判例検索β > 令和1年(う)第585号
殺人、生命身体加害略取、逮捕監禁致死、逮捕監禁
事件番号令和1(う)585
事件名殺人,生命身体加害略取,逮捕監禁致死,逮捕監禁
裁判年月日令和3年5月19日
裁判所名・部大阪高等裁判所  第4刑事部
結果棄却
裁判日:西暦2021-05-19
情報公開日2021-06-07 16:00:36
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
【事件番号】令和元年(う)第585号
【宣告日】

令和3年5月19日

【事件名】

殺人,生命身体加害略取,逮捕監禁致死,逮捕監禁被告事件

主文
本件控訴を棄却する
理由
本件控訴の趣意は,弁護人森直也(主任),同小坂井久及び同小林功武連名作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に,これに対する答弁は検察官飯濱岳作成の答弁書に各記載のとおりであるから,これらを引用する。論旨は,理由不備,訴訟手続の法令違反,事実誤認及び量刑不当の各主張である。以下,控訴趣意書の論旨の順に従って検討する。(略称は原判決の表記に従う。)
1
補強法則違反をいう訴訟手続の法令違反及び理由不備の主張(控訴趣意第1)について
論旨は,要するに,原判示第2の事実(A第2事件)のうち,被告人がけん銃を用いて弾丸を発射し,Aの身体に命中させて殺害したという重要な部分を裏付ける証拠としては,Bの原審公判供述によって法廷に顕出された被告人の自白,すなわち,被告人がけん銃を使ってAを射殺した旨をBに打ち明けた犯行告白があるだけで,その補強証拠が存在しないのに,同自白のみに基づいて前記事実を認定した原判決には,理由不備がある上,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反もある,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討するに,A第2事件のうち,被告人による殺害行為の有無についての原判決の判断の理由は,【争点に対する判断】第7の2に記載のとおりであるが,その要旨はおおむね以下のとおりである。すなわち,原判決は,まず被告人の前記自白(犯行告白)を除く関係証拠に基づいて本件の客観的状況を検討し,①同事件に先立ち,Aが被告人によって約1年2か月間CマンションやC事務所で檻に入れられるなどして逮捕監禁された後,平成22年6月13日に目隠しや手錠等をされた状態で被告人の運転する車に乗せて連れ出された状況からして,Aがその後も引き続き被告人の支配下に置かれていたことが強く推認されること,②同月9日以降,Aの生存が確認できず,被告人がAを連れ出した同月13日から遠くない時期にAが死亡した可能性が高いことからすると,Aが被告人の支配下で死亡したことが推認されるとした。そして,Bの原審公判供述及びこの供述に含まれる被告人の前記自白の信用性を検討し,Bの供述につき警察官による誘導は考えられず,被告人の前記自白は,その内容が前記客観的状況と一致していることのほか,㋐被告人がAの殺害時期と近い時期にけん銃を所持していたこと,㋑被告人が平成22年6月中旬頃Dから100万円を受け取ったこと,㋒E倉庫の壁の上部にフックが取り付けられていたこと,㋓本件焼却炉内から焼けた人骨が発見されたことなどの事実関係に裏付けられ又は支えられていること,さらに,被告人がBにA第2事件の犯行後にその様子を打ち明けることが当時の状況等に照らして自然であったということができ,Bにあえて被告人に不利な嘘をつく動機もないこと,被告人の前記自白の内容が作り話とは思われない具体性を持っていることなどから,その信用性は高いとした上,これに反する弁護人の主張及び被告人の供述をいずれも排斥した(なお,A第2事件における前記

の事実は,Bの原審公判供述の信用性に関する補助事実として位

置付けられているから(平成29年1月6日付け検察官作成の証拠の採否に関する意見書,第42回公判前整理手続における裁判所の見解参照),以下の補強証拠に関する検討では,

の事実を除いて検討す

る。)。
このように,原判決は,被告人の前記自白を除く関係証拠から認められる事実関係によって,同自白の真実性が保障されていると判断したもので,被告人の自白のみに基づいて犯罪事実を認定したものではないことは,その説示するところからして明らかというべきであり,原判決の認定判断に補強法則違反に当たるような事情は認められない。以下,所論に即して補足して説明する。
所論は,最高裁判所の判例(最判昭和40年9月21日裁判集刑事156号615頁)を引用するなどして,別の犯罪事実をもって当該犯罪事実の補強証拠とすることはできないとの解釈を前提に,原判決が説示する前記①に係る事実は,原判示第1(A第1事件)の事実にほかならないから,これをA第2事件の補強証拠とすることはできないと主張する。
しかし,前記判例は,別の犯罪事実自体がおよそ補強証拠とはなり得ないとしたものではなく,別の犯罪事実をもって当該犯罪事実の補強証拠とする場合には,その別の犯罪事実を認定する根拠となった証拠についても当該犯罪事実を認定すべき証拠の標目に掲げる必要があり,そうしていない以上,別の犯罪事実の存在それ自体を補強証拠とみることはできない旨を述べたものと解される。
本件についてみると,原判決がA第2事件について(証拠の標目)に掲げた証拠
(他の犯罪事実と共通する証拠として掲記したものも含む。

によって,前記①に係る事実を認定するのに何ら不足があるとは認められないから,前記所論は採用できない。
所論は,原判決が指摘する㋐の事実について,同事実を認定するための証拠であるBの供述は,被告人の自白と独立した証拠ではないから,補強証拠とはなり得ず,また,この点に関するFの原審第45回公判の証人尋問における供述(F②)が証拠の標目に掲げられていないことは理由不備に当たると主張する。
確かに,形式的にみて犯罪事実認定の直接証拠となる自白とは別の証拠に当たる場合であっても,実質的には当該自白と同一とみることができるときに,その証拠を当該自白の補強証拠として取り扱うことは,補強法則の趣旨に照らして不相当というべきであるが,㋐の点に関するBの供述は,Bが被告人から預かり保管していたけん銃をA第2事件の前に被告人に返還したというB自身が体験した客観的な事実関係を内容とするものであり,被告人自身がA第2事件について自認ないし承認する旨を述べたことなどを内容とするものではない。Bの供述を主たる証拠として被告人がA第2事件と近い時期にけん銃を所持していたという事実が立証されるものであったとしても,その事実自体は,被告人の自白とは別個独立した証拠とみるべきであるから,それが補強証拠としての適格性を欠くものとはいえない。また,原判決は,㋐の事実を認定するに当たって,所論が指摘するF供述(F②)をB供述の信用性を支える事情として取り扱っており,いわゆる実質証拠として用いていないことは,
その説示からして明らかというべきであるから,
これを証拠の
標目に掲げなかったことが原判決の理由不備に当たらないことも明白である。
前記所論はいずれも採用できない。
所論は,原判決が説示する前記㋐ないし

の点について,いずれも要

証事実との関係で関連性や証明力が乏しく,
補強証拠とはなり得ないか,
補強証拠としては不十分であるなどと主張する。しかし,補強証拠に必要とされる証明力の程度については,補強証拠のみによって犯罪事実を証明するに足るものである必要はなく,自白と補強証拠とが相まって犯罪事実が認定できれば足りると解されるところ(最判昭和24年4月7日刑集3巻4号489頁参照),原判決が説示するとおり,被告人の前記自白は,Aが被告人の支配下で死亡したという客観的状況や,前記㋐ないし

の複数の整合する事情に支えられており,これらの事実関係と

被告人の自白とを総合的に考慮すれば,A第2事件に係る事実を優に認定することができるのであって,そこに補強法則違反は認められない。所論は,原判決が指摘する前記の各事実関係について,総合して検討するのではなく,一つ一つの事実を個別分断的に取り上げて,要証事実に対する独立の推認力の強弱を評価するという手法を用いて原判決の判断を批判しているにすぎず,検討手法自体において失当といわざるを得ない。
前記所論は採用できない。
所論は,本件ではAの死体が発見されておらず,死の可能性があるにすぎないところ,このような可能性にとどまる事実をもって殺人罪の補強証拠とはなりえないし,死体がない以上,けん銃を用いて弾丸を発射してその身体に命中させてAを殺害したとの事実を補強することができない旨主張する。
しかし,被告人の犯行告白を除く関係証拠から認められる客観的状況に照らしてAが被告人の支配下で死亡したことが推認されるとした原判決の判断に誤りがないことは後記8のとおりであるから,Aの死の可能性があるにとどまるとする所論はその前提を欠き失当である。また,自白を補強すべき証拠は,必ずしも自白に係る犯罪事実の全部にわたってもれなくこれを裏付けるものであることを要せず,自白に係る事実の真実性を保障するものであれば足りると解すべきであり(最判昭和25年10月10日刑集4巻10号1959頁参照),けん銃を用いてAを射殺したとの事実を認定するためには,当該事実に係る被告人の自白が死体によって補強されていなければならない旨をいう所論についても,そのよって立つ解釈自体が採用し得ないものであるから,失当といわざるを得ない。
所論は,補強法則に関し,裁判員に対する説示と丁寧な説明を経た上で,この点に特化した評議が行われた過程が原判決中に示されていない点で,原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるなどと主張するが,裁判員を含む原審の裁判体が関係証拠から認められる客観的事実関係との整合性等を含む諸事情を幅広くかつ慎重に吟味検討して被告人のBに対する犯行告白の信用性等を評価し,最終的に原判示の事実を認定するに至ったことは,その説示からしても明らかというべきであり,そこに補強法則違反は認められないから,前記所論は採用の限りでない。
その他,所論が原判決に補強法則違反があるとしてるる指摘する点をつぶさに検討しても,原判決の認定評価に不当とすべき点は認められない。
論旨は理由がない。
2
原審裁判所がG鑑定を証拠採用した点に対する訴訟手続の法令違反の主張(控訴趣意第2)について
論旨は,要するに,G鑑定には自然的関連性も法律的関連性もなく,証拠能力がないのに,原審裁判所がこれを証拠として採用し,G鑑定に基づいて被告人を有罪としたことは,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反に当たる,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討するに,原判決は,その(別紙2)で説示するとおり,信用性が認められるG鑑定の結果によれば,本件の鑑定資料18点のうち,3点につき人骨である可能性がかなり高いと認められるとした上で,本件焼却炉の設置・管理状況等に照らして,これらが人以外の動物の骨である可能性が現実的に乏しいとみるべきことも併せ考慮して,前記鑑定資料3点が人骨であると認定した。そして,被告人の管理下にあった本件焼却炉から人骨が発見されたという事実は,被告人が本件焼却炉で人を焼却した事実を合理的に推認させるものの,その人骨が誰のものかは不明であるから,同焼却炉でH及びAの遺体を燃やしたという被告人の自白(Bに対する犯行告白)を直接裏付けるものにはなり得ないが,焼却炉で人の遺体を燃やすという容易には信じがたい内容の犯行告白に沿うという点において,前記自白に信ぴょう性を与え,また,本件焼却炉で実際に人を焼くことができ,痕跡を残さないことが可能であるという意味でも,前記自白を支える事情になると評価した(原判決【争点に対する判断】第3の2

エ,第7の2

オ)。

以上のような原判決の説示に論理則,経験則等に照らして不合理なところは見受けられず,G鑑定が自然的関連性ないし法律的関連性を欠く証拠能力のない証拠であるとも認められない。以下,所論に即して補足して説明する。
所論は,仮にG鑑定の信用性が肯定されるとしても,G鑑定によって認められることは,前記鑑定資料3点につき人骨である可能性がかなり高いという可能性にすぎず,それらが誰の骨なのかを示すものでもないことからすると,G鑑定は本件各公訴事実との関係で自然的関連性を欠く証拠であるなどと主張する。
しかし,原判決が説示するとおり,前記鑑定資料3点につき人骨である可能性がかなり高いというG鑑定の結論に加え,本件焼却炉の設置・管理状況等を併せ考慮することによって,前記鑑定資料3点が人骨であり,被告人が本件焼却炉で人を燃やしたことがあるとの事実を合理的に推認することができ,この事実は,被告人の自白を支える一事情とみることができるから,G鑑定が所論のいうような自然的関連性を欠くものとはいえない。
前記所論は採用できない。
所論は,前科証拠の許容性に関する最高裁判所の判例(最判平成24年9月7日刑集66巻9号907頁)を引用するなどして,G鑑定は,その証拠価値が極めて低いのに,事実認定者に与えるインパクトが極めて大きく,事実認定者の心証形成に不当な影響を及ぼし,無用に争点を拡散させる点において,法律的関連性を欠く証拠であるなどと主張する。
しかし,前記判例は,いわゆる前科証拠が被告人の犯罪性向という実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく,そのために事実認定を誤らせるおそれがあることや,前科に係る事実関係や内容等が争われて争点が拡散するおそれもあることなどから,これを被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合の証拠能力に一定の制約を課したものであり,人獣鑑別に関する専門的知見に基づくG鑑定を被告人の自白の信用性を支える証拠と位置付けて採用し,その限度で事実認定に用いた本件とは事案を全く異にするものであるから,同判例と照らし合わせて原判決を批判する所論は当を得たものとはいえない。また,原審の審理経過や原判決の説示をみても,G鑑定を上記の位置付けの限度で使用しており,同鑑定が原審裁判所の心証形成に不当な影響を及ぼしたり,無用な争点の拡散を招いたりしたとの事情も認められない。したがって,G鑑定が法律的関連性を欠く証拠であるなどとはいえない。
前記所論は採用できない。
所論は,本件焼却炉が平成22年9月29日に実施された検証において発見された時点で,本件の鑑定資料が同焼却炉内にあったとは証明されていないから,これらを鑑定資料としたG鑑定は,本件と関連性を欠く証拠である旨主張するが,本件の鑑定資料が本件焼却炉の発見前からその中に存在していたと認められることについては,原判決がその(別紙2)の第2項において適切に説示するとおりであり,そこに論理則,経験則等に照らし不合理な点は認められない。
所論は,本件焼却炉の保存状況が極めて粗雑であったことや,平成22年に本件焼却炉から採取された資料から一度も骨の成分が発見されなかったのに,その5年後に採取された資料から骨の成分が検出されたことの不自然性等を指摘して,G鑑定の鑑定資料の同一性や真正には疑義がある旨主張する。
しかし,関係証拠によれば,本件焼却炉は,平成22年10月8日に警察により押収されて以降,姫路警察署内の大型証拠品保管庫において検証時以外は常時ブルーシートで覆って保管されていたと認められるから,保存状態が極めて粗雑であったとの所論の指摘は当たらないし,同保管庫や本件焼却炉自体が密閉された状態で保管されていなかったとしても,原判決も指摘するとおり,火葬場などは除き,警察署内を含め,本件の鑑定資料である焼けて砕かれた骨ようのもの18点が本件とは無関係に存在し,かつ,それが本件焼却炉内,さらには空気孔内にまで入り込むことは容易に想定し難い。また,当初,平成22年に実施された検証において採取された残渣物から骨の成分が検出されなかったのは,外観的に骨のように見え,ある程度の大きさがあるもの二十数点をピックアップして分析したからにすぎず,平成27年9月に行われた再分析では,同残渣物からも骨の成分であるリン酸及びカルシウム含有物が発見されているし,同検証では本件焼却炉の燃焼室内底面等から残渣物等の採取が行われたのに対し,平成27年に実施された再検証では本件焼却炉を分解した上,平成22年当時に採取していなかった箇所からも採取が行われたのであるから,G鑑定において人骨の可能性が高いとされた3点の鑑定資料のいずれもが再検証で新たに採取された残渣物に由来することが,特段不自然,不合理であるともいえない。前記所論は採用できない。
所論は,G鑑定について,①部位も不明なごく微小な焼骨の断片を組織学的方法のみで鑑別するという点で,先行研究が全くなく,刑事裁判において通常行われていない手法であって,他の研究者による検証が不可能であること,②人獣鑑別の客観的基準がなく,名人芸による全体的観察にすぎないもので,再現性もないこと,③最大の根拠とされるハバース管の大きさと面積比について,鑑定資料と他の動物との間に統計上有意の差が認められないにもかかわらずこれを根拠としていることなどを指摘して,G鑑定は,科学的根拠を欠き,刑事裁判の証拠とすることは許されないものである旨主張する。
しかし,①の点については,関係証拠によれば,G鑑定は,微小で焼骨でもあるという本件の鑑定資料の性状に照らして,形態学的観察や理化学的検査による手法を用いることが困難であったため,ハバース管や二次オステオン(以下オステオンという。)の大きさ,分布の様相等の骨組織像の特徴を総合的に観察するという組織学的方法を採用したところ,原判決も指摘するとおり,その手法は当該分野において一般的に支持されている手法であると認められ,㋐鑑定資料が焼骨である上,その部位が不明でもある点は,異なる見解の研究も含む複数の先行研究を踏まえて収縮率等も検討することにより,㋑鑑定資料が微小である点は,SPring-8を用いた高精度なマイクロX線CT撮影により得られた相当数の骨組織像を観察することにより,それぞれの問題点を克服し得ることについて専門的知見に基づき客観的かつ合理的な説明がなされており,骨組織の観察所見に関する記述とマイクロX線CT画像等が残されていることを併せ考慮すれば,そこに検証可能性がないなどとはいえないし,本件と全く同一条件下での先行研究や刑事裁判で証拠として用いられた前例がなかったとしても,そのことをもって直ちにG鑑定の信用性が揺らぐことにはならない。②の点についても,G鑑定は,一般に認められている骨組織の特徴という科学的根拠に基づき,ハバース管やオステオンの大きさ,分布の様相等を総合的に観察し,論理的に結論を導き出していると認められるから,人獣鑑別の数値的な指標や基準がなく,当該分野における国内の研究者が少ないからといって,科学的正確性,信頼性が担保されないことにはならないし,前記のとおり検証可能性もあることからすれば,再現性のない名人芸にすぎないなどという評価も妥当しない。また,③の指摘についても,G鑑定は,前記のとおり,骨組織像の特徴を総合的に観察するという手法を主柱とするものであり,ハバース管とオステオンの各面積の計測値やそれに基づく面積比の数値については,あくまでも前記観察結果の妥当性を補助するものとして用いられているにすぎない上,これらの数値の分析によっても,前記鑑定資料3点が人骨である可能性が高いとの観察所見を矛盾なく説明できる旨のGの説明には十分合理性が認められる。
前記所論はいずれも採用できない。
その他,所論がG鑑定に証拠能力がないとしてるる指摘する点をつぶさに検討しても,その証拠能力を認めた原判決の認定評価に不当とすべき点は認められない。
論旨は理由がない。
3
原判決がG証言を前提に本件の鑑定資料18点のうち3点が人骨であると認めた点に対する事実誤認の主張(控訴趣意第3)について
論旨は,要するに,前記鑑定資料3点が人骨であるとは認められないのに,G鑑定等に基づきこれを認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討するに,原判決がその(別紙2)において,前記鑑定資料3点が人骨である可能性が高いとするG鑑定が信用でき,本件焼却炉において人以外の陸生中大型哺乳類の動物骨が燃やされた可能性が現実的に乏しいという事情も併せ考慮すると,これらが人骨であると認められる旨説示するところに論理則,経験則等に照らして不合理なところは見いだせず,当裁判所においてもこれを正当なものとして是認することができる。以下,所論に即して補足して説明する。所論は,G鑑定が採用する人獣鑑別の手法は,刑事裁判でほとんど行われておらず,理論的根拠等も証明されていないこと,客観的・数値的基準が存在せず,鑑定の前提条件すら明確でないことなどを指摘して,G鑑定の信用性に疑義を呈するが,前記2

で説示したとおり,これら

はいずれも当を得ない批判であり,採用の限りでない。
所論は,G鑑定が用いた人骨及び獣骨のサンプルと鑑定資料のハバース管の大きさや面積比の数値を対比するなどして,これらの分布状況が広い範囲で重なり合っている上,サンプルの個体数が圧倒的に不足していることやサンプルの個体差に関する先行研究がほとんど存在しないこと等を指摘して,ハバース管の大きさ,面積比等によって人骨か否かを判定することは理論的に不可能ないし極めて困難である旨主張する。しかし,G鑑定がこれらの数値を主な根拠として結論を導き出したものでないことは,前記2

で説示したとおりであるから,所論の指摘は

そもそも当たらないし,G鑑定においては,他の論文で紹介されたデータ等と自身が計測した値とを比較検討するなどして,これらが同様の傾向にあることを確認しているというのであり,サンプルの個体数の多寡によってその信用性が左右されることにもならない。
前記所論は採用できない。
所論は,G鑑定が前提とする条件等について,①焼成によりハバース管とオステオンの面積比が変化しないとの点は先行研究と矛盾する,②部位,性別,年齢等による個体差が人獣鑑別の妨げにならないとの点には科学的根拠がない,などと指摘してG鑑定は信用できないと主張する。
しかし,
①の点について,
所論に沿う見解を述べる先行研究について,
その研究者自身が自らの計測の正確性に留保を付していることからして,これに依拠することはできないとするGの説明に不合理なところは見いだせず,焼成によりハバース管とオステオンが同じように収縮するとのG鑑定を裏付ける近時の研究があるほか,科学警察研究所技官のIが牛骨の焼成に関する自身の研究発表に照らしてG鑑定を支持していることも考慮すると,所論の指摘を踏まえても,G鑑定の正当性は左右されない。また,②の点についても,Gは,自ら作成したデータと先行研究におけるデータを検討し,部位,性別,年齢等が異なる複数のデータをまとめて見ても,人間と動物との違いは歴然としており,そこに個体差があるからといって人獣鑑別の妨げにはならない旨客観的かつ論理的に説明しており,この説明は,骨組織学に関する専門家が集まって執筆した書籍(教科書)において,性別,年齢,部位等に差があることから人獣鑑別が不可能であるとの前提がとられていない旨のIの説明とも整合的であることからして,G鑑定が科学的根拠に欠けるなどとはいえない。
前記所論はいずれも採用できない。
所論は,Gが刑事事件で鑑定を行った経験に乏しいことや,先行研究の結果を根拠なく無視したことなどを指摘して,同人の鑑定能力に疑義を呈するが,刑事事件での鑑定の経験の多寡がその鑑定能力に直結するわけではないし,G鑑定が自己の見解と相反する先行研究についても検討した上で,結論を導いていることは前記のとおりであり,所論の指摘はいずれも失当である。
所論は,G鑑定が特定の動物の骨組織に見られる葉状骨やオステオンの直線的配列がみられないことや,その他人間以外の動物に近い様相が認められないことを根拠に挙げて前記鑑定資料3点を人骨であると推定している点について,これらの事情が人骨であることを推定する十分な根拠にはならないからG鑑定の信用性は否定されるべきであるのに,これを認めた原判決の認定は誤りであると主張する。
しかし,G鑑定は,本件の鑑定資料について認められる前記の特徴に加え,ハバース管の大きさ,オステオンの大きさ,ハバース管とオステオンの面積比等の観察的所見から得られるものを総合的に判断して人獣鑑別を行うという手法を用いて結論を導き出したもので,その手法自体に正当性が認められることは前記2

の説示のとおりであり,葉状骨

やオステオンに直線的配列がみられないことや,ハバース管やオステオンの大きさ,分布の様相等で人間以外の動物に近い様相が認められないことも考慮要素の一つと位置付けた上で総合考慮した結果,本件の結論を導いたG鑑定に不当とすべきところは認められないから,その信用性を認めた原判決の判断に誤りがあるとはいえない。
前記所論は採用できない。
所論は,G鑑定の結果に加え,本件焼却炉において人間以外の陸生中大型哺乳類の動物骨が燃やされた可能性が現実的に乏しい点を併せ考慮して,前記鑑定資料3点を人骨と認定した原判決に対し,E倉庫を利用していた被告人又はJが食べた骨付き肉が本件焼却炉で燃やされた可能性を指摘するなどして,その判断は誤りであると主張する。
しかし,本件焼却炉で弁当のごみを焼却したことがある旨の被告人の供述を前提にしても,弁当のごみに含まれる骨が通常は鶏や魚のものであることについては原判決が説示するとおりであり,その他,本件記録を精査しても,所論が指摘する可能性を含め,陸生中大型哺乳類の動物骨が本件焼却炉で燃やされたことをうかがわせるような具体的な事情は見受けられない。
前記所論は採用できない。
その他,G鑑定等に基づき18点の鑑定資料のうち3点を人骨と認めた原判決の事実認定に誤りがあるとして所論がるる指摘する点をつぶさに検討しても,原判決の認定評価に不当とすべきところは認められない。
論旨は理由がない。
4
H事件についての事実誤認の主張(控訴趣意第4)について
論旨は,要するに,①そもそもHは逮捕監禁行為によって死亡してはいないし,②被告人にはHに対する生命加害目的(殺害目的)もなく,また,③被告人がHの逮捕監禁等についてDと共謀した事実もないのに,これらの事実を認定して,被告人に対してDを含む共犯者との共謀による生命身体加害略取罪及び逮捕監禁致死罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討するに,原判決は,【争点に対する判断】第3で説示するとおり,Hが逮捕監禁行為によって死亡したか否かの点(①)について,まず,本件逮捕監禁行為の態様等をはじめとするHの死亡を推認させる客観的事実や,E倉庫に到着した時のHの様子に関するKの供述等を検討し,これらの証拠関係に照らすと,Hが平成22年4月13日に拉致されてから遠くない時期に死亡していた可能性がかなり高いとした。次に,平成22年春頃に被告人から,E倉庫に到着して寝袋を開けた時にHが死亡しており,その死体をチェーンソーで解体して焼却炉で燃やしたことなどについて打ち明けられたとするBの原審公判供述の信用性について検討し,Bが捜査機関に対して同趣旨の供述を始めた時期等を含む供述の出方,Bと被告人が親しい間柄にあったという人的関係,E倉庫内の血痕の付着状況等の他の証拠による裏付け,その他のB供述の信用性を高める諸事情からすると,Bの供述の不自然性等について種々指摘する弁護人の主張を踏まえても,Bの前記供述は信用できるとした。そして,監禁ビジネスとしてHを拉致し,その後同人を依頼者に引き渡した旨述べる被告人の原審公判供述については,不自然,不合理でおよそ信用できないとして,これを排斥した上,Hが被告人らの逮捕監禁行為によって死亡したと認定した。
また,原判決は,被告人のHに対する生命加害目的(殺害目的)の有無(②)について,平成21年秋頃に被告人から,Dの指示でLを拉致監禁した上,Dの父が殺された真相を聞き出して殺した後,燃やして処分する旨の計画について聞いたとするBの原審公判供述は,その供述の出方や,被告人とBとの人的関係,E倉庫及び本件焼却炉の存在,DのH殺害動機の存在等に照らして信用することができ,また,平成22年2月末頃か3月初め頃に被告人から,拉致殺害計画のターゲットがLからHに変更された旨打ち明けられたとするBの原審公判供述は,HがLと同様にDに狙われる十分な理由があったことや,被告人がKに対しても標的がLからその上司(H)に変わった旨の話をしていたこと,当時の状況に照らしてHを拉致するからには最終的に殺害しようと考えることはごく自然であったとみられることなどの諸事情に照らして信用することができるとした上,Bの供述の信用性を否定する弁護人の主張及び殺害目的を否認する被告人の弁解をいずれも排斥して,本件略取について生命加害目的(殺害目的)を認定した。
さらに,原判決は,本件逮捕監禁等に関する被告人とDの共謀の有無(③)については,Hの監禁場所であるE倉庫の賃借や改装等のために必要とした費用をDが負担していたこと,Dの配下ないし元配下で被告人と直接の関係はなく,被告人の指示に従うような関係にはなかったM及びNが人を拉致するというリスクのある行為にあえて参加していること,Kが被告人として起訴されたH事件の公判においてDの指示で同事件に参加した旨述べるM及びNの各供述がいずれも信用できること,犯行当時,被告人,D及びMの三者間で頻繁に連絡が取り合われていたこと,DにはHを狙う動機がある一方で,被告人にはDとの関係を離れて独自にHを狙う動機がないことなどを指摘した上,Dの指示を否定する弁護人及び被告人の主張ないし弁解をいずれも排斥し,Dが被告人らに対してH事件の遂行等について指示したと認められるとして,被告人とDを含む共犯者との間の共謀を認定した。
以上の原判決の説示に論理則,経験則等に照らして不合理なところは認められず,当裁判所においても,これを正当なものとして是認することができる。以下,所論に即して補足して説明する。
所論は,被告人の犯行告白を内容とするB供述が,長期間,多数回にわたる取調べの過程で作成され,又は非公式の司法取引によって得られた虚偽供述である可能性を指摘する。
しかし,所論の指摘を裏付けるに足る事情は何ら見当たらない上,捜査機関が事実関係について十分把握していなかった時期からBが供述を始め,その後,捜査が進展していく中で,客観的な証拠や関係者の供述によってBの供述内容が裏付けられるに至ったという捜査経過に照らせば,Bの供述が所論のいうような作為的な過程で作成されたものとは考え難いから,所論は採用できない。
所論は,原判決がLの拉致殺害やその後の死体処分等に関する計画を被告人から聞いた旨のBの原審公判供述の信用性を肯定したのに対し,㋐BがL第1事件に係る事実で勾留中に作成された平成23年2月26日付け検察官調書及び同月28日付け警察官調書には,Lの殺害計画や死体の処分計画等に関する記載がなく,㋑B自身が起訴されたL第1事件の公判において,Lを倉庫に連れて行った後の取扱いについて何も聞いていないと供述するなど,Bの供述は目まぐるしく変遷しており,信用することはできないのに,その信用性を認めた原判決は誤りであると主張する。
しかし,㋐の点については,前記各調書に殺害計画や死体処分計画について明示的に記載がなされていないとしても,それらの計画の存在を否定する趣旨の供述が記載されているわけではないから,Bの原審公判供述と捜査段階の供述が直ちに齟齬するものとはいえないし,Bが前記各調書の作成以前から,捜査機関に対して殺害計画や死体処分計画等について供述し,その旨の供述が録取された供述調書(平成23年1月18日付け及び同年2月7日付け各警察官調書)が存在する(原審第2回公判B証人尋問調書101ないし120頁)ことも考慮すると,平成23年1月から2月にかけてのBの捜査機関に対する一連の供述と原審公判供述の根幹部分に変遷や齟齬があるとはいえない。また,㋑の点について,Bは,自分の罪を軽くしたいとの思いから,自らの弁護人と相談の上,殺害計画等については供述しなかった旨説明しているところ(同B証人尋問調書80,81頁),自身の刑事責任を追及される立場にあった当時のBの立場に鑑みると,必ずしも不合理な説明とはいえず,L第1事件で起訴された自身の公判で異なる供述をしていたことによって,Bの原審公判供述の信用性が左右されることにはならない。所論の各指摘を踏まえても,Bの前記原審公判供述の信用性を認めた原判決の評価判断が誤りであるとはいえず,所論は採用できない。
所論は,Bが被告人の依頼を受けてチェーンソーの修理のために六角レンチを届けたというエピソードが被告人の犯行告白に関するBの原審公判供述の信用性を高める理由の一つになるとした原判決の説示に対し,六角レンチに関するBの供述は,その入手元や保管場所,サイズ等に関する点について,捜査段階,Dの公判,原審公判の各段階を通じて変遷を重ねており,信用できないと主張する。
しかし,所論が指摘する諸点は,いずれも供述の細部に関する事項についての変遷等にすぎず,被告人に頼まれて六角レンチを届けたという根幹部分については一貫しているとみることができるし,六角レンチを届ける前提となるチェーンソーを探した点やOの事務所にあった六角レンチがなくなっていたことは,Fの原審公判供述(原審第35回公判F証人尋問調書4ないし6頁,24ないし28頁)によっても裏付けられているから,所論が指摘する事情によってBの原審公判供述の信用性は直ちに左右されない。
前記所論は採用できない。
所論は,被告人が特にきっかけもないのにわざわざ事前にBに対して犯行計画や犯行告白を詳細に述べたというのは不自然であり,Bの原審公判供述は信用できないと主張して,その信用性を認めた原判決を批判する。
しかし,そもそも被告人とBは,平成15年春頃から平成17年3月頃まで,Dの下で共に裏仕事を行い,互いに裏仕事に関する相談をしあう仲であったことに加え,被告人は,Bに依頼してLの行動確認をさせたり,Hに標的を変えた際にも犯行に加わることを誘ったりしたというのであるから,Bに犯行計画について打ち明ける理由やきっかけがないとはいえないし,
原判決が説示するとおり,
その後Oを共同で立ち上げ,
その後も頻繁に顔を合わせるなど親しい間柄で,かつ,当時Dと距離を置くなどしており,裏仕事について打ち明けやすい相手であったBに対し,本件に係る犯行計画について話していたとしても,何ら不自然なこととはいえない。
前記所論は採用できない。
所論は,Hが現在死亡しているとしても,本件逮捕監禁行為と因果関係を有さない事由で死亡した可能性を排斥できないから,逮捕監禁致死罪は成立しないと主張する。
しかし,関係証拠によれば,本件監禁行為の態様は,Hの両手首及び両足に粘着テープを巻き付け,口に粘着テープを貼るなどして寝袋に入れて緊縛するというもので,Hを窒息死等に至らせる危険性の高い行為である一方,Hが突然死する可能性をうかがわせるような持病や既往症等を当時有していなかったこと,被告人のBに対する犯行告白によれば,被告人らが前記のように監禁したHを自動車でE倉庫まで運び,同所に到着して寝袋を開けた時点でHが死亡していたことが認められるところ,このような事実関係に照らせば,Hが本件逮捕監禁を原因として死亡したことが強く推認され,原審記録を精査しても,この推認を妨げるような事情は認められない。
前記所論は採用できない。
所論は,被告人とDの共謀を認めた原判決の認定について,㋐Hの監禁場所であるE倉庫の賃借等に要した費用をDが負担していたことを根拠の一つに挙げた点は,その裏付けとされる裏帳簿(チョモランマ)の記載が虚偽であることから誤りである,㋑Kが被告人として起訴されたH事件の公判においてDの指示で同事件に参加した旨述べるM及びNの各供述がいずれも信用できることを根拠の一つに挙げた点は,同人らの供述が警察の強引な取調べを受け,恐怖心や迎合心が残っている状態でなされたもので,信用できないことから誤りである,などと主張する。
しかし,Dが経営するパチンコ店の売上げ管理をしていたPによるチョモランマ作成の経緯やその記載内容についての説明が信用できること,M及びNの前記各供述が相互に一致している上,電話の発信履歴等との整合性もあり,その内容に合理性も認められ信用できることは,原判決が【争点に対する判断】第3の4

及び同

においてそれぞれ詳細

に説示するところ,当審において関係証拠を改めて検討しても,その評価判断に誤りがあるとはいえない。
前記所論は採用できない。
その他,
所論がH事件についてDとの共謀による生命身体加害略取罪,
逮捕監禁致死罪が成立しないとしてるる指摘するところをつぶさに検討しても,原判決の認定評価に不当とすべきところは認められない。論旨は理由がない。
5
L第2事件(殺人)についての事実誤認の主張(控訴趣意第5)について
論旨は,要するに,被告人がLを黙らせようと考えてその頸部に圧迫を加えた結果,同人を死亡させるに至ったのであり,被告人の行為につき殺人の実行行為性や殺意はなく,また,被告人とDとの間でLを殺害することについて共謀した事実もないのに,これらの事実を認定して,被告人に対してDとの共謀によるLに対する殺人罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討するに,原判決は,【争点に対する判断】第4で説示するとおり,Lの遺体を解剖したQ医師の解剖所見から,Lの死因が頸部圧迫による窒息死であり,その頸部圧迫の態様は,長さのある幅の広い柔らかい物及び手指で最短でも2~3分間頸部を強い力で圧迫していたと認められることに加え,その際Lが拘束されるなどして抵抗することがほぼできない状態にあったことも併せ考慮すると,被告人の行為は客観的にみてLを死亡させる危険性の高い行為といえ,被告人が当時その危険性を認識していたことは明らかであるとした。また,関係証拠に照らして,Lの殺害に先立つ逮捕監禁(L第2事件(逮捕監禁))の首謀者はDであり,その目的は,Dの父が殺された本当の事情を聞き出した上でLを殺害することにあったと認められるところ,その逮捕監禁行為中に被告人がDの指示もないままにLを殺害することはあり得ず,犯行当時Dと被告人が頻繁に連絡を取り合うなどDが被告人に対して殺害を指示することが可能な状況にあったことからすると,被告人がDの指示でLを殺害したと認められるとして,被告人とDの共謀の事実についても認定した。
以上のような原判決の説示に論理則,経験則等に照らして不合理なところは認められず,当裁判所においても,これを正当なものとして是認することができる。以下,所論に即して補足して説明する。
所論は,Lがその頸部を長さのある幅の広い柔らかい物及び手指で圧迫されたとするQ医師の解剖所見に対し,①Lの頸部にその前面から左右両側面の首の後ろ側外寄りに至るまで比較的幅の広いまだらのうっ血が見られたことをその根拠の一つに挙げる点については,仰向けの状態で発見されたLの遺体が,解剖までの間に何らかの事情で頸部左側面部が下側になるような形で運ばれたり安置されたりしたことによって生じた死斑も含まれている可能性があるから,まだらのうっ血の全てがうっ血であるとはいえない,②仮に,まだらのうっ血が死斑ではなくうっ血であったとしても,被告人が前腕を使って布の上からLの頸部の前面,右側面,左側面を順に圧迫するか,手の指でLの左頸部を圧迫したことによってこれが生じた可能性があるから,まだらのうっ血を根拠に圧迫態様を確定することはできない,③まだらのうっ血と重なる位置に皮膚内出血や表皮剥離が散在していたことをその所見の根拠の一つに挙げている点については,これらの痕跡がLを逮捕監禁する際に生じた可能性がある上,指による圧迫と説明できる痕跡が他に存在することからしても不当である,④うっ血の上縁がはっきりしないことや,ひも等が頸部を1周した痕跡がないことからすると,長さのある幅の広い柔らかい物で頸部が圧迫されたとは考えられない,などと前記解剖所見の問題点を指摘して,同解剖所見に基づいてLに対する頸部圧迫の態様を認定した原判決は誤りであると主張する。
しかし,①の点については,原判決が説示するとおり,Lの死亡から解剖まで少なくとも1日程度を要していることからして,解剖時において死斑がまだらに出ていたとは通常考えにくいところ,Lの遺体の左半身を下側にした状態で運搬,安置することは,安定性を欠くことからも通常想定し難く,また,解剖時に同遺体の首だけ左に曲がった状態ではなかった(原審第34回公判Q証人尋問調書65頁参照)ことに照らすと,所論の指摘する可能性は具体的根拠に欠ける抽象的なものにすぎないというべきである。②の点については,被告人が前腕を使って所論が指摘するような態様でLの頸部に順次圧迫を加えることが,Lの当時の身体拘束の状況に照らして相当不自然で無理があることは原判決が適切に説示するとおりである。また,所論は,Q医師作成の鑑定書中の記載を引用し,Lの前頸部左側にある5条のうっ血部が手の指で圧迫された痕跡である可能性を指摘するが,所論が引用する鑑定書の記載部分は原審記録に現れていない上,Q医師は,手指での圧迫も認めているところ,その根拠としては,左前頸外側部に限局的な皮下出血があり,右側頸上部やや後ろに限局的な表皮剥脱があることを指摘していて(同Q証人尋問調書19,20頁参照),所論指摘の部分を指で圧迫した痕跡であるなどとは指摘しておらず,弁護人請求の原審証人R医師も,Q医師が作成した鑑定書を確認した上で,頸部圧迫の態様を手指での扼頸であると説明しているが,所論指摘の部分を指での圧迫痕であるなどとは指摘していないことからすると,所論指摘の部分が4本の指で圧迫したことによって形成されたとは認められない。③の点については,皮膚内出血や表皮剥離が頸部圧迫とは別の機会に生じたという可能性を直ちに否定できないとしても,まだらのうっ血に重なるという位置関係に照らして,頸部圧迫の際に生じたとみるのが自然であるし,前記解剖所見も手指による圧迫が併せて加えられたことを前提としているのであるから,他の場所に手指による圧迫によって生じたとみられる痕跡があることが,前記解剖所見の正当性を何ら左右するものではない。④の点についても,Q医師は,所論が指摘する事情も踏まえて,うっ血の状態や位置関係,その他の痕跡等の遺体に残された種々の痕跡を総合的に考慮して,前記解剖所見を導いているのであり,その説明内容に不合理な点は認められず,Lを実際に解剖した専門家の意見として十分信頼できるものと認められる。
前記所論はいずれも採用できない。
所論は,原判決が被告人の殺意を認定するに当たり,Lの甲状軟骨を骨折させるような強い力でその頸部を圧迫したことを根拠の一つに挙げた点について,Lの甲状軟骨の石灰化の程度が証拠上判然としない以上,どの程度の力が働いたかを推測することはできないのであるから不当であると主張して原判決を批判する。
しかし,Q医師が作成した鑑定書中には,Lの解剖の際にその甲状軟骨に石灰化を認めた旨の所見が記載されておらず(同Q証人尋問調書18頁参照),Lの年齢に照らして甲状軟骨は柔らかいままであった可能性が高いとする同医師の見解の正当性に疑義を差し挟ませるような事情も見当たらないこと,また,甲状軟骨付近の筋肉,結合組織の出血を伴っていることからすると,甲状軟骨の石灰化の程度に個人差があり得るとしても,相応に強い力でLの頸部が圧迫されたため,甲状軟骨が骨折したとみるのが相当である。よって,原判決が被告人の殺意を認定するに当たり,抵抗できない状態のLの頸部を最低でも2~3分間圧迫を加え続けたこと等の事実関係に加え,甲状軟骨が骨折するような強い力にまで至っていた点も併せて考慮したことが誤りであるとはいえない。前記所論は採用できない。
所論は,Lが窒息ではなく不整脈で死亡した可能性があるというが,本件の死因が不整脈であることを示す根拠はなく,頸部圧迫を示す形態的な所見から合理的に推測すると頸部圧迫による窒息死と判断するのが相当である旨のQ医師の見解(同Q証人尋問調書56ないし58頁)は,専門的知見に基づく合理的かつ説得的なものであるし,前記R医師においても,本件の死因が不整脈による心肺停止であることを否定できないとしつつも,頸部圧迫による窒息死の所見を左右させるには至らない旨証言している(原審第34回公判R証人尋問調書33,40頁)ことも併せ考慮すると,Lが不整脈で死亡したとする所論は,一般的,抽象的な可能性を指摘するにとどまるものといわざるを得ない。
前記所論は採用できない。
所論は,Lを死に至らしめた経過について,大声で騒ぐLを黙らせようと無我夢中でその頸部を押さえつけた旨説明する被告人の原審公判供述は,緊急状況の下で無我夢中で行った行動として必ずしも不合理な内容とはいえないのに,これを信用することができないとして排斥した原判決の認定評価は不当であると主張する。
しかし,Lの頸部の圧迫態様に関する被告人の説明は,信用できるQ医師の解剖所見と整合しない上,大声を出したLを黙らせるための方法として不自然であることは原判決が適切に説示するとおりである。加えて,手首と足首と膝をインシュロックで固く拘束した上,更に手首と膝のインシュロックを繋げた状態のまま,横向きに倒れていたLの心臓付近を押さえる形で心臓マッサージをしたとする被告人の説明(原審第32回公判被告人供述調書127ないし138頁)も不自然である上,捜査段階でそのような説明がなされていないことなど,被告人の供述には,重要な部分において不自然,不合理な点が多々見受けられることを併せ考慮すると,被告人の前記供述の信用性を否定した原判決の評価は正当というべきである。
前記所論は採用できない。
所論は,
Lの殺害について被告人とDの共謀を認めた原判決の説示中,
①DがもともとLを殺害する計画を有しており,
L第2事件
(逮捕監禁)
当時も変わらずその意図を有していた点を根拠の一つに挙げている点については,そもそもそのような事実はいずれも認められないし,②犯行当時Dと被告人が頻繁に連絡を取り合っていたことを根拠の一つに挙げている点については,被告人がLを意図せず死亡させてしまったため,Dと対応を相談していたにすぎず,共謀を裏付ける事実関係とみることはできないなどと主張して原判決を批判する。
しかし,①の点については,関係証拠に照らしてDがもともとLを殺害する意図を有していたと認められることについては,前記4で説示したとおりであり,その意図が本件逮捕監禁に至るまでの間に解消されたことをうかがわせるような事情も見当たらないから,Dが当初から抱いていたLを殺害する意図がL第2事件(逮捕監禁)当時まで継続していたと認めた原判決の認定評価に誤りはない。また,②の点については,被告人自身が原審公判廷において,DにL死亡の連絡をしたのは午後10時19分のNからの電話以降である旨供述して,Lが死亡した事態の対処について相談するためDと頻繁に連絡を取り合っていたなどと説明してはおらず(同被告人供述調書108ないし111頁),所論の指摘はその前提を欠く。
前記所論はいずれも採用できない。
その他,所論がL第2事件(殺人)について原判決に事実誤認があると主張してるる指摘する点をつぶさに検討しても,原判決の認定評価に不当とすべきところは認められない。
論旨は理由がない。
6
J事件についての事実誤認の主張(控訴趣意第6)について
論旨は,要するに,監禁されることについてJが承諾していたのにそのような事実はなかったと認定し,被告人がJの監禁についてDと共謀した事実はないのにこれを認定した原判決の判断はいずれも誤りであり,
原判決には,
判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,
というのである。
そこで,原審記録を調査して検討するに,原判決は,【争点に対する判断】第5で説示するとおり,Jが監禁されることについて承諾していたか否かの点について,約1か月間,E倉庫内の箱様の小室内に閉じ込められるなどして,外部と自由に連絡を取ることもできず,劣悪で不衛生な環境の中で生活させられていたという本件監禁の態様のみからしても,Jが監禁されることを承諾していたとは考えにくく,Jが原審公判廷において,E倉庫に着いた際の恐怖や,監禁中に餓死しそうになった時の苦痛等について述べつつ,監禁を承諾したことはないと供述するところは,前記監禁態様に照らして自然で信用性が高いとした上,Jが本件監禁について承諾していたとする弁護人及び被告人の主張ないし弁解について検討し,いずれについても排斥してJが監禁されることについて承諾してはいなかったと認定した。
また,原判決は,Jの監禁についての被告人とDの共謀の有無については,Dが約1か月間,費用も手間もかけて被告人らにJを捜索させるなど,同人に対する執着がうかがわれる捜索状況に照らすと,これに引き続いてなされた本件監禁についてもDの指示があったと推認されること,Dが監禁中のJの動きをよく把握していたことに照らして,犯行への関与が推認されること,被告人がJを監禁したE倉庫がDの費用で準備されたことは,DがJの監禁に深く関わっていることを示す事情であること,DにはJを連れ戻し,制裁を加えるなどの動機があることなどの事情を指摘した上,Jの監禁についてDの指示があったことを否定する弁護人及び被告人の主張ないし弁解を検討し,いずれについても排斥して被告人とDとの間の共謀を認定した。
以上のような原判決の説示に論理則,経験則等に照らして不合理なところは見受けられず,当裁判所としても,これを正当なものとして是認することができる。以下,所論に即して補足して説明する。
所論は,Jが解放された時に容易に逃げることができる状況にあったのに,直ちに逃走を図らなかったことや,解放後にDの下で再び働くことを選択したことなどからすると,Jが監禁されることを承諾していた合理的疑いが残ると主張する。
しかし,Jは,原審公判廷において,①逃走を図らなかった点については,当時場所も分からず,体調面でも一人で歩けず,逃走することが不可能な状況にあり,解放すると言っている被告人に従っていれば家に帰れると思っていたからであると説明し,②Dの下で再び働くことを選択した点については,Dから直ちに当時居住していた兵庫県から出ていくか,Dの下で半年働いてから縁を切るかの二者択一を迫られ,家庭の事情から県外に出ていくことはできず,できるだけ穏便にDとの関係を断ち切るために後者を選択したと説明して,逮捕監禁されることを承諾してはいなかった旨供述しているところ,これらの供述は,Jの当時の境遇に照らして,合理的かつ自然な内容であり,十分に信用することができる。所論の指摘を踏まえても,Jが監禁されることを承諾していなかったとの原判決の認定に合理的疑いを容れる余地はない。
また,所論は,DがJに執着しており,Jを連れ戻すなどの動機があったからといって被告人とDの共謀があったとまではいえず,DがJの動向を確認していたのも,たまたまにすぎないとも解し得ると主張して,被告人とDの間の共謀を認めた原判決を批判するが,これらの所論の指摘を踏まえて,当審において原審記録を改めて検討しても,被告人とDの共謀を認定した原判決の判断に不当とすべきところは認められない。
所論はいずれも採用できず,論旨は理由がない。
7
A第1事件についての事実誤認の主張(控訴趣意第7)について
論旨は,要するに,被告人は,そもそもAを逮捕監禁していないし,Aを逮捕監禁することについてDと共謀もしていないから,A第1事件について被告人は無罪であるのに,これらの事実を認定して被告人に対してDとの共謀による逮捕監禁罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討するに,原判決は,【争点に対する判断】第6で説示するとおり,被告人によるAの逮捕監禁行為の有無について,まず,AがCマンションへ来るまでの経緯等に関し,DがAの経営する会社に対して貸し付けた10億円の債権回収状況や,その債権回収に介入してきたSグループとDの攻防状況,被告人がAを連れて平成21年4月13日未明,Cマンションに入ったこと等を認定し,Cマンションにおけるその後のAの状況等に関し,Nが被告人に依頼されて同月19日から20日頃にかけてCマンションの一室で鉄パイプ檻を製作し,同日頃から同年5月中旬までの間に3回にわたり,被告人が不在の時にCマンションを訪れた際,鉄パイプ檻に入れられたAを目撃したこと,Aが同年6月1日までにはCマンションからいなくなっていたこと等を認定し,これらの事実からすれば,Aが同年4月20日頃から同年5月末頃まで,Cマンションの鉄パイプ檻に入れられていたことが推認されるとした。また,C事務所や同所におけるAの状況等に関し,Nが,Dの指示で,C事務所において構造上人を一定期間閉じ込める機能等を備えた二重檻を製作したこと,Bが被告人からAを殺害するためE倉庫へ同人を移動させるのを手伝ってほしいとの依頼を受け,平成22年6月13日,C事務所に赴いたところ,前記二重檻から目隠しと手錠をされたAが出てくるのを目撃したことを認定した上,これらの事実関係に加え,被告人がAを姫路に連れてきた直後から,妻や知人に対してブルートゥースの方法で連絡をさせていたことや,Aが京都から姫路に連れて来られる自動車内でアイマスクをさせられていたことなど,Aが自由に行動することができなかった状況を示す諸事情を併せ考慮すると,Aが平成21年4月20日頃から平成22年6月13日までの間,Cマンション及びC事務所において,檻に入れられるなどして行動の自由を奪われていたことが強く推認されるとした。そして,平成21年5月か6月頃に被告人からAを監禁している旨の話を聞き,その後も何回か引き続き監禁している旨を聞いたと述べるBの原審公判供述の信用性を検討してこれを肯定する一方,Aの監禁の事実を否認する弁護人及び被告人の主張ないし弁解を検討していずれも排斥した上で,原判示のとおり,被告人がCマンションやC事務所等においてAを逮捕監禁した事実を認定した。
また,原判決は,Aの逮捕監禁についての被告人とDとの共謀(Dの指示)の有無について,被告人を含めてAの逮捕監禁に関与した者全てがDの配下である上,NがDの指示又は承諾のもと鉄パイプ檻及び二重檻を製作してDから費用の支払を受けたり,ブルートゥースの方法が開発されたのもDの指示によるもので,MがDの指示のもとAの通話を中継したりするなど,Aの監禁にDの強い関与があったと認められること,平成21年4月当時,DはAとの間で金銭トラブルを抱えており,Aの身柄を確保する動機を有していたとみることができる一方,Aと直接の関係がなかった被告人において,Aを逮捕監禁する動機があったとはうかがわれないことなど,Dの指示を推認させる事情を指摘した上,Dの指示を否定する弁護人の各主張を検討していずれも排斥し,DがAの逮捕監禁を指示した事実を認定した。
以上のような原判決の説示に論理則,経験則等に照らして不合理なところは認められず,当裁判所においても,これを正当なものとして是認することができる。以下,所論に即して補足して説明する。
所論は,AがCマンションにおいてリビングでくつろぐなど自由に行動していた様子を見たことや,Aが京都から姫路に向かう途中,アイマスクを着けていたかどうか分からないなど,Aの逮捕監禁の事実を否定する方向に働き得る事情について述べるNの原審公判供述の信用性を否定した原判決の評価は誤りであると主張する。
しかし,Nの前記供述を前提にすると,Aが普段は被告人と共同生活をして自由に行動しながら,檻に閉じ込められることもあったということになるが,このような状況は,不自然,不合理というほかない。この点につき所論は,SグループからAを奪還されることを防ぐため,被告人が不在時にはAを檻に入れていたとの可能性を主張するが,被告人自身がそのような説明をしているわけではないし,仮にSグループからの奪還を防止する必要があるというのであれば,まずは玄関や室内扉の鍵の強化,警報器の設置等の侵入防止策を講じるのが通常と考えられ,室内で檻に閉じ込めるという極めて特異な方法によることは一般的に想定し難いというべきであるから,結局,所論は具体的な裏付けを欠く抽象的な可能性を指摘するにすぎない。また,Aの逮捕監禁についてN自身が被疑者として検察官から取調べを受けた際,自分の責任を軽くしたいとの思いがあったというのに,檻に入っているAに3回弁当を渡した旨を供述しながら,Aがリビングでくつろいでいたという監禁を否定する方向に働き得る事情について供述しなかったというのはいかにも不自然であり,この点について合理的な説明がなされていないことは原判決が適切に説示するとおりである。加えて,Nが捜査段階から供述を変遷させた理由についてみても,Dの公判での証人尋問において検察官から不意打ちの質問をされたので,その仕返しという意味を込めて,自分も何か不意打ちをしてやろうと思い,本当のことを必死で思い出して供述したなどと,およそ合理的とはいえない説明に終始している(原審第44回公判N供述調書121,122頁参照)ことも併せ考慮すると,Nの前記公判供述の信用性を否定した原判決の判断は正当であり,そこに何ら誤りは認められない。
前記所論は採用できない。
所論は,二重檻から目隠しや手錠をされたAが連れ出されるのを目撃した状況や,被告人からAを監禁している旨の話を聞いたことについて述べるBの原審公判供述について,①前記4
情に加え,②
経路,

ないし

OからC事務所へ向かう経緯や,

C事務所のシャッターの有無,

で指摘した諸事

C事務所からTへの

C事務所の二重檻の構造,

C事務所の二重檻から出てきたAを車に乗せた人物等に関し,捜査段階から種々変遷していること,③被告人からAの運搬を手伝うよう頼まれ,間もなく自動車を運転することが分かっていながら,兄を呼び出して飲酒していたとする説明はいかにも不合理であることからすると,その信用性は否定されるべきであるのに,これを肯定した原判決の判断は誤りであると主張する。
しかし,①の点について所論が採用できないことは,前記4
ないし

で説示したとおりであり,A第1事件についても,Bが,捜査機関において事実関係を把握していなかった平成23年1月頃から供述を始め,
その後の捜査によって,
Bが供述した二重檻の設置状況やその構造,
階段室の存在等が裏付けられるに至っていることなどからすれば,Bの供述は十分に信用し得る。②の点については,そもそも変遷しているといえないか,供述の細部にわたる些細な事項の変遷に過ぎず,供述の信用性を左右させるような事情とはいえない。すなわち,

については,

Bがエルグランドを運転してOからC事務所に行った点は一貫しており,被告人と一緒に2台の車でC事務所に行ったのか,被告人が先にC事務所に行っていたのかは周辺的な事情に過ぎないし,
事項の変遷に過ぎない。



は些細な

について,Bは,平成23年6月頃には木箱

の中に鉄格子があった旨,原審公判と同旨の供述をしており(原審第47回公判B供述調書25,26頁),平成26年当時に鉄格子の方が外だったと思う旨を供述しているものの,同時に,逆だったかもしれないとも供述しているのであって,その間の日時の経過を考慮すると,一時期記憶があいまいになったというにすぎず,これをもって供述に変遷があるとはいえない。

についても,C事務所2階の二重檻から出て1階

に停められたエルグランドに乗せられるまでのAの様子に変遷があるわけではなく,階段を下りる際に手を引いたのは被告人かBかという点に関する変遷であって本質的な事実に関する変遷とはいえない(なお,Bは,

について,平成23年6月28日に行われた実況見分の際に

自己の記憶違いに気づき,その後訂正を申し立てている。)。③の点についても,当時飲酒運転を日常的にしていたというBの説明がさほど不自然,不合理であるとはいえないことは,原判決が適切に説示するとおりである。
所論はいずれも採用できず,その他,所論がBの前記原審公判供述が信用できないとして種々指摘するところを検討しても,その信用性を肯定した原判決の判断に誤りがあるとは認められない。
所論は,原判決がAの逮捕監禁について被告人とDの共謀を認定するに当たり,被告人にAを逮捕監禁する固有の動機があったとはうかがわれないことを根拠の一つに挙げた点に対し,被告人がA第1事件及びA第2事件について原審公判廷で黙秘したことから固有の動機が明らかとならなかったにすぎず,Dとの共謀を認める積極的な根拠とはならないなどと主張する。
しかし,原審記録を精査しても,被告人において,Dからの指示等もないのに,自ら刑事責任を問われ得るような危険を冒してまで,あえて本件のように特殊で経済的,物理的な負担も大きい態様でAを長期間逮捕監禁するような動機や理由はおよそ見いだし難いから,原判決の前記評価に誤りはない。
前記所論は採用できない。
その他,所論がA第1事件について原判決に事実誤認があると主張してるる指摘する点をつぶさに検討しても,原判決の認定評価に不当とすべきところは認められない。
論旨は理由がない。
8
A第2事件についての事実誤認の主張(控訴趣意第8)について
論旨は,要するに,被告人は,①そもそもAを殺害していないし,②Aを殺害することについてDと共謀もしていないから,A第2事件について被告人は無罪であるのに,これらの事実を認定して被告人に対してDとの共謀による殺人罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。
そこで,原審記録を調査して検討するに,被告人によるAの殺害の事実の有無(①)についての原判決の判断の要旨は,前記1
に記載のと

おりである。また,Aの殺害についてのDとの共謀(Dの指示)の有無(②)については,原判決は,【争点に対する判断】第7で説示するとおり,Aの逮捕監禁がDの指示で行われたものであり,被告人がDの配下であることなどからしても,Dの指示なしに独断でAを殺害するとは考えられないこと,Aの殺害から近い時期にDから被告人に対して100万円という相当額の金銭が交付されていることはDからの指示があったことを推認させることを指摘した上,Bが被告人からDの指示でAを殺害して報酬を受け取ったと打ち明けられたとの供述及びその打ち明け話の内容の信用性を認め,Aの殺害についてDの指示があったと認められるとして,被告人とDとの間の共謀を認定した。
以上の原判決の説示に論理則,経験則等に照らして不合理なところは認められず,当裁判所においても,これを正当なものとして是認することができる。以下,所論に即して補足して説明する。
所論は,AがSグループから身を隠すために妻とも連絡を取らず,身分を偽って生活を続けているとしても何ら不自然ではないのであるから,生存痕跡がないからといって,Aが死亡したとはいえないと主張する。
しかし,Aが家族等との関わりを一切断ち,警察に連絡することもなく,なおも生活し続けていることがおよそ想定し難いことは原判決が適切に説示するとおりであり,現在もなお身柄を拘束されるなどして生存している可能性は考え難いから,結局,所論は抽象的な可能性を指摘するにすぎない。
前記所論は採用できない。
所論は,被告人から犯行計画や犯行告白を聞いたとするBの供述は,㋐Aの血痕や凶器として使用されたとするけん銃,遺体を解体するのに用いられたとするチェーンソー等の客観的な裏付け証拠に欠けること,㋑Bの捜査段階の供述調書(平成23年2月7日付け警察官調書,同年6月16日付け警察官調書,同月17付け検察官調書,同月21日付け検察官調書)中に,被告人から事前にA殺害計画を聞いたとする記載がないことから信用できないと主張する。
しかし,㋐の点については,原判決が適切に説示するとおり,A殺害の痕跡やこれを裏付ける物品を処分して隠滅することがさほど困難なことではなく,これらが発見されていないことによりBの供述の信用性が直ちに左右されることにはならない。また,㋑の点については,Bは,捜査官に対してA事件について供述し始めた平成23年1月頃,別件(盗品等無償譲受け,強盗致傷,逮捕監禁)に係る事実で勾留中の身であった上,L事件を始めとする他の複数の事件の捜査が同時並行的に進行している中で,A事件についてはBの供述を裏付けるような証拠等が発見されておらず,立件の目途が立っていなかった(原審第10回公判U証人尋問調書6頁,同第38回公判U証人尋問調書9,10,31,32頁参照)という捜査の進捗状況にも照らすと,A事件について詳細な供述調書が作成されていないことが不自然,不合理であるとはいえないから,所論が指摘する事情によって,被告人から犯行計画や犯行告白を聞いたとするBの供述の信用性は何ら左右されない。
前記所論はいずれも採用できない。
所論は,原判決が被告人の自白(Bに対する犯行告白)を裏付け又は支える事実として挙げた事情につき,㋐被告人からけん銃を預かり保管したことや,被告人と共にけん銃を試射したことを述べるBないしFの原審公判供述は,試射した時期に変遷が見られ,信用できない,㋑Dの指示で被告人に100万円を渡したとするPの原審公判供述は,100万円の受渡しがわざわざ同人経由で行われたとする点等において不自然であり,信用できない,㋒E倉庫のフックの存在は,Aの殺害を推認させるような事情には当たらないと主張して,原判決を批判する。しかし,㋐の点については,B及びFは,当初は肌寒い時期の出来事であったとの印象から平成22年1月又は2月頃と供述していたが,Vに捜索が入ったことからけん銃を返したことを覚えていたので,その後,Vに対する捜索の時期を捜査官に調べてもらい,それが同年5月末頃であったことから,その時期から逆算する形で記憶を喚起して前記の試射の時期について供述を修正した旨説明しており,記憶喚起のきっかけとして納得できるものであり,肌寒い時期という当初の印象と平成22年4月か5月頃又は同年春頃とする訂正後の供述内容との間に特段の乖離がみられないことからすると,両名の供述の変遷に合理性を認めた原判決の評価が誤りであるとはいえない。また,㋑の点についても,原判決が適切に説示するとおり,Pにおいて,Dから報復される危険を冒してまで,あえてDに不利益な虚偽の供述をする動機は見当たらない上,Dが被告人との直接の接触を控え,当時金庫番であったPを介して報酬を渡すことが何ら不自然なこととはいえない。さらに,㋒の点については,フックの存在自体をもってAが殺害されたという事実が直ちに推認されるものではないが,被告人の自白(犯行告白)の内容と整合する痕跡が現場に残されていたとみることはできるのであるから,フックの存在を被告人の犯行告白の信用性を支える事情と位置付けた原判決の評価に誤りはない。
前記所論はいずれも採用できない。
所論は,原判決が被告人とDの共謀を認めた根拠の一つとしてDから被告人に対する100万円の交付の事実を挙げた点に対し,被告人がわずか100万円でDのためにAを殺害するとはおよそ考え難い旨主張して原判決を批判する。
しかし,被告人が20歳頃にDと知り合って一緒に遊ぶようになり,平成15年に刑務所を出所後,一時中断していた時期を挟んで,Dの下で一定額の報酬を受け取って裏仕事に従事してきたという経緯やDとの人的関係に照らすと,100万円という金額がAを逮捕監禁して殺害した報酬として低額過ぎて不合理であるということまではできず,この点を被告人とDの共謀の根拠の一つに挙げた原判決に誤りがあるとはいえない。
前記所論は採用できない。
その他,所論がA第2事件について原判決に事実誤認があると主張してるる指摘する点をつぶさに検討しても,原判決の認定評価に不当とすべきところは認められない。
論旨は理由がない。
9
量刑不当の主張(控訴趣意第9)について
論旨は,要するに,被告人を死刑に処した原判決の量刑は重すぎて不当である,というのである。
そこで,原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討するに,本件は,被告人が,①いずれもDと共謀の上,Dと金銭トラブル関係にあったAを約1年2か月間,マンションの一室内に設置した檻などに閉じ込めて逮捕監禁し(原判示第1),その後,同人をけん銃で射殺し(原判示第2),②Dほか3名と共謀の上,Dの父の死に関わった人物とみていたHをその生命に対する加害目的で略取した上,自動車内にその身体を緊縛した状態で閉じ込め監禁したところ,これら一連の逮捕監禁行為によって同人を死亡させ(原判示第3),③Dと共謀の上,約1か月間,Dが経営するパチンコ店から逃げ出した従業員であるJを倉庫内に設置された箱様の小室等に閉じ込め逮捕監禁し(原判示第4),④Dと共謀の上,かつてDの父を襲って死亡させたLの頸部を長さのある幅の広い柔らかい物及び手指で圧迫して殺害した(原判示第5)という事案である。
原判決は,まず,本件各犯行の悪質さ及び結果の重大性等について検討し,各犯行の経緯や態様の悪質性,犯意の強固さや計画性の高さ,各被害者に落ち度がないこと,各被害者の苦痛や遺族の処罰感情の厳しさ等,
それぞれの犯行について認められる犯情を各指摘した上で,
本件は,
別々の機会に2名が殺害され,被告人らの逮捕監禁行為が原因で1名が死亡するという3名の人命が犠牲となった事案を含み,結果は誠に重大で経過も悪質である上,各犯行の悪質性も際立っているとした。次に,被告人の役割,被告人自身の犯行動機及び被告人と首謀者との関係について検討し,被告人は,Dの犯行計画に沿った準備行為や他の共犯者等の関係者への指示等を中心になって行い,自分一人で各殺人の実行行為や遺体の処分を行うなど,実行役の中核的存在であり,各犯行において果たした役割は重要かつ必要不可欠のものであったこと,経済的利益を得るため,またはそれを期待してDの指示に従い本件各犯行を行ったと認められ,Dと完全な上下関係にあり,Dから暴力を受けていたこともあるが,Dから精神的に支配されるとか暴力等により強制されて本件各犯行を実行させられたのではなく,あくまで自らの意思で各犯行を実行したと認められることを指摘した上,被告人がDとの関係では従的立場で犯行に関与し,Dに利用されていた面があるにしても,自らの意思で専ら経済的利益を得るためDに従い,犯行遂行にとって重要かつ必要不可欠な役割を繰り返し果たした点に鑑み,ほかに首謀者がいることが被告人の責任を殊更減じる事情にはならないとした。そして,これらの事情からすると,被告人の刑事責任は極めて重大で,本件は過去の量刑傾向に照らしても死刑の選択が考慮されるべき事案であり,加えて,被告人が関連事件も含めて複数の罪で服役したにもかかわらず,不合理な弁解を繰り返し,事件に向き合おうという姿勢や反省の情も見受けられないなど,被告人に更生の兆しが認められないことを併せ考慮すると,死刑が究極の刑罰であって,その選択が慎重でなければならないとしても,罪刑均衡及び一般予防の両見地から,被告人に対しては極刑をもって臨むほかないとして,被告人を死刑に処した。
以上のような原判決の説示に,量刑不当を導くべき認定評価の誤りや,重要な事情の見落としはなく,原判決が指摘する各事情,殊に,Dの指示に基づくものとはいえ,
被告人は,
Hに対する逮捕監禁致死事件,
Aに対する殺人事件,Lに対する殺人事件と犯行を重ね,2名を殺害するとともに1名を死に至らしめるなど重大な結果を生ぜしめていること,殺害の態様も,A第2事件では,理不尽な理由からけん銃で射殺するなど冷酷なものであり,L第2事件では,拉致に失敗した後もLを狙い,証拠隠滅のための焼却炉等も準備した上で犯行に及び,手足を拘束された状態のLの頸部を圧迫して殺害するなど計画的で執拗なものであって,いずれも強固な殺意に基づくものであること,各被害者には被害に遭わなければならないような落ち度は認められず,遺族の被害感情も厳しいこと,本件各犯行の首謀者はDであり,Dとの関係では,被告人は従属的立場にあったといえるものの,被告人自身も報酬を得るため,あるいはこれを期待して,自らの意思で犯行に関与し,D以外の共犯者間では中心となり,また,A,Lの殺害を単独で行うなど,実行犯の中で重要な役割を果たしたことなどに照らせば,被告人の刑事責任は極めて重く,被告人に有利な方向に働き得る事情を十分考慮しても,原判決が死刑を選択したのは誠にやむを得ないものといわざるを得ず,当裁判所においてもこれを是認するほかない。
所論は,首謀者であるDが本件に関連する事実によって神戸地方裁判所姫路支部において無期懲役刑を言い渡されたとの事実を指摘して,原判決の量刑は,従たる立場の被告人に対して主たる立場のDより重い刑を言い渡した点で罪刑均衡を失しており,不当であるという。
しかし,被告人とDは別々に起訴され,それぞれ別の裁判所に係属して審理が行われ,別個の判決の言渡しを受けたものであり,それぞれの判決において証拠関係や,認定された犯罪事実,量刑事情が異なっている。特に,Dに対する判決においては,A第2事件に係る殺人の事実が認定されていない点でも,量刑の前提となる犯罪事実そのものが本件と大きく異なるのであるから,被告人に対する科刑の内容が首謀者であるDに対するものよりも重いからといって,原判決の量刑が罪刑均衡に反するとはいえない。
また,所論は,Dとの共謀の事実を供述すれば,被告人の役割が希薄化し,量刑上有利になるにもかかわらず,被告人があえてこれを供述していないことは,被告人がDによる精神的支配下で本件各犯行を行ったことを示すものである旨主張して,この点を被告人に有利にしん酌しなかった原判決を批判する。
しかし,被告人は,そもそも本件各犯行の大半について自己の関与を否認したり,犯罪の成立を争ったりしているのであり,Dとの共謀の事実を認めて量刑上有利な取扱いを求めるという所論がいうような動機の前提を欠くばかりか,むしろ,Dとの共謀の事実を認めることは,その前提として自己の犯行への関与や犯罪の成立を認めることに等しいのであるから,このような相矛盾する内容の供述をしないことはむしろ当然というべきである。よって,Dとの共謀の事実を供述していないことをもって,被告人がDに精神的に支配されていた根拠とみることはできない。その他,関係証拠から認められる被告人とDの人的関係等を踏まえ,当審において改めて検討しても,ほかに首謀者がいることが被告人の責任を殊更減じる事情にはならないとした原判決の前記評価が誤りであるとは認められない。
前記所論はいずれも採用できず,論旨は理由がない。
結論
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき同法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第4刑事部
裁判長裁判官

宮崎
裁判官

川上宏
裁判官

加藤陽英一
トップに戻る

saiban.in