判例検索β > 令和2年(行コ)第33号
休業補償給付不支給処分取消、療養補償給付不支給処分取消請求控訴事件
事件番号令和2(行コ)33
事件名休業補償給付不支給処分取消,療養補償給付不支給処分取消請求控訴事件
裁判年月日令和3年4月28日
裁判所名・部名古屋高等裁判所  民事第3部
原審裁判所名名古屋地方裁判所
原審事件番号平成28(行ウ)104
原審結果棄却
判示事項の要旨控訴人の勤務先の工場における業務に従事中の事故による左眼の負傷等につき,処分行政庁が労災保険法に基づく休業補償給付又は療養補償給付を支給しない旨の各処分をしたところ,事故から約2年後に発症した精神障害には事故との間に相当因果関係が認められるとして,これに反する部分の処分を取り消した事例
裁判日:西暦2021-04-28
情報公開日2021-05-25 16:01:05
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主文1
原判決を次のとおり変更する。

2
一宮労働基準監督署長が平成27年6月30日付けで控訴人に対してした労働者災害補償保険法による療養補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。
3
一宮労働基準監督署長が平成29年12月20日付けで控訴人に対してした労働者災害補償保険法による休業補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。
4
控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

5
訴訟費用は第1,2審を通じてこれを3分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人の各負担とする。

第1

実及び理由
控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
一宮労働基準監督署長が平成26年10月31日付けで控訴人に対してした労働者災害補償保険法による休業補償給付を一部支給しない旨の処分のうち不支給処分の部分を取り消す。

3
一宮労働基準監督署長が平成26年11月28日付けで控訴人に対してした労働者災害補償保険法による休業補償給付を一部支給しない旨の処分のうち不支給処分の部分を取り消す。

4
第2
1
主文第2項及び第3項と同旨
事案の概要等(以下,略語は,特に断りのない限り,原判決の例による。)
本件は,控訴人が,被控訴人に対し,本件会社の工場における業務に従事中の本件事故による左眼の負傷等につき,処分行政庁がした労災保険法に基づく休業補償給付又は療養補償給付を支給しない旨の本件各処分(本件処分1及び2については,その不支給部分)の取消しを求める事案である。
原審が控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人が控訴した。
2
前提事実
原判決の事実及び理由の第2の2に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決3頁26行目の平成28年の次に4月12日付けで労災保険法に基づく障害補償給付の支給を請求し,同年を加え,4頁2行目のの支給決定をを支給する旨の処分に改める。
3
争点及びこれについての当事者の主張
次のとおり当審における補充主張を付加するほかは,原判決の事実及び理由の第2の3に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決11頁17行目の現職を原職に改める。
本件処分1及び本件処分2について
(控訴人の主張)

控訴人が左眼の負傷の療養のため,平成26年6月1日から同年10月31日まで労働することができない状態であったかどうか(争点4)について
本件会社は,控訴人に対して就労可能な業務を提案しようとはしていなかった。また,控訴人は,この間,本件会社から言われたことについて対応しなかったことはなく,現時点においても雇用関係が継続している。
仮に,労災保険法14条について,軽作業に従事することが可能であるなど,一定の労働が可能である場合には,同条にいう労働することができないには該当しないという解釈に立つとしても,実際の事件への適用に当たっては,労災保険法の趣旨を十分に考慮し,現実的かつ具体的に従事可能な業務が存在することが必要であると解釈すべきである。この点,本件会社には事務作業のみを行う職種や片眼視力でも従事可能な仕事はなく,本件会社からも具体的に控訴人の事情を踏まえた提案がなかったことからすれば,現実的かつ具体的に従事可能な業務が存在したとはいえない。

したがって,本件処分1及び本件処分2の各不支給部分は違法であり,取り消されるべきである。

(被控訴人の主張)
控訴人の主張は,原審での主張の繰り返し,あるいは控訴人独自の見解や解釈にすぎず,いずれも失当である。
本件処分3及び本件処分4について
(控訴人の主張)

控訴人に発症した精神障害の内容及びその発病時期(争点1)について控訴人について,平成28年2月から4月にかけてのG医師の診察においてPTSDの症状が見られたところ,その症状と本件事故との関係を切断することができるのかという点が検討されるべきである。
控訴人の精神障害の発症要因について,いずれの医師の見解にも基づかないで,専ら休業補償の終了によって自らの経済生活が立ち行かなくなることに対する不安によるものであるなどと判断することはできない。処分行政庁が意見を聴取した局医(専門医)も,そのような判断までは行っていない。


控訴人に発症した精神障害に業務起因性が認められるかどうか
(争点2)
について
仮に争点1において,控訴人に発症した精神障害が適応障害であり,その発病時期が平成26年10月29日であるとされたとしても,以下の点からすれば,業務起因性が肯定されるべきである。
a
控訴人の左眼矯正視力は,
C病院の各診断書によれば,
0.
02
(平
成25年7月24日付け)
,0.02からさらに悪化傾向(平成26年
9月25日付け)
,0.01(同年10月6日付け)と低下した後,光
覚弁(平成28年4月4日付け)となっており,2年余をかけて,いわばじっくり失明するという経過があった。これは誰にとっても非常に強い精神的苦痛をもたらす出来事である。控訴人は,本件事故後,いったん視力が回復するのではないかという期待が持てる状況があったが,その期待は裏切られ,最終的に失明状態に至った。この自然経過において,控訴人が被った強い精神的苦痛は,業務起因性判断において,当然考慮されなければならないものである。
b
控訴人の左眼疼痛は,退院によって完全に消失したものではなく,現在も毎日生じているものである。
控訴人の左眼は,本件事故による左眼眼球破裂の結果,5回にわたる眼科手術後も眼球内にシリコーンオイルが注入されたままの状態である。本来,シリコーンオイルは手術後数か月で抜去することが望ましく,控訴人についても抜去する予定であったが,控訴人の眼圧は低下した状態が継続しており,抜去することができない状態が続いている。これによって不可逆的な角膜内皮障害が生じ,角膜が混濁し,角膜上皮障害(角膜上皮のびらん)による強い眼痛を伴うようになり,最終的には重篤な視力障害をきたす水疱性角膜症に至っている。その間,平成26年8月18日には,控訴人本人にも混濁が分かり,気になる状態まで悪化していた。控訴人に処方された点眼薬についても,術後炎症予防のためのクラビット点眼液,ブロナック点眼液及びリンデロン点眼・点耳・点鼻液の処方から,角膜内皮障害に伴う角膜上皮障害に対するヒアレイン点眼液,フラビタン眼軟膏,ムコスタ点眼液及びジクアス点眼液の処方に変わっている。なお,控訴人の角膜内皮障害については,根治療法である角膜移植の適応がないため,根治が望めない。
以上によれば,
控訴人が同年10月に発病した適応障害は,
左眼眼球の強い苦痛により発病したものとして業務起因性が肯定されるべきである。

c
控訴人は,
本件事故により,
右眼についても急激な視力低下を生じ,
右眼矯正視力は,1.0(平成26年3月頃)から0.15(平成29年12月)まで低下した。仮に右眼視力低下の原因が交感性眼炎であるならば,上記視力低下による精神的苦痛も評価されなければならない。
d
控訴人が本件事故に遭うまで勤務してきた工場における作業員の仕事は,両眼視を要する仕事が困難,危険であるという眼科医の一貫した意見に該当するものである。控訴人は,平成26年9月の時点においては,就労経験のある仕事には戻れないことが既に明白であった。このことは,控訴人の社会復帰を困難にする十分な事情である。

e
控訴人が休業補償を受けなければならない状況に至ったのは,本件事故による左眼負傷のためであるから,控訴人の適応障害発症が休業補償の終了によって自らの経済生活が立ち行かなくなることに対する不安によるものとしても,業務上の出来事として扱われなければならない。休業補償の打切りによる生活不安は,認定基準の別表2(業務以外の心理的負荷評価表)に当てはまる類型がないことからしても,業務以外の心理的負荷ではない。
控訴人が平成28年2月頃から4月頃までの間にPTSDを発病した
ものとしても,左眼の角膜内皮障害の進行により徐々に増悪した強い苦痛等による遷延顕症型のPTSDであるから,業務起因性が認められる(予備的主張2)

本件のように,発症前6か月より前に生じた出来事による変化が継続的に生じている場合,その変化が発症前6か月の時点でも継続している以上,業務上の出来事として扱うことは,平成23年専門検討会における議論(甲32の1及び2)に基づく認定基準の考え方に沿うものである。

したがって,本件処分3及び本件処分4は違法であり,取り消されるべきである。
(被控訴人の主張)

控訴人の主張は,原審での主張の繰り返し,あるいは控訴人独自の見解や解釈にすぎず,いずれも失当である。控訴人は,本件口頭弁論再開後の第2回口頭弁論期日で陳述した控訴人準備書面1において,左眼の痛みについての新たな主張を幾つか追加したが,同主張は時機に後れた攻撃防御方法であるから,本来ならば却下されるべきである。
なお,控訴人は平成28年4月1日にPTSDの診断を受けたところ,これについて業務起因性が肯定されると主張している
(予備的主張2)
が,
仮に控訴人が遷延顕症型PTSDを発病したとしても,左眼の痛みを原因として発病したものとは認められないから,上記主張は失当である。

精神障害の発病前おおむね6か月以内の出来事を評価するのが原則であり,それより前の出来事を評価対象とするのは例外的な場合に限られる。控訴人において,平成26年10月頃,業務上の傷病により,適応障害発病の原因となるような強い苦痛が生じていたとは認められない。診療録からは,平成25年頃以降左眼の視力が徐々に低下することにより,控訴人が強い精神的苦痛を受けていたと認めることは到底できない。控訴人が当審で提出した陳述書(甲31)の内容は何ら裏付けのないものであり信用性に乏しい。また,仮に左眼に痛みがあったとしても,診察の際に主治医に訴え処置を求める程度に至らない軽度の痛みであったと認められる。なお,控訴人の左眼は,遅くとも平成25年6月頃には角膜内皮障害が生じていたことがうかがわれ,平成28年5月頃には水疱性角膜症が生じていたことが認められるが,同年8月頃までには治療を必要とする程度の痛みを伴う状態ではなく,平成26年10月頃も適応障害発病の原因となるような強い左眼の痛みが生じていたとは認められない。
また,控訴人において,平成26年10月頃,業務上の傷病により,適応障害発病の原因となるような社会復帰の困難な状況が生じていたとは認められない。控訴人の主治医らは同月前後を通じて,一致して,控訴人の視力について,片眼視力で従事可能な業務であれば就労可能である旨意見を述べている。
したがって,本件は,上記例外的な場合には当たらない。

休業補償の終了は業務上の出来事ではない。休業補償の終了という出来事は,認定基準の別表1(業務による心理的負荷評価表)の出来事の類型のいずれにも該当しない。認定基準の別表2の出来事の類型のいずれにも該当しないからといって,認定要件である対象疾病の発病前おおむね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められることを満たすとは限らない。

第3
1
当裁判所の判断
当裁判所は,本件各処分の取消しを求める控訴人の各請求のうち,本件処分1及び本件処分2の各不支給部分の取消しを求める第1事件の請求はいずれも理由がないが,本件処分3及び本件処分4の取消しを求める第2事件及び第3事件の請求は理由があると判断する。その理由は,次の2のとおり原判決を補正する(当審における補充主張に対する判断を含む。
)ほかは,原判決の事実及び理由の第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
2
原判決の補正
原判決17頁11行目の一般医はを一般にはに改める。
原判決20頁1行目末尾に次のとおり加える。
その後もまだ悪化の可能性があり,上記のシリコーンオイル注入がされたままであるため,その抜去のための再手術が必要な状態であるとされていたものの,網膜などの状態が悪く,シリコーンオイルを抜去すると眼球瘻となり完全失明になりかねないため,現在まで再手術は行われていない。乙5,(弁論の全趣旨)原判決20頁2行目のB病院及びC病院をB病院,C病院及び眼科N病院(以下「N病院という。」に,6行目の)(乙4,6の1及び2)を次のとおり,それぞれ改める。
ただし,その後も左眼の疼痛が全く消失したというわけではなく,後記イ左眼眼球破裂に対する度重なる手術とシリコーンオイルの眼内注入により角膜内皮障害が生じ,角膜混濁となり,さらに水疱性角膜症まで悪化するに至っており,現在も左眼の痛みが続いている。控訴人が適応障害を発病した平成26年10月頃も,上記悪化の途上であった。甲31,(33,34の1~3,乙4,5,6の1及び2,20,控訴人)なお,被控訴人は,控訴人が本件口頭弁論再開後の第2回口頭弁論期日で陳述した控訴人準備書面1において追加した左眼の痛みについての新たな主張は,時機に後れた攻撃防御方法であるから本来は却下されるべき旨主張するが,左眼の痛み自体については従前から主張されており,当審における審理経過及び控訴人が追加した主張の内容に鑑みても,控訴人に故意又は重大な過失があるとは認められないから,却下することはできない。原判決20頁8行目の
原告の左眼矯正視力は控訴人の左眼角膜は,をB病院の診察において,平成25年6月17日以降,内皮に軽度の混濁が認められ,同年9月26日以降は軽度とはされず「内皮に混濁ありとされ,平成26年8月18日には,控訴人が

角膜が白っぽいのが気になる。

などと訴えた。
これと並行して,
C病院の診察における控訴人の左眼矯正視力は」
に,9行目から10行目にかけての0.02になったものの,同年8月28日にはをいったん0.02まで改善したものの,その後悪化傾向に転じ,同年8月28日には30cm手動弁,すなわちにそれぞれ改め,16行目の2の次に,乙4を加える。
原判決20頁25行目のり右眼矯正視力が大幅に低下したことに伴い,自動車の運転をすることはできなくなったを加え,26行目末尾に行を改めて次のとおり加える。C病院及びN病院における控訴人の主治医であるJ医師は,控訴人訴訟代理人による照会に対し,令和2年12月24日付けで回答した後,被控訴人指定代理人による聴取に対して補足説明した。その内容は,おおむね次のとおりであり,診療録からも裏付けられる。(甲33,34の1~3,47,乙5,20)a控訴人の受傷眼(左眼)の現在の状態につき,角膜内皮障害が生じていますか。(回答)眼球破裂に対する度重なる手術とシリコーンオイルを眼内に入れてあることで角膜内皮障害が生じ,角膜が混濁しています。(補足説明)上記回答に「角膜内皮障害が生じ,角膜が混濁しています。とあるのは,回答書作成日現在の状態になります。
角膜の混濁と角膜内皮障害は,ほぼイコール(同義)と
いえます。
控訴人の場合,本件事故により左眼球破裂となり,その後,複数
回の手術とシリコーンオイル挿入により,角膜内皮障害がゆっくりと進行していったと考えられます。
C病院の診療録に角膜内皮障害の記載がないのは,症状が認
められても処置,投薬等の治療の必要がなかったからです。角膜移植などの治療が必要となり,診療報酬が生じる場合には保険請求のために傷病名を付しますが,一般に,毎日の診療では症状があっても経過を見守るだけであれば,いちいち傷病名を付記することはありません。
上記診療録の平成26年4月17日に

左角膜混濁↑か。という


記載があるのは,角膜内皮障害が増悪したと考えて差し支えありません。
上記診療録の同年8月28日に左角膜混濁↑,角膜内皮にNV+という記載があるのは,新生血管(NV)が出現し,眼の中の循環が非常に悪くなり酸素不足の状態であることを表しています。これは,眼の中の状態が非常に悪いことを示すサインです。
b
上記aの角膜内皮障害は,水疱性角膜症と診断されますか。また,角膜内皮障害の重症度分類において,いずれのGradeに該当しますか。

(回答)水疱性角膜症のGrade4の状態です。
(補足説明)上記回答は,回答書作成日現在の状態になります。
平成29年の検査時の写真を見ると,控訴人は水疱性角膜症のG
rade4の状態にあったと考えられます。
上記診療録に水疱性角膜症という記載が見当たらないのは,
症状があっても経過を見守るしかない場合には傷病名を付記しないからです。水疱性角膜症は,薬物治療では治らないため,一度は角膜移植も考えましたが,眼の奥の網膜などの状態が悪いため,シリコーンオイルを抜くことができません。仮に角膜移植を行ったとしても,シリコーンオイルが入っていると水疱性角膜症の状態になるため,
控訴人には適応がなく,
様子を見守るしかありませんでした。
c
控訴人の角膜内皮障害は痛みを伴うものですか。

(回答)角膜内皮障害は上皮のびらんにより痛みを伴っているものと思います。
(補足説明)上記回答は,回答書作成日現在の状態になります。
上記回答で思いますと付加したのは,令和2年10月29日
に行われた染色使用再検査において,控訴人の左角膜の表面が荒れていることが確認され,これは角膜上皮がびらん状態にあることを示しており,びらんがあれば,痛みがあるだろうと判断しました。角膜の混濁だけでは痛みは生じませんが,びらん状態であれば痛みを強く感じるようになります。
控訴人が痛みや違和感を訴えていたとしても,その都度上記診療
録に記載してはいません。私の記憶では,控訴人は違和感があると言っていた覚えがあります。
d
控訴人に対して処方されているヒアレイン点眼液,フラビタン眼軟膏,
ムコスタ点眼液及びジクアス点眼液は,
控訴人の角膜内皮障害
(水
疱性角膜症)に対して処方されているものですか。

(回答)現在の点眼は水疱性角膜症による角膜上皮障害に対して処方しております。
(補足説明)
ヒアレイン点眼液は,
眼の表面
(上皮)
を癒す薬ですので,
控訴人から痛み等の訴えがあり,処方したのだと思います。上記診療録に控訴人の主訴を記載していないのは,点眼液を処方することで落ち着く程度の症状であって,特に治療する必要がない状態だったからです。
N病院の診療録で,平成28年8月23日,
左角膜びらんと病
名が付され,
同日,時々左鈍痛
フラビタン軟膏
との記載があり,

痛い時の薬としてフラビタン眼軟膏が処方されているのは,控
訴人からはっきりと左眼の痛みの訴えがあったのだと思います。本当に痛みがひどい時には,控訴人が訴えてくるので,その症状に合わせて薬を処方していました。フラビタン眼軟膏は,慢性的に左眼に痛みが生じたときに使用します。
平成29年11月30日にムコスタ点眼液を,同年12月26日
にジクアス点眼液を新たに処方したのは,控訴人から何かしら違和感,痛みなどの訴えがあり,それまでの薬では足りなくなった(効かなくなった)からです。
e
控訴人の角膜内皮障害(水疱性角膜症)は,平成24年10月17日の左眼眼球破裂等の外傷に起因するものと考えてよろしいでしょうか。

(回答)眼内の手術をするとそのたびに角膜内皮細胞は減少しますし,シリコーンオイルが眼内に長期入っていることで角膜内皮細胞が減少します。この内皮細胞の減少が水疱性角膜症の原因と考えられます。

医学的知見
角膜は,外面から,涙液層,上皮,ボーマン膜,角膜実質,デスメ膜,基底膜,内皮の順に層構造を形成している。このうち,前房で房水に接する角膜内皮は,厚さ約5μmの単層の細胞シートで,境界明瞭な六角形の内皮細胞が隙間なく配列している。その機能は,角膜実質の含水量を一定に調節することにより,角膜の透明性を維持することである。実質内の水を前房側へ汲み出すポンプ機能と前房側から実質内に水が浸透することを抑制するバリア機能を有する。角膜内皮細胞は,障害された場合,個々の細胞の面積増加で角膜内面を覆うように再生する。一定数以上の角膜内皮細胞の減少は,前房水の汲み出し効果が不十分となり,角膜実質に浮腫をきたす。重症のものでは浮腫が角膜上皮に及び,不可逆性となったものは水疱性角膜症と呼ばれ,角膜実質の浮腫の継続と二次的な実質細胞の活性化による実質組織の結合組織の乱れによる混濁をきたす。
(乙19)
角膜内皮障害の進行に伴い,異物感,眩明などを自覚し,さらに進行すると角膜実質の浮腫による視力低下を自覚する。また,角膜浮腫に伴う角膜上皮障害も生じてくるため,強い眼痛を自覚するようになる。最終的には重篤な視力障害を来す水疱性角膜症に至る。水疱性角膜症は,角膜内皮障害の重症度分類において,角膜内皮細胞密度が測定不能であり,角膜が浮腫とともに混濁した状態で,角膜内皮移植などが必要となるものとして,最重症のGrade4に分類されている。
(甲48)

原判決23頁1行目の症状はの次に,前記アの初診直後からの2回にわたる入院治療を経て,10年以上断酒生活を維持することができていたため,アルコールの過度摂取によるうつ症状ないしうつ病についても積極的な治療は要しないこととなりを加える。原判決28頁26行目の1回でありの次に,平成26年11月17日の診察に至るまではを加える。原判決29頁12行目の影響に言及しているものの,同記載でもって,を影響に関して記載しているものの,同記載がに改める。
原判決32頁18行目のむしろから33頁7行目末尾までを次のとおり改める。
したがって,争点1に関する控訴人の当審における補充主張(控訴人に発症した精神障害はPTSDであるとするもの)も採用することができない。控訴人が上記アの平成26年10月29日時点で発病していた本件事故前とは異なる精神障害は,PTSDではなく,前提事実カの専門部会の意見書(乙13)のとおり,適応障害であったと認めるのが相当である。そして,上記発病の主要な原因は,①本件事故前後を通じて通院治療中であったアルコール依存症及びうつ病(前提事実アないしウに加えて,②本件事故による心理的負荷(後記4アないしウ)),③左眼の負傷(負傷後の疼痛及び視力の低下を含む。)による心理的負荷同及びイないしエ),④右眼の視力の低下による心理的負荷(後記4オ),⑤労災保険法に基づく休業補償給付を同年5月31日までの期間に対する支給を最後に打ち切られたことによる経済生活上の不安(認定事実クないしコ)等の複合であったと認められる。原判決33頁16行目及び25行目の各認定基準別表1のの次にいずれも特別な出来事以外の具体的出来事の項目を加え,34頁1行目から7行目までを次のとおり改める。
すなわち,認定基準は,上記「(重度の)病気やケガをしたとの具体的出来事のうち,心理的負荷の強度を強と判断する具体例として,
〇重度の病気やケガをしたを挙げた上,【
「強である例】
」として,
長期間(おおむね2か月以上)の入院を要する,又は労災の障害年金に該当する若しくは原職への復帰ができなくなる後遺障害を残すような業務上の病気やケガをしたと業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者について,当該傷病により社会復帰が困難な状況にあった,死の恐怖や強い苦痛が生じたとの2例のみを示しているところ,この2例はそれぞれ独立したものであり,かつ,例示にすぎず,6か月より前に発生した出来事が原因で精神障害が発生し業務上と認められる場合もあることは,認定基準の策定の経緯(甲32の1・2,乙2,3)に照らしても明らかである。本件のように,業務上の出来事(本件事故)による左眼の当初の傷病の発生自体は精神障害発症の6か月より前であるが,左眼の症状が精神障害発症当時も悪化を続けて苦痛を生じている場合も,除外するのは相当でない。
準の補足説明において,

発病前おおむね6か月の間において,当該苦痛等が存在していれば,症状の急変等が生じていることは必要な条件ではない。と

されているとおりである。
そして,控訴人の上記各入院の期間は,合計すれば2か月以上となる上,その間に5回にもわたり観血的な手術を受けた(認定事実









)ことからして,控訴人の左眼の負傷は,本件事故から適応障害の発
病までの時間的間隔の点をひとまず措くとすれば,上記(重度の)病気やケガをしたとの具体的出来事のうち,心理的負荷の強度が強であるものに該当するというべきである。

原判決34頁11行目の次に行を改めて次のとおり加える。
ウ控訴人の左眼の視力は,本件事故直後は0.01となっていたところ,いったん0.02まで改善したものの,その後悪化傾向に転じ,平成26年8月には30cm手動弁まで低下し,同年10月29日時点においても,最終的に光覚弁まで低下する過程にあったものと認められる(認定事実イ)。このような左眼の視力の著しい低下の過程における心理的負荷も,左眼の負傷による心理的負荷の程度を検討するに当たり斟酌すべき事情である。原判決34頁26行目末尾に次のとおり加える。
なお,被控訴人(厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室)の「精神障害の労災認定実務要領において,認定基準(原判決別紙2)別表1の具体的出来事の1(重度の)病気やケガをしたでいう重度について,強の具体例に示されているとおり,社会通念に照らして重篤であると認められる程度の傷病を経験した場合や,以前のような仕事を続けることは到底不可能になるようなケガや病気をした場合が想定されている。具体的に示されているもののほか,頭部外傷等に関して意識障害が継続した場合や,簡易なものを除き,観血的な手術を行った場合も含まれる。また,療養の過程では重い後遺障害を残すか否か確定しないが,その可能性が医師から告げられたような場合も同様である。と補足説明がされている。また,認定基準のうち上記例外的に,業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者が,その傷病によって生じた強い苦痛や社会復帰が困難な状況を原因として精神障害を発病したと判断される場合,当該傷病が生じた時期が精神障害の発病6か月より前であっても,評価対象に含めることができるとの点についても,
発病前おおむね6か月の間に生じた苦痛等が,ときに強い心理的負荷となることにかんがみ,この項目で評価するものとなっている。この場合,発病前おおむね6か月の間において,当該苦痛等が存在していれば,症状の急変等が生じていることは必要な条件ではない。と補足説明されている。
(甲19)

原判決35頁4行目の本件負傷を左眼の負傷に改め,5行目末尾
に次のとおり加える。
したがって,本件事故による相当強度な心理的負荷(前記)のみをもって,直ちに適応障害の発病の業務起因性を認めることはできない。しかしながら,控訴人は,以前のような仕事を続けることは到底不可能になるような左眼の負傷をしたものである。また,控訴人は,適応障害を発病した平成26年10月29日当時も療養の過程にあり,左眼矯正視力も同年4月17日の0.02から同年8月28日には30cm手動弁まで悪化していた(認定事実イ)のであるから,その後の症状固定時には障害等級8級1号(一眼が失明し,又は一眼の視力が0.02以下になったもの)に該当するような重い後遺障害(前提事実オ)を残すことになると予想することができ,上記当時,左眼の角膜内皮障害による角膜混濁が増悪して,眼内の状態が非常に悪くなり,J医師にも違和感を訴えるなどしていたとみられること(認)や,E医師にも複数回の手術を受けても左眼の視力が改善しないため不安を覚えるようになった旨訴えていたこと(認定事実らすると,左眼の負傷によるス)かは全体として極めて強度なものであったとみるべきである。原判決35頁9行目から10行目にかけての

,左眼の強い苦痛がその後も継続していたとは認められない。

(認定事実ア),その後も疼痛が続いていたものの,控訴人が適応障害を発病した平成26年10月頃時点においては,本件事故直後のような強いものであったとまでは認められない。

に改める。
原判決35頁11行目から24行目までを次のとおり改める。
エ前記ウのような左眼の視力の著しい低下過程において,控訴人にその後の生活全般への不安等,相当強度な心理的負荷が生じていたであろうことは,容易に推認することができる。もっとも,控訴人は,本件事故の後,平成26年10月29日時点においても,休業を継続しており,社会復帰を果たすことができていなかったものの,眼科医らは,同日の前後を通じて,一致して,控訴人の視力について,両眼視を要する仕事は困難,危険であるものの,片眼視力で従事可能な業務であれば就労可能であるとの意見を述べていたのであるから,控訴人が左眼の視力低下のために社会復帰が困難な状態であったとまでは認められない。ただし,控訴人について,社会復帰が困難な状態であったとまではいえないとの理由で,認定基準において心理的負荷の強度を「強と判断する例のうち業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者について,当該傷病により社会復帰が困難な状況にあった,死の恐怖や強い苦痛が生じたには該当しないとしても,これとは別の独立した例示である長期間(おおむね2か月以上)の入院を要する業務上の病気やケガをした
に該当するものであることは何ら
左右されない。

原判決36頁2行目の仮にから3行目のしてもまでをまたに
改める。
原判決36頁7行目から18行目までを次のとおり改める。
カ前記3ウのとおり,控訴人の適応障害の発病の主要な原因は,①本件事故前後を通じて通院治療中であったアルコール依存症及びうつ病,②本件事故による心理的負荷,③左眼の負傷(負傷後の疼痛及び視力の低下を含む。)による心理的負荷,④右眼の視力の低下による心理的負荷,⑤休業補償給付の打切りによる経済生活上の不安等の複合であったと認められる(被控訴人も,控訴人が新たに発病した精神障害がPTSDではなく適応障害であることのみを理由として,業務起因性を否定すべきであると主張しているわけではない。。)そして,前記イないしオで検討したところによると,本件事故による心理的負荷及び左眼の負傷による心理的負荷(上記②及び③)は,負傷後の疼痛及び視力の低下も含めれば,控訴人と同程度の年齢,経験を有する平均的労働者にとっても相当強度なものであったというべきであり,とりわけ視力の低下が本件事故から約2年後の発病当時も継続していた状況にあったことも総合的に評価すれば,上記④の右眼の視力の低下による心理的負荷を除いたとしても,本件事故と適応障害の発病との間の相当因果関係(前記ア)を認めるに足りる程度の強度なものであったと判断される。このことは,控訴人が社会復帰が困難な状況であったとまでは認められず,上記⑤の休業補償給付の打切りによる経済生活上の不安等も原因として複合していたとしても,否定すべきものではない。また,上記①についても,控訴人の本件事故前からの既往症であるうつ病及びアルコール依存症は,本件事故時点では,就労に支障がない程度の状態で安定し,ほぼ寛解状態にあった(認定事実ウ)から,業務以外の心理的負荷及び個体側の要因により適応障害を発病したもの(認定基準の認定要件における除外事由)があると認めることはできない。そして,適応障害は平成26年10月29日時点で新たに発病した上記既往症とは異なる精神障害であって(前記3・ウ)本件事故による心理的負荷及び左眼の負傷による心理,的負荷は平均的労働者にとっても強度なものであり,業務による強い心理的負荷があったといえるから,相当因果関係が認められるとの上記判断は左右されない。キ以上によれば,控訴人の精神障害(平成26年10月29日発病の適応障害)には業務起因性が認められないとの点のみを理由に,控訴人が精神障害のために労働することができない状態であったかどうか(争点3)等の点については検討する必要がないとして(前記第2の3の被控訴人の主張),療養補償給付及び休業補償給付を全部不支給とした本件処分3及び本件処分4は,違法というほかなく,取消しを免れない(処分行政庁においては,上記精神障害と相当因果関係が認められる療養補償給付及び休業補償給付の額を改めて算定し,控訴人に支給する処分をすべきである。。)原判決36頁23行目の14条を14条1項に,37頁10行目
の認められずから11行目末尾までを次のとおり,それぞれ改める。認められない。したがって,控訴人が同月1日から同年10月31日までの期間において,左眼の片眼視力により可能な業務に従事する余地がなかったとはいえず,争点4に関する控訴人の当審における補充主張も採用することができない。第4

結論
よって,控訴人の各請求のうち,本件処分1及び本件処分2の各不支給部分の
取消しを求める請求は棄却すべきであるが,本件処分3及び本件処分4の取消しを求める請求は認容すべきであるから,これと異なる原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第3部

裁判長裁判官

始関正光
裁判官

竹内浩史
裁判官

秋吉信彦
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