判例検索β > 令和2年(わ)第80号
窃盗、道路交通法違反、殺人
事件番号令和2(わ)80
事件名窃盗,道路交通法違反,殺人
裁判年月日令和3年6月24日
裁判所名・部福島地方裁判所  郡山支部
裁判日:西暦2021-06-24
情報公開日2021-07-21 10:00:36
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主文
被告人を死刑に処する
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,平成31年3月,暴力行為等処罰に関する法律違反の罪で懲役1年6月に処せられ,福島刑務所でその執行を受けた。被告人は,釈放後に慣れた業種で就職することを希望し,知り合いの会社社長に手紙で頼むなどしたところ,雇用の約束を取り付けることができた。しかし,令和2年4月上旬頃,刑務所職員への反抗を理由に仮釈放が許可されないこととなり,前記雇用の約束も取りやめになった。同年5月29日,被告人は,満期釈放され,迎えに来た知人らから当面の生活費の援助を受けるなどした。同月30日,被告人は,前記社長を訪ね,改めて雇用を頼んだところ,直ちに雇用してもらうことはできなかったが,前記社長から,Aの屋号で解体土木業を営むBを紹介され,Bの下で二,三か月頑張って働き,改めて面接を受けに来るように言われた。被告人は,その日のうちに迎えにきたBらとともに,準中型貨物自動車(いすゞエルフ,ダブルキャブ型。以下本件トラックという。)に同乗して,Aの従業員寮まで移動し,同日入居した。被告人は,同日午後10時頃,寮の駐車場に駐車されていた本件トラックの鍵が共用部の壁に掛かっていることに気付いた。被告人は,横になったものの寝付けず,新しい人間関係,なじみのない土地及び未経験の解体土木作業などへの不安が募り,犯罪をして刑務所に戻りたいと考えるようになった。そして,行う犯罪について考えるうち,同月31日午前5時から午前6時頃までには,長く刑務所にいるために,本件トラックを2名くらいに衝突させて逃げようと考えるに至った。(罪となるべき事実)
被告人は
第1

令和2年5月31日午前7時30分頃,福島県郡山市a町b番地のc所在のA従業員寮駐車場において,同所に駐車中のB管理の準中型貨物自動車1台(本件トラック,時価約40万円相当。)を窃取し
第2

本件トラックを衝突させる歩行者を探して,同県郡山市内及び田村郡d町内を同車を運転して時速40キロメートル程度で進行中,進路前方右側を歩いていたC(当時55歳)及びD(当時52歳)を発見し,両名に同車を衝突させようと考え,両名を行き過ぎてから,進路前方の路外駐車場で転回し進行すると,同日午前7時55分頃,同県田村郡d町e番地付近道路において,進路前方左側の外側線付近を対向歩行中のC及びDに対し,殺意をもって,同車を時速約60ないし70キロメートルまで加速させながら進路前方左側へ寄せつつ走行させて,同車左前部をC及びDに衝突させ,Cを路外のり面に跳ね飛ばすとともに,Dを路上に転倒させて同車前後輪でれき過し,よって

1
Cに胸部下行大動脈不全離断等の傷害を負わせ,同日午前9時35分頃,同県郡山市f丁目g番h号E病院において,Cを前記傷害に基づく胸部大動脈損傷に伴う失血により死亡させて殺害し

2
Dに多発肋骨骨折,多発肺破裂及び心破裂等の傷害を負わせ,同日午前11時25分頃,同市i丁目j番地F病院において,Dを前記多発肋骨骨折による胸郭運動障害及び前記多発肺破裂に伴う呼吸不全並びに前記心破裂に伴う出血性ショックの競合により死亡させて殺害し

第3

公安委員会の運転免許を受けないで,同日午前7時55分頃,同県田村郡d町e番地付近道路において,本件トラックを運転し

第4

前記第3の日時頃,前記第3の道路において,本件トラックを運転中,前記第2のとおり,C及びDに傷害を負わせる交通事故を起こし,もって自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに,直ちに車両の運転を停止して,C及びDを救護する等必要な措置を講じず,かつ,その事故発生の日時,場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。
(争点に対する判断)
判示第2の事実について,被告人に殺意があったことは明らかであるが,検察官は,被告人に被害者らを殺害する意欲があったと主張するのに対し,弁護人は,被告人は被害者らが死ぬかどうか分からないが死んでも構わないという程度の認識であったと主張しており,その内容に争いがある。
被告人は,進路前方左側の外側線付近を歩行中の被害者らに対し,比較的重量のある本件トラックを,時速約60ないし70キロメートルまで加速させ,左側に寄せつつ進行して,その前部を被害者らに衝突させている。被告人は,その間,アクセルを踏み,途中でスピードメーターが時速60キロメートルと時速70キロメートルの間を示していることを確認した上,本件トラックの前部が被害者らに衝突するようにハンドルを的確に操作していた。また,被害者らに本件トラックを衝突させた後も,ガードレールに衝突しないようにハンドルを切って車体を立て直し,時速40キロメートル程度まで減速して進行した。
このような衝突態様からすると,被告人の行為は,被害者らをほぼ確実に死亡させる危険性があったと認められる。また,運転免許を取得してトラックを運転した経験があることに加え,前記のとおり的確な運転操作を行っており,相応の判断ができる状態にあったといえる被告人が,その危険性を認識できなかったとは考え難い。そうすると,被告人は,被害者らを死亡させる蓋然性が高いことを認識しながら,意図的に本件トラックを被害者らに衝突させたと認められ,弁護人が主張するような被害者が死ぬかどうか分からないが死んでも構わないといったあやふやな認識であったとは認められない。
他方,本件犯行の動機が長く刑務所に入りたいというものであったことからすると,被告人は,本件トラックを被害者らに衝突させる事件を起こすことに関心があり,被害者らの生死について無関心であったという可能性も否定できない。被告人は,捜査段階で,検察官に対し,殺そうと思っていたので加速させた,相手が確実に死ぬようにトラックの前の部分で人をはねた旨述べたことが認められる。しかし,逮捕直後は警察官に対し車で人をひけば刑務所に入れると思ったと述べ,殺そうという気持ちがあったことを明確に述べていなかった。そして,公判廷で,検察官から誘導的な質問を受けて,前記供述をしたと述べている。これらの事情からすると,検察官に対する前記供述は信用することができない。そうすると,十分な証拠はないから,検察官の主張も採用できない。
(累犯前科)
被告人は,⑴平成27年5月8日福島地方裁判所で公務執行妨害傷害及び器物損壊の罪により懲役1年10月に処せられ,平成29年1月6日その刑の執行を受け終わり,⑵その後犯した暴力行為等処罰に関する法律違反の罪により平成31年3月27日福島地方裁判所で懲役1年6月に処せられ,令和2年5月28日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は統合捜査報告書(乙19)及び前科調書(乙11)によって認める。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法235条に該当し,判示第2の所為は被害者ごとに刑法199条に該当するところ,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条(犯情に軽重がないのでその一つを選ぶことをしない)により1罪として殺人罪の刑で処断することとし,判示第3の所為は道路交通法117条の2の2第1号,64条1項に該当し,判示第4の所為のうち,救護義務違反の点は道路交通法117条2項,1項,72条1項前段に,報告義務違反の点は道路交通法119条1項10号,72条1項後段にそれぞれ該当するところ,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い救護義務違反の罪の刑で処断することとし,判示第1,第3及び第4の罪については,各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,前記の各前科があるので刑法59条,56条1項,57条によりそれぞれ3犯の加重をし,判示第2の罪については,所定刑中死刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法46条1項本文により判示第2の罪の死刑で処断し,他の刑を科さない。訴訟費用については刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
なお,自動車運転者が殺意に基づき車両の運転によって人を負傷させた場合であっても,殺人罪と救護義務違反等の罪とは,その罪質や成立時点を異にするから,両罪が成立するものと解される。
(量刑の理由)
1
当裁判所は,検察官が死刑を求刑したことに鑑み,死刑が求刑されたこれま
での裁判例の大まかな傾向に加え,裁判員裁判において死刑が求刑された裁判例のうち死亡した被害者が2名で殺人罪が含まれているものを中心に参照した。そして,死刑の選択上考慮されるべき要素及び各要素に与えられた重みの程度・根拠を裁判体の共通認識とした上で,それらを出発点として,本件において,死刑を選択することが真にやむを得ないと認められるかどうかについて検討した(なお,検察官及び弁護人が引用した裁判例も必要に応じて参照したが,検察官が引用した裁判例には,多くの被害者を殺傷した無差別大量殺人や被害者の遺体を解体して遺棄した事案など罪質の異なる事案,計画性の評価を誤認して引用された事案などが含まれていたため,それらの判決書の内容も確認して,慎重に吟味した。)。検討においては,中心となる殺人被告事件につき,次の要素を重視した。
2
罪質及び動機

本件は,無差別に狙った2名の被害者にトラックを衝突させて殺害した事件である。犯人とは一切の関係がなく,落ち度もない不特定の一般人を標的として生命を奪い去るもので,人命軽視の程度が甚だしく,被害者が突如の犯行を回避し難い点でも,罪質は極めて悪質である。このことは,日常生活の中で誰でも被害を受けかねないという不安感や恐怖感を一般に与えるものであって,社会に与える影響も大きい。
被告人は,新しい人間関係,なじみのない土地及び未経験の解体土木作業への漠然とした不安から,長く刑務所に入っていたいと考えて本件犯行に及んでおり,極めて身勝手かつ自己中心的な動機から犯行に及んだもので厳しい非難を免れない。前刑の出所後,知人らから当面の生活をするには十分な金銭的援助を受けた上,被告人自身も優しそうな印象を受けていた雇用主から仕事や住居を与えられていた状況にありながら,実際には一度も仕事に従事することすらせずに,無関係な第三者に危害を加えるに至っていることからすると,経緯にも酌むべき点は全くない。罪質や動機は人命軽視の度合いを示すと考えられるが,死刑求刑事例を検討すると,罪質が極めて悪質で利欲的ないし身勝手な動機に基づく犯行に死刑が宣告されている傾向がある一方,被害者との間にトラブルがあったり,犯行に精神障害が影響したりしたものは死刑が回避されている傾向がある。本件の罪質及び動機からすると,被告人の人命軽視の態度は顕著であって,死刑が宣告されている事例に匹敵するといえる。
3
計画性

被告人は,犯行に至る経緯のとおり,遅くとも犯行当日の午前6時頃までには,寮の駐車場にあった本件トラックを2名くらいに衝突させて逃げようという計画を立てて,その計画のとおり2名の被害者に本件トラックを衝突させている。確かに,本件においては,殺害を意欲していたわけではない上,具体的な犯行の場所等を想定しないなど場当たり的で稚拙な面があったことは否定できない。しかし,その計画は,鍵の在りかを知っている本件トラックを乗り出して犯行に及ぶというもので,想定した犯罪を完遂するのに十分であった。また,本件トラックを人に衝突させる計画の危険性を被告人が認識できなかったとは考え難く,被告人は,計画段階から犯行によって人が死亡する可能性が高いことを認識していたといえる。それにもかかわらず計画を実行に移した点で,人命軽視の度合いの強さが表れており,厳しく非難されるべきである。
死刑求刑事例を検討すると,殺人について高度の計画性がある場合に死刑が宣告される事例が多いが,計画性が十分になくても死刑になった事例もある。計画性が高い事案において犯情が重くなる理由は,生命侵害の危険性がより高いとともに人命軽視の度合いがより高いからと考えられる。本件の計画は,犯行完遂に十分で生命侵害の危険性を高めており,また,複数の人を死亡させる危険性をはらんだ計画で,その認識もあったのに,これを実行に移したことには,人命軽視の態度が表れているというべきである。そうすると,本件の計画が場当たり的で稚拙な面があることをもって死刑を回避すべき事情とは評価できない。
4
犯行の態様及び殺意の程度

被告人は,横にガードレールがあり逃げ場のない被害者らに対して,重量約2500キログラムの本件トラックを時速約60ないし70キロメートルまで加速させ,左側に寄せつつ正面からトラックの前部を衝突させており,その衝撃の大きさは被害者らが全身に何か所もの致死的創傷を負ったことから明らかであるといえる。犯行態様は,人を死亡させる危険性が極めて高い残虐な態様というほかない。また,争点に対する判断のとおり,被告人には,殺害の意欲こそなかったが,2名の被害者を死亡させる蓋然性が高いことを認識しながら意図的に本件犯行に及んでおり,殺意も明白である。
犯行の態様及び殺意の程度は,それらが相まって犯行の生命侵害の危険性と犯人の人命軽視の態度を示すものであるが,死刑求刑事例を検討すると,確実に生命を奪う執よう,残忍な態様で,殺害を意欲した強固な殺意に基づく場合に死刑が宣告される事例が多い一方,興奮状態での突発的な犯行については死刑を回避した事例があるものと考えられる。本件犯行態様は確実に生命を奪う残虐なものである。そして,被告人に殺害の意欲がなかったことを踏まえても,被告人は,被害者らを死亡させる蓋然性が高く,残虐な行為を選択し,強固な意思に基づいて実行している。このような被告人の認識や意思決定は,これまで死刑が選択されてきた事例と殺意の点でも大きな差はない。したがって,犯行の態様及び殺意の程度の点では死刑が宣告されている事例に匹敵するといえる。
5
結果

本件犯行により2名の被害者の尊い命が奪われた。C及びDは清掃ボランティアに参加して道路を歩いていただけで何らの落ち度もなく,突然理不尽に生命を奪われたもので結果は重大である。C及びDの遺族が非常に厳しい処罰感情を抱いていることは当然である。
6
以上の事情を総合すると,2名の命が奪われた重大事案であることを基礎
に,罪質が極めて悪質であって動機も身勝手かつ自己中心的で酌量の余地がないこと,犯行態様の残虐さや犯行遂行の意思の強固さが認められることを考慮すると,高度の計画性までは認められないことを踏まえても,被告人の刑事責任は誠に重い。被告人が事実を認め,被害者らの遺族に謝罪の言葉を述べていること,Dの遺族に対して10万円の被害弁償をしていることなどを最大限考慮しても,罪刑の均衡の見地からも,一般予防の見地からも,被告人に対しては死刑を選択することが真にやむを得ないとの結論に達した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

死刑,弁護人の科刑意見

無期懲役)

令和3年6月29日
福島地方裁判所郡山支部
裁判長裁判官

小野寺

裁判官

池上
裁判官

風間健太弘直樹
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