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覚せい剤取締法違反(変更後の訴因 覚せい剤取締法違反、関税法違反)被告事件
事件番号令和2(わ)1
事件名覚せい剤取締法違反(変更後の訴因 覚せい剤取締法違反,関税法違反)被告事件
裁判年月日令和3年3月17日
裁判所名・部福岡地方裁判所  第2刑事部
裁判日:西暦2021-03-17
情報公開日2021-05-18 12:01:00
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令和3年3月17日宣告
令和2年(わ)第1号
主文
被告人を無期懲役及び罰金1000万円に処する
未決勾留日数中270日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金2万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
福岡地方検察庁で保管中の覚醒剤294袋(領置番号及び符号は別紙記載のとおり)及び覚醒剤を含有する固形物1点(令和2年領第240号符号268-1)を没収する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,分離前の相被告人A,同B,同C,同D,同E,同F,G及び氏名不詳者らと共謀の上,営利の目的で,みだりに,令和元年12月7日頃,本邦外である東シナ海公海上において,船籍不詳の船舶に積載されていた覚醒剤であるフエニルメチルアミノプロパンの塩酸塩の結晶約586.523キログラム(別紙記載の領置番号及び符号に係る覚醒剤294袋はその鑑定残量)及び覚醒剤であるフエニルメチルアミノプロパンを含有する液体約764ミリリットル(令和2年領第240号符号268-1はその鑑定残量)を,分離前の相被告人Bらが乗船する元漁船甲に積み替え,同月11日,同船を熊本県天草市a町b番地c先a物揚場に接岸させ,同船に積載された前記覚醒剤を陸揚げして輸入しようとするとともに,関税法上の輸入してはならない貨物である覚醒剤を輸入しようとしたが,海上保安官らに発見されたため,その目的を遂げなかった。
(事実認定の補足説明)
第1

争点
本件の争点は,覚醒剤を含む違法薬物の認識の有無及び共犯者らとの共謀の有無である。
第2

判断

1
密輸の態様
本件の密輸は,公海上まで船舶で向かい,海外から来た船舶と接触して覚醒剤を受け取る瀬取りと呼ばれる方法で行われた。多額の費用を掛け,多人数が関与して行われた大がかりな犯行であり,船舶に搭載する通信機器のほか,陸揚げ後の運搬車両なども用意周到に準備している。1回失敗したにもかかわらず2回目の密輸を敢行していることからしても,検挙された場合のリスクを恐れずに大きな見返りを期待していたと考えられる。
このような犯行に関与するに当たり,被告人が,受け渡される物品につき,禁制品,特に覚醒剤を含む違法薬物である可能性を想定していなかったとは考え難いといえる。

2
被告人の関与の仕方や立場
被告人は,現地に入ったAとの間だけでなく,日本人グループの上位者と見
られるHとの間でも,Aを介して頻繁に密輸に関するメッセージのやり取りを行っている(甲531)。それらのやり取りの内容を見ると,被告人は,密輸全般に関与し,特に船の準備や経費の振込み等の肝心な場面では必ず発言している上,瀬取りに向かった船舶が日本に戻る際に燃料切れで漂流するなどの想定外の事態が生じた際も,AとHの三者で協議しつつ対応していることが認められる。この間,被告人が,Hを含め他の関係者の指示を受けて動いていた様子は見受けられず,むしろ,東京に滞在したまま,Aを介して指示を出すことで自らは捕まらないよう行動していたといえる。
これらからすると,被告人は,組織の中ではより上位者がいたのかもしれないが,本件の密輸に関しては,責任者として全体を統括する首謀者的な立場にあったといえ,そのような立場にあった被告人が,密輸する物品が何かを知らずに関与していたとは考えられない。
実際に,被告人は,令和元年10月7日に焼肉店で瀬取りの実行犯であるBらと食事をした際に金もうけの話を繰り返しするとともに,自らは何年も前から同様の行為を行っていることを前提とする発言をしている(甲530)。これらの発言内容からしても,被告人は,密輸する物品が覚醒剤であることは十分分かっていたと考えられる。
3
金であると信じていたとの弁解について
被告人は,法廷で,Hから頼まれた際に金の密輸と聞いており,荷物は金と信じていた旨を弁解している。しかし,金の密輸により,10%程度の消費税分の利益を得たとしても,
共犯者らとの間で分配が必要であることからすれば,
費用対効果が見合わないと考えられる。特に,瀬取りの方法による密輸は,船舶が沈没したり検挙されたりして荷物を失う可能性が高く,そのようなリスクが高い方法で金を運ぶとは考えにくいし,金の重量を考えると,本件で用いられたような小さな船舶で運搬すること自体困難と考えられる。更にいえば,本件の密輸では,相手方の船から荷物を投げ下ろして積み替えが行われており,そのことからも荷物の中身が金でなかったことは明らかであるが,指示役である被告人やAは,そのような荷物の積み替え方法は事前に把握した上で実行役である共犯者らに伝えていたはずである。これらからすると,被告人が金の密輸と信じていたというのは無理がある。被告人の弁解は信用できない。
4
弁護人は,被告人が,船舶が漂流して以降は,誰とも連絡しておらず,Aらが逮捕された後も日本を脱出しようともせず観光旅行を楽しむなどしていたなどと指摘し,覚醒剤の密輸と認識していなかった旨主張している。しかし,被告人は,船舶の漂流後もAらとの間で多数回電話等で連絡を取っているし,日本から逃げ出さなかったのも,東京にいた自分のところまで内偵調査が及んでいると思っていなかっただけと考えられる。弁護人の主張は採用できない。
第3

結論
以上によれば,常識的に考えて,被告人は,密輸する物が覚醒剤であると分かっていたことは間違いないといえる。
また,本件が組織的な密輸の犯行であり,被告人が密輸全体を統括する首謀者的な立場で犯行に関与したことを考えれば,被告人が直接やり取りをしていたAとの間のみならず,実行犯であるBらを始めとする他の共犯者らとの間で共謀が成立することも十分認定できる(ただし,公訴事実記載の共犯者のうちIについては,本件で取り調べた証拠からは,荷物を覚醒剤と認識した上で関与したと断定できないから,同人との間の共謀は認定しなかった。)。(量刑の理由)
1(1)本件で,被告人らが輸入しようとした覚醒剤の量は約586キログラムと極めて大量であり,そのような大量の覚醒剤を日本国内に拡散させ,大変深刻な事態を生じさせる危険性が高い犯行であった。また,密輸の態様を見ても,瀬取りの方法による大がかりな組織的犯行であり,通信機器等を準備して船舶で公海上の受取り地点まで向かい,陸揚げした後の運搬方法まで綿密に準備をしており,非常に計画性も高かったといえる。
このように,本件が極めて大量の覚醒剤を密輸しようとした大がかりな組織的,計画的犯行であることは,まずもって被告人に対する刑を特に重くする方向で考慮すべき事情である。
(2)ところで,本件では,瀬取り場所に向かった船舶が日本に戻る際に燃料切れで漂流しており,判示場所に接岸したものの,通報により駆け付けた捜査員らによって,覚醒剤が陸揚げされる前に発見され,密輸は失敗に終わっている。しかし,既に陸揚げ後の運搬のための車両が接岸地付近で待機していたことも考えれば,捜査員らが遅れるなどして一歩間違えば,実行犯らを取り逃がし,覚醒剤が陸揚げされた可能性は十分にあったといえる。本件は,未遂事案の中でもかなり危険性が高く,既遂に近い犯行と見ることができるから,犯行が未遂に終わったことを殊更に刑を減軽する事情として評価することはできない。(3)被告人は,密輸による多大な利益を得ようという利欲的な動機から,密輸全体を統括する首謀者的な立場で犯行に関与した。被告人が犯行の実現に果たした役割は特に大きかったといえ,共犯者の中でも最も重い責任を取るべき立場にあるといえる。
2
以上のような犯罪事実に関する事情を中心に据えた上で,刑の公平性の観点から,同種事案(10キログラム以上の覚醒剤を営利目的で輸入した事案の中で,組織性が認められるもの)の量刑傾向に照らして検討すると,本件は,同種事案の中でも最も重い部類に属する事案といわざるを得ない。
そうすると,被告人が,法廷で,不自然不合理な弁解に終始しており,反省している様子は見受けられないことなど,犯情以外の事情を考慮しても,被告人に対しては,主文のとおり無期懲役刑に処することで生涯その罪を償わせるとともに,この種の犯行が経済的に見合わないことを知らしめるため,主文の罰金刑を併科することはまことにやむを得ないと判断した。

(求刑-無期懲役及び罰金1000万円,主文同旨の没収)
令和3年3月26日
福岡地方裁判所第2刑事部

裁判長裁判官


裁判官

𠮷
裁判官

平﨑野忠之内庸子岩彩夏
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