判例検索β > 令和2年(行ケ)第10030号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和2(行ケ)10030
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和3年4月28日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型行政訴訟
裁判日:西暦2021-04-28
情報公開日2021-05-06 18:02:27
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令和3年4月28日判決言渡
令和2年(行ケ)第10030号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

令和3年3月1日
判決原告
株式会社日本アルファ

同訴訟代理人弁護士

加藤光宏
同訴訟代理人弁理士

川口光男大嶋泰貴被告丸
同訴訟代理人弁護士

松本好史竹田千穂小澤壯夫
同訴訟代理人弁理士
主1一株式会社文
特許庁が無効2019-800019号事件について令和2年
2月6日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文第1項と同旨

第2
1
事案の概要
特許庁における手続の経緯等

⑴ア

原告は,平成22年5月18日,発明の名称を排水栓装置とする発明について特許出願(以下本件出願という。
)をし,平成28年7月2
9日,
特許権の設定登録
(特許第5975433号。
請求項の数1。
以下,
この特許を本件特許という。
)を受けた(甲19,23)



被告は,平成28年11月28日,本件特許について特許無効審判(無
効2016-800131号事件。以下別件無効審判という。
)を請求
した(甲23)

原告は,平成29年2月9日付けで特許請求の範囲及び明細書について訂正請求(以下本件訂正という。甲22)をした。
特許庁は,同年9月20日,本件訂正を認めた上で,別件無効審判を請求不成立とする審決(以下別件審決という。
)をした。
被告は,別件審決の取消しを求める審決取消請求訴訟(知的財産高等裁判所同年(行ケ)第10189号事件)を提起したが,同裁判所は,平成30年9月4日,
被告の請求を棄却する旨の判決をし,
その後,
同判決は,
確定した。これにより別件審決(本件訂正を含む。
)は,同月20日,確定
した(甲23)



被告は,平成31年3月7日,本件特許について特許無効審判(無効2019-800019号事件)を請求した。
特許庁は,
令和2年2月6日,

特許第5975433号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。

との審決(以下本件審決という。)
をし,その謄本は,同年2月17日,原告に送達された。



原告は,令和2年3月10日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2
特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,
次のとおりである
(以下,
請求項1に係る発明を本件発明という。下線部は本件訂正による訂正箇所である。甲22)

【請求項1】
水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて排水口部を形成し,該排水口部には,排水口金具を露出しないように覆うカバーが該円
筒状陥没部内に設けられ,その円筒状陥没部内を上下動するカバーが,前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径であるとともに,前記円筒状陥没部に接触せず,
止水時には,
水槽の底部面に概ね面一とされ,
該カバーの下面には,
排水口金具とで密閉可能に止水するパッキンを挿通保持する軸部が設けられて排水栓を構成し,該排水栓の昇降でパッキンによる開閉がされることを特徴とする排水栓装置。
3
本件審決の理由の要旨


本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,本件発明は,本件出願前に頒布された刊行物である甲1(独国実用新案第29904139号明細書)に記載された発明及び周知技術に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものであり,
本件特許は,
特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,無効とすべきものであるというものである。



本件審決が認定した甲1に記載された発明(以下甲1発明という。,)
本件発明と甲1発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。

甲1発明
浴槽の底部1は,開口部を有し,その縁部2は,貫通する方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって成形され,この開口部の中には,排水装置が挿入されており,この排水装置は,おおよそ筒状を呈した排水ケーシング3を有しており,排水ケーシング3の上端部にはパッキン5を保持し固定するフランジ4が配置されて,上記縁部2の下端が該パッキン5に接しており,上側からは,排水カップ6が,排水ケーシング3の中へネジ固定により挿入されて,上部外側の縁部分で浴槽の底部に接しており,排水カップ6の内側には,排水カップ6の上端の径と略同径の閉塞板7が挿入されており,タペット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりさせたりすることができ,閉塞板7は,開口部に接触せず,閉鎖時には,浴槽の底部1に概ね面一とされ,閉塞板7の裏側には,径内方向に凹んだ断面コ字状の環状の溝部が設けられ,該溝部にパッキンが保持されている,排水装置(判決注・甲1発明のうち,
下降させたりさせたりとの記載は,
下降させたり
の誤記と認め,
以下においては,
下降させたり
と表記する。


本件発明と甲1発明の一致点及び相違点
(一致点)
水槽の底部に,貫通する方法で下側に向かって形成された縁部が,排水口金具と接続管とで挟持取付けられて排水口部を形成し,該排水口部には,排水口金具を露出しないように覆うカバーが設けられ,上下動するカバーが,前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径であるとともに,前記縁部に接触せず,止水時には,水槽の底部面に概ね面一とされ,該カバーの下面には,排水口金具とで密閉可能に止水するパッキンを挿通保持する軸部が設けられて排水栓を構成し,該排水栓の昇降でパッキンによる開閉がされる排水栓装置。である点。(相違点1)
縁部について,本件発明は,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられているのに対し,甲1発明は,貫通する方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって縁部2が形成されて,該縁部2が挟持取付けられている点。(相違点2)

排水口部のカバーが,本件発明は,円筒状陥没部内に設けられ,その円筒状陥没部内を上下動し,円筒状陥没部に接触しないのに対し,甲1発明は,円筒状陥没部や内向きフランジ部が形成されていないので,本件発明のような構成を備えていない点。
4
取消事由
本件発明の進歩性の判断の誤り

第3

当事者の主張

1
原告の主張


相違点の認定の誤り及び看過

甲1に記載された事項の認定の誤り
本件審決は,甲1の図面(別紙2参照)から,次の(ア)から(カ)の事項を看取できると認定した上で,甲1には,甲1発明(前記第2の3⑵ア)が記載されていると認定したが,以下に述べるとおり,認定事項(ア),(イ),(ウ)及び(カ)については,(ア)’
,(イ)’
,(ウ)’及び(カ)’と認定すべきであ
るから,本件審決の上記認定に誤りがある。
【本件審決における認定事項(ア)ないし(カ)】
(ア)縁部2は,湾曲しながら徐々に下側に向かっている。(イ)縁部2の下端は,パッキン5に接している。(ウ)排水カップ6の上端の径は,閉塞板7の径と略同一である。(エ)閉塞板7は,開口部に接触しておらず,下降した際に浴槽の底部1と概ね面一となる。(オ)閉塞板7の裏側には,径内方向に凹んだ断面コ字状の環状の溝部が設けられている。(カ)溝部にパッキンが保持されている。
【認定事項(ア)’
,(イ)’
,(ウ)’及び(カ)’

(ア)’縁部2は,上に凸に湾曲しながら徐々に下側に向かっている。(イ)’縁部2の下端は,その一辺においてパッキン5に接している。(ウ)’断面図に表れる限り,排水カップ6の上端の幅は,閉塞板7の幅と略同一であり,閉塞板7は下降した状態で排水カップ6と接触している。(カ)’溝部にパッキンが,排水カップ6と接触しない状態で保持されている。(下線部は,本件審決の認定との相違箇所である。

【認定誤りの理由】
認定事項(ア)’及び(イ)’については,甲1の図面から読み取ることができる。
認定事項(ウ)’については,甲1の図面には,タペット8を押し上げるアームを備えたレバー9が示されているが,レバー9が中心線に沿って旋回するとすれば,タペット8は中心線からずれた断面上を上下動し,排水のための開口部も,排水ケーシング3の中心からずれた位置に形成されることになるから,甲1の図面は,排水ケーシングの中心線を含む断面を表しているとはいえない。
したがって,排水カップ6の上端の径と閉塞板7の径が略同一
であるとはいえず,排水カップ6の上端の幅は,閉塞板7の幅と
略同一であると認定すべきである。また,閉塞板7は下降した状態で排水カップ6と接触している点も認定すべきである。
認定事項(カ)’
については,甲1の図面では,
パッキンを示す網がけ部分
と排水カップ6とが離れていることが示されているから,溝部にパッキンが,
排水カップ6と接触しない状態で
保持されていると認定すべきであ
る。

相違点1及び2の認定の誤り
甲1の認定事項(ア)’
,(イ)’
,(ウ)’及び(カ)’を踏まえると,本件審決が

認定した相違点1及び2には誤りがあり,以下の相違点1’及び2’のとおり認定すべきである
(下線部は,
相違点1及び2との相違部分である。。

(相違点1’

縁部について,本件発明は,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられているのに対し,甲1発明は,円筒状陥没部を有さず貫通する方法で上に凸に湾曲しながら徐々に下側に向かって縁部2が形成されており,当該縁部2には排水カップ6の上端が接するとともに,当該縁部2の下端の一辺にパッキン5が接している点。
(相違点2’)
排水口部のカバーが,本件発明は,排水口金具のフランジ部とほぼ同径であり,排水口金具を露出しないように覆うものであるとともに,円筒状陥没部内に設けられ,その円筒状陥没部内を上下動し,円筒状陥没部に接触しないのに対し,甲1発明は,排水カップ6の内側には,閉塞板7が挿入されているものの,閉塞板7は,断面図に表れる限り,排水カップ6の幅と略同一幅であるにすぎず,縁部2の内側に接触しないとも断言できないものであり,円筒状陥没部や内向きフランジ部が形成されていないので,本件発明のように円筒状陥没部内に設けられ,その円筒状陥没部内を上下動するという構成を備えていない点。

相違点の看過
甲1の認定事項(ア)’
,(イ)’
,(ウ)’及び(カ)’を踏まえると,本件発明と
甲1に記載された発明とは,相違点1’及び2’のほかに,次の相違点3においても相違するから,本件審決には相違点3に係る相違点の看過がある。
(相違点3)
本件発明は,排水栓を構成するカバーの下面には,軸部が設けられ,そ
こに排水口金具とで密閉可能に止水するパッキンを挿通保持しており,当該排水栓の昇降でパッキンによる開閉がされるのに対し,甲1発明は,閉塞板7の下面には,排水カップ6と接触するパッキンは備えられておらず,閉鎖時には,閉塞板7と排水カップ6とが接触する点。


相違点1の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,相違点1に関し,甲3(実願昭61-10011号(実開昭62-125173号)のマイクロフィルム)
,甲5(特開2000-220
186号公報)
及び甲8
(実願平1-1988号
(実開平2-93373号)
のマイクロフィルム)に記載されているように,
水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付けることは,本件出願前の周知技術(以下本件周知技術という場合がある。
)にすぎないから,取付
けの強固さや水密性等を考慮して,甲1発明の縁部2の構成を,本件周知技術のように,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付けることによって,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである旨判断したが,以下のとおり誤りである。

甲1には,甲1発明の縁部2が,排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられていることについての開示はない。
また,仮に甲1発明の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられているのであれば,排水カップ6と排水ケーシング3は強固に取り付けられ,水密性の点で何ら問題はないはずであるから,取付けの強固さや水密性等は,縁部2を相違点1に係る本件発明の構成とする動機付けとはなり得ない。


本件発明は,円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられること,円筒状陥没部内に設けられた
カバーが,その円筒状陥没部内を上下動し,止水時には,水槽の底部面に概ね面一とされることを特徴とするものである。
しかるところ,本件周知技術は,円筒状陥没部の底部に形成した内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付けるというものであって,甲1発明の閉塞板7
(カバー)に相当する部材が,円筒状陥没部内を上
下動し,下降した際(止水時)に,水槽の底面部に概ね面一とされる構成となることを示すものではない。
また,本件周知技術に係る周知例である甲3,5及び8は,底部の厚さに対して,一定の比率にある円筒状陥没部と内向きフランジ部を開示しているにすぎず,上記構成についての開示はない。
そして,甲1,3,5及び8には,いずれも,取付けの強固さや水密性等が課題であることについての記載はないから,取付けの強固さや水密性等が甲1発明に本件周知技術を適用する動機付けとはなり得ない。ウ
本件訂正後の明細書(以下,図面を含めて本件明細書という。甲19,22)には,本件発明は,止水の不良を回避しつつ,排水口金具のフランジ部の汚れを目立たなくするという課題の解決を目的とし,円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持され,内向きフランジ部の周囲の汚れを見えにくくするため円筒状陥没部の底部に排水口金具を取り付け,排水口金具のフランジ部とほぼ同径とし,排水口金具を露出しないように覆うカバーを,円筒状陥没部内を上下動するように設けることで,汚れを隠し,さらに,止水のためのパッキンを取り付け,円筒状陥没部内を上下動するカバーが,円筒状陥没部に接触せず,排水栓の昇降でパッキンによる開閉がされるようにすることで,着実な止水を実現するものであることの記載がある(【0002】,【0003】,【0005】等)。
一方で,取付けの強固さや水密性等は,本件発明の課題とは関係がない
から,甲1発明に本件周知技術を適用する動機付けとはなり得ない。エ
この点に関し被告は,甲1発明の縁部2と本件発明の内向きフランジ部は,構造,機能及び作用が共通し,両者は実質的に同一であるから,相違点1は実質的な相違点ではない旨主張する。
しかしながら,本件発明は,前記ウで述べたように,円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持されることで,内向きフランジ部の周囲の汚れを見えにくくし,その上で,排水口金具を露出しないように覆うカバーを,円筒状陥没部内を上下動するように設けることで,内向きフランジ部の周囲の汚れを隠し,一層目立ちにくくするという格別の作用効果を奏するものであるから,甲1発明の縁部2と本件発明の内向きフランジ部は,構造,機能及び作用が共通するものではなく,両者は実質的に同一であるとはいえない。
したがって,被告の上記主張は失当である。


以上のとおり,
甲1発明に本件周知技術を適用する動機付けはないから,
当業者が甲1発明及び本件周知技術に基づいて相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易になし得たとの本件審決の判断は誤りである。


相違点2の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,相違点2に関し,甲1発明の閉塞板7は,縁部2に接触しないから,甲1発明の縁部2の構成を,円筒状陥没部と,該円筒状陥没部の底部に形成した内向きフランジ部とすれば,
甲1発明の閉塞板7は,
結果的に,
円筒状陥没部内に設けられ,円筒状陥没部内を上下動し,円筒状陥没部に接触しないものとなることは,当業者にとって自明であるから,甲1発明の閉塞板7に本件周知技術を適用することによって,結果的に相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである旨判断したが,以下のとおり誤りである。

本件明細書の【0013】及び図1(別紙1参照)によれば,本件発明
の円筒状陥没部内を上下動するとの意義は,排水口金具を露出しないように覆うという機能を発揮する上で最も重要な部位であるカバーの最外縁部が,円筒状陥没部内をある程度のストローク量をもって上下動することを意味すると解すべきところ,甲1の図面は閉塞板7が下降状態であることを表しているから,甲1発明の閉塞板7は,底部1よりも上方の範囲で上下動し,
円筒状陥没部内を上下動するものとはいえない。

前記⑵イのとおり,
本件発明は,
円筒状陥没部内に設けられたカバーが,
その円筒状陥没部内を上下動し,止水時には,水槽の底部面に概ね面一とされることを特徴とするものであるが,本件周知技術は,甲1発明の閉塞板7(カバー)に相当する部材が,円筒状陥没部内を上下動し,下降した際(止水時)に,水槽の底面部に概ね面一とされる構成となることを示すものではない。
また,本件周知技術に係る周知例である甲3,5及び8は,底部の厚さに対して,一定の比率にある円筒状陥没部と内向きフランジ部を開示しているにすぎず,上記構成についての開示はない。
さらに,甲3,5及び8には,フランジ部の上方にカバーを収めつつ,その内部で当該カバーをある程度のストローク量をもって上下動させ得る内部スペースを有する構造についての開示もない。
そうすると,甲1発明の縁部2の構成を本件周知技術の構成と置換したとしても,円筒状陥没部内に設けられたカバーが,その円筒状陥没部内を上下動し,止水時には,水槽の底部面に概ね面一とされるという相違点2に係る本件発明の構成となるものではない。また,甲1発明において,閉塞板7(カバー)が,止水時に,水槽の底部面に概ね面一とされる構成を保持したまま,本件周知技術を適用して,相違点2に係る本件発明の構成とするには,甲1発明の種々の構成についての大がかりな調整及び変更が必要となり,当業者が容易に想到し得る範囲を超えるものであるから,そ
のような構成とする動機付けはない。

この点に関し被告は,①甲1発明の縁部2は,本件発明の内向きフランジ部と実質的に同一であり,本件発明の円筒状陥没部に相当するから,相違点2は,本件発明と甲1発明の実質的な相違点ではない,②仮に相違点2が実質的な相違点であるとしても,別紙4の参考図2に示すように,甲1発明に本件周知技術を適用することで,円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられるとともに,円筒状陥没部内に設けられたカバーが,その円筒状陥没部内を上下動し,止水時には,水槽の底部面に概ね面一とされる本件発明の特徴的な構成となるから,甲1発明の閉塞板7に本件周知技術を適用することによって,結果的に相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易になし得た旨主張する。
しかしながら,①については,本件発明の円筒状陥没部は,内向きフランジ部を有するのに対し,甲1発明の縁部2は,内向きフランジ部を有しないから,本件発明の円筒状陥没部に相当するものではなく,相違点2は,本件発明と甲1発明の実質的な相違点である。
また,②については,前記イで述べたとおり,甲1発明において,閉塞板7(カバー)が,止水時に,水槽の底部面に概ね面一とされる構成を保持したまま,本件周知技術を適用して,相違点2に係る本件発明の構成とするには,甲1発明の種々の構成についての大がかりな調整及び変更が必要となり,当業者が容易に想到し得る範囲を超えるものであるから,そのような構成とする動機付けはない。
したがって,被告の上記主張は失当である。


以上によれば,甲1発明の閉塞板7に本件周知技術を適用することによって,結果的に相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たとの本件審決の判断は誤りである。



小括
以上のとおり,本件審決には,甲1記載の事項の認定の誤り,相違点1及び2の認定の誤り,相違点3の看過,相違点1及び2の容易想到性の判断の誤りがあるから,本件発明は,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとあるとした本件審決の判断は,誤りである。
したがって,本件審決は,取り消されるべきものである。

2
被告の主張


相違点の認定の誤り及び看過の主張に対し
甲1に記載された事項の認定の誤りについて
(ア)

甲1の図面は,
以下のとおり,
排水ケーシング3の円形断面の中心線

における断面図を示したものである。
a
甲1(訳文甲1の2。以下同じ。
)には,
排水ケーシング3は,おおよそ筒状を呈していること,排水ケーシング3には,上方から排水カップ6が挿入され,ネジ留めされていること,排水ケーシング3の下端には,配管エルボー16が溝14と爪19との噛み合わせによって排水ケーシング3の軸回りに回転自在にされていることについての記載がある。
甲1の上記記載に加え,甲1の図面には,排水ケーシング3に断面であることを示すハッチングが施されているから,排水ケーシング3の円形断面の中心線における断面図が示されており,閉塞板7は,平面視において略円形であることを理解できる。

b
この点に関し原告は,甲1の図面には,タペット8を押し上げるアームを備えたレバー9が示されているが,レバー9が中心線に沿って旋回するとすれば,
タペット8は中心線からずれた断面上を上下動し,
排水のための開口部も,排水ケーシング3の中心からずれた位置に形
成されることになるから,甲1の図面は,排水ケーシングの中心線を含む断面を表しているとはいえない旨主張する。
しかし,甲1の図面が,排水ケーシング3の円形断面の中心線における断面図ではなく,それよりも下側(手前側)にずれた箇所の断面図であるとするならば,甲1において,その旨の注記がされるはずであるが,
甲1には何ら断面に関する注記がない。
また,
甲1の図面は,
排水ケーシング3の中心線における断面図(側面から見た状態の排水機構の断面図)に,レバー9の中心軸を通る垂直面を含む複数のレバー機構の断面図を組み合わせたものとみるのが自然である。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(イ)

以下のとおり,本件審決の認定事項(ア),(イ),(ウ)及び(カ)に誤りは
ない。
a
認定事項(ア)について
甲1の図面には,縁部2は,開口部の底部に位置しており,開口部を縮径するように下側に延出させるものであることが示されているから,本件審決の認定事項(ア)(

縁部2は,湾曲しながら徐々に下側に向かっている。)に誤りはない。


b
認定事項(イ)について
甲1の図面には,パッキン5はタートルネック形状であって,縁部2の下端面の部分で凹んでおり,縁部2の下端部は少なくともその二面においてパッキン5に接していること(縁部2の下端面とパッキン5の環状ディスク面,縁部2の内周面とパッキン5のタートルネックの外側面)が示されているから,本件審決の認定事項(イ)(

縁部2の下端は,パッキン5に接している。)に誤りはない。


c
認定事項(ウ)について
甲1の図面から,排水カップ6と閉塞板7の径が略同一であること,
閉塞板7が下降した状態においては,閉塞板7の下の溝部に設けられたパッキンで確実に止水するために当該パッキンが排水カップ6と当接し,閉塞板7は排水カップ6と接触しないことを理解できるから,本件審決の認定事項(ウ)

排水カップ6の上端の径は,(閉塞板7の径と略同一である。)に誤りはない。

d
認定事項(カ)について
前記cで述べたとおり,閉塞板7が下降した状態においては,パッキンが排水カップ6と当接しているから,本件審決の認定事項(カ)(

溝部にパッキンが保持されている。)に誤りはない。



相違点1及び2の認定の誤り並びに相違点3の看過について
前記アで述べたとおり,本件審決が認定した認定事項(ア),(イ),(ウ)及び(カ)に誤りはないから,
上記認定に誤りがあることを前提に,
相違点1及
び2の認定の誤り並びに相違点3の看過をいう原告の主張は,その前提において理由がない。



相違点1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し

相違点1が実質的な相違点でないこと
(ア)

一般にフランジ部は,管体等の部品の接合箇所に延出して形成

されるものである。複数の管体を軸方向に接合する際に,接合箇所に拡径又は縮径するように延出する接合部分を形成することは当業者における常套手段であり,
フランジは,このような管体の接合部分の一形
態として軸方向に直交する鍔状にしたものにすぎない。
(イ)

本件発明の内向きフランジ部は,接続管に接合される排水口金

具を円筒状陥没部の内部に位置決めして設置するために,円筒状陥没部の底部から内向きに突出することで円筒状陥没部の内径を縮径するように延出するものであり,排水口金具と接続管とで挟持取付けるものである。

このように本件発明の内向きフランジ部は,円筒状陥没部の底部
から縮径するように延出させることで排水口金具と接続管とで挟持取付けるものである必要があり,かつ,それで足りる。
一方,甲1の図面には,縁部2は,断面形状が内側に凸となる円弧状を呈し,下方向だけでなく内側方向にも延出することで,開口部を下側に向かって縮径することが示されており,このように開口部を縮径することによって排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付け
られるものである点において,本件発明の内向きフランジ部と甲1発明の縁部2は,構造的に共通している。
(ウ)

次に,本件明細書の【0013】に,
排水口金具3は,円筒状陥没部10底部に形成された内向きフランジ部11を接続管5とで挟持取付けて水槽の底部1に露出しないようにし,との記載があるように,本件
発明の内向きフランジ部は,
円筒状陥没部の底部に位置すること
で排水口金具が水槽の底部1に露出しない状態で排水口金具と接続管とで挟持取付けられるものである。
一方,甲1発明の縁部2も,
開口部の底部に位置することで排水口
金具が浴槽の底部1に露出しない状態で排水口金具と接続管とで挟持取付けられる点において,本件発明の内向きフランジ部と機能及び作用が共通する。
(エ)

以上によれば,甲1発明の縁部2は,フランジ形状を呈していない
としても,本件発明の内向きフランジ部と構造,機能及び作用が共通するから,実質的に同一である。
したがって,相違点1は,本件発明と甲1発明の実質的な相違点ではない。

相違点1の容易想到性
仮に相違点1が実質的な相違点であるとしても,甲1には,甲1発明の
縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられている構造が開示されている,
そして,水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付けること(本件周知技術)は,本件出願当時,周知であったことからすると,甲1に接した当業者は,取付けの強固さや水密性等を考慮し,甲1発明の縁部2に本件周知技術を適用することによって,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができたものである。
したがって,これと同旨の本件審決における相違点1の容易想到性の判断に誤りはない。


相違点2の容易想到性の判断の誤りの主張に対し

相違点2は実質的な相違点でないこと。
前記⑵アのとおり,甲1発明の縁部2は,本件発明の内向きフランジ部と構造,
機能及び作用が共通し,
本件発明の
内向きフランジ部
と実質的に同一であり,また,本件発明の円筒状陥没部に相当する。したがって,相違点2は,本件発明と甲1発明の実質的な相違点ではない。


相違点2の容易想到性
(ア)

仮に相違点2が実質的な相違点であるとしても,本件発明のカバーは,その下面に設けられた軸部を含むものであるところ,甲1の図面によれば,閉塞板7のカバー部分の下面に設けられた軸部は縁部2内を上下動するから,甲1発明において,閉塞板7は,縁部2内を上下動するものといえる。
そうすると,甲1発明において相違点1に係る本件発明の構成に相当する本件周知技術を適用すれば,甲1発明の閉塞板7は,相違点2に係
る本件発明の構成円筒状陥没部内に設けられ,(円筒状陥没部内を上下動し,円筒状陥没部に接触しない)を備えることは明らかである。
(イ)

これに対し原告は,甲1発明の縁部2の構成を本件周知技術の構成
と置換したとしても,円筒状陥没部内に設けられたカバーが,その円筒状陥没部内を上下動し,止水時には,水槽の底部面に概ね面一とされるという本件発明の構成となるものではない旨主張する。
しかしながら,甲1には,浴槽の底部1ないしレバー9の各関係について,
一つの浴槽の底部1は,一つの開口部を有しており,その縁部2は,貫通する方法で下側に向かって成形されている。この開口部の中には,排水装置が挿入されており,この排水装置は排水ケーシング3を有している。この排水ケーシング3は,おおよそ筒状を呈している。排水ケーシング3の上端部にはフランジ4が配置されており,パッキン5を保持し固定するための役割を担う。上側からは,排水カップ6が,排水ケーシング3の中へネジ固定により挿入されており,上部外側の縁部分で浴槽の底部に接している。排水カップ6の内側には,閉塞板7が挿入されており,一本のタペット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりすることができる。このタペットの操作を行うために,排水ケーシング3の中に一つのレバー9が旋回可能な状態で配置する。(訳文4頁)との記載があるが,一方で,甲1には,排水ケーシング3の上端部に配置されているフランジ4の水槽1の底面に対する高さ位置を甲1の図面の高さ位置(別紙4の参考図1参照)に固定しなければならないこと及びその固定の理由についての記載はないことからすると,甲1記載の水栓装置においては,フランジ4の高さ位置は縁部2の形状(深さや長さ)に合わせて自由に決めることができるものと理解できる。また,
甲1発明のカバー7の底面から下方に延出した雌ねじ部内には,
これに螺合するタペット8の雄ねじ部の上部に空間があるから(別紙4
の参考図1参照),タペット8を螺回させることでタペット8とカバー)
7との上下方向の距離を延長又は短縮することができること,これにより,カバー7とフランジ4との上下方向の距離が変化し,水槽1の底面に対するカバー7の高さ位置を調節することができることを理解できる。そうすると,甲1発明の縁部2を相違点1に係る本件発明の構成に置き換えた場合,別紙4の参考図2に示すように,上端部にフランジ4を配置した排水ケーシング3(青色部分)
,パッキン5(桃色部分)
,配管
エルボー16(緑色部分)
,タペット8(黄色部分)及びレバー9(赤色
部分)の高さ位置を変更することにより,カバー7は止水時に水槽1の底部面と概ね面一となり,
甲1発明における
上下動するカバー止が水時には,水槽の底部面に概ね面一とされる構成を保ったまま,閉塞板7は,
円筒状陥没部内に設けられ,円筒状陥没部内を上下動し,円筒状陥没部に接触しないとの構成(相違点2に係る本件発明の構成)となるから,原告の上記主張は理由がない。
(ウ)

以上によれば,本件審決における相違点2の容易想到性の判断に誤
りはない。


小括
以上のとおり,本件審決認定の相違点1及び2は実質的な相違点ではなく,本件審決には原告主張の相違点3の看過はないこと,仮に相違点1及び2が実質的な相違点であるとしても,相違点1及び2は容易想到であることからすると,本件発明は,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとあるとした本件審決の判断に誤りはない。したがって,原告主張の取消事由は理由がない。

第4

当裁判所の判断

1
本件明細書の記載事項について


本件明細書には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図1につ
いては別紙1を参照)


【技術分野】
【0001】
本発明は,洗面化粧台,浴槽,流し台などにおける水槽の底部に形成された排水口部を覆うカバーが設けられた排水栓装置に係るものである。【背景技術】
【0002】
従来の洗面化粧台,浴槽,流し台などにおける水槽の底部に形成された排水口部は,該排水口部に排水口金具を貫通して取付け,該排水口金具のフランジ部が水槽の底部表面に露出されているものであった。
ところが,水槽の底部表面に露出された排水口金具には,この排水口金具のフランジ部との境目に残水及び水垢などが溜り,これらにより汚れが目立ち,見苦しくなり,常時,清掃する必要を生じ,不都合であった。【0003】
そこで,洗面化粧台,浴槽,流し台などにおける水槽の底部に漸次縮径する陥没部を形成して排水口部とし,該排水口部には,陥没部の内面と面一のテーパ内面を備えた排水口金具が配設され,排水口部の開閉をする排水栓が,止水の閉状態において,排水口部内に位置され,且つ排水口金具より上方に位置されるようにし,残水及び水垢の溜り易い排水口金具の取付境目が隠れるようにしている。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
止水の閉状態は,排水栓が精度を出し難い排水口部内の排水口金具より上方位置でされ,残水及び水垢が溜り,汚れ易い排水口金具の取付境目を排水栓で隠し,見え難くしているが,止水の点で,排水口部内が精巧でない故に止水の密閉をし難く,水槽に精巧な排水口部を排水口金具と共に形
成することが困難なことであった。まして,陶器などの水槽になると,一層,精巧な排水口部の成形は困難で,精度が出し難く,精巧性の乏しい排水口部での止水は密閉性に支障をきたす。また,栓蓋下に隣接するパッキンによる閉状態の止水は,パッキンによる当接以前に栓蓋の縁が排水口部内面と当接して,パッキンによる密閉に不足を生じ,支障を起すことになり,都合悪い。
更に,漸次縮径する排水口部での排水栓による止水の閉状態は,楔形の排水口部への排水栓の嵌め込みとなり,嵌め込み状態からの排水栓の引き抜き開状態への操作は重くなり,芳しくない。
【0006】
そこで,本発明は,水槽の底部に円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられ,該排水口金具が露出されないように覆うカバーを円筒状陥没部内に上下動可能に設け,且つパッキンによる確実な止水を果すため,精巧に加工される排水口金具にパッキンを当接させることである。そして,このような排水栓装置を得ることを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の排水栓装置は,水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部には内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて排水口部を形成し,該排水口部には,排水口金具を露出しないように覆うカバーが該円筒状陥没部内に設けられ,その円筒状陥没部内を上下動するカバーが,前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径であるとともに,前記円筒状陥没部に接触せず,止水時には,水槽の底部面に概ね面一とされ,該カバーの下面には,排水口金具とで密閉可能に止水するパッキンを挿通保持する軸部が設けられて排水
栓を構成し,該排水栓の昇降でパッキンによる開閉がされるものである。ウ
【発明の効果】
【0008】
本発明の排水栓装置は,排水口金具が露出しないように排水口部を覆うカバーと,そのカバーの軸部に挿通保持される排水を止水するパッキンとで構成される排水栓でなり,これら相互が作用されることなく,独自に充分且つ正確な効果を果し得ることができる。例えば,パッキンは,カバーが排水口部の円筒状陥没部内にあって上下動可能で接触しないので,パッキンの押圧止水作用に妨げとならず,カバーの作用と関係なく排水口金具のフランジ部との密閉止水をすることができる。また,カバーは,パッキンの密閉止水の作用に関係なく位置設定ができ,水槽の底部面との概ね面一が簡単且つ容易に位置決めできる。
よって,排水栓は,そのパッキンを排水口金具のフランジ部に搭載するだけでの軽い接触でも排水を止水することができ,更に,カバーが水槽の底部面と概ね面一にされ,排水口部を覆うことになって排水口部内の汚れを覆い隠すことができ,見栄え良くできる。
【0009】
本発明の排水栓装置は,レリースワイヤの作動部がカバー下面に設けられるだけの施工で,カバー下面の軸部に挿通保持されたパッキンによる排水口金具のフランジ部への接触が容易にでき,該接触による密閉で止水ができる。よって,このような排水栓装置の施工は,簡単且つ容易にできることになる。


【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】水槽の底部に円筒状陥没部を形成し,
該円筒状陥没部の内向きフ
ランジ部を接続管とで挟持取付けた排水口金具が露出しないよう排水口部
を覆うカバーと,該カバーの下方に設けられた軸部に挿通保持するパッキンとでなる排水栓を昇降可能とする排水栓装置の断面図であって,該排水栓の昇降による開閉状態を示すものである。

【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の排水栓装置は,図1に示す如く,洗面化粧台,浴槽,流し台などの水槽の底部1に円筒状陥没部10を形成し,該円筒状陥没部の底部には内向きフランジ部11が形成され,該内向きフランジ部が排水口金具3と接続管5とでパッキン材4を介して挟持取付けられて排水口部2を構成している。
排水口部2には,排水口金具3を露出しないように覆うカバー6が円筒状陥没部10内に設けられ,その円筒状陥没部10内を上下動するカバー6が,
止水時には,
水槽の底部1に概ね面一とされ,
該カバーの下面には,
排水口金具3とで密閉可能にするパッキン7を挿通保持する軸部61が設けられて排水栓20を構成している。
【0012】
排水口金具3には,レリースワイヤ8の作動部81が支持部材9をもって支持され,該作動部が支軸82を介してカバー6の下面に付設され,カバー6の下面に設けられた軸部61に挿通保持されたパッキン7がレリースワイヤ8による遠隔操作で作動され,開閉させる。なお,カバー6下面には,
ガイド筒62を設け,
該ガイド筒がレリースワイヤの作動部81によ
ってガイドされて排水栓20の昇降を行われる。
【0013】
排水口金具3は,円筒状陥没部10の底部に形成された内向きフランジ部11を接続管5とで挟持取付けて水槽の底部1に露出しないようにし,排水口金具3が該円筒状陥没部10の底部に取付けられた排水口部2に
は,円筒状陥没部10内に排水栓20のカバー6が上下動可能に設けられることによって,排水口部2が覆われ,排水口金具3の取付境目などに生じる残水や水垢による汚れなどが隠されて都合良い。
また,カバー6は,止水のために設けられたパッキン7の密閉性の作用と関係なく,円筒状陥没部10内を上下動可能に設けられているので,位置設定を簡単且つ容易にでき,カバーにつまづくことを防止するため,カバーの頂面60が水槽の底部1面と概ね面一になるよう円筒状陥没部10の縁とカバー6の縁との位置を略一致させることがよい。
【0014】
カバー6の下面に設けられた軸部61に挿通保持されたパッキン7は,成形加工上,精巧にし難い円筒状陥没部10との接触でなく,精巧な加工がし易い排水口金具3との接触であるため止水の密閉性を正確且つ確実に得ることができ,好都合になる。また,密閉性がよいので,排水栓20を排水口金具3に載置するだけでの止水ができ,更に,線接触による密閉がされるパッキン7を使用すれば,その効果は向上する。


前記⑴の記載事項によれば,本件明細書には,本件発明に関し,次のよう
な開示があることが認められる。

排水口金具のフランジ部が水槽の底部表面に露出された構造の水槽の底部に形成された排水口部においては,排水口金具のフランジ部と水槽の底部表面との境目に残水及び水垢などが溜り,これらにより汚れが目立ち,常時,清掃する必要を生じるという不都合があったため,従来の排水栓装置には,水槽の底部に漸次縮径する陥没部を形成して排水口部とし,該排水口部に陥没部の内面と面一のテーパ内面を備えた排水口金具を配設し,排水口部の開閉をする排水栓が,止水の閉状態において,排水口部内に位置され,且つ排水口金具より上方に位置されるようにして,残水及び水垢の溜り易い排水口金具の取付境目を隠れるようにしたものがあったが,排
水口部内が精巧でない故に止水の密閉をし難く,水槽に精巧な排水口部を排水口金具と共に形成することが困難であり,まして陶器などの水槽になると,一層,精巧な排水口部の成形は困難で,精度が出し難く,排水口部での止水は密閉性に支障をきたすという課題があり,また,栓蓋下に隣接するパッキンによる閉状態の止水は,パッキンによる当接以前に栓蓋の縁が排水口部内面と当接して,パッキンによる密閉に不足を生じ,支障を起すことになり,さらに,漸次縮径する排水口部での排水栓による止水の閉状態は,楔形の排水口部への排水栓の嵌め込みとなり,嵌め込み状態からの排水栓の引き抜き開状態への操作が重くなるという課題もあった(【0
002】【0003】【0005】。




本発明は,水槽の底部に円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられ,該排水口金具が露出されないように覆うカバーを円筒状陥没部内に上下動可能に設け,且つパッキンによる確実な止水を果すため,精巧に加工される排水口金具にパッキンを当接させる排水栓装置を得ることを目的とし,前記課題を解決するための手段として,水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部には内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて排水口部を形成し,該排水口部には,排水口金具を露出しないように覆うカバーが該円筒状陥没部内に設けられ,その円筒状陥没部内を上下動するカバーが,前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径であるとともに,前記円筒状陥没部に接触せず,止水時には,水槽の底部面に概ね面一とされ,該カバーの下面には,排水口金具とで密閉可能に止水するパッキンを挿通保持する軸部が設けられて排水栓を構成し,該排水栓の昇降でパッキンによる開閉がされるとする構成を採用した(
【0007】。

これにより本発明の排水栓装置は,排水口金具が露出しないように
排水口部を覆うカバーと,そのカバーの軸部に挿通保持される排水を止水するパッキンとで構成される排水栓でなり,これら相互が作用されることなく,独自に充分且つ正確な効果を奏することができ,カバーが排水口部の円筒状陥没部内にあって上下動可能で接触しないので,パッキンの押圧止水作用に妨げとならず,パッキンはカバーの作用と関係なく排水口金具のフランジ部との密閉止水をすることができ,また,カバーは,パッキンの密閉止水の作用に関係なく位置設定ができ,水槽の底部面との概ね面一が簡単かつ容易に位置決めができるため,排水栓は,そのパッキンを排水口金具のフランジ部に搭載するだけでの軽い接触でも排水を止水することができ,さらに,カバーが水槽の底部面と概ね面一にされ,排水口部を覆うことになって排水口部内の汚れを覆い隠すことができ,見栄え良くできるという効果を奏する(
【0008】。

2
相違点の認定の誤り及び看過について


甲1の記載事項について
甲1(独国実用新案第29904139号明細書)には,次のような記載がある(下記に引用する図面については,別紙2を参照)


本発明は,簡易な構造で,排水設備へとつながる導管に,配水管無しで接続することを可能にする構造の排水装置を作ることを目的とする。この課題を解決するために,本発明は,排水装置に請求項1に記載の特徴を提案する。本発明の拡張は,明細書の内容に関連する文面,並びに要約に関係するとみなされる物は,請求内容の対象物である。この配管エルボーの出口開口部を用い,排水設備へとつながる導管に簡単な方法で接続することが可能である。(訳文3頁)

さらなる特徴,個々の詳細,並びに発明のメリットは,以下に示す本発明の推奨する設計形状の描写,並びに図面により明示される。ここでは,唯一の図面が,本発明に基づく排水装置の横断面の形状を示している。ここに示された一つの浴槽の底部1は,一つの開口部を有しており,その縁部2は,貫通する方法で下側に向かって成形されている。この開口部の中には,排水装置が挿入されており,この排水装置は,排水ケーシング3を有している。この排水ケーシング3は,おおよそ筒状を呈している。排水ケーシング3の上端部にはフランジ4が配置されており,パッキン5を保持し固定するための役割を担う。上側からは,排水カップ6が,排水ケーシング3の中へネジ固定により挿入されており,上部外側の縁部分で浴槽の底部に接している。排水カップ6の内側には,閉塞板7が挿入されており,一本のタペット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりすることができる。このタペットの操作を行うために,排水ケーシング3の中に一つのレバー9を旋回可能な状態で配置する。旋回させるためには,例えばバウデンワイヤーを用いるが,このバウデンワイヤーは,その詳細は示されていない。(訳文3頁~4頁)ウ
排水ケーシング3の下側末端には,外側にパッキン11を受けるために環状の溝が取り付けられている。末端12から出て,パッキン11を受けている溝のところにこの部分13は接続する。この部分では,排水ケーシングの外側直径が,やや円錐状の面を形成するために,やや拡張されている。この円錐状の面には,さらにもう一つの環状の溝14があり,これに相対する側面は,フランジ15により形成される。フランジ15は,溝14の前の領域では,排水ケーシング3よりも大きな直径を呈している。(訳文4頁)


排水ケーシング3の下側の末端下側10と配管エルボー16は,接続されており,この配管エルボーは,排水口17の中で終わる。排水口17の面は,排水ケーシング3の軸に対して平行な面に位置する。言い換えれば,排出される水は,本排水口17を通り,排水ケーシング3の軸に対して垂直方向の軸に向かって流れ出る。配管エルボー16は,フラットシリンダー状の突起部18を呈しており,この突起部は,排水ケーシング3の末端部10に押しつけられている。図面では上部に位置するが,突起部18の外側の末端部分では,この排水ケーシングには,内側に向けられた幾つもの突起物や爪,あるいはこれに類似した物が全体に配置されている。これらの突起物は,溝14の中に噛み合わせるための物である。挿入する際には,この爪19は,部分13の錐面を超えてスライドさせ,部材の迫り出し部の下側,環状の溝14に落ちる。パッキン11は,突起部18をケーシング3に対してシールドしている。この突起部18は,平坦な部品21の所で,平坦なほぼ直角の横断面を呈するよう成形されている。この平坦な部品21には,再び横断面が丸くなるように,さらに進展する部品20が接続されている。配管エルボー16は,排水ケーシング3の軸に対して任意の方向付けで接続することができるので,排水口17は,さらに伸展する配水管と接続できるように,それぞれの取り付け場所の条件下で向きを変えられる。(訳文4頁~5頁)オ
請求の範囲1.浴槽,シャワー用防水パン,あるいはこれに類似したもので,1.1排水ケーシング(3)を備え,1.1.1これは,槽体の底部(1)の開口部領域の,槽体の底部(Boden)(1)下側に取り付けるためのものであり,1.1.2おおよそ筒状の形状をした,1.2排水カップ(6)で,1.2.1排水ケーシング(3)とともに機能し,1.2.2施工済みの排水設備では,槽体の底部(1)の開口部を通り接続されるものを備え,また1.3配管エルボー(16)を備えたもので,1.3.1この配管エルボーは,排水ケーシング(3)の下側の末端(10)に配置されており,また1.3.2排水ケーシング(3)の相対する側面に向けられた排水口(17)を有するもの。(訳文5頁)


甲1に記載された事項の認定の誤りについて
原告は,本件審決は,甲1の図面から,認定事項(ア)ないし(カ)(前記第3の1(1)ア)を看取できると認定した上で,甲1には,甲1発明が記載されていると認定したが,認定事項(ア),(イ),(ウ)及び(カ)については,認定事項(ア)’
,(イ)’
,(ウ)’及び(カ)’と認定すべきであるから,本件審決の上記認定に誤りがある旨主張する。
しかしながら,以下のとおり,原告の上記主張は理由がない。

前記⑴の甲1の記載事項及び図面
(別紙2)
によれば,
甲1の図面から,
本件審決が認定した認定事項(ア)ないし(カ)を看取できるものと認められる。

イ(ア)

原告は,認定事項(ア)の

縁部2は,湾曲しながら徐々に下側に向かっている。は,

認定事項(ア)’

縁部2は,の上に凸に湾曲しながら徐々に下側に向かっている。

と,認定事項(イ)の

縁部2の下端は,パッキン5に接している。

は,認定事項(イ)’の

縁部2の下端は,その一辺においてパッキン5に接している。と認定すべきであるから,

本件審決
の上記認定は誤りである旨主張する。
しかしながら,甲1の図面には,縁部2が湾曲しながら徐々に下側に向かっていること,縁部2の下端はパッキン5に接していることが示されているから,
認定事項(ア)及び(イ)は誤りであるということはできず,
原告の上記主張は,採用することができない。
(イ)

原告は,甲1の図面には,タペット8を押し上げるアームを備えた
レバー9が示されているが,レバー9が中心線に沿って旋回するとすれば,タペット8は中心線からずれた断面上を上下動し,排水のための開
口部も,排水ケーシング3の中心からずれた位置に形成されることになるから,甲1の図面は,排水ケーシングの中心線を含む断面を表しているとはいえないなどとして,認定事項(ウ)の

排水カップ6の上端の径は,閉塞板7の径と略同一である。

は,認定事項(ウ)’の

断面図に表れる限り,排水カップ6の上端の幅は,閉塞板7の幅と略同一であり,閉塞板7は下降した状態で排水カップ6と接触している。

と認定すべきであるから,本件審決の上記認定は誤りである旨主張する。
しかしながら,甲1には,
この排水装置は,排水ケーシング3を有している。この排水ケーシング3は,おおよそ筒状を呈している。…上側からは,排水カップ6が,排水ケーシング3の中へネジ固定により挿入されており,上部外側の縁部分で浴槽の底部に接している。排水カップ6の内側には,閉塞板7が挿入されており,一本のタペット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりすることができる。前記(1)イ)(

1.1.2おおよそ筒状の形状をした,,1.2排水カップ(6)で,
(前記(1)オ)との記載があり,上記記載から,排水ケーシング3,排水カップ6及び閉塞板7は,いずれも,平面視において略円形であることを理解できる。
上記記載に加えて,甲1の図面には,排水ケーシング3に断面であることを示すハッチング(斜線による網掛け)が施されていること,通常中心線を表すために用いられる一点鎖線が示されていることからすると,甲1の図面は,排水ケーシング3の円形断面の中心線における断面図が示されているものと理解できる。
もっとも,甲1の図面には,排水ケーシング3の円形断面の中心線上には存在しないはずのレバー9の中心軸を通る垂直面を含む断面図が示されているが,甲1の図面は,レバー9の機構を含む排水装置の全体構造を一つの図面で図示したものと理解することが不自然であるとまでい
えないから,レバー9の中心軸を通る垂直面を含む断面図が示されているからといって,甲1の図面が,排水ケーシング3の円形断面の中心線における断面図が示したものであるとの認定を左右するものではない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ)

原告は,甲1の図面では,パッキンを示す網がけ部分と排水カップ
6とが離れていることが示されていることからすると,認定事項(カ)の

溝部にパッキンが保持されている。

は,認定事項(カ)’の

溝部にパッキンが,排水カップ6と接触しない状態で保持されている。と認定す

べきであるから,本件審決の上記認定は誤りである旨主張する。
しかしながら,甲1の図面から,閉塞板7の裏側の径内方向に凹んだ断面コ字状の環状の溝部にパッキンが保持されていること,閉塞板7が下降した状態において,パッキンの端部が排水カップ6と当接していることを看取できるから(別紙2及び別紙4の参考図1参照),原告の上記主張は採用することができない。
(3)

相違点1及び2の認定の誤り並びに相違点3の看過について
前記⑴の甲1の記載事項及び本件審決認定の認定事項(ア)ないし(カ)によれば,甲1には,本件審決認定の甲1発明(前記第2の3(2)ア)が記載されていることが認められる。
そして,本件発明と甲1発明とは,本件審決が認定した相違点1及び2(前記第2の3(2)イ)において相違することが認められる。


これに対し原告は,
本件審決がした認定事項(ア),
(イ),
(ウ)及び(カ)の認
定に誤りがあることを前提に,本件審決には,相違点1及び2の認定の誤り並びに相違点3の看過がある旨主張する。
しかしながら,
前記(2)で説示したとおり,
本件審決がした認定事項(ア),
(イ),(ウ)及び(カ)の認定に誤りはないから,原告の上記主張は,その前提において理由がない。

3
相違点1の容易想到性の判断の誤りについて


本件出願当時の周知技術

刊行物の記載について
(ア)

甲3
甲3(実願昭61-10011号(実開昭62-125173号)の
マイクロフィルム)には,次のような記載がある(下記に引用する第3図については,別紙3を参照)

a3,考案の詳細な説明この考案は浴槽及び洗面器の排水口に関する。従来の技術従来,浴槽および洗面器の排水口は第3図に示すように,排水口1まわりの凹部に上部の支持片3を位置させて,排水口金具2を排水口1内に嵌挿し排水管と接続したものである。(明細書1頁10行~17行)
b
第3図には,浴槽および洗面器の底部の排水口1に,円筒状に陥没した部分と,さらにその下端から内向きにフランジとが形成されていること,該フランジは,排水口金具2と排水管接続金具で挟持取付けられていること,排水口金具の支持片3と内向きフランジが略同径であることが示されている。

(イ)

甲5
甲5(特開2000-220186号公報)には,次のような記載が
ある(下記に引用する図5については,別紙3を参照)

a
【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は,浴槽排水栓,浴槽排水栓受け部材の取付方法,取付工具及び排水栓受け部材に関するものである。【0022】次に,図5を参照して請求項1記載の本発明方法により
図1,2に示す取付工具1を使用して浴槽の底部に排水栓受け部材2を取付ける態様について説明する。
【0023】図5において,3は浴槽の底板,31は底板3に設けられた排水孔,32は排水孔31の周辺の受け部である。4はエルボであり,エルボ4には立上管41が設けられ,立上管41には雌ねじが設けられた受口が設けられている。33はパッキンである。
【0024】先ず,排水栓受け部材2の短管部22を挿通し,排水栓受け部材2のフランジ23を受け部31の上に載置する。次いで,排水栓受け部材2の立上管41の受口を短管部22の下端部に当てがい,取付工具1の杆体部の大径部11を排水栓受け部材2の短管部22内に挿入する。このとき取付工具1の爪113はばね112の復元力に抗して没入され,取付工具1の杆体部の大径部11は支障なく排水栓受け部材2の短管部22内に挿入される。
【0025】取付工具1の杆体部の大径部11を排水栓受け部材2の短管部22内の奥に挿入したときにストッパー14が排水栓受け部材2のフランジ23の上面に当たり,その段階で取付工具1を徐々に回転することにより爪113が排水栓受け部材2の凹欠部24に至ると没入されていた爪113がばね112の復元力により突出し凹欠部24内に挿入嵌合される。
【0026】このような状態で取付工具1の六角部131を図示しないレンチで掴み,取付工具1を回転することにより取付工具1の回転と共に排水栓受け部材2が回転し,排水栓受け部材2の短管部22がエルボ4の立上管41の受口内にねじ込まれ,浴槽の底板3の排水孔31の周辺の受け部32に取付けられる。その後,取付工具1を排水栓受け部材2から引き抜く。引抜の際には爪113はばね112の復元力に抗して没入され,引き抜きは支障なく行われる。爪113には
斜面1131が設けられているので凹欠部24からの離脱が円滑に行われる。
【0027】排水栓受け部材2には,従来のように,内面に突出される突起等は何ら設けられてはいないので,排水流量が低下するとか,突起が磨滅するとかの恐れは一切ない。
b
図5には,
浴槽の底板3の排水孔31に,
円筒状に陥没した部分と,
その下端から内向きにフランジとが形成されていること,該フランジは,排水栓受け部材2のフランジ23とエルボ4の立上管41とで挟持取付けられていること,排水栓受け部材2のフランジ23と底板3の受け部32とは略同径であることが示されている。

(ウ)

甲8
甲8(実願平1-1988号(実開平2-93373号)のマイクロ
フィルム)には,次のような記載がある(下記に引用する第3図については,別紙3を参照)

a〔産業上の利用分野〕本考案は,浴室の床面を構成する床パンや浴槽等の排水部の構造の改良に関する。〔従来の技術〕第2図は,浴室等の床面を構成するのに用いられる床パン20を示すものである。図示の如く,床パン20は,躯体床面40の上へ適宜の支持部材50に支持されて設置される。床パン20の表面21は,排水口22に向かって緩やかな下り勾配を有する傾斜面に形成され,汚水の速やかな排出を促している。床パン20と躯体床面40との間の空間には排水管30が配設されており,これで前記排水口22から流出する汚水を集めて外部に排出するようになされている。前記床パン20の排水口22に排水管30を接続するための従来構造は,第3図に示す如くである。すなわち,排水口22に垂下壁部26が連接され,該垂下壁部26の下端に貫通孔28を有する底部27が形成されている。そして,上端部にフランジ24を有する排水具23をパッキン25を介して前記底部27の貫通孔28に挿通せしめ,これを前記底部28の下側へパッキン29と共に配置した排水管30の接続部30aへ螺着させて締め付ける。これにより,排水管30が排水口22に接続固定される。(明細書1頁14行~2頁17行)〔課題を解決するための手段〕本考案は上記課題を解決すべく創案されたものであり,その特徴は,浴室の床パンや浴槽等における排水口と,該排水口に嵌装されて配水管へ接続される排水具とからなる排水部の構造であって,…である。(明細書4頁4行~13行)
b
第3図には,床パン20の排水口22に,円筒状に陥没した垂下壁部26と,さらにその下端から内向きに底部27とが形成されていること,底部27は,排水具23のフランジ24と排水管30の接続部30aとで挟持取付けられていること,排水具23のフランジ24と排水口の底部27とは略同径であることが示されている。


周知技術について
前記アの記載事項によれば,
水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付けること(本件周知技術)は,本件出願
当時,周知であったことが認められる。



相違点1の容易想到性について
原告は,本件審決は,
水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付けること(本件周知技術)は,本件出願前の周知技術

にすぎないから,取付けの強固さや水密性等を考慮して,甲1発明の縁部2の構成を,本件周知技術のように,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付けることによって,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである旨判断したが,甲1発明に本件周知技術を適用する動機付けはないから,本件審決の判断は,誤りである旨主張するので,以下において判断する。

甲1発明は,
浴槽の底部1は,開口部を有し,その縁部2は,貫通する方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって成形され,この開口部の中には,排水装置が挿入されており,この排水装置は,おおよそ筒状を呈した排水ケーシング3を有しており,排水ケーシング3の上端部にはパッキン5を保持し固定するフランジ4が配置されて,上記縁部2の下端が該パッキン5に接しており,上側からは,排水カップ6が,排水ケーシング3の中へネジ固定により挿入されて,上部外側の縁部分で浴槽の底部に接しており,排水カップ6の内側には,排水カップ6の上端の径と略同径の閉塞板7が挿入されており,タペット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりすることができ,閉塞板7は,開口部に接触せず,閉鎖時には,浴槽の底部1に概ね面一とされ,閉塞板7の裏側には,径内方向に凹んだ断面コ字状の環状の溝部が設けられ,該溝部にパッキンが保持されている,排水装置(前記第2の3(2)ア)である。
甲1の図面(別紙2参照)は,排水ケーシング3の円形断面の中心線における断面図であること(前記2(2)イ(イ))
,甲1のここでは,唯一の図面が,本発明に基づく排水装置の横断面の形状を示している。ここに示された一つの浴槽の底部1は,一つの開口部を有しており,その縁部2は,貫通する方法で下側に向かって成形されている。この開口部の中には,排水装置が挿入されており,この排水装置は,排水ケーシング3を有している。…排水カップ6の内側には,閉塞板7が挿入されており,一本のタペット8を用いることにより上昇させたり,下降させたりすることができる。(前記(1)ウ)との記載に照らすと,甲1の図面は,閉塞板7が下降し,開口部を閉鎖した状態を示した図面であることを理解できる。
そして,甲1の図面から,甲1発明の縁部2は,断面形状が内側に湾曲しながら徐々に下側に向かって縮径する構成を有し,縁部2の湾曲面に上部外側の縁部分が当接する排水カップ6と,縁部2の下端に接するパッキン5を保持し,固定するフランジ4を含む排水ケーシング3とで挟持取り付けられていることを理解できる。
他方で,甲1には,縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられていることやその作用等について明示的に述べた記載はない。また,甲1の記載事項全体(図面を含む。
)をみても,縁部2が排水カップ
6と排水ケーシング3とで挟持取付けられている構成について,取付けの強固さや水密性等の観点から,改良すべき課題があることを示唆する記載もない。

次に,
水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付けること(本件周知技術)が,本件出願当時,周知であったこ
とは,前記(1)イのとおりである。
他方で,本件周知技術に係る甲3,5及び8には,円筒状陥没部の底部に形成した内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成の作用等について述べた記載はない。
また,甲3,5及び8には,取付けの強固さや水密性等の観点から,内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成が,甲1の図面記載の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられる構成よりも優れていることを示唆する記載はない。


前記ア及びイによれば,甲1に接した当業者は,甲1発明の縁部2の構成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識するとはいえないから,甲1発明の縁部2に本件周知技術の構成を適用する動機付けがあるものと認めることはできない。
したがって,当業者は,甲1及び本件周知技術に基づいて,甲1発明において,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができたものと認めることはできない。
これと異なる本件審決の判断は誤りである。



被告の主張について

被告は,①本件発明の内向きフランジ部は,円筒状陥没部の底部から縮径するように延出させることで排水口金具と接続管とで挟持取付けるものである必要があり,
かつ,
それで足りるところ,
甲1発明の縁部2は,
断面形状が内側に凸となる円弧状を呈し,下方向だけでなく内側方向にも延出することで,開口部を下側に向かって縮径しており,このように開口部を縮径することによって排水カップ6と排水ケーシング3とで
挟持取付けられるものである点において,
本件発明の
内向きフランジ部
と甲1発明の縁部2は,構造的に共通する,②本件明細書の【0013】の記載に照らすと,本件発明の内向きフランジ部は,
円筒状陥没部
の底部に位置することで排水口金具が水槽の底部1に露出しない状態で排水口金具と接続管とで挟持取付けられるものであるところ,甲1発明の縁部2も,
開口部の底部に位置することで排水口金具が浴槽の底部1に露出しない状態で排水口金具と接続管とで挟持取付けられる点において,
本件発明の
内向きフランジ部
と機能及び作用が共通するとして,
甲1発明の縁部2は,フランジ形状を呈していないとしても,構造,機能及び作用が共通しているから,本件発明の内向きフランジ部と実質的に同一であり,相違点1は実質的な相違点ではない旨主張する。

しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)

本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明の内向きフランジ部に関し,水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて排水口部を形成されること,
その円筒状陥没部内を上下動するカバーが,前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径であることの記載はあるが,本件発明の内向きフランジ部の形状や構造を規定する記載はない。また,本件明細書においても,本件発明の内向きフランジ部の用語を定義する記載はない。一般に,
フランジとは,

管を他の管または機械部分と結合する際に用いる鍔型の部品。(広辞苑第七版)を意味することからすると,本

件発明の内向きフランジ部とは,円筒状陥没部において内側に向けて形成された鍔状の部分を意味するものと解される。そして,上記結合の際には鍔状の形状であることに即した作用を奏するものといえる。しかるところ,甲1発明の縁部2は,湾曲しながら徐々に下側に向かって形成され,下端部に至るまでなだらかな弧状であり,内側に向けて形成された鍔状の部分は存在しないから,本件発明の内向きフランジ部に相当するものと認めることはできない。このように甲1発明の縁部2は,鍔状の部分を備えていない点において,本件発明の内向きフランジ部と構造が明らかに異なり,その作用にも差異があるといえるから,本件発明の円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられている構成と,甲1発明の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられている構成とが実質的に同一であるものと認めることはできない。
(イ)

したがって,相違点1は実質的な相違点でないとの被告の主張は,
理由がない。

また,被告は,水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付けること(本件周知技術)は,本件出願当時,周知であったことからすると,甲1に接した当業者は,取付けの強固さや水密性等を考慮し,甲1発明の縁部2に本件周知技術を適用することによって,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができた旨主張する。
しかしながら,被告の上記主張は,前記⑵で説示したとおり,採用することができない。



小括
以上によれば,本件審決における相違点1の容易想到性の判断に誤りがあるから,その余の点について判断するまでもなく,当業者は,甲1及び本件周知技術に基づいて,本件発明を容易に想到することができたものと認めることはできない。
したがって,原告主張の取消事由は理由がある。

4
結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があるから,本件審決は取り消されるべきである。

知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

大鷹一郎
裁判官

小林康彦
裁判官高橋彩は,転補のため署名押印することができない。

裁判長裁判官

大鷹一郎
(別紙1)

本件明細書

【図1】

(別紙2)

【甲1】

(別紙3)

【甲3】

第3図

【甲5】

図5(全体)

図5(下半分抜粋)

【甲8】

第3図

(別紙4)

【参考図1】

【参考図2】

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