判例検索β > 平成30年(ワ)第16422号等
商標使用差止等請求事件 損害賠償請求事件 商標権 民事訴訟
事件番号平成30(ワ)16422等
事件名商標使用差止等請求事件 損害賠償請求事件
裁判年月日令和3年4月23日
裁判所名東京地方裁判所
権利種別商標権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2021-04-23
情報公開日2021-05-21 14:02:28
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令和3年4月23日判決言渡

同日原本交付

裁判所書記官

平成30年(ワ)第16422号

商標使用差止等請求事件(甲事件)

平成30年(ワ)第18354号

損害賠償請求事件(乙事件)

口頭弁論終結日

令和3年2月26日
判決
甲事件原告・乙事件被告

A
(以下原告という。)

同訴訟代理人弁護士

甲事件被告・乙事件原告

川山小中朗大輔
有限会社クワイア
(以下被告という。)

同訴訟代理人弁護士

阿部奈渡邊大祐梶原秀史主1穂子文
被告は,飲食店において,クロス,テーブルマット及びコースターに別紙被告標章目録⑵記載の標章を付し,又は,これらの物に同標章を付した
ものを用いて役務を提供し若しくは役務を提供するために所持してはならない。
2
被告は,飲食物に係る役務の提供に関するポスター,壁面看板,置き看板その他の広告に別紙被告標章目録⑵記載の標章を付して展示し,又はこ
れらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
3
被告は,飲食物に係る役務の提供に関するメニュー,説明書きに別紙被告標章目録⑵記載の標章を付したものを飲食物に係る役務の提供のために展示してはならない。

4
被告は,別紙被告標章目録⑵記載の標章を付したテーブルマット,コースター,ポスター,壁面看板,置き看板,メニュー,説明書き,しめ飾り,
クロス又はこれに類する布を廃棄せよ。
5
被告は,別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイトから別紙被告標章目録⑵記載の標章を削除せよ。

6
被告は,原告に対し,98万1839円及びうち95万1779円に対する平成30年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を,
うち3万0060円に対する平成29年12月1日から支払済みまで年6分の割合による金員をそれぞれ支払え。
78
被告の請求をいずれも棄却する。

9
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は,甲事件及び乙事件を通じて,これを5分し,うち3を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。

10

この判決は,第6項に限り仮に執行することができる。

第1
実及び理由
請求

1
甲事件について


被告は,豚肉又はその包装に別紙被告標章目録⑴記載の標章を付し,又は,豚肉若しくはその包装に同標章を付したものを販売し,販売のために展示し,又は電気通信回線を通じて提供してはならない。


被告は,飲食店において,クロス,テーブルマット及びコースターに別紙被告標章目録⑴記載の標章を付し,又は,これらの物に同標章を付したものを用いて役務を提供し若しくは役務を提供するために所持してはならない。⑶

被告は,飲食物に係る役務の提供に関するポスター,壁面看板,置き看板その他の広告に別紙被告標章目録⑴記載の標章を付して展示し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供してはならない。


被告は,飲食物に係る役務の提供に関するメニュー,説明書きに別紙被告標章目録⑴記載の標章を付したものを飲食物に係る役務の提供のために展示
してはならない。


被告は,別紙被告標章目録⑴記載の標章を付したテーブルマット,コースター,ポスター,壁面看板,置き看板,メニュー,説明書き,しめ飾り,クロス又はこれに類する布を廃棄せよ。



被告は,別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイトから別紙被告標章目録⑴記載の標章を削除せよ。



被告は,原告に対し,1233万5463円及びうち400万円に対する平成27年10月19日から,うち813万8903円に対する平成30年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を,うち9万9090円に対する平成29年11月1日から,うち9万7470円に対する同年1
2月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2
乙事件について


主位的請求
原告は,被告に対し,960万円及びこれに対する平成30年6月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。



予備的請求
原告は,被告に対し,1166万円及びこれに対する平成30年6月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2
事案の概要
甲事件は,⑴別紙原告商標目録記載1及び2の商標権(以下,それぞれ順に
本件商標権1及び本件商標権2といい,併せて本件各商標権という。また,これらの登録商標を本件商標1及び本件商標2といい,併せて本件各商標という。
)を有する原告が,被告が飲食物の提供等に当たり,別
紙被告標章目録⑴記載1ないし3の標章(以下被告各標章という。)を使用
することが本件各商標権を侵害すると主張して,被告に対し,商標法36条1項に基づき被告各標章の使用差止め及び同条2項に基づき侵害組成物の廃棄等を求めるとともに,不法行為に基づき損害賠償金813万8903円及び不法行為の後の日である平成30年6月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。
)所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求め,⑵原告が,被告に対し,被告との間の売買
契約に基づき売買代金19万6560円及びうち9万9090円に対する弁済期の翌日である平成29年11月1日から,うち9万7470円に対する弁済期の翌日である同年12月1日から各支払済みまで商事法定利率年6分(平成29年法律第45号による改正前の商法。以下同じ。
)の割合による遅延損害金の支払
を求め,⑶原告が,被告に対し,主位的には,被告との間の消費貸借契約に基づ
く貸金返還請求権として,貸付金400万円及びこれに対する平成27年10月19日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,予備的には,不当利得に基づく利得返還請求権として,400万円及びこれに対する平成29年10月31日から支払済みまで年6分の割合による利息の支払を求める事案である。

乙事件は,被告が,原告が被告との間の継続的売買契約を一方的に終了させたなどと主張して,原告に対し,⑴主位的に,債務不履行に基づき,損害賠償金960万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年6月17日から支払済みまで民法所定の年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,⑵予備的に,不法行為に基づき,損害賠償金1166万円及びこれに対する不法行為の後
の日である同日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1
前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)


当事者

原告は,自らが実質的に経営する種豚場で生産された豚に舞豚(まいとん)というブランドを付し,長崎県島原市所在の直販店等でその肉や肉製
品(以下本件豚肉等といい,豚肉をいう場合には,
豚肉舞豚とい
う。
)を販売するほか,同市所在のしゃぶしゃぶだいにんぐ舞豚と

いう名称の飲食店(以下原告店舗という。
)で,豚肉舞豚を使用した
しゃぶしゃぶ料理等を提供している(争いのない事実,甲19)


被告は,音楽メディア事業等を行っている会社であり,平成27年12月以降,東京都台東区所在の長崎しまばらしゃぶしゃぶ舞豚上野御徒町店(以下本件店舗という。
)を経営していた。本件店舗は,平成3
0年8月10日,営業を終了した。
(争いのない事実,甲22)


原告の商標
原告は,本件各商標の商標権者であり,本件各商標の詳細は別紙原告商標
目録記載のとおりである。


被告の行為等

被告は,平成27年12月1日から平成30年8月10日まで,本件店舗において,しゃぶしゃぶ料理等を提供するにあたり,コースターにmaitonという文字の標章を付し,テーブルマット,店舗入口に掲げ
られた壁面の看板,店舗内に置かれた看板,飲食物の食べ方に関する説明書き,しめ飾り,クロス又はこれに類する布,メニュー,ポスターにそれぞれ舞豚という文字の標章を付して,これらのものを用いてしゃぶしゃぶ料理等を提供し,また,これらのものを本件店舗内で展示していた(甲5,弁論の全趣旨)



被告は,別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイトにおいて,
舞豚
という文字の標章(以下,上記アの各標章と併せて被告各使用標章という。
)を付して,本件店舗での飲食物の提供に関する情報提供を行っていた(甲6)


本件に至る経緯等

被告は,平成27年12月1日,本件店舗をオープンし,原告が販売した本件豚肉等を使用したしゃぶしゃぶ料理等を提供していた(争いのない事実)



原告は,被告に対し,本件店舗の開店後,豚肉舞豚を販売し,平成29年9月には,豚肉舞豚61.4キログラムを代金9万9090円(消費税相当額込)
,代金の支払時期を同年10月末日で販売し,同年10月には,

豚肉舞豚61.4キログラムを代金9万7470円(消費税相当額込),
代金の支払時期を同年11月末日として販売した(以下本件各売買という。(争いのない事実)



被告は,同年9月22日,特許庁に対し,多数の商品や役務を指定して,商標として舞豚
(標準文字)の商標登録出願(以下本件被告商標出願という。
)を行った。その指定商品及び指定役務は,別紙本件被告商
標出願指定商品及び指定役務目録記載のとおりであり,その中には,第30類パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,しゃぶしゃぶのたれ,しゃぶしゃぶのつゆ,しゃぶしゃぶ用ポン酢,ウースターソース,グレービーソース,ケチャップソース,しょうゆ,食酢

第31類,「第35類豚(生きているものに限る。

),

広告業,インターネットによる広告,折り込みチラシによる

広告,雑誌による広告,新聞による広告,テレビジョンによる広告,ラジオによる広告,交通広告,屋外広告物による広告,街頭及び店頭における広告物の配布,商品の実演による広告,ダイレクトメールによる広告,広告宣伝物の企画及び制作」第40類,食料品の加工,食品及び飲料の保存加工,食品のくん製,食品の冷凍加工,と殺,畜産物の加工処理などが含まれる。
被告は,平成30年8月24日,本件被告商標出願について商標登録を受けた。
(以上ウについて,乙18)


原告は,平成29年10月11日,被告に対し,同月31日をもって本件豚肉等の販売を停止するとともに,同年12月1日以降,飲食物の提供,豚肉,豚肉製品に関して,本件各商標を用いることを中止すること,平成27年10月19日に貸し付けた400万円について10日以内に支払うことなどを求める通知(以下本件通知という。
)をした。本件通知は,

平成29年10月20日,被告に到達した。
(甲4)
2
争点

(甲事件)


商標権侵害に基づく差止請求及び損害賠償請求について

本件各商標権の侵害の有無


原告による本件各商標権の行使が権利濫用に当たるか否か


差止めの必要性


損害額
商標法38条2項による損害額
商標法38条3項による損害額

損害不発生の抗弁の成否


売買代金支払請求について
被告による業務委託料支払請求権を自働債権とする相殺の成否


貸金返還請求権又は不当利得返還請求権について
原告が被告に交付した400万円についての返還約束の有無又は不当利得返還請求権の成否
(乙事件)


債務不履行に基づく損害賠償請求(主位的請求)について
原告と被告との間の継続的売買契約の成否と原告による債務不履行の有無


不法行為に基づく損害賠償請求(予備的請求)について
原告による一方的な取引停止が不法行為に当たるか否か

3
争点に対する当事者の主張


争点⑴ア(本件各商標権の侵害の有無)

【原告の主張】

本件各商標権の侵害について
被告は,本件店舗において,しゃぶしゃぶ料理等の飲食物を提供する
にあたって,コースター,テーブルマット,壁面看板,置き看板,飲食物の食べ方に関する説明書き,しめ飾り,クロス又はこれに類する布,メニュー,ポスターやウェブサイトに,別紙被告標章目録⑴記載の標章(被告各標章)を付するなどして使用しており,本件商標権1を侵害する。

被告は,豚肉製品に関するポスターに別紙被告標章目録⑴記載の標章を付して展示しており,本件商標権2を侵害する。

本件各商標の使用許諾について
本件各商標の使用許諾契約がないこと

被告は,原告が本件各商標の使用を許諾したと主張するが,原告は,妹のB(以下Bという。
)が店長兼女将として本件店舗を運営する
という前提があったから,被告に対し,本件各商標の使用を事実上黙認していたにすぎず,本件各商標の使用を認める旨の承諾はしていない。本件各商標の使用許諾契約は存在しない。

本件各商標の使用許諾契約の解除
仮に,本件各商標の使用許諾契約が存在したとしても,原告は,本件通知によって,一定の予告期間をおいて本件各商標の使用中止を求めており,同契約は解除されたというべきである。
また,被告が主張するように,上記解除に正当な事由が必要であるとしても,被告は,本件被告商標出願を行い,原告の商標権を奪取するかのような背信行為に出ている上に,原告及び原告家族を侮辱するかのよ
うな言動を繰り返しており,原告と被告との間の信頼関係が破壊されており,正当な事由があることは明らかである。
【被告の主張】

本件各商標権の侵害について
原告の主張は争う。本件店舗は平成30年8月10日に営業終了してお
り,本件各商標権の侵害はない。

本件各商標の使用許諾について
本件使用許諾契約について
被告は,平成27年頃,原告から,豚肉舞豚を使用した料理を提供す
る飲食店を東京で営みたいとの相談を受け,これに賛同し,飲食店の運営主体は被告とし,原告は資金の提供及び本件豚肉等を継続的に被告に販売するという形で,豚肉舞豚を使用した料理を提供する飲食店を営むことが決定された。この決定に基づき,原告と被告との間において,同年10月頃,原告が被告に継続的に本件豚肉等を販売する契約(以下
本件継続的売買契約という。
)及び被告が本件店舗の運営に当たり
本件各商標を無期限で無制限に使用することについての使用許諾契約(以下本件使用許諾契約という。
)が成立した。
したがって,本件各商標権の侵害は認められない。
本件使用許諾契約の解除について

a
原告は,本件通知によって,本件各商標の使用中止を求めたが,本件使用許諾契約の解除の意思表示をしていないから,被告は,同契約に基づいて本件各商標を使用していたのであり,商標権侵害の問題は生じない。
b
仮に,本件通知が解除の意思表示と解されるとしても,本件使用許諾契約は,原告と被告との間の信頼関係に基づき長期にわたり継続的に,被告が本件各商標権を使用して本件店舗を運営することが前提と
なっていた。また,本件使用許諾契約が一方的に解除されると被告は本件店舗を運営できず被告を害する程度が著しいのに対し,原告には何ら損害が発生しない。このような本件使用許諾契約の成立の経緯,内容,性質等からすれば,原告が本件使用許諾契約を一方的に解除するには,原告・被告間の信頼関係が取引関係を継続できない程度に損
なわれ,その修復が困難であることや被告が本件各商標権のブランドイメージを損なうような背信行為を行ったなどの解除を正当とする事由が必要というべきである。
本件において,原告は,平成29年9月上旬に一方的に本件取引を終了させる旨を主張しており,この際に本件使用許諾契約の解除を正
当とする事由は存在しない。
原告は,解除原因として,本件被告商標出願などの被告の言動を主張する。しかし,被告は,原告が同月上旬に突如本件各商標権を有していることを盾にして本件豚肉等の取引を終了させる旨の主張をしてきたため,原告による営業妨害から自らを守るために本件被告商標出
願に至ったのであり,これをもって解除の正当事由とはならない。⑵

争点⑴イ(権利濫用)について

【被告の主張】
原告が本件使用許諾契約の解除を主張し,本件各商標権に基づいて権利行使することは,以下の事情からすれば,権利濫用に当たり許されない。すなわち,①豚肉舞豚を使用した料理を提供する飲食店を東京で営むことを希望したのは原告であり,被告は原告の意図を汲んで開店費用として多額の支出をするなどして本件店舗の運営をしてきたこと,②被告が本件店舗を東京で運営してきたことにより,原告は本件豚肉等を被告に継続的に販売することで売上げを伸ばすことができ,かつ,東京における豚肉舞豚の顧客誘引力及び知名度を向上させることができたこと,③被告は,原告から本件豚
肉等の供給がなくなり,本件各商標を使用できなくなった場合には本件店舗の運営ができなくなることが明らかであったこと,④原告が本件取引を終了させるまでにわずか1か月足らずの期間しか設定せず,かつ,その自ら設定した期間さえ遵守しなかったことなどの事情からすれば,原告による本件各商標権の行使は権利濫用に当たる。

【原告の主張】
被告の主張は争う。


争点⑴ウ(差止めの必要性)

【原告の主張】
被告は,原告が本件各商標の使用中止を求めたにもかかわらず,使用を中
止せず,本件使用許諾契約があるなどと主張している。また,被告は,本件被告商標出願をしており,今後も被告において本件各商標を含む舞豚に関する商標を従前と同様又は類似する方法により使用し続ける積極的な意思があることは明らかである。被告には,本件各商標権を侵害するおそれがある。

【被告の主張】
被告は,平成30年8月10日に本件店舗の営業を終了しており,本件各商標を使用しておらず,差止めの必要性はない。

争点⑴エ(損害額)について

【原告の主張】

商標法38条2項による損害額について
商標法38条2項が適用されること
商標法38条2項は,商標権者が商標を現に使用している中でその侵害を受けた場合において,侵害者による商標権侵害行為がなかったならば(商標権者において)利益を得られたであろうという事情が認められる場合には,商標法38条2項が適用されると解される。
原告は,オンラインで舞豚の豚肉製品の発注を受けており,全国
的に販売及び発送しており,その顧客は全国にわたっており,東京を中心とした関東甲信越に所在する顧客が占める割合は大きい。また,原告は,東京都中央区日本橋に所在のいわゆるアンテナショップである長崎館において,常時,豚肉舞豚のしゃぶしゃぶ肉を一般消費者向けに販売している。そうすると,被告が本件店舗において被告各標章を使用して豚肉舞豚を提供しなければ,その顧客にとって,上記2つの方法が豚肉舞豚を入手する唯一の方法となり,かつ,いずれも豚肉舞豚の入手方法として容易であるから,豚肉舞豚のニーズは上記2つの方法で満た
されると考えられ,原告が利益を得られたといえる。したがって,侵害者である被告による商標権侵害行為がなければ,商標権者である原告が利益を得られたであろうという事情が存在するといえ,商標法38条2項が適用されるといえる。
商標法38条2項で推定される損害額

商標法38条2項の利益とは,限界利益,すなわち,商標権の侵
害者が侵害品の販売等によって得た売上額から,その製造仕入原価のほか,同売上げを上げるためにのみ要した変動費を控除した額をいう。本件において,
利益とは,被告が被告各標章を使用して豚肉料理
等を提供することによって得た売上額から,その仕入原価及び売上げを
上げるためにのみ要した変動費を控除した利益であるところ,被告が主張する地代家賃(店舗家賃,駐車場代)
,外注費(人件費)
,水道費,光
熱費,支払手数料(ごみの処理費用)
,通信費は固定費であり,月額固
定分を除いた水道費及び通信費,消耗品費,支払手数料,修繕費は,上記の売上げをあげるためにのみ要した変動費ではない。そうすると,本件における利益は,売上げから仕入原価を控除したものというべきであり,平成29年12月1日から平成30年8月10日までの売上げ
1189万7246円から仕入原価375万8343円を控除した813万8903円となり,かかる金額が原告の損害額として推定される。イ
商標法38条3項による損害額
商標権に関するロイヤルティ料率は,平均値2.6%であるが,食
肉,豚肉製品にかかる分類である第29類(動物性の食品及び加工した野菜その他の食用園芸作物)又は第31類(加工していない陸産物,生きている動植物及び飼料)の使用料率は明らかではない。他方,商標権に限定せず,特許権,技術ノウハウなどを含めたロイヤルティ料率をみると,全産業の平均料率は3.7%であるが,食品産業の平均料率は5.5%であ
り,全産業の平均料率より1.8%高い。そこで,食品の商標権のロイヤルティ料率の平均値は,商標権に関するロイヤルティ料率の平均値2.6%より,1.8%高い数値として,4.5%と推認することができる。豚肉舞豚は,年間200頭しか生産されないほど希少性が高く,品質も高い高級豚肉であり,原告店舗は,長崎県からながさき地産地消こだわる店として認定され,長崎県民が選ぶ観光客などにおススメしたいグルメ店100選にも選抜されており,舞豚という商標は,
高級ブランド豚としてのブランド力,知名度,顧客誘引力が高く,また,舞豚
という店舗が開店することについては新聞でも大きく取り上げられている。被告は,このような本件各商標がもつブランド力,知名度,顧客誘引力を
最大限生かすため,
舞豚という店舗名を掲げ,
舞豚をメインとした
料理メニューを展開し,本件店舗での売上げ及び利益を上げてきた。そして,原告は,本件各商標権について他者に使用許諾したことはなく,被告はそのブランド力等を独占的に使用してきた。
これらの事情に加えて,平成10年商標法改正の趣旨をも考慮すれば,本件各商標権の使用料率は,食品の商標権のロイヤルティ料率の平均値4.5%よりも相当に高く,その2倍である9%をくだらないというべきであ
る。
したがって,商標法38条3項による損害額は,平成29年12月1日から平成30年8月10日までの本件店舗の売上げ1189万7246円に9%を乗じた107万0752円となる。

損害不発生の抗弁について
被告は,本件店舗の存在によって原告に損害が及ぶことはあり得ないなどと主張する。しかし,原告は,原告店舗のほか,オンラインショッピングや東京都中央区日本橋に所在するアンテナショップで販売する方法やふるさと納税に対する返礼品として豚肉舞豚を提供しており,被告による商標権侵害行為がなかったならば,原告は,オンラインショッピングやふる
さと納税を行うことにより利益を得ていたといえ,損害が及ぶことがあり得ないとはいえない。
【被告の主張】

商標法38条2項による損害額
商標法38条2項が適用されないこと
商標法38条2項による損害額の推定を主張するには,商標権者において損害が発生していることを主張立証する必要がある。原告は,オンラインショップやアンテナショップで豚肉舞豚を販売することにより,本件店舗の顧客のニーズは満たされていたと考えられ,原告が利益を得
られたと主張する。しかしながら,本件店舗では豚肉舞豚の販売を行ったことがなく,豚肉を用いた料理を提供していたにすぎず,豚肉を購入する顧客と飲食店で飲食する顧客のニーズは全くの別物であるから,原告の主張は失当である。また,原告店舗は長崎県島原市にあり,東京都にある本件店舗とは商圏を異にし,顧客のニーズは重ならない。
このような事情からすれば,本件において,
商標権侵害行為がなかったならば(商標権者において)利益を得られたであろうという事情
は認められないから,商標法38条2項は適用されない。
商標法38条2項の利益について
商標法38条2項の利益とは,侵害品の売上高からその販売に直
接要する費用(変動費)を控除した額をいう。本件において,被告が用いている舞豚という標章は店そのものの名称であり,ある商品やサ
ービスを表す標章ではないから,本件でいう変動費は,本件店舗を営むために要した費用全てを指すというべきである。したがって,商標法38条2項の利益を算出するにあたっては,売上げから,仕入高,外注費,地代家賃,水道光熱費,支払手数料,通信費,消耗品費及び修繕費を控除すべきである。


商標法38条3項による損害額
原告が根拠とする知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書(甲36)には,商標権のロイヤルティ料率
の平均値は2.6%とされており,これを基準に考えるべきである。そし
て,本件各商標についていえば,原告は本件店舗の存在する東京都において飲食店を経営しておらず,食肉の販売店舗を持っておらず,長崎県を除く地域においても飲食店を経営しておらず,食肉の販売店舗を持っていないのであり,長崎県以外の地域において豚肉舞豚の認知度は低く,顧客誘引力も低い。また,原告の事業と東京都における本件店舗は競合もしない。
したがって,本件各商標権についてのロイヤルティ料率は1%に満たず,せいぜい0.5%であり,高くとも2.6%を上回ることはない。ウ
損害不発生の抗弁について
被告が舞豚の標章を用いて経営していた飲食店は東京都に所在していた本件店舗1店のみであり,原告店舗は,長崎県島原市にある1店のみであり,平成29年12月1日から平成30年8月10日までの間に,東京に飲食店を出すための活動をしていたという事情も見受けられない。そ
して,本件各商標は,本件店舗のある東京都においては顧客誘引力がなく,被告が本件各商標を使用することは被告の売上げに寄与していない。したがって,原告に使用料相当額の損害は発生しておらず,本件において商標法38条3項は適用されない。


争点⑵(相殺の成否)について

【被告の主張】
原告は本件各売買の代金の支払を請求するが,被告は,平成27年8月下旬及び平成28年12月下旬,原告から舞豚のパンフレット各1万部の印刷を受託し,原告が指定した期日に納入した。パンフレットの印刷費は1部20円,合計各20万円(消費税相当額別)であるから,被告は,原告に対し,43万2000円(消費税相当額込)の業務委託料支払請求権を有する。
被告は,上記業務委託料支払請求権を自働債権として,本件各売買のうち平成29年9月分の売買代金9万9090円については同年10月31日に,
同年10月分の売買代金9万7470円については同年11月13日に,各対当額で相殺するとの意思表示をしており,原告が主張する本件各売買の売買代金支払請求権は相殺により消滅している。
【原告の主張】
原告と被告は,
舞豚のパンフレットの印刷費について,1万部につき

16万2000円(消費税相当額込)と合意し,原告に対し,合計2万部納入されている。原告は,平成27年11月27日,印刷費として15万7500円を支払っており,残額16万6500円は被告からの請求書が届けば支払う意思を有していた。したがって,被告が原告に対して有する債権額は,32万4000円から15万7500円を控除した16万6500円を超えない。


争点⑶(貸金返還請求権又は不当利得返還請求権)について
【原告の主張】

原告は,被告に対し,平成27年10月19日,弁済期の定めなく400万円を貸し付け(以下本件貸付けという。,平成29年10月20)
日,10日以内に400万円を支払うように催告したが,被告は弁済しない。


本件貸付けに至る経緯は次のとおりである。原告は,平成27年10月19日の2週間から1か月ほど前,妹のBから,被告代表者が本件店舗の開店に当たって被告に対して経済的に支援してほしいと頼まれ,妹からの頼みであったことから協力してもよいと考えた。原告は,Bを通じて被告代表者に対して400万円であれば貸すことができること,開店直後の返
還が難しいようであれば返還について事業が軌道に乗ってからでもよいことを伝え,同日,被告の普通預金口座に400万円を送金したものである。原告は,被告に対し,400万円もの高額の贈与を行う動機はなく,また,金銭消費貸借契約書がないのは,Bの婚約者である被告代表者が返還約束を反故にするとは考えなかったからであり,原告から被告に対する400
万円の交付は貸付金であることは明らかである。

仮に,貸付金でなかったとしても,原告が被告に400万円を交付する法律上の原因はなく,被告は,これを知って400万円を不当に利得しており,原告は,被告に対して,400万円の不当利得返還請求権を有する。
【被告の主張】
原告の主張は争う。
原告が主張する400万円は,被告が本件店舗を営むための資金であり,投資である。原告と被告との間では,被告が本件店舗を営むにあたり,本件店舗の運営主体を被告とし,原告は,資金の提供,本件豚肉等を継続的に被告に販売することが合意されており,原告は,この合意に基づいて被告に対して400万円を投資として資金提供したに過ぎない。



争点⑷(債務不履行に基づく損害賠償請求)について
【被告の主張】
原告と被告は,平成27年10月頃,本件継続的売買契約を締結したところ,このような継続的契約は,契約を継続し難い重大な事由が損しない限り一方的に解除し得ないと解されている。本件において,原告には,契約を継続し難い重大な事由が存しない
である。
そうすると,原告は,本件継続的売買契約を一方的に解除することはできず,予告期間として少なくとも1年を要するというべきである。そして,本
件継続的売買契約の終了により,被告は,売上げが1か月80万円減少していることからすれば,被告は,原告に対し,債務不履行に基づく損害賠償として960万円(本件店舗の1か月分の売上減少額80万円×12か月)の支払義務がある。
【原告の主張】


原告は,妹のBが本件店舗を運営していたので,被告に対し,事実上,豚肉等の取引を継続してきたものであり,被告との間で継続的な売買契約を締結した事実はない。


仮に,継続的契約が存在するとしたとしても,①供給を受ける者において相当の金銭的出捐等をしたときに該当しない場合,②供給をなす者にお
いて相当の予告期間を設けた場合,③取引関係の継続を期待し難い重大な事由が存する場合には,一方的な解約が認められると解される。
被告は,上記①の金銭的出捐等について何らの主張立証をしていない。また,原告は,平成29年10月11日に本件通知を発しており,遅くとも同月13日には被告は了知可能であり,被告が豚肉の代替品を購入するなどの準備を整えるのに相当な期間(上記②)が設けられたといえる。さらに,原告は,本件通知を発送するまで豚肉取引を停止する旨など述
べたことはなかったが,前記⑴【原告の主張】イのとおり,本件被告商標出願により原告と被告との間の信頼関係は完全に破壊されており,取引関係の継続を期待し難い重大な事由(上記③)もある。したがって,本件継続的売買契約はいつでも解約ができるというべきであり,原告が被告との豚肉等の取引を停止したことにつき,原告の債務不
履行はない。


争点⑸(不法行為に基づく損害賠償請求)について
【被告の主張】
原告は,本件継続的売買契約を一方的に解除することができないにもかかわらず,一方的に猶予期間もほとんど設けずに同契約を停止しており,これ
は不法行為に該当する。このような原告の不法行為によって,被告は,本件店舗における売上減少という損害を被っており,また,精神的苦痛も被りその損害は100万円を下らない。また,弁護士費用としては請求額の10%が相当である。
したがって,被告は,原告に対し,不法行為基づく損害賠償として,営業
損害960万円,慰謝料100万円,弁護士費用106万円の損害賠償請求権を有する。
【原告の主張】
被告の主張は争う。本件継続的売買契約はいつでも解約することができ,被告が主張する不法行為は存在しない。

第3

当裁判所の判断
1
認定事実
前記前提事実,証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。


舞豚について

原告(A)は,長崎県島原市の舞岳の中腹にあるC種豚場という名称の養豚場の実質的な経営者である。C種豚場は,C家が数十年にわたって豚の生産を行っている養豚場であり,特定の品種(バークシャー種とデュロック種)の豚を交配して生まれた豚,豚肉に舞豚というブランドを付し,これを生産,販売等している(豚肉舞豚)

原告やその家族は,平成27年頃,長崎県島原市所在の豚肉直販店等で
豚肉舞豚や豚肉製品を販売するほか,同市所在のしゃぶしゃぶだいにんぐ舞豚という名称の原告店舗で豚肉舞豚を提供していた。原告店舗等
では,豚肉舞豚について,C種豚場で改良,生産された豚肉であること,その肉質や味が良いことをうたっていた。
(以上アについて,甲1,19,乙2)


原告は,平成27年,
舞豚(標準文字)について商標登録出願をし,
同年,指定役務を第43類飲食物の提供とする商標権の設定の登録
がされ(本件商標権1)
,平成28年,指定商品を第29類豚肉,豚肉製品とする商標権の設定の登録がされた(本件商標権2)(甲3)

本件店舗の開店までの経緯


原告は,平成27年頃,実弟との間で,豚肉舞豚を提供する新たな飲食店を営むことを計画していたが,その計画が進んでいなかったところ,同年4月頃,妹のBから,東京で,豚肉舞豚を使った豚肉料理をメインとした飲食店を営みたいと言われた。この際,Bは,当時結婚を前提に交際し
ていた被告代表者が

手伝いたい。

と言っている旨などを伝えたところ,原告は,Bが店長兼女将として豚肉舞豚をメインに提供する飲食店を営むのであれば協力すると述べた。
(甲19,20,証人B,原告本人)

Bは,同年5月から6月頃,家族への挨拶も兼ねて長崎県島原市の実家に被告代表者と共に赴いた。その際,原告は,被告代表者に対し,原告店舗(しゃぶしゃぶだいにんぐ舞豚)の考え方を説明するなどした。(甲1
9,20,乙24,原告本人,被告代表者)


その後,Bが中心となって,店舗となる物件を探したり,本件店舗の内装やメニューが決められた。本件店舗は被告が経営することになったが,原告は,Bが本件店舗の店長兼女将として運営していくと言われていたため,被告が本件店舗の経営を行い,
舞豚という看板を用いることなど
について異論を述べることはなかった。また,原告は,Bの依頼を受けて,
原告店舗で使用している舞豚という文字の付されたテーブルマットやmaitonという文字の付されたコースターの在庫を送付し,これらを本件店舗において使用することを承諾した。
(甲19,20,証人B,
原告本人)

本件店舗は,同年12月に開店した。
本件店舗(名称

長崎しまばらしゃぶしゃぶ

舞豚上野御徒町店)では,

豚肉舞豚を使用したしゃぶしゃぶ料理を提供しており,チラシなどでもそのことを大きくうたっていた。
原告は,本件店舗の開店後,平成29年10月末まで,ほぼ毎週,被告に対し,本件豚肉等を販売していた。原告は,他の飲食店等への販売価格の半額以下の割安な価格で被告に対して本件豚肉等を販売していた。原告は,被告が本件店舗において被告各使用標章を使用することについて異議を述べたことはなかった。また,その使用について,対価を請求したこともなかった。
(以上エについて,甲19,23,乙3,原告本人)

本件通知に至る経緯

Bは,被告代表者との関係が悪化したため,平成29年6月に被告代表者との同居を解消し,その後,本件店舗を退職する決意をし,同年9月1日,被告代表者に退職届を提出し,同月末頃,本件店舗を退職した(甲20,証人B)



原告は,Bが被告代表者との同居を解消した後も,被告に対し,従前と同様,割安な価格で本件豚肉等を販売していたが,Bが本件店舗からの退職を決めた後,被告に対し,本件豚肉等の販売価格を検討させて欲しいと述べるなどした。もっとも,原告は,同年10月2日,被告に対し,

肉の方は発注があるのであれば私にメッセージを下さい。毎週火曜日発送なので,本日中に発注いただけると幸いです。

とメッセージを送付し,同
月3日,同月10日及び同月17日には,従前と同様の割安な価格で本件豚肉等を販売した。
(甲8,19,乙9,原告本人)

被告代表者は,同年9月22日,本件被告商標出願をし,その後,原告の妻に対し,メッセージ伝達のアプリケーション(LINE)により,
調べてみたら舞豚,「肉の名称と店舗名でしか商標取られてない
ので,残り全部の使えそうなジャンル,僕が商標取ってしまいましたwww」これで法的には五分五分になるかなーと思いますよwそれ以外,,では,逆に「舞豚の名前をうちの許可なく使えなくなります
テイクア

ウト関係全般,ネット,広告(ふるさと納税なんかもですね)をメインに色々ですね」そこの権利を根こそぎおさえましたC家と全面対決し,,ますそれをBさんにつきつけたんですよ,弁護士と一緒にそしたら,かなりショックを受けたっぽいです眠たい返事しやがったら直接そっ,ちにドヤしに行きますよwさて,泣きが入るのか,裁判するのか知り,ませんが...これから長い付き合いになるのかな?笑って感じ人,に対してなめ切った態度取るから,こうなるんですよ,としか言いようがないなどのメッセージを送信した(以下,上記一連のメッセージを本件メッセージという。(前記前提事実⑷ウ,甲25))


原告は,同年10月上旬頃,同人の妻から本件メッセージを見せられ,本件被告商標出願を認識した。また,当時,被告代表者はBのことを犯罪者と述べるなどしていた。
原告は,被告代表者と取引を継続するのが困難であると考えて,同月1
1日付けで,被告に対し,同月末日をもって本件豚肉等の販売を停止すること,同年12月1日以降,飲食物の提供,豚肉,豚肉製品に関して本件各商標を用いることを中止することなどを求める本件通知をした。そして,同年10月17日に本件豚肉等を販売した(前記イ)後は,被告に対し,本件豚肉等を販売することはなかった。

(以上エについて,甲4,原告本人)
被告は,平成29年10月以降も本件店舗を運営していたが,本件店舗が入っていた建物の建て替えのために本件店舗の退去を求められていたことなどもあり,平成30年8月10日,本件店舗での営業を終了した(争いのない事実,甲16,弁論の全趣旨)


2
争点⑴ア(本件各商標権の侵害の有無)について


本件各商標の使用について

被告は,本件店舗において,豚肉料理等を提供するにあたり,被告各使用標章を使用していた(前記前提事実⑶アイ)ところ,被告各使用標章は,本件商標1と同一か本件商標1をローマ字で表記したものであり本件商標
1と類似したものといえる。したがって,被告は,本件商標権1の指定役務である飲食物の提供について被告各使用標章を使用していたといえる。

また,被告は,本件店舗において,豚肉料理を提供していたが,豚肉又は豚肉製品を販売等したことはなく(弁論の全趣旨)
,被告は,本件商標
権2の指定商品である豚肉豚肉製品又はこれに類似した商品等に

ついて被告各使用標章を使用したと認めることはできず,また,使用するおそれがあると認めることもできない。
原告は,本件商標権2に基づく請求の理由として本件店舗内にポスターを掲示したことにより被告が本件商標権2を侵害したと主張する。しかし,原告が主張するポスターには岩塩の写真が掲載されたものとローストポー
クサンドの写真が掲載されたものとがあるところ,岩塩は豚肉,豚肉製品又はこれらに類似する商品とはいえず,ローストポークサンドの写真が掲示されているポスターには標章として舞豚という文字等は付されておらず(甲5)
,他に被告が豚肉製品に関するポスター等に舞豚という
文字の標章を付したことを認めるに足りる証拠もない。原告の上記主張を
採用することはできない。
以下,原告の本件商標権2に基づく請求は理由がないことから,本件商標権1に基づく請求について検討する。

本件各商標の使用許諾契約の有無について
被告は,原告との間で本件使用許諾契約を締結していたと主張する。原告は,被告代表者及びBが本件店舗を始めるにあたり,被告が舞豚という看板を用いて本件店舗の経営を行うことに異論を述べず,また,舞豚という文字の付されたテーブルマットやコースターの在庫を引き渡し,その使用を承諾した(前記認定事実⑵ウ)
。原告は,その後も本件通知をす

るまで,被告に対して本件豚肉等を継続的に販売し,被告が被告各使用標章を使用することについて何らの異議を述べなかった(同⑵エ)。
これらに照らせば,原告は,被告が本件店舗において本件豚肉等を用いた料理を提供する際に本件各商標を使用することを許諾していたというべきであり,原告は,遅くとも本件店舗がオープンした平成27年12月1日まで
には,被告に対し,被告が本件店舗で本件各商標を使用することを許諾したと認められる。


本件各商標の使用許諾契約の解除について
原告は,被告に対し,平成29年10月21日,被告が飲食物の提供等に関して本件各商標を用いることを同年12月1日以降は中止することを求めることなどを含む本件通知を発して本件各商標の使用許諾契約を解除し,同
年12月1日以降の本件各商標の使用は許されないと主張する。

本件各商標の使用許諾に至った経緯をみると,原告は,被告代表者が妹のBの婚約者であり,Bが店長兼女将として豚肉舞豚をメインに提供する飲食店を営むのであれば協力すると述べて(前記認定事実

ア)
,商標の

使用を許諾するに至った。そして,豚肉舞豚は,原告が実質的に経営する養豚場で開発,生産された豚であり,原告は,自ら舞豚を含む名称の原告店舗で豚肉舞豚を使用した料理を提供しており,また,実弟との間で豚肉舞豚を使用した料理を提供する飲食店を営むことを計画していた(前ア


これらによれば,原告が被告に対し本件店舗で本件各商標を使用することを許諾するに至ったのは,原告の妹であるBが本件店舗に深く関与すること,被告代表者がBの婚約者であったこと,本件店舗が豚肉舞豚を中心とする料理を提供する店舗であることによるものといえる。本件の使用許諾が上記の事情によりされたものであり,その事情も踏まえて原告が被告に対して特別の配慮をしていたことは,原告が本件店舗の開店にあたり原
告店舗で使用しているテーブルマットやコースターの在庫を送付したこと(前記認定事実⑵ウ)
,相当に割安な価格で本件豚肉等を被告に継続的に
販売していたこと(同⑵エ)
,本件各商標権を有するにも関わらず被告各
使用標章の使用料の請求をしなかったこと(同⑵エ)などにも表れている。
ここで,前記前提事実ウのとおり,被告は,本件被告商標出願により,幅広い指定商品及び指定役務において舞豚
(標準文字)の商標出願を
した。そして,被告代表者は,本件被告商標出願について,原告がテイクアウト関係全般,ネット,広告(ふるさと納税)等において,本件各商標を使用できないようにするために行ったと述べ,さらには,
C家と全面対決します人に対してなめ切った態度取るから,こうなるんですよ,,としか言いようがないなどと言及していた(前記認定事実⑶ウ)。

このような被告代表者の言動に加えて,
舞豚は原告がその家族と共
に運営する種豚場で開発,育成された豚の肉に付されたブランドであり,原告は同ブランドを用いて豚肉等を販売し,また,飲食店を経営していたこと,本件被告商標出願の指定商品及び指定役務の内容や,豚肉舞豚を用いて原告が現に行っていた業務等に照らせば,本件被告商標出願は,原告
に対する攻撃の手段としてされたものといえる。
そして,
舞豚が上記のようなブランドであったこと,被告は上記で
述べた事情に基づいて本件店舗で本件各商標を使用することについて原告から許諾を受けるに至った者であったこと,本件被告商標出願が原告に対する攻撃の手段としてされたものであることからすると,本件被告商標出
願は,原告との間の信頼関係を著しく破壊する行為である。このことによれば,原告が本件通知によって継続的な使用許諾契約を解除するとしたことには正当な理由があり,本件各商標の使用許諾契約は,平成29年11月末をもって終了したと認めるのが相当である。

被告は,原告が平成29年9月上旬に突如本件各商標権を有していることを盾にして本件豚肉等の取引を終了させると言ってきたため,原告による営業妨害から自らを守るために本件被告商標出願をしたなどと主張し,被告代表者もこれに沿う供述等をする。
しかしながら,同年9月22日の本件メッセージにおいて,被告は,本
件被告商標出願に至った理由を説明しているが,原告による営業妨害から自らを守るためなどという趣旨の説明は一切なく(前記認定事実⑶ウ),
上記供述等と合致しない。かえって,原告は,同年10月2日,被告代表者に対し

肉の方は発注があるのであれば私にメッセージを下さい。毎週火曜日発送なので,本日中に発注いただけると幸いです。

とメッセージを送付し本件豚肉等を販売しており(同⑶イ)
,原告が同日時点では本件
豚肉等の取引を継続させる意向を有していたことが認められ,被告代表者
の上記供述等はこれに反する。被告代表者の上記供述等はにわかに採用することはできない。
なお,被告の上記供述等に沿う証拠として,被告代表者が平成29年9月13日に原告の妻に送信したBさんがいなくなるとなったら「舞豚自体の出荷も考えさせてくださいとか,看板出させておいてはあー?
みたいな話もあり...」とのLINEメッセージがある(乙22)。しかし,
同メッセージは,被告代表者が作成したものであり的確な裏付けとは言えず,これをもって被告代表者の上記供述等が信用することができるとはいえない。
これらによれば,被告代表者が述べる事情がそもそも前記で述べたよう
な事情等がある本件において本件被告商標出願を正当化するものとなるかを措いたとしても,被告代表者が述べる事情は認められないから被告の主張は採用できない。

以上によれば本件各商標の使用許諾契約は,本件通知により解除され,
終了したといえ,同年12月1日以降の本件店舗における被告各使用標章
の使用は本件商標権1の侵害に当たる。
3
争点⑴イ(権利濫用)について
被告は,原告による本件商標権1の行使が権利濫用に当たると主張するが,本件各商標の使用許諾契約は,被告による本件被告商標出願によって原告と被
告との間の信頼関係が破壊されて解除されており,これに正当な理由があると認められるのは上記2のとおりである。原告の本件商標権1の行使は権利濫用に当たらず,被告の上記主張を採用することはできない。
4
争点⑴ウ(差止めの必要性)


本件店舗は,平成30年8月10日に営業が終了している(争いのない事実)が,被告は,原告に対する攻撃手段として本件被告商標出願をしており,また,本件各商標の使用許諾契約が終了しているにもかかわらず,自己に正
当な利用権原があるなどと主張している。そして,被告は,本件店舗の閉店後もフェイスブックに舞豚ブランドについて他店とのコラボレーション案件等を進めるなどと記載していること(甲24)にも照らせば,被告は,本件商標権1を侵害するおそれがあり,被告各使用標章を飲食物の提供に当たり使用することについて差止めの必要性があるといえる。



もっとも,原告は,差止めの対象を別紙被告標章目録⑴記載の1ないし3の標章としているところ,同目録⑴記載の1の標章は「舞豚なる文字を含む標章」
,同目録⑴の2の標章は「maitonなる文字を含む標章」としている。しかし,上記の同目録⑴の1及び2の各標章の記載による場合,
舞豚又はmaitonという文字が含まれている一切の標章が差止めの対象となるが,その前後には様々な文字等の組み合わせがあり得るところであり,本件において,
舞豚又はmaitonという文字が含ま
れている一切の標章が本件商標1と類似していると認めるに足りる証拠はないし,また,その組合せの全てについて使用の差止めの必要性を認めるに足
りる証拠もない。
したがって,原告による本件商標権1に基づく差止請求は,別紙被告標章目録⑵の1ないし3の標章の使用の差止めを求める限度で理由があるというべきである。また,別紙被告標章目録⑵記載の標章を付したテーブルマット,コースター,ポスター,壁面看板,置き看板,メニュー,説明書き,しめ飾
り,クロス又はこれに類する布の廃棄請求及び別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイトから別紙被告標章目録⑵記載の標章の削除請求も理由がある。他方,原告の本件商標権2に基づく請求は理由がないことは前記のとおりであるから,原告が被告に対して豚肉又はその包装に被告各標章を付することなどの差止めを求める請求(甲事件の請求⑴)は理由がない。5
争点⑴エ(損害額)について


商標法38条2項の適用の有無について

商標法38条2項は,商標権者は,故意又は過失により自己の商標権を侵害した者に対してその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額は,商標権者が受けた損害の額と推定すると規定しているところ,同項が損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定である
ことに照らせば,商標権者に,侵害者による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,商標法38条2項の適用が認められると解すべきである。

本件において,被告は,本件商標1と類似する被告各使用標章を本件商標1と同一の指定役務である飲食物の提供に使用している。しかしながら,原告が本件商標1を用いて経営する原告店舗は長崎県島原市に所在しているところ,しゃぶしゃぶ料理の提供という原告の業務に係る顧客は,飲食店の一般的な顧客の範囲からすると,同市及びその周辺に在住の者であると推認され,本件において,これと異なる事実を認めるに足りる証拠はな
い。他方,被告が経営していた本件店舗は東京都台東区に所在しており,本件店舗の業務に係る顧客は,東京都内及びその周辺に在住の者であると推認され,本件において,これと異なる事実を認めるに足りる証拠はない。原告店舗における事業との関係で被告による商標権侵害行為がなければ原告が利益を得られたといえるためには,それらが競合関係にある必要があ
ると解されるところ,原告店舗及び本件店舗の事業の性質から,原告店舗に対する需要者と本件店舗に対する需要者とは重ならず,原告店舗と本件店舗が競合関係にあるとは認められない。

原告は,本件に商標法38条2項が適用されると主張するに当たり,オンラインショップや東京都中央区所在のアンテナショップ(以下,これらを併せて原告オンラインショップ等という。
)において,本件各商標

を付して本件豚肉等を販売しているところ,被告が本件店舗において被告各標章を使用して飲食物を提供しなければ,豚肉舞豚を食べたいという顧客の需要は,原告オンラインショップ等に向かうというべきであり,これにより原告は利益を得られたなどと主張する。
ここで,被告による商標権侵害行為がなければ,原告オンラインショッ
プ等において原告が利益を得られたというためには,少なくとも本件店舗における業務と原告オンラインショップ等における業務が競合関係にあるといえる必要があるとするのが相当である。そして,原告オンラインショップ等においては,本件豚肉等が販売されているのに対し,本件店舗では豚肉のしゃぶしゃぶ料理が提供されており,これらの事業の形態は大きく
異なる。また,顧客についてみても,本件店舗においては,店舗において豚肉舞豚を用いたしゃぶしゃぶ料理の提供を受けたいという顧客が主であるのに対し,原告オンラインショップ等においては,本件豚肉等を購入し自宅で食べたいという顧客が主である。本件店舗における業務と原告オンラインショップ等における業務にはこのような相違があるところ,本件に
おいて,店舗において豚肉舞豚を用いた料理を食べたいと考える顧客の需要が原告オンラインショップ等に向かうことを裏付ける的確な証拠はない。そうすると,本件店舗と原告オンラインショップ等とでは,類型的に事業の形態が相違しており,本件でその顧客等が重なる事情も認められず,本件店舗における業務と原告オンラインショップ等における業務が競合関係
にあるとはいえないと認めるのが相当である。原告の上記主張を採用することはできない。
なお,原告は,被告が本件店舗を閉店したと主張する平成30年8月を基準に,閉店後の平成30年9月から平成31年2月までとその前年同期(平成29年9月から平成30年2月まで)の原告オンラインショップ等の売上げを比較し,本件店舗閉店後の前者の売上げが閉店前年同期の後者の売上げから約125%増額しており,被告による商標権侵害行為により
原告は得られる利益を逸していたなどと主張する。しかしながら,証拠(甲38,39)及び弁論の全趣旨によれば,原告オンラインショッピング等の平成30年9月から平成31年2月までの売上げが974万0743円(内訳:ふるさと納税に係る売上げ964万6895円,それ以外の売上げ9万3848円)であり,平成29年9月から平成30年2月まで
の売上げが776万8833円(内訳:ふるさと納税に係る売上げ757万6000円,それ以外の売上げ19万2833円)であることが認められ,本件店舗の閉店前と閉店後の同時期の売上げを比較すると,本件店舗の閉店後の期間の売上げが増加しているとはいえるものの,それはふるさと納税による売上げが増加したことに伴うものといえる。そして,ふるさ
と納税制度を利用して商品を購入する動機は,ふるさとへの貢献や返礼品を受領することなど多種多様であることに鑑みれば,上記の売上額の増加をもって,原告の主張を裏付けるものということはできず,他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠もない。

以上によれば,原告の業務と被告各使用標章の使用に係る被告の業務との間で市場における競合関係があるとはいえず,被告による商標権侵害行為がなかったならば,原告が利益を得られたであろうと認めることはできない。したがって,原告の本件商標権1の侵害による損害額の算定に当たって,商標法38条2項を適用する前提を欠き,同項の適用は認められない。



商標法38条3項の損害額について

本件店舗は,
舞豚というブランドの豚肉のしゃぶしゃぶ料理を提供

することを特徴とする飲食店であるところ,被告は,被告各使用標章を本件店舗の名称,店舗の外観や料理のメニュー表などに広く用いていたこと(前記前提事実⑶アイ)からすれば,商標法38条3項による損害額の算定に当たっては,本件店舗の売上げに対して,本件商標1の使用に対し受
けるべき料率を乗じて算定するのが相当である。

次に,本件商標1の使用に対し受けるべき金銭の料率について検討する。証拠(甲36)によれば,株式会社帝国データバンク作成の知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査報告書におい
て,
商標権に関する分類別ロイヤルティ料率の平均値について全体
(205件)では2.6%であり,
商標の分類が第43類飲食物の提供及び宿泊施設の提供については3件の例があり,最大値5.5%,最小値1.5%,平均値3.8%であるとの記載が認められ,飲食物の提供についての商標権のロイヤルティ料率は,全体の平均値より相当程度高いといえる。
また,証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,豚肉舞豚は平成7年10月19日の第39回長崎県種豚共進会において農林水産大臣賞を受賞したこと(甲37)
,本件店舗の開店時に長崎新聞には島原産ブランド豚提供「舞豚
」という見出しの記事が,島原新聞には「舞豚が東京進出」

という見出しの記事がそれぞれ掲載されたこと(乙4)が認められる。これらの事実に照らせば,豚肉舞豚に対して一定の評価が与えられていたことがうかがえる。
そして,本件店舗は,豚肉舞豚をしゃぶしゃぶ料理として提供することを大きな特徴とする店舗であるところ,被告は,店舗の名称や看板,メニ
ュー表等に被告各使用標章を使用していた。他方,本件店舗には,他に顧客を特に引き付けるような標章等が使用されていたともいえない。そうすると,被告は,一定の評価が与えられていた豚肉舞豚と同じ呼称等を有する被告各使用標章を,店舗の名称も含めて積極的に活用して本件店舗を営業していたといえ,被告各使用標章の使用は被告の売上げにも貢献するものであったといえる。
これらの事情に加えて,被告は,本件各商標の使用許諾契約が被告によ
る信頼関係を破壊する行為により解除された後も,被告各使用標章の使用を継続していたなど本件訴訟に現れた一切の事情を併せて考えれば,商標権を侵害した者に対して事後的に定められるべき商標の使用に対し受けるべき料率は,8%と認めるのが相当である。

以上によれば,被告による商標権侵害について,商標法38条3項により算定される損害額は,本件店舗の売上高(平成29年12月から平成30年8月)1189万7246円(争いのない事実)に8%を乗じた金額である95万1779円となる。



損害不発生の抗弁について
被告は,原告に使用料相当額の損害は発生しておらず,商標法38条3項
は適用されないと主張する。
しかし,被告は,店舗の名称や看板,メニュー表等に被告各使用標章を使用した一方,本件店舗において他に強く顧客を誘引する標章等が使用されていたものではない。被告各使用標章の使用が被告の売上げに貢献していたといえることは前記⑵のとおりであるから,被告が被告各使用標章を使用した
ことにより原告に使用料相当額の損害が生じないとは認められない。被告の損害不発生の抗弁についての主張は理由がない。
6
争点⑵(被告による業務委託料支払請求権を自働債権とする相殺の成否)原告は,被告に対し,本件各売買に係る売買代金債権として平成29年9月
分9万9090円(消費税相当額込)
,同年10月分9万7470円(消費税
相当額込)の債権を有している(前記前提事実⑷イ)ところ,被告は,原告から舞豚のパンフレットの印刷について,一式20万円(消費税相当額別)で2回受託し,合計43万2000円(消費税相当額込)の業務委託料支払請求権を有しており,上記売買代金債権に対し,この業務委託料支払請求権を自働債権として相殺した旨の主張をする。
しかし,
舞豚のパンフレットの印刷費が一式20万円であることを裏付
ける的確な証拠はない。証拠(甲14,17,19)及び弁論の全趣旨によれば,①被告は,平成27年11月26日,原告に対し,舞豚のパンフレッ
トの作成・印刷費用について,15万円(消費税相当額別)で請求書を作成してよいか確認したこと,②これに対して,原告は,請求書の作成について,金
額は15万円(消費税相当額別)
,日付は10月31日付けとし,項目につい
てはパンフレットデザイン料とするように依頼したこと,③これを受けて被告は,平成27年10月31日付けの請求書を作成し,品名をパンフレットデザイン料,単価について一式16万2000円(消費税相当額
込)とし,原告に請求したこと,④原告は助成金を得られる可能性があること
との関係から上記請求書の項目をパンフレットデザイン料とするよう依頼したことが認められる。これらの事実からすれば,原告と被告との間では,舞豚のパンフレットの印刷代金は,一式16万2000円(消費税相当額込)と合意されていたと認められる。これに反する被告の供述等は信用することはできず,他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。

被告は,原告から,平成27年9月2日及び平成28年12月13日にパンフレットの印刷等を受託し原告に納品しており(弁論の全趣旨)
,被告の原告
に対する業務委託料支払請求権は,32万4000円(消費税相当額込。16万2000円×2回分)となる。そして,原告は,平成27年11月27日にそのうち15万7500円を支払っていること(甲15)から,被告は,原告
に対し,16万6500円の限度で業務委託料支払請求権を有するといえる。本件において,被告は,平成29年10月31日及び同年11月13日に,これらの業務委託料支払請求権を自働債権として相殺の意思表示をしたこと(乙13,14)から,この相殺の意思表示によって,原告の被告に対する売買代金請求権は上記16万6500円の限度で消滅したといえ,原告の被告に対する本件各売買に基づく売買代金の請求は,3万0060円の限度で理由がある。

7
争点⑶(原告の被告に対する貸金返還請求権又は不当利得返還請求権の有無)原告は,被告に対し,平成27年10月9日,400万円を交付した(甲9)
。原告は,被告との間でこの400万円について返還約束があり,貸金返還請求権を有すると主張することから検討する。



原告及び証人Bは,被告代表者からの要請を受けて被告に400万円を貸し付けたなどと供述等するが,原告と被告との間の返還約束を裏付ける的確な証拠はない。また,原告及び証人Bの供述等を前提としても,原告と被告代表者は,400万円の交付の際に,直接会ったり,電話で直接話すなどのやりとりはしておらず,返済についての確認もされていないし,その後も原告と被告代表者との間で返済の具体的な時期が話されたことはない(原告本
人,証人B)
。そうすると,原告と被告との間に,法的な義務を発生させる
400万円の返還約束があったと認めることはできない。


なお,原告は,原告が被告に対し400万円もの高額の贈与を行う動機も必要性もないなどと主張する。

しかしながら,本件店舗が開店に至る経緯をみると,原告の妹であるBは豚肉舞豚を使った飲食店を営みたいと考えていたところ,被告代表者がそれを手伝うという形で被告の関与が始まったこと(前記認定事実⑵ア),その
後もBが中心となって店舗となる物件や内装,メニューが決められ,Bが店長兼女将として運営していくものとされたこと(同⑵アイ),本件店舗は,

原告が提供する豚肉舞豚の料理を提供することを主たる特徴とした店舗であること(争いのない事実)に照らせば,本件店舗は,運営自体は被告がしていたものの,その開店にはBないし原告側も実質的に深く関与しているといえる。このような本件店舗が開店に至った経緯に加えて,被告は,本件店舗の開店に当たり,1300万円以上の支出をしていること(乙16),当時,
被告代表者はBの婚約者であったことを併せて考えれば,原告が,被告代表者ないし被告に対し,法的な返済義務を伴わない形で本件店舗の開店のため
に400万円を交付することが不自然とは言い難く,原告の上記主張は前記⑴の認定を左右するものではない。


以上によれば,原告が被告に交付した400万円について,返還合意があったと認めることはできず,原告の被告に対する貸金返還請求は理由がない。また,原告が被告に交付した400万円について法律上の原因がないと認め
ることもできず,原告の被告に対する不当利得返還請求も理由がない。8
争点⑷(債務不履行)及び争点⑸(不法行為)について被告は,原告との間で豚肉舞豚を継続的に売買する契約を締結していたが,原告が一方的にこれを解除したことが債務不履行又は不法行為に当たると主張
する。
しかし,原告と被告との間の豚肉についての取引が継続的売買契約であったとしても,原告は,平成29年10月20日,本件通知によって,同月末をもって本件豚肉等の取引を終了すると通知した(前記認定事実⑶エ)。
そして,原告が被告に対し本件店舗で本件各商標を使用することを許諾する
に至ったのは,被告代表者がBの婚約者であったこと,原告の妹であるBが本件店舗に深く関与することなどの事情によるものといえるところ(前記3),
原告が被告に対して豚肉舞豚を販売していたのも,上記の事情に基づくものであるといえる。これに加えて,前記3のとおり,本件被告商標出願は,原告に対する背信的な行為であり,原告との間の信頼関係を著しく破壊する行為であ
ることを考えると,本件豚肉等の取引を終了するとした通知には正当な理由があると認められる。原告が本件豚肉等の取引を解除したことが債務不履行又は不法行為に当たるとはいえない。被告の上記主張はいずれも採用することはできない。
9
結論
以上によれば,甲事件については,原告の被告に対する各請求は主文第1項
ないし第6項の限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,乙事件については,被告の原告に対する各請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文第1項ないし第5項に対する仮執行宣言は相当でないのでこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部

裁判長裁判官

柴田義明
裁判官

佐伯良子
裁判官

棚井啓
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