判例検索β > 平成29年(行ウ)第230号
障害基礎年金の支給停止を解除しない処分の取消等請求事件
事件番号平成29(行ウ)230
事件名障害基礎年金の支給停止を解除しない処分の取消等請求事件
裁判年月日令和3年5月17日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第2民事部
裁判日:西暦2021-05-17
情報公開日2021-06-16 12:00:36
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主文1
原告X9の義務付けの訴えを却下する。

2
厚生労働大臣が令和元年5月10日付けで原告X5に対してした障害基礎年金の支給を停止する旨の処分を取り消す。

3
原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X6,原告X7及び原告X8の請求並びに原告X9のその余の請求をいずれも棄却する。

4
訴訟費用は,原告X5と被告との間においては,全部被告の負担とし,その余の原告らと被告との間においては,被告に生じた費用の9分の8を上記原告らの負担とし,その余は各自の負担とする。
事実及び理由

第1
1
請求
甲事件,丙事件
(1)

厚生労働大臣が令和元年5月10日付けで原告X9に対してした障害基
礎年金の支給停止を解除しない旨の処分を取り消す。
(2)

厚生労働大臣は,原告X9に対し,平成28年11月から障害基礎年金
の支給停止を解除する旨の処分をせよ。
2
乙事件
厚生労働大臣が令和元年5月10日付けで原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X6,原告X7及び原告X8に対してした障害基礎年金の支給を停止する旨の各処分をいずれも取り消す。

第2

事案の概要
原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X6,原告X7及び原告X8(以下原告ら8名と総称する。)は,いずれも,1型糖尿病にり患し,国民年金法(以下法という。)30条2項による委任を受けた国民年金法施行令(以下令という。)別表の定める障害等級(同項に規定する障害等級をいう。以下同じ。)2級に該当する程度の障害の状態にあるとして障害基礎年金の裁定を受けてこれを受給していたが,厚生労働大臣から,法36条2項本文の規定に基づく障害基礎年金の支給停止処分(以下,支給停止処分といい,原告ら8名についてされた各支給停止処分を前件各支給停止処分という。)を受けた。また,原告X9は,原告ら8名と同様に,1型糖尿病にり患し,障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあるとして障害基礎年金の裁定を受けてこれを受給していたところ,厚生労働大臣から,支給停止処分を受け,その後,厚生労働大臣に対し,国民年金法施行規則(平成30年厚生労働省令第10号による改正前のもの。以下規則という。)35条1項本文に基づき,支給停止の解除の申請をしたが,支給停止を解除しない旨の処分(以下前件不解除処分といい,前件各支給停止処分と併せて前件各処分という。)を受けた。原告ら8名は前件各支給停止処分の取消しを(当庁平成29年(行ウ)第220号,第223号ないし229号),原告X9は前件不解除処分の取消し及び行政事件訴訟法(以下行訴法という。)3条6項2号に基づき支給停止を解除する処分をすべき旨を命ずること(同号所定の義務付け)
を(甲事件)

それぞれ求めて訴訟を提起した。当裁判所は,原告ら8名の請求について,前件各支給停止処分は行政手続法(以下行手法という。)14条1項本文の定める理由提示の要件を欠き,違法であるとして,前件各支給停止処分を取り消すとともに,甲事件について,行訴法37条の3第6項前段に基づき,前件不解除処分の取消しを求める訴えについてのみ,前件不解除処分は行手法8条1項本文の定める理由提示の要件を欠き,違法であるとして,前件不解除処分を取り消す旨の判決をし(以下前件判決という。),前件判決は確定した。その後,厚生労働大臣は,令和元年5月10日,再度,原告ら8名に対し,支給停止処分(以下本件各支給停止処分という。)をするとともに,原告X9に対し,
支給停止を解除しない旨の処分
(以下
本件不解除処分
といい,
本件各支給停止処分と併せて本件各処分という。)をした。本件は,(1)原告X9が,上記のとおり支給停止を解除する処分の義務付けを求める(甲事件)とともに,本件不解除処分は,前件判決の反復禁止効に反するほか,支給停止解除事由があり,行手法8条1項本文の定める理由提示の要件を欠くなどの理由により違法であると主張して,行訴法19条に基づき,本件不解除処分の取消しを求める訴えを,甲事件の義務付けの訴えに追加的に併合提起した事案(丙事件)と,(2)原告ら8名が,本件各支給停止処分は,前件判決の反復禁止効に反するほか,支給停止事由を欠き,行手法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠くなどの理由により違法であると主張して,その取消しを求める事案(乙事件)とから成る。
1
関係法令等の定め
(1)


法16条は,給付を受ける権利は,その権利を有する者(以下受給権者という。)の請求に基づいて,厚生労働大臣が裁定する旨規定する。

法は,(ア)30条2項において,障害等級は,障害の程度に応じて重度のものから1級及び2級とし,
各級の障害の状態は,
政令で定める旨規定し,
(イ)同条1項,30条の2及び30条の3において,疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下傷病という。)について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下初診日という。において①被保険者,又は②被保険者であった者のうち,)
日本国内に住所を有し,かつ,60歳以上65歳未満であるものが,当該初診日から起算して1年6月を経過した日(以下障害認定日という。)等の一定の時点において,傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときは,その者に障害基礎年金を支給する旨規定する。


法30条の4は,疾病にかかり,又は負傷し,その初診日において20歳未満であった者が,20歳に達した日以後の一定の時点において,障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときは,その者に障害基礎年金を支給する旨規定する。エ
法36条2項本文は,障害基礎年金は,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったとき
(支給停止事由があるとき)
は,
その障害の状態に該当しない間,その支給を停止する旨規定する。

法105条3項は,受給権者又は受給権者の属する世帯の世帯主その他その世帯に属する者は,厚生労働省令の定めるところにより,厚生労働大臣に対し,厚生労働省令の定める事項を届け出,かつ,厚生労働省令の定める書類その他の物件を提出しなければならない旨規定する。


法109条の10第1項10号は,厚生労働大臣は,法36条2項等の規定による障害基礎年金の支給の停止に係る事務(当該支給の停止に係る決定を除く。)につき,日本年金機構(以下機構という。)に行わせる(事務の委託をする)ものとする旨規定する。

(2)


令4条の6は,障害等級の各級の障害の状態は,別表に定めるとおりとす
る旨規定し,
当該別表は,
1級9号において,
前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同等以上と認められる状態であって,日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを,同11号において,身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であって,その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のものを挙げ,2級15号において,前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを,同17号において,身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であって,その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のものを挙げている。(3)

規則
規則35条1項本文は,障害基礎年金の受給権者は,法36条等の規定によって支給を停止されている障害基礎年金につき,支給停止の事由が消滅したときは,速やかに,届書を機構に提出しなければならず,規則35条2項2号は,
当該受給権者
(ただし,
厚生労働大臣が指定する者を除く。

は,その障害の現状に関する医師又は歯科医師の診断書を当該届書に添えなければならない旨規定する。


規則36条の4第1項は,障害基礎年金の受給権者であって,その障害の程度の審査が必要であると認めて厚生労働大臣が指定したものは,厚生労働大臣が指定した年において,指定日までに,指定日前1月以内に作成されたその障害の現状に関する医師又は歯科医師の診断書を機構に提出しなければならない(ただし,当該障害基礎年金の額の全部につき支給が停止されているときは,この限りでない。)旨規定する。

(4)

厚生年金保険法(以下厚年法という。)・厚生年金保険法施行令(以
下厚年法施行令という。)

厚年法は,(ア)47条2項において,厚年法にいう障害等級は,障害の程度に応じて重度のものから1級,
2級及び3級とし,
各級の障害の状態は,
政令で定める旨規定し,(イ)47条1項等において,疾病にかかり,又は負傷し,かつ,その傷病に係る初診日において被保険者であった者が,障害認定日等の一定の時点において,
傷病により前記(ア)の障害等級に該当する
程度の障害の状態にあるときは,その者に障害厚生年金を支給する旨等を規定する。


厚年法施行令3条の8は,厚年法47条2項に規定する障害等級の各級の障害の状態は,1級及び2級についてはそれぞれ令別表に定める1級及び2級の障害の状態とし,3級については別表第一に定めるとおりとする旨規定し,当該別表は,12号において,前各号に掲げるもののほか,身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すものを挙げている(以下,令別表に定める1級及び2級の障害の状態(法にいう障害等級及び厚年法にいう障害等級に係る1級及び2級)をそれぞれ1級及び2級ともい
い,厚年法施行令別表第一に定める障害の状態(厚年法にいう障害等級に係る3級)を3級ともいう。)。
(5)

国民年金・厚生年金保険障害認定基準(以下障害認定基準という。
乙共1)

障害認定基準は,
第2障害認定に当たっての基本的事項1の障害の程度において,1級について,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは,他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものである。例えば,身のまわりのことはかろうじてできるが,それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの,すなわち,病院内の生活でいえば,活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるものであり,家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね就床室内に限られるものである。などとし,2級について,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは,必ずしも他人の助けを借りる必要はないが,日常生活は極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものである。例えば,家庭内の極めて温和な活動(軽食作り,下着程度の洗濯等)はできるが,それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの,すなわち,病院内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり,家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである。などとし,3級について,

労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。

などとしている。

障害認定基準は,第3障害認定に当たっての基準の第1章害等級認定基準の第15節代謝疾患による障害の1障認定基準
において,令別表の1級9号及び2級15号並びに厚年法施行令別表第一の12号(3級に係るもの)所定の各障害の状態の内容を記載した上で,代謝疾患による障害の程度は,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び症状の経過,具体的な日常生活状況等を十分考慮し,総合的に認定するものとし,当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって,長期にわたる安静を必要とする病状が,日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に,また,労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定する。と定める。ウ
障害認定基準は,前記第15節代謝疾患による障害の2認定要領において,次のとおり定める(なお,単位表記は趣旨を変えない範囲で改めることがある。以下同じ。)。
(ア)

代謝疾患は,糖代謝,脂質代謝,蛋白代謝,尿酸代謝,その他の代謝の異常に分けられるが,認定の対象となる代謝疾患による障害は糖尿病が圧倒的に多いため,本節においては,糖尿病の基準を定める。

(イ)

糖尿病とは,その原因のいかんを問わず,インスリンの作用不足に基づく糖質,脂質,タンパク質の代謝異常によるものであり,その中心をなすものは高血糖である。糖尿病患者の血糖コントロールの困難な状態が長年にわたると,糖尿病性網膜症,糖尿病性腎症,糖尿病性神経障害,糖尿病性壊疽等の慢性合併症が発症,進展することとなる。
糖尿病の認定は,血糖のコントロール状態そのものの認定もあるが,多くは糖尿病合併症に対する認定である。
(ウ)

糖尿病による障害の程度は,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び症状の経過,具体的な日常生活状況等を十分考慮し,総合的に認定する。

(エ)

糖尿病による障害の状態を一般状態区分表で示すと,次のとおりである。
区分

一般状態ア
無症状で社会活動ができ,制限を受けることなく,発症前と同
等にふるまえるもの


軽度の症状があり,肉体労働は制限を受けるが,歩行,軽労働
や座業はできるもの


例えば,軽い家事,事務など

歩行や身のまわりのことはできるが,
時に少し介助が必要なこ
ともあり,軽労働はできないが,日中の50%以上は起居して
いるもの


身のまわりのある程度のことはできるが,
しばしば介助が必要
で,日中の50%以上は就床しており,自力では屋外への外出
等がほぼ不可能となったもの


身のまわりのこともできず,常に介助を必要とし,終日就床を
強いられ,活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの

(オ)

糖尿病については,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なもので,次のいずれかに該当するものを3級と認定する。ただし,検査日より前に90日以上継続して必要なインスリン治療を行っていることについて,確認のできた者に限り,認定を行うものとする。
なお,症状,検査成績及び具体的な日常生活状況等によっては,さらに上位等級に認定する。
a
内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するもの

b
意識障害により自己回復ができない重症低血糖の所見が平均して月1回以上あるもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものc
インスリン治療中に糖尿病ケトアシドーシス又は高血糖高浸透圧症候群による入院が年1回以上あるもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するもの

(カ)

糖尿病性網膜症を合併したものによる障害の程度は,第1章第1節眼の障害の認定要領により認定する。
(キ)

糖尿病性壊疽を合併したもので,運動障害を生じているものは,第1章第7節(ク)肢体の障害の認定要領により認定する。

糖尿病性神経障害は,激痛,著明な知覚の障害,重度の自律神経症状等があるものは,第1章第9節神経系統の障害の認定要領により

認定する。
(ケ)

糖尿病性腎症を合併したものによる障害の程度は,第1章第12節腎疾患による障害の認定要領により認定する。
(コ)

その他の代謝疾患は,合併症の有無及びその程度,治療及び症状の経過,一般検査及び特殊検査の検査成績,認定時の具体的な日常生活状況等を十分考慮して,総合的に認定する。エ

障害認定基準においては,
糖尿病に関する障害の状態につき,
前記ウ(オ)
のとおり3級に該当する要件を定めるにとどめており,1級及び2級に該当する要件については具体的に定めておらず,これを定める運用指針等の下位規定も存在しない(弁論の全趣旨)。

(6)

行手法
行手法8条は,1項本文において,行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない旨を,同項ただし書において,法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって,当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは,申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる旨をそれぞれ規定するとともに,2項において,1項本文に規定する処分を書面でするときは,同項の理由は,書面により示さなければならない旨規定する。

行手法14条は,1項本文において,行政庁は,不利益処分をする場合には,その名宛人に対し,同時に,当該不利益処分の理由を示さなければならない旨を,同項ただし書において,当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は,この限りでない旨をそれぞれ規定するとともに,3項において,不利益処分を書面でするときは,1項本文の理由は,書面により示さなければならない旨規定する。

2
前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

原告らは,いずれも1型糖尿病にり患し,障害等級2級に該当する程度
の障害の状態にあるとして,障害基礎年金の支給を受けていた(原告らは,いずれもその1型糖尿病に係る初診日において20歳未満であった。)。原告らの受給権発生日は,次のとおりである。(甲A2,甲B2,甲C2,甲D2,甲E2,甲F2,甲G2,甲H2,甲I2)原告X1

平成22年

原告X2

平成23年10月17日

原告X3

平成12年

7月

原告X4

平成17年

6月15日

原告X5

平成18年

8月18日

原告X6

平成14年

6月11日

原告X7

平成26年

5月15日

原告X8

平成16年

8月

原告X9

平成12年

9月16日

(2)ア

5月31日

7日

4日

厚生労働大臣(同大臣から事務の委託を受けた機構)は,令別表,厚
年法施行令別表第一及び別表第二に定める障害の状態に関する審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準。行手法2条8号ロ)
・処分基準
(不
利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準。同号ハ)として,
障害認定基準を定め,公表している。

厚生労働大臣から法36条2項等の規定による障害基礎年金の支給の停止に係る事務の委託を受けた機構は,障害基礎年金の受給権者につき支給停止事由の有無を判断するために,
医師である障害認定診査医員
(以下
認定医という。)に対し,①障害基礎年金の受給権者(ただし,当該障害基礎年金の額の全部につき支給が停止されている者を除く。)から法105条3項,規則36条の4第1項に基づき提出された診断書(障害状態確認届とも呼ばれる。後記②の診断書についても同じ。)及び②障害基礎年金の支給停止をされている受給権者から法105条3項,規則35条1項本文,2項2号に基づき提出された診断書を示した上で,当該受給権者に係る支給停止事由等に関して医学的知見に基づく意見を求める(当該意見等については,当該認定医又は機構の担当者によって,障害状態認定調書に記載される。)。厚生労働大臣は,当該意見を踏まえ,支給停止事由が存するときは,障害基礎年金の受給権者に対し,支給停止処分又は支給停止を解除しない旨の処分を行う。(甲A5,甲B5,甲C5,甲D5,甲E5,甲F5,甲G5,甲H5,甲I5,乙共12,14,16,弁論の全趣旨)
(3)ア

原告ら8名は,それぞれ,平成28年7月又は同年8月,法105条
3項,規則36条の4第1項に基づき,同年7月時点における障害の現状に関する医師の診断書を機構に提出した。(乙A1,乙B1(なお,同診断書にあるJは原告X2の旧姓である。),乙C1,乙D1,乙E1,乙F1,乙G1,乙H1)

機構は,平成28年8月頃から同年10月頃までの間に,原告ら8名につき,認定医による厚生年金障害等級表3級該当との所見等が記載された障害状態認定調書を作成した。(甲A5,甲B5,甲C5,甲D5,甲E5,甲F5,甲G5,甲H5)


厚生労働大臣は,平成28年12月7日付けで,原告ら8名に対し,それぞれ,支給停止処分をした(前件各支給停止処分)。前件各支給停止処分は,いずれも,平成28年11月以降の障害基礎年金の支給を停止する内容のものであった。(甲A1,甲B1,甲C1,甲D1,甲E1,甲F1,甲G1,甲H1)


国民年金・厚生年金保険支給額変更通知書と題する前件各支給停止処分の通知書には,いずれも,処分の理由として,

07障害の程度が厚生年金保険法(旧三公社(JR,JT,NTT)の共済年金の受給権者にあっては国家公務員共済組合法)施行令に定める障害等級の3級の状態に該当したため,障害基礎年金の支給を停止しました。

との記載のみがされていた。(甲A1,甲B1,甲C1,甲D1,甲E1,甲F1,甲G1,甲H1)
(4)ア

厚生労働大臣は,平成14年11月,原告X9に対し,支給停止処分
をし,平成16年2月にこれを解除したが,平成21年11月,原告X9に対し,再び支給停止処分をした。

原告X9は,
平成28年10月,
法105条3項,
規則35条1項本文,
2項2号に基づき,同年8月30日時点における障害の現状に関する医師の診断書と共に,受給権者支給停止事由消滅届を機構に提出した。(乙I1)


機構は,平成28年10月頃,原告X9につき,認定医による3級該当との所見等が記載された障害状態認定調書(障害状態確認届等用)を作成した。(甲I5)


厚生労働大臣は,平成28年11月28日付けで,原告X9に対し,支給停止処分に係る支給停止を解除しない旨の処分をした
(前件不解除処分)

(甲I1)


国民年金の支給停止を解除しない理由のお知らせ(支給停止事由消滅不該当通知書)と題する前件不解除処分の通知書には,処分の理由として,

請求のあった傷病については,国民年金法施行令別表(障害年金1級,2級の障害の程度を定めた表)に定める程度に該当していないため。

との記載のみがされていた。(甲I1)

(5)

原告ら8名は,平成29年11月20日,前件各支給停止処分の取消し
を求める訴えを,原告X9は,同日,甲事件に係る訴えを,それぞれ提起した。
大阪地方裁判所は,平成31年4月11日,前件各支給停止処分は行手法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠き,違法であり,前件不解除処分は行手法8条1項本文の定める理由提示の要件を欠き,
違法であるとして,これらの処分をいずれも取り消す旨の判決をし(前件判決),その後,前件判決は確定した。
(顕著な事実)
(6)ア

厚生労働大臣は,平成30年8月7日付けで,原告X1に対し,広汎
性発達障害等により,障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあるとして,平成29年12月から年金の支給を開始する旨の決定をした(甲A8から10まで,弁論の全趣旨)。

厚生労働大臣は,平成31年3月7日付けで,原告X7に対し,双極性感情障害等により,障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあるとして,平成31年1月から年金の支給を開始する旨の決定をした(甲G7から9まで,弁論の全趣旨)。

(7)ア

厚生労働大臣は,令和元年5月10日付けで,原告ら8名に対し,そ
れぞれ,支給停止処分をした(本件各支給停止処分)。本件各支給停止処分は,いずれも,平成28年11月以降の障害基礎年金の支給を停止する内容のものであった(乙A3,乙B3,乙C3,乙D3,乙E3,乙F3,乙G3,乙H4)。

国民年金・厚生年金保険支給額変更通知書と題する本件各支給停止処分の通知書には,
いずれも,処分の理由として,

07障害の状態が,1級または2級の障害基礎年金を受け取れる程度ではなくなったため,年金の支払いを停止しました。(詳細については,別紙参照)

と記載されていた。そして,この通知書には,①適用法令(法36条2項,令4条の6,別表)及び②審査基準(障害認定基準第15節の認定基準及び認定要領)のほか,③障害基礎年金(2級)の支給を停止することとした具体的理由として,前記(3)アの診断書の記載のうち検査成績,血糖コントロールの困難な状況,
一般状態区分表に関するものの要点を取り上げた上で,
症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が2級に該当するとは認められない旨(その要旨は別紙処分の理由1から8までに記載のとおり)が記載された別紙が添付されていた。(乙A3,乙B3,乙C3,乙D3,乙E3,乙F3,乙G3,乙H4)ウ
原告ら8名は,それぞれ,令和元年7月1日付けで,本件各支給停止処分に不服があるとして,近畿厚生局社会保険審査官に対し,審査請求をした。ただし,当該審査請求に対する決定は,いまだされていない。
(8)ア

厚生労働大臣は,令和元年5月10日付けで,原告X9に対し,支給
停止処分に係る支給停止を解除しない旨の処分をした
(本件不解除処分)


障害年金の支給停止を解除しない理由のお知らせ(支給停止事由消滅不該当通知書)と題する本件不解除処分の通知書には,

請求のあった傷病については,国民年金法施行令別表(障害年金1級,2級の障害の程度を定めた表)に定める程度に該当していないため。(詳細については,別紙参照)

と記載されていた。そして,この通知書には,①適用法令(法36条2項,令4条の6,別表)及び②審査基準(障害認定基準第15節の認定基準及び認定要領)のほか,③障害基礎年金(2級)の支給停止を解除しない具体的理由として,
前記(4)イの診断書の記載のうち検査成
績,血糖コントロールの困難な状況,一般状態区分表に関するものの要点を取り上げた上で,症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が2級に該当するとは認められない旨(その要旨は別紙処分の理由9記載のとおり)が記載された別紙が添付されていた(乙I3)。


原告X9は,令和元年7月1日付けで,本件不解除処分に不服があるとして,近畿厚生局社会保険審査官に対し,審査請求をした。ただし,当該審査請求に対する決定は,いまだされていない。(9)

原告ら8名は,令和元年7月3日,乙事件に係る訴えを提起した。原告X9は,令和元年7月3日,行訴法19条に基づき,本件不解除処分
の取消しを求める訴えを,
甲事件の義務付けの訴えに追加的に併合提起した。
(顕著な事実)
3
争点
(1)

本件各処分が前件判決の反復禁止効(行訴法33条1項)に抵触するか
(2)

本件各処分が権限の濫用であって許されないものであるといえるか
(3)

原告らについて支給停止事由(原告ら8名)又は支給停止解除事由(原
告X9)があるか
(4)

本件各処分が平等原則に違反するか

(5)

本件各処分が理由提示義務に違反するか

(6)

本件各支給停止処分が授益的行政行為の撤回として許されないものであ
るといえるか
4
争点に関する当事者の主張の要旨
(1)

争点(1)(本件各処分が前件判決の反復禁止効(行訴法33条1項)に抵
触するか)
(原告らの主張の要旨)

行政庁が理由提示義務に違反した行政処分をした場合に,改めて理由を付して同一内容の処分をすることが許されるとするならば,行政庁の判断を抑制することができないし,名宛人に不服申立ての便宜を与えたことにならない。また,上記のような処分をすることが許されるとするならば,事件が行政庁と裁判所の間を往復することになり,訴訟経済に反し,国民の権利利益の救済が遅れる。
以上に加えて,理由提示義務に違反した行政処分については,処分後に理由を説明してもその瑕疵は治癒されないこととの均衡をも考慮すると,処分行政庁が,提示した理由の不備に気付かず,又はこれに気付いてもそれを放置したため,処分の名宛人から取消訴訟が提起され,理由提示義務違反を理由として当該処分の取消判決を受けた場合には,理由を補充して再度同一内容の処分をすることはできないものと解すべきである。イ
行訴法33条1項の規定により,処分取消判決の確定によって,処分行政庁は,同一の事情の下では,同一の理由に基づく同一の内容の処分をすることができない。そうであるところ,本件各処分に係る理由の提示内容は,平成28年7月ないし同年8月に作成された診断書の記載内容を引き写して前件各処分の際に提示された理由に付加しただけのものであって,前件各処分と同一の理由に基づくものというべきである。
したがって,本件各処分は,前件判決の反復禁止効に抵触し,違法である。

(被告の主張の要旨)
行訴法33条1項は,取消判決の拘束力について定めており,当該拘束力は,判決主文に含まれる判断を導くために必要な事実認定及び法律判断に生ずる。そうであるところ,前件判決は,前件各処分が行手法14条1項本文や8条2項本文の定める理由提示の要件を欠いたことを理由に前件各処分をいずれも取り消すものであるから,前件判決の拘束力は,前件各処分が理由提示義務に違反する旨の判断について生ずるにすぎず,処分行政庁が新たに理由を付した上で処分をすることを妨げるものではない。
(2)

争点(2)(本件各処分が権限の濫用であって許されないものであるといえ
るか)
(原告らの主張の要旨)

厚生労働大臣は,原告らの障害の状態が2級に該当するとした過去の認定・判断を調査し,現状と比較する手続を一切せずに前件各処分をしたものである。しかるに,厚生労働大臣は,必要な調査がされなかったという前件各処分の根本的問題を是正しないまま,診断書の引用を若干付加しただけで,理由の不備を是正したとして再び同じ処分である本件各処分をしたものである。
したがって,本件各処分は,厚生労働大臣の権限を濫用するものとして到底許されない。

厚生労働大臣は,年金について,相当な回数,理由提示義務に違反するとして処分取消しの判決を受けてきたにもかかわらず,これを無視して,実務を改善することなく,極めて抽象的な理由しか提示せずに前件各処分をしたものである。このような厚生労働大臣の理由提示義務や判決を無視する状況を許容すれば,今後も,年金実務において,十分な調査を行わずにとりあえず抽象的な理由を提示するだけで,不利益処分や申請に対する拒否処分が繰り返されるおそれが極めて高い。
したがって,本件各処分は,理由提示義務の趣旨を没却する著しい権限濫用に当たるものであって,違法である(以上のことは,その目的ないし本質が抗告訴訟のそれと類似する刑事訴訟における違法収集証拠排除法則を参考にしてもいうことができる。)。


被告は,前件判決に至る審理の過程において,理由の提示に関する審理を先行させるという裁判所の訴訟指揮に対して異議を述べなかったものであるから,原告X9の取消訴訟についてのみ終局判決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると認めることに異議を述べなかったものというべきであり,厚生労働大臣は,再処分をしない意思を黙示的に表明していたに等しい。
仮に,前件各処分が理由提示義務に違反すると判断された場合に,厚生労働大臣において再度同一内容の処分をする可能性があったのであれば,上記訴訟指揮に対して異議を述べるべきであった(そうしていれば,原告らも異議を述べ,前件判決に至る審理の過程において実体的理由についても判断を受けることができ,再訴の負担を回避することができた。)。しかるに,被告は,
上記訴訟指揮に異議を述べなかったものであるから,
より迅速な争訟の解決,紛争の一回的解決に資することのない本件各処分をすることは,権限の濫用として許されないというべきである。(被告の主張の要旨)
争う。
厚生労働大臣は,前件判決を踏まえて,詳細な理由を付して本件各処分を行ったものであるし,前件判決に至る審理の過程において,再処分をしない意思を黙示的にも表明したことはない。
(3)

争点(3)(原告らについて支給停止事由又は支給停止解除事由があるか)
(原告らの主張の要旨)

次のとおり,支給停止処分は,法105条3項,規則36条の4第1項に基づいて機構に提出された医師の診断書に記載された時点(以下基準時という。)における受給権者の障害の状態が,当該受給権者が過去に同様の診断書を提出した時点の障害の状態から改善し,その結果,基準時における障害の状態が従前該当するとされていた障害等級に該当しなくなったことを要件とするものと解すべきである。

(ア)

法36条2項本文は,
障害基礎年金の支給停止処分をする要件として,
受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったことを要すると定めるところ,該当しなくなったときとの文言は,文理上,過去に存在した障害が,その後,緩和した結果,現時点では当該障害等級に該当しなくなった場合をいうものと解される。

(イ)

支給停止処分は,裁定(法16条)が有効に成立して包括的な受給権たる基本権が存することを前提に,この基本権から発生する支分権(支払期月ごとに支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利)を制限するものであって,障害基礎年金の支給という授益的行政行為を撤回するものであると解される。そうであるところ,授益的行政行為の撤回については,処分行政庁が自由にすることはできず,撤回により処分の名宛人に生ずる不利益や,撤回により得られる公益上の必要性等を考慮して,一定の制限に服するものと解される。そうすると,支給停止処分もこのような制限に服するのであり,少なくとも,従前と比較して障害の程度が変化した場合に限り,することができるものというべきである。(ウ)

国民年金・厚生年金保険精神の障害に係る等級判定ガイドライン(以下精神障害ガイドラインという。)において,再認定時の留意事項として,下位等級への変更や2級(又は3級)非該当への変更を検討する場合は,前回認定時の障害状態確認届(診断書)等の確認が求められていることからも,受給権者の前回認定時の障害の状態と基準時における障害の状態を比較することが求められているものというべきである。

(エ)

障害基礎年金の支給が継続される場合には,
実務上,
受給権者に対し,
提出された診断書(障害状態確認届)により障害の程度を審査した結果,あなたの障害の状態は従前の状態と同程度と認められますと記載された文書が送付されてきた。これは,法36条2項本文は,障害の状態が改善し,従前の障害等級に該当しなくなった場合に支給を停止することを定めたものであるとの解釈を前提とした運用である。

(オ)

厚生労働大臣は,平成30年7月3日の参議院厚生労働委員会において,障害の程度が変わらない場合には支給停止処分をしないという趣旨の答弁をした。


原告らの障害の状態は,要旨,別紙原告らの障害の状態記載のとおりであり,いずれも,障害基礎年金の支給を受けていた当時から全く改善が認められず,2級に該当する。

(ア)

1型糖尿病患者は,生命維持機能を人為的に代置する位置付けのものとして,インスリンの摂取(インスリン療法)と血糖測定を生涯行わなければならず,その作業の都度,手間と時間を取られ,痛みや恐怖を感じるほか,人目を気にしなければならないなど,大きな精神的負担を負う。1型糖尿病患者は,日々困難で不可能な血糖コントロールを強いられ,
物理的,
時間的,精神的に多大な日常生活上の負担,
制限を受ける。
そして,低血糖や高血糖になった場合には,意識,思考,判断,知覚,運動等の神経機能が十分に働かなくなるほか,脱力,空腹感,動悸,めまい,手足の震え等の多様な症状が生じ,また,いつそのような症状を生ずるか十分に予測することができない。
以上のような1型糖尿病の性格から,原告らは,就職,仕事,妊娠,子育て等の様々な場面において,また,食事や睡眠等についても,大きな負担と制限を受けている。また,医療費の経済的負担等も大きい。(イ)

障害認定基準は,糖尿病が3級に該当するための要件を三つ掲げ,そのいずれかに該当するものを3級と認定する旨を定めるが,障害認定基準は,行政機関の内部的な取扱指針にすぎず,法的拘束力はないから,仮に上記三つの要件のいずれに該当しないとしても,個別具体的な症状の経過等を参考に,日常生活状況を把握し,令別表所定の障害の状態に該当するか否かを判断すべきである。

(ウ)

令別表2級15号は,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものと定めているのに,障害認定基準は,2級の障害の程度について労働により収入を得ることができない程度,その例示として家庭内の極めて温和な活動(軽食作り,下着程度の洗濯等)はできるが,それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの,すなわち,(中略)家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものといったものを付加しているが,このような付加は法令の趣旨に反する。障害年金の趣旨及び目的は,日常生活能力や労働能力の喪失又は低下により生活の安定が損なわれることを防止することにあるところ,何らかの労働をしさえすれば障害年金を支給する必要がないというものではない。1型糖尿病患者は,インスリン療法のために日常生活に支障を生じ,経済的負担を負いながら,本人の努力や周囲の理解により就労しているのであり,障害による所得減少や特別の支出があるから,障害年金を支給する必要がある。
障害者の権利に関する条約や現行の障害者基本法の下では,機能障害や疾病に起因して日常生活の制限を受けざるを得ない障害者であっても,社会による支援や合理的配慮を受けて,労働により収入を得ることが予定されている。また,現行の年金制度上,障害基礎年金と老齢厚生年金の併給を受けることができ,障害年金を受給しつつ労働して収入を得ることは,むしろ推奨されており,実際に,1級又は2級の障害年金を受給しながら就労している者が多数いる。そうすると,障害認定基準において独自に労働により収入を得ることができない程度といったメルクマールを付加することは許されない。
(エ)

平成23年の障害者基本法の改正により,障害者が受ける制限は機能障害のみに起因するものではなく,社会における様々な障壁と相対することによって生ずるという考え方を踏まえ,また,障害には発達障害や難病等に起因する障害が含まれることを明確化する観点から,障害者の定義が

身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害

と総称する。)がある者であって,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」(2条1号)とされた。そして,この定義にいう継続的にとは,断続的に又は周期的に相当な制限を受ける状態にあるものが含まれる。そうすると,難病のある人(1型糖尿病にり患する原告らはこれに当たる。)に対する障害者施策について解釈・運用するに当たっては,難病のある人の断続的又は周期的な症状にも十分対応できるようにしなければならない。
障害年金も障害者施策の一環であるから,国は,難病のある人は,日によって症状に波があったり,慣れている場所ではできることであっても慣れていない状況や初めての場所ではできないことがあったりするなどという特性を踏まえて,
できない状況やより支援が必要な状態
に合わせて支援の必要性を判断するという解釈・運用をしなければならない。
しかるに,厚生労働大臣は,原告らに低血糖発作がない時の,いわばできる状況を基準とし,また他者による支援があることを織り込んだ上で原告らの障害の程度を判断しており,できない状況やより支援が必要な状態に合わせて支援の必要性を判断するという解釈・運用をしていない。
(被告の主張の要旨)

(ア)

障害の状態の変化は支給停止処分の要件ではない。
法及び規則は,障害基礎年金の支給停止の場合,受給権者から提出される,指定日前1月以内に作成された障害の現状に関する医師又は歯科医師の診断書に基づいて支給停止をすることとし(規則36条の4第1項参照),障害基礎年金の支給停止の解除の場合,支給を停止すべき事由が消滅したことを明らかにすることができる書類等に基づいて支給停止の解除をすることとしているのであり(規則35条2項4号参照),いずれの場合も,過去の障害の状態と現在の障害の状態を比較することとはしていない。
そうすると,該当しなくなったときとの文言を根拠に,障害状態の変更を実体的要件と解することはできない。(イ)

支給停止処分とは,障害基礎年金の受給権者が,障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときに,その障害の状態に該当しない間,障害基礎年金の支給を停止するとの処分,すなわち支分権たる障害基礎年金の支給を一時的に制限するものであって,既にした行政行為(裁定)を撤回するものではない。

(ウ)

精神障害ガイドラインは,飽くまで提出された障害状態確認届(診断書)の記載内容に基づいて障害等級の認定を行うことを前提とした上で,診査の際に,前回認定時の障害状態確認届(診断書)等の確認を行うなどの情報収集を適宜行い,障害の程度の変化の有無等も留意しつつ,慎重に審査をするよう求めているにすぎず,障害の程度の変化を再認定の要件とするものではない。

(エ)

前記(原告らの主張の要旨)ア(エ)の文書の記載は,その標題(診断書(障害状態確認届)の審査結果について)から明らかなとおり,飽くまで提出された診断書(障害状態確認届)に基づいて審査した結果を記載したものであるから,この記載が原告らの主張する解釈を前提としているとはいえない。

(オ)

厚生労働大臣の平成30年7月3日の参議院厚生労働委員会における答弁は,障害基礎年金の再認定は再認定時に提出された障害状態確認届(診断書)の記載内容に基づいてすることを前提とした上で,平成29年4月には,機構における障害基礎年金の審査事務が,都道府県ごとの事務センターから障害年金センターへ集約され,認定や事務局体制が一斉に変更されるという特別な事情があったことから,集約後に行われる再認定においては,従前の認定審査の下でされた医学的な総合判断も踏まえて認定審査をすることとする旨を述べたものであって,障害の程度が変わらない場合には支給停止処分をしないという趣旨のものではない。イ(ア)

原告らの障害の状態について
原告X1について
①原告X1が提出した診断書によれば,原告X1が過去1年間で意識障害により自己回復ができない重症低血糖となった回数は年2,3回にとどまるところ,重症低血糖の状態となっても,ブドウ糖やグルカゴンの注射を受けるなどしてその状態を脱することができること,②同診断書には,原告X1が一般状態区分表のイないしオの全てに該当する旨の記載があるものの,エ(身のまわりのある程度のことはできるが,しばしば介助が必要で,日中の50%以上は就床しており,自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの)(身のまわりのこともできず,やオ
常に介助を必要とし,終日就床を強いられ,活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの)の状態であることをうかがわせる記載が見当たらないこと,③原告X1が飲食店でアルバイトをしていることなどに照らすと,原告X1の平成28年7月13日時点における障害の状態は,一般状態区分表のイ又はウの状態に該当する。一般状態区分表のイの状態は,軽労働や座業はできる状態であり,同ウの状態は,歩行や身のまわりのことはできる状態であるから,いずれも,日常生活に著しい制限を受けたり,日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害の状態とは認められない。
また,原告X1は,糖尿病性網膜症(単純期)と診断されているものの,矯正視力は右眼が1.2,左眼が1.0であって,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。さらに,原告X1は,中等度の歯周炎と診断されているものの,これによって食物の摂取が困難となったり誤嚥の危険が大きくなったりしたとの事情は見当たらず,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。そして,原告X1は,末梢神経障害のため下肢の触覚が低下しているとされているものの,激痛,著明な知覚の障害,重度の自律神経症状等の症状はなく,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。
以上によれば,原告X1の平成28年7月13日時点における1型糖尿病による障害の状態が,2級に該当する程度であるとはいえない。(イ)

原告X2
①原告X2が提出した診断書によれば,原告X2が過去1年間で意識障害により自己回復ができない重症低血糖となった回数は年10回にとどまるところ,重症低血糖の状態となっても,ブドウ糖やグルカゴンの注射を受けるなどしてその状態を脱することができること,②同診断書には,原告X2が一般状態区分表のイないしオの全てに該当する旨の記載があるものの,原告X2が一般状態区分表のエやオの状態であることをうかがわせる記載が見当たらないこと,③原告X2が一般企業に就職して稼働していることなどに照らすと,原告X2の平成28年7月5日時点における障害の状態は,一般状態区分表のイ又はウの状態に該当する。前記(ア)のとおり,一般状態区分表のイ又はウの状態は,いずれも,日常生活に著しい制限を受けたり,日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害の状態とは認められない。
また,原告X2は,糖尿病性歯周炎と診断されているものの,これによって食物の摂取が困難となったり誤嚥の危険が大きくなったりしたとの事情は見当たらず,
障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。
さらに,原告X2は,糖尿病に合併した神経系統の障害として下肢触覚・振動感低下があるとされているものの,激痛,著明な知覚の障害,重度の自律神経症状等の症状はなく,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。
以上によれば,原告X2の平成28年7月5日時点における1型糖尿病による障害の状態が,2級に該当する程度であるとはいえない。(ウ)
原告X3
①原告X3が提出した診断書によれば,原告X3が過去1年間で意識障害により自己回復ができない重症低血糖となった回数は年6回にとどまるところ,重症低血糖の状態となっても,ブドウ糖やグルカゴンの注射を受けるなどしてその状態を脱することができること,②同診断書には,原告X3が平時においては一般状態区分表のイの状態であると記載されていることに照らすと,同診断書に予防ができない低血糖発作,高血糖発作により直ちに同表のオの状態に移行し得る旨の記載があることを考慮しても,原告X3の平成28年7月14日時点における障害の状態は,一般状態区分表のイの状態に該当する。前記(ア)のとおり,一般状態区分表のイの状態は,日常生活に著しい制限を受けたり,日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害の状態とは認められない。
また,原告X3は,糖尿病性網膜症(単純期),白内障(両)と診断されているものの,矯正視力は左右共に1.5であって,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。さらに,原告X3は,糖尿病性歯周病と診断されているものの,これによって食物の摂取が困難となったり誤嚥の危険が大きくなったりしたとの事情は見当たらず,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。そして,原告X3は,糖尿病に合併した神経系統の障害として下肢しびれ感があるとされているものの,激痛,著明な知覚の障害,重度の自律神経症状等の症状はなく,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。そのほか,原告X3は,糖尿病の合併症として橋本病にり患しているが,原告X3が提出した診断書には,橋本病により原告X3の日常生活に何らかの支障が生じているといった事情は記載されていない。なお,原告X3は,気管支ぜんそくや左耳鳴症にり患していると診断されているが,これらが糖尿病の合併症であるとは認め難い。以上によれば,原告X3の平成28年7月14日時点における1型糖尿病による障害の状態が,2級に該当する程度であるとはいえない。(エ)

原告X4
①原告X4が提出した診断書によれば,原告X4が過去1年間で意識障害により自己回復ができない重症低血糖となった回数は年1,2回にとどまるところ,重症低血糖の状態となっても,ブドウ糖やグルカゴンの注射を受けるなどしてその状態を脱することができること,②同診断書には,原告X4が通常は一般状態区分表のイの状態であると記載されていることに照らすと,同診断書に予想できない低血糖,高血糖のために容易にオの状態に変化する旨の記載があることを考慮しても,原告X4の平成28年7月11日時点における障害の状態は,一般状態区分表のイの状態に該当する。
前記(ア)のとおり,
一般状態区分表のイの状態は,
日常生活に著しい制限を受けたり,日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害の状態とは認められない。
また,原告X4は,糖尿病性網膜症(単純期)と診断されているものの,矯正視力は右眼が1.5,左眼が2.0であって,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。さらに,原告X4は,糖尿病性歯周病と診断されているものの,これによって食物の摂取が困難となったり誤嚥の危険が大きくなったりしたとの事情は見当たらず,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。そして,原告X4は,糖尿病に合併した神経系統の障害として消化管運動障害があるとされているものの,激痛,著明な知覚の障害,重度の自律神経症状等の症状はなく,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。そのほか,原告X4は,糖尿病性腎症にり患しているが,検査成績を見ても著明な異常値は認められないのであり,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。なお,原告X4は,甲状腺機能障害にり患していると診断されているが,甲状腺機能は正常である。
以上によれば,原告X4の平成28年7月11日時点における1型糖尿病による障害の状態が,2級に該当する程度であるとはいえない。(オ)

原告X5
①原告X5が提出した診断書によれば,原告X5が過去1年間で意識障害により自己回復ができない重症低血糖となった回数は年20回であるところ,重症低血糖の状態となっても,ブドウ糖やグルカゴンの注射を受けるなどしてその状態を脱することができること,
②同診断書には,
原告X5が一般状態区分表のウないしオの全てに該当する旨の記載があるものの,原告X5が一般状態区分表のエやオの状態であることをうかがわせる記載が見当たらないことに照らすと,原告X5の平成28年7月12日時点における障害の状態は,一般状態区分表のウの状態に該当する。前記(ア)のとおり,一般状態区分表のウの状態は,日常生活に著しい制限を受けたり,日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害の状態とは認められない。なお,原告X5は,同日よりも後ではあるものの,1日3,4時間程度の軽作業の内職をしているとのことであるところ,このことに照らしても,原告X5の障害の状態が,2級に該当する程度であるとはいえない。
また,原告X5は,糖尿病性網膜症(前増殖期)と診断されているものの,矯正視力は右眼が1.2,左眼が1.0であって,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。さらに,原告X5は,糖尿病性歯周病と診断されているものの,これによって食物の摂取が困難となったり誤嚥の危険が大きくなったりしたとの事情は見当たらず,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。そして,原告X5は,糖尿病の合併症として下肢触覚低下,アキレス腱反射低下があるとされているものの,激痛,著明な知覚の障害,重度の自律神経症状等の症状はなく,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。そのほか,原告X5は,糖尿病性腎症にり患しているが,検査成績を見ても著明な異常値は認められないのであり,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。なお,原告X5は,バセドウ病と診断されているが,原告X5が提出した診断書には,バセドウ病により日常生活に何らかの支障が生じている旨の記載はない。
以上によれば,原告X5の平成28年7月12日時点における1型糖尿病による障害の状態が,2級に該当する程度であるとはいえない。(カ)

原告X6
①原告X6が提出した診断書によれば,原告X6が過去1年間で意識障害により自己回復ができない重症低血糖となった回数は年3回にとどまるところ,重症低血糖の状態となっても,ブドウ糖やグルカゴンの注射を受けるなどしてその状態を脱することができること,②同診断書には,原告X6が普段は一般状態区分表のイの状態であると記載されていること,
③原告X6は1日2時間程度の内職をしていることに照らすと,同診断書に重症低血糖を起こすとオの状況に陥ることがある旨の記載があることを考慮しても,原告X6の平成28年7月20日時点における障害の状態は,
一般状態区分表のイの状態に該当する。
前記(ア)のとおり,
一般状態区分表のイの状態は,日常生活に著しい制限を受けたり,日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害の状態とは認められない。
また,原告X6は,糖尿病性網膜症(単純期)と診断されているものの,矯正視力は右眼が1.2,左眼が1.5であって,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。さらに,原告X6は,糖尿病性歯周病と診断されているものの,これによって食物の摂取が困難となったり誤嚥の危険が大きくなったりしたとの事情は見当たらず,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。そして,原告X6は,糖尿病性神経障害があると診断されているようであるが,その検査成績は正常値よりやや低い値にすぎない上,激痛,著明な知覚の障害,重度の自律神経症状等の症状はなく,
障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。
そのほか,原告X6は,鉄欠乏性貧血や橋本病であると診断されているが,原告X6が提出した診断書によっても,鉄欠乏性貧血や橋本病により原告X6の日常生活に何らかの支障が生じているといった事情はうかがわれない(鉄欠乏性貧血であったかについては,疑問がある。)。以上によれば,原告X6の平成28年7月20日時点における1型糖尿病による障害の状態が,2級に該当する程度であるとはいえない。(キ)

原告X7
①原告X7が提出した診断書によれば,原告X7が過去1年間で意識障害により自己回復ができない重症低血糖となった回数は年2,3回にとどまるところ,重症低血糖の状態となっても,ブドウ糖やグルカゴンの注射を受けるなどしてその状態を脱することができること,②同診断書には,原告X7が日常は一般状態区分表のウの状態であると記載されていることに照らすと,同診断書に突然生ずる低血糖発作によりオの状態に陥る旨の記載があることを考慮しても,原告X7の平成28年7月14日時点における障害の状態は,一般状態区分表のウの状態に該当する。前記(ア)のとおり,一般状態区分表のウの状態は,日常生活に著しい制限を受けたり,日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害の状態とは認められない。
また,原告X7は,糖尿病性網膜症,遠視性乱視と診断されているものの,原告X7が提出した診断書には,これが日常生活に何らかの支障を来すようなものであることをうかがわせる記載がなく,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。さらに,原告X7は,糖尿病性歯周病と診断されているものの,これによって食物の摂取が困難となったり誤嚥の危険が大きくなったりしたとの事情は見当たらず,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。そして,原告X7は,1型糖尿病に合併する潜在性甲状腺機能低下症と診断されているものの,何らの治療も受けておらず,
日常生活に何らの支障も生じていない。
そのほか,
原告X7は鬱病にり患しているが,これは糖尿病の合併症ではない。以上によれば,原告X7の平成28年7月14日時点における1型糖尿病による障害の状態が,2級に該当する程度であるとはいえない。(ク)

原告X8
①原告X8が提出した診断書によれば,原告X8が過去1年間で意識障害により自己回復ができない重症低血糖となった回数は年1回にとどまるところ,重症低血糖の状態となっても,ブドウ糖やグルカゴンの注射を受けるなどしてその状態を脱することができること,②同診断書には,原告X8が通常は一般状態区分表のイの状態であると記載されていること,③原告X8は実父の営む造園業を継いで稼働していることに照らすと,同診断書に突然の低血糖,高血糖により速やかにオの状態となる旨の記載があることを考慮しても,原告X8の平成28年7月30日時点における障害の状態は,一般状態区分表のイの状態に該当する。前記(ア)のとおり,
一般状態区分表のイの状態は,
日常生活に著しい制限を
受けたり,日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害の状態とは認められない。
また,原告X8は,糖尿病性網膜症と診断されているものの,矯正視力は右眼が1.0,左眼が1.0であって,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。さらに,原告X8は,両側アキレス腱反射低下があるとされているものの,激痛,著明な知覚の障害,重度の自律神経症状等の症状はなく,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。
以上によれば,原告X8の平成28年7月30日時点における1型糖尿病による障害の状態が,2級に該当する程度であるとはいえない。(ケ)

原告X9
①原告X9が提出した診断書によれば,原告X9が過去1年間で意識障害により自己回復ができない重症低血糖となったことはなく,
月に1,
2回重症低血糖発作を起こすものの,重症低血糖の状態となっても,ブドウ糖やグルカゴンの注射を受けるなどしてその状態を脱することができること,②同診断書には,原告X9が一般状態区分表のイないしオの全てに該当する旨の記載があるものの,エやオの状態であることをうかがわせる記載が見当たらないことに照らすと,原告X9の平成28年8月30日時点における障害の状態は,一般状態区分表のイ又はウの状態に該当する。前記(ア)のとおり,一般状態区分表のイ又はウの状態は,いずれも,日常生活に著しい制限を受けたり,日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害の状態とは認められない。
また,原告X9は,白内障と診断されているものの,糖尿病性の疑いとされるのみで糖尿病に起因するものであるとの確定診断はされていない上,白内障であるのは左眼のみであり,矯正視力は1.5であって,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。さらに,原告X9は,糖尿病性歯周炎と診断されているものの,これによって食物の摂取が困難となったり誤嚥の危険が大きくなったりしたとの事情は見当たらず,障害等級1級ないし3級のいずれにも該当しない。
以上によれば,原告X9の平成28年8月30日時点における1型糖尿病による障害の状態が,2級に該当する程度であるとはいえない。
(4)

争点(4)(本件各処分が平等原則に違反するか)

(原告らの主張の要旨)機構は,平成30年1月,平成29年に診断書(障害状態確認届)を提出していた障害年金の受給権者のうち1010人に対し,

次回の診断書において障害状態を確認し,記載内容が今回と同様と認められる場合には,支給停止となることもあります。

と記載した文書を送付した。しかし,報道等による批判を受けて,厚生労働大臣が前記(3)(原告らの主張の要旨)ア(オ)の答弁をするなどし,上記受給権者の多くが,障害の程度が変わらないものとして支給を継続され,また,平成29年に障害年金の支給が停止された受給権者についても,障害の状態が改善していないものについては,当該支給停止処分について職権取消しをする方針が示された。
これに対して,原告らは,障害の程度が変わらないにもかかわらず,本件各処分がされたものであり,平成29年に診断書(障害状態確認届)を提出した受給権者との間のこのような差別的取扱いは,平等原則(憲法14条1項)に違反する違憲,違法なものである。
(被告の主張の要旨)
法36条2項本文の解釈や,支給停止事由の有無が障害基礎年金の受給権者から提出される診断書(障害状態確認届)の記載内容に基づいて判断されることについて,原告らと平成29年に診断書(障害状態確認届)を提出した受給権者との間で扱いを異にした事実はない。
(5)

争点(5)(本件各処分が理由提示義務に違反するか)

(原告らの主張の要旨)

支給停止処分が重大な不利益処分であることに加え,支給停止処分は,基準時における受給権者の障害の状態が,当該受給権者が過去に提出した同様の診断書に記載された障害の状態から改善し,その結果,基準時における障害の状態が従前該当するとされていた障害等級に該当しなくなったことを要件とするものと解すべきであることに鑑みると,原告ら8名に対して支給停止処分をする際には,過去の障害の状態と基準時における障害の状態との間の変化(改善)を摘示して,それによって障害等級に該当しなくなったことが示されなければならない。
しかるに,本件各支給停止処分においては,基準時における診断書の記載内容が転記されるのみで,処分の名宛人において,障害の状態がどのように変化したために障害基礎年金の支給停止処分がされたのか,全く判断することができない。
以上によれば,本件各支給停止処分は,行手法14条1項本文の理由提示義務に違反する。

支給停止の解除の申請に対して支給停止を解除しない旨の処分が重大な処分であることに加えて,原告X9が,結論のみを示したものと評されてもやむを得ないほど簡素な理由しか提示されずに支給停止処分を受けていたことに鑑みると,原告X9に対して支給停止を解除しない旨の処分をする際には,平成21年11月まで障害基礎年金が支給されていた時と,同月に支給停止処分がされた時と,前件不解除処分及び本件不解除処分の基準時との間において,障害の状態についてどのような変化があって障害等級に該当しなくなったのかが示されなければならない。
しかるに,本件不解除処分においては,基準時における診断書の記載内容が転記されるのみで,処分の名宛人において,障害の状態がどのように変化したために平成21年に支給停止処分がされたのか,そして,本件不解除処分がされたのか,全く判断することができない。
以上によれば,本件各支給停止処分は,行手法8条1項本文の理由提示義務に違反する。

(被告の主張の要旨)
行手法14条1項本文又は8条1項本文により求められる理由の提示の程度は,いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを,処分の相手方においてその提示内容自体から了知し得るものであると解されるところ,原告らのいう障害の状態の変化は,法規を適用する対象となる事実関係には当たらないから,処分をするに当たって提示すべき事実関係に当たらない。
(6)

争点(6)(本件各支給停止処分が授益的行政行為の撤回として許されない
ものであるといえるか)
(原告ら8名の主張の要旨)
本件各支給停止処分は,いずれも,令和元年5月10日付けで,支給停止の効果を平成28年11月に遡及してされたものであるから,行政行為の撤回(行政行為の成立後に生じた事情(後発的事情)を理由として行政庁が行政行為の効力を失わせること)に当たる。
本件各支給停止処分は,結果として,障害基礎年金の支給という授益的な行政処分を遡及して取り消すことに等しいものである。そして,①原告ら8名は,障害基礎年金が支給されることを前提として生活設計を立てていたものであり,前件判決によって前件各支給停止処分が取り消されたことなどからしても,障害基礎年金の支給が継続されることに対する信頼は強く保護されるべきであるのに対し(処分の相手方の具体的不利益の状況),②本件各支給停止処分をする公益上の必要性は低いこと(利益保護の対象),③当初の行政行為である裁定には何らの瑕疵もないこと(当初の行政行為の瑕疵をもたらした原因),④障害基礎年金の支給を維持することによって生ずる公益上の不利益は金銭の支出にとどまること(取り消されることによって得られる公益上の必要)に鑑みると,本件各支給停止処分が授益的行政行為の撤回として許されないものというべきである。
(被告の主張の要旨)
支給停止処分は,障害基礎年金の受給権者が,障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときに,その障害の状態に該当しない間,障害基礎年金の支給を停止するとの処分,すなわち支分権たる障害基礎年金の支給を一時的に制限するものであって,既にした行政行為を撤回するものではない。その上,法等の関係法令をみても,法36条2項本文の要件を充足しているにもかかわらず支給停止処分をすることができない場合があることをうかがわせる規定は見当たらない。
第3
1
当裁判所の判断
争点(1)(本件各処分が前件判決の反復禁止効(行訴法33条1項)に抵触するか)について
(1)ア

行訴法33条1項の定める取消判決の拘束力は,当該取消判決の主文
が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるところ(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照),前件判決は,行手法14条1項本文又は8条1項本文の定める理由提示の要件を欠くことを理由として,前件各処分を取り消すものであるから(前記前提事実(5)),前件各処分をした行政庁である厚生労働大臣は,前件各処分と同一の理由を示して前件各処分と同一の内容の処分をすることは許されないものというべきである。
他方,厚生労働大臣が,再度,行手法14条1項本文又は8条1項本文の定める理由提示の要件を満たすような理由を示して前件各処分と同一の内容の処分をすることは,前件判決の拘束力に反しないものというべきである。

これに対して,原告らは,①行政庁が改めて理由を付して同一内容の処分をすることが許されるとするならば,行政庁の判断を抑制することができないし,名宛人に不服申立ての便宜を与えたことにならない上,訴訟経済に反し,国民の権利利益の救済が遅れること,②理由提示義務に違反した行政処分については,処分後に理由を説明してもその瑕疵が治癒されないこととの均衡を考慮すると,処分行政庁が,提示した理由の不備に気付かず,又はこれに気付いてもそれを放置したため,処分の名宛人から取消訴訟が提起され,理由提示義務違反を理由として当該処分の取消判決を受けた場合には,理由を補充して再度同一内容の処分をすることはできないものと解すべきである旨主張する。
しかしながら,行政庁が再度処分をする場合,この処分についても行手法14条1項本文又は8条1項本文が適用されることから,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の名宛人や申請者に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという趣旨は及ぶものといえる。また,理由提示義務に違反した行政処分について,処分後に理由を説明しても当該処分そのものの瑕疵が治癒されない(当該処分が事後的に適法なものとはならない)ことと,当該処分が取り消された場合に(行政庁が当該処分を撤回した場合も同様である。)理由を提示して新たな処分をすることとを同一に論ずべきであるとはいえない。原告らの上記②の主張は採用することができない。
原告らは,上記のとおり,訴訟経済の観点及び迅速な権利救済の観点から,理由提示義務違反と判断された処分について再度の処分を認めるべきではないと主張する。そのうち,権利救済の観点からの主張は,理由提示義務違反で取り消された処分については,それ以外の実体的要件等について違法事由がなく,改めて行手法14条1項本文又は8条1項本文を充足する形で理由提示がされたとしても当該処分をすることが許されないという趣旨をいうものと解されるが,そうであれば,処分要件を満たした処分を許さないこと,すなわち,法に適合しない状態を固定化することにつながる。このような状態は,国民の権利救済に資するものではなく,適切なものではない。また,訴訟経済の観点からの主張は,処分行政庁が再度の処分を行うこと自体が,再度の取消訴訟を誘発するという趣旨をいうものと解されるが,そのような事態を回避するためには,当初の取消訴訟において当該処分の実体法上,手続法上の全ての要件充足性を判断すること
(い
わば全ての要件判断につき拘束力を生じさせること)を余儀なくされることとなるので,むしろ訴訟経済に反する結果を招くことになる。原告らの上記①の主張は採用することができない。
したがって,原告らの上記主張はいずれも採用することができない。(2)

前件各処分において示された理由と本件各処分において示された理由と
を対照すると,前件各処分の通知書には,

07障害の程度が厚生年金保険法(旧三公社(JR,JT,NTT)の共済年金の受給権者にあっては国家公務員共済組合法)施行令に定める障害等級の3級の状態に該当したため,障害基礎年金の支給を停止しました。

,あるいは

請求のあった傷病については,国民年金法施行令別表(障害年金1級,2級の障害の程度を定めた表)に定める程度に該当していないため。

と記載されているのみであって(前記前提事実(3)エ,(4)オ),単に原告らの各障害の程度が1級及び2級には該当しないとの結論のみを示したものと評されてもやむを得ないほど簡素なものであった(前件判決)。これに対して,本件各処分においては,その理由として,①適用法令(法36条2項,令4条の6,別表)及び②審査基準(障害認定基準第15節の認定基準及び認定要領)のほか,③障害基礎年金(2級)の支給を停止することとした具体的理由又は障害基礎年金(2級)の支給停止を解除しない具体的理由として,原告らが提出した診断書の記載のうち検査成績,血糖コントロールの困難な状況,一般状態区分表に関するものの要点を取り上げた上で,症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が2級に該当するとは認められない旨が示されており(前記前提事実(7)イ,(8)イ),これらの理由の提示は,後記5のとおり,行手法14条1項本文又は8条1項本文の定める理由提示の要件を満たすものと認められる。そうすると,本件各処分は,前件各処分と同一の理由を示してされたものであるということはできないから(原告らは,本件各処分は前件各処分と同一の理由に基づくものというべきである旨主張するが,採用することができない。),前件判決の拘束力(反復禁止効)を理由として違法となることはないものというべきである。
2
争点(4)(本件各処分が平等原則に違反するか)について
原告らは,厚生労働大臣は,平成29年に診断書(障害状態確認届)を提出していた障害年金の受給権者については支給停止処分等をしないのに,原告らに対しては本件各処分がされたものであって,このような差別的取扱いは平等原則(憲法14条1項)に違反する違憲,違法なものである旨主張する。そこで検討すると,法36条2項本文は,

障害基礎年金は,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときは,その障害の状態に該当しない間,その支給を停止する。

と定めており,厚生労働大臣は,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しない間,支給停止処分をしなければならないものであり,その間であっても支給停止処分をしないという裁量の余地はないものと解される。そうすると,原告らについて,平成29年に診断書(障害状態確認届)を提出していた障害年金の受給権者とは異なる取扱いをしたことが憲法14条1項に違反するといえるためには,少なくとも,平成29年に診断書(障害状態確認届)を提出していた障害年金(障害等級2級)の受給権者について,その障害の状態が真実は2級に該当しないにもかかわらず,支給停止処分がされず,また,支給停止処分の職権取消しがされたという事情があることが前提条件となる。しかるに,原告らは,平成29年に診断書(障害状態確認届)を提出していた障害年金(障害等級2級)の受給権者のうち2名についての診断書や陳述書等(甲共52,53。いずれも枝番を含む。)を提出するが,上記2名の障害の状態が真実は2級に該当しない旨を主張するものとは解されないし,ほかに上記事情を認めるに足りる証拠はない。そうすると,平等原則違反をいう原告らの主張は前提を欠くものというべきである。
3
争点(6)本件各支給停止処分が授益的行政行為の撤回として許されないもの(
であるといえるか)について
原告ら8名は,本件各支給停止処分が行政行為の撤回に当たるとした上で,本件各支給停止処分は,結果として,障害基礎年金の支給という授益的な行政処分を遡及して取り消すことに等しいものであり,障害基礎年金の支給が継続されることに対する原告ら8名の信頼は強く保護されるべきであるのに対し,本件各支給停止処分をする公益上の必要性は低いこと,当初の行政行為である裁定には何らの瑕疵もないこと,障害基礎年金の支給を維持することによって生ずる公益上の不利益は金銭の支出にとどまることに鑑みると,本件各支給停止処分が授益的行政行為の撤回として許されないものというべきである旨主張する。
そこで検討すると,障害基礎年金の給付を受ける権利(基本権たる受給権)の発生要件の存否や金額等については,厚生労働大臣の裁定により公権的に確認されるものであるところ(最高裁平成3年(行ツ)第212号同7年11月7日第三小法廷判決・民集49巻9号2829頁参照),支給停止処分は,法30条に基づく障害基礎年金の支分権(支払期月ごとに支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利)の行使を認めない処分であって,基本権たる受給権そのものを消滅させる処分(裁定を取り消したり,その効力を否定したりする処分)ではない。したがって,支給停止処分が行政行為(裁定)の撤回に当たるという余地はなく,原告ら8名の上記主張は前提を欠く。
また,この点を措くとしても,法36条2項本文は,その障害の状態に該当しない間支給を停止する旨を定めており,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しない間という以上に支給停止処分の始期を制限する定めはない。そして,厚生労働大臣は,平成28年12月7日付けで,原告ら8名に対し,本件各支給停止処分と同じ同年11月から障害基礎年金の支給を停止する旨の前件各支給停止処分をしており,その後,本件各支給停止処分がされるまでの間,糖尿病による障害を理由とする保険給付をすることはなかったものである(弁論の全趣旨)。そうすると,同月以降障害基礎年金の支給を停止する旨の本件各支給停止処分がされたからといって,原告ら8名において,支給を受けた保険給付を不当利得として返還しなければならないなどの不利益が生ずることはない。以上に加えて,前記1で説示したとおり,前件判決は,飽くまで行手法14条1項本文又は8条1項本文の定める理由提示の要件を欠くことを理由として前件各処分を取り消したものであって,厚生労働大臣が,再度,行手法14条1項本文又は8条1項本文の定める理由提示の要件を満たすような理由を示して前件各処分と同一の内容の処分をすることは,前件判決の拘束力に反しないことをも考慮すると,本件各支給停止処分が平成28年11月以降の分についてまで遡って障害基礎年金の支給を停止するものであるとの一事をもって,本件各支給停止処分が違法であるものということはできない。
したがって,原告ら8名の上記主張は採用することができない。
4
争点(3)
(原告らについて支給停止事由又は支給停止解除事由があるか)
につ
いて
(1)

1型糖尿病に関する知見等
糖尿病
糖尿病は,インスリン作用の不足により生ずる慢性の高血糖を主徴とする代謝疾患群である。この疾患群の共通の特徴はインスリン効果の不足であり,それにより,糖,脂質,蛋白質を含むほとんど全ての代謝系に異常を来す。
血糖値が著しく高くなるような代謝状態においては,
極端な場合,
意識障害,更に昏睡に至り,効果的な治療が行われなければ死に至ることもある。インスリンは,血液中のブドウ糖を細胞に取り込み血糖を下げる働きをするホルモンであり,すい臓のランゲルハンス島と呼ばれる組織の中にあるβ細胞(膵β細胞)で産生される。インスリンの分泌によって血糖値はほぼ一定の値(一般的に,空腹時で110mg/dL未満,食後2時間で140mg/dL未満)
に保たれている。
しかし,
インスリンが分泌されなくなり,
又はインスリンは分泌されるものの肝臓や筋肉でのインスリンの効き目が悪くなり(インスリン抵抗性),慢性的に高血糖状態が持続することがある。このような代謝異常を伴う症候群が糖尿病である。
糖尿病は,インスリンの作用不足を起こす原因の違いから,①インスリン分泌の絶対的不足を来す1型糖尿病,②インスリン分泌の低下とインスリン抵抗性を来す2型糖尿病,③その他の特定の機序・疾患によるもの,④妊娠糖尿病の4つに大別される。
血糖値が高い状態が続くと,喉の渇き,多量の飲水,尿量の増加,体重減等の症状が起こるのが典型的である。このような症状を放置するなどしてインスリン不足がある程度を超えると,血糖値が短期間に異常に高くなり,昏睡に陥ることがある(糖尿病昏睡)。糖尿病昏睡には,糖尿病ケトアシドーシス(絶対的なインスリン不足により,血液中から細胞に供給されるべき糖が移動できなくなり,細胞がエネルギー不足に陥ると,これを補うために身体は脂肪を消費し,その過程でケトン体という酸性の物質が産生される。ケトン体が血液中に高度に貯留され,血液が酸性に傾き,食欲不振,嘔吐,倦怠感等の症状が出る状態をケトアシドーシスという。)と高血糖高浸透圧状態がある。また,高血糖の状態が長く続くと全身の合併症が起こる可能性が高くなる。
他方,
正常に近い血糖コントロールを目指す治療を行う場合,
低血糖
(血
糖値が70mg/dL未満である状態)となる頻度が増加する。意識,思考,判断,知覚,運動,排せつ等の神経機能を維持するためには,血糖値は最低でも70mg/dLのレベルを保つ必要があることから,これを下回る傾向があるときは,これに拮抗するために種々の生体反応が起こる。それは,発汗,手足振戦,悪寒等の自律神経症状,混乱,脱力,眠気,めまい,疲労感,発語困難,意識障害,けいれん等の中枢神経グルコース欠乏症状等である。(甲共9,弁論の全趣旨)

1型糖尿病
1型糖尿病は,膵β細胞が何らかの理由により破壊され,インスリン分泌が枯渇して発症する糖尿病と定義される。
膵β細胞の80~90%が壊れ,インスリン分泌予備能が正常の10~20%以下となり,インスリン不足が起こると,血管内のブドウ糖を肝臓や筋肉等の細胞に取り込むことができず,血糖値が上昇する。
1型糖尿病の約80%は自己免疫異常により発症する。すなわち,ウイルス感染等の環境因子が引き金となって免疫機構(ウイルス等自己以外のものを異物として認識し,排除する体の仕組み)がはたらき,本来なら自分の体で作っている物質には反応しないはずのTリンパ球が誤って膵β細胞を破壊してしまう。
1型糖尿病は,典型的には,若年者に急激に発症し,速やかにインスリン依存状態に陥るとされる。
1型糖尿病の患者は,
同時に,
橋本病,
バセドウ病等の甲状腺の病気や,
関節リウマチやエリテマトーデス等の膠原病といった他の自己免疫疾患に高率でり患する。


1型糖尿病の診断
インスリンは,A鎖とB鎖をCペプチドがつなぐ構造になっているところ,インスリンが分泌される際にCペプチドの両端が切断されるため,インスリンが産生される際に同じ量のCペプチドが産生される。そして,インスリン注射製剤にはCペプチドが含まれていない。そこで,膵β細胞の破壊の有無を診断するために,多くの場合,血中又は尿中のCペプチド濃度を測定する。(甲共6)
1型糖尿病患者の中でも,空腹時Cペプチド値がより低い患者では,重症度を示すような事象が出現しやすくなるといわれている(甲共43)。エ
1型糖尿病の治療
1型糖尿病の患者については,膵β細胞が破壊されてインスリンが分泌されないため,インスリン注射(インスリン療法)が必須となる。インスリン療法の原則は,生理的なインスリン分泌のパターンに合わせるようにインスリンを適切に補い,血糖値をできるだけ正常化すること(血糖コントロール)である。血糖コントロールの指標としては,血糖自己測定(SMBG)の結果得られた血糖値,HbA1c(ヘモグロビンA1c。赤血球の成分であるヘモグロビンと血液中のブドウ糖が結合したもの。採血した日から遡って1,
2箇月間の血糖値の平均的な状態を知ることができる。
血糖値が高い状態が続くほど値が高くなる。),グリコアルブミン(GA)等が用いられる。
1型糖尿病の標準治療は,強化インスリン療法,すなわち頻回注射法又は持続皮下インスリン注入法(インスリンポンプ法)に血糖自己測定を併用し,インスリン注射量を患者自らが調節しながら可能な限り良好な血糖コントロールを目指す治療法である。頻回注射法は,1日1,2回基礎分泌を補充するためのインスリン注射を行うとともに,毎食前に追加分泌を補充するためのインスリン注射を行うものであり,持続皮下インスリン注入法は,注入ポンプを用いて皮下から持続的にインスリンを注入するものである。


(ア)

糖尿病の慢性合併症
糖尿病網膜症糖尿病網膜症は,糖尿病による高血糖を主体とした代謝異常が長期間反復持続するために網膜細小血管が傷害され,網膜や硝子体に多彩な病変を形成する血管原性疾患である(証拠(診断書等)により,糖尿病網膜症(乙A1等),糖尿病性網膜症(乙H1等)と異なる病名が用いられているが,いずれも医学的に正しいものと考えられるので,あえて統一することはしない。他の病名についても同様である。)。重症度に応じて,網膜症なし,単純糖尿病網膜症,増殖前糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症の4期に分類される。単純糖尿病網膜症は血糖コントロールにより改善することが可能であるが,増殖前以降の段階の糖尿病網膜症では,レーザー光凝固術や硝子体手術による治療が必要になる。(甲共3,10)
(イ)

糖尿病腎症
糖尿病腎症は,
慢性的な高血糖によって引き起こされる腎疾患であり,
アルブミン尿の出現に始まり,尿たんぱくの増加に伴って腎機能が低下して腎不全に至る。
進行の程度は,尿中に出るたんぱく(主にアルブミン)の量と腎臓の血液をろ過する機能の程度によって1期から5期までに分けられる。第2期(早期腎症期。尿アルブミンが微量であり,腎臓の機能が正常ないし低下した状態)までは,血糖と血圧等のコントロールにより改善することが可能であるが,第4期(腎不全期)になると腎臓専門医の診察が必要になり,第5期(透析療法期)になると透析療法又は腎移植を要する。(甲共3,10)

(ウ)

糖尿病神経障害
糖尿病神経障害は,高血糖状態が続き,ブドウ糖が利用されず別の物質となって神経にたまるとともに,
神経の周りの血管も傷害されるため,
神経に障害を来す状態である。糖尿病神経障害には,
手足の感覚や運動をつかさどる末梢神経障害と,
胃腸や心臓の働きを調節している自律神経障害がある。
末梢神経障害では,足の裏に違和感があったり,しびれが続いたり,冷え,火照り,痛み等の症状が出る。症状が軽いうちは,血糖コントロールを良くすることで症状が改善されるが,血糖コントロールが悪い状態が長く続くと,足に激痛が出たり,逆に感覚が麻痺したりすることがあり,足の潰瘍や壊疽まで進行することがある。
自律神経障害では,胃のもたれ,下痢,立ちくらみ等の症状が出る。(甲共3)
(エ)

動脈硬化
糖尿病は,動脈硬化(動脈の壁の弾力性がなくなり,血管が詰まりやすくなった状態)を進行させる(甲共3)。

(オ)

感染症
高血糖の状態が続くと,細菌,真菌,ウイルス等による病気(感染症)にり患し,重症化しやすくなる。また,糖尿病患者は,口の中の細菌の増殖により歯ぐきの感染症である歯周病にり患しやすく,治りにくくなる。(甲共3)

(2)

支給停止処分の要件
前記2で説示したとおり,法36条2項本文は,

障害基礎年金は,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときは,その障害の状態に該当しない間,その支給を停止する。

と定めており,厚生労働大臣は,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しない間,支給停止処分をしなければならないものであるから,支給停止処分をするためには,一定の時点において,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しないことを要し,かつこれで足りるものと解するのが相当である。イ

これに対して,原告らは,支給停止処分は,基準時における受給権者の障害の状態が,当該受給権者が過去に同様の診断書を提出した時点の障害の状態から改善し,その結果,基準時における障害の状態が従前該当するとされていた障害等級に該当しなくなったことを要件とするものと解すべきである旨主張する。
しかしながら,障害基礎年金は,障害認定日等の一定の時点において,傷病により障害等級(1級又は2級。以下同じ。)に該当する程度の障害の状態にある者に支給されるものであって(法30条等参照),障害等級に該当する程度の障害の状態にない者に対して支給することが予定されているものではない。しかるに,原告らの主張によれば,過去に診断書を提出した時点の障害の状態から改善していなければ,たとえ基準時において障害等級に該当する程度の障害の状態にないとしても,支給停止処分をすることができない(障害基礎年金が支給される)ことになって,障害基礎年金に関する法の趣旨に根本的に反することになる。受給権者について,過去に診断書を提出した時点の障害の状態から改善しておらず,かつ,基準時において障害等級に該当する程度の障害の状態にないという場合,この間において障害の状態に関する認定判断の基準が変更されるなどの事情がない限り,過去に診断書を提出した時点における障害の状態に関する認定判断が誤っていたものと考えられるのであり,この場合には,この誤りを是正するために,支給停止処分をするほかないものと解される。原告らは,上記の主張の根拠として,①法36条2項本文の受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときという文言,②支給停止処分が受益的行政行為の撤回に当たること,③精神障害ガイドラインにおいて,再認定時の留意事項として,下位等級への変更や2級(又は3級)非該当への変更を検討する場合は,前回認定時の障害状態確認届(診断書)等の確認が求められていること,④障害基礎年金の支給が継続される場合には,実務上,受給権者に対し,提出された診断書(障害状態確認届)により障害の程度を審査した結果,あなたの障害の状態は従前の状態と同程度と認められますと記載された文書が送付されてきたこと,⑤厚生労働大臣は,平成30年7月3日の参議院厚生労働委員会において,障害の程度が変わらない場合には支給停止処分をしないという趣旨の答弁をしたことを挙げる。
そこで検討すると,上記①については,障害基礎年金の裁定が正しいことを前提とすれば,受給権者は,法が定める障害認定日等の一定の時点においては,障害等級に該当する程度の障害の状態に該当していたはずであるから,受給権者が,支給停止処分をする時点において,障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しないとすれば,それは受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときである,という通常の論理的関係を示したものにすぎず,法36条2項本文が,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しないことに加えて,過去に診断書を提出した時点の障害の状態から改善したことをも支給停止処分の要件としたものとは解されない。
上記②については,前記3で説示したとおり,支給停止処分は行政行為の撤回に当たらない。
上記③については,支給停止処分が受給権者の生活の安定を損なわせる重大な不利益処分であり,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しない(支給停止事由がある)といえるかについては慎重に検討すべきであることから,受給権者の障害の状態についての有力な資料である前回認定時の障害状態確認届(診断書)等の確認が求められているものと解されるのであって,それ以上に障害の状態の改善を要件とする趣旨を含むものとはいえない。
上記④については,上記①と同様に,障害基礎年金の裁定及び厚生労働大臣が従前支給停止処分をしてこなかったことが正しいことを前提とすれば,障害の状態が従前の状態と同程度である場合には,受給権者は障害等級に該当する程度の障害の状態に該当するものといえることから,支給停止処分をしない場合に,上記④のような記載をした文書が送付されるものと解される。
上記⑤については,証拠(甲共22)によれば,原告らが指摘する平成30年7月3日の参議院厚生労働委員会における厚生労働大臣の答弁は,障害基礎年金の認定事務を機構の都道府県ごとの事務センターから機構本部の障害年金センターに集約したことに関する質問に対するものであるが,上記集約前に行われた認定について集約後に再認定を行う場合には,集約前の認定の際に認定医の総合判断の根拠となった障害の状態が現在においても従前と変わらない場合には,集約前の前回の認定も認定医が医学的に総合判断したものであるということも踏まえて医学的な総合判断を行っていく,

認定医も事務局も変わってきた,そしてかつてにおいては認定はされていた,そういった事情をよく踏まえて一件一件丁寧に対応していくように努めていきたいと思います。

などというものである。この答弁の趣旨は,
上記集約前の認定が医学的に総合判断したものであること
を踏まえる(踏まえるのは上記認定そのものではない。)とはしながらも,それを踏襲する,あるいは障害の状態の改善がない限り支給停止処分をしないというところまでは明言しないものであって,この答弁が,障害の程度が変わらない場合には支給停止処分をしないという趣旨のものであるとは解し難い。
この点に関して,P教授作成の意見書(甲共40)には,法36条2項本文にいう受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったときという文言は,障害の状態が変化することを実体的要件とすると解されるとの記載がある。しかしながら,その趣旨は,法36条2項本文は,過去の障害の状態と基準時における障害の状態を比較検討することを必須の処分要件とはしていないが,厚生労働大臣は,受給権者の障害の状態が従前と変わらないにもかかわらず下位等級への変更や等級非該当への変更をしようとする場合には,基準時の現症のみによって障害の程度を認定することは許されず,前回の認定も踏まえて障害の程度の認定を行わなければならない,というところにあるのであり(11頁),法36条2項本文の要件の解釈そのものではなく,事実認定上の問題(障害等級の認定に当たってどの範囲の資料を用いるか等)をいうものであると解される(仮に,そうではなくて,法36条2項本文の要件として,障害の状態の改善を必要とすると解釈するのであれば,以上説示したところに照らして,採用することができない。)。そして,当裁判所も,後記(4)のとおり,基準時の症状等を示す診断書等のみならず,その前後の症状等に関する証拠も検討した上で,基準時における障害の状態を認定判断するものである。
以上によれば,原告らの上記主張は採用することができない。
(3)

糖尿病による障害が2級に該当する程度の障害の状態に該当するか否か
の判断方法

厚生労働大臣による令別表所定の障害等級の認定は,障害認定基準に従って行われているところ,障害認定基準は,行政規則であり,法的拘束力はないものの,各種障害に関する医学的知見を総合して定められたものであり,最新の知見を踏まえた改訂がされていること(乙共2,3)からすると,その内容は合理的なものであると認めることができる。また,障害年金給付の公平を確保するためには,障害の程度の認定が医学的知見を踏まえて一定の合理的基準に従って行われる必要がある。そうすると,障害基礎年金の支給要件である障害の状態の具体的な認定は,特段の事情がない限り,障害認定基準に従って行うのが相当である。そして,本件において,前記特段の事情は見当たらないから,
原告らの障害の状態についても,
障害認定基準によって判断するのが相当である。

障害認定基準は,障害認定に当たっての基本的事項として,2級に該当する障害の程度とは,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものであるとする。そして,この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは,必ずしも他人の助けを借りる必要はないが,日常生活は極めて困難で,
労働により収入を得ることができない程度のものであり,
例えば,家庭内の極めて温和な活動(軽食作り,下着程度の洗濯等)はできるが,それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの,すなわち,活動の範囲がおおむね家屋内に限られているものであるとする(前記関係法令等の定め(5)ア)。そして,障害認定基準は,代謝疾患による障害の認定基準として,代謝疾患による障害の程度は,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び症状の経過,具体的な日常生活状況等を十分考慮し,総合的に認定するものとし,当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって,長期にわたる安静を必要とする病状が,日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に,また,労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定することとする(同イ)。
障害認定基準は,これらの基本的事項や認定基準を踏まえた認定要領として,糖尿病による障害の程度は,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び症状の経過,具体的な日常生活状況等を十分考慮し,総合的に認定するものとする(前記関係法令等の定め(5)ウ(ウ))。その上で,障害認定基準は,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なもののうち,一定の具体的な要件に該当するものを3級に該当する旨を定めるが,このうち,内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものも3級に該当するものとされている。すなわち,1型糖尿病のように,内因性のインスリン分泌が枯渇しており,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難であるからといって,当然に2級に該当するものとはされていない。そして,障害認定基準は,糖尿病による障害が2級に該当するための要件について,

症状,検査成績及び具体的な日常生活状況等によっては,さらに上位等級に認定する。と定めるのみで

(同
(オ))これを具体的に定める運用指針等の下位規定も存在しない,
(同エ)

以上によれば,受給権者の糖尿病による障害が2級に該当する程度の障害の状態に該当するか否かを判断するに当たっては,当該障害が少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であることを確認した上で,症状,検査成績及び具体的な日常生活状況を中心に,その他合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び症状の経過等を総合考慮して,受給権者の身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものであり,換言すれば,必ずしも他人の助けを借りる必要はないものの,独力での日常生活が極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものに当たるか否かを認定判断すべきであるものと解される。もっとも,受給権者が従事し得る労働の内容及び程度には幅があることから,ここにいう労働により収入を得ることができないというのは,文字どおり心身が労働に耐えられない場合に限定して解釈することは妥当でない。例えば,就労条件等に特段の配慮がされたことによって労働することができたといえる場合や,病状等に照らして労働を差し控えるのが相当であると考えられるのに就労しているとみられるような場合など,例外的な事情がある場合まで形式的に除外することは相当とは考え難い。
なお,証拠(甲共35,甲A12,甲B9,甲C13,甲D14,甲E12,甲F11,甲H11等)によれば,1型糖尿病にり患している原告らは,いずれも血糖コントロールに困難を来すため,毎月少なくとも1回は病院を受診し,継続的に血糖値測定を行い,必要な都度,インスリン注射等を行うことを余儀なくされており,その医療費が経済的負担となっていることが認められる。しかし,障害基礎年金は,障害の状態にあることとなって日常生活に著しい制限が加えられ稼得能力の回復がほとんど期待できない場合に,
所得保障の必要性が高いことから行われる給付であって,
その性質上,上記のような医療費を賄うことを直接の目的とした給付と解することは当然にはできない。このことは,障害基礎年金の受給要件が飽くまで障害の状態にあることであって,被保険者が,当該障害の治療費を負担するか否かに着目した受給要件となっているものではないことからもうかがわれるところである。仮に,1型糖尿病の患者について医療費を助成する必要性が高いというのであれば,医療費の助成を目的とする制度において対処すること,現行法の枠内で例を挙げれば,難病の患者に対する医療等に関する法律の適用対象となる指定難病に1型糖尿病を加えるなどの措置を講ずることが考えられるところである(ただし,その患者数が同法施行規則1条所定の人数に達しないこと,診断に関し客観的な指標による一定の基準が定まっていること(同規則2条)などの要件を満たす必要がある。証拠(甲共31)によれば,平成31年度に指定難病に追加する疾病の候補として1型糖尿病が挙げられたが,後者の要件を満たさないとして追加されなかった事実が認められる。)。医療費の助成を目的とする制度が現存する以上,医療費の負担に着目した救済は同制度によって行われることを期待すべきであって,そのような救済を別個の制度である障害年金(原告らは2級該当性を主張)の受給に求めることには,おのずから限界があるといわざるを得ない。換言すれば,原告らが,1型糖尿病という,自己責任に帰し難い疾病にり患し,ほぼ生涯にわたって定期的な通院治療,継続的な血糖値測定及びインスリン注射等を余儀なくされ,そのために相当程度の医療費を負担せざるを得ないため,少なくとも医療費の観点から救済が必要であるとしても,そのことが直ちに障害年金の受給権を基礎付けるに至るものではない。飽くまで,原告らそれぞれにつき,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものであるか否かによって障害等級2級に該当するか否かを判断すべきものである。

(ア)

原告らの主張について
原告らは,障害認定基準は,行政機関の内部的な取扱指針にすぎず,法的拘束力はないから,仮に障害認定基準の定める要件のいずれに該当しないとしても,個別具体的な症状の経過等を参考に,日常生活状況を把握し,令別表所定の障害の状態に該当するか否かを判断すべきである旨主張する。
まず,障害認定基準が法的拘束力を有しないという点については,前記アで説示したとおり,そもそも障害年金給付の公平性を確保するためには一定の基準が必要であること,そのための基準として障害認定基準が定められ,その内容が医学的知見に基づくものであることを踏まえると,障害の状態の具体的認定は障害認定基準に基づいて行うべきであるから,採用することができない。また,障害認定基準該当性を個別具体的に判断すべきであるという点については,
当裁判所も,後記(4)のとおり,基準時の診断書等のみならず,その前後の症状等に関する証拠も検討した上で,基準時における障害の状態を認定判断するところである。(イ)

原告らは,令別表2級15号は,身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものと定めているのに,
障害認定基準は,
2級の障害の程度について
労働により収入を得ることができない程度
などといったものを付加しているが,このような付加は法令の趣旨に反する,障害年金の趣旨及び目的からすれば,労働している場合でも障害年金を支給する必要があり,障害者の権利に関する条約や現行の障害者基本法に照らせば,障害年金を支給しつつ労働して収入を得ることはむしろ推奨されており,実際に,1級又は2級の障害年金を受給しながら就労している者が多数いるから,障害認定基準において独自に労働により収入を得ることができない程度といったメルクマールを付加することは許されないなどと主張する。
まず,障害認定基準が2級該当性の要件として労働により収入を得ることができない程度と定めていることの合理性について検討する。厚年法47条2項は,障害等級につき,障害の程度に応じて重度のものから1級,2級及び3級とし,各級の障害の状態は,政令で定める旨規定し,これを受けた厚年法施行令3条の8は,1級及び2級の障害の状態については令別表に定める1級及び2級の障害の状態とし,3級の障害の状態については厚年法施行令別表第一に定めるとおりとする旨規定し,同別表12号は,身体の機能に,労働が著しい制限を受けるか,又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すものを掲げている。これらの規定を踏まえると,3級よりも障害の程度が重度である2級15号の障害の状態である日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度について,労働により収入を得ることができない程度をいうものと解することは,法,令,厚年法及び厚年法施行令の趣旨に照らし,合理的なものであるといえる。
次に,原告らは,障害年金の趣旨及び目的からすれば労働している場合でも障害年金を支給する必要があると主張する点について検討するに,上記のとおり障害認定基準が合理的であると解することは,本来であれば労働により収入を得ることができない程度の障害の状態である受給権者が,勤務先において特段の配慮や援助を受けるなどして就労し,収入を得ることと矛盾するものではない。換言すれば,就労して収入を得ているからといって直ちに労働により収入を得ることができない程度に当たらないというものではなく,仕事の種類,内容,就労状況,勤務先において受けている配慮や援助の内容等を考慮して,労働により収入を得ることができない程度に当たるか否かを判断するのであって,労働してさえいれば,その余の事情を考慮することなく上記程度に該当しないとみなすこととなるわけではない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(ウ)

原告らは,平成23年の障害者基本法の改正を踏まえ,厚生労働大臣は,1型糖尿病患者の症状には波があることなどからして,低血糖発作が生じたときなどのできない状況やより支援が必要な状態に合
わせて障害の状態を判断すべき旨を主張する。
障害認定基準該当性を判断するに当たっては,診断書等の証拠を収集した上で,個別の事情に配慮しながら,具体的な障害の状態を認定していくのであり,それが平成23年の障害者基本法の改正によって変わる性質のものではない。原告らの主張が,それを超えて,障害者基本法の上記改正により,具体的な低血糖発作や意識障害の頻度等を捨象して低血糖発作が生じたときなどの状況に着目して1型糖尿病患者の障害の状態を判断すべきであるという趣旨であるのなら,障害者基本法の文言等に照らして採用することができない。
(4)

原告らについての検討


(ア)

原告X1について
少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であるか
証拠(乙A1)によれば,原告X1の平成28年7月13日当時の障害の状態について,次の事実が認められる。原告X1についてそれ以前に作成された診断書(甲A4,6)には,次の②の随時血清Cペプチド値の記載や同③の記載はないが,その他については特に異なる記載はない。


インスリン療法により生命を維持している状態であるが,血糖変
動が著しいため低血糖発作が多く,自己管理が不能である。



インスリン分泌は枯渇しており,随時血清Cペプチド値は0.0
3ng/mLである。



意識障害により自己回復ができない重症低血糖は年2,
3回あり,
糖尿病ケトアシドーシスによる入院や高血糖高浸透圧症候群によ
る入院はない。



一般状態区分表のイないしオに該当する。血糖値で活動力が左右
され,低血糖発作が起こるとオに該当する状態になる。

以上の事実によれば,原告X1の平成28年7月13日時点の障害の状態は,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なものであり,
内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当する。したがって,原告X1の平成28年7月13日時点の障害の状態は,少なくとも3級に該当する程度の障害の状態に該当する。(イ)

証拠(甲A4,6,11,12,乙A1,証人W)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1の症状,検査成績及び具体的な日常生活状況(主に平成28年7月13日前後のものであるが,それに限られない。)について,次の事実が認められる。


原告X1の症状をみると,意識障害により自己回復ができない重
症低血糖は年2,3回あるが,糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はない。



原告X1の検査成績をみると,平成28年5月から同年7月にか
けての3回の検査において,食後3~6時間後の血糖値が52~284であり,随時血清Cペプチド値が0.03ng/mLである。


原告X1の具体的な日常生活状況をみると,次のとおりである。
すなわち,原告X1は,高校に入学した16歳の時に学習障害と診断され,療育手帳(第2種知的障害者)を取得し,高校卒業後はO職業能力開発センターを修了した。原告X1は,21歳の時(平成23年頃)から,24時間営業の飲食店で,ホールや簡単な調理のアルバイトをして,月額16,17万円程度の収入を得ていた。その際,原告X1は,夜勤をしなくてもよいシフトに入れるようにアルバイト先に配慮してもらったほか,勤務中に低血糖になることを予防するため,出勤前にできるだけ食事をして,インスリンの量を調整していたほか,勤務中に低血糖になった場合には,客から見えない場所でジュースを飲むなどして糖分を摂取していた。また,原告X1は,平成31年1月,上記アルバイト先とは別の飲食店に正社員として就職したが,出社してから退社するまでの時間が12時間を超えることもあるなど拘束時間が長く,心身の調子を悪くしたため,
令和元年9月末で上記飲食店を退職した。
なお,
原告X1は,令和元年7月に婚姻し,令和2年1月に子どもが出生した。(ウ)

前記(イ)の事情によれば,
原告X1の検査成績は,血糖値が大きくばら
ついていて血糖コントロールの不良を示し,随時血清Cペプチド値が低く膵β細胞が大きく破壊されていることをうかがわせるものであり,3級に該当する程度の障害の状態と比較して重篤であるといい得る。しかし,意識障害により自己回復ができない重症低血糖の頻度は年2,3回であり,糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はないというのであり,障害認定基準において,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なもので,意識障害により自己回復ができない重症低血糖の所見が平均して月1回以上あるものが3級に該当するとされることに照らすと,この症状は3級に該当する程度の障害の状態に至っていない。
原告X1の母である証人Wは,家族が補食を助けることが週3回くらいある,血糖モニター(その記録が日別記録(甲A7)である。)を装着して寝ている間に低血糖(70mg/dL未満)になっていたことがあったと気付いた旨証言するほか,その陳述書(甲A12)には,原告X1が重い低血糖の症状に至ることが月3,4回はあるとの記載がある。証人Wは,これに加えて,補食を助けることの具体的な内容として,原告X1が手の震えにより補食としてジュースを飲むことができないときに蓋を開けてあげるなどと証言し,また,上記日別記録をみて原告X1が就寝中にも低血糖に至っていたことがあったと気付いたと証言するから,原告X1が意識障害により自己回復することができない程度に至った重症低血糖に限らず,それに至らない低血糖症状を呈した場合も含めて上記証言ないし上記記載をしていると解するのが合理的である。したがって,
原告X1が,
上記(イ)①認定に係る主治医による診断書記載の頻度(年
2,3回)を大きく上回る頻度で,意識障害により自己回復ができない程度の重症低血糖に至っていたとは認めるに足りない。また,原告X1は,平成23年頃から,出勤前に食事をしたり勤務中にジュースを飲んで糖分を摂取したりするなどの工夫をしながら,飲食店でアルバイトをして月額16,17万円程度の収入を得ていたものである(原告X1は,長い日には1日7,8時間勤務していたものであるが(証人W),勤務先において,夜勤をしなくてもよいという以外に特段の配慮や援助を受けた形跡はない。)。そうすると,原告X1には①糖尿病網膜症(単純期)(ただし,矯正視力は右1.2,左1.0),②末梢神経障害による下肢触覚低下及び③糖尿病性歯周病の合併症があること(乙A1)等の事情を考慮しても,平成28年7月13日当時,原告X1の糖尿病による身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,独力での日常生活が極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものに当たるものであったとは認められない。以上によれば,原告X1の平成28年7月13日当時の糖尿病による障害の状態は,2級に該当する程度に至っていなかったものと認められるから,支給停止事由があるものというべきである。

(ア)

原告X2について
少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であるか
証拠(乙B1)によれば,原告X2の平成28年7月5日当時の障害の状態について,次の事実が認められる。原告X2についてそれ以前に作成された診断書(甲B4,7)には,次の②の随時血清Cペプチド値の記載や同③の記載はなく,同④について,高血糖発作でも一般状態区分表のオに該当する旨の記載があるが,その他については特に異なる記載はない。


生命維持のためインスリン療法を行っているが,血糖変動が著し
いためコントロール不能である。②

インスリン不足で,随時血清Cペプチド値は0.01ng/mL未満である。



意識障害により自己回復ができない重症低血糖は年10回(月1
回程度)ある。



一般状態区分表のイないしオに該当する。血糖値変動によって活
動力が左右され,低血糖になるとオに該当する状態になる。

以上の事実によれば,原告X2の平成28年7月5日時点の障害の状態は,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なものであり,内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当する。したがって,原告X2の平成28年7月5日時点の障害の状態は,少なくとも3級に該当する程度の障害の状態に該当する。
(イ)

証拠(甲B4,7,9,乙B1,原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X2の症状,検査成績及び具体的な日常生活状況(主に平成28年7月5日前後のものであるが,
それに限られない。について,

次の事実が認められる。


原告X2の症状をみると,意識障害により自己回復ができない重
症低血糖は年10回(月1回程度)あるが,糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はない(なお,原告X2の陳述書(甲B9)には,自分自身の力で糖分を補給することができないようなひどい低血糖障害が,昔も今も月に1,2回程度は必ずある旨の記載があるが,後記のとおり,診断書(乙B1)に反する限度において採用することができない。)。



原告X2の検査成績をみると,平成28年5月から同年7月にか
けての3回の検査において,食後3,4時間後の血糖値が42~211であり,随時血清Cペプチド値が0.01ng/mL未満である。③

原告X2の具体的な日常生活状況をみると,次のとおりである。
すなわち,原告X2は,血糖コントロールに苦労しながらも4年間大学で勉強を続け,卒業後すぐの平成26年4月に大手損害保険会社に正社員として就職し,平成28年7月5日当時も同社で勤務していた。原告X2は,勤務先の同僚と同じ弁当を食べると高血糖になることがあるため,自分で弁当を用意するなどして血糖をコントロールしながら,主にデスクワークをしていた。原告X2は,デスクワーク以外の仕事をしてみたいという思いを抱いたものの,営業職になると外出の機会が増え,血糖コントロールが更に難しくなることから,自ら営業職への転向を志願することはなかった。原告X2は,平成29年11月に婚姻したことを機に,平成30年3月に同社を退職し,同年4月,夫の転勤に伴いアメリカに転居し,令和2年1月には子どもを出産した(なお,無拠出制の障害基礎年金は,受給権者が日本国内に住所を有しない期間は,支給が停止される
(法36条の2第1項4号)。)。

(ウ)

前記(イ)の事情によれば,
原告X2の検査成績のうち,随時血清Cペプ
チド値は,膵β細胞が大きく破壊されていることをうかがわせるものであり,3級に該当する程度の障害の状態と比較して重篤であるといい得る。しかし,意識障害により自己回復ができない重症低血糖の頻度は年10回(月1回程度)であり,糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はないというのであり,この症状は3級に該当する程度の障害の状態に至っていない。また,原告X2は,血糖コントロールに苦労しながらも4年間大学で勉強を続け,卒業後すぐの平成26年4月に大手損害保険会社に正社員として就職し,婚姻を機に平成30年3月に退職するまでの間勤務を続けていたものである
(勤務先において,基本的に自分が必要なタイミングでインスリンを摂取することができるという以外に特段の配慮や援助を受けていなかった。)。そうすると,原告X2には糖尿病網膜症(単純期)(ただし,矯正視力は右1.2,左1.0)及び糖尿病性歯周病の合併症があること(乙B1)等の事情を考慮しても,平成28年7月5日当時,原告X2の身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,独力での日常生活が極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものに当たるものであったとは認められない。
以上によれば,原告X2の平成28年7月5日当時の障害の状態は,2級に該当する程度に至っていなかったものと認められるから,支給停止事由があるものというべきである。
なお,原告X2の陳述書(甲B9)には,自分自身の力で糖分を補給することができないようなひどい低血糖障害が,昔も今も月に1,2回程度は必ずある旨の記載があり,原告X2はこれに沿う供述をする(原告X2の日別記録(甲B8)もその趣旨をいうものと解される。)。しかしながら,他方,原告X2の平成28年7月5日当時の症状を記載した診断書(乙B1)には,前記(イ)①のとおり,意識障害により自己回復ができない重症低血糖の回数につき,原告X2の上記供述と異なる記載がある。上記診断書は,原告X2が中学生の時から長年にわたって1箇月に1度(就職してからも少なくとも2,3箇月に1度)通院していた(甲B9)Q病院の医師が作成したものであり,原告X2の症状について正しく理解した上で作成されたものであると認められる。また,上記診断書には,意識障害により自己回復ができない重症低血糖が年10回あるという記載に加え,所見として重症低血糖のため動けず糖質を摂取させてもらうことが1回/月程度あるという記載もあるのであって(乙B1),上記診断書は意識障害により自己回復ができない重症低血糖の意義を理解した上で作成されたものであると認められる。したがって,上記診断書の記載は信用性が高いものである。原告X2の陳述書中の上記記載及び供述(甲B8を含む。)は,上記診断書の記載にほぼ沿う事実ないし評価を述べているものであり,これと矛盾するものとは解されない。仮に,原告X2の上記記載及び供述が,上記診断書の趣旨を大きく超える事実を述べるものであれば,その差異は意識障害により自己回復ができない重症低血糖の意義に関する医学的評価に起因するものと解するのが合理的であり,その信用性は上記診断書の記載を優先すべきであって,これに反する限度において採用することができない。

(ア)

原告X3について
少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であるか
証拠(乙C1)によれば,原告X3の平成28年7月14日当時の障害の状態について,次の事実が認められる。原告X3についてそれ以前に作成された診断書(甲C4,7から11まで。なお,一部診断書等にあるKは原告X3の旧姓である。)には,次の②の随時血清Cペプチド値の記載や同③の記載はないが,その他については特に異なる記載はない。


持続血糖モニタリングシステム付きインスリンポンプによる治療
を継続しているが,予測できない低血糖発作と高血糖発作を繰り返す血糖コントロール不能の状態が続いている。



内因性のインスリン分泌が枯渇しており,随時血清Cペプチド値
は0.1ng/mL以下である(検査日は平成28年6月20日)。


意識障害により自己回復ができない重症低血糖は年6回あった。



一般状態区分表のイないしオに該当する。平時はイの状態である
が,予測,予防ができない低血糖発作,高血糖発作により,直ちにオの状態に移行し得る。以上の事実によれば,原告X3の平成28年7月14日時点の障害の状態は,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なものであり,
内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当する。したがって,原告X3の平成28年7月14日時点の障害の状態は,少なくとも3級に該当する程度の障害の状態に該当する。
(イ)

証拠(甲C4,7から11まで,13,15,乙C1,原告X3本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X3の症状,検査成績及び具体的な日常生活状況(主に平成28年7月14日前後のものであるが,それに限られない。)について,次の事実が認められる。


原告X3の症状をみると,意識障害により自己回復ができない重
症低血糖は年6回あるが,糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はない。



原告X3の検査成績をみると,平成28年2月から同年6月にか
けての3回の検査において,空腹時や食後3時間後の血糖値が131~203であり,随時血清Cペプチド値が0.1ng/mL以下である。



原告X3の具体的な日常生活状況をみると,次のとおりである。
すなわち,原告X3は,高校卒業後,鍼灸の専門学校に3年間通って鍼灸師の資格を取得し,整骨院で正社員として働き始めた。しかし,長時間の勤務で昼休みも満足に取ることができない程の激務であり,血糖コントロールに時間を割くことが難しく,原告X3は,3箇月で退職せざるを得なかった。その後,原告X3は,婚姻するまでの間,整骨院で派遣社員やパートとして勤務し,鍼灸師としての業務やその他軽作業等に従事した。その間,契約社員への切替えを勧められたこともあったが,残業を断ることができなくなると体調を維持できないと考えて,
派遣社員のままでいた。
なお,
原告は,
平成23年8月に婚姻し,平成25年7月に第一子を,平成29年10月に第二子を出産した。
(ウ)

前記(イ)の事情によれば,
原告X3の意識障害により自己回復ができな
い重症低血糖の頻度は年6回であり
(原告X3は,
この頻度について1,
2箇月に1回程度であると思う旨供述するところ,この供述は前記認定と矛盾しない。なお,日別記録(甲C12)によれば,原告X3が平成30年11月の1箇月間に血糖モニターを装着して継続的に血糖値を測定したところ,低血糖(70mg/dL未満)の測定値が相当回数にわたって記録されたことはあったものの,その際の対応を付記した記載によれば,原告X3は,低血糖による脱力感やだるさを感じながらも自ら補食を摂るなどしていたことが認められるから,自己回復ができない重症低血糖の症状を呈することはなかったことがうかがわれる。),糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はないというのであり,この症状は,3級に該当する程度の障害の状態に至っておらず,検査成績は,3級に該当する程度の障害の状態と比較して特に重篤であるとはいい難い。
また,
原告X3は,
血糖コントロールに苦労しながらも,
高校卒業後,鍼灸師の資格を取得して,婚姻するまでの間,主に派遣社員やパートとして勤務し,鍼灸師としての業務やその他軽作業等に従事していたものである(勤務先において特段の配慮や援助を受けた形跡はない。)。そうすると,原告X3には①糖尿病網膜症(単純期)及び白内障(ただし,矯正視力は右1.5,左1.5),②下肢しびれ感並びに③糖尿病性歯周病等の合併症があること(乙C1)等の事情を考慮しても,平成28年7月14日当時,原告X3の身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,独力での日常生活が極めて困難で,
労働により収入を得ることができない程度のものに当たるものであったとは認められない。
以上によれば,
原告X3の平成28年7月14日当時の障害の状態は,
2級に該当する程度に至っていなかったものと認められるから,支給停止事由があるものというべきである。

(ア)

原告X4について
少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であるか
証拠(乙D1)によれば,原告X4の平成28年7月11日当時の障害の状態について,次の事実が認められる。原告X4についてそれ以前に作成された診断書等(甲D4,8から11まで。なお,一部診断書等にあるLは原告X4の旧姓である。)には,次の②の随時血清Cペプチド値の記載や同③の記載はないが(ただし,平成15年7月当時の診断書には,尿中Cペプチド値の記載がある。),その他については特に異なる記載はない。


強化インスリン療法では血糖値が不安定であり,平成27年8月
よりSAP療法(血糖モニター付きインスリンポンプ)を開始されているが,なお予想不能な高血糖や低血糖がみられる。血糖測定は1日4回以上,多いときは8回以上必要とする。血糖のコントロールは不能である。



内因性臓器障害であり,随時血清Cペプチド値は0.1ng/mL未満である。



意識障害により自己回復ができない重症低血糖は年1,2回あっ
た。



一般状態区分表のイ又はオに該当する。
通常はイの状態であるが,
予想できない低血糖発作,高血糖発作により,直ちにオの状態に移行し得る。以上の事実によれば,原告X4の平成28年7月11日時点の障害の状態は,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なものであり,
内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当する。したがって,原告X4の平成28年7月11日時点の障害の状態は,少なくとも3級に該当する程度の障害の状態に該当する。
(イ)

証拠(甲D4,8から11まで,14,乙D1,原告X4本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X4の症状,検査成績及び具体的な日常生活状況(主に平成28年7月11日前後のものであるが,それに限られない。)について,次の事実が認められる。


原告X4の症状をみると,意識障害により自己回復ができない重
症低血糖は年1,2回あるが,糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はない。



原告X4の検査成績をみると,平成28年5月から同年7月にか
けての3回の検査において,食後2時間後の血糖値が47~112であり,随時血清Cペプチド値が0.1ng/mL未満である。



原告X4の具体的な日常生活状況をみると,次のとおりである。
すなわち,原告X4は,高校卒業後,医療事務の専門学校に通い,20歳になった平成17年に歯科医院に就職し,トイレでインスリン注射をしたり,低血糖症状を感じたときは仕事中でもおやつをとったり,30分程度休憩を取ったりして血糖をコントロールしながら,
平成26年12月まで9年余り勤務した。
その後,
原告X4は,
平成27年8月に婚姻し,平成28年10月に第一子を,令和2年2月に第二子を出産した。(ウ)

前記(イ)の事情によれば,
原告X4の意識障害により自己回復ができな
い重症低血糖の頻度は年1,2回であり(なお,証拠(日別記録(甲D13),原告X4本人)によれば,平成30年11月の1箇月間において,低血糖による動悸などで目を覚ましたものの起き上がることに困難を感じ,夫に頼んでヤクルトを取ってきてもらって補食したことが2回あった事実が認められるが,これが意識障害により自己回復ができない重症低血糖の症状であったとまではいい難く,上記認定を左右するものではない。),糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はないというのであり,この症状は,3級に該当する程度の障害の状態に至っておらず,検査成績は,3級に該当する程度の障害の状態と比較して特に重篤であるとはいい難い。
また,
原告X4は,
高校卒業後,
医療事務の専門学校に通い,平成26年12月まで9年余り歯科医院で勤務していたものである(勤務先において特段の配慮や援助を受けた形跡はない。)。そうすると,原告X4には糖尿病網膜症(単純期)(ただし,矯正視力左1.5,右2.0)及び糖尿病性歯周病の合併症があること(乙D1)等の事情を考慮しても,平成28年7月11日当時,原告X4の身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,独力での日常生活が極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものに当たるものであったとは認められない。
以上によれば,
原告X4の平成28年7月11日当時の障害の状態は,
2級に該当する程度に至っていなかったものと認められるから,支給停止事由があるものというべきである。


(ア)

原告X5について
少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であるか
証拠(乙E1)によれば,原告X5の平成28年7月12日当時の障害の状態について,次の事実が認められる。原告X5についてそれ以前に作成された診断書(甲E4,6から8まで)には,次の②の随時血清Cペプチド値の記載や同③の記載はないほか,同④については,一般状態区分表のイないしオに該当する旨の記載があるが,その他については特に異なる記載はない。


インスリン療法によって生命を維持している状態である。



随時血清Cペプチド値は0.01ng/mL未満である(検査日は平成28年6月16日)。



意識障害により自己回復ができない重症低血糖は年20回あった。家族に糖質を摂取させてもらう必要があるような重症低血糖が月
2回程度起きる。



一般状態区分表のウないしオに該当する。血糖値により活動力が
左右され,低血糖発作を起こすと,オの状態に移行する。

以上の事実によれば,原告X5の平成28年7月12日時点の障害の状態は,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なものであり,
内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当する。したがって,原告X5の平成28年7月12日時点の障害の状態は,少なくとも3級に該当する程度の障害の状態に該当する。
(イ)

証拠(甲E4,6から8まで,12,乙E1,原告X5本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X5の症状,検査成績及び具体的な日常生活状況(主に平成28年7月12日前後のものであるが,それに限られない。)について,次の事実が認められる。


原告X5の症状をみると,意識障害により自己回復ができない重
症低血糖は年20回あるが,糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はない。②

原告X5の検査成績をみると,平成28年4月から同年7月にか
けての3回の検査において,食後3,4時間後の血糖値が51~306であり,随時血清Cペプチド値が0.01ng/mL未満である。


原告X5の具体的な日常生活状況をみると,次のとおりである。
すなわち,原告X5は,平成17年3月に高校を卒業した後,ガソリンスタンドでアルバイトをしたことがあるものの,身体への負担が大きく数日で辞め,同年12月に婚姻し,平成18年4月に子を出産した。原告X5は,平成28年12月の支給停止処分に起因する経済面の不安のために,平成29年9月から軽作業の内職を始めたが,1日に3,4時間程度しか作業をすることができない。

(ウ)

前記(イ)の事情によれば,
原告X5の意識障害により自己回復ができな
い重症低血糖の頻度は年20回であり,この症状は,3級に該当する程度の障害の状態と比較してやや重篤であるといい得る。また,検査成績は,血糖値が大きくばらついていて血糖コントロールの不良を示し,随時血清Cペプチド値が低く膵β細胞が大きく破壊されていることをうかがわせるものであり,3級に該当する程度の障害の状態と比較して重篤であるといい得る。さらに,原告X5は,高校卒業後ほとんど就労できたことがなく(そのような経過からすると,就労条件に特段の配慮を受けていたとしても就労することが困難であったと推認される。),平成28年12月に支給停止処分を受けたことから軽作業の内職を始めたものの,
1日に3,
4時間程度しか作業をすることができないものである。
以上に加え,原告X5には前増殖期の糖尿病網膜症(単純期と異なり,レーザー光凝固術や硝子体手術による治療が必要になるところ
(前記(1)
オ(ア))原告X5は右目についてレーザー治療を受けた

(原告X5))
。,
糖尿病性歯周病,バセドウ病及び糖尿病性腎症の合併症があること(乙E1)等の事情をも考慮すると,平成28年7月12日当時,原告X5の身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状は,独力での日常生活が極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものに当たるものであったものというべきである。
そうすると,原告X5の平成28年7月12日当時の障害の状態が,2級に該当する程度に至っていなかったものとは認められないから,支給停止事由があるものとはいえない。

(ア)

原告X6について
少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であるか
証拠(乙F1)によれば,原告X6の平成28年7月20日当時の障害の状態について,次の事実が認められる。原告X6についてそれ以前に作成された診断書(甲F4,7から9まで。なお,一部診断書等にあるMは原告X6の旧姓である。)には,次の②の随時血清Cペプチド値の記載や同③の記載はないが(ただし,平成25年7月当時の診断書には,尿中Cペプチド値の記載がある。),その他については特に異なる記載はない。


インスリン注射1日4回以上と頻回の血糖自己測定を実行してい
るが,高血糖や無自覚性低血糖等血糖の乱高下が認められ,血糖のコントロールは不良である。



すい臓の固定機能障害であり,随時血清Cペプチド値は0.1ng/mL未満である。



意識障害により自己回復ができない重症低血糖は年3回あった。



一般状態区分表のイ又はオに該当する。
通常はイの状態であるが,
重症低血糖発作を起こすと,オの状態に移行することがある。

以上の事実によれば,原告X6の平成28年7月20日時点の障害の状態は,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なものであり,
内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当する。したがって,原告X6の平成28年7月20日時点の障害の状態は,少なくとも3級に該当する程度の障害の状態に該当する。
(イ)

証拠(甲F4,7から9まで,11,乙F1,原告X6本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X6の症状,検査成績及び具体的な日常生活状況(主に平成28年7月20日前後のものであるが,それに限られない。)について,次の事実が認められる。


原告X6の症状をみると,意識障害により自己回復ができない重
症低血糖は年3回あるが,糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はない。



原告X6の検査成績をみると,平成28年5月から同年7月にか
けての3回の検査において,空腹時の血糖値が59~164であり,随時血清Cペプチド値が0.1ng/mL未満である。



原告X6の具体的な日常生活状況をみると,次のとおりである。
すなわち,原告X6は,高校卒業後,専門学校に進学して保育士の資格を取得し,20歳になった平成15年4月に乳児院に就職した。原告X6は,正社員にはなれなかったものの,インスリン量を減らしてまめに補食をとったり,ほかの職員に断って休憩したり,子供たちの目に触れないように補食をとったりするなどして血糖をコ
ントロールし,夜勤もしながら,出産前の平成20年2月まで勤務を続けた。原告X6は,平成20年3月に子を出産した後は専業主婦となり,平成30年までは1日に2時間程度の内職をしていたが,依頼先が火事に遭ったことにより,現在はその内職もしていない。
(ウ)

前記(イ)の事情によれば,
原告X6の意識障害により自己回復ができな
い重症低血糖の頻度は年3回であり(なお,日別記録(甲F10)によれば,平成30年11月の1箇月間において,低血糖による動悸などで目を覚ましたり,入浴後に立ち上がることに困難を感じたりして,夫や子に頼んでジュースの蓋を開けてもらうなどして補食したことが3回あった事実が認められるが,これが意識障害により自己回復ができない重症低血糖の症状であったとまではいい難く,上記認定を左右するものではない。),糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はないというのであり,この症状は,3級に該当する程度の障害の状態に至っておらず,検査成績は,3級に該当する程度の障害の状態と比較して特に重篤であるとはいい難い。また,原告X6は,血糖コントロールに苦労しながらも,高校卒業後,専門学校に進学して保育士の資格を取得し,夜勤もしながら5年弱の間乳児院で勤務していたものであり(勤務先においては,疲れたときに席を外して休憩したり補食をとったりすることができるという以外に特段の配慮や援助を受けた形跡はない。),平成20年3月に子を出産した後は専業主婦となっているが,上記乳児院で勤務していた頃よりも病状が悪化して日常生活がより困難になったことをうかがわせる事情は見当たらない。そうすると,原告X6には糖尿病網膜症(単純期)
(ただし,矯正視力右1.
2,左1.
5)

糖尿病性歯周病及び橋本病等の合併症があること(乙F1)等の事情を考慮しても,平成28年7月20日当時,原告X6の身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,独力での日常生活が極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものに当たるものであったとは認められない。
以上によれば,
原告X6の平成28年7月20日当時の障害の状態は,
2級に該当する程度に至っていなかったものと認められるから,支給停止事由があるものというべきである。

原告X7について(ア)

少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であるか
証拠(乙G1)によれば,原告X7の平成28年7月14日当時の障害の状態について,次の事実が認められる。原告X7についてそれ以前に作成された診断書(甲G4)には,次の②の随時血清Cペプチド値の記載や同③の記載はないが,その他については特に異なる記載はない。①

1型糖尿病に対して頻回のインスリン治療を行っている。血糖値
は非常に不安定で,しばしば低血糖発作を生ずる。



1型糖尿病は固定機能障害であり,随時血清Cペプチド値は0.
34ng/mLである。



意識障害により自己回復ができない重症低血糖は年2,
3回あり,
糖尿病ケトアシドーシスによる入院は年1回あった。



一般状態区分表のウ又はオに該当する。
日常はウの状態であるが,
突然生ずる低血糖発作によりオの状態に陥る。

以上の事実によれば,原告X7の平成28年7月14日時点の障害の状態は,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なものであり,インスリン治療中に糖尿病ケトアシドーシス又は高血糖高浸透圧症候群による入院が年1回以上あるもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当する。したがって,原告X7の平成28年7月14日時点の障害の状態は,少なくとも3級に該当する程度の障害の状態に該当する。
(イ)

証拠(甲G4,11,乙G1,原告X7本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X7の症状,検査成績及び具体的な日常生活状況(主に平成28年7月14日前後のものであるが,
それに限られない。について,

次の事実が認められる。


原告X7の症状をみると,意識障害により自己回復ができない重
症低血糖は年2,3回あり,糖尿病ケトアシドーシスによる入院は年1回あるが,高血糖高浸透圧症候群による入院はない。②

原告X7の検査成績をみると,平成28年2月から同年7月にか
けての3回の検査において,空腹時又は食後2時間後の血糖値が44~230であり,
随時血清Cペプチド値が0.
34ng/mLである。



原告X7の具体的な日常生活状況をみると,次のとおりである。
すなわち,原告X7は,高校卒業後,農業協同組合に就職し,約9年間勤務した。その後,原告X7は,フルタイムの仕事では身体が辛いということで,3,4年間,作業着や工具を売る店でパートの事務職員として勤務したが,この間,糖尿病ケトアシドーシスで入院したことが1回あった。
そして,原告X7は,平成12年1月頃に介護職に転職した。原
告X7は,転職当初は正社員として勤務していたが,夜勤等をしなければならず,身体を使う仕事であったため,血糖コントロールが困難となり,平成13年9月以降はパート等で週2,3回勤務するようになった。原告X7は,いつまでも家族の世話になっていることを辛く感じて落ち込み,仕事に行けないようになり,インスリン注射をすることもできなくなったため,平成15年3月に精神科を受診し,双極性感情障害と診断された。その後も,原告X7は,平成21年3月頃まで,かなり間の空いた時期もあるが,5,6箇所の職場で勤務した。

(ウ)

前記(イ)の事情によれば,
原告X7の意識障害により自己回復ができな
い重症低血糖の頻度は年2,3回(なお,日別記録(甲G6)によれば,平成30年11月の1箇月間において,母にジュースを部屋まで持って来てもらって飲んだことが2回あった事実が認められるが,これが意識障害により自己回復ができない重症低血糖の症状であったとまでは認めるに足りない。),糖尿病ケトアシドーシスによる入院の頻度は年1回であり,高血糖高浸透圧症候群による入院はないというのであり,この症状は,
3級に該当する程度の障害の状態と比較して特に重篤ではなく,
検査成績も同様である。また,原告X7は,高校卒業後合計して20年以上の間,事務職員や介護職員として勤務していたものであり,その後就労できなくなった原因は,双極性感情障害による部分もあるものと推認される(原告X7は,双極性感情障害等により,障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあるとして,平成31年1月から年金の支給を開始する旨の決定を受けた。前記前提事実(6)イ)。そうすると,原告X7には単純糖尿病網膜症及び糖尿病性歯周病等の合併症があること(乙G1)等の事情を考慮しても,平成28年7月14日当時,原告X7の糖尿病による身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,独力での日常生活が極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものに当たるものであったとは認められない。
以上によれば,原告X7の平成28年7月14日当時の糖尿病による障害の状態は,2級に該当する程度に至っていなかったものと認められるから,支給停止事由があるものというべきである。

(ア)

原告X8について
少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であるか
証拠(乙H1,3)及び弁論の全趣旨によれば,原告X8の平成28年7月30日当時の障害の状態について,次の事実が認められる。原告X8についてそれ以前に作成された診断書(甲H4,6から9まで)には,次の②の随時血清Cペプチド値の記載や同③の記載はないが,その他については特に異なる記載はない。


頻回の自己血糖測定及びインスリン注射を実行しているが,血糖
の上下動が激しく,コントロールは困難である。



すい臓からのインスリン分泌は枯渇しており,血清Cペプチド値は0.03ng/mL未満である。③

意識障害により自己回復ができない重症低血糖は年1回あった。



一般状態区分表のイ又はオに該当する。
通常はイの状態であるが,
突然の低血糖発作又は高血糖発作により速やかにオの状態に移行
する。

以上の事実によれば,原告X8の平成28年7月30日時点の障害の状態は,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なものであり,
内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当する。したがって,原告X8の平成28年7月30日時点の障害の状態は,少なくとも3級に該当する程度の障害の状態に該当する。
(イ)

証拠(甲H11,13,乙H1,3)及び弁論の全趣旨によれば,原告X8の症状,検査成績及び具体的な日常生活状況(主に平成28年7月30日前後のものであるが,それに限られない。)について,次の事実が認められる。


原告X8の症状をみると,意識障害により自己回復ができない重
症低血糖は年1回あるが,糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はない。



原告X8の検査成績をみると,平成28年5月から同年7月にか
けての3回の検査において,空腹時の血糖値が80~221である。また,血清Cペプチド値は0.03ng/mL未満である。



原告X8の具体的な日常生活状況をみると,次のとおりである。
すなわち,原告X8は,高校3年生の時(平成10年頃)に1型糖尿病を発症し,留年する見通しとなったことから高校を中退し,父親が営んでいた造園業の仕事を手伝うようになった。以後,原告X8は,低血糖症状が生じたときは休憩をとるなどしながら,職人と共に顧客の家を回り,脚立に乗って植木を伐採したり,場合によっては命綱をつけて木の枝に上って伐採したりするなど,造園業の仕事を行っている(父親が平成30年の末に仕事を辞めたことから,原告X8がその跡を継いだ。)。原告X8は,造園業の仕事を手伝い始めて数年経った頃に,木に上って枝を伐採していた時に突然低血糖になり,木から降りようとして足を踏み外した(木の枝をつかんで落下は免れた。)ことがあったほか,2,3年前に,作業中に低血糖で思うように動けなくなり,作業を中断して帰宅したことがあった(なお,原告X8は,陳述書(甲H11)の作成の4箇月余り後に,陳述書の記載とは異なり,糖尿病の症状により仕事に行けないことや仕事から早く帰ることが,多いときで月に10日弱ある旨を述べるに至ったが(甲H13,開始から15~16分頃),その具体的な状況及び程度は明らかでない。)。
(ウ)

前記(イ)の事情によれば,
原告X8の検査成績のうち,血清Cペプチド
値は,
膵β細胞が大きく破壊されていることをうかがわせるものであり,3級に該当する程度の障害の状態と比較して重篤であるといい得る。しかし,原告X8の意識障害により自己回復ができない重症低血糖の頻度は年1回であり(なお,日別記録(甲H10)によれば,平成30年11月には,自己回復ができない重症低血糖の症状を呈することはなかったことがうかがわれる。),糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はないというのであり,この症状は,3級に該当する程度の障害の状態に至っていない。また,原告X8は,高校中退後父親が営んでいた造園業の仕事を手伝っており,作業中に低血糖になることもあったものの,現在は父親の跡を継いで上記仕事を行っているものである。そうすると,原告X8には単純性糖尿病性網膜症(ただし,矯正視力1.0)及び両側アキレス腱反射低下の合併症があること(乙H1)等の事情を考慮しても,平成28年7月30日当時,原告X8の身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,独力での日常生活が極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものに当たるものであったとは認められない。
以上によれば,
原告X8の平成28年7月30日当時の障害の状態は,
2級に該当する程度に至っていなかったものと認められるから,支給停止事由があるものというべきである。

(ア)

原告X9について
少なくとも3級に該当する程度の障害の状態であるか
証拠(乙I1)によれば,原告X9の平成28年8月30日当時の障害の状態について,次の事実が認められる。原告X9についてそれ以前に作成された診断書(甲I7から10まで。なお,一部診断書等にあるNは原告X9の旧姓である。)には,次の②の随時血清Cペプチド値の記載や同③の記載はないほか,同④について,一般状態区分表のオに該当するのは低血糖時である旨の記載があるが,その他については特に異なる記載はない。


インスリンポンプ療法を行っているが,低血糖発作及び高血糖発
作を繰り返し,血糖のコントロールが不能である。



内因性インスリン分泌は枯渇しており,随時血清Cペプチド値は
0.1ng/mL以下である。



家人の助けを借りなければならない重症低血糖発作は月1,2回
あった(なお,診断書別紙には,他人の介助なしでは回復できない重症低血糖発作を月1~2回以上起こしておりとの記載があるが,
これは,
医師ではなく原告X9本人が記載したものである。。




一般状態区分表のイないしオに該当する。平時はイの状態であるが,高血糖発作及び低血糖発作により直ちにウないしオの状態に移行する。
以上の事実によれば,原告X9の平成28年8月30日時点の障害の状態は,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なものであり,
内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当する。したがって,原告X9の平成28年8月30日時点の障害の状態は,少なくとも3級に該当する程度の障害の状態に該当する。
(イ)

証拠(甲I7から10まで,12,13,乙I1,原告X9本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X9の症状,検査成績及び具体的な日常生活状況(主に平成28年8月30日前後のものであるが,それに限られない。)について,次の事実が認められる。


原告X9の症状をみると,意識障害により自己回復ができない重
症低血糖は月1,2回あるが,糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はない。



原告X9の検査成績をみると,平成28年3月から同年8月にか
けての3回の検査において,食後4時間後の血糖値が122~298であり,随時血清Cペプチド値が0.1ng/mL以下である。


原告X9の具体的な日常生活状況をみると,次のとおりである。
すなわち,原告X9は,大学卒業後に事務の仕事に就いて,低血糖の症状が出始めたときは急いでトイレに駆け込んでブドウ糖をと
るなどして血糖をコントロールしながら,平成20年に婚姻を機に退職するまでの約7年間勤務していたものである。なお,原告X9は,平成26年12月に第一子を,平成30年7月に第二子を出産した。(ウ)

前記(イ)の事情によれば,
原告X9の意識障害により自己回復ができな
い重症低血糖の頻度は月1,2回であり(なお,日別記録(甲I11)によれば,平成30年11月には,自己回復ができない重症低血糖の症状を呈することはなかったことがうかがわれる。),糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群による入院はないというのであり,この症状は,3級に該当する程度の障害の状態と比較して特に重篤であるとまではいい難い。また,検査成績も同様である。そして,原告X9は,大学卒業後に事務の仕事に就いて,婚姻を機に退職するまでの約7年間勤務していたものであり(原告X9は,自らが1型糖尿病にり患していることを勤務先に申告しておらず,何らの配慮も援助も受けていなかった。),婚姻を機に退職してはいるが,上記のとおり勤務していた頃よりも病状が悪化して日常生活がより困難になったことをうかがわせる事情は見当たらない。
そうすると,
原告X9には白内障
(糖尿病性の疑い)

糖尿病性歯周炎,橋本病及び原発性甲状腺機能低下症等の合併症があること(乙I1)等の事情を考慮しても,平成21年11月に支給停止処分を受けていた原告X9について,平成28年8月30日当時,その身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,独力での日常生活が極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のものに当たるものであったとは認められない。
そうすると,原告X9の平成28年8月30日当時の障害の状態が,2級に該当する程度であるものと認めることはできないから,支給停止解除事由があるものとはいえない。


なお,障害認定基準の第15節代謝疾患による障害は,厚生労働

省大臣官房年金管理審議官発出の国民年金・厚生年金保険障害認定基準の一部改正について〔国民年金法〕(平成28年3月29日付け年管発0329第1号。甲共11)によって改正され,改正後の定めが同年6月1日から適用されているものである。上記通知による改正前の障害認定基準には,糖尿病による障害が1級から3級までに該当するための要件について,①

インスリンを使用してもなお血糖のコントロールの不良なものは,3級とする。

(HbA1cが8.0%以上及び空腹時血糖値が140㎎/dL以上の場合にコントロールの不良とされる。),②合併症の程度が,認定の対象となるものを認定する,③血糖が治療,一般生活状態の規制等によりコントロールされている場合には,
認定の対象とならない,
という旨の定めしかなかった。
そのため,
上記改正前の障害状態確認届
(診
断書)には,血清ペプチド値を記載する欄や,意識障害により自己回復ができない重症低血糖,糖尿病ケトアシドーシス等の回数を記載する欄がなかったものである(甲A4,6,甲B4,7,甲C4,8から11まで,甲D4,9,10,甲E4,7,8,甲F4,7から9まで,甲G4,甲H4,6から9まで)。
そうすると,上記の改正により3級に該当するための要件が具体化される(実質的に厳格化されたと解する余地もある。また,2級に該当するための要件について,何を主な考慮要素とするかや合併症の重み付けが変化したものと解する余地がある。)とともに,障害等級に該当するか否かを判断するための資料である障害状態確認届(診断書)に記載される情報がより詳しくなったことから,受給権者の客観的な状態に変化がなくても,障害等級該当性の認定判断に変化が生ずることはあり得るものといえる。(5)

小括
以上によれば,原告X5については支給停止事由がないが,原告ら8名の
うちその余の者については支給停止事由がある。また,原告X9については支給停止解除事由がない。
5
争点(5)(本件各処分が理由提示義務に違反するか)について
(1)

行手法14条1項本文や8条1項本文が,不利益処分をする場合や申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合に,同時にその理由を名宛人や申請者に示さなければならないとしているのは,これらの処分の性質に鑑み,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人や申請者に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして,行手法14条1項本文や8条1項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは,これらの規定の趣旨に照らし,当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである(最高裁平成21年(行ヒ)第91号同23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)。
(2)

支給停止処分は,障害基礎年金の給付を受ける権利について裁定を受け
た受給権者の生活設計を崩し,生活の安定を損なわせる重大な不利益処分である。また,支給停止の解除の申請に対してこれを解除しない旨の処分をすることは,支給停止の解除を受けて,生活設計を再構築し,生活の安定を取り戻すことについての期待的利益に関する重大な処分である。そして,糖尿病による障害を理由とする障害基礎年金の支給停止処分の根拠法令の1つである令別表(障害等級の各級の障害の状態について定めたもの)の規定内容が抽象的であること,当該処分に係る処分基準として公表されている障害認定基準(糖尿病を含む代謝疾患による障害の程度に関する認定基準・認定要領)の内容も抽象的であることに照らせば,糖尿病による障害を理由とする障害基礎年金に関する上記の各処分については,いかなる事実関係に基づきどのように障害認定基準を適用して当該処分がされたのかを,当該処分の相手方においてその理由の提示の内容自体から了知し得るものとする必要性が高いものというべきである。
そうであるところ,前記前提事実(7)イ,(8)イのとおり,本件各処分においては,その理由として,適用法令及び審査基準のみならず,原告らが機構に提出した障害の現状に関する診断書の記載のうち検査成績,血糖コントロールの困難な状況,一般状態区分表に関するものの要点を取り上げた上で,症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が2級に該当するとは認められない旨が示されていたものである。すなわち,本件各処分においては,前記診断書記載の事実関係を前提として処分がされたことが示されているほか,障害認定基準中の認定要領において総合評価の対象とされた事情である症状,検査成績及び具体的な日常生活状況等によって2級に該当する程度の障害の状態に該当すると認定しなかった理由が一定程度具体的に示されているものといえる。
そうすると,本件各処分における理由の提示は,いかなる事実関係に基づきどのように障害認定基準を適用して,支給停止処分,又は支給停止の解除の申請に対してこれを解除しない旨の処分がされたのかを,当該処分の相手方たる原告らにおいてその理由の提示の内容自体から了知し得るものであるといえる。
したがって,本件各処分が,行手法14条1項本文や8条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分であるとはいえない。
(3)

これに対して,原告らは,支給停止処分が,基準時における受給権者の
障害の状態が,当該受給権者が過去に提出した同様の診断書に記載された障害の状態から改善し,その結果,基準時における障害の状態が従前該当するとされていた障害等級に該当しなくなったことを要件とするものであるということを前提として,本件各処分をする際には,過去の障害の状態と基準時における障害の状態との間の変化等を摘示しなければならない旨主張する。
しかしながら,
前記4(2)で説示したとおり,
支給停止処分をするためには,一定の時点において,受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しないことを要し,かつこれで足りるものであるから,原告らの上記主張は前提を欠き,採用することができない。
6
争点(2)(本件各処分が権限の濫用であって許されないものであるといえるか)について
(1)

原告らは,厚生労働大臣は,年金について,相当な回数,理由提示義務
に違反するとして処分取消しの判決を受けてきたにもかかわらず,これを無視して,実務を改善することなく,極めて抽象的な理由しか提示せずに前件各処分をしたものであり,このような状況を許容すれば,今後も,年金実務において,十分な調査を行わずにとりあえず抽象的な理由を提示するだけで,不利益処分や申請に対する拒否処分が繰り返されるおそれが極めて高い旨主張する。
しかしながら,前記1で説示したとおり,厚生労働大臣が,再度,行手法14条1項本文又は8条1項本文の定める理由提示の要件を満たすような理由を示して前件各処分と同一の内容の処分をすることは,前件判決の拘束力に反しないし,前記5で説示したとおり,本件各処分について理由提示義務違反はないのであるから,原告らの上記主張は採用することができない。(2)

原告らは,被告は,前件判決に至る審理の過程において,理由の提示に
関する審理を先行させるという裁判所の訴訟指揮に対して異議を述べなかったものであるから,厚生労働大臣は,再処分をしない意思を黙示的に表明していたに等しいし,より迅速な争訟の解決,紛争の一回的解決に資することのない本件各処分をすることは,権限の濫用として許されないというべきである旨主張する。
しかしながら,上記訴訟指揮に対して異議を述べなかったからといって,厚生労働大臣が再処分をしない意思を黙示的にも表明したものということはできないし,前記1で説示したとおり,厚生労働大臣が,再度,行手法14条1項本文又は8条1項本文の定める理由提示の要件を満たすような理由を示して前件各処分と同一の内容の処分をすることは,前件判決の拘束力に反しないものというべきである。そして,本件全証拠によっても,ほかに本件各処分が権限の濫用に当たることを基礎付ける事情は認められない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(3)

原告らは,厚生労働大臣は,原告らの障害の状態が2級に該当するとし
た過去の認定・判断を調査し,現状と比較する手続を一切せずに前件各処分をしたものであり,必要な調査がされなかったという前件各処分の根本的問題を是正しないまま,診断書の引用を若干付加しただけで,理由の不備を是正したとして再び同じ処分である本件各処分をしたものであるから,本件各処分は,その権限を濫用するものとして到底許されない旨主張する。原告らの上記主張は,要するに原告らに支給停止事由がないにもかかわらず本件各処分をしたことの違法をいう趣旨であると解されるところ,この点については,前記4で説示したとおりである。
7
原告X9の義務付けの訴え(甲事件)について
原告X9の義務付けの訴えは,いわゆる申請型の処分の義務付けの訴え(行訴法3条6項2号)であるところ,この訴えは,当該法令に基づく審査請求を却下し又は棄却する旨の処分が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であるときに限り,提起することができる(行訴法37条の3第1項2号)。
しかるに,
以上説示したところによれば,
本件不解除処分は適法であるから,
原告X9の義務付けの訴えは不適法である。

第4

結論
よって,原告X9の義務付けの訴えは不適法であるからこれを却下し,原告X5の請求は理由があるからこれを認容し,原告ら8名のうち原告X5を除く者の請求及び原告X9のその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。大阪地方裁判所第2民事部

裁判長裁判官
森鍵一齋藤毅岡田
裁判官

裁判官
総司
(別紙)
処分の理由
1
原告X1(乙A3)
今般提出された診断書(平成28年7月13日現症)及びその他の提出物に基づき,1型糖尿病による障害の程度について,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び病状の経過,具体的な日常生活状況等から総合的に審査した。
その結果,診断書の記載から,
(1)

検査成績(⑭欄の2)に随時血清Cペプチド値0.03ng/mLとあるこ

(2)

血糖コントロールの困難な状況(⑭欄の4)の各項目のうち,(1)障害により自己回復ができない重症低血糖が有で,(2)アシドーシスによる入院及び(3)意識糖尿病ケト高血糖高浸透圧症候群による入院は
いずれも無となっており,『低血糖で動けなくなり糖質を摂取させてもらうことが2~3回/年ある状態』との記載からは,意識障害に至らない程度の低血糖発作が年に2,3回生じていると認められること
(3)

一般状態区分表(⑪欄)は,イ(軽度の症状があり,肉体労働は制限を受けるが歩行,軽労働や座業はできるもの例えば,軽い食事,事務など)か
らオ(身のまわりのこともできず,常に介助を必要とし,終日就床を強いられ,活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの)の全てに○が付されており,『血糖値で活動力は左右される。低血糖発作にてオとなる。』との記載からは,平成28年7月13日を含む平常時の状態は,イに相当すると認められること
などから総合的に判断すると,代謝疾患による障害の認定基準及び認定要領(5)アに定める内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当することから,障害等級3級に該当すると判断した。
そして,診断書の記載内容及びその他の提出物からは,1型糖尿病に加え,糖尿病網膜症(単純期),糖尿病性歯肉炎(中等度),糖尿病性神経障害と診断されていることも認められるが,症状,
治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,
具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が認定基準の2級日常生活に著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度に該当するとは認められない。
よって,平成28年7月13日時点の障害の状態は,障害等級3級の程度にとどまり,障害等級2級の程度には至っていないと判断したものである。2
原告X2(乙B3)
今般提出された診断書(平成28年7月5日現症)及びその他の提出物に基づき,1型糖尿病による障害の程度について,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び病状の経過,具体的な日常生活状況等から総合的に審査した。
その結果,診断書の記載から,
(1)

検査成績(⑭欄の2)に随時血清Cペプチド値0.01ng/mL未満と
あること
(2)

血糖コントロールの困難な状況(⑭欄の4)の各項目のうち,(1)意識障害により自己回復ができない重症低血糖が有(10回/年)で,(2)糖尿病ケトアシドーシスによる入院及び(3)高血糖高浸透圧症候群による入院はいずれも未記載となっており,『重症低血糖のため働けず糖質を摂取させてもらうことが1回/月程度ある状態』との記載からは,意識障害に至らない程度の低血糖発作が月に1回程度生じていると認められること(3)

一般状態区分表(⑪欄)は,イ(軽度の症状があり,肉体労働は制限を受けるが歩行,軽労働や座業はできるもの例えば,軽い食事,事務など)か
らオ(身のまわりのこともできず,常に介助を必要とし,終日就床を強いられ,活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの)の全てに○が付されており,
『血糖値変動によって活動力も左右される。
低血糖発作にて㋔となる。

との記載からは,平成28年7月5日を含む平常時の状態は,イに相当すると認められること
などから総合的に判断すると,代謝疾患による障害の認定基準及び認定要領(5)アに定める内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当することから,障害等級3級に該当すると判断した。
そして,診断書の記載内容及びその他の提出物からは,1型糖尿病に加え,糖尿病網膜症(単純期),糖尿病性歯周病,糖尿病性神経障害と診断されていることも認められるが,症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が認定基準の2級日常生活に著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度に該当するとは認められない。よって,平成28年7月5日時点の障害の状態は,障害等級3級の程度にとどまり,障害等級2級の程度には至っていないと判断したものである。3
原告X3(乙C3)
今般提出された診断書(平成28年7月14日現症)及びその他の提出物に基づき,1型糖尿病による障害の程度について,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び病状の経過,具体的な日常生活状況等から総合的に審査した。
その結果,診断書の記載から,
(1)

検査成績(⑭欄の2)に随時血清Cペプチド値0.1ng/mL以下とあること(2)

血糖コントロールの困難な状況(⑭欄の4)の各項目のうち,(1)意識障害により自己回復ができない重症低血糖が有(6回/年)で,(2)糖尿病ケトアシドーシスによる入院及び(3)高血糖高浸透圧症候群による入院はいずれも無となっており,『重症低血糖発作により,自身では補食の対応も不可となり,
家人の手により,
補食を行ったことが年6回あった』
との記載からは,意識障害に至らない程度の低血糖発作が年に6回あったと認められること
(3)

一般状態区分表(⑪欄)の『平時はイの状態であるが,予測・予防ができな
い低血糖発作高血糖発作,により直ちに㋔の状態に移行しうる』との記載からは,平成28年7月14日を含む平常時の状態は,イ(軽度の症状があり,肉体労働は制限を受けるが歩行,軽労働や座業はできるもの例えば,軽い食事,事務など)に相当すると認められることなどから総合的に判断すると,代謝疾患による障害の認定基準及び認定要領(5)アに定める内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当することから,障害等級3級に該当すると判断した。
そして,診断書の記載内容及びその他の提出物からは,1型糖尿病に加え,糖尿病網膜症(単純期),白内障(両),糖尿病性歯周病,糖尿病性神経障害,橋本病と診断されていることも認められるが,症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が認定基準の2級日常生活に著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度に該当するとは認められない。
よって,平成28年7月14日時点の障害の状態は,障害等級3級の程度にとどまり,障害等級2級の程度には至っていないと判断したものである。4
原告X4(乙D3)
今般提出された診断書(平成28年7月11日現症)及びその他の提出物に基づき,1型糖尿病による障害の程度について,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び病状の経過,具体的な日常生活状況等から総合的に審査した。
その結果,診断書の記載から,
(1)

検査成績(⑭欄の2)に随時血清Cペプチド値0.1ng/mL未満とあ
ること
(2)

血糖コントロールの困難な状況(⑭欄の4)の各項目のうち,(1)意識障害により自己回復ができない重症低血糖が有(1~2回/年),(2)糖尿病ケトアシドーシスによる入院及び(3)高血糖高浸透圧症候群による入院はいずれも無となっていること(3)

一般状態区分表
(⑪欄)『通常はイの状態であるが,予想できない低血糖,

高血糖のため容易にオの状態へ変化し,全介護を要する。』との記載からは,平成28年7月11日を含む平常時の状態は,イ(軽度の症状があり,肉体労働は制限を受けるが歩行,軽労働や座業はできるもの例えば,軽い食事,事務など)に相当すると認められることなどから総合的に判断すると,代謝疾患による障害の認定基準及び認定要領(5)アに定める内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当することから,障害等級3級に該当すると判断した。
そして,診断書の記載内容及びその他の提出物からは,1型糖尿病に加え,糖尿病網膜症(単純期),糖尿病性歯周病,糖尿病性神経障害,糖尿病性腎症と診断されていることも認められるが,症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が認定基準の2級日常生活に著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度に該当するとは認められない。
よって,平成28年7月11日時点の障害の状態は,障害等級3級の程度にとどまり,障害等級2級の程度には至っていないと判断したものである。5
原告X5(乙E3)
今般提出された診断書(平成28年7月12日現症)及びその他の提出物に基づき,1型糖尿病による障害の程度について,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び病状の経過,具体的な日常生活状況等から総合的に審査した。
その結果,診断書の記載から,
(1)

検査成績(⑭欄の2)に随時血清Cペプチド値0.01ng/mL未満と
あること
(2)

血糖コントロールの困難な状況(⑭欄の4)の各項目のうち,(1)意識障害により自己回復ができない重症低血糖が有(20回/年),(2)糖尿病ケトアシドーシスによる入院及び(3)高血糖高浸透圧症候群による入院はいずれも無となっていること(3)

一般状態区分表(⑪欄)は,ウ(歩行や身のまわりのことはできるが,時に少し介助が必要なこともあり,軽労働はできないが,日中の50%以上は起居しているもの)からオ(身のまわりのこともできず,常に介助を必要とし,終日就床を強いられ,活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの)の全てに○が付されているものの,『血糖値により活動力左右される。低血糖発作にて㋔となる。』との記載からは,平成28年7月12日を含む平常時の状態は,ウに相当すると認められること
などから総合的に判断すると,代謝疾患による障害の認定基準及び認定要領(5)アに定める内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するもの及びイに定める意識障害により自己回復できない重症低血糖の所見が平均して月1回以上で,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当することから,障害等級3級に該当すると判断した。そして,診断書の記載内容及びその他の提出物からは,1型糖尿病に加え,糖尿病網膜症(前増殖期),糖尿病性歯周病,糖尿病性神経障害,糖尿病性腎症,バセドウ病と診断されていることも認められるが,症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が認定基準の2級日常生活に著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度に該当するとは認められない。
よって,平成28年7月12日時点の障害の状態は,障害等級3級の程度にとどまり,障害等級2級の程度には至っていないと判断したものである。6
原告X6(乙F3)
今般提出された診断書(平成28年7月20日現症)及びその他の提出物に基づき,1型糖尿病による障害の程度について,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び病状の経過,具体的な日常生活状況等から総合的に審査した。
その結果,診断書の記載から,
(1)

検査成績(⑭欄の2)に随時血清Cペプチド値0.1ng/mL未満とあ
ること
(2)

血糖コントロールの困難な状況(⑭欄の4)の各項目のうち,(1)意識障害により自己回復ができない重症低血糖が有(3回/年)で,(2)糖尿病ケトアシドーシスによる入院及び(3)る入院はいずれも無となっていること高血糖高浸透圧症候群によ
(3)

一般状態区分表(⑪欄)は,
『平時は㋑の状態であるが重症低血糖を起こす

と㋔の状況に陥ることがある。』との記載からは,平成28年7月20日を含む平常時の状態は,イ(軽度の症状があり,肉体労働は制限を受けるが歩行,軽労働や座業はできるもの例えば,軽い食事,事務など)に相当すると認
められること
などから総合的に判断すると,代謝疾患による障害の認定基準及び認定要領(5)アに定める内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当することから,障害等級3級に該当すると判断した。
そして,診断書の記載内容及びその他の提出物からは,1型糖尿病に加え,糖尿病網膜症(単純期),糖尿病性歯周病,糖尿病性神経障害,鉄欠乏性貧血,橋本病と診断されていることも認められるが,症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が認定基準の2級日常生活に著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度に該当するとは認められない。
よって,平成28年7月20日時点の障害の状態は,障害等級3級の程度にとどまり,障害等級2級の程度には至っていないと判断したものである。7
原告X7(乙G3)
今般提出された診断書(平成28年7月14日現症)及びその他の提出物に基づき,1型糖尿病による障害の程度について,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び病状の経過,具体的な日常生活状況等から総合的に審査した。
その結果,診断書の記載から,
(1)

検査成績(⑭欄の2)に随時血清Cペプチド値0.34ng/mLとあること(2)

血糖コントロールの困難な状況(⑭欄の4)の各項目のうち,(1)意識障害により自己回復ができない重症低血糖が有(2~3回/年),(2)糖尿病ケトアシドーシスによる入院が有(0~1回/年),(3)高血糖高浸透圧症候群による入院は無となっていること(3)

一般状態区分表(⑪欄)の『日常はウの状態であるが,突然生じる低血
糖発作によりオの状態に陥る。』との記載からは,平成28年7月14日を含む平常時の状態は,ウ(歩行や身のまわりのことはできるが,時に少し介助が必要なこともあり,軽労働はできないが,日中の50%以上は起居しているもの)に相当すると認められることなどから総合的に判断すると,代謝疾患による障害の認定基準及び認定要領(5)ウに定めるインスリン治療中に糖尿病ケトアシドーシス又は高血糖高浸透圧症候群による入院が年1回以上あるもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当することから,障害等級3級に該当すると判断した。そして,診断書の記載内容及びその他の提出物からは,1型糖尿病に加え,糖尿病網膜症,遠視性乱視,糖尿病性歯周病,潜在性甲状腺機能低下症と診断されていることも認められるが,症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が認定基準の2級日常生活に著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度に該当するとは認められない。
よって,平成28年7月14日時点の障害の状態は,障害等級3級の程度にとどまり,障害等級2級の程度には至っていないと判断したものである。8
原告X8(乙H4)
今般提出された診断書(平成28年7月30日現症)及びその他の提出物に基づき,1型糖尿病による障害の程度について,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び病状の経過,具体的な日常生活状況等から総合的に審査した。
その結果,診断書の記載から,
(1)

検査成績(⑭欄の2)の空腹時又は随時血清Cペプチド値は未実施とさ
れているが,平成26年審査時にR病院に対して行った照会の回答を確認したところ,血糖ペプチド値が<0.03ng/mLとなっていたことから,随時血清Cペプチド値0.03ng/mL未満と認められること(2)

血糖コントロールの困難な状況(⑭欄の4)の各項目のうち,(1)意識障害により自己回復ができない重症低血糖が有(1回/年)で,(2)糖尿病ケトアシドーシスによる入院及び(3)高血糖高浸透圧症候群による入院はいずれも無となっていること(3)

一般状態区分表(⑪欄)の『通常㋑状態であるが,突然の低・高血糖により
速やかに㋔状態となり,全介護を要す。』との記載からは,平成28年7月30日を含む平常時の状態は,イ(軽度の症状があり,肉体労働は制限を受けるが歩行,軽労働や座業はできるもの例えば,軽い食事,事務など)に相
当すると認められること
などから総合的に判断すると,代謝疾患による障害の認定基準及び認定要領(5)アに定める内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当することから,障害等級3級に該当すると判断した。
そして,診断書の記載内容及びその他の提出物からは,1型糖尿病に加え,単純期糖尿病網膜症,糖尿病性神経障害と診断されていることも認められるが,症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が認定基準の2級日常生活に著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度に該当するとは認められない。よって,平成28年7月30日時点の障害の状態は,障害等級3級の程度にとどまり,障害等級2級の程度には至っていないと判断したものである。9
原告X9(乙I3)
今般提出された診断書(平成28年8月30日現症)及びその他の提出物に基づき,1型糖尿病による障害の程度について,合併症の有無及びその程度,代謝のコントロール状態,治療及び病状の経過,具体的な日常生活状況等から総合的に審査した。
その結果,診断書の記載から,
(1)

検査成績(⑭欄の2)に随時血清Cペプチド値0.1ng/mL以下とあ
ること
(2)

血糖コントロールの困難な状況(⑭欄の4)の各項目がいずれも無とな
っており,『昏睡には至らないものの家人の助けをかりなければならない重症低血糖発作が月1~2回は認めている』との記載からは,意識障害に至らない程度の低血糖発作が月1,2回生じていると認められること
(3)

一般状態区分表(⑪欄)の『平時はイの状態だが,予測・予防ができない高
血糖発作低血糖発作により直ちにウ~オの状態となる』との記載からは,平成28年8月30日を含む平常時の状態は,イ(軽度の症状があり,肉体労働は制限を受けるが歩行,軽労働や座業はできるもの例えば,軽い食事,事務など)に相当すると認められることなどから総合的に判断すると,代謝疾患による障害の認定基準及び認定要領(5)アに定める内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で,空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので,かつ,一般状態区分表のウ又はイに該当するものに該当することから,障害等級3級に該当すると判断した。
そして,診断書の記載内容及びその他の提出物からは,1型糖尿病に加え,白内障,糖尿病性歯周病,橋本病,原発性甲状腺機能低下症と診断されていることも認められるが,症状,治療経過及び日常生活状況等を考慮しても,具体的に日常生活に著しい制限が生じていることをうかがわせる事情は見当たらないから,障害の程度が認定基準の2級日常生活に著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度に該当するとは認められない。よって,平成28年8月30日時点の障害の状態は,障害等級3級の程度にとどまり,障害等級2級の程度には至っていないと判断したものである。以上
(別紙)
原告らの障害の状態
第1
1
原告X1
平成28年7月付け診断書の記載内容
(1)

最近1年間の治療の内容等
インスリン療法により生命維持している状態である。血糖変動が著しいた
め低血糖発作も多い。合併症が進行している。自己管理は不能。
(2)

一般状態区分
イ,ウ,エ,オ
血糖値で活動力は左右される。低血糖発作にてオとなる。

(3)

検査成績(平成28年7月13日)
HbA1c

7.9%

食後血糖値

284mg/dL(食後4時間)

検査日より前に90日以上継続して必要なインスリン治療を実施している随時血清Cペプチド値

0.03ng/mL未満(検査日平成28年7月13
日)

(4)

治療状況
インスリン

ノボラピッド,トレシーバ
4~6回/日,0.9単位/㎏(体重)

(5)

血糖コントロールの困難な状況


意識障害により自己回復ができない重症低血糖

あり(2,3回/年)


糖尿病ケトアシドーシスによる入院

なし


高血糖高浸透圧症候群による入院

なし

所見

低血糖で動けなくなり糖質を摂取させてもらうことが2,3回/年ある状態

(6)

合併症ア

眼の障害

あり(糖尿病網膜症)


神経系統の障害

あり(末梢神経障害のため,下肢触覚低下している)


肢体の障害

なし


糖尿病から歯肉炎も起こしている

(7)

その他の代謝疾患
インスリン分泌は枯渇しており,インスリン注射することで生命維持して
いる。内部固定機能障害。
(8)

現症時の日常生活活動能力及び労働能力
インスリンがないと死亡する状態。血糖の変動が大きく,低血糖も多いた
め,就労は困難な状態。
(9)

予後
インスリン不足。低血糖で死亡する。合併症の進展にて死亡する。
2
その他の状況
原告X1は,高校卒業後,O職業能力開発センターを修了し,21歳から24時間営業の飲食店でアルバイトをした後,28歳となった平成31年1月から別の飲食店で正社員として勤務していたが,現在は退職し,無職である。原告X1は,従前の広汎性発達障害が重篤化し,平成29年12月から,事後重症により障害基礎年金(2級)を受給している。原告は,広汎性発達障害があるために血糖コントロールの自己管理能力に限界があり,母親の協力を得て血糖をコントロールしている。

第2
1
原告X2
平成28年7月付け診断書の記載内容
(1)

最近1年間の治療の内容等
生命維持のためインスリン療法を行っているが,血糖変動が著しいためコ
ントロール不能である。網膜症等合併症が進んでいる状態。
(2)

一般状態区分イ,ウ,エ,オ
血糖値変動によって活動力も左右される。低血糖にてオとなる。
(3)

検査成績(平成28年7月5日)
HbA1c

6.6%

血糖値

151mg/dL(食後4時間)

検査日より前に90日以上継続して必要なインスリン治療を実施している随時血清Cペプチド値

0.01ng/mL未満(検査日平成28年6月16
日)

(4)

治療状況
インスリン

ヒューマログ,ランタス
38単位/日,5,6回/日,0.8単位/㎏(体重)

インスリン以外の治療
(5)

セイブル内服

血糖コントロールの困難な状況


意識障害により自己回復ができない重症低血糖

あり(10回/年)


糖尿病ケトアシドーシスによる入院

(未記入)


高血糖高浸透圧症候群による入院

(未記入)

所見

重症低血糖のため動けず糖質を摂取させてもらうことが1回/月程度ある

(6)

合併症


眼の障害

あり(単純性網膜症認める)


神経系統の障害

あり(下肢触覚・振動覚低下)


肢体の障害

なし


その他

動脈硬化は始まっている,糖尿病性歯周病

(7)

その他の代謝疾患
生命維持のためにインスリン療法が必要である(内部固定機能障害)
(8)

現症時の日常生活活動能力及び労働能力インスリン療法のため生活制限受けている上に,血糖コントロール不能で,
低血糖発作も予測できないため,就労は困難である。
(9)

予後
合併症進展にて予後は不良。
低血糖発作,インスリン不足で死亡リスクあり。
合併症進展を遅らせるために手当必要である。
インスリン分泌は回復しない。

2
その他の状況
原告X2は,自ら及び家族の並々ならぬ努力により,大学卒業後すぐに一般企業に就職し,デスクワーク中心の仕事をしていた。平成29年11月に婚姻し,平成30年3月に退職して専業主婦となった。
原告X2は,毎日,低血糖のために歩行するのが辛いくらいの体調不良がある。ひどい低血糖症状のために動けなくなったり倒れそうになったりすることも頻回あり,夫等の介助により糖質を摂取しなければならないことも月に数回ある。

第3
1
原告X3
平成28年7月付け診断書の記載内容
(1)

最近1年間の治療の内容等
持続血糖モニタリングシステム付きインスリンポンプ(SAP)による治
療を継続しているが,予測できない低血糖発作と高血糖発作を繰り返す血糖コントロール不能の状態が続いている。
内因性インスリン分泌不全は固定臓器機能障害であり,回復は望めない。糖尿病合併症を既に認めており,今後も高血糖発作と低血糖発作を繰り返すことで合併症が進行すると考えられ,予後は不良である。
橋本病はチラーヂン内服中。
(2)

一般状態区分イ,オ
平時はイの状態であるが,予測,予防ができない低血糖発作,高血糖発作により,直ちにオの状態に移行し得る。
(3)

検査成績(平成28年6月20日)
HbA1c

5.7%

血糖値

131mg/dL

検査日より前に90日以上継続して必要なインスリン治療を実施している随時血清Cペプチド値

0.
1ng/mL以下
(検査日平成28年6月20日)

低血糖を頻回に生ずるためHbA1cは低値を示しているが,高血糖と低血糖を繰り返しコントロールは不能である。
(4)

治療状況
インスリン投与

ヒューマログ
32単位/日,
bolus8回/日,
0.64単位/㎏
(体重)

(5)

血糖コントロールの困難な状況


意識障害により自己回復ができない重症低血糖

あり(6回/年)


糖尿病ケトアシドーシスによる入院

なし


高血糖高浸透圧症候群による入院

なし

所見

重症低血糖発作により,自身では補食の対応も不可となり,家人の手により補食を行ったことが年6回あった。

(6)

合併症


眼の障害

単純性網膜症


神経系統の障害

下肢しびれ感


肢体の障害

なし


その他

橋本病

(7)

現症時の日常生活活動能力及び労働能力
重症低血糖発作出現の予測は不可能で,肉体労働は不可。軽労働は,低血糖発作時に直ちに対応できる環境がなければ不可である。重症低血糖発作時は,低血糖への対応や日常生活動作も不可となる。(8)

予後
既に合併症が進行しており,かつ併発症も多く予後は不良。膵内分泌不全
は固定臓器機能障害であり,回復は望めない。
(9)

備考
インスリン中断は死に至る(膵内分泌は枯渇している)。
経済的な事情により,年金受給が持続血糖モニター付きインスリンポンプ
の使用を継続するために必要となっている(年金が中断するとポンプが維持できなくなる)。
2
その他の状況
原告X3は,
高校卒業後,
鍼灸の専門学校に3年通って鍼灸師の資格を得た。
その後,整骨院で正社員として働いたが,長時間労働で昼の休憩も満足に取れないような激務であったため,血糖値測定やインスリン投与がままならず,数箇月で退職せざるを得なかった。その後も,血糖コントロール不良のため正社員としての仕事はできず,パートタイムや派遣社員の仕事を幾つか経験した。原告X3は,平成23年8月に婚姻し,第1子の妊娠が判明した時に仕事を辞め,平成25年7月に第1子を出産した。
原告X3は,平成27年4月,第2子の妊娠も視野に入れて,持続型インスリンポンプ(SAP)によるインスリン投与を開始した。原告X3は,平成29年10月に第2子を出産した。
原告X3は,1日に数回低血糖を繰り返している。血糖値が下がるとSAPのアラームが鳴るが,就寝中にアラームに気付かず,夫に起こされることもある。

第4
1
原告X4
平成28年7月付け診断書の記載内容(1)

最近1年間の治療の内容等
強化インスリン療法では血糖値が不安定であり,2015年8月より前医
にてSAP療法
(血糖モニター付きインスリンポンプ)を開始されているが,
なお予想不能な高血糖や低血糖がみられる。血糖測定は1日4回以上,多いときは8回以上必要とする。採血,生理・画像検査を行い合併症の経過を観察している。
(2)

一般状態区分
イ,オ
通常はイの状態であるが,予想できない低血糖・高血糖のため,容易にオ
の状態へ変化し,全介護を要する。
(3)

検査成績(平成28年7月11日)
HbA1c

4.8%

食後2時間血糖値

112mg/dL

検査日より前に90日以上継続して必要なインスリン治療を実施している随時血清Cペプチド値

0.
1ng/mL未満
(検査日平成28年7月11日)

低血糖・高血糖を繰り返すため,HbA1cは低値であるが,血糖コントロールは不良である。
(4)

治療状況
インスリン

30~50単位/日(インスリンポンプ)
食事に合わせて調整

(5)

0.6~1.0単位/㎏(体重)

血糖コントロールの困難な状況


意識障害により自己回復ができない重症低血糖

あり(1,2回/年)


糖尿病ケトアシドーシスによる入院

なし


高血糖高浸透圧症候群による入院

なし

所見

SAP(モニタ付きインスリンポンプ)を使用することで以前に比してやや改善傾向はみられるが,それでも重症低血糖を来しており血糖コントロールは不良である。(6)

合併症


眼の障害

あり(網膜症)


神経系統の障害

あり(消化管運動障害)


肢体の障害

なし


その他

頸動脈エコーで動脈硬化所見認める。

(7)

その他の代謝疾患
平成13年に甲状腺機能異常を指摘,現在は甲状腺機能は正常だが,甲状
腺抗体とも高値であることから甲状腺機能低下を来す可能性は高いと考えられる。
(8)

現症時の日常生活活動能力及び労働能力
インスリン治療を行っていても,予想できない高血糖・低血糖が起こり,
血糖コントロールは不能である。発作により意識障害やけいれんが起き,家族や周囲の者の協力は不可欠である。日常生活,労働の継続は,介護や周囲の協力がなければ困難である。
2
その他の状況
原告X4は,高校を卒業した後,医療事務の専門学校を卒業し,平成17年4月に歯科医院に就職した。
原告X4は,平成26年12月に上記歯科医院を退職し,平成27年8月に婚姻した。原告X4は,平成27年4月頃から,計画妊娠と血糖コントロール強化のために,モニター付きインスリンポンプを使用するようになり,平成28年10月に第1子を出産した。

第5
1
原告X5
平成28年7月付け診断書の記載内容
(1)

最近1年間の治療の内容等
インスリン療法によって生命維持している状態である。種々な工夫を行っているが血糖変動は著しく,低血糖発作・高血糖発作を繰り返している。合併症も進展続けている。
(2)

一般状態区分
ウ,エ,オ
血糖値により活動力左右される。低血糖発作にてオとなる。

(3)

検査成績(平成28年7月6日)
HbA1c

7.6%

食後血糖値

151mg/dL(食後3時間)

検査日より前に90日以上継続して必要なインスリン治療を実施している随時血清Cペプチド値
(4)

治療状況
インスリン

(5)

0.
1ng/mL未満
(検査日平成28年6月16日)

ヒューマログ

50単位/日,0.8単位/㎏(体重)

血糖コントロールの困難な状況


意識障害により自己回復ができない重症低血糖

あり(20回/年)


糖尿病ケトアシドーシスによる入院

なし


高血糖高浸透圧症候群による入院

なし

所見

2回/月程度,家族に糖質摂取させてもらう必要があるような重症低血糖を起こしている。

(6)

合併症


眼の障害

あり(光凝固後,白内障あり)


神経系統の障害

あり(下肢触覚低下,アキレス腱反射1/2に低下)


肢体の障害

なし


その他

動脈硬化が進行,バセドウ,腎症,網膜症など複合的

に合併症が進行。糖尿病性歯周病あり
(7)

その他の代謝疾患
腎症が進展している。バセドウ病のため内服必要。(8)

現症時の日常生活活動能力及び労働能力
合併症が進行している。インスリンがないと死亡する。低血糖を予測でき
ず発生するため就労は困難な状態である。
2
その他の状況
原告X5は,月に少なくとも10回以上低血糖発作を起こしており,そのうち少なくとも2,3回,無自覚のまま重症低血糖状態に至る。また,原告X5は,月に何度も高血糖発作を起こしている。
原告X5は,高校卒業後にガソリンスタンドでアルバイトをしたことがあったが,仕事中に低血糖にならないように血糖値を高めに維持することとなって負担がかかり,数日で辞めざるを得なかった。平成28年12月の支給停止処分に起因する経済面の不安から,平成29年9月末から試験的に軽作業の内職を始めたが,1日に3,4時間程度作業をするのが限界である。

第6
1
原告X6
平成28年7月付け診断書の記載内容
(1)

最近1年間の治療の内容等
血中Cペプチド0.1ng/mL未満とインスリン枯渇している。インスリン注射1日4回以上と頻回の血糖自己測定を指導し実行している
も高血糖や無自覚性低血糖など血糖の乱高下が認められる。
血糖コントロール不能状態。
(2)

一般状態区分
イ,オ
普段はイの状態であるが,重症低血糖を起こすとオの状態へ陥ることがあ
る。
(3)

検査成績(平成28年7月12日)
HbA1c

6.6%

空腹時血糖値

59mg/dL検査日より前に90日以上継続して必要なインスリン治療を実施している随時血清Cペプチド値
(4)

0.
1ng/mL未満
(検査日平成28年6月28日)

治療状況
インスリン

ヒューマログ,トレシーべ
30単位/日,4,5回/日,0.5単位/㎏(体重)

(5)

血糖コントロールの困難な状況


意識障害により自己回復ができない重症低血糖

あり(3回/年)


糖尿病ケトアシドーシスによる入院

なし


高血糖高浸透圧症候群による入院

なし

所見
(6)

低血糖は無自覚となっており,
重症低血糖になる危険性は十分にある。

合併症


眼の障害

あり(両


神経系統の障害

あり(CVRR2.10%(正常2.5%以上))


肢体の障害

なし


糖尿病性歯周病

(7)

糖尿病網膜症(単純期))

その他の代謝疾患
鉄欠乏性貧血,橋本病あり,TPO-Ab陽性,
チラージン内服中100ng/日

(8)

現症時の日常生活活動能力及び労働能力
現在1型糖尿病は根治できず,インスリン注射は中断できない。低血糖昏
睡や高血糖昏睡時は自力では改善できず,家人など第三者の介助が必要である。よって仕事も規則正しい軽労働に限定される。
(9)

予後
本人がどんなに努力しても血糖コントロールが不安定で糖尿病三大合併症
や大血管合併症の進行が抑制できていない。今後,失明や腎不全への進行もある状況です。肝臓の固定機能障害と考える状態。2

その他の状況
原告X6は,高校卒業後,専門学校で保育士の資格を取得し,乳児院に就職した。
原告X6は,平成19年に婚姻し,平成20年に長男を出産し,これを機に上記乳児院を退職し,専業主婦となった。
原告X6は,
無自覚低血糖をしばしば起こし,
これが重症低血糖につながる。

第7
1
原告X7
平成28年7月付け診断書の記載内容
(1)

最近1年間の治療の内容等
1型糖尿病に対して,頻回のインスリン治療を行っている。血糖値は非常
に不安定で,しばしば低血糖発作を生ずる。過去に複数回の糖尿病性ケトアシドーシスの既往がある。
(2)

一般状態区分
ウ,オ
日常はウの状態であるが,突然生ずる低血糖発作によりオの状態

に陥る。
(3)

検査成績(平成28年7月14日)
HbA1c

7.0%

血糖値

230mg/dL(食後2時間)

検査日より前に90日以上継続して必要なインスリン治療を実施している随時血清Cペプチド値
(4)

0.34ng/mL(検査日平成28年7月14日)

治療状況
インスリン

ノボラピッド,トレシーバ
34単位/日,4回/日,0.66単位/㎏(体重)

(5)

血糖コントロールの困難な状況
意識障害により自己回復ができない重症低血糖あり(2,3回/年)

糖尿病ケトアシドーシスによる入院

あり(0~1回/年)


高血糖高浸透圧症候群による入院

(未記入)

所見

重症低血糖発作は年数回程度,糖尿病性ケトアシドーシスによる入院過去に複数回認めたが,最近は減少している。

(6)

合併症


眼の障害

あり(単純性網膜症)


神経系統の障害

なし


肢体の障害

なし


その他

糖尿病性歯周炎の合併あり

(7)

その他の代謝疾患
1型糖尿病に合併する潜在性甲状腺機能低下症を認める。現在,無投薬で
経過をみている。
(8)

現症時の日常生活活動能力及び労働能力
重症低血糖時は急激に日常生活動作が低下し労働能力を失う。
躁鬱病の合併により,食思不安定を認め,血糖コントロールが不安定とな
る。
2
その他の状況
原告X7は,高校卒業後,農業協同組合に就職し,約9年間勤務した。その後,原告X7は,平成10年,平成11年,平成13年,平成15年,平成16年に1回ずつ,糖尿病性ケトアシドーシスにより入院した。
原告X7は,双極性感情障害が重篤化し,平成31年1月から,事後重症により障害基礎年金(2級)を受給している。

第8
1
原告X8
平成28年7月付け診断書の記載内容
(1)

最近1年間の治療の内容等
膵臓からのインスリン分泌は枯渇している。頻回の自己血糖測定及びインスリン注射により血糖コントロールを行っているものの,血糖の上下動は激しく,コントロール困難である。
(2)

一般状態区分
イ,オ
通常イの状態であるが,突然の低血糖・高血糖により,速やかにオの状態
になり,全介護を要す。
(3)

検査成績(平成28年7月30日)
HbA1c

8.6%

空腹時血糖値

80mg/dL

検査日より前に90日以上継続して必要なインスリン治療を実施している随時血清Cペプチド値
(4)

治療状況
インスリン

(5)

検査未実施

62単位/日,4回/日,0.82単位/㎏(体重)

血糖コントロールの困難な状況


意識障害により自己回復ができない重症低血糖

あり(1回/年)


糖尿病ケトアシドーシスによる入院

なし


高血糖高浸透圧症候群による入院

なし

(6)

合併症
眼の障害

あり(右眼:非糖尿病性網膜症,左眼:単純性糖尿病
性網膜症)


神経系統の障害

あり(アキレス腱反射低下)


肢体の障害

なし

(7)

現症時の日常生活活動能力及び労働能力
頻回の低血糖による無自覚性低血糖のため,
血糖コントロール困難となり,

著しくADLが障害される。この際,家人等の全介助を要す。
(8)

予後インスリン中断により死に至る。また,重症低血糖による不可避的脳障害のリスクも高い。
2
その他の状況
原告X8は,高校中退後,実家の造園業の仕事を手伝い,現在はこの仕事を継いでいる。この仕事は,高所での作業,夏の炎天下の作業を伴う危険かつ厳しい環境での仕事である。血糖コントロールがうまくいかない場合,休憩を多く挟みながらの作業となるため,作業日程の変更を顧客に依頼しなければならないこともある。このように,作業内容は体調に合わせて調整しているが,その反面,作業が予定どおりに進まず,顧客が離れたり収入が大幅に減少したりすることもある。

第9
1
原告X9
平成28年9月付け診断書の記載内容
(1)

傷病が治った(症状が固定して治療の効果が期待できない状態を含む。)
かどうか
傷病は治っていない
(2)

症状が良くなる見込みはない

診断書作成医療機関における初診時所見(初診年月日:平成25年10
月2日)
CSII(インスリンポンプ療法)を行うも低血糖発作,高血糖発作を繰り返すコントロール不能の状態となっている。内因性インスリン分泌は枯渇しており,同障害は病因病質的に回復の望めない固定機能障害の状態。橋本病はチラーヂン内服にて治療を行っていた。
(3)

現在までの治療の内容等
当院通院開始後もCSII(インスリンポンプ療法)の治療と,カーボカ
ウント法を用いた細かいインスリン量調整にて加療中だが,低血糖発作,高血糖発作を繰り返しており,コントロール不能の状態が続いている。低血糖発作,高血糖発作の予測は不能で,著しく生活上の問題となっている。(4)
一般状態区分
平時はイの状態だが,予測・予防ができない高血糖発作,低血糖発作によ
り,直ちにウ~オの状態となる。また,その際は全面的介助が必要となる。(5)

検査成績(平成28年8月30日)
HbA1c

6.5%

食後4時間血糖値

170mg/dL

検査日より前に90日以上継続して必要なインスリン治療を実施している空腹時又は随時血清Cペプチド値

0.1ng/mL未満(検査日平成28年
8月30日)

HbA1cは6%台だが,低血糖高血糖を繰り返す平均の結果である。(6)

治療状況
インスリン

ヒューマログ

CSII(インスリンポンプ療法)中

20~30単位/日,4~6回/日,0.5単位/㎏
インスリン以外

カーボカウント法による食事療法及びインスリン量の調
整を行っている

(7)

血糖コントロールの困難な状況


意識障害により自己回復ができない重症低血糖

なし


糖尿病ケトアシドーシスによる入院

なし


高血糖高浸透圧症候群による入院

なし

所見

血糖コントロールは非常に不安定で,高血糖発作と低血糖発作を繰り返しているコントロール不能の状態。昏睡には至らないものの家人の助けを借りなければならない重症低血糖発作は月1,2回は認めている。グルカゴンを処方し,家人にも注射手技を指導し,重症低血糖に備えている。

(8)

合併症
眼の障害

あり(白内障)イ

神経系統の障害

あり
(自律神経障害に伴う起立性低血圧症と認める。)


その他

糖尿病性歯周炎

(9)

現症時の日常生活活動能力及び労働能力
日中夜間を問わず,予測不能の低血糖発作が出現するため,肉体労働は不
可。軽労働も常に低血糖発作に対処できる環境でなければ不可である。(10)

予後
高血糖となっている時間も多く,
合併症が今後進行することが予測される。

(11)

備考
膵内分泌機能不全(インスリン分泌不全)は,固定機能障害であり,回復
は望めない。血糖が非常に不安定なため持続血糖モニター機能付きのインスリンポンプを使うことが望ましいが,経済的負担が大きすぎ使用が困難である。
2
その他の状況
原告X9は,大学卒業後,事務の仕事に就いたが,婚姻を機に,約7年働いた職場を退職した。
原告X9は,平成26年12月に第1子を出産し,平成30年7月に第2子を出産した。
以上
トップに戻る

saiban.in