事件番号 | 令和2(わ)834 |
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事件名 | 強盗傷人,詐欺被告事件 |
裁判年月日 | 令和3年4月28日 |
裁判所名・部 | 札幌地方裁判所 |
判示事項の要旨 | 被告人が,共犯者と共謀の上,①知人を通じて呼び出した被害者の背後からいきなり両腕を回して抱き付き,床に投げ倒して転倒させ,頭部及び顔面を多数回殴る蹴るなどして,現金在中のバッグ1個を奪い,傷害を負わせた強盗傷人及び②100万円の持続化給付金詐欺の事案について,懲役5年を言い渡した事例(裁判員裁判) |
裁判日:西暦 | 2021-04-28 |
情報公開日 | 2021-07-07 12:00:35 |
被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人は, 第1 中小企業庁が所管する持続化給付金制度を利用して同給付金の名目で金銭を だまし取ろうと考え,氏名不詳者らと共謀の上,令和2年7月15日,札幌市(住所省略)被告人方において,被告人がインターネット回線に接続された携帯電話機を使用して,同庁から同給付金の給付申請の審査等について業務委託を受けた一般社団法人Aが開設した給付申請用ホームページに接続し,真実は,被告人が個人事業者ではなく,前年同月比の事業収入が50パーセント以上減少した月があるなどの事実が存在しないのに,被告人が個人事業者であり,同事実が存在し,同給付金の給付要件を満たすかのように装い,被告人がサービス業を営む個人事業者であり,売上減少月が令和2年3月,売上減少月の売上額が0円,売上減少月の前年売上額が8万7500円であるなどの虚偽の情報を入力するとともに,同入力内容に沿う内容虚偽の所得税確定申告書の控え,売上帳等の画像データを添付し,これらを送信して同給付金の給付申請をし,その頃,東京都内,愛知県内又は千葉県内において,同A事務局長補佐Bら審査担当者にこれらを閲覧させ,同給付申請が給付要件を満たす個人事業者からの正当な給付申請であると誤信させ,同年7月22日,前記Bに,被告人に対する同給付金100万円の給付を決定させ,よって,同月27日,同Aから業務委託を受けた株式会社Cの担当者に,株式会社D銀行E支店に開設された被告人名義の普通預金口座に現金100万円を振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させ,第2 Fと共謀の上,G(当時20歳)から金品を強取する目的で,同年10月2 3日午後7時18分頃,同市(住所省略)Hビル1階出入口通路において, 同人に対し,被告人が,その背後からいきなり両腕を回して抱き付き,前記Gを床に投げ倒して転倒させた上,床に倒れている同人の頭部及び顔面を足で多数回蹴り,拳で多数回殴るなどの暴行を加え,その反抗を抑圧し,同人所有の現金100万6220円在中のクラッチバッグ1個(時価約8万円相当)を奪い,その際,前記暴行等により,同人に加療約1週間を要する頭部・顔面打撲傷等の傷害を負わせた。 (法令の適用) 1 構成要件及び法定刑を示す規定 被告人の判示第1の所為は刑法60条,246条1項に,判示第2の所為は同法60条,240条前段にそれぞれ該当する。 2 刑種の選択 判示第2の罪について有期懲役刑を選択する。 3 併合罪の処理 刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に法定の加重をする。 4 酌量減軽 犯情を考慮し,刑法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をする。5 宣告刑の決定 以上の刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処する。 6 未決勾留日数の算入 刑法21条を適用して未決勾留日数中120日をその刑に算入する。7 訴訟費用の不負担 訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。(量刑の理由) 本件において量刑の中心として考慮すべき強盗傷人の犯行は,何よりも暴行の態様が,背後から不意を突いて被害者を後ろに投げ倒し,その頭部や顔面を十回余り にわたり全力で殴る蹴るなどした上,被害品を取り返そうと追い掛けてきた被害者に馬乗りになって首を絞めるなど,執拗かつ意欲的に危険性の高い暴行を加えるものである。そして,被告人らは,被害者が多額の現金を持ち歩いているとの情報に基づき現金を奪おうと考え,役割分担や襲撃場所・逃走経路を打ち合わせたほか,犯行当日は,知人を利用して何も知らない被害者を判示ビルに呼び出すなど,相応の計画に基づいて犯行に及んでおり,強盗傷人の完遂へ向けて強い意思を持っていた。こうした犯行により被害者が被った恐怖心等の精神的苦痛は大きく,被害額も多い。被告人の役割についてみると,被告人は,相応の分け前が配分されることを前提に,共犯者にあらかじめ暴行への強い意欲を示し,犯行時には,自ら臨機応変に事態に対応しつつ被害者に暴行を加えるなど,重要な役割を果たしている。被告人は,共犯者の口車に乗せられて負った多額の借金の返済に窮し,共犯者の誘いに乗って犯行に加わったというが,借金を負った経緯は自身の浅はかさに起因しており,誘いを断り得たにもかかわらず短絡的に返済原資欲しさに犯行に加わる決意をしたのであるから,非難の程度を減じることはできない。さらに,被告人が,迅速に給付されるように運営された持続化給付金制度の簡便さに組織的に付け込む悪質な詐欺に加担した点も見逃せない。 このように,本件各犯行に関する事情はかなり悪質である。もっとも,その評価に際し,強盗傷人に関し,被害者の傷害の程度が比較的軽いものにとどまったことや追いかけてきた被害者らに被告人が取り押さえられたことにより一旦は奪われた現金等が短時間で被害者の下に戻ったこと,詐欺に関し,被告人が,共犯者やその意を受けた者の指示に従って動く従属的な立場にすぎず,その取り分もだまし取った金額の1割にとどまること,両親の援助の下で詐取額全額を弁護人に預けてできる限り返還手続を進めたことは,被告人のために考慮できる事情といえる。この点を踏まえると,本件は,同種事案((処断罪)強盗致傷,(共犯関係等)共犯,(強盗の点)既遂,(犯行態様)路上強盗(ひったくり強盗を除く),(凶器等)なし,(処断罪と同一又は同種の罪の件数)1件,(傷害の程度)2週間以内)の 量刑傾向の中では,中程度からやや重い部類の間に位置付けられるといえる。その上で,犯行以外の事情についてみると,現在21歳と若年で前科もない被告人が各事実を素直に認め反省の態度を示しており,その更生への意欲に期待したいと考えられること,両親が,被告人に対して受容的に過ぎる面があって監督の実効性を期待するためにはより具体的な被告人の更生支援のプランを考え続ける必要があるとはいえ,社会復帰後の監督を誓約していることなどの事情も併せ考慮して,被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (検察官沼前輝英,同小沼智,国選弁護人佃七映(主任),同仲世古善樹席) (求刑 懲役8年,弁護人の科刑意見 懲役3年6月) 令和3年4月28日 札幌地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官 石田寿一 裁判官 古川善敬 裁判官 北村規哲 各出 |