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情報不開示決定取消等請求事件
事件番号令和2(行ヒ)102
事件名情報不開示決定取消等請求事件
裁判年月日令和3年6月15日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別判決
結果破棄差戻
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成31(行コ)123
原審裁判年月日令和元年11月20日
判示事項刑事施設に収容されている者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報は,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律45条1項所定の保有個人情報に当たらない
裁判日:西暦2021-06-15
情報公開日2021-06-15 18:00:04
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令和2年(行ヒ)第102号
令和3年6月15日

情報不開示決定取消等請求事件

第三小法廷判決

主文
原判決を破棄する
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人浦城知子,同木本茂樹,同國井敏明の上告受理申立て理由について1
本件は,東京拘置所に未決拘禁者として収容されていた上告人が,行政機関
の保有する個人情報の保護に関する法律(以下行政機関個人情報保護法という。)に基づき,東京矯正管区長に対し,収容中に上告人が受けた診療に関する診療録に記録されている保有個人情報(以下本件情報という。)の開示を請求したところ,同法45条1項所定の保有個人情報に当たり,開示請求の対象から除外されているとして,その全部を開示しない旨の決定(以下本件決定という。)を受けたことから,被上告人を相手に,その取消しを求めるとともに,国家賠償法1条1項に基づき慰謝料等の支払を求める事案である。
2
原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
行政機関個人情報保護法12条1項は,何人も,同法の定めるところによ
り,行政機関の長に対し,当該行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる旨を規定し,同法14条は,行政機関の長は,上記の請求があったときは,同条各号に掲げる不開示情報のいずれかが含まれている場合を除き,請求をした者に対し,当該保有個人情報を開示しなければならない旨を規定する。
行政機関個人情報保護法45条1項は,刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判,検察官,検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分,刑若しくは保護処分の執行,更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報(当該裁判,処分若しくは執行を受けた者,更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものに限る。)については,上記各規定を含む同法第4章の規定を適用しない旨を規定する。
上告人は,平成28年1月25日,被告人として千葉刑務所に収容され,同年7月20日,同刑務所から東京拘置所に移送された。
上告人は,平成29年5月12日,法務大臣から権限又は事務の委任を受けた東京矯正管区長に対し,本件情報の開示を請求したが,東京矯正管区長は,同年6月15日付けで,本件情報は行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に該当するとして,その全部を開示しない旨の本件決定をした。
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原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件情報
は,行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たり,同法12条1項の規定による開示請求の対象から除外されるから,本件決定は適法であるとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。
被収容者に対する処遇は,刑事事件に係る裁判の内容を実現するために必然的に付随する作用であり,これに係る保有個人情報が開示請求の対象となると,第三者による前科等の審査に用いられ,当該情報の本人の社会復帰を妨げるなどの弊害が生ずるおそれがある。そうすると,上記保有個人情報については,行政機関個人情報保護法45条1項所定の刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報に当たると解すべきところ,被収容者に対する診療は,被収容者の処遇の一環として行われるものであるから,これに関する情報についても,別段の定めがない以上,上記の刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報に該当する。
4
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。

行政機関個人情報保護法45条1項は,平成15年法律第58号による行
政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律(以下旧法という。)の全部改正(以下平成15年改正という。)によって新たに設けられた規定である。旧法は,何人も,個人情報ファイルを保有する行政機関の長に対し,自己を本人とする処理情報(個人情報ファイルに記録されている個人情報をいう。以下同じ。)の開示を請求することができる旨を規定しつつ(13条1項本文),刑事事件に係る裁判若しくは検察官,検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分又は刑の執行に関する事項(以下刑事裁判等関係事項という。)を記録する個人情報ファイルについてはこの限りでない旨を規定していた(同項ただし書)。これは,刑事裁判等関係事項に係る個人情報には個人の前科,収容歴等の情報が含まれており,これが開示請求の対象となると,就職の際に開示請求の結果を提出させるなどの方法で第三者による前科等の審査に用いられ,本人の社会復帰を妨げるなどの弊害が生ずるおそれがあるため,これを防止するという趣旨に基づくものであったと解される。また,旧法は,個人情報ファイル簿に掲載されていない個人情報ファイルに係る処理情報について,開示請求をすることができるものから除く旨を規定し(13条1項本文),勾留の執行,矯正又は更生保護に関する事務(7条3項3号)等に使用される個人情報ファイルについて,その保有目的に係る事務の適正な遂行を著しく阻害するおそれがあると認めるときは,個人情報ファイル簿に掲載しないことができる旨を規定していた(同項柱書き)。他方,旧法13条1項ただし書は,刑事裁判等関係事項とは別に,病院,診療所又は助産所における診療に関する事項(以下診療関係事項という。)を記録する個人情報ファイルに係る処理情報を開示請求の対象から除外する旨を規定していた。これは,診療関係事項に係る個人情報の開示については,当面,診療の当事者相互の信頼関係に基づく医療上の判断に委ねるのが適当であるとの考えに基づくものであったと解される。

ところで,拘置所を含む刑事施設においては,これに収容されている者(以
下被収容者という。)の健康等を保持するため,社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとされ(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律56条),刑事施設の長は,被収容者が負傷し,若しくは疾病にかかっているとき,又はこれらの疑いがあるとき等には,速やかに,刑事施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。以下同じ。)による診療を行い,その他必要な医療上の措置を執るなどとされている(同法62条1項等)。そして,刑事施設の中に設けられた病院又は診療所にも原則として医療法の規定が適用され(同法30条の2,医療法施行令3条2項参照),これらの病院又は診療所において診療に当たる医師等も医師法又は歯科医師法の規定に従って診療行為を行うこととなる。そうすると,被収容者が収容中に受ける診療の性質は,社会一般において提供される診療と異なるものではないというべきである。このことは,旧法が制定された当時の監獄法等の下においても同様であったということができる。

以上に照らすと,旧法において,被収容者が収容中に受けた診療に関する事
項を記録する個人情報ファイルに係る処理情報は,その性質上,13条1項ただし書の診療関係事項として開示請求の対象から除外されていたと解するのが自然であり,これを刑事裁判等関係事項又は7条3項3号所定の事務に係る事項に関するものとして開示請求の対象から除外することは想定されていなかったものと解される。
平成15年改正によって新たに設けられた行政機関個人情報保護法45条1項は,その文理等に照らすと,旧法13条1項ただし書の刑事裁判等関係事項に係る規定と同様の趣旨から,刑事裁判等関係事項のほか,旧法においては事務の適正な遂行の阻害防止の観点から一定の場合に限り処理情報の開示請求をすることができないものとされていた旧法7条3項3号所定の事務に係る事項であって上記趣旨にかなうものを含む保有個人情報について,第4章の規定を適用しないこととして,開示請求等の対象から除外する規定であると解される。
他方,行政機関個人情報保護法には,診療関係事項に係る保有個人情報を開示請求の対象から除外する旨の規定は設けられなかった。その趣旨は,行政機関が保有する個人情報の開示を受ける国民の利益の重要性に鑑み,開示の範囲を可能な限り広げる観点から,医療行為に関するインフォームド・コンセントの理念等の浸透を背景とする国民の意見,要望等を踏まえ,診療関係事項に係る保有個人情報一般を開示請求の対象とすることにあると解される。そして,同法45条1項を新たに設けるに当たっては,社会一般において提供される診療と性質の異なるものではない被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報について,同法第4章の規定を適用しないものとすることが具体的に検討されたことはうかがわれず,その他,これが同項所定の保有個人情報に含まれると解すべき根拠は見当たらない。以上によれば,被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報は,行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たらないと解するのが相当である。
そうすると,本件情報は,行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たらないから,同法12条1項の規定による開示請求の対象となる。5
以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令
の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宇賀克也の補足意見がある。
裁判官宇賀克也の補足意見は,次のとおりである。
私は多数意見に賛成するものであるが,補足して意見を述べておきたい。我が国では,かつては診療録の開示請求の可否について議論があったが,今日では,医療はインフォームド・コンセントが基本であり,医療法1条の4第2項も,

医師,歯科医師,薬剤師,看護師その他の医療の担い手は,医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。

と定めており,最高裁平成10年(オ)第576号同13年11月27日第三小法廷判決・民集55巻6号1154頁も,医師の説明義務を認めている。そして,医療における自己決定権が人格権の一内容として尊重されなければならないことは,当審も認めている(最高裁平成10年(オ)第1081号,第1082号同12年2月29日第三小法廷判決・民集54巻2号582頁)。
我が国では,個人情報の保護に関する法律,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律,独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律,個人情報保護条例のいずれにおいても,診療録に対する開示請求権を認めているので,病院等の設置主体が,国,独立行政法人,国立大学法人,地方公共団体,地方独立行政法人(個人情報保護条例の実施機関となっている場合),医療法人,個人のいずれであれ,その保有する診療録について,自己情報開示請求が可能である。医師法19条2項も,診察をした医師は,診断書の交付の請求があった場合には,原則としてそれを拒否できないとしている。
刑事施設における診療に関する情報であっても,インフォームド・コンセントの重要性は異ならない。法務省矯正局矯正医療管理官編・矯正医療においても,矯正医療に求められている内容は,基本的に一般社会の医療と異なるところはないとしている(このことは,監獄法の時代も同じであり,監獄における医療の意義は,第1には,人道的立場において,在監者の身体的・精神的健康を毀損することのないようにすることにあり,病院移送も,専ら病者の治療という趣旨からなされるものであり,検察官等の処分をまって初めて病院移送の措置をとり得ると解すべきではないとされていた。小野清一郎=朝倉京一・改訂監獄法)。
1988年に国連総会で採択されたあらゆる形態の抑留又は拘禁の下にあるすべての者の保護のための諸原則26は,

拘禁された者又は受刑者が医学的検査を受けた事実,医師の氏名及び検査の結果は,正しく記録されなければならない。これらの記録へのアクセスは,保障される。そのための方式は,各国法の関連法規に従う。

としている。刑事施設における自己の医療情報へのアクセスの保障は,グローバル・スタンダードになっているといえるのである。また,2015年に国連総会で採択された国連被拘禁者処遇最低基準準則(マンデラ・ルール)26条1項は,ヘルスケア・サービスは,すべての被拘禁者に関して正確で最新かつ秘密の個人医療ファイルを準備し,かつ保持しなければならない。すべての被拘禁者は,請求により自己のファイルへのアクセスを認められなければならない。被拘禁者は,自己のファイルにアクセスするため第三者を指名することができる。と定めており,被拘禁者に自己の診療録にアクセスする権利を認めることは,最低限必要とされているのである。世界の100を超える医師会が加盟する世界医師会(WMA)が採択した患者の権利に関するリスボン宣言においても,

患者は,いかなる医療上の記録であろうと,そこに記載されている自己の情報を受ける権利を有し,また症状についての医学的事実を含む健康状態に関して十分な説明を受ける権利を有する。

と宣言されている。アンドリュー・コイル・国際準則からみた刑務所管理ハンドブックにおいても,

いかなる診断や診療も,当該被収容者個人のために施されるのであって,施設の必要のためではない。

と明記されている。また,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律62条3項は,刑事施設の長は,必要に応じ被収容者を刑事施設の外の病院又は診療所に通院させ,やむを得ないときは被収容者を刑事施設の外の病院又は診療所に入院させることができると定めている。刑事施設の外の病院又は診療所で診療を受けた場合には,通常の診療録になり,開示されても収容歴が分からないので開示請求が可能であるのに,刑事施設内の病院又は診療所で診療を受けた場合には開示請求ができないのは不合理であろう。
(裁判長裁判官

宇賀克也

裁判官

戸倉三郎

道晴)
裁判官

宮崎裕子

裁判官

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