判例検索β > 平成30年(ワ)第8708号
特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成30(ワ)8708
事件名特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日令和3年5月13日
裁判所名大阪地方裁判所
権利種別特許権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2021-05-13
情報公開日2021-05-19 12:02:33
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
令和3年5月13日判決言渡

同日原本受領

平成30年(ワ)第8708号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

特許権侵害差止等請求事件

令和3年2月25日
判決原告P
同訴訟代理人弁護士

舟被
石橋産業株式会社

告1橋昭
同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

服部同森中同金子
同補佐人弁理士

加藤主博之剛尚史久文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は,原告の負担とする。

第1
直1実及び理由
請求
被告は,別添各被告製品目録記載の側溝を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡
し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡の申出をしてはならない。2
被告は,別添各被告製品目録記載の側溝を製造する型枠を破棄せよ。
3
被告は原告に対し,7897万5000円及びこれに対する平成30年12
月13日から支払済みに至るまで年5%の割合による金員を支払え。4
被告は,日刊工業新聞社会面及び週刊ブロック通信に別紙謝罪広告目録記載
の広告文を各1回ずつ掲載せよ。

第2

事案の概要

本件は,被包型側溝に関する特許権を有していた原告が,被告に対し,被告が別添各被告製品目録記載の側溝本体及び側溝蓋を製造・販売等することは,原告の特許権を侵害するものであったこと,及び不正競争防止法2条1項1号所定の混同惹起行為にあたることを主張して,①不正競争防止法3条に基づく製造等の差止め及び型枠の廃棄並びに謝罪広告の掲載,②特許法102条2項又は不正競争防止法4条に基づく損害賠償として7897万5000円及びこれに対する本訴状送達の日(平成30年12月12日)の翌日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1
前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)


当事者


原告(甲2)

原告は,コンクリート製品及びセメント製品の製造,加工並びに販売,知的財産権の実施,使用,利用,許諾等を目的とする有限会社リタッグ(以下訴外リタッグという。)の代表取締役である。イ
被告(甲5)

被告は,コンクリートブロックの製造及び販売,土木工事の設計,施工等を目的とする株式会社である。


本件特許権(甲1)


原告は,以下の特許権(以下本件特許権という。)を有していた。同特
許の設定登録時の特許請求の範囲,明細書及び図面(以下,まとめて本件明細書という。)の記載は,本判決添付の特許公報のとおりである。本件特許権は,平成28年3月10日をもって,存続期間満了により消滅した。
登録番号

特許第3718279号

発明の名称

被包型側溝

出願日

平成8年3月10日

出願番号

特願平8-83259

登録日

平成17年9月9日


本件訂正等(甲24~27)
被告は,本件特許権について無効審判を請求し(無効2015-80020
2号事件),その中で,原告は,本件特許権の特許請求の範囲につき訂正することを求めたところ(以下本件訂正という。),特許庁は,平成28年6月28日,本件訂正の請求を認容し,被告が乙2ないし6を引用文献として主張した無効理由(進歩性欠如)を認めない旨の審決がなされ,同審決は確定した(以下,本件訂正後の特許を本件特許,本件特許に係る発明を本件発明という。)。本件訂正後の請求の範囲は以下の内容であり,下線部分が訂正箇所である。断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と,前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し,前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなり,下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を有するとともに,前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された側溝とを具備することを特徴とする被包型側溝。被告は,平成29年1月30日,再び本件特許権について無効審判を請求したが(無効2017-800010号事件),請求が成り立たない旨の審決がなさ
れ,同審決は確定した。

本件発明の構成要件の分説

本件発明の構成要件は,次のとおり分説される。
A
B1
断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と,
前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し,
B2

前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面
からなり,

B3

下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙
間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を有するとともに,B4
B5
前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された側溝

C
とを具備することを特徴とする被包型側溝。



被告の行為

被告は,遅くとも平成24年以降,側溝本体及びこれに組み合わせる側溝蓋を,消音側溝(消音可変側溝)の商品名で製造,販売している(弁論の全趣旨)。⑷
原告製品及び原告の行為(甲3,4,10~14(書証は枝番号を含む。以
下同じ。))
原告は,本件特許権に加え,リボーン側溝(登録番号第4121733号)及びリボーン蓋(登録番号第4121734号)に関する商標権を有し,側溝用溝ぶた(登録番号第1015721号)及び側溝用ブロック(登録番号第1037733号)に関する意匠権,及び騒音の発生しない側溝に関する特許権
(登録番号第2514918号)等を有していた。
原告は,
全国リボーン側溝工業会
(以下訴外リボーン側溝工業会という。)
に加盟するコンクリート製品製造各社に対し,上記商標権及び意匠権等の使用,並びに本件特許権等を実施した側溝本体及び側溝蓋(以下原告製品という。)を製造し,リボーン側溝,リボーン蓋の名称で販売することを許諾した。


消滅時効の援用

被告は,原告に対し,平成31年4月18日の本件弁論準備手続期日において,平成27年10月1日以前に発生した特許権侵害及び不正競争防止法に基づく損害賠償請求権につき,消滅時効を援用するとの意思表示をした。
2
争点



各被告製品の構成(争点1)



各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点2)




被告の行為は不正競争防止法2条1項1号に該当するか(争点4)


消滅時効の成立(争点5)


本件特許は無効審判により無効とされるべきものか(争点3)

損害の発生及びその額(争点6)

第3
1
争点についての当事者の主張
争点1(各被告製品の構成)について

【原告の主張】
被告は,別添各被告製品目録(イ号物件目録ないしリ号物件目録)記載の各製品(以下イ号物件などといい,総称して各被告製品という。)を製造販売し,各被告製品を,福岡県,佐賀県,熊本県における複数の工事において敷設している。各被告製品の構成は別添各被告製品目録記載のとおりであり,いずれも本件発明の技術的範囲に属する。
【被告の主張】


別添各被告製品目録の各別紙(イ号物件ないしホ号物件については各別紙1
及び2)記載の製品が(ニ号物件目録の別紙2を除く。),被告の製品であることは認め,その構成の特定及び対比については後記のとおり争いがある。ニ号物件目録の別紙2記載の製品は,他社の製品が被告の敷地内に置かれていたところを撮影したものであり,被告の製品ではない。被告は,佐賀県,熊本県において各被告製品の敷設を行っていない。


イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件について


側溝本体であるイ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件は,側溝蓋であ
るチ号物件又はリ号物件と組み合わせて販売されることがある。イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件と,チ号物件又はリ号物件とを組み合わせた被告の製品(以下被告製品という。)の構成は,以下のとおり分説される。
a
断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と,

b1

前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し,
b2

前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略一致する断面凹状の曲
面からなる支持面を有し,
b3

前記支持面より下方において,連続的に,前記側溝蓋の下端部に形成され
た回転防止用突起を係止させる切欠きが形成され,
b4

前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された
b5

側溝と

cイ
を具備することを特徴とする被包型側溝。
上記被告製品の構成の分説と本件発明の構成要件の分説とを対比すると,上
記被告製品は,構成要件B2の略相似(後記争点2⑴),及び構成要件B3のせぎり部(後記争点2⑵)を充足しない。

ホ号物件については,上記イに加え,構成要件B1の略中央を充足しな
い(後記争点2⑶)。


ヘ号物件及びト号物件について

側溝本体であるヘ号物件及びト号物件は,リ号物件と組み合わせて販売されることがあるが,上記被告製品はいずれもU字型側溝であるから,構成要件Cの被包型側溝を充足しない(後記争点2⑷)。⑷

ニ号物件について

ニ号物件の水平支持部材には,約6%の傾斜がある(原告の不利益陳述)。2
争点2(各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)



争点2⑴(イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件とチ号物件又はリ号
物件とを組み合わせた被告製品が,構成要件B2の略相似を充足するか)【原告の主張】
本件特許における略相似とは,側溝本体と側溝との各曲面の形状がだいたい似ている,あらかた似ているという意味であるところ,被告製品について,
側溝支持部の曲面と側溝蓋の曲面とが略相似であることは,写真等から明らかである。

被告は,被告製品における側溝蓋における当接部の曲面形状と,側溝蓋を受け入れる側溝側の支持面の形状は合同であると主張するところ,合同とは,2つ以上の図形が位置以外はあらゆる点で全く同じ場合をいうものであり,側溝本体の曲面の円弧よりも側溝蓋の円弧の方が小さいこと,両者の形状が異なることは明らかであるから,そもそも合同であるということはできない。
【被告の主張】
本件発明の構成要件B2における前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似という文言は,幾何学的条件を表現するものと考えられるところ,幾何学的な相似とは,

一方を適当に一様スケール変換して,他方と合同になる(すなわち,有限回の平行移動,回転移動,対称移動により重なる)こと。

を意味する。被告製品の側溝蓋における当接部の曲面形状と,側溝蓋を受け入れる側溝側の支持面の形状は,下方の突起部及び切欠き部の部分を除き,形も大きさもほぼ同じであるから,略一致,すなわち幾何学的には合同であり,一方を大きくしたり小さくしたりすることで,他方と重なり合うという関係にあるものではない。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件B2を充足しない。⑵

争点2⑵(イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件とチ号物件又はリ号
物件とを組み合わせた被告製品が,構成要件B3のせぎり部を充足するか)【原告の主張】

支持面とせぎり部の関係

被告は,被告製品について,別紙被告説明図の側溝蓋の当接部は○の部分,開口部端部の支持面は□の部分であるから,被告製品の切欠きは,支持面及び当接部にはなく,本件発明のせぎり部にあたらない旨を主張する。
本件明細書によれば,従来製品においては,支持部と当接部がいずれも水平面及び垂直面からなり,側溝蓋を平面によって支えていたところ,本件発明は,従来製
品において生じていたガタツキや騒音の発生を抑制するために,支持面の一部に所定の隙間を形成させるべくせぎり部を設けたものであり(本件明細書段落【002
7】),せぎり部は,支持面の一部に,段付け,段差構造をとることにより,構造を変化させたものである。
そして,本件明細書における

側溝蓋の当接部と側溝の支持面とは面接触状態が維持される。

との記載(同段落)及び図2の断面図からすれば,本件発明における支持面は,側溝蓋の当接部と接触して面接触状態を維持する曲面部分と,当接部と接触をしない段差部であるせぎり部から構成されている。
被告製品において,別紙被告説明図の突起は側溝蓋の当接部に存し,切欠きは,側溝の支持面に存するから,せぎり部に該当するというべきである。イ
突起の存在

被告は,被告製品の側溝蓋には突起が存在し,突起は当接部ではなく,突起より下部にも当接部は存在しないから,被告製品の切欠きは,せぎり部にはあたらない旨を主張する。しかし,突起と述べる形状の部分は,すべての被告製品には形成されておらず,周囲の構造よりとりわけ突き出ている構造ではないから,細かなデザインの相違にすぎない。

また,側溝蓋の製造方法には,縦打ち工程と平打ち工程があり,被告は平打ち工程を採用していると思われるところ,同工程においては,底面部となる部分からセメントを注入し人力でコテならしをするため,当接部端部付近に3㎜程度の突起ができるものとできないものの両方が製造される。
被告は,被告製品の突起は回転防止機能を目的として設けられたものであると主
張するが,被告製品の支持面の曲面形状,当接部の曲面構造からすれば,側溝蓋に不均等な荷重がかかったとしても回転や転倒という支障は生じないと考えられ,被告製品の側溝蓋に突起が存在するとしても,回転防止機能を有するものとは認められない。
被告製品は,平成10年ころから使用されていた株式会社ウチコン(以下訴外ウチコンという。)の製品を基とするものであり,被告製品の突起は,上記訴外ウチコンの製品に存した接面部下部の段差(下部垂直面部)を金型のデザイン
変更により傾斜面にしたという微細な改変を加えたものにすぎない。訴外ウチコンが出願した実用新案第3031035号の実用新案公報(甲47)には,上記段差について,被告製品の突起に関する被告の主張と同様の効果が述べられているが,上記実用新案については無効審判が確定しており,被告製品に突起の存するものがあるとしても,公知の技術事項の組み合わせであって格別の効果を有するものではない。
以上より,被告製品に突起が存するとはいえないし,存在したとしても,本件発明との差異を生じさせるものではない。

切欠きとせぎり部

本件特許において,せぎり部における段差の構成は限定されておらず,傾斜平面2つ,傾斜平面と曲面,又は曲面2つの組み合わせなどが考えられる。原告製品においても,せぎり部の段部下部が曲面のものも平面のものもある。被告製品における切欠きは,部材接合のため切り取った部分という本来の意味の切欠きではなく,特に何の作用効果も有さず,鋭角な傾斜平面となだらか
な傾斜平面とからなる段差構造にすぎない。
よって,2つ以上の面によって段差構造を持ち,それが側溝蓋の当接部の下端部との間に所定の隙間を構成する被告製品の切欠きは,構成要件B3のせぎり部にあたる。
【被告の主張】


突起及び切欠きの位置付け

本件特許の構成要件B3におけるせぎり部が形成された支持面との文言,及びせぎり部には砂利や土等が集まり,当接部と支持面との面接触状態を維持するという作用効果が期待されていることによれば,せぎり部は,側溝の支持面に存しなければならない。
被告製品には,回転防止用突起とこれを係止するための側溝の切欠きが存在するところ,これは,突起が切欠きにひっかかることによって,側溝蓋がそれ以上回転
しないよう係止するものであるから,切欠き及び突起は,側溝蓋の当接部及び側溝の支持面に存するものではなく,したがって,被告製品の切欠きは,本件発明のせぎり部にあたらない。
被告製品における支持面,当接部,突起及び切欠きの関係は,別紙被告説明図のとおりであり,当接部は○部分であって,突起部や△部分を含まない。また,支持面は□部分であり,せぎり部や☆部分を含まない。

突起の存在

原告は,被告製品の側溝蓋に突起のないものがあると主張する。
しかしながら,被告は,側溝及び側溝蓋の製造に関し,縦打ち工程を採用しており,型枠の寸法どおりに突起を形成している。被告が平打ち工程を採用していることを前提とする原告の主張は失当である。

突起の回転防止機能

被告製品の切欠きは,側溝蓋の下端部に形成された回転防止用の突起を係止させるためのものであって,所定の隙間を形成するためのものではない。本件明細書によれば,本件発明におけるせぎり部の作用効果として,施工後に砂利,土等がその隙間に集まることが記載されているところ,被告製品については,側溝の支持面側に水平の部分がないため,仮に切欠きを形成しなかったとしても,蓋のガタツキの原因となる小石,砂利,土等が堆積すること自体がなく,被告製品の切欠きが,本件発明のせぎり部の効果を奏することはない。


まとめ

したがって,被告製品は,本件発明の構成要件B3前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を充足しない。

争点2⑶(ホ号物件が,構成要件B1の略中央を充足するか)
【原告の主張】
本件特許は,当接部の曲面形状と,当接部下端部の所定の隙間を形成するための
せぎり部を本質的部分,要部とするものであるから,開口部がどの部分に存するかという構成要件B1は本質ではなく,この部分が異なったとしても,本件特許の権利範囲を外れるものではない。
【被告の主張】
ホ号物件は,開口部が水平支持部材の上面の端部に存するものであり,略中央に存しないから,本件発明の構成要件B1を充足しない。原告の主張は,本件発明の特許請求の範囲を恣意的に拡大するものである。⑷

争点2⑷(ヘ号物件及びト号物件が,構成要件Cの被包型側溝を充足す
るか)
【原告の主張】
被包型側溝であるとする構成要件Cは,本件発明の本質ではないから,この部分が異なったとしても,本件特許の権利範囲を外れるものではない。【被告の主張】
ヘ号物件及びト号物件は,いずれも開口部が水平支持部材の上面に存するU字型
側溝であって,被包型側溝ではないから,構成要件Cを充足しない。原告の主張は,本件発明の特許請求の範囲を恣意的に拡大するものである。3
争点3(本件特許は無効審判により無効とされるべきものか)について
【被告の主張】

乙2発明

乙2は特許公報であり(以下,乙2に記載の発明を乙2発明という。),乙2発明は本件発明の構成要件A及びB2と同一の構成を有すること,従来技術の課題として,側溝蓋のガタツキによる騒音防止のためフラット部の平面精度が要求されるが満足されていないこと,及び異物が挟み込まれた場合,平面機能が損なわれ騒音発生の原因となることが記載され,接面部を曲面に成形加工した側溝蓋を,幾
何学的に相似な曲面に成形加工した接面部を持つ側溝に密着するよう設置することで,騒音の発生等を防止することができる旨記載されている。



本件発明と乙2発明との一致点,相違点


一致点

本件発明と乙2発明は,
A
断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と,

B2

前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲
面からなり,
という点で一致する。

相違点

本件発明と乙2発明は,以下の点において相違する。
本件発明が,前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し(構成要件B1)ているのに対し,乙2発明は,上方を開放したいわゆるU字側溝である点(相違点1)。
本件発明が,下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を有するとともに,(構成要件B3)のに対し,乙2発明にはこのような構造がない点(相違点2)。本件発明が,前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された側溝(構成要件B4,B5)であるのに対し,乙2発明はこのような構造でない点(相違点3)。


容易想到性


相違点1,3について
乙3の特許公報には,本件発明の構成要件B1,B4及びB5の構成が記載
されており,乙4及び5の各特許公報には,同B1及びB4の構成を備えた被包型側溝が,乙6の特許公報には,同B1及びB2の構成を備えた被包型側溝が記載されている。
被包型側溝自体は,乙3ないし6において示すように,側溝の分野において本件特許出願以前から周知であるところ,乙6の側溝は乙2発明に係るU字側溝と
共に道路に使用される物であって技術分野が共通し,乙2発明に係る側溝も本件発明に係る被包型側溝も,蓋部分及び蓋を受ける側溝本体の構造自体は共通であり,蓋受け部に土砂などが堆積し騒音の原因となることが共通しているから,乙2発明に乙3ないし6記載の事項を組み合わせることは,当業者にとって自然かつ容易であり,何の阻害要因もない。
なお,原告が本件発明におけるせぎり部の作用効果であるとして主張する,ガタツキや騒音の軽減及び小石,砂利,土等が堆積しにくいことは,側溝と側溝蓋の接触面が曲面であることによる作用効果であって,せぎり部の作用効果は,施工後には砂利,土等はこの隙間に集まり,側溝蓋の当接部と側溝の支持面とは面接触状態が維持される(本件明細書【0027】)という点に限られる。イ
相違点2について

平成7年9月21日,NHK東海において放送されたニュースウェーブという番組において,
リボーン側溝が紹介された。その後,同内容は,再編集され,
同年10月20日,NHK総合テレビのちょっとサイエンスという番組において再度放送された。
乙7の1,2は,訴外リタッグの関係者である株式会社カムイネットが開設・運営するウェブサイトに掲載された,上記NHK総合テレビにおいて放送された映像を記録した画面であるところ,そこに映された側溝は,乙2に記載された,受け面が曲線状の側溝本体とこの曲線状に沿う曲線を有する蓋からなる側溝であり,側溝
蓋の当接部の下端部との間に形成された隙間,すなわち,下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面が見受けられる。また,乙7の3は,乙7の1のウェブサイトに関する平成21年6月29日時点におけるアーカイブ情報であり,乙7の1における写真番号【33】の説明部分で
は,乙7の3にあった少し段差があるとの記載が削除・変更されている。乙7の5は,平成26年12月ころ,訴外リボーン側溝工業会及び訴外リタッグ
社から側溝製造業者に対して配布されたチラシである。
したがって,平成7年10月20日に,せぎりのある側溝の映像が全国において放映されていたのであり,その際に,せぎり部の具体的形状や作用効果の説明が行われたか否かに関わりなく,蓋受部にせぎりを設けることは,本件特許出願前において公知の技術であった。


まとめ

以上のとおり,本件発明は,乙2発明に,乙3ないし7に記載された技術を組み合わせて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものであり,同法123条1項2号に該当し,本件特許は無効とすべきものである。
【原告の主張】


乙3に記載されている事項と本件発明におけるせぎり部の相違について

本件発明におけるせぎり部は,これにより側溝の内部と外部が連通する
ことはなく,支持面の下端に沿って連続的に形成されている。そして,曲面である支持面の下端付近に留まりやすい小石,砂利,土等を,せぎり部によって蓋との間に形成される隙間に集め,蓋と支持面との間に小石,砂利,土等が挟み込まれてガタツキや雑音の原因となることを防止するという作用効果を,蓋を側溝に被せる施工の際,及び施工後の清掃時に蓋を外した際に奏する。

他方で,乙3に記載の切欠きは,側溝本体内と外部とを連通する通路を
形成するものであり,側溝本体に断続的に設けられている点において,本件発明のせぎり部の構成と相違する。
また,上記切欠きは,側溝に蓋をして使用している状態において,路面上の土砂を雨水と共に側溝本体の内部に流入させることにより,側溝本体と蓋との間に土砂等が溜まらないという作用効果を奏する点においても,
本件発明の
せぎり部

と相違する。

したがって,乙3に記載の切欠きを乙2発明に適用したとしても,甲2
8のとおり,側溝の内部と外部とを連通させるために切欠きを断続的に設けることとなり,本件構成のせぎり部の構成を得ることは不可能である。


テレビ放送(甲19,乙7)について

乙7の1の作成者及び掲載内容は不知であり,その写真から,側溝蓋の断面凸状の曲面からなる当接部の下端部とそれと略相似の断面凹状の曲面からなる支持面との隙間を見てとることはできない。また,乙7の1において,当接部付近及び当接部の下端付近の構造の説明はされておらず,せぎり部の作用効果についても全く説明がない。
乙7の3,4の作成者及び掲載内容は不知であり,その内容について真実性が担
保されていない。また,その写真からは,せぎり部の構造を見てとることはできず,作用効果についての説明もない。
乙7の5の文書について,作成者,作成意図,作成日等が不明であり,せぎり部の構造や作用効果について全く述べられていない。また,甲19は,この時点で公知であった甲12の実施品や乙2の図面を紹介し
たものにすぎない。甲19と乙7の1,3との関連性は不明である。⑶

まとめ

以上より,本件発明は,乙2ないし7に基づき,当業者が容易に発明することができたものではない。
4
争点4(被告の行為は不正競争防止法2条1項1号に該当するか)
【原告の主張】


原告製品の形態

本件特許権の実施品であるリボーン側溝及びリボーン蓋(原告製品)については,本件発明の各構成要件をもって特定することのできる,形態上の特徴がある。


原告製品の形態の商品等表示性

原告は,本件特許権に加え,前記前提事実⑷記載のリボーン側溝及びリボーン蓋の商標権,側溝用溝ぶた及び側溝用ブロックの意匠権,及び側溝に関する特許権を有していたのであり,これらの権利の実施品である原告製品については,原告の許諾により,訴外リボーン側溝工業会に加盟するコンクリート製品製造各社のみが,独占的に製造,販売してきた。
原告製品は,官公庁の認定を受け,各地の公共事業で採用されるなど,著名なブランド商品となり,その形態は,需要者の間で,原告及び訴外リボーン側溝工業会を示すものとして広く認識されるに至っている。特に九州地方では,多数の協力業者がカタログを頒布したこともあり,建築土木業界においては知らない者はいないほど広く認識されている。

よって,原告製品の形態は,不正競争防止法2条1項1号の周知商品等表示にあたる。


誤認のおそれ

原告は,原告製品の名称であるリボーン側溝,リボーン蓋について商標権を取得して,訴外リボーン側溝工業会の会員にのみ使用を許諾しており,その名称は需要者に広く認識されている。被告は,各被告製品を消音側溝,消音可変側溝の名称で販売しているが,これは,かつて訴外リボーン側溝工業会に属していた訴外ウチコンが,同会を離脱した際,リボーン側溝の別名として消音側溝を使用したことによるものである。各被告製品の基本的構成態様,外観が原告製品と酷似している以上,被告において消音側溝等の名称を使用していたと
しても,誤認混同のおそれはある。


まとめ

したがって,被告が各被告製品を製造,販売等する行為は,不正競争防止法2条1項1号に定める混同惹起行為に該当する。
【被告の主張】


原告製品の形態

原告製品の形態は,自他識別力や出所表示機能を有しない。すなわち,側溝は,
その用途・性質上,およそ類似の形態を備えるものであるところ,原告製品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえず,需要者が,
形態そのものから,原告製品であると認識・特定している実態はない。⑵
独占的使用等

商品の形態が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示と認められるためには,商品の形態そのものが,特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている(知的財産高等裁判所平成24年12月26日判決)
ことが必要であるが,
原告製品について,

このような事情は存しない。


誤認のおそれ

被告は,原告や訴外リボーン側溝工業会の名称や表示を用いず,消音側溝という商標により各被告製品の販売・営業を行っている。被告,訴外ウチコン及び消音側溝工業会の加盟業者は,平成7,8年ころから,継続的に消音側溝の名称で各被告製品の販売・営業を行っているのであり,これをリボーン側溝の別名とした事実はなく,原告製品との混同は生じていない。
5
争点5(消滅時効の成立)について

【被告の主張】
本件訴訟が提起された平成30年10月2日の3年前である平成27年10月1日以前に発生した特許権侵害又は不正競争防止法に基づく損害賠償請求権については,消滅時効が完成している。
原告の下記主張を前提としても,同日以前に発生した損害賠償請求権については,本件訴訟提起前の平成30年4月又は同年8月には消滅時効が完成しているというべきである。

【原告の主張】
原告が被告の本件特許権侵害行為の可能性を知り,調査を開始したのは平成27
年4月1日ころであり,調査に基づき,被告が平成24年ころから侵害品を施工していることを初めて知ったのは,平成27年8月以降である。
したがって,少なくとも平成24年8月以降に発生した侵害については,消滅時効が完成していない。
6
争点6(損害の発生及びその額)について

【原告の主張】
各被告製品の年間売上高は,福岡県において少なくとも2000万円,佐賀県において少なくとも500万円,
熊本県において少なくとも2000万円を下らない。
コンクリート業界の水準では,粗利額は27%である。
そうすると,平成24年から本件訴訟提起時に至るまで,被告が得た利益額は,少なくとも7897万5000円(4500万円×6年半×27%)となる。特許権侵害,不正競争防止法違反いずれについても,被告が各被告製品を販売していなければ,その工事は各県の訴外リボーン側溝工業会の加盟企業が受注できたものであるから,被告の得た利益額が原告の損害額と推定される。
【被告の主張】
争う。
なお,被告は,各被告製品について佐賀県及び熊本県においては敷設工事を行っていない。
第4

当裁判所の判断

1
本件発明について



本件訂正後の本件発明の構成要件の分説については,前記前提事実⑵ウのと
おりである。


本件明細書には,以下の記載及び図がある。
発明が解決しようとする課題

従来の被包型側溝では,側溝蓋60を支持する側溝50の支持部55が水平面55a及び垂直面55bで構成されているとともに,側溝蓋60の当接部61も水平
面61a及び垂直面61bで構成されていた。したがって,側溝蓋60は平面によって支持されるため,
側溝蓋60及び側溝50を成形する際に生じる誤差等により,
側溝蓋60ががたつくという問題が生じていた(【0008】)。仮に精度よく側溝50及び側溝蓋60を成形できたとしても,側溝50の支持部55の水平面55aには,
土や小石等が溜り易く,
人の手で清掃する必要があった。
(【0009】)。

課題を解決するための手段

本発明の被包型側溝によれば,水平支持部材の一部に穿設された開口部の側溝蓋を支持する支持面の形状が曲面であり,側溝蓋の当接部も曲面であることから,側溝蓋より受ける荷重は,分散されるとともに密着性がよくなる。なお,支持面には平面部分がないために,小石,砂利,土等が堆積しにくく,堆積したときも非常に除去しやすい(【0012】)。

発明の実施の形態

側溝蓋10を支持する支持面5の受ける力は支持面5が曲面であるために,側溝蓋10に作用する垂直荷重が側溝蓋10の当接部11から側溝1の支持面5を介して分散されて側溝1に伝達されるとともに,側溝蓋10と側溝1との密着性がよくなるため,側溝蓋10の上面に加わる力の不均衡によりがたつかず,騒音が発生しない。また,支持面5には平面部分がないために,小石,砂利,土等が堆積しにくく,堆積したときも非常に除去し易いので,側溝蓋10を装着するのに手間がかか
らない。しかも,この支持面5の下端にはせぎり部5aが形成されており,側溝蓋10の当接部11の下端部と側溝1の支持面5の下端部との間に所定の隙間が形成されるので,施工後には砂利,土等はこの隙間に集まり,側溝蓋10の当接部11と側溝1の支持面5とは面接触状態が維持される。更に,側溝蓋10に垂直荷重が作用した場合に,側溝蓋10と側溝1との接触面が曲面であるために,力線の作用
方向が分散され,側溝蓋10及び側溝1にかかる負担が軽減され,耐用年数が延びる(【0027】)。

本実施形態の被包型側溝は,従来の被包型側溝の作用及び効果に加えて,側溝蓋10の上面を車両や人が通過しても,側溝蓋10ががたついて騒音が発生しないとともに,被包型側溝50の設置工事または保守点検等の場合に側溝蓋10を外した際には支持面5に小石,砂利,土等が堆積しにくく,堆積したときも非常に除去しやすい(【0028】)。
【図1】

2
【図2】

争点1(各被告製品の構成)について

前提事実及び弁論の全趣旨によれば,被告が,別添各被告製品目録記載の各製品を製造,販売し,福岡県内で敷設を行っていること,各製品の外観又は施工態様が同目録別紙(イ号物件ないしホ号物件については別紙2)記載のとおりであること(ニ号物件に関するものを除く。),後記争点として検討する部分を除き,被告製品の構成は,別添各被告製品目録記載のとおりであり,その部分は本件発明の各構成要件を充足することが認められる。

別添ニ号物件目録別紙2記載の写真がニ号物件のものであると認めるに足りる証拠はなく,被告が,佐賀県内及び熊本県内で被告製品の敷設を行っていると認めるに足りる証拠はない。
3
争点2(各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について


争点2⑴(イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件とチ号物件又はリ号
物件とを組み合わせた被告製品が,構成要件B2の略相似を充足するか)について

略相似の意味

構成要件B2における略相似は,被包型側溝の側溝蓋の断面凸状の曲面からなる当接部と,側溝本体の断面凹状の曲面からなる支持面との関係を表す語であるところ,被告は相似を数学的・幾何学的意味と解すべきであり,合同または略一致はこれに含まれない旨を主張する。
そこで検討するに,本件明細書に略相似を積極的に定義する記述は存在しな
いが,本件発明は,緻密な精度を要求される精密機械等ではなく,道路の側方等に設置する側溝本体と側溝蓋に関するものであること,設置工事の後,保守点検等の際に側溝蓋を外すことが予定されていることからすると(【0028】),側溝蓋を側溝本体よりもやや小さく形成することが予定されていると考えられること,相似という言葉には,数学的,幾何学的な意味のみならず,形・性質などが写したようによく似ていること(大辞林第4版),互いに似ていること(広辞苑第7版)といった日常的な用法における意味も存すること(甲46),略を冠しており,一般的な相似より幅を持たせていることを総合すると,構成要件B2における略相似は,側溝蓋の当接部の断面凸状の曲面と,側溝本体の支持面の断面凹状の曲面の形とが,互いにほぼ似た形であるといった意味と解するのが相当で
あり,数学的な相似の定義から外れた場合に,これを除外するような厳密なものと解することはできない。

被告製品の形態

前記2で認定した事実及び証拠(甲6,35~37,39,42,43,57,乙1,12)によれば,側溝本体であるイ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件と,側溝蓋であるチ号物件又はリ号物件とを組み合わせた場合,側溝蓋の断面凸状の曲面部分と,側溝本体上部にあって側溝蓋を支える支持面の断面凹状の曲面部
分とを対比すると,曲率や曲線の始点・終点を含む形状がおおまかに類似していると認められ,略相似の関係にあると解するのが相当である。

まとめ

そうすると,イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件とチ号物件又はリ号物件とを組み合わせた被告製品の構成b2は,前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなりと認定することができ,本件発明の構成要件B2を充足すると認められる。
被告製品の構成が合同または略一致の関係にあるから,前記構成要件を充足しないとする被告の主張は採用できない。



争点2⑵(イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件とチ号物件又はリ号
物件とを組み合わせた被告製品が,構成要件B3のせぎり部を充足するか)について

本件発明におけるせぎり部の意味及び位置について

本件発明の構成要件B1,B2及びB3は,支持面について規定するものであり,その文言によれば,①支持面は,水平支持部材の上面の略中央にある開口部の端部にあり,②支持面は,側溝蓋の当接部の曲面(断面凸状)と略相似の断面凹状の曲面からなり,③当接部の下端部とせぎり部との間に所定の隙間を形成するため,④支持面の下端に沿って連続的にせぎり部が形成されるというものである。前記1のとおり,従来製品においては,側溝蓋の平面の当接部が,側溝本体の平
面の支持面によって支持されていたところ,本件発明においては,断面凸状の当接部が,略相似の関係にある断面凹状の支持面で支持されることによって,側溝蓋により受ける荷重が分散されるとともに密着性がよくなり,支持面に平面がないために小石,
砂利,
土等が堆積しにくくなり,
側溝蓋のガタツキや騒音の発生を抑制し,
かつ,せぎり部により当接部の下端部と支持面の下端部との間に所定の隙間が形成
されるため,砂利,土等がその隙間に集まり,当接部と支持面との間の面接触状態が維持され,堆積した小石,砂利,土等も除去しやすい,という効果があるとされ
る。
そうすると,せぎり部は,本来であれば略相似の関係にある曲面が当接する関係にあった当接部と支持面のうち,支持面の下端の形状を変更することによって,当接部の下端部との間に隙間を設けるものであるから,せぎり部は,それが設けられていなければ支持面の一部として当接部と当接した部分に存することになるし,せぎり部と対応する位置には,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部が存することになる。逆に言うと,側溝蓋と側溝本体との間に隙間が存したとしても,その隙間が,断面凸状の曲面からなる当接部の下端部に対応するのでなければ,それは本件発明のせぎり部にはあたらないというべきである。


(ア)

被告製品の形状
証拠(甲6,35~37,39,42,43,57,乙1,12)及び弁
論の全趣旨によれば,側溝蓋であるチ号物件及びリ号物件には,断面凸状の曲面よりも下に突起(別紙被告説明図の突起,以下突起という。)が形成され,突起は側溝蓋の底部(以下底部という。)の水平面(同図の△)に連なっていること,側溝本体であるイ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件は,断面凹状の曲面よりも下に垂直に近い斜面(同図のせぎり部,以下斜面Aという。)があり,その下に斜度の緩やかな斜面(同図の☆,以下斜面Bという。)があって,斜面Bは垂直支持部材に連なっていること,側溝本体と側溝蓋を組み合わせた被告製品において,突起と斜面Aは概ね係合する関係にあること,斜面Bと突起
及び底部との間には隙間が存すること,以上のように認められ,模式図的には,別紙被告説明図のように図示することができる。
(イ)

原告は,被告製品(側溝蓋)は平打ち工程により製造されているためにば
らつきがあり,突起が形成されていないものも存する旨主張する。原告が提出した被告製品の写真(甲35~37,39~43)には,突起の存在が確認し難いものもあるが,いずれも側溝本体に側溝蓋を設置した状態で,断面方向のみを撮影したやや不鮮明な写真であり,奥行き方向に突起が全く存在しないこ
とを示すものとは認められない。
他方,証拠(甲6,45,57,乙13~21)によれば,被告は,側溝蓋の製造に,
手作業による粗さが当接面に生じない縦打ち工程を採用していると認められ,被告製品のカタログ(甲6,57)においても,側溝蓋に形成された突起(振れ止め機構と表記)及び側溝本体の段差(没落防護棚と表記)の位置及び係合関係を図示して,蓋の転覆,没落を解消したことを被告製品が属する消音側溝の特徴としているのであるから,前記(ア)のとおり,被告製品の側溝蓋には突起が存すると認めるのが相当である。
(ウ)

被告製品の側溝蓋に突起が存することを前提とすると,被告製品において
は,側溝蓋と側溝本体の間に隙間は存在するものの,その隙間は,側溝蓋の突起及び底部に対応する形で存在し,断面凸状の曲面からなる側溝蓋の当接部には対応していないことになる。

形成の目的

本件発明においては,前記のとおり,当接部の下端部との間に隙間を形成するためにせぎり部を形成するとされ,本件明細書では,施工後には砂利,土等がこの隙間に集まることによって,当接部と支持面の面接触状態が維持されるとされる。しかしながら,
前記(ア)のとおり,
突起と斜面Aは概ね係合する関係にあること,
前記(イ)のとおり,被告製品のカタログにおいて,突起と斜面Aによる段差は,蓋の転覆,没落を防止する振れ止め機構として説明されていることからすると,被告
製品において,斜面Aによる段差を設ける目的は,隙間を形成することにあるのではなく,突起と係合させることで,側溝蓋の回転を防止することにあると認めるのが相当である。

まとめ

以上を総合すると,被告製品(側溝本体であるイ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件と,側溝蓋であるチ号物件又はリ号物件とを組み合わせたもの)においては,斜面Aの段差を設けることによって,斜面Bと突起及び底部との間に隙間が
生じているが,
この隙間は当接部の下端部と対応するように形成されていないから,この部分をせぎり部ということはできないし,この部分が支持面にあるともいえない。また,斜面Aの段差を設ける目的が,突起と係合させて回転を防止することにあるとされる以上,所定の隙間を形成するためせぎり部が形成されたということもできない。
そうすると,被告製品は,構成要件B3の前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を有するを充足しない。


争点2⑶(ホ号物件が,構成要件B1の略中央を充足するか)について
証拠(甲6,39,57)によれば,ホ号物件は135度の曲がりのあるコーナー用であり,開口部はコーナーを挟んだ一方にしか存在しないことが認められる。本件発明の構成要件B1は,開口部が水平支持部材の上面の略中央にあることを内容とするものであるが,略中央について特に限定がない以上,側溝本体全体の略中央を意味すると解さざるを得ないから,ホ号物件の開口部は,水平支持部材の上
面の略中央にあるとはいえない。
原告は,この要件は本質ではなく,この部分が相違したとしても本件特許の権利範囲を外れるものではない旨を主張するが,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めるべきものであるから(特許法70条1項),採用できない。

したがって,ホ号物件は,本件発明の構成要件B1の略中央を充足しない。⑷

争点2⑷(ヘ号物件及びト号物件が,構成要件Cの被包型側溝を充足す
るか)について
証拠(甲6,40,41,57)によれば,ヘ号物件及びト号物件は,一般的に落蓋側溝と呼ばれる,
蓋を取ると上部が開放されるU字型側溝である。
本件発明は,
蓋をとっても上部が完全に開放されない被包型側溝に関するものであり,両者は異なるといわざるを得ない。

原告は,この要件は本質ではなく,この部分が相違したとしても本件特許の権利範囲を外れるものではない旨を主張するが,前記⑶で指摘したのと同様,失当である。
したがって,ヘ号物件及びト号物件は,本件発明の構成要件Cの被包型側溝を充足しない。


ニ号物件について

ニ号物件については,原告がニ号物件の写真であるとして提出したものが,被告の製品のものであると認められないことは前述のとおりであるが,被告がニ号物件の製造販売をしていること自体は争いがない。
ニ号物件については,ニ号物件目録の構成の分説b2において,水平支持部材が約6%の傾斜を有して設置されておりとされており(原告の不利益陳述),証拠(甲6,38,57)によれば,側溝本体の上面にも蓋の上面にも,6%の傾斜が付いていることが認められる。
本件発明の構成要件B1及びB4には水平支持部材の語が使われており,使
用時に水平に支持し得るものであることが前提と解されるから,側溝本体の上面にも蓋の上面にも6%の傾斜が付いているニ号物件は,構成要件B1及びB4の水平支持部材を充足しないというべきである。⑹

争点2についてのまとめ

以上検討したところを総合すると,イ号物件,ロ号物件,ハ号物件及びホ号物件とチ号物件又はリ号物件とを組み合わせたものは,構成要件B2及び構成要件B3をいずれも充足しないこと,ホ号物件は,これに加え,構成要件B1を充足しないこと,ヘ号物件及びト号物件は,構成要件Cを充足しないこと,ニ号物件は,構成要件B1及びB4を充足しないことが認められるのであり,
各被告製品はいずれも,
本件発明の技術的範囲に属しないことになるから,争点3(本件特許は無効審判に
より無効とされるべきものか)について判断するまでもなく,各被告製品の製造販売が本件特許権の侵害にあたることを理由とする原告の請求は,理由がないことに
帰する。
4
争点4(被告の行為は不正競争防止法2条1項1号に該当するか)


原告の主張

原告は,原告製品の形態それ自体が不正競争防止法2条1項1号の他人の商品等表示に該当し,原告の商品又は営業を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとして,これと同一または類似の形態を有する各被告製品を譲渡して,原告の商品または営業との混同を生じさせた被告の行為は,不正競争行為にあたる旨を主張するものである。
そして原告は,商品等表示に該当する原告製品の形態の特徴として,本件発明の
構成要件の分説と全く同じ内容を掲げている。
また原告は,原告は,本件特許権に加え,商標権,意匠権,及び側溝に関する特許権を有しており,これらの権利の実施品である原告製品については,訴外リボーン側溝工業会に加盟するコンクリート製品製造各社に対してのみ,製造,販売を許諾してきた旨を主張する。



検討

被包型側溝という商品自体は,その用途や性質から,ある程度類似した形態を備えるものと考えられ,断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と,断面凹状の曲面からなる支持面を有する側溝本体という組み合わせも,原告製品や各被告製品以外に,平成8年ころから,訴外ウチコン及びその関係企業,並びに訴外リボーン側溝工業会の加盟企業が販売・施工する製品等において複数存在していたと認められる(甲3,20,21,30,31,47~49,52~56)。原告は,本件特許権に基づく権利行使と不正競争防止法に基づく権利行使とを並行して行い,原告側の権利の分説も,各被告製品の構成の分説も同様のものとして行っているところ,既に検討したとおり,各被告製品は,本件発明の構成要件の一
部を充足せず,原告は特許権に基づく権利行使が認められないのであって,その場合に,構成や充足に争いのない,すなわち側溝や側溝蓋として一般的な構成,形状
に属する部分が共通であることを理由に,不正競争防止法に基づく権利行使を認めることは,特段の理由がない限り認められないというべきである。原告製品の形態が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示にあたるといえるためには,原告製品の形態それ自体に,需要者をしてその商品の出所を認識させるような特別顕著性が必要と解されるところ,原告は,原告製品の形態の特徴を,本件発明の構成要件の分説と同じ内容で特定するに止まり,形態の特別顕著性について格別の主張をしていないから,原告製品の形態に商品等表示性を認めることは,困難である。
また,原告は,コンクリート製品製造各社に対し,本件特許,関連する特許権,
商標権及び意匠権の実施品の製造,販売を許諾してきた旨を主張するところ,仮にそうであるならば,需要者としては,製品の形態のみから製品の出所を原告と認識していたとは考えにくく,原告を示す商品名,商標,あるいは何らかの表示によって出所を原告と認識することはあり得るとしても,原告製品の形態のみから,その出所が原告であると認識されていたと考えることは困難である。



誤認のおそれについて

原告は,
リボーン側溝等の名称は周知であり,訴外ウチコンが,
消音側溝
をリボーン側溝の別名として販売したことがあるとして,被告が消音側溝等の名称で各被告製品を販売したとしても,原告製品と各被告製品の形態が酷似する以上,誤認混同のおそれはある旨を主張する趣旨と解される。
しかしながら,原告製品の形態が商品等表示にあたらないことは前述のとおりであり,被告が各被告製品を消音側溝等の名称で販売しても,原告製品との混同が生じるとも認められないから,原告の主張は失当である。


まとめ

以上より,被告が各被告製品を譲渡したことについて,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為が成立すると認めることは困難であり,同法3条,4条に基づく請求は理由がない。

5
結論

以上により,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部

裁判長裁判官
谷有恒一輝
裁判官
杉浦
裁判官島村陽子は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官
谷有恒
[別添・別紙いずれも省略]

トップに戻る

saiban.in