判例検索β > 令和2年(行ケ)第10059号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和2(行ケ)10059
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和3年5月31日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型行政訴訟
裁判日:西暦2021-05-31
情報公開日2021-06-15 18:02:16
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令和3年5月31日判決言渡

令和2年(行ケ)第10059号

審決取消請求事件

口頭弁論終結日令和3年3月22日
判原決告
三菱電機株式会社

訴訟代理人弁護士

近藤惠嗣同前田将貴被告
株式会社ジェイテクト

訴訟代理人弁護士

岩坪同速見禎同溝内伸主1祥治郎文
原告の請求を棄却する。

2哲
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1請求
特許庁が無効2018-800131号事件について令和2年3月30日にした審決を取り消す。
第2事案の概要等
1
特許庁における手続の経緯等


被告は,平成12年3月31日,プログラマブル・コントローラにおける異常発生時にラダー回路を表示する装置の発明について特許を出願し,平成17年7月22日,特許第3700528号(請求項の数は1。以下本件特許という。)として設定登録を受けた。


被告は,平成28年7月29日,本件特許の訂正審判を請求し,同年10月18日,同請求を認める旨の審決を受けた(以下前件訂正という。)。


原告は,平成30年11月22日,本件特許につき無効審判(無効2018-800131号)を請求した。



被告は,令和元年7月9日,本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする旨の審決の予告を受けたので,同年9月17日,訂正請求をした(以下本件訂正という。)。



令和2年3月30日,本件訂正を認め,原告の無効審判請求は成り立たない旨の審決(以下本件審決という。)がなされ,その謄本は,同年4月13日,原告に送達された。


2
原告は,令和2年4月27日,本件訴えを提起した。

特許請求の範囲の記載
本件訂正後の請求項1の記載は,次のとおりである(以下本件発明という。)。下線部は本件訂正によって付加された部分を示す。A以下の符号は本件審決が分説したもので,以下,その符号に従い構成A又は構成要件Aのようにいう。A
機械・装置・設備等の制御対象を制御するプログラマブル・コントローラにおいて用いられる表示装置であって,

B
前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムであって,当該異常現象が発生したのに対応して,前記プログラマブル・コントローラの対応するアドレスのデータが変化したことを認識するプログラムと,
C
そのプログラムで異常現象の発生がモニタされたときにモニタされた異常現象に対応する異常種類を表示する手段と,

D
表示された1又は複数の異常種類から1の異常種類に係る異常名称をタッチして指定するタッチパネルと,
E
異常種類が当該タッチにより指定されたときにその指定された異常種類に対応する異常現象の発生をモニタしたラダー回路を表示する手段と,を有し,

F
前記ラダー回路を表示する手段は,表示されたラダー回路の入出力要素のいずれかをタッチして指定する前記タッチパネルと,表示されたラダー回路の入力要素が当該タッチにより指定されたときにその入力要素を出力要素とするラダー回路を検索して表示し,表示されたラダー回路の出力要素が当該タッチにより指定されたときにその出力要素を入力要素とするラダー回路を検索して表示する手段を含む

G3
ことを特徴とする表示装置。

本判決の用語


本件特許の特許公報(甲18)に掲載された【発明の詳細な説明】(段落【0001】~【0045】)を本件明細書といい,これと図面(【図1】~【図12】)とを併せて明細書等又は本件明細書等ということがある。



プログラマブル・コントローラに代えて,programmablelogiccontrollerの頭文字をとってPLCということがある。


本発明は,訂正の前後を通じての,本件特許にかかる一個の技術的思想としての発明をいう。

第3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由中,本件の取消事由に関係する部分の要旨は次のとおりである。
1
本件訂正の許否


訂正の目的の該当性
本件訂正は,訂正事項1及び2からなり,訂正事項1において,特許請求の範囲の記載を訂正し,同2において,本件明細書の記載を訂正事項1と同様に訂正するものである。
訂正事項1は,訂正前の前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムについて,そのプログラムが,さらに当該異常現象が発生したのに対応して,前記プログラマブル・コントローラの対応するアドレスのデータが変化したことを認識するプログラムであることを限定するものであるから,訂正事項1の目的は,特許請求の範囲の減縮に該当する。また,訂正事項2は,明瞭でない記載の釈明に該当する。


新規事項の有無
訂正事項1のうち,当該異常現象が発生したのに対応して,前記プログラマブル・コントローラの対応するアドレスのデータが変化したことは,具体的には,プログラマブル・コントローラ本体20のRAM23内の【図9】(別紙参照)に係る異常データテーブルについて,出力要素EM600をオンさせる異常現象がおきると,その出力要素EM600に対応するアドレスに異常フラグ1が立つこと(【0029】【0030】)に対応するから,明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。
また,訂正事項1のうち,前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムであって,・・・アドレスのデータが変化したことを認識するプログラムは,具体的には,操作盤10のRAM13内の異常データテーブルを更新する処理手順を含む【図10】(別紙参照)のプログラム(【0031】【0032】)に対応し,当該プログラムのステップS15からS17で,プログラマブル・コントローラ本体20のRAM23内の異常データテーブルの1又は0のデータを,操作盤10のRAM13の異常表示テーブルに転写することで,上記の異常フラグの変化を認識し,異常現象の発生をモニタできるから,訂正事項1に係るプログラムは,明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。
訂正事項2は,明細書の記載を訂正事項1と同様に訂正するものであるから,同様の理由により,明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。したがって,本件訂正は,明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。


特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
本件訂正は,制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムを限定するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。


原告の主張について
原告(無効請求人)は,異常現象をモニタするプログラムは,プログラマブル・コントローラに記憶されたプログラムであるのに対して,前記プログラマブル・コントローラの対応するアドレスのデータが変化したことを認識するプログラムは,操作盤10のプログラムであり,両プログラムは別のものであるから,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮には該当せず,別のプログラムを特許請求の範囲に追加するものであり,本件訂正は実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものである旨を主張する。
しかし,本件訂正に係る異常現象をモニタするプログラムは,上記⑵に説示するとおり,具体的には,操作盤10のRAM13内の異常データテーブルを更新する処理手順を含む【図10】のプログラムに対応するものであり,原告が主張する,プログラマブル・コントローラのRAM23に記憶された異常モニタ用ラダープログラムではないから,原告の上記主張は採用できない。


むすび
以上のとおり,本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書1号又は3号に掲げる事項を目的とし,同条9項で準用する同法126条5項及び6項に適合するから,適法な訂正と認める。

2
無効理由3(進歩性欠如)について

〔原告の主張〕
本件発明は,甲1~3に記載された発明に周知技術を適用することによって当業者が容易に想到し得た。
〔本件審決の判断〕


引用発明の認定
甲2及び甲3(いずれも原告製造のGOT-A900シリーズのマニュアル)には,次の発明が記載されている。
A’シーケンサと接続して用いられ,モニタとして機能するA975GOT,A970GOT及びA960GOTに係る製品であって,B’エラー発生をモニタするプログラムと,C’エラーの発生がモニタされたときにモニタされたエラーに対応するメッセージが表示され,D’表示された複数種類のメッセージから1のメッセージを指で反転表示させることができるタッチキーと,E’拡張機能・オプション機能として,表示された複数種類のメッセージから1のメッセージを指で反転表示させ,何らかのタッチキーを選択すると,エラーが発生したデバイスを検索した状態で回路モニタ機能が起動され,検索されたデバイスを含む回路ブロックのみが表示される回路モニタ機能を有し,F’回路モニタ機能は,タッチキーと,「コイル検索のタッチキーをタッチにより指定し,入力画面におい
てデバイス名又はデバイス番号を入力することにより指定し,タッチにより入力を確定すると,読み出した検索デバイスを含む回路ブロックのみが表示されるコイル検索と,
接点検索のタッチキーをタッチにより指定し,入力画面において
デバイス名又はデバイス番号を入力することにより指定し,タッチにより入力を確定すると,読み出した検索デバイスを含む回路ブロックのみが表示される接点検索と,を含む
G’


A975GOT,A970GOT及びA960GOTに係る製品」
一致点の認定

A機械・装置・設備等の制御対象を制御するプログラマブル・コントローラにおいて用いられる表示装置であって,B’’前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムと,Cそのプログラムで異常現象の発生がモニタされたときにモニタされた異常現象に対応する異常種類を表示する手段と,D表示された1又は複数の異常種類から1の異常種類に係る異常名称をタッチして指定するタッチパネルと,E異常種類が当該タッチにより指定されたときにその指定された異常種類に対応する異常現象の発生をモニタしたラダー回路を表示する手段と,を有し,F’’前記ラダー回路を表示する手段は,タッチパネルと,出力要素についてラダー回路を検索して表示し,入力要素についてラダー回路を検索して表示する手段を含むG⑶表示装置。である点。相違点の認定

<相違点1>
構成F’’に係るラダー回路を表示する手段が,
本件発明は
表示されたラダー回路の入出力要素のいずれかをタッチして指定する前記タッチパネルと,表示されたラダー回路の入力要素が当該タッチにより指定されたときにその入力要素を出力要素とするラダー回路を検索して表示し,表示されたラダー回路の出力要素が当該タッチにより指定されたときにその出力要素を入力要素とするラダー回路を検索して表示する手段を含むものであるのに対して,引用発明は
タッチキーと,『コイル検索』のタッチキーをタッチにより指定し,入力画面においてデバイス名又はデバイス番号を入力することにより指定し,タッチにより入力を確定すると,読み出した検索デバイスを含む回路ブロックのみが表示されるコイル検索と,『接点検索』のタッチキーをタッチにより指定し,入力画面においてデバイス名又はデバイス番号を入力することにより指定し,タッチにより入力を確定すると,読み出した検索デバイスを含む回路ブロックのみが表示される接点検索と,を含むものである点。<相違点2>
構成B’’に係る制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムが,
本件発明は
当該異常現象が発生したのに対応して,前記プログラマブル・コントローラの対応するアドレスのデータが変化したことを認識するプログラムであるのに対して,引用発明は
そのようなプログラムかどうか不明な点。


相違点2の判断
相違点2に係る本件発明の構成は,引用発明に甲16(特開平7-49705号公報)記載の技術的事項を適用することによって容易に想到し得た。


相違点1の判断

相違点1の実質的意義
相違点1は,ラダー回路の検索のための条件入力に関して,次のような本質的な相違である。
(ア)

本件発明において,ラダー回路を遡る検索(以下遡及検索とい

う。)をする場合,すなわち,画面に表示されたラダー回路の入力要素を出力要素とするラダー回路を検索する場合(以下入力要素のタッチ検索という。),画面上の入力要素をタッチする操作だけで,①当該入力要素を検索条件として特定する条件(Addアドレスの指定),②当該入力要素を出力要素とするラダー回路を検索せよとの条件,という2種類の検索条件が設定される。このように,本件発明においては,1回の操作によって,2種類の検索条件を設定することができる。引用発明において,遡及検索をする場合,すなわち,画面に表示されたラダー回路の接点をコイルとするラダー回路を検索する場合,②’コイル検索のタッチスイッチをタッチする操作により,ある接点をコイルとするラダー回路を検索せよとの条件を設定し,①’当該接点のデバイス名又はデバイス番号を入力する操作により,当該接点を特定する条件を設定する。このように,引用発明においては,2種類の検索条件を設定するために,2回の操作を必要とする。
(イ)

遡及検索とは逆に,ラダー回路を降る検索(以下戻り検索とい

う。)をする場合にも,上記(ア)と同様に,本件発明においては1回の操作で2種類の検索条件を設定できるのに対し,引用発明では2回の操作を必要とする。

相違点1の容易想到性
(ア)

引用発明は,表示されたラダー回路の入出力要素のいずれかをタッチして指定するタッチパネルを有していない上に,上記アのとおり,本件発明と引用発明は,ラダー回路の検索のための条件入力に関して本質的に異なるといえる。そして,相違点1は,引用発明及び各甲号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえない。(イ)

甲12(特開平6-195111号公報)には,押出しインターロック確認の画面3のラダー回路の『押出安全』のリレーシンボルをタッチすることにより,『押出安全』をコイルとするラダー回路が表示され,バリカムエラーのリレーシンボルがONしていないことを確認できること(以下甲12技術という。)が開示されている。
そして,甲12技術のラダー回路が本件発明の表示されたラダー回路に相当することは明らかであり,以下同様に,『押出安全』のリレーシンボルが入力要素に相当し,タッチすることが当該タッチにより指定されたときに相当し,『押出安全』をコイルとするラダー回路が表示されることが,その入力要素を出力要素とするラダー回路を検索して表示することに相当する。したがって,相違点1に係る本件発明の構成Fのうち,遡及検索の場合の動作(入力要素のタッチ検索の機能や,その検索により,タッチした入力要素を出力要素とするラダー回路を表示すること),及び,表示されたラダー回路の入力要素をタッチして指定するタッチパネルは,甲12に開示されている。しかしながら,甲12には,相違点1に係る本件発明の構成Fのうち,戻り検索の場合の動作(出力要素のタッチ検索の機能)については記載も示唆もなく,表示されたラダー回路の出力要素をタッチして指定するタッチパネルは開示されていない。したがって,仮に,引用発明に甲12技術を適用できるとしても,相違点1に係る本件発明の構成Fに到達するとはいえない。

(ウ)

原告(無効請求人)は,相違点1は,①入力要素又は出力要素の直接指定による検索に関する相違点と,②タッチパネルを用いた入力要素又は出力要素の直接指定に関する相違点とに分け,それぞれについて,別個に容易想到性を判断すべきであると主張するが,そもそも,このように相違点を分断して考えるべきであるという原告の主張を採用することはできない。また,仮に分断して考えるとしても,引用発明に,それぞれの相違点に係る構成を適用することには,次のとおり阻害要因があるから,容易想到性を肯定することはできない。
a
①を適用することの容易想到性について
引用発明におけるラダー回路の検索では,入力画面においてデバイス名又はデバイス番号を入力することで,任意のデバイスを検索することが可能であり,現在表示されているラダー回路図とは全く関係のないデバイスであっても,自由に表示させることができる。引用発明におけるこのような検索は,甲3に記載された要因検索(異常の
原因を探索する目的に特化した検索)とは異なり,特定の目的に限らない,一般的な検索であると理解すべきである。
これに対し,甲5(三菱汎用シーケンサMELSEC-QnA
のカタログ。1996年12月作成)のような入力要素又は出力要素の直接指定による検索では,現在表示されているラダー回路図の入力要素又は出力要素に関係するデバイスしか検索することができず,引用発明にこのような技術を適用することは,任意のデバイスを検索可能な機能を逆に制限することになるから,阻害要因があるといわざるを得ない。

b
②を適用することの容易想到性について
甲12には,タッチパネルを用いた入力要素の直接指定が示さ
れているといえるが,甲12技術を引用発明に適用すると,現在表示されているラダー回路図の入力要素に関係するデバイスをタッチパネルにて指定して検索することしかできなくなるから,引用発明にこのような技術を適用することは,やはり,任意のデバイスを検索可能な機能を逆に制限することになり,阻害要因がある。
第4原告の主張(審決取消事由)
1
取消事由1(本件訂正を認めたことの誤り)
本件審決が,本件訂正が訂正要件を充たしていると認定したことは,次のとおり誤りである。


制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムに対応する本件明細書上の概念は,【0027】【0029】等にいう異常モニタ用ラダープログラム(以下モニタプログラムという。)であり,それは,制御対象に異常現象が発生した場合にPLC本体のRAM23に記憶されているデータを書き換えるためのプログラムである。すなわち,モニタ(監視)の対象は,制御対象(工作機械MT)の異常現象(油圧回路のフィルタの目詰まり等)であり,異常現象が発生したときの動作は,RAM23(PLC本体の部品)のデータの書換えであり,動作の結果として,図9のような異常データテーブルがRAM23に記憶される。
これに対し,本件訂正により付加された異常現象が発生したのに対応して,前記プログラマブル・コントローラの対応するアドレスのデータが変化したことをモニタするプログラムなる構成は,本件明細書の【0031】に記載されたものであり,PLC本体のRAM23内のデータが書き換えられて変化したことを認識するための操作盤10(表示装置)が内蔵するプログラムである(以下変化認識プログラムという。)。すなわち,モニタ(監視)の対象は,RAM23内のデータであり,その変化を認識したときの動作は,RAM13(表示装置の部品)のデータの書換えであり,動作の結果として,RAM23と同内容の異常データテーブルがRAM13に記憶される。このように,モニタプログラムと変化認識プログラムとは全く別のプログラムであり,後者が前者を具体化又は限定したという関係にはない。したがって,本件訂正は,特許請求の範囲を減縮するものとはいえず,特許法134条の2第1項1号の訂正の目的に当たらない。
そして,訂正後の構成Bの全体(前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムであって,当該異常現象が発生したのに対応して,前記プログラマブル・コントローラの対応するアドレスのデータが変化したことを認識するプログラム)を変化認識プログラムと解釈するのであれば,本件訂正は,特許請求の範囲の記載からモニタプログラムを削除し,これに代えて変化認識プログラムを追加することにほかならず,特許請求の範囲を実質的に変更するものであるから,同条9項で準用する特許法126条6項に違反する。また,訂正後の構成Bの全体をモニタプログラム兼変化認識プログラムと解釈するのであれば,そのような構成は本件明細書に開示されていないから,同条5項に違反する。


上記⑴のとおり本件訂正が訂正要件に違反することは,次のようにも説明できる。
前件訂正においては,構成Aについて,訂正前の機械・装置・設備等の制御対象を制御するプログラマブル・コントローラにおいて,との文言が,機械・装置・設備等の制御対象を制御するプログラマブル・コントローラにおいて用いられる表示装置であって,に訂正された。かかる訂正が請求され,かつ認容されたのは,構成B(本件訂正前)の前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラム(モニタプログラム)について,本件明細書の実施例ではPLC本体のプログラムとして説明されているものの,これを表示装置に組み込む構成に変更することが当業者にとって容易に選択可能であり,新規事項の追加や特許請求の範囲の実質的変更に当たらないとの判断が前提となっている(そのように判断していなければ,前件訂正が訂正要件違反とされたはずである。)。
そうすると,前件訂正後(本件訂正前)の特許請求の範囲においては,構成Bの前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラム(モニタプログラム)は,表示装置のプログラムとして記載されていることになる。そして,本件訂正は,表示装置のプログラムを,モニタプラグラムから変化認識プログラムへ入れ替えるもの,又はモニタプログラムからモニタプログラム兼変化認識プログラムに変更するものであって,特許請求の範囲の実質的変更又は新規事項の追加に当たる。
2
取消事由2(進歩性判断の誤り)


相違点1の実質的内容
審決の認定した相違点1は,更に次のように分けるべきである。
相違点1A:

出力要素又は入力要素をタッチによって指定すること

相違点1Bア:入力要素が指定された場合に出力要素検索を行うこと相違点1Bイ:出力要素が指定された場合に入力要素検索を行うこと⑵

副引用例の記載事項

甲12には相違点1A及び相違点1Bアに相当する技術事項が,甲5には相違点1Bア及び相違点1Bイに相当する技術事項が記載されている。相違点1A

相違点1Bイ

甲12

〇〇
×

甲5

相違点1Bア

×

〇〇
甲22~甲24には,キー操作に代えて,表示部に表示されている表示ボタンをタッチペンでクリックして指定すること(甲22(特開2000-222095号公報)),所定の操作を行うためにキーボード等の入力装置を操作して選択することと,タッチパネルを用いて表示画面上に直接タッチして選択することが任意に選択可能であること(甲23(特開平11-161305号公報)),ハードウェアキーの代わりに表示部に形成されるタッチスイッチを用いて操作を行うよう構成できること(甲24(特開平9-305207号公報))が記載されている。


甲12技術を第1副引用例とする論理付け

本件審決の誤り
本件審決は,甲12に相違点1Bイが記載も示唆もされていないことを理由として,甲5に相違点1Bイが記載されていることをなんら考慮することなく容易想到性を否定している。これは,引用発明に甲12技術を組み合わせても,タッチによって入力要素が指定された場合に出力要素検索を行うこと(相違点1A+相違点1Bア)を備えた構成になるに過ぎず,本件発明の構成に到ることはない以上,甲5に開示された技術(以下甲5技術という。)を更に考慮する余地はないとの判断である。しかし,この判断は誤りである。


甲12の開示と示唆
たしかに,甲12の直接的な開示は,タッチによって入力要素が指定された場合に出力要素検索を行うこと(相違点1A+相違点1Bア)である。しかし,回路モニタにおいて指定する要素は入力要素又は出力要素のいずれかしかない。そして,タッチによる指定を入力要素のみに限定し,出力要素を指定する場合には別の方法をとらなければならない理由は存在しない。そのため,当業者であれば,甲12の記載からタッチによって出力要素を指定することを容易に把握する。したがって,甲12にはタッチによって出力要素を指定することが示唆されている。
次に,タッチによって出力要素を指定した場合にいかなる検索を行うかについては入力要素検索以外にはあり得ない。なぜなら,ラダー回路の構成原理(特定のデバイス(出力要素)がONになる条件を表現すること)からして,同一の出力要素を有する2つ以上の回路は存在しないから,表示されているラダー回路上の出力要素を指定して出力要素検索を実行しても,その時点で表示されているラダー回路を検索することとなり無意味な検索となる。
また,入力要素を指定した場合に自動的に出力要素検索を行うという構成を採用しながら,出力要素を指定した場合に限って,入力要素検索を行うことをあらためて指定しなければならない構成を採用する理由は全くない。むしろ,表示しているラダー回路上の出力要素を指定した場合に出力要素検索を行うことが無意味であることを考慮すれば,自動的に入力要素検索を実行する構成を採用する十分な動機がある。実際に,タッチによる要素の指定を伴わないものの,甲5には入力要素が指定された場合には出力要素検索を行い,出力要素が指定された場合には入力要素検索を行うこと(相違点1Bア+相違点1Bイ)が記載されている。甲5は,入力要素が指定された場合には出力要素検索を行い,出力要素が指定された場合には入力要素検索を行うことが必然的な選択であることを示している。ウ
甲5技術の導入による相違点の克服
さらに,仮に甲12に相違点1Bイに関する開示も示唆も認められないとしても,甲5には,キー操作によって入力要素又は出力要素を指定し,入力要素が指定された場合に出力要素検索を行うこと(相違点1Bア)及び出力要素が指定された場合に入力要素検索を行うこと(相違点1Bイ)が記載されている。そして,タッチパネル上のシンボルを直接タッチして選択することは当時から当業者の汎用技術にすぎない(甲22~24)。したがって,引用発明に甲12技術を導入することで相違点1A及び相違点1Bアを克服し,甲5技術を導入してさらに相違点1Bイを克服することは,当業者にとって容易である。


小括
以上のとおり,当業者の技術常識を考慮すれば,甲12にはタッチによって出力要素を指定することについて少なくとも示唆がある。そして,ラダー回路に内在する論理によって,出力要素を指定した場合には,必然的に入力要素検索を行うことになる。したがって,当業者が引用発明に甲12と技術常識を適用して本件発明に想到することは容易である。
また,仮に甲12にタッチによって出力要素を指定することが示唆されていないとしても,相違点1Bイについては甲5技術を別途導入して克服することは当業者にとって容易である。


甲5技術を第1副引用例とする論理付け

甲5技術の内容
甲5には,キー操作によって入力要素又は出力要素を指定し,入力要素が指定された場合に出力要素検索を行うこと(相違点1Bア)及び出力要素が指定された場合に入力要素検索を行うこと(相違点1Bイ)が記載されている。このように入力要素又は出力要素の指定と検索種別の指定を同時に行うことによって行うべき検索の指定を簡易にすることを引用発明においても採用することには動機があり,阻害事由もない。


汎用技術の適用
タッチパネル上のシンボルを直接タッチして選択することは,本件特許の出願時において当業者の汎用技術である(甲22~24)。シンボルの指定方法をハードウェアキーボードの操作,マウスなどのポイントデバイスの操作,タッチパネルによる直接指定,などのいずれを採用するかは,当業者が適宜選択すべき事項にすぎない。したがって,引用発明に甲5技術事項(相違点1Bア+相違点1Bイ)を導入し,さらに,キー操作によって入力要素又は出力要素を指定することに代えて,汎用技術を適用して,出力要素又は入力要素をタッチによって指定するようにすること(相違点1A)は当業者が容易になし得たことである。
実際に,甲12には,タッチによって入力要素が指定された場合に出力要素検索を行うこと(相違点1A+相違点1Bア)が記載されている。このことは,当業者が実際に上述したような思考過程を経ることが容易であることを示している。


小括
以上に述べたとおり,当業者が引用発明に甲5技術を適用し,さらに汎用技術を採用して本件発明に想到することは容易である。甲5技術事項に汎用技術を適用することが容易であったことは甲12によっても示されている。
第5被告の主張
1
取消事由1(本件訂正を認めたことの誤り)について
本件訂正前の請求項1において,構成B~Fはすべて表示装置の特徴であるから,構成Bの前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムはPLC本体20のRAM23の構成ではなく,操作盤10(表示装置)の構成として特許請求の範囲に記載されている。したがって,特許請求の範囲の文理解釈上,モニタするプログラムが,原告主張のようにPLC本体に備わったプログラムであると解する必然性は全く存在しない。

2
取消事由2(進歩性判断の誤り)について


甲12技術を第1副引用例とする論理付けにつき
甲12には,タッチパネルを利用したPLCの表示装置において,コイル検索(入力要素を指定するラダー回路検索)を経て設備の異常に対する対処法をコメント表示し,異常の発見と復旧を速やかに行うという技術思想が開示されているにとどまり,接点検索(出力要素を指定するラダー回路検索)については一片の示唆もない。したがって,タッチによって出力要素を指定することが甲12に示唆されているとはいえないし,当業者がこれを甲12の記載から容易に把握できたともいえない。



甲5技術を第1副引用例とする論理付けにつき

甲5には相違点1Bアの開示がないこと
甲5には,出力要素が指定されたときに当該出力要素を入力要素とするラダー回路を表示することが図示されているのみであり,入力要素が指定されたときに当該入力要素を出力要素とするラダー回路を検索表示することは記載も示唆もされていないから,相違点1Bアが開示されているとはいえない。

甲5技術を引用発明に適用する動機がないこと
甲5はPLCに記憶させるラダー回路を作成支援するソフトウェアであって,ラダー回路を作成する際に作成したラダー回路を検索確認しているにすぎず,引用発明におけるアラーム履歴表示機能とは技術分野が共通せず,解決すべき課題,機能作用の関連性もない。したがって,甲5に相違点1Bアが開示されていると解釈したとしても,これを引用発明に適用する動機が存在しない。


タッチパネルの利用が汎用技術であるとはいえないこと
出力要素・入力要素の指定をタッチパネルで行うことが汎用技術であったことは,原告が本件訴訟で新たに提出した証拠によっても立証されていない。

第6当裁判所の判断
1
取消事由1(本件訂正を認めたことの誤り)について


関連する本件明細書等の記載について

PLC及び表示装置について
本件明細書等には,次の記載及び図面がある。

【0019】【実施例】図3は,プログラマブル・コントローラ20本体と操作盤10とで生産設備の一種である工作機械MTを意図したように動作させるシステムを示している。工作機械MTは,プログラマブル・コントローラ本体20と操作盤10とで制御されるために,プログラマブル・コントローラ本体20と操作盤10とでプログラマブル・コントローラが構成されていることになる。上記記載及び図面によれば,【0019】の最後にいうプログラマブル・コントローラ(PLC)は,PLC本体20及び操作盤10から構成されるシステムを意味しているといえる。また,操作盤10に関する【0023】~【0025】の記載を考慮すると,操作盤10は請求項1にいう表示装置に相当する。
そうすると,本発明は,PLC本体と表示装置とが接続されてシステム(以下PLCシステムという。)を構成し,このPLCシステムによって制御対象(実施例においては工作機械MT)を制御する技術に係る発明といえる。

PLC本体が備えるプログラム
本件明細書の【0027】~【0030】の記載,特に【0027】の工作機械MTがラダープログラムに従って制御されている間,プログラマブル・コントローラ本体20はRAM23に記憶されている異常モニタ用ラダープログラムを所定のタイムインターバル・・・で繰り返し実行しつづける,【0029】の異常モニタ用ラダープログラムには,上記の異常現象(判決注:工作機械MTに生じた異常現象)が起こったときに,その異常現象の発生によって信号の状態を切換えるものを入力要素とし,異常の種類毎に予め割当てられている出力要素の作動状態を切換えるラダー回路が用意されており,このラダー回路により,・・・その出力要素に対して予め割当てられているRAM23内のアドレスに記憶されているデータが書き換えられるなどといった記載によれば,PLC本体はRAM23に異常モニタ用ラダープログラムを備えており,同プログラム(原告の主張にいうモニタプログラム)は,PLCシステムの制御対象(工作機械MT)の異常現象の発生を,いわば直接的に監視(モニタ)しているといえる。
すなわち,本発明においては,PLC本体に,制御対象の異常現象の発生を直接的に監視する(モニタする)プログラムが備えられている。ウ
表示装置が備えるプログラム
本件明細書の【0031】には,操作盤10は,……プログラマブル・コントローラ本体20の……RAM23のアドレスの内容を読み込むようにプログラムされており,異常現象が発生したのに対応して対応するアドレスのデータが変化したことを認識する。……操作盤10は発生した異常現象の種類を認識する。との記載がある。この記載によれば,操作盤10(表示装置)は,PLC本体のRAM23のデータの変化を認識することによって,PLCシステムの制御対象(工作機械MT)に発生した異常現象の種類を認識する。そして,この動作は,操作盤10がプログラムされることによって実現されている。操作盤10が有するプログラム等について,本件明細書には,(操作盤10に備えられた)ROM12に図10から12に示す処理手順(異常モニタ処理と異常画面表示処理ならびに回路モニタ表示処理)を実行するシステムプログラムが記憶されている旨【0024】,及び,(操作盤10に備えられた)CPU11が,異常モニタ処理と異常画面表示処理をすることで状態表示され,回路モニタ表示処理をすることで回路モニタないしラダー回路の表示が行なわれる(【0025】)旨が記載されていることからすれば,本件明細書等に接する当業者は,操作盤10が,上記動作を司るプログラム(原告の主張にいう変化認識プログラム)を有していると理解すると認められる。
そうすると,本発明においては,PLC本体が備える上記イのプログラムと別に,表示装置が備えるプログラムがあり,その機能は,制御対象の異常現象の発生を,PLC本体のRAM23のデータの変化を通じて,いわば間接的に監視する(モニタする)することであると理解される。そして,本件明細書の【0036】の操作盤10が異常現象の発生をモニタしたときには,……との記載におけるモニタの語は,このように間接的な監視という意義で用いられたものと解される。


本件訂正の適法性

本件訂正の前後いずれにおいても,本発明は,特許請求の範囲の機械・装置・設備等の制御対象を制御するプログラマブル・コントローラにおいて用いられる表示装置であって,……を有し,……を含むことを特徴とする表示装置という文言から明らかなように,表示装置の発明であるから,構成Bの前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムは,一義的に表示装置が有するプログラムであって,PLC本体のプログラムではない。
そして,上記⑴ウに検討したとおり,本件明細書には,表示装置が有するプログラムとして,制御対象の異常現象の発生を,PLC本体のRAM23のデータの変化を通じて,間接的に監視する(モニタする)プログラムが開示されている。そうすると,本件明細書に接する当業者は,本件訂正で付加された当該異常現象が発生したのに対応して,前記プログラマブル・コントローラの対応するアドレスのデータが変化したことを認識するプログラムはこの間接的な監視プログラムを指すものと理解できる。したがって,本件訂正は,前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムの内容を,本件明細書に開示された当該異常現象が発生したのに対応して,前記プログラマブル・コントローラの対応するアドレスのデータが変化したことを認識するプログラムに限定するものといえるので,特許請求の範囲の減縮に該当する(仮にそうでないとしても明瞭でない記載の釈明に該当する)とともに,明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものであり,原告主張の訂正要件違反はない。

なお,上記アのとおり,本件訂正で付加された構成要件Bの文言中のプログラマブル・コントローラは,PLC本体を意味する。これに対し,構成要件Aのプログラマブル・コントローラは,プログラマブル・コントローラにおいて用いられる表示装置であってという同構成要件の文言からすれば,PLC本体と表示装置を併せたPLCシステム全体を指すと解するのが素直であるから,構成要件Bにおいて,Aのプログラム・コントローラを受けた前記プログラマブル・コントローラという文言を用いたのは不適切であったといえる。しかし,既に検討したところに照らせば,両者が異なるものであること,構成要件Bの前記との文言は誤記であることが明らかであるといえるから,この点は,訂正の適否に影響を及ぼすものではない。



原告の主張について

原告は,モニタプログラム(PLC本体が備えるプログラム)と変化認識プログラム(表示装置が備えるプログラム)とは別のプログラムであり,本件訂正は,訂正前の請求項1に記載されていたモニタプログラムを訂正後は変化認識プログラムに入れ替えるものであること等を理由に,本件訂正は訂正要件に違反する旨主張する。
しかしながら,請求項1の構成要件B~E及びGの記載ぶりからすれば,構成要件Bが構成要件Gの表示装置を特定する事項であることは,本件訂正の前後を通じて一貫して明らかである(更にいえば,前件訂正の前後を通じても明らかである。)から,構成要件Bの制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムが,本件明細書によればPLC本体に内蔵されるものであることが明らかな異常モニタ用ラダープログラム(モニタプログラム)を指すと理解されることはあり得ない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

原告は,前件訂正が請求され認容されたことは,モニタプログラムが表示装置の構成であるとの理解を支持するものである旨主張する。
しかしながら,表示装置に,制御対象(工作機械MT)の異常現象を直接的に監視するモニタプログラムが内蔵されることは,本件明細書には一切記載されておらず,これを示唆する記載も見出しがたい。そうすると,原告の上記主張は,前回訂正の根拠についての原告独自の理解に基づくものにすぎず,採用することができない。

2
取消事由2(進歩性判断の誤り)について


相違点1の認定について
原告は,審決の認定した相違点1は次のとおり整理すべき旨を主張するところ,これを被告は特段争っておらず,当裁判所も相当と認める。相違点1A:

出力要素又は入力要素をタッチによって指定すること

相違点1Bア:入力要素が指定された場合に出力要素検索を行うこと相違点1Bイ:出力要素が指定された場合に入力要素検索を行うこと⑵

甲12技術を第1副引用例とする論理付けについて

原告は,相違点1A及び相違点1Bアの構成は甲12に開示されており,残る相違点1Bイの構成も,甲12自体において示唆されている旨主張する。そして,その理由として,回路モニタにおいて指定する要素は入力要素又は出力要素のいずれかしかない。そして,タッチによる指定を入力要素のみに限定し,出力要素を指定する場合には別の方法をとらなければならない理由は存在しない。そのため,当業者であれば,甲12の記載からタッチによって出力要素を指定することを容易に把握する。したがって,甲12にはタッチによって出力要素を指定することが示唆されている。と述べる(上記第4の2⑶イ)。
しかしながら,原告の主張は,甲12に係る特許出願が,相違点1Bア(遡及検索)のみを対象とする発明として出願されているという事実を軽視するものであるといわざるを得ない。すなわち,相違点1Bアの対象である遡及検索は,制御対象機器の不具合の原因を探知するための手段として,PLCシステムが稼働する工場等の現場においてしばしば生じ得ると考えられるのに対して,これと逆方向の検索(ラダー回路を降る検索であって,相違点1Bイに係る検索)は,日常的に必要になるとは考え難く,せいぜい,遡及検索で遡りすぎた場合に戻る場面で必要となるにすぎない(本件審決において,ラダー回路を下降する検索が下降検索等ではなく戻り検索と称されているのは,このような事情を表しているといえる。)。そのため,当該技術分野において,遡及検索の利便性を高めることは十分に課題となり得るものであって,甲12に係る発明も,これを課題として考案されたものであるといえるのに対し,ラダー回路を下降する検索は,課題として意識されるようなものであるとは言い難いのであって,甲12に係る特許出願が,遡及検索のみを対象としているのもそのような事情があったからであると考えられるのである。そうすると,甲12の記載に接した当業者が,ラダー回路を下降する検索の方法についてまで意識を向けるとは必ずしもいえず,これが当然に容易であるとするのは,いわゆる後知恵との批判を免れない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

原告は,相違点1Bイの構成は甲5に開示されているから,甲12技術に加えて甲5技術を適用することにより本件発明の構成に至る旨主張する。しかしながら,甲5は,PLCにインストールするラダー回路の作成・編集を支援するツールとしての,パソコン上で動作するプログラミングソフトウェア(12頁にいうGPPQ)のマニュアルである。同ソフトウェアには,ラダー回路の作成・編集を行う際の操作として,接点をカーソルで指定することによりコイルの検索を行い,コイルをカーソルで指定することにより接点の検索を行う態様が開示されているが,その目的は,回路の作成・編集を行うに当たっての便宜のため,既に作成した上流又は下流のラダー回路を検索することにあると解される。
これに対し,引用発明は,プログラマブル・コントローラと接続され,制御対象の運転制御に用いられる表示装置であり,その備えるプログラムは,PLCシステムによる運転制御中に異常現象が発生した場合に異常が生じた制御対象を特定する等の目的で,PLC本体にインストール済み(その当然の前提として作成済み)のラダー回路を探索して表示するプログラムである。
そうすると,引用発明の表示装置が備えるラダー回路の探索・表示のためのプログラムと,ラダー回路の作成・編集のための甲5技術とは,技術分野が共通せず,解決すべき課題や機能作用の関連性もないから,甲5技術を引用発明に適用する動機付けは見出し難い。
したがって,相違点1Bイを克服するために甲5技術を適用することを当業者が容易に想到し得るとはいえず,原告の上記主張は採用することができない。

以上によれば,甲12技術を引用発明に適用することの阻害要因の有無について判断するまでもなく,本件発明が甲12を第1副引用例として容易想到であるとはいえない。



甲5技術を第1副引用例とする論理付けについて

原告は,ⅰ)相違点1Bア及びイを甲5技術の適用により克服し,ⅱ)相違点1Aを周知技術の適用により克服する,との論理付けにより容易想到性を主張する。
しかしながら,甲5技術の引用発明への適用が容易想到であるとはいえないことは上記⑵イのとおりであるから,原告の主張は,ⅰの点において既に理由がなく,ⅱの点について検討するまでもなく,採用することができない。


したがって,甲5技術を引用発明に適用することの阻害要因の有無について判断するまでもなく,本件発明が甲5を第1副引用例として容易想到であるとはいえない。



よって,本件発明が引用発明に対して進歩性を欠如しないとした本件審決の判断に原告主張の誤りはない。

3
結論
以上によれば,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦上田卓哉都野道紀
裁判官

裁判官
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