判例検索β > 平成26年(行ウ)第40号
生活保護引下げ処分取消請求事件
事件番号平成26(行ウ)40
事件名生活保護引下げ処分取消請求事件
裁判年月日令和3年3月29日
裁判所名・部札幌地方裁判所
裁判日:西暦2021-03-29
情報公開日2021-06-02 16:00:52
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
判決主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1請求
1第1事件
別紙処分一覧表1の処分庁欄記載の各処分行政庁が,処分の名宛人欄の各被保護者に対して処分日欄記載の各年月日付でした各保護変更決定処分を取り消す。
2第2事件
別紙処分一覧表2の処分庁欄記載の各処分行政庁が,処分の名宛人欄の各被保護者に対して処分日欄記載の各年月日付でした各保護変更決定処分を取り消す。

3第3事件
別紙処分一覧表3の処分庁欄記載の各処分行政庁が,処分の名宛人欄の各被保護者に対して処分日欄記載の各年月日付でした各保護変更決定処分を取り消す。
第2事実関係等

1事案の概要
原告ら(ただし,原告番号49及び98を除く。
)並びに亡A及び亡Bは,それ
ぞれが受けた下記の本件処分1~3の時点において,生活保護法に基づく生活扶助の支給を受けていた。
第1事件の原告ら
(ただし,
原告番号49及び98を除く。並びに亡A及び亡


B(以下,まとめて第1事件原告ら等という。
)は,生活保護法による保護の
基準
(昭和38年4月1日号外厚生省告示第158号。保護基準
以下
という。

における生活扶助の基準(以下生活扶助基準という。
)を改定する厚生労働省
告示(平成25年厚生労働省告示第174号。同年8月1日から適用される。以下本件告示1という。
)により生活扶助基準が改定されたこと(以下本件生活扶助基準の改定といい,特に断りのない限り,下記の2回の改定も含めて総称することとする。
)に基づき,それぞれ,別紙処分一覧表1の処分庁欄記載
の各処分行政庁から処分の名宛人欄記載の第1事件原告ら等を名宛人とする各保護変更決定処分(以下,それぞれに対する個別の処分を本件処分1といい,これらを併せて本件各処分1という。
)を受けた。
第2事件の原告ら(ただし,原告番号98を除く。
)及び亡B(以下,まとめて

第2事件原告ら等
という。は,

本件告示1に引き続いて保護基準における生
活扶助基準を改定する厚生労働省告示(平成26年厚生労働省告示第136号。同年4月1日から適用される。以下本件告示2という。
)により生活扶助基準
が改定されたことに基づき,それぞれ,別紙処分一覧表2の処分庁欄記載の各処分行政庁から,
処分の名宛人欄記載の第2事件原告らを名宛人とする各

保護変更決定処分を,原告番号151は別紙処分一覧表3の処分庁欄記載の処分行政庁から保護変更決定処分(以下,それぞれに対する個別の処分を本件処分2といい,これらを併せて本件各処分2という。)を受けた。第3事件の原告ら(ただし,原告番号98を除く。
)及び亡B(以下,まとめて
第3事件原告ら等といい,第1事件原告ら等から第3事件原告ら等までを併
せて原告ら等という。
)は,本件告示2に引き続いて保護基準における生活扶
助基準を改定する厚生労働省告示(平成27年厚生労働省告示第227号。同年4月1日から適用される。以下本件告示3といい,本件告示1から本件告示3までを併せて
本件各告示
という。により生活扶助基準が改定されたことに

基づき,それぞれ,別紙処分一覧表3の処分庁欄記載の各処分行政庁から,
処分の名宛人
欄記載の第3事件原告ら等を名宛人とする各保護変更決定処分
(以下,それぞれに対する個別の処分を本件処分3といい,これらを併せて本件各処分3という。また,本件各処分1~3を併せて本件全処分という。)を受けた。
第1事件は,
本件各処分1は第1事件原告ら等の健康で文化的な最低限度の生
活を営む権利を侵害するもので,憲法25条,生活保護法3条,8条に反すると主張して,本件各処分1の取消しを求める事案である。
第2事件は,本件各処分2(ただし,原告番号151に対する本件処分2を除く。
)は第2事件原告ら等の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害するもので,憲法25条,生活保護法3条,8条に反すると主張して,本件各処分2の取消しを求める事案である。
第3事件は,
本件各処分3は第3事件原告ら等の健康で文化的な最低限度の生

活を営む権利を侵害するもので,憲法25条,生活保護法3条,8条に反すると主張して,本件各処分3の取消しを求め,また,原告番号151が本件処分2は原告番号151の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害するもので,憲法25条,生活保護法3条,8条に反すると主張して,その取消しを求める事案である。
原告番号49は,本件処分1の名宛人である亡Aの相続人,原告番号98は本件処分1~3の名宛人である亡Bの相続人であり,本件訴訟の原告であった亡A及び亡Bが訴訟係属中に死亡したことから,それぞれ受継を申し立てた。2関係法令の定め等
なお,以下で掲記する証拠の番号は,いずれも第1事件及びこれと併合後の第
2事件並びに第3事件において提出されたものを指す(すなわち,併合前の第2事件において提出されたものの番号ではない。。



生活保護法
生活保護法には要旨以下の定めがある。


目的(1条)
生活保護法は,憲法25条に規定する理念に基づき,国が生活に困窮する全ての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。イ
最低生活(3条)
生活保護法により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。


基準及び程度の原則(8条)
1項

保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者(生活保
護法による保護を必要とする者をいう。以下同じ。
)の需要を基とし,そ
のうち,要保護者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。

2項

前項の基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別そ
の他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えないものでなければならない。

必要即応の原則(9条)
保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効かつ適切に行うものとする。


世帯単位の原則(10条)
保護は,
世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。
ただし,
これにより難いときは,個人を単位として定めることができる。


種類(11条)
保護の種類には,生活扶助,教育扶助,住宅扶助,医療扶助,介護扶助,出産扶助,生業扶助,葬祭扶助がある。


生活扶助(12条)
生活扶助は,
困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対
して,衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの(1号)及び移送(2号)の範囲内において行われる。

不利益変更の禁止(56条)
被保護者
(現に保護を受けている者をいう。は,

正当な理由がなければ,
既に決定された保護を不利益に変更されることがない。



生活扶助基準(乙2,11,22)
生活保護法8条1項の厚生労働大臣の定める基準(保護基準)のうち,生活扶助基準の概要は次のとおりである。

生活扶助基準(保護基準別表第1)は,日常生活に必要な基本的かつ経常的な費用についての最低生活費を定めたものであり,基準生活費(第1章)と加算(第2章)とに大別されている。

基準生活費は,個人単位で消費される経費(食費,被服費等)に対応する基準として年齢別に定められた第1類の表に定める個人別の額を合算した額(以下第1類費という。
)と世帯全体としてまとめて支出される経費
(光熱水費,家具什器等)に対応する基準として世帯人員数別に定められた第2類の表に定める世帯別の額(以下第2類費という。
)の合計額とされ

る。
加算は,
妊産婦や障害者のように基準生活費において配慮されていない個
別的な特別需要を填補することを目的として設けられている。

第1類費及び第2類費を設定するに当たっては,標準世帯(現在は,夫婦子1人の3人世帯)
の最低限度の生活に要する費用を具体的金額として設定
し,
これを一般世帯の消費実態を参考にして第1類費と第2類費に分けた上,第1類費については年齢別の栄養所要量を参考とした指数を,第2類費については世帯人員別の消費支出を参考とした指数をそれぞれ設定し,これらの指数を標準世帯の第1類費及び第2類費に適用して,第1類費の年齢階級別
の額及び第2類費の世帯人員別の額を設定している。また,保護基準は,生活様式や物価の違い等を考慮して,
全国の市町村を1級地-1,
1級地-2,
2級地-1,2級地-2,3級地-1,3級地-2までの6つの級地に区分した上
(別表第9)第1類費及び第2類費に地域差を設けているが,

級地に
よる地域差についても,1級地-1における額を定めた上で,1級地-1を1として一定の比率(指数)により他の級地の額を定めている(以下,生活扶助基準において標準世帯の第1類費及び第2類費を基準として指数によ
り他の年齢階級及び世帯人員の額を定めること及び1級地-1の基準額を基準として指数により他の級地の基準額を定めることを展開といい,その部分を展開部分という。。

原告ら等の居住地(本件全処分当時)のうち,札幌市及び江別市の級地は1級地-2,小樽市及び苫小牧市の級地は2級地-1,

及び⒞郡⒟

町の級地は3級地-1である。
(なお,以下では,被保護者(現に保護を受けている者)や被保護世帯のことを,
生活保護受給者や生活保護受給世帯ということもある。

3前提事実


当事者等
原告ら等は,それぞれに対する本件処分1~3の時点において,それぞれ生活保護を受給していた。
第1~第3事件の原告であった亡Bは,平成28年1月19日に死亡し,その妻である原告番号98が訴訟の受継を申し立てた。また,第1事件の原告であった亡Aは,令和2年1月21日に死亡し,その妻である原告番号49が訴
訟の受継を申し立てた。


本件各処分に至る経緯

平成23年2月,厚生労働省の審議会である社会保障審議会(厚生労働省設置法7条1項に定める厚生労働大臣の諮問機関)の下に生活保護基準部会
(以下基準部会という。
)が設置された。
基準部会は,
平成21年全国消費実態調査の特別集計等のデータを用いて,
国民の消費動向,特に一般低所得世帯の生活実態を勘案しながら,生活扶助基準と一般低所得者世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否か等について,検証を行った。具体的には,年齢階級別,世帯人員別,級地別に基準額と消費実態のかい離を詳細に分析し,様々な世帯構成に展開するための指数について検証を行った。

基準部会は,平成25年1月18日,この検証及び評価の結果を取りまとめて社会保障審議会生活保護基準部会報告書(甲6,乙7。以下平成25年報告書といい,この際の基準部会による検証を平成25年検証という。
)として公表し,生活扶助基準の指数展開部分と一般低所得世帯の消費実態による指数との間にかい離が認められる旨を指摘した。

厚生労働大臣は,基準部会の検証結果を受けて,一般低所得世帯の消費実態を生活扶助基準の展開部分に反映させることにより生活扶助基準の展開部分を適正化して生活保護受給世帯間の公平を図るため,生活扶助基準を改定することとした(以下,この部分の改定をゆがみ調整という。。)
(甲6,乙7,23,弁論の全趣旨)


また,厚生労働大臣は,生活扶助基準額が見直されていなかった平成20年以降にデフレ傾向が続いていることに鑑み,実質的な購買力を維持しつつ,客観的な経済指標である物価を勘案して基準額の見直しを行うこととした(以下,この部分の改定をデフレ調整という。。


厚生労働大臣は,デフレ調整における物価下落率を算出するに当たり,総務省が公表している消費者物価指数(以下総務省CPIという。
)のデー
タを使用した。消費者物価指数は,全国の世帯が購入する財及びサービスの価格変動を総合的に測定し,物価の変動を時系列的に測定するものであり,家計の消費構造を一定のもの(一定の買い物かご)に固定し,これに要する
費用が物価の変動によってどう変化するかを指数値で示したものであるところ,
総務省CPIも上記の方法により算出されるものである。
具体的には,
指数の計算の対象とする品目(以下指数品目という。
)を選定し,家計調
査により家計の消費支出全体に当該品目の支出額が占める割合(以下ウェイトという。を算出した上,

指数品目の基準年の価格と比較年の価格の比
を,指数品目の価格にウェイトを乗じて加重平均し,基準年の指数を100として比較年の物価を指数化する。

厚生労働大臣は,デフレ調整における物価下落率を算出するに当たり,総務省CPIの指数品目から家賃等の生活扶助以外の他の扶助で賄われる品目及び自動車関係費等の生活保護受給世帯において支出することが想定されていない品目を除外したものを指数品目とした(以下,総務省CPIの指数品目からこれらの品目を除外した生活扶助に相当する品目を対象とする
消費者物価指数を生活扶助相当CPIという。。そして,厚生労働大臣)
は,生活扶助相当CPIにより,平成20年から平成23年までの期間における物価下落率を算出することとし,平成22年の家計調査による支出割合をウェイトとし,同年の価格を基準に同年の指数を100とした上で,平成20年の生活扶助相当CPI及び平成23年の生活扶助相当CPIを算出
した(以下,消費者物価指数の計算において,指数の値を100とする時点であり,比較の基準となる価格の時点を指数・価格参照時点
,ウェイトと
して使用される数量や支出の時点をウェイト参照時点という。。すなわ)
ち,厚生労働大臣による上記算出は,平成22年を指数・価格参照時点及びウェイト参照時点とするものである。

その結果,平成20年の生活扶助相当CPIは104.5,平成23年の生活扶助相当CPIは99.5となり,平成20年から平成23年までの下落率は4.78%(99.5÷104.5-1≒-4.78%)と算出された。
(乙17,19,27,29,弁論の全趣旨)


以上の経緯から,厚生労働大臣は,生活扶助基準の展開部分と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を解消するとともに(ゆがみ調整)
,平成20年
から平成23年までの生活扶助相当CPIの下落率4.78%を勘案して(デフレ調整)
,生活扶助基準の見直しを行うこととしたが,その見直しに
際して,
平成25年報告書に生活扶助基準見直しの際には現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯への見直しが及ぼす影響について慎重
に配慮するよう求められていたことを踏まえ,生活保護受給世帯に対する激変緩和措置として,
①改定を平成25年度から3年間かけて段階的に実施し,②改定の影響を一定程度抑える観点から,増減額の幅がプラスマイナス10%を超えないように調整するとともに,③ゆがみ調整においては平成25年検証の結果を増額方向,減額方向共に2分の1の比率で反映させることと
した(以下2分の1処理という。。

厚生労働大臣は,
平成25年5月16日に本件告示1による生活扶助基準
の改定を,
平成26年3月31日に本件告示2による生活扶助基準の改定を,平成27年3月31日に本件告示3による生活扶助基準の改定を,それぞれ実施した。

(甲104,172,乙7,17,32,弁論の全趣旨)


原告ら等に対する処分等

別紙処分一覧表1の処分庁欄記載の各処分行政庁は,本件告示1に基づき,
処分の名宛人欄記載の第1事件原告ら等に対し,
処分日欄記載

の各年月日に,本件各処分1をし,生活保護費を減額した。
別紙処分一覧表2の処分庁欄記載の各処分行政庁は,本件告示2に基づき,
処分の名宛人欄記載の第2事件原告ら等に対し,
処分日欄記載
の各年月日に,札幌市東区保健福祉部長は,原告番号151に対し,平成26年3月20日に,本件各処分2をし,生活保護費を減額した。

別紙処分一覧表3(ただし,札幌市東区保健福祉部長が平成26年3月20日に原告番号151に対してしたものを除く。の
)処分庁
欄記載の各処
分行政庁は,
本件告示3に基づき,
処分の名宛人
欄記載の第3事件原告ら
等に対し,
処分日欄記載の各年月日に,本件各処分3をし,生活保護費を
減額した。

原告ら等は,それぞれ,本件全処分について,北海道知事に対して別紙処分一覧表1~3記載の審査請求欄記載の各年月日に審査請求を行ったと
ころ,別紙処分一覧表1~3記載の裁決日欄記載の各年月日に,原告ら等の各審査請求を棄却する旨の各裁決がされ,各同日頃,原告ら等にその旨通知された。
原告ら等は,
本件全処分について,
別紙処分一覧表1~3の
再審査請求欄記載の各年月日に厚生労働大臣に対して再審査請求を行った。(弁論の全趣旨)


第1事件原告ら等は,平成26年11月28日に第1事件に係る訴えを,第2事件原告ら等は,平成28年4月21日に第2事件に係る訴えを,第3事件原告ら等は,平成29年4月20日に第3事件に係る訴えを,それぞれ提起し,第2事件及び第3事件は第1事件に併合された。

原告ら等のうちA及びBは,訴え提起後に死亡し,Aにつきその相続人である原告番号49が,Bにつきその相続人である原告番号98が,受継を申し立てた。
(顕著な事実)
第3原告番号49(C)及び原告番号98(D)の受継の可否(亡A及び亡Bに係
る訴訟が同人らの死亡により終了するか否か)
1当事者の主張の要旨
(原告番号49及び98の主張の要旨)
生活保護法は,世帯単位の原則を採り(同法10条)
,同原則の下,世帯主を含
めた各世帯員の保護受給権は,
一体的なものと観念され
(同法31条3項)自ら


世帯の代表者として保護変更処分等の名宛人となり保護変更処分等を争う世帯主は,
一体と観念される世帯構成員全体についての保護受給権について代表して争っているといえる。
そうであれば,
世帯主の死亡により当該世帯の構成員であった者で新たに世帯
主となった者は,世帯を代表して争う地位を承継した者といえる。亡Aは世帯を代表して本件処分1の,亡Bは世帯を代表して本件処分1~3の,それぞれ取消しを求めていたところ,亡Aの死亡によって原告番号49が,亡Bの死亡によって原告番号98がそれぞれ世帯主となったから,それぞれの世帯に対してされた処分を代表して取消しを求める地位を承継したといえ,当事者たる地位又は訴訟物たる権利若しくは法律関係を承継したから,訴訟手続を受継する(民訴法124条1項1号)


また,
世帯主の訴え提起により原告番号49の本件処分1及び原告番号98の本件処分1~3を争う地位は潜在化していたのであって,世帯主の死亡によりその地位が顕在化したにすぎず,当事者たる地位又は訴訟物たる権利若しくは法律関係を承継したといえる(同項3号,5号)

(被告札幌市の主張の要旨)

保護が世帯単位で定められているとはいえ(生活保護法10条)
,生活保護受
給世帯の各構成員は,同法所定の要件を満たす限り,それぞれが別個の保護受給権を有していると解される。保護受給権は,一身専属の権利であり,相続の対象とはなり得ないから,生活保護処分に関する裁決の取消訴訟は,生活保護受給者の死亡と同時に終了し,
その相続人が民訴法124条1項1号により承継する余

地はない。
また,
亡A及び亡Bがそれぞれ原告番号49及び98の法定代理人であるとする根拠も,訴訟担当であるとする根拠もないから,同項3号,5号による承継も認められない。
2当裁判所の判断

生活困窮者は全て,
生活保護法所定の要件を満たす限り生活保護を受けること
ができ,その保護受給権は本来個人に属するものであるが,同法10条は,生活保護につき,
原則として世帯を単位として要否及び程度を定めるものと規定している(世帯単位の原則)
。これは,保護の要否及び程度を決するに当たっては,要
保護者の属する世帯全体の経済状況及び必要性を考えることが妥当かつ便宜であることによるものと解されるが,世帯単位の原則の下,生活保護受給世帯に対する生活保護費は,一体のものと評価され,生活保護費について各世帯員が分割された請求権を有しているわけではない。すなわち,世帯単位の原則の下では,世帯主も含めて各世帯員の保護受給権は一体的なものと観念されるのであり,自らの保護受給権のために処分の効力を争う世帯員は,同時に自己の保護受給権と一体的関係にある他の世帯員の保護受給権についても争っているものとみるこ
とができる。
そうすると,世帯員が訴訟係属中に死亡した場合,世帯員自身の保護受給権は一身専属的なものであって他にこれを譲渡し得ず(同法59条参照),相続の対
象となり得ないとしても,上記のとおり,その生前に当該世帯員が自己の保護受給権と同時にこれと一体的関係にある他の世帯員の保護受給権についても処分
の効力を争っているとみることができる以上,当該世帯員の死亡により訴訟が当然終了するということはできない。
一件記録によれば,原告番号49は,同一世帯の世帯主であった夫亡Aの死亡により,原告番号98は,同一世帯の世帯主であった夫亡Bの死亡により,それぞれ新たに世帯主となったことが認められる。そうすると,亡Aは,自己の保護
受給権と一体的関係にある原告番号49の保護受給権についても本件処分1の効力を争っていたといえ,また,亡Bは,自己の保護受給権と一体的関係にある原告番号98の保護受給権についても本件処分1~3の効力を争っていたといえるから,亡A及び亡Bの死亡によりそれぞれの訴訟は当然終了することなく,原告番号49及び98にそれぞれ承継されたものというべきである。
被告札幌市の主張は,上記説示に照らし,採用することができない。第4本案の争点及びこれに関する当事者の主張の要旨
本件の争点は,
本件生活扶助基準の改定に基づいてされた本件全処分が憲法2
5条,生活保護法3条,8条に違反するか否かである。
(原告らの主張の要旨)
1生活扶助基準の改定における厚生労働大臣の裁量について
生活扶助基準の改定が違法か否かは,生活保護法8条1項が厚生労働大臣に与
えた裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるか否かの観点から判断すべきであり,その逸脱又は濫用があるか否かについては,厚生労働大臣の判断の過程及び手続に過誤,欠落があるか否かの観点から判断すべきである。
もっとも,生活扶助基準は,憲法25条が保障する生存権の保障水準を画する極めて重要なものであることなどからすれば,厚生労働大臣の裁量は,以下のとおり様々な観点から羈束されているものと解される。


生活扶助基準の引下げは原則として許されず,引下げを行う場合にはその正当性(具体的な必要性及び相当性(許容性)
)を立証する責任が国にあること

憲法25条,生活保護法1条,3条,8条及び56条の立法趣旨から憲法25条1項は,

すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

と規定し,生活保護法は,憲法25条を受けて,3条において,
この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないと規定して健康で文化的な生活水準を維持することができる生活保護の実施を国家に義務付け
ているとともに,同法8条2項において,生活扶助基準が最低限度の生活の需要を満たすに十分なもの(中略)でなければならないと規定し,健康で文化的な最低限度の生活の需要が確実に満たされるようにしなければならないとして保障される生活水準の下限を画している。
また,
同法56条は,
保護の実施機関が個々の要保護者の保護基準を個別に決定する場面を規律
するもので,厚生労働大臣が生活扶助基準を設定・改定する場面を直接規律するものではないが,生活保護受給者の側からみれば,具体化されていた既得権たる生活保護費の減額が実施機関の個別判断によるものか厚生労働大臣の定める基準の変更によるものかで現実の生活面で受ける不利益に何らの差異がないことからすれば,生活扶助基準そのものの改定の場合にも同条の法意を勘案し,
正当な理由の主張立証があって初めて生活扶助基準の
引下げが許容されると解すべきである。

したがって,いったん最低限度の生活の需要を満たすために必要として設定された生活扶助基準を引き下げることは原則として許されず(制度後退禁止原則)
,国の側で正当な理由(具体的な必要性及び相当性(許容性)

を主張立証しない限り裁量権の範囲の逸脱又は濫用が認められるものと解される。


経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下社会権規約という。
)2条1項,9及び11条から
上記アの制度後退禁止原則は,社会権規約という条約による要請でもあり,社会権規約2条1項,9条及び11条も,同様に生活保護法の趣旨,目的を
規律する上位規範として同法8条の解釈に当たって考慮されなければならない。
社会権規約2条1項により締約国が権利の実現を漸進的に達成するために行動を採る義務を負うことからすれば,締約国の採った措置によって権利の実現がそれ以前よりも後退するということは許されないという制度後
退禁止原則が導かれる。そして,社会保障に対する権利を定めた社会権規約9条には,条約解釈の指針として一般的意見19が定められている。この中で,
社会保障に対する権利の後退は社会権規約に違反するとの強い
推定が働くこと,社会保障を意図的に後退させる場合,締約国は,その後退措置が全ての選択肢を最大限慎重に検討した後に導入されたものであるこ
と,そして,締約国の利用可能な資源を最大限かつ完全に利用してもなおその後退措置が必要であることを,締約国の側で証明しなければならないとしている。
本件において,そのような証明がされているとはいえないから,本件生活扶助基準の改定は,社会権規約2条1項に違反する。仮に社会権規約を直接の根拠とできなくとも,少なくとも社会権規約の規定のそのような趣旨を憲法25条1項や生活保護法の解釈の指針とすべきである。



要保護者の生活状況に関する法定考慮事項を考慮せず,財政事情等の生活外的要素を考慮することは許されないこと

法定考慮事項(義務的考慮事項)を考慮しなければならないこと
生活保護法8条は,1項において,生活扶助基準の設定や改定を厚生労働
大臣に委任する一方で,保護を実施する際の基礎は,あくまでも要保護者の需要,すなわち,要保護者の生活上のニーズに求められるべきものであり,それの外側にある国の財政事情や国民感情等ではないことを規定し,同条2項において,
その設定や改定は,
要保護者の年齢別,
性別,
世帯構成別,
所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事項を考慮したものでなけれ
ばならないとして考慮すべき事項を具体的に示している。
また,
同法9条は,
保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して有効かつ適切に行うものとしている。
厚生労働大臣が保護基準を設定するにあたっては,これらの事項を考慮することが義務付けられており,これらの事項を考慮することなく設定された
保護基準は同法8条及び9条に違反し,違法となる。
その際,全ての国民が健康で文化的な最低限度の生活を間違いなく確実に営むことができるよう保護基準の下限を画することとしたのが,同法8条及び3条の法意であることからすれば,形式的に年齢別,世帯構成別,所在地域別等の事情を考慮してさえいれば,法定考慮事項を考慮したことにな
るわけではなく,上記の各生活上の属性を考慮した上で,
要保護者の生活の需要を満たすに十分な基準,すなわち,個別の要保護者がそれぞれに健康で文化的な最低限度の生活を確実に営み得る基準を設定することが要請されているというべきである。

生活外的要素(不可考慮事項)を考慮してはならないこと
上記アのとおり,同法8条及び9条で義務的考慮事項とされているのは,いずれも要保護者の生活上の需要を調査把握するための要保護者の生活上
の属性に関わる事項であり,
国の財政事情や国民感情等の生活外的要素が挙げられていないことからすれば,同法8条及び9条は,少なくとも,厚生労働大臣が生活扶助基準の下限を画するにあたっては,国の財政事情,国民感情,政権与党の公約等の生活外的要素を考慮することを禁じているというべきである。

2
基準部会の位置付けや本件生活扶助基準の改定に至る経過等から本件生活扶
助基準の改定に違法性が認められること
①最低限度の生活を維持する上で引下げに見合った需要の減少が認められるか否か(引下げの必要性)
,②改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否か(引下げの相当性(許容性))
については,
高度の専門技術的な考察がされなければならない。そして,その
考察に際して,
統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無が審査されなければならず,また,いったん選択された方法・手続からの逸脱については,
それが合理的なものとして正当化できるかが厳格に審査

され,後付け可能な数値によって手続の透明性が確保されなければならない。立法過程における議論や現行の
水準均衡方式
(後記第5の1⑴ウ参照)
とい
う改定方式を踏まえると,
高度の専門技術的な考察に際して,専門家によっ
て構成される審議会(本件でいえば基準部会)における検討結果に依拠しているか否かが極めて重要な意味を持ち,これに依拠しない判断がされた場合には,い
かなる高度の専門技術的な考察がされたのか,
統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性がより一層厳しく審査されなければな
らない。
国は,以下のとおり,一方では専門技術的な考察の必要性から,専門性を有する基準部会を設置しており,基準部会において判断を得ていたにもかかわらず,基準部会に無断で,
専門的知見を要するはずのデフレ調整及び2分の1処理を加
えて生活扶助基準の引下げを行ったものである。これは,デフレ調整及び2分の1処理が平成25年報告書作成前に決められていたこと等の時系列からして,政治的意図に基づいていることは明らかであり,不当に財政効果を重視したものであった。その結果,基準部会が出した判断とは全く異なる生活扶助基準の変更がもたらされた。したがって,本件生活扶助基準の改定は,統計等の客観的な数値
等との合理的関連性を欠き,専門的知見と整合しないものであるから裁量権の範囲の逸脱又は濫用がある。


基準部会設置の趣旨
基準部会は,保護基準について,5年に1度実施される全国消費実態調査の特別集計データを用いて,専門的かつ客観的に評価・検証を実施するため,社会保障審議会に,保護基準の定期的な評価・検証について審議する専門の部会
として社会保障審議会運営規則2条に基づき設置された正式な機関である。上記の趣旨で設置された基準部会が専門的見地から一定の判断を行った場合,その判断に従った基準改定がされるべきである。基準部会の示した判断に対し,
一定の合理性を有する調整を行うということができないとはいい難いが,そのような調整を超えて,基準部会の判断と異なる基準改定を行うことは,専
門的知見に沿うものではなくむしろ専門的知見に反するものであるから,専門的知見との整合性のないものとして裁量権の範囲の逸脱又は濫用となる。⑵

基準部会は物価考慮の妥当性を議論しておらず,物価考慮を容認していないし,2分の1処理も容認していないこと

基準部会においては,
物価を考慮して生活扶助基準を変更することは全く議
題となっておらず,基準部会は,平成25年報告書に従って生活扶助基準を改定する場合,
それと同時に物価を考慮した引下げを行うことは全く想定してい
なかった。それにもかかわらず,物価を考慮した引下げを行うことは,平成25年報告書に示された専門的知見に反するものといわざるを得ない。また,2分の1処理は,
基準部会委員に全く無断で厚生労働大臣の政策的判断として行
われたものだった。



デフレ調整及び2分の1処理が政治的意図を考慮してされたものであること
厚生労働大臣がデフレ調整及び2分の1処理を行い,あえて平成25年報告書に反する生活扶助基準の改定を行ったのは,時系列に照らせば,政治的意図
に基づいてされたものと合理的に推認できる。すなわち,平成24年12月16日の総選挙において,自由民主党(以下自民党という。
)が生活保護給付水準の10%引き下げを選挙公約としていたこと,田村憲久厚生労働大臣(以下田村大臣という。
)が,基準部会での検証が行われている最中の同月
27日の記者会見において,
下げないということはないと思います。それは下げるということが前提で色々と議論をしてきている部分がありますので,そこは下げないということはないのだと思いますし,事実そういうことにならないのだと思います。と回答したこと,さらに,同月28日の記者会見において,
1割をなぜ言っているのかというと,これは,一方で我々が戦った政権公約の中の一つのお約束と言いますか,打ち出したことでありますから,これは当然自民党から選出された大臣としては,ある程度の制約は受けると思います。と発言していること,平成25年1月16日開催の第12回基準部会において,事務局から提出された報告書案に

他に合理的な説明が可能な経済指標などがあれば,それらについても根拠を明確にして改定されたい。

との文言が潜り込まされていたこと,この文言は基準部会委員からの異論噴出で訂正
に至ったにもかかわらず,報告書を取りまとめる前に厚生労働省の幹部が,自民党の生活保護プロジェクトチームの座長であった世耕弘成官房副長官に対し,
取扱厳重注意文書(甲104)を示しており,同文書では今後のスケジュール案1月18日生活保護基準部会で報告書とりまとめに
としてい
る一方,
世帯類型ごとの基準額の見直し後の基準額の計算においては,
平成25年報告書の取りまとめ前にもかかわらずデフレ調整と2分の1処理を行うことが当然の前提とされていたこと,同文書には保護基準の改定で60
0億円の財政効果があると記載されていたこと,基準部会が平成25年報告書を取りまとめた同年1月18日のわずか9日後の同月27日に,厚生労働省がデフレ調整を含む生活保護基準の見直しについてと題する文書を発表し,同月29日に,平成25年度予算案が閣議決定されたこと,その際,一律2分の1処理については公表されず,北海道新聞の情報開示請求に基づくスクープ記事
によって初めて明るみに出たことといった事実がある。
以上の点からすれば,
基準部会が全く予定していないデフレ調整及び2分の
1処理を行ったことは,
生活扶助基準を引き下げる旨の政権公約を達成するた
めに行われたものと合理的に推認することができる。


財政効果に不当に重きを置いた保護基準の改定であること
保護基準の改定において,国の財政事情を考慮することが全く許されないとはいい難い。しかし,生活保護法が,8条2項で前項の基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて,かつ,これを超えないものでなければならないとしていることに鑑みれば,その財政事情は付随的にのみ考慮することが許されるものである。
上記⑶の経緯からすれば,本件生活扶助基準の改定におけるデフレ調整と2分の1処理は,生活保護受給者の生活の実態ではなく,一定の財政効果を達成することを企図して行ったものと考えることが合理的である。これは,保護基
準を改定する際に考慮ができる限度を優に超えて,財政効果を不当に重く考慮しているものといわざるを得ない。
3ゆがみ調整の違法性,違憲性


ゆがみ調整は展開のための指数を調整したものではないこと
本件生活扶助基準の改定に係るゆがみ調整では,標準世帯からの展開や展開のための指数に調整が施されたのではなく,生活扶助の基準表(つまり個々の生活扶助基準額や逓減率
(金額が減少する割合)を直接検証し,

改定前の生活

扶助基準額や逓減率を直接改定して新たに生活扶助基準額や逓減率を設定した。そうすると,ゆがみ調整は専門的知見である平成25年検証との整合性に欠けるものであったというべきである。

ゆがみ調整では体系と絶対水準の改定が一体的に行われたこと

基準部会の議論の経過から
平成25年検証における基準部会での実際の議論の経過をみれば,基準部会のメインテーマは一貫して生活扶助基準が一般低所得世帯の消費実態と均衡しているか否かという絶対水準の検証であったことが明らかである。そして,厚生労働省社会・援護局保護課から,第10回基準部会において,
体系の検証と水準の検証を一体的に行うという方向性が示され,第11回基準部会において,
前回の部会におきまして,今回の検証は年齢及び人員並びに級地の3つの要素,この3要素に焦点を当て,詳細な消費実態の評価検証を行い,その結果を踏まえた上で水準の検証を行うといったことを基本方針としてご了解いただいたところでございます。,

今回改めてこの場で御報告をさせていただき,委員の皆様との認識を共有させていただきたいと考えております。とわざわざ確認がされている。

また,
体系と級地の指数
のかい離を検証するだけで水準の調整を行わないのであれば,比較の対象である一般世帯を低所得層に限定する必要はなく,上位の2つくらいを除いた全階層で行う方法も考えられたのに,第1・十分位(調査対象者を年間収入
額順に何等分した場合に低い方から何番目の層かを示すもので,
第1・十分位は,調査対象者を年間収入額順に10等分した場合に,収入額が最も低い層を指す。
)層を比較対象としたのは,体系・級地のゆがみと水準の
検証を一体化して行うためである。その後,基準部会が検証方針を変更した事実はない。

ゆがみ調整の方法から
ゆがみ調整の実際の計算において,サンプル世帯(第1・十分位の世帯)
の(生活扶助相当)消費支出の金額が下がれば,現行の基準の指数が上がるので,改定率が下がって改定後の生活扶助基準額も下がる方向に作用し,逆に,サンプル世帯(第1・十分位の世帯)の(生活扶助相当)消費支出の金額が上がれば,
改定率が上がって改定後の生活扶助基準額も上がる方向に作
用することになるから,ゆがみ調整が被告らの主張する生活扶助基準額の
絶対(的)水準の調整を含むものであることは,明らかである。

以上のとおり,平成25年検証においては生活扶助基準の絶対水準の検証を体系(年齢・世帯人員・級地)のゆがみの調整の中に一体化させて行ったことは,明らかである。したがって,ゆがみ調整のほかにデフレ調整を行うことは,いわば二重の引下げ又は二重評価による引下げを行う
ことになり,違法である。また,仮にゆがみ調整の目的に絶対水準の調整が含まれていないとするならば,絶対水準の調整を目的としていないにもかかわらず,実際には絶対水準の調整を(も)行っていたという点で,当該目的と実際に行ったゆがみ調整の内容との間に矛盾・齟齬が生じていることになり,厚生労働大臣の判断の過程及び手続に過誤,欠落があるということ
になる。


ゆがみ調整において第1・十分位の世帯と比較したことが違法であること平成25年報告書は,第1・十分位の世帯の生活扶助相当消費支出を比較対象とした理由に関し,①これまでの検証に倣い,生活保護受給世帯と隣接した
一般低所得世帯の消費実態を用いることが今回の検証では現実的であると判断したこと,②第1・十分位の平均消費水準は,中位所得階層の約6割に達していること,
③国民の過半数が必要であると考えている必需的な耐久消費財について,第1・十分位に属する世帯における普及状況は,中位所得階層と比べておおむね遜色なく充足されている状況にあること,④全所得階層における年間収入総額に占める第1・十分位の年間収入総額の構成割合はやや減少傾向ではあるものの,
高所得階層を除くその他の十分位の傾向をみても等しく減少し
ており,特に第1・十分位が減少しているわけではないこと,⑤OECDの国際的基準によれば,等価可処分所得(スケールメリット(世帯規模の経済性)を考慮して,世帯の可処分所得を世帯人員数の平方根で除したもの)の中位値(全データの真中の値)
の半分に満たない世帯は相対的貧困層にあるとされる

ところ,平成21年全国消費実態調査によれば,第1・十分位に属する世帯の大部分はOECDの基準では相対的貧困線以下にあることを示していること,⑥分散分析等の統計的手法により検証したところ,各十分位間のうち,第1・十分位と第2・十分位の間において消費が大きく変化しており,他の十分位の世帯に比べて消費の動向が大きく異なると考えられること,の6点を挙げてい
る。
しかし,①について,昭和39年から昭和58年までの期間に採用された格差縮小方式における比較対象は一般勤労者世帯の消費水準であり,昭和58年から現在に至るまで採用されている水準均衡方式における比較対象は一般国民生活における消費水準であったことが明らかである。また,水準均衡方式が
採用された当時にその消費水準の動向に留意するものとされた低所得世帯も,総世帯中の第1・十分位の世帯ではなく,勤労者世帯における第1・五分位及び第2・五分位(つまり,合わせて下位40%)の世帯である。その他,これまでの経緯をみても,
一般低所得世帯
として第1・十分位の世帯が比較
対象とされるべき根拠はない。②について,従前,水準均衡方式の下で,生活
保護基準が一般国民の消費水準の6~7割で設定されることとされてきたことを踏まえてのものと思われるが,第3・五分位世帯を全世帯の平均的階層として措定することはもはや誤りであり,第1・十分位を比較対象とした根拠たり得ない。③について,厚生労働省社会・援護局保護課が実施した平成22年家庭の生活実態及び生活意識に関する調査(甲29の4)
によれば,
対象項
目の普及率につき,第1・十分位の世帯への普及率が第3・五分位の世帯への普及率の9割未満である項目が全体の3分の2にも及び,とりわけ,文化や教
養に係わる項目及び社会生活に係わる項目において,第3・五分位の世帯との格差が顕著であることが明らかになっているのであるから,平成25年報告書は,③につき,第1・十分位の世帯の耐久消費財の保有状況に関する評価を誤っている。④は,それ自体,第1・十分位を検証・調整の比較対象とする理由たり得ない。⑤について,一般に,OECD加盟国においては,OECD基準
による相対的貧困線以下の世帯は,
あってはならない状況にあるものと考
えられているから,生活扶助基準と第1・十分位の世帯の消費支出との比較を正当化する理由には到底なり得ない。⑥について,昭和58年に中央社会福祉審議会から発表された
生活扶助基準及び加算の在り方について(意見具申)
(甲170,乙9。以下昭和58年意見具申という。,生活保護の在り方)

に関する専門委員会(以下専門委員会という。,基準部会のいずれにおい)
ても委員から異論が続出して採用されることのなかった変曲点の概念(社会的に不可欠な消費水準があると仮定し,収入階級ごとの消費支出を比較すると,所得が減っても,同消費水準を維持しようとして,消費支出は緩やかに減少するが,ある所得階層以下になると,同消費水準を維持できなくなり,急激
に消費水準が低下する所得分位がある場合の,その境目をいうとされる。)を
前提にしている点においても,また,⑥自体が最低生活を営むことが困難である所得階級の消費水準との比較を前提にしている点においても,根拠に欠け,著しく不合理かつ不適切である。


ゆがみ調整の比較対象となった第1・十分位の世帯(サンプル世帯)に生活保護受給世帯が含まれていることが違法であること
統計学においては,
比較する2つの集団が比較の対象とする要因に関しては厳密に区別されなければならないという原則があり,この原則には例外は存在しない。
しかし,
ゆがみ調整について,第1・十分位の世帯から生活保護受給世帯
が除外されておらず,上記原則に反することは明らかであるから,ゆがみ調整の手法に統計学上の正当性が存在しないことは明らかである。また,生活扶助基準に関する検討会(以下検討会という。
)が平成19年に行った検証(以
下平成19年検証という。
)においては,保護基準を検証する際に,比較対
象から生活保護受給世帯を除外したのであるから,平成25年検証のゆがみ調
整において,
比較対象から生活保護受給世帯を除外していないのは平成19年
検証においていったん選択された方法・手続から逸脱し,明らかに首尾一貫性を欠いている。さらに,基準部会においても生活保護受給世帯を除くことを意見として取りまとめていることからすれば,比較対象である全世帯の第1・十分位の世帯から生活保護受給世帯を除外するのが手続上正当であり,ゆがみ調
整がサンプル世帯から生活保護受給世帯を除外しなかったことは,手続上も不合理であることは明らかである。
仮にゆがみ調整が相対的な比較であったとしても,①生活保護受給世帯の消費は生活扶助基準額に依存する(原則として,生活扶助基準額に基づく最低生活費以上の金額は消費できないので,生活扶助基準額にゆがみがあるとす
れば,
その影響は生活保護受給世帯の消費支出に及ぶことになる。こと,)
②ゆ
がみ調整におい
プル世帯の世帯分布・構成に大きく影響されることからすれば,生活保護受給世帯をサンプル世帯から除外していないことにより,各体系・級地における消費支出の傾向に影響があることは避けられず,サンプル世帯に生活保護受給世
帯を含ませることによって,調整の指標とされるサンプル世帯の生活扶助相当消費支出の水準が下がり,ひいては改定後の生活扶助基準額もより低い金額で算出されることになったものといえる。
以上からすれば,実際に行われたゆがみ調整には,統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に照らして,判断過程に過誤・欠落があるものというべきである。


ゆがみ調整におけるデータ処理の恣意性・不合理性

平成25年報告書の回帰式の推定表によると,世帯の年間収入を基にしたデータ①列のadjR2:自由度調整済み決定係数は0.28となっており,
世帯員1人当たりの年間収入を基にしたデータ②の列のadjR2:自由度調整済み決定係数は0.36となっている。これは,厚生労働省が
行った回帰分析結果では,分析の結論はデータ①に関しては28%,データ②に関しては36%の説明しかできていないことを意味するが,決定係数が0.
3程度の回帰分析結果を使用して生活扶助基準の引下げを行うことが相当であったことの説明はされていない。

回帰係数のt検定の問題について
平成25年検証の際,第1・十分位に属する世帯の消費支出を推計する際に用いた回帰分析において,
回帰係数のt検定
(回帰分析の精度を事後的

照)
が棄却できず,
不要であると判断された説明変数
(インプットした要素)
が多数存在したにもかかわらず,これらを除外せずに結果を採用している。帰無仮説を棄却できないということは,帰無仮説を棄却することによって対立仮説(証明したい内容)を証明しようとしたがそれができなかったことを示すものである。
厚生労働省の回帰分析は,統計的に優位な効果や違いがあると証明できな
かった項目を残したままの結果を採用したものであって,生活扶助基準の変更(引下げ)の根拠とするには致命的な欠陥を含むものである。

その他の不合理性
回帰分析が生活扶助基準を引き下げる数値を決めるためのものであることからすれば,
回帰分析が問題のないものであるかどうかを慎重に確認する
必要があり,
回帰分析の誤差項の分散統一性や正規性等様々な仮定を満たし
ているかを検討すべきであった。加えて,厚生労働省が基準部会委員に示し
た回帰分析の説明図は不正確であった。以上からすれば,平成25年検証やゆがみ調整の過程で用いられた回帰分析は,不合理なものといえるので,ゆがみ調整ひいては本件生活扶助基準の改定は,以上の観点からみても違法なものというべきである。


平均指数法を用いたことの違法性
平成25年検証やゆがみ調整において採用された平均指数法は,厚生労働省のE保護課長補佐(当時)が命名した,統計学辞典等にも載っていない特異な計算方式であり,専門的知見に基づいた計算方式とはいえないばかりか,サンプル世帯の世帯分布・構成によっていかようにでも指数ひいては改定率が変化するものであり,およそ合理性に欠ける計算方式であるから,平均指数法を用いた本件生活扶助基準の改定は,統計等の客観的な数値等との合理的関連性を欠き,専門的知見と整合しない。


2分の1処理の違法性
国は,2分の1処理により,主に生活保護受給世帯の大半を占める単身中高
齢世帯の基準額が引上げとなるかい離率を2分の1にした効果として,生活扶助基準の第1類費の基準額につき440億5900万円の削減効果,生活扶助基準の第2類費の基準額につき7億2000万円の削減効果,世帯人員数に応じた逓減率の影響を加えても,全体として90億0400万円もの生活扶助費の削減効果を得たことが明らかとなった。生活保護受給者の全世帯構成に占め
る単身中高年齢者の割合が極めて高いという国にとって明らかな事実に照らすと,2分の1処理により,総体として生活扶助費の上がる世帯の上げ幅の圧縮額が生活扶助費の下がる世帯の下げ幅の圧縮額を大きく上回り,結果として,生活扶助費を大きく削減する効果があることは,最初から容易に推測できる。
国は,最初からこの結果を容易に推測できたにもかかわらず,合理的な理由のないままに,
あえて平成25年報告書に記載されたかい離率を2分の1にし

たのであるから,本件生活扶助基準の改定は,
統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠き,明らかに恣意的かつ著しく不合理であり,違法と評価されるべきである。
仮に,
2分の1処理が減額となる世帯の負担軽減にあるということであれば,減額分を2分の1とすることはこの目的に合致するが,増額分まで2分の1と
することは,特定の世帯の負担を増加させることとなり,この目的に反する。また,平成25年検証の結果について増額分を2分の1とすることは,基準部会が検証した結果に基づく生活扶助基準の水準を下回ることとなるし,被保護者にとって不利益な変更となるため,合理性をもつ判断として許容される限度を超え,違法である。

したがって,少なくとも増額分を2分の1としたことは,裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであり,違法である。
4デフレ調整の違法性,違憲性

デフレ調整は水準均衡方式を逸脱するとともに,物価を二重に評価する違法があること
昭和59年度以降の生活扶助基準の改定率と民間最終消費支出及び消費者物価の推移に関する比較検討の結果からすれば,国は,平成20年度から平成23年度までについても,毎年,従前と同様に水準均衡方式に基づく生活扶助基準の改定を行ってきたというべきである。

そして,
水準均衡方式において基礎とされる民間最終消費支出には物価水準の変動が反映されているから,本件生活扶助基準の改定におけるデフレ調整は,水準均衡方式を明らかに逸脱するとともに,物価を二重に評価したという点において,
統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠くものであり,
厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものとして,
違法になる。


デフレ調整が基準部会等の検証を欠くものであり,手続面において統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の要件を満たしておらず,違法であること
基準部会は,デフレ調整について一切議論しておらず,基準部会はデフレ調整を容認していなかった。デフレ調整は,生活扶助基準を改定する際に物価という指標を用いているという点で,民間最終消費支出の伸び率に準拠した生活
扶助基準の改定方式である現行の水準均衡方式に反するものである。この点については,
昭和59年から採用された水準均衡方式を答申した昭和58年意見具申において,
賃金や物価は,そのままでは消費水準を示すものではないので,その伸びは,参考資料にとどめるべきであると明言していることからも,
明確に裏付けられる。

したがって,
国が現行の生活扶助基準の改定方式である水準均衡方式に反す
るデフレ調整を行うのであれば,基準部会等の専門家による検討会議等による十分な検証を経る必要があったが,本件生活扶助基準の改定においては,この点に関する検証が一切行われていないのであるから,デフレ調整は,手続面において統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の要
件を満たしていないことになる。


デフレ調整の内容の違法性,違憲性

計算方法の問題
国は,デフレ調整につき,(a)生活扶助相当品目を選定し,(b)平成22年
を基準時(100)とし,同年のウェイトを用いて,(c)平成22年から過去に遡った相加平均(算術平均)により,平成20年の生活扶助相当CPIを算出し,(d)平成22年から相加平均により,平成23年の生活扶助相当CPIを算出し,(e)平成20年の生活扶助相当CPIと平成23年の生活扶助相当CPIの変化率を算出するという方法を採用している。
この点,平成20年の品目数と平成23年の品目数は異なっており,欠測値が生じているところ,この欠測値の取扱いが総務省の基準や国際基準に合
致しないものであった。そうすると,平成20年から平成23年までの一連の計算とはいえず,
平成22年を基準とする2つの異なる計算方式を単に組
み合わせたにすぎないものであるから,このような計算方法を採用したデフレ調整に統計学上の正当性はない。
すなわち,総務省CPIの作成方法は,ラスパイレス式による指数(後記
第5の2⑵参照)
及び接続係数
(後記第5の2⑷参照)
を用いるものであり,
この方法は,国際労働機関(ILO)及び主要国で採用される国際基準である。総務省統計局は消費構造を5年ごとに改定しており,基準年をまたいで比較するために,
基準改定の都度新たな基準時に合わせて過去の指数系列を
換算し接続するという方法を採っているが,デフレ調整の計算方法はこ
れに合致しない。また,デフレ調整の計算方法は,基準時(100)を時系列上の最も過去の時点に置かないという点で,統計学や国際基準に反するものである。
被告らは,かかる計算方法について,
ロウ指数であると主張する。ロウ
方式)の総称であるが,生活扶助相当CPIは,平成20年と平成23年とで品目数が異なっているため,ロウ指数とはいえない。
以上より,デフレ調整の計算方法は,統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に照らして,判断過程に過誤があるというべきである。


実態とのかい離の問題
国は,デフレ調整により,平成20年から平成23年までの生活扶助相当CPIの変化率を-4.
78%と算出した上で,
本件生活扶助基準の改定
(す
なわち引下げ)を行ったが,デフレ調整における変化率-4.78%という数値は,生活保護受給世帯の生活実態とかい離した異常なものである。このような異常な数値が算出された主な原因は,以下で述べるとおり,平成20年から平成22年までの計算方法,生活扶助相当品目の選定とそのウェイトの設定及び計算期間の選定等が恣意的かつ不合理に行われたという点にある。
平成20年から平成22年までの計算方法

デフレ調整における平成20年から平成22年までの計算方法は,総務省統計局が長年にわたり採用してきたラスパイレス式(古い年次から新しい年次に向けた相加平均方式)によるものではなく,平成22年から平成20年までの(新しい年次から古い年次に向けた)相加平均方式であり,結果としてパーシェ式と同じ結論となる方式といえる。

そして,パーシェ式は,物価の下落局面において下方バイアスがかかることが知られており,特に対象品目の中に大幅に価格の下落した品目がある場合には,異常な物価の下落率を示すことがある。
この点,平成20年から平成22年までの期間においては,ノート型パソコンやテレビ等の価格の下落が著しく,これらの特定の物品の価格下落
の影響がデフレ調整の異常な変化率(下落率)に大きく寄与したことは,ノート型パソコンやテレビの2品目を除いた場合のデフレ調整の変化率(下落率)が-2.21%に大幅に縮小することからも明確に裏付けられる。
生活扶助相当品目の選定とウェイトの設定

デフレ調整における生活扶助相当品目は,一般国民を対象とした家計調査の対象品目から生活扶助費による支出が予定されていない品目を除いた残りの品目により構成されているが,生活保護受給世帯は,文化的で最低限度の生活を営むために,少ない生活扶助費をやり繰りしているのであるから,
家計調査の対象品目の中の高価品を生活扶助対象品目に含めるの
は,
生活保護受給世帯の消費実態を前提に購買力の変化を反映することを目的としたデフレ調整の内容として,著しく不合理である。
また,デフレ調整における生活扶助相当品目のウェイトについても,一般国民を対象とした家計調査の対象品目のウェイトがそのまま用いられているが,
生活保護受給世帯の消費実態が一般国民の消費実態と大きく異
なるのは明らかなのであるから,デフレ調整において,生活扶助相当品目
のウェイトに家計調査の数値をそのまま採用するのは,生活保護受給世帯の消費実態を前提に購買力の変化を検証するデフレ調整の目的・内容に明らかに反するものである。特に,生活扶助相当CPI算出の基礎品目の中には,
(デスクトップ型)パソコン
パソコン(ノート型)
電気冷蔵庫
など,高価な電化製品も含まれており,生活保護受給者が購入することは
難しい。しかも,これら電化製品は,近年価格の下落傾向が著しく,このような生活保護受給者の消費実態からかけ離れた基礎品目を基に算出された生活扶助相当CPIは,何ら統計上の資料としての価値を持たない。一般国民を対象とした家計調査よりも,生活保護受給世帯を対象とした社会保障生計調査を活用した方が,生活保護受給世帯の消費実態をより正
確に把握できたのであるから,社会保障生計調査を活用すべきであった。計算期間の選定
国は作成団体,
審議経過等から問題がある検討会が平成19年に公表し
た生活扶助基準に関する検討会報告書
(甲4,乙6。以下平成19年報告書という。
)を根拠に平成20年を起点として選択している。さら

に,
平成20年の原油価格高騰による物価上昇を反映させるべきでないことから生活扶助基準額の改定が見送られたにもかかわらず,平成20年を起点に選択することは原油価格の高騰による物価上昇を考慮要素に含めるものとなる。
このように,
国が起点として平成20年を選択したことは全く合理的な
根拠を欠くものであり物価の下落幅を大きくすることを狙って恣意的に選択したものといわざるを得ない。
また,国は,平成24年の最新データが利用可能であったにもかかわらず,あえてその前年の平成23年のデータを用いている。これは,下落率が大きくなるよう,
日常生活費の中で基礎的費用である
食費光熱・や水道費がそろって下落している年を選択したため,あえて,最新データ
ではなく1年前のデータを用いたと考えられる。
そして,総務省統計局の調査によれば,平成20年及び平成23年は,総務省作成の消費者物価指数の状況及び下落が,近年まれに見る大きな変動を一時的に記録した異常な年であったと分析されており,参考資料とすべきではなかった。

以上より,デフレ調整は,誤った統計データに基づくものであり,生活保護受給世帯の消費実態と大きくかい離する生活扶助相当CPIの変化率(下落率)を前提とするものであるから,統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に照らして,判断過程に過誤があるというべきである。

5生活保護受給世帯の生活実態と生存権の侵害
生活保護法8条2項,生活保護制度の根底にある生存権の趣旨からすると,本件全処分によって原告ら等の生活に生じた影響が原告ら等の生存権を侵害するものであった場合には,
厚生労働大臣の裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるこ
とになる。そして,貧困とは,あってはならない生活状態を意味するところ,原
告ら等の生活が絶対的貧困,相対的貧困,社会的排除の観点いずれかの意味での貧困に当たる場合,本件全処分は裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たる。本件全処分が,
これらの観点から原告ら等の生存権を侵害していることは明ら
かである。
(被告らの主張の要旨)
1生活扶助基準の改定における厚生労働大臣の裁量について
保護基準の設定及び改定については厚生労働大臣に広範な裁量権が認められる。したがって,本件生活扶助基準の改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用が認められない限り,その改定は適法である。すなわち,
憲法25条1項は,

すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

と規定し,この憲法の規定の趣旨を実現するために制定
された生活保護法8条1項において,

保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。とし,

同条2項は,

前項の基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて,かつ,これを超えないものでなければならない。

と規定する。もっとも,ここでいう最低限度の生活は,抽象的かつ相対的な概念であって,その具体的な内容は,その時々における経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるから,保護基準の設定,改定については,高度な専門技術的な考察を踏まえ,単純に比較すること
が困難な異質かつ多元的な諸利益を評価し,それらを比較衡量して政策的価値判断を行う必要がある。この点,本件生活扶助基準の改定についても,統計も含む高度に専門技術的な考察を踏まえたものであり,様々な改定手法が想定される中での政策的価値判断の結果として行われたものである。
したがって,本件生活扶助基準の改定に係る厚生労働大臣の判断について,専
門技術的かつ政策的な観点からの広範な裁量が認められるのは当然である。上記のような本件生活扶助基準の改定の内容,性質等に鑑みると,本件生活扶助基準の改定に至った厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落等があるか否かが審査されるべきであり,その審査は,統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性等をみることにより,被告らが挙げる理由から本件生活扶助基準の改定の判断が導かれ得るかを検討することによって行われるべきである。


制度後退禁止原則には理由がないこと

憲法25条,生活保護法との関係
憲法25条2項は,
国に対し,
社会福祉,
社会保障等の向上及び増進に
努めなければならないと規定するにとどまっており,社会福祉等の水準を常に増進させなければならず,これを後退させることが原則として禁止されて
いるといった,立法府又は行政府への強固な拘束が,憲法上存在されているとまでは解し難い。
健康で文化的な最低限度の生活の具体的内容がその時々における多数の不確定要素に応じて変化し得るもので,
最低限度の生活の水準が上昇し
続けるとも限らないこと,一方で,生活保護法3条及び同法8条2項の規定
により,保護基準は,最低限度の生活需要を満たしつつ,これを超えないものでなければならないことからすれば,一度設定した保護基準であっても,その後の社会経済情勢の変化等によってこれを削減することは,憲法上及び生活保護法上,当然に想定されているというべきである。また,同法56条は,法の定める変更の事由が生じ,保護の実施機関が法の定める変更の手続
を正規に執るまでは,
既に決定された内容の保護の実施を受ける法的地位を
保障するというものにとどまる。保護の基準及び程度の原則そのものである保護基準自体の減額改定は,同条による禁止の対象には含まれない。イ
社会権規約との関係
原告らが指摘する社会権規約の各規定は,締約国において,社会保障についての権利その他社会権規約規定の各条項所定の権利が,国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,上記権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し,即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない。このことは,社会権規約2条1項が,締約国において,
立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成することを求めていることからも明らかである。⑵

保護基準の設定及び改定における考慮要素が生活保護法8条2項に列挙された事項に限定されないこと

厚生労働大臣は,
本件生活扶助基準の改定に当たって生活保護法8条2項
所定の事情を考慮したこと
ゆがみ調整を実施するに当たっては,基準部会による平成25年報告書に記載されているとおり,平成21年全国消費実態調査の個票データを用い,年齢階級別・世帯人員別・級地別(地域別)のデータを用いて検証を行っている。
そして,
厚生労働大臣は,
基準部会における年齢階級別・世帯人員別・

級地別に行われた検証結果を踏まえてゆがみ調整を実施した。
デフレ調整は,年齢別,世帯構成別,所在地域別に低所得世帯における消費実態と生活扶助基準との均衡を検証した平成19年報告書において,当時の生活扶助基準が一般の低所得世帯の消費実態と比べて高いという結果が得られたものの,当時の社会情勢等に鑑み,生活扶助基準が据え置かれてき
たところ,消費者物価指数の増減率がマイナスとなり,実質的にみれば,生活扶助基準の引上げと同視することができ,これにより生活保護受給世帯の可処分所得も実質的に増加している状況にあったことを考慮し,保護基準は最低限度の生活の需要を超えている場合であっても,生活保護法8条2項に反するものとなることから,生活保護受給世帯における可処分所得の実
質的増加を勘案して生活扶助給付水準の適正化を図ったものである。このようにデフレ調整においては,同項に規定された年齢別・世帯構成別・所在地域別の消費実態を考慮要素として行われた平成19年報告書の検証結果を前提に,
その後のデフレ状況を踏まえて最低限度の生活の需要を満たすよう保護基準を見直したものである。もっとも,デフレ調整は,ゆがみ調整とは異なり,
その実施が全生活保護受給世帯に対して一律に共通の影響を及ぼすものであることから,
デフレ調整の判断に当たり,
同項に規定される年齢別,

世帯構成別,
所在地域別といった類型ごとに異なる事情は必ずしも必要な考
慮事情ではない。
以上のとおり,厚生労働大臣は,本件生活扶助基準の改定において同項所定の事情を考慮した。

保護基準の改定に当たって考慮する事情は生活保護法8条2項所定の事
項に限られないこと
保護基準の設定及び改定には,厚生労働大臣に広範な裁量権が認められている。そして,厚生労働大臣が,その広範な裁量に基づき,保護基準の設定及び改定において最低限度の生活を具体化する際には,国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な,しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づ
いた政策的判断を必要とするのであり,同項に例示列挙されていない国の財政事情を含む様々な要素を考慮すべきであることは明らかである。したがって,保護基準の設定及び改定において考慮する要素は,同項が列挙する事項には限られない。
2
基準部会の位置付けや本件生活扶助基準の改定に至る経過等から本件扶助基
準の改定に違法性は認められないこと


基準部会の位置付け
保護基準は,生活保護法8条に基づき厚生労働大臣が定めるとされており,保護基準の改定において,審議会等の専門機関の意見を聴くことは法律上求め
られておらず,
審議会等に諮らなければ保護基準の改定が行えないものではな
いし,また,その検証結果をそのまま保護基準に反映させなければならないものでもない。実際,厚生労働大臣は,審議会等による定期的な検証が行われた場合には,その検証結果を踏まえた改定を行ってきたものの,その余の保護基準の改定については,審議会等の専門機関に諮ることなく,その当時の社会経済情勢等の諸般の事情を総合的に勘案の上,その専門技術的,政策的裁量判断において行ってきた。

基準部会の役割は,
飽くまで当時の生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実
態との均衡が適切に図られているか等の定期的な検証を行うものにすぎず,その検証結果を踏まえた保護基準の改定は厚生労働大臣の政策判断に委ねられている。
したがって,基準部会の審議を経ていないことをもって,本件生活扶助基準
の改定が違法となるものではない。


基準部会は,生活扶助基準の改定につき,平成25年報告書の検証結果を考慮した上で厚生労働大臣の合目的的裁量に委ねる趣旨であったこと厚生労働省事務局は,平成25年報告書の作成に当たり,

厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には,本報告書の評価・検証の結果を考慮した上で,他に合理的説明が可能な経済指標などがあれば,それらについても根拠を明確にして改定されたい。

との文言を含む報告書案を用意した。この報告書案について,基準部会において,物価等の経済指標を活用する趣旨そのものを削除すべきとの意見が述べられることはなかった。そして,基準部
会は,最終的に,両論併記や少数意見の付記等をすることなく,平成25年報告書において,
厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には,本報告書の評価・検証の結果を考慮し,その上で他に合理的説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合は,それらの根拠についても明確に示されたい。との意見を取りまとめた。さらに,基準部会委員の全員は,平成25年報
告書案がまとまった段階において,同報告書案につき,特段異議を述べることなく,
これに賛同している。
これらの事情に照らせば,
基準部会委員の全員が,
厚生労働大臣がその根拠を明示した上で物価等の経済指標を活用すること自体について了承をしていることは明らかである。
そうすると,平成25年報告書で示された上記結論(文言)は,厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際,同報告書における検証結果を考慮した上で,
更に同報告書における検証結果以外の合理的な経済指標等を総合

的に勘案することをも含めて厚生労働大臣の合目的的裁量に委ねる趣旨であると解するのが相当である。


本件生活扶助基準の改定が政治的な意図で行われたものではないこと厚生労働大臣による本件生活扶助基準の改定は,①基準部会の検証結果に基
づき,年間収入階級の第1・十分位の世帯の消費実態と生活扶助基準の年齢,世帯人員,居住地域別の較差を是正する(ゆがみ調整)とともに,②近年デフレ傾向が続いてきた中で,生活扶助基準額が据え置かれてきたことを踏まえ,客観的な経済指標である消費者物価指数(総務省CPI)の近年の動向を勘案して適切な生活扶助基準額を再考する必要性が生じたことに基づき,必要な適
性化を図る(デフレ調整)ことを意図して行われたものである。当時の厚生労働大臣は,
生活扶助基準の見直しについて,生活保護に関してですが,中略)(自民党の政権公約の中で,(中略)生活扶助の1割等々引き下げみたいな話があったかと記憶していますが,(中略)考え方として,切ったらいいというような話ではありませんで,(中略)生活扶助等々の1割に関しては,与党としっかり相談させていただきたいと思います。(中略)色々と検討会での御報告もありますから,そういうことも踏まえて,一定の方向性を示してまいりたいと思っています。,下げないということはないと思います。(中略)ただ,幅というのはやはりちょっと色々と今の状況を勘案しないと,今簡単にはものは言えないと。確かに,自民党の公約には書いてある部分はありますが,だからと言って,現状をしっかりと把握せずに,そのまま進めるというわけにはいきませんので,そこはしっかりと現状把握しながらやはりちゃんと検討会の方の御意見もあるわけですから,そこを踏まえて,最終的には適切に判断してまいりたいと思っています。,基準部会の一つの結論というものは重きは置かなければならないと思います。(中略)基準部会等々今まで色々と動いてきたものもありますから,そこはしっかりと参考として話は受け止めなければいけないとは思っております。などと発言し,生活扶助基準の見直しについては,
基準部

会等による報告等を踏まえて,その内容を検討する必要性があることを強調して,
生活保護費の10%引下げという自民党の政権公約に盲従するものではないことを明らかにしている。そして,その結果行われた本件生活扶助基準の見直しの程度も,3年間で生活保護費全体の2.3%を削減するというものにとどまっている。

このように,本件生活扶助基準の改定は,その必要性に応じて適切に行われたものであって,
自民党の政権公約を実現するとの政治的な意図で行われたも
のでないことは明らかである。


本件生活扶助基準の改定は財政事情を考慮して引下げありきで行われたも
のではないこと

本件生活扶助基準の改定は,①基準部会の検証結果に基づき,第1・十分位の世帯の消費実態と生活扶助基準の年齢,世帯人員,居住地域別の格差を是正するとともに,②近年デフレ傾向が続いてきた中で,生活扶助基準額が据え置かれてきたことを踏まえ,客観的な経済指標である消費者物価指数の近年の動向を勘案して適切な生活扶助基準額を再考する必要性が生じたことに基づき,
必要な適正化を図ることを意図して行われたものであり,国の財政事情を考慮して,引下げありきで行われたものではない。
3ゆがみ調整に違法性,違憲性がないこと

ゆがみ調整に至った経緯

基準部会は,平成19年検証において,年齢階級別,世帯人員別,級地別の展開のための指数について,是正の必要が指摘されていたことなどを踏まえ,一般低所得世帯の消費構造を手掛かりとして,それを生活扶助基準の展開部分に反映させることによって,世帯構成等が異なる生活保護受給者間において実質的な給付水準の均衡を図る観点から行われた。そして,平成19年検証において,
生活扶助基準の評価・検証を適切に行うためには,国民の消費実態を詳細に分析する必要があり,そのためには,全国消費実態調査を基本とし,収入階級別,世帯人員別,年齢階級別,地域別などの様々な角度から詳細に分析することが適当である。と指摘されたことを踏まえ,平成21年全国消費実態調査を用いて一般低所得世帯の年齢階級別,世帯人員別,級地別の消費実態の違いを把握し,その世帯構成による消費実態の相違を生活扶助基準の展開部分に反映させることとした。
その際,
基準部会は,

①これまでの検証に倣い,生活保護受給世帯と隣接した一般低所得世帯の消費実態を用いることが今回の検証では現実的であると判断されたこと,②第1・十分位の平均消費水準は,中位所得階層の約6割に達していること,③国民の過半数が必要であると考えている必需的な耐久消費財について,第1・十分位に属する世帯における普及状況は,中位所得階層と比べておおむ
ね遜色なく充足されている状況にあることなどから,一般低所得世帯として第1・十分位の世帯を用いることとした。このような基準部会での検証の結果,
年齢階級別,
世帯人員別及び級地別のいずれにおいても,
生活扶助基準額による指数と一般低所得世帯の消費実態による指数との間にかい離が認められた。


基準部会は,保護基準の検証・評価を行うために設置された法令上の機関であるから,その検証結果は基本的に信頼性が高いものと考えられた。そして,基準部会は,一般低所得世帯の年齢階級別,世帯人員別,級地別の消費実態の違いを把握するに当たり,第1・十分位の世帯を用いたが,上
記のような生活保護受給世帯間の公平を図るという検証の目的に照らすと,その手掛かりとする一般低所得世帯としては,生活保護受給世帯と消費構造が近い世帯とするのが相当と考えられ,そのような観点からみると,基準部会が生活保護受給世帯に近い消費構造を持つものとして第1・十分位の世帯を用いることには相応の根拠があるといえた。
さらに,平成25年検証の手法等を見ても,過誤,欠落等をうかがわせる事情は見当たらなかった。

厚生労働大臣は,
上記のような基準部会による平成25年検証結果に基づ
き,展開に関する指数を見直す必要性は高いものであったことから,一般低所得世帯の消費実態を展開のための指数に反映させることによって,生活扶助基準の展開部分を適正化して生活保護受給世帯間の公平を図るゆがみ調整を行う判断に至った。

このような厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落等は認められない。⑵

ゆがみ調整は絶対水準を調整したものではないこと

基準部会の議論の経過について
原告らは,
平成24年11月9日に開催された第11回基準部会において,

厚生労働省事務局が,
前回の部会におきまして,今回の検証は年齢及び人員並びに級地の3つの要素,この3要素に焦点を当て,詳細な消費実態の分析に基づく評価検証を行い,その結果を踏まえた上で水準の検証を行うといったことを基本方針として御了解いただいたところでございます。と発言したことを理由に,基準部会における検証結果に基づくゆがみ調整が,絶対
値として見た場合の生活扶助基準額を適切な水準に調整したものであると主張する。
しかし,
①厚生労働省事務局が,
上記の発言をした上で,
これまでの部会における議論を踏まえた具体的な検証方法等についてと題する資料の説明をしたところ,複数の委員から異論が唱えられ,上記の水準の検証まで
は行わないこととされたことや,②平成25年1月16日に開催された第12回基準部会において,委員であったF教授が,
今回は(中略)完全に年齢別,世帯人員別,級地別の展開の仕方が実態とどのぐらいかい離してしまっているのかということを検証しようということを徹底してやったわけです。そういう意味では,級地を含めた相対比較方式をかなり徹底して試した。(中略)今回のよさは徹底して相対比較に持ち込んだということだと思うのです。と発言していることからすれば,基準部会における検証結果に基づく
ゆがみ調整が,それ自体,金額を絶対値として高い低いといった生,
活扶助基準の絶対水準の調整を意図したものではないことは明らかである。イ
ゆがみ調整の方法について
ゆがみ調整は,
そもそも生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態とを指
数を用いて相対比較することにより判明したかい離の調整にとどまり,生活
扶助基準額の絶対水準,すなわち,金額として高い低いといった,,
絶対値として見た場合の生活扶助基準額を適切な水準に調整するものではない。

したがって,本件生活扶助基準の改定において,相対比較に基づくゆがみ調整が含まれているとしても,それだけでは十分ではなく,近年デフレ傾向
であったにもかかわらず据え置かれたことによる生活保護受給世帯における可処分所得の実質的増加分を勘案したデフレ調整により,生活扶助基準額の絶対水準の調整を併せて行うことが必要であったことから,両調整を行った。


第1・十分位の世帯と比較したことの合理性
平成25年検証において生活保護受給世帯と比較する世帯として第1・十分位の世帯を設定したのは,生活保護において保障すべき健康で文化的な最低限度の生活の水準は,
一般国民の生活水準との関連において捉えられるべき相対
的なものとされてきたことから,生活扶助基準と対比する一般低所得世帯とし
て,第1・十分位を設定するのが相当と考えられたことによる。
すなわち,平成25年検証は,それによって認められた生活扶助基準による指数と一般低所得世帯の消費実態による指数との間のかい離を相対的に調整するものであり,上記指数間のかい離を是正し,生活扶助基準を一般低所得世帯の消費実態を適切に反映したものとすることによって,世帯構成等が異なる生活保護受給者間において実質的な給付水準の均衡を図ることを目的とするものである。以上の平成25年検証の目的等に照らせば,生活保護受
給世帯と比較する世帯としては,それと消費構造が同質的な一般低所得世帯を設定することが相当と考えられた。
そして,一般低所得世帯の中から第1・十分位を設定した理由については,平成25年報告書に記載のとおりであるが,特に,
隣接十分位間の世帯の消費の統計解析
を基礎として,
基準部会において議論し,
分散分析等の統計的手法により検証したところ,各十分位間のうち,第1・十分位と第2・十分位の間において消費が大きく変化しており,他の十分位の世帯に比べて消費の動向が大きく異なるとの結果が得られたことなどを踏まえると,一般低所得世帯の中でも生活保護受給世帯と比較するのに適切な階級は,第1・十分位と判断された。

以上によれば,平成25年検証において,生活保護受給世帯と比較する一般低所得世帯として第1・十分位の世帯を設定したことには合理性が認められる。⑷

比較対象とされた第1・十分位の世帯から生活保護受給世帯を控除していないことについて

生活扶助基準と第1・十分位の消費実態とを年齢別・世帯人員別・地域別に比較検証するに当たって,第1・十分位のデータから生活保護受給世帯と考えられるサンプルは除外していない。平成19年検証は,生活扶助基準の水準が保護を受給していない低所得世帯における消費実態との均衡が適切に図られているかどうかを中心に検証されたのに対し,基準部会における検証は,年齢
差,世帯人員差及び地域差による影響を指数化することによって,基準体系,地域差のゆがみによる不公平さを相対的に把握することが狙いとされたものである。そして,後者における不公平さを相対的に把握するとの観点からすれば,生活扶助基準と比較検討すべき一般低所得世帯の消費実態から,あえて生活保護受給世帯と考えられるサンプルを除外する必要は認められない。そこで,基準部会は,第1・十分位のデータから生活保護受給世帯と考えられるサンプルを除外しなかった。

平成25年検証は,上記のような観点から,生活扶助基準額に一般低所得世帯の消費実態が適切に反映されているかを検証するため,平成21年全国消費実態調査の第1・十分位のデータを使用し,その消費実態の指数と,それらの各世帯が実際に当時の基準により生活保護を受給した場合の生活扶助基準額の指数を比較したものである。すなわち,ここで第1・十分位の世帯の消費支出と比較している対象は,法及び告示で定められた当時の基準による生活扶助基準額であり,実際の生活保護受給世帯の消費支出額を比較対象としたものではない。したがって,平成25年検証は,
2つの集団及び2つの集
団におけるそれぞれの消費支出を比較したものではなく,原告らが比較の対象とする2つの集団について主張するような,比較の対象とする要因に
関し厳密に区別されなければならないといった点を考慮する余地はない。⑸

ゆがみ調整におけるデータ処理について

回帰分析の決定係数について
決定係数は,回帰分析における当てはまりの良さ,すなわちその回帰分析
が実態に近似する程度を示す指標であり,
決定係数の値が
0
(説明変数X
が被説明変数Yの変動を説明するのに全く役に立たない場合)であればともかく,
どの程度の決定係数の値であれば実態に近似したものとして妥当と評価されるか(どの程度の決定係数の値であれば,無理のある近似であって妥当でないと評価されるか)については一般的な基準は存在せず,特定の決定
係数の値以上でなければ採用し得ないといった統計的知見は存在しない。そして,平成25年検証の回帰分析(年齢体系の第1類費)における決定係数の値は,世帯の年間収入を基にしたデータ①については0.28,世帯員
1人当たりの年間収入を基にしたデータ②については0.36
であって,
その値のみをもって,
その採用が統計的に誤りといえるような極端に低いも
のではない。そうすると,平成25年検証の決定係数の値のみをもって,その回帰分析が不合理であると指摘する原告らの上記主張は,統計的分析の当
不当を指摘するものにすぎず,厚生労働大臣の判断についての裁量権の範囲の逸脱又は濫用を基礎付け得るものではない。

回帰係数のt検定について
原告らは,
本来なら不要な説明変数を除かずに回帰モデルの推定を採用し
ていることは,平成25年検証の致命的な欠陥である旨主張する。
しかし,帰無仮説を採択すること(
棄却しないこと)の意味は,当
該帰無仮説を積極的に支持すること(帰無仮説が真であって,説明変数に効果がないことを積極的に支持すること)であるとはいえない。したがって,有意水準を5%とした場合に帰無仮説を棄却できないとしても,その説明変数を除外しなければ,それを説明変数に含めた回帰分析の結果を採用で
きないというものではない。原告らの主張は,t検定によって帰無仮説が棄却できない場合の統計的解釈を誤るものである。

回帰分析のその他の点について
原告らは,回帰分析の結果を適切に評価するためには,誤差項の分散均一
性,
正規性等統計的方法に課せられている仮定を検討しておく必要がある旨主張する。
原告らの指摘する検討は,t検定と同様,回帰分析結果について,事後的にその精度を検証するための統計的検定の手法であるところ,上記各手法を用いなければ回帰分析の結果を採用し得ないといったような統計的知見は
全く存在しない。
また,原告らは,厚生労働省が基準部会委員に示した回帰分析の説明図が不正確であったと主張する。
原告らが指摘するイメージ図は,散布図上の点(被説明変数)からの最短距離の線が回帰直線に対し直角に交わるよう示されているが,正しくは被説明変数の点から回帰直線に対し真下(又は真上)に引かれた線と交わるように示されるべきであり,単回帰分析のイメージ図として誤解を招くものでは
ある。
しかし,
上記資料には,

データの平均的傾向を最も偏りなく反映するという条件から,aとbが求まる。(最小二乗法の考え方)

と明確に併記されており,基準部会委員に対し,誤った説明をしたものではない(最小二乗法とは,回帰分析において,説明変数と被説明変数の関係を示す当てはまりの良い直線(回帰直線)を引くために用いられる手法をいう。。




平均指数法について
サンプル世帯となった第1・十分位の世帯が全て生活保護を受給した場合の生活扶助基準の平均とサンプル世帯の実際の生活扶助相当消費支出の平均を同額となるようにした目的は,これを同額とすることで,年齢,世帯人員及び級地の違いが生活扶助基準にどのように影響しているか評価するに当たり,生
活扶助基準と第1・十分位の生活扶助相当支出額の金額の高低差が検証結果に反映されないようにするため(裏返せば,年齢,世帯人員及び級地の違いが検証結果に反映されるようにするため)である。

2分の1処理について
平成25年報告書の検証結果で判明した較差(ゆがみ)を完全に是正した場合,世帯によっては生活扶助基準額の減額幅が大きくなり,当該世帯に対する負担も重くなることが想定された。
厚生労働大臣は,
基準部会から,
生活扶助基準の見直しを検討する際には,(中略)現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯への見直しが及ぼす影響についても慎重に配慮されたいと
指摘されていたことから,生活保護受給世帯への影響を一定程度に抑えるための激変緩和措置を講じる必要があると考え,本件生活扶助基準の改定の時点において較差(ゆがみ)を完全に是正するべきでないと判断した。他方,ゆがみ調整を本件生活扶助基準の改定に反映するに当たり,個々人の改定結果が減額となるか増額となるかは年齢,世帯人員及び級地別の3要素について指数を全て乗じた結果により明らかになるものであり,足し算による積み上げとは異なり,変化額を各要素に分解することが困難であった。また,個別の指数ごとに
減額幅
(減額の改定比率)
については2分の1とし,
増額幅
(増額の改定比率)
についてはそのまま反映させるといったように部分的に反映程度を変えることは,理論的にはあり得るものの,検証によって判明した年齢,世帯人員別及び級地別のゆがみを公平に解消させる観点等からは適当ではないと考えられたため,一律の改定比率とした。

このように,その改定比率の調整については,基準部会の検証に基づいて得られた結果を忠実に反映させてゆがみを公平に解消する目的と,激変緩和措置を講じる目的との調和を図る観点から,平成25年報告書で判明した検証結果の中間となる2分の1としたものである。
このような厚生労働大臣の判断が合理的であることは明らかである。
4デフレ調整に違法性,違憲性がないこと


デフレ調整の判断に至った経緯
平成19年検証の結果,生活扶助基準が一般低所得世帯の消費実態と比較して高いとされながら,平成19年検証に基づく減額改定を行わなかったこと,
その上,
平成20年9月のリーマンショックに端を発する世界金融危機によって,賃金,物価及び家計消費が下落する経済情勢にあり,一般低所得世帯の消費水準等が下落する一方,その経済動向を踏まえた減額改定が行われずに据え置かれてきた結果,一般国民との均衡は更に崩れた状況にあり,本件生活扶助基準の改定前の水準は,
一般低所得世帯の生活実態との均衡が大きく崩れた状

態(生活保護受給世帯の基準額が高い状態)となっていたが,平成25年検証では展開部分に関する抜本的な見直しが行われる一方,生活扶助基準の水準が妥当か否かの評価・検証は行われなかった。
そして,平成20年以降の経済動向をみると,上記のとおり,一般国民の消費水準が下落する一方,
デフレ傾向にもかかわらず生活扶助基準が据え置かれ
たことによって,生活保護受給世帯の可処分所得が相対的,実質的に増加した(平成20年以降の据置きによって基準額が実質的に引き上げられた)と評価
できる状況にあった。この点,物価を指標として水準の改定を行うことは,専門委員会が平成15年に公表した生活保護制度の在り方についての平成15年中間取りまとめ(甲44,乙14。以下平成15年中間取りまとめとい
う。
)でも指摘されており,保護基準の各種加算においては物価の伸び率を基礎とした改定が行われてきた。

以上のことなどを踏まえ,厚生労働大臣は,平成20年以降の物価を生活扶助基準に反映させることによって,生活保護受給世帯の可処分所得が相対的,実質的に増加したこと(基準の実質的な引上げ)による一般国民との間の不均衡を是正することとした。そして,厚生労働大臣は,平成20年以降の物価の動きを把握するに当たり,総務省統計局が公表している総務省CPIの生活扶
助による支出が想定される品目のデータを用い,平成20年から平成23年までの物価下落率(4.78%)を算定した。その上で,厚生労働大臣は,その統計上の数値が,平成20年以降の生活保護受給世帯の可処分所得の相対的,実質的な増加(基準の実質的な引上げ)による一般国民との不均衡を是正するのに相当なものと評価し,その数値分を減額する改定を行った。

厚生労働大臣の上記の判断過程に論理の飛躍や欠落等はなく,被告らが挙げた理由からデフレ調整に係る判断は容易に導かれるのであるから,デフレ調整に係る判断の過程に過誤,欠落等は認められない。

水準均衡方式との矛盾はなく,物価の二重評価にも当たらないこと水準均衡方式は,飽くまで,生活扶助基準の水準についての改定方法の一つであるところ,平成25年改定における生活扶助基準の水準の改定は,水準均衡方式によるものではないから,水準均衡方式による改定率を算定するに当たり,
物価が参考資料にすぎないとされているとしても,そのことは,物価を考慮した基準改定を否定する根拠とはならず,水準均衡方式と矛盾するものでもない。昭和58年意見具申における賃金や物価は,そのままでは消費水準を示すものではないので,その伸びは,参考資料にとどめるべきであるとの
報告は,飽くまで,一般国民の消費を基礎とする水準均衡方式による改定率の算定において,
物価
等を重視するのではなく,
参考とすべきことを指摘
するものであって,水準均衡方式以外の改定方法を採用する場合において,物価を基礎に改定することを否定する趣旨では全くない。専門委員会は,平成15年中間取りまとめにおいて,
消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることなども考えられるとしているのであり,物価を改定の指標の一つとして用いることができることを前提とする意見を述べている。また,デフレ調整は,平成19年検証の結果,当時の生活扶助基準が一般低所得者の消費実態に比べて高いと指摘されていたにもかかわらず,平成20年度以降の生活扶助基準額については据え置かれてきたため,平成20年以降の
デフレによる物価下落等の推移については,生活扶助基準に反映されていない状況にあったことを踏まえ,生活扶助基準に反映されていなかった平成20年から平成23年までのデフレによる物価変動を生活扶助基準に適切に反映したものであって,物価変動を過剰又は二重に評価するものでない。⑶

手続面で基準部会の検証を経ていないことが違法であるとはいえないこと上記2⑴及び⑵で述べた基準部会の位置付け,平成25年報告書の趣旨からすれば,
デフレ調整について基準部会の審議を経ていないからといって手続的瑕疵が認められる余地はない。


デフレ調整の内容について

計算方法について
平成20年の生活扶助相当CPI及び平成23年の生活扶助相当CPI(物価指数)は,いずれもILOマニュアルのロウ指数であり,
平成20年を基準とする平成23年の生活扶助相当CPIも,ILOマニュアルのロウ指数
(中間年ロウ指数(物価算定の基礎となる時点(基準時点)と
比較対象となる時点(比較時点)の間にウェイトを置いたロウ指数))であ
る。このように,デフレ調整において用いた物価指数(各生活扶助相当CPI)は,いずれもILOマニュアルに記載された算式(ロウ指数)であり,国際的な基準に沿う妥当な算式といえる。
平成20年を基準とする平成23年の生活扶助相当CPI(平成23年の生活扶助相当CPI(517品目)を平成20年の生活扶助相当CPI(4
85品目)で除して計算)は,計算の基礎となった品目数が異なるため,一定の買い物かごを購入するのに必要な全費用の割合の変化を表したロウ指数といえるのかが問題となるが,このように,一部の品目の価格が観察できないという状況(
欠価格の問題)は,物価指数の作成実務においてしばし
ば発生するものであり,一部の価格が観察できないからといって,物価指数
及びその指数を用いた物価変動率が計算できなくなるわけではない。総務省CPIの作成において,欠価格の問題が生じた場合には,
類似品目の物価動向によって欠価格品目の物価動向を推測する方法,すなわち欠価格品目の価格動向について類似品目の価格動向と同一であったと仮定する方法が採用されているが,欠価格の処理方法は,このような方
法に限られず,
欠価格品目を計算上除外して物価指数を作成することも可能
である。
そして,
欠価格品目の価格を計算上除外して物価指数を算出した場合には,欠価格品目の価格動向について他の全ての品目の価格動向と同じと仮定したことになるのであって,買い物かごの内容を変えることを意味するもの
ではない。
この点,デフレ調整においては,平成22年の基準改定による新規採用品目(32品目)の価格が観察できなかったことから,新規採用品目の価格指数を除外して平成20年の生活扶助相当CPIを算定しており,平成20年の生活扶助相当CPIと平成23年の生活扶助相当CPIとでは計算上の品目数が異なっている。
しかし,上記のとおり,新規採用品目の価格動向(32品目)は,他の全
ての品目の価格動向(485品目)と同じ(-4.78%)であったと仮定して算出の根拠となっているのであり,平成20年を基準とする平成23年の生活扶助相当CPIは,固定された同じ買い物かご(517品目)を購入するために必要な全費用の変化を表したロウ指数(固定買い物かご指数)である。

以上のとおり,
平成20年及び平成23年の生活扶助相当CPIを算出す
る計算上の品目(485品目,517品目)が異なることは,平成20年を基準とする平成23年の生活扶助相当CPIが,一定の買い物かご(517品目)で算出された固定買い物かご指数,すなわちロウ指数であることを何ら否定するものではない。


実態とのかい離に関する主張について
平成20年から平成22年までの計算方法
平成22年を基準(ウェイト参照時点)として平成20年の生活扶助相当CPIを算出したことは,パーシェ式を用いて指数を算出したことと同
じ結果になるということができるが,総務省CPIの計算方式が唯一の方式ではないのであって,物価指数の算出において,ラスパイレス式を用いなければならないといった専門的知見は存在せず,どのような指数を用いるかは,
その算出目的に従って政策的な判断として選択されるべき事柄で
ある。ラスパイレス式によらない指数を用いた結果,電化製品等の物価指
数が過大に評価されたなどという原告らの主張は,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとの違法をいうものではなく,政策判断の当不当を指摘するにすぎない。
生活扶助相当CPIにおける品目の選定とウェイトの設定について物価及びその変動率を算定するためには,指数品目を選定し,その品目の価格(指数)及びウェイトを把握する必要があるところ,平成25年の本件生活扶助基準の改定当時,生活扶助による支出が想定される品目の価格
(指数)
及びウェイトを網羅した信頼性の高い客観的なデータとしては,
総務省CPI以外には見当たらなかった。もっとも,総務省CPIの指数品目には,家賃,教育費,医療費,自動車関係費,NHK受信料等の生活扶助による支出がおよそ想定されない品目が多数含まれており,生活保護
受給世帯の可処分所得の相対的,実質的な増加の程度を正確に把握するためには,
上記のような品目を含めて算定することは相当ではないと考えら
れた。
以上の理由から,厚生労働大臣は,総務省CPIの指数品目のうち,生活扶助による支出がおよそ想定されない品目を除いた品目の価格指数及
びウェイトのデータを用いて物価を算定することとした(生活扶助相当CPI)そして,

総務省CPIは,
家計調査に基づいて算出されているが,
統計法上の基幹統計である家計調査は,調査対象世帯の選定方法も含め,統計資料としての精度が高いだけではなく,家計上の支出(詳細な品目ごとの支出額)等の把握を目的とした調査であるから,ウェイト(品目ごと
の消費支出の割合)を把握するのに最も適したデータといえる。
厚生労働省が平成22年に実施した家庭の生活実態及び生活意識に関する調査によれば,生活保護受給世帯の電化製品の普及率は,例えば,パソコンの普及率は約4割,ビデオレコーダーは約7割,電子レンジや洗濯機は約9割,カラーテレビや冷蔵庫はほぼ10割となっている。このよ
うに,生活保護受給世帯においても,相当程度電化製品を所持して生活を営んでいることは明らかであるところ,生活扶助相当CPIの算出に当たって,
生活保護受給世帯において電化製品を生活扶助で購入することが十分予想されるにもかかわらず,物価下落幅が大きいという理由で算出品目から除外することは,かえって恣意的な算定方法となり,適当ではない。計算期間の選定について
本件生活扶助基準の改定に当たり,デフレ調整の起点を平成20年とし
たのは,
平成19年報告書の生活扶助基準が高いとの評価を受けて本来で
あればこの時点で生活扶助基準の見直しの検討を行わなければならなかったところ,当時の社会経済状況を考慮して,平成20年度以降の生活扶助基準額が据え置かれてきたという経緯によるものである。
そして,厚生労働大臣は,平成20年以降の生活保護受給世帯の可処分
所得の相対的,実質的な増加の程度を把握するに当たり,総務省CPIのデータを用いることとしたところ,平成25年の本件生活扶助基準の改定当時の最新のデータは,平成24年1月27日に公表された平成23年のものであった。そのため,厚生労働大臣は,物価指数を算定する終点を平成23年とし,
平成20年から平成23年までの物価変動率を算定するこ

ととした。
5
本件生活扶助基準の改定後の生活扶助基準の内容が被保護者の健康で文化的
な最低限度の生活水準を維持するに足りるものであるとした厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとはいえないこと
ゆがみ調整は,
生活扶助の年齢差や世帯構成差や地域差による給付水準の相対
的な不公平さの適正化を内容とするものであるのに対し,デフレ調整は,生活扶助基準の絶対的な水準の適正化を内容とするものである。そのため,デフレ調整については生活保護受給者全員に影響することになるが,ゆがみ調整を併せて行うことにより,一部増額となる者も生じている。加えて,激変緩和措置を講じて
いることを考慮すれば,
本件生活扶助基準の改定後の生活扶助基準の内容が被保
護者の健康で文化的な生活水準を維持するに足りるものであるとした厚生労働大臣の判断に,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとはいえない。そもそも生活保護法8条1項が規定する厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要とは,最低限度の生活の需要として再構成された客観的なものを意味し,各要保護者の個別的な需要を意味するものではない。厚生労働大臣が,抽象的かつ相対的な概念である最低限度の生活を保護基
準において具体化するに当たっては,国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な,
しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするから,
個々の生活保護受給者の具体的生活状況自体を考慮しないからといって,そのことが直ちに,
本件生活扶助基準の改定に係る厚生労働大臣の判断における
裁量権の範囲の逸脱又は濫用を基礎付ける事情となるものではない。したがって,本件生活扶助基準の改定の適法性を判断する際に,生活保護受給者の個別具体的な生活状況を考慮する必要性は認められないというべきである。
第5当裁判所の判断
1本件生活扶助基準の改定に至る経緯等
前記前提事実,掲記の各証拠(主要なものを掲げる。また特に断りのない限り
枝番号を含むものとする。
以下同じ。及び弁論の全趣旨によれば,

本件生活扶助
基準の改定に至る経過等について,以下の事実が認められる。


生活扶助基準の改定方式

昭和21年から昭和58年までの間に採用されていた生活扶助基準の改定方式は,以下のとおりであった。
昭和21年~昭和22年
標準生計費方式(当時の経済安定本部が定めた世帯人員別の標準生計費を基に算出し生活扶助基準とする方式)
昭和23年~昭和35年

マーケットバスケット方式
(最低生活を営むために必要な飲食物費や衣
類費,家具什器費,入浴料といった個々の品目を一つ一つ積み上げて最低生活費を算出する方式)
昭和36年~昭和39年
エンゲル方式
(栄養審議会の答申に基づく栄養所要量を満たし得る食品
を理論的に積み上げて計算し,
別に低所得世帯の実態調査から当該飲食物
費を支出している世帯のエンゲル係数の理論値を求め,
これから逆算して

総生活費を算出する方式)
昭和40年~昭和58年
格差縮小方式
(一般国民の消費水準の伸び率以上に生活扶助基準を引き
上げ,
結果的に一般国民と被保護世帯との消費水準の格差を縮小させようとする方式)

格差縮小方式は,生活保護階層に隣接する第1・十分位の世帯との格差縮小を見込むものとして提唱されたものであった。
(乙8の2,35)

厚生省
(当時)
の審議会である中央社会福祉審議会は,
昭和58年12月,
生活扶助基準及び加算のあり方について(意見具申)(昭和58年意見具申)を発表した。
昭和58年意見具申においては,生活保護で保障すべき最低生活の水準は一般国民の生活水準との関連において捉えられるべき相対的なものであるとされた上で,①生活扶助基準は,一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当
な水準に達しているが,国民の生活水準は今後も向上すると見込まれるため,生活扶助基準の妥当性を定期的に検証する必要がある,②生活扶助基準の改定に当たっては,
当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同
時に,
前年度までの一般国民の消費水準との調整が図られるよう適切な措置を執ることが必要であって,当該年度に予想される国民の消費動向に対応す
る見地から,民間最終消費支出の伸びに準拠することが妥当であるとされ,賃金や物価は,そのままでは消費水準を示すものではないので,その伸びは参考資料にとどめるべきであるといった指摘がされた。
(甲170,乙9)

生活扶助基準の改定方式については,一般国民生活における消費水準との比較において相対的なものとして設定することが適当であるという昭和58年意見具申を踏まえ,昭和59年4月以降,毎年度の民間最終消費支出の
伸びを基礎として国民の消費水準と均衡した水準を維持・調整する水準均衡方式が導入された。
(甲6,乙7,11,弁論の全趣旨)


生活扶助基準に関する専門家による検証等

生活保護の在り方に関する専門委員会(専門委員会)の設置及び専門委員会による検証(平成15年中間とりまとめ,平成16年報告書)とその結果平成15年6月,経済活動が低迷し,賃金,物価及び家計消費がいずれも下落するデフレ状況が続いていたという社会経済情勢の下,財務省の審議会である財務制度等審議会の建議においては,生活扶助基準・加算の引下げ・廃止等が必要であるとされ,社会保障審議会においても,他の社会
保障制度との関係等にも留意しつつ,生活保護制度の在り方について,より専門的に検討していく必要があるといった議論が出た。また,同月27日には,生活保護について,物価,賃金動向,社会経済情勢の変化等との関係を踏まえた見直しが必要であることなどを内容とする経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003が閣議決定された。
このような状況を踏まえ,厚生労働省の審議会である社会保障審議会は,同年7月,社会保障審議会運営規則8条に基づき,その福祉部会内に,保護基準の在り方を始めとする生活保護制度全般について検討することを目的として,生活保護制度の在り方に関する専門委員会(専門委員会)を設置した。
(乙13,弁論の全趣旨)

専門委員会では,平成15年8月以降6回にわたり,生活扶助基準の在り方等について議論された。
その中では,
生活扶助基準の改定を賃金や物価等に基づいて行うことに
ついても議論されたところ,その際には,物価を指標として生活扶助基準の改定を行うことは,一般国民の生活水準との相対性を確保することを目的とした水準均衡方式から相当外れることになるため慎重に行う必要がある旨の意見が出された一方で,生活保護費の財源が租税であることや社会の公平感等からすると賃金や物価等を指標とすることは国民に分かりやすいなどとする意見もあった。
(甲41,42)

専門委員会は,平成15年12月16日,専門委員会の生活扶助基準についての考え方を差し当たり示すものとして,
生活保護制度の在り方についての中間取りまとめ
(平成15年中間取りまとめ)を公表した。
平成15年中間取りまとめでは,①生活扶助基準の評価については,生活保護において保障すべき最低限度の生活水準は,一般国民の生活水準と
の関連において捉えられるべき相対的なものであり,具体的には,第1・十分位の世帯の消費水準に着目することが適当であるとされて第1・十分位の世帯の消費水準と生活扶助基準額との比較が行われ,②生活扶助基準の改定方式の在り方については,経済情勢が水準均衡方式を採用した当時と異なることから,例えば,5年に1度の頻度で生活扶助基準の水準につ
いて検証を行うことが必要であり,また,定期的な検証を行うまでの毎年の改定については,
国民にとって分かりやすいものとすることが必要なの
で,
例えば年金の改定と同じように消費者物価指数の伸びも改定の指標の1つとして用いることも考えられるなどとされた。
(甲44,乙14)

専門委員会は,平成16年12月15日,
生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書
(甲3,
乙5。
以下
平成16年報告書
という。

を公表した。
平成16年報告書の概要(生活保護基準の在り方に関する部分)は,次のとおりである。
a
水準均衡方式により,勤労3人世帯(夫婦子1人)の生活扶助基準について,一般低所得世帯の消費支出額との比較において検証・評価した
結果,その水準は基本的に妥当であったが,今後,生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため,
全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を
行う必要があり,その検証に当たっては,地域別,世帯類型別等に分けるとともに,
調査方法及び評価手法について専門家の知見を踏まえるこ

とが妥当である。
b
生活扶助基準は,世帯人員数分を単純に足し上げて算出される第1類費とスケールメリットを考慮して世帯人員数に応じて設定されている第2類費とを合算する仕組みが採用されているため,人数が増すにつれ第1類費の比重が高くなり多人数世帯になるほど生活扶助基準額が割
高になるなど,
世帯人員別にみると必ずしも一般低所得世帯の消費実態
を反映したものとなっていない。そこで,生活扶助基準の設定及び算出方法については,
第2類費の構成割合や多人数世帯の換算率に関する見
直し等を行う必要がある。
c
現行の級地制度については昭和62年度から最大格差22.5%,6区分制とされているが,現在の一般世帯の生活扶助相当支出額では地域差が縮小傾向にあるため,級地制度全般について見直しを検討する必要がある。
(甲3,乙5)

らは,一般世帯の消費実態との均衡を図るため,4人以上世帯における生活扶助基準の算定方法について,次のとおりの見直しが行われた。a
第1類費
4人世帯の場合に0.95の,5人以上世帯の場合に0.90の逓減
率を導入する(3年間で段階的に実施する。。

b
第2類費
4人以上世帯の基準額を抑制する。
(乙8の3)


生活扶助基準に関する検討会(検討会)の設置及び検討会による検証(平成19年検証及び平成19年報告書)

平成16年報告書において,生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必要があるとされてい
政運営と構造改革に関する基本方針2006」において,生活扶助基準について,低所得世帯の消費実態等を踏まえた見直しを行い,併せて級地の見直しを行うなどとされたことから,平成19年,級地を含む生活扶助基準の見直しについて,専門的な分析・検討を行うため,生活扶助基準に関する検討会(検討会)が設置された。
検討会は,学識経験者等で構成された組織であるが,国家行政組織法に
基づく審議会等に当たるものではなく,厚生労働省社会・援護局長が行政運営上の参考に資するため,有識者の参集を求めて意見聴取を行った会議体である。
(乙15,弁論の全趣旨)
検討会は,
平成19年10月19日から同年11月30日までの約1か

月半の間に5回の会議を開催し,平成16年の全国消費実態調査の特別集計結果に基づき,平成16年報告書で提言された定期的な検証のほか,①水準の妥当性
(生活保護を受給していない低所得世帯における消費実態と
の均衡が適切に図られているかどうか)
,②体系の妥当性(生活扶助基準
において第1類費と第2類費の合算によって算出される基準額が消費実態を反映しているかどうか)
,③地域差の妥当性(級地による基準額の較
差が地域間における生活水準の差を反映しているかどうか)等の評価及び検証を行った。
(甲4,46~50,乙6)
検討会は,平成19年11月30日,
生活扶助基準に関する検討会報告書
(平成19年報告書)を公表した。
平成19年報告書の概要は,次のとおりである。

a
生活扶助基準の設定に当たっては水準均衡方式が採用されていることから,生活扶助基準の水準は,国民の消費実態等との関係で相対的に決まるものとされている。

b
国民の消費実態との比較に当たっては,これまで第1・十分位の消費水準と比較することが適当とされてきたところ,第1・十分位の消費水準は,平均的な世帯の消費水準に照らして相当程度に達していること,
第1・十分位に属する世帯における必需的な耐久消費財の普及状況は,平均的な世帯と比べて大きな差はなく,また,必需的な消費品目の購入頻度は平均的な世帯と比較してもおおむね遜色ない状況にあることから,検討会における検証においても,第1・十分位の消費水準と比較するのが適当である。

c
生活扶助基準の水準については,勤労3人世帯(夫婦子1人)の平均の生活扶助基準額(15万0408円)は,第1・十分位におけるそれらの世帯の生活扶助相当支出額(14万8781円)よりもやや高めであり,単身世帯(60歳以上の場合)の平均の生活扶助基準額(7万1
209円)は,第1・十分位におけるそれらの世帯の生活扶助相当支出額(6万2831円)よりも高めであった。
d
生活扶助基準の体系に関する評価及び検証は,世帯構成等が異なる生活保護受給者間において実質的な給付水準の均衡が図られる体系としていくべきとの観点から行い,その上で必要な見直しを行っていくことが必要である。そして,生活扶助基準の世帯人員別及び年齢階級別の基準額が消費実態を反映しているかを検討すると,(a)世帯人員別の生活
扶助基準額と生活扶助相当支出額の差は,世帯人員が4人以上の世帯の方が,世帯人員が1人の世帯に比して有利となっており(生活扶助基準額が生活扶助相当支出額よりも高い。,(b)年齢階級別での生活扶助基)
準額と生活扶助相当支出額の差は,60歳未満では生活扶助相当支出額の方が高く,70歳以上では生活扶助基準額が高くなるなど,消費実態
からかい離している。
e
地域差の比較においては,現行の級地制度における地域差を設定した当時(昭和59年)の消費実態と平成16年の消費実態を比較すると,地域差が縮小している傾向がみられる。
(甲4,乙6)


平成19年報告書公表後の生活扶助基準の据置き(平成20年度~平成24年度)及びその間の経済状況等
厚生労働大臣は,平成19年報告書において,生活扶助基準の水準が一般低所得世帯の消費水準に比して高いなどとする検証結果が示されたことか
ら,生活扶助基準を消費実態に適合させる方向での見直しを検討したが,原油価格の高騰が消費に与える影響等を見極めるため,平成20年度は据え置くこととし,また,平成21年度についても,平成20年2月以降の生活関連物資を中心とした物価上昇の家計への影響が大きいこと,同年9月のいわゆるリーマンショックに端を発した世界的な金融危機が実体経済に深刻な
影響を及ぼしており,国民の将来不安が高まっている状況にあることから,引き続き据え置くこととした。
さらに,その後も,厳しい経済・雇用情勢等に鑑みて国民生活の安心が確保されるべき状況にあったことから,生活扶助基準の据置きは継続され,平成25年の本件生活扶助基準の改定に至るまで,平成19年報告書の検証結果を踏まえた生活扶助基準の見直しは行われなかった。
(乙8の1,16,弁論の全趣旨)

一方で,平成20年以降,①一般勤労者世帯の賃金は,事業所規模5人以上の調査産業計の1人当たり平均月間現金給与総額で減少傾向にあり,②総務省CPIは平成21年から平成23年まで3年連続で前年比がマイナスとなり
(3年間で約-2.
4%)③全国勤労者世帯の家計消費支出の名目値

も平成21年から平成23年まで3年連続で減少するなど,賃金,物価及び
家計消費はいずれも下落するデフレ状況が継続していた。
また,
厳しい経済・
雇用情勢等の下,
生活保護受給者数は平成23年7月に過去最高の205万
人に達してその後も引き続き増加し,これに伴って生活保護費負担金も年々増加して平成23年度には約3.5兆円に上った。
このような状況を受けて,生活困窮者対策及び生活保護制度の見直しの必
要性が指摘されるに至り,平成24年8月に成立した社会保障制度改革推進法附則2条1号においても,生活扶助,医療扶助等の給付水準の適正化等の必要な見直しを早急に行うことが明記された。
(甲6,7,乙7,12)

基準部会の設置及び基準部会による検証(平成25年検証及び平成25年報告書)
平成16年報告書において5年に1度の頻度で生活扶助基準の水準を検証する必要がある旨の指摘がされ,平成19年には検討会において生活扶助基準の検証(平成19年検証)が行われたことに引き続き,平成23
年2月,学識経験者による定期的な保護基準の専門的かつ客観的な評価・検証を行うことを目的として,社会保障審議会運営規則2条に基づき,社会保障審議会の下に,新たに常設部会として基準部会が設置された。(甲
6,乙7,弁論の全趣旨)
基準部会では,平成23年4月以降,議論が重ねられたところ,基準部会は,平成21年の全国消費実態調査の特別集計等のデータを用いて,国民の消費動向,特に一般低所得世帯の生活実態を勘案しながら,生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否か等についての検証を行うことし,具体的には,生活扶助基準の展開部分の適正化を図るという観点から,平成21年全国消費実態調査の個票データを用いて,年齢階級別,世帯人員別及び級地別の生活扶助基準額と消費実
態とのかい離を分析し,様々な世帯構成に展開するための指数についての検証を行うこととした。
その際,比較対象となる一般低所得世帯は,第1・十分位の世帯とすることとされ,比較対象となる第1・十分位の世帯から,生活保護受給世帯は除外されなかった。
また,
検証の結果把握した年齢階級別,
世帯人員別,

級地別の消費の指数が現行の生活扶助基準額が想定するものと異なる程度を具体的に評価するため,生活扶助基準額に消費実態を反映した場合の理論上の額(消費実態を反映した水準)と現行の基準額の水準の相関関係を見ることとし,消費実態を反映した水準の算出に当たっては,第1・十分位のサンプル世帯が全て生活保護を受給した場合の生活扶助基準額の
平均と当該サンプル世帯の生活扶助相当支出額の平均とが同額になるようにする手法(以下,この計算法を平均指数法という。
)が採られた。
そして,
年齢階級別,
世帯人員別及び級地別に消費実態を反映した水準を,
それぞれ0~2歳,単身世帯,1級地-1の額を1として指数化し(消費実態による指数)
,年齢階級別,世帯人員別及び級地別の生活扶助基準額

を指数化したもの(生活扶助基準額による指数)と比較した。
(甲6,26,乙7,57,弁論の全趣旨)
検証に当たって,
平成19年検証では各年齢階級の単身世帯のデータを
用いて各年齢階級別の平均消費水準を分析したが,全国消費実態調査の調査客体に10代以下の単身世帯がほとんどいないため,10代以下の消費を正確に計測できないという限界があったことから,年齢階級別に設定されている生活扶助基準の第1類費の検証においては,10代以下の者がいる複数人世帯のデータも用いて,10代以下の者も含めた各年齢階級の消費水準を計測できるよう,統計的分析手法である回帰分析(ある統計値について,関係すると推定される指標を用いた数式(回帰式,回帰直線)によってその統計値の動きを説明する手法。説明変数Xと被説明変数Yの関
係を分析するに当たり,回帰分析では,XがYに影響を与えるという因果関係を仮定して分析する。
)が採用された。
分析の前提として,第1・十分位を設定するために所得の低い方から高い方へ並べるに際して,1人当たりの所得をどのように算出するかが問題となるところ,今回の分析では,スケールメリットが,①最大に働く場合
(世帯の年間収入に着目)と②最小に働く場合(世帯の年間収入を世帯人員数で除した,世帯員1人当たりの年間収入に着目)のそれぞれの想定に応じた2種類の第1・十分位を設定し,そのそれぞれを用いて算出された指数の平均値が採用された。そして,世帯の消費支出に影響を与える主な要素として,年齢階級別の世帯人員数,居住地域,世帯の貯蓄等が考えら
れ,また,世帯の住宅資産の状況は世帯の家賃地代支出に反映され,結果的に消費にも影響を及ぼすと考えられるという点を考慮し,生活扶助基準の設定に用いられている年齢階級別の世帯人員数,
級地のほか,
住宅資産,
貯蓄の状況を表す指標を説明変数とし,世帯の第1類費相当支出額の自然対数を被説明変数とした回帰式を推定した(このような複数の説明変数が
被説明変数に与える効果を測定する回帰分析は,重回帰分析と呼ばれる(これに対し,説明変数が単数のものは,単回帰分析と呼ばれる。。。))
推定された回帰式における決定係数(推定した回帰式がどれくらいデータを説明しているか(当てはまりの尺度)を示すもの)は,データ①について0.28,データ②について0.36であった。年齢階級別消費の指数化においては,データ①による回帰式に基づく指数とデータ②による回帰式に基づく指数を上記の方法によりそれぞれ算出し,
それらの平均値を年齢階級別の消費の比率の実態を表す指数とした。(甲6,35の3,乙7,72,78,弁論の全趣旨)

けて,平成25年1月16日に開催された第12回基準部会において,厚生労働省社会・援護局保護課から生活保護基準部会報告書(案)(甲37の3)が示された。
同報告書案には,
厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には,本報告書の評価・検証の結果を考慮した上で,他に合理的説明が可能な経済指標などがあれば,それらについても根拠を明確にして改定されたいとの記載があり,この記載について,厚生労働省社会・援護局保護課から,
要旨,
年齢階級別,世帯人員別及び級地別による生活扶助基準の見直しを行っても,第1・十分位との間に一定の差が存在する。一般的に合理的説明が可能であれば消費に影響を及ぼす因子を考慮することは1つの方向性としてあり得るところであり,その場合,何をもって合理的かということについても様々な考え方があり得る中で,例えば政府が発表している経済指標等を加味するということは正当化できるだろうという趣旨であり,当該指標について例を挙げるとすれば,消費者物価指数や賃金の動向が考えられるとの説明がされた。これに対して,基準部会委員からは,基準部会においては,年齢,人員及び級地という3要素しか議
論しておらず,
消費者物価指数や賃金の動向について何も議論していない
ことは明確にしてもらいたいなどの意見が出され,これを受けて,上記記載は,同月18日に開催された第13回基準部会において,
厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には,本報告書の評価・検証の結果を考慮し,その上で他に合理的説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合は,それらの根拠についても明確に示されたい。と修正されることとなり,このように修正をすることについては,基準部会委員から異論は出されなかった。
(甲6,37の1・3,乙7,43,44)
基準部会は,平成25年1月18日,
社会保障審議会生活保護基準部会報告書
(平成25年報告書)を公表した。
平成25年報告書の概要(検証結果と留意事項部分)は,次のとおりで
ある。
a
年齢階級別(第1類費)の基準額の水準では,年齢階級間において消費実態による指数と生活扶助基準額による指数にかい離が認められ,世帯人員別(第1類費及び第2類費)の基準額の水準では,第1類費及び
第2類費のいずれについても世帯人員が増えるにつれて,そのかい離が拡大する傾向が認められた。また,級地別の基準額の水準をみると,生活扶助基準額の地域差よりも消費実態の地域差の方が小さくなっていると認められた。
b
上記aの検証結果を生活扶助基準額に反映させた場合の各世帯への
影響は,年齢,世帯人数及び居住地域の組合せによって様々であり,検証結果をそのまま生活扶助基準に反映させた場合の生活扶助基準額と現行の生活扶助基準額を比較した結果を平均値でみると,(a)夫婦と18歳未満の子1人世帯では-8.5%,(b)夫婦と18歳未満の子2人世帯では-14.2%,(c)60歳以上の単身世帯では+4.5%,共に
60歳以上の高齢夫婦世帯では+1.6%,(d)20~50代の若年単身世帯では-1.7%,(e)母親と18歳未満の子1人の母子世帯では-5.2%となった。
c
厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には,本報告書の評価・検証の結果を考慮し,その上で他に合理的説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合は,それらの根拠についても明確に示
d
今般,生活扶助基準の見直しを具体的に検討する際には,現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯,とりわけ貧困の世代間連鎖を防止する観点から,子供のいる世帯への影響にも配慮する必要がある。(甲6,乙7,弁論の全趣旨)


本件生活扶助基準の改定
上記ア,イ及びエのとおり,まず,平成16年報告書において生活扶助基準の展開部分に関して見直しを検討する必要がある旨指摘され(上記ア
23年以降に検証を重ねた基準部会においても,同様に,年齢階級別,世帯人員別及び級地別でみて,生活扶助基準の展開部分が一般低所得世帯の
そこで,厚生労働大臣は,一般低所得世帯の消費実態を生活扶助基準の展開部分に反映させることにより生活扶助基準の展開部分を適正化して生活保護受給世帯間の公平を図るため,基準部会の検証結果に基づいて生活扶助基準の改定を行うこととした(ゆがみ調整)

(前記前提事実⑵ア,乙17,18,弁論の全趣旨)上記イ及びウのとおり,平成19年報告書において生活扶助基準の基準額が一般低所得世帯の消費実態と比較して高いといった検証結果が示さ
え置かれることとされる一方で,その間,賃金,物価及び家計消費はいずれも下落するデフレ状況が継続していた(上記ウ)

そのため,厚生労働大臣は,生活保護受給世帯の可処分所得が実質的に増加したと評価することができるとして,平成20年以降の物価変動を生活扶助基準に反映させる生活扶助基準の改定を行うこととした(デフレ調整)なお,

デフレ調整における物価下落幅
(-4.
78%)
の算出方法は,
後記2のとおりである。
(前記前提事実⑵イ,乙17,18,弁論の全趣旨)厚生労働大臣は,
ゆがみ調整による生活扶助基準の引下げの激変緩和措
置として,
基準部会による検証結果を生活扶助基準に反映する比率を増額

方向と減額方向共に2分の1とした(2分の1処理)

この激変緩和措置を講じたとしても,ゆがみ調整及びデフレ調整を行うことにより生活扶助基準額が大幅に減額になる世帯が生ずることが見込まれた。そこで,厚生労働大臣は,別途の激変緩和措置として,現行の生活扶助基準からの増減額の幅がプラスマイナス10%を超えないように
調整し,かつ,生活扶助基準の引下げを平成25年度から3年間かけて段階的に実施することとした。
(前記前提事実⑵ウ,乙17,弁論の全趣旨)
本件生活扶助基準の改定後の生活扶助基準額の算出方法は,以下のとおりである。
(甲172,弁論の全趣旨)

①改定後の生活扶助費=第1類費の改定後基準額(②)の合計×逓減率(③)
+第2類費の改定後基準額(④)


第1類費の改定後基準額=改定前基準額
×年齢別改定率

×第1類費・単身の世帯人員別改定率
×級地別改定率
×デフレ調整率(1-0.0478)


第1類費の改定後逓減率
=(改定前の逓減率+消費の実態に即した逓減率
)/2
※消費の実態に即した逓減率




世帯人員別の消費実態
世帯人員『単身』の消費実態×世帯人員数

第2類費の改定後基準額=改定前基準額
×第2類費・単身の世帯人員別改定率
×第2類費・
(世帯)人数別の世帯人員別改
定率
×級地別改定率

×デフレ調整率(1-0.0478)


上記の第1類費及び第2類費の各改定後基準額の算出に用いられる年齢別世帯人員別級地別の各改定率は,


改定率=

(改定前基準の指数+消費実態の指数)÷2
改定前基準の指数

である。

ただし,第2類費・
(世帯)人数別の世帯人員別改定率のみ,
人数別の改定前基準の指数
((
)+人数別の消費実態の指数)÷2
単身世帯の改定前基準の指数
改定率=

人数別の改定前基準の指数
(
)
単身世帯の改定前基準の指数
により算出された。

2デフレ調整における物価下落幅の算出方法等
前記前提事実,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


総務省CPIでは,一定の指数品目が指定されているところ,厚生労働大臣
は,デフレ調整を行うに当たり,物価下落による生活保護受給世帯の実質的な可処分所得の増加分を算出するため,総務省CPIの指数品目のうち,生活扶助による支出が想定される品目のみを指数品目とする消費者物価指数(生活扶助相当CPI)により物価下落率を算出することとし,総務省CPIの指数品目から,家賃等の生活扶助以外の他の扶助で賄われる品目及び自動車関係費,NHK受信料等の生活保護受給世帯における支出が想定されていない品目を除外した。
(前記前提事実⑵イ,乙19,31,弁論の全趣旨)
⑵総務省CPIでは,ラスパイレス式による指数(基準年を指数・価格参照時点及びウェイト参照時点としてその後の変化を指数として表すもの)が採用されているところ,厚生労働大臣は,デフレ調整を行うに当たり,①物価下落率を算出する期間を平成20年から平成23年までとし,②指数・価格参照時点及びウェイト参照時点を平成22年として,平成20年の生活扶助相当CPI
と平成23年の生活扶助相当CPIを求め,③平成20年の生活扶助相当CPIと平成23年の生活扶助相当CPIの変動率を算出した。
(前記前提事実⑵イ,乙27~29,弁論の全趣旨)総務省CPIでは,
新たな財及びサービスの出現や嗜好の変化等による消費
構造の変化を反映させるため,5年に1度,基準年(指数・価格参照時点及び
ウェイト参照時点)を改定し,指数品目とウェイトを見直している(以下指数基準改定という。。)
本件各告示の前に行われた指数基準改定のうち直近のものは平成22年のものであり,同年の指数基準改定に際して総務省CPIの指数品目の追加・廃止が行われたため,生活扶助相当CPIの指数品目も,平成20年が485品
目となるのに対し,平成23年は517品目となった。
また,総務省CPIでは,家計調査による支出割合をウェイトとして使用しており,
平成22年の指数基準改定によりウェイトとして使用する支出割合が見直されたが,上記⑵②のとおり,生活扶助相当CPIの算出に当たっては,平成20年及び平成23年のいずれにおいてもウェイト参照時点は平成22年とされていたため,
いずれにおいても同年の家計調査による支出割合がウェ
イトとして使用された。

(前記認定事実⑵イ,乙27,29)
総務省CPIでは,5年に1度の頻度で行われる指数基準改定に対応して,過去に遡っての比較が可能となるように,過去の指数を指数基準改定に合わせて換算し,
指数基準改定前の指数を指数基準改定の年の指数で除した結果を100倍するものとされている(指数の接続。例えば,平成17年の指数を10
0として同年の指数品目による平成22年の指数が99.6である場合,同年の指数を100とする平成17年の指数品目による指数は,100/99.6を乗ずることで求められる。。これに対して,平成20年の生活扶助相当CP)
Iと平成23年の生活扶助相当CPIの比較においては,平成22年の指数基準改定により指数品目が異なることになったが,指数の接続は行われなかった。
3争点について


生活扶助基準の改定における厚生労働大臣の裁量について
生活保護法により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水
準を維持することができるものでなければならない
(同法3条)そして,

保護は,
厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基と
し(同法8条1項)
,その基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,
所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えないもので
なければならない(同条2項)
。そうすると,仮に,保護基準が上記でいう
最低限度の生活の需要を超えているというのであれば,これを踏まえて保護基準を改定することが,同項の規定から要請されるということができる。もとより,厚生労働大臣の定める保護基準は,同項所定の事項を遵守したものであることを要し,健康で文化的な最低限度の生活を保障するに足りるものでなければならないが,これらの規定にいう最低限度の生活は,抽象的かつ相対的な概念であって,その具体的な内容は,その時々における経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり,これを保護基準において具体化するに当たっては,国の財政事情を無視することができず,また,多方面にわたる複雑多様な,
しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を

必要とするものである。したがって,保護基準中の生活扶助基準を改定するに際し,
生活扶助基準の改定の必要があるか否か及び改定後の生活扶助
基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては,厚生労働大臣に上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるというべきである。
また,
生活扶助基準が改定された場合には被保護者の生活に多大な影響
が生ずることも少なくないから,厚生労働大臣は,生活扶助基準を改定するに当たっては,生活扶助基準の改定の必要性を踏まえつつ,生活扶助基準の改定による被保護者の生活への影響についても可及的に配慮するため,
その改定の具体的な方法等について,
激変緩和措置の要否などを含め,

上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているというべきである。

月7日大法廷判決民集36巻7号1235頁,

最高裁平成22年
(行ヒ)
第367号同24年4月2日第二小法廷判決・民集66巻6号2367頁参照)
そして,
ゆがみ調整
(2分の1処理を含む。及びデフレ調整を内容とす

るような生活扶助基準の改定に当たって必要となるのが,その改定の前提となる最低限度の生活の需要に係る評価やそのような生活扶助基準の改定に伴う被保護者の生活への可及的な配慮であるところ,これらは,上記
生活扶助基準の展開部分の不均衡の有無やその程度(ゆがみ調整関係)及び物価下落による生活保護受給者の可処分所得の実質的な増加の有無やその程度(デフレ調整関係)は,各種の統計資料や専門家の作成した資料等に基づいてある程度客観的に推認し得るものであり,本件生活扶助基準の改定に当たっても上記の資料等に基づく検討がされている(上記1⑵エ,
オ,2)
。これらの経緯等に鑑みると,本件生活扶助基準の改定は,①ゆがみ調整及びデフレ調整により生活扶助基準を改定した厚生労働大臣の判断に,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続に過誤,欠落があるか否か等の観点から統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等を審査して裁量権の範囲の逸脱又は濫用が
あると認められる場合,又は,②ゆがみ調整及びデフレ調整による生活扶助基準の改定に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置(2分の1処理)が相当であるとした厚生労働大臣の判断に被保護者の生活への影響の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又は濫用があると認められる場合に,生活保護法3条及
び8条2項に違反し,違法となるものというべきである(最高裁平成22年(行ツ)第392号,同年(行ヒ)第416号同24年2月28日第三小法廷判決・民集66巻3号1240頁,前掲最高裁平成24年4月2日第二小法廷判決参照)

以上の点につき,原告らは,憲法25条,生活保護法1条,3条,8条
及び56条の立法趣旨から導かれ,また,社会権規約2条1項,9条及び11条の要請でもある制度後退禁止原則により,生活扶助基準を引き下げることは原則として許されず,引下げを行う場合はその正当性を国が立証する必要がある旨主張する。
憲法25条1項は,全ての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり,直接個々の国民に対する具体的義務を国に課する規定ではない上,健康で文化的な最低限度の生活は,抽象的かつ相対的な概念であって,その具体的内容は,
その時々における文化の発達の程度,
経済的・社会的条件,
一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるから
(前掲最高裁昭和57年7月7日大法廷判決参照)同項は,


社会経済情勢の変化等によって健康で文化的な最低限度の生活の具体的な水準が変動し得ることを当然に予定していると解される。これらのことからすれば,同項が,生活保護費が減額となるような生活扶助基準の改定を原則的に禁止しているということはできない。
また,同条2項は,国は,社会福祉,社会保障等の向上及び増進に努めなければならないと規定しているところ,同項は,福祉国家の理念に基づき社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきことを国の責務として宣言したにとどまるものであるから(前掲最高裁昭和57年7月7日大法廷判決参照)同項が,

生活保護費が減額となるような生活扶助基
準の改定を原則的に禁止していると解することもできない。

生活保護法は,憲法25条を受けて定められたものであり,生活保護法3条の規定する健康で文化的な生活水準や同法8条の規定する最低限度の生活も,その時々における文化の発達の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであって,社会経済情勢の変化等によって変動し得るものと解される
から,これらの規定が,生活保護費が減額となるような生活扶助基準の改定を原則として禁止するものと解することはできない。
また,同法56条は,既に保護の決定を受けた個々の被保護者の権利及び義務について定めた規定であって,保護の実施機関が被保護者に対する保護を一旦決定した場合には,当該被保護者について,同法の定める変更の事由が生じ,保護の実施機関が同法の定める変更の手続を正規に執るまでは,その決定された内容の保護の実施を受ける法的地位を保障する趣旨のものであると解され,そうすると,保護基準自体が改定される場合については同条が規律するところではないというべきである(前掲最高裁平成24年2月28日第三小法廷判決参照)そして,

同条の趣旨を考慮すると
しても,保護基準は,最低限度の生活の需要を満たすものとして定められ
るものであり
(同法8条2項)
,上記のとおり,最低限度の生活の具体的内
容は,社会経済情勢の変化等によって変動し得ることを当然に予定していると解されるのであって,同法56条がこのことを否定する趣旨を含むものとは解されない。そうすると,同条の趣旨をもっても,生活保護費が減額となるような生活扶助基準の改定が原則として禁止されるということ
はできない。
社会保障に対する権利を定める社会権規約9条や,相当な食糧,衣類及び住居を内容とする相当な生活水準についての権利等を定める社会権規約11条は,締約国において,社会保障に関する権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,国がその権利の実現に向け
て積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない。このことは,社会権規約2条1項が締約国において立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成することを求めていることからも明らかであっ
て,社会権規約9条及び11条により,直ちに生活扶助基準の改定における厚生労働大臣の裁量権が制約されるということはできない。最高裁昭和(
60年(行ツ)第92号平成元年3月2日第一小法廷判決・裁判集民事156号271頁参照)
そして,社会権規約における一般的意見が,直ちに締約国を法的に拘束すると解すべき根拠も見当たらない。この点に関し,原告らは,少なくとも社会権規約の規定の趣旨を,憲法25条1項や生活保護法の解釈の指針とすべきであるとも主張するが,上記で説示した社会権規約9条及び11条の法的性質に照らし,採用することはできない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。
また,原告らは,厚生労働大臣は,生活扶助基準を改定するに当たって
生活保護法8条及び9条所定の事項を考慮することが義務付けられており,国の財政事情や国民感情等の生活外的要素を考慮してはならない旨主張する。
上記アのとおり,憲法25条の規定を保護基準として具体化するに当たっては,高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断が必要であ
り,厚生労働大臣が保護基準を設定するに際しても,専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるというべきである。そして,上記のような政策的判断をするには,国の財政事情は無視できず,また,その他にも多方面にわたる諸事情を考慮する必要があるといえるところ,厚生労働大臣が裁量権を行使するに当たっては,専門技術的な見地のみならず,国
の財政事情をはじめとする上記の諸事情を考慮した政策的な見地からの判断もされるべきであると解される。このような生活扶助基準の設定における厚生労働大臣の裁量権の性質に照らすと,厚生労働大臣がこれを行使するに当たり,生活保護法8条所定の事項を考慮することは当然として(なお,同法9条は,個々の要保護者又はその世帯の必要に即応した保護
の決定及び実施を求めるものであって,保護基準の内容を規律するものではない
(前掲最高裁平成24年2月28日第三小法廷判決))それ以外の。,
事項を考慮することが許されないということはできない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。


基準部会の位置付けと本件生活扶助基準の改定に至る経緯から違法性が認
められるか否かについて

基準部会の位置付けと議論の経緯
原告らは,基準部会は,保護基準を専門的客観的な見地から検討するという要請のために設置された機関であるから,その判断に従った改定がされるべきで,これと異なる改定を行うことは専門的知見との整合性のないものとして裁量権の範囲の逸脱又は濫用となるところ,基準部会はデフレ
調整や2分の1処理を容認していないから,本件生活扶助基準の改定は違法である旨主張する。また,この点に関し,基準部会委員であったF教授は,
生活保護基準部会の検証について
(甲221)と題する書面におい
て,基準部会の審議とは別にデフレ調整により大幅な削減がされたことは遺憾であるなどと述べ,また,本件訴訟と同様に本件生活扶助基準の改定
に基づいてされた保護変更決定処分の違法性,違憲性が争点となっている名古屋地方裁判所平成26年(行ウ)第83号,平成28年(行ウ)第60号(以下別件訴訟1という。
)における証人尋問においても,基準部
会はデフレ調整を議論しておらず,容認していない,2分の1処理については基準部会には説明されておらず,ゆがみ調整の趣旨を半減させるもの
であるなどと述べている(甲227)

そこで検討すると,生活扶助基準の設定が水準均衡方式で行われるようになったのは,厚生省(当時)の審議会である中央社会福祉審議会における意見を踏まえてのものであったこと(上記1⑴イ,ウ),専門委員会の平
成16年報告書において5年に1度の頻度での検証が提言され,生活扶助
基準の検証に当たっては,調査方法や評価手法について専門家の知見を踏
16年報告書を踏まえ,平成19年は検討会において,平成23年以降は基準部会において,生活扶助基準の検証が行われてきていること(上記1⑵イ,エ)などからすれば,確かに,生活扶助基準の改定に当たっては専門家により構成された審議会等による検討結果を踏まえて行うことが想定され,また,おおむね審議会等の検討結果を踏まえた改定がされてきたとはいえる。
しかしながら,厚生労働大臣が保護基準を改定するに当たって社会保障審議会等の専門家の検討を経ることを義務付ける法令上の根拠は見当た
らない。また,厚生労働省設置法は,厚生労働省には社会保障審議会を置くとしているが(同法6条1項)
,社会保障審議会がつかさどる事務は,厚
生労働大臣の諮問に応じて調査審議することと規定するにとどまる(同法7条1項1号)そうすると,

厚生労働大臣が保護基準を改定するに当たり,
社会保障審議会への諮問が法令上義務付けられているものではないと解
され,厚生労働大臣としては,必要に応じて社会保障審議会に諮問すれば足りるというべきである。加えて,基準部会は,学識経験者による定期的な保護基準の専門的かつ客観的な評価・検証を行うことを目的として社会
踏まえた保護基準の改定は,厚生労働大臣の政策判断に委ねられていると解される。
したがって,基準部会の検討を経ていない事項であることをもって直ちに生活扶助基準の改定における厚生労働大臣に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったということはできない。
デフレ調整については,平成25年報告書の取りまとめに当たって,厚
生労働省社会・援護局保護課から示された
生活保護基準部会報告書(案)
に対し,委員から,基準部会においては,年齢,人員及び級地という3要素しか議論しておらず,消費者物価指数や賃金の動向については何も議論していないことは明確にしてもらいたいなどと意見が出され,これを受けて,最終的に,平成25年報告書においては,
厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には,本報告書の評価・検証の結果を考慮し,その上で他に合理的説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合は,それらの根拠についても明確に示されたい。との文言に落ち着いた経緯があり,このように修正することについて特に異論も述べられなかった
論はされていなかったことが認められるものの,その当否についての判断はしておらず,平成25年報告書の内容に加え,物価等の経済指標を考慮するかどうかは,厚生労働大臣に委ねる形になった(そのことを前提に,上記のとおり,
勘案する場合には,それらの根拠を明示してもらいたい
旨述べられている。
)ものと認められる。
そうすると,厚生労働大臣が,基準部会で検討されていなかったデフレ
調整を考慮することとしたことが直ちに専門的知見と整合性のないものとして裁量権の範囲の逸脱又は濫用になるということはできない。2分の1処理については,基準部会にはこれを行うことが知らされていなかったと認められるが(甲104,227)
,平成25年検証は消費実態
と生活扶助基準のかい離の程度を検証したものであって,生活扶助基準の
水準の高低についての見解を示したものではないこと,検証結果を生活扶助基準額に反映させた場合の各世帯への影響は,年齢,世帯人員数及び居住地域の組合せによって様々であり,生活扶助基準の見直しを具体的に検討する際には生活保護受給世帯や一般低所得世帯への影響に配慮が必要
平成25年報告書を踏まえてゆがみ調整を行うに当たり,激変緩和措置と
を基準部会に知らせていなかったからといって,そのことが直ちに専門的知見と整合性のないものとして裁量権の範囲の逸脱又は濫用になるということはできない。

デフレ調整及び2分の1処理の政治的意図,財政効果について
原告らは,本件生活扶助基準の改定は,政治的意図に基づき財政効果に
不当に重きを置くものであり,基準部会の判断と全く異なる保護基準の変更をもたらしているから,裁量権の範囲の逸脱又は濫用がある旨主張する。
掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,平成25年報告書作成当時,以下の事実関係があったことが認められる。
a
自民党は,平成24年,民主党政権下において生活保護開始決定にお
ける受給資格の認定が緩和され生活保護受給世帯が増加したことにより生活保護制度に対する国民の不公平感・不信感が高まるとともに生活保護費が急増したなどとして,生活保護制度を見直すことを政策として掲げ,その具体策として生活保護費の給付水準を10%引き下げること等を打ち出し,同年の衆議院議員選挙における政権公約にもその旨が盛り込まれた。
(甲100,176,177)
b
自民党所属の田村大臣は,同年12月27日に行われた大臣就任の記
者会見において,生活保護水準の10%引下げについて,下げないということはない旨の発言をし,翌日の記者会見でも,生活保護水準の引下げについては公明党とも相談して決めていきたい旨の発言をしつつ,生活保護の1割引下げは自民党が政権公約として打ち出したものなので,自民党から選出された大臣としては,自民党の政権公約によりある程度の制約を受けると思うなどと発言した。
(甲178,179,乙70,7

1)
c
平成25年報告書作成に先立って取扱厳重注意として生活保護制度の見直しについてという厚生労働省の内部資料(甲104)が作成されており,同資料では平成25年検証の結果を踏まえた年齢・世帯人員・地域差による影響の調整を2分の1とし,平成20年から平成23年までの物価動向を勘案した場合を前提として,世帯類型ごとの見直し後の基準額が試算され,生活保護基準の見直しで600億円の財政効果があると記載されていた。また,末尾には今後のスケジュール案として,平成25年1月18日に基準部会で報告書を取りまとめ,具体的な生活扶助基準額の見直しについては平成25年報告書を考慮しつつ,予算編成過程で政府として判断することなどが記載されていた。
(甲10

4)

影響を受けていないとはいえず,また,その改定に伴う財政削減効果も念頭に置かれていたものと推認できる。
しかしながら,
デフレ調整及び2分の1処理の内容や方法が違法とはい
えないことは後記⑶キ及び⑷で詳述するとおりである。生活保護費の削減等を内容とする自民党の政策は,国の財政事情を踏まえたものであって,
そのような政策自体が直ちに問題であるということは
できないし,また,生活保護が租税を財源として実施されるものであり,その実施に当たっては予算措置が必要となることからすれば,生活扶助基
準の改定による財政効果がどのようなものになるかを試算することは不可避といえる。そして,厚生労働大臣が,生活扶助基準を改定するに当たり,生活保護法8条所定の事情を考慮することに加え,それ以外の事情を考慮することが許されないわけではないことは上記⑴に説示したとおりである。

そうすると,デフレ調整や2分の1処理が,自民党の政策の影響を受けたものであったり,
財政的考慮をも働かせたものであったりしたとしても,
そのことをもって直ちに裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとはいえない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。
ゆがみ調整に違法性,違憲性が認められるか否かについて

ゆがみ調整における指数調整の具体的内容について
原告らは,ゆがみ調整は,標準世帯からの展開のための指数が調整されたのではなく,生活扶助の基準表を直接改定して新たに生活扶助基準や逓減率を設定したものであるから,専門的知見である平成25年検証との整合性に欠ける旨主張する。

法の計算式によれば,
改定後の生活扶助基準額は,
標準世帯を基準として
展開のための指数が調整されたものではなく,改定前基準額に生活扶助基準額の指数と消費実態の指数から明らかになったゆがみの結果を2分の1の改定率で反映させており,改定前の基準表を直接改定したものであることが認められる。

しかしながら,
平成25年報告書は,
検証結果を生活扶助基準額に反映
させた結果を試算しているものの,その影響は様々であり,今後,見直しを検討する際には現在生活保護を受給している世帯等への影響にも配慮
いても一定の方向性を示しているわけではなく,最終的にどのように反
映させるかについては,
厚生労働大臣に委ねられているといえる。
そうす
ると,
ゆがみ調整の内容が,
標準世帯からの展開のための指数そのものに
調整が施されたものでないことをもって,専門的知見との整合性に欠けると評価することはできない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。


ゆがみ調整において体系と水準の改定が一体的に行われたかどうかについて
原告らは,
基準部会における議論の経過やゆがみ調整の方法からすれば,
ゆがみ調整においては体系と水準の改定が一体的に行われていたから,ゆがみ調整に加えてデフレ調整を行うことは二重の引下げとなって違法であり,
仮にゆがみ調整が水準調整を目的としていなかったとすれば,

的と内容に矛盾,
齟齬が生じていることになるから,
厚生労働大臣の判断
の過程・手続に過誤・欠落があることになる旨主張する。
この点について,証拠(甲27の4,33の1,33の5,35の1,乙24,61,62)及び弁論の全趣旨によれば,①基準部会の議論の経
緯に関し,
基準部会においては,
体系の検証と水準の検証を一体として行
うことが念頭に置かれており,平成24年11月9日に開催された第11回基準部会において,
厚生労働省事務局は,
前回の部会におきまして,今回の検証は年齢及び人員並びに級地の3つの要素,この3要素に焦点を当て,詳細な消費実態の分析に基づく評価検証を行い,その結果を踏まえた上で水準の検証を行うといったことを基本方針として御了解いただいたところでございます。などと述べたこと,②第11回基準部会において,
委員から
今回の新しい検証のやり方は従来の検証のやり方の中で課題に残っていたいろいろな問題をクリアして,それを相対的な方法でやったというところに意味があると思います。(中略)私の一番の懸念は,その上でさっきの形もそうですけれども,全消データが最終的な残差額を比較して残差があるとかないとか,つまり高いとか低いとかいう議論になるときに耐えられるだけのいろいろな世帯パターンや標本層を持っているかというと,やはりそれはすごく難しい,
今回重要なのは年齢体系と世帯人員と級地間較差の検証が中心であって,一番最後の10ページ(注:「水準の検証における現行基準額の体系・級地が消費実態に合っていない場合の見積もりと題する資料で現行基準額の体系・級地を全て
消費実態並みにする場合の考え方が示され,そのようにしてもなお基準額の水準と消費水準には残差がある可能性が考えられるなどと記載されている。
)は付録というか,アペンディックスというか,これを本格的に
ということだと大変だと思います。
」などと意見が出されたことが認めら
れる。そして,その後の経過をみても,水準の検証が行われた状況はうかがわれず,また,平成25年報告書においても,体系が実態とかい離しているとの検証結果は示されたものの,
水準の検証への言及はないこと
(上

ったものとは認められない。
F教授は,別件訴訟1における証人尋問において,ゆがみ調整は,体系と水準が一体として行われたものである,標準3人世帯での水準の検証が行われたわけではないが,基準表レベルで上げ下げしているので個々の世帯レベルでは水準がいじられたということだと思う,などと述べる(甲227)
。しかしながら,上記アのとおり,ゆがみ調整の具体的方法が,ゆが
みの結果を基準表に直接反映させたというものであって,これによって基準額が変動したにすぎないから,基準表の改定を行ったことをもって水準の調整を行ったと評価することはできない。
また,原告らは,ゆがみ調整の実際の計算において,サンプル世帯(第1・十分位の世帯)の生活扶助相当消費支出額の多寡が改定後の生活扶助
基準額に影響を与えるから,ゆがみ調整は絶対水準の調整も含むものであると主張する。すなわち,原告らは,平成25年報告書に記載されている消費の実態を反映した水準は,生活扶助基準額に,平成25年検証において年齢別,世帯人員別,級地別に把握した消費の実態を反映した場合の理論上の額をいうから,具体的には,
生活扶助基準額×(
全検証サンプルの世帯当たりの生活扶助相当消費支出の平均÷全検証サンプルの世帯当たりの当時の生活扶助基準額の平均(これは平均指数法の処理であ
る。)×(

消費支出の指数÷生活扶助基準額の指数
)により求める
ことができるとした上で,サンプル世帯の消費支出の金額によって現行の基準の指数と消費の実態の指数は異なってくるから,ゆがみ調整は絶対水準の調整も含むものであったと主張する。
この点についてみると,生活扶助基準額と消費実態との比較のための指
数算出方法が原告ら主張のとおりであり,サンプル世帯の取り方によって消費の実態の指数が異なってくるとしても,平成25年報告書の内容からすれば,一般低所得世帯の消費水準に照らして高い,低いといった検証が行われていないことは明らかであり,サンプル世帯の選別に不合理な点が認められない限り(第1・十分位の世帯を比較の対象とし,そこから生活
保護受給世帯を除外していないことが不合理とはいえないことは,後記ウ及びエに説示するとおりである。,ゆがみ調整が不合理であるとはいえな)
いし,サンプル世帯の消費支出の多寡で指数に違いが生じるとしても,物価動向が直接反映されているといえるわけではないから,原告らが主張するように絶対水準の調整を含むものであったと評価することはできない。
そうすると,
ゆがみ調整に加えてデフレ調整を行ったことが物価動向を
二重に評価するものであるということはできない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。

ゆがみ調整において第1・十分位の世帯と比較したことが違法となるか否かについて
原告らは,
ゆがみ調整において,
第1・十分位の世帯と比較したことは,
合理的根拠を欠き,違法である旨主張する。

比較対象とする一般低所得世帯を第1・十分位の世帯とした上,平成21年の全国消費実態調査に基づき,第1・十分位の世帯の年齢階級別,世帯人員別及び級地別の生活扶助基準額を指数化したもの(生活扶助基準額による指数)と第1・十分位の世帯の年齢階級別,世帯人員別及び級地別の消費実態による指数を比較検証し,その結果,年齢階級別,世帯人員別及び級地別のいずれにおいても両者の間にかい離がみられたこと,②基準部会は,比較対象とする一般低所得世帯を第1・十分位の世帯とした根拠として,
(a)これまでの検証に倣い,
生活保護受給世帯と隣接した一般低所得
世帯の消費実態を用いることが現実的であること,
(b)第1・十分位の世帯
の平均消費水準は中位所得階層の約6割に達していること,
(c)第1・十分
位に属する世帯における必需的な耐久消費財の普及状況は中位所得階層と比べておおむね遜色がないこと,(d)全所得階層における年間収入総額
に占める第1・十分位の年間収入総額の構成割合はやや減少傾向ではあるものの,高所得階層を除くその他の十分位の傾向をみても等しく減少しており,特に第1・十分位が減少しているわけではないこと,(e)第1・十分位の世帯の大部分は相対的貧困層にあること,(f)分散分析等の統計的手法により検証すると,第1・十分位と第2・十分位の間において消費動向
が大きく変化しており,第1・十分位の世帯の消費動向は,他の年間収入階級と比べて大きく異なると考えられることなどを挙げていることが認められる。

適正化を図るため,
生活扶助基準の展開部分と一般低所得世帯の消費実態
とのかい離を検証するものであるから,比較対象となる一般低所得世帯は,最低限度の生活水準にある世帯とすることが上記の検証の目的に沿うものである。
そして,
平成15年中間取りまとめが生活扶助基準の評価においては第
1・十分位の世帯の消費水準に着目することが適当であるとし,第1・十
①)平成19年報告書も生活扶助基準の検証に当たり,,
これまで第1・十
分位の消費水準と比較することが適当とされてきたことを指摘し,第1・十分位の消費水準は,平均的な世帯の消費水準に照らして相当程度に達していること,第1・十分位に属する世帯における必需的な耐久消費財の普及状況は,平均的な世帯と比べて大きな差はなく,また,必需的な消費品目の購入頻度は平均的な世帯と比較してもおおむね遜色ない状況にある
ことから,検討会における検証においても第1・十分位の消費水準と比較するのが適当であるとして第1・十分位の世帯を比較の対象としており
の生活水準にあり生活扶助基準と比較する対象として適切であることを基礎付けるものということができる。

また,証拠(乙81)によれば,隣接十分位間の世帯の消費の動向を検証した結果,各十分位間のうち,第1・十分位と第2・十分位の間において消費動向が大きく変化しており,他の十分位の世帯に比べて消費の動向が大きく異なるとの結果が得られており,これは第1・十分位が低所得層として他の分位と区別される一定の消費動向を有する世帯であることを
示すものであり,第1・十分位の世帯を最低限度の生活水準にある世帯にあり,
生活保護受給世帯に近い消費実態を有するものとして比較対象としたことの合理性を基礎付けるといえる。
さらに,その他に原告らの主張する点をみても,水準均衡方式の前身である格差縮小方式は,第1・十分位との格差縮小を見込むものとして提唱
され,その後,生活扶助基準は一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達しているなどとされ水準均衡方式が採用されるに至ったこと(上記1⑴ア,イ)などの経緯を踏まえれば,平成25年検証において第1・十分位の世帯を比較対象としたことが不合理であるとはいえない。したがって,原告らの主張は採用することができない。


ゆがみ調整の比較対象となった第1・十分位の世帯に生活保護受給世帯が含まれていることが違法となるか否かについて
原告らは,ゆがみ調整の比較対象となった第1・十分位の世帯から生活保護受給世帯が除外されていないことは比較する二つの集団が比較の対象とする要因に関しては厳密に区別されなければならないという統計学上の原則に反し,また,平成19年検証では比較対象から生活保護受給世帯を除外したことや基準部会でも生活保護受給世帯を除くことを意見として取りまとめていることからすれば,比較対象である第1・十分位の世帯から生活保護受給世帯を除外しなかったことは,手続上も不合理である旨主張する。

しかしながら,平成25年検証は,生活扶助基準の展開部分の適正化を図るため,
生活扶助基準額による指数と消費実態による指数とのかい離を

十分位の世帯の現実の消費実態を指数化したものと生活扶助基準額を指数化したものである。すなわち,第1・十分位の世帯の消費支出額と当時の生活扶助基準を比較しているものであって,第1・十分位の世帯の消費支出額と実際の生活保護受給世帯の消費支出額とを比較しているわけではないから,比較する集団の一方である第1・十分位の世帯から生活保護受給世帯を除外しないことをもって,比較する二つの集団に同一の集団が含まれるということはできない。

次に,
平成19年検証では比較対象から生活保護受給世帯が除外されて
いる事実が認められること(甲34の2,乙58,弁論の全趣旨)は,原告らが主張するとおりである。しかしながら,検討会による平成19年検証では,
生活扶助基準における標準世帯の水準の妥当性を一般低所得世帯
との比較において検証する作業が行われているところ,基準部会による平
成25年検証は,そのような検証を行っておらず,両者は検証の内容が異なる。そうすると,基準部会が,被保護世帯を比較対象から除外するかについて,
平成19年検証と同様の扱いをしなかったことが手続上不合理で
あるということはできない。
また,原告らは,仮にゆがみ調整が相対的な比較であったとしても,生活保護受給世帯の消費は生活扶助基準額に依存している,生活保護受給世帯を除外していないことにより各体系,級地における消費支出の傾向に影
響が出ることは避けられず,生活保護受給世帯が含まれることによって改定後の生活扶助基準額がより低い金額で算出されることになる,などと主張する。
しかしながら,生活保護受給世帯における消費の傾向は,当然のことながら,それぞれの生活状況や時々の経済事情等が別異であったり,変化が
あったりする以上,世帯ごとに異なるものであって,生活保護受給世帯の消費実態と生活扶助基準が予定するところが一致しているとはいえず,これらが同一のものであるということはできない。そうすると,第1・十分位の世帯の消費実態と生活扶助基準額とがかい離しているかを検証する場合に第1・十分位の世帯から生活保護受給世帯を除外しないとすること
も不合理であるということはできない。
また,第1・十分位の世帯に生活保護受給世帯が含まれるか否か,すなわちサンプル世帯の取り方によって,ゆがみ調整における検証結果が異な
基準における標準世帯の水準の妥当性を一般低所得世帯との比較におい
て検証するといった作業が行われていないことからすれば,比較対象である第1・十分位の世帯から生活保護受給世帯を除いていないことが,統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に照らして判断過程に過誤,欠落をもたらすものであると評価することはできない。したがって,原告らの主張は採用することができない。


ゆがみ調整におけるデータ処理について
回帰分析の決定係数について
原告らは,
平成25年検証における年齢階級別の第1類費相当支出額の
推定のための回帰式における決定係数が,データ①については0.28,データ②については0.36と極めて低く,合理性を欠く旨主張し,G教授は,
意見書や本件訴訟と同様に本件生活扶助基準の改定に基づいてされた保護変更決定処分の違法性,違憲性が争点となっている大阪地方裁判所平成26年(行ウ)第288号,平成28年(行ウ)第47号(以下別件訴訟2という。)における証人尋問において,決定係数が0.5を下回
るような場合は良いモデルとはいえない旨述べる(甲166,251)。

決定係数とは,推定した回帰式(回帰直線)がどのくらいデータを説明しているのかの当てはまりの尺度を示すものであり,決定係数が1の場合,完全な当てはまりを,0の場合,完全な外れを意味しており,決定係数が1に近いほど当てはまりが良いことになる。一般的には決定係数が0.8以上であればある程度の当てはまりが実現され,0.3以下では当てはま
りが悪いといえるが,ケース・バイ・ケースである。一般のマクロ経済分析等において,タイム・シリーズ(時系列)データ(与えられたデータiが,
i月,
第i四半期,
i年など時刻に対応している場合)
の分析の場合,
決定係数が0.
8くらいであればまあまあ当てはまりが良いと考えらえる
一方,クロス・セクション(横断面)データ(与えられたデータⅰが,i
番目の家計とかi番目の企業とかなど個体番号に対応している場合)の分析では0.3くらいしか得られない場合も多く,0.5であれば極めて良いなどとされ,一般的な基準はないとされる。
(乙78,79)
上記のとおり,分析の対象である被説明変数が何かによって,決定係数の評価は異なることや,平成25年検証においては,平成21年全国
個々の家計のデータはクロス・セクションデータであること,クロス・セクションデータを被説明変数とする回帰分析では個別性の大きい多様な事情(本件においては金銭的価値観や将来見込みなど(乙7))が必然的に決定係数を下げるものとして存在し得ることからすれば,その分析における0.3前後の決定係数が極めて低いと評価することはできず,ここで推定された回帰式が不合理であるとはいえない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。
回帰係数のt検定について
原告らは,第1・十分位に属する世帯の消費支出を推計する際に用いた回帰分析において,回帰係数のt検定により帰無仮説が棄却できず,不要
であると判断された説明変数(インプットした要素)が多数存在したにもかかわらず,これらを除外せずに結果を採用したことは,致命的な欠陥であると主張する。そして,G教授は,意見書(甲166)において,有意水準5%で帰無仮説が棄却できなかったのは,
級地の説明変数におい
て多くみられた旨述べている。

回帰分析におけるt検定とは,
帰無仮説効果がない(無効)(こと
や異なっていない(同質)ことを主張する仮説)を検証する手法の一つであり,
t値
(推定係数をその標準誤差で割ることで求められる。を用い

て,一定の有意水準を設定した上で,それを前提に説明変数の被説明変数への真の効果が0(ゼロ)であるという帰無仮説を検証するものであ
る。これに対し,
効果がある(有効)ことや異なっている(異質)こ
とを主張する仮説を対立仮説という。本来的な検証の目的が対立仮説の是非である場合に,対立仮説の是非を直接検証することが困難なことから,帰無仮説を検証し,これが否定された場合には,間接的に対立仮説が肯定されるという手法をとる場合があり,t検定はその一種である。帰無
仮説の検証において,対立仮説が生じた場合(帰無仮説の下で期待された結果が生じなかった場合)
,その帰無仮説を棄却するといい,これは対
立仮説を受け入れることである。一方,帰無仮説に反することが検証において認められなかった場合,帰無仮説を採択するという。
もっとも,
帰無仮説を
採択
すること棄却しない

こと)
の意味は,
結果が帰無仮説と矛盾しないことがいわれただけであり,当該帰無仮説が真であることを積極的に証明したわけではない。
(乙72,80,弁論の全趣旨)
したがって,
有意水準を5%とした場合にある説明変数に効果がないと
いう帰無仮説を棄却できないとしても,それを説明変数に含めた回帰分析の結果を採用できないということにはならない。

したがって,原告らの主張は採用することができない。
原告らが指摘するその他の不合理性について
原告らは,
回帰分析が問題のないものかどうかを確認するために誤差項
の分散統一性や正規性等様々な仮定を検討すべきであったにもかかわらずこれらがされていないことや,厚生労働省が基準部会委員に示した回帰
分析の説明図(甲36の3,乙57)は不正確であったことからすれば,平成25年検証やゆがみ調整の過程で用いられた回帰分析は,不合理なものであったと主張する。
しかしながら,
原告らが指摘する様々な仮定は,
回帰分析結果について,
事後的にその精度を検証するための統計的検定の手法であると解される
ところ,当不当の問題はあり得るとしても,各手法による検証を全て経なければ回帰分析の結果を採用し得ないというものではないというべきである。
また,厚生労働省が示した回帰分析のイメージ図には,最小二乗法(散布図上に散らばった点からの距離の二乗の合計が最小値となる直線を求
める方法。
回帰直線と観測点の距離の測り方としては望ましい手法である
と解される(甲166))の考え方を採っている旨の説明があり(甲36。
の3,乙57)
,そうであれば,イメージ図は,正しくは被説明変数の点か
ら回帰直線に対し真下(又は真上)に引かれた線と交わるように示されるべきであるところ,厚生労働省が示したイメージ図は,散布図上の点(被説明変数)
からの最短距離の線が回帰直線に対して直角に交わるよう示さ
れており,不正確なものであるといえる。しかしながら,上記資料には,

データの平均的傾向を最も偏りなく反映するという条件から,aとbが求まる。(最小二乗法の考え方)

とも記されており,厚生労働省が最小二乗法以外の距離の推定方法を採用した,又は,基準部会委員に対して最小二乗法とは異なる説明をしたとは認められず,イメージ図が不正確であったことをもって,回帰分析が不合理であったということはできない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。

平均指数法を用いたことが違法か否かについて
原告らは,平均指数法は,専門的知見に基づいた計算方式とはいえないし,サンプル世帯の世帯分布,構成によっていかようにも改定率が変化す
るものであり,合理性に欠ける計算式であるから,統計等の客観的な数値等との合理的関連性を欠き,専門的知見と整合しない旨主張する。平均指数法の処理は,サンプル世帯となった第1・十分位の世帯が全て生活保護を受給した場合の生活扶助基準額の平均と当該サンプル世帯の生活扶助相当支出額の平均とが同額になるように計算処理をすることに
より,消費の実態を反映した水準と現行の基準額の水準の相関関係をみる
理性に欠ける計算式であるとはいえないし,サンプル世帯の取り方によって平均指数法を用いた結果が異なるとしても,そのことを理由として平均指数法の計算方法が採り得ないということはできない(サンプル世帯の取り方,すなわち第1・十分位の世帯を比較の対象とし,そこから生活保護受給世帯を除外していないことが不合理といえないことは,上記ウ及びエに説示したとおりである。。

したがって,原告らの主張は採用することができない。

2分の1処理が違法か否かについて
原告らは,国は,2分の1処理により,結果として生活扶助費を大きく
削減する効果が得られることは容易に推測できたにもかかわらず,平成25年報告書に記載されたかい離率を2分の1にしたものであり,統計等との客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠き,違法であり,
少なくとも増額分を2分の1にしたことは基準部会が検証した結
果に基づく生活扶助基準の水準を下回ることとなり,裁量権の範囲を逸脱
又は濫用して違法である旨主張する。
この点につき,平成25年報告書において,検証結果を生活扶助基準額に反映させた場合の各世帯への影響は様々であり,生活扶助基準の見直しをする際には,
現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯への
見直しが及ぼす影響についても慎重に配慮することが求められていたこ
まえ,基準部会の検証結果そのままではなく,かい離率を2分の1の割合で反映させたことをもって,統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見と整合性を欠くということはできない。
また,基準部会の検証は,平成19年報告書において,世帯構成等が異なる生活保護受給者間において実質的な給付水準の均衡が図られる体系とすべきであると指摘されたことを踏まえ,生活扶助基準の展開部分と一般低所得世帯の消費実態とのかい離の有無及び程度を検証したものであり,ゆがみ調整は,この検証から明らかとなったかい離を解消して生活扶助基準を適正化して生活保護受給世帯間の公平を図ろうとするものであ
基準部会の検証結果を部分的に生活扶助基準に反映させる場合にはゆがみ調整による影響の内容・程度にかかわらず一定の割合でこれを反映させることがゆがみ調整の目的に沿う合理的な措置であるということができる。
さらに,平成25年検証は,一般低所得世帯と生活保護受給世帯の水準の高低を検証したものではなく,検証結果の影響は世帯ごとに異なり,改
定のあり方について一定の方向性を示しているものでもないから(上記⑶
範囲の逸脱又は濫用に当たるとはいえない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。


デフレ調整に違法性,違憲性が認められるか否かについて

デフレ調整に水準均衡方式を逸脱し,物価を二重に評価する違法があるか否かについて
原告らは,昭和59年度以降の生活扶助基準の改定率と民間最終消費支出及び消費者物価の推移に関する比較検討の結果からすれば,国は,平成
20年度から平成23年度までについても,毎年,従前と同様に水準均衡方式に基づく生活扶助基準の改定を行ってきたというべきであり,水準均
衡方式において基礎とされる民間最終消費支出には物価水準の変動が反映されているから,本件生活扶助基準の改定におけるデフレ調整は,水準均衡方式を明らかに逸脱するとともに,
物価を二重に評価したという点に

おいて,
統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合
性を欠くものであり,
厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱又は濫用するも
のとして,違法になる旨主張する。
上記1⑵ウ及び証拠(乙11,84~91)によれば,生活扶助基準は平成17年度から据え置かれてきており,
平成19年報告書は示されたも

のの,平成25年度の本件生活扶助基準の改定に至るまで,平成19年報告書を踏まえた生活扶助基準の見直しは行われなかったことが認められ,その理由についてみると,①平成17年度から平成19年度までは,いずれも当該年度における政府経済見通しにおける民間最終消費支出の伸び率を基礎とし,前年度までの一般国民の消費水準との調整を行った結果,据え置くこととされ,②平成20年度は,原油価格の高騰が消費に与える影響等を見極めるため,
据え置くこととされ,
③平成21年度については,
平成19年報告書で現行の生活扶助基準は一般の低所得世帯の消費実態と比べて高いという結果が得られていたものの,
平成20年2月以降の生
活関連物資を中心とした物価上昇の家計への影響が大きいこと,
同年9月
のいわゆるリーマンショックに端を発した世界的な金融危機が実体経済
に深刻な影響を及ぼしており,
国民の将来不安が高まっている状況にある
ことから,
このような社会経済情勢に鑑み,
引き続き据え置くこととされ,
④平成22年度については,
完全失業率が高水準で推移するなど厳しい経
済,雇用情勢を踏まえ,国民生活の安心が確保されるべき状況にあることに鑑み,
据え置くこととされ,
⑤平成23年度,
平成24年度についても,

経済,
雇用情勢等と総合的に勘案した上で据え置くこととされたものである。
すなわち,平成19年度までの据置きは,民間最終消費支出の伸び率を基礎とし,
前年度までの一般国民の消費水準との調整を行った結果をみて,
据置きの判断をしたものである一方,平成20年度以降の据置きは,上記
の据置き理由や,
この間の民間最終消費支出との連動性が認められないこ
と(乙83)からすれば,平成19年度までの据置きと異なり,消費を基礎とする水準均衡方式に基づく改定は行われなかったと評価できる。もっとも,上記の平成20年度以降の据置き理由からすれば,その判断に際して物価動向が全く考慮されていないということまではできないが,
そこでされたと考えられる物価動向の考慮は,水準の妥当性を判断するためのものではないし,平成20年度以降の各時点において,生活扶助基準を改定するかどうかの判断に当たって社会経済情勢を勘案する際の一要素として考慮されたもので,消費者物価指数(乙12)を基礎としているものでもない。そうすると,このような物価動向の考慮をもって,本件生活扶助基準の改定に際してデフレ調整を行うことが,物価の二重評価に当たるということはできない。

したがって,原告らの主張は採用することができない。

デフレ調整が基準部会等の検証を欠いていることが手続面において違法
となるか否かについて
原告らは,水準均衡方式に反するデフレ調整を行うのであれば,基準部会等の専門家による検証を経る必要があったが,
これを欠いていることか
ら手続面において統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の要件を満たしておらず違法である旨主張する。
上記1及び証拠(甲229)によれば,本件生活扶助基準の改定までは物価指数を用いた生活扶助基準の改定が行われたことはなく,
基準部会に

おいても物価指数を用いた生活扶助基準の改定については議論されていなかったことが認められる。
しかしながら,上記⑵アに説示したとおり,生活扶助基準の改定は,社会保障審議会等の専門家の検討を踏まえてされてきたということができるものの,
そのような検討を経ることが法令上要求されているものではな

い。そして,これまで物価指数を用いた生活扶助基準の改定が行われたことはないとしても,
平成25年報告書によれば物価等の経済指標を考慮す
るかどうかは,
最終的には厚生労働大臣に委ねられたものと解されること
からすれば,
デフレ調整について専門家の検討を経ていないことをもって,
直ちにデフレ調整を行った厚生労働大臣の判断の手続に統計等の客観的
数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の要件を満たさない違法があるということはできない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。

デフレ調整の内容に違法性,違憲性があるか否かについて
計算方法について
a
原告らは,デフレ調整の計算方法は,欠測値の取扱いにおいて,総務省の基準や国際基準に合致しないという点で,平成20年から平成23年までの一連の計算とはいえず,平成22年を基準とする2つの異なる計算方式を単に組み合わせたにすぎないものであるから,統計学上の正当性がなく,ロウ指数とはいえない旨主張する。
そして,G教授は,別件訴訟2における証人尋問において,本件のよ
うに平成20年と平成23年の間の平成22年を基準時点とすると,比較できるのは平成22年から平成20年までと平成22年から平成23年までであって,平成20年から平成23年までの比較はできない,もし平成20年から平成23年までを比較したならば二つの平均(調和平均と相加平均)の混合で比較することになる,平成20年と平成23
年では対象品目の品数が異なっており,ロウ指数とはいえないなどと述べる(甲251)

b
ロウ指数とは,ILOマニュアル(国際労働機関(ILO)
,国際金融
基金(IMF)等の6国際機関が多くの国家統計局や大学の専門家と共に作成した消費者物価指数に関するマニュアルであり,消費者物価指数
の計算に実際に用いられている方法の詳細な説明,その根底にある経済的,
統計的理論が説明されているものである。において,

非常に普及し
た物価指数とされているものであり,比較される時点間において一般に買い物かごといわれるある一定量の数量を購入するために要する全費用の割合の変化として定義される指数であり,買い物かごは,比較され
る2時点のいずれかで購入される数量に限られる必要はなく,いつの時点でもよいとされ,次のような計算式で表すことができる(甲96,乙68,99)


(式の右辺のpは価格,
qは数量,は品目,
i
Iは品目の集合である。
分母のは基準となる時点(0)での品目iの価格,分子のは比較する時点(t)での品目iの価格,分子と分母のはウェイト参照時点(b)での品目iの数量を指す。分母は,基準となる時点での一定の買い物かご(I)を購入するための全費用,分子は,比較する時点での一定の買い物かご(I)を購入するための全費用を表しており,この式が,一定の買い物かご(I)を購入する全費用の変化を示している。


そして,生活扶助相当CPIは,一定の指数品目を購入するための費用を指数化したものであるところ,デフレ調整における物価下落率の算出方法は,
ウェイト参照時点を平成22年とした上で平成20年と平成
23年の生活扶助相当CPIを求め,これらの変化の割合を算出するものであり(前記前提事実⑵イ)
,平成20年及び平成23年の各生活扶

助相当CPIの算式は以下のとおりである。

(分母は,基準時点(平成22年)において一定の買い物かご(I)を購入するための全費用,分子は,比較時点(平成20年)において一定の買い物かご(I)を購入するための全費用を表している。したがって,この式は,平成22年から平成20年までの一定の買い物かご(I)を購入するために必要な全費用の変化を示している。


(分母は,基準時点(平成22年)において一定の買い物かご(I)を購入するための全費用,分子は,比較時点(平成23年)において一定の買い物かご(I)を購入するための全費用を表している。したがって,この式は,平成22年から平成23年までの一定の買い物かご(I)を購入するために必要な全費用の変化を示している。

そして,
平成20年を基準とする平成23年の生活扶助相当CPIの
算式は次のとおりである。

(分母は,基準時点(平成20年)において一定の買い物かご(I)を購入するための全費用,分子は,比較時点(平成23年)において一定の買い物かご(I)を購入するための全費用を表している。したがって,この式は,平成20年から平成23年までの一定の買い物かご(I)を購入するために必要な全費用の変化を示している。


このように,
平成20年及び平成23年の各生活扶助相当CPI並び
に平成20年を基準とする平成23年の生活扶助相当CPIは,いずれも一定の買い物かごを購入するのに必要な全費用の変化を表したものであり,ロウ指数の定義式に合致する指数といえる。
そして,デフレ調整における物価下落率の算出方法においては,平成
22年が指数・価格参照時点及びウェイト参照時点とされており,その結果,
平成20年の生活扶助相当CPIはパーシェ式の計算結果と同一
となり,
平成23年の生活扶助相当CPIはラスパイレス式の計算結果
と同一となる(上記2⑷,弁論の全趣旨)

しかしながら,ラスパイレス式とパーシェ式は,いずれも一定の数量を購入するために要する全費用の割合の変化を測定するものであり,両者の差異は,
ウェイトとして使用する数値が価格参照時点のものか比較
時点のものかの違いにすぎず,いずれの式による指数もロウ指数に包摂されるものである
(甲96)そして,

平成20年を基準とする平成23
年の生活扶助相当CPIの算式は上記のとおりであるところ,この場合,平成20年から平成23年までの物価変動率は次の計算式(以下平成20年基準計算式という。)で表すことができる。

もっとも,デフレ調整においては,ウェイト参照時点及び基準時点を平成22年とし,平成20年生活扶助相当CPI(パーシェ式による指数の逆数となる。
)と平成23年生活扶助相当CPI(ラスパイレス式
による指数となる。
)を算出し,平成20年から平成23年までの変化
率を求めていることから,具体的計算式は以下のとおりとなる。

そして,同計算式を約分すると,平成20年基準計算式と一致することになる。これらからすれば,パーシェ式による計算とラスパイレス式による計算を用いて変化率を計算することが,統計学上正当性を欠くということはできない。
c
上記2⑷のとおり,総務省CPIでは,指数基準改定に対応して指数の接続が行われているが,これは,指数基準改定がされたときに指数基準改定前の指数を指数基準改定の年の指数で除した結果を100倍す
ることにより指数基準改定前後の指数の比較を可能にするというものにとどまり,
指数基準改定前後において指数品目が齟齬することとなっ
た場合に齟齬する指数品目の内容や支出割合等に応じて指数品目の違いを是正するものではない。
そうすると,
平成22年の指数基準改定により平成20年の生活扶助

相当CPIと平成23年の生活扶助相当CPIとで指数品目が異なることとなった場合に指数を接続しなければ,物価指数の算出として著しく不合理であるとまではいえない。そして,上記の生活扶助相当CPIの算式からすれば,欠測値又は欠価格については他の全品目の価格動向と同じと仮定したことになる(乙98,99,弁論の全趣旨)が,この
ことは買い物かごの内容を変えることを意味するものではなく,これによってロウ指数に該当しなくなるものではない。また,欠側値又は欠価格となった品目の割合は支出品目のウェイトにして約3%にすぎず(乙98)
,その影響も限定的と考えられることからすれば,このような仮
定が不合理であるとまではいえない。

この点,証拠(乙100)によれば,総務省統計局では欠価格の問題が生じた場合,
類似品目の価格動向と同一であったと仮定する方法が採
用されていることが認められるが,ILOマニュアル(乙99)によれば,欠価格が生じた場合の対応としては複数の処理方法が考えられ,他の全品目の価格動向と同じと仮定したことになるような処理方法も一
つの処理方法とされていると認められるから,総務省と異なる処理方法であることをもって,統計学上正当性を欠くとはいうことはできない。c
したがって,原告らの主張は採用することができない。
実態とのかい離について

a
原告らは,デフレ調整における変化率-4.78%という数値は,生活保護受給世帯の生活実態とかい離した異常なものであり,その原因は,
平成20年から平成22年までの計算方法,生活扶助相当品目の選定とそのウェイトの設定,計算期間の選定等が恣意的かつ不合理に行われたことにある旨主張する。
b
平成20年から平成22年までの計算方法について
デフレ調整における物価下落率の算出方法においては,平成22年を指数・価格参照時点及びウェイト参照時点とするため,平成20年の生
活扶助相当CPIはパーシェ式の計算結果と同一となり,平成23年の生活扶助相当CPIはラスパイレス式の計算結果と同一となる(弁論の全趣旨)そして,

パーシェ式による指数には下方バイアスが,
ラスパイ
レス式による指数には上方バイアスがそれぞれ生ずるとされている(乙27)


しかしながら,ラスパイレス式とパーシェ式は,いずれも一定の数量を購入するために要する全費用の割合の変化を測定するものであり,両者の差異は,ウェイトとして使用する数値の時点の違いにすぎず,いずれの式による指数もロウ指数に包摂されるものであり,また,起点と終点の間の時点をウェイト参照時点とする指数もロウ指数であるから(上
数に異なるバイアスが生ずるとしても,それらを比較することが恣意的又は不合理であるとまではいえない。
c
ウェイトの設定について
上記2⑴,⑶及び弁論の全趣旨によれば,厚生労働大臣は,生活扶助相当CPIの計算においてウェイトとして使用する支出割合につき,社会保障生計調査による支出割合を使用せず,総務省CPIにおいて使用されている家計調査による支出割合を基礎として,総務省CPIの指数品目のうち,生活扶助による支出が想定される品目のみを使用し,家賃等の生活扶助以外の他の扶助で賄われる品目及び自動車関係費,NHK受信料等の生活保護受給世帯において支出することが想定されていない品目は除外したことが認められる。
この点,家計調査は,総務省統計局が実施している統計調査であり,国民生活における家計収支の実態を把握し,国の経済政策・社会政策の立案のための基礎資料を提供することを目的とするものである。家計調
査は,一般世帯を対象とする標本調査であるが,その調査対象世帯の選定は,居住地域等による偏りを避け,国民全体の支出等が推計できるように統計上配慮されており,具体的には,全国の市町村を様々な特性によりグループに分け,各グループから1つずつ合計168市町村を選定した上,各市町村の調査地区内から無作為に調査世帯を選んでいる。そ
して,
上記の方法で選定された約9000世帯から家計上の収支等を詳
細(品目,購入数量,支出金額)に記載した家計簿の提出を受けてこれを集計して行い,
個別の品目ごとに分けてそれぞれの支出額について明
らかにするものである。
(乙95,弁論の全趣旨)
一方,社会保障生計調査は,厚生労働省が実施している統計調査であ
り,被保護世帯の生活実態を明らかにすることによって,生活保護基準の改定等,
生活保護制度の企画運営のために必要な基礎資料を得ること
などを目的とするものである。社会保障生計調査は,生活保護受給世帯を対象とする標本調査であり,全国を地域別に10ブロックに分け,ブロックごとに都道府県,指定都市,中核市から1~3自治体を選定し,
その選定された自治体から抽出された合計約1110世帯を調査世帯として行われているもので,調査世帯の選定に当たって,統計上の配慮等はされていない。そして,上記の方法で選定された調査世帯から家計上の収支を記載した家計簿の提出を受け,
食料

住居
などといった
大まかな分類での支出金額,
割合として集計するものである。
(乙49,
51,52,97,弁論の全趣旨)
上記のとおり,家計調査は,生活保護受給世帯を含む一般世帯を対象として,全国の世帯の実態が正確に反映されるよう,統計上の配慮を経て調査世帯が選定されていることからすれば,これにより算出される支出割合をウェイトとする総務省CPIは,生活保護受給世帯を含めた一般世帯を対象とした物価の変動率を表すものということができ,このこ
とは,
指数品目を特定の品目に限定するか否かにより異なるものではな
い。そうすると,生活扶助相当CPIの算出のウェイトとして家計調査による支出割合を使用することが恣意的又は不合理であるということはできない。これに対して,社会保障生計調査は,被保護者の生活実態を明らかにすることなどを目的とするものであり,その調査対象は全国
に及ぶものの,
全国を単純に地域別にブロックに分けて調査対象となる
自治体を選定し調査世帯を選定するにとどまり,家計調査と異なり,世帯の選定に当たっても特に統計上の配慮はなく,地域等による偏りが生じる可能性があるし,サンプル数も必ずしも多くない。このことからすると,
生活保護受給世帯の消費実態を推測する精度には一定の限界があ

るといわざるを得ない。
また,家計調査と社会保障生計調査とでは,個別の品目ごとの支出額が明らかとなるか否かについて相違があるところ,正確な物価変動率の把握という観点からは,ウェイトとして使用する支出割合について,家計調査による方が社会保障生計調査によるよりも適切であると評価す
ることも不合理ではない。
これらの点に鑑みると,家計調査による支出割合をウェイトとして使用した場合と社会保障生計調査による支出割合をウェイトとして使用した場合とで生活扶助相当CPIの算出結果に一定の差異が生ずるとしても,生活扶助相当CPIを算出するためのウェイトとして,社会保障生計調査による支出割合ではなく,家計調査による支出割合を使用することが恣意的又は不合理であるということはできない。
そして,
デフレ調整が生活保護受給世帯の実質的な可処分所得の増加
分に応じて生活扶助基準を見直すものであることからすれば,生活扶助基準において支出が想定される品目に限って物価下落率を算出することはその目的に沿うといえ,合理性がある。

また,
厚生労働省が平成22年に実施した家庭の生活実態及び生活意
識に関する調査(甲59,乙38)によれば,生活保護受給世帯の電化製品の普及率は,例えば,パソコンの普及率は約4割弱,ビデオレコーダーは約7割弱,電子レンジや洗濯機は約9割前後,カラーテレビや冷蔵庫は10割近くとなっている。このように,生活保護受給世帯におい
ても,相当程度電化製品を所持して生活を営んでいることからすれば,生活扶助相当CPIの算出に当たって,電化製品を除外しないことが恣意的又は不合理であるということはできない。
物価下落率の算出において一定の品目が除外され,除外されなかった品目の物価の下落率が高いために,総務省CPIに比べて,生活扶助相
当CPIの方が,下落率が高く計算されるとしても,すなわち,本件でいえば,
除外されなかったノート型パソコンやテレビ等の品目について,
平成20年から平成22年までの間の価格の下落が著しく,その価格下落の影響がデフレ調整の下落率に影響しているとしても,そのこと自体は合理的な指数品目の選択の結果にすぎず,そのことをもって厚生労働
大臣の指数品目の選定が恣意的又は不合理であるということはできない。
d
計算期間の選定について
原告らは,作成団体,審議経過から問題がある検討会の平成19年報告書を基に平成20年を起点とすることは問題があるし,また,平成20年を起点に選択することは原油価格の高騰による物価上昇を考慮に
含めるものとなるとし,平成20年を起点としたことは合理的な根拠を欠き,また,平成23年を終点とした点についても下落幅を大きくすることを狙った恣意的なものである旨主張する。
検討会は,
平成16年報告書において生活扶助基準と一般低所得世帯
の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極める
ために全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必要があるとされたことなどから,厚生労働省社会・援護局長により,生活扶助基準の見直しについて専門的な分析・検討を行うことを目的として
委員として組織されており,検討会においては,厚生労働省社会・援護局保護課の作成した統計等の資料を踏まえた専門的知見に基づく議論
甲4,46~50,乙15,弁論の全趣旨)
。これらの点に鑑みると,平
成19年報告書の内容は,統計上の根拠に基づく客観的・専門的な分析として十分信用に値するということができ,平成19年報告書を踏まえて,起点を平成20年としたことが不合理ということはできない。そして,①平成16年報告書においては,勤労3人世帯の生活扶助基準の水
で生活扶助基準を改定する必要は指摘されていなかったこと,②平成16年から平成19年までの総務省CPIの上昇率は前年比で平成16年が0.0%,平成17年が-0.3%,平成18年が0.3%,平成19年が0.0%であり,この間の総務省CPIはほぼ横ばい状態であったこと(乙12)が認められ,これらの事実によれば,平成19年までは,
物価下落による生活扶助基準の改定を要するような状況になかっ

生活扶助基準の据置きの経緯等からすれば,デフレ状況が継続した平成20年以降につき,物価の下落を生活扶助基準に反映させる必要が生じ
ていたとすることが不合理であるということはできない。これらの点に照らすと,
デフレ調整において物価下落率を算出する期間の起点を平成
20年としたことが不合理であるということはできない。
したがって,
同年に一時的に物価が上昇したためにその後の物価下落
率が大きくなるとしても,それは,同年にそのような物価変動要因が生
じたというにすぎず,そのような事情をもって起点を同年とすることが恣意的又は不合理であるということはできない。
また,本件告示1は平成25年5月16日付けであり,同年度予算の政府案は,同年1月29日に閣議決定された後,同年2月28日に国会に提出され,
同年5月15日に政府案のとおりに平成25年度予算が成

立したものである(前記前提事実⑵ウ,乙47)
。他方,平成24年の全
国年平均の総務省CPIのデータは,上記の閣議決定の直前である平成25年1月25日に公表されたものであり(乙48)
,この内容を平成
25年度予算の政府案の内容に反映させることは現実的に極めて困難であることは明らかである。これらの点に照らすと,デフレ調整におい
て物価下落率を算出する期間の終点を平成23年としたことが恣意的又は不合理であるとはいうことはできない。
e

以上によれば,原告らの主張は採用することができない。

本件全処分が原告ら等の生存権を侵害するものとして違法になるか否かについて
原告らは,本件全処分によって原告ら等の生活に生じた影響を考慮し,原告ら等の生活が,貧困に当たり生存権を侵害する場合,厚生労働大臣の裁量権の範囲の逸脱又は濫用になる旨主張し,原告らの一部について生活状況を記載した陳述書等(各甲B号証)を提出し,原告らの一部(原告番号1,20,120,144,152)は本人尋問において本件生活扶助基準の改定による保護費の引下げ前後の生活状況について述べる。
しかしながら,要保護者の個々の需要は,主観的要素が強く千差万別であるから,生活保護法8条1項が規定する厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要とは,最低限度の生活の需要として再構成された客観的なものを意味し,
各要保護者の個別的な需要を意味するものではないと解され

る。
厚生労働大臣が,抽象的かつ相対的な概念である最低限度の生活を保護基準において具体化するに当たっては,国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な,
しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必

ないからといって,そのことが直ちに,保護基準改定に係る厚生労働大臣の判断における裁量権の範囲の逸脱又はその濫用を基礎付ける事情となるものではない。
もっとも,原告ら等の生活の実態は,上記⑴で示した厚生労働大臣の裁量権の範囲の逸脱又は濫用を判断する際の間接的な事実となると解される。
この点,各甲B号証及び原告らの一部の本人尋問の結果によれば,原告ら等は,食事や住居等の基本的生活条件について,食費を節約するために購入できる食材が限定され,安売りとなった食材を購入したり,1日2食にしたりしている者もあり,また,中には快適な住居に住んでいるとはいい難い者,衣類について思うように新調できない者もいて,相当程度制約された生活を送ってい
ることがうかがわれる。しかしながら,切り詰めた中でも食事の内容が社会的に許容し難い程度とまでは認められないし,酒,たばこなど嗜好品への支出がある者もいる。また,住環境についての不便を訴える者もいるが,住居の基本的機能に支障があるとまではいえない。さらに,電化製品について原告らが希望どおりの電化製品を保有し,使用しているとはいえず,古い電化製品の買換えが困難な状況がうかがわれるものの,冷蔵庫や洗濯機といった電化製品の保有状況や使用状況が,
最低限度の生活を下回っていることを示すものとまでは

いえない。そうすると,本件全処分後の原告ら等の生活が,基本的生活条件において,最低限度の水準を下回っているとまでは認められない。
また,社会的,文化的活動に関しても経済的支出を伴うことから,知人との付き合いが疎遠になったり,冠婚葬祭に出掛けられなかったり,音楽会や映画等の娯楽や文化的活動が思うに任せなかったりする状況がうかがわれる一方,
新聞を購読したり,カラオケに行ったりする機会を有している者もいる。そして,社会的,文化的活動は個人の嗜好によるところが大きい上,冠婚葬祭の在り方も個人の価値観によって様々であることや,最低限度の生活は抽象的,相対的で相当程度の幅のある概念であることを踏まえれば,本件全処分後の原告ら等の生活が,社会的,文化的活動といった側面からみて,最低限度の水準を
下回っているとまでは認められない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。


結語
以上によれば,
本件生活扶助基準の改定に厚生労働大臣の裁量権の範囲の逸

脱又は濫用があるということはできない。したがって,本件生活扶助基準の改定は生活保護法3条,8条に違反するものではなく,憲法25条に違反するものでもないと解するのが相当である。そして,本件生活扶助基準の改定に基づいてされた本件各処分にも,これらを違法と解すべき事情は認められない。第6結論

以上のとおりであって,
本件各処分の取消しを求める原告らの請求はいずれも
理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

札幌地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

武部知子
裁判官

目代真理
裁判官

川野裕矢
トップに戻る

saiban.in