判例検索β > 令和1年(ネ)第1753号
消費者契約法12条に基づく差止等請求控訴、同附帯控訴事件
事件番号令和1(ネ)1753
事件名消費者契約法12条に基づく差止等請求控訴,同附帯控訴事件
裁判年月日令和3年3月5日
裁判所名・部大阪高等裁判所  第7民事部
結果棄却
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)10395
裁判日:西暦2021-03-05
情報公開日2021-04-14 14:00:40
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1⑴


一審被告の控訴に基づき,原判決中,一審被告敗訴部分を取
り消す。


2⑴

上記部分につき,一審原告の請求をいずれも棄却する。



一審原告の控訴を棄却する。
一審原告の当審における附帯控訴に基づく追加請求を棄却
する。

3
訴訟費用は,
第1,
2審を通じ,
すべて一審原告の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨等
1
一審原告の控訴の趣旨


原判決中,一審原告敗訴部分を取り消す。



一審被告は,一審被告が消費者との間で,住宅の賃貸借契約(以下原契約という。から生ずる原契約賃借人の原契約賃貸人に対する賃料債務等に)

つき一審被告が保証を受託するとともに,同保証委託契約に基づく原契約賃借人の一審被告に対する求償債務等について連帯保証人から保証を受けることを内容とする消費者契約(以下本件差止対象契約という。
)を締結す
るに際し,次のアからエまでの契約条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示を行ってはならない(なお,原判決別紙1契約条項目録(以下,
単に契約条項目録という。
)中,
甲は原契約賃貸人を,
乙は原契約
賃借人を,
丙は連帯保証人を,
丁は一審被告をそれぞれ意味する。原
判決別紙3においても同じ。。


契約条項目録記載の13条1項のような,家賃債務保証受託者である一審被告に原契約賃貸人と原契約賃借人間の賃貸借契約(原契約)を無催告解除する権限を付与する趣旨の条項


契約条項目録記載の13条1項のような,一審被告が原契約の無催告解除権を行使することについて,原契約賃借人に異議がない旨の確認をさせる趣旨の条項

契約条項目録記載の14条1項のような,一審被告が原契約賃借人に対して事前に通知することなく原契約賃貸人に対する保証債務を履行することができるとする条項


契約条項目録記載の14条4項のような,一審被告が原契約賃借人に対し求償権を行使するのに対し,原契約賃借人及び連帯保証人が原契約賃貸人に対する抗弁をもって一審被告への弁済を拒否できないことをあらかじめ承諾する条項



一審被告は,上記⑵アからエまでに係る条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙を廃棄せよ。



一審被告は,その従業員らに対し,原判決別紙2の内容記載の書面を配布せよ。

2
一審原告の附帯控訴の趣旨(一審原告は,当審において,原判決主文第1項及び第2項に係る請求の予備的請求として,次の請求を追加した。)
一審被告は,一審被告が消費者との間で本件差止対象契約を締結するに際し,次の⑴から⑷までの契約条項の全部を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示を行ってはならない。


契約条項目録記載の18条2項2号のような,原契約賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り,一審被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡がとれない状況の下,電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から原契約の目的たる賃借物件(以下,単に賃借物件という。)
を相当期間利用していないものと認められ,かつ,賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに,原契
約賃借人が明示的に異議を述べない限り,賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を一審被告に付与する条項


契約条項目録記載の18条3項のような,一審被告が,同目録記載の18条2項2号に基づき,原契約賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り,一審被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡がとれない状況の下,電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相
当期間利用していないものと認められ,かつ,賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに,原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り,賃借物件の明渡しがあったものとみなす場合において,一審被告が本件建物内等に残置する原契約賃借人の動産類を任意に搬出・保管することに原契約賃借人が異議を述べないとする条項


契約条項目録記載の19条1項のような,一審被告が,同目録記載の18条2項2号に基づき,原契約賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り,一審被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡がとれない状況の下,電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ,かつ,賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに,原契約
賃借人が明示的に異議を述べない限り,賃借物件の明渡しがあったものとみなし,同目録記載18条3項に基づき本件建物内等に残置する原契約賃借人の動産類を任意に搬出・保管する場合において,原契約賃借人が当該搬出の日から1か月以内に引き取らないものについて,原契約賃借人は当該動産類全部の所有権を放棄し,以後,一審被告が随意にこれを処分することに異議
を述べないとする条項


契約条項目録記載の19条2項のような,一審被告が,同目録記載の18条2項2号に基づき,原契約賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り,一審被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡がとれな
い状況の下,電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ,かつ,賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに,原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り,賃借物件の明渡しがあったものとみなし,同目録記載18条3項に基づき本件建物内等に残置する原契約賃借人の動産類を任意に搬出・保管する場合において,一審被告が搬出して保管している原契約賃借人の動産類について,原契約賃借人が,その保管料として
月額1万円(税別)を一審被告に支払うほか,当該動産類の搬出・処分に要した費用を一審被告に支払うとする条項
3
一審被告の控訴の趣旨


主位的控訴の趣旨



原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。


上記部分につき,一審原告の請求を棄却する。

予備的控訴の趣旨
アイ
原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。
上記部分につき,本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

第2事案の概要
1
本件訴えの概要等


本件は,適格消費者団体である一審原告が,家賃債務保証業を営む事業者である一審被告に対し,本件差止対象契約(住宅の賃貸借契約(原契約)から生ずる原契約賃借人の原契約賃貸人に対する賃料債務等につき一審被告
が保証を受託するとともに,同保証委託契約に基づく原契約賃借人の一審被告に対する求償債務等について連帯保証人から保証を受けることを内容とする消費者契約)に含まれる各条項は消費者契約法8条1項3号又は10条に規定する消費者契約の条項に該当してその効力が否定されるものであるとして,同法12条3項に基づき,前記第1の1⑵アからエまで及び同2⑴
から⑷までの各条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め(同2の請求は,同⑴を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止請求が認容されない場合の予備的請求である。,前記第1の1⑵アないし)
エ及び同2⑴の各条項が記載された契約書用紙の廃棄及び一審被告従業員らに対する原判決別紙2の内容記載の書面の配布を求める事案である。⑵

原審は,一審原告の請求のうち前記第1の2⑴に係る部分(ただし,従業員らに対する書面配布の請求を除く。)を認容し,その余の請求を棄却した
ところ,当事者双方が控訴し,一審原告は,附帯控訴の上,当審において,上記予備的請求を追加した。
2
前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により容易に認定することができる事実。以下,書証番号は,特記しない限り,各枝番を含む。)


一審原告は,消費者契約法13条の定めるところにより内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体である(甲1)




一審被告は,賃貸人から家屋(住居)を賃借しようとする賃借人から保証委託契約の申込みを受けてこれを締結し,賃貸人と保証契約を締結する事業(家賃債務保証業)を営む事業者であり,不特定かつ多数の消費者である賃借人及び連帯保証人との間で,
住み替えかんたんシステム保証契約書
と題

する契約書
(乙39)
を用いて家賃債務保証等に係る契約
(以下
本件契約
という。
)を締結している。現在,一審被告が消費者たる原契約賃借人及び連帯保証人との間で締結している家賃債務保証等に係る契約(本件契約)の具体的な内容は,原判決別紙3のとおりである(以下,同別紙中の略称は,特に定義することなく同様に用いることがある。。




一審原告は,一審被告に対し,平成28年8月1日,消費者契約法41条1項に基づき,本件契約につき,書面による差止請求をし(甲5),同年10
月24日,大阪地方裁判所に本件訴えを提起した。

3
争点
本件における争点は,
当審における新請求
(予備的請求)
に係る争点として,
本件契約18条2項2号,同条3項,19条1項及び同条2項が一体として消費者契約法に違反するか(争点16)を付加するとともに,消費者契約法違反が認められる場合の従業員らに対する書面配布の要否(争点17)を付加するほかは,原判決事実及び理由中,
第2事案の概要等の2のとお

りであるから,これを引用する。
ただし,引用に係る原判決に本件被告解除権付与条項とあるのは,いず
れも本件契約13条1項前段に,
本件異議不存在確認条項とあるのは,
いずれも本件契約13条1項後段に読み替える。
4
争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記5で当審における当事者の補充主張を,後記6で争点16(本件契約18条2項2号,同条3項,19条1項及び同条2項が一体として消費者契約法に違反するか)についての当事者の主張を,後記7で争点17(消費者契約法違反が認められる場合の従業員らに対する書面配布の要否)についての一審原告の主張を付加するほかは,原判決事実及び理由中,
第2事案の概要等の3のとお

りであるから,これを引用する。


原判決6頁2行目から5行目までを次のとおり改める。

また,本件契約13条1項前段は,原契約賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときという要件のみをもって一審被告による無催告解除を許容している。一審被告は,本件契約13条1項前段の適用に当たっては,信頼関係破壊に関する従前の判例法理が妥当する旨主張するが,その旨の文言は含まれていないのであり,消費者契約法3条1項1号の規定する明確性の原則からしても,そのような解釈は採用することができない。さらに,本件契約において,原契約賃貸人による解除については,「原契約における甲乙間の信頼関係が破壊された場合にはとの文言が含まれており(13条4項)これとの対比からしても,

一審被告の主張は採用し得ない。



原判決6頁18行目の原契約賃借人は,の次に最高裁昭和43年判決のいう催告しなくてもあながち不合理とは認められないような事情の不存在や,を加える。


原判決6頁23行目の本件被告解除権付与条項は,を消費者契約法10条にいう任意規定(法令中の公の秩序に関しない規定)には,一般的な法理等も含まれるところ(最高裁平成22年(オ)第863号,同年(受)第1066号同23年7月15日第二小法廷判決・民集65巻5号2269頁)本件契約13条1項前段は,,一般的には契約当事者にしか認められない解除権を,に改め,同じ行から24行目にかけての同契約の解除権限をを削る。



原判決7頁9行目から10行目にかけての民法541条または民法上の一般法理を民法541条,542条及び一般的な法理に改める。


原判決7頁15行目の

課するものではない。

の次に原契約賃借人は,解除事由がある場合には,解除を受容しなければならない地位に置かれるのであって,そのような地位に置かれた以上,賃貸人以外の者が解除権を行使したからといって,原契約賃借人に具体的な不利益(原契約賃貸人の解除による場合を超える格別の不利益)が生ずることはない。を加える。⑹

原判決8頁5行目の原契約賃借人に対し,の次に委任契約である保証委託契約に基づき,その事務を遂行するに当たり,を加える。


原判決10頁2行目のまた,から同頁5行目の末尾までを削る。



原判決11頁1行目の原契約をの次に無催告でを加える。



原判決12頁12行目の本件被告解除権付与条項から同頁13行目の不合理性までを一審被告が解除権を行使するという点については争えないが,解除事由の不存在のほか,催告しなくてもあながち不合理とは認められないような事情の不存在や,原契約当事者間の信頼関係不破壊に改める。

原判決14頁8行目の同人のを本件契約のに改め,同頁9行目の
原契約賃貸人に対する抗弁を原契約賃借人の有する原契約賃貸人に対する抗弁に改める。

原判決14頁13行目の
を理由とする賃料減額請求(民法611条1項)による賃料の減額をによる賃料の減額(民法611条1項)に改める。

原判決14頁15行目の
民法463条1項で準用する民法443条1項
を民法463条1項に改め,同頁22行目及び同頁23行目から24行目にかけての・443条2項をいずれも削る。


原判決15頁5行目及び同頁8行目の・443条1項並びに同頁21行目,
同頁23行目及び16頁1行目の
・443条2項
をいずれも削る。


原判決16頁5行目の本件契約の連帯保証人は,の次に保証の付従性に基づき,を加える。

原判決16頁7行目の一般的法理及び同頁12行目の一般法理を
いずれも一般的な法理に改める。


原判決16頁12行目の・443条1項を削る。


原判決16頁16行目の冒頭に仮に,本件契約14条1項及び同条4項が消費者たる原契約賃借人の利益を一方的に害するものとして消費者契約法10条違反であるとされるのであれば,連帯保証人は,消費者であるか否かにかかわらず,保証の付従性に基づき,一審被告に対して,上記各条項が消費者契約法10条違反である旨を主張し得るのであるから,を加える。

原判決17頁8頁の賃貸人に求償権を原契約賃借人に求償権に改
める。


原判決17頁12行目の民法443条1項においてを民法463条1項が,委託を受けた保証人にに改め,
同じ行から13行目にかけての
連帯債務者を保証人に改め,同頁14行目から15行目にかけてのこのような趣旨から同頁16行目の

当てはまる。

までを削る。⒇
原判決18頁9行目のよって,の次に原契約賃借人としては,を加え,同頁10行目から11行目の行使すべきこととすればを行使する機会があるのであってに改め,同頁12行目の・443条1項を削る。
(21)原判決22頁8行目の①ないし④の要件の次に(以下「本件4要件という。」を加える。


5
当審における当事者の補充主張


一審原告の補充主張

本件契約13条1項前段が消費者契約法に違反するか(争点1から3まで)について

(ア)契約条項は,裁判規範としてだけではなく,裁判外紛争解決規範,行為規範としての機能も有するところ,その場合には,通常,契約条項の文言が重視される。
本件契約13条1項前段についてみれば,
消費者は,
信頼関係破壊等に関する従前の判例法理など理解することができないのに対し,事業者たる一審被告は,上記判例法理を知っているが,契約
条項にその文言が含まれていない以上,一審被告から消費者に対して上記判例法理が説明されることを期待することはできない。したがって,少なくとも,本件契約13条1項前段は,行為規範として機能する場面においては,原契約賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときという要件のみをもって一審被告によ
る無催告解除を許容する趣旨として機能することとなる。
消費者契約法12条3項に基づく差止訴訟は,消費者紛争の防止による消費者保護を目的としているところ,同訴訟においては,事業者が将来において当該条項の使用を継続した場合の消費者の不利益が考慮されれば足りるのであり,この点において,既に締結された契約に基づき
発生した法的紛争について妥当な結論を得る必要がある個別訴訟とは異なる。信頼関係破壊等に関する判例法理は,個別訴訟において妥当な結論を得るために,限定的な範囲内において契約の条項を有効とする解釈手法にすぎず,紛争の事前防止を目的とする差止訴訟において用いられるべき解釈手法ではない。賃借人保護のための法理である信頼関係破壊の法理が,消費者紛争の防止を目的とする差止訴訟において,判例法理を反映させない契約条項を作成・使用している事業者を免責する方向
で機能するとすれば,本末転倒である。
また,裁判所による限定的な解釈を行わなければ効力を認められないような条項は,その解釈について疑義が生じない明確なものであるとはいえないから,消費者契約法3条1項1号に反する。
したがって,消費者契約法12条3項に基づく差止訴訟である本件に
おいては,本件契約13条1項前段は,その文言どおり,原契約賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときという要件のみをもって一審被告による無催告解除を許容する条項であると解釈した上で,消費者契約法10条該当性を判断すべきところ,上記解釈を前提とすれば,同条項が消費者契約法10条に違反し
て無効であることは明らかである。
(イ)仮に,本件契約13条1項前段について,信頼関係破壊等に関する判例法理が妥当するとしても,本件契約においては,一審被告による無催告解除権行使の要件の方が,本件契約13条4項の定める原契約賃貸人による無催告解除権行使の要件よりも緩やかである(前者の方が後者よ
り広範囲である)から,本件契約13条1項前段が一審被告に無催告解除権限を付与していることによる原契約賃借人の不利益は大きいものといえ,消費者契約法10条に該当するものといえる。

本件契約13条1項後段が消費者契約法に違反するか(争点4から7まで)について
(ア)一審被告が主張するように,原契約賃借人は一審被告が解除権を行使するという点について争えないというにすぎないのであれば,本件契約13条1項前段のみで足りるのであり,同項後段は,積極的な意味を有しない確認的な規定ということとなるが,そのような解釈は不自然である。むしろ,同項後段に文言上何らの留保もなく,
異議がないことを確認すると念を押していることからすれば,同項後段は,仮に一審被告
が無効な解除権を行使したとしても,原契約賃借人においてはこれを争う権利を放棄するという趣旨に解するのが自然である。
(イ)上記解釈によれば,本件契約13条1項後段は,一審被告が違法に無効な無催告解除をし,原契約賃借人に損害を発生させた場合にも,その損害賠償責任の全部を免除する条項であるといえるから,消費者契約法
8条1項3号に該当し,また,同法10条にも該当する。

本件契約14条1項及び同条4項が消費者契約法に違反するか(争点8から11まで)について
本件契約14条1項及び同条4項が存在することにより原契約賃借人
が受ける不利益(二重払いによる不利益や原契約賃貸人に対し有していた相殺等の抗弁を主張する機会を失うことによる不利益)は大きいものというべきである。一審被告の事前通知義務が免除されている以上,毎月同じ事態が繰り返されることは想定されるのであり,二重払いの不利益が生じるのが賃料等の1か月分や更新料等程度にとどまるということはできない。
また,一審被告としては,事前通知義務を免除されなくても,保証債務の履行の度に原契約賃借人に対し事前通知をすることができるようにコストの算定をすれば足りるのであって,そのコストが削減できないともいえない。事前通知義務が免除されないことによる一審被告の不利益は大きくない。他方で,原契約賃借人が原契約賃貸人に対し対抗できる事由を有し
ている場合でも,原契約賃貸人や管理業者にその旨通知することはあり得ても,これを家賃債務保証業者である一審被告に通知しようとは思い付かないのが通常であり,これを消費者たる原契約賃借人に期待するのは無理がある。
以上によれば,本件契約14条1項及び同条4項は消費者契約法10条に違反し無効である。

本件契約18条2項2号が消費者契約法に違反するか(争点12から15まで)について
(ア)本件契約18条2項2号が消費者契約法に違反するかを判断するに当たって,同条3項,19条1項及び同条2項の内容を考慮することは妨げられないというべきである。そうであるところ,原判決第2の3⑿で
摘示されている一審原告の主張のとおり,本件契約18条2項2号は,本件契約18条3項,19条1項及び同条2項と相まって,一審被告による自力救済を正当化するものである。
(イ)占有権の放棄の意思表示は,積極的に明示されなければならないのであって,特に,賃借物件内に動産類を残置しているなど所持の事実をそ
のままにしている場合には,積極的・明示的な意思表示もないのに,客観的・外形的な事実から占有の放棄の意思表示を推認し,占有権が消滅したと判断することはできないというべきである。そうすると,本件契約18条2項2号は,原契約賃借人がなお占有権を有している場合にまで,賃借人の占有権が消滅したものとして賃借物件を明け渡したものと
みなし,賃借人において明渡しの事実を争うことをできなくするものであるから,民法における原則と例外を逆転させるものである。また,本件契約18条3項等は,同条2項2号の適用を前提として,一審被告による動産類の搬出・保管,処分を許容するものであり,一審被告による違法な自力救済を許容するものである。

このような点からすれば,本件契約18条2項2号は,本件契約18条3項,19条1項及び同条2項と相まって,消費者契約法8条1項3号に該当し,あるいは,同法10条に該当するものというべきである。(ウ)一審被告は,消費者契約法8条1項3号に関し,事業者の責任を排除する条項(責任排除条項)と事業者の義務を排除する条項(義務排除条項)は区別されるべきで,消費者契約法8条1項3号は責任排除条項にのみ適用される旨主張する。しかし,使用者の義務を排除することによ
って義務違反があり得ないこととなり,責任が生じなくなるのであるから,義務排除条項は究極の責任排除条項ともいうべきものであって,義務の排除という体裁を繕えば同号の適用を免れられるとするのは著しく不当である。


一審被告の補充主張(本件契約18条2項2号が消費者契約法に違反するか(争点12から15まで)について)

賃借物件の明渡しは,原契約賃借人の事務に属し,これを第三者である一審被告が代わって行う場合には,賃借人本人の意思又は利益に反することが明らかである場合を除き,事務管理として違法性が阻却される。本件契約18条2項2号は,基本的には事務管理が成立し得る場面を念頭に置
き,これを民法の抽象的な規定にゆだねるのではなく,契約条項をもって明文で具体的に要件を定めるものである。すなわち,本件契約18条2項2号(並びに同条3項,19条1項及び同条2項)は,事務管理の要件を敷衍したものであり,任意規定の適用による場合に比して原契約賃借人の権利を制限し,又は義務を加重するものとはいえない。


本件契約18条2項2号が定める本件4要件をいずれも満たす場合であって,原契約賃借人が明示的に異議を述べないときに,賃借物件の明渡しがあったものとみなされることにより原契約賃借人が不利益を受けるという場合は,現実には全く想定されないか,仮に想定されるとしても,
極めて限定的な場合にすぎない(現に,一審原告においても,そのような場合を具体的に例示することができていない。。なお,本件4要件は,一)
審被告の主観的判断が入る余地が極力排除され,かつ,その適否は客観的に判断することができるようになっているから,本件契約18条2項2号の要件を満たさないにもかかわらず,誤って同条項が適用される場合というのはにわかに想定し難いし,その適否については事後的に検証することができる。そうすると,同条項の要件を満たさない場合にもこれが適用さ
れ,それにより原契約賃借人が不利益を受けるという可能性をあえて考慮する理由はないというべきである。
他方で,同条項が適用されることにより,原契約賃借人(及び連帯保証人)は,原契約賃借人が適式に賃借物件の明渡しをせずに生活の本拠を他に移したような場合であっても,賃料相当損害金の支払といった以後の責
任を免れることができ,極めて大きな利益を享受することができる。一審被告もまた,同条項を適用することにより,誰一人として望まないような無用な法的手続を回避し,円滑な明渡し及び保証責任からの解放を実現することができる。

そもそも,
本件契約18条2項2号は,
同号所定の要件を満たす場合に,
一審被告に賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を付与する条項にすぎず,同条項それ自体によって,直ちに原契約賃借人の権利が制限され,又はその義務が加重されるような事態は生じ得ないことからしても,本件契約18条2項2号が消費者契約法10条に該当しないことは明らかである。

6
争点16(本件契約18条2項2号,同条3項,19条1項及び同条2項が一体として消費者契約法に違反するか)についての当事者の主張


一審原告の主張
仮に,本件契約18条2項2号それのみでは消費者契約法違反といえない
としても,一審原告が争点12から15までについて主張するところからすれば,本件契約18条2項2号,同条3項,19条1項及び同条2項は一体として,一審被告による自力救済を正当化するものとして,消費者契約法8条1項3号に該当し,あるいは,同法10条に該当するものというべきである。


一審被告の主張

事業者に対し,一定の権限を付与するにすぎない条項については,消費者契約法8条1項3号該当性を認める余地はないところ,一審被告において賃借物件内に残置した動産類を任意に搬出・保管することに原契約賃借人が異議を述べないとする本件契約18条3項や,一審被告において随意に動産類を処分することに原契約賃借人が異議を述べないとする本件契約19条1項は,いずれも一審被告に対して一定の権限を付与する条項に
すぎず,一審被告の不法行為により原契約賃借人に生じた損害を賠償する責任を免除する趣旨を含むものではないから,これらの条項が消費者契約法8条1項3号に該当することはない。
また,本件契約19条2項は,原契約賃借人が一定の費用負担を約する条項にすぎないから,消費者契約法8条1項3号に該当する余地はない。

一審被告が上記5⑵で主張するところによれば,本件契約18条2項2号と同条3項,19条1項及び同条2項とを一体として見たとしても,これらの条項が消費者契約法10条に該当するということはできない。
7
争点17(消費者契約法違反が認められる場合の従業員らに対する書面配布の要否)についての一審原告の主張
一審被告が従業員らに対し契約書用紙の廃棄を命じたとしても,従業員らにおいて,契約書用紙の廃棄をしなければならない理由や,廃棄を命じられた契約書用紙を使った契約の締結が禁じられる根拠を十分に理解しないことが考えられ,一審被告によって消費者契約法違反の契約が締結される危険性を完全に
排除することができない。原判決別紙2の内容記載の書面が従業員らに配布されて初めて,従業員らにおいて契約書用紙を廃棄することの重要性を十分に認識でき,上記危険性を解消することが可能となる。
したがって,従業員らに対する書面配布を求める部分を含め,一審原告の請求は認容されるべきである。
第3当裁判所の判断
1
本件契約13条1項前段が消費者契約法に違反するか(争点1から3まで)について


本件契約13条1項前段の解釈(争点1)について

本件契約13条1項前段は,一審被告は,原契約賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときは,無催告に
て原契約を解除することができるものとすることを定めており,その文言のみからすれば,原契約賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときという要件のみをもって一審被告による原契約の無催告解除を許容する趣旨とみる余地がないではない。しかしながら,家屋の賃貸借契約において,一般に,賃借人が賃料を1
か月分でも遅滞したときは催告を要せず契約を解除することができる旨を定めた特約条項については,賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約関係であることに鑑み,賃料が約定の期日に支払われず,このため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合に,無催告での解除権の行使を許す旨を
定めた規定であると解されている(最高裁昭和43年判決)
。また,賃料の
不払に対し賃貸人からの催告があったにもかかわらず,なお賃料が支払われない場合であっても,当事者間の信頼関係を破壊するものとは認められない特段の事情があるときは,債務不履行による賃貸借契約の解除は認められないものと解されている(最高裁昭和37年(オ)第747号同39
年7月28日第三小法廷判決・民集18巻6号1220頁等)
。そして,こ
れらの解釈は,最高裁判所における判例法理として確立しており,これを前提とした裁判実務が数十年という長期間にわたり確固たるものとして定着してきていることは裁判所に顕著である。そして,上記判例法理は賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約関係であることを根拠とするものであり,賃貸借契約のこのような契約類型としての性質は今日においても変わるところがないことからすれば,上記判例法理は,現時点において賃貸借契約を規律する実体法規範の一部を成しているということができる。また,上記のような判例法理の根拠に鑑みると,上記判例法理は,契約当事者である賃貸人による解除権の行使の場合に限らず,賃貸人から解除権行使の権限を付与された者による当該解除権の行使の場合に
も当然に適用されるものというべきである。
そうすると,一般的に,家屋の賃貸借契約においては,上記判例法理が前提とされているのが通常であると解されるところ,
本件契約についても,
一審被告は,本件において,上記判例法理を前提としている旨主張しているほか,現に,一審被告が賃料不払のあった原契約賃借人に対し送付して
いる通知書(乙3)にも賃料等の滞納の事実は本件賃貸借契約上の重大なる債務不履行であり,当事者間の信頼関係を破壊する特段の事情に相当致しますとの文言が記載されており,本件記録によっても,一審被告があえて本件契約の適用について上記判例法理を除外していることをうかがわせる事情は何ら見当たらない。

以上によれば,本件契約においては,上記判例法理が当然の前提とされていると解することができるというべきであり,これは,原契約賃貸人による解除権の行使に限らず,一審被告が本件契約13条1項前段によって付与された解除権を行使する場合にも妥当するものということができる。イ(ア)これに対し,一審原告は,消費者契約法12条3項に基づく差止訴訟
においては,契約の条項は文言どおり解釈されるべきであって,限定的な解釈をすべきではないとして,本件契約13条1項前段には上記判例法理は適用されない旨主張する。
確かに,消費者契約法が,消費者と事業者とでは情報の質及び量並びに交渉力に格差があること等に鑑み,事業者に対し,消費者契約の条項を定めるに当たっては,消費者契約の内容が,その解釈について疑義が生じない明確なもので,かつ,消費者にとって平易なものになるよう配慮することを求めている(同法1条,3条1項1号)ことに加え,同法の定める差止請求制度は,個別具体的な紛争の解決を目的とするものではなく,契約の履行などの場面における同種紛争の未然防止・拡大防止を目的として設けられたものであることをも勘案すると,同法12条3
項に基づく差止訴訟においては,当該消費者契約の条項の文言を基礎とした解釈が優先されるべきであるといえる。
しかしながら,上記アのとおり,賃貸借契約におけるいわゆる無催告解除特約の効力や,賃料不払を原因とする債務不履行による賃貸借契約の解除の要件に関する上記判例法理は,賃貸借契約を規律する実体法規
範の一部を成しているということができるのであって,契約の文言上は,上記判例法理を適用する旨が定められなかったとしても,特にこれを排除することが明らかとされているなど特段の事情のない限り,当該契約にも上記判例法理が適用されると解するのが相当であり,このことは,消費者契約法12条3項に基づく差止訴訟であるか,個別具体的な紛争
の解決を目的とする一般の民事訴訟(個別訴訟)であるかによって異なるところはないというべきである。
上記のとおり,消費者契約法自体や同法が定める差止請求制度の趣旨・目的に照らせば,消費者契約の条項の文言を基礎とした解釈が優先されるべきであるとしても,そのことから直ちに,明示的な文言がない
限り,上記判例法理のような一般的・抽象的に妥当する規律を適用することまでが禁じられるというべき合理的根拠を見いだすことは困難である。
したがって,一審原告の上記主張は,採用することができない。
(イ)また,一審原告は,原契約賃貸人による解除を定めた本件契約13条4項では信頼関係の破壊が無催告解除の要件である旨明示されているのであるから,その対比からしても,同条1項は判例法理を適用しない
旨定める趣旨である旨主張する。しかしながら,一審被告は,本件契約13条4項において信頼関係の破壊を無催告解除の要件として定めているのは,原契約賃貸人は,原契約賃借人に賃料等の不払があっても一審被告から保証債務の履行を受けることにより経済的損失を容易に回復することができるのであり,このような地位にある原契約賃貸人が原
契約を解除するには,積極的な要件(原契約賃貸人において主張立証責任を負うべき事実)として信頼関係が破壊されたことが必要であるという趣旨によるものである旨主張するところ,この主張には相応の合理性があるということができる。このような本件契約13条4項の規定の趣旨に鑑みると,同項が信頼関係の破壊を無催告解除の要件として規定し
ているからといって,同条1項前段が上記判例法理の適用を排除する趣旨を含むものであると解することはできない。
したがって,一審原告の上記主張は,採用することができない。

以上によれば,本件契約13条1項前段は,上記アのいわゆる無催告特約の効力に関する判例法理が適用されることにより,原契約賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したことという要件のほか,契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情があることを要件として,一審被告による無催告解除権の行使を認める規定であると解される(なお,本件契約13
条1項前段による賃貸借契約の解除にも上記アの賃料不払を原因とする債務不履行による賃貸借契約の解除の要件に関する判例法理が適用されるが,無催告解除の要件を満たす場合には,通常,当事者間の信頼関係を破壊するものとは認められない特段の事情を欠く場合が多いと考えられる。。


本件契約13条1項前段の消費者契約法10条該当性
(争点2及び争点3)
について

解除の要件の点について
民法541条及び542条は,賃貸借契約にも適用があるものと解されるところ,本件契約13条1項前段は,民法542条1項の定める事由以外の事由がある場合にも,同法541条の履行の催告なく原契約を解除す
ることを認める点において,任意規定の適用による場合に比し,消費者である原契約賃借人の権利を制限するものであるというべきである。もっとも,上記⑴で説示したとおり,一審被告が上記条項に基づいて無催告解除権を行使するためには,上記条項が明文をもって定める,原契約賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達
したことという要件に加えて,上記⑴アのいわゆる無催告解除の効力に関する判例法理の適用により,契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情があることが要件となるものと解される。そうであるところ,そもそも,賃借人の賃料支払義務が賃貸借契約の要素を成す賃借人の基本的かつ重要な債務であることからすれば,
賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達するという事態は,それ自体が,賃貸借契約の基礎をなす当事者間の信頼関係を大きく損なう事情というべきであり,そのことに加えて,契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情がある場合に,原契約賃借人が原契約の解除前に履行の催告を受けら
れない不利益の程度がさして大きくないことは,おのずから明らかというべきであるから,上記条項は,信義則に反して消費者である原契約賃借人の利益を一方的に害するものとはいえない。
なお,一審原告は,一審被告による無催告解除権行使の要件の方が,本件契約13条4項の定める原契約賃貸人による無催告解除権行使の要件よりも緩やかであるから,本件契約13条1項前段が一審被告に無催告解除権限を付与していることによる原契約賃借人の不利益は大きい旨主張する
が,本件契約13条1項前段の消費者契約法10条後段該当性を検討するに当たって,本件契約13条4項の要件と比較すべき合理的根拠は見当たらないから,一審原告の上記主張は,採用することができない。
したがって,本件契約13条1項前段が,無催告解除を認めている点については,消費者契約法10条に該当するものとは認められない。

解除権行使の主体の点について
(ア)解除権とは,一定の事由が生じたときに,契約の当事者が一方的意思表示により契約を終了させる権利であり,契約の拘束力から契約当事者を解放することを目的とするものであるが,民法上,解除事由が発生す
ることにより当然に契約が終了するとはされておらず,解除権を行使して契約を終了させるかどうかは,解除権者の意思にゆだねられている(民法541条,542条)
。このような解除権の内容,性質,目的等に
照らせば,解除権は,通常は,契約当事者に認めれば足りるのであり,民法もこれを当然の前提としているということができる。

そうであるところ,契約当事者以外の第三者に解除権を認めると,解除権者の有する契約を終了させるかどうかの意思決定の自由が阻害され得ることとなるが,これを,当該契約の相手方(解除権の行使を受ける当事者)から見れば,本来の解除権者以外の者の意思決定により契約を終了させられる地位に立つことを意味する。上記のとおり,民法は,
解除権を行使して契約を終了させるかどうかを解除権者の意思にゆだねているから,契約の相手方としては,解除事由が発生したからといって直ちに契約を終了させられることはなく,当該解除権者と交渉し,その了解を得るなどして,契約を終了させられる事態を避けることもできるのであるが,契約の相手方がこのようにして契約の終了を回避する機会を有するのは,民法が上記のような制度を採用した結果であるということができ,そのような機会を有することをもって,契約の相手方が有する法律上の利益と位置付けることも必ずしも不可能・不合理ではない。しかるに,契約当事者以外の第三者に解除権が認められれば,契約を終了させられる事態を避けるために交渉し,理解を得るなどしなければならない相手が増えるのみならず,賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基
礎とする継続的契約関係であることからすると,契約の相手方にとって,契約当事者以外の者に対する上記のような交渉等は,契約当事者の場合と比べてより困難なものとなるであろうことは容易に推測されるのであり,
その分,
契約を終了させられる可能性が増すということができる。
そうであるとすれば,本件契約13条1項前段が,原契約の当事者で
ない一審被告に解除権を付与している点については,任意規定の適用による場合に比し,原契約賃貸人の権利を制限するものであるというのみならず,消費者である原契約賃借人の権利を制限する側面も有するというべき余地がある。
(イ)そこで,本件契約13条1項前段が一審被告に解除権を付与している
ことが信義則に反して消費者である原契約賃借人の利益を一方的に害するものに当たるか否かについて検討する。
a
本件契約において,一審被告は,原契約賃貸人に対し,①の支払債務,②
払債務,③

賃料等

光熱費等の変動費(ただし変動費上限額まで)の支

原契約終了の日の翌日から賃借物件の明渡し済みまでの

賃料等相当損害金の支払債務
(ただし最長で48か月分)④


原状回

復費用,早期解約違約金及び更新料の支払債務(ただし合計して賃料2か月分が限度)について,保証債務を負うとされている(本契約6条1項,5項)が,賃料等及び変動費(上記①及び②)の支払債務の保証範囲については,特に期間の限度が設けられていない(なお,保証範囲につき期間の限度が設けられていないこと自体は,保証契約の内容として,
別段,
不自然・不合理なものとはいえない)したがって,

本件契約を締結した原契約賃貸人は,原契約賃借人が賃料その他の債務の履行を遅滞した場合でも,一審被告の資力に問題が生じない限りは,一審被告からその保証債務の履行を受けることができ,そのうち賃料等及び変動費については,そのほぼ全額について,回収リスクを
免れることができる。他方で,一審被告は,原契約賃借人に債務不履行が発生した場合には,保証債務として,原契約賃貸人に対しその不履行分を支払い,よって,原契約賃貸人に代わって原契約賃借人による未払リスクを負担することとなるが,賃料等及び変動費については,保証範囲に期間の限度がないため,その後も原契約賃借人が債務不履
行を継続した場合には,それに伴い限度なく保証債務が増大し,その分の経済的負担を負い続けることとなる。すなわち,本件契約の締結により,原契約賃貸人は,原契約が継続している限り,原契約賃借人による賃料等及び変動費の支払状況について特に注意せずとも,賃料等を概ね確実に全額受領することができる地位を取得する反面,一審
被告は,
原契約賃借人による賃料等及び変動費の不払を填補し,
かつ,
原契約賃借人から求償債務の支払を受けられないリスクを負担することとなり,しかも,その負担は,債務不履行の継続に伴い限度なく増大するおそれがある。そうすると,原契約賃借人に賃料等及び変動費の支払債務の不履行があった場合に,本来,原契約の解除権を有す
る原契約賃貸人には,少なくとも経済的観点からは,あえて原契約を解除すべき動機に乏しいと考えられる反面,一審被告としては,上記債務不履行が継続することに伴い限度なく経済的負担を負い続けるという事態を避けるために,早期に原契約を終了させる動機を有することとなる。
そこで,このような本件契約をめぐる原契約賃貸人と一審被告との利害状況に鑑み,民法の原則を修正して,原契約賃借人による債務不
履行のうち,特に一審被告の負う経済的負担が拡大していく危険の高い賃料等及び変動費の不払が一定の範囲を超えた場合に,原契約の解除権を原契約の契約当事者でない一審被告にも付与し,もって,原契約が継続することにより一審被告の経済的負担が限度なく増大していく事態を,一審被告自らが解消することができるようにしたのが,本
件契約13条1項前段の規定の趣旨であるということができる。
そして,このような本件契約13条1項前段の趣旨・目的には,相応の合理性があるということができる。
b
他方で,原契約賃借人は,上記のとおり,本件契約13条1項前段の適用により,原契約の契約当事者でない一審被告の判断によって,原契約を終了させられるという不利益を受けることとなるところ,上記aに説示した本件契約に基づき一審被告が負う保証債務の内容,原契約賃借人による賃料等及び変動費の不払により負うこととなるリスクの大きさに加えて,一審被告が家賃債務保証業を営む株式会社で
あることにも鑑みると,上記⑴アのいわゆる無催告解除の効力に関する判例法理の適用を前提とした上記条項の定める無催告解除の要件を満たす場合に,原契約賃借人が一審被告の上記条項に基づく解除権の行使によって原契約を終了させられる可能性は,原契約賃貸人のみが解除権を有する場合と比較して,相当程度増すことになると考えら
れ,その程度は必ずしも小さいとはいえない。もっとも,そうであるとしても,上記のとおり,そもそも,上記条項が無催告解除の要件として明文をもって定める,賃借人が支払を怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料3か月分以上に達するという事態は,それ自体が,賃貸借契約の基礎を成す当事者間の信頼関係を大きく損なう事情というべきであることに加えて,契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情がある場合に初めて,一
審被告の上記条項に基づく解除権の行使がその効力を有する(なお,上記条項による賃貸借契約の解除にも上記⑴アの賃料不払を原因とする債務不履行による賃貸借契約の解除の要件に関する判例法理が適用されることは,上記説示のとおりである。
)ことに鑑みると,これ
らの判例法理の適用を前提とした上記条項による無催告解除の要件
を満たす場合に一審被告が上記条項に基づく解除権を行使し得るものとすることによって原契約賃借人が受ける上記のような不利益の程度は,必ずしも大きいということはできず,なお限定的なものにとどまるというべきである。
c
以上のとおり,本件契約13条1項前段が原契約の契約当事者でない一審被告に解除権を付与していることについては,相応の合理性がある反面,これによる原契約賃借人の不利益は限定的なものにとどまるものということができることからすれば,本件契約13条1項前段が一審被告に解除権を付与していることが信義則に反して消費者である原契約賃借人の利益を一方的に害するものに当たるということ
はできない。
d
これに対し,一審原告は,本件契約13条1項前段により,一審被告に解除権が付与されていることにより,解除権の行使及びその後の明渡訴訟という法律事務を一審被告が継続的・組織的に扱うことにな
り,弁護士法72条が想定する弊害が生ずるおそれがある旨主張する。しかしながら,既に説示したところからすれば,一審被告は,飽くまでも自らの利益のために自らに付与された解除権を行使するということができる。また,上記条項は,飽くまでも一審被告に原契約の解除権を付与するものであって,その後の賃借物件の明渡請求権の行使を一審被告が行うことまで許容する趣旨を含むものでないことは明らかである。したがって,一審原告の上記主張は,採用することができない。
また,一審原告は,保証委託契約に基づき原契約賃借人に対し善管注意義務を負担する一審被告に対して原契約の解除権を付与する点で,本件契約13条1項前段には利益相反性があると主張する。しかしな
がら,受任者たる保証人が,保証受託契約に基づき善管注意義務を負うからといって直ちに,委任者たる主債務者の不利益になる行為のすべてが禁じられるとは解されないところ,受任者たる保証人は委任者たる主債務者に対し保証債務を履行すべき義務を負うものではないことからすれば,保証人たる一審被告がその保証債務の負担を軽減する
ために,原契約を解除することが上記善管注意義務に違反すると解すべき合理的根拠は見いだし難い。
したがって,
一審原告の上記主張は,
採用することができない。
さらに,一審原告は,本件契約は消費者である原契約賃借人において他の業者を選択する機会がないため,市場による是正が機能せず,
情報の質及び量並びに交渉力の格差により消費者が契約を余儀なくされる場合の典型例であると主張するところ,確かに,弁論の全趣旨によれば,近時の家屋の賃貸借契約においては,賃貸人が家賃債務保証業者を選定し,賃借人に対し,当該業者との保証委託契約の締結を求めるのが一般的であり,賃借人において家賃債務保証業者を選択する
のは現実には困難であることがうかがわれる。しかしながら,賃借人として,当該業者の約款内容に不満があるのであれば,他の賃借物件を選択することも考えられるのであり,上記のような事情があるからといって,直ちに,他の一般的な消費者契約と比較して,特に市場による是正が機能しない契約であると認めることはできない。一審原告の上記主張は,採用することができない。


小括
以上によれば,本件契約13条1項前段が消費者契約法10条に該当するということはできない。
したがって,一審被告に対し,契約条項目録記載の13条1項のような,家賃債務保証受託者である一審被告に原契約を無催告解除する権限を付与する趣旨の条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め等
を求める一審原告の請求は,理由がないというべきである。
2
本件契約13条1項後段が消費者契約法に違反するか(争点4から7まで)について


本件契約13条1項後段は,同項前段を受けて,原契約賃貸人,原契約賃借人及び連帯保証人は,同項前段の場合に一審被告が原契約についての解除権を行使することに対して,異議はないことを確認する旨規定するところ,同項の文言を素直に読めば,同項後段は,同項前段によって一審被告に解除権が付与されたことを前提に,一審被告がこれを行使することについて,原契約賃借人を含む他の契約当事者に異議がないことを確認する趣旨にすぎ
ないと解するのが相当であり,同項前段の要件を満たさないにもかかわらず,一審被告が解除権を行使した場合に,原契約賃借人が一審被告に対して取得する損害賠償請求権等の法的権利を放棄させたり,そもそも無効と解されるべき一審被告の解除権の行使について,これを争う利益を放棄させたりするとの趣旨を読み取ることはできない。

これに対し,一審原告は,一審被告が解除権を行使するという点について争えないというにすぎないのであれば,本件契約13条1項前段のみで足りるのであり,同項後段は,積極的な意味を有しない確認的な規定ということとなるが,そのような解釈は不自然である旨主張するが,消費者契約において,明確性等の観点から,同じ意味内容を別の観点から規定することには,相応の理由があるのであって,何ら不自然ということはできない。したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。



以上のとおり,本件契約13条1項後段は,その文言の通常の意味からして,一審原告が主張するように,原契約賃借人が有すべき損害賠償請求権を放棄させたり,原契約賃借人において一審被告による解除権行使の効力を争う権利を放棄させたりする条項であるとは解されないから,同条項が消費者契約法8条1項3号に該当するものとはいえず,また,同法10条に該当す
るものともいえない。
したがって,契約条項目録記載の13条1項のような,一審被告が原契約の無催告解除権を行使することについて,原契約賃借人に異議がない旨の確認をさせる趣旨の条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め等を求める一審原告の請求は,理由がないというべきである。
3
本件契約14条1項及び同条4項が消費者契約法に違反するか(争点8から11まで)について


原判決の引用
当裁判所は,原判決と同様,本件契約14条1項及び同条4項は消費者契
約法10条に該当しないものと判断する。その理由は,当審における一審原告の補充主張に対する判断も含め,次のとおり補正するほかは,原判決事実及び理由中,第3争点に対する判断等の7から9までのとおりであ

るから,これを引用する。

原判決43頁20行目のすなわちから同頁24行目の443条1項)までを民法463条1項によれば,委託を受けた保証人が,主債。務者にあらかじめ通知しないで債務の消滅行為をしたときは,主債務者は,債権者に対抗することができた事由をもって当該保証人に対抗することができるとされている。に改める。イ
原判決43頁26行目の民法463条1項から同じ行のよれば,
までを削り,
44頁2行目の
債権者に対抗することができる事由債を権者に対抗することができた事由に改める。

原判決44頁3行目の
そして,から同頁5行目の
事前に
までを
これに対し,保証人は,民法463条1項に基づき,債務の消滅行為をすること(保証債務を履行すること)をあらかじめに改める。

原判決44頁6行目のしたがって,から同頁8行目の止まらずま
でをそうすると,本件契約14条1項は,直接的には,一審被告が保証債務を履行するに際し,原契約賃借人に対する事前の通知義務を免除することを規定するものであるが,これは,に改め,同頁9行目の「債権者に対抗することができる事由(民法463条1項・443条1項)を債権者に対抗することができた事由(民法463条1項)
」に改める。

原判決44頁12行目の債権者に対抗することができる事由を債権者に対抗することができた事由に改め,同頁14行目から15行目にかけての債権者に対抗することができる事由(民法463条1項・443条1項)を債権者に対抗することができた事由に改める。

原判決44頁21行目の主債務者は,の次に主債務につき絶対的消滅事由があったにもかかわらず,その後に,保証人から保証債務を履行したとして求償金の請求を受けたときは,を加える。キ
原判決45頁2行目の金員支払等を債務の消滅行為(保証債務の履行)に改め,同頁3行目の・443条2項を削る。

原判決45頁6行目の保証債務から同頁7行目のときは,までを
債務の消滅行為(保証債務の履行)をしたときは,当該保証人は,に改め,同頁8行目の・443条2項を削る。

原判決45頁10行目の・443条1項並びに同頁13行目,同頁18行目及び46頁6行目から7行目にかけての・443条2項をいずれも削る。


原判決46頁10行目から同頁15行目までを次のとおり改める。
エ以上によれば,受託保証人である一審被告の主債務者である原契約賃借人に対する事前通知義務を免除する旨の本件契約14条1項は,一審被告が債務の消滅行為(保証債務の履行)をした後の原契約賃借人に対する求償金請求について,一審被告による事前通知がなくても,①原契約賃借人による一審被告に対する「債権者に対抗することができた事由を主張することを妨げるとともに,②
一審被告による債務の消滅

行為(保証債務の履行)より前に原契約賃借人が弁済その他の債務消滅行為をしていた場合であっても,その旨を一審被告に通知していないときには,民法463条2項に基づき,一審被告が善意でした自らの債務消滅行為を有効なものとみなすことを可能とする点で,民法のみが適用される場合とは異なる効果を有するものといえる。



原判決47頁5行目の・443条2項を削る。


原判決47頁8行目から48頁6行目までを次のとおり改める。

本件契約14条4項は,原契約賃借人及び連帯保証人は,一審被告から本件契約14条2項に基づく償還請求を受けたときに,原契約賃貸人に対する抗弁をもって,一審被告への支払を拒むことができないことをあらかじめ承諾する旨を定めているところ,上記説示のとおりの本件契約14条1項の有する効果を前提として同条4項の文言を素直に読めば,上記⑴エのとおり,本件契約14条1項及び民法463条2項の適用により,一審被告による事前通知がなくても,①原契約賃借人による一審被告に対する「債権者に対抗することができた事由を主張することが妨げられること及び②

一審被告による債務の消滅行為(保証債務の履行)より前に原
契約賃借人が弁済その他の債務消滅行為をしていた場合であっても,その旨を一審被告に通知していないときには,一審被告の債務消滅行為が有効なものとみなされ得ることを,原契約賃借人及び連帯保証人においてあらかじめ承諾する旨を約する条項と解するのが相当であり,これらに該当せず,本来は原契約賃貸人に対する抗弁を一審被告に対して主張することが
できる場合についてまで,広く抗弁を主張する権利を放棄するような内容を含むものとは解されない。


原判決48頁10行目の
本件契約
から同頁17行目の

効果がある。


までを受託保証人である一審被告の主債務者である原契約賃借人に対する事前通知義務を免除する旨の本件契約14条1項は,一審被告が債務の消滅行為(保証債務の履行)をした後の原契約賃借人に対する求償金請求について,一審被告による事前通知がなくても,①原契約賃借人による一審被告に対する「債権者に対抗することができた事由を主張することを妨げるとともに,


一審被告による債務の消滅行為
(保証債務の履行)

より前に原契約賃借人が弁済その他の債務消滅行為をしていた場合であ
っても,その旨を一審被告に通知していないときには,民法463条2項に基づき,一審被告が善意でした自らの債務消滅行為を有効なものとみなすことを可能とするものであり,本件契約14条4項は,以上の内容について,原契約賃借人及び連帯保証人があらかじめ承諾する内容の条項である。
」に改め,同頁19行目から20行目にかけての・443条1項及び2項を削る。セ
原判決49頁14行目の保証債務を支払ったを保証債務を履行したに改め,同じ行及び同頁18行目の・443条2項をいずれも削る。


原判決50頁17行目から18行目にかけてのこのようなやり取りが行われれば,をこの段階では,民法463条2項又は本件契約14条3項の適用により一審被告のした債務の消滅行為が有効とされ,原契約賃借人は一審被告からの求償金請求に応じなければならないとしても,原契約賃借人は原契約賃貸人に対し支払済みの賃料等と同額の不当利得返還請求権を取得することとなるから,その時点で直ちに,当該債権と翌月の賃料等の支払債務とを相殺することができる。このような状況においては,原契約賃借人が上記相殺をしたことを一審被告に知らせないということはにわかに考え難いから,一審被告と原契約賃借人との間で上記のようなやり取りが行われれば,に改める。タ
原判決50頁19行目の

避けられる。

の次にまた,このような事態が一度発生し,二重払いのリスクが具体化した場合においては,原契約賃借人に,賃料等の支払の度に一審被告にその旨の通知をすることを期待するのが困難とはいえないところ,この通知をしさえすれば,原契約賃借人は民法463条2項及び本件契約14条3項の適用を免れることができ,その後に保証債務が履行されたとしても,それに先立つ自らのした弁済を有効とすることができる。を加える。

原判決50頁22行目の末尾に一審原告は,一審被告の事前通知義務が免除されている以上,毎月同じ事態が繰り返されることは想定される旨主張するが,上記のとおり,契約当事者が通常想定される行動をとる限り,同じ事態が繰り返されるとは考え難いから,一審原告の上記主張は採用することができない。を加える。

原判決50頁23行目から51頁2行目までを削る。


原判決51頁8行目の場合,を場合のうち,に改め,12行目の
このようなときにはから同頁26行目の末尾までを

このようなときについては,上記①の場合について説示したところが同様に妥当するのであって,原契約賃借人の不利益はあながち大きいものとはいえない。に改

める。

原判決52頁1行目の
また,の次に
上記②の場合のうち,を加え,
同頁5行目から6行目にかけての・443条1項を削る。


原判決52頁9行目から53頁1行目までを次のとおり改める。

(イ)しかし,原契約賃借人は,上記と同様に,将来発生する賃料等債務を受働債権とする相殺をすることによって,自らの債権回収を図ることができるから,結局,この場合も,上記①の場合と同様に,原契約賃借人の不利益はあながち大きいものとはいえない。ニ
原判決53頁4行目から15行目までを削り,同頁16行目のエをウに改める。


原判決54頁6行目のそして,から同頁8行目の

否定できない。

までを削る。


原判決55頁1行目の賃借物件をから同頁2行目の宅地建物取引業者までを削り,同じ行の「いえない。」を

いえず,原契約賃借人にこれを期待することが特に不合理であるともいえない。

に改める。



原判決55頁12行目から14行目までを削る。

小括
よって,契約条項目録記載の14条1項のような,一審被告が原契約賃借人に対して事前に通知することなく原契約賃貸人に対する保証債務を履行することができるとする条項を含む消費者契約,並びに,契約条項目録記載の14条4項のような,一審被告が原契約賃借人に対し求償権を行使するの
に対し,原契約賃借人及び連帯保証人が原契約賃貸人に対する抗弁をもって一審被告への弁済を拒否できないことをあらかじめ承諾する条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め等を求める一審原告の請求は,いずれも,理由がない
4
本件契約18条2項2号が消費者契約法に違反するか(争点12から15まで)について


本件契約18条2項2号の消費者契約法8条1項3号該当性(争点13)について

本件契約18条2項2号は,本件4要件を満たす場合には,原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り,賃借物件の明渡しがあったものとみな
すことができる権限を一審被告に付与する条項である。そして,本件契約18条2項2号により賃借物件の明渡しがあったものとみなされた場合にも,
同条3項,
19条1項が適用されるところ,
本件契約18条3項は,
原契約賃借人は賃借物件内に残置した動産類について,原契約賃貸人又は一審被告においてこれを任意に搬出・保管することに異議を述べない旨規
定し,19条1項は,一審被告が搬出して保管している動産類のうち,原契約賃借人が当該搬出の日から1か月以内に引き取らないものについて,原契約賃借人はその所有権を放棄し,一審被告が随意に処分することに異議を述べない旨規定する。
これらの条項は,いずれも一審被告に各条項所定の一定の権限を付与す
るものであり,本件契約18条2項にいう
乙が明示的に異議を述べない限りとの規定は,原契約賃借人が明示的に異議を述べることにより一審被告がその付与された権限,すなわち,賃借物件の明渡しがあったものとみなすことができる権限の行使を阻止することができる旨を定めたものにすぎず,また,本件契約18条3項及び19条1項にいう異議を述べないとの規定は,一審被告がこれらの条項により付与された権限を行使することについて原契約賃借人に異議がないことを確認する趣旨にすぎないと解するのが,その文言に素直で自然な解釈というべきであり,それを超えて,一審被告が本件4要件を満たさないにもかかわらず,又は原契約賃借人が明示的に異議を述べているにもかかわらず,賃借物件の明渡しがあ
ったものとみなして一審被告が本件契約18条3項,19条1項により付与された権限を行使したり,あるいは,本件契約18条3項又は19条1項により付与された権限を行使するに際し,故意又は過失により原契約賃借人に損害を与えたりしたような場合にまで,これにより一審被告が原契約賃借人に対して負うこととなる不法行為に基づく損害賠償責任の全部を免除する趣旨を読み取ることはできない(本件契約18条2項2号は,その充足の有無が一審被告の主観的な判断と離れて客観的に定まることを当
然の前提として本件4要件を規定したものと解されることは,後記⑵オにおいて説示するとおりである。。

なお,本件4要件を満たす場合に一審被告に賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を付与する旨の本件契約18条2項2号の規定が消費者契約法10条,民法90条その他の消費者契約法8条1項3号以外の法令
の規定(強行規定)により無効とされる結果,本件4要件を満たす場合にも一審被告がした本件契約18条2項2号の規定による権限の行使及びそれを前提とする原契約賃貸人及び一審被告による本件契約18条3項,19条1項の規定による権限の行使それ自体が一審被告らに対する不法行為を構成することとなる余地があるとしても,消費者契約法の目的(1条)
及び第2章第2節(消費者契約の条項の無効)の各規定に鑑みると,上記のような場合は同法8条1項3号による規制の対象とはならないものと解するのが相当というべきである。

以上によれば,本件契約18条2項2号が消費者契約法8条1項3号に該当するものということはできない。



本件契約18条2項2号の解釈(争点12)等について

本件契約18条2項2号は,本件4要件を満たすとき(①人が賃料等の支払を2か月以上怠り,②

一審被告が合理的な手段を尽く

しても原契約賃借人本人と連絡がとれない状況の下,③原契約賃借

電気・ガス・水

道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ,かつ,④

賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人
の意思が客観的に看取できる事情が存するとき)は,原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り,一審被告において賃借物件の明渡しがあったものとみなすことができる旨規定し,本件契約18条3項は,原契約賃借人は,同条2項により賃借物件の明渡しがあったものとみなされた場合であっても,賃借物件内に残置した動産類については,原契約賃貸人及び一審
被告において,これを任意に搬出・保管することに異議を述べない旨規定する。そうであるところ,仮に,本契約18条2項2号が原契約賃借人がなお賃借物件を占有している場合にも適用されるとすれば,原契約賃貸人及び一審被告が,この場合に同条3項に基づき賃借物件内の動産類を搬出することは,原契約賃借人の賃借物件に対する占有を解くことを意味する
こととなり,同号は,本件4要件を満たす場合において,原契約賃借人がなお賃借物件を占有しているときにも,一審被告に対し賃借物件についての原契約賃借人の占有を否定して賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を付与する規定であり,同条3項は,原契約賃貸人及び一審被告に原契約賃借人の賃借物件に対する占有を解く権限を付与する規定という
ことになる。一審原告は,このような解釈を前提として,本件契約18条2項2号が一審被告による自力救済を正当化する条項であって,消費者契約法10条に該当する旨主張している。

そこで,本件契約18条2項2号が,原契約賃借人がなお賃借物件を占有している場合にも適用されるものであるかにつき検討するに,上記のとおり,本件契約18条2項2号においては,上記①ないし③の要件が一体となり,これと上記④の要件とがかつで結ばれているところ,まず前半の①ないし③の要件について見ると,これらの要件すべてを満たす場合というのは,原契約賃借人が,賃料等の支払を2か月以上怠り,電気・ガ
ス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ,一審被告が合理的な手段を尽くしても連絡が取れない状況にあるというのであるから,このような場合には,原契約賃借人としては,既に賃借物件を住居として使用しておらず,かつ,その意思を失っている蓋然性が極めて高いということができる。もっとも,これらの3要件を満たす場合においても,原契約賃借人が賃借物件内に同所での居住生活に必要な動産類の相当部分をそのままの状態で残置しているなど,原契約賃借人が賃借物件についての占有の意思を確定的に放棄し,あるいは,賃借物件の所持を完全に失っていると見るには合理的な疑いが残る場合が排除されない。
そこで,上記④の要件についてみるに,同要件は,賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときというものであるところ,上記要件にいう原契約賃借人が賃借物件を再び占有使用しない意思を有している場合とは,すなわち,原契約賃借人が賃借物件についての占有の意思を放棄している場合にほかならないというべきであるから,同要件は,原契約賃借人の賃借物件についての占有を放棄
する意思が客観的に看取できる事情が存することを,上記①ないし③の要件に加えて一審被告に対し賃借物件についての原契約賃借人の占有を否定して賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を付与するための要件として規定したものと解される。
そうすると,本件4要件は,一般に,原契約賃借人が賃借物件の所持を
失い,あるいは,賃借物件についての占有の意思を失っている蓋然性が高い場合の徴表とされる,原契約賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠っていること(①)(原契約賃貸人からその権限を付与された)一審被告が合,
理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡がとれない状況にあること(②)
,電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から原契約賃借人
が賃借物件を相当期間利用していないものと認められること
(③)を原契

約賃借人が賃借物件についての占有権の喪失を認めるために必要な要件として規定するととともに,上記3要件を満たす場合においてもなお,原契約賃借人の賃借物件についての占有権の消滅を認めるには合理的な疑いが残る場合が排除できないことに鑑み,原契約賃借人の賃借物件についての占有を放棄する意思が客観的に看取できる事情が存すること(④)を要件として加えることにより,原契約賃借人が賃借物件について占有する意思を最終的かつ確定的に放棄した(ことにより賃借物件についての占有権が消滅した)ものと認められるための要件をその充足の有無を容易かつ的確に判断することができるような文言で可能な限り網羅的に規定しようとしたものであると解される。

もっとも,本件4要件の趣旨を上記のように解することができるとしても,上記④の要件も原契約賃借人の賃借物件についての占有を放棄する意思を客観的に看取できる事情から推認するものであるから,上記①ないし③の要件を満たした上で,かつ,上記④の事情が認められる場合においても,原契約賃借人が実際にはなお賃借物件についての占有の意思を最終的
かつ確定的に放棄していないような場合など,少なくとも理論上は,原契約賃借人の賃借物件についての占有権が消滅していない場合を完全に排除することができないことは否定できない。
しかしながら,本件4要件を満たした上でなお賃借人の賃借物件についての占有権が消滅していない場合は現実にはほとんど考え難いというべき
であり,このことは,本訴において一審原告からそのような場合に該当する具体例が一切示されていないことからも裏付けられるところである。のみならず,原契約賃借人の賃借物件に対する占有が消滅していない場合に本件契約18条2項2号を適用することは,同条3項により,原契約賃貸人及び一審被告に対し,民事訴訟手続及び民事執行手続によらずに原契約
賃借人の占有を解く権限,すなわち,自力救済権限を付与することになるところ,そのような権限の行使が自力救済として適法とされる場合はほとんど考え難く,他方で,本件契約18条2項2号が上記のとおり明確かつ平易な文言でもって上記①ないし③の要件を規定するとともに,これらの3要件を満たす場合においてもなお,原契約賃借人の賃借物件についての占有権の喪失を認めるには合理的な疑いが残る場合が排除できないことに鑑み,上記④の要件を加えることにより,原契約賃借人が賃借物件につい
て占有する意思を最終的かつ確定的に放棄した(ことにより賃借物件についての占有権が消滅した)ものと認められるための要件をその充足の有無を容易かつ的確に判断することができるような文言で可能な限り網羅的に規定しようとしている趣旨からすれば,同号が本件4要件を満たしているにもかかわらずなお原契約賃借人の賃借物件についての占有権が消滅して
いない場合に原契約賃貸人及び一審被告に対し自力救済として原契約賃借人の占有を解く権限を付与する趣旨を含むものと解するのは困難というべきであって,同号は,本件4要件を満たすことにより,原契約賃借人が賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合において,一審被告に対し,賃借物件の明渡しがあった
ものとみなす権限を付与する趣旨の規定であると解するのが,無理のない合理的な解釈というべきである。

ところで,本件契約18条2項2号において一審被告が本件建物の明渡しがあったものとみなすことができるための要件につき,原契約による賃
貸借契約関係が終了していることは要件とされていない。もっとも,本件4要件を満たすことにより原契約賃借人の賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合は,原契約賃借人が賃借物件の使用を終了する趣旨で賃借物件について占有する意思を放棄したものと合理的に解される。また,仮に一審被告により賃借物件の明渡しがあったものとみ
なされたにもかかわらず,原契約による賃貸借関係が継続するとすれば,原契約賃貸人は,なお原契約賃借人に対し賃借物件を貸す債務を負い続け,他の第三者との間で新たに賃貸借契約を締結することは原契約賃借人に対する債務不履行となり得ることとなるし,他方で,原契約賃借人も,なお賃料債務を負い続けることとなるが,このような結論が,上記のような要件の下で賃借物件の明渡しがあったものとみなすことができるとした上記条項の趣旨・目的に沿わないことは明らかである。そうすると,上記
条項に基づき一審被告により賃借物件の明渡しがあったものとみなされた場合には,その時点で原契約が継続していたとしても,原契約は当然に終了することとなるものと解するのが本件契約の解釈として自然かつ合理的である。すなわち,本件契約18条2項2号は,本件4要件を満たすことにより,原契約賃借人が賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対
する占有権が消滅しているものと認められる場合に,一審被告に対し,賃借物件の明渡しがあったものとみなし,原契約が継続している場合にはこれを終了させる権限を付与する趣旨の規定であると解される(なお,上記1で説示したところからすれば,この場合であっても,当事者間の信頼関係を破壊するものとは認められない特段の事情がある場合には,原契約は
終了しないと解すべき余地があるが,本件4要件の内容からすれば,これらの要件を満たす場合には,一般に当事者間の信頼関係は破壊されているものということができるのであって,本件4要件を満たすにもかかわらず上記特段の事情が認められるという例は現実にはにわかに想定し難いというべきである。。



上記イ及びウにおいて検討したところによれば,本件契約18条2項2号は,原契約賃借人から明渡しがされたとは認められないものの,本件4要件を満たすことにより,原契約賃借人が賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合において,
原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り,一審被告に対し,賃借物件の明渡しがあったものとみなし,原契約が継続している場合にはこれを終了させる権限を付与する趣旨の規定であると解するのが相当である。オ
一審原告は,原契約賃借人が賃借物件内に動産類を残置しているなど所持の事実をそのままにしている場合には,積極的・明示的な意思表示もないのに,客観的・外形的な事実から占有放棄の意思表示を推認し,占有権
が消滅したと判断することはできない旨主張する。しかしながら,占有者が占有物の所持(物に対する事実的な支配)を維持している場合には,占有者において積極的に賃借物件を占有する意思を放棄する旨の意思表示をしない限り占有権は失われないものと解されるものの,この意思表示につき,一般の意思表示とは異なり,黙示の意思表示によることはできない
とする法的根拠を見いだすことはできず,客観的・外形的な事実から占有の放棄の意思表示を推認することが許容されないと解することはできない。したがって,一審原告の上記主張が,占有を放棄する旨の意思表示は黙示によってはすることができないという趣旨であるとすれば,これを採用することはできない。

また,一審原告は,例えば,原契約賃借人が海外で入院を余儀なくされたり,刑事手続により身柄を拘束されたりして,その意思によらずに賃借物件を使用することができない状況となったような場合に,本件契約18条2項2号の要件を満たすにもかかわらず占有権を失っていない場合があり得る旨主張する。しかしながら,このような場合,原契約賃借人は,賃
借物件での生活を継続する中で,突発的に帰宅できなくなったにすぎないと考えられるから,賃借物件での居住生活に必要な動産類がそのままの状態で残置されていたり,電気・ガス・水道の利用契約が存続し,電気の使用が継続していたりするなど,原契約賃借人が賃借物件を再び占有使用する意思の存在をうかがわせるに足りる外形的事実や客観的状況が複数存在
するのが通常であり,少なくとも上記④の要件を満たすとは考え難い。上記イで説示したとおり,本件契約18条2項2号を合理的に解釈すれば,原契約賃借人が賃借物件の占有権を失っていない場合には同条項が適用されることはないと解されるから,一審原告の上記主張は採用することができない。
一審原告は,
本件契約18条2項2号は,
同条3項等の規定と相まって,
原契約賃借人に賃借物件を任意に明け渡す意思がないにもかかわらず,原契約賃貸人及び一審被告において,民事訴訟手続や民事執行手続を経ずに明渡債務の履行を得ること,すなわち,違法な自力救済を行うことを目的として設けられた条項であるとして,本件契約18条2項2号は原契約賃借人が賃借物件をなお占有している場合にも適用される旨主張する。この
点については,確かに,証拠(甲3,8~15,17~28,35,36~39,乙30~32)及び弁論の全趣旨によれば,家賃債務保証業者の中には,その利益を追求するあまり立退きの強要等を含む違法な自力救済と評すべき余地のある行為を行う者も少なくないという社会実態があることがうかがわれ,現に,一審被告においても,過去に,裁判所において,
その従業員による退去の勧告が社会通念上許容される限度を超えるものであり不法行為に該当すると判断された事案等があったことが認められる。しかし,上記イにおいて説示した本件4要件の定め方及びその趣旨等に鑑みると,これらの事情があるからといって,直ちに本件契約18条2項2号が賃借物件について原契約賃借人の占有が残っている場合にまで原契約
賃貸人及び一審被告に対し自力救済としてその占有を解く権限を付与することを目的とした条項であると解するのは困難である。また,本件契約18条2項2号においては,一審被告において本件4要件の充足の有無を認定した上で,原契約賃貸人及び一審被告において同条3項,本件契約19条1項,2項の権限を行使する仕組みが定められているものの,本件4要
件の充足の有無の認定を専ら一審被告の主観的な判断にゆだねる趣旨まで読み取ることはできず,原契約賃借人の賃借物件に対する占有権の消滅を可能な限り客観的な徴表及び事情によって認定しようとする趣旨が同号の規定の文言からもうかがわれることに鑑みても,同号はその充足の有無が一審被告の主観的な判断と離れて客観的に定まることを当然の前提として本件4要件を規定したものと合理的に解釈されるのであり,このことからしても,同条項が原契約賃借人の占有が残っている場合にまで原契約賃貸人及び一審被告に対し自力救済としてその占有を解く権限を付与することを目的とした条項であるとは解されない。
以上のとおり,本件契約18条2項2号が賃借物件について原契約賃借人の占有が残っている場合にまで原契約賃貸人及び一審被告による自力救
済としてその占有を解くことを目的とする条項であるとして,原契約賃借人の占有が残っている場合にも適用されるとする一審原告の上記主張は,採用することができないというべきである。
なお,一審原告は,本件契約18条2項2号は,賃借人の関与なしに,一審被告において本件4要件の充足の有無を判断した上,これを満たすと
判断した場合,原契約賃借人の賃貸物件についての占有を放棄する意思の有無のいかんにかかわらず,賃借物件の明渡しがあったものとみなして,原契約賃貸人及び一審被告が同条3項の基づく残置した動産類の搬出,保管等を行うことにより原契約賃貸人の目的物返還請求を実現させるものであるから,現場対応における一審被告による本件4要件についての恣意的
な認定とそれに基づく原契約賃貸人及び一審被告による動産類の搬出等の権限行使により,原契約賃借人がなお賃借物件の占有を失っておらず,原契約に基づく賃借物件の使用権原が残っているにもかかわらず,その意に反して原契約賃借人の占有を侵害し,原契約を終了させるといった行動を誘発するおそれがあるといった趣旨の主張もするところ,確かに,一審被
告による本件契約18条2項2号の運用の場面において一審原告が主張するような契約条項を逸脱した違法な運用を招来するおそれが残ることは否定することができない。しかしながら,消費者契約法は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み,消費者の利益の擁護を図るために,8条ないし10条において,事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするとともに,適格消費者団体に対し,8条から10条ま
でに規定する消費者契約の条項を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の停止等(差止め)を請求する権限を付与するものであるから,本件契約18条2項2号の客観的規範内容が消費者契約法8条ないし10条の規定によりその全部又は一部が無効と判断される場合は格別,そうでない限り,一審原告が主張するような契約条項を逸脱した違法な運用を招
来するおそれがあることのみを理由として,消費者契約法12条3項に基づく差止め請求権を行使することは,およそ認められないものというべきである(なお,消費者契約の条項がその文言ないし規定の仕方等により事業者の誤った適用を誘発するおそれのあるものである場合に消費者契約法10条後段に該当すると解し得るかについては後記⑶ウにおいて説示す
る。。したがって,一審原告の上記主張は,主張自体として失当といわざ)
るを得ず,採用することができない。


本件契約18条2項2号の消費者契約法10条該当性(争点14及び争点15)について


上記⑵のとおり,本件契約18条2項2号は,原契約賃借人からの明渡しがされたとは認められないものの,本件4要件を満たすことにより,原契約賃借人が既に賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合において,原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り,一審被告に対し賃借物件の明渡しがあったものと
みなし,原契約が継続している場合にはこれを終了させる権限を付与する条項であり,同条項により賃借物件の明渡しがあったものとみなされた場合,原契約賃借人は,賃借物件内に残置した動産類について,原契約賃貸人又は一審被告によってこれを任意に搬出・保管されることを甘受すべき地位に立ち(同条3項)
,その後,当該動産類を1か月以内に引き取らない
場合には,その所有権を失い,以後一審被告によって随意にこれを処分されることも甘受すべき地位に立つこととなる
(19条1項)これらの条項


がなければ,原契約賃借人は,賃借物件に対する占有を失っているとはいえ,民事訴訟手続及び民事執行手続を経ずに賃借物件内の動産類を搬出・保管され,あるいはこれを処分されることはないのであるから,これらの条項は,任意規定の適用による場合に比し,消費者である原契約賃借人の権利を制限するものであるということができる。

また,上記⑵オのとおり,本件契約18条2項2号は,原契約による賃貸借関係が終了していない場合にも適用され,その場合には,原契約賃貸人からの契約解除の意思表示等を受けることもなく,一審被告により賃借物件の明渡しがあったものとみなされて一方的に原契約を終了させられることとなるから,この点においても,任意規定の適用による場合に比し,
消費者である原契約賃借人の権利を制限するものであるということができる。

もっとも,上記⑵で検討・説示したとおり,本件契約18条2項2号が適用される場合というのは,原契約賃借人からの明渡しがされたとは認め
られないものの,本件4要件を満たすことにより,原契約賃借人が賃借物件の使用を終了して,その賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合であるところ,このような場合,原契約賃借人は,通常,原契約に係る法律関係の解消を希望し,又は予期しているものと考えられるのであり,原契約に係る自らの債務を現実に履行する意思を失うのみな
らず,むしろ,これを免れることを希望し,他方で,賃借物件内に残置した動産類については,その占有権のみならず,その所有権をも放棄する意思を有するか,少なくとも原契約賃貸人等においてこれを処分等することによりその所有権を侵害されてもやむを得ないとの意思を有しているものと考えられる。そうであるとすれば,本件4要件を満たすことにより,原契約賃借人が賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合に,一審被告により賃借物件の明渡しがあったものとみなされたとしても,そのことにより原契約賃借人が受ける不利益は,その後に原契約賃貸人及び一審被告により賃借物件内の動産類を搬出・保管ないし処分され得るという点も含め,必ずしも大きいものとはいえない。むしろ,本件契約18条2項2号が適用されることによ
り,原契約賃借人は,自ら現実の明渡しをする債務を免れるとともに,その連帯保証人と共に賃料等ないし賃料等相当損害金の更なる支払義務を免れるという利益を受けることができ,このような原契約賃借人が得られる利益は小さくないということができる。以上に加え,本件契約18条2項2号においては,原契約賃借人が明示的に異議を述べないことが要件と
されており,原契約賃借人としては明示的に異議を述べさえすれば同号に基づく一審被告の権限の行使及びこれを前提とする同条3項及び本件契約19条1項に基づく原契約賃貸人及び一審被告の権限の行使を阻止することができる。このように,原契約賃貸人及び一審被告による上記各条項に基づく賃借物件の明渡しの実現は,賃借物件内に残置した動産類の搬
出・保管ないし処分をも含めて,通常は原契約賃借人の意思に反するものではないと考えられ,仮に原契約賃借人の意思に反する場合には,原契約賃借人は明示的に異議を述べることにより,一審被告による本件契約18条2項2号に基づく権限の行使及びそれに続く原契約賃貸人及び一審被告による同条3項,19条1項に基づく権限の行使を阻止することができ
るものとされているのである。
他方で,原契約賃貸人及び一審被告は,原契約賃借人が賃借物件の使用を終了して,その賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められるにもかかわらず,原契約賃借人が賃借物件内に動産類を残置等し,しかも,原契約賃貸人や一審被告に対してその連絡をしないため,一審被告が合理的手段を尽くしても原契約賃借人と連絡が取れないことから,法的な意味における賃借物件の明渡しが実現されない場合に,本件契約18条2
項2号,同条3項及び19条1項により,速やかに原契約を終了させて,民事訴訟手続及び民事執行手続を経ることなく賃借物件の明渡しを実現することができるとともに,一審被告は未払賃料等及び賃料等相当損害金の支払義務を免れることができることとなり,上記のように法的な意味における賃借物件の明渡しが実現されない事態が現実には少なくないと認めら
れる(弁論の全趣旨)ことにも鑑みると,本件契約18条2項2号及びこれを前提とする本件契約18条3項,19条1項によって原契約賃貸人及び一審被告が受ける利益は大きいということができる。
以上によれば,本件契約18条2項2号のみならず,これを前提とする同条3項,本件契約19条1項の各条項は,相応の合理性を有するものと
いうことができる反面,これによる原契約賃借人の不利益は限定的なものにとどまるものということができることからすれば,本件契約18条2項2号が信義則に反して消費者である原契約賃借人の利益を一方的に害するものということはできない。

なお,上記⑵イで説示したとおり,本件4要件のうち,上記①ないし③の要件については,その内容からして,その充足の有無を客観的,外形的事実等により比較的容易に判断し得るものであるといえるのに対し,上記④の要件(賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するとき)は,その規定内容がやや抽象的であり,そ
の充足の有無については,上記①ないし③の要件に関する具体的事情や,賃借物件内の状況その他一切の事情を総合して個別・具体的に判断するほかないものと考えられるところ,本件における一審被告の主張内容からしても,的確に上記判断をすることは必ずしも容易ではない場合があると考えられる。そして,上記のとおり,本件契約18条2項2号においては,一審被告において上記④を含む本件4要件の充足の有無を認定した上で,原契約賃貸人及び一審被告において同条3項,本件契約19条1項等の権限を行使する仕組みが定められており,本件4要件の充足の有無の認定を専ら一審被告の主観的な判断にゆだねる趣旨ではないと解されるものの,その運用の場面において一審被告により上記④の要件の充足の有無について誤った判断がされることにより,原契約賃借人になお賃借物件の占有
が認められる場合にも,一審被告において賃借物件の明渡しがあったものとみなし,賃借物件内に残置された動産類の搬出等によってその占有を解かれることとなる(違法な自力救済を受ける)事態が発生する危険性を否定することができない。そうすると,上記イのとおり,本件契約18条2項2号は,無理のない合理的な解釈により確定される規範的内容それ自体
は,信義則に反して消費者である原契約賃借人の利益を一方的に害するものということはできないものの,上記のようにその要件(本件4要件)のうちにその規定内容がやや抽象的なもの(上記④の要件)が含まれている上,一審被告においてこれらの要件の充足の有無を認定した上で,原契約賃貸人及び一審被告において同条3項,本件契約19条1項等の権限を行
使する仕組みが定められていることにより,その運用の場面において,原契約賃借人が誤って違法に賃借物件に対する占有を失う現実的な危険を負うという点をとらえて,任意規定の適用による場合に比し,消費者である原契約賃借人の権利を制限するものであるという余地がないではない。しかしながら,消費者契約法は,消費者と事業者との間の情報の質及び
量並びに交渉力の格差に鑑み,事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とする等のほか,消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより,消費者の利益の擁護を図り,もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とし,3条において,事業者に対し,消費者契約の条項を定めるに当たっては,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が,その解釈について疑義が生じない明確なもので,かつ,消費者にとって平易なものになるよう配慮することを努力義務として,また,消費者に対し,消費者契約を締結するに際しては,事業者から提供された情報を活用し,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解す
るようにすることをその努力義務として規定した上,8条ないし10条において,事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするとともに,適格消費者団体に対し,8条から10条までに規定する消費者契約の条項を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の停止等(差止め)を請求
する権限を付与するものである。このような消費者契約法の目的及び規律の内容,仕組みに鑑みると,同法は,消費者契約の条項が同法10条により無効とされるか否かを,合理的な解釈により確定される当該条項の客観的規範内容それ自体が同条の要件に該当するか否かによって判断すべきものとしているのであって,当該条項の内容が事業者の誤った運用を招来す
るおそれがありそれによって消費者が不利益を受けるおそれがあることを理由に当該条項を無効とすることは,同法の予定しないところであると解するのが相当というべきである。
仮にこの点を措くとしても,上記①ないし③の要件は,その内容からして,比較的容易にその充足の有無を判断し得るものといえるところ,これ
らの要件すべてを満たす場合には,原契約賃借人としては,既に賃借物件を住居として使用しておらず,かつ,その意思を失っている蓋然性が極めて高いということができるのであって,このような場合に原契約賃借人が賃借物件について占有する意思を最終的かつ確定的に放棄した(ことにより賃借物件についての占有権が消滅した)
と認められるか否かは,
通常は,
賃借物件内に残置された動産の種類,内容,量,残置の態様その他の賃借物件内の状況や,その後の原契約賃借人による賃料等の支払状況,原契約
賃借人の音信状況,電気・ガス・水道の利用状況の推移等の客観的,外形的事実から容易に判断可能な場合が多いと考えられ,事業者による的確な判断が困難な場合は現実にはかなり少ないのではないかと考えられる(賃借物件内に同所での居住生活に必要な動産類の相当部分をそのままの状態で残置しているような場合には,通常は,上記④の要件を満たさないと判
断されるであろうが,その後も原契約賃借人からの賃料等の支払がされないまま,原契約賃借人との連絡が取れない状況が続き,電気・ガス・水道の利用状況等にも変化が見られないような場合には,上記④の要件を充足するとの判断が可能となることもあろう。。そうであるとすれば,上記④)
の要件の充足の有無について事業者によって誤った判断がされることによ
り原契約賃借人が違法な自力救済として賃借物件の占有を解かれその占有を失うという危険性を否定することができないとしても,そのことによる不利益の程度は必ずしも大きいとはいえず,限定的なものにとどまるものということができるのであって,他方で,上記のとおり,本件契約18条2項2号は相応の合理性を有するものということができることからすれば,
上記のような原契約賃借人の負う危険性を否定することができないことをもって,同号が信義則に反して消費者である原契約賃借人の利益を一方的に害するものということはできない。

以上によれば,本件契約18条3項,19条1項及び同条2項の内容を踏まえたとしても,本契約18条2項2号が消費者契約法10条に該当するものということはできない。


小括
したがって,契約条項目録記載の18条2項2号のような,原契約賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り,一審被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡がとれない状況の下,電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認め
られ,かつ,賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに,原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り,賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を一審被告に付与する条項を含む消費者契約の申込みまたは承諾の意思表示の差止め等を求める一審原告の請求は,いずれも理由がない。

5
争点16(本件契約18条2項2号,同条3項,19条1項及び同条2項が一体として消費者契約法に違反するか)について
上記4で説示したところからすれば,本件契約18条2項2号,同条3項,19条1項及び同条2項を一体としてみたとしても,これらの条項が消費者契約法8条1項3号に該当し,又は,同法10条に該当するということはできな
い。したがって,一審原告の当審における附帯控訴に基づく予備的請求も理由がない。
6
結論
以上によれば,一審原告の請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ,
これを一部認容した原判決は失当であって,
一審被告の控訴は理由があるから,
原判決中,一審被告敗訴部分を取り消して,その部分につき一審原告の請求を棄却し,
一審原告の控訴は理由がないから,
これを棄却することとする。
また,
一審原告の当審における附帯控訴に基づく予備的請求も理由がないから,これを棄却することとする。

よって,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第7民事部
裁判長裁判官

西川知
裁判官

栩木有
裁判官

森田一郎紀亮
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