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相続税更正処分等取消請求事件
事件番号令和2(行ヒ)103
事件名相続税更正処分等取消請求事件
裁判年月日令和3年6月24日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成30(行コ)46
原審裁判年月日令和元年12月4日
判示事項相続税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)55条に基づく申告の後にされた増額更正処分のうち上記申告に係る税額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した場合において,課税庁は,同法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をするに際し,当該判決の拘束力によって当該判決に示された個々の財産の価額等を用いて税額等を計算すべき義務を負うか(消極)
裁判日:西暦2021-06-24
情報公開日2021-06-24 18:00:04
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令和2年(行ヒ)第103号
令和3年6月24日

主1
相続税更正処分等取消請求事件

第一小法廷判決


原判決を次のとおり変更する。
第1審判決中,上告人敗訴部分を取り消し,同部分
につき被上告人の請求を棄却する。
第1審判決中,被上告人の訴えを却下した部分につ
いての上告人の控訴を棄却する。
被上告人の附帯控訴を棄却する。

2
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人清野正彦ほかの上告受理申立て理由について
1
原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
被上告人は,平成16年12月27日,被上告人の母が同年2月28日に死
亡したことにより開始した相続(以下本件相続という。)に係る相続税について,共同相続人であるきょうだい6人と共に申告(以下本件申告という。)をした。本件申告においては,遺産分割が未了であったため,相続税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)55条により法定相続分(各7分の1)に従って財産を取得したものとして課税価格の計算がされ,被上告人の課税価格は22億6374万4000円,納付すべき税額は10億7095万円とされた。
江東東税務署長は,平成19年2月13日,被上告人に対し,本件相続に係る遺産に含まれる第1審判決添付別表1の銘柄欄記載の株式(以下本件各株式という。)の一部の価額が過少であるなどとして増額更正処分をした。被上告人は,平成21年1月21日,東京地方裁判所に対し,被上告人の異議申立てを受けて東京国税局長により一部が取り消された後の上記増額更正処分のうち納付すべき税額が本件申告に係る納付すべき税額(10億7095万円)を超える部分の取消しを求める訴えを提起した。なお,江東東税務署長は,平成23年2月28日,被上告人に対し,課税価格を40億6089万円,納付すべき税額を19億7000万9300円として,上記の東京国税局長による一部取消し後の増額更正処分の一部を更に取り消す減額更正処分をした(以下,この減額更正処分により一部が取り消された後の上記増額更正処分を前件更正処分という。)。東京地方裁判所は,平成24年3月2日,前件更正処分のうち納付すべき税額が本件申告に係る納付すべき税額を超える部分を取り消す旨の判決を言い渡した。東京高等裁判所は,平成25年2月28日,上告人の控訴を棄却する旨の判決を言い渡し,同判決は確定した(以下,この判決を前件判決という。)。上記訴訟においては,本件各株式のうち,いわゆる取引相場のない株式であるA社の株式(以下A社株式という。)及びB社の株式(以下B社株式という。)の価額が争点となった。具体的には,①A社株式については,A社が財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56,直審(資)17国税庁長官通達。以下評価通達という。)にいう大会社(その株式の原則的な評価方法は類似業種比準方式とされている。)であることを前提に,例外的に純資産価額方式等により評価すべきものとされている株式保有特定会社に当たるか否かが争われ,②B社株式については,純資産価額方式で評価することを前提に,B社が保有しているA社株式の価額を踏まえた価額が争われた。前件判決は,評価通達における株式保有特定会社に関する判定基準の一部について合理性を認めることはできず,そのことを前提とするとA社が株式保有特定会社に当たるとは認められないから原則的な評価方法である類似業種比準方式により評価すべきものとした上で,A社株式の価額を1株当たり4653円,B社株式の価額を1株当たり3万1189円とそれぞれ認定した。これらの価額(ただし,B社株式については,前件判決における説示を前提に正しく計算した場合の価額である1株当たり1万9132円)は,前件更正処分における価額(A社株式につき1株当たり1万9002円,B社株式につき1株当たり6万4908円)のみならず,本件申告における価額(A社株式につき1株当たり1万1185円,B社株式につき1株当たり2万1009円)をも下回るものであった。また,本件各株式のうちその他の株式については,前件更正処分における価額とすることに当事者間に争いがないとして,前件判決においても当該価額を用いることとされ,その結果,被上告人の納付すべき税額は本件申告に係る税額を下回ることから,前件更正処分のうち本件申告に係る税額を超える部分が取り消された。
国税庁長官は,前件判決を受けて,評価通達における株式保有特定会社に関する判定基準の一部を改正し,平成25年5月,これを公表した。本件相続に係る遺産分割申立事件について,平成26年1月16日,東京家庭裁判所において調停(以下本件調停という。)が成立し,被上告人は,本件各株式につき各銘柄の7分の6を取得した。
被上告人のきょうだいのうち2名が,平成26年2月21日,本件調停の成立により取得した財産に係る課税価格が本件申告に係る課税価格と異なることを理由として相続税法32条1号の規定による更正の請求をしたところ,江東東税務署長は,同年6月20日,それぞれについて減額更正処分をした。
被上告人は,平成26年5月16日,江東東税務署長に対し,本件調停の成立を理由として,課税価格を9億6080万5000円,納付すべき税額を4億4199万0400円として,相続税法32条1号の規定による更正の請求をした。その際,被上告人は,本件各株式の価額を前件判決において認定された価額と同額(ただし,B社
く計算した場合の価額)として,税額等の計算をした。
江東東税務署長は,平
正の請求のうち株式の価額の減額を求める部分は,本件申告における株式の価額に係る評価の誤りの是正を求めるものであり,相続税法32条1号の規定する事由に該当しないこと等を理由として,更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下本人の本件申告に係る課税価格及び相続税額が本件調停により遺産分割が行われたことを基礎として計算した場合における課税価格及び相続税額と異なることとなるとして,同法35条3項1号に基づき,課税価格を49億0410万9000円,納付すべき税額を23億2567万1800円とする増額更正処分(以下「本件更正処分といい,本件通知処分と併せて本件更正処分等という。)をした。本件更正処分等においては,本件各株式の価額を本件申告における価額と同額として税額等の計算がされた。
2
本件は,被上告人が,上告人を相手に,本件更正処分等のうち,それぞれ納
付すべき税額が4億4689万9300円を超える部分の取消しを求める事案であり,本件申告における本件各株式の価額を用いて税額等の計算をした本件更正処分等の適法性が争われている。
3
原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,本件通知
処分に係る請求及び本件更正処分のうち本件申告に係る納付すべき税額を超える部分の取消請求を認容した。
前件判決は,遺産である本件各株式のうちA社株式及びB社株式の評価方法について判断し,それを用いるなどして算出した本件各株式の価額を基礎として課税価格及び納付すべき税額を計算して,前件更正処分のうち本件申告に係る納付すべき税額を超える部分が違法であるとの判断を導いたものであるから,本件各株式の評価方法ないし価額に係る前件判決の判断に行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生ずる。したがって,課税庁は,相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をするに当たり,前件判決における本件各株式の評価方法ないし価額を基礎として遺産分割後の課税価格及び納付すべき税額を計算しなければならない。
4
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。相続税額の計算は,①同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格(その者が当該相続等により取得した財産の価額の合計額)に相当する金額の合計額から基礎控除額を控除した金額を当該被相続人の民法所定の相続人が同法900条及び901条の規定による相続分に応じて取得したものとした場合における各取得金額に所定の税率を乗じて計算した金額の合計額である相続税の総額を算出した上で(相続税法16条),②これに,各相続人等に係る課税価格が当該財産を取得した全ての者に係る課税価格の合計額のうちに占める割合(以下取得割合という。)を乗ずることにより各相続人等に係る相続税額を算出するものとされている(同法17条)。
相続税の申告は,相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に行わなければならないものとされているところ(相続税法27条1項),遺産の全部又は一部が分割されていないときは,課税の遅滞を防止するなどの観点から,分割されていない財産については各共同相続人又は包括受遺者が民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算して申告をするものとされている(相続税法55条)。ただし,その後,当該財産の分割が行われ,当該分割により取得した財産に係る課税価格が民法の規定による相続分等に従って計算された課税価格と異なることとなったとの事由により上記申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは,上記申告を行った者は,当該事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り,更正の請求をすることができるものとされている(相続税法32条1号)。さらに,税務署長は,同号等の規定による更正の請求に基づき更正をした場合において,当該請求をした者の被相続人から相続等により財産を取得した他の者の申告に係る課税価格又は相続税額が当該請求に基づく更正の基因となった事実を基礎として計算した場合におけるその者に係る課税価格又は相続税額と異なることとなるとの事由があるときは,当該事由に基づき,その者に係る課税価格又は相続税額の更正をするが,この更正は,当該請求があった日から1年を経過した日と国税通則法70条の規定により更正をすることができないこととなる日とのいずれか遅い日以後においてはすることができないものとされている(相続税法35条3項1号)。
このように,相続税法32条1号及び35条3項1号は,同法55条に基づく申告の後に遺産分割が行われて各相続人の取得財産が変動したという相続税特有の後発的事由が生じた場合において,更正の請求及び更正について規定する国税通則法23条1項及び24条の特則として,同法所定の期間制限にかかわらず,遺産分割後の一定の期間内に限り,上記後発的事由により上記申告に係る相続税額等が過大となったとして更正の請求をすること及び当該請求に基づき更正がされた場合には他の相続人の相続税額等に生じた上記後発的事由による変動の限度で更正をすることができることとしたものである。その趣旨は,相続税法55条に基づく申告等により法定相続分等に従って計算され一旦確定していた相続税額について,実際に行われた遺産分割の結果に従って再調整するための特別の手続を設け,もって相続人間の税負担の公平を図ることにあると解される。
以上によれば,相続税法32条1号の規定による更正の請求においては,上記後発的事由以外の事由を主張することはできないのであるから,上記のとおり一旦確定していた相続税額の算定基礎となった個々の財産の価額に係る評価の誤りを当該請求の理由とすることはできず,課税庁も,国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後は,当該請求に対する処分において上記の評価の誤りを是正することはできないものと解するのが相当である。また,課税庁は,相続税法35条3項1号の規定による更正においても,同様に,上記の評価の誤りを是正することはできず,上記の一旦確定していた相続税額の算定基礎となった価額を用いることになるものと解するのが相当である。
処分を取り消す判決が確定した場合には,その拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により,処分をした行政庁等は,その事件につき当該判決における主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に従って行動すべき義務を負うこととなるが,上記拘束力によっても,行政庁が法令上の根拠を欠く行動を義務付けられるものではないから,その義務の内容は,当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られるものと解される。
そして,相続税法55条に基づく申告の後にされた増額更正処分の取消訴訟において,個々の財産につき上記申告とは異なる価額を認定した上で,その結果算出される税額が上記申告に係る税額を下回るとの理由により当該処分のうち上記申告に係る税額を超える部分を取り消す旨の判決が確定した場合には,当該判決により増額更正処分の一部取消しがされた後の税額が上記申告における個々の財産の価額を
照らして,国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後においては,当該判決に示された価額や評価方法を用いて相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をする法令上の権限を有していないものといわざるを得ない。
そうすると,上記の場合においては,当該判決の個々の財産の価額や評価方法に関する判断部分について拘束力が生ずるか否かを論ずるまでもなく,課税庁は,国税通則法所定の更正の除斥期間が経過した後に相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する処分及び同法35条3項1号の規定による更正をするに際し,当該判決の拘束力によって当該判決に示された個々の財産の価額や評価方法を用いて税額等を計算すべき義務を負うことはないものというべきである。以上説示したところによれば,本件更正処分がされた時点で国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの)所定の更正の除斥期間が経過していた本件においては,江東東税務署長は,本件更正処分をするに際し,前件判決に示された本件各株式の価額や評価方法を用いて税額等の計算をすべきものとはいえず,本件申告における本件各株式の価額を基礎として課税価格及び相続税額を計算することとなるから,本件更正処分は適法である。なお,被上告人は,相続税の総額の計算においては本件申告における本件各株式の価額を用いるとしても,各相続人の取得割合の計算に当たっては前件判決に示された価額を用いるべきであるとも
相続税の総額の計算と同様に課税価格に基づいてするものとされていること等からすれば,上記の主張は理由がない。
5
以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反があり,論旨はこれと同旨をいうものとして理由がある。
また,相続税法55条に基づく申告の後に遺産分割が行われた場合における特定の相続人による同法32条1号の規定による更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分と当該相続人に対する同法35条3項1号の規定による増額更
の変動という相続税特有の後発的事由を基礎としてされた同一相続人に対する処分であり,上記増額更正は,一旦確定していた税額を当該遺産分割が行われたことを理由に増額させて確定する処分であるから,当該遺産分割に伴い税額を減額すべき理由はないという上記通知処分の内容を実質的に包摂するものということができる。加えて,上記更正の請求がされているため,当該相続人は,上記増額更正の取消訴訟において,上記更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることが可能であると解される。そうすると,本件通知処分については,その取消しを求める利益はなく,本件訴えのうち本件通知処分の取消しを求める部分は不適法であるから,却下すべきである。
したがって,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れず,以上説示したところに従い,原判決を主文第1項のとおり変更することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官
木澤克之

深山卓也

裁判官

山口

裁判官

池上政幸

厚)
裁判官

小池


裁判官

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