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覚醒剤取締法違反、大麻取締法違反、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律違反被告事件
事件番号令和2(あ)1763
事件名覚醒剤取締法違反,大麻取締法違反,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律違反被告事件
裁判年月日令和3年7月30日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別判決
結果破棄差戻
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号令和2(う)835
原審裁判年月日令和2年11月12日
判示事項違法収集証拠として証拠能力を否定した第1審の訴訟手続に法令違反があるとした原判決に,法令の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
裁判日:西暦2021-07-30
情報公開日2021-07-30 16:00:06
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令和2年(あ)第1763号

覚醒剤取締法違反,大麻取締法違反,

医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律違反被告事件令和3年7月30日

第三小法廷判決
主文
原判決を破棄する
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
弁護人戸塚雄亮の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
しかしながら,所論に鑑み,職権をもって調査すると,原判決は,刑訴法411条1号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。1
原判決及び第1審裁判所の令和2年1月15日付け決定によれば,第1審判
決が無罪とした覚醒剤の自己使用及び覚醒剤等(以下本件薬物という。)の所持の各公訴事実に関する捜査経過の概要は,次のとおりである。
平成30年3月30日午後4時41分頃,警察官は,職務質問を行うため,自動車(以下本件車両という。)を運転中の被告人に対して停止を求め,本件車両は道路左端(以下,同所及びその付近を本件現場という。)に停止した。警察官は,本件車両の運転席ドアを開け,被告人に対し,運転免許証の提示に応じるよう説得した。
警察官は,同日午後4時48分頃,本件車両の運転席ドアポケットに,中身の入っていないチャック付きビニール袋の束(以下本件ビニール袋という。)がある旨を被告人に告げた。
その後,運転免許証の提示に応じた被告人に覚醒剤取締法違反の犯罪歴が多数あることなどが判明し,被告人が任意の採尿や所持品検査に応じなかったことから,警察官は,同日午後5時8分頃,令状請求の準備に取り掛かることとした。警察官は,同日午後7時頃,覚醒剤の所持及び自己使用の各被疑事実により,本件車両等に対する捜索差押許可状及び被告人の尿を採取するための捜索差押許可状(以下強制採尿令状という。)を請求した。その際の疎明資料には,本件車両の運転席ドアポケットに本件ビニール袋が入っていることを確認した旨記載された取扱状況報告書,同ドアポケットに本件ビニール袋がある状況を撮影した写真が添付された写真撮影報告書が含まれていた。警察官は,同日午後11時4分頃,上記各令状の発付を受け,本件現場に向かった。
一方,本件現場では,警察官が,本件車両を取り囲み,引き続き被告人に所持品検査等に応じるよう説得していた。被告人は,再三にわたり,警察官に対して帰りたい旨の意思やそのために本件車両のドアや窓を閉めさせてほしいことを伝え,その後,弁護士の助言を求めて電話をかけたり,帰りたい旨述べて本件現場を立ち去ろうとしたりしたが,警察官は,被告人を取り囲み,被告人の動きに応じてその身体に接触するなどして立ち去りを制止した。
警察官は,同日午後11時25分頃,本件車両等に対する捜索差押許可状に基づき捜索差押えに着手し,覚醒剤を発見して被告人を覚醒剤所持の現行犯人として逮捕し,逮捕に伴う捜索差押えも実施し,これらの手続により本件車両から発見した本件薬物を差し押さえた。
被告人は,警察署に引致され,同月31日午前4時42分頃まで断続的に取調べを受ける中で,警察官から,強制採尿令状が出ている旨を告げられて,同日午前4時48分頃,自ら採取した尿を任意提出した。
2
第1審裁判所は,本件ビニール袋が本件車両内にはもともとなかったもので
あるとの疑いは払拭できないから,警察官が,本件ビニール袋は本件車両内にもともとなかったにもかかわらず,これがあることが確認された旨の疎明資料を作成して本件車両に対する捜索差押許可状及び強制採尿令状を請求した事実(以下本件事実という。)があったというべきであり,本件薬物並びに本件薬物及び被告人の尿に関する各鑑定書(以下,併せて本件各証拠という。)の収集手続には重大な違法がある旨の判断を示した上,本件各証拠の証拠能力を否定した。3
これに対し,原判決は,本件各証拠の証拠能力を否定した第1審裁判所の判
断には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある旨の検察官の控訴趣意をいれ,第1審判決を破棄し,本件を東京地方裁判所に差し戻した。その理由の要旨は,次のとおりである。
本件ビニール袋がもともと本件車両内にはなかったものであるとの疑いを拭い去ることはできないが,その疑いはそれほど濃厚ではないところ,その程度にとどまる事情だけを根拠に本件各証拠の証拠能力を否定しても,将来における違法行為抑止の実効性を担保し得るか疑問があるから,この事情をもってしても,本件各証拠を証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないとまではいえない。
捜索差押許可状等の請求に至るまでの手続については,本件ビニール袋の発見経緯に前記

の疑いが残るという以外には,違法はなかった。その後,捜索差押
許可状を執行するまでの間被告人を本件現場に留め置いた措置自体は,違法であったというべきであるが,その違法は重大なものとはいえない。
これらの事情と,本件ビニール袋がもともと本件車両内になかったものであるとの疑いが残ることについての前記

の法的な評価を併せても,本件車両の捜索差押

えが違法な留め置きの結果を利用したものであることを理由として,本件薬物及び本件薬物に関する鑑定書の証拠能力を否定すべきとまではいえない。被告人による尿の任意提出手続自体に問題はなく,本件ビニール袋が本件車両内になかったとの疑いが残る点について前記

のように考えられる以上,被告人の尿に関する鑑定書

についても証拠排除すべき理由はない。
4
しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,
以下のとおりである。
証拠物の押収等の手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,これを証拠として許容することが,将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては,その証拠能力は否定されるものと解すべきである(最高裁昭和51年(あ)第865号同53年9月7日第一小法廷判決・刑集32巻6号1672頁参照)。
前記1の事実経過の下においては,本件各証拠の証拠能力を判断するためには,本件事実の存否を確定し,これを前提に本件各証拠の収集手続に重大な違法があるかどうかを判断する必要があるというべきである。しかるに,原判決は,本件ビニール袋がもともと本件車両内にはなかった疑いは残るとしつつ,その疑いがそれほど濃厚ではないなどと判示するのみであって,本件事実の存否を確定し,これを前提に本件各証拠の収集手続に重大な違法があるかどうかを判断したものと解することはできない。本件各証拠の証拠能力の判断において本件事実の持つ重要性に鑑みると,原判決には判決に影響を及ぼすべき法令の解釈適用の誤りがあり,これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。
よって,刑訴法411条1号により原判決を破棄し,同法413条本文に従い,本件を東京高等裁判所に差し戻すこととし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官戸倉三郎の補足意見がある。
私は,法廷意見に賛成するものであるが,本件各証拠の収集手続の違法性や証拠能力の有無に関して原判決が判示するところに鑑み,以下,補足して意見を述べる。
1
検察官請求に係る証拠の収集手続の違法を理由にその証拠能力が争われた場
合,裁判所は,収集手続の違法事由に関する弁護人の主張を踏まえ,当該証拠の収集に至る具体的状況を認定し,これを前提として収集手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があるかどうかを判断し(以下,このような判断を収集手続の違法判断という。),その際,収集手続の違法の重大性を基礎付ける事実の存否に争いがあれば,検察官が当該事実の不存在の立証責任を負い,その立証に失敗すれば,当該事実があったものとして収集手続の違法判断がされる。2
原判決は,法廷意見が引用する最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決の示した証拠能力に関する判断枠組みについて,その他の面では証拠能力を有する又は有し得る証拠について,将来における違法な捜査の抑制といういわば法政策的な見地に立って排除することが要請されるような状況(以下,原判決の説示に即して排除要請状況という。)が認められることが必要であるとした上で,法廷意見の3

及び

のとおり判示して,本件各証拠の証拠能力を認めた(本件の証拠

関係の下では,本件ビニール袋が本件車両内にもともとなかったのであれば,法廷意見でいう本件事実が認められるから,以下,両者を区別することなく本件事実という。)。3
原判決は,本件事実の存否を前提とした本件各証拠の収集手続の違法判断を
明示することなく,本件事実があった疑いは拭い去ることができないがその疑いはそれほど濃厚ではないことを指摘し,その程度にとどまる事情だけでは排除要請状況は認められないと判示している。法廷意見が判示するとおり,原判決は,本件各証拠の収集手続の違法判断の分水嶺となり得る本件事実について,立証責任に従ってその存否を確定することなく,本件事実があった疑いの程度を考慮して本件各証拠の証拠能力について判断したものというほかなく,法令の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない。
原判決のように,本件事実があった疑いの程度を考慮して排除要請状況の有無が判断されるということになると,当事者にとって立証命題が明確であるとはいえず,審理が複雑で不安定なものになる危険があろう。さらに,仮に裁判所の心証が立証責任に従えば本件事実があったと確定すべきものであった場合,これを前提に本件各証拠の収集手続の違法判断がされるべきであるのに,本件事実があった疑いの程度によっては排除要請状況が認められないとして本件各証拠の証拠能力を肯定することは,実質的に,検察官が本件事実の不存在の立証に成功したのと同じ効果をもたらすものであり,立証責任の原則にも反する結果となろう。検察官平光信隆,同溝口貴之
(裁判長裁判官


道晴

公判出席

裁判官

戸倉三郎裁判官

宮崎裕子

裁判官

宇賀克也

裁判官

長嶺安政)
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