陳述書(甲D31,58,118及び131)によれば,騒音コンター外原告らは,75Wの本件騒音コンター内に居住する原告らと同様に,本件飛行場に離発着する自衛隊機の航空機騒音に日々曝されており,不眠や会話妨害等の騒音被害を訴えていることに加え,その居住地は離着陸時の飛行コースの下や旋回飛行のコース近辺に位置し,現に第一種区域の指定を受けていることなどに照らすと,騒音コンター外原告らの航空機騒音の暴露状況は,75Wの本件騒音コンター内の騒音暴露状況に劣るものではない。


原告らの夜間から朝方にかけての航空機騒音の暴露状況について
原告らは,午後5時から翌日午前8時までの間も,航空機騒音の暴露を受け続けており,このことは九州防衛局の測定結果等からも明らかである。同時間帯が,健康の維持に不可欠な睡眠,休息,家族の団らん,読書やテレビの視聴等のための時間であることなどを考えると,特に静謐が確保されるべきであり,航空機の離発着やエンジンを作動させることは,その騒音の大きさを問わず,違法な侵害行為となるというべきである。

3
航空機騒音以外の侵害
本件飛行場の運用によって,①自衛隊機の飛来時に強い振動が引き起こされたり,②自衛隊機のエンジンテストや飛行時に大量の排気ガスが本件飛行場周辺にまき散らされているほか,③自衛隊機の墜落や落下物事故が発生する危険が現に存在することによって,生命身体に危害が及ぶかもしれないという不安感,恐怖感を原告らに抱かせている。特に,戦闘機パイロットの育成を主たる目的とし,訓練生による多数回の飛行が繰り返されているという本件飛行場の特徴のため,原告らの上記不安感,恐怖感は相当に大きい。
上記①から③は,それぞれ,被告による独立した侵害行為を構成する。
4
原告らの被害



共通損害論
本件飛行場の周辺住民である原告らは,本件飛行場で運用されている自衛隊機の飛行に伴い発生する航空機騒音に曝されており,これに起因する被害を日常的に受け続けている。このうち,健康被害の内容は,多様かつ複雑なものであり,原告らの生活条件や身体的条件等の相違に応じて,発症する疾患の内容や有無,発症時期等において差異はあるが,原告らが健康に悪影響を受けるリスクを引き受けさせられているという点においては共通している。そして,原告らは,このようなリスクの負担に対応する精神的苦痛を,共通の損害として主張しているのであるから,その限度で各自一律に慰謝料として賠償を求めることができる。これは,大阪空港訴訟に係る最高裁判決(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁。以下大阪空港最高裁判決という。
)も採用し,その後の航空機騒音訴訟にお
いて踏襲されている既に確立した判例理論である。



本件飛行場の航空機騒音の特徴
本件飛行場の航空機騒音は,主に戦闘機によって発生するものであるが,その特性として,①音量が極めて大きいこと,②高周波成分が多く,金属的な音質を有すること,③不安定かつ断続的,間欠的な騒音であること,④騒音レベルの変動が不規則かつ複雑であり,周波数変動も大きいこと,⑤音源が絶えず移動していること,⑥頭上から予告なく突然発生する衝撃的な騒音であること,⑦飛行のタイミングや飛行経路が一定ではないため,住民が遮音や事前の回避などで対処することが困難であることなどが挙げられる。また,騒音の発生回数,発生時間帯,発生音量等について,九州防衛局騒音測定結果のうち,平成29年度のものを取り出して分析すると,①70dB以上の騒音発生回数が最も多い測定地点で,年間1万5000回を超える騒音が記録されており,発生日数は年間で279日に及んでいること,②1時間に10回以上の集中的な騒音が発生した日は年間188日に及び,一日当
たり平均3.6回発生していること,③夕食の時間帯など家族が団らんする時間帯のほか深夜早朝にも騒音が発生していること,④地下鉄の車内に匹敵するとされる80dB以上の騒音に頻回に曝されているほか,5m離れたブルドーザーの音に匹敵するとされる90dB以上の騒音,電車が通る時のガード下の音に匹敵するとされる100dB以上の騒音にもそれぞれ曝されていることなどが挙げられる(甲B26,乙B30等)

これらの特徴を有する本件飛行場における航空機騒音は,以下に述べる原告らの被害を発生させ又は発生させる主要な因子となっている。


睡眠妨害
睡眠の種類のうち,レム睡眠(急速眼球運動(Rapid

Eye

Mo

vement:REM)を伴う睡眠をいう。
)は,その最中に夢をみたり,抗
重力筋の弛緩が生じるため,身体的・精神的ストレスの解消に資する睡眠であり,徐波睡眠(ノンレム睡眠(急速眼球運動を伴わない睡眠をいう。)のう
ち,
出現する脳波の特徴として,
周波数の低い成分が中心となる睡眠をいう。

は,脳を休ませ,疲労回復に寄与する睡眠である。しかし,航空機騒音は,入眠妨害,就寝中の中途覚醒及び早朝覚醒等を生じさせ,レム睡眠不足をもたらすほか,覚醒が生じない場合でも,睡眠が浅くなり,十分な徐波睡眠を得ることができなかったり,中途覚醒や早朝覚醒等をしやすくなるという身体的現象を生じさせる。
平成11年に作成されたWHO(世界保健機関)による環境騒音のガイドライン(甲B2。以下WHO環境騒音ガイドラインという。
)によれば,
睡眠妨害は,環境騒音の主要な影響の一つであり,騒音によって睡眠中に入眠困難,覚醒や睡眠深度の変化,血管収縮,呼吸の変化などの一次影響が生じ,
二次影響として騒音暴露を受けた次の日にも影響が生じるとされている。また,快適な睡眠のために必要な静穏環境として,WHO環境騒音ガイドラインは,夜間の連続的な暗騒音のLAeq(測定時間内に得られたA特性で
補正した音のエネルギーを測定時間で平均したもので,等価騒音レベルとも呼ばれ,単位はdB。
)は30dB(A)以下にとどめるべきであり,個々の
発生音についても45dB(A)を超えるような騒音は避けるべきとしており,平成30年に発表された欧州WHO環境騒音ガイドライン(甲B30,総C106,
乙総C63。欧州WHO環境騒音ガイドライン
以下
という。

では,航空機騒音については夜間騒音暴露の基準値としてLnight(夜間において最も暴露される建物の前面(外側)で8時間計測された一年間のLAeqで,単位はdB。乙B39の2)で45dB(W値に換算すると58W相当)を勧告するなど,それぞれガイドライン値を定めている。また,複数の文献等においても,40dB以上の騒音は睡眠を妨害するとの指摘がなされているほか(甲総C22,52,55,58,99等)
,沖縄県が作成
した
航空機騒音による健康への影響に関する調査報告書
(甲B1。沖以下縄県健康調査報告書という。
)等では,米軍基地の周辺住民に対するアンケ
ートの回答結果等から,航空機騒音と睡眠妨害との間には顕著な量反応関係が認められると結論付けられている。
原告らに対するアンケートの回答結果(甲総C85)によれば,睡眠中の覚醒や浅い睡眠など何らかの睡眠被害を訴えている者の割合は回答数全体の82.8%に及び,原告らの陳述書をみても,多数の者が,早朝に行われる飛行活動やエンジンテスト等によって発生する騒音及び振動等によって,寝付きを妨げられたり,睡眠の中断や睡眠深度が浅くなって覚醒も早められるなどの被害を被っている旨訴えている。とりわけ,病気療養中の者にとっては,睡眠妨害が抵抗力の低下や病状の悪化の原因となるなど,深刻な被害を受けている。


身体的被害や健康被害等
WHO憲章が

健康とは,完全な身体的,精神的及び社会的安寧の状態であり,単に疾病または病弱でないということではない。と述べているとおり,


健康被害の認定に当たっては,身体的被害のみならず,精神的被害や生活妨害等の有無及び程度も含めて検討しなければならない。
音の知覚は耳の感覚器で受けた信号が聴神経を通って大脳皮質の聴覚域に到達して成立するところ,
騒音が強烈であれば内耳を冒して難聴を生じさせ,
その程度に至らないものでも,聴きたい音の聴取妨害や,やかましい音に対する不快感を伴う心理的反応(アノイアンス)を生じさせる。また,聴覚刺激は,他の感覚刺激と同様に大脳皮質を刺激し,聴覚刺激が一定以上になると,
大脳の精神作業効率を乱すとともに,
睡眠障害や情緒障害を生じさせる。
これらにより人体に蓄積されたストレスは,
内分泌系や免疫系の働きを乱し,
騒音による交感神経の緊張と相まって,循環器系や消化器系などにも様々な変調を生じさせる。すなわち,騒音は,睡眠妨害や聴力障害,騒音に対する不快感等を生じさせるのみならず,①高血圧や心不全等の循環器系疾患,内分泌系疾患,消化器系疾患及び精神疾患,②妊娠に関連する疾患や胎児の発育不全,
③ストレス反応による各種疾病の発症リスクの増大等を生じさせる。そして,
WHO環境騒音ガイドライン,
欧州WHO環境騒音ガイドライン,
沖縄県健康調査報告書,小松基地周辺住民を対象とする

ジェット機騒音影響調査報告書(昭和58年~62年)(甲総C49。以下「小松騒音調査報

告書」という。,ICAO環境レポート2019(甲総C108,109(枝)
番号を含む。)などの報告書や文献は,騒音は循環器系や内分泌系,消化器)
系等へ影響を及ぼし,各種の健康被害を生じさせること,航空機騒音の暴露量とそれにより生ずる健康被害との間に量反応関係が認められることなどを詳細に認定している。これらに加えて,原告らがアンケートへの回答(甲総C85)や陳述書(甲D号証)において,様々な健康被害を訴えていることなどからすれば,本件飛行場における自衛隊機の運航に伴い発生する航空機騒音に暴露することにより,原告らに,高血圧や心不全等の循環器系疾患,内分泌系疾患,消化器系疾患及び精神疾患,妊娠に関連する疾患や胎児の発
育不全が生じているほか,少なくとも,原告らにおいて,各種疾病の発症リスクが増大していることは明らかである。


生活妨害

会話及び通話等の阻害による家庭生活等への悪影響
航空機騒音によって,会話及び通話の中断や内容の理解不足が生じ,双方の意思疎通への意欲が低下することで,家族との団らんや他者とのコミュニケーションが阻害されている。


思考,読書,テレビやラジオの視聴等の趣味及び職業生活への悪影響航空機騒音によって,テレビやラジオの視聴が困難になり,必要な情報を取得する機会が奪われるとともに,精神的な落ち着きが阻害されることで思考や読書といった知的作業を行う意欲が低下し,趣味及び職業生活全般に対する悪影響が生じている。


交通事故の危険の増大
航空機騒音によって,自動車のクラクションや踏切警報器の警報音等がかき消され,また,航空機の飛来やそれに伴う騒音により,歩行者や自動車の運転者の注意力が散漫になることにより,交通事故が発生する危険性が増大する。



心理的被害
航空機騒音による睡眠妨害等に加えて,原告らが,航空機騒音に日常的に曝され,また,いつ曝されるか分からない状況の下で生活しているということ自体が,不快感や苛立ちを強く誘引させている。これまでに墜落や落下物等の事故が数多く報告されていることもあり,原告らは,自衛隊機の墜落や落下物等の事故が自分や身近な者を襲うかもしれないという強い恐怖感や不安感を抱いたまま生活することを余儀なくされている。
また,幼児期からの騒音暴露は,不安や怯えを増大させるなど,子供の情緒面や身体面の成長発達に悪影響を及ぼすと考えられている。学校及び家庭
教育においては,教師との対話や授業内容の理解等を困難にさせ,児童生徒の授業への意欲や思考の阻害等をもたらすとともに,親や教師の教育熱を減退させ,子供の学習面での成長発達に悪影響を及ぼしている。
5
被告の侵害行為が違法であること


本件飛行場における自衛隊機の運航は,原告らに受忍限度を超える被害をもたらし違法であること
国の行う公共事業が第三者との関係において違法な侵害行為となるには,当該行為から生じる被害が社会生活上一般に受忍すべき限度を超えていることを要するところ,以下に述べるように,少なくとも離発着やエンジンの始動などの活動によって75W以上の騒音を原告らの居住地に到達させる行為,及び,夜間早朝(午後5時から翌日午前8時までの間)に航空機を離発着させたり,エンジンを始動させて騒音を原告らの居住地に到達させる行為は,いずれも受忍限度を超える被害を原告らに与えるもので,違法である。


航空機騒音が少なくとも75W以上であるか否かをもって,受忍限度を画する基準とすべきこと

昭和48年環境基準
前記前提事実第3記載のとおり,昭和48年環境基準は,生活環境を保全し,人の健康の保護に資する上で維持することが望ましい騒音の基準値について,専ら住居の用に供される地域(地域類型Ⅰ)につきW70以下とし,それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域(地域類型Ⅱ)につき75W以下と定め,その内容は現行環境基準に引き継がれている。昭和48年環境基準は,航空機騒音が住民に及ぼす影響に関する国内外の調査研究結果に基づいて策定されたもので,その策定経緯も,調査研究結果によれば,指標値としては,65Wに相当する値以下が望ましいとされたにもかかわらず,当時の我が国の事情を勘案して70Wという数値が採用されたことにも照らせば,少なくとも75W以上の騒音
が周辺住民に対する一定の被害をもたらすものとして理解されていることは明らかである。

環境整備法4条
環境整備法4条は,
航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいと認める区域を第一種区域と指定して,住宅防音工事の助成を行う旨定めているところ,前記前提事実第4の1⑵イ記載のとおり,第一種区域の基準値は75Wとされている。


近時の基地訴訟における裁判例
横田基地訴訟第一審判決(東京地裁立川支部平成29年10月11日判決)嘉手納基地訴訟第一審判決

(那覇地裁沖縄支部平成29年2月23日
判決・判時2340号3頁)
,普天間基地第一審判決(那覇地裁沖縄支部平
成28年11月17日判決・判時2341号3頁)厚木基地訴訟控訴審判,
決(東京高裁平成27年7月30日判決・判時2277号84頁)を初めとした近時の自衛隊基地や米軍基地をめぐる国家賠償請求訴訟では,75W以上の地域に居住する住民に対する国の損害賠償責任が認められており,75Wが受忍限度を画する基準とされている。



夜間早朝の航空機騒音は,それのみで受忍限度を超える被害を生じさせること
夜間は,一般的に生命や健康の維持に不可欠な睡眠を取る時間帯であるほか,休息や家族との団らんに充てられる時間帯でもあり,早朝は,人が目覚めその日の活動の準備を行うなど1日の活動の源となる時間帯である。夜間早朝の航空機騒音は,前記4⑵以降で述べたとおり,睡眠妨害や生活妨害等を生じさせるとともに,静謐な住環境を冒すものであるから,騒音の種類や程度を問わず,それのみで受忍限度を超える被害を生じさせるものである。


本件告示コンター等は受忍限度を画する基準ではないとの被告の主張に対する反論

原告らは,本件告示コンター等は環境整備法4条ないし6条が定める第一種区域等の指定等のために作成されたものであるところ,
環境整備法1条は,
自衛隊の特定の行為により生じる損失を補償することにより,関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することも環境整備法の目的としているのであるから,環境整備法が自衛隊基地の騒音被害を補償することを目的としていることは明らかである。したがって,本件告示コンター等の法的性質及び本件告示コンター等により定められたW値の分布範囲は,単なる政策的補償の実施基準にとどまらず,損害賠償の範囲を画する基準としての機能も有するものである。
6
本件飛行場の公共性に関する主張に対する反論
被告は,本件飛行場の安全保障上の役割等について述べた上で,本件飛行場が高度の公共性を有する旨主張する。しかし,被告の述べる公共性は国民の日常生活の維持存続に不可欠な役務の提供のように,絶対的な優先権を主張し得るものではないし,仮に本件飛行場が公共性を有するとしても,その利益は国民が等しく享受する一方で,
本件飛行場の運用により生じる騒音等の不利益は,
本件飛行場の周辺住民という特定少数者が全て被っているのであるから,看過することができない不公平が存在する。このような不公平は,仮に本件飛行場における自衛隊の活動に公益上の必要性が認められるとしても,正当化できるものではない。また,被告は,本件飛行場に常駐する部隊等が,社会貢献活動や地域経済の活性化に役立つ行事を行っているなどと主張するが,これらは,航空機の運航とは関係しないから,被告の侵害行為の違法性を軽減させる事情とはいえない。
したがって,被告が主張する本件飛行場の公共性を,受忍限度の判断に当たって斟酌したり,重視することは許されない。

7
被告の周辺対策に関する主張に対する認否,反論


原告らの住宅防音工事の実施状況について

被告の主張する原告らの住宅に対する被告の助成による防音工事の実施状況のうち,実施された工事の種別,各工事の完了年月日,各工事の施工居室数及び防音工事がなされた居室数の合計が本件居住経過一覧表記載のとおりであることについては,全て認める。


被告は,受忍限度の判断に当たっては,住宅防音工事を始めとした被告が実施する各種周辺対策等について十分斟酌されるべきであり,仮に,本件飛行場の航空機の運航について違法性が認められるとしても,損害額の算定に当たっては,これらが十分考慮されるべきであると主張する。
しかし,屋内にもたらされる騒音は,航空機の飛行状況や住居の構造,築年数,天候等の諸事情によって様々であり,防音効果の現れ方も様々である上,被告において防音工事前の建物自体の防音効果の測定や,工事後に防音効果がどの程度向上したのかという点の個別的な検証もなされていないのであるから,住宅防音工事仕方書どおりの施工がなされたからといって,被告の定める計画防音量が防音工事を行ったことにより達成されたと認定することはできない。さらに,仮に,防音工事それ自体に一定の防音効果が認められたとしても,居住者は防音工事が実施された居室のみで生活するわけではないし,防音効果を得るために当該居室を常時密閉状態にすることは,閉塞感等の住環境に対するストレスを生じさせ,空調機器の使用による健康障害や電気代の上昇を招き,重量化した建具の取扱いに労力を要するなど様々な不利益を居住者に生じさせる。このように,住宅防音工事が十分な効果を上げていないことは,原告らの陳述書に記載された原告らの認識に照らしても明らかであるから,住宅防音工事は,本件飛行場の航空機の運航についての違法性を減少する要素や原告らの損害額を減額させる根拠となるものではない。
また,住宅防音工事以外の被告の周辺対策の大部分は,原告らの航空機騒音に対する暴露量を低下させたり,被害を軽減させるものではないし,音源
対策や運航制限に関しても,これらが講じられた上で実際に観測された騒音について原告らは騒音被害を主張しているのであるから,いずれも被告の違法性を減少する要素や原告らの損害額を減額させる根拠となるものではない。8
損害額
原告らは,いずれも,少なくとも75Wの本件告示コンター内に居住し又は居住していたことがあり,航空機騒音を発生させる行為など被告の違法な侵害行為により,前記4記載の様々な被害を被っているところ,原告ら全員に共通する精神的損害は,少なく見積もっても,原告ら1人当たり,慰謝料として月額3万5000円を下らず,それに伴う弁護士費用は慰謝料額の10%に相当する1か月当たり3500円が相当である。なお,上記居住期間が1か月に満たない部分は日割り計算によって慰謝料額を求め,その10%相当額が相当な弁護士費用である。
そして,原告らは,当該月の損害賠償金が翌月1日に発生し,同日から遅延損害金が加算されるものとして,これらを請求するものである。
したがって,原告らの損害額は以下の通りである。


提訴時までに発生した損害として,
原告種別1及び3の原告らにおいては,
提訴日より遡って過去3年分の慰謝料(原告種別1の原告らにおいては平成26年12月18日から提訴日の平成29年12月18日までの居住期間に対応する慰謝料,原告種別3の原告らにおいては平成27年7月2日から提訴日である平成30年7月2日までの居住期間に対応する慰謝料),弁護士
費用及び遅延損害金の合計金額
(原告種別1の原告らは148万8400円,
原告種別3の原告らは148万8136円。
)及び内金138万7241円
に対するそれぞれの提訴日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金。
原告種別2及び4の原告らにおいては,それぞれ本件飛行場周辺に転入又は出生した日から提訴日までの居住期間に対応する慰謝料,弁護士費用及び
遅延損害金の合計金額
(原告種別2の原告らは別紙4
原告種別2の原告ら・請求の趣旨2項一覧表の,原告種別4の原告らは別紙5原告種別4の原告ら・請求の趣旨2項一覧表の,各請求金額(過去)欄記載の金員。)
及び内それぞれ請求金額(過去・元金のみ)欄記載の金員に対するそれぞれの提訴日(原告種別2の原告においては平成29年12月18日,原告種別4の原告においては平成30年7月2日。
)から令和2年3月31日ま
で民法所定の年5%の割合による遅延損害金を,同年4月1日から支払済みまで改正後民法所定の年3%の割合による遅延損害金。


提訴後に発生する損害として,原告種別1及び2の原告らにおいては,提訴日以降,被告の侵害行為がなくなる日まで,平成30年1月1日限り1万6146円及び同年2月1日以降毎月1日限り各3万8500円並びにこれらに対する当該各月の1日から令和2年3月31日まで民法所定の年5%の割合による遅延損害金,同年4月1日から支払済みまで改正後民法所定の年3%の割合による遅延損害金。
原告種別3及び4の原告らにおいては,提訴日以降,被告の侵害行為がなくなる日まで,平成30年8月1日限り3万6017円及び同年9月1日以降毎月1日限り各3万8500円並びにこれらに対する当該各月の1日から令和2年3月31日まで民法所定の年5%の割合による遅延損害金,同年4月1日から支払済みまで改正後民法所定の年3%の割合による遅延損害金。


提訴日以降に75Wの告示コンター内で居住を開始した原告番号57の原告(α)については,居住開始日である平成30年3月29日以降,被告の侵害行為がなくなる日まで,平成30年4月1日限り3725円及び同年5月1日以降毎月1日限り各3万8500円並びにこれらに対する当該各月の1日から令和2年3月31日まで民法所定の年5%の割合による遅延損害金,同年4月1日から支払済みまで改正後民法所定の年3%の割合による遅延損害金。

9
将来の損害賠償請求の適法性
大阪空港最高裁判決及びこれを踏襲する以後の判決は,航空機騒音を理由とする将来の損害賠償請求を認めいないが,その判断に対しては複数の最高裁判所裁判官から批判や疑問が呈されている上,本件のような訴訟において,将来の損害賠償請求が認められない場合には,被害者は,その後の被害につき損害賠償を求めるために新たな訴訟を提起せざるを得ず,膨大な経済的,精神的負担を負うことになるのであるから,不合理である。
この点を措くとしても,九州防衛局騒音測定結果,新富町騒音測定結果及び宮崎県騒音測定結果によれば,平成14年騒音調査から現在に至るまで,原告らの騒音暴露状況はほとんど変わっていない上,その騒音暴露状況は,これまで同種の基地訴訟で受忍限度の基準とされた施設庁方式で75W以上という基準をおおむね超えるものである。このように少なくとも15年以上にわたって違法な騒音暴露が継続してきたことに加え,原告らの多くは,これまで本件飛行場周辺に長期間居住し,今後も継続的に居住すると予測されることも踏まえると,差止めが認められない限り,原告らが被る爆音被害が継続する蓋然性は特に高いといえるから,口頭弁論終結後の損害賠償を認める合理性及び必要性は高い。

第2
1
被告の主張の要旨
違法性の判断枠組み
国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵には,その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において利用者以外の第三者に危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含むと解されるところ,この場合に,営造物の設置又は管理の瑕疵が認められるためには,第三者の権利ないし利益を侵害する程度が,社会生活上受忍すべき限度を超え,違法と評価されることが必要である。そして,その判断にあたっては,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性や公益上の必要性の内容と程度等を
比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきである(大阪空港最高裁判決参照)

原告らは,自衛隊機の運航によって発生する航空機騒音に暴露し,これにより,原告らが睡眠障害,身体的被害や健康被害等を被っていることから,直ちに,本件飛行場における自衛隊機の運航が違法になる旨主張するが,大阪空港最高裁判決が提示した判断枠組みに反する独自の見解にすぎない。2
原告らの航空機騒音への暴露状況について


原告らの居住状況等について

原告らが主張する居住状況
原告らが,本件居住経過一覧表の居住状況(古い順に記載)欄記載の住所に居住していることは不知だが,原告らの住民票ないし戸籍の附票記載の住所が同欄記載のとおりであることは積極的には争わない。
ただし,原告番号30,57,86,88,107ないし110,170ないし173の各原告については,同人らが,同欄の(原告が陳述書等で主張した住所)部分に記載の住所に居住していることは争う。また,
死亡原告らが死亡したこと及び各承継人が相続したことは認める。

原告らの居住地が属する本件告示コンター等のW値
原告らが,本件居住経過一覧表のW値欄記載の数値に相当する騒音に暴露していることは否認するが,本件居住経過一覧表の居住状況(古い順に記載)欄記載の住所が,W値欄の記載に対応する住宅防音工事
の助成等の対象区域内に位置することについては,積極的には争わない。


原告らの年間の騒音暴露状況に関する主張への反論

航空機騒音の特殊性と騒音評価の留意点
本件飛行場は,民間航空機が使用する公共用飛行場と異なり,航空機の
運航形態に一定性がなく,航空機の日ごとの飛行頻度にもばらつきがある。W値が一定以上の区域においても,日ごとの騒音の頻度は一定ではないから,W値は,当該区域において,一定以上の騒音が恒常的に発生していることを示すものではない。
したがって,航空機騒音がもたらす本件飛行場の周辺住民の心身への影響や生活妨害の程度を的確に認定するためには,騒音の大きさ,騒音発生回数,継続時間等について,日ごと,時間帯ごとの変化を踏まえつつ,個別の住民や住居地ごとに多面的かつ具体的な検討を加える必要がある。イ
施設庁方式はW値の算定方法として不適当であること
環境庁方式の場合,飛行回数は1日当たりの単純平均回数を用いた場合とほぼ同様となるが,施設庁方式の場合,前記前提事実第4の1⑶記載のとおり,飛行回数について実際の飛行回数の算術平均を大幅に上回る架空の数値がW値の算定に用いられるほか,航空機騒音の継続時間補正やジェット戦闘機等の着陸音の増音補正がなされることにより,算出されたW値が,算定対象期間に現実に発生した騒音の内容や程度を正確に反映したものとはならず,これを上回る過大な数値となる傾向がある。したがって,施設庁方式はW値の算定方法として不適当であり,これに基づき作成された本件告示コンター等も実際の騒音暴露を正確に反映するものではない。なお,原告らは,施設庁方式と環境庁方式で算出されたW値を比較すると,前者が後者よりも3ないし5程度大きくなることから,環境庁方式のW値に一律に4Wを加えたものを施設庁方式のW値として扱うべきである旨主張するが,施設庁方式の計算に当たって用いる飛行回数等の基礎数値が環境庁方式とは大きく異なるという事実を無視するものである上,一律に加算すべきとする根拠もないから,その主張には理由がない。

本件告示コンター等のW値は屋外で騒音に暴露し続けることを前提としたものであること

本件告示コンター等のW値は,年間を通じて,当該区域内の屋外で暴露し続けることを前提としているところ,本件告示コンター等のW値は,人々の多くが一日のうちのほとんどを屋内で生活していることや,各人が様々な生活様式に従って生活していることを一切考慮していないから,仮に,本件告示コンター等の内側で居住している事実をもって,当該W値に相当する騒音に暴露していると認定したならば,実態と乖離した過大な騒音暴露があったものと認めることになり,不合理である。

本件告示コンターは損害賠償請求対象期間中の騒音を示すものではないこと
本件告示コンターは,平成14年騒音調査で得られた本件騒音コンターに基づき設定されているところ,原告らの損害賠償請求対象期間の起点は,早くとも平成26年12月18日であり,平成14年騒音調査から10年以上の期間が経過している。そして,その間,騒音低減のための様々な音源対策が施されたほか,平成28年6月の飛行教導群の小松基地への移駐,同年8月の第305飛行隊の百里基地から本件飛行場への移駐及びこれに伴う低騒音の戦闘機への機種変更,平成28年11月の第301飛行隊の百里基地への移駐等(乙B34,乙E70,91)が実施された。これらにより,本件飛行場における自衛隊機の管制航空交通量(管制回数)は,平成15年以降減少傾向にあり,平成15年度と平成30年度の管制回数を比較すると,平成30年度の管制回数は,平成15年度の67.4%にとどまっている(乙E92)

また,九州防衛局騒音測定結果(乙B22(枝番号を含む。,30,)
31,38)についてみると,本件75W指定地域内の測定地点であるNo.5及び6地点のW値は,仮に施設庁方式に近似させるため5Wを加重したとしても,平成20年度から平成30年度に至るまで75Wを下回っている。また,本件80W指定地域内の測定地点であるNo.2
及び4地点は,平成14年度以降,いずれの地点でも年間騒音発生回数が顕著に減少しているほか,No.4の地点のW値は,仮に施設庁方式に近似させるため5Wを加重したとしても,平成14年度から平成30年度に至るまで80Wを下回っている。さらに,本件85W指定地域内の測定地点であるNo.1及び3地点のW値は,いずれも平成14年以降減少傾向にあるほか,年間騒音発生回数は顕著に減少している。このほか,No.1ないし4地点について,平成14年度実勢騒音と,損害賠償請求対象期間に含まれる平成29年度の実勢騒音を,月間パワー平均W値の1日平均値をもって比較すると,最大で5.4W分の減少が認められる(乙B22(枝番号を含む。)
)。
新富町騒音測定結果
(甲B19)
及び宮崎県騒音測定結果
(甲B23)
をみると,仮に施設庁方式に近似させるため5Wを加重したとしても,複数の騒音測定地点のW値が,70Wや75Wを下回っていることが認められる。
このように,本件飛行場周辺の実勢騒音は減少しており,本件告示コンターが前提とする騒音状況と,現在の騒音状況には乖離があるから,本件告示コンターが,損害賠償請求対象期間中の騒音を示すものではないことは明らかである。
なお,原告らは,本件飛行場の騒音のピークレベルは従前と同程度であり,実勢騒音は変化していないこと,本件飛行場の騒音のピークレベル及び日平均騒音発生回数は,嘉手納基地の周辺地域での騒音測定結果を上回っており,より深刻な騒音暴露状況にあることなどを主張する。しかし,当該測定地点における住民の騒音暴露状況は,瞬間的な騒音の最高値や日平均騒音発生回数だけで判断できるものではなく,平均W値や時間帯別の騒音発生回数等の種々の要素を勘案して判断されるものであるから,
特定の要素のみによって現在の実勢騒音の状態を評価したり,

他基地と比較することはできない。
また,原告らは,年間W値やLdenの値を基準に本件飛行場と他の自衛隊基地や国内の米軍基地を比較すると,本件飛行場周辺の測定結果はこれらと遜色がない旨主張するが,騒音測定器の設置環境がそれぞれ異なるのであるから,数値の単純比較に意味はないし,そもそも原告らの騒音暴露状況は,本件飛行場で現実に測定された騒音状況により判断されるべきものであるから,本件飛行場の航空機騒音が減少傾向にあるという事実を覆すものではなく,原告らの主張はいずれも理由がない。⑶

騒音コンター外原告らについて
仮に,本件告示コンター等を基準に原告らの航空機騒音暴露を認定するとしても,次のとおり,騒音コンター外原告らは,75W以上の騒音に暴露していたとは認められない。

本件告示コンターは,
前記前提事実第4の1⑵エ,
同2⑵記載のとおり,
平成14年騒音調査に基づいて作成された本件騒音コンターに,行政区画,集落の状況,道路,河川等に即して最小限の修正を施して素案を作成し,素案について関係地方公共団体の意見を聴取するという手順に加えて,宮崎県知事に対しても照会を行い,異議はない旨の回答を得た上で,平成5年に作成されたコンターから大きく変更することなく作成された。その結果,本件告示コンターは,本件騒音コンターの外郭線よりも本件飛行場から相当程度離れたところで,引かれることになっており(乙B32)本件告示コンターは,

平成14年騒音調査で得られた情報に基づき作
成された本件騒音コンターとは大きく異なる。


そして,本件75W指定地域内ではあるが,75Wの本件騒音コンターの外側に居住している騒音コンター外原告ら6名(乙B32)の近傍には九州防衛局及び宮崎県による騒音測定機器が設置されているところ(乙B40)これらの騒音測定地点に係る宮崎県の騒音測定結果

(甲B23の表

3-1)及び九州防衛局騒音測定結果(乙B30,31)はいずれも75Wを下回っており,騒音コンター外原告らの騒音暴露量が,75Wの本件騒音コンター内に居住する原告らと遜色がない程度に達しているとはいえない。よって,これらの原告の居住地の実勢騒音は,平成14年当時から現在に至るまで75W未満であったと認められる。


原告らの夜間から朝方にかけての航空機騒音の暴露状況について
不知ないし争う。本件飛行場における管制回数の推移を集計した表(乙41)等によれば,上記時間帯の航空機騒音の暴露はほとんど認められない。
3
航空機騒音以外の侵害について
一般論として,航空機が離発着及び飛行中に排気ガスを排出し,振動を生じさせること,過去に本件飛行場周辺において航空機事故が発生したことは認めるが,その余は不知ないし争う。

4
原告らの被害に関する主張への反論


共通損害論について
原告らが引用する大阪空港最高裁判決は,航空機騒音による被害のように無形の被害が集団的に発生する事案においては,原告ら各自の生活条件,身体的条件等の相違によって被害の有無や程度は異なるけれども,原告ら各自が等しく被っていると認められる損害については,原告ら全員に共通する損害として捉えて,損害賠償を請求する余地を認めている。
もっとも,大阪空港最高裁判決は,共通損害について,損害の立証の程度を軽減することで,原告の立証責任の負担を緩和したものではなく,ある損害が,原告ら全員が共通して被っている損害であると認められるためには,原告らの一部の者にそのような被害が発生していることを主張立証するものでは足りず,当該被害が,現に他の原告らにも共通して生じていると認められるような性質,内容及び程度のものであることを具体的に主張立証する必要がある。

しかし,
以下に述べるとおり,
原告らが主張する身体的,
精神的被害等は,
科学的知見によれば航空機騒音による影響が一般的に否定されており,そもそも損害とはなり得ない。この点を措くとしても,原告らは,原告らのうちの誰が,どのような被害を受けているのかについて具体的に主張せず,診断書等の客観的資料も提出していない上,被害の共通性を裏付けるものとして原告らが提出している陳述書,アンケート結果や各種文献等は,いずれも航空機騒音に起因する被害が原告ら全体に共通していることを裏付けるものではない。


睡眠妨害について

航空機と睡眠妨害との関係に関する国内外の調査研究において,航空機騒音を受けることにより深刻な睡眠妨害が生じることを示す調査結果や研究報告はない上,
睡眠は個体差が顕著であり,
どの程度の騒音であれば,
人の睡眠を妨げるものであるかを判定する確たる証拠も存在しないから,睡眠妨害を共通損害として認める余地はない。


また,本件飛行場周辺において,午後10時から翌日午前7時までの時間帯には,ほとんど航空機騒音が発生していない。このことは,同時間帯の自衛隊機の離着陸は領空侵犯等に対する緊急発進に限られており,その管制回数の過去6年間の合計は17回にすぎないこと(乙B41,D1),
九州防衛局が用いている騒音測定機器は,本件飛行場を離着陸する自衛隊機による騒音以外の騒音も航空機騒音として識別し,記録していると考えられるところ
(乙B24)仮に,

九州防衛局騒音測定結果を前提としても,
比較的騒音が激しいと考えられるNo.1の測定地点における平成26年度から同30年度までの期間の1日平均騒音発生回数が,午前0時から午前7時までの時間帯で平均0.0回ないし0.1回,午後10時から午後12時までの時間帯で平均0.0回(乙B30)であることなどからも明らかである。また,被告の助成により本件飛行場周辺で実施されている各
種住宅防音工事には,
少なくとも20dB以上の防音効果が認められる上,
防音工事が未施工の住宅においても,窓を閉めればかなりの減音効果が認められるから,仮に夜間に航空機騒音が発生したとしても,就寝中の居室内に到達する騒音量は相当減衰しているはずである。
加えて,我が国においては,成人の30%以上に不眠症の症状があり,この症状は年齢及び健康状態の悪化に付随して増加していること(乙総C60)
,不眠症の原因となる精神的ストレスには多種多様なものが存在するところ,仕事や職業生活,家庭生活等で悩みやストレス等を感じている労働者の割合は増加傾向にあること(乙総C27)などからも明らかなように,仮に原告らに睡眠妨害が生じている者がいるとしても,その原因が航空機騒音であるか否かは不明というほかない。
したがって,原告らにおいて,睡眠妨害の存在を主張するのであれば,個々の原告について,就寝中の騒音発生回数や騒音量を具体的に計測し,医師による診断書等を得るなどして,航空機騒音を原因とする睡眠妨害が実際に生じていることを具体的に主張立証すべきであるが,原告らはこのような主張立証を何ら行っていないのであるから,睡眠妨害を原告らの被害として認める余地はない。

原告らは,WHO環境騒音ガイドライン,欧州WHO環境騒音ガイドライン,沖縄県健康調査報告書等を引用して,原告らの睡眠妨害の発生及び航空機騒音との因果関係を立証しようとしている。
しかしWHO環境騒音ガイドラインや欧州WHO環境騒音ガイドラインは,WHO憲章第1条において掲げられた極めて理想的な健康観に基づき,政策的見地から,健康への影響が生じ得る最低の騒音レベルをガイドライン値として,騒音対策に万全を期すことを目的としており,損害発生の有無という法律的評価を行う際の尺度となるものではないし,騒音に起因する健康被害の診断基準等を示したものでもない。そもそも,欧州WHO環
境騒音ガイドラインが用いる指標であるLnightは,飛行回数の時間帯別の重み付けがなく,測定時間帯が夜間のみに限られるなどWECPNLとは算定要素や算定方法等が異なるから,比較対象となり得ない。また,沖縄県健康調査報告書は,本件飛行場とは騒音状況が異なる他の飛行場における,ある一定の時期の調査結果にすぎないことなどの問題があり,本件飛行場の航空機騒音による原告らの実際の被害を立証するに足りるものではない。


身体的被害や健康被害等について
国内外の調査研究で得られた科学的知見によれば,航空機騒音が人の身体ないし精神面に影響を及ぼし,身体的被害や健康被害等を引き起こすことは一般的に否定されている。原告らは,身体的被害の発生を裏付ける資料として陳述書やアンケート回答結果を提出するものの,医師の診断書等の客観的資料は提出していないのであるから,個別の原告について,航空機騒音により現実に身体的被害が発生したとか,発症リスクが増加したとは認められない。また,仮に,原告らの中で航空機騒音による健康被害につき不安感を抱く者が存在するとしても,それは客観的根拠のない漠然としたものといわざるを得ないから,かかる不安感の存在をもって,不法行為上の法的保護の対象である権利ないし法的利益の侵害があったとみることはできない。この点を措くとしても,原告らが主張する聴力障害,妊娠関連疾患,胎児の発育不全等の身体的被害の発生及び発症リスクの増加並びにこれらに起因して生じる不安感については,いずれも特定の原告に固有の事実であって,個別被害の典型例といえるものであるから,共通損害として認める余地はない。
なお,原告らは,WHO憲章を引用して,健康被害とは,単に身体的な被害を指すのではなく,精神的被害や生活妨害等も含めて考えるべきである旨主張するが,前記⑵ウ記載のとおり,WHO憲章の健康観は,政策的見地か
ら掲げられた極めて理想的なものであって,法的保護に値する権利ないし利益に当たるか否かを画し得るほどの具体性を伴うものとまでは言い難い。⑷

生活妨害について
一般に航空機騒音が周辺住民の日常生活に望ましくない影響を与える可能性があるとしても,飛行場における航空機の運航に伴って常にある程度の騒音が発生することは避けられないから,飛行場の供用が違法と評価されるには,航空機騒音による生活妨害等の被害が,一般通常人の社会生活上,通常耐え難いものといえる重大かつ深刻な程度に至ったと認められることが必要である。そして,このような被害が原告らの共通損害として認められるためには,騒音レベルが相当に大きく,本件飛行場周辺の大部分の居住者の被害の程度が重大かつ深刻な程度に至っていることの個別具体的な主張立証が必要であるところ,
原告らの主張立証が尽くされているとは到底いえないから,
本件飛行場の供用を違法足らしめるほどに生活妨害の程度が大きいとはいえない。



心理的被害について
我が国における調査研究結果によれば,航空機騒音と人の精神症状の間に明確な関連性は認められず,航空機騒音と心理的被害の量反応関係は否定されている。騒音に対する感受性は,個人の社会的及び心理的要因のほか,騒音源に対する評価等によっても変化するため,そのような個人差の大きい主観的反応が法の保護に値する利益の侵害に当たるかは慎重に考える必要があるし,仮に侵害に当たるとしても,航空機騒音による精神的影響は原告らの共通損害になり得るものではない。本件において,原告らは,各原告に精神的被害が発生したことを個別に主張立証していないのであるから,いずれの原告についても,本件飛行場からの航空機騒音により心理的及び情緒的障害が発生したとはいえない。

5
本件飛行場の公共性

人間の生活と騒音は密接な関係にある上,狭隘な国土に多数の国民が生活している我が国の現状の下では,騒音発生源に高度の公共性や社会的有用性が認められるものについては,相当程度の騒音を受忍すべきことが社会的に要請されており,本件訴訟における受忍限度の判断に当たっても,本件飛行場の公共性は十分に考慮される必要がある。
前記前提事実第1の3記載のとおり,本件飛行場には,第5航空団,飛行教育航空隊,
新田原救難隊のほか,
飛行場機能を維持するために,
新田原管制隊,
新田原気象隊,西部航空施設隊第2作業隊等の部隊が所在し,これらの部隊による防空,
領空侵犯に対する措置,
飛行教育訓練等の諸活動が実施されている。
本件飛行場は,太平洋に面した西日本唯一の防空作戦を担う航空作戦基地かつ航空自衛隊の主力機種であるF-15戦闘機の基本ライセンスを付与する我が国唯一の教育訓練基地であり,西日本の防衛のための戦略的及び戦術的拠点となっている。
これにより,
我が国や国民は,
独立国としての安全と平和の確保,
国民の権利の保障などの国家存立の根本に関わる利益を享受している。本件飛行場は,航空機の離着陸及び飛行の障害となるような高い構造物がないこと,悪天候の発現日数も比較的少ないこと,敷地の大部分が国有地で経済性に優れていることなど恵まれた環境にあるところ,
このような本件飛行場の適地性は,
本件飛行場の公共性を補強する要素である。
また,航空自衛隊は災害派遣等の民生協力活動を実施しているところ,本件飛行場の常駐している部隊も,周辺自治体と連携して民生協力活動を行っており,このうち,新田原救難隊の昭和57年6月から平成30年6月までの災害派遣の実績は合計128件
(乙A30)第5航空団の昭和41年1月から平成

30年10月までの災害派遣の実績は合計148件(乙A31)に上る。このような活動に加え,本件飛行場では,社会貢献活動や地域の活性化に繋がるイベント活動等が行われており,周辺住民は本件飛行場の設置により,日常的,具体的に利益を受けているといえる。

したがって,本件飛行場における自衛隊機の運航には,高度の公共性が認められる。
6
防音工事助成をはじめとした周辺対策の内容及び被害の防止効果等⑴

概要
被告は,以下に述べるように,住宅防音工事の助成をはじめとした各種騒音対策を行い,本件飛行場の周辺住民に生活上の支障が生じないよう十分に配慮している。とりわけ,被告が助成する住宅防音工事は,その防音効果により昭和48年環境基準及びこれを引き継いだ現行環境基準が達成された場合と同等の屋内環境を実現するもので,これにより航空機騒音による日常生活の影響は相当程度軽減された状態となっている。
また,騒音対策以外の周辺対策は,周辺住民の生活の安定及び福祉の向上を図り,航空機騒音に対する否定的評価を和らげ,騒音によって被る精神的不快感を緩和する効果をもたらすものである。
したがって,本件訴訟における自衛隊機の運航の違法性ないし原告らの受忍限度の判断に当たっては,
これらの周辺対策が十分斟酌されるべきである。



住宅防音工事に対する助成

住宅防音工事の施工及び助成の実施状況
被告は,本件飛行場の周辺住民に対し,住宅防音工事の助成として,平成30年度までの累計で,総額約777億2090万円を支出した(乙E89の第1表,第2表及び第4表)
。原告らにおける,被告の助成による住
宅防音工事の実施状況は,本件居住経過一覧表記載のとおりである。

住宅防音工事の効果
前記前提事実第5の1⑴記載のとおり,80W以上の区域に所在する住宅に対しては第Ⅰ工法,75W以上80W未満の地域に所在する住宅に対しては第Ⅱ工法による防音工事が施工されるところ,防音工事仕方書は,第Ⅰ工法では25dB以上,第Ⅱ工法では20dB以上を目標計画防音量
とするほか,上記目標を達成するため,住宅防音工事に使用する建具,吸音材,換気設備等に関する基準を定めている。そして,被告は,住宅防音工事が完了した際は,補助事業者から提出を受けた各施行箇所の写真の確認や現地調査等によって,工事が防音工事仕方書等に従った設計図面のとおりに施工されていることを確認するほか,補助事業者と設計監理委託契約を締結した設計事務所も,完成検査を実施しており,このような過程を経ることによって,個々の住宅防音工事における目標計画防音量の達成が担保されている。
実際に,防衛施設庁が平成13年10月から平成14年3月にかけて行った防音量調査(第Ⅰ工法につき,本件飛行場を含む14か所の飛行場周辺の計118世帯が,第Ⅱ工法につき,本件飛行場を含む4か所の飛行場周辺の計23世帯が対象。乙E84の別紙10)によれば,第Ⅰ工法では最低で25.0dB(A)
,最高で44.0dB(A)の防音効果が,第Ⅱ
工法では最低で20.0dB(A)
,最高で32.4dB(A)の防音効果
がそれぞれ確認された。このほか,南関東防衛局が平成23年12月15日に厚木飛行場周辺で実施した防音量調査(85W地域に所在し,第Ⅰ工法による外郭防音工事済みの住宅1棟が対象。
乙E88)大阪防衛施設局

が平成15年7月2日から同月3日にかけて小松飛行場周辺で実施した防音量調査(第Ⅰ工法による防音工事が施工された,W80地域とW85地域に所在する住宅各1棟が対象。乙E61)では,いずれも目標計画防音量を達成する防音効果が確認された。
また,嘉手納基地第2次訴訟,厚木基地第3次訴訟等の複数の基地訴訟の第1審では,現地進行協議期日ないし検証期日において,防音工事が実施された住宅での騒音測定が実施されているところ,いずれも,ほとんどの測定で目標計画防音量を達成しており,これを達成していない測定結果はわずかである(嘉手納基地第2次訴訟につき乙E59,厚木基地第3次
訴訟につき乙E60,厚木基地第4次訴訟につき乙E85.普天間基地訴訟につき乙E86別紙3,横田基地第9次及び12次訴訟につき乙E87の4枚目参照。。


住宅防音工事の効果に関する原告らの主張に対する反論
原告らは,防音効果を得るために居室を常時密閉状態にすることは,閉塞感等のストレスや,空調機器の使用による健康障害等の不利益を生じさせるため,当該居室の窓を開けて生活するなど防音施設としては使用していない原告も多い旨主張する。しかし,住宅防音工事の申請をするか否かは個々の住民の自由意思に任されているところ,少なくとも,自らの意思で住宅防音工事の実施を求め,その防音効果を享受することを選択したのであれば,当該居室を密閉して使用することが通常であるといえる。防音効果を評価するにあたっては,このような本来想定されていない原告らの生活様式を考慮すべきではない。



住宅防音工事助成以外の周辺対策

空気調和機器稼働費助成事業及び太陽光発電システムに係るモニタリング事業
住宅防音工事の際設置された空気調和機器に係る電気料金の負担を軽減するため,被告は,生活保護法に規定する被保護者等に対し,電気料金を助成する空気調和機器稼働費助成事業を実施しており,平成30年度までの累計で,総額約779万円を支出した(乙E89の第3表)
。また,上記
被保護者等以外の住民に対しても,電気料金の負担軽減のため,太陽光発電システムの設置助成を目的とした太陽光発電システムに係るモニタリング事業を実施しており,平成15年度から平成18年度までの累計で,総額約1億4489万円を支出した(乙E89の第5表)



学校等の公共施設を対象とした防音工事に係る助成
被告は,学校,病院のほか,老人福祉センター等の民生安定に係る公共
施設等を対象として施工された防音工事に対する助成を実施しており,平成30年度までの累計で,総額約246億8125万円を支出した(乙E89の第6表及び第8表)また,

学校等の防音工事の際に設置された空気
調和機器の電気料金等の負担軽減のため,防音工事関連維持費の補助事業を実施し,平成31年3月末までの累計で,総額約23億1475万円を支出した(乙E89の第7表)


移転措置及び緑地帯整備事業等
被告は,生活環境整備法等に基づき,移転対象区域に建物等を所有する者に対し,移転に係る補償等を実施するとともに,その跡地等を買い上げて緑地帯その他の緩衝地帯とするほか,地方公共団体に対し,当該跡地を市民の多目的広場等として無償で使用することを許可している。
被告は,平成30年度までの累計で,移転措置事業に総額約90億6488万円を支出したほか
(乙E89の第10表)約151万2502平方

メートルの土地に6万1587本の樹木を植栽して緑地帯とし(乙E89の第17表及び18表)
,新富町に対して合計約53万8044平方メー
トルの土地の無償使用を許可した(乙E89の第19表)



農耕阻害補償
被告は,本件飛行場の進入表面又は転移表面下にあって,滑走路先端の着陸帯から2キロメートル以内において農業を営む者に対し,昭和42年度から農業被害補償を実施してきた。その支出金額は,平成30年度までの累計で,総額約2億1137万円に上る(乙E89の第16表)。


その他の周辺対策
被告は,自衛隊等の使用する施設の周辺地域において,自衛隊等の行為によって生じる障害を防止又は軽減するため,障害防止工事の助成として,河川改修等に補助金を支出しており,平成30年度までの累計金額は,約59億1878万円に上る(乙E89の第9表)


また,被告は,本件飛行場の周辺市町村に対し,各種補助金ないし交付金を交付しているところ,平成30年度までの累計総額は,それぞれ,民生安定施設の設置や道路改修等の事業に対する補助金が約134億7761万円
(乙E89の第11表)公共用施設の整備等のための特定防衛施

設周辺整備調整交付金が約123億3672万円(乙E89の第12表),
公共用施設の整備等の再編関連特別事業のための再編交付金及び再編関連訓練移転等交付金が約71億1765万円
(乙E89の第13表)一般

財源の補給金である基地交付金が約84億3026万円(乙E89の第14表)である。
上記の他,被告は,本件飛行場周辺の一定区域に居住する者に対し,テレビ受信料の助成措置を実施しており,その額は,平成30年度までの累計で,約24億2838万円に上る(乙E89の第15表)



音源対策
本件飛行場の運用機種は,F-4EJ改戦闘機からF-15J/DJ戦闘機に,T-33A練習機からT-4練習機へと相対的に騒音の小さい機種に切り替わっているところ(乙E69ないし71)
,切替え後の機種は,エンジ
ンの推進力の向上に伴い,離陸時にすみやかに本件飛行場を離脱して,騒音暴露時間を縮減することができ,騒音低減に寄与している。また,地上における航空機のエンジンの整備や調整に伴う騒音を低減させるため,本件飛行場の2か所に消音装置を設置しているほか,本件飛行場の外柵沿いにコンクリート製の防音壁や防音に資する立木を整備するなどの音源対策を実施している(乙E72)




運航対策
本件飛行場においては,土日及び祝日,午後9時から翌日午前7時まで,正午から午後1時までの間は,いずれも,緊急発進等のやむを得ない場合を除き,航空機の離着陸を中止しているほか,午後10時から翌日午前7時ま
での間は,
特に必要な場合を除き,
地上における整備上の試運転についても,
航空機の移動のための地上滑走及びアイドル運転
(地上試運転を含む。を除

き中止している(乙E73ないし75)
。また,夜間飛行訓練は,原則として
平日週2回までに限り実施することとしている(乙E73)

加えて,本件飛行場の周辺地域で入学式,入学試験,成人式等の各種行事が実施される場合は,飛行訓練を中止し又は飛行経路等を制限している(乙E76ないし81)

7
本件飛行場における自衛隊機の運航は受忍限度を超えないこと


航空機騒音が75W以上か否かをもって,受忍限度を画する基準とすべき旨の原告の主張に対する反論

昭和48年環境基準について
公害対策基本法9条1項は,政府は,騒音等に係る環境上の条件について,人の健康を保護し,及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定める旨規定し,同規定は環境基本法16条1項にも引き継がれているところ,その文言から明らかなように,環境基準は,政府が環境に関する総合的政策を進める上で掲げる行政上の目標ないし指針にすぎない。このことは,厚生大臣の諮問機関である公害審議会が,環境基準の性格につき,

行政の目標となる基準であって,規制基準ではない。

との考えを答申において示し(乙A46の17枚目),これを踏まえ
て,公害対策基本法9条1項の文言が決定されたという立法経緯等からも明らかである。
また,前記前提事実第3の1⑴記載のとおり,昭和48年環境基準の策定の際に提出された航空機騒音に係る環境基準について(報告)(乙B27)には,聴力損失等の健康被害はもとより,うるささによる不快感等をはじめとした生活環境への影響を生じさせないことを指針設定の際の留意事項としつつ,各国の調査資料や,他の規制との整合性等を踏まえて
環境基準の指針値を検討したこと,指針値については早急な実現を望むが,大規模空港における音源対策上の制限等により,指針値達成は容易ではなく,相当な期間を要することなどが記載されている。
これらの昭和48年環境基準の策定経緯等からすると,昭和48年環境基準は,瞬間的な騒音暴露に対して人が感じる不快感程度のものも騒音被害に含めた上で,望ましい生活環境を整備する上での行政上の努力目標を設定したにすぎないから,損害賠償請求権の発生を基礎付ける航空機騒音の受忍限度を画する基準とはなり得ない。

本件告示コンターの性質について
本件告示コンターは,防衛施設周辺の関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的として制定された環境整備法に基づき,政策的補償措置として被告が行う周辺対策の実施区域を画する基準であるから,直ちに受忍限度を画する基準となり得るものではない。



夜間早朝の航空機騒音はそれのみで受忍限度を超える被害を生じさせる旨の原告の主張に対する反論
前記6⑸のとおり,本件飛行場においては,午後9時から翌日午前7時までの間は,領海侵犯等に対する措置のための緊急発進等の真にやむを得ない場合を除き,航空機の離着陸を中止しているほか,午後10時から翌日午前7時までの間は,特に必要な場合を除き,地上における整備上の試運転についても,航空機の移動のための地上滑走及びアイドル運転(地上試運転を含む。
)を除き中止しており,現に,本件飛行場周辺において,午後10時から翌日午前7時までの時間帯の管制回数の過去6年間の合計は17回にすぎない(乙B41,D1)
。なお,九州防衛局が用いている騒音測定機器は,本件
飛行場を離着陸する自衛隊機による騒音以外の騒音も航空機騒音として識別し,記録していると考えられるため(乙B24)
,上記管制回数の数値がより
正確である。加えて,住宅防音工事の効果等も考慮すれば,本件飛行場から
生じる航空機騒音により原告らの睡眠妨害等が生じたとは認められない。この点を措くとしても,領海侵犯に対する措置のための緊急発進,災害派遣等真にやむを得ない場合に限られる睡眠時間帯の自衛隊機の運航については,高度の公共性を有し,公益上の必要性が認められるものであるから,この点は,自衛隊機の運航の違法性や原告らの受忍限度に関する判断に当たって,十分に斟酌されるべきである。


本件における受忍限度の判断
前記2⑵のとおり,原告らの騒音暴露状況は,原告らが実際に暴露された騒音の内容と程度に基づいて認定されるべきであるが,仮に,平成14年騒音調査の結果を用いるとしても,本件告示コンターではなく,本件騒音コンターに基づいた認定がされるべきであって,少なくとも騒音コンター外原告らについては,騒音暴露の状況は受忍限度の範囲内であり,請求は棄却されるべきである。
その余の原告についても,航空機騒音による身体的被害等の重大な利益侵害は認められず,原告らが何らかの影響を被っているとしても,日常生活上の不便や支障といった程度を超えるものではないし,それすらも,被告による住宅防音工事の助成等の周辺対策や音源対策等により相当程度軽減されている状況にある。なお,原告らは,本件飛行場の自衛隊機の墜落や落下物事故の危険が現に存在することなども違法な侵害行為であると主張するが,いずれも抽象的なものであり,違法な権利侵害とはいえない。
他方で,本件飛行場における自衛隊機の運航は極めて高度の公共性や公益上の必要性を有するものであり,これらの事情を総合考慮すると,本件飛行場における自衛隊機の運航によって生じる航空機騒音は原告らの受忍限度を超えた違法なものではない。

8
原告らの損害額に関する主張に対する反論


損害額一般について

原告らは,本件飛行場における自衛隊機の運航によって被った損害に対する慰謝料は1か月3万5000円を下らない旨主張するが,具体的な被害の内容や程度等についての的確な主張立証はされておらず,上記損害額がおよそ根拠の乏しいものであることは明らかである。


住宅防音工事がなされた住宅に居住する原告らについて
前記6⑵イ記載のとおり,住宅防音工事完了後の確認作業等により,防音工事仕方書が定めた目標計画防音量の達成が担保されていること,被告が書証として提出している多数の騒音測定結果によっても,住宅防音工事には,目標計画防音量と同等ないしこれを上回る防音効果があることなどに照らせば,住宅防音工事が実施された住宅では,昭和48年環境基準及び現行環境基準が達成された場合と同等の屋内環境が実現されているといえる。したがって,仮に,原告らに受忍限度を超える被害があると認定された場合であっても,複数の基地訴訟と同様に(乙A22の109頁,50の136頁,51の124頁等)
,住宅防音工事がなされた住宅に居住する原告らの損害額
に対しては,一定程度の減額がなされるべきである。
また,住宅防音工事の効果は,工事が実施された居室数に比例して増加することから,2室目以降も1室目と同じ減額率とすべきであり,減額率に上限を設ける合理的理由も存在しない。



外郭防音工事がなされた住宅に居住する原告らについて
住宅防音工事の一種である外郭防音工事は,住宅全体を一つの防音区画としてその外郭について防音工事を実施するものであり,特定の居室のみならず,台所や玄関等のユーティリティ部分を含む屋内生活空間全体において,昭和48年環境基準及び現行環境基準が達成された場合と同等の屋内環境が実現されているといえる。
したがって,外郭防音工事がなされた住宅に居住する原告らは,他の住宅防音工事が実施された住宅の居住者と比較して,より高い防音効果を享受し
ているから,損害額の算定において,より高い減額率が認められるべきである。
9
本件飛行場の自衛隊機の航空機騒音に暴露していない期間が存在する原告らについて
死亡原告ら(原告番号16,17及び68の各原告。
)は,いずれも同人らの
訴え提起日である平成29年12月18日以降に死亡したことが確認された原告らであり,少なくとも死亡後の期間については,本件飛行場の自衛隊機の航空機騒音に暴露しておらず,その期間の損害を認める余地はない。また,原告番号41,50,51,86,88,129及び162の各原告は,損害賠償請求の対象期間のうち,住民票上の住所が本件飛行場に係る第一種区域等の区域外にあった又は同人らが同区域外に居住していた期間があることを自ら認めているところ,同期間については,本件飛行場における自衛隊機の運航に伴い発生する航空機騒音に暴露しておらず,その期間の損害を認める余地はない。

10

将来請求の不適法


判断枠組み
将来の給付を求める訴えが適法となるには,
あらかじめその請求をする必要性
(民事訴訟法135条)の存在が要件となるところ,大阪空港最
高裁判決は,
同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,それが現在と同様に不法行為を構成するか否か及び賠償すべき損害の範囲いかん等が流動性をもつ今後の複雑な事実関係の展開とそれらに対する法的評価に左右されるなど,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点においてはじめてこれを認定することができるとともに,その場合における権利の成立要件の具備については当然に債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものについては,本来例外的にのみ認められる将来の給付の訴えにおける請求権としての適格を有するものとすることはできない。と判示している。かかる判断枠組みは,第4次厚木基地訴訟に係る最高裁判決(最高裁平成28年12月8日第一小法廷判決・民事254号35頁。以下第4次厚木訴訟最高裁判決という。
)をはじめ
としたその後の基地訴訟に係る最高裁判決及び下級審判決においても踏襲されており,本件訴訟も,同枠組みに従って,将来請求の適法性が判断されるべきである。


原告らの口頭弁論終結日の翌日以降の損害賠償請求が不適法であること本件のような航空機騒音によって生ずる被害を理由とする損害賠償請求の場合,侵害行為の態様は,個別具体的な騒音等の暴露の実態であり,違法性の判断も,周辺住民等の被害が受忍限度を超えるかといった観点から,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性や公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察して決すべきとされている。
しかし,防衛施設である本件飛行場に所在する航空機の機種,離発着の日時,回数等は,その時々の国内外の情勢や本件飛行場における航空機の配備態勢等の変化に応じて常に変動する可能性を内包している上,被告が本件飛行場において音源対策を行い,住宅防音工事をはじめとした周辺対策について着実に実績を積み重ねていることなども踏まえると,原告らの被害が受忍限度を超えるか否か,すなわち,自衛隊機の運航の違法性や損害賠償請求権の発生の有無に関する今後の見通しは極めて不明確と言わざるを得ないし,賠償されるべき損害の額の変動状況をあらかじめ把握す
ることも極めて困難である。
また,原告らの請求が認容されるには,原告らが将来においても本件飛行場周辺に居住していることが前提となるが,原告らの中に将来転居する者がありうることは否定し得ない。転居の有無は原告らにとっては明白な事実であっても,被告にとっては,多数に及ぶ原告らの現在の居住地全てを逐次把握することは非常に困難であり,将来の転居の事実についての立証の負担を被告に課すことは相当ではない。
したがって,本件飛行場の航空機騒音に関する原告らの損害賠償請求権の成否及びその内容を的確に把握するためには,それが成立したとされる時点で,原告らの立証する事実関係に基づいて,改めてその成立の有無及びその内容を判断するほかなく,原告らの口頭弁論終結日の翌日以降の損害賠償請求は不適法である。
第4章

争点
以上を整理すると,本件の争点は次のとおりであり,この順序で判断する
こととする。
第1

損害賠償請求の法律上の根拠及び判断枠組み

第2

侵害行為の態様と侵害の程度

1
航空機騒音による侵害について

2
原告が主張するその余の侵害行為について

第3

被侵害利益の内容と性質

1
共通損害論について

2
騒音が身体に及ぼす影響の機序

3
睡眠妨害

4
生活妨害

5
心理的被害

6
聴覚障害

7
その他の身体的被害や健康被害等

8
被侵害利益についてのまとめ

第4

侵害行為の持つ公共性や公益上の必要性の内容と程度等

1
事実関係

2
検討

第5

侵害行為の継続状況や被害防止措置等

1
事実関係

2
検討

第6
1
受忍限度に関する総合的な検討
75Wの本件騒音コンター内に居住し又は居住していたことがある原告ら(騒音コンター外原告らを除く原告ら)について

2
第7

騒音コンター外原告らについて
損害賠償額

1
基本となる慰謝料額

2
住宅防音工事による慰謝料額の減額

3
弁護士費用の額

4
遅延損害金

第8
第9
第5章
第1

将来の損害賠償請求の可否
結論

当裁判所の判断
損害賠償請求の法律上の根拠及び判断枠組み
国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵には,その営造物が供用
目的に沿って利用されることとの関連において利用者以外の第三者に危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含むと解されるところ,この場合に,営造物の設置又は管理の瑕疵が認められるためには,第三者の権利ないし利益を侵害する程度が,社会生活上受忍すべき限度を超え,違法と評価されることが必要で
ある。そして,その判断にあたっては,①侵害行為の態様と侵害の程度,②被侵害利益の性質と内容,③侵害行為のもつ公共性や公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,④侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきである(大阪空港最高裁判決参照)

本件においても,上記判断枠組みが妥当すると考えられ,以下,上記①ないし④の考慮要素について順次検討し,本件飛行場における自衛隊機の運航によって原告らの権利利益が侵害される程度が,
社会生活上受忍すべき限度を超え,
違法と評価されるものであるか判断する。
第2

侵害行為の態様と侵害の程度

1
航空機騒音による侵害について


原告らの居住状況等

原告らの居住地の住所及び居住期間
原告ら(死亡原告らを含み,原告番号30,57,86,88,107ないし110,170ないし173の原告ら及び死亡原告らの訴訟承継人は除く。)の住所及び居住期間は,弁論の全趣旨により,本件居住経過一覧表の

居住状況(古い順に記載)欄記載のとおりであると認められる。

原告番号30,57,86,88,107ないし110,170ないし173の各原告の住所及び居住期間は,証拠(原告番号30の原告につき甲個30C(枝番号を含む。),原告番号57の原告につき甲個57C(枝番号を含む。,
)原告番号86の原告につき甲個86C
(枝番号を含む。,

原告番号88の原告につき甲個88C(枝番号を含む。),原告番号107ないし110の各原告につき甲個108C(枝番号を含む。),原告番号170ないし173の各原告につき甲個170C
(枝番号を含む。。
))
によれば,本件居住経過一覧表の居住状況(古い順に記載)欄の

(原告が陳述書等で主張した住所)部分に記載のとおりであると認められる。


死亡原告らについて
死亡原告ら(原告番号16,17及び68の各原告)は,いずれも口頭弁論終結日より前に死亡しており,その死亡日は,原告番号16の原告は令和2年11月12日,原告番号17の原告は令和1年9月5日,原告番号68の原告は令和2年6月21日であり,死亡原告らに各対応する本件居住経過一覧表の終期欄記載の年月日と同じであると認められる。また,死亡原告らに各対応する本件居住経過一覧表の原告氏名欄に承継人と記載された者が,本件に関しそれぞれ相続したと認められる。

原告らの居住地が属する本件告示コンター等のW値
原告らの居住地が属する本件告示コンター等のW値について,
原告らは,
本件居住経過一覧表のW値欄記載のとおりであると主張するところ,被告は,これについて積極的な反論及び反証を行わないので,弁論の全趣旨により,原告らの居住地が属する本件告示コンター等のW値は,本件居住経過一覧表のW値欄記載のとおりであると認められる。



原告らの航空機騒音への年間の暴露状況

本件告示コンター等に基づく原告らの年間騒音暴露状況の認定の適否環境庁方式か施設庁方式のいずれを騒音評価方法とすべきか
a
前記前提事実第4の1⑶記載のとおり,W値の算定方法には,環境庁方式と施設庁方式が存在し,本件告示コンター等は,施設庁方式によって算定されたW値に基づいて作成されたものであるところ,施設庁方式の相当性については,原告らと被告との間で争いがあるから,この点につき以下検討する。

b
防衛施設庁に設置された防衛施設周辺騒音調査研究委員会等の委員として,施設庁方式の策定等に携わった横浜国立大学名誉教授田村明弘(以下田村教授という。
)の証人尋問調書等(甲B6,8(枝番

号を含む。,14(枝番号を含む。)によれば,施設庁方式が新たに)

考案された経緯等について,以下の事実が認められる。
航空機騒音のうるささを適切に把握するには,算出されたW値
が,
航空機騒音に対する実際の住民反応と整合する必要があるところ,民間空港の場合,1年間を通して航空機の運航の変動が少ないことから,年間の平均飛行回数を1日の飛行回数としてW値を算定する環境庁方式は,民間空港の年間平均W値を求める方式として妥当である。他方で,軍用飛行場においては,民間空港と異なり,飛行回数の日時変化が非常に大きいという特徴を有するところ,住民への長期の航空機騒音の影響は,影響が大きい日々の効果が積み重なったものであること,すなわち,人間が感じるうるささは,ある一定の期間の平
均よりも1日単位で多く飛行した日を基準にして判断されることが実証されるに至った。加えて,民間空港1か所と軍用飛行場3か所の周辺住民を対象に行ったアンケート調査を用いて,W値と住民反応の相関関係等の検証を試みた木村翔らの論文(甲B4,5。以下,これらを総称して木村論文という。
)によって,1日の平均飛行回数が不
規則に変動する自衛隊基地周辺におけるW値の算定において,算定の基礎となる航空機の標準飛行回数を飛行回数の多い日を代表するような方法で求めることにより,民間空港周辺で得られるW値との整合性が得られることが検証された(なお,木村論文における検証では,飛行回数の多い日を代表する算出方法として,累積度数曲線の発生頻度の多い方から10%の値をとることとされた。。

防衛施設周辺騒音調査研究委員会は,これらの知見に基づき,施設庁方式でのW値の算定方法として,累積度数90%方式の採用を提言し,実際にこれが採用された(甲B10)
。このほか,航空機騒音の継
続時間については,環境庁方式がICAOの航空機騒音の評価方法を
独自に簡略化するものであったことを踏まえ,施設庁方式では,航空機の機種や飛行態様等に応じて,航空機騒音の継続時間の補正を行うこととし,施設庁方式の測定で用いるA特性の周波数補正回路では,着陸時に現れるキーンという純音的な音を評価することができな
いことから,施設庁方式では,着陸音補正として2dB(A)を加算することとされた。
c
上記認定事実によれば,施設庁方式は,民間空港と軍用飛行場で,同じW値であれば,同じ住民反応が示されるようにするため,音響専門家による調査研究を踏まえて考案された航空機騒音の評価方法であるといえ,その具体的な騒音補正方法も,軍用飛行場の運用態様や軍用航空機の特性等を踏まえた合理的なものであるといえる。このように,施設庁方式は,軍用飛行場の特性が捨象されるために,航空機騒音に対する実際の住民反応と比較してW値が過小に評価されるという環境庁方式の難点を回避するために考案されたものであり,単に基地の周辺対策を手厚くするためにその実施範囲が広くなるように環境庁方式を調整したものであるとはいえない。
したがって,本件においては,施設庁方式によって航空機騒音を評価することが相当であり,施設庁方式のW値は,環境庁方式のW値より,おおむね3W程度高くなること(甲B15)に照らすと,本件においては,
環境庁方式のW値の場合には,
便宜上3Wを加えた数値を,
施設庁方式W値の近似値として取り扱うこととする。
屋外での測定結果に基づく本件告示コンター等によって原告らの騒音
暴露状況を認定することの適否
a
被告は,本件告示コンター等のW値は,年間を通じて,当該区域内の屋外で暴露し続けることを前提としているから,当該区域内で居住している事実をもって,当該W値に相当する騒音に暴露していると認
定することはできない旨主張するので,この点につき以下検討する。b
田村教授の証人尋問調書等(甲B6,8)によれば,航空機騒音やこれに対する住民反応の特性等について,以下の事実が認められる。航空機騒音は,道路や鉄道等と異なり音源が上方にあることから,騒音が減衰することなく,同程度の騒音暴露を受ける領域が面上に広がることとなり,多様な住民が終日多様な日常生活を送り諸活動の拠点とする広がった領域である一つの共通した社会環境単位に影響を及ぼすことになる。成田空港の周辺住民等を対象とする航空機騒音に関するアンケート調査結果を分析した航空機騒音健康影響調査報告書(甲B16)
によれば,航空機騒音のうるささ及び会話妨害について
の評価は,成田空港の運用時間帯の在宅時間の長短によってほとんど差は認められないなどと結論付けられており,航空機騒音は,住民の多様な属性や多様な生活パターンなどを超越して影響をもたらしているといえる。このような航空機騒音を評価するには,当該地域の戸外騒音を終日にわたって区別なく全体的に評価する尺度がふさわしいと考えられる。

c
上記事実によれば,航空機騒音は,一つの共通した社会環境単位に等しく影響を及ぼすものであり,このことは,うるささ等についての評価が,在宅時間の長短によってほとんど影響を受けないことなど空港の周辺住民を対象として得られた調査結果によっても裏付けられているといえる。このような航空機騒音及び住民反応の特性を踏まえれば,航空機騒音の評価においては,屋内での滞在時間等の各人の生活様式を考慮するよりも,
当該地域の戸外騒音を終日にわたって記録し,
これを全体的に評価するWECPNL等の評価尺度の方が望ましいといえるから,本件告示コンター等のW値が,人々の多くが一日のうちのほとんどを屋内で生活していることや,各人の様々な生活様式の違
いを一切考慮していないため,騒音暴露量を認定する資料としての合理性を欠く旨の被告の主張は採用することができない。
本件告示コンター等の作成時から現在に至るまでの航空機騒音の変化に対する評価
a
本件告示コンター等の基礎資料である本件騒音コンターは,前記前提事実第4の2⑵記載のとおり,コンター作成旧通達等の被告の指針に沿った大規模かつ精密な調査を元に作成されたものである上,その際,航空機騒音の評価尺度として採用されたWECPNLや,W値の算定方法として採用された施設庁方式は,いずれも住民の騒音暴露量を認定する上で合理性が認められるものである。
そして,本件告示コンター等の大部分は,本件騒音コンターに基づいて作成されたものである上,いずれも平成15年8月29日以降変更されることなく現在も有効とされ,防音工事助成等の基準として利用されているから,本件告示コンター等の作成時の騒音状況と現在の騒音状況を比較した場合に,その乖離が顕著となっていない限りは,本件告示コンター等に基づいた認定をすることが合理的である。

b
この点,被告は,平成14年騒音調査から,原告らの損害賠償請求対象期間まで,少なくとも10年以上経過しており,その間,管制回数の減少や,九州防衛局等の騒音測定地点で計測されたW値の減少等が認められるから,本件告示コンターや本件騒音コンターのW値が,現在の騒音発生状況を示すものではない旨主張するので,以下検討する。

c
平成14年騒音調査以降の本件飛行場における管制回数やW値の推移等について,以下の事実が認められる。


本件飛行場の管制回数
本件飛行場の平成15年度から平成30年度までの管制回数は,別
紙6新田原飛行場年度別自衛隊機管制航空交通量集計記載のと
おりである(乙E92)
。管制回数は全体的に減少傾向にあり,平成
30年度の管制回数は1万9575回と,平成15年度の管制回数2万9045回の67.4%である。


九州防衛局騒音測定結果
九州防衛局は,本件飛行場周辺の個人宅等の6か所(No.1か
ら6までの符号が付けられており,No1及び3が本件85W指定地域内,No.2及び4が本件80W指定地域内,No5及び6が本件75W指定地域内にある。において,

環境庁方式による騒音測
定を行っているところ,証拠(乙B22(枝番号を含む。,26(枝)
番号を含む。,30,31,38,甲B39)によれば,各騒音測)
定地点の年度別平均W値,年度別騒音発生回数,年度別の騒音レベル(dB)ごとの騒音発生回数等は,別紙7九州防衛局騒音測定結果一覧表記載のとおりである(W値については,環境庁方式によるW値のほか,これに3Wを加えた施設庁方式の近似値を併記している。。

なお,
No.5の測定地点は,
本件75W指定区域内に位置するが,
75Wの本件騒音コンターの外側に位置している(乙B40)




新富町騒音測定結果
新富町は,本件飛行場周辺において,独自に環境庁方式による騒音測定を行っているところ,証拠(甲B19,36)によれば,平成26年4月から平成31年3月までの期間,航空機騒音の自動測定機器によって,のべ24か所で測定された測定地点ごとの月平均W値の推移は,別紙8新富町騒音測定結果一覧表記載のとおりで
ある。



宮崎県騒音測定結果

宮崎県は,本件飛行場周辺において,独自に環境庁方式による騒
音測定を行っているところ,証拠(甲B18,37)によれば,平成16年以降も測定がなされている3か所の測定地点ごとの年度別平均W値やLdenの値(なお,前記前提事実第3の2記載のとおり,Ldenの値に13を加えることで,W値の近似値を求めることができる。
)は,別紙9宮崎県騒音測定結果一覧表記載のとお
りである(W値については,環境庁方式によるW値のほか,これに3Wを加えた施設庁方式の近似値を併記している。。



他の自衛隊基地ないし米軍基地との比較
我が国に所在する自衛隊基地ないし米軍基地である,厚木基地,
横田基地,小松基地,岩国基地,嘉手納基地及び普天間基地においても,
被告による恒常的な騒音測定がなされているところ,(甲
証拠
B40)によれば,これらの各基地の第一種区域内に存在する計61か所の騒音測定地点における,令和元年度に測定されたW値,Ldenの値,年間騒音発生回数等は,別紙10他基地の騒音測定結果比較表記載のとおりである(なお,Ldenの値が大きいものから順に各測定地点を並べている。。


d
上記認定事実のとおり,本件では,九州防衛局,新富町及び宮崎県が,それぞれ独自に本件飛行場から発生する航空機騒音の測定を行っている。そこで,まず,長期的なW値の推移を見ると,九州防衛局騒音測定結果によれば,平成14騒音調査が行われた時期に最も近い平成14年度(No.5及びNo.6地点は測定開始年度の平成20年度)と,証拠上最も新しい平成31年度の年間W値を比較すると,No.1地点で1.5W減少,No.2地点で0.2W増加,No.3地点で5.7W減少,No.4地点で4.5W減少,No.5地点で0.2W減少,No.6地点で3.0W増加しており,九州防衛局の
測定地点においては,全体的にW値はやや減少傾向にある。また,宮崎県騒音測定結果によれば,新富町役場の測定地点においては,平成14騒音調査が行われた時期が含まれる平成13年度と証拠上最も新しい平成30年度の年間W値は同一であり,県立産業技術専門校の測定地点においては,平成14騒音調査が行われた時期に最も近い平成18年度と平成30年度の年間W値を比較すると0.7W減少,佐土原地区公民館の測定地点においては,平成13年度と証拠上最も新しい平成24年度の年間W値を比較すると0.3W減少,工業技術センターの測定地点においては,平成14騒音調査が行われた時期に最も近い平成25年度と平成30年度の年間W値を比較すると3.5W減少しており,宮崎県の測定地点においても,全体的にW値はやや減少傾向にある。なお,新富町騒音測定結果は,同一測定点での継続測定期間が1年を下回るものが多く,長期的なW値の推移を把握することが困難である。
以上によれば,本件飛行場周辺における騒音量は,平成14年騒音調査及び本件告示コンター作成後,全体的にやや減少傾向にあるといえるが,W値によって数値化した場合,引用した上記各測定点の年度比較の増減値の過半数が,+3Wから-0.7Wまでの範囲に収まっていることなどからすれば,局所的に5Wを超える減少が認められることなどを踏まえても,本件告示コンター作成時の騒音状況と現在の騒音状況を比較した場合に,
その乖離が顕著であるとは認められない。
e
これに対し,被告は,①本件飛行場における平成30年度の管制回数は,平成15年度の67.4%にとどまり,九州防衛局の各測定地点の年間騒音発生回数が顕著に減少していること,②九州防衛局,新富町及び宮崎県の騒音測定地点の中には,仮に施設庁方式に近似させるためにW値を加算したとしても,当該測定地点が属する本件告示コ
ンター等のW値には届かないものが複数存在することなどを指摘して,本件騒音コンターと現在の実際の騒音量とは乖離している旨主張する。しかし,航空機騒音の評価尺度であるWECPNLの値は,各騒音のピークレベルや継続時間,騒音発生時間帯等の複数の要素を踏まえて算出されるものであり,年間騒音発生回数のみに基づいて算出されるわけではないから,上記判断に影響を及ぼすものではない。
また,被告が指摘するとおり,九州防衛局のNo.1以外の騒音測定地点の平成31年度の年間W値は,いずれも当該地点が属する本件告示コンター等のW値を下回っているほか,新富町の騒音測定地点のうち,追分地区や黒板地区などの複数の測定地点の月間W値がそれぞれ75Wを恒常的に下回っているものの,新富町の騒音測定地点については,測定地点の具体的住所等が不明である上,被告が指摘する測定地点数及び数値等に照らして,直ちに本件告示コンターのW値と現在の実際の騒音量が,全体として顕著に乖離していると評価することは困難といわざるを得ない。
よって,被告の主張はいずれも採用することができない。

認定しうる原告らの年間の暴露状況
以上によれば,本件告示コンター等は,現在においても十分に高い信頼性や通用性を有すると認められるから,少なくとも平成14年当時から現在に至るまで,75Wの本件告示コンター内に居住し又は居住していたことがある原告らは,個別の証拠等によって,実際にはそのW値を越えていないことが明らかにならない限り,その居住期間において,本件告示コンター等に基づき,各指定されているW値以上かつプラス5W未満の航空機騒音に年間で暴露していたものと推認されるというべきである。
被告は,騒音コンター外原告らが年間75W以上の騒音に暴露してい
たとは認められないと主張するので,以下検討する。
告示コンターは,前記前提事実第4の1⑵エ記載のとおり,騒音コンターに,行政区画,集落の状況,道路,河川等に即して最小限の修正を施して定めるものとされ,本件飛行場においては,75Wの本件告示コンターと75Wの本件騒音コンターの外郭線は必ずしも一致しない(乙B32)ところ,本件騒音コンターが大規模かつ精密な平成14年騒音調査を元に作成された正確かつ信頼性の高いものであることなども踏まえると,75Wの本件告示コンター内(本件75W指定区域内)であるが,75Wの本件騒音コンターの外側に居住している騒音コンター外原告ら(原告番号31,32,58,59,118,131の原告ら6名。乙B40)については,前記アの推定力は必ずしも強いとはいえない。そして,
騒音コンター外原告のうち5名
(原告番号31,
32,
58,
59,118)については,その住居地の近隣の九州防衛局の騒音測定地点No.5の平成20年から平成31年までの測定値は施設庁方式の近似値で,65.0Wから68.8Wの範囲内であり,宮崎県の騒音測定地点である西都市役所での平成10年から平成15年まで(それ以降の記載はない。以下同じ。
)の測定値は,環境庁方式で70.9Wから7
1.7W(施設庁方式の近似値で73.9Wから74.7W)であり(甲B37)西都市役所の測定地点が上記原告らの住居より本件飛行場寄り,
にあること,近時のW値が減少傾向にあること,他に上記原告らが75W以上の騒音に暴露していたことをうかがわせる証拠は存在しないことなどを考えると,上記原告らの年間の騒音曝露量は70W前後にとどまり,その損害賠償請求の対象期間について,75Wを越えていないことが明らかといわざるをえない。
また,騒音コンター外原告らのうち1名(原告番号131)については,その居住地の近隣にある,宮崎県の測定地点である佐土原地区公民
館の平成18年から平成24年の測定値は,別紙9宮崎県騒音測定結果一覧表記載のとおり,
平成20年のみが環境庁方式で74.
6W
(施
設庁方式の近似値で77.6W)となっているものの,その他は環境庁方式で66.5Wから70.2W(施設庁方式の近似値で69.5Wから73.2W)であり,平成20年以降は減少していること,近時のW値が減少傾向にあること,他に上記原告が75W以上の騒音に暴露していたことをうかがわせる証拠は存在しないことなどを考えると,その損害賠償請求の対象期間について,上記原告の年間の騒音曝露量は70W前後にとどまり,75Wを越えていないことが明らかといわざるをえない。
したがって,
騒音コンター外原告ら6名
(原告番号31,
32,
58,
59,
118及び131)
の年間の騒音曝露量は70W前後にとどまり,
年間75W以上の騒音に暴露していたと認定することはできない。なお,原告らは,騒音コンター外原告らの陳述書(甲D31,58,118及び131)を引用するなどして,騒音コンター外原告らの航空機騒音の暴露状況は,75Wの本件騒音コンター内に居住する原告らの暴露状況に劣るものではないなどと主張するが,騒音暴露量についての客観的裏付けは存在しないから,原告らの主張は採用することができない。


原告らの夜間から朝方にかけて発生する航空機騒音への暴露状況
原告らは,午後5時から翌朝午前8時までの間,航空機騒音等を同人らの居住地に到達させることも違法な侵害行為であると主張しているため検討する。
原告らの夜間から朝方にかけて発生する航空機騒音への暴露状況は,本件告示コンター等や本件騒音コンターから推認することはできず,証拠上明らかとも言い難いものの,別紙7九州防衛局騒音測定結果一覧表のほか,
括弧内記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりと認められる。ア
午後5時から午後7時までについて
証拠(甲E1,乙E73ないし75)及び弁論の全趣旨によると,被告は,
自主規制として,
土日及び祝日は通常の飛行訓練を原則として行わず,
午後9時から翌日午前7時までの間は緊急発進等のやむを得ない場合を除き本件飛行場からの航空機の離着陸を中止し,夜間飛行訓練は,原則として平日週2回までに限り実施することとしていること,新富町と本件飛行場との間では,通常の飛行訓練は午後5時までとする紳士協定があることが認められる。
また,証拠(甲B26)によれば,平成28年4月1日から平成30年3月31日までの期間,九州防衛局の騒音測定地点の1つであるNo.1の地点において,週2回以内(行われない週もある。
)の夜間訓練と思われ
る日には,午後5時以降も日中に近い程度の回数の騒音(70dB以上)が測定されているものの,それ以外の日の午後5時以降には上記騒音はあまり記録されておらず,かつ,その記録は午後5時台に1回ないし数回が記録されたものが多く,後記の誤計測の可能性もあること等を考えると,上記自主規制及び紳士協定はおおむね守られていることがうかがわれる。そして,上記は1つの地点の2年間のデータではあるものの,航空機騒音の特性等に照らすと,地域及び期間によって程度の違いはあるものの,基本的な傾向は原告らの居住地全般にあてはまるものと考えられ,自衛隊の飛行機1機当たりの騒音自体は日中でも夜間でも基本的に異ならないこと等に照らすと,原告らは,週2回以内の夜間訓練の日には,日中に近い程度の騒音に暴露している日と認められるが,それ以外の日については,月に1,2日程度,70dB以上の騒音に暴露することがあるものの,他には航空機騒音への暴露はないものと認められる。


午後7時から午後10時までについて

別紙7九州防衛局騒音測定結果一覧表によれば,平成27年度から平成30年度にかけての午後7時から午後10時までの時間帯の70dB以上の平均騒音発生回数は,75Wの本件騒音コンター内に設置された騒音測定地点であるNo.1の地点で約1103回,No.2の地点で約991回,No.3の地点で約960回,No.4の地点で約627回,No.6の地点で約420回であり,本件75W指定地域内であるものの75Wの本件騒音コンターの外側に位置するNo.5の騒音測定地点で約71回である。
一方,証拠(甲B26)によれば,平成28年4月1日から平成30年3月31日までの期間,No.1の地点では,夜間訓練と思われる日以外には,ほとんど騒音は記録されておらず,夜間訓練の日でも,午後9時までには概ね飛行訓練は終了しており,午後9時台に記録されているのは,平成28年度は0回,平成29年度は15回(10日)のみであることからすれば,上記騒音の大部分は,夜間訓練と思われる日の午後9時までに集中しているといえる。
そして,かかる基本的傾向は,原告らの居住地域全般にあてはまるといえるから,原告らは,週2回を超えない夜間訓練の日には,午後9時までの間,日中と変わらない程度の航空機騒音に暴露していると認められるが,それ以外については,例外的な場合を除いて,70dB以上の騒音に暴露しているとは認められない。
ただし,本件75W指定地域内にあるものの,75Wの本件騒音コンターの外側に位置するNo.5では,平成27年度から平成30年度にかけての平均騒音発生回数は約71回,最も多い平成30年度でも117回であるから,75Wの本件騒音コンター内の地域に比較して明らかに少なく,騒音コンター外原告らは,年間75W以上の騒音に暴露しているとは認められないことなどをあわせ考えると,同原告らは,75Wの本件騒音コン
ター内に居住し又は居住していたことがある原告らに比較すれば,上記時間帯について,少ない騒音暴露量であったと考えられる。

午後10時から翌日午前7時までについて
別紙7九州防衛局騒音測定結果一覧表によれば,平成27年度か
ら平成30年度にかけての午後10時から翌日午前7時までの時間帯の70dB以上の平均騒音発生回数は,No.1の地点で22回,No.2の地点で約87回,No.3の地点で約104回,No.4の地点で約29回,No.6の地点で約28回であり,No.5の騒音測定地点では約38回であり,証拠(甲B26)によれば,No.1の地点について,
平成28年度が23回
(16日)平成29年度が36回

(28日)

70dB以上の騒音が記録されている。
この点について,午後10時から翌日午前7時までの間の本件飛行場における近時の管制回数の推移を集計した表(乙B41)によれば,同時間帯の管制回数は,平成27年度が0回,平成28年度が1回,平成29年度が2回,平成30年度が5回,平成31年度が9回であり,九州防衛局の上記騒音測定結果と大きく乖離しているところ,被告は,九州防衛局の騒音測定に用いられている自動騒音測定器は,音の仰角及び方位角の角度変化等から,航空機によるものと考えられる条件に当てはまる騒音を機械的に識別及び記録するものであり
(乙B24の4頁)本

件飛行場を離着陸する自衛隊機による騒音以外の騒音も記録されたと考えられる旨主張する。
しかし,上記管制回数の集計表の元となったデータの存在,集計の基準等は明らかでない上,本件飛行場には領空侵犯等に対する防空活動を行う飛行隊が常駐していることなどを考えると,上記時間帯の年間の管制回数が0回あるいは数回であったというのはにわかに信用し難い。また,九州防衛局の自動式の騒音測定では,一定程度,航空機以外の
騒音が含まれている可能性が考えられるものの,騒音測定の目的等を考えると,測定記録の大部分が航空機以外の騒音であるのに,調整等も行われないまま3年間が経過したというのも不自然であって,エンジンテストや旋回等,本件飛行場の管制回数と航空機騒音が測定される回数は必ずしも一致しないことなども考えると,基本的には,九州防衛局騒音測定結果を基礎として,上記誤測定の可能性を考慮しながら,原告らの夜間早朝の騒音暴露状況を認定すべきである。
そして,九州防衛局騒音測定結果によれば,No.1からNo.6の各地点で記録された騒音発生回数は,それぞれの回数が大きく異なるだけでなく,各地点それぞれにおいても年度によって著しい回数の差があって,その増減の傾向も各地点で異なっているところ,
上記各地点の位
置関係(乙B30)
,航空機騒音の特性等を考慮すると,他の地点が十か
ら数十回を記録しているのに,100回以上などという突出して多い回数を記録しているのも不自然というべきであるから,その部分を捨象した上で,全体を平均して考えると,原告らは同時間帯には,年間20から30回程度(なお,管制回数や日数としてはこれより少なくなる。)7
0dB以上の騒音に暴露することがあると認めるのが相当である。なお,
原告らの中でも,騒音コンター外原告らとのその他の原告らで騒音暴露状況に差があることは,前記イと同様である。


原告らの騒音暴露状況のまとめ

75Wの本件騒音コンター内に居住し又は居住していたことがある原告らについて
前記⑵記載のとおり,75Wの本件騒音コンター内に居住し又は居住していたことがある原告らは,本件飛行場における自衛隊機の運航から生じる航空機騒音について,損害賠償請求対象期間を含む平成14年当時から現在に至るまでの間の各居住期間中,等しく,年間75W以上の騒音に暴
露していると認められる。
また,午後5時から午後10時までの時間帯には,週2回を超えない夜間訓練の日の午後9時までについては,日中とほぼ同様の騒音に暴露しているが,それ以外の日の午後5時から午後9時まで及びすべての日の午後10時から翌日午前7時までの時間帯には,基本的には航空機騒音への暴露はないが,あわせて月に数回程度は,70dB以上の騒音に暴露することがあると認められる。

騒音コンター外原告らについて
前記⑵イ記載のとおり,騒音コンター外原告らは,本件飛行場における自衛隊機の運航から生じる航空機騒音について,年間75Wを越える騒音に暴露しているとは認められず,その年間の騒音曝露量は70W前後にとどまるものである。
また,週2日を超えない夜間訓練の日の午後5時から午後9時までの時間帯には,上記アの原告らより明らかに少ないものの,日中と同様の騒音に暴露しており,それ以外の日の午後5時から午後9時まで及びすべての日の午後10時から翌日午前7時までの時間帯には,基本的には航空機騒音への暴露はないが,あわせて月に数回程度は,70dB以上の騒音に暴露していると認められる。

2
原告が主張するその余の侵害行為について
原告らは,航空機騒音以外にも,①自衛隊機の飛来時に強い振動を生じさせる行為,②本件飛行場周辺に大量の排気ガスをまき散らす行為,③自衛隊機の墜落や落下物事故が発生する危険が現に存在することが,それぞれ,被告による独立した侵害行為を構成すると主張する。
しかし,①及び②については,その存在を客観的に裏付ける証拠は提出されていない上,振動や排気ガスがどの範囲においてどの程度生じているのかも具体的に特定されていないから,これらが航空機騒音とは別個の侵害として発生
していると認めることはできない。
また,原告らが自衛隊機の墜落や落下物事故の発生について不安感や恐怖感を抱くこと自体は,過去に本件飛行場周辺において自衛隊機の墜落事故が複数回発生したこと
(甲総C1ないし4)平成24年度から平成29年度上半期ま

での航空自衛隊における落下物事故の発生件数のうち,本件飛行場におけるものの割合が全体の半数近くを占めること(甲総C23)などに照らすと十分理解できることであり,このような不安感や恐怖感は,航空機騒音への暴露に伴う心理的被害に含まれるものとして考慮されることがあったとしても,昭和62年以降は,自衛隊機の墜落事故は生じておらず,落下物事故についても,損害賠償請求対象期間中に,原告らの生命や身体,財産等を現実に侵害し又は侵害するおそれを生じさせたことを具体的に裏付ける証拠は提出されていないから,単に自衛隊機の墜落や落下物事故が発生する危険が現に存在することをもって,これを独立した侵害行為と評価することは困難といわざるを得ない。よって,原告らの主張はいずれも採用することができない。
第3
1
被侵害利益の内容と性質
共通損害論について
航空機騒音によって被害を受けたことを理由とする損害賠償請求においては,睡眠妨害,静穏な日常生活の営みに対する妨害等の被害及びこれに伴う精神的苦痛を一定の限度で原告らに共通するものとしてとらえ,各自の生活条件,身体的条件等の相違に応じてその内容及び程度を異にし得るものであっても,原告ら全員が最小限度この程度までは等しく被っていると認められる被害につきその限度で慰謝料という形でその賠償を求めることも許容される。また本件飛行場における自衛隊機の運航に対する違法性の判断については,これに伴い発生する航空機騒音が原告らを含む周辺住民の全体に対しどのような種類,性質,
内容の被害をどの程度に生ぜしめているかが一つの重要な考慮要素をなすものと解されるから,必ずしも全員に共通する被害のみに限らず,住民の一部にの
み生じている特別の被害も考慮の対象となし得る(以上,大阪空港最高裁判決参照。。

本件においても,上記判断枠組みに従い,原告らが主張する個々の被害について検討する。
2
騒音が身体に及ぼす影響の機序


証拠(沖縄県健康調査報告書(甲B1の32,33頁)
,甲総C27ないし
29,33等)によれば,騒音が身体に及ぼす影響の機序について,以下の事実が認められる。
騒音は外耳道から鼓膜,
耳小骨連鎖を経て内耳に入り,
騒音が大きければ,
有毛細胞に傷害を与えることによって,聴力の低下(難聴)を引き起こす。内耳の有毛細胞において神経インパルスに変換された騒音は,
聴神経を経て,
大脳皮質の聴覚域に達して音感覚を成立させるが,聴きたいと思う音と同時に騒音が到達した場合には,聴取妨害をもたらすほか,単独でもやかましさの感覚を発生させる。また,耳からの神経インパルスは,脳幹網様体を経て大脳の新皮質に到達して刺激を与えることで,覚醒,睡眠妨害,思考及び精神作業妨害を起こす。また,脳幹網様体からは,視床下部を介して大脳旧皮質にも信号が送られて,これを刺激し,不快感やイライラ等の情緒障害を起こす。大脳旧皮質は,性欲,食欲,集団欲等の本能的な欲望や行動,それに伴う快感,
不快感等の情緒を発生させる部位とされているため,
騒音は,
食欲や性欲等の本能欲の不振も生じさせ得る。
また,視床下部は,身体機能,特に循環器や消化器などの内臓の働きを調節する自立神経の中枢が存在する部位であり,下垂体を介して内分泌系(ホルモン系)の働きを支配する中枢でもあるところ,騒音の影響が一定の限度を超すと,
ストレス反応として,
視床下部と下垂体を介して,
甲状腺や副腎,
生殖腺等の内分泌系に影響が現れる。
さらに,
視床下部からのインパルスは,
自律神経系を介して,
循環器系や消化器系に影響を及ぼすと考えられている。



上記認定事実に照らせば,航空機騒音は,騒音の大きさや頻度等によっては,人の身体ないし精神面に影響を及ぼし得ると認められる。
なお,被告は,国内外の調査研究で得られた科学的知見によれば,航空機騒音が人の身体ないし精神面に影響を及ぼすことは一般的に否定されている旨主張するが,被告が提出する証拠(乙総C1,2,4等)は,いずれも作成時期が昭和40,50年代頃と古く,その後に実施された調査研究に基づき,航空機騒音が人体に影響を及ぼし得ることを肯定する平成11年作成のWHO環境騒音ガイドラインや平成30年に発表された欧州WHO環境騒音ガイドライン等の証拠を排斥するに足りるものとはいえないから,被告の主張は採用することができない。
よって,以下では,航空機騒音の人体への影響について,③睡眠妨害,②生活妨害,③心理的被害,④聴覚障害,⑤その他の身体的被害や健康被害等の順に個別に検討することとする。

3
睡眠妨害


認定事実
睡眠妨害について,以下の事実が認められる。

WHO環境騒音ガイドライン(甲B2)
WHO環境騒音ガイドライン(甲B2)には,睡眠妨害について,以下の記述がある。
睡眠妨害は,環境騒音の主要な影響の一つであり,騒音によって,睡眠中に一次影響が生じ,二次影響として騒音暴露を受けた次の日にも影響が生じる。睡眠妨害の一次影響として,入眠困難,覚醒,睡眠深度の変化,血圧・心拍数・指先脈波振幅の上昇,血管収縮,呼吸の変化,不整脈,体動の増加などがあり,二次影響として,不眠感,疲労感,憂うつ,作業能率の低下などがある。問題となっている騒音の騒音レベルよりも,暗騒音とのレベル差が反応確率に関与し,騒音によって覚醒する確率は,一晩当
たりの騒音発生回数の増加とともに高くなる。
快適な睡眠のためには,夜間の連続的な暗騒音のLAeq(測定時間内に得られたA特性で補正した音のエネルギーを測定時間で平均したもので,等価騒音レベルとも呼ばれ,単位はdB。
)は30dB(A)以下にと
どめるべきであり,個々の発生音についても45dB(A)を超えるような騒音は避けるべきである。
LAeqで30dB(A)程度の騒音から測定可能な睡眠影響が現れるが,暗騒音レベルが高くなるほど,妨害の程度も増大する。間欠音による睡眠妨害は,最大騒音レベルとともに増加するため,たとえ,全体的な等価騒音レベルがかなり低くても,高い最大騒音レベルの騒音が少しでも発生すれば睡眠に影響が生じる。したがって,睡眠妨害を防ぐためには,環境騒音のガイドラインは最大騒音レベルや騒音の発生回数によっても定められるべきである。

欧州WHO環境騒音ガイドライン(甲B30,総C106)
欧州WHO環境騒音ガイドライン(甲B30,総C106)には,睡眠妨害について,以下の記述がある。
環境騒音は,健康影響リスクが生じる最も重要な環境要因のうちの1つであり,重要な公衆衛生上の問題であるところ,睡眠への影響は,環境騒音の健康への影響を評価する上で,決定的な役割を果たす。
睡眠が生物学的に必要であり,睡眠の妨害は,健康に関わる様々な悪影響と関連している。睡眠中の騒音が心拍数の増大,脳幹の反応,睡眠深度の変化及び覚醒反応等の生物学的影響を与えることに関する十分な知見がある。夜間騒音暴露が自己申告による睡眠妨害,薬物使用の増加,体動の増加,
(環境要因による)
不眠症の原因になることを示す十分な知見があ
る。また,夜間騒音が,ホルモンレベルの変化や心臓血管系疾患,うつ,その他の精神的疾患といった臨床症状を引き起こすという限定的な知見
がある。なお,
十分な知見とは夜間騒音暴露と健康影響との因果関係が
既に確立されており,騒音が健康影響をもたらす生物学的妥当性も十分に確立されていることをいい,
限定的な知見とは,騒音と健康影響の関連
性は直接的には観測されていないが,因果関係を支持するに足る優れた既存の知見があるほか,間接的な知見が豊富に存在することをいうと定義されている。
航空機騒音については,
夜間騒音暴露の基準値として,
Lnight
(夜
間において最も暴露される建物の前面(外側)で8時間計測された一年間のLAeqで,単位はdB。乙B39の2)で40dBを強く勧告する。もっとも,最低騒音暴露レベルであるLnight40dBであっても,反応率が11%あり,この勧告値は住民を十分に保護しない可能性がある。ウ
沖縄県健康調査報告書(甲B1)
沖縄県健康調査報告書(甲B1の57頁,71頁から74頁)には,睡眠妨害について,以下の記述がある。
航空機騒音が生活及び環境の質に及ぼす影響を調査するため,沖縄県中部の嘉手納基地周辺の75W以上の地域に居住する4973名,普天間飛行場周辺の75W以上の地域に居住する2005名,75W未満の地域に居住する対照群916名の合計7894名に対し,平成8年11月から平成9年1月にかけて,
調査票を配布し,
計5693名の有効回答を得た
(以
下沖縄県騒音影響調査という。。

睡眠妨害については,
1.いつもある2.ときどきある3.た,,まにある4.あまりない5.まったくないの5段階評定尺度で,

回答を求めたところ,
1.いつもある及び2.ときどきあるの選択
肢を選んだ人員の割合は,90W以上の高暴露群では50%を超えており,その他の騒音暴露群もW値が上昇するにつれて,回答割合が増加する傾向にあった。

また,日常における睡眠障害一般については,
床についたとき,寝つけなくて困ることがありますか夜中に目がさめて,その後寝つけなくて,困ることはありますか朝早く目がさめてしまって困ることがあります,か一晩じゅう十分に眠れなかった感じのすることがありますかとの,
4つの設問を設け,それぞれにつき,
1.週に3回以上ある2.週に,1,2回ある3.月に1,2回ある4.ほとんどない5.ま,,,ったくないの5段階評定尺度で回答を求めた。そして,週に3回以上あると週に1,2回あると回答した項目数を睡眠障害:週1,2回とし,
週に3回以上ある週に1,2回ある月に1,2回あるの


いずれかに回答した項目数を睡眠障害:月1,2回として,それぞれの尺度値とした。4つの設問については,1問につき1点とし,例えば,4つの設問全てに週に1,2回ある以上の頻度の選択肢を選んだ回答者は,
睡眠障害:週1,2回が4点となる。
全体として,
睡眠障害と航空機騒音暴露との間に量反応関係が認められ,
95W以上の高暴露群では,
睡眠障害:週1,2回が4点であったのが
8.4%,
睡眠障害:月1,2回が1点以上であったのが85.9%と
高率で睡眠障害が認められた。他方で,対照群においても,
睡眠障害:月1,2回が1点以上であったのが57%であり,少なからぬ割合で軽度の睡眠障害が認められる。そこで,説明変数として,W値,年齢,性別,年齢と性別の交互作用及び職業を用い,多重ロジスティック回帰分析(統計的な多変量解析の一手法で,ある事象が生じる確率を複数の要因から推定することが可能であり,各要因の影響の程度は後述のオッズ比として得られる。甲B1の367頁)により,対照群に対するW値ごとに区分した騒音暴露群の睡眠障害のオッズ比(疾病の発病リスクなどを比較するために一般に用いられる尺度であり,対照群での比率をP0,騒音暴露群での該当者の比率をP1とすると,(1-P0)/P0}

}×{P1/(1-P

1)
}という数式で表される。両群に差がない場合,オッズ比は1となり,騒音暴露群での比率の方が高い場合には1以上の値となる。甲B1の365頁)を求めたところ,嘉手納飛行場周辺においては,
睡眠障害:週1,2回が4点であったもの,
睡眠障害:月1,2回が1点以上であった
もののいずれについても,航空機騒音暴露とオッズ比との間に著明な量反応関係が認められた。特に,
睡眠障害:週1,2回が4点であったもの
のうち,嘉手納飛行場周辺の95W以上の騒音暴露群のオッズ比は,3.4と相当高く,普天間飛行場周辺においても,
睡眠障害:月1,2回が
1点以上であったものについては,
量反応関係が有意に認められた。
また,
比較的重度な睡眠障害を示す睡眠障害:週1,2回が4点であったものについては,対照群との間に5%の有意水準で有意差が認められるのは85W以上の騒音暴露群であるが,比較的軽度な睡眠障害である睡眠障害:月1,2回が1点以上であったものについては,75W以上の全ての騒音暴露群において,対照群との間にオッズ比の有意差が認められた。他方,75W未満の騒音暴露群については,
睡眠障害:週1,2回が
4点であったもの,
睡眠障害:月1,2回が1点以上であったもののい
ずれについても,対照群との有意差があるとはうかがわれなかった。エ
その他の代表的な文献
元武庫川女子大学生活環境学部教授であり,沖縄県健康調査報告書の作成を主導した航空機騒音健康影響調査研究委員会の副会長を務めた平松幸三の尋問調書(甲B28,29)によれば,暗騒音からおおむね10dB以上の差がある騒音が発生した場合に睡眠妨害が生じること,暗騒音から6dBないし8dB程度の差がある騒音でも睡眠妨害が発生するとの報告がある。
証拠(甲総C27,28,55,89等)によれば,入眠しようとする被験者や睡眠中の被験者に騒音を聴かせた場合,騒音が大きくなるに
つれて,入眠までに要する時間が長くなったり,睡眠の深度が浅いことを示す脳波が検出されたほか,騒音の回数が増えるにしたがって,睡眠の深度が浅くなったとの研究結果が存在する。
証拠(甲総C89,91,94,109(枝番号を含む。,125))
によれば,睡眠の質の劣化と健康への影響について,以下の記述ないし報告がある。
睡眠のうち,
特にノンレム睡眠
(急速眼球運動を伴わない睡眠をいう。

は,
覚醒時に働かせた脳を積極的に休息させる働きを持ち,
レム睡眠
(急
速眼球運動(Rapid

Eye

Movement:REM)を伴う

睡眠をいう。は,
)主に心理ストレスや不必要な記憶を消去するなどの働
きを持つ。主睡眠が分断あるいは妨害されると,神経免疫や液性免疫機能は減弱し,生体防御や生態維持機能が低下し,健康全般に影響が出るほか,集中的な成長ホルモンの分泌が阻害されることにより,効率的に身体を回復させる働きが低下する。また,不眠は,交感神経系の睡眠中の過剰亢進を促し,循環器系全般に影響を及ぼし,高血圧症,虚血性心疾患等の重要な要因となる。その他,睡眠障害や睡眠不足は,肥満,機能性便秘等の原因となるほか,自己評価能力や意欲を低下させ,記憶の消失や連続性の低下等を引き起こす。

原告らの陳述書等
原告らに対するアンケートの回答結果(甲総C85)によれば,睡眠中の覚醒や浅い睡眠など何らかの睡眠被害を訴えている者の割合は回答数全体の82.8%に及ぶ。また,原告らのうち,複数の者が,陳述書において,いわゆるスクランブル発進により目を覚ました経験があること,午後8時や9時頃に就寝するため夜間訓練等で目を覚ますことなどを訴えている。



検討


上記認定事実のとおり,WHO環境騒音ガイドラインによれば,個々の発生音については45dB(A)を超えるような騒音は避けるべきであるとされていること,欧州WHO環境騒音ガイドラインにおいても,睡眠妨害を防ぐため,夜間の航空機騒音暴露の基準値が提示されていること,暗騒音からおおむね10dB以上の差がある騒音が発生した場合に睡眠妨害が生じるとされていることなどに照らせば,夜間早朝の70dBを超えるような航空機騒音への暴露は,睡眠妨害をもたらすものと認められる。加えて,沖縄県健康調査報告書によれば,一定の睡眠障害があるとの回答について,75W以上の航空機騒音の暴露群において,対照群との間にオッズ比の有意差が認められることや,航空機騒音暴露とオッズ比との間に著明な量反応関係が認められることなどに照らすと,成人の30%以上に不眠症の症状があることや,不眠症の原因となる精神的ストレスには多種多様なものが存在することなどの被告の指摘を踏まえても,夜間早朝の航空機騒音は,周辺住民の睡眠妨害をもたらす原因であるということができるし,このような理解は経験則にも合致するところである。
そして,前記第2の1⑷記載のとおり,原告らは,原告らの大多数の睡眠時間が含まれると考えられる午後9時から翌日午前7時までの時間帯において,月に数回程度は70dB以上の航空機騒音に暴露していると認められ,複数の原告が,陳述書等で,スクランブル発進により目を覚ました経験があることなどを訴えていることに照らせば,上記時間帯において本件飛行場から生ずる航空機騒音によって,原告らは睡眠中の覚醒などの睡眠妨害を被っていると認めることができる。


これに対し,被告は,①WHOが作成したガイドラインは,極めて理想的な健康観に基づき,政策的見地から,騒音対策に万全を期すことを目的としており,法律的評価を行う際の尺度となるものではないこと,②沖縄県健康調査報告書は,本件飛行場の航空機騒音による原告らの実際の被害
を立証するに足りるものではないこと,③航空機騒音を受けることにより深刻な睡眠妨害が生じることを示す調査結果や研究報告はないこと,④仮に夜間に航空機騒音が発生したとしても,各種住宅防音工事によって,就寝中の居室内に到達する騒音量は相当減衰することなどを主張する。しかし,①欧州WHO環境騒音ガイドラインについて,専門家のみならず様々な利害関係者を含めた策定委員会が組織され,科学的知見に基づく議論,判断が行われたと評価されているように(甲総C109(枝番号を含む。)WHOが作成したガイドラインは,
),
現在の最新の知見を踏まえ,
種々の利害調整を経た上で作成された高い信用性及び汎用性を有する資料であると評価できるから,その有用性は否定されない上,本件ではそのガイドラインを大きく超えている。また,②沖縄県健康調査報告書は,本件飛行場とは騒音状況が異なる基地を対象としているものの,いずれも我が国の基地であり,施設庁方式によるW値を騒音評価の指標としているなどの共通性を有するから,航空機騒音のW値と睡眠妨害の程度の相関関係等を分析する上で,有益な証拠であると評価できる。そして,③航空機騒音は深刻な睡眠妨害を生じさせないことの根拠として被告が挙げる証拠(乙総C9,25等)は,研究対象の個々の空港の種別や運用時間等が不明であったり,作成時期が古く,最新の知見を反映しているか疑問が残るものがあるなど,上記事実認定及び検討結果を覆すに足りるものとはいえない。④住宅防音工事によって,就寝中の居室内に到達する騒音量は相当減衰するとの被告の主張も,居住者は防音工事が施された居室で就寝するとは限らないし,そもそも,住宅防音工事の目標計画防音量(防音効果の目標値)は20dB又は25dB以上であるから,70dB以上の騒音の場合,居室に届く騒音はWHO環境騒音ガイドラインの指標値である45dBを超え得ることとなり,住宅防音工事のみによって睡眠妨害を防止できるとは到底いえない。

よって,被告の主張はいずれも採用することができない。

なお,原告らは,睡眠妨害に起因する健康被害が原告らに発生している旨主張するが,このうち,不眠感や疲労感,憂うつ,作業能率の低下等は睡眠妨害に通常付随して発生するもので,睡眠妨害に包含される被害として既に評価されている。また,高血圧症,虚血性心疾患等の持続的な身体症状を伴う健康被害については,後述のその他の身体的被害や健康被害等の項目の中で検討することとする。
4
生活妨害


認定事実
生活妨害について,以下の事実が認められる。

WHO環境騒音ガイドライン(甲B2)
WHO環境騒音ガイドライン(甲B2)には,聴覚障害について,以下の記述がある。
会話了解度
会話音の音響エネルギーは大部分が100Hzから6000Hzの周波数領域に存在し,そのうち300Hzから3000Hzは会話の理解に最も重要な役割を果たしているところ,会話と同時に妨害音が発生することによって,会話の理解が困難となる。環境騒音はドアのベル,電話の呼び出し音,その他の警告音や音楽といった日常生活を送る上で重要な会話以外の音をマスクすることもある。大多数の人々は騒音による会話妨害を被りやすく,高感受性群に属する。最も感受性が高く影響を受けやすいのは高齢者,聴覚障害者,言語習得中の小児等であり,高周波領域の聴力がわずかに低下するだけで,騒音環境下では会話聴取に問題を生じる。
複雑な内容(学校での会話,外国語,電話の声)を聞くときには,聞き取ろうとする音声が50dB(A)の場合,会話音と妨害音のレベル
差が少なくとも15dB(A)は必要であり,会話を正確に聞き取るためには暗騒音を35dB(A)以下にとどめるべきである。
作業,学習への影響
主に労働者や小児に対して,騒音が認知作業の成績に悪影響を及ぼし得ることが明らかにされている。騒音によって集中力が賦活され単純作業の能率を短期間上昇させることもあるが,複雑な作業の場合,認知作業の成績は大幅に低下する。読解力,集中力,問題を解く力,記憶力などが騒音によって特に影響を受ける認知能力である。騒音は集中を妨げる刺激となり,衝撃音は驚愕反応によって破壊的な影響を及ぼす可能性がある。騒音は作業中の障害やミスを増加させると考えられ,ある種の事故は作業能率の低下を示す指標になり得る。
社会的行動
環境騒音の影響は,社会的行動やその他の行動に対する妨害の程度を調査することによって評価することができる。
多くの環境騒音は,
休息,
娯楽,テレビの視聴などに対する妨害が最も重要な影響と思われる。80dB(A)以上の騒音が援助的な行動を減少させることや,大きな騒音が攻撃的な人の攻撃的行動を増加させることについてかなり整合性のある研究結果が得られている。
環境騒音ガイドライン値
以上の知見を踏まえ,WHO環境騒音ガイドラインでは,以下のガイドライン値を提案する。
a
昼間と夕方の居住地域(屋内)においては,LAeq,16h(16時間の等価騒音レベル)で35dB。

b
学校や幼稚園の教室(屋内)においては,授業中のLAeqで35dB。


沖縄県健康調査報告書(甲B1)

沖縄県健康調査報告書
(甲B1の57,
58,
66ないし71頁)
には,
生活妨害について,以下の記述がある。
沖縄県騒音影響調査において,生活妨害については,航空機騒音による会話妨害,電話聴取妨害,TV聴取妨害,作業妨害,思考妨害,休息妨害,警告音聴取妨害(警笛等が聞こえず交通事故などの危険を感じる)の質問項目について
1.いつもある

2.ときどきある

3.たまにある

4.あまりない5.まったくないの5段階評定尺度で回答を求め

た。そして,
1.いつもあると回答した人数の割合について,年齢及び
性別の構成比率が暴露群全体における比率と一致するように調整した上で,航空機騒音暴露量(W値)ごとに分析したところ,いずれの設問においても,W値の増大とともに,正反応率が上昇し,著明な量反応関係が認められた。特にコミュニケーションに関する妨害である会話妨害,電話聴取妨害及びTV聴取妨害の3項目は正反応率が最も高く,極めて明瞭な量反応関係が認められた。
これに対し,警告音聴取妨害の設問への反応率は全般に低く,85W以下の騒音暴露群ではほとんど認められないが,95W以上の騒音暴露群では,
1.いつもあると回答した人数の割合は20%を超えている。

その他の代表的な文献
服部真医師が1998年に小松基地周辺住民に対して実施したアンケート調査等の調査結果(甲総C30)では,小松基地周辺の75W以上の騒音地区及び非騒音地区の住民に対し,
電話が聞き取りにくい

テレビやラジオが聞こえない会話が妨げられるゆっくりくつろげ,,ない及び考え事や読書が出来ないの生活妨害に関する質問項目について,
ひどくあるかなりある少しあるあまりないま,,,,ったくないの5段階評定尺度で回答を求めたところ,全ての項目で,ひどくある又はかなりあると回答した人数の割合は,非騒音地

区に比べて騒音地区が有意に高く,かつ,多くの項目でW値が高くなるにつれて,回答割合が増加する傾向が認められた。
証拠(甲総C37,38)には,以下の記述ないし報告がある。
小学校,中学校及び高等学校の教室において,生徒に人工騒音を負荷した環境下で,数列や幾何学的図形の暗記,特定の図形を書くという単純作業を行わせるテストを実施したところ,騒音暴露下にない対照群と比較して,記憶違いの増加や単純作業の能率の低下が認められたほか,思考を要する問題では,対照群と比較して最大で46%の間違いが増加した。また,大学職員と大学生を被験者として,航空機騒音などを再生した環境下で図形の数え作業等を行ったところ,騒音を聴かせることによって図形の数え残しが増すなどした。

原告らの陳述書等
原告らに対するアンケートの回答結果(甲総C85)によれば,本件飛行場の航空機騒音による生活妨害について,
ラジオの音やテレビの視聴が遮られると回答した者が回答数全体の95.1%,家族・友人・知人との会話が遮られると回答した者が全体の92.6%,電話の声が聞き取れない,通話を遮られると回答した者が全体の92.0%,勉強,仕事,読書,家事などの作業や考えごとが遮られると回答した者が全体の65.
6%,
車が近づいているのに気づかないなど歩行中に支障が生じる
と回答した者が全体の29.
4%,
自動車を運転するのに支障が生じる
と回答した者が全体の25.8%にのぼった。また,夕方の午後5時から翌朝午前8時までの間に生じている生活妨害について,
ラジオの音やテレビの視聴が遮られると回答した者が全体の90.8%,家族団らんの時間が妨げられると回答した者が全体の62.6%,くつろげないと
回答した者が全体の59.5%にのぼった。
このほか,原告らの陳述書を見ても,相当数の者が,本件飛行場の航空
機騒音によって,上記各生活妨害を被っている旨訴えている。


検討
WHO環境騒音ガイドラインは,騒音によって,会話,休息,娯楽,テレビの視聴等が妨害されるとともに,騒音が認知作業の成績に悪影響を及ぼす旨指摘している。この点,沖縄県健康調査報告書等によれば,会話妨害や電話聴取妨害等の各種生活妨害について,非騒音地区に比べて75W以上の騒音地区が有意に高く,W値の増大とともに,正反応率が上昇し,著明な量反応関係が認められたというのであり,さらに,各種実験結果によれば,騒音への暴露が,思考や,作業の能率及び正確性に悪影響を与えることが明らかになっているのであるから,WHO環境騒音ガイドラインの指摘は,科学的かつ統計的な裏付けがあるといえる。また,大音量の航空機騒音が,コミュニケーション活動や思考作業,休息等の人間の諸活動を妨害しうることは,経験則にも合致するところである。
そして,本件飛行場においても,相当数の原告が,陳述書やアンケートにおいて,ラジオやテレビの視聴が遮られる,家族や友人らとの会話や電話が遮られる,勉強,仕事,読書などの作業や考えごとが遮られる,安全な歩行や自動車の運転に支障が生じるなどと述べているのであるから,
少なくとも,
本件飛行場において航空機騒音が発生している間は,原告らの日常生活を上記のような態様で妨害し,かつ,その妨害の程度はW値に応じて増大するということができる。

5
心理的被害


認定事実
心理的被害について,以下の事実が認められる。

WHO環境騒音ガイドライン(甲B2)
WHO環境騒音ガイドライン(甲B2)には,心理的被害について,以下の記述がある。

社会的影響,行動への影響,不快感(アノイアンス)
騒音は不快感を抱かせるだけでなく,社会的影響を及ぼすとともに行動にも影響を及ぼす。これらの影響は,複合的,潜在的,かつ間接的であるため,多くの非聴覚的要因の交互作用の結果として生じると考えられる。騒音暴露量と不快感の関連については,個人レベルよりも,集団レベルにおいてより高い相関関係が得られる(個人差が大きい。。80)
dB(A)を超える騒音は援助的な行動を減少させ,攻撃的な行動を増加させると考えられる。騒音に振動が伴う場合や,低周波音が含まれる場合,衝撃音(例えば射撃音)が含まれる場合には,より強い住民反応が報告される。時間とともに暴露量が増大すると,暴露量が変化しない場合と比較して一時的に強い住民反応が生じる。
騒音を不快に感じるかどうかは,音圧レベルや周波数特性,これらの時間変動などといった騒音の物理的特性によって決まる。昼間については,LAeqが55dB(A)未満の場合,高度に不快と感じる人は少ない。LAeqが50dB(A)未満の場合,少し不快と感じる人はほとんどいない。夕方と夜間の騒音レベルは,昼間より5dBから10dB低い値にとどめるべきである。間欠音については,最大騒音レベルと発生回数の両方を考慮に入れる必要があることを強調したい。
子供の成長発達への影響
騒音への暴露は暴露終了後の成績にも悪影響が生じると考えられ,慢性的に航空機騒音に暴露されている空港周辺の学校の生徒は,詳細な読解力,難問に取り組む際の持続力,読解試験の成績,学習意欲が標準よりも低い。航空機騒音に順応しようと試みたり,作業成績を維持するのに必要な努力をしたり,相当の代償を払っていることを認識しなければならない。また,高レベルの騒音に継続的に暴露されることにより,学童が無力感を抱きやすくなってしまうことが特に懸念される。

幼少時代に騒音に慢性的に暴露された人は,読解能力や学習意欲が低いことが明らかにされており,暴露期間が長いほど影響も大きい。高速道路,空港,工場のような大きな騒音源の近くに保育所や学校を作るべきでないことは明らかである。

沖縄県健康調査報告書(甲B1)
沖縄県健康調査報告書(甲B1の11,12,58ないし68頁,145ないし180頁,197ないし208頁)には,心理的被害について,以下の記述がある。
騒音に対する被害感等
沖縄県騒音影響調査において,あなたの生活は基地の騒音によってどの程度の被害を受けていますかとの質問項目について,
1.耐えがたい被害をうけている2.非常に被害をうけている3.かなり被,,害をうけている4.少し被害をうけている5.被害をうけてい,,ないの5段階評定尺度で回答を求めたところ,1.耐えがたい被害をうけている又は2.非常に被害をうけていると回答した人数の割合は,嘉手納基地周辺,普天間基地周辺のいずれにおいても,W値の増大とともに上昇する傾向が著明である。
また,航空機騒音に対するイライラ感(イライラする,腹が立つ),恐
怖感(飛行機の音が怖いと思う)
,戦争への恐怖(戦争を思い出して怖い
と思う)の質問項目について,
1.いつもある2.ときどきある


3.たまにある4.あまりない5.まったくないの5段階


評定尺度で回答を求めたところ,
イライラ感,
恐怖感の設問に対し,1.
いつもある又は2.ときどきあると回答した人数の割合について
も,同様にW値の増大とともに上昇する傾向が見受けられた。他方で,戦争への恐怖の設問については,他の設問と比較すると反応率は低かった。

学童の記憶力
航空機騒音暴露地区と非暴露地区の11校の3年生と5年生,合計2269名を対象に短期記憶と長期記憶について記憶力テストを実施し,その結果を,航空機騒音暴露量,学年,性別,習い事の数,聞き取りテストの成績,学習意欲テストの成績を説明変数として,多重ロジスティック分析を行ったところ,航空機騒音暴露量と短期記憶のオッズ比との間には統計学的に有意な関連が認められなかったが,記銘したある物事を長期間保持し続ける長期記憶のオッズ比と航空機騒音暴露量との間には有意な関連が認められた。
幼児問題行動
航空機騒音暴露地域及び対照群である非暴露地域に位置する保育園,幼稚園の園児を対象に問題行動の調査を実施し,有効回答数1888名(内訳は騒音暴露群が1580名,
対照群が308名。の園児の成績を,

航空機騒音暴露量,年齢,性別,同居家族数,出生順位,出生時母親年齢,父親の仕事,母親の仕事を説明変数として,多重ロジスティック分析を行ったところ,嘉手納飛行場周辺では,感冒症状,頭痛・腹痛,食事課題,消極的傾向,情緒不安定の各クラスターで,普天間飛行場周辺では,感冒症状,食事課題,消極的傾向の各クラスターでW値の増加とともにオッズ比が上昇し,その上昇傾向は統計学的に有意であった。ウ
その他の代表的な文献
服部真医師らは,1985年に小松基地周辺の航空機騒音暴露地区に位置する保育園と対照群である非暴露地区に位置する保育園の園児を対象に園児の問題行動の調査を実施し,259名(内訳は騒音暴露群が143名,対照群が116名。
)の有効回答を得た(甲総C39)

服部真医師らは,
上記回答につき,
地区平均騒音レベル,
性別,
年齢,
家族構成人数,出生順位,同居する親の数,出生時の母親の年齢を独立
変数として,重回帰分析を行ったところ,騒音地区の園児は,非騒音地区の園児に比べ問題行動保有数が多いほか,騒音地区内の比較でも,より騒音の強い地区の園児が問題行動を多く保有しており,騒音レベルと問題行動の間に量反応関係が認められた旨報告した。
元日本女子大学名誉教授児玉省は,昭和39年から昭和45年にかけて,横田基地の飛行コース直下の小学校及び対照群である横田基地から離れた小学校の児童に対して心理的諸検査を実施した(甲総C83,84)

児玉省は,検査の結果,横田基地の飛行コース直下の小学校の児童には,対照群と比較して,感情的不安及び攻撃的傾向を示す反応や回答が多いこと,特にロールシャッハテストでは,不安,攻撃性,衝動性傾向が強く,かつ,その傾向が航空機に関連するものが多いことなどが認められた旨報告した。

原告らの陳述書等
原告らに対するアンケートの回答結果(甲総C85)によれば,本件飛行場の航空機騒音による精神的被害について,
イライラする
と回答した
者が回答数全体の85.3%,
集中力をなくすと回答した者が全体の6
9.3%,
墜落の恐怖を感じると回答した者が全体の66.3%,
落下物事故の恐怖を感じると回答した者が全体の50.3%,
無気力になると回答した者が全体の23.9%,
戦争に巻き込まれるのではと恐怖を感じると回答した者が全体の23.3%にのぼった。また,75Wの告示コンター内で育った子がいると回答した原告ら計117人のうち,乳幼児期から幼稚園頃までの時期の子供への影響として,爆音が聞こえると耳を塞ぐことがあると回答した者が全体の50.4%,
爆音が聞こえると泣き出すことがある
と回答した者が全体の38.
5%,
爆音が聞こえると怯えることがある
と回答した者が全体の33.

3%,
落ち着きがないと指摘されたことがある
と回答した者が全体の1
4.
5%,
授乳がうまくいかないことがある
と回答した者が全体の12.
0%,
ひきつけを起こしたことがあると回答した者が全体の6.8%,
発達が遅れていると指摘されたことがあると回答した者が全体の4.3%にのぼった。同様に,小学校から高等学校までの時期の子供への影響として,
勉強がはかどらないと回答した者が全体の35.9%,
集中力がなくなると回答した者が全体の36.8%,
勉強意欲を喪失する
と回答した者が全体の23.9%,
イライラしやすい,怒りっぽいと回
答した者が全体の23.1%,
情緒が不安定であると回答した者が全体
の4.
3%にのぼった。
このほか,
原告らの陳述書を見ると,
複数の者が,
本件飛行場の航空機騒音によって精神的被害を被ったり,子供の情緒面等への影響を不安に感じたなどと訴えている。


検討

WHO環境騒音ガイドライン等が指摘するように,航空機騒音はこれを聴いた者に種々の不快感を生じさせ,また,その受け取り方に個人差があるとしても,騒音量が増大するにつれて不快感の程度が強くなると認められ,これは経験則に照らしても理解できるところである。
そして,嘉手納基地や普天間基地の周辺住民と同様,本件飛行場周辺に居住する原告らの多数が,アンケートの回答結果等において,本件飛行場の航空機騒音による種々の精神的被害を訴えていることなどからすれば,本件飛行場から生ずる航空機騒音は,原告らにおいて,イライラ感等の精神的不快感を生じさせ,かつ,その精神的被害の程度はW値に応じて増大するということができる。


また,子供は,騒音に対して高い感受性を有すると考えられるところ,子供の成長発達への影響のうち,学習面の中長期的な影響については,幼少時代に騒音に慢性的に暴露された人は,読解能力や学習意欲が低いこと,
慢性的に航空機騒音に暴露されている空港周辺の学校の生徒は,航空機騒音に順応しようと試みたり,作業成績を維持するのに必要な努力をするなどの相当の代償を払うことを強いられていることなどをWHO環境騒音ガイドライン等が具体的に指摘しているほか,騒音の被害を受けていると考えられる小中学校の生徒が外部からの音について勉強の大変じゃまになると回答した割合が,対照校と比較して各段に高いことを報告する調査結果(甲総C82)が存在する。これらの事実に照らせば,一般論として,航空機騒音が学校における授業や子供の思考を中断させ,それが学習能力や学習意欲等に悪影響を与えると認められ,このことは経験則に照らしても理解できる。
もっとも,
このような学習面への中長期的な悪影響は,
主として航空機騒音による授業妨害や思考妨害が直接の原因と考えられるから(少なくとも本件において,これと異なる機序についての主張立証はされていない。,生活妨害の一つと考えるべきである。


他方で,子供の成長発達への影響のうち,情緒面や身体面の中長期的な影響については,前記⑴記載のとおり,沖縄県健康調査報告書をはじめとする各種報告書において,騒音暴露群の園児や児童は,非騒音暴露群と比較して問題行動保有数が多いこと,情緒面や身体面の問題につき,騒音レベルと量反応関係が認められることなどが報告されているものの,航空機騒音が子供の情緒面や身体面に中長期的な影響を及ぼす機序は必ずしも明らかでない上,対照群との分析において,母親の社会経済階級や健康に関する生活習慣など子供の成長発達に影響を及ぼし得る因子が説明変数として十分に加えられていない疑いがある
(乙総C7
(枝番号を含む。)
)。
加えて,本件飛行場から生ずる航空機騒音と子供の情緒面や身体面の問題との関係について,これを統計的に明らかにしたり,科学的知見に基づいて分析を加えた証拠は特に提出されていないことなども踏まえると,本件飛行場から生ずる航空機騒音が,子供の情緒面や身体面の成長発達に中長
期的な悪影響を及ぼし得ると認めることはできない。
6
聴覚障害


認定事実
聴覚障害について,以下の事実が認められる。

WHO環境騒音ガイドライン(甲B2)
WHO環境騒音ガイドライン(甲B2)には,聴覚障害について,以下の記述がある。
聴力障害は,一般に聴力の閾値の上昇と定義される。聴力の低下は耳鳴を伴うことが多い。騒音性聴力障害の場合,主に3000Hzから6000Hzの高周波数領域の聴力が低下し,最も影響が大きいのは4000Hzである。
LAeq,8h(8時間の等価騒音レベル)が75dB(A)以下であれば,職業暴露が長期にわたっても聴力障害は生じないと期待される。環境騒音や娯楽に関わる騒音のLAeq,24h(24時間の等価騒音レベル)が70dB(A)以下であれば,たとえ生涯にわたって暴露されても大多数の人には聴力障害は生じないと期待される。衝撃音が発生する職場の労働者の場合,許容レベルは,ピーク音圧レベル(瞬時音圧のレベルであり,騒音レベルの最大値とは異なる。特に衝撃音の場合は最大騒音レベルよりもかなり大きな値となる。で140dBである。

この許容レベルは
余暇時間における環境騒音暴露の場合にも適切であると考えられる。他方で,小児の場合は,騒音の発生する玩具で遊ぶ時の状況を考慮すると,絶対的にピーク音圧レベルを120dB以下にとどめるべきである。ISO1999は,LAeq,24hが70dB(A)以下の暴露であれば,長期的な暴露であっても聴力障害には至らないことを示している。聴力保護の観点からすれば,衝撃音のピーク音圧レベルは成人に対して140dB,小児に対して120dB以下にとどめることが絶対的に必要で
ある

沖縄県健康調査報告書(甲B1)
沖縄県健康調査報告書(甲B1の320頁から331頁)には,聴覚障害について,以下の記述がある。
平成3年に北谷町において実施されたアンケート調査において耳の聞こえが悪いとする者の割合が95W以上の騒音激甚地区において対照群に比べて有意に高かったこと,また,過去の資料を用いてベトナム戦争当時の騒音暴露量を推定したところ,嘉手納町屋良,北谷町砂辺においてはW値が105程度,LAeq,24h(24時間の等価騒音レベル)が85程度であると推定されたことなどから,嘉手納飛行場近傍に居住する住民に聴力損失が生じている可能性があると推察し,聴力検診を実施した。対象は,嘉手納飛行場周辺の北谷町砂辺(85W以上100W未満の地区)と嘉手納町屋良(90W以上95W未満の地区)に居住する25歳から69歳までの男女2035名である。一次検診の受診者数は343名(受診率16.9%)であったところ,高音域に加齢に伴う聴力の低下を上回る聴力損失が認められ,かつ,慢性中耳炎の既往歴や職業性の騒音暴露歴がない者計40名に対し二次検診を行い,その成績を総合的に評価した結果,聴力損失の主因が航空機騒音への暴露であると濃厚に疑われる者を12名(北谷町砂辺区で10名,嘉手納町屋良区で2名)確認した。また,
耳の聞こえにつき,
日ごろ耳のきこえがわるいほうですか
という質問に対して,
はいどちらでもないいいえの3つの選択


肢を用意して,
はい
と答えた者の比率とW値との関係を多重ロジスティ
ック分析により検討した。性,年齢,性と年齢の交互作用及び職業を調整して,W値によって区分した騒音暴露群ごとのオッズ比を求めたところ,95W以上の区域(北谷町砂辺)でオッズ比が2程度の値となっており,耳の聞こえが悪いと回答した者の比率が有意に高くなっている。他の区域
においては対照群との間に有意な差は検出されなかった。

その他の代表的な文献
証拠(甲総C27,28,33,43,45等)によれば,聴覚障害の発生機序等について,以下の記述ないし報告がある。
ある程度大きい騒音に長期にわたって暴露されていると,騒音性難聴(永久性聴力損失)が生じる。騒音性難聴の特徴は,4000Hzという特定の周波数帯域にはじまり,進行するにつれて,より低いあるいは高い周波数に波及していく点にあり,高い周波数ほど聴力損失が大きい老人性難聴とは異なった特徴を有する。正常な聴力を持つ者でもある時間騒音を聴くと一時的に耳の聞こえが低下した後,次第に回復するが,これを聴覚疲労,一次性難聴(TTS)といい,その騒音を引き続き長年聴いた場合の永久性難聴の発生を予測できるといわれている。
一次性難聴と騒音暴露の関係については,ピークレベル83ホンから110ホンのジェット機騒音を2分又は4分間隔で被験者に聴かせた実験において,
ピークレベル100ホンの騒音を2分間隔で聴かせた場合,
11回の暴露で4000Hzに5dBの一次性難聴を,34回で10dBの一次性難聴を生じたほか,ピークレベル86ホンの騒音を2分間隔で聴かせた場合にも,およそ6時間も暴露すると,5dBの一次性難聴を生じたという報告などが存在する。
小松騒音調査報告書(甲総C49)は,小松基地周辺の住民に対して聴力検診を実施し,得られた結果を,年齢,性別及び地域の3項目により多変量解析によって統計処理したところ,騒音暴露地域の住民の平均聴力損失値は,非騒音地域住民と比較して,約4dBから6dBの聴力損失があると考えられた旨報告している。



検討
上記認定事実記載のとおり,一般論として,航空機騒音を含む一定の騒音
レベルの環境騒音に一定期間暴露することで,聴覚障害(永久性難聴)を発症しうること,WHOなどが,聴覚障害を防止するために,LAeq,8hで75dB(A)以下,成人の場合の衝撃音のピーク音圧レベルは140dB以下(小児の場合には120dB以下)といったガイドライン値を提唱していることなどが認められる。
しかし,航空機騒音の特性,本件飛行場での離着陸(タッチアンドゴーを含む。
)の回数,本件飛行場の敷地の広さ,原告らの居住地との距離等を考えると,原告らがLAeq,8hで75dB(A)を超えるような長時間の騒音に暴露し続けているとは認められないし,新富町による騒音測定で記録された平成30年度のピークレベルの最大値は125.4dBにとどまり(甲B35)
,衝撃音のピーク音圧レベルが140dBを超える騒音に晒されているとも認められない。
そして,
原告らの陳述書やアンケートの回答結果
(甲
総C85)において複数の者が訴える難聴や耳鳴といった聴覚障害についても,その原因を特定する診断書等の客観的証拠は提出されていないのであるから,本件飛行場から生ずる航空機騒音が周辺住民に難聴や耳鳴といった聴覚障害をもたらし得るものであるか否かは不明というほかない。
これに対し,原告らは,他の基地の周辺住民を対象とした騒音調査報告書等において,聴覚障害を有する者のうち,航空機騒音への暴露が原因と思われる者が複数認められた旨指摘するなどして,本件飛行場から生ずる航空機騒音も,原告ら周辺住民の聴覚障害や耳鳴の発症リスクを増大させるものである旨主張する。しかし,これらの発症リスクの検討に当たっては,長期的な航空機騒音への暴露状況が特に重要な考慮要素であるところ,航空機騒音の騒音量やピーク騒音レベルなどの長期的な推移状況は基地によって大きく異なるのであって,現に,沖縄県健康調査報告書において調査対象とされた騒音暴露地区は,ベトナム戦争中の基地運営により相当高度の航空機騒音に暴露していたという特殊な事情を有することに鑑みると,他の基地における
騒音調査結果が,直ちに本件飛行場にも当てはまるとはいえないのであるから,原告らの上記主張は採用することができない。
7
その他の身体的被害や健康被害等


検討枠組み
原告らは,本件飛行場から生ずる航空機騒音は,睡眠妨害や聴力障害,騒音に対する不快感等を生じさせるのみならず,①高血圧や心不全等の循環器系疾患,内分泌系疾患,消化器系疾患及び精神疾患,②妊娠に関連する疾患や胎児の発育不全,③ストレス反応による各種疾病の発症リスクの増大等を生じさせる旨主張しているため,以下検討する。



認定事実

WHO環境騒音ガイドライン(甲B2)
WHO環境騒音ガイドライン(甲B2)には,健康被害等について,以下の記述がある。
生理的機能
騒音職場で働く労働者,空港,工場,騒音の激しい道路近傍の住民に対して騒音が生理的機能に急性的,慢性的な影響を及ぼしている可能性がある。長期暴露によって,住民の中の高感受性群が高血圧や虚血性心疾患などの永続的な影響を発現することになると考えられる。影響の大きさやそれが持続する時間は,一部,個人の特性,生活習慣,環境条件などの影響を受ける。強大な工場騒音に5年から30年暴露された労働者は血圧が上昇し,高血圧になるリスクが高まると考えられる。心循環器系への影響は,
LAeq,
24hが65dB
(A)
ないし70dB
(A)
の航空機騒音,道路交通騒音の長期暴露地域においても明らかにされている。騒音と高血圧や心疾患の発症率との関連は必ずしも強いものではないが,高血圧よりも虚血性心疾患の方が騒音との関連がいくぶん強いとされている。

精神的疾患
環境騒音が精神的疾患を直接的に引き起こすとは考えられてはいない。しかし,騒音によって潜在的な精神障害が加速,助長されると考えられる。強大な工場騒音に暴露されている労働者には神経症者が多いことが知られているが,環境騒音の暴露とメンタルヘルスとの関連については明確な結論は得られていない。しかしながら,精神安定剤や睡眠薬の使用状況,神経症症状,精神病院への入院率などを調査した研究結果は,環境騒音が精神的健康に悪影響を及ぼしている可能性を示唆している。イ
欧州WHO環境騒音ガイドライン
(甲B30,
総C106,
乙総C63)
欧州WHO環境騒音ガイドライン
(甲B30,
総C106,
乙総C63)
には,健康被害等について,以下の記述がある。
前記3⑴イ記載のとおり,夜間騒音が,ホルモンレベルの変化や心臓血管系疾患,うつ,その他の精神的疾患といった臨床症状を引き起こすという限定的な知見があるほか,心筋梗塞については,最新のメタ解析の結果によれば,心筋梗塞のリスクの上昇と日中の騒音暴露との関連につき十分な知見がある。しかしながら,動物やヒトを対象とした研究の知見等に照らせば,夜間の騒音暴露が日中の騒音暴露よりも心臓血管系に強く関連しているという仮説が支持される。
航空機騒音による健康影響の評価に関しては,日平均騒音暴露(Lden)と虚血性心疾患の罹患に関する知見の質は非常に低い
,高血圧の罹
患に関する知見の質は低いと評価された。


ICAO環境レポート2019
(甲総C108,
109
(枝番号を含む。)

ICAO環境レポート2019
(甲総C108,
109
(枝番号を含む。)

には,健康被害等について,以下の記述がある。
航空機騒音と循環器への影響(高血圧,虚血性心疾患,脳卒中)
高血圧については,研究間の不一致を反映して,正の関連性が認めら
れるものの,総体的に統計学的に有意とはいえないものとなっている。虚血性心疾患と心不全については,高血圧と比較すると所見がより一致している。960万人の患者と15万8977症例という非常に大規模な2つのレジストリ研究から得られたメタアナリシス(複数の調査・報告を横断的に検討・分析すること。
)において,Lden10dBにつ
き9%の虚血性心疾患新規発症のリスクが統計学上有意に増加したとの報告があるが,同報告の著者は,
全体的にわれわれは,航空機騒音と虚血性心疾患の関連性を支持するエビデンスの質を低いと評価したと結論付けている。また,航空機騒音と心筋梗塞の死亡率の間の関連性につき,Lden10dBにつき2.6%リスクが増加したとの報告や,騒音と虚血性心疾患の最も高い関連は間欠的な夜間の暴露で見られた旨の報告などがある。
脳卒中については,航空機騒音との関連性について統計学上有意な結果は示されなかった。
航空機騒音と代謝への影響(糖尿病,肥満,腹囲,代謝バイオマーカー)
航空機騒音暴露と腹囲の肥大に有意な関連性があるものの,肥満度指数(BMI)又は2型糖尿病については関連性があるとは認められなかったとの報告がある。また,航空機騒音と代謝障害の関連を報告した最近の論文は,航空機騒音暴露によって,Lden12dBあたりおおよそ2倍の糖尿病発症率の増加が認められた旨報告している。他方で,航空機騒音暴露と糖尿病の予測因子である過去3か月にわたる血糖コントロールの測定値(HbA1c)の関連性は認められるものの,有意とはいえない旨の報告がある。
航空機騒音と妊娠関連疾患,出生体重等の出生結果
2017年の韓国における健康保険の記録で特定された1万8165
人の妊婦についての研究は,昼間ではなく夜間の妊娠初期3か月における航空機騒音暴露と妊娠糖尿病のリスクの関連性を明らかにしたが,この結果に基づくエビデンスを強固なものにするには,より多くの研究が必要である。
2016年12月までに発表された文献を検討したシステマティックレビューは,職業騒音暴露(たいていの現在の環境航空騒音暴露よりも高いものであった。の研究から環境騒音暴露と出生結果の関連を示唆す)
るエビデンスがあることを支持したが,さらに高品質な研究が必要である。
航空機騒音とメンタルヘルス
精神的不調等に関連する航空機騒音暴露の研究はほとんど残されていないが,2017年以降に行われたドイツの分析報告は,健康保険請求に記録されたうつ病との有意な関連があり,リスクの推定値は騒音レベルが増加するに伴い50dBから55dB(24時間平均)で最大オッズ比1.23に増加したが,より高い暴露群では減少したと報告している。他方で,ドイツの小学生1185人についてなされた研究は,航空機騒音と感情障害,多動,行為障害のようなメンタルヘルス問題との関連性を認めることはできなかったと報告している。

沖縄県健康調査報告書(甲B1)
沖縄県健康調査報告書(甲B1の225ないし255頁,297ないし306,308ないし319頁)には,以下の記述がある。
高血圧
平成6年度及び平成7年度に嘉手納基地と普天間基地の周辺の市町村で行われた老人保健法に基づく基本健康診査データを利用して,最高,最低血圧の値とW値との関連について検討を加えた。血圧は年齢や肥満度等による違いが大きいため,一定の値をしきい値として2群に分けた
場合,高値の群には高齢者や肥満度の高い者が多数となり,騒音との関連を検出するには,交絡要因の影響が大きく必ずしも適切でない。そこで,特に血圧と年齢との関連が顕著であることから,各年齢世代別(10歳ごとの区分)にしきい値(10歳毎の10,25,50,75,90%タイル値)
求め,
各しきい値を上回る比率についてW値との関連を,
年齢,性別,年齢と性別の交互作用及びBMIを説明変数として,多重ロジスティック分析により明らかにした。その結果,50%タイル値及び90%タイル値によるしきい値を用いた場合,W値の上昇に伴って,オッズ比の値が高くなっており,多少の凹凸はあるものの,顕著な量反応関係が認められた。
ただし,90%タイル値による最低血圧の表を見ると,75W未満の対照群と80Wの区域のオッズ比はほとんど変わらず,上記沖縄県健康調査報告書の記載とはやや乖離がある。
低体重児の出生率
昭和49年から平成5年までの20年間の沖縄本島内の人口動態調査出生票35万7845件を用いて,嘉手納飛行場周辺の市町村(嘉手納町,北谷町及び低暴露5市町村)ならびに対照群として県内他地域の8市町村の低出生体重児(2500グラム未満の体重で出生した幼児)の出生率について,W値との関連を,性別,母親の年齢,出生順位,世帯の主な仕事,嫡出か否か,出生年次等を説明変数として,多重ロジスティック分析により明らかにした。
その結果,騒音暴露量と低出生体重児の出生率との間に有意な量反応関係が検出された。最も暴露量の高い嘉手納町においては,対照群とのオッズ比は1.3であり,比較的低暴露の5市町村においても,対照群との間に有意な差が認められた。
基地が存在すること自体で与えるかもしれない影響,ならびに喫煙の
影響について検討を加えたが,これらの要因では嘉手納町でのオッズ比を説明することは困難であると考えられた。
また,
他の要因についても,
群全体でのオッズ比を1.3にまで押し上げるような因子が存在する可能性は低いと考えられる。
THI(東大式自記健康調査票)による自覚的健康度の調査結果
嘉手納飛行場及び普天間飛行場周辺を調査対象地域として,自覚的健康度の調査のために開発された質問紙健康調査票であるTHIを用いて,住民の自覚的健康度の調査を実施したところ,航空機騒音暴露群が6247名,対照群が848名,合計7095名の有効回答を得た。THIは,130項目の質問からなり,
はいいいえどちらでもない


の3択で回答する。これらの質問は,12種類の尺度(①多愁訴,②呼吸器,③眼と皮膚,④口腔と肛門,⑤消化器,⑥直情径行性,⑦虚構性,⑧情緒不安定,⑨抑うつ性,⑩攻撃性,⑪神経質,⑫生活不規則性)に分類され,その具体的質問内容は,例えば多愁訴の項目であれば,足がだるい横になりたい頭が重いぼんやりする痛いなど




である。
これら12種類の尺度の得点のほか,これを用いた心身症傾向や神経症傾向の判別得点等を用いて,多重ロジスティック分析により統計学的な解析を行ったところ,種々の身体的自覚症状と精神的自覚症状を訴える者の比率は,騒音暴露レベル(W値,Lden)に応じて高くなること,12尺度に分類される自覚症状の中で,
呼吸器神経質などで

は,
75W未満の比較的低い騒音暴露レベルから影響が見られるが,
多愁訴消化器情緒不安定などでは,90W以上の高暴露群にお


いてのみ影響が認められること,航空機騒音は様々な自覚症状の訴え率を高めるにとどまらず,心身症傾向や神経症傾向と判断される者の比率を,
とりわけ高暴露群において顕著に高めていることなどが認められた。

その他の代表的な文献
証拠(甲総C67(枝番号を含む。)によれば,ロンドンのヒースロ)
ー空港に関連する航空機騒音に暴露した周辺住民約360万人を対象に入院リスク及び死亡リスクを評価したところ,入院リスクについては,日中と夜間の両方の航空機騒音レベルの増加に伴うリスクの上昇に統計的に有意な直線傾向が見られたほか,日中最高レベルの航空機騒音に暴露した地域を最低レベルの地域と比較すると,年齢,性別,民族,社会的はく奪及び喫煙の代用
(肺がん死亡)
で補正した入院の相対リスクは,
脳卒中が1.24倍,冠動脈疾患が1.21倍,心血管疾患が1.14倍であり,対応する死亡の相対リスクも同程度であったとの研究結果が報告されている。
証拠
(乙総C19)
によれば,平成10年に実施された東京国際空港,
大阪国際空港及び福岡空港の周辺で実施された巡回健康診断受診者の過去10年の健康診断結果のデータを集計・集約して,航空機騒音による最高血圧や最低血圧,
心電図判定結果等への長期影響を検討したところ,
当時の第一種区域外,第一種区域(環境庁方式による75W以上)及び第二種区域(同90W以上)のそれぞれの10年間の最高血圧及び最低血圧の推移は,
大阪,
福岡の男女ともにほぼ横ばいに推移を示しており,
増加あるいは減少傾向は認められなかったほか,騒音対策区域間を年度で比較すると,福岡では男女ともに最高血圧及び最低血圧は第二種区域が他の2群に比べて低い傾向を示しているが,これは騒音対策区域3群の平均年齢がそのまま反映されたもので,航空機騒音によるものではないと判断され,さらに医師が下す心電図判定結果の正常者率も,ほぼ横ばいで推移していたことから,航空機騒音による直接的な影響は確認することができないと判断した旨の報告がある。
証拠(甲総C72,73)によれば,妊娠期の母体ストレスと胎児の
発育等について,以下の見解が示されている。
妊娠中の低栄養を含む様々なストレスへの暴露が胎児の発育及び生後の糖尿病や高血圧,虚血性心疾患などの生活習慣病の発症素因と関わってることが示唆されているほか,近年,低栄養だけでなく母体の肥満や糖尿病などの代謝疾患,感染症,精神的ストレスも精神疾患や自閉症などの発達障害の発症率を増加させる原因の一つとして考えられるようになってきている。生体がストレスに曝されると,視床下部-下垂体-副腎系が活性化するところ,慢性的な妊娠期のストレスは,血中コルチゾールおよび胎盤からの副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの分泌を増加させ,胎児の神経前駆細胞の分裂や神経分化の抑制等を引き起こすことが知られており,妊娠期のストレスは胎児のストレス応答系や脳の発生に影響を与え,生後のうつや不安,統合失調症,発達障害のリスクを増加させると考えられている。
証拠(甲総C74(枝番号を含む。,79,80,乙総C52等)に)
よれば,
空港周辺の低出生体重児の出生率について,
以下の報告がある。
大阪国際空港周辺において,伊丹市の昭和44年生まれの乳児から無作為抽出された713件の体重について,生活水準,性別,出生順位,母の職業及び年齢,
転入時期,
旧住所の騒音,
航空機騒音への母の感情,
現住所の航空機騒音及び他の騒音との関係を解析したところ,騒音レベルを除いては,出生時体重を左右する要因はなかったほか,大阪国際空港へのジェット機就航後は伊丹市の出生体重は他の都市より軽くなっており,騒音の大きい地域(ECPNL85dB以上)では未熟児出生率が高かったとの報告や,ジェット機の運航がある飛行場周辺に居住する乳幼児のうち,昭和39年1月から昭和40年7月末までに出生した乳幼児を対象としたアンケート調査
(有効回答数計273名)
において,
全国平均4.2%に対して,6.6%という高率の未熟児出生率が認め
られたとの報告などがある。
他方で,昭和43年1月1日から昭和54年12月31日までに小松市に住所を有する者が出産した児の出生時体重を調査したところ,小松空港周辺部の85W以上の地域と小松市全域の出生児の出生時体重は,男女とも両地域に有意な差はなかったとの報告が存在する。
証拠(甲総C110ないし126等)によれば,ストレスと健康被害等について,以下の見解が示されている。
ストレスとは,ホメオスタシス(身体の恒常性)を障害するような刺激を受けた場合に現れる反応であり,この場合の刺激としては,日常経験する感情的な興奮や心理的重圧等がある。ストレスは交感神経を刺激し,アドレナリンやノルアドレナリンの産生の増加により,心拍数や心臓の収縮力を増加させて心臓の負荷を増やすなどし,虚血性疾患の原因となる可能性がある。また,ストレスは心臓・血管病の危険因子である高血圧や糖尿病にも関係するほか,過食,過度の飲酒や喫煙といった行動の変化を介して,動脈硬化の可能性を高める。このほか,長期間の高い自覚的ストレスレベルは全がん罹患リスクを高めるとの報告や,ストレス負荷が免疫系の機能の抑制ないし亢進を生じさせるとの分析,ストレス要因は睡眠の質にかかわる大きな問題であるとの指摘等が存在する。証拠(甲総C56)によれば,健康な20歳代及び40歳代の男女5名ずつ,計20名に対し,5分に1回,60秒持続のジェット機音等の70dB(A)及び85dB(A)の騒音をそれぞれ1時間30分にわたって聴かせたところ,脈拍の変動や血管収縮回数等の反応はいずれも増大し,血中の白血球数は増加したが,好酸球及び好塩基球は減少し,尿中のアドレナリン,ノルアドレナリン等のホルモンは増加したとの実験結果が報告されており,この一連の反応は,騒音が精神的心理的ストレスとして働き,交感神経系と下垂体・副腎皮質系を刺激した結果であ
ると分析されている。
証拠(甲総C27,58等)によれば,被験者38名に対し,2000Hz,90dBの音を30分聴かせたところ,健康人や心筋梗塞患者では,尿中のアドレナリン,ノルアドレナリン量が有意に増加し,高血圧患者では平均10mmHgの血圧上昇が認められたとの実験結果や,100dB(A)から120dB(A)のジェットエンジンテスト音を被験者(男性33人)に30分から60分聴かせたところ,胃液分泌量が3分の2に減った状態が30分続き,胃の運動は著しく抑えられ,音をやめても30分も回復しなかったとの実験結果が報告されている。カ
原告らの陳述書等
原告らに対するアンケートの回答結果(甲総C85)によれば,自己の身体について認められる自覚症状の種類について,
肩こり
と回答した者
が回答数全体の49.7%,
高血圧と回答した者が全体の39.9%,
疲労感・倦怠感と回答した者が全体の35.6%,
頭痛と回答した
者が全体の33.7%,
動悸と回答した者が全体の10.4%,
めまいと回答した者が全体の10.4%,
胃の痛み等と回答した者が全体
の9.2%,
心疾患と回答した者が全体の8.0%,
めまいと回答
した者が全体の10.4%にのぼった。
このほか,原告らの陳述書を見ても,複数の者が,様々な自覚症状を訴えている。



検討

高血圧や心不全等の循環器系疾患,内分泌系疾患,消化器系疾患及び精神疾患について
高血圧や心不全等の循環器系疾患
航空機騒音が高血圧や心不全等の循環器系疾患の発症リスクを増大させるか否かについては,ロンドンのヒースロー空港における調査が,航
空機騒音への暴露により,脳卒中,冠動脈疾患及び心血管疾患の入院及び死亡リスクが相対的に上昇することを指摘しているほか,被験者に騒音を聴かせた場合に血圧上昇が認められた旨の実験結果が存在するなど,これを肯定する方向に働く研究結果が複数存在するほか,欧州WHO環境騒音ガイドラインも,心筋梗塞のリスクの上昇と日中の騒音暴露との関連につき十分な知見がある旨述べている。
しかし,他方で,ICAO環境レポート2019は,高血圧と航空機騒音との関係について,正の関連性が認められるものの,総体的に統計学的に有意とはいえないと結論付け,虚血性心疾患及び心不全については,航空機騒音と虚血性心疾患の関連性を支持するエビデンスの質を低いと評価した研究者の考察を引用し,さらに,航空機騒音と脳卒中との関連については,統計学上有意な結果は示されなかったと述べている。欧州WHO環境騒音ガイドラインも,同様に,日平均騒音暴露(Lden)と虚血性心疾患の罹患に関する知見の質は非常に低い
,高血圧の
罹患に関する知見の質は
低い夜間騒音がホルモンレベルの変化や心

臓血管系疾患といった臨床症状を引き起こす旨の知見の質は限定的と評価している。
そうすると,現時点において,航空機騒音が高血圧や心不全等の循環器系疾患の発症リスクを増大させるか否かについては,統一的な結論が得られているとは認め難い。
これに対し,沖縄県健康調査報告書では,最高及び最低血圧の値とW値との関連について,W値の上昇に伴って,オッズ比の値が高くなり,顕著な量反応関係が認められる旨結論付けられている。しかし,90パーセンタイル値による最低血圧のオッズ比は,75W未満の対照群と80Wの区域でほとんど変わらないように見受けられるし,大阪国際空港や福岡国際空港等の周辺住民を対象にした調査では,10年間の最高血
圧及び最低血圧の推移は,
騒音暴露地域及び非暴露地域において,
大阪,
福岡の男女ともにほぼ横ばいに推移を示しており,航空機騒音による直接的な影響は確認することができないと結論付けられていることなどを踏まえると,沖縄県健康調査報告書によって,直ちに,航空機騒音が高血圧をもたらすと認めることはできない。
なお,WHO環境騒音ガイドラインでは,LAeq,24hが65dB(A)ないし70dB(A)の航空機騒音の長期暴露地域において,航空機騒音が心循環器系へ影響を与えることが明らかにされている旨述べられているが,原告らがLAeq,24hが65dB(A)ないし70dB(A)の航空機騒音に長期間継続的に暴露しているとは認められないのであるから,
いずれにせよ,
本件飛行場から生ずる航空機騒音が,
高血圧や心不全等の循環器系疾患の発症リスクを増加させると認めることはできない。
内分泌系疾患,消化器系疾患及び精神疾患
ICAO環境レポート2019は,航空機騒音暴露と肥満度指数(BMI)及び2型糖尿病について関連性を否定した報告と,航空機騒音量の増大に伴い糖尿病発症率の増加が認められた旨の報告を共に紹介するほか,航空機騒音とメンタルヘルスの関係についても,航空機騒音暴露とうつ病との有意な関連を認めた報告と,メンタルヘルス問題との関連性を否定した報告を共に紹介している。また,WHO環境騒音ガイドラインは,騒音によって潜在的な精神障害が加速,助長されると考えられる旨述べているが,他方で,環境騒音への暴露とメンタルヘルスとの関連については明確な結論は得られていないとしている。
そうすると,現時点において,航空機騒音が内分泌系疾患,消化器系疾患及び精神疾患の発症リスクを増大させるか否かについては,不明というほかなく,これを一般論として肯定することはできない。


妊娠に関連する疾患や胎児の発育不全について
沖縄県健康調査報告書のほか,低体重児の出生率に関する調査を空港周辺で行った複数の報告書は,騒音暴露量と低出生体重児の出生率との間に有意な量反応関係が認められること,複数の項目のうち騒音レベルのみが出生時体重を左右する要因であったこと,飛行場周辺地域において,高率の未熟児出生率が認められたことなどを報告している。
しかし,他方で,小松空港周辺を対象とした調査報告は,小松空港周辺部の85W以上の地域と小松市全域の出生児の出生時体重は,男女とも両地域に有意な差はなかったと結論付けており,各種調査において整合的な調査結果が得られているわけではない。そして,ICAO環境レポート2019は,夜間の航空機騒音暴露と妊娠糖尿病のリスクの関連性を明らかにした研究や,環境騒音暴露と出生結果の関連を示唆するエビデンスがあることを支持したシステマティックレビューが存在することを述べてはいるものの,いずれもさらなる研究が必要であると結論付けていることからすれば,現時点においては,航空機騒音が,妊娠に関連する疾患の発症リスクや胎児の発育不全のリスクを増大させると認めることはできない。

ストレス反応による各種疾病の発症リスクの増大について
前記

記載のとおり,一般論として,ストレスは,虚血性疾患や高

血圧,糖尿病等の様々な疾患を生じさせる因子となり得ることが認められる。しかし,ストレスの要因には,仕事や家庭生活,人間関係等の多種多様なものが存在するところ,航空機騒音に暴露することにより生じるストレスが疾病の発生に影響をもたらすと考えられる騒音レベル及びその持続時間は,かなり高い水準であると述べる文献(乙総C47)が存在することなどにも鑑みると,航空機騒音への暴露と各種疾病の発症リスクの増大との間の法的因果関係が認められるか否かは慎重に検討されなければならない。

そして,上記のとおり,現時点において,航空機騒音が,循環器系疾患や内分泌系疾患,消化器系疾患等の発症リスクを増大させるとまではいえないのであるから,航空機騒音が生活妨害となるという次元を超えて,これに暴露することにより生じるストレス反応により,各種疾病の発症リスクが増大するとは認められないというべきである。
なお,
沖縄県健康調査報告書のTHIによる自覚的健康度の調査結果は,身体的自覚症状と精神的自覚症状を訴える者の比率が騒音暴露レベルに応じて高くなったなどと結論付けているが,そもそも,自覚的健康度の調査自体が,専ら対象者の主観的な認識に基づくものであり,客観的な裏付けを欠くものであるから,その証拠価値は限定的に解さざるを得ず,上記認定を覆すに足りるものではないというべきである。

小括
以上のとおり,本件飛行場の航空機騒音が,原告らにおいて,①高血圧や心不全等の循環器系疾患,内分泌系疾患及び消化器系疾患,②妊娠に関連する疾患や胎児の発育不全の発症リスクを増大させたり,③ストレス反応を介して,各種疾病の発症リスクを増大させるものとまでは認められない。

8
被侵害利益についてのまとめ


以上のとおり,日常的とはいえないものの,本件飛行場における夜間から朝方にかけての自衛隊機の運航から生じる航空機騒音によって,原告らは,影響の程度や頻度につき個体差はあるものの,睡眠中の覚醒などの一定の睡眠妨害を等しく受けているものと認められる。
また,本件飛行場における自衛隊機の運航から生じる航空機騒音は,原告らに対し,その日常生活を,ラジオやテレビの視聴を遮る,家族や友人らとの会話や電話を遮る,勉強,仕事,読書などの作業や考えごとを遮るなどといった態様で妨害するほか,
イライラ感等の精神的不快感を生じさせており,

かつ,これらの生活妨害や心理的被害の程度はW値に比例しているということができる。
なお,本件飛行場の航空機騒音が,原告らに対し,循環器系疾患等の身体的被害や健康被害等を生じさせるものであるとは認められないが,航空機騒音とこれらの疾患等の関連性を肯定する研究結果が複数存在することなどに照らせば,原告らが,航空機騒音による健康被害を受けているのではないかと感じるのは無理からぬところであり,このような不安感は,上記心理的被害に含まれるものとして考慮することが相当である。


これに対し,被告は,航空機騒音に対する感受性や睡眠に及ぼす影響は個人差が大きい上,原告らは,個々人に睡眠妨害や生活妨害,心理的被害が発生したことを,医師の診断書等の客観的資料に基づき,個別具体的に主張立証していないのであるから,これらを原告らの共通損害として認める余地はない旨主張する。
しかし,航空機騒音に対する感受性や睡眠に及ぼす影響は個人差が大きいとしても,原告らに同一と認められる性質・程度の最低限の被害を観念することができないわけではないし,睡眠妨害や生活妨害,心理的被害は,その内容,
性質も複雑,
多岐,
微妙で,
外形的には容易に捕捉し難いものがあり,
被暴露者の主観的条件によっても差異が生じうる反面,その主観的な受けとめ方を抜きにしてはこれを正確に認識,把握することができないようなものであるから
(大阪空港最高裁判決参照)医師の診断書等の資料が原告らから

提出されていないとしても,原告らの陳述書やアンケート調査等に加え,関連する医学文献や各種調査報告書等の内容を参照することによって,原告らの被害の実態を把握することはなお可能であるというべきである。よって,被告の主張は採用することができない。

第4
1
侵害行為の持つ公共性や公益上の必要性の内容と程度等
事実関係

前記前提事実第1の3記載の事実に加え,証拠(乙A14,23,24,30,31,35,36等)及び弁論の全趣旨によれば,本件飛行場における自衛隊の活動等について,以下の事実が認められる。
本件飛行場には,第5航空団,飛行教育航空隊,新田原救難隊のほか,飛行場機能を維持するために,新田原管制隊,新田原気象隊,西部航空施設隊第2作業隊等の部隊が所在し,これらの部隊による防空,領空侵犯に対する措置,飛行教育訓練等の諸活動が実施されている。本件飛行場は,太平洋に面した西日本唯一の防空作戦を担う航空作戦基地かつ航空自衛隊の主力機種であるF-15戦闘機の基本ライセンスを付与する我が国唯一の教育訓練基地であるほか,
航空機の離着陸及び飛行の障害となるような高い構造物がないこと,悪天
候の発現日数も比較的少ないこと,敷地の大部分が国有地で経済性に優れていることなど恵まれた環境にあることもあり,西日本の防衛のための戦略的及び戦術的拠点となっている。また,航空自衛隊は災害派遣等の民生協力活動を実施しているところ,本件飛行場の常駐している部隊も,周辺自治体と連携して民生協力活動を行っており,このうち,新田原救難隊の昭和57年6月から平成30年6月までの災害派遣の実績は合計128件,第5航空団の昭和41年1月から平成30年10月までの災害派遣の実績は合計148件に上る。このような活動に加え,本件飛行場では,社会貢献活動や地域の活性化に繋がるイベント活動等が行われている。
2
検討
以上のとおり,本件飛行場は,西日本で唯一太平洋に面した航空作戦基地であるとともに,我国で唯一の主力戦闘機の基本ライセンスを付与する教育訓練基地として,我が国の安全保障政策上重要な意義と役割を与えられており,公共性やその設置について公益上の必要性が認められる。
もっとも,本件飛行場の運用によりもたらされる利益は国民が等しく享受する一方で,それに伴って発生する航空機騒音という不利益は,特定少数者とし
ての本件飛行場の周辺住民である原告らが被っており,そこには看過し難い不公平が存在するといえる。
第5

侵害行為の継続状況や被害防止措置等

1
事実関係


住宅防音工事の実施状況及びその防音効果

原告らに対する住宅防音工事の実施状況
被告は,原告らを含む本件飛行場の周辺住民に対し,住宅防音工事(空気調和機器及び防音建具の機能復旧工事を含む。に係る助成金として,)

成30年度までの累計で,総額約777億2090万円を支出している(乙E89の第1表,第2表及び第4表)

原告らに対する住宅防音工事の実施状況は,本件居住経過一覧表記載のとおりであり,施工した住宅防音工事の種別(外郭防音工事か否か)及び工事完了年月日は,
住宅防音完了年月日住宅防音追加完了年月日及

び外郭防音完了年月日欄の記載,個々の工事の施工居室数は室数
ないし追加室数欄の記載,防音工事がなされた居室数の合計は防音工事室数合計欄に記載のとおりである。

住宅防音工事の防音効果
住宅防音工事の防音効果に関する主な検証結果等
a
本件訴訟の令和2年10月12日第1回現地進行協議期日における測定結果(甲B49,乙B42,43)
令和2年10月12日,本件訴訟の第1回現地進行協議期日において,本件飛行場周辺に位置する住宅2棟(いずれも本件85W指定地域に位置し,1棟は第Ⅰ工法による住宅防音工事が,もう1棟は外郭防音工事が実施されている。の内部の居室及び屋外でそれぞれ騒音測)
定を実施したところ,第Ⅰ工法による防音工事が実施された居室においては,窓及びドアを閉じて居室を密閉した状態で,最大27.4d
B,最低12.3dB,平均約22.7dBの防音効果が認められ(数値は原告らの計測値である。,外郭防音工事が実施された住宅の居室)
においては,最大28.1dB,最低20.2dB,平均約24.2dBの防音効果が認められた(数値は被告の計測値である。)。
b
厚木基地第4次訴訟の平成25年5月9日第40回進行協議期日における測定結果(乙E85)
平成25年5月9日,厚木基地第4次訴訟の第40回進行協議期日において,同訴訟の原告らのうち1名の所有する木造住宅内の防音工事が実施された5室の内部及び同住宅から約100メートル離れた屋外でそれぞれ騒音測定を実施したところ,窓を閉じた状態では,最大48.0dB,最低22.0dB,平均約33.6dBの防音効果が認められた。

c
普天間基地爆音差止等請求事件の平成28年1月7日現地進行協議期日における測定結果(乙E86)
平成28年1月7日,普天間基地爆音差止等請求事件の現地進行協議期日において,普天間基地の75W地域に位置する住宅の防音工事が実施された居室内部及び屋外(同住宅の2階のベランダ)でそれぞれ騒音測定を実施したところ,
最大30.
6dB,
最低22.
6dB,
平均約28.3dBの防音効果が認められた。

d
平成23年12月15日に南関東防衛局により実施された測定結果(乙E88)
南関東防衛局は,平成23年12月15日,横田基地の85W地域に位置する外郭防音工事が施された住宅の居室4室及び1階廊下並びにその屋外でそれぞれ騒音測定を実施したところ,
最大32.
8dB,
最低25.6dBの防音効果が認められ,居室4室の平均防音効果は約30.
0dB,
1階廊下の平均防音効果は約27.
5dBであった。


検討
本件訴訟においてなされた測定結果を含む住宅防音工事の防音効果に関する上記検証結果によれば,おおむね第Ⅰ工法及び第Ⅱ工法の目標計画防音量を超える平均防音効果が生じていると認められるところ,住宅防音工事は防音工事仕方書に従い全国で統一的な施工がなされていると考えられるから,本件飛行場の周辺住民を対象になされた住宅防音工事についても,窓を閉め切るなどして居室を密閉した状態にすれば,上記検証結果と同様,基本的に目標計画防音量を達成した防音効果が得られると考えるべきである。
これに対し,原告らは,住宅防音工事の効果等に関する原告らのアンケート調査結果の報告書(甲B31)や嘉手納基地の周辺住民に対して行われた同様のアンケート調査に関する論文(甲B42)を提出して,防音工事の効果は不十分である旨主張するが,いずれも,居住者の主観を述べたもので,客観的な実測値に基づくものではないし,居室を密閉するという防音効果を得るのに必要な作業を行った上での回答であるのかも不明であるから,上記認定を覆すに足りるものとはいえず,原告らの主張は理由がない。



被告によるその他の周辺対策等
被告が実施した住宅防音工事以外の周辺対策等について,以下のとおり認められる。

空気調和機器稼働費助成事業及び太陽光発電システムに係るモニタリング事業
被告は,住宅防音工事の際設置された空気調和機器に係る電気料金の負担を軽減するため,生活保護法に規定する被保護者等に対し,電気料金を助成する空気調和機器稼働費助成事業を実施し,平成30年度までの累計で総額約779万円を支出した(乙E89の第3表)


また,
被告は,
上記被保護者等以外の本件飛行場の周辺住民に対しても,
電気料金の負担軽減のため,太陽光発電システムの設置助成を目的とした太陽光発電システムに係るモニタリング事業の一環として,平成15年度から平成18年度までの累計で,総額約1億4489万円を支出した(乙E89の第5表)


学校等の公共施設を対象とした防音工事に係る助成
被告は,学校や病院等のほか,老人福祉センター等の民生安定に係る公共施設を対象として施工された防音工事に係る助成を実施し,平成30年度までの累計で,総額約246億8125万円を支出した(乙E89の第6表及び第8表)

また,被告は,上記防音工事の際に設置された空気調和機器の電気料金等の負担軽減のため,防音工事関連維持費の補助事業を実施し,平成31年3月末までの累計で,総額約23億1475万円を支出した(乙E89の第7表)



移転措置及び緑地帯整備事業等
被告は,生活環境整備法等に基づき,移転対象区域に建物等を所有する者に対し,移転に係る補償等を実施し,平成30年度までの累計で,移転措置事業に総額約90億6488万円を支出した(乙E89の第10表)。
また,被告は,買い上げた移転跡地等に植樹をするなどして緑地帯その他の緩衝地帯とし,新富町に対し,合計約53万8044平方メートルのこれらの土地の無償使用を許可している(乙E89の第19表)



農耕阻害補償
被告は,本件飛行場の進入表面又は転移表面下にあって,滑走路先端の着陸帯から2キロメートル以内において農業を営む者に対し,昭和42年度から農業被害補償を実施し,平成30年度までの累計で,総額約2億1137万円を支出した(乙E89の第16表)



その他の周辺対策
被告は,自衛隊等の使用する施設の周辺地域において,自衛隊等の行為によって生じる障害を防止又は軽減するため,河川改修等の障害防止工事に係る助成を実施し,平成30年度までの累計で,約59億1878万円を支出した(乙E89の第9表)

また,被告は,本件飛行場の周辺市町村に対し,平成30年度までの累計で,民生安定施設の設置や道路改修等の事業に対する補助金として約134億7761万円を
(乙E89の第11表)公共用施設の整備等のため

の特定防衛施設周辺整備調整交付金として約123億3672万円を(乙E89の第12表)
,公共用施設の整備等の再編関連特別事業のための再
編交付金及び再編関連訓練移転等交付金として約71億1765万円を(乙E89の第13表)
,一般財源の補給金である基地交付金として約8
4億3026万円を(乙E89の第14表)それぞれ支出した。
さらに,被告は,本件飛行場周辺の一定区域に居住する者に対し,テレビ受信料の助成措置を実施し,平成30年度までの累計で,約24億2838万円を支出した(乙E89の第15表)



音源対策
本件飛行場の運用機種は,ターボジェットエンジンを搭載するF-4EJ改戦闘機やT-33Aジェット練習機から,一般にターボジェットエンジンより低騒音とされるターボファンエンジンを搭載するF-15J/DJ戦闘機やT-4中等練習機にそれぞれ切り替わっている(乙E69ないし71)

また,被告は,地上での航空機のエンジンの整備や調整に伴う騒音を低減させるため,本件飛行場の2か所に消音装置を設置しているほか(乙E69)
,本件飛行場の外柵沿いにコンクリート製の防音壁や防音に資する立木を整備するなどの音源対策を実施している(乙E72)



運航対策
被告は,自主規制として,土日及び祝日は通常の飛行訓練を原則として行わず,午後9時から翌日午前7時までの間は緊急発進等のやむを得ない場合を除き本件飛行場からの航空機の離着陸を中止し,正午から午後1時までの間は離陸の中止及び着陸態様の制限を実施しているほか,夜間飛行訓練は,原則として平日週2回までに限り実施することとしている(乙E73ないし75)

また,被告は,本件飛行場の周辺地域で入学式,入学試験,成人式等の各種行事が実施される間は,航空機の離発着や飛行訓練を中止したり,飛行経路等を制限するなどの措置を採っている(乙E76ないし81)。

2
検討
被告は,住宅防音工事の助成や,その他の周辺対策や音源対策,運航対策を実施しているところ,住宅防音工事については,前記1⑴記載のとおり,窓を閉め切るなどして住宅防音工事が施工された居室を密閉した状態にすれば,基本的に目標計画防音量を達成した防音効果が得られると考えられ,これにより,
原告らが被っている睡眠妨害,生活妨害及び心理的被害は,当該居室内で過ごす限り,一定程度緩和されているといえる。
もっとも,居住者は住宅防音工事が実施された居室のみで生活するわけではないから,被害軽減の効果を享受する機会は一定程度限定されており,また,沖縄県健康調査報告書(甲B1の79頁ないし87頁)のほか,原告らの陳述書においても言及されているように,防音効果を得るために当該居室を密閉状態にした場合,空調機器を使用せざるを得ず,電気料金の負担が増すほか,閉塞感等を抱いたり,重量化した建具の取扱いに労力を要するなどの弊害も認められる。
そうすると,被告が助成する住宅防音工事は,原告らが暴露する航空機騒音を物理的に軽減することで,
騒音被害を緩和するという効果をもたらすものの,

被害の根本的な解消を実現するものではないといえる。
また,その他の周辺対策や音源対策,運航対策についても,間接的に原告らの利益となることであっても,原告らが現に受けている騒音被害を直接軽減するものではないか,大幅に軽減しうるものではない。
第6

受忍限度に関する総合的な検討

1
75Wの本件騒音コンター内に居住し又は居住していたことがある原告ら
(騒音コンター外原告らを除く原告ら)について
前記第2の1⑷ア記載のとおり,75Wの本件騒音コンター内に居住し又は居住していたことがある原告らは,その居住期間において,本件飛行場における自衛隊機の運航に伴い,年間75W以上の航空機騒音に暴露しており,種々の生活妨害や心理的被害を受けていることに加え,夜間早朝においても,午後9時から翌日午前7時まで,日常的ではないもののある程度の回数の航空機騒音に暴露し,一定の睡眠妨害を受けているといえる。
昭和48年環境基準が,生活環境を保全し,人の健康の保護に資する上で維持することが望ましい航空機騒音の指針値を地域類型に応じて70W又は75W以下とし,環境整備法4条,環境整備法施行令,旧環境整備法施行規則及び環境整備法施行規則が,
75Wの航空機騒音に暴露する地域を,航空機の離陸,
着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいものと評価して,住宅防音工事の助成の実施を定めていることからすれば,法令上も,75W以上の航空機騒音への暴露は,具体的な被害軽減対策の導入や,速やかな騒音暴露状況の改善を必要とする程度のものであると理解されているといえ,理想的な生活環境を実現するための単なる行政上の指針値であるなどといった被告の主張は採用することができない。
そして,本件飛行場には,安全保障政策上の公共性や公益上の必要性が認められるものの,本件飛行場の運用によりもたらされる利益は国民が等しく享受する一方で,それに伴って不可避に発生する航空機騒音という軽視することが
できない不利益は,特定少数者としての本件飛行場の周辺住民である原告らが被っており,そこには看過し難い不公平が存在するのであって,本件飛行場の公共性や公益上の必要性という一事をもって,直ちに正当化できるものではなく,また,被告が助成する住宅防音工事は被害の根本的な解消を実現するものではなく,その他の周辺対策,音源対策及び運航対策も,原告らが現に受けている騒音被害を直接軽減するという関係にはないから,受忍限度に係る判断の考慮要素としては限定的な意義しか有さないことなどにも照らせば,損害賠償請求対象期間中に,75Wの本件騒音コンター内に居住していた原告らは,その居住期間において,社会生活上受忍すべき限度を超える違法な権利ないし法律上の利益の侵害を受けているということができ,これによる被害は国家賠償法2条1項にいう工作物の設置又は管理の瑕疵による損害に当たるというべきである。
2
騒音コンター外原告らについて
前記第2の1⑷イ記載のとおり,騒音コンター外原告らについては,年間75W以上の航空機騒音に暴露しているとは認められず,また,夜間早朝において,午後9時から翌日午前7時まで,ある程度の回数の航空機騒音に暴露し,一定の睡眠妨害を受けていると認められるものの,日常的なものとはいえず,その余の騒音被害の程度も75Wの本件騒音コンター内に居住し又は居住していたことがある原告らと比較すれば,限定的なものである。
したがって,本件飛行場の公共性や公益上の必要性,被告が助成する住宅防音工事その他の周辺対策,音源対策及び運航対策の実施状況等も考慮すると,騒音コンター外原告らについては,社会生活上受忍すべき限度を超える違法な権利ないし法律上の利益の侵害を受けているとまでは認められない。
第7

損害賠償額

1
基本となる慰謝料額


以上のとおり,本件飛行場における自衛隊機の運航に伴い発生する航空機
騒音に暴露することによって,75Wの本件騒音コンター内に居住し又は居住していたことがある原告らは,その居住期間において,種々の生活妨害や心理的被害,一定の睡眠妨害を受けているところ,これらの被害は,原則としてW値に応じて増大していくと考えられるから,原告ら各自の居住地が属する本件告示コンター等を基準として慰謝料額を算定することが相当である。また,原告らは,暦上の月を単位として,慰謝料の支払を求めていることから,基準期間は暦上の1か月とし,1か月単位で基本となる慰謝料額を定めることとする(なお,慰謝料が発生する対象期間が1か月に満たない場合には日割り計算をすべきである。



そして,これまでに検討した侵害行為の態様及び程度,被侵害利益の性質及び内容,侵害行為のもつ公共性や公益上の必要性の内容及び程度,被害の防止に関する措置の内容及び効果等の一切の事情を考慮すると,基準となる慰謝料額は,次のとおりとするのが相当である(なお,損害賠償請求対象期間中にW値の異なる区域に転居した原告らについては,それぞれの区域の居住期間ごとにその区域のW値に応じた慰謝料額を認めることとする。。)
本件75W指定地域
本件80W指定地域

8000円

本件85W指定地域

1万2000円

本件90W指定地域

1万6000円

本件95W指定地域
2
4000円

2万円

住宅防音工事による慰謝料額の減額
前記第5の1⑴のとおり,被告が助成する住宅防音工事には,一定の防音効果が認められ,居住者が受ける騒音被害を一定程度緩和する効果を有することは否定できず,被告の助成による住宅防音工事が施された家屋に居住する原告らを,住宅防音工事が施されていない家屋に居住する原告らと同じに扱うことは公平ではないから,慰謝料の減額を認めることが相当であり,かつ,騒音被
害の緩和効果は防音工事が施された居室数の増加に伴って増大すると考えられるから,工事実施済みの居室数に応じて減額率を増やすべきである。もっとも,居住者の生活域は住宅防音工事が施された居室のみに限られるわけではない上,防音効果を得るために居室を密閉状態にした場合,空調機器の使用に係る電気料金の負担が増すなどの弊害も生じることから,騒音被害の緩和効果は限定的であり,被害の根本的な解消を実現するものではない。このような住宅防音工事の限界も考慮すれば,住宅防音工事(ただし外郭防音工事を除く。による慰謝料額の減額率は,

防音工事を施工した室数が1室の
みである場合には10%,同室数が2室以上ある場合には,2室目以降の1室ごとに更に5%ずつ加算することとするが,工事実施済みの居室数が5室以上の場合には,減額率を一律30%までとするのが相当である。
また,外郭防音工事については,上記のような限界が同様に認められるものの,住宅全体を一つの防音区画としてその外郭について防音工事を実施するという特質に照らせば,騒音被害の緩和効果は,居室ごとに住宅防音工事を施す場合よりも大きいと考えられるから,住宅内の居室数に関わらず,慰謝料額の減額率を一律30%とすべきである。
そして,損害計算の便宜のほか,外郭防音工事を含む住宅防音工事の実施により当該住宅の居住者に経済的負担が生じることはないものの,工事の実施期間中は,外壁等の遮音工事や空気調和工事等に伴い,家屋の利用が一部制限されるなど事実上一定の不便が生じると考えられることなどを考慮すると,基準期間(暦上の1か月)の途中で住宅防音工事が完了した場合には,工事完了日を含む当該月は慰謝料額の減額を行わず,住宅防音工事の効果を月の全日にわたり享受することができるようになる翌月から減額計算を行うこととする。3
弁護士費用の額
原告らが本件訴訟の提起及び追行を弁護士である原告ら訴訟代理人らに委任したことは本件記録上明らかであるところ,その弁護士費用については,本件
訴訟における立証の難易度,本件における認容額等の諸般の事情を考慮し,原告ら各自の慰謝料総額の10%相当額をもって,侵害行為と相当因果関係のある損害であると認める。
4
遅延損害金
原告らの請求の構成に従い,各月の損害賠償請求権は翌月1日にそれぞれ発生し,同日から当該損害賠償請求権に対応する遅延損害金がそれぞれ発生すると認める。
また,遅延損害金の利率についても,原告らの請求に従い,原告種別1及び3の原告らの提訴日までに生じた損害については年5%,原告種別2及び4の原告らの提訴日までに生じた損害については,令和2年3月31日までは年5%,同年4月1日から支払済みまで年3%と認め,原告らの各提訴日以降に生じた損害については,各月の損害賠償請求権につき履行遅滞に陥る日である各翌月の1日から令和2年3月31日までは年5%,同年4月1日からは支払済みまで一律年3%と認める。

第8

将来の損害賠償請求の可否
将来の給付を求める訴えが適法となるには,
あらかじめその請求をする必要性
(民事訴訟法135条)の存在が要件となるところ,同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,それが現在と同様に不法行為を構成するか否か及び賠償すべき損害の範囲いかん等が流動性をもつ今後の複雑な事実関係の展開とそれらに対する法的評価に左右されるなど,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点においてはじめてこれを認定することができるとともに,その場合における権利の成立要件の具備については当然に債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものについては,本来例外的にのみ認められる将来
の給付の訴えにおける請求権としての適格を有するものではない(大阪空港最高裁判決,第4次厚木訴訟最高裁判決参照。

そこで検討すると,本件飛行場周辺においては,平成14年騒音調査の実施及び本件騒音コンターの作成時期から現在に至るまで,年間W値に大きな変動はないものの,航空機騒音の発生回数と密接な関係を有すると考えられる本件飛行場の管制回数は長期的に減少傾向にあると認められる上,本件飛行場の運用に伴い発生する航空機騒音の程度は,本件飛行場を拠点とする航空自衛隊の部隊や運用機種等によっても変化すると考えられるから,本件飛行場周辺において,将来にわたり現在と同程度の航空機騒音が継続することが予測されるとはいえない。
また,
本件における損害賠償請求権は,
侵害行為の態様及び程度,
被侵害利益の性質及び内容,侵害行為のもつ公共性や公益上の必要性の内容及び程度,被害の防止に関する措置の内容及び効果等を総合考慮してその成否及び額が判断されるところ,騒音暴露状況のほか,騒音被害の軽減措置の進展等によってもこのような考慮要素の内容及び評価は変わりうるから,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することは困難というほかない。加えて,本件においても複数の原告らに認められているが,原告らが75Wの本件騒音コンターの外側やW値のより低い地域に転居するなどの事実は債務者に有利な将来の事情変動であるところ,かかる原告らの個人的事情について被告が逐一把握するのは相当な困難を伴うものといえるから,これらを専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課すことは相当でない。
よって,原告らの被告に対する口頭弁論終結日の翌日である令和2年12月22日以降に発生した被害についての損害賠償請求については,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないから,原告らの同部分の請求に係る訴えを却下する。
第9

結論

1
原告番号31,32,58,59,118及び131の各原告については,受忍限度を超える違法な権利ないし法律上の利益の侵害を受けているとは認められないから,これらの原告らの請求はいずれも全て棄却する。

2
本件口頭弁論終結の日である令和2年12月21日までの損害賠償請求について,次の限度で理由があるから認容し,その余は棄却する。


別紙2-1損害賠償認容額一覧表1の原告氏名欄記載の原告らに
対し,
同原告らに各対応する同表の
元利金合計額
欄記載の金員及び内
元金額
欄記載の金員に対する
始期記載の日付から支払済みまで年5%

の割合による金員



別紙2-2損害賠償認容額一覧表2の原告氏名欄記載の原告らに
対し,同原告らに各対応する同表の元利金合計額欄記載の金員並びに内元金額
欄記載の金員に対する令和2年12月21日から支払済みまで年
3%の割合による金員



別紙2-3損害賠償認容額一覧表3(訴訟承継人分)の原告氏名欄記載の原告(訴訟承継人)らに対し,同原告(訴訟承継人)らに各対応する同表の元利金合計額欄記載の金員並びに内元金額(年利5%)欄記載の金員に対する平成29年12月18日から支払済みまで年5%の割合による金員及び内元金額(年利3%)欄記載の金員に対する令和2年12月21日から支払済みまで年3%の割合による金員

3
原告らの令和2年12月22日以降に生ずべき損害の賠償請求に係る訴えは不適法であるから却下する。

4
上記2の損害賠償請求を認容した部分については,
仮執行宣言を付した上で,
別紙2-1
損害賠償認容額一覧表1別紙2-2

損害賠償認容額一覧表2
及び別紙2-3損害賠償認容額一覧表3(訴訟承継人分)記載の原告らに対し,同原告らに各対応する担保額欄記載の額の担保を立てることを条件とする仮執行免脱の宣言をする。また,仮執行宣言の執行開始時期については,
本判決が被告に送達された日から14日を経過したときと定める。宮崎地方裁判所民事第1部

裁判官

今泉颯太
裁判長裁判官小田島靖人及び裁判官中川和俊は,差支えのため,署名押印することができない。

裁判官


(別紙はいずれも掲載省略)

泉颯太
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