判例検索β > 令和2年(ネ)第10019号
特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号令和2(ネ)10019
事件名特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日令和3年5月19日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2021-05-19
情報公開日2021-06-23 16:03:52
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令和3年5月19日判決言渡
令和2年(ネ)第10019号

特許権侵害差止等請求控訴事件(原審

裁判所平成28年(ワ)第4815号)
口頭弁論終結の日

令和3年2月8日
判決
控訴人兼被控訴人

株式会社神戸製鋼所
(以下一審原告という。)

訴訟代理人弁護士

松本好史同松井保仁同岩崎浩平
被控訴人兼控訴人

株式会社前川製作所
(以下一審被告という。)

訴訟代理人弁護士

清水同渡邉佳行同奥田洋平同山崎順一同金子同平井佑希
訴訟復代理人弁護士

熊澤明彦
訴訟代理人弁理士

石橋克之同大木利恵主文節明
大阪地方

1
一審被告の本件控訴に基づき,原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
2
前項の取消しに係る一審原告の請求を棄却する。

3
一審原告の本件控訴を棄却する

4
訴訟費用は,第1,2審を通じ,一審原告の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
一審原告の控訴関係


原判決を次のとおり変更する。



一審被告は,一審原告に対し,126億2356万2116円及びうち原判決別紙請求金額一覧表の各番号に係る損害賠償金欄記載の各金員に対する同別紙遅延損害金起算日欄記載の各日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
一審被告の控訴関係
主文第1,2項と同旨

第2
1
事案の概要等(略語は原判決のそれに従う。)
本件は,発明の名称を油冷式スクリュ圧縮機とする特許(本件特許)の特許権(本件特許権)を有していた一審原告が,一審被告の製造,販売に係る原判決別紙被告製品目録記載1及び2の各製品は本件特許の特許請求の範囲請求項1に係る発明
(本件発明)
の技術的範囲に属するとして,
一審被告に対し,
本件特許権侵害の不法行為(予備的に,一審原告の営業上の利益を侵害する不法行為)に基づき,損害賠償金126億2356万2116円及びうち原判決別紙請求金額一覧表の損害賠償金欄記載の各金員に対する不法行為後の日である同別紙の遅延損害金起算日欄記載の各日から各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前。以下,同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,一審原告の請求を,13億7971万0087円及びうち原判決別紙認容金額一覧表の各番号に係る損害賠償金欄記載の各金員に対する同別紙遅延損害金起算日欄記載の各日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却した。これに対し,一審原告及び一審被告の双方が控訴した。
2
前提事実


前提事実は,原判決事実及び理由第2の2(原判決2頁7行目から4頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。



本件発明を構成要件に分説すると次のとおりである。
A
油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方,

B
スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,

C
吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,

D
上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,かつ

E
上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け,

F
このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成した

G


ことを特徴とする油冷式スクリュ圧縮機。
本件明細書(図面も含む。)の記載は別紙特許公報((B2)特許第376
6725号)のとおりである。
3
争点及び争点に関する当事者の主張
本件における争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記第3のとおり当審における主張を付加するほかは,原判決事実及び理由第2の3及び第3(原判決4頁11行目から28頁7行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。


原判決4頁12行目の後に行を改めて次のとおり加える。
⑶⑷時機に後れた攻撃防御方法(争点3)本件発明と乙114に記載された発明(以下「乙114発明という。

との対比(争点4)



乙114発明に乙1,乙3,乙120及び乙121に記載された周知技術を適用することによる本件発明の容易想到性(以下無効理由1ということがある。)(争点5)



乙114発明からポンプを省略することによる本件発明の容易想到性(以下無効理由2ということがある。)(争点6)



乙5に記載された発明(以下乙5発明という。)に乙114に記
載された構成を適用することによる本件発明の容易想到性(以下無効理由3ということがある。)(争点7)」(乙5と乙121は同じ文献であるが,周知技術の根拠として用いる場合
(前記⑸)
は乙121と表示し,
主引用例として用いる場合
(前記⑺)
は乙5と表示する。)

⑵ア

原判決5頁13行目の後に行を改めて次のとおり加える。
本件発明は,「逆スラスト荷重状態となりスクリュロータ11,12を吐出側に押すようになるという課題を解決するため,バランスピストンにPd+αではなく吐出圧力Pdを作用させる構成(均圧流路)を採用した。そして,ロータや軸受には潤滑・冷却のために油を供給できれば足りるから,油が必ず加圧流路(Pd+α)により導かれなければならないという論理的・技術的必然性はない。本件明細書において,ロータや軸受に油ポンプにより加圧された油を供給する構成や加圧流路は,実施例に関連して言及されたにとどまり,それによって本件発明の技術的範囲が限定解釈されることはない。構成要件Fは機能的クレームではないからその技術的範囲を限定解釈する必要はない。本件発明は,スラスト力軽減と逆スラスト荷重状態発生防止との両立を課題としてこれを解決する発明である。そうすると,本件発明のスクリュ圧縮機は,油ポンプを備えるものに限られない。」

原判決10頁12行目の後に行を改めて次のとおり加える。
構成要件Fは,機能的クレームであり,明細書に開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて発明の技術的範囲を確定すべきものであるから,油ポンプにより加圧された油を供給する油供給経路があることを前提に,それと別に当該油供給経路から分岐させた流路を別途設けることを意味すると解すべきである。油ポンプのないスクリュ圧縮機には逆スラスト荷重状態は発生しない。そうすると,本件発明のスクリュ圧縮機は,油ポンプを備えるものに限られる。
⑶ア

原判決15頁14行目の主位的主張を特許法102条2項に基づく主張に改める。

原判決15頁18行目の含めを除きに改め,
●●●●を●●●●に改める。


原判決16頁25行目冒頭から26行目末尾までを次のとおり改める。

なお,593番代替機及び6048番転用機については,特許法102条3項による損害を主張する。



原判決17頁22行目冒頭から26行目末尾までを次のとおり改める。

そうすると,NewTonシステム(593番代替機及び6048番転用機を除く。)の販売利益は,原判決別紙「NewTonシステムの利益額算定表(1)

~NewTonシステムの利益額算定表(4)の定価-原価(小計)欄各記載のとおりであり,それらの合計は,別紙損害額算定表(2項に関して)の損害額(45H1490SSC/SMC及び65H140Sに関して)(A+B)欄記載のとおり,●●●●●●●●●●●●●●であり,これに消費税額相当分を加算すると,同別紙の損害額(45H1490SSC/SMC及び65H140Sに関して,消費税額相当分加算)欄記載のとおり合計●●●●●●●●●●●●●●となる。」

原判決18頁3行目の●●●●から4行目末尾までを次のとおり改める。
●●●●●●●●●●●●●●を下らない(別紙「損害額算定表(2項に関して)の損害額(45H1490SSC/SMC及び65H140Sに関して,消費税額相当分加算,推定覆滅率考慮)((A+B)×1.08×0.9)欄参照)」



原判決21頁3ないし4行目の11億4759万6553円を11億3113万5509円と改める。

原判決21頁4行目の後に行を改めて次のとおり加える。
ウ特許法102条2項に基づく損害額特許法102条2項に基づく損害額は,別紙「損害額算定表(2項に関して)の損害額(45H1490SSC/SMC及び65H140Sに関して,消費税額相当分加算,推定覆滅率考慮,弁護士費用相当損害金加算)((A+B)×1.08×0.9×1.10)=遅延損害金の元本欄記載のとおりであり,その合計は●●●●●●●●●●●●●●である。」


原判決21頁5行目のウをエに改める。


原判決21頁9行目の(別紙「損害額算定表(原告主張)の⑤欄参照)」を(別紙「損害額算定表(2項に関して)の遅延損害金起算日欄参照)」と改める。

原判決21頁10行目の予備的主張を特許法102条3項に基づく主張と改める。

原判決21頁11行目冒頭から22頁11行目末尾までを次のとおり改める。
ア593番代替機及び6048番転用機に係る販売について,特許法102条3項に基づく損害額を主張し,NewTonシステムの販売に関し,同条2項の推定覆滅部分について同条3項に基づく損害額を主張し,侵害品の譲渡等全部に関して,予備的に同条3項に基づく損害額を主張する。イ593番代替機及び6048番転用機に係る損害額593番代替機の売上高は●●●●●●,6048番転用機の売上高は●●●●●●であり,相当実施料率は5%,消費税額相当分は5%,弁護士費用相当損害金は10%,遅延損害金は年5%(593番代替機についての起算日は平成24年12月31日,6048番転用機についての起算日は平成25年12月31日)である。弁護士費用を含む損害額は,別紙「損害額算定表(3項に関して)の損害額(45H1490SSC/SMC及び65H140Sに関して,相当実施料率,消費税額相当分加算,弁護士費用相当損害金加算)((A+B)×0.05×(1.05or1.08)×1.10)=遅延損害金の元本欄番号6,8記載のとおりであり,593番代替機につき●●●●●●●●●,6048番転用機につき●●●●●●●●●である。


特許法102条2項の推定覆滅部分についての同条3項に基づく損害額
本件特許権を侵害する侵害品の売上高は,別紙損害額算定表(3項に関して)の売上高(45H1490SSC/SMCに関して)(A)欄,売上高(65H140Sに関して)(B)欄,売上高(45H1490SSC/SMC及び65H140Sに関して)(A+B)欄のとおりであり,特許法102条2項の推定覆滅部分についての同条3項に基づく損害額は,同条2項の推定覆滅部分に相応する侵害品(同条3項による損害が請求されている593番代替機及び6048番転用機は除く。の総売上高に相当実施料率5%を乗じ,

消費税額相当分
(5%
又は8%),弁護士費用相当損害金(10%),遅延損害金年5%(遅延損害金起算日は別紙損害額算定表(3項に関して)の遅延損害金起算日欄記載のとおりである。を加算して計算すべきである。


侵害品の譲渡等全部に関する予備的主張
侵害品の売上高は別紙損害額算定表(3項に関して)の売上高(45H1490SSC/SMC及び65H140Sに関して)(A+B)欄に記載のとおりであり,総売上高は●●●●●●●●●●であり,相当実施料率を5%,消費税額相当分を5%又は8%(平成26年3月31日以前の売上高には5%,同年4月1日以降の売上高には8%が適用される。),弁護士費用相当損害金を10%として計算すると,損害額は,同別紙の損害額(45H1490SSC/SMC及び65H140Sに関して,相当実施料率,消費税額相当分加算,弁護士費用相当損害金加算)((A+B)×0.05×(1.05or1.08)×1.10)=遅延損害金の元本欄のとお
りであり,その合計額は●●●●●●●●●●●●●であり,同別紙の遅延損害金起算日欄記載の各日から各損害額につき年5%の遅
延損害金を請求する。



損害のまとめ
593番代替機及び6048番転用機を除くNewTonシステムについての特許法102条2項に基づく損害額,593番代替機及び6048番転用機の同条3項に基づく損害額,並びに同条2項の推定覆滅部分についての同条3項に基づく損害額の合計のうち請求額(前記第1の1⑵)を請求し,侵害品の譲渡等全部についての同条3項に基づく損害額を予備的に請求する。」


原判決28頁2行目の593番から4行目末尾までを次のとおり改める。
一審原告の,593番代替機及び6048番転用機に係る販売についての特許法102条3項に基づく損害額の主張,NewTonシステムの販売に関し,同条2項の推定覆滅部分について同条3項に基づく損害額を主張するとの主張,侵害品の譲渡等全部に関する同条3項に基づく損害額の予備的主張は,いずれも争う。第3

当審における主張

1
争点3(時機に後れた攻撃防御方法)


一審原告の主張
一審被告による本件特許の無効主張(無効理由1,2を含む。)は,原審の令和元年9月5日の弁論準備手続期日において,時機に後れた攻撃防御方法として却下された。一審被告による当審における無効主張(無効理由1,2,3)も,一審被告の故意または重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であり,これにより訴訟の完結を遅延させるから,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきである。また,信義誠実の原則(民事訴訟法2条)に反するものとして却下すべきである。



一審被告の主張
一審原告の主張は争う。

2
争点4(本件発明と乙114発明との対比)


一審被告の主張

乙114発明
乙114は別紙特許公報(特許出願公告昭51-36884)のとおりであり,その記載によれば,乙114発明は次のとおりである。
吐出流路において,オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出すとともに,おすロータ12の両側に延びる軸部分63,66をラジアルスリーブタイプのベアリング52,54により回転可能に支持して,モータに接続される入力軸を低圧側の軸部分66とし,おすロータ12の高圧端部分63を上記ベアリング54よりもおすロータ12から離れた位置にてアンギユラコンタクトボールベアリング56により回転可能に支持するとともに,上記アンギユラコンタクトボールベアリング56よりもおすロータ12から離れた位置にて上記高圧端部分63にスラストピストン62を取り付け,このスラストピストン62の上記アンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラストピストン室60に,高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を,ポンプ140を経由して導く経路(136,138,142,144,134,168,166,172)を設けて形成した液体噴射スクリユウコンプレツサ。

本件発明と乙114発明の一致点と相違点は次のとおりである。(ただし,相違点1,2が実質的な相違点か否かについては後記のとおり争いがある。)
(ア)

一致点

吐出流路において,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油が分離された圧縮ガスを送り出す一方,スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,このバランスピストンのスラスト軸受側の空間に,油を導く経路を設けて形成した油冷式スクリュ圧縮機。の点。(イ)a

相違点1

吐出流路において,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油が分離された圧縮ガスを送り出すに関して,本件発明においては,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設けるであるのに対して,乙114発明においては,吐出流路において,オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出すとされているものの,何で高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出しているのかについては不明である点。
b
相違点2
本件発明においては,上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設けており,また,このバランスピストンのスラスト軸受側の空間に,油を導く経路を設けて形成したものであるのに対し,乙114発明においては,アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピストン62との間に圧力遮断する仕切り壁を設けているか否か不明である点。

c
相違点3
バランスピストンのスラスト軸受側の空間に,油を導く経路を設けて形成したことに関して,本件発明においては,バランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く」均圧流路を設けて形成したのに対し,乙114発明においては,スラストピストン62の上記アンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラストピストン室60に,高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を,ポンプ140を経由して導く経路(136,138,142,144,134,168,166,172)を設けて形成した点。⑵一審原告の主張乙114発明の内容,本件発明と乙114発明の一致点,相違点は争わない。(ただし,相違点1,2が実質的な相違点か否かについては後記のとおり争いがある。)3争点5(無効理由1)(乙114発明に乙1,乙3,乙120及び乙121に記載された周知技術を適用することによる本件発明の容易想到性)⑴一審被告の主張ア相違点1(油分離回収器)について乙114には,高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出す点に関して,「油分離回収器を用いることは明記はされていないが,油冷式スクリュ圧縮機において,そのような油分離回収器を備えることは技術常識であるから,乙114発明においても油分離回収器を備えることは技術常識から明らかである。したがって,相違点1は実質的な相違点ではない。


相違点2(圧力遮断する仕切り壁)について
本件発明は圧力遮断する仕切り壁と規定するのみで,どの程度圧力を遮断するのか,どの程度液体の漏れが生じるのかといった点は,特許請求の範囲はもちろん,
本件明細書にも一切特定されていない。
そうすると,
本件発明の要旨としては,文字どおり圧力が一定程度遮断されていれば(仕切り壁の左右で圧力に差があれば),圧力遮断する仕切り壁に当たると解すべきである。
乙114発明の部品7,5,4は,スラストピストン室60と,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に存在し,スラストピストン室60と,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間には圧力差があるから,部品7,5,4は,圧力遮断する仕切り壁に当たる。したがって,相違点2は実質的な相違点ではない。

相違点3(非加圧流路)について
(ア)

乙114発明に,乙1,乙3,乙120及び乙121に記載された
周知技術を適用し,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(以下手段1ということがある。)により相違点3に係る本件発明の構成を採用することは,容易に想到することができた。その理由は,後記(イ)のとおりである。
(イ)a

乙1,乙3,乙120及び乙121に記載された周知技術
乙1,
乙3,
乙120及び乙121には,
スクリュ圧縮機において,

バランスピストンに圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることが記載されていたものであり,
それは,
本件特許の出願日前に周知の技術事項であった。
b
加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)の採用と乙114発明の技術思想
(a)

空所134への液体の集約
乙114発明の本質は,取り外し自在な低圧ケース98及び/又

は高圧ケース114を採用することにより,従来技術のような重く,大きく,
複雑なハウジング構造を改良したところにある。
そのため,
空所134へ液体を集約することは乙114発明の本質ではなく,空所134を経由しない経路を設ける手段を適用することによっ
て,液体を集約するという空所134の役割の一部が発揮されなくなるとしても,そのことは,乙114発明の技術思想に反することはない。
(b)

外部への漏出防止
乙114発明の特徴は,低圧ケース及び/又は高圧ケースで覆う

という点にあり,
乙114発明の高圧ケース114の役割は
外部
へのオイル漏れを最少にすることであって,ケース内部の構造
を問うものではない。乙114の図7を見ても,低圧ケースや高圧ケースの内部には,パイプが枝分かれしており,多くの接合部分が存在し,このような接合部分からはオイル漏れが生じる可能性はあるが,乙114発明において重要なのは,ケース外部にオイル
が漏れないことであって,ケース内部においてオイル漏れが生
じたとしても,オイルは単にケース98と114の内部に形成された室内に流れ込むだけで外部にまで漏れてしまうわけではないか
ら,それによって乙114発明の目的が失われるものではない。乙114発明において,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)を採用することは,乙114発明の高圧ケース114の内部の構造をわずかに変更する程度のものにす
ぎないから,乙114発明の技術思想に反することはない。
c
加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)を乙114発明に採用することについての阻害事由
(a)

スラストピストン62,
アンギユラコンタクトボールベアリング

56へ液体が供給されなくなることによるコンプレツサ10の機能不全
本件発明の出願時点では,
スラストピストン
(バランスピストン)
について,ポンプで加圧しなくとも,ロータに加わるスラスト力を基準に受圧面積等を適宜調整して設計することにより,当該スラスト力を適切に軽減させることが可能であったから(例えば,乙1,乙3,乙120及び乙121),スラストピストン室60への液体をポンプで加圧しなくとも,コンプレツサ10が機能しなくなることはない。
乙114には,アンギユラコンタクトボールベアリング56への
液体供給が,スラストピストン室60から部品7,5の貫通穴等を経由して行われていることの開示はない。アンギユラコンタクトボールベアリング56への液体供給は,より高圧で圧力ロスの少ないベアリング54の方から行われると解される。
(b)

フイルタ146を経由しないことによるコンプレツサ10の機

能不全
加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設けても,ス
ラストピストン室60に供給される液体は,流路を循環する中で,それ以外の箇所に供給され,その過程でフイルタ146を経由し,異物はフイルタ146によって適切に除去されるから,コンプレツサ10が機能不全に陥ることはない。なお,一度流路を循環した液体がフイルタ146を経由せずにスラストピストン室60に供給
される場合があり得るとしても,コンプレツサ10はそれによって機能不全を生じるようなものではない。
(c)

非加圧の経路を設ける動機付け
逆スラスト力の発生という課題は,
従前から周知であり,
それが,

バランスピストンのピストン室にポンプで加圧されたオイルを供給することによって生じることは,その作用機序からして明らかであり,その課題解決のためにバランスピストンのピストン室にオイルを加圧しないで供給すればよいことは自明な事柄であり周知であった。現にスクリユウコンプレツサの技術分野における当業者は,逆スラスト力の課題を認識し,バランスピストンのピストン室にオイルをポンプで加圧することなく
(吐出圧Pdに応じた力で)
供給する
ことで,逆スラスト力の課題を解決していた(乙1,乙3,乙120,乙121)。
乙114にポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ,(9欄41~43行目),

圧力軽減バルブ164は,空所134中の液体圧を制限し,ケース114の空間116に液体を送り込むように働く。(1

0欄24~27行目)との記載があることから理解できるように,乙114発明においても,スラストピストン62に過大な力を与えてしまうと逆スラスト状態となってしまうという課題を認識して
おり,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧とすることとし,また過大な力が加わることを防止するために圧力軽減バルブ164を設けている。そのため,乙114発明に逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという
動機付けはある。
d
容易想到性
乙114発明は,逆スラスト力の発生という周知の課題を有しており,スクリュ圧縮機において,バランスピストンのピストン室に油を加圧することなく供給することは本件特許の出願日前に周知の技術事項であったから(乙1,乙3,乙120,乙121),乙114発明の上記課題を解決するために,上記の周知の技術事項を適用して,スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とし,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)を採用することは,当業者が容易に想到することができた。



一審原告の主張

相違点1(油分離回収器)について
相違点1は乙114発明と本件発明の実質的な相違点である。


相違点2(圧力遮断する仕切り壁)について
(ア)

相違点2が実質的な相違点であるかについて
乙114発明において,アンギユラコンタクトボールベアリング56
には,その温度上昇による損傷を防止するために,スラストピストン室60から液体(ベアリングを冷却する前の油)を供給し続ける必要がある。そのため,アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピストン室60との間に介在する部品7,5,4は,部品7,5に貫通穴が設けられ,
それらの貫通穴が互い連通されているという構成であり,
また,部品4は,その内側の空間を介してアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された領域と空間的に連通されているという構成であるから,部品7,5,4をもって,圧力遮断する仕切り壁ということはできない。
さらに,スラストピストン62が,ポンプ140で充分に液体圧を増加せしめられた液体の供給を受け,ロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺するという機能を実現するために要求されるのは,スラストピストン62のロータ側に作用する圧力,つまりスラストピストン室60の圧力が,スラストピストン62の反ロータ側に作用する圧力,つまり室174の圧力よりも高いことである。部品7,5,4が圧力遮断する仕切り壁に相当する部品でなくとも,
スラストピストン室60は室174よりも高圧であるため,
上記機能は実現される。そうすると,部品7,5,4は圧力遮断する仕切り壁に相当するものではなく,相違点2は本件発明と乙114発明の実質的な相違点である。
(イ)

相違点2が実質的な相違点であることを前提とする進歩性判断

乙114発明において,圧力遮断する仕切り壁を設け,相違点2に係る本件発明の構成とすることは,アンギユラコンタクトボールベアリング56に対する積極的な液体供給を実現するために部品7,5に敢えて貫通穴を設けたという貫通穴の採用意義に反し,アンギユラコンタクトボールベアリング56に対する積極的な液体供給を妨げるものであるから,当業者が容易に想到することはできなかった。したがって,本件発明には進歩性がある。

相違点3(非加圧流路)について
(ア)

乙114発明に,乙1,乙3,乙120及び乙121に記載された
周知技術を適用し,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)により相違点3に係る本件発明の構成を採用することは,容易に想到することはできなかった。その理由は,後記(イ)のとおりである。
(イ)a

乙1,乙3,乙120及び乙121に記載された周知技術
一審被告の主張は争う。

b
加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)の採用と乙114発明の技術思想
一審被告の主張は争う。
(a)

空所134への液体の集約
乙114は,乙114発明が,改良された液体分布機構とし

て,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をいったん空所134に集約した上でコンプレツサ内の必要な全ての個所(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,乙114発明の改良された液体分布機構においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,
コンプレツサ内に存在しない。
したがって,
スラストピストン室60についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所134を介することなく供給するなどという
構成は,乙114発明の技術思想に反するものであって,乙114発明への適用が排斥されている。
(b)

外部への漏出防止
また,乙114発明は,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏
れという課題の解決のために,中間ハウジング30内の空所134,ポンプ140等により構成される改良された液体分布機構を備
え,
ハウジングのジヨイントを最少とするケースを備える。
そして,
コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れを減少させるためには,そもそも,内部における液体分布機構も改良してガス及び液体の漏れを減少させることが必要又は有益であるところ,乙114発明において,スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とすべく,例えば,パイプ138を分岐させ,パイプを増加させ,当該パイプをパイプ172に接続することは,乙114発明の改良された液体分布機構にとって著しく不合理な構成であり,このような構成を採用することは,乙114発明の技術思想に反する。
c
加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)を乙114発明に採用することについての阻害事由
一審被告の主張は争う。
(a)

スラストピストン62,
アンギユラコンタクトボールベアリング

56へ液体が供給されなくなることによるコンプレツサ10の機能不全
ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充
分なだけの液体圧を増加せしめるものであるところ,乙114発明において,スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとするならば,ポンプ140により液体圧を充分に増加せしめることができず,スラストピストン62に適当な力を与えることができないため,スラストピストン62のスラスト荷重への対抗が不全となり,コンプレツサ10が機能しなくなる。
また,乙114発明は,液体が加圧されてスラストピストン室6
0に供給され,部品7,5の貫通穴等を経由してアンギユラコンタクトボールベアリング56に供給されるところ,乙114発明において,スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとするならば,アンギユラコンタクトボールベアリング56に液体を供給し続けることができなくなって,アンギユラコンタクトボールベアリング56は,その温度が許容温度を超えて上昇して損傷し,コンプレツサ10が機能しなくなる。
(b)

フイルタ146を経由しないことによるコンプレツサ10の機

能不全
加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設けると,ス
ラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂回
することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属くず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不純物等)がスラストピストン室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいてはコンプレツサ10が機能不全に陥る。乙114発明において,スラストピストン室60に液体を供給する構成を,ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの,他のフイルタを通過してスラストピストン室60に至る構成に改変しようとす
ると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体パイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,乙114発明がコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因がある。
(c)

非加圧の経路を設ける動機付け
乙114の

ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧力を増加せしめ,またコンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。

(9欄41~44行目)という記載は,当業者が読めば,スラスト荷重に対抗する力をスラストピストン62に与えるためにポンプ140が
液体圧を増加することを述べていると認識するにすぎず,逆ス
ラスト荷重状態の解消という課題を何ら示唆するものではない。また,乙114には,スラストピストン62について,

コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60に導びかれて,ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。

(6欄22~25行目)と記載されているものの,逆スラスト荷重状態の解消には何ら言及されていない。したがって,乙114には,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題について記載も示唆もなく,乙114発明に,逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けはない。
また,乙114発明において圧力軽減バルブ164が設けられて
いる目的は,乙114の10欄24~26行目に圧力軽減バルブ164は,空所134中の液体圧を制限しと記載されていることからして,中間ハウジング30の破損の原因となりかねない空所134の過剰な昇圧を防止するために空所134の圧力を制限する
ことであり,逆スラスト荷重状態を解消することではない。そのため,圧力軽減バルブ164が設けられていることは,乙114発明に逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機
付けがあることを示すものではない。
d
容易想到性
一審被告の主張は争う。
乙114発明と,一審被告が乙1,乙3,乙120及び乙121に記載されていると主張する技術事項には,課題,作用及び機能の共通性はなく,乙114にそのような技術事項を適用する示唆もなく,これまで述べたように,乙114発明に加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)を採用することは,乙114発明の技術思想に反し,阻害事由があり,動機付けがないから,乙114発明に,一審被告が乙1,乙3,乙120及び乙121に記載されていると主張する技術事項を適用して相違点3に係る本件発明の構成を容易に想到することはできなかった。
4
争点6(無効理由2)(乙114発明からポンプを省略することによる本件発明の容易想到性)


一審被告の主張

乙114発明において,加圧ポンプ140を採用せず,液体を加圧せずに空所134に供給する手段(以下手段2ということがある。)により相違点3に係る本件発明の構成を採用することは,容易に想到することができた。その理由は,後記イのとおりである。

イ(ア)

油ポンプを省略する動機付け
乙114に係る特許は昭和47年(1972年)に出願され,本件特
許が平成8年
(1996年)
に出願されるまでに約25年経過しており,
その間に技術水準が変化した。
スクリユウコンプレツサの技術分野では,
乙114に係る特許の出願時にはスリーブタイプの軸受が用いられており,そのため油ポンプが必要であったが,その後,ころ軸受,玉軸受が普及し,軸受へ油を供給するためのポンプが不要になり,高効率化の要請もあり,油ポンプを採用せず,バランスピストン室に非加圧で油を供給するものが一般的になってきた。
乙114の

ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ,またコンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。

(9欄41~44行目)という記載は,コンプレツサにポンプが設けられる場合のポンプの一般的役割を説明したものにとどまり,乙114発明にポンプが必要であることを示すものではなく,
乙114の請求項にもポンプという語はない。
乙114に係る特許の出願から本件特許出願までの間又は本件特許出願後にスリーブタイプの軸受や油ポンプを採用したスクリユウコンプレツサがあるとしても,油ポンプを省略することが本件特許出願当時の技術常識,周知技術であったことは否定されない。
(イ)

油ポンプの省略と乙114発明の技術思想
乙114発明は,スクリユウロータなど液体(オイル)が分布する箇
所を,取り外し自在な低圧ケース98及び/又は高圧ケース114で覆うこととし,これによって外部へのオイル漏れを防止しつつ,小型化・軽量化を図り,またケースが取り外し自在であることにより修理等を容易にすることをその目的,技術思想の一つとしている。加圧ポンプ140を採用せず,液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2)を採用すれば,高圧ケース114内にかさばる油ポンプを省略することができるから,一層の小型化・軽量化を図ることができ,また,修理の際の取り回しや内部の視認性なども向上するから,上記の乙114発明の目的に資することになる。
(ウ)

油ポンプを省略することについての阻害事由
乙114発明において油ポンプを省略しても,
スラストピストン62,

アンギユラコンタクトボールベアリング56へ油が供給されなくなることはなく,コンプレツサ10の機能不全を生じることもない。


一審原告の主張

乙114発明において,加圧ポンプ140を採用せず,液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2)により相違点3に係る本件発明の構成を採用することは,
容易に想到することができなかった。
その理由は,
後記イのとおりである。
イ(ア)

油ポンプを省略する動機付け
一審被告の主張は争う。
乙114の明細書には,

ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ,またコンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。

(9欄41~44行目)と記載されているから,ポンプ140が採用されたのは,コンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するためであり,スリーブタイプの軸受に油を供給するだけのためにポンプ140が採用されているわけではない。また,乙114発明には,ラジアル軸受の構成がスリーブタイプの軸受であることが明記されている。乙114に係る特許の出願から本件特許出願までの間,更に本件特許出願後にも,スリーブタイプの軸受を採用したり,転がり軸受を採用した上で転がり軸受へ油を供給するために油ポンプを採用したスクリユウコンプレツサがあるから,油ポンプを省略することが本件特許出願当時の技術常識,周知技術であったとはいえない。したがって,乙114発明の油ポンプを省略する動機付けはない。
(イ)

油ポンプの省略と乙114発明の技術思想
一審被告の主張は争う。
乙114発明は,改良された液体分布機構として,ポンプ140

により液体を加圧し,いったん空所134に集約した上でコンプレツサ内の必要な全ての個所(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用しているから,ポンプを採用せず液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2)を採用することは,乙114発明の技術思想に反する。
(ウ)

油ポンプを省略することについての阻害事由
一審被告の主張は争う。
乙114発明において油ポンプを省略するならば,スラストピストン
62,アンギユラコンタクトボールベアリング56へ油が供給されなくなり,コンプレツサ10の機能不全を生じるから,乙114発明において油ポンプを省略することには阻害事由がある。
5
争点7(無効理由3)(乙5発明に乙114に記載された構成を適用することによる本件発明の容易想到性)


一審被告の主張

乙5発明に,乙114発明におけるラジアル軸受・スラスト軸受・バランスピストンの配置を適用し,乙5発明のスペーサ16からバランスピストン機能を除去し,バランスピストンをスラスト軸受の外側に配置するとともに,雄ロータ3側のスペーサ16に代えて現に雌ロータ側で採用されているような軸封カラー(大径部や小径部のない構造)を雄ロータにも採用するという構成を適用することにより,本件発明を容易に想到することができた。その理由は後記イのとおりである。

イ(ア)

動機付け
スクリュ圧縮機の吐出側にラジアル軸受・スラスト軸受・バランスピ
ストンを配置する際の配列は設計事項にとどまり,乙5発明に,バランスピストンへの給排油が容易な乙114発明の配置を採用する動機付けはあり,また,バランスピストンを外側に配置することは,バランスピストンへの給排油を簡素化するという乙5発明の目的にも合致するから,乙5発明に乙114発明におけるラジアル軸受・スラスト軸受・バランスピストンの配置を適用する動機付けはあった。
(イ)

阻害事由
乙5発明の雄ロータ側においては,バランスピストンの機能を兼ねたスペーサ16によって隙間調節を行なっているが,乙5発明の目的に照らせば,ラジアル軸受の内側に配置されたスペーサ16にバランスピストンの機能を併せ持たせる必要は全くない。実際,乙5発明でも,雌ロータ側においては,正確な吐出端面隙間の調節という課題はバランスピストン機能を持たない軸封カラー25によって解決しているから,バランスピストンの配置は乙5発明の目的とは無関係であって,バランスピストンの配置を変更することに何らの阻害事由もない。


一審原告の主張

乙5発明に乙114発明におけるラジアル軸受・スラスト軸受・バランスピストンの配置を適用して本件発明を容易に想到することはできなかった。その理由は後記イのとおりである。

イ(ア)

動機付け
一審被告の主張するように,乙5発明のスペーサ16からバランスピ
ストン機能を除去し,バランスピストンをスラスト軸受の外側に配置するとともに,雄ロータ3側のスペーサ16に代えて現に雌ロータ側で採用されているような軸封カラーを雄ロータにも採用するとの構成を採用するならば,乙5発明に比べて,ロータ軸を軸方向に相当程度延伸せざるを得ず,当該延伸部分のロータ軸が変形し易くなり,給排油構造が複雑化し,構成・加工・組立が複雑化するから,乙5発明の目的を達成することができなくなる。そのため,一審被告の主張するような構成を乙5発明に採用する動機付けはない。
(イ)

阻害事由
乙5発明において,スペーサ16はバランスピストン及びディスタンスピースとしての具体的機能を同時に有する部材であり,このような具体的機能の併有こそが,スペーサ16が果たすべき本質的な機能であり,乙5発明の技術思想の一部である。しかし,一審被告が主張するように,乙5発明のスペーサ16からバランスピストン機能を除去し,バランスピストンをスラスト軸受の外側に配置するとともに,雄ロータ3側のスペーサ16に代えて現に雌ロータ側で採用されているような軸封カラーを雄ロータにも採用するという構成をとるならば,バランスピストン及びディスタンスピースとしての具体的機能を併有するスペーサ16が除去されてしまうことになり,乙5発明の技術思想に反する。
また,乙5発明のスペーサ16の具体的構成・配置は,外周面にラビリンス溝を有する大径部14と小径部15より成り(乙5,6頁13,14行目),大径部14と小径部15の双方は,吐出ケーシング9の端壁22に形成する大径穴と小径穴とから成る軸封穴17内に密封摺動自在に挿通し(6頁16~19行目),ロータ端面と吐出側ベアリングとの間に介装
(2頁10行目,5頁12行目)・嵌着
(6
頁14,15行目)されるものである。一審被告の主張する構成においては,バランスピストンは,吐出側ベアリングよりも吐出ケーシング9の端壁22や軸封穴17から離れた位置に配置され,ロータ端面と吐出側ベアリングとの間に配置されないため,明らかにスペーサ16の上記具体的構成・配置と相違することになるし,軸封カラーは,一審被告の主張によれば大径部や小径部のない構造であるから,明らかにスペーサ16の上記具体的構成と相違する。
したがって,乙5発明に一審被告の主張する構成を適用することには阻害事由がある。
第4

当裁判所の判断
当裁判所は,本件発明に係る特許は,乙114発明に対して進歩性を欠き,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,一審原告は,当該特許に基づく特許権を行使することはできず,したがって,一審原告の請求は棄却されるべきものであると判断する。その理由は,次のとおりである。1
争点3(時機に後れた攻撃防御方法)について
一審被告による当審における本件特許の無効主張
(無効理由1,
2,
3)
は,
その内容や本件事案の性質等に鑑み,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきであるとは認められない。よって,時機に後れた攻撃防御方法としてそれらの却下を求める一審原告の申立ては却下する。
また,一審原告は,一審被告による当審における本件特許の無効主張は,信義誠実の原則(民事訴訟法2条)に反するものとして却下すべきであるとも主張するが,信義誠実の原則に反するものとは認められず,一審原告の上記主張は,採用することはできない。

2
争点4(本件発明と乙114発明との対比)について
乙114発明の認定,本件発明と乙114発明の一致点と相違点(相違点1~3)は,当事者間に争いがない(ただし,相違点1,2が実質的な相違点か否かについては争いがある。)。

3
本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明,技術事項について⑴

乙114

乙114の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙114(特公昭51-36884号公報)は,別紙のとおりであり,ヘリカルスクリユウコンプレツサに関する公告公報であって,乙114には,図面とともに次のとおり記載されている。
(ア)

この発明は,ハウジングに改良を施した液体噴射スクリユウコンプレツサに関するものである。

(2欄24~25行目)(イ)

従来の液体噴射スクリユウコンプレツサに関連する問題点としては,通常必要とされる多数のパイプ接合からの,コンプレツサハウジング部材間のフランジ付ジヨイントからのガスおよび噴射液体の漏れがある。コンプレツサ外への圧力のかかつたガスの漏れは,特に密閉された装置においては,またガスが有害なあるいは可燃性のものであるときは好ましくない。もちろん,噴射液体の漏れも望ましくないものである。従つてコンプレツサハウジングのジヨイントの数を最少にし,ジヨイントを容易に密閉することが出来るようにすることが好ましい。(3欄19~30行目)
(ウ)

この発明は,密閉を行なうのに必要なハウジングのジヨイントを最少にし,コンプレツサハウジング内にほぼ収容される液体分布装置を備えた液体噴射ヘリカルガスコンプレツサのハウジング構造の改良を目的とするものである。この発明はまた,スライドバルブ容量制御装置を用いるタイプのヘリカルスクリユウガスコンプレツサのハウジング構造を提供するものであつて,その際注入ケース部分はスクリユウロータを収容するための組み立てられた金属部材として独立に構成されてコンプレツサ注入ガスと容量制御バルブにより送り込まれるガスのための室を構成するものである。組み立てられたケース部分はまた,フレーム上にコンプレツサユニツトを保持するためにも構成され,コンプレツサは,コンプレツサ駆動モータに関してこのケース部分との整合を妨げることなくこれからそつくり取り外すようにすることが出来る。この発明はさらにまた,中間のハウジング部材が基本のコンプレツサの支持体を構成し,組み立てられたケース部分から容易に取り外しが出来るような液体噴射ヘリカルスクリユウコンプレツサ用のハウジング構造を提供するものである。中間ハウジング部材はまた,コンプレツサ外部に位置されねばならない液体パイプ接合の数を最少とするような液体分布孔あるいはマニホールドを有している。中間ハウジング部材内にはこれに取り付けられた密閉可能なケース部分と共に液体分布孔が配置されていて,コンプレツサのガス-液体混合体に通常は曝されている閉領域内に位置するほぼ全ての液体パイプがこれにより設けられることとなる。またこの発明によるコンプレツサハウジング構造は,外観が美しいと共に容易に外部から吸音かつ絶縁層あるいはコーテイングを施すことが可能である。(4欄8~42行目)(エ)

第3図から明らかなようにおすロータ12は,ロータの低圧端側のラジアルスリーブタイプのベアリング52とロータの高圧端側の同様のベアリング54とに回転自在に軸支されている。ベアリング52と54とはそれぞれベアリングハウジング34と中間ハウジング30とに位置せしめられている。ロータ12に働く軸方向の力は,一対のアンギユラコンタクトボールベアリング56により部分的に受けられる。ベアリング56は,ベアリングハウジング58内に適当に取り付けられ,このハウジング58は,面32から離れかつこれに平行の第2の横断面59上の中間ハウジング30に着脱自在にボルト止めされている。ベアリングハウジング58は,円筒状の室60を有し,その中にはおすロータ12の高圧端部分63に取り付けられたスラストピストン62が設けられている。コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60に導びかれて,ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。なおロータ12の反対側の端部は,一体の軸部分66を有し,これに対してモータが第1図に示す如きカツプリング68によつて接続される。めすロータ14は,同様にスリーブベアリングおよび回転部材であるスラストベアリング(図示せず)によつて支持されている。(6欄6~31行目)(オ)

前述の如くコンプレツサ10は,液体が,圧縮熱の幾分かを吸収し,協働するロータ12と14の隙間を密閉するために,圧縮されたガスと混合されるように穴18,20により形成された作動室内に噴射されるような良く知られたタイプのものである。この液体は通常適当なオイルが用いられ,これはまた互いに係合する二つのロータおよびロータベアリング用の潤滑剤としても働く。コンプレツサ作動室内に直接噴射されまた潤滑用に用いられるこの液体は,高圧ガスと共に放出され,ガスから分離され,冷却されまた従来周知の如くコンプレツサに再循環される。(9欄17~28行目)(カ)

この発明によればケース98と114内にほぼ収容されている改良された液体分布機構を備えたハウジング構造が提供され,コンプレツサの外部に対する液体の漏れが最少にされる。コンプレツサ10内の中間ハウジング30は,コンプレツサ中の種々の位置に液体を供給するための複数個の通路を有している。中間ハウジング30はまた,圧力のかかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有している。特に第3図~第7図において,液体は中間ハウジング30内のパイプ136と通路138を介してめすロータの図示せぬ延長部により駆動される適当なポンプ140に導びかれる。ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ,またコンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。ポンプ140の放出パイプ142は,中間ハウジング30に固定されたフイルタ146と接続しているこのハウジングの通路144に接続している。フイルタ146を通過した液体は,中間ハウジングの空所134内に流れる。空所134は,コンプレツサベアリングおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152およびパイプ154を介して空所134から室70に供給される。適当なバルブ156がパイプ148内に挿入され,容量制御バルブ駆動体の室70に対する圧力のかかつた液体の流れを制御する。パイプ160内にはバルブ158が配置されて室70に圧力のかかつた液体を送り込む。パイプ160は,パイプ150と,ケース98の内部空間102に開口している中間ハウジングの通路162に接続している。空間102に放出される液体の大部分は,コンプレツサ作動室に流れる注入ガスと偶発的に混合される。空所134はまた,第5図に示され第7図に構成的に示されている圧力軽減バルブ164と接続している。圧力軽減バルブ164は,空所134中の液体圧を制限し,ケース114の空間116に液体を送り込むように働く。圧力軽減バルブ164は,空間116と空所134との間に存在する圧力差により作用するタイプのバルブである。空所134は第5図に示す如く,通路168によりこれに相互に結合された部分166を有し,また中間ハウジング30に位置するベアリング54に至る通路170を有している。またパイプ172は空所部分166からスラストピストン室60に通じていてスラストピストン62に作用する圧力のかかつた液体を供給する。第3図に示される如くカバー部分175により形成される室174へのスラストピストンの周縁を通つて漏れる液体は,この室から,中間ハウジングの適当な通路を介して穴20に通じているパイプ178に接続しているパイプ176によつて排出される。空所部分166に接続されたパイプ180はまた,ベアリングハウジング34中のベアリング52および同様にベアリングハウジング34中に前述の如く位置するめすロータ14のスラストピストンに液体を供給する。液体はまたパイプ182を経由して軸シールアセンブリ108に供給され,接続パイプ184を介してシールからパイプ178に排出される。コンプレツサベアリングから,およびスラストピストンとシール108とから排出される液体は,交叉する穴18と20とからなる作動室内に流れる。(9欄29行目~11欄9行目)(キ)

上に述べた液体噴射および潤滑機構から明らかなように,中間ハウジング30内に分布空所あるいはマニホールドを設けまたケース98と114内にほぼ全部のパイプを位置せしめたことにより,コンプレツサ10の外への噴射液体の漏れの大部分が除去されることとなる。(12欄13~18行目)

乙114の記載から理解できる事項
(ア)

スクリュー圧縮機においては,潤滑等のためにロータに油を供給し
つつ,ロータによりガスが圧縮され吐出されるから,スクリュー圧縮機の吐出流路において,液体が含まれる高圧ガスから液体を分離し,液体が分離された高圧ガスが送り出されることは技術常識である。そして,前記ア(ア)及び(オ)の記載並びに上記技術常識から,液体噴射スクリユウコンプレツサの吐出流路において,オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出すことが理解できる。
(イ)

前記ア(エ)及び第3図の記載から,おすロータ12の両側に延びる
軸部分63,66をラジアルスリーブタイプのベアリング52,54により回転可能に支持して,モータに接続される入力軸を低圧側の軸部分66としていることが理解できる。
(ウ)

前記ア(エ)及び第3図の記載から,おすロータ12の高圧端部分6
3をベアリング54よりもおすロータ12から離れた位置にてアンギユラコンタクトボールベアリング56により回転可能に支持することが理解できる。
(エ)

前記ア(エ)及び第3図の記載から,アンギユラコンタクトボールベアリング56よりもおすロータ12から離れた位置にて高圧端部分63にスラストピストン62を取り付けていることが理解できる。
(オ)

前記ア(カ)並びに第3図,第5図及び第7図の記載から,スラスト
ピストン62のアンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラストピストン室60に,高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を,ポンプ140を経由して導く経路(136,138,142,144,134,168,166,172)を設けて形成したことが理解できる。

乙114に記載された発明
乙114の記載事項(前記ア)及び乙114の記載から理解できる事項(前記イ)によれば,乙114には,乙114発明(前記第3の2⑴ア)が記載されていると認められる。



乙1

乙1の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙1(特開昭57-159993号公報)には,図面とともに次のとおり記載されている。
(ア)

本発明は,互に噛み合う一対のスクリユーロータをロータ室で回転せしめて気体を圧縮する噴射式スクリユー圧縮機の運転中に生じる軸方向推力を打消すバランスピストンに関するものである。

(1頁右下欄11~15行目)
(イ)

従来,この種の圧縮機は雄ロータを含む縦断面図の第1図に示されるようにロータケーシング1の両側は吸込側端壁及び吐出側端壁をなしており,吸込ケーシング2,吐出ケーシング3により密閉され,雄ロータ4と図示されない雌ロータがかみ合つており,両ロータはケーシング1の吐出し側の双円弧形外周と接している。雄ロータ4は吸込ケーシング1中のジヤーナル軸受6,吐出ケーシング3中のジヤーナル軸受8,スラスト玉軸受12より支承され,軸封装置18にて軸封され駆動端が機外に突出している。軸受6側の軸部4bは延出され軸端にはバランスピストン32が固定され,吸込ケーシング2に直接又は固定されたシリンダ中を滑動して回転するようになつている。22は吸込通路,25は吐出通路である。雌ロータ側は同様に機外に突出しない軸により軸架されバランスピストンを有しない。31はスライドバルブである。スクリユー圧縮機が運転されると雄ロータ4と雌ロータはかみ合つてその間の作用空間が吐出側へ移行して冷媒は圧縮され吐出口より吐出通路25へ吐出される。一方,軸受及びロータ間及びロータとロータケーシング1間の潤滑,冷却,密封を行う油は吐出されたガスと共に吐出配管50をとおり油分離器52に入りそこで分離されて油配管53により油冷却器55に送られて冷却され,フイルタ56にて炉過されて,油ポンプ57により昇圧されて,軸受6,8,12等の各軸受,軸封装置18,スライドバルブ31ほかを介してロータ作用空間へ送られる。同じく送油された油ポンプ57からの圧油はバランスピストン室34に送られ,発生するロータの推力と均衡するようになつており,これらの給油は吐出通路25に再び出て合流する。(1頁右下欄16行目~2頁右上欄10行目)
(ウ)

このような従来のスクリユー圧縮機のバランスピストンは油ポンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給しているため次の欠点があつた。(1)…(2)特に起動時圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることによりロータが吐出側に推されスラスト軸受およびスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかりしかも起動のたびに繰返えされるため疲労変形の恐れがある。また,ロータ吐出側端面と吐出ケーシング端面が接触し,両端面が損傷したり発熱し,その発熱によりラジアル軸受メタルが溶融して流出することも起り得る。(3)(エ)…(2頁右上欄11行目~左下欄15行目)本発明はスクリユー圧縮機における従来のバランスピストンの加圧方法の問題点に鑑みなされたもので吐出圧の変動によるロータ推力に均衡し,従つて起動時,運転中に限らずロータが移動せず,油ポンプの容量を増大させないようなバランスピストンの加圧方法を得ることを目的とするものである。(2頁左下欄16行目~右下欄2行目)(オ)本発明はスクリユー圧縮機において,吐出流体と共に潤滑,冷却,密封用の油が油分離機により回収され,油ポンプにより圧縮機各部に給油され,吸込ケーシングに設けたロータ軸端の突出する空間にロータ軸に固定したピストンと吸込ケーシングに固定したシリンダをすきま少く嵌入してピストンの反吐出側に圧縮機の吐出圧力を受けた油を供給したことを特徴とするものである。(2頁右下欄3~11行目)(カ)

第5図は油圧回路図を示す図面である。吐出通路25に吐き出された油を多量に含む圧縮ガスは吐出配管50を通り油分離器52に導かれ,圧縮ガスと油とに分離されたのち圧縮ガスは配管51から吐出され,油は油配管53により油冷却器55に導かれる。(4頁左下欄14~19行目)
(キ)

油分離器52より分離された油の一部はフイルタ59を途中に備える配管58を通じてバランスピストン室34へ送られる。バランスピストン32には従つて吐出圧縮ガス圧力に追従して変化する油圧力が加わる。

(4頁右下欄7~11行目)イ
乙1の記載から理解できる事項
乙1の第5図の記載から,配管58は,バランスピストン室34に,油分離器52の油を加圧することなく導くことが理解できる。

乙1に記載された技術事項
乙1の記載事項
(前記ア)
及び乙1の記載から理解できる事項
(前記イ)
によれば,乙1には,次の技術事項が記載されていると認められる。バランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては,特に起動時,圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより,ロータが吐出側に推され,スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかるという課題があったところ,この課題を解決するために,油を多量に含む圧縮ガスから油を分離回収し,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離器52を吐出配管50に設け,軸部4b端には,雄ロータ4と雌ロータ5の推力のバランスをとるためのバランスピストン32に面するバランスピストン室34に,上記油分離器52の油を加圧することなく導く配管58を設けて形成したスクリユー圧縮機。


乙3

乙3の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙3(国際公開第95/10708号)には,図面とともに次のとおり記載されている(翻訳は甲25(無効2018-800099審決,令和元年8月7日)による。本件の乙3は,甲25中では甲3として示されている。)。
(ア)

公知の装置によれば,通常のケースにおいて,スラスト荷重を適切に低減することができる。しかしながら,出口圧が変化し,特に入口圧も変化するとき,問題が発生する。このような運転条件では,軸方向ガス力が変化し,結果として,バランスピストンの寸法や種々の運転条件によって,ロータがアンダーバランス又はオーバーバランスの状態になってしまうかもしれない。この結果は,スラスト軸受の寿命を減少させるであろう。(1頁7~12行目)(イ)

本発明の目的は,問題になっている圧縮機における種々の運転条件(特に,高い入口圧及び出口圧で運転するための運転条件)へのスラストバランスの自動的な適応のための簡素且つ信頼性の高い手段を達成することである。(1頁25~27行目)(ウ)

圧縮機1は,互いに噛み合う一対のスクリュロータを備えた回転スクリュータイプのものであり,低圧入口2と高圧出口3とを有する。一方のロータは不図示の駆動手段に連結されるシャフト延長部15を有し,シャフト延長部はシリンダ14内にバランスピストン11を有する。圧縮機には油が注入され,オイルセパレータ10が出口配管8に設けられている。オイルセパレータからのガスはデリバリパイプ9を介して排出され,分離された油は配管6及び油注入手段4を介して作動スペースに戻るようになっている。配管6には,オイルセパレータに隣接して第1スロットル5が設けられており,油注入手段が第2スロットル4を構成している。第1スロットル5及び第2スロットル4の間において,配管6には,シリンダ14まで分岐配管が到達している。(2頁18~26行目)
(エ)

運転時,圧縮機の高圧端から低圧端に向かう方向(即ち,図中左側)の軸方向のガス力Fが各ロータに作用し,このガス力はps及びpdの関数である。ピストン11からのバランス力Fbは,ピストンの有効加圧面積12に依存し,ps及びpdの関数である。バランス力はガス力未満であるべきであり,合力FR=F-FBはスラスト軸受によって負担されるべきである。合力は,所定範囲(Fmin<FR<Fmax)内に収まるべきである。但し,Fmin及びFmaxは,スラスト軸受の負荷要求によって定まる。(3頁7~14行目)イ
乙3の記載から理解できる事項

(ア)

前記ア(ウ)及び図面の記載からみて,油とともに吐出された圧縮ガ
スから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すオイルセパレータ10を出口配管8に接続していることが理解できる。
(イ)

乙3の図面を参照すると,配管6及び分岐配管7には油圧ポンプが
設けられておらず,オイルセパレータ10からの油を加圧することなくシリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に導くようになっていることが理解できる。
さらに,油は油注入手段4を介して作動スペースに戻るようになっていると記載されているから,このスクリュー圧縮機は油冷式であるといえる。

乙3に記載された技術事項
乙3の記載事項
(前記ア)
及び乙3の記載から理解できる事項
(前記イ)
によれば,乙3には,次の技術事項が記載されていると認められる。油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すオイルセパレータ10を出口配管8に接続し,シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管6及び分岐配管7を設けて形成した,油冷式スクリュー圧縮機1。


乙120

乙120の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙120(特開昭57-122188号公報)には,図面とともに次のとおり記載されている。(ア)

(7)特許請求の範囲第1項から第6項のいずれか1項に記載の油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法に於いて,前記ねじロータの軸的平衡の為に,圧力油が前記低圧側のねじロータの軸端(20)に近接した圧力空間に供給されることを特徴とする油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法。(特許請求の範囲第7項)(イ)

(11)特許請求の範囲第7項から第10項のいずれか1項に記載の油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法に於いて,前記ねじロータの圧力空間に供給される油の圧力が前記ねじ形圧縮機の出力圧力とほぼ同じであることを特徴とする油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法。(特許請求の範囲第11項)(ウ)

圧縮機の低圧側には,好ましくはころ軸受型のラジアル軸受と好ましくはアンギユラ・コンタクト玉軸受型のアキシアル軸受18がねじロータ15を支承する為に組み入れられている。この軸受組み入れ部分の外側に於いて,ねじロータ15の高圧端に作用する軸力の主要部分を平衡さす為にロータ軸端20に平衡ピストン19が配備されている。前記平衡ピストン19は圧力空間21に位置させられ,そして該圧力空間21へ油入口孔22を介して外側から圧力油が供給され得る。(3頁右下欄1~10行目)
(エ)

ねじロータ15の平衡ピストン19の圧力空間21に油が供給されるが,該油の圧力は油冷却器と油フイルタ中の圧力低下によつて減圧されたねじ形圧縮機の出口圧力に対応する。

(4頁左下欄12~15行目)
(オ)

軸方向の力が高いねじロータ上には,本発明に係る装置により平衡力が与えられ,該平衡力は圧縮機に於ける逆圧の増大と共に増大し,それによつて軸受力そして,従つて,軸受稼動寿命は,実質的に一定である。

(5頁右上欄19行目~左下欄3行目)イ
乙120に記載された技術事項
前記アの記載事項によれば,乙120には,次の技術事項が記載されていると認められる。
油冷却器及び油フイルタでの圧力降下によって減少したねじ圧縮機(スクリュ圧縮機)の出口圧力に対応する圧力の油を,平衡ピストン(バランスピストン)19に面する圧力空間21に導くための油入口孔22を設けて形成した油注入式ねじ形圧縮機。


乙121

乙121の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である乙121(実願昭62-128114号(実開昭64-34493号)のマイクロフィルム)には,図面とともに次のとおり記載されている。
(ア)

本考案は,以上の問題点を解消するために,バランスピストンの給排油構造を簡素化し,しかも圧縮ガス圧力の変動に係わらず安定したスラスト力の釣合と,圧縮作用空間及び軸受空間との確実な軸封作用が行えると共に,ロータ端面とケーシング端壁間との吐出端面隙間の正確な調整を可能とし,安価でしかも性能のよいスラスト力釣合装置を提供することを目的とする。(4頁17行目~5頁4行目)(イ)

さらに,オスロータ3側のベアリング12と該ロータの端面21間には,外周面にラビリンス溝を有する大径部14と小径部15より成るスペーサ16が嵌着し,該ロータと吐出ケーシング9間の吐出端面スキマを保持している。さらに,前記大径部14と小径部15の双方は,吐出ケーシング9の端壁22に形成する大径穴と小径穴とから成る軸封穴17内に密封摺動自在に挿通すると共に,前記スペーサの大径部14と小径部15との境にある段部18と,前記軸封穴17間に形成される作用室19を,連通孔20を介してメスロータ4に嵌着する軸封カラー25の油溝26と連通している。この油溝26は,前記軸封カラーの略中央部に全周にわたって形成されているもので,吐出ケーシング9に穿設した給油孔27と連通し,さらに配管28を介してセパレータタンク29内の油溜30と接続している。(6頁12行目~7頁8行目)(ウ)

圧縮機を運転すると,吸入口45から吸入されたガスはオス・メスロータ34の噛み合いによって圧縮され,・吐出口46より吐出され,図示せざる吐出配管を介してセパレータタンク29内に圧送される。これにより,油溜30内の潤滑油は前記圧縮ガス圧力により押し出され,配管28,給油孔27を介してメスロータ4の軸封カラー25外周部に形成された油溝26を経て,オスロータ3に設けられたスペーサ16の作用室19内に圧送される。したがって,オスロータ3には常時圧縮ガス圧力に比例した図中A方向のスラスト荷重が作用する。一方,前記したオス・メスロータの噛み合い回転に伴う圧縮作用により,両ロータには圧縮ガス反力としてのラジアル荷重と,図中B方向へのスラスト荷重が作用するが,このオスロータ側のスラスト荷重を前記作用室19内の油圧によってスペーサ16に作用する図中A方向のスラスト力が相殺し,ベアリング12に加わるスラスト荷重を軽減する。即ち,前記A及びB方向のスラスト荷重は常に圧縮ガス圧力に比例した力で作用するので,前記圧縮ガス圧力の変動に係わらず常に均衡のとれた釣合が成される。(7頁12行目~8頁16行目)イ
乙121の記載から理解できる事項
前記ア(イ),(ウ)及び第1図の記載からみて,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜30に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を吐出配管に接続すること,及び,スペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続することが理解できる。

乙121に記載された技術事項
乙121の記載事項(前記ア)及び乙121の記載から理解できる事項(前記イ)によれば,乙121には次の技術事項が記載されていると認められる。
油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜30に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を吐出配管に接続し,バランスピストンとして機能するスペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続した,スクリュ圧縮機。
4
争点5(無効理由1)(乙114発明に乙1,乙3,乙120及び乙121に記載された周知技術を適用することによる本件発明の容易想到性)について⑴

相違点1(油分離回収器)について
乙114には,高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出す点に関して,油分離回収器を用いることは明記されていない。しかし,スクリュ圧縮機の解説が記載された技術文献である乙122,乙124及び乙125には,油冷式スクリュ圧縮機が,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収して圧縮ガスのみを送り出す手段として油分離回収器を備えることが記載されており,油冷式スクリュ圧縮機が油分離回収器を備えることは技術常識であったものと認められ,このような技術常識によれば,乙114発明が油分離回収機を備えることは明らかであるものと認められる。したがって,相違点1は実質的な相違点ではないものと認められる。



相違点2(圧力遮断する仕切り壁)について

本件発明における圧力遮断する仕切り壁の技術的意義
(ア)

本件明細書の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。

a

【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,スクリュロータに作用するスラスト力を軽減するようにした油冷式スクリュ圧縮機に関するものである。

b【0013】【発明の実施の形態】次に,本発明の実施の一形態を図面にしたがって説明する。図1~3は,第1発明の第1の実施形態に係るスクリュ圧縮機を示し,図6,7に示すスクリュ圧縮機と互いに共通する部分については,同一番号を付して説明を省略する。この圧縮機の場合,油ポンプ6の一次側にて油供給流路7から分岐させた均圧流路8が設けてあり,油ポンプ6の二次側に続く油供給流路7の部分はラジアル軸受13,14の箇所に導き,均圧流路8はバランスピストン17の箇所に導くように形成してある。この圧縮機本体3内の構造について,さらに詳説すれば,図2,3に示すように,圧縮機本体3の吐出側のロータ軸に,スクリュロータ11,12側から順番に,ラジアル軸受14,スラスト軸受16,バランスピストン17を設けるとともに,スラスト軸受16とバランスピストン17との間に仕切り壁31を設けてある。この仕切り壁31は内周部に軸封手段32を備え,スラスト軸受16を収容している空間Aとバランスピストン17を収容している空間Bとを圧力遮断して,空間Bを,入力軸15,スラスト軸受16,ラジアル軸受13,14等の他の構成要素とは独立させてある。【0014】そして,空間Aには吸込圧力Psを導き,空間Bのバランスピストン17のスラスト軸受16側の面には均圧流路8により吐出圧力Pdを導いている。上述したように,入力軸15を吸込側に配置してあるためスラスト軸受部の径はラジアル軸受14,入力軸15の径によって左右されず,スラスト軸受16の内径を小さくして,その負荷容量を大きくすることができる。また,空間Bを他の構成要素から独立させてあるので,バランスピストン17の軸径,外径を他の構成要素に左右されることなく定めることができる。バランスピストン17に作用する力Fは,次式で表される。F=(D2-d2)・(π/4)×Pdここで,Dはバランスピストン17の外径,dはバランスピストン17の軸径であり,したがって,十分にスラスト力を軽減するためには,力Fを大きくすればよく,そのためには(D2-d2)を大きくして,バランスピストン17の必要な受圧面積を確保すればよい。即ち,バランスピストン17の外径Dを大きく,軸径dを小さくすればよい。(イ)

圧力遮断する仕切り壁の技術的意義
前記(ア)aの本件明細書の記載によれば,本件発明は,スクリュロータに作用するスラスト力を軽減することを前提としているところ,前記(ア)bの記載と本件明細書の図3を参照すると,本件発明における仕切り壁
とは,
十分にスラスト力を軽減するよう吐出圧力Pdをバラ
ンスピストン17に作用させるために,吐出圧力Pdが導かれる空間Bと吸込圧力が導かれる空間Aとの間に配置することにより,空間Aと空間Bとを圧力遮断するものである。
そうすると,仕切り壁の密封性については,本件発明が前提とす
るスクリュロータに作用するスラスト力を軽減するよう吐出圧力Pd
をバランスピストン17に作用させることができる程度に空間Bから
空間Aへの油の流出を妨げることができることを要するものであって,全く流出させないほどの密封性を要するものではないと解される。イ
乙114発明における部品7,5,4
(ア)

部品の配置
乙114の図3を参照すると,別紙図面(乙114の図3の一部を拡
大して着色したもの。)のとおり,スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリング56との間には,
右から順に部品7,
5,
4が配置されるとともに,それらの下方に部品6が配置されることが看取できる。
(イ)

圧力差の存在
乙114発明において,スラストピストン室60には,コンプレツサ
噴射液体のような圧力のかかった液体が導かれ,その圧力がピストン62に作用して,スラスト力が軽減されている。
他方,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間について検討すると,乙114には,コンプレツサベアリングに液体を分布させることが記載され,具体的にはベアリング52,54に液体を供給することが記載されているが,アンギユラコンタクトボールベアリング56への液体供給については具体的な記載はない。そして,ボールベアリングを油で潤滑することは一般にも行われているが,ボールベアリングが配置される空間が高圧の油で完全に満たされているとボールの円滑な転動が阻害されるから,通常そのようなことは考えにくい。そうすると,乙114発明において,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間は,ポンプ140で加圧された液体で完全に満たされていることはなく,当該空間はせいぜい気液混合状態であって,スラストピストン室60よりも低圧であり,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とスラストピストン室60との間には圧力差が存在しているものと認められる。
(ウ)

密閉性の程度
ところで,乙114の図3の記載から,部品5及び部品7には,両部
材を貫通する穴が形成され,このような貫通穴は部品4の右端面に開口していることが看取できる。さらに,技術常識に鑑みれば,乙114の図3における部品3及び部品4は,アンギユラコンタクトボールベアリング56の外輪を回転不能に固定するための部品であり,部品5の押圧力を部品4を介してアンギユラコンタクトボールベアリング56の外輪に作用させていることが理解できる。したがって,部品5と部品4との間は相当に密なものであると解されるものの,部品5の貫通穴と部品4の右端面とにシール部材は見受けられず,また,前述のとおりアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間は低圧であるから,スラストピストン室60に供給された液体が前記貫通穴を介して,部品5と部品4との間からアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間に漏れ出る可能性が全くないとまではいえない。
しかし,前記ア(イ)で検討したように,本件発明の仕切り壁の密封性は,発生する逆スラスト荷重にバランスする十分な圧力をバランスピストン17に作用させることができる程度に空間Bから空間Aへの油の流出を妨げることができるものであって,全く流出させないほどの密封性を要するものではない。そして,乙114に

コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60に導びかれて,ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。

(6欄22~25行目)との記載があることから,乙114発明においても,部品7,5,4は,全体として,スラストピストン62に作用するスラスト方向の力をスラストピストン室60内の圧力により相殺する程度に,スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とを圧力遮断していると解される。
(エ)

圧力遮断する仕切り壁への該当性
そうすると,乙114発明において,部品7,5,4は,圧力差のあ
るスラストピストン室60と,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に配置することにより,これらの空間を遮断するものであるから,本件発明の圧力遮断する仕切り壁の機能を有していると認められる。

相違点2は実質的な相違点かについて
これまで述べたところによれば,乙114発明は,本件発明の仕切り壁に相当する部品を備えているから,相違点2は,乙114発明と本件発明の実質的な相違点ではないと認められる。


一審原告の主張の検討
(ア)

一審原告は,乙114発明において,アンギユラコンタクトボール
ベアリング56にはスラストピストン室60から液体(ベアリングを冷却する前の油)を供給し続ける必要があり,そのため,アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピストン室60との間に介在する部品7,5,4は,部品7,5に貫通穴が設けられ,それらの貫通穴が互い連通されているという構成であり,また,部品4は,その内側の空間を介してアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された領域と空間的に連通されているという構成であるから,部品7,5,4をもって,圧力遮断する仕切り壁ということはできないと主張する(前記第3の3⑵イ(ア))。
しかし,前記イ(ウ)のとおり,本件発明の仕切り壁は,油を全く流出させないほどの密封性を要するものではなく,乙114発明の部品7,5,4は,全体として,スラストピストン62に作用するスラスト方向の力をスラストピストン室60内の圧力により相殺する程度に,スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とを圧力遮断しているから,圧力遮断する仕切り壁に該当するものと認められ,
一審原告の上記主張を採用することはできない。
(イ)

また,一審原告は,乙114発明において,スラストピストン62
が,ポンプ140で充分に液体圧を増加せしめられた液体の供
給を受け,ロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺するという機能を実現するために要求されるのは,スラストピストン62のロータ側に作用する圧力,つまりスラストピストン室60の圧力が,
スラストピストン62の反ロータ側に作用する圧力,
つまり室174の圧力よりも高いことであるとし,
部品7,
5,
4が
圧力遮断する仕切り壁に相当する部品でなくとも,スラストピストン室60は室174よりも高圧であるため,上記機能は実現されると主張する(前記第3の3⑵イ(ア))。
しかし,部品7,5,4は,スラストピストン室60と,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に存在するから,スラストピストン室60と,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に圧力差があれば,室174の圧力如何にかかわらず,部品7,5,4は圧力遮断する仕切り壁に該当すると認められる。また,一審原告の主張は,スラストピストン室60と室174との間に圧力差があれば,貫通穴を有する部品7,5,4が圧力遮断できない構造であっても,当該圧力差によってスラストピストン62は室174側に押圧されることになる,という趣旨とも解されるが,スラストピストン62を室174側に押圧する力が働くためには,スラストピストン室60内の圧力が上がる必要があり,そのためには,部品7,5,4が圧力を遮断するもの,すなわち,
圧力遮断する仕切り壁
でなければならないと解される。したがって,一審原告の上記主張は,採用することができない。


相違点3(非加圧流路)について

当裁判所は,乙114発明に,乙1,乙3,乙120及び乙121に記載された周知技術を適用し,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)により,バランスピストンのピストン室にオイルをポンプで加圧することなく供給し,相違点3に係る本件発明の構成を採用することは,容易に想到することができたものと判断する。その理由は,以下のとおりである。


逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題
乙1に記載された技術事項は前記3⑵ウのとおりであり,乙1には,
バランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては,特に起動時,圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより,ロータが吐出側に推され,スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかるという課題があること,すなわち,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が発生するという技術的課題が示されていた。
そして,乙114発明は,高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を,ポンプ140を経由してスラストピストン室60に導く経路を設けて形成した液体噴射スクリユウコンプレツサであるが,逆スラスト力が発生しないことを裏付けるような事情はないから,乙114発明は,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題を有しているものと認められる。


非加圧流路の設定に係る周知技術
(ア)

乙1に記載された技術事項は前記3⑵ウのとおりであり,バランスピストン32に面するバランスピストン室34に,上記油分離機52の油を加圧することなく導く配管58を設けて形成したものである。乙3に記載された技術事項は前記3⑶ウのとおりであり,シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管6及び分岐配管7を設けて形成した,油冷式スクリュー圧縮機1である。乙120に記載された技術事項は前記3⑷イのとおりであり,圧力降下によって減少したねじ圧縮機(スクリュ圧縮機)の出口圧力に対応する圧力の油を,平衡ピストン(バランスピストン)19に面する圧力空間21に導くための油入口孔22を設けて形成した油注入式ねじ形圧縮機である。乙121に記載された技術事項は前記3⑸ウのとおりであり,バランスピストンとして機能するスペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続した,スクリュ圧縮機である。(イ)

前記(ア)のとおり,乙1,乙3,乙120及び乙121には,スク
リュ圧縮機において,バランスピストンに圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることが記載されていたものであり,それは,本件特許の出願日前に周知の技術事項であったものと認められる。

容易想到性
乙114発明は,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題を有しており(前記イ),スクリュ圧縮機において,バランスピストンに圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることは本件特許の出願日前に周知の技術事項であったから(前記ウ(イ)),乙114発明の上記課題を解決するために,上記の周知の技術事項を適用して,スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とすることは,当業者が容易に想到することができたものであると認められる。

一審原告の主張の検討
(ア)

加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手
段1)の採用と乙114発明の技術思想について
a
空所134への液体の集約
一審原告は,乙114は,乙114発明が,改良された液体分布機構として,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をいったん空所134に集約した上でコンプレツサ内の必要な全ての個所(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,乙114発明の改良された液体分布機構においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,
コンプレツサ内に存在しないとし,
したがって,
スラストピストン室60についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所134を介することなく供給するなどという構成は,乙114発明の技術思想に反するものであって,適用が排斥されていると主張する(前記第3の3⑵ウ(イ)b(a))。乙114には,空所134に関し,

中間ハウジング30はまた,圧力のかかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有している。

(9欄35~37行目),空所134は,コンプレツサベアリングおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152およびパイプ154を介して空所134から室70に供給される。(10欄6~13行目)と記載され,ポンプ140によって加圧した液体の供給について,いったん空所134に集約した上でコンプレツサ内の必要な全ての個所スラストピストン室60を含む。(

に供給するという構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると,ポンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を,あえて空所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは,乙114の技術思想に反するものとして,その適用が排斥されているという余地があるとしても,ポンプにより圧力が加えられない液体をスラストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを,ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが排斥されていると解することはできない。したがって,一審原告の上記主張を採用することはできない。
b
外部への漏出防止
一審原告は,乙114発明は,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れという課題の解決のために,中間ハウジング30内の空所134,ポンプ140等により構成される改良された液体分布機構を
備え,ハウジングのジヨイントを最少とするケースを備えるものであると指摘した上,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れを減少させるためには,そもそも,内部における液体分布機構も改良してガス及び液体の漏れを減少させることが必要又は有益であるところ,乙114発明において,スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とすべく,
例えば,
パイプ138を分岐させ,
パイプを増加させ,
当該パイプをパイプ172に接続することは,乙114発明の改良された液体分布機構にとって著しく不合理な構成であり,このような構成を採用することは,乙114発明の技術思想に反すると主張する(前記第3の3⑵ウ(イ)b(b))。
しかし,スラストピストン室へ圧力の加えられていない液体を供給する非加圧の経路を設けるため,ケース内部において,例えば,ポンプ140に至るパイプ138に分岐を設け,これをスラストピストン室60に接続するように構成したとしても,これによって,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れが必然的に増大するとは認められない。そのため,乙114発明が,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れという課題の解決のためのものであるとしても,上記のような非加圧の経路を設けることが,乙114発明の改良された液体分布機構にとって著しく不合理な構成であるとは認められないし,そのような構成を採用することが乙114発明の技術思想に反するということはできない。したがって,一審原告の上記主張を採用することはできない。
(イ)

加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手
段1)を乙114発明に採用することについての阻害事由についてa
スラストピストン62,アンギユラコンタクトボールベアリング56へ液体が供給されなくなることによるコンプレツサ10の機能不全
一審原告は,ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を
与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめるものであるところ,乙114発明において,スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとするならば,ポンプ140により液体圧を充分に増加せしめることができず,スラストピストン62に適当な力を与えることができないため,スラストピストン62のスラスト荷重への対抗が不全となり,コンプレツサ10が機能しなくなると主張し,また,スラストピストン室60,部品7,5の貫通穴を経由してアンギユラコンタクトボールベアリング56に液体を供給し続けることができなくなって,アンギユラコンタクトボールベアリング56は,その温度が許容温度を超えて上昇して損傷し,コンプレツサ10が機能しなくなると主張する(前記第3の3⑵ウ(イ)c(a))。しかし,乙1,乙3,乙120及び乙121には,スクリュ圧縮機において,バランスピストンに圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることが記載されており,それは,本件特許の出願日前に周知の技術事項であったから(前記ウ(イ)),加圧していない油(液体)によって,バランスピストン(スラストピストン)に,スラスト力をバランスさせるために必要な力を与えているスクリュ圧縮機は,本件特許の出願日前に周知であったものと認められる。また,乙114発明において,アンギユラコンタクトボールベアリング56への液体供給がどのように行われているかは不明であって,スラストピストン室60から,部品7,5の貫通穴を経由して液体が供給されていると一義的に解することはできず,仮にそのように液体が供給されているとしても,スラストピストン室60に供給される液体を非加圧にすることで,直ちにアンギユラコンタクトボールベアリング56への供給不足が生じることを裏付ける証拠はない。これらのことに照らすと,スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとすることにより,コンプレツサ10が機能しなくなると認めることはできず,一審原告の上記主張は採用することができない。
b
フイルタ146を経由しないことによるコンプレツサ10の機能不全
一審原告は,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設けると,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属くず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不物等)がスラストピストン室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいてはコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,乙114発明において,
スラストピストン室60に液体を供給する構成を,
ポンプ140・
フイルタ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体パイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,乙114発明がコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因があると主張する(前記第3の3⑵ウ(イ)c(b))。しかし,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂回したとしても,圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中で,大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されることになるし,必要であれば,ポンプの前にフイルタを経由するように構成を変更し,ポンプにより圧力を加えられる液体も,圧力を加えられない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもできるから,コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。また,このように構成を変更するとしても,それによってコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したがって,一審原告の上記主張を採用することはできない。
c
非加圧の経路を設ける動機付け
一審原告は,乙114には,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題について記載も示唆もなく,
乙114発明に,
逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けはない旨主張する(前記第3の3⑵ウ(イ)c(c))。乙114の10欄24~26行目に圧力軽減バルブ164は,空所134中の液体圧を制限しと記載されていることから,圧力軽減バルブ164を設けた目的は,空所134の過剰な昇圧を防止することにあり,逆スラスト荷重状態を解消することではないと解される。しかし,前記イのとおり,乙1には,バランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては,特に起動時,圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより,ロータが吐出側に推され,スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかるという課題があること,すなわち,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が発生するという技術的課題が示されている。そして,上記のような逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生の機序を踏まえると,当業者であれば,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題は,特殊な構造のスクリュ圧縮機に特有のものではなく,スクリュ圧縮機一般に生じることを認識することができるものと認められ,
乙114発明のスクリユウコンプレツサ
(スクリュ圧縮機)
にも生じることを認識することができるものと認められる。このように,乙114発明についても,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を認識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるものと認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が発生するという技術的課題やその課題の解消について乙114に直接の言及がないとしても,そのような課題を解決するために乙114発明に非加圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したがって,一審原告の上記主張を採用することはできない。


本件発明の容易想到性
乙114発明と本件発明との相違点1,
2は,
実質的な相違点ではなく
(前
記⑴,⑵ウ),乙114発明に,乙1,乙3,乙120及び乙121に記載された周知技術を適用し,
相違点3に係る本件発明の構成を採用することは,
容易に想到することができたものであるから(前記⑶エ),本件発明は,乙114発明に乙1,乙3,乙120及び乙121に記載された周知技術を適用して容易に想到することができたものと認められる。
したがって,本件発明に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められ,特許権者である一審原告は,一審被告に対して本件発明に係る特許の特許権を行使することはできない。

5
結論
よって,その余の点につき判断するまでもなく一審原告の請求は理由がないからこれを棄却すべきところ,これを一部認容した原判決は一部相当でないから,一審被告の控訴に基づき,原判決中一審被告敗訴部分を取り消し,その取消しに係る部分につき一審原告の請求を棄却し,一審原告の本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
上田中平卓哉
裁判官


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