判例検索β > 令和2年(ウ)第4号
保全異議申立事件
事件番号令和2(ウ)4
事件名保全異議申立事件
裁判年月日令和3年3月18日
裁判所名・部広島高等裁判所  第4部
結果その他
原審裁判所名山口地方裁判所  岩国支部
原審事件番号平成29(ヨ)5
原審結果却下
裁判日:西暦2021-03-18
情報公開日2021-04-12 10:00:34
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主1文
被申立人ら(債権者ら)と申立人(債務者)間の当裁判所平成31年(ラ)第48号伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立却下決定に対する即時抗告事件について,当裁判所が令和2年1月17日にした仮処分決定を取り消す。

2
被申立人ら(債権者ら)の抗告を棄却する。

3
手続費用は,当裁判所平成31年(ラ)第48号事件及び本件を通じ,いずれも被申立人ら(債権者ら)の負担とする。

第1


申立ての趣旨
主文同旨

第2
1
事案の概要
本件は,被申立人ら(債権者ら。以下債権者らという。)が,申立人(債務者。以下債務者という。)の設置・運用する発電用原子炉施設である伊方発電所(以下本件発電所という。)3号機の原子炉(以下本件原子炉という。)及びその附属施設(本件原子炉と併せて,以下本件原子炉施設と総称する。)は,地震,火山の噴火等に対する安全性に欠けるところがあるため,その運転により重大な事故が発生し,これにより大量の放射性物質が放出されて,債権者らの生命,身体等の重大な法益に対する侵害が生ずる具体的危険があるとして,人格権に基づく妨害予防請求権を被保全権利として,本件原子炉の運転の差止めを命ずる仮処分命令を申し立てた事案である。
2
原審が申立てを却下したため,債権者らが即時抗告した。抗告審である当裁判所は,本件原子炉施設が後記の新規制基準に適合するとした原子力規制委員会(以下規制委員会という。)の判断は,本件原子炉施設の地震に対する安全性につき,佐田岬半島沿岸部には活断層がないものとして震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価をする必要はないと判断した点,及び火山事象の影響による危険性につき,破局的噴火に至らない程度の最大規模の噴火を考慮しなかった点において不合理で,その過程に過誤ないし欠落があったといわざるを得ず,また,規制委員会の判断とは別に,債務者において,債権者らがその生命,身体等に重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことにつき,相当の根拠,資料に基づいて主張・疎明したということもできないとして,被保全権利の疎明がなされたと判断し,保全の必要性を認め,債権者らに担保を立てさせることなく,債務者は本案訴訟の第一審判決の言渡しまで本件原子炉を運転してはならない旨の仮処分決定(以下原決定という。)をした。債務者がこれを不服として本件保全異議を申し立てた。
第3

前提事実
争いのない事実,並びに後掲疎明資料及び審尋の全趣旨により容易に認められる事実は,以下のとおりである。

1
当事者


債権者らは,山口県内の柳井市平郡(平郡島),熊毛郡上関町(祝島)及び大島郡周防大島町にそれぞれ居住している者であり,債権者らの居住地と本件発電所との距離は,おおむね三十数kmから四十数kmである。


債務者は,四国4県へ電力供給を行う一般電気事業者であり,本件原子炉施設を含む発電設備を所有している。

2
本件原子炉の概要等


本件原子炉の概要
債務者は,佐田岬半島の瀬戸内海側に位置する愛媛県西宇和郡伊方町九町字コチワキ3番耕地40番地3所在の本件発電所内に発電用原子炉である本件原子炉を設置している。本件原子炉は,昭和61年11月に建設工事が開始され,平成6年12月15日から営業運転が開始された。(乙2)


原子力発電の仕組み
ウラン235の原子の中心にある原子核に中性子が当たると,原子核が分裂し,その際,熱エネルギーと中性子が発生し,この中性子が別のウラン235の核分裂を生じさせ,連鎖的に核分裂が維持されるようになる(核分裂の連鎖反応)。原子力発電は,ウラン235の核分裂の連鎖反応によって生じる熱エネルギーを発電に利用するもので,具体的には,原子炉内でウラン235の核分裂の連鎖反応を生じさせて熱エネルギーを発生させ,その熱で蒸気を発生させてタービンを回転させることにより発電を行うものである。(乙3)


安全確保の必要性
このように,原子力発電は,核分裂反応によって生じる熱エネルギーを利用して発電を行うため,発電に伴い放射性物質が発生する。この放射性物質が原子炉から漏れ出すと,その危険性が顕在化することから,燃料であるウラン235等を収納する原子炉容器は,通常運転時の圧力・温度はもとより,原子炉内の圧力・温度が異常上昇した場合にも,地震の際に生じる荷重にも,十分耐えられる強固な構造でなければならない。(乙3,14)また,原子炉内の圧力・温度が異常に上昇することがないよう,ウラン235の核分裂の連鎖反応を安定的に持続させる必要があるし,原子炉が停止した後にも,核分裂生成物の崩壊により発生する熱(崩壊熱)等があるため,これらの残留熱を除去する冷却手段を確保する必要がある。そこで,原子炉を止める,冷やす,放射性物質を閉じ込めるという安全上
重要な機能を有する設備を用いて事故防止に係る安全確保対策を講ずることにより,異常発生時においても放射性物質を発電用原子炉施設内に閉じ込め,放射性物質を環境へ大量に放出する事態を防止することが予定されている。(乙14)



本件原子炉施設の冷却・電気設備

原子炉の冷却設備
本件原子炉施設においては,核分裂を起こす中性子の数を調整するための制御材として,ホウ素及び制御棒等が用いられているほか,タービンを回転させた蒸気を水に戻すための復水器を冷やすため,その外部に水(二次冷却材)を,主給水ポンプを用いて循環させている。
(乙2,3,13[8-3-1頁以下,8-5-131頁以下],14)主給水ポンプが何らかの原因により使えない場合に備えて,タービンを回転させる蒸気を発生させる蒸気発生器に直接給水して原子炉の冷却を可能とする補助給水設備が設けられている。補助給水設備には,外部電源が失われた場合でも,非常用ディーゼル発電機により稼働させることができる電動補助給水ポンプと,蒸気発生器で発生する蒸気で稼働し,外部電源及び非常用ディーゼル発電機からの電力供給が失われた場合に稼働させることを予定しているタービン動補助給水ポンプがある。
(乙3,13[8-5-161~176頁])

電気設備
本件原子炉施設内の機器を運転するのに必要な電気は,通常運転時においてはタービンの回転により電気が発生する発電機から供給するが,発電機の起動時及び停止中には外部電源から供給を受ける。発電機が停止し,かつ,外部電源が喪失した場合に備えて,非常用ディーゼル発電機が設けられているほか,原子炉の温度,圧力等を監視・制御するために必要な機器については,発電機,外部電源及び非常用ディーゼル発電機からの電気の供給が喪失した場合に備え,直流電源設備が設けられている。
(乙13[8-10-1~39頁])

3
東北地方太平洋沖地震及び福島第一原子力発電所における事故(福島事故)の状況等


事故の概要
平成23年3月11日,東北地方太平洋沖地震(M9.0)が発生した。福島第一原子力発電所(以下福島第一原発という。)の各原子炉のうち1号機ないし3号機は運転中,4号機ないし6号機は定期点検中であったが,東北地方太平洋沖地震による地震動を検知して1号機ないし3号機は直ちに停止した。その際,地震により外部電源を失ったため,代わりに非常用ディーゼル発電機が作動して交流動力電源を供給し,原子炉の冷却をしていた。
ところが,その後襲来した津波によって,非常用ディーゼル発電機が停止し,同時に原子炉の熱を海に逃すための海水ポンプも破損した。さらに,原子炉の冷却にかかわる注水,減圧等に必要な直流電源を損傷・喪失した結果,事故防止に係る安全確保対策による冷却に失敗し,炉心の著しい損傷に至った。そして,最終的には,原子炉格納容器及び原子炉建屋も破損し,放射性物質の閉じ込めに失敗したため,大量の放射性物質を外部に放出することとなった(これらの事象を,以下福島事故と総称する。)。
(乙3,76,77)


被害及び避難の状況

福島事故の影響により,福島第一原発から半径20km圏内は警戒区域,半径20km以遠で放射線量が年間20mSvを超える区域は計画的避難区域として居住が制限され,政府の避難指示によって避難した住民は約15万人に達した。福島第一原発から半径20km圏内にあった病院及び介護老人保健施設の患者が避難した際,別の病院への移送完了までに死亡した患者数は48人,同年3月末までの死亡者数は少なくとも60人に上った。
(甲621[335~365頁])


福島事故から約4年3か月が経過した平成27年6月時点で,福島県全体の避難者は約11万2000人に上り,そのうち避難指示区域からの避難者は約7万9000人(平成26年10月時点),旧避難指示区域及び旧緊急時避難準備区域からの避難者は約1万9000人(平成27年5月時点)であった。その後,平成29年3月末に自主避難者の避難先住宅の無償提供が打ち切られ,各市町村が自主避難者の多くを避難者に計上しなくなったために避難者数が減少したものの,復興庁の把握している東北地方太平洋沖地震による避難者は,令和2年11月時点で,全国で約4万3000人,福島県で7459人である。
(甲43,1227,1228)
4
福島事故を踏まえた規制の強化


事故原因の分析

国会事故調報告書
国会に設けられた東京電力福島原子力発電所事故調査委員会は,福島事故について関係者からのヒアリング,現地の視察,住民とのタウンミーティング,資料調査などを行い,平成24年9月30日,その結果及び提言を国会事故調報告書にまとめた。同報告書では,福島事故の根源的原因は,歴代の規制当局と東京電力との関係において,規制する立場とされる立場が逆転関係となることによる原子力安全についての監視・監督機能の崩壊が起きた点に求められるとの指摘があり,続いて,福島事故の直接的原因は,地震及び地震に誘発された津波という自然現象であるが,事故の主因を津波のみに限定すべきではなく,津波が到達する前に,地震により小規模なLOCA(小さな配管破断などの小破口冷却材喪失事故)が生じていた可能性などがあり,安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的にはいえない,未解明な部分が残っているので,引き続き事故原因の解明が必要であると結論づけた。
(甲621[8~9,12~13頁])


政府事故調査報告書
政府の東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会
は,福島事故の原因について一定の結論を示すとともに,その最終報告において,原子力安全規制機関は,原子力安全関連の意思決定を実効的に独立して行うことができ,意思決定に不当な影響を及ぼす可能性のある組織から機能面で分離されていなければならない。これは,IAEAの基本安全原則も強調するところである。新たな原子力安全規制機関は,このような独立性と透明性を確保することが必要である。との提言を行った。(甲212)


原子力関連法規の制定及び改正

上記⑴イの提言を受けて,福島事故を契機に明らかとなった原子力の研究,開発及び利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去するとともに,一つの行政組織が原子力の研究,開発及び利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため,平成24年6月20日,原子力規制委員会設置法(以下設置法という。)が成立し,同法2条により規制委員会が,国家行政組織法3条2項に基づく,いわゆる3条委員会として設置されるとともに,設置法附則13条により,それまで原子力の安全の確保に関する事項について企画し,審議し,及び決定することを任務としていた原子力安全委員会は廃止された。
設置法は,原子力利用における安全確保について,事故の発生を常に想定し,その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って,確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図ると規定し(同法1条),規制委員会は,原子炉に関する規制をはじめ原子力利用における安全の確保を図るために必要な施策の策定・実施を一元的に司り(同法1条及び4条),その運営にあたっては,情報の公開を徹底する(同法25条)こととされた。
また,規制委員会が平成25年1月9日に作成した規制委員会の組織理念において,

原子力規制委員会は,・・・原子力の安全管理を立て直し,真の安全文化を確立すべく,設置された。原子力にかかわる者は・・・常に世界最高水準の安全を目指さなければならない

とされた。(乙78)

設置法附則12条,15条~18条により,原子力基本法及び核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下原子炉等規制法という。)の改正が行われた。
この改正により,原子炉等規制法は,同法1条に,原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されることその他の核原料物質,核燃料物質及び原子炉による災害を防止し,原子炉の設置及び運転等に関し,大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制を行う等の文言が明記された。また,規制委員会が,設置許可基準に係る規則を定めること(同法43条の3の6第1項4号),当該基準に適合していない場合には,発電用原子炉の設置者に対して,使用停止等の処分を行うことができる旨規定すること(同法43条の3の23第1項。いわゆるバックフィット制度),40年の運転期間の制限の原則を設けること(同法43条の3の32)などの改正が行われた。
なお,これら原子炉等規制法の改正については,設置法附則により経過措置が設けられており,例えば,従前の国の機関が改正原子炉等規制法の施行前にした許可,認可その他の処分又は通知その他の行為は,施行後は,設置法による改正後のそれぞれの法律の相当規定に基づいて,相当の国の機関がした許可,認可その他の処分又は通知その他の行為とみなすとされている。
この改正により,原子力基本法は,原子力利用の基本方針の柱とされている安全の確保(同法2条1項)について,

確立された国際的な基準を踏まえ,国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として,行うものとする。

(同法2条2項)との条項が追加されたが,原子力の研究,開発及び利用を推進することによって,将来におけるエネルギー資源を確保し,学術の進歩と産業の振興とを図り,もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与するという同法の目的(同法1条)には変更が加えられていない。ウ
なお,原子炉等規制法は,発電用原子炉に係る規制の枠組みについて,次のとおり定めている(これらの規制の枠組みについては,上記イの改正前後を通じて特に変更はない。)。
発電用原子炉を設置しようとする者は,まず,①規制委員会の原子炉設置許可を受けることを要する(同法43条の3の5及び43条の3の6)。
次に,工事に着手するためには,②工事の計画について規制委員会の認可を受けなければならない(同法43条の3の9)。
発電用原子炉の運転を開始するためには,③規制委員会の使用前検査を受け,これに合格しなければならないほか(同法43条の3の11),④保安規定を定め,規制委員会の認可を受けなければならない(同法43条の3の24)。
運転開始後においても,⑤一定の時期ごとに,規制委員会が行う施設定期検査を受けなければならない(同法43条の3の15)。
発電用原子炉設置許可を受けた者が,原子炉等規制法43条の3の5第2項2号から5号まで又は8号から10号までに掲げる事項を変更しようとするときは,⑥規制委員会の設置変更許可(同法43条の3の8)を受けた上,必要により,工事計画認可,使用前検査及び保安規定変更認可を受けなければならない(同法43条の3の9,43条の3の11及び43条の3の24)。



新規制基準の制定経緯

原子力安全委員会及び原子力安全・保安院による検討
福島事故を受けて,原子力安全委員会及び原子力安全・保安院において,事故防止対策,重大事故等対策並びに地震及び津波の3分野に分けて次のとおり検討が行われた。
(乙115・450[45~51頁])
事故防止対策について
原子力安全委員会では,原子力安全基準・指針専門部会の下に設
置された安全設計審査指針等検討小委員会において,平成23年7月15日から平成24年3月15日までの間,計13回にわたり,安全規制に関する検討が行われた。中心的に検討されたのは,全交流動力電源喪失対策及び最終的な熱の逃がし場である最終ヒートシンク喪失対策についてであり,深層防護の考え方を安全確保の基本と位置付け,アメリカの規制動向や諸外国における事例が参照された。
また,原子力安全・保安院は,事故の発生及び事故の進展について,当時までに判明している事実関係を基に,工学的な観点からの整理・分析に基づき,技術的知見を体系的に抽出し,主に設備・手順に係る必要な対策の方向性を検討し,併せて東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会を設置して,平成23年10月24日から平成24年2月8日まで計8回にわたり原子力安全・保安院の分析や考え方に対する専門家の意見を聴きながら,検討を進めた。そして,東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見について(平成24年3月原子力安全・保安院)において,今後の規制に反映すべきと考えられる事項(30項目)を取りまとめた。重大事故等対策について
原子力安全委員会においては,平成4年5月に決定した発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについてにおいて,原子炉設置者が効果的なアクシデントマネージメントの自主的整備と万一の場合にこれを的確に実施できるようにすることが強く奨励されていたにもかかわらず,福島事故が発生したことなどを踏まえ,平成23年10月に発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策についてを決定し,上記の平成4年5月の原子力安全委員会決定を廃止するとともに,シビアアクシデントの発生防止,影響緩和に対して,規制上の要求や確認対象の範囲を拡大することを含めて安全確保対策を強化すべきとし,その具体的な方策及び施策にについて,原子力安全・保安院において検討するよう求めた。原子力安全・保安院においては,平成24年2月から同年8月にかけて,発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策規制の基本的考え方に係る意見聴取会を7回開催し,専門家や原子炉設置者からの意見を聴取するとともに,原子力安全・保安院及び関係機関がこれまでに検討していたシビアアクシデントに関する知見,海外の規制情報,福島事故の技術的知見などを踏まえて,技術面でのシビアアクシデント対策の基本的考え方を検討・整理し,発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策規制の基本的考え方について(現時点での検討状況)を報告書として取りまとめた。もっとも,同報告書は検討過程としての側面を有しており,用語や概念の厳密な整理にはまだ完全ではない点が残っていたため,シビアアクシデント対策規制については,今後,新たに設置される規制委員会において検討が進められることとなった。
地震及び津波について
原子力安全委員会は,福島事故より前の平成18年,当時の地質学,地形学,地震学,地盤工学,建築工学,機械工学等の専門家らの検討に基づき耐震設計審査指針を改訂したが,福島事故を受けて,上記改訂後に蓄積された知見,平成23年3月11日以降に発生した地震及び津波に係る知見並びに福島事故の教訓を踏まえ,地震及び津波に対する安全確保策について検討することとし,専門的な審議を行うため,原子力安全基準・指針専門部会に地震・津波関連指針等検討小委員会(以下地震等検討小委員会という。)を設置した。地震等検討小委員会は,平成23年7月12日から平成24年2月29日までの間,計14回の会合を開催し,東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波の分析,これらに係る知見並びに福島事故の教訓を整理し,また,改訂耐震設計審査指針を踏まえた耐震安全性の確認(いわゆる耐震バックチェック)によって得られた経験及び知見を整理した。更に,地震本部,中央防災会議等における東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波についての検討結果に加えて,土木学会における検討状況,世界の津波の事例及びIAEAやアメリカの規制委員会等の規制状況,福島事故に関連した調査報告書も踏まえて検討を行った。
以上の検討を踏まえ,地震等検討小委員会は,平成24年3月14日付けで津波防護設計の基本的な考え方や津波対策を検討する基礎となる基準津波の策定を義務付けるべき旨を盛り込んだ発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項について(とりまとめ)を取りまとめた。また,原子力安全・保安院は,原子力安全委員会から東北地方太平洋沖地震等の知見を反映して耐震安全性に影響を与える地震に関して評価を行うよう求められたことを受け,平成23年9月,事業者から報告された東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波による原子力発電所への影響などの評価結果について,学識経験者の意見を踏まえた検討を行うことなどにより,地震・津波による原子力発電所への影響に関して的確な評価を行うため,地震・津波の解析結果の評価に関する意見聴取会(第2回から地震・津波に関する意見聴取会と改称)及び建築物・構造に関する意見聴取会を設置し,審議を行った。そして,これらの意見聴取会において,それぞれ報告書が取りまとめられ,平成24年2月,原子力安全委員会に報告された。

規制委員会における検討
検討チームの設置
規制委員会は,重大事故等対策,地震及び津波以外の自然現象への対策に関する設計基準に加え,これまで原子炉設置許可の基準として用いられてきた原子力安全委員会が策定した安全設計審査指針等の内容を見直した上で,規制委員会が定めるべき基準を検討するため,更田豊志委員長(当時は委員)を中心とする発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チーム(以下原子炉施設等基準検討チームという。),自然現象に対する設計基準のうち,地震及び津波対策については,規制委員会の前身である原子力安全委員会に設置された地震等検討小委員会の検討も踏まえた上で,規制委員会が定めるべき基準を検討するため,島崎邦彦委員長代理(当時。以下島崎委員長代理とい
う。)を中心とする発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる規制基準に関する検討チーム(以下地震等基準検討チームという。)などを設け,上記各チームにおいて,福島事故の直後から原子力安全委員会や原子力安全・保安院で行われてきた事故原因や安全対策等に関する検討を引き継ぐ形で新規制基準の検討が行われた。
各チームの会合には,規制委員会担当委員,従来から原子力規制行政に携わってきた原子力規制庁(以下規制庁という。)及び旧独立行政法人原子力安全基盤機構の職員らが参加したほか,次のとおり,関係分野の学識経験者についても中立性を確保しつつ有識者として同席を求め,専門技術的知見に基づく意見等を集約する形で規制基準の見直しが行われた。
(乙115・450[51~52頁])
原子炉施設等基準検討チームにおける検討
原子炉施設等基準検討チームにおける検討は,規制委員会の委員で,原子力安全委員会における安全設計審査指針の見直しを検討していた安全設計指針等検討小委員会の構成員でもあった更田豊志委員(後の規制委員会委員長。以下更田委員長という。)を中心として行われ,中立的な立場から複数の外部専門家を関与させるため,シビアアクシデント解析等,関係分野の専門技術的知見を有する学識経験者4名も同チームに参加した。また,独立行政法人(現在は国立研究開発法人)日本原子力研究開発機構安全研究センターにおいて研究主席の地位にある者についても(これらの者は,安全設計指針等検討小委員会の構成委員でもあった。),電気事業者等との関係での中立性の確認が行われた上で,同チームに参加した。
原子炉施設等基準検討チームにおいては,平成24年10月25日から平成25年6月3日までの間,原子炉施設の新規制基準(地震及び津波対策を除く。)策定のため,学識経験者らの参加の下,計23回の会合が開催され,福島事故の教訓(共通要因による複数の安全機能の同時喪失等)を踏まえ,設計基準事象に対応するための対策の強化を図る観点から,原子力安全委員会が策定した安全設計審査指針等の内容を見直した上で規則化等を検討することとされた。検討に当たっては,IAEA安全基準や欧米の規制状況等の海外の知見も勘案された。
また,平成24年6月27日に改正された原子炉等規制法が,重大事故等対策を新たに規制対象としたことを踏まえ,原子炉施設等基準検討チームにおいては,重大事故等対策について重点的な検討を行うこととし,福島事故の教訓及び海外における規制等を勘案し,仮に,事故防止に係る安全確保対策を講じたにもかかわらず複数の安全機能の喪失などの事象が万一発生したとしても,炉心損傷に至らせないための対策として,重大事故の発生防止対策,さらに重大事故が発生した場合の拡大防止対策など,重大事故等対策に関する設備に係る要求事項及び重大事故等対策の有効性評価の考え方等について検討された。
そして,原子炉施設等基準検討チームは,検討結果を踏まえ,新規制基準の骨子案を作成し,これらについて,規制委員会が平成25年2月に(行政手続法に基づくものではない任意の)パブリックコメントを行った結果も踏まえ,基準案を取りまとめた。
(乙115・450[52~54頁])
地震等基準検討チームにおける検討
地震等基準検討チームにおける検討は,島崎委員長代理を中心として行われ,原子力安全委員会における耐震設計審査指針等の報告書の検討に参画した有識者のほか,東北地方太平洋沖地震以降,耐震関係の様々な見直しの場に参画し,基準の策定に貢献した有識者らの中から地震,津波及び地盤等の各種専門分野の専門技術的知見を有する学識経験者6名が,検討内容に応じて,地形学,地震,津波及び建築に関する学識経験者としてチームに参加した。
地震等基準検討チームにおいては,平成24年11月19日から平成25年6月6日までの間,発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる新規制基準策定のため,学識経験者らの参加の下,計13回の会合が開催された。
地震等基準検討チームは,原子力安全委員会の下で地震等検討小委員会が取りまとめた改訂耐震設計審査指針等の改訂案のうち,地震及び津波に関わる安全設計方針として求められている各要件については,新たに策定する基準においても重要な構成要素となるものと評価するとともに,基準の骨子案を策定するにあたっては,上記改訂案の安全設計方針の各要件について改めて分類・整理し,必要な見直しを行った上で基準の骨子案の構成要素とする方針を示した。そして,上記検討方針に基づき,地震及び津波について,IAEA安全基準,アメリカ,フランス及びドイツの各規制内容のほか,福島事故を踏まえた国会及び政府等の事故調査委員会の主な指摘事項のうち耐震関係基準の内容に関するものを整理し,これらと改訂耐震設計審査指針とを比較した上で,国や地域等の特性に配慮しつつ,我が国の規制として適切な内容を検討した。また,地震等基準検討チームは,発電用原子炉施設における安全対策への取組の実態を確認するため,電気事業者に対するヒアリングを実施するとともに,東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波を受けた東北電力株式会社女川原子力発電所の現地調査を実施し,これらの結果も踏まえ,安全審査の高度化を図るべき事項についての検討を進めた。そして,地震等基準検討チームは,検討結果を踏まえ,地震・津波に関する新規制基準の骨子案を作成し,これについて,規制委員会が平成25年2月に(行政手続法に基づくものではない任意の)パブリックコメントを行った結果も踏まえ,基準案を取りまとめた。
(乙115・450[54~56頁])


新規制基準の制定
規制委員会は,基準案に対し,行政手続法に基づいて平成25年4月11日から1か月間の意見公募手続を行い,その上で,設置許可基準規則等の規則及び当該規則の解釈を策定するとともに,発電用原子炉の設置許可に係る基準適合性審査で用いる各種審査ガイドを策定した。そして,このようにして制定された新規制基準(なお,新規制基準は,規制委員会規則,告示及び内規等の総称であって,法令上の用語ではなく,行政実務上の通称である。)は同年7月8日に施行された。
(乙115[56頁],147,450[56頁])
5
新規制基準の概要


新規制基準の基本構造
原子炉設置許可(前記①)については,原子炉等規制法43条の3の6第1項各号に適合することが求められるところ(なお,原子炉設置変更許可(前記⑥)についても,原子炉等規制法43条の3の8第2項において同条の規定が準用されている。),同項4号において,発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして規制委員会規則で定める基準に適合するものであることと規定されている。この原子力規制委員会規則として,実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則(以下設置許可基準規則という。)が定められ,その解釈として,実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則の解釈(以下設置許可基準規則解釈という。)(甲830,乙65)が定められている。
次に,工事計画の認可(前記②)については,原子炉等規制法43条の3の9第3項各号に適合することが求められるところ,同項2号において,発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合するものであることが工事計画認可の要件の一つとされている。この技術上の基準として,実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則(以下技術基準規則という。)が定められており,その解釈として,実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則の解釈(以下技術基準規則解釈という。)(乙80)が定められている。また,使用前検査(上記③)については,原子炉等規制法43条の3の11第2項各号に適合することが求められるところ,同項2号において,第43条の3の14の技術上の基準に適合するものであることが使用前検査の合格要件の一つとされている。この技術上の基準として,技術基準規則が定められており,その解釈として,技術基準規則解釈が定められている。


地震に関する新規制基準の概要

設置許可基準規則4条3項は,耐震重要施設は,その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(以下「基準地震動による地震力という。)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない」と規定する。設置許可基準規則解釈別記2は,設置許可基準規則4条に関する規制委員会の解釈を示すものであり,基準地震動については,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものであり(設置許可基準規則解釈別記2の4条5項柱書),敷地ごとに震源を特定して策定する地震動及び震源を特定せず策定する地震動について,それぞれ敷地の解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動として策定するものとされている(設置許可基準規則解釈別記2の4条5項1号,乙117)。
また,規制委員会は,発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の耐震設計方針に関わる審査において,審査官等が設置許可基準規則,設置許可基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ,基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用する目的で,基準地震動及び耐震設計審査方針に係る審査ガイド(以下地震ガイドという。)(甲783,乙43)を策定した。なお,地震そのものの規模を表す指標としてマグニチュードが用いられるのに対し,地震動を表す指標としては,震度又は加速度が
用いられる。マグニチュードは一つの地震について一つ定まるのに対し,震度又は加速度は観測地点によって異なる。気象庁マグニチュード(M)とは地震計で観測される波の振幅から計算したマグニチュードであり,モーメントマグニチュード(Mw)とは岩盤のずれの規模を基にして計算したマグニチュードである。加速度とは,地震によって地盤が震動する速度の単位時間当たりの変化の割合であり,その単位はガル(cm/s2)である。

敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について
設置許可基準規則解釈別記2の概要
敷地ごとに震源を特定して策定する地震動は,敷地周辺における
地震発生状況,活断層の性質等を考慮し,地震発生様式(内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震)による地震の分類を行った上で,敷地に大きな影響を与えると予想される地震(検討用地震)を選定し,選定した検討用地震ごとに,地域特性を踏まえた不確かさを適切に考慮し,応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価の双方を行い,この結果に基づき策定するものである(設置許可基準規則解釈別記2の4条5項2号)。地震発生様式の分類
地震とは,大地に揺れをもたらす源(地下の岩盤破壊)をいい,地震動とは,地震によってもたらされる大地の揺れをいう。日本列島の周辺には陸のプレートであるユーラシアプレート及び北米プレート,海のプレートである太平洋プレート及びフィリピン海プレートの4枚のプレートがぶつかり合っており,日本列島の太平洋側の日本海溝や南海トラフなどでは,海のプレートが陸のプレートの下に沈み込み,陸のプレートが常に内側に引きずり込まれていることから,プレート境界付近や陸の岩盤には大きな力が加わっている。この力により岩盤が変形し,また,岩盤の中にひずみが蓄えられていくが,このひずみがある限界を超えると,ある弱い面(断層面)を境にして岩盤が破壊され,断層面に沿ってその両側の岩盤がすべってずれ動く現象(断層運動)が生じて,地震が発生する。

(乙578)

なお,地震動を生じさせる断層を震源断層というのに対し,震源断層の活動によって地表(又は地下の浅い部分)に現れる変位・変形を地表地震断層という。地表地震断層のうち,比較的新しい時代に活動し,今後も活動することが推定されるものを活断層という。
(乙20,578)
地震の発生様式は次の3種類に大別されるところ,設置許可基準規則解釈別記2の4条5項2号①は,敷地周辺における地震発生状況,活断層の分布状況等を考慮して,上記発生様式等による地震の分類を行った上で,敷地に大きな影響を与えると予想される地震(検討用地震)を複数選定することを求めている。
a
(乙117,578)

内陸地殻内地震とは,陸のプレートの上部地殻地震発生層に生
じる地震をいい,海岸のやや沖合で起こるものを含む(設置許可基準規則解釈別記2の4条5項2号)が,プレートの境界だけでは解消できなかったわずかなひずみが長年にわたって蓄積され,その蓄積されたひずみを解消する際に陸のプレートを構成する岩盤中で断層運動が生じて発生するものをいう。本件発電所の前面海域に位置する中央構造線断層帯において想定される地震は,内陸地殻内地震に分類される。(乙117,578)
上記中央構造線断層帯とは,和歌山県西部から四国を横断する
長さ約500kmの区間において,中央構造線の極近傍に併走する活断層群をいい,中央構造線(地質境界としての中央構造線と呼ば
れることがあり,MTLと表記されることがある。)とは,西南日本から関東地方まで1000kmにわたって連続する断層で,三波川帯と領家帯との境界部に形成されているところ,西南日本横断地殻構造探査によって,北に約40度傾斜し地殻全体を断ち切っていることが明らかになっている。
(甲972[6~7頁],973[1,26頁],乙343[1,26頁])
なお,設置許可基準規則解釈別記2の4条5項2号②は,内陸地殻内地震について,震源として考慮する活断層の評価に当たっては,調査地域の地形・地質条件に応じ,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査等の特性を活かし,これらを適切に組み合わせた調査を実施した上で,その結果を総合的に評価し活断層の位置・形状・活動性等を明らかにすることと,震源モデルの形状及び震源特性パラメータ等の評価の当たっては,孤立した短い活断層の扱いに留意するとともに,複数の活断層の連動を考慮することを求めている。
b
(乙117)

プレート間地震とは,相接する二つのプレートの境界面で発生
する地震をいう(設置許可基準規則解釈別記2の4条5項2号)。プレート間地震は,年間数cmという海のプレートの動きをそのまま反映するため,内陸地殻内地震に比べて比較的短い時間(100~150年間隔)で繰り返されている。南海トラフの巨大地震や東北地方太平洋沖地震がこれに分類される。

c
(乙117,186,578)

海洋プレート内地震とは,沈み込む(沈み込んだ)海洋プレー
ト内部で発生する地震をいい,海溝軸付近又はそのやや沖合で発生する沈み込む海洋プレート内の地震又は海溝軸付近から陸側で発生
する沈み込んだ海洋プレート内の地震(スラブ内地震)の2種類
に分けられる(設置許可基準規則解釈別記2の4条5項2号)。
(乙117)
地震動評価の方法
特定の地点における地震動を想定するには,まず,地震の地域特性を十分に把握する必要がある。地震の地域特性には,震源から放出される地震波の性質が,断層の大きさ,断層面の破壊の仕方等によって決まるという震源特性,震源から放出された地震波が,震源からの距離とともにその振幅を減じながら地下の岩盤中を伝播していく際の伝播の仕方等を指す伝播特性,地震波が,硬い地盤から軟らかい地盤に伝わる際に振幅が大きくなる性質を持っているため,軟らかい地盤上の地点では,岩盤上の地点に比べて大きな揺れ(地震動)をもたらす性質である増幅特性の三つがある。

(乙578)

次に,建物等の構造物の耐震設計を行うに当たっては,ある地震動が構造物にどのような揺れをもたらすのかを把握することが重要である。そのための簡便な方法として一般的に利用されているのが,ある地震動について,その固有周期ごとに加速度の最大値(応答加速度)を記録した図である応答スペクトルである。また,原子力発電所のような重要構造物については,コンピュータを用いて,現実の揺れと同じような時々刻々と変化する揺れを表した時刻歴波形を用いた解析も行うこととされている。

(甲766,乙577,578)

応答スペクトル及び時刻歴波形を作成する方法としては,以下の応答スペクトルに基づく地震動評価と断層モデルを用いた手法による地震動評価の二つがあり,設置許可基準規則解釈別記2及び地震ガイドは,これら二つの方法に基づいて基準地震動を作成することを求めている。また,設置許可基準規則解釈別記2の4条5項⑦は,検討用地震の選定や基準地震動の策定に当たって行う調査や評価は,最新の科学的・技術的知見を踏まえること,既往の資料等について,それらの充足度及び精度に対する十分な考慮を行い,参照すること,既往の資料と異なる見解を採用した場合及び既往の評価と異なる結果を得た場合には,その根拠を明示することを求めている。
(乙43,117)

a
応答スペクトルに基づく地震動評価
選定された検討用地震につき,距離減衰式に基づいて応答スペクトルを先に作成してから,対応する模擬地震波(時刻歴波形)を算定する地震動評価の方法である。
(乙115・450[251~253,266~267頁])
一般に,地震動は,地震の発生場所から遠くなればなるほど小さくなる性質を有する(距離減衰)ところ,この現象を,過去に発生した数多くの実際の地震のデータを回帰分析し,地震動の大きさと地震の規模,震源からの距離等との関係を関数で表したものを距離減衰式という。

b
(乙115・450[251頁])

断層モデルを用いた手法による地震動評価
断層モデルを用いた手法による地震動評価とは,選定された検討
用地震につき,震源断層面をモデル化した上で,コンピュータを用いたシミュレーション計算により時刻歴波形を先に算定し,これに対応する応答スペクトルを作成する地震動評価の方法である。これは,1995年兵庫県南部地震以降に強震観測網が急速に整備さ
れ,多くの強震観測記録が得られるようになったことを踏まえて発達してきた新しい手法であり,平成18年9月に改訂された耐震設計審査指針以降,その実施が求められるようになった。
(乙26,115[254~263,266~267頁],149,450[254~263,266~267頁],578)


上記強震観測記録を用いた震源断層の特性を推定する研究を通し
て,強震動予測に重要な要素は,地震の規模や震源断層の位置・形状等を表す巨視的震源特性と,震源断層内のアスペリティ(震源断層面上でずれの大きな領域)の分布とそこでの応力降下量(震源断層が破壊すると,そこに蓄えられていたエネルギーが解放されるため,岩盤中の応力(外力に対して物体内部に生じる抵抗力)が下がる。この断層破壊直前の応力と直後の応力の差を応力降下量とい
う。)等,震源断層の破壊の不均質性を示す微視的震源特性の二つの震源特性に加え,特に震源域での強震動にとって重要なのは破壊の伝播特性であることが分かってきた。
そこで,地震調査研究推進本部(以下地震本部という。)
は,これらの震源特性をある程度単純なモデルに置換し,強振動を計算するための特性化震源モデルを策定し,これをもとに,
誰がやっても同じ答えが得られる標準的な方法論として,震源断層を特定した地震の強震動予測手法(レシピ)(以下強震動予測レシピという。)を作成した。そして,地震ガイドは,断層モデルを用いた手法による地震動評
価を行うに当たり,震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ,断層傾斜角,アスペリティの位置・大きさ,応力降下量,破壊開始点等の震源断層のパラメータについて,強震動予測レシピ等の最新の研究成果を考慮して設定することを求めている。
(甲783,乙43,115[254~263頁],149,450[254~263頁],578)


次に,震源断層面の各マス目から放出される小地震波を設定し,
上記⒝の震源断層のパラメータを踏まえて,震源断層面と評価地点との関係をモデル化した上で,震源断層面において地震が発生した場合の評価地点におけるシミュレーション計算を行い,評価地点における時刻歴波形を導き出すのであるが,上記小地震波を設定する方法(グリーン関数)には,評価対象となる震源断層付近で発生した地震波(評価地点における実地震の観測記録)を用いる経験的グリーン関数法と,多くの地震波を統計処理した地震波(人工的に作成した地震波)を用いる統計的グリーン関数法とに大別される。また,短周期帯の評価に適している経験的グリーン関数法又は統計的グリーン関数法により計算した地震動と,長周期帯の評価に適している理論的手法(断層のずれ方や,震源断層から地震波が評価地点まで伝播する経路上の地盤構造を詳細にモデル化して,理論的に揺れを計算する方法)により計算した地震動を組み合わせて広い周期帯で精度よく地震動を評価する手法をハイブリッド合成法という。(乙149,審尋の全趣旨)


上記⒝のとおり,断層モデルを用いた手法による地震動評価で
は,応答スぺクトルに基づく地震動評価よりも多くのパラメータを設定する必要があるところ,設置許可基準規則解釈別記2の4条5項2号⑤は,上記⒝の各パラメータに関する不確かさや,これらに関する考え方及び解釈の違いによる不確かさについて,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮することを求めている。
また,同号⑥は,内陸地殻内地震について選定した検討用地震のうち,震源が敷地に極めて近い場合は,地表に変位を伴う断層全体を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討するとともに,これらの検討結果を踏まえた評価手法の適用性に留意の上,同号⑤の各種の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえた上で,更に十分な余裕を考慮して基準地震動を策定することを求めている。
(乙117)

震源を特定せず策定する地震動は,敷地周辺の状況等を十分考慮した詳細な調査を実施しても,なお敷地近傍において発生する可能性のある内陸地殻内地震の全てを事前に評価し得るとは言い切れないとの観点から,震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内地震について得られた震源近傍における観測記録に基づき策定するものである(設置許可基準規則解釈別記2の4条5項3号)。
地震ガイドは,震源を特定せず策定する地震動の策定に当たって
は,地表地震断層が出現しない可能性がある地震及び事前に活断層の存在が指摘されていなかった地域において発生し,地表付近に一部の痕跡が確認された地震を踏まえて,検討用地震を選定することとし,また,観測記録の収集対象となる内陸地殻内地震の例として,1996年以降に発生した16地震を挙げる。この中には,2008年岩手・宮城内陸地震,2000年鳥取県西部地震,2004年北海道留萌支庁南部地震などが含まれている。



(甲783,乙43)

火山活動に関する新規制基準の概要

設置許可基準規則
設置許可基準規則6条は,外部からの衝撃による損傷の防止として,

安全施設は,想定される自然現象が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなければならない。

と定めており,この自然現象の中には,火山の影響も含まれる(設置許可基準規則解釈6条2項)。

旧火山ガイド
規制委員会は,平成25年6月19日,新規制基準が求める火山の影響により原子炉施設の安全性を損なうことのない設計であることの評価方法の一例を示すとともに,火山影響評価の妥当性を審査官が判断する際の参考とするため,原子力発電所の火山影響評価ガイド(以下旧火山ガイドという。)を作成した。その内容は,次のとおりであった。(甲966,乙322)
火山影響評価の流れ
火山影響評価は,立地評価と影響評価の2段階で行う。
立地評価では,まず原子力発電所に影響を及ぼし得る火山の抽出を行い,影響を及ぼし得る火山が抽出された場合には,抽出された火山の火山活動に関する個別評価を行う。すなわち,設計対応不可能な火山事象が原子力発電所の運用期間中(原子力発電所に核燃料物質が存在する期間中)に影響を及ぼす可能性の評価を行う。
影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価された場合は,火山活動のモニタリングと火山活動の兆候把握時の対応を適切に行うことを条件として,個々の火山事象に対する影響評価を行う。一方,設計対応不可能な火山事象が原子力発電所運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価されない場合は,原子力発電所の立地は不適とされる。
影響評価では,個々の火山事象への設計対応及び運転対応の妥当性について評価を行う。
原子力発電所に影響を及ぼし得る火山の抽出
原子力発電所の地理的領域(原子力発電所から半径160kmの領域)に対して,文献調査等で第四紀(258万年前から現在までの期間)に活動した火山を抽出する。第四紀に活動した火山について,①文献調査,②地形・地質調査及び火山学的調査を行い,完新世(1万1700年前から現在までの期間)に活動を行った火山は,将来活動の可能性のある火山とする。完新世に活動を行っていない火山は,上記①及び②の調査結果を基に,当該火山の第四紀の噴火時期,噴火規模,活動の休止期間を示す階段ダイヤグラムを作成し,より古い時期の活動を評価する。その結果,将来の活動可能性がないと判断できる場合は,個別評価対象外とし,当該火山については影響評価のみを行う。それ以外の火山は,将来の火山活動可能性が否定できない火山として,個別評価対象の火山とする。
火山活動に関する個別評価
a
上記

で,将来の活動可能性があると評価した火山については,原

子力発電所の運用期間中において設計対応が不可能な火山事象を伴う火山活動の可能性の評価を行う。ここにいう設計対応不可能な火山事象としては,火砕物密度流(火山噴火で生じた火山ガス,火砕物の混合物が斜面を流れ下る現象の総称をいい,広義の火砕流をい
う。)などがある。
この際,検討対象火山の活動を科学的に把握する観点から,過去の火山活動履歴とともに,必要に応じて,①地球物理学的及び②地球化学的調査を行い,現在の火山の活動の状況も併せて評価することとする。具体的には,地球物理学的観点からは,検討対象火山に関連するマグマ溜まりの規模や位置,マグマの供給系に関連する地下構造等について,地球化学的観点からは,検討対象火山の火山噴出物等について分析することにより,火山の活動状況を把握する。
上記

の調査結果と必要に応じて実施する上記①地球物理学的及び
②地球化学的調査の結果を基に,原子力発電所の運用期間中における検討対象火山の活動の可能性を総合的に評価する。評価の結果,検討対象火山の活動の可能性が十分小さい場合には,過去の最大規模の噴火により設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達したと考えられる火山を抽出し,火山活動のモニタリングを実施し,運用期間中において火山活動を継続的に評価する。検討対象火山の活動の可能性が十分小さいと判断できない場合は,検討対象火山の調査結果から噴火規模を推定する。調査結果から噴火の規模を推定できない場合は,検討対象火山の過去最大の噴火規模とする。
b
次に,設定した噴火規模における設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価する。評価では,検討対象火山の調査から噴火規模を設定した場合には,類似の火山における設計対応不可能な火山事象の影響範囲を参考に判断する。過去最大の噴火規模から設定した場合には,検討対象火山での設計対応不可能な火山事象の痕跡等から影響範囲を判断する。いずれの方法によっても影響範囲を判断できない場合には,設計対応不可能な火山事象の国内既往最大到達距離を影響範囲とする。設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいと評価できない場合は,原子力発電所の立地は不適と考えられる。十分小さいと評価できる場合には,過去の最大規模の噴火により設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達したと考えられる火山については,モニタリング対象とし,火山活動のモニタリングを実施し,運用期間中に火山活動の継続的な評価を行う。
火山活動のモニタリング
個別評価により運用期間中の火山活動の可能性が十分小さいと評価し
た火山であっても,設計対応不可能な火山事象が発電所に到達したと考えられる火山に対しては,噴火可能性が十分小さいことを継続的に確認することを目的として運用期間中のモニタリングを行う。噴火可能性につながるモニタリング結果が観測された場合には,必要な判断・対応をとる必要がある。
原子力発電所への火山事象の影響評価
原子力発電所の運用期間中において設計対応不可能な火山事象によって原子力発電所の安全性に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価された火山について,それが噴火した場合,原子力発電所の安全性に影響を与える可能性のある火山事象を抽出し,その影響評価を行う。
上記原子力発電所の安全性に影響を与える可能性のある火山事象
としては,降下火砕物(大きさ,形状,組成若しくは形成方法に関係なく,火山から噴出されたあらゆる種類の火山砕屑物で降下する物),火山性土石流,噴石などがある。
降下火砕物に関しては,火山抽出の結果にかかわらず,原子力発電所の敷地及びその周辺調査から求められる単位面積あたりの質量と同等の火砕物が降下するものとする。なお,敷地及び敷地周辺で確認された降下火砕物で,噴出源が同定でき,その噴出源が将来噴火する可能性が否定できる場合は考慮対象から除外する。また,降下火砕物は浸食等で厚さが低く見積もられるケースがあるので,文献等も参考にして,第四紀火山の噴火による降下火砕物の堆積量を評価する。抽出された火山事象に対して,上記

及び

の調査結果等を踏まえて,原子力発電所への影

響評価を行うための,各事象の特性と規模を設定する。

旧火山ガイドにおける設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価に関する基本的な考え方について
規制庁は,平成30年3月7日付けで原子力発電所の火山影響評価ガイドにおける「設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価に関する基本的な考え方」(以下基本的な考え方という。)を策定し,従前より行ってきた旧火山ガイドにおける設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価に関する考え方を整理した。その考え方の内容は以下のとおりである。

(乙362)

巨大噴火の可能性評価の考え方について
巨大噴火(数10km3程度を越えるような噴火,すなわちVEI6以上の噴火。なお,VEI(火山爆発指数)は,噴火によって生じた火砕物の体積から噴火規模を段階別に分類するものであり,1回の噴火の噴出量が104m3未満(0.00001k㎥未満)をVEI0,106㎥未満(0.001k㎥未満)をVEI1とし,1012㎥以上(100k㎥以上)をVEI8として,VEI1からVEI8の間を噴出量が10倍増えるごとに1段階上がるようにし,全部で9段階に分けている。)は,広域的な地域に重大かつ深刻な災害を引き起こすものである一方,その発生の可能性は低頻度な事象である。現在の火山学の知見に照らし合わせて考えた場合には,運用期間中に巨大噴火が発生する可能性が全くないとは言い切れないものの,これを想定した法規制や防災対策が,原子力規制以外の分野で行われていない。したがって,巨大噴火によるリスクは,社会通念上容認される水準であると判断できる。したがって,上記を考慮すれば,巨大噴火の可能性の評価については,①現在の火山学の知見に照らした火山学的調査を十分に行った上で,火山の現在の活動状況は巨大噴火が差し迫った状態ではないことが確認でき,かつ,②運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠があるといえない場合は,少なくとも運用期間中は,巨大噴火の可能性が十分に小さいと判断できる。
(乙326,362)
巨大噴火以外の火山活動の評価の考え方について
巨大噴火以外の火山活動について,その活動の可能性が十分小さいと判断できない場合には,火山活動の規模と設計対応不可能な火山事象の評価を行うこととなる。噴火の規模を特定することは一般に困難であるため,旧火山ガイドに従い,検討対象火山の過去最大の噴火規模について火山事象の評価を行うこととなる。ここで検討対象火山の過去最大の噴火規模には,当該検討対象火山の最後の巨大噴火以降の最大規模を用いる。

(乙362)

旧火山ガイドの改正
規制委員会は,平成29年11月29日及び令和元年12月18日,火山ガイドを次のとおり改正した。
平成29年11月29日の改正(以下,この改正後のものを平成29年火山ガイドという。)債務者が平成25年7月8日,本件原子炉に係る原子炉設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可に係る各申請(以下本件各申請という。)を行った時点,並びにこれに対する許可等が行われた時点では,降下火砕物の濃度を既往の実測値に基づいて推定する手法が用いられていたが,その後,規制委員会に設けられた検討チームにおける検討の結果,現在得られている観測値には不確実さがあるとして,その信頼性に疑問が呈され,その代わりに,気中降下火砕物濃度の推定手法として,降灰継続時間を仮定して堆積量から推定する手法や,数値シミュレーションにより推定する手法を用いるべきであるとの知見が規制庁から示された。
これを受けて,規制委員会は,平成29年11月29日,旧火山ガイドを改正して,降灰継続時間を仮定して降灰量から気中降下火砕物濃度を推定する手法(以下3.1の手法という。)又は数値シミュレーションにより気中降下火砕物濃度を推定する手法(以下3.2の手法という。)を用いるべきこととされた。3.1の手法は,原子力発電所の敷地において運用期間中に想定される降下火砕物がある期間(降灰継続時間。原子力発電所敷地での降灰継続時間を合理的に説明できない限り,24時間とする。)に堆積したと仮定して,降下火砕物の粒径の割合から求められる粒径ごとの堆積速度と粒径ごとの終端速度から算出される粒径ごとの気中濃度の総和を,気中降下火砕物濃度として求めるものである。
他方,3.2の手法は,三次元の大気拡散シミュレーションにより設定座標点で粒径ごとに気中濃度の時間変化を算出し,得られた最大濃度を気中降下火砕物濃度とするものである。なお,気象データの設定は,評価対象火山又は原子力発電所敷地に近い観測地におけるデータを基に,1年で最も原子力発電所敷地に対して影響のある月を抽出し,一定風を設定することとされている。
(甲966,乙135,138,322,328)
令和元年12月18日の改正(以下,この改正後のものを令和元年火山ガイドという。)a
(甲1168,乙509)

火山活動に関する個別評価について
原子力発電所の運用期間中における検討対象火山の活動の可能性が十分小さいとされた場合,及び設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいと評価できる場合の火山活動のモニタリング及び継続的な評価に関する記載が削除された。
また,検討対象火山(過去に巨大噴火が発生したものに限る。)の活動の可能性の評価に当たり,巨大噴火については,噴火に至る過程が十分に解明されていないこと,発生すれば広域的な地域に重大かつ深刻な災害を引き起こすものの,低頻度な火山事象であり有史において観測されたことがないこと等を踏まえて,当該火山の現在の活動状況は巨大噴火が差し迫った状態ではないと評価でき,運用期間中における巨大噴火の可能性を示す科学的に合理性のある具体的な根拠が得られていない場合には,運用期間中における巨大噴火の可能性は十分に小さいと判断できるとの記載が加えられた。

b
火山活動のモニタリングについて
火山活動のモニタリングの目的について,噴火可能性が十分小さいことを継続的に確認することから評価時から状態の変化の検知により評価の根拠が維持されていることを確認することと改められ,また,

噴火可能性につながるモニタリング結果が観測された場合には,必要な判断・対応をとる必要がある。

という記載が

モニタリングにより観測データの有意な変化を把握した場合には,状況に応じた判断・対応を行うこととする。

と改められた。c
原子力発電所への火山事象の影響評価について
敷地及び敷地周辺で確認された降下火砕物のうち,考慮対象から除外される降下火砕物の噴出源が同定でき,その噴出源が将来噴火する可能性が否定できる場合という記載が降下火砕物の噴出源となる火山事象が同定でき,これと同様の火山事象が原子力発電所の運用期間中に発生する可能性が十分に小さい場合と改められた。
6
債務者による再稼働申請


債務者は,平成25年7月8日,本件原子炉に係る原子炉設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可に係る各申請(本件各申請)を規制委員会に対して行った。債務者が,上記各申請に際し,基準地震動の策定及び火山に関する評価につき,規制委員会に提出した内容は次のとおりである。ア
基準地震動の策定について
内陸地殻内地震
a
検討用地震の選定と中央構造線断層帯の性状の把握
検討用地震の選定
債務者は,検討用地震として中央構造線断層帯による地震を選定
した。


震源断層の位置
債務者は,国土地理院,大学等の各種研究機関及び債務者自らが
実施した総延長約6700kmに及ぶ海上音波探査の結果を基に,本件発電所の敷地前面海域における中央構造線断層帯の位置を本件発電所の敷地沖合い約8kmに特定した。
債務者の具体的な判断過程は以下のとおりである。
まず,海底下浅部の音波探査記録によると,本件発電所の敷地前
面海域において海底面から海底下深部まで達する活断層は,本件発電所の敷地沖合い約8kmにある2つの断層(f1断層及びf2断層)のみである。これより南方の断層は,海底下の浅いところで途切れて地下深部まで達していない断層,又は,比較的海底下深部にまで達していても海底下浅部の堆積層には変位を与えていない断層であり,これらは副次的な断層や古い断層である。
そして,本件発電所の敷地沖合い約8kmの海底下約2kmに,
三波川変成岩類と領家花こう岩類とが会合する地点が確認できるところ,f1断層及びf2断層は,この三波川変成岩類と領家花こう岩類との会合地点へ収斂するように地下に延びており,また,南方の断層も全体として同会合地点へ収斂していることが分かる。さらに,f1断層より北方の反射面は緩く南側に傾斜しているのに対
し,f2断層より南方の反射面は緩く北側に傾斜又は水平に分布しており,反射パターンが大きく異なっている。
以上のとおり,海底下深部の構造から,f1断層とf2断層との
間の地下深部,つまり三波川変成岩類と領家花こう岩類とが会合する地点の下方に鉛直の震源断層が存在すると考えられる。
(乙13[6-3-36~39頁,6-5-25・31・151
頁],119[43,48,53頁],126)


断層の長さ
債務者は,本件発電所の敷地周辺において地質・地質構造調査を
実施し,その結果から,四国北西部における中央構造線断層帯を構成する断層の間にジョグ(断層破壊の末端(活動セグメントの境
界)を示唆する地質構造)が分布することを確認するとともに,既往文献におけるセグメント区分の知見を分析した。なお,セグメントとは,活断層を,過去の活動時期,平均変位速度,平均活動間隔,変位の向きなどに基づいて区分した断層区間のことで,固有地震を繰り返す活断層の最小単元である。
その結果,債務者は,四国北西部における中央構造線断層帯の活
動セグメントを川上セグメント(断層長さ約36km),伊予セグメント(同約23km),伊予灘セグメント(敷地前面海域の断層群)(同約42km)及び豊予海峡セグメント(同約23km)の4つに区分した。
(乙119[59頁])
b
応答スペクトルに基づく地震動評価
応答スペクトルに基づく地震動評価では,距離減衰式とし
て,基本的には耐専式を採用し,併せて耐専式以外の複数の距離減衰式でも評価を行った。
耐専式は,地震規模,等価震源距離等を用いて応答スペクト
ルを評価する手法であり,岩盤における観測記録に基づく距離減衰式が示されているところ,その適用に当たっては,地震規模の想定が必要である。
債務者は,耐専式が地震規模として気象庁マグニチュード(M)
を用いているため,松田式を用いて気象庁マグニチュードを求め
た。松田式は,地震規模の算出に当たって,断層の長さ(L)
から気象庁マグニチュード(M)を求めるための主要な経験式(logL=0.6M-2.9)である。


断層の長さについては,最大規模を想定するとの観点から,①敷地前面海域の断層群を含む中央構造線断層帯(約360km)と九州側の別府-万年山断層帯とが全区間(約480km)において連動するケースを基本としつつ,②四国西部の区間(約130km)で連動するケース及び③敷地前面海域の断層群(約54km)(前記a⒞の伊予灘セグメントに両端の引張性ジョグの中央までを加えた長さ)単独で活動するケースについてもそれぞれ基本震源モデルと位置付け,念のため,④断層長さ約69kmの区間で連動するケースも評価することとした。
断層傾斜角については,基本ケースとして鉛直のケースを想定す
るとともに,不確かさの考慮として断層傾斜角が北傾斜30度のケースをも想定し,これらを上記の断層の長さに関する4ケースと組み合わせたそれぞれのケースについて応答スペクトルの評価を行った。


耐専式の適用にあたり,適用性の検証を行った結果,断層傾斜角
が鉛直のケースでかつ断層長さが約130km,約69km及び約54kmの3ケースについては,耐専式の適用範囲外にあると判断し,適用可能な耐専式以外の複数の距離減衰式により評価を行っ
た。それ以外のケースについては,耐専式で評価を行うとともに,併せて,適用可能な耐専式以外の距離減衰式でも評価を行った。
乙13[6-5-31・35~39頁],3
6[95,111~142,194~197,222~228
頁],40)

c
断層モデルを用いた手法による地震動評価
断層モデルを用いた手法による地震動評価において必要なパ
ラメータ(地震モーメント,平均応力降下量,アスペリティの応力降下量等)を設定する上で用いるスケーリング則については,壇ほか(2011)を基本として採用した。
(乙36[25~27頁])
また,断層長さ約480km及び約130kmのモデルではFu
jii,Yoshihiro

Mitsuhiro

Ma

tsu’uraRegionalDifferenceinScalingLargeakesandLawsitsandforTectonicEarthquImplication(以下FujiiandMatsu’ura(2000)という。)のスケーリング則を,約54kmのモデルでは入倉孝次郎・三宅弘恵シナリオ地震の強震動予測(甲126。い
わゆる入倉・三宅(2001))の地震モーメントにFuji
iandMatsu’ura(2000)の平均応力降下量を組
み合わせて用いる手法をそれぞれ基本震源モデルに織り込むこととした。


(乙36[23,44頁])

不確かさの考慮にあたっては,地震動評価における各種の不確か
さの分類・分析を行い,地震発生時の環境に左右される偶然的な不確かさ(破壊開始点)及び事前に平均的なモデル(信頼性の高いモデル)を特定することが困難な不確かさ(アスペリティ深さ,断層長さ(連動)等)についてあらかじめ基本震源モデルに織り込むこととした。具体的には,応答スペクトルに基づく地震動評価と同様に,断層長さ①約480km,②約130km及び③約54kmのケースを全て基本震源モデルとして位置付けるとともに,アスペリティ深さについては,保守的に断層上端にアスペリティを配置し,破壊開始点については,地震動評価への影響が大きくなるよう断層東下端,中央下端及び西下端の3か所に設定(ただし,特に厳しい評価となる応力降下量に係る不確かさを考慮するケースでは5か所に設定)することとした。
一方,事前の調査,経験式等によって平均的なモデルを特定する
ことが可能な不確かさ,すなわち,①応力降下量につき1.5倍又は20MPa,②断層傾斜角(北傾斜30度),③断層傾斜角(南傾斜80度),④破壊伝播速度及び⑤アスペリティの平面位置については,基本震源モデルに重畳させる不確かさ,換言すれば独立した不確かさとして考慮することとした。
(乙13[6-5-31~33・69頁],36[20~24,37頁])


グリーン関数は,中央構造線断層帯における断層長さ約480k
mの基本震源モデルについて,経験的グリーン関数法及び統計的グリーン関数法により評価し,両者を比較した。
その結果,経験的グリーン関数法及び統計的グリーン関数法によ
る評価の結果は整合的であることを確認したが,本件原子炉施設に影響の大きい周期0.1秒付近の地震動については経験的グリーン関数法の結果の方が厳しい結果を与えるものであったことから,本件原子炉施設への影響度の観点から,経験的グリーン関数法を採用して評価を行った。

(乙36[152~155頁])

プレート間地震
債務者は,検討用地震として,内閣府の南海トラフ巨大地震モデル検討会(以下内閣府検討会という。)が平成24年8月29日付けで公表した南海トラフの巨大地震モデル検討会(第二次報告)強震断層モデル編-強震断層モデルと震度分布について-(乙186。以下内閣府検討会(2012b)という。)による南海トラフの巨大地震(Mw9.0,陸側ケース)を選定し,これを基本震源モデルとした。
上記モデルは,内閣府検討会において,あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大地震として,過去最大規模の宝永地震(M8.6)や平成15年12月16日付け東南海,南海地震等に関する専門調査会(第16回),東南海,南海地震に関する報告(案)図表集(以下中央防災会議(2003)という。)の想定南海地震モデル(M
8.6)を上回る想定で作成されたモデルである。
債務者は,内閣府検討会(2012b)で設定された強震動生成域に加え,さらに敷地直下にも強震動生成域を追加配置する不確かさの考慮を行った。そして,これをもとに,応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を行った。
(乙13[6-5-35,6-5-39~6-5-43頁])
海洋プレート内地震
債務者は検討用地震として,1649年安芸・伊予(M6.9)の地震を選定した。基本震源モデルの設定にあたり,地震の発生位置,地震規模及び断層破壊の開始点の不確かさをあらかじめ織り込むこととし,本件発電所の敷地の下方(真下)に本件発電所敷地周辺地域での既往最大規模(1854年伊予西部地震M7.0)となるM7.0の地震を仮定した想定スラブ内地震を基本震源モデルに設定した。
不確かさの考慮においては,2001年芸予地震(M6.7)を再現したモデルをM7.0にスケールアップしたケース,アスペリティの位置を断層上端に配置したケース(M7.0),敷地の真下に想定する地震規模をM7.2としたケース,敷地東方の領域に水平に近い断層面を考慮したケース(M7.4)を設定した。そして,これをもとに,応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を行った。
(乙13[6-5-33,6-5-34,6-5-39~6-5-43頁])
震源を特定せず策定する地震動
債務者は,震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内地震の震源近傍の観測記録を収集するにあたり,地表地震断層が出現しない可能性がある地震及び事前に活断層の存在が指摘されていなかった地域において発生し,地表付近に一部の痕跡が確認された地震について検討を行った。
地表地震断層が出現しない可能性がある地震については,200
4年北海道留萌支庁南部地震の際に,K-NET港町観測点で観測した記録について,地盤物性値を踏まえた解析を行った結果,信頼性の高い基盤地震動(基盤層での地震動)が得られたことから,これに不確かさを保守的に考慮するなどした最大加速度620ガルの地震動を震源を特定せず策定する地震動として採用した。事前に活断層の存在が指摘されていなかった地域において発生し,地表付近に一部の痕跡が確認された地震としては,2000年鳥取県西部地震について,地震ガイドを踏まえて,本件発電所の敷地との地域差等について慎重に検討を進めた結果,地域差等が認められたものの,大局的には本件発電所の敷地と同じく西南日本の東西圧縮横ずれの応力場にあることなどを踏まえ,原子力安全に対する信頼向上の観点等から,より保守的に同地震の観測記録を震源を特定せず策定する地震動として考慮することとし,鳥取県にある賀祥ダムの監査廊(ダム堤内の管理用通路)に設置された地震計で得られた信頼性の高い観測記録を震源を特定せず策定する地震動として採用した。
(乙13[6-5-43~6-5-47頁],44[70~124頁],46[5~89頁])
基準地震動の策定
a
応答スペクトルに基づく地震動評価
応答スペクトルに基づく地震動評価により策定した基準地震動
Ssについては,同評価によって算定された数多くの応答スペクトルを包絡し,さらに裕度を考慮して設計用応答スペクトルを策定し,これをもとに基準地震動Ss-1(1波)を策定した。
(乙13[6-5-48・50・51・107~109・197・199・200・233頁],乙36[93~142,221~228頁])
b
断層モデルを用いた手法による地震動評価
断層モデルを用いた手法による地震動評価により策定した基
準地震動Ssについては,内陸地殻内地震,海洋プレート内地震及びプレート間地震に関する評価の結果,本件原子炉施設に与える影響が大きいケースとして,中央構造線断層帯による地震における検討ケースを選定し,経験的グリーン関数法と理論的手法によるハイブリッド合成を行った。その結果,前記aの基準地震動Ss-1を一部の周期帯において超えた7ケースを基準地震動Ss-2-1~基準地震動Ss-2-7とした。
(乙13[6-5-48・49・238頁],36[230,231頁])


また,経験的グリーン関数法による評価結果には要素地震の特徴
が反映されることになるところ,債務者が実施した中央構造線断層帯に係る経験的グリーン関数法を用いた評価では,東西方向の地震動の周期0.2~0.3秒で基準地震動Ss-1を超過する結果が得られているが,南北方向では比較的小さく評価される傾向が見られた。このため,東西方向の周期0.2~0.3秒で基準地震動Ss-1を超過するケースのうち,基準地震動Ss-1を超過する度合いが大きいケースについて,工学的判断として,東西方向と南北方向の地震波を入れ替えたケースを仮想して基準地震動Ss-2-8として設定した。
なお,プレート間地震及び海洋プレート内地震では,基準地震動
Ss-1を下回る結果となったことから,基準地震動Ss-2としては設定しなかった。
(乙13[6-5-49・50頁],36[232頁])
c
震源を特定せず策定する地震動
債務者は,震源を特定せず策定する地震動については,加藤ほ
か(2004)の応答スペクトルを考慮するとともに,2004年北海道留萌支庁南部地震及び2000年鳥取県西部地震における観測記録を基に基準地震動Ss-3(2波)を策定した。
(乙13[6-5-50頁],44,46)

d
債務者による基準地震動の策定
債務者は,上記a~cを踏まえて基準地震動Ssを策定した。その最大加速度は,震源を特定する地震動のうち,応答スペクトルに基づく手法による水平動650ガルである。
(乙13[6-5-50・51・110・241~251頁])
本件原子炉に係る設計基準対象施設及び重大事故等対処施設の地盤に
ついて
債務者は,本件発電所敷地周辺の地質図をもとに,本件発電所敷地周辺陸域の地質構造が安定していること,本件発電所敷地内において,地表地質調査,地表弾性波探査,ボーリング調査,試掘坑調査,掘削面観察,深部ボーリング調査,地下水位調査等を実施した結果に基づいて,本件発電所敷地の地盤は三波川変成岩類のうち主に塩基性片岩で構成されており,本件発電所敷地内の塩基性片岩は片理があるものの,一般に剥離性が弱く,塊状かつ堅硬であること,本件発電所敷地の地盤はほぼ水平で,その岩盤は深度約50mから少なくとも約2000mまでは堅硬かつ緻密な泥質片岩を主体とする結晶片岩が連続しており,塊状かつ堅硬で安定していること,本件発電所敷地内にみられる断層はほとんどが10cm未満と小さく,地下深部への連続性もないこと,本件原子炉施設に係る基礎地盤が支持力,すべり安全性,変形に対する抵抗力を有し,基準地震動による地震力が作用した場合においても地耐力があるといえること,本件原子炉の周辺斜面もすべり安全性を有し,基準地震動による地震力が作用した場合においても安定性があると認められることを確認し,本件原子炉に係る設計基準対象施設及び重大事故等対処施設の地盤が設置許可基準規則3条及び38条に適合するものと判断した。(乙13[6-3-8~19,73~82,112~123頁])イ
火山に関する評価について
立地評価
債務者は,本件原子炉施設に影響を及ぼし得る火山の抽出において,半径160kmの地理的領域内にある42の第四紀火山のうち,完新世に活動を行った火山として鶴見岳,由布岳,九重山,阿蘇及び阿武火山群と,完新世に活動を行っていないが将来の活動可能性を否定できない火山として姫島,高平火山群を抽出した。
そして,これら抽出された7つの火山の火山活動に関する個別評価として,火砕物密度流以外の設計対応不可能な火山事象は問題とならず,火砕物密度流に関しては,阿蘇以外の火山は火山活動の履歴や敷地までの離隔距離等から考慮する必要がないと評価した。
阿蘇については,その噴火履歴として,約9万~8.5万年前に発生した噴出量600km3以上の阿蘇4噴火があるものの,これによって発生した火砕物密度流の堆積物は佐田岬半島において確認されていないこと,本件発電所の敷地と阿蘇カルデラの距離は約130kmであり,その間には佐賀関半島や佐田岬半島などの地形的障害も認められることから,阿蘇4噴火の火砕物密度流は本件発電所敷地に達していないものと評価した(なお,阿蘇は,約27万~25万年前の阿蘇1噴火(噴出量50km3以上),約14万年前の阿蘇2噴火(噴出量50km3以上),約12万年前の阿蘇3噴火(噴出量150km3以上)と上記阿蘇4噴火の計4回にわたり大規模な噴火を起こしている。)。
現在の阿蘇の活動については,Thearyratephralayersvolcanoeshimainfromandbay,southernlateQuaternthecaldearoundKagosKyushu,Japan.
Nagaoka,S.(1988),Geographical
ports

of

Tokyo

Metropolitan

Re

Univ

ersity,23,49-122.(乙563。以下Nagaoka(1988)という。)を参考にすると,多様な噴火様式の小規模噴火を繰り返していることから,後カルデラ火山噴火ステージと判断されていること,Three-dimentional
c
velocity

structure

seismi

beneath

Aso

Volcano,Kyushu,Japan:Sudo,Y.andL.S.L.Kong(2001),Bull.Volcanol.,63,326-344(以下SudoandKong(2001)という。)に示される地震波速度構造において大規模なマグマ溜まりが認められないこと,高倉伸一・橋本武志・小池克明・小川康雄MT法による阿蘇カルデラ比抵抗断面(以下高倉ほか(2000)という。)によると阿蘇カルデラの地下10km以浅にマグマと予想される低比抵抗域が認められないこと,三好雅也・長谷中利昭・佐野貴司阿蘇カルデラ形成後に活動した多様なマグマとそれらの成因関係について(乙132。以下三好ほか(2005)という。)によると,阿蘇4噴火以降の火山岩の分布とそれらの組成から,大規模な流紋岩質~デイサイト質マグマ溜まりは想定されないとされていること,国土地理院による電子基準点の解析結果によると,マグマ溜まりの顕著な増大を示唆する基線変化が認められないことに基づき,現在のマグマ溜まりは巨大噴火直前の状態ではなく,運用期間中の噴火規模については,後カルデラ火山噴火ステージにある阿蘇山における既往最大規模の噴火である阿蘇草千里ヶ浜噴火(噴出量約2km3)を考慮することとした。
(乙13[6-8-3~6-8-12頁])
影響評価
a
降下火砕物の最大層厚
債務者は,本件発電所敷地から160kmの地理的領域にある鶴見岳,高平火山群,由布岳,九重山,阿蘇,阿武火山群及び姫島のほか,160km範囲外の火山も含めて降下火砕物の影響を調査した(なお,降下火砕物以外には原子力発電所の安全性に影響を与える可能性のある火山事象はないと評価した。)。
そして,本件発電所敷地付近で厚さ5cmを超える降下火砕物が確認された事例は,すべて九州のカルデラ火山を起源とするものであり,これらのカルデラ火山は,いずれも地下のマグマ溜まりの状況から,巨大噴火直前の状態ではないため,運用期間中に同規模の噴火を起こし,これによる降下火砕物が本件原子炉施設に影響を及ぼす可能性は十分に小さいと評価した。
債務者は,降下火砕物の影響評価に当たり,約5万年前の九重第一軽石の噴出量を2.03km3として本件発電所敷地付近における火山灰の降下厚さをシミュレーションし,当初は,ボーリング調査の結果で宇和盆地中心部に九重第一軽石と対応する火山灰層が認められないこと等に鑑み,ほぼ0cmと評価していた。その後,債務者は,規制委員会からの指摘を踏まえて,九重第一軽石の噴出量を6.2km3
と想定した上で改めてシミュレーションをやり直し,偏西風がほぼ
真西で安定する季節における降下厚さは0cm~数cmと評価されるものの,風向きによっては火山灰の降下厚さが最大14cmとなったため,降下火砕物の層厚を15cmと想定した。
(乙13[6-8-13~6-8-17頁])
b
降下火砕物に対する安全性の確保
債務者は,降下火砕物の特徴等を踏まえ,降下火砕物による直接的影響と間接的影響を考慮し,本件原子炉施設の安全性が損なわれないよう安全対策を講じたとしている。具体的には,直接的影響については,降下火砕物の荷重により構造健全性を失わず安全機能を失わない設計とすること,構造物への化学的影響(腐食),水循環系の閉塞,内部における摩耗等により安全機能を損なわない設計とすること,外気取入口からの降下火砕物の侵入に対して安全機能を損なわない設計とすること等が挙げられている。このうち,外気取入口からの降下火砕物の侵入による機械的影響(閉塞)については,非常用ディーゼル発電機(吸気消音器)及び換気空調設備の外気取入口の開口部を下向きにして,降下火砕物が侵入しにくい構造とするとともに,これらの設備にそれぞれフィルタを設置して,降下火砕物の侵入を更に防ぐこととしている。
また,債務者は,間接的影響については,降下火砕物が送電設備の絶縁低下を生じさせることによる広範囲にわたる送電網の損傷による外部電源喪失及び交通の途絶によるアクセス制限に対し,原子炉の停止並びに停止後の原子炉及び使用済燃料ピットの冷却に係る機能を担うために必要となる電源の供給が非常用ディーゼル発電機により継続できる設計とすることにより,安全機能を損なわない設計としているとする。
(乙13[6-8-344~358頁])
c
非常用ディーゼル発電機への影響
上記bのとおり,非常用ディーゼル発電機の吸気消音器にはフィルタ(吸気フィルタ)が設置されているところ,債務者は,その閉塞等による非常用ディーゼル発電機への影響について,次のとおり対策を講じている旨説明している。
本件各申請及びこれに対する許可等の時点
債務者は,本件各申請及びこれに対する許可等の時点において
は,上記吸気フィルタが閉塞するまでに要する時間について,アイスランド共和国のエイヤヒャトラ氷河で平成22年4月に発生した火山噴火地点から約40km離れたヘイマランド地区における大気中の降下火砕物濃度(24時間観測ピーク値)の観測値である3241μg/m3を大気中濃度として想定し,これをもとに約19.8時間と試算する一方,吸気フィルタの交換・清掃に要する時間は要員3~5名で1時間程度と見込まれること,非常用ディーゼル発電機は2系統設置されており,必要に応じ一つの系統を停止してフィルタを交換することも可能であると説明した。
なお,吸気フィルタに捕集されない粒径の小さな降下火砕物が非
常用ディーゼル発電機の機関内に侵入する可能性はあるが,降下火砕物は砂よりも硬度が低くもろいことから,摩耗の影響は小さく,また,金属腐食研究の結果より,降下火砕物によって直ちに金属腐食を生じないが,塗装の実施等によって,腐食により安全機能を損なわない設計とし,さらに,降灰後の長期的な腐食の影響については,日常保守管理等により,状況に応じて補修が可能な設計とした旨説明した。
債務者の影響評価についての確認を行った。
(甲232,乙13[8-1-356~357頁])


旧火山ガイドの改正に伴う債務者の対応
債務者は,旧火山ガイドが平成29年火山ガイドに改正されたこ
とを受けて,非常用ディーゼル発電機の吸気フィルタが閉塞するまでの時間について,気中降下火砕物濃度を3.1g/m3と算定するとともに,非常用ディーゼル発電機の吸気フィルタを,着脱可能なカートリッジ式のものに交換した。その結果,フィルタが閉塞するまでの時間は約3.1時間と試算された。
(甲761,乙329,650)



規制委員会は,平成27年7月15日に開催された平成27年度第19回会議において,四国電力株式会社伊方発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(3号原子炉施設の変更)に関する審査書の案を付議,了承し,債務者の申請に対する許可処分を行った。その際,規制委員会は,前記⑴ア及びイの債務者による基準地震動の策定及び火山に関する評価について,次のとおり確認を行った。

(甲231,乙15,81)

基準地震動の策定について
規制委員会は,債務者が検討用地震ごとに不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を行った上で,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動を評価しており,その評価が新規制基準に適合していること,債務者が過去の内陸地殻内地震について得られた震源近傍における観測記録を収集,精査し,不確かさを考慮して震源を特定せず策定する地震動を評価しており,その評価が新規制基準に適合していることを確認し,また,債務者による基準地震動の策定について新規制基準に適合していることを確認した。
また,規制委員会は,債務者による本件発電所の敷地地盤の地下構造の評価,並びに設計基準対象施設の地盤に関する評価を正当と認め,これらがいずれも新規制基準に適合するものと判断した。
(乙15[11~20,29~33頁])

火山に関する評価について
立地評価について
規制委員会は,前記⑴

債務者の立地評価について,活動履歴の

把握,地球物理学的手法によるマグマ溜まりの存在や規模等に関する知見に基づくもので旧火山ガイドを踏まえていることを確認し,運用期間に設計対応不可能な火山事象が本件原子炉施設に影響を及ぼす可能性は十分に小さいと評価していることは妥当であると判断した。
(甲231[64,65頁],乙15[64,65頁])
影響評価について
文献調査,
地質調査等により,本件原子炉施設への影響を評価するとともに,数値シミュレーションによる降下火砕物の検討も行っていることから,旧火山ガイドを踏まえていると判断した。
(甲231[65~71頁],乙15[65~71頁])


規制委員会は,工事計画認可及び保安規定変更認可に係る各申請については,原子炉設置変更許可申請に係る審査と並行し,また,前記⑵の許可処分の後も引き続き審査を行い,工事計画については平成28年3月23日に,保安規定の変更については同年4月19日に,それぞれ認可処分を行った。(乙50,82,83)

7
原子炉の立地,避難計画に関する法規制の概要等


立地審査指針

立地審査指針の概要
原子炉等規制法は,平成24年9月19日施行の設置法附則に基づき改正が行われた(以下本件改正という。)。
立地審査指針は,本件改正前の原子炉等規制法24条1項4号(現43条の3の6第1項4号に相当)における災害の防止上支障がないものであることの基準を具体的に記載した指針の一つで,陸上に定置する原子炉の設置に先立って行う安全審査の際,万一の事故に関連して,その立地条件の適否を判断するためのものであり,原子炉立地審査指針と原子炉立地審査指針を適用する際に必要な暫定的な判断のめやすで構成されていた。


(甲710)

立地審査指針の新規制基準における位置付け
本件改正後の原子炉等規制法43条の3の6第1項4号を受けて規制委員会が策定した設置許可基準規則においては,立地審査指針は採用されず,また,設置許可基準規則解釈においても,立地審査指針は引用されていない。



深層防護の考え方
深層防護とは,一般に,安全に対する脅威から人を守ることを目的として,ある目標を持ったいくつかの障壁(防護レベル)を用意して,各々の障壁が独立して有効に機能することを求めるものである。
IAEAの安全基準の一つである原子力発電所の安全:設計(SSR-2/1(Rev.1))では,深層防護の考え方を原子力発電所の設計に適用し,5つの異なる防護レベルにより構築している。

第1の防護レベルは,通常運転状態からの逸脱と安全上重要な機器等の故障を防止することを目的として,品質管理及び適切で実証された工学的手法に従って,発電所が健全でかつ保守的に立地,設計,建設,保守及び運転されることを要求するものである。

第2の防護レベルは,発電所で運転期間中に予期される事象(設計上考慮することが適切な,原子炉施設の運転寿命までの間に,少なくとも一度は発生することが予想される,通常の運転状態から逸脱した操作手順が発生する事象で,安全上重要な機器に重大な損傷を引き起こしたり,事故に至ったりするおそれがないもの)が事故状態に拡大することを防止するために,通常運転状態からの逸脱を検知し,管理することを目的として,設計で特定の系統と仕組みを備えること,それらの有効性を安全解析により確認すること,さらに運転期間中に予期される事象を発生させる起因事象を防止するか,さもなければその影響を最小に留め,発電所を安全な状態に戻す運転手順の確立を要求するものである。


第3の防護レベルは,運転期間中に予期される事象又は想定起因事象が拡大して前段のレベルで制御できず,また,設計基準事故に進展した場合において,固有の安全性及び工学的な安全の仕組み又はその一方並びに手順により,事故を超える状態に拡大することを防止するとともに発電所を安全な状態に戻すことができることを要求するものである。


第4の防護レベルは,第3の防護レベルでの対策が失敗した場合を想定し,事故の拡大を防止し,重大事故の影響を緩和することを要求するものである。重大事故等に対する安全上の目的は,時間的にも適用範囲においても限られた防護措置のみで対処可能とするとともに,敷地外の汚染を回避又は最小化することである。また,早期の放射性物質の放出又は大量の放射性物質の放出を引き起こす事故シーケンスの発生の可能性を十分に低くすることによって実質的に排除できることを要求するものである。

第5の防護レベルは,重大事故に起因して発生しうる放射性物質の放出による影響を緩和することを目的として,十分な装備を備えた緊急時対応施設の整備と,所内と所外の緊急事態の対応に関する緊急時計画と緊急時手順の整備が必要であるというものである。
(甲858,859)


放射線防護に関する基本的な知見,法規制の内容

放射線の被ばく,人体に対する影響
外部被ばくとは,体外にある放射線源から放射線を受けることであり,内部被ばくとは,放射性物質を吸入,経口摂取等により体内に取り込み,体内にある放射線源から放射線を受けることである。(乙106[4頁])実効線量とは,人体が部分的に被ばくする場合の効果(等価線量)を,全身に対する一様な被ばくの影響に換算した線量をいい,これを示す単位としてSv(シーベルト)が用いられる。


確定的影響と確率的影響
確定的影響とは,一定の線量以上の放射線を受けることにより,必ず現れる影響をいう。人が放射線を短時間で一度に受けると,多数の細胞が死んで,組織や臓器の働きが悪くなることに加え,自らの生命を維持するためのDNAや,細胞を修復する能力が失われてしまう可能性がある。確率的影響とは,一定量の放射線を受けたとしても,必ずしも影響が現れるわけではなく,放射線を受ける量が多くなるほど影響が現れる確率が高まる現象をいう。

(乙3[46頁])

国際放射線防護委員会(以下ICRPという。)は,100mSv/年について,これよりも高い線量では,確定的影響とがんの有意なリスクの可能性が高くなることから,参考レベルの最大値としている(乙109[57頁])。他方,ICRPは,100mSv/年以下の低線量被ばくについて,線量に比例して発がんの確率が増えるという仮定を採用している。

(乙109[9,17頁])

平常時の放射線量
原子力発電所の平常運転に伴って周辺の一般公衆が受ける放射線量については,実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則及び核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示(平成27年原子力規制委員会告示第8号)により線量限度値として,実効線量1mSv/年が定められている。
また,発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針(昭和50年5月13日原子力委員会決定)においては,より一層厳しい努力目標として線量目標値として,実効線量0.05mSv/年が定められている。(乙73)

福島事故による避難指示区域
現在,福島事故による避難指示区域として,避難指示解除準備区域が設定されている。避難指示解除準備区域は,空間線量率から推定された放射線量が20mSv/年以下となることが確実であると確認された区域である。



避難計画の作成及び緊急時の対応に関する定め

原子力災害対策指針
規制委員会は,原子力事業者,国の各機関,地方公共団体等による原子力災害対策の円滑な実施を確保するための指針(以下原子力災害対策指針という。)を定めることとされている(原子力災害対策特別措置法6条の2)。
原子力災害対策指針は,重点的に原子力災害に特有な対策を講じておくべき原子力災害対策重点区域として,PAZ及びUPZという区域を示しており,これらの区域では,緊急時対応に係る避難計画の策定が求められている。
PAZとは,急速に進展する事故において放射線被ばくによる確定的影響等を回避するため放射性物質の環境への放出前の段階から予防的に防護措置を準備する区域のことであり,原子力施設から,おおむね半径5kmが目安とされている。UPZとは,放射線被ばくによる確率的影響のリスクを最小限に抑えるため,緊急防護措置を準備する区域であり,おおむね半径5~30kmが目安とされている。
(乙88,106)

避難計画の作成
都道府県に置かれる都道府県防災会議は,原子力災害についても,防災基本計画及び原子力災害対策指針に基づく都道府県地域防災計画を作成することとされており(原子力災害対策特別措置法28条,災害対策基本法14条,40条),この地域防災計画として,PAZ及びUPZ圏内の住民の避難に係る広域避難計画の作成等を行っている。
また,市町村に置かれる市町村防災会議(市町村防災会議を設置しない市町村にあっては,当該市町村の市町村長)は,原子力災害についても,防災基本計画及び原子力災害対策指針に基づく市町村地域防災計画を作成することとされており(原子力災害対策特別措置法28条,災害対策基本法16条,42条),この地域防災計画として,広域避難計画に則ったPAZ及びUPZの設定に基づく避難計画の作成等を行っている。


緊急事態応急対策
原子力災害対策指針は,第3⑵異常事態の把握及び緊急事態対応策において,以下の事項を定めている。
原子力事業者から全面緊急事態に至った旨の通報を受けた場合
原則としてPAZと,プラントの状況に応じてUPZの一部の範囲において,住民等に対して避難等の予防的防護措置を行う。
原子力施設から著しく異常な水準で放射性物質が放出され,又はそのおそれがある場合
施設の状況や放射性物質の放出状況を踏まえ,必要に応じて予防的防護措置を実施した範囲以外においても屋内退避を実施する。
その後,緊急時モニタリングの結果等を踏まえて,予防的防護措置を実施した範囲外においても,避難や一時移転,飲食物摂取制限等の防護措置を行う。
住民が一定量以上の被ばくを受ける可能性がある場合
UPZ外においては,放射性物質の放出後については,UPZにおける対応と同様,OIL1及びOIL2を超える地域を特定し,避難や一時移転を実施しなければならない。
OILとは,防護措置実施の基準である運用上の介入レベルのことである。OIL1は,住民等を数時間以内に避難や屋内退避等をさせるための基準であり,地上1mで計測した空間放射線量率が500μSv/hが基準とされている。OIL2は,住民等を1週間程度以内に一時移転させるための基準であり,地上1mで計測した空間放射線量率が20μSv/hが基準とされている。
(乙106[41,59~62頁])


本件発電所に関する避難計画

伊方地域
伊方地域における緊急時対応に係る計画においては,原子力災害対策指針に従い,PAZは半径5km圏内(伊方町1町),UPZは半径30km圏内(伊方町,八幡浜市,大洲市,西予市,宇和島市,伊予市,内子町,上関町)に設定されている。


(乙88)

山口県
山口県は,災害対策基本法及び原子力災害特別措置法に基づいて,地域防災計画原子力災害対策編を作成している。同防災計画の中では,住民の避難の問題に関し,UPZとして,山口県上関町八島が定められた上で,避難又は一時移転,屋内退避の指示等,避難所の設置,避難等の実施,要配慮者の避難誘導,避難住民に対するスクリーニング等が定められている。また,上関町は,本件発電所で事故が発生した場合の上関町八島住民の避難に関する計画として,上関町地域防災計画原子力災害対策編及び上関町原子力災害時避難行動計画を作成している。

(甲705~707)

債権者らの居住地
他方,債権者らが居住しているのは山口県内の柳井市平郡島,上関町祝島及び周防大島町であるところ,債権者らの居住地と本件発電所との距離はおおむね三十数kmから四十数kmであり,債権者らの居住地は原子力災害対策指針で定めるUPZ(おおむね半径5~30kmを目安とする。)の範囲外に位置しているため,債権者らを直接の対象とした避難計画は策定されていない。

8
中央構造線断層帯の長期評価の改訂


地震本部の地震調査委員会(以下地震調査委員会という。)は,平成23年2月18日,中央構造線断層帯(金剛山地東縁-伊予灘)の長期評価(一部改訂)について(甲792,乙38。以下中央構造線断層帯長期評価(一部改訂)という。)を公表していたが,新しい知見が得られたことから,中央構造線断層帯の全域にわたり再評価を行い,平成29年12月19日,四国地域の活断層の長期評価(第一版)(甲972)(以下四国長期評価という。)及び中央構造線断層帯(金剛山地東縁-由布院)の長期評価(第二版)(甲973,乙343)(以下中央構造線断層帯長期評価(第二版)という。)を公表した。(甲792,972,973,乙38,343)



中央構造線断層帯長期評価(一部改訂)では,本件発電所敷地至近距離にある断層区間は石鎚山脈北縁西部-伊予灘(長さ:約130km)であり,これを基に債務者は断層長さ約130kmケースを設定し,基準地震動を策定していた。これに対し,中央構造線断層帯長期評価(第二版)では,本件発電所至近距離にある断層区間は伊予灘となり,その長さは約88kmと設定された。

(甲973[11頁],乙343[11頁])


中央構造線断層帯長期評価(第二版)は,伊予灘区間における中央構造線断層帯の断層の深部の傾斜角について,北傾斜中角度(約40度)と高角度(ほぼ鉛直)の両論を併記したが,中角度の可能性が高いとした。なお,伊予灘海域の調査について,中央構造線断層帯長期評価(第二版)には,⑨伊予灘区間では断層が海域に位置しており,陸域に近い沿岸浅海域の調査も必要となる。本断層帯(中央構造線断層帯)の深部での傾斜を最終的に解明するためには,断層の深部延長をボーリング調査などによって直接確認することが望ましい。(4頁),

伊予灘南縁,佐田岬半島沿岸の中央構造線については現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる。

(31頁),伊予灘区間では断層が海域に位置しており,陸域に近い沿岸浅海域の調査も必要となる。本断層帯の深部での傾斜を最終的に解明するためには,断層の深部延長をボーリング調査などによって直接確認することが望ましい。(61頁)の各記載がある。
(甲973・乙343[3~4,31~33,61頁])



規制庁は,平成30年2月21日に開催された規制委員会の第30回技術情報検討会において,最新の知見の一つとして,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の改訂に関する知見を報告した上で,中央構造線断層帯による地震は,本件発電所の基準地震動を策定する際の検討用地震の一つである。新規制基準適合性審査における中央構造線活断層帯の地震動評価では,断層の長さ,傾斜角の不確かさ(北傾斜)の考慮等を確認しており,今回収集した改訂評価の知見における評価はこれに包含されているとの見解を示した。
(乙431[1頁])

第4
1
争点及び争点に関する当事者の主張の要旨
司法審査の在り方
(債権者らの主張)


原子力関連法令等の平成24年改正の趣旨
福島事故によって,原子力発電所の持つ潜在的危険性の大きさや,その事故により他の科学技術の利用に伴う事故とは質的に異なる被害(不可逆甚大性,全体性,広範囲性及び長期継続性)を生じさせるという特異性を有することが明らかになった。
平成24年に行われた原子力関連法令等の改正は,我が国の原子力行政が,決して起こらないと言われていた過酷事故を現に起こしてしまったことを立法事実として,事故の反省や教訓を踏まえてなされたものである。


原子力発電所に求められる安全の程度
上記⑴の原子力関連法令等の平成24年改正の趣旨からすると,原子力発電所には,極めて高度な安全が求められるべきであり,言い換えれば,(十分な情報を与えられた)通常人が疑いを差し挟まない程度に,万が一にも(福島事故のような)深刻な災害が起こらないという確信を持ち得る程度の安全が求められるべきである。これは実質的にゼロリスクを求めるのと同じではないが,原子力発電所の持つ危険性や被害の特異性を踏まえれば,安易に他の危険施設や科学技術の利用と同列に扱うことは許されず,その意味では,最高度の安全が求められるものである(他の社会活動で行われている調査・検討すらなされていなければ,最高度の安全が確保されているとは評価し得ない。)。



司法審査の枠組み
本件のように人格権侵害を理由として差止めを求める民事訴訟においては,差止めを請求する側が人格権侵害の具体的危険性を主張立証するのが原則であるところ,上記⑴及び⑵からすれば,本件の場合には,人格権侵害の具体的危険性についての疎明の程度を軽減し,債権者らにおいて人格権侵害の具体的危険が存在することを一応疎明すれば足りるという解釈(甲650)が採用されるべきであり,これが採用できないとしても,債権者らにおいて疎明すべき命題を人格権侵害の具体的危険が万が一にも存在することに修正するか,原決定をはじめとする多くの裁判例が採用するように,事業者である債務者側に原子力発電所の安全に関する事実上の主張・疎明責任を負わせるべきである。
債務者の主張する判断枠組みでは,福島事故のような深刻な事故を二度と起こさないという上記⑴の法改正の趣旨に反する結果となり,法解釈として不当である。


原子力発電所の求められる安全の判断
科学的知見をどこまで考慮するかという問題について,債務者が主張するように,通説的見解により判断するのだとすると,福島事故前に指摘されていた15mを超える津波が到来する可能性は考慮しなくてよいことになるし,本件においても,中央構造線の地質的境界が活断層である可能性が指摘されているにもかかわらず,十分な調査を行わないままこの可能性を考慮対象から外すことになってしまうが,これは,上記⑴の法改正の趣旨に反するものである。
また,科学の不定性が大きい地震学や火山学などの分野においては,そもそも通説的見解と呼べるものが存在しない場合も多い。
だからこそ,現時点で,究明・獲得途上の専門知を社会的に利用活用しようとする場合には,その不確実性を十分に考慮して,不確実性がマイナスに作用した場合の損害の特質(どのような権利・利益を侵害するのか,時間的・空間的にどの程度広がり得るのか等)に応じて十分な安全を確保しつつ利用活用する必要があるところ,原子力発電所の場合には,その侵害される利益が生命や身体の安全を含む人格権の根幹部分であり,時間的にも空間的にも極めて膨大な広がりを持つものであるがゆえに,他の危険施設と比較しても最高度の安全が要求されるし,全ての代替可能な科学的知見(科学的に信頼可能と評価され得る他の全ての知見)を考慮すべきという基準が採用されるべきである。
科学に関わる問題を,①科学の卓越性(ある事象が原理的に発生するか否か。),②科学の不定性(ある事象が発生するとして,どの程度の確率で発生するか。),③価値観の問題(ある事象の発生確率を安全とみるか,危険とみるか。)の観点で分類して整理してみると,原子力発電所の場合には,②と③の問題が混在するなどしており,軽々に,いずれの見解が正しいとか,誤っているといった科学的判断は難しいといわざるを得ないのであって,このような場合には,法的判断を行う裁判所としては,被侵害利益の大きさと稼働による利益を比較考量して安全の具体的判断をするほかないというべきである。
(債務者の主張)


司法審査の枠組み
本件裁判のような妨害予防請求においては,将来発生するか否か不確実な侵害の予測に基づいて相手方の権利行使を制約するものであるから,単に理論的ないし抽象的に危険性が存在するというのでは足りず,人格権侵害による被害が生じる具体的危険性の存在が必要である。そして,上記の具体的危険性があることについては,債権者らに主張・疎明責任がある。本件原子炉は,規制委員会による厳格な審査を経て,新規制基準に適合していることが確認されている。規制委員会が,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断として行った適合性の判断は,客観性を有するものとして本件裁判においても当然尊重されるべきであり,規制委員会において福島事故を踏まえて制定された新規制基準への適合性が確認されたことは,本件原子炉の安全性が科学的,専門技術的知見を踏まえた総合的判断によって裏付けられたということを意味し,本件原子炉の安全性を示す極めて重要な事実となる。
そして,本件は仮の地位を定める仮処分であり,債務者に与える影響が大きいことから,債権者らには高度の疎明が求められるべきである。仮に債務者が一定の主張・疎明責任を負うとしても,保全事件においては,一応確からしい程度の疎明がなされればよいとされているところ,本件原子炉の安全対策が規制委員会の厳格な審査を経て,福島事故の教訓を適切に踏まえて策定された新規制基準に適合していると認められたことは,本件原子炉が安全性を確保していることに関する一応確からしい程度の疎明の内容として十分なものである。規制委員会による審査の内容や審査の在り方についての踏み込んだ議論は本案訴訟で行うべきであって,一応確からしい程度の疎明がなされればよいとされる保全事件においては,外形上,法が定める基準に適合するものとして正当に許可を受けていることが明らかであれば,疎明の程度としては十分なはずであり,これを不十分とするのは,過度に原子力発電所を特別視するものであって妥当でない。
規制委員会による許認可を踏まえてもなお本件原子炉の安全性を否定する債権者らは,本件原子炉の安全性が欠如していること,そして,それが仮処分命令による救済を要するものであることについて,単に抽象的な可能性等を列挙するだけでなく,具体的かつ科学的根拠を示して主張・疎明しなければならない。


原子力発電所に求められる安全の判断
原子力発電所に求められる安全の判断については,基本的には,伊方発電所原子炉設置許可処分取消請求事件に関する最高裁判決(最高裁昭和60年(行ツ)第133号平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174頁)に則り,通説的見解に基づいて判断されるべきである。もっとも,通説的見解に対する有力な異説が存在する場合や,通説的見解自体が定まりきっていない場合には,通説的見解に拠るだけでは十分とはいえないことも考えられる。しかし,学術論争の場においては,常に,合理的な根拠に基づかない異説や,最新の調査結果等が踏まえられていない古い認識に基づく異説も存在し,どのような見解までを採用すべきかについて一定の明確な基準を設けることは困難である。このように,自然科学の分野では,ある見解が通説ではないものの合理性のある知見であるのか,合理性を有しないとされる見解なのかの区別は容易でないことから,原子炉等規制法は,通説的見解ではない異説をどの程度まで考慮すべきかという点について,規制委員会の専門技術的知見に基づく裁量に委ねている。すなわち,原子炉等規制法が,同法43条の3の6第1項各号所定の基準の適合性について,専門技術的知見を有する規制委員会の合理的な判断に委ねた趣旨に照らせば,最新の科学的知見の採否の選択も,専門技術的知見を有する規制委員会の合理的な判断(専門技術的裁量)に委ねられているものと解され,同法は,上記のような最新の科学的知見の採否に関する規制委員会の専門技術的判断を尊重することを要請しているものと解される。
そこで,本件においても,債務者及び規制委員会が採用した知見に現在の通説的見解に照らして明白な誤りがあると判明し,この知見に基づけば安全性の判断が科学的真実に反するような場合には,基本とされるべき通説的見解からの逸脱として厳しく判断されるべきと考えるが,逆に,債務者及び規制委員会が採用した知見が通説的見解に基づくものであって一定の合理性が認められるにもかかわらず,当該通説的見解に対する異説が存在することや,同見解に対する批判が存在すること等から,債務者及び規制委員会が採用した知見が不合理である(又は合理性に疑いが残る)と判断すべきではない。つまり,裁判所が,通説的見解と異説の当否のような科学的技術的問題について深く立ち入って,いずれの見解によるのが相当であるかなどといった判断をすることは,そもそも司法の審査能力を超える疑いが強い上,上記のような判断は実質的に判断代置的な司法審査となり,原子炉等規制法が規制委員会に専門技術的裁量を認めた趣旨を没却することとなることから,相当でない。
このことは,本件裁判の要件事実からしても正当である。すなわち,本件のような将来予測に基づく差止請求(妨害予防請求)の要件として求められる危険性は具体的危険性であって論理的ないし抽象的,潜在的レベルの危険性では足りない。仮に規制委員会の判断に不合理な点があったとしてもそれ自体が具体的危険性に直結するわけではない。それにもかかわらず,規制委員会の判断に不合理な点があることをもって具体的危険性を認定するというのであれば,その不合理は具体的危険性が認定されてしかるべきレベルの不合理でなければならない。規制委員会の専門技術的判断にそれ相応の合理性が認められるような場合についてまで差止請求を認めることは,もはや具体的危険性ではなく論理的ないし抽象的,潜在的レベルの危険性に基づいて差止請求を認めるというに等しく,差止請求(妨害予防請求)の要件に照らし妥当ではない。
債権者らは,地震や火山事象を巡る自然科学の評価については,不確実性が大きいことから,通説的見解とはいえなくとも保守的な評価につながる知見を採用した評価を行わなければならないと主張する。
しかし,地震や火山事象を巡る自然科学の評価に不確実性が伴い,専門技術的,科学的知見によっても明確な答えを導くことができないことは,債務者や規制委員会も当然に認識しており,通説的見解だけでなく,保守的な評価につながるような有力な知見が存在する場合には,債務者自身の保守的な考慮として,又は,規制委員会が審査の過程で指摘することにより,債務者の評価に反映している。
通説的見解以外の知見をどの程度まで考慮するべきかの判断については,上記のとおり規制委員会の合理的な判断(専門技術的裁量)に委ねられているが,それは,決して規制委員会の独善的な判断を意味するものではなく,規制委員会内の様々な意見,更には,規制委員会からの委託研究の成果として蓄積された知見や,パブリックコメント等の機会に収集された幅広い意見をも踏まえて,審査会合の場や,規制委員会内部において十分に議論を重ねた上で,専門家集団としての科学的かつ工学的な判断がなされている。このような専門家集団による判断が可能であり,かつ,それが有用であることについては,国際的にも認容され,広く活用されているのであり,原子力の安全基準策定に関わる専門家らによっても認められている。
2
地震に対する安全性


震源が敷地に極めて近い場合の評価の要否
(債権者らの主張)

主張の概要
設置許可基準規則及び同解釈別記2は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について,内陸地殻内地震について選定した検討用地震に関し,活断層の位置・形状・活動性等を明らかにすることを求めており,上記解釈別記2や地震ガイドは,震源が敷地に極めて近い,すなわち,表層地盤の震源域から敷地までの距離が2km以内の場合について,特別の配慮をすべきことを求めている。
しかし,債務者は,佐田岬半島北岸部に活断層は存在せず,活断層が敷地に極めて近い場合の評価は必要がないと判断して,活断層が敷地に極めて近い場合の地震動評価を行っておらず,具体的な数値も持ち合わせていない。したがって,債務者の上記判断が不合理である場合には,債務者による断層モデルを用いた手法による地震動評価が全体として不合理なものである疑いを生ずることになり,断層モデルを用いた手法による地震動評価が応答スペクトルに基づく地震動評価の数値を超えないという判断自体,ひいては債務者による地震動評価そのものが不合理なものであって,これを正当とした規制委員会の判断も不合理ということになる。
そして,本件発電所敷地付近にある,佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線は活断層である可能性が高く,そのことは現時点における地震調査研究に関する最も有力な見解である,中央構造線断層帯長期評価(第二版)でも指摘されているにもかかわらず,債務者は,より精密な探査方法(三次元反射法探査やボーリング調査)があるのに,精度の低い二次元反射法探査に固執して最善を尽くさないまま,すなわち,合理的な根拠なく地層境界としての中央構造線が断層であることを否定しているのであって,これを是認した規制委員会の判断には,判断の過程に過誤ないし欠落があったといわざるを得ない。したがって,人格権侵害の具体的危険の存在が認められる。
なお,上記震源が敷地に極めて近いという場合の震源は,地震
発生層における震源域ではなく,表層地盤の震源域を指すものと解される。なぜなら,上記新規制基準の定めは,震源が敷地に極めて近い場合,表層地盤の震源域の影響について,地表断層から2km以上離れていれば無視しうるものの,敷地から2km程度以内の地表地盤が変位する場合には,比較的軟らかいとされる表層地盤といえども,無視できないという震源極近傍の地震動評価の研究成果に基づいて策定されたものであるところ,上記研究においては,横ずれ断層(鉛直の断層)のケースと逆断層(傾斜角60度)のケースとを検討し,逆断層のケースについて,地表断層からの距離が2km以上離れると,表層地盤の震源域からの影響は無視できる程度に下がるとされているからである(なお,横ずれ断層のケースについては,上記2kmの起算点について断層としか記載されていないが,これは鉛直の断層を想定しているために,震源域の直上からの距離であるか,地表断層からの距離であるかを明記する必要がなかったに過ぎないものと考えられる。)。

活断層の有無に関する債務者の評価について
債務者による海上音波探査(反射法地震探査)が不十分であること本件発電所の敷地東側の地域には下灘‐長浜沿岸活断層帯が存在し,反対側の九州側では,佐賀関断層という活断層が地震本部によっても示されているところ,地質境界としての中央構造線が本件発電所付近の東西で活断層と一致する場所があることから,佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線が活断層である可能性,すなわち,敷地から極めて近い場所に活断層の存在する可能性がある。
敷地から極めて近い場所の活断層の有無の調査については,仮にそれが存在した場合の影響力を考えると,一般的な活断層の調査よりも,より詳細な,より念入りな調査が求められる。しかし,債務者は,債務者の実施している探査法よりも精密な方法があるのに,これを実施せず,最善を尽くしていない。
具体的には,まず,債務者が海上音波探査(反射法地震探査)に採用したブーマーなどの透過深度は,せいぜい100~200mにすぎない。また,債務者の海上音波探査(反射法地震探査)は,デコンボリューションフィルタをかけたり,CDP重合において重合数を大きくしてノイズを抑えなくてはならないのに,そうしていない問題点がある。例えば,石油探査ですら,重複反射(ノイズ)を抑えるためのCDP重合の重合数が100程度とされるが,債務者の探査ではわずか8にとどまっている。ノイズを抑える作業がほとんどなされていないと言っても過言ではない。さらに,測線と測線との間が1kmもあいており,その間の地層の状態が把握されていないという問題点もある。
加えて,二次元反射法地震探査では,得られる情報が測線直下の地質情報に限られ,正確な連続的地下構造図は作成できず,地下構造を三次元的に正確に把握するためには,三次元反射法地震探査が不可欠であるが,債務者の海上音波探査(反射法地震探査)は,二次元探査でしかない。これでは詳細さの程度が全く不十分で,ノイズを抑えていないこともあいまって不正確,不十分な反射法探査となってしまっている。そもそも海上音波探査は,地層のつながりを追うための技術であって,地層の不連続を確実に捉えるためのものではないのであって,断層の有無を判断するのに,必ずしも適しておらず,より精密な方法であるボーリング調査を行うべきであった。
このように,債務者の実施している二次元反射法探査よりも精密な方法(三次元反射法探査,ボーリング調査)があるのに,債務者は,これを実施していない。その結果,債務者の上記探査結果の地質境界としての中央構造線を示す解釈線には,存在するはずのない,地質境界を貫く反射面が存在することになっていたり,地質境界としての中央構造線の下は堆積層ではなく,三波川変成岩類であるはずなのに,解釈線の下に堆積層を示す複数の反射面が存在することになっているという誤った解釈線が導かれている。
海上音波探査(反射法地震探査)の結果に基づく債務者の評価が誤りであること
債務者は,債務者の指摘する海上音波探査(反射法地震探査)結果に基づいて,沖合い約8km付近にある活断層群よりも南側の佐田岬半島北岸部では,A層,D層及びT層がそれぞれ水平に分布しており,三波川変成岩類の上面に向かって扇状の層を成すような変位の累積性が見られない,少なくとも後期更新世以降(12~13万年前以降)における期間に,三波川変成岩類上面と堆積層との地質境界を境に堆積層がずり落ちるような正断層の活動(正断層成分を有する横ずれの活動を含む。)がないことから佐田岬半島北岸部に活断層はないと主張する。しかし,債務者が上記評価を行うに際して用いた図は,縦軸と横軸の縮尺が実際とは異なる,極めて精度の低いものであって,ここから上記のような分析を行うことはできない。
また,正断層運動がある場合においても,扇状の層をなすような変位の累積性等が必ずしも存在するとは限らない。ハーフグラーベン構造をとっていても,陸地近傍側に,扇状の層をなすような変位の累積性が見られないケースもある。債務者は,カナダ・ノバスコシア州のFundyハーフグラーベンにおいても,主断層付近の正断層変位をみても主断層側に向かって堆積層が扇状に厚くなる構造が見て取れる,主断層側に向かって浅くなる地点にも多数の正断層変位が生じていると主張するが,仮にカナダ・ノバスコシア州のFundyハーフグラーベンが債務者の主張するとおりの形状だったとしても,佐田岬半島北岸部におけるハーフグラーベン構造の存在を否定することにはつながらない。
更に,債務者は,自らが作成し規制委員会に提出した海底地形図(乙126)について,佐田岬半島沿岸部において,若い地層が卓越した潮流によって消失したと説明しており,現に上記図において佐田岬半島北岸部は白抜きされているが,これは,若い地層が消失したことにより,調査が困難か不能であったことによるものと考えられる。したがって,仮に債務者の主張するとおり,扇状の層をなすような変位の累積性が見られず,また,D層が水平だったとしても,それは,卓越した潮流によって若い地層が消失したことによるものである可能性が高く,地質境界たる中央構造線がハーフグラーベン構造であるか,活断層であるかといった問題とは,必ずしも関連性があるものではない。
なお,伊予灘沖では,三波川結晶片岩類と,領家帯の花崗岩,片麻岩がくさび形をなしており,そのくさび形部分に,若い地層が堆積している(新期堆積層が存在している)ところ,このような状態は,三波川結晶片岩類の上部を領家帯の花崗岩,片麻岩が滑り落ちている,すなわち,佐田岬半島北岸部の中央構造線をハーフグラーベンであると捉えることによってのみ可能である。

中央構造線断層帯長期評価(第二版)の記載
中央構造線断層帯長期評価(第二版)には,三波川帯と領家帯上面の接合部以浅の中央構造線も活断層である可能性を考慮に入れておくことが必要と考えられる。伊予灘南縁,佐田岬半島沿岸の中央構造線については現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる。との記載がある。中央構造線断層帯長期評価(第二版)を作成した地震本部の地震調査委員会は,阪神・淡路大震災(平成7年1月)を契機として,我が国の地震調査研究を一元的に推進するため,地震防災対策特別措置法に基づき,政府の特別な機関として,全国の大学,研究機関が優秀な人材や有益なデータを結集して組織されたものである。そして,中央構造線断層帯長期評価(第二版)は,同委員会により,相当の費用と時間が投下され,作成され,発表されたものである。したがって,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の信頼性は極めて高度に担保されており,これは,現時点における地震調査研究に関する最も有力な見解である。
このような性質を有する中央構造線断層帯長期評価(第二版)において,上記のとおり,佐田岬半島沿岸に活断層が存在するか否かについて,債務者等が行った海上音波探査では不十分である旨の記載があることは,本件発電所敷地沿岸部に活断層がないことを確認しているという債務者の主張が誤っていることを端的に示すものである。
債務者は,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の上記記載につき,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の策定に関わった広島大学大学院教授奥村晃史(以下奥村教授という。)及び首都大学東京名誉教授山崎晴雄(以下山崎教授という。)の陳述も引用しながら,債務者の行った海上音波探査の結果を見落としたものだと主張する。
まず,債務者は,現に中央構造線断層帯長期評価(第二版)の参考文献に債務者が行った海上音波探査の結果が記載されたヒアリング資料(乙126)が掲載されていないことを指摘するが,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の参考文献には,債務者が行った海上音波探査の結果が記載された別の資料(乙119)が引用された上,伊予灘区間の海域部について,債務者の行った音波探査を基に中央構造線に関する説明がなされているから,債務者による海上音波探査の結果を見落としたとは認められない。
また,債務者は,中央構造線断層帯長期評価(第二版)において債務者による海上音波探査の結果が見落とされた原因や経緯として,規制委員会のホームページ上で,…ヒアリング資料の検索には困難を伴うと主張したり,中央構造線断層帯の長期評価にあたっての第59回活断層分科会において,すべてのデータを網羅的に収集することは,時間的な制約もあるので難しいが,主要なものについてはできる限りのデータを参照するようにしたい,

その際のデータは,公表されているもののみで良い。

と発言されていることを取り上げ,上記の発言からすれば,時間的な制約もある中で,公表されている主要な論文等や委員が個人的に把握している資料が議論の基礎となっているに過ぎず,非常に検索が困難なヒアリング資料(乙126)が参照されないことは十分にありうると指摘したりしている。しかし,活断層分科会における上記発言は,

本地域を評価する際には,伊予灘など海域のデータが重要になる。前回の評価が公表されて以降,新たなデータが得られているはずである。

四国電力のデータを用いる際には,それらの結果に依存せざるを得ないだろう。それ以外のデータは入手可能か。

という発言を受けて,

全てのデータを網羅的に収集することは,時間的な制約もあるので難しいが,主要なものについてはできる限りのデータを参照するようにしたい。

その際のデータは,公表されているもののみで良い。

と発言されたものである。このように,本地域を評価する際には,伊予灘などの海域データが重要,四国電力のデータを用いる際には,それらの結果に依存せざるを得ないという発言がされていることからすると,四国電力の海域のデータの有無は重視されており,同データは,明らかにここにいう参照されるべき主要なデータであって,これが参照されないことは考えられない(なお,活断層分科会においては,その後も佐田岬半島北岸部の活断層の有無について複数回にわたり議論が行われており,債務者が主張するような僅かに言及されたのみというような状況ではない。)。
加えて,中央構造線断層帯長期評価(第二版)には,債務者が行った海上音波探査の結果が記載された資料(乙119)が引用された上で,伊予灘の海域部について,債務者の行った音波探査を基に中央構造線の説明がなされているのであるから,その際,債務者による海上音波探査の結果を見落としたなどということがないことは明らかである。中央構
音波探査が不十分であったことを指摘するものに外ならない。

その他債権者らの主張を裏付ける事情
そのほか,次の



の各事情からすると,佐田岬半島北岸部の中央構

造線が活断層であることは明らかであり,少なくとも本件発電所敷地至近距離において,地質境界としての中央構造線自体が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性(本件原子力発電所敷地近距離の地質境界たる中央構造線も活断層である可能性)は否定できない。
佐田岬半島北岸部が中央構造線のダメージゾーンであること
愛媛大学名誉教授小松正幸(以下小松教授という。)が佐田岬半
島北岸部で行った断層調査によれば,比較的浅所で,また,時代的にも比較的新しい時代に形成されたと考えられるガウジを伴う断層が普遍的に存在していること,一次断層群(断層核が30cm以上の幅を持つ比較的大きな断層が数十mないし100mの間隔で存在する断層群),二次断層群(5~20cmの幅の断層核を持つ断層で,幅数十cm間隔の平行な断層群を形成するもの)のほか,数cmオーダーの幅で細かな断層群が密に形成されている三次断層群まで存在するのは,佐田岬半島北岸の中央構造線に沿うと考えられる部分だけであること,湾入部の東先端(ヒラバエ)では,東西性の正断層群の断層面がむき出しになり,西端では鉛直フラクチャーが示す断層のリニアメントとなっていること,ヒラバエの岩礁に見られる断層面は三次断層群の微細な割れ目が発達しており,中央構造線に関連するダメージゾーンの特徴を示していることからすると,佐田岬半島北岸部は中央構造線のダメージゾーンであると考えられる。
伊予灘堆積盆が一貫してほぼ一定の速度で沈んでいること
伊予灘における堆積盆を形成する地層は,中国電力によってボーリング調査が行われ,下位からC,B4,B3,B2,B1及びA層に区分されて,各層の年代の推定と特定がなされている。その結果,堆積層の大半を占めるB4及びC層の年代幅は220万年と推定され,B1~B3の堆積時間79万年の約2.8倍であるから,堆積速度が同じだとすれば,後者の厚さは前者の2.8倍になるはずである。
各層の区分が明瞭になされ,伊予灘南部に近い領域でなされた中国電力のエアガン断面図から,B1~B3の厚さの合計と,B4+Cの厚さの合計を比較すると,Line
2.4倍,Line

17A(豊予海峡に近い測線)では

14A(三崎沖)では2.3倍,Line

9A

(瀬戸沖)では2.7倍であり,予想される厚さにほぼ等しいか,それよりやや薄く(すなわち,C層とB4層の堆積速度がその後の年代の堆積層との比較で相対的に小さく)なっている。
このように,伊予灘堆積盆の堆積作用は70万年前を境にした変化はなく,鮮新世末(300万年前)のハーフグラーベンの形成初期から現世まで一貫してほぼ一定の速度で沈んでいる。伊予灘堆積盆が一貫してほぼ一定の速度で沈んでいるということは,すなわち,伊予灘においては,70万年以降も,それ以前と同様に北側低下の垂直運動が行われている,一貫して中央構造線を主断層とするハーフグラーベンの形成運動が継続しているということである。
仮に,これが活断層としての運動でないというのであれば,この運動を説明する別のメカニズムが示されねばならないが,現在のところ,そのようなメカニズムは示されていない。
両端が活断層
中央構造線のうち本件発電所敷地付近の部分の東寄りの地域には下灘‐長浜沿岸活断層帯が存在し,反対側の九州側では,佐賀関断層という活断層が地震本部によっても示されているところ,地質境界としての中央構造線が本件発電所付近の東西で活断層と一致する場所があることは,佐田岬半島北岸部の中央構造線が活断層であることを,補強する事情となり得るものである。
重力異常調査の結果
重力異常調査の結果,本件発電所敷地直近の中央構造線(地質境界)に沿って重力異常の急変帯があると認められるところ,このことは,この地質境界に沿ってハーフグラーベンが形成されていること,すなわち,この地質境界が断層であることの証左となる。

規制委員会による判断過程の過誤ないし欠落
以上のとおり,本件原子力発電所敷地至近距離において,地質境界としての中央構造線自体が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性(本件原子力発電所敷地近距離の地質境界たる中央構造線も活断層である可能性)は否定できない。
そして,地質境界としての中央構造線自体を断層とみた場合に,仮に地表断層から本件原子力発電所敷地までの距離を正確に測ることは困難であるとしても,中央構造線断層帯長期評価(第二版)と見解を一つにする小松教授及び広島大学大学院理学研究科准教授早坂康隆(以下早坂准教授という。)の見解によると,遠くとも本件発電所から2km以内であると認められる。そうすると,本件原子力発電所敷地は中央構造線の地層地盤の震源域から2km以内にあることとなり,したがって,本件原子力発電所については,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価をする必要があった。ところが,債務者は,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価を行っていない。
そうすると,債務者は,震源が敷地に極めて近い場合に該当する可能性があるのに,佐田岬半島北岸部の活断層の有無を十分に調査しないまま,これが存在しないとして本件原子炉に係る原子炉設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可の各申請をし,規制委員会はこれを問題ないとして判断したものであるから,このような規制委員会の判断には,判断の過程に過誤ないし欠落があったことになる。
これに対し,債務者は,規制委員会が佐田岬半島北岸部の活断層の有無について判断していないかのような原決定の説示を論難するが,規制委員会には,自ら佐田岬半島北岸部の活断層の有無について判断することが求められているわけではなく,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の記載に従い,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価を行った上で,債務者による本件発電所に係る原子炉設置変更許可,工事計画認可及び保安規定変更認可の各申請について審査を行うべきであったのに,自ら佐田岬半島北岸部に活断層が存在しないなどと自らの分を超えた判断を行い,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価を行わなかったものであるから,その判断の過程に過誤ないし欠落があることは明らかである。以上のとおり,規制委員会の判断には,判断の過程に過誤ないし欠落があったのであるから,本件原子炉の運転等によって放射性物質が周辺の環境に放出され,その放射線被ばくにより債権者らがその生命,身体や生活基盤に重大な被害を受ける具体的危険が存在することの一応の疎明は尽くされたというべきであり,債務者は,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価に関する具体的な数値を持ち合わせていないとして,これに対する反対疎明を尽くしていないのであるから,本件原子炉の運転により債権者らの生命,身体等に対する侵害が生ずる具体的危険が存在する。(債務者の主張)

債務者による地震動評価
債務者は,基準地震動を策定するに際し,まず,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動に関する基本震源モデルの設定に当たって,内陸地殻内地震,海洋プレート内地震及びプレート間地震のそれぞれの地震発生様式について,詳細な調査を踏まえた上で,それでもなお残る不確かさをあらかじめ織り込むなどして高い保守性を確保した。そして,その上で,更なる不確かさを保守的に組み合わせて考慮することなどにより,信頼性の高い基準地震動Ssを策定した。また,震源を特定せず策定する地震動についても,十分な保守性を確保して策定した。特に,本件発電所に最も影響のある中央構造線断層帯の地震に関して,債務者は様々な調査を行い,それらの結果を保守的に考慮した上で,断層位置,断層長さ,断層傾斜角及び断層幅をそれぞれ設定し,基本震源モデルを作成した。
地震動評価は,自然現象を対象とするものであることから,詳細な調査を尽くしてもなお不確かな部分が残ること,すなわち,震源断層の性状及び将来発生する地震について精度良く予測すること(将来発生する地震による地震動の最大加速度や地震波形等と一致するような予測をすること)が不可能であることは否定できないが,そのような自然科学の不確実性を踏まえた上でその点を保守的に考慮し,余裕のある地震動として設定することで,将来発生する地震動に耐えられるよう原子力発電所を設計することは可能である。
このようにして,基準地震動Ssとして基準地震動Ss-1では1ケース,基準地震動Ss-2は8ケース,基準地震動Ss-3は2ケースをそれぞれ設定した。そして,債務者による基準地震動Ssの策定が地震ガイドに適合する合理的なものであることについては,規制委員会の厳格な審査を経た上で,許可を受けている。
また,上記基準地震動は,本件原子炉の耐震性能の限界を示すものではない。すなわち,基準地震動Ssの策定に続く耐震設計において耐震安全余裕が確保されるため,最終的な原子力発電所の設備としては,より大きな耐震性能を有することとなる。
本件原子炉についても,設計及び建設時において耐震安全上の余裕を十分確保するとともに,これを向上させるための対策を不断に講じてきたことから,基準地震動Ssに耐えられることはもとより,仮に基準地震動Ssを上回る地震が到来しても十分に耐えることができる大きな耐震安全上の余裕を有している。
具体的には,①地震動によって現実に設備等に働く力と評価値との間の余裕,②評価値と評価基準値との間の余裕,③評価基準値と機能維持限界値との間の余裕が存在することに加え,そもそも,設計において想定する合計負荷は,地震動以外の条件についても厳しい条件を重畳させているため,基準地震動Ssだけによるものよりも大幅に積み増されている。したがって,基準地震動Ssを超えれば直ちに原子力発電所が危機的な状況に陥るというものではなく,実際の原子力発電所施設の耐震性能はそれよりも大幅に上回るように設定されている。

活断層の有無に関する債務者の評価
高精度な海上音波探査の結果が得られていること
a
地質境界としての中央構造線と活断層としての中央構造線
とは区別して検討しなければならないところ,伊予灘よりも東方で地質境界としての中央構造線が陸域に現れる地点(四国北西部)
では,債権者らも認めるとおり,地質境界としての中央構造線が
活断層ではなく,離れた地点に活断層としての中央構造線が分布
することが明らかになっている。問題は,このように四国北西部陸域では活断層でない地質境界としての中央構造線が,伊予灘海域に
入った途端に活断層となっているのか否かである。
伊予灘において債務者及びその他の機関によってこれまでに実施された海上音波探査は全長約6700kmにも及ぶ。佐田岬半島北岸部を含めた伊予灘における海上音波探査は他に類を見ないほどの高密度でなされており,国土地理院が行う活断層調査のための海上音波探査と比べても高密度なものである。上記多数の海上音波探査記録から,活断層が分布しているのは,本件発電所の敷地沖合い約8km~約5kmの範囲であって,それよりも南側では,地層が水平に堆積し,活断層が存在しないことが明らかになっている。
一方,債権者らが活断層であると主張する佐田岬半島北岸部に沿うように東西に延びる地質境界としての中央構造線が位置するの
は,沖合い約5kmよりも南側で,佐田岬半島の沿岸に極めて近い位置であるが,債務者は,そのような佐田岬半島の沿岸に極めて近い位置においても,産業技術総合研究所の活断層調査と比べても高品質な海上音波探査を行っており,活断層の判読を行うに当たって必要となる高精度な浅部の海上音波探査記録が得られている。
b
債権者らは,債務者が実施した佐田岬半島北岸部の海上音波探査記録は粗すぎるなどとして,佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線が活断層であることを示す変位が実際には存在するにもかかわらず海上音波探査によって捉えられていないだけである旨を主張するが,債務者が佐田岬半島北岸部で実施した海上音波探査においては,高解像度な海上音波探査記録を得ることができるという最新の技術を用いており,債権者らがその主張の根拠に用いる喜多灘~串沖の音波探査結果と比較しても高精度である。
また,債権者らは,京都大学名誉教授芦田讓(以下芦田教授と
いう。)の意見書に基づき,債務者が佐田岬半島北岸部の海上音波探査に用いたブーマーやチャープソナーでは透過深度が浅く,その結果として得られた海上音波探査記録には深部の地下構造が現れないために海上音波探査記録として十分ではないと主張するが,活断層の判読を行うに当たって必要なのは,ブーマーやチャープソナーによって得られる比較的浅い部分の音波探査記録であり,地下深部の構造ではない。
更に,債権者らは,債務者が得た佐田岬半島北岸部の海上音波探査記録について,重複反射が多く見られることを批判し,これを除去しなければならない旨を主張するが,重複反射が現れるのは,深部においてであり,活断層の判読を行うに当たって必要な浅部の堆積層中に重複反射は見られないので,活断層の有無を判読する上で何ら支障はない。また,重複反射が現れていても,債務者は,重複反射を適切に判別し,その背景にある明瞭な地層境界線や層内反射面を適切に読みとって正確な解釈図を作成することができている。

c
債権者らは,佐田岬半島北岸部において活断層の有無を判断するために三次元探査を実施すべきと主張するが,一般的に,伊予灘のような内海の浅海域で,しかも佐田岬半島北岸部のような入り組んだ湾内にまで海上三次元探査が実施されることは考えられない。そもそも,活断層は直線的な形状で地表に現れるものであるから,それを横断する方向に調査すれば,二次元探査で確実に断層を捉えることができるので,活断層調査において三次元探査は必須のものではない。芦田教授が専門とする資源探査においては,地下深部の岩盤中に三次元的な地質構造によってトラップされた資源の在り処と埋蔵量を把握するために,地下深部までの構造を把握するための三次元探査が不可欠なのかもしれないが,活断層の判読を行うに当たっては,複数の二次元探査を組み合わせることにより確実に活断層を捉えることができるのであり,資源探査と活断層調査とでは,捉えようとする対象がそもそも全く異なっている。債権者らは,音波探査図が十分なものかどうかについて,資源探査の専門家の意見を重視すべきと主張するが,直線的な断層分布と二次元的な断層面を有する活断層の第四紀後期における活動性評価のために堆積層浅部に高分解能を求める海域活断層調査と石油を貯留する深部岩盤中の背斜トラップ等の三次元的な構造と広がりを把握する油田探査とでは,探査に求める性能や解釈に際しての着眼点が大きく異なるので,本件のような海域活断層調査については活断層調査の専門家の意見を重視すべきである。また,佐田岬半島北岸部においては,入り組んだ湾内まで測線を展開できる小回りの良さに加えて解像度の高さを両立できる二次元探査が適しており,三次元探査で二次元探査よりも高精度な記録を得ることは期待できない。
また,債権者らは,佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線が活断層であるか否かを判断するためには,海上音波探査に加えてボーリング調査を実施する必要があると主張するが,ボーリング調査は,基本的には,海上音波探査で得られた断面に上載地層法を適用する上で必要な地層の年代を把握するため,補助的な位置づけで行われるものであって,既に信頼性の高い層序区分がなされ,約100万年前以前からの堆積層を切る断層すら認められないことが分かっている佐田岬半島北岸部で海底ボーリング調査を行う理由は見当たらないし,そもそもボーリングによって佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線の試料を採取しても活断層であるか否かを判断することはできない。なお,中央構造線断層帯長期評価(第二版)がボーリング調査で確認するのが望ましいとしたのは,地質境界としての中央構造線の深部の断層傾斜角を確定するためであって,活断層の存在を確認するためではない。
調査結果に基づく債務者の評価について
a
もし,小松教授及び早坂准教授が示すような佐田岬半島北岸部の
地質境界としての中央構造線が活断層であるならば,佐田岬半島
北岸部の湾内にまで入る測線はその地質境界としての中央構造線
を必ず横断することとなるため,そのような測線に沿って実施した海上音波探査によって変位の有無を判断できる堆積層の明瞭な反射面を得ていれば,活断層であることを示す変位が確実に捉えられる。
佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線を横断するよ
うに湾内にまで入った測線で得られた海上音波探査記録を見れば,D層やT層といった堆積層に活断層の存在を示す変位はみられず,佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線が活断層として活動
していることを示す痕跡は見当たらない。債権者らは沖合い約8kmの地下深部において震源断層が正断層を主体として活動していることを前提に,その結果として上部の堆積層が三波川変成岩類の上面に沿ってずり落ちて佐田岬半島北岸部にその痕跡である活断層が存在しているはずであると主張するところ,そのような堆積層が三波川変成岩類の上面に沿ってずり落ちる活動がこれまで繰り返されてきたのであれば,当然ながら,佐田岬半島北岸部の堆積層には,地質境界(三波川変成岩類の上面)に向かって扇形となるような正断層運動を示す堆積層の変位の累積が見られるはずであるし,三波川変成岩類の上面には凹凸が存在するのであるから,堆積層が三波川変成岩類の上面に沿ってずり落ちる正断層の活動があれば三波川変成岩類の上面の凹凸部を覆う堆積層には確実に活断層を示す変位が生じるはずであるが,実際には,そのような変位の痕跡は全く認められず,水平に堆積している。
これに対し,債権者らは,海上音波探査の結果を判読するに当た
り,縦横比を強調した図を用いたことを批判するが,海域の活断層判読においては活断層を見逃すことのないように縦横比を強調するのであり,債務者の示した縮尺は活断層判読において一般的なものである。すなわち,変位の累積性の観点からすると,実際よりも鉛直方向のずれや水平方向の傾きが強調され,仮に正断層運動の結果として現れる扇状の層をなすような変位の累積があれば,それが強調されて確認できるはずである。しかし,そのように強調して表示しても,佐田岬半島北岸部においては鉛直方向のずれも扇状の変位の累積も見られないのである。
また,債権者らは,伊予灘の堆積層が水平で正断層運動を示す扇状の変位が見られないのは潮流で削られたから水平になっているに過ぎないと主張する。しかしながら,潮流で削られるのはあくまでD層の上面だけであるから,正断層運動が繰り返されてきたのであれば,それ以外のD層の堆積層中には依然として扇状の変位の累積が残っているはずであるし,D層よりもさらに下位のT層にも扇状の変位の累積が見られるはずであるが,そのような変位は見られない。潮流によって一部の堆積層が削られたとしても,それより下位の堆積層により判読を行うことができる。
更に,債権者らは,佐田岬半島北岸部の堆積層が水平である点について,正断層運動があっても扇状になるとは限らない旨,あるいは,堆積層が水平なままでずり落ちることもあるかもしれないなどと主張する。しかしながら,科学は,これまでの経験に基づいて妥当性が認められたことの積み重ねで成り立っている。活断層についても,これまでの知見の蓄積から活断層の認定基準が提唱されているところ,佐田岬半島北岸部の堆積層の状況は,活断層の認定基準に照らして活断層が存在する場合には当てはまらない。これまでの科学的な知見の積み重ねを否定するのであれば,可能性が完全には否定できないことを抽象的に論ずるだけでは不十分であり,佐田岬半島北岸部に活断層があることを示す具体的なデータを示さなければならない。
そもそも,断層面は活動の繰り返しによって平面的な形態となるものであり,佐田岬半島北岸部の三波川変成岩類の上面の凹凸が著しいということ自体,三波川変成岩類の上面と堆積層との境界が断層ではないこと,すなわち,佐田岬半島北岸部において三波川変成岩類の上面に沿ってずり落ちる運動が生じていないことを明確に示している。したがって,佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線
が活断層でないことは明らかである。
b
上記aのとおり,最も直接的な根拠である,債務者が実施した佐田岬半島北岸部の詳細な海上音波探査記録から,佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線が活断層でないことは明らかである
が,この結論は,海上音波探査記録以外の観点,具体的には,伊予灘の地質構造に基づく検討からも支持される。
すなわち,伊予灘の地質構造からすれば,債権者らが主張する佐田岬半島北岸部の活断層は,単に地下深部の震源断層が中角度の場合にそれを延長した線上に活断層が現れることを意味するものではなく,横ずれするとは考えられない低角度の断層となって地表部に現れることを意味するものであり,中央構造線断層帯が主として横ずれで活動することを前提とすれば(中央構造線断層帯長期評価(第二版)は主として横ずれで活動すると評価している。),このような低角の断層面で横ずれ運動を行うことは力学的に不可能である。横ずれの卓越する中央構造線断層帯では高角の断層が生じやすく,震源断層の上方(沖合い約8km付近)にショートカットした形で高角の活断層が生じているのであり,沿岸部で低角になる三波川変成岩類上面を覆う伊予灘の堆積層が全て領家帯と一緒に横ずれして沿岸部に低角の活断層が生じることは考えられない。
c
活断層の有無に関する債務者の上記評価については,長期評価部会の委員,伊予灘の活断層調査を長年行ってきた研究者を含め,多数の専門家(具体的には,奥村教授,山崎教授,愛媛大学理工学研究科教授・社会共創学部教授榊󠄀原正幸(以下榊󠄀原教授という。),山口大学大学院理工学研究科(理学)元教授金折裕司(以下金折氏と
いう。),国立研究開発法人産業技術総合研究所特別顧問・名誉リサーチャー佃栄吉氏(以下佃氏という。),電力中央研究所研究参
事上田圭一(以下上田氏という。),香川大学創造工学部教授長
谷川修一(以下長谷川教授という。))がこれを妥当であるとの
意見を述べており,その信頼性は高い。
また,後記オのとおり,規制委員会も上記音波探査記録を確認した上で活断層は存在しないと評価しており,令和2年9月16日に使用済燃料乾式貯蔵施設の設置変更許可申請に係る審査の結果を取りまとめた際には,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の内容も踏まえた上で,改めてこのことを確認している。
なお,佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線が活断
層ではないことが明らかになったことについて取りまとめた論文が,査読論文として正式に認められ,活断層学会が発行する活断層研究に掲載されることとなった。これにより,佐田岬半島北岸部の中央構造線の探査が行われていること,及び,本件発電所の敷地前面海域である伊予灘中部の地質境界としての中央構造線に第四紀以降
の活動はないこと,すなわち,活断層ではないことが学術的に認められたことになる。

中央構造線断層帯長期評価(第二版)の記載について
債権者らは,中央構造線断層帯長期評価(第二版)において,佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査する必要性を指摘する旨の記載がなされていることを指摘し,佐田岬半島北岸部に活断層が存在する可能性を考慮した評価をしなければならない旨を主張する。
しかしながら,当該記載については,債務者による佐田岬半島北岸部の詳細な海上音波探査記録の存在が中央構造線断層帯の長期評価の改訂に関わった委員に十分知られておらず,改訂に係る議論の中で全く確認されていなかったからであることが明らかになっているため,かかる中央構造線断層帯長期評価(第二版)の記載を根拠として佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線が活断層である可能性を論ずることはできない。この点は,長期評価部会の委員である奥村教授や山崎教授も述べていることに加え,債務者が文部科学省への情報開示請求によって得た地震本部地震調査委員会の長期評価部会及びその下部組織である活断層分科会の議事録及び会合資料から,中央構造線断層帯長期評価(第二版)への改訂に係る議論において,債務者による佐田岬半島北岸部の詳細な海上音波探査記録が全く確認されないままに,佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査する必要性を指摘する旨の記載がなされたことが,明白なものとなった。
すなわち,当該議事録及び会合資料からは,中央構造線断層帯の断層傾斜角については,中央構造線断層帯の長期評価の改訂に当たっての主要な論点として,長期評価部会でも活断層分科会でも数多くの資料に基づいて丁寧な議論がなされている一方で,佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線が活断層であるか否かについては,長期評価部会ではほぼ議論されず,活断層分科会においても特段の根拠等が示されることもなく僅かに言及されたのみで大きな論点とはなっていないこと,また,債務者による佐田岬半島北岸部の詳細な海上音波探査記録については会合の場で一切参照されることがなかったこと,そして,長期評価部会でも活断層分科会でも,中央構造線断層帯の断層傾斜角を中心に議論が進められたにもかかわらず,最終的な取りまとめの直前になって,今後の課題として佐田岬半島北岸部における調査が求められる旨を述べた一人の委員の意見が,何ら審議されないままに改訂案に記載され,最終的な中央構造線断層帯長期評価(第二版)においてもその記載が残されてしまったことが分かる。このような経緯については,佃氏が詳しく述べるところであるし,奥村教授の見解とも整合する。
また,この点については,規制委員会も同様の認識を示している。すなわち,令和2年3月4日に行われた規制委員会の令和元年度第68回会合において,規制委員会の委員及び事務局のいずれからも,中央構造線断層帯の長期評価の改訂に当たって,債務者が平成26年10月1日のヒアリングの際に提出した佐田岬半島北岸部の詳細な海上音波探査記録を掲載した資料の内容が参照されていないと考えられる旨の意見が出され,その理由としては,当該資料の内容が取りまとめ資料に盛り込まれていなかったことが原因として考えられる(つまり,取りまとめ資料と違って資料の検索が困難なヒアリング資料の内容は中央構造線断層帯の長期評価の改訂に当たって参照されなかったと考えられる)とされている。
そして,前記

断層学会の査読論文は,中央構造線断層帯長期評

価(第二版)における佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査する必要性を指摘する旨の記載を踏まえた上で,佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線は活断層でないことを明らかにした論文であり,これにより中央構造線断層帯長期評価(第二版)が佐田岬半島北岸部の中央構造線が活断層である可能性を考慮に入れておくことが必要とした理由はなくなった。この査読論文が次回の中央構造線断層帯の長期評価の改訂に際しては必ず参照されるため,中央構造線断層帯長期評価(第二版)における佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査する必要性を指摘する旨の記載が残されることは考えられない。

債権者らが主張するその他の点について
債権者らは,小松教授及び早坂准教授の見解に基づいて,佐田岬半島北岸部が中央構造線のダメージゾーンであるとして,中央構造線,すなわち,本件発電所敷地至近距離にある地質境界としての中央構造線が活断層である可能性を否定できないと主張する。しかし,そもそも仮にダメージゾーンであったとしても,いつの時代のどの断層運動によるものかは別問題であるため,佐田岬半島北岸部における活断層の有無とは直接関係がない。また,この点を措くとしても,小松教授らは,何ら定量的な検討をしていない。佐田岬半島北岸部と遠方とでは,岩盤露頭での平均割れ目頻度に有意な差は認められず,債権者らの主張する中央構造線からの距離と割れ目頻度に関係がないことは明らかである。更に,小松教授は,本件発電所から約20kmも離れた地点における,かつ,佐田岬半島の基盤をなす一般的な塩基性片岩とは特徴の異なる露頭を典型例として示していること,中央構造線からかなりの距離があり,もはやダメージゾーンとはいえない領域にある地点で,浅所で形成された断層が頻繁に存在する旨述べるなど,自らの見解を否定するような自己矛盾した内容もみられ,科学的な妥当性は認められない。
なお,小松教授及び早坂准教授の見解には矛盾が多く,例えば,正断層運動によって伊予灘のハーフグラーベンを形成する中央構造線が佐田岬半島北岸部に存在するという従来の主張とは整合しない,中央構造線の横ずれ運動や中央構造線と直交する南北方向の活断層を指摘するなど,その見解は一貫性を欠いている。
債権者らは,小松教授の見解に基づき,両端に活断層が存在することや,重力異常図において佐田岬半島北岸部から北の領域に重力異常が見られることを踏まえれば,佐田岬半島北岸部に沿って活断層が分布する可能性がある旨を主張する。
しかし,小松教授自身も認めるとおり,両端に活断層があれば当然にその間が活断層となるものではなく,佐田岬半島北岸部の海上音波探査記録に基づいて活断層の有無を検討することが重要である。
重力異常についても,小松教授自身も認めるとおり,重力異常図から分かるのは,あくまで地下の密度差であって,活断層を直接判別できるわけではなく,伊予灘では活断層の位置について言及するほどの分解能が重力異常にないことも踏まえれば,やはり佐田岬半島北岸部の海上音波探査記録に基づいて活断層の有無を検討することが重要である。オ
規制委員会による審査について
規制委員会は,平成25~27年にかけての本件原子炉に係る新規制基準適合性審査において,佐田岬半島北岸部も含めて活断層の有無について検討した。その過程で,規制委員会は,佐田岬半島北岸部については海底谷という活断層を疑わせる地形が見られることも踏まえ,佐田岬半島北岸部の海陸境界に極めて近い領域(債権者らが主張する地質境界としての中央構造線が確認できる位置)を含む詳細な海上音波探査記録の提示を債務者に指示し,債務者は,これを受けて,佐田岬半島北岸の湾内に入るような沿岸部に極めて近い領域を含む詳細な海上音波探査記録を示し,海底谷が断層地形ではないことを説明し,規制委員会は,平成27年7月15日,本件原子炉が新規制基準に適合しているとの判断を行った。
平成29年12月19日に中央構造線断層帯の長期評価が第二版へと改訂され,全体の断層長さ,断層区分,断層傾斜角の評価が変わった。なお,改訂後の中央構造線断層帯長期評価(第二版)には,今後の課題として,

伊予灘南縁,佐田岬半島沿岸の中央構造線については現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる。

と,佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査する必要性を指摘する旨の記載がなされた。
中央構造線断層帯の長期評価の改訂を受け,規制委員会としては,平成30年2月21日の技術情報検討会において,中央構造線断層帯長期評価(第二版)における知見のなかに規制に反映させるべき知見があるか否かを検討した結果,全体の断層長さの変更,断層区分の変更及び断層傾斜角の評価の変更については新しい知見としては検討したものの,既に平成25~27年にかけて行った本件原子炉に係る新規制基準適合性審査の段階から,債務者が各種の不確かさの考慮等を行っていることを踏まえ,当該知見はこれに包含されており,規制に反映させるべき知見には当たらないと判断した。他方,中央構造線断層帯長期評価(第二版)における佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査する必要性を指摘する旨の記載については,規制委員会としては,新しい知見とは考えなかった。
債務者が平成30年5月25日に申請した使用済燃料乾式貯蔵施設の設置変更許可申請に係る審査の中で,規制委員会は,全体の断層長さの変更,断層区分の変更及び断層傾斜角の評価の変更が本件発電所の基準地震動Ssに影響するものではないことを改めて説明するよう債務者に求め,これを受けた債務者は,検討・評価結果を取りまとめて規制委員会に報告し,当該検討・評価結果が妥当である旨の了承を得た。他方,技術情報検討会において新しい知見に当たらないと判断された中央構造線断層帯長期評価(第二版)における佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査する必要性を指摘する旨の記載については,既に平成25~27年にかけて行った本件原子炉に係る新規制基準適合性審査の段階で佐田岬半島北岸の湾内に入るような沿岸部に極めて近い領域を含む詳細な海上音波探査記録により佐田岬半島北岸部に活断層が存在しないことを確認していたことや,別府重点(乙345)において地質境界としての中央構造線が活断層ではないとする既許可の審査結果を肯定する内容があることを踏まえ,使用済燃料乾式貯蔵施設の設置変更許可申請に係る審査において債務者に対して特段の説明を求めることはなかった。
そして,令和2年3月4日に行われた規制委員会の令和元年度第68回会合において,事務局から,上記で述べたような事実関係,すなわち,技術情報検討会において適切に検討した結果,中央構造線断層帯長期評価(第二版)における佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査する必要性を指摘する旨の記載は新しい知見に当たらないと判断されていること,債務者が実施した沿岸部に極めて近い領域に係る詳細な海上音波探査記録を踏まえ,佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線が活断層ではなく本件発電所の敷地及び敷地近傍に活断層はないことを平成25年から平成27年にかけて行った本件原子炉に係る新規制基準適合性審査の中で既に確認していること,並びに,技術情報検討会における検討に加えて,使用済燃料乾式貯蔵施設の設置変更許可申請に係る審査の中でも,(1)中央構造線断層帯としての評価(全体の断層長さの変更,断層区分の変更及び断層傾斜角の評価の変更)が本件発電所の基準地震動Ssに影響しないこと及び(2)地質境界断層としての中央構造線(本件発電所の敷地近傍)が活断層でないと既許可で判断したことについて審査チームとして確認を行った上で既に一通りの審議を終えていることなどが報告され,規制委員会は,その報告を了承した。
その後,規制委員会は,使用済燃料乾式貯蔵施設の設置変更許可申請に係る審査の結果を取りまとめた。当該審査書には,既許可申請の審査(平成25~27年にかけて行った本件原子炉に係る新規制基準適合性審査)の段階で,敷地前面の海底谷の地形調査,地質境界としての中央構造線が確認できる入り組んだ湾内部も対象にした海上音波探査等の結果から,敷地近傍には後期更新世以降の地層に変位を及ぼすような活断層が存在しないことを確認していたこと等から,中央構造線断層帯長期評価(第二版)における佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査する必要性を指摘する旨の記載を踏まえても,本件発電所の基準地震動Ssを見直す必要はないことが明記された。
以上のとおり,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の内容も踏まえた上で,本件原子炉に係る設置変更許可申請が,令和2年9月16日付けで許可された。
債権者らは,規制委員会が中央構造線断層帯長期評価(第二版)における佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査する必要性を指摘する旨の記載を無視している旨を主張するが,規制委員会は,技術情報検討会で検討した段階から,当該記載については中央構造線断層帯長期評価(第二版)の結論として記載されたものではないことから(乙520(14頁)参照),新しい知見としては取り扱わず,また,既に平成25~27年にかけて行った本件原子炉に係る新規制基準適合性審査の段階で佐田岬半島北岸の湾内に入るような沿岸部に極めて近い領域を含む詳細な海上音波探査記録により佐田岬半島北岸部に活断層が存在しないことを確認していたこと等を踏まえて,使用済燃料乾式貯蔵施設の設置変更許可申請に係る審査において改めて審査する必要がないと判断したものである。

小括
以上のとおり,債権者らが活断層であると主張する佐田岬半島北岸部を通る地質境界としての中央構造線が活断層ではなく佐田岬半島北岸部に活断層はないことが明らかであり,本件発電所において,震源が敷地に極めて近い場合の評価は不要である。なお,地震動評価において,科学的調査を尽くしてもなお残る不確かさを保守的に考慮することが重要であること,そして債務者がそれを踏まえて保守的な基準地震動Ssを策定していることは前記アのとおりであるが,佐田岬半島北岸部の活断層の有無という点については,活断層が存在しないことが詳細な海上音波探査記録に基づく観測事実として明らかになっているのであるから,不確かさとして考慮する必要はない。
すなわち,債務者としても,専門科学技術的な知見について,通説的見解に対する有力な異説が存在する場合や,また,通説的見解自体が定まりきっていない場合が存在し,そのような場合には,通説的見解に拠るだけでは十分とはいえない場合も考えられることは否定しないが,佐田岬半島北岸部の活断層の有無については,単に通説的見解があるというにとどまらず,既に活断層が存在しないことが詳細な海上音波探査記録に基づく観測事実として明らかになっており,査読論文として受理されているのであるから,不確かさをどの程度まで考慮するかという議論とは次元が異なっている。


プレート間地震の地震動評価
(債権者らの主張)

債務者は,プレート間地震の地震動評価について,SMGAモデルを基本としている。しかし,同じプレート間地震である東北地方太平洋沖地震の際,女川原子力発電所において,当時の基準地震動Ssを超える地震動が観測されたところ,この原因である大振幅パルス波について,SMGAモデルでは,同モデルを考案した元京都大学防災研究所の入倉孝次郎氏(以下入倉氏という。)を含めて研究者の誰一人として再現できていない。これは,SMGAモデルを用いた地震動想定では,地震動評価が過小となることを表している。
これに対し,独立行政法人港湾空港技術研究所の地震防災研究領域長野津厚氏(以下野津氏という。)の提唱するSPGAモデルでは,上記東北地方太平洋沖地震の大振幅パルス波を再現できた。SPGAモデルは,すでに,港湾施設の技術的な基準に採用されており,信頼できるモデルであるし,原子力発電所に最高度の安全が求められることからすれば,他の施設で現に利用されている保守的なモデルを用いないことは,それだけで最善かつ最大の努力(設置法1条)を怠っているということであり,原子力発電所の安全が欠如していることを示すものである。
この点,SMGAモデルを考案した入倉氏自身も,上記の2011年東北地方太平洋沖地震の大振幅パルス波について,これを再現するためには,SMGA内の小さなサブエリア内でより高い応力パラメータを持つ不均質モデルを使用する必要性があることを指摘している。


強震動に関する研究は,実際に起こった地震に関する事後の分析という点では大きく発展してきたが,今後に起こりうる事象の予測という点においてはまだ発展段階にあり,被害地震が起こる度に,それ以前の知見では予測できなかったような事態が生じ,その都度強震動研究の知見が塗り替えられてきていることからしても,原子力発電所の安全の保証に活用できるほどに成熟しているとはいえない。したがって,強震動研究の成果を活用して原子力発電所の安全を保証することは現段階では不可能である(地震動学の不定性)。
福島事故は,まさにこのような強震動研究の限界を示す出来事であり,新規制基準は,そのことを踏まえて策定されたものであるが,新規制基準においては,耐震重要施設の基準地震動と,過酷事故時の重大事故等対処施設の基準地震動に差を設けることはせず,同じ基準地震動に耐えられることを求めている。過酷事故は,耐震重要施設が基準地震動を超える地震力に対し,安全機能が損なわれて発生することも考えられるから,過酷事故時の重大事故等対処施設の基準地震動を,耐震重要施設の基準地震動より大きなものとすることも考えられるが,新規制基準が,上記のとおり両者に差を設けていないことからすると,新規制基準が求める基準地震動は極めて保守的なものというべきであって,これは当該原子力発電所を襲う可能性がある地震動をカバーしているといえるものであること,これを超える地震動が当該原子力発電所を襲うことはまずないといえるものであることが,必要である。科学的合理性があるより保守的な知見がある場合,これを排除する理由として,発生確率が低いことや知見が確立されていないことを理由としてはならない。科学的に正確な評価かどうかという判断よりも,不確実ではあっても保守的な評価かどうかという判断がなされるべきである。

しかし,債務者は,海洋プレート間地震の地震動想定について,SPGAモデルも,SMGA内の小さなサブエリア内でより高い応力パラメータを持つ不均質モデルも採用していない。したがって,債務者の地震動想定は過少であり,本件原子力発電所を襲う可能性がある地震動をカバーしているとはいえないから,そのことだけで本件発電所の安全の欠如が認められるというべきである。
債権者らの側から本件発電所を襲う可能性のある地震動を明らかにすることにより,債務者の評価が過小であることについて明らかにすると,①内閣府のSMGAモデル(陸側ケース)を出発点とし,四国における西側のSMGAを,想定震源断層から外れない範囲で可能な限り本件原子力発電所に近づけ,次に,各SMGAを構成する小断層の中で最も本件原子力発電所に近いものを選び出し,そこにSPGAを配置した(SPGAのパラメーターは,東北地方太平洋沖地震の地震動の再現に成功したパラメーター)。その結果は,最大加速度は約1900ガル,最大速度は約138cm/sとなり,地盤条件が良いにもかかわらず,SPGAからの最短距離が小さいために,加速度,速度ともに大きな値を示している,②SMGA内の小さなサブエリア内でより高い応力パラメータを持つ不均質モデルを用いて,同じ位置にKurahashi&Irikura(2013)のSMGA3を置き,SMGA内の不均質性を考慮した場合の結果でも,基準地震動を大きく上回る地震動になる,③別の考え方で,岩波・科学の野津(2017)に記載したSPGAモデルによる地震動(最大加速度約1066ガル)は,SMGAモデル(陸側ケース)を前提として,各SMGAを構成する小断層の中で最も伊方発電所に近いものを選び出し,そこにSPGAを配置したものである。この結果によっても,基準地震動を大きく上回っている。
(債務者の主張)

債務者は,プレート間地震として,内閣府検討会が現時点の科学的知見に基づきあらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震として設定した南海トラフの巨大地震を検討用地震とし,内閣府検討会における複数の想定ケースの中でも最も本件発電所の敷地にとって厳しいケースを選定した上で,さらに内閣府検討会のモデルに加えて敷地直下にSMGAを設定するなどの保守性を加えた評価を行い,規制委員会の許可を受けている。

SMGAモデルを用いた手法は,その有効性が広く一般に認知されている手法であり,内閣府の検討会や地震本部の強震動予測レシピでも用いられている(乙186(1頁,8頁等),乙149)。現実に発生した地震動を事後的に正確に再現するという点において,SMGAモデルだけでは限界があり,SPGAモデルやその他の不均質な破壊面を想定するモデルを用いることで説明がつく場合があるとしても,事前に保守的な地震動を設定するという観点からすれば,SMGAモデルを用いつつ様々なパラメータをあらかじめ保守的に設定することで十分に機能しており,野津氏の提案するSPGAモデルを用いる必要はないし,むしろ,SPGAモデルは,その物理モデルとしての妥当性や予測問題への適用性などに課題を有している。
また,野津氏が平成28年9月9日付け意見書(甲480)において,SPGAモデルを用いて独自に行った南海トラフの巨大地震による地震動の計算においては,SPGAの位置を,内閣府が強震動生成域(SMGA)のうち,可能性がある範囲で最も陸域側(本件発電所の敷地に近い側)に設定した陸側ケースの範囲外に置いている点(SMGAの中で局所的に応力降下量の高いとされるSPGAを,SMGAの範囲外に想定することはできない。)や,本件発電所の敷地とは異なる増幅特性を持つ地盤をもとに基準地震動を計算している点等において不合理であり,また,債務者の上記指摘を踏まえて改めて計算し直したとする同年12月26日付け意見書(甲610)における計算も,上記地盤の増幅特性について,野津氏が最初に用いた地盤の増幅を一部修正したものを用いているに過ぎないことや,東北地方太平洋沖地震による地震動の再現に成功したという断層破壊やその進行の仕方のパターンを用いているところ,これを南海トラフの地震にそのまま当てはめることの合理性が示されていない点において,やはり不合理である。したがって,野津氏の上記見解は,債務者によるプレート間地震に係る地震動評価(南海トラフの巨大地震を想定した地震動評価)の妥当性を否定する根拠とならない。

なお,債権者らは,本件発電所の耐震設計の基準となる地震動(基準地震動)が建設当時から数度にわたって見直されてきたことを非難するが,原子力発電所に係る地震動の評価手法が,知見の充実,科学技術の進捗,解析手法の高度化等を背景に,絶えず発展・高度化してきた,その積み重ねの結果であり,決して過去の評価が過小であったわけではない。債権者らは,詳細な調査を尽くしてもなお,地下深くの震源断層の全体を直接確認することはできないため,不確かな部分が残る旨を主張するが,詳細な調査を尽くしてもなお不確かな部分が残ること,すなわち,震源断層の性状及び将来発生する地震について精度良く予測すること(将来発生する地震による地震動の最大加速度や地震波形等と一致するような予測をすること)が不可能であることは,いわば当然であり,したがって,原子力発電所の耐震安全性を確保する上でも,そのような地震動評価は求められていない。基準地震動は,原子力発電所の耐震安全性を確保するために,耐震設計の基準となる地震動を策定するものであるから,将来発生する地震動を精度良く予測できずとも,自然科学の不確実性を踏まえた上でその点を保守的に考慮し,余裕のある地震動として設定することで,将来発生する地震動に耐えられるよう原子力発電所を設計することは可能である。そして,本件原子炉においては,地域性を踏まえ,詳細な調査に基づいて震源断層を十分に把握した上で,それでもなお不確かさが残る部分について,策定する地震動が過小とならないよう,震源断層の長さや面積を保守的に評価することなどにより,十分に自然科学の不確かさを考慮して余裕を持った地震動を策定し,これを基準として耐震安全性の確保を図っている。
3
火山事象の影響に対する安全性


立地評価
(債権者らの主張)

立地評価に関する基準の不合理性
立地評価に関して本来なされるべき評価
火山ガイドに従えば,本件では,阿蘇は完新世に活動を行っているため将来の活動可能性があるとされ(旧火山ガイド3.3項⑴),個別評価が問題となる。ここでは,原子力発電所の運用期間中における設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の可能性評価(運用期間中の活動可能性評価と設計対応不可能な火山事象の到達可能性評価)が行われる。上記活動可能性評価の前提として,運用期間とは原子力発電所に
核燃料物質が存在する期間とされているところ(旧火山ガイド1.4項⑷),本件原子炉については,仮に運転を終えたとしても,百年単位でMOX燃料を敷地内で冷却し続けなければならないことに加え,中間貯蔵施設ないし最終処分場の見通しが立っておらず,使用済核燃料物質の搬出先が何ら具体的に定まっていない現時点においては,運用期間は少なくとも数百年に及ぶ可能性が高い。
そして,現在の火山学の水準に照らせば,噴火の中長期的予測手法は確立しておらず,運用期間とされる今後数百年間に,検討対象火山の活動可能性が十分小さいと判断できないことはもちろん,運転期間である数十年に限ったとしても活動可能性が十分小さいと判断すること自体不可能である。本件でも,阿蘇の活動可能性が十分小さいと判断することはできない。
次に,設計対応不可能な火山事象の到達可能性評価に関する前提として,噴火規模の設定が問題となるところ(旧火山ガイド4.1項⑶),調査結果から噴火規模を推定できない場合には検討対象火山の過去最大の噴火規模とされており,現在の火山学の水準では,噴火の時期や規模を相当前の時点で相当程度の正確さで予測することは困難であるから,噴火規模を推定することはできず,過去最大の噴火規模である阿蘇4噴火規模と考えるべきである(旧火山ガイド4.1項⑶)。そして,噴火規模を阿蘇4噴火と想定した場合,文献調査等によっても阿蘇4噴火による設計対応不可能な火砕物密度流が本件発電所の敷地に到達した可能性が指摘されており,その可能性が十分小さいと評価できないから,本件発電所は立地不適とされるべきである(旧火山ガイド4.1項⑶)。
令和元年火山ガイドが噴火の中長期的予測を前提としていること
令和元年火山ガイドは,単に火山事象が発生する時期及びその規模を的確に予測できることを前提とするものではないというのみで(令和元年火山ガイド解説-3.),評価手法がもつ不確実性を保守的に評価するような改正がなされていない。とりわけ,現在の火山の状態を評価することが,なにゆえ運用期間中の活動可能性が十分小さいという評価につながるのかまったく不明であり,火山ガイドの不合理性は,令和元年火山ガイドによって,是正されるどころか,むしろ強まったというべきである。
令和元年火山ガイドがどのような修辞を用いようとも,旧火山ガイドと比較して,具体的評価判断手法はほとんど修正されておらず(巨大噴火についてむしろ緩やかに改悪された),不確実性を保守的に評価するような改正を行っていないのであるから,令和元年火山ガイドは,実質的には,依然として噴火の中長期的予測が可能であることを前提としたものというほかなく,令和元年火山ガイドは不合理である。
令和元年火山ガイドが巨大噴火とそれ以外を区別していること
次に,令和元年火山ガイドは,過去に巨大噴火が発生した火山における巨大噴火の活動可能性評価をそれ以外の規模の噴火と区別し,①非切迫性の要件,②具体的根拠欠缺の要件を具備することで活動可能性が十分小さいと評価することができるというが,旧火山ガイドが巨大噴火とそれ以外の規模の噴火を区別していなかったことは規定や規制委員会における議論状況から明らかである。
また,①の要件は基準が不明確で恣意的な解釈を許容する余地があるし,②の要件に至っては,中長期的予測が困難な現状からすると,噴火の相当前の時点で,運用期間中に巨大噴火が発生するという具体的な根拠を示せる場合は容易に想定できず,要件として意味をなしていない。したがって,令和元年火山ガイドは,実質的には,巨大噴火について社会通念を理由に実質的に考慮対象から除外するものであって,このような基準は,福島事故の教訓を踏まえておらず,たとえ確率論的に発生確率が低いとされた事象であっても,いったん事故や災害が発生したときの被害の規模が極めて大きい場合については,然るべき対策を講じるべきであるという政府事故調報告書の記載に反するものであって不合理である。
更に,原子力発電所の安全については,原子力基本法,設置法等の趣旨からすると国際的な基準を満たすことが求められ,国際的な基準を下回るような社会通念に依拠してこれを否定することはできない。そして,確立された国際的な基準の一つである国際原子力機関(IAEA)の策定した原子力発電所の火山ハザードについてのガイド(SSG-21)は,いくつかの加盟国では放射線影響の可能性のある事象の年間発生確率の上限値として10-7が用いられていること,カルデラ火山については500万年前以降に一度でも活動していれば,将来に火山活動の可能性を残すものとみなすことを定めており,したがってまた,後期更新世以降に発生した規模の噴火については,可能性を否定できないものとして扱うべきであると考えることが,SSG-21にも合致するというべきである。したがって,これらの基準を満たさない令和元年火山ガイドの定め及び債務者の評価は不合理である。
モニタリングに関する基準の不合理性
令和元年火山ガイドは,モニタリングの位置付けを不明確なものに変更した。すなわち,旧火山ガイドにおいては,モニタリングが立地評価の一部として5章に位置づけられ,その目的は噴火可能性が十分小さいことを継続的に確認することであって,原子炉の運転停止,核燃料の搬出等を行うための監視であることが明記されていた。これに対し,令和元年火山ガイドでは,立地評価とは別の6章に位置づけが変更され,目的も評価時から状態の変化の検知により評価の根拠が維持されていることを確認することと変更された。原子炉の運転停止,核燃料の搬出等を行うための監視であるという文言も削除され,モニタリングの位置づけは非常に不明確なものとなった。
旧火山ガイドがこのように改められたのは,これまでの多くの裁判例において,モニタリングによって破局的噴火の予兆を把握できるという考えが誤っていると認定されてきたからであり,これを改正するというのであれば,モニタリングによって予兆を把握することが困難であることを前提として,立地評価自体を保守的に変更するべきであった。ところが,令和元年火山ガイドは,立地評価に関して保守的な改正を行わず,モニタリングを立地評価から外し,その位置づけを曖昧にしたというだけのものであって,いわば開き直っただけの改悪を行っている。モニタリングによって噴火の兆候を的確に把握することはできないし,我が国のモニタリングは国際基準にすら満たないものである。そして,モニタリングの不確実性を補うような改正もされていないことから,モニタリングを含む立地評価に関する令和元年火山ガイドの定めは不合理である。

立地評価に関する基準適合判断の不合理性
立地評価に関する基準適合判断の不合理性として,阿蘇4規模の噴火が発生した場合に,設計対応不可能な火山事象たる火砕物密度流が本件原子力発電所敷地に到達する可能性が十分小さいとする債務者及び規制委員会の評価は,その判断を誤ったものであって不合理である。
まず,債務者は,阿蘇4噴火の火砕流の到達範囲を検討するのみで,令和元年火山ガイドが要求している火砕物密度流の到達範囲を検討していない。火砕物密度流には,火砕流のほか,火砕サージ及びブラストが含まれ(令和元年火山ガイド1.4項⑼⑽⑾),火砕サージは火砕流よりも遠方まで到達する可能性がある。
また,そもそも,火砕流堆積物から火山灰層への変化は遷移的であり,火砕流の到達範囲を確定するには,本質的な困難を伴う。
加えて,約9万年前の阿蘇4噴火の際の火砕流堆積物は,佐田岬半島の地形や浸食の影響等により残存していないと考えられること,債務者が行ったボーリングコアは短く,阿蘇4噴火の火砕流堆積物層がある地層に到達していないと考えられること,シミュレーションソフトTITAN2Dは阿蘇4噴火のような大規模噴火には適用し得ないことなどに照らせば,阿蘇4噴火規模の火砕流が到達する可能性は十分小さいという債務者の主張には理由がなく,火砕物密度流の到達可能性が十分小さいという判断は不合理である。

(債務者の主張)

立地評価に関する基準の合理性について
巨大噴火の発生可能性に関する評価
旧火山ガイドにおいては,巨大噴火に関する明確な記載がなく,原決定も,旧火山ガイドに基づいて判断しているところ,令和元年12月18日,過去に巨大噴火が発生した火山に関する評価に当たっての考え方について整理した上で旧火山ガイドが改正されており,改正後の令和元年火山ガイドにおいては,巨大噴火について,当該火山の現在の活動状況は巨大噴火が差し迫った状態ではないと評価でき,運用期間中における巨大噴火の可能性を示す科学的に合理性のある具体的な根拠が得られていない場合は,運用期間中における巨大噴火の可能性は十分小さいと判断できると明記されている。これは,巨大噴火というハザードの特性を考慮した工学的な判断であって,火山事象に関する物理現象等に基づく火山活動の推移の予測といった,純粋に自然科学的(理学的)な知見のみに立脚して噴火の時期や規模を予測することとは異なる。地震や通常の噴火などのハザードと比較して,明らかに低頻度な事象であり,発生すれば広域的な地域に重大かつ深刻な災害を引き起こす巨大噴火は,社会的に,他の法制度をみてもこれを考慮するものはなく,令和元年火山ガイドは,工学的な判断として,検討対象火山の現在の活動状況が,巨大噴火が差し迫った状態ではないと評価でき,運用期間中に巨大噴火の可能性を示す科学的に合理性のある具体的な根拠もないのであれば,運用期間中の巨大噴火の可能性は十分小さいと判断できるものと取り扱うこととしている。
債権者らは,IAEAが定めたSSG-21は,カルデラ火山について,500万年前以降に一度でも活動していれば検討対象に含めていることから,令和元年火山ガイドの定めや債務者の評価はIAEAの基準からかけ離れている,SSG-21の定める1000万年に1回以下より低頻度の事象でない限り当該事象を無視してはならないと主張するが,SSG-21は,ホットスポット上に存在する火山のように日本列島の火山とは異なる寿命を持つ火山も考慮した基準であり,これをそのまま日本の火山に適用する必要はなく,日本列島の火山の特性を踏まえて第四紀の約260万年間を基準として活動性を検討する火山を抽出することは何ら不合理なものではない。また,SSG-21の定める10-7

の基準は,初期スクリーニング基準であって,発生の確率が1×1
0-7よりも大きな噴火を全て考慮することを求めているわけではない。
また,債権者らは,少なくとも後期更新世以降に発生した噴火については,基本的に運用期間中も発生する可能性を否定できないと考えることがIAEAの基準に合致すると主張するが,IAEAは,令和元年火山ガイドと同様に,テクトニック―マグマ相互モデルに基づき,再発率の変化(例えば,火山システムの衰退など)又は現象の特性の変化(例えば,珪長質火砕流の頻度の増加や噴火様式の周期性)等を考慮して火山噴火の可能性を評価するという考え方を示しており,後期更新世以降に発生した規模の噴火について可能性を否定できないものとして扱うべきといった考え方は採っていない。
更に,阿蘇4噴火のような規模の噴火のポテンシャルについては,令和元年火山ガイドに基づく判断とは別に,専門家の意見分布も踏まえた総合評価として定量化されている。すなわち,火山専門家であり,かつ,科学的あるいは工学的に不確かさがある低確率/高影響事象に対する意思決定におけるエキスパート・ジャッジの活用の専門家でもあるPrf.Willy

P.Aspinallによって編成された専門家グ

ループは,阿蘇4噴火の噴出量,現在の阿蘇のマグマ溜まりの体積,マグマの組成等について,既存の文献等の知見とそれを踏まえた専門家の意見に基づいた重み付けによるモデルを構築して,今後100年の阿蘇4噴火の規模の噴火のポテンシャルを繰り返し計算した。その結果,専門家グループの判断として,現在の阿蘇の状況を前提として今後100年以内に阿蘇4噴火の規模の噴火のポテンシャルは10-9のオーダーと評価され,限りなくゼロに近いことが示された。この結果は,地震ハザードと同等のレベルで確率論的な評価結果が示されたとまでは言い難いものの,火山の現在の活動状況を何ら考慮しない場合に対して有意に小さく,今後100年以内に阿蘇4噴火の規模の噴火が差し迫った状態とはならないことが,専門家集団の総合評価として定量的に示されたものといえる。
噴火の中長期的予測を前提としているとの債権者らの主張について債権者らは,現状の火山学の知見では,噴火の時期や規模を的確に予測することはできないと主張する。
確かに,純粋に自然科学的(理学的)な見地のみからは,巨大噴火がいつ発生するか的確に予測することは不可能であるが,過去の巨大噴火に係る地質学的な調査や岩石学的な調査等を重ねることで,近い将来における巨大噴火の可能性に関する知見が一定程度蓄積されており(例えば,玄武岩質マグマでは,阿蘇4噴火のような巨大カルデラを形成する大規模な爆発的噴火に繋がらないということは,地質学的に普遍的な前提となっており,巨大噴火のポテンシャルの有無を評価することは可能である。そして,令和元年火山ガイドも,巨大噴火に至る過程が十分に解明されていないことを前提として,このような火山学的な知見に照らして,巨大噴火のポテンシャルの有無を評価し,運用期間中における巨大噴火の可能性が十分に小さいかどうかを判断するものである。
自然科学的(理学的)な知見を技術,社会に応用するに当たって,知見の不確かさを埋めるために,経験やモデル等も活用した工学的判断やエキスパート・ジャッジ(専門家判断)は大きな役割を果たしているし,一般火山防災でも活用されている。また,原子力の分野でも,科学的アプローチで直接解決できない問題について,専門家の評価結果が意思決定の基準として受け入れられており,IAEAもエキスパート・ジャッジの活用を明言している。このように,火山学が巨大噴火発生の時期や規模を的確に予知できるレベルに至っていないとしても,一定の知見は蓄積されているので,工学的判断,エキスパート・ジャッジも活用することで,巨大噴火のポテンシャルの有無を評価し,運用期間中における巨大噴火の可能性が十分に小さいかどうかを判断することはできるのである。
したがって,令和元年火山ガイドに対して,純粋な自然科学的(理学的)な観点のみから数十年先までの噴火の時期や規模を予測するための手段が開発されていないなどとする批判は当たらない。
モニタリングについて
原決定は,モニタリング検討チームの議論を根拠に運用期間中における巨大噴火の可能性が十分に小さいかどうかを判断できないと判示したが,同検討チームは,モニタリングで観測できる,地質学的には一瞬の出来事に基づいて,しかも各カルデラ火山に共通の定量的基準(閾値)を提示すべく議論していたものであるのに対し,運用期間中の巨大噴火の可能性の判断は,何万年にも及ぶ長期間の活動履歴に各種の地球物理学的調査結果等を加味した個別の火山の巨大噴火のポテンシャルの有無についての総合評価であり,更には工学的な判断も加えた評価であるから,両者は質的に異なる。

立地評価に関する基準適合判断の合理性について
債務者による阿蘇の評価の概要
火山学の知見は,未解明な部分も大きいものの,長年の知見の蓄積により,一定の信頼性のある知見も得られている。例えば,巨大噴火については,少なくとも大量の珪長質マグマの蓄積を必要とする。この珪長質マグマは,マントルで生じた苦鉄質な初生マグマが,上昇過程において,結晶化したり,周囲の地殻を溶融させたりして発生するものである。また,巨大噴火前にはマグマ溜まりが地下浅部に達していると考えられている。
火山学は,地質学,岩石学,地球物理学といった多彩な学問分野から研究対象とされてきたことから,それぞれの分野が得意とする科学的調査手法により調査されており,各手法で得られた結果を総合的に判断することで,信頼性の高い評価をすることができる。特に,阿蘇カルデラは内陸に位置してカルデラ湖もないことから多様な調査が可能な特性もあり,これまでに様々な調査が行われ,多くの知見が蓄積されている火山である。
債務者は,本件発電所の運用期間中に考慮する阿蘇の噴火を評価するに当たって,阿蘇の活動履歴に基づく検討に地球物理学的調査に基づく検討を加え,更には,近年の新たな手法による調査結果も参照しつつ,それらの検討結果を総合的に考慮して,現在の阿蘇の活動状況に係る評価を行った。
現在の阿蘇は巨大噴火が差し迫っていないこと
a
阿蘇の活動履歴に基づく検討
阿蘇4噴火後の後カルデラ期においては,カルデラ中央部で苦鉄質マグマが活動し,その周辺で珪長質マグマが活動しているところ,この活動分布は,現在の阿蘇の地下には巨大な珪長質マグマが存在しないことを示している。また,1万年前以降は苦鉄質な活動が卓越していることから,珪長質マグマの生産率は減少し,大規模な珪長質マグマの蓄積がないと考えられる。さらに,後カルデラ期の噴出物の岩質の多様性等からは,後カルデラ期には,カルデラ形成期に存在した巨大なマグマ溜まりが消失し,複数の独立した小規模マグマ溜まりが形成されたと考えられる。
b
地球物理学的調査に基づく検討
阿蘇では,多様な調査が豊富に行われた結果,地下深くから地下約15km及び地下約6kmのマグマ溜まりを経由して現在活動している中岳に連続的に繋がる供給系が確認される一方,カルデラ浅部に巨大なマグマ溜まりは確認されない。これを上記aの活動履歴と併せて考えると,現在の阿蘇の供給系においては,大量の珪長質マグマへの進化をもたらす仕組みが存在しているとは考えられない。
また,阿蘇では,複数機関の多数の観測による地盤変動調査が長期にわたって行われている。このような測地学的な研究によって得られた阿蘇カルデラ内の地殻変動データは,地下構造及び火山ガスの消費と整合的であり,マグマの増減と対応していると判断できる。また,一般に,地殻の中~上部に巨大な珪長質マグマ溜まりを形成する際には広域的な地盤上昇を伴うとされるが,阿蘇では,逆にカルデラ全体が沈降している。そして,現在の阿蘇の状況は,1930年代と比較してもマグマは蓄積されていないと推定され,大規模なカルデラ噴火が起こるような状態ではないと推定される。

c
検討
上記a,bを踏まえると,現在の阿蘇の地下浅部に巨大な珪長質マ阿蘇
4噴火を境に非常に大きな変化が生じており,カルデラ形成期以前と後カルデラ期とでは有意に活動性が異なることが明らかになっている。
更に,債務者による評価以降,産業技術総合研究所が新たに開発している地下水等の調査から深部のマグマの状態を推定する地球化学的な手法でも,阿蘇の地下には苦鉄質マグマが存在し,珪長質マグマは存在していない可能性を示唆する結果が得られているし,現在の阿蘇の噴火活動の状況は,Nagaoka(1988)等で整理された南九州のカルデラ火山の噴火履歴における巨大噴火直前に見られた噴火活動の状況とも異なる。
そして,多くの巨大噴火の数百年前には前兆的に類似組成の珪長質マグマの流出的噴火が発生しているとの知見や,宇和盆地の火山灰記録において,阿蘇1噴火~阿蘇4噴火に伴う火山灰の堆積層の前には,組成の類似する火山灰の堆積層が狭在するという知見があるところ,現在の阿蘇においてそのような噴火は認められない。このような知見に照らしても巨大噴火の発生が示唆されるような状況にはない。以上によれば,現在の阿蘇は巨大噴火が差し迫った状態にはない。阿蘇4噴火後に阿蘇に大きな変化が生じていること
阿蘇については,以下の複数の調査結果から,阿蘇4噴火を境に非常に大きな変化が生じており,火山学的にも,また,統計学的にも,カルデラ形成期以前と後カルデラ期とでは有意に活動性が異なることが明らかになっている。
なお,債権者らは,以下の一部の調査結果について,Nagaoka(1988)の知見と混同しているが,Nagaoka(1988)は,以下に挙げるいずれの調査結果とも直接関係はないし,ましてや,多角的な知見を総合評価した債務者の後カルデラ期の評価と,参照した知見の一つに過ぎないNagaoka(1988)の知見とを同列に扱えるものではない。
a
マグマの成因の違いを示す指標となるストロンチウム同位体比,微量元素の含有量の違いから,カルデラ形成期と阿蘇4噴火以降とでは全く異なるプロセスでマグマが生成されていると評価される。
b
カルデラ形成期のマグマシステムは,深部に貫入した苦鉄質マグマから大量の珪長質マグマへの進化をもたらす仕組みがあったと考えられるのに対して,後カルデラ期のマグマシステムは,深部に貫入した苦鉄質マグマがあまり進化しないまま噴出するものとなっており,マグマシステムが全く異なる。

c
後カルデラ期の噴火活動は,次第に珪長質な噴火が減っており,阿蘇のカルデラ形成期に見られる徐々に珪長質化していく傾向と逆の傾向を示している。

d
宇和盆地の堆積記録において,カルデラ形成期に阿蘇起源の降灰が多数示されるのに対して,後カルデラ期の阿蘇起源の降灰が示されないことは,統計学的に見ても,カルデラ形成期と後カルデラ期で噴火活動に相当な変化があったと解釈できる。
阿蘇に係る評価の信頼性
債権者らは,火山学の知見の不確実性が大きいことを強調するとこ
ろ,確かに,その発生メカニズム等の点については未解明の点もあり,地震動のような精緻な予測手法が確立しているとは言い難いものの,噴火履歴等については,むしろ地震よりも痕跡が残りやすく,数十万年間のデータ群を得ることも可能であり,これらのデータを用いて,地質学的調査や岩石学的調査を行うことが可能である。
また,地下のマグマ溜まりの調査についても,火山によって濃淡はあるが,研究の十分に進んだ火山では,豊富な研究データに基づいて,一定の信頼性のある評価を行うことが可能である。この点,阿蘇は,他のカルデラ火山と比較しても非常に多彩な手法による綿密な調査が行われているところ,特性の異なる各種の調査において浅部に巨大な珪長質マグマ溜まりを示す構造が認められないのであるから,その信頼性は高い。例えば,阿蘇では,地震波探査(地震波探査の手法には,トモグラフィー,レシーバ関数法等複数の手法があり,個々に特徴があるため,複数の手法を利用することで,より信頼度,解像度が上がる。)や測地観測に加えて,メルトや水の存在に敏感なMT探査等の各種の地球物理学的調査手法による調査が行われ,地下約6kmのマグマ溜まり等の地下構造が明らかにされている(例えば,乙402,乙400,乙632)。巨大な珪長質マグマ溜まりが存在しないと考えられることは,噴出物の分布や地球化学的調査など全く異なる観点からの検討結果とも整合的である。
そして,債務者による阿蘇に係る検討内容及び評価結果の妥当性は,規制委員会による厳格な審査を経て認められたことはもとより,阿蘇観測の第一人者である京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター教授大倉敬宏(以下大倉教授という。)の見解(鍵山恒臣京都大学名誉教授の見解も同旨),科学と社会の関係に関する研究も行っている榊󠄀原教授の見解,SSG-21の主著者であり,原子力規制に関する豊富な経験も有する元米国規制委員会上級顧問のDr.Brittain
rf.Sir

E.Hillの見解,世界的な火山学の権威であるP
R.Stephen

J.SparksFRSの見

解,研究機関である産業技術総合研究所による研究成果といった,多くの専門家の見解によっても裏付けられている。
これに対し,火山研究者である須藤靖明氏(以下須藤氏とい
う。)は,深い位置に存在する低速度領域を根拠に巨大噴火が否定できないなどと述べるが,結局は,自然科学的に完全には否定しきれないといった当然のことを述べるものであり,絶対安全を求めるに等しい。小括
以上のとおり,阿蘇の現在の活動状況は,巨大噴火が差し迫った状態にはないと評価できる。また,運用期間中における巨大噴火の可能性を示す科学的に合理性のある具体的な根拠もない。したがって,令和元年火山ガイドに照らせば,運用期間中の巨大噴火の可能性は十分に小さいと判断できる。そして,このような債務者の評価については,規制委員会において審査され,科学的,専門技術的知見に基づき,妥当であるとして許可を受けている。

な変化が生じたと考えられ,現在,苦鉄質マグマの活動が卓越していることから,火山ガイドに即した現在の火山の状況を踏まえた巨大噴火のポテンシャル評価に加えて,巨大噴火の準備に要する時間を勘案しても,巨大噴火を考慮する必要がないといえる。巨大噴火は,一般に通常の噴火よりもその準備に時間を要すると考えられているところ,阿蘇は,阿蘇4噴火を契機とした大きな変化を経験したことが明らかであり,現在,地下深部から中岳に連続的につながり,苦鉄質マグマが卓越するマグマシステムを有し,巨大な珪長質マグマ溜まりは準備されていないと考えられるから,このような状態から,巨大噴火のマグマ溜まりの準備期間と比較してはるかに短期間である本件発電所の運用期間中に,急速に大量の珪長質マグマを生産するマグマシステムに進化し,巨大噴火の準備が完了することは考え難い。


影響評価
(債権者らの主張)
以下のとおり,債務者の火山事象による影響評価は,本件発電所敷地への降下火砕物の最大層厚を過小評価しており,また,債務者の想定する最大層厚を前提としても気中降下火砕物濃度を過小評価している。
なお,債務者は,降下火砕物による影響を非常用ディーゼル発電機の機能維持の問題だけに矮小化しようとしているが,降下火砕物による本件原子炉への影響はそれにとどまらず,取水設備の機能喪失,降下火砕物が中央制御室に侵入して本件発電所の職員の健康被害を引き起こす可能性,コントロール建屋等に侵入して本件原子炉の電気系統等に付着することにより本件原子炉が制御不能になる危険性なども考えられるところ,債務者は,これらの点に関する検討を十分行っておらず,規制委員会による審査もこの点を看過している。

最大層厚の過小評価
破局的噴火に準ずる規模の噴火を前提に層厚の評価をすべきこと
万が一,破局的噴火について,そのリスクを容認するのが社会通念であるという前提に立つとしても,破局的噴火は,科学的にその発生可能性が十分小さいとは評価し得ず,本来考慮しなければならないリスクを例外的に容認するものであるから,これらに至らない規模の噴火(準ずる規模の噴火)については,噴火の発生可能性が否定できない以上,原則どおりこれを想定してリスク評価を行わなければならない。
影響評価,特に層厚の評価の場面において,立地評価における令和元年火山ガイドの考え方(4.1項⑶)と同様の記載は見られないが,立地評価と影響評価とで巨大噴火に対する取扱いを区別する合理的理由もないから,令和元年火山ガイドは,影響評価においても,立地評価と同様,噴火規模を最後の巨大噴火以降の最大の噴火規模とするものと思われる。
しかし,前述のとおり,これは論理飛躍であり,破局的噴火に準ずる規模の噴火について評価方法を定めていない点で基準は不合理である。また,実際にも,債務者は,破局的噴火どころか,巨大噴火に準ずる規模の噴火まで考慮対象から除外し,それよりもはるかに規模の小さい草千里ヶ浜軽石噴火(噴出量2.34km3)のみを考慮している点で不合理である。
破局的噴火に準ずる規模(噴出量80~90km3程度)の噴火を想定すると,少なく見積もっても,現在の想定(15cm)の10数倍程度の降下火砕物が本件発電所の敷地周辺に到達することとなる(巨大噴火に準ずる規模(噴出量30~40km3程度)と考えても,5~7倍程度の降下火砕物が到達することとなる)。このような大量の降灰に対して,本件原子力発電所は安全機能を維持できず,過酷事故につながる具体的危険が存在する。
九重第一軽石噴火による層厚の過小評価
債務者は,降下火砕物に対する影響評価において敷地に最も大きな影響を与え得る噴火として,九重山における約5万年前の九重第一軽石噴火を想定し,その噴出量を6.2km3と見積もり,これを前提とした降灰シミュレーションを行い,敷地において考慮すべき降下火砕物の厚さを15cmと評価した。しかし,債務者による上記評価は,次のとおり過小評価である可能性が高い。
a
火山噴出物の体積を正確に把握することは困難であり,現在得られている知見には大きな不定性が存在する。現に,債務者は,当初,九重第一軽石噴火による噴出量を2.03km3と見積もっていたのであり,簡単に数倍変化しているし,同噴火についてVEI6(噴出量10km3以上)である可能性すら指摘する文献もある。
噴出量の体積は,ある地点において確認されている堆積層の厚さから,合理的と考えられる等層厚線を大雑把に引き,面積×厚さで体積を求めるものであるところ,風化等の影響もあって堆積層が確認できることの方が稀であり,観測点が少ないほど大雑把なものとならざるを得ず,また,新たな堆積層が確認されて等層厚線が変われば,簡単に大幅に数値が変わり得るような不定性の大きいものである。

b
九重山のように火山フロント上に位置する火山について,過去最大以上の噴火が起こらないという保証は,実は全く存在しない。その意味でも,噴出量に過度に依拠して深刻な災害が万が一にも起こらないようにするための安全を画することには大きなリスクが伴う。少なくとも,そのような不定性が大きい噴出量について,あたかも確実なものであるかのように考えてシミュレーションを行い,その結果から最大層厚を決めるのは,不定性に対する保守的評価として不十分であって不当である。
c
本件発電所の敷地内において,九重第一軽石噴火による降灰はほとんど確認されていないものの,九重山から約140km東に位置する高知県宿毛市付近で,約20cmの降灰があったことを示す文献等が複数存在する(甲1201,甲651・55頁,甲1194・2
頁)。そうすると,敷地方向を風下とした場合には,九重山から約108kmしか離れていない本件原子力発電所敷地には,20cmを上回る降灰があり得る。
ところで,令和元年火山ガイドの解説-19.(平成29年火山ガイドの解説-16.と同内容)は,降下火砕物の層厚について,敷地内及びその周辺で降下火砕物の堆積が観測されない場合は,ⅰ)類似する火山の降下火砕物堆積物の情報を基に求める,ⅱ)降下火砕物の数値シミュレーションを行うことにより求めることとしており,債務者は,敷地における層厚をほぼ0cmと評価した上で,上記ⅱの方法により最大層厚を15cmと設定している。
しかし,前記のとおり噴出量は極めて不定性の大きい概念であり,ⅱの方法のみによって最大層厚を決定するのは保守的ではなく,ⅰの方法も併せて検討するものと読むべきである。そして,ⅰの方法を検討すると,九重第一軽石噴火と噴出量が類似した火山噴火であって,かつ,遠方に大量の降灰をもたらした噴火として,御岳山における御嶽伊那噴火,赤城山における赤城鹿沼テフラ噴火,樽前山における樽前b,c及びdの各噴火並びに恵庭山における恵庭a噴火などがあり,これらの噴火においては,火口から100km遠方において,20cmから50cm近い降灰が確認されているのであり,そうである以上,本件においても,保守的にみて50cm程度,少なくとも30cm程度の最大層厚を設定すべきである。
また,ⅱの方法に関しても,平成29年火山ガイド及び令和元年火山ガイドは,数値シミュレーションに際し,類似の火山降下火砕物堆積物等の情報を参考とすることができるとしており,不定性の大きい現時点で保守的な評価を行うのであれば,上記類似火山のシミュレーションを行い,これを踏まえて最大層厚を決定すべきである。
小括
以上のとおり,最大層厚が過小評価となれば,気中降下火砕物濃度も当然に過小評価となり得る。本件原子力発電所に,債務者の想定を超える降灰が到来した場合に本件原子力発電所が安全であるとの主張立証は尽くされていない。したがって,債権者らの人格権を侵害する具体的危険の存在が事実上推認される。

気中降下火砕物濃度の過小評価
平成29年火山ガイドの定めた大気中濃度の推定手法について
平成29年火山ガイドにおける降下火砕物の大気中濃度の推定手法は,①降灰継続時間を仮定して降灰量から気中降下火砕物濃度を推定する手法(以下3.1の手法という。),②数値シミュレーションにより気中降下火砕物濃度を推定する手法(以下3.2の手法とい
う。)のいずれかの手法によって行えばよいこととされているが,これは濃度推定手法に内在する不確実性を保守的に考慮したものとなっておらず,実現象よりも過小な評価につながりかねない。
平成29年火山ガイドが定める濃度推定手法については,平成29年火山ガイド自身が認めるとおり,それ自体に大きな不定性が存在する。例えば,シミュレーションソフトとして用いられているTephra2は,現在主流である重力流モデルを再現したものではなく,傘型領域からの降下火砕物の落下も再現できないため,無批判に用いるべきではない。特に,インバージョン的利用(初期パラメータを設定して噴出物の分布をみる通常の利用方法とは逆に,噴出物の分布から初期パラメータを求める利用方法)の場面では問題が百出する状況にあり,これが正確なものであるという前提で最大層厚を評価するのは不定性に対する保守性として不十分である。
また,3.1の手法や3.2の手法は,いずれも再飛散
現象を考慮していないし,3.1の手法は,凝集によって単独では地表に到達し得ない細粒火砕物の落下を促進するという点を考慮していない。少なくとも,凝集を考慮することによって,どの程度の保守性及び不定性が存在するのかという評価を怠っている。更に,降灰継続時間について24時間としているが,これは非常に大雑把な数字であり,不定性が大きい。
加えて,3.1の手法及び3.2の手法について,降下火砕
物に関する検討チームでの専門家の見解は,いずれも行った上で保守的な方を採用するというものであったにもかかわらず,規制庁が取りまとめる際に,3.1の手法または3.2の手法のいずれか一方で
よいと曲解したものである。
以上のとおり,降下火砕物の気中濃度に関する平成29年火山ガイドの定めは,推定手法がもつ不定性を保守的に考慮したものとなっておらず,基準として不合理である。
気中濃度の評価を誤れば,非常用ディーゼル発電機が機能喪失して冷却機能を喪失したり,中央制御室等に大量の降下火砕物が侵入して異常発生時における人的対応が困難になったりして,深刻な事故につながる可能性が否定できない。
債務者による気中降下火砕物濃度の過小評価について
債務者は,気中降下火砕物濃度推定において,Tephra2によって粒径分布を計算したとして,実際の降灰や他の類似火山の事例よりも大きい粒子の割合が多くなるような粒径分布を用いて計算し,本件原子炉における気中濃度の最大値は3.1g/m3との評価を行っている。すなわち,債務者が用いた粒径分布によれば,粒径125μm~500μm(1φ~3φ)の粒子が全体の89.32%を占め,粒径62.5μm未満(4φ未満)の粒子はわずか2%弱しかない。しかし,類似火山である樽前の1739年噴火(Ta‐a)の61.2km地点における粒径分布は,粒径62.5μm未満(4φ未満)の粒子が14%近く存在し,これを用いて濃度計算を行うと,濃度は11.8g/m3程度となる。また,有珠の2000年噴火の粒径分布は,粒径62.5μm未満(4φ未満)の粒子が30%以上あり,これを用いて濃度計算を行うと,濃度は25.87g/m3程度にもなり得る。初歩的な科学的経験則に照らして,火口から遠方になればなるほど細かな粒径の降下火砕物の割合が大きくなるはずであるから,樽前噴火や有珠噴火よりも遠方である九重山から約108km離れた本件敷地においては,さらに細かな粒子の割合が大きくなる可能性がある。
更に,本件では,敷地周辺における粒径分布の実測値は明らかにされていないが,九重第一軽石噴火が約5万年前の噴火であることを踏まえると,実測値でさえも,微細粒子が風化・溶解する結果,実際の降灰現象に比較して粒径分布が大きめになる可能性が高い。
そして,初歩的な科学的経験則に照らせば,粒子が大きくなればなるほど降灰速度が速くなり,粒子が気中に留まっている時間が短くなる結果,気中濃度が小さくなるはずであり,粒径の大きい分布を用いて濃度計算を行うのは濃度の過小評価につながる。原子力発電所の安全に関する判断は法的価値判断ではあるが,この初歩的な科学的経験則に違反することは許されない。
濃度の推定手法に大きな不定性が存在する以上,深刻な災害が万が一にも起こらないようにしなければならない原子力発電所の安全評価としては,債務者は,本来,上記のような方法を含む複数の試算を行い,保守的な数値を採用して濃度を設定すべきであるのに,これを怠り,安易に実測値や類似火山の数値よりも非保守的となるシミュレーション結果を採用して濃度を設定している。
基準適合性に係る債務者の評価が不合理であることは明らかである。(債務者の主張)

最大層厚の評価について
九重第一軽石噴火を想定したことの合理性
前記⑴(債務者の主張)

阿蘇4噴火を契機とした変化

を考えると,後カルデラ期の噴火活動を踏まえて本件発電所の運用期間中の噴火規模を設定することは合理的であり,債務者は,後カルデラ期既往最大の噴火である草千里ヶ浜噴火を考慮している。一方,最近の活動に着目したときには,比較的大きな噴火があった1930年代のような噴火はない状態であると評価されていることや,約1万年前以降に活動が卓越している苦鉄質なマグマは爆発的な噴火をしにくいことを踏まえて,より小さな噴火規模を想定することも一定の合理性がある。それにもかかわらず,後カルデラ期既往最大の噴火である草千里ヶ浜噴火を考慮することは保守的である。
また,令和元年火山ガイドは,巨大噴火が発生した火山について運用期間中における巨大噴火の可能性が十分小さいと判断される場合には,最後の巨大噴火以降の最大の噴火規模を想定することを明記した。この規定について,規制委員会の更田委員長は,巨大噴火を起こした火山が条件を変えてしまうことなどを勘案した工学的な判断であると説明している。
火山学における知見として,巨大噴火と巨大噴火には至らない噴火とは異なるメカニズムによって駆動されていると考えられており,巨大噴火と巨大噴火に至らない噴火では,その噴出量に連続性がなく,両者の噴火規模には大きな差がある。また,巨大噴火を契機とするマグマ供給系の変化等が指摘される例が多くあり,特に大きな珪長質カルデラ噴火が将来の火山活動のパターンにまで影響を及ぼす可能性が指摘されている。さらに,信頼性のあるデータベースである日本の火山(第3版)においてもカルデラ火山と後カルデラ火山とが別の火山として整理されている。
債権者らは,巨大噴火を考慮しないとしても,巨大噴火に準ずる規模の噴火を考慮しなければならない旨を主張するが,以上に述べた点を踏まえると,最後のカルデラ噴火とそれ以降の時代の巨大噴火に至らない噴火とを分けることには火山学的な根拠があると言え,令和元年火山ガイドが,工学的判断として,最後の巨大噴火以降の最大の噴火規模を考慮することを求めていることは何ら不合理ではない。
そして,前記⑴(債務者の主張)イのとおり,本件原子炉の運用期間中に阿蘇の巨大噴火が発生する可能性は十分小さいと判断できるので,令和元年火山ガイドに従えば,本件原子炉の火山事象の影響評価における阿蘇の評価では,最後の巨大噴火である阿蘇4噴火後の期間において最大規模の噴火である草千里ヶ浜軽石の噴火規模を考慮することとなる。そして,上記のとおり,債務者は,草千里ヶ浜軽石の噴火規模を考慮しており,規制委員会において審査され,科学的,専門技術的知見に基づき,妥当であるとして許可を受けている。
特に,阿蘇においては,前記⑴(債務者の主張)

,阿蘇

4噴火後にカルデラ形成期から後カルデラ期への変化が生じていることが,火山学的及び統計学的に明確に裏付けられており,かつ,この変化は,阿蘇3噴火以前の巨大噴火で生じた変化や他のカルデラ火山の例と比較しても特異に大きいことから,後カルデラ期の活動を基に噴火規模を想定する合理性は高い。しかも,上記のとおり,阿蘇の最近の活動状況に鑑みれば,草千里ヶ浜軽石の噴火規模を想定することは,十分に保守的である。したがって,巨大噴火に準ずる規模の噴火を考慮しなければならないとする債権者らの主張は,阿蘇においては,一層当てはまらない。
九重第一軽石噴火による層厚の評価
九重山において考慮する九重第一降下軽石の噴火は,その規模が阿蘇において考慮する草千里ヶ浜軽石よりも大きく,位置関係も阿蘇より九重山の方が本件発電所の敷地に近いので,阿蘇の噴火よりも本件原子炉に与える影響が大きい。そして,九重第一降下軽石について,本来はジェット気流が安定して吹き難い九重山から本件発電所の方角に,降灰中,連続して吹き続けるという非常に保守的な条件設定に加え,噴出量として,保守的な6.2km3を提唱する長岡信治・奥野充九重火山のテフラ層序(以下長岡・奥野(2014)という。)の知見を採用してシミュレーションを行った結果,本件発電所の敷地における降下火砕物の層厚は最大で14cmとなった。債務者は,これに更なる保守性を加味して,本件原子炉の設計において考慮する降下火砕物の層厚として15cmを設定し,規制委員会の許可を得た。
債権者らは,債務者が九重第一降下軽石の噴出量として考慮した6.2km3が過小であるかのように主張するが,債務者が採用した噴出量6.2km3を提唱する長岡・奥野(2014)の知見は,債権者らが指摘する宿毛市の20cmの層厚を前提にしたものであるから,債権者らの指摘は債務者の想定が過小であるということの根拠にはなり得ない。また,債務者は,新規制基準への適合性審査終了後も,安全性向上の取り組みを継続しており,九重第一降下軽石に関する火山灰データの拡充に努めているところ,その結果からすれば,むしろ噴出量6.2km3を想定することは保守的であると言える。
なお,過去60万年間以上の噴火履歴が高精度に記録されている宇和盆地の火山灰データでは,巨大噴火の火山灰を除けば,層厚15cmを超える火山灰は認められない。阿蘇4噴火や姶良カルデラの姶良丹沢噴火といった九州のカルデラ火山における極めて大きな噴出量の噴火でさえ宇和盆地における火山灰の堆積層厚は30~40cmのオーダーである。したがって,仮に,債務者の想定を上回る噴火規模が発生したとしても,自然災害に係る確率論的評価の専門家である岡山大学教授隈元崇(以下隈元教授という。)が述べるとおり,本件発電所の設計層厚15cmを上回る火山灰が本件発電所において堆積することは想定し難い。
影響評価に関する定量的な評価について
債務者は,隈元教授に宇和盆地の火山灰データを用いた確率論的評価の実施を依頼した。その結果,本件発電所の敷地において堆積層厚15cmを超える降灰は,より信頼性の高い35万年評価で年超過確率1.7~2.5×10-5と,非常に低頻度な事象であるとの評価を得た。宇和盆地の火山灰データのような精度の良いデータに基づいて降下火砕物の堆積層厚に係る確率論的評価をすることは,IAEAのSSG-21等の著者でもある東京大学地震研究所火山噴火予知研究センター教授中田節也(以下中田教授という。)が述べるように,IAEAの安全ガイドの考え方に照らしても順当な手法である。特に,堆積環境の良い宇和盆地では,火山灰が地層として数十万年間といった長期にわたって保存されているため,どこで発生した噴火であるかに依拠しない降灰厚さごとの頻度分布を作成し,火山噴火のモデルや将来の予測の不確実性にかかわらず,阿蘇4噴火のような大きな噴火まで含んだデータ群の統計処理によって特定地域を対象とした確率論的評価が可能であり,地震ハザードと同等のレベルで信頼性の高い確率論的な評価が可能である。
上記評価の結果として,本件発電所における15cmという設計層厚を超過する可能性は小さく,設計基準として妥当な水準であることが定量的にも示された。

気中降下火砕物濃度の評価について
気中降下火砕物濃度の計算手法に関する平成29年火山ガイドの定めについて
平成29年火山ガイドは,降灰継続時間を仮定して降灰量から気中降下火砕物濃度を推定する手法と数値シミュレーションにより気中降下火砕物濃度を推定する手法のうちのいずれかによることとしている。このうち,債務者の採用する降灰継続時間を仮定して降灰量から気中降下火砕物濃度を推定する手法は,本来であれば,降下速度が非常に小さく24時間以内には降下できないような粒径の小さな降下火砕物も含めて,あえて全ての降下火砕物が24時間のうちに同時に降灰すると仮定している点,また,粒径の小さな降下火砕物は凝集して降下する(乙654)ところ,凝集することで気中降下火砕物濃度は小さくなるにもかかわらず,あえて凝集を考慮していない点で保守的な算定方法となっている。
債権者らは,降灰継続時間を仮定して降灰量から気中降下火砕物濃度を推定する手法と数値シミュレーションにより気中降下火砕物濃度を推定する手法のうちのいずれかによることとしている平成29年火山ガイドの規定が不合理であり,両算定手法のうち保守的なものを採用すべきであると主張するが,いずれの算定手法によっても実際の降灰現象と比較して保守的な値となるため,何ら不合理ではない。債務者による気中降下火砕物濃度の評価について
債務者は,平成29年火山ガイドに定める気中降下火砕物濃度の計算手法のうち,降灰継続時間を仮定して降灰量から気中降下火砕物濃度を推定する手法を採用して規制委員会の認可を受けている。債務者が,平成29年火山ガイドにおいて,気中降下火砕物濃度の計算に用いる粒径分布として,降下火砕物の堆積層厚のシミュレーションに基づく粒径分布を用いることが定められていることを踏まえ,当該粒径分布を用いているのに対して,債権者らは,より小さな粒子の多くなる粒径分布を用いれば,算定される気中降下火砕物濃度が大きくなる旨を主張するが,そもそも堆積層厚のシミュレーションとの一貫性を持たせる平成29年火山ガイドの規定は合理的であるし,九重山とは特性の異なる他の火山の,しかも層厚等の条件が全く異なる地点で得られた粒径分布を直接採用する必要はない。また,4φ(=1/16mm)より細粒のシルト粒子と粘土粒子は,単独で落下することができないとされているところ,実際,四国に降灰をもたらした2016年の阿蘇の噴火の例においても,4φよりも小さな粒子は,単独で降下したのではなく,凝集して降下したことが示されている。そして,債務者は,新規制基準への適合性審査終了後も,安全性向上の取り組みを継続しており,九重第一降下軽石に関する火山灰データの拡充に努めているところ,これによれば,九重第一降下軽石の全粒度組成は,債務者が堆積層厚のシミュレーションに用いたものよりも粗粒である(大きな粒子が多い)ため,債権者らの主張は当たらない。
降下火砕物に対する本件原子炉の安全裕度
本件原子炉は,他の自然現象に対するのと同様,火山事象に対しても,十分な安全余裕を確保している。そのため,仮に債務者の想定を上回る降下火砕物の堆積があるとしても,火山灰フィルタの設計には余裕があり,直ちに非常用ディーゼル発電機が機能喪失するわけではないし,また,仮に非常用ディーゼル発電機が機能喪失しても,長期にわたって原子炉を冷却することが可能であり,本件原子炉の安全性を確保することができる。
この点について,事業者は,発電用原子炉施設における安全性の向上を図るため,その安全性について自ら評価を行い,その結果を規制委員会に届け出ることを求められているところ(原子炉等規制法43条の3の29),その一環として,債務者は,詳細かつ定量的な検討を行った。まず,火山灰フィルタは,2系統ある非常用ディーゼル発電機のうち1系統に火山灰フィルタの取替え・清掃要員を集中的に配置することにより,降下火砕物の大気中濃度として,15.4g/m3(堆積層厚では約60cm相当)まで火山灰フィルタの性能を維持できることを確認した(ただし,降下火砕物の堆積荷重を保守的に勘案して,堆積層厚45cmで非常用ディーゼル発電機が使用不可能となると評価し
た。)。他方,非常用ディーゼル発電機が機能喪失した場合の原子炉の冷却手段として,電源を必要としないタービン動補助給水ポンプを用いた原子炉の冷却手段があるところ,同対策によって,堆積層厚70cmに対して炉心の冷却を維持できることを確認した。この結果,本件原子炉では,堆積層厚70cmに対して原子炉の冷却が可能であることが確認できた。宇和盆地の火山灰データでは,過去60万年間において阿蘇4噴火等の巨大噴火も含めた既往最大の堆積層厚が約40cmであることに鑑みれば,巨大噴火に伴う既往最大の堆積層厚を上回るような噴火に対しても,本件原子炉で講じている降下火砕物に対する安全確保対策が有効であることが確認できたことを意味している。
なお,噴火規模が大きくなると降灰の給源が広がり,降灰範囲も広域に分散するので,単純に比例倍にはならない。
4
避難の困難性
(債権者らの主張)


深層防護の考え方
原子力発電所の安全を判断するに当たっては,原子力発電所の国際的な安全思想である深層防護を踏まえたものでなければならない。深層防護とは,多数の連続しかつ独立した防護レベルの組み合わせによって,人あるいは環境に対する有害な影響が引き起こされることを防止するというものである。深層防護のポイントは,複数の防護レベルを用意し,その防護レベルそれぞれが独立して有効に機能することである。具体的には,前記1(債権者らの主張)にみた原子力発電所事故の特異性から,放射性物質を放出して人々を被ばくさせないために,少なくとも第1層から第5層(避難計画)までの防護階層を備えるものとされている。そのことは,国際的には,スリーマイル事故,チェルノブイリ原子力発電所事故などの度重なる原子力発電所事故を経て,1990年代には確立した知見となっている。
一方,我が国では,福島事故の時点では,第4層は事業者の自主性に任され,第5層の実効性は極めて不十分であったために,避難によって多数の死傷者を発生させ,人々に無用な被ばくをさせた。このことを受けて,福島事故後の法改正によって,設置法が,その目的に事故の発生を常に想定し,確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し,又は実施すると定め(1条),原子力災害特別措置法が深層防護の徹底(4条の2)と定めた。
深層防護にとって不可欠なのは,各防護階層の独立性である。各防護階層の独立性に基づくと,第3の防護階層までが機能しないことを前提として第4の防護階層(重大事故防止措置)における対策を講じることとされ,さらに,第4の防護階層までが機能しない場合を想定して,第5の防護階層(避難計画)における対策を講じることになる。このように,原子力発電所においては,前段の階層で防護するから後段の階層については検討しなくてよいという考えは許されないのであり,これを前段否定の考え方という。また,逆に,後段の防護階層における対策が高度なものとなっていることを理由として,前段の防護階層における対策を軽視することも許されない。これを後段否定の考え方という。
この前段否定及び後段否定の考え方に基づいて各層の独立性を確保し,各層において最高度の安全を備えたものでなければ,全体として安全とはみなさないというのが原子力発電所の安全に関する国際的な基準である。したがって,福島事故後に第4層(シビアアクシデント対策)が強化されたから,第3層までについては,合理的に予測される程度の自然災害(例えば,80~90%をカバーできる程度)を考慮すれば足りるという考え方は許されない。例えば,地震動でいえば,基準地震動は当該原子力発電所を襲う可能性がある地震動をカバーしているといえるものであること,基準地震動を超える地震動が当該原子力発電所を襲うことはまずないといえるものであることが必要である。
これと同様に,第4層(シビアアクシデント対策)までが万全であっても,第5層について不十分であれば,原子力発電所が内在するリスクを社会通念上許容できるとはいえず,法的には安全と評価してはならない。債務者は,本件原子炉から放射性物質が異常に大量に放出され,周辺住民等の避難が必要となる事態に陥ることはまず考えられないと主張するが,これは,本件発電所は過酷事故を起こさないのだから,避難計画に不備があっても,債権者らの人格権を侵害しないというものであり,福島事故前の原子力発電所安全神話から一歩も出ていない。このような発想は原子力発電所事業者に特有のものであり,他の分野では通用しない。事故が起こった時に一定の規模以上の被害が想定される科学技術設備については,設備自体の安全性を高めるだけでなく,万が一の事故が起こった時の被害回避の方策を取っていなければ,法令上,その設備の利用自体が許されないのである。このように,深層防護に類似した考え方は,原子力発電所に限らず,一定規模以上の被害が想定される科学技術設備においては当然であるところ,原子力発電所事故は,前記1(債権者らの主張)にみたとおり甚大な被害をもたらすものであること,原子力発電所事故被害者のほとんどは,海難事故や航空機事故の被害者とは異なり,自らの意思と関係なくこれに巻き込まれる者であることからすると,万一の事故の際の救命設備を備え付けていなければ航海や運航が許されないのに,原子力発電所について,万が一の事故の際の救命手段である適切な避難計画が準備されていなくても運転が許されるという現実が社会通念に反し,社会的に許されない事態であることは明白である。以上のとおり,いかに第4層までの対策が万全だとしても,絶対的安全が観念できない以上,これらが破られるリスクはゼロにはならない。それでも原子力発電所の稼働が容認されるのは,第5層も前段否定の論理によって万全を期すからであり,第5層の避難計画が実効性を欠くのであれば,その原子力発電所は社会通念上許容できないリスクを有しているといえ,人格権侵害の具体的危険があることになる。


避難の困難性

島内での避難
債権者らは,本件発電所から約34~46kmに位置する島々に居住する。債権者らの居住する建物は,いずれも古く,原子力発電所事故を引き起こすような巨大地震で倒壊する恐れがあり,また,巨大地震の際の度重なる揺れに対する恐怖の点からも,屋内退避は不可能である。近くの避難所での屋内退避についても,債権者らの居住する島には,いずれも,原子力発電所事故による放射性物質を避けながら巨大地震に耐えられるような屋内の避難所の整備はなされていない。
原子力発電所事故が起きてから避難所を用意することも不可能である。東北地方太平洋沖地震時に体育館の天井が損壊して多くの落下物が降ったことから,屋内退避所となる施設は事前に耐震性を十分に強化しておかなければ二次被害の恐れがある。しかし,債権者らの居住する島において,地震時の避難所は,屋外あるいは耐震性を備えていない古い建物であって,原子力発電所事故を起こすような巨大地震に耐えられるものは準備されていない。避難所には,少なくとも,十分な収容能力,スクリーニング体制(放射線を測定する機器,放射性物質を取り除く道具,人員,場所など。),被ばくをしないために放射性物質が拡散・到達しない地点であることが求められるものの,原子力発電所事故が起きてからそのような条件を満たす屋内の避難所を設けることは不可能である。

島外への避難
島外への避難も極めて困難あるいは不可能である。
平郡島と祝島の場合,島外への一般的な移動手段は船舶しかない。しかし,地震によって道路の寸断や損壊によって港までたどりつくことが困難であると考えられるし,地震・津波によって港湾施設が損傷を受けて使用できなくなっている可能性が高く,また船舶自身が損傷を受けて航行できなくなっている可能性も高い。放射性物質が漂う中で船舶を操縦する船員を確保することも極めて難しい。さらに,船舶は,波,うねりが高い場合や,風が強い場合など天候によって運航に影響を受けることも多い。船舶の定員は少なく,島民全員を一度に乗せられない。
周防大島の場合,島外への一般的な移動手段は大島大橋を渡ることである。しかし,地震,津波によって大島大橋が損傷し,通行できなくなっている可能性が高い。また,大島大橋は,本土側から島側に渡った地点が信号機の設置されたT字型交差点になっており,ここから道路が島の東西に分岐している。したがって,周防大島の住民が島外に避難する場合,島の東西から避難者の車両がこのT字型交差点を目指して押し寄せることになる。ところが,道路は片側一車線しかなく,普段でも行楽シーズンや大きなイベントが開催された時は渋滞することが知られており,1万6000人以上の町民が避難のために殺到した場合には,大渋滞が発生して,全く動きが取れない状態になることは確実である。このように島外への避難も極めて困難あるいは不可能である。


安定ヨウ素剤を,放射性ヨウ素を吸い込む前に服用できないこと
債権者らの居住する島には安定ヨウ素剤が保管されておらず,安定ヨウ素剤の事前配布もなされていないことから,本件発電所で放射性物質放出事故が起きた場合に,債権者らは,放射性ヨウ素を吸い込む前に安定ヨウ素剤で防護することができないと考えられ,この点でも債権者らの生命・健康は侵害される危険がある。



新型コロナウイルス感染症が終息していない現状では安全に避難することができないこと
新型コロナウイルス感染症が終息していない現状では密集・密接・密閉の環境を避けることが求められる。他方,原子力発電所事故が起きた際の避難計画は,住民らが自家用車や船,自衛隊車両等に乗り合って避難することになり,密集・密接・密閉の環境である。また,避難退域時検査(スクリーニング),除染,安定ヨウ素剤の配布・服用の場面では,人の密集,密接が発生し,放射性物質を避けて屋内でこれらの作業を行なう場合には密閉空間になる。さらに,避難所は,まさに放射性物質が屋内に流入しないように密閉した空間に人が密集・密接する3密の空間である。つまり,新型コロナウイルス感染症が拡大している現在においては,避難計画どおりに避難することによって感染拡大を招いてしまい,被ばくを避けるための避難をすることができない。
(債務者の主張)


深層防護の考え方について
本件原子炉においては,福島事故を踏まえて安全確保対策の信頼性を高めるとともに,万が一,事故防止に係る安全確保対策が奏功せず,重大事故等が発生した場合においても,本件原子炉の安全性を確保することができるよう,安全確保対策を強化しており,本件原子炉から放射性物質が異常に大量に放出され,周辺住民等の避難が必要となる事態に陥ることはまず考えられないことから,債権者らの避難の可否が本件裁判の争点となることはない。債権者らは,深層防護の安全対策において採用されている前段否定及び後段否定の考え方を述べた上で,第5層の避難が安全にできないということになればそれだけで本件原子炉の運転を差し止めなければならないと主張するが,深層防護の考え方と,人格権の侵害を根拠とする差止請求が認められるための具体的危険性の判断とは異なるものである。
すなわち,深層防護の考え方の基礎には,債権者らが前段否定及び後段否定の考え方として主張するような各防護階層の独立性という発想があるところ,それは,異常や事故の発生・拡大を防止しその影響を低減するために多段的な安全確保対策を立案・計画するに当たって,各レベルにおける対策をそれぞれ充実した十分な内容とするために,あえて,各々を独立した対策として捉え,前段階の対策は奏功せず,後続の対策には期待できない,との前提を無条件に置くものである。換言すると,各レベルでの対策は,それらの対策を合わせることにより(前段階の対策と合わせることにより)初めて安全確保が図られるというものではなく,また,後続の段階の対策に期待せず,当該段階で確実に異常や事故の発生・拡大等を防止するのに十分な対策を講じるべきであるとの考え方にあえて立脚して設備の設計等を行うことにより,各段階の対策が十分な内容となるように意図したものである。このように,深層防護の考え方においては,あえて,各々の階層の対策を独立したものとして捉え,前段の対策が奏功せず,後段の対策には期待できないとの無条件の前提,すなわち,それが発生する具体的な可能性を検討することなく無条件に前段及び後段の対策が奏功しないという前提を置くことにより,各段階における対策がそれぞれ充実した十分な内容となるようにしている。
一方,本件の究極的な争点は,本件原子炉の運転によって債権者らの人格権が侵害される具体的危険性があるか否かであり,かかる具体的危険性の有無を判断するに当たっては,深層防護の各段階における対策が奏功しないことの具体的な可能性が正面から問われることになる。つまり,債権者らの人格権が侵害される具体的危険性があるか否かの観点からは,第5層における避難等の防災対策が必要となる蓋然性,すなわち前提として第4層までの対策が奏功しない具体的な可能性がなければ,債権者らの人格権が侵害される具体的危険性があるとは言い得ない。債権者らの主張は,こうした債務者の第4層までの対策が全て奏功せずに原子炉格納容器が破損し,放射性物質が大量に放出されるという事態を,その具体的な可能性を問うことなく当然の前提とした上で,第5層の防護階層(避難計画),すなわち原子力防災対策の合理性,実効性の有無のみによって,人格権侵害の具体的危険性の有無を判断するよう求めるものであり,妥当でない。
我が国の法制度は,原子炉等規制法全体として,IAEAが示す深層防護のうち,第1から第4の防護階層までに関する事項については,原子力事業者に対する規制を通じて担保されるのに対して,避難に関する事項については,災害の一形態としての原子力災害に対し,国,地方公共団体,原子力事業者等がそれぞれの責務を果たすものとして,災害対策基本法及び原子力災害対策特別措置法によって措置されている。すなわち,国は防災基本計画及び原子力災害対策指針を定める責務を有し,同基本計画及び同指針に基づく各地域の地域防災計画は,地域の実情を熟知している地方公共団体が作成することが適切であることから,災害対策基本法及び原子力災害特別措置法は,地方公共団体が地域防災計画を作成する責務を有するものとしている。このように,原子力防災対策は,原則として国や自治体がその実施の主体となるものであり,債務者が独自に避難計画等を策定することはできないため,債権者らが居住する地域における避難計画等が存在しないことによって債権者らの適切な避難が不可能であること,そして,その結果として債権者らの人格権が侵害される具体的危険が存在することについては,債権者らにおいて主張疎明する必要がある。


債権者らの主張について
避難に当たって新型コロナウイルスの感染について留意しなければならないとしても,そもそも防災計画では,新型コロナウイルスに限らず,その時々の状況に応じて様々な対策を臨機に講じることが予定されているのであり,避難計画に明確に定められていないからといって直ちに新型コロナウイルスの感染について留意しながらの避難が不可能であると断ずる債権者らの主張には理由がない。特に,新型コロナウイルスの感染防止に関しては,国(内閣府)として,具体的な留意事項も含めた原子力災害時の防護措置に係る考え方を示すなどの対応を既に行っているのであるから,それらに基づいて適切な対応がとられることが合理的に見込まれる。
そもそも,原子力災害対策について定めている原子力災害対策指針では,緊急事態における住民等に対する放射線の影響を最小限に抑える防護措置を確実なものにすることが目的とされていること,また,規制委員会が100ミリシーベルト以下の被ばく線量域では,がん等の影響は,他の要因による発がんの影響等によって隠れてしまうほど小さく,疫学的に健康リスクの明らかな増加を証明することは難しいと国際的に認識されているとの考え方を示した上で,事前対策めやす線量を,実効線量で100mSvの水準としていること,国際的にも,緊急時対応の目標は,被ばくの防止ではなく,影響の緩和とされていること,さらに,OIL2に基づく避難基準が一定時間経過後の防護措置の開始を前提としていることなどを併せて考慮すれば,債権者らが一切被ばくしないことを判断基準として,防護措置の合理性を判断することは適切ではない。
5
保全の必要性
(債権者らの主張)
仮に,本件原子炉施設において福島事故のような深刻な事故が発生すれば,債権者らの人格権が回復不能な程度に害される。本件原子炉の運転は,そのような深刻な事故を発生させ,債権者らの重要な権利を不可逆的に侵害するおそれのある行為であるから,保全の必要性が高い。
(債務者の主張)
本件申立ては,仮の地位を定める仮処分であり,保全の必要性として,債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるための必要性があり,本案訴訟の確定判決が得られるのを待つことなく保全命令の発令が必要であることが求められる(民事保全法23条2項)。そして,本来,仮の地位を定める仮処分は,債務者に与える影響が大きいことから,その保全の必要性は高度のものが要求され,債権者は,本案判決による救済を待っていたのでは債権者の権利が実質的に満足されなくなるような事情を具体的に示さなければならない。しかしながら,債権者らが差止めの根拠とする火山事象については,阿蘇において,巨大噴火や巨大噴火に準ずるレベルの噴火が発生すれば,火山周辺の住民の生命,身体に直接的な損害が発生することはもとより,日本全域に深刻な影響が生ずることになるのであるから,そのような噴火が短期間のうちに発生する状況にあるというのであれば,全国の活火山の観測,監視等を行っている気象庁から噴火警報が発表されるなどして,報道等でも大きく取り上げられていてしかるべきであるし,国家レベルでの対策が講じられ地元住民らが具体的に移住や避難を開始する事態に至っていなければならないが,事実として,そのような事態に至っていないのであるから(現在の阿蘇山の噴火警戒レベルは1(活火山であることに留意するレベル)とされている。),阿蘇について詳細な火山学的調査に基づく検討等を行うまでもなく,阿蘇の火山事象による危険が,本案訴訟の確定判決が得られるのを待つことができないほどに差し迫っているとは到底考えられない。
また,中央構造線断層帯による地震についても,本件発電所の敷地前面の伊予灘区間は平均活動間隔が2~3千年程度であるところ,既に数百年前に活動しており,中央構造線断層帯長期評価(第二版)においても,今後30年以内の地震発生確率が最も低いZランクとされていることからすれば,やはり本案訴訟の確定判決が得られるのを待つことができないほどに中央構造線断層帯による地震が差し迫っているとはいい難い。
したがって,債権者らが,本異議審において,本件原子炉の安全性が損なわれ,放射性物質を大量に放出する事故に至る原因として主張する阿蘇の巨大噴火や巨大噴火に準ずるレベルの噴火及び中央構造線断層帯による地震については,いずれも本案訴訟の確定判決が得られるのを待つことなく保全命令の発令が必要であることを根拠付けるものとはならない。
第5

当裁判所の判断

1
本件における司法審査の在り方について


本件は,民事保全法23条2項に基づき,本件原子炉の運転差止めを求めるものであり,これが認められるためには,争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とすることが必要である。
債権者らが主張する被保全権利は,人格権に基づく妨害予防請求権としての差止請求権であるところ,個人の生命,身体又は健康という重大な保護法益が侵害される具体的危険がある場合には,当該個人は,人格権に基づく妨害予防請求権として,侵害行為を予防するため,当該侵害行為の差止めを請求することができるというべきである。
債権者らは,本件原子炉には安全性に欠けるところがあるため,その運転により債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があるとして,運転の差止めを請求する権利があると主張するものであり,本件においては,この具体的危険性が認められるか否かが問題となる。


具体的危険性の存在についての判断枠組み

債権者らは,本件のように人格権侵害を理由として差止めを求める民事訴訟においては差止めを請求する側が人格権侵害の具体的危険性の存在を主張立証するのが原則であるとした上で,福島事故を立法事実として,その反省及び教訓を踏まえて平成24年に行われた原子力関連法令等の改正の趣旨並びにこの改正によって求められる原子力発電所の安全の程度(通常人が疑いを差し挟まない程度に,万が一にも深刻な災害が起こらないという確信を持ち得る程度の安全)からすれば,本件の場合には,人格権侵害の具体的危険性についての疎明の程度を軽減し,債権者らにおいて人格権侵害の具体的危険性が存在することを一応疎明すれば足りるという解釈(甲650)が採用されるべきであり,これが採用できないとしても,債権者らにおいて疎明すべき命題を人格権侵害の具体的危険性が万が一にも存在することに修正するか,原決定をはじめとする多くの裁判例が採用するように,事業者である債務者側に原子力発電所の安全に関する事実上の主張・疎明責任を負わせるべきであり,債務者において,本件原子炉が,上記の意味での安全性を有していることを高度の蓋然性をもって疎明しない限り,本件原子炉の運転により,債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があると認められるべきである,債務者の主張する判断枠組みでは,福島事故のような深刻な事故を二度と起こさないという上記の法改正の趣旨に反する結果となり,法解釈として不当であるなどと主張する。

これに対し,債務者は,本件のように妨害予防請求権に基づく差止めを求める場合には,単に理論的ないし抽象的に危険性が存在するというのでは足りず,人格権侵害の具体的危険性の存在が必要であり,主張・疎明責任は差止めを求める債権者らにあるなどと主張する。


具体的危険性の存在について,前提事実及び上記の当事者の各主張などを踏まえて,その判断枠組みについて検討する。
原子力発電所は,核燃料を使用し,その運転により人体に有害な多量の放射性物質を原子炉内に発生させる施設であり,ひとたび事故等が発生し,放射性物質が原子炉外に放出されると,周辺地域の住民の生命,身体及び健康等に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を長期間,広範囲にわたって汚染するおそれがある。このことは,福島事故からも明らかであり,福島事故のような深刻な被害の発生を防止するためには,重大な事故が万が一にも発生しないよう,原子力発電所の安全性を確保する必要がある。
そこで,福島事故の反省と教訓を踏まえて,原子力安全規制を担う新たな行政機関として規制委員会が設置され,改正された原子炉等規制法は,発電用原子炉の設置及び変更について,規制委員会の許可を受けなければならないとし(同法43条の3の5第1項,同条の3の8第1項),これらの許可の要件の一つとして,発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害防止上支障がないものとして規制委員会規則で定める基準に適合するものである(同法43条の3の6第1項4号,同条の3の8第2項)と定め,発電用原子炉施設の安全性に関する基準の策定及び安全性の審査の権限を規制委員会に付与し,規制委員会は,この権限に基づき,設置許可基準規則を制定した。
原子力発電所に求められる安全性の具体的基準を策定するに当たっては,地震,火山活動等の自然災害や人為的要因などの事故発生の原因となり得る様々な事象を想定し,それらの事象によって原子力発電所施設を構成する設備,機器等が機能を損なうことがないよう備えるべき強度を定め,あるいは,異常事態の発生を想定した上で,その拡大を防止するために必要な設備,機器等の設置を求めるなど,多角的,総合的見地から多重的に安全性を確保するための基準を検討する必要があり,また,策定した基準に基づいて個々の原子力発電所の安全性を審査するに当たっては,当該原子力発電所の立地の地形,地質等の自然条件を前提として,影響を及ぼし得る地震,火山活動等の規模を具体的に想定し,設備,機器等が想定した地震,火山活動等によってその機能を損なうことがないかを確認することなどが求められる。
そして,これらの安全性の基準の策定及び基準への適合性の審査においては,対象となる事項が多岐にわたる上,科学的には解明されていない事項や将来の予測に係る事項も多く含まれていることから,常に,原子力工学をはじめ,地震学や火山学等の多方面にわたる極めて高度な最新の科学的・技術的知見に基づく総合的判断が必要とされる。
このような原子力発電所の安全性の基準の策定及び基準への適合性の審査の特質から,改正された原子炉等規制法は,原子力発電所の安全性の基準の策定及び基準への適合性の審査を規制委員会に委ねたものといえる。
規制委員会は,本件原子炉について,審査の結果,基準に適合するとの判断を行ったものであるところ,既にみた当事者双方の主張及び後記2及び3で詳しく述べるとおり,原子力発電所の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生の時期や規模については,現在の科学的知見では具体的に予測できないことから,本件原子炉の安全性や新規制基準の合理性及び規制委員会の上記の判断に対しても,様々な専門的立場からそれぞれの研究等に基づいて様々な見解が述べられているが,これらは,想定が極めて難しい将来予測に係るものであることもあって,科学的には,直ちに,いずれの見解が正しいともいえないのが現状であるといわざるを得ない。
本件において当裁判所に求められているのは,当事者双方が主張しているとおり,あくまでも本件原子炉の運転により債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があると法的判断として認められるか否かであり,原子力発電所の設置許可処分等の当否が問題となる行政訴訟とは異なり,上記の規制委員会における判断やその判断の合理性の有無等は,いずれも上記の具体的危険性の存在を判断する上での重要な事実の一つにとどまるものというべきである。
本件における具体的危険性の存在についての判断枠組みについて,債権者らは,上記アのとおり主張するところ,確かに,原子力発電所の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生の時期や規模については,現在の科学的知見では具体的に予測できないことからして,現時点において,大規模自然災害によって,本件原子炉施設において福島事故のような深刻な事故が発生する可能性が全くないと断定できないことは事実であり,また,福島事故の反省と教訓も踏まえて考えるべきであることも債権者らが主張するとおりである。
しかしながら,上記のことは,論理的には,本件における人格権侵害の抽象的危険性を肯定するものに過ぎず,直ちに具体的危険性の存在を推認するに足りるものとはいえないというべきである。また,債権者らが主張する原子力発電所に求められるとする通常人が疑いを差し挟まない程度に,万が一にも深刻な災害が起こらないという確信を持ち得る程度の安全は,原子力発電所の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生の時期や規模については,現在の科学的知見では具体的に予測できないことからすると,結局,原子力発電所の安全性についてゼロリスクを求めることに等しいものであり,これも直ちに採用することはできない。
さらに,上記のとおり,原子力発電所の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生の時期や規模については現在の科学的知見では具体的に予測できないことから,本件原子炉の安全性等についても様々な専門的立場からそれぞれの研究等に基づいて様々な見解が述べられ,科学的には,直ちに,いずれの見解が正しいともいえない現状の下では,独自の科学的知見を有するものでない裁判所において,いかに福島事故による影響の甚大性,その反省及び教訓を踏まえた原子力関係規定の改正を考慮したとしても,本件原子炉の安全性についての具体的な検討を離れて,本件原子炉の存在(福島事故から明らかとなった原子力発電所の潜在的危険性)及び債権者らの居住状況から直ちに,債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があると事実上推定するなどということは相当でないと考える。
以上のとおり,当裁判所としては,福島事故による影響の甚大性,その反省及び教訓を踏まえた原子力関係規定の改正を考慮したとしても,本件で問題となる人格権侵害の具体的危険性の存在について,債権者らの疎明責任を軽減したり,債権者らが疎明すべき命題を修正することには,論理の飛躍があり,これを採用することはできないと判断する。なお,原子力発電所の設置許可処分取消訴訟の審理判断については,規制委員会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から,現在の科学技術水準に照らし,上記調査審議において用いられた具体的な審査基準に不合理な点があり,あるいは当該原子炉施設がこの具体的審査基準に適合するとした規制委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,行政庁の上記判断に不合理な点があるものとして,この判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきであるとされ,不合理な点があることの主張,立証責任は,本来,原告が負うべきであるが,行政庁の側において,まず,不合理な点のないことを相当の根拠,資料に基づき主張,立証する必要があり,行政庁がこの主張,立証を尽くさない場合には,不合理な点があることが事実上推定されるとされているところ(最高裁昭和60年(行ツ)第133号平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174頁参照),
記訴訟の審理判断基準を本件の判断に直ちに持ち込むことは相当でないと考える。
したがって,当裁判所としては,現在の科学的知見からして,本件原子炉の運転期間中に本件原子炉の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生する可能性が具体的に高く,これによって債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があると認められなければ,本件原子炉の運転差止めを命じるという法的判断はできないというべきであり,この疎明責任は,民事保全事件の原則のとおり,債権者らが負うべきであると考える。これと見解を異にする債権者らの上記主張はいずれも採用しない。
以下,このような観点から検討する。
2
地震に対する安全性について


震源が敷地に極めて近い場合の評価の要否

疎明事実
後掲疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,前提事実のほか,次の事実が一応認められる。
新規制基準における活断層の扱い等について
a
新規制基準においては,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について,内陸地殻内地震について選定した検討用地震に関し,震源として考慮する活断層の評価に当たっては,調査地域の地形・地質条件に応じ,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査等の特性を活かし,これらを適切に組み合わせた調査を実施した上で,その結果を総合的に評価し活断層の位置・形状・活動性等を明らかにすることを考慮し(設置許可基準規則解釈別記2の4条5項2号②),また,検討用地震のうち,震源が敷地に極めて近い場合は,地表に変位を伴う断層全体を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討するとともに,これらの検討結果を踏まえた評価手法の適用性に留意の上,各種の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえた上で,さらに十分な余裕を考慮して基準地震動を策定することが求められている(同別記2の4条5項2号⑥)。

b
また,発電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の耐震設計方針に関わる審査において,審査官等が設置許可基準規則,設置許可基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ,基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用する目的で作成された地震ガイド(甲783,乙43)には,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について,震源が敷地
に近く,その破壊過程が地震動評価に大きな影響を与えると考えられる地震については,断層モデルを用いた手法が重視されている必要があるとの方針を明らかにした上(Ⅰ.3.1⑵),検討用地震の選定について,内陸地殻内地震について,各種の調査及び観測等により震源として想定する断層の形状等の評価が適切に行われていることを確認することとし(Ⅰ.3.2.2⑴),断層モデルを用いた手法による地震動評価については,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価について,地表に変位を伴う断層全体(地表地震断層から震源断層までの断層全体)を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討されていることを確認すること,これらの検討結果を踏まえた評価手法の適用性に留意の上,各種の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえた上で,さらに十分な余裕を考慮して地震動が評価されていること,特に,評価地点近傍に存在する強振動生成領域(アスペリティ)での応力降下量などの強振動の生成強度に関するパラメータ,強振動生成領域同士の破壊開始時間のずれや破壊進行パターンの設定において,不確かさを考慮し,破壊シナリオが適切に考慮されていることを確認すること,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を取り込んだ手法により,地表に変位を伴う国内外被害地震の震源極近傍の地震動記録に対して適切な再現解析を行い,震源モデルに基づく短周期地震動,長周期地震動及び永久変位を十分に説明できていること(特に,永久変位・変位についても実現象を適切に再現できていること)を確認すること,浅部における断層のずれの進展の不均質性が地震動評価へ及ぼす影響を検討するとともに,浅部における断層のずれの不確かさが十分に評価されていることを確認すること,破壊伝播効果が地震動へ与える影響について,十分に精査されていること,水平動成分に加えて上下動成分の評価が適切に行われていることを確認することを求める記載がある(Ⅰ.3.3.2⑷④)。c
上記aの設置許可基準規則解釈別記2の定め及び上記bの地震ガイドの記述中の,震源が敷地に極めて近い場合についての記載を裏付けるものとして,規制委員会による次の研究がある。すなわち,規制委員会は,平成27年1月,福島第一事故を踏まえた震源極近傍の地震動評価の高度化(乙296。以下震源極近傍の地震動評価という。)において,地表地震断層から震源断層までの浅部地盤(震源断層とはならない比較的軟らかい地盤)が活動することの影響について,震源から2km以上離れていれば浅部地盤の影響は無視し得るものの,敷地から2km程度以内の浅部地盤が変位する場合には,比較的軟らかい地盤の活動といえどもその影響を無視できないという研究結果を示した。震源極近傍の地震動評価には,次の記載がある。
研究の目的及び前提条件
内陸地殻内地震を対象とした断層モデルを用いた手法による地震
動評価に際しては,活断層の長さと地震発生層の厚さを始め,各種断層パラメータ間の理論的又は経験的関係式に基づき,深さが数km~15km程度の地震発生層における震源断層のモデルが設定されている。一般的に,構造物等に被害を与える強振動は地震発生層の断層破壊に支配されると考えられるため,それよりも浅い地盤
(表層地盤)から放出される地震波を考慮することがなかったが,新規制基準では,震源が敷地に極めて近い場合の地震動評価についての規定が加えられた。しかし,参考となる震源極近傍での地震観測記録が乏しいため,定量的評価を解析的に実施して,震源極近傍の地震動の特徴を理解するべく,鉛直横ずれ断層と傾斜60度の逆断層を対象として,アスペリティを地震発生層に設定した上で,地表までの断層全体の破壊を再現する動力学的断層破壊シミュレーションを実施し,その分析結果を用いた強震動評価を行い,表層地盤の震源域による地震動解析への影響を評価した。


横ずれ断層を対象とした震源極近傍の地震動評価
断層面の形状と位置に関して,長さ25km,幅18kmの矩形
断層面を設定し,解析領域の地盤モデルは,厚さ3kmの表層地盤と厚さ15kmの地震発生層から構成される水平成層モデルとし
て,動力学的破壊シミュレーションにより地表面各部の地震動の計算を行い,地中深くの震源域の破壊が生じた地震動と表層地盤の震源域の破壊が生じた地震動とが足し合わされた地震動を得るとともに,波数積分法により表層地盤と地震発生層におけるそれぞれの震源域の寄与分に分けて,断層近傍の評価地点(地表断層からの水平距離0.05km,約0.1km,約0.2km,約0.5km,約1.0km,約2.2km,約4.7km及び10kmの8地
点)における理論波形の解析を行ったところ,断層極近傍におい
て,断層直交成分(FN成分)においては地震発生層の地震動が全体の90%程度を占め,平行成分(FP成分)は表層地盤の震源域の地震動が全体のほぼ100%を占めていた。また,断層から2km以上離れると,表層地盤の震源域による影響は無視できる程度に下がる。上下成分(UD成分)はFP成分とほぼ同じ傾向にある
が,地震動の大きさは小さい。



逆断層を対象とした震源極近傍の地震動評価
長さ25km,傾斜角60度の逆断層を対象とし,断層上端が地
表に達するモデルを設定し,深さ方向において,横ずれ断層と同
様,表層地盤を深さ0~3km,地震発生層を深さ3~18kmの範囲に仮定し,アスペリティの上端深さを5kmとして,動力学的破壊シミュレーションにより地震動の計算を行い,波数積分法に基づく理論波形を計算し,表層地盤と地震発生層におけるそれぞれの震源域による地震動の寄与度を調べたところ,FN成分は,地表断層からの距離に関わらず深い震源域からの地震動が支配的であり,表層地盤の震源域からの地震動の影響は無視できる程度であり,また,FP成分でも地表断層からの距離が0.2~1kmの範囲で,表層地盤からの地震動に比べておおむね深い震源域からの地震動が支配的となっているのに対し,UD成分については,地表断層からの距離が2km以下では,表層地盤の震源域からの地震動が深い震源域からの地震動を部分的に上回る。しかし,地表断層から2km以上離れると,表層地盤の震源域による影響は無視できる程度に下がる。このように,逆断層における震源極近傍の地震動は,横ずれ断層と異なり,表層地盤の震源域による地震動の影響が小さいといえる。


まとめ
横ずれ断層の場合,断層極近傍において断層直交成分は地震発生
層の震源域に,断層平行成分は表層地盤の震源域に支配されることが分かった。地震動に与える震源域の影響として,本検討の設定条件で断層から2km程度以上離れると,表層地盤の震源域による影響は無視できる程度に下がること,逆断層の場合は,おおむね地震発生層の震源域からの地震動が支配的であり,表層地盤の震源域からの影響が小さいことが示された。

断層に関連する基本的な知見
a
断層運動とその種類
プレート運動による伸長の力や圧縮の力は,地下の岩盤に歪みを蓄積させる。その歪みに岩盤が耐えきれなくなると,ある面を境にして岩盤が急激に破壊され,地震が発生する。その破壊された面を断層面といい,既存の断層を動かしたり,新たに断層を作ったりする動きを,断層運動という。
断層運動は,地下の岩盤に働く力の向きの違いにより,断層面を挟んだ両側の岩盤に異なる動きを生じさせるため,①逆断層型,②正断層型,③横ずれ断層型の3つの基本的なパターンに分けられる。①逆断層型は,水平の方向から岩盤が圧縮されたため,断層面を挟んで上側の岩盤がずり上がる(上側の岩盤が下側の岩盤に乗り上がる)動きをしたものをいう。②正断層型は,水平の方向に岩盤が引っ張られることにより,断層面を境にして,上側の岩盤が下へ滑り落ちる動きをしたものをいう。③横ずれ断層型は,岩盤に圧縮や伸長がかかって,断層面を挟んで,それぞれの岩盤が逆方向にずれる動きをしたものをいい,断層面を挟んで向かい側の岩盤が右側にずれたものを右横ずれ断層,左側にずれたものを左横ずれ断層という。
また,逆断層型及び正断層型は,いずれも断層面に沿って岩盤が上下にずれる動きをするので,横ずれ断層に対して,縦ずれ断層に分類される。(甲886,乙19,20)
b
ハーフグラーベン
ハーフグラーベンとは,片側を正断層で区切られたブロックが傾きつつ凹んだ部分(半地溝)であり,これに対し,両側を正断層で区切られたものはグラーベン(地溝)とされる。
伸長応力場で岩盤が水平方向に引っぱられると,正断層に区切られた岩盤が傾きつつ全体として水平方向に延びていく。このとき岩盤と岩盤との間には三角形の凹みが形成され,その凹んだ部分は堆積物により埋め尽くされる。このように,岩盤が傾く方向の断面では,堆積層は扇状の形態を示す。ハーフグラーベンの上に堆積部が蓄積し,その後も断層運動が繰り返されると,堆積物を切る多数の副次的断層が形成されることになる。
c
海上音波探査
海上音波探査は,海面付近の水中から海底に向けて音波を発し,海底,堆積層,基盤岩等からの反射音波を観測して海底下の地質構造を調査する探査方法である。具体的には,船で発振器及び受振器を曳航し,発振器から出た音波が海底下の地層の境界等で反射し,戻ってきたものを検知することにより,地層の重なり及び連続性を調査するものであり,音波を発する音源によって,調査範囲,精度等が異なる。音源の周波数が高いほど分解能が高くなるが,探査深度は浅くなり,逆に,周波数が低いほど分解能は低下するが,より深い深度まで探査が可能となる。
いずれも金属板の振動を音源とするソノプローブ及びブーマーは,主に深さ数十~百m程度までの海底下浅部の構造を,水中放電を音源とするスパーカー及び高圧水の噴出を音源とするウォーターガンは,主に深さ数百m程度までのやや深い構造を,さらに圧縮空気の噴出を音源とするエアガンは,深さ数kmに達するよ
うなさらに深い構造をそれぞれ調査するのに適している。

d
上載地層法
上載地層法とは,断層を覆う地層(上載地層)の堆積年代を基に当該断層の活動時期を判断する方法のことをいう。

(乙446)

中央構造線の性状に関する債務者の調査,評価
a
評価
債務者は,中央構造線断層帯の震源断層の位置について,本件発電所敷地沖合い約8kmに分布する高角の活断層の地下深部(地下約2km)の領家花こう岩類(領家帯)と三波川変成岩類(三波川帯)の会合部以深に存在すると評価している。震源断層の傾斜角については,鉛直であるとしているが,中央構造線の地質境界と一致して北傾斜である可能性も否定していない。
また,佐田岬半島沿岸部に活断層は存在しないと判断している。
(乙13[6-3-65~66,6-3-70~73,6-5-24~25,6-5-31~32頁])
b
調査
債務者は,本件発電所の敷地前面海域で各種音源を用いた海上音波探査を実施している。また,伊予灘においては,債務者をはじめ産業技術総合研究所,国土地理院,大学グループなど各調査機関により,調査対象深度及び分解能の異なる各種の音源を用いた海上音波探査が実施されている。債務者は,これらの海上音波探査の結果について,平成26年10月1日に規制庁が行ったヒアリングの際,ヒアリング資料(乙126。以下四国電力(2014)という。)として提
出した。
また,海上音波探査により反射面を判読するに当たって,どの反射面がどの地層に相当するのかを確認する上でボーリング調査が重要になるところ,四国電力(2014)については,音波探査断面で区分されたA層,D層,T層及びB層の層序区分の精度を上げるため,ボーリング調査により実際に地層を確認する必要があり,債務者は,本件発電所の敷地前面海域の付近にある上灘沖北断層について,海底ボーリング調査を行った。なお,債務者は,平成25年に行った調査においては,南北方向に11本(特に,本件発電所敷地前面海域においては,約2kmの範囲内に5本),これと交叉する東西方向に3本の測線を設けてブーマー等による海上音波探査を行った。
(乙119,120,126,303,593,595)
c
震源断層の傾斜角
債務者は,前提事実6⑴

(本決定34~35頁)のとお

り,本件発電所の敷地沖合約8kmの海底下約2kmにある,三波川変成岩類と領家花こう岩類とが会合する地点の下方に鉛直な震源断層が存在するものと考えた。債務者が,震源断層の傾斜角を鉛直であると考えた根拠は,次のとおりである。


地震学的観点
地震学的には,近年国内外で発生した横ずれ断層による主な地震
では,震源断層はいずれもほぼ鉛直であることが明らかにされていること,緩く傾斜する断層面を横ずれさせるような応力場は考えにくく,一般的に,横ずれ断層の震源断層面はほぼ鉛直であると考えられていることから,債務者は,現在の伊予灘における中央構造線断層帯の震源断層の傾斜角も鉛直である可能性が高いと考えた。
(乙13[6-3-64頁])



地下浅部の活断層
本件発電所敷地前面海域に認められる地下浅部の断層はいずれも
高角度である。地下浅部の活断層が高角であることから直ちに震源断層の傾斜角を推定できるわけではないものの,特に,領家花こう岩類と三波川変成岩類の会合部が存在する沖合い約8kmの地点のほぼ鉛直の活断層には,変位の累積性(より深い層(古い層)における変形の程度が顕著であること)が顕著であり,同所に繰り返し活動する震源断層が存在していることを示していることなどから,債務者は,地下深部の震源断層も鉛直である方が自然であると考えた。
(乙13[6-3-36~38頁],審尋の全趣旨)


海上音波探査
さらに,海上音波探査による探査断面を対象にアトリビュート解
析による断層傾斜角の検討を実施した結果,海底下浅部に見られる高角度の断層の下方において,北傾斜する地質境界(地質境界としての中央構造線)が高角度の断層によって変位を受けている可能性が示唆されており,これを踏まえ,債務者は,沖合い約8kmの地点に鉛直の震源断層が存在する可能性が高いと考えた。
(乙13[6-3-64~65頁])

d
佐田岬半島沿岸部の活断層
債務者は,四国電力(2014)によると,佐田岬半島北岸の湾奥部まで横断する音波探査断面において,中期~後期更新世相当層と推定されるD層に変形が認められないことなどから,佐田岬半島の北岸部に活断層が存在していないことが確認できると判断した。
(乙13[6-3-70~73頁],126)

e
高橋恭平ほか地震探査結果に基づく四国北西沖伊予灘海域における中央構造線の分布及び活動性(乙595。以下高橋ほか論文という。)
総合地質調査株式会社の高橋恭平らは,債務者の職員らとの共同研究を行い,これまで深部構造のデータが十分に得られていなかった伊予灘において,2004年に取得した深部を対象とした地震探査データの解析を行い,地下数kmまでの深部構造を鮮明に捉えた地震探査断面を得るとともに,2004年及び2013年に実施した海底下浅部を対象とした地震探査データ(すなわち,上記bの海上音波探査)に基づき,佐田岬半島沿岸の堆積層内部の構造を明瞭に捉え,これらの探査結果に基づき,伊予灘の中央構造線及び中央構造線活断層系の分布及び活動性について検討を加えた。
地震探査概要
深部構造の検討に用いた地震探査データは,2004年に取得し
た音波探査及び屈折法探査データであり,このうち,深部音波探査は,エアガンを音源とし,48チャンネル,チャンネル間隔12.5mのマルチチャンネル方式で,屈折法探査は,同じくエアガンを音源とし,音波探査と同一の設定をした測線上の海底に,約1200~1700m間隔で合計9個又は10個の受振器を設置し,その直上を25m間隔で発振した。一方,浅部構造を検討目的の音波探査は,2004年及び2013年に行い,前者はウォーターガン及びブーマーを音源としたシングルチャンネル方式で,後者はブーマーを音源としたマルチチャンネル方式(8チャンネル,チャンネル間隔2.5m)で行った。
また,反射法データ処理のうち浅部音波探査については,マルチ
チャンネル方式で行ったものにつき,デコンボリューション,速度解析,CMP重合,マイグレーション等を行った。他方,シングルチャンネル方式で行ったものについては,適切なフィルタ設定と振幅調整を行い,記録断面を船上の記録器に直接記録した。


地震探査結果

深部地震探査結果
伊予灘海域の層序は,下位からS層(調査海域の南部に認めら
れる音響基盤),R層(調査海域の北部に広く認められる音響基
盤),Iz層(S層及びR層の上位に分布)及びN層(最上位に
広く分布し,連続性のよい概ね水平な反射面からなる。)に区分
される。共同研究においては,伊予灘東部,中部及び西部におい
て,それぞれ深部地震探査が行われているが,このうち本件発電
所敷地前面海域を含む伊予灘中部の地質構造は次のとおりであ
る。
S層上面は,断面南端の表層付近から測点番号450付近(高
橋ほか論文4頁下側の図面によれば,沖合い約8km地点に相当
する。)の深度2000m付近に向かって20度程度で北傾斜
し,その更に北方では傾斜角を30度程度に変えながら深度30
00m付近まで断続的に認められ,その間にR層の下位に潜り込
む構造を呈している。Iz層は,断面南端より約1km北方から
測点番号600(高橋ほか論文4頁下側の図面によれば,沖合い
約4km地点に相当する。)までの範囲では,深度200~40
0m付近にあり,ほぼ水平であり,更に北方では上面の深度を増
しながら,概ねR層とS層の会合部付近まで追跡される。Iz層
を覆うN層は,沖合の断層付近を除き概ね水平である。
R層とS層は,測点番号400~500付近(高橋ほか論文4
頁下側の図面によれば,沖合い約6.5~9km地点に相当す
る。)で会合し,それらの上面は両者の会合部で深度2000~
2500mに達する。会合部付近では,上位のN層中の反射面に
不連続や下位ほど傾斜が大きくなる系統的な撓みが認められるこ
とから,これらの不連続部及び撓みを断層と判断した。本件発電
所敷地前面の伊方沖の測線では,R層とS層の会合部付近(測点
番号440付近)に,ほぼ鉛直にN層を切断し海底面に達する2
条の断層を確認でき,これら2条の断層に挟まれた領域は相対的
に沈降する凹地状の構造を呈している。
また,これらの明瞭な断層の南方(伊方沖では,測点番号45
0~530(高橋ほか論文4頁下側の図面によれば,沖合い約
5.6km地点に相当する。)付近)にも,Iz層やN層の反射
面に不連続が認められる。これらの不連続部は,表層付近(海底
下300m程度以浅)のみを変位させる断層と,表層付近には変
位が達していない伏在断層とに分けられる。前者は高角度であ
り,後者は中角度から高角度の北傾斜で,北落ちの正断層成分を
持つと考えられる。

浅部地震探査結果
浅部地震探査は,上記Ⅰの伊方沖の測線と同一の測線上を伊予
灘南縁の佐田岬半島沿岸まで延伸して実施された。その結果によ
ると,測点番号1(断面南端)の深度約150mから測点番号1
6(沖合い約3kmの地点)の深度300m付近にかけて音響基
盤(R層及びIz層に相当)が認められる。音響基盤の上位に
は,音響基盤にオンラップするほぼ水平な反射面が認められ,N
層に相当する。測点番号25(沖合い約5kmの地点)より北側
のN層には,海底面まで達する反射面の不連続や下位ほど傾斜が
大きくなる系統的な撓みが認められ,上記Ⅰの海底面に達する断
層ともほぼ対応することから,断層と判断される。
沖合い約1~2kmまでの浅部地震探査を行ったブーマー・シ
ングルチャンネル方式音波探査及びブーマー・マルチチャンネル
方式音波探査の結果によれば,本件発電所の敷地前面に表層部が
10m程度削剥され,幅約1kmの海底谷が形成されているが,
その下位に認められるN層の明瞭な反射面は,ほぼ水平であるこ
とが認められる。



考察

伊予灘の深部地震探査断面における地質境界断層と活断層
前記⒝の探査結果によるS層は三波川変成岩類に,R層は領家
花崗岩類・変成岩類に,Iz層は和泉層群にそれぞれ対比され,
N層は新第三系統及び第四系統(鮮新統及び更新統である郡中層
及び大分層群並びにそれらを覆う沖積層)に対比される。
そうすると,前記⒝の探査結果は,三波川変成岩類の上面が佐
田岬半島沿岸から緩く北に傾斜し,伊予灘沖合いで領家花崗岩類
と会合し(この会合部の地質境界断層を,R/S断層とい
う。),伊予灘中部では,三波川変成岩類上面がさらに領家花崗
岩類の下位に延びる構造を示すものとなり,従来の伊予灘中部の
地震探査結果に基づく構造に関する報告や,伊予灘に隣接する別
府湾や四国東部における地震探査結果に基づく構造と類似する。
また,伊予灘においては,三波川変成岩類及び領家花崗岩類の上
位に和泉層群が分布し,三波川変成岩類と和泉層群が北傾斜する
地質境界断層(Iz/S境界)で接する。この地質境界断層が中
央構造線と認識されている。
一方,新第三系及び第四系には海底面まで変位を及ぼす複数の
活断層群が認められる。これらの断層は,中央構造線活断層系に
相当する。これらの断層の中には,他の断層と比較して変位の累
積が特に顕著で海底面まで達する高角断層が認められ,中央構造
線活断層系の主断層と考えられる。これら高角な主断層に挟まれ
た新第三系及び第四系には凸状や凹地状の構造が認められ,これ
らは中央構造線活断層系の右横ずれ運動に伴う隆起や沈降によっ
て生じた変形構造と考えられる。また,これらの主断層の下方延
長は,領家花崗岩類と三波川変成岩類の会合部付近に収斂してい
るようにみえることから,中央構造線活断層系の活動はR/S境
界の活動に関連している可能性がある。
伊予灘中部では,中央構造線活断層系の主断層の数km南側に
複数の断層が分布するが,このうち北落ちの正断層成分を持つ海
底面まで達しない伏在断層群は,これらと対応する変形構造が認
められないことから,これらの伏在断層群は少なくとも第四紀の
後半には活動していないと考えられる。上記伏在断層群の存在
は,現在の中央構造線活断層系を形成する右横ずれ成分主体の断
層活動ではなく,過去に北落ちの正断層成分主体の断層活動があ
ったことを示唆する。

四国北西部から伊予灘にかけての中央構造線の分布及び活動性
R/S境界上端は,厚さ2000~3000mの新第三系及び
第四系並びに一部では和泉層群に覆われる。その分布は,伊予断
層の海域延長付近から別府湾東部まで北東-南西方向にほぼ直線
的に延び,中央構造線活断層系の分布と概ね一致する。言い換え
れば,伊予灘における中央構造線活断層系は,海底面下約200
0~3000mにあるR/S境界上端付近から海底面までの堆積
層を高角に切る断層である。ただし,さらに深部では,中央構造
線活断層系の断層面がそのまま高角で三波川変成岩類を切断する
のか,R/S境界に沿って北傾斜の断層面に収斂するのかについ
て,今回検討した深部地震探査結果からは判断できない。
他方,Iz/S境界上端は,新第三系及び第四系に覆われる。
その分布は,大局的には海岸線に沿って北東-南西方向に延びる
が,直線性に乏しく大きく湾曲し,中央構造線活断層系の分布と
は対応しない。
また,Iz/S境界及びその南方への浅部延長となる三波川変
成岩類上面を覆う新第三系及び第四系はほぼ水平で,中央構造線
断層帯長期評価(第二版)においてIz/S境界が活断層である
可能性を指摘する根拠とした別府湾から豊予海峡で見られるよう
な強い変形構造は認められない。ただし,伊予灘東部及び西部の
沿岸部では,一部で活断層が指摘されており,これらは沖合の主
断層から分かれた分岐断層とも考えられるが,現時点では深部の
Iz/S境界の活動との関連性は明らかでない。
Iz/S境界上端付近を含む沿岸部では,新第三系及び第四系
は和泉層群及び三波川変成岩類をほぼ水平に覆っている。Iz/
S境界の浅部延長にあたる佐田岬半島北岸には,幅約1kmの海
底谷が認められ,その分布は豊予海峡北側の海釜付近まで達して
いるが,その下位の地層はほぼ水平で,活構造を示唆する累積的
な変形は認められないことから,この海底谷は潮流の作用により
形成された構造である可能性が高い。以上によれば,伊予灘中部
では,Iz/S境界に第四紀以降の活動はないと判断される。
このように,伊予灘の中央構造線活断層系より南側に位置する
Iz/S境界は,直線性に乏しく屈曲するという分布形態と第四
紀以降の活発な活動の痕跡が認められないという特徴を持つが,
これらの点は四国北西部の構造と共通している。
中央構造線断層帯長期評価(第二版)への改訂及びその記載内容
a
中央構造線断層帯長期評価(一部改訂)の記載内容
中央構造線断層帯における地下の断層面の傾斜は,東端部の金剛山地東縁では,深さ約300m以浅において西傾斜15~45°,和泉山脈南縁から紀淡海峡を経て淡路島南部に至る範囲では,深さ1kmよりも浅いところでは北傾斜15~45°,また,四国の讃岐山脈南縁では,地質境界が活断層の断層面であるとすれば深さ5km以浅では北傾斜30~40°と推定される。しかし,中央構造線断層帯(金剛山地東縁を除く)のような活動的な横ずれ断層の場合,力学的にみて一般には断層面の傾斜は高角度と考えられていることから,今後さらに検討が必要である。これより西側の石鎚山脈北縁から愛媛県西部に至る区間は地表及び海底付近に限れば高角であると推定されるが,地下深部については資料が得られていない。また,伊予灘では深さ2km以浅では高角度で北傾斜の可能性がある。
(甲792[23頁],乙38[23頁])
b
中央構造線断層帯長期評価(第二版)の記載内容
中央構造線断層帯の位置及び形態
中央構造線断層帯は,奈良県香芝市から愛媛県伊予市まで四国北
部を東西に横断し,伊予灘に達している。中央構造線断層帯はさらに西に延び,別府湾を経て大分県由布市に至る全長約444kmの長大な断層であるところ,過去の活動時期や断層の形状等の違い,平均的なずれの速度などから,全体が10の区間に分けられる。
その10区間は,①金剛山地東縁区間(約16km),②五条谷区間(約29km),③根来区間(約27km),④紀淡海峡-鳴門海峡区間(約42km),⑤讃岐山脈南縁東部区間(約52km),⑥讃岐山脈南縁西部区間(約82km),⑦石鎚山脈北縁区間(約29km),⑧石鎚山脈北縁西部区間(約41km),⑨伊予灘区間(約88km),⑩豊予海峡-由布院区間(約61km)である。
中央構造線断層帯は,全体として右横ずれを主体とし,上下方向
のずれを伴うが,断層帯の最東端の①金剛山地東縁区間では断層の西側が東側に対して相対的に隆起する逆断層で,断層帯の西端部の⑩豊予海峡-由布院区間では主として北側低下の正断層である。
(甲973[1,11頁],乙343[1,11頁])


中央構造線断層帯に関するこれまでの主な調査研究
中央構造線にほぼ沿う形で分布する活断層帯を中央構造線断層帯
と呼ぶ。中央構造線は西南日本を内帯と外帯に分ける重要な地質境界線であり,中生代後期以降,多様な断層活動を経てきたとされている。
第四紀後期には,ほぼ一様に右横ずれ成分の卓越する断層運動を
行っており,特に四国から紀伊半島西部にかけての地域では明瞭な断層変位地形が連続的に認められる。
本断層帯に関する物理探査,地形・地質調査として,伊予灘にお
いては,債務者による伊方発電所地盤(敷地周辺の地質・地質構造)について(乙119。以下四国電力(2015)という。)のほか,複数の研究グループによる調査が実施されている。(甲973[26,69頁],乙343[26,69頁])


中央構造線断層帯の評価結果
中央構造線断層帯(金剛山地東縁-和泉山脈南縁)における重点的な調査観測や別府-万年山断層帯(大分平野-由布院断層帯東部)における重点的な調査観測(以下別府重点調査という。)などの調査結果に基づき,構成断層の再評価や活動区間の再編を行った。この結果,地質構造が連続していることを根拠に別府-万年山(べっぷ-はねやま)断層帯の別府湾から大分県由布市湯布院町までの活断層を本断層帯の一部と見なし,さらに全体を10の活動区間に区分することとした。
別府-万年山断層帯の一部を本断層に含めた理由を詳述すると,
別府重点調査による別府湾内の反射法地震探査の再解析から,中央構造線断層帯と同様の構造が伊予灘から別府湾へと続くと判断されること,別府-万年山断層帯では震源断層として評価された別府湾海底断層群が,地震発生層ではその構造に収斂する二次的なものであることが構造探査から推定されたことなどによる。
そこで,別府-万年山断層帯の構成断層を平均変位速度でグルー
プ分けし,大在沖から別府湾南縁を通り朝見川断層で屈曲して由布院断層に至る一連の断層が従来の中央構造線断層帯に滑らかに連続することから,松田時彦最大地震規模による日本列島の地震分帯図(地震研究所彙報,65,289-319)の基準にしたがって,別府-万年山断層帯の一部を⑩豊予海峡-由布院区間として新たに評価を行った。これは,別府湾には別府-万年山断層帯を構成する断層が大分市内にも伏在することが指摘されていること,別府湾が湾奥周辺で最も深いこと,伊予灘から別府湾に跨がる大きな負の重力異常が存在すること等ともよく整合する。
伊予灘から豊予海峡を経て別府湾に至る地域では,中央構造線の
北側に新期堆積物によって充填された狭長な半地溝状堆積盆地が続くと推定されており,反射法地震探査をはじめ各種の物理探査が精力的に行われてきた。その結果,この堆積盆地は中央構造線の活動によって形成されたものであることが明らかになっている。
(甲973[27,30頁],乙343[27,30頁])


中央構造線そのものの活動
中央構造線そのものの活動に伴う断層についても検討しておく。
この点で別府重点調査の成果は重要である。H測線ならびに大野
川測線の反射法断面には,三波川帯と領家帯上面の接合部より浅部の中央構造線の上盤に位置する別府湾充填新期堆積層内にも強い変形が認められる。また,中央構造線直近でかつ中央構造線と同一方向の佐賀関断層もC級ではあるが活断層である。これらのことから三波川帯と領家帯上面の接合部以浅の中央構造線も活断層である可能性を考慮に入れておくことが必要と考えられる。伊予灘南縁,佐田岬半島沿岸の中央構造線については現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる。
(甲973[31頁],乙343[31頁])


中央構造線断層帯の断層の深部の傾斜角
中央構造線の特に②五条谷区間から⑨伊予灘区間における断層深部の傾斜角について,中角度(約40度)あるいは高角度(ない
し,ほぼ鉛直)と評価する点について,これまでに指摘された中角度および高角度の根拠と現時点での本断層帯の深部における傾斜角の評価は,次のとおりである。

中角度であるとする主張の要旨
伊予灘から別府湾にいたる地域で行われた多数の反射法地震探
査等の成果によって,中角度傾斜の中央構造線の活動による可能
性のある,現在の成長する狭長な半地溝堆積盆地の存在が確認さ
れている。盆地中央部を走る高角な中央構造線断層(活断層帯)
は下方延長で中央構造線を切断していない。さらに,中央構造線
の北側の堆積層に傾動沈降運動が認められるが,これは傾斜した
断層面の滑りに伴うロールオーバー構造と解釈される。地下深部
で中角度に傾斜した横ずれ断層面が地表付近で高角度になること
は,不自然ではない。また,GNSS観測に基づく地殻変動から
の傾斜角の推定では35~50°で北に傾斜する断層のモデル
が最適と推定されている。このことは中央構造線の物質境界が力
学境界であることを示唆するものである。


高角度である主張の要旨
高角度であるとする主張については次のとおりである。
トレンチ調査及びボーリング調査,反射法地震探査に基づくと
地表付近の断層の傾斜は高角度であり,しかも地表の断層のトレ
ースが直線的であることから,地表付近では高角度の断層が連続
していることを示している。地表付近の中央構造線断層帯が中角
度であれば,地表の起伏に伴って断層走向は変わるはずである
が,そのような事実はない。また,⑤讃岐山脈南縁東部区間における反射断面の結果から中角度の傾斜角が推定されているが,反
射断面から見える境界は地質境界を意味しており,活断層である
と断定できない。さらに,第四紀以降の上下方向のずれの向き
は,活断層のトレースに沿って北側低下と南側低下が混在し,典
型的な横ずれ断層の上下変異パターンを示しており,中角度の断
層面が純粋な横ずれ運動を生じるとの考えとは矛盾する。

地震本部の見解

中央構造線断層帯の傾斜角について,中角度か高角度かの判
断根拠がいくつかあるため,現時点では,両論を併記すること
とした。しかしながら,以下のような考察に基づき,中角度の
可能性が高いと判断した。
中角度とする説と,高角度とする説の双方とも,中央構造線
が地下深部まで中角傾斜であること,中央構造線断層帯(活断
層)が高角傾斜であることは両論とも一致している。議論が分
かれるのは次の2点である。第1に,高角な中央構造線断層帯
と中央構造線はどのような関係にあるかということである。第
2に,中角である中央構造線が横ずれ卓越の運動を担えるかと
いうことである。
第1の点については,反射法地震探査断面が多数公表されて
いるが,それらの中で高角である中央構造線断層帯(活断層)
が下方において中角である中央構造線を切断していることを示
す事実は確認されていない。第2の点については,1)中央構
造線は数千万年間以上にわたって断層活動を行ってきたと推定
され,断層の強度や摩擦係数等が他の断層よりも小さいと想像
される。2)35から50°で北に傾斜する断層モデルによ
り,GNSSによる地殻変動が説明可能であるという報告があ
る。また,実際に2013年にパキスタンで発生したバルチス
タン地震も最初の破壊が75°の傾斜角で,その後破壊が4
5°でほぼ純粋な横ずれをしたと主張する例もある。
中央構造線断層帯が下方において中角である中央構造線を切
断している事実が確認されないことと,400km以上にわた
る中央構造線に平行してごく近傍にのみ活断層帯が随伴する事
実は,中角である中央構造線の活動に伴って浅部における中央
構造線断層帯(活断層)が形成・成長しているという考えを支
持する。さらに中央構造線より南側の三波川帯や四万十帯など
の外帯には活断層はほとんど存在せず,その延長部が中央構造
線直下に分布することは高角の断層が形成しにくいことを示唆
している。
今後,中央構造線断層帯の深部における傾斜角についてさら
なる調査を実施する必要があり,その結果に基づいて,断層深
部の傾斜角を見直す可能性があることは留意されたい。

③根来区間や⑤讃岐山脈南縁東部区間の傾斜角は反射断面に基づいて比較的深部にわたるまで中角度と推定されているが,
世界でこれまでに生じた大地震のメカニズムや力学的見地か
ら,活動度の高い横ずれ断層が中角度で活動した事例はないた
め,その条件について検討する必要がある。
伊予灘区間では断層が海域に位置しており,陸域に近い沿岸
浅海域の調査も必要となる。本断層帯の深部での傾斜を最終的
に解明するためには,断層の深部延長をボーリング調査などに
よって直接確認することが望ましい。
(甲973・乙343[31~33,61頁])


震源断層の傾斜角の違いによる地震規模等の違い
中央構造線断層帯について,断層深部の傾斜角が中角の場合ある
いは高角の場合では,地震発生層の深さと幅,更に中央構造線断層帯の全体が破壊した際のMwの評価が異なる。
地震発生層の深さ,幅,地震規模において,高角の数値よりも中
角のそれが上回っている。これは,地震発生層の深さは,高角よりも中角の方が深い距離となり,幅においても高角よりも中角の方が幅は広くなり,地震規模も高角より中角の方が大きい。
地震規模では,断層帯全体(当麻断層から由布院断層)で,中角
の時はMw8.0であるが,高角の時はMw7.8である。
(甲973[13,14,33,72頁],乙343[13,1
4,33,72頁])

c
中央構造線断層帯長期評価(第二版)への改訂までの議論の経過
地震本部地震調査委員会の長期評価部会及びその下部組織である活断層分科会は,平成28年5月30日から中央構造線断層帯長期評価(第二版)への改訂に向けた議論を行い,その後,上記部会・分科会に評価文案が示され,平成29年10月31日に長期評価部会の承認を受けた。
また,この議論の中で,上記部会・分科会の委員から次のような発言がなされた。
(乙520,522の1~13,523の1~20)
平成28年5月30日に行われた第59回活断層分科会におい
て,委員の一人から,四国地域

を評価する際には,伊予灘など海域のデータが重要になる。前回の評価が公表されて以降,新たなデータが得られているはずである。

,別の委員から

四国電力のデータを用いる際には,それらの結果に依存せざるを得ないだろう。それ以外のデータは入手可能か。

との発言があったのに対し,事務局が

すべてのデータを網羅的に収集することは,時間的な制約もあるので難しいが,主要なものについてはできる限りのデータを参照するようにしたい。

と回答したところ,委員の一人から,

その際のデータは,公表されているもののみで良い。

との発言があった。
(乙523の2[参考資料1の14頁])


平成28年8月26日に行われた第61回活断層分科会におい
て,委員の一人から,

佐田岬のすぐ北側では,地質学的なMTLが活構造であると考えて良いということか。

との質問がなされ,別の委員が,

その通りである。盆地の形成過程を踏まえると活構造と考えて良い。

と回答した。(乙523の4[参考資料1の3頁])



平成28年12月16日に行われた第65回活断層分科会におい
て,委員の一人から,伊予灘の地質境界としての中央構造線が活断層である可能性について,

事実,伊予灘ではそのような事実を確かめるための調査を行っていない。松山の西側の海底では,産総研による調査によって活断層であるという報告もなされている。ただし,松山の南側は活断層ではない。

との発言がなされた。(乙522の4[参考資料1-2の4頁])



平成29年1月16日に行われた第226回長期評価部会・第6
6回活断層分科会合同会において,委員の一人から,伊予灘について。これは希望だが,中央構造線のなかでは,佐田岬ギリギリの地質境界の断層の四国電力の探査が終わっていないか,少なくともデータが公表されていない。いずれきちんとここを探査しないと,中央構造線の評価が終わらない。四国電力がやるのか他の機関がやるのか分からないが,探査データの決定的不足箇所であることを是非とも認識しておいて貰いたい。ここが断層であることは間違いないが,いつまで動いていたのかが中央構造線の評価全体にも大変重要。との発言がなされた。(乙523の8[参考資料1の6頁])
平成29年8月8日に行われた第73回活断層分科会において,
委員の一人から,

伊予灘付近の構造について,技術的に調査可能であるにもかかわらず,浅い部分や海岸付近の構造がわかっていない。今後は,より正確なデータを得るための調査が必要になるだろう。

との発言がなされた。(乙523の16[参考資料1-2の5頁])
d
債務者は,平成30年5月25日,使用済燃料乾式貯蔵施設の設置変更許可の申請を行った。同年10月19日に行われた規制委員会の第643回審査会合では,同申請に対する審査が行われ,規制委員会の審査官から,中央構造線断層帯長期評価(第二版)については,債務者が策定した基準地震動の評価には直接影響しないと判断しているのかと質問されたのに対し,債務者は,基準地震動策定の際に考慮した不確かさの中で織り込み済みである旨回答した。
その後,規制委員会は,債務者に対し,中央構造線断層帯長期評価(第二版)による中央構造線断層帯全体の断層長さの変更,断層区分の変更及び断層傾斜角の評価の変更が本件発電所の基準地震動Ssに影響するものではないことを改めて説明するよう求め,債務者は,検討・評価結果を取りまとめて規制委員会に報告し,平成31年4月19日に行われた第706回審査会合において,当該検討・評価結果が妥当である旨の了承を受けた。その際,規制委員会は,中央構造線断層帯長期評価(第二版)における佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査の必要性を指摘するとの記載については,特段の説明を求めることはなかった。
(甲1112,乙457,458)
e
規制庁は,令和2年3月4日付けで発出した中央構造線断層帯(金剛山地東縁-由布院)の長期評価(第二版)の知見に関する技術情報検討会の検討結果等についてと題する書面(甲1114,乙513)において,中央構造線断層帯長期評価(第二版)のうち佐田岬半島沿岸の中央構造線につき詳細な調査を求める旨の記載について,中央構造線断層帯の諸特性としてではなく,説明の部分に記載されているものであり,活断層と認定される根拠(引用文献)も示されていないことから,最新知見とは考えなかったと記載している。
規制委員会は,同日,上記書面の報告内容について審議を行い,これを了承したが,その際,規制委員会の委員の一人が,債務者から四国電力(2014)が提出され,その中に音波探査記録が多数含まれていたことから,この記録を見て活断層がないことを確認した。しかし,四国電力(2014)は,本件発電所に関する資料を取りまとめたまとめ資料(注・四国電力(2015)のこと)に入っていな
かったため,中央構造線断層帯長期評価(第二版)に引用されておらず,中央構造線断層帯長期評価(第二版)が策定される際,参照されなかったと考えられる旨発言し,規制庁の原子力規制部審査グループ安全規制監理官も同様の見解を示した。
(甲1114,乙431,513,514)

f
規制委員会は,令和2年9月16日,上記dの設置変更許可申請に係る審査の結果を審査書に取りまとめた。同審査書には,既許可申請の審査(本件原子炉に係る原子炉設置変更許可申請の新規制基準適合性審査)において,敷地前面の海底谷の地形調査,地質境界としての中央構造線が確認できる入り組んだ湾内部も対象にした海上音波探査等の結果から,敷地近傍には後記更新世以降の地層に変位を及ぼすような活断層が存在していないことを確認していたことから,中央構造線断層帯長期評価(第二版)における佐田岬半島北岸部の活断層の有無について調査する必要性を指摘する旨の記載を踏まえても,本件発電所の基準地震動Ssを見直す必要はないことが記載された。そして,上記dの設置変更許可申請は,同日付けで許可された。
(乙596,597)
中央構造線に関するその他の専門的な知見
a
四国長期評価の記載内容


評価地域の地質構造とテクトニクス
中央構造線は,和歌山県西部から四国を横断する長さ約500k
mの区間では,極近傍に並走する活断層群を伴っており,それを中央構造線断層帯と呼んでいる。
中央構造線断層帯(活断層)は中央構造線の上盤に形成されると
みられ,紀伊半島から四国中央部に至る多くの箇所で高角な傾斜であるが,下方延長が中央構造線を切断していない可能性が高い。別府湾から豊後水道での反射法地震探査の結果でも,高角の中央構造線断層帯(活断層)が地下3~4kmで北傾斜する中央構造線に到達するものの中央構造線を切断していないという解釈がなされている。震源断層としては中角度の中央構造線が活動し,それに伴って地下浅部で高角な中央構造線断層帯(活断層)が活動してきた結果であろう。
中央構造線断層帯は,紀伊半島から豊後水道付近までの区間で右
横ずれの活断層であるが,第四紀以降の累積的な上位変異は,伊予三島を境に東側では北側隆起,西側では別府湾や伊予灘,燧灘などの北側に相対的な沈降域が存在する。東部で北側隆起,西部で北側低下の垂直運動は,約70万年前以降の横ずれ運動が卓越する前に顕著に進行していたものと推定され,伊予灘から別府湾にかけては鮮新世以降堆積したと推測される地層が厚く分布している。
(甲972[6,7頁])


四国地域における活断層の特性
中央構造線断層帯のうち,伊予灘区間について以下のとおりとさ
れている(*は中央構造線断層帯の傾斜角が深部にわたり高角としたときの値)。


断層長さ

約88km



ずれの向きと種類



断層面の傾斜



断層面の幅



地震発生最下層の深さ
15km程度



右横ずれ(上下方向のずれを伴う)

高角度(深さ2km浅)
25km程度

*10~15km程度

D90あるいは地震活動

*10~15km程度

平均変位速度
1~2m/千年程度(右横ずれ)
0.2m/千年程度(上下,南側隆起)



1回のずれの量(最大値)
2m程度(右横ずれ)
(甲972[17頁])

b
全国地震動予測地図2018年版
地震調査委員会は,平成30年6月,中央構造線断層帯長期評価
(第二版)及び四国長期評価を踏まえて,全国地震動予測地図2018年版(以下予測地図(2018)という。)を公表した。予測地図(2018)では,中央構造線断層帯の震源断層の位置について,本件発電所敷地沖合い約8kmに分布する高角の活断層の地下深部(地下約2km)の領家花こう岩類と三波川変成岩類の会合部以深に存在すると評価した上で,その上端について地下約4km以深と評価している。
c
(乙443[223,224,227頁))

小松教授の見解
中央構造線,ハーフグラーベンについて

結論
中央構造線は,活断層であり,本件発電所敷地の600~80
0m沖を通り,東部で下灘-長浜沿岸活断層へ連続すると考えら
れる。沖合の中央構造線断層帯は,中央構造線のハーフグラーベ
ン運動により,副次的に形成されたと考えられる。


現在のハーフグラーベンを形成する正断層運動
ハーフグラーベンは,基本的に正断層が生じるような伸張場,
つまり,引っ張りの力が掛かる応力場で生じるものである。別府
湾の反射法地震探査の記録から,別府湾においてハーフグラーベ
ンが形成されており,中央構造線が再活動していることが明らか
になった。別府湾,伊予灘は,現在,正断層ができて,ハーフグ
ラーベンができる場であるから,これは正断層の伸張の場という
ことができる。
伊予灘区間の中央構造線について,中央構造線断層帯長期評価
(第二版)の考え方に反して,右横ずれではなく正断層だと考え
ているわけではない。私が主張しているのは,主として正断層成
分を持つ断層であるということである。四国・九州ブロックは,
西側にずれながら反時計回りに回転しているから,断層が横ずれ
成分を持つのは当然である。
中央構造線が後期更新世以降に活動していることをうかがわせ
るものは,四国電力(2015)の図には直接的にはない。た
だ,堆積盆の中にある多くの活断層は,中央構造線の運動によっ
て付随してできたと解釈しており,これが活断層である限り,中
央構造線も活断層であると間接的ではあるが考えている。
ハーフグラーベンを形成するような運動が現在も続いているこ
との間接的な根拠として,沖合の活断層が現在の沖積層(A層)
を切っているということが挙げられる。その活断層は中央構造線
が動いてできたものであるから,この中央構造線は活断層であろ
うと間接的ではあるが考えている。
中国電力によるボーリング調査の結果からすれば,伊予灘堆積
盆の堆積作用は70万年前を境にした変化はなく,鮮新世末(3
00万年前)のハーフグラーベンの形成初期から現世まで一貫し
てほぼ一定の速度で沈んでいることが明らかである。
したがって,伊予灘においては,70万年以降もそれ以前と同
様に北側低下の垂直運動が行われており,300万年前から一貫
して中央構造線を主断層とするハーフグラーベンの形成運動が継
続し,現在も活動を続けている,すなわち,地質境界としての中
央構造線は活断層である。

重量異常調査
重力異常に関する調査によって,別府湾から伊予灘までの地下
構造が連続しており,伊予灘においてもハーフグラーベンが形成
されており,中央構造線が再活動していることが明らかになっ
た。


両端が活断層
中央構造線の九州側では,佐賀関断層という活断層が地震本部
によっても示されている。構造的な連続性が確認される別府湾か
ら伊予灘にかけての地質境界としての中央構造線は,両端が活断
層であるから,常識的にその全体が活断層であると合理的に推測
できる。
佃氏は,本件発電所敷地前面海域の東側にある長浜―串断層に
ついて,沖合いにある中央構造線断層帯の分岐断層であるという
が,これは表面分布に基づく一つの解釈に過ぎず,証拠に乏し
い。むしろ,深部において見出された中央構造線の上部にそのま
ま延長すれば長浜-串断層に合体するのであるから,上記の解釈
のほうが理に適っている。


債務者の調査について

結論
債務者は,音波探査によって佐田岬半島沿岸部には活断層はな
いことを確認したと主張をしているが,この調査によって,佐田
岬半島沿岸の中央構造線が活断層ではないことは証明されておら
ず,ボーリング調査などのさらに詳細な調査が必要である。


音波探査について
四国電力(2014)の図を見ると,図の右側の斜面(海岸か
ら続く坂,斜面)の上には,崖錐性の堆積物がたまっている可能
性がある。どのような堆積物で覆われているかは,これでは分か
らない。債務者がD層と認定した堆積層が本当にD層かどうか分
からない。
四国電力(2014)の図によっても,佐田岬半島沿岸部にお
いては,音響基準層(B層)が何に覆われているのか認定でき
ず,沖積層(A層)は削れてしまっており,音波探査によって
は,中央構造線の活動の痕跡の有無は判断できない。
加えて,債務者による音波探査は,海水部分に由来する多重反
射が顕著であることなどから,最低限でも,SRME等の実効性
が確認されている多重反射除去処理が適用されない限り,十分な
精度をもって検討できる資料とはいえない。より精度の良い音波
探査やボーリングによる直接の確認が必要である。

ボーリング調査について
活断層である中央構造線が海底に顔を出す部分を覆っている堆
積物が何かを認定するために,ボーリング調査の必要がある。
これが沖積層(A層)であれば,沖積層がたまったといえ,約
1万7000年前以降は活動してないと証明される。また,D層
の上部を覆っているとすれば,更新世後期以降,動いていない可
能性がある。これに対し,崖錐性の堆積物であれば,動いてない
ということが証明できないことから,これは活断層の可能性が十
分残るということになる。


高橋ほか論文について
高橋ほか論文は,新たに海上音波探査を実施して執筆されたも
のではなく,債務者が行った海上音波探査の結果をもとに見解を
述べたものに過ぎず,特に,想定される中央構造線に対して斜め
方向の一つの測線のみを取り上げて結論を出しているが,この測
線は,敷地の主要な南北の断層が活断層かどうか,海域まで延長
しているかを見るために,その断層の延長に直交する方向で探査
されたものに過ぎない。上記測線で正当な評価ができるかは疑問
であり,他の研究において串沖断面で見出された活断層を記入し
ていないことからも,その信頼性は高くない。
なお,債務者及び高橋ほか論文は,反射法地震探査記録の解釈
を示す図において,地質境界としての中央構造線の下に堆積層を
示す反射面が存在するかのような解釈線が記載されている。しか
し,地質境界としての中央構造線の下は三波川変成岩類であり,
その中に堆積層が存在するはずはなく,この解釈線は誤りである
から,上記解釈線に基づく債務者の主張や高橋ほか論文の知見
は,出発点において誤りがある。


ダメージゾーンについて
佐田岬半島北岸部の沖合いすぐの海底には直線的な深い谷があ
り,断層を示す崖であろうと考えられる。中央構造線のダメージゾーンに位置している本件発電所付近の佐田岬半島を現地調査した結果,数多くの正断層を発見した。5年間にわたり調査を続けたところ,このような正断層(ガウジ断層)は,佐田岬半島北岸に普遍的に存在することが判明したが,副次的断層群の階層や密度に違いがあり,複雑かつ高密度に断層群が存在するのは北岸の中央構造線に沿うと考えられる部分だけであった。そして,これらの断層は粘土を挟んでいたことから新しい時代に再活動していることが分かる。ダメージゾーンは,震源数百mにわたって多くの断層を作り,岩
石自体も細かいダメージで割れているから,強度が落ちている。したがって,中央構造線が深部で地震を起こせば,ダメージゾーンの断層は大きく変位をし,地震波は弱いところで強度が大きくなるというふうに考えられるから,ダメージゾーンの上にある本件発電所は大きな打撃を受けると考えられる。
また,本件発電所敷地及びその周辺を含む佐田岬半島東部には北
北西方向の並列する鋭いリニアメントが密に存在するところ,リニアメントの海岸への出口は断層であることが一般的であり,リニアメントが断層であることを示している。リニアメントの湾入部は,断層群の集中しているゾーンに相当し,そのために崩壊・削剥を受けたものと考えられる。この湾入部の海底には,海底扇状地状のマウンドが形成されているところ,陸上下線からもたらされた土砂の流下によって形成される通常の海底扇状地のように,表面に樹脂状の海底谷は認められず,盛り上がりも著しいことから,このマウンドは,円弧滑りによって崩落した岩塊や土砂が一気に堆積して形成されたものと推定される。本件発電所北西端の敷地前面は落差45mの急崖となっており,その基底部に中央構造線が通っているところ,この中央構造線が正断層運動を起こすと,地震動にも誘発されて大規模な斜面崩落が発生する可能性が高い。


佐田岬半島の地形発達史の問題
佐田岬半島,伊予灘,宇和海は300万年前以前は共に九州まで
連続する陸地であり,伊予灘と宇和海はそれ以降に沈み始めたことが知られている。特に,伊予灘は3000mに及ぶ深い堆積盆をなすが,この堆積盆は南へ深く北へ浅くなるハーフグラーベンをなしており,300万年前以降に再活動した中央構造線がハーフグラーベンを形成する境界断層として活動したことによるものと考えられる。また,佐田岬半島には無数の線状及び面をなす断層地形があ
り,多くのところで崩壊が起こっている活構造帯である。
債務者は,伊予灘のハーフグラーベン,本件発電所の敷地が中央
構造線のダメージゾーンにあることを否定し,周辺の断層はすべて古い時期に形成されたもので活断層ではないというが,佐田岬半島の地形の形成過程,300万年前以降の活動史を解明し,本件発電所の安全性が確保されているかどうかを確認すべきである。例え
ば,佐田岬半島北側沿岸には深く削り取られた崖があるが,この部分の海底地形は,最終氷河期が終わった後の地形(完新統堆積前の基盤面の地形)からほとんど変わっていないことから,潮流によってできた海底谷ではなく,佐田岬半島北岸すれすれに走る中央構造線の活動によるものである可能性がある。また,ガウジ断層が北岸最前線から2~3km離れた地点にも存在すること,断層と思われる直線的リニアメントの分析(複合する断層のどれがリニアメントの主体であるのか,また,これらの断層が活断層であるか否か)が十分行われていないことなどからすると,債務者によるこれまでの調査では不十分である。
(甲885,974,995~997,1105,1217,小松教授の証言)
d
早坂准教授の見解
中央構造線,ハーフグラーベンについて
別府湾-伊予灘地域は第四紀に中央構造線を主断層とするハーフ
グラーベンを形成している。いわゆる中央構造線断層帯は,ハーフグラーベン形成時に副次的に形成されたものであり,そのほとんどは深部で基盤に達していない。
本来の中央構造線は本件発電所敷地の600~800m沖付近を
通る。
伊予灘中央構造線の両端は活断層であることがわかっており,全
体が活断層である可能性が高い。伊予灘中央構造線の地表地域に高角度の活断層が発生している可能性もある。


債務者の調査について
四国電力(2013)及び四国電力(2014)は,検討が不十
分であり,本件原子炉を直ちに停止させ,調査をやり直すべきである。
四国電力(2013)では,海上音波探査が行われているもの
の,本件発電所敷地から6~8kmの沖合にある中央構造線断層帯だけをターゲットとして調査している。
四国電力(2014)では,伊予灘南縁の海底地形図が空白とな
っており,中央構造線を考慮していない。


ダメージゾーンについて
佐田岬北岸は,中央構造線のダメージゾーンに位置しており,中
央構造線のダメージゾーンでは巨大な深層崩壊が起こっている。

(甲613の2)
e
奥村教授の見解
中央構造線の震源断層の位置について
中央構造線断層帯長期評価(第二版)において,本件発電所敷地
周辺の伊予灘における活断層に関しては,四国電力(2015)に示されている佐田岬半島北岸の沿岸部も含めた詳細な音波探査等に基づき,敷地の沖合約8kmの地点に活断層を設定しており,佐田岬半島北岸の沿岸部には活断層を認定していない。
佐田岬半島沖沿岸すれすれを活断層が走るとする小松教授の
意見は中央構造線断層帯長期評価(第二版)には採用されておら
ず,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の結論としては,本件発電所の敷地沿岸部に活断層が存在するとは評価していない。中央構造線断層帯長期評価(第二版)への改訂は,小松教授の意見を受けてなされたものではない。


(乙344[3頁])

中央構造線の震源断層の傾斜角について
中央構造線断層帯の断層深部の傾斜角については,委員によって
意見が分かれており,傾斜角が中角度(北傾斜)か高角度かの判断根拠がいくつかあるため,今回の改訂では両論が併記され,中角度(北傾斜)である可能性が高い旨の記載がなされた。もっとも,決して,断層傾斜角を高角度とする見解が否定されたわけではなく,今後,より精緻なデータが拡充されれば,断層深部の傾斜角を見直す可能性がある。


(乙344[4頁])

債務者の調査について
債務者は,中央構造線断層帯に関して,本件発電所敷地が位置す
る佐田岬半島の沿岸部も含めた詳細な調査を行っていることから,債務者による活断層の調査・評価は,新規制基準に照らしても十分なものと考えている。
四国電力(2014)で示されているように,佐田岬半島の沿岸
部では,四国電力をはじめ産業技術総合研究所,国土地理院,大学グループなど各調査機関により,調査対象深度及び分解能の異なる各種の音源を用いた音波探査が実施されており,音波探査測線は,佐田岬半島北岸を形成する複数の湾入部を含む海陸境界付近まで実施されている。
四国電力(2014)による音波探査では,佐田岬半島北岸の沿
岸部も含めた海陸境界付近までの活断層の有無を判読できる明瞭な記録が得られており,四国電力(2014)に示された音波探査記録だけでなく,調査で得られた数多くの音波探査記録を確認した
が,それらの音波探査記録から判断すると,佐田岬半島北岸の沿岸部に活断層は見当たらないと結論づけることができる。
中央構造線断層帯長期評価(第二版)の現在までのところ探査がなされていないという記載は,四国電力による詳細な音波探査が実施されていることを見落としたまま主張された内容が,一つの見解として,付随的な意見として残されたものである。佐田岬半島北岸の沿岸部においては,四国電力によって詳細な音波探査がなされているのであるから,この事実の認識が確実に共有されていればこのような記載は残されなかったものと考える。
(乙344[1,5頁])
f
山崎教授の見解
中央構造線の活断層の位置等

結論
中央構造線断層帯長期評価(第二版)において,本件発電所敷
地周辺の伊予灘における活断層に関しては,佐田岬半島の沖合約
8kmの地点に活断層を認定しており,佐田岬半島には活断層を
認定していない。
地震調査委員会長期評価部会の委員の立場からすると,中央構
造線断層帯長期評価(第二版)への改訂は,小松教授の見解を受
けてなされたものでもなければ,同教授の見解と一致するもので
もない。


(乙442[1,2,4頁])

ハーフグラーベンを形成する正断層運動
中央構造線断層帯長期評価(第二版)の認識は,現在の伊予灘
においては横ずれ型の断層運動が卓越しているとの知見を前提に
している。その横ずれ型の断層運動を担っている震源断層が,横
ずれ型の断層運動に適した鉛直に近い高角の震源断層であるの
か,それとも断層の強度や摩擦係数等が他の断層より小さい等の
理由により中角度で傾斜した地質境界断層がそのまま震源断層と
して横ずれ型の断層運動を担うことができているのかという点で
決着が付いていないために,両論を併記しているが,現在の伊予
灘において,横ずれ型の断層運動が卓越していることや,地下浅
部において中央構造線断層帯が高角傾斜であることについては,
両論とも一致している。伊予灘の活動センスはあくまで右横ずれ
であり,正断層成分が含まれるとしても相対的にわずかなものに
とどまるため,小松教授のいう伊予灘全体にわたるハーフグラー
ベンの成長を基礎づけることはできない。
(乙442[3,4頁])

両端が活断層であることについて
小松教授は,佐田岬半島沿岸部の中央構造線の地質境界の両側
に下灘-長浜沿岸活断層と佐賀関断層という活断層があ
るから,それに挟まれている佐田岬半島沿岸部も活断層であると
いう見解を述べておられるようだが,両端が活断層であればその
間も活断層であるというのは,あまりにも乱暴な議論である。活
断層に挟まれている領域であっても,その区間が活断層であるか
どうかは一概にいえないので,きちんとその区間のデータを吟味
して,活断層であるかどうかを判別する必要がある。
(乙442[15頁])


重力異常図
小松教授は,重力探査の結果得られた重力異常図から,佐田岬
半島沿岸部に重力異常の急変部が存在しており,活断層が存在す
ることが強く疑われるとの見解を述べておられるようだが,重力
異常図から分かるのは,あくまで地下の密度差であって,活断層
を直接判別できるわけではない。もちろん,地下の密度が変化す
る場所には,活断層が分布することもあるが,伊予灘では活断層
の位置について言及するほどの分解能が重力異常になく,中央構
造線断層帯長期評価(第二版)も重力異常から活断層を直接的に
評価するようなことはしていない。



(乙442[17頁])

債務者の調査

結論
四国電力による佐田岬半島沿岸部の活断層調査・評価は十分な
ものであり,佐田岬半島沿岸部に活断層は存在しないと評価でき
る。
中央構造線断層帯長期評価(第二版)の三波川帯と領家帯上面の接合部以浅の中央構造線も活断層である可能性を考慮に入れておくことが必要と考えられる。伊予灘南縁,佐田岬半島沿岸の中央構造線については現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる。という記載については,四国電力による詳細な調査を踏まえた記載ではない。奥村教授が,四国電力による詳細な音波探査
が実施されていることを見落としたまま主張された内容が残った
記載であるとの意見を述べられているようだが,私としても,そ
のとおりであろうと思う。

(乙442[4,5,18頁])

音波探査記録
四国電力から,佐田岬半島沿岸部において実施された音波探査
の記録(四国電力(2014))を見せてもらったが,中央構造
線断層帯長期評価(第二版)が求める詳細な調査は,既にな
されており,実際には佐田岬半島沿岸の地下浅部に活断層はない
といえると思う。地震本部は基本的に学術論文を評価対象として
いるために原子力発電所の審査資料(特に,正式な審査会合では
なくヒアリングの資料)として示された四国電力による調査が正
確に考慮されていない面があるが,その調査自体は我々研究者が
調査するのと同様の信頼できる調査機関によって学術研究と同レ
ベルの精度で行われたものであり,その成果は学術論文でなくと
も評価対象として採用できるものである。
伊予灘では,四国電力のほか,国土地理院,大学研究グルー
プ,産業技術総合研究所といった各種機関が極めて密に音波探査
と音響測深探査を実施し,表層の断層分布と浅部地下構造の関係
を容易に連続的に認識できるような情報を取得することで,その
調査データを基に断層の三次元的な連続分布の精密な情報を得て
いる。
小松教授は,四国電力(2014)で示された図のA層やD層
が崖錐性の堆積物である可能性があると主張しているようだが,
崖錐性の堆積物とは考えられない。なぜなら,当該地点を覆うD
層中には層理を有する堆積物であることを示すほぼ水平な反射面
が見られ,この反射面を同断面のさらに沖合部や隣接する断面に
も追跡できることから,一般に無層理で急傾斜地に局所的な分布
を示す崖錐性の堆積物ではないことが分かる。
四国電力による音波探査図のY-10W及びC-6B並びに図
のC-9Bの断面を見てみると,三波川変成岩類の上を堆積層が
ほぼ水平に覆って分布しているのが観察され,これは三波川変成
岩類の上面が活断層として活動していないことを明確に示してい
る。
また,沿岸部に海底谷(凹地状の地形)が認められるが,凹地
状地形の下位層であるD層に全く変形がないことから活断層では
なく,この地形は沿岸流によって削剥されて形成されたものと考
えられる。さらに,活断層の認定根拠の一つとしての変位の累積
性の観点からも,沖合の活断層帯ではA層,D層と比較してT層
が大きく変位しているが,沿岸部ではそのような変位の累積は確
認できず,三波川帯上面と堆積層が断層関係ではなく不整合関係
にあることがわかる。小松教授がいうように沿岸に正断層の活動
があるとすれば,扇型で南へ向かって深くなる変位の累積が認め
られるはずだが,そのような傾向も認められない。これらの地質
学的(地球物理学的)事実は,佐田岬半島沿岸部に分布する三波
川帯上面と堆積層の境界(中央構造線の延長部)が,活断層では
ないことを示している。
(乙442[5,6,8,12,13,16頁])

ボーリング調査
音波探査だけでなく,ボーリング調査をするべきだとの小松教
授の見解については,ボーリング調査をして地質境界を含む資料
を採取したところで,活断層かどうかは判断できない。中央構造
線断層帯長期評価(第二版)のボーリング調査などによって直接確認するのが望ましいとの記載は,深部の断層傾斜角を確定するためにボーリング調査の実施が望ましいとしているのであっ
て,活断層の存否を確定するためにボーリング調査が望ましいと
はしていない。
四国電力(2014)では,詳細な(音響)層序区分が行われ
ている。この層序区分は,伊予灘東部海域で行われたボーリング
調査の層序及び周辺陸域の地質分布との対比から推定される地質
年代を,全音波探査断面に適切に反映したものであり,電力中央
研究所,国土地理院,産業技術総合研究所といった他の機関の区
分とも整合した妥当なものといえる。
(乙442[8,15,16頁])



ダメージゾーンについて
小松教授は,佐田岬半島北岸の岩盤に多数の破砕帯や断層粘土が
見られるとして,中央構造線のダメージゾーンに当たり,沿岸に活断層が存在しているとの見解を述べておられる。
しかし,岩盤は,長い年月を経る過程で多くの傷が生じるもので
あり,古い岩盤であれば破砕帯はどこにでもある。そして,活動を停止してから何百万年も何千万年も経過しており,既に固結している破砕帯であっても,地表に現れて雨水に晒されるなどすれば,破砕帯に水分が染み込んで粘土状になることもよくあることであり,破砕部が粘土状だからといって活断層であるとはいえない。
陸域の活断層の調査においては,まず空中写真を用いて活断層の
疑いのある地形を判読し,現地で地形と対応する破砕帯と地形・地層の変位の累積性の有無等を確認し,それを詳細に分析するのが一般的なアプローチである。
g
(乙442[17頁])

芦田教授の見解
二次元反射法地震探査は,震源と受振器を直線状に並べて反射し
てくる地震波を捉えるもので,得られる情報は測線直下の地質情報に限られるため,面的な連続性を捉えることはできないし,測線間隔も粗いため,断層を正確に把握することはできない。二次元反射法地震探査においては,縦横に相当数の測線を組まないと,二次元の地下構造図すら描くことはできず,もとより断層の連続性や落差に関するデータを得ることはできないが,これまでの海上音波探査では交叉測線がなく,ただ一本の測線を用いた二次元探査しか行われていないから,三波川層と領家層の広域にわたる地下構造図及び断層の位置・落差を示す図面を描くことはできない。
また,受振したデータには,直下から反射して戻ってくる波のほ
か,直下でない周囲から反射して戻ってくる波が含まれるにもかかわらず,これらを全て直下からの反射として処理するため,不正
確,場合によっては誤って解釈してしまうことがある。
加えて,債務者の行った二次元反射法地震探査は,透過深度が浅
く,深部の解釈において参考にならない上,重複反射によるノイズを抑えるためのCDP重合が不足している(石油探査の場合は重合数が100を超えるのが通常であるのに対し,債務者による重合数は8に過ぎない。)ため,重複反射を除去できておらず,不正確なものとなっている。重複反射を除去するには,その周期的な繰り返し時間を用いて予測デコンボリューション処理を行う方法,CDP重合の重合数を多くする方法のほか,最近では,小松教授も指摘するSRME法が開発されている。SRME法は,共通発振点記録の受振点と共通受振点記録の発振点の位置が一致するように受振記録を選び,これをもとに多重反射波を合成して,取得記録からこの多重反射波を減算して除去する方法である。
このことは,高橋ほか論文においても同様であり,深部調査では
CDP重合数は12,浅部調査では8に過ぎないが,地下調査で
は,最近は50重合程度が常識である。


三次元反射法地震探査は,多数の震源と受振器を,調査地域を取
り囲むように面的に配置し,調査地域全域に反射点を配置してデータを取得する手法である。得られたデータを計算機によって映像化することにより,地層の境界や断層の傾斜,落差等について,面的な連続性等を捉えることができる。原子力発電所のような重要な施設の地下構造を調査する際には,三次元反射法地震探査を用いるべきである。
(甲1102,1126,1216)

h
榊󠄀原教授の見解
中央構造線(地質境界)が活断層であるか否か
中央構造線(地質境界)と中央構造線断層帯との関係は,四国中
央部では地表で両者がほぼ一致しているが,四国西部陸域では中央構造線断層帯が中央構造線よりもはっきりと北側に離れて位置している。領家帯と三波川帯の地質境界断層が中央構造線として定義されているが,四国地域では領家帯が領家花崗岩類と和泉層群に分けられるため,和泉層群と三波川帯の地質境界(以下Iz/S境界という。)が中央構造線となるところ,Iz/S境界の表層から地下浅部にかけては北傾斜20~30度程度の低角な断層面を有している。また,地質学的な調査研究によれば,Iz/S境界は少なくとも第四紀以降(約260万年前以降)活動していないことが示されており,変動地形学的にも中央構造線付近には活断層地形が認定されていない。一方,地下数km以深では,領家花崗岩類と三波川変成岩類の境界としての中央構造線(以下R/S境界とい
う。)が北傾斜約40度の中角度をなしている。
伊予灘海域においては,領家花崗岩類と三波川変成岩類が接合す
るR/S境界上端付近において,堆積物を海底面まで切る高角断層が中央構造線断層帯であり,中央構造線,すなわち,Iz/S境界は,和泉層群と三波川変成岩類の境界が20度程度の低角で北傾斜する構造をなしているが,Iz/S境界と対応する活断層は認められない。
海域と陸上を統合した地質構造をみると,平面的にみてR/S境
界は直線的で,横ずれ断層に特有の直線的な分布を示す中央構造線断層帯の位置とほぼ一致しているのに対し,Iz/S境界は直線性に乏しく大きく湾曲しており,活断層の分布と一致しない。
そして,上記のとおりIz/S境界の傾斜角が海域で約20度,
陸上で約20~30度と低いところ,横ずれ運動が卓越する中央構造線断層帯では高角の断層が生じやすく,低角のIz/S境界では横ずれ変位を担うことができないため,R/S境界からショートカットして北側に高角の断層が現れていると考えられる。
伊予灘で行われた海上音波探査記録によっても,沿岸から約5~
8km沖合いの中央構造線断層帯による堆積層の累積的な変形が認められ,海底面まで高角断層による変形が及んでいる一方,中央構造線断層帯より沿岸側では,堆積物はほぼ水平に和泉層群を覆って三波川変成岩類に達しており,Iz/S境界上端付近を含め,基盤岩を覆う堆積層に断層運動を示唆するような変形が認められないことから,地質境界であるIz/S境界は活断層でないことを確認できる。


債務者による海上音波探査の評価
伊予灘海域では,債務者のほか,国土地理院,大学研究グルー
プ,産業技術総合研究所といった各種機関によって,膨大な数量の海上音波探査が実施されている。特に,佐田岬半島沿岸部において債務者が実施した探査測線は,入り組んだ湾状地形の中まで達しており,仮に沿岸域において断層があれば,十分に把握可能である。また,債務者による測線の密度は,債権者らが活断層の存在を主張するに当たり参照している国土地理院による調査の際の測線密度と比べても高いことから,測線密度としても十分である。
(乙518)

i
金折氏の見解
佐田岬半島北岸が中央構造線のダメージゾーンではないこと
断層は必ず破砕帯を伴っており,破砕帯は断層ガウジと断層角礫
を含む断層コアから構成され,それらをダメージゾーンが取り囲んでいる。ダメージゾーンでは,断層コアに近づくほど割れ目の密度が高くなる傾向があり,母岩より割れ目の密度が高いことから,断層コアからの距離と露頭での割れ目密度の関係をプロットすることでダメージゾーンの範囲を定量的に認定できる。
佐田岬半島において露頭を調査し,その割れ目頻度と中央構造線
からの距離の関係をプロットしたところ,割れ目の密度・頻度はいずれも中央構造線からの距離に依存しておらず,両者に相関は認められなかった。また,佐田岬半島における露頭の割れ目頻度は,他の地域におけるダメージゾーン内の割れ目頻度を大きく下回っていることからも,佐田岬半島北岸が中央構造線のダメージゾーンではないと判断することができる。
以上に反する小松教授・早坂准教授の意見は,割れ目頻度による
ダメージゾーンの定量的な認定が行われておらず,上記判断を左右するものではない。


佐田岬半島北岸の海底ボーリング調査の要否
佐田岬半島北岸においては,債務者をはじめとする各種機関によ
って膨大な数量の海上音波探査が行われ,地下における三次元的な変形構造を詳細に把握するのに十分なデータが取得されていることから,伊予灘における中央構造線断層帯による堆積層の変位・変形は明瞭に把握できている。これによれば,本件発電所前面の佐田岬半島北岸に活断層がないことは明らかである。
このように,海域の活断層調査では海上音波探査によって活断層
を認定することが可能であり,海底ボーリングは海上音波探査で得られた断面に上載地層法を適用する上で必要な地層の年代を把握するため,補助的な位置づけで行われているものに過ぎない。約12万年前以降に活動性を有する活断層の分布を把握するという目的からすると,約100万年前以前からの堆積層を切る断層すら認められない佐田岬半島北岸で海底ボーリング調査を行う理由はない。
また,水深約60m以上の海底下にある軟らかい堆積層と硬い三
波川変成岩類との境界部の細かな構造まで乱すことなく資料を採取することは現実的には至難の業であるから,そもそも海底ボーリングでは不整合か断層かの判別はできないし,断層内物質から活断層か否かを判定する技術は未だ確立されていない。
(乙519,594,665)
j
佃氏の見解
佐田岬半島北岸のダメージゾーンについて
佐田岬半島北岸にあるカタクレーサイトは,部分的で薄く,断層
ガウジや顕著な破砕帯は認められず,また,大きな構造でもない
し,中央構造線の位置する海側に向かって変形が顕著となる状況も認められない。更に,そもそもカタクレーサイトは地下深部で動いた断層が高温高圧の環境下で固結して岩石となったものであり,このように古い地質時代の断層運動の痕跡が地表にあることが活断層の証拠となるものではない。加えて,本件発電所敷地内における深さ2000mまでの深部ボーリングコアの観察においても,浅部から深部まで堅硬かつ緻密な結晶片岩が連続していることも考慮すると,佐田岬半島北岸にダメージゾーンがあるとはいえないし,仮にそれがあったとしても,地質境界としての中央構造線が活断層であることの根拠にはなり得ない。


喜多灘~串沿岸の活断層について
喜多灘~串沿岸の活断層が地質境界としての中央構造線の近くに
位置することは否定しないが,横ずれ断層に特徴的な引きずり込み構造を伴っており,ハーフグラーベン南縁の正断層では説明できないことからすると,これは沖合いの主断層系から分かれた分岐断層に過ぎず,中央構造線の本体とは認められない。また,佐田岬半島北岸は喜多灘~串沿岸のずっと西側にあり,喜多灘~串沿岸の活断層の存在が佐田岬半島北岸に活断層があることの直接的な根拠となるものではない。


債務者による海上音波探査
佐田岬半島北岸の海岸線は入り組んでおり,その湾内まで入った
調査が行われていることから,佐田岬半島北岸を東西に通過する活断層があるならば,それは湾内にまで入る測線の範囲に確実に含まれることになる。また,同一測線で音源としてチャープソナーとブーマーの両方の探査を実施することを基本としており,このように複数の探査を組み合わせることにより,堆積層中の反射面が更に明瞭になり,かつ,より深部の堆積層(D層やT層)内部の構造や基盤岩(B層)の上面形状まで詳しく判読することができる。
加えて,債務者が平成25年に行った海上音波探査では,8つの
受振器で捉えた反射波を重合する(複数個の記録を足し合わせることで信号を強調するとともにノイズを低減する)技術(ショートマルチチャンネル)を用いることにより,従来の手法(シングルチャンネル)による音波探査よりも大きな探査深度で高解像度の音波探査記録が得られるようになった。なお,複数の受振器を用いるマルチチャンネル方式といわれる調査方式自体は,従前からあったものの,通常は長大なケーブルを大型の調査船から曳航する必要があるため,佐田岬半島北岸部のような沿岸部まで接近して調査を行うことはできなかったが,ショートマルチチャンネル方式であれば,沿岸部の調査も可能である。
このように,佐田岬半島北岸部では,堆積層中の構造を判読でき
る非常に高解像度な音波探査記録があり,かつ,測線の端まで堆積層が基盤岩を覆っているので,仮に断層があれば,堆積層の変位・変形を見逃すことなく読み取ることができる。そして,上記音波探査記録によれば,堆積層(D層,T層)に変位はなく,正断層運動に対応する,地層が南側へ傾く特有の堆積構造が認められないし,約100万年前以前の地層を含むT層までを含めて,堆積層を切る断層が全く認められないことから,活断層を示す痕跡があるとはいえない。
(乙520)
k
上田氏の見解
伊予灘における海上音波探査について
伊予灘においては,債務者が自ら詳細な海上音波探査を行ってい
ることに加え,国土地理院,大学研究グループ,産業技術総合研究所といった各種機関による調査も行われており,適切な手法で測線間隔も狭く密に探査が行われ,かつ,複数の湾入部を含む海陸境界付近まで調査が行われており,十分に詳細な調査が行われているといえる。これらの調査の結果,伊予灘では,地形・地質構造が三次元的に把握されており,例えば,断層群に伴うグラーベン(凹み)とプレッシャーリッジ(高まり。バルジとも言う。)の直線的な配列が明らかにされている。


伊予灘における第四紀層の変形構造と断層模型実験との整合性
伊予灘の中央構造線断層帯に沿った地層の変形や断層の分布状況
は,基盤の断層の直上に,直線的な断層群が形成され,これらの断層群に沿って,地盤表面が凸状に膨らむ箇所(プレッシャーリッ
ジ)と溝状に落ち込む箇所(グラーベン)が顕著に認められるという,鉛直断層に対し純粋な横ずれを与えた場合の実験結果とよく類似している。また,横ずれ断層模型実験の結果を見ると,基盤の断層から上方に向かって広がっていく断層群(フラワー構造)が発生し,上記プレッシャーリッジに伴う正のフラワー構造と上記グラーベンに伴う負のフラワー構造とが隣接し直線的に配列するが,伊予灘の中央構造線断層帯では,まさにこのような構造が見てとれる。これに対し,基盤に純粋な正断層変位や逆断層変位を与えた場合
の実験結果は,伊予灘の中央構造線断層帯に沿った地層の変形や断層の分布状況とは大きく異なる。すなわち,正断層模型実験では,断層の直上付近に,互いに傾斜が逆向きの断層群が発達し,これらの断層群に挟まれた楔状の地盤が落ち込み,地盤表面にグラーベンが形成されるものの,周囲の地盤表面に対して高まりを作るようなプレッシャーリッジは形成されない。また,逆断層模型実験では,断層の上盤側が上昇し,下盤側に向かって傾く撓曲変形が認めら
れ,これに伴い,断層の直上付近に開口亀裂群が形成される。しかし,伊予灘の中央構造線断層帯においては,このような構造は認められない。
加えて,横ずれ断層変位成分が主体であっても,正断層変位成分
を伴うとプレッシャーリッジが形成されにくい傾向がある。特に中角ないし低角な断層では,わずかな上下変位成分でも,斜めずれ断層特有の変形構造が出現しやすい傾向があるため,伊予灘の中央構造線断層帯に沿う第四紀層の変形構造からは,横ずれ変位が相当程度に卓越する断層運動であると考えられる。
これに対し,債権者らは,中央構造線断層帯について,ハーフグ
ラーベンに伴う附随断層であるというが,プレッシャーリッジとグラーベンが隣接し直線的に配列するという伊予灘の中央構造線断層帯の構造とは合致しない。


原決定の説示について
原決定は,上記⒝の実験結果について,中角度の震源断層の延長
部に当たる位置に活断層が発生しないことまでが明示されているものではないと説示するが,上記⒝のとおり,横ずれ成分が卓越する断層運動においては,基盤の断層が中角であっても,浅部では高角となる傾向があるから,震源断層が中角である場合に,基盤の断層の延長部に断層が生じることはない。
また,原決定は,地質境界としての中央構造線が本件発電所付近
の東西で活断層と一致する場所があることは,本件発電所敷地至近距離においても,地質境界としての中央構造線が活断層である可能性を補強する事情となり得る旨説示する。しかし,横ずれ型の活断層系における活断層群の分布域は,主断層が大きくステップする箇所(ジョグ部)では幅広く,ステップ幅が狭く比較的直線的に分布する箇所では狭い傾向にあるところ,本件発電所沖の中央構造線断層帯では,主断層が大きくステップしておらず,比較的直線的に分布しているから,本件発電所の東西で,地質境界としての中央構造線と活断層が近接する箇所があるとしても,本件発電所敷地至近距離において,地質境界としての中央構造線自体が活断層である可能性があるとはいえない。
(乙521)
l
長谷川教授の見解
中央構造線断層帯長期評価(第二版)の記載について
中央構造線断層帯長期評価(第二版)には,①伊予灘南縁,佐田岬半島沿岸の中央構造線については現在のところ探査がなされていないために活断層として認定されていないこと,②別府湾~豊予海峡の地震探査結果によると三波川帯と領家帯上面の接合部より浅部の別府湾充填新期堆積層内に強い変形が認められること,を理由として,伊予灘南縁の中央構造線が活断層である可能性を考慮に入れておくことが必要との一文が今後の課題として記載されている。
しかし,上記①については,実際には債務者の海上音波探査は佐田岬半島北岸の入り組んだ湾内まで行われていることから,明らかな事実誤認があったものであり,当該探査の成果が査読を受けた学術論文として出版されていなかったことが一因であると考える。
この点,これまでに債務者によって実施された海上音波探査デー
タを基に,伊予灘南縁の中央構造線が活断層ではないことを示した査読論文(高橋ほか論文)が受理され,日本活断層学会が出版する学術誌に掲載されることとなった。高橋ほか論文は,活断層の認定において最重要である浅部堆積層内部の構造を明瞭に捉えた地震探査記録に基づき,伊予灘南縁の中央構造線(Iz/S境界)に第四紀以降の活動はないと判断されると記載しているところ,日本活断層学会は,活断層に関する研究の更なる発展を目的に設立された学会で,地震本部の長期評価に関わる委員の多くが所属している。また,査読においては,投稿内容と同じ分野の研究者が論文の内容の評価・検証を行い,科学的な合理性が認められない,又は学会誌に研究成果を載せる価値がないと判断された場合には査読論文として掲載されることはない。したがって,高橋ほか論文が上記学会誌に掲載されることとなったことにより,同論文の信頼性と学術的価値が担保されることとなり,今後,地震本部が中央構造線断層帯の長期評価を再び改訂する際には,必ず引用されることから,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の上記記載は見直されることになると考える。
他方,上記②については,確かに,豊予海峡においては,三波川帯と領家帯上面の接合部より浅部の堆積層に強い変形が示されているものの,これは,接合部にあるほぼ鉛直の活断層の横ずれ運動によって堆積層中に形成されたフラワー・ストラクチャーであるように見えるし,高橋ほか論文において,伊予灘では上記のような変形がそもそも認められないと記載されている。
以上のとおり,中央構造線断層帯長期評価(第二版)において,
Iz/S境界が活断層である可能性を考慮に入れておくことが必要とした理由はなくなった。


芦田教授の見解について
芦田教授は,債務者の海上音波探査により,深度150m程度よ
り深部の情報が得られていないことを問題視するが,活断層調査の基本として,上載地層法によって活断層の有無を判断する上では,深度150m程度までの堆積層(特に約12万年前以降の地層)内部の構造を明瞭に捉えた記録が重要であり,それより深部の古い地質時代の堆積層や岩盤内部の構造を捉えた記録はなくても支障がない。また,芦田教授は,海底面重複反射の除去ができていないことを指摘するが,海底面重複反射は約100万年前以前の古い地層の反射波に重なっているに過ぎず,活断層の認定を行うD層上部とは重なっていないため,上記の点も活断層の有無を判断する上で支障となるものではない。
更に,芦田教授は,海上での三次元地震探査が必須であるという
が,その必要性の有無は目的次第であり,鉱床探査のように三次元的に複雑な構造の把握を要する場合には三次元探査が必要と考えられるが,地表へ直線的に表れる活断層については,活断層による変動地形に関する情報を得ることができる精密海底地図を取得した上で,変動地形が延長する方向を直交方向に横断する測線を複数設定すれば,二次元の探査によってその存在を捉えることが可能であって,三次元探査を実施する必要はない。また,三次元探査は,地形等による実現の困難性に加えて,ブーマーを音源とする債務者の行った二次元探査に比べても受振器の配置間隔が広く,浅部の解像度が格段に劣る。
なお,芦田教授は,債務者による海上音波探査について,交叉測
線のない二次元記録であることを問題視するが,実際には,岸に向かう南北方向の測線だけでなく,東西方向の測線が2つあり,芦田教授はそのことを見落としている。交差する測線との整合性をチェックすることなく,南北方向の測線のみを見て行った芦田教授の解釈の信頼性は不十分である。


小松教授の見解について
小松教授は,①長浜-串沖活断層が中央構造線断層帯の分岐断層とするのは一つの解釈に過ぎない,②本件発電所敷地前の音波探査記録の精度が低い,③佐田岬半島北岸が断層によるダメージゾーンに位置している,④活断層の有無を判断するには,佐田岬半島の300万年前以降の地形発達史を考慮する必要があること,を根拠として,Iz/S境界が活断層である可能性は否定できないという。しかし,①については,高橋ほか論文においても,長浜-串沖活断層は中央構造線断層帯の分岐断層であるとも考えられるが,現時点では深部のIz/S境界の活動との関連性は明らかでないことを認めた上で,Iz/S境界の上端は直線性に乏しく,海岸線に沿って大きく湾曲し,中央構造線活断層系の分布と対応しない,伊予灘中部ではIz/S境界の上端を覆う地層はほぼ水平で,第四紀以降の活動は認められないとされていることからすると,長浜-串沖活断層があるからといって,本件発電所の敷地前面である伊予灘中部のIz/S境界が活断層ということにはならない。②も,債務者による音波探査の結果,明瞭な反射面が得られ,第四紀以降の活動は認められないとした高橋ほか論文が査読論文として受理されていることからすると,根拠のない主張である。
佐田岬半島北岸のダメージゾーンについては,仮に断層によるダ
メージゾーンであったとしても,いつの時代のどの断層運動によるものかは別問題であるため,そもそも佐田岬半島北岸における活断層の有無と直接関係するものではない。また,小松教授は,本件発電所の西側に海底扇状地状のマウンドがあるとして斜面崩壊が発生する危険性を指摘するが,このマウンドは高橋ほか論文による
浅部探査断面図の南端部の水平な層理を有する堆積層と対応しており,斜面崩壊の痕跡でないことは明らかであり,その成因は潮流によるものと考えられる。
佐田岬半島の地形発達史については,そもそも原子力発電所を対
象とした活断層評価では,約12万年前以降の活動の有無が問われるのであって,300万年前まで遡って活動史を解明する必要はないし,地形発達史の検討は広域の地形を俯瞰して日本列島の大きな枠組みと矛盾しないものとすべきであり,ごく限られた狭小な地域の情報に基づいて,中央構造線の全体像を説明できないようなものを主張しても意味がない。


債権者らのその余の主張について
債権者らは,債務者が縦横比を強調した図面をもとに誤ったイメ
ージを与えていると主張するが,債務者の用いた図面は断層による地層の変位・変形を強調して活断層を見落とさないための海域活断層調査における一般的な表示である。債権者らは,縦横比を1:1とした図面では,地質境界としての中央構造線の活動によって,南傾斜に転じた地点以南の堆積層も北方に動くことが十分にあり得ると認められる,D層に変位がなくとも,地質境界としての中央構造線の凹凸はさしたるものではなく,地質境界としての中央構造線の活動性を否定することは不可能であると主張するが,このような新しい解釈を出すのであれば,伊予灘中部の佐田岬半島北岸に活断層があることを示す具体的なデータを示す必要があるし,仮にIz/S境界が活断層であったならば,三波川変成岩類上面の凹凸を覆う堆積層には必ず乱れが生じて,縦横比を強調した断面で検出でき
る。
また,債権者らは,三波川変成岩類上面を断層面と捉えて債務者
の主張を批判するが,三波川変成岩類は古い地質時代の岩石であるのに対し,佐田岬半島北岸でこれを覆う地層は新第三系~第四系であり,両者の間には大きな時間間隙があることから,三波川変成岩類上面は断層面ではなく浸食面であり,元の断層面は浸食で失われて深部の断層面より緩傾斜となっていることを見落としており,債権者らの主張には誤解がある。
(乙593,667)
m
京都大学名誉教授岡田篤正(以下岡田教授という。)の見解
伊予灘では,海底を中央構造線断層帯が通過するとともに,その
南縁の佐田岬半島北岸に本件発電所が立地するため,債務者を初
め,国土地理院,大学研究グループ,産業技術総合研究所の各種機関による膨大な数量の海上音波探査が実施されており,伊予灘沖合いを通過する活断層の分布が把握されている。これまでに行われた伊予灘における調査は豊富であり,これらの調査,特に,佐田岬半島北岸の海底谷及び地質境界を横断して湾内まで入る多数の海上音波探査記録により活断層が認められないことが確認できる。佐田岬半島北岸に見られる海底谷は,下位の境界面に凹みが認められず,変位の累積がなく活断層でないことは明らかであり,変動地形学的には潮流による侵食地形とみなすことが妥当である。


高橋ほか論文は,佐田岬半島の地質境界を横断する深部探査断面
と浅部探査断面を総合した検討から地質境界の位置を明確に特定
し,この地質境界の位置を覆う堆積層がほぼ水平で変位・変形が全く認められないことから,これが活断層でないことを明らかにしたもので,佐田岬半島北岸の地質境界としての中央構造線が活断層であるか否かの論争に決着をつける論文である。


四国の活断層分布を俯瞰すると,中央構造線断層帯から片幅15
km以内は他の活断層が分布しない空白域となっており,佐田岬半島もこの空白域内にある。最新の活断層図(今泉ほか編活断層詳細デジタルマップ)にも佐田岬半島に活断層は示されていないし,岡田教授自身もこれまでの空中写真判読の経験から,ここに活断層はないと考える。主となる活断層の近傍では小さな断層の分布密度は減少するという概念があり,中央構造線断層帯が成熟した活断層として集中的に歪みを解消しているため,中央構造線断層帯沿いに他の活断層が分布しない活断層の空白域が生じていると理解できる。


前記アの疎明事実のとおり,設置許可基準規則解釈別記2は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について,内陸地殻内地震について選定した検討用地震に関し,活断層の位置・形状・活動性等を明らかにすることを求めている。そして,同別記2や地震ガイドは,震源が敷地に極めて近い場合について,地表に変位を伴う断層全体を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討するとともに,これらの検討結果を踏まえた評価手法の適用性に留意の上,各種の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえ,更に十分な余裕を考慮して基準地震動を策定すべきこと,その場合の地震動評価について,地表に変位を伴う断層全体(地表地震断層から震源断層までの断層全体)を考慮した上で,震源モデルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討されていることを確認すること,特に,評価地点近傍に存在する強振動生成領域(アスペリティ)での応力降下量などの強振動の生成強度に関するパラメータ,強振動生成領域同士の破壊開始時間のずれや破壊進行パターンの設定において,不確かさを考慮し,破壊シナリオが適切に考慮されていることを確認すること,震源の極近傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を取り込んだ手法により,地表に変位を伴う国内外被害地震の震源極近傍の地震動記録に対して適切な再現解析を行い,震源モデルに基づく短周期地震動,長周期地震動及び永久変位を十分に説明できていること(特に,永久変位・変位についても実現象を適切に再現できていること)を確認すること,浅部における断層のずれの進展の不均質性が地震動評価へ及ぼす影響を検討するとともに,浅部における断層のずれの不確かさが十分に評価されていることを確認すること,破壊伝播効果が地震動へ与える影響について,十分に精査されていること,水平動成分に加えて上下動成分の評価が適切に行われていることを確認することを求めている。
この点,債権者らは,本件発電所敷地付近にある佐田岬半島北岸部の地質境界としての中央構造線は活断層である可能性が高く,そのことは現時点における地震調査研究に関する最も有力な見解である中央構造線断層帯長期評価(第二版)でも指摘されているにもかかわらず,債務者は,この点に関する十分な調査を尽くさないまま,佐田岬半島北岸部に活断層は存在せず,活断層が敷地に極めて近い場合の評価は必要がないと判断して,活断層が敷地に極めて近い場合の地震動評価を行わず,その具体的数値も持ち合わせていないというのであるから,債務者による断層モデルを用いた手法による地震動評価は,全体として不合理なものである疑いがあり,断層モデルを用いた手法による地震動評価が応答スペクトルに基づく地震動評価の数値を越えないという判断自体,ひいては債務者による地震動評価そのものが不合理なものであって,これを正当とした規制委員会の判断も不合理である旨主張する。
そこで,債権者らの上記主張について検討を加える。

中央構造線断層帯長期評価(第二版)の記載について
債権者らは,中央構造線断層帯長期評価(第二版)に三波川帯と領家帯上面の接合部以浅の中央構造線も活断層である可能性を考慮に入れておくことが必要と考えられる。伊予灘南縁,佐田岬半島沿岸の中央構造線については現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる。との記載があるのは,債務者による調査では不十分と判断したことを明らかにしたものである旨主張する。
この点,確かに,中央構造線断層帯長期評価(第二版)には,伊予灘海域部について債務者により詳細な調査がされたことが記載されているのに対し,伊予灘南縁,佐田岬半島沿岸の中央構造線については,

現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる。

との記載があり,この記載は,佐田岬半島沿岸に活断層が存在するか否かについて,債務者その他の上記音波探査では不十分であることを指摘したものであるようにも読める。
しかし,中央構造線断層帯長期評価(第二版)に上記のような記載がされた経緯についてみると,前記アの疎明事実のとおり,平成29年1月16日に行われた第226回長期評価部会・第66回活断層分科会合同会において,委員の一人から,中央構造線のなかでは,佐田岬ギリギリの地質境界の断層の四国電力の探査が終わっていないか,少なくともデータが公表されていない旨の発言があり,また,平成29年8月8日に行われた第73回活断層分科会において,委員の一人から,

伊予灘付近の構造について,技術的に調査可能であるにもかかわらず,浅い部分や海岸付近の構造がわかっていない。今後は,より正確なデータを得るための調査が必要になるだろう。

との発言がされたことが認められるが,これらの発言について,その後議論が交わされたことは認められない。また,中央構造線断層帯長期評価(第二版)に引用されている四国電力(2015)には,債務者をはじめとする関係機関による海上音波探査測線図やこれに基づいて作成された海底地形図は示されているものの,同海底地形図には,佐田岬北部沿岸に若干の空白域が認められ(乙119[7,39頁]),また,上記文献に四国電力(2014)が掲載されていないことからすると,四国電力(2014)の存在を知らず,四国電力(2015)のみを見た一部の委員の発言が,議論の対象となることのないまま中央構造線断層帯長期評価(第二版)の上記記載として残されることとなったものとみるのが自然である。
これに対し,債権者らは,四国電力(2014)が公開された資料としてウェブ上などに掲載されていたことを指摘するが,そのことから,上記発言をした委員が四国電力(2014)を見た上で上記発言をしたものと直ちに認めることはできない。
以上によれば,中央構造線断層帯長期評価(第二版)の上記記載が,四国電力(2014)に掲載された海上音波探査の結果を検討した上でなされたものと認めることはできず,債権者らの上記主張は採用できない。エ
活断層の有無に関する債務者の調査及びその評価について
債務者の行った海上音波探査等の調査について
前記アの疎明事実のとおり,債務者は,本件発電所の敷地前面海域で各種音源を用いた海上音波探査を実施するとともに,債務者をはじめ産業技術総合研究所,国土地理院,大学グループなどの各調査機関によって実施された,調査対象深度及び分解能の異なる各種の音源を用いた海上音波探査の結果をまとめ,また,本件発電所の敷地前面海域の付近にある上灘沖北断層について,海底ボーリング調査を行って,音波探査断面で区分されたA層,D層,T層及びB層の層序区分がそれぞれどの地層に対比されるかの当てはめを行った上で,これをヒアリング資料である四国電力(2014)として規制委員会に提出した。そして,上記海上音波探査の結果をもとに,佐田岬半島北岸の湾奥部まで横断する音波探査断面において,中期~後期更新世相当層と推定されるD層に変形が認められないことなどから,佐田岬半島の北岸部に活断層が存在していないことが確認できると判断したものである。
これに対し,債権者らは,①債務者の行った海上音波探査は透過深度が浅く,重複反射を抑える作業がほとんど行われていない上,測線の間隔も空いており,その間の地層の状態が把握されていないこと,②債務者その他の関係機関が行った二次元反射法地震探査では,得られる情報が測線直下の地質情報に限られ,正確な連続的地下構造図を作成できないため,三次元反射法地震探査が不可欠であること,③そもそも断層の有無を判断するためには,より精密な方法であるボーリング調査を行うべきであり,海上音波探査では不十分であると主張する。
そこで,これらの主張について検討するに,まず,上記①については,債務者の行った海上音波探査により,約100万年前以前の地層を含むT層や,その下の音響基盤であるB層上面までの構造が明らかになっているのであるから,透過深度が浅すぎるという指摘は当を得ない。また,重複反射を抑える作業についても,債務者は,8つの受振器で捉えた反射波を重合する作業を行っているところ,この重合数で十分であるか否かについては,専門家の間でも意見が分かれており,これが不十分であるとする芦田教授の見解は,石油などの資源探査を主に念頭に置いて示されたものであることをも考慮すると,少なくとも債務者による重複反射を抑える作業が不十分であると認めることはできないというべきである。測線の間隔についても,債務者は,南北方向に11本(特に,本件発電所敷地前面海域においては,約2kmの範囲内に5本),これと交叉する東西方向に3本の測線を設け,ブーマーによる海上音波探査を行っているのであり,測線の間隔が空いており不十分であるという指摘は当を得ない。
次に,上記②については,芦田教授及び小松教授は,三次元反射法地震探査が不可欠である旨,債権者らの主張に沿う意見を述べるが,三次元反射法地震探査は主に石油などの資源探査に用いられる手法である上,調査に使用する機器が長大であるため,水深が浅く,かつ,漁船等が付近を航行している本件発電所敷地前面海域での実施は困難である旨の意見が述べられており,三次元反射法地震探査を行わなかった債務者による調査が不十分であると認めることはできないというべきである。上記③についても同様であり,小松教授など,債権者らの主張に沿う意見を述べる専門家がいる一方で,海底ボーリング調査によっては,断層であるかを正確に把握することはできないし,そもそも現在の技術では断層などの不整合面をきちんと保存した状態でボーリングコアを引き上げること自体が難しいとの指摘もされているところであって,これが行われていないからといって債務者による調査が不十分であると認めることはできない。
加えて,債務者による調査をもとに研究を行った高橋ほか論文は,いわゆる査読論文として専門誌に掲載されているところ,同論文によれば,本件発電所敷地前面の佐田岬半島北岸では,地質境界としての中央構造線は第四紀以降活動していない,すなわち,活断層ではないと結論付けられている。これに対し,債権者らは,高橋ほか論文は,論文執筆に当たって新たな調査を行ったものではなく,平成25年までに債務者が行った調査をもとに,これを検討したものに過ぎないこと,同論文で取り上げられた測線が限られており,これにより本件発電所敷地前面海域における地質構造を把握することはできないことを主張するが,同論文により,債務者が平成25年までに行った調査が十分なものであったことが明らかになったということができるし,同論文においては,代表的な測線のみを取り上げた旨明示されており,実際の検討は債務者が行った全ての海上音波探査の結果について行われているものと認められるから,債権者らの上記指摘はいずれも当を得ない。
なお,債権者らは,債務者が三次元反射法探査やボーリング調査を行わず,二次元反射法探査のみを行い,重複反射を抑える作業も不十分であったために,債務者の上記探査結果の地質境界としての中央構造線を示す解釈線には,存在するはずのない,地質境界を貫く反射面が存在することになっていたり,地質境界としての中央構造線の下は堆積層ではなく,三波川変成岩類であるはずなのに,解釈線の下に堆積層を示す複数の反射面が存在することになっているという誤った解釈線が導かれていると主張する。しかし,疎明資料(乙666)によれば,債権者らが指摘する反射面は,様々なデータ処理を施した後も若干残ってしまう擬似信号(海面で一度反射して海底に向かい,海底で反射した記録(海面反射)や,エアガンなど,バブル振動波形が発振される音源を用いた場合,海底面が数本の反射面で記録される現象の総称)であり,堆積層と解釈される反射面ではないものと認められることから,債権者らの上記主張は採用できない(債権者らは,上記疎明資料においては,債権者らの指摘する反射面が擬似信号であることの説明も立証もないと主張するが,これらの反射面が途中で途切れていること,債務者や高橋ほか論文において,これらの反射面を擬似信号であると解釈していることからすると,債権者らが指摘する上記反射面が,本来の反射面であることの疎明はなされていないというべきである。)。
海上音波探査の結果に対する債務者の評価について
本件発電所の敷地前面海域で各種音
源を用いた調査を実施し,また,伊予灘においては,債務者をはじめ産業技術総合研究所,国土地理院,大学グループなどの各調査機関により,調査対象深度及び分解能の異なる各種の音源を用いた音波探査が実施されているところ,これらの音波探査の結果を四国電力(2014)に取りまとめ,中期~後期更新世相当層と推定されるD層に変形が認められないことなどから,佐田岬半島の北岸部に活断層が存在していないことが確認できると評価している。
これに対し,債権者らは,①債務者が上記評価を行うに際して用いた図が,縦軸と横軸の縮尺が実際とは異なる,極めて精度の低いものであって,ここから上記のような分析を行うことはできない,②正断層運動がある場合においても,扇状の層をなすような変位の累積性等が必ずしも存在するとは限らない,③佐田岬半島沿岸部においては,若い地層が潮流によって消失していることからすると,扇状の層をなすような変位の累積性が見られず,かつ,D層が水平だったとしても,これらは潮流によって若い地層が消失したことによるものである可能性が高く,地質境界としての中央構造線がハーフグラーベン構造であるか否か,活断層であるか否かとは必ずしも関連性がない,と主張する。
しかし,前記アの疎明事実によれば,海域の活断層判読においては活断層を見逃すことのないように縦横比を強調することとされており,債務者の示した縮尺は活断層判読においては一般的であるということができる。上記①の主張は,変位の累積を示す鉛直方向のずれや水平方向の傾きであっても,1:1の縮尺で見ると著しいものではないから,D層が水平であるように見えても,これにより変位の累積がないということはできないという趣旨に解されるが,変異の累積性の観点からすると,実際よりも鉛直方向のずれや水平方向の傾きが強調され,仮に正断層運動の結果として現れる扇状の層をなすような変位の累積があれば,それが強調されて確認できるはずであって,縦横比を強調した図を用いることにより,活断層判読が不正確になるということはできない。したがって,債権者らの上記①の主張は採用できない。
次に,上記②の主張についてみると,疎明資料(甲1056[17頁],乙480[17頁],乙484[195頁])及び審尋の全趣旨によれば,ハーフグラーベンを形成するような正断層運動においても,その付近に副次的断層が発生して堆積盆内に生じるひずみを解消することにより,陸地近傍側においては扇状の層をなすような変位の累積性が目立たなくなるケースがあり得るように見えるが,これらのケースでは,明らかな副次的断層が陸地のごく近傍まで続いており,本件発電所敷地前面海域とはその前提が異なっている上,これらのケースでも堆積層は水平ではなく,一定の傾きが見られるのであり,本件発電所敷地前面海域の状況とは異なっている。そして,債権者らは,本件発電所敷地至近の伊予灘にハーフグラーベンを形成する運動が現在も続いているにもかかわらず,扇状の層をなすような変位の累積性が認められない理由を合理的に説明できていない。したがって,上記②の主張も採用できない。
更に,上記③の主張についてみても,疎明資料(乙126,593)によれば,潮流によって削られているのは,本件発電所敷地至近の伊予灘南縁が海中に没した後に堆積した比較的新しい堆積物(A層)であることが認められるのであって,ほとんどの断面ではD層が残っていることが確認できるにもかかわらず,これらの堆積層は水平であって,扇状の変位の累積があるとは認められない。この点,債権者らは,かつてはD層の堆積層中に扇状の変位の累積が存在していたにもかかわらず,その後にD層上面が水平に削られた結果としてD層上面が水平になっているに過ぎない旨主張するものとも解されるが,仮にそうであるとすれば,D層の上面以外の堆積層中には依然として扇状の変位の累積が残っているはずであるし,D層よりもさらに下位のT層にも同様の変位の累積が見られるはずであるが,疎明資料(乙126,593)によれば,D層及びT層の堆積層は上面以外についても水平であって,扇状の変位の累積を示す構造を確認することはできない。したがって,潮流により比較的新しい堆積物であるA層が削られていることから,地質境界としての中央構造線にハーフグラーベン構造があったことを推認できるものとはいえず,上記③の主張も採用できない。
小括
以上のとおり,債務者による海上音波探査及びこれに基づく債務者の評価に誤りがある旨の債権者らの主張は採用できない。

債権者らが主張するその余の点について
債権者らは,伊予灘堆積盆が一貫してほぼ一定の速度で沈んでいること,本件発電所敷地前面海域の中央構造線の両端(東側及び西側)に活断層があること及び重力異常調査の結果からすると,佐田岬半島北岸部の中央構造線が活断層であることは明らかであり,少なくとも本件発電所敷地の至近において,地質境界としての中央構造線が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性は否定できないと主張する。
しかし,債権者らが挙げた上記の事情は,いずれも本件発電所敷地の至近において,地質境界としての中央構造線が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性を示唆するものとはいえない。その理由は,以下のとおりである。
佐田岬半島北岸が中央構造線のダメージゾーンであるとの主張について
債権者らは,小松教授が佐田岬半島北岸部で行った断層調査によれば,比較的浅所で,また,時代的にも比較的新しい時代に形成されたと考えられるガウジを伴う断層が普遍的に存在していること,一次断層群,二次断層群のほか,数cmオーダーの幅で細かな断層群が密に形成されている三次断層群まで存在するのは,佐田岬半島北岸の中央構造線に沿うと考えられる部分だけであること,湾入部の東先端(ヒラバエ)では,東西性の正断層群の断層面がむき出しになり,西端では鉛直フラクチャーが示す断層のリニアメントとなっていること,ヒラバエの岩礁に見られる断層面は三次断層群の微細な割れ目が発達しており,中央構造線に関連するダメージゾーンの特徴を示していることからすると,佐田岬半島北岸部は中央構造線のダメージゾーンであると考えられると主張する。
しかし,債務者は,本件原子炉に係る設計基準対象施設及び重大事故等対処施設の地盤について,

本件発電所敷

地の地盤は三波川変成岩類のうち主に塩基性片岩で構成されており,本件発電所敷地内の塩基性片岩は片理があるものの,一般に剥離性が弱く,塊状かつ堅硬であること,本件発電所敷地の地盤はほぼ水平で,その岩盤は深度約50mから少なくとも約2000mまでは堅硬かつ緻密な泥質片岩を主体とする結晶片岩が連続しており,塊状かつ堅硬で安定していること,本件発電所敷地内にみられる断層はほとんどが10cm未満と小さく,地下深部への連続性もないこと,本件原子炉施設に係る基礎地盤が支持力,すべり安全性,変形に対する抵抗力を有し,基準地震動による地震力が作用した場合においても地耐力があるといえること,本件原子炉の周辺斜面もすべり安全性を有し,基準地震動による地震力が作用した場合においても安定性があると認められることを確認し,本件原子炉に係る設計基準対象施設及び重大事故等対処施設の地盤が設置許可基準規則3条及び38条に適合するものと判断しており,前提事実6⑵アのとおり,規制委員会もその判断を正当と認めたものであるから,本件発電所の敷地及びその周辺の佐田岬半島北岸が中央構造線のダメージゾーンであるとは考えられない。
これに対し,小松教授は,前記アの疎明事実のとおり,債権者らの上記主張に沿う意見を述べるが,他方,金折氏は,ダメージゾーンでは,断層コアに近づくほど割れ目の頻度が高くなる傾向があり,母岩より割れ目の密度が高いことから,断層コアからの距離と露頭での割れ目密度の関係をプロットすることでダメージゾーンの範囲を定量的に認定できるものであるが,佐田岬半島において露頭を調査し,その割れ目頻度と中央構造線からの距離の関係をプロットしたところ,割れ目の密度・頻度は中央構造線からの距離に依存しておらず,また,割れ目頻度は,他の地域におけるダメージソーン内の割れ目頻度を大きく下回っていたとの意見を述べており,また,山崎教授は,古い岩盤であれば破砕帯はどこにでもあるし,活動を停止してから長期間を経過し,既に固結している破砕帯であっても,地表に現れて雨水にさらされるなどすれば,破砕帯に水分がしみ込んで粘土状になることはよくあるため,破砕部が粘土状だからといって活断層であるとはいえないとの意見を述べている。更に,金折氏は,小松教授らが割れ目頻度によるダメージゾーンの定量的な認定を行っていない旨指摘し,小松教授自身も,自らの調査が不十分であることは自認している。
また,小松教授は,佐田岬半島北岸が中央構造線のダメージゾーンである根拠として,上記の点以外にも,本件発電所敷地及びその周辺に,並列する鋭いリニアメントが密に存在すること,断層群の集中しているゾーンに相当する湾入部の海底には,海底扇状地状のマウンドが形成されているところ,これは河川からもたらされた土砂の流下によるものとは考えられず,円弧滑りによって崩落した岩塊や土砂が一気に堆積して形成されたものと推定されることを挙げるが,リニアメントについては,上記の露頭調査と同様,定量的な調査とは認められず,小松教授自身,その調査が未だ十分でないことを自認しているし,海底扇状地状のマウンドについても,高橋ほか論文による浅部探査断面図南端に見られる水平な層理を有する堆積層と対応するもので,斜面崩壊の痕跡ではないという長谷川教授の見解が対立するところであって,これが斜面崩壊の痕跡であると断定することはできない。
以上によれば,債権者らの主張及びこれに沿う小松教授の上記意見を踏まえても,佐田岬半島北岸部が中央構造線のダメージゾーンであると認めることはできない。
伊予灘堆積盆が一貫してほぼ一定の速度で沈んでいるとの主張について
債権者らは,伊予灘堆積盆が約300万年前から一貫してほぼ一定の速度で沈んでいることが認められるから,伊予灘におけるハーフグラーベンを形成する運動は70万年前を境にした変化はなく,現在もこれが継続している旨主張する。
しかし,債権者らの主張は小松教授の見解に依拠するものであるところ,小松教授は,70万年前頃を境にして中央構造線は横ずれ運動が卓越するに至ったこと,すなわち,縦ずれが小さくなるように中央構造線の運動様式が変化したことを認める証言をしていたのであり(小松教授の証言[37頁]),小松教授の見解自体一貫性を欠くものである。加えて,疎明資料(甲996,乙599)によれば,小松教授がその見解の根拠とした中国電力の音波探査断面図(甲996[4~6頁])は,海上で音波を発振してから地層で反射して戻ってくるまでの往復走時を縦軸に表示した時間断面図を便宜一律に深さへと換算した,実質的な時間断面図であると認められるところ,時間断面図では地下深部にいくほど堆積層厚が実際よりも薄く見えるので,時間断面図を用いて構造発達史を考察するときには注意を要するとされていること(乙600[31頁])からすると,小松教授による上記の分析は正確性を欠くものといわざるを得ない。したがって,債権者らの上記主張は採用できない。両端に活断層があるとの主張について
債権者らは,中央構造線のうち本件発電所敷地付近の部分の東寄りの地域には下灘-長浜沿岸活断層帯が存在し,反対側の九州側では,佐賀関断層という活断層が地震本部によっても示されており,構造的な連続性が確認される別府湾から伊予灘にかけての地質境界としての中央構造線は,その両端が活断層であるから,常識的にその全体が活断層であると合理的に推測できるという小松教授の見解をもとに,上記東西の活断層の存在から本件発電所敷地至近距離の中央構造線も活断層であると主張する。
しかし,小松教授自身,両端が活断層だから真ん中もそうだというふうに,単純には推定というか認定はできないと証言しており(小松教授の証言[52頁]),また,疎明資料(甲885[15頁])によれば,本件発電所敷地の沖合い5~8kmに存在する中央構造線断層帯が下灘-長浜活断層につながっているようにも見えることも併せ考慮すると,地質境界としての中央構造線が本件発電所の東西で活断層と一致する場所があるからといって,ここから直ちに本件発電所敷地至近距離の中央構造線(地質境界)も活断層であるということはできない。重力異常調査の結果について
債権者らは,重力異常調査の結果,本件発電所敷地直近の中央構造線(地質境界)に沿って重力異常の急変帯があることから,この地質境界に沿ってハーフグラーベンが形成されていること,すなわち,この地質境界が断層であることの証左になるという小松教授の見解をもとに,上記重力異常調査の結果から地質境界としての中央構造線が活断層である可能性を直接立証できる旨主張する。
しかし,重力異常の急変帯が,密度の異なる物質が隣り合っていることを示すものであることは否定できないとしても,本件発電所敷地直近の佐田岬北部沿岸に地質境界としての中央構造線が存在すること自体は争いがない。そうすると,重力異常の急変帯はこの地質境界を示すものに過ぎないとも考えられるから,重力異常の急変帯から活断層の存在が直接立証されるものと認めることはできず,債権者らの上記主張は採用できない。

小括
以上によれば,債務者が本件発電所敷地前面海域において平成25年までに行った海上音波探査の結果,本件発電所敷地の至近(2km以内)に活断層はないとした債務者の評価に不合理な点があると認めることはできず,前記ウのとおり,これに疑義を差し挟むようにもみえる中央構造線断層帯長期評価(第二版)の記載によっても,上記判断は左右されないというべきである。
そして,債権者らが主張するその余の点を考慮しても,本件発電所敷地から2km以内の距離に,中央構造線又は中央構造線断層帯の活動に伴って生じた活断層があると認めることはできないから,本件原子炉について,活断層が敷地に極めて近い場合の評価が必要であることを前提とする債権者らの主張は採用することができない。
したがって,債務者が,活断層が敷地に極めて近い場合の評価を行わなかったことが不合理であると認めることはできないから,これにより,本件原子炉の安全性に影響を及ぼす可能性が具体的に高いと認めることもできず,債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があると認めることもできない。


プレート間地震の地震動評価について

疎明事実
後掲疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,前提事実のほか,次の事実が一応認められる。
内閣府検討会による検討
a
内閣府検討会は,東北地方太平洋沖地震を契機として中央防災会議の下に設置された東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会の中間とりまとめにおいて示された,今後,地震・津波の想定を行うにあたっては,これまでの考え方を改め,津波堆積物調査などの科学的知見をベースに,あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべきであるとの考え方に基づき,南海トラフの巨大地震を対象として,これまでの科学的知見に基づき想定すべき最大クラスの対象地震の設定方針を検討することを目的として設立された検討会である。

b
(乙184[2頁])

内閣府検討会の平成24年3月31日付け南海トラフの巨大地震による震度分布・津波高について(第一次報告)(乙185)及び内閣府検討会(2012b)は,検討した南海トラフの巨大地震について,次のとおり見解を示した。
今回検討された南海トラフの巨大地震は,南海トラフ沿いにおいて次に起こる地震・津波を予測して検討したものではなく,南海トラフで発生し得る巨大地震の強震断層モデルである。言い換えれば,現在の科学的知見の下で,今回推計し設定する最大クラスの地震・津波の発生確率,そしてその発生時期の予測をすることは不可能に近い。今回構築した強震断層モデルは,Mw9クラスの巨大地震の中でも最大クラスのものであり,また,震源断層全体の地震モーメント等を定めてから断層内部の微細なパラメータを設定する方式を活用しており,設定する断層パラメータの幅が大きいことから,想定より大きな強震動を生成する強震断層モデルとなっている可能性も否定できない。(乙185[1,12頁],186[1,2頁])
c
内閣府検討会(2012b)による南海トラフの巨大地震は,中央防災会議(2003)及び地震調査委員会(2009)のモデルの設定手順等を踏まえ,マクロ的に見た断層パラメータ等の震源断層全体の地震モーメントや平均変位量等を設定した後,ミクロ的に見た断層パラメータ等のSMGAの地震モーメントや応力降下量等の微視的震源特性を設定し構築したものである。
SMGA(強震動生成域)は,他の領域(背景領域)に比べてプレート間のカップリングが強いところで,破壊時には背景領域よりも変位量が大きいと考えられる。SMGAの変位量は,CharacterizingmodelsrongcrustalforgroundtheearthquakepredictionslipofstmotionSomerville,P.
G.・K.Irikura・R.Graves・S.Sawada・D.Wald・N.Abrahamson・Y.Iwasaki・T.Kagawa・N.Smith

and

るSomerville

al.(1999))の相似則から

et

A.Kowada(いわゆ

強震断層全体の平均変位量の2倍とし,個々のSMGAの応力降下量は全て等しいとして設定する。SMGAの位置は,過去の地震時の強震動生成域と概ね同じ場所に位置する可能性が示唆されることから,中央防災会議(2003)の強震断層モデルを参考に配置した。
(乙186[2,5~8頁])
d
上記cの方式は,震源断層全体とSMGAの地震モーメントの比率等に幅があり,不確定性が大きくなる。その結果,南海トラフの巨大地震にように検証すべき震度分布や地震波形がない場合には,その不確定性から,想定より大きな強震断層モデルとなっている可能性も否定できない。
強震断層モデルから算出される強震動は,主としてSMGAのパラメータによって支配される。SMGAを直接解析する新たな手法による解析事例はまだまだ少なく評価が難しい点はあるが,検証すべき震度分布を持たない巨大地震の強震断層モデルの検討においては,SMGAの応力降下量等のパラメータを直接設定することにより不確定性を小さくすることができる新しい方式を検討する必要がある。
また,東北地方太平洋沖地震はMw9.0の地震であるにもかかわらず,経験的手法による震度分布の比較では,観測された震度分布はMw8.2~8.3相当のものであった。この理由の解明についても課題となっている。
(乙186[21,24頁])
SPGAモデルについて
野津氏は,東北地方太平洋沖地震を対象としたスーパーアスペリティ
(SPGA)モデルを提唱した人物であり,以下の見解を示している。a
内閣府検討会や債務者が用いたSMGAモデルにおいては,南海トラフの地震や東北太平洋沖地震のような巨大プレート間地震では一辺の長さが数十kmにも及ぶSMGA(強震動生成域。アスペリティとも同義)の全体から,地震波がまんべんなく生成されると考えられている。しかし,実際には,SMGAの内部にも応力降下量の高い部分と低い部分とが存在し,一辺が数km程度の,より狭い領域から地震波が集中的に生成されると考えられる。
現に,東北地方太平洋沖地震の際に観測された周辺の観測点における速度波形は,従来のSMGAモデルでは再現できていない。
(甲480,610,1135,1136,1145)
b
これに対し,SPGAモデルは,東北地方太平洋沖地震をはじめとする海溝型大地震において特徴的な強震動パルス波が,女川原子力発電所での基準地震動を超える地震動の原因となったことに着目し,このパルスの発生源を,一辺が数km程度のSMGAより狭い領域(SPGA)に求めるというものである。このSPGAを用いて東北地方太平洋沖地震の速度波形やフーリエ・スペクトルを再現したところ,周辺の観測点における速度波形やフーリエ・スペクトルを精度よく再現することができた。
なお,他の研究者との共著論文(甲1149)では,予測問題においては地震全体の規模が与えられればSPGAの高周波レベルと放射エネルギーの総和を推定することができると考えられるものの,東北地方太平洋沖地震のSPGAは,1968年十勝沖地震や2003年十勝沖地震と比べ,全体としての地震規模が大きいにもかかわらず,速度震源スペクトルのピークがより高周波側に存在している点に特徴があり,これがMw9.0の地震における平均的な特性なのか,東北地方太平洋沖地震に固有の特性であるのかは明らかでないため,将来,データの蓄積とともに,SPGAのスケーリングが変容する可能性があること,予測問題における震源断面上でのSPGAの配置は,なお今後の課題であることが挙げられている。
(甲480,610,1135,1136,1145,1149,1150)

c
東北地方太平洋沖地震において観測された強震動パルスは,周期1~2秒程度であるが,1995年兵庫県南部地震等において,これと形状及び周期特性の良く似た強震動パルスにより大被害をもたらしたことが広く知られているように,振幅が大きければ構造物にとって脅威となる。

(甲480,1135[90頁],1136)

野津氏による地震動の計算
野津氏は,平成28年9月9日付け意見書(甲480)において,内閣府検討会が想定した南海トラフの地震について,SPGAモデルを用いて,四国における西側のSMGAを,想定震源断層から外れない範囲で可能な限り本件発電所に近づけた上で,本件発電所の敷地至近にSPGAを配置し,地盤の増幅特性について平成21年12月16日の地震におけるEHMH07の地点での記録に基づいて本件発電所の敷地における地震動を計算したところ,最大加速度は1900ガル,最大速度は約138cm/sとなったとの意見を述べた。
これに対し,債務者が,内閣府検討会が想定した南海トラフの地震では,SMGAの位置は最も陸側(本件発電所の敷地に近い側)でも本件発電所の敷地直下には及んでいないところ,強震動生成領域(SMGA)の中で局所的に応力降下量が高いとされるSPGAが本件発電所の敷地直下に存在することはなおさら想定されないし,本件発電所の敷地は極めて硬い地盤であり,EHMH07の地点とは地盤の増幅特性が異なる旨指摘したところ,野津氏は,同年12月26日付け意見書(甲610)において,内閣府検討会が想定したSMGAの中で,最も本件発電所にとって厳しい条件となる位置にSPGAを配置し,また,地盤の増幅特性についても,債務者の反論を受け入れて本件発電所の敷地における地震動を計算したところ,最大加速度は約878ガル,最大速度は約128cm/sとなった(なお,SPGAの配置についてのみ債務者の反論を受け入れた場合には,最大加速度は約1066ガル,最大速度は約129cm/sになるとした。)との意見を述べた。
(甲480,610,1145)
規制委員会は,日本原子力発電株式会社東海第二発電所の発電用原子炉設置変更許可申請に対する審査書案に対するパブリックコメント(平成30年7月5日から同年8月3日まで)の中に,原子炉施設の耐震設計では耐震検討用の地震動計算が目的である以上,SPGAモデルによる強震動パルス生成域を置いて計算すべきであるとの意見があったのに対し,同年9月26日,SPGAモデルは,東北地方太平洋沖地震等の観測地震動を説明するための再現モデルの一つであるが,予測問題に適用する場合においては,同モデルの提案者も論文で示すようにSPGAの位置設定等が今後の課題とされており,強震動予測のパッケージとして確立していないと考えていること,SPGAモデルの適用も含め,地震動の計算方法の高度化については,まず,地震調査研究推進本部のような場で議論されるものであり,そこでの検討結果も含め,新たな知見が得られれば,原子力発電所の規制にどのように取り入れるかについて,規制委員会として適切に判断していく旨回答した。

(乙618)

東北地方太平洋沖地震の短周期震源モデルの知見
入倉氏は,平成25年,倉橋奨氏との共同研究において,東北地方太平洋沖地震の際に観測された強震記録をもとに同地震の短周期震源モデルを構築しようとしたところ,震源断層近くのいくつかの観測点における地震記録にはパルス波形(衝撃状の波形)が見られるが,従来の均質なSMGAモデルではこれに対応する地震動を再現することができず,SMGA内の小さなサブエリア内でより高い応力パラメータを持つ不均質モデルを使用することでよく再現できたとの研究結果(2011年Mw9.0東北地方太平洋沖地震の短周期震源モデル。甲1147の1・2。以下Kurahashi&Irikura(2013)という。)を報告した。ただし,上記研究において行われたのは,東北地方太平洋沖地震の際に観測された周辺の観測点における地震動を再現する作業であり,不均質モデルを用いた強震動予測には言及されていない。(甲1147の1・2)

債権者らは,プレート間地震の地震動評価について,債務者はSMGAモデルに基づいてこれを行っているが,SMGAモデルを用いた地震動想定では,地震動評価が過小となるため,野津氏が提唱するSPGAモデルに基づく地震動評価を行うか,SMGA内の小さなサブエリア内でより高いパラメータを持つ不均質モデルを使用する必要性があると主張する。上記アの疎明事実によれば,SPGAモデルは,東北地方太平洋沖地震などの海溝型大地震において特徴的な強震動パルス波が,女川原子力発電所での基準地震動を超える地震動の原因となったことを契機として,上記強震動パルス波の発生源を,一辺が数km程度のSMGAより狭い領域(SPGA)に求めるというものであり,野津氏は,このSPGAモデルを用いることにより,従来のSMGAモデルでは再現できなかった東北地方太平洋沖地震の際に観測された周辺の観測点における速度波形等を精度よく再現することができたとの見解を示している。
しかし,SPGAモデルは,東北地方太平洋沖地震のように既に発生した地震の際に観測された周辺の観測点における速度波形等を再現することは示されているものの,予測問題,すなわち,将来発生する地震動を予測する場合においては,将来,データの蓄積とともに,SPGAのスケーリングが変容する可能性があること,予測問題における震源断面上でのSPGAの配置は,なお今後の課題であることを,その執筆者である野津氏らが自認しており,これを受けて,規制委員会も,SPGAモデルは強震動予測のパッケージとしては未だ確立していないと考えていることが認められる。
そうすると,債務者が南海トラフの地震について,SPGAモデルを用いた強震動予測を行わなかったことから,債務者による基準地震動の算定が不合理であるとは直ちに認めることができない。

次に,野津氏は,SPGAモデルを用いて内閣府検討会が想定した南海トラフの地震による本件発電所の敷地における基準地震動を算定したところ,債務者の想定する基準地震動を大きく上回る結果になった旨の意見を述べ,債権者らは,野津氏の上記意見をもとに,債務者による基準地震動の算定は過小評価となっている旨主張する。
しかし,野津氏の上記意見は,四国における西側のSMGAを,想定震源断層から外れない範囲で可能な限り本件発電所に近づけた上で,本件発電所の敷地至近にSPGAを配置し,更に,地盤の増幅特性について平成21年12月16日の地震におけるEHMH07の地点での記録をもとに算定した結果であって,上記のような位置にSPGAを配置することの当否は必ずしも検証されているとはいえないし,地盤の増幅特性につきEHMH07の地点での記録をもとにしたこと等についても,債務者から適切でないと批判されているが,これらの批判を踏まえても,なお野津氏の上記計算が妥当であるといえる根拠は,債権者らの側から示されていない。また,債権者らは,SMGA内の小さなサブエリア内で,より高い応力パラメータを持つ不均質モデル(Kurahashi



Irik

ura(2013))を用いて,SMGA内の不均質性を考慮した場合の結果でも,債務者の想定する基準地震動を大きく上回る地震動になるとの野津氏の意見(甲1145)をもとに,債務者の想定する基準地震動は不合理である旨主張するが,上記不均質モデルは,SPGAモデルと同様,東北地方太平洋沖地震の際に観測された周辺の観測点における地震動を再現するために用いられたものであり,これを地震動予測に用いることの当否は明らかでない。
そうすると,野津氏の意見書(甲480,610,1145)において示された南海トラフの地震による本件発電所の敷地における地震動の計算結果が,債務者による基準地震動の値を超えていることから,債務者による基準地震動の算定が不合理であるとは直ちに認めることができないというべきである。

小括
以上のとおり,プレート間地震の地震動評価に関する債権者らの主張はいずれも採用できず,債務者によるプレート間地震の地震動評価が不合理であると認めることはできないから,これにより,本件原子炉の安全性に影響を及ぼす可能性が具体的に高いと認めることはできず,債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があると認めることはできない。
3
火山事象の影響に対する安全性について


立地評価について

疎明事実
後掲疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,前記前提事実のほか,次の事実が一応認められる。
巨大噴火のメカニズム
a
巨大噴火の特徴
巨大噴火の特徴は,地下数kmにあるマグマ溜まりに存在していた大量の珪長質マグマが発泡し,急激な体積の膨張にともなってマグマの一部を地表に噴出するメカニズムにあるとされる。
また,一般に破局的な噴火としてイメージされているカルデラ噴火は,大規模火砕流及び降下火砕物として膨大なマグマを短時間に噴出することによって生じた地下の空間に地表が陥没して大型のカルデラを形成させる噴火である。このような大規模火砕流を伴う巨大噴火は,およそVEI6以上の巨大噴火で見られるようになり,過去のVEI7以上の噴火では,ほぼ例外なくこのタイプの噴火であるといわれている。
なお,カルデラ噴火一般について,大規模火砕流噴火に先行してプリニー式噴火があることが多いが,プリニー式噴火を伴わずいきなり火砕流噴火になることもあるとされる。
(乙365,372~374,376)
b
マグマの性質
火山噴火の源となるマグマは,地下の岩石が溶けてできたもので,最も多く含まれる化学成分は,二酸化ケイ素(SiO2。シリカとも呼ばれる。)である。二酸化ケイ素は,マグマの種類によって含有量が異なり,マグマの粘性(粘り気)とも深い関係があるので,マグマを分類するときの基本成分となる。二酸化ケイ素の含有量が多いほどマグマの粘性は高い。
二酸化ケイ素の含有量によるマグマの分類は,マグマが冷え固まったときにできる火成岩にちなんで行われており,二酸化ケイ素の重量あたりの成分量が概ね70%以上を流紋岩質,63~70%をデイサイト質,52~63%を安山岩質(57%以下のものは玄武岩質安山岩と呼ばれることもある。),52%以下を玄武岩質という。
デイサイト質以上の二酸化ケイ素含有量を持つマグマは珪長質マグマと呼ばれ,長石,石英等の珪長質鉱物の溶融物に富んでいる。これに対し,二酸化ケイ素含有量の少ないマグマは苦鉄質マグマと呼ばれ,カンラン石,輝石等の苦鉄質鉱物の溶融物に富んでいる。
巨大噴火のマグマは,一般的に,揮発性成分に富み揮発性成分がマグマの中から逃げにくい珪長質マグマが主体である。他方,玄武岩~玄武岩質安山岩のマグマが大規模なVEI6クラスの噴火を起こす可能性は低いとされている。
(乙326,327,365,366,372,376,486)c
マグマ溜まり
巨大噴火は,膨大なマグマを短時間に噴出する噴火であるところ,珪長質マグマの移動・集積に要するタイムスケールを考えると,数十~100km3珪長質マグマを噴火期間中に生成,集積させながら噴出させることは不可能であるため,あらかじめマグマを蓄積させておくことが必要である。この珪長質マグマは,マントルで生じた玄武岩質(苦鉄質)の初生マグマが,周辺の岩石と比べて密度が小さいため,浮力が生じて上昇する過程において,周辺の地殻を部分溶融(融点の低い鉱物だけが溶け,融点の高い鉱物は溶け残る現象。部分融解ともいう。)させてこれと混合することや,マグマが上昇し,冷却することに伴う結晶分化作用(マグマが冷却し結晶が晶出することで,残液の組成が変化すること)によりマグマの組成が変化することにより生成される。また,噴火に伴って形成される大規模な陥没(カルデラ)に見合う空間的広がりとしてのマグマ溜まりが必要であることから,一般的に巨大噴火は噴火に先立って地殻内部に大局的に巨大なマグマ溜まりを形成する必要があると考えられている。
そして,巨大噴火のマグマ溜まりでは,噴火可能なマグマ溜まりの進化に要する期間として数百~数千年のタイムスケールが示されており,実際のマグマ滞留期間が10万年のオーダーになることもあり得るとされる。
(乙372,373,376~378,408,409,544~547)

d
マグマ溜まりの位置
大規模なマグマ溜まりを地殻内に安定して定置させる場所として,浮力中立点が考えられている。浮力中立点は,マグマ溜まりが安定して定置しやすい深度である。
マグマの密度と周辺地殻の密度が釣り合うような深さは,マグマが安定して定置しやすい場所であり,大局的には,密度の小さい珪長質なマグマ溜まりほど浮力中立点は浅い。大規模なマグマ溜まりを地殻内に安定して存在させるためには,密度中立深度にマグマが貫入する必要があり,大規模噴火の多くは流紋岩組成のマグマを噴出していることから,そのマグマ溜まりは深さ数km程度の浅所に貫入しているものと考えられるとの知見もある。
巨大噴火では,典型的には,マグマ溜まりの肩部で応力集中が起こり,地表に向かって環状割れ目が生じて,そこに沿ったマグマの流出が発生すると考えられている。このような環状割れ目によるマグマの流出経路を環状火道といい,地質的にも,環状に連なる岩脈とその内部を占める筒状の沈降岩体から裏付けられている。環状火道は,巨大噴火で見られるような,マグマの高い噴出率や大量の火砕物の噴出を可能にすると考えられている。
また,巨大噴火では,環状火道から,プリニー式噴火あるいは火砕流としてマグマが噴出することでマグマ溜まりが減圧して,天井部が重力不安定になって環状割れ目に沿って沈下することでより大量の火山灰や軽石が噴出し,その結果,地下のマグマが急激に失われるため,噴出と並んで地表が陥没し,大型のカルデラが形成されるとされている。
上記のような環状割れ目に沿って沈下する大型カルデラの生成機構からも,多くの巨大噴火のマグマ溜まりの天井は極めて浅いところにあり,扁平な形状を示すとの知見がある。カルデラの地表面積は噴火規模と比例することが知られている。
(乙364,365,372,373,376,378)
e
マグマ溜まりの拡大に伴う地殻変動
巨大噴火では,火山活動に伴う地殻の変動について,巨大なマグマ溜まりの形成を伴うマグマの蓄積及びマグマ溜まりの拡大に従って,地表に大きな変形があるとされている。
例えば,新たに供給されたマグマによってマグマ溜まり内が増圧しても,増圧によって応力が集積した特定の箇所に開口割れ目を形成して噴火しマグマを消費するのではなく,マグマ溜まりの形成によって壁岩が過熱されると脆性破壊強度よりも塑性変形強度が小さくなり得るため,増圧による開口割れ目が形成される前に,母岩(周辺の岩石全体)が流動変形して応力集中を解消することが考えられ,その場合,母岩が大きな変形をこうむるため,マグマ溜まりの拡大に伴って地表に大きな変形をもたらすと期待されるとの指摘がある。
(乙372,373)

f
後カルデラ噴火ステージ
南九州のカルデラ火山(姶良カルデラ,阿多カルデラ及び鬼界カルデラ)の活動様式の変遷に関するNagaoka(1988)の知見は次のとおりである。
姶良カルデラ,阿多カルデラ等の南九州のカルデラ火山の第四紀後期における噴火サイクルは,①プリニー式噴火サイクル(単発のプリニー式噴火又は中規模火砕流を伴ったプリニー式噴火のフェーズ),②大規模火砕流サイクル(プリニー式噴火,マグマ水蒸気爆発や中規模火砕流,大規模火砕流のフェーズ),③中規模火砕流サイクル(単発の中規模火砕流のフェーズ),④小規模噴火のサイクル(プルカノ式噴火,ストロボリ式噴火や溶岩流出のフェーズ)の4つのタイプに分類される。
姶良カルデラや阿多カルデラでは,大規模火砕流サイクルの前の10万年間にいくつかのプリニー式噴火(成層圏に達する高い噴煙柱から大量の降下軽石を引き起こす噴火)サイクルが間欠的に発生したプリニー式噴火ステージがあったとされ,カルデラ形成後には多様な噴火様式の小規模噴火を繰り返す後カルデラ火山噴火ステージがあったとされる。

(乙563)

規制委員会の噴火予測,巨大噴火に対する考え方
a
火山検討チームの検討状況
規制委員会は,原子力施設における火山活動のモニタリングに関する検討チーム(以下火山検討チームという。)を立ち上げ,議論
を行った。火山検討チームには,火山に関する外部専門家として,気象庁火山噴火予知連絡会会長である東京大学名誉教授藤井敏嗣(以下藤井教授という。),京都大学名誉教授石原和弘(以下石原教授という。),中田教授,東北大学教授石渡明(以下石渡教授という。)等が参加していた。平成26年8月25日には第1回会合が,同年9月2日には第2回会合が開催され,参加者からは以下のような発言がされた。

(甲876,877)

石原教授
噴火の前に地面が隆起するかという点について,多くの場合はそ
うであるが,そうでない場合も多い。噴火ポテンシャル,すなわち,どれだけのマグマを蓄積しているか,噴火の兆候があるかというのは,火山ガイドにもあるように,噴出物の階段ダイヤグラム
(横軸に時間,縦軸に噴出量をとった折れ線グラフを作成し,長期的な噴火の見通しを立てる手法をいう(乙366)。),経年的な地震活動の増加等も考慮する必要がある。巨大噴火は何らかの前駆現象が数か月,あるいは数年前に発生す
る可能性が高い。ただ,そういう前駆現象が出たからといって,巨大噴火になるとは限らない。したがって,顕著な地変,中小噴火が始まった時に,巨大噴火を想定した態勢,あるいは対策が迅速にとれるかどうかというのが決め手になると思われる。
巨大噴火が起きる10年,20年前に分かるというような意見も
聴くが,実際にはそう単純ではない。顕著な異変(例えば,地震)が起きた後,異変がおさまったから大丈夫かといっても,その後,大きな噴火が起こり得る。その間,巨大噴火を想定したような態
勢・対策が保持・維持できるかが大きな現実的な問題だろうと思われる。


石渡教授
通常の噴火でも予知は難しく,巨大噴火の場合はなおさら難しい
であろうと思う。では,どうしたらいいかということは,私もよくわからないが,様々な火山活動の種類・強度と,それから距離の関係を示した基準をある程度作り,異常な現象が周りで起こったら,とにかく安全側に立って止めるというような判断をするような基準をつくることが大事ではないかというふうに思う。



中田教授
巨大噴火に対するスタンスと捉え方について,巨大噴火の時期や
規模を予測することは,現在の火山学では極めて困難,無理である。それでも評価ガイドのほうでは,その異常を見つけ,現状と変わらないかどうかを確認するということであるが,ただ,その異常が,バックグラウンドのゆらぎの範囲ではないかとも思われる。実
は我々はバックグラウンドについての知識を持っていないので,それほど異常ではない現象を異常と思い込んでしまう危険性がある。マグマ溜まりの増減はモニタリングできるかもしれないが,そも
そもどのぐらいたまっているのかというのはわからない。その点については,トモグラフィ,レシーバ関数解析,散乱解析によって,ある程度の推定ができるように技術を開発する必要がある。
カルデラ噴火には必ず前兆があって,直前には明らかに大きな変
動がみかけ上は出ると考えられる。そうすると,通常の避難には間に合うだろうけれども,ここで要求されている燃料の搬出等に間に合うだけのリードタイム(数年あるいは10年という単位)では,とてもこの現象は見えるものではない。
仮にモニタリングで異常が見つかった場合に,その異常が何に基
づいてどのような意味を持つのかという理解が,今の火山学では非常に不十分である。ゆらぎなのか,本当にカルデラに向けた兆候なのか,それをどのように判断するのかということである。


藤井教授
マグマの蓄積が行われても,必ずしも地表が膨らむというわけで
はなく,マグマ溜まりが下側に沈むことによってボリュームを稼ぐことができて,地表には現れないかもしれないという議論を論文の中でしている。マグマ供給に見合うだけの隆起が起こるとは限らない。
マグマ溜まりが100km3以上たまっていればという発言をし
たが,100km3たまっているということを今の時点で推定する手法というのは,ほとんどないというふうに理解をしている。私は,この点について,10年位前から,気象庁火山噴火予知連絡会のほうでいろんな探査の専門家に問い合わせてきた。実際にマグマの量100km3というと,面積として60~100km2の下に厚さ1kmぐらいの液体であるマグマが存在する。そういうものを例えば今の地震学的手法で探査できるかというと,なかなか難しいというのが探査の専門家の意見である。
平成25年5月に,内閣府から,広域火山災害について,カルデ
ラ噴火というのは非常に危機的なものであるとの提言を出した。これは原子力発電所だけの問題ではなく,人間の-日本国民の安全にとっても重要な問題であるが,それに対する知見があまりになさ過ぎるので,早急に観測・調査・研究をする体制をつくるべきであるということを,石原教授も含めた内閣府の委員会の中から提言を出した。なかなかモニタリングは厳しいから,そういう意味では空振りも覚悟で,人命尊重という-防災という点からだと空振りも覚悟でということは可能だと思う。しかし,果たしてこういう施設の運営に対してそういうことが可能なのかどうかということは,きちんと考えるべきではないかと思う。
b
火山検討チームの基本的考え方
火山検討チームは,平成27年7月31日付けで,原子力施設に係る巨大噴火を対象とした火山活動のモニタリングに関する基本的考え方を作成して,火山検討チームの検討結果をとりまとめた。その内容は以下のとおりである。
国内の通常の火山活動については,気象庁が防災の観点から110の活火山について噴火警報・予報を発表することになっているが,噴火がいつ・どのような規模で起きるかといった的確な予測は困難な状況にある。また,未知の巨大噴火に対応した監視・観測体制は設けられていない。
VEI6以上の巨大噴火に関しては発生が低頻度であり,モニタリング観測例がほとんど無く,中・長期的な噴火予測の手法は確立していない。しかし,巨大噴火には何らかの短期的前駆現象が発生することが予想され,モニタリングによって異常現象として捉えられる可能性は高い。ただし,モニタリングで異常が認められたとしても,いつ・どの程度の規模の噴火にいたるのか,或いは定常状態からのゆらぎの範囲なのか識別できないおそれがある。このような状況を受け,また原子力施設における対応には期間を要するものもあることも踏まえれば,規制委員会の対応としては,予測の困難性や前駆現象を広めにとらえる必要性があることから,何らかの異常が検知された場合には,モニタリングによる検知の限界も考慮して,“空振りも覚悟のうえ”で巨大噴火に発展する可能性を考慮した処置を講ずることも必要である。また,その判断は,規制委員会・規制庁が責任を持って行うべきである。
なお,国として巨大噴火の可能性を考慮した処置を講ずるためには,国は関係行政機関や防災組織及び関連研究者等と連携して,住民の避難・移住計画や経済損失の取扱い等に係る対応策などを策定するべく,調査・研究を推進していくべきであると考える。
巨大噴火の可能性を考慮した処置を原子力施設に対して講ずる判断の目安及びその考え方,モニタリング方法の具体化及び精度の向上,モニタリング(観測・監視・評価)の体制や取り組み方,巨大噴火に関連した火山活動に関する火山学上の知見の整理(地質学的・岩石学的・地球化学的・地球物理学的・測地学的)等については,規制委員会をはじめとする国の行政機関及び大学等研究機関が調査・研究を推進しつつ,引き続き検討することが必要である。
(甲652[別添11頁])
c
規制委員会の巨大噴火,モニタリングに対する考え方
規制委員会は,平成28年8月24日付けで改訂した実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方についてと題する文書の中で,旧火山ガイドにおける火山活動のモニタリングについて以下のような見解を示している。
モニタリングの目的は,運転期間中の火山の活動可能性及び設計
対応不可能な火山事象の影響可能性が十分に小さいとの評価の根拠が継続していることを確認するためであり,あくまで火山の状態の変化を検知することを目的としているのであって,モニタリングによって噴火の時期や規模を予測することを目的としていない。そして,事業者は,抽出した結果を第三者の助言を得るなどして定期的に評価する必要がある。
(乙115[278頁])


規制庁は,前提事実5⑶ウのとおり,基本的な考え方を策定し,従前から行ってきた旧火山ガイドにおける設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価に関する考え方を整理した。


平成30年3月7日,規制委員会の会議において,基本的な考え
方が報告されたところ,規制委員会の委員から異論は出なかった。また,同会議において,更田委員長は,地震の観測記録は日常的と言っていいぐらいにあるが,巨大噴火は有史以来,人類は経験しておらず,記録がない。ハザードの特性に十分留意した議論が必要で,他のハザードとの比較の議論はなかなか危険をはらんでいる旨発言した。
(乙358[18~22頁])



規制委員会は,平成30年12月19日に実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について(以下新規制基準の考え方という。)を改訂した。
そこでは,巨大噴火を原子炉等規制法43条の3の6第1項4号
の災害に含めるとした上で,基本的な考え方と同様の見解に基
づき,巨大噴火の発生可能性が相応の根拠をもって示されない限り,巨大噴火によるリスクは,社会通念上容認される水準であると判断できるとした上で,科学技術的判断のため必要な範囲内で巨大噴火を考慮するとして,現在の火山学の知見に照らした火山学的調査を十分に行った上で,火山の現在の活動状況は巨大噴火が差し迫った状態ではないことが確認でき,かつ,運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠があるといえない場合は,少なくとも運用期間中は,巨大噴火の可能性が十分に小さいと判断できるとしている。(乙450[346~349頁])
令和
元年火山ガイドに改正した。
噴火予測,阿蘇の現状等についての専門家の知見
a
藤井教授
藤井教授は,わが国における火山噴火予知の現状と課題藤井
敏嗣(甲653)の中で,次のとおり述べる。
火山噴火の長期予測については明確な手法は確立していない。長
期予測については,階段ダイアグラムの活用が指摘され,火山ガイドも原子力発電所に影響を及ぼすような噴火が発生する可能性が十分低いかどうかにつき,階段ダイアグラムなどの使用により検討するよう推奨しているが,階段ダイアグラムを活用して噴火時期を予測するには,マグマ供給率もしくは噴火噴出物放出率が一定であることが必要条件であるところ,これが長期的にわたって成立する保証はない。特に数千年から数万年という長期間においてはこのような前提が成立することは確かめられていない。さらに,階段ダイアグラムのもとになる噴出物量の推定そのものに大きな誤差が含まれていること,また噴火年代についても大きな誤差があることから,数万年レベルの噴火履歴から原子力発電所の稼働期間である数十年単位の噴火可能性を階段ダイアグラムで議論すること自体に無理がある。火山噴火の長期予測に関しては,その切迫度を測る有効な手法は開発されていない。
わが国において,数十km3以上の噴出物を放出するような超巨
大噴火が6千年から1万年に1度程度の頻度で発生してきたことはよく知られている。このような規模の爆発的噴火を過去に頻繁に繰り返してきた南九州でカルデラ噴火が発生した場合,周辺100km程度が火砕流のために壊滅状態になり,更に国土の大半を10cm以上の火山灰で覆うことが予測されている。この種の噴火の最終活動は鬼界カルデラ噴火であり,既に7300年が経過している。このような国家としての存亡に関わる火山現象であるが,火山噴火予知や火山防災という観点からの調査研究は行われていない。2013年5月に内閣府から公表された大規模火山災害対策への提言
において,このようなカルデラ噴火がわが国においては発生しうることを国民に周知すること,またカルデラ噴火の実態を理解するための研究体制を早急に確立することが述べられたが,現時点では実現していない。
カルデラ噴火は原子力発電所の再稼働問題で社会的に注目を集め
たが,科学的な切迫度を求める手法は存在しない。原子力発電所の稼働期間中にカルデラ噴火の影響を被る可能性が高いか低いかという判定そのものが不可能なはずである。このような判定を原子力発電所設置のガイドラインに含むこと自体が問題であろう。カルデラ噴火は原子力発電所問題だけでなく,国土保全にもかかわる問題であることから,低頻度大規模噴火の研究が火山噴火予知・火山防災の観点から行われるべきである。2014年から開始された災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画においては,低頻度大規模噴火の研究が,噴火としての規模は小さいが突然発生するために発災の危険性が高い水蒸気噴火の研究とともに主要テーマとして掲げられており,その成果に期待したいが,少ない研究計画予算の中でどこまで解明できるか楽観はできない。
(甲653[211,219,220頁])


また,藤井教授は,科学(2015年Vol.85,No6)
の火山学者緊急アンケート(以下火山学者緊急アンケート
という。)において,次のとおり見解を示している。
特定地域の平均的噴火発生期間から噴火の頻度を求めること自体
には問題があるわけではない。しかし,九州電力が約9万年という平均発生間隔を求めた噴火の選択は恣意的である。
さらに,平均噴火発生間隔の数値を用いて次期カルデラ噴火の切
迫度を見積もるには適切な噴火発生モデルを想定する必要があるが,そのようなモデルを提示することなく,特定のカルデラ火山の最終噴火からの経年が平均発生間隔より短いから,次の噴火まで余裕があるという九州電力の主張は合理的でない。
適切な噴火発生モデルを提示できない段階で切迫度を検討すると
したら,平均発生間隔に依拠することなく,カルデラ噴火が複数回発生した阿蘇山では最短間隔が2万年であることを考慮すべきである。すなわち,最終噴火から2万年を経過したカルデラ火山は既に再噴火の可能性がある時期に到達したと考えるべきであろう。
(甲234[577頁])

b
小山真人氏
静岡大学防災総合センターの小山真人氏(以下小山氏とい
う。)は,火山学者緊急アンケートにおいて,次のとおり見解を述べる。
綿密な機器観測網の下で大規模なマグマ上昇があった場合に限っ
て,数日~数十日前に噴火を予知できる場合もあるというのが,火山学の偽らざる現状である。機器観測によって数十年以上前に噴火を予測できた例は皆無である。一方,巨大噴火直前の噴出物の特徴を調べることによって,後知恵的に経験則を見つけようとする研究も進行中であるが,まだわずかな事例を積み重ねているだけで一般化には至っていない。カルデラ火山の巨大噴火の予測技術の実用化は,おそらく今後いくつかの巨大噴火を実際に経験し,噴火前後の過程の一部始終を調査・観測してからでないと達成できないであろう。
過去の噴火履歴の検討により,日本のどこかでカルデラ火山の巨
大噴火(VEI7程度)が起きる確率はおおよそ1万年に1回程度であることがわかっている(最新のものは鬼界カルデラの7300年前の巨大噴火)。したがって,今後1万年間に日本列島のどこかでカルデラ火山の巨大噴火が起きる確率は,ほぼ100%とみてよい。今後100年間では1%程度になる。
(甲234[574,575頁])


また,小山氏は,科学(2015年Vol.85,No2)
において,次のとおり見解を述べる。
Nagaoka(1988)は,南九州のカルデラ火山が4つの
噴火ステージ,すなわちプリニー式噴火(成層圏に達する高い
噴煙柱から大量の降下軽石を引き起こす噴火)ステージ→大規模火砕流をともなう破局的噴火ステージ→中規模火砕流噴火ステージ→後カルデラ火山噴火ステージをたどり,再びプリニー式噴火ステージに戻るサイクルをくり返していると推定した。しかしながら,噴火ステージ説は噴火史上のパターン認識にもとづいた仮説であり,実際のマグマ溜まり内で生じる物理・化学過程にもとづいた立証がなされているわけではない。
実際にVEI7以上の噴火を機器観測した例は世界の歴史上にな
い。つまり,現代火山学は,どのような観測事実があれば大規模カルデラ噴火を予測できるか(あるいは未遂に終わるか)についての知見をほとんど持ちあわせていない。
(甲969[189,190頁])
c
町田洋教授
東京都立大学名誉教授町田洋(以下町田教授という。)の見解
は,次のとおりである。
噴出中心から約150km離れた山口県秋吉台でも阿蘇4火砕流
堆積物が厚く残っていることからすると,噴出中心から半径約150kmの範囲内に火砕流が到達したとみるのは,ごく常識的な判断であると考える。阿蘇4火砕流は,佐田岬半島を根元まで包み込んだに違いないと,火山灰アトラスではおよその分布範囲を示し
ている。阿蘇カルデラから本件発電所まで約130kmしかないので,本件発電所敷地は,阿蘇4火砕流が到達した範囲に入るといえる。
火砕流にとって,海面は摩擦が少なく,水域は障害にならない。
伊方の周辺地域に火砕流堆積物がないからといって火砕流が来な
かったというのは見当違いである。佐田岬半島は,急斜面からなる山地の続きであり,テフラは残りがたく,積もっても,海水や風雨で,すぐに浸食される地形である。


債務者は,阿蘇カルデラを含む九州のカルデラ火山が現在,破局
的噴火直前の状態ではないということも言っているが,カルデラの地下でいま何が起こっていて,どんなことが破局的噴火の前兆現象なのか,誰もわからない状況である。したがって近い将来噴火が起こる確率は0に近いとは断言し難い。噴火間隔がいくらかは,年代値に大きな幅があり,また阿蘇カルデラの場合過去4回の大噴火の時間間隔は一定ではない。四国電力が使っているNagaoka
(1988)で記されている噴火ステージのサイクルは,テフラ整理のための一つの考え方にすぎず,これによって破局的噴火までの時間的猶予を予測できる理論的根拠にはならない。
(甲343)
d
須藤氏
現在の科学研究では,火山についての噴火の時期も規模も形態様
式もまた推移や継続時間も,予測することはできないというのが,大多数の火山研究者の共通認識である。地下のマグマ溜まりの規模や性状を把握し,その火山における噴火の潜在能力を評価しようというのは,噴火の中長期の予測を可能にする方法として,大きな方向性としては間違っていないと思われる。しかし,現状の火山についての科学研究では,それでその火山の今後数十年間における最大規模の噴火を評価することはできない。
債務者は,阿蘇カルデラ内に小規模な低速度領域しかない,大規
模なマグマはないと決めつけているが,まず,地下のマグマ溜まりの体積を地下構造探査によって精度良く求めることはできない。近時の通説的見解では,マグマ溜まりはその周辺の母岩(地殻)と比較的明瞭な壁のようなもので仕切られているのではなく,マグマ溜まりの大部分はマッシュ状(半固結状態)でほとんど流動できない状態にあり,その外縁は周辺の母岩と明瞭な区別はできないと考えられている。
実際,安部祐希氏(以下安部氏という。)の博士号論文
(SeismicstandneathfromthestructureofuppermostmantleKyushu,Japan,asreceiverfunctions:ImplicationsocessesYuki
for

the

cru
be

derived
analyse

volcanic

pr

Abe)では,草千里南部のマグマ溜

まりの下には,体積500km3の巨大な低速度領域があることが検知されている。こういった低速度領域がマグマ溜まりであり,近い将来にVEI7級の噴火を引き起こす可能性も,決して否定はできない。


債務者は,草千里南部のマグマ溜まりについて,最近の噴出物か
らすれば玄武岩質~玄武岩質安山岩だと決めつけているようだが,一般に地下構造は複雑であるため,噴出物から地下のマグマ溜まりの性質を精度よく推定することはできない。
いずれ調査がさらに進み,阿蘇カルデラの地下構造のイメージン
グが達成されれば,将来のカルデラ噴火の予測に役立てられる日は来るかもしれない。しかし,現段階では,阿蘇カルデラにおいて,近い将来にカルデラ噴火を引き起こすようなマグマ溜まりは,あるともないとも確定的な判断はできない。次の阿蘇の巨大噴火(阿蘇5噴火)が起きる可能性は火山学的には全く否定できない。阿蘇5噴火が数年後なのか,数万年後なのかは分からない。



債務者が阿蘇については約3万年前の草千里軽石噴火(VEI5)相当の噴火を考慮しそれ以上の噴火を考慮していないのは,元々,阿蘇カルデラ地下のマグマ溜まりの体積を評価したからではなく,これがNagaoka(1988)でいう後カルデラ火山噴火ステージの既往最大の噴火だからである。しかし,Nagaoka(1988)における噴火ステージとは,テフラ層序について整理するための作業仮説にすぎず,将来の噴火の予測のためには全く使えない概念である。一般的に阿蘇は現在後カルデラ火山活動期
などと言われることはあるが,近い将来阿蘇5が起き,先カルデラ期やカルデラ形成期などと評価し直される可能性は,火山学的にはまったく否定できない。
阿蘇については,約26万年前以降,VEI7級の噴火を4回繰
り返している。いずれVEI7級の阿蘇5はあると見るのが,常識的で科学的な評価である。ただ,現在の火山学では,それが数年後なのか,数万年後なのかは分からないということである。確かに,VEI7級の噴火は低頻度の現象である。VEI7とほぼ同視できる,M7以上の噴火は,日本全体でも1万年に1回程度,すなわち100年に1%程度の確率でしか起きない。同様の考え方をすれば,阿蘇だけなら6万年に1回程度,九州全体なら2~3万年に1回程度と見ることはできる。
しかし,原子力発電所において万が一の大規模自然現象をも想定
し,深刻な事故の確率を100万年に1回未満に抑えるという安全目標を国として立てているのであれば,阿蘇その他の日本のカルデラ火山におけるVEI7級の噴火は,無視できないほど高い確率で発生するものといえる。VEI6程度は当然のこととして,阿蘇4と同規模の阿蘇5が来る可能性はあると評価するのが,原子力発電所に求められる安全性の程度を踏まえた,合理的な判断というべきである。
(甲968)
e
大倉教授
大倉教授は,測地学的手法による火山活動の観測について(乙
347)において,カルデラ火山について,次のとおり意見を述べる。阿蘇カルデラの地下約6km付近にはマグマ溜まりが存在し,また地下約15kmにもマグマ溜まりと考えられる変動源が存在する。地下約15kmに存在する変動源は,水又は溶融したマグマの存在する領域の底部に当たるものであり,最大45km3程度のマグマの,その一部分が存在しているのみであろうと考えられる。
また,地下約6km付近のマグマ溜まりは全体として縮小傾向にあり,長期間の水準測量データを踏まえると,1930年代と比べて約1000万m3(0.01km3)少なくなっており,その縮小の理由は,火山ガスの放出によるものであることが分かる。
これらのことから,今後の阿蘇の火山活動は,1930年代のような大規模なものではなく,ましてや大規模なカルデラ噴火が起こるような状態ではないと推定される。
なお,2014年11月25日から始まったマグマ噴火の前兆として山体膨張を観測しており,地殻変動の状況から,噴火の前にはマグマ供給率が増加していたことがわかる。これらの知見に基づき,測地学的手法による火山活動の観測によってマグマ供給量の増減を確認することが可能であり,それを噴火の前兆として捉えることが可能であると考えられる。
(乙347[28頁],乙348~351)
f
安部氏
安部氏は,大倉教授との共著論文であるLow-velocityzonesinocaldera,dfromthecrustbeneathKyushu,Japan,receiverfunctionAsderiveanalysesY.Abe・T.Ohkura・T.Shibutani・K.Hirahara・S.Yoshikawa

and

H.Inou

e.(乙417)において,次のとおり見解を述べる。
阿蘇カルデラの中央火口丘の東側の深さ8~15kmにおける地震波低速度領域(LA)及び中央火口丘東側を除いた阿蘇カルデラ周辺の深さ15~23kmにおける地震波低速度領域(LB)を検出した。推定された速度構造より,地震波低速度領域は最大で15%のメルトもしくは30%の水を含むと解釈される。
LA直下では,深部低周波地震が15~25kmで発生し,シル状の変形源が15.5kmで検出されている。このLAにおいて,深部低周波地震の群発活動の領域から上昇してシル状の変形源に蓄積されるメルトは,固結しているかもしれないし,部分溶融物的にメルトが存在するかもしれない。
LA及びLBの体積は数百km3を超える可能性があり,仮に部分溶融度が10%を超える場合には,数十km3以上のマグマを含む可能性がある。現在,LAの下部で検出されている深部低周波微動や地殻の変形など,流体の動きに起因すると考えられる現象は,LBの下部では検出されていない。したがって,熱源が存在しておらず,LBの中ではメルトが新たに生成されていないと思われる。
(乙417)
g
榊󠄀原教授
草千里ヶ浜降下軽石が噴出した3万年前以降のマグマ噴出量に注目すると,苦鉄質マグマ2.3k㎥に対し,珪長質マグマはわずかに0.2k㎥に過ぎず,噴出の頻度も非常に乏しい。火山噴出物の岩石学的特徴を見ても,ストロンチウム同位体組成が,阿蘇2~阿蘇4にかけては比較的均質であるのに対し,阿蘇4以降は不均質となっている。ここから,阿蘇2~阿蘇4においては一つのマグマ溜まり(つまり,巨大なマグマ溜まり)が存在したのに対し,阿蘇4以降は複数のマグマ溜まりが存在した(つまり,巨大なマグマ溜まりはなかった)ことがうかがわれる。
また,1930年代以降,地殻が沈降しており,マグマ溜まりが収縮していることがうかがわれる。
さらに,珪長質な巨大マグマ溜まりが存在する場合,深部から供給される苦鉄質マグマは珪長質マグマにトラップされることでカルデラ中央部から噴出できないはずであるが,阿蘇カルデラにおいてはカルデラ中央部で主に苦鉄質マグマが噴出している。
以上にみたとおり,現在の阿蘇火山の噴火活動は,過去の破局噴火直前の状況と大きく異なり,苦鉄質マグマの活動を主体とした静穏な状況である。すなわち,珪長質なマグマや組成が類似するマグマが1万年以上前から噴火を繰り返していた阿蘇1~阿蘇4噴火前と比較して,その状況が明らかに異なっていることが地質学及び岩石学的に示されている。さらに,この現況は,地球物理学的データから推定されている現在のマグマ溜まりが小規模かつ苦鉄質マグマであること,および地殻変動データから1930年以降でマグマ溜まりが収縮している傾向にあることからも支持される。
すなわち,現在の阿蘇火山の状態は,これらの多角的な科学的データによる客観的な総合的判断に基づくと,破局噴火を起こすような珪長質で大規模なマグマ溜まりが存在している可能性は非常に低い。そして,今後,収縮している現在のマグマ溜まりが膨張に転じ,あるいは新たなマグマ溜まりが形成され,破局噴火を起こすような珪長質な大規模マグマ溜まりを形成すると仮定しても,過去の破局噴火前に前駆的な噴火が1万年以上前から起きていたことに鑑みれば,それには数千年~数万年の期間を要すると考えられる。
本件発電所の運用期間中に破局噴火が起こる可能性は極めて低く,阿蘇4規模の破局噴火の活動可能性が十分に小さいと評価できる。(乙393[6,9~10,13,15頁])
h
Dr.Brittain

E.Hill

SSG-21などのIAEAの火山に係る安全ガイドの主著者であり,米国等において原子力施設に係る火山事象評価についての経験を有する火山学者であるDr.Brittain

E.Hill(以下

Dr.Brittainという。)は,次のとおり見解を述べる。現状の火山学に基づけば,将来の阿蘇4タイプの噴火の発生確率
について,正確な数値を計算することは困難であると考えられる。困難である理由として,阿蘇火山のような巨大なカルデラ火山は,直接評価することができない物理的な相互作用を伴う非常に複雑なシステムを有することが挙げられる。過去の大規模な噴火のパターンは,カルデラ噴火が規則的な順序づけられたパターンを有していないため,将来の大規模な噴火に対して正確に再発率を表すものではない。結果として,地震ハザードを評価するために使われるような数値計算法は,阿蘇4タイプのような将来のカルデラ噴火の数値的な発生確率を算定するために使用することはできない。
阿蘇火山よりも大きなカルデラ火山であるアメリカのイエロース
トーンでも同様の状況にある。何十年にもわたり詳細な調査を行った後,アメリカ地質調査所は,カルデラの広範囲において,大量のマグマの注入や脱ガスといった明確な兆候が認められることもなしに,イエローストーンにおいて新たな巨大カルデラ噴火が発生する確率は,有用な計算の閾値以下と考えることができると結論づけた。この結論は,入手可能な証拠によって裏付けられた合理的なものであり,阿蘇火山における現在の状況にも直接的に適用可能であると考える。


将来の阿蘇4タイプの噴火について,数値的な発生可能性を明ら
かにすることは困難であるが,入手可能な最善の科学的知見を用いることによって,本件発電所の健全性や安全性評価のためにこのような噴火が起こることを考慮すべきかどうかを判断することが可能である。すなわち,多くの入手可能な技術的知見が,近い将来に阿蘇4噴火のような巨大噴火が発生するとの合理的な解釈を支持している場合にはこのような巨大噴火のリスクを考慮すべきであり,多くの入手可能な技術的な知見がこのような噴火が発生しないとの合理的な解釈を支持している場合にはリスクを考慮する必要はない。


現在の阿蘇の地下に阿蘇4噴火を起こしたような巨大なマグマ溜
まりは確認されず,現在のマグマ供給系は阿蘇4噴火当時のマグマ供給系と異なる特徴を示すところ,阿蘇4噴火のような巨大噴火が発生するような状態へのマグマ供給系の劇的な変化が今後数十年で起きるとは考え難く,また,阿蘇4噴火を起こした巨大マグマ溜まりを形成するには数十年よりはるかに長い期間(少なくとも数万年以上)を要することから,今後数十年の間に阿蘇4噴火のような巨大噴火が起こるとは考え難い。
地下に阿蘇4噴火を起こしたような大規模な(すなわち200k
m3を超えるような)マグマ溜まりが存在しているとすれば,地殻よりも低密度な大量のマグマが上昇しようとする力で地表面に変形が見られるはずであるが,阿蘇では,詳細な地球物理学的調査が行われているにもかかわらず,そのような兆候はみられないし,さらに,いくつかの小規模なマグマ溜まり等が検出されているにもかかわらず,これらのマグマ溜まり等よりも,より検出しやすい大規模なマグマ溜まりを示唆する兆候は何ら検出されていないので,阿蘇の地下には,大規模なマグマ溜まりは存在しないと結論付けることができる。


巨大な噴火を引き起こすためには珪長質マグマ溜まりが必要であ
る。なぜなら,珪長質マグマのみが,広範囲にわたる火山灰堆積物を生成するために必要な爆発性を有しているためである。苦鉄質マグマは粘性が低く,離溶された揮発性物質が容易に放出されるため,爆発的な噴火を起こしにくい。苦鉄質マグマでも大規模噴火を起こすことはあるが,爆発的なものではなく,大量のテフラ堆積物を生成することもない。
阿蘇4噴火以降,阿蘇においては苦鉄質マグマ活動が支配的な新
しい活動時期に入った。約8万7000年前から約3万年前までは,珪長質マグマの噴火も見られたが,その珪長質マグマの組成は阿蘇4噴火のものとは異なり,地殻との有意な相互作用を示していることから,阿蘇4噴火のマグマの残留物ではない。さらに,約3万年前以降では,苦鉄質マグマの噴火が多く,珪長質マグマの噴出量はごく微量である。したがって,現在の阿蘇のマグマ溜まりは苦鉄質マグマが支配的であり,今後100年間で大量の珪長質マグマを噴出する有意なポテンシャルはない。
(乙410,411,576)

i
三好雅也准教授
福井大学准教授三好雅也(以下三好准教授という。)は,平成
30年度原子力規制庁請負調査報告において,阿蘇におけるマグマ供給系の変遷につき,次のとおり報告を行った。
後カルデラ期火山噴出物が示す比較的幅広い1/Sr値(ストロ
ンチウム含有量の逆数)及びSr同位体比は,先阿蘇火山岩類の安山岩,カルデラ形成期火山噴出物とは異なる特徴である。後カルデラ期の多様な組成のマグマ生成には,地殻同化作用に加えて分別結晶作用が関与したことが考えられる。後カルデラ期安山岩~流紋岩マグマの成因の候補の一つとして,阿蘇4噴火の珪長質マグマの残存物とマントルから供給された玄武岩マグマとの混合が考えられるが,玄武岩と阿蘇4噴火のデイサイト・流紋岩との混合によって生じるマグマの組成範囲内には,後カルデラ期安山岩~流紋岩はプロットされないので,後カルデラ期安山岩~流紋岩マグマは,阿蘇4噴火の珪長質マグマとは独立して生成されたことが考えられる。


カルデラ形成期火山噴出物には化学組成の系統的時間変化(珪長
質から苦鉄質)が認められるが,後カルデラ期火山噴出物には見られず,複数の火口から多様なマグマを噴出している。この観察事実から,後カルデラ期の阿蘇火山直下にはカルデラ形成期のような巨大なマグマ溜まりは存在しなくなり,複数の小規模マグマ溜まりが
する議論は,このモデルと調和的である。さらに,給源火口の分布と噴出物化学組成の関係は,中央部で玄武岩質,その周囲で珪長質となっており,地下に巨大な珪長質マグマ溜まりが存在する場合に想定される給源火口分布とは異なる。したがって,カルデラ中央部における玄武岩質火山活動で特徴付けられる後カルデラ期の最近1万年間には,阿蘇カルデラ直下にカルデラ形成期のような巨大な珪長質マグマ溜まりは存在しなかったと考えられる。そのほか,現時点で知り得る範囲において,阿蘇カルデラ直下における巨大珪長質マグマ溜まりの存在を示唆する岩石学・地球化学的研究結果は報告されていない。
(乙486)
j
Prf.Sir

Stephen

Sparks

FRS

火山学の権威で,SSG-21の著者でもある英国ブリストル大学のPrf.Sir

Stephen

Sparks

FRS(以下

Prf.Sparksという。)は,阿蘇火山のマグマシステム
と阿蘇4規模の噴火可能性について,次のとおり意見を述べる。
カルデラ形成期には,膨大な量の珪長質マグマを生成するため,中部近くにおける苦鉄質安山岩マグマの停滞により,カルデラ全体に匹敵する面積を持つ高温帯の形成が必要である。しかし,過去3万年間,阿蘇は玄武岩質マグマを噴出する火山であり,現在の阿蘇における火山活動は,玄武岩質マグマやそれに伴う揮発成分を活動中の中岳火口へ供給するマグマ溜まりと火道の開放システムでほぼ連続しており,そこには珪長質マグマが生成されているという証拠はない。深さ15~23kmで大規模な地震異常域が確認されているが,長周期地震や地殻変動などの他の地球物理学的兆候に欠けるため,活動的なシステムではないことが示唆され,これは阿蘇火砕流のマグマ溜まりを生成した中部地殻の高温帯の残存物ではないかと推測される。また,阿蘇カルデラ地下の地震発生帯の分布をみると,カルデラを形成するような大規模な浅部マグマ溜まりは存在せず,中岳の地下に高温領域が集中して存在することを示している。これらの証拠や議論からすると,阿蘇において,将来100年間に阿蘇4規模の噴火が発生する確率は零と評価される。
(乙574の1・2)
阿蘇に関する債務者の評価
債務者は,阿蘇について,現在のマグマ溜まりは巨大噴火直前の状態ではなく,今後も,現在の噴火ステージが継続するものと判断され,運用期間中の噴火規模については,後カルデラ火山噴火ステージでの既往最大規模の噴火である阿蘇草千里ヶ浜噴火(噴出量約2km3)を考慮すればよいと評価したが(前提事実6⑴イ

),その具体的な根拠は次

のとおりである。
a
巨大噴火の活動間隔については,阿蘇1噴火と阿蘇2噴火との間隔は約11万年,阿蘇2噴火と阿蘇3噴火との間隔は約2万年,阿蘇3噴火と阿蘇4噴火との間隔は約3万年であり,活動間隔にばらつきはあるものの,最新の巨大噴火は約9万年前から約8.5万年前の阿蘇4噴火であることから,巨大噴火の最短の活動間隔は最新の巨大噴火からの経過時間に比べて短い。
また,Nagaoka(1988)を参考にすると,現在の阿蘇山の活動は,多様な噴火様式の小規模噴火を繰り返していることから,後カルデラ火山噴火ステージと判断される。

b
阿蘇カルデラの地下構造については,Sudo

and

Kong

(2001)に示される地震波速度構造において,地下約6km付近に小規模なマグマ溜まりは認められるものの,大規模なマグマ溜まりは認められない。高倉ほか(2000)によると,阿蘇カルデラの地下10km以浅にマグマと予想される低比抵抗域は認められない。また,三好ほか(2005)によると,阿蘇4噴火以降の火山岩の分布とそれらの組成から,大規模な流紋岩質~デイサイト質マグマ溜まりは想定されないとされている。
c
国土地理院による電子基準点の解析結果によると,マグマ溜まりの顕著な増大を示唆する基線変化は認められない。
(乙13[6-8-9~10頁],620)


債権者らは,将来の活動可能性があると評価した火山につき,原子力発電所の運用期間中において設計対応が不可能な火山事象を伴う火山活動の可能性の評価(個別評価)を行うことを定めた旧火山ガイド及び令和元年火山ガイドについて,①検討対象火山が原子力発電所の運用期間中に活動する可能性が十分に小さいかどうか,活動する可能性が十分に小さいとはいえない場合には,その火山活動の規模(噴火規模)を判断できること,すなわち,噴火の時期及び規模について,少なくとも発電用原子炉の運転の停止及び核燃料物質の敷地外への搬出に要する期間の余裕を持って予測できること(中長期的予測が可能であること)を前提としている点で不合理である,②令和元年火山ガイドは,巨大噴火とそれ以外の噴火とを区別した上で,巨大噴火については実質的に考慮対象から除外するものであり,福島事故の教訓を踏まえておらず,たとえ発生確率が低いとされた事象であっても,いったん事故や災害が発生したときの被害の規模が極めて大きいものについては,対策を講じるべきであるという政府事故調査報告書の記載にも反する上,国際原子力機関(IAEA)の策定したSSG-21の基準を満たさないものであって,不合理である,③令和元年火山ガイドは,モニタリングを立地評価から外し,その位置づけを曖昧なものにした点で国際基準を満たさないものであって,不合理である,④旧火山ガイドに従って本来なされるべき評価をすれば,原子力発電所の運用期間,すなわち,原子力発電所に核燃料物質が存在する期間は,中間貯蔵施設や最終処分場の見通しが立っていない以上,少なくとも数百年に及ぶと考えるべきであるところ,今後数百年間に検討対象火山の活動可能性が十分小さいと判断することはできないはずであり,また,設計対応不可能な火山事象の到達可能性評価においては過去最大の噴火規模を想定すべきであるから,本件発電所は立地不適とされるべきである,と主張する。

前提事実5⑶イのとおり,旧火山ガイドは,将来の活動可能性があると評価した火山については,原子力発電所の運用期間中において設計対応が不可能な火山事象を伴う火山活動の可能性の評価(個別評価)を行うこととし,過去の火山活動履歴とともに,必要に応じて,地球物理学的調査(マグマ溜まりの規模や位置,マグマの供給系に関係する地下構造等について分析)及び地球化学的調査(火山噴出物等について分析)により現在の火山の活動の状況も併せて把握した上で,①以上の調査結果と火山の抽出の際に行った文献調査,地形・地質調査及び火山学的調査結果を基に,原子力発電所の運用期間中における検討対象火山の活動の可能性を総合的に評価し,その結果,活動の可能性が十分小さいといえない場合には,さらに,②噴火規模を推定し,噴火規模における設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価し,これにより原子力発電所の立地の適否を判断することとしている。
また,
山の活動可能性の評価に当たり,巨大噴火については,当該火山の現在の活動状況は巨大噴火が差し迫った状態ではないと評価でき,運用期間中における巨大噴火の可能性を示す科学的に合理性のある具体的な根拠が得られていない場合には,運用期間中における巨大噴火の可能性は十分に小さいと判断できるとし,更に,火山活動のモニタリングについて,その目的が噴火可能性が十分小さいことを継続的に確認することから評価時から状態の変化の検知により評価の根拠が維持されていることを確認することと改められ,また,

噴火可能性につながるモニタリング結果が観測された場合には,必要な判断・対応をとる必要がある。

という記載が

モニタリングにより観測データの有意な変化を把握した場合には,状況に応じた判断・対応を行うこととする。

と改められたものである。そして,この点,前記アの疎明事実のとおり,火山検討チームにおける検討では,通常の噴火では予知は難しく,巨大噴火についても,その時期や規模を予測することは困難であり,少なくとも燃料の搬出等に間に合うだけのリードタイム(数年あるいは10年という単位)をもって巨大噴火の時期及び規模を予測することは困難であるという意見も強く,招へいされた専門家の意見をまとめた原子力施設に係る巨大噴火を対象とした火山活動のモニタリングに関する基本的考え方にもその旨記載されていること,火山検討チームに招へいされたメンバーの一人である藤井教授は,数十年単位の噴火可能性を議論すること自体に無理がある,原子力発電所の稼働期間中にカルデラ噴火の影響をこうむる可能性が高いか低いかという判定そのものが不可能なはずであるとの見解を示し,これと同旨の意見を述べる専門家が複数いることが認められる。これらの事実からすると,現在の科学技術水準においては噴火の時期及び規模についての的確な予測は困難であり,VEI6以上の巨大噴火についても中長期的な噴火予測の手法は確立しておらず,原子力発電所の運用期間中に検討対象火山が噴火する可能性やその時期及び規模を的確に予測することは困難であるとの見解も多くあることは事実である。

しかしながら,前記アで詳細に認定したとおり,火山事象,特に阿蘇における巨大噴火の可能性をどのように考えるかについては,専門家の間でもそれぞれの研究等に基づいて様々な見解が述べられているところであり,また,前記1で述べたとおり,本件は設置許可処分の取消しを求める行政訴訟ではなく,人格権に基づいて本件原子炉の運転差止めを求めるものであり,本件原子炉の運転期間中に本件原子炉の安全性に影響を及ぼす火山事象の発生する可能性が高く,これにより債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険性があると認められるか否かを問題とすべきであるから,当裁判所としては,この判断を離れて,旧火山ガイドや令和元年火山ガイドの定めの合理性の有無を判断するのは相当ではないと考える。そこで,以上のような観点から検討するものとする。

つの火山の火山活動に関する個別評価として,火砕物密度流以外の設計対応不可能な火山事象は問題とならず,火砕物密度流に関しては,阿蘇以外の火山は火山活動の履歴や敷地までの離隔距離等から考慮する必要がないと評価し,阿蘇については,その噴火履歴として,噴出量600km3以上の阿蘇4噴火が存在するものの,これによって発生した火砕物密度流は本件発電所の敷地まで達していないと考えられ,また,現在の阿蘇の活動については,現在のマグマ溜まりは巨大噴火直前の状態ではなく,運用期間中の噴火規模については,阿蘇4噴火後の既往最大規模の噴火である阿蘇草千里ヶ浜噴火を考慮することとしたものである。これに対し,債権者らは,現在の火山学の水準に照らせば,噴火の中長期的予測手法は確立しておらず,運用期間とされる今後数百年間に,阿蘇の活動可能性が十分小さいと判断できないことはもちろん,運転期間である数十年に限ったとしても,活動可能性が小さいと判断することはできないと主張する。
確かに,上記ウで述べたように,火山検討チームにおける検討では,通常の噴火では予知は難しく,巨大噴火についても,その時期や規模を予測することは困難であり,少なくとも燃料の搬出等に間に合うだけのリードタイム(数年あるいは10年という単位)をもって巨大噴火の時期及び規模を予測することは困難であるという意見も強く,招へいされた専門家の意見をまとめた原子力施設に係る巨大噴火を対象とした火山活動のモニタリングに関する基本的考え方にもその旨記載されていること,火山検討チームに招へいされたメンバーの一人である藤井教授は,数十年単位の噴火可能性を議論すること自体に無理がある,原子力発電所の稼働期間中にカルデラ噴火の影響を被る可能性が高いか低いかという判定そのものが不可能なはずであるとの見解を示し,これと同旨の意見を述べる専門家が複数いることが認められる。しかし,その一方で,阿蘇については今後数百年間以内に巨大噴火が発生するような状況にはないと明言するなど,少なくとも阿蘇については原子力発電所の運用期間中に巨大噴火が発生する可能性は相当低いといえるとする専門家も複数いることが認められる。そして,後者の立場をとる専門家も,前記アの疎明事実のとおり,火山物理学や岩石学・地球化学などのそれぞれの専門分野からの分析結果等を踏まえて,上記の見解を述べるものである。
そうすると,阿蘇が今後数十年,あるいは今後100年程度の間に,阿蘇4のような破局的噴火を引き起こす具体的危険があるか否かについては,火山に関する専門家の間でも意見が分かれており,科学的には,直ちに,いずれの見解が正しいともいえないのが現状であるといわざるを得ないから,このような現状の下では,当裁判所においては,現在の科学的知見からして,本件原子炉の運転期間中に阿蘇において阿蘇4のような破局的噴火が発生する可能性が具体的に高いと認めることはできず,したがって,これにより債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があると認めることもできないといわざるを得ない。また,前記アの疎明事実のとおり,阿蘇4噴火によって発生した火砕物密度流が本件発電所敷地に達したといえるか否かについても,火山に関する専門家の間でも意見が分かれている。すなわち,町田教授は,阿蘇の噴出中心から約150km離れた山口県秋吉台でも阿蘇4火砕流堆積物が厚く残っていることなどから,阿蘇カルデラから約130km離れた本件発電所敷地にも阿蘇4の火砕流が到達した可能性は否定できないとし,また,日本第四紀学会編(1987)及び町田・新井(2011)は,阿蘇4噴火の火砕物密度流が本件発電所敷地の位置する佐田岬半島に到達した可能性を示唆している。しかし,その一方で,Dr.Brittainは,山口県下で阿蘇4火砕物密度流堆積物が認められたのは,阿蘇4噴火の当時,周防灘海域に水がなく,上記地域まで阿蘇から陸続きであったからであり,阿蘇4噴火当時も海域が存在した佐田岬半島周辺とは事情が異なるのであって,阿蘇4噴火による火砕物密度流が本件発電所敷地に到達したとは考えられない旨の意見を述べ,また,長谷川教授らは,Dr.Brittainの上記見解と同様の指摘のほか,阿蘇から東方向の火砕物密度流は大野山地・佐賀関半島にぶつかって分岐した可能性等を挙げて,阿蘇4噴火による火砕流が本件発電所敷地に到達したとは考えられない旨の意見を述べている。この点についても,科学的には,直ちに,いずれの見解が正しいともいえないが現状であるといわざるを得ない。
そうすると,仮に阿蘇において,今後数十年,あるいは今後100年程度の間に,阿蘇4噴火よりも小規模な噴火が発生する可能性があったとしても,上記のような現状の下では,当裁判所においては,これにより設計対応不可能な火山事象が本件発電所の敷地に及び,これにより本件原子炉の安全性に影響を及ぼす可能性が具体的に高いと認めることはできず,債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があると認めることもできないといわざるを得ない。

小括
以上によれば,本件原子炉について,設計対応不可能な火山事象がその運用期間中に発生し,これにより本件原子炉の安全性に影響を及ぼす可能性が具体的に高いと認めることはできず,債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があると認めることもできない。



影響評価について

疎明事実
後掲疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,前記前提事実のほか,次の事実が一応認められる。
債務者による検討
a
本件発電所敷地への降灰量の推計計算
債務者は,平成30年11月,非常用ディーゼル発電機の吸気フィルタの閉塞について,火山ガイドに定める気中降下火砕物濃度の計算手法のうち,設置許可段階での降灰量(層厚)の数値シミュレーションとの連続性の観点から3.1の手法を採用した。
そして,層厚15cmの降下火砕物の堆積を想定し,算定に当たっては,火山ガイドに従って,その全量が24時間のうちに降下してくると仮定し,降下火砕物の堆積層厚は数値シミュレーションを踏まえて設定していることから,旧火山ガイドに従い,数値シミュレーションの際の粒径分布(Tephra2のシミュレーションによる粒径分布)を用い,降下火砕物の粒径ごとに当該粒径の粒子が降下火砕物全体の中に占める割合を設定して,総降灰量に当該割合を乗じることで粒径ごとの降下火砕物の降灰量を算出し,気中降下火砕物濃度をその合計である3.1g/m3と試算し,規制委員会の認可を受けた。なお,債務者は,3.2の手法については,数値シミュレーション(三次元の大気拡散シミュレーション)で使用する噴煙高さの設定や噴出率の時間変化等に課題を残しているため,結果の妥当性を判断することが困難であるとして,採用しなかった。
(甲1187,乙650,651)
b
非常用ディーゼル発電機の吸気フィルタの交換
債務者は,前提事実

とおり,旧火山ガイドが平成29年

11月に改正され,降下火砕物の濃度を既往の実測値に基づいて推定する手法から,降灰継続時間を仮定して,堆積量から気中降下火砕物濃度を推定する手法等を用いるべきこととされたことに伴い,前提事⒝のとおり,非常用ディーゼル発電機の吸気フィルタを
交換した。具体的には,本件原子炉の非常用ディーゼル発電機の吸気消音機の周囲に設置する火山灰フィルタは,債務者が気中降下火砕物濃度として想定する約3.1g/m3に対応するために必要な表面積5.9m2を上回る約6.1m2を確保している。
また,非常用ディーゼル発電機が機能喪失した場合にも,動力源がなくてもタービン動補助給水ポンプに給水が可能な水源によって約17.1日間にわたり原子炉の冷却が可能であり,さらに,給水に動力源が必要な水源や本件原子炉のみならず本件発電所の1号機及び2号機に係る水源をも活用すれば,さらに本件原子炉を冷却できる期間が延びることもうかがわれる。
(乙329)
九重第一軽石に関する降灰実績
日本学術振興会特別研究員熊原康博らの研究である熊原康博・長岡信治四国南西部,松田川流域における九重第一テフラの対比と低位段丘の年代(甲1194。以下熊原・長岡(2002)という。)によれば,九重山の火口から約140km離れた高知県宿毛市において,九重第一軽石による降下火砕物の堆積物であると考えられる,層厚20cmの小川テフラ(Loc.1)が確認され,また,同市内の別の場所では層厚40cmのテフラ(Loc.2)も確認された。しかし,Loc.2には四万十帯起源の砂粒が混入しており,水流によって二次的に形成された可能性が高いと指摘されており,また,Loc.1についても,火山灰層中には非火山性の細粒砂が混入していたとの記載がある(なお,同文献には,火山ガラスは風化して消滅している旨の記載がある。)。
また,産業技術総合研究所の地質調査総合センターのデータベースには九重第一軽石による降下火砕物の等層厚線が描かれており,これによると,層厚20cmの範囲が高知県南西部に延び,同県宿毛市付近において20cmを超える降灰があったものと評価されている。同様の記載は,債務者が九重第一軽石の噴出量の想定を見直す際に参考にした長岡・奥野(2014)にも見られる。
(甲651[55頁],1194,1201)
宇和盆地における火山灰データ
四国南西部に位置する宇和盆地において2008年(平成20年)に掘削された深さ120mに及ぶボーリングデータをみると,深度約100mに及ぶ未固結の第四系が確認でき,約70万年間にわたる堆積物が連続的に存在することが明らかになっている。宇和盆地は堆積環境が良いため,火山灰が地層として数十万年にわたり保存されており,九州地域の爆発的噴火に起因する降灰の頻度とその厚さを精度よく記録していると考えられる。
そして,上記データによれば,破局的噴火である阿蘇4噴火による降灰層厚でも31cmであり,また,姶良カルデラにおいて約2万9000年前から約2万6000年前に発生した姶良丹沢噴火(噴出量約450km3)による降灰層厚も,テフラ層に換算すると40cm弱となる。(乙391,392,396,426,530)
Tephra2による気中降下火砕物濃度の推計
Tephra2は,火山灰の移流拡散モデル(風による移動と空中で勝手に拡がる現象を盛り込んで作られたモデル)を元にした降下火山灰シミュレーションコードであり,火山灰の噴出量や噴煙の高さといった初期パラメータを入力することにより,堆積物の分布を計算するものであるが,逆に,堆積物の情報から,初期パラメータを求めることもできる(インバージョン的な使用方法)。しかし,Tephra2は,火山灰の粒子は垂直に上昇する噴煙柱から離脱しないという標準的な重力流モデルとは異なり,垂直に上昇する噴煙柱から火山灰の粒子が離脱するというモデルに基づいているため,インバージョン的な使用方法には問題があり,特に大規模な噴火については,うまく再現できていないという指摘がある。

(甲1170)

最大層厚の評価について
債務者は,阿蘇について本件原子炉施設の運用期間中に巨大噴火が発生する可能性が十分に小さいとした上で,阿蘇については最後の巨大噴火である阿蘇4噴火以降最大規模の噴火である草千里ヶ浜軽石噴火(噴出量約2km3)を考慮するが,本件発電所敷地からは九重山の方が近いことなどから,約5万年前の九重第一軽石による影響の方が大きいとして,九重第一軽石の噴出量を保守的に6.2km3と想定した上でシミュレーションを行い,これをもとに降下火砕物の層厚を15cmと想定した。
これに対し,債権者らは,影響評価においては,阿蘇における破局的噴火に準ずる規模の噴火を考慮すべきであるし,仮に九重第一軽石噴火を想定すれば足りるとしても,同噴火による本件発電所敷地への降下火砕物の層厚についての債務者の評価は過小であると主張する。
そこで,まず,本件発電所敷地への影響評価として,債務者が九重第一軽石噴火を想定したことの適否について検討すると,前記⑴アの疎明事実のとおり,火山検討チームの検討結果である原子力施設に係る巨大噴火を対象とした火山活動のモニタリングに関する基本的考え方においては,噴火がいつ・どのような規模で起きるかといった的確な予測は困難であり,また,VEI6以上の巨大噴火についての中長期的な噴火予測の手法は確立していないとされ,また,同検討チームに招へいされたメンバーからは,原子力発電所の稼働期間中にカルデラ噴火の影響を被る可能性が高いか低いかという判定そのものが不可能なはずであるとの意見も出た一方で,阿蘇の今後については1930年代と比べても大規模な火山活動が生じるような状態ではないと推定され,破局的噴火などの大規模な噴火が今後数百年間以内に発生するような状況にはないとするなど,少なくとも阿蘇については本件原子炉の運用期間中に巨大噴火が発生する可能性は相当低いといえるとする専門家もいることが認められ,後者の立場をとる専門家は,火山物理学や岩石学・地球化学などのそれぞれの専門分野からの分析結果等を踏まえて,上記の見解を述べるものである。
そうすると,今後数十年,あるいは今後100年程度の間に,阿蘇において草千里ヶ浜噴火を超える規模の噴火が発生する具体的危険があるか否かについては,火山に関する専門家の間でも意見が分かれており,科学的には,直ちに,いずれの見解が正しいともいえないのが現状であるといわざるを得ないから,このような現状の下では,当裁判所においては,現在の科学的知見からして,本件原子炉の運転期間中に阿蘇において草千里ヶ浜噴火を超える規模の噴火が発生する可能性が具体的に高いと認めることはできないといわざるを得ない。
したがって,本件発電所敷地への影響評価として,債務者が九重第一軽石噴火を想定したことが不合理であるということはできない。
次に,債務者が九重第一軽石噴火による本件発電所敷地への降下火砕物の層厚を最大15cmと評価したことの当否について検討すると,債権者らは,火山噴出物の体積を正確に把握することは困難であり,九重第一軽石噴火の噴出量を6.2km3と見積もったことについても不定性が存在する,九重山から見て本件発電所の敷地よりも遠方の高知県宿毛市付近で約20cmの降灰があったことを示す文献が複数存在することや,九重第一軽石噴火と噴出量が類似した別の火山噴火について,火口からの距離が九重山から本件発電所の敷地までとほぼ同等の地点において,20cmから50cm近い降灰が確認されていることに照らすと,保守的にみて50cm程度,少なくとも30cm程度の最大層厚を設定すべきであると主張する。
確かに,前記アの疎明事実によれば,九重第一軽石噴火による降灰量について,九重山から約140km離れた高知県宿毛市付近において,20cmを超える降灰があったとする文献のあることが認められ,また,債務者においても,九重第一軽石噴火の噴出量を当初の2.03km3から6.2km3へと改めていることからすると,火山噴出物の体積を正確に把握することが困難であることは否定できない。
しかし,前記アの疎明事実のとおり,本件発電所の敷地に近い宇和盆地における降灰データによれば,巨大噴火の火山灰を除けば層厚15cmを超える火山灰は認められず,阿蘇4噴火(噴出量約600km3)や姶良カルデラの姶良丹沢噴火(噴出量約450km3)といった九州のカルデラ火山における極めて大きな噴出量の噴火でも,その堆積層厚は30~40cmであることからすると,九重第一軽石噴火による堆積層厚が15cmを超えることは考えにくいというべきである。もっとも,九重第一軽石噴火により,九重山から約140km離れた高知県宿毛市において約20cmの火山灰が堆積しているとする文献が複数存在するものの,これらの文献の元となったと考えられる熊原・長岡(2002)には,層厚約20cmの小川テフラ(Loc.1)についても,火山灰層中に非火山性の細粒砂が混入していたとの記載があることからすると,上記Loc.1の層厚を,そのまま九重第一軽石噴火による火山灰層の厚さと認めることはできない。加えて,九重山から見て高知県宿毛市はジェット気流が卓越しやすい東の方角にあり,本件発電所の敷地とは方角が異なることをも考慮すると,上記文献の記載をもって,本件発電所の敷地に九重第一軽石噴火による層厚15cmを超える火山灰が堆積した可能性が高いと認めることはできない。
他方,九重第一軽石噴火と噴出量が類似した別の火山噴火における降灰量については,九重山とは別の火山からの噴出物であり,その組成等も異なると考えられることからすると,九重山からの火山灰がこれらの火山からの火山灰と同様の分布を示すとは限らないし,そもそも九重山とこれらの火山とは地理的条件も異なるから,これを,九重山から本件発電所敷地への降下火砕物の層厚にそのまま当てはめることは相当でないというべきである。
したがって,債権者らの上記主張を考慮しても,本件発電所の敷地に九重第一軽石噴火による層厚15cmを超える火山灰が堆積した可能性が高いと認めることはできない。
以上のとおり,本件発電所敷地への降下火砕物の最大層厚に係る債務者の評価が過小である旨の債権者らの主張(

)は,いずれ

も採用できず,これにより,本件原子炉について,その運用期間中に発生し得る火山事象により,本件原子炉の安全性に影響を及ぼす可能性が具体的に高いと認めることもできない。

債権者らは,更に,火山ガイドにおける気中降下火砕物濃度の推計手法の不合理性及び債務者の推計に係る過小評価をも主張する。
しかし,火山ガイド自体の不合理性をいう主張については,前記⑴エで述べたとおりである。
一方,債務者による気中降下火砕物濃度の推計が過小評価になっているとの主張は,債務者が実際の降灰や他の類似火山の事例よりも大きい粒子の割合が多くなるような粒径分布を用いていること,微細粒子の凝集による降下,火山灰の再飛散の影響及び古い時期の噴火については微細粒子が風化・溶解する可能性があることを考慮していないことをいうものである。そこで検討するに,疎明資料(甲1195,乙653)によれば,九重山54kaプリニー式噴火(九重第一軽石噴火)による降下軽石の粒度分布につき,露頭にて撮影した降下軽石の写真を用いて軽石の輪郭をトレースする手法(画像解析法)によりその粒度分布を解析した結果,画像解析法を用いない手法に比べて有意に粗い粒度が推定されたという研究結果があることが認められるから,債務者が気中降下火砕物濃度の推計に用いた,Tephra2のシミュレーションで設定する粒径分布は,上記研究結果により明らかにされた粒径分布より粗いとはいえない。
また,他の類似火山の事例が九重山の降下火砕物にそのまま当てはまるし,債務者が指摘すると
おり,債権者らが主張する他の類似火山の事例は,各火山から100km地点における粒度分布であって,債務者が推計した全粒度組成(その噴火で発生する降下火砕物の全体としての粒径分布)とは異なるから,両者を単純に比較するのは相当でない。
更に,微細粒子の凝集による降下については,疎明資料(乙633[94頁],654)によれば,粒径が4φ(1/16mm)より細かい粒子は凝集して降下したと考えられるところであり,これらの微細粒子により降下火砕物の気中濃度が大幅に増えるものとは認められない。
他方,前記アの疎明事実によれば,古い時期の噴火については微細粒子が風化・溶解する可能性があることが認められるし,一度地表面に沈着した火山灰が,強風によって舞い上がり,再度大気中を浮遊する再飛散の可能性も否定できないことは,債権者らの指摘するとおりであるが,これらの事情を考慮することにより,債務者の想定した気中降下火砕物濃度がどの程度増加するのかは明らかにされていない。
加えて,債権者らは,上記のとおり指摘した事情について,あくまでそのような可能性を指摘しただけで,それが正しいと断言するものではないことを自認するところである。
そうすると,債権者らの上記主張を考慮しても,債務者による気中降下火砕物濃度の推計が過小評価であって,これにより,本件原子炉について,その運用期間中に発生し得る火山事象により,本件原子炉の安全性に影響を及ぼす可能性が具体的に高いと認めることはできないというべきである。エ
小括
以上によれば,本件原子炉について,その運用期間中に発生し得る火山事象が,本件原子炉の安全性に影響を及ぼす可能性が具体的に高いと認めることはできず,債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があると認めることもできない。

4
避難の困難性


債権者らは,原子力発電所の安全を判断するに当たっては,原子力発電所の国際的な安全思想である深層防護の考え方,すなわち,各防護階層の独立性を確保し,各層において最高度の安全を備えたものでなければ,全体として安全とはみなさないという考え方によるべきであるから,第5層の避難計画が実効性を欠くのであれば,本件発電所は社会通念上許容できないリスクを有しているといえ,人格権侵害の具体的危険があることになるところ,債権者らについては,本件発電所が過酷事故を起こした場合の的確な避難計画が定められておらず,債権者らが各居住する島内での避難,島外への避難がいずれも困難ないし不可能であり,安定ヨウ素剤を,放射性ヨウ素を吸い込む前に服用することができず,かつ,新型コロナウイルス感染症が終息していない現状では安全に避難することができないと主張する。


債権者らの主張する深層防護の考え方が,原子力発電所を運用していく上で重要であることは否定できないものの,前記1で検討したとおり,本件は,人格権に基づく妨害予防請求としての本件原子炉の運転差止めを求めるものであり,その運転により債権者らの生命,身体又は健康が侵害される具体的危険があるといえなければ,本件原子炉の運転差止めを命じるという法的判断はできないというべきである。そうすると,債権者らの指摘する避難計画等の不備により上記具体的危険があるといえるためには,これらの点に加えて,そもそも本件原子炉が債権者らのいう過酷事故を発生させる具体的危険があることが疎明されなければならない。
しかるに,本件においては,前記2,3で検討したとおり,本件原子炉が債権者らのいう過酷事故を発生させる具体的危険があることが疎明されていないから,債権者らの指摘する避難の困難性等を理由として,本件原子炉の運転差止めを命じることはできないというべきである。


したがって,避難の困難性等を理由とする債権者らの申立てには,理由がない。

5
債権者らの原審及び当審におけるその余の主張を検討しても,現在の科学的知見からして,本件原子炉の運転期間中に本件原子炉の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生する可能性が具体的に高く,これによって債権者らの生命,身体又は健康が害される具体的危険があるとの疎明があったとは認められないから,債権者らの仮処分命令の申立ては却下すべきである。

6
よって,結論を異にする原決定は相当でないからこれを取り消すこととし,主文のとおり決定する。
令和3年3月18日
広島高等裁判所第4部

裁判長裁判官

横溝邦彦
裁判官

鈴木雄輔
裁判官

沖本尚紀
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