判例検索β > 平成25年(ワ)第46号
損害賠償請求事件
事件番号平成25(ワ)46
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和3年3月26日
裁判所名・部福島地方裁判所  いわき支部
結果その他
裁判日:西暦2021-03-26
情報公開日2021-06-08 16:01:03
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主1文
被告らは,別紙1-1原告等目録(第1次原告)から同1-3原告等目録(第3次原告)の認容額欄に金額の記載のある各原告に対し,各自,各原告に係る同別紙の同欄記載の金員及びこれらに対する平成23年3月11日から各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2
原告番号1387,
同1388,
同1480,
同1494,
同1497,
同1498,同1653,同1683,同1688,同1767,同2094,同2155,同2162,同2166~同2169,同2188,同2213,同2257,同2374,同2381,同2400,同2445,同3027,同3070,同3091,同3148,同3149及
び同3167(以下主文の項において,
原告番号1387らという。の被告ら

に対する各請求並びに原告番号1387らを除く原告らの被告東電に対する主位的請求及び被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。3
訴訟費用は,原告番号1387らと被告らとの間においては,
原告番号
1387らと被告らとの間に生じた費用は原告番号1387らの各負担と
し,原告番号1387らを除く原告らと被告らとの間においては,原告番号1387らを除く原告らと被告らとの間に生じた費用の13分の1を被告らの連帯負担とし,その余は原告番号1387らを除く原告らの各負担とする。
4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
ただし,被告らが,別紙1-1原告等目録(第1次原告)から同1-3
原告等目録(第3次原告)の認容額
欄に金額のある各原告に対し,
同認容額欄記載の各金員の担保を供するときは,当該担保を供した被告は,当該原告との関係において,その仮執行を免れることができる。事実及び理由

第1

請求
1
被告らは,連帯して,別紙1-1原告等目録(第1次原告)から同1-3原告等目録(第3次原告)の分類欄がD原告及びA原告の各原
告に対し,各25万円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

2
被告らは,連帯して,別紙1-1原告等目録(第1次原告)から同1-3原告等目録(第3次原告)の分類欄がC原告の各原告に対し,各50万円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

3
被告らは,連帯して,

(1)別紙1-1原告等目録(第1次原告)の分類欄がA原告の各原告に対し,各285万4180円及びこれに対する内189万4180円については平成25年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を,内96万円については平成26年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(2)別紙1-2原告等目録(第2次原告)の分類欄がA原告の各原告に対し,各349万4180円及びこれに対する内253万4180円については平成25年11月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を,内96万円については平成26年11月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(3)別紙1-3原告等目録(第3次原告)の分類欄がA原告の各原告に対し,各453万4180円及びこれに対する内357万4180円については平成26年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を,内96万円については平成27年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

4
被告らは,連帯して,

(1)別紙1-1原告等目録(第1次原告)の分類欄がB原告の各原告に対し,各128万円及びこれに対する内32万円については平成25年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を,内96万円については平成26年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。(2)別紙1-2原告等目録(第2次原告)の分類欄がB原告の各原告に対し,各96万円及びこれに対する平成26年11月1日から支払済みまで
年5%の割合による金員を支払え。
(3)別紙1-3原告等目録(第3次原告)の分類欄がB原告の各原告に対し,各96万円及びこれに対する平成27年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
5
被告らは,連帯して,

(1)別紙1-1原告等目録(第1次原告)の分類欄がD原告及びC原告の各原告に対し,各107万0307円及びこれに対する内71万0307円については平成25年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を,内36万円については平成26年3月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(2)別紙1-2原告等目録(第2次原告)の分類欄がD原告及びC原告の各原告に対し,各131万0307円及びこれに対する内95万0307円については平成25年11月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を,内36万円については平成26年11月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(3)別紙1-3原告等目録(第3次原告)の分類欄がD原告の各原告に対し,各170万0307円及びこれに対する内134万0307円については平成26年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を,内36万円については平成27年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要(本件の訴訟物と前提事実)
1
原告らの被告東電に対する請求
原告らは,被告東電に対し,主位的に不法行為(民法709条),予備的に原賠法3条1項に基づく損害賠償の一部として,各原告の属性(本件事故当時,18歳未満であったか,又は本件事故当時胎児であり,本件事故後に出生したA原告(平成
23年12月31日までに出生した原告),本件事故当時胎児ではなかったが,本件事故後に出生したB原告(平成24年1月1日以降に出生した原告),本件事故当時,妊娠していたC原告,これらの原告以外のD原告)に応じて,①A原告及びD原告について
本件事故直後の慰謝料各25万円及びこれに対する本件事故日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を(請求の趣旨第1項),②C原告について本件事故直後の慰謝料として各50万円及びこれに対する本件事故日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を(請求の趣旨第2項),③A原告について本件事故日から被告らが福島県いわき
市全域において空間放射線量が毎時0.
04μSvとなる原状回復措置を行い,
かつ,本件原発において各原子炉の廃止措置すなわち廃炉措置(以下これらの各措置を原状回復措置等という。)の終了まで1か月当たり本件事故継続分慰謝
料各8万円及びこれに対する各支払日(毎月末日)の翌日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の内の一部の支払を
(請求の趣旨第3項)

④B原告について本件事故継続分慰謝料各32万円及びこれに対する平成25年3月1日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金並びに同日,平成26年3月1日(別紙1-1原告等目録(第1次原告)の分類欄がB原告の各原告につき),平成25年11月1日,平成26年11月1日(別紙1-2原告等目録(第2次原告)の分類欄がB原告の各原告につき)又は
平成26年12月1日,平成27年12月1日(別紙1-3原告等目録(第3次原告)の分類欄がB原告の各原告につき)以降原状回復措置等の終了まで1か月当たり本件事故継続分慰謝料各8万円及びこれに対する各支払日(毎月末日)の翌日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の内の一部の支払を(請求の趣旨第4項),⑤C原告及びD原告について本件事故日から原状回復措置等の終了まで1か月当たり本件事故継続分慰謝料各3万円及びこれに対する各支払日(毎月末日)の翌日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の内の一部の支払を(請求の趣旨第5項),それぞれ求めている。
なお,請求の趣旨第3項,同第4項,同第5項の各請求は,本件事故日から原状回復措置等の終了まで毎月生じる慰謝料の累積額のうち,請求の趣旨第3項及び同第5項については本件事故日から各訴訟提起日の1年後までの期間に生じた慰謝料を,請求の趣旨第4項については各訴訟提起日からその1年
後までの期間に生じた慰謝料(ただし,平成25年(ワ)第46号事件に係るB原告については,その出生後,訴訟提起日までに生じていた32万円の慰謝料も併せて請求している。)を,一部請求しているものである。

原告番号1001,同1031,同1037,同1047,同1103,同1108,同1115,同1137,同1138,同1145,同1159,同1162,同1163,同1169,同1213,同1214,同1218,同1219,同1229,同1242,同1267,同1273,同1284,同1285,同1305,同1313,同1322,同1369,同1389,同1431,同1445,同1459,同1515,同1516,同1523,同1525,同1566,同1593,同1594,同1599,同1614,
同1670,同1675,同1676,同1689,同1724,同1747,同1772,同1793,同1802,同1816,同1822,同2010,同2015~同2018,
同2025,
同2050,
同2051,
同2057,
同2059~同2063,
同2081,
同2098,
同2116,
同2175,
同2178,同2179,同2220,同2228,同2248,同2256,
同2269,同2278,同2287,同2288,同2303,同2320,同2322,同2348,同2349,同2359,同2362,同2384,同2385,同2391,同2401,同2403,同2476,同2515,同2522,同2548,同2549,同2572,同2573,同3017,同3061,同3093,同3112,同3125及び同3142の各原告については,訴えの取下げにより終了した。
2
原告らの被告国に対する請求及び被告らに対する共同請求
原告らは,被告国に対し,国賠法1条1項に基づく損害賠償の一部として,上記1記載の各原告の属性に応じて,上記1①~⑤と同じ賠償金等の支払をそれぞれ求めている。
なお,原告らは,被告らが共同不法行為(民法719条)による責任又は原賠法上の責任と国賠法上の責任とが連帯するものとして,被告らの責任が不真正
連帯債務であると主張している。
3
前提事実(争いがない事実)

(1)原子力発電の仕組み

原子力発電は,原子炉(核分裂をコントロールしながら,核分裂によって発生する熱エネルギーを取り出す装置であり,燃料,減速材,冷却材,制御材等から構成され
る。で発生する熱で,

蒸気を作り,
その蒸気でタービンを回して発電を行う。

原子炉には軽水炉と呼ばれるタイプの原子炉が存在する。軽水炉のうち,原子炉で直接蒸気を発生させるのが沸騰水型軽水炉(BWR)である。軽水炉では,通常,ウラン235が数%程度含まれるウランを酸化物にして焼き固めたもの(ペレット)が,燃料として使用される。


BWRには,減速材(次の核分裂反応を引き起こしやすくするために,核分裂によって生じる高速中性子を速度の遅い熱中性子にするもの)及び冷却材(核分裂によって発生した熱を炉心から外部に取り出すもの)として,普通の水(軽水)が使用さ
れる。原子炉は,制御棒(核燃料の核分裂する量を調節するために使用される制御材を,
ペレットを被覆管と呼ばれる長さ4mほどの金属製のさやに密封した燃料棒の間に挿入できるようにしたもの)
を挿入して核分裂の連鎖を止めることにより停止
する。制御棒挿入後も崩壊熱が生じるため,原子炉を冷却し続ける必要がある。BWRの通常運転時には,核分裂が行われる炉心の出力すなわち核分裂の数が中性子を吸収する制御棒の位置の調整と炉心を流れる冷却水の流量の調整により一定となるよう制御されている。
(2)本件原発の概要等

本件原発は,福島県双葉郡双葉町及び同県同郡大熊町(以下福島県内の市町村について,県名及び郡名を省略する。にまたがり,いわき市の北約40kmに)

位置し,東側は太平洋に面している。本件原発は,昭和42年9月に1号機の建設に着工して以降,順次増設を重ね,6基の原子炉(いずれもBWR)がある(以下,本件原発の各原子炉を単に1号機2号機などという。。,


1号機から4号機は大熊町に所在し,その敷地は,海側エリア(取水のための海水ポンプが設置されている領域)がO.P.+4m,主要建屋エリア(使用済み燃料プールなどが収納されている原子炉建屋や,タービン発電機,復水器,給水ポンプなどが設置されているT/Bなどがある領域)がO.P.+10mであった。5
号機及び6号機は双葉町に所在し,その敷地は,海側エリアがO.P.+4
m,主要建屋エリアがO.P.+13mであった。

本件原発には,原子炉と一時冷却材ループ(炉心を通る水の系統),使用済み
核燃料プールなどが収納されている原子炉建屋
(R/B)
,タービン発電機
や復水器,給水ポンプなどが設置されているタービン建屋
(T/B)など
の設備のほか,地震などの災害が発生した際に緊急対策室を設置するための
免震重要棟
(震度7クラスの地震が起きても初動対応に支障がないよう,緊急時対策室や通信設備,電源設備,空調設備などを備えた免震構造の建物)が設置されて
いた。
なお,
本件原発の施設の概要図は,
別紙4-1
福島第一原子力発電所配置図のとおりである。


本件原発には,
事故等に備えて炉心を冷やし続けるための非常用冷却系統,
温度や機器の状況を監視したり,同冷却系統のポンプを動かしたりするための電源が用意されていた。非常用冷却系統は,高圧冷却系,低圧冷却系,ディーゼル発電機(DG)などを冷やすための冷却系の三つに大別される。高圧冷却系は,圧力容器内の圧力が高い場合でも冷却水を注入できるものであり,注入量は少ない。低圧冷却系は,圧力容器内の圧力が低い場合に使用されるものであり,
高圧冷却系と比較してより多量の冷却水を注入できる。
DGの冷却系は,非常時に使うDGやポンプのモーターを冷やすためのものである。
本件原発では,通常時,発電所の外から引かれている送電線の電気を使用
して原子炉の運転や監視を行っている(外部電源)
。この外部電源が,何らか
の原因によって停止した場合,
非常用DGが起動するように設計されている。
これは,軽油又は重油を使って発電する装置であり,原子炉1基につき,二,三台が設置されている。外部電源と非常用DGが供給する電源は交流電源であり,電源盤を通じて発電所内の各設備に配電される。

原子炉が何らかの原因によって停止すると,電源や冷却系統に異常がなければ,通常の給水系(タービンを回した後の蒸気を復水器に水で戻し,ポンプで圧力容器に送り込む系統)を使って冷却し,冷温停止の状態とする。仮に外部電源
が失われてしまった場合,非常用DGを起動して冷却を行う。
(3)本件地震及び本件津波の発生
平成23年3月11日午後2時46分,三陸沖(宮城県牡鹿半島の東南東約130km付近)において,深さ24kmを震源としてM9.0の地震(本件地震)が
発生した。震源域は,岩手,宮城,福島,茨城の各県沖にわたり,震源の長さは約500km,幅は約200kmとされ,双葉町及び大熊町では最大震度6強が観測された。
本件地震により,東日本太平洋岸の広範囲にわたり大津波(本件津波)が襲来し,遡上高(津波が内陸に駆け上がった結果,斜面や路面上に変色部や漂着物等の痕跡を残すが,その痕跡の平常潮位からの高さ)は最大40.1mに及び,被告東電によ
れば,
本件原発の検潮所設置位置における津波の高さは約13mと推定された。(4)本件地震による本件原発への影響
本件地震発生当時,1~3号機は運転中であったが,本件地震のためいずれも自動停止した。4号機は定期検査中であったため,本件地震発生当時,停止していた。
本件地震により,送受電塔が倒壊等し,本件原発の外部電源は全て喪失したため,1~4号機の非常用DGが起動した。
(5)本件津波による本件原発への影響

平成23年3月11日午後3時27分頃及び同日3時35分頃,本件原発に津波が到来し,その後も断続的に津波が到来した(本件津波)
。本件原発におけ
る浸水高は,O.P.+11.5m~15.5mであり,局所的にはO.P.+16m~17mと推定された。
本件津波は,本件原発において主要建屋エリアまで遡上したため,本件原発
の海側エリア及び主要建屋エリアはほぼ全域が浸水した。これにより,1~4号機の非常用DGは全て被水又は水没し,同日午後3時41分頃までにいずれも停止し,SBOに至った。
(6)放射性物質の飛散
本件原発において発生した炉心溶融又は水素爆発の結果,原子炉圧力容器,
格納容器,原子炉建屋が損傷したため,放射性物質が大気中に放出され,放射性物質を含んだ雲(プルーム)となって拡散した。
保安院は,平成23年4月12日,本件事故について,INESに基づき,レベル7
(深刻な事故)と評価した。
また,保安院は,同年6月6日,海洋汚染を含まない大気中に放出された放
射性物質の総量を77万テラベクレルと推計した。被告東電は,平成24年5月24日,大気中に放出された放射性物質の総量を90万テラベクレルと推計した。
(7)関連規定
別紙5関連規定(抜粋)のとおりである。
第3

争点
本件継続給付の適否(争点1)
本件事故についての民法709条の適用の有無(争点2)

3
被告国の規制権限不行使の違法の成否等(争点3)

4
被告東電の責任非難の成否(争点4)

5
相互保証の成否(争点5)

6
賠償すべき損害及びその額(争点6)

7
被告らの連帯責任の成否(争点7)

812
弁済の抗弁の成否(争点8)

第4

争点についての当事者の主張
別紙6当事者の主張のとおりである。

第5

当裁判所が認定した事実
以下の各事実が,
前提事実及び後掲証拠
(各項末尾に引用)
により認められる。

1
地震・津波に関する一般的知見等

(1)地震発生のメカニズム,地震地体構造論等

プレートテクトニクス
地球内部のうち,物質の流動のしやすさで地球内部を見ると,マントル内部の柔らかく流動しやすいアセノスフェアと呼ばれる部分があり,このアセノスフェアの上を固く流動しにくい大地すなわちリソスフェアが覆っている。このリソスフェアは,海洋で10~150km,大陸で100~200kmの厚さがあり,十数枚のプレート(玄武岩でできた板状の層)に分かれている。
それぞれのプレートは,
年数cm程度別々の方向に動いている
(プレート運動)

プレートの境界について,
プレート同士が遠ざかる発散境界
(海嶺,
地溝帯)

近づいて重なりあったりぶつかりあったりする収束境界(海溝すなわちトラフ,大山脈)などがある。この収束境界のうち,海洋プレートと大陸プレートがぶ
つかり合うと,相対的に地殻が薄く重い海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込み,海洋プレートが沈み込む場所で大きく下に曲げられ,その沈み込み口が海溝となる。

日本列島は4枚のプレートの収束境界にあり,日本列島東部を構成する北海道,
東北,
関東の各地方はほとんど動いていない北米プレートの上に載り,
その下に年9cmほど動く太平洋プレートが日本海溝で沈み込んでいる。その結果,例えば,東北日本の北部から南部まで同じように東から西へと陸側に押し込まれていることがGPSによる水平変動のベクトル図から確認でき
る(以上,甲A139の1・6~9頁,甲A140の1・4頁,甲A141の1・2頁,甲A180・7,8頁,甲A185・4頁)。


地震発生のメカニズム等

(ア)地震は,断層面と呼ばれる面を境に大地が急激にずれ,揺れを作り,その揺れ(地震動)が地震波となって地球の内部を伝わる現象である。震源での大地の動きすなわち断層運動は,正断層(断層面上を滑り落ちる向きの断層運動を持つ断層)逆断層

(断層面上をのし上がる向きの断層運動を持つ断層)

などに分類できる。海溝では,海洋プレートが大陸プレートに沈み込み,逆断層が起きる。断層は地震を発生させる源すなわち震源域であり,震源域の広がりが大きいほど断層のずれの量も大きい。断層面は地震発生時にいったん破壊されるが,その後再び固着する。しかし,ゆがみが蓄積されれば,過去の断層面が最も弱い面となっているので,同じ面が再び破壊され地震を発生することが予想される。
震源域の規模は,M(マグニチュード)によって表され,地震計で観測され
る地震波の最大振幅に基づいて計算する。この場合,震源は点として扱われるが,地震の規模が大きくなると,点として扱うことができなくなり,計算されるMの値が飽和し真の地震の大きさが表現されない。その飽和を避けるため,実際の岩盤のずれの規模(ずれた部分の面積×ずれた量×岩石の硬さ)を基にして計算するMw(モーメントマグニチュード)が用いられる。地震によるある場所での揺れの大きさは震度で表され,震源に近いほど揺れは大きくなる(以上,甲A139の1・10頁,甲A180・7頁,甲A185・5頁,甲A186・2~4頁,甲A235・35頁,甲A340・14,16頁,丙B104の1・3~9頁,丙B104の2・4~10頁)。

(イ)海溝では,上記(ア)のとおり,海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込み,両プレートの境界面で地震が起こる。この海溝に沿って起こる地震の多くは,
大陸プレートが地球表面に残る一方,
海洋プレートが地下に沈み込み,
両プレートの境界面が破壊しずれることにより発生する。この時の地震は,プレートが動くことによる軋みである。
プレートの境界面の岩塊は普通数十kmにわたって固く結びつき,このような広い範囲の固着域をアスペリティと呼ぶ。
プレートが沈み込む境界では,

この大きなアスペリティのずれによりM9となるような巨大地震が発生する。大きなアスペリティがずれると,そのずれは周辺の固着していない部分をも同時にずらし,更にその周辺の固着域にも力が及び,同時にずれて,境界上の広い面積が同時にずれて巨大地震となる。固着域が広いほど大きな力を支えることができ,この大きなアスペリティすなわち広い固着域にかかる力が
限界に達するには長い時間がかかる。よって,巨大地震の発生間隔は長く,100~数百年となる。
他方,
孤立した小さなアスペリティがあると,
小繰り返し地震が発生する。
プレートの境界上の狭い地域が固着していると,数年程度でその部分に加わる力が限界に達し地震が起こる。狭い固着域の周辺は固着せず,少しずつゆ
っくりずれている。周辺で大きな地震が起こるとこの狭い固着域にも力が及び,同時に又は遅れてずれる(以上,甲A139の1・10~13頁,丙B104の1・9~14頁,丙B104の2・13~22頁)。


地震地体構造論

(ア)地震地体構造論とは,地震と地体構造の関係を扱う研究分野であり,日本列島の地震の起こり方(規模,頻度,深さ,震源モデルなど)に共通性のある地域ごとに区分し,それと地体構造との関係を明らかにするものである。地震地体構造は,①地震の起こり方の共通している地域は,地体構造にも共通の特徴があること及び②地体構造が似ている地域内では地震の起こり方も似ていることが前提となる(以上,甲A340・2頁)。
(イ)過去の地震地体構造の研究としては,主に歴史地震活動から将来を予測す
る試みに関する研究,地体構造に注目してその区分けを試みた研究,活断層資料に重点を置いた研究がある。
昭和50年頃以降,大学及び国立機関において微小地震観測網が整備されており,定常的にデータ処理が施され,微小地震まで含めた詳細な震源分布が示された。気象庁の全国観測網で求められた震源分布と合わせて,総体的
に最近10年(昭和50年頃からの10年)間の短期間の微小地震活動が長期間の地震活動をかなりよく表していることが分かってきた。これを踏まえた地震分布によるプレートの形状の詳細,微小地震観測網から得られるデータによる三次元的な地下構造の推定等,微小地震活動に基づく地体区分,地震発生時に地震の原因となるゆがみを生じさせていた主応力軸方向に支配される
発震機構を調べることによりプレート相互の運動方向,その地域に予測される地震の大きさ,発生機構などを推定する発震機構に基づく地体区分,微小地震の震源分布と活断層分布などの研究成果が現れている。地形・地質学的な観察による活断層の調査も広く行われている
(以上,
甲A340・37,
57,
59,66,72,76,81,178頁)。

(ウ)以上のような成果・データの長さは,数百年程度に限られ,その間のデータとしては信頼がおける歴史地震や,同様に活動履歴が限られるが,180万年前まで遡ることができる活断層の活動履歴に加えて,地球物理学的諸量の相関を踏まえた総合的地震地体構造のマップ(以下萩原マップという。)の作成試案が提示された。
この実用的地震地体構造マップ作成のための地体構造区分すなわち萩原マップにおいて,日本海溝付近は,G1,G2,G3に区分され,G1における主な地震としては,
昭和27年の十勝沖地震
(被害地又は震央地名十勝沖)
及び昭和48年の根室沖地震などが,G2における主な地震としては,明治三陸地震,
昭和三陸地震及び昭和43年の十勝沖地震
(被害地又は震央地名青森
県東方沖)などが,G3における主な地震としては,昭和13年の福島県沖地
震及び昭和53年の宮城県沖地震などが,それぞれ示されている(以上,甲A340・178,190,192頁)。

(エ)また,主として,地殻内地震の規模の地域差を考慮し,併せて地震の頻度や発震機構とも調和のとれた区分となるように,日本列島の各地域に予想すべき最大地震の規模を示し,その内部で地震活動が共通と見なせる地域を,種々の地学的根拠に基づき区分したものとして,垣見マップがある。平成15年に公表された垣見マップ(平成6年の垣見マップを修正したものであり,以下垣見マップという場合には,平成15年の修正後のものを指す。)においては,
東北日本弧の日本海溝大陸斜面を,四つに区分し,そのうち三陸沖大陸斜面(8A2),常磐沖大陸斜面(8A3),房総沖大陸斜面(8A4)があり,8A2の主な地震(プレート境界付近の大地震域)として明治三
陸地震や慶長三陸地震などが,
8A3の主な地震
(プレート境界付近の大地震域)
として昭和13年の福島県沖地震などが,8A4の主な地震(プレート境界付近の大地震域)
として昭和38年の房総沖地震など(延宝房総沖地震は不確実である。)が,それぞれ示されている(以上,丙B17・390~392,394,395頁)。

(2)津波の発生の仕組み,数値化等

津波のメカニズム等

(ア)津波とは,
沿岸で異常な大きな潮の満ち引きが10分から数十分で起こり,
短くとも数時間続く現象である。津波が押し寄せてから次に押し寄せてくるまでの時間(周期)は10分~数十分と長く,それが数回から10回程度以上繰り返される。その高さは最初に来る第一波よりも,2~3回目の時に最高となることが多い(以上,甲A139の1・15頁)。
(イ)津波の原因は,広い地域の海底の上昇(隆起)と下降(沈降)である。海底の上昇又は下降によりその上の海水が上昇又は下降し,海面が水平面でなくなり,これを回復する動きが生まれ,それが津波となって伝わる。大地震が
海底下で発生すると,断層の動きにより広域の海底が上昇又は下降し津波が発生する。
水深が深い沖合で発生した津波が陸に近づくと,水深が浅くなり,伝わる速度が遅くなる。このため,後から来る波が追いつくようになり,波長が短くなるとともに,波が高くなる。また,伝わる速さが変化すると,反射,屈
折等を起こす。
津波の高さは,津波がない場合の平常潮位(天文潮位)から津波により海面が上昇したときの高さの差である。
陸に達する津波の高さは,通常,浸水高と遡上高とによって表される。海岸に柱を立てた場合にその柱のどこまでが水に浸かったかを示すのが浸水高
(平常潮位から津波痕跡までの高さ)である。なお,地表面を基準に測った津波
痕跡までの高さ,すなわち津波襲来時の地表上の水の厚さが浸水深である。遡上高は,津波が陸上を這い上がって到達した高さのことであり,陸地の地形によって変化する。遡上高により限界が画される,津波による浸水した範囲が浸水域である。浸水高及び遡上高の基準面は,本件原発においては小名浜港工事基準面(O.P.)が用いられ,日本地形図の標高の基準である東京湾平均海面(T.P.)の下方約0.727mである。
水深が非常に浅くなると,海底面が津波の動きを邪魔するので,その邪魔の度合いを考慮しなければならない。陸上に遡上した津波の挙動は,陸上の地形,構造物などは無論,地表の状態にも依存し,複雑になる(以上,甲A139の1・15頁,甲A180・11,23,24頁,甲A181・12頁,甲A185・7頁)。

(ウ)津波は陸地に近づき,水深が浅くなると急激に盛り上がり,垂直の壁となって海岸を襲い,その衝撃で物が壊れることがある。津波それ自体のエネルギーに加えて,大量の漂流物を抱えるため漂流物の衝突で陸上の被害が拡大する。また,引き波による被害も起こる。
津波による破壊力の大きさに関しては,木造家屋に対して,ほぼその場所での地上冠水厚さで表すことができるとの研究がある。冠水厚さが1m以下の場合,木造家屋は浸水するものの,ほとんど破壊されないが,1mを超え2m以下の場合,壁の剥落損傷等が生じ,2mを超えると全壊家屋が生じ始め,3m以上となると,土台だけ残して家屋が完全流失し始め,5,6mで
街区の家屋の大部分が流失し,8m以上では土台も流され,痕跡も残らない(以上,甲A180・15~18頁)。

(エ)津波が陸上に到達し岸壁を超えると,その厚さはほぼ岸壁の高さ分減じるが,流速は変わらないため,減じた分の水の厚さに不相応な速すぎる流速となる。このような波を射流というが,射流は建造物に打ち当たると非常に強い衝撃的な力を及ぼす。
津波は,海岸線部に到達するまで,海水が平均海面標準潮位を超えて盛り上がっている位置エネルギーと津波の進行方向に流れるという運動エネルギーを有する。陸上への遡上過程における護岸への衝突や地盤等との衝突により前進を阻まれた運動エネルギーの一部は強制的に位置エネルギーに変えら
れ津波の高さは高くなる。また,陸上の複雑な地形,障害物の影響によりその流れの方向が変わり,流れ同士がぶつかり合い,更にその高さが高くなるなどする。その結果,陸地に達した津波は,洪水の流れのように陸地に流れ込み,地形や構造物などにより更に高くなることがある。
しかも,津波の波長は長く,その周期も長いため,km単位で極めて広範囲に盛り上がった海水面が全体として陸に押し寄せ,長時間にわたり陸上に流れ込むものとして理解されるべきである。

以上のとおり,平坦な地形が陸地の奥まで続くような場合を除き,津波の陸上における浸水高や浸水域の限界点の高さは,本来の津波の高さを超える(甲A180・18~20頁)。

(オ)Mt(津波マグニチュード)は,津波の振幅に基づいて地震の規模を推定する尺度である。本来,Mtは,津波の振幅から地震の規模を推定する公式で
あるが,Mwと等しくなるよう設定されていることから,Mwが分かれば,Mtと等しいと仮定し,沿岸での津波の高さを推定できる(以上,甲A185・6頁,甲A186・3,4頁,甲A187・3頁)。


津波の数値シミュレーション

(ア)沿岸での津波の高さや到達時間を求めるためのシミュレーションは,大別すると,海底地殻変動計算と津波伝播計算の二段階に分かれる。
海底地殻変動計算は,地下の断層が動いたとして理論的に計算できるが,この場合,断層パラメータすなわち①断層の水平位置(緯度,経度)と深さ,②断層の大きさ,③断層の向き,④断層の傾き,⑤すべりの方向・大きさを
定める必要がある。①②の断層の水平位置・深さ・大きさと⑤のすべりの大きさはMから換算でき,どのような場所でどのような大きさの地震が発生しても対処できるよう,多数のシミュレーションを行う。④の断層の傾きと⑤のすべりの方向は,最も大きく津波を発生させるような設定である傾き(45°)の逆断層とする。

すなわち,断層は水平方向に約1500か所,深さは約0~100kmの間で6通り,またMは4通りを考えて,これらの断層一つ一つに海底の地殻変動を求める(以上,甲A185・8頁,甲A186・10頁,丙A121・2,3頁)。

(イ)一般に津波を発生させるような海底地殻変動は,数十km以上の広がりを持ち,津波が広がり始める前に地殻変動が完了するため,海底地殻の上下変動がそのまま地震発生直後に海面に生じる凹凸になると考えられる。このよ
うに得られる凹凸パターンを津波の初期波源とし,これが四方八方に伝わっていく様子を計算する。数値計算の方法として,計算領域を縦横の格子状に細かく区切り,各々の格子における津波の高さと速度について,津波伝播の方程式に従って時間を追って計算する。全ての断層に対してこのような計算を行い,沿岸に出現する津波の時間的変化の様子を再現する(以上,甲A18
5・8,9頁,丙A121・3,4頁)。

(ウ)津波警報の基準となる沿岸での津波の高さの予測について,シミュレーションで計算された沿岸における高さをそのまま使用するものではない。計算格子の大きさは一定にしているため,海岸近くの水深が浅く地形も複雑になってくる場所では,津波の再現精度が落ちてくると考えられる。これを解決
し,かつ,迅速に計算をするため,誤差がまださほど含まれていない沖合での津波の高さから,
グリーンの法則
(沖合の津波が沿岸の水深の浅い場所に来ると,
津波の速度が遅くなり,前の波と後ろの波との間隔が短くなるが,一波に蓄えられたエネルギーは同じであることから,波面が海岸線に並行して入射する場合には,波と波の間隔が短くなった分,結果として,波の高さが高くなる。)を用いて,海岸での高さ
を推定している
(グリーンの法則は,
波高が水深の半分を超えると適用できない。。

例えば,水深100mの地点の津波高さが1mなら,沿岸地点の推定津波高さは約3.16mとなる(以上,甲A180・12,13頁,甲A185・7,8頁,丙A121・4頁)

2
本件原発の設置許可と平成11年頃までの地震・津波の知見の状況等
(1)本件原発の設置許可,当時の指針,被告東電における当時の津波対策等ア
当時の安全審査の指針と1~3号機の設置許可処分等

(ア)原子力委員会は,原子炉の設置許可に関する審査の指針として,昭和39年5月27日,
原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやす
(以
下立地指針という。を策定した。

立地指針には,原則的立地条件として,万一の事故に備えて公衆の安全を確保するため,
大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが,将来においてもあるとは考えられないことと定められ,これに基づき津波に関する安全性審査を行っていた(以上,甲A368・1頁,丙A140・5頁)


(イ)被告東電は,昭和41年7月1日,当時の内閣総理大臣に対し,本件原発1号機の設置許可の申請をした。同申請書には,原子炉の型式,熱出力及び基数などが記載され,そのうち主要な施設である原子炉建家は鉄筋コンクリート造で,建物の基礎は直接岩盤に支持され,同敷地の整地面は標高約10mであると記載されていた。また,その添付書類6に,敷地南方約50
kmの小名浜港における潮位として,最高潮位O.P.+3.122m,最低潮位O.P.-1.918m(チリ津波)と記載されていた。
本件原発の建設予定地は,元々の地形が切り立った崖であり,津波の高さを考慮した安全の確保を前提に,コスト面や利便性なども考慮し,海水ポンプ等が設置されているO.P.+4mが最適で,建屋は同10m以上の敷地
高さとなっていた(以上,甲A30・6頁,甲A311・1~3頁,乙A4の1・28頁,丙A140・3頁)。

(ウ)昭和41年11月2日に原子力委員会に報告された,上記(イ)の申請に係る原子炉安全専門審査会の審査結果を見ると,①原子炉建設用地として整地される標高10m付近は,固結度の低い砂岩層であるが,原子炉建家等の主要建物は標高-4m付近の泥岩層に直接設置され,岩質は堅硬で支持地盤として十分な耐力を有すること,②敷地南方約50kmの小名浜港における観測記録は,チリ地震津波時の最高3.1m,最低-1.9mであったこと,③過去の記録によると,福島県近辺は会津付近を除いて全国的に見ても地震活動性(サイスミシティ)の低い地域であり,特に原子炉施設付近は地震による被害を受けたことがなく,敷地の地盤条件も良好であるので,地震が建物等に与える影響は小さいものと推定されること,④非常用電源として,原子
炉施設に必要な電力は,主発電機又は275KV母線から供給されるが,予備電源として66KV系送電線から受電でき,これらの電源が全て喪失しても,原子炉施設の安全確保に必要な電力は,ディーゼル発電機及び所内バッテリ系から供給できるようになっていること,⑤常用所内電源が全て喪失した場合には安全系も停電し,原子炉はスクラム(自動停止)され,その後の原
子炉の冷却は非常用復水器により行われるが,安全上重要な機器の操作に必要な電力はDG及び所内バッテリ系から供給されることとなっていた(以上,丙A67・1,2,6,9頁,丙A140・4頁)。

(エ)その後,順次,被告東電から2号機及び3号機の設置許可申請がされ,昭和43年3月~昭和45年1月,
これに対する許可処分がされた
(丙A140・

4頁)。


各指針の策定と4~6号機の設置許可処分等

(ア)原子力委員会は,昭和45年4月18日,同委員会の諮問に応じ,原子炉安全専門審査会が原子炉設置許可の際に行う安全設計審査に当たり審査の便となる指針として取りまとめた軽水炉についての安全設計に関する審査指針について(丙A7)の報告を受け,同月23日,同指針を定めた。その中で,原子炉施設の敷地の自然条件に対する設計上の考慮として,①当該設備の故障が安全上重大な事故の直接の原因となる可能性のある系及び機器
(重大事故,
仮想事故として評価の対象となる原子炉冷却材喪失事故の直接の原因
となる原子炉圧力容器及びその付属物,原子炉冷却回路を構成する機器,配管などである原子炉冷却材圧力バウンダリに属する機器,配管をいう。丙A7・6,8頁)は,その敷地及び周辺地域において過去の記録を参照にして予測される自然現象(敷地の自然環境をもとに地震,洪水,津浪,風(または台風),凍結,積雪等から適用されるものをいう。丙A7・8頁)のうち最も苛酷と思われる自然力(対象となる自然条件に対応して過去の記録の信頼性を考慮の上,
少なくともこれを下回らな
い苛酷なものを選定して設計基礎とすることをいう。丙A7・8頁)に耐え得る設計
であること,②事故による結果を軽減又は抑制するために安全上重要かつ必須の系及び機器(例えば,周辺公衆の安全確保のための最終防壁となる原子炉格納容器等をいう。丙A7・8頁)は,その敷地及び周辺地域において,過去の記録を
参照にして予測される自然現象のうち最も苛酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力(例えば,原子炉格納容器に関して地震力と原子炉冷却材喪失事故直後の内圧による荷重を加算して設計検討を行うことなどをいう。丙A7・8頁)に対し,
当該設備の機能が保持できるような設計であることを求めていた(丙A7・3頁)。

(イ)その後の昭和47年12月までに,
順次4~6号機の設置許可申請がされ,
これに基づく許可処分がされた。
4号機の許可申請の際,原子炉,原子炉建家等の機能喪失が原子炉事故を引き起こすおそれのある施設及び周辺公衆の災害を防止するための緊要な施設をAクラスとし,その耐震設計は基盤における最大加速度が少なくとも0.18g(ガル)の地震波により動的解析を行って求められる水平震度及
び建築基準法に示された水平震度(地域による低減は行わない。)の3倍を下回らない値によること,Aクラスの機器・配管類は,運転時の応力と地震力による応力を加え合わせた場合に,応力集中及び材料の弾性・塑性等を考慮した解析により耐震設計が行われること,Aクラスのうち原子炉格納容器,制御棒駆動機構等のように安全対策上特に緊要な施設は,基盤における最大加
速度が少なくとも0.27gの地震波に対して,全体として機能が保持されることとしていた。
また,
津波に関して,
上記ア(ウ)と同様にチリ地震津波による潮位を基準と
していた(以上,甲A30・31頁,乙A4の1・13頁,丙A97,丙A98の8枚目,丙A140・4頁)。

(ウ)昭和52年6月14日,原子力委員会は,発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針を定めた。
その中の指針2自然現象に対する設計上の考慮として,①安全上重要な構築物,系統及び機器は,地震により機能の喪失や破損を起こした場合の安全上の影響を考慮して,重要度により耐震設計上の区分がなされるとともに,敷地及び周辺地域における過去の記録,現地調査等を参照して,最も適切と考えられる設計地震動に十分耐える設計であること,②安全上重要な構
築物,系統及び機器は,地震以外の自然現象に対して,寿命期間を通じてそれらの安全機能を失うことなく,自然現象の影響に耐えるように,敷地及び周辺地域において過去の記録,現地調査等を参照して予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる自然力及びこれに事故荷重を適切に加えた力を考慮した設計であることとされていた(丙A99・4頁)



本件原発の設置許可処分当時の被告東電の津波対策等

(ア)本件原発に係る各許可処分がされた当時,上記イの指針なども含めて,津波に関する定量的な設計基準は存在せず,
上記イ(イ)のとおり,
既知の津波の
痕跡すなわちチリ地震により小名浜港で観測されたチリ津波が既往最大津波に基づく設計がされていた。
被告東電は,地形などにより増幅の幅が大きく津波が高くなる三陸と異なり,本件原発建設予定地の浜通りの相馬以南について地形が平坦でそのような増幅が起きない上,地震も同様に仙台から南は大きくないため,チリ津波と比較し,近場の地震による津波の方が小さいものと考えていた。
そこで,本件原発は,昭和35年のチリ地震による小名浜港の観測潮位であるO.P.+3.122mを基準として,これに基づく設計がされ,かつ,上記ア(ウ)の原子炉安全専門審査会の審査にあるとおり,O.P.+3.122mとして

安全性は十分に確保されている。

ものとして設置許可処分を受けた(以上,甲A30・31頁,乙A4の1・13,28頁)。(イ)本件原発の建設に関する記事を掲載した昭和46年7月1日発行の専門誌土木施工(12巻7号,甲A312)には,本件原発の地盤高について,波浪及び津波などに対する防災的な配慮とともに,原子炉及びT/B出入口の高さ,敷地造成費,基礎費,復水器冷却水の揚水電力量などが最も合理的で,しかも経済的となるように決定する必要があること,本件原発付近の高極潮位は小名浜港におけるO.P.+3.122m(チリ地震津波)であり,潮位
差を加えても防災面からの海水ポンプ等を設置する敷地地盤高はO.P.+4.0mで十分であること,他方,地質条件により原子炉建屋の敷地地盤をO.P.-4.0m(復水器天端高O.P.+9.8m)と決めたため,原子炉建屋の出入口との関係から,主要建屋が設置されていた発電所敷地地盤高は1号機ではO.P.+10.0mが好ましく,2号機以降分は基礎地盤高を
調整すれば,
1号機の敷地地盤高にT/B出入口を揃えることができること,
主要建屋が設置される発電所敷地エリアの敷地造成に必要な掘削費,O.
P.
-4.0mの基礎地盤までの建物基礎掘削費及び進入道路の掘削費の合計額が経済的になるのは,O.P.+10.0m付近になることが記載されていた。昭和42年9月号の土木技術の福島原子力発電所土木工事の概要(1)には,敷地の地盤高は基礎の地質状況,土木費及び台風時の高波及び津波に対しても十分安全な高さなどを総合勘案してO.P.+10.0mと決定したと記載されている。
このように,本件原発の立地点は,海岸段丘地帯に位置し,元来の地表面はO.P.+30m程度の高さにあったが,上部は比較的崩れやすい砂岩で
あり,確固たる建屋基礎を得るための安定した地層としては,O.P.-4.0mに位置する砂岩層となっており,安定した基礎を得るためには掘り下げる必要があった。このように,津波高さ,作業スペース,出入口,掘削費などの諸問題を総合的に勘案して敷地高さが決定された(以上,乙A4の1・28,29頁)。


発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針

(ア)原子力安全委員会は,発電用原子炉施設の耐震設計の安全審査を行うに当たっての設計方針の妥当性を評価するために,
昭和56年7月20日付けで,
発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針すなわち耐震設計審査指針を決定した(丙A10の1・62頁)。
(イ)その中で,耐震設計上の重要度分類として,機能上の分類には,Aクラス
について,自ら放射性物質を内蔵しているか又は内蔵している施設に直接関係し,その機能喪失により放射性物質を外部に放散する可能性のあるもの,これらの事態を防止するために必要なものなどと定義し,Aクラスの施設として,原子炉冷却材圧力バウンダリ,原子炉停止後炉心から崩壊熱を除去するための施設などを示し,そのうち特に重要なものをAsクラスの施設とし
ている。
Aクラスの施設は,基準地震動S1(過去に発生したとされる歴史地震及び活動性が高く過去1万年の間に活動した活断層による地震を対象に揺れの周期及び強さを評価し,これらを全て上回る地震動)をもたらす地震(設計用最強地震)の地震力
等に耐えること,さらにAsクラスの施設は,S2(過去5万年の間に活動した活断層による地震などから考えられる最大の地震を対象にそれぞれの揺れの周期及び強さを評価し,さらに直下地震による地震動も考慮して,これらを全て上回る地震動)
をもたらす地震(設計用限界地震)の地震力に対して安全機能が保持できることが求められ,本件原発の該当施設も,耐震設計に基づく耐震安全性が確保されているものとされていた(以上,乙A4の1・13頁,丙A10の1・63,64頁)。

(2)平成6年頃までの各原発事故,当時の指針等

海外における原発事故の発生

(ア)スリーマイル島原発事故
昭和54年3月28日,米国のペンシルバニア州スリーマイルアイランド原発の2号機において,運転員のミスや設計上の不備により炉内の一次冷却材が減少し,炉心が露出して,燃料の損傷,炉内構造物の一部溶融に至り,
周辺に放射性物質が放出され,住民の一部が避難するスリーマイル島原発事故(INESレベル5)が発生した(甲A30・34頁,乙A4の1・39頁)。(イ)チェルノブイリ原発事故
昭和61年4月26日,旧ソ連のウクライナ共和国キエフ市北方約130kmにあるチェルノブイリ原発4号機において,設計上の欠陥や複数の運転
規則違反により出力が急上昇し燃料の破損,水素爆発,黒煙火災に至り,建物の一部が吹き飛んで放射性物質が放出されるチェルノブイリ原発事故(INESレベル7)が発生した。同事故の死者は31人であり,203人が急性
放射線障害で入院し,同原発から半径30km以内の13万5000人もの住民が避難する結果となった(甲A30・34頁,乙A4の1・39頁)。
(ウ)事故の影響等
これらの事故はいずれもSAであり,SA対策への関心が世界中で高まった。これを受け,原子力安全委員会は,昭和62年7月,共通問題懇談会を設置し,同懇談会において,SAの安全上の位置付け等に関する検討を開始した(乙A4の1・39頁)。


昭和63年のIAEAのSAに関する指針
IAEAINSAG3(西暦1988年版,以下西暦の表記は省略す
る。)は既存の原子力発電所については,技術的安全目標に対応する安全目標は,重大な炉心損傷の発生する可能性が1炉年あたり約1万分の1以下であることである。将来の原子力発電所においては,すべての安全原則の適用により,1炉年あたり10万分の1程度を上回らないまでという,改善された目標の達成がされるであろう。としていた(甲A112・1頁)。ウ
安全評価審査指針及び安全設計審査指針
原子力安全委員会は,平成2年8月30日付けで,発電用軽水型原子炉施設の設置許可申請(変更許可申請を含む。)に係る安全審査において,その安全評価の妥当性を判断する際の基礎を示す目的で,発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針すなわち安全評価審査指針を決定するとともに,設計の妥当性を判断する際の基礎を示す目的で発電用軽水型原子炉施設の安全設計に関する審査指針すなわち安全設計審査指針を決定した。安全評価審査指針及び安全設計審査指針の内容は,それぞれ別紙5関連規定(抜粋)第1の3及び同第1の4のとおりである(以上,丙A9,丙A7
1)。


平成3年溢水事故

(ア)平成3年10月30日,本件原発の1号機において,補機冷却海水系配管から海水漏えいが生じる平成3年溢水事故が発生した。T/B地下1階南側の電動駆動原子炉給水ポンプ周りの床面から湧水(海水)があり,電線管ピットから電線管を通じ,T/B補機冷却系熱交換器エリア,シャワードレン受タンクエリア,R/B三角コーナー及び1,2号機共通非常用DG発電機室などに海水が浸入し,非常用DGが浸水により機能喪失し,工場に持ち出し修理が必要な状態となった。

その原因として,電動駆動原子炉給水ポンプ付近の床下の補機冷却水系海水配管に異物による傷ができ,これが徐々に拡大し海水が局部的に浸透したことにより,腐食減肉が同海水配管の内面から進行し,配管の一部が局所的に貫通して,海水の漏えいに至ったものと推定される。
その結果,1号機は,再起動まで2か月を要する結果となった(以上,甲A
30・34頁,丙A90添付の平成4年3月付け報告書1,2,6頁)。
(イ)この事故を教訓として,被告東電は,同時期に発生した米国における事故(タービン駆動主給水ポンプ用復水器の冷却用に湖から取水している循環水配管が破断し,タービン建屋と補助建屋が浸水したためにアラートが宣言されたもの)も踏ま
えた検討を行った。その上で,内部溢水対策として,原子炉建屋階段開口部の堰の設置,原子炉最地下階の残留熱除去系機器室等の入口扉の水密化,原子炉建屋1階電線管貫通部トレンチハッチの水密化,非常用電気品室エリア
の堰のかさ上げ,
非常用DG室入口扉の水密化,
復水器エリアの監視カメラ・
床漏えい検知器設置等のプラントの対策工事を実施した
(乙A4の138頁)


(3)平成6年頃の津波に対する被告東電の対策の検討状況等

通産省資源エネルギー庁の指示と被告東電の対応等
通産省資源エネルギー庁は,平成5年10月に発生した北海道南西沖地震
を踏まえ,被告東電を始めとする電気事業者に対し,同月15日付けで,既設発電所の津波に対する安全評価を指示した。これを受けて,被告東電は,平成6年3月,福島第一・第二原子力発電所津波の検討についてを提
出した(甲A27,乙A4の1・17頁,丙A20,丙A274)。イ
上記報告の内容,被告東電の対応等

(ア)上記報告の内容は,以下のとおりである。
a
文献調査により抽出された,本件原発に影響を及ぼす可能性がある慶長三陸地震(M8.1,Mt8.5)及び延宝房総沖地震(M8.0,Mt8.3)が示されているが,その予測高は,2.44m又は2.59mであり,い
ずれも最大2.6mを超えるものではなかった。
これらの地震以外にMが大きなものとして貞観地震が指摘されるが,同地震に関する歴史史料は限られ,また同津波が多賀城下まで来襲し溺死者が千人ほどになったとの記述があるのみである。他の研究論文において,貞観津波による仙台平野の痕跡高を考古学的所見等により検討した結果,
痕跡高は河川から離れた平野部では2.5~3.0m,浸水域は海岸線から3kmぐらいの範囲であったと推定され,慶長三陸地震及び昭和三陸地震の津波と比較して,昭和三陸地震の1.0~2.4mよりも大きく,慶長三陸地震の6.
0~8.
0mよりは小さかったと考えられ,
貞観津波は,
慶長三陸地震の津波を上回らなかったと考えられる
(以上,
甲A27・1,
2,
6,8頁)。
b
数値シミュレーション対象地震の選定について,本件原発の敷地周辺の津波記録及び予測式による敷地での津波高さを推定した結果,同敷地に比較的大きな影響を及ぼした可能性のある地震として,慶長三陸地震,延宝房総沖地震とチリ地震があると考えられる。
三陸沖では,慶長三陸地震による津波のほかに比較的規模が大きかった津波として,明治三陸地震及び昭和三陸地震による津波がある。これらの
津波は,研究論文による津波の数値シミュレーションに基づく痕跡高の推定から,予測式による検討結果と同様に,慶長三陸地震の津波を上回らなかったものと考えられ,慶長三陸地震の津波を数値シミュレーションの対象地震として選定した。延宝房総沖地震について,予測式により比較的大きな予測高が得られていることなどから,数値シミュレーションの対象地
震として選定した。
チリ地震について,敷地周辺に3m程度の痕跡高が残されていること,本件原発の設置許可申請時において,この津波による小名浜港での検潮記録の最大値及び最小値がそのまま本件原発の最高潮位及び最低潮位として採用されていることから,数値シミュレーションの対象地震として選定し
た(以上,甲A27・2頁)。
c
数値シミュレーションの対象地震として選定した三つの地震について,津波の検証結果に基づき波源モデル等を設定し,津波の数値シミュレーションを行った結果,本件原発の護岸前面での最大水位上昇量は約2.1m
となり,朔望平均満潮位時(O.P.+1.359m)に津波が来襲すると,最高水位は,O.P.+3.5m程度になるが,護岸の天端高がO.P.+4.5mであり,主要施設の整地地盤高は,O.P.+10m以上であることから,津波が遡上したり,主要施設が津波による被害を受けたりすることはない。
本件原発の取水口(護岸)前面での最大水位下降量は約2.2mとなり,朔望平均干潮時(O.P.+0.021m)に津波が来襲すると,最低水位は
-2.2m程度となるが,取水系構造物の最高敷高は,O.P.-3.5m以下でポンプベルマウスの下端レベルはO.P.-2.950m以下である。最高水位はO.P.+3.5m程度になるが,ポンプモーターの設置レベルはO.P.+5.580m以上であり,取水の安全性を十分確保できる(以上,甲A27・4,5頁)。

(イ)以上の数値シミュレーションの結果,被告東電は,上記対象地震の津波が本件原発に影響を与えることはないものと判断して,特に対策をとることもなかった(丙B114の1・4頁)。
(4)4省庁報告書,7省庁手引とそれに対しての被告東電の津波対策の対応等ア
4省庁報告書

(ア)阪神淡路大震災などを受け,総合的な津波防災対策を進めるための手法を検討すべく,太平洋沿岸部を対象に過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定し得る最大規模の地震を検討しそれにより発生する津波について概略的な把握を行ったものとして,平成9年3月に4省庁報告書が公表された。
その中で,今回行われた津波数値解析計算が,震源断層モデルや津波の初期波形(海底で起きた地震の断層運動により決まる。丙B123・27頁),津波先端部の挙動などの設定の段階において様々な仮定を設け,それらの仮定に基づき計算されたものである旨,広い範囲を対象に津波高の傾向を把握するこ
とを主眼とし,各地域における正確な津波の規模及び被害予測を行うためには,地形条件等をよりきめの細かな情報の下に実施する詳細調査の実施が別途必要となる旨指摘している。また,数値誤差が発生しやすく,津波数値解析計算の結果は幅を持った値として理解すべきである上,津波による想定被害の評価を行うに当たっては,地形条件や土地利用の状況等から陸上を遡上する津波がどのように広がるかなど,より詳細な検討が必要であると指摘する。
想定津波が高い傾向を示した地域でも,上記計算手法の特性を考慮し,よりきめの細かな情報の下に詳細調査を行う必要があるほか,比較的想定津波が低い傾向を示した地域でも,想定を上回る津波が発生する可能性があるため,津波に対する備えは必要である旨指摘している(以上,甲A25の1のはじめに)。
(イ)対象沿岸域の概要は,以下のとおりである。
a
太平洋沿岸に影響を及ぼした近地津波及び遠地津波について,地震断層諸元・沿岸津波推移(痕跡高)・被害状況を把握した。また,既往の近地津波に関して太平洋の各プレート境界に区別して整理し,各プレート境界で発生する津波特性を取りまとめた。

1600年以降395年の被害地震は561個であり,そのうち津波を伴ったものは100個,
津波の被害があったと考えられる津波規模階級
1
(津波の高さが2m程度,被害程度は海岸及び船の被害とされる。甲A25の1・4頁)以上のものは55個となり,回数のみでは被害地震の10回に1回は
津波による被害が発生する(以上,甲A25の1・4,5,97頁)。
b
既往津波の発生場所について,近地津波に関して,被害をもたらした津波のほとんどはプレートの沈み込みに伴う大地震によって発生し,三陸沖では地震の規模の大きいものは陸からかなり離れた日本海溝付近で発生し,このため,地震被害は比較的小さいが,津波が大きい例が多い。

既往被害津波一覧表(東北日本太平洋)には29件の既往被害津波がまとめられている。
そのうち貞観津波は,M8.6で,津波規模階級が4(津波の高さが30m以上,
被害程度は500km以上の海岸線に顕著な被害,
甲A25の1
・4頁)

であり,発生域・名称が三陸はるか沖で,日本沿岸における最大津波高の詳細は不明となっている。慶長三陸地震は,M8.1で,津波規模階級が3(津波の高さが10~20m程度,被害程度は400km以上の海岸線に顕
著な被害,甲A25の1・93頁)であり,発生域・名称が三陸はるか沖で,
日本沿岸における最大津波高が田老で20mとなっている。延宝房総沖地震は,M8.0で,津波規模階級が3であり,発生域・名称が房総半島南東沖で,
日本沿岸における最大津波高が外房沿岸で8mとなっている。
明治三陸地震は,M6.8で,津波規模階級が4であり,発生域・名
称が三陸はるか沖/明治三陸津波で,日本沿岸における最大津波高が三陸沿岸24mとなっているが,別の文献では吉浜24.4m,綾里38.2m,田老14.6mとなっている(以上,甲A25の1・5,94頁)。
c
1600年以降の地震津波の規模別回数を地域別に整理すると,太平洋プレートの沈み込み境界及びその内陸に発生すると考えられる太平洋側北
の領域では,M6以上の地震が112回,そのうち津波規模階級1のものが21回,同2(津波の高さが4~6m程度,被害程度は若干の内陸までの被害や人的損失とされる。甲A25の1・4頁)のものが13回,同3
のものが3回となっている(甲A25の1・7頁)。
d
既往最大津波の沿岸津波高について,1600年以降を対象に沿岸別の最大津波高を整理した結果,三陸海岸では,過去395年間に高さ10m以上の大津波が3回来襲しているほか,
高さ5m程度の津波は6回来襲し,
被害津波の来襲頻度が高い。
既往津波による被害状況について,太平洋沿岸北部では,人的被害はお
おむね全域で発生し,相対的に三陸北部及び南部における被害が大きいこと,
同一の地震津波により広域
(複数の沿岸)
で被害が発生することが多い。
太平洋沿岸北部と南部の両方に被害をもたらした津波として,延宝房総沖地震がある。
このうち常磐における津波の人的被害(沿岸別水死者数)は,慶長三陸地震,延宝房総沖地震及びチリ地震による各津波のいずれにおいてもD:10~99人とされ,同沿岸別家屋流失数は,慶長三陸地震にお
いてF:多数(戸数不明)となっている(以上,甲A25の1・8,109,118,119,122頁)。

e
既往津波高の沿岸別最大値(太平洋沿岸北部)において,常磐において,慶長三陸地震の津波が6m(各沿岸における津波の最大値であり,m単位で四捨五入)であり,延宝房総沖地震の津波が4m(上記同)である(甲A25
の1・8,110頁)。

(ウ)想定地震の検討には,以下の記載がある。
a
津波数値解析を行う想定地震の設定に当たり,①その設定規模は歴史地震も含め既往最大級の地震規模を用い,②その地域区分は地震地体構造論上の知見に基づき設定し,③その発生位置は既往地震を含め太平洋沿岸を
網羅するように設定するとの方針に従い,検討がされた。
地震地体構造論による地体区分には種々の区分案があるが,萩原マップを用いる(以上,甲A25の1・9,125,126頁)

b
地震地体構造論上の知見に基づき,その地体区分ごとに既往最大のMを想定地震のMとした。地体区分別最大地震規模として,地体区分G1においては,昭和27年の十勝沖地震(M8.5,津波規模階級2)が,三陸沖を含む地体区分G2においては,
明治三陸地震
(M8.津波規模階級
5,
4

が,福島県沖を含む地体区分G3においては,延宝房総沖地震(M8.0,津波規模階級3)がある。

福島県沖の既往地震津波については,昭和13年の6件の群発地震及び昭和34年の2件の地震があり,そのMは6.8~7.4,津波規模階級-1(津波高さ50cm以下,被害程度はなし,甲A25の1・93頁)又は0(津波高さ1m程度,被害程度は非常にわずかの被害,甲A25の1・93頁)であった(以上,甲A25の1・10,132,136頁)。
c
想定地震の震源断層モデルは,震源断層パラメータ(そのパラメータにより初期波形が決まる。
丙B123・27頁)
で定義され,
このうち,
断層長
(L)


断層幅(W),すべり量(U)及び地震マグニチュード(M)の値に相似形が成立し,その他のパラメータは地体区分ごとに平均的な値が存在する。この震源断層パラメータ相似則を用いて,地体区分別最大Mに対応する震源断層パラメータ(下記(エ)cのとおり)を求め,これを想定地震の断層モデルとし,既往地震について想定地震と併せて検討するものとして,主要な
既往地震の抽出をした。
主要な既往地震の断層位置の設定(G1が既往地震数3,G2が同6,G3が同1)がされ,各地体区分において想定地震の断層位置の設定(G1が想定地震数3,G2が同3,G3が同4)がされている。留意事項として,特定の
沿岸において想定地震を設定する場合には津波の指向性等を考慮して断層
位置を設定する必要がある(以上,甲A25の1・11~15,157頁)。(エ)津波傾向の概略的把握として以下の記載がある。
a
既往地震による再現性の検討として,北海道納沙布岬から鹿児島県佐多岬までの太平洋沿岸部を対象に,
各沿岸で高い津波水位を記録したものと,
痕跡値データの多い既往地震津波について再現計算対象として選定し,数
値解析モデルの再現性の検討をした(甲A25の1・17頁)。
b
その既往地震の震源断層パラメータには,G1において昭和27年の十勝沖地震が,G2において慶長三陸地震,明治三陸地震,昭和三陸地震及び昭和43年の十勝沖地震が,地体区分ごとの代表的地震としてそれぞれ
示されている。
ただ,
慶長三陸地震は,
年代が古く史料の確実性が低いか,
痕跡データ数が少ないために,重み付け平均値の算定や津波水位の比較対象としていない。
G3においては,昭和13年の福島県沖地震(Ⅱ),同年の福島県沖地震(Ⅴ)及び昭和53年の宮城県沖地震が示されているが,上記各福島県沖地震(以下,まとめて福島県東方沖地震という。)についても慶長三陸地震と同様に扱われている。

既往地震による津波高の傾向
(数値解析結果)
としては,
福島県沿岸は2.
0m以上~5.0m未満である。既往津波に関する実態調査だけでは津波高の個数が十分ではないため,既往津波に対する数値解析結果で補うが,数値解析にも初期波形の不正確さなどの様々な問題があり,必ずしも真の値であるとは限らない(以上,甲A25の1・18,19,189,205,20
8頁)。

c
各地体区分ごとに設定した想定地震について津波数値解析を実施し,その結果,想定地震による津波高の傾向をみると,福島県沿岸は5.0m以上~10.0m未満である(甲A25の1・20,21,202,210頁)。
(オ)4省庁報告書の参考資料には以下の記載がある。
a
津波数値解析に関する資料関係の図表について,個々の値の大小を把握するためには不十分な場合が予測され,
あくまで全体的な概略分布を示す。
従って,
今回の津波数値解析の結果が幅を持ったものであることも踏まえ,分析・検討に際して,概略的に実施した津波数値解析によって得られた市町村ごとの津波高の平均値を用いる(甲A25の2・2枚目)。

b
津波傾向の概略的把握に関する資料として,想定津波(計算値),既往津波(計算値又は痕跡値)などの津波高や海岸保全施設の天端高などに関する情報を市町村単位で整理した表が付けられている。
その表には,双葉町において,想定地震津波計算値6.8m,既往地震
津波の計算値2.9m(明治三陸地震),既往地震津波の実態調査結果4.4m(チリ地震津波),大熊町において,想定地震津波計算値6.4m,既往地震津波の計算値3.0m(明治三陸地震),既往地震津波の実態調査結果4.4m(チリ地震津波)と,富岡町において,想定地震津波計算値6.0m,既往地震津波の計算値3.2m(明治三陸地震),既往地震津波の実態調査結果4.4m(チリ地震津波),楢葉町において,想定地震津波計算値5.4m,既往地震津波の計算値3.0m(明治三陸地震),既往地震津
波の実態調査結果4.4m(チリ地震津波),広野町において,想定地震津波計算値5.4m,既往地震津波の計算値2.9m(明治三陸地震),既往地震津波の実態調査結果4.4m(チリ地震津波),いわき市において,想定地震津波計算値6.2m,既往地震津波の計算値2.5m(1703年の元禄関東地震,M8.2,津波規模階級3),既往地震津波の実態調査結果
4.4m(チリ地震津波)とされていた(以上,甲A25の2・145,148頁)。


7省庁手引

(ア)同手引は,当時の国土庁,農林水産省構造改善局,同省水産庁,運輸省,気象庁,建設省及び消防庁という防災に携わる行政機関が,沿岸地域を対象として地域防災計画における津波の対策強化を図るため,津波防災対策の基本的な考え方,津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等について取りまとめたものである(甲A23・3頁,甲A25の1のはじめに)。(イ)その中で,対象津波として,地震地体構造論,既往地震断層モデルの相似
則等の理論的考察や地震観測技術の進歩を受けて,信頼できる資料の数多く得られる既往最大津波とともに,現在の知見に基づいて想定される最大地震により起こされる津波をも取り上げ,両者を比較した上で常に安全側になるよう,
沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として設定するとしている(甲
A23・30頁)。

(ウ)津波挙動の想定に関して,近年,既往地震の震源断層モデルを用いて津波数値解析計算を行う場合が多く,特に過去の津波の記録が十分に残っていないような地域では,津波数値解析計算を用いて,過去の津波挙動を再現し,記録の不十分さを補うことができる。ただ,津波数値解析計算は技術的には開発途上であり,精度あるいは費用の点においてもその汎用性には限界があることも踏まえ,絶対的な判断を下すにはまだ問題が残されていることを十分考慮しなければならない(甲A23・31頁)。

(エ)津波数値解析計算の利用上の留意点として,具体的には,①計算格子の大きさによる誤差(時間的・空間的に連続した津波波形を得るため,1波長の間にできるだけ多くの格子を設定することが必要である。),②線形性と非線形性による誤
差(津波の挙動を再現しようとする場合,その物理モデルにおいて非線形性と波数分散性が重要なパラメータとなる。),③初期条件による誤差(津波数値解析計算の出
発点である津波の初期波形は,対象となる震源断層モデルの設定に大きく依存し,そのモデルの選定いかんによって計算結果が異なることになる。),④海底地形による誤
差(海底地形や海岸地形による津波高さへの影響は自動的に計算に含まれているが,計算に用いられる海底地形データは,浅い場所では比較的精度が良いが,深い場所では信頼性が低いため,計算結果に誤差が発生しやすい。),⑤津波の共振現象による誤
差(湾内に浸入した津波は,湾地形や湾,港が持つ共振特性により津波高が増大する可能性があり,漁港程度の小地形が考慮されていないと誤差の原因となる。)などがあ
る(甲A23・31~33頁)。

電事連の4省庁報告書に対する対応等

(ア)電事連の下に置かれている津波対応WGは,4省庁報告書を踏まえ,本件原発における津波高さを検討し,平成9年7月25日,その検討結果をまとめている。すなわち,施設高さO.P.+10m,モーターの高さO.P.+5.580m,ポンプ吸い込み口レベルO.P.-2.95m以下(1,2号機),同-3.470m以下(4号機),同-3.550m以下(3,5,6
号機)であること,津波調査による計算値は平均O.P.+6.4~+6.8
m,最大同+7.0~+7.2mであり,朔望平均満潮位O.P.+1.359m,朔望平均満潮位及び同干潮位を考慮した上記調査による津波高は平均O.P.+7.8~+8.2m,最大同+8.4~+8.6mであること,事業者による数値シミュレーションの結果として,
最高O.
P.
+4.
8m,
最低O.P.-2.8m(1号機),同-2.9m(2,3,5号機),同-3.0m(4,6号機)となり,上昇側及び下降側のいずれも評価値を超えない結果となっている(丙A58の添付資料1・1枚目,丙B114の1・7,8頁)。(イ)もっとも,その検討結果の中では,数値解析結果等の2倍値につき,本件原発のO.P.+9.5m(朔望平均満潮位及び同干潮位を考慮した上げ)に対し,同O.P.+4mの位置の非常用海水ポンプが水没し,同O.P.-
5.2m(朔望平均満潮位及び同干潮位を考慮した下げ)に対し,取水口敷高又はポンプ吸込口敷高がO.P.-2mの位置にあり,非常用海水ポンプの取水が不可能となるとの結果も得られた。その対応案として,上げの場合に水密モーターを採用する旨,引きの場合に津波が減衰するまでS/P保有水で残留熱を除去し,津波時の水位に合わせて海水ポンプを間欠運転
するなどの対応案が考えられていた
(以上,
丙A58の添付資料1・3,
4枚目)

(ウ)また,上記検討の中で,4省庁報告書における津波検討に関する懸案事項として,安全設計審査指針に基づく津波に対する安全評価として,歴史上最大の津波を考慮し,海域活断層による津波を検討対象としているが,4省庁報告書が指摘する,想定できる最大規模の地震による津波を直接取り扱って
いない(上記検討対象とする津波を考慮することにより評価できている。)こと,津波予測手法の限界があること,想定できる最大規模の地震による津波について,そのばらつきを考慮する手法が示されているが,このようなばらつきを加えた津波が現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性が小さいと判断されることも指摘している(丙A58・2頁)。

(エ)津波対応WGの方向性の検討としては,今後整備される津波評価指針に,地震地体構造上最大規模の地震を考慮する地震動評価と同様に,必要に応じて,地震地体構造上最大規模の地震津波も検討条件として取り入れる方向で検討調整を行っていくこと,指針制定までの過渡期には自主保全の観点から想定し得る最大規模の津波に対して既設プラントのバックチェックを行っていくこと,4省庁報告書における津波数値計算について,原子炉冷却系の機能検討に用いる津波水位について十分な精度で予測することは可能と考えら
れるが,想定し得る最大規模の津波を考慮した上で更にばらつきを考慮することは工学的には現実的でないことから設備の検討条件として考慮しないことなどが示されている。
また,検討結果の公表に当たっての4省庁に対する要望事項として,①十分な精度といえない検討結果に基づく想定し得る最大規模の津波の具体的な
数値の公表は,社会的に混乱が生じるから避けてほしいこと,②断層モデルの設定方法には4省庁報告書以外の手法もあるから,検討の一例と位置付けること,③対象津波の発生確率,施設の重要度に応じて対象津波を設定していくよう検討してほしいこと,④実際には津波予測手法は十分な精度が得られてきているから,精度に限界があることを必要以上に強調しないでほしい
ことが示された(以上,丙A58・2~4頁,同添付資料2,3)。エ
電事連の7省庁手引に対する対応等

(ア)また,7省庁手引の公表の予定を受け,電事連がその対応等を検討し,平成9年10月15日にも,その検討結果をまとめている。
その中では,上記ウのとおり,地震地体構造的見地から想定されるプレート境界の断層モデルを用い,数値解析を実施したところ,本件原発の冷却水取水ポンプの機能は確保されているものの,余裕がない状況となっていること,断層パラメータのばらつき等を考慮し,数値解析結果の2倍の値により評価した場合には本件原発において水位低下により冷却水取水ポンプモータ
ー吸込口レベル以下になるとともに,水位上昇によって同ポンプモーターが浸水することとなること,水位低下時には貯留水等で対処可能であるが,水位上昇時には同ポンプモーターの浸水後の機能喪失のために対処が困難となることなどの結果が得られていた(以上,甲A257・1頁)。
(イ)そこで,考えられる方向性として,①津波評価の考え方の指針等を取りまとめる際に,必要に応じて地震地体構造上の地震津波を検討条件として取り入れる方向での検討,整備が求められること,②津波評価に際しての計算誤差,ばらつきについて,数値解析上対処可能又は低減可能な項目は既に採用し十分な精度で予測しており,最大規模の地震津波を想定した上でばらつきを考慮することは,その発生の可能性が小さく,工学的には現実的でないことを指摘していた。

また,通産省は,現状の学問レベルでは自然現象の推定誤差は大きく,予測できないことが起きることがあるので,最終的な安全判断に際して理詰めで考えられる水位を超える津波が来る可能性があることを考慮して更に余裕を確保すべきであるが,余裕高さの見込みを合理的に示すことはできないので,工学的判断として,安全上重要な施設のうち,水に弱い施設については
耐水性を高めるための検討が重要であると指摘していた(以上,甲A257・2頁)。

(ウ)その上で,①電事連側で,7省庁手引との整合性を問われた場合,これまでの津波予測の考えからの基本的には整合すると回答するが,地震地体構造的見地から想定される地震津波が取り扱われる等の最近の新しい考え方も示されていることから,今後十分に検討し,必要に応じて参考とすること,②7省庁手引における津波高さが公表された場合,同手引における津波高さが概略的な検討であるのに対し,これより精度の高い詳細な検討が実施されており,原発は十分安全であること,③3年程度の中長期的な対応として,津波評価の指針がないため,新規に指針を策定していく必要があること,④通
産省から指摘を受けた合理的な評価が難しい安全裕度やばらつきの議論について,電力共通研究の実施により技術的検討をすること,以上の対応がまとめられていた(甲A257・2,3頁)。

被告東電の4省庁報告書に対する対応等

(ア)被告東電は,平成10年6月,4省庁報告書における地震地体構造上想定される津波の検討を踏まえ,
同想定津波に対する本件原発の安全性を検討し,
津波に対する安全性についてと題する資料をまとめた。その内容は,以下のとおりである(甲A29・1頁)

(イ)4省庁報告書の参考資料によれば,
津波高の平均値は,
双葉町で6.
8m,
大熊町で6.4m,富岡町で6.0m,楢葉町で5.4mとされている(甲A29・1頁,なお,上記ア(オ)b)


(ウ)福島地点で影響を及ぼすと考えられるG2領域(三陸沖)及びG3領域(福島~房総沖)には,それぞれ三つ及び四つの想定地震の断層モデルが設定され
ており,断層モデルの規模及び位置から,福島地点に比較的大きな影響を与える断層モデルとして,G2-3,G3-2,G3-3について検討する。G3-1について,断層モデルが平面的にみてより規模が大きいG2-3にほぼ包絡されていることなどから,その影響はG2-3を下回ると判断した(甲A29・1頁)


(エ)上記三つの断層モデルによる解析を行い,各評価地点における津波水位を検討したところ,本件原発においては最大水位上昇量,最大水位下降量ともにG2-3が最大となった。すなわち,最大水位上昇量は,1号機及び2号機において+3.2m,3~6号機において+3.3mとなり,最大水位下降量は,1号機において-2.7m,2号機,3号機及び5号機において-2.8m,4号機及び6号機において-2.9mとなった。これに朔望平均満潮位O.P.+1.5m,同干潮位O.P.-0.1mを考慮すると,最高水位はそれぞれO.P+4.7~+4.8m,最低水位はそれぞれO.P.
-2.8~-3.0mとなる(以上,甲A29・1,4頁)

(オ)本件原発の安全性は,水位上昇側について,屋外に設置されている非常用海水ポンプの据付レベルを超えるが,同ポンプモーター下端レベルには達しないため,安全性への影響はない。水位下降側についても,非常用海水ポンプによる安全上重要な機器の冷却が可能であるため,
安全性への影響はない。
すなわち,非常用海水ポンプモーター下端レベルは,O.P.+5.6m以上であり,上昇側の最高水位を上回り,同ポンプの吸込レベルは,1号機及び2号機でO.P.-3.0m以下,3号機,5号機及び6号機でO.P.-3.6m以下,4号機でO.P.-3.5m以下であり,下降側の最低水位を下回る。
以上の結果を踏まえ,被告東電は,本件原発において,新たな対策を必要
としないものと判断した(以上,甲A29・2,5頁,丙B114の1・11頁)。
(5)IAEAINSAG3の平成11年改訂版

上記技術的安全目標(上記(2)イ参照)に変更はないが,これに対応する安全目標の記述を拡大し,27.既存の原子力発電所については,技術的安全目標に対応する安全目標は,重大な炉心損傷の発生する可能性が1炉年あたり約1万分の1回以下であることである。シビアアクシデントの管理,緩和対策により短期的な敷地外対応策を必要とするような大規模放射能放出の可能性は,少なくとも10分の1に減少されるであろう。将来の原子力発電所においては,すべての安全原則及び段落25の目標の適用により,重大な炉心損傷事象の発生が1炉年あたり10万分の1程度を上回らないまでという,改善された目標の達成がなされるであろう。これらの将来の発電所に対するもう一つの目標は,大規模かつ早期の放射能放出に至る可能性のある事故シーケンスを事実上排除するとともに,格納容器の後期破損を伴いうるシビアアクシデントについては,設計段階で現実的な想定と最適評価手法による解析を用いて考慮することにより,防護対策が限定された地域及び期間内でしか必要とされないようにすることである。としている。従前との変更点は,将来の原子力発電所に対する安全目標の説明が増えたことにあり,特に,段落25の目標(設計段階から多重故障やSAの考慮がより体系的かつ完全な形でなされるであろうこと)が適用されること
により,より高い目標が達成されるという指摘が挿入された。なお,大規模放出に関する記述はより具体的となっているが,定性的なものであった(甲A112・1,2頁)。
(6)津波浸水予測図

意義等
当時の国土庁が平成11年3月付けで公表した津波浸水予測図は,気象庁から発表される量的津波予報における津波高さに対応した浸水域及び浸水状況を知ることができる資料である。
津波浸水予測図は,現実に発生する可能性が高く,その海岸に最も大きな
浸水被害をもたらすと考えられる地震を想定しているが,実際には同じ津波高さでも,津波の周期,震源の方向等により浸水状況が異なることがある。津波浸水計算は,格子間隔が100mであり,それ以下の地形規模が表現されていないこと,基準面はほぼ平均海面に相当し,満干潮は考慮されていないこと,防潮堤等の港湾構造物は100m以上の規模のものを海岸地形と
して考慮したが,標高を0mとしており,防潮堤等の津波の遮へい効果が十分表現されず,構造物上の浸水深が過大評価されていることなどに注意すべきとしている(以上,丙A120・2枚目)。

福島県沿岸部の浸水域及び浸水状況等

(ア)同予測図の双葉町南部,大熊町(福島県2)3/4の設定津波高8mの図面には,本件原発の防波堤の一部等が最大7~8m浸水し,各号機の建屋の敷地部分や取水ポンプ室などの一部が,少なくとも0~1mから最大4~5m浸水すると表示されていた(丙A120・12枚目,なお,丙A122)。(イ)同予測図の双葉町南部,大熊町(福島県2)3/4の設定津波高6m
の図面には,本件原発の防波堤の一部等が最大4~5m浸水し,各号機の建屋の敷地部分や取水ポンプ室などの一部が,少なくとも0~1mから最大3~4m浸水すると表示されていた(丙A120・16枚目,なお,丙A122)。(ウ)同予測図の双葉町南部,大熊町(福島県2)3/4の設定津波高4mの図面には,本件原発の防波堤の一部等が最大3~4m浸水し,各号機の建屋の敷地部分や取水ポンプ室などの一部が,少なくとも0~1mから最大3~4m浸水すると表示されていた(丙A120・20枚目,なお,丙A122)。
(エ)同予測図の双葉町南部,大熊町(福島県2)3/4の設定津波高2mの図面には,本件原発の防波堤の一部等が最大2~3m浸水し,各号機の建屋の敷地部分の前部や取水ポンプ室などが,少なくとも0~1mから1~2m浸水すると表示されていた(丙A120・24枚目,なお,丙A122)。3
津波評価技術,長期評価の成立,公表等とそれに対する被告らの対応等
(1)津波評価技術の成立と被告東電の対応状況等

土木学会原子力土木委員会津波評価部会における検討状況等

(ア)土木学会とは,1914年に社団法人として設立され,土木工学の進歩及び土木事業の発達並びに土木技術者の資質の向上を図ることを直接の目的とする社団法人であり,土木工学に関する調査,研究などの事業を行い,その会員としては,土木事業に関する学識経験者等のほか,土木に関連する業種の事業を行う法人などからなる。
土木学会には,幾つかの小委員会が置かれているが,平成11年~平成27年にかけて,その小委員会である原子力土木委員会に置かれた津波評価部
会(以下津波評価部会という。が津波評価手法の高度化などの調査研究を行)
っていた(以上,甲A111,丙A270,丙A273)

(イ)平成12年3月3日開催の第3回津波評価部会において,以下の資料(甲A521)に基づく検討がされた。

a
既往津波の分布として,大規模な津波は太平洋プレート等のプレート境界に集中しており,遠地津波の発生域もプレート境界に集中している。地震タイプと発生領域について,日本列島周辺では,沈み込むプレート内の地震(正断層,昭和三陸地震),プレート間地震(低角逆断層,昭和43年(1968年)
の十勝沖地震や南海トラフ沿いの地震など)陸域の浅い地震など


の様々なタイプの地震が発生する。プレート間地震のうちの津波地震は,海溝のすぐそばの柔らかいプレート境界近く(付加体)で発生するが,断層運動はゆっくりしており,地殻変動は大きいとする研究論文(谷岡・佐竹論
文,丙B21)がある。

断層運動は一様ではなく,断層面上に滑り量が局所的に大きなアスペリティが存在し,断層運動の不均質性が津波にも影響し,津波波形のインバージョンにより断層運動の不均質性を求める研究が,従来から行われている。痕跡高を用いたインバージョンの方が検潮記録に対するインバージョ
ン結果よりもすべり量が大きく,また,Mt,痕跡高などの考え方も踏まえ,津波波源モデル(断層モデル)の計算結果と痕跡高との対比等が行われている(以上,甲A521・1~6頁)。
b
同資料は,萩原マップなどの地震地体構造マップの地域区分を前提に,日本海溝沿いの津波波源に関する特徴として,北部と南部の活動に大きな相違があり,北部では海溝付近に大地震の波源域が集中しているが,南部では延宝房総沖地震を除き,海溝付近に大津波の波源域がみられず,比較的陸域に近い領域で発生していること,日本海溝付近の北部では明治三陸地震のような津波地震や昭和三陸地震のようなプレート内正断層地震が発
生するが,繰り返し間隔は明瞭ではないこと(谷岡・佐竹論文(丙B21)に基づき,滑らかなプレート境界は柔らかい堆積物が沈み込んで無地震地帯となるが,粗いプレート境界の場合,正断層型の地震が起こり,地塁,地溝構造を発達させて沈み込んだ地塁が海溝近くでゆっくり地震を起こすという見解に依拠している。),慶
長三陸地震は津波地震の可能性もあること,他方,日本海溝付近の南部では,その福島県沖の記録されている大地震は福島県東方沖地震のみであること,房総半島沖の海溝付近の津波地震として延宝房総沖地震が発生していることを指摘している(甲A521・8,12~14頁)。
c
また,同資料は,既往津波の断層モデルに基づく数値シミュレーションや,津波波源として用いる断層モデルのスケーリング則(断層パラメータ同士の大きさに関する経験則をいう。甲A185・15頁)などの検討をしている
(甲A521・16~18頁)。

(ウ)平成12年5月19日開催の第4回津波評価部会(首藤伸夫主査(東北大学名誉教授,以下首藤主査又は首藤名誉教授という。),阿部名誉教授,今村委員,佐竹委員らが出席)において,想定津波の断層パラメータの設定方法,波源の
不確定性によるばらつきの評価例について,議論された。
その質疑応答の中で,
太平洋プレートの沈み込みに関係した海域において,
断層幅の質問が出たが,津波地震とプレート内断層地震については断層幅に限界を設定したなどの説明があった。
波源の不確定性によるばらつきの評価例として,計算例を元にした説明があり,その際にMwの0.1の増大に応じすべり量のみを1.41倍変化さ
せた際に計算最高水位が必ずしも1.41倍とならないことについて,遡上計算も行っているので,非線形性の影響が出ているとの説明があった上で,パラメータスタディにより相当安全側の断層モデルを選定しているが,パラメータスタディによりどの程度の安全性を担保できるかについては次回以降の部会で審議するとの回答があった。

また,主査から,地震動から求められるすべり量について津波を説明するために補正する必要があるケースが存在するが,こうした補正分を津波評価法にどのように織り込むのかについて,次回審議までに考え方を整理するようにとの指示が出された(以上,甲A32・4,6,7頁)。
(エ)平成12年11月3日開催の第6回津波評価部会(首藤主査,阿部名誉教授,
今村委員,佐竹委員らが出席)において,設計津波水位の評価,津波高と痕跡高
の比較,想定津波の補正係数の提案などの議論がされた。
その中で,津波高と痕跡高の比較について,現在想定津波が痕跡高を下回っている場所については,格子間隔をできるだけ細かくして計算し,それでも下回る場合には遡上計算まですべきであり,計算値が全ての痕跡高を上回った場合にはじめて設計津波水位の考え方が合理的になるとのコメントがあった。
想定津波の補正係数の提案について,同係数を1.0としたいとの提案に対し,パラメータスタディの精度について,スケーリング,時間差,位置などもっと細かく振ることが可能であるが,とりあえずこの程度のやや粗いやり方で痕跡との比較により把握したところ,平均的には2倍程度になったと
のコメントがあった。現在想定できる津波に対しては補正係数1.0で妥当と思うが,想定を上回る津波が将来起きる場合を考慮する必要はないかとの質問が出て,原子力施設の安全性評価の視点からは,想定を上回る津波が来襲する場合の対処法も考えておく必要があると思うが,補正係数を1.0としても工学的に起こり得る最大値として妥当か否かを議論すべきといった説
明があった。
その上で,首藤主査から,提案された方法で痕跡高をほぼ100%上回ることがわかっており,
想定津波波源の洗い出し方法としてはこれでよいこと,
補正係数の値としては議論もあると思うが,現段階では,とりあえず1.0としておき(その趣旨としては,津波は過去の例が少なく,補正係数を出す根拠が弱
いこと,
補正係数を用いる代わりにパラメータスタディにより補完できることがあった。丙B123・56,57頁),将来的に見直す余地を残しておきたいとのコメン
トがあった(以上,甲A31・3,5,6頁)。
(オ)平成13年1月26日開催の第7回津波評価部会(首藤主査,阿部名誉教授,今村委員,佐竹委員らが出席)において,想定津波高と痕跡高との比較に関する考察,想定津波の補正係数,既往津波の評価方法について議論がされた。その中で,
想定津波高が過去の痕跡記録の津波高を下回る3地点を対象に,
痕跡記録の信頼度に関するさらなる調査が行われ,そのうちの2地点について,データそのものの信頼度が乏しいため,想定津波高との比較対象から除外すること,信頼度が高いと判断できた1地点の38.2mという痕跡記録を比較対象とし,想定津波の遡上計算結果がこの記録を上回ったことから,本検討の範囲内で想定津波高が過去の痕跡記録の津波高を下回るケースは皆無となったことの報告があった。主査から,上記2地点以外にも信頼度が乏しい痕跡記録は存在するが,
制約時間の範囲内で検討を実施する必要があり,
今回の検討では,第一段階の評価で想定津波が痕跡記録を下回った地点のみについて痕跡記録の信頼度や遡上地形の詳細を検討したと理解できるとのコ
メントがあった。
想定津波の補正係数について,上記結果も踏まえ,1.0とすることが了承された。ただ,補正係数を1.0とすることについて,結果的にはパラメータスタディのみを実施し補正係数を持ち込まないことと等価になること,補正係数を導入した現提案以外にも最初からこれを導入しない検討方法もあ
ると思うが,
これらの方法について審議したいとの意見があり,
これに対し,
既往津波の補正係数をどのように考えるかを明確にしてから,改めて考えることにしたいとの発言があった。
既往津波の評価方法について,議論の上で,既往津波,想定津波の双方とも評価するが,検討手順,両者の位置付け等について今後検討すること,既
往津波に対しては現在最高の技術レベルの精度を保って再現し,断層モデルの補正を実施すること,想定津波に対しては詳細パラスタ(パラメータスタディの趣旨)を実施し,想定津波高が痕跡高を全て上回るかどうかを確かめ
ながら,サイトに最も不利となる津波を設定し,その際,痕跡高データのうち信頼性が疑わしく,かつ,想定津波を上回ってしまうものは,出典等に立ち戻って痕跡精度の再検討を実施し,場合によっては除外してよいこと,このように設定した想定津波高をそのまま採用し,念のため,既往津波高と比較し両者のうち大きい方を設計値として用いることといった意見もあった。想定津波水位では,どの程度のばらつきまで考慮できるのかという確率論的検討結果についての質疑応答があった。その中で,補正係数を1.0倍とすることの意味について,補正係数を1.0にすると,プレート境界付近の想定津波高の平均超過確率が30%に相当するが,海域活断層では想定津波
高の平均超過確率が8%に相当すること,ただ,この検討は,発生し得る全ての津波に対して超過確率が30%であるわけではなく,最大規模の地震を評価地点に対して最も厳しい位置に固定した上で,パラメータスタディを行うという条件の下での評価であるとの説明があった。
また,既往津波と想定津波を対象とする7省庁手引との関係についての質
疑応答もあり,既往津波と想定津波を検討し,双方を比較して,想定津波は痕跡高記録の平均的に2倍かつ全ての記録を上回ったゆえに想定津波で評価するという筋立てが無難であり,既往津波を完全に無視してしまう場合にはその理由付けが難しく,原発を対象とすることを明記しない場合には7省庁手引の評価方法との関連で誤解を招くおそれがあるなどといった意見もあっ
た(以上,甲A33・1~3,6,7頁)。

津波評価技術の考え方に基づく被告東電の検討等

(ア)被告東電が作成した平成13年12月19日付け土木学会「原子力発電所の津波評価技術に係わる影響評価:福島第一・第二原子力発電所」
には,
基本方針として,津波評価技術に従い,プレート境界付近に想定される地震断層モデルのパラメータスタディを実施すること,対象津波波源につき,三陸沖の位置についてMw8.
3及び8.
6の,
宮城沖の位置についてMw8.
2の,福島沖の位置についてMw8.0の,房総沖の位置についてMw8.2の,各近地津波を想定し,概略パラメータスタディを行い,上昇側・下降
側のそれぞれについて最大となったケースにおいて詳細パラメータスタディを実施したこと,その検討結果について,各地点の朔望平均満・干潮位を考慮し,設計津波を設定したことが記載されている(甲A34)。
(イ)上記各サイトにおける最大値を与える波源によるプラントごとの評価の値(上昇側)としては,1号機及び2号機がいずれもO.P.+5.4m,3号
機及び4号機がいずれもO.P.+5.5m,5号機がO.P.+5.6m,6号機がO.P.+5.7mとなっていた(甲A34)。


津波評価技術

(ア)意義等
上記アの検討を経て,津波評価部会は,平成14年2月,原子力発電所の津波評価技術すなわち津波評価技術を公表した。その中で,津波評価技術は,上記津波評価部会の1年半にわたる活動の成果を取りまとめたもので,津波の波源や数値計算に関する知見を集大成し,原発の設計津波水位の標準的な設定方法として,津波予測の過程で介在する種々の不確定性を設計の中に反映でき,7省庁手引を補完するものであり,原子力施設のみならず,他の沿岸津波防災に利用すべき内容であるとしてい
た。
ただ,津波数値計算結果を実用設計に用いる場合,津波初期波形の推定の精度,
補正の程度や不確定性の考慮といった問題,
津波数値計算技術の精度,
特に局所的な津波の挙動全体の解明やそれに足るだけの地形情報の整備の問題,計画対象とすべき津波・地震の条件等の問題などに留意しなければなら
ないとも指摘していた(以上,甲A26の1・ⅰ~ⅲ,丙B123・22,23頁)。(イ)津波の発生源等
津波評価技術が対象となる津波の発生源は,断層運動(地震),火山噴火,陸域からの土砂・土石流の海中への突入などの津波の発生原因のうち,断層運動を直接の原因とするものとしている。

既往津波災害の最大の原因は,浸水,冠水等の水位上昇にあり,原子力施設への津波の影響という視点から,重要度の高い安全機能を持つ設備や取水に対し支障を来さない設計のために最高水位と最低水位の評価が最も重要であるとして,その対象を津波の水位変化現象のみとしている(以上,甲A26の2・1-2頁)。

(ウ)設計津波水位の評価
設計津波水位(設計に使用する津波水位をさし,設計想定津波の数値計算結果に適切な潮位条件を足し合わせたものと定義する。甲A26の2・1-14頁)の評価に
当たり,①その対象について,評価地点に最も影響を与える想定津波(プレート境界付近等に想定される地震に伴う津波と定義する。甲A26の2・1-14頁)を
設計想定津波(想定津波群のうち,評価地点に最も大きな影響を与える津波とする。最も大きな影響を与える津波の波源が上昇側と下降側で異なる場合,それぞれを設計想
定津波(上昇側),設計想定津波(下降側)と呼ぶ。甲A26の2・1-14頁)とし
て選定し,それに適切な潮位条件を足し合わせて設計津波水位を求める,②想定津波の波源の不確定性(波源の不確定性,数値計算上の誤差,海底地形・海岸地形等のデータの誤差等,甲26の2・1-6頁)を設計津波水位に反映させるため,
基準断層モデル(各海域における自身の特性等を踏まえて適切に設定された想定津波の数値計算を行うための断層モデルで,下記(エ)bのパラメータスタディを実施する際の基準となる断層モデルと定義する。甲A26の2・1-14頁)の諸条件を合
理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し,その結果得られる想定津波群の波源の中から評価地点について最も影響を与える(その地点で一番大きい津波の高さを与えるという趣旨である。丙B123・28頁)波源を選定する,③設
計想定津波の妥当性の確認は,評価地点において設計想定津波の計算結果と既往津波の計算結果を比較すること及び評価地点付近において想定津波群の計算結果と既往津波の痕跡高を比較することによって行うが,その結果,設計想定津波は,平均的には痕跡高の約2倍となる,④上記①~③に先立ち,既往津波の痕跡高の再現計算を実施することにより数値計算に基づく評価方法の妥当性の確認を行う,ということを全体方針としている(甲A26の2・1-4,1-7頁)。

(エ)津波評価技術の本編(体系化原案)第3章の基本的事項
a
既往津波の対象は,近地津波及び遠地津波とする。過去,日本沿岸に被害をもたらした津波には,近地津波だけではなく,チリ地震のように外国の沿岸で発生し日本沿岸に伝播した遠地津波も多数あるから,いずれも対
象とする(甲A26の2・1-10,1-11頁)。
b
想定津波の対象は,近地津波とすることを基本とし,プレート境界付近等に想定される地震に伴う津波を考慮する。近地津波は,パラメータスタディ(想定津波の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件を合理的と考えられる範囲で変化させた数値計算を多数実施することをいう。甲
A26の2・1-14頁)
によって評価地点の水位が非常に大きな影響を受け

る。他方,遠地津波は,その影響が近地津波より小さいと考えられる。そこで,想定津波の波源として,大部分の沿岸では近地津波を対象としておけば基本的に十分である(甲A26の2・1-10,1-11頁)。c
太平洋側のプレート境界付近等に想定される地震の最大Mwは,原則として,各海域における既往最大の地震規模とする。その考え方について,地震地体構造マップで一般的に採用されており,萩原マップも海域については各構造区分における既往最大のMをその構造区分において想定する最大Mとしている。そのため,既往最大の津波の痕跡高を説明できる断層モデルに基づくMwをもとに,想定津波を起こす地震のMwとしてこれと同
等以上の値を設定することとしている。Mwの不確定性は,パラメータスタディによりカバーする(甲A26の2・1-10,1-11頁)。d
海域活断層に想定される地震のMwについて,原則として,断層長さと地震規模との関係式に基づき算定する
(甲A26の21-10,

1-11頁)


e
パラメータスタディにより想定津波の波源の不確定性については設計津波水位に反映する。基準断層モデルの諸パラメータのうち,より支配的と考えられる因子(その因子としては,基準断層モデルの位置,断層面上縁深さ,走向,傾斜角,傾斜方向,すべり角,セグメントの組合せ等から,各海域の特性に応じて適切に選定する。)に関するパラメータスタディを行った後,評価点に最
も影響を与えたパラメータを持つ断層モデルを用いて,その他の従属的な因子に関するパラメータスタディを行うことを基本とする。これにより効
率的にパラメータスタディを実施することが可能となり,不確定性が小さいと判断される因子を除くことができる(甲A26の2・1-10~1-12頁,丙B123・25~27頁)。

f
最大水位上昇量及び最大水位下降量は,数値計算によって求めることを基本とする。数値計算により設計津波水位を評価することを基本とし,評
価地点における最大水位上昇量と最大水位下降量が精度よく計算できる適切な数値計算方法を用いる(甲A26の2・1-10,1-12頁)。g
設計津波水位の評価に当たっては,上昇側には朔望平均満潮位を,下降側には朔望平均干潮位を,それぞれ足し合わせる(甲A26の2・1-10,1-12頁)。

(オ)津波評価技術の本編(体系化原案)第4章の津波波源の設定a
原発の津波評価において,評価対象とする津波波源には,既往津波と想定津波がある。既往津波は,設計想定津波の妥当性及びその波源の断層モデル,数値計算等を含む津波水位評価法の妥当性の確認用と位置付けられ
る。
最終的に設計津波水位を設定する対象となるのは,種々の不確定性を考慮した想定津波であり,プレート境界付近等に想定される地震に伴う津波などに区分される。地震の発生する地域として,太平洋プレートの沈み込みに関連した海域の周辺などであり,地震の発生様式として,典型的なプ
レート間地震,津波地震,プレート内正断層地震及びプレート内逆断層地震である。
地震規模の表現は,モーメントマグニチュード(Mw)で表現する。数式としては,LogMo(N・m)=1.5Mw+9.1となり,また,Mo=μLWDとなる。
μは剛性率,Lは断層長さ,Wは断層幅,Dはすべり量である。震源付近の媒質の剛性率μは,媒質の密度にS波速度の二乗を乗じることにより
算定される。
津波マグニチュードは,検潮儀記録による津波の振幅又は痕跡高及び観測点から震央までの距離により与えられ,太平洋側では,Mt=Mwとなる。
断層運動による永久変位に着目した場合,すべり量が一様な矩形断層モ
デルは,L,W,Dなどの九つのパラメータ(L,W,Dのほか,基準点位置,断層面上縁深さ,走向,傾斜角,すべり角)で記述されるが,これらのパラメー
タのうち,L,W,Dの三つは,地震モーメントMoと関連付けられる(以上,甲A26の2・1-17~1-23頁)。
b
対象津波の選定に当たっては,文献調査等に基づき,評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波を選定する。痕跡高の記録の信頼性に当たり,明治三陸地震の津波より古い津波の痕跡高は,古記録文献等を基に研究者が推定したものであり,記録の信頼性を吟味する必要がある。それ以降の比較的新しい時代の津波の痕跡高についても,個々の文献における痕跡高の調査方法とその信頼性に留意する。痕跡高の信頼性が疑
わしいものについて,出典等に立ち戻り痕跡高記録の精度の再検討を実施し,信頼度が低い場合には適合度の評価においてそれらを除外できる(甲A26の2・1-23頁)。

c
既往津波の断層モデルについて,沿岸における津波の痕跡高をよく説明できるように断層パラメータを設定する。一般に地震動を説明できる断層モデルと,津波の痕跡高を説明できる断層モデルは必ずしも整合しない。津波評価技術においては,津波の評価に主眼を置くから,既往津波の断層モデルを設定するに当たり,沿岸における津波の痕跡高をよく説明できるように断層パラメータを設定することが重要である
(甲A26の2・1-26
頁)。
d
想定津波の波源の設定に当たり,津波をもたらす地震の発生様式を考慮する。日本列島周辺で発生する津波を伴う地震の発生様式は,プレート境界付近で発生する地震と陸域(地殻構造的に大陸型の地殻がある地域であり,陸側のプレートのうちプレート境界やそのごく近くを除いた範囲であって,地理的な陸・海の区分とは異なる。)の浅い地震に分類でき,プレート境界付近で発生
する地震は,プレートの沈み込みによるプレート間地震と沈み込むプレー
ト内の地震とに分類できる。プレート間地震は,典型的なプレート間逆断層地震と津波地震
(海溝のすぐそばの柔らかいプレート境界近くで発生し,
断層運
動がゆっくりしており,
地殻変動が大きいプレート間逆断層地震)
に分類できる
(甲
A26の2・1-28,1-29頁)。
e
プレート境界付近に想定される地震に伴う波源の設定に関して,その評価対象は,プレート境界付近に将来発生することを否定できない地震に伴う津波とする。プレート境界型の地震が歴史上繰り返し発生している沿岸地域について各領域で想定される最大級の地震津波を既に経験しているとも考えられるが,念のため,プレート境界付近に将来発生することを否定
できない地震に伴う津波を評価対象とし,地震地体構造の知見を踏まえて波源を設定する。
津波をもたらす地震の発生位置や発生様式を踏まえたスケーリング則に基づき,基準断層モデルを設定する。津波評価技術では,既往津波の痕跡高を説明できる断層モデル及び各地震学的知見に関する検討から得られた
地震・断層モデルの特徴を反映できるよう,海域ごとに異なる断層パラメータ設定方法を採用する。日本海溝沿い等では,過去に繰り返し津波が発生しており,また,プレート境界形状等に関する知見が比較的豊富であるため,既往津波の痕跡高を説明できる断層モデルにスケーリング則を適用することにより,海域ごとの特徴を反映した基準断層モデルを設定する。波源設定のための領域区分は,
地震地体構造の知見に基づくものとする。
過去の地震津波の発生状況を見ると,各構造区の中で一様に特定の地震規
模,発生様式の地震津波が発生しているわけではないことから,実際の想定津波の評価に当たり,基準断層モデルの波源位置は,過去の地震の発生状況等の地震学的知見等を踏まえ,合理的と考えられるさらに詳細に区分された位置に津波の発生様式に応じて設定できる。その参考資料1をみると,領域5(宮城県東方沖)において,既往最大Mw8.2(L210k
m,W70km,D4.0m,対応する既往津波1793年)が,領域6(宮城県東方沖であり,領域5よりも沿岸部に近い。)において,既往最大Mw
7.7(L26km,W65km,D2.0m,対応する既往津波1978年)が,領域7(福島県及び茨城県の東方沖)において,既往最大Mw7.
9(L100km,W60km,D2.3m,対応する既往津波193
8年)が,それぞれ示されている(以上,甲A26の2・1-31~1-33,1-59頁)。

f
パラメータスタディは,断層モデルの諸条件のうち不確定性が存在する主要な因子について,最大水位上昇量及び最大水位下降量の各々について
行う。また,パラメータスタディの範囲について,不確定性の程度を考慮して適切に定める。基準断層モデルを基に,断層モデルの諸条件のうち不確定性が存在する因子についてパラメータを変動させて数値計算を実施し,想定津波群を評価する。想定津波群の評価に当たり,パラメータスタディを実施する因子を適切に選定するとともに,その範囲を合理的に定めるこ
とが重要である(甲A26の2・1-39頁)。
(カ)津波評価技術の付属編
a
津波波源の地域別特徴をみると,日本海溝沿い海域では,北部と南部の活動に大きな違いがある点が特徴である。北部では,海溝付近に大津波の波源域が集中しており,津波地震,正断層地震も見られる。一方,南部では,延宝房総沖地震を除き,海溝付近に大津波の波源は見られず,陸域に比較的近い領域で発生している。

日本海溝付近では,明治三陸地震のような津波地震や,昭和8年の昭和三陸地震のようなプレート内正断層地震が発生している。谷岡・佐竹論文(丙B21)は,津波地震や正断層型地震(二つのプレートの沈み込む側のプレートが沈み込んだ後に折れて生じる地震,甲A183・80頁)の発生する場所の
限定を示唆している。慶長三陸地震については,正断層地震モデルを提案
する文献(相田勇三陸沖の古い津波のシミュレーション東京大学地震研究所彙報,Vol.52,pp71-101)があるが,複数の文献(甲A197の都司嘉宣歴史上に発生した津波地震月刊地球,Vol.16,No.2,pp73-85,渡辺偉夫『日本被害津波総覧〔第2版〕』東京大学出版会,238p)が,津
波地震の可能性を指摘している。

日本海溝沿いの南部海域に着目すると,宮城県沖では陸域に非常に近い領域で発生する地震と,その沖側で発生する地震とがある。福島県沖で記録されている大地震は,昭和13年の福島県東方沖(塩屋沖)の群発地震すなわち福島県東方沖地震のみである。福島県東方沖地震には,逆断層地震とともに正断層地震も存在する。房総半島沖では,海溝付近の津波地震と
考えられる延宝房総沖地震が発生している(以上,甲A26の3・2-26~2-30,2-101,2-109頁)。

b
想定津波の波源設定方法について,将来発生することを否定できない津波(想定津波)を合理的に想定することを目的とした波源モデルの設定方法
を提示する。具体的には,発生位置とMwに対応して,津波の数値シミュレーションに必要な断層パラメータを設定する方法を提示する。この際,津波をもたらす地震の発生様式が考慮される。プレート境界付近等では,各海域でこれまでに発生した津波の痕跡高を説明できる断層モデルを基準として,与えられたMwに対する断層モデルを設定する。その際,各種地震学的知見や既往地震の発震機構を考慮する(甲A26の3・2-51頁)。c
日本海溝沿い海域において,津波痕跡高との比較を実施している断層モデルは,慶長三陸地震(プレート内正断層地震又はプレート間津波地震の双方の可能性が指摘されているが,付属編の原案では津波地震としている。),延宝房総
沖地震(プレート間津波地震),明治三陸地震(プレート間津波地震)などが示される(甲A26の3・2-27,2-53頁)。
d
想定津波の基準断層モデルに関して,
日本海溝沿い海域では,
津波地震,
プレート内正断層地震,プレート間逆断層地震などが特定の場所に発生しており,それぞれが断層パラメータに特徴を持っている。したがって,想定津波の断層モデルの設定に際しては,既往津波の痕跡高を最もよく説明する断層モデルを基に,既往最大Mwを考慮し,地震の発生様式を反映した適切なスケーリング則を適用する。海域区分3と8が津波地震を想定す
る海域である。海域区分7のMwは,検潮儀記録と痕跡高の関係などを考慮して,地震モーメントを2倍した値である(以上,甲A26の3・2-58頁)。


被告東電の津波評価技術に基づく検討等

(ア)被告東電は,平成14年3月に津波の検討-土木学会「原子力発電所の津波評価技術に関わる検討-」を作成し,津波評価技術により想定される津波に対する本件原発の安全性を検討した結果をまとめている。
具体的には,
津波評価技術に基づき得られる想定津波群の中から評価地点に最も影響を与える想定津波を設計想定津波として選定した上で,評価地点において設計想
定津波の計算結果と既往津波の計算結果を比較するととともに,評価地点付近において想定津波群の計算結果と既往津波の痕跡高を比較することによって設計想定津波の妥当性を確認している(甲A35・1,2頁)。(イ)想定津波の検討結果について,近地津波に関しては,波源モデルを,領域3(Mw8.3),4(Mw8.6),5(Mw8.2),7(Mw8.0),8(Mw8.2)に波源を設定し,これを用いて概略パラメータスタディとして,位置又は走向に関して39ケースの数値シミュレーションを実施し,本件原発の護岸前面の最大水位上昇量は+4.211mであり,同最大水位下降量は-2.306mとなっている。
詳細パラメータスタディとして,本件原発の上昇側最大ケースについては位置,上縁深さ,傾斜角及びすべり角に関して43ケースの数値シミュレー
ションを,同下降側最大ケースについては上縁深さ及び傾斜角に関して9ケースの数値シミュレーションをそれぞれ実施し,設計想定津波による本件原発の護岸前面の最大水位上昇量は+4.446m(遡上域+4.288m)であり,同最大水位下降量は-2.368mとなっている。
また,設計想定津波の護岸前面における最大水位上昇量は,既往津波の最
大水位上昇量を上回り,パラメータスタディを実施した想定津波群の敷地周辺における計算水位は既往津波の痕跡高を全ての地点で上回っている(以上,甲A35・4~6,8,16頁)。

(ウ)津波に対する敷地の安全性について,津波の数値シミュレーションの結果によれば,最大水位上昇量に朔望平均満潮位(本件原発のO.P.+1.359m)
を考慮した設計津波最高水位は,
本件原発では近地津波においてO.
P.

+5.
4~5.
7mであるが,
6号機非常用DG冷却系海水ポンプ
(屋外設置)
において,電動機据付レベル(O.P.+5.58m)を上回っている。6号機について,エアフィンクーラー付きDGを有し,また,DGの不作動を想定しても,
隣接プラントからの電源融通により電源を確保できるから,
現時点でも安全確保は可能であるが,信頼性確保の観点から,同ポンプ電動機に軸を長尺化し,下側軸受設置レベルをかさ上げした構造への変更を計画していることから,実施可能な時期において速やかに対応する(以上,甲A35・9頁)。

(エ)津波に対する取水の安全性について,
最大水位下降量に朔望平均干潮位
(本
件原発O.
P.
+0.
021m)
を考慮した設計津波最低水位は,
近地津波でO.

P.-2.1~-2.4m,遠地津波(チリ津波)でO.P.-3.5~-3.
6mである。このうち条件として支配的な遠地津波水位は,1号機及び4号機の除熱に資する非常用海水ポンプの渦流吸込レベル(1号機O.P.-3.33m,4号機O.P.-2.94m)を下回っている。また,外部電源は確保さ
れるものの,全号機非常用DG冷却海水系ポンプの渦流吸込レベル(最高O.P.-2.69m)を下回っている。

そこで,遠地津波に対して,本件原発の非常用DG冷却海水系ポンプ,原子炉格納容器スプレイ海水系ポンプなどを対象として一時停止する。これらの除熱に資する海水ポンプを全台停止(停止時間2時間程度)しても,原子炉隔
離時冷却系などの系統により原子炉の冷却は可能
(SBOにおける炉心冠水維持
可能時間-4号機8時間-を下回っている。)であると結論付けている(以上,甲
A35・10,11頁)。

(オ)この結論(津波水位をO.P.+5.4~5.7mと評価した。)を踏まえ,被告東電は,機能維持対策として,6号機の非常用DGの海水系ポンプの電動機部分の据付け高さを20cm,同じく高圧炉心スプレー用の海水ポンプの電動機部分の据付け高さを22cmかさ上げするとともに,建屋貫通部等の浸
水防止措置を講じた
(甲A115の1・Ⅲ-29頁,
甲A515,
乙A4の1・17,
18頁)。

(2)長期評価の成立等

推進本部の意義

(ア)平成7年1月17日に発生し,6434名の死者を出し,10万棟を超える建物が全壊するという被害をもたらし,我が国の地震防災対策に関する多くの課題を浮き彫りにした阪神淡路大震災を受けて,同年7月,全国にわたる総合的な地震対策を推進するために地震防災対策特別措置法が成立した。同法に基づき行政施策に直結すべき地震に関する研究の責任体制を明らかにし,
これを政府として一元的に推進するために,当時の総理府に設置(その後に文科省に設置)された政府の特別機関として,推進本部が置かれた(以上,
甲A24の1・1頁,甲A342)


(イ)このように,推進本部は,地震防災対策の強化,特に地震による被害の軽減に関する地震調査研究の推進を基本的な目標とし,本部長(文部科学大臣)と本部員(関係府省の事務次官等)から構成され,その下に関係機関の職員及び学識経験者から構成される政策委員会と地震調査委員会を設置している(甲
A24の1・1頁,甲A342)。

(ウ)上記地震調査委員会の下には,長期評価部会,地震動評価部会などが置かれている(甲A24の1・2頁)。

長期評価部会等における検討状況等

(ア)海溝型分科会における議論の状況等
平成13年3月に長期評価部会の下に海溝型分科会が設置され,その後,海溝型地震に関して,以下のような意見交換が行われた(甲A181・22頁,丙B103の1・25頁)


a
平成13年12月7日開催の第8回海溝型分科会
(主査として,
島崎元部会
長のほか,阿部名誉教授,海野徳仁東北大学助教授(当時,以下海野助教授という。,笠原稔北海道大学教授(当時,地球表面観測の専門家である。以下笠原教授)
という。丙B103の1・21頁)のほか,佐竹委員,都司委員らが出席していた。丙B103の3・資料18)において,以下のような意見交換があった。
三陸沖・福島県沖の地震の長期評価について,三陸沖では慶長三陸地震と貞観地震が過去にあり,最近では明治三陸地震,昭和三陸地震など,いずれも10m超の大地震が数百年に一回発生し,周期もメカニズムもよくわからないが,大津波が発生している。福島県沖について福島県東方沖地震が発生しているが,その時まとめて起きただけで歴史上そのような現象は一度も発生していないから,将来いつ起こるかはわからない。明治三陸地震のタイプはそれしか知られていないし,昭和三陸地震も同様である。慶長三陸地震と貞観地震は全然わからない。

プレート進化論から,カムチャッカ半島から青森県東方沖までプレートのカップリングが強くMw8クラスの地震が起こる。その南に進むとカップリングが弱くなり,福島県沖では,まれに福島県東方沖地震のようなものを起こすが,更に南に進むと伊豆マリアナではM7クラスより大きいものは起きなくなると考えていた。しかし,グアムでM8の地震が起こって
驚いている。ただ,南に向かうほど固有地震がなくなるという見解では,固有地震説に基づく議論ができなくなると思う。延宝房総沖地震は津波地震の可能性が高い。
事務局から,北から南まで一連に扱う方が特徴の変遷が分かりやすいこと,特に意見がなければ茨城県沖までを整理の対象とすること,また明治
三陸地震のような一回限りのまれな現象の地震をどのように扱うかなどの検討も進めることが述べられた(以上,甲A192の1・7~9頁,丙B103の1・70~73頁)


b
平成14年1月11日開催の第9回海溝型分科会
(島崎元部会長,
阿部名誉
教授,海野助教授,笠原教授,佐竹委員,都司委員らが出席,丙B103の3・資料20)において,三陸沖,福島県沖南部について,津波地震がどこでも起き
るかという問題が提起された。
事務局が,明治三陸地震と慶長三陸地震の間に被害のある津波地震はなかったと考えてよいかとの質問を提起したのに対し,貞観地震の頃は記録があるが,その後の鎌倉時代の記録はなく,よくわからないこと,慶長三陸地震はメカニズムのわからない津波地震であるが,被害はわかっていること,慶長三陸地震は明治三陸地震と同じ場所としても矛盾はないことなどの意見があった。
引き続き,どこでも津波地震が起こるという考え方と明治三陸地震の場所で繰り返しているという考え方のいずれがよいかという質問があり,慶長三陸地震がよくわからない以上,明治三陸地震と同じとみるしかないの
ではないかといった意見のほか,延宝房総沖地震を含めるかどうかについて,陸寄りの地震という見解もあるが,仙台,八丈島での津波被害があるから,太平洋の沈み込みと考えてもよいとの意見があった。
また,
明治三陸地震,
延宝房総沖地震及び慶長三陸地震の三つの地震が,
日本海溝沿いの津波地震と考えるかどうかについて,引き続き検討される
こととなった(以上,甲A192の2・5,6頁,丙B103の1・74~78頁)。
c
平成14年2月6日開催の第10回海溝型分科会
(島崎元部会長,
阿部名誉
教授,海野助教授,佐竹委員,都司委員らが出席,丙B103の3・資料23)にお
いて,M8クラスのプレート間地震について,事務局から慶長三陸地震,明治三陸地震及び延宝房総沖地震が過去400年で知られているものとし,ポアソン過程で評価したとの説明があった。津波地震は400年で3回知られているというと,まるでプログラムされているようであるが,実際の起き方は偶発的であり,そのことは結果に反映されているのかとの質問があり,その点を踏まえてポアソン過程を用いたとの回答があった。
延宝房総沖地震を日本海溝沿いのプレート間大地震としたことについて問題ではないかという指摘もあったが,津波の分布から見ると,太平洋プレートのものと思われ,津波の被害が宮城県に及んでいることは確かであるとの意見があった。
その後に,慶長三陸地震の取扱いについての議論がされ,その上で,三
陸沖について過去2回としてポアソン分布
(過程)
にしてよいかとの質問が
あり,事務局は,三陸沖だけ高い値を入れて全然起きていないところを0とするのはおかしいなどと述べた。また,昭和三陸地震とほぼ同じ場所で発生するプレート内正断層地震でないかという意見もあったが,それが正しいとしたら正断層型地震が2回起きたことになってしまい,要するに江戸時代だからわからないといった意見も出て,結局,分からないという前提で,全体としては事務局の見解によるとの意見も出た。

なお,北海道に津波堆積物が若干見られるとの指摘について,データが集まった段階でまた検討するという意見もあった。
その後も,慶長三陸地震を津波地震と見るかどうかといった議論やその周期などに関する議論などの議論,意見交換が行われた(以上,甲A192の3・5~7頁,丙B103の1・79~83頁,丙B103の2・7~10頁)。

d
平成14年3月8日開催の第11回海溝型分科会
(島崎元部会長,
阿部名誉
教授,海野助教授,笠原教授,佐竹委員らが出席,丙B103の3・資料24)にお
いて,事務局が示した資料には,陸寄りと日本海溝寄りの区分けは示されておらず,三陸沖北部,同中部,宮城県沖・宮城県東方沖,福島県沖,茨城県沖,房総沖という区分けがされ,津波地震の発生領域は三陸沖中部から房総沖にかけてとされていた。意見交換の際,
津波地震の発生領域から三陸沖北部を除いたのはなぜか,
津波地震が起こらないということかという質問に対し,事務局は,そうではなく,三陸沖北部は更新過程の中に津波地震も含まれるという理解の下
にまとめたと回答した。また,上記区分けについて,三陸沖北部,中部とあるのに南部がないのはおかしいのではないか,気象庁の区分けによったものかという質問に対し,事務局は,そうではなく,単に作業の便宜上の区分けであると回答した。
東北でハルマゲドン(天変地異と評価されるような地震)を考える人がいる
が,そこまでコメントするのは難しいとの意見に対し,伊豆マリアナでは大きな地震は一度も起きていないので発生しないと思われていたのに,グアムのM8地震が起きたこと,これに似たまれな例として,茨城,福島沖に考えるのかといった意見があった。
また,現在の地震学のレベルで評価できることを示せばいいのではないかといった意見について,現在持っている地震のデータすなわち過去の地震の有無により判断しようとしているが,分からないことが非常に多いた
め,具体的評価は困難といった応答があり,事務局からは,海溝であり,地震発生の蓋然性が高いこと,起こり得る地震の具体的なイメージなどを示す限度にとどめるという意見もあった。
日本海溝沿いのプレート間のカップリングの強弱について示すべきとの意見もあったが,広い範囲での構造探査をしていないこと,北部と中部で
カップリングの状況が異なる可能性があるが,カップリングの強弱と地震発生の有無との関係は明確ではないといったことが指摘された。
三陸沖北部で起きた地震を三陸沖中部,南部,房総沖に持っていくことはできないという意見や,慶長三陸地震及び明治三陸地震は日本海溝沿いで発生しており,どこでも起こり得るが,三陸中部に特有なものではない
という書きぶりには理由が必要という意見があった。事務局は,カップリングが小さいことを理由として一定の間隔で起こる可能性が低いとしたいとしたが,将来を判断できないので可能性がないとはいえないとの意見があり,事務局は,評価本文で触れることにするとした(以上,甲A192の4・2~4頁,丙B103の1・83~85頁,丙B103の2・10~15頁,丙
B103の3・資料24,25の通し275~278頁)


e
平成14年5月14日開催の第12回海溝型分科会(島崎元部会長,阿部名誉教授,海野助教授,笠原教授,佐竹委員,都司委員らが出席,丙B103の3・資料27)において,福島県沖は大丈夫か,江戸時代に本当にないのかとい
う意見が出て(佐竹委員)
,福島県沖には,過去400年,M7.5やM7.
6という地震はないとの説明があり
(阿部名誉教授)重ねて江戸時代に福島

沖にはなく,房総沖にあるかもしれないという根拠は何かという質問(佐竹委員)
に対して,
江戸時代に負傷者が3名くらいの地震はかなりの数ある

が,福島県沖にはそういったものがなく,福島県沖に被害はないといった回答(島崎元部会長)があった。
津波地震として,延宝房総沖地震を入れるかどうかが問題となるが,慶長三陸地震の位置についても分からないという意見(佐竹委員)があり,これに対し,正断層の地震を別にしてすごい津波の地震が3回あったとの意見(島崎元部会長)があったが,そもそも三陸沖に入るのか,千島の可能性もあるとの意見(佐竹委員)もあり,事務局は,含む場合と含めない場合と
を記述すると回答した。その後の議論を経て,事務局から,メカニズムは分からないが,3回大きな津波が発生して三陸に大きな被害を発生させているから,警告として3回というようにしたいとの回答があった。これに対し,震源の位置の議論を議論しているとの意見(佐竹委員)があって,事務局から千島よりも三陸の方が可能性は高いのではないかという趣旨の質
問が出た。それに対しては,そうとはいえない,北海道の記録がないから千島沖かもしれないといった意見(佐竹委員)や次善の策として三陸に押し付けており,あまり減ると確率が小さくなり警告の意がなくなって正しく反映しないというおそれがあるし,千島沖とするだけの証拠があるのかといった意見(島崎元部会長)があり,その後に,北海道で発見された津波堆
積物などから三陸沖から千島沖に移すという選択肢が出てきたとか(笠原教授)
,津波地震としたときに三陸沖であることは確かかといった意見(佐竹委員)もあった。最終的には,宮古における歴史記録など(都司委員)も踏
まえて,異なる可能性(慶長三陸地震の波源が三陸沖ではなく千島沖である可能性)があるとのコメントを残し(島崎元部会長)
,慶長三陸地震の波源につい
て三陸沖とすることとした。
その後,事務局作成資料の区分け(海溝寄りと陸寄りを区分けするが,日本海溝寄りの領域について,三陸沖北部と三陸沖中部~房総沖の海溝寄りとを区分けする。の根拠について,地震活動と海底地下構造とかに基づくものか,三陸)

沖北部は含まないのかという質問が出て,事務局との議論をしているところ,十勝沖の震源はもっと東まで寄っているが,一案として,もう少し狭くして三陸沖北部まで達するようにすることもあり,事務局と議論中であ
ること,正断層地震は海溝よりも東側にも起こるから,別にもう一つ作った方がよいことといった説明(島崎元部会長)があった。その上で,東西の区切りに関する議論があり,北部まで海溝寄りの線を引くかどうかという質問(島崎元部会長)に対し,事務局は,北部まで伸ばすことにすると回答し,再び,延宝房総沖地震が津波地震であるかどうかの議論がされ,最終
的に,津波地震が合計3回であるとの前提に立って,確率計算をすることとなった(以上,甲A192の5・1,2,4~8頁,丙B103の1・85~92頁,丙B103の2・18~28頁,丙B103の3・資料27・28の通し284,288~293,299頁)

f
平成14年6月18日開催の第13回海溝型分科会において,事務局から,
海溝寄りの地震は三陸北部でも起こりうるという前回の議論を受けて,海溝寄りのエリアを広げたとの説明があった。
その際,慶長三陸地震,延宝房総沖地震及び明治三陸地震を三つの津波地震とすることや三陸沖北部から房総沖の海溝寄りを一つの領域として区分けすることについての議論は特にされなかった(以上,甲A192の6・1
頁,丙B103の1・92頁,丙B103の3・資料30の通し306頁)。

(イ)長期評価部会等における検討等
a
平成14年6月26日開催の長期評価部会において,長期評価に関する討議が行われたが,その際,同年7月31日付けで公表される予定の長期
評価について,海溝寄りのプレート間大地震が400年に3回ということだが,慶長三陸地震と明治三陸地震の震源がほとんど重なりあっているとか,気になるのは無理に割り振ったのではないのかといった意見が出た。これに対し,島崎元部会長は,慶長三陸地震が昭和三陸地震と同じという説もあるとか,北海道で津波が大きいため千島沖ではないかという指摘も海溝型分科会ではあったし,400年に3回と割り切ったこととそれが一様に起こるとしたところは問題が残りそうだなどと述べた上で,最終的に
は文章を直すところがあるが,一応確定とすると述べた(丙A123・6,7頁,丙B103の1・92~95頁,丙B103の2・28~34頁,丙B103の3・資料31の通し314,315頁)


b
平成14年7月10日開催の地震調査委員会において,長期評価に関する討議が行われた。その際,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りは北から南
に長く伸びており,将来の検討課題として,三陸沖北部の海溝寄りとか,福島県沖海溝寄りとか考えた方がよいとかといった意見があったほか,以前に発表した宮城県沖地震の長期評価に関して宮城県沖の比較的近いところの発生確率がかなり高いとされており,それがそのうち沖合に行くかもしれず,三陸沖南部海溝寄りの確率が高いことを考えると,次に発生する
ものが連動する場合は防災上の影響があるとの意見に対し,その点はやや複雑で,同じ年に発生しても別々に発生することもあるから必ずしも一緒に動くわけではないとの意見もあり,事務局としては,連動したときだけ被害があることを強調していきたいと回答した(丙A124・8頁,丙B103の1・95頁,丙B103の3・資料32の通し319頁)



長期評価の意義

(ア)上記イの議論などを経て,地震調査委員会は,平成14年7月31日,長期評価を公表した(甲A24の2・1頁,丙A119・1頁)。
(イ)その意義について,全国を概観した地震動予測地図の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし,また陸域の浅い地震,あるいは,海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行うこととした推進本部の平成11年4月23日の決定を踏まえ,地震調査委員会では,これまでに,海域に発生するプレート間大地震(海溝型地震)として,宮城県沖地震及び南海トラフの地震について評価を行い,公表してきたところ,これに続いて,過去に大地震が数多く発生していることが知られている,三陸沖から房総沖までの太平洋沿岸を含む日本海溝沿いの地域の地震活動について,現在まで
の研究成果及び関連資料を用いて調査研究の立場から評価して,長期的な観点で地震発生の可能性,震源域の形態等について取りまとめられたものが長期評価であるとしている。
このように,現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行われたが,データとして用いる過去地震に関する資料が十分に
ないことなどの限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用に当たり,この点を十分に留意する必要があるとしている(以上,甲A24の2・1,2頁)。

長期評価における地震の発生領域及び震源域の形態

(ア)過去の日本海溝沿いの震源域について,三陸沖北部において1677年以降現在まで4回の津波(最大の高さ約6m)が襲来したと推定された大地震が発生したと考えられる。
三陸沖北部以外の三陸沖から房総沖にかけては,同一の震源域で繰り返し発生している大地震がほとんど知られていないため,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りにおいて4回
(昭和三陸地震を含む。,
)三陸沖南部海溝寄りで2回,
福島県沖で1回(昭和13年11月5日から6日にかけて発生した福島県東方沖地震,M7.3~7.5)発生しているといった各地震等を根拠に,三陸沖北部から
房総沖の評価対象領域について,三陸沖北部,三陸沖中部,三陸沖南部海溝寄りと宮城県沖,福島県沖,茨城県沖,房総沖のほか,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域に分けて,震源域を設定した(以上,甲A24の2・2,8頁の表1,16頁)。

(イ)三陸沖北部以外の三陸沖から房総沖にかけては,上記(ア)の各地震の発生状況を踏まえ,
震源域を特定できないものの,
上記(ア)に示したそれぞれの領
域内のプレート境界付近で発生する可能性が高いと考えた(甲A24の2・2頁)。


長期評価における地震活動

(ア)歴史地震の記録や観測成果の中に記述された津波の記録,震度分布等に基づく調査研究の成果を吟味し,
三陸沖北部から房総沖の大地震を整理した
(甲
A24の2・2,3頁)。
(イ)日本海溝付近のプレート間で発生したM8クラスの地震は,17世紀以降,
慶長三陸地震,延宝房総沖地震及び明治三陸地震が知られており,津波等による大きな被害をもたらした。よって,三陸沖北部から房総沖全体では同様の地震が約400年間に3回発生しているとすると,133年に1回程度,M8クラスの地震が起こったと考えられる。これらの地震は,同じ場所で繰
り返し発生しているとはいい難いため,固有地震(個々の断層又はそのセグメントからは,基本的にほぼ同じ(最大もしくはそれに近い)規模の地震が繰り返し発生するという固有地震モデルを踏まえ,
長期評価においてその領域内で繰り返し発生する最
大規模の地震と定義した。)としては扱わなかった(以上,甲A24の2・3頁)。
(ウ)三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)の発生領域,震源域の形態,発生間隔等について,①地震の発生領域の目安として,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りであり,②震源域の形態として,陸側のプレートと太平洋プレートの境界面,低角逆断層型である。③震源域として,日本海溝に沿って長さ200km程度の長さで幅50km程度の幅であるが,具体的な地域は特定できない。④震源域の根拠として,明治三陸地震につい
てのモデルを参考にして,同様の地震は三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性を考えた。⑤発生間隔等として,三陸沖北部から房総沖の海溝寄り全域の平均発生頻度は400年に3回程度,同海溝寄りのうち特定の200kmの領域(以下特定の海域という。)の平均発生頻度は530年に1回程度であり,その根拠としては,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りにかけて顕著な津波被害を伴ったM8クラスの地震の発生は,江戸時代以降には,1611年,1677年,1896年の3回(延宝房総沖地震の震源がやや陸寄りという考え方もあるが,
2件の引用文献から津波地震であるこ
とは明らかなので評価対象に含める。)と判断し,また,特定の海域の発生頻度
は明治三陸地震の断層長(約200km)と三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの長さ(約800km)の比を考慮して求めた(以上,甲A24の2・3,10,16頁)。

(エ)これを前提とする次の地震について,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)について,M8クラスのプレート間大地震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定される。
ポアソン過程
(ポ
アソン過程を用いた場合,地震発生の確率はいつの時点でも同じ値となり,本来時間とともに変化する確率の平均的なものになっていることに注意する必要がある。)に
より,将来の地震発生確率等について,今後10年以内の三陸沖北部から房総沖の海溝寄り全体での発生確率7%程度(特定の海域では2%程度),今後20年以内の同全体での発生確率10%程度(特定の海域では4%程度),今後30年以内の同全体での発生確率20%程度(特定の海域では6%程度),今後40年以内の同全体での発生確率30%程度(特定の海域では7%程度),今後50年以内の同全体での発生確率30%程度(特定の海域では9%程度)となる。次の地震の規模は,Mt8.2前後(なお,長期評価においては,推定のばらつきを示すために程度及び前後の用語を使用しているが,程度は前後より
ばらつきが大きい場合に使用される。)と推定される(以上,甲A24の2・5,6,14,15頁)。

地震の発生位置及び震源域の形態に関する長期評価の説明
地震の発生位置及び震源域の評価作業に当たっては,過去の震源モデルを参照し,微小地震等に基づくプレート境界面の推定に関する調査研究成果及び当該地域の速度構造についての調査研究成果を参照して,三陸沖北部から房総沖にかけての領域について推定した。

各領域の区域分けについては,微小地震の震央分布を参照し,過去の大地震の震央,波源域,震源モデルの分布,バックスリップモデルの研究成果を考慮して,上記エ(ア)のように行った。
三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震
(津波地震)
について,
過去に知られている慶長三陸地震及び明治三陸地震は,津波数値計算等から
得られた震源モデルにより海溝軸付近に位置することが判明している。これらからおよその断層の長さは約200km,幅は約50kmとし,南北に伸びる海溝に沿って位置すると考えた。しかし,過去の同様の地震の発生例は少なく,このタイプの地震が特定の三陸沖にのみ発生する固有地震であるとは断定できない。

そこで,同じ構造を持つプレート境界の海溝付近に,同様に発生する可能性があるとし,
場所は特定できないとした
(以上,
甲A24の2・18,
19頁)


地震活動に関する長期評価の説明

(ア)過去の地震のうち,
三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震
(津
波地震)について,この領域で,M8クラスの津波地震は,17世紀以降,三
陸沖で慶長三陸地震及び明治三陸地震の2例と房総沖における延宝房総沖地震の1例が知られているのみである。
慶長三陸地震が津波地震とされる根拠は,
三陸地方で強震。震害は軽く,津波による被害が大きかった。伊達政宗領内では死1,783人。南部・津軽で人馬死3,000余という。宮城県岩沼,刈田郡にも津波が押し寄せ,岩沼辺では家屋残らず流出した。宮古でも一軒残らず波にとられる。津波の波源は昭和8年の三陸地震の波源とほぼ一致する。M≒8.1とする文献があり,地震調査委員会の見解もほぼ同趣旨である。また,他の文献によっても,山田・大槌でe(震度2~3),無感の所もあり,地震動は非常に小さいとか,津波の高さは,岩手県田老や小谷鳥で15~20mに達しているとか,資料の検討から地震動を感じてから津波の到来までの時間は4~6時間程度と推定され,大きな地震動をもたらした地震と津波をもたらした地震と別の地震としている。したがって,1611年の地震は津波地震と考えられる。とか指摘されている。なお,津波の高さの推定値は田老21mとされ,マグニチュード(M)は,7~8.1程度と推定され,M
t8.4とする文献もある。
延宝房総沖地震が津波地震とされる根拠は,

磐城・常陸・安房・上総・下総。磐城から房総にかけて津波襲来。小名浜・中作・薄磯・四倉・江名・豊間などで家流倒約550,死・不明130余。水戸領内,房総,奥州岩沼領でも津波の被害記録あり。

八丈島や尾張も津波に襲われたという。確かな地震記事は房総と江戸に限られる。

陸に近いM6クラスの地震という説もある。

などの文献があり,地震調査委員会の見解もほぼ同趣旨である。他の文献でも,銚子,一宮および江戸で弱い揺れ(e:震度2~3)があった程度。平藩の原史料には地震のことはまったく書かれていない。被害記事に『潰家』や『倒家』とあるが,これらは津波によるもの。したがって,明らかに津波地震である。,

津波の高さは,外房沿岸で4~8mに達したと考えられ,津波の最も激しかった地域のようである。

とされている。なお,マグニチュード(M)は,約8.0程度と推定され,Mt8.0とする文献もある。
明治三陸地震について,震害はなく,地震後約35分で津波が三陸沿岸に来襲した。津波来襲直前に鳴響のあったところが多く,第2波が最大だった。波高が最も高かったのは岩手県綾里村(38.2m)で,被害の大きかった山田町では,戸数800のうち100戸ばかりが残り死者1000人を算した。津波は襟裳岬で高さ約4m,室蘭・函館で溢水があり,父島で波の高さ約1m。ハワイでは全振幅は2.5~9mで多少の被害があった。この地震は地震の規模に比べて津波が大きく,かつ海水の干退が比較的小さかったのが特徴である。とする文献があり,地震調査委員会の見解は

逆断層型のプレート間地震。死者26360名。津波の高さは岩手県三陸町綾里で38.2m

,地震動は

最大でも震度4程度であったとされているが,津波の高さは非常に高く,通常の地震より断層がゆっくりとずれる津波地震であったと考えられている。

とされる。また,

津波の波源域を断層モデルから推定すると,日本海溝沿いに長さ200~220km,幅50~70kmとなる。検潮記録による津波の最大全振幅は鮎川215cm,花咲94cm,銚子76cmである。

とする文献もある。なお,マグニチュード(M)は,約6.8と推定され,Mt8.2とする文献もある(以上,甲A24の2・20,21,29,30頁)。

(イ)地殻変動の現状について,三陸沖北部から房総沖にかけては,東側から,太平洋プレートが陸側のプレートの下に沈み込んでおり,房総沖付近については,南側から,フィリピン海プレートが陸側のプレートの下に沈み込んでいる場所である。これらのプレート運動に伴う陸上における地殻変動の様子を最近の国土地理院によるGPS観測結果で示すと,東北地方から房総半島
付近では西向きへの移動が卓越し,最近5年間程度は引き続き太平洋プレートの移動に伴う動きを示していることが分かる
(甲A24の2・22,
23頁)

(ウ)プレート運動との整合性に関しては,日本海溝付近の平均的なカップリング率は20%から30%とされている。比較的研究がされている三陸沖北部から宮城県沖の領域のうち,①三陸沖北部について,その高いカップリング
率の値がこの地域で繰り返し大地震が発生していることと矛盾しないこと,②三陸沖中部について,そのカップリング率の低いことは同中部で大地震が発生していないことと整合すること,③三陸沖南部海溝寄りにおいて,1897年のM7.7の地震による平均的なずれの量(推定約5.6m)が,年間8cmというプレートの相対運動速度と前回の1793年の地震から104年程度経過していることから期待されるずれの累積値(8.3m)と比較すると,有意に小さく,このことは,この地域のカップリング率が100%より
小さいことを考慮するとプレートの相対運動と矛盾しないことが指摘される。なお,日本海溝沿いで今までに知られている規模以上の巨大地震が発生した可能性があることを指摘する他の文献もあるが,このような地震については,三陸沖から房総沖において過去に実際に発生していたかどうかを含め未解明の部分が多いため,長期評価では評価対象としなかった(以上,甲A24
の2・23頁)。


長期評価の公表の直後における被告ら関係者の対応等

(ア)平成14年8月,保安院の担当者は,被告東電に対し,①長期評価の公表を踏まえた原発の安全性と②津波評価技術が福島沖及び茨城沖における津波地震を想定していない理由を尋ねた。
被告東電の担当者は,
上記①について,
津波評価技術に基づいて原子力発電所の安全性を確認しているために問題がない旨回答するとともに,上記②について,谷岡・佐竹論文などを示して,福島沖及び茨城沖において,有史以来津波地震の発生が確認されておらず,かつ,三陸沖で発生した津波地震はプレート境界の結合の強さや滑らかさな
どの特殊な条件下で発生したものであると回答した。
保安院の担当者は,重ねて,長期評価の見解の根拠を確認するよう,被告東電の担当者に対し求め,同担当者は,同月7日,海溝型分科会の委員であり,かつ,津波評価部会の委員でもある佐竹委員に対し,メールでの確認をした。同日中に,佐竹委員は,メールでの返信により,海溝型分科会におい
て明治三陸地震以外の慶長三陸地震及び延宝房総沖地震を津波地震とみなし(佐竹委員は反対した。,400年間に3回の津波地震が起きているというデ)
ータから確率を推定したこと,津波地震について海溝寄りの海底下浅部で起きるという点では谷岡・佐竹論文を採用したが,海溝沿いのどこで起きるかはわからないとした旨,今後の津波地震の発生を考えた時にいずれが正しいかはよくわからない旨回答した。そこで,被告東電の担当者は,上記佐竹委員の回答を踏まえ,保安院の担当者に対して,長期評価の津波地震の見解について異論がある中で,過去に日本海溝沿いで発生した三つの地震を津波地震として取り扱ったことから出されたものである旨,それ以上に具体的な理学的根拠があるものではなく,津波地震のデータも不十分で更なる研究・検討が必要なものである旨,それ故に,被告東電としては決定論の中に取り込
めるような話ではなく,今後,確率論に基づく安全対策の中で取り入れていく方針である旨伝え,保安院の担当者は被告東電の方針を了承した(以上,甲A519・2,3,5~10頁,丙B67・4~12頁,丙B114の1・19,20頁,丙B114の3・3,4頁,丙B115の1・144,145頁)。
(イ)平成14年8月8日,大竹政和東北大学教授(当時,また日本地震学会会長でもあった。以下大竹教授という。)は,地震調査委員会に対し,書簡で,長期
評価について,①慶長三陸地震を津波地震とした根拠,②三陸沖南部海溝寄りに関して,長期評価に用いた2個の地震には,連動型と単独型が混在しており,これにBPTモデルを適用し固有地震的な評価を行うことの当否,③将来の地震の発生確率を%で示すことにより,以前(平成12年)に公表した宮城県沖地震の長期評価と比較して,今回の評価の信頼度が高いとの誤解を生じさせることの適否等を尋ねた。
これを受けて,同月21日,上記委員会の津村委員長(当時)は,書簡で,上記①について引用文献を示して,地震動を感じてから津波の到来までの時間が相当長かったことから津波地震と判断されること,上記②について,単
独型と連動型を合わせて対数正規分布を用いた平成12年の宮城県沖の領域に対する評価と同様のものであり,宮城県沖の評価との整合性からBPTモデルを適用したこと,上記③について,地震調査委員会として長期的な地震発生確率の評価手法についてを公表し,その中で妥当な統計モデルとしてBPT分布等を当面採用することとしたことによるものであること,長期評価の結果に含まれる不確実性について地震調査委員会としてもその問題点を認識しており,今後その取扱いや表現方法について検討する予定であるこ
とを回答した。
その後の同月26日,大竹教授は,上記の回答を受けて,津村委員長に対し,上記①に関して,1611年12月2日の慶長三陸地震について午前の地震と午後の津波地震とを別個のものとする説明がなく,
誤解を与えること,
上記②に関して,BPTモデルの採用の可否ではなく,1793年の地震と
1897年の地震を固有地震の繰り返しとして取り扱うことの適否,その根拠等を確認したいこと,上記③に関して,今後の検討を注視したいが,

わからないところは,わからないとして残すべきではないか。

という考え方を採用することの是非等を尋ねたのに対し,同年9月2日,津村委員長は,上記①について,誤解を与える可能性があることを認め,一部修正し,強震
動をもたらした地震と津波をもたらした地震とは別の地震と考えられることを明示すること,上記②について,固有地震の定義の問題であるが,長期評価における固有地震の定義は個々の領域内において繰り返し発生する最大規模の地震としており,
一般的な固有地震の定義との違いを説明していること,
1793年の地震と1893年の地震はいずれも三陸沖南部海溝寄りの
領域を破壊した最大規模の地震であると判断し,今回の評価では固有地震として取り扱ったこと,上記③について,不確実性の取扱いについて長期評価部会等での議論を始めたところであり,わからないところは,わからないとして残すことも選択肢の一つとして議論していきたいと回答した
(以上,
丙A236・添付資料1~4)。


長期評価の信頼度
地震調査委員会は,長期評価において用いられたデータの質及び量において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性に差があるとして,平成15年3月24日付けプレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度についてを公表した(丙A25・1頁)。

(ア)評価の信頼度について,(信頼度が高い。,(中程度)C
A
)B
,(やや低い。,

D(低い。)の4段階とされている(丙A25・1頁)。
(イ)発生領域の評価の信頼度については,Aは,過去の地震から領域全体を想定震源域とほぼ特定でき,
ほぼ同じ震源域で大地震が繰り返し発生しており,
発生領域の信頼性が高い。Bは,過去の地震から領域全体を想定震源域とほぼ特定できる。ほぼ同じ震源域での大地震の繰り返しを想定でき,発生領域の信頼性は中程度である。又は,想定地震と同様な地震が領域内のどこかで発生すると考えられる。想定震源域を特定できないため,発生領域の信頼性は中程度である。Cは,発生領域内における大地震は知られていないが,ほ
ぼ領域全体若しくはそれに近い大きさの領域を想定震源域と推定できる(いわゆる海溝型地震など,プレート境界で発生する大地震は,その震源域がほとんど重ならず,
大地震が起こっていない領域を埋めるように次々と起こってゆく傾向が見られる。このように大地震の発生する可能性がある領域において,
隣接する領域で大地震が発生
しているにもかかわらず,まだ大地震が発生していない領域を地震空白域と呼ぶ。)。
過去に大地震が知られていないため,
発生領域の信頼性はやや低い。
または,
想定地震と同様な地震が領域内のどこかで発生すると考えられる。想定震源域を特定できず,過去の地震データが不十分であるため発生領域の信頼性はやや低い。Dは,発生領域内における大地震は知られていないが,領域内のどこかで発生すると考えられる。ただし,地震学的知見が不十分なため発生
領域の信頼性は低い。
その評価の信頼度のランク分けにおける分類条件の詳細としては,想定地震と同様な地震が発生すると考えられる地域を一つの領域とした場合(Aの場合はない。,
)Bは想定地震と同様な地震が領域内で4回以上発生しており,

今後も領域内のどこかで発生すると考えられる。発生場所を特定できないため,発生領域の信頼性は中程度である。Cは,想定地震と同様な地震が1~3回しか発生していないが,
今後も領域内のどこかで発生すると考えられる。
発生場所を特定できず,地震データも少ないため,発生領域の信頼性はやや低い。Dは,領域内で発生した大地震は知られていないが,大地震発生のポテンシャルはあると考えられる。地震学的知見が不十分で震源域を特定できず,発生領域の信頼性は低い(以上,丙A25・1~3頁)。

(ウ)規模の評価の信頼度について,Aは,想定地震と同様な過去の地震の規模から想定規模を推定した。過去の地震データが比較的多くあり,規模の信頼性は高い。
その評価の信頼度のランク分けにおける分類条件として,Aは,想定地震と同様な地震が3回以上発生しており,過去の地震から想定規模を推定でき
る。地震データの数が比較的多く,規模の信頼性は高い(以上,丙A25・2,5頁)。

(エ)発生確率の評価の信頼度について,Aは,想定地震と同様な過去の地震データが比較的多く,発生確率を求めるのに十分な程度あり,発生確率の値の信頼性は高い。Bは,想定地震と同様な過去の地震データが多くはないが,発生確率を求め得る程度にあり,発生確率の値の信頼性は中程度である。Cは,想定地震と同様な過去の地震データが少なく,必要に応じ地震学的知見を用いて発生確率を求めたため,発生確率の値の信頼性はやや低い。今後の新しい知見により値が大きく変わり得る。Dは,想定地震と同様な過去の地震データがほとんどなく,
地震学的知見等から発生確率の値を推定したため,

発生確率の値の信頼性は低い。今後の新しい知見により値が大きく変わり得る。
その評価の信頼度のランク分けにおける分類条件として,想定地震と同様な地震が発生すると考えられる地域を一つの領域とした場合,ポアソン過程を適用し,
Aは,
想定地震と同様な地震が領域内で10回以上発生しており,
地震回数をもとに地震の発生率から発生確率を求めた。発生確率の値の信頼性は高い。Bは,想定地震と同様な地震が領域内で5~9回発生しており,
地震回数をもとに地震の発生率から発生確率を求めた。発生確率の値の信頼性は中程度である。Cは,想定地震と同様な地震は領域内で2~4回と少ないが,地震回数をもとに地震の発生率から発生確率を求めた。発生確率の値の信頼性はやや低い。Dは,想定地震と同様な地震は1回以下で,地震回数又は地震学的知見をもとに地震の発生率から発生確率を求めた。発生確率の
値の信頼性は低い(以上,丙A25・2,6頁)。
(オ)以上を前提に,三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)
については,
①発生領域の評価の信頼度はCであり,②規模の評価の信
頼度はAであり,③発生確率の評価の信頼度はC(地震数3回,ポアソン)であるとされた(丙A25・8頁)。


その後の長期評価に関する保安院等の対応方針等
平成15年9月8日に原子力安全委員会事務局が保安院との打合せを行った際に,推進本部による活断層評価に対する対応方針については,以下のとおりとされていた(甲A36・39頁)。

(ア)推進本部による活断層評価は,地域防災の観点から行われており,特定の活断層評価の妥当性を評価したものではない。しかしながら,推進本部が評価対象とする活断層には,既に設置されている原子力施設の耐震安全性に関係するものが含まれることから,その評価に対する原子力施設設置者としての扱いを検討する必要がある。

(イ)耐震設計に関する新見解に対する電力会社の対応方針については,平成9年に電事連にて取りまとめられ,通産省にも報告されており,現時点で,この電力対応方針を改める理由はなく,今後も踏襲されるべきものと考えている。
電力対応方針は,以下のとおりである。①新見解のうち,原子力施設の耐震安全性の観点から採用することが適切なものを確認された知見と位置付ける。ただし,確認された知見は,原子力安全委員会での議論を経るなどの確認行為が必要となる。②確認された知見に対しては,これに基づき既設プラントの安全評価を行う。③確認された知見として確定しない段階は,新見解に対して電力会社自らが技術的検討を行い,対応を判断する。

(ウ)また,推進本部の評価に対して,原子力施設の設置時の活断層評価の妥当性が否定されるものではないが,その検討が有識者によって行われており,その公表内容に基づく評価を必要とするとのポジションをとることも考えられる。
しかしながら,
このポジションは,
推進本部の評価が
新知見
であるか,

確認された知見であるかが不明確であり,実施する安全評価の位置付けも不明確となるため,今後,推進本部が評価を公表する都度,確認された知見であることの確認がされないまま安全評価の実施が必要となる上,安全評価を実施しなければ明確に既設プラントの安全性を示すことができないものとみなされる
(今後の推進本部の評価結果次第で設備評価及び改造まで必要とな
る可能性もある。)などの弊害が発生する。

そこで,推進本部の評価が公表される都度,
新知見であるか,又は確認された知見であるかを明確にする必要がある。しかしながら,過去の電力対応方針のとおりに推進本部の評価内容を確認された知見とするか否かを原子力安全委員会等で議論することは,今のところその要求もなく,現実的でもないことから,
評価内容について電力会社自らが技術的検討を行い,
経産省(METI)の審査課と協議を行い判断するのが適当と考える。検討の結果,
対応が不要と判断された場合,
安全評価不要
(規制側としての確認も不要)
とのポジションを確認する必要がある。
推進本部の評価の趣旨から,原子力施設の活断層評価との関連付けは不要とする考え方もあるが,原子力施設の耐震安全性の観点から知見として採用するべきか否かの判断は,個別の評価内容を基に行われるべきであり,都度
検討するとの方針が適当と考える。
(3)中央防災会議における検討状況等

日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会の発足等
平成15年5月の宮城県沖を震源とする地震,同年7月の宮城県北部を震源とする地震,同年9月の十勝沖地震の発生を踏まえ,東北・北海道地方に
おける地震防災対策強化の必要性が認識され,中央防災会議(災害対策基本法11条1項に基づき,内閣府に設置された機関)において,当該地域で発生する大
規模海溝型地震対策を検討するため,14人の専門家からなる日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会(以下日本海溝等専門調査会と
いう。が平成15年10月に設置され,また,平成16年4月の日本海溝・)千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法が成立し,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震が発生した場合に著しい被害が生じるおそれがある地域を,日本海溝・千島海溝周辺海溝型防災対策推進地域として指定し,国・地方公共団体・民間事業者等が,各種防災計画を策定し,地震・津波被害の防止・軽減のための防災対策を推進していくこととな
った(丙A26の1・4頁)


平成16年2月19日の日本海溝等専門調査会の検討状況

(ア)最初に,座長から,日本海溝・千島海溝の周辺で発生する地震に関する前回の議論を踏まえ,今後,地震の揺れや津波の高さについての検討対象とすべき地震と強震動・津波等の推計手法について議論をしてほしいとの話があり,事務局から,資料を示して,検討対象地域に関する説明がされた(甲A118・1,2頁)


(イ)千島海溝,日本海溝沿いの地震と言っても,東海,東南海,南海などと異なり,領域により非常にバラエティに富んだ地震が発生しているため,防災の対象としてどのくらいの地震,どういった素性の地震まで検討対象とすべきかについて,事務局の議論が紹介された。その中で,対象の候補となる地震として,①繰り返しが確認されている固有地震的な地震,近い将来その場所でほぼ同じような規模で起こる蓋然性が非常に高い地震,②繰り返しは確認されていないが,少なくとも歴史的にここで大きな地震が起きて被害が発生したことが確認されている地震,③繰り返しが確認されていない地震であ
るが,起こるかもしれない,現在われわれが得ている知見では発生が確認されていないが,科学的に完全にそこで絶対そういう地震が起きないとは言い切れない地震の三つがあること,③の地震は,①及び②の地震と比較してそこで起きる蓋然性が非常に低いため,検討の対象から当面外し,今後の調査検討による知見の進展を待って必要に応じて検討の対象に含めることが示さ
れた(甲A118・3,4頁)

(ウ)次いで,
検討対象となる地震についてという資料に基づき,以下の説明
がされた。
a
まず,地域ごとの説明がされ,
①千島海溝沿いでは,
M8クラスの地震が
大体繰り返しほぼ決まった領域で発生し,その間隔も比較的短く,地震に
よる強震動及び大きな津波が発生していること,領域を超えた連動の可能性,例えば,津波堆積物の解析から十勝沖から根室沖にかけての二つの領域をまたぐ巨大地震が500年間隔で発生している可能性が指摘されていること,②日本海溝沿いでは,海溝に近いプレートで沈み込んですぐのところと,より陸域のところで二つの領域に分けて各々特徴を有すること,
海域の方の地震は地震動がそれほどでもないが,津波の発生が極めて甚大であり,より陸域の近いものについて津波はそうでもないが,地震動が非常に強いという特徴があること,③各々の領域別の分析として,陸域から遠い領域について,三陸沖ではM8クラスの地震が発生し,房総沖でもM8クラスであったと考えられている地震があるが,その中間領域である福島県沖から茨城県沖にかけての海溝に近い領域では巨大な地震の発生は歴史上知られていないこと,④陸域の近くになると,宮城県沖では,M7.
5程度のプレート間地震が繰り返し発生し,1793年に海溝寄りの領域と連動したM8クラスのプレート間地震と考えるのが妥当な地震が発生していること,福島県沖では特異な例として昭和13年にM7クラスの地震が連発するという活動が知られ,M7.5程度のプレート間地震の後にM7程度のプレート内の正断層地震が幾つか起きていることが説明された。
これまで触れられていなかった中に貞観地震があり,詳細は明らかではないが,地震の被害が顕著で,津波による被害も非常に激甚であったと説明されている。
また,各領域の場としての特徴として,福島県沖から茨城県沖にかけての海溝軸に非常に近い領域,すなわち歴史上もあまり巨大地震の発生が知
られていない領域にはサイスミシティも低いという特徴がみられるとの指摘がある(以上,甲A118・4~7頁)

b
各々GPSや測地測量などによる地殻活動,地殻変動のデータの解析から得られたプレート間のカップリングの強弱を解析すると,三陸沖,昭和
43年の十勝沖,昭和53年の宮城県沖に対応する部分について,カップリングが強い,すなわち固着の度合いが強いと考えられる領域について,非常にいい対応が示されていること,また,地震の波動を用いた解析として,アスペリティの位置が時間的に普遍であって,そこが繰り返し破壊され,地震の最大規模が何個かのアスペリティの連動によって規定されると
いう地震動をとらえる上での新たな知見があることが示され,これらのアスペリティ分布と上記地殻変動で得られたプレート間のカップリングの強い領域がいい対応を示していること,最近,
繰り返し地震と呼ばれる,
ほぼ同一場所・同一規模で時間的に等間隔で発生している地震が数多く発見されており,その分布を見ると,これらの地震は,比較的独立した,他からの干渉を受けない小規模なアスペリティの繰り返し破壊であると考えられること,このような繰り返し地震が発見されている領域によってある
程度大地震が起きる領域であるかどうかという識別が可能であるとの知見が得られつつあることなどが指摘された。
また,一つの考え方として,プレートの曲がりが非常に大きいところでは陸側のプレートとのカップリングが弱くなって,通常のサイスミシティが低くなり,巨大地震も起きにくいという解釈があるということが紹介さ
れた。
津波地震について,慶長三陸地震,延宝房総沖地震が津波地震であった可能性があるとの指摘がされていること,日本海溝について,主に津波の被害を伴ったものが割と海溝寄りの地震であるが,福島県沖から茨城県沖にかけて被害を伴う津波を発生させるような地震は知られていないことな
どが説明された(以上,甲A118・8~10頁)

c
以上の整理を踏まえ,対象とする地震の考え方として,将来,地震の発生のおそれがある領域を地震の震源域として対象とする,すなわち,繰り返しが確認されている固有地震的に扱ってよいものに加えて,繰り返しは
必ずしもはっきりしないが,実際にそこで発生し,発生させるポテンシャルがある領域であることが判明している場合にはそれも検討対象とするが,大地震発生の過去の事例がなく,近い将来,地震の発生のおそれがあるとは肯定できないが,可能性を否定もできないものについては,今後の調査研究の成果を踏まえて,必要な時点で適宜追加及び見直しをするとい
う考え方が提案された。
その上で,日本海溝について,陸域近くと海溝軸付近という形に二つに分けて,三陸沖北部では参照すべき地震がかなりあるため,それを踏まえて強震動と津波を考えること,三陸沖中部は陸域では被害になるような地震を想定する必要はなく,沖合には昭和三陸地震や明治三陸地震などの津波の被害を発生させた地震があるので,これらを対象とすべきこと,福島県沖については,昭和13年の事例が知られており,プレート内,プレー
ト間の各々について強震動の対象とすることなどが示された(以上,甲A118・11,12頁)


(エ)上記(ウ)の報告を受けて,審議が行われた。
a
中央防災会議においては過去に起きた地震を対象に検討したいというのが基本的な方針であり,それはそれでよいが,他方,推進本部が,まれに起こる地震,例えば昭和三陸地震といった正断層地震や明治三陸地震のような特異な津波地震について,非常にまれなケースで繰り返し起こることは全く保証されていないものの,それらに似たタイプの地震が別の場所で起こるのではないかということを考慮しており,過去の事例に重点を置く
ことによって過去に経験のない福島県,茨城県沖で巨大津波が起こるという事態を一切切ってしまってよいかという指摘があった。これに対し,事務局から,まれに起こる可能性のある地震と繰り返しが確認されている地震とを同じ防災対策として取り込むのはいかがなものかと考え,一定の線引きをしたという趣旨の回答があった。

これに追加して,防災対策を立てる際の重点付けについて,どのように考えるべきかという質問があり,科学的な知見を基礎に議論されるべきであるが,政治の世界つまり人間生活や財産といったものについての影響を考えると,およそ起こりそうにもないということであれば,それは重点の置き方として近々に大きなものが起こる方を優先するとは思うが,その整
理ができるところまで議論が深められているのかといった発言があった。また,あらゆる地震を想定し,実際には起きないかもしれないが,このぐらいを覚悟すべきとして予防対策用のシナリオを考えるに際して,過去に起きたものだけを考えて作るとすると,まれであるが起こる可能性があるものを排除することになること,多くの研究者は明治三陸地震が繰り返すとは思っていないし,昭和三陸地震が繰り返すとも思っていないが,その程度のことは隣の領域で起こるかもしれないということは考えており,
それが予防対策から排除されることについて覚悟しなければならないとの意見もあった(以上,甲A118・21~24頁)

b
続けて,まれに起こる現象というのはわかっていないだけで,繰り返し間隔が長いので見ていないだけと考えるのが科学的には合理的であること,便宜的に我々が知っている地震に基づき被害想定をする考え方に反対
しないが,その場合,国民に対してそのようにしたことを強調する必要があるという趣旨の発言があった。
また,地質学的資料からの検証にも配慮された形となっているが,歴史時代に起こった地震をある地域だけの代表と見るのではなく,もう少し広いプレートテクトニックな枠組みで見た場合の領域の共通性も踏まえて
より広い範囲で評価すべき場合もあるのではないか,それを同じように切ってしまうのは少し問題ではないかという趣旨の発言があった(以上,甲A118・24~26頁)


c
地震学や地質学の立場から,日本の北の方の歴史的な地震が記録上どの程度わかっているのかとの質問があり,東北地方ではおよそ400年程度との回答があったのに対し,この程度の期間で議論してよいのかという感じがあるとの意見があった。
また,貞観地震等に関して,その規模とメカニズムは分からないが,被害が大きかった事実はあり,最近,堆積学的な根拠が出つつあり,福島県
沖に非常に大きな影響を与えることもあり,切り捨てないでほしいといった意見もあった。
事務局からの資料に関して,実際に過去に起こった地震をベースに考えていきたいため,福島県沖,茨城県沖の巨大津波を起こすような地震についてどう考えるかといったところは今回対象にしない形としたが,その理由をもう少し整理すべきとの意見があり,これに対し,事務局は,時間をいただき整理したいと回答した。

また,非常にまれな地震で,ある領域で繰り返すことがないと思われるものを対象とするのではなく,それと同じような地域が隣にあり,むしろそちらで次に起こると思っているのであるから,先手必勝でそちらを対象とすべきではないかといった意見があった。
これに対し,
防災対策として,
人,時間,金を投資する以上,過去に起こったことをベースにする方が一
般的合意を得られやすいという事実があり,まだ起こっていないが隣の方が起こりやすいということについて,一般の人が納得できる理屈や根拠を教えてほしいとの意見が出された。それに続き,昭和三陸地震はプレートが曲がって折れたことにより発生したものであるから,その隣の領域のプレートが折れていなければいつか折れるという考え方が普通であり,正断
層は昭和三陸地震よりもむしろ南を考える方が将来の予防の点で意味があるし,津波地震も同様であるとの意見があった。また,既に水掛け論になっているので,先手必勝のためには津波調査の抜けている福島県沖とかの特定の場所を調査するなど,必要な調査研究を積極的に推進することが重要であるとの意見もあった(以上,甲A118・26,27,29~31頁)。

d
防災対策を立てる際の基本的考え方として,これまで,東海・東南海,首都直下になり,今日本海溝・千島海溝ということで検討しているが,全体を通してどう考えるのかという質問について,事務局から,防災の基本としては,財政的な面や人口の高齢化などを踏まえ,そういった中での地
震の活動期に備えて,効果的に人や金の配分を考えるということになること,今回の提示は,有効的・効率的なものとするために過去の地震に相当のウエイトを置く方がよいのではないかということであるが,そうではないとの見方も示されたので,上記基本を踏まえて,どう考えていくのかを時間をかけて検討したいという趣旨の回答があった(甲A118・31,32頁)


北海道WG報告書
(ア)北海道WG(委員は,座長笠原教授,佐竹委員,谷岡勇市郎北海道大学助教授(当時,谷岡・佐竹論文の共著者,以下谷岡准教授という。,今村委員などである。)


は,日本海溝等専門調査会の付託を受け,北海道周辺で発生する海溝型地震について防災対策の検討対象とすべき地震の判定に必要な事項として,繰り返し発生が知られている千島海溝・日本海溝のプレート間地震の規模・震源域などのほか,明治三陸地震,昭和三陸地震等による津波についての検討を行ってきており,これらの知見に基づき,日本海溝周辺の地震による津波などについて,
防災対策の観点から今後検討すべきと考えられる地震像(断層モ
デル,強震動,津波高さ)を,プレート間地震及びプレート内地震別に,領域ご
とに整理し,
平成17年6月22日,
上記報告書を取りまとめた
(甲A341・
1頁)


(イ)津波の検討として,領域ごとに過去の発生事例を整理し,繰り返しの可能性を検討するとともに,津波を発生させる断層領域の推定を行った。津波を発生させる断層領域は,強震動を発生させる断層領域を基本とし,プレート間地震では海溝軸付近まで広げた領域について検討した。津波を発生させる断層モデルの推計に当たり,インバージョン手法を主体として計算した。このうち,特に大きな津波をもたらしたプレート間地震としては次のとおりである。
明治三陸地震(津波概要として,M8.5,Mw8.4~8.5,Mt8.2,津
波高さは綾里白浜21.9m,越喜来吉浜24.4m,田野畑羅賀22.9m,三陸海岸(青森~岩手)3~10m以上,
(宮城)2~5m以上,石巻0.6~1.8m)に
ついて,
推定した断層モデルは海溝軸付近での変異が大きい断層で,
Mw8.
6とした。
慶長三陸地震(史料から推測される津波高さは,山田小鳥谷22.5m,田老21m,浦河2.5m。宮古・津軽石7.5m,船越11m,岩沼7m,相馬4.5m,その地震像はこれまで解明されていない。について,津波データが少ないが,陸前)

高田市以北における津波高さが明治三陸地震のものとほぼ同程度と考えられ,
断層モデルの北側の領域は明治三陸地震の断層モデルと同じものを用い,南側の領域は陸側のやや深い領域に一様な断層変位を設定したモデルで津波計算を行ったところ,おおむね史料からの津波高さを説明できるものとなっている。陸前高田市より南側の津波データが少なく,全体像としての断層モデルを確定できなかった。
延宝房総沖地震(史料から推測される津波高さは,塩釜4m,岩沼4m,小名浜4m,銚子から九十九里4~7m,安房勝浦(新官)8m。八丈島8~10m,その地震像はこれまで解明されていない。また,この地震の繰り返しは確認できていない。に)

ついて,史料の調査の結果,松島湾塩釜及び安房勝浦のものについて信ぴょう性に問題があり,これを除き検討することとし,津波データが少ないことから,幾つかの断層モデルを想定して津波の試算を行ったが,確定的なものは得られなかった。しかし,福島県沖・茨城県沖の海溝側及び房総沖に断層変位を持つ断層モデルは,茨城県から千葉県の津波の高さをおおむね説明で
きるものとなっている。
貞観地震(大きな津波が仙台平野を襲い,1000名が溺死したとの史料があるが,それ以外の史料はほとんどなく,地震像は解明されていない。について,史料がな)

いため,断層モデルの検討は行わなかった(以上,甲A341・3,8~10頁)。
(ウ)防災対策の検討対象とする地震について,三陸沖北部,宮城県沖等において繰り返し発生が確認されており,影響も大きいことから,これらの領域のプレート間地震については防災対策の検討対象とすべきであるが,福島県沖

茨城県沖の領域については繰り返しが確認されておらず,影響も小さいことから,防災対策の検討対象から除外してよいと考える。
また,特に大きな津波をもたらしたプレート間地震の留意点として,明治三陸地震と同タイプの地震は確認されていないものの,慶長三陸地震は明治三陸地震と同様の海溝軸付近の領域を破壊した可能性が高いことが分かり,このことから,繰り返し周期について不明であるが,この領域は同様の地震が繰り返して発生するものとして取り扱うことが適切と考える。発生した場合の被害が甚大であることも踏まえ,防災対策の検討対象とすべきである。慶長三陸地震は,その全体を説明する断層モデルを得ることができず,防
災対策の検討対象としないが,この地震の北側の領域について,明治三陸地震の断層モデルの津波により防災対策の検討が行われることとなる。ただ,陸前高田市以南さらに福島県北部沿岸において津波が大きかったという史料があり,これらの地域の防災対策の検討を行うに当たり,留意する必要がある。

延宝房総沖地震の繰り返し発生が現時点において確認されておらず,防災対策の検討対象から外してよいと考える。断層モデルについて,史料は少ないものの,茨城県から千葉県の津波高さの過去史料をおおむね再現できるモデルが得られており,過去大きな津波が来たことを考慮し,これらの地域において防災対策の検討を行うに当たり,この結果を参考とすべきである。
貞観地震について断層モデルの検討を行っていないが,この地震により仙台平野で1000人が溺死したという記録があり,地域における防災対策の検討を行うに当たり,留意する必要がある。最近の仙台平野を中心としてこの津波堆積物に関する調査の事例があり,
更なる研究の発展を期待したい
(以
上,甲A341・11,12頁)


(エ)特に切迫性が高いと考えられる地震として,上記(ウ)の地震は指摘されていないが,今後の調査研究の課題として,資料が十分ではない貞観地震,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震については,北海道から房総沖の津波堆積物の調査等により地震像の解明が進展することが強く望まれる(甲A341・13頁)



平成17年6月22日の中央防災会議の審議状況等

(ア)同日付けの日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会における資料の中で,延宝房総沖地震の津波を発生させる断層モデルの推定について,千葉,茨城についておおむね説明できる形となっているが,福島県内のデータがなく,小名浜から四倉まで再現できているかどうかが不明であることなどが示された。

明治三陸地震と慶長三陸地震とを合わせて,そのデータをみると,従前の説明と同様に明治三陸地震の領域そのものが繰り返すと整理できること,貞観地震について完全に検討できていないこと,明治三陸地震の津波の再現計算,慶長三陸地震について,明治三陸地震の断層域を南側のやや深いところにつけるとおおむね再現できること,明治三陸地震及び慶長三陸地震につい
て,慶長三陸地震を最初にして繰り返していること,延宝房総沖地震について,プレート間地震と考えられるが,現時点でその繰返し発生が確認されていない地震として区分したこと,Mwについて,明治三陸地震は8.6として求めたことなどが説明された。
また,繰り返し性があるかどうかについて,今回の防災対策の対象から外
れたものについても,今後の調査研究に委ねること,その一つに津波堆積物の調査があり,貞観地震,慶長三陸地震,延宝房総沖地震など,資料が十分ではないきらいがあるので,津波堆積物の調査の進展が望まれることが説明された(以上,丙A176・3,4,6,10~14頁)

(イ)その審議の中で,日本海溝・千島海溝について,完全に繰り返しているが,
様々な地震があり,その間隔は,歴史資料が十分ではないこともあり,東南海などほど周期的ではないこと,その中で一番よくわからないものが明治三陸地震の領域であり,慶長三陸地震と同じ領域で繰り返しているとすると,約300年であり,今100年しかたっておらず,後200年あるのか,100年なのか,
何年という風にとらえると明治三陸地震は評価が難しいこと,
500年間隔地震は少なくとも300年から600年のばらつきで見ると,400年たっているとすると,見方によっては切迫していると見えるといったことがあること,検討してきた地震の中で,周期的にはっきりしているものは40年間隔で発生している宮城県沖地震があること,この地震は連動するかもしれない心配があるので,津波も含めて連動タイプを計算したことが指摘された。

また,北海道WG報告書における切迫性が高いことの意味について,長期的な評価としての切迫性だけでなく,社会に対する影響度という問題も含めて理解したこと,この点,いわゆる千島海溝・日本海溝の基本的なM8クラスの地震は,100年以下の繰り返しで起きているから,どの場所もある意味ではかなり切迫しており,この特にと言っている意味の切迫性には,
時間的な問題と影響の問題ということで,何かもう少し説明が必要となることといった指摘があった。
続けて,現在の学問の進展として,ゆっくりすべりが分かってきており,例えば,十勝沖地震の後かなり広域に東西に広がり,西では三陸沖北部があって,切迫性が非常に高いこと,M8を超えると確率は低いというのが長期
評価であるが,小さいM7.1か7,6なら非常に確率が高いこと,他方,西側の領域についてゆっくりすべりが非常に気になることが指摘された。その後に,切迫性が高いというだけで二つの例示がされると,誤解を招くこと,三陸沖北部は切迫性が高くないと言われると,地震学者の中でも異論のある人が結構いると思われること,もう少し限定的に言うなどする必要が
あることが指摘された。また,この作業の狙いとして,先手必勝型の手が打てるかどうか,多少の批判のリスクはあるとしても,ある程度具体的に書けるところは事例を特化してもいいから書き,ほかはわからないと言ってもいいのではないかという意見もあり,続けて,長期評価においては確率ということで公表しているが,中央防災会議においては意識的に確率の数字を出さないで同じようなことを言うことに無理があり,それなら確率の数字を出したほうがよいが,意識的に確率という言葉を出さないなら非常に説明が難し
いこと,ただ,三陸北部までここで追加して言うかどうかはどのような切り口で議論をまとめるのかによるとの意見もあった。
続けて,確率性から言うと,長期評価は,宮城県沖のように繰り返しの事例が多くある場合と,そうではなくある手順をとるとある値が出たというものと全部一緒になっていること,それが防災に直結することは推進本部自体
がおそらく相当ちゅうちょすること,防災行政を行う上で長期評価をどのようにみるかはそれを評価しながら取捨選択し,その中をくみ取りつつ,具体的な施策を調査の中に組み込んでいくべきであること,今後も観測を続けるといろいろな事例が出てくるかもしれない地域であるが,長期評価の確率論は,信ぴょう性のあるものからないものまで全くの玉石混交で,もう少し整
理しないと防災にすぐ取り入れるにはいささか問題があると理解していることといった指摘もあった。
その上で,事務局から,切迫性をどう考えるか,遡って地震に対する防災がどうあるべきかという議論がされ,確率評価をどうとらえるかなど,根源的な議論だと思うとの応答があった(以上,丙A176・35~40頁)。


中央防災会議における取りまとめ
日本海溝等専門調査会は,平成18年1月25日付け日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告をまとめた。すなわち,これまでの検討を踏まえ,防災対象とすべき地震を選定し,その上で対象地震によ
る揺れの強さや津波の高さを評価し,この評価結果をもとに被害想定を実施し,予防的な地震対策及び緊急的な応急対策などについて検討し,地震対策の基本的事項などの検討成果を公表したものである(丙A26の1・4,5頁)。
(ア)その中では,調査対象領域の分類については,長期評価による分類を基本としている。
プレート間地震のうち,三陸沖の海溝寄りで発生した明治三陸地震はいわゆる津波地震であるが,慶長三陸地震は明治三陸地震の震源域を含んだ領域で発生したものと推定されるから,明治三陸地震の震源域の領域は,このタイプの津波地震が繰り返し発生する領域と考えられる。
延宝房総沖地震の領域では,震源域を同じくする同タイプの地震の繰り返しの発生は現時点では確認されていない(以上,丙A26の1・6,8,9頁,丙
A26の2・54頁)


(イ)津波の推計のうち,津波を発生させる断層領域について,繰り返し地震が発生している領域では,その領域で発生した主たる津波の高さを重ね合わせたものを再現する津波を発生させる断層モデルを検討した。繰り返しの発生が確認されていない地震については,その地震による津波の高さを再現する津波を発生させる断層モデルを検討した。この検討においては,津波の高さ等の資料を用い,インバージョン手法により津波を発生させる断層モデルを推定した。津波は,強震動を発生させる断層領域(震源域)での急激な断層の変位のみではなく,それよりもやや緩やかな断層の変位に伴う海底の地殻変動によっても発生するため,津波を発生させる断層領域は,震源域
よりも広いことがあり,津波の断層モデルを推定するに当たっては,強震動を発生させる断層領域よりもやや外側に拡張した領域を対象とした(丙A26
の1・13頁)


(ウ)大きな地震が繰り返し発生しているものについては近い将来発生する可能性が高いと考え,防災対策の検討対象とする。三陸沖北部の地震,明治三陸タイプ地震,宮城県沖等の地震が検討対象となる。他方,福島県沖・茨城県沖のプレート間地震は除外される。なお,延宝房総沖地震は,プレート間地震と考えられるが,それ以前の同じタイプの地震の発生は,現時点において確認されておらず,繰り返し発生が確認されていない地震として区分する。今後,
津波堆積物等の調査の進展を待って取り扱いを検討する
(丙A26の1・
13,14頁)

(エ)貞観地震により仙台平野で1000人が溺死したという記録があること,慶長三陸地震について,宮城県陸前高田市以南さらに福島県北部沿岸において津波が大きかったという史料があること,延宝房総沖地震により宮城県から千葉県及び八丈島に至る広範囲で津波が大きかったという記録があることから,これらの各地域において防災対策の検討を行うに当たっては,これら
の地震に留意する必要がある。昭和三陸地震による津波は明治三陸地震に匹敵する規模であり,三陸沿岸の広い地域で3mを超える大きな津波があり,唐桑笹浜(宮城県気仙沼市)
,綾里白浜(岩手県大船渡市)などでは20mを超え
るものであり,また,三陸南部に歴史資料上最大の津波をもたらしたことに留意する必要がある。

検討に当たり比較の対象とした過去の地震の震度や津波の分布は,当時の史料を基にしたものであり,十分な精度があるとは限らない。また,シミュレーションによる想定は,地震発生のメカニズム等を背景にしたものではあっても,パラメータ等の取り方でかなり震度や津波の数値が異なる。今後,各機関が具体的な防災対策を検討するに当たっては,これらに留意し,ここ
での検討結果にはある程度幅があることを念頭に置く必要がある(以上,丙A26の1・15,16頁)


(オ)津波浸水に伴う広域的な被害の発生のうち,建物被害について,大きな被害発生が予測される地震として明治三陸地震が示され,特にスマトラ沖地震によるインド洋大津波において,津波浸水に伴う船舶,車両,倒壊家屋などの漂流物により津波の破壊力が増大することが広く認識されており,建物被害の想定に当たって,このような漂流物による被害の増大を加味することとした(丙A26の1・20頁)

(カ)巻末の資料には,検討対象地域の領域区分として,長期評価と同様,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域区分が示され,津波の断層域の模式図には,同領域区分に明治三陸タイプ地震や宮城県沖(陸側・海溝側)の地震などが示され,青森~千葉の海岸での津波高さ(m,TP基準)の最大値を見ると,
明治三陸タイプ地震で福島県沿岸がおおむね5mを超えない(一部地域で5mを超えるが,10mを超えるものはない。旨記載されていた(丙A26の2・54,)
62,65頁)


4
確率論的安全評価,溢水勉強会,耐震バックチェック(中間報告まで)等
(1)平成15年~平成16年頃の確率論的安全評価等

安全目標に関する中間とりまとめ

(ア)原子力安全委員会は,原子力分野の専門家のみならず,他技術分野におけるリスク管理・評価の専門家,マスコミ関係者など幅広い分野の専門委員から構成する安全目標専門部会を設置し,安全目標の概念や具体的な安全目標案などについて調査審議等を進め,その審議状況の中間とりまとめとして,平成15年12月,
安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ
を公
表した(甲A624・1~4頁)

(イ)安全目標は,公衆に放射線被ばくによる悪影響を及ぼす可能性のある原子力利用活動を広く対象とし,
原子力安全規制活動の下で事業者が達成すべき,

事故によるリスクの抑制水準を示す定性的目標と,その具体的水準を示す定量的目標とで構成する。定量的目標の指標は,客観的であり,健康被害が生じる可能性が完全には否定できない様々な活動に伴うリスクに共通するものであることが望ましいことから,これらの条件を満たす,公衆の平均的個人の死亡リスク(最も高いリスクを受けると考えられる公衆すなわち原子力施設の敷地
境界付近の公衆の平均的急性死亡リスクを第一の指標とし,
敷地境界からある距離の範
囲の公衆の平均がん死亡リスクを第二の指標とする。を用いる(甲A624・5,6)
頁)


(ウ)定量的目標が対象とする事故による影響の発生の可能性の原因事象としては,機器のランダムな故障,運転・保守要員のミス等の内的事象と,地震及び津波,洪水等の外的事象の両者とする。
上記定量的目標案の具体的内容として,原子力施設の事故に起因する放射
線被ばくによる施設の敷地境界付近の公衆の個人の平均急性死亡リスクを,年当たり100万分の1程度を超えないように抑制するべきである。また,原子力施設の事故に起因する放射線被ばくによって生じ得るがんによる施設からある範囲の距離にある公衆の個人の平均死亡リスクは,年当たり100万分の1程度を超えないように抑制するべきである。

原子力利用活動の分野ごとの性能目標案としては,安全目標と直接比較可能な個人の死亡リスクが環境に放散された放射性物質による健康影響まで評価するレベル3PSAの結果として得られる。しかしながら,原子炉施設の運転などの安全確保には深層防護の考え方が採用されていることを踏まえると,原子炉であれば炉心の大規模な損傷事象の発生確率を評価するレベル1
PSA及び格納容器から大量の放射性物質が放散する事象の発生確率まで評価するレベル2PSAの結果について,安全目標に適合していることの判断の目安となる水準が性能目標として検討,提示されることが合理的である。また,原子力施設の災害防止機能は深層防護の考え方に基づいて整備されていることが多く,このため,外側の層にある防護機能についてその性能を適
切に仮定すれば,施設固有の重大な事故事象の発生確率について安全目標に対応する性能目標を定めることができる(以上,甲A624・6,7,10,20,21頁)



保安院の対応等
平成16年6月14日付け保安院作成のリスク情報を活用した原子力安全規制の検討状況において,近年の原子力利用がもたらすリスクを,系統的手法で定量評価するPSAの手法の整備が進み,評価結果であるリスク情報の安全規制や安全管理への利用が可能となっていることが指摘されている。
リスク情報の活用の将来のイメージとしては,原発を対象に,レベル1PSAの結果得られるリスク情報について,設計・建設分野において新知見等
による設計変更の要否等の判断,事故・トラブルの評価等に活用する一方,その活用の基盤として,PSA手法の確立,データの整備等が必要となり,これらの内容や確立の程度については,リスク情報を活用しようとする分野等に応じて異なるものとなる。このため,今後の検討に当たっては,それぞれの活用分野や内容ごとに,適用方法と同時に,そのために必要なPSA手
法,例えば,地震時などの外的事象起因のPSA手法の確立等について検討することが必要であるとされている(以上,丙A191・1~4,10,12,17頁)


(2)津波評価部会における確率論的評価の検討状況等

確率論的津波ハザードに関する津波評価部会の検討状況等

(ア)津波評価技術の成立後,津波評価部会において,確率論的津波ハザードに関する研究や津波の波力に関する検討等が開始された。
平成15年8月4日開催の津波評価部会(首藤主査のほか,佐竹委員,今村委員などが出席した。)において,津波ハザード解析におけるモデル設定法の検討として,確定論(決定論と同意義と解される。以下確定論という場合には,決定論と同意義とする。)的に評価する部分と確率論的に評価する部分との適切
な仕分けや確率論の結果を設計に用いるのかといった議論がされた。被告国の方で現在検討中の問題であるが,原発の安全性評価では,当面確定論を用いるべきである。港湾分野では確率論を取り入れておらず,津波ハザードマップは過去に津波を経験していない箇所に対して注意を促す目的で使用するものであり,確率論を導入して設計の合理化をするのは時期尚早であるといった意見が出た(以上,甲A523の1・3枚目,丙B114の1・17,18頁)。

(イ)平成15年11月28日開催の津波評価部会において,津波ハザード解析における大地震(固有地震)のモデル化方法の検討について議論された。その中で,福島県沖のように,1回の地震しかない場合にどのように設定するの
かという点について,ポアソン的な評価と固有地震的な評価を組み合わせた評価を行っているが,多様な判断が可能であり,ユニークには決まらないこと,貞観津波の取扱いについて,津波地震であるか,正断層地震であるかによって取扱いが変わるが,
その点は未解明であること,
確率論的評価として,
地震PSAが既に実施されているし,非常冷却用の施設の安全性を議論する
場合に津波の確率論的評価が重要であること,しかし,出てきた数値の意味をよく把握し,その取扱いに十分注意する必要があることなどが指摘され,日本を含めて世界的に安全目標を定量的に評価しようとしているところ,地震PSAは10年以上かけて現在の実用レベルに到達しており,津波PSAもすぐに実用に供するものではないが,今後,必要となるから,是非体系化
の実施をしたいことなどが意見として出された(甲A523の2・3頁)。イ
ロジックツリー分岐等

(ア)平成16年3月9日開催の津波評価部会において,確率論的評価方法の検討がされた。その検討の中で,ロジックツリーの分岐の重み付け方針と調査票に関する説明がされ,これに基づく調査が実施された。なお,調査票の配布先は,津波評価部会の委員及び幹事31名及び外部専門家5名(地震学者の島崎元部会長,阿部名誉教授,都司委員,海野助教授,谷岡准教授)であった(甲A207・1枚目,甲A523の3・3,4頁,丙B114の4・資料124)。
(イ)上記(ア)の調査の結果は以下のとおりである。
a
調査票は,認識論的不確定性に由来するロジック分岐の重み付けの妥当性を高めるためには,複数の専門家の意見を集約することが必要であるとしていた。
回答するに当たっての前提として,各専門家の専門事項についてのみ回答すること,その重み欄に,項目ごとに合計が1となるよう,小数又は分数による現状での判断を記入すること,より確からしいと考える見解の重みが大きくなるよう数値を配分することとしていた。
また,津波ハザード解析(地震の位置,規模,発生頻度,発生様式等を確率分布として表現することにより将来発生する津波による水位の超過頻度を求めるための解析である。
知識やデータ不足による見解の相違すなわち認識論的不確定性について,ロジックツリーを用いて異なる見解を結果に反映させる。津波ハザード解析の結
果は,
多数の専門家のうち同意する者の割合を表すフラクタイルごとのハザード曲線として得られる。)及びロジックツリー(認識論的不確定性が存在する場合,異なる見解を分岐で表示したものである。ロジックツリーを用いることにより,見解を一つに絞り込むのではなく,多数の異なるシナリオを想定できる。分岐ごとの重みを設定する必要があり,適切な重み付けのために専門家の意見を集約することが望まし
い。)の意義を説明し,地震規模について,津波高の確率分布を求めること
を目的としているため,過去及び将来の地震規模Mwすなわち津波モデルのMwを設定すること,津波モデルのMwの検討経緯は津波評価技術のとおりであること,M範囲の考え方について,記録が残っている地震の既往最大規模が,それ以上大きい地震は起きない上限か,それを超える地震が将来起きえるのかという判断と将来発生する地震規模はどの程度の範囲で振れるか(不確実性大のとき0.5の幅,不確実性小のとき0.3の幅とした)という視点から5通りの分岐を設定したこと,活動域区分について,津波評価技術で検討した確定論的津波評価のための海域区分を基に長期評価の研究成果を加味して設定していること,想定対象
期間としては超長期にわたる,すなわち1万年オーダーの地質学的時間を想定し,大地震の平均的な発生状況を推定することを基本とすることなどが説明されている(以上,甲A207・1枚目,1~3頁,丙B114の4・資料111)。

b
このうち,三陸沖~房総沖海溝寄りのプレート間大地震に関する質問において,その前提として,慶長三陸地震(津波地震とする説とプレート内正断
層地震とする説がある。を津波地震としたときの津波モデルにおけるMwは)

8.3,明治三陸地震においては同8.3,延宝房総沖地震においては同8.2であり,既往最大について,明治三陸地震及び慶長三陸地震はMw8.3,延宝房総沖地震は同8.2であり,長期評価においては,いずれもMt8.2前後であることとしている。
最初の質問(Q1‐6‐1)として,三陸沖~房総沖の日本海溝寄りプレート間の領域で超長期の間のMt8級の津波地震の発生可能性について,分岐1①(過去に発生例がある三陸沖海溝寄り及び房総沖海溝寄りは活動的であるが,発生例のない日本海溝中部寄りは活動的でない。)の重みが0.50,
分岐1②(三陸沖~房総沖の海溝寄りは一体の活動域で,活動域内のどこでも津波地震が発生する。)の重みが0.50となっていた(後記(ウ)のとおり,4倍の重みとされた5人の地震学者の見解は,分岐1①が0.38であり,分岐1②が0.62であった。阿部名誉教授及び島崎元部会長は,分岐1①0,分岐1②1としており,島崎元部会長はプレートの沈み込みによって必然的に発生する地震と考えるとコメントしていた。都司委員は,分岐1①0.5,分岐1②
0.5としており,判断難しいとコメントしていた。谷岡・佐竹論文の共著者である谷岡准教授及び海野助教授は,分岐1①0.7,分岐1②0.3としており,海溝より外側の海底地形の相違(海山の相違など)などか,プレート境界の固着状況を支配している可能性がある(海野助教授),現時点では津波地震の発生域は限られている可能性の方が高い(谷岡准教授)とコメントしていた。なお,外部の専
門家ではないが,津波評価部会の委員でもあり,長期評価の策定にも関与した佐竹委員は,都司委員と同じく,分岐1①0.5,分岐1②0.5としており,津波地震の発生領域が限られているか否かについては議論が分かれるところであり,ど
ちらかが優勢とも言えないとコメントしていた。甲A597・資料1,丙B114の4・資料124,丙B115の3・弁護人提示資料14-1)。

3番目の質問(Q1‐6‐3)として,慶長三陸地震の津波の成因については,分岐3①(慶長三陸地震は,三陸沖海溝寄りのプレート間で発生した津波地
震である。)の重みが0.70,分岐3②(慶長三陸地震は,三陸沖のプレート内正断層地震である。)の重みが0.30となっていた(以上,甲A207・10,11頁,丙B114の1・39~41頁,丙B114の4・資料35~37)。
c
以上を前提に,三陸沖~房総沖の海溝寄りの津波地震の地震規模に関しては,分岐1②,同3①を前提(既往津波3個)としたとき,既往最大を上回る地震が発生するという重みが0.65(合計)であり,既往最大を上回る地震は発生しないという重みが
0.35
(合計)
であり,
分岐1②,同3②を前提(既往津波2個)としたとき,既往最大を上回る地震が発生するという重みが0.60(合計)であり,既往最大を上回る地震は発生しないという重みが0.40(合計)である(甲A207・13頁)。

(ウ)平成16年6月22日開催の津波評価部会において,上記(イ)のアンケート調査の結果を踏まえて検討がされた。
その中で,アンケート回答者の確信度が保たれているとすると,あとはどう取り扱うのかという議論となった。地震学者の回答の重みとその他の回答者の重みを1:1とするか,4:1とするかについて議論され,地震学者の意見を尊重することに賛成するとの意見が多く出されるなどして,地震学者の重みを4倍とすることとなった(甲A523の4・1,2頁)。
(エ)ロジックツリー分岐のアンケートの結果に基づいて,確率論的津波ハザード解析を行った結果,本件原発の津波ハザード曲線としては,6号機で,10mを超える確率(年超過率)が10-4~10-5年となっていた(丙B114の1・95,96頁,丙B114の4・資料112,丙B115の2・44,45頁)。
(3)性能目標等

はじめに
原子力安全委員会は,平成18年3月28日,発電用軽水型原子炉施設の性能目標についてを策定した。その内容は以下のとおりである。
(ア)上記(1)アの中間とりまとめにおいては,
定性的目標案として
原子力利用活動に伴って放射線の放射や原子力施設から放出される放射性物質の放散により公衆の健康被害が発生する可能性は,公衆の日常生活に伴う健康リスクを有意には増加させない水準に抑制されるべきであるを提示し,定量的目標案として原子力施設の事故に起因する放射線被ばくによる,施設の敷地境界付近の公衆の個人の平均急性死亡リスクは,年あたり百万分の1程度を超えないように抑制されるべきである。また,原子力施設の事故に起因する放射線被ばくによって生じ得るがんによる,施設からある距離にある公衆の個人の平均死亡リスクは,年あたり百万分の1程度を超えないように抑制されるべきであるをそれぞれ提示している。さらに,原子力施設では多重防護の考え方が安全確保の基本的考え方として採用されていることから,施設が安全目標に適合しているかどうかを判断する目安となる水準,例えば重大な炉心損傷が発生する確率や大量の放射性
物質が放出される事象が発生する確率等を性能目標として検討し,示しておくことが合理的であるとしている。
この提案を受けて安全目標専門部会に設置された性能目標検討分科会において,性能目標についての調査審議が行われ,その検討に当たり,まず定量的なリスクを評価するPSA手法の整備が進んでおり,活用の実績もある発
電用原子炉施設を対象として性能目標として検討することとした。この報告書は,その調査審議の結果に基づき,性能目標案と今後の課題と取組をまとめたものである(以上,甲A114・1,2頁)。
(イ)具体的な性能目標案の内容は以下のとおりである。
a
指標の選定に当たり,発電用原子炉の公衆のリスクは炉内の大量の放射性物質の環境への放出に起因することから,
性能目標として用いる指標は,
炉心の健全性すなわちレベル1PSAや格納容器の閉じ込め機能の健全性
すなわちレベル2PSAに関連し,
施設の性能をよく代表するもの,
かつ,
定義が明瞭で,適切に定量化できるものを選ぶ必要がある。
具体的には,リスクの源となる炉心に内蔵される放射性物質の放出をもたらす炉心損傷の発生確率すなわち炉心損傷頻度(CDF,原子炉施設のSAの発生頻度の目安となる。甲A114・13頁)を性能目標とすることは合理的
(CDFは,事故後の燃料被覆管の温度で定量的に定義され,燃料被覆管の損傷を目安にしているので,
多量の放射性物質の放出の対象になる燃料溶融に対しては余裕が
ある。甲A114・16頁)と考えられる。また,原子炉格納容器等の発電炉
の最外層の防護機能が確保されていれば,環境への放射性物質の放出を極めて低いレベルに抑制することが可能であることから,格納容器の防護機
能喪失の年当たりの発生確率すなわち格納容器機能喪失頻度(CFF,放射性物質閉じ込め機能の健全性の目安となる。甲A114・14頁)を性能目標とす
ることは合理的(格納容器の内圧上昇に伴う破損の態様は大規模な破損ではなく,格納容器ハッチなどからの漏えいであることが試験で確認されている。このため,大規模放出の頻度はかなりの余裕を見込んだ値となる。甲A114・16頁)と考え
られる。
以上のことから,発電用原子炉の安全確保の水準を表し,安全目標への適合性を判断するための性能目標の指標として,CDF(指標1)とCFF(指標2)を併用することとした(以上,甲A114・4頁)。
b
指標値案を導出するに当たっては,発電用原子炉に関する,国・研究機関事業者等によって実施された炉心損傷発生確率,

事故の事象進展解析,
放射性物質放出に関するソースターム(環境中に放出される核分裂生成物すなわちFPは,環境側から見ればプラントから発生するものであり,この放出FPを,ソースタームすなわち発生項と呼ぶ。丙A87・7頁)解析,公衆への放射線
影響による個人リスクの評価等のPSA及びそのレビューを通じた多くの知見のほか,米国等におけるPSA結果等を参考に,個人の平均死亡リスクで示された定量的安全目標値案に対応するCFFについて,事故が発生したとした場合の条件付平均死亡確率の分析を行った。そのために具体的には,発生確率は極めて低いが,発生した場合には周辺公衆に急性あるいはがん死亡をもたらすような格納容器機能喪失を伴う大規模な事故のソー
スタームを仮定した。
さらに,
仮想サイトの気象,
人口分布データを用い,
施設の外側の層にある防護機能としての防災対策については控えめな仮定を設けてその効果を評価し,上限に相当するような保守的な条件死亡確率をまず推定した。一方,既に得られている我が国における代表的プラント及びサイトにおけるレベル3PSA結果から推定される条件付死亡確率か
らその保守性を確認した。このように得られた条件付死亡確率(余裕を見込んだ条件付死亡確率の上限を10-1として,性能目標としての格納容器機能喪失頻度CFFの目標案として年当たり10-5を用いれば,安全目標の定量的目標案である年当たり10-6を満たすことが確認できる。甲A114・23頁)を基に,CF
Fに対する指標値案10-5/年程度を導出した。
また,格納容器機能喪失頻度は,炉心損傷頻度と炉心損傷事故時の条件付格納容器機能喪失確率(CCFP)の積で表され,前者は炉心損傷の防止機能を表し,後者は格納容器の閉じ込めに関する性能を表すと考えることができる。公衆へのリスクが同じであれば,炉心損傷に至る事故の発生頻度は低い方が望ましいため,格納容器に過大な期待を置かないようにする
との考え(CFFが10-5/年程度であるならばCDFの値によらずに安全目標は達成できるが,
多重防護の重要な構成要素である炉心損傷防止機能に対する性能目標も必要と考えられ,格納容器機能喪失頻度は,炉心損傷頻度と炉心損傷事故時の条件付格納容器機能喪失確率CCFPの積であるところ,上記のとおり,炉心損傷に至る事故防止に重点を置くべきことなどを考慮すると,
CCFPへの配分は控えめとして,
CCFPが評価上0.1以下になることは期待しない。甲A114・26頁)から,
CDFに対しては10-4/年程度(ただし,崩壊熱除去機能喪失を伴う事故の
一部で炉心損傷に至る前に格納容器が破損する場合があること,
地震リスク評価にお
いて機器の復旧や内的事象を対象にして整備されたAM対策が期待し難いとした場合など,
CCFPが1に近い値になることに留意すべきである。
甲A11426頁)


を指標値案とする。
以上の検討結果から,
発電用原子炉の性能目標の定量的な指標値として,

指標値1.CDF:10-4/年程度
指標値2.CFF:10-5/年程度
と定義し,両方が同時に満足されることを発電用原子炉に関する性能目標の適用条件とする。
なお,中間とりまとめに指摘されているように,リスク評価で扱うデー
タや事故による影響が発生する過程には,我々の知識不足などによりその結果には不確実さが伴う。そこで,定量的目標又は性能目標とリスク評価結果の比較には,原則として,この不確かさの大きさを評価した上で得られる平均値を使用することとする。(以上,甲A114・5,6頁)c
PSAの結果を性能目標と比較する際に考慮すべき事項としては,①安全目標の定量的目標案は,施設周辺の公衆の個人の受けるリスクの目標を提示しているので,複数基の発電用原子炉が立地するサイトにおいては,性能目標を用いる際,安全目標との対応の観点から基数の影響を適切に考慮すべきである,②発電用原子炉を対象とするPSAにおいては,一般的
には施設内に発生する設備の故障や誤操作を起因とする事象のPSAと比較して,地震等の自然現象に起因する事象のPSAでは,施設へのインパクトの大きさとその発生頻度の関係を評価するハザード評価に必要な知識の不足等のため,より大きな不確実さが伴うとされ,また,これらのPSAについてはまだ適用の経験が限られているから,性能目標を実際に活用するには,こうした要因も考慮する必要がある,③PSA手法は,我が国においては,発電用原子炉のPSRや内的事象に対するAM対策の評価な
どに既に活用されている技術であるが,外的事象に対しては,今後評価実績の積み重ねが必要とされる技術であるところ,提示する性能目標案は最新のPSA知見に基づくものであるが,今後の更なるPSA技術の進展に伴い必要に応じて改訂するなど段階的に取り組む必要がある,といった点が指摘されている(甲A114・6頁)。

d
今後の課題と取組としては,性能目標を安全規制において適切に使用するための枠組みの整備について,今後検討すべきであり,性能目標の試運用の促進により,PSA解析評価手法の整備や評価対象である原子力施設に関するリスクデータの蓄積などを介して標準化,高度化を図り,リスク情報活用技術の品質を確保し,より高度な水準での原子力安全規制への活
用を目指すことや,今回提示する性能目標案は,安全目標に関する安全水準を発電用原子炉の特性を踏まえて表現したものであり,現存する発電用原子炉と今後建設される発電用原子炉とを区別していない一方,国内外の動向を勘案すると,将来設計される発電用原子炉については技術の進歩により合理的により高い安全水準の達成の可能性があると考えられ,事業者
に対しては今後も最新の技術を取り入れて,より一層安全性の高い発電用原子炉の開発に努めることを期待することが示されている(甲A114・7頁)。


リスク情報の活用

(ア)保安院は,
平成18年4月付けで,
原子力発電所の安全規制における「リスク情報
活用の基本ガイドライン
(試行版)を取りまとめた

(丙A189)

(イ)リスク情報活用における基本原則として,PSAにより得られるリスク情報を活用した安全規制においては,リスク情報が決定論的安全評価(原子力施設の安全審査において用いられる安全評価であり,
施設で起き得る様々な事象の中から
幾つかの代表事象を選定し,
これらの各事象が起きたと想定して保守的な手法で事象の
進展解析を行い,全ての解析結果があらかじめ用意した判断基準を満たせば,施設全体
として十分安全であると判断するもの,
丙A189・4頁)
によって得られる情報に

置き換わるものではなく,それで得られない情報を加えることによって,規制上の判断の科学的合理性をより高め得るものと位置付けることが適当である(丙189・8頁)。
(ウ)安全規制にリスク情報を活用する場合でも,現行の安全規制の考え方を満足しなければならない。各指針の考え方との関係を明確にすること,深層防護(異常発生の防止,発生した異常の拡大防止,異常拡大を想定した影響の低減対策)の堅持,安全余裕の確保(系統,機器等にかかる温度,圧力等の許容基準に照らした余裕,許容基準それ自体が有する余裕,これらを評価する安全解析における手法,データ等の有する余裕等がある。例えば,系統の多重性又は多様性及び独立性を十分に確
保することも安全余裕の確保の一つである。)などが求められる。
また,リスク情報を安全規制に活用するに当たって用いる指標としては,幾つかの活用項目があるが,格納容器機能喪失頻度,炉心損傷頻度等のような絶対値としてのリスクの大きさを表す指標として,CDFについて10-4/年程度,CFFについて10-5/年程度,公衆の個人の平均死亡リスク1
0-6/年程度とされている(以上,丙189・8,9,11~13頁)。(4)マイアミ論文

マイアミ論文の公表
被告東電原子力技術・品質安全部所属の従業員らは,平成18年7月17
日から同月20日までに米国フロリダ州のマイアミで実施された原子力工学国際会議において日本における確率論的津波ハザード解析法の開発と題する(邦題)論文を発表した(丙B115の2・78頁)。

マイアミ論文の内容等

(ア)設計基準の津波高さを設定したとしても,津波に関して不確かさがあるために津波高さが設計津波高さを超過する可能性があるから,確率論的津波解析ハザードの手法を適用し,津波高さと超過確率の関係である津波ハザード曲線を推定するためのロジックツリー手法を取り入れ,日本についての適用例を紹介する(甲A41の2・要旨)。
(イ)自然現象の不確かさを考えるに当たっては,偶然的不確定性(地震発生とその影響のランダム性)
と認識論的不確定性
(地震プロセスに関する知識やデータの不

十分さによる。)の2種類があり,偶然的不確定性の統合によりハザード曲線
は求められ,ロジックツリー法を用いて認識論的不確かさを示したモデルパラメータの組合せにより多数のハザード曲線が求められる(甲A41の2・2頁)。

(ウ)津波波源モデルは,広く使われている萩原マップによる地震地体構造のセグメント区分図を用いる。
日本の東北地方沿岸の津波波源域は,主に大津波を起こした歴史的な大地震の断層モデルから特定した。福島県沿岸の評価について,その位置とマグニチュードから,
近地津波波源域の分布のうち,
支配的となる
JTT系列,JTNR系列,JTS1,JTN2,およびJTN3を,近地津波の波源
域として考慮する(以上,甲A41の2・3,4頁)。
(エ)明らかとなっているJTT1の既往津波が明治三陸地震による津波(Mw8.3),JTT3の既往津波が延宝房総沖地震による津波である。JTT系
列はいずれも似通った沈み込み状態に沿って位置しているため,日本海溝沿いの全てのJTT系列において津波地震が発生すると仮定する余地もあるが,他方,JTT2では既往津波が確認されていないことから,津波地震はJTT1とJTT3のみで発生すると仮定する余地もある。
JTT1における既往津波の最大Mは明治三陸津波のMw8.
3であるが,
既往最大MwがJTT1における潜在的最大Mwではない可能性があるため,Mwのバンド幅を0.5(Mw8.1から8.5)又は0.3(Mw8.2から8.4)とする分岐を設定し,その可能性を取り入れた(潜在的最大Mwは8.5となる。)。

現時点における津波ハザードを評価するため,BPT分布を用いて再来間隔をモデル化する。慶長三陸地震による津波を逆断層によるものと仮定し,過去400年にわたる記録がそろっているとの前提で,JTNR1における既往津波である明治三陸地震及び慶長三陸地震による各津波の発生間隔は,285年となり,再来間隔の分岐は210年,285年,380年と設定で
きる(甲A41の2・3~5頁)。
(5)溢水勉強会等

スマトラ沖地震等と溢水勉強会の立ち上げ

(ア)平成16年12月26日,スマトラ沖地震が発生した。スマトラ島周辺はプレートのぶつかり合う世界有数の地震多発地域であり,100~150年の周期で大きな地震が発生することが知られていた。スマトラ沖地震は,M9.1であり,1000km以上の範囲でずれが生じ,巨大エネルギーが解放された。
スマトラ沖地震の際,インドのマドラス原発の2号炉において,低位置に
あった非常用海水ポンプに浸水被害が発生し,
運転不能となった
(INESは,
安全上重要でない事象すなわちレベル0と評価された。)。

また,米国のキウォーニ原発では,低耐震クラス配管である循環水系配管の破断を想定すると,T/Bの浸水後,工学的安全施設及び安全停止機器が故障する可能性があることが判明し,フランスのルブレイエ原発では,給水配管の開放されたままのドレン弁から水が漏えいし,
建屋内に浸透した結果,
電気機器の絶縁不良により原子炉が自動停止し安全注入系が作動する事象が発生した(以上,甲A39の2・1頁,甲A239,乙A4の1・37頁,丙A29・4,6頁)。

(イ)これらを含めた内部溢水,外部溢水に関する事例なども踏まえ,平成17年9月以降,JNESにおいて溢水に関する検討が数回実施され,同年12月にJNESで安全情報部,規格基準部,解析評価部が集まり第1回の総合
的な勉強会が実施された。その後の平成18年1月以降,NISA,JNES及び電気事業者で構成する内部・外部溢水勉強会が立ち上げられ,その調査検討が開始された。
溢水勉強会においては,共通実施事項として,海外の溢水に関する指針等の調査,内部溢水として,①米国キウォーニ事象等の海外の原発の内部溢水
事象の調査,②代表プラント(4号機等)の評価を踏まえ評価手法の確立,③PSAの確立が示され,外部溢水として,津波評価技術による想定を超える津波に対する安全裕度等について,本件原発などの代表プラントを選定し,①津波ハザード評価,②津波PSAシステム評価手法の開発,③津波ハザードの高度化研究等のスタディが示されていた(以上,甲A39の2・1頁,甲A
42・30枚目,甲A583・1~3頁,丙A29・4頁)。


平成18年5月11日開催の第3回溢水勉強会
同日開催の第3回溢水勉強会において,本件原発の5号機を対象に,1F-5想定外津波検討状況についてと題する書面に基づいて検討がされて
おり,同書面には以下の内容の記載がある(甲A583・添付資料3)。(ア)津波評価技術に基づき,過去最大の津波はもとより発生の可能性が否定できないより大きな津波を想定していることから,津波に対する本件原発の安全性は十分に確保されている。念のためという位置付けの下,想定外津波に対するプラントの耐力を検討する。対策の立案について,リスクとコストの
バランスを踏まえた検討が別途必要である(甲A39の1・2枚目)。(イ)仮定水位をO.P.+10m又は+14mとし,仮定水位の継続時間を考慮せず(長時間継続と仮定)に,機器影響評価をみると,①いずれの水位であっても,屋外設備のうち非常用海水ポンプ(RHRSポンプ,DGSWポンプ)が津波により使用不能な状態となり,O.P.+14mの津波に対しては海側に面したT/B大物搬入口,同DG給気ルーバー,S/B入口が流入口となり,各建屋に浸水する可能性がある,②T/B大物搬入口,S/B入口から
流入すると仮定した場合にはT/Bの各エリアに浸水し電源設備の機能を喪失する可能性がある,③浸水による電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わるRHRポンプ,RCIC(原子炉蒸気を用いたタービン駆動のポンプにより主に復水貯蔵タンク水を原子炉に供給するシステムである。甲A116・10頁),炉
心スプレイポンプ,非常用DGが機能を喪失する(甲A39の1・2枚目,甲A
583・8,9頁,添付資料3)。

(ウ)その際,JNESの担当者から,AM対策として機器の水没を避ける方策や波力などの検討が必要となるといった指摘がされた
(甲A583・9,
10頁,
添付資料4)。

平成18年6月の現地調査等

(ア)保安院は,JNESとともに,平成18年6月8~9日,本件原発の現地調査を行った。
その結果,5号機に関して,T/B大物搬入口及びS/B入口について水密性の扉ではなく,非常用DG給気ルーバーについても敷地レベルからわずかの高さしかないこと,非常用海水ポンプは敷地レベル(O.P.+13m)よりも低い取水エリアレベル(O.P.+4.5m)に屋外設置され,津波評価技術による津波評価の水位は+5.6mであり,非常用海水ポンプ電動機据付レベルは+5.6mと余裕がないこと,仮に海水面が上昇し電動機レベルまで到達すれば1分程度で電動機が機能を喪失することが指摘された(以上,甲
A583・10~13頁,添付資料5,丙A162・12頁,別紙15)。
(イ)平成18年6月29日付けで,保安院の担当者は,内部溢水及び外部溢水の今後の検討方針(案)をまとめ,その中で,津波評価技術による津波高さの評価の保守性の程度等の確認を行い,また,仮定津波水位に基づき,屋外の機器,建屋及び構築物並びに建屋内への浸水による機器への影響等の把握を踏まえて,その影響防止策を検討することとしていた。具体的には,想定外津波対策としての津波PSAの評価手法の確立に長期間を要すること
から,津波評価技術による津波評価の1.5倍程度を想定し,AM対策としてその措置を講じていくこと,耐震バックチェックの対応事項に盛り込むことにより2年以内の対応を求めることなどが想定されていた(甲A583・13,14頁,添付資料6)。

平成18年8月2日開催の安全情報検討会における検討状況等

(ア)同日開催の上記安全情報検討会
(保安院とJNESの連携により原子力施設に関
する国内外の安全情報を収集し,その情報を分析し,必要な安全規制上の対応を検討する会合)において,外部溢水勉強会検討結果についてと確率論的津波ハザード解析による試計算についてなどの資料の提出がされ,その報告等がされた(甲A583・14,15頁,添付資料7,丙A35の1)。(イ)外部溢水勉強会検討結果について
には,
まず,
津波評価技術に基づき,
津波に対する原発の安全性は十分に確保されているが,この想定を大きく上回る仮定の津波水位に対して,想定外津波に対するプラントの耐力について検討を実施したと記載されている。

その上で,代表プラントである5号機などを対象に,敷地レベル+1mの範囲と仮定
(本来考慮すべき津波継続時間を考慮しない,
すなわち継続時間∞と仮定)
すると,
屋外設備について浸水の可能性が否定できず,
その結果の妥当性は,
5号機(敷地レベルO.P.+13m)の現場調査により確認された。具体的には,津波水位O.P.+10mでは屋外設備である非常用海水ポ
ンプ(RHRSポンプ,DGSWポンプ)が機能を喪失し,これにより非常用炉心冷却系(ECCS)及び非常用DGが機能喪失するが,R/B,T/B,S/Bの浸水は免れ,建屋内の機器への影響はない。他方,同O.P.+14mでは,
上記屋外設備に加えて,
T/B大物搬入口,
S/B入口から流入し,
T/Bの各エリアに浸水し電源設備にも津波の影響が及ぶ可能性があり,これによりECCS及び非常用DGに加えて,RCICが機能喪失する可能性がある(津波継続時間を考慮しない。)という結果であった(以上,丙A35の2・1,2頁)。

(ウ)上記検討会において,確率論的津波ハザード解析による試計算について」に基づく検討が行われた。その中で,①検討実施中の確率論的津波ハザード解析の手法は,一通りの評価モデルと評価手順が構築され,試計算が可能となったこと,②津波ハザード評価のためのモデルは,津波発生域モデルと津波高さ推定モデルから構成され,津波発生域モデルとして,日本海溝沿い(プレート境界)の地震などの地震による津波を対象とし,既往最大マグニチュード(Mw)を上回る地震規模も想定し,数値計算に用いる標準的な断層モデルの設定は津波評価技術に準拠すること,津波高さ推定モデルについて,津波高さの中央値の推定に数値計算を用い,数値計算により推定した中央値の回りの分布は打ち切りのある対数正規分布によりモデル化などすること,③津波ハザードの計算方法と5号機の評価例について,上記②のモデルを結合し多数の津波ハザード曲線を計算すること,それぞれのハザード曲線に重みを設定し,主に判断の違いに基づく分岐に関しては,アンケート調査(地震・津波の専門家を含む35人)により重みを設定し,主にデータによる推定誤差に基づく分岐(平均発生間隔に関する分岐等)に関しては,推定誤差に基づき重みを設定することとしていた。具体的な例としては,本件原発5号機についての試計算の結論(甲A42・29枚目の図-5「福島第一原子力発電所5号機における算定例)として,近地津
波の津波高さが10mとなる確率が,
10-4~10-5/炉年の範囲内であり,
同10mを超える確率は,これよりも低くなっている。
今回の課題として,提示したモデルは完成したものではなく,新しい知見の反映などの再検討を含めた津波高さ推定モデルの改善やロジックツリー設定手順の標準化などの手法の改良が必要であるとしている
(以上,
甲A583・
添付資料7,丙A164)。

(エ)上記資料に基づく検討の際に,経産省の審議官から,土木学会手法(すなわち津波評価技術や確率論的津波ハザード解析)
についてどのようなパラメータの組

合せを考えているかという疑問が出され,これに対し,既往津波を説明できる断層について,位置・方向をパラメータとして導入し,マグニチュードは不変とすること,
確率論の方はマグニチュードの変動まで想定していること,

土木学会手法(津波評価技術)は,設置許可における既往最大値に比べ平均約2倍の余裕があることといった回答がされていた。
また,同省の主席から,耐震指針バックチェックでは土木学会手法のような決定論的な評価でOKであったとしても,ハザード評価結果から残余のリスクが高いと思われるサイトでは念のため個々に対応を考えたほうがよいと
いう材料が集まってきたとのコメントがされたのに対し,海水ポンプへの影響では,ハザード確率≒炉心損傷確率であること,津波ハザードの精度は低く,JNES解析評価部でも安全研究を進めているところである旨回答がされた(以上,丙A35の1)。

平成19年4月の溢水勉強会のとりまとめと被告東電の対応等

(ア)平成19年4月,溢水勉強会の調査結果が取りまとめられ,その中で,津波による環境評価について,自然現象であることに由来する不確実性や解析の保守性の観点から,設備対策では一定の裕度を確保する必要があること,溢水勉強会では津波対策に係る勉強会を進めてきたが,耐震設計審査指針の改訂に伴い,地震随伴現象として津波評価を行うことから,外部溢水に係る津波の対応は耐震バックチェックに委ねることとしたこと,ただ,溢水勉強会では,引き続き津波PSAについて,調査検討を進めていくことが記載されていた(甲A39の2,丙A162・1頁)。
(イ)平成19年4月4日,被告東電は,保安院に対し,津波に対するプラント安全性の向上についてと題する文書を提出し,これに基づき,津波評価技術に基づく想定津波に対して余裕の小さいプラントを対象として,押波の
際に非常用海水ポンプへの冠水により機器損傷のおそれがあるプラントについて,代替海水ポンプの使用や水密化などの対策を検討するなどの方針が示された。
同日,津波バックチェックに関する打合せが行われ,保安院の担当者は,津波評価技術に基づく設計値を超えた場合に備え,被告東電が本件原発につ
いて対策をとる方針を示したことはよいことである旨述べたが,それ以上,特に協議することはなかった。
上記担当者は,異動に際して,後任者に対し,津波時の安全性裕度の評価について,
耐震バックチェックにおいてこれが実施されるよう引き継いだ
(以
上,甲A583・18~21頁,添付資料8~10)。

(6)耐震設計審査指針の改訂,耐震バックチェックの実施(中間報告)等ア
耐震指針検討分科会における検討状況等
原子力安全委員会の下に置かれた耐震指針検討分科会の地震・地震動WGにおいて,耐震設計審査指針の改訂に関する検討が行われていた。
(ア)平成15年3月20日開催の上記地震・地震動WGの会合において,地震随伴事象としての津波に対する評価について討議が行われた際,津波に対する原発の安全確保について,事務局から,①津波による影響を受けない止める機能について,地震の発生の際に制御棒の挿入により自動的に行われるために地震と重畳しても安全機能が確保されること,閉じ込める機能②

について,原子炉格納容器は原子炉建屋内に設置されており,津波の影響が及ばないようになっていること,③冷やす機能について,熱除去に必要なポンプが標高の低い位置となるため,その影響を評価する必要があることが指摘され,また,③について,津波による最大水位があった場合にポンプ室のところから水が入ってくるのを防止するため,水密扉を付ける施策をしている発電所があるとの例が示された(丙A175・3枚目)

(イ)その後の質疑の中で,安全審査に当たり,原子炉設置許可申請書や各添付書類に各原発における具体的な対策については記載がないのではないかという質問があり,これに対し,事務局は,具体的な対策については,設置許可の添付資料にはなく,いわゆる詳細設計の審査の中で検討されていること,例えば,取水塔の構造について,設計詳細段階の工事計画認可のときにその構造等について問題がないかどうかの審査を受けていることについて説明が
あった。その後の応答の中でも,基本設計については行政庁及び原子力安全委員会の両方が審査するが,
詳細設計についてはそういうシステムではなく,
必要があれば原子力安全委員会の意見を聴取できること,津波に対する安全審査指針を作ること自体に問題はないが,そのような指針が原子力安全委員会として必要であるかどうかであって,必要ならここでの検討の中に入れれ
ばよいし,津波については今のところ行政庁に任せて詳細設計の中で見てくれればいいということなら,今慌ててやる必要はないと思うといった意見があった(丙A175・5,6枚目)


平成18年耐震設計審査の策定と耐震バックチェックルール等

(ア)原子力安全委員会は,平成18年9月19日,耐震設計審査指針策定以降現在までの地震学及び地震工学に関する新たな知見の蓄積並びに発電用軽水型原子炉施設の耐震設計技術の著しい改良及び進歩を反映し,耐震設計審査指針を全面的に見直し,平成18年耐震設計審査指針を決定した。その内容は,別紙5関連規定(抜粋)第1の5のとおりである。

なお,原子力安全委員会は,原子力施設の特徴を踏まえた耐震安全性に関して,行政庁において,その詳細な評価の実施を原子炉設置者に求めてその結果を確認することの重要性と,これに関連し,平成18年耐震設計審査指針における残余のリスクについて定量的な評価の実施は将来の確率論的安全評価の安全規制への本格的導入の検討に活用する観点からも意義があり,安全審査とは別に,行政庁において残余のリスクに関する定量的な評価を実施することを原子炉設置者に求め,その結果を確認することの重要性とともに,これらの評価の実施に際してPSAに代表される最新の知見に基づいた評価手法を積極的に取り入れていくことが望ましいとしていた(以上,丙A10の2,丙A65)。

(イ)平成18年9月20日,保安院は,耐震バックチェックルールを策定した。その中で,基準地震動Ssの策定,建屋基礎地盤の安定性評価,安全上重要な建物等の耐震安全性評価などのほか,地震随伴事象に対する考慮として周辺斜面の安定性や津波に対する安全性を,評価手法及び確認基準の項目として示した。また,同日,経産省は,被告東電を始めとする電力事業者らに対し,耐震バックチェックルールに基づく既設発電用原子炉施設の耐震安
全性の評価,同施設の残余のリスクについての最新の知見及び手法に基づく定量的評価を指示するとともに,その報告を求めた。
その具体的な評価方法について,既往の津波の発生状況や最新の知見等を考慮し,施設の供用期間中に極めてまれであるが発生する可能性がある津波を想定し,数値シミュレーション(津波の断層モデル,波源,海底地形等について
適切にモデル化するなど,津波評価技術と同様の評価手法によることとしていた。)に
より評価することを基本とし,想定津波の数値シミュレーションに当たっては,既往の津波の数値シミュレーション(想定津波の発生域において,過去に敷地周辺に大きな影響を及ぼしたその痕跡高の記録が残されている既往の津波の数値シミュレーションを行う。同シミュレーションについて,痕跡高の再現性の検討を行い,同シミュレーションに用いた断層モデル及び計算手法の妥当性を確認する。)を踏ま
え,想定津波の断層モデルに係る不確定性を合理的範囲で考慮したパラメータスタディを行い,これらの想定津波群による水位の中から敷地に最も影響を与える上昇水位及び下降水位を求め,これに潮位を考慮したものを評価用の津波水位とすることとしていた(以上,甲A125・2,3頁,乙A5,丙A37・3頁,丙B114の4・資料24)。
(ウ)平成19年7月13日に原子力安全委員会事務局が作成した各検討事項に関する検討方法等について(案)には,耐震バックチェックに関する事項として,基準地震動策定等の基本設計に係る事項の評価に関することを重点的に検討すること,行政庁からバックチェック全般の説明と行政庁の評価結果の説明を聴取し,
事業者から具体的事項に係る補足説明を聴取した上で,
重要な論点について,必要に応じ外部専門家からのヒアリングや現地調査を
実施し,また,推進本部などから,最新知見の適用に係る説明を聴取するなどして,最新知見の検討を実施するとしていた(丙A59)。

耐震バックチェックに関する新たな指示と中間報告書の提出まで

(ア)平成19年7月16日,新潟県中越沖地震が発生し,柏崎刈羽原発においては想定を超えた地震動が観測された。そのため,同月20日,経済産業大臣は,被告東電を始めとする電力会社等に対し,平成19年新潟県中越沖地震を踏まえた対応について(経済産業大臣の電力会社等に対する指示)を発し,被告東電自らが行う消火活動に迅速さを欠いたこと,今回の地震動が設計時の想定地震動を大きく上回ったことなどを踏まえ,自衛消防体制の
強化などともに,新潟県中越沖地震から得られる知見を耐震安全性の評価に適切に反映すること及び耐震安全性評価の実施計画の見直しを検討し,その検討結果を報告することなどを求めた。
これを受けて,被告東電は,本件原発において耐震設計上考慮している双葉断層について,南限付近においてボーリング調査などを実施済みであり,
更に北方延長部の地表地質調査を実施するほか,
周辺陸域の反射法地震探査,
海域における海上音波探査などの追加調査を行うとともに,代表プラントとして,本件原発の5号機及び福島第二原発の4号機を選定し,新たな中間報告を平成20年3月末までに行うよう計画を見直し,
平成19年8月20日,
見直した実施計画書を保安院に提出した(以上,乙A4の1・13頁,丙A37・4頁,丙A50,丙A51・1~3,6頁,丙B115の1・4頁,丙B115の3・資料1)。

(イ)また,被告東電は,新潟県中越沖地震で確認された地震観測記録を用いた本件原発の主要設備に関する耐震安全性の概略評価を行い,耐震設計上重要な施設の機能が維持されることを確認することとし,その結果を平成19年9月20日に公表した(乙A4の1・13頁)。
(ウ)平成19年12月27日,保安院は,新潟県中越沖地震を踏まえ原子力発電所等の耐震バックチェックに反映すべき事項の中間とりまとめについてを発し,これに基づき,被告東電を含む各電力会社等に対し,耐震バックチェックに反映させることを求めた。
被告東電は,海底下の地下構造を推定するための海上音波探査等を実施し
たが,更に耐震設計上考慮すべき活断層と評価される双葉断層に関する調査を追加実施したため,同年3月に完了予定としていた調査を,平成20年3月完了に変更し,同月31日,上記保安院が指示した,本件原発の5号機の耐震安全性評価結果に関する中間報告書を保安院に提出した。
その中では,長期評価に関して,三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの
領域で発生した最大規模の地震である昭和三陸地震においても地震による被害は少なかったとされることから,本件原発の敷地に及ぼす影響は小さいと考えられ,その他の地震についても敷地周辺に大きな影響を及ぼすものとは認められないとして,日本海溝付近で発生する,沈み込む海洋プレート内の地震が敷地に及ぼす影響は小さいとしている(以上,甲A337,乙A4の1・
14頁,丙A37・4頁)。

(7)本件試算実施までの経緯等

被告東電内での検討等
平成19年11月頃以降,被告東電内では,耐震バックチェックにおける津波の評価に関し,従前,確率論的安全評価によるとしていた長期評価(三陸沖から房総沖の日本海溝沿いにおいてどこでも地震が発生する可能性がある。につい)

て,具体的にどのように扱うかが検討されていた。

被告東電の子会社である東電設計株式会社(以下東電設計という。)は,被告東電の委託を受け,同月19日付けで福島第一・第二原子力発電所に対する津波バックチェックをまとめた。その中で,津波バックチェックにおける実施項目として,中央防災会議による延宝房総沖地震の津波(すべり量1.2倍)に係る断層モデルの検討,推進本部の確率論的地震動予測地図によ
る三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの津波地震と正断層地震の検討,貞観地震等の検討などが示された。また,同月21日付けの東電設計作成の資料には,長期評価による津波地震を前提とする検討モデルでは,本件原発の各号機において,朔望平均潮位をT.P.+1.5mとすると,最大T.P.+7.7m(6号機,なお,1~5号機では,T.P.+6.2~6.9m,ただし,
いずれもT.P.はO.P.の誤記と考えられる。)となる旨記載されてい
た(以上,丙B114の1・33~36頁,丙B114の4・資料30~33)。イ
日本原電における検討状況や電力各社の打合せ状況等

(ア)茨城県は,地域防災計画の一環として,独自の津波評価(延宝房総沖地震を波源とするが,
建物被害率から痕跡高さを独自に評価した今村委員らの調査結果に基づき評価された最大痕跡高に合うように波源モデルを設定しており,今村委員が関与して
いる。)を行い,平成19年10月,
茨城県津波浸水想定図を公表した(以
上,丙B30・45,46頁,丙B121・添付資料43,丙B122)。
(イ)日本原電は,原発の建設,運転操作及びこれに伴う電気供給を目的とする株式会社(被告東電を始めとする電力会社各社の出資)であり,同社は茨城県東海村に東海第二原発を設置し稼働させていたが,耐震バックチェックの中の一環として,上記想定図なども踏まえて,津波の対策に関する検討を行っていた。
平成19年12月4日に,日本原電がまとめた同社内の検討資料には,長期評価(Mt8.2の津波地震が30年以内に20%(特定海域では6%程度)の確率で起こる等)について,これまで確率論での評価としていたが,確定論での扱
いとする必要がある可能性があるなどとして,茨城県の津波評価も踏まえ,その取扱いとして以下の四つの案が挙げられている。
①バックチェック報告書には,
従前の津波評価技術での評価のみを記載し,
その対策としては,茨城県の評価を考慮した対策を実施する,②バックチェック報告書にも,
茨城県の波源を用いた津波評価技術に基づく解析を記載し,
その対策としては,上記①と同じとする,③バックチェック報告書に茨城県の痕跡高に基づく津波評価技術による解析を記載し,これに基づく対策を実施すること,
④長期評価を確定論で反映させた津波評価技術の解析を記載(茨
城県の痕跡高に基づく津波評価技術による解析結果は包含すると考えられる。し,こ)

れに基づく対策を実施する。検討の進め方としては,一番厳しい上記④について,長期評価の既往結果についてR/B等の主要建屋位置に津波が達しているかどうかを確認するなどし,その結果も参考に長期評価の取扱いを判断する(ただし,被告東電等とも調整する必要がある。)こと,これまでのように長期評価を確定論で取り扱わないと判断できる場合,次に厳しい上記③による
ことなどが記載されていた(以上,丙B121・2,3,5,14,15頁,添付資料8)。

(ウ)平成19年12月10日,被告東電の担当者は,日本原電の担当者と打合せを行い,その際,被告東電の担当者は,長期評価についての同社のスタンスとして,従前確率論で取り扱ってきたが,確定論で取り扱わざるを得ないと考えていること,長期評価を明確に否定できない以上,耐震バックチェックにおいて取り入れざるを得ないことなどを述べていた。
同月11日,被告東電を含む電力会社の担当者らは,長期評価に関する打合せを行ったが,その際,被告東電から,長期評価に関する明確な否定材料がない以上,耐震バックチェックにおいて取り込まざるを得ないとの意見が出て,
また,
上記4(2)イの平成16年のロジックツリー分岐のアンケートにおいて最終的には三陸沖~房総沖の日本海溝寄りプレート間の領域で超長期
の間のMt8級の津波地震の発生可能性についてどこでも起こり得るが50%となり,特に,島崎元部会長,阿部名誉教授が10:0で起こる,今村委員も6:4で起こるとしていること,津波評価技術に基づき,長期評価を取り込むと,逆断層ではMw8.3,正断層ではMw8.6の両者がどこでも起きると考えるべきであることが指摘された。他の電力会社から
は,Mwについて8.3,8.6は過大であり,Mw8.2を用いるといった意見もあったが,全体として長期評価自体は具体的に否定できないという意見が大勢であった。これを踏まえて,今後,断層モデルの設定方法やバックチェックに取り込む方法などについて各社が検討することとなった(以上,丙B114の1・45~48頁,丙B114の4・資料43,44)。
(エ)日本原電の平成20年3月10日付け常務会報告書の添付資料には,長期評価について耐震バックチェックにおける評価結果を求められる可能性が高く,その場合には規模の大きい地震津波を東海第二原発前面で考慮することとなり,従来評価よりも厳しくなる旨,具体的には,R/B,T/B付近では30cm程度の浸水が生じ,その対策としては,現在の護岸背後に津波用
の防波壁を設置すること,浸水を防ぐ範囲を主要施設に限定し津波の防波壁を設置すること,建屋側で水密性を確保すること等があるなどと記載されていた。
その後に日本原電が作成した資料の中では,対策工事を同年7月から開始すると記載されていた(以上,丙B121・29~32頁,添付資料18,19)。

本件試算の実施決定等
(ア)平成20年1月11日,上記イの日本原電などとの打合せ等も踏まえ,被告東電は,東電設計に対し,本件原発における想定津波及びその水位を評価し,安全性評価のための基礎資料の作成を委託する旨決定した。
同年2月上旬頃までに,被告東電内の担当者のレベルでは,長期評価に基づく海溝沿いの震源モデルについてSs策定に関する検討において,長期評
価を無視できないとして確定論で取り扱うこととしたため,津波の検討においても同震源モデルを考慮する必要がある旨,同震源モデルの位置に津波の波源モデルを設定すれば,
概略検討の結果としても,
6号機の取水口前面で,
約O.P.+7.7mとなるなど,これまでの想定津波の高さを上昇側は上回り,
下降側は下回る可能性が高い旨の認識が共有され,
関係個所への提示,

対応の検討が必要(津波の評価がNGならプラントの停止を余儀なくされるおそれもある旨)という認識に至り,同月16日には,被告東電の役員も出席する
会議において,上記認識に関しての報告もされた(以上,乙A4の1・20,21,26頁,丙B114の1・48~58頁,丙B114の4・資料45~59,丙B115の1・13~28頁)。

(イ)また,平成20年2月26日,被告東電の担当者は,今村委員と面談し,長期評価を決定論評価に取り込むべきかどうかについて相談した。今村委員は,初期の推進本部の議論に参加していないため長期評価自体にはコメントできない,中央防災会議においては繰り返し性及び切迫性がないことを理由に福島県沖海溝沿いにおける大地震の発生についての結論は出ていないが,
同地震の発生は否定できないから波源として考慮すべきであると考える,既往津波の発生がないため,波源モデルとしては,津波地震に関しては明治三陸地震及び延宝房総沖地震のものを,正断層地震に関しては昭和三陸地震のものを使うなどと回答した(丙B114の1・59~62頁,丙B114の4・資料61~63,丙B115の1・34~36頁)。

5
貞観津波の知見状況,本件試算,第4期津波評価部会等
(1)津波堆積物調査等に基づく貞観地震等の研究状況等
推進本部は,平成17年に今後の重点的な調査観測についてを公表し,その中では,①地殻活動の現状把握の高度化等地震発生前・後の状況把握,②長期的な地震発生時期,地震規模の予測精度の向上,③強震動の予測精度の向上,④津波の即時的な予測精度の向上を目的として,海溝型地震を対象とした重点的調査観測を行うこととしていたところ,その調査対象域の一つである日本海溝・千島海溝周辺の海溝型地震については,宮城県沖地震,根室沖地震,三陸沖北部の地震を,当面取り組むべき重点的調査観測対象の優先的な候補としていた。文科省は,宮城県の地震について,平成17年度から平成21年度
まで研究機関に委託して調査観測を実施した(以下,同調査観測を宮城県沖地震重点調査観測ということがある。。同調査観測に係る研究の中に,)
津波堆積物調査にもとづく地震発生履歴に関する研究地震調査・津波シミュレーション,に基づく地震発生履歴に関する研究がある。(丙A40・1,2枚目)


津波堆積物調査にもとづく地震発生履歴に関する研究

(ア)業務の目的,5か年計画,成果の要約等
a
地震のアスペリティと海溝付近に存在する別のアスペリティとの複合破壊すなわち連動型タイプの地震
(1793年の宮城県沖地震がそのタイプと考え
られる。)については,その発生頻度が低いため,歴史資料などの調査結果
からだけではその活動の評価が十分ではないことなどから,三陸海岸地域から常磐海岸地域に至るまでの東北地方の太平洋側の海岸地域において過
去の津波堆積物を検出し,それらの規模,発生時期・発生間隔など,津波堆積物の時空間分布を解析する。特に,貞観津波に関して,その証拠を地形学的・地質学的手法によって検証し,この津波の及んだ範囲を特定し,連動型タイプの地震発生の解明のための基礎資料とすることを目的とする(丙A40・152頁)。

b
5か年計画及びその実施状況について,平成17年度には,三陸海岸地域の宮古地区等における津波堆積物の採取,音波探査による海域の広がりの調査を行い,採取された試料の年代測定などが行われた。平成18年度には,三陸海岸地域の南部地区などに対象を広げて津波堆積物調査が実施され,平成17年度の成果との比較照合のための年代測定や,津波堆積物の空間的な広がりと年代から,連動型地震と考えられる宮城県沖地震との
同定及び発生時期の特定を進め,
連動型地震の活動履歴の推定が行われた。
平成19年度には,平成18年度に明らかとなった歴史地震と対応可能な新しい津波堆積物が保存されている可能性が高い三陸海岸地域の一部地区を中心として,常磐海岸地域までの津波堆積物の調査が行われ,調査結果を総括し,上記と同様に連動型地震の活動履歴の推定が行われた。平成2
0年度には,平成19年度と同様の調査が福島県常磐海岸地域(浪江地区,いわき地区など)で行われ,平成19年度までの調査結果をもとに,連動型
宮城県沖地震の活動履歴を推定した。
平成21年度において,上記期間中の研究成果をとりまとめ,一部地区での補足調査が行われ,その結果も加えて,連動型宮城県沖地震の活動履
歴を推定した(以上,丙A40・152,153頁)。
c
常磐海岸地域における成果の要約としては,仙台平野以南の常磐海岸地域では,相馬市松川浦地区,浪江町請戸地区において,貞観津波と見られる津波堆積物が確認され,これらの地区では,過去約5000年前以降に
も数枚の津波イベント堆積物が採取された。
いわき市四倉藤間地区でも,

同様の調査が行われたが,
数枚の津波イベント堆積物が確認できたものの,
年代測定の結果,貞観津波堆積物は特定されなかった。常磐海岸地域と三陸海岸地域等において,それぞれの調査地域で確認された津波イベント堆積物の年代値をそれぞれ比較検討し,特に貞観津波の堆積物は,これまで
歴史記録には記されていなかった常磐海岸地域の請戸地区でその存在が明らかとなり,
少なくともこの場所から石巻平野まで連続して確認された
(丙
A40・153~155頁)。

(イ)業務の実施の成果等
a常磐地域の調査は,平成17年度~平成19年度実施の三陸海岸地域の調査結果を踏まえながら,主として,同年度~平成21年度に,相馬市松川浦地区,浪江町請戸地区及びいわき市四倉・藤間地区の3か所を対象に
行われた。この間,石巻平野と仙台平野等で実施された調査結果も参考にされた(丙A40・157,168頁)。
b
松川浦地区においては,平成7年及び平成14年の各文献において,地表下の十和田火山灰とその直下にある津波堆積物が歴史記録にある貞観津波の堆積物の可能性が高いと指摘されていた。これを前提に平成20年度
及び平成21年度に調査が行われ,その結果,年代から,上記文献のとおり,火山灰直下の砂層が貞観津波のイベント堆積物である可能性が極めて高いことが明らかになった(丙A40・168~170頁)。
c
請戸地区においては,貞観津波の到達域として歴史記録に常磐地域から三陸海岸地域までの広い範囲で記述があるが,常磐海岸地域の浪江地区で
は知られていない。同地区の各対象地点における地表下2m程度までの断面を作成し,それぞれの採取資料から津波イベント堆積物の検出を行ったところ,同地区における平成20年度の調査結果である津波堆積物とこの地域における堆積速度曲線から,約4500~5000年前頃に噴出したと見られる沼沢湖火山灰以降,津波イベント堆積物が少なくとも5枚確認
でき,そのうち最新の堆積物が,その上下の地層の年代測定の結果から,貞観津波の時期に特定された(丙A40・175~177頁)。
d
四倉・平藤間間のいわき地区においては,各地層を採取し,年代測定を実施した結果,貞観津波以降のイベント堆積物が採取されたものと考えら
れるが,これらのイベントが,常磐地域の北部や仙台平野での結果と整合するかどうかは今後の検討課題である。また,再堆積した試料などが含まれている可能性があり,イベント堆積物の年代値が逆転していることもあるため,新たな調査地点も含めて再検討する必要がある。特に,茨城県大洋村以北である本地域が,歴史記録上貞観津波が到達したと記されている場所であるため,
その検証が貞観津波の南限を判断する上で重要である
(丙
A40・178頁)。

e
以上のように,これまで歴史記録になかった福島県常磐地域のうち浪江地区で平成19年度及び平成20年度の調査で貞観津波を含めた数枚の津波イベント堆積物が確認でき,これらのうち最も新しいイベント堆積物が貞観津波堆積物である可能性が最も高いことが明らかとなった。

他方,常磐海岸地域南部のいわき地区では,貞観津波以降とみられる津波イベント堆積物が検出できたが,貞観津波堆積物の特定には至らなかった。今回の調査で,歴史記録にある貞観津波が,南は福島県・常磐海岸地域中部までその存在が地質学的に確かめられたことになるが,それぞれの場所での遡上規模などについては,それぞれの場所で更に面的な調査が必
要となる。
また,仙台平野以南の貞観海岸地域において,貞観津波に伴うイベント堆積物が見いだされた場所では,約4000年前以降少なくとも4回のイベント堆積物が共通して認められ,貞観津波以降の時期においても,仙台平野・石巻平野や相馬市松川浦地区などの低地では,少なくとも2回のイ
ベント堆積物が共通しているが,このようなイベント堆積物が,貞観津波のように三陸海岸地域から仙台平野-常磐海岸地域で広く対比できるのかどうか,古い津波イベント堆積物の年代の特定と津波の影響範囲を地質学的に検証するために更なる調査が必要である。
以上のように,詳細な地質学的調査による津波堆積物の検出をし,最近
及び過去の歴史的津波の発生時期,発生間隔,津波の範囲などを特定することを目指して調査をした結果,常磐海岸地域では,歴史上伝承がない浪江地区において,初めて貞観津波堆積物を地質学的に発見した。これらの調査結果は,宮城県の沖合の海溝で発生する地震に伴う津波の規模を検討する上で重要な指針を与えると見られる。しかし,来襲する津波がどの程度の規模になるのか,海岸地域への広がりやそれぞれの場所での遡上範囲等については十分な結論を得るには至らず,貞観津波のような津波につい
ても各地で過去に繰り返し発生していることは地質学的に検証できたが,このような津波が,三陸海岸地域~仙台平野~常磐海岸地域で広く対比できるのかどうか,古い津波イベント堆積物の年代の特定とそれらの発生間隔,津波の影響範囲などを地質学的に検証するためには更なる調査が必要となる(以上,丙A40・178,182頁)。


地質調査・津波シミュレーションに基づく地震発生履歴に関する研究
(ア)仙台平野及び石巻平野における過去約6000年間の平野内に浸入した津波の履歴と浸水範囲を,津波堆積物の調査から明らかにするとともに,地震と地殻変動との関係解明を試み,それらの成果を基に津波の波源モデルを構築し,平野への浸水範囲を説明できる津波シミュレーションを行うことを目的とする(以上,丙A40・186頁)。
(イ)5か年の年次実施計画に基づく結果としては,仙台・石巻平野における貞観津波が当時の海岸線から少なくとも2~4km遡上していることが分かった。常磐海岸(相馬市,南相馬市及び富岡町)での調査については,南相馬市小
高区では,津波襲来時と現在の海岸線の位置がほぼ同じと仮定した場合,貞観津波の遡上距離は少なくとも1.5kmと考えられたが,相馬市,南相馬市鹿島区及び富岡町では,明瞭な津波堆積物が確認できず,浸水範囲の復元に至らなかった。
また,
貞観津波をシミュレーションで再現するため,
石巻平野,
仙台平野,

南相馬市小高区及び浪江町請戸における津波堆積物の分布域と複数の断層モデルに基づいた津波シミュレーションによる浸水域を比較した結果,プレート間地震によるモデルで,断層の長さが200km,幅が100km及びすべり量が7m以上の場合に浸水域が大きくなり,全ての地域において津波堆積物の分布域を再現できた(以上,丙A40・187,188頁)。(ウ)詳細として,南相馬市小高区に着目すると,断層の長さが200km,すべり量が7mの二つの断層モデルは津波堆積物の位置まで浸水する。浪江町
請戸においても同じ二つの断層モデルによる浸水域が津波堆積物の分布をよく説明し,また,石巻平野や仙台平野での津波堆積物の位置との関係も矛盾しないものとなっている。二つの断層モデルすなわち断層の長さが200km,幅が100km及びすべり量が7mのモデルにより計算された津波浸水域は,石巻平野,仙台平野,南相馬市小高区及び浪江町請戸における津波堆
積物の分布をよく説明することが分かった。
なお,
上記モデルにおける福島県沿岸北部(松川浦から請戸まで)の最大浸水深は最大6m以上であるが,
同県沿岸南部
(富岡以南から小名浜付近まで)
では,
1~2m程度にとどまる(以上,丙A40・250,258~262頁)。(エ)結論としては,プレート間地震で,断層の長さが200km,幅が100km,すべり量が7mのときに,石巻平野,仙台平野及び浪江町請戸での津波堆積物の位置まで津波がおおむね浸水することが分かったが,これらの結果は,北は宮城県石巻平野から南は福島県請戸にかけての津波堆積物の分布のみから判断されており,それより北側あるいは南側の情報は考慮されていない。貞観津波の北限と南限を決めるためには,請戸以南や三陸海岸での津
波堆積物の有無を確認する必要がある(丙A40・264,265頁)。ウ
結び

(ア)今回の業務は,推進本部が平成12年に公表した宮城県沖地震の長期評価を受け,発生が迫りつつある宮城県沖地震について,長期評価の高度化,連動型地震の実体解明などを目標として実施された(丙A40・388頁)。(イ)宮城県沖地震の発生履歴からは,巨大な津波を伴う大きな地震すなわち連動型地震がまれに発生することが知られている。しかし,連動型地震に該当し得るような大津波を伴った既知の地震は,貞観地震,慶長三陸地震及び寛政5年の地震だけであり,こうした地震に関する記録が限られ,その実体はよくわかっていない。巨大津波襲来の際の津波堆積物の調査により津波の遡上時期と範囲の特定を図るとともに,岩手県から福島県の太平洋沿岸部の地
質調査により,
貞観津波の到達した範囲の概略が明らかとなった。
その結果,
宮城県から福島県の沿岸がおおよその貞観津波の到来範囲と考えられ,また,
貞観津波による浸水範囲を地質調査から明らかにし,これを説明できる津波波源モデルを数値シミュレーションにより推定し,
断層の長さが200km,
幅が100km,すべり量が7mのプレート境界型地震が励起した津波とし
て説明可能であることが分かった。また,地質調査の結果,貞観津波のような巨大な津波が過去4000年間に繰り返し発生していたこと,貞観津波の前には280年~560年頃と紀元前700年~460年頃に巨大津波が襲来していたことが推定され,こうした巨大津波の再来間隔が450年~800年程度の幅を持っているようであることが分かった。他方,明らかとなっ
た貞観津波の波源モデルの位置や空間的な広がりは,連動型地震であったと評価されている1793年(寛政)の地震の推定震源域とは異なっており,連動して破壊するアスペリティの組合せの違いによる多様性があることが示唆される(丙A40・388,389頁)。
(ウ)地質調査から,貞観津波以外にも幾つかの大津波を伴うイベントが地質時代にあったことが明らかとなっているが,年代の決定精度が十分でなく,連動型地震の信頼性の高い発生履歴は十分解明されていない。沿岸域での地質調査は,津波堆積物の検出だけでなく,過去の地殻上下変動に関する情報も含んでいる(丙A40・390頁)。

(2)本件試算等

本件試算の実施~その後の被告東電における検討状況等
(ア)東電設計は,平成20年4月18日までに新潟県中越沖地震を踏まえた福島第一・第二原子力発電所の津波評価委託を作成し,本件試算を実施した。
これに先立つ同年3月18日には,その内容については被告東電にも報告されており,同年4月18日の上記資料はその内容を一部訂正したものであるが,想定津波の最大水位に関しての変更はなかった(以上,甲A216,丙B114の1・69~72,83~85頁,丙B114の4・資料75~79,98~103)。

(イ)本件試算の内容は,以下のとおりである。
a
日本海溝寄りのプレート間地震すなわち津波地震モデルとプレート内地震すなわち正断層モデルの活動域を想定し,
それぞれ津波評価技術に従い,
試算した。具体的には,津波地震は明治三陸地震の断層モデルを,プレート内地震は昭和三陸地震の断層モデルを,それぞれ想定していた(甲A216・1~3頁)。

b
この地震モデルについて,津波評価技術に基づく概略及び詳細パラメータスタディを実施した。
上昇側の最大となるケースでは,朔望平均満潮位O.P.+1.490mにおいて計算した場合,本件原発の敷地南側(敷地高O.P.+10m)においてO.P.+15.707mとなり,浸水深が5.707mとなる。
敷地北側(敷地高O.P.+13m)においてO.P.+13.695mとなり一部浸水する。
取水ポンプ位置(O.P.+4m)における最大津波高さは,5号機におけるO.P.+10.182m(1~6号機で,8.310~10.182mとなる。)であり,その浸水深は,6.182mとなる。

この場合の津波の敷地における第一波到達時間は,約47分後である。また,下降側(取水口前面)では,その最大下降量は,-3.580mとなり,朔望平均干潮位を考慮し換算すると,O.P.-3.559mとなる(以上,甲A216・7,9,16,19,20頁,乙A4の1・20,21,26頁)。

c
上記bの想定から,
本件原発の敷地南部の取水口付近から同敷地
(O.
P.
+10m)に津波(津波高さO.P.+15.7m)が遡上し最も浸水深(5.7m)が大きく,取水口前面(O.P.+4m)からも遡上するが,同敷地高
さには達せず,同敷地北部からも敷地(O.P.+13m)に津波が遡上するが,浸水深(0.7m)は小さいこととなった。
そこで,その対策として,鉛直壁の設置が検討され,敷地O.P.+10m及びO.P.+13mに,高さO.P.+20mの防潮壁(鉛直壁)を設定すること,すなわち,真ん中に防波堤があり,前面から押し寄せることはそれほどないとしても,防潮堤の基部に当たる南側及び北側に津波が集中するので,そこから敷地に遡上してきた津波に対して鉛直壁のみで対応するとした場合には10m盤のところに+10mの鉛直壁を設置するこ
とにより対応することとした場合には,想定津波の遡上に伴って生じる反射波の高さは,南護岸前面で最大19.363mとなっていた(以上,甲A216・14,15頁,丙B114の1・84,85頁,丙B114の4・資料101~103,109の3枚目,丙B115の1・62頁)。

(ウ)平成20年4月23日,被告東電内の関係部署において,本件試算を踏まえた対応が検討された。その際,想定津波高さが10数mとなる見込みであり,本件原発のR/B,T/B,C/B等の主要な建物への浸水が致命的であるとの観点から,津波の浸入方向に対する鉛直壁の設置を考慮した解析結果が提示されたが,鉛直壁設置の場合に19m程度の水位を想定していることは対外的にインパクトが大きいと考えられ,大きなレイアウトの変更など
(DR,デザインレビュー)を要し,被告東電の上層部の意見を聞く必要がある
などといった意見が出た。
同年5月16日の被告東電及び東電設計の打合せの際に,
津波対策として,
本件原発の南側の防波堤の付根部分から主要施設敷地に遡上してくることから,
同部分に減勢工のような防波堤を設置し津波高さを軽減する対策工事(な
お,被告東電内部資料等では対策工とされ,対策工事の意味と解されるところ,これ以降,対策工事の意味で対策工という表現を用いることがある。)の事前検討
を行うこと,その対策により放水路からの温排水による環境アセス及び漁業権の問題が発生することが示された。
同年6月6日の被告東電及び東電設計の打合せの際に,本件原発の南側の防波堤の付根部分に防波堤を設置した場合の効果として,主要施設敷地への津波高さ約4m程度の低減が見込まれるとの意見があった。同月9日,東電設計は,被告東電に対し,沖合防波堤の設置により主要施設敷地への津波高さが低減されるとの報告をした。
また,同日までに,被告東電は,佐竹委員に対し,長期評価を確定論設計ベースで考えるべきかどうかの意見を聴取したが,同委員からは非常に難し
い問題であるとの回答を受け,同委員の意見が確定論で行うべきとのニュアンスではなかったものと受け止めた(以上,丙B114の1・85~91頁,丙B114の4・資料104,106,107,108,丙B115の1・60頁,丙B116の1・44~46頁)。

(エ)平成20年6月10日,被告東電の当時の副社長も出席して協議が行われた。協議に先立って作成された資料には,現在の検討状況及び今後の検討内容として,
現在の波源モデルは,
福島県沖の既往津波が得られていないため,
明治三陸地震の波源モデルを流用した計算結果であること,今後,長期評価の波源モデル(Mwが8.3~8.2となる。)や延宝房総沖地震の津波の波源モデルを用いた場合には水位を低減できるが,領域内でどこでも起こるとい
う前提の場合に相対的に精度が高い明治三陸地震の波源を用いないことの説明が困難であること,対策工の概略検討として,敷地への遡上を防ぐために防潮壁の設置が考えられるが,防潮壁のみではO.P.+10m盤に10mの壁が必要となること,沖合への防潮堤の設置も考えられ,敷地への遡上水位を大幅に低減できるが,施工の成立性に関する検討や必要な許認可の洗い出しが必要となること,検討スケジュールとしては,同年8月までに波源に関する検討を行い,敷地遡上への津波の対策工について同年10月までに概略検討をすることなどが記載されていた。また,同資料には,今後の対応等として,設備関係の対応策の検討,確定論で取り扱うことの現実性について有識者説明を実施すること,津波PSA評価技術の高度化,リスク評価に基づいた対策の実施に前向きに取り組むこと,波力,漂流物に関する検討の実
施を行うことなども記載されていた。同資料に基づいて,担当者が説明を行ったところ,副社長からは,①津波対策を実施するか否かの判断に関わるため,津波ハザードの検討内容について詳細に説明すること,②4m盤への遡上高さを低減するための概略検討を行うこと,③沖に防潮堤を設置するために必要となる許認可を調べること,④防潮堤や防波堤の検討と並行して,水
密化等の機器の対策についても検討することというコメントが出され,これらに対する検討結果をまとめて再度打合せを行うこととされた。なお,同日頃までに,本件原発の津波対策について,従前海中又は海岸のエネルギーの減衰のために構造物の設置などの構造物対策を検討していたが,結果的にサイトの津波高さが下がるものの,
周辺集落への津波高さが高くなることから,

社会的に受け入れられないとの判断が被告東電ではされていた。
同年7月23日,被告東電,東北電力,JAEA(日本原子力研究開発機構)及び日本原電との連絡会において,津波評価に関する検討状況等に関する情報交換が行われ,被告東電からの出席者は,対策工を実施する意思決定までには至っていないが,防潮壁,防潮堤やこれらを組み合わせた対策工の検討
を同年10月までには終えたいこと,長期評価に基づく津波も考慮すべきであるとの社内調整を進めていることなどを述べた。
なお,
上記連絡会の中で,
東電設計に対し,日本海溝の北部と南部を区分できる資料についての作成を依頼することが決まり,同年8月18日,同社からその報告資料が被告東電に提出された。その資料には,確率論における海溝寄りの津波地震に関する分岐案として,①これまでに発生した領域のみで発生するもの,②どこでも発生するが北部に比べて南部の津波地震は小さい
(南部には津波を大きくする低
速度くさび形堆積物がみられない。)とするもの,③どこでも発生し,南部も北
部も同程度の津波地震が発生するとするものが示されていた。なお,東電設計は,確定論としては上記②の分岐を選択できるのではないかという結論である旨述べていた(以上,丙B114の1・92~104頁,丙B114の4・資料109,114~117,163,丙B115の1・63~66,68~71頁,丙B115の3・資料59,60,63,66)。

(オ)平成20年7月31日,被告東電内において,被告東電の当時の副社長も出席して再度協議が行われた。上記(エ)の協議で副社長から示されたコメントも踏まえて作成された資料の中には,①対策工の追加検討として,沖合の防潮堤の設置,既設防波堤の拡張の組合せを設定したところ,遡上水位を最も低減する組合せでO.P.+4m盤の水位を1~2m程度低減できるが,O.P.+15mの長大な防潮堤の設置や既設防波堤の約O.P.+20mへの拡張等のコスト,工期,施工の実現性を考慮しておらず,あくまでも試算にとどまること,今後コスト・施工の実現性を考慮した上で,機器等の対
策コストとの組合せの検討が必要となるが,防潮堤建設費のオーダーとしては数百億円規模となること,②沖合防潮堤の設置に必要な許認可等として,水域施設建設届等の許認可申請が必要となるほか,海浜変形,温排水拡散範囲,航行船舶への影響評価が必要となり,意思決定から防潮堤完成まで約4年間(環境影響評価が必要な場合には,それに加えて約3年間)を要すること,③津
波水位の追加検討として,現状の津波水位は明治三陸地震の波源モデルを福島県沖に設定し解析を実施しているが,海溝沿いには房総沖の波源モデルも設定されており,三陸沖とそれ以南で地震の発生様式が異なるとの説明ができれば,延宝房総沖地震の波源モデルを用いて水位を低減できる可能性があること,④関係各社の対応として,日本原電が東海原発付近に30cm程度の遡上があるとして,盛土,建屋の止水扉による対策などを検討していること,東北電力が,今村委員らに対し,長期評価の波源を明示せずに意見を求めた際,特に異論がなく,女川原発前面に同波源を設定せずに従来の津波評価技術による津波評価を行うとの意思決定をしたこと,JAEAが長期評価の津波に対して建屋の周りを囲むなどの対策工を検討しているが,波源モデルの設定方法によっては対策が不要となることを確認したことから,長期評
価の津波に対する取扱いは各社において統一されていないこと,⑤今後,長期評価の津波の取扱い(確率論・確定論)について,学識経験者へ説明すること,延宝房総沖地震の波源モデルの採用可否についての検討を進めるとともに,学識経験者へ説明することなどが記載されている。なお,防潮堤の設置に伴っての留意事項としては,取水口前面や沖合に防波堤を設置する場合に
温排水の拡散範囲が拡大し,漁業権消滅区域の拡張や追加の漁業補償が問題となること,防波堤からの反射波による湾外への影響や周辺海域における海浜変形・環境影響評価などの問題があることも示されていた。
これを踏まえて,被告東電の当時の副社長とともに検討を行った結果,長期評価はあるが,これが原発の設計プラクティスとして設計・評価方針が確
定しているものではなく,土木学会などの検討を通じてどのように対応するかを決定する旨,耐震バックチェックにおいては従前の津波評価技術に基づく評価とする旨,
以上について有識者の理解を得る旨の方針が決定された
(以
上,丙B114の1・106~111頁,丙B114の4・資料119,126,丙B115の1・78~86頁,丙B115の3・資料69,72,74,丙B116の1・
75,76頁)。

(カ)被告東電は,平成20年8月6日,各電力会社に対し,上記(オ)の被告東電で決定した方針を伝えた。
また,被告東電は,三陸沖~房総沖の日本海溝寄りの北部と南部の構造の違いを踏まえ,延宝房総沖地震の波源を使った津波の評価を東電設計に委託し,同月22日,東電設計から,その結果が報告された。その中で,上昇側の最大となるケースでは,朔望平均満潮位O.P.+1.490mにおいて計算した場合,本件原発の取水口前面において6.747~8.784mとなり,同敷地南側(敷地高O.P.+10m)においてO.P.+13.552mとなるとされていた。
被告東電は,同年9月10日開催の電事連の土木技術委員会において,電
力共通研究として,津波評価技術後の長期評価,中央防災会議における波源に関する新たな知見の提示や数値計算技術の進歩などを踏まえ,津波評価技術の改訂のための研究を提案し,実施が了承された(以上,丙B114の1・113,114頁,丙B114の2・1~4,6~8頁,丙B114の4・資料127,128,131,135,136,138,139,丙B115の1・89頁)。
(キ)なお,JNESは,平成20年8月に地震に係る確率論的安全評価手法の改良を公表したが,その中では,地震PSAに基づく耐震バックチェックにおける残余リスクの評価の実施・報告について指摘があるほか,地震時の随伴現象である津波PSAのモデルを構築していく際の予備的な検討として,津波時の基本的なシナリオを検討している。その内容は以下のとおりで
ある(甲A28)。
a
津波時に考慮すべき検討事項としては,①津波到来時の状態,②プラントに対する津波の影響,③②に基づくシナリオの検討,④③に基づくイベントツリー,
⑤評価に必要な津波に対する機器等のフラジリティである(甲
A28・3-1頁)。

b
プラントに津波が到来する場合の状態としては,津波遡上時と引き波時の2種類がある。
津波遡上時のプラントに対する影響としては,プラント内の海岸に近い位置に設置されている機器,建屋構造物から順に影響を受けていくと予想される。海岸線より沖合に取水塔が設置されているプラントでは,取水塔が最初に津波の影響を受けて損傷等により海水取水が不可能となる。次に,
砂丘,堤防及び防波堤等を乗り越えて津波が遡上した場合,津波により海
水ポンプが損傷,機能喪失し,海水取水が不可能となる。さらに津波が遡上すると,屋外変電設備,非常用DG燃料供給設備などが影響を受け,外部電源喪失が発生するほか,
DGからの非常用電源の供給が不可能となる。
最後に,津波の遡上によって原子炉建屋内に海水が浸入した場合,建屋内に設置されている炉心冷却に関連した機器系統が損傷・機能喪失し,炉心
を冷却できなくなることが考えられる(以上,甲A28・3-2,3-3頁)。c
屋外に設置された起動変圧器の損傷・機能喪失が発生した際には外部電源喪失となり,同時に,非常用DG燃料供給設備が津波により機能喪失している場合はSBOの発生となり,炉心損傷に至る。また,非常用DGは海水により冷却されて運転されるため,取水塔・海水ポンプの損傷・機能
喪失が発生していれば非常用DGは利用できず,起動変圧器の機能喪失はSBOとなる。SBOが発生した場合,短期的には蒸気駆動の炉心注水ポンプにより炉心冷却を行うことが可能となるが,長期的には運転制御用機器へ給電するバッテリーへの充電を行うための電源復旧等が必要である。原子炉建屋内への海水の浸入が発生した場合,原子炉建屋内に設置され
ている各種の機器が溢水し,機能喪失する可能性がある。原子炉建屋の最下層には非常時に原子炉に注水する高圧系・低圧系の電動及び蒸気駆動ポンプ等が設置されており,それらが全て溢水し機能喪失することによって炉心損傷に至る可能性がある(以上,甲A28・3-4~6頁)。d
上記シナリオの解析には,津波の波高の堤防・防波堤の超過,津波による屋外機器構造物の損傷・機能喪失,原子炉建屋への海水浸入,原子炉建屋の機器の溢水などの各現象及び各機器・構造物の津波時の損傷・機能喪失の発生確率の評価結果が必要となる(以上,甲A28・3-6,7頁)。イ
中間報告後の耐震バックチェックの実施状況等

(ア)平成20年4月14日,経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会傘下の原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会地震津波,地質・地盤合同WG(以下地質等合同WGという。)の会合が開催され,本件原発に係る地質調査結果,基準地震動Ssの策定結果に係る妥当性の確認などを開始した。
また,同年4月から同年5月にかけて,保安院は,福島沖の海上音波探査
を実施し,同月13日には,5号機の主要な設備の評価結果に係る妥当性の確認を開始した(以上,丙A37・4,5頁)。
(イ)保安院は,平成20年9月4日,新潟県中越沖地震を踏まえた原子力発電所等の耐震安全性評価に反映すべき事項についてを発し,被告東電に対し,双葉断層についての状況等の確認を行った。

同月10日,上記保安院の指示を受けて,被告東電は,耐震バックチェック説明会を開催し,
耐震バックチェックにおける長期評価の取扱いについて,
福島第一原子力発電所津波評価の概要(地震調査研究推進本部の知見の取扱)と題する資料に基づき,検討した。同資料には,①平成14年2月時点での津波評価技術に基づく評価結果と
しては,三陸沖,宮城県沖,福島県沖,房総沖及びチリ沖を波源として検討した結果,本件原発における最高水位はO.P.+5.4~+5.7m,同最低水位はO.P.-3.6~-3.5mであり,水位下降時に一部の非常用海水系ポンプについて吸い込みが不可能となるため,手順書を変更し,水位上昇時に対して非常用海水ポンプの軸受設置レベルのかさ上げの対策を講
じたこと,②長期評価について,平成15年度~平成17年度の土木学会の検討としては,福島県沖の海溝沿いを波源とした津波が起きたとする事実が得られていないことから,津波PSAで取り扱うこととした(確定論で取り扱うべきとする意見はなし。が,

ロジックツリーの分岐に関するアンケートでは,

地震学者の平均がどこでも起きる方が高いとしていたこと,③平成18年耐震設計審査指針による耐震バックチェックにおいて,Ss策定における海溝沿いの震源に関する検討として,不確かさの考慮として,福島県沖の海溝沿いの地震を想定し,Ss策定に影響がないことを確認したこと,この点,専門家の意見として,
福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できず,
波源として考慮すべきであるという見解(平成20年2月26日付け今村委員)と設計事象で扱うかどうかは難しい問題との見解(同年6月9日付け佐竹委員)
があり,津波の波源としては,不確かさを考慮すべきとする指針の精神,専門家の意見を踏まえ,福島県沖の海溝沿いを波源とする津波の検討を実施中であることなどが示されていた。
また,本件原発における最大浸水図として,1~4号機の敷地付近(海側)の津波高さがO.P.+9.3mとなり,敷地高さO.P.+4mに対して
浸水深が5.3mとなり,本件原発の南側敷地付近(海側)の津波高さがO.P.+15.7mとなり,敷地高さO.P.+10mに対して浸水深が5.7mとなること,5号機及び6号機の北側敷地付近(海側)の津波高さがO.P.+13.7mとなり,敷地高さO.P.+13mに対して浸水深が0.7mとなり,
5号機及び6号機敷地付近
(海側)
の津波高さがO.+10.
P.

2mとなり,
敷地高さO.
P.
+4mに対して浸水深が6.
2mとなること,
この想定の下に本件原発の敷地北部南部から敷地への遡上及び港内からO.・
P.+4mへの遡上について対策が必要となることが示され,長期評価における波源モデルについて,今後2~3年以内に検討し,津波評価技術の改訂を予定すること,電力共通研究の実施について各社の了解後,速やかに学識
経験者に長期評価の知見の取扱いについて説明,折衝を行うこと,改訂後の津波評価技術によるバックチェックを実施すること,ただし,地震及び津波に関する学識経験者のこれまでの見解及び長期評価の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると,現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され,津波対策が不可避となることが指摘されていた(以上,甲A351の1及び2,乙A4の1・14頁,丙A37・5頁,丙B114の4・資料140,141)。

(ウ)その後,被告東電は,新たな保安院の指示に対応すべく,同年12月8日に耐震バックチェックの実施計画を見直し,中間報告において上記代表プラント以外のプラントも対象とすることとし,最終報告については提出時期を未定とした(乙A4の1・14頁)。

その後の被告東電の対応等

(ア)平成20年10月,被告東電は,地震津波の複数の専門家の意見を聴取した。
津波評価技術の刊行後に長期評価などの様々な知見が出されていることから,3年程度かけて津波評価技術の改訂を実施する必要があるとの被告東電の説明を受け,各専門家はおおむね了承の意思を示した。その中で,①首藤名誉教授(津波評価部会主査)は,原子炉の暴走といった重大事故は絶対にあってはならず,常に冷却水を確保すること,制御系が水によって損傷を受けないようにすることを徹底し,
津波の設計に対してもリダンダンシー(余裕)
を持たせる必要があると指摘し,②佐竹委員は,長期評価に関して,三陸沖
と福島沖~茨城沖を同視する趣旨ではなく,福島沖~茨城沖で場所の特定ができないというものであり,三陸沖と福島沖以南において地震発生様式が異なること,貞観津波に関する論文を準備中であり,その原稿を参考として交付することを述べ,③高橋准教授(秋田大准教授,津波評価部会委員であり,津波工学の専門家である。以下。高橋准教授という。)は,津波堆積物が重要な物
的証拠であり,これまでに分かっている情報を適宜使い,波源モデルを見直す必要があること,長期評価がある以上,福島県沖で波源を設定しない理由をきちんと示す必要があることを指摘し,3年間の電力共通研究及び土木学会での審議の結果,長期評価による波源設定が必要と判断され,津波評価技術の改訂がされれば再度バックチェックを行うとの被告東電の担当者の繰り返しの説明を聞き,津波研究者として,福島県沖~茨城県沖で長期評価のような地震津波が発生するとは思わず,被告東電の説明は理解するし,気持ちも分かるが,長期評価がある以上,考慮しなくてもよい理由を一般の人に説明しなければならないことを述べ,④今村委員は,長期評価について今回の耐震バックチェックにおいて波源として考慮しなくてもよいこと,バックチェックでは扱いにくく,かなり過大で非常に小さい可能性を追求するのはど
うかと述べていた。
また,佐竹論文(甲B35,なお,本論文は,上記(1)の宮城県沖地震重点調査観測の一環として実施された研究に基づく。を踏まえた貞観津波の波源モデルの検)

討も進め,同論文で示された二つの波源の数値シミュレーションを実施した結果,本件原発の取水口前面における最大水位上昇量は,最大で7.667m(6号機,1~5号機で7.074~7.595m,なお,平均潮位O.P.+0.889mを初期海水面として実施)となり,敷地まで遡上しないという結果とな
った。
これも踏まえ,被告東電は,貞観津波を耐震バックチェックにおいて取り扱わない方針とした。
同年12月10日,被告東電は,阿部名誉教授に対し,今回の耐震バックチェックにおいては津波評価技術でチェックすることとし,長期評価について電力共通研究における3年間の研究後にその成果を土木学会で審議し,津波評価技術を改訂し,改訂後にバックチェックをすることの当否を確認したが,阿部名誉教授は,長期評価がある以上,事業者がどのように対応するか
を答えなければならず,対策をとるのも一つ,無視するのも一つであるが,無視するためには積極的な証拠が必要となること,福島県沿岸で津波堆積物の調査を実施し,長期評価に対応するような津波が過去に発生していないことを示すのがよいことを述べた(以上,丙B114の2・12~21,25,26頁,丙B114の4・資料142~146,149,154,丙B115の1・93,107頁,丙B123・60~62頁)。
(イ)被告東電は,上記ア(オ)の方針の下,津波に関する最終報告に向けて,最新の海底地形と潮位観測データを考慮し,平成21年2月に津波評価技術に基づき,再評価をした結果,本件原発について,O.P.+5.4~6.1mという結論を得て,その津波高さに応じてポンプ用モーターのシール処理対策等を講じた。また,前記4(6)ウ(ウ)のとおり,平成20年3月に,代表プラントである本件原発の5号機についての中間報告書を,平成21年6月に
本件原発の1~4号機及び6号機についての中間報告書を,それぞれ保安院に提出した。この中間報告書において,新潟県中越沖地震の知見を活かした調査に基づき,基準地震動Ssを策定し,原子炉建屋や安全上重要な機能を有する耐震Sクラスの主要な設備等について耐震バックチェックが実施されたとの報告がされた(甲A2本文編・390頁,甲A337,乙A4の1・
14,18,19頁)。

地質等合同WGにおける検討状況等

(ア)上記ウ(イ)の中間報告書の提出を受けた保安院は,地質等合同WGにおいてその妥当性等を審議した。
平成21年6月24日開催の上記地質等合同WGにおいて,被告東電の担当者が中間報告について説明をした際,同WGの委員(上記(1)の貞観津波の津波堆積物の調査研究に関与した産業技術総合研究所活断層研究センター(以下
産総研
という。)の海溝型地震履歴研究チームの岡村行信委員)から,プレート間地震と
して福島県東方沖地震を考慮しているが,既に調査結果が出ている同地震と全く比べ物にならない津波が起きたとされる貞観津波について触れていない理由が尋ねられた。これに対し,被告東電の担当者は,貞観地震について地震動の観点から被害が見当たらず,地震動評価上,福島県東方沖地震で検討すれば問題ないと考えていると述べた。上記委員が,津波堆積物が常磐海岸まで来ており,これは,上記(1)の研究成果からもわかっているのに,そのことに触れていない理由を重ねて尋ね,これに対し,保安院の担当者(事務局)が,津波に関しては中間報告では提出されていないので評価していないが,貞観津波の津波堆積物の調査結果なども踏まえた検討を最終報告において行うなどと述べた(以上,甲A60の1・16,17頁,丙B108の1・57~59頁,丙B108の2・資料4の16,17頁)。

(イ)平成21年7月13日開催の地質等合同WGにおいて,被告東電の担当者は,貞観地震の影響が福島県東方沖地震(塩野崎沖地震)の影響よりも小さいとする趣旨の報告をしたが,複数の委員から,津波の波源モデルを地震動の評価に用いることには無理があり,震源断層モデルとして考慮することの問題点の指摘や,貞観地震と福島県東方沖地震との連動を考慮すべきといった意見,そもそも佐竹論文が知見と呼べるのかなどの意見が出て,議論の収拾
がつかない状態となったことから,保安院の担当者が,そのような議論の状況を踏まえて,貞観津波について新たな知見が得られた場合,設計用津波水位の評価に貞観地震を考慮するよう求め,他の委員もこれに異論を述べなかった。
同月21日,保安院は,上記合同WGの審議の結果として,被告東電が策
定した地震動が妥当であるとした上で,現在,研究機関等により貞観津波に関する津波堆積物や波源等に関する調査が行われていることを踏まえ,電気事業者が津波評価及び地震評価の観点から,適宜,当該調査研究の成果に応じた適切な対応をとるべきと考えるといった意見を付し,保安院は,貞観津波について調査研究の段階にあるとの見解を示していた(以上,甲A60の2・
3~8,13~15頁,甲A115の1・Ⅲ-29頁,丙A37・5,24頁,丙B31・12~14頁,丙B33・1頁,丙B83・6~9,12~16,88,89頁,丙B108の1・59~62頁,丙B108の2・資料5の3~8,13~15頁)。

中間報告後の保安院,被告東電の対応等

(ア)平成21年8月28日,被告東電の担当者は,保安院の担当者と会い,波源設定について津波評価技術に基づき行うこと,今後波源の合理的設定に関する研究を土木学会等で行い,バックチェック最終報告に間に合わないが,
合理的に設定された波源に対して必要な対策は当然実施することなどを説明し,保安院の担当者から,個人的見解として,その取扱いでよいが,貞観津波の試算結果を教えてほしいとのコメントがあった。同年9月7日,被告東電の担当者は,保安院に赴き,上記説明のほか,貞観津波の試算結果を説明したところ,保安院の担当者は,貞観津波について正式に耐震バックチェッ
クの基本ケースで扱う必要はないが,何らかの形で安全性に言及できるのが理想であると考えているなどと述べた(以上,丙B31・15~17頁,丙B83・16~19頁,丙B114の2・36~40頁,丙B114の4・資料166~168)。
(イ)平成21年11月19日,原子力安全委員会は,保安院が付した上記エの中間報告書の評価の妥当性を確認した(丙A53)。
(3)推進本部地震調査委員会の日本の地震活動〈第2版〉
上記委員会は,平成21年3月に,上記資料を作成し,公表した。その内容は,以下のとおりである。(丙A28)


沈み込むプレートと陸のプレートの間で発生する地震

(ア)太平洋プレートが沈み込む日本海溝等の付近では,M7~8程度の規模の大きな地震が発生することがある。このような大地震は,太平洋プレートの沈み込みに伴って陸側プレートの端が引きずり込まれ,それが限界に達したときに陸側のプレートが跳ね上がるという断層運動により生じる。このような地震をプレート間地震又はプレート境界型地震という
(丙A28・20頁)

(イ)太平洋プレート,フィリピン海プレートの沈み込む場所では,まれに特に規模の大きな地震と津波が発生することがわかってきている。この地震は,通常のプレート間地震の震源域が幾つか同時に連動して破壊することで発生すると考えられる。例えば,1707年の宝永地震(M8.6)は,南海地震と東南海地震が同時に発生した地震と考えられ,1703年の元禄地震(M8.1)は,1923年の関東地震(M7.9)と比べて震源域が広いと推定さ
れており,このタイプの地震と考えられている。また,津波堆積物の調査結果から,貞観津波(M8.3)がこれまでに知られていない巨大地震によるものであった可能性がある。海外の例では,チリ地震(Mw9.5)やスマトラ沖地震
(Mw9.がこのタイプの地震と考えられている
1)
(丙A28・20頁)

(ウ)このタイプの大地震に伴う海底の地殻変動(隆起や沈降)により,海水が持ち上げられたり,引き下げられたりすることにより津波が発生することが多くある。そのため,プレート境界に面した沿岸地域,特に震源に近い地域では,プレート間地震の発生により,強い揺れが生じるほか,その直後に津波が来る(丙A28・20,21頁)。

(エ)プレート境界の一部では,断層面でのずれがゆっくりと起こり,それによる海底での地殻変動(隆起や沈降)で津波が発生することがある。この場合,ずれがゆっくり起こるため,生じる地震波(人が感じることができるような周期の短い地震波)は比較的小さく,我々は弱い揺れしか感じない。しかし,津波
を引き起こす海底での地殻変動の大きさは,ずれの速さではなく,断層運動の規模(ずれの量と広さ)などに依存する。したがって,感じた地震の揺れが
比較的弱くても,断層運動が大規模であれば大きな津波が発生する。このように,通常の地震から予想されるよりもはるかに大きな津波を引き起こすような地震を津波地震という。明治三陸地震がこの例である。地震の揺れの強さから求めたMは7程度であったが,津波記録を用いて推定された断層運動の規模から求めると,M8.2に相当する(丙A28・21頁)。

東北地方の地震活動の特徴
(ア)東北地方に被害を及ぼした地震には,太平洋側沖合で繰り返し発生してきたM8クラスの地震や陸域で発生したM7クラスの地震などがある。明治三陸地震がよく知られている。東北地方は,近畿地方などに比べて古い歴史資料が不十分であるが,数多くの被害地震が陸域や海域で発生してきたことが知られている(丙A28・83頁)。

(イ)東北地方の地震活動は,太平洋側沖合の太平洋プレートの沈み込みに伴って発生する地震や陸域の浅い場所で発生する地震などがある。
この中で発生する地震の数が多く,規模も大きいのが太平洋側沖合で発生する地震である。
東北地方には,東南東の方向から太平洋プレートが年間約8cmの速さで
近づいており,
同プレートは日本海溝から東北地方の下に沈み込んでいる
(以
上,丙A28・83頁)。

(4)平成21年~平成22年の津波評価部会の活動状況等

平成21年のロジックツリー分岐のアンケートの実施等

(ア)平成21年2月に,土木学会の津波評価部会は,同部会の審議に使用すべく,認識論的不確定性に由来するロジック分岐の重み付けの妥当性を高めるため,津波評価部会の委員及び幹事34名並びに外部専門家5名に対し,確率論的津波ハザード解析に適用するロジックツリー分岐の重み設定案の作成のためのアンケートを実施した。

回答するに当たっての前提として,各専門家の専門事項についてのみ回答すること,その重み欄に,項目ごとに合計が1となるよう,小数又は分数による現状の判断を記入すること,より確からしいと考える見解の重みが大きくなるよう数値を配分することとされていた。
また,津波ハザード解析及びロジックツリーの意義を説明し,地震規模に
ついて,津波高の確率分布を求める目的としているため,過去及び将来の地震規模Mwすなわち津波モデルのMwを設定すること,津波モデルのMwの検討経緯は津波評価技術のとおりであること,M範囲の考え方について,記録が残っている地震の既往最大規模が,それ以上大きい地震は起きない上限か,それを超える地震が将来起きえるのかという判断と将来発生する地震規模はどの程度の範囲で振れるか(不確実性大のとき0.5の幅,不確実性小のとき0.3の幅とした)という視点から五通りの分岐を設定したこと,活動域区分について,津波評価技術で検討した確定論的津波評価のための海域区分を基に長期評価の研究成果を加味して設定していること,想定対象期間としては,超長期にわたる,すなわち1万年オーダーの地質学的時間を想定し,大地震の平均的な発生状況を推定することを基本と
すること,BPT分布を用いた評価方法という設問のみ,BPT分布による今後数十年間の発生確率に基づく設問であることなどが説明されている。なお,アンケート調査の結果は,平成21年2月23日付けで集約され,調査票(集計表)が同日付けで作成されている(以上,丙A76・1~5頁,丙B23・19頁,丙B114の4・資料175)。

(イ)このうち,三陸沖~房総沖海溝寄りのプレート間大地震に関する質問において,その前提として,津波モデルを,津波の痕跡高を再現できる一様モデルとすると,慶長三陸地震,明治三陸地震及び延宝房総沖地震の各津波モデルのMwはいずれも8.3,一様すべりモデルの既往最大Mwは8.3(津波モデルを不均質モデルとした場合,慶長三陸地震の津波モデルのMwは8.4,明治三
陸地震の津波モデルのMwは8.3,不均質モデルの既往最大Mwは8.4。なお,検潮記録が得られていない延宝房総沖地震については,
信頼性の高い不均質モデルを作成
できない。)であり,長期評価による地震規模はMt8.2前後であることな
どが示されている。
最初の質問(Q1‐6‐1)として,分岐①(過去に発生例がある三陸沖及び房総沖でのみ過去と同様の様式で津波地震が発生する。)の重みが0.40,分
岐②
(活動域内のどこでも津波地震が発生するが,
北部領域に比べて南部ではすべり量
が小さい。北部赤枠内では明治三陸地震の断層モデルを移動させ,南部赤枠内では延宝房総沖地震の断層モデルを移動させる。)の重みが0.35,分岐③(活動域内のどこでも明治三陸地震タイプの津波地震が発生し,
南部でも北部と同程度のすべり
量の津波地震が発生する。
赤枠全体の中では明治三陸地震の断層モデルを移動させる。

の重みが0.25となっていた。また,補足として,上記分岐がいかな
る認識,根拠に基づくものかが説明されている。分岐①は,津波地震が発生するのは特別な領域であるという認識に基づく。海溝寄りの津波地震が発生している領域では,その陸側でM8クラスの典型的なプレート間地震が発生しておらず,三陸沖中部,房総沖と茨城県沖南部ではM8クラスの典型的なプレート間地震が発生していないことが指摘され,
先行研究
(丙B21)
では,
三陸沖に関してこの傾向を指摘し,プレート境界の性質(粗い,なめらか)による説明をしている。分岐②は,巨大低周波地震としての津波地震はどこでも発生する可能性があるが,南部では津波を大きくする低速度くさび型堆積物が見られないため,北部の場合ほど大きな津波を生じないとの認識に基づ
く。このことは,延宝房総沖地震のすべり量が明治三陸地震のすべり量ほど大きくないこととも整合する。分岐③は,巨大低周波地震としての津波地震はどこでも同じように発生し,低速度くさび型堆積物の影響はそれほど大きくないという認識に基づく。なお,地震学者及び津波工学者11名の重み付け(なお,地震学者について,都司委員を除く7名の地震学・地震工学の専門家につい
て,他の専門家の4倍の数値が割り当てられている。)を見ると,上記4倍としな
い状態では,分岐①0.35,分岐②0.32,分岐③0,33となっていた。
このうち,4倍の数値が割り当てられた地震学者の見解を見ると,谷岡准教授は,分岐①2,分岐②1.2,分岐③0.8(4倍とする前の数値は,分岐①0.5,分岐②0.3,分岐③0.2)と配分し,明
治三陸地震が世界でも類を見ない津波地震であったことを考慮し,分岐①の重みを大きくすべきとコメントし,平田直教授(当時東京大学教授)も谷岡准教授と同じ重みを付け,藤原広行氏(当時防災科学技術研究所所属)は,分岐①0.4,分岐②1.2,分岐③2.4(4倍とする前の数値は,分岐①0.1,分岐②0.3,分岐③0.6)と配分し,海溝寄りの津波地震に関しては不明なところが多いため,安全側の重みを設定したとコメントし,松澤暢教授(当時,東北大学教授であり,推進本部地震調査委員会の委員を務めた。以下松澤委員という。)は,分岐①0.8,分岐②2.4,
分岐③0.8(4倍とする前の数値は,分岐①0.2,分岐②0.6,分岐③0.2)と配分し,不確定性が大きく,過去と同じ場所だけとはいい切れないが,頻度としては北部の方が高いと思うとコメントし,佐竹委員は,分岐①2,分岐②0.4,分岐③1.6(4倍とする前の数値は,分岐①0.5,分岐②0.1,分岐③0.4)と配分し,津波地震
が特定の場所で発生するか,どこでも発生するかは議論があるので,50%としたとコメントし,
平田賢治氏(当時気象研究所所属)
は,
分岐①
0.8

分岐②1.8,分岐③1.4
(4倍とする前の数値は,分岐①0.2,
分岐②0.45,分岐③0.35)と配分し,山中佳子教授(当時名古屋大学准教授)は,分岐①2.4,分岐②1,分岐③0.6(4倍とする前の数値は,分岐①0.6,分岐②0.25,分岐③0.15)と配分
し,津波地震の発生場所はある条件を満たした特別な場所だと思うが,ここでの区分けは大雑把なので分岐①と思わないが,分岐②,③のように南北二つに分けての議論は無理とコメントした。
また,これ以外の学者を見ると,首藤名誉教授は,分岐①0.8,分岐②0.1,分岐③0.1と配分し,都司委員は,分岐①0,分岐②0,分岐③1と配分し,例えば貞観津波がそうであったと考
えられるとコメントし,今村委員は,分岐①0.3,分岐②0.6,分岐③0.1と配分し,カップリングやスロー地震を考慮して分岐②の可能性が高いとコメントし,高橋准教授は,分岐①0.2,分岐②0.5,分岐③0.3と配分し,海溝寄りの津波地震が発生している地域では,その陸側でM8クラスの典型的なプレート間地震が発生しないのか,それとも発生したことは確認されていないのかの判断は難しく,他地域での津波地震の発生を否定するほどの根拠はないと考えられるし,プレート境界の性状と津波地震の関係もまだ発生を否定するほどの知見には達していないと認識しており,分岐①の重みを低くしたが,堆積物と津波地震の関連性は強く,堆積物の分布についても物理的に確認できているならば,すべり量を小さくすることは妥当と考えて,分岐②に比べて分岐③の重みは小
さくしたとコメントした。
次に,上記分岐①を前提とした場合に,三陸沖海溝寄り津波地震北部の津波推定に用いる断層モデル(Q1‐6‐2)は,明治三陸地震の津波に対する一様すべりモデルを用いる(Mwが変化する場合,幅に50kmの限界があるというスケーリング則を適用しモデルを設定する。)との重みが0.45,同津波
に対する不均質モデルを用いる(アスペリティを考慮する。Mwが変化する場合,断層面積は一定として,
各小断層のすべり量に同じ倍率をかけることによりモデルを設
定する。)との重みが0.55であった(以上,甲A597・資料2,丙A76・18~23頁,丙B104の3・資料7,丙B114の2・55~58頁,丙B114の4・資料177)。

(ウ)地震規模に関しては,上記分岐①を前提として,一様すべりモデルを用いるとき,三陸沖~房総沖海溝寄りの津波地震活動域のうち,明治三陸地震の波源域の地震規模(Q1‐6‐3‐1)は,既往最大を上回る地震が発生するという重みが0.80(合計)であり,既往最大を上回る地震は発生しないという重みが0.20(合計)である。また,不均質モデルを
用いる場合(Q1‐6‐3‐2)も,同様の重みとなっている。
上記分岐②を前提とする場合,三陸沖~房総沖海溝寄りの津波地震活動域北部海域において,
一様すべりモデルを用いることとなり,
その地震規模Q

1‐6‐3‐3)は,
既往最大を上回る地震が発生するという重みが0.80(合計)であり,既往最大を上回る地震は発生しないという重みが0.20(合計)である。
上記分岐③を前提とする場合,三陸沖~房総沖海溝寄りの津波地震活動域全体において,一様すべりモデルを用いることとなり,その地震規模(Q1‐6‐4)は,既往最大を上回る地震が発生するという重みが0.75(合計)であり,
既往最大を上回る地震は発生しないという重みが0.25(合計)である。上記分岐①を前提として,一様すべりモデルを用いるとき,三陸沖~房総沖海溝寄りの津波地震活動域のうち,
延宝房総沖地震の波源域の地震規模Q

1‐6‐5‐1)は,
既往最大を上回る地震が発生するという重みが0.85(合計)であり,既往最大を上回る地震は発生しないという重みが0.15(合計)である。
上記分岐②を前提として,一様すべりモデルを用いるとき,三陸沖~房総沖海溝寄りの津波地震活動域南部海域の地震規模Q1‐6‐5‐2)は,(
既往最大を上回る地震が発生するという重みが0.85(合計)であり,既往最大を上回る地震は発生しないという重みが0.15(合計)である(以上,丙A76・24~27頁)。

(エ)貞観型の津波(869年発生,津波モデルのMw及び既往最大Mwはいずれも8.5)に関する質問もあり,仙台平野及び石巻平野でその津波堆積物が確認さ
れ,貞観地震の津波が明治三陸地震及び昭和三陸地震の各津波並びに慶長三陸地震の津波よりも大規模であった可能性を指摘するとともに,約2700~2300年前以降,少なくとも2回の巨大津波の堆積物が見られるとの研究(澤井ほか)に加えて,佐竹論文(甲B35)において,貞観地震の断層モデルについて,①長さ100km及び②長さ200kmのいずれのプレート間地震でも貞観地震の津波が説明できることを前提に,貞観型のプレート間逆断層地震の断層モデルとして,長さ100kmのモデル①の方が適切であるとの重みが0.45,長さ200kmのモデル②の方が適切であるとの重みが0.55であった(Q1‐8‐1)。また,モデル①の場合(Q1‐8‐2),
既往最大を上回る地震が発生するという重みが0.70

(合計),既往最大を上回る地震は発生しないという重みが0.30(合計)であり,モデル②の場合(Q1‐8‐3),既往最大を上回る地震が発生するという重みが0.75(合計)であり,既往最大を上回る地震が発生しないという重みが0.25(合計)である(以上,丙A76・33~35頁)。


確率論的津波ハザード解析の方法

(ア)津波評価部会は,
平成21年3月頃,
確率論的津波ハザード解析の方法
の案をまとめている。その内容は,平成15年6月~平成17年9月及び平成19年1月~平成21年3月における確率論に立脚した津波評価法に関する津波評価部会における検討,討議の内容をまとめたものである。なお,同案は,その後,図面の不備等の修正を経て,平成23年9月付けで正式に発表されている(丙A209・序文,なお平成21年3月時点の案のものは丙A207である。)。

(イ)その中では,ロジックツリーの分岐の分類及び重みの設定法について,理想的には,目的を明確に把握した事務局の下に専門家グループを組織し
分岐案の提示→意見の集約→分岐案の再提示→意見の再集約→・・・
というプロセスを繰り返して分岐案を作成し,その分岐案に対する重みを組織した専門家グループ及びその他の専門家グループに対するアンケートに基づき設定するという手順が望ましいが,専門家の範囲の設定や
提供すべき共通資料の範囲などの問題があるほか,専門家グループの組織化にはかなりの労力がかかり,より現実的な方法として,目的を明確に把握した事務局が現状の研究成果のレビューに基づきできるだけの幅のある分岐案を設定し,一定の数の専門家にヒアリングして最終的な分岐案と重み案を作成する方法が考えられ,最近では,長期評価などの研究成果を活用することができると記載されている(丙A207・29頁,丙A209・29頁)。

(ウ)確率論的津波ハザード解析を実際に行うことが可能な海域のモデルとして,日本海溝沿い及び千島海溝(南部)沿い海域のモデルが挙げられ,同海域の大地震の発生領域について,十勝沖,根室沖などのほか,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震),同海溝寄りのプレート内大地震(正断層型),三陸沖北部プレート間大地震,福島県沖プレート間,貞観型などの領域が示され,これに沿って,各波源モデルなどが示されている。また,
解析モデルに関する補足として,
長期評価の領域区分を示した上で,
海溝付近が一括して三陸沖北部から房総沖の海溝寄りとまとめられている点について,陸側の領域と同様に,より現実的な区分について検討する必
要があると指摘されている。
海溝寄りの津波地震の発生メカニズム(津波地震が海溝付近近傍の付加体下のプレート境界を破壊する地震であることを前提に,
海溝付近の浅いプレート境界は普段
ずるずる滑っていてほとんど地震を起こさないのに,
なぜそこで津波地震が発生するの
か。)について,幾つかの見解が示され,その中には,非地震域プレート境界
での間隙水圧の極端な増加により不安定なすべりが生じるというモデルを提案するもの,多数のアスペリティの連動破壊により非常に大規模な低周波地震(津波地震)が生じるというモデルを提案するもののほか,海溝軸近傍の未固結堆積物の影響を考慮するなどするものがある(以上,丙A207・50~67頁,丙A209・50~67頁)。

(エ)日本海溝の北部地域と南部地域の違いについて,北緯38度10分を境に北部と南部を分けた上で,北部では海洋プレートの海溝軸に平行な等間隔な地形起伏を持ち,ホルストグラベン構造で形成され,前弧地域はなめらかで約5°の傾斜があるが,南部では,北部のような地形起伏が見られず,海山があり,前弧地域は複雑な構造を持ち,沈み込んだ海山のトレースと考えられること,プレート間の堆積ユニットに2種類があり,北部ではくさび型ユニットで,南部ではチャンネル状ユニットであり,北部と南部では低速度堆
積ユニットの厚さに大きな違いがあって,プレート境界でのカップリングの変化を示唆することなどを示す研究論文が挙げられている。また,別の論文(丙B1)として,微小地震の震央分布,繰り返し地震の発生割合,三陸沖に
発生する低周波地震の震央分布などの検討に基づき,津波地震が巨大な低周波地震であるならば,三陸沖のみならず福島県沖から茨城県沖にかけても津波地震発生の可能性があること,ただし,海溝における未固結の堆積物は三陸沖にのみ顕著であるため,三陸沖以外においては巨大低周波地震は発生しても津波地震には至らないかもしれないことを指摘している。このことは,延宝房総沖地震による津波が明治三陸地震による津波に比べ小さいことに対応している
(以上,
丙A20769~73頁,

丙A20969~73頁)




第4期津波評価部会
平成21年11月~平成23年3月に実施された土木学会の第4期津波評価部会において,以下のとおり検討がされた。

(ア)平成21年11月24日開催の津波評価部会において,被告東電からの審議依頼を受けて,貞観津波や長期評価の波源モデルについて協議されたが,その際,貞観津波について,869年に発生したことよりむしろ1000年位の間隔で繰り返し発生していることが津波堆積物からわかってきたとの指摘や,太平洋側については平成14年以降に長期評価や中央防災会議での検討があり,これらの知見を反映した検討が行われるべきであるとの指摘があ
った(乙A4の1・24頁,丙B118の1・2頁)。
(イ)平成22年3月2日開催の津波評価部会において,アスペリティモデルを用いた津波評価手法の検討方針についての議論の中で,基本的には津波の痕跡高を用いてアスペリティを求めるが,海底活断層について痕跡高がないので,地震動分野の知見を適用して求めるとの指摘,アスペリティの位置は痕跡数の精粗に依存する可能性があり,アスペリティが確実であるといえる波源はそれでよいが,そうではない場合にはアスペリティをランダムに設定して津波計算を行い,その包絡線を設計に用いるのがよいかもしれないといった意見があり,
包絡線を用いると過大設計になるかもしれないとの指摘には,
過大設計になるとしても原発は停止できないし,津波評価の分野だけがアスペリティを無視するわけにはいかないので,評価の詳細化による不確かさの
低減も含めて,適切な評価の体系を検討されたいといった意見があった。また,水位に影響するアスペリティの大きさに関する議論の中で,海域により手法が異なるのは説明が付きにくいので,統一性のある手法を検討した方がよいといった意見があった(以上,丙B118の2・1,2頁)。(ウ)平成22年12月7日開催の津波評価部会において,日本海溝を対象とし
た波源モデルに関する検討(アスペリティモデルを用いた津波評価手法)として,幾つかの質疑を経た上で,今回の検討の位置付けとして,最終モデルは平均的に痕跡高を最も再現できるが,最終モデルの位置から少しずれる可能性があり(今回,20,40kmと設定),評価地点付近で水位が高くなれば設計への反映を検討するが,全ての地点の痕跡を上回ったり,最終モデルよ
りも水位が高くなったりするからといって妥当性の評価項目にはならないと理解したとの意見があったほか,波源モデルに関する検討(日本海溝沿い海域の波源域について)として,JTNRについて南部は正断層地震が発生してい
ないが,将来的な発生の有無は分からない,どのような条件で正断層地震が発生しているのかなど,世界を含めて情報を収集しておくことが重要であるとの意見があった。
また,上記部会において,同部会の幹事団から,三陸沖から房総沖の海溝寄りを北部と南部を分割し,南部は延宝房総沖地震を参考に波源モデルを設定することが提案された。すなわち,平成14年の津波評価技術の発表以降の知見を反映し,必要に応じて基準断層モデル及びパラメータ範囲の見直しを行うことを目的として,長期評価の見解や海溝の地質調査結果,貞観津波に関する知見,平成21年のロジックツリーの重み付けアンケートの結果等
を踏まえて,三陸沖から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)について,北部と南部を分割し,各活動領域のどこでも津波地震は発生するが,北部領域に比べ南部領域ではすべり量が小さいため,南部は延宝房総沖地震を参考に波源モデルを設定するとの提案がされたところ,出席者から特段の異論は出されず,事業者側の自主的な取組として,延宝房総沖地震の波
源モデルを参考にしつつ,福島県沖を含む日本海溝沿いの津波地震に関する新たな波源モデルを構築するという方向で検討が進められることとなった(以上,丙B77の1・84~86頁,丙B114の2・51~59頁,丙B114の4・資料173,174,丙B118の4)。

津波ハザード解析に関する東電設計からの報告
平成21年10月,
被告東電は,
上記イ(ア)の津波評価部会の新たな確率論
的津波ハザード解析の方法に基づく津波ハザード解析を東電設計に依頼した。その報告書の提出は平成23年3月11日より後であったが,同報告書の中で,4号機(本件原発の4号機前面位置方号機前面位置より大きくなる傾向にあることから,4号機を代表評価位置として選定した。)において,O.P.+10mを
超える津波高さの年超過確率が10-5の範囲にはあったが,
10-4にかなり
近いものとなっていた(丙B114の2・40~43頁,丙B114の3・55,56頁,丙B114の4・資料186~188,弁護人提示資料21-1)。
(5)その後の被告東電等の関係者の対応等

被告東電による津波堆積物の調査等
被告東電は,上記(2)ウ(ア)の阿部名誉教授の示唆も受けて,福島県沿岸の津波堆積物の調査を実施することとし,平成21年7月10日までに社内の承認を経て,その委託を行った。
その結果,福島県沿岸部の5か所(相馬市松川浦南方地区,南相馬市小高区浦尻地区,富岡町仏浜地区,広野町下浅見川地区,いわき市平下高久地区)を対象に,平
成21年12月~平成22年3月,現地調査(浜堤背後の後背地などで深度2~
3m程度の堆積物試料を採取し,その分析等を行った。)が実施され,上記松川浦
南方地区及び小高区浦尻地区において,貞観津波によると思われる津波堆積物が確認され(松川浦南方地区において遡上高標高0.5m以上,小高区浦尻地区において遡上高標高4m未満),富岡町からいわき市にかけては紀元前1000年
以降の津波堆積物の発見に至らなかった(乙B2,丙B114の2・27~29
頁,丙B114の4・資料161,162)。


保安院及び被告東電の対応等

(ア)保安院の担当審議官は,平成22年3月19日,メールで,保安院の審査課の担当者に対し,
手元の資料によると,
3号機の敷地レベルO.
P.
+5.
6mに対して,津波評価技術での評価が+5.5mとなり,より大きくなる可能性がある上,水位下降時も下回ることとなるが,被告東電がどのような対策を考えているのかについて確認した。これに対し,上記担当者は,上記審議官に対し,担当室長らが出張中であり,上昇では大丈夫だが,引き波では一定期間ポンプを止める必要があるとの情報しかなく,改めて確認し
ておくと返信した。
同月23日,上記審議官と担当室長の打合せの中で,津波堆積物の調査結果を踏まえて,近々シミュレーション解析結果が出るが,貞観津波は簡単な計算でも敷地高を超える結果となっているから,防潮堤を作るなどの対策を要すると思うから,その解析結果が出たら相談するとの報告がされた。
同月24日,上記審議官は,各担当者に対し,メールで,保安院の上層部(保安院長ら)に3号機の耐震バックチェックにおいては貞観地震の津波評価が最大の不確定要素であると報告したと伝えた。そのメールには,貞観地震について地震動による被害よりも津波による被害が大きかったとの考えがあること,貞観地震の研究はもっぱら仙台平野での津波堆積物を基に実施されているが,この波源をそのまま使うと本件原発に対する影響が大きいと思われること,本件原発の敷地は余り高くなく,津波に対して注意が必要な地点であるが,
貞観地震は敷地高を大きく超えるおそれがあること,
被告東電が,
地質等合同WGの指摘も踏まえ,福島県での津波堆積物の調査を実施していること,貞観地震に関する佐竹論文は,平成22年度が最終年度であり,今後推進本部での検討に移ると思われ,同年の夏から平成23年にかけて貞観
地震の評価がある程度固まってくる可能性が高いこと,3号機について仮に中間報告に対する保安院の評価が求められるとしても,貞観地震の検討が進んでいる中で津波に対して評価せずに済むかどうかは疑問であること,津波の問題に議論が発展すると厳しい結果が予想されるので評価にかなりの時間を要する可能性が高く,結果的に対策が必要になる可能性も十二分にあるこ
と,被告東電は役員クラスも貞観津波を認識していること,そのため,バックチェックの評価を行うと指示されても何が起こるかはわからないという趣旨の報告をしたことが記載されていた。
同年5月20日,被告東電は,保安院の担当者に対し,上記アの津波堆積物の調査結果の内容を報告した。その中で,松川浦南方及び浦尻で貞観津波
の堆積物が発見されたこと,本件原発の北方10km付近で津波堆積物が発見されたが,南の方では見つかっておらず,本件原発のサイトに貞観津波が来たとははっきりいえないことを報告した。これに対して,保安院の担当者は,被告東電が津波堆積物の出ないポイントを選定したのではないかという疑いを持ち,被告東電に対し,貞観地震に対しての具体的な対応・対策をと
るべきである旨述べた(以上,丙B33・4,5,7,8頁,資料2,3の各メール文書,丙B83・20~24頁)。
(イ)なお,保安院は,平成21年5月8日に原子力事業者等に対して,原子力施設の耐震安全性に係る新たな科学的・技術的知見等の継続的な収集及び評価への反映のための取組を行うことを求めていたところ,平成22年4月27日,原子力事業者等から報告された上記知見等の収集結果等を公表した。各原子力事業者等からは,原子力施設の耐震安全上の評価の観点から直ちに反映が必要な新知見について報告はなかった。また,原子力施設の耐震安全性の評価の観点から直ちに反映する必要はないが,耐震安全性における新たな知見に関連する情報(新知見関連情報)として,推進本部が公表した全国地震動予測地図(平成21年度まで毎年更新されていた全国を概観した地震予測地図を,最新の知見などを反映して高度化し,地震動予測手法の改良,地下構造モデルの改良,主要活断層帯の震源断層モデルの構築等の検討を行い,これらの検討結果を反映したもの)を挙げていた。

なお,津波に関しては,耐震安全上の新知見ではないが,引き続き確認が必要と判断されるものとして,5件の参考情報があるとされていた(以上,丙A54,丙A55,丙B83・26,27頁)。

(ウ)平成22年12月16日に保安院が作成した原子力施設の耐震安全性に係る新たな科学的・技術的知見の継続的な収集及び評価への反映等のための取組について(平成21年度)は,近年急速な科学的・技術的知見が得られている地震関連分野について,最新の科学的・技術的知見を収集し,必要なものを原子力施設の耐震安全性評価に反映するなどの耐震安全性の一層の向上に向けた取組を継続すべく,平成21年5月に,これらの知見の継続的な収集及び評価への反映の枠組みを構築したが,これに基づく平成21年度に発表された文献等について知見の整理・抽出を行った結果の報告があり,地質等合同WG等の審議を経て,保安院の報告書として取りまとめたとして
いる。
その中で,耐震安全性に係わる情報の主な収集対象として,推進本部,中央防災会議,地震予知連絡会,産総研などが,国の機関等として挙げられている。
収集された情報は,新知見情報(国内原子力施設への適用範囲・適用条件が合致し,耐震安全性評価及び耐震裕度への反映が必要なもの),新知見関連情報(原子力施設の耐震安全性評価に関連する情報を含み,
耐震安全性の再評価や耐震裕度の評価変

更につながる可能性のあるもの),参考情報(上記各情報以外に,耐震安全性評価に関連する情報として報告されているもの)に分類されるが,保安院は,新知見情報はないものと判断し,推進本部の全国地震動予測地図について新知見情報ではなく新知見関連情報と位置付けている。また,その付録を見ると,長期評価(平成21年3月改訂後のもの)について
は,東北電力及び中部電力から参考情報として提出されるにとどまり,その位置付けにも特段の異論は示されていない(以上,丙B34・1,4,11頁,付録4,8頁)。


被告東電内の津波対策工に係る検討状況等

(ア)平成22年8月27日,被告東電内で,第1回の福島地点津波対策ワーキングが開催され,担当グループごとに,津波の対策工事の検討状況が示された。
土木調査グループから,
長期評価及び貞観津波の最新の知見を踏まえると,
本件原発の6号機において最高O.P.+10.2mとの評価となり,防潮
堤の設置を検討していたが,本件原発の設備を守れても周辺の一般家屋等に影響があるのは好ましくないとの上層部の意向があり,検討が中断していること,機器耐震技術グループ(電計班)から,津波対策案の一つとして非常用海水系電動機の水密化を検討中であり,バックチェックにおける津波評価技術に基づくO.P.+6.1mの津波に対して平成21年11月に対策が完
了しているが,長期評価に基づくO.P.+10m以上の津波に対して既存の非常用海水系電動機では機能を維持できないため,水密化電動機(水没時に停止し,水位が引いた後に運転再開)の開発について実現性の可否を含めて検討
中であること,ポンプ,制御盤,ラック等の電動機以外の周辺機器の改造・対策も別途必要となるが,非常用海水系以外の機器については今回の検討対象外であること,長期評価に基づくO.P.+10mの津波の衝撃力に対する電動機及びポンプの耐力評価を行った結果,衝撃力に耐えられないとの結果が出ており,津波対策として水密化電動機を採用する場合には,防波堤,防護壁,建屋等の津波衝撃力緩和策及び漂流物防止策も同時に実施することが必須となること(防波堤,防護壁,建屋等により津波を防げる場合には水密化電動機への取替えは不要である。,
)建築耐震グループから,
非常用ポンプはO.
P.

+4mに露出して設置してあり,建屋扉の水密化の対策が必要となること,本件原発の10m津波に対して,
屋外設置設備の建屋新設を以前検討したが,
新設建屋設置場所の下に取水路があるため,取水路を含めた大規模な改造工事が必要になる見込みであることといった各意見が出された(以上,丙B114の2・47~49頁,丙B114の4・資料170,丙B116の1・106~10
8頁,丙B116の3・資料89)。

(イ)平成22年12月6日,被告東電内で,第2回の福島地点津波対策ワーキングが開催され,第1回に引き続き,担当グループごとに,津波の対策の検討状況が示された。
機器耐震技術グループ(電計班)から,非常用海水系電動機の水密化の基本構造検討において津波衝撃力を考慮した場合に電動機の基礎ボルト等が耐えられないと考えていること,電動機だけでなく,現場計器,制御盤等が被害を受けた場合にもポンプ電動機が運転不能となることが報告され,建築耐震グループから,本件原発の津波対策として海水ポンプ群を格納する建屋の新設について,
現場状況を確認した結果,
非常用海水ポンプ回りは他のポンプ,

機器・配管等が濫立し,非常用海水ポンプのみを格納する建屋の設置は困難であること,取水路上に建屋を設置した場合に津波に耐えられるよう基礎を打つ必要があるから直下の取水路自体を改造する必要があること,非常用海水ポンプの直前に津波による衝撃波吸収用の壁を設置する場合も取水路に強固な基礎が必要となること,既存の防波堤を高くした場合には津波の反射波により更に大きな波となる可能性があることが報告され,土木調査グループから,本件原発の沖合に防潮堤を設置した場合でも,10m級の津波が非常用海水ポンプ付近では最大約6~8mとなり,ポンプ据付高さ約4mを超える結果となること,防潮堤の設置により周辺住民に影響を与えてはならないという上層部からのコメントがあること,津波対策調査の検討結果を反映しつつ,貞観津波に対する波源モデルの精度を高め,本件原発の津波の検討・
評価のスケジュールとして,津波評価技術の改訂が予定されている平成23年10月までに上記検討・評価を行い,津波バックチェック報告書の提出を計画していること,対策工の検討・実施スケジュールとして,工事の緊急度に応じて,上記改訂時期である平成23年10月に対策工が着手されているように考慮したことが報告された。
その報告を受けて,
対策センター長から,

できないことを並べ立てるだけでなく,解決方法を考えるようにとの指示があった(以上,丙B114の2・50,51頁,丙B114の4・資料172,丙B116の1・108~110頁,丙B116の3・資料90)。

(ウ)平成23年1月13日,被告東電内で第3回の福島地点津波対策ワーキングが開催され,第2回に引き続き,担当グループごとに,津波の対策の検討状況が示された。
土木調査グループから,平成14年以降の新たな知見のうち,本件原発へ大きな影響を及ぼすものとして,貞観津波の波源と長期評価の波源の二つがあり,長期評価に対応する波源として,日本海溝南部では,当初,明治三陸地震の津波を波源として想定していたが,同海溝北部と同海溝南部の特徴が
異なることを踏まえて,延宝房総沖地震の津波の波源を用いることを津波評価部会に提案し,特に異論がなかったこと,延宝房総沖地震の津波の波源による場合には本件原発の取水口前面の津波水位は明治三陸地震の津波の波源を想定した場合の津波水位の7割程度となり,取水口前面では貞観津波が支配的になる見込み(想定津波水位は,貞観津波において7.7~9.2m,延宝房総沖地震の津波において4.5~7.2m)であること,ただし,この場合でも敷地南部からの遡上について11m程度となることから,敷地高さの10mを超えてT/B等が浸水する可能性があること,取水口前面について貞観津波,敷地南部からの遡上について長期評価の見解を考慮して対策工を検討する必要があること,津波の浸入を防ぐため護岸上に壁を設置した場合,O.P.+9.0m(地面から5m程度)の高さが必要となること,設置に当たってはス
ペースの問題や取水路上への重量物の設置等の課題があること,貞観津波の水位に関する検討は継続中であるが,現在検討されている水位から劇的に低減する可能性は低いことが報告され,建築耐震グループ及び土木耐震グループから,検討している非常用海水ポンプを収容する建物・構築物の設置案及びスクリーンポンプ室における耐震安全性の再評価及び強化案について説明
があり,具体的には,建築耐震グループから,非常用海水ポンプを収容する建物・構築物として,完全防水型・半防水型・非防水型の三つのケースを想定し検討していること,津波バックチェックの報告を提出する平成24年10月には工事着手又は工事設計に着手するスケジュールを検討していること,いずれのケースにおいても建物だけではなく基礎部の構造,既設構造物の干
渉及び移設について検討が必要であり,また建物によっては工認や建築確認申請が必要となる見込みであること,構造物を設置して囲んでしまうと現状に比較して機器のメンテナンス性を悪くするため,スライディング式の防潮堤等,メンテナンス時には移動できるような非常時のみに閉めるような構造も視野に入れて検討すること,非防水型において開放されている側の角の強
化が難しいこと,ポンプ間が密集していることからポンプを個別に囲むことはできないことが報告され,土木耐震グループから,ポンプ室における基準地震動Ssに対する三次元解析評価を実施した結果,せん断力における裕度が小さく,更に新たな構築物の設置やポンプ仕様の変更をした場合,新たな強化工事が必要となる可能性が高く,工事実施に当たり,工認変更,定検中工事,干渉物対応・作業ヤードの制限等の課題があること,新たな構築物の設置やポンプ仕様の変更,ポンプ室の強化工事を実施した場合にはポンプ室の再解析評価が必要となること,海水配管トンネル等の開口部についての津波対策の必要性についての検討が必要となることが報告され,機器耐震技術グループ(電計班)から,電動機及び制御盤・ラック等における基本構造設計について現状における課題と実現性結果を確認したこと,詳細構造検討及び
実証試験における具体的な検討内容について説明があり,津波衝撃力及び漂流物の影響を除き,基本構造検討において実現性なしと判断される項目はなく,実現性不明の項目は幾つかあり,今後の詳細構造検討及び実証試験において実現性の確認を行っていくこと,電動機水密化に関する検討・検証スケジュールは,津波バックチェックの報告時期を考慮し,平成24年
度中の研究完了を目標に検討を進めていること,水密化電動機の実機適用には,ポンプ等の周辺機器の検討が別途必要となること,モーターの温度上昇が致命的であり,原計画では最終段階での確認事項となっているが,オイルシールの適用可能性と併せて来年度の検討において早期に可能性を検討することが報告され,機器耐震技術グループ(機械班)から,非常用海水ポンプに
おける津波による影響について評価した結果として,ポンプ部において問題となる部品はなく,摺動部は水潤滑であることから津波により水没してもポンプ運転上影響はないこと,津波衝撃力に関してはポンプ取付ボルト等において耐えることができないから,防護壁設置等の津波衝撃力緩和策を講じる必要があることが報告された(以上,丙B114の・60~62頁,丙B114の
4・資料178,丙B116の1・112,113頁,丙B116の3・資料91)。
(エ)平成23年2月14日,被告東電内で第4回の福島地点津波対策ワーキングが開催され,第3回に引き続き,担当グループごとに,津波の対策の検討状況が示された。
土木調査グループから,平成22年12月7日の津波評価部会において,長期評価に対応した断層モデルとして,延宝房総沖地震の津波の波源を設定することで異論がなく,同波源の津波が発生した場合,本件原発の南側プラント(1~4号機)において津波の遡上によりR/B及びT/Bまで浸水する可能性があること,貞観津波に関して再現性が高い断層モデルが提示されているが,今後更なる知見の拡充(津波堆積物調査等)が必要となることから,最終的には貞観津波の断層モデルの確定には二,三年程度を要する見込みであ
ること,貞観津波の断層モデルは,成熟度が低く,津波評価技術の改訂において採用される可能性は低い(津波評価技術の改訂には,延宝房総沖地震の津波の波源モデルが採用される見込みであること)こと,今後,土木学会において貞観津
波の断層モデルが採用される場合,不確実性を考慮して津波水位を設定すると,試計算の津波水位から更に2~3割大きくなる可能性があることが報告され,土木調査グループ及び土木耐震グループから,貞観津波及び延宝房総沖地震の津波の各波源モデルにおける津波解析を実施し,解析結果を基に対象構造物に作用する最大波力について模型実験を用いて更に精度よく評価していくことについて紹介がされ,防波堤かさ上げ,防潮堤構築,スクリーンポンプ室の強化などの土木関係の津波対策工についても,効果,コスト,工
期といった工事の成立性を検討していくこと,現実的な津波の浸入方向や検討中の津波対策工等を反映して実験を行い,詳細な津波による波力影響を確認すること,実験の複数回の実施により既往の波力算定式(遡上水深静水圧の3倍)よりも現実的な評価が得られることからバックチェックの審査に耐え
られると考えているが,専門家の意見を伺いながら実施していくこと,模型実験について平成23年4月~平成24年3月の1年程度をかけて実施する予定であり,その実験実施に当たり1億円程度の予算が必要な見込みであること,防波堤かさ上げ,防潮堤構築といった津波対策工の実施により機器に与える波力の低減は可能と思われるが,浸水を全て食い止める対策とはならず,津波対策工実施による浸水イメージが明確になるのは平成24年1月頃となること,
非常用海水ポンプや建屋等の浸水防止については,土木・建築・
機電の連携による検討が必要となることが報告された。
また,今後のスケジュールとして,機器耐震技術グループから,軸シール部分検証について,平成23年10月末頃の完了を目標にメーカーと調整中であるが,耐久試験の内容により完了時期が後ろ倒しとなる可能性があり,上記完了の目標は近日中の着手を前提にしたものであるため,着手が遅れれ
ば完了時期も後ろ倒しとなる上,オイルシールの耐久性等から水密化電動機の実現可能性がないとの結論になる可能性もあること,
津波対策工次第では,
機器に水が入ってこない対策をとることで水密化電動機の実機適用を実施する必要がなくなるが,
工事のコンセプトをこれから検討していくこともあり,
水密化の実現性を見極めるため,詳細構造検討以降の電動機水密化の検討に
ついても並行して継続実施していくこと,電動機水密化の実機適用には,周辺機器の検討及び機器製作・工事が必要であり,初号機の対策完了は最速で平成27年度末,全号機の対策が完了するのは平成30年頃を見込んでいること(水密化に伴う改造範囲,定検工程等により,完了時期は更に後ろ倒しの可能性があること)
が報告され,
最終的に検討費用が二重になる可能性があるとしても,

軸シール部分検証を含む電動機水密化の詳細構造検討について委託発注することが了承された。
今後の予定として,各グループ(建築耐震グループ,土木耐震グループ,土木調査グループ,機器耐震技術グループ)で検討している津波に対する工事について
整理し,関係グループ間で工事の成立性を確認し工事のコンセプトを確定すること,R/B及びT/Bにおいても津波の遡上による浸水を防ぐ対策を検討すること(敷地南側からの遡上を防ぐため,防潮堤の設置等)とされた(以上,丙B114の2・62,63頁,丙B114の4・資料179)。


日本原電の対応状況等

(ア)平成20年5月に日本原電が作成した東海第二発電所の津波影響評価及び対策工についてには,これまでの検討経緯として,津波評価技術に基づく断層モデルのパラメータスタディを実施し,津波からの安全性を確認していたが,茨城県が公表した延宝房総沖地震に係る痕跡高が高くなっており,これを新知見として津波評価技術に基づく評価をする必要がある上,耐震バックチェックにおいては,長期評価について確定論での評価を求められる可能性が高いことから,これらの全ての評価を行うとともに,安全性を確保す
る必要があると記載されていた。
津波影響評価について,茨城県の痕跡高の評価を前提とすると,東海第二原発のポンプ室側壁レベル(H.P.(日立港工事用基準面,以下同じ。)+5.8m)においてH.P+7.88m,取水確保レベル(H.P.-3.02m)
においてH.P-3.53m,主要建屋敷地高レベル(H.P.+8.89m)においてH.P+10.20mとなるとされ,長期評価を前提とすると,同側壁レベル(H.P.+5.8m)においてH.P+9.54m,取水確保レベル(H.P.-3.02m)においてH.P-4.22m,主要建屋敷地高レベル(H.P.+8.89m)においてH.P+12.24mとなるとされていた(以上,丙B121・32頁,添付資料19)。

(イ)日本原電は,平成20年5月以降,上記(ア)の検討を踏まえて,具体的な対策工の検討を進め,東海第二原発の南敷地に防潮壁を設置した効果についてのシミュレーションを行い,津波対策とは別に実施していた耐震対策のための地盤改良工事の残土を用いて盛り土をして津波の低減を図ることなどを検討した。その上で,津波影響のある全ての管理区域の建屋の外壁にて止水す
るという案を検討した。
具体的には,
R/B,
T/Bなどを対象範囲として,
一般扉のパッキン製の扉への改造,取替え,シャッターのパッキン製のシャッター等への改造,取替え,窓の閉鎖や換気口のガラリの改造,取替えなどが対策工として検討されていた。他方,防護扉について,R/B機密性能で性能が担保されているので対策を実施しないなどとされていたが,後記(ウ)のとおり,盛土による影響軽減も見込んでいた(丙B121・33~40,107頁,添付資料21~23,44)。

(ウ)日本原電は,平成19年8月27日付けの既設3プラントの耐震性向上工事計画等への取組方針についてに基づき,耐震裕度向上工事を進めていたところ,平成20年8月5日の常務会において,耐震裕度向上工事等の実施状況の報告がされるとともに,工事の追加や工事内容の一部変更について承認した。
その際の資料には,
平成22年初め頃までに津波対策工事
(押し波,
引き波)を完了させること,押し波の影響の低減のための盛土工事(地盤改良工事の残土利用),管理区域建屋の水密化等の対策などが記載されていた。盛
土工事の目的は,上記のとおり,押し波の影響の低減にあり,越流があってもその影響を軽減する効果を見込んでいた(丙B121・43,44,58,59頁,添付資料26,40)。

(エ)その後の平成20年10月及び同年11月,日本原電は,引き波対策の工事の費用の支出(8億3500万円)を決定した。また,建屋津波対策工事として,防水扉対策(2か所,エアタイト仕様扉に交換),防潮シャッター対策(1か所,止水仕様に変更),防潮堰対策(6か所)の工事(約1億8600万円),盛土工事(約10億5000万円)などを実施し,平成21年9月までにその施工を完成させた。
なお,上記建屋津波対策工事は,設計の基本方針として,津波発生時の自動・手動による防潮対策をせず,運用時においても特別な作業を必要としない対策とし,既存の特殊扉(気密扉等)はゴムパッキンが入っており,ある程
度水密性があると考えられることから,津波対策は実施せず,漏水試験により浸水量を把握し,影響を確認するとされていた(以上,丙B121・49~63頁,添付資料35~46)。

(オ)また,平成20年12月3日に日本原電が作成した東海第二発電所の津波評価と対策についてには,津波評価について,従前の津波評価技術に基づくもの(ケース0),延宝房総沖地震の津波の波源を考慮し,茨城県が独自評価した波源そのもの(ケース1)と津波評価技術に基づくパラメータスタデ
ィを実施したもの(ケース2),長期評価の波源を考慮し,南北で分けられるとしたもの
(ケース3)
と南北で分けられないとしたもの
(ケース4)
が示され,
それぞれの場合分けをした対策工が検討されていた。
その上で,まとめとして,耐震バックチェックとの関係から,他の電力会社との調整も踏まえ,ケース1又はケース2でまとめること,長期評価への
対応について津波評価技術の改訂作業の中で検討されるが,最終的な取扱いは見通せないから,引き続き長期評価を想定条件として検討していくこと,しかしながら,海水ポンプ室の押し波対策に関して,長期評価に対する現実的な対策案の立案が困難な状況であり,バックチェック報告との関連から,まずケース2及びケース3を対象に対策を実施していくが,長期評価の津波
への対応を見据えた設計を行い,大規模な手戻りがないように努めておくこと,ケース2及びケース3を対象とした理由としては,谷岡・佐竹論文とその後の研究結果を踏まえたことが記載されている(以上,丙B121・59~63頁,添付資料43)。

長期評価の改訂等に関する議論等と被告東電,保安院の対応等

(ア)推進本部から,平成22年11月25日に活断層の長期評価手法(暫定版)が公表されたことを受け,保安院は文科省に連絡を取り,平成23年2月22日,文科省において,活断層の長期評価手法に関する意見交換が実施された。この意見交換会の際,主たる話題である活断層評価の話のついでに,三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価の改訂版が平成23年4月に公表されるとの話が文科省から出された。保安院の担当者は,長期評価の改訂版が公表されれば,耐震バックチェックの最終報告に少なからず影響が出ると考え,被告東電の担当者に対して,長期評価の改訂版が4月に公表されること,その中で貞観津波にも言及されること,その公表内容如何により保安院として事業者に何らかの指示を出す可能性もあることの説明がされ,さらに被告東電の現状における対応状況について質問がされた。被告東電の担当者は,これまで実施した津波堆積物の調査,電力共通研究及び津波評価部会における審議の状況,
社内での津波対策グループの検討状況などを,
同年3月3日に予定されていた文科省との打合せで得られる情報も加えて説明する方針とした(丙B33・8頁,丙B114の2・63,64頁,丙B114の
4・資料180)。

(イ)平成23年3月3日,被告東電,東北電力らの電力各社は,文科省研究開発局地震・防災研究課の担当者らと面談し,日本海溝長期評価の情報交換会を行った。文科省が同年4月に公表を予定しているものとして示した宮城県沖地震の長期評価の改訂について(案)には,宮城県沖から福島県沖にかけてを対象領域として,地震動及び津波を伴い,死傷者を伴った貞観地震があること,地質調査等から同地震は少なくとも宮城県沖と三陸沖南部海溝寄りから福島県沖にかけての海域を含み,その地震規模はM8.3程度と推定されること,宮城県中南部から福島県中部にかけての沿岸で巨大津波による津波堆積物が過去2500年間で4回堆積しており,そのうちの一つ
が貞観地震によるものと確認されたこと,最新は1500年頃の津波堆積物であり,貞観地震のものと同様に広い範囲で分布していることが確認されたこと,貞観地震以外の震源域は不明であるが,これらの地域では巨大津波が複数回襲来していることに留意する必要があることなどが記載されていた。その上で,文科省から,サイエンスに基づく評価であり,結論を大きく変
えることはできないが,表現の配慮などをする余地もあると考え,同情報交換会を開催したこと,現在推進本部地震調査委員会で上記の案を審議中であり,
同年4月中頃の公表を予定していること,
貞観津波の記載を追加するが,
繰り返しサイクルには触れていないことなどが説明された。被告東電は,貞観地震があったこと自体について共通認識であるが,波源モデルの特定には至らず,専門家も,波源モデルの確定にはあと2~3年かかると述べていること,津波堆積物調査について大学などの研究成果が公表されているが,被告東電においても福島県内の調査を行い,その結果を論文として投稿していることなどを説明した。また,被告東電は,文科省に対して,貞観地震の震源はまだ特定できていないと読めるようにしてほしいこと,貞観地震が繰り返し発生しているとは読めないように表現を工夫してほしいことを要望し,
文科省は,
いずれも認識としては同じであるため,
表現を検討したいとした。
その他の質疑の中で,文科省から,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの評価に変更はないことが説明され,また,被告東電は,津波堆積物がないからといって津波が来ていないとはいい切れないが,少なくとも堆積物はなく,下位の地層の浸食の度合いにより堆積物がない場合でも津波来襲の有無を議論
できるという研究が進められており,その成果を注視していることなどを説明した(以上,丙B33・8,9頁,同資料6,丙B114の2・64~66頁,丙B114の4・資料181)。

(ウ)平成23年3月7日,保安院は被告東電に対するヒアリングを実施した。その中で,被告東電は,推進本部事務局との打合せを実施し,同年4月中旬に公表される長期評価の見直しの中で,貞観津波について触れられるとの情報に接したが,推進本部において公表済みの論文以上の情報はなく,独自の研究成果は持っていない模様であり,波源モデルが確定していないことが読み取れるように記載を工夫してほしいと推進本部事務局に依頼したこと,土木学会において平成24年10月に津波評価技術の改訂を予定しており,貞
観津波以外にも貞観津波と同レベルの津波を発生させるような日本海溝沿いの波源の見直しがされるが,同月までに改造工事を完了することは無理であることを説明した。これに対し,保安院の担当者は,公表される長期評価の見直しの内容によっては保安院からの指示が出ることもあり,また,近々予定される女川原発のバックチェック最終報告の審議において貞観津波が話題になることが予想され,その審議状況により本件原発に対する口頭での指示が出ることもあるなどと述べた。

これを踏まえ,被告東電は,推進本部と連絡を取り,公表内容を事前に把握できるようにすること,女川原発の報告内容や審議状況を的確に把握すること,津波対策工の検討を着実に実施する必要があり,社内の津波対策ワーキンググループ事務局と相談して進めていくこととした(以上,丙B83・28,29頁,丙B114の2・66~69頁,丙B114の4・資料183)。
6
本件事故の発生状況等

(1)本件事故当時の本件原発の安全設備,機器配置等の状況等

各建屋の配置等

(ア)本件原発の各号機には,原子炉などが設置されているR/B,タービン設備があるT/B,制御室などがあるC/B,その出入口となるS/Bが設置されている。
R/Bには,原子炉本体,格納容器,事故時等に作動する非常系のポンプ類などが設置され,T/Bには,発電のために原子炉で作られた蒸気によって回すメインタービン,蒸気を冷やすための主復水器,冷やした水を循環さ
せるためのポンプ類などの設備が設置されている(甲A584・2,3頁,添付資料3)


(イ)1~5号機は,原子炉建屋付属棟を持たない原子炉棟のみの単独建屋であった。
1~5号機の非常用DGは,
その駆動に給排気が必要となることから,
気密性の要求されるR/Bに設置することはできず,T/B地下階に設置されていた。他方,6号機は,原子炉棟とその外側に付属棟を設置した複合建屋方式のR/Bを採用し,6号機の非常用DGは,気密性が要求されるR/Bではなく,外側のR/B付属棟の地下階に設置されていた(乙A4の1・30頁,甲A584・4頁)。


本件原発の安全設備等

(ア)本件原発の各号機はBWRであるが,1号機はBWR-3,2~5号機はBWR-4,6号機はBWR-5と呼ばれる形式のものである。原子炉内にはウランの核分裂により生じた強い放射能を持つ放射性物質が存在し,これが何らかの異常,故障等により原子炉施設外に漏出することを防ぐために,各安全機能が備え付けられているが,異常を検出して原子炉を速やかに停止する機能(自動停止,スクラム)のほか,燃料棒内に残存する多量の崩壊熱の除
去のために炉心の冷却を続ける必要があり,冷却のための複数の注水系が,以下のとおり備え付けられている(前記第2の3(2),甲A2本文編・12~14頁,甲A116・7頁)


a
1号機においては,原子炉冷却材喪失事故(原子炉冷却材喪失とは,原子炉の出力運転中に原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する配管等の破損等により原子
炉冷却材が系外に流出し炉心冷却能力が低下する事象をいう。
丙A9・22頁)
時に

おけるECCSは,炉心スプレイ系(CS系)2系統,高圧注水系(HPCI系)1系統及び自動減圧系(ADS,原子炉蒸気を強制的に逃がして低圧注水機能を持つ系統が作動できる圧力まで原子炉の圧力を下げる。丙A2)から構成さ
れている。原子炉冷却材喪失事故時には燃料の崩壊熱がS/Pに移送されるので,S/P水の除熱と格納容器の冷却のため,CCSが2系統設置されている。
原子炉がタービン系から隔離された場合の原子炉の除熱(原子炉
隔離時の冷却)のために,ICが2系統設置され,さらに原子炉を定期検査
時の燃料交換の際に冷温停止するため,原子炉停止時冷却系(SHC系)が設置されている。IC(炉心で生じた蒸気を復水器で除熱して凝縮し原子炉に戻すシステムである。の水量は,専用水源からの補給が必要になるまで,2系)

統併せて8時間の冷却に十分であった(甲A116・7,10頁,甲A137・22頁,甲A584・16,17頁,添付資料10)


b
2~5号機においては,BWR-3からBWR-4への変更に伴い,残留熱除去系(RHR系)が設けられている。RHR系は,CCSとSHC系の機能を持ち,
さらにECCSとして低圧注水系
(RHR系のLPCIモード)
の機能をも有している。すなわち,2~5号機のECCSは,CS系2系
統,HPCI系1系統,低圧注水系(RHR系のLPCIモード)1系統(4ポンプ)
及びADSから構成されている。
事故後の格納容器の除熱用にはR

HR系の格納容器冷却モードを用いる。原子炉隔離時の冷却水注入用にRCIC系を,BWR-3のICから変更して設置している。定期検査時の原子炉の除熱には,RHR系の停止時冷却モードを用いる。

RCICは,8時間程度,運転できるようになっていた(以上,甲A4・24頁,甲A116・7~9頁,甲A137・22頁,甲A584・18~20頁,添付資料11,12)


c
6号機においては,BWR-4からBWR-5への変更に伴い,原子炉内に設置されているジェットポンプの効率を上げたことにより,少ない原
子炉再循環ポンプ容量で大きな炉心流量を得ることが可能となった。ECCSの統合化を進め,高圧炉心スプレイ系(HPCS系)1系統,低圧炉心スプレイ系(LPCS系)1系統,RHR系のLPCIモード3系統及びADSの構成とされている。原子炉隔離時のRCIC系,定期検査時のRHR系停止時冷却モードは,BWR-4と同じであり,運転時間も同様に
8時間である(甲A4・24頁,甲A116・9頁,甲A137・22頁)。
d
上記a~cのとおり,原子炉がタービン系から隔離された場合の原子炉の冷却系は,電源として基本的に直流電源を使用し,高温待機の時間としては8時間が可能なように,すなわち8時間のSBOに耐えるように,電
源容量及び水源容量が定められていた。
この点,
IAEA報告書によれば,
原発は,一般に4~72時間の限定的SBOに耐えるように,所内直流電源及び予備交流電源(DG等)を装備しており,対処期間は,主に原発への交流電源の復旧に要する時間及び利用可能な措置の能力に基づき決定されるものであり,この期間中,バッテリや予備的交流電源が使用されるものとなっていた(甲A116・9,10頁,甲A137・28,29頁の註36)。
(イ)ECCSなどの安全上重要な設備は,基本的に非常用電源で運転される設計となっている。非常用電源は非常用DGから供給されるが,本件事故時には,1~6号機において,合計13台設置されていた。非常用DGは,非常用金属閉鎖配電盤(M/C)に電力を供給し,外部電源が喪失した場合でも,原子炉を安全に停止するために必要な電力を供給する。

1~5号機の非常用DG10台のうち,2号機B系及び4号機B系は,いずれも空気冷却式で,
運用補助共用施設
(共用プール)
の地上1階に設置され,
その余の8台
(1号機A系及びB系,
2号機A系,
3号機A系及びB系,
4号機A系,
5号機A系及びB系)は,いずれも海水冷却式で,各号機のT/Bの地下1階
に設置されていた。
また,6号機の非常用DG3台のうち,6号機A系及び高圧炉心スプレイ系(HPCS)用は,海水冷却式で,R/Bの地下1階に設置され,6号機B系は,空気冷却式で,DG専用建屋の地上1階に設置されていた(以上,甲A2本文編・27~29頁,甲A2資料編・76,77頁)


(ウ)M/Cは,6900Vの所内高電圧回路に使用される動力用電源盤で,遮断器,保護継電器,付属計器等を収納したものであり,常用,共通及び非常用の3系統から構成される。1~5号機の非常用M/C12台のうち,2号機E系と4号機E系は運用補助共用施設(共用プール)の地下1階に,1号機C系及びD系はT/Bの地上1階に,その余の8台(2号機C系及びD系,3号機C系及びD系,
4号機C系及びD系,5号機C系及びD系)は各号機のタービン建
屋(T/B)の地下1階に設置されていた。
6号機の非常用M/C3台のうち,6号機C系はR/Bの地下2階に,6号機D系はR/Bの地下1階に,高圧炉心スプレイ系(HPCS)用はR/Bの地上1階に設置されていた(以上,甲A2本文編・30,31頁,甲A2資料編・76,77頁)


(エ)非常用パワーセンター(P/C)は,M/Cから変圧器を経て降圧された480Vの所内低電圧回路に使用される動力用電源盤で,
遮断器,
保護継電器,
付属計器を収納したものであり,常用,共通及び非常用の3系統から構成される。1~5号機の非常用P/C12台のうち,1号機C系及びD系はC/Bの地下1階に,
2号機E系及び4号機E系は運用補助共用施設
(共用プール)
の地下1階に,2号機C系及びD系並びに4号機C系及びD系はT/Bの地
上1階に,3号機C系及びD系並びに5号機C系及びD系はT/Bの地下1階に設置されていた。
6号機の非常用P/C3台のうち,6号機C系はR/Bの地下2階に,6号機D系はR/Bの地下1階に,
6号機高圧炉心スプレイ系
(HPCS)(E

系)は,非常用DG専用建屋の地下1階に設置されていた(
(以上,甲A2本文

編・30,31頁,甲A2資料編・77頁)


(オ)1号機,2号機及び4号機の直流主母線盤(DC盤)は,C/Bの地下1階に設置され,また,3号機のDC盤は,T/Bの中地下階に設置されていた(甲A5・49頁)


(カ)このように,冷却機能を有する安全設備を維持するための電源設備の多くは,地下階又は地上1階に設置されていた。他方,米国においては,非常用DGが設置されている建屋の多くは,岩盤に設置することを要求されていなかったが,日本では,建屋の多くが耐震性から岩盤への設置が要求されるために地下階を有している場合が多く,条件の違いのために,非常用DGについては,大型機器としての耐震性や振動を考慮して建物の基礎の上(地下階)
に設置されていた(甲A584・4頁,乙A4の1・30頁)。
(2)本件津波等の発生と本件原発への影響等

本件地震の発生と本件原発に与えた影響等

(ア)平成23年3月11日午後2時46分頃,
M9.
0の本件地震が発生した。
本件地震は,日本海溝沿いに太平洋プレートが北アメリカプレートの下に沈み込む領域で発生した。世界の観測史上4番目の規模の地震であり,我が国で観測された中では最大の地震である。その震源域は岩手県沖から茨城県沖まで及び,その震源の深さは約24km,その長さは約500km,その幅は約200kmとされ,最大すべり量は50m以上であったとされる。三陸沖南部海溝寄り,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの一部で大きなすべり量が観測され,三陸沖中部,宮城県沖,福島県沖,茨城県沖の複数の領域も震
源域として連動して発生した。
この地震に伴い発生した本件津波は,Mt9.1とされ,世界で観測された津波の中では4番目であり,我が国の観測史上では最大である。本件原発と本件地震の震央との距離は約178km,その震源との距離は約180kmとされている(以上,甲A2本文編・15頁,甲A137・19頁,
乙A4の1・6,7頁)。

(イ)気象庁の第一報では,本件原発周辺地域の震度は5強~6強であった(丙A4の1・Ⅲ-4,16頁)。

a
本件地震発生時,1~3号機は,定格出力運転中であり,4~6号機は定期検査のために停止していた。

4号機は,シュラウド取替工事のため,原子炉圧力容器から使用済み燃料プールに全ての燃料を移動し,保管・冷却された状態となっていた。なお,5号機は,定期検査の終盤であり,原子炉圧力容器の中に燃料を装荷し,健全性を確認するための水圧による漏えい試験を実施し,6号機も,定期検査の終盤であり,原子炉圧力容器の中に燃料を装荷した状態であっ
た。
共用の使用済み燃料プールには,6375体の使用済み燃料が貯蔵されていた(以上,乙A4の1・84頁,丙A4の1・6頁)。
b
本件地震が本件原発に与えた影響としては,
基準地震動Ssを一部超え,
あるいはこれに匹敵するものであり,送電鉄塔の倒壊や遮断器の損傷などの複数の箇所での故障が生じ,本件原発の外部電源が喪失する状態となった。その結果,運転中の1~3号機は,全て自動停止(スクラム)した。定
期点検中の1機
(4号機A系)
を除き,
全12機の非常用DGが自動起動し,
電源が確保された。この段階では,原子炉水位,圧力,格納容器温度などから,原子炉冷却材圧力バウンダリの損傷が疑われる状況にはなく,運転中の1~3号機は,いずれもスクラム動作により正常に自動停止し,外部電源の喪失により原子炉保護系の電源がなくなるなどして,一部原子炉水
位が低下するなどしたが,いずれも非常用DG2台の自動起動により,その電圧は正常に確立するとともに,運転員が作業手順書に従って必要な作業を行い,安定的に制御されていた。また,定期検査中であった4~6号機も,外部電源の喪失に伴い,非常用DGが自動起動した(上記のとおり,4号機A系は起動していないが,4号機B系は起動した。)が,特に本件地震によ
る異常は見られなかった(以上,甲A115の1・Ⅲ-27頁,甲A116・15,16,21,25,29,32,33頁,甲A137・20,21頁,乙A4の1・6,7,84~92頁,丙A4の1・Ⅲ-4,6,27,Ⅳ-36,37,50頁)。
c
本件地震の観測データに基づいた原子炉建屋の地震応答解析を用いた解析的検討においても,本件地震が耐震安全上重要な機器,配管系に影響を与えた事実は確認されていない。
本件地震に対して,
原子炉を
止める

冷やす,放射性物質を閉じ込めるに係る安全上重要な機能を有す
る主要な設備の耐震性評価の計算値は全て評価基準値以下であった。
自由地盤系の地震観測記録から地盤構造を特定し,はぎとり解析によって再現した地震波を用いて代表機器の疲労評価(解析)を行ったが,その結果も,地震の揺れによる疲れ累積係数(材料の疲れ度合いを示す数値)は10-5

のオーダーであり,基準値1に対して極めて小さく,本件地震による疲
労影響は無視できるものであった。
本件原発の1~6号機の目視の結果に関しても,安全上重要な機能を有する主要な設備において地震による機能に影響する損傷はほとんど確認さ
れなかった(以上,乙A4の1・98~104頁)。
(ウ)外部電源の具体的状況等
a
原子炉の運転時,各号機において使用する電力は,運転中の主発電機から受電するが,運転中の原子炉を停止する場合,停止や冷却に必要な電力は,停止した当該号機の主発電機からは供給できないため,送電線を通じ
て電力系統から,または隣接号機の運転中の主発電機から供給できるようになっている。これらの電力系統に連系する送電線などの設備や隣接号機の主発電機が外部電源と呼ばれる(乙A4の1・92頁)。
b
本件原発の外部電源は,新福島変電所からの送電線6回線(275kV大熊線1L~4L及び夜の森線1L,
2L)
と,
1号機に東北電力から供給される

1回線(66kV東電原子力線)の計7回線で構成される。新福島変電所からの送電線は,大熊線1L,2Lが1号機及び2号機に,大熊線3L,4Lが3号機及び4号機に,夜の森線1L,2Lが5号機及び6号機に,それぞれの開閉所を経由し所内電源系に供給する。東北電力からの東電原子力線は,1号機の常用M/Cに接続できる構成となっていたが,常時は使用
していない設備であった。併設号機の主発電機や送電線からも受電できるよう,1~4号機又は5号機及び6号機の各号機間の常用M/Cは相互に接続できる構成となっていたが,1~4号機と5号機及び6号機との間では接続されていなかった(乙A4の1・93頁,丙A4の1・Ⅲ-30頁)。c
本件地震発生時,3号機は,大熊線3Lの受電設備が工事中で使用できなかったため,2号機と常用M/Cを相互に接続し,受電する構成としており,本件原発において受電中の外部電源は大熊線3Lを除く5回線(大熊線1L,2L及び4L並びに夜の森線1L及び2L)であったが,本件地震直
後に全回線が受電停止となった(乙A4の1・93頁)。
d
外部電源の喪失の原因について,1号機及び2号機超高圧開閉所の空気遮断器・断路器についての損傷原因の分析の結果,本件地震の地表面地震
動が非常に大きく,その電気設備の耐震設計指針を超過したことが原因であり,275kV空気遮断器について耐震強化のために設置したステーが緩み,遮断部の変位が増大してがいし破損に至ったと推定され,275kV断路器について接続される空気遮断器倒壊時の荷重がリードを介して加わることによりがいし破損に至ったと推定された。

また,本件地震により,夜の森№27の鉄塔が倒壊し,5号機及び6号機への外部電源が停止した。同鉄塔の倒壊原因について,鉄塔脚部は土砂や倒木に埋もれているが,鉄塔上部は土砂の上に倒れ,電線も土砂や倒木の上に存在したことから,鉄塔隣接地の盛土が崩壊したことにより鉄塔が倒壊したと判断された。盛土は,供用期間中に発生する確率は低いが大き
な強度を持つ地震動(レベル2地震動)に対する耐震性を有していたと考えられた。
結果的に盛土が崩壊していることから,崩壊原因は,沢を埋めた盛土中に地下水位が存在する状況の中で,史上まれにみる強くて長い地震動の繰り返し応力が作用したことにより,地下水位内の地盤の強度が低下したこ
とによるものと推定される(以上,乙A4の1・95,96頁)。イ
本件津波等の発生と本件原発への影響,被害等

(ア)本件津波の観測等
本件津波は,GPS波浪計(GPS衛星を用いて,沖に浮かべたブイであるGPS波浪計の上下変動を計測し,波浪や潮位をリアルタイムで観測する機器)などによ
れば,岩手県沖から福島沖において,緩やかな水位上昇に引き続き,急な水位上昇があった。
気象庁の観測津波水位(最大波)は,宮古地点で8.5m以上,石巻市鮎川地点で8.6m以上,相馬地点で9.3m以上であった。
津波水位は,佐竹委員によると,貞観地震のようなやや深部でのすべりによる長周期の波と明治三陸地震のような浅部でのものによる短周期の高い波が重畳し,そのため,短周期での高い津波が沿岸域に到達・遡上した後に長い周期の津波が長時間にわたり繰り返し押し寄せ,遡上域を増大させたと推定されている(以上,乙A4の1・8頁,丙A4の1・Ⅲ-4,17頁)。(イ)本件津波の本件原発への襲来

本件原発に襲来した本件津波については,まず平成23年3月11日午後3時27分頃に最初の大きな波(水位約4m,第一波)が襲来し,次に同日午後3時35分頃に大きな波(潮位計が損傷したため,水位不明,なお潮位計の測定範囲は7.5m,第二波)が到達した。

これらの津波のうち第一波は,海側エリア(敷地高O.P.+4m)全域に浸水したが,最大高さ5.5mの津波から防護するように設計された本件原発の防潮堤により防護された。第二波は,本件原発の南防潮堤の外側から主要建屋設置エリア南東側(敷地高O.P.+10m)に浸入し,同主要建屋設置エリアまで遡上し,同主要建屋敷地エリアほぼ全域が浸水した。
その津波の高さ(津波がない場合の平常潮位から,津波によって海面が上昇した高
さの差)は,O.P.+10mの防波堤を乗り越えていくものであった。
その浸水高(建物や設備に残された変色部や漂着物等の痕跡の基準面(O.P.)からの高さ)は,1~4号機のエリアではO.P.+約11.5~15.5m
であり,同エリア南西部では局所的にO.P.+約16~17mに及んだ。その浸水深(建物や設備に残された変色部や漂着物等の痕跡の地表面からの高さである。浸水高から敷地高を減じる。)は,約1.5~5.5m(上記エリア南西部では局所的に約6~7m)となる。
5号機及び6号機のエリアでは,浸水高は約13~14.5mである。その浸水深は約1.5m以下となる。
また,津波の再現計算であるインバージョン解析により波源を推定し,津波高さを評価した結果としては,約13mであった(以上,甲A115の1・Ⅲ-28,29頁,甲A137・26頁,甲A234の1・4-1頁,甲A234の2・2頁,乙A4の1・8,9頁,丙A4の1・Ⅲ-28,29頁)。
(ウ)本件津波による敷地の浸水,各建屋への浸水状況等
このように,本件原発の海側エリア及び同主要建屋敷地エリアほぼ全域を浸水する津波が襲来した結果,本件原発の主要建屋(R/B,T/B,非常用D/G建屋,運用補助共用施設(共用プール建屋),C/B,廃棄物処理建屋,S/B及び集中廃棄物処理室)の周囲は全域が津波の遡上により冠水した。冠水は,1
~4号機の周辺エリアで,一部地点を除き(最大O.P.+15.5m程度(浸水深5.5m),最小O.P.約+10m(浸水深0m)以上),O.P.+14~
15m,浸水深4~5mであった。
これらの主要建屋について,外壁や柱等の構造躯体には津波による有意な損傷は確認されていない。他方,建屋の地上の開口部に取り付けられている建屋出入口のドアやシャッター,
非常用DG給気ルーバー,
地上機器ハッチ,
建屋の地下でトレンチやダクトに通じるケーブル,配管貫通部などは,津波あるいは漂流物によると考えられる損傷が一部で確認された(1~4号機のT
/B東側すなわち海側,敷地南側の運用共用補助施設,6号機のT/B北東側で建具等が変形するなどの損傷を確認した。)。また,上記損傷がない場合でも,津波に
よる浸水深が開口下端レベルを上回った際に,主としてハッチ開口やルーバー開口からの浸水も考えられ,これらの地上開口部に加えて,地下の開口部すなわち地下のトレンチやダクトに通じるケーブル,配管貫通部が建屋内部への津波の浸水経路となった(トレンチやダクト部分にも一部損傷や浸水の痕跡が確認された。)と推測される(以上,甲A234の1・4-14頁,甲A385の2・5頁,乙A4の1・105頁)。

(エ)海水冷却系の損傷状況
多くの非常用海水系ポンプ(格納容器冷却海水系ポンプ,残留熱除去海水系ポンプ,DG海水ポンプ)は,海水を利用し崩壊熱の除去を行うために海側エリアに設置され,津波の高さ5.4~6.1mに対して機能を確保できるよう対策がされていた。
屋外海側エリアに設置されている非常用海水系ポンプについて,3号機の残留熱除去海水ポンプに電動機冷却ファンのカバーの流出や変形が確認され,設備点検用クレーンの倒壊により5号機の残留熱除去海水ポンプ,DG冷却
系海水ポンプ等が損傷を受けた。また,6号機において,取水路角漂流・激突による海水ポンプ付属品の変形等の損傷が確認され,軸受潤滑油への海水の混入も確認されたが,非常用DG(6A)冷却系海水ポンプでは,津波により被水したが,平成23年3月18日に特段の修理をせずに同DGは起動でき,同月19日,同DGの確認運転が行われた。

上記損傷以外には,点検中で取り外していた4号機の残留熱除去海水系ポンプを除き,いずれも津波を受けた後も据付場所に自立しており,ポンプ本体が流出したものはなかったなど,非常用海水系ポンプの躯体の機械的損傷は限定的であった(以上,甲A234の1・4-57~4-60頁,甲A385の2・
5頁,乙A4の1・106,107頁)。

(オ)非常用DGの被害状況等
上記(1)イ(イ)のとおり,非常用DGは,1号機,3号機及び5号機のT/B地下1階,2号機及び4号機のT/B地下1階及び運用補助共用施設地上1階,6号機のR/B地下1階及びDG専用建屋地上1階に設置されているが,本件津波による被害としては,5号機及び6号機の水冷式DG(5A,5
B,6A及び高圧炉心スプレイ系DG)本体は被水を免れたが,1~4号機の水
冷式のDG本体は全て被水により停止した。被水しなかった5号機及び6号機の上記DGも,非常用海水系ポンプ等が機能喪失した(ただ,上記(エ)のとおり,6Aは後から起動できる状態であったことが確認された。)ため,運転すること
ができず,結果,水冷式のDGは全て停止した。
他方,
2号機のDG(2B),
4号機のDG(4B)及び6号機のDG(6B)
は空冷式のDGであり,これらは非常用海水系ポンプがないために津波による冷却系への影響がなかった。
2号機のDG
(2B)
及び4号機のDG
(4B)
については,4号機のS/B南西にある運用補助共用施設地上1階に設置しており,非常用DG本体に浸水被害がなかったものの,後記(カ)のとおり,同施設地下の電気品室が浸水被害を受け,M/C,P/Cが被水し,機能を喪
失した。
この結果,1~5号機全ての非常用DGが停止し,SBOに至った。6号機の空冷式DG(6B)のみが運転を継続し,電源が維持された(以上,甲A234の1・4-54~4-56頁,甲A385の2・5頁,乙A4の1・107,108頁,丙A4の1・Ⅳ-37頁)。

(カ)電源盤の被害状況等
上記(1)ア(ウ)~(オ)のとおり,
外部電源及び非常用DGの電力は,
電源盤
(M
/C,P/C)を経由して各機器に供給され,交流電源喪失時には最低限の監
視機能等を確保するために直流主母線盤(DC盤)が用意されていた。本件津波の浸水により1~5号機の全てのM/C(上記(1)ア(ウ)のとおり,1号機T/B地上1階の1C及び1D,共用プール地下1階の2E及び4E,各号機のT/B地下1階の2C及び2D,3C及び3D,4C及び4D,5C及び5D)が被水
し,仮に,外部電源及び非常用DG本体が機能していても,電力を必要とする機器に供給できない状態となった。
また,P/Cについても全て被水し,被水後も機能に異常がなかった2号機P/C2台(T/B地上1階の2C及び2D)及び4号機のP/C1台(T/B地上1階の4D,
なお4Cは取替工事中であった。を除き,

その機能を喪失した。
他方,6号機のM/C及びP/Cは,いずれも被水を免れたが,上記(オ)のとおり,
水冷式の非常用DGが給電不能となり,
受電できない状況であった。
C/B地下1階に設置されていた1号機,2号機及び4号機のDC盤は,いずれも被水し,
3号機,
5号機及び6号機のDC盤は被水していなかった。
3号機,5号機及び6号機のDC盤は,T/Bの中地下階に設置され,浸水被害が及ばなかったと推測される。
建屋への大規模な浸水が生じた施設では,建屋最地下階の浸水が顕著であり,電源盤の被害もこれに対応している。最地下階に設置してあった電源盤は,被水の被害を受けているが,中地下階に設置してある電源盤は,一部を
除き,被水を免れている。また,最地下階に設置してあっても,建屋周囲の浸水高に対して建屋への浸水経路となる非常用DG給気ルーバー等の最下端が浸水高より上に設置され,浸水経路となるダクト,トレンチ等の貫通部もない5号機及び6号機においては,建屋への浸水がなく,5号機及び6号機の非常用DGや6号機のM/C,
P/Cなどの設備は被水していなかった
(以

上,甲A234の1・4-53~4-56頁,甲A385の2・5頁,乙A4の1・108頁)。

(キ)まとめ
T/B内の非常用電源盤,非常用DG,直流母線盤への津波浸水による被害については,別紙4-2第4.1.4-1表津波の浸水による非常用電源盤(M/C,P/C),非常用ディーゼル発電設備(D/G),直流主母線盤(DC盤)への影響のとおりである。その他の津波被害の状況として,本件原発の海側エリアに設置されていた№1の重油タンク(直径11.7m×高さ9.2m,重量32t)が,本件津波により1号機R/B,T/B北側の構内道路まで漂流するなど,多数の漂流物
が確認された。駐車中の車両も多数漂流した。
また,主要建屋設置エリアにおいては,津波によりダクトのハッチの蓋等が流失・損傷し,開口部となったのが1~4号機側で20か所,5号機及び6号機では5か所確認された(以上,甲A234の1・4-56頁,甲A385の2・5頁,乙A4の1・108,109頁)。

(3)本件事故の発生
本件原発の各号機の状況は以下のとおりである。


1号機
1号機は,
本件津波による直流電源喪失の結果,
ICが冷却機能を喪失し,
原子炉圧力が上昇し,SRV(主蒸気逃し安全弁)の安全弁機能が働き,蒸気がS/C(圧力抑制室)に導かれて凝縮された。

平成23年3月11日午後6時過ぎ頃には,原子炉水位がTAF(有効燃料頂部)
を下回り,
同日午後7時前には炉心損傷が始まったことが推定される。

同日午後8時頃の段階では,原子炉冷却時バウンダリは健全で,原子炉圧力はSRVの安全弁機能により7.0MPa近傍に維持されていたものと推定される。
同日午後9時頃には,炉心の露出,損傷が開始し,同月12日午前0時頃には中央制御室においてD/W
(ドライウェル)
の圧力が0.
6MPaとなり,
最高使用圧力(0.531MPa)を超え,原子炉が異常な状態にあると推定された。これを受けて,格納容器ベントの準備に入るよう指示が出された。しかし,同日午前2時30分には,運転員による減圧操作がされていないにも
かかわらず,D/W圧力の計測値が上昇(0.84MPa)する一方,原子炉圧力がほぼそれと同じ値(0.8MPa)に低下したことから,原子炉冷却材圧力バウンダリが破損したと考えられ,また既に炉心損傷が進み,原子炉内の温度が高くなっていたと推測されることやその他の解析結果から,それより前の同日午前2時頃には,原子炉圧力容器が溶融燃料の影響で損傷したと
される。
他方,格納容器圧力の測定値は0.75MPa程度で維持されており,しかも同日明け方には正門付近のモニタリングカーでは線量率の上昇が見られ,1号機の格納容器からの放射性物質の漏えいが生じていたものと考えられる。同月12日午前4時頃から,AMとして整備されていた消防車による注水が開始され,注水対応と並行して格納容器ベントが図られたが,高線量のためにベントの作業も順調にはいかず,格納容器ベント操作から1時間程度経
過した同日午後3時36分頃に1号機のR/Bが爆発した。この爆発の原因については,炉心損傷に伴うジルコニウム-水反応により発生した水素がR/Bに移行し最上階で爆発したものと推定される(以上,甲A116・16~21頁,丙A4の1・Ⅳ-38頁)

2号機
2号機は,本件津波により海水系冷却系のみならず,敷地高さ10mにある建屋への浸水もあり,ほとんど全ての電源盤の機能が失われ,直流電源が喪失し,RCICの制御ができない状態となった。
そこで,平成23年3月11日午後9時頃からAMによる注水の準備が始
められたが,同日午後10時頃の時点では,原子炉水位がTAF(有効燃料頂部)よりも高いことが確認され,同月14日昼近くまで,原子炉水位は高い
位置に保たれていた。また,原子炉の圧力がSRVの逃し弁機能が働かない状態であったにもかかわらず,効率の悪い状態でありながらもRCICが作動するなどしており,SRV作動レベルよりも低い状態で原子炉の圧力がバランスしていたものと考えられる。
ベントの準備も進められ,同月13日午前11時までにベントラインが開かれた状態とされた。RCICの運転停止という事態に備えて,同日午後0時頃には代替注水の構成が完了され,同日午後1時頃にはバッテリを中央制御室のSRV制御盤につなぎ,減圧・注水ができる状態となっていた。
しかし,後記ウの3号機の爆発の影響で,AMとして準備されていた消防車,ホースが破損した。
同月14日昼頃から,原子炉水位が下がり始め,RCICの機能が低下していると判断され,代替注水の再構成とベントの復旧が行われた。しかし,同日午後5時頃には原子炉水位がTAFを下回った。
同日午後6時過ぎには,SRVによる減圧に成功し,同日午後8時前に2台の消防車による原子炉への注水が行われたが,解析の結果としては,同日
午後7時20分頃には炉心損傷が開始されたと推測され,2号機は不安定な状態となっていた。圧力容器にも損傷があり,溶融燃料の一部が落下して冷却されている状態にあると推測された。
同日午後9時20分に原子炉減圧のためSRVが開いた状態とされた後,正門付近の線量率が一時的に上昇したことから,
何らかのFP
(核分裂生成物,

甲A116・415頁)
放出があったことは間違いない。
D/Wの圧力が急激に

上昇し,同月15日午前6時頃に圧力抑制室付近で水素爆発と考えられる爆発音が確認され,同日午前7時20分まで高い圧力が計測されており,炉心損傷に伴う水素爆発の影響と推定される。
同日午前11時25分の段階では,上記圧力は低下しているが,その間の
同日午前10時には2号機から白い煙が放出され,正門付近の線量率が急上昇していることから,この間2号機から大量の放射性物質が放出されたと推定できる(以上,甲A116・21~25頁,丙A4の1・Ⅳ-51,52頁)。ウ
3号機
3号機は,本件津波により海水冷却系のみならず,敷地高さ10mにある建屋への浸水もあり,多くの電源盤の機能が失われたものの,直流電源は残っていた。このため,原子炉水位などの監視や,RCICやHPCI系といったタービン駆動であって直流電源で制御できる設備は使用可能な状態であった。運転員は,SBO後にRCICにより水位を制御した。

平成23年3月11日午前11時36分にRCICが自動停止して原子炉水位が低下し,HPCIが自動起動した。RCICと同様,HPCIも直流電源を節約するようにして連続的に運転され,原子炉水位を維持した。同月13日午前2時過ぎに運転員がHPCI設備の損傷を懸念し,D/DFP(ディーゼル駆動消火ポンプ)を原子炉容器のスプレイから原子炉への注水に切り替えるよう人員を原子炉建屋に向かわせた後,同日午前2時42分にHPCIを手動で停止した。同日午前2時45分,SRVを開放しようとし
たが,開作動せず,原子炉圧力が上昇し,D/DFPによる注水ができない状態となった。
同日午前9時頃に原子炉の圧力が急激に低下し,D/DFPと消防車による注水が開始された。なお,解析によれば,同日午前9時過ぎに原子炉水位がTAFを下回り,同日午前10時40分頃に炉心損傷という結果となった
と考えられるが,
実際の原子炉水位は解析より早い段階でTAFを割り込み,
炉心損傷も解析より実際の方が早かった可能性がある。
なお,同日午前9時20分頃,D/W圧力が低下し,格納容器ベントが機能したと考えられる。このベントの直後に正門付近の線量率が毎時300μSv程度まで一時的に上昇しており,その後のベントではこのような線量率
の増加は見られず,
2回目以降のFP放出量は限定的であったと推測される。
1号機の爆発後,3号機でも同様の爆発が予見できたため,その対策が検討されていたが,対策を講じる前の同月14日午前11時01分,原子炉建屋が爆発した。
3号機の爆発は1号機と比較しても激しく,
黒い煙が上がり,
鉄筋コンクリートの粉砕によるものと推測される。爆発の原因は,炉心損傷
に伴い発生した水素が原子炉建屋に移行し最上階にて爆発したものと推測される。3号機は炉心損傷から原子炉建屋爆発までの間に4回の格納容器ベントが実施され,初回のベントから爆発まで約1日経過し,4回目のベントからは4時間程度経過していた(以上,甲A116・25~29頁)。エ
4号機ほか使用燃料プール
4号機は定期検査中であり,使用済み燃料は全てSFP(使用済み燃料プール)にあった。本件津波により直流電源及び交流電源がいずれも喪失し,S
FPの冷却機能及び補給水機能が喪失した。ただ,崩壊熱で水が蒸発し,燃料が露出するのは平成23年3月下旬頃と推測されたことから,より深刻な状態にあった1~3号機の炉心冷却などの対応が優先された。
同月14日午前4時頃のSFP水温が84℃であると確認され,同月15日午前6時12分大きな衝撃音と振動が発生し,原子炉建屋5階屋根付近に損傷が確認された。燃料被覆管の露出に伴う水-金属反応による水素の発生は考えにくく,爆発の原因は特定できなかったが,結論的には,3号機及び4号機で共用されている格納容器ベント配管から3号機で発生した水素が逆
流したことが原因である可能性が高い。
SFPの下部2階エリアには漏水の痕跡が見られず,SFPを支持する構造物に損傷が見られないことから,構造上の健全性は維持されていたと考えられる。
また,使用済み燃料ラックに異常は見られず,取り出された新燃料の検査
でも燃料は健全であることが確認され,
プール水の核種分析の結果,
ヨウ素,
セシウムが検出されているものの,1~3号機よりも2桁以上低い濃度であり,系統的な大量破損は発生しておらず,確認されたFPは1~3号機の炉心由来の可能性が高いと推定される。
同月16日にヘリコプターから水面を確認した後,放水車やコンクリート
ポンプ車からの放水が実施された。水位が最も低くなった同年4月20日頃までは放水量が十分ではなかったが,同月22日の注水でプールゲートが閉じたと推定され,同月27日に満水となったことが確認されている。なお,1~3号機のSFPでも同様の評価が実施されたが,4号機と比較すると,崩壊熱は小さく,水位は十分に確保されていたとの結果となってい
る。
1~3号機のSFP水のサンプリング結果としても,
SFP水の汚染は,
損傷した原子炉由来のものと推測される(以上,甲A116・29~32頁)。オ
5号機及び6号機
5号機は,本件津波により高圧の電源盤,非常用の低圧電源の全てが機能喪失しSBOとなった。常用の低圧電源盤の一部は使用可能で,直流電源も使用できた。原子炉は起動前で,新燃料も装荷されていたことから崩壊熱レベルは小さく,原子炉圧力の上昇は緩慢であった。

平成23年3月14日以降,格納容器内に人員が立ち入り,SRVの窒素ガス供給ラインを復旧し,断続的に原子炉の減圧操作をするようになった。また,MUWC(復水補給水系)への電源の復旧により同日には原子炉注水が開始され原子炉水位が維持された。同月19日,RHR(C)によるSFP冷却が開始され,同月20日にはRHR(C)により原子炉冷却が実施され
冷温停止となった。
6号機は,
本件津波の影響により一部の高圧電源盤が使用不能となったが,
直流電源は被水を免れ使用可能であった。非常用DGのうち空冷式の1台は機能を維持でき,SBOに至らなかった。同月13日からMUWCによる原子炉への代替注水が開始され,
同月14日にSRVによる原子炉減圧がされ,

MUWCによる注水が可能な原子炉圧力レベルが維持された。
同月19日,RHR(B)によるSFP冷却が開始され,同月20日にはRHR(B)により原子炉冷却が実施され冷温停止となった。
5号機及び6号機とも,冷温停止以降,SFPと原子炉を交互に冷却する運用がされた(以上,甲A116・32,33頁)。

(4)本件事故を踏まえた知見,対応等

本件地震直後の同地震に関する推進本部の見解
本件地震に関して,平成23年3月11日付けで,推進本部地震調査委員会は,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の評価において
今回の地震の震源域は,岩手県沖から茨城県沖までの広範囲にわたっていると考えられる。地震調査委員会では,宮城県沖・その東の三陸沖南部海溝寄りから南の茨城県沖までの個別の領域については地震動や津波について評価していたが,これらすべての領域が連動して発生する地震については想定外であった。との意見を公表した。現に,同年1月22日に公表された推進本部の長期評価においても今回の地震で見られた震源域の連動は示されていなかった(乙A1,乙A4の1・27頁)。


中央防災会議における検討

(ア)平成23年4月27日開催の中央防災会議において示された東北地方太平洋沖地震-東日本大震災-の特徴と課題(阿部名誉教授講演)の中で,本件
地震・本件津波災害の特徴として,想定をはるかに超えた大きな地震・津波規模であり,広域で甚大な津波災害をもたらしたとされている。その津波高を比較しても,福島県沿岸のいわき市~大熊町で浸水高が高いところで10mに達し,明治三陸地震による津波の想定高最大5mを大きく上回っているとしていた(乙A2・8,12頁,乙A4の1・27頁)。
(イ)平成23年5月28日開催の中央防災会議
同日,中央防災会議において,
東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会が開催され,同会議において,本件津波等の被害に関する分析が行われた。
a
まず,資料に基づき,本件地震の震源が宮城県沖であり,太平洋プレートと陸側プレートの境界で発生した逆断層タイプの超巨大地震であるこ
と,最大震度が7であり,震度6弱以上の揺れが岩手県から千葉県という非常に広い範囲にわたって観測されたこと,Mが最終的に9.0とされたこと,地震を起こした断層面上の滑り分布をみると,450km×200kmくらいの範囲にわたって滑り動き,その中で,海溝寄りのプレート境界としては,最大で30m程度滑り動いたと解析されていることが説明さ
れた。
また,資料に基づき,本件津波について,潮位観測施設による津波の最大波の観測状況について,非常に広い範囲にわたって気象庁の注意報級以上の津波が観測され,例えば,福島県相馬で9.3m以上といった非常に大きな,高い津波が観測されていること(ただ,上記観測施設の回線の断裂,停電などにより一部の記録しか取れていない。,
)潮位観測の結果から逆算される

津波を発生させた領域の広がりすなわち津波の波源域について,滑りの大
きかった地域とほぼ一致していること,気象庁と大学連合の連携により,津波の水位がどこまで来ているのかという痕跡高の調査が実施されたところ,気象庁の観測では,大船渡付近で16.7mであったが,大学連合等では,遡上高30mを超える高さが観測されていたこと,大きな津波を観測したであろう宮古,大船渡,相馬などの地域では,停電若しくは回線ダ
ウン又は観測施設そのものの津波による流出により,データが得られていないことが説明された。
本件津波の被害状況について,津波到達時の潮位から痕跡水位がどこまで上がったというその高さを浸水高,そこから最高点にまでかけ上がったものを遡上高とした上で,太平洋沿岸では約560平方km浸水し,特に
宮城県が330平方kmにもなること,津波の陸域への浸入の状況等について,湾口防波堤の設置や水門の整備などにより浸水範囲がある程度軽減されていることが説明された(以上,甲A222・6~8,10~12頁)。
b
その後の意見交換の中で,ある委員から,本件津波について,過去の昭和三陸地震,明治三陸地震,慶長三陸地震などの各津波,貞観津波といった過去の巨大津波と比較しても大きく,明治三陸地震による津波が余り大きくなかった三陸海岸の南半分に関していえば,本件津波は明治三陸地震の津波の倍にもなったといえること,仙台平野においては,過去の津波と比較にならないほど本件津波は大きく,貞観津波に匹敵するものであった
こと,福島県に至ると,過去の比較できるような記録が得られていない状況で,過去をすごく超えていたことがいえるといった指摘がされた。別の委員から,津波の規模,実態に関して,明治三陸地震との比較において,岩手県では若干本件津波の方が大きいが2倍にはなっていない程度であるところ,宮城県,福島県においてはその差が非常に大きく,場合によっては,5倍,10倍となっており,そのメカニズムを解明しなければならないこと,津波の被害又は人的被害の実態を議論する上では,その高
さだけではなく,到達時間や避難時間といった時間的なもの,浸水範囲,津波の波力なども考慮すべきことといった指摘があった
(以上,
甲A222・
19,21頁)


c
委員である島崎元部会長から,本件地震の予測が不十分で,多くの犠牲者が出たことに対して責任を痛感していること,本件津波について,沖合の津波波形に二つの特徴があり,台形のように下を支え,15~20分という非常に長時間,高い水位が継続し,浸水域が非常に広くなる貞観型であるとともに,非常に高くて短時間にエネルギーが集中し,非常に破壊的な津波となる津波地震型という,この両者が同時に発生したことが指摘さ
れた。
その上で,本件のような破壊的な津波が予測できなかった理由等について,広い浸水域を生じさせる貞観型の津波に関しては,平成17年に起きた宮城県沖地震についての審議結果などを踏まえて,長期評価部会において検討される予定であったが,結果的にその検討が遅れたこと,従前の比
較沈み込み学により,千島海溝では非常に密着しており巨大地震が起こるが,南の伊豆・小笠原海溝ではほとんど地震が起きず,日本海溝は密着から無地震への遷移域であるとの枠組みで捉えていたことが示された。また,高い津波,この点に関して,明治三陸地震級の地震が日本海溝に沿ってどの地域でも起こることは長期評価により予測されていたが,他方,

津波評価技術は,これと異なり,両者は矛盾する関係にあったこと,日本海溝沿いでは400年に3回の津波地震が発生し,沈み込み帯という共通の地学的枠組みで起きている地震であり,系統的に変わりがない以上,この海域のどこでも同じタイプの地震が起こるのが地学的な知見から当然であるとの結論に立っていたこと,他方,土木学会において既往最大という考え方によっていたこと,中央防災会議では,議論の結果,長期評価の考え方が入れられなかったこと,本件津波は明治三陸地震による津波よりも
大きいが,明治三陸地震級がそのまま宮城県以南の海域にも適用されるべきであるとされていれば,津波被害の軽減や本件原発における見直しが図られていた可能性があったことなどが述べられた(以上,甲A222・22~25頁)

d
阿部名誉教授から,
福島県沖に昭和13年(1938年)茨城県沖で昭和

11年(1936年)にM7クラスの地震があったが,それ以外には起きないものだと思い込んでいたが,過去に起きていないものは将来的にも起きないという考え方に誤りがあったこと,慶長三陸地震のような全く揺れを感じなくても大きな津波が起き,想定を超えることもあること,できる限
り,想定を外れないようにするのが専門家の務めと考えるべきことが述べられた。
また,
日本地震学会の会長を務める別の地震学者からは,
本件地震は我々
がイメージできていないことがやはり起きたということであり,その点をお詫びしたいとの発言があった。

さらに,地震津波に関する別の研究者から,本件津波等は,地震動や津波に関して謎が多く,単にM9の地震と思えないこと,津波計の解析結果から,海溝付近の,普段地震が起きないか,起きても津波地震となるところで,57mの滑りという結果が出てくること,本件地震は,普通の地震が連動してM9より大きくなったというだけでなくて,加えて,海溝付近
のプレート境界の浅いところが大きく滑ったことも原因ではないか,普段地震が起きないようなところが滑った理由を緊急に明らかにしなければならないこと,明治三陸地震や延宝房総沖地震のように,日本海溝の南北で地震が起き,だから今回も一緒に起きたのか,あるいはしばらく起きないのか,海溝寄りは起きないと思っているけれども,実は頻繁に起きているかどうかなど,これを緊急に見なければならないことといった意見があった(以上,甲A222・28,29,35,39頁)

(ウ)平成23年9月28日の中央防災会議における東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震津波対策に関する専門調査会報告・(平成23年9月28日)の中でも,今回の津波は,従前の想定をはるかに超える規模の津波であった。我が国の過去数百年の地震発生履歴からは想定することができなかったマグニチュード9.0の規模の巨大な地震が,複数の領域を連動させた広範囲の震源域をもつ地震として発生したことが主な原因である。一方,津波高が巨大となった要因として,今回の津波の発生メカニズムが,通常の海溝型地震が発生する深部プレート境界のずれ動きだけでなく,浅部プレート境界も同時に大きくずれ動いたことによるものであったことがあげられる。と
している。
また,その中では,これまで中央防災会議の下に設置された専門調査会では,本件地震の震源域を含む地域に発生する日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震等に対して,対象地震・津波の想定を行ってきており,当該地域で過去数百年間に経験してきた地震・津波を再現することを基本とし,過去に繰り
返し発生し,近い将来同様の地震が発生する可能性が高く切迫性が高いと考えられる地震・津波を,想定対象地震・津波と考え,地震動と津波の検討対象としてきたが,本件地震のような地震を想定できなかったことは従前の想定手法の限界を意味しているとしている。特に,過去に発生したと考えられる貞観地震,慶長三陸地震,延宝房総沖地震などを考慮の外においてきたこ
とは十分反省する必要があるとしている(乙A3・3~5頁,乙A4の1・27,28頁)。

長期評価の改訂等

(ア)推進本部地震調査委員会は,平成23年11月25日,本件地震について現時点での知見をまとめ,東北地方太平洋沖型の地震として評価し,平成17年に宮城県沖で地震が発生したことや,最近の調査結果により過去の宮城県沖及び貞観地震の新たな知見が得られたことから,宮城県沖地震の長期評価の見直しを行い,これらをまとめて,三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価(第二版)(以下「長期評価第二版という。を取りまとめた。」

長期評価第二版の公表に際して,推進本部地震調査委員会は,東北地方太平洋沖地震について,余震活動や余効変動が続いている上,調査研究もその
途上にあり,
長期評価第二版は暫定的な結果にせざるを得ない部分がある旨,
今後この地震の調査観測等により知見が得られた後に長期評価第二版を再度評価することとし,また,評価に用いられたデータは量及び質において一様ではなく,そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗があり,平成15年以降に発表した長期評価からは,評価の結果の信頼度を付与していると
指摘している。また,参考として,東北地方太平洋沖型地震の評価を踏まえて,
本件地震の発生直前の確率を算出した結果が示されている。
具体的には,
地震規模M9.0,地震発生確率10年以内4~6%,30年以内10~20%,50年以内20~30%とされ,集積確率(その時点までに地震が発生する確率)30~60%,平均発生間隔600年程度,最新発生時期約500~
600年前としている(以上,丙A17・1,2頁)。
(イ)長期評価第二版は,地震活動について,歴史地震の記録や観測成果の中に記述された津波の記録,震度分布等に基づく調査研究の成果を吟味し,東北地方太平洋沖型の地震及び三陸沖北部から房総沖にかけて発生した大地震について,東北地方太平洋沖型の地震,三陸沖北部のプレート間地震(繰り返し
発生する地震として扱った地震)
,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート

間地震(津波地震)などと分類している。
過去の地震について,三陸沖北部から房総沖にかけての日本海溝沿いに発生した大地震については,
貞観地震まで遡って確認された研究成果があるが,
16世紀以前については資料の不足により地震の見落としの可能性が高いことを考慮したとしている。その上で,複数の領域を震源域とした過去の地震として,上記東北地方太平洋沖型の地震(本件地震のように日本海溝のプレート境界で発生し,東北地方の太平洋沿岸に巨大津波を伴う巨大地震)と1793年に起
きた三陸沖南部海溝寄りと宮城県沖で連動した地震を挙げている。東北地方太平洋沖型の地震(地震規模,M9.0,Mt9.1~9.4,Mw9.0)としては,本件地震以外に,紀元前3~4世紀,4~5世紀,貞観地震及び15世紀の地震の四つが示されている。このうち,貞観地震に関して,地震動及び津波を伴い,多数の死傷者を伴った地震とされ,その震源域は少なくとも宮城県沖と三陸沖南部海溝寄りから福島県沖にかけての領域を含み,三陸沖まで達する可能性があるとされる。
地震の規模は,
M8.
3,
Mw8.
4程度又はそれ以上と推定され,
宮城県から福島県にかけての太平洋沿岸で,

過去2500年間で4回の巨大津波による津波堆積物が見つかっており,これらの地域を広く浸水したと考えられ,これら4回のうちの一つが貞観地震によるものとして確認されたとする。また,これらの4回のうち,貞観地震及び4~5世紀の地震では,地震時に沿岸が沈降したと推定され,日本海溝のプレート境界で発生した巨大地震である可能性が高いと考えられるとし,
他の2回については,その津波堆積物の分布から同様の地震である可能性があり,以上のことから,長期評価第二版において,東北地方太平洋沖型の地震とみなしたとされている。東北地方太平洋沖型の地震の特徴の一つである広い浸水をもたらす津波は,過去2500年間で5回発生していたと確認され,これらの津波をもたらした地震が繰り返し発生したとする間隔は400
~800年程度で平均発生間隔は600年程度であるとされる。
なお,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間地震(津波地震)は,1600年以降の約412年間において,本件地震も含めて4回発生したとされ,本件地震以外には,慶長三陸地震(地震規模,M8.1,Mt8.4),延
宝房総沖地震(地震規模,M8.0,Mt8.0)
,明治三陸地震(地震規模,M8.
1,Mt8.6~9.0)が示されている(以上,甲A141の2・13,14頁,丙A17・4,5,16頁)



経産省,保安院等の安全対策等の指示等

(ア)保安院は,平成23年3月30日,本件地震に随伴する本件津波により所外電源が喪失するとともに緊急時の電源が確保できなかったことなどの本件事故の拡大等をもたらした直接的要因を踏まえ,省令改正等を行い,本件原発等を除く全原発について,
規制上の要求として,
津波により,
全交流電源,
海水冷却機能及び使用済み燃料貯蔵プールの冷却機能の三つの機能を全て喪失したとしても,炉心損傷や使用済み燃料の損傷を防止し,放射性物質の放出を抑制しつつ冷却機能の回復を図ることなどの安全対策等を電気事業者等に求めるとともに,これを検査等により確認することを公表した。
同日,経産省は,電気事業者に対し,上記指示に係る技術基準省令の解釈の一部を改正する旨通知した(以上,甲A119・2~4枚目,丙A82,丙A84・1頁)


(イ)また,保安院は,平成23年5月6日,上記(ア)の緊急安全対策として,津波によるSBO等の対策,SBO等の対策に使用される機器に津波の影響を及ぼさないようにするための建屋への浸水対策を,各電気事業者等が実施していることを確認するとともに,中長期対策として,原子炉の安全上重要な機器に津波の影響を及ぼさないようにするため,より強化された水密化,防潮堤,防潮壁などによる緊急安全対策の信頼性を一層向上するための適切な計画となっていることを確認したと公表した(丙A83)


(ウ)保安院は,
平成23年7月,
上記(ア)の技術基準省令の解釈の変更の位置付
けを明確化するため,技術基準省令及び同解釈を一部改正すると公表し,同年10月7日,経産省は,技術基準省令の改正を行うとともに,その解釈を改正した。その内容は,別紙5関連規定(抜粋)のとおり,技術基準省令4条に列挙されている自然現象から津波を抜き出し,別の条として省令に位置付け,本件事故を踏まえ,津波によるSBO等が生じてもその機能を復旧できるよう適切な措置を講じることを規定するとともに,新設された津
波による損傷の防止に対応する解釈を新設し,上記(イ)の確認状況を踏まえ,その具体的措置等を定めるというものであった(甲A122,甲A123,丙A84)



被告東電による本件事故の総括
被告東電は,平成25年3月29日に福島原子力事故の総括および原子力安全改革プランを示し,その中で,平成4年7月の通産省からのAM整備要請に基づき,平成6年から平成14年にかけて,AM対策として,格納容器ベントシステム,
非常用DGの号機間融通等のAM策を整備していたが,
その後はAM対策を取り入れてこなかったこと,また,従前,SBOは,外部電源,非常用DG,直流電源の信頼性が高いことから発生するおそれが小
さいと認識し,交流電源を喪失してもSRVとRCICにより約30分程度原子炉の冷却が可能であることや多数基立地のメリットを生かし,隣接号機から高圧・低圧の交流電源を融通するための設備及び手順を準備するなど,SBOに対する一定の対策を講じていたが,今回の事故を踏まえ,SBOを仮定し,それが生じないよう更に電源を強化するとともに,SBOが発生し
ても原子炉の冷却等の重要な安全機能は失われないよう対策を講じていくこと,事故初期に必要な高圧注水機能と冷温停止への移行に不可欠なSRVの長期にわたる機能維持について重点的に対策を講じることとしている(甲A30・10,54頁)

(5)その他被告東電の不正事例等及び市民団体の申入れ等

被告東電の不正事例等
(ア)平成14年8月29日,本件原発において,炉心シュラウド(原子炉内の冷却水の流れを分離する仕切板の役割を果たす,
原子炉容器内に燃料集合体を取り囲むよ
うに設置されている円筒形のステンレス構造物)
等の自主点検記録の不正記載の事

実が発覚し,同年9月20日,被告東電ほか2社における原発の原子炉再循環系配管(燃料で発生した熱を効率よく取り出すため,原子炉圧力容器の中の冷却水を循環させる系統であり,設定される温度変化・圧力に十分に耐え,配管破断により原子炉冷却材の異常な漏えいを防ぐ機能が要求される。のひび割れ等が発生した事)

実も判明した。
その後の同年10月25日,1号機において格納容器の閉じ込め機能を確認する格納容器漏えい率検査において,
不正が行われていた事実が発覚した。
これを受けて,保安院は,被告東電に対し,1号機の運転停止命令を発した(以上,丙A15)

(イ)その後の平成18年10月31日の中国電力株式会社における発電所のデータ改ざんなどを受けて,保安院は,同年11月30日,被告東電を含む全
電力会社に対し,発電設備に係るデータ改ざん,必要な手続の不備その他の問題についての総点検の実施を指示し,これに基づき,平成19年4月6日までに全電力会社から総点検結果報告書及び再発防止対策報告書の提出を受けた。
被告東電は,本件原発1号機のデータ改ざん等とその原因究明,平成14
年の総点検で確認できなかった原因,対策などについて保安院に報告した。この中で,改正前炉規法及び電気事業法に基づく安全確保のための規制に抵触し,同法が確保しようとする安全が損なわれたもの又は損なわれたおそれがある事例としては,本件原発に限っては,昭和53年11月の3号機の制御棒引き抜けに伴う臨界状態の7日間の継続,運転日誌の改ざん等があり,
また,被告東電の原発の事故としてはほかに2件あった(以上,丙A14・1,3,7,9,10頁)。

市民団体の申入れ
原発の過酷事故を回避するため,被告東電に対して地震・津波対策をとるよう警告していた市民団体である
原発の安全性を求める福島県連絡会
は,
平成17年5月10日付けで,被告東電に対して,
チリ津波級の引き潮,高潮時に耐えられない東電福島原発の抜本的対策を求める申し入れと題する
書面を提出し,
津波評価技術に照らし合わせると,
チリ津波級の引き潮の時,
福島第一原発の全機で炉内の崩壊熱を除去するための機器冷却用海水設備が機能しないこと,冷却材喪失事故用施設の多くが機能しないことなどを指摘し,抜本的対策を求めた。
また,平成19年7月の新潟県中越沖地震によって被告の運営する柏崎刈
羽原発が被災したことを受け,上記原発の安全性を求める福島県連絡会は,日本共産党福島県委員会,日本共産党福島県議会議員団と連名で,同月24日付けで,
被告に対して,
福島原発10基の耐震安全性の総点検等を求める申し入れと題する書面を提出し,福島原発はチリ級津波が発生した際には機器冷却海水の取水ができなくなることが明らかである旨改めて指摘し,そ
の抜本的対策をとるよう求めた。
さらに,上記原発の安全性を求める福島県連絡会は,同年12月20日付けで,
被告に対して,
中越沖地震による柏崎刈羽原発被災を真に踏まえた福島原発の地質・地盤調査を求める申し入れと題する書面を提出し,かねてから問題提起をしているチリ津波級の津波への対策がされていないとして,
その抜本的対策をとるよう求めた(以上,甲A92~甲A95,原告a本人21~25頁)。

7
地震,津波に関する各専門家の見解等
各地震・津波の学者の意見のうち,本件事件と同種の本件事故に係る損害賠
償請求(国家賠償請求を含む。事件及び被告東電の役員を刑事被告人とする刑事)
事件において証人尋問を経た上での意見は,以下のとおりである。(1)島崎元部会長の見解
島崎元部会長(歴史地震,活断層の専門家で,日本地震学会会長なども務めた。丙B104の1・105頁)は,概要,以下のとおり説明する。


津波地震のメカニズム等

(ア)地震に津波が伴う場合,地震の揺れから想定される津波よりも非常に大きな津波を伴う特殊な地震があり,これを津波地震と呼ぶ。
津波地震を含むゆっくり地震は,地震波を余り出さず,あるいは出すことなく,ゆっくり断層がずれる現象である。普通の地震よりもずれがゆっくり起こり,人が感じる強い地震の揺れがないか又は小さいが,地震計にゆ
っくりした低周波数(長周期)の地震波が記録されたり,GPS観測網でゆっくりした動きとしてとらえられたりする。
津波地震は,長期評価において,MtがMより0.5以上大きいと定義されているが,0.5は対数であるから,実際には津波の高さが3倍以上になるという趣旨である(以上,甲A139の1・16頁,甲A141の1・2,3,8,
9頁)。

(イ)このような特殊な地震は,いずれも海溝付近で発生し,古くは深海地震と呼ばれていた。明治三陸地震を含む複数の地震の地震波や津波などの解析により,これらの津波地震が海溝付近のごく浅部で発生し,破壊の継続時間が長かったことが確認されている。ただ,継続時間の長さだけでは津波地震の性質を説明できず,
破壊中にプレート境界から分岐した断層
(傾斜角が大きく,
高角と呼ばれる。)が破壊したため,上下方向の海底の動きが津波を大きくし
たこと,震源の浅さや変形しやすい海溝付近の媒質なども寄与している(甲A139の1・17頁)。

(ウ)津波地震の発生メカニズムのうち,地震の揺れと津波の高さとが,震源のどのような性質によって決まるかは次のとおりである。
震源の物理的な大きさは,地震モーメントと呼ばれる量により表される。地震モーメントは,
剛性率,
断層面積及び断層のずれの量の積で計算される。
剛性率や断層面積が時間的に不変と仮定すると,断層がずれる間に地震モーメントは大きくなり,ずれが止まると以後一定値となる。
揺れの大きさは,地震モーメントの変化の速さすなわち時間微分に比例する。この場合,揺れの大きさは断層でのずれの速度に比例する。
他方,津波の高さは,地震モーメントに関連する。揺れが小さくても津波が高い,あるいは地震モーメントの時間微分は小さくても地震モーメントが大きい場合があり得る。ずれが長くゆっくり起これば,最終的なずれの量が大きく,地震モーメントは大きいが,その時間微分は小さくなる。
また,断層面積の変化について,それぞれの時間変化を考える簡単な例で説明すると,破壊はある場所から始まり,破壊域すなわち断層面積が広がっていく。この破壊の伝わる速度(破壊伝播速度)が大きいと,断層面積の拡大速度が大きくなり,地震モーメントの変化の速さすなわち時間モーメントの時間微分は大きくなる。これと逆に,破壊伝播速度が小さいと揺れは小さく
なる。しかし,破壊が長く続けば,地震モーメントは大きくなる(以上,甲A139の1・17,18頁)。

(エ)このように,地震モーメントが大きくても,ずれの速さや破壊伝播速度が小さいと,揺れは小さくなり,津波地震の発生が説明できる。様々な周波数での津波地震の観測の結果,長周期のゆっくりした揺れすなわち低周波数ほど揺れが大きいことが分かったことがその根拠とされる。断層がゆっくりずれるとは,
ずれの速さや破壊伝播速度が小さいことを言い換えたものである。地震モーメント(最終的な蓄積量)と地震モーメントの変化の速さ(一時的な蓄積速度)とは,地震観測から通常比例関係にあるが,この比例関係が成り立た
ない特殊な地震が津波地震である。
また,地震モーメントの剛性率について,剛性率とは物質によって異なる値をとる。固い物質では大きな値になり,柔らかい物質では小さな値になる(以上,甲A139の1・18頁)。

(オ)津波の高さは,地震前の海底の高さと地震後の海底の高さの違いとその水平方向の広がりによる。高さの違いの絶対値を水平方向に積分した量に関係し,地震モーメントそのものと関係するものではない(以上,甲A139の1・18頁)。


津波地震のメカニズムの多様性等

(ア)津波地震の発生メカニズムについては,
様々な発生メカニズムが考えられ,
①緩やかな変動,②浅部における二次的断層,③浅部における低角断層,④巨大海底地滑り,⑤マグマの貫入,⑥プレート境界堆積物の破壊に分類する見解がある。
また,断層のずれの速さや破壊伝播速度が小さく,地震波の低周波数成分が卓越することになることは津波地震の特徴であるが,それだけでは津波の大きさが十分に説明できないため,様々なメカニズムが提案され,複数の仮説が存在する状態であった(以上,甲A139の1・19頁)。

(イ)ただ,上記のような分類は,現在の知見に照らせば分類となっていないものもある。地震による海底の動きが津波の原因である場合,上記①の緩やかな変動といえるかもしれないが,断層全体の動きがゆっくりしており,人が感じる周期の短い地震の揺れは小さく,低周波数成分はそれより大きく,海底の動きは更に大きいことが津波地震を発生させる。上記②の浅部における
二次的断層は主因ではなく,上記③の浅部における低角断層では津波が大きくなることが説明できず,様々なメカニズムが提案されている。津波地震は海溝付近のプレート境界すなわち低角逆断層で起こるが,低角逆断層が津波を大きくする原因ではない。上記④の巨大海底地滑りが地震の引き金効果で発生する場合には,津波地震が発生する。上記⑤のマグマの貫入も津波を発
生させるので,その際に小地震が発生すれば津波地震となる。上記⑥のプレート境界堆積物の破壊は津波が大きくなることを説明しようとして導入された仮説であるが,主因ではない。
現在の知見を前提とすると,上記①の海溝付近のプレート境界で発生する断層のゆっくりした動き,上記④の巨大海底地滑り,上記⑤のマグマの貫入が,津波地震の発生メカニズムと考えられるが,ただ,その発生メカニズムは今なお明らかではない(以上,甲A139の1・19頁,甲A141の2・54
頁)。

(ウ)地震による海底の動きによって津波が発生する津波地震の場合,津波地震の発生域が海溝付近であることはほぼ確立している。例えば,津波が異常に大きいのは,地震が海溝軸付近のプレート境界で発生することに原因があると考えられる。海溝付近の深海では,ゆっくりした揺れが長く続く,特殊な
地震があることが知られており,昭和21年のアリューシャン,平成4年のニカラグア,平成8年のペルーの各津波地震が海溝付近で起こっている。また,日本海溝付近の内側斜面域に低周波地震発生帯が存在することを明らかにした研究もある。この低周波地震の大規模なものと考えられる津波地震を指摘する研究もあり,この点からも津波地震の発生域が海溝付近である
ことが裏付けられている。(以上,甲A139の1・19,20頁)ウ
地震・津波の予測とその限界

(ア)地震の揺れの源は,震源で起こる断層のずれすなわち破壊現象である。この破壊現象によってそれまで震源に加わっていた力がほぼ解消されるため,同じ断層が再びずれて地震を発生するには一定の時間を必要とする。プレートの境界を長期間で見れば,
境界上のどの位置も同じようにずれる。
これは,プレートテクトニクスの基本概念から明らかである。地震の繰り返しの間隔や震源の規模などが境界上の位置によって異なることが実際のプレート境界で観測されている。

もっとも,同一の震源規模を持つ地震が同一の場所で,一定の間隔で起こることはほとんどなく,
厳密にいえば,
同じような地震が繰り返し発生する。
これを固有地震と呼ぶ。固有地震はその地域で最大級の震源を持つ地震である。この同じような地震が,同じような間隔で,ほぼ同じ場所で起こってきたという観測事実があり,これを単純化したものが固有地震モデルである。このことは,歴史資料による地震の研究によって明らかとされてきた。近年,
地形学的あるいは地質学的研究によって,
より長期間の繰り返し間隔(千
年~万年)大地震がほぼ同一の場所で同様の震源規模で,
で,
繰り返し発生し,

その間隔にもある程度の規則性があるということが明らかとなっている(以上,甲A139の1・20,21頁,甲A141の1・4,5頁)。
(イ)北海道を除けば,数十年から百年程度で繰り返す大地震については,歴史資料に記録されており,地震・津波の予測には,歴史地震研究が重要な役割を果たす。もっとも,歴史資料の欠落により歴史地震として知られていない地震が過去に発生していても不思議ではない。特に,中世は資料の欠落が多く,この時代から江戸時代まで特定の地域を除くと,ほとんどの地方で資料が欠落しており,大地震がほぼ欠落せずに記録されているのは,北海道を除
く地域では,江戸時代以降の約400年間にすぎない。
なお,古代は,中央集権化以降仁和三年(887年)まで記録があり,貞観地震等も記録されている。
そこで,既往最大地震について議論をする際には,上記歴史資料の欠落状況を考慮しなければならない。過去に発生しないと将来も発生しないという
考え方は,過去に発生しなかったことが確実であるかによる。本件地震と同様な地震は過去にも起こっているが,本件地震の発生前の時点では,そのような地震が過去に起こったかどうかが記録上わからなかった。歴史地震記録などから過去に発生しなかった地震であるとされても,実際には歴史記録に残っていないだけであり,
過去に発生していた可能性はあるのである
(以上,

甲A139の1・21,22頁,甲A141の1・5,6頁)。

(ウ)歴史地震データから繰り返し発生が確認できる場合には,固有地震モデルを用いた予測が防災,減災には有用である。しかし,あくまでも単純化されたモデルであることに留意し,隣接した震源域の同時破壊によって震源規模が増大する可能性があるなど,実際の地震発生が複雑であることには注意しなければならない。例えば,歴史資料から少なくとも8回の繰り返しが知られる南海地震においては,昭和21年の昭和南海地震,1854年の安政南
海地震,1707年の宝永地震は,いずれも紀伊半島先端から四国西部及びその沖合を震源域とするが,安政南海地震は昭和南海地震よりも大きく,宝永地震は紀伊半島先端から御前崎までと,その沖合も震源域としていたし,宝永地震は,東海地震と南海地震とが同時発生したものということもでき,宝永地震より前の1605年の慶長の地震は津波地震とされ,このように南
海地震と一括りにしても,その一つ一つは異なる地震である。
また,プレートの境界を長期で見ると,境界上のどの位置も同じようにずれるから,プレート境界で発生した地震の震源域を図上にプロットすると,長期間には境界上を隙間なく震源域が埋めることになる。ある期間で空白となった地域すなわち空白域が存在しても,それは次の期間には埋められる。
例えば,千島海溝で空白域とされた根室沖が,昭和48年の根室半島沖地震の震源域で埋められたのが有名である。
なお,南海トラフにおいては空白域の存在が図示できるが,他方,日本海溝沿いでは原理的には同じことがいえるものの,地震の位置がはっきりしないため,図示できるほどの空白域の指摘はできない(以上,甲A139の1・2
2頁,甲A140の1・5頁,甲A141の1・6,7頁)。


長期評価の内容

(ア)三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間地震(津波地震)についての地震の発生位置及び震源域の形態に関する評価について,その根拠は,過去400年に発生した慶長三陸地震,延宝房総沖地震及び明治三陸地震がいずれも津波地震であり,その発生頻度が133.3年に一回ということによっている。Mtは,明治三陸地震の値に基づいている。
慶長三陸地震及び明治三陸地震は,津波の数値計算から日本海溝付近で発生したと推定される。
延宝房総沖地震が津波地震であることは明らかであり,
遠方の宮城県岩沼で死者が出ていることから,日本海溝付近で発生したと推定した。
日本海溝付近の津波地震は,太平洋プレートの沈み込みが引き起こしているプレート境界地震である。上記三つの津波地震の正確な位置は,明治三陸地震を除き不明であるし,明治三陸地震についても断層が南北でどの程度延びていたかは不明である。津波被害の記録からは,慶長三陸地震及び明治三
陸地震の各津波は日本海溝の北部で,延宝房総沖地震の津波は日本海溝の南部で発生したものと推定される。
三陸沖北部から房総沖の日本海溝は,プレート境界から陸に近づくにつれて同じような勾配,深さで沈み込んでいる。このようなプレートの沈み込みが同じようになっていることからして日本海溝の北部と南部だけ津波地震が
発生し,中部だけは起こらないとは考えにくい。過去400年間に中部では発生しなかっただけと推定することが妥当であり,中部を空白域とするのはプレートテクトニクスに基づく当然の結論である。
慶長三陸地震は,三陸地方で午前10時過ぎに震度4程度の揺れが感じられたにもかかわらず,津波はその4時間後の午後2時頃に到達しており,当
時における時刻の誤差を見込むとしても,
4時間という時間差は有意であり,
別の地震と考えて,強い揺れが感じられない津波地震が発生したものと判断した。その発生位置は不明であるが,三陸に大きな被害をもたらしており,日本海溝付近とした。
上記三つの津波地震のそれぞれの被害分布は異なるから,別々の場所で発
生したと考えて,ポアソン過程により確率を計算した(以上,甲A139の1・26頁,甲A140の1・8~10頁,甲A141の1・11~14頁,甲A141の2・25,26,56頁)。

(イ)日本海溝付近の津波地震の発生域に関しては,次の研究成果(甲A194の2の深尾良夫・神定健二日本海溝内壁下方の低周波地震域(邦題),丙B103の3・資料16,17),なお,低周波地震について甲A193)も背景にある。津波地震の発生域が構造的にみて海溝付近であることはほぼ確立しており,日本海溝の内側斜面域に低周波地震発生帯が存在することは,日本海溝に沿う海域における昭和49年~昭和52年に発生した611の地震を調べた結果などからも明らかである。この低周波地震の大規模なものが,津波地震であると上記研究成果が指摘していた。長期評価は,このような成果を基にし
て,日本海溝付近すなわち三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの海域を津波地震の発生域とした。
このように,津波地震が日本海溝沿いの帯状地域で発生したことは歴史資料から明らかである。これに基づき,日本海溝沿いの帯状地域が津波地震の発生域としており,津波地震が同帯状地域で発生したからといって,同帯状
地域のどこでも津波地震が発生するとは限らないが,上記成果を踏まえて,そのような結論を採用したのであり,長期評価は,このような背景がある。なお,平成9年から平成13年までの気象庁が公表した三陸沖から房総沖にかけての震央分布及び断面図を見ると,青森県沖や岩手県沖の領域(D,E)と福島県沖(G)の領域とでは,
海溝軸付近の微小地震の発生回数には明らか

な違いがあり,DやEでは,Gと比較すると,明らかに多いが,これは,あくまでも,限定された期間における結果にすぎず,このことから,海溝寄りのどこでも津波地震が起きるという評価に影響するものではない。以上のとおり,三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの南北を一つの領域として区分けする考え方は,長期評価により初めて示された見解であり,そ
の後,このように海溝寄りを一つの領域として区分けする見解が一般的となった(以上,甲A139の1・27,28頁,甲A140の1・13,14頁,甲A141の1・15,16頁,丙B103の1・36,56,64~67頁)。

長期評価の信頼度,異論等及び中央防災会議における審議状況等

(ア)長期評価における三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りのプレート間地震(津波地震)の発生領域の評価の信頼度がCとされた理由は,その南北方向のどの位置で発生するかが特定できず,想定震源域が特定できなかったこと,また上記津波地震の発生が3回以下であったことによるものであり,むしろ,
どこでも起こり得るとしたことに注意すべきである。
上記発生確率は,震源域の特定ができなかったために,ポアソン過程を用いて算出された。また,震源域が特定できても,最新活動時期が分からない
とBPT分布(長期評価におけるBPT分布は,最新活動時期の直後には次の地震の発生確率が低く,時間が経過するにつれて確率が高くなる性質を持つ。BPT分布は,固有地震に適用される。)による確率が計算できず,ポアソン過程を用いる。
BPT分布による確率は時間とともに変化するが,この値の長期間の平均値がポアソン過程を用いた確率となる。
上記発生確率の評価の信頼度については,上記ポアソン過程を適用し確率が求められたため,想定地震と同様な地震が領域内で何回発生しているかで信頼度が変化し,10回以上ならAとなるが,この領域での津波地震の回数は3回であったため,2~4回のCとされた。その趣旨は,明治三陸地震の震源域の位置が特定されないことなどから,発生の確率が動き得るというこ
とであり,発生の可能性があることを前提にその確率の計算値のあやふやさをいうものにすぎない。仮に,明治三陸地震の震源域が特定されていたとすると,その震源域付近の津波地震の発生の確率は下がるが,その震源域の南部は400年以上地震が発生していないのであるから,むしろその発生の確率は高まることとなる(以上,甲A139の1・28,29頁,甲A141の1・1
7~22頁)。

(イ)長期評価部会での議論としては,津波地震の領域設定について,論理は一貫しているという意見と,400年に3回とし,それが一様に起こるとした点に問題が残るという意見とがあった。ただ,慶長三陸地震,延宝房総沖地震及び明治三陸地震が,いずれも日本海溝寄りのプレート間地震としてポアソン過程で評価するとの方向で議論が進み,最終的には,いずれも津波地震であり,同じ場所で発生しているとはいい難いため固有地震として扱わず,同様の地震が,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りでどこでも発生する可能性があるという結論に至った。特段の異論もなく,このような結論に至った。特に,後記(ウ)のような様々な仮説,見解もあり,付加体があるところで津波地震が起こるという議論もあったが,強い異論も出ることはなく,プレート
テクトニクスという基本的な考え方に基づき,上記結論に至った(以上,甲A139の1・29頁,丙B103の1・58,108~111頁)。
(ウ)長期評価に対する異論となる研究論文には,福島県沖から茨城県沖にかけての領域でも大規模な低周波地震が発生する可能性があると指摘する一方で,福島県沖で厚い堆積物が発見できておらず,
大規模な低周波地震が起きても,
結果的に津波地震に至らない可能性を指摘するものがあった。
この研究論文(松澤暢・内田直希地震観測から見た東北地方太平洋下における津波地震発生の可能性,丙B1)は,発生領域の細分化を試みたものであり,結
果的に津波地震に至らないという一つの可能性を示唆したにすぎない。津波地震の発生域が海溝付近であることは確立した知見であり,長期評価はこれに従っている。長期評価の当時,海溝付近で発生する津波地震がどのようなメカニズムで大きな津波を起こすかは不明であり,様々な見解が並立していた。
上記研究論文は,未固結の厚い堆積物が津波地震発生には必要との仮説に基づき,福島・茨城県沖には堆積物が比較的少ないことから,上記可能性の
指摘に至った。なお,別の研究論文では,堆積物が少ない地域でも津波地震の発生を指摘するものもある。
また,延宝房総沖地震についてM6.5程度の可能性があるとして,同地震を慶長三陸地震及び明治三陸地震と一括して,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間地震(津波地震)というグループを設定して評価することを疑問視する見解(石橋克彦史料地震学で探る1677年延宝房総沖津波地震,丙B103の3・資料41)もある。長期評価は,この見解も織り込み済みであ
り,この見解を踏まえた議論を交わし,結論に至っている。また,この見解のように津波の被害に比べてMが小さいことは津波地震であることを示しており,長期評価と整合する。この見解は揺れの源である震源の位置を陸寄りに考えているが,長期評価では津波の被害域が広いことから,波源が沿岸寄りではなく,海溝寄りと推定した。延宝房総沖地震の津波被害は,宮城県岩
沼にも及んでおり,このような被害も重視している(以上,甲A139の1・29,30頁,甲A141の1・23,24頁,丙B103の1・111~114頁)。
(エ)中央防災会議においては,審議において長期評価と同様に日本海溝付近のどこでも明治三陸地震級の津波地震が発生することを被害想定に含めるよう主張したが,大勢に押し切られる形で受け入れられることはなかった。すな
わち,先手必勝ということでいうならば,100年しかたっていない明治三陸地震が近い将来に発生する可能性が高いとして津波被害の想定対象とした中央防災会議の結論は不適当であり,むしろ南部の空白域を対象とすべきであった。それが過去400年間という限られたデータで議論する以上,地震学的には妥当な推論である。特に,防災に優先順位付けがあるならば,なお
さらその南の空白域を対象とすべきであった(甲A139の1・31,32頁,甲A141の1・30,31頁,丙B103の1・115,116頁)。

津波評価技術の評価

(ア)津波評価技術の基本的概念は,過去になかったことは将来もないとする点で中央防災会議の決定と共通し,長期評価とは相容れないものである。津波評価技術は,当時,推進本部地震調査委員会では特に議論の対象となっていなかったが,仮に既往最大の津波を想定対象とするならば,前提として,繰り返しの期間が400年よりも短いこと,それが保証できるかどうかが明らかにされることが必要である。既に指摘したとおり,長期評価の考え方は,歴史資料が不十分であることを考慮し,繰り返しの間隔が長い場合には歴史に残らない可能性を考慮している(以上,甲A139の1・32頁)。(イ)長期評価は,地震災害軽減を考慮しており,安全側の想定に立ったものではない。安全側に偏った想定をすると,評価全体を検証する場合に困難を生じるからである。長期間のデータがなく,時間軸が限定されているため,空間軸を拡大することによって標本数を増やし,統計的な検証を可能としている(甲A139の1・32,33頁)。

(ウ)長期評価は,
津波地震の発生域として日本海溝付近の帯状域を設定したが,
このような設定はおそらくこれ以前には存在していなかった。他方,津波評価技術の地震地体構造論は,過去の地震活動に基づき細かく区分した従前の研究論文による。しかし,空間を細かく区分するならば,時間軸を広くとる必要がある。そうしないと,十分なデータが得られないからである。また,
そもそも,地震地体構造論は,同じ地質構造を持っているところは同じような地震の発生があるという基本的な考え方をしており,例えば,福島県沖を含んだ領域では,延宝房総沖地震が発生している以上,これを既往最大地震と捉えて,このような地震が福島県沖でも発生すると捉えるべきであるが,津波評価技術はこれをさらに細分化して延宝房総沖地震を福島県沖の領域に
取り込んでいない。つまり断層の設定が恣意的にされている。津波評価技術にはこのような問題があった(甲A139の1・33,34頁,甲A141の1・27頁)。


本件地震,本件津波と長期評価

(ア)本件地震は連動型地震であり,解析によると,その破壊は3段階に分かれる。
最初の40~60秒程度の第一段階では,通常の海溝型地震であり,その後の第二段階では,
プレート境界の極浅部,
海溝付近で大きなずれが起こり,
この異常に大きなずれに引きずられたように,80~90秒後の第三段階では,破壊が宮城県沖の南北,特に南に拡大したと考えられる。
その破壊は,まず三陸沖南部海溝寄りで始まった。長期評価では,M7.7前後,30年以内の発生確率が80~90%と推定されていた。破壊は,その後プレート境界の深部に当たる宮城県沖に及んだ。
長期評価では,
M7.
5前後の地震の30年以内の発生確率が99%とされた海域である。これは,
上記二つの海域が連動した1793年の寛政地震のように,そのような連動
地震の発生自体は想定されていたが,規模はM8.0前後とされていた。この段階での本件地震の規模はM8.4程度であった。
第二段階では,大きなエネルギーの放出と海溝付近での50mに及ぶ異常に大きな海底の動きを伴い,
この破壊域には激しい揺れを生じる震源はなく,
明治三陸地震と同様の津波地震が日本海溝付近で発生したと考えられる。津
波の波形データ(甲A140の1・28頁)に照らして,50m近くの非常に大きなずれが起き,高い津波が発生したこと,すなわち日本海溝沿いで津波地震が発生したことがわかる。
破壊の最終段階では,三陸沖中部,福島県沖,茨城県沖への拡大が特徴づけられる。福島県沖と茨城県沖では,長期評価より規模の大きい破壊が発生
した。長期評価では,福島県沖におけるM7.4程度の地震の複数続発の30年以内の発生確率は7%程度以下であったが,本件地震に係る福島県沖での規模はM7.
7相当の強い揺れを伴う破壊が起こったと推定される(以上,
甲A139の1・34頁,甲A141の1・32頁)。

(イ)本件地震は,長期評価において想定した津波地震が,宮城県~福島県沖に発生したと考えられる。多数の研究者が,地震の第二段階及びそれ以降において,津波地震が発生したことを示す解析結果を発表している。
ただ,本件地震に係る津波地震は,本件原発にとって想定される最悪のケースではなく,この津波地震が,海溝に沿っておよそ100km程度南にずれると最悪のケースとなると考えられる。また,明治三陸地震と異なり,本件地震は,
海溝付近のみならずそれよりも西側の部分も破壊した。
このため,
貞観地震と同様揺れが大きく,浸水域の広い津波を伴った(以上,甲A139の1・34,35頁)。

(ウ)長期評価に基づき,O.P.+10mを超える津波の到来は十分予測可能であった。長期評価に基づき,明治三陸地震の断層モデルの位置を福島県沖の海溝付近に移動して計算を行えば,津波評価技術に基づく本件試算と同様の結果が,平成14年時点に得られたはずであり,本件原発にO.P.+10mを超える津波が襲う危険は十分に察知できたはずである。
明治三陸地震のMtを検討すると,その遡上高の区間平均最大値から求められるMtは9.0となり(ただ,阿部名誉教授の論文では,Mt9.0は過大評価気味である一方,長期評価に記載したMt8.2は小さく,外国の検潮所からMtを
求めると,正確には8.6となるとしている。丙B103の3・資料36),区間の平
均遡上高は15~16m,最大遡上高は31~32mとなり,本件津波の実際の遡上高34mとおおむね一致したものとなっている。
貞観津波については,長期評価に含まれておらず,長期評価では対策が不十分であるとの議論もあるが,津波の高さが防潮堤の高さを超えるかどうかの検討によって防災対策を進めるのが通常である。
また,地震空白域において地震津波を想定するときに過去に起こった地震を調べてその断層モデルを用いることは地震学において極めて常識的な方法であるし,今回の日本海溝沿いで断層モデルが確定しているのは明治三陸地震だけであり,明治三陸地震の断層モデルを用いるのは当然のことであり,
これが,無理な仮定による試算などとすることはできない(以上,甲A139の1・35,36頁,甲A139の2,甲A140の1・31頁,甲A141の1・33~36頁,甲A141の2・2,3頁,丙B103の1・103~105頁)。
(2)都司委員の見解
都司委員(地震,津波,特に歴史的な地震津波の専門家であり,長期評価の当時,地震調査委員会の委員であった。
丙B101の1・47頁,
丙B104の1・106頁)
は,
おおむね島崎元部会長と同様の趣旨の見解を述べているが,その概要は次のとおりである。

地震・津波予測の限界

(ア)我が国における歴史地震,津波の研究は,江戸自体以降の文献資料の豊富さ等と昭和初め頃から精力的に収集された資料に支えられ,古記録による津波被害の状況から津波高さの推定作業なども進むなど,世界的に誇る状況にあるが,過去の歴史地震等に関する情報が必然的に一定の制約を受けている限界がある。
すなわち,
近代的な地震・津波の観測資料は,
130年余りの期間であり,
特にその細密化はここ30年位のもので極めて短いものしかなく,これを補
う歴史地震の研究も,記録の欠落や地域による資料の精粗もあり,特に東北地方等は,江戸時代以前にはわずかな例外を除き,歴史記録が残されていないが,これは,東北地方等において過去に大きな地震,津波が発生しなかったことを意味するものではない。
このように,時期,地理的要因その他の限界から,歴史地震として確認さ
れる既往最大の地震・津波が,将来において発生し得る最大の地震,津波と限らないのは当然であり,地震学者にとっては自明のことである(以上,甲A180・25~29,31~35頁,甲A181・1~3頁)。

(イ)固有地震に関しても同様であり,
歴史資料から固有地震と確認でき,
かつ,
その中には,
その繰り返し周期を相当明確に把握できるものもあるが,
逆に,
固有地震として把握されていないものが繰り返さないということを意味するものではない。歴史記録の時間的射程を超える固有地震について,地質学的な調査研究により追認できるものもある。
地震発生の空白域について,特定の類型の地震が発生しない原因として,実際には地震の発生のメカニズムから当該地域で当該類型の地震が発生しにくい特殊な事情があることもあり得るものの,その空白域における地震の発生が時間的ずれており,たまたま歴史的時間幅の中で空白域と見える領域で
地震の発生がなかった,あるいは記録に残されなかったにすぎないこともあり得る。
このように,明確に繰り返しが確認できる地震の性質の説明として,固有地震の考え方は有益であるが,他方,固有地震といえないことから,同種の地震が繰り返すとはいえないなどという結論を安易に導くことはできない。
また,中央防災会議における検討結果は,財政的な限界を踏まえた行政的な割り切りとして検討対象を限定したと理解できるが,
地震学の見地からは,
疑問を感じざるを得ない(以上,甲A180・35~38頁)。

長期評価の内容

(ア)長期評価における領域区分は,過去に発生したことが知られている主な地震を整理し,これを根拠に三陸沖北部から房総沖の海溝寄りなどの領域分けを行った。すなわち,日本海溝沿いの過去に発生した,明治三陸地震,延宝房総沖地震及び慶長三陸地震の三つの津波地震が日本海溝寄りで発生したとしている。

また,日本海溝は,太平洋プレートが,日本列島が載っている北米プレートに沈み込んで形成されているが,そのプレート境界の形状が北側から南側にかけてほぼ同様であり,太平洋プレートの沈み込みによる日本列島の東日本部分がほぼ同様の水平移動をしていることがGPSにより確認されている。このように,同様の構造のプレート境界の海溝付近でどこでも同じような
津波地震が発生する可能性があることからして,上記三陸沖北部から房総沖の海溝寄りという領域が設定された。過去に同領域の一番北端において明治三陸地震,同南端において延宝房総沖地震,これら以外にも慶長三陸地震,また,メカニズムは異なるが,正断層型の地震である昭和三陸地震という四つの地震が発生していること,平成9年~平成13年の気象庁が示した震源断面図をみると,その断面図には微小地震の震源が示されているが,日本海溝の位置からプレートが沈み込む角度が大きくなるところから非常にたくさんの微小地震の震源が並んでおり,ここに応力が蓄積され,普段から微小地震が非常によく起きていることがわかること,その微小地震の起こる頻度について,日本海溝の北部から南部まで相違はなく,三陸北部,岩手県北部の沖合,宮城県の沖合,金華山沖,福島県の沖合,房総の沖合までほぼそ
の構造が変わらないこと,他方,日本海溝からおよそ70kmの範囲内で微小地震がほとんど起きておらず,
地震学的に同じような性質をもった領域
(た
だ,北部と南部で地質構造に違いがある部分もあって,全く同じではなく,起こる地震の大きさとしても,北がやや大きく,南がやや小さい傾向にはある。)であることを
示していることが指摘される(以上,甲A180・39~42,甲A181・8,9,11,27~29頁,甲A182・8~12頁,甲A183・50~52頁)。
(イ)津波地震は,明治三陸地震による津波の解析を基に昭和47年の研究論文において初めてその用語が提唱されたが,従前から知られていた低周波地震(昭和3年の研究論文(甲A193)により初めて提唱された,周期が長く,人が弱くしか感じられないが大きな津波を伴うことのある地震が海溝近くに発生するというもの)が日本海溝からおよそ六,七〇kmの幅でゆっくり起きること,その低
周波地震の大規模なものが津波地震であるとの見解(甲A194の2)が提唱され,それが有力となってきていた。
その後に,Mtの概念が確定され,MtがMより0.5以上大きいものを津波地震と定義し,その定量的な研究が行われるようになっていった。また,海溝軸のすぐ近くで断層がずれると津波地震となる理由としては,海溝軸付近では沈み込みの角度が比較的浅くても,プレート境界の断層に存在する付加体(固体になりきっていない部分)が断層のずれにより隆起し,これが海底面を上がることにより大きな津波が発生すると考えられる。なお,付加体は,茨城県沖から福島県沖にかけても分布しており,津波地震の発生の可能性を示唆している(以上,甲A180・42~44頁,甲A181・
29~33頁,甲A183・72,73頁)。

(ウ)まず,明治三陸地震は,典型的な津波地震であり,三陸町綾里白浜で浸水高38.
2mに達し,
2万2000人もの死者が出ている。
震源については,
日本海溝軸付近と考えられる。
延宝房総沖地震は,歴史記録から,銚子において地震の揺れそれ自体は並の揺れであり,水戸藩や平藩では地震動に触れられておらず,他方,津波被害について豊富な記録が残っていること,特に宮城県岩沼と広範囲の津波被害が発生し,海溝寄りのプレート間の津波地震であると考えるほかなく,海溝型分科会においても議論の結果,そのような結論に達した。
慶長三陸地震も,歴史記録から,地震の揺れがあったものの,地震による
死者の記録はなく,他方,地震発生から津波襲来まで4~6時間が経過し,大きな地震動をもたらした地震と津波をもたらした地震が別の地震であること,同津波の襲来により三陸沿岸では甚大な被害が発生し,その浸水高が21mに達する地点もあったと推測され,その被害範囲も北海道から三陸海岸南部,福島県相馬市付近にまで及んでいるなど,広範囲であったことが確認
でき,その震源域は海溝寄りと推認されるなど,津波地震であったと考えられる(以上,甲A180・45~54頁,甲A181・35~45頁)。(エ)長期評価における津波地震に関する結論については,海溝型分科会における島崎元部会長を含む,第一線の地震理学者らの議論により到達した。第8回分科会において,
カップリングに関する従前の議論が絶対視できず,

数百年間の津波の知見は限定的なものであるとの認識が共有され,第9回分科会及び第10回分科会において,慶長三陸地震や延宝房総沖地震の震源や波源域に関して議論がされたが,はっきりした結論には達せず,最終的に津波地震三つをいずれも日本海溝沿いと考えるという方向性ができ,ポアソン過程で評価する方向でも議論が進んでいったこと,第12回分科会においても,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震について位置,メカニズムが不明の点もあるが,大きな津波が発生して被害が生じた点は明治三陸地震と共通していること,慶長三陸地震に関して千島沖震源ではないかとの意見や延宝房総沖地震の震源は陸寄りにあるとの見解の検討もされたが,議論を重ね,その結果,慶長三陸地震,延宝房総沖地震及び明治三陸地震の三つの地震を津波地震として確率を計算することとなった。

以上の議論の経過を踏まえて,
最終的に上記三つの地震を津波地震として,
ポアソン過程を適用した確率評価がされ,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのどこでも同様の津波地震が発生する可能性があるとの結論に至った(以上,甲A180・54~57頁,甲A181・42,43頁)。

(オ)慶長三陸地震に関しては,歴史記録から,その津波の原因が地震そのものではなく,これに誘発された大規模な海底地滑りの可能性も指摘できる。もっとも,海底地滑りが原因であったとしても,長期評価における津波地震の定義とは矛盾しない。その波源域については,歴史記録から考えられる宮古に津波が到達した時間,約2000~3000人という伊達藩や南部藩における死者の数の記録などとともに,北海道の津波堆積物について年代がずれ
ている可能性も指摘されることから,
千島沖ではなく,
三陸沖と考えられる。
現時点では,慶長三陸地震について,日本海溝の海溝軸よりも沖側(東側)で生じた正断層型地震の可能性が,海底地滑りの可能性よりも考慮される。正断層型地震とするならば,海溝沿いのプレート間地震すなわち津波地震と発生メカニズムを異にするため,津波地震ではないこととなる。

延宝房総沖地震の波源域に関しては,日本海溝の近くに寄った位置に波源があると考えられ,南は静岡県の伊東から北は宮城県岩沼と広範囲に津波被害がわたっているといった先行研究や津波の分布高から房総沖が波源域とみられるとの先行研究もある。他方,従前,陸寄りとの見解もあったが,現時点で,津波が到達した範囲からM6ということはあり得ないと考えられているし,長期評価の当時においても大部分の地震学者はそのように陸寄りとの見解をローカルなものとして採っていなかったものと考えられる。
長期評価は,地震学者が,集団的議論を尽くして一定の結論に達したものであり,見解の相違からその重要性が否定されるべきものではない(以上,甲A180・57,58頁,甲A181・46,47頁,甲A183・29,30,34~38,54,55,74~77頁,甲A202)。
(カ)長期評価における信頼度について,発生領域の信頼性Cというのは,ある大きな領域の中で同じような地震が起きており,将来同じような地震がこの領域の中のどこかで起こることは確実に分かっている。ただ,その中のどこかが分からないという趣旨であり,宮城県沖や福島県沖の日本海溝沿いなど,その領域内の特定の場所では津波地震が起こる可能性を否定するものではない。

なお,周期性が明確である場合には,一つ前の地震が起きた直後の確率が低く,年数がたつと確率が高くなるため,BPT分布によるが,一定の期間内に地震が起こるというその確率は分かっているが,直後にその確率が減るとはいえないときはポアソン分布を用いている。三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域については,Cポアソンであり,133年に1回起こ
るが,直前に発生したから次に長く起きないとはいえないという趣旨であって,明治三陸地震や延宝房総沖地震と同じような地震が,福島県沖や茨城県沖で起こるということを意味する(以上,甲A181・48~51頁)。ウ
本件津波の特徴等

(ア)本件地震は,北米プレートとその下に沈み込む太平洋プレートの境界面のすべりによって生じた海溝型地震であり,我が国観測史上最大のM9.0を記録した超巨大地震であった。本件地震による本件津波は,千葉県以北から青森県にかけての海岸を襲い,岩手県宮古市,大槌町,大船渡市,陸前高田市,宮城県南三陸町,女川町などの三陸沿岸の市街地が完全に流失し,死者行方不明者は1万9000人に上り,明治三陸地震の津波の死者数2万2000人に迫る数字となった。
本件地震の震源断層面は,海溝に沿った方向の長さが約500km,沈み込む方向に沿った長さが約200kmとされ,すれの量は平均で約10m,最大で約50mにも達した。
本件地震は連動型超巨大地震であったとされる。連動型超巨大地震と
は,地震が二つ以上の各プレートの境界型巨大地震の固有の領域にまたがって起きる超巨大地震であり,我が国では,1707年の宝永地震がその例とされ,海外ではスマトラ沖地震がその例であったとされる(以上,甲A180・58頁,甲A181・6頁,甲A183・46,47頁)。

(イ)本件津波は,連動型超巨大地震である本件地震により起こされた。ただ,津波が大きい地震が常に連動型ということではない。例えば,明治三陸地震の津波の最高浸水高は38.2mに達したが,連動型地震ではない。連動型ではないが巨大な津波が発生する地震は,狭いコア領域内で大きな海底隆起量をもたらす海溝型地震である点に特徴がある。本件地震でもコア領域があり,その内部では海底が約15mも隆起したと推定される。
上記コア領域のサイズは東西約70km,南北約100kmであるが,この領域から発せられた津波は巨大であり,三陸沿岸で地震発生後約30分から50分後に見られた大津波は,このコア領域から発した津波である。単独型の海溝型地震であっても,このコア領域に相当する狭い領域内での大きな海底隆起量という現象が生じると,高い津波が発生する(以上,甲A1
80・59,60頁)。

(ウ)本件地震や宝永地震のような700年あるいは1000年に一度の連動型巨大地震は,今回のように極めて高い津波を生じさせるが,これほどの規模ではなくても,100年に1回クラスの地震,例えば,明治三陸地震や昭和三陸地震などによる津波であっても,その津波高さが約10数m~20数mになることはある。
長期評価を踏まえると,明治三陸地震と同様の津波地震が三陸北部から房
総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性が指摘され,明治三陸地震の津波で本件原発の敷地高を超えることは予測可能であった(以上,甲A180・60,61頁)。


本件原発への津波の影響等

(ア)津波が海岸に近づいた際の動きについて,海岸線が自然的地形又は人工的地形のいずれであっても,①V字型をしていると,奥に行くほど湾の幅が狭まり,
津波の面積当たりのエネルギーが増えて津波の高さが高くなり,
また,
②海岸線が直線的で沖に向かって浅いところが突き出ている場合も津波のエネルギーが集中し津波の高さが高くなることが知られているが,本件原発の
敷地もいかなる理由にせよ,南防波堤と呼ばれる防波堤とそれと直角で交わる人工海岸線はV字型の地形に当たり,かつ,本件原発が面する東側の海底の等深線から見ても,浅いところが突き出ており,津波が襲来した場合には津波の高さが高くなるような地形となっていた(甲A181・13~16,甲A182・16~19頁)。

(イ)陸上を遡上する津波について,建物に津波の先頭すなわち段波が真正面から急に打ち当たると大きな衝撃を受ける。他方,建物の後方や側面などでゆっくり水位が上がる場合には水の圧力が徐々に増すだけであり,衝撃はそれほどない(甲A181・18~20頁)。
(3)佐竹委員の見解

佐竹委員(現長期評価部会部会長,地震やインバージョンすなわち逆解析による津波発生メカニズム研究の専門家,
丙B101の1・47頁,
丙B104の1・106頁)
は,
次のとおりの見解を述べる。

津波地震等

(ア)地震の中には,津波から決めたMtが地震波から決めたMよりも異常に大きいものがあり,これが津波地震である。推定M6.8~7.4に対し,推定Mtが8.2~9.0に及ぶような明治三陸地震が典型である。自らの先行研究(谷岡・佐竹論文)において,津波地震のモデルについて,三陸沖など起伏の大きなプレート境界の海溝近くでは,典型的なプレート間巨大地震は発生せず,
津波地震などのみが発生するというモデルを提案した。
すなわち,津波の原因は,断層運動による地殻変動が起き海底が上下する
ことによると考えられるが,一般的なプレート地震では,プレートのかなり深いところで断層運動が起き,それによる地殻変動すなわち隆起・沈降はかなり広い範囲に及ぶ。他方,津波地震は,海溝付近の付加体(沈み込むプレートすなわち下盤プレートの一部がはがされて上盤プレートの方に付加されたもの,一般
的には,最近付加した柔らかい堆積物などである。)の下で起こることが多く,非
常に狭い範囲で非常に大きな海底地殻変動が起き,これが津波の原因になると考えられる。
このモデルが正しければ,津波地震は三陸沖など特定の場所でしか発生しないこととなる。他方,プレート間巨大地震の海溝側で発生した余震が津波地震であった例もいくつか報告されており,この場合,津波地震はプレート
間地震の発生する場所であればどこでも発生することとなるが,いつも余震ということなら,その規模は本震を超えることはない。このように津波地震のメカニズムや発生領域に関する理解は進んできているが,まだ完全には解明されていない(以上,甲A185・6,7頁,甲A186・8,9頁,甲A187・4頁)。

(イ)検潮儀上の津波の振幅すなわち津波高さと震源から観測点までの距離から,Mtを計算でき,MtとMwが等しいと仮定(調整係数を用いて等しくなるようにする。)すると,Mwと震源から観測点までの距離を用いて津波の高さを計
算できる。また,ある程度の震源域(波源域)の中では津波の高さは一定の値になると頭打ちになることを踏まえることにより,Mwの大きさから予測される津波高さの最大区間平均高(本件津波を例にとると,岩手県の区間平均高20mとなる。なお,最大区間平均高の約2倍が全域における津波高さの最高値となるとさ
れ,実際に本件津波の岩手県における津波の最高高さは約40mである。)を求める
ことが可能となる。
このように,Mwが判明している場合に津波高さを予測することができるが,地震波に基づくMwが判明していない明治三陸地震のような場合において,遡上高からMtを算出し,上記の計算を用いて津波高さを算出するよう
な方法は一般に行われていない。(以上,甲A186・4~7頁,甲A187・3頁)。


4省庁報告書の位置付け

(ア)4省庁報告書の位置付けについて,もとより総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討する目的でその概略的把握を行ったという,同報告書の記載からも明らかなとおり,具体的な津波対策の津波の想定を設計条件に適用することまで想定したものではなかった。
例えば,4省庁報告書では,より多くの震源モデルの検討対象とすべく,津波数値計算モデルを一部簡略化したモデルを使用している。海岸近傍の津
波の挙動の詳細を表すために当時既に理論化された計算式があったが,これを用いずに,より簡略なモデルを用いているため,日本全国の沿岸波高の概略値の把握に役立った一方,その結果,概略値にとどまり,大きな誤差が生じることもある(以上,甲A185・10,11頁)。
(イ)また,津波の数値計算には様々な不確定性が含まれ,計算結果をそのまま
利用できないため,計算結果を中央値とするカーブで当てはめて,計算力のばらつきを推定する。
4省庁報告書では,計算結果である計算値と既往津波の実測値の比を比較しているが,その幾何分散が1.49であったとされる。要するに,実際の津波の高さが,
計算値の1.
49分の1~1.
49倍の間に入る確率は68%
であり,仮に95%の確率で実際の津波高を推定する場合,計算値の1.492分の(1~1.49)2すなわち約0.45~約2.22倍までの範囲を
考慮する必要がある。
これを個別地点で見ると,1~4号機が所在する大熊町や双葉町における津波高さ6.4~6.8mでは,実際の値を68%の確率で表すには,4.3(6.4÷1.49)~10.1(6.8×1.49)mとなり,95%の確率で表すには,2.88(6.4÷1.492)~15.1(6.8×1.492)m
となる。このように計算結果には不確かさがあり,それを考慮すると,津波高さは幅を持った値でしか表現できない(以上,甲A185・11,12頁,甲A186・13~15頁)。


津波評価技術

(ア)津波評価技術は,将来発生することを否定できない地震に伴う津波を評価対象として,地震の発生位置と規模(Mw)を設定し,断層パラメータ間のスケーリング則に基づき,各パラメータを推定し,基準断層モデルとする。このうち,日本海溝沿いに関しては,過去に繰り返し津波が発生し,プレート境界形状等に関する知見が比較的豊富であるから,既往津波の痕跡高を
説明できる断層モデルにスケーリング則を適用し,海域ごとの特徴を反映した基準断層モデルを設定することとなる。
また,波源位置に関して,地震地体構造区分図に基づき,過去の地震の発生状況等の地震学的知見を踏まえ,合理的と考えられる更に詳細に区分された位置に津波の発生様式に応じて設定する(以上,甲A185・15頁)。
(イ)想定津波の予測計算における波源の不確定性,数値計算上の誤差,海底地形・海岸地形等のデータの誤差を含めた評価のため,基準断層モデルのパラメータを合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施することによりその結果得られる波源群の中から,評価地点における影響が最も大きい津波を設定想定津波として選定する(甲A185・15頁,甲A186・19頁)。(ウ)数値計算については,近海伝播を対象に基礎方程式として,移流項・海底摩擦を含んだ非線形運動方程式である浅水理論を適用したものを選定し,空
間格子間隔の設定においては,波源域,伝播過程における海域,評価地点周辺の海域,遡上域の各部分領域で精度の良い計算結果が得られるよう,それぞれの海域の特性に応じて適切に設定する(甲A185・16頁)。(エ)日本海溝沿いにおいては,主に過去に発生した地震に基づいて基準断層を設定するが,福島県沖については,福島県東方沖地震に基づく基準断層モデ
ル(Mw7.9)が提示されている(甲A185・16頁)。
(オ)このように,津波評価技術は,原発の設計基準として,どの程度の津波を設定すべきであるかという観点から,原子力施設における津波対策に資する目的で策定されたものであり,特定地点における津波高すなわち設計津波水位を推定するものであるといえ,4省庁報告書と比較してより精緻な分析を
行っている(甲A185・17頁)。

長期評価

(ア)長期評価における領域区分は,過去に発生した地震に基づいて行われている。三陸北部から房総沖の日本海溝寄りの領域について,そのプレートの沈み込みの角度は北部と南部で異なるところはないが,海溝軸付近の詳細な地形や堆積物の厚さなどに違いがあり,それが津波地震の発生の有無に影響する可能性がある。
すなわち,明治三陸地震が起きた付近の海底は凸凹があり,これにより地塁と呼ぶ凸の部分では堆積物がたまらないので,陸側である上盤と強くカッ
プリングし,海溝付近でも地震が発生するが,このような海底の凹凸がない部分では堆積物が一様に入ってくるので,付加体の下では固着が弱まり,カップリングが弱まって地震を起こしにくいということが考えられていた。日本海溝沿いの北部では海溝付近に凹凸が多く,海溝軸付近でより厚いくさび型の形をして堆積物がたまっているが,他方,同海溝沿い南部のでは海溝付近に凹凸がなく,堆積物が一様な厚さでシート状に沈み込んでより深いところまで堆積物が存在していた。このようなカップリングの相違があること自体は,実際の調査結果からも裏付けられており(丙B19の2),この相違が津波地震の発生の有無に影響するということが一つの仮説として考えられていた(以上,甲A186・23~27頁,甲A187・16~19頁)。(イ)長期評価の領域区分の根拠となっている,気象庁が公表した平成9年から
平成13年までの三陸沖から房総沖にかけての震央分布及び断面図を見ると,青森県沖や岩手県沖の領域(D,E)と福島県沖(G)の領域とでは,海溝軸付近の微小地震の発生回数には明らかな違いがあり,DやEでは,Gと比較すると,明らかに多い。
また,先行研究(甲A194の2)などからも,日本海溝の北部における低
周波地震・超低周波地震の発生件数は,同南部と比較して多く,微小地震,低周波地震・超低周波地震の発生について,北部と南部とで明らかに違いがある。
長期評価策定に係る海溝型分科会においては,日本海溝寄りの北部と南部の構造,地形等について議論されていない(以上,甲A186・28,29頁,
甲A187・20~22頁)。

(ウ)長期評価の手法について,今後30年間の地震発生の可能性を確率として表現するが,その地震発生間隔について,BPT分布を仮定する場合とポアソン過程を仮定する場合とがある。地震発生の時間的性質について,規則正しく発生する更新過程と全くランダムに発生するポアソン過程と呼ばれる各モデルがある。
更新過程は,特定の繰り返し間隔にピークを持つような分布となるが,ポアソン過程は,ピークがなく,地震発生間隔が長いものほど少ないという対数分布となる。更新過程において,物理的意味付けのしやすさ(プレートの沈み込みによって一定の割合で応力が蓄積する過程において周辺に発生した地震などによる影響や揺らぎを酔歩モデル(プレート境界における応力の蓄積は一定であるが,地震の発生が完全に規則的ではないことを示す。)として表現し応力が一定値に達すると地震が発生する。)から,BPTモデルが採用された。過去の地震の履歴すな
わち平均繰り返し間隔と最新活動時期が分かればそれぞれのモデルに基づき今後一定期間すなわち今後30年間の地震発生確率の計算ができる。他方,ポアソン分布を仮定すると,地震の発生する確率は時間によらず一定である。長期評価では,更新過程が期待される場合でも,十分なデータがない場合,いわばどこでも起こるという仮定の下にポアソン過程を用いて確率を推定した(以上,甲A185・18,19頁,甲A188・24,25頁)。(エ)長期評価において,三陸沖の日本海溝付近では1611年と1896年に各1回,房総沖の日本海溝付近では1677年に1回,いずれもM8クラス
の津波地震が発生していたとして,これらの繰り返し期間が不明なため,ポアソン過程に基づき,今後30年間に三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの海域のどこかで津波地震が発生する確率は20%とされた。
第9回海溝型分科会において,津波地震が日本海溝沿いのどこでも発生するという考え方と明治三陸地震の波源域で繰り返し発生するという考え方の
いずれを採用するかが議論され,津波地震が決まった領域で発生するというモデルを既に提出していたが,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の波源域が明らかではないことから,過去の津波地震は海溝沿いのどこかで発生したと評価することとなり,その結果,津波地震は日本海溝沿いのどこでも起こり得るという解釈になる。ただ,福島県沖で津波地震が発生する可能性を議論
したり,そのようなデータが明示されたりしたものではない。
第10回海溝型分科会において,延宝房総沖地震及び慶長三陸地震が津波地震ではないとの指摘がされたり,第12回の海溝型分科会において慶長三陸地震の波源域が三陸沖ではなく,千島沖である可能性が指摘されたりした(以上,甲A185・19,20頁)。

(オ)長期評価の公表後,福島県沖から茨城県沖にかけての領域でも大規模な低周波地震が発生する可能性があるが,日本海溝沿いの構造の調査の結果(丙
B19の2)に基づき,福島県沖の海溝近傍で三陸沖のような厚い堆積物は見
つかっておらず,大規模な低周波地震が起きても海底の大規模な上下変動は生じにくく,結果として大きな津波は引き起こさないかもしれないといった研究報告(丙B1),慶長三陸地震の津波の発生原因について,海溝付近で発生した津波地震ではなく,地震によって誘発された大規模な海底地滑りであ
る可能性が高いとした見解(丙B2)なども出されている(甲A185・22,23頁)。


確率論的津波ハザード解析手法

(ア)確率論的津波ハザード解析手法とは,津波高の推定に関する各種の不確定性を系統的に処理し,工学的判断のための資料を提供するものであり,一定地点で将来の一定期間に一定の津波高を超過する確率を評価する手法である。上記不確定性は,偶発的不確定性と認識論的不確定性とに分けて考えることができる。偶発的不確定性は,地震の規模や地震動の強さのばらつきのように現実に存在しているが現状では予測不可能と考えられる性質の不確定性
で,低減できないものである。認識論的不確定性は,ハザード解析モデルのパラメータやモデル化自体に関する不確定性であり,科学技術の進歩により低減でき,不確定なモデルパラメータをロジックツリーの分岐として表現することによりモデル化される。
ロジックツリーの分岐とは,津波発生域をどこに設定するか,地震の規模
をどのくらいに設定するか,地震の発生頻度をいかなる間隔で設定するかなど判断が分かれる事項について,複数の選択肢すなわちロジックツリーを場合分けし,専門家に対するアンケート調査により分岐の重みを設定する(以上,甲A185・26,27頁)。

(イ)平成21年の津波評価部会においてまとめられた確率論的津波ハザード解析の方法では,ロジックツリーの例として三陸沖から房総沖の海溝寄りの津波地震の発生可能性を検討しているが,その分岐として,①過去に発生例が
ある三陸沖と房総沖でのみ過去と同様の様式で津波地震が発生する,②活動域内のどこでも津波地震が発生するが,北部領域に比べて南部領域ではすべり量が小さい(北部では明治三陸地震モデルを移動させ,南部では延宝房総沖地震モデルを移動させる),③活動域内のどこでも明治三陸地震タイプの津波地震が
発生し,南部でも北部と同程度のすべり量の津波地震が発生する(全域で明治
三陸地震モデルを移動させる),を設けて,それぞれに専門家のアンケートを実
施したが,①の重みが0.4,②の重みが0.35,③の重みが0.25となっている。すなわち,福島県沖での明治三陸地震と同様の津波地震の発生の可能性について,専門家の25%が肯定的な見方をする一方,否定的な見方をする専門家が40%であったことがわかる(甲A185・28頁,甲A18
6・34,35頁)。


本件地震までの地震,津波の知見の状況と本件地震等

(ア)従前,プレートの年代が若いほど,温度が高く,密度が低いので浮力が生じ,プレート境界が固着しやすく,巨大地震が発生するが,他方,太平洋プレートのように古い海洋プレートは,温度が低く,密度が高いため大地震を起こすことなく沈み込むという比較沈み込み学が提唱されていた。この比較沈み込み学に加えて,福島県沖はGPSの観測結果から,プレート間の固着が小さい領域であり,小さな地震等によりひずみが解消され,福島県沖での大規模な地震の発生は想定されていなかった(以上,甲A185・
29頁,甲A186・44,45頁)。

(イ)佐竹論文において,貞観地震の規模やメカニズムを推定するため,日本海溝沿いの様々なタイプの断層モデルから,仙台平野及び石巻平野の津波浸水シミュレーションを実施し,これを調査済みの津波堆積物の分布と比較し,その結果,プレート間モデルは,断層幅100km,すべり量7m以上の場合が上記津波堆積物の分布をよく説明できるとなった。この断層モデルのMwは8.4である。断層の長さは200kmと固定したが,南北方向への広がりを調べるため,仙台湾よりも北の岩手県あるいは南の福島県や茨城県での調査が必要としている。
佐竹論文を踏まえて,プレート間地震の断層モデルに基づき,津波浸水計算を実施し,石巻平野,仙台平野及び浪江町請戸地区における津波堆積物の
位置と計算浸水範囲を比較した研究論文では,その津波堆積物の位置まで浸水するのは,
断層の長さが200kmのモデルのみであるとわかった。
ただ,
その研究論文においても,断層の南北方向への広がりを更に検討するためには,石巻平野よりも北の三陸海岸沿岸あるいは請戸地区よりも南の福島県や茨城県沿岸における津波堆積物の調査が必要としている(以上,甲A185・
29~33頁,甲A186・45~51頁)。

(ウ)津波波形データの解析から,本件津波を発生させたすべり分布を明らかにしたところ,4m以上のすべりは長さ400km,幅200kmにも及び,すべりは震源の東側の海溝軸近くで最も大きく,30m以上に及んだ。震源を含むプレート境界のやや深部でも10m以上滑った。地震波形の解析や陸上のGPSデータの解析からも同様のすべり分布が得られており,海底における様々な観測データからすべり量は最大50m以上であったとの報告もある。
本件地震のすべり分布をみると,海溝軸付近の大きなすべりは,明治三陸地震の断層モデルとよく似ており,同断層モデルを,日本海溝に沿って南に
伸ばすと今回の地震の海溝軸付近のすべりを説明できる。一方,プレート境界の深部でのすべりは,
貞観地震の断層モデルと位置が似ている。
すなわち,
本件地震は,明治三陸地震と同様の津波地震タイプと貞観地震タイプの地震が同時に発生し,連動することによって規模が大きくなったと考えられる。沈み込む太平洋プレートに沿って,
海溝付近をすべるのが津波地震タイプ,
より深いプレート境界がすべるのが貞観地震タイプである。プレート境界面が逆断層運動によってすべると,断層の直上の海底が隆起し,その陸側では沈降する。津波地震タイプの場合,断層は海溝軸付近に位置して幅が狭いことから,海溝軸付近のみが大きく隆起する。これが明治三陸地震の津波や三陸を襲った本件津波の原因である。他方,貞観地震タイプの場合,プレート境界の深部に,より幅の広い断層があるため,隆起域が大きく広がる。この
ため,津波は波長が長く,周期も長くなる。貞観地震タイプの津波は周期が長いため,仙台平野でより遠くまで浸水するが,津波地震タイプだと周期が短いため,海岸付近では津波が大きいものの,平野に浸水することはない。本件地震の発生当時,
M9.
0の巨大地震の発生は想定されていなかった。
他方,三陸海岸や仙台平野では,過去に同様な津波の発生が歴史記録や津波
堆積物調査から明らかとなっていた。本件地震では海溝軸に近い断層面すなわち津波地震の発生域で50mを超えるすべりが生じたが,このような大きなすべりはこれまで世界中で記録されておらず,世界中の地震学者を驚かせた。津波地震について海溝付近で大きなすべりが発生するモデルは以前から提出されていたが,沈み込み帯のどこでも発生するか否か,50m以上とい
うすべりを発生させるまでのゆがみが蓄積するメカニズムなどはいまだ解明されていない。
福島県沖の日本海溝で津波地震が発生する可能性について,地震学者の間で賛否が分かれており,貞観地震の断層モデルは提案されていたが,確定的なものではなかった。平成23年以降の調査で岩手県,福島県でも津波堆積
物が発見されており,これらのデータを参照して新たな断層モデルができ,本件地震の断層モデルとの比較により,これらの地震が同様なメカニズムで発生したかどうかが明らかになることが期待される(以上,甲A185・34~36頁,甲A186・51~55頁)。

(4)松澤委員の見解
松澤委員
(東北大学教授で,
推進本部地震調査委員会の委員も務めた地震学の専門家,
丙B23・1頁)は,次のとおりの見解を述べる。


地震学の基本的考え方
地震,津波に関する地震学の知見は,発生した地震津波に関する文献,観測記録,津波堆積物調査結果等のデータを分析し,それを説明できる仮説を作り,それを新たに発生した事象を踏まえて検証しながら,その仮説を更新することにより発展してきたため,蓄積された過去のデータが多く,仮説・
検証の繰り返しが多いほど,学問的成熟性は高まり,他方,データが少ないほど,学問的成熟性は低くなる(丙B23・4,5頁)。

比較沈み込み学とアスペリティ
海のプレートの中で比較的若いプレートは高温で軽いため浮力が強く,陸
のプレートと衝突してその下に沈み込む際も両者の境界面がしっかり固着する。他方,比較的古い海のプレートは海水により冷却されて重くなるため,簡単に陸のプレートの下に沈み込み,両者の境界面もそれほど固着しないと考えられる。そのため,チリ沖やアラスカ沖など若い海のプレートが沈み込み,陸のプレートとの固着が強い場合は,大規模な地震が発生しやすく,マ
リアナ海溝など古い海のプレートが沈み込み,固着が弱い場合は,大規模地震が発生しにくいと考えられており,このようなプレートの沈み込み帯を比較することによりその地震の特徴を抽出しようとする考え方を比較沈み込み学と呼ぶ。これは,本件地震の発生まで科学的根拠を伴う確立した知見と考えられていた。

また,岩石の摩擦実験の研究で用いられていたアスペリティを応用し,プレートの接触面の固着の強弱により地震発生の偏りを説明するアスペリティモデルが提唱され,
これを裏付けるデータも複数存在し,
東南海沖と異なり,
東北太平洋沖では超巨大地震を起こすほどのすべり欠損を蓄えていないと考えられていた。しかも,プレート境界の状況について,付加型と造構性浸食型の二つがあり,付加型は固着が強く,付加体と呼ばれる未固結の堆積物がプレートと一緒に沈み込まないために海溝付近にたまっているが,造構性浸
食型は固着が弱く堆積物がプレートと一緒に沈み込んでいくと考えられ,東南海・南海トラフのように付加体が多いと固着が強く,東北から北海道のように付加体が少ないと固着が弱く,M9クラスの地震が起きるとは考えられていなかった(以上,丙B23・6~12頁,丙B104の1・12~21,25~28,31~33,103頁)。


長期評価等

(ア)地震動の割に津波が異常に高い津波地震に関する研究は,その発生メカニズムがいまだ明らかではなく,専門家の共通認識としては,津波地震が海溝軸付近の浅いところで発生し,かつ,極めてまれにしか発生しないということであった。本件地震,本件津波の発生まで,ほとんどの研究者は,海溝付近で大きなすべりが生じることはあり得ないと考えていたため,それ故にこのような地震津波の発生は多くの研究者を驚かせた。
また,津波地震の仮説を立てる上では,実際の発生状況や海底地形の違いなどの客観的条件の影響を考える必要もあった。

例えば,本件地震の発生以前においては,三陸沖と福島沖とでは,海底地形が大きく異なり,津波地震の発生に関しても,おおむね宮城県沖を境に南北で異なるというように考えていた。特に,三陸沖北部~房総沖の日本海溝寄りについて,プレートの沈み込み帯という意味では同じであるし,造構性浸食型という点でも同じであるが,上記領域内でも海底地形は異なっていた
し,付加体の状況も異なっていた。日本海溝沿いでは,三陸沖で慶長三陸地震や明治三陸地震が発生し,房総沖では津波地震と考えられる延宝房総沖地震が発生しているが,宮城県沖から福島沖の領域で津波地震が起きた証拠はなく,その規模を予測する具体的材料もなかった(以上,丙B23・14~16頁,丙B104の1・86~89頁)。

(イ)しかしながら,津波地震が起きないという確たる科学的根拠もない以上,起きないと結論付けることは科学的ではなかった。

長期評価は,その対象としない空白域を作るよりも防災上の観点から,信頼度が低くても何らかの評価をした方がよいとの考え方から,海溝沿いの領域をどこも同じと仮定し,明らかに津波地震と考えられていた明治三陸地震はもとより,波源なども必ずしも明らかとなっていない慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の3回の津波地震が日本海溝沿いで発生したとの前提に立った
ものである。このように,防災上の観点から日本海溝寄りの領域をひとまとめにして評価したことは理解でき,そうすべきであったと考えられるが,他方,この見解が十分な科学的根拠を伴っていなかったものとして取り扱う必要もあり,少なくとも,日本海溝沿いの福島沖で津波地震が発生するとの切迫性まであると考えていた者はいなかったはずである。これは,その信頼度
の評価(Cとされている。)からも明らかである。また,中央防災会議において,防災対策に必要な実用的知見という見地から長期評価を採用しなかったこともやむを得ないものと考えられる(以上,丙B23・16~19頁,丙B104の1・85,86,91,92頁)。

貞観地震等の知見
上記5(1)のとおり,貞観地震の津波堆積物の調査結果を踏まえた波源モデルやその発生間隔に関する推定結果が示されたが,その年代推定の幅が大きいことや別の地点との対応関係の判断も難しく,直ちにその結論でよいのかは確信を持てなかった。
また,
平均発生間隔も450年~800年と長く,

直ちに対応を要する切迫性があったとまでいえない(丙B23・20,21頁,丙B104の1・23頁)。

本件地震,本件津波
本件地震(断層の南北の長さ約500km,東西の幅約200km,すべり量最大50m)は,長期評価が示した津波地震(断層の南北の長さ約200km,東西の幅約50km,すべり量は明治三陸地震と同程度ならば10m)や,貞観地震(上記5(1)のモデル,断層の南北の長さ約200km,東西の幅約100km,すべり量7
m)と比較しても,その領域,規模が圧倒的に大きい。

本件地震,本件津波は,上記貞観地震のモデルによるプレート境界型津波に,津波地震の津波が合わさったことにより,その影響が大きくなったものと考えられる。また,これまでの比較沈み込み学の観点からも,このような地震・津波は全く想定されていなかった(以上,丙B23・22,23頁)。
(5)今村委員の見解
今村委員(東北大学教授で,土木学会・津波評価部会の部会長を務めるとともに,地震調査委員会の委員を務める津波工学の専門家,丙B30・1,2頁)は,次のとおり
の見解を述べる。

工学的検討の対象とすべき知見の成熟度等
津波工学的見地から,原子炉施設では,津波対策を講じるべき津波の選定が必要となる。その際,既往最大津波とするか,可能最大津波とするかという問題があり,可能最大津波の中には,理学的根拠から発生がうかがわれるとの科学的コンセンサスが得られている津波と,そのようなコンセンサスは
得られていないが,理学的根拠をもって発生可能性を否定できない津波とがある。理学的根拠から発生がうかがわれるとの科学的コンセンサスが得られている津波のうち,具体的根拠をもって波源の位置が特定されるなど一定期間における発生間隔が算出できるものが津波対策を講じるべき津波であり,そのような検討を通じ,一定の安全性に関する基準を示すことが津波工学の
役割である。
ただ,上記安全性の基準に関しては,工学のみならず社会学の問題でもあって,社会情勢や企業,価値観などの有り様を考えて,社会,人,企業に受け入れられるレベルを探る必要がある(以上,丙B30・5~8頁)。イ
津波評価技術,長期評価などの知見の状況等

(ア)津波評価技術は,具体的な根拠を持った理学的知見を全て取り込み,設計津波の評価手法を策定したものであり,原発における高い安全性と現実的な安全性の調和の見地から,信頼のおける痕跡高のある既往津波を検討範囲とした上で,これらを説明できる想定津波の波源モデルを策定した上で,更にパラメータスタディをすることで,より高い安全性を確保しようとした,世界に先駆けて体系化された合理性の高い評価手法である。

また,津波評価技術は,歴史記録のある既往津波を前提に再現性の確認を行うが,上記3(1)ウ(オ)eのとおり,プレート境界付近に想定される地震に伴う波源の設定に関して,プレート境界付近に将来発生することを否定できない地震に伴う津波を評価対象として,地震地体構造の知見を踏まえて波源を設定するものであり,既往津波のみを対象とするものではなく,地震地体
構造などの知見の進展に伴い,理学的根拠から発生がうかがわれるとの科学的コンセンサスが得られている津波をも対象とするものである。すなわち,決定論的安全評価に取り込むべきか否かについて,決定論で対応できるものは,いろいろなモデルが設定でき,津波の高さや揺れの程度が具体的な数値として出てくるため,それに基づき事前に施設面での対策をすることができ
る一方,具体的な数字に表れない,評価の困難な事象に対しては,リアルタイムで状況を観測するといった情報収集等を危機管理上行うなどのソフト的な対応を行うのであり,トータルで災害等に対応することになるが,決定論に取り入れるべきかどうかという点については,いろいろな専門家の意見を聞いて科学的コンセンサスを得てこれを行う(以上,
丙B30・9~11,
13,

14頁,丙B101の1・3~6,10,11,94,95頁)。
(イ)長期評価すなわち三陸沖や房総沖で発生した津波地震との可能性が指摘される慶長三陸地震,延宝房総沖地震及び明治三陸地震と同様の地震が福島県沖の日本海溝沿いで発生するとの見解については,GPS探査により裏付けられる三陸沖・房総沖と,福島県沖・茨城県沖との,太平洋側プレートと陸側プレートにおける固着の強さの相違,谷岡・佐竹論文に示されている日本海溝沿いの堆積物の影響による相違,延宝房総沖地震の発生領域が判明していないことなども考慮すると,長期評価の見解によって波源を設定することは考えられず,そのような科学的コンセンサスがなかった(丙B30・16~21頁,丙B101の1・8~10,12~16頁)。

(ウ)平成20年度のロジックツリーアンケートの結果からしても,分岐①(過去に発生例がある三陸沖及び房総沖のみで過去と同様の様式で津波地震が発生する。,)

分岐②(活動域内のどこでも津波地震が発生するが,北部領域に比べて南部領域ではすべり量が小さく,延宝房総沖地震モデルを移動させる。),分岐③(長期評価と同様に活動域内のどこでも津波地震が発生し,
南部でも北部と同程度のすべり量の津波地震
が発生する。)について,分岐①40%,分岐②35%,分岐③25%となっており,長期評価の見解が科学的コンセンサスを得ていなかったことが明らかとなる。当時,自身も同アンケートに参加したが,全体の1のうち分岐①及び②に0.9を振り,分岐①も堆積物の厚さに差があるものの,日本海溝沿いに広く分布していたため,分岐①の根拠も十分といえず,分岐①に0.3,分岐②に0.6を割り振った(丙B30・25~28頁,丙B101の1・1
9,24頁)。

(エ)耐震バックチェックの際の対応等に関して,被告東電の担当者から,耐震バックチェックに関する相談を受けた際,長期評価を波源として内部で検討するようにとの意見を述べた点について,即座に長期評価を決定論に取り込んで対策をすべきという趣旨ではなく,長期評価を前提にした試算くらいはして,その影響だけでも把握しておいた方がよいのではないかという趣旨のアドバイスをしたものである。具体的な津波対策として長期評価を考慮すべきとは考えていなかったのであり,科学的コンセンサスを得ておらず,理学的に可能性を否定できない津波も含めて多くの津波の影響を知っておく必要があると考えたにすぎない(丙B30・30~34頁)。
(オ)貞観津波の知見の進展状況を見ても,平成20年の佐竹論文において,福島県等について更なる堆積物調査の必要性が示唆され,貞観津波の波源モデ
ルの特定には至っていなかったこと,自らも関与した東北大学の研究者を中心とした貞観津波の波源モデルの構築に向けた研究状況としてもいまだ貞観津波に関して信頼できる波源モデルが構築されていなかったという本件事故までの貞観津波に関する知見の進展状況等を踏まえると,この知見を原子炉施設におけるハード面の津波対策に取り込んで着手すべき状況にあったとは
考えられない(丙B30・34~37頁)。

本件事故の回避可能性

(ア)本件事故前の工学的知見を前提とすると,
原子炉施設における津波防護は,
主要機器のある地盤高を設計想定津波の高さより高くすることで必要十分と考えられており,仮に本件試算を前提とするとしても,津波の越流(基準津波を超える事象に対する構造的評価)を前提とした津波対策を講じることは防災関
係者にとって一般的ではなく,防潮堤・防波堤の設置により津波の越流を防ぐという対策(ドライサイトコンセプト)が合理的であった。
他方,津波の越流を前提にした対策,すなわち海水ポンプの水密化,代替設備の高所設置などの対策は一般的ではなく,そのようなことが求められることもなかったし,陸上構造物のモデル化がされず,津波の遡上解析も不十分な本件試算では,設備・施設の水密化や機器の高所設置といった津波の越流を前提とする具体的な対策の内容を決定するだけの情報を欠いていたともいえる(以上,丙B30・38~42頁,丙B101の1・27頁)。
(イ)また,本件津波は,本件試算による津波と比較すると,明らかにその規模等が異なり(水量だけでも本件津波は上記試算津波の10倍もの違いとなる。),本件事故前に提案されていた,津波波力,特に動水圧に関する波力評価式(現時点においても適切な評価式は確立していない。)を用いた波力評価で構造物の設計
施工をしたとしても,防潮堤なども含めた構造物が本件津波の荷重に耐えられたかどうかが明らかではない。
水密扉の設置などによる水密化も,津波の遡上解析による津波の敷地内での挙動の推定などが必要で,その推定結果として,ルーバーなどの開口部の最下端と浸水深の高さを比較し,前者の方が高い場合には水密化は必要がないこととなる。この点をおくとしても,越流などの陸上遡上後の津波の挙動の適切な評価がされない限り,適切な構造設計ができないこととなるが,上
記のとおり,本件事故時にこのような適切な評価ができる波力評価式が確立されていなかった(現時点においても,原子力施設の陸上構造物に汎用できるとのコンセンサスが得られた評価式はまだ存在しない。)。例えば,本件原発1号機T/
B前面での津波波圧の数値について,従前提案されていた波力評価式により算出される数値と,本件事故後の知見も踏まえた波力評価式により算出される数値とを比較すると,後者の数値が前者の数値の約2倍となっており,従前提案された波力評価式により水密扉の設置などをしても,本件津波の波圧に耐えられなかった可能性がある。
本件津波の陸上での挙動を見ても,本件試算による津波は4号機側から1号機側に回り込んでいるが,本件津波は,1~4号機の前面の海側から越流
しており,その動水圧は本件津波の方が明らかに大きく,漂流物なども伴うことも考えると,
本件試算による津波を前提に水密扉の設置などを行っても,
本件津波の波力に耐えられたかどうかは疑問がある。加えて,本件事故前の知見では,漂流物の挙動や衝突力の推定も困難であり,例えば,本件原発の4号機のT/B大物搬入口を破壊して建屋の中に押し込まれた自動車があっ
たように,自動車などの漂流物の衝突力の算定は,本件事故後も非常に難しい(以上,丙B30・47~58頁,丙B101の1・28,29頁)。(ウ)以上のとおり,本件試算により結果回避措置を講じたとしても,本件津波に対してそれが奏功したかどうかは明らかではない(丙B30・58頁)。(エ)なお,本件津波による1~3号機の浸水経路(大物搬入口,S/B入口,DG給気ルーバー)と,例えば3号機における大物搬入口の先の浸水深がいずれも
30cm程度にとどまり,3号機の周辺5mの浸水深に対して建物躯体と大
物搬入口がある程度の防護機能を果たしたこと,T/B開口部に水密化措置を講じていればある程度建屋内への浸水を防げた可能性があることは否定できないが,地下からの浸水もあり,できたかどうかを判断することはできない。
また,本件試算による津波が設計津波として認められる限り,それを用い
て水密化を図ること自体は工学的には相当といえる(以上,丙B101の1・34~38頁)。

8
本件事故の推移,いわき市の被害状況等

(1)本件事故直後の推移とその間のいわき市の状況等
本件事故から平成23年(以下,本項のア~キでは,同年を省略することがある。)

4月頃までの本件事故直後の事態の推移といわき市の状況等は以下のとおりである。

3月11日

(ア)本件原発における全交流電源喪失及び非常用炉心冷却装置注水不能といった事態を受け,内閣総理大臣は,3月11日午後7時3分,原子力災害対策特別措置法(平成24年法律第47号による改正前のものをいい,以下原災法という。15条2項に基づき,本件原発について,原子力緊急事態宣言を発令)

し,同法16条1項に基づき,内閣総理大臣を本部長とする原子力災害対策本部及び原子力災害現地対策本部を設置した(以下,内閣総理大臣が原子力災害対策本部長としての権限に基づいて行為をした場合でも,その主体を内閣総理大臣と表記する。。

また,福島県知事は,同日午後8時50分,大熊町及び双葉町に対し,法令に基づかない事実上の措置として,本件原発から半径2km圏内の居住者等に対する避難指示を要請した。
内閣総理大臣は,同日午後9時23分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,本件原発から半径3km圏内の居住者等の避難のための立ち退き及び半径10km圏内の居住者等の屋内退避を指示した(以上,甲A3本文編・193,229,230頁,乙A19)。
(イ)3月11日午後3時40分頃,本件津波は,いわき市沿岸部にも襲来し,同市内の久之浜地区,薄磯地区,豊間地区,小名浜湾背後地区などが津波被
害を受けた。本件津波による人的被害は,死者308人,行方不明者42人であり,最多の避難者数は1万9813人(3月12日時点)に及んだ。また,本件地震の影響のため,市内ほぼ全域で約13万戸が断水し,市内約2万戸での停電
(約1週間程度で津波流出箇所を除き復旧)
や約1万5000戸
でのガスの供給の停止などが発生したほか,JR常磐線・磐越東線ともに地
震発生直後から全面運休となり,高速バスも,いわき・福島空港間を結ぶリムジンバスを除き,運休となった(以上,甲A495・1,2,10頁,乙A133・15,16,18頁,乙C50・1,2頁)


(ウ)3月12日の福島民報は,上記(ア)のとおり,初の原子力緊急事態宣言が発令され,半径3km以内の住民に対して避難指示が出され,また,福島県も同日夜に大熊町及び双葉町の両町民に対して避難要請をしたことなどを報じた。また,同日の同紙には,本件原発の緊急事態宣言を受けて,深刻な冷却機能低下と題する解説記事が掲載され,その中で,2号機の外部電源の供給が止まった上に頼みの非常用DGも動かず冷却水の循環が停止し,最悪の場合,燃料棒が溶けて損傷し放射性物質が圧力容器から格納容器,本件原
発外へと放出されるおそれもあり,史上初の原子力緊急事態が宣言されたと報じていた(甲A16の1・2枚目)。

3月12日

(ア)1号機における原子炉格納容器圧力の異常上昇,1号機及び2号機におけるベントが実施できていないことなどを踏まえ,内閣総理大臣は,同日午前5時44分,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,本件原発から半径10km圏内の居住者等の避難のための立ち退きを指示した。
その後も,引き続き1号機のベントが試みられていたが,同12日午後3時36分に1号機のR/Bで爆発が発生し,この爆発がいかなる爆発であったのかが明らかではなかったことなどから,内閣総理大臣は,同日午後6時
25分,
原災法15条3項に基づき,
福島県知事及び関係自治体の長に対し,
本件原発から半径20km圏内の居住者等の避難のための立ち退きを指示した(以上,甲A3本文編・230,231頁,乙A21)

(イ)3月13日の福島民報は,1面の見出しで,本件原発での爆発や放射性物質拡散かという記事を報じた。その中で,上記(ア)の爆発に言及し,1
号機の原子炉建屋が爆発して白煙が上がり,4人が負傷し,病院に搬送されたこと,
その周辺から放射性セシウムや放射性ヨウ素が検出され,
保安院が,
同日午後に炉心溶融が起きたとの見方を示したこと,炉心溶融が我が国の原発では初めて起きたこと,本件原発の敷地で測定した放射線量が一時的に毎時1015μSvを示し,一般人が1年間に受ける放射線量の限度に相当す
る値であるが,その後に低下したことなどを報じた。
また,同紙は,当時の官房長官が記者会見し,建屋の壁の崩壊で,中の格納容器が爆発したものではないと確認した,炉心の水が足りなくなったことにより発生した水蒸気が格納容器の外側,建屋との間に出て水素となり酸素と合わさり爆発したと述べ,

放射性物質の測定はきちんと行われている。現在の数字は想定される数値の範囲内だ

と述べる一方,万一の場合に備えてヨウ素剤を準備していること,政府が,同月12日,本件原発,福島第二原発から半径10km以内の住民に対して避難を指示したが,その対象は,浪江町,双葉町,大熊町,富岡町,楢葉町及び広野町の合計6万1698人であり,その後に本件原発の半径20km以内に拡大したこと,保安院が,同日夜,1号機の事故について,平成11年に起きた東海村臨界事故に匹敵するINESのレベル4であると説明したことなどを報じ
た(以上,甲16の1・3,4枚目)。

3月13日

(ア)3月13日以降,福島県が,いわき市にある県いわき合同庁舎駐車場において,空間放射線量の測定を開始した。同日午前9時の放射線量は毎時0.09μSvであった。
当初,いわき市は,楢葉町や広野町からの避難者を受け入れていたが,上記イ(ア)の半径20km圏内の避難指示を受け,
避難の要否を検討し,
同日午
前8時30分,
保守的に考えて,本件原発から半径30km圏内の住民(久之
浜・大久地区住民)に対し,自主避難を呼びかけ,緊急輸送バスを運行させて
避難移動を開始した。
同日,いわき市のごみ収集の休止に関する広報が市民に対して行われ,保健所においては放射線スクリーニング検査が開始された。また,同日,市の休日夜間急病診療所の診察が再開された。
また,段階的には配水池からの給水も再開し,いわき市内の医療機関への
優先的な通水が行われるなどした(以上,甲A2本文編・281頁,甲A505,甲A512,乙A133・15,20頁,乙C31の2)


(イ)同月14日の福島民報は,第一原発3号機も『炉心溶融』,県民12万人避難との見出しで,本件事故を報じた。その中で,福島県が本件原発から半径20km内の避難対象者が約8万人であり,周辺地域で自主的に避難した人を含めて12万人以上が避難したと発表したこと,被ばくをした人は福島県及び中核市である郡山市保健所の各検査の合計人数が111人となっており,同県によれば,同県が被ばくを確認した22人のうち21人は除染の必要がないレベルであり,残る1人も心配ないとされたことなどを報じた。また,本件原発周辺では,同月13日午前に空間放射線量が通常の基準値の毎時500μSvを超えて上昇し,同日午後2時前にはこれまでで最も高い毎時1557.5μSvを検知したが,その後に低下したこと,これ
は,40分ほど滞在すると一般人の年間被ばく線量限度を超える数値とも報じていた。
同紙は,国内最悪の原発事故との見出しで,保安院がINESのレベル4から,スリーマイル島原発事故と同じレベル5に格上げする可能性があること,福島県が被ばくした住民の増加を受けて県職員による被ばく調
査(スクリーニング)を同月15日から開始することとし,被告国に対して人員や防護服の提供などを求めている旨報じるとともに,福島県が本件原発の避難区域との境界など8か所にモニタリングポストを設置し放射線量の測定結果を公表することも報じた(以上,甲A16の1・5,6枚目)。エ
3月14日~16日

(ア)3月14日~16日の状況は,以下のとおりである(甲A3本文編・231,232頁,甲A505,乙A22,乙A133・14,15,18,20頁)。

a
3月14日午前11時1分の3号機R/Bの水素爆発,同日午後1時25分の2号機の冷却機能喪失,同月15日午前6時頃には4号機方向から
の衝撃音の発生,同日午前8時11分頃の4号機R/B5階屋根付近の損傷確認,同日午前9時38分の同R/B3階北西付近での火災発生といった事態が連続的に発生した。
これらを踏まえて原子力災害対策本部は,
避難範囲の拡大を検討したが,
避難指示の範囲を本件原発から半径30kmに拡大すると,新たに約15
万人が避難対象者となり,避難に数日を要すること,避難中に大量の放射性物質の放出が起こった場合,避難中の者が被ばくのリスクを負うことなどが考慮され,いつ放射性物質の大量放出という事態が発生するか分からない緊迫した状況下では,屋内退避の方が有効であるとの結論に達した。内閣総理大臣は,3月15日午前11時,原災法15条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,本件原発から半径20km以上30km圏内の居住者等の屋内退避を指示し,いわき市小川町,川前町,久
之浜町及び大久町の一部がその指示対象となった(以上,甲A3本文編・231,232頁,甲A505,乙A22)


b
3月14日,市総合磐城共立病院(以下共立病院という。)において一部診療を除き,外来診療の通常診療等が開始された。

県いわき合同庁舎駐車場において測定された放射線量測定高さ1m)は,3月15日以降上昇し,同日午前2時に毎時18.04μSvとなり,その後に毎時13.28μSvに下がったが,同日午前4時には毎時23.72μSvとなった。その後,同日午前6時前までに9.57μSvとなり,同日午前6時には毎時3.94μSvとなったが,同日午前8時前ま
でに再び毎時9.30μSvまで上昇し,同日午前8時には毎時2.77μSvまで下がった。なお,これ以降同月20日まで上記毎時2.77μSvを超えることはなかった。
同月15日午前9時30分頃,いわき市は,独自の判断で,小川町上小川字戸渡地区や川前町下桶売地区の一部(志田名,荻)に自主避難を要請す
るとともに,同日午前9時45分には,いわき市長が市民に対して不要不急の外出を控えるようにとのメッセージを発した。同日午後1時17分には,避難のために磐越自動車道いわき三和インターチェンジ・小野インターチェンジ,常磐自動車道いわき勿来インターチェンジ・いわき湯本インターチェンジ・いわき中央インターチェンジが開放された。

上記aのいわき市の北部の一部地域に対する,原災法に基づく屋内退避指示後,同市全体に屋内退避指示が出されたとの誤報が広まり,物資輸送のためのトラックも同市内に入ってこなくなり,同市全域のコンビニやスーパーマーケットの店員などが避難して閉店状態となった。また,救援物資なども徐々に届くなどしていたが,物流が回復せず,一般家庭に物資が行きわたらない深刻な状況となった。同日午後には,ガソリンの調達が困難になったため,市内の路線バスが全面運休となったが,燃料にLP(液化
石油)ガスを使用していたタクシーは営業を継続していた。

また,資材の調達などができず,水道の復旧なども遅れることとなった(以上,甲A2本文編・271,281頁,甲A505,甲A512,乙A133・14,15,18,20頁,乙C31の2,乙C50・4頁)

c
3月16日午前5時45分頃,4号機のR/B4階部分で火災が発生した。同日午前10時40分,いわき市長が市民に対し,冷静な行動のお願い,医薬品の提供,避難所への配送作業などを求めるメッセージを公表した。
同日,いわき市からの働きかけなどを受けて政府調達のガソリンがいわき市に供給されたが,運搬先が郡山市までとされたため,大型免許等を有
する消防署職員らが郡山市まで出向き,タンクローリーを運転していわき市内まで物資を運ぶなどしなければならない状況となったが,その後,いわき市内11か所の給油所においてガソリン,軽油が供給された。同日,いわき市内の水道水の放射性物質の測定が開始された(以上,甲A505,乙A133・14,15,20頁,乙C50・4,6頁)。

(イ)新聞報道の状況は以下のとおりである。
a
3月15日の福島民報は,原発3号機も爆発,2号機,2度空だきとの見出しで,同月14日午前11時1分頃,3号機が水素爆発を起こし,11人が負傷し,このうち7人が被ばくしたが,原子炉格納容器等
が健全であると確認され,官房長官が放射性物質が大量に飛び散っている可能性は低いと述べたこと,同日夜,2号機の原子炉水位が急速に低下し,一時燃料棒が完全に水面から露出し,空だきの状態となったこと,周辺の放射線量のレベルが上がり,
一部炉心溶融が起きたとみられること,
保安院が本件原発の半径20km以内の住民約650人に屋内退避を要請したこと,本件原発敷地内のモニタリングポストでは,放射線量の急上昇は見られなかった旨報じた。

2号機の状況について,同紙は,メルトダウンの恐れ,放射性物質大量放出もとの見出しで,2号機の炉心溶融が進んで核燃料の大半が溶けるメルトダウンが懸念される状況となったこと,1号機及び3号機の水素爆発では鋼鉄製の原子炉格納容器は守られており,漏れ出る放射性物質は限定的であるが,メルトダウンが進行すれば水蒸気爆発で容器ご
と吹き飛び,大量の放射性物質がまき散らされるおそれがあること,史上最悪と呼ばれるチェルノブイリ原発事故のように住民の健康に長く深刻な影響を及ぼしかねないことなどを報じた。
被ばく者について,
上記けがをした7人の被ばくした者
(被告東電従業員,
自衛隊員ら)のうち5人が除染を受けたこと,郡山市では相双地区からの避
難者数が3554人となり,スクリーニングの結果,119人が除染の対象となったことも報じられた(以上,甲A16の1・7,8枚目)。b
3月16日の福島民報は,高濃度放射能漏れ,屋内退避30㌔に拡大といった見出しで,同月15日午前6時10分頃に2号機の原子炉
格納容器の圧力抑制プール付近で爆発音が上がり,
プールが損傷したこと,
その5分後に4号機でも爆発音がして火災が発生したこと,外部へ広範囲に高濃度の放射性物質が漏れたとみられることなどを報じた。内閣総理大臣が記者会見をして

放射能濃度がかなり高くなっている。

として,本件原発から半径20km以内の住民の避難に加え,新たに20~30km
の住民に対して屋内退避を指示したことも報じられた。
加えて,茨城県東海村の東京大の研究施設では,毎時5μSvの放射線量が検出され,各地でも放射線量の上昇が確認されたこと,毒性の強いプルトニウムが大量に含まれる使用済み核燃料が損傷し,極めて強い放射性物質が外に拡散する危険性があること,1~4号機の中央制御室の放射線量が上昇したために運転員が常駐できず,定期的に運転データを制御室に取りに戻っていること,3号機付近では同日午前10時22分に一般人の年間被ばく線量限度の400倍に達する毎時400mSvの放射線量を観測したこと,同じ時間に4号機敷地内で毎時100mSvが検出されたことが報じられた。
福島県が県内で行っている放射線常時測定調査において,福島市は,同
日午後3時まで,正常値の毎時0.05~0.09μSvの範囲で推移していたが,徐々に上昇し始め,同日午後5時には毎時20.26μSv,同日午後6時には毎時23.18μSvとなり,同日午後7時には通常の約478倍に当たる毎時23.88μSvとなったこと,いわき市においては,同日午前4時に毎時23.72μSvとなったが,同日午後には毎
時1μSv台に低下したこと,郡山市においては,同日午後2時5分に毎時8.26μSvを,白河市で同日午後9時に毎時7.56μSvを,それぞれ観測し,南相馬市は,終日毎時2μSv台が続き,同日午後8時の毎時4.62μSvが最高であったこと,南会津町は同日午後5時20分に毎時1.08μSvとなり,会津若松市は同日午後8時と同日午後9時
に毎時1.18μSvが最高であったこと,福島県が公表した本件原発の22~40kmの6地点の測定調査において飯館村が同日午後4時から毎時20μSv台を超え,同日午後6時20分に毎時44.7μSvを記録したことを報じた。
福島県によると,30キロの屋内退避について,13万6000人が対
象となり,半径20~30km内には,一部が避難指示の対象となっている南相馬市,浪江町,広野町,葛尾村,川内町及び田村市の6市町村に加えて,飯館村及びいわき市の市村が含まれ,福島県の推計では,南相馬市において約6万人,いわき市四倉地区などにおいて約3万人,田村市において約3万1000人が対象となることが報じられた(以上,甲A16の1・9,10枚目)。

c
3月17日の福島民報は,原発危機依然続くとの見出しで,3号

機付近から同月16日午前8時半過ぎに白煙が噴出し,4号機では同日午前5時45分頃火災が発生しているのが確認されたこと,3号機の白煙の原因について,保安院が使用済み核燃料プールからの水の蒸発量が増えたことによるものと分析しており,陸上自衛隊のヘリコプターによる上空からの注水や高圧放水車による注水の検討や準備が進められている旨,保安
院によれば,同日午前10時40分頃に本件原発の正門付近で毎時10mSvの高水準
(一般人の年間被ばく線量限度は1mSv)
の放射線量が計測され
た旨報じられた。
3号機付近で同日午前6時20分頃,危険性の極めて高い毎時400mSvが検出されたと被告東電が発表したこと,4号機付近では毎時100
mSv,2号機と3号機の間の中間点では毎時55mSvが検出されたことも報じられた(以上,甲A16の1・12枚目)。

3月17日~3月25日

(ア)3月17日,18日の状況は,以下のとおりである。
a
厚生労働省(以下厚労省という。)は,3月17日,都道府県知事らに対し,放射能汚染された食品の取り扱いについてとの通知をした。その中で,原子力安全委員会が示した指標値を,食品衛生法上の食用の可否等に関する暫定規制値とする旨,具体的な暫定規制値として,放射性ヨウ素について,飲料水(牛乳,乳製品を含むが,乳幼児用については100B
qを超えるものを使用しないように指導)1kg当たり300Bq,野菜類同
2000Bq,放射性セシウムについて,飲料水・牛乳・乳製品同200Bq,野菜類,穀類,肉・卵・魚・その他同500Bqとする旨定められていた(乙A88)。
b
3月18日の福島民報は,同月17日の状況として,自衛隊のヘリコプター及び消防車両を用いた放水による使用済み燃料プール(原子炉で使い終わったウラン燃料を冷却するためのプールである。同紙の解説記事では,使用済み核
燃料は核分裂反応を終えても熱を放出し続けるため,
核燃料再処理施設に運び出すま
での間,循環させた水で十分に冷やし続けること,使用済み核燃料は猛毒のプルトニウムのほか,
極めて強い放射線を出す核分裂生成物を含み,
厳重な管理が必要とされ,
通常,同プールの水温は40度前後に保たれていることとされていた。)の冷却等
の取組を報じた。その中で,警察や消防の対応のみでは困難であり,自衛
隊を動かしての対応が迫られたこと,自衛隊による放水前後の放射線量には大きな影響は見られなかったが,データを集め,冷却効果や今後の対策を検討すること,被告東電が放水の前後で,毎時3700μSv超の放射線量が毎時約3600μSvに低下し,プールの水量の増加による放射線数値の低下と分析できると述べたこと,冷却放水により核燃料プールの水
の蒸発が進み燃料が破損して放射性物質が放出される事態を防ぐ
切り札
としての効果に期待する一方,原子力の専門家からその効果を疑問視する声や,温度を一時的に下げる対症療法にとどまるとの見方がされていることなどが報じられた。また,外部電源の復旧に向けて作業が本件原発において行われていることも報じられた(甲A16の1・13,14枚目)。
c
3月18日午前9時頃,いわき市は,安定ヨウ素剤の配布を発表し,同日,妊婦及び40歳未満の市民に対し,安定ヨウ素剤の配布を開始した。同日には,
いわき市立幼稚園及び小学校の卒業式が中止され,
また同日,
高速バスのいわき~東京線の10往復運行が再開された
(以上,
甲A505,
乙A133・18,20頁,乙C50・3頁)。

d
3月19日の福島民報は,保安院が,1~3号機の事故を受けて,INESについて,レベル5との暫定評価をしたこと,使用済み核燃料の冷却のための自衛隊による放水が継続されていることを報じた。また,放水については,各地の地方自治体の協力を得て,危機につながる燃料プールの過熱を防ぐために外部から冷やすほかなく,放水作業が重要であること,他方,使用済み燃料プールなどを冷却する放水作業は問題をとりあえず抑
え込む対症療法であり,外部からの電源供給を復活させることにより根本療法
になる可能性があること,
建設当時に使われた東北電力の
東電原子力線からケーブルで敷地内へ引き込み,原子炉などの各施設に送る計画が立てられ,冷却システムの復活,電力供給の途絶のために働かなくなった計測メーターの復活により状況把握などが可能となることが報じ
られた。また,5号機及び6号機の使用済み燃料プールの水温が上昇し,同月18日午後4時に5号機が66.9度,6号機が64.5度となり,保安規定の定める65度を超えている状態となっていたことも報じられた(甲A16の1・15,16枚目)。
(イ)3月19日~22日の状況は以下のとおりである。
a
3月19日,厚労省は,各都道府県水道行政担当部に対し,本件事故に伴う水道の対応に関する通知を発した。その中で,飲料水に関する原子力安全委員会が定めた指標値について,放射性ヨウ素1kg当たり300Bq,放射性セシウム同200Bqであること,これは,ICRPが勧告し
た放射線防護の基準(放射性ヨウ素の実効線量年間50mSv,放射性セシウムの実効線量年間5mSv)
を踏まえたものであること,
指標値を超過した水を

一時的に飲料した場合であっても直ちに健康に影響を生じないことなどを踏まえ,代替となる飲用水の供給が容易に受けられない状況で,水を飲むことができないことによって健康影響が懸念される場合等において,水道水の飲料を厳格に制限するものではないが,原子力災害対策本部による摂取制限の実施が指示されるまでの間,指標値を超える水道水の飲用を控えるように広報してほしいこと,
飲用による摂取以外の使用はリスクが低く,
可能であること,放射性物質の浄水処理について,活性炭処理による除去効果を示す知見があるから,指標値に近い値が検出された場合には,これらの処理を実施し指標値以下となるよう取り組まれたいことが記載されていた。

また,同月21日,厚労省は,上記各水道行政担当部に対し,乳児による水道水の摂取に関する対応について通知を発した。その中で,乳児について,食品衛生法上の暫定規制値を踏まえ,水道水から1kg当たり100Bqを超える放射性ヨウ素が検出された場合には,乳児用調製粉乳を水で溶かして乳児に与えるなどの乳児による水道水の摂取を控えるよう広報
されたいとの記載があった。なお,3月24日付けで日本産科婦人科学会は,
胎児に悪影響が出る被ばく線量が50mSv(ICRPの勧告では100mSv)
以上であると考えられているところ,
妊娠女性が妊娠期間中の28

0日間に,1kg当たり200Bq前後の放射性物質を含む水道水(以下軽度汚染水道水という。)を毎日1リットル飲むと仮定しても,その総被
ばく量は1.232mSvにとどまる(計算式摂取総量280×200Bq×2.2÷100=1232μSv)こと,また,母乳中に分泌される放射能
活性をもったヨウ素については,摂取量の4分の1程度と推測されること(確定的なことは不明),以上の点から,現時点で妊娠中・授乳中の女性が軽
度汚染水道水を連日飲んでも,母体及び乳幼児・胎児に健康被害は起こら
ないと推定され,授乳を継続しても乳幼児に健康被害は起こらないとも推定されるとしており,ただ,乳幼児・胎児は成人に比べて被ばくの影響を受けやすいとされているから,被ばくが少ないほど安心であり,軽度汚染水道水以外の飲料水を利用できる場合,それを飲用することを勧めるとしていた(以上,甲A410,甲A411,乙A56)。

b
3月20日以降,いわき市の要請により,市内の給油所や病院などへのガソリンなどの供給が段階的に行われるようになった。また,同日,高速バスのいわき~郡山線の6往復運行が再開された。
3月21日午前11時の県いわき合同庁舎駐車場における放射線量の測定結果(測定高さ1m)は,毎時6.00μSvであった。同日,いわき市長が,放射能の影響及び雨降時の対応についてメッセージを発した。
同日には,応急復旧工事を終えて,常磐自動車道(いわき中央インターチェンジと水戸インターチェンジ間)の一般車両通行止めが解除され,これにより
物流が徐々に再開され始めた。
3月22日,共立病院が外来通常診療を再開し,ごみ収集の一部(燃えるごみ,週1回)も再開された。同日の県いわき合同庁舎駐車場における放射
線量の測定結果は,毎時2.52μSvであった。
また,いわき市内全域で閉店していたコンビニエンスストアが,同日以降,徐々に再開されていった。同市は,スーパーマーケットなどの再開のめどがつくまで,公民館などにおいて市民に対して支援物資を配布するなどの対策を講じた。同日,民間の石油会社の協力も得て,市内89か所の
給油所において,ガソリン・軽油の供給がされた。市内路線バスも,同日に,6路線で日祝日ダイヤでの運行が再開された(以上,甲A495・2頁,甲A505,甲A512,乙A133・14,17,18頁,乙C31の2,乙C50・3,4,6頁)。
c
3月21日,ICRPは,本件事故について,緊急時の公衆の防護のために勧告している,最も高い計画的な被ばく線量として年間20~100mSvの範囲で参考レベルをそのまま変更することなく設定するよう勧告した。また,その中では,放射線源の制御により汚染地域が残っても,日本国の機関は,住民が住み続けられるような防護措置をとるはずであり,
その場合に,長期間の後には放射線レベルを年間1mSvへ低減するとして,これまでの勧告から変更することなく,現時点での参考レベル年間1~20mSvの範囲で設定するよう勧告している(乙A42)。
d
3月20日の福島民報は,東京消防庁による核燃料プールに向けた放水が継続されていること,同月19日に被告東電の複数の従業員が緊急時被ばくの上限の100mSvを超える被ばくをしたこと,東京消防庁の職員の最大被ばく量が同日正午時点で27mSvであったことを報じた。冷却機能復活に期待との見出しで,電源供給に向けた送電線ケーブルの接続作業が終わった旨も報じられた。また,被告東電の社長が,本件事故について,INESでレベル5と評価されたことを受けて,県民に深くおわびするとのコメントを出した旨報じられた(甲A16の1・17,18枚目)。

e
3月21日の福島民報は,県外避難2万人超との見出しで,福島県内から県外への避難者が2万人を超え,
主な避難先として山形県,
新潟県,
茨城県などの7県で,そのうち,茨城県のつくば市がいわき市民ら約540人を受け入れたことなどを報じた。また,2号機の電力復活の見出しで,被告東電が同月20日に外部電源から送電線を引き込んで2号機の
電力を復活させたこと,これに伴い,順次,原子炉の温度,圧力,放射線量の測定装置の復旧,原子炉冷却機能などの復旧を目指すこと,非常用電源が働いている5号機及び6号機は安定して冷却されていること,他方,2号機も含めて,炉内の温度,圧力の上昇などが懸念される3号機の原子炉や4号機の燃料プールなどへの消防等による放水が継続されていること
などが報じられた(甲A16の1・19枚目)。
f
3月22日の福島民報は,5号機及び6号機の外部電源も復旧され,効率的に冷却ができる期待があるが,2号機及び3号機では,一時発煙があり,作業員が避難したため,外部電源復旧後の2号機の冷却機能の回復作
業が中断されたこと,上記発煙後に放射線量の測定値が上昇したことなどを報じた(甲A16の1・20枚目)。
g
3月23日の福島民報は,断水が続くいわき市に給水車2台と支援車両1台が派遣されたこと,福島県内では本件事故の影響で各地から派遣された給水車が相次いで引き上げ,自衛隊を除き数台が残るだけであることなどを報じた(甲A16の1・21枚目)。

(ウ)3月23日,24日の状況は次のとおりである。
a
3月23日,いわき市内の水道水測定の結果,放射性ヨウ素が1kg当たり103Bq検出され,いわき市は,乳児の水道水摂取を制限し,乳児に対するペットボトル水の配布を開始した(甲A505)。

b
3月24日の福島民報は,福島県産の野菜11品種から基準値を超える放射性物質が検出されたことなどを受けて,内閣総理大臣が,原子力災害対策法に基づき,福島県産の葉物野菜などの摂取制限の指示をしたこと,併せて,政府が,近隣6県に対し,各品目の検査を強化するよう求めたこと,福島県が県内の生産者らに対し,50品目の野菜の出荷などを自粛するよう要請したことなどを報じた。また,東京都の一部の浄水場でも
水道水1kg当たり210Bqの放射性ヨウ素が検出されたことが報じられた。
また,危機脱出なお難題との見出しで,23日に外部電源の復旧

作業が続き,危機脱出の手掛かりが少しずつ見えてきているが,中央制御室の復活や計器類の稼働,冷却システムの再開といった課題も多いこと,22日には3号機の中央制御室の照明が再点灯し,1号機,2号機及び4号機でも復旧に向けた作業が進むとともに,原子炉圧力容器内の温度を計測するための計器類も23日には使えるようになり,個々の計器に電気が通り,データが増えれば注水などの作業も効率化できることなどが報じられたが,放射性セシウム137の放出量がチェルノブイリ原発事故後の1
日の放出量の20~50%に達すること,本件原発敷地内の空気中の放射性ヨウ素131が,22日の測定で,放射線業務従事者が呼吸する空気中の濃度限度の2.24倍に達することなども報じられた(以上,甲A16の1・22,23枚目)。

c
同月25日の福島民報は,内閣官房長官の記者会見で,本件原発から半径20~30km圏内の屋内退避対象者について,

長期にわたってきており,今のままのやり方で屋内退避を継続できるかどうか検証を指示している。放射線の問題とは別に社会的な要請で対応をどうするか検討はしなければいけない

と述べたこと,ただ,避難勧告について,その指示により

危険がさらに広がったと間違ったメッセージになってはいけない。社会的な必要性を精査している

などと述べたことを報じた(甲A16の1・24枚目)。

(エ)3月25日の状況は次のとおりである。
a
3月25日午前11時46分,内閣官房長官は,本件原発の半径20~30km圏内の住民に対し,自主避難を促した。なお,同日頃から,これまで止まっていた,いわき市内での郵便業務が再開された(甲A505,乙A133・14頁)。

b
3月26日の福島民報は,本件原発から半径20~30km圏内の屋内退避する住民の生活維持が物資不足などにより困難であるとして,内閣官房長官が,自主避難を促す方針を表明したこと,避難指示としなかったのは,生活面での不自由さを考慮した判断であり,放射性物質による危険が
増したと受け止められ,混乱を招くとの懸念があったためであること,原子力安全委員会において,屋内退避区域のうち放射線量が高いと考えられる区域の住民に対して積極的な自主避難を促すほか,これらの区域以外の屋内退避区域の住民にも予防的観点から自主的に避難することが望ましいとの提言がされたことなどを報じた。

また,同日の同紙は,1~3号機復旧中断との見出しで,3号機

での復旧作業中の3人の作業員が高線量の放射線に被ばくした前日の事故の際に,作業員らがつかった水たまりの放射性物質濃度が,通常の炉心の水の1万倍程度に達していたこと,1号機及び2号機のT/Bでも高い放射線量を示す水たまりが見つかったこと,安定停止見通し不透明と
の見出しで,1~3号機の原子炉停止時冷却系の機能の復旧作業が継続されているが,現場に照明がなく,放射線量も高いため現場に長時間滞在す
ることが不可能で作業効率が悪いこと,数箇月以上かかるとの見通しもあること,政府対応あいまいなどの見出しで,自主避難を促された地
域の自治体の困惑状況などを報じているが,いわき市では,独自に圏内の地区住民に対して既に避難を呼びかけており,冷静に受け止めているが,国は具体的な情報を示し,不安をあおらないでほしいとの注文を付け
たことなどを報じた(以上,甲A16の1・25~27枚目)。

3月26日~4月22日までの状況等

(ア)3月26日,いわき市長は,現放射線測定値の健康への影響についてメッセージを発した。同日の県いわき合同庁舎駐車場における放射線量の測定結果(測定高さ1m)は,毎時1.10μSvであった。
3月28日,いわき市内の38の公立保育所のうち18保育所が業務を再開した。また,同日頃から,営業時間の短縮を余儀なくされながらも,大部分の小売店が営業を再開した。さらに,同日,高速バスのいわき~仙台線の3往復運行が再開された。

同日,小名浜港の大剣ふ頭の供用が開始され,3月29日には民間の大型石油タンカーの入港が再開された。これ以降,市内の燃料不足が大きく改善されるようになった。
3月29日,いわき市長の臨時記者会見で,ごみ収集の全面再開と家庭から出た災害ごみの受入れなどが公表され,同月30日から同災害ごみの受入
れが開始され,4月4日にはごみ収集が全面再開された。
同月1日には,
市内28の保育所
(新規10施設を含む。が業務を開始した。

また,
同日までに市内の約7割に当たる191の病院診療所が診療を再開し,同日,市内路線バスの多くが日祝日ダイヤで運行を再開した。
同月6日,市立小中学校の入学式が実施され,市内路線バスが一部路線を除き通常ダイヤで運行を再開した。なお,上記小中学校は,その後の余震の影響により同月12日~同月15日に臨時休校したが,同月18日には再開された(以上,甲A505,甲A512,乙A133・14,18頁,乙A141,乙C50・3,6,7頁)


(イ)本件事故後に原子炉の温度上昇を抑えるために注入されていた海水等は核燃料に触れて放射性物質に汚染されるとともに,原子炉圧力容器などの損傷により建屋に流れ込み,滞留していた海水と混ざり合うことで大量の高濃度汚染水が発生した。2号機及び3号機では,高濃度汚染水がT/B地下から海側地下のトンネルに流れ込んでいた。
4月2日,被告東電は,2号機の取水口付近から汚染水が海に流出していたと公表し,止水工事及び取水口付近にシルトフェンス(汚染水の拡散を防ぐ
ための水中カーテン)の設置をした。また,同月15日,被告東電は,同月4日
から同月10日にかけて,高濃度汚染水の移送スペースを確保するため,集中廃棄物処理施設等に滞留した低濃度汚染水を海に放出したことを公表した。なお,被告東電は,5月11日,3号機の取水口からも汚染水が海に流出していたと公表した(甲A452・1,2,13頁)

(ウ)4月7日,市立幼稚園の入園式が実施された。
同月10日に市内水道が,
津波や地滑りの被災地区を除き,
復旧された(復
旧率97%)


同月11日,いわき市長が,同市が緊急時避難準備区域の対象とならないことについて,メッセージを公表した。同日,JR常磐線のいわき駅~高萩駅の普通列車が特別ダイヤで運行を再開し,上野駅までの運行が可能となり,同月15日には,JR磐越東線の通常運転が開始(いわき駅~小野新町駅での運転再開)された。

また,同日には,高速バスのいわき~京都・大阪線1往復,いわき~福島線4往復がそれぞれ運行を再開した。
同月17日,いわき市役所の支所である久之浜・大久の各支所における本来の場所での業務が再開された。また,同日,JR常磐線のいわき駅~四ツ倉駅間の運行が再開し,同月28日,いわき駅以南のJR常磐線の特急列車の運行が再開された。また,5月14日までにいわき駅以北の久ノ浜駅までの運行が再開された。
なお,ガスについては,本件事故後の風評被害などにより資材の調達が難
しくなり,復旧が遅れていたが,4月15日までにはおおむね復旧し,同月11日の余震の影響で再度断水していた水道も,同月21日には,津波などの被災地域を除き,市内ほぼ全域の水道が復旧した(以上,甲A495・2頁,甲A505,乙A133・15,16,18頁,乙C50・3,6頁)。

(エ)被告東電は,4月17日,本件事故の収束に向けた道筋を公表した。その中で,①現状として,注水により1~3号機の冷却ができているが,高温により格納容器に生じた隙間から放射性物質を含む微量の蒸気が漏えいしている可能性が高いこと,2号機の原子炉内が発生源と見られる放射線レベルの高い汚染水が流出し滞留等していること,建屋外にがれきが散乱し放射性物質が飛散していること,今後の目標として,②まず3か月程度で,1~3号
機の原子炉や1~4号機の使用済みプールの安定的冷却,2号機の滞留水の増加の抑制と敷地外への流出防止のための保管場所の確保,放射線レベルの高い汚染水の保管,除染などの処理,放射性物質の飛散の防止,放射線モニタリングの拡充などを実行し,放射線量が着実に減少傾向となっているステップ1の達成,③次にステップ1の終了後3~6か月程度で,冷温停止
の状態とすること,汚染水の全体の量の減少,建屋全体の被覆,避難指示区域等の放射線量の低減などを実行し,放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられているステップ2を達成することとしていた(乙A110)


(オ)内閣総理大臣は,一時立入りに関する検討と対象市町村との協議を経た上で,4月21日午前11時,原災法20条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,本件原発から半径20km圏内を警戒区域に設定し,緊急事態応急対策に従事する者以外の者に対して,市町村長が一時的な立入りを認める場合を除き,当該区域への立入りを禁止するとともに,当該区域からの退去を命ずることを指示し,同月22日午前零時,本件原発から半径20km圏内は,災害対策基本法63条1項に基づき,警戒区域に設定
された。なお,警戒区域への立入制限に違反する場合には,10万円以下の罰金又は拘留の刑罰が科されることになった。
また,本件原発から半径20km圏外についても,放射線量の高い区域が把握されたこと,屋内退避区域内で物流が止まり,生活が困難になる地域が出たことなどを受け,原子力災害対策本部は,3月31日以降,文科省が作
成した年間積算線量の推計結果を基にした新たな避難区域の検討を開始していた。そこでは,ICRP及びIAEAが定める緊急時被ばく状況における放射線防護の基準値である年間20mSvから100mSvのうち最下限の20mSvを指標とし,年間20mSvを超える地域については計画的に住民の避難を実施すること,一方,この数値を下回る区域については本件原発
において発生し得る最悪の事態を想定し,緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うことが決められた。
それを踏まえ,内閣総理大臣は,4月22日午前9時44分,原災法20条3項に基づき,福島県知事及び関係自治体の長に対し,本件原発から半径20km以上30km圏内の地域について,計画的避難区域の指定(本件原発
から半径20km圏内の避難が指示された区域を除く葛尾村,
浪江町及び飯館村並びに
川俣町及び南相馬市の一部を対象として,
原則としておおむね1か月間程度で順次当該
区域外への避難のための立ち退きを行うこと)及び緊急時避難準備区域の指定(本件原発から半径20km圏内の避難が指示された区域を除く広野町,楢葉町及び川内村
並びに田村市及び南相馬市の一部を対象として,
常に緊急時に避難のための立ち退き又
は屋内への退避が可能な準備を行うこと)を行うとともに,屋内退避指示を解除
した
(以上,
甲A2本文編・271~273,
275,
276頁,
乙A24,
乙A25)


(カ)4月22日,いわき市の屋内退避区域の指定が解除されたことについて,いわき市長がコメントを発した(甲A505)


本件事故直後の水道水の放射性物質の測定状況等

(ア)3月16日~4月11日までの,いわき市内の水道水の放射性物質の測定結果は,以下のとおりである。
いわき市合同庁舎において採取した水道水のうち,
放射性ヨウ素について,
3月16日1kg当たり64.6Bq,3月18日同93.0Bq,3月19日同71.6Bq,3月20日同49.2Bq,3月21日同103.0Bq,3月22日同114.0Bq,3月23日同23.6Bq,3月24
日同215.0Bq,3月25日同100.0Bq,3月26日同85.7Bq,3月27日同67.5Bq,3月28日同42.2Bq,3月29日同27.8Bq,3月30日同16.5Bq,3月31日不検出,4月1日1kg当たり20.0Bq,4月2日同11.8Bq,4月3日~4月11日いずれも不検出であり,放射性セシウムについて,3月16日不検出,3
月18日1kg当たり16.3Bq,3月19日同15.6Bq,3月20日~4月11日いずれも不検出であった。
同市内の平浄水場において採取した水道水のうち,
放射性ヨウ素について,
3月17日1kg当たり43.0Bq,3月18日同68.0Bq,3月19日同99.2Bqであり,放射性セシウムについて,3月17日~3月1
9日いずれも不検出であった。
同市内の上野原浄水場において採取した水道水のうち,放射性ヨウ素について,
3月23日1kg当たり116.
0Bq,
3月24日同37.
0Bq,
3月25日同30.9Bq,3月26日同22.7Bq,3月27日~3月30日いずれも不検出,3月31日1kg当たり35.8Bq,4月1日不検出,4月2日1kg当たり12.3Bq,4月3日~4月11日いずれも不検出であり,放射性セシウムについて,3月23日~4月11日いずれも
不検出であった(甲A414)

(イ)いわき市内の平浄水場ほか7か所の浄水場における飲料水モニタリング検査の推移としては,平浄水場(夏井川水系夏井川)において採取した水道水のうち,放射性ヨウ素について,3月28日1kg当たり6.1Bq,3月31日同7.5Bq,4月3日~4月29日いずれも不検出であり,放射性セ
シウムについて,
3月28日~4月29日いずれも不検出であり,
その他の,
鮫川水系の2か所の浄水場,地下水系の浄水場,五林川,入遠野川及び馬下川の浄水場についても,
3月28日及び同月31日に放射性ヨウ素が検出
(最
大値は,鮫川水系四時川の山玉浄水場で1kg当たり34Bq)されたが(ただし,鮫川水系鮫川の泉浄水場では,3月28日不検出)
,それ以降,山玉浄水場で1k

g当たり13.6Bqの放射性ヨウ素が検出された4月3日を除き,4月29日までいずれも不検出であり,放射性セシウムについては,3月28日~4月29日いずれも不検出であった(甲A415)

(2)平成23年5月頃以降の本件事故の推移等といわき市の状況等ア
原子力災害対策本部等の行政庁の指示,被告東電の対応状況等

(ア)文科省は,平成23年4月19日,
福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方を福島県教育委員会等に発出したと公表した。その中で,ICRPの緊急時被ばく状況における公衆の防護の考え方を踏まえ,非常事態収束後の参考レベル年間1~20mSvを学校の校舎・校庭等の利用における暫定的目安として,今後できる限り児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であること,児童生徒等の受ける線量を考慮する上で,16時間の屋内(木造)
,8時間の屋外活動の生活パターンを想定する
と,上記年間20mSvに到達する空間線量率は,屋外毎時3.8μSv,屋内毎時1.52μSvであり,これを下回る学校では児童生徒等が平常どおりの活動によって受ける線量が上記年間20mSvを超えることはないと考えられること,文科省の調査により校庭・園庭で毎時3.8μSv未満の空間線量率が測定された学校については,校舎・校庭等を平常どおりに利用して差し支えないこととしていた(乙A44)

(イ)被告東電は,平成23年5月17日,『福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋』の進捗状況についてを公表し,その中で,建屋の地下に
滞留した汚染水からセシウム,塩分等を取り除き冷却水として再利用する循環注水冷却を導入する方針を示し,
同年6月27日にその稼働を開始した
(甲
A452・2頁)


(ウ)原子力災害対策本部は,平成23年7月19日,本件事故の収束に向けた道筋の進捗状況を公表した。その中で,
ステップ1における原子炉で発生
している崩壊熱の安定的な除去や注水(循環注水冷却)の確保,炉心状態の解析などの対策により原子炉や使用済み燃料プールの安定的な冷却に到達していること,同様にステップ1における滞留水の除染等やその後の処理水の保管,海洋汚染拡大防止のためのゼオライトによるセシウムの吸着の浄化作業等も進んでいること,放射性物質の飛散防止やモニタリングの拡充など
も進められていることが示されていた。
同日,原子力安全委員会は,長期にわたる放射線防護措置のための指標として,ICRPが緊急時被ばく状況に適用することとしている参考レベルのバンド20~100mSvの下限である年間20mSvを適用すること,現存被ばく状況として,ICRPの勧告に基づき,バンドの年間1~20mS
vの下方の線量を選定することとなるが,長期的には年間1mSvを目標とすることを示した(以上,乙A43,乙A119,丙A261・1~3頁)。
(エ)原子力安全委員会は,平成23年8月4日,本件事故において実施されている各種の緊急防護措置の解除に関する考え方として,①緊急時避難準備区域において,本件原発の状況等から屋内退避等の対応を要する事態が発生する可能性が極めて低く,かつ,そのような事態が発生しても対応のための十分な時間的余裕があると判断されること(なお,住民が受ける被ばくの低減を図るために必要な除染とモニタリングが行われること)②避難区域において,,
本件原

発の状況等から屋内退避等の対応を要する事態が発生する可能性が極めて低く,かつ,そのような事態が発生しても対応のための十分な時間的余裕があると判断されることとともに,当該区域において住民が受ける被ばく線量が解除日以降年間20mSv以下となることが確実であり,年間1~20mSvの範囲で長期的には参考レベルとして年間1mSvを目指して,合理的に達成可能な限り低減する努力がされること(なお,解除に先立ち必要な除染を行うとともに,
住民が受ける被ばく線量の推定を行うために必要なきめ細かなモニタリングが行われること)などを示した。また,③計画的避難区域においても,上記
②のうち解除日以降年間20mSv以下となることと年間1~20mSvの範囲で長期的には参考レベルとして年間1mSvを目指すこととしていた(丙A262・1~3頁)


(オ)文科省は,平成23年8月26日,
福島県内の学校の校舎・校庭等の線量低減について(通知)を発し,その中で,学校が再開されている地域では既に校庭・園庭において毎時3.8μSv以上の空間線量率が測定されている学校はないこと,今後,年間1mSvに向けて低減していく取組を進めていく必要があり,夏季休業終了後,学校において児童生徒等が受ける線量については,原則年間1mSv以下(自然放射線等による被ばくを除く。とし,これ)
を達成するために校庭・園庭の空間線量率について,児童生徒等の行動パタ
ーン
(学校への通学日数年間200日,
1日当たりの平均滞在時間6.
5時間
(屋内4.
5時間,屋外2時間)とする。を考慮し,毎時1μSv未満を目安とすることな)
どを示していた(乙A45・1~4頁)

(カ)原子力災害対策本部は,平成23年9月30日,緊急時避難準備区域を含む5市町村(広野町,楢葉町,川内村,田村市,南相馬市)における復旧計画の策定,提出を受け,同区域の解除を差し支えないとする原子力安全委員会の意見なども踏まえ,緊急時避難準備区域の解除をした。なお,今後は,国は,
各市町村の意向を尊重し,
住民の帰還に必要な支援を行うこととしていた
(乙
A26)。


避難指示区域等の見直し等

(ア)原子力災害対策本部・被告東電中長期対策会議は,平成23年12月21日,
東京電力(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップを公表し,その中で,廃炉に向けた作業手順などのほか,
汚染水の対策として,
建屋内の滞留水について多核種除去設備
(ALPS)
を導入し,T/B,R/B間の止水,格納容器下部の補修を行い,10年以内を目標に上記滞留水の処理を完了すること,汚染された地下水の海洋流出
の防止のために,平成26年度半ばまでに海側の遮水壁の構築や海底土の固化土による被覆を実施し,海底土中の放射性物質の拡散の防止などの対策を講じるとともに,平成24年度中を目標に港湾内の海水中の放射性物質濃度を周辺監視区域外の濃度限度未満とすることとしていた(甲A452・2頁,乙A97・1頁)


(イ)原子力災害対策本部は,
平成23年12月26日,
東京電力福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋(ステップ2完了)のポイントを発し,
その中で,本件原発の原子炉について,圧力容器底部及び格納容器内の温度がおおむね100℃以下になっていること,注水のコントロールにより格納容器から放射性物質の放出が抑制され,本件原発の敷地境界における被ばく
線量が年間0.1mSvであり,年間目標値1mSvを下回っていることなどから,
冷温停止状態に達し,不測の事態が発生した場合も敷地境界にお
ける被ばく線量が十分低い状態を維持することが可能になり,
放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられているという事故収束に向けた目標(ステップ2)の達成と完了が確認され,本件事故そのものの収束に至ったものと判断したこと,今後の取組として,新組織を設置し,新組織により中長期ロードマップを決定し,廃炉に向けた現場作業や研究開発を行うことを公表した。
また,同日,原子力災害対策本部は,
ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題についてを公表し,その中でステップ2の完了により本件原発の安全性が確認さ
れたとして,警戒区域等の見直しについての具体的な検討を開始する環境が整い,今後,見直しに関する基本的な考え方を提示し,見直しに当たって発生する諸課題への対応等について関係自治体の協議,調整を行いながら検討するとしたこと,被ばくWGが示した年間20mSvの被ばくリスクが他の発がん要因のリスクとの比較において十分に低いものであるという見地から,
原子力安全委員会が示した年間20mSv基準を,区域の見直しにおいても適用すること,他方,放射性物質による汚染に対する強い不安感を有する住民がいることも踏まえ,今後特別法に基づき策定する除染実施計画に基づく除染を実施し,2年後に年間10mSv近くまで引き下げ,その目標が達成された場合には,新たな参考レベルを設定し除染作業を進めること,放射線
感受性が強い子供に対する被ばく線量の一層の低減に向けた対策(通学路,公園などの子供の生活環境に優先した除染に取り組み,
2年内に被ばく線量のおおむね6
0%減少した状態を実現すること,校庭・園庭の空間線量率毎時1μSv未満を実現すること,学校給食食材等の放射能濃度測定機器の整備等)を優先することなどが示
されていた。
なお,その参考資料として,線量分布図(平成23年11月5日換算値)が添付され,
本件原発の30km圏内付近のいわき市の一部も掲示されていたが,その北部の川内村や広野町と接する付近で年間線量(単位mSv)が10以上20未満の地域があり,同付近の一部に5以上10未満の地域もあったが,それ以南は5未満となっていた(以上,甲A3本文編・242,243頁,乙A29,乙A30・1~5頁,参考資料)。

いわき市の津波被害の状況等

(ア)平成23年6月の現地調査により確認されたいわき市の本件津波による被害の状況として,浸水区域が,いわき市行政区域1231.35km2のうち17.75km2(1.4%)であった。浸水深は,1.5m以下が浸水区域の約62%であるが,1.5~3.0m以下が18.2%で,3.0~5.0m以下が8.3%で,5.0~7.0m以下が10.3%で,7.0m以上
が1%であった(乙C49)。
(イ)また,
上記(ア)の現地調査による建物の被災状況として,
被災建物棟数約8
170棟のうち,全壊(流失)が約1050棟で,全壊が約830棟で,全壊(1階天井以上浸水)が約430棟で,大規模半壊が約880棟で,半壊(床上浸水)が約2210棟で,一部損壊(床下浸水)が約2770棟であった(乙C
49)。

(ウ)上記調査の結果としては,本件津波の犠牲者は292人であり,約75%が60歳以上の高齢者であったとされる(乙C49)。

平成23年頃のいわき市の経済動向等

(ア)いわき市の主要経済データを見ると,需要動向としては,個人消費のうち大型小売店等販売額(いわき市内の主要大型小売店の販売額)
を見ると,
平成23
年3月は,(平成22年)
前年
同月と比較すると,
-35%と大きく落ち込み,
平成23年4月も-1.2%の落込みがあるが,その後の同年5月以降,前年同月と比較すると,いずれも8~12%ほど上昇している。自動車の新規
登録台数(代表的な耐久消費財である自動車の販売動向を示し,いわき市における消費動向が反映される。を見ると,

平成23年3月~同年9月にはいずれも前年
同月を下回っているが,平成23年10月以降同年12月まで,前年同月をいずれも20%以上,
上回っている。
新設住宅着工数
(住宅への投資動向を表し,
住宅投資の増加は建築資材の需要や家具の買替え需要などの波及効果をもたらす。)を
見ると,平成23年は,平成22年との比較において,マイナスの月が多いものの,平成23年5月,同年8月及び同年11月は前年同月をいずれも25%以上,
上回っており,
公共工事等受注額を見ると,
平成23年9月まで,
同年5月を除き,いずれも前年同月を下回っているが,平成23年10月以降同年12月までいずれも前年同月を上回っている。
企業動向のうち生産活動を見ると,
大口電力使用量
(契約が500kW以上の

電力の使用量であり,主として製造業の生産活動の状況が反映される。)は平成23
年3月~同年12月に前年同月をいずれも下回り,
小名浜港海上出入貨物
(船
によって輸入等され小名浜港で船卸しされる貨物又は同港で船積みされ船によって輸出等される貨物の重量)は平成23年3月~同年8月まで前年同月を下回って
いたが,平成23年9月以降同年12月まで前年同月をいずれも上回り,小名浜港輸入通関実績
(小名浜港を通関して輸入された貨物の金額であり,
工業用原材
料が多くを占める。)は平成23年3月~同年12月に,同年9月及び同年1
0月を除き,いずれも前年同月を下回っている。
雇用の状況について,平成23年は,同年4月を除き,新規有効求人倍率は前年同月をいずれも上回り,有効求人倍率(月間有効求人数を月間有効求職者数で除して算出され,労働需給が反映される。)は前年同月をいずれも上回ってい
る。他方,雇用保険受給者実人員(失業給付を受けている有効失業者数であり,景気に遅行し逆サイクルで動く。)が平成23年4月~同年12月に前年同月をい
ずれも上回り,特に同年5月以降急増している。
いわき市の景気動向指数等からは,同市の景気が拡大・拡張の傾向にあることがうかがわれる(以上,乙C52の1・5~7,9~14頁)。(イ)東日本国際大学経済情報学部の大川信行教授は,いわき市の経済・景気について,以下のとおり評価する。
平成23年7月~同年9月に回復の動きを見せており,同年10月~同年12月に回復基調が一層強まっている。部門別には,需要動向として,自動車,住宅着工が回復するなど,消費マインドが本格的に回復しつつあり,企業動向も大口電気使用量が平成23年7月以降大幅に増加するなど,物,人,

金が活発に動いている。新規求人倍率及び有効求人倍率が上昇傾向にあり雇用情勢も改善している。他方,雇用保険受給者数の高止まりや入湯税の低迷に見られる観光客の戻りの鈍さといった不安材料がある(以上,乙C52の1・1頁)。
(3)いわき市の放射線モニタリングの状況,食品等汚染,除染状況等ア
本件事故により放出された放射性物質の量(推定)

(ア)大気中の放射性物質の放出量は,以下のとおりである。
被告東電は,モニタリングカーなどで測定された環境中のデータ(風向・風速・雨量・空間線量率)や土壌の汚染密度などから放出量を推定した。なお,平成23年4月の放出量は同年3月の放出量の1%未満であったことから,放出量の推定期間は,同年3月12日~同月31日である。
その結果,ヨウ素131(I-131)が約500PBq(ペタベクレル=1000兆Bq)であり,セシウム134(Cs-134)及びセシウム137(Cs-137)のいずれもが各約10PBqであると推定した。なお,推定期間
に一部違いがあるものの,他機関の推定量と比較すると,被告東電の推定量が放射性ヨウ素については最も多く,
次いでIRSN
(フランス放射線防護原子
力安全研究所)の200PBq(推定期間同年3月12日~同月22日)であり,
セシウム134については保安院の推定量18PBq(推定期間不明)が最も多く,セシウム137についても保安院の推定量15PBq(推定期間不明)が最も多い(なお,IRSNは,セシウム134及びセシウム137合わせて30PBqが放出されたと推定している。)。
土壌への沈着量と比較すると,文科省が実施したセシウム137の土壌汚染密度測定値から被告東電所有の大気拡散計算プログラム(DIANA,乙A4の1・292頁)が評価できる範囲におけるセシウム137の総沈着量を算
出し,
同プログラムによる沈着量評価値とほぼ一致(いずれも約1pBq)し,妥当な推計量と裏付けられた(以上,乙A4の1・292~295頁)。
(イ)海洋への放射性物質の放出量は,以下のとおりである。
被告東電は,海洋(放水口付近)での放射線濃度の観測値から放出量を推定(逆推定)した。なお,放出量の推計期間は,平成23年3月26日~同年9
月30日である。
その結果,ヨウ素131の総量が約11pBqで,セシウム134の総量
が3.
5pbqで,
セシウム137の総量が3.
6pBqであると推計した。
なお,日本原子力研究開発機構は,推計期間同年3月21日~同年4月30日として,ヨウ素131の総量が約11.4pBqで,セシウム137の総量が3.6pBqである(ただし,大気中のものを含む。)と推計し,IRSNは,推計期間同年3月21日~同年7月中旬として,セシウム137の総量
が27pBqであると推計した(乙A4の1・295~297頁)。イ
いわき市内の空間放射線量率等

(ア)文科省によるモニタリングの状況等は以下のとおりである。a
文科省は,平成23年5月6日,同年4月6日~同月29日に実施された文科省及び米国エネルギー省との共同での航空機モニタリングの結果を公表した。そのモニタリングの結果として,地表面から1mの高さの空間線量率については,①いわき市の北部の本件原発から30km圏内では一部毎時1.9~3.8μSvのエリア(ただし,川内村との境に毎時3.8~9.5μSvのエリアがある。)及び毎時1.0~1.9μSvのエリアがあ
るが,一部毎時1.0μSv未満のエリアもあり,また,②30km圏外のいわき市のエリアは,一部毎時1.0~1.9μSv又は毎時1.9~3.
8μSvのエリアもあるが,
おおむね毎時1.
0μSv未満であった。
また,セシウム134,137の蓄積状況(合計蓄積量)としては,上記①のエリアでは,60万~100万Bq/m2(ただし,川内村との境に100万~300万Bq/m2のエリアがある。)のエリア及び30万~60万Bq
/m2のエリアがあるが,一部30万Bq/m2未満のエリアもあり,また
上記②のエリアでは,一部30万~60万Bq/m2又は60万~100万Bq/m2のエリアがあるが,
おおむね30万Bq/m2未満であった
(以
上,乙A111,同別紙1及び2)。

b
文科省は,平成23年5月11日,環境モニタリングの実施の強化を公表した。その中で,計画的避難区域以外の空間線量率が比較的高い区域及
び本件原発から20~30km圏内の市町村において連続測定地点の増加などを予定していたが,モニタリング強化区域(20km以遠)の中には,いわき市大久町大久矢ノ目沢(本件原発から南南西28km),同市小川町上小川(本件原発から南西26km),同市川前町小白井字将監小屋(本件原発から南西30km)があった(乙A113)。

c
文科省は,平成23年6月16日,同年5月18日~同月26日に実施された文科省及び米国エネルギー省との共同での第2次航空機モニタリングの結果を公表した。そのモニタリングの結果も,おおむね上記aの最初のモニタリングの結果と同様であり,地表面から1mの高さの空間線量率
については,①いわき市の北部の本件原発から30km圏内では一部毎時1.9~3.8μSvのエリア(ただし,川内村との境に毎時3.8~9.5mSvのエリアがある。)及び毎時1.0~1.9μSvのエリアがあるが,一
部毎時1.0μSvのエリアもあり,また,②30km圏外のいわき市のエリアは,一部毎時1.0~1.9μSv又は毎時1.9~3.8μSvのエリアもあるが,おおむね毎時1μSv未満であった。
また,セシウム134,137の蓄積状況(合計蓄積量)としては,上記①のエリアでは,60万~100万Bq/m2(ただし,川内村との境に100万~300万Bq/m2のエリアがある。)のエリア及び30万~60万Bq
/m2のエリアがあるが,一部30万Bq/m2未満のエリアもあり,また上記②のエリアでは,一部30万~60万Bq/m2又は60万~100万Bq/m2のエリアがあるが,
おおむね30万Bq/m2未満であった
(以

上,甲A352,同別紙1及び2)。

d
文科省は,平成23年8月2日,同年6月~同年7月に実施された土壌採取地点における空間線量率の測定の結果及び走行サーベイによる道路周辺の空間線量率の結果(いずれも地表面から1mの高さ)を公表した。その結果を見ると,いわき市においては,いずれも線量率が高い北部で毎時1.
9~3.8μSvの地点があったが,それ以外の地点では,一部毎時1.0μSv以上の地点もあったものの,おおむね毎時1.0μSv未満であった(乙A115,同別紙5及び6)。
e
その後,平成23年中に文科省による第3次(同年7月実施)及び第4次航空機モニタリング(同年11月実施)が実施されたが,第3次と第4次の各結果を比較すると,全体として空間線量率が11%程度減少していることが確認された。その要因としては,セシウム134,137の物理的減衰部分9.2%程度に加えて,他の要因が考えられるところ,一部空間線量率が増加している箇所等もあり,その変化の要因の特定には至らなかっ
たが,海や湖沼の沿岸部の水面高さの違い(水の遮へいにより水上での空間線量率が減少することから,水位の上昇・下降の変化等に伴い,ある時点の空間線量率の測定結果に大きな影響を与える可能性がある。),飛行方向の違い,測定値の
欠測箇所の存在により空間線量率が増加又は減少している箇所が確認されたほか,一部の河川の河口付近等において河川による放射性物質の移行により空間線量率が増加傾向にあると思われる箇所が確認された。また,降水量や台風等の集中豪雨の影響などに伴う空間線量率の変化も考えられたが,明確な関係は確認できなかった(甲A353・3,4,18~20頁)。(イ)福島県環境放射線モニタリング調査(都市公園等)の結果は,以下のとおりである。
a
第1回の平成23年4月12日及び同月13日の調査では,いわき市の公園225か所のうち17の地点(地上1cmの高さ)において,毎時1μ
Sv(文科省の校庭等に係る指標値)を超えており,最も高い地点(郷ケ丘二丁目第二公園)では,地上1mの高さの線量率が毎時1.4μSvで,地上1
cmの高さの線量率が毎時1.6μSvであった(甲A488)。b
平成23年6月16日~同月21日の調査では,いわき市の公園,緑地等27か所の調査地点(公園等内の四隅及び中央の5地点の各平均値,測定高さ
50cm)で毎時1μSvを超えた地点はなく,最も高い地点(白土緑地)に
おいて,毎時0.43μSv(上記同)であった(甲A489)。c
平成24年4月10日~同月24日の調査では,いわき市の公園,緑地等250か所の調査地点(公園等内の四隅及び中央の5地点の各平均値,測定高さ50cm及び1m)で毎時1μSvを超えた地点はなく,最も高い地点(郷
ケ丘二丁目第一公園)において,測定高さ50cmが毎時0.46μSv(上記同)で,測定高さ1mが毎時0.43μSv(上記同)であった(甲A490の1)。

d
平成25年6月10日~同月25日の調査では,いわき市の公園,緑地等248か所の調査地点(公園等内の四隅及び中央の5地点の各平均値,測定高
さ50cm及び1m)で毎時1μSvを超えた地点はなく,最も高い地点(郷ケ丘二丁目第二公園)において,測定高さ50cmが毎時0.34μSv(上記同)で,測定高さ1mが毎時0.31μSv(上記同)であった(甲A492の1)。
(ウ)自主的避難等対象区域等の放射線量データは以下のとおりである。a
自主的避難等対象区域の放射線量率の測定結果を見ると,平成23年3月31日時点で,いわき市の各市役所支所6か所及びJR久ノ浜駅ほか1か所における測定結果は,
最大毎時1.
46μSv
(田人支所)最低同0.

39μSv(小名浜支所)であり,同年4月30日時点で,上記8か所の地点における測定結果は,最大毎時0.62μSv(JR久ノ浜駅),最低同0.11μSv(三和支所)であり,同年5月31日時点で,上記8か所の
地点及び中央台南小学校における測定結果は,
最大毎時0.
59μSv
(J
R久ノ浜駅),最低同0.12μSv(勿来支所)であり,同年6月30日時
点で,上記9か所の地点及び同市末続集会所における測定結果は,最大毎時0.
35μSv(末続集会所),最低同0.09μSv(勿来支所)であり,同年7月31日時点で,上記10か所の地点における測定結果は,最大毎
時0.39μSv(末続集会所),最低同0.1μSv(勿来支所)であり,同年8月31日時点で,上記10か所の地点における測定結果は,最大毎時0.
38μSv(末続集会所),最低同0.09μSv(勿来支所)であり,同年9月30日時点,同年10月31日時点,同年11月30日及び同年12月31日の各時点で,上記10か所の地点における測定結果は,いず
れも最大毎時0.
36μSv(末続集会所)最低同0.

09Sv(勿来支所)
であり,平成24年1月31日時点で,上記10か所の地点における測定結果は,最大毎時0.34μSv(末続集会所),最低同0.09μSv(勿来支所)であり,同年2月16日時点で,上記10か所の地点における測定
結果は,最大毎時0.36μSv(末続集会所),最低同0.09μSv(勿
来支所)であった(乙A126・2頁)。

b
自主的避難等対象区域における線量上位10地点及び下位10地点について,平成23年8~9月において福島市の最も高い地点の線量率は毎時2.4μSv,伊達市の最も高い地点の線量率が同4.3μSv,郡山市
の最も高い地点の線量率が同1.3μSvであり,上記期間における線量率の最も低い地点の線量率が同0.13μSv(福島市),同0.26μSv(伊達市),同0.08μSv(郡山市)であった。また,同様に線量上位10地点及び下位10地点について,平成24年2月22日時点において福島市の最も高い地点の線量率は同1.7μSv,伊達市の最も高い地点の線量率が同1.7μSv,郡山市の最も高い地点の線量率が同1.4μSvであり,上記期間における線量率の最も低い地点の線量率が同0.0
6μSv(福島市),同0.10μSv(伊達市),同0.05μSv(郡山市)であった(乙A126・3頁)。

c
平成24年3月以降の福島県内の環境放射能測定値(暫定値)を見ると,同月31日,福島市(県北保健福祉事務所北側駐車場,以下この項では同じ)毎
時0.
75μSv,
郡山市
(郡山合同庁舎東側入口付近)
毎時0.
58μSv,
いわき市
(いわき合同庁舎駐車場,
以下この項では同じ)
毎時0.
17μSvで,
同年4月30日,福島市毎時0.68μSv,郡山市(郡山合同庁舎南側駐車場,以下この項では同じ)毎時0.60μSv,いわき市毎時0.11μSv
で,同年5月31日,福島市毎時0.62μSv,郡山市毎時0.58μSv,いわき市毎時0.11μSvで,同年6月30日,福島市毎時0.71μSv,
郡山市毎時0.
56μSv,
いわき市毎時0.
10μSvで,
同年7月31日,
福島市毎時0.
68μSv,
郡山市毎時0.
52μSv,
いわき市毎時0.10μSvで,同年8月31日,福島市毎時0.70μSv,郡山市毎時0.51μSv,いわき市毎時0.10μSvで,同年
9月30日,福島市毎時0.70μSv,郡山市毎時0.52μSv,いわき市毎時0.10μSvで,同年10月31日,福島市毎時0.78μSv,郡山市毎時0.52μSv,いわき市毎時0.10μSvで,同年11月30日,福島市毎時0.78μSv,郡山市毎時0.49μSv,いわき市毎時0.10μSvで,同年12月31日,福島市毎時0.63
μSv,郡山市毎時0.55μSv,いわき市毎時0.10μSvであった(乙C27の13~22)。
それ以降平成28年3月31日まで,いわき市の上記地点の線量率が毎時0.1μSvを超えることはなく,また,福島市及び郡山市の各地点を上回ることもなかった(乙C27の23~61)。

いわき市の除染の実施状況等

(ア)いわき市は,
平成23年9月に
放射線量低減のための除染マニュアル(配布版)を発し,その中で,同市の放射線量については全般的に低い水準で推移しているが,学校や通学路などの子供たちが生活する空間を始め,道路や住居等の生活環境の一部において周囲より高い線量が測定される土砂,落ち葉などの特定線源が存在し,この状況に不安を感じる市民も少なくな
いこと,この特定線源について通常と同じ清掃活動により除去できることから,除染を積極的に展開していく必要があること,除染の対象は市内の施設を基本とし,
施設の管理者が主体となって除染することを基本とするが,
市民ボランティアなどの地域コミュニティ等の協力等も得て地域が一体となって行うこと,進め方として,線量測定機器の準備と測定,線量が高いエリ
アや線源の特定のためのマップ作成,除染作業のための装備や資機材の準備と作業の実施(清掃等,水洗浄,表土除去,廃棄物の運搬・保管など),作業終了後の線量測定,評価などが示されていた(乙C32,乙C34)。
(イ)環境省は,
平成23年12月,
除染関係ガイドラインを策定した。
これは,
平成23年8月に制定された平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成23年法律第110号)の平成24年1月以降の施行を踏まえ,同法に基づき,長期的な目標として追加被ばく線量が年間1mSv以下となることを目指し,
①汚染状況を調査測定し,
除染等の措置を行う除染実施区域の決定,②その後の除染実施計画に基づく
除染等の措置の実施,③除染等の措置に伴い生じた除去土壌の収集,運搬及び保管という流れで,除染を進めるというものである。
上記追加被ばく線量年間1mSvは,1時間当たりの空間線量率に換算すると,毎時0.23μSvとなる。その考え方としては,①自然界に元々存在する放射線量としては,毎時0.04μSvと考えられるところ,②追加被ばく線量年間1mSvを,1日のうち屋外に8時間,遮へい効果(木造家屋を念頭に0.4倍)がある屋内に16時間滞在するとして,1時間当たりに換
算すると,毎時0.19μSv(計算式0.19×(8時間+0.4×16時間)×365日=年間1mSv)となる(以上,甲A288はじめに,甲A290,乙A57)。

(ウ)いわき市は,平成23年12月21日,原子力災害対策本部が決定した同年8月26日付け除染に関する緊急実施基本方針に基づき,いわき市除染実施計画(その後の平成25年3月26日に同計画《第2版》,平成26年10月1日に同計画《第3版》,平成28年3月31日に同計画《第4版》と改訂した。)

を策定した。
その中で,日常生活環境における追加被ばく線量を長期的には年間1mSv(毎時0.23μSv)未満とすること,子供が生活する公共施設,特に長時間滞在する保育・教育施設における追加被ばく線量を平成25年12月までに年間1mSv未満とすること,放射線量が高い地域について,平成23年8月末と比較し,平成25年12月までに空間線量率を約60%低減することを目標としていた。除染実施区域について,原則大字を単位とし,①上記
イ(ア)の同年9月の文科省航空機モニタリング結果により面積の50%以上が毎時0.23μSv以上となる大字,②上記①以外の大字で,平成24年度のいわき市の独自モニタリング結果により,区域内が平均毎時0.23μSv以上となる大字,③除染対象外の大字に所在する学校や公園などの子供の生活環境のうち,モニタリング結果により敷地内が平均毎時0.23μS
v以上となる施設等とすることなどが定められた。
除染実施区域としては,上記①に該当する区域として,川前地区全域,小川地区全域(一部地域は,上記②の区域に当たり,平成24年8月31日のいわき市独自のモニタリングにより追加),久之浜・大久地区全域,三和地区全域,四倉
地区全域,平地区全域(一部は,いわき市独自のモニタリングにより追加されており,上記②に該当),好間地区,内郷地区,常磐地区,小名浜地区,遠野地区,田人地区及び勿来地区の各一部(いわき市独自のモニタリングにより追加されたものがある。)のほか,上記③の除染対象外の大字の各小中学校,幼稚園,保育
所,公園などとしていた(甲A510・5~10頁,乙A121,乙C36~乙C38)。

(エ)いわき市は,上記除染実施計画に基づき,平成23年以降,市内の除染を実施し,平成29年2月時点で,住宅の除染について,計画数5万0996戸について調査も含めて全件発注し,うち4万8662戸について,その実施を完了し(実際に除染をした戸数7440戸,調査にて終了した戸数4万1222戸),公共施設の除染について,計画数418個について調査も含めて全件
発注し,うち416個について,その実施を完了し(実際に除染をした数373個,調査にて終了した数43個),道路の除染について,計画距離4144km
について調査も含めて全件発注し,うち3887.1kmについて,その実施を完了し
(実際に除染をした距離146.
6km,
調査にて終了した距離3740.
5km),農地(水田)の除染について,計画数131.5haについて全件
発注し,その実施も全件完了し,農地(畑地)の除染について,計画数7.2haについて全件発注し,その実施も全件完了し,森林(生活圏)の除染について,計画数7.7haについて全件発注し,その実施が全件完了した。このうち,除染対象となった学校等について平成25年度末までに除染を全て完了し,また,上記イ(イ)の毎時0.23μSv以上となった10の公園について平成25年9月までに除染が実施され,同年度の詳細なモニタリン
グ検査に基づき対象となった142の公園について平成26年度中に除染が完了したほか,子供の遊び場等についても局所的に線量が高い,いわゆるホットスポットについて除染が実施されている
(以上,
甲A495・24~26頁,
乙A99,丙A156・3枚目)。

(オ)いわき市内の学校施設等における除染土壌等については,平成28年6月30日時点でも,同市内の公立小中学校112校で合計2万6334.76m3の除染土壌等が保管され,同市内の幼稚園・保育所(公私立含む。)66園
で,合計6193.43m3の除染土壌等が現場保管(地下)されている。いわき市は,今後,仮置場(除染土壌等の管理のために,放射性物質の遮へいや漏えい対策を講じた上で,
定期的に敷地境界内の空間線量率を測定し,
管理する場所をいう。
乙A101,乙A102),中間貯蔵施設への搬出を順次実施していくが,一定
期間掘り起しなどの作業のために校庭や園庭が使用できなくなるなどの問題
のほか,園児・児童・生徒や周辺住民の安全性の配慮が課題となるとしていたが,環境省から,同月以降,学校施設に限り中間貯蔵施設建設予定地内への追加輸送の方針が示されるとともに,仮置場の確保も進捗している状況にあることから,
除染土壌等の早期搬出が進められ,
平成29年3月下旬頃に,
早期かつ優先的に除染されていた久之浜・大久地区における3校の小中学校
からの搬出作業が実施された。また,平成29年度以降,四倉地区,小川地区及び川前地区の除染土壌等の搬出が予定されていた
(甲A294,
乙A100
~乙A104)。


いわき市における食品等の摂取・出荷制限等の状況等

(ア)厚労省等が定める食品群等の放射性物質の規制値等に関しては,以下のとおりである。
上記(1)ア(オ)a(a)のとおり,
厚労省は,
平成23年3月17日に飲食物摂
取に関する指標値を出していたが,その後に食品群の放射性セシウムに関する暫定規制値を公表した。その中では,野菜類,穀類,肉・卵・魚ほかを1
kg当たり500Bq,飲料水,牛乳・乳製品を同200Bqとしていた。上記暫定規制値は,放射性セシウムの年間被ばく線量5mSvと設定したこと(放射性ストロンチウムを含む。に基づくものであった。

その後,厚労省は,より一層,食品の安全と安心を確保するため,平成24年4月1日以降の新たな放射性セシウムの基準値として,飲料水1kg当たり10Bq,乳児用食品及び牛乳同50Bq,一般食品同100Bqとした。これは,ストロンチウムやプルトニウムなどの存在も考慮(なお,半減期の短い放射性ヨウ素については基準値が定められていない。し,年間1mSvを超)

えないように設定したものである。また,平成23年9月及び同年11月に実施された流通食品の調査を踏まえて推計したところ,放射性セシウムの実効被ばく線量は年間0.02mSvを下回っており,非常に小さい値と評価している。
なお,林産物の放射性物質の基準値及び指標値としては,きのこ(なお,栽培用資材については指標値以下のものを用いる必要がある。),山菜類,樹実類の基
準値は1kg当たり100Bqとされ,きのこ栽培用資材の指標値は同50Bq(原木,ほだ木)又は200Bq(菌床用培地等),木炭の指標値は同280Bqなどとなっていた(以上,乙A77,乙A81の5,乙A91・Q1,乙A93)


(イ)いわき産農作物の安全確認モニタリング検査としては,
平成23年度以降,
福島県による検査(郡山市において,福島県産の農林水産物を対象として,ゲルマニウム半導体検出器による検査が実施されている。に加えて,いわき市による独自)
の検査が実施されている。JAいわき市第一営農経済センター(平成24年4月以降,旧JAいわき市各営農センター5か所及び旧JAいわき中部経済部1か所)に
おいて,出荷前のいわき市の主要な系統出荷農作物を対象に,平成24年4月以降,直売所,個人販売による出荷農作物等も対象に拡充した上で,Nalシンチレーションスぺクトロメーターが検査機器として使用されており,検出下限値は1kg当たり20Bq(平成24年以降,同10Bq)となっている。
検査の手順として,いわき市・JAの検査により基準値である1kg当たり100Bq(上記(ア)のとおり,平成24年4月以降)を超えた場合,いわき市から市内流通関係者等に対して対象品目の出荷の自粛を要請するとともに,市内報道関係機関に対する情報提供がされ,その後に福島県による精密検査(ゲルマニウム半導体検出器による検査)を経て,基準値を超えたときは福島県
からの出荷自粛要請とともに,被告国からの出荷制限の指示があり,基準値を下回ったときはいわき市の出荷自粛要請を解除するとともに市内報道関係機関に対して解除情報を提供することとなっている(以上,甲A306・15,16,18頁)

(ウ)いわき市における農作物安全確認モニタリング検査,同市の食品等に関する摂取,出荷の制限の具体的状況等は以下のとおりである。
a
検査全体の概要を見ると,
平成23年度(ただし同年9月以降)において,
検体数2238件に対して検出下限値未満(同年度では1kg当たり20Bq)のものが2047件(91.5%)
,平成24年度において,検体数6675
件に対して検出下限値未満
(同年度以降,
同10Bq)
のものが6210件
(9

3.0%)
,平成25年度において,検体数6474件に対して検出下限値

未満(同10Bq)のものが6137件(94.8%)
,平成26年度におい
て,検体数6447件に対して検出下限値未満(同10Bq)のものが6375件(98.88%)
,平成27年度において,検体数6876件に対して
検出下限値未満(同10Bq)のものが6850件(99.62%),平成28

年度(ただし,同年12月まで)において,検体数6801件に対して検出下限値未満(同10Bq)のものが6775件(99.62%)となっている(甲A306・20頁)


b
食品の摂取に関しては,平成23年3月23日~同年5月4日(同日に解除)
,ホウレンソウやコマツナなどの非結球性葉菜類,キャベツなどの結球
性葉菜類,ブロッコリー・カリフラワーなどのアブラナ科花蕾類の各摂取制限の指示がされた。
また,同年9月15日以降,いわき市において野生のキノコ類の摂取制限の指示がされ,平成27年7月1日時点でも解除されていない(以上,乙A89)

c
食品の出荷に関しては,
平成23年3月21日~同年4月16日
(同日に
解除)に原乳が,同年4月13日~同年4月25日(同日に解除)に原木しい
たけ(露地栽培)が,同年3月21日又は同月23日~同年5月4日(同日に解除)に非結球性葉菜類,結球性葉菜類,アブラナ科花蕾類,カブが,そ
れぞれ出荷制限の指示を受けていた。
また,同年9月15日以降,野生のキノコが,同年10月31日以降,露地栽培の原木なめこが,それぞれ出荷制限の指示を受けており,平成28年6月24日時点でも解除されていない。
野生のタケノコについて,平成23年5月9日~同年6月8日に出荷制限の指示がされ,同日いったん解除されたが,平成24年4月9日以降,
再度出荷制限の指示がされ,平成28年6月24日時点でも解除されていない。
平成24年1月10日以降,ユズが,同年5月1日以降,野生のタラノメが,同月2日以降,ゼンマイが,同月10日以降,ワラビが,同月14日以降,コシアブラが,同年10月2日以降,クリが,同年11月28日
以降,コメ(平成24年度産,ただし,旧山田村の区域に限る。が,それぞれ出)
荷制限の指示を受け,コメは平成24年12月4日に,クリは平成26年11月17日に,ユズは平成27年1月29日に,それぞれ出荷制限の指示が解除されている。
また,野生のサンショウについては出荷が自粛されている。

他方,コゴミ,野生のフキノトウ,畑栽培のワサビ,野生のフキ,同ウワバミソウ,同ウド,同ネマガリタケ,同オオバギボウシ,同クルミ,アケビについての出荷制限はされていない(以上,甲A283,乙A89,乙A90)。

d
なお,いわき市内の公立及び市立の保育所,幼稚園及び学校におけるそれぞれの給食,市内で製造された加工食品,市内に流通する食品を対象とした放射性物質の検査が,平成24年以降実施されている。

平成24年度及び平成26年度においては,いずれも検出限界値未満又は基準値以下であり,平成25年度分においては加工食品の1件を除き,いずれも検出限界値未満であり,基準値超過の加工食品についても販売前の段階での検査であり,実際には流通していなかった。
平成27年度において,保育所給食(食材検査)2466件のうち245
9件について不検出,基準値(いわき市独自のセシウム合算値1kg当たり20Bq)以下6件(最大1kg当たり5.3Bq),上記基準値超過1件(出荷制限対象品目であり,給食食材として使用せず)であり,保育所給食(調理後検査)
576件のうち569件について不検出,上記基準値以下7件(最大1kg当たり0.58Bq),上記基準値超過0件であり,学校給食(食材検査)1
万1386件のうち1万1377件について不検出,基準値以下9件(最大1kg当たり10.8Bq),上記基準値超過0件であり,学校給食(調理後検査)406件のうち405件について不検出,上記基準値以下1件(最大1kg当たり1.01Bq),上記基準値超過0件であり,加工食品(流通食品検査)
360件のうち352件について不検出,
上記基準値以下8件
(最

大1kg当たり8.0Bq),上記基準値超過0件であった(以上,甲A495・22,23頁)。


福島県の水産物のモニタリング検査,海産物の出荷制限等

(ア)本件事故の影響により福島県沿岸での沿岸漁業及び底引き網漁業の操業は自粛されているが,平成23年4月以降,福島県は,原子力災害対策本部が策定したガイドラインに基づき,海産魚介類の放射性物質濃度についてモニタリング検査を実施している。
調査に当たっては,主要生産品目及び前年度に1kg当たり50Bq超となった品目を調査し,生息域,漁期,近隣県の調査結果等を考慮する。例えば,
同年4月中に採取されたいわき市のコウナゴの検査結果について,最大でヨウ素131が1kg当たり1万2000Bpで,セシウム134・137が同1万4400Bqであり,暫定規制値(放射性ヨウ素1kg当たり2000Bq,放射性セシウム同500Bq)を超えており,同月20日付けでイカ
ナゴの稚魚(コウナゴ)について摂取及び出荷制限の指示がされた(以上,甲A279,甲A280・1枚目,甲A454・2頁,乙A71,乙A72)。(イ)検査結果の推移は,以下のとおりである。
福島県における海産種のモニタリング結果を見ると,平成23年4月~同年12月には,検体1968品目のうち799品目の海産種から1kg当たり100Bq超となり,割合としては約41%であった。
平成24年には,検体5614品目のうち934品目の海産種から1kg
当たり100Bq超となり,割合としては約17%であった。
平成25年には,検体7589品目のうち283品目の海産種から1kg当たり100Bq超となり,割合としては約4%であった。
平成26年には,検体8738品目のうち77品目の海産種から1kg当たり100Bq超となり,割合としては約0.9%であった。

平成27年には,検体8624品目のうち4品目の海産種から1kg当たり100Bq超となり,割合としては約0.05%であった。
平成28年には,検体8564品目のうち1kg当たり100Bq超となった検体はなかった(以上,甲A454・3頁)。
(ウ)出荷制限等の状況等は,以下のとおりである。

平成24年6月22日,
上記(ア)の出荷制限の指示について,
イカナゴの稚
魚(コウナゴ)に関しては出荷制限の指示が解除された。
他方,同日,イカナゴ(コウナゴを除く。),イシガレイ,ウスメバル,ウミタナゴ,キツネメバル,クロウシノシタ,クロソイ,クロダイ,サクラマス,シロメバル,スズキ,ヌマガレイ,ババガレイ,ムラソイ,ビノスガイ,アカガレイ,スケトウダラ,マガレイ,ホウボウ,キタムラサキウニ,マダラ,ムシガレイ,ニベ,メイタガレイ,ケムシカジカ,ヒガンフグ,ヒラメ,マアナゴ,サブロウ,ホシガレイ,マゴチ,アイナメ,アカシタビラメ,エゾイソアイナメ,コモンカスベ及びマコガレイについて,出荷制限の指示がされた。
同年7月12日にナガヅカ及びマツカワについて,同年8月23日にショ
ウサイフグについて,それぞれ出荷制限の指示がされた。
平成25年2月14日にサヨリについて,
同年8月8日にカサゴについて,
それぞれ出荷制限の指示がされた。
同年10月9日にアカガレイについて,同年12月17日にスケトウダラについて,それぞれ出荷制限の指示が解除された。

平成26年3月25日にユメカサゴについて出荷制限の指示がされた。同年4月16日にマガレイについて,同年5月28日にユメカサゴについて,同年7月9日にホウボウ,キタムラサキウニ及びサヨリについて,それぞれ出荷制限の指示が解除された。
平成27年2月24日までにマダラ及びムシガレイについて,出荷制限の
指示が解除された。
同月18日にホシザメについて,同年4月2日にニベ及びメイタガレイについて,同年6月30日にケムシカジカについて,同年12月3日にヒガンフグについて,それぞれ出荷制限の指示が解除され,平成28年6月9日にヒラメ及びマアナゴについて,同年7月15日にサブロウ,ナガヅカ,ホシ
ガレイ,マゴチ及びマツカワについて,同年8月24日にアイナメ,アカシタビラメ,エゾイソアイナメ,コモンカスベ及びマコガレイについて,それぞれ出荷制限の指示が解除された。
その後,平成29年1月までに,ババガレイ,イシガレイ,クロウシノシタ及びクロソイの出荷制限の指示が解除され,その結果,同月17日時点で出荷制限の対象となっている魚介類は,イカナゴほか10品目となっている(以上,甲A279,甲A306・24頁,乙A71)。

(エ)試験操業の状況等は以下のとおりである。
上記(ア)のモニタリング検査の結果から,
安定的に数値が低く,
不検出とな
っているものを対象に試験操業が行われているところ,平成24年6月22日以降,タコ類2種,ツブ貝1種を対象に相馬沖で試験操業が開始され,同年は13種を対象として試験操業が行われた。

その後,平成25年にコウナゴなど18種が,平成26年にスケトウダラなど26種が,平成27年にマダラなど15種が,平成28年にアサリなど22種が,それぞれ試験操業の対象に順次追加され,同年9月29日時点では,試験操業の対象種は魚類66種,甲殻類8種,イカ・タコ類7種,貝類9種,その他2種となり,最終的には同年において94種となった。これら
の海産魚介類について,基準値(1kg当たり100Bq)をいずれも下回っていることが確認されている。
なお,試験操業に参加する漁業者数も増加しており,平成24年2月末時点では120人であったが,それ以降順次増加し,平成28年10月末時点で462人となっている
(以上,
甲A454・11~13頁,
乙A72,
乙A74)



飲料用井戸水,プール等の検査状況等

(ア)平成24年1月以降,市内の水道水給水区域外の飲料用井戸水(同年10月以降水道水給水区域内の飲料用井戸水も検査対象としている。について放射性物質)

検査が実施されているが,平成27年12月時点では,検査した1898件全てについて検出限界値(1kg当たり2Bq)未満であり,
平成29年2月時
点で検査した2046件全てについて検出限界値未満であった(甲A495・22頁,丙A154)


(イ)市内の公立小中学校及び公立幼稚園のプール水についても検査が実施され,検体数121施設のうち2施設からセシウム137が検出されたが,いずれも水道水の管理目標値1kg当たり10Bqを下回っており,福島県から,プールを利用する上で問題となる数値ではないとされている。

また,平成27年6月から同年7月にかけて実施された市内の公立及び私立保育所や児童館のプール水については,検体数38施設いずれについても昨年度と同様,不検出であったとされている(甲A495・23頁)。

汚染水の状況等

(ア)上記(2)イ(ア)の中長期ロードマップにおいて示されていた,平成24年度中に港湾内の海水中の放射性物質濃度を周辺監視区域外の濃度限度未満とするとの目標について達成できず,
平成27年以降の達成に目標が延期された。
平成25年3月30日にはALPSの稼働が開始されたが,同年4月5日に地下貯水槽からの汚染水漏れが発覚し,同年6月19日,1,2号機T/
B東側
(海側)
の地下水から高濃度のトリチウムが検出されたことを公表し,
同年7月22日に汚染された地下水が海に流出している事実を公表した。放射性物質濃度の大きな変動は港湾内のプラント付近に限られ,港湾の境界付近ではほぼ検出限界値未満(高くても1L当たり数Bq)であることが多く,沖合での測定結果に有意な変化は見られない。

なお,被告東電は,平成23年5月~平成25年7月に流出した放射性物質の量についてトリチウム20~40兆Bq(平常運転時の本件原発のトリチウム年間放出基準値22兆Bqを超えない。と試算している。


加えて,同年8月19日には貯水タンクから汚染水が環境中に漏えいしていることが発覚し,INESのレベル3の事故と認定された(以上,甲A452・2~4,13頁,乙A96・2,5頁)


(イ)これらの事故等を受けて,原子力災害対策本部は,平成25年9月3日,汚染水問題に関する基本方針を決定し,①汚染源を取り除く,②汚染源に
水を近づけない
,③汚染水を漏らさないといった3方針を掲げ,その具体的対策として,上記①につきALPSによる汚染水浄化,建屋から海側につながるトレンチ(海側地下のトンネル)内に滞留する汚染水の除去,止水工
事等,上記②につき地下水のくみ上げ,陸側遮水壁として凍土壁の設置等,上記③につき地盤改良,海側遮水壁の設置等を示した(甲A452・1,3頁,乙A96・1,3,4頁)


(ウ)本件原発海側の港湾内における9か所の調査箇所の海水モニタリングの状況に関して,平成25年7月~同年12月の状況として,セシウム134,セシウム137,
全ベータ
(ストロンチウム90は,
全ベータと強い相関があ
る。,トリチウムの採取結果について,それぞれ最大値(1L当たり,いずれも)
港湾内南側)で,セシウム134が89Bq(法令濃度限度60Bq,WHO飲料水ガイドライン10Bq)セシウム137が190Bq

(法令濃度限度90Bq,
WHO飲料水ガイドライン10Bq)全ベータが1400Bq(ストロンチウ,

ム90の法令濃度限度30Bq,
同WHO飲料水ガイドライン10Bq)トリチウム


が4800Bq(法令濃度限度6万Bq,WHO飲料水ガイドライン1万Bq)となっていたが,同箇所での平成26年3月の採取結果は,セシウム134が14Bq,セシウム137が41Bq,
全ベータが200Bq,トリチウム
が630Bqにまで減少し,それ以外の8か所についても,平成25年の採取量と平成26年4月の採取量を比較すると,
いずれもかなり減少しており,
全ベータ
が64Bqとなった1地点を除き,
法令濃度限度を全て下回り,
WHO飲料水ガイドラインとの関係でもこれを超えるのは上記1地点を含めた2地点にとどまる。
また,港湾外近傍における海水モニタリングの状況を見ても,防波堤を含
む8か所の調査箇所において,平成25年時点でも法令濃度限度及びWHO飲料水ガイドラインの各基準値をいずれも超える箇所は1か所(
全ベータ
が69Bq)で,WHO飲料水ガイドラインの基準値のみを超える地点は2か
所(各全ベータが15Bq,12Bp)であり,それ以外のセシウム134,137,トリチウムの各採取量は上記各基準値を超えず,平成26年4月時点の採取結果と比較しても,上記WHO飲料水ガイドラインの基準値のみを超える2か所の採取量に変化は見られないが(各全ベータが15Bq,12Bp)
,平成25年段階で上記全ベータが上記各基準値を超えていた地点
では,検出限界値未満に減少していた(以上,乙A106・添付資料1)。
(エ)なお,平成26年2月19日,別の貯水タンクからの汚染水漏れが発覚したが,同年4月28日に2号機T/Bとトレンチ接続部の止水工事が開始され,同年6月20日には凍土壁の工事が開始され,同年9月17日には増設されたALPSの稼働が開始されるなど,上記基本方針に従った対策が実施された。
しかし,上記止水工事は予定通りに進まず,同年11月21日に原子力規制委員会の検討を経て同工事が断念され,トレンチ内の汚染水の除去とセメ
ントによる埋設作業に移行することとなった。滞留水の除去や建屋の止水工事は,技術的な問題のほか,高線量のために人による作業が困難な箇所もあるなど,新たな研究開発によるべき部分がある。
また,ALPSによる汚染水の浄化は62種類の放射性物質の除去を可能とするが,トリチウムだけは技術的に除去できず,トリチウムを含むトリチ
ウム水の処理が問題となる。この点,トリチウムの人体への影響は他の核種と比べて低いとされ,海洋放出が現実的と考えられているが,地元住民や消費者の納得の問題のほか,
風評被害等も問題となる
(以上,
甲A452・4~6,
9,10,13頁)


(オ)平成28年6月に行われた,本件原発海側の港湾内における8か所の調査地点の海水モニタリングの状況を見ると,
各種放射性物質の採取量としては,
上記(ウ)の平成25年,平成26年と比較しても減少しており,1か所(同箇所の採取量は,セシウム137が1L当たり33Bq,
全ベータが同64Bq)を

除き,法令濃度限度はもとよりWHO飲料水ガイドラインの基準値を超える箇所はなく,いずれも上記各基準値を下回り,検出限界値未満の箇所も複数となっていた。また,港湾外近傍の各調査箇所は2か所を除き,検出限界値未満であり,検出された箇所も,上記各基準値を下回っていた(乙A94)。


廃炉作業等

(ア)上記(2)イ(ア)の中長期ロードマップにおいて示したとおり,被告東電は,廃炉に向けた作業を進め,平成26年4月24日時点で,1~3号機の原子炉圧力容器底部温度等について約15℃~約35℃を維持しており,原子炉建屋からの放射性物質の放出量等についても本件原発敷地境界の放射線量が年間0.03mSvにとどまり,有意な変動がないことから,冷温停止の状態にあるとの認識を示していた。また,被告東電は,同日までに1~3号機のがれき撤去や除染と漏えい個所の調査などを進め,4号機の使用済燃料プールからの燃料の取り出しの作業等も進め,使用済燃料1331体中704
体,新燃料202体中22体の共用プールへの移送を終えていた。さらに,被告東電は,3号機の使用済燃料プール内のがれきの撤去をほぼ終了し,同月19日以降,燃料交換機の撤去作業を開始していた(以上,乙A106)


(イ)平成28年6月30日時点で,被告東電は,1~3号機の原子炉・格納容器の温度について約20℃~約35℃を維持しており,原子炉建屋からの放射性物質の放出量等についても,本件原発敷地境界の放射線量が年間0.00062mSv未満にとどまり,有意な変動がないことから,冷温停止の状態にあるとの認識を示していた。また,同日までに,被告東電は,4号機の燃料の取り出しを完了しており,1~3号機の使用済燃料の取り出し作業の
ための準備を進めるとともに,燃料デブリの取り出しに向けて原子炉格納容器内の状況の把握と研究開発等の作業に着手することを目指していた。なお,5号機及び6号機からの燃料の取り出しは完了しており,使用済燃料プールでの保管がされていた(以上,乙A94)

(ウ)平成29年7月27日時点で,被告東電は,1~3号機の原子炉・格納容器の温度について約20℃~約35℃を維持しており,原子炉建屋からの放射性物質の放出量等についても,本件原発敷地境界の放射線量が年間0.0
0028mSv未満にとどまり,有意な変動がないことから,冷温停止の状態にあるとの認識を示していた。また,同日までに,被告東電は,燃料デブリの取り出しに向けて,
1~3号機の原子炉格納容器内の調査を一部実施し,
それを踏まえた解析検討や更なる調査を行うこととしていた(乙A97)。

消費者の意識調査
消費者庁では,本件事故を受けて,食品と放射能に関する消費者理解増進チームを設置し,消費者の理解増進を図る風評被害対策に取り組んでいたところ,平成25年2月以降平成30年2月までに,消費者庁が計11回実施した,被災地域(岩手県,宮城県,福島県及び茨城県)と被災地域産品の主要
仕向先の都市圏(東京都,埼玉県,千葉県,愛知県,大阪府及び兵庫県)の消費者を対象とするインターネットによるアンケート調査結果(食品中の放射性物質等に関する意識調査結果)の概要は以下のとおりである。

①食品の産地を気にする理由として,放射性物質が含まれていない食品を買いたいからと回答する人の割合は,当初(平成25年2月)27.9%であったが,
8回目以降の調査で次第に減少し,
最後の調査
(平成30年2月)
の際には16.2%となった。②放射性物質を理由に福島県産品をためらう人の割合も4回目以降次第に減少し,
最後の調査ではこれまでで最小の12.
7%となった。③放射性物質が基準値以内であればリスクを受け入れられるなどの回答も,7回目の調査以降次第に増加し,最後の調査では51.9%
となった。
調査結果の総括としては,上記①の食品の産地を気にする理由として,産地により品質や鮮度が異なるとか,価格が異なるとかいった理由を回答した人の割合に大きな変化がなく,食品に含まれる放射性物質への警戒感が薄れてきており,同様に,上記②のとおり,被災地である福島県産品に対する警戒感も減少しつつあり,他方,上記③のとおり,放射性物質へのリスクの許容度も高まっている傾向が見られることなどが指摘されている(以上,甲A4
53)。

(4)いわき市の人口,経済動向等

いわき市の人口変化等
いわき市の市域面積は1231.
35km2であり,
平成22年10月1日
時点において,世帯数・人口(同時点の国勢調査)は,12万8722世帯,3
4万2249人であった。
平成26年6月1日時点において,
世帯数・人口
(いわき市ホームページ)
は,
12万9182世帯,32万6224人であった。
平成27年10月1日時点において,世帯数・人口(同時点の国勢調査)は,14万0837世帯,34万9344人であった(以上,乙C24,乙C25,
乙C47)



いわき市の経済全体の動向等(平成24年以降)

(ア)平成24年において,需要動向としては,個人消費のうち大型小売店等販売額について,前年同月と比較すると,平成24年6月及び同年10月に前年同月をいずれも下回ったが,それ以外の月は前年同月を上回っている。自動車の新規登録台数を見ると,前年同月をいずれも上回っている。新設住宅着工数を見ると,
平成24年8月を除き,
いずれも前年同月を上回っている。
公共工事等受注額を見ると,前年同月をいずれも上回っている。
企業動向のうち生産活動を見ると,大口電力使用量は平成24年3月~同
年6月を除き,前年同月をいずれも下回っている。小名浜港輸入通関実績は平成24年1月,同年7月及び同年9月を除き,前年同月をいずれも上回っている。
雇用の状況については,平成24年の新規有効求人倍率及び有効求人倍率は,前年同月をいずれも上回っている。また,雇用保険受給者実人員も平成24年4月まで前年同月をいずれも上回っていたが,同年5月以降マイナスに転じている。
いわき市商工労政課は,いわき市の経済・景気について,次のように評価する。平成23年12月以降の回復基調が続いている。需要面では,復興需要の奏功で大型小売店等売上高などが連続で上回っており,特に住宅着工が通常の倍の水準に達している。他方,企業動向で大口電気使用量等が微減で
あり,産業全体が活性化している状況にはない。雇用面では,雇用保険受給者実人員が落ち着きを取り戻し,求人倍率が急上昇するなど,求人側が活気づいているが,ミスマッチ等で働き手が見つからないまま倍率が上昇しているにすぎず,完全な雇用改善とみなし難い。また,入湯税調定人員(いわき湯本を始めとする市内の温泉利用者数であり,観光客数の動向が反映されている。)がか
なり増加しているが,平成20年~平成21年の水準以下でまだ客足は完全には戻っていない(以上,乙C52の4・1,5~7,14頁)。(イ)平成25年において,需要動向としては,個人消費のうち大型小売店等販売額について,前年同月と比較すると,平成25年2月,同年4月,同年5月及び同年7月に前年同月をいずれも下回ったが,それ以外の月は前年同月
を上回っている。自動車の新規登録台数を見ると,平成25年1月~同年8月には,前年同月をいずれも下回っているが,平成25年9月~同年12月には,前年同月をいずれも上回っている。新設住宅着工数を見ると,平成25年2月~同年8月には前年同月を上回っているが,平成25年1月及び同年9月~同年12月には前年同月を下回っている。公共工事等受注額を見る
と,
平成25年2月及び同年6月を除き,
前年同月をいずれも上回っている。
企業動向のうち生産活動を見ると,大口電力使用量は平成25年6月まで前年同月をいずれも下回り,その後は平成25年11月を除き,前年同月をいずれも上回っている。
小名浜港輸入通関実績は平成24年1月~同年3月,
同年5月,
同年6月,
同年10月及び同年11月は前年同月を下回っている。
雇用の状況については,平成25年2月及び同年6月を除き,新規有効求人倍率は前年同月をいずれも上回り,有効求人倍率は前年同月をいずれも上回っている。雇用保険受給者実人員も,前年同月と比較して,いずれもマイナスで推移している。
いわき市商工労政課は,いわき市の経済・景気について,次のように評価する。平成24年後期から回復に歩み出し,平成25年は回復の足固め状態
にある。部門別に需要面では,大型小売店等販売額はほぼ昨年と同様であったが,自動車新規登録台数や公共工事等受注額は伸びており,他方,新設住宅着工数は,前回から半減し,前年同期比で2割減となっている。中小企業の景気動向は前期と比較し,改善している。雇用面では,新規求人倍率が平成25年8月以降高水準で推移し,観光の目安である入湯税調定人員は本件
事故前の水準に戻っている。先行きは,高水準の公共事業,建設業の改善といった復興需要頼りが続くが,平成26年4月からの消費税の増税による影響がどう出るのかがポイントである(以上,乙C52の2・1,5~7頁)。(ウ)平成26年及び平成27年のいわき市の景気・経済の状況等を見ると,需要動向としては,個人消費のうち大型小売店等販売額について,平成26年
1月,同年4月及び平成27年3月を除き,前年同月をいずれも上回っている。自動車の新規登録台数を見ると,前年同月を下回る月(平成26年には8か月,平成27年には10か月)が多くなっており,新設住宅着工数も同様に,前
年同月を下回る月(平成26年には7か月,
平成27年には8か月)が多くなってい
る。他方,公共工事等受注額を見ると,前年同月を上回る月(平成26年及び平成27年,いずれも8か月)が多い。

企業動向のうち生産活動を見ると,大口電力使用量は,前年同月を上回る月(平成26年には10か月,平成27年には9か月)が多い。小名浜港輸入通関実績は,
平成26年において前年同月を上回る月(8か月)が多いが,
平成27年
においては特に下四半期において前年同月をいずれも下回っている。雇用の状況については,平成26年は,同年1月及び同年4月を除き,新規有効求人倍率は前年同月をいずれも上回り,有効求人倍率は前年同月をい
ずれも上回っている。平成27年は,特に下四半期において新規有効求人倍率が前年同月をいずれも下回っているが,
有効求人倍率は前年同月と同じか,
いずれも上回っている。雇用保険受給者実人員も,平成26年及び平成27年とも,
おおむねマイナスで推移していたが,
同年11月及び同年12月は,
前年同月よりも増加している(以上,乙C52の3・1,5~7頁)。

いわき市の農林業の状況等

(ア)いわき市は,東北地方の中では温暖な地域であり,かつ,年間の日照時間も長く,農業に適した良好な気象条件の下にハウス栽培なども盛んに行われている。主な農作物は,主食のコメのほか,トマト,ネギ,イチゴ,ナシなどが生産されている。コメはいわき市全域で生産され,海沿いの平野部を中心に野菜,果物が生産されている。
主要農作物であるネギ,トマト,イチゴ,ナシの本件事故前後の取扱金額の状況を見ると,本件事故前の平成18~平成22年の標準平均取扱金額を100%とした場合,
平成23年にはネギ62.
1%,
トマト109.
4%,

イチゴ74.9%,ナシ81.4%で,平成24年にはネギ73.8%,トマト112.2%,イチゴ79.7%,ナシ77.2%で,平成25年にはネギ82.4%,トマト100.5%,イチゴ79.9%,ナシ93.9%で,平成26年にはネギ74.2%,トマト87.5%,イチゴ74.9%,ナシ76.4%で,平成27年にはネギ89.6%,トマト99.6%,イ
チゴ75.0%,ナシ90.2%で,平成28年にはネギ93.6%,トマト116.3%,イチゴ73.7%,ナシ76.0%であった(以上,甲A306・2~4,69頁)。

(イ)いわき市の林業等の状況として,主要林産物の生産量について,平成21年度には木材21.2万m3,木炭26t,生しいたけ37t,なめこ318tの生産量で,平成22年度には木材22万m3,木炭26t,生しいたけ247t,なめこ326tの生産量であった。平成23年度には木材19万m
3
,木炭1t,生しいたけ184t,なめこ237tの生産量となり,本件事
故の影響によりいずれも減少したが,
平成24年度には木材19.
6万m3,
木炭6t,生しいたけ273t,なめこ269tの生産量となり,平成25年度には木材20.5万m3,木炭5t,生しいたけ391t,なめこ301tの生産量となっている。特に,生しいたけの生産は,平成22年度以降,
大規模生産施設の稼働により生産量が増加している(乙A76・14頁)。エ
いわき市等の工業等

(ア)いわき市の製造品出荷額等を見ると,平成21年8330億円,平成22年9703億円,平成23年8258億円,平成24年8329億円,平成25年8839億円である。業種の割合としては,平成25年において,情報通信機械器具製造業1956億1200万円(22.1%),化学工業1880億7100万円(21.3%),輸送用機械器具製造業783億4600万円(8.9%),パルプ・紙・紙加工品製造業576億4900万円(6.5%)などとなっている

なお,平成26年までにいわき市内の繊維・化学工業等における工場の増設も行われている(以上,乙A134,乙A135・14頁)。
(イ)福島県全体の鉱工業生産能力については,平成22年の同生産指数を100とすると,本件事故直後に60近くまで落ち込んだが,岩手県や宮城県などの本件地震等の被災県とほぼ同様であって,平成24年には福島県は元の
水準近くまで回復し(同様に岩手県も回復し,宮城県は元の水準を超えている。),その後の平成25年,
平成26年には多少落ち込んでいるが
(同年の指数92.
4),同様に岩手県(同指数93.2),宮城県(同指数92.1)も落ち込んで
いる上,全国の指数と比較しても,福島県を含む被災3県の指数は,平成24年以降ほぼ同じような動きをしている。
雇用の動向としては,平成23年以降,福島県は,全国平均を上回るペースで有効求人倍率が改善し,平成26年11月時点で1.46倍となってい
る。これは,岩手県1.12倍,宮城県1.31倍を超え,全国平均1.12倍よりも高いものとなっている(以上,乙A135・12,13頁)。オ
いわき市の観光業等

(ア)いわき市の観光交流人口(観光入込客数に,文化交流やスポーツ大会時などの人数を加えたもの)は,平成22年に約1074万人(うち観光客数760万人で,
うち県外411万人,県内319万人であり,宿泊者数は98万人である。),平成2
3年に約368万人(うち観光客数203万人で,うち県外115万人,県内88万人であり,宿泊者数は51万人である。),平成24年に約734万人(うち観光客数489万人で,うち県外299万人,県内191万人であり,宿泊者数は71万人である。),平成25年に約788万人(うち観光客数540万人で,うち県外3
22万人,県内218万人であり,宿泊者数は77万人である。),平成26年に約
775万人(うち観光客数542万人で,うち県外321万人,県内221万人であり,宿泊者数は75万人である。)となっている。また,平成27年時点で海水
浴場などの自然由来の観光資源が一部再開できず,地域全体としては,風評の払しょくや観光業の再生には至っていない(以上,甲A495・28頁)。
(5)いわき市民に対するアンケート調査結果等

平成24年のいわき市によるアンケート調査
いわき市が同年に実施したアンケート調査(20歳以上の市民から無作為抽出した3000件,市政モニター20件,市政e-モニター100件の合計3120件が
対象)によれば,回答件数1261件(回収率40.4%,男性522人,女性728人,
性別記載なし11人)
であり,
震災発生により避難した人が698人
(回
答者の55.4%,うち市外601人,市内97人)であり,避難した日について
平成23年3月15日が最も多く(168人,全体の24.1%),また,避難先から戻った時期について,同年3月頃326人(49.8%),同年4月頃164人(25.1%),同年5月頃34人(5.2%),以降毎月10人未満の市民が戻り,平成24年3月頃に49人(7.5%)が戻っているとの結果
であった(甲A145)。

平成26年のいわき市によるアンケート調査
平成26年7月1日時点でいわき市居住の18歳以上の住民から,本件事故時も,いわき市に居住していた3000人を無作為抽出したアンケートの
結果(調査期間平成26年7月18日~同年8月7日,郵送による調査票の配布・回収により有効回収数1156人(ただし,調査期間中に回答した1117人に加えて,同年8月末回答の39人分を含む。),以上,甲A276・3頁)は,以下のとおりで
ある。
(ア)回答者の区分としては,久之浜・大久地区(全域が自主避難の対象となった,平成23年3月13日にいわき市が独自の判断で自主避難を要請した地区)すなわち
避難対象地区の者が23人,避難対象地区外の者が1112人であり,その他・無回答が12人であった。
男女別には,
男性44.
0%,
女性54.
9%,
無回答1.
1%であり,
年齢構成は,
本件事故時10代であった者が3.
4%,
20代であった者が7.4%,30代であった者が13.9%,40代であった者が13.8%,50代であった者が21.5%,60代であった者が26.6%,70代以上であった者が13.1%であり,無回答が0.3%であった。
本件事故時の居住地域は,多い順に,平地区(332人,28.7%),小名浜地区(244人,21.1%),勿来地区(166人,14.4%),常磐地区
(117人,10.1%),内郷地区(83人,7.2%),四倉地区(53人,4.6%),好間地区(50人,4.3%)であり,遠野地区,小川地区,三和地区,田人地区,川前地区,久之浜・大久地区の回答者もそれぞれ7~26人程度いた。
本件事故時の職業別には,専業主婦,年金受給者を含む無職の者が最も多く(456人,39.4%),次いで製造業(131人,11.3%),その他のサービス業(106人,9.2%),その他(95人,8.2%),医療・福祉(81人,7.0%),建設業(68人,5.9%),公務員・団体職員(57人,4.9%),卸売・小売業(51人,4.4%),学生(43人,3.7%),宿泊・
飲食サービス業(33人,2.9%),農林水産業(23人,2.0%)の順であった。
本件事故時の家族構成としては,二世代世帯(親と子,49.2%),夫婦のみ世帯(22.3%),三世代世帯(親,子,孫,17.8%),単身世帯(6.5%)の順であった。

また,本件事故時の自宅の所有形態としては,持家(戸建て及びマンション含む。)が最も多く(83.7%),借家・アパート(10.9%),公営住宅(3.7%)の順であった(以上,甲A276・5~8,10頁)。

(イ)本件事故を受けての屋内退避の状況については,53.9%が屋内退避しており,避難対象地区の久之浜・大久地区では,81.8%が屋内退避を実施している。また,年齢による差もあり,特に18歳未満の者や妊婦がいた世帯は,そうでない場合と比較し,屋内退避したとの回答が多い。屋内退避開始日は,久之浜・大久地区では3月13日が最も多く,それ以外の地区では3月15日に急増している(甲A276・16~19頁)。
(ウ)本件事故を受けて避難を実施したかとの質問に対し,避難対象地区以外の地区において,
家族全員避難が39.
0%,
家族の一部が避難したのは17.
2%となっており,避難対象地区では,ほぼ全世帯に近い95.7%が家族
全員の避難を実施したと回答している。そのほか,高校生以下の子供や妊婦がいた世帯の避難実施率が高く(例えば,小学生・中学生・高校生の子供がいた世帯の家族全員の避難割合は46.7%であり,いない場合の避難割合は38.5%である。乳幼児がいた世帯の家族全員の避難割合は53.1%であり,いない場合の避難割合は38.5%である。妊婦がいた世帯の家族全員の避難割合は66.7%であり,いない場合の避難割合は39.7%である。),他方,高齢者や障がい者がいた世帯の避難率は低くなっている(甲A276・20~23頁)。
(エ)最初の避難状況として,
避難世帯のうち,
家族全員が避難した割合が61%
(避難対象地域約8割)であるが,母と未成年の子供が避難した割合が10%
である。
避難の理由としては,本件原発の水素爆発を知ったこと(65.6%),自宅や避難所にいて不安を感じたこと(43.3%),遠方の親戚等から心配する連絡がきたこと(35.9%)家族に子供や妊産婦がいたこと(25.2%),
が多いが,
避難対象地区においては,
市からの独自の避難要請が高い割合(4
0%を超える。他方,全体では約5%)となっている(以上,甲A276・24,26,27頁)。

(オ)避難を開始した日時に関して,避難対象地区では,いわき市独自の判断による自主避難の要請以降3月13日に急増し,同月15日には100%となっており,避難対象外地区では,不要不急の外出を控えるようにとのいわき市長メッセージ,小川,川前地区に対する自主避難の要請,20~30km圏内への屋内退避指示があった3月15日に急増し,以後も徐々に増加して
いる。
避難先としては,福島県外が71.1%,市内及び県内が26.5%となっており,避難対象地区では,市内に避難したという回答が77.3%となっている(以上,甲A276・28,30頁)。
(カ)避難しなかった者(家族の一部しか避難しなかった者を含む。)の避難しなかっ
た理由として,学校や仕事の都合があったこと(32.2%),いわき市が自主避難を呼びかけている地域ではなかったこと(29.0%),避難先の当てがなかったこと(25.3%)が多いが,避難を判断できるほどの情報がなかったこと(24.2%),自宅にいても安全だと思ったこと(23.8%)といった回答もあり,また,高齢者や障がい者などの避難行動が困難な者がいて避難させられなかったこと(20.4%)もある。
また,家族の一部が避難した世帯では,家族全員が避難しなかった世帯と
比較すると,
学校や仕事の都合があったことを理由とした回答が約47%
(家
族全員が避難しなかった世帯でそれを理由としたのは30%に満たない。)と際立っ
て多かった(以上,甲A276・42,43頁)。

高木准教授によるアンケート調査
社会学者である高木竜輔尚絅学院大学准教授が主体となって実施されたアンケート調査の結果は,以下のとおりである。

(ア)平成26年に,選挙人名簿から無作為に抽出したいわき市平地区及び小名浜地区の住民各750人(合計1500人)を対象に,郵送にて調査票を配布し,そのうち681人から回答を得た。
そのうち,いわき市内の別の場所に避難したとの回答が7.9%で,いわき市外に避難したとの回答が14.1%で,福島県外に避難したとの回答が38.1%であり,避難していないとの回答が39.8%であった。避難していた期間について,2週間~1か月が最も多く(41.3%),次い
で1~2週間(24.1%)
,1週間未満(18.3%)であった。

また,放射能の健康影響への不安と市外避難経験との関係について,不安があるとの回答をした者(126)のうち61.1%が市外に避難し,やや不安があると回答した者(168)のうち60.7%が市外に避難したと回答しているが,
あまり不安はないとの回答をした者
(191)
のうち48.
2%が,
不安はないと回答した者(152)のうち38.8%が,それぞれ市外に避難
したとも回答している。不安はないなどと回答した市外避難者は,本件地震や本件津波の影響で避難した者が含まれている(以上,甲A504・5~8,11頁,証人高木竜輔2~5,28,51~54頁)


(イ)平成29年に,会津若松市,郡山市及びいわき市の各都市の原発避難者向け災害公営住宅をそれぞれ2か所ずつ(会津若松市の年貢町団地及び白虎町団地,郡山市の八山田団地及び柴宮団地57号棟,いわき市の下神白団地及び湯長谷団地)選
び,
各団地周辺の1km圏内にある投票所に居住する住民各250人(各市ご
とに500人)として,選択された投票所から選挙人名簿を用いて無作為抽出
した対象者を選択し,郵送にて調査票を配付し,その結果542人(会津若松市170人,郡山市165人,いわき市207人)から回答を得た。
そのうち,避難経験者のうち各市外へ避難したとの回答割合について,会津若松市の回答者が1.8%で,郡山市の回答者が16.1%で,いわき市
が43.7%であった。
また,放射能への健康不安について,不安がある又はやや不安があると回答した割合について,会津若松市が30.3%で,郡山市が36.3%で,いわき市が37.7%であった。
なお,いわき市について,放射能の健康影響への不安と市外避難経験との
関係について,不安があるとの回答をした者(30)のうち66.7%が市外に避難し,やや不安があると回答した者(47)のうち46.8%が市外に避難したと回答しているが,あまり不安はないとの回答をした者(74)のうち44.6%が,不安はないと回答した者(55)のうち27.3%が,それぞれ市外に避難したとも回答している。この結果と上記(ア)の平成26年のア
ンケート調査とを比較すると,その対象者が異なるために厳密な比較はできないが,放射能の健康影響への不安については本件事故直後の時点の意識から低下している可能性がある(以上,甲A504・6,8~11頁,証人高木竜輔5,6頁)


集団訴訟要望アンケート調査
原告ら代理人の依頼に応じて,平成28年2月付けで株式会社福島インフォメーションリサーチ&マネジメントが作成したいわき市民に対するアンケート調査の結果には,以下のとおり,記載されている。
(ア)回答者全体としては1152人であり,回答者の職業としては,いわゆる会社員等が最も多く(291人),自営業者等(91人),専業主婦・主夫(28人),パート・アルバイト(38人)などのほか,無職(234人),学生(100人)なども含まれている(甲A148・1頁)。

(イ)自主避難を実施したかどうかについて,自主避難を実施したという回答が最も多く(555人,48.2%),自主避難していない者も,自主避難を考えたが,様々な事情により選択できなかったと回答し(314人,27.3%),他方,
自主避難の必要性がなく,避難しようと思わなかったという回答(53人,4.6%)もあるほか,無回答も173人(15.0%)いた(甲A148・3頁)。

(ウ)自主避難をしなかった滞在者の滞在理由(複数回答可能)としては,移動手段やガソリンがなく避難できなかったとの回答が最も多く(230人),次いで仕事上の都合等(204人),避難先の当てがなかったこと等(197人)も理由にあるほか,介護が必要などの避難弱者が家族内にいたこと(140人)なども理由にある。
滞在中の生活上の苦労等(複数回答可能)として,本件事故の影響で物流が止まり食料品,日用品が入手できなかったことが最も多く(544人),ガソ
リン不足
(523人)正確な情報不足による精神的混乱等

(498人)また,

外出や降雨に当たる不安(486人),外出時のマスク着用(479人),外出時の放射線被ばくの不安(458人),洗濯物などの屋内退避(457人),屋内への放射性物質の侵入防止(393人)などである(以上,甲A148・4~6頁)。

(エ)避難者について,避難した時期は平成23年3月12日~同月17日が最も多く(529人),次いで同年3月18日~同月24日(108人)であり,これらの者が避難者全体の95.5%を占めている。避難者のうち,家族全員と避難した者が396人(63.3%),家族と別離する結果となった者が230人(36.7%)であった。
自主避難を決断した理由(複数回答可能)について,情報不足等による被ばくの恐怖,不安が最も多く(587人),物資不足(381人),子供や妊婦への被ばく回避(343人)などがある。
帰還した日については,平成23年4月1日~同月30日が243人,同年3月25日~同月31日が177人,同月18日~同月24日が108人であり,同年5月中に帰還した者は34人で,同年6月の帰還者は4人,同
年7月以降合計49人となっている。
移動の際の苦労(複数回答可能)として,長時間の車移動が最も多く(382人),次いで避難弱者がいたこと(293人)であった。避難弱者の内訳とし
ては,乳幼児122人,要介護の家族71人,持病のある家族61人,身体等の障がい者51人などであった。
避難先に滞在中の苦労等(複数回答可能)として,避難先の親族等への気兼ね(424人),体調の悪化等(368人),避難中の金銭的困窮(323人)などであった
いわき市に帰還した理由(複数回答可能)としては,長期避難の精神的限界(413人),同じく金銭的限界(325人),仕事の都合(311人),避難先
の親族等への気兼ね(304人)などである(以上,甲A148・7~13,15頁)。

(オ)妊婦の避難先滞在中の苦労等(複数回答可能)として,放射能の影響(現在及び将来の不安を含む。)等が最も多く(17人),体調による移動の大変さ(7人)やこれまで検診を受けていた病院での継続検診や出産ができなかったこと(5人)などである(甲A148・14頁)。
(6)屋内退避区域の状況等

いわき市小川地区の状況等
同地区は,いわき市の北部にあり,同地区の北部は山々がそびえ,南側は平地区の赤井,平窪と接している。
平成22年時点の人口は7211人,2400世帯であり,平成27年時
点の人口は6858人,2378世帯となっている。年齢別人口を見ると,0~19歳の人口数について,平成22年時点の合計数は1182人であったが,平成27年時点の合計数は1020人となっている。
産業別人口は,平成22年時点では第1次産業309人,第2次産業1027人,第3次産業2134人の合計3470人であったが,平成27年時
点では第1次産業242人,第2次産業1001人,第3次産業1939人の合計3182人となっている。
農家数や農地面積(田,畑及び樹園地の合計)を見ると,経営体としての農家数が,平成22年時点では318戸,面積2万2214aであったが,平成27年時点では162戸,面積1万9747aとなっている。

工業については,事業所数及び従業者数について,平成22年時点では事業所数13,従業者数202人であったが,平成26年時点では事業所数12,従業者数173人であり,製造品出荷額について,平成22年時点では25億6400万円であったが,平成26年時点では17億0100万円となっている。

観光について,夏井川渓谷の観光客入込状況について,平成22年時点では,県外観光客数22万7075人,県内観光客数45万4212人,宿泊者数2万3846人であったが,平成25年時点では,県外観光客数5万1207人,県内観光客数10万2430人,宿泊者数数5378人であり,平成26年以降も減少し,平成27年時点では,県外観光客数4万0339
人,県内観光客数8万0690人,宿泊者数4235人となっている。交通について,自動車交通量(小川町内の一般国道399号等の5地点の合計。上り下り交通量の合計12時間調査)は,平成22年(調査日同年9~11月の平日中)時点では1万0204台であり,平成27年(調査日同年10月の平日中)
時点では1万1823台であった
(以上,
甲A511180~186,

190頁)


いわき市川前地区の状況等
同地区は,いわき市の最北端に位置し,標高の違いから,川前地区,桶売
地区及び小白井地区の3方部で構成される。東は小川地区,南は三和地区,北西は田村市等,北は双葉郡川内村と隣接した農山村である。
平成22年時点の人口は1359人,484世帯であり,平成27年時点の人口は1131人,441世帯となっている。年齢別人口を見ると,0~19歳の人口数について,平成22年時点の合計数は152人であったが,
平成27年時点の合計数は86人となっている。
産業別人口は,平成22年時点では第1次産業165人,第2次産業260人,第3次産業301人の合計726人であったが,平成27年時点では第1次産業119人,第2次産業251人,第3次産業212人の合計582人となっている。

農家数や農地面積(田,畑及び樹園地の合計)を見ると,経営体としての農家数が,平成22年時点では282戸,面積3万1291aであったが,平成27年時点では175戸,面積2万6637aとなっている。
工業については,事業所数及び従業者数について,平成22年時点では事業所数2,従業員数220人であったが,平成26年時点では事業所数2,
従業員数212人となっている。
交通について,自動車交通量(川前町内の小野富岡線等の4地点の合計)は,平成22年(調査日同年9~11月の平日中)時点では1982台であり,平成27年(調査日同年10月の平日中)時点では1965台であった(以上,甲A511・232~237,240頁)。


いわき市久之浜・大久地区の状況等
同地区は,いわき市の東北端に位置し,北部は双葉郡と,南部は四倉地区と隣接している。東は県立自然公園波立海岸を中心とする風光明媚な海岸線と天然の入江を利用した久之浜港を有し,西北は阿武隈高地が連なる三森渓谷を有した森林地帯を形成している。
平成22年時点の人口は5775人,1890世帯であり,平成27年時点の人口は5243人,2483世帯となっている。年齢別人口を見ると,0~19歳の人口数について,平成22年時点の合計数が956人であったが,平成27年時点の合計数は542人となっている。
産業別人口は,平成22年時点では第1次産業198人,第2次産業79
2人,第3次産業1654人の合計2644人であったが,平成27年時点では第1次産業140人,第2次産業951人,第3次産業1392人の合計2483人となっている。
農家数や農地面積(田,畑及び樹園地の合計)を見ると,経営体としての農家数が,平成22年時点では347戸,面積1万8628aであったが,平成
27年時点では98戸,面積1万6028aとなっている。
工業については,事業所数及び従業者数について,平成22年時点では事業所数15,従業者数233人であったが,平成26年時点では事業所数12,従業者数113人であり,製造品出荷額について,平成22年時点では35億7400万円であったが,平成26年時点では19億1300万円と
なっている。
観光客入込状況(県外及び県内観光客数の合計,概算)について,平成22年時点では17万3000人であり,平成25年時点では6万1000人,平成26年時点では7万5000人,平成27年時点では8万2000人,平成28年時点では9万4000人となっている。

交通について,
自動車交通量
(久之浜町内等の久ノ浜港線等の4地点の合計)
は,
平成22年(調査日同年9~11月の平日中)時点では合計5110台であり,平成27年(調査日同年10月の平日中)時点では合計4889台であった。駅乗車人員(1日平均)について,JR久ノ浜駅について,平成22年時点では321人であったが,平成27年時点では198人であった。なお,久之浜・大久地区は,本件津波による被害を受けているが,平成23年6月の現地調査において,浸水区域が都市計画区域面積12.61k㎡
のうち0.93km2であり,浸水深については,1.5m以下が全体の約33%であるが,1.5~3.0m以下が25.0%で,3.0~5.0m以下が15.5%で,5.0~7.0m以下が22.4%で,7.0m以上が4.3%であった。また,建物の被災状況として,被災建物棟数約850棟のうち,全壊(流失)が約240棟で,全壊が約160棟で,全壊(1階天井
以上浸水)が約80棟で,大規模半壊が約140棟で,半壊(床上浸水)が約1
10棟で,一部損壊(床下浸水)が約120棟であった(以上,甲A511・244~249,251,255頁,乙C49)。

(7)放射線に関する科学的知見等

放射線の単位等
放射線に関する単位は,放射線を出す側の単位と受ける側の単位に大別でき,放射能の強さに関する単位であるベクレル(Bq)は,放射線を出す単位であり,放射線を受ける側の単位に,グレイ(Gy)やシーベルト(Sv)がある。

放射線を受けた単位質量の物質が吸収するエネルギー量が,吸収線量(単位Gy)であり,吸収されたエネルギー(単位ジュール(J))を放射線を受
けた部分の質量(単位kg)で除したものである。1Gyは,1kgの物体につき1ジュールのエネルギーを吸収したことに相当する。
放射線の種類やエネルギーによって,吸収線量が同じでも人体への影響の大きさは異なる。そこで,放射線の種類ごとに影響の大きさに応じた重み付けをした線量が等価線量であり,その単位はシーベルト(Sv)である。放射線防護における被ばく管理のために考案されたものとして実効線量があるが,その単位もSvである。等価線量に対して,臓器や組織ごとの感受性の違いによる重み付けをして,それらの重み付けを平均して実効線量を出している。
本件事故由来のヨウ素131,セシウム134,セシウム137などが出
す放射線の種類は,ベータ(β)線及びガンマ(γ)線であるが,γ線等の放射線加重係数は1であるから,全身に均等にγ線が1mGy当たった場合の実効線量はほぼ1mSvとなる(以上,丙A113・32~38頁)。

ICRPの平成19年勧告

(ア)国際放射線防護委員会(ICRP)は,規制当局あるいは助言機関に対し,主に適切な放射線防護の基礎となる基本原則に関するガイダンスを提供することによってその勧告を提示する非営利・非政府組織
(1928年に国際放射線
医学会議により国際X線・ラジウム防護委員会の名称で設立され,1950年に改組され,現在の名称に変更となった。である。ICRPは,その設立以降,人間の放)

射線防護を達成するという目的の下,定期的に放射線の危険に対する防護に関する勧告を公表し,放射線防護に責任のある国際組織及び各国の当局それに利用者は,これらの勧告と原則を防護対策の重要な基礎としており,放射線防護に関する事実上全ての国際基準と各国の国内規則は,ICRPの勧告に基づいている(乙A41・
論説1.緒言

,丙B52・2,3頁)


(イ)ICRPが,平成19(2007)年3月21日,8年の検討を経て,被ばくに関連する可能性のある人の望ましい活動を過度に制限することなく,放射線被ばくの有害な影響に対する人と環境の適切なレベルでの防護に貢献することを目的として,
勧告を発している
(乙A41・
論説

2.1.勧告の目的。

その要旨は,以下のとおりである。

a
放射線被ばくによる有害な健康影響の大部分は,①高線量被ばく後の細胞死(有害な組織反応)と②確率的影響すなわちがん及び遺伝性影響の二つの一般的カテゴリ―に分類できる。
上記①について,約100mGyまでの吸収線量域では,どの組織も臨床的に意味のある機能障害を示すとは判断されない。この判断は,1回の急性線量と,これらの低線量を反復した年間被ばくにおける遷延被ばくの形で受ける状況の両方に当てはまる。

上記②について,がんのリスクに関して,約100mSv以下の線量において不確実性が存在するとしても,疫学研究及び実験的研究が放射線リスクの証拠を提供し,遺伝性疾患の場合,人に関する放射線リスクの直接的な証拠は存在しないが,実験的観察からは,将来世代への放射線リスクを防護体系に含めるべきとの説得力のある議論がされている。放射線防護
の目的には,約100mSvを下回る低線量域では,がん又は遺伝性影響の発生率が関係する臓器及び組織の等価線量の増加に正比例して増加するであろうと仮定するのが科学的にもっともらしいという見解を支持すると委員会は判断している。
したがって,委員会が勧告する実用的な放射線防護体系は,約100m
Svを下回る低線量においては,ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮定(LNTモデル)に引き続き根拠を置くこととする。委員会はLNTモデルを引き続き利用することが,放射線防護の実用的な目的すなわち低線量被ばくによるリスクの管理に対して慎重な根拠を提供すると考え
る(以上,乙A41・15~17頁)

b
他方,委員会は,LNTモデルが実用的なその放射線防護体系において引き続き科学的にも説得力がある要素である一方,このモデルの根拠となっている仮説を明確に実証する生物学的,疫学的知見がすぐには得られそ
うにないということを強調しておく。低線量における健康影響が不確実であることから,委員会は,公衆の健康を計画する目的には,非常に長期間にわたり多数の人々が受けたごく小さい線量に関連するかもしれないがん又は遺伝性疾患について仮想的な症例数を計算することは適切ではないと判断する(乙A41・17頁)

c
また,がん以外の疾患の誘発について,1990年以降,幾つかの被ばく集団において,非がん疾患の頻度が増加するという証拠が蓄積されてきたが,しかし,低線量における線量反応の形状における現行の不確実性及びLSS(原爆被爆者集団の死亡率解析)データが疾患による死亡リスクに関して線量しきい値がないことと,約0.5Svの線量しきい値があることの両方に矛盾しないこと,いかなる形の細胞及び組織のメカニズムがこの
ような多岐にわたる一連の非がん疾患の基礎となっているかも不明であることなどから,委員会は,非がん疾患の観察の潜在的重要性を認識しているが,入手できるデータでは約100mSvを下回る放射線量による損害の推定には非がん疾患はほとんど考慮されていないと判断する。これは,1Gy以下では過剰なリスクの証拠はほとんど見られなかったUNSCE
ARの結論と一致する(乙A41・22頁)

(ウ)ICRP平成19年勧告の付属書には,がんリスクの推定に用いる疫学的方法は,およそ100mSvまでの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たないという一般的な合意があること,したがって,ICRP勧告の作成において生物学的データの役割が大きくなっており,不確実性,
論争がある場合,ピアレビューを行ったデータに基づき,科学的にバランスの取れた判断に達する必要があることという記載がある。
また,線量のしきい値について,LNTモデルは生物学的真実として世界的に受け入れられているのではなく,むしろ,我々がごく低線量の被ばくにどの程度のリスクが伴うのかを実際に知らないため,被ばくによる不必要な
リスクを避けることを目的とした公共政策のための慎重な判断であると考えられているといった記載や,放射線防護目的のがんリスク計算において低線量しきい値の可能性等を含めてよい正当な科学的理由は,現時点では存在しないと委員会は判断し,これに基づき,LNTモデルは,高線量からの外挿に対してDDREF(線量・線量率効果係数。線量率を下げた時に生物に対する影響がどのくらい減るかということの指標であり,DDREFが2である場合,高い線量率に比べて低い線量の場合その影響を2分の1とするという係数である。丙B47の1・
10頁)値と組み合わせて,低線量・低線量率の実際的な放射線防護目的のた
めの慎重な基盤として引き続き残すことを勧告するとの記載がある(以上,丙A241の付属書A・131,154,156頁)



UNSCEARの報告

(ア)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が平成18年に発した報告には,要旨,以下の記載がある。
その結論において,小児期に被ばくした人々についての固形がんの生涯リスク推定値は一般集団での推定値よりも2~3倍高いかもしれない。原爆被爆者の研究の経験は,全固形がんを一括したリスクが直線の線量反応である
ことと矛盾しない。したがって,最初の近似として1Svの急性線量の後のリスク推定値に直線的に外挿することが,それよりも低い線量での固形がんリスクを推定するために用いられる(以上,甲A474・146,147頁)。
(イ)UNSCEARが平成22年に発した報告には,
要旨,
以下の記載がある。
本委員会は,受けた放射線量とがん誘発リスクの関係,つまり線量反応関
係を調べるために疫学データを用いてきた。統計学的に有意なリスク上昇は100~200mGy又はそれ以上で観察される。疫学研究だけでは,これらのレベルを大きく下回る場合の有意なリスク上昇を同定することはできそうにない。
放射線被ばくによるがん誘発の生涯リスクの総合的推定値を,全ての有益
な研究から引き出すことは複雑な過程である。本委員会は,この問題に取り組むために世界の異なる地域からの5集団におけるがんの自然発生率のデータとともに数学的モデルを用いてきたが,これらの推定値の不確かさが含まれることを十分に認識している。リスク推定値は年齢によって異なり,若い集団は通常感受性がより高く,胎児は特に感受性が高いことが示され,10mGy及びそれ以上の線量においてリスク上昇が検出されている。放射線がもたらす複雑なDNA損傷は,
正常に修復することが困難であり,

たとえ低線量の放射線であっても,発がんのリスクを上昇させるようなDNAの突然変異が発生する確率は非常に小さいがゼロではなさそうである。したがって,現在,入手可能な証拠を天秤にかければ,低線量・低線量率における放射性関連発がんに対する突然変異成分として,しきい値のない反応を支持する傾向にある(以上,甲A473・9,11,12頁)

(ウ)UNSCEARの福島報告書の科学的知見
UNSCEARは,
本件事故により人体及び環境への影響を評価するため,
実測データを収集し,住民等の被ばく線量推計・健康影響評価等を行い,報告書の作成を進めてきたところ,平成25年5月末のUNSCEAR年次会
合における報告書案の議論を経て,同年10月,UNSCEARの年次報告が行われ,その資料として,福島報告書の科学的知見がまとめられた。上記年次報告に係る報告書における本件事故の放射線影響評価の内容は,以下のとおりである(なお,上記福島報告書自体の公表は平成26年2月の予定であるとされている。乙A50)


a
本件事故後1年間の実効線量の推計値として,避難住民(避難前又は避難中の被ばく)の実効線量は,成人(1歳の乳児の実効線量は成人の約2倍)10
mSv以下,このうち3月12日の早いうちに避難したケースでは約5mSv以下である。ただ,上記年次報告書のモデルによる甲状腺被ばく線量及び全身の内部被ばく線量の推計は,実測値と比べて3~5倍及び10倍大きいため,報告書の推計は過大である可能性がある。なお,1歳の乳児の甲状腺吸収線量は一番高いところでも70mGy以下であり,その半分は食品からの摂取である。生涯追加被ばく線量は,福島県では,除染を考慮しない場合,平均10mSvである。比較して,日本人の自然放射線による生涯累積被ばく線量は170mSv程度(年間2.1mSv×80年)である(乙A50・1,2頁)

b
健康影響として,本件事故の放射線被ばくによる死亡又は急性の健康影響はない。
モデル線量推計結果及び実測値を踏まえると,住民及びその子孫において本件事故による放射線に起因する健康影響については増加が認められる見込みはない。最も重要な健康影響は,心理的又は社会福祉的なものであるが,UNSCEARの権限外である。

後記オの県民健康管理調査における甲状腺検査において,
のう胞,
結節,
がんの発見率の増加が認められるが,高い検出効率によるものと見込まれる。本件事故の影響を受けていない地域において同様の手法を用いて検査を行った結果(環境省における福島県外の,青森県,山梨県及び長崎県の3か所において実施した甲状腺検査において,のう胞及び結節の発見率は,福島県における甲
状腺検査と同様の頻度であった。から,

福島県の子供で見つかっている発見率

の増加については,放射線の影響とは考えにくいと示唆される(以上,乙A50・2頁)



低線量被ばくのリスク管理に関するWG報告書
本件事故後,原発事故の収束及び再発防止担当大臣の要請に基づき,国内外の科学的知見や評価の整理,現場の課題の抽出,今後の対応の方向性の検討を行う場として,
低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループすなわち被ばくWGが設置された。被ばくWGが,平成23年11月から12月にかけて計8回開催された検
討会の結果として取りまとめた同年12月22日付け報告書では,要旨,以下の内容が報告されている(以上,乙A37・参考2)

(ア)科学的知見と国際的合意
放射線の影響に関しては様々な知見が報告されているため,国際的に合意されている科学的知見を確実に理解する必要がある。国際的合意としては,科学的知見を国連に報告している原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
,世界保健機関(WHO)
,国際原子力機関(IAEA)等の報

告書に準拠することが妥当である(乙A37・3頁)

(イ)現在の科学で分かっている低線量被ばく等のリスク
a
低線量(国際的に合意された定義はないが,最近では200mSv以下とされることが多い。被ばくによる健康影響に関する現在の科学的な知見は,主と)

して広島・長崎の原爆被爆者の半世紀以上にわたる精緻なデータに基づくものであり,国際的にも信頼性は高く,UNSCEARの報告書の中核をなしている。
広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査の結果からは,被ばく線量が100mSvを超えるあたりから,被ばく線量に依存して発がんのリスクが増加
することが示されている。
他方,国際的な合意では,放射線による発がんのリスクは,100mSv以下の被ばく線量では,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しい。疫学調査以外の科学的手法でも,同様に発がんリスクの
解明が試みられているが,現時点では人のリスクを明らかにするには至っていない。
また,低線量率の環境で長期間にわたり継続的に被ばくし,積算量として合計100mSvを被ばくした場合,短時間の被ばくの場合よりも健康影響が小さいと推定され(線量率効果)
,その効果は動物実験においても確

認されている。
本件事故により環境中に放出された放射性物質による被ばくの健康影響は,長期的な低線量率被ばくであるため,瞬間的な被ばくと比較し,同じ線量であっても発がんリスクは小さいと考えられる(以上,乙A37・4,5頁)


b
外部被ばくと内部被ばくとの影響の違いに関しては,放射性物質が身体の外部にあっても内部にあっても,
それが発する放射線がDNAを損傷し,

損傷を受けたDNAの修復過程での突然変異ががんの発生原因となるため,臓器に付与される等価線量(単位Sv)が同じであれば外部被ばくと内部被ばくのリスクは同等と評価できる。特に,臨床的・疫学的研究では,小児期に被ばくした場合の甲状腺がんの過剰相対リスク(ある健康影響について被ばくしたグループのリスクが対照するグループのリスクと比較して何倍になって
いるかを表すものを相対リスクといい,相対リスクが1であれば放射線被ばくはリスクに影響を及ぼしていないということを意味し,
過剰相対リスクはこの相対リス
クから1を引いたものであり,
調査対象となるリスク因子としての被ばく放射線の占
める部分をいう。は,

外部被ばくと内部被ばくとで近似していることが示さ

れているほか,
チェルノブイリ原発事故での小児甲状腺がんの増加原因が,

事故直後数箇月の間に,放射性ヨウ素に汚染された牛乳を摂取したことによる選択的な甲状腺への内部被ばくによるものとされている
(乙A37・5,
6頁)


c
子供・胎児への影響として,一般に発がんの相対リスクは若手ほど高くなり,小児期・思春期までは高線量被ばくによる発がんリスクは成人と比較して高いが,低線量被ばくでは年齢層の違いによる発がんリスクの差は明らかではない。放射線による遺伝的影響について,原爆被爆者の子供数万人を対象とした長期間の追跡調査によっても,現在まで遺伝的影響は検出されていない。

チェルノブイリ原発事故における甲状腺被ばくと比較して,本件事故による小児の甲状腺被ばくは限定的であり,被ばく線量は小さく,発がんリスクは非常に低いと考えられる。小児甲状腺被ばく調査の結果,環境放射能汚染レベル,食品汚染レベルの調査などの様々な調査結果によれば,本件事故による環境中の影響によって,チェルノブイリ原発事故のような大量の放射性ヨウ素を摂取したとは考えられない(以上,乙A37・7頁)。
(ウ)放射線による健康リスクの考え方
a
放射線防護や放射線管理の立場からは,低線量被ばくであっても,被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという考え方,すなわちLNTモデルを採用する。これは,科学的に証明された真実として受け入れられているのではなく,科学的な不確かさを補う観点から,公衆衛生上の安全サイドに立った判断として採用されている。線量に対して直線的にリスク
が増えるとする考え方は,あくまで被ばくを低減するためのいわば手段として用いられる。しかし,この考え方に従って,100mSv以下の極めて低い線量の被ばくのリスクを多人数の集団線量(単位:人・Sv)に適用して単純に死亡者数等の予測に用いることは不確かさが非常に大きくなるため不適切である。ICRPも同様の指摘をしている(乙A37・8頁)。

b
長期間にわたり100mSvを被ばくすると,生涯のがん死亡のリスクが約0.5%増加すると試算され,また,放射線防護上,LNTモデルは重要であるが,他方,この考え方に従ってリスクを比較した場合,年間20mSv被ばくすると仮定した場合の健康リスクは,例えば,他の発がん要因(喫煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べても十分に低いこと,放
射線防護措置に伴うリスク(避難によるストレス,屋外活動を避けることによる運動不足等)と比べられる程度であると考えられる(乙A37・8~10頁)。

(エ)ICRPの参考レベル
a
ICRPは,緊急時被ばく,現存被ばく等に被ばく状況を分類し,その上でその状況に応じて適切な参考レベル(防護措置の評価の指標となるが,全ての住民の被ばく線量が参考レベルを直ちに下回らなければならないものではなく,そのレベルを下回るように対策を講じ,
被ばく線量を漸進的に下げていくためのもの)

を設定し,住民の安全確保に活用することを提言している(乙A37・10頁)


b
緊急時被ばく状況(原子力事故等の状況かにおいて望ましくない影響を回避又は低減するために緊急活動を必要とする状況)
の参考レベルとしては,年間20

~100mSvの範囲から選択する。現存被ばく状況(原子力事故等の後の復興期の長期被ばくを含む,
管理に関する決定を下さなければならない時に既に存在
している被ばく状況)の参考レベルとしては,年間1~20mSvの範囲か
ら選択する。現存被ばく状況では状況を段階的に改善する取組の指標として,中間的な参考レベルを設定できるが,長期的には年間1mSvを目標として状況改善に取り組む(乙A37・10,11頁)

(オ)福島県の現状評価
本件事故は,INESでレベル7とされ,チェルノブイリ原発事故と同レベルであるが,同事故と比較すると,環境中に放出された放射性物質量が7
分の1程度であり,地域住民に及ぼす健康影響の面でも大きく異なると考えられる。また,人の被ばく線量の評価に当たり,安全性を重視したモデルを採用し,ほとんどの住民の本件事故後1年間の被ばく線量は20mSvよりも小さくなると考えられる。
具体的には,外部被ばくについて,福島市における子供・妊婦の1か月間
の追加的被ばく線量は0.1mSv以下が約8割を占め,一方,福島市の空間線量率は毎時約0.92μSvであり,被ばく線量の推計(1日当たり屋外滞在8時間,
屋内滞在16時間として,
木造家屋の放射線遮へい効果0.
4を考慮する。


としては,年間約4.8mSv(月間約0.4mSv)であるが,実際の測定値(0.1mSv)は推計値(月間約0.4mSv)の約4分の1にとどまる。文科省が行った児童等に関する個人線量計による測定結果では,その実測値は推計値の0.8倍となっている。内部被ばく検査の結果を見ても,福島県が実施したホールボディカウンターによる測定では,測定対象の6608人のうちセシウム134及びセシウム137の預託実効線量が1mSv以下の者が99.7%を占めており,1mSv以上の者が0.3%で,最大でも3.5mSv未満にとどまり,今後内部被ばくの大部分を占めるであろう食品摂取に伴う被ばくについても相当程度小さいものにとどまると評価されて
いる(乙A37・13~15頁)

(カ)放射線防護の方向性
a
現在採用されている放射線防護上の基準は年間20mSvであるが,今後,さらに被ばく線量をできるだけ低減することが必要であり,長期的な目標として年間1mSvを目指して対策を講じていく(乙A37・16頁)。

b
子供を優先したきめ細かな対策として,
放射線影響の感受性が高い子供,
放射線の影響に対する親の懸念が大きい乳幼児について優先し,子供の生活環境の優先的な除染,避難区域外における校庭・園庭の空間線量率を毎時1μSv未満とすること,長期的には通学路などの子供の生活圏を徹底的に除染し,追加被ばく線量を年間1mSv以下とすること,内部被ばく
の予防等のための食品の放射能濃度の適切な基準の設定やその管理が必要となることが示されていた(乙A37・16,17頁)


県民健康調査等

(ア)ホールボディカウンターによる内部被ばく検査
平成23年度以降,いわき市は,実施主体である福島県の方針に基づき,市民の放射性物質による内部被ばくの実態を把握するとともに,市民各自の健康に役立ててもらうことを目的として,内部被ばく検査を実施している。平成23年度~平成26年度において9万7139人が受検し,うち不検出(検出限界値以下)となった者が9万6038人である。また,検出された
1101人について,
内部被ばくによる累積線量である預託実効線量
(成人5
0年後,子供70歳まで)は,全て1mSv未満であった。
また,平成27年度においても同様の検査が実施され,2259人が受検し,いずれも預託実効線量は1mSv未満であった。平成28年度上半期には6617人の検査が実施され,預託実効線量は全員1mSv未満であり,6602人について不検出となった(甲A495・19,20頁,乙A143,丙A160)


(イ)県民健康調査(甲状腺の先行検査)
a
チェルノブイリ原発事故後に明らかになった健康被害として,放射性ヨウ素内部被ばくによる小児の甲状腺がんがある。そこで,福島県は,本件事故を踏まえ,子供たちの健康を長期に見守るために甲状腺検査を実施している。

その対象者は,本件事故時0~18歳(平成4年4月2日から平成23年4月1日までの出生者)の福島県民であり,平成23年10月9日~平成26
年3月31日実施予定で,実際には平成27年4月30日に検査を終了した。実施機関は,県の委託を受けた福島県立医科大学であり,県内外の医療機関等と連携している(以上,甲A298・②-1頁)。

b
一次検査(甲状腺の超音波検査)の結果としては,
受診者30万0476人
(全対象者のうちの81.7%)であり,検査結果は,A判定(結節やのう胞を認めないA1判定及び5.0mm以下の結節や20.0mm以下ののう胞を認めるA2判定)が29万8182人(99.2%)で,B判定(5.1mm以上の結節
や20.1mm以上ののう胞を認めた場合であるが,A2判定でも甲状腺の状態等から二次検査を要すると判断したときはB判定)が2293人(0.8%)で,C判
定(甲状腺の状態等から直ちに二次検査を要する場合)が1人であった。二次検査対象者(B,C判定)のうち2108人が受診し,結果確定者は2056人であり,うち700人は詳細な検査の結果A判定相当として,次回検査となり,うち1356人は通常診療等となり,さらにこのうちの537人が穿刺吸引細胞診検査を受診した。
細胞診の結果,113人が悪性ないし悪性疑いの判定となった。性別は,男性38人,女性75人で,二次検査時点の年齢は8~22歳で,腫瘍径は5.1mm~45.0mmであった。
上記113人のうち基本調査問診票を提出した65人について,被ばく線量が1mSv未満の者は45人で,最大実効線量は2.2mSvであっ
た。
また,
上記113人について,
手術実施が99人で,
良性結節が1人で,
乳頭がんが95人で,低分化がんが3人であった(以上,甲A298・②-1~6,27頁)

c
このうち,いわき市について,平成25年度に実施され(ただし,久之浜等の地区は平成24年度に実施された。統計上は平成25年に含まれる。,一次検)

査受診者4万9429人のうち,二次検査対象者が455人(いずれもB判定)で,二次検査受診者が422人で,悪性又は悪性の疑いが24人であ
り,一次検査受診者に対する悪性等の割合は0.05%であった(以上,甲A298・②-9,20,26頁,甲A495・20,21頁)。

(ウ)2回目の県民健康調査(甲状腺の本格検査)
a
その目的は,上記(イ)aのとおりである。
その対象者は,先行検査に加えて,平成23年4月2日から平成24年4月1日に出生した福島県民に拡大した。平成26年4月2日から検査を開始し,平成26年度及び平成27年度の2か年で検査を終了した。その
後は,対象者が20歳を超えるまでは2年ごと,それ以降,25歳,30歳などと5年ごとの節目検診により長期にわたって検査を実施することとなっている。
実施機関は,
上記(ア)aと同じく,
福島県立医科大学である
(以
上,甲A299・②-1頁)

b
一次検査(甲状腺の超音波検査)の結果としては,
受診者27万0378人
(全対象者のうちの70.9%。検査結果が確定したのは27万0327人)であり,検査結果は,A判定が26万8110人(99.2%)で,B判定が2217人(0.8%)で,C判定が0人であった。
二次検査対象者のうち1476人が受診し,そのうち1379人が二次検査を終了した。その1379人のうち,350人は詳細な検査の結果A判定相当として,次回検査となり,1029人は通常診療等となった。
穿刺吸引細胞診の結果,59人が悪性ないし悪性疑いの判定となった。性別は男性25人,女性34人で,二次検査時点の年齢は9~23歳で,腫瘍径は5.3mm~35.6mmであった。
上記59人のうち基本調査問診票を提出した32人について,最大実効線量は2.1mSvであった。

また,
上記59人について,
手術実施が34人で,
乳頭がんが33人で,
その他の甲状腺がんが1人であった(以上,甲A299・②-3,5,7,22頁)


c
このうち,いわき市について,平成27年度に実施され,一次検査受診者4万5228人のうち,二次検査対象者が376人で,二次検査受診者
が172人で,悪性又は悪性の疑いが5人であり,一次検査受診者に対する悪性等の割合は0.01%であった(甲A299・②-10頁)。
(エ)県民健康調査(基本調査)
本件事故から4か月間の外部被ばく線量を推計する県民健康調査基本調査について,平成27年9月末時点で,いわき市では調査対象者34万8
226人に対して8万7829人からの回答があり,放射線業務従事経験者を除く7万2768人のうち99.1%に当たる7万2105人の被ばく線量は,預託実効線量1mSv未満となっている(甲A495・22頁)。

被ばくによる健康影響に関する疫学調査の研究

(ア)疫学調査
疫学は,人間集団を対象に集団中の疾病異常を把握し,その異常の発生に関する諸要因を検討する医学の一分野である。疫学研究の一つにコホート研究がある。コホート研究のうち,前向きコホートは,個々の対象に関して因子へのばく露状況が既に判明していることを前提に,そのコホートを作り,コホートメンバーのアウトカムすなわち発がんとか死亡とかいったものを将来にわたって追跡し,その情報を取得していくというものであり,研究開始時にはその情報がなく,
コホートを作った後から情報を得ていくこととなる。
他方,後ろ向きコホートは,研究開始時点に既にアウトカムが出来上がっており,過去に遡って死亡とか,利用可能なデータだけを集めていくということとなる(丙B48の1・1~3頁)


(イ)原爆被爆者の死亡率調査及び死亡率に関する研究
公益財団法人放射線影響研究所は,原爆放射線の健康影響を明らかにするため,原爆被爆者で構成された寿命調査(LSS)集団の死亡率に関する追跡調査を行い,定期的に報告書を作成している。
a
そのうちの原爆被爆者の死亡率調査第13報の要約欄には,約440例(原爆被爆者集団の全体の5%)の固形がんによる死亡が放射線被ばくに関連
していると考えられる旨,固形がんの過剰リスクは,0から150mSvの線量範囲においても線量に関して線形であるようである旨,新しい所見として,相対リスクは到達年齢とともに減少することが認められる旨,子供のときに被爆した人において相対リスクは最も高い旨記載されている。また,上記報告の中で,ERR(過剰相対リスク)は30歳で被爆した人の70歳における男女で平均した推定値であり,単純な線形線量反応を否定する証拠はほとんどない旨,性,被爆時年齢,到達年齢及びその他の因子に伴うERRの変動によって,この推定値はLSS集団の唯一の放射線リスク推定値と見なすことはできないが,LSS集団の固形がんリスクに
対する放射線の影響を説明するための有益な指標となる旨,LSS集団の低線量被爆における放射線に関連した固形がんリスクの直接的な評価では,線量推定値が約0.12Sv未満の被爆者に限定した場合にも線量に伴う統計的に有意な増加が示唆される旨,この低線量域における線量反応曲線の傾きが全線量範囲の場合と有意に異なることを示唆する証拠はなく,閾値を示す証拠も認められない旨記載されている(以上,甲A472・1,11,12頁)


b
そのうちの原爆被爆者の死亡率に関する研究第14報の要約欄には,全固形がんについて過剰相対危険度が有意となる最小推定線量範囲は0~0.2Gyであり,定型的な線量反応に関する近似直線モデルでは閾値は示されず,
ゼロ線量が最良の
閾値
推定値である旨,
非腫瘍性疾患では,

循環器,呼吸器及び消化器系疾患でリスクの増加が示されたが,因果関係については今後の研究が必要である旨,感染症及び外因死には放射線の影響を示す根拠は見られなかった旨記載されている。
上記報告の中の考察において,低線量域に認められた単位線量当たりの高いリスクは解釈が難しい旨,一つの解釈として,長年の追跡調査機関に
おける診断用の医用放射線の累積被ばく線量が低線量レベルでは個人の推定原爆放射線量のかなりの割合を占めるに至ったというものがあるが,ERR推定値に影響を与えるためには医用放射線や放射性降下物及び残留放射線を含むその他の放射線源に極めて低い線量に被ばくした人が選択的にばく露されなければならないはずであるが,LSS集団においてはこのよ
うな付加的放射線源への差異的な被ばくは考えにくい旨,ただ,この可能性を完全に排除するためには放射性降下物等に関する情報が不十分である旨記載されている。放射線以外に考えられる原因として,調査開始以前に線量と相関関係にある(例えば,被ばく線量が市街地にいた人では高く,農村部にいた人では低い。早期死亡例があったために対象者の選択バイアス(選ば)

れた対象者が標的集団を代表していないこと,丙B48の1・8頁)が生じたとい
うものがあるが,遠距離被ばく者と比較して,比較的近距離で低線量に被ばくした人に低いベースライン死亡率が示唆されたが,市街地と農村部の差異など社会人口学的因子の方が線量に基づく選択影響よりも重要であることを示唆しているが,しかし,長期にわたる日本人の生活習慣の近代化によって社会人口学的因子による選択影響は弱まってきたかもしれない旨記載されている。
また,がん以外の疾患のリスクについて,血液疾患及び造血器疾患のリスクの増加は真に放射線の影響かもしれないが,あるいは多くの死亡診断書が死因について詳細な調査を行わずに作成されたために造血器悪性腫瘍を非腫瘍性疾患として誤診しているかもしれない旨,循環器リスクの疾患
は有意に増加した旨,呼吸器疾患リスクも有意に増加したが,これは同疾患の死亡の63%を占める肺炎及びインフルエンザのリスク増加によるものであり,肺炎等による死亡の解釈として,肺炎等がほかの併発疾患あるいは基礎疾患と関連しているかもしれないということであり,消化器疾患は一定の期間内で放射線との関連を示したが,同期間で消化器疾患の4
3%を占めた肝硬変について放射線リスクの増加は認められず,呼吸器疾患及び消化器疾患についてはより詳細な解析が計画されている旨,外因あるいは感染性・寄生虫性疾患による死亡と放射線量との関連は認められなかった旨記載されている。
さらに,LSS死亡調査の強みは,高線量被ばく者を多く入れるように
して全ての年齢群から層化抽出された原爆被爆者の大規模集団に基づいており,しかも,比較的正確な個人線量が得られ,かつ,対象集団の線量範囲が広範であって,死亡及び死因が戸籍制度により完全に把握され,観察期間が長く死亡数が多いことにある旨,他方,その限界として,調査対象者が原爆による身体的損傷・火傷及び放射線の確定的影響による生物学的
損傷から生き残った人々であり,その他のストレス要因として,戦後の日本における栄養状態及び衛生状態の悪さなどがあるが,発がんなどの確率的健康後影響はこのような選択バイアスの影響を受けていないと思われ,これは全固形がんにおける初期と後期の線量反応曲線の差がわずかしかないことにより支持される旨記載されている(甲A471・1,2,16~18頁)

(ウ)胎児照射による小児がんのリスク(1997年)
胎児が子宮内で診断電離放射線に被ばくすることとその後の小児期のがんのリスクとの間に相関関係があることを示すエビデンスが出されて以降も,相関関係の別の説明として,バイアスや交絡であるとの考え方があるが,これを詳しく検討すると,その考え方が妥当ではないことが示唆される。
産科X線検査に伴うリスクの上昇割合は小さいものであり,過去にはおよそ40%であったが,この知見は多くの被験者数に基づくものであり,数箇国で実施された多くの異なる研究で一貫して認められる。症例対象研究では思い出しバイアス(死亡した子の母親は子が生きている母親と比較し,問合せを受ける数年前の妊娠中の検査の詳細を思い出しやすい。なお,英国の研究では,母親の報告
でも,臨床記録でも,同様の相関関係が認められ,思い出しバイアスが比較的影響をほとんど及ぼしていなかったと考えられることを示した。で十分に説明することはで)

きず,放射線検査を受けることとなった産科的状態が交絡していることでも説明ができない。リスクの上昇が因果関係を直接に反映しているとの考え方は,検査中に使用したX線フィルムの枚数に応じて相対リスクが上昇すること,胎児線量が低減されてきたことに伴って相対リスクが次第に低下してきていること,放射線によって胎児にがんが誘発されやすくなることを示した動物実験の結果から支持される。
因果関係を否定するものとされてきた理由は,妥当ではないか,妥当ではないと考えられるものであるが,唯一重要なものとして,子宮内で放射線照
射を受けたことが分かっている小児コホートで,症例・対照研究に匹敵する過剰リスクが存在しないことであり,日本での原爆投下により放射線被ばくしたコホートでその点が認められる。これは通常と異なる偶然に一部よるものであり,爆発後の最初の数年間の追跡が不完全であったことによるものであって,これを除き,相対リスクを信頼性高く計算できるコホートを組み合わせると,リスクが上昇するという結果が得られ,症例・対照研究を組み合わせた結果と合致している。
エビデンスを比較検討し,子宮内で胎児が放射線照射を受けると,小児がんのリスクが上昇し,リスクの上昇は10mGyのオーダーで生じると結論付ける(以上,甲A620の2・1,2,12,13頁)

(エ)原子力産業の放射線作業従事者のがんのリスクに関する15か国共同研
究:放射線に関連するがんのリスクの推定(2007年)
長期間の低線量電離放射線に被ばくした後のがんのリスクの直接の推定を行うため,15か国共同コホート研究が実施された。
解析には,体外放射線を個別にモニターされていた原子力産業従事者40万7391人を含めた追跡を行い,放射線量と全原因死亡の間に有意な相関
関係を認めた。これは,主に全がん死亡が線量に関係して増加することによるものであった。調べた31種の特定タイプの悪性疾患の中で,肺がんについては有意な相関関係が見つかり,多発性骨髄腫と部位不明確及び続発がんについては有意水準の境界線上の相関関係が見つかった。この研究は現在までに行われた電離放射線に対する低線量長期間被ばくの影響について調べた
最大規模の分析疫学研究であり,そのリスク推定に,たばこその他の職業性ばく露が果たす役割についてよりよく評価するため,更に研究を行うことが重要である。
その考察として,放射線量が増加すると白血病を除く全てのがんによる死亡リスクが増加することを示すエビデンスが見つかった。喫煙やその他の職
業性ばく露の交絡作用が,白血病を除く全てのがんによる死亡に認められたリスクは上昇の一部原因であり,本研究での白血病を除く全てのがんについてのリスク推定が過大推定したものであるという可能性を排除することはできないが,しかし,知見を比較検討すると,増加に全てが喫煙の交絡で説明できるとは考えにくい。
結論として,白血病を除く全てのがんによる死亡について,リスクが有意に上昇することが明らかとなった。喫煙が関係している死亡原因と喫煙が関係していない死亡原因との解析を行って,喫煙の交絡の可能性があるが,リスク上昇の全てを説明できるとは考えにくい(以上,
甲A476の2・1,
14,
17,24枚目)


(オ)インドケララ州での自然放射線とがんの罹患-カルナガパリコホート研究(2009年)

インドケララ州カルナガパリの海岸地帯は,トリウムを含有しているモザナイト砂からの高い自然放射線があることが知られ,海岸線に沿った一部の行政区では,屋外放射線レベルが年間4mGyを超え,海岸線の一部では同70mGyを超えるレベルになる。自然放射線の健康に及ぼす影響の評価のため,カルナガパリ海岸地帯の全住民38万5103人からなるコホートが設立され,17万3067人の住民から放射線サブコホート(30~84歳からなる6万9958人)のがん罹患率を解析し,それぞれの被験者についての
累積放射線量を,それぞれの世帯の屋外及び屋内線量測定結果をもとに性別や年齢別の係数を考慮に入れて推定したところ,地表γ線放射への被ばくによりがんの過剰リスクが生じることは示されなかった。部位別分析では,いずれのがんの発症部位も累積放射線量と有意な相関関係を有しておらず,白血病も自然放射線との有意な相関関係はなかった。低線量であるため,本研究の統計検出力は十分なものではなかった可能性があるが,中国広東省陽江市の高自然放射線地域でのがん死亡率の研究と合わせて低線量でのがんのリ
スクが現在考えられているものよりも相当に高いということはあり得ないことを示唆している。
その結果として,平成17年時点でのべ73万6586人の観察ができ,追跡期間中に白血病を除くがん症例1349例及び白血病症例30例が報告され,性別,年齢,追跡区間,喫煙,教育,職業などで調整したコホートデータを解析したが,地表γ線に対するばく露とがんのリスクとの間に有意な相関関係を示さなかった。
なお,原爆被爆者の推定値は,性別や到達年齢,ばく露時年齢を考慮していないし,15か国の原子力従事者の研究にも,交絡因子(二つのプロセスの影響が分離できない状況である交絡をもたらす因子のこと,丙B48の1・8頁)であ
る喫煙に関する情報が欠落している点が欠点として指摘される。
陽江市の研究では自然放射線ががん全体の死亡率とは関係しないことを示すとともに,食道がんのリスクが有意に上昇することを示したが,本研究では食道がんの過剰なリスクを示さなかった。
インドの社会構造や医療制度からがんの診断に関する正確な情報を得るのは困難ではないかとの疑いはあるが,カルナガパリの公衆衛生や医療制度は
インド全国よりも良好である。地表放射線による累積線量の推定が困難であることや,転居による線量の推定に偏りが生じることなどの問題もあるが,悪性腫瘍が自然放射線に関連して過剰リスクがあることは示されなかった(以上,甲A623の2・1,8,10~13頁)


(カ)小児期のCTスキャンからの放射線被ばく並びにその後の白血病及び脳腫瘍のリスク:後ろ向きコホート研究(2012年)
イングランド,ウェールズ又はスコットランドの国民保健サービスセンターで1985年~2002年に22歳未満でCT検査を受け,これまでがんの診断歴がなかった被験者を対象に,追跡できなかった者を除外し,白血病について17万8604人,脳腫瘍について17万6587人を対象として
調査を実施した。その結果,約50mGy以上の累積線量を照射するCTスキャンを小児に用いると,白血病のリスクがほぼ3倍となり,およそ60mGyの線量では脳腫瘍のリスクが3倍になるなど,赤色骨髄及び脳に対するCTスキャンが照射する推定放射線量とその後の白血病及び脳腫瘍のり患との間に有意な相関関係があることを示した。上記センターでの受診は,おそらくCT検査を受ける者として英国の小児及び若年成人集団を代表するものであり,
その結果は放射線感受性の高い年代に直接適用可能である。
しかし,
結果を成人のCTスキャンにまで一般化できるかどうかはまだ明らかとなっていない。線量の推定に不明確な点が存在しているが,線量推定にバイアスを掛けるものはなく,全国調査で得られたCT装置の平均的な設定を用い,2001年より以前には,小児患者に対するテクニカルな調整を行わなかっ
たものと仮定した。全ての患者が受けたそれぞれのスキャンについての線量を推定し,患者についてのアウトカムデータを入手し,CTから小児及び若年成人が受ける可能性がある線量では,白血病及び脳腫瘍のリスクの増加を伴うことを示す直接的なエビデンスを示した。本研究で認めた線量応答関係とより高い線量レベルで発がん性要因として確立しているばく露と比較して
2倍以上の相対リスクがあったことは,この関係が交絡因子だけによるものとは考えにくいことを示すエビデンスである(甲A621の2・1,2,5,7~10頁)


(キ)小児期あるいは青年期にコンピュータ断層撮影を受けた68万人のがんのリスク:オーストラリア人1100万人のデータリンゲージ研究
(2013年)
CT診断スキャンからの低線量電離放射線の被ばく後の小児及び青年期のがんのリスクを評価することを目的とした研究であり,
コホートの構成員は,
1985年1月1日に0~19歳であった,又は,同日から2005年12月31日までに生まれた1090万人である。
その主な結果として,がんと診断される1年以上前にCTスキャンを受け
た人々についてのがんのり患率を,CTスキャンを受けたことがない人々についてのがんのり患率とを比較した結果,がんのり患率は,年齢,性別,出生年で調整すると,
被ばく群の方が無被ばく群と比較して24%高く,
線量・
応答関係があることを認め,CTスキャンが1回増すごとにり患率が0.16上昇し,年少で被ばくしたほどり患率が高かった。多くのタイプの固形がん(消化器,メラノーマ,軟部組織,女性器,尿路,脳,甲状腺),白血病などでり
患率が有意に上昇した。このコホートでCTスキャンを受けた後にがんのり患率が上昇するのは主に放射線によるものであった。
その考察として,この研究では,小児期及び青年期にCTスキャンを受けると,全てのがんを一つにまとめたがんのり患率や多くの個別タイプのがんのり患率が増加することを示している。しかし,現在の追跡期間中に生じた
過剰ながんの全てがCTスキャンにより引き起こされたものであるとは必ずしも仮定できない。
スキャンするかどうかの判断は運用に基づくものであり,
ランダムに割り付けられたものではなく,逆の因果関係である可能性も否定できない。そのような関係では,前がん状態の症状等があるため,CTスキャンを行った可能性があり,脳CT実施後に生じた脳腫瘍(脳腫瘍以外のほと
んどのがんでは,前がん状態が若年者で1年以上続くとは考え難い。を除外した主)

解析を実施したところ,逆の因果関係で,本研究で観察されたがんの過剰症例の全てを説明することはできない。CTスキャンが被ばく者での過剰ながんの症例のほとんどを引き起こすという推論を確定的に立証することはできないが,幾つかの観察結果から支持されている
本研究が新たに加えた知見として,0~19歳でCTスキャンを受けたことがある68万人のオーストラリア人のがん罹患率が,1000万人を超える無被ばく者のり患率と比較して24%上昇し,リスクは年少で被ばくした被験者でより高かった。ほとんどの固形タイプの固形がん,白血病その他のリンパ腫に関してり患率が上昇していた(以上,甲A622の2・1,2,10,
11,15頁)


(ク)1980~2006年の英国における自然バックグラウンド放射線と小児白血病その他のがんのり患に関するレコードベースの症例対照研究(2013
年)

小児がんと自然バックグラウンド放射線との間の相関関係について調べる大規模なレコードベースの症例対照研究である。
1980年~2006年に英国に生まれ小児がんと診断された症例2万7447人とマッチさせたがんを発症していない対照(3万6793人)を採用し,子供が出生した時点での母親の居住地におけるγ線の平均値などから放射線量を推定した。
その考察として,本研究により得た知見は,自然γ線の線量が上昇するに
つれて小児白血病のリスクが上昇する統計的に有意なトレンドが得られ,その大きさが線量モデル等に基づく計算で予測されていたものと同程度であったことである。白血病タイプ以外の小児がんについては,統計的有意水準に到達するほどにγ線によるリスクは上昇しなかった。
本研究では,個別の症例との接触がなく,子供の出生時の母親の居住地を
含む区域の平均から推定したという避けられない欠点を抱えている。また,上記症例(2万7447人)について診断時の住所が得られているが,上記対照(3万6793人)について出生時の住所しかなく,そこでの被ばくを基に推定した。
また,
社会経済状態の尺度以外の交絡因子についての情報はない。
結論として,自然バックグラウンドγ線に被ばくすることに対して小児白
血病のリスクに及ぼす影響が実際にあり,中等度/高線量及び高線量率で観察されたデータに基づく放射線による白血病誘発モデルは,年間1mGy程度の長期間の低線量被ばくにも適切にあてはまるという仮説を支持している(以上,甲A478の2・1,8~11枚目)


(ケ)放射線量モニターを受けた労働者における電離放射線と白血病及びリンパ腫による死亡リスク(INWORKS)
:国際コホート研究(2015年)
本研究は,フランス,英国,米国で雇用されている放射線量モニターを受けた成人労働者について,
長期間の低線量放射線被ばくと白血病やリンパ腫,
多発性骨髄腫による死亡との相関関係を定量的に調べたものである。原子力産業の従事者として1年以上雇用された放射線量モニターを受けた労働者30万8297人で構成されるコホートを構築し,追跡調査をし,白血病,リンパ腫,多発性骨髄腫が原因の死亡を確認し,赤色骨髄の推定吸収線量と白血病等の死亡との間の相関関係を定量的に評価した。
その解釈としては,長期間の低線量放射線被ばくと白血病との間に正の相関関係があることを示す強いエビデンスがあることを示している。その考察として,累積放射線量と慢性リンパ性白血病(CLL)を除く白血
病が原因の死亡の間に推定された相関関係は,20~60歳までの間に被ばくした男性原爆生存者についての線量応答推定値と,サイズ及び精度の点で同様であった。原爆生存者の分析よりも相当に低い線量分布であり,典型的には,長期間にわたって極めて低い線量の被ばくに基づくものであるが,同じ程度の相関関係があったことは成人での放射線被ばく後の白血病リスクの
現在の推定が妥当であることを支持しており,注目すべきは本研究が行った推定波及性被ばくのデータから外挿したものではなかったことである。本研究での相関関係に交絡因子が入り込む可能性として,例えば,骨髄性白血病の原因となる喫煙があるが,その相関関係は比較的小さい。社会経済状態でリスク解析の調整を行うことにより喫煙の交絡を相当程度低減できる
が,その調整を行っても,CLLを除く白血病のリスク推定にほとんど変化がなかった(以上,甲A616・1,6,7頁)

(コ)バックグラウンド電離放射線と小児がんのリスク:国勢調査ベースの全国コホート研究(2015年)
小児がんのり患について,地球γ線や宇宙線によるバックグラウンド放射
線と相関関係があるかどうかを調べたものである。
1990年と2000年のスイスの国勢調査で16歳未満であった小児を含め,対象の209万3660人から1782例のがんのり患が特定され,白血病530例,リンパ腫328例,中枢神経系腫瘍423例などが対象とされた。
このコホート研究で,毎時200n(ナノ)Sv以上のバックグラウンド電離放射線の体外線量率に被ばくしている小児では,毎時100nSv未満の小児と比較してがんのリスクが上昇することを示すエビデンスが見出された。解析の結果,全てのがん,白血病などに関して,出生後に受けた累積線量に応じてリスクが上昇することが示された。
この研究での被ばく評価は,小児の自宅で実際に測定したものではなく,
地理モデルに基づくものであり,そのモデルは密度の高い測定網に基づくものであったが,測定誤差や自然要因などによる被ばくの変動を無視していることから,何らかの被ばくの間違った分類をしている可能性がある。また,計算線量は屋外線量によるものである。被ばく測定が不正確であったことによるバイアスを排除できないものの,全体として,この研究では,バックグ
ラウンド放射線が小児がんのリスクに寄与していることが示唆された(以上,甲A479の2・1,6~9枚目)


(サ)テチャ川発生コホートにおける固形がん発生率:1956年~2007年(2015年)

この分析は,テチャ川(1949年から1956年の間に旧ソ連のマヤーク核技術施設の稼働の結果,放射性物質がテチャ川に放出され,テチャ川沿いの160マイルに沿って存在する41村約3万人が外部及び内部低線量率被ばくを受けたとされる。)

近く又はチェリャンビンスク市に住み,1956年1月1日以前にがんの存在が確認されていない生存コホートメンバー1万7435人を対象として,独特の組み合わせの放射線核種に環境的にばく露された人々の全固形がん発生率に対する放射線起源リスクを推定する研究である。
その考察として,この被ばく環境における全固形がん発生率リスク増加を継続して裏付けている。放射線量効果に対する推測は,喫煙に対して調整しても大きく変化しなかった。追跡調査期間を5年間追加しても,新たな線量推定値であっても以前の推定値であっても,リスク推定値にほとんど影響は与えなかった(データ未公表)
。食道がんを除くと,固形がん率は低下したが,
放射線はなおもこのコホートではほとんどの固形がんリスクを増加させると
思われる。発生と死亡率データはいずれも線形線量応答モデルで上手く表され,
がん率が線量に依存することを示す全エビデンスは極めて説得力がある。本研究では,節約と簡単との理由から,線形モデルに重点を置いたが,特に100mGy以下の線量では(このコホートでは人年の約90%を占める。,)線量
応答の形がかなり不確実である。このような限界があるにもかかわらず,低
線量率の中等度放射線量によるがん率の長期増加に対して,独自の重要かつかなり強力なエビデンスが得られる。
限界はなおも持続するが,コホートのデータの質は時間とともに改善している。大きな交絡因子である喫煙を制御しようと努力しているが,これらデータは,正確さに限界があり,誤分類が存在する可能性がある。

全固形がんに対して明白な線量応答関係は,
食道がん症例を除いても残り,
部位特異的リスク推定値の過剰解釈を避けなければならないが,放射線はこのコホートのほとんどの固形がんリスクを上昇させると思われる(以上,甲A613の2・1,2,9,10,13頁)


専門医師の意見

(ア)崎山比早子医師(以下崎山医師という。の意見

崎山医師は,約25年間,放射線医学総合研究所の研究員として放射線による試験管内発がんの研究等を行ってきたほか,同研究所退職後は,国会東京電力福島第一原子力発電所事故調査委員会の委員として調査に関与するなどした医師である(甲A1,丙B46の1・1頁,丙B46の2の別紙【意見書提出者の略歴】。

a
放射線が生物に与える影響等
本件事故により放出された放射性物質が出すγ線などの放射線
(電磁波あ
るいは電磁放射線)はけた違いの大きなエネルギーを持ち,生体内には,放
射線によって切断できない分子
(人間の生体を構成する細胞や細胞間物質は数千
種類もの化合物により構成されているが,それらの分子に含まれる原子は化学結合のエネルギーと呼ばれる力で結びついている。生体組織は原子間や分子間で小さいエネルギーを規則正しくやり取りしながら機能し,
生命を維持している。は存在し


ない。そのため,けた違いのエネルギーを持った放射線が生体を通ることは生体にとってとんでもない破壊行為(7Gyすなわち7Svの放射線を浴びると人はほぼ3か月以内に死亡する。γ線などは1mGyが1mSvに相当し,全身の細胞の核に平均して放射線が1本通るということになる。となり,仮に1本の)

放射線が通っても生体に傷害を与えることとなる。
放射線が健康に与える影響は線量により異なるが,低線量であっても放射線が身体を貫通すればその飛跡に添って必ず電離が起きるので生体内分子に影響は起きており,それがDNAであれば後にがん等を発症する可能性は否定できない。がんや遺伝的障害は一定時間を経て発症するので晩発傷害という。晩発傷害は,被ばく者全てに現れるものではなく,一定の確率で発症するのでこれを確率的影響という。
放射線被ばくの仕方には,放射性物質が体の外にあり体外から照射を受
ける外部被ばくと,放射性物質が体内に取り込まれて照射される内部被ばくとがあるが,体内に入った放射性物質は核種によってそれが蓄積される部位が異なり,例えば放射性ヨウ素は甲状腺に蓄積され,放射性ストロンチウムは骨に,放射性セシウムは体中の組織に分布する。
放射性感受性は,年齢や性別により異なることはよく知られており,女
性は男性よりも,若年者は成人よりも感受性が高い(以上,甲A468・6~13頁,丙B46の1・6~9頁)

b
放射線による発がんメカニズム等
生物個体の生命にとってDNAが変化しないことが重要であるが,放射線がDNAに当たるとDNAは切れるとともに周辺にある蛋白質をも傷つけて複雑損傷となる。複雑なDNA損傷が起こった場合,正常に修復される場合もあるが,発がんしやすい性質の細胞に変異することもあり,場合
によっては修復不能となって細胞の老化につながる可能性もある
(甲A46
8・14~17頁,丙B46の1・3~8頁)


c
100mSv以下でがん死率が増加したことを示す疫学調査報告
従前,100mSv以下では発がんのリスクの増加を証明することは難
しいとされてきたが,近年の大規模な疫学調査(性別,年齢,生活習慣,社会階層などを一致させて被ばくを受けたグループと被ばくを受けなかったグループとの間で発がん率あるいは発がん死率を比較すること)結果が次々に発表され,ご
く低線量においても統計的に有意な発がん及び発がん死リスクの上昇が明らかとされている。
具体的には,
上記カ(イ)の原爆被爆者の寿命調査において示された,
閾値
なしLNTモデルが最も調査結果に合致したということ,上記カ(サ)のテチャ川流域住民におけるがん死の追跡調査結果においても,その住民の平均被ばく線量は40mSvであったが,同様にLNTモデルに合致したこと,上記カ(エ)の15か国共同研究,上記カ(ケ)のフランス,英国,米国の
各施設労働者に関する疫学調査の結果などはいずれもLNTモデルを支持しており,
100mSv以下の被ばくにおいても発がん,
がん死リスクは,
他の要因に隠れることなく線量に比例して増加することが実証されている。他方,
上記カ(オ)のインドのケララ地方住民の疫学調査に関しては,
高自
然放射線地域では発がんの率の増加はないとしているが,30歳未満及び
85歳以上の年齢集団を調査対象者群から除外しており,選択バイアスがあること,集団のサイズが小さく,調査期間も短いことなどから,その疫学調査の信用性は乏しい(以上,甲A468・18~30頁)

d
LNTモデル
LNTモデルは,上記bの放射線によるDNAに対する複雑損傷という理論的,実験的な裏付けを有している。ICRPの平成19年勧告も,数十mGy以下の線量におけるDNA修復の忠実さが生化学的に変化する可
能性は排除できないが,そのような変化を予測する具体的理由はないとしている。
また,LNTモデルが採用された理由として,放射線量評価のための人の解剖学的及び生理学的な標準モデル,分子及び細胞レベルでの研究,動物実験を用いた研究などのほか,疫学的研究の利用に基づくものとされて
いる。
このように,LNTモデルの採用は,科学的理論に裏付けられており,疫学的にも10mGyで発がんリスクの上昇が示されているのであって,科学的に証明された真実として受け入れられているものではなく,公衆衛生上の安全サイドに立った判断として採用されているとの被ばくWGの指
摘は明らかな誤りである。
また,ICRPがいう公衆の年間被ばく線量限度1mSvという指標も放射線防護に対する社会的コストとの兼ね合いによるものであり,これが安全量というものではない(以上,甲A468・30~34頁)

e
放射線による非がん性疾患
放射線はがん以外にも種々の疾患を引き起こす。原爆被爆者の寿命調査などにおいて指摘されているとおり,50年以上の追跡調査の結果,循環器疾患,
呼吸器疾患,
消化器疾患等と線量との関係が明らかになっており,
チェルノブイリ原発事故においてもその事故の前後との比較で,増加が顕
著なものは,悪性腫瘍よりも消化器系,内分泌系,神経・感覚器系などの非がん性疾患である。
上記bのとおり,
放射線が老化を促進することから,
高齢者や被ばく者に多い心筋梗塞,脳梗塞などは血管内皮細胞の老化が一因となっているものと考えられる。また,放射線は免疫系に老化のプロセスと同様の変化をもたらし,免疫系の老化が種々の疾患を併発する原因となっている(甲A468・35,36頁)

f
福島県民健康調査
福島県民健康調査の結果などから,福島県において小児甲状腺がんが多発していることがわかる。検査対象者30万0476人のうち,113人が悪性又は悪性の疑いと診断され,うち98人が甲状腺がんと確定診断された。
小児甲状腺がんの通常の発症率(100万人当たり年間3人程度)に対し,
有病率と発症率との違いを考慮しても明らかに多発している。
過剰診断
(死
亡原因とならず,
治療の必要性がないようながんを検診によって見つけて治療したために受診者にとって不利益が生じること)との指摘もあるが,チェルノブイリ
原発事故との比較や手術に当たった医師の見解などに照らして過剰診断には当たらない。
疫学的分析も裏付けている
(以上,
甲A468・39~42頁)


g
被ばくWGの問題点

(a)被ばくWGは,科学的に裏付けられたLNTモデルや被ばくWGは疫学的に数mSvの発がんリスクすら立証できているにもかかわらず,出典も示さない国際的合意なるものを理由に100mSv以下の被ばく線量では放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明できないとの前提に立って,線量限度年間20mSvという指標を採用している。これは,1000人に5人のがん死率増加(100mSvの被ばくにおける固形がん死のリスク推定値,甲A468・35頁)を認めながら因果関係の立証の困難性を理由に
その正当化を図るものであり,倫理的に崩壊している(甲A468・50,51頁)


(b)20mSvという指標も,これは,電離放射線障害防止規則3条所定の放射線管理区域で職業的に働く労働者ですらその大部分が被ばく線量の総計(累積線量であって,年間ではない。が20mSvに達しないのである。し)
かも,疫学調査の結果に照らせば,小児,胎児の放射線感受性の高さは明らかである。
それにもかかわらず,被ばくWGは低線量被ばくでは年齢層の違いによ
る発がんリスクの差は明らかではないなどとして,上記職業労働者ですら甘受しない被ばく線量を,放射線感受性の高い小児,胎児にも許容するものであり,
その配慮を欠くことは明白である
(以上,
甲A468・43~45,
52頁)

(c)リスクコミュニケーションのあり方についても,被ばくWGは,生体防御機能を指摘するが,このような仕組みを潜り抜けてできるがんが実際にあり,それが疫学調査で検出されていること,リスクの程度の説明についても,不適切な喫煙リスクとの比較(小児,胎児はもとより,18歳以下の喫煙は禁止され,喫煙しない。や同じくCT被ばく,航空機の利用による被ばく)

との比較など,CT検査における検査治療の必要性,海外旅行における個
人の任意の選択などといったメリットを無視し,メリットのない放射線被ばくと比較することは明らかに誤りである(甲A468・53,54頁)。
(イ)佐々木康人医師らの連名意見等
崎山医師の意見に対し,ICRPの主委員を務めていた,放射線医学を専門とする佐々木康人医師を始めとして,放射線生物学を専門とする医師や疫学研究を専門とする医師らの連名により,意見書が作成されている(丙B47の1・1頁,
丙B48の1・1頁,丙B49の1・1,2頁・丙B52)
。その概要は,

以下のとおりである。
a
放射線健康影響と防護の目的
放射線の健康影響は,①吸収線量1Gy以上の被ばくで多く発症する急性の身体的影響であり,しきい線量を超えないと症状が出現しない確定的影響又は有害な組織反応と,②しきい線量がなく,被ばく後数年以上経て被ばく集団と非被ばく集団とを比較して観察されるがん死亡やがんり患の増加等に見られる確率的影響とがある。確率的影響は高線量でも低線量でも線量に応じた確率で起こるため,低線量被ばくでの主要な健康問題は確率的影響のみを考えればよい。

原爆被爆者の疫学調査集団であるLSSを見ても,100mSv以下の低線量域では,非被ばく者群との間に統計学的に有意な差が認められず,がんの増加は証明されていないなど,低線量の健康影響は疫学的には実証されていないが,確率的影響が認知され,しきい線量がないと考えることが公衆衛生上で安全側に立った判断として妥当とされた結果,LNTモデ
ルが採用されている。
線源や被ばく線量の制御が困難な非常事態(ICRPがいう緊急被ばく状況)となった場合,防護管理の目的を,確定的影響の回避と確率的影響の最小化として,平常時よりも発がんリスクが高まることを容認せざるを得なくなる。これは,非常事態が収束し復旧が始まっても平常時より環境の放射
線量が高く直ちに平常時まで下げることが困難な場合(ICRPがいう現存被ばく状況)も同様である。これらの場合,線量限度は適用せず,参考レベ
ルを指標として最適化を実施し,可及的速やかに平常に復帰する。ICRPは,線量限度や参考レベルを危険と安全との境界とはみなしておらず,影響の段階的評価を示すものではないとする(以上,丙B52・4~6頁)。

b
低線量影響の不確実性とLNTモデルの意義
現時点での国際的コンセンサスは,100mSv以下の低線量域においては疫学データの不確かさが大きく,
放射線によるリスクがあるとしても,
放射線以外のリスクの影響に紛れてしまうほど小さいため,統計的に有意
な発がん又はがん死亡リスクの増加を認めることができないということである。
LNTモデルは,150~4000mSv程度の原爆被爆者での発がんリスクと線量との直線関係を100mSv以下の線量域に外挿して低線量領域でも,ゼロより大きい放射線量は,単純比例で過剰がん及び/又は遺伝性疾患のリスクを増加させる,という仮説に基づく線量反応モデルである。

ICRPは,放射線の管理・防護という実用的かつ政策的立場から,安全を重視してLNTモデルを採用しているのであって,この仮説が科学的根拠により裏付けられたものと認めるものではない(疫学研究による科学的実証の困難さについても指摘している。。


低線量被ばくの健康影響の有無については生物学的観点からも解明に向
けた努力が続けられ,生体に発がんを抑制するような機能が備わっていることが明らかになってきている。低線量被ばくの場合,そうした生体防御機能の能力を超えた部分だけが発がんリスクの増加につながるとすると,線量が極めて低い場合の影響は線量に単純に比例したものでなく,LNTモデルが予想されるよりも小さいと考えられるとの見解もある(以上,丙B
52・6,7頁)


c
疫学調査に関する評価等

(a)上記カ(イ)のLSS第14報について,
ゼロ線量が最良の
しきい値推定値とする趣旨について,同論文作成者がそのような趣旨ではないと述べていること(丙A254・26~31頁)
,低線量被ばくの健康影響の評価に
ついて被ばく影響を解析するための統計モデルの選択によっても異なることなど,同14報は,LNTモデルが100mSv以下の低線量域で妥当することを実証するものではない(丙B52・8,9頁)

(b)上記カ(サ)のテチャ川流域住民における疫学調査においては,そのコホ
ートが生活習慣や遺伝的素因が異なる二つの民族からなっており,そのような交絡因子の考慮が十分ではないこと,統計モデルの選択により低線量域のリスクの評価値が大きく変わることなども踏まえると,同疫学調査はさらに解析が必要な途中段階の研究であり,現段階までの同疫学調査によりLNTモデルが実証されたということはできない(丙B52・10,11頁)

(c)上記カ(エ)の15か国コホート研究については,公表当初からカナダのデータの信頼性に疑問が持たれ,カナダの原子力安全委員会が同国データの再解析を実施したところ,一部労働者の被ばく線量の記録が過少であったことが判明し,これを除外すると同国労働者の固形がん死亡のリスクに有意な上昇は見られなかった(丙B52・8,11頁)


(d)上記カ(ケ)の3か国労働者の後ろ向きコホート研究においては,重要な交絡因子である喫煙について適切な調整がされていないなどの問題があり,同論文の示唆する結果について科学的評価が定まっているとはいい難い(丙B52・12頁)


(e)上記カ(ク)のイギリスの小児白血病に関する疫学調査についても,線量推定や母親の居住地に基づいた貧困指数などの不確実性,交絡因子の調整
も十分ではないなどの問題があり,上記カ(コ)のスイスの国勢調査ベースの全国コホート研究も同様に,交絡因子の検討が十分にされていない可能性や線量推定の精度に問題があることなどが指摘されるのであり,これらがLNTモデルを実証するものとはいえない(丙B52・13~15頁)。
(f)また,CT検査における英国(上記カ(カ))
,オーストラリア(上記カ(キ))で
の疫学調査について,そもそものCT検査をした目的,基礎疾患などの患者背景の調査が行われておらず,患者背景の影響として,がんが疑われたためにCT検査が実施され,その結果としてCT検査を受けた患者にがんが多かったという逆の因果関係も否定できない(丙B52・16,17頁)。

d
福島県民健康調査

(a)上記(ア)fの,
100万人に3人という小児甲状腺がんの発症率は,
臨床
症状が発現して手術をした症例などであり,県民健康調査のような健常者のマススクリーニングの結果と比較できない。そもそも,県民健康調査の開始当初から健常者に対して精緻な検査を導入すれば多くの有所見者が検知されることは予想されており,潜伏期等の問題を踏まえるべきである。また,福島県立医科大学における外部被ばく線量と甲状腺がんの地域別
関連性を精緻に解析した最新の論文によれば,甲状腺がんと放射線被ばくとの因果関係を示唆する所見は得られていない(以上,丙B52・18,19頁)


(b)住民被ばくの現状については,外部被ばく線量推計のために実施した行動記録に回答した56万4000人(回答率27.4%)の本件事故当初
4か月間の推定被ばく線量は,1mSv未満が98.8%,5mSv未満が99.98%であり,最大被ばく線量は25mSvであった。
20mSvという基準の妥当性について,ICRPは,緊急時被ばく状況における参考レベル20~100mSvとしているが,この最低値を選んだものであり,年間20mSvの低線量被ばくとその健康影響や,これ
を避難指示の基準とする合理性等については,被ばくWGにおいて専門家を交えた議論がされ,
上記エ(イ)のとおり,
被ばくWGにおける現在の避難
指示の基準である年間20mSvの被ばくによる健康リスクは,十分に低い水準であり,今後,より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとして適切であるとの見解は,今なお正しいものであり,かつ,有
効である(以上,丙B52・19~21頁)

9
本件事故に係る賠償の指針,原告らに対する賠償金の支払状況等

(1)中間指針等

中間指針等の策定
文科省は,平成23年4月11日,原賠法18条1項に基づき,原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介及び当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定に係る事務を行う機関として,原賠審を設置した。
原賠審は,
同条2項2号に基づき,
原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針として,同年8月5日に東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針すなわち中間指針を策定,公表し,その後の同年12月6日に東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)すなわち
中間指針追補を,平成24年3月16日に東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)すなわち中間指針2次追補を,平成25年1月30日に東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第三次追補(農林漁業・食品産業の風評被害に係る損害について)(以下「中間指針3次追補」
という。を,

同年12月26日に
東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第四次追補(避難指示の長期化等に係る損害について)(以下
中間指針4次追補
という。を順次策定,公表した。

なお,原賠審においては平成23年4月15日に第1回会合が開催されて以降,中間指針が策定,公表された同年8月5日までに計13回の会合が開催され,その後,中間指針4次追補が策定,公表された平成25年12月26日までに計39回の会合が開催されており,各会合の議事録や配布資料は公開されている。なお,原賠法に基づき,原賠審の下には,本件事故による
損害賠償のADR手続を担当する組織として,原子力損害賠償紛争解決センターが置かれている(以上,乙C2~乙C5,乙C10,弁論の全趣旨)。

中間指針等における精神的損害の賠償等の内容

(ア)中間指針
a
中間指針は,本件事故において,避難等対象者のうち,原災法に基づく屋内退避区域(政府が原災法に基づいて各地方公共団体の長に対して住民の屋内退避を指示した区域であって,本件原発から半径20km以上30km圏内をいう。な
お,同区域については,上記(1)オ(エ)のとおり,平成23年3月25日,内閣官房長官から,自主避難の促進等が発表され,同年4月22日,計画的避難区域等の指定に伴い,その区域指定が解除された。乙C2・6,7頁)の指定に伴い,屋内への
退避を余儀なくされた者(以下屋内退避者という。乙C2・8,9頁)が受けた精神的苦痛(
生命・身体的損害を伴わないものに限る。のうち,少なく


とも屋内退避区域の指定が解除されるまでの間,同区域における屋内退避を長期間余儀なくされた者が,行動の自由の制限等を余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛を賠償すべきものと認める。すなわち,本件事故と相当因果関係のある損害であれば,原賠法3条1
項の原子力損害に該当し,生命・身体的損害を伴わない精神的損害についても,相当因果関係等が認められる限り,賠償すべき損害であるといえる。本件事故においては,実際に周辺に広範囲にわたり放射性物質が放出され,これに対応した避難指示等があったから,生命・身体的損害を伴わない精神的苦痛等に関する損害発生の有無や範囲に関する客観化が困難
であるとしても,屋内退避を余儀なくされるなどの日常の平穏な生活が現実に妨害されたことは明らかであり,その状況等に応じ,屋内退避者なら行動の自由の制限等を長期間余儀なくされるなどの精神的苦痛を被っており,少なくともこれについては賠償すべき損害と観念することが可能である(以上,乙C2・17,19,20頁)


b
上記aの精神的損害の額の算定に当たっては,避難費用(対象区域から避難するために負担した交通費,家財道具の移動費用のほか,対象区域外に滞在することを余儀なくされたことにより負担した宿泊費等,乙C2・11頁)のうち生活費
の増加費用との合算した一定の金額をもって両者の損害額と算定するのが合理的である。避難等により生じる生活費の増加費用は,屋外退避者の大多数に発生し,
通常さほど高額とならず,
個人差による差異が少ない反面,
その実費の厳密な算定は実際上困難であり,その立証を強いることは屋内退避者に酷である上,その生活状況等と密接に結びつくものであることから,上記精神的苦痛と生活費増大分とを合算した一定の金額をもって両者の損害額と算定するのが合理的な算定方法である。

また,屋内退避者に該当する者であれば,その年齢や世帯の人数等にかかわらず,屋内退避者個々人が賠償の対象となる。損害賠償請求権は個々人につき発生するものであるから,損害賠償も世帯単位ではなく,個々人に対してされるべきである。年齢や世帯の人数あるいはその他の事情により各屋内退避者が現実に被った精神的苦痛の程度には個人差があることは
否定できないものの,中間指針においては,全員に共通する精神的苦痛につき賠償対象とされるのが妥当と解されること,生活費の増加費用についても個人ごとの差異は少ないと考えられることから,年齢等により金額に差は設けない。
なお,ここで精神的損害と一括して算定する生活費の増加費用は,あく
までも通常の範囲の費用を想定したものであって,屋内退避者の中で,特に高額の生活費の増加費用の負担をした者については,そのような高額な費用を負担せざるを得なかった特段の事情があるときは,別途,必要かつ合理的な範囲において,その実費が賠償すべき損害となる。
屋内退避区域の解除等から相当期間経過後に生じた避難費用は,特段の
事情がある場合を除き,賠償の対象とならない。この相当期間は,上記aのとおり,屋内退避区域の指定が解除された平成23年4月22日から住居に戻るまでに通常必要となると思われる準備期間を考慮し,同年7月末(ただし,これらの区域に所在する学校等に通っていた児童・生徒等が避難を余儀なくされている場合には同年8月末までを目安とする。までを目安とする。)
(以上,
乙C2・11~14,17,18,20頁)
c
その損害額については,屋内退避区域の指定が解除されるまでの間,同区域において屋内退避をしていた者(緊急時避難準備区域から平成23年6月19日までに避難を開始した者及び計画的避難区域から避難をした者を除く。につ)

き,一人10万円を目安とする。屋内退避区域の指定が解除されるまでの間,同区域において屋内退避者は,自宅で生活しているという点では,以下の避難者のような精神的苦痛は観念できないが,他方で,外出等行動の自由を制限されていたことなどを考慮し,以下の損害額を超えない範囲で損害額を算定することとし,その損害額は一人10万円を目安とするのが妥当である。
なお,
屋内退避者以外の上記aの避難等対象者については,
本件事故後,

避難者の多くが仮設住宅等への入居が可能となるなど,長期間の避難生活のための基盤が形成されるまでの6か月間(第1期)は,地域コミュニティ等が広範囲にわたって突然喪失し,これまでの平穏な日常生活とその基盤を奪われ,自宅から離れ不便な避難生活を余儀なくされた上,帰宅の見通しもつかない不安を感じるなど,最も精神的苦痛の大きい期間といえ,負
傷を伴う精神的損害ではないことを勘案しつつ,
自賠責における慰謝料
(日
額4200円。月額換算12万6000円)を参考にした上,上記のように大き
な精神的苦痛を被ったことや生活費の増加分も考慮し,一人当たり月額10万円を目安とするのが合理的である。
また,中間指針においては,損害額の算定は月単位で行うのが合理的と認められるが,
上記第1期について示した金額は,
あくまでも目安であり,
具体的な賠償に当たって柔軟な対応を妨げるものではなく,その他の本件事故による精神的苦痛についても,個別の事情によっては賠償の対象と認めることができる。
(以上,乙C2・19,21~23頁)
(イ)中間指針追補
a
原賠審において,関係者へのヒアリングを含めて調査・検討を行った結果,屋内退避区域を含む避難指示等対象区域の周辺地域では自主的避難を
した者が相当数存在していることが確認された。自主的避難に至った主な類型としては,①本件事故発生当初の時期に自らの置かれている状況について十分な情報がない中で,本件原発のR/Bにおいて水素爆発が発生したことなどから,大量の放射性物質の放出による放射線被ばくへの恐怖や不安を抱き,その危険を回避しようと考えて避難を選択した場合と,②本
件事故の発生からしばらく経過した後,生活圏内の空間放射線量や放射線被ばくによる影響等に関する情報がある程度入手できるようになった状況下で,放射線被ばくへの恐怖や不安を抱き,その危険を回避しようと考えて避難を選択した場合とが考えられる。
同時に,当該地域の住民は,そのほとんどが自主的避難をせずにそれま
での住居に滞在し続けており,これら避難をしなかった者が抱き続けたであろう上記の恐怖や不安も無視することはできないと考えられる。これを踏まえて,中間指針追補においては,自主的避難等に係る損害について示す。本件事故と自主的避難等に係る損害との相当因果関係の有無は,最終的に個々の事案ごとに判断すべきものであるが,中間指針追補で
は,本件事故に係る損害賠償の紛争解決を促すため,賠償が認められるべき一定の範囲を示す。なお,中間指針追補で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく,個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る
(以上,
乙C3・1,
2頁)


b
自主的避難等対象区域としては,福島市,郡山市などの県北,県中の各地域のほか,
いわき地域としていわき市が対象
(ただし,
屋内退避区域を除く。

となる。これらの地域は,上記a①及び②の自主的避難に至った類型に照らし,いずれの場合にもその恐怖や不安は,本件原発の状況が安定していない等の状況下で,
本件原発からの距離,
避難指示等対象区域との近接性,
政府等から公表された放射線量に関する情報,自己の居住する市町村の自主的避難者の多寡などの自主的避難の状況等の要素が複合的に関連して生じたと考えられる。以上の要素を総合的に勘案すると,少なくとも中間指針追補の対象となる自主的避難等対象区域においては,住民が放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱いたことには相当の理由があり,また,
その危険を回避するために自主的避難を行ったことについてもやむを得ない面がある。
自主的避難等の事情は個別に異なり,損害の内容も多様であるが,中間指針追補では,自主的避難等対象区域内に生活の本拠としての住居があった自主的避難等対象者
(本件事故発生後に当該住居から自主的避難を行った場合,

本件事故発生時に自主的避難等対象区域外におり,
引き続き同区域外に滞在した場合,
当該住居に滞在を続けた場合等を問わない。に対し公平に賠償すること及び可)

能な限り広く,かつ,早期に救済するとの観点から,同対象区域に居住していた者に少なくとも共通に生じた損害を示す。
また,本件事故発生時に避難指示等対象区域内に住居があった者が,本件事故に起因して自主的避難等対象区域内に避難し,同区域内に引き続き長期間滞在した場合,当該避難期間については中間指針で精神的損害の賠償対象とされているが,これは避難生活等を長期間余儀なくされたことによる精神的損害であり,自主的避難等対象区域内の住居に滞在し続けるものとしての精神的損害とは質的に異なる面があるから,自主的避難等対象
区域内に避難して滞在した子供及び妊婦についても中間指針追補の対象とすべきである。
なお,損害の賠償については,個々人に対してされるべきである(以上,乙C3・3~5頁)


c
自主的避難等対象者が受けた損害のうち,以下のものが賠償すべき損害の範囲となる。

(a)放射線被ばくへの恐怖や不安により自主的避難等対象区域内の住居から自主的避難を行った場合において,①自主的避難によって生じた生活費の増加費用,②自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,
③避難及び帰宅に要した移動費用
(乙
C3・5頁)

(b)放射線被ばくへの恐怖や不安を抱きながら自主的避難等対象区域内に滞在を続けた場合において,①放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,②放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば,その増加費用
(乙C3・5頁)

(c)上記(a)①~③に係る損害額及び上記(b)①及び②に係る損害額については,いずれもこれらを合算した額を同額として算定するのが公平かつ合理的な算定方法である。具体的な損害額の算定に当たっては,①自主的避難等対象者のうち子供及び妊婦については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として一人40万円を目安とし,②その他の自主的避難等対象者については,本件事故発生当初の時期の損害として一人8万円を目安とする(乙C3・5,6頁)

(d)本件事故発生時に避難指示等対象区域内に住居があった者については,賠償すべき損害は自主的避難等対象者の場合に準じるものとし,子供及び
妊婦が自主的避難等対象区域内に避難して滞在した期間については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として一人20万円を目安としつつ,これらの者が中間指針追補の対象となる期間に応じた金額とする(乙C3・6頁)


(ウ)中間指針追補における検討資料等(自主的避難者の状況等)a
平成23年9月21日開催の原賠審の会合(第14回)において,自主的避難に係る精神的損害の議論がされているが,その際の資料には,①福島県における避難の全体像として,同年8月末時点の避難区域等以外からの自主的避難者は,
福島県の調査として,
推計約3.
6万人(県外避難者約1.
4万人,
県内避難者約2.
2万人,
ただし,
地震・津波での避難者を含む。であり,


本件事故当初の同年3月15日時点での4万0256人(主として,県内避難所への避難)から減少していること,②本件事故当初の同日時点でのいわ
き地区の自主的避難者数は1万5377人(ただし,同市の避難者受入数は1万5692人以上)であり,次いで多い相双地区が1万2205人であり,
県北地区(自主的避難者の合計数は5062人であり,そのうち福島市の自主的避難者は3224人)
,県中地区(自主的避難者の合計数は6448人であり,そのう
ち郡山市の自主的避難者は5068人)
,県南地区と比較しても,2倍以上の人

数であって,県北地区の3倍に達すること,③児童生徒数を見ると,同年5月1日時点のいわき地区の県外転校者数も,相双地区の5299人に次いで多く,1127人(小学生923人,中学生204人)であって,転校受入数981人よりも多く,
県北地区,
県中地区及び県南地区と比較すると,
2倍近い県外転校者がいること(なお,これらの地区は,転出者よりも転入者の方が多い。,その後の同年8月31日(夏期休業終了時)時点でも,いわき地)

区の県外転校者は1154人(小学生950人,中学生204人)に増加し,相双地区を除き,県北,県中などの地域よりも多いこと,共同通信によるアンケート調査でも,同年8月時点での県内外への転校者の,転校前の学校等の所在自治体としては,いわき市は1106人であり,福島市(581人)の2倍に近いこと,④人口推移を見ても,同年3月1日と同年7月1日の比較において,
相双地区の減少率が4.
52%と県内では最も高いが,
次いでいわき地区が1,
69%の減少であり,
県中地区の1.
11%減少,
県北地区0.78%減少と比較しても,減少率が高いことが記載されている(乙C11・3~5頁,乙C12・2~6,8頁)

b
平成23年12月16日開催の原賠審の会合(第18回)において,自主的避難に係る精神的損害について議論されているが,その際の資料には,①福島県民の自主的避難者数(推計)について,福島県の推計として,平成23年3月15日時点の自主的避難者数は4万0256人で,同月25日時点の同避難者数は2万3659人で,同年4月22日時点の同避難者
数は2万2315人で,同年5月22日時点の同避難者数は3万6184人で,同年6月30日時点の同避難者数は3万4093人で,同年7月28日時点の同避難者数は4万1377人で,同年8月25日時点の同避難者数は4万7786人で,同年9月22日時点の同避難者数は5万0327人であり,本件事故直後からいったんは減少したものの,同年4月末以
降増加の傾向があること,②本件原発からの距離を見ると,半径20km~30km圏内にある市町村(その一部も含む。ただし,20km圏内にもかかる市町村を除く。としては,飯館村及びいわき市で,同30km~40km)

圏内(その一部を含む。ただし,20km圏内にもかかる市町村を除く。の市町村)
(ただし,福島県内のみ)としては,相馬市,飯館村,川俣町,二本松市,小野町,
いわき市であり,
同40km~50km圏内
(その一部を含む。
ただし,
20km圏内にもかかる市町村を除く。の市町村(ただし,

福島県内のみ)として

は,新地町,相馬市,飯館村,伊達市,川俣町,福島市,二本松市,本宮市,三春町,郡山市,小野町,須賀川市,平田村,古殿町及びいわき市で,同50km~60km圏内(その一部を含む。ただし,20km圏内にもかかる市町村を除く。の市町村(ただし,福島県内のみ)としては,新地町,相馬市,)

伊達市,川俣町,福島市,二本松市,大玉村,本宮市,三春町,郡山市,須賀川市,玉川村,平田村,石川町,古殿町及びいわき市であったこと,また,これらの市町村について,平成23年3月16日までに相馬市,飯館村,三春町,小野町及びいわき市に,同月17日に平田村に,同月20日に新地町,伊達市,福島市,川俣町,二本松市,本宮市,郡山市,須賀川市,玉川村,石川町及び古殿町に,それぞれ安定ヨウ素剤が福島県から配備されたこと,③福島県の転入,転出者の推移(ただし,住民票の届出に基づくものであり,
必ずしも本件事故の避難者数に正確に対応するものではなく,・
地震
津波による避難等を含むものである。として,平成23年3月~同年9月の転)

入者の合計としては,会津地区5493人,南会津地区591人,県北地区9563人,県中地区1万0670人,県南地区3222人,相双地区2919人,いわき地区4470人であり,他方,同期間内の転出者の合計としては,会津地区5896人,南会津地区688人,県北地区1万5198人,県中地区1万8839人,県南地区4122人,相双地区1万0738人,いわき地区1万0371人であったこと,④福島県の年齢別
社会動態数としては,平成22年と平成23年の比較では,40歳代までの人口が明らかに減少し,比較できないものもあるが,0~4歳が約3500人減で,5~9歳が約2500人減で,10~14歳が約1500人減で,15~19歳が約3000人減(平成22年約2500人減)で,20~24歳が約3700人減(平成22年約2300人減)で,25~29歳が
約2500人減(平成22年約100人減)で,30~34歳が約2700人減(平成22年約100人減)で,35~39歳が約2500人減(平成22年約100人減)で,40~44歳が約1500人減(平成22年100人を下回る人数)で,45~49歳が約700人減(平成22年100人を下回る人数)
であったこと,また,年齢別人口推移としては,平成23年3月以降,例年より相双,いわき,県北,県中の各地区の人口減少が大きく,特に平成21年~平成23年の各3月~8月の福島県の年齢別人口推移を見ると,0~9歳,20~29歳及び30~39歳の各層では,相双,いわき,県北,県中の各地区の平成23年の減少が例年より,かつ,他地区より大きいこと,10~19歳の層では,3月及び4月に相双,いわき,県北,県中の各地区の平成23年の減少が,例年より,かつ,他地区よりも大きいこと(5月以降,県北地区では増加に転じている。,⑤放射線量の分布状況(県)

環境放射線モニタリング調査(学校等)の測定データを集計したものであり,測定条件は地上1mの高さで計測している。について,福島市,郡山市及びいわき市)

との比較でいうと,平成23年4月5日~同月7日において,福島市では最大毎時2.51~5.00μSvになる観測地点(観測地点数213)が半分を超え,郡山市では最大毎時1.76~5.00μSvになる観測地点
(観測地点数242)が半分を超えるが,いわき市では最大でも毎時2.5
0μSvを超える観測地点(観測地点数264)はなく,同年6月1日~同月10日において,福島市では最大毎時3.00μSvになる観測地点があり,郡山市では最大毎時2.50μSvになる観測地点があるが,いわき市では最大毎時1.00μSvを超える観測地点はなく,その後の傾向
としても,福島市が最も空間放射線量率が高く,その比較においていわき市の空間放射線量率が低いこと,また,平成24年3月11日までの積算線量推定マップを見ても,双葉町,浪江町,飯館村と本件原発から北西方向に向かう地域の積算線量が高く,南の大熊町,富岡町,楢葉町及び川内村の積算線量がやや高いことを除き,その南の方にはそれほど広がってい
ないことが示されている(乙C18・2頁,乙C58・1,2,6~8,10~14,19~21,30,31頁)


c
なお,中間指針追補における基礎資料ではないが,いわき市,郡山市,福島市といった自主的避難等対象区域における子供の避難状況は,以下の
とおりである。
平成24年3月27日時点で,いわき市が把握している18歳未満の子供の避難者数は,全体で3641人(地震・津波により市内の仮設住宅等に避難している者を含む。)であり,県内避難者1475人,県外避難者2166人
である。
中間指針における自主的避難等対象区域の中では,最も多く(次いで福島市3174人,
郡山市2801人)計画的避難区域等が含まれる南相馬

市の5606人に次いで多い。
平成25年4月1日時点で,
いわき市が把握している子供の避難者数は,
2803人であり,県内避難者1193人(市内1134人,市外59人),県外避難者1610人である。自主的避難等対象区域の中では,福島市3034人に次いで多く,郡山市が2590人である。

平成26年4月1日時点で,
いわき市が把握している子供の避難者数は,
2107人であり,県内避難者789人(市内738人,市外51人),県外避難者1318人である。自主的避難等対象区域の中では,福島市2398人,郡山市2311人に次いで多い。
平成27年4月1日時点で,
いわき市が把握している子供の避難者数は,

1690人であり,県内避難者552人(市内516人,市外36人),県外避難者1138人である。自主的避難等対象区域の中では,福島市2059人,郡山市2032人に次いで多い。
平成28年4月1日時点で,
いわき市が把握している子供の避難者数は,
1358人であり,県内避難者376人(市内344人,市外32人),県外
避難者982人である。自主的避難等対象区域の中では,郡山市1880人,福島市1561人に次いで多い。
平成29年4月1日時点で,
いわき市が把握している子供の避難者数は,
884人であり,県内避難者38人(市内12人,市外26人),県外避難者846人である。自主的避難等対象区域の中では,郡山市1707人,福
島市1379人に次いで多い(以上,乙A128~乙A131,乙C42,乙C43)。
(エ)中間指針2次追補
a
緊急時避難準備区域については,平成23年9月30日に解除されていること等を踏まえ,旧緊急時避難準備区域内に住居があった者の精神的損害について,第2期を平成24年3月10日まで,第3期を同月11日から終期までの期間とし,その終期は,楢葉町の区域を除き,平成24年8
月末までを目安とした上で,第3期における精神的損害の具体的な損害額(避難費用のうち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。の算定に当たっては一)

人月額10万円を目安とする旨の指針が示された(乙C4・7頁)。
b
自主的避難等対象区域については,平成24年1月以降に関して,少なくとも子供及び妊婦については,個別の事例又は類型ごとに,放射線量に関する客観的情報,避難指示区域との近接性等を勘案して,放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が,平均的・一般的な人を基準としつつ,合理性を有していると認められる場合には,賠償の対象となること,賠償すべき
損害及びその損害額の算定方法は,原則として中間指針追補で示したとおりとし,具体的な損害額については,同追補の趣旨を踏まえ,かつ,当該損害の内容に応じて,合理的に算定することとするとされている。中間指針追補においては,平成24年1月以降に関して,必要に応じて賠償の範囲等について検討することとされていたところ,これを受けて,
中間指針2次追補では,同月以降に関しては,中間指針追補とは対象期間における状況が全般的に異なること,他方,少なくとも子供及び妊婦の場合は,放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていると考えられること等から,中間指針追補の内容はそのまま適用しないが,個別の事例又は類型によって,これらの者が放射線被ばくへの相当程度の
恐怖や不安を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が,平均的・一般的な人を基準としつつ,合理性を有していると認められる場合には賠償の対象とすることとしたものである。
(乙C4・1
3,14頁)
(2)経産省の賠償基準
経済産業省は,
中間指針2次追補の公表後である平成24年7月20日,
避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方を公表した。その中で,旧屋内退避区域等への対応として,旧屋内退避区域の避難継続者に対して平成23年9月末まで精神的損害の賠償金が支払われていたことから,早期帰還者及び滞在者に対してもその間の精神的損害の賠償について遡って支払を行うこと,家屋の賠償,営業損害等についても,旧緊急時避難準備区域の考え方に準じた扱
いとすることとしている。上記旧緊急時避難準備区域の考え方は,以下のとおりである。
住宅等の補修・清掃に要する費用として,30万円の定額の賠償を行うこととし,これを上回る場合は実損額に基づき賠償するものとする。
中学生以下の年少者の精神的損害について月額5万円として平成25年3
月分まで継続するとともに,全住民について,通院交通費等生活費の増加分として,平成25年3月分までを一括して一人当たり20万円を支払う。営業損害については,平成25年12月分まで,就労不能損害(勤務先が避難指示区域外の場合)については,平成24年12月分まで継続するとともに,一
括払いの選択肢を用意する。また,一括払いの算定期間中の追加的な収入については賠償金から控除しない(以上,乙A36の別紙・6頁)

(3)被告東電の賠償基準と支払状況

被告東電のプレスリリース等

(ア)被告東電が平成23年9月頃に公表した補償金ご請求のご案内には,避難生活等による精神的損害に関し,屋内退避区域(ただし,計画的避難区域,緊急時避難準備区域及び特定避難勧奨地点を除く。の居住者について,)
①平成23

年4月22日までに
避難等対象区域(被告東電のプレスリリースや賠償請求の案内においては,中間指針や中間指針追補で「避難指示等対象区域とされていた区域について,
避難等対象区域と定義している。以下同じ。」外に避難した者に対し,)

本件事故日からその終了日(同日以前に帰宅した場合には同日まで,同日時点で避難し,その後同年9月30日までに帰宅した場合にはその帰宅した日まで,同年9月30日までに帰宅しなかった場合には同日まで)までの補償金額として,一人当たり
原則10万円
(同年8月末日までであり,
同年9月分については5万円)
を支払うこ
ととし,
②同年4月22日までに避難しなかった者(同月23日以降避難した者を含む。に対し,一人当たり10万円を支払うとの記載がされていた(乙A1)
64・9~11頁)

(イ)被告東電は,平成24年2月28日付けプレスリリースにより,自主的避難等に係る損害賠償の開始について公表した。
その中で,
①定額賠償として,
本件事故時にいわき市を含む自主的避難等対象区域に生活の本拠としての住居があった者を対象に,18歳以下の者(平成4年3月12日~平成23年12月31日に出生した者)
,妊婦(平成23年3月11日~同年12月31日に妊娠して

いた期間のある者)それら以外の者を分類し,

18歳以下の者及び妊婦に対し,

賠償対象期間を平成23年3月11日~同年12月31日として,一人当たり40万円を,それら以外の者に対し,賠償対象期間を同年3月11日~同年4月22日として,
一人当たり8万円を,
それぞれ支払うこととしていた。
また,②対象期間中の避難に伴い特別に負担した費用について,上記18歳以下の者又は妊婦をうち自主的避難をした場合には,追加で20万円を支払うものとしていた。
上記①,②の損害の内容として,自主的避難を行った場合には,避難により生じた生活費増加費用,正常な日常生活の維持等が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛並びに避難及び帰宅に要した移動費用が,自主的避難
を行っていない場合には,放射線被ばくへの恐怖,不安これに伴う行動の自由の制限等により生じた生活費増加費用,正常な日常生活の維持等が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛が,それぞれ示されていた(以上,乙A31)


(ウ)被告東電は,平成24年6月11日付けプレスリリースにより,福島県県南地域における自主的避難等に係る損害賠償の開始について公表した。その中で,
本件事故時に福島県の県南地域
(白河市,
西郷村,
泉崎町,
中島村,
矢吹町,
棚倉町,矢祭町,塙町,鮫川村)に生活の本拠としての住居があった者で,18
歳以下の者及び妊婦に対し,平成23年3月11日~同年12月31日までを賠償対象期間として,
一人当たり20万円を支払うこととしていた
(乙A3
2)

(エ)被告東電は,平成24年7月24日付けプレスリリースにより,旧屋内退避区域に早期に帰還し,又は本件事故発生当初から避難せずに同区域に滞在し続けた者に対し,対象期間を平成23年3月11日~同年9月30日とした上で,精神的損害に対する賠償として,一人当たり月額10万円を支払うと公表した。

その後の同年8月13日付けプレスリリースにより,旧屋内退避区域に生活の本拠としての住居があった者のうち本件事故発生により避難しその後に上記対象期間の中途で帰還し,又は本件事故発生当初から避難せずに当該区域に滞在し続け,かつ,上記対象期間における避難生活等による精神的損害に係る賠償金を受領していない期間がある者に対し,避難等により被った精
神的苦痛に対する損害及び避難生活等による生活費の増加費用として,一人当たり月額10万円を支払うと公表した(以上,乙A144,乙A148)。
(オ)被告東電が平成24年10月29日以降に公表した
賠償金ご請求の解説
には,①避難生活等による精神的損害に関し,旧屋内退避区域の居住者について,
平成23年3月11日から同年9月30日までを賠償対象期間として,
原則として月額10万円を支払うこと,②旧屋内退避区域を含む避難等対象区域の居住者で,同年4月23日から同年12月31日までの間に,避難等対象区域又は自主的避難等対象区域に避難又は滞在していた18歳以下の者及び妊婦について,放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛に対する賠償として,上記期間を賠償期間として,一人当たり40万円を支払うことが記載されていた(乙A165・10~12頁)。
(カ)被告東電は,平成24年12月5日付けプレスリリースにより,中間指針追補及び中間指針2次追補を踏まえ,自主的避難等に係る損害に対する追加賠償を実施する旨公表した。その中で,本件事故時にいわき市を含む自主的避難等対象区域に生活の本拠としての住居があった者を対象に,①平成24
年1月1日~同年8月31日において18歳以下であった期間がある者(平成5年1月2日~平成24年8月31日に出生した者)及び妊婦(平成24年1月1日~同年8月31日に妊娠していた期間のある者)に対し,賠償対象期間を平成2
4年1月1日~同年8月31日とし,損害の内容を上記(ア)とほぼ同様のものとして,精神的損害等に対する賠償として一人当たり8万円の追加支払をすること,②上記住居があった全ての者に対し,損害の内容を自主的避難等対象区域での生活において負担した追加的費用(清掃業者への委託費用など)や上記(ア)の賠償金額を超過して負担した生活費増加費用や移動費用等として,追加的費用等に対する賠償として一人当たり4万円の追加支払をすること,③いずれについても,平成23年3月12日~平成24年8月31日に上記
賠償対象者から出生した者も対象とすることとされていた。
なお,
福島県の県南地域に生活の本拠としての住居があった者については,①子供及び妊婦に対し,賠償対象期間を平成24年1月1日~同年8月31日とし,精神的損害等に対する賠償として一人当たり4万円の追加支払をすること,②上記住居があった全ての者に対し,追加的費用等に対する賠償と
して一人当たり4万円の追加支払をすること,③いずれについても,平成23年3月12日~平成24年8月31日に上記賠償対象者から出生した者も対象とすることとされていた(以上,乙A34)

(キ)被告東電は,平成25年2月13日付けプレスリリースにより,中間指針追補及び中間指針2次追補を踏まえ,本件事故時に,屋内退避区域を含む避難等対象区域に生活の本拠としての住居があり,平成24年1月1日~同年8月31日に避難等対象区域及び自主的避難等対象区域に避難又は滞在した
者を対象に,①平成24年1月1日~同年8月31日において18歳以下であった期間がある者(平成5年1月2日~平成24年8月31日に出生した者)及び妊婦
(平成24年1月1日~同年8月31日に妊娠していた期間のある者)に対し,
賠償対象期間を平成24年1月1日~同年8月31日とし,損害の内容を上記(ア)とほぼ同様のものとして,精神的損害等に対する賠償として一人当た
り8万円の追加支払をすること,②それ以外の上記住居があった者に対し,損害の内容を自主的避難等対象区域での生活において負担した追加的費用(清掃業者への委託費用など)や上記(ア)の賠償金額を超過して負担した生活費
増加費用や移動費用等として,追加的費用等に対する賠償として一人当たり4万円の追加支払をすること,③いずれについても,平成23年3月12日
~平成24年8月31日に上記賠償対象者から出生した者も対象とすることとされていた(乙A35)


被告東電の原告らに対する支払の状況等
被告東電による各原告に対する支払状況(支払名目,金額など)は,別紙6当事者の主張の別紙弁済一覧のとおりである(乙D7)。

第6
1
争点に関する当裁判所の判断
本件継続給付の適否(争点1)

(1)本件継続給付は,一定期間において原告らが毎月発生する精神的苦痛に対する慰謝料を求めるものであり,それ自体は単なる金銭給付を求める訴えであるから,特定に欠けるところはなく,適法なものというべきである。(2)これに対し,被告東電は,対象期間,空間放射線量率の低減及び廃炉措置に係る具体的内容が不特定であり,不適法な訴えである旨主張する。しかしながら,本件の訴えは,上記のとおり金銭給付を求めるものとして特定されていること,
仮に対象期間や終期までの具体的内容が不特定であるとしても,
それは,
給付請求の当否(給付請求権の存否等)として判断すべきであり,給付請求に係る
訴えの適否すなわち適法性に係るものではないことからすると,被告東電の上
記主張は採用できない。
2
本件事故についての民法709条の適用の有無(争点2)

(1)原賠法の趣旨,目的等
原賠法は,被害者の保護及び原子力事業の健全な発達を目的として,原子力損害に関する損害賠償について基本的な制度を定めている(同法1条)。具体的
には,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し,又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。により生じた損害である原子力損害

(同法2条2項本文)

に関する原子力事業者の無過失責任
(同法3条1項)原子力事業者への賠償責任

の集中(同法4条1項)
,過失がある第三者への求償権の制限(同法5条1項)を規
定するほか,原子力事業者による損害賠償措置の義務付け(同法6条~15条),
政府による援助(同法16条)などを規定する。これらの規定は,原子力損害が発生した場合において,原子力事業者にのみ被害者に対する無過失の賠償責任を負わせることにより,原子力事業者の賠償資力を確保して被害者に対する確
実な賠償を実施させるととともに,原子力事業の健全な発達を阻害することを回避しようとした趣旨と解される。もとより,原子力事業者による損害賠償措置(同法6条参照)としての原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結等(同法7条,8条,10条)
,これらの賠償措置額を超える場合に
おける政府による援助(同法16条)といった原子力事業者の賠償資力を確保す
る各制度も原賠法の上記目的を踏まえた規定である。
そうすると,仮に,原賠法上の損害賠償請求権と民法上の損害賠償請求権を併存させたり,過失がある第三者への自由な求償を認めたりすると,賠償責任が分散され,それに伴い責任主体となり得る者が個々に保険を掛ける結果,上記原賠法が予定した損害賠償措置が有名無実化する上,上記政府援助も受けられず,原子力事業者自身の賠償資力が不十分となって,被害者への賠償ができない事態が生じ,ひいては原子力事業の健全な発展という原賠法の趣旨に悖る結果を招来しかねない。
他方,
原子力事業者に故意又は過失が認められる場合,
原賠法3条1項に基づく請求によって認められる損害賠償額と民法上の不法行為に関する規定に基づく請求によって認められる損害賠償額は等価であると解すべきであるから,被害者の保護という原賠法の目的に照らしても,原賠法3
条1項に基づく請求権と民法上の不法行為に関する規定に基づく請求権を併存させる必要性はない。
以上によれば,原賠法3条1項は,民法上の損害賠償責任に関する特則をなし,原子力損害が認められる場合における事業者の不法行為責任の規定を原賠法の責任集中により適用しないとするものであると解すべきである。
(2)原告らの主張
これに対し,原告らは,①原賠法には,民法709条の適用を排除する明示の規定がなく,原賠法の趣旨,目的に照らせば,民法709条と原賠法3条1項との選択的適用を認めるのに不都合がない上,民法709条の適用を排除することは,民事上の損害賠償の領域において非難性の審理を排除するような特
権を加害者である被告東電に付与するに等しく,被害者の任意の選択に委ねるべきであること,②民法709条の適用を認めるとしても,原賠法4条1項,5条,16条1項の類推適用により原賠法の責任集中,求償権制限,政府援助による資力確保とこれを通じた被害者保護を図ることができ,そのように解することが原賠法の趣旨・目的にも合致すること,③一般不法行為法の特則とな
る自賠法3条1項,独占禁止法25条,製造物責任法3条及び鉱業法などを見ても,
民法709条の適用を排除するとの解釈が採られていないことを指摘し,民法709条の適用がされることを主張する。
しかしながら,上記①について,既に述べた,原賠法が,原子力事業者にのみ被害者に対する無過失の賠償責任を負わせることにより,原子力事業者の賠償資力を確保して被害者に対する確実な賠償を実施させるととともに,原子力事業の健全な発達を阻害することを回避しようとした趣旨に照らせば,あえて民法709条の適用を認めるべき必要性はなく,むしろ,民法709条を始めとする民法上の不法行為の規定の適用を排除することがより原賠法の趣旨・目的に適うものというべきである。原告らが主張する非難性の審理(故意又は過失があること)
を排除するような特権を被告東電に付与するに等しいと指摘する点
について,そもそもの原賠法の趣旨の理解として誤ったものがある上,非難性の審理ということが,原子力損害を生じさせた本件事故の原因の調査,究明等を求めるものであるとしても,そのことから直ちに民法709条の適用の必要性につながるものではない。原告らが指摘するような,被告東電の旧経営者に対する検察審査会の起訴議決に基づく強制起訴,原子炉の安全確保のための規
制法令に違反する行政法上の違法性など,それぞれの法分野において,その必要性に応じて被告東電の非難性を明らかにすれば足り,当然に民事上の損害賠償請求事件としてはその必要な限度で被告東電の非難性を考慮すれば足りるはずである。すなわち,本件訴訟においても,原告らが主張する慰謝料の算定の基礎となる事情として,後記のとおり,原子力損害の内容をなす慰謝料の算定
に当たり,本件事故の原因・同事故に至った経緯やこれらを踏まえた本件事故時までに被告に課せられるべき注意義務の内容やその違反態様等といった原告らが主張する被告東電の悪質性等について審理,
判断されているところであり,
必ずしも民法709条の適用が本件事故の原因の審理,判断にとって必要不可欠というものでもない。以上のとおり,上記①に関する原告らの主張は採用で
きない。
上記②に関して,原子力事業者が原賠法3条1項に基づく無過失の損害賠償責任を負うことを前提に,同法4条1項,5条,16条といった各規定が置かれていることに加えて,政府による援助措置には国の財政的措置を要し,そのため国会に対する報告義務等を課す同法19条の規定が置かれていることに鑑みると,民法709条を適用する場合に当然に政府援助などの規定の類推適用が認められるかどうかは疑問の余地もあって,この点に関する原告らの主張も
採用できない。
上記③に関しては,原賠法と自賠法,独占禁止法,製造物責任法,鉱業法といった原告らが指摘する法令とは,当然,その趣旨,目的が異なり,単純に比較することができないが,例えば,これらの法令等は責任主体となるべき者に対する責任集中の規定(原賠法4条)を欠く上,①無過失責任を前提とする原賠
法3条1項と,単に立証責任を転換したにすぎない自賠法3条1項とは,その規定ぶりも異なるし,同様に,無過失免責を認めない独占禁止法25条,設計瑕疵の抗弁などの事由の立証をもって免責を認める製造物責任法3,4条なども,
それぞれの趣旨,
目的はもとより規定ぶりなども異なっているのであって,
これらの法令の解釈と原賠法の解釈とを整合させるべき積極的理由も見当たら
ない。よって,この点に関する原告らの主張も採用できない。
(3)小括
以上のとおり,原告らの被告東電に対する民法709条に基づく主位的請求はいずれも理由がない。
3
被告国の規制権限不行使の違法の成否等(争点3)

(1)判断の枠組み

本件における規制権限の有無やその内容等

(ア)別紙5関連規定(抜粋)のとおり,電気事業法39条1項,2項柱書・1号は,事業用電気工作物(発電,変電,送電若しくは配電又は電気の使用のために設置する機械,器具,ダム,水路,貯水池,電線路その他の工作物であって,一般用電気工作物以外の電気工作物をいう。
同法2条1項16号,
同法38条3項)ついて,

技術基準省令に適合するよう維持しなければならず,かつ,その具体的な内容として,人体に危害を及ぼし,
又は物件に損傷を与えないようにすること
と規定する。
これを受けて,技術基準省令(省令62号)4条1項は,原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備(以下原子炉施設等という。が想定される自然現象(地すべり,断層,なだれ,)
洪水,津波,高潮,基礎地盤の不同沈下等をいう。ただし,地震を除く。により原子)

炉の安全性を損なうおそれがある場合に防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならないと規定し,その趣旨は,同省令5条で定める耐震性の要求を除き,想定される自然災害又は外部からの人為的災害により原子炉施設等の安全性を損なうおそれのある場合に,適切な措置を講ずることを求めたものと解される。
その上で,電気事業法40条は,主務大臣である経済産業大臣に対し,電気事業法39条・技術基準省令4条1項に適合しない事業用電気工作物を対
象として同工作物の設置者に技術基準適合命令を発する権限を付与している。これは,本来,工事計画の認可(同法47条)又は使用前検査(同法49条)の対象となる事業用工作物は,工事計画の認可を受け,使用前検査に合格し,当然に技術基準省令に適合しないものでないものとなっているが,それらの対象となっていないものはもとより,設置の工事後に周囲の環境の変化や同
工作物の損耗等により技術基準に適合しなくなったにもかかわらず,そのまま放置されている場合に技術基準に適合するよう監督する必要があるという趣旨の下,そのような監督の必要から,技術基準適合命令が発令されるものと解される。
(イ)そうすると,被告東電が設置,稼働させていた本件原発のような発電用原
子炉についても,事業用電気工作物に当たる(技術基準省令4条1項が原子炉施設等を対象に,
津波などの自然災害からの安全性を定めていることからもそのように解されることは当然である。から,電気事業法による規制を受け,同法39条の)

技術基準に適合しない場合に技術基準適合命令を発令できることは明らかというべきである。

規制権限の不行使に係る国賠法上の違法に関する判断の枠組み

(ア)国賠法1条1項は,

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。

と規定し,ここでいう違法とは,公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいう(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39
巻7号1512頁,最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁など)。

そうすると,公権力の行使に当たる公務員の行為が国賠法1条1項の適用上違法と評価されるためには,当該公務員が損害賠償を求めている国民との関係で個別具体的な職務上の法的義務を負担し,かつ,当該行為がその職務上の法的義務に違反してされた場合でなければならない。これを,公務員の不作為についてみれば,当該不作為が国賠法1条1項の適用上違法とされるためには,その不作為によって損害を受けたと主張する特定の国民との関係において,
当該公務員に職務上の権限を行使すべき法的義務
(作為義
務)が存し,かつ,その作為義務に違反してその職務行為を行わなかったと
いう関係が存在することが必要となる。
その上で,公務員の規制権限不行使の違法が認められるためには,当該公務員が行政機関の職員として当該規制を行うことのできる権限を有すること,すなわち規制権限の存在について法律の明文上の根拠を要することを前提に,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的
事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合に,その不行使により被害を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となるものと解される(最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決・民集43巻10号1169頁,最高裁平成7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁,最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁,最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799頁など)。

(イ)本件では,原子炉施設等である本件原発に対する電気事業法40条に係る技術基準適合命令の発令の不作為が問題となっているが,原子炉施設等の安全性に関しては,別紙5関連規定(抜粋)のとおり,本件事故の当時,改正前炉規法及びこれに関連する指針類,電気事業法,同法に基づく技術基準省令などの各種の規制法令が存在していた。
そこで,
これらの趣旨,

目的や権限の性質について検討しなければならない。

原子炉の規制に関する法令の体系,審査の枠組み等

(ア)別紙5関連規定(抜粋)のとおり,改正前炉規法23条1項柱書,同項1号は,発電用原子炉の設置に関して,主務大臣である経済産業大臣の許可に係らしめ,同法24条1項各号は,その許可基準を定めるとともに,同条2項は,主務大臣が許可をする場合においては,同条1項4号の原子炉による災害の防止上支障がないものであることの基準の適用について,原子力安全委員会の意見を聴かなければならないと規定し,その上で,原子炉設置者は,原子炉施設の工事に着手する前に原子炉施設に関する設計及び工事
の方法について主務大臣の認可を受けなければならないと定められているが
(同法27条)同条のほか,

使用前検査につき規定する同法28条や施設定
期検査につき規定する同法29条などについて,改正前炉規法73条は,電気事業法及び同法に基づく命令の規定による検査を受けるべき原子炉施設であって実用発電用原子炉に係るものについては適用しないものと規定し
ていた。
そうすると,本件原発のような実用発電用原子炉の施設に関する設計及び工事の方法について,電気事業法が適用されるところ,同法47条1項は,事業用電気工作物である発電用原子炉の設置又は変更の工事をするに当たって,経済産業大臣の認可を受けなければならないと規定し,その後の使用前の検査(同法49条)
,定期検査(同法54条)などの安全規制に関しても電気
事業法の規定が適用される。また,改正前炉規法の保安規定の認可(同法37条)や電気事業法上の保安規程の届出(同法42条)といった規定も併せて適
用され,発電用原子炉の安全性保持が図られていた。すなわち,改正前炉規法及び電気事業法は,基本設計などの発電用原子炉の基本的安全性を炉規法に基づく設置許可の段階で審査し,これを踏まえて,具体的な工事の内容などの詳細設計について電気事業法に基づく認可,検査などの手続を経るという段階的安全規制の体系を採用していた。
このような段階的安全規制の体系を前提に,原子炉の設置の許可の段階においては,専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となり,後続の設計及び工事方法の認可の段階で規制の対象とされる当該原子炉の具体的な詳細
設計及び工事の方法は規制の対象とはならないものとされていた
(最高裁平成
4年10月29日第一小法廷判決・最高裁判所裁判集民事166号509頁)。

(イ)また,基本設計の審査に当たり,伊方最高裁判決は,炉規法24条1項3号及び4号の趣旨について原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置,運転につき所定の技術的能力を欠くとき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ,右災害が万が一にも起こらないようにするため,原子炉設置許可の段階で,原子炉を設置しようとする者の右技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性につき,科学的,専門技術的見地から,十分な審査を行わせることにあるものと解される。と判示し,その上で当該原子炉施設そのものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民及び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺地域への影響等を,原子炉設置予定地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の右技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討するものであり,しかも,右審査の対象には,将来の予測に係る事項も含まれているのであって,右審査においては,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかであって,
以上の点を考慮すると,右の原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理,判断は,原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって現在の科学技術水準に照らし,右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして,右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。原子炉設置許可処分についての右取消訴訟においては,右処分が前記のような性質を有することにかんがみると,被告行政庁がした右判断に不合理な点があることの主張,立証責任は,本来,原告が負うべきものと解されるが,当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると,被告行政庁の側において,まず,その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等,被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠,資料に基づき主張,立証する必要があり,被告行政庁が右主張,立証を尽くさない場合には,被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。と判示する。この伊方最高裁判決の判示を踏まえると,炉規法24条1項4号の要件審査に当たっては,原子炉施設の高度の安全性を確保しつつも,原子炉設置許可における審査事項が複雑かつ高度な専門技術的事項に係るものであり,それについての科学技術及び科学的知見が不断に進歩,発展,変化するものであって,多くの専門分野の専門技術的知見等を踏まえた,確定不可能な将来
予測にわたる点に鑑みて,
規制行政庁の専門技術的な裁量を認めざるを得ず,
しかも,科学技術の分野においては,社会生活上有用な科学技術のもたらす利益とこのような科学技術が内包する危険性・リスクとを勘案し,そのリスクが社会において許容されるべき限度においてこれを利用する相対的安全性の考え方が背景にあり,このような相対的安全性を容認するとの立法判断の
下,上記要件審査に関する専門技術的な裁量を認めたものと理解できる。(ウ)その上で,詳細設計に係る審査に当たっても,①上記(イ)のとおり,基本設計に係る審査事項に規制行政庁の専門技術的な裁量を認めた趣旨それ自体は,基本設計を踏まえて行われる詳細設計の審査に関しても妥当すると考えられること,②別紙5関連規定(抜粋)のとおり,技術基準省令4条1項の
解釈について関連する安全設計審査指針の指針2が示しているとおり,行政庁が行うべき詳細設計の審査に当たっても,基本設計の審査において用いるべき原子力安全委員会が策定した指針に従うことが予定されていたことに照らせば,基本設計における内容を踏まえた詳細設計の審査すなわち技術基準に適合するかどうかの審査
(工事計画の認可,
使用前検査などの際に行われるほか,

電気事業法54条1項の定期検査,同法107条1項の立入検査などにも当然妥当する。)についても,専門的技術的裁量が認められるべきであり,これに関連した処分の適否が問われる処分の取消しの訴えや一定の作為を義務付ける義務付けの訴えなどの抗告訴訟における裁判所の審理・判断は,専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって,現在の科学技術水準に照らし,詳細設計に係る具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該原子炉施設
が同審査基準に適合するとした調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否かが問われるべきである(いわゆる判断過程審査方式又は二段階審査方式)から,これを踏まえて,事後審査としての国賠法上の違法の判断が
行われるべきである。

原告らの主張

(ア)原告らは,技術基準適合命令の不行使の違法性の判断に当たり,被告国が主張する裁判所による判断過程審査方式又は二段階審査方式(多方面にわたる極めて高度な最新の科学的・専門技術的知見に基づいた将来予測に係る総合的判断の下,判断基準の不合理性又はこれに判断基準への適合性判断過程に著しい過誤,欠落がある
場合に限り違法と判断される。によることは不適当であると主張し,本件が伊)

方最高裁判決の事案と異なり,個別の場面すなわち原子炉の設置許可のような基本設計に関わる包括的・将来予測的な判断の場面と異なり,既にこれらの審査を終えて詳細設計に基づく設置や実際の運転の段階に至っている以上,想定される津波により,個々の原子炉の安全性が損なわれるかどうかという場面での技術基準適合命令の行使が問題となっていること,技術基準適合命令の行使・不行使に関しては原子力委員会や原子炉安全専門審査会などの専門家らの専門技術的な調査審議及び判断を経ているものではないことなどから,経済産業大臣に広い裁量権を認めるべきではないことなどを指摘する。(イ)しかしながら,既に述べた段階的安全規制によって原子炉施設の高度の安
全性を確保しようとした改正前炉規法,電気事業法の趣旨に鑑みると,基本設計の場面であっても詳細設計の場面であっても,同様に高度な最新の科学的・専門技術的知見を要し,これを踏まえた経済産業大臣による技術基準適合命令の発令という権限の行使にはやはり広い専門技術的な裁量が認められるものというべきである。また,確かに,電気事業法は,改正前炉規法24条2項のような原子力安全委員会等からの意見聴取に関する規定を欠くが,それは基本設計における審査の際にその調査審議が既にされており,この基
本設計に係る調査審議に基づき詳細設計もされていることによるものと理解できるから,上記意見聴取に関する規定を欠くことから直ちに専門技術的な裁量が否定されるものではなく,このような専門家らの意見聴取などが十分に行われていたかどうかは,経済産業大臣の権限行使に係る判断基準の不合理性や,同判断基準への適合性判断過程に著しい過誤,欠落があったかどう
かを審査する際に問題とすれば足りるというべきである。
無論,事後的な損害賠償を目的とする国賠法1条1項の適用上の違法の判断と行政訴訟法上の抗告訴訟における,事前規制としての処分等の違法の判断とは全く同一のものではなく,その点で,改正前炉規法24条の原子炉の設置許可や電気事業法上の設置許可の各違法の概念もそれぞれ
に異なるものではあるが,事後的に国賠法上の違法を判断する観点においても,規制権限の行使・不行使の違法が問題となる以上,その権限の根拠法令の趣旨解釈が必要となり,その趣旨解釈の結果として二段階審査方式を採用することもまたあり得ることであって,その限度で原告らの上記主張は採用できない。


被告国の主張

(ア)被告国は,改正前炉規法及び電気事業法が採用する段階的安全規制の下,既設原発において基本設計又は基本的設計方針(以下この基本的設計方針を含めて基本設計という。)の安全性に関わる事項に問題が生じた場合には,この問題を技術基準省令の改正や電気事業法40条に基づく技術基準適合命令により是正する余地がなく,原告らが主張する津波が本件原発の敷地に遡上することを前提とする防潮堤等の設置や建屋等の水密化などの措置は,いずれも,設置許可(変更)処分における敷地高さを想定される津波の高さ以上のものとして津波の浸入を防ぐという基本設計とは相いれないものであるから,詳細設計に関する技術基準省令を改正したり,これを改正した上で技術基準適合命令を発したりすることによりこれを是正することはできなかったと主張する。このような被告国の主張の趣旨は,①法令上,詳細設計にしか技術基準適合命令が及ばないとする趣旨をいうとともに,②敷地高さを想定される津波の高さ以上のものとして津波の浸入を防ぐという,いわゆるドライサイトコンセプトが基本設計において採用されている以上,ドライサイトコン
セプトと矛盾するような詳細設計の変更が許されないという趣旨をいうものと理解できる。
(イ)ここでは,まず上記①の主張の採否を検討する(上記②の主張は結果回避可能性の問題と関わるため,そこで検討する。)が,既に述べたとおり,改正前炉規法
及び電気事業法は段階的安全規制の体系を採用しているものと解されるが,仮にそれを前提としても,基本設計と詳細設計という概念について,改正前炉規法,電気事業法や技術基準省令などの各種の法令において明確な定義規定や具体的な定めがされているものではなく,それ自体は相対的な概念である。その点で,段階的安全規制とは,原子炉設置許可の段階では施設の基本設計に関する申請に基づき必要とされる安全水準がこの基本設計により達成
することが可能であるとの概括的・一般的判断を下す程度にとどめ,具体的事項に関する審査は,各施設の建設や運転段階における審査に委ねるという手続の流れを表現したものにすぎないとも理解できるのであって,そのことから直ちに技術基準適合命令が基本設計には全く及ばないという解釈を採用することは,いずれかが明確でない部分について規制が全く及ばないという
事態,ひいては発電用原子炉の高度の安全性を確保し得ない結果を招来することとなる。従って,上記手続の流れのみから直ちに技術基準適合命令が詳細設計にしか及ばないという解釈を採用することはできない。このことは,現に,
前記第5の4(6)アのとおり,
改正前炉規法24条1項の設置許可に係
る審査のうち津波対策に関する基本的な方針すなわち基本設計については行政庁
(主務大臣である経済産業大臣)
及び原子力安全委員会の両方が審査するが,
詳細設計についてはそういうシステムではないものの,必要があれば原子力安全委員会の意見を聴取できると解され,津波対策に関する詳細設計にわたる事項を踏まえて基本設計の審査を行うこともでき,また,原子力安全委員会(耐震設計指針検討分科会)において津波に対する安全審査指針を作ること自体に問題はないが,津波については行政庁の詳細設計の審査の中で実施され
ている以上,耐震設計審査指針のような津波に関する安全審査指針まで策定する必要がないなどといった耐震設計指針検討分科会における検討状況からしても裏付けられる。すなわち,津波対策に関しては,基本設計及び詳細設計が完全にすみ分けられていたわけではなく,原子力安全委員会のチェックがいずれにも及び得ることを前提に,改正前炉規法の設置許可の審査すなわ
ち基本設計の審査に係る主務大臣である経済産業大臣に広い専門的技術的裁量が与えられているのと同様に,詳細設計に関しても広い専門的技術的裁量が与えられているものと解され,それゆえに技術基準適合命令が形式的に詳細設計のみにしか及ばないという解釈をとることはできない。
改正前炉規法24条の設置許可に係る基本設計に関する審査の段階では,
基本設計に基づく詳細設計がどのようなものとなるかが明らかではなく,詳細設計の審査までできないことは当然である(前掲最高裁平成4年10月29日第一小法廷判決)としても,既に詳細設計を終えて実際に稼働に至った発電用
原子炉について,個々の施設の安全性を確保できない事態が生じた場合(設置の工事後に周囲の環境の変化や同工作物の損耗等により技術基準に適合しなくなったにもかかわらず,そのまま放置されている場合)
,あくまでも技術基準適合命令

それ自体は詳細設計を対象とするものであるものの,その発令により詳細設計が変更され,
その結果,
実質的に基本設計の変更や改変がされるとしても,
その限度での変更はやむを得ないものである。この点,仮に基本設計に抵触するとの理由から直ちに電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発し得ないとすることは,事業用電気工作物である発電用原子炉の安全確保を放置するというになりかねず,むしろ,仮に科学的知見の進展により従前の設
置許可時点において適式とされていた基本設計の問題点が明らかとなった場合において詳細設計に関わる技術基準適合命令の行使によりこれを是正することは許されるもの(すなわちそのための権限が付与されているもの)というべきである。この点,伊方最高裁判決も,設置許可の審査において,同許可処分時ではなく,
現在の科学技術水準に照らし行うものと判示しており,原子

炉施設の高度の安全性を確保するために,従来の科学的知識に誤りがあったような場合には,新たな知見に基づく判断することを容認しているのであって,後の科学的知見の進展に伴って誤りとされるに至った基本設計に基づく詳細設計の是正は,
技術基準適合命令により可能であると解すべきであるし,
また,当該命令の発令に当たり,事実上,原子力安全委員会などの基本設計
に関する専門的な調査審議をする機関の意見を聴取するなどの対応もあり得るから,段階的安全規制が採用されているとの形式的理由のみから,技術基準適合命令が詳細設計にしか及ばず,規制権限を有しないとすることはできない。
(2)津波に係る安全対策の基準,評価の手法

規制権限の不行使の違法を判断するに当たっての予見の対象

(ア)上記(1)イ(ア)のとおり,規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法とされるためには,その不作為によって損害を受けたと主張する特定の国民との関係において,
当該公務員に職務上の権限を行使すべき法的義務
(作
為義務)が存し,かつ,その作為義務に違反してその職務行為を行わなかった
ことにより当該国民の権利・利益を侵害したこと,換言すれば,当該作為を行うことにより当該国民の権利利益の侵害を回避できたことが必要となり,・
当該結果の回避をするに当たって,当然に当該結果を予見できたこと,すなわち予見可能性が要求される。
(イ)その際の予見の対象としては,結果回避を可能とする程度の因果の経過であれば足りる。すなわち,現実の結果発生に至る因果の経過を逐一具体的に予見することまでは必要ではなく,ある程度抽象化された因果経過であれば足りるというべきである。
そこで,本件事故の実際の経過等を見ると,①前記第2の3(1)イ,前記第5の6(1)イのとおり,
緊急時における本件原発の安全な停止のために,
制御

棒の挿入によるスクラムに加えて,崩壊熱の除去のために冷却水の注入が必要となるが,その冷却系の維持のためには電源の確保が不可欠であり,そのために外部電源が喪失した場合に備えて非常用DGの直流電源による冷却系の機能の維持を可能とするようになっており,
②前記第5の6(2)アのとおり,
本件地震それ自体が本件原発の冷却系などの安全設備に損傷を与えた事実は
認められず,ただ,本件地震による外部電源の喪失の結果,非常用DGによる電源確保を強いられる状況になったにすぎない。しかし,その後,③前記第5の6(2)イのとおり,
本件地震に伴い発生した本件津波が本件原発の敷地
高(O.P.+10m)を超え,海側エリアの非常用海水系ポンプを冠水させてその機能を一部喪失させるとともに,R/B,T/B等の主要建屋周辺を最
大5.5m程度浸水させて,各建屋開口部からの浸水により,非常用DG,電源盤などが損傷し,冷却機能を有する安全設備に対する給電機能が失われたものと認められる。
その後の経過としても,
④前記第5の6(3)ア及びイの
とおり,少なくとも1号機及び2号機においては,IC,RCICなども含めた冷却のための安全設備が制御不能の状態となり,炉心の冷却機能を完全
に失い,直流電源を維持していた3号機も同様の状態となって,遅くとも平成23年3月14日までにいずれも炉心損傷を招いて放射性物質の漏えいが生じ,⑤1号機における同月12日の爆発,2号機における同月15日の白煙の流出及び3号機における同月14日の爆発などを主たる要因として(4号機も同月15日に爆発があった。,前記第5の8(1)ア~ウ,前記第5の8(3))

アのとおり,大気中に大量の放射性物質を放出・飛散させ,また,これに伴う相次ぐ避難指示等により本件原発の周辺に居住していた,少なくとも数万人もの(前記第5の8(1)ウ(イ)のとおり,新聞報道ベースでの福島県の公表結果を見ても,対象者8万人である。住民らを強制的に避難させる結果を招いた。)

しかも,前記第5の6(1)イのとおり,耐震性の観点等から,本件原発1~4号機の電源設備の多くは敷地高よりも低い地下に設置されており,非常用DG本体が被水した場合にはその機能が停止することはもとより,安全設備に電力を供給する配電盤等の電源設備が被水すると非常用DG本体の機能が維持されていてもそれを作動させることできない仕組みとなっていたことも認められる。
(ウ)以上の点に鑑みると,本件津波が襲来しても炉心を冷却する機能が維持さ
れていたならば,すなわち,原子炉を冷却するために必要不可欠な安全設備に対する電力の供給機能が維持され,SBO及び直流電源喪失という事態に至らなければ本件事故による法益侵害の結果を回避できた。このことは,前記第5の6(2)イ,前記第5の6(3)オのとおり,本件津波により電源盤や非常用DGが被水せずに給電機能を維持できた6号機が冷温停止に至っている
ことからしても裏付けられる。
また,
被告東電はもとより保安院すなわち被告国も,
前記第5の4(5)のと
おり,平成18年5月の溢水勉強会において,敷地高さを1m超過する外部溢水が継続するという,あくまでも仮定の下であるが,その結果,本件原発5号機のT/Bが浸水し,電源設備の機能を喪失する可能性を把握していた
のであって,本件原発の敷地高さを超える津波が本件原発に襲来した場合には建屋への浸水が生じて非常用電源設備が被水し,SBOが生じる事態となることを認識していた。
そうすると,1~4号機について敷地高を超える津波が到来することが予見可能であれば,そのような津波の到来により全交流電源喪失に至ることが想定されるため,
そのような状況を回避する措置を講ずることが可能となる。
(エ)したがって,原告らが主張する被告国の予見の対象,すなわち本件事故による権利侵害という結果回避のための措置をとる義務を被告国に課す前提としての予見の対象は,本件原発において全交流電源喪失をもたらし得る程度の津波が発生すること,
換言すれば,
本件原発1~4号機の敷地高であるO.
P.+10mを超える津波が到来することと一応いうことができる。

本件における予見の対象と決定論的安全評価との関係等

(ア)このように,被告国の予見すべき対象が,本件原発の敷地高を超える津波が同原発に襲来することとした場合,
前記第5の4(7)ウ(ア),
第5の5(2)ア
(ア)及び(イ)のとおり,被告東電が,長期評価に基づき,明治三陸沖地震の波源モデルを福島県沖の日本海溝沿いに設定した場合における想定津波水位の試算すなわち本件試算を実施した結果,最大津波高さが本件原発の敷地南側(O.P.+10m)でO.P.+15.707m(浸水深5.707m)となる
との結果を把握していたこと,本件試算は,津波評価技術を用いて得られたものであるが,
前記第5の3(1)ウのとおり,
津波評価技術は平成14年2月
に公表されており,同年から平成20年までの間に,津波高の試算を実施する上で必要条件となるような知見の発見や試算実施の障害となるような特段の事情が認められないことからすると,O.P.+10mを超える津波という本件試算の結果と同様の試算結果を得ることは,
前記第5の3(2)ウのとお
り,
長期評価が公表された平成14年以降,
いつでも可能であったといえる。
(イ)しかしながら,被告国(保安院ひいては経済産業大臣)が,本件試算のような
試算を自らが行うか,あるいは被告東電にこのような試算を実施させるべきであったか否かが問題となる。この点,上記(1)ウ(ウ)のとおり,技術基準適合命令を発令するという作為義務を課すべきかどうかを検討するに当たっては,その作為義務の有無が問題となる時点の科学技術水準すなわちその当時の科学的・技術的知見に照らし,詳細設計に係る具体的審査基準すなわち本件原発において安全対策上考慮すべき津波評価の手法がある場合にはその手法によったことについて不合理な点があったか否か,あるいは当該評価の手
法を用いるに当たって,その審議や判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否かが問われるべきであるところ,被告国は,本件事故の発生以前に,原発の安全設計上の津波対策について,津波評価技術に基づき,一定の想定水位を定めて当該想定水位までの安全性を確保するという考え方
(決定論的安
全評価)
により行うことが被告東電を始めとする電力会社の実務であって,被
告国(保安院)においてもこのような津波評価技術の考え方を採用していたと主張しているから,津波評価技術に基づく決定論的安全評価の手法が,上記審査に用いるべき合理性を備えたものであったかどうかを,まず検討する。ウ
津波の定量的な評価の手法の必要性等

(ア)別紙5関連規定(抜粋)のとおり,改正前炉規法24条2項は,同条1項4号の基準の適用について原子力安全委員会の意見を聴くべき旨定め,その具体的な審査の指針として,同委員会は,前記第5の2(2)ウのとおり,安全設計審査指針を定めていたところ,上記関連規定(抜粋)のとおり,同指針においては,考慮すべき自然条件としての津波について,過去の記録を参
照して予測される自然条件のうち最も過酷と思われる自然力に耐えることが求められていた。その後,前記第5の4(6)イのとおり,改訂された平成18年耐震設計審査指針においても,上記関連規定(抜粋)のとおり,地震随伴事象である津波について施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないことを

十分考慮したうえで設計されなければならない。

と定められていた。また,本件事故以前において,電気事業法39条1項に係る技術基準省令4条1項は,原子炉施設等が想定される自然現象である津波により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならないと定めていた。
このように,法令及び各指針すなわち原発を始めとする原子炉施設における被告国の津波に関する安全基準は,発生する可能性があると想定することが適切な津波を対象としてその安全性を確保すべきとしていた。ただ,これらの基準は,想定すべき具体的な津波水位を定めたものではなく,どのような津波を想定すべきか,想定した津波による設計津波水位をどのように考え
るかといった,いわば定量的な評価やそのための評価の手法を定めるものではなかった。
(イ)しかも,
前記第5の2(1)ウのとおり,
本件原発に係る各許可処分がされた
当時,津波に関する定量的な設計基準は存在せず,既知の津波の痕跡すなわちチリ地震により小名浜港で観測されたチリ津波(既往最大津波)に基づく設
計がされていたのであるし,その後,前記第5の2(3)のとおり,平成6年3月当時には,簡易予測式であるが,津波水位の数値解析が行われるようになっており,
前記第5の2(4)アのとおり,
4省庁報告書等においては概略的な
ものであるが,
津波水位の数値解析が行われ,
その後に前記第5の3(1)ウの
とおり,
平成14年2月に土木学会の津波評価部会が津波評価技術を策定し,
これ以降本件事故当時まで,同津波評価技術に基づき,一定の想定津波水位を定めて,当該想定水位までの安全性を確保するという考え方(決定論的安全評価)により行うこととなっていたし,現に,前記第5の3(1)エのとおり,
本件原発の設計津波水位の安全性評価においても津波評価技術による数値シミュレーションが用いられていた。この点,前記第5の4(6)イのとおり,平成18年以降の耐震バックチェックルールにおいて,
津波の評価方法として,
既往の津波の発生状況や最新の知見等を考慮して,施設の供用期間中に極めてまれであるが発生する可能性のある津波を想定し,数値シミュレーションにより評価することを基本とし,その想定及び数値シミュレーションに当たり,想定津波の断層モデルに係る不確定性を合理的範囲で考慮したパラメータスタディを行い,これに潮位を考慮したものを評価用の津波水位とするなど,津波評価技術の内容が採用されており,被告国の安全審査の基準として
も,津波から原子炉施設を防護するための安全性の審査評価の手法として,事実上,津波評価技術の手法が定量的なものとして採用されていた。(ウ)このように,平成14年2月以降本件事故時までにおいて,定量的な津波評価の手法としては津波評価技術以外には存在しておらず,それが原子力の安全性の行政庁の審査実務や電力会社の実際の設計に当たって用いられてい
たことが認められる。

津波評価技術の内容等の合理性等

(ア)津波評価技術の成立の主体やその検討過程を見ても,前記第5の3(1)アのとおり,土木工学に関する調査研究を行い,土木事業に関する学識経験者を複数会員とする土木学会の津波評価部会が主体となって検討しているところ,同部会の委員には,津波工学の専門学者である首藤主査のほか,地震津波の専門学者である阿部名誉教授,現在,長期評価部会部会長を務め,津波発生メカニズム研究の専門学者である佐竹委員,津波工学の専門学者である今村委員などの地震津波の理学者,工学者が参加し,複数回検討会を開催し
て議論をしていること,検討の内容を見ても,萩原マップなどの地震地体構造論を前提に,日本海溝沿いの津波波源の特徴を精査するとともに,既往津波の詳細な分布状況等を踏まえ,プレート境界型の地震に関する当時の知見を詳細に検討し,津波波源モデルの計算結果と痕跡高との対比等を精緻に実施していること,波源の不確定性によるばらつきを踏まえ,パラメータスタ
ディによりどの程度の安全性を担保できるかの検討審議も行っていること,その上で,補正係数についての検討を行い,パラメータスタディの精度や提案された方法で痕跡高をほぼ100%上回ることがわかっていることなどから,パラメータスタディにより補完ができることも踏まえて,現段階では,とりあえず1.
0としておき,
将来的に見直す余地を残しておいたことなど,
十分な議論,検討を経たことがうかがわれる。
(イ)出来上がった津波評価技術の内容を見ても,前記第5の3(1)ウのとおり,①その対象について,評価地点に最も影響を与える想定津波を設計想定津波として選定し,
それに適切な潮位条件を足し合わせて設計津波水位を求める,
②想定津波の波源の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し,その結果
得られる想定津波群の波源の中から評価地点について最も影響を与える波源を選定する,③設計想定津波の妥当性の確認は,評価地点において設計想定津波の計算結果と既往津波の計算結果を比較すること及び評価地点付近において想定津波群の計算結果と既往津波の痕跡高を比較することによって行うが,その結果,設計想定津波は,平均的には痕跡高の約2倍となる,④上記
①~③に先立ち,既往津波の痕跡高の再現計算を実施することにより数値計算に基づく評価方法の妥当性の確認を行う,ということを全体方針としている。
特に,想定津波群の波源の中から評価地点について最も影響を与える波源を選定するに当たり,プレート境界付近に将来発生することを否定できない
地震に伴う津波をも評価対象とし,地震地体構造の知見を踏まえて波源を設定することとしていた。このように,津波評価技術は,基準断層モデルとなるべき地震・津波の選定に当たっては,依拠すべき科学技術・知見が適確なものである限り,精緻で十分な安全裕度が確保できる高い津波数値シミュレーションを実施できる,合理的な評価手法として機能するものということが
でき,その内容も十分に合理性があるものというべきである。
(ウ)以上のとおり,津波評価技術は,その検討主体,検討過程,内容等に照らしても,津波からの安全性を確保するための設計上の想定津波の評価手法として,合理性を有していたというべきである。

工学上の位置付け等

(ア)津波評価技術は,地震や津波に関する工学系の有識者も,実際の設計・施工に当たって用いられていた評価手法であった。

この点,前記第5の7(5)イ(ア)において,今村委員が決定論に取り入れるべきかどうかという点について,いろいろな専門家の意見を聞いて科学的コンセンサスを得てこれを行うと述べており,また,原子力工学に限らず,工学の分野において,あらゆるリスクに想定し100%の安全性を確保することは不可能であり,
事故が起きるリスクを合理的な範囲まで小さくするべく,

一定の指標を定めてその指標までは十分な信頼性をもって安全性を確保するという手法が採用されており,原子力工学においても,原子力発電所の主要施設が,安全裕度をもって設定された一定の指標を満たすように設計することとされ,その指標が設計基準であり,その前提となる想定が設計想定であって,地震や津波などの想定がされることとなる(丙B11・2,3頁)。

(イ)このような,工学的見地から実際の設計基準を検討する上でも,例えば津波対策においては,想定すべき津波を対象として,安全裕度をもって設計基準を作るというのが工学における通常の考え方であり,津波評価技術に基づく決定論的安全評価によることは工学の分野からしても相当なものと考えられる。


原告らの主張

(ア)原告らは,電事連が土木学会に委託した事項につき,対象津波の波源の種類,規模,位置等の検討といった高度化研究
(これ自体は,東電設計等の民間
会社に委託されたものであり,
地震津波の専門家による検討を欠く。ではなく,

この
高度化研究を踏まえて,その誤差・バラツキへの対応を主とするものであり,かつ,実際にも津波評価技術はパラメータスタディという手法を用いてこの誤差・バラツキへの対応を行うことを主眼として,津波シミュレーションの手法を工学的に体系化することを目的とするものであったという,その経緯や目的等に照らせば,原子炉施設における津波に対する安全規制の審査基準の定立,とりわけ想定すべき津波についての基準の定立を,その目的とはしていなかった旨主張する。
a
しかしながら,原告らが主張するような委託事項であったとしても,上記エにおいて指摘したとおり,津波評価部会における実際の検討過程を見る限り,当初から,複数の地震津波の専門家,学者が詳細にその内容を審議検討した上で,津波評価技術が策定されていること,特に,前記第5の
3(1)ウ(オ)及び(カ)のとおり,
津波評価技術の内容として,
対象津波の選定
に当たっては,文献調査等に基づき,評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波を選定し,痕跡高の記録の信頼性なども十分に検討するものとしているし,地震・津波に関する一知見であるにせよ,当時の有力な仮説であった谷岡・佐竹論文や,その他の先行研究による津波地
震の特徴等を踏まえて,慶長三陸地震や延宝房総沖地震を津波地震であった可能性が高いと分類するなど,それ以前の4省庁報告書の内容(前記第5の2(4)アのとおり,地震地体構造論を踏まえつつ,領域ごとの津波被害をもたらした地震として慶長三陸地震や延宝房総沖地震を指摘している。や津波評価技術の)

成立後に公表された長期評価における津波地震の分類(前記第5の3(2)オのとおり,慶長三陸地震,延宝房総沖地震及び明治三陸地震を,日本海溝沿いで発生した津波地震と分類する。)にも合致し,その知見の精度は高いものと評価でき
る。
その上で,原告らが主張するように,パラメータスタディによりどの程度の安全性を担保できるといった審議検討を踏まえて,津波評価技術は策定されており,当時収集できる地震・津波の知見を踏まえた内容となっているといえ,相当の信頼性が確保されている。
b
確かに,前記第5の3(1)ウ(オ)のとおり,津波評価技術における波源設定は,文献調査等に基づき評価地点に最も大きな影響を及ぼした既往津波のうち,信頼性があると判断される痕跡高記録が残されている津波を評価対象として選定するものであり,既往津波の痕跡高との対照をベースにす
る点において,
当然には記録のない巨大地震等を考慮するものではないし,
また,想定される最大規模の地震について地震学の最新の理学的知見に基づいて整理するものであったとまで認められない。
しかし,そもそも,地震や津波の予測に関しては,歴史資料の欠落により歴史地震として知られていない地震が過去に発生している可能性があり,
その点での限界があるとしても,歴史地震・津波の研究がその予測にとって極めて重要であることはいうまでもないことであって
(前記第5の7(2)ア
のとおり,長期評価の策定に関与し,歴史地震等に精通していると考えられる都司委員は,その限界があることに留意しつつも,我が国における歴史地震,津波の研究について,
江戸時代以降の文献資料の豊富さ等と昭和初め頃から精力的に収集された資
料に支えられ,古記録による津波被害の状況から津波高さの推定作業等も進むなど,世界的に誇る状況にあることなどを指摘し,また,前記第5の7(1)ウのとおり,長期評価の取りまとめに関与した島崎元部会長も,歴史資料の欠落に留意しつつも,固有地震など歴史地震の研究により明らかにされてきたことを指摘し,歴史地震,津波の研究の重要性自体をもとより否定していない。),歴史地震,津波をベースに
その評価をすることが不合理であるとはいえない。
また,上記エのとおり,津波評価技術は,既往津波を計算によって求められた設計想定津波の妥当性を確認するとともに,波源の断層モデルや数値計算方法の妥当性を確認するためのデータと位置付けるものであり,しかも,必要に応じてパラメータスタディを実施し評価地点における影響が
最も大きい津波を設計想定津波として選定することは可能であり,結局,津波評価技術の適用に際して,依拠すべき科学的知見(地震津波に関する適確な知見)としての想定最大津波の選定が適切に行われている限り,その合
理性が担保されていることとなる。現に,前記第5の5(2)アのとおり,本件試算は,明治三陸地震の波源を津波評価技術に取り込んだ上で,評価地点である本件原発への影響を検討したものであるし,
前記第5の5(4)ウの
とおり,長期評価をどのように取り扱うべきかも含めて津波評価技術の高
度化が,津波評価技術を策定した土木学会に依頼されていたのであって,地震,津波に関する依拠すべき新たな科学的知見を取り込むことは当然に予定されていた。そうすると,想定最大津波の選定が適切にされている限り,すなわち,地震津波に関する適確な知見に基づきその選定が行われている限り,津波評価技術の適用限界が明示されていないとか,記録にない
巨大地震等を考慮していないことをもって,津波評価技術の信頼性が損なわれるものともいえない。
c
以上のとおり,原告らの主張を踏まえても,保安院が,津波評価技術に基づく決定論的安全評価の手法により,津波からの原発の安全性の審査に
用いることについての妨げとなるような事情とは認められず,その点において原告らの主張は採用できない。
(イ)原告らは,保安院が想定すべき地震について,津波評価技術と同様の考え方を審査基準として採用したと考えるべき根拠がないと主張し,そのような決定をした時期,決定主体,決定内容等の具体的事実の摘示を欠き,客観的
な証拠もないこと,保安院自体が,国会の事故調査委員会の照会に対して津波評価技術を基準として採用していた事実がないと回答していたこと,津波に対する安全性の審査又は判断の基準は,安全設計審査指針等によって既に示されていたこと,民間の土木学会がこれに代わる審査基準を定立する権限がない上,
民間の土木学会が法令に基づくことなく作成した
津波評価技術

には原子炉の安全規制基準としての適格性がなく,かつ,民間規格を法令に基づく安全規制に取り入れる手続も経ていないこと,被規制者の電力関係者が津波評価部会の構成員の相当数を占め,その経費を電気事業連合会が負担しており,策定手続が非公開であったなど,民間規格を規制に援用するための適格性も認められないことなどを指摘する。
しかしながら,上記(1)ウ,上記イにおいて指摘したとおり,規制行政庁である保安院ひいては経済産業大臣は,技術基準適合命令を発するかどうかの規制権限について専門技術的な裁量を有し,もとより原子炉施設等の安全対策を評価する上でどのような手法を用いるかについても裁量を有しており,これを前提としつつ,実際に保安院等が用いていた安全対策上考慮すべき津波評価の手法が合理的なものであったか否かが問われるべきであるところ,
既に述べたとおり,津波評価技術に基づく決定論的安全評価の手法は,その策定の当時から本件事故発生時までの間,十分な合理性を有する審査の手法であったというべきであり,それを採用したことについて不合理な点があるとは認められない。そうすると,審査基準として採用した時期,策定の主体などを問題とする必要はないというべきである。

また,前記第5の4(3)イのとおり,決定論的安全評価は,原子力施設の安全審査において用いられていた手法であり,上記ウのとおり,耐震バックチェックの実施の際には,保安院が津波から原子炉施設を防護するための決定論的安全評価の手法として,事実上,津波評価技術の内容によることを明示していたものであり,少なくともその当時,保安院が,上記安全性評価の手
法として津波評価技術を採用していた事実も認められるし,また,安全設計審査指針や平成18年耐震設計審査指針はいずれも定量的な評価手法ではなく,これらの指針があったことをもって津波評価技術を採用する必要がなかったということもできない。
さらに,原告らが,津波評価技術について民間の技術基準を規制に用いる
要件を満たしてないとか,電力会社の関係者が多数関与しており,公正性・中立性を欠くなどとかいった指摘をする点について,既に述べたとおり,津波評価技術は合理性がある設計想定津波水位の評価手法というべきであり,特にこれによるべきことに問題はないというべきである。また,確かに,津波評価技術の策定に当たった土木学会の津波評価部会の会員には,電力会社の研究従事者が複数含まれており,その中立らしさに疑問が残る部分もあるが,首藤主査,阿部名誉教授,佐竹委員,今村委員といった地震,津波に関
する理学工学の専門学者が複数関与し,既に述べたとおり,これらの専門学者の意見交換を踏まえて策定されていたのであって,殊更に電力会社等の意向に沿って恣意的に津波評価技術が策定されたことなどもうかがわれず,津波評価技術を採用することについての合理性を疑わしめる事情になるとも認め難い。

(ウ)以上のとおり,原告らの主張・指摘は採用できない。

小括
以上のとおり,津波評価技術は,炉規法24条1項4号の災害の防止上支障がないものであることすなわち津波に関する適切な対策がとられていることの審査における評価手法としての合理性を備えている上,同様に,電
気事業法39条1項に基づく技術基準適合命令の発出の基準である技術基準省令4条1項に該当するか否かの判断,すなわち,原子炉施設等が想定される自然現象である津波によりその安全性を損なうおそれの有無等の審査・検討に当たって用いられる評価手法としての合理性を備えていたものというべきである。

(3)津波評価技術を踏まえた被告国の規制権限不行使の違法の判断要素等ア
違法の判断の考慮要素等
上記(1)ウ(ウ)のとおり,技術基準適合命令を発するという作為義務を課すべきかどうかを検討するに当たっては,その作為義務の有無が問題となる時
点の科学技術水準すなわちその当時の科学的・技術的知見に照らし,詳細設計に係る具体的審査基準すなわち本件原発において安全対策上考慮すべき津波評価の手法がある場合にはその手法によったことについて不合理な点があったか否か,あるいは当該評価の手法を用いるに当たって,その審議や判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否かが問われるべきであるところ,上記(2)において検討したとおり,
津波評価技術の成立以降,
津波評価技術に
基づく決定論的安全評価の手法により原子炉施設等の安全対策上考慮すべき津波の評価を行うことについて合理性があると認められるから,次に当該評価の手法である津波評価技術を用いるに当たって,その審議や検討,判断の過程に著しい過誤,欠落があったか否かが問われることとなる。
そうすると,本件においては,規制権限の不行使の違法が問題となる時点
(原告らが主張する各時点は,平成14年7月の長期評価の公表後,平成18年の耐震バックチェック,溢水勉強会等の時点,本件試算がされた平成20年時点,貞観津波の知見等が明らかとなった平成22年の時点である。において,各時点での地震・津)

波に関する科学的知見に照らして,1~4号機の敷地高であるO.P.+10mを超える津波を想定すべきであったかどうか,これに具体的に対処し結果回避のための措置を講じるべきであったかどうかがまず問われるべきであり,結局,被告国が,本件試算を自ら実施し,あるいはこれを被告東電に実施させる義務を負うとともに,これに基づく対策をすべきであったか否かについて,津波評価技術に基づく決定論的安全評価の中で,どのような地震津波を想定すべきか,すなわち,どのような地震津波を決定論的安全評価に取
り込むべきであったかが問われることとなる。
以上のとおり,津波評価技術に取り込むべき地震・津波に関する科学(理学)上の知見としてどのようなものが存在し,それを取り込むべき状況にあ
ったか否か,換言すれば,これを取り込まなかったことが保安院ひいては経済産業大臣の審議,判断の過程における著しい過誤,欠落に当たるか否かということである。この点を検討した上で,更には規制権限の不行使の違法に係る結果回避可能性や因果関係などの要件が検討されるべきである。また,その検討に当たっては,伊方最高裁判決が,規制行政庁の判断に不合理があることの主張,立証責任について,これが不合理である旨主張する側に負担させつつも,規制行政庁において相当の根拠,資料に基づき,その判断の合理性を説明する必要があり,これを尽くさない場合には,規制行政庁がした判断に不合理な点があると事実上推認するとしており,規制権限不行使の違
法性の判断に当たってもその趣旨を考慮すべきである。

取り込むべき知見であるか否かを検討する要素等
そこで,津波評価技術の下に,特定の地震,津波に関する知見を取り込まなければならないものであったかどうかを検討する際に考慮すべき要素とし
ては,例えば,当該知見が法令の根拠に基づき取り込むべき知見とされる場合には当然これを取り込むべきであるし,仮に法令上の義務付けまでされているものではなくても,既に述べた伊方最高裁判決の判示すなわち災害が万が一にも起こらないようにするとの見地に照らし,その科学的知見の内容,性質等を考慮して,当然に取り込む義務があるとされる場合もあるとい
うべきである。その際には,その知見がどのように形成されたものであるか(例えば,
新たなデータやエビデンスなどに基づく実証的なものである場合には即座に対処すべきであろうし,仮に実証性がない仮説的なものであっても,開かれた形でその分野の専門家らの意見交換等によりコンセンサスを得たものであるような場合などにも当然それを取り込むべきこととなる可能性が高い。を検討することとなるし,)

た,その分野の専門学者がその知見をどの程度重要視しているか,これに携わるべき防災実務担当者らにとって周知され,これが受容されている状況となっているかどうかなどをも考慮すべきである(その知見が公表された時期や内容等を踏まえて,
それに関わる専門学者や防災実務担当者らがどのようなものと評価しているか。仮に,実証的なエビデンス等までない仮説的なものであっても,時間の経過
等により専門学者や防災実務担当者らなどにも十分周知され,
それがある程度支持され
るものとなったかどうかなどのほか,
被告国の行政機関などの公的機関が公表したもの
であるか,
あるいは単に一学者が唱える見解であるかなども考慮すべきである。。)その

上で,規制行政庁である保安院ひいては経済産業大臣が,当該知見をどのように取り扱ってきたかという検討・判断の過程を考慮し,その裁量判断の適法性を検討しなければならない。
そこで,以下の(4)で,津波評価技術の成立・長期評価の公表の前後から本
件事故発生までの間,すなわち平成14年頃~平成22年頃の地震・津波に関する科学的知見の進展状況等,特に被告国の各行政機関が防災対策を検討した結果の公表内容やこれらの機関が主体となって実施している地震津波に関する専門学者らの討議,意見交換等の内容,これらを踏まえた科学的知見の推移等のほか,これらに対する地震学者らの受け止め方,防災実務を担う
べき行政機関や原子力防災を実際に担当すべき電力関係者らの認識等について,時系列に沿った検討を行う。
(4)地震・津波に関する科学的知見の進展と関係者らの受容度の状況等ア
津波評価技術の成立以前の状況等

(ア)津波評価技術の成立・長期評価の公表以前において,公的な機関である被告国の行政機関が公表した地震,
津波に関する知見としては,
4省庁報告書,
7省庁手引等が存在していた。
この点,前記第5の2(4)アのとおり,4省庁報告書は,太平洋沿岸部に発生した過去の地震・津波の規模及びその被害状況を整理した上で,想定し得
る最大規模の地震とそれに伴って発生する津波の概略的把握を行ったものであり,特に東北日本太平洋側における29件もの既往津波の被害状況を,文献記録等からまとめ,沿岸部の津波の高さなども整理している。その中で,三陸北部及び南部の被害が大きいと指摘しているが,
福島県沿岸部の
常磐
において慶長三陸地震や延宝房総沖地震による津波被害の指摘(チリ津波と同
程度の人的被害)があるほか,貞観津波が広範な地域で高い津波を伴ったこと
などの指摘もある。
その上で,地震地体構造論上の知見を踏まえて,地体区分ごとの既往最大の地震を示し(福島県沖を含む領域には,延宝房総沖地震が示されているが,福島県沖の既往地震津波としては福島県東方沖地震等が示されている。,)津波解析計算を行

った上で,福島県沿岸では5~10m未満の津波高を想定している。また,前記第5の2(4)イのとおり,7省庁手引は,4省庁報告書を受けてのものであり,地震地体構造論や断層モデルの相似則の理論的考察や地震観測技術の発展等を踏まえて,安全側になるように対象津波を選定し,津波数値解析計算を行うものであり,4省庁報告書と同趣旨のものと理解できる。(イ)もっとも,前記第5の2(4)ア(ア),前記第5の2(4)イ(エ)などにおいて指
摘されるとおり,津波数値解析計算は,対象地域の津波の傾向を概略的に把握するために津波等の挙動などの設定段階において様々な仮定を設けて計算されたものであり,各地域における正確な津波規模,被害予測のためには詳細調査が必要となるとされ,
また,
津波数値解析計算が技術開発途上にあり,
精度・費用の点からもその汎用性に限界があるなどとされている。この点,
前記第5の7(3)イのとおり,
佐竹委員も,
4省庁報告書に関する幾何分散を
踏まえて,その計算結果が不確かなものであることを指摘しており,特定の地点における津波高や遡上高の正確な把握が必要となる原発の津波対策に直ちに用いることができる性質のものではなかったというべきである。(ウ)しかも,4省庁報告書及び7省庁手引において用いられた数値解析は,前
記第5の3(1)ウ,前記第5の7(3)ウのとおり,津波評価技術においてより精緻な分析が行われているものであり,その数値化シミュレーションとしては,津波評価技術によれば足りるものというべきである。また,その地震・津波に関する科学的知見についても,後記イのとおり,津波評価技術の成立の際にも十分考慮されており,改めて津波評価技術に基づく評価の際に4省
庁報告書などを別途に考慮すべきものであったとは認められない。(エ)なお,
前記第5の2(6)イのとおり,
被告国の公的機関である国土庁が公表
した津波浸水予測図には,設定津波高を2~8mとした津波が本件原発の敷地高を超えて浸水させるとの記載があるが,
前記第5の2(6)アのとおり,

の津波浸水計算の格子間隔が荒い精度であり,防潮堤等の遮へい効果も検討されていないなど,精度が高いものであったとは認められない(この点,津波浸水予測図における津波浸水計算の格子間隔は100mで設定されているところ,佐竹
委員は,
精度の高い津波計算のために沿岸での格子間隔は数十m程度以下のものである必要があり,津波評価技術では水深50m以浅から汀線までの格子間隔を100m~25m程度まで徐々に小さくすると指摘しており(甲A185・11頁),4省庁報
告書(格子間隔600m)ほど粗くはないとしても,津波評価技術の精度には及ばず,
また,港湾構造物などの効果も考慮されておらず,その精度は津波評価技術に劣るものといわざるを得ない。。


(オ)その上で,津波評価技術の成立の際に,参考とされた地震,津波に関する知見を改めて見ると,前記第5の3(1)ウ(オ)の津波波源の設定や同第5の3(1)ウ(カ)の付属編で示されているとおりであるが,太平洋プレートの沈み込みに関連したプレート境界付近の津波地震などを対象としており,選定に当たり,文献調査等を踏まえた記録の信頼性を考慮し,比較対照すべき痕跡高を定めること,地震地体構造論を踏まえて,谷岡・佐竹論文などから日本海溝沿いの北部と南部との地震津波活動の相違に着目し,これに沿った区分を行う一方,各種の先行研究を踏まえて,慶長三陸地震や延宝房総沖地震など
も津波地震である可能性が高いと指摘している。
この点,
前記第5の2(4)ア
(イ)及び(ウ)のとおり,4省庁報告書において,地震地体構造論を踏まえるとともに,
既往の地震津波の被害状況などを整理し,
その津波の痕跡高常磐

では,慶長三陸地震や延宝房総沖地震における津波高が4~6mと整理されている。)

の整理もされているが,前記第5の3(1)ア(イ)などのとおり,津波評価技術の成立の際にも地震地体構造論を踏まえた検討がされているし,より精緻な方法により痕跡高との比較対照等もされた上で津波地震の整理などが行われている。このような津波評価技術の成立までの検討経過やその内容を見る限り,当時の地震津波に関する科学的知見を十分に収集し,整理,検討したものとして,津波評価技術の成立時までに依拠すべき地震・津波に関する科学的知見が適確に取り込まれており,その取り込まれた知見としては4省庁報告書の内容なども含まれているというべきである。


長期評価の公表時の状況等
長期評価は,本件試算における波源モデルを示したものであり,かつ,原告らが直接的に被告国の規制権限不行使の違法を根拠付ける第一の知見として主張,指摘するものである。以下,明治三陸地震が三陸沖~房総沖の日本
海溝寄りのどの領域においても発生するという長期評価
(前記第5の3(2)ウ~
キ参照)が,その公表直後の平成14年時点に,津波評価技術に基づく津波数
値解析計算を行う上で,即時に取り込むべき知見であったといえるかをまず検討する。
(ア)まず,長期評価の法令上の根拠について検討する。
前記第5の3(2)アのとおり,
地震防災対策特別措置法7条に基づき,
文科
省に設置された推進本部(同条1項)は,地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進について総合的かつ基本的な施策の立案(同項1号)や地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集し,整理し,及び分析し,並びにこれに基づき総合的な評価を行うこと(同
項4号)
などをその事務としているところ,
いわば行政施策に直結する地震に

関する調査研究を政府として一元的に推進するとの目的の下に,長期評価が取りまとめられたものということができる。
しかしながら,他方において,地震防災対策特別措置法1条は地震による災害から国民の生命,身体及び財産を保護するため,地震防災対策の実施に関する目標の設定を目的とすると規定し,当然,その研究成果等について積極的にその普及に努めるべきものであるが(同法13条1項)それが努力,
規定とされているところからも明らかなとおり,上記調査研究を一元的に推進するとの目的に立っても,その調査研究の結果を踏まえて,何らかの防災対策を,その主体となるべき国,地方自治体,関係諸機関や民間等に義務付けるものとまでいえず,そのような法令上の根拠は見当たらない。そうすると,長期評価を決定論的安全評価に取り込むとの判断をする上では,政府の設置した機関が専門家による十分な議論を経て公表したという長期評価の策定主体等を見ることのみでは足りず,その検討の過程や長期評価の内容そのものの適否
(理学的知見としての精度等)
を検討しなければならない。
(イ)次に,長期評価の成立までの検討過程を検討する。

前記第5の3(2)イのとおり,長期評価は,その成立までに,推進本部の下に置かれた地震調査委員会,長期評価部会,海溝型分科会において,検討討議を経ている。
特に,前記第5の3(2)イ(ア)の海溝型分科会における検討過程を見ると,島崎元部会長,阿部名誉教授,佐竹委員,都司委員らのほか,地震学の専門
学者である笠原教授,海野助教授らが参加し,例えば,明治三陸地震,延宝房総沖地震及び慶長三陸地震が日本海溝沿いの津波地震であるかどうかといった点について,複数回議論が重ねられ,延宝房総沖地震に関しては陸寄りの地震という指摘などもあったが,仙台,八丈島までの津波被害などの津波分布を根拠に日本海溝沿いのプレート間地震と考えてよいという見解の下に,
波源域が明らかではない点もあるが,津波地震とされている。慶長三陸地震も,同様に津波地震としても,その波源域がわからないといった疑問点について必要な議論がされ,その中で,津波堆積物から千島沖と見る余地もあるといった意見や三陸沖とする根拠がないなどの意見もあったが,最終的には宮古における歴史記録などを踏まえて三陸沖が波源域とされている。このよ
うに,明治三陸地震はもとより,延宝房総沖地震及び慶長三陸地震も,日本海溝沿いの津波地震との整理がされている。
また,領域区分に関しても,当初の事務局作成の資料には,陸寄りと日本海溝寄りの区分けは示されず,三陸沖北部,同中部,宮城県沖,福島県沖,茨城県沖,房総沖などの区分が示されていたが,その後の議論の状況等を踏まえて事務局が暫時改訂し,その後に海溝寄りと陸寄りを区分けし,かつ,日本海溝寄りの領域について三陸沖北部と同中部~房総沖の海溝寄りとに区分けするといった案が示され,東西の区切りに関する議論を経て,事務局が日本海溝寄りの領域について三陸北部まで伸ばすと述べて,その結果,明治三陸地震,延宝房総沖地震及び慶長三陸地震を三つの津波地震とした上で,三陸沖北部~房総沖の日本海溝寄りを一つの領域として区分けするという結
論に至っている。
このような海溝型分科会の討議を経て,その後に長期評価部会や地震調査委員会の審議を経ており,その中で,明治三陸地震と慶長三陸地震の震源がほとんど重なっており,無理に割り振っていないかなどの波源に関する疑問や,将来の検討課題として,三陸沖北部~房総沖の日本海溝寄りを一括りに
せずに,三陸沖北部の日本海溝寄りとか,福島県沖の日本海溝寄りとかに区分けをしたほうがよいとの趣旨の意見などもあったが,最終的には,公表された長期評価の内容で承認されている。
以上見た長期評価の成立から,その見解と異なる結論に至る可能性がある過去の地震の発生領域や性質に関する各専門家の意見や研究内容等も検討し,
必要な議論等を経た上で,
その見解が示されたということができる。
つまり,
開かれた形での,多くの地震津波の専門学者による討議等を経てその内容が取りまとめられており,
上記(ア)の,
行政施策に直結する地震に関する調査研
究を政府として一元的に推進するという地震防災対策特別措置法上の位置付けも考慮すると,長期評価は,単なる地震学者や民間団体の一見解などとは
性質を異にする有力かつ重要な見解(知見)として,地震対策,津波対策を検討するに当たって考慮することが求められるものであったとは考えられる。(ウ)また,長期評価の内容等については,以下の点を指摘できる。前記第5の3(2)キの長期評価の説明を見ても,
明治三陸地震,
延宝房総沖
地震及び慶長三陸地震が津波地震とされる根拠について文献記録等を示してその根拠を明示しているし,また,地震調査委員会の見解も同趣旨であることが明示されている。さらに,前記第5の3(2)キ(イ)及び(ウ)のとおり,GPSの観測結果やプレート運動との整合性などにも配慮し,できる限りの文献記録,科学的根拠に基づくよう努めた内容になっている。そのほか,長期評価公表後にされた前記第5の3(2)ク(イ)の大竹教授からの指摘に対して,引用文献を示して慶長三陸地震が津波地震である旨の説明がされるなどしてい
る(前記第5の3(2)キ(ア)参照)

(エ)以上のとおり,長期評価の検討過程やその内容等に照らして,地震津波の専門学者が複数回の審議検討を経た上で結論を示したものであり,その根拠についても,文献記録のみならず,可能な限り実証的な根拠等を示すものであり,作成主体が,地震防災対策特別措置法上の位置付けを有する推進本部
であることも踏まえると,万が一にも災害を起こしてはならないという原子力防災の観点から見ても,公表後即時に津波評価技術の中に取り込む余地があったとはいえる。
しかしながら,他方において,以下の点が指摘できる。
(オ)上記(ア)において指摘したとおり,
長期評価は,
それに基づく防災対策を実

施すべきことを,防災対策の主体となるべき国,地方自治体,関係諸機関や民間等に法律上義務付けるものとはいえない。
これは,
前記第5の3(2)ウの
とおり,長期評価は,現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行われたが,データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率
や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分に留意する必要があるとしていることからも裏付けられる。また,例えば,災害対策基本法は,中央防災会議(同法11条参照)に,専門の事項を調査させるため,専門委員を置くことができる旨定め(同法12条6項),更には,同防災会議の議決により専門委員からなる専門調査会を置くことができるとしている(同法施行令4条)。このように,災害対策基本法上の防災基本計画の作成,実施の推進などに当たっては中央防災会議がその事務をつかさどり(同法11条1項),それに必要な知見等の収集,研究などを行うことができるように定めているなど,防災対策に係る法令ごとに,その対策に関して必要となる知見の収集や研究などの実施に関する規定が定められ,その研究成果なども踏まえて,どのよう
な防災対策すなわち地震・津波に対する対策を立てるかどうかの検討が予定されている。このような災害対策基本法の規定ぶりからしても,一般の防災対策を立てる上で長期評価を事実上考慮すべきことは当然であるとしても,直ちに長期評価のみに依拠して地震・津波の対策を立てることが法令上あるいは事実上も義務付けられていたと解することはできないし,これは,一般
防災よりも高度の安全性が要請されるべき原子力防災の分野においても,その旨の明示の規定がない以上,同様に解すべきである。
(カ)前記第5の3(2)ケのとおり,
長期評価について,
地震調査委員会が平成1
5年にその信頼度を公表しており,領域ごとに想定地震の発生領域,規模,発生確率の評価の信頼度をランク付けしているが,その中で,発生領域につ
いて信頼度Cとされており(想定地震と同様な地震が1~3回しか発生していないが,今後どこかの領域で発生すると考えられる。発生場所を特定できず,地震データも少ないため,発生領域の信頼性はやや低い。,その信頼度はやや低いとされて)

いる。この点,長期評価の根拠となるべき三陸沖北部~房総沖の日本海溝寄りにおける三つの津波地震について,これらの地震が津波地震であるとの根拠については,文献記録等や先行研究も踏まえて詳細に議論され,十分に示されているといえるし,津波評価技術の地震の整理においても,同様の評価をしていたと考えられる。他方,これらの地震の波源域が完全に特定されていたわけではないことに加えて,日本海溝寄りの領域を北部から南部にかけて一つの領域として捉えている長期評価は,
前記第5の2(4)ア,
前記第5の
3(1)ウ(オ)及び(カ)のとおり,4省庁報告書や津波評価技術において採用されている萩原マップなどの従前の地震地体構造論の議論からみてかなり異質なものである上,
現に前記第5の7(1)エのとおり,
長期評価の信頼性を積極
的に説明する島崎元部会長も,このように三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの南北を一つの領域として区分けする考え方について長期評価により初めて示された見解であると説明しており,地震学者が異論なく承認するよう
な実証的なエビデンスが示されているわけではない以上,その公表当時の平成14年時点において,
これまでにないような領域区分を示した長期評価が,
地震学者はもとより防災実務担当者らが異論なく承認するような知見であったとはいい難い。
(キ)しかも,前記第5の7(1)エのとおり,島崎元部会長は,長期評価の根拠と
して,低周波地震に関する先行研究を示し,前記第5の7(2)イのとおり,都司委員も,平成9年~平成13年の気象庁の観測データによる日本海溝沿いの微小地震について特に南北での相違はないと説明しているが,他方,同じく長期評価の策定に関与した佐竹委員は,
前記第5の7(3)エのとおり,
上記
低周波地震や微小地震について,南北の領域では南部と比較すると明らかに
北部が多いと指摘し,必ずしもその見方は一致してない(なお,島崎元部会長も,前記第5の7(1)エ(イ)のとおり,気象庁の観測による微小地震が南北で異なることを認めつつ,あくまでも限定された期間での結果にすぎないと指摘し,また,都司委員も,前記第5の7(2)イ(ア)において,日本海溝寄りの北部と南部で地質構造に違いがある部分もあって,全く同じではないと指摘する。)。このような,日本海溝寄りの
南北の構造の相違については,有力な仮説として,谷岡・佐竹論文があり,佐竹委員も海溝型分科会に出席し,様々な議論に関与しているが,南北におけるプレート間の固着の強さや堆積物の厚さ・形状の違いなどについては海溝型分科会で十分に議論された形跡は見当たらない(また,前記第5の7(3)エ(オ)のとおり,長期評価の成立後,南北の構造の相違に関する仮説を裏付けるような調査結果に基づく論文も出ていた。)。
そうすると,明治三陸地震,延宝房総沖地震及び慶長三陸地震が日本海溝寄りの津波地震であることについては,海溝型分科会において,かなり活発に意見交換がされてそのような結論が出されたのに対し,その波源域についてはデータも少なく,完全に特定できたといえない上,領域区分,特に日本海溝寄りの南北の相違については十分な意見交換がされたとはいえない。ま
た,前記第5の3(2)イ(ア)c~eのとおり,一般防災の観点から意味のある予測をしようとするならば,
日本海溝寄りの領域を更に区分するのではなく,
一つの領域と見て,ポアソン過程(長期評価の説明にもあるとおり,ポアソン過程を用いた場合,地震発生の確率はいつの時点でも同じ値となり,本来時間とともに変化する確率の平均的なものとなる。)を用いた計算をすることが適切であると判断
されたことがうかがわれるし,過去の地震のデータがなかったり少なかったりするため,過去の地震の発生領域や性質等を明確に決定できないものについては,津波被害に対する警告を優先する観点から,他の見解も存在することを明示した上で当該領域での津波地震が発生したものとして扱ったことがうかがわれる場面も存在する。

このような経緯も踏まえると,長期評価は,やはりそのデータが限られる部分もあり,十分な実証性を備えたものとはいい難く,そこに示された結論をもって,福島県沖の日本海溝寄りで明治三陸地震と同様の地震が発生する可能性があることが科学的な見地から十分に説明されたと評価できない側面もある。

(ク)加えて,長期評価の公表直後には,前記第5の3(2)ク(イ)のとおり,大竹教授が長期評価に対する異論を述べていたし,また,保安院も,被告東電を介して長期評価の根拠や本件原発に与える影響などを確認しているが,長期評価の策定に関与した佐竹委員からの聞き取りを踏まえた,長期評価の津波地震の見解について異論がある中で過去に日本海溝沿いで発生した三つの地震を津波地震として取り扱ったことによるものであって,それ以上に具体的な理学的な根拠があるものではなく,被告東電において,決定論的安全評価
ではなく,確率論的安全評価の中で取り扱うとの方針を確認し,それを了承したことが認められる。少なくとも,上記(オ)~(キ)において指摘していたところを踏まえると,長期評価の公表直後に,長期評価を津波評価技術に基づく決定論的安全評価の中に取り込まないとした保安院の判断過程には,特に不合理な点があったとは認め難いものというべきである。

(ケ)なお,推進本部による活断層の評価についてであるが,前記第5の3(2)コのとおり,保安院は,長期評価の公表以前から,耐震設計に関する新見解に対する対応として確認された知見(新見解のうち,原子力施設の耐震安全性の観点から採用することが適切なもので,かつ,原子力安全委員会の議論を経るなどの確認行為がされている新見解を指す。)に基づき既設プラントの安全評価
を行うが,これに至らない新見解に対しては電力会社の任意の対応に委ねる方針を採用していた。その上で,推進本部の評価・検討が有識者によって行われており,その公表内容に基づき既設プラントの安全評価を必要とするとの考え方もあるが,他方,この考え方は推進本部の評価を確認された知見とするかどうかが不明確であり,実施する安全評価の位置付けも不明
確となるため,推進本部の評価の公表の都度,確認された知見であるかを明確にする必要がある。
しかし,逐一原子力安全委員会等で議論することは現実的でもないことなどから,評価内容について電力会社自らが技術的検討を行い,経産省の審査課と協議を行い判断するのが適当と考えるものとしていた。


中央防災会議,溢水勉強会等当時の状況等
(ア)上記のとおり,長期評価は,保安院及び被告東電において,確率論的安全評価の中で取り扱うとの方針が採用されたが,
前記第5の4(2)のとおり,

率論的津波ハザード解析の検討をしていた津波評価部会において,平成16年にロジックツリー分岐の重み付けに関するアンケート調査が実施された。その結果,特に三陸沖北部~房総沖の日本海溝寄りプレート間領域におけるMt8級の津波地震の発生可能性についての全体の意見を見ると,どこでも起きるという分岐の重みが0.5,過去に発生例がない日本海溝中部寄りが活発ではないという分岐の重みが0.5となっており,地震学者を含む津波評価部会の関係者(それらは,地震・津波の理学工学分野の専門学者で
あるか,電力会社等の関係者である。なお,外部の地震学者5人が加わっている。)の
認識はほぼ拮抗している。この点,電力会社等の関係者の認識についてその中立らしさに疑問を抱く余地があるものの,一応,原子力防災に携わる実務担当者らの認識と考えられる。
また,専門学者である地震学者の見解のみを見ても,阿部名誉教授及び島崎元部会長は,どこでも起きるという分岐に重み1を,過去に発生例がない日本海溝中部寄りが活発ではないという分岐に重み0を,それぞれ割り振り,佐竹委員及び都司委員は,両者の分岐に各重み0.5を割り振り,
谷岡准教授及び海野助教授は,
どこでも起きるという分岐に重み
0.3を,日本海溝中部寄りは活発ではないという分岐に重み0.7を,
それぞれ割り振っている。それぞれのコメントを見ても,もとより完全に長期評価を否定する趣旨の見解(過去に発生例がない日本海溝中部寄りが活発ではないという分岐に重み1とする見解)はなく,他方,①どこでも起きる分岐に重
み1とするとともに,長期評価を積極的に支持するコメントを付す島崎元部会長の見解,コメントがないものの,同一の結論を採用する阿部名誉教授の見解,②判断自体が難しいなどとして,各0.5とした佐竹委員や都司委員などの見解,③海底地形の相違がプレートの固着状況を支配している可能性があるとか,現時点では発生領域は限られる可能性が高いとかいったコメントを付して,長期評価にやや否定的な見方をする谷岡准教授らの見解(ただし,どこでも発生するにも0.3とする。)があり,かなり拮抗していた。
無論,これらのアンケートの結果は,前記第5の5(4)イのとおり,ロジックツリーの分岐の分類及び重み付けの設定方法を見る限り,単純に数値化して比較するようなものではないと考えられるが,あえて比較すると,長期評価を取り込むべきかどうかについて意見が拮抗し,外部の地震学者5人及び地震津波の専門学者である佐竹委員の重み付け(これらの6人の地震の専門家の
重み付けの数値を単純に比較すると,長期評価を受容する立場が0.6,受容しない立場が0.4であり,やや長期評価を受容する立場が優勢であるが,かなり拮抗している。)やコメントを見ても,これらの海溝型分科会や津波評価部会の検
討に関与してきた地震学者が,長期評価を理学上否定できないとする一方,直ちにこれを所与のものとして受容していたとはいい難い。
ただ,慶長三陸地震の津波の成因について,津波地震とする分岐の重みが0.70,三陸沖のプレート内正断層地震とする分岐の重みが0.30となっており,慶長三陸地震が津波地震であったことは,従前の津波評価技術,長期評価までの検討状況等に照らしても,相当程度受容されていたと考えられる。

(イ)その後の公的機関による検討の内容としては,中央防災会議における検討結果が存在する。
前記第5の3(3)ア及びイのとおり,中央防災会議の下に置かれた日本海溝等専門調査会において,検討対象となる地震として,繰り返しが確認されていないものの,科学的に発生の可能性が否定できない地震をどのように取
り扱うのかが議論の対象となり,その中で,明治三陸地震が繰り返すと多くの研究者は考えていないが,隣の領域で同じようなものが起こるかもしれないとは考えており,科学的に起こり得る以上,これを検討対象とすべきとする意見,貞観地震等に関して堆積学的な根拠が出つつあり,福島県沖に非常に大きな影響を与えることもあるから,切り捨てないでほしいといった意見などがあったが,他方,福島県沖~茨城県沖の海溝軸に近い領域にはサイスミシティも低いという特徴があるとか,GPSや測地測量などから得られるプレート間のカップリングの強弱の解析から,繰り返し地震の発生や大地震が起きる領域であるかどうかの識別が可能であるとの知見も得られているといった事務局の資料や政策的な観点も踏まえて,可能性がある地震と繰り返しが確認されている地震とを同じ防災対策の中で取り込むことに異論を示す
意見があり,紛糾したため,再度検討されることとなった。
そこで,
前記第5の3(3)ウのとおり,
日本海溝等専門調査会の委託を受け
て北海道WG報告書がまとめられた。その中では,明治三陸地震,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の検討がされ,明治三陸地震の断層モデルは確定されたが,慶長三陸地震は,断層モデルの北側の領域を特定できたものの,南
側の津波データに乏しく,その全体像の確定には至らず,延宝房総沖地震についてもデータに乏しく,確定には至らなかったが,福島県沖・茨城県沖の海溝側及び房総沖に断層変位を持つ断層モデルにより茨城県から千葉県の津波の高さをおおむね説明できるものとなったことを踏まえ,明治三陸地震を防災対策の検討対象とする一方,慶長三陸地震については検討対象としない
が,陸前高田市以南さらに福島県北部沿岸において津波が高かったとの史料があり,これらの地域の防災の検討に当たり留意すべきとし,延宝房総沖地震についても検討対象とはしないが,千葉県~茨城県の津波高さを再現できる断層モデルが得られ,この結果を参考にすべきことが指摘された。また,切迫性が高いと考えられないが,貞観地震,慶長三陸地震及び延宝房総沖地
震について津波堆積物の調査等による地震像の解明の進展が強く望まれるとされていた。
この結果も踏まえて,
前記第5の3(3)エ及びオのとおり,
日本海溝等専門
調査会は,再度審議をした上で,結論として福島県沖・茨城県沖のプレート間地震を検討の対象から除外しているが,その際,領域分類について長期評価の領域区分を用いており,慶長三陸地震を明治三陸地震の震源域を含んだ領域で発生した同タイプの津波地震とみなし,また,延宝房総沖地震につい
てプレート間地震であるが,現時点で繰り返しが確認できず,津波堆積物等の調査の進展を待つべきとしたほか,留意事項として,貞観地震の仙台平野における被害,慶長三陸地震による福島県北部沿岸での津波の大きさ,延宝房総沖地震の津波被害が宮城県~八丈島と広範囲にわたる点などを示した。このように,中央防災会議は,上記イ(オ)のとおり,一般防災の観点からと
はいえ,それに必要な知見等の収集,研究などを行う権限(災害対策基本法11条,12条6項,同法施行令4条等参照)に基づき,上記北海道WG(その委員は,地震津波の専門家からなり,津波評価技術の成立や長期評価の成立にも関与した笠原教授や佐竹委員,
今村委員などが加わっている。の調査,

検討の結果という科学

的知見を踏まえて,福島県沖の日本海溝寄りのプレート間地震を防災の対象
から外したのであり,このような中央防災会議における結論が出た平成18年の段階では,三陸沖北部~房総沖の日本海溝寄りにおいてどこでも明治三陸地震タイプの津波地震が発生するという長期評価が地震津波の専門学者や防災実務担当者らから所与のものとしては受容されていなかったことをうかがわせる。

他方,上記平成18年の段階では,中央防災会議の結論の中で,少なくとも長期評価の領域区分自体は取り入れられていたこと,また,長期評価において津波地震とされた慶長三陸地震及び延宝房総沖地震がいずれもプレート間地震,つまり津波地震として取り扱われていることから,長期評価が次第に受容されている状況もあったことは併せうかがわれる。


耐震バックチェック,本件試算後の地震・津波の知見の状況等
(ア)前記第5の4(6)イのとおり,平成18年9月の耐震バックチェックルールの策定に伴い,
保安院は,
既設発電用原子炉施設の耐震安全性評価のほか,
地震随伴事象としての津波に対する安全性を,評価手法の項目として示し,電力事業者に対し,上記ルールに基づく原子炉施設の耐震安全性の評価や平成18年耐震設計審査指針が示した残余のリスクについての最新の知見及び手法に基づく定量的安全評価を指示した。また,原子力安全委員会も必要に応じて外部専門家からのヒアリングや推進本部からの最新知見の適用に関する説明の聴取を実施し,最新知見の検討を実施するとしていた。このような状況下で,被告東電や日本原電らの電力会社は,前記第5の4
(7)ア及びイのとおり,
平成19年11月以降,
長期評価をどのように取り扱
うかという社内での議論や電力会社間の打合せを行い,この段階では,被告東電の担当者が,従前,確率論的安全評価の中で取り扱ってきた長期評価を決定論的安全評価の中で取り扱わざるを得ないと考えているなどと説明し,また,他の電力会社の担当者らも長期評価を具体的に否定できないといった
意見が多かった。
また,前記第5の4(7)ウ(イ)のとおり,平成20年2月に,被告東電の担当者が,今村委員に対し,長期評価を決定論的安全評価に取り込むべきかどうかを尋ねた際,今村委員が,一応波源として考慮するよう述べて,既往津波の発生がないために波源モデルとして津波地震について明治三陸地震及び
延宝房総沖地震を用いるよう回答した
(ただし,
前記第5の5(2)ウ(ア)のとおり,
同委員は,その後の同年10月頃には,耐震バックチェックの中で長期評価を取り込む必要まではないとの意見を述べていた。。


(イ)この段階では,長期評価を積極的に根拠付けるような実証的なエビデンスが示されていたわけではないものの,それ自体を否定するような実証的なエビデンスが示されていたわけでもなく,耐震バックチェックの指示がされた当時やその後の実施状況,検討状況等を踏まえて,長期評価を取り込むべきかどうかが検討されるべきであったと見る余地がある。
(ウ)他方で,
前記第5の5(2)ア(ウ)~(オ)のとおり,
被告東電の担当者が佐竹委
員の見解を確認した際,同委員から,長期評価を決定論的安全評価に取り込むべきかどうかは難しい問題であるとの回答を受けたこと,
これも踏まえて,
被告東電は,平成20年7月31日,防潮堤設置のコスト・許認可等の問題
点に加えて,延宝房総沖地震を波源として用いることの当否,日本原電や東北電力の対応が異なるなどの電力各社における検討状況などを踏まえて,土木学会への委託も含めた更なる検討をするとしたものであり,長期評価の受容度が電力各社においても異なっている状況において,専門学者からの意見聴取という更なる知見の収集に努めるという判断も,この段階では著しく不
合理とまではいえなかったと考えられる。

平成21年頃の状況等

(ア)前記第5の5(1)のとおり,
貞観津波に関して文科省の委託の下,
特に津波
堆積物に関する詳細な調査が実施されており,平成20年度までに三陸海岸や常磐海岸地域までの津波堆積物の調査が実施されてその成果が取りまとめられている。
常磐海岸地域におけるその成果等を見ると,
前記第5の5(1)ア
(イ)cのとおり,平成20年度の浪江町請戸地区における津波堆積物の調査の結果から,その地区において発見された津波堆積物が,貞観津波によるものであったことが明らかとなり,前記第5の5(1)ア(イ)dのとおり,常磐海
岸地域南部のいわき地区においては貞観津波以降のものとみられる津波堆積物の検出がされたが,貞観津波の堆積物との特定には至らなかった。また,上記調査では,歴史記録のある貞観津波が福島県常磐海岸地域中部まで及んでいたことが地質学的にも確認されたが,それぞれの場所での遡上規模などは更なる調査が必要とされていた。

さらに,
前記第5の5(1)イのとおり,
津波堆積物の調査等から確認できた
津波の履歴や浸水範囲等を踏まえて津波シミュレーションを行っているが,佐竹論文において示された二つの断層モデル(断層長さ200km,幅100km,すべり量7m)により計算された津波浸水域が,石巻平野~浪江町請戸に
おける津波堆積物の分布をよく説明できたが,同分布の範囲のみから判断されたものであり,それより北側あるいは南側の情報は考慮されておらず,貞観津波の北限及び南限を決めるためには請戸以南の更なる調査が必要とされていた。
このように,貞観津波の津波堆積物の調査結果は,いわば実証的エビデンスの一つと考えられるところ,明らかとなった南限が請戸地区までであり,福島県沖における波源として直接に考慮できるものではなかった。しかしな
がら,長期評価が示したような,福島県沖の日本海溝寄りでの津波地震の発生を具体的に予見させるものであったと見る余地はあり,このことは,後記(イ)の高橋准教授の指摘や,後記(ウ)のとおり,平成20年度のロジックツリー分岐のアンケートにおいて複数の地震学者が貞観津波を踏まえたコメントを行っていることからもうかがわれる。

(イ)前記第5の5(2)ウ(ア)のとおり,平成20年10月~同年12月に,被告東電は,佐竹委員,高橋准教授,今村委員,阿部名誉教授らの意見を聴取しているところ,
佐竹委員から佐竹論文の案の提供を受けて,
上記(ア)の情報に
接したこと,また,高橋准教授から,津波研究者として福島県沖~茨城県沖に長期評価のような地震津波が発生するとは思えないし,被告東電の立場も
理解できるものの,
長期評価があり,
津波堆積物という重要な証拠もあって,
これまでに分かっている情報を適宜使い,波源モデルを見直す必要性自体は否定できないことを指摘され,阿部名誉教授からも,長期評価を無視することも一つであるが,無視するためには積極的な証拠を必要とすることなどの回答を受けた。すなわち,被告東電は,この段階では,今村委員を除き,長
期評価に加えて貞観津波の津波堆積物の調査結果というエビデンスがあり,それをも踏まえて,長期評価を決定論的安全評価に取り込まないとするならば,何らかのエビデンスを必要とするとの示唆を受けていた。
(ウ)前記第5の5(4)アのとおり,平成21年3月までに,再度,長期評価に関するロジックツリー分岐のアンケートが実施され,その結果が出されているが,これを見ると,全体としては,分岐①(過去に発生例がある三陸沖及び房総沖のみで同様の津波地震が発生する。の重みが0.40,分岐②(活動域内の)
どこでも津波地震が発生する。北部赤枠内では明治三陸地震の断層モデルを移動させ,南部赤枠内では延宝房総沖地震の断層モデルを移動させる。の重みが)
0.35


分岐③(活動域内のどこでも明治三陸地震タイプの津波地震が発生し,赤枠全体の中では明治三陸地震の断層モデルを移動させる。)の重みが0.25となっていた。このアンケートの結果を見ると,長期評価と全く同趣旨の分岐③の重み自体は低いようにも考えられるが,本来の地震地体構造論を前提としない長期評価の領域区分,すなわち三陸沖北部~房総沖の日本海溝寄りに津波地震が発生する可能性としてみると,分岐②及び分岐③の重みが0.6となり,
前記第5の4(2)イの平成16年のロジックツリー分岐の重み
(その際は,

重みが各0.5と拮抗していた。)と比較すると,原子力防災の実務担当者と
いうべき電力会社関係者らを加えても,どこでも津波地震が起こるという分岐が重みを増している。
特に,
専門学者らの重み付けに限れば,
分岐①が
0.35,分岐②及び分岐③が0.65となり,より重み付けが増している。この点,平成16年のロジックツリー分岐のアンケートでは,谷岡准教授は,分岐①(なお,前記第5の4(2)イの平成16年のロジックツリー分岐のアンケートにおける分岐1①と平成21年のアンケートにおける分岐①はほぼ同趣旨の質問であり,同じものと見る。)の重み付けについて0.7としていたが,平成
21年では0.5としており,その理由も明治三陸地震の特殊性を示すが,長期評価の領域区分全体として津波地震の発生可能性を低いものとしておらず,これを受容していたとみられること,平田直教授も同様で,他にもより安全側の重みを重視したとコメントした地震学者もいるし,松澤委員も分岐①を0.2としており,不確定性が大きく,過去と同じ場所だけとはいい切れないが,
頻度としては北部の方が高いと思うとコメントしている。
佐竹委員のみが従前と同様の見解である。
また,
都司委員は,0.,従前5
0.5としていたが,平成21年のアンケートでは,分岐①を0,分岐②を0,分岐③を1と配分し,例えば貞観津波がそうであったと考えられるとして貞観津波の研究成果を考慮しているようなコメントをしている。
津波工学者の見解を見ても,首藤名誉教授は,分岐①を0.8,分岐②を0.1,分岐③を0.1と配分し,今村委員は,分岐①を0.3,分岐②を0.6,分岐③を0.1と配分し,高橋准教授は,分岐①を0.2,分岐②を0.5,分岐③を0.3と配分している。
このように,まず地震学者らは,長期評価の領域区分をおおむね受け入れ(山中佳子准教授のみは,疑問を呈している。),南北の構造の違いを考慮しつつ
も,津波地震の発生の可能性が高いとみていたし,また,津波工学者も,首藤名誉教授を除き,できる限り,安全側に立って,長期評価を受容していたと見ることができる。
しかも,前記第5の5(4)ア(ウ)のとおり,地震の規模に関する重み付けを見ると,分岐①~③のいずれについても,既往最大の地震を上回る地震が発
生するという分岐の重み付けが,
0.75~0.85となっており,
南北の相違を考慮するとしても,少なくとも長期評価の領域区分に従ってそのどこでも既往最大の地震を上回る地震が発生するという考え方が,地震の専門学者や実際に発電用原子炉施設の防災を担うべき電力関係者の間にかなり有力となっていたといえ,長期評価がかなりの程度受容されていた状況が
うかがわれる。
(オ)さらには,
前記第5の5(2)エのとおり,
耐震バックチェックにおける中間
報告の内容を審議する地質等合同WGの開催した平成21年6月や同年7月の意見交換の際には,
前記第5の5(1)の貞観津波の津波堆積物の調査結果等
を踏まえて,産総研に所属する地質等合同WGの委員などから,貞観津波に関する調査結果に触れられていない理由などを尋ねられており,地震動と直接に関係するかどうかは格別,保安院においても貞観津波の調査結果も含めて長期評価をどのように取り扱うかの検討が喫緊の課題となっていたことがうかがわれる。この点,上記中間報告においては,地震動の検討が中心であったとはいえるものの,前記第5の5(2)イのとおり,保安院は,被告東電に対し,長期評価の取扱いについての検討を指示し,被告東電は,これを踏ま
えて,地震随伴現象としての津波が本件原発に与える影響について検討をしているのであって,津波も含めてその検討対策は緊喫の課題であったと評価できる。
(カ)しかも,仮に,明治三陸地震が三陸沖北部~房総沖の日本海溝寄りのどこでも起こる,すなわち福島県沖の日本海溝寄りにおいても起こるという長期
評価を津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込むこととなった場合,前記第5の5(2)アのとおり,被告東電は,平成20年4月18日までには,東電設計に委託して行わせていた本件試算の内容を把握し,本件原発の敷地高O.P.+10mを最大で5m以上超える津波が襲来することを認識していたといえるし,
かつ,
前記第5の4(5)エの溢水勉強会における検討結果を

踏まえると,確かに,平成16年に実施されたロジックツリー分岐のアンケートの結果を踏まえた津波ハザード解析の精度自体には問題があったとしても
(ハザード解析≒炉心損傷率という精度はそれほど高くないとの指摘もあった。,)代
表プラントとされた5号機を対象として,O.P.+10mで非常用海水ポンプの機能の喪失をもたらし,O.P.+14mでは,上記ポンプの機能喪
失に加えて,T/B大物搬入口,S/B入口からの津波の流入によりT/Bの各エリアが浸水し,ECCS及び非常用DGや,更にはRCICが機能を喪失する可能性が指摘されていたことからすると,明治三陸地震による津波波源を想定した場合の本件原発に対する影響の大きさに対する危惧,特に炉心損傷という,IAEAが示していた1炉年あたり約1万分の1回すなわち10-4より低く抑えるべきとする事態(前記第5の2(2)イ,前記第5の2(5)参照)
が引き起こされかねないという危惧を抱くには十分であったとはいえる。
(キ)以上のような地震津波の知見の進展状況,特に貞観津波の津波堆積物の調査結果という実証的なエビデンス
(もとより直接的に本件原発の敷地高を超える津
波の襲来を予測させるものではなかったが,これが相応に重視されるべきことは,各地震学者らが示したコメント等からして明らかである。に加えて,

平成21年に実施
されたロジックツリー分岐のアンケートの結果に見られる,地震学者や防災実務担当者らの長期評価の受容度等を見る限り,長期評価あるいは長期評価そのものではなくても,少なくとも延宝房総沖地震以上の津波地震が福島県沖の日本海溝寄りにおいても発生するとの知見を,津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込むべき状況になっていたというべきである。
(ク)このような状況を踏まえると,少なくとも,平成20年10月頃までに佐竹論文の提供を受けてその内容を認識するとともに,平成20年度ロジックツリー分岐のアンケートの結果が取りまとめられた平成21年3月には,津波評価部会にも複数の担当者が関与し,当然その結果を認識していたはずの被告東電はもとより,耐震バックチェックの実施中であり,当然,貞観津波
に関する情報や津波評価部会の情報についても被告東電を始めとする電力会社から容易に得られた保安院において,それ以降速やかに,あるいは,遅くとも地質等合同WGにおける耐震バックチェックの中間報告の審議において貞観津波に関する言及があった同年7月の後,すなわち平成21年8月頃までには,津波評価技術に基づく決定論的安全評価に長期評価を取り込むべき
であったということができる。
(5)長期評価の受容度等に関するまとめと当事者の主張
以上述べたとおり,遅くとも平成21年8月頃までに津波評価技術に基づく決定論的安全評価に長期評価を取り込むべきであった,すなわちこれを取り込んだ想定津波を評価し,
これに基づく安全対策を実施すべきであったし,
また,
保安院ひいては経済産業大臣は,その実施に当たり,当然,技術基準適合命令の発令をすべき状況にあったとは一応推認できる。ただ,上記(3)アのとおり,二段階審査方式において,行政庁から相応の資料・根拠に基づく判断の根拠に関する説明がされた場合には,この推定が覆されると考えられる。そこで,以下,それ以前における長期評価の公表後,即時にこれを津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込むべきであったとする趣旨(原告らは二段階審査方式
を前提としないで,長期評価による予見可能性を主張するとともに,仮に二段階審査方式によるとしても,長期評価の公表後,直ちにこれを決定論的安全評価に取り込むべきであったと主張する。を指摘する原告らの主張の内容を検討した上で,)
これを取り込

むべきであったとは認められないとする被告国の根拠指摘について検討する。・

長期評価に関する原告らの主張

(ア)原告らは,長期評価について,地震防災対策特別措置法に基づき,国の防災対策の強化に役立てるため,地震に関する調査研究の成果を収集・整理・分析し,総合的に評価する機関である推進本部が取りまとめたものであり,その内容は防災対策に直結する科学的アセスメントであることから,これをもって即時に規制権限の行使という作為義務を基礎付ける旨主張する。
しかしながら,既に指摘したとおり,長期評価の法令上の根拠,性格について,
その根拠法令である地震防災対策特別措置法には,
被告国の行政機関,
地方自治体などのその他の公的機関に対し,これを防災対策に直結させるよう義務付けた明示の規定はなく,そのような義務を課す根拠となるべき他の法令上の根拠規定も見当たらない。この点,改正前炉規法や電気事業法,更
には安全設計審査指針や平成18年耐震安全設計審査指針などの各指針を見ても,地震防災対策特別措置法に根拠を置く調査研究の結果を踏まえた対策を直ちにとるべきことを明示する規定はもとより,例えば,上記(4)イ(オ)において指摘した災害対策基本法に基づく知見の研究成果などについても特にそれに基づく防災対策を義務付けているものではない。これらの知見や災害対策基本法に基づく防災基本計画などを踏まえて,より高度の安全性が確保されるべき発電用原子炉の安全対策を検討実施すべきことは当然であるとしても,その知見の取捨選択に関しては,なお原子力事業者の合理的裁量が認められるものであるし,さらにはこれを監督すべき規制行政庁である保安院の合理的裁量が認められるべきである。換言すれば,発電用原子炉における安全性に関して,特定の科学的知見に依拠してこれに沿った防災対策を直ち
にとることをべきとの法的義務を課すような明示の規定を欠く以上,結局は,
既に述べた知見の内容,性質やこれに関する受容度等を考慮して作為義務が認められるかどうかを吟味すべきであって,原告らが主張する科学的アセスメントの内容,趣旨も明らかではなく,そのような呼称をもって直ちに技術基準適合命令を発するという作為義務が基礎付けられるものとはいえな
い。
(イ)次に,原告らは,長期評価が,当時における地震学の知見の到達点を踏まえて津波地震を定義し,これに基づき,明治三陸地震,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の三つの地震を津波地震と分類した上で,三つの津波地震に着目してその領域を区分したこと,津波地震が巨大な低周波地震であり,低周
波地震が日本海溝寄りのどこでも起きていたことは,先行研究や長期評価の議論の過程からも明らかであること,長期評価の領域区分のうち南北を区別することには合理性がなく,被告国が主張する付加体の議論も単なる仮説であって,谷岡・佐竹論文も科学的根拠を有するものではないことなどを指摘している。

(ウ)この点,
確かに,
上記三つの地震が津波地震であることは,
後記のとおり,
被告国が指摘する一部の学者の見解による異論があったにせよ,原子力防災における津波評価に直結する津波評価技術はもとより,長期評価や中央防災会議における北海道WG報告書などの公的機関による研究などにおいておおむね承認されていたところである。
しかしながら,上記(4)イ(カ)において指摘したとおり,そもそも,長期評価を積極的に信頼すべき旨述べている島崎元部会長も,長期評価の領域区分について全く初めてのものと説明しており,そうであるならば,これまで有力視されてきた地震地体構造論とは異質なものであって,その領域部分の根拠としては結局低周波地震の発生の仕方によるが,その見方についても,上記(4)イ(キ)で既に述べたとおり,島崎元部会長は,あくまでも限定された期
間での結果にすぎないと指摘しつつ,気象庁の観測による微小地震の発生状況が南北で異なることを認め,また,都司委員も,日本海溝寄りの北部と南部で地質構造に違いがある部分もあって,
全く同じではないと指摘している。
さらに,谷岡・佐竹論文の共著者である佐竹委員が,上記低周波地震や微小地震について,南北の領域では南部と比較すると明らかに北部が多いと指摘
していることも踏まえると,やはり低周波地震の発生の仕方等が初めて示された長期評価の領域区分の実証的エビデンスになるとは考え難い面がある。また,谷岡・佐竹論文を裏付けるかのような深海の地質調査の結果(丙B19の2)も長期評価の公表後に出ている。

そうすると,このような長期評価の領域区分を,地震学者や防災実務担当者等が受容するようになるにはある程度の期間が必要となり(長期評価の策定に関与した地震学者は格別,
それ以外の地震学者が直ちにこれを受容したとは考え難い
し,明示的な異論を唱えていたわけではないにしても,佐竹委員もかなり違和感を持っていたことはうかがわれる。),その期間を経ない段階で,いかに一般防災以上
に安全性が要求される原子力防災の観点を考慮するとしても,その公表後,即時に津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込んで規制権限の行使を義務付ける知見となるとは認め難い。また,南北を区別しないという見解も,それが実証的なエビデンスに支えられていたものではなく,既に指摘した平成21年のロジックツリー分岐のアンケートにおける地震学者の見解も,多くはその相違を容認していたのであって,同様にその根拠となるものとはいえない。また,上記三つの地震が津波地震であるとの前提に立っても,その波源モデルが確定していたのは明治三陸地震のみであり,他の二つの地震の波源域は特定されておらず,三陸沖北部~房総沖の日本海溝寄りという広範囲において区切るならばどこかで起きたとはいえるとしても,やはり,これまでの地震地体構造論の見解,特に三陸沖,福島県・茨城県沖,房総沖などを分ける見解に照らせば,それを覆す実証的エビデンスが得られているわ
けではない以上,これが地震学者や防災実務担当者らが一般的に受容できる知見であったとは考え難い。
以上のとおり,原告らの上記主張は採用できない。
(エ)そして,既に述べた,平成16年のロジックツリー分岐のアンケート結果や,中央防災会議,特に北海道WGにおける検討内容などからしても,平成
16年~平成18年頃に,長期評価が規制権限の行使を義務付けるような知見,すなわち津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込むべき知見になっていたとは考え難い。この点,長期評価を否定するような実証的エビデンスは全く見つかっていないが,他方,これを積極的に肯定するようなエビデンスが見つかっていたわけでもない
(そのような証拠はなく,
原告らもそのよう

な主張はしていない。)。また,実証的なエビデンスを欠いても,地震学者や防
災実務担当者らの受容度如何により,そのような知見になると見る余地があるとしても,やはり福島県沖の日本海溝寄りにおいても明治三陸地震と同程度の津波地震が発生するという長期評価はいまだ受容されるに至っておらず,原告らが平成18年までの時点において主張する様々な事情を考慮しても,原告らの主張は採用し難いものというべきである。例えば,原告らは,平成16年のロジックツリー分岐のアンケートにおいて,長期評価の領域区分が既に異論がないものとして受容されていると主張する。しかしながら,既に述べたとおり,この段階では,いまだ,明治三陸地震が房総沖~日本海溝寄りの日本海溝寄りの領域のどこでも発生するという長期評価を受け入れるかどうかについて,地震学者の間でも意見が拮抗に近い状態にあって,地震学者や防災実務担当者らが長期評価を受容していたと見ることはできないもの
というべきである。
また,原告らが指摘する平成18年の溢水勉強会などにおいて示された浸水に対する本件原発の脆弱性なども,脆弱性そのものに限ればおおむねその指摘が妥当するが,既に再三述べたとおり,結局は,その脆弱性に対する対策や本件試算を踏まえた対策が義務付けられるためには,その前提として,
本件原発の敷地高であるO.P.+10mを超える津波の襲来を基礎付ける科学的知見,すなわち主として長期評価が津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込むべき知見となっていたかどうかが問題となるのであり,その前提を欠くままに本件原発の浸水に対する脆弱性を検討する意味はないものというべきである。


長期評価等に関する被告国の主張

(ア)被告国は,長期評価に関して,単に理学上否定できない地震津波に関する科学(理学)上の知見にすぎず,本件事故時まで一貫して,長期評価は,津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込むべき知見となっていなかったと主張する。その論拠は多岐にわたるが,要約すると,①津波評価技術の考え方からすれば明治三陸地震の波源モデルを実際に発生した場所とは異なる福島県沖の領域に設定するためには地震地体構造論の知見を踏まえて,明治三陸地震が発生した三陸沖の日本海溝寄りの領域と福島県沖の日本海溝寄りの領域とが地震地体構造上同一の構造であるとの見解が通説的な見解となる
必要があるところ,長期評価の公表時は無論,それ以降本件事故に至るまでの間,上記同一の構造であるとの知見は皆無であり,長期評価の公表以降,むしろ上記地震地体構造に関しては,南北において異なるというエビデンスが示され,これを根拠として,長期評価と異なる見解が複数の地震学者から提示されるに至っていたこと,同様に,②中央防災会議,溢水勉強会などにおいても,長期評価は採用されず,耐震バックチェックにおけるJNES,東北電力の対応を見ても長期評価を取り込んだ上での想定津波の評価を行っていないことのほか,③貞観地震に関する知見の進展状況等を見ても,津波堆積物の調査は発展途上にあり,津波堆積物から過去の津波の浸水域の確定もできない上,上記地震地体構造論の知見に基づく評価を覆すような事情とならないことなどを指摘している。

これに加えて,④長期評価が未だ通説的な見解になるに至っていなかった以上,これをリスク情報の一つと捉え,確率論的安全評価の中で考慮していたが,これまでに示されていた長期評価のリスク評価すなわち実際に長期評価に基づき予測される想定津波が本件原発を襲来する確率は,マイアミ論文(第5の4(4)参照)を始めとする確率論的津波ハザード解析においては,10
-4

炉年を下回り,IAEAの尺度やこれまでに被告国が整備してきた安全目
標の案などを下回っており,リスク情報としても具体的な対策を立てるべき状況には至っておらず,このような保安院の判断には合理性があることも指摘する。
(イ)まず,
上記①の被告国の主張を検討すると,
確かに,
再三指摘したとおり,
長期評価は,三陸沖北部~房総沖の日本海溝寄りという,これまでの地震地体構造論とは異なる領域区分を示したものであり,それが地震学者や防災実務担当者らの受容するに至るまで一定程度の期間を要するものである。この点,長期評価を直接に裏付ける実証的エビデンスや新たな科学的知見が本件事故時までに得られた事実は認められず,その点では,知見それ自体の内容
は,仮説にとどまるものである。しかしながら,他方,長期評価が,行政施策に直結すべき地震に関する研究の責任体制を明らかにし,これを政府として一元的に推進すべきとの地震防災対策特別措置法に基づき設置された推進本部の見解であり,少なくとも,他の地震学者の研究等における一見解と同視することはできないし,
長期評価を覆すような実証的なエビデンスもなく,
相応にそれが受容されてきている状況がある限り,津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込むべきであったということができる。
(ウ)被告国は,明治三陸地震を除く慶長三陸地震及び延宝房総沖地震がいずれも津波地震であることについて地震学者から有力な異論があったと主張する。しかしながら,既に述べたとおり,上記三つの地震が,日本海溝寄りの領域において発生した津波地震(プレート間地震)であること又はその可能性が
高いことは,長期評価の海溝型分科会の検討過程からしても明らかである。すなわち,慶長三陸地震については,海溝寄りの津波地震であることを前提に,波源を千島沖と見るか,三陸沖と見るかといった議論がされており,津波地震であることは前提とされていたといえ,また,延宝房総沖地震についても,陸寄りの地震ではないかという見解もあるが,十分な討議を経た上で
津波地震である可能性が高いとされたと認められる。
また,既に述べたとおり,原子力防災における想定津波の評価に直結する津波評価技術の中でも慶長三陸地震及び延宝房総沖地震は津波地震である可能性が高いものとして整理されていること,平成16年のロジックツリー分岐のアンケートでも慶長三陸地震が津波地震であることは地震学者や防災実
務担当者らの間で相当程度受容されていたこと,その後の北海道WG報告書の中でも津波地震である可能性が高いとされていることに照らせば,津波防災対策を検討する上では,これらの地震は,いずれも大きな津波被害をもたらした津波地震として整理することとなっており,少なくとも公的機関による研究及びこれに基づく防災対策の実務においてコンセンサスが得られてい
た知見と評価でき,これが所与のものとなっていたというべきである。そうすると,長期評価の公表後においても慶長三陸地震や延宝房総沖地震に関する異論があったとしても,それは単なる学者の一意見に過ぎず,これをもってこれらの地震が津波地震であることを否定することはできないし,仮にこのような見解の下に保安院が長期評価を津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込まなかったのである(そのようなことをうかがわせる証拠はない。)ならば,それ自体重大な事実誤認であったといわざるを得ない。
その上で,被告国が指摘する上記①の点について,確かに,長期評価の公表直後に新たな知見としてこれを即時に地震学者や防災実務担当者らが受容したとはいえない点において,その指摘は妥当なものであるが,他方,その後の状況,特に平成21年3月頃までの状況を見る限り,長期評価が防災対
策における公的見解としてある程度の支持を勝ち得ていた状況を看過するものといわざるを得ない。なお,被告国は,通説的見解とならない限り,当該知見を取り込む必要がない旨主張するが,
仮に実証的エビデンスが示されず,
あるいは学界等において通説的な見解となるに至っていないとしても,防災対策に直結すべき知見として,長期評価や中央防災会議などの防災対策に直
接関わるような公的機関やこれに準ずる機関等により収集・整理され,それがその研究等に係る地震学者やその成果を防災対策に直結させることが期待される防災実務担当者らのある程度の支持を勝ち得ている状況がある限り,一般の防災対策に比してより高度の安全性が要求される原子力防災の観点からして,これを取り込むべきである。

また,地震地体構造論の知見について,前記第5の1(1)ウ(エ)のとおり,長期評価の公表後に垣見マップが公表されているところ,確かに,垣見マップは,東北日本弧の日本海溝大陸斜面を四つに区分し,その領域ごとのプレート境界付近の大地震として明治三陸地震や慶長三陸地震(8A2),福島県東方沖地震(8A3),昭和38年の房総沖地震(8A4)を示すととも
に,不確実であるものの,延宝房総沖地震もプレート境界付近の地震の可能性があると指摘している。また,北海道WG報告書も,長期評価の領域区分を前提に上記三つの地震がプレート間地震であることを踏まえて防災対策の検討対象とすべきかどうかを検討し,明治三陸地震及びそれと同様の海溝軸付近の領域を破壊した可能性が高い慶長三陸地震を防災対策の検討対象とする一方,繰り返しの確認ができない延宝房総沖地震について検討対象から外しているが,それがプレート間地震ではないなどといった指摘をするものではない。日本海溝等専門調査会は,上記北海道WGでの検討も踏まえて,長期評価の領域区分を前提に防災の対象として明治三陸地震と慶長三陸地震を示したものであり,長期評価の領域区分によったものと理解できる。このように,長期評価を踏まえてその一部を採用している点において,長期評価を
否定するものとはいえず,むしろ一般防災対策の見地から,長期評価を一部取り込む形で絞り込みをしたものと見るべきであり,中央防災会議の対応をもって長期評価が否定されたということはできない。
このように,確かに,長期評価を直接的に裏付ける知見や新たな実証的エビデンスが示されたわけではないが,他方,長期評価を否定するようなエビ
デンスが示されているわけではなく,また,既に述べたとおり,長期評価が次第に地震学者や防災実務担当者らにも浸透し,これに沿った検討が実際に進められていた状況を踏まえると,長期評価を取り込んだ上での検討が要請されるようになっていたということができる。
加えて,日本海溝の南北の構造の相違についても,確かに,前記第5の7
(3)エのとおり,
佐竹委員が,
南北のカップリングの相違が津波地震の発生の
有無の差につながっているという見解を示し,これは,実際の調査結果によって裏付けられ(丙B19の2),また,海溝における未固結の堆積物は三陸沖にのみ顕著であるため,三陸沖以外においては巨大低周波地震は発生しても津波地震には至らないかもしれないことを示す論文(丙B1)もあった
ことは認められる。しかしながら,これらの研究は,南北の構造等の相違が直ちに津波地震の発生の有無を決定するものではなく,現に,同論文においては,微小地震の震央分布,繰り返し地震の発生割合,三陸沖に発生する低周波地震の震央分布などの検討に基づき,津波地震が巨大な低周波地震であるならば,三陸沖のみならず福島県沖から茨城県沖にかけても津波地震発生の可能性があることも示唆されているし,また,前記第5の5(4)イ(エ)の津波評価部会における確率論的津波ハザード解析においても,上記南北のカップリングの強弱は,延宝房総沖地震による津波が明治三陸地震による津波に比べ小さいことに対応していると指摘されており,そのような津波地震が起こらないことを示唆するものではない。この点,延宝房総沖地震の波源が確定できていないとしても,同地震が津波地震であること,また,少なく
とも千葉県~茨城県の沿岸部に津波が襲来したことからして,南部の日本海溝沿いで生じた可能性があること,
前記第5の5(4)ウのとおり,
第4期津波
評価部会において,延宝房総沖地震の波源モデルを参考にしつつ,福島県沖を含む日本海溝沿いの津波地震に関する新たな波源モデルを構築するという方向で検討が進められることとなったことなどに照らせば,南北の構造
の相違から直ちにこれまで津波地震が発生していない福島県沖の日本海溝寄りにおいて津波地震が発生しないということもできず,むしろ,南北の構造の相違を踏まえても,津波地震が発生する可能性があるといえ,そのことが地震学者等において受容されるようになっていた状況がうかがわれる。(エ)上記②について,中央防災会議や溢水勉強会後の状況等については,既に
上記(ウ)において指摘したとおりであり,また,確かに,前記第5の4(7)イ(ウ),
前記第5の5(2)ア(エ)及び(オ)のとおり,
耐震バックチェックにおける,
津波に関しての長期評価の取扱いは電力各社において統一されていなかったことが認められるが,他方,前記第5の4(7)イ(イ)~(エ),前記第5の5(5)エ(ア)~(エ)のとおり,日本原電は,平成19年12月以降,同社が設置する
東海第二原発について長期評価を取り込んだ上での対策工事の検討を開始し,平成20年5月頃までに具体的な対策工事の内容を検討し,同年8月の同社常務会の決定を経て,
同年11月までに対策工事
(引き波対策工事,
防水扉対策,
防潮シャッター,防潮堰,盛土工事など,工事費合計約21億円)の費用の支出を決
定し,平成21年9月までにその施工を完成させた。このように,日本原電は,津波対策に関し,長期評価を取り込んだ上での対策工事を,現に耐震バックチェックの中で実施していた。このような電力事業者の対応も踏まえると,長期評価を取り込んだ対策をせざるを得ないという認識がかなり有力となっていたこともうかがわれ,また,原子炉の高度の安全性を確保するという見地に照らせば,このような対応が一社でも行われている以上,被告東電以外にも長期評価を取り込んだ対策をとらないという電力事業者が現に存在
したとしても,その対応の是非についてさらに検討する必要があり,単に東北電力が長期評価を取り込んだ対策をとっていなかったことをもって被告東電の対応,ひいてはこれを監督すべき保安院の不作為が直ちに正当化されるものではないというべきである。
(オ)上記③について,確かに,貞観津波の津波堆積物の調査結果は本件原発の
敷地高を超える津波の襲来を具体的に予見させるものではないが,他方,同津波堆積物の調査は,福島県沿岸部,特に本件原発の付近に津波の襲来を危惧させるべきものであり,既に述べた平成21年のロジックツリー分岐のアンケートの結果や地質等合同WGにおける指摘などと相まって,長期評価を津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込むべき必要性を基礎付ける
ものとはなり得る。そうであるならば,むしろ,保安院においてこのような知見や間接的にせよ実証的エビデンスを踏まえた検討が不要であったとする合理的な理由を示すべきであり,このような理由の説明がない以上,その知見を取り込むべき必要性があったことを推認させるものである。
(カ)上記④について,確かに,前記第5の4(2)イ(エ)のとおり,平成16年の
ロジックツリー分岐のアンケートを前提に,津波ハザード曲線を計算した結果として,6号機で,10mを超える確率(年超過率)が10-4~10-5/炉年となっていたことが認められ,前記第5の4(1)ア,前記第5の4(3)イのとおり,
保安院等で検討されていたリスク情報の活用に当たり,CDF(炉心損傷)について10-4/炉年程度とされ,これは,前記第5の2(2)イ,前記
第5の2(5)のとおり,
既設原子炉に係る
重大な炉心損傷の発生する可能性が1炉年あたり10万分の1程度を上回らないというIAEAの技術的安全目標と同じと考えられるし,平成21年のロジックツリー分岐のアンケートを前提としても,
前記第5の5(4)エのとおり,
代表評価位置として選定さ
れた4号機において,O.P.+10mを超える津波高さの年超過確率が10-4/炉年に近づいているが,これを超える状況にはなっていなかったから,
確率論的津波ハザード解析において,一応安全とされる範囲(炉心損傷に至る可能性として許容される範囲)に収まっていたと見る余地がある。
しかしながら,
確率論的津波ハザード解析自体が発展途上のものであるし,
保安院の検討もいまだ性能目標案にとどまっていたこと,上記IAEAの技術的安全目標についても,新設炉について10-5/炉年となっており,現在の科学的技術水準によるべきとの伊方最高裁判決の判示の趣旨を踏まえると,新設炉に対する安全目標によるべきとも考えられ,リスク情報として十分に留意していたことには疑問が残る
(現に,
前記第5の3(2)コのとおり,
保安院は,
確認された知見に対しては,これに基づき既設プラントの安全評価を行うものとしていた。)。

加えて,そもそも,前記第5の5(4)イのとおり,確率論的津波ハザード解析に当たり,目的を明確に把握した事務局が現状の研究成果のレビューに基づき,できるだけ幅のある分岐案を設定し,一定の数の専門家にヒアリングして最終的な分岐案と重み案を作成する方法によるべきところ,あくまでも平成16年及び平成21年に実施されたロジックツリー分岐のアン
ケートの結果は参考にすぎない上,特に専門知識を有する地震学者の重み付けなどが適切にされているかどうかが明らかではない(例えば,前記第5の5(4)ア(イ)のとおり,
地震の専門家である都司委員に他の地震学者と同様の4倍の重み付けをしていない理由など明らかではない。)。そうすると,厳密な意味でのロジッ
クツリーアンケートの結果を踏まえた上記年超過率が適確な値であったかどうかは明らかではなく,同ロジックツリーアンケートは,定性的に地震学者及び防災実務担当者らの傾向を知ることができ,長期評価を津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込むことについて有力な資料となり得るが,厳密なリスク情報としての定量的な判断,特にそれが確率論的にみて無視できる情報であると判断し得るほどの意味を求めることは難しいといわざるを得ない。むしろ,仮に,地震学者などを適切に選択した場合,原発の安全性
により大きな疑義を生じさせる結果となることが予測され,現に,上記のとおり,平成21年時点では,4号機において,O.P.+10mを超える津波高さの年超過確率が10-4/炉年にかなり近づいており,保安院の性能目標案や既設原子炉に係るIAEAの技術的安全目標に抵触するおそれは十分にあったというべきである。
しかも,
前記第5の4(5)イ~エの溢水勉強会の

結果や前記第5の5(2)ア(キ)のJNESの報告においても,津波遡上時の影響として,遡上した津波により海水ポンプが損傷,機能喪失し,海水取水が不可能となって,更に屋外変電設備,非常用DGなどが影響を受け,外部電源喪失やDGからの非常用電源の供給が不可能となることなどの指摘を踏まえると,自然現象であることに由来する不確実性や保守性の観点から一定の
裕度を確保する必要があって,
本件敷地を超える津波,
特にO.
P.
+15.
7mという津波が襲来する確率は,原子炉施設に求められる安全裕度からすると,それは≒との精度が低いものと見るべきではなく,むしろ,同津波発生の確率イコール(=)炉心損傷の確率と見るべきであったというべきである。

以上のとおり,長期評価を踏まえた確率論的津波ハザード解析の結果として,具体的な対策を立てるべき状況に至っていなかったと直ちにいうことはできず,この点に関する被告国の主張もまた採用できない。
(キ)その他,被告国は,これまでの規制権限不行使に係る国賠法1条1項の適用上の違法に関する,複数の最高裁判決を根拠に,具体的な事案において,規制権限の不行使が国賠法上違法となるかの判断をするに当たっては,事案に応じ,①規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質,②被害の重大性及び切迫性,③予見可能性,④結果回避可能性,⑤現実に実施された措置の合理性,⑥規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による被害回避可能性),⑦規制権限行使における専門性,裁量性などの諸要素の
全部又は一部を総合的に考慮して,その不行使が著しく合理性を欠くと認められるか否かを検討しているところ,本件原発において津波による原子力災害が発生する切迫性は大きいとはいえず,予見可能性の程度は,原子力発電所の防災対策について何らかの措置を執るべきといえる程度にとどまり,実際に敷地を超える津波が到来するという切迫性,緊急性は示されていなかったなどと主張する。

しかしながら,上記各要素は,被告国も自認するとおり,もとより規制権限の不行使に係る国賠法上の違法を判断する上での考慮要素となるものであるが,その全てが認められなければ規制権限の不行使が違法となるというものではなく,当該事案の内容とともに上記①の規制権限を定めた法の保護する利益の性質等がまず問題とされるべきである。
この点,
既に述べたとおり,

技術基準適合命令の発令に際しては,原子炉施設の高度の安全性を確保しつつも,相対的安全性を容認するとの立法判断の下に,多くの専門分野の専門技術的知見等を踏まえた,確定不可能な将来予測にわたる点に鑑みて,経済産業大臣の専門的技術的裁量が認められるものであるが,もとより,それは深刻な原子力災害が万が一にも起こらないようにするとの趣旨をも踏まえた
ものであり,このような見地から津波評価技術に基づく決定論的安全評価が合理的な評価手法として承認されている。そうすると,その中に長期評価を取り込まなければならない状況に至った以上,本件原発の敷地高を超える津波の襲来を所与のもの,つまり実際に起きることを想定した対応をせざるを得ないと考えられる。加えて,地震や津波という自然現象がいつ発生するかを特定することはもとより不可能である上,IAEAの技術目標である10-4

/炉年又は10-5/炉年に抑えられなければならない炉心損傷の事態が
発生した場合に起こる被害の重大性は,
前記第5の2(2)アのスリーマイル島
原発事故やチェルノブイリ原発事故などからも明らかであって,原発事故による被害の重大性に鑑みれば,必ずしも切迫性という要件を求める必要がないともいえる。以上の点に照らすと,切迫性がないことをもって津波評価技術に基づく決定論的安全評価に取り込まないことが正当化されるとする被告国の主張は採用できない。
なお,切迫性を要件とすべきではないことは上記のとおりであるが,被告国が,
前記第5の5(2)ウのとおり,
津波評価技術の改訂のために3年程度か
けて長期評価を取り込むかどうかの修正,検討をするとした被告東電の説明
について,首藤名誉教授,佐竹委員,高橋准教授,今村委員らの各地震津波の専門学者が異議を述べておらず,
切迫性がなかったと指摘する点について,
念のため検討すると