判例検索β > 平成30年(ワ)第91号
損害賠償請求事件
事件番号平成30(ワ)91
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和3年5月25日
裁判所名・部大分地方裁判所  中津支部
裁判日:西暦2021-05-25
情報公開日2021-06-18 10:00:35
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令和3年5月25日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成30年(ワ)第91号,令和2年(ワ)第54号
償請求反訴事件(口頭弁論終結日

令和2年11月17日)

判1決主
損害賠償請求本訴,損害賠


被告A,
同B及び同Cは,
原告に対し,
連帯して110万円及びこれに
対する平成29年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告Aは,原告に対し,33万円及びうち22万円に対する平成29年11月7日から,
うち11万円に対する平成30年10月23日から,

いずれも支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
3
原告の被告A,同B及び同Cに対するその余の本訴請求,原告の被告宇佐市に対する本訴請求並びに被告Aの反訴請求をいずれも棄却する。
4
訴訟費用は,本訴反訴を通じて,次のとおりとする。


原告に生じた費用の150分の87,被告Aに生じた費用の60分の17,被告B及び同Cに生じた費用の各3分の2並びに被告宇佐市に生じた費用を原告の負担とする。



原告に生じた費用の150分の43及び被告Aに生じたその余の費用を同被告の負担とする。



原告に生じた費用の150分の10及び被告Bに生じたその余の費用を同被告の負担とする。



原告に生じた費用の150分の10及び被告Cに生じたその余の費用を同被告の負担とする。

5
この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由

第1

請求
1
本訴
被告らは,原告に対し,連帯して330万円及びこれに対する平成29年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
反訴
原告は,被告Aに対し,330万円及びこれに対する令和2年7月30日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要
本件本訴は,
大分県宇佐市内のa区に居住する原告が,
被告宇佐市
(以下
被告市という。)においてa区の住民である被告A(以下被告Aという。),同B(以下被告Bという。)及び同C(以下,被告Cといい,3名併
せて被告Aらという。)に対し自治委員を委嘱したり区長としての報償費を負担したりする中,被告Aらにおいて原告に対し市報を配布しないなどの村八分や各種嫌がらせをしたとして,被告Aらに対しては民法719条1項に基づき,被告市に対しては国家賠償法1条1項若しくは同法3条1項又は民法715条1項に基づき,慰謝料等330万円及びこれに対する共同不法行為の後
の日である平成29年11月7日から支払済みまで同年法律第44号による改正前の民法(以下旧民法という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
本件反訴は,被告Aが,原告から不当な告訴を受けるなどの各種嫌がらせを受けたとして,原告に対し,民法709条に基づき,慰謝料等330万円及び
不法行為の後の日である令和2年7月30日から支払済みまで旧民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1
前提事実(争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実)⑴

当事者等

原告は,
昭和24年1月に出生した男性であり,
平成21年5月頃から,
大分県宇佐市内の1行政区であるa区に居住している(甲第3号証,第47ないし第49,第79ないし第82号証,第144号証の1,第152号証,原告本人)。

被告市は,大分県内に区域を有する普通地方公共団体である。


被告Aは昭和27年3月に,被告Bは昭和28年4月に,被告Cは昭和32年2月に,それぞれ出生した男性であり,いずれもかねてからa区の
住民である(甲第33号証,被告A,同B及び同C各本人)。

a自治区は,a区に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体であり,権利能力なき社団である。



被告Aは,平成23年4月3日頃,a自治区の区長に就任するとともに,
被告市からの委嘱によってa区の自治委員に就任したが,平成25年3月3
1日,いずれも離任した(甲第2号証,乙ロ第6号証,弁論の全趣旨)。⑶

被告Bは,平成25年4月10日,a自治区の区長に就任するとともに,
被告市からの委嘱によってa区の自治委員に就任したが,平成27年3月31日には自治委員から離任し,平成29年3月31日には区長から離任した(乙イ第1,第10号証,ハ第1号証,弁論の全趣旨)。



被告Cは,平成29年4月1日,a自治区の区長に就任したが,平成31
年3月31日,離任した(甲第33号証,乙ニ第1号証)。
2
争点及び当事者の主張
本件の争点は,⑴本訴請求については,①被告Aらにおける共同不法行為責
任の有無,②権利濫用の成否,③被告市における国家賠償責任又は使用者責任の有無,
④原告における損害の有無及び額,
⑵反訴請求については,
⑤原告にお
ける不法行為責任の有無,⑥被告Aにおける損害の有無及び額である。⑴

争点①(被告Aらにおける共同不法行為責任の有無)について(原告の主張)


原告は,平成21年5月頃にa区へ移住して以来,a自治区から市報の配布や回覧物の回覧,各種行事・諸役の案内等を受け,当該各種行事・諸役へ積極的に参加していた。
ところが,a自治区は,平成25年4月7日に開催された初寄りにおいて,被告Aによる主導の下,原告がa区に住民票を移していないことを理由に,原告を構成員と認めず,共同して断交することを決議した。これを受け,前自治委員であった被告Aは翌8日に被告市に対してa自治区の戸
数が14戸から13戸に減少した旨届け出たり,自治委員や区長であった被告Bと同Cはその届出を維持するとともに原告に対して市報の配布など被告市やa自治区からの連絡事項を伝えなかったり,a自治区の構成員である被告Aらは他の構成員らと共に原告との交際を断ったりした。この被告Aらによる対応は,原告が平成26年12月にa区へ住民票を移して
平成28年5月にa自治区への加入を申し出たり,大分県弁護士会が平成29年11月にa自治区に対し原告をa自治区の構成員と認めて他の構成員と平等に取り扱うよう勧告したりしても,変わらなかった。
また,被告Aは,①平成28年秋には原告の畑に通じる道の通行を妨害したり,②平成29年3月には原告の帽子を切り刻んで捨てたり,③同年
4月には原告の畑にある柿の木を刃物で傷付けるとともに傷口に薬を塗り込んで枯れさせたり,④平成30年10月には瓦れきを原告の畑へ投棄したりするなど,原告への各種嫌がらせに及んだ。
この被告Aらによる対応は,正当な理由のない差別的な取扱いであり,共同して原告の名誉権や平穏に生活する権利といった人格権を侵害する
ものであるから,共同不法行為が成立する。

なお,原告は,平成25年3月頃,被告A等に対し,中山間地域等直接支払制度に関する問合せをしたが,脅迫や暴行には及んでいない。いずれにしても,a自治区の全構成員が上記制度に基づく集落協定に参加してい
るわけではないから,原告の上記制度に関する言動は,a自治区の運営と無関係である。このため,被告Aらによる前記対応の違法性は,原告の上記言動によって否定されない。

したがって,被告Aらは,共同不法行為責任を負う。

(被告市の主張)

前自治委員であった被告Aが平成25年4月8日に被告市に対してa自治区の戸数が14戸から13戸に減少した旨届け出たこと,原告が平成2
6年12月にa区へ住民票を移したことは認め,その余は不知又は争う。被告市は,平成25年5月10日に原告に対して市報の配布がされていない旨知ったことから,以後,原告に対し,市報を個別に送付している。イ
したがって,被告Aらは,共同不法行為責任を負わない。

(被告Aの主張)

初寄りが平成25年4月7日に開催されたこと,前自治委員であった被告Aが翌8日に被告市に対してa自治区の戸数が14戸から13戸に減少した旨届け出たこと,その後は原告に対して市報の配布がされなかったこと,大分県弁護士会が平成29年11月にa自治区に対し原告をa自治区の構成員と認めて他の構成員と平等に取り扱うよう勧告したことは認
め,その余は否認又は争う。
被告Aが被告市に対してa自治区の戸数が減少した旨届け出たのは,原告がa区に住民票を移していなかったからである。また,原告は,平成25年3月,被告A等に対し,中山間地域等直接支払制度に関する問合せをした後,正当な理由もなく告訴するなどと告げる脅迫や目の前で竹の
棒を振り回す暴行に及んだ。このため,仮に被告Aらが原告の主張する対応に及んだとしても,その違法性は,原告の上記制度に関する言動によって否定される。

したがって,被告Aは,共同不法行為責任を負わない。

(被告Bの主張)

初寄りが平成25年4月7日に開催されたこと,被告Bが原告に対して市報の配布をしなかったこと,原告が平成28年5月にa自治区への加入を申し出たこと,大分県弁護士会が平成29年11月にa自治区に対し原告をa自治区の構成員と認めて他の構成員と平等に取り扱うよう勧告したことは認め,その余は否認又は争う。
被告Bが平成25年4月にa自治区の区長へ就任したのは,持ち回り等
でやむを得ない理由によるものである。仮に被告Bが原告の主張する対応に及んだとしても,それはa自治区の機関としての行為であるから,a自治区だけが責任を負うべきである。

したがって,被告Bは,共同不法行為責任を負わない。

(被告Cの主張)


大分県弁護士会が平成29年11月にa自治区に対し原告をa自治区の構成員と認めて他の構成員と平等に取り扱うよう勧告したこと,a自治区の全構成員が中山間地域等直接支払制度に基づく集落協定に参加しているわけではないことは認め,その余は不知又は争う。
被告Cは,平成25年4月7日に開催された初寄りに出席しておらず,
決議の有無・内容等を知らない。また,被告Cが平成29年4月にa自治区の区長へ就任したのは,年齢順でやむを得ない理由によるものである。さらに,a自治区が同年11月に大分県弁護士会から原告をa自治区の構成員と認めるよう勧告されても対応を変えなかったのは,原告が話合いに応じることなく告訴等にも及ぶ中,もうしばらく原告の様子を見るべきと
いう意見が多かったからである。



したがって,被告Cは,共同不法行為責任を負わない。
争点②(権利濫用の成否)について

(被告Aの主張)

原告は,①平成26年2月には宇佐警察署に対して合理的な理由もなく被告Aを脅迫罪で告訴したり,②平成29年3月には当庁での仮処分手続において被告Aが原告に対し被告Aの畑に置かれた原告の門松を移動するようカレンダーの紙片に記載して求めたことはおかしいなどと被告Aを非難したり,③同年5月頃には同署に対して合理的な理由もなく被告Aが原告の畑にある柿の木を毒で枯らしたなどと申告したり,④同年9月には上記手続において被告Aは汚水を適正に処理していないなどと
被告Aを非難したり,⑤令和元年10月には同署に対し合理的な理由もなく被告Aが瓦れきを原告の畑へ投棄したなどと申告して被告Aを逮捕するよう求めたり,⑥被告Aの畑に通じる里道へ原告の車等を置いて被告Aの車の通行を妨害したり,⑦被告A方のそばにある原告の畑に立入禁止の立て看板を設置して被告Aに不快感を与えたりしている。

これらの事情を総合すれば,仮に被告Aが共同不法行為責任を負うとしても,原告の被告Aに対する本訴請求は,権利の濫用になるというべきである。

したがって,原告の被告Aに対する本訴請求は,権利の濫用である。
(原告の主張)

被告Aが主張する①については,被告Aらが原告を村八分にしたから合理的な理由がある。②については,おかしいなどとは述べておらず,被告Aを非難していない。
③については,
被疑者不詳で申告しており,
被告Aが…枯らしたなどと申告していない。④については,真実である。⑤については,被疑者不詳で申告しており,被告Aが…投棄したなど
と申告していない。⑥については,事実無根である。⑦については,第三者が原告の畑に侵入した形跡があったから,立入禁止の立て看板を設置したにすぎず,合理的な理由がある。
これらの事情を総合すれば,原告の被告Aに対する本訴請求は,権利の濫用にならないというべきである。


したがって,原告の被告Aに対する本訴請求は,権利の濫用でない。⑶

争点③(被告市における国家賠償責任又は使用者責任の有無)について(原告の主張)

被告市の自治委員は,特別職の非常勤公務員であり(地方公務員法3条3項3号),自治区内の世帯や住民を把握して被告市に届け出たり市報の配布など被告市からの連絡事項を伝えたりすることを職務としていた。ま
た,大分県宇佐市内の自治区は,同市内の行政区に住所を有する者の地縁に基づいて形成された事実上の強制加入団体といえる(地方自治法260条の2参照)。そうであるから,大分県宇佐市内の自治区の区長は,公共性の高い半強制加入団体の代表者といえる上,平成27年3月に被告市の自治委員制度が廃止されてからも,従前と同様,自治区内の世帯や住民を
把握して被告市に届け出たり市報の配布など被告市からの連絡事項を伝えたりすることを受託している。このため,被告市の自治委員と大分県宇佐市内の自治区の区長は,いずれも被告市の公権力の行使に当たる公務員又は被告市の被用者に当たる。
本件において,被告市は,平成27年3月までは被告Aや同Bに対し自
治委員を委嘱して手当を支給したり,同年4月からは宇佐市自治会連合会が被告Bや同Cに対して支払う区長の報償費を負担したりしていた。そのような中,被告Aらは,被告市の職務執行として,前記共同不法行為に及んだ。

したがって,被告市は,国家賠償責任又は使用者責任を負う。

(被告市の主張)

被告市の自治委員が自治区内の世帯や住民を把握して被告市に届け出たり市報の配布など被告市からの連絡事項を伝えたりしていたこと,大分県宇佐市内の自治区の区長が,平成27年3月に被告市の自治委員制度が廃
止されてからは,自治区内の世帯や住民を把握して被告市に届け出たり市報の配布など被告市からの連絡事項を伝えたりすることを受託していること,被告市が同月までは被告Aや同Bに対し自治委員を委嘱して手当を支給したり同年4月からは被告Bや同Cに対し区長としての報償費を負担したりしていたことは認め,その余は否認又は争う。
被告市の自治委員は,委任契約上の受託者でしかない上,被告市の私経済作用としての一般行政事務を受託していたにすぎない。また,大分県宇
佐市内の自治区の区長も,任意加入団体の代表者でしかない上,宇佐市自治会連合会を介して上記事務を受託しているにすぎない。このため,被告市の自治委員と大分県宇佐市内の自治区の区長は,いずれも被告市の公権力の行使に当たる公務員や被告市の被用者に当たらない。
また,被告Aらは,仮に原告が主張する前記共同不法行為に及んだとし
ても,a自治区の職務執行として及んだにすぎない。



したがって,被告市は,国家賠償責任も使用者責任も負わない。
争点④(原告における損害の有無及び額)について
(原告の主張)

慰謝料

300万円

原告は,被告Aらの前記共同不法行為により,筆舌に尽くし難い精神的苦痛を被った。この精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は,300万円を下らない。

弁護士費用

30万円

原告は,本件本訴を遂行するため,弁護士への委任を余儀なくされた。
その費用は30万円を下らない。
(被告らの主張)
争う。

争点⑤(原告における不法行為責任の有無)について(被告Aの主張)

原告は,前記⑵(被告Aの主張)のとおり,被告Aに対し,各種嫌がらせをした。これらの原告による嫌がらせは,いずれも,被告Aの人格権を侵害するものであるから,不法行為が成立する。

したがって,原告は,不法行為責任を負う。

(原告の主張)
前記⑵(原告の主張)のとおり,否認又は争う。



争点⑥(被告Aにおける損害の有無及び額)について(被告Aの主張)

慰謝料

300万円

被告Aは,原告の前記各不法行為により,重大な精神的苦痛を被った。この精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は,300万円を下らない。

弁護士費用

30万円

被告Aは,
本件反訴を遂行するため,
弁護士への委任を余儀なくされた。
その費用は30万円を下らない。
(原告の主張)
争う。

第3

当裁判所の判断

1
認定事実
当事者間に争いがない事実と後掲証拠及び弁論の全趣旨によって認められる
事実を併せて総合すれば,次の事実が認められる。


原告によるa自治区への加入に至る経緯等

原告は,昭和24年1月にDとEの間で出生し,両親が農業を営む大分県宇佐郡b村(昭和30年1月にc村へ,昭和35年10月にc町へ,順次変更。)dのa地区で少年時代を過ごしたものの,昭和42年4月にeへ採用されたことから,以後,兵庫県内で生活するようになり,家族ももうけた(甲第98,第152号証)。


被告市は,昭和52年,かねてから地縁団体として存在する自治区等の区域を行政区と定めた上で,各行政区ごとに1名の自治委員を置くこととし,以後,行政区内で推薦されて就任した各自治委員に対し,市政の周知徹底及び指導,市報その他文書の配布,住民との連絡,自治区内の世帯及び住民の把握並びに調査及び募金への協力等を委嘱するとともに,これらの対価として手当(均等割額年3万円,世帯割額1世帯年1400円)や
委託料(1世帯年500円)を支払うようになった(乙イ第1,第2,第4,第11号証,証人F)。

国は,平成12年,中山間地域の水源かん養機能や洪水防止機能等を確保するため,農業者等が所定の協定を締結した上で中山間地域等の生産条件が不利な農用地において上記協定に基づく農業生産活動等を5年以上
継続して行う場合に上記農業者等へ交付金を交付する中山間地域等直接支払制度を新設したところ,その対象地域に大分県宇佐郡c町dが該当した。
そこで,Dを含む大分県宇佐郡c町dの農業者らは,平成12年頃,取り組むべき活動等を定めたa集落協定を締結し,以後,a集落として上記
活動を実施しながら,年計約309万円に上る交付金の交付を受けるようになった。
もっとも,原告の実家では,平成16年8月にDが死亡したことから,この頃より,近所で農業を営むGに対して所有する田(以下本件田という。)を賃貸し,Gが農用地の管理者として年約7万円に上る交付金の
交付を受けるようになった。
(甲第13,第86,第106,第115,第118,第120,第137号証,第144号証の3,第153号証,乙ロ第1,第2,第6号証)エ
被告市は,平成17年3月,大分県宇佐郡c町等と合併し,新たな被告市として発足した。
これに伴い,かねてから大分県宇佐郡c町dのa地区に地縁団体として存在していたa自治区の区域は,a区と定められ,以後,区長が自治委員に推薦されて就任するようになった。
(甲第2号証,乙イ第1,第4,第11号証)

原告は,平成21年にはEと妻の母のいずれもが介護を要する状態になっていた上,同年3月にはeを定年退職したことから,同年5月頃,妻を
兵庫県高砂市内の自宅に残し,単身で実家に戻った。
以後,原告は,自宅に年数回の計数十日間ほど帰省する時以外,実家で生活しながら,Eを介護したり,所有する畑(以下本件畑という。)で野菜を栽培し,これを近所に住むHに搬送してもらって出荷したり,区長を通じて案内されるa自治区の会合や行事等に参加したりするように
なった。また,原告は,平成22年10月頃にはGに本件田を返してもらうとともに,平成23年3月からはGに農機を用いる作業を有料で行ってもらうことにより,以後,本件田で稲を栽培して出荷するようになった。(甲第13ないし第15号証,第44号証,第50ないし第52号証,第54号証の1,第86,第106号証,第144号証の1・3,第152,
第153号証,原告本人)

Eは,平成23年12月,死亡した。
しかし,原告は,その後も実家で生活し続けた上,平成24年4月1日にa自治区の年次総会として開催された初寄りでは,住民票こそ大分県に移していないもののこれまでどおりの付き合いをしてほしい旨の挨拶を
したことから,a自治区の構成員として受け入れられることとなった。(甲第83号証,第144号証の1,第150,第152号証)


a自治区による共同断交の決議に至る経緯等

a集落協定の代表者であったIや会計を担当していた被告Aを初めとする上記協定の参加者らは,平成25年3月7日,会合を開き,活動の振り返り等を行った。原告は,前記会合の存在を知り,平成25年3月8日,被告Aに対して原告への連絡がなかった理由を電話で尋ねたところ,

あんたは関係ない。

などと言われた。そこで,原告は,被告市に対し中山間地域等直接支払制度について照会した上で,
翌9日,
被告Aに対して再び電話を掛け,
平成23年から本件田を管理しているにもかかわらずa集落に管理者の
変更を指導してこなかった被告市を訴える可能性がある旨言及するとともに,本件田の管理者をGから原告に変更するよう求めたが,

あんたが言うて来んかったら,わしは分からん。わしらは悪いことをしとらん。あんたは住民票もないやろがえ。百姓をしようと思ったら勉強せな。

などと言われた。また,原告は,平成25年3月11日には,従兄に当たるI
から電話を受け,

お前は役所に聞き回っとるらしいな。そげなこつしとったら,部落で決めるんやから,入れるかどうか分からんど。よそから帰って来て偉そうなこつ言うな。

などと罵られた。そのような中,原告は,a集落協定に参加する意欲を失い,平成25年3月14日,被告Aに対し,上記協定の農用地から本件田を除外するよう
申し入れた。
(甲第84号証,第107号証の1,第144号証の3,第152号証,乙ロ第2,第6号証,証人I,原告及び被告A両本人)

Iは,a集落協定の農用地から本件田が除外されればa集落が交付金の返還を求められるおそれが生じることから,平成25年3月21日,被告Aや上記協定の参加者でa自治区の副区長を務めていたJ,被告市の担当者と共に,原告方を訪ね,外で竹の棒を束ねていた原告に対して上記協定の農用地から本件田を除外しないよう求めた。しかし,原告は,突然4名もの男性に押し掛けられたこと等に気分を害したことから,帰るよう求め
たところ,Iから

帰れちゃどういうこつか。お前が悪い。責任はどげ取るんか。お前は60歳になっても赤子みたいや。わしはお前より頭がいいぞ。

などと罵られた。そこで,原告は,手に持っていた1mほどの竹の棒を振り払いながら帰れなどと叫び,4名を追い返した。
(甲第84号証,第107号証の1,第144号証の3,第152号証,乙ロ第1,第4,第6号証,証人I,原告及び被告A両本人)

a自治区では,平成25年4月7日,帰省していた原告を除く13世帯の世帯主又は代理人が集会所に集まり,初寄りが開催された。
その席上,
前区長の被告Aは,
原告から訴えられるおそれがあるとして,
区長に再任されることを固辞した上,Jも,原告が中山間地域等直接支払制度をめぐりa集落で問題を起こしているなどと述べた。これを受け,出席者らは,5世帯がa集落に属していなかったものの,原告の言動を問題
視して議論した結果,原告がa区に住民票を有していないことを理由に,原告をa自治区の構成員と認めず,被告市に対して1戸減少した旨届け出ることや,原告をa自治区の会合や行事等に参加させず,市報その他文書も配布・回覧せず,
共同して原告と断交することを全員一致で決議した
(以
下,この決議を本件決議という。)。

(甲第34,第84,第85,第145,第152号証,乙ロ第6号証,ハ第1号証,原告,被告A,B及びC各本人)


原告に対する共同断交等

被告Aは,平成25年4月8日,被告市に対し,本件決議に基づき,前自治委員として,a自治区の戸数が14戸から13戸に減少した旨届け出た。
また,Jは,被告Bに対して年齢順を理由に区長兼自治委員へ就任するよう要請し,平成25年4月10日にその旨承諾してもらった上で,同月15日,被告市に対し,被告Bが同月10日に自治委員へ就任した旨やa
自治区の戸数が13戸である旨を電話で報告した。
(甲第5,第145号証,乙イ第10,第11号証,ロ第6号証,ハ第1号証,証人F,被告B本人)イ
a集落では,
平成25年4月16日,
被告市の担当者4名が立ち会う中,
臨時総会が開催され,原告も出席した。
その席上,原告は,本件田の管理者をGから原告へ変更した上でa集落協定の農用地から本件田を除外するよう申し入れたが,原告だけのために
交付金を返還することはできないとして,認められなかった。
(甲第84号証,第107号証の1ないし3,第144号証の3,第152号証,証人F,原告本人)

被告Bは,区長兼自治委員に就任しても,本件決議に従い,原告に対して月2回発行される市報その他文書を配布・回覧しなかった。原告は,平
成25年5月10日,Jより先月の初寄りで本件決議がされた旨を告げられたことから,被告市に相談し,以後,被告市から直接に市報等の送付を受けざるを得なくなった。
また,原告は,平成25年5月頃より,区長から冠婚葬祭の連絡がなくなるとともに,住民からも

あんたと話すとAちゃんから怒られる。


どという理由で口をきいてもらえないようになった。
(甲第5,第84,第86号証,第144号証の3,第152号証,乙イ第8号証,ハ第1号証,ニ第1号証,証人F,原告本人)

原告は,平成25年5月下旬頃,a集落協定の農用地から本件田を除外してもらうべく,本件田に竹等を植えたものの,同年6月6日頃に宇佐市
農業委員会より無許可転用に当たるとして原状回復の指導を受けたことから,同年7月頃までに竹等を撤去した(甲第108,第109,第152号証,原告本人)。

被告Bは,平成25年10月30日には,原告から居住証明書の発行を求められたが,原告はa自治区の構成員でないとして,これを拒んだり,平成26年1月17日頃には,被告市から戸数等の変更があれば届け出るよう促す旨の事務連絡を受けたが,a自治区の戸数を14戸に戻す旨の届出をしなかったりした(甲第18,第152号証)。


原告と被告Aとの間の紛争が加わった経緯等

原告は,平成26年2月19日,宇佐警察署に対し被告AとJが本件決議を主導したとして上記両名を脅迫罪で告訴し,被告A等に対する取調べ
が行われたものの,検察官から話合いを勧められ,告訴を取り消した(甲第152号証,乙ロ第6号証,原告及び被告A両本人)。

a集落は,前年より被告市から本件田の管理者を原告へ変更するよう促されていたものの,原告がa集落協定の農用地から本件田を除外するよう求めていたことから,平成26年3月10日には被告市からの照会に対し
て本件田の管理者がGであると回答したり,同年5月12日には被告市との面談で同様の回答を繰り返したりした(甲第17,第120,第124号証,第126ないし第128号証,第131,第136,第138号証,証人I)。

原告は,平成26年5月以降,Gに対して農機を用いる作業を依頼しなくなった。
そのような中,Hは,平成26年5月25日,原告に対し,今後は原告が栽培した野菜を搬送しない旨表明した。
(甲第53,第85,第134,第143,第152号証)


原告は,平成26年12月15日,a自治区の構成員と認めてもらえるよう,住民票を兵庫県高砂市の自宅所在地から大分県宇佐市c町dの現住居地に移した(甲第85,第98,第152号証)。


原告は,実家に戻って以来,年末年始に門松を原告方の前にある被告Aの畑の出入口部分へ置いていた。これに対し,被告Aは,カレンダーの裏
紙に門松を撤去するよう記載し,平成26年12月28日,当該裏紙を原告方の郵便受けに投かんした。(甲第85号証,第144号証の2・4,第150,第152,第153号証,乙ロ第5,第6号証)カ
原告は,平成27年も,被告市に申し入れるなどして,a集落協定の農用地から本件田を除外するよう求めていた。このため,上記協定は,同年3月31日,更新されることなく終了した。(甲第141号証の1,第142,第152号証,証人I)


被告市は,住民自治を進めるため,平成27年3月31日に自治委員制度を廃止した上で,同年4月1日以降,宇佐市自治会連合会を通じ,各自治会に対して通知等の伝達や市報等の配布,事務事業及び募金への協力等を間接的に委託するとともに,これらの対価として上記連合会が各自治会に支払う報償費(均等割額年3万円,世帯割額1世帯年1400円,配布
費1世帯年500円)を負担するようになった(乙イ第1,第5,第6号証,第7号証の1ないし4,第11号証,証人F)。

原告は,平成28年6月26日,被告Aの妻から,被告A方の前にある本件畑上の柿の木の枝が車の通行に支障を来すとして,その枝を切る旨の申入れを受けたものの,被告Aから門松の撤去を求められたこともあり,
上記申入れを拒んだ(甲第27,第86号証,第144号証の1ないし4,第150,第152号証,乙ロ第6号証,被告A本人)。

a自治区は,原告から住民票を現住居地に移したとして加入の申出を受けていたが,平成28年6月26日に全世帯の世帯主又は代理人間で協議した結果,同月28日頃,原告に対し,加入には全員の賛同を要するとこ
ろ,全員の賛同は得られなかったとして,上記申出を拒んだ(甲第7号証,第8号証の1・2,第152号証,乙ハ第1号証,被告A本人)。コ
被告Aは,平成28年9月2日頃,本件畑に通じる市道に赤い塗料で分割線を引くとともに私道等と大書し,原告による本件畑への通行を妨
げた。また,被告Aやその妻は,同月15日と同年10月18日,同月21日,原告方の横にある里道上に止められた原告の車が被告Aの別の畑への農機の通行に支障を来すとして,警察に通報した。さらに,被告Aは,同年11月12日頃,上記市道に進入禁止と記載されたカラーコーンやコーンバーを複数設置し,
原告による本件畑への通行を更に妨げた。
(甲
第27ないし第29号証,第144号証の1・2・4,第150,第152号証,乙ロ第5,第6号証)


被告市は,平成29年3月1日,原告に対しては本件畑上の柿の木の枝が市道に張り出しているとして枝の切除を,被告Aに対しては当該市道を汚損したり交通を妨害したりしているとしてその差止めを,それぞれ求める仮処分を当庁に申し立てた(平成29年(ヨ)第3号。以下,この手続を前件手続という。)。

そのような中,原告は,平成29年3月5日,紛失していた帽子が刃物で切られて原告方付近に捨てられているのを発見した。そこで,原告は,同月23日頃,前件手続において,被告Aからカレンダーの裏紙で門松を撤去するよう求められたりa自治区やa集落の誰かから帽子を切られて捨てられたりする嫌がらせを受けているなどと主張した。

(甲第144号証の2,第152号証,乙ロ第6号証)

被告Bは,
平成29年4月1日に被告Cへ年齢順を理由に区長を交代し,
翌2日,被告市に対し,被告Cが同月1日に区長へ就任した旨やa自治区の戸数が13戸である旨を届け出た。
被告Cも,被告Bと同様,区長に就任しても,本件決議に従い,原告に
対して月2回発行される市報その他文書を配布・回覧しなかった。(甲第33号証,乙ニ第1号証,被告C本人)。

原告は,平成29年4月27日,本件畑上の柿の木が刃物で18箇所ほど切られるとともに各傷口へ黒い液体が塗られて枯れていることに気付
いた。そこで,原告は,宇佐警察署に対して被疑者不詳で被害届を提出したところ,被告Aやその妻子に対する取調べが行われた。(甲第152号証,乙ロ第6号証,原告及び被告A両本人)セ
原告は,平成29年8月7日,本件畑に告許可なく立入禁止立入った場合法的拠置をとるなどと記載した立札を設置した(甲第152号証,乙ロ第5,第6号証,被告A本人)。

原告は,平成29年8月10日,相続した不動産を売却するため,住民票を大分県宇佐市c町dの現住居地から兵庫県高砂市の自宅所在地に戻した(甲第98,第152号証)。


原告は,平成29年9月4日頃,前件手続において,被告Aが毎日のように複数の犬小屋を洗浄した汚水を適正に処理しないまま川へ排水しているなどと主張した(甲第150号証)。


大分県弁護士会は,平成29年11月1日,a自治区に対し,原告をa自治区の構成員と認め,原告に行事を通知して参加させたり市報を配布したりするなど,原告を他の構成員と平等に取り扱うよう勧告し,その旨が各種新聞・雑誌で報じられるとともに,同年12月5日には被告市の議会でも採り上げられた。

これに対し,a自治区は,対応を協議した結果,前記勧告が一方的であるとして,直ちには前記勧告に従わず,様子見をすることにした。(甲第1号証,第19ないし第29号証,乙ニ第1号証,被告A,B及びC各本人)

原告は,平成30年10月23日,被告A方の瓦れきが本件畑へ投棄されていることに気付いた。そこで,原告は,宇佐警察署に対して被害届を提出したところ,被告Aに対する取調べが行われた。(甲第152号証,乙ロ第6号証,原告及び被告A両本人)


原告は,平成31年1月10日,不動産の売却も終了し,住民票を兵庫県高砂市の自宅所在地から大分県宇佐市c町dの現住居地に再び移した(甲第99,第152号証)。ト

a自治区では,平成31年3月31日に被告Cが区長から離任したものの,同年4月1日以降,区長の引き受け手がおらず,区長が不在となっている(乙ニ第1号証,被告C本人)。

2
争点①のうち被告Aらにおける共同不法行為の成否について⑴

原告における被侵害利益の有無
前記認定事実によれば,原告は,平成25年当時,兵庫県高砂市に自宅や
妻,住民票を残し,年数回の計数十日間ほど帰省していたものの,近くの田畑で稲や野菜を栽培して出荷しながらa区内の現住居で生活したり,区長兼自治委員から市報その他文書の配布・回覧を受けたり,a自治区の構成員として会合や行事等に参加したりしていたから(前記1⑴イエオカ),a区の住民やa自治区の構成員として平穏に生活する人格権ないし人格的利益を有していたものというべきである。
被告Aは,原告がa区に住民票を移していなかったから,前記人格権ないし人格的利益を有していなかった旨主張する。しかしながら,証拠(甲第2,
第12号証,乙イ第8号証)によれば,被告市の市報その他文書の配布を受けることについては,大分県宇佐市内に居住していれば足り,住民票の有無を問われていなかったことが認められる。また,a自治区へ加入することについても,a自治区が地縁団体であること,原告が平成24年4月の初寄りで住民票をa区に移していない旨明かしながらもa自治区の構成員として受
け入れられたことを総合すれば(前記第2の1⑴エ,第3の1⑴カ),a区内に居住していれば足り,住民票の有無を問われていなかったものと推認することができる。被告Aの上記主張は,採用することができない。⑵

被告Aらによる共同不法行為の成否

本件決議とこれに沿った各言動における共同不法行為の成否
前記認定事実によれば,被告Aらないしその代理人は,平成25年4月7日,原告を除くa自治区の他の構成員らと共に,原告がa区に住民票を有していないことを理由に,原告をa自治区の構成員と認めず,被告市に対して1戸減少した旨届け出ることや,原告をa自治区の会合や行事等に参加させず,市報その他文書も配布・回覧せず,共同して原告と断交する旨の本件決議を全員一致で行った(前記1⑵ウ)。その上で,
①平成25年4月8日には被告Aが被告市に対し前自治委員としてa自治区の戸数が14戸から13戸に減少した旨届け出たり,②同月10日からは被告Bが区長兼自治委員に就任しても原告に対して市報その他文書を配布・回覧せず,冠婚葬祭の連絡もしなかったり,③同年5月頃からはa自治区の住民らが原告と口をきかなくなったり,
④同年10月30日には被告Bが原告に対して居住証明書の発行を拒んだり,⑤平成26年1月17日頃には被告Bが被告市から促されてもa自治区の戸数を14戸に戻す旨の届出をしなかったり,⑥同年5月25日にはa自治区の構成員であるHが原告に対して今後は原告が栽培した野菜を搬送しない旨表明したりした(前記1⑶アウオ,⑷ウ)。ま
た,⑦平成28年6月28日頃にはa自治区が住民票をa区に移した原告に対し全員の賛同を得られなかったとして加入の申出を拒んだり,⑧平成29年4月1日からは被告Cが区長に就任しても原告に対して市報その他文書を配布・回覧しなかったり,⑨同年11月1日にはa自治区が大分県弁護士会から原告をa自治区の構成員と認めて他の構成員
と平等に取り扱うよう勧告されても従わずに様子見をしたりしたものである(前記1⑷エケシチ)。
この点,原告は,①平成25年3月9日にはa集落協定の会計を担当していた被告Aに対し中山間地域等直接支払制度について説明してくれなかったことを暗に非難する旨の発言をしたり,②同月14日以降は
上記協定の農用地から本件田を除外するよう繰り返し求めたり,③同月21日には上記協定の代表者であったIや被告Aなどから再考するよう求められても竹の棒を振り払いながら帰れなどと叫んで追い返したり,④同年5月下旬頃には本件田に竹等を植えて上記協定に違反したりしたことにより,a自治区の構成員の多くが参加しているa集落を困惑させている上,平成27年3月31日には上記協定の終了を余儀なきものとしている(前記1⑵アイウ,⑶イエ,⑷イカ)。
しかしながら,原告が前記言動を取るようになったのは,Gが平成22年10月頃に原告に対し本件田を返した後も本件田で農機を用いる作業を行っていたこと等から交付金の交付を受け続けるとともに,Iや被告Aも農用地の管理者を十分に確認しない中で,原告が2年間にわたって交付金の交付を受け損ねた上,Iや被告Aから謝罪を受けるどころ
か罵倒されたり非難されたりしたことによるものとうかがわれ,本件決議が原告の言い分を聞くことなく一方的に行われたことも併せ考慮すると(前記1⑴ウオ,⑵アイウ),原告だけに落ち度があるとはいえないというべきである。
これらの事情を総合すれば,原告を除いたa自治区の全構成員による
本件決議やこれに沿った前記各言動は,原告がa区の住民やa自治区の構成員として平穏に生活する人格権ないし人格的利益を7年以上にわたって継続的に侵害するものであり,原告に大きな落ち度があるともいえないから,社会通念上許される範囲を超えた村八分として,共同不法行為を構成するというべきである。


原告が受けた各種嫌がらせにおける共同不法行為の成否
前記認定事実によれば,①被告Aは,平成28年9月2日頃には本件畑に通じる市道に赤い塗料で分割線を引くとともに私道等と大書したり,同年11月12日頃には上記市道に進入禁止と記載されたカ
ラーコーンやコーンバーを複数設置したりして,原告による本件畑への通行を妨げている(前記1⑷コ)。また,②遅くとも平成29年4月27日には,本件畑上の柿の木が刃物で18箇所ほど切られるとともに各傷口へ黒い液体が塗られて枯れているところ,上記柿の木が被告A方の前にあることや,平成28年6月26日には被告Aの妻が原告に対して上記柿の木の枝を切る旨の申入れをしたものの拒まれたこと,平成29年3月に始まった前件手続では原告と被告Aが互いに非難し合ってい
たことを併せて総合すれば,被告Aが上記柿の木を切るなどして枯らしたものと推認することができる(前記1⑷クサスタ)。さらに,③遅くとも平成30年10月23日には,被告A方の瓦れきが本件畑へ投棄されているところ,瓦れきが被告A方から出たものであることを考慮すれば(前記1⑷ツ),被告Aが瓦れきを投棄したものと推認することがで
きる。
そして,被告Aによる前記各行為は,いずれも,原告が平穏に生活する人格権ないし人格的利益を侵害するものであるから,社会通念上許される範囲を超えた嫌がらせとして,不法行為を構成するというべきである。

原告は,被告Aが平成29年3月に原告の帽子を切り刻んで捨ててもおり,被告Aによる前記各嫌がらせと共に,被告B及び同Cとの共同不法行為を構成する旨主張する。しかしながら,前記認定事実によれば,遅くとも同月5日に原告の帽子が刃物で切られて捨てられているものの(前記1⑷サ),被告Aが原告の帽子を切って捨てたことを認めるに
足りる証拠はない。また,被告Aによる前記各嫌がらせは,被告Aが被告B及び同Cと共謀して行ったことを認めるに足りる証拠はない上,本件決議に沿った行為ともいえないから,被告B及び同Cとの共同不法行為を構成する余地もない。
原告の上記主張は,
採用することができない。

したがって,被告Aらを含めたa自治区の構成員による本件決議やこれに沿った前記各言動は村八分として被告Aらの共同不法行為を構成し,被告Aによる前記各行為は嫌がらせとして被告Aの各不法行為を構成する(なお,被告Aらや同Aにおける責任の有無は,後記4の争点③の後に判断する。)。
3
争点②(権利濫用の成否)について


被告Aは,原告が,①平成26年2月には宇佐警察署に対して合理的な理
由もなく被告Aを脅迫罪で告訴したり,②平成29年3月には前件手続において被告Aが原告に対し被告Aの畑に置かれた原告の門松を移動するようカレンダーの紙片に記載して求めたことはおかしいなどと被告Aを非難したり,③同年5月頃には同署に対して合理的な理由もなく被告Aが原告の畑にある柿の木を毒で枯らしたなどと申告したり,④同年9月には前件手続において被告Aは汚水を適正に処理していないなどと被告Aを非難したり,⑤令和元年10月には同署に対し合理的な理由もなく被告Aが瓦れきを原告の畑へ投棄したなどと申告して被告Aを逮捕するよう求めたり,⑥被告Aの畑に通じる里道へ原告の車等を置いて被告Aの車の通行を妨害し
たり,⑦被告A方のそばにある原告の畑に立入禁止の立て看板を設置して被告Aに不快感を与えたりしているから,原告の被告Aに対する本訴請求が権利の濫用になる旨主張する。
しかしながら,①について,原告は,平成26年2月19日,宇佐警察署に対し,被告A等が本件決議を主導したとして,被告A等を脅迫罪で告訴し
ている(前記1⑷ア)。しかしながら,前記2のとおり,本件決議は村八分に当たり,村八分は脅迫罪を構成し得るから,原告は,合理的な理由の下に告訴したものといえる。また,②について,原告は,平成29年3月23日頃,前件手続において,被告Aからカレンダーの裏紙で門松を撤去するよう求められる嫌がらせを受けた旨主張している(前記1⑷サ)。しかしながら,
実際,被告Aは,平成26年12月28日,門松を撤去するよう記載したカレンダーの裏紙を原告方の郵便受けに投かんしているから(前記1⑷オ),主要部分において真実である。また,③について,原告は,平成29年4月27日頃,同署に対し,本件畑上の柿の木が枯らされたとして,被害届を提出している。しかしながら,被疑者不詳で提出されている(前記1⑷ス)。また,④について,原告は,同年9月4日頃,前件手続において,被告Aが犬小屋を洗浄した汚水を適正に処理しないまま川へ排水しているなどと主張
している(前記1⑷タ)。しかしながら,当該主張が事実的・法律的根拠を欠いていたことを認めるに足りる証拠はない。また,⑤について,原告は,平成30年10月23日頃,同署に対し,被告A方の瓦れきが本件畑へ投棄されたとして,被害届を提出している(前記1⑷ツ)。しかしながら,原告が同署に対して被告Aが投棄したと申告したり被告Aを逮捕するよう求めた
りしたことを認めるに足りる証拠はない。さらに,⑥について,原告は,平成28年9月15日と同年10月18日,同月21日,原告方の横にあって被告Aの畑に通じる里道上に原告の車を止めている(前記1⑷コ)。しかしながら,被告Aの車の通行を妨害したことを認めるに足りる証拠はない。最後に,⑦について,原告は,平成29年8月7日以来,本件畑に立入禁止
などと記載した立札を設置している(前記1⑷セ)。しかしながら,本件畑は,原告が所有しているから(前記1⑴オ),違法となる余地はない。被告Aの前記主張は,いずれも採用することができない。

4
したがって,原告の被告Aに対する本訴請求は,権利の濫用でない。争点③(被告市における国家賠償責任又は使用者責任の有無)について


被告市における国家賠償責任の有無

自治委員及び区長の公務員該当性
まず,被告市における自治委員や区長は,被告市に任命されて就任するものでなく(乙イ第3,第11号証,第12号証の1ないし9),直接又
は間接に被告市の事務を受託するものにすぎない上,支払われる対価も職務の対価とはいい難いから(前記1⑴イ,⑷キ),地方公務員法上の公務員に当たらないというべきである。また,被告市における自治委員が受託していた事務は市政の周知徹底及び指導,市報その他文書の配布,住民との連絡,自治区内の世帯及び住民の把握並びに調査及び募金への協力等であり,被告市における区長が受託している事務は通知等の伝達や市報等の配布,事務事業及び募金への協力
等であるところ(前記1⑴イ,⑷キ),いずれの事務も,その多くは本来被告市が行うべきものであるものの,自治委員や区長は,強制的な権限を有しておらず,被告市からの指揮監督も受けていないことに照らせば(乙イ第1,第4,第6,第11号証,証人F),国家賠償法上の公務員にも当たらないというべきである(最高裁平成17年(受)第2335号,第
2336号同19年1月25日第一小法廷判決・民集61巻1号1頁参照)。

宇佐市自治会連合会の公共団体該当性
宇佐市自治会連合会が受託している事務は,区長と同様,通知等の伝達や市報等の配布,事務事業及び募金への協力等であるところ,宇佐市自治
会連合会も,区長と同様,強制的な権限を有しておらず,被告市からの指揮監督も受けていないことに照らせば(乙イ第6号証,第7号証の1ないし4),国家賠償法上の公共団体に当たらないというべきである。⑵

被告市における使用者責任の有無
被告市における自治委員や区長は,前記⑴アのとおり,被告市からの指揮
監督を受けていないから,被告市の被用者にも当たらないというべきである(最高裁昭和41年(オ)第292号同年10月11日第三小法廷判決・裁判集民事84号575頁参照)。

5
したがって,被告市は,国家賠償責任も使用者責任も負わない。
争点①のうち被告Aらにおける共同不法行為責任の有無について
被告市が国家賠償責任を負わない以上,被告Aらは村八分としての前記共同不法行為について共同不法行為責任を負い,被告Aは嫌がらせとしての前記各不法行為について不法行為責任を負う。
6
争点④(原告における損害の有無及び額)について⑴

慰謝料

計130万円

原告が被告Aらの前記共同不法行為や被告Aの前記各不法行為により,相
当な精神的苦痛を被ったことは,想像に難くない。そこで,前記共同不法行為や前記各不法行為に至った経緯,態様,期間,結果など本件に現れた一切の事情を考慮すれば,前者の慰謝料は100万円,後者の慰謝料は30万円(1不法行為当たり10万円)とするのが相当である。


弁護士費用

計13万円

本件事案の内容,審理の経過その他諸般の事情を総合考慮すると,被告Aらの前記共同不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は10万円,被告Aの前記各不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は3万円(1不法行為当たり1万円)とするのが相当である。
7
争点⑤(原告における不法行為責任の有無)について被告Aは,原告から各種嫌がらせを受けた旨主張する。しかしながら,前記
3のとおり,いずれも嫌がらせとは認められない。
したがって,原告は,不法行為責任を負わない。
8
以上によれば,原告の本訴請求は,⑴被告Aらに対しては,民法719条1
項に基づき,損害金110万円及び共同不法行為の後の日である平成29年11月7日から支払済みまで旧民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,
⑵被告Aに対しては,
民法709条に基づき,
損害金33万円及びうち
22万円に対する不法行為
(通行妨害・柿の木損傷)
の後の日である上記同日か
ら,
うち11万円に対する不法行為
(産廃投棄)
の日である平成30年10月2

3日から,いずれも支払済みまで旧民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の支払を,
それぞれ求める限度で理由がある。
被告Aの反訴請求は,
その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
よって,原告の本訴請求を前記の限度で認容し,原告の被告Aらに対するその余の本訴請求及び原告の被告宇佐市に対する本訴請求並びに被告Aの反訴請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
大分地方裁判所中津支部

裁判長裁判官

志賀勝
裁判官増子由一は転補のため,裁判官橋之口峻は差支えのため,それぞれ署名押印できない。

裁判長裁判官

志賀勝
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