判例検索β > 平成31年(わ)第43号
強盗殺人、殺人、殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、傷害、公務執行妨害
事件番号平成31(わ)43
事件名強盗殺人,殺人,殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反,傷害,公務執行妨害
裁判年月日令和3年3月5日
裁判所名・部富山地方裁判所  刑事部
裁判日:西暦2021-03-05
情報公開日2021-05-17 10:01:18
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主文
被告人(※F)を無期懲役に処する
未決勾留日数中550日をその刑に算入する。
押収してあるナイフ1本(令和3年押第1号符号1),斧1丁(同号符号2),折りたたみ式ナイフ1本(同号符号3)及びブッシュナイフ1本(同号符号4)をいずれも没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

平成30年6月26日,富山市ab丁目c番d号A店において,アルバイ
ト従業員として勤務中,他の従業員から同人が当番であった排水溝清掃の交替を指示されたことにより口論となったところ,仲裁に入った同店店長のB(当時45歳。)から注意を受けたため,これに立腹し,午後1時頃,同人の左脇腹等をげん骨で殴るなどの暴行を加え,よって,同人に加療約3週間を要する左肋骨骨折等の傷害を負わせた
第2

前記第1の事実の後,これまでも人間関係での失敗を繰り返していたにも
かかわらず,再び同様の失敗を繰り返して社会の中で居場所を定めることのできない自身への失望や嫌悪感,これから何も展望のない人生を生き続けることへの諦めの気持ちや疲労感に加えて,いままで自身を拒絶した者たちへの敵意等の感情が爆発して自暴自棄となり,自衛隊での勤務時の訓練等で身に付けた自分の能力が通用するのか戦いによって確かめたいなどと考え,その相手がけん銃という武器を所持するものであれば精神的抵抗が低かったので,標的を警察官と決め,同日午後2時6分頃,同市久方町14番24号富山県富山中央警察署奥田交番(以下奥田交番という。)東側勝手口付近において,在所勤務中であった同警察署勤務の警部補C(当時46歳。)に対し,殺意をもって,その腹部,顔面等を手に持ったナイフ(刃体の長さ約13.1センチメートル,令和3年押第1号符号1)で多数回突き刺すなどし,もってCの職務の執行を妨害するとともに,その際,同人に腹部大動脈損傷,咽頭・喉頭損傷等の傷害を負わせ,よって,その頃,同所において,前記腹部大動脈損傷による出血性ショック及び前記咽頭・喉頭損傷に基づく血液吸引による窒息により死亡させて殺害した
第3

前記第2記載の日時場所において,Cが装着していた同人管理の回転弾倉
式けん銃1丁(富山地検平成31年領第52号符号1,8)を窃取した第4

業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午後2時6分頃,前記
奥田交番東側勝手口付近において,前記ナイフ1本,刃体の長さ約15.4センチメートルの斧1丁(令和3年押第1号符号2),刃体の長さ約9.7センチメートルの折りたたみ式ナイフ1本(同号符号3)及び刃体の長さ約33.3センチメートルのブッシュナイフ1本(同号符号4)を携帯した第5
1
前記第3の事実の後,さらに無差別に警察官を殺害しようと考え,法定の除外事由がないのに,同日午後2時24分頃,不特定若しくは多数
の者の用に供される場所である同市久方町8番37号先路上において,同市奥田双葉町10番18号富山市立奥田小学校
(以下
奥田小学校
という。

東側敷地内を歩行中のD(当時69歳。)に対し,殺意をもって,前記けん銃で同人の身体に向けて弾丸2発を発射したが,いずれも同人に命中しなかったため,殺害の目的を遂げなかった
2
法定の除外事由がないのに,前記第5の1記載の日時頃,不特定若しくは
多数の者の用に供される場所である奥田小学校正門付近において,E(当時68歳。)に対し,殺意をもって,前記けん銃で同人の顔面に向けて弾丸1発を発射して命中させ,よって,その頃,同所において,同人を左椎骨動脈損傷による大脳くも膜下出血により死亡させて殺害した
第6

法定の除外事由がないのに,同日午後2時24分頃,前記第5の1記載の路上において,前記けん銃1丁を,これに適合する実包3発と共に携帯して所持した
ものである。
(事実認定の補足説明)
1
争点
判示第2及び第3の事実に対応する公訴事実の要旨は,被告人が警察官の装着するけん銃を強取しようと考え,Cに暴行を加え,公務の執行を妨害するとともに,けん銃を強取し,Cを殺害したというものであるところ,弁護人は,Cに対する殺人の実行行為終了前には被告人はけん銃を奪う意思を有していなかった疑いがあるため,殺人罪と窃盗罪が成立するにとどまるとして,強盗殺人罪の成立を争っている。
当裁判所は,Cに対する殺人の実行行為終了後,被告人にけん銃を取る意思が生じた可能性を排斥することができず,この点に合理的な疑いが残ると判断したため,判示第2及び第3記載のとおり殺人罪と窃盗罪の限度の事実を認定した。以下,その理由を補足して説明する。

2
認定事実
関係証拠及び当裁判所に顕著な事実によれば,本件の事実経過として以下の事実が認められる。
被告人は,平成30年6月26日,アルバイト先であるA店で稼働していた際,判示第1の事件を起こし,同店のアルバイトを辞めるつもりで,同日午後1時8分頃,同店を出た。
被告人は,同店を出て歩いているときに,判示第2のとおりの動機で警察官を相手に戦うことを考え,スマートフォンの地図アプリケーションで交番を検索し,一番近かった奥田交番に徒歩で向かった。
被告人は,同日午後2時5分頃,奥田交番前道路を通過し,同交番の裏口に回り,
当日家を出るときから持ち歩いていた斧,
ナイフ,
ブッシュナイフ,
折りたたみ式ナイフの中から,斧とナイフを選んでリュックサックから取り出して手に持ち,同日午後2時6分頃,同交番裏のドアをノックした。被告人は,ドアを開けたCと格闘し,途中,同交番に在所していた交番相談員からさすまたで突かれたり,
Cから2発けん銃を発射されるなどしたが,
最終的には,Cが動けなくなるまで攻撃を加え,その直後,Cのけん銃の吊り紐を斧で切断してけん銃を入手した。そのときには,上記相談員は交番内で110番通報をしており,被告人とCの近くに人はいなかった。被告人は,入手したけん銃を構えて同交番内に入ったが,上記相談員は交番の外に逃げていたため,交番内には誰もいなかった。
被告人は,その後,交番を離れて付近を徘徊し,その間,母親に対し,スマートフォンで部屋に入っていいから漫画を全部燃やしてほしいという内容のメッセージを送り,スマートフォンを投棄し,自身が負ったけがの止血処理をするなどした。
被告人は,その後,入手したけん銃を使用して,判示第5以降の犯行に及んだ。
被告人は,判示第5の犯行後の同日午後2時25分頃,駆けつけた警察官に現行犯逮捕された。被告人はこのとき警察官にけん銃で撃たれて負傷したことからその後入院した。
被告人は,入院中の同年8月17日,病院で,弁護人から事情聴取を受けた。
被告人は,同年10月10日,通常逮捕され,捜査機関による取調べが開始された。
3
検討
検察官は,被告人が,警察官を殺害してけん銃を奪い,奪ったけん銃でさらに別の警察官を無差別に殺害することを繰り返すことを計画して奥田交番を襲撃したと主張し,平成30年10月10日の通常逮捕当日に作成された被告人の警察官調書(乙2)には,
まずは,警察官を殺害して拳銃を奪うためにその交番に行きました。奪った拳銃を持って,そのほかの交番とか警察署に行って,警察官を殺して回ろうと思っていました。殺した警察官から拳銃を奪って,また次のところで警察官を殺して拳銃を奪うことを繰り返そうと思っていました。と記載されている。確かに,前記2認定のとおりの被告人の行動は,検察官の主張に沿うもののようにも思われる。
しかしながら,被告人が,奥田交番で警察官と戦うことを考え始めてから実行に移すまでの時間は1時間に満たない程度であり,奥田交番を襲撃する前に,襲撃後の具体的な行動を計画していたことを示す客観的な証拠は見当たらない。また,奥田交番襲撃後の被告人の行動も半ば行き当たりばったりといえるようなもので,事前に想定していた計画に沿った行動をしているとは必ずしも解されない。
で,奥田交番に向かう途
中で考えていたことについて,
警官とそういうこと,そういう状態になったんだったら,そりゃ,刃物持った,そういう人間に対して警官がとる行動といったら分かり切ったことですし,たぶん撃たれるんだろうなという,たぶんというか,撃たれるのは必至だろうな,っていうことは考えてましたね。と述べ,さらに,以下のようなやり取りをしている(弁15。以下単に弁15という。。)
弁護人

戦いに勝ちたい,っていうふうに思ってたんですか。

被告人

そうですね。


弁護人

勝つというのは殺すということですね。

被告人「はい。
弁護人

そうすると,死にたいと思ってたわけじゃなくて。

被告人

あーそうですね,死ぬだろうなとは考えてたんですけど,死にに行こうって考えてそうしたんじゃないと思います。

(中略)
弁護人

で,勝ったら当然,自分は死なないってことになるわけですよね。その後のことは何か考えてたんですか。

被告人

いやー,一切。とにかくその,そこに行って,する,っていうことだけしか考えてなかったので。

弁護人

今回,格闘して,Fの言い方だと勝ったわけですよね。で,その後のことは何も考えてなかったわけですね。その後のこと,勝った後について,何かこう…。

被告人終わった後のことに関して?
弁護人

そう。終わった後について,何か考えたことってあります。

被告人

その,始める前にですか。

弁護人「始める前。
被告人

ああ,いえ。


弁護人

何も考えてなかったわけね。

被告人「はい。
(中略)
弁護人

で,警察官が持っていたけん銃を持って行ってますよね。それは,どうしてけん銃を持って行こうってことに?

被告人

ああ,生き残った,その,自分が死なずに生き残ったってことは,当然次の警官との戦いがあると思ったので,当然武器は確保しなきゃいけないな,と思ったので,けん銃を奪いました。

弁15のやり取りの中では,確かに,検察官指摘のとおり,けん銃奪取の目的がいつからあったのかを問う質問はなされていない。しかしながら,前記のやり取りにおける被告人の発言を素直に解釈すれば,被告人が奥田交番を襲撃する前には,そこでけん銃を奪い次の警察官を狙うということまでは考えておらず,Cとの戦いが終わり,自分が生き残った時点で初めて,次の警官との戦いのための武器を確保しなければならないと思って,Cからけん銃を取ったという趣旨に理解される。この事情聴取の際に,けん銃奪取の意思が発生した時期の法律的な意味について被告人が認識していたと認め得る証拠はなく,自らの刑事責任を軽減する意図で上記のように述べていると断ずることもできない。これらの供述内容や,前記のような奥田交番襲撃前後の被告人の行動によれば,被告人が,奥田交番を襲撃する前に,奥田交番で警察官と戦い,けん銃を奪って,さらに次ということを具体的に想定していたとは考え難く,
ともかくも警察官と戦うという意思を抱いてから,
偶々
そのとき一番近くにあった交番である奥田交番に赴くこととし,最初の戦闘で死ぬことさえ想定していた被告人が,Cと戦って生き残ったことで初めて次の戦闘の準備の必要が生じた時点で,目の前にあったけん銃を取ることを決め,それを使用したという経過であったということも十分に考えられ(後記⑹参照),このように考えても客観的な被告人の行動と矛盾しない。この点,検察官は,Cを倒してからけん銃を入手するまでの被告人の手際の良さなどに照らせば,被告人が当初からけん銃の奪取を考えていたと主張する。
しかしながら,Cは,被告人との格闘の中でけん銃を使用しており,被告人がCとの格闘を終えたときには,けん銃は被告人の目につくところに存在していたと推認できる。そして,そのときには周囲に他に人はおらず,被告人がけん銃を入手した方法も,吊り紐を既にリュックサックから取り出していた斧で切断するという単純なものである。また,被告人は,以前,自衛隊に入隊していた際,射撃訓練を受けたことがあり,自宅の自室からはモデルガンや銃関連の雑誌が見つかっているなど,銃を手にすることの心理的抵抗は高くなかったとみられる。そうすると,Cを倒してからけん銃を入手するまでの時間の短さは,Cを倒した後にけん銃を取る意思が発生したとしても特段不自然とは解されない。
その他,検察官は,奥田交番襲撃後,被告人が,弾切れを惜しむことなくけん銃のみを使用し続けたこと,制服警察官又はそれと誤認し得る者のみを狙ったことから,被告人が警察官を狙いけん銃を奪うことを目的として行動していた旨主張するが,これらの点は,被告人が,奥田交番襲撃前にけん銃を奪う意思を有していたことを推認させる事情とは解されない。なお,弾切れを惜しむことなくけん銃を使用し続けたという点については,むしろ被告人はEを射殺した後けん銃の弾丸がなくなったにもかかわらず,同人がけん銃を腰に付けていないのを見ただけで,それ以上に所持品等を十分確認まではせずにDを追跡しており,けん銃を奪うということにどこまで意識が向いていたのか疑問も残る。
ところで,被告人は,前記2⑽の通常逮捕当日の警察での取調べで,取調官からの問いに対し,以下のとおりの供述をしている(甲111)。
すなわち,取調官からの,けん銃を取りに奥田交番に行ったのかという問いに対し,
それを認める趣旨の供述をした後,
その点についての訂正を求め,
警察官を殺すために交番に行ってその結果として武器を奪った旨述べ,その後最初から武器を奪おうと思っていた旨の供述をしたものの,取調官からの,警察官を殺してけん銃を奪おうと思っていたのかという問いに対し,警察官を殺すために行って結果的に自分が生き残ったからその人の持っていた武器を奪ったと述べ,取調官から,殺したからけん銃を奪ったのか,もともとけん銃が欲しくて殺してけん銃を奪ったのかと重ねて問われたのに対し,

どう説明したもんかな・・・あっ,武器を奪うっていう目的もあったんですけど,一番の目的は警察官を殺すことだったって言えばいいですかね。

などと述べ,取調官から

あなたの気持ちだから。でも,ほたら,警察官を殺す目的ちゅう話,今したよね。なんで。

と尋ねられ,自分は刃物だけだったが警察官は銃というずっと安全で強い武器を持っているからそういう人間と戦えば自分の中で踏ん切りがつくなどと説明した後

あ,もう,説明できん。などと述べ,

取調官から
警察官を殺してけん銃を奪い取るため,で,やっぱ警察署,交番を回って,警察官をどんどん殺してこうかなと思った(のか)などという問いに対し

はい,それでいいです。なんか考えすぎて気分悪くなってきたんですけど。

と供述している。弁護人との面談や捜査段階の取調べにおける被告人の供述態度,供述内容などからは,被告人に,自身の罪責を軽減させようという意図や姿勢はうかがわれない。そのような被告人が,警察官と戦って殺害する意思であったという供述を,自身の言葉で繰り返し一貫して述べているのに,けん銃を奪う意思に関する供述は曖昧で揺れている。上記供述中,
最初からの最初とは
文脈上奥田交番を襲撃する時点という意味に解されるものの,
その後にも
結果的に自分が生き残ったからけん銃を奪った旨の供述をしている。また,当初からけん銃を奪う意思があったのであればその旨述べればよく,説明に窮したり考えすぎて気分が悪くなるようなこととは考えられない。奥田交番の襲撃前に,けん銃を奪うという意思が,未必的にせよ明確に被告人の意識の中にあったのであれば,上記のような供述状況になるのはやはり不自然の感を否めない。上記のような供述状況からすると,ことけん銃奪取の意思については,その後の被告人の供述が,犯行当時の被告人の内心を正確に表現したものか,疑問を持たざるを得ない。前述のとおりの奥田交番襲撃前後の被告人の行動や,証拠に現れている中で時間的に本件各犯行に最も近く記憶が鮮明であると考えられる弁護人に対する供述内容も併せ考慮すれば,上記の程度の供述をもって,被告人に,奥田交番の襲撃前にけん銃を奪う意思があったと断じるにはためらいが残る。そして,被告人が,殺人の実行行為に着手してから,Cのけん銃を入手するまでは長くても2分程度であり,被告人自身,
死ぬか生きるかという格闘状況であったと解されることからすると,実行行為の着手後,終了までの間に被告人にけん銃を奪う意思が生じたことが確実であるともいえないし,
被告人自身もそのようなことは述べていない。
すなわち,奥田交番の襲撃前にけん銃を奪う意思があったとの認定ができなければ,実行行為終了後にその意思が生じた可能性は排斥できない。また,乙2号証作成後も,奥田交番を襲撃する前に警察官を殺してけん銃を奪おうと思っていたという旨の調書が複数作成されているが
(乙6,,
7)
そのもととなる取調べのやり取り
(甲112及び職7)
を見ても,
いずれも,
奥田交番を襲撃する前にけん銃を奪う意思を有していたことを明確に供述するものとはいえず,Cが動けなくなるまで攻撃を加え,生き残った後に入手する意思を生じたということと矛盾しないものであることからすれば,上記の各調書から殺害行為時のけん銃奪取の意思を認めることはできない。⑹

さらに,被告人は,平成30年10月29日付け検察官に対する弁解録取
書(乙8。以下単に乙8という。
)において,判示第5の1の犯行につい

私がなぜ警察官を殺そうと思って狙ったのかについては,うまく説明できません。

と供述している。同じ調書で被告人は

私がDに向けてけん銃を発射する際,私は,撃鉄を起こした状態で引き金を引きました。私は,このように撃鉄を起こして発射した方が,ブレが少なくなり,命中しやすくなるため,このようにしたのでした。

などとも供述していることからみても,被告人が同調書の取調べで刑事責任を軽減する意図を有していたとはうかがわれない。被告人が奥田交番で得たのは回転弾倉式けん銃で,装てんされている実包の数に限りがあることは明らかであり(実際は判示第2の事件前5発が装てんされていた。,かつ,既に奥田交番での格闘で2発が発射されたこ)
とを被告人は認識していた。そのような認識のもとで,被告人はDに対してけん銃を2発発射しているのである。検察官が主張するように,被告人が奥田交番を襲撃する時点で警察官を殺害してけん銃を奪い,そのけん銃を使ってまた別の警察官を殺害することを繰り返すことを計画しており,前記2⑽の通常逮捕当日の取調べのやり取りで当時の記憶が正確に喚起されたというのであれば,乙8の取調べでも,被告人が警察官であると誤認していたDを殺そうと思って狙った理由は,警察官を殺してさらにまた別の警察官を殺害するためにけん銃を奪うことになるはずであり,その点について被告人がなぜ前記のような供述をしているのか,腑に落ちないところである。むしろ,奥田交番を襲撃する時点では,死をも覚悟し,専ら強い武器を持った警察官と戦うというものであった被告人の目的が,
判示第2の犯行で生き残り,
けん銃を手にし判示第5の各犯行に及んだ時点ではそれと異なるものとなっていたため,被告人自身が,当初抱いていた目的からは,Dを射殺しようとした理由をうまく説明できなかったという可能性も否定できない。なお,検察官は,被告人の供述調書(乙2,6,7)が信用できる理由として,被告人が,1年か2年くらい前から警察官を殺害してけん銃を奪うことを考えていたということを述べていると指摘する。しかし,被告人の供述をみても,そのような思いは空想や妄想のたぐいにすぎず,その具体的な内容も,そのようなことを考えていた時期も明らかではない。その上,前述のとおり,被告人は,判示第1の事件をきっかけに自暴自棄になり,八つ当たりの矛先として,武器を持っている警察官であれば心理的抵抗が下がる,相手をしてくれると思ったと考えたのであって,以前から念頭にあった警察官の襲撃を実行,実現しようと考えたなどとは述べていない。そうすると,検察官指摘の点は,供述調書の信用性を大きく高めるものとはいえない。また,さらに,検察官は,被告人が,本来なら,銃を用心深く構えつつ,ゆっくりと確認しながら,慎重に捜索を進めつつやっていくものだが,刃物しか持っておらず,それができなかったので,外に呼び出したと供述していること,実際にけん銃を奪った後にそのような行動を実践していることを指摘する。しかしながら,被告人の上記の供述は,その当時に,銃を奪ってそのようにしようと考えていたと述べているものではなく,裏口のドアをノックして警察官を呼び寄せた理由を述べているだけであるから,被告人の上記の供述がけん銃を奪う意思の発生時期の判断を左右する事情に当たるとは解されない。


以上の検討によれば,Cに対する殺人の実行行為終了後に被告人にけん銃を取る意思が生じた可能性を排斥できず,被告人がけん銃強取の意思をもって殺害行為に及んだと認定するには合理的な疑いが残る。

(量刑の理由)
1
本件は,被告人が交番を襲撃して警察官1名を殺害した後,窃取したけん銃を
用いて警察官と誤認した警備員1名を殺害したという殺人2件を中心とする事案であるところ,これらは警察官を無差別に狙い,2名の尊い命を奪ったという悪質かつ重大な犯罪であり,検察官は本件において死刑を求刑している。死刑は,他の刑罰とは異なり被告人の生命そのものを永遠に奪い去るという点で,あらゆる刑罰のうちで最も冷厳で誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰であるため,その適用は慎重に行われなければならず,また,公平性の観点にも十分に意を払わなければならない(最高裁判所平成27年2月3日決定・刑集69巻1号1頁,同99頁)
。当裁判所は,死亡被害者が2名の殺人の事案のうち
特に死刑及び無期懲役刑が宣告されたものを中心とした量刑資料を踏まえて,本件において,死刑を選択することが真にやむを得ないと認められるかどうかについて,上記慎重さの要請及び公平性の確保の要請を意識しながら評議を行った。⑴

罪質等
まず,本件の罪質は重大であり,死亡被害者が2名の殺人の事案のなかでも相当に重い部類に属する。本件は,被告人が,交番を襲って警察官を殺害した後,取ったけん銃を用いてさらに警察官を殺害しようとして,警察官と似た服装をしていた警備員1名を殺害し,別の警備員1名を殺害しようとしたという警察官を狙った無差別殺人の事案である。これらの犯行は,警察官を狙ったもので一般的な無差別殺人とは異なるものの,いずれにしても強固な殺意のもとに敢行される犯罪であり,人命軽視の程度が大きく,また,被害が拡大する可能性が高い犯罪類型であるといえる。さらに,そのような罪質の重大性の帰結として,本件の社会的影響は大きく,本件は近隣住民に多大な不安や恐怖を与えたのみならず,交番襲撃事件として全国的に報道もされ,複数の模倣犯をも発生させた。


行為態様
Cに対する犯行態様は,奥田交番で勤務していた同人に対して斧とナイフで襲いかかり,もみ合いになる中で,けん銃を発砲されながらもひるむことなく身体に合計40か所の創傷を負わせたというものであり,これらの創傷の中には深さが10センチメートルを超える刺創が複数存在した。これら多数の創傷は,Cとの戦闘の中で生じたものであるため,無抵抗の者に対して一方的に苛烈な攻撃を加え続けた事案のような際立つ残虐性までは認められないとしても,その態様は極めて強固な殺意に基づいた残忍かつ冷酷なものといえる。また,Eに対する犯行態様は,奥田小学校正門付近を歩いていた同人に対して,走って近づき,その顔面に不意打ち的に至近距離からけん銃を発射したというものであるところ,これは被害者を確実に殺害することのできる方法であり,強固な殺意に基づいた,生命侵害の危険性の極めて高い卑劣な犯行であるといえる。



結果の重大性等
そして,本件において量刑上最も重視されなければならない点は,何ら落ち度のない2名の被害者の尊い命が奪われたことである。本件被害者らは突如として被告人から命を奪われたのであり,非業の死を遂げた2名の被害者の無念さは察するに余りある。そのような結果の重大性に鑑みれば,被害者遺族らが一様に峻烈な処罰感情を述べることも当然であるといえる。
当公判廷において,
被害者遺族らは,理不尽な理由で突然家族を失い,変わり果てた被害者らの姿を目の当たりにするなどしたことによる,深い喪失感,絶望感,悲しみや被告人に対する怒りの感情等を述べており,事件から2年以上経過した現在においてもそのような感情はおよそ癒されていない。これまで,被告人から遺族に対する謝罪や慰謝の措置は何ら講じられておらず,このような遺族らの心情には無理からぬところがある。
さらに,Dに対する殺人未遂は,同人に多大な恐怖を与えたものであり,また,本件では小学校付近で複数回けん銃が発砲されたものであるところ,児童らに与えた精神的な負担も結果の点で無視することはできない。


経緯,動機及び非難可能性(主に自閉症スペクトラム障害(以下ASDという。
)の影響について)
本件における警察官襲撃の動機は,被告人が,判示第1の事件の後,これまでも人間関係での失敗を繰り返していたにもかかわらず,Bに暴力をふるってアルバイトを辞めてしまい,同様の失敗を繰り返して社会の中で居場所を定めることのできない自身への失望や嫌悪感,これから何も展望のない人生を生き続けることへの諦めの気持ちや疲労感に加えて,いままで自身を拒絶した者たちへの敵意等の感情が爆発して自暴自棄になったことによるものである。このような動機自体,自身のうっ憤を全く無関係の第三者にぶつけるという極めて身勝手なものといえるものの,自暴自棄となるに至る経緯や自暴自棄になった後あろうことか警察官に対する襲撃を決意したことには,被告人のASDの特性が一定程度影響した可能性があるため,以下検討する。

G医師による鑑定の概要
本件では,
被告人に対してG医師による精神鑑定
(以下
G鑑定
という。

を実施したところ,G鑑定の概要は以下のとおりである。
被告人は,本件各犯行当時,ASDと診断される状態にあったと認められる。ASDとは,先天的な脳の機能障害であり,社会的コミュニケーションや対人的相互反応の障害,興味関心の限局と常同的・反復的行動を主たる特徴とするものである。IQについては正常の範囲内にあり,必要とされる社会的支援のレベルという観点からの被告人の重症度はレベル1かそれに達しない程度(最も社会的支援が必要なレベルはレベル3)であった。被告人のASDの特徴としては,
他人の気持ちを想像する共感性が欠如していること,
対人的相互関係を正しく読み取ることができず定型発達者であれば当然期待される社会的コミュニケーションができないこと,また,力や強いものへのこだわりがある。
被告人は善悪の判断及び衝動コントロールの点では問題がなく,幻覚や妄想といった精神病症状に支配されたという事情もない。本件各犯行は,被告人自身が考えて,被告人の意思に基づいて実行されたものである。他方,ASDは本件各犯行の動機形成や犯行に着手する際の心理的ハードルを低下させたという点では影響を与えた。なお,ここで心理的ハードルの低下とは,被告人の共感性の欠如,反省の方向が定型発達者の期待するものとならないことやこだわりの強さなど被告人のASDの総体的な影響により定型発達者よりも本件各犯行のような行動をとりやすかったという趣旨である。判示第1の事件に関しては,被告人は一つの物事の決まりに拘泥するというこだわりが強かったため,自分の順番ではない業務の交替を頼まれたことに耐えられなくなり文句を言ったところ,日頃から被告人が一面的に評価して好ましく思っていなかったB店長に注意を受けたことによって怒りが爆発したというものである。同事件には,こだわりの強さや一面的な評価という点にASDの特徴が表れている。また,奥田交番を襲撃した動機は,それまで被告人の人生で積み重なった不平や不満,厭世観が判示第1の事件を契機として一気に高まったものである。被告人は力や強いものへのこだわりを有しており,自分よりも強い武器,つまりけん銃を持っている警察官を対象としたということは,ASDの心性から理解をすることができる。

H証人尋問の概要
本件では,G鑑定を前提として,被告人と面接を行い,本件へのASDの影響等について検討を行った,家庭裁判所調査官の職歴を有し公認心理師及び臨床心理士の資格を有するH証人(弁護人請求。
)の尋問も実施された。そ
の証言の内容は以下のとおりである。
ASDの特徴として,社会的交流,社会的コミュニケーション,社会的イマジネーションの3領域の質的障害がある。ASDによる特性は個人間で差があるところ,被告人は,社会的交流及び社会的コミュニケーションの障害の程度は軽いものの,社会的イマジネーションつまり他者視点の獲得という共感性及び想像力の点に重い障害を抱えているというアンバランスな状態にある。また,被告人は,武器や戦うことへの関心が非常に高く,また思考の柔軟性が低いため問題解決の対処においてその選択の幅が狭いという特徴がある。これらの先天的な資質を一次障害というのに対して,二次障害を社会生活における対人関係上のトラブル等で生じた様々な傷つき体験に伴って生じた心理的傷つきや精神的不調という意味であると定義した場合,被告人の二次障害は重いものであった。一次障害の重症度が比較的軽く,一見ASDであると気付かれにくい人ほど逆に二次障害が大きくなる傾向があるところ,被告人もこれまでASDであると気付かれず適切な療育を受けることができなかったことから,人間関係が複雑になる小学校高学年以降,周囲に理解者がおらず,怒り,不全感や不安等のネガティブな感情が積み重なっていた。そして,判示第1の事件が何をやっても結局うまくいかないという最後の体験となり鬱積した感情が頂点に達して絶望感を感じて,戦闘という点に唯一自信が残ったため,警察官を襲撃するという突発的な発想に至ったという面がある。被告人は,これまでの二次障害により戦闘をすることでしか自分の存在を見いだせなくなり,それ以外の問題解決方法は,想像力の障害や強い武器を持った相手と戦うという価値に対するこだわりから,思いつきにくい状態であった可能性がある。

検討
G医師は,その資格,経歴,鑑定経験等からしても十分な専門的識見を有し,公正さにも問題がない上,G鑑定は,計11回で合計19時間にわたる本人面接,双方当事者の意見を踏まえた各種の鑑定資料を基礎に,心理検査を含む医学的検査を踏まえて,確立した診断基準に基づいて行われたものであり,その前提とする事実や推論の過程にも不合理な点は見当たらず,十分な信用性が認められる。また,H証人は,一方当事者の請求した証人であるが,
その資格,
経歴,
鑑定経験等からしても十分な専門的識見を有しており,
その証言は,前記のとおり信用性が認められるG鑑定を前提とし,5回の本人面接,各種の鑑定資料を基礎に,G鑑定と異なる観点から検討を加えたものであって,その証言には信用性が認められる。
そこで,G鑑定を基礎とし,H証言の内容をも踏まえて,以下検討する。弁護人は,本件各犯行時,ASDの影響により,被告人には善悪の判断能力はあったが,行動制御能力(その判断によって思いとどまる力)が低下しており,責任能力が相当低下していた旨主張している。
この点,G鑑定によれば,前記のとおり,被告人の共感性の欠如などのASDの総体的な影響により,犯行に着手する際の心理的ハードルを低下させたという点での影響があったことが認められる。もっとも,G鑑定の趣旨は,本件各犯行に,幻覚や妄想といった精神病症状が介在している事実はなく,本件各犯行は被告人の意思に基づいて行われたものであり,前記の心理的ハードルの低下という点は,犯行の意思決定とこれを思いとどまる能力そのものには影響を与えておらず,犯行動機を形成し実行に至る過程において心理的な面で影響を与えたというものであると理解される。実際,本件各犯行をみても,被告人は,周囲の状況を判断し,これに則した,自らの目的に沿った行動を取ることができている。判示第2の犯行においては正面から奥田交番内部の様子をうかがい,車両の数から警察官の人数を推測し,自らに有利な状況に持ち込むために裏口から交番内の警察官を外に出そうとするなど,周囲の状況を踏まえ,これに則した,警察官と戦って勝つという自らの目的に沿った行動をしており,加えて,その後の判示第5の各犯行の後,建物の外観から自分が入った場所が学校ではないかと考えて躊躇し逡巡するなど,周囲の状況を判断しこれに則して行動している。
以上の点に鑑みれば,本件各犯行時,被告人において行動制御能力が低下していたとはうかがわれず,責任能力が低下していたという疑いは生じない。
次に,責任能力とは別に,本件各犯行に対する非難可能性の面でのASDの影響について検討する。
a
G鑑定の要旨は前記のとおりであり,これを敷衍すると,被告人がA
SDという発達障害を有していたことは,以下のとおり,本件各犯行,殊に判示第2以下の各犯行の動機形成に影響を与えたものである。すなわち,判示第2以下の各犯行の動機は,被告人のそれまでの人生で積み重なっていた不満や不平や厭世観が,判示第1のAでの出来事を契機として,一気に高まったことにある。被告人の成育歴をみると,小学校高学年から協調性のなさやこだわりの強さが目立つようになり,周囲から孤立しいじめを受けるようになり,中学校ではこうした傾向が著明になり2年生の3学期からは不登校となり自宅に引きこもるようになった。中学生時に精神科のクリニックを受診したが診断を受けるに至らなかった。その後もアルバイトをしても長続きせず,唯一18歳時から比較的長く続いた自衛隊での勤務(決まった規律のとおりにやっていくという組織の中では比較的適応しやすかったものと考えられる。も,

周囲の状
況を適切に読み取れずしばしば暴力沙汰を起こし,本人にとって不本意ながら2年で除隊した。このように周囲と協調できず孤立し引きこもっていく過程には社会的コミュニケーションの困難さが見て取れ,また,相手の心情を全く理解できず一方的に自分の心情から反応することがしばしばあり,対人的相互関係を形成することの困難さを示しており,ASDの特徴をよく示している。そのような成育歴の中で鬱積していた不満等が,A店(平成30年4月からアルバイト勤務をしていた。
)におい
て,決まっていた排水溝清掃の当番の交替を指示されて反発し(ここにも物事の決まりに拘泥するというこだわりの強さが表れている。,日頃)
から言動が気に食わないと感じていた店長から注意を受けたことで立腹して判示第1の犯行に至ったことを契機に一気に高まり,判示第2記載の動機から,自分が持っているよりも強い武器であるけん銃を持っている警察官と戦って殺そうなどと考え,同犯行に及んだものである。以上を踏まえ検討する。判示第2の犯行の直接の動機自体は,被告人自身が述べているとおり
八つ当たり
以外の何物でもなく,
身勝手で,
酌量すべき点は全くない。しかしながら,前記のとおりの,本件各犯行に至る経緯,動機形成の過程においては,本人の努力では如何ともし難い先天性の脳機能障害に起因する発達障害であるASDの影響が様々な面で表れており,
かつ,
本件各犯行以前にその診断を受ける機会を逸し,
被告人自身がその原因を知ることができなかったことが,なおさら被告人が孤立感を強め,自己肯定感を低下させる一因となっていたということができる。
b
加えて,H証言の要旨は前記のとおりであるところ,これによれば以
下のことがいえる。すなわち,被告人のASDの特性として社会的コミュニケーションの障害の程度は軽いものの,社会的イマジネーションの障害の程度が重いというアンバランスな状態にあるのみならず,ASDによる一次障害の重症度が比較的軽く障害に気付かれにくいがために適切な療育を受けられず,H証人のいう二次障害が深刻なものとなってしまった面がある。
c
さらに,G鑑定で指摘されているとおり,被告人には力や強いものへ
のこだわりがあり,これはASDの心性から理解することができ,H証言で指摘されているとおり思考の柔軟性が低く問題解決における選択の幅が狭いという点も,本件の経緯,動機形成に影響を与えているということができる。

小括
以上のとおりであり,本件各犯行に至る経緯,動機形成の過程等に対するASDの影響については,被告人に対する非難可能性の点で,一定程度,被告人にとって酌むべき事情であるというべきである。



計画性
検察官は,被告人が,当初から警察官を殺害してけん銃を奪い,奪ったけん銃で次々と警察官を殺害することを繰り返すことを計画していたものであり,本件の計画性は高いと主張している。しかし,前記事実認定の補足説明のとおり,被告人が奥田交番襲撃前にけん銃を奪う意図を有していたことには疑いが残り,被告人が当初から奪ったけん銃を用いて無差別に警察官を殺害しようとしていたとまではいえず,
検察官が主張する計画があったことは認められない。
その上で被告人の準備状況を検討するに,被告人は,判示第1の事件後,交番襲撃を決意し,スマートフォンで最寄りの交番を検索して徒歩で奥田交番へ向かった。そして,交番内を窓越しから目視した状況と裏口の駐車されていた自動車の数から交番内にいる警察官の人数を2名と予測し,使い勝手のよさ等から斧とナイフを準備し,一度に二人の警察官と戦うことを可及的に避けるため間口の狭い裏口から呼び出して襲撃をした。以上のとおり,被告人は,警察官と戦って殺害するという目的に向けて,その目的を成就させるために被告人なりに考え,工夫をしていることが認められる。しかしながら,被告人が交番襲撃を決意してから判示第2の犯行までは1時間に満たない程度であるし,犯行に用いた武器は犯行を決意してから準備したものではない(なお,被告人が武器を所持していた理由は定かではないが,G医師は,武器などにこだわりを持っていた被告人がこれらを所持していたことは,被告人のASDの特性からして不自然ではない旨供述している。。判示第2の犯行後,判示第5の各犯行に)
及び,
現行犯逮捕に至るまでの経過をみても,
行き当たりばったりな面があり,
事前に決められた計画に基づいて行動していたとはうかがわれず,結局,第2の犯行開始から20分にも満たないうちに現行犯逮捕されるに至っている。これらの事情からすれば,
本件各犯行の計画性は,
高いとはいえず,
そのことは,
不幸にして2名の被害者が殺害されたとはいえ,他に人的被害が生じなかったことの原因ともなっており,この点は,本件の犯情を評価する上で無視することはできない。この点,検察官は,計画性の高さは,生命侵害の危険性の高さや生命軽視の度合の大きさという観点から検討すべきであるところ,被告人の資質や携行品からすれば生命侵害の危険性の高い犯行を行うためには準備期間は不要であり,また,被告人の殺意は強固であって,生命軽視の度合は相当な準備期間を経た場合と同視できると主張する。しかし,先に述べたところからすれば,こと被告人の計画性自体に,周到な準備を経て行われた事案ほどの生命侵害の危険性の高さ,生命軽視の度合の大きさが表れているものとまではいえない。
2
以上のとおり,C及びEに対する殺人を中心とした罪質,行為態様及び結果の
重大性からすれば,被告人の罪責が極めて重大であることは明らかである。一方で本件各犯行の特徴として,その経緯や動機形成の点にASDの影響が色濃く表れている点が挙げられる。当裁判所は,死刑がやむを得ないといい切れるか慎重に検討を進める中で,責任能力が低下していたとはいえない以上,この点を大きく斟酌することができないことは前提として,本件の経緯,動機形成においてASDの影響があることは明らかであることから,一定の限度で被告人に有利に考慮することが相当としたものである。さらに,本件は計画性が高いとはいえない事案でもある。これらの事情を考慮して,評議の際に量刑資料としたもののうち死刑が選択された殺人事件と比べると,それらと同程度にまで極めて重大なものであるとまで評価することはできず,死刑を選択することがやむを得ないとまではいえないと判断した。
一方で,被告人は本件各犯行当時21歳という若年ではあるものの,本件各犯行後当公判に至るまで遺族に謝罪や慰謝の措置を何ら講じておらず,そのような反省の態度にはASDの影響があるにしても,更生への道のりは長く険しいものである。また,前科がないことなど,その他被告人に有利な一般情状について検討しても,犯情面での重大性に鑑みれば,無期懲役よりも刑を下げることができる事情は存在しない。
被告人に対しては,ASDに理解のある者のサポートも受けながら,この先長い人生の全てをかけて,被害者及び被害者遺族らの筆舌に尽くしがたい痛みを理解した上,自らがいかに重大な過ちを犯したのかを考え続けること,また,生涯にわたる贖罪を行うことが当然の務めであることを付言し,主文のとおり判決する。
(求刑

死刑,主文同旨の没収)

令和3年3月9日
富山地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

大村泰平
裁判官

小林礼子
裁判官

岡本
健太朗

トップに戻る

saiban.in