判例検索β > 令和2年(ネ)第10062号
商標権侵害差止等請求控訴事件 商標権 民事訴訟
事件番号令和2(ネ)10062
事件名商標権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日令和3年5月19日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別商標権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2021-05-19
情報公開日2021-06-15 18:02:44
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令和3年5月19日判決言渡

令和2年(ネ)第10062号
(原審東京地方裁判所

商標権侵害差止等請求控訴事件

平成30年(ワ)第35053号)

口頭弁論終結日令和3年3月8日

控訴人


ハリスウイリアムズデザインインコーポレイテッド
(以下控訴人ハリスという。)

控訴人

株式会社アイインザスカイ
(以下控訴人アイインザスカイという。)

控訴人ら訴訟代理人弁護士

被控訴人

遠山光貴

株式会社ブライト
(以下被控訴人ブライトという。)

被控訴人

Y
(以下被控訴人Yという。)

被控訴人ら訴訟代理人弁護士

中野丈


弁理士

飯島紳行


弁理士

藤森裕司


弁理士

伊藤大地

主文1
本件控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は控訴人らの負担とする。
3
控訴人ハリスのために,この判決に対する上告又は上告受理申立てのための附加期間を30日と定める。
事実及び理由

第1控訴の趣旨
1
原判決を取り消す。

2
被控訴人ブライトは,原判決別紙本件標章目録記載の標章を付した原判決別紙商品目録記載の商品を譲渡し,引き渡し,輸入してはならない。
3
被控訴人ブライトは,原判決別紙商品目録記載の商品の広告に,原判決別紙本件標章目録記載の標章を付して,これを展示し,頒布してはならない。
4
被控訴人ブライトは,第1項に記載した商品を廃棄せよ。

5
被控訴人らは,連帯して,控訴人ハリスに対して282万5758円及びこれに対する平成30年1月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

6
被控訴人らは,連帯して,控訴人アイインザスカイに対して1130万3030円及びこれに対する平成30年1月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要等(略称は,特記しない限り原判決のそれに従う。)1
本件は,商標権者である控訴人ハリス及び控訴人ハリスから当該商標について独占的通常使用権の設定を受けた控訴人アイインザスカイが,被控訴人ブライトによる原判決別紙本件標章目録記載1ないし9の標章(本判決においては,総称して被告各標章という。)が付された男性用下着の輸入,販売,所持及び被告各標章を付した広告掲載の各行為が控訴人らの商標権ないし独占的通常使用権を侵害すると主張して,被控訴人ブライトに対し,商標法36条1項及び2項に基づき被告各標章を付した原判決別紙商品目録記載の商品の譲渡,引渡し,輸入の停止及び被告各標章を付した広告掲載の停止並びに当該商品の廃棄を求めるとともに,被控訴人ブライト及び被控訴人Yに対し,民法709条,民法719条1項及び商標法38条2項に基づき損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,控訴人らの請求をいずれも棄却したので,控訴人らは,これを不服として控訴した。
2
前提事実
原判決事実及び理由第2,2(原判決3頁6行目から5頁17行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

3
争点
原判決事実及び理由第2,3(原判決5頁18行目から23行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

4
争点に対する当事者の主張
後記第3のとおり当審における補充主張を付加するほかは,原判決事実及び理由第2,4(原判決5頁24行目から20頁18行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

第3当審における補充主張
(以下,原判決及び当事者が依拠している最高裁平成15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁を最高裁平成15年判決という。)1
第1要件について

〔控訴人らの主張〕


第1要件は,商標を付したことについての適法性のみでなく,商標を付した商品が商標権者の意思により流通に置かれることをも要求していると解される。その理由は以下のとおりである。
第1に,最高裁平成15年判決が流通に置いたを要件としなかったのは,同判決の事案においては,並行輸入業者が輸入した商品が,商標権者と商標実施権者との間の契約の製造地制限条項に違反して製造されたものであり,製造した時点で当該商品に付された標章が適法に付されたものとは評価できなかったため,それ以上に流通に置いたという要件を課する必要がなかったからにすぎない。
第2に,最高裁平成15年判決は各要件をそのまま事案に当てはめることをせず,具体的事情を上げた上で出所表示機能を害する,品質保証機能が害されるおそれがあると判断している。したがって,各要件は出所表示機能,品質保証機能を害するか否かの見地から解釈されなければならず,第1要件が流通に置いたことという文言を用いていないからといって,これを不要であると解釈すべきではなく,出所表示機能を害する場合には第1要件を充足すると解釈すべきである。
第3に,第1要件が商標を付したことの適法性のみを要求しているとするならば,たとえば,商標権者が商標を付したが品質に問題があり廃棄予定であった商品や,工場からの横流し品についても第1要件を具備することになり不当である。


上記のとおり第1要件を正しく解釈すると,Mゴルフ社の被控訴人ブライトに対する本件商品の販売は,本件代理店契約の解除後であるから,本件商品は商標権者の意思により流通した商品ではなく,第1要件を充足しない。なお,控訴人らは,本件代理店契約の解除によって,Mゴルフ社が商品の所有権を喪失したとか,商品の返還義務を負うに至ったとまで主張するものではない。しかし,本件代理店契約上,Mゴルフ社は,代理店契約解除後は,商品を他に販売してはならないものとされている上,販売代理店契約は商標使用許諾契約を兼ねるため,その解除後は,Mゴルフ社による商品の販売は商標権を侵害するものとして禁止されることとなり,いずれにせよ,商品を他に販売することはできない立場にあったのであるから,それにもかかわらず商品を他に販売したとしても,それによって商品が商標権者の意思に基づいて流通に置かれたと評価することはできない。



また,本件代理店契約では,Mゴルフ社の販売地域はシンガポールに限定されていた。この制限に違反して本件商品を日本へ輸出したことは,本件代理店契約の本質的部分の違反であり,第1要件を充足しない。
なぜなら,販売地域の制限は,地域ごとの気候の相違,再輸出による輸送・保管の長期化により,品質上の問題を生じる可能性があるために付された条項だからである。また,Mゴルフ社が支払ったロイヤルティには,他国への輸出行為に対する対価は含まれておらず,日本への輸出は,ロイヤルティを支払わない商標の使用行為といえるからである。


なお,被控訴人ブライトが保有する本件商品の全てについてMゴルフ社から輸入した物であること(ランピョン社を出所とすること)が立証されていないから,そもそも,商標権者が商標を付したこと自体,立証されていない。

〔被控訴人らの主張〕


控訴人らの上記⑴の主張に対し
商標権者によって製造され,商標が商品に付された後に,その商品がどのような流通経路を経たかについては,元来,商標それ自体が示せる事柄ではなく,商標に対して予定され,期待されている出所表示機能とは直接関係しない。このため,商標権者等によって適法に商標が付されていれば,その商品が,その後に商標権者等の意思に基づいて流通に置かれたことを要件としなくとも,出所表示機能が害されることはない。
したがって,第1要件を,商標を付した商品が商標権者の意思により流通に置かれることも必要であると解釈すべき理由はない。



同⑵の主張に対し
仮に,商品に商標が商標権者等によって適法に付されるのみならず,商標権者等によって流通に置かれることまでが要求されるものだとしても,本件では,商標権者等である控訴人ハリス及びランピョン社によって,商品が流通に置かれたものであり,並行輸入の違法性阻却の要件に欠けることはない。その後に本件代理店契約が解除されたという理由によって,さかのぼって商品が流通に置かれなかったと評価されるように引き直されるものではない。⑶

同⑶の主張は争う。



同⑷の主張に対し
そもそも控訴人らは,控訴人ら主張の商標権侵害にかかる被控訴人ら保有の商品について,具体的な特定をしていない。個々の商品についての立証を被控訴人らに求めるのであれば,その前に,控訴人らにおいて,商標権侵害にかかる個々の商品全てを特定して主張すべきである。
なお,ランピョン社とMゴルフ社との関係及び本件各証拠によって,被控訴人らの保有する商品が,ランピョン社からMゴルフ社を通じて被控訴人らが輸入するに至ったものである事実は,十分合理的に推認される。
2
第3要件について

〔控訴人らの主張〕


販売地域制限条項は,商品が最終消費者に販売されるまでの間の品質を商標権者がコントロールするために重要な条項であるから,同条項への違反は商標の品質保証機能を害する。



本件商品にはシールを剥がした跡があり,広告に訳あり/パッケージ汚れとの記載があった。これらの事情は,入手過程で何らかの人為的な不正行為が加えられたのではないかという不安を需要者に与え,ひいては本件商品の品質に対する信頼を疑わせることになるから,品質保証機能を害する。また,このシールは,同国の通貨やバーコードが印刷され,シンガポールのみで流通させるために貼られていたものであり,これを剥がすことによって日本での流通を可能とすることは,流通の経路を変え,輸送時間の長期化や保存環境の変化の結果商品の品質を変化させるおそれがあり,品質保証機能を害する。



控訴人ハリスは,正規代理店を経由して日本に輸入された商品については交換に応じる等の保証をしており,品質について独自の信用を構築している。本件商品は保証の対象外であり,本件商品の購入者は,商品に欠陥があった場合も交換等を受けられない。控訴人ハリスの保証を受けられないことは,品質保証機能を害する。
〔被控訴人らの主張〕


控訴人らの上記⑴の主張に対し
製造場所や製造方法等,製造に直接に関する合意についての違反は,商品の品質に決定的な影響を及ぼし得るものであるため,そのような商品の輸入については,品質保証機能の点から商標権者を保護すべき度合いが強いといい得るが,販売地域制限条項に違反して商品が輸入された場合には,品質への影響というものは考え難い。



同⑵の主張に対し
シールの有無やパッケージの汚れは,商標の品質保証機能とは関係がない。


同⑶の主張に対し
本件商品のような消耗品について,控訴人らが主張するようなアフターサービス体制が備わっていることや,これを意識し期待して需要者が商品を購入の意思決定をしているとは,いずれも考え難い。

3
並行輸入の違法性阻却と販売行為の態様との関係について

〔控訴人らの主張〕
仮に,被控訴人ブライトの輸入行為が違法性を阻却されるとしても,商標権者が許容しない方法で広告宣伝及び販売をする行為は,違法性を阻却されない。被控訴人ブライトは,3600円程度で販売されるべき高性能アンダーウェアである本件商品を2000円未満で販売し,広告宣伝においても訳あり/パッケージ汚れの表示を付し,シールを剥がした跡のある写真を掲載する等しており,このような広告宣伝及び販売の態様により,需要者は,高性能アンダーウェアとしての品質に疑問を抱くとともに,工場横流し品や廃棄予定品等の商標権者の意思によらずに流通した商品であることを想起するから,品質保証機能が害されている。
〔被控訴人らの主張〕
争う。控訴人らの主張する,被控訴人らの販売方法等は,せいぜい事実上のブランドのイメージの問題であって,品質保証機能をはじめとする商標権の問題ではない。
第4当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人らの請求にはいずれも理由がなく,棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおりである。
1
争点1(原告商標と被告各標章の類否)について
当裁判所も,被告各標章はすべて原告商標に類似すると判断する。その理由は,原判決事実及び理由第3,1(原判決20頁20行目から23頁5行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

2
争点2(被控訴人らの本件各行為がいわゆる真正商品の並行輸入として商標権侵害の違法性を欠く場合に当たるか)について


前提事実
この点に関し,判断の前提となる事実は,原判決24頁22行目の本件代理店契約においてから同25頁8行目末尾までを下記のとおり訂正するほかは,原判決第3,2,⑵及び⑶(原判決23頁12行目から29頁17行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
また,控訴人ハリスやランピョン社が代理店との間で取り交わしている一般的な代理店契約書(甲33の1,2)においては,①販売代理店は,一定の地域以外の場所で直接的又は間接的に製品を販売,配布等しない旨(以下「地域制限条項という。)が定められ,また,②販売代理店は,販売代理店契約が解除された後は,製品の販売を中止しなければならず,商品の売主(商標権者等)は,当該商品を買い戻す権利を有すること(以下販売禁止等条項という。)が定められていることが認められる。ランピョン社がMゴルフ社との間で,上記の代理店契約書に基づく契約を締結した事実を認めるに足りる証拠はなく,また,ランピョン社がMゴルフ社に交付したとされる意向表明書にも,上記①,②のような条項が記載されていたことを認めるに足りる証拠はないが,Mゴルフ社も2UNDRブランドの商品を扱う販売代理店の一つであって,他の販売代理店と異なる扱いを受ける理由も見当たらないことからすると,Mゴルフ社との間でも,販売代理店に一般的に適用されていたと考えられる地域制限条項や販売禁止等条項が,明示ないし黙示の合意により適用されていた可能性があることは否定できないものと考えられる(これを疑わせるような証拠はない。)。そうであるとすると,Mゴルフ社についても,これらの条項が適用される可能性があることを前提とした検討を行う必要があるものと考えられる。ただし,本件において,ランピョン社が,上記の買戻権を行使したことを認めるに足りる証拠はないから,買戻権が行使されたことを前提とした検討を行う必要はない。」


最高裁平成15年判決について
同判決は,いわゆる真正商品の並行輸入について,それが①当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり(以下第1要件という。),②当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係にあることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって(以下第2要件という。),③我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合(以下第3要件という。)には,商標権侵害としての実質的違法性を欠くと判断した。
この判決は,商標権者から商標の使用許諾を受けた上で,当該商標を付した商品を製造販売した者から,当該事件の被告が商品を輸入したという事案に関するものであった。これに対し,本件の事案は,商標権者が自ら商品を製造してこれを販売代理店に売却し,その販売代理店から被控訴人ブライトが商品を輸入したという事案であり,製品が商標権者自らの手によって製造されていたかどうかという点において,重大な違いがある。このため,後述のとおり,上記の3要件を事案の違いに応じて変容させる必要がないのかという点が問題になり得るものの,基本的には,上記の3要件をベースとして被控訴人ブライトによる輸入行為が実質的に違法性を欠くものであるかどうかを判断すべきであると解されるので,以下,各要件について判断する。⑶

第1要件について

上記のとおり,第1要件は,当該商標が当該商標権者等によって適法に付されたものであるかどうかを問題とするのに止まるから,この要件をそのまま適用する限り,商標権者が製造した本件商品の輸入が問題になっている本件においては(控訴人らは,本件商品の全てが,ランピョン社がMゴルフ社に販売した商品であることは立証されていない旨主張するが,既に認定したとおり,Mゴルフ社は,かつてはランピョン社の販売代理店であり,同社から正規の2UNDR商品を購入し,保有していたことが認められ,また,被控訴人ブライトがMゴルフ社から輸入した商品の点数(2387点)は,Mゴルフ社が,ランピョン社から購入し,上記輸入直前の時点において保有していたとしてもおかしくない商品の点数(2448点)の範囲内であるのに対し,被控訴人ブライトが輸入した商品が,上記とは他のルートで入手されたものであったことを疑わせるような証拠は全くないのであるから,本件商品が真正商品であることを否定することはできないものというべきである。),第1要件が満たされることは明らかであるし,本件代理店契約の解除や,地域制限条項の存在などといった控訴人ら主張の事情は,この判断に何ら影響を及ぼすものではないということになる。そして,これが被控訴人らの主張するところでもある。

これに対し,控訴人らは,本件事案においては,第1要件は,単に適法に商標が付されたことだけではなく,適法に商標が付された商品が,商標権者の意思に基づいて流通に置かれたことまで要求するものとして理解すべきであると主張する。
たしかに,最高裁平成15年判決の事案は,商標が,商標権者自身ではなく,商標権者から使用許諾を受けた者によって付された事案であったため,使用許諾権者がその権原に基づいて商標を付したのかどうかという意味において,商標が適法に付されたのかどうかが問題となる余地があったのに対し,本件事案のように,商標権者自身が商品を製造販売している事案では,この要件が問題になることはほとんど考えられず,果たして,商標が適法に付されたかどうかのみを単独の要件とする意味があるのかという点が問題となり得る。この点や,最高裁平成15年判決以前には,本件事案のような事案に関し,商標権者が当該商標を適法に付して流通に置いたことを要件とする見解が有力であり,このように適法に流通に置いたことを要件とすることは,非正規のルートで入手された商品が並行輸入された場合を排除するという意味を持ち得るものであることを併せ考えると,最高裁平成15年判決とは事案が異なる本件においては,商標が適法に付されたかどうかだけではなく,それが適法に流通に置かれた(あるいは,商標権者の意思に基づいて流通に置かれた。以下,同じ。)かどうかも問題とする必要があるという見解もあり得るものと考えられる。その意味で,控訴人らの主張にはもっともなところがあるといえる。しかし,仮にそのように考えるとしても,本件において,Mゴルフ社は,ランピョン社から正規に本件商品を購入したのであるから,この時点において,本件商品が適法に流通に置かれたことは明らかである。そして,本件代理店契約の解除や地域制限条項の存在といった控訴人ら主張の事情は,上記の判断を左右するに足りるものではないと考えられる。その理由は,次のとおりである。

すなわち,まず,本件代理店契約解除との関係について検討すると,前認定のとおり,Mゴルフ社は,上記解除によって本件商品を販売してはならない義務を負うと解する余地はある。しかし,このような条項があるからといって,Mゴルフ社が本件商品の処分権限を失うわけではない(本件代理店契約解除によって,直ちにMゴルフ社の本件商品に対する所有権が失われるものではないことは控訴人ら自身が自認しているところであるし,ランピョン社が買戻権を行使した事実が存在しないことも既に指摘したとおりである。)。そうであるとすると,Mゴルフ社が,本件代理店契約解除後に本件商品を売却したとしても,それは,ランピョン社との間で債務不履行という問題を生じさせるだけで,本件商品が適法に流通に置かれたという評価を覆すまでのものではないというべきである。実質的に見ても,Mゴルフ社が正規に購入した商品を,本件代理店契約解除後に他に売却したからといって,直ちに商標の出所表示機能が害されるとはいえないのであって,この点からしても,第1要件該当性を否定する理由はない。この点は,地域制限条項との関係についても同様であり,地域制限条項は,あくまでも債権的な効力を有するにすぎず,Mゴルフ社による本件商品の処分権限を奪うものではないのであるから,これに違反した処分がされたからといって直ちに,本件商品が適法に流通に置かれたという評価が覆るものではないというべきである。実質的にみても,Mゴルフ社が正規に購入した商品を制限地域外で販売したからといって直ちに商標の出所表示機能が害されるとはいえないのであって,この点からしても,第1要件該当性を否定する理由はない(なお,最高裁平成15年判決は,地域制限条項違反を理由の一つとして第1要件該当性を否定しているので,この判断との関係についても念のため触れておく。同判決の事案は,商標の使用許諾契約において地域制限がされていたという事案であったため,使用権者は,そもそも,制限地域外において商品に商標を付す権限を有していなかった。このため,制限地域外で商標を付したとしても,それは適法に商標を付したことにならないとの評価を免れなかった。これに対し,本件事案において,Mゴルフ社の商品処分権限は何ら制約されていないことは既に説示したとおりであり,この点において,本件と最高裁平成15年判決の事案とは事案を異にするというべきである。)。

以上の次第で,第1要件の内容を最高裁平成15年判決の判断どおりとみた場合でも,それに適法に流通に置かれたこととの要件を加えたものとして理解したとしても,いずれにせよ,同要件は満たされているというべきである。



第2要件について
本件においては,控訴人ハリスが我が国における商標権者であると同時に外国における商標権者でもあるから,本件商品に付された商標と我が国の登録商標(原告商標)とが同一の出所を表示するものであることは明らかである。
なお,被控訴人ブライトは,我が国において被告各標章を利用した宣伝広告活動を行っているが,これは本件商品の輸入後の行為であることからすると,そもそも,かかる事情が第2要件該当性の判断に影響を及ぼすものであるのかは疑問である。また仮に,これらの事情を考慮に入れる必要があるとしても,原告商標と被告各標章が類似のものであることは上記1で原判決を引用して説示したとおりであるから,出所表示の同一性に影響を及ぼすものではなく,いずれにせよ第2要件該当性は肯定されるべきである。


第3要件について

最高裁平成15年判決における第3要件は,我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合であることというものである。
ところで,最高裁平成15年判決の事案は,商標権者自身ではなく,商標の使用許諾権者が商品を製造したという事案であった。そこで,商標に係る商品の品質保証のため,商標権者が,商標使用許諾権者(あるいは,その下請等の立場にあった者)の行為に対して,直接的に又は間接的に品質管理を行い得る立場にあったかどうかが重要な問題になり得たものである。これに対し,本件のように,商標権者自身が商品を製造している場合には,商品の品質は,商標権者自身が商品を製造したという事実によって保証されており,後は,その品質が維持されていれば品質保持機能に欠けるところはないといえる。そして,本件商品は男性用下着であって,常識的な期間内で流通している限り,その過程で経年劣化等をきたす恐れはないし,商標権者自身が品質管理のために施した工夫(商品のパッケージ等)がそのまま維持されていれば,商品そのものに対する汚損等が生じるおそれもないといえる。
そうであるとすると,少なくとも,本件のように商標権者自身が商品を製造している事案であって,その商品自体の性質からして,経年劣化のおそれ等,品質管理に特段の配慮をしなければ商標の品質保証機能に疑念が生じるおそれもないような場合には,商標権者自身が品質管理のために施した工夫(商品のパッケージ等)がそのまま維持されていれば,商標権者による直接的又は間接的な品質管理が及んでいると解するのが相当である。

そこで,以上の観点から,第3要件が満たされているかどうかを検討するに,本件商品と2UNDR商品の日本における販売代理店が販売する商品とが,登録商標の保証する品質において実質的に差異がないといえることは,原判決事実及び理由第3,2⑷オ(原判決31頁24行目から32頁17行目まで)に記載のとおりである。そして,商品のパッケージ等はそのまま維持されていたものと推認できるから,我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることとの要件も,満たされているものといってよい。

控訴人らは,地域制限条項は,商品が最終消費者に販売されるまでの間の品質を商標権者がコントロールするために重要な条項であるから,同条項の違反は商標の品質保証機能を害する旨主張するが,販売地域の制限に係る取決めは,通常,商標権者の販売政策上の理由でされるにすぎず,商品に対する品質を管理して品質を保持する目的と何らかの関係があるとは解されないから,上記主張は失当である(なお,最高裁平成15年判決の事案における地域制限条項は,商品を製造する地域を制限する条項という意味も持っていたため,どこで商品を製造するかは品質の保持に影響すると解する余地があった。これに対し,本件事案においては,商品自体は商標権者によって製造済みであり,それをどの地域で販売するかが問題になるのにすぎないのであるから,両者が全く事情を異にすることは明らかである。)。また,本件代理店契約が解除されたという事実も,第3要件の充足性に影響を及ぼす事情とはいい難い。


控訴人らは,本件商品の包装箱にシールを剥がした跡があることや,広告に訳あり/パッケージ汚れとの記載があることは,商標の品質保証機能を害する旨主張する。
しかし,包装箱(パッケージ)の汚れ等の不具合は,商品(男性用下着)自体の品質とは直接の関係がなく(パッケージの汚れが,単に表面にとどまらず,内部にまで影響を及ぼしていたことを認めるに足りる証拠はない。),本件商品の品質が控訴人らの扱う2UNDR商品の品質よりも実際に劣っていたことをうかがわせる証拠もない。また,訳あり/パッケージ汚れとの記載は,商品そのものではなく,そのパッケージに汚れがあることを訳ありと称しているのにすぎないものと理解できるから,これによって,2UNDR商品そのものの品質に疑念が生じるおそれはないものといえる。
したがって,この点に関する控訴人らの主張は失当である。

さらに,控訴人らは,控訴人ハリスは,正規代理店を経由して日本に輸入された商品については交換に応じる等の保証をしており,品質について独自の信用を構築しているところ,本件商品は保証の対象外であり,本件商品の購入者は,商品に欠陥があった場合も交換等を受けられないのであるから,控訴人ハリスの保証を受けられないことは,品質保証機能を害するとも主張する。
しかし,控訴人ハリスが,顧客からの要請に基づいて,商品の交換に応じることがあるというだけで,独自の品質管理体制が構築されていたとまでいうことはできないし,そのほかに,控訴人らが,商品の品質について,並行輸入を排除するのに足りるような独自の信用を構築していることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,この点に関する控訴人らの主張も失当である。



まとめ
以上の次第で,本件において,第1要件ないし第3要件は,いずれも満たされているというべきであるから,被控訴人ブライトによる本件商品の輸入行為は,実質的な違法性を欠くというべきである。

3
並行輸入の違法性阻却と販売行為の態様との関係について
控訴人らは,被控訴人ブライトの輸入行為が違法性を阻却されるとしても,商標権者が許容しない方法で広告宣伝及び販売をする行為は違法性を阻却されない旨主張する。
しかしながら,その理由として控訴人らが挙げる事情は,いずれも並行輸入の違法性阻却の場面で検討ずみのものであって,むしろ,上記2のとおり,商標の品質保証機能が害されていないことの理由ともなり得るものである。また,被控訴人ブライトは,被告各標章を利用して本件商品の宣伝,広告を行っているところ,被告各標章の中には,本件商標と完全に同一であるとはいい難いものも含まれているが,本件商標と類似するものであることは上記1で原判決を引用して説示したとおりであり,このような標章を使用することによって本件商標の機能を害しているとまではいえないから,この点も違法性阻却を否定するに足りる事情であるとはいい難い。
したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。
4
結論
以上によれば,控訴人らの主張には理由がなく,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当である。
知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官
鶴岡稔彦上田卓哉都野道紀
裁判官

裁判官
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