判例検索β > 令和2年(う)第552号
監禁、保護責任者遺棄致死
事件番号令和2(う)552
事件名監禁,保護責任者遺棄致死
裁判年月日令和3年4月19日
裁判所名・部大阪高等裁判所  第1刑事部
結果棄却
裁判日:西暦2021-04-19
情報公開日2021-05-26 18:00:42
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令和3年4月19日宣告
令和2年(う)第552号
主文
本件各控訴を棄却する
被告人両名に対し,当審における未決勾留日数中各350日を,それぞれ原判決の刑に算入する。
理由
被告人Aの控訴趣意は,弁護人

辻󠄀亮連名作成の控訴趣意書及

び控訴趣意補充書に記載されたとおりであり,被告人Bの控訴趣意は,弁護人川上博之(主任),同宇野裕明連名作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に記載されたとおりであり,これに対する答弁は,検察官作成の答弁書のとおりであるから,これらを引用する。各論旨は,各被告人についての訴訟手続の法令違反,事実誤認,法令適用の誤り,
量刑不当の主張である
(なお,
略称は原判決の表示に従う。
また,
論旨の大半は被告人両名に共通する内容の主張である。)。
第1
1
控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張について
控訴趣意の要旨

原審裁判所は,事実認定のために不可欠とまではいえず,他方で,見た者の感情を激しく揺さぶり,
理性的な判断を妨げられるために,
その法的関連性
(証拠能力)
が否定されるべき被害者の死体解剖時の写真(原審甲32の写真番号1~7及び13~15の計10枚。以下,併せて本件写真という。)を採用して取り調べ,そのために,検察官による悲惨さを強調した不当な印象操作を許し,原判決の事実誤認や量刑不当を招いている。このような原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。
2
当裁判所の判断



本件の争点等

本件公訴事実の要旨(訴因変更後のもの)は,被告人両名が,①共謀の上,平成
19年3月12日頃,被告人両名の長女である被害者を,自宅敷地内のプレハブ小屋内に設置した本件居室内で生活させるに当たり,内側から解錠できない扉に外側から施錠し,動静を監視カメラで監視するなどして,その頃から平成29年12月18日頃までの間,被害者を監禁した,②平成29年12月上旬頃,暖房装置に接続されたサーモスタットを前年冬期より低温に設定したため本件居室の室温が低下し,被害者が極度に痩せた状態で,かつ,衣服を着用せずに生活していたことを認識していたのであるから,被害者の生存に必要な保護を与えるべき責任があったにもかかわらず,共謀の上,その頃以降,本件居室内の室温を適切に管理し,医師による治療を受けさせて十分な栄養を摂取させるなどの生存に必要な保護を与えずに放置し,よって,同月18日頃,本件居室内で低栄養及び寒冷環境曝露により凍死させた,というものである。
原審において,平成19年3月12日頃から被害者が死亡する平成29年12月18日頃までの間,被害者が本件居室から出ることはなかったこと,被害者が平成29年12月18日頃死亡したこと,等は争われず,被告人両名による監禁行為の有無
(本件行為が監禁に該当するか)監禁行為の違法性が否定される事情の有無,,
被害者の死因,被害者の要保護状況に関する被告人両名の認識を中心とする不保護の故意が争点とされた。


原審での証拠採否の経過


原審公判前整理手続において,検察官は,本件写真を含む写真24枚(原審
甲32)につき,被害者の遺体の状況等を立証趣旨として証拠請求し,本件写真の取調べの必要性等について,以下のように主張した。㋐写真番号1ないし7の遺体外観写真は,生前の外観と大きな差はなく,被害者の要保護性に関する被告人両名の認識を立証する上で最も直接的で重要な証拠であり,イラストでの代替は困難である。また,被害者を撮影したビデオ映像は画質が粗く,適切な代替証拠とならない。㋑上記の遺体外観写真及び写真番号13ないし15の内臓(心臓,胃粘膜)の写真は,争点となる死因につき証人尋問を予定している解剖医(C医師)の証言の
信用性を判断する上で必要であり,イラストでは代替が困難である。㋒裁判員への過度の刺激性を緩和するためのマスキング等の措置を実施した又は実施する予定であるから,上記㋐㋑の必要性に比して,かなり小さい弊害しかない。イ
原審裁判所は,甲32の写真につき提示命令を発して提示させるとともに,
原審弁護人(被告人両名の原審弁護人。以下同じ)の証拠意見等(写真番号1ないし7について,異議あり,必要性なし,イラストや上記ビデオ映像での代替が可能である,
写真番号13ないし15について異議なしなどというもの)
を聴いた上で,
第29回公判前整理期日で,本件写真(10枚)を証拠採用した(甲32のその余の写真は,撤回や却下がされ,又は採否が留保されて公判で撤回された。)。⑶

当裁判所の判断

原審でも整理されているように,本件写真は,直接的には被害者の遺体の外観及び内景(内蔵等)の状況を立証するもので,その立証は,以下のように,原審で争われていた被告人両名における要保護性の認識(下記①)や解剖医の供述の信用性(下記②)の認定判断に資するものである。①被害者の遺体は,低栄養状態で,筋肉や脂肪が著しく少ない状態で温度調節機能の低下を示唆するとともに,下肢が外観上明らかに拘縮している状況にあった。被害者の死亡から遺体の写真撮影までに約7日間が経過しており,その間の死後硬直,乾燥,腐敗等の進行は否定できないものの,解剖医の原審公判供述により,乾燥による体重減はせいぜい数百グラム程度であることや,腐敗による変色の範囲等が説明されており,これらの説明を踏まえて被害者が死亡した頃の身体の状況を推認することができる。そして,被告人両名は,
被害者の状態を直接あるいは監視カメラを通じて現に見ていたのであるから,このような被害者の状態は,被告人両名において被害者が要保護状態にあることを認識していたか否かの認定に資することが明らかである。また,監視カメラのビデオ映像は,本件居室上部から室内を撮影したもので接写した映像ではない上,被害者は毛布にくるまって過ごすことが多く,その身体の映像が写っていない場面も多いなど,被害者の状態に関する証拠価値が本件写真よりも大きく劣っている。②解
剖医は,被害者の死因を凍死と判定した根拠として,左右の心臓血の色調差や胃粘膜の黒色斑を指摘しているところ,
原審ではその判定の信用性が争われていたから,
信用性の判断においては,判定の基になった遺体写真においてそのような色調の差や斑点が存するかどうかを確かめる必要があり,現に解剖医は甲32の写真番号13ないし15に言及しながら証言しているのであって,イラスト等による代替は困難であったと考えられる。
このように,本件写真には本件争点との関連性が明らかに認められ,証拠としての必要性も高いものであった上,解剖医によって,死亡直前の状況との相違点についても十分に説明がされ,
一部についてはマスキングも施されているのであるから,
法的関連性(証拠能力)に欠ける証拠とはいえない。後記のとおり,原判決に事実誤認や,不当に重い刑を科した誤りがあるとは到底いえず,原審裁判所(裁判官及び裁判員)が,所論がいうように理性的な判断を妨げられたと疑わせる事情は認められない。遺体の写真がそれを見る者に痛ましさや悲惨さを感じさせるとの弁護人の指摘を踏まえても,本件においては,適切な代替証拠がなかったこともあり,原審裁判所が,本件写真を採用したことにはやむを得ない事情があったといえ,原審の訴訟手続に法令違反はない。所論は採用できず,論旨は理由がない。第2

控訴趣意中,原判示第1に関する事実誤認の主張について

1
控訴趣意の要旨



原判決は,平成19年3月12日以前の本件行為を被害者に安定した生活を
送らせようとした適法なものとしながら,同日を違法な監禁行為の始期と認定している。しかし,同日を境にして本件行為が違法なものに変化したと見る理由や事情はなく,原判決が根拠として挙げる被告人両名の監護意欲の低下も認められないから,原判決の認定には論理則経験則違反がある。


仮に,本件行為が監禁の構成要件に該当するとしても,被告人両名には違法
性及び責任の阻却事由がある。すなわち,被害者の同意(本件居室から出ることを希望していなかったこと)により法益侵害の程度が減少している上,被害者への危
険防止等という本件行為の目的及び,仮に被害者が希望すれば解錠して室外に出す予定であったことなどから,法益侵害は必要最小限度のもので,違法性阻却事由が存在する。また,本件行為が違法であったとしても,被告人両名は,被害者の希望を実現するための措置あるいは危険防止のための措置として必要な限度を超えているという認識を欠いており,責任阻却事由がある。原判決がこれらを認めることなく,原判示第1の事実を認定して有罪とした点には論理則経験則違反がある。⑶

以上のとおり,原判決には,判決に影響を及ぼす事実誤認がある。
2
原判決の要旨等



原判示第1に関する公訴事実の要旨は前記第1の2⑴のとおりであり,原審
において弁護人は,被告人両名は監禁行為をしておらずその故意もない上,本件行為は被害者に対する正当な療養行為であって,被害者自身もこれを承諾していたから,違法性がなく,被告人両名に監禁罪は成立しないと主張し,監禁行為の有無及び違法性の有無が争点であった。
原判決が認定判断の前提とした事実の要旨

被害者は被告人両名の長女であり,被告人両名は,平成13年11月から平
成18年7月まで断続的に(そのうち,被害者を連れて受診したのは平成14年2月までの3回),D医療センターを受診して被害者のことを医師に相談し投薬を受けるなどしたが,その後は,平成27年の被害者を同伴しない1回の受診を除いて受診や相談等をしていなかった。

被告人両名は,平成14,15年頃,プレハブ小屋内に,下記のような構造
の本件居室を設置して被害者を入れ,被害者は平成29年12月18日頃に死亡するまで同室外に出たことはなかった。本件居室内で被害者は衣服を着用せず,主に毛布をまとって横になるなどして過ごしており,被告人両名は被害者に1日1回の食事を与え,空調部屋のペットボトルの水を本件居室に通じるチューブから吸える状態にしていた。

本件居室は簡易トイレ部分を含めて畳1畳程度で,出口は二重扉であり,い
ずれの扉も外側からのみ施錠できる(ただし,外扉の施錠は内側から扉を押すことで解錠が可能である。)。本件居室内のサーモスタットの温度センサーが暖房器具に接続され,設定温度を下回ると暖房が行われる仕組みであった。本件居室天井には監視カメラが設置され,被害者の生活状況が撮影されていたほか,他の監視カメラにより,本件居室の室温を表示した温度計や被告人方の庭等の状況が撮影され,これらは被告人方の各所に設置されたモニターにリアルタイムで写し出され,被告人両名はモニターを通じて被害者の様子や室温を把握しており,映像を録画することもあった。

平成26年以降の本件居室の様子を写した映像上の被害者の食事の出し入れ
場面での施錠・解錠音や内側扉の丸ラッチ錠に傷の痕跡があること等から,被告人両名が基本的に内側扉を施錠していたことが認められる。


原判決の判断の要旨


本件居室の内側扉は基本的に施錠されていたのだから,中にいる者がその中
から出ることを諦めてもおかしくないことに加え,監視カメラによる監視状況も併せ考慮すれば,本件行為は客観的に監禁に当たる。また,被告人両名は,自ら扉の施錠や監視カメラ,モニターを用いた監視をしていたから,監禁の故意も認められる。

本件行為は,被害者を極めて狭い空間に約10年間監禁するもので,客観的
に見て,被害者の行動の自由を奪うだけでなく,被害者を社会から隔絶して心身の健全な成長を阻害している。食事の量も1日1食だけで,成人女性の必要量を満たしておらず,その結果,被害者は平成29年頃の時点で,年齢相応の健康を保っていない。また,被告人両名は,平成19年以後に医療機関に1回相談したのみで,公的機関にも相談しておらず,社会的に見て被害者の療養に尽力していたとは評価できず,
被害者がかろうじて生存するのに必要な程度の配慮しか施していなかった。本件行為が療養行為等として違法性が阻却されることはない。

被害者が狭い場所で過ごすことを好んでいたからといって,本件居室に閉じ
込められることを承諾していたことにはならないし,本件居室から出ようとする行動を取らなかったことが,監禁に対する有効な承諾を示すものとはいえない。被害者による黙示の承諾によって違法性が阻却されることもない。
3
当裁判所の判断

上記2⑵のような原判決における前提事実の認定に誤りはなく,原判決が上記2⑶のように監禁罪が成立する理由として説示するところも,以下のとおり,前提事実を適切に踏まえた合理的な判断であって,原判決の判断に論理則経験則等に違反する不合理な点はない。


本件行為(以下,⑴⑵の項では,特に断らない限り,原判示第1の期間のも
のを指す。)の態様は,被害者を,約10年間にわたり,簡易トイレを含めて畳1畳程度の狭い本件居室に入れ,その二重の扉の内側を基本的に外から施錠して中から開けられないようにし,監視カメラ等で被害者の状況を常に見られるようにし,外部とのやり取りを一切断たせるというものである。これらは,被告人両名が自ら実行していたことであるから,本件行為が監禁に当たるとともに,監禁の故意があったことも明らかである。
⑵ア

被告人両名が,本件居室やそれに先立って設けたコンパネの部屋の中で被
害者を生活させるようになった理由として,被害者が平成11年頃以後,奇異な言動を呈するとともに,外からの刺激を嫌って囲まれた狭い場所にいることを好むようになった点があったことがうかがえる。しかし,そのことから,被害者が本件居室に施錠されて閉じ込められることや本件居室から一切出ないことを希望していたということにはならない。そもそも,このような狭い部屋に,劣悪な環境の下に施錠をして閉じ込め,平成19年3月以後10年間にわたって一切その外に出さないという行為は,人に対する対応として常軌を逸したもので,およそ社会的に許容されないことが明らかで,
このような行為への有効な承諾など考えることはできない。
ましてや,被害者が本件行為を積極的に希望していたことを示す事情はないし,被告人両名は,平成14年1月頃の段階でE医師から被害者が統合失調症を発症して
いる可能性を説明されており,被害者が正常な判断ができていない可能性があることをよく理解していたといえるから,被告人両名が被害者の承諾により本件行為を正当なものと考えていた可能性も否定される。そうすると,本件行為について,社会的な相当性があるとして違法性が欠けることはないし,被告人両名の故意が欠けることもない(なお,被害者は死亡の前日まで食事を摂取するなどしていたのだから,監禁罪の前提となる行動の自由が観念できない者ではない。)。所論は,被害者が外に出たいとの希望を言ったり,閉じ込められていることに対する拒絶反応を示したりした形跡がない,被害者の身体的自由は放棄されたに等しい,被害者が希望すればいつでも外に出すつもりであったなどと主張するほか,F医師の見解をも援用して,統合失調症の患者に外界からの刺激を遮断・減少するために隔離することは精神科医療において常識的で,患者がそれを望むこともあるなどと主張する。しかし,既に述べたとおり,本件行為は,およそ社会的相当性を欠くもので,医師等が医療行為として行う場合などと同視できないことは明らかであるから,所論がいう事情から,本件行為の違法性や被告人両名の故意が否定されることはない。

被告人両名がコンパネの部屋や本件居室に施錠等をするようになった理由と
して,それらに先立つ乗り台の部屋で,被害者が台から落ちたり外に飛び出したりすることがあり,その危険を防ぐという意図や目的があったことは否定できない。しかし,その対策として施錠をして外に出さないという方法は,上記アのとおり常軌を逸することが明らかである(被害者が衣服を引きちぎるので衣服を着せずに毛布のみを与えて本件居室に入れたなどの被告人両名の対応についても,同様のことが言える。)一方,このような自傷他害等のおそれがある場合には入院等による対応が可能なことは周知の事柄である。現に,上記2⑵アのように,被告人両名は本件行為に至るまでの間に断続的にD医療センターを受診したほか,本件行為中の平成27年にも被告人Bが同センターに相談に行っており,それらの過程で,入院あるいはそれに先立つ福祉機関への相談等の方策が示されている。被告人両名は,こ
のような被害者の負傷等の危険防止のために本来行うべき方策を取らず,本件行為に及んでいるのだから,危険防止という目的等があったのだとしても違法性や責任が否定されることはない。
被告人両名は,D医療センターのE医師に,被害者の状況を録画した監視カメラのビデオ映像等を見てもらっていたなどと,E医師が監視カメラ等による監視の事実を知った上で被告人両名に助言していたかのような供述をする。しかし,E医師の診療記録にはその記載はなく,被害者が囲まれたところを希望している旨や,E医師が囲われたところを作ってあげてみてほしいと助言した旨等が記載されるにとどまっている。そのようなビデオ映像に関する情報があれば,本人の診察の上で重要なことなので診療記録に記載するはずであるとのE医師の説明は合理的で,診療記録の記載内容等とも整合した信用のできるもので,これに反する被告人両名の供述は信用できない。

以上のとおりであるから,本件行為につき違法性が否定され又は被告人両名
の故意が否定されることはない。


上記⑴⑵の認定判断に反する所論は採用の限りではない。以下,所論にかん
がみ更に補足して説明する。

所論は,上記1⑴のように,原判決が,平成19年3月12日(原判示第1
の監禁の始期)の前の被告人両名による本件行為を適法と認定しているとの前提に立って,原判決が適法な行為から違法な監禁に変化したと見るべき十分な事情を認定せずに監禁罪の成立を認めたことには誤りがあると主張する。しかし,そもそも原判決が平成19年以前の本件行為を適法と評価しているなどとは考えられない。確かに,原判決は,㋐本件居室の広さは狭い場所を好んでいたなどの被害者の意向に合致していたこと,㋑本件居室等に鍵や監視カメラを設置したことは外への飛び出し等による危険を防ごうとするものであったこと等を指摘しているものの,そのことによって本件行為の社会的相当性が肯定されるものではないことは,上記⑵で説示したとおりであり,原判決が,これと異なる判断をしているとは解しがたく,
所論はその前提に誤りがあり,採用の余地がない(なお,所論は関連して,監禁の犯情につき,被告人両名が平成19年以後に監護意欲を喪失したとの原判決の説示を争うが,後記第5の3⑵のとおり採用し得ない。)。イ
所論は,被告人両名は,E医師の治療を受けて被害者の状態が改善したとい
う体験をしておらず,本件行為を行ったことで被害者の症状が安定していると認識していたと主張する。しかし,被告人両名の言い分によっても,本件居室の施錠を継続している以上,被害者の状態が施錠を不要とするほど安定していないと考えていたことが明らかである。また,医師から投薬を受けていた期間は平成16年までで,その間も,1日3回の服薬指示にもかかわらず,食事を1日1回しか与えないとの理由で,当該食事時に1回分(すなわち1日の所定量の3分の1)しか服薬させていないのであって,このように被告人両名が医師の指示に従っていない以上,被告人両名が通院や投薬に効果がない等と考えたとしても,勝手な判断に過ぎず,本件行為の違法性や故意を否定するものではない。
また,所論は,F医師の見解に依拠して,被告人両名が適法性の限界を誤認した原因は,E医師の助言が不適切だったために被告人両名が適切な疾病教育を受けられなかったからであり,
被告人両名に責任非難を向けることはできないと主張する。
E医師が,平成14年1月頃から平成18年7月までの診察において,当初の被告人両名が被害者の入院を希望していたと思われる段階で,所属する病院の病棟には被害者が適さないと述べ,また,平成16年7月の診察の際には,被告人Bが,入院等も考えたが今落ち着いてきているのでこのままで良いと思う旨発言したのに対し,これを是認するかの返答をしたのは事実である。しかし,E医師は,被告人らが相談に訪れた際には,一貫して,入院や福祉関係に対する相談を勧めているのであって,上記発言は,そのような中での一場面のものにすぎない。被告人両名は,被害者を本件居室に閉じ込め,決められた投薬もせず,被害者を劣悪な状況に置いていること等の肝心な点は一切伝えないまま,被害者の状況が落ち着いているなどといって,入院等の勧めにも応じなかったもので,被告人両名がE医師の指導に従
っていたなどとは到底いえない。所論がいう理由で被告人両名の故意が否定されることはない。

所論は,被告人両名が被害者を監禁する意図がなかったことを示す事情があ
るとして,①被告人両名が,被害者を閉鎖した空間に乗せることのできるワンボックスカーや,被害者を運び出すためのバギーを購入し,ワンボックスカーの試運転までしていたこと,②被告人両名が鹿児島に墓参りに行く際に被害者の祖母(被告人Bの母。以下祖母という。)に見守りに来てもらったこと(祖母を呼べば祖母が被害者を解放する可能性もあったし,閉じ込め続ける目的のために祖母を呼ぶ必要はないから,被告人両名が祖母を呼んだことは,被害者を監禁の対象としてではなく保護の対象として接していた証拠である。),③被告人Bが平成27年にD医療センターを受診していること(監禁の認識があれば発覚を恐れて受診しなかったはずで,被告人両名の死後の被害者を案じて受診したことが明らかである。)などを主張する。
しかし,現実には,被害者は本件居室から外に出たことは一度もない。上記①のとおり,被害者を外に出す場合を想定してワンボックスカーやバギーを準備し,また,上記②のとおり,自分たちが居ない間に,被害者を見守るよう祖母に頼んで不測の事態に対応できる備えをし,上記③のとおり,自分たちが亡くなった後のことを,医師に相談した事実があったからといって,これらは,被告人両名が,被害者に対する監禁を継続することを前提に,そのことにより生じ得る事態への準備・対応等として行っていたに過ぎず,これらが被告人両名の監禁の故意を否定するものではない。所論はいずれも採用できない。

第3

以上の次第で,論旨は理由がない。
控訴趣意中,原判示第2に関する事実誤認の主張について

1
控訴趣意の要旨



原判決は,被害者の死因を低栄養及び寒冷環境曝露による凍死と認定し,そ
れを前提に,被害者の要保護状況及び本件保護行為(低栄養及び寒冷環境の改善)
をすべき被告人両名の義務を認定したが,死因として,1型糖尿病等の他の病気の合理的可能性は排斥されておらず,このような死因及び保護義務の認定には論理則経験則違反がある。


原判決が被告人両名につき不保護の故意を認定したことには,以下のような
論理則経験則違反がある。①原判決が前提として認定した要保護状況に当たる事実の中に,被告人両名が被害者を違法に監禁していたという誤った事実が含まれている。②原判決は,間接事実として,被害者が極度に痩せていることを被告人両名が認識していたと認定したが,生前の被害者の状況を長年見続け被害者の統合失調症にも対応してきた被告人両名にとっては,体重の変化は緩やかであったし,1日1回という食事の量も医師から教示された範囲内であり,不適切と認識する機会がないまま長年継続してきたものであり,低栄養の改善が必要との認識を持つ契機はなかったから,原判決の認定は誤っている。③原判決は,間接事実として,本件居室が摂氏10度程度の低温環境になることを認識していたことを認定したが,被告人両名は本件居室の室温を温度計やサーモスタットで管理し,被害者が暑がることから被害者を快適にするために室温を下げたものであり,被害者の状況にも異変は生じていなかったので,室温設定が不適切であると認識する契機がなかったから,原判決の認定は誤っている。


したがって,
原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある。

2
原判決の要旨等
原判示第2に関する公訴事実の要旨は,上記第1の

とおりであり,原

審において弁護人は,所論とほぼ同様に,被害者の死因及びそれを前提とした保護行為等の認定を争い,また,被告人両名の不保護の故意を争い,死因及び不保護の故意が主な争点となっていた。
原判決の判断の要旨
原判決は,上記第2の2

などの事実関係を前提に,要旨以下のように認定判断

した。


被害者の死因

解剖医のC医師は,原審公判で,被害者には筋肉や脂肪がほとんどなく,著しい低栄養の状態にあったこと,凍死の場合に比較的見られる所見である左右の心臓血の色調差及び胃粘膜の出血斑が認められたこと,被害者が裸で摂氏10度ないし12度の低温環境におり,そこから逃避することができなかったこと,他に死因になり得るような病変や損傷等がないことを総合して,被害者の死因を低栄養及び寒冷環境曝露による凍死であると判定している。その判定は,法医学の専門家としての知識や経験に基づくもので,判断手法にも不合理な点はなく,信用性が高いから,被害者の死因はC医師の判定のとおりと認められる。

被害者の要保護状況及び被告人両名の被害者に対する保護義務

(ア)被害者の死亡(平成29年12月18日頃)の直前の身体の状況は,遺体の状況(皮下脂肪,内臓脂肪,筋肉が非常に乏しく,外見上も,頬がこけ,あばら骨や背骨,肋骨が浮き出,手足は骨や関節の形が一見して明らかに分かるほど細くなっていた。)と大きく異ならず,また,被害者は,平成29年12月8日の映像上も,手足が極めて細く,背部には背骨が浮き出ているなど,極めて痩せている。また,被害者は長年にわたって多いとは言えない量の食事を1日1食程度のみ取っていた。したがって,遅くとも平成29年12月7日頃には,重度の低栄養状態にあった。
(イ)平成29年12月7日,被告人両名は,本件居室に接続された暖房器具のサーモスタットの設定温度を摂氏10度に設定し,同日以後の本件居室の室温は概ね摂氏10度ないし12度であった。
(ウ)上記(ア)(イ)等を踏まえると,被害者の両親であり,被害者に毛布2枚のみを与えて本件居室に閉じ込めていた被告人両名において,サーモスタットを操作して本件居室の室温を適切に管理し,かつ,被害者に医師による治療を受けさせ十分な栄養を摂取させるなどする行為が,被害者の生存に必要な行為(本件保護行為)であった。


不保護の故意

被告人両名が本件保護行為を行っていないことは明らかである。そして,被告人両名が基本的に監視カメラを通じて被害者の様子を見ていたことからすれば,平成29年12月7日頃時点で,被害者が上記イ(ア)のように極度に痩せている状況等を認識していたと認められる。また,被告人両名は相談の上で,同日頃にサーモスタットの設定温度を前年の冬期における設定温度である摂氏15度程度よりも低い摂氏10度に設定したのであるから,本件居室が摂氏10度程度の低温の環境になることを認識していたことも認められる。したがって,被告人両名において,被害者が生存に必要な保護として本件保護行為を必要とする状況にあることを認識していたことが認められ,不保護の故意が肯定される。
3
当裁判所の判断

原判決が,上記2⑵のように死因や被告人両名の不保護の故意等について認定・説示し,保護責任者遺棄致死罪の成立を認めたことは,以下のとおり,前提事実等を適切に踏まえた合理的な判断であって,原判決の判断に論理則経験則等に反する不合理な点はない。
死因及び被告人両名が行うべき保護行為(本件保護行為)の認定についてア
被害者の死因に関するC医師の原審公判供述は,被害者の遺体の客観的状況
や各種検査結果等を正当に踏まえているし,判定の前提とされた本件居室の状況,被害者の生活状況等に関する事実関係にも誤りはない。
また,
C医師による判定は,
法医学の専門的知識,経験に基づいてなされていて,判断手法にも疑問はない。原判決がC医師の判定を依拠できるものと認定したのは当然で,その認定を前提に被告人両名につき本件保護行為をすべき義務を肯定したことに,何ら誤りはない。イ
所論(上記1⑴)は,被害者の死因が1型糖尿病の急激な悪化等であった可
能性が合理的に残り,被告人両名が当該1型糖尿病に対応した保護義務を認識することは不可能であるとして,①C医師の解剖の際には血糖値は測定されていない,②解剖の際の血液検査の結果,リン及び3―ヒドロキシ酪酸の数値が異常に高かっ
た,③膵臓の組織検査のHE染色写真はなく,膵臓の組織検査がされたか否かは判然とせず,糖尿病患者において生じる膵臓のランゲルハンス島のガラス化の有無・程度は分からない,などと主張する。
しかし,所論が主張する事実は,当審弁護人がC医師の鑑定書(当審弁6として請求されたもの。原審甲12〔撤回〕と同じものと解される。)等を調査して判明したとされているが,所論が主張する事実は原審公判に何ら提出されていない。原審公判では,上記鑑定書が証拠請求された後に撤回され,原審の判断に必要な事実関係の解明のため,C医師の証人尋問等の証拠調べがされたのであり,所論がいう事実や証拠を原審に提出できなかったやむを得ない事由は何ら認められないから,所論は採用の限りではない。なお,そもそも,①については,C医師は死後の血糖値の分析は参考にならない旨を説明していて,
同説明を疑問視すべき事情はないし,
②については,
所論がいう異常とは臨床診断での基準値を超えているというだけで,直ちに死因に結び付くものとは考えられない上,所論によっても,C医師は,被害者の遺体の血液につき,
血液中に占める血球の体積
(ヘマトクリット値)
を根拠に,
遺体の血液が生前と比べて約1.75倍またはそれ以上に濃縮されていると判定したというのであり,所論は同判定の正当性を争うものの,その正当性を疑わせる事情はない。③については,C医師は,膵臓を含む主要臓器から組織を採取して病理検査をした結果,死因に至る病変がなかったと証言しているから,膵臓の組織検査がされていないという前提に誤りがある。もともと,C医師が,凍死との判定の根拠として,上記2⑵アの遺体の所見や被害者がいた環境等を挙げていることや,本件居室の摂氏10度ないし12度の室温が凍死を招く低温であると判定していることは,いずれも合理的・常識的で説得力に富んでいるし,他の死因の可能性についても,組織学的検査,血液検査,薬毒物検査などの慎重な調査を経た上で否定しているから,C医師の判定の信用性は高いというべきところ,所論はこのようなC医師の判定に合理的な疑問を提起するものではなく,採用することができない。ウ
所論(上記1⑵①)は,原判決は本件保護行為を認定するに当たり,本件行
為が違法な監禁に当たることを前提としているが,原判決が被告人両名による違法な監禁を肯定したことは,㋐被害者を社会から隔絶して心身の健全な成長を妨げたとする点,㋑1日1回の食事が量として不十分だったとする点,㋒歯がいくつも脱落していたとする点等において誤っており,これらの点を正しく判定すれば,本件保護行為や不保護の故意が認定されることはないと主張する。本件行為が監禁に該当することは上記第2のとおりであるが,そもそも,所論が問題視する,被告人両名が被害者を監禁していたとの説示(原判決18頁・争点に対する判断の項の第6の2⑶ア)は,被告人両名の保護責任の発生根拠となる被害者との間の経緯(いわゆる先行行為)を指摘するにとどまるものと解される(保護行為の内容については別途説示されている。)。被告人両名の言い分によっても,被告人両名は被害者の両親で,終始被害者と同居し,本件行為時は,他に同居人はなく,被害者がいる本件居室を外から施錠しており,その結果,被告人両名以外の者が被害者への保護・援助を行う余地はなかったから,このような被告人両名の先行行為等が被害者への保護責任を生じる根拠となることは明らかである。所論は原判決の認定判断に対する的確な批判となっておらず,失当である。

その他,所論を見ても,原判決による被害者の死因及び被告人両名が行うべ
き保護行為の認定を左右すべきものはない。
不保護の故意の認定について

上記⑴のとおり,本件保護行為は,本件居室の室温の改善及び医師の治療等
による被害者の栄養摂取の改善を内容とするものであり,被告人両名の故意としては,被害者が,生存に必要な保護としてこのような室温の改善及び栄養摂取の改善を必要とする状態にあることを認識していたか否かが問題となる。イ
まず,被害者の痩せ方について見ると,本件保護行為が問題となる平成29
年12月頃の被害者の痩せ方は,原判決(上記2⑵イ(ア))で指摘されるように顕著なもので,このような被害者の姿を見た者は,その痩せ方が余りにも異常で,これを改善しなければ生命にかかわるとの認識を抱くものと考えられる。被告人両名は,

被害者と日々接し,その状況について相互に日常的に相談していたから,上記と同様の認識に至ったものといえる。
もっとも,所論(上記1⑵②)もいうように,被告人両名が被害者に継続的に接していたことにより,被害者の状況の変化に気づきにくくなることも考えておかなければならない。しかし,被害者の上記痩せ方は尋常でない上,被告人両名は監視カメラの映像により,平成29年12月には,被害者が簡易トイレの便座に座ることも難しくなるなど衰弱していることを認識していたのであるから,被害者の生命が危機に晒されていることの認識が持てなかったと見ることは到底できない。また,所論(上記1⑵②)は,被告人両名はE医師に,被害者の食事が1日1食あるいはそれより少ない場合があることを伝え,E医師からもそれが危険であるとの指摘はされていなかったし,被害者がもっと食事をほしいと求めることもなかったから,問題があると考える契機がなかったとも主張する。しかし,被害者の食事の量が通常の成人女性に比べてかなり少ないことは明らかであるところ,E医師の診療記録等によれば,E医師は被害者の状況に問題はないとはしておらず,むしろ保健所への相談等を勧めていた(なお,被告人両名がE医師の服薬指示を守っていなかったことは上記のとおりである。)し,被告人両名は,平成18年7月にE医師への最終となる受診をした後は,被害者の食事・栄養の問題やその背後にあるとみられる精神疾患に関して,平成27年に被告人Bが1回病院で相談したほかは,医師や公的機関等への受診や相談を一切していないのであるから,所論がいうE医師からの教示が被告人両名の故意を否定する事情とならないことは明らかである。ウ
次に,本件居室の室温設定について見ると,被告人両名が平成29年12月
7日に設定した摂氏10度程度という本件居室の気温は,被害者が本件居室の中で衣服をつけず毛布1枚又は2枚のみを身にまとっていたことに照らすと,被害者の生命に影響を及ぼし得る程度に低いことが,社会常識上極めて明らかである(C医師の原審公判供述もその旨を当然の前提としている。)から,被告人両名においてもその旨の認識があったと推認される。

また,被告人両名は,前年の冬期である平成28年11月頃から平成29年2月頃までは本件居室の温度を摂氏15度程度に設定しており,当該期間内に録画されていた監視カメラ映像上の最低気温は摂氏13度を下回っていなかったのに,平成29年12月7日に設定温度を前年の冬期より低い摂氏10度に設定したのであり,摂氏10度程度に設定して被害者の健康状態が変化しなかったという実績はなく,むしろ,平成29年12月における監視カメラのビデオ映像上の被害者の状況は,上記イのとおり従前より衰弱していると見られるものであったから,被告人両名が従前の温度管理の状況のゆえに摂氏10度程度の気温の設定が被害者の生命に影響しないとの認識に至ったという疑いはない。
なお,所論(上記1⑵③)は,被告人両名が気温を低く設定した目的等につき,被害者が暑がりであったことから被害者を快適にするためだったなどと主張する。しかし,この点に関する被告人Aの供述は,前年の冬は摂氏15度を目安にしていたが,被害者が小学校に行っていた時に摂氏10度でストーブを付けられるのを暑いとして嫌がったことがあったので,被告人Bと相談し,摂氏10度に設定したというものであるから,被告人両名の対応が,本件当時に被害者が暑がったなどの状況に応じたものではないことが明らかである。そもそも,被害者が暑がるという理由で,医師等への相談もせずに,上記のような生命に支障を生じる気温の設定を行うことが社会的に許容されないことは明らかであるから,所論がいう目的等から被告人両名の故意が否定されることはない。

その他,所論を見ても,被告人両名の不保護の故意を肯定した原判決の認定
判断を左右するに足りるものはなく,論旨は理由がない。
第4
1
控訴趣意中,法令適用の誤りの主張について
控訴趣意の要旨

被告人両名は平成29年12月23日に寝屋川警察署に自首しており,死体遺棄罪の自首をしたと扱われているが,その申告内容に照らせば,自首が成立する範囲は原判示各事実にも及ぶのに,自首減軽がされていない点で,原判決には判決に影
響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。
2
当裁判所の判断

自首(刑法42条1項)は裁量的減軽事由であるから,認定された犯罪事実について,法定刑の下限を下回る刑で処断することが相当な場合にのみ自首減軽を行えば足りる。
しかし,
本件の量刑に関する事情は下記第5のとおりであって,
本件は,
各罪の法定刑の最下限(原判示第1につき懲役3月,原判示第2につき懲役3年)を下回る刑で処断すべき事案でなく,むしろ同種事案の中で犯情が重いとの評価を免れない事案である。したがって,自首の成立する犯罪事実の範囲いかんにかかわらず,原判決には,判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。
第5
1
控訴趣意中,量刑不当の主張について
控訴趣意の要旨

被告人両名をそれぞれ懲役13年に処した原判決の量刑は,
重すぎて不当である。
2
原判決の判断の要旨

本件は,被告人両名の長女(死亡当時33歳)に対する10年にわたる監禁,保護責任者遺棄致死各1件の事案である。
原判決は,①原判示第1(監禁)につき,劣悪な状況の下で約10年にわたり,被害者との人間的な関わりをほぼ持たないままに監禁を継続した非人道的な行為であって,精神障害者の治療に悩む通常の家族のものとは質的に異なる上,被害者の心身の健康が極限まで損なわれた,②原判示第2(保護責任者遺棄致死)は,被害者が明らかに衰弱しているのに,医師による治療を受けさせないばかりか,室温を低く設定し,その生存に必要な行為を著しく怠たり,被害者を死亡させたもので,その結果は重大であるなどと説示し,前科がないこと等を考慮しても,被告人両名をそれぞれ懲役13年に処することが相当であると説示した。
3
当裁判所の判断



原判決が量刑の理由において説示する内容,定めた刑期のいずれについても
不合理な点はなく,正当なものとして是認できる。
すなわち,
原判示第1の監禁行為が被害者の行動の自由を侵害する程度は著しい。被害者は統合失調症に罹患しており,被告人両名は,以前には被害者の診察や投薬を受けたことがあるとはいえ,その当時も投薬等を遵守していなかったところ,被害者を本件居室に入れて暴れること等がなくなったことから,被害者の状態が落ち着いているなどと勝手に判断し,
病院や福祉機関の受診相談等での対応を図らず,

本件監禁を継続したものである。このような対応が被害者の尊厳を著しく損ない,本件監禁によって,その統合失調症の症状が相当悪化したことは明らかである。また,被害者の遺体は極度に痩せ衰え,股関節等が屈曲拘縮しており,これらの原因は,関節伸展が困難な場所にいたことや低栄養に伴う筋肉量の減少等と認められ,被告人両名の監禁中の被害者への対応に起因することは明白である。被告人両名において,被害者の受診や相談などの適切な方法を容易に取り得たことも明らかであって,その責任非難を低下させる事情はうかがえない。
原判示第2の保護責任者遺棄致死については,被害者がかねてより,食事量の少なさ等による低栄養の状況にあり,また,衣服を付けず毛布のみを与えられて本件居室にいたこと,他に被害者を救護し得る者がいなかったことなどを踏まえると,被告人両名が,本件居室の温度を前年の冬よりも相当低く設定した状況で,本件保護行為(気温設定の改善及び医師の治療等による低栄養の改善)を行わなかったことは,被害者に対する保護義務に大きく反し,被害者の生命に高い危険をもたらすもので,
現に被害者は,
同室温設定から約11日後に凍死するに至っている。
また,
被告人両名が本件保護行為を行わなかったことへの非難を低下させる事情がないことは,上記第3の3⑵(不保護の故意)で検討したところから明らかである。このように,本件の処断罪となる保護責任者遺棄致死について,同罪の事案として重く評価すべき事情がある上に,監禁についても,原判決も正当に指摘するように,その期間の長さを含む態様の悪質性から,監禁の点だけを取り上げても相当重い処罰を免れないことが明らかである。原判決が定めた懲役13年の刑は,保護責
任者遺棄致死の事案の量刑分布において最も重い量刑がされた事案と同一の刑となっているところ,このような原判決の判断は,事案に相応の刑を定めるという観点から合理的なものといえる。犯情以外の情状についても,原判決の説示に誤りはなく,原判決の量刑がその裁量を逸脱したものとはいえない。


所論は,本件監禁の犯情につき,被告人両名が監護意欲を失った,医師の受
診等をさせなかったとの原判決の説示を批判して,被害者に死亡の前日まで食事を提供するなど監護意欲があったし,医師への診察についても,被害者の状態は安定していて受診の必要性が乏しくなったと判断したことは責められない等と主張する。しかし,上記第2の3⑶イのとおり,被告人両名において被害者の状態が安定していると考えたのだとしても,それは医師の指導等を手前勝手に解釈したに過ぎないもので,本件監禁を続けたことの非難を低減させるものではない。1日1回の食事を提供したことだけをもって,被害者の状態改善のため真摯に努力していたとはいえず,責任非難を低下させる事情があるとはいえない。
また,所論は,本件監禁によって被害者の関節の拘縮が生じたことや被害者の精神の健康が損なわれたとの原判決の認定を争うが,その主張が採用できないことは上記⑴のとおりである。


所論は,本件保護責任者遺棄致死の犯情として,被告人両名は従前より被害
者に1日1食とはいえ食事を与え,被害者は長年それで生活していたし,被害者は相当食事に時間をかけるため回数を増やすことも困難であったから,食事の量を捉えて被告人両名を強く非難することはできないと主張する。しかし,医師への受診等の適切な対応をすることなく,このような状態を続けてきたこと自体が問題なのであるから,所論主張の点を被告人両名に有利に考慮できるはずがない。⑷

所論は,保護責任者遺棄致死で10年以上の懲役刑が選択されているものの
多くは,その大半が,幼い子に対する虐待事案で,かつ,不保護期間が数か月程度の長期にわたるものであるとした上,本件は,統合失調症に罹患する家族に対する不保護の事案と大差がなく,不保護期間も約10日間と短いのであり,この類型で
は概ね懲役6年程度の量刑がされていることも踏まえると,原判決の量刑は,量刑傾向から見て取れる適切な量刑の幅を大幅に超えていると主張する。しかし,所論がいうような,被害者が児童か精神障害者かといった形式的な区分ではなく,不保護行為の危険性や,不保護に及んだことへの非難の程度によって量刑は決められるべきものである。原判決は,保護責任者遺棄致死について,被害者の状態を憂慮することなく漫然と現状を維持し続けようとしたことが余りにも無責任と説示するほか,監禁について,被害者への対応が余りにも無関心で,精神障害者の治療に思い悩む通常の家族の場合と質的に異なっていると説示していることからすると,被害者の精神疾患への対処に苦慮したことから責任非難が低下するような事案ではないと見たものと理解され,このような原判決の評価に不合理な点はない。また,本件では,被告人両名が本件居室の気温を摂氏10度程度に設定した平成29年12月7日から,被害者が死亡した平成29年12月18日頃までの間が,不保護行為の期間となるが,この期間の短さは,本件不保護行為の危険性の高さを示すものといえるし,本件の不保護においては,要保護状況を生じた原因が被告人両名のそれまでの行為にあることも重要というべきで,不保護期間だけを抽出して犯情を論じる所論は誤っている。


所論は,被告人両名が平成29年12月23日に自首をした点を原判決が量
刑事情として正当に評価していないという。しかし,本件監禁,保護責任者遺棄致死に関して自首の効果が及ぶと仮定しても,
被告人両名が被害者の死後自首までに,
その身体や本件居室を清掃し,監視カメラの映像を消去していることなどは,罪証隠滅工作を行ったものと見ざるを得ないことに加え,原判決も指摘するように,被害者の状況等の客観的証拠に矛盾する不合理な弁解に終始していたことなども踏まえると,被告人両名に反省の情を見いだすことはできないから,所論がいう点を有利な事情として斟酌することは困難である。原判決も,被告人両名が本件に真摯に向き合っていない旨を説示しているから,上記と同旨の判断のもとに量刑をしたと解され,その判断に誤りがあるとはいえない。

論旨は理由がない。
第6

適用法令

被告人両名について,刑訴法396条,刑法21条
令和3年4月19日
大阪高等裁判所第1刑事部

裁判長裁判官

和田
裁判官

今井真輝幸
裁判官田中伸一は転任のため署名押印できない。

裁判長裁判官

和田真
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