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差止請求権不存在確認請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成31(ワ)3273
事件名差止請求権不存在確認請求事件
裁判年月日令和3年3月25日
裁判所名大阪地方裁判所
権利種別特許権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2021-03-25
情報公開日2021-04-02 14:01:55
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令和3年3月25日判決言渡
平成31年(ワ)第3273号
口頭弁論終結の日

同日判決原本交付

裁判所書記官

差止請求権不存在確認請求事件

令和3年1月26日
判決
原告
同訴訟代理人弁護士

山崎貴啓


吉川武志

同補佐人弁理士

黒瀬雅一


及川周

被告

株式会社キャニオン・マインド

同訴訟代理人弁護士

伊原友己


並山恭子


橋本祐太

同補佐人弁理士

楠本高義


松田政行


株式会社しちだ・教育研究所

三雲悟志
主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

第1

実及び理由
請求

被告が,原告に対し,原告による別紙物件目録記載の製品の生産,使用,譲渡,貸渡し又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含む。)について,特許第4085311号の特許権に基づく差止請求権を有しないことを
確認する。
第2

事案の概要

1
本件は,原告が,原告の製造販売する別紙物件目録記載の製品(以下原告製品という。)は被告の有する特許権に係る特許発明の技術的範囲に属しないとして,被告に対し,被告が原告に対し本件特許権に基づく原告製品の生産等の差止請求権(特許法100条1項)を有しないことの確認を求める事案である。2
(1)

当事者及び本件訴訟の経緯等(甲1,2,6,乙2,弁論の全趣旨)

前提事実(証拠を掲げていない事実は争いのない事実である。)

原告は,児童教材編集出版物の販売,教育に関する塾の経営等を目的とする
株式会社である。
被告は,学習塾・幼児教室等の経営,学習教材の販売,コンピューター及び周辺機器並びにソフトウェアーの販売等を目的とする株式会社である。イ
原告は,平成30年12月頃から現在に至るまで,業として,原告製品を制
作,販売している。

被告は,平成31年1月10日,原告に対し,原告製品が本件発明に酷似し
ていると考えられるなどとして,原告の回答を求めると共に,誠実な回答が得られない場合は法的措置を取ることがある旨を書面(甲6)により通知し,原告はこれを受領した。
また,被告代表者は,その数日後,原告取締役に対し,電話で,原告製品の販売停止を求めた。
(2)

被告の特許権(甲4)

被告は,以下の特許権を有する(以下本件特許権といい,これに係る特許を本件特許,本件特許の願書に添付された明細書及び図面を本件明細書という。また,本件特許に係る特許請求の範囲請求項1記載の発明を本件発明という。)。本件明細書の記載は,別紙特許公報(甲4)のとおりである。特許番号

特許第4085311号

発明の名称

学習用具,学習用情報提示方法,及び学習用情報提示システム

出願日

平成14年8月2日

登録日

平成20年2月29日

特許請求の範囲
(3)

別紙特許公報記載のとおり

構成要件の分説

本件発明の構成要件は,次のとおり分説される。
A
コンピューターを備え,対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結
びつけて憶えるための学習用具であり,
B
前記コンピューターが,

B1

前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対
応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体と,B2
前記組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画
の画像データを選択する画像選択手段と,
B3

前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の
関連画,及び前記原画の順に表示する画像表示手段と,
B4

前記関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒
体と,
B5

前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と,
B6

前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,を含み,
C
前記画像表示手段が,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原
画を,対応する語句の再生と同期して表示する
D
学習用具。

(4)

原告製品の構成

原告製品の構成は,次のとおりである。

a別紙セット画目録記載(1)~(47)の都道府県の地図上の形状を前記都道府県の名称と結びつけて憶えるための学習用DVD。
b前記学習用DVDには,後記都道府県形状画と結びつけた形状のイラストが描き込まれた画(以下イラスト画という。),後記都道府県画と形状を同じくしその中に翻案したイラストを入れ込んだ画(以下形状・イラスト画という。),都道府県の地図上の形状を示す画(以下都道府県形状画という。)及び都道府県形状画と共に当該都道府県が属する地方の位置関係を示す画(以下都道府県位置画という。)の4画をセット(以下セット画という。)にした映像が,日本全国及び別紙セット画目録記載1~6の地方ごとに記録されている(なお,セッ
ト画の具体例は,別紙セット画一部抜粋表記載のとおり)。
c前記学習用DVDには,それぞれ前記イラスト画,前記形状・イラスト画,前記都道府県形状画,前記都道府県位置画の一連の語呂合わせの歌の音声が,別紙セット画目録記載1~6の地方ごとに一曲ずつ,映像として記録されている。d前記学習用DVDの映像は,1つのセット画ごとに前記イラスト画,前記形状
・イラスト画,前記都道府県形状画,前記都道府県位置画の順に出力されると共に,前記イラスト画,前記形状・イラスト画,前記都道府県形状画の一連の語呂合わせの歌が音声として出力される。
e前記学習用DVDに記録された映像を再生するにあたっては,日本全国の都道府県を別紙セット画目録記載(1)~(47)の順に再生するモード(以下ALLPLAYモードという。)又は別紙セット画目録記載1~6の地方ごとに再生するモード(以下地方選択モードという。)が選択できる。ALLPLAYモードであっても,地方選択モードであっても,それぞれの再生順は,地方ごとに作成者が設定した都道府県の順に自動で連続して再生され,選択された地方に属する都道府県の前記イラスト画,前記形状・イラスト画,及び前記都道府県形状画の一連の前記語呂合わ
せの歌の音声が再生される。
(5)

本件特許に係る出願経過(甲7~10)


本件特許に係る出願時の特許請求の範囲請求項1(以下当初の請求項1
という。)の記載は,以下のとおりである。
1又は複数種の記憶対象から成る記憶対象群に含まれる個別の記憶対象を表現する原画及び該原画に関連する関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から成る組画の画像が画像データとして記録された組画記録媒体を含んで成り,それぞれの前記記憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対象を記憶する学習用具。イ
特許庁審査官は,平成19年1月25日起案に係る拒絶理由通知書(甲8。
以下本件通知書という。)において,当初の請求項1を含む請求項の記載が特許法36条6項2号の要件を満たさないこと,当初の請求項1を含む請求項記載の発明は引用文献1(特開平10-312151号公報。乙6。以下乙6文献という。)記載の発明(以下乙6発明という。)から当業者が容易に想到し得たものであり,同法29条2項により特許を受けることができないことを理由として,本件特許に係る出願は拒絶すべきものである旨を通知した。

本件通知書には,次のような記載がある。
・当初の請求項1の記載では,物の発明である学習用具としての構成は(1又は複数種の記憶対象から成る記憶対象群に含まれる個別の記憶対象を表現する)原画及び(該原画に関連する関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の)関連画から成る組画の画像が画像データとして記録された組画記録媒体でしかな
く,それぞれの前記記憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対象を記憶するのは人間が行う作業であって,物の発明としての学習用具の構成を成していないため,本願発明が…原画及び…関連画から成る組画の画像が画像データとして記録された組画記録媒体以外にいかなる構成を有するものであるのか不明である。

・乙6発明は,記憶対象が国家や自治体や行政単位に関連する地域の地図上の形状,又は該地域を象徴する国旗,シンボルマーク等の模様ではなく,関連画が,原画の輪郭あるいは形態に似せた,原画を連想させる動物や人物やその他の具体的なものの漫画,ないし,原画及び対応する漫画のいずれをも象徴する抽象画ではない点で相違するが,具体的に何を記憶するために用い,どのような関連画とするかは通常の創作であって自然法則を用いない人為的取り決め事項にすぎず,記憶する内容と関連画の選択・作成に関しては技術的進歩性を奏する構成を伴なわない(自然法則を用いていない)から,当初の請求項1等記載の発明は乙6発明から当業者が容易に想到し得たものである。

これに対し,被告は,同年4月12日付け手続補正書(甲10)により,当
初の請求項1を本件特許に係る請求項1のとおり補正するなどの補正を行う(以下本件補正という。)と共に,同日付け意見書(甲9。以下本件意見書という。)を提出した。
本件意見書には,次のような記載がある。
・補正後の特許請求の範囲においては,作業の主体を手段とし,人が行う作業を示す部分を削除した。これにより,補正後の各請求項は明確なものとなり,記
載不備の拒絶理由は解消されたものと思料される。
・本願発明は原画の形態を対応する語句と結びつけて記憶することを目的としているのに対し,乙6発明は英単語の記憶を目的としている。
・本願発明は原画の形態を記憶するために,記憶対象である原画の輪郭に似た又は連想させる輪郭を有する関連画を表示するのに対し,乙6発明は,警察官のアニ
メ等の表示は行っているが,記憶対象が文字であることにより,記憶対象の輪郭に似た又は連想させる輪郭を有する関連画を表示しない。
・本願発明は,関連画の表示及び関連画に対応する語句の再生を行った後に原画の表示及び原画に対応する語句の再生を行うようにしたのに対して,乙6文献には,そのような構成及び作用についての記載がない。

・本願発明は,4通りのルートによって原画及び対応する語句を思い出すことができるのに対して,乙6文献には,そのような構成及び作用についての記載がない。
・従って,本願発明の学習用具と引用発明の学習支援装置とは,発明の技術的思想が全く異なる。このため,たとえ当業者といえども乙6文献から本願発明を容易に想到し得るものではない。
3
(1)

原告製品が充足する本件発明の構成要件(争点1)

(2)

均等侵害の成否(争点2)

(3)

争点

間接侵害の成否(争点3)

第3
1
当事者の主張
原告製品が充足する本件発明の構成要件(争点1)

(被告の主張)
(1)

構成要件A及びBについて

原告製品は,その構成にコンピューターを備えるものではない。したがって,原告製品は,本件発明の構成要件A及びBを充足しない。
ただし,後記のとおり,原告製品の生産等は,本件特許に係る請求項1~5の発明との関係では特許法101条1号及び2号に,請求項6~9の発明との関係では同条4号及び5号にそれぞれ該当し,本件特許権の間接侵害に当たる。(2)

構成要件B1について


原告製品のイラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画は,それぞれ,
本件発明の構成要件B1の第二の関連画,第一の関連画,原画にそれぞれ該当する。したがって,原告製品は,本件発明の構成要件B1を充足する。イ
原告製品の都道府県位置画について

(ア)原告製品の都道府県位置画は,当該都道府県の日本列島における位置を説明するための図にすぎず,個々の都道府県の輪郭(原画)を記憶させるための画とはいえない。このため,原告製品の本件発明の技術的範囲への属否の検討に当たっては考慮する必要がない。
(イ)仮に,都道府県位置画が本件発明の関連画に当たるとしても,本件発明
において組画の数は3点に限定されるものではなく,4点であっても本件発明の組画に該当する。

原告の主張について

本件補正は,本件通知書で明確性要件違反と進歩性欠如が指摘されたことを受けて,物の発明として構成がより明確になるように行ったものであり,これによって乙6文献は進歩性欠如の拒絶理由を基礎付け得るものではなくなった。すなわち,本件補正は,関連画の数が問題とされたことに向けられたものではない。また,組画に音声が含まれるか(付加されているかどうか)は,本件発明の構成要件B1の充足性を左右するものではない。
(3)

構成要件B2について


特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載から,一の組画とは,記憶
対象とされる一の原画と,これに対応する第一の関連画及びこれらに対応する第二の関連画(ただし,関連画の数はこれに限定されない。)によって構成されるひとまとまりの画を意味する。また,画像選択手段は,複数個の組画データから少なくとも一の組画の画像データを選ぶことのできる手段をいう。DVDのように画像データが電子的に記憶されるものについては,当該DVDが組画記録媒体(構成要件B1,B2)となり,複数個の組画データから再生を企図した少なくとも一の組画の画像データを電子的に特定できる機構がこれに該当する。原告製品は,地方ごとにセットになっているものが特定され,所定の順序で表示
されるようにプログラムされている。このような仕組みは,全国の都道府県の組画の中から適宜選択された地域単位の組画に含まれる一の組画を選択して表示する構成を備えるものである。
なお,原告製品は,地方単位で組画を選択することはできるものの,単一の都道府県のみを選択することはできない。しかし,学習したい都道府県が含まれる地方
を選択することにより,最初に表示される都道府県については当該都道府県単位で選択したのと同じであるし,そうでなくとも,使用者が再生を希望する都道府県を
待つ時間は秒単位であって,学習上,特段の問題はないタイミングで表示される。したがって,原告製品は,その地域に含まれる一の組画を選択することができるようになっているといって差し支えない。
以上より,原告製品は,一の組画の画像データを選択する画像選択手段を有しているといえ,本件発明の構成要件B2を充足する。

原告の主張について

本件明細書には,あるセット(地方ごとのまとまり)でのみ画像選択ができるようなものを排除する記載はない。また,このようなものも本件発明の作用効果を奏するのであって,一の組画を数個まとめて選択する形になっていたところで,本件発明の趣旨を逸脱するものではなく,本件発明の技術的範囲に属する。(4)

構成要件B3について

原告製品は,一の組画の画像データを選択する画像選択手段(構成要件B2)を備えており,これにより,原告製品に含まれる組画を順々に表示するものである。したがって,原告製品は,本件発明の構成要件B3を充足する。
(5)

構成要件B4について

原告製品は,都道府県の輪郭形状を語呂合わせ歌によって記憶しやすいように記録されており,これが学習時に再生される。したがって,原告製品は,関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録されたものである。地方ごとに1曲ずつであるかどうかは,構成要件B4の充足性判断には関係がない。したがって,原告製品は,本件発明の構成要件B4を充足する。
(6)

構成要件B5及びB6について

前記(3)のとおり,地方単位で選択することも本件発明の画像選択に当たるところ,原告製品は,必ず各都道府県に対応した画像と音声が再生されるものであるから,都道府県に対応した音声(語呂合わせ歌)が選択され,再生される手段を備えていることになる。
したがって,原告製品は,本件発明の構成要件B5及びB6を充足する。
(7)

構成要件C及びDについて

同期(構成要件C)とは,組画とそれに対応する音声とを同じタイミングで再生することを意味するが,物理的に媒体(物体・機械装置)を異にする必要があるわけではない。
ビデオファイルは,映像,音声,静止画,テキストデータを含むデータであって,それらのデータをメタデータで同期させていることは技術常識であるところ,原告製品も,画像と音声とは常に連携して再生されるようになっているから,同期して表示する学習用具である。したがって,原告製品は,本件発明の構成要件C及びDを充足する。
(原告の主張)
(1)

構成要件Aの非充足

コンピューター(構成要件A)は,組画記録媒体(同B1),画像選択手段(同B2),画像表示手段(同B3),音声記録媒体(同B4),音声選択手段(同B5)及び音声再生手段(同B6)並びに画像表示手段が第一の関連画,第二の関連画及び原画とこれらに対応する語句と同期させて表示する(同C)機能を有するものでなければならない。しかし,以下のとおり,原告製品は,DVDプレーヤー等で再生させる場合,これを有しない。したがって,原告製品は,本件発明の構成要件Aを充足しない。
(2)構成要件B1の非充足


特許請求の範囲の記載によれば,組画(構成要件B1)は,原画,第一
の関連画及び第二の関連画の3画からなるものであり,全体がこの3画のみにより構成されるものに限定される。また,当初の請求項1では1又は複数種の関連画と記載されていたが,本件補正を経て原画と第一及び第二の関連画という3画が組画を構成するとされており,本件補正の際,敢えて組画の構成要素を原画と2つの関連画に限定したものと理解される。
そうすると,組画の構成要素は3点に限られる。
これに対し,原告製品のセット画は,イラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画及び都道府県位置画の4画からなる。このうち,都道府県位置画は,原画と同一の輪郭を有し,対応する語句と位置を表示することによって原画の形状とその名前を覚えさせるための原画に関連する画である。関連画とは,原画,第一の関連画又は第二の関連画の輪郭に似た(又は連想させる)輪郭を有し,対応する語句が存在する画を意味するから,都道府県位置画は,3つ目の関連画である。また,原告製品のセット画は,音声を含む映像であって,単なる組画ではない。
したがって,原告製品は,本件発明の構成要件B1を充足しない。

被告の主張について

請求項には,特許出願人が発明を特定するために必要と認める事項の全てを記載しなければならない。そうすると,本件特許に係る請求項1に原画,第一の関連画及び第二の関連画と記載したことにより,本件発明を特定するための全ての事項が記載されたことになり,のみとの記載の有無にかかわらず,組画の構成要素は原画,第一の関連画及び第二の関連画に限定される。また,本件特許に係る請求項1では,関連画を第一の関連画と第二の関連画として,その要件を明確に記載している。にもかかわらず,その他の関連画も含まれるとすると,その要件は不明であり,明確性を欠く。
(3)

構成要件B2の非充足


原告製品は,映像を再生するに当たっては,地方ごとに再生箇所を選択し,
選択された地方ごとに原告が設定した都道府県の順に自動で連続して再生するものとなっており,記憶対象である都道府県を一つずつ選択して再生することはできない。したがって,原告製品は,一の組画の画像データを選択する画像選択手段を有さず,本件発明の構成要件B2を充足しない。

被告の主張について

(ア)請求項には,出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを記載しなければならない。その趣旨は,特許権の範囲を過不足なく公示させることで予見可能性を確保することにある。そうすると,一の組画の画像データを選択するとの記載により,本件発明の特定に必要な全ての事項が記載されたこととなるから,複数の組画のまとまりでのみ選択できるものを排除する記載がなくとも,本件発明は,一の組画を選択するものに限定される。一の組画との記載から複数又は一定の範囲での組画のまとまりを選択することをも含むと解することは,上記趣旨に反すると共に,請求項の範囲の記載に明確性を求める趣旨にも反する。
(イ)地方単位の選択であっても,学習者は再生を希望する都道府県が登場するの
を待つことで学習上何の問題もないなどとする被告の主張は,異なる出力形式であっても学習できるというにとどまり,これをもって構成要件B2の文言を充足するものではない。また,本件発明のように一つの画像を選択することと,原告製品のように地方単位で選択することは,技術的内容及びその作用効果において異質のものである。

(4)

構成要件B3の非充足

前記(3)のとおり,原告製品は,一の組画の画像選択手段を有しないから,前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する画像表示手段(構成要件B3)を有しない。そもそも,原告製品は,画像表示手段を有しない。したがって,原告製品は,本件発明の構成要件B3を充足しない。
(5)

構成要件B4の非充足

原告製品は,セット画を一連とする語呂合わせの歌の音声が,地方ごとに一曲ずつ映像として記録されたものであって,関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された(構成要件B4)ものではない。したがって,原告製品は,本件発明の構成要件B4を充足しない。
(6)

構成要件B5及びB6の非充足
本件発明は,一つの組画のうちの第一の関連画,第二の関連画及び原画にそれぞれ対応する語句の音声データがあり,選択された一つの組画に合わせ,かつ,当該組画を構成する3つの画像に対応させて出力するように音声データを選択することが求められる。また,本件発明の構成要件B5は,画像選択手段とは別個に音声選択手段を有することが要件となっている。
これに対し,原告製品は,映像として,地方ごとに再生箇所を選択すれば原告が設定した都道府県の順に自動で一連の語呂合わせ歌の音声を再生するものであって,語句(構成要件B5)を選択するものではなく,また,別個に音声選択手段(同B5)を有するものではない。同様に,原告製品は,選択された語句の音声データ(同B6)を再生するものではない。したがって,原告製品は,本件発明の構成要件B5及びB6をいずれも充足しない。
(7)

構成要件Cの非充足

本件発明の構成では,組画記録媒体に記録された画像データ(構成要件B1)と音声記録媒体に記録された音声データ(同B4)をそれぞれ有しているとされており,構成要件Cは,これらをコンピューターの情報処理によって,組画と対応する語句の再生と同期して表示するとしている。他方,原告製品においては,画と共に音声が対応して再生するようにあらかじめ映像としてDVDに記録されており,別々に記録された映像データと音声データをコンピューターの情報処理によって同期
させる必要はない。
したがって,原告製品は,本件発明の構成要件Cを充足しない。
2
均等侵害の成否(争点2)について

(被告の主張)
仮に,原告製品が,単一の都道府県単位ではなく地方単位で画像データを選択するものである点で,一の組画の画像データを選択する画像選択手段(構成要件B2)を備えないとしても,以下のとおり,原告製品は本件特許に係る特許請求の範囲記載の構成と均等なものであり,本件発明の技術的範囲に属する。(1)

第1要件(非本質的部分)

原告製品における本件発明との相違部分は,地方単位の組画のまとまりでまず画像選択し,次いでそのまとまりに含まれる一の組画を選択できるという点である。特許発明の本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分である。本件発明が措定する従来の技術では,繰り返し画像を見て,それに関連する語句を何度も繰り返し見て,単純記憶にすり込んで忍耐強く勉強するのが一般的であったところ,これでは特に小学生等の若年者にとっては興味がわかず苦痛と感じられ
ることが多かった。本件発明は,このような問題点を解決し,楽しみを感じながら知らず知らずに特定の国家等を覚えられるようにしようとしたものである。このため,本件発明の本質的部分は,原画,第一の関連画及び第二の関連画からなる組画の画像データと,当該関連画及び原画に対応する語句の記録された音声データがあり,第一の関連画,第二の関連画,原画の順に表示されるのと同期して当該音声デ
ータが再生される部分であるといえる。換言すれば,第一の関連画から第二の関連画へ,そして覚えるのが容易ではない記憶対象となる画像へと画像の変化でつなげ,それに対応する語句を併せて再生することで,記憶に残りやすいようにするという部分が,従来技術との比較における本質的部分である。
そうすると,上記相違部分は,本質的部分におけるものではない。
したがって,原告製品は,均等の第1要件を充足する。
(2)

第2要件(置換可能性)


本件発明は,これまで機械的に単純に何度も忍耐強く記憶対象を見て,それ
に関連する特定の用語との結びつきを覚えていくような無機質な勉強方法が採用されてきたが,これでは幼児や児童に負担が大きく,覚えにくいため,覚えやすい漫画等から抽象画へ変化させ,最後は覚えにくい原画との関連付けをして,画像の変化とこれに対応する音声データとで,目と耳の両方で記憶の定着を図る仕組みを提案するものである。
原告製品の置換部分は,一の組画(一つの都道府県)をピンポイントで選択できず,まず地方単位の組画を選択し,その中で特定の都道府県を選択するという二段階で選択する構成(使用者が所望する都道府県の含まれる地域をまず選択することにより,結果として記憶したい都道府県が表示されるという構成)になっている点である。
しかし,都道府県の輪郭線と都道府県名を覚えるという学習目的からすると,地方単位の組画のまとまりを選択したからといって,そのことによって目的を達せられるものではない。原告製品における記憶の容易化の最も大切な部分は,第一の関
連画,第二の関連画及び原画を,その順で語呂合わせ歌という音声データと共に選択,再生する点である。この点では,原告製品も本件発明も全く同じである。また,原告製品において,ユーザーがワンタッチでダイレクトに所望の都道府県を指定して再生することができないとしても,所望の都道府県の再生をユーザーが待つ時間は秒単位のものでしかないため,ユーザーの記憶のしやすさが従来技術の
単純記憶に頼る場合と同等レベルに劣るということはなく,第一の関連画,第二の関連画と原画への画像変化と語呂合わせ歌という音声データとを併せて再生することで,格段に記憶しやすくなっている。
このように,原告製品の構成であっても,本件発明の目的を達することができ,作用効果を奏するものであり,本件発明の構成を原告製品の構成に置換することは
可能である。すなわち,原告製品は,均等の第2要件を充足する。イ
原告の主張について

原告は,本件明細書【0057】の記載に重きを置いて主張するようである。しかし,同段落は実施例の記載であり,また,画像の選択のバリエーションを例示しているものにすぎない。本件明細書【0053】において,画像の選択は,コンピューターの内蔵プログラムに基づいてなされてもよいと説明されていることを勘案すれば,DVDを再生した場合に表示される画像の選択については,ある程度記憶しにくい形状の記憶の容易化に資するものであれば,適宜実施者が考えれば足りる。(3)

第3要件(置換容易性)

原告製品の発売時期において,一の組画の画像選択手段に換えてこれが含まれる数個の組画のまとまりとしてまず選択し,次に一の組画の画像を選択することなどは,当業者であれば簡単にできる。
したがって,原告製品は,均等の第3要件を充足する。
(4)

第4要件(非容易推考性)について

原告の主張は争う。
原告は,置換された構成のものとなれば,出願前公知の技術と同一又はそれと近似するものが存在していたといった主張立証をしていない。また,原告が指摘する乙6文献及び特開平04-013174号(甲11。以下甲11文献という。)は,いずれも審査の際に参考文献として考慮されていることからすれば,これらの文献により,本件発明と実質的に同一と評価される置換された構成の特許性が否定されるものではない。

(5)

第5要件(意識的除外のないこと)について

原告の主張は争う。
本件補正は,作業の主体を手段として明確にし,人が行う部分として指摘されたそれぞれの前記記憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対象を記憶するという部分を削除したものである。これにより被告が意識的に除外したのは,あくまでも物の発明を構成しない人為的作業としての逐次又は一斉に表示するという行為態様であり,物や方法の構成として逐次又は一斉に表示すること(表示される構成)一般を技術的範囲の埒外に置いたものではない。また,本件発明の進歩性が認められたのは,引用文献と比較対照したときに全体として技術的思想が異なり,引用文献から本件発明を容易に想到し得るものではないと
の被告の説明を審査官が理解したからであって,構成要件B2を本件補正で付加したことにより進歩性欠如の拒絶理由が解消されて特許査定を得たわけではない。(原告の主張)
原告製品は,以下のとおり,均等の第1~第5要件のいずれも充足しない。したがって,原告製品は,本件特許に係る特許請求の範囲記載の構成と均等なものとはいえず,本件発明の技術的範囲に属しない。
(1)

第1要件の非充足


本件明細書の記載,本件特許の出願時における従来技術である甲11文献及
び乙6文献各記載の技術並びに本件特許に係る出願経過に鑑みると,本件発明は,本件補正により付加された構成要件B2によりはじめて,コンピューターによる画像の選択によって,覚えにくい記憶対象に関する組画を繰り返し選択して表示することや既に記憶した記憶対象の組画を除外した残りの組画を選択して表示すること等が可能となり,学習能率の向上にも寄与するという作用効果を奏する。このため,本件発明の本質的部分には,学習者が記憶対象とする一の組画を任意に選択してコンピューターの処理によってこれを繰り返し学習できるようにしていることも含まれる。

他方,記憶学習において,記憶対象と結びつけることができるイラストや言葉などによって記憶を容易化するというアイデア自体は,本件特許の出願以前から存する。また,本件発明の構成要件B1は,本件補正前に人為的取り決め事項に過ぎないと指摘された点を,コンピューター関連発明の構成をとることによって拒絶査定を回避したに過ぎず,技術的な貢献度は低い。さらに,構成要件B2は,逐次・一
斉表示に係る拒絶理由への対応として,本件補正により,一の組画の選択に限定することとしているのであって,この点でも,技術的な貢献度は極めて低い。このような従来技術及び出願経過に鑑みると,本件発明は,従来技術が未解決であった技術的困難性を具体的に指摘し,その困難性を克服するための具体的手段を開示するものではない。このため,第一の関連画,第二の関連画,原画
の順に表示されることは,当該部分が本質的部分の一部になるとしても,その貢献度は極めて低いものであり,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されるべきである。
したがって,本件発明においては,一の組画の画像データを選択する画像選択手段との構成(構成要件B2)が,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分すなわち本質的部分である。
しかるに,原告製品は,本件発明の構成要件B2を備えておらず,これは,本件発明の本質的部分に係わる相違部分である。加えて,原告製品は,一の組画を選択するという構成を備えていないところ,これは,地方単位で当該地方に属する都道府県の名称及びその個数と,当該地方における都道府県の位置関係に合わせて記憶することを主目的としているからである。この点は,本件明細書に開示されていな
い技術的思想であり,原告製品は,本件特許の技術的思想の範囲内にない。したがって,原告製品は,均等の第1要件を充足しない。

被告の主張について

被告は,第一の関連画,第二の関連画,原画の順に表示されるのと同期して当該音声データが再生されるという部分が本件発明の本質的部分であると主張する。これによれば,画の表示と同期して音声データを再生することに限定されており,選択について言及されていない。しかし,本件明細書によれば,本件発明は選択を伴わなければ記憶対象たる組画の表示はあり得ず,むしろ選択こそが重要な要素である。
(2)

第2要件の非充足

本件発明は,一の組画の画像データを選択する画像選択手段(構成要件B2)を備えるものであり,画像の選択が,課題である学習能率の向上に寄与している。すなわち,本件発明の効果にとって,特定の組画を選択できることを前提に,これを繰り返し表示できるという構成は,極めて重要な意義を有する。これに対し,原告製品は,各地方単位又は日本全国における地図上の都道府県を記憶させること
を目的としているため,あらかじめ設定された地方ごとのセット画のまとまりでしか再生することはできず,表示順序もあらかじめ設定された順序で逐次再生することができるだけであり,一つ又は複数の都道府県の画を選択し,当該都道府県のみを繰り返し再生することは,その構成上不可能である。しかも,学習者が特定の都道府県が属する地方を記憶していない場合,そもそもその都道府県が表示されないことになる。
また,原告製品は,イラストと言葉の語呂合わせで個別の都道府県とその形状を結び付けて憶えるのみならず,地方単位で当該地方に属する都道府県の名称及びその個数と,当該地方における都道府県の位置関係を合せて記憶することをも目的として製作されており,この点で,原告製品は,本件発明とは技術的思想が異なり,作用効果も異なる。

そうすると,本件発明と原告製品との上記相違部分につき,本件発明の構成を原告製品の構成に置き換えると,その効果は画像選択手段(構成要件B2)によって達成される効果とは全く異なることとなり,本件発明と同一の作用効果を生じるとはいえない。
したがって,原告製品は,均等の第2要件を充足しない。

(3)

第3要件の非充足

本件発明と原告製品との相違部分につき,本件発明の構成を原告製品の構成に置き換えることは,当業者において常套手段や周知の技術事項といえるものではなく,また,設計上の微差とする根拠もないから,当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
したがって,原告製品は,均等の第3要件を充足しない。
(4)

第4要件の非充足

甲11文献及び乙6文献に鑑みれば,本件特許出願時に,コンピューターを備え,記憶対象とする原画とこれに関連する複数の画からなる組画の画像を逐次表示することによって記憶対象を記憶させる物の発明は,当業者も容易に推考できたものといえる。
また,組画を原画とこれに関連する2つの画に限定することなく構成すること,選択できる範囲を1つの組画ではなく複数のまとまりで構成することも,当業者が容易に推考できたものといえる。
したがって,原告製品は,均等の第4要件を充足しない。
(5)
第5要件の非充足

被告は,明確性要件違反及び進歩性の欠如という拒絶理由に対し,本件補正において,組画の逐次又は一斉の表示をして記憶する人の作業となる部分を削除しつつ,組画の表示を構成要件B2の選択手段に限定して,明確性の欠如に係る拒絶理由を補正すると共に,組画を逐次又は一斉に表示してとする構成を削除し,かつ,一の組画の画像データを選択する画像選択手段(構成要件B2)を付加
したものである。
このような本件補正の経緯によれば,被告は,本件発明に係る特許請求の範囲につき,一の組画の画像データを選択する画像選択手段に客観的,外形的に限定し,これを備えない発明については,本件発明の技術的範囲から意識的に除外したといえる。

しかるに,原告製品は,本件発明の構成要件B2を備えない。
したがって,原告製品は,被告が本件発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外したものに当たり,特段の事情を有するといえるから,均等の第5要件を充足しない。
3
間接侵害の成否(争点3)

(被告の主張)
原告製品は,その構成にコンピューターを備えていないが,コンピューターで再生されることにより意味を持つ学習用具である。
そうすると,原告製品は,コンピューターを備える学習用具である本件発明の専用品である。また,原告は,少なくとも特許製品(コンピューターを備える学習用
具)の生産に用いる物を,コンピューターで再生されることを知って生産等をしている。
したがって,原告の行為は,本件特許に係る請求項1~5の発明との関係では特許法101条1号及び2号に,請求項6~9の発明との関係では同条4号及び5号にそれぞれ該当し,本件特許権の間接侵害に当たる。
(原告の主張)
原告製品は,DVDプレイヤー等によって映像を再生させる場合,本件発明の構成要件B1~B6の手段等及び同Cの機能を含む画像表示手段を有しない。したがって,原告製品につき,間接侵害は成立しない。
第4

当裁判所の判断

1
原告製品が充足する本件発明の構成要件(争点1)について

(1)

本件明細書の記載

本件明細書には,次のとおりの記載がある。

従来の技術及び本件発明が解決しようとする課題

特定の国の地図上の形や国旗の模様のような,特定の国家や都道府県等の自治体,行政単位に関連する地域の地図上の形状,又はこれらの地域を象徴する国旗,シンボルマーク等の模様を学習するためには,地図帖や国旗一覧表などを用いて,これらを繰り返し見ながら覚えることが一般に行われている。(【0002】)しかし,単にこれらを繰り返し見ることは忍耐を必要とし,特に小学生等の若年者にとってはこの学習には興味が沸かず苦痛と感じられることが多く,学習効果が上がらないことが多い。(【0003】)

本発明は,これら問題点に鑑み,楽しみを感じながら知らず知らずに特定の国家や自治体,行政単位に関連する地域の地図上の形状,又は該地域を象徴する国旗,シンボルマーク等の模様が覚えられる学習用具及びこの学習用具を用いて学習するための学習用情報提示方法を提供しようとする。(【0004】)イ
課題を解決するための手段

本発明に係る学習用具の要旨とするところは,コンピューターを備え,対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用具であり,前記コンピューターが,前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体と,前記組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画の画像データを選択する画像選択手段と,前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する画像表示手段と,前記関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体と,前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と,
前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,を含むことにある。(【0005】)
本発明は,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示することを特徴とする。(【0006】)
さらに,前記画像表示手段が,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記
原画を,対応する語句の再生と同期して表示することにある。(【0007】)また,前記学習用具において,前記関連画が複数であり,一の関連画が他の関連画の輪郭に似た若しくは該他の関連画を連想させる輪郭を有し得る。(【0011】)ウ
本件発明の実施の形態

特定の国の地図上の形態と,その形態の輪郭に似た輪郭を有する漫画とを結び付けて,漫画,抽象画,原画の順に,それぞれの絵に対応する語句とともに提示することにより,生徒は国の地図上の形態を,国名など原画に対応する語句と結びつけて容易に憶えることができる。(【0027】)
その理由は,漫画が生徒にとって親しみやすく抵抗なく頭の中に受け入れられることである。更に,漫画,抽象画,原画と順を追って示すことにより,漫画から抽
象画,原画と変化する画像が容易に生徒に受け入れられることである。又,漫画,抽象画,原画のそれぞれに対応する語句とともにそれぞれの絵を提示することにより,一層それぞれの絵が生徒に印象づけられることである。(【0028】)都道府県に関して,漫画,抽象画,原画の順に並べた組画から成る組画群の例を各ユニット画に対応する語句とともに表2に示す。(【0033】)【表2】

(【0034】)
このようにして,ある記憶対象に関する漫画,抽象画及び原画をそれぞれユニット画とし,これらの各ユニット画から成る組画が集合して,個々の記憶対象に対応する組画群が構成される。そして1又は複数種の記憶対象から成る記憶対象群に含まれる記憶対象のそれぞれに対応する組画が作られて,その組画が集まって記憶対象群に対応する組画群が構成される。(【0035】)
即ち,組画は,原画及び原画に関連する関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から構成される。(【0036】)
組画を所定の順で逐次表示して記憶対象を記憶させる。又,組画を構成するユニット画を逐次表示することに組画の表示が行われる。このような表示により記憶対象を記憶させる。(【0037】)
特定の組画を構成するユニット画は,全て一斉に表示してもよいが,前述のように逐次表示するほうが,学習効果が増して好ましい。(【0038】)組画は,漫画と原画の2個1組のユニット画から構成されていてもよいが,前述
のように漫画,抽象画及び原画の3画1組のユニット画から構成されるほうが学習効果が増して好ましい。更に,原画に関連するキーワードの文字から成る文字画を加えて4画1組のユニット画から構成されてもよい。(【0039】)記憶対象は自治体や行政単位に関連する地域の地図上の形状であってもよい。…都道府県や市町村の地図上の形態であってもよい。…湖や島や半島やその他地図上
の特定の場所や区域であってもよい。(【0043】)
記憶対象に対応する漫画は,原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有するもののほかに,原画の特徴を抽出して描かれたものであれば,原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有しなくてもよい。(【0044】)
ユニット画は映写機のような画像再生手段により記録・再生して表示されてもよ
い。又,ユニット画は…DVDのような電子記録媒体に記録され,…DVD再生装置のような電子画像表示手段により再生して表示されてもよい。語句の発声は,テープレコーダや,ビデオテープレコーダや,CD装置やDVD装置のような録音・再生手段により,録音・再生されてもよい。画像録画・再生手段に内蔵の録音・再生手段により録音・再生されてもよい。(【0047】)

本発明においては,ユニット画が画像データとして記録されたカードや電子記録媒体を組画記録媒体と称する。又,カードに描かれた画像も画像データとみなす。(【0048】)
テープレコーダから発生する語句の音声に合わせて(同期させて),発声される語句に対応するユニット画の描かれたカードを生徒に提示してもよい。(【0049】)
画像再生手段や音声再生手段がコンピュータに備えられ,コンピュータの画像選択手段や音声選択手段により選択された画像データや音声データに基づき,画像再生手段や音声再生手段を介して電子記録媒体に記録された画像や音声が出力されてもよい。(【0050】)
語句音声はユニット画の再生に同期して再生されることが好ましい。(【005
1】)
ユニット画は,…DVDのような,画像を画像データとして記録する電子記録媒体から成る組画記録媒体に画像データとして記録されていてもよい。組画記録媒体に記録されたユニット画は,画像出力端末を備える…コンピュータのような,画像再生手段により逐次又は選択的に再生される。(【0052】)

画像の選択は,コンピュータに内蔵のプログラムに基づいてなされてもよい。このプログラムが,外部からコンピュータの入力端末を介して変更可能なものであってもよい。(【0053】)
画像の選択が,コンピュータの入力端末から指令として入力されてもよい。即ち,コンピュータの指令受信手段が,選択する組画を特定する選択指令データをコ
ンピュータの端末から受信し,受信した選択指令データに基づいて選択する組画を特定する画像データが選択されてもよい。(【0054】)
音声の選択が,コンピュータの入力端末から指令として入力されてもよい。即ち,コンピュータの指令受信手段が,選択する音声を特定する音声選択指令データをコンピュータの端末から受信し,受信した音声選択指令データに基づいて選択す
る音声を特定する音声データが選択されてもよい。(【0055】)この音声選択指令データは,コンピュータの入力端末から指令として入力されずに,選択する組画を特定する選択指令データに基づいて自動的に作られてもよい。(【0056】)
このような画像の選択は,学習能率の向上に寄与する。即ち,選択としては,憶えにくい記憶対象に関する組画を幾度も繰り返して表示することが挙げられる。又,組画群のなかから,既に記憶した記憶対象に関する組画を除いて残りの組画を表示することが挙げられる。組画の表示の順番を変える選択も挙げられる。生徒に応じて表示する組画を変える選択も挙げられる。一つの組画に対して,複数種の標語を準備し録音し,生徒の年齢等に応じて再生する標語を変える選択も挙げられる。一つの記憶対象に対して,複数種の組画と標語を記録し,生徒の年齢等に応じ
て再生する組画の画像と標語の音声を変える選択も挙げられる。(【0057】)本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で,当業者の知識に基づき種々の改良,修正,変形を加えた態様で実施し得るものであり,これらの態様はいずれも本発明の範囲に属するものである。(【0058】)

発明の効果

本発明の学習用具及びこの学習用具を用いた学習用情報提示方法により,楽しみを感じながら知らず知らずに特定の国家や自治体,行政単位に関連する地域の地図上の形状,又は該地域を象徴する国旗,シンボルマーク等の模様,等の記憶対象が憶えられる。(【0059】)
(2)

原告製品はその構成にコンピューターを備えるものではなく,本件発明の
構成要件A及びBを充足しないことは,当事者間に争いがない。
もっとも,原告製品をコンピューター(画像再生手段及び音声再生手段を備えたものであることを前提とする。以下同じ。)に使用する場合,当該コンピューターは,都道府県の地図上の形状を前記都道府県の名称と結び付けて覚えるための学習用DVD(原告製品の構成a)を備えた装置すなわち学習用具となる。また,後記の
とおり,原告製品における都道府県の地図上の形状は原画(構成要件B1)に,都道府県の名称は原画に対応する語句(同)に相当する。そうすると,原告製品を使用したコンピューターは,対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用具といえる。したがって,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の構成要件A,B及びDを充足する。
(3)

構成要件B1について


組画の意義

(ア)

特許請求の範囲の記載によれば,本件発明の組画は,対応する語句が存在し,その形態を該語句と結びつけて覚える対象である原画,原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画並びに原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画から成る。すなわち,特許請求の範囲記載の組画は,原画,第一の関連画及び第二の関連画の各1画により構成されるものと理解される。もっとも,特許請求の範囲の記載には上記構成に限定される趣旨をうかがわせる文言はない。このため,本
件発明は,原画,第一の関連画及び第二の関連画の各1画(合計3画)から成る組画のみを記録,表示する構成に限定されるか,それ以外の画像等を更に付加する構成を排除しない趣旨であるかは,その記載から明らかとは必ずしもいえない。
加えて,本件特許に係る請求項5の発明は,前記関連画が複数であり,一の関連画が他の関連画の輪郭に似た若しくは該他の関連画を連想させる輪郭を有する請求項1~請求項4のいずれかに記載の学習用具である。この記載からは,当該発明は,第一の関連画及び第二の関連画以外の関連画を含むものと理解する余地がある。これによれば,従属項である請求項5の発明の構成を含むものである本件発明は,第一の関連画及び第二の関連画以外の他の関連画の輪郭に似た若しくは該他の関連画を連想させる輪郭を有する関連画を含むものと理解する余地があることになる。
(イ)

本件明細書の記載によれば,本件発明は,特定の国家や都道府県等の自治
体等の地図上の形状等の学習に当たり,従来は,これらを繰り返し見ながら覚えることが一般に行われていたところ,このような学習方法には忍耐を必要とし,特に小学生等の若年者にとっては,興味が沸かず苦痛と感じられることが多く,学習効果が上がらないことが多かったという問題点に鑑み,楽しみを感じながら知らず知らずにこれを学習できるようにしたものである(【0003】,【0004】)。例えば,漫画は学習者にとって親しみやすく抵抗なく頭の中に受け入れられることから,記憶対象である地図上の形態と,その形態の輪郭に似た輪郭を有する漫画とを結び付け,漫画から抽象画,原画と順を追って示すことにより,変化する画像が容易に学
習者に受け入れられ,学習者は,容易にこれを記憶することができる(【0027】,【0028】)。このような,ある記憶対象に関する漫画,抽象画及び原画から成る組画は,原画及び原画に関連する関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から構成される(【0035】,【0036】)。ここでは,組画を構成する関連画の数は,必ずしも2つに限定されていない。

また,組画は,漫画,抽象画及び原画の3画1組のユニット画から構成される方が好ましく,更に,原画に関連するキーワードの文字からなる文字画を加えて4画1組のユニット画から構成されてもよい(【0039】)。加えて,記憶対象に対応する漫画は,原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有するもののほかに,原画の特徴を抽出して描かれたものであれば,原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有しなくても
よい(【0044】)。本件の都道府県位置画のように都道府県の地図上の形状を複数組み合わせた画は,特定の都道府県の地図上の形状を原画とすると,全体としては原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有するものではないものの,原画の輪郭をその一部に含むことから,原画の特徴を抽出して描かれたものということはできる。さらに,本件発明は,その趣旨を逸脱しない範囲で,当業者の知識に基づき種々
の改良,修正,変形等を加えた態様で実施し得る(【0058】)。本件明細書記載の解決すべき課題(【0004】)ないし本件発明の効果(【0059】)に鑑みると,原画,第一の関連画及び第二の関連画から成る構成に原画に関連するキーワードの文字からなる文字画や他の関連画の輪郭に似た若しくは該他の関連画を連想させる輪郭を有する関連画,原画の特徴を抽出して描かれた画が付加されたとしても(以下,このような原画,第一の関連画及び第二の関連画以外に付加された画を付加画という。),直ちに本件発明の趣旨を逸脱するものとはいえない。他方,本件発明における組画が原画1画と関連画2画のみで構成されなければならない理由等をうかがわせる記載は見当たらない。
これらの記載によれば,本件明細書において,組画は,原画,第一の関連画及び第二の関連画の合計3画から成る構成に限らず,原画に関連するキーワードの
文字からなる文字画や,原画の特徴を抽出して描かれた画等の付加画を更に含むことを許容する概念であると解される。
(ウ)

以上より,本件発明の組画とは,原画,第一の関連画(原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する関連画)及び第二の関連画(原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する関連画)の合計3画から成ることを要するものの,そのような構成に限定されず,第一の関連画及び第二の関連画以外の付加画を更に付加する構成をも排除しないものと解される。(エ)

原告の主張について

原告は,本件発明の関連画は第一の関連画と第二の関連画に限定されると主張する。
しかし,特許請求の範囲及び本件明細書の各記載を見ても,組画を構成する画が原画,第一の関連画及び第二の関連画各1画の合計3画に限定されることをうかがわせる具体的な記載はない。むしろ,前記(ア)~(ウ)のとおり,上記各記載からは,そのような構成に限定されるものではないと解される。本件特許
に係る出願経過についても,本件意見書には,組画を構成する画の数を殊更限定する趣旨をうかがわせる記載は見当たらない。特許請求の範囲の記載の明確性という観点から見ても,本件発明に係る特許請求の範囲には,関連画につき第一の関連画及び第二の関連画が明示されるにとどまるものの,請求項5の記載,本件明細書の記載及び当業者の技術常識を考慮すれば,付加画が更に含まれ得ると解したとしても,なお発明の明確性は損なわれないと思われる。
その他原告が縷々指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用できない。

原告製品について

(ア)前記(第2の2(4))のとおり,原告製品は,以下の表のようなイラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画及び都道府県位置画の4画をセット画とすると共に(構成b),地方ごとに一曲ずつ,対応する語呂合わせ歌を有する(構成c,d)。また,イラスト画,形状・イラスト画及び都道府県形状画は,それぞれに対応する語呂合わせ歌の歌詞を有する。さらに,原告製品においては,6つの地方ごとにセット画の映像が記録されている(構成b)。

【表】
都道府県

イラスト画

形状・イラスト画

都道府県形状画

都道府県位置画

北海道

青森県

原告製品は,都道府県の地図上の形状を覚えるための学習用DVDであるから(構成a),原告製品の都道府県形状画は本件発明の原画に相当する。イラスト画は,都道府県形状画に似た輪郭を有する画であるから,第一の関連画に相当する。形状・イラスト画は,都道府県形状画及びイラスト画に似た輪郭を有する画であるから,第二の関連画に相当する。また,イラスト画及び形状・イラスト画には,それぞれ,対応する語句が存在する。そうすると,セット画のうち都道府県形状画,イラスト画及び形状・イラスト画は,本件発明の組画に相当することとなる。
さらに,DVDである原告製品には,6つの地方ごとにセット画の映像が記録されているから,原告製品は,組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体に相当する。他方,原告製品のセット画には,都道府県位置画が含まれる。しかし,都道府県位置画は,都道府県の地図上の形状を一まとまりの地方単位で複数組み合わせた画であり,全体としては原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有するものではないものの,原画の輪郭をその一部に含むことから,原画の特徴を抽出して描かれたものと
いうことはできる。このため,原告製品のセット画に都道府県位置画が含まれることは,原告製品が本件発明の構成要件B1を充足するとする判断を妨げるものではない。
(イ)

これに対し,原告は,原告製品のセット画は音声を含む映像であっ
て,単なる組画ではないなどと主張する。
本件発明において,その特許請求の範囲の記載では,組画の画像データを記録する組画記録媒体(構成要件B1)と関連画及び原画に対応する語句の音声データを記録する音声記録媒体(同B4)は,別の構成として特定されている。もっとも,組画記録媒体と音声記録媒体が物理的に別の記録媒体であることが明示的に定められているわけではなく,また,画像データ及び音声データのデータ形式も特定されていない。他方,本件明細書の記載によれば,組画を構成するユニット画は,DVDのような電子記録媒体に記録されてもよく,また,音声は,DVD装置のような録音・再生手段に録音されてもよく,画像録画・再生手段に内蔵の録音・再生手段により録音されてもよい(【0047】,【0052】)。さらに,音声の選択は,コンピューターの入力端末から指令として入力されてもよく(【0055】),また,コンピューターの入力端末から指令として入力されずに,選択する組画を特定する選択指令データに基づいて自動的に作られてもよい(【0056】)。
これらの記載によれば,組画記録媒体と音声記録媒体が物理的に別の記録媒体であることは必ずしも求められておらず,DVDのような記録媒体が,画像データの記録媒体と音声データの記録媒体を兼ねることも,記録される画像データ
と音声データが一体のものであることも,いずれも許容されていると考えられる。また,これを許容したとしても,楽しみを感じながら知らず知らずに特定の国家等の地図上の形状等の記憶対象を記憶するという本件発明の作用効果(【0059】)が妨げられることもない。
したがって,原告製品のセット画が音声を含む映像であったとしても,これ
が組画に相当すると見ることを妨げるものではない。
その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用できない。

小括

したがって,原告製品は,本件発明の構成要件B1を充足する。
(4)

構成要件B2について


原告製品が複数個の組画の画像データを記録した前記組画記録媒体に当たることは,前記(3)イのとおりである。イ
(ア)
一の組画の画像データを選択する画像選択手段の意義
本件発明に係る特許請求の範囲の記載によれば,本件発明のコンピュータ
ーが備える画像選択手段は,組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画の画像データを選択する手段である。そうすると,画像選択手段は,コンピューターが,その組画記録媒体に記録されている他の組画の画像データと区別して,一つの組画の画像データを選択することができるものである必要があるものと理解される。もっとも,コンピューターが二つ以上の組画の画像データを同時に選択することしかできない構成が本件発明の一の組画の画像データを選択する画像選択手段から除外されていることを明示的にうかがわせる記載はない。
他方,本件明細書には,画像選択手段について,選択の実行手段については記載があるものの(【0053】,【0054】),選択対象である組画の画像データについては,一つの組画を念頭に置いたと見られる記載はあるものの(【005
7】),二つ以上の組画の画像データを同時に選択することしかできない構成が本件発明の画像選択手段に含まれることをうかがわせる具体的な記載は見当たらない。
以上より,一の組画の画像データを選択する画像選択手段(構成要件B2)とは,コンピューターが,その組画記録媒体に記録されている他の組画の画像デー
タと区別して,一つの組画の画像データを選択することができるものであり,二つ以上の組画の画像データを同時に選択することしかできない構成は含まれないと解される。
(イ)

原告製品について

原告製品においては,前記(第2の2(4))のとおり,都道府県の形状に係るイラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画及び都道府県位置画からなるセット画が,日本全国及び地方ごとの映像として記録されている(構成b,c)。また,その映像の再生に当たっては,日本全国の都道府県を順に再生するALLPLAYモード又は地方ごとに再生する地方選択モードを選択することができるが(構成e),個々の都道府県単位での選択はできない。再生順についても,ALLPLAYモード
であれ地方選択モードであれ,地方ごとに作成者が設定した都道府県順に自動で連続して再生される(構成e)。また,同一の地方に属する複数の都道府県について,一の都道府県ごとに1組ずつのものとしてコンピューターが区別し得る形式で組画の画像データが存在し,これを1つずつ選択する構成になっていることを認めるに足りる証拠もない。
そうすると,原告製品を使用したコンピューターは,一の組画の画像データを選択する画像選択手段(構成要件B2)を備えているとはいえない。(ウ)

被告の主張について

被告は,画像選択手段は,複数個の組画データから少なくとも一の組画の画像データを選ぶことのできる手段をいい,DVDにおいては,複数個の組画データから再生を企図した少なくとも一の組画の画像データを電子的に特定できる機構のことであるところ,原告製品は,地方ごとにセットになっているものが特定され,所定の順序で表示されるようにプログラムされているので,一の組画を選択する構成を備えているなどと主張する。
しかし,前記(ア)のとおり,本件発明の画像選択手段につき,二つ以上の組画の画像データを同時に選択することしかできない構成は含まれないと解されるの
であって,複数個の組画データから少なくとも一の組画の画像データを選ぶことのできる手段と解することはできない。また,前記(イ)のとおり,原告製品において,画像データが一の都道府県の組画の画像データをコンピューターにおいて特定できる構成になっていることを認めるに足りる証拠はない。そうである以上,原告製品を使用したコンピューターにおいて特定の地方が選択された際に,コンピュ
ーターが原告製品(DVD)のプログラムに従って当該地方に属する都道府県の組画を1つずつ選択する構成を備えているとはいえない。
さらに,原告製品において,学習したい都道府県が含まれる地方を選択し,意図した都道府県が表示されるまで待つ時間が長くても秒単位であり,学習上特段の問題はないとしても,本件発明とは構成が異なることに違いはない。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する被告の主張は採用できない。

以上によれば,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の構成要件
B2を充足しない。
(5)

構成要件B3~B6及びCについて
前記(4)のとおり,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の一の組画の画像データを選択する画像選択手段(構成要件B2)を備えるものではないから,この画像選択手段による組画の画像データの選択を前提とする構成要件B3~B6及びCも充足しないことになる。
もっとも,便宜上,以下において,原告製品を使用したコンピューターが本件発明の構成要件B2を充足するとした場合における同コンピューターの構成要件B3~
B6及びCの充足性について検討する。

構成要件B3について

原告製品は,前記(第2の2(4))のとおり,ALLPLAYモードの選択又は地方選択モードにおける地方の選択に応じて,組画であるセット画が1つのセット画ごとに,イラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画及び都道府県位置画の順に出力される設定になっている(構成d,e)。このうち,イラスト画,形状・イラスト画及び都道府県形状画は,それぞれ本件発明の第一の関連画,第二の関連画及び原画に相当する(前記(3)イ(ア))。他方,都道府県位置画は,本件発明において付加が許容される付加画であるから,その存在は原告製品を使用したコンピューターが本件発明の構成要件B3を充足するとの判断を妨げない。
そうすると,原告製品を使用したコンピューターは,前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する画像表示手段を備えており,構成要件B3を充足するものといえる。これに反する原告の主張は採用できない。

構成要件B4について

前記(3)イ(イ)のとおり,本件発明の組画記録媒体と音声記録媒体とは,物理的に別の記録媒体であることは必ずしも求められておらず,DVDのような記録媒体が,画像データの記録媒体と音声データの記録媒体を兼ねることも,記録される画像データと音声データが一体のものであることも,いずれも許容されていると考えられる。
原告製品においては,前記(第2の2(4))のとおり,イラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画及び都道府県位置画からなるセット画の一連の語呂合わせ歌の音声が,地方ごとに一曲ずつ,映像として記録されており(構成c),この語呂合わせ歌の音声は,イラスト画,形状・イラスト画及び都道府県形状画のそれぞれに対応した歌詞を含む(前記(3)イ(ア))。また,都道府県位置画は,本件発明において付加が許容される付加画であるから,その存在は原告製品を使用したコンピ
ューターが本件発明の構成要件B4を充足するとの判断を妨げない。そうすると,原告製品の語呂合わせ歌の音声データは,関連画及び原画に対応する語句の音声データに相当するといえる。このため,この音声データを記録している原告製品は,セット画を一連とする語呂合わせの歌の音声が地方ごとに一曲ずつ映像として記録されたものであったとしても,前記関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体(構成要件B4)に当たる。したがって,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の構成要件B4を充足する。これに反する原告の主張は採用できない。

(ア)

構成要件B5及びB6について
特許請求の範囲の記載によれば,本件発明のコンピューターは,これに含
まれる音声記録媒体から,関連画及び原画に対応する語句の音声データを選択する音声選択手段と(構成要件B5),選択された語句を再生する音声再生手段(同B6)を含むこととされている。しかし,そこでは,語句の音声が組画を構成する1画それぞれに対応するものであることを要するか否かは明示されていない。また,音声選択手段については,画像選択手段により選択された組画の画像データに対応
する語句の音声データを,これを記録した音声記録媒体から選択し得るものであることは必要であるものの,画像選択手段と別個のものであることを要することをうかがわせる明示的な記載はない。
さらに,本件発明においては,組画記録媒体と音声記録媒体とは,物理的に別個の記録媒体である必要はなく,組画記録媒体に記録される画像データと音声記録媒体に記録される音声データとは,一体のものであることが許容されている(前記(3)イ(イ))。この点を踏まえると,音声選択手段は,むしろ画像選択手段と別個のものであることを必ずしも要しないと理解される。
(イ)

本件明細書の記載によれば,語句の発声は,DVD装置のような録音・再生
手段や画像録画・再生手段に内蔵の録音・再生手段により再生されてもよい(【0047】)。また,本件発明において同期とは,音声再生手段から発声される語句に対応するユニット画を,当該音声に合わせて再生することを意味するものと理解されるところ(【0049】参照),語句音声はユニット画の再生に同期して再生されることが好ましい(【0051】)。さらに,画像の選択は,コンピューターに内蔵のプログラムに基づいてされてもよい(【0053】)と共に,コンピューターの入力端末から指令として入力されてもよい(【0054】)。他方,音声の選択は,コンピュ
ーターの入力端末から指令として入力されてもよく(【0055】),この音声選択指令データは,コンピューターの入力端末から指令として入力されずに,選択する組画を特定する選択指令データに基づいて自動的に作られてもよい(【0056】)。他方,語句の音声が組画を構成する1画それぞれに対応するものであることを要することをうかがわせる記載は,本件明細書には見当たらない。むしろ,語句音声
はユニット画の再生に同期して再生されることが好ましいとされていること,音声選択指令データが,選択する組画を特定する選択指令データに基づいて自動的に作られてもよいことに鑑みると,組画の画像データに対応する語句の音声データが,組画全体に対応するものであることは,本件明細書において許容されているものと理解される。

(ウ)以上より,本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の各記載を考慮すると,本件発明の対応する語句の音声データは,組画を構成する1画それぞれに対応するものであることは必ずしも必要ではなく,また,音声選択手段は,画像選択手段とは別個のものである必要はなく,コンピューターが一の組画を選択すれば,自動的に対応する音声データが選択される構成も含まれると解される。(エ)
原告製品について

前記(第2の2(4))のとおり,原告製品を使用したコンピューターにおいては,1つのセット画ごとにイラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画,都道府県位置画の順に出力されると共に,イラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画に対応する一連の語呂合わせ歌の音声が出力される設定となっており(構成d),その再生にあたっては,地方選択モードの場合,選択された地方に属す
る都道府県のセット画が再生されると共に,選択された地方に属する都道府県のイラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画の一連の語呂合わせ歌の音声が,地方ごとに作成者が設定した順に自動で連続して再生される(構成e)。すなわち,原告製品を使用したコンピューターにおいては,再生すべき画像が選択されることにより,自動的にこれに対応する語呂合わせ歌の音声が選択され,再生されるもの
といえる。
このことと,原告製品の語呂合わせ歌の音声データは前記語句の音声データに相当すること(前記ウ)を併せ考えると,原告製品を使用したコンピューターは,音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と,前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段とを備えたものとい
える。すなわち,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の構成要件B5及びB6をいずれも充足する。これに反する原告の主張はいずれも採用できない。エ
構成要件Cについて

前記(3)イ(イ)のとおり,本件発明において,組画記録媒体及び音声記録媒体に記録される画像データと音声データが一体のものであることは許容されていると考えられる。前記エ(イ)のとおり,本件発明において同期とは,音声再生手段から発生する語句に対応するユニット画を,当該音声に合わせて再生することを意味するものと理解されるところ,記録される画像データと音声データが一体のものであれば,もとより音声再生手段から発声する語句に対応するユニット画は,当該音声に合わせて再生されることとなるから,このような場合も同期して表示されたものといえる。
また,前記(第2の2(4))のとおり,原告製品を使用したコンピューターにおいては,1つのセット画ごとにイラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画,都道府県位置画の順に出力されると共に,イラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画に対応する一連の語呂合わせ歌の音声が出力される設定となっており(構成d),その再生にあたっては,地方選択モードの場合,選択された地方に属
する都道府県のセット画が再生されるとともに,選択された地方に属する都道府県のイラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画の一連の語呂合わせ歌の音声が,地方ごとに作成者が設定した順に自動で連続して再生される(構成e)。原告製品のセット画は本件発明の第一の関連画,第二の関連画及び原画から成る組画に相当し,語呂合わせ歌は対応する語句に相当するところ(前記(3)イ
(ア),(5)ウ),上記のとおり,セット画は,対応する語呂合わせ歌と共に再生されることから,対応する語句の再生と同期して表示されるものといえる。したがって,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の構成要件Cを充足する。これに反する原告の主張は採用できない。
(6)小括

以上によれば,原告製品を使用したコンピューターは,一の組画の画像データを選択する画像選択手段(構成要件B2)及びこれを前提とする構成を備えない点を除き,本件発明の構成要件を充足する。
2
(1)

均等侵害の成否(争点2)について
特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品等(対
象製品等)と異なる部分が存する場合であっても,当該部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件),当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって(第2要件),そのように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件),対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が当該出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件),かつ,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は,当該対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁,最高裁平成29年
3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁参照)。
そこで,本件発明の一の組画の画像データを選択する画像選択手段(構成要件B2)を備えない原告製品を使用したコンピューターが,なお本件発明に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属するものといえるかについて,以下検討する。
(2)

第1要件(非本質的部分)について


本件発明の本質的部分

(ア)

特許発明の本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のう
ち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解される。このような特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない。また,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記
載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定される。より具体的には,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり,従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には,特許請求の範囲の記載の一部について,これを上位概念化したものとして認定される一方で,従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される。ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客観的に不十分な場合には,明細書に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。
(イ)

本件明細書の記載

本件明細書においては,本件発明に係る従来技術として,

特定の国家や都道府県等の自治体…の地図上の形状…を学習するためには,地図帖や国旗一覧表などを用いて,これらを繰り返し見ながら覚えることが一般に行われている。

(【0002】)ことが挙げられている。そのうえで,発明が解決しようとする課題について,

単にこれらを繰り返し見ることは忍耐を必要とし,特に小学生等の若年者にとってはこの学習には興味が沸かず苦痛と感じられることが多く,学習効果が上がらないことが多い。

(【0003】),

本発明は,これら問題点に鑑み,楽しみを感じながら知らず知らずに特定の国家や自治体…の地図上の形状…が覚えられる学習用具及びこの学習用具を用いて学習するための学習用情報提示方法を提供しようとする。

(【0004】)と記載されている。また,本件明細書においては,こうした従来技術の課題の解決手段として,特許請求の範囲記載の構成が示されると共に,その作用効果につき,

本発明の学習用具及びこの学習用具を用いた学習用情報提示方法により,楽しみを感じながら知らず知らずに特定の国家や自治体…の地図上の形状…等の記憶対象が憶えられる。


(【0059】)と記載されている。
(ウ)

甲11文献について
a
甲11文献(平成4年1月17日公開)は,発明の名称漢字学習用具に
係る公開特許公報である。その従来の技術及び発明が解決しようとする課題に係る記載によれば,甲11文献は,本件発明と従来技術及び解決すべき課題を共通にするものであり,本件発明にとっての従来技術ということができる。b
甲11文献には,以下の記載がある。

漢字の一つと,前記漢字の成り立ちを示す古代文字と,前記古代文字の成り立ちを示す絵文字と,前記漢字と前記絵文字とを関連づけて暗記するための唱え言葉とを1組の学習記録として記録し,前記漢字の種類に応じて複数組の学習記録を記録して成る漢字学習用具。(請求項1)前記学習記録は,カードに表示されて記録されており,前記1組の学習記録を記録する1組の前記カードは,漢字の一つを表示する漢字カードと,前記漢字カードに表示される漢字の成り立ちを示す古代文字を表示する古代文字カードと,前記古代文字カードに表示される古代文字の成り立ちを示す絵文字を表示する絵文字カードと,前記漢字カードに表示される漢字と前記絵文字カードに表示される絵文字とを関連づけて暗記するための唱え言葉を表示する唱え言葉カードとを有し,/前記漢字の種類に応じて複数組の前記カードを集合して成る請求項1記載の漢字学習用具。(請求項2)

前記学習記録は,磁気テープをもって調整した部分に記録されていることを特徴とする請求項1の漢字学習用具。

(請求項8)
学習者は,漢字を覚える場合,その漢字と,その成り立ちを示す古代文字と,その古代文字の成り立ちを示す絵文字とをその形から互いに関連付けて理解し,また,唱え言葉により漢字と絵文字との関連づけを助けて,漢字の理解を深めることができる。このため,絵文字や唱え言葉が漢字を想起する手掛かりとなって,漢字を覚えやすく,一旦覚えた後は忘れにくく,学習効果を上げることができる。/また,絵文字から古代文字,そして漢字への形の変化をみたり,唱え言葉を唱えることにより,学習が単調になるのを防ぐことができ,漢字を楽しく覚えることができる。(2頁右下欄17行目~3頁左上欄9行目)学習記録は,

磁気テープをもって調整した部分に記録したりしてもよい。磁気テープに記録する場合には,唱え言葉は,音声として再生されるように記録してもよい。

(5頁左上欄1行目~4行目)磁気テープには,これに準ずる方法,例えば,電磁的記録のほか,機械的,静電的方法などにより学習記録を確実に記録して置くことができる物を含むものである。磁気テープがビデオテープの場合には,ビデオテープレコーダを用いて再生し,テレビ画面などで学習することができる。(5頁左上欄10行目~16行目)

また,実施例には,唱え言葉として,人-じゆうにまがるからだ/二ほんあしでたつ人(第1図,第3図),心-しんぞうのかたちでできた/心の字(第2図)が示されている。
c
甲11文献記載の発明

前記bの各記載によれば,甲11文献には,漢字の一つを表示する漢字カードと,前記漢字カードに表示される漢字の成り立ちを示す古代文字を表示する古代文字カードと,前記古代文字カードに表示される古代文字の成り立ちを示す絵文字を表示する絵文字カードを画像として再生されるように記録すると共に,前記漢字カードに表示される漢字と前記絵文字カードに表示される絵文字とを関連付けて暗記するための唱え言葉を音声として再生されるように記録し,前記漢字カードと,前
記古代文字カードと,前記絵文字カードの表示と,前記唱え言葉の音声としての再生が関連付けて行われる磁気テープの発明(以下甲11発明という。)が記載されているといえる。
(エ)乙6文献について
a
乙6文献(平成10年11月24日公開)は,発明の名称英単語等の学習支援装置並びに英単語等の学習支援プログラムを記録した記録媒体に係る公開特許公報である。その発明の背景及び開発を試みた技術課題に係る記載によれば,乙6文献は,本件発明と従来技術及び解決すべき課題を共通にするものであり,本件発明にとっての従来技術ということができる。
b
乙6文献には,以下の記載がある。

本発明の学習支援装置1の一例…は…音声データ及び画像データを読み取る手段であって一例としてFDドライブを適用した読取装置2と,この読取装置2により読み取った音声データ及び画像データを記憶する手段であり,一例として半導体記憶素子を適用した主記憶3と,これら音声データ及び画像データから学習カリキュラム及び記憶カリキュラムを構成する手段の一例であるCPU4及び入出力制御部5と,音声データを出力する手段の一例であるスピーカ6と,画像データを表示する手段の一例であるディスプレイ7とを具えて成る。(【0014】)前記主記憶3内には,CPU4と,…記録媒体8に記録されたプログラムによりいくつかのファイルFが作成されるのであり,これらは大別して音声ファイルFAと画像ファイルFVに分類される。…音声ファイルFA内には連想文ファイルF1と英単語発音ファイルF2が作成され,…画像ファイルFV内には文字ファイルFCとパーツ関連アニメファイルFPが作成される。…文字ファイルFC内には和単語ファイルF3と英単語ファイルFEが作成され,この英単語ファイルFE内には完全文字ファイルF4,パーツファイルF5及びパーツ結合ファイルF6が作成される。(【0016】)
記録媒体8としてはフロッピーディスク…等の磁気ディスクや,CD-ROM等の光ディスク…等,種々のものが用いられる(【0017】)記録媒体8に記録されるデータのうち,

完全文字ファイルf4に記録される完全文字データとは,ある特定の英単語についての正確なスペル(アルファベットの群)を符号化して成るデータである(例polish)。

(【0020】)
前記パーツファイルf5に記録されるパーツデータとは,英単語のスペリングを,個々のアルファベットの順序をそのままにした状態で分断して成るアルファベットの群(…スペリング要素)であり,他の文言(…連想パーツ)を連想させるような群を符号化して成るデータである(例パーツ23「poliから連想パーツであ
るポリースマン(警察官)が連想される。パーツ23shから連想パーツであるシューズ(靴)が連想される。)。(【0021】)
前記パーツ結合ファイルf6に記録されるパーツ結合データとは,前記完全文字データを分断したパーツ(スペリング要素)を,元の順番に一例として「-(ハイフォン)で連結した文字記号群を符号化して成るデータである(例
poli-s

h)。」(【0022】)

前記和単語ファイルf3に記録される和単語データとは,前記完全文字データの英単語を意味する日本語の単語文字(漢字,平仮名,片仮名)を符号化して成るデータである(例磨く)。

(【0023】)
前記パーツ関連アニメファイルfpに記録されるパーツ関連アニメデータとは,前記パーツ…から連想される語である連想パーツを表す映像であり,静止画または動画を符号化して成るデータである(例パーツ23「poliから連想される連想パ
ーツたるポリースマン(警察官)を表す静止画,パーツ23shから連想される連想パーツたるシューズ(靴)を表す静止画と,このシューズを磨く動作(動画))。」(【0024】)
連想文ファイルf1に記録される連想文データとは記憶援助ストーリーの一態様であり,前記パーツ23から連想される連想パーツを表す文言を含んで構成された創作文の音声を符号化して成るデータである(例完全文字がpolishのとき,パーツ23であるpoliからポリースマンという連想パーツが連想され,shからシューズという連想パーツが連想され,これらの連想パーツを組み合わせることによって各英単語毎に一定の記憶援助ストーリーの一態様である連想文「ポリースマンのシューズを磨くを創作する)。」(【0027】)英単語発音ファイルf2に記録される英単語発音データとは,前記完全文字データの英単語についての正確な発音の音声を符号化して成るデータである。(【0028】)
これらのデータにはそれぞれ識別符号が付されており,個々の完全文字データ(英単語)に対応した完全文字データ,パーツデータ,パーツ結合データ,和単語データ,パーツ関連アニメデータ,…連想文データ,英単語発音データ…には,同一の識別符号が付されている。そして前記完全文字データは一例として10個を一まとまりとして1セクションを形成するのであり,前記記録媒体8には複数のセクションが記録されている。(【0030】)ステップS103において,読取装置2を起動して記録媒体8内の音声ファイルfa及び画像ファイルfvに記録された音声データ及び画像データのうち一例として1セクション分のデータを,それぞれのデータに付された識別符号を用いて,主記憶3内の音声ファイルFA及び画像ファイルFV中の対応するファイルに読み込む。(【0036】)

ステップS105において英単語画面11を表出するのであり,…完全文字22(polish)の画像をディスプレイ7に表示し,更に英単語発音データの音声をスピーカ6から出力する。

(【0038】)
ステップS106において記憶援助ストーリーたる連想文画面12を表出するのであり,…画像データのパーツ23(poli,sh),パーツ関連アニメ24(警察官,靴)及び他のアニメ21(靴磨きの少年)をディスプレイ7に表示し,更に音声データの記憶援助ストーリーたる連想文(「ポリースマンのシューズを磨く)…をスピーカ6から出力する。このときパーツ関連アニメ24…の近傍にそれぞれパーツ23
…を表出した状態で前記連想文…の出力を一回又は複数回行う。また前記パーツ関連アニメ24…は連想文とシンクロして表示されるのであり,パーツ関連アニメ24は…連想文の内容に合った表示が行われる(この実施の形態では靴磨きの少年がパーツ関連アニメ24である警察官の靴を磨く動作を行う)。」(【0039】)ステップS107において1セクション中に含まれるすべての完全文字データ(…10個の英単語)についてS106までの処理が行われたか否かを判断し,否なら105に戻り残りの完全文字データ(英単語)についてS106までの処理を行う。そしてS107での判断が正となったらS108へ進み,カウントを行う。(【0040】)ステップS109において,S108でのカウント値が設定値(…一例として4)であるか否かを判断する。否であればS105に戻り当該セクションの最先の完全文字データについてS105以降の処理を実行する。正であればS110に進み,記憶カリキュラムを表出するための以降の処理を行っていく。(【0041】)

ステップS111において確認画面13を表出するのであり,…画像データのパーツ結合25(poli-sh)をディスプレイ7に表示し,更に音声データの英単語発音をスピーカ6から一回または複数回出力する。

(【0043】)

ステップS112において,学習者が前記ステップS111において表示,出力された単語の意味を暗記したことを確認した場合に,適宜マウス等の入力装置9をクリックする。

(【0044】)ステップS113において正答画面14を表出するのであり,…画像データのパーツ結合25(poli-sh)をディスプレイ7に表示し,更に音声データの記憶援助ストーリーたる連想文(「ポリースマンのシューズを磨く)をスピーカ6から出力す
る。このとき連想文の出力とシンクロさせて和単語26(磨く)を表示する」(【0045】)
ステップS114において1セクション中に含まれるすべてのパーツ結合データ(英単語)についてクリック入力がされたか否かを判断し,否ならS111に戻り再度S113までの処理を行う。…そしてステップS114での判断が正となったらステップS115へ進む。(【0046】)ステップS115において過剰学習を実行するのであり,この過剰学習とは…1セクション中のすべて(…10個の単語polish等)の完全文字22について,これらをディスプレイ7に表示し,更に記憶援助ストーリーたる連想文(「ポリースマンのシューズを磨く等)をスピーカ6から出力する。」(【0047】)
ステップS116ですべてのセクションが終了したか否かを判断し,否ならS102に戻り音声ファイルFA及び画像ファイルFVをクリアし,ステップS103で次のセクション2についてデータを読み込み,S104以降の学習カリキュラムと記憶カリキュラムとの表出を行っていくのである。またS116での判断が正なら暗記カリキュラムを終了する。(【0048】)

先の実施の形態で画面の切り替えはCPU4によって連続的に行ったが,適宜の入力装置の操作によって行うようにしてもよく,この場合,学習を行う者のペースに合わせてカリキュラムを実行することができる。

(【0051】)c
乙6発明

前記bの各記載によれば,乙6文献には,英単語の学習支援装置1であって,主記憶3と,CPU4と,スピーカ6と,ディスプレイ7とを備え,主記憶3内には,英単語の完全文字22と,英単語をスペリング要素ごとに分けたパーツ23と,パーツ23から連想されるパーツ関連アニメ24及び他のアニメ21を記憶する画像ファイルFVと,英単語発音データと,記憶援助ストーリーたる連想文の音声データを記憶する音声ファイルFAが作成されており,英単語に関するデータを1セクションを1単位として読み込み,1英単語の完全文字22をディスプレイ7に表示し,
英単語発音データの音声データをスピーカ6から出力した後に,パーツ関連アニメ24及び他のアニメ21をディスプレイ7に表示し,更に連想文の音声データをシンクロさせてスピーカ6から出力すること,このような英単語の出力処理,パーツ関連アニメと連想文のシンクロ出力処理を,1セクション中に含まれる全ての文字について順次行う学習支援装置1の発明(乙6発明)が記載されているといえる。
(オ)

本件発明の本質的部分

本件明細書記載の従来技術に加え,甲11発明及び乙6発明をも考慮すると,本件発明のうち,コンピューターを備え,対応する語句が存在する原画を該語句と結びつけて覚えるための学習用具であり,前記コンピューターが,前記原画(乙6発明の完全文字22に相当。以下,本項において括弧内は,乙6発明において相当する構成を意味する。)と,該原画に関連する画像(パーツ関連アニメ24)からなる1セットの画像データが複数個記録された記録部(画像ファイルFV)と,記録部に記録された複数個の1セットの画像データから,表示すべき画像データを選択(1セクション分の英単語のデータを1単位として読み込み)する手段と,選択された画像データにより,原画,該原画に関連する画像を順次表示する画像表示手段(ディスプレイ7)と,前記原画と,原画に関連する画像に対応する語句の音声データ(それぞれ,英単語音声データ,連想文の音声データ)が記憶された記録部(音声ファイルFA)と,記録部から前記語句の音声データを選択(1セクション分の英単語のデータを1単位として読み込み)する手段と,前記選択された語句の音声データを再生する手段(スピーカ6)とを含み,前記画像表示手段が,原画と,該原画に関連する画像の表示を,対応する語句の再生と同期して表示(シンク
ロ出力処理)する学習用具という点は,従来技術にも見られたものといえる。他方,乙6発明の完全文字22及びパーツ関連アニメ24は,原画,該原画の輪郭に似たもしくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画といえるような関係性を有
するものではない。その再生順も,完全文字22を表示した後にパーツ関連アニメ24を表示するものであって,第一の関連画,第二の関連画,原画の順に表示するものではない。甲11発明においても,漢字,古代文字及び絵文字が相互に似た輪郭を有するものではあっても,その表示の順に定めはなく,古代文字及び絵文字に対応する語句を有するものではなく,また,唱え言葉も,これらに対応する語句を含
んだものではない。
したがって,本件発明のうち,組画の1単位として,原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画から成る組画を組画記録媒体に記
録する点,画像表示手段に表示するに際し,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する点,第一の関連画に対応する語句,第二の関連画に対応する語句,原画に対応する語句から成る語句の音声データを,音声記録媒体に記録し,音声再生手段で再生し,前記画像表示手段が前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を対応する語句の再生と同期して表示する点は,本件明細書の従来技術に記載されていないことはもとより,甲11文献及び乙6文献のいずれにも記載がない。
そうすると,上記各点が本件発明の本質的部分というべきである。イ
原告製品を使用したコンピューターについて

原告製品を使用したコンピューターにおいては,イラスト画(第一の関連画),形状・イラスト画(第二の関連画)及び都道府県形状画(原画)を含む画像を1単位として組画記録媒体に記録しており(構成b),その表示の際には,この順序で表示される(構成d)。また,イラスト画,形状・イラスト画及び原画それぞれに対応する語句を含む語句の音声データを音声記録媒体に記録し(構成c),その再生を上記表示に同期して行っている(構成d)。
したがって,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の本質的部分を備
えているものと認められるのであって,本件発明と原告製品を使用したコンピューターとの相違部分は,本質的部分ではないといえる。

原告の主張について

これに対し,原告は,本件明細書の記載,従来技術(甲11文献及び乙6文献)及び出願経過に鑑みると,本件発明においては,一の組画の画像データを選択する画像選択手段との構成(構成要件B2)が従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であり本質的部分に当たる旨を主張する。しかし,従来技術と対比した場合の本件発明特有の技術的思想を構成する部分については,前記アのとおりである。また,出願経過を見ても,本件意見書においては,記憶対象や,実施に当たり用いられる画像の内容,表示順序の点等における本
件発明と従来技術(乙6文献)との違いなどは説明されているものの,一の組画の画像データの選択の意義等に関する言及はない。このため,一の組画の画像データを選択する画像選択手段をもって本件発明の本質的部分とする出願者の意図はうかがわれない。
その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用できない。

小括

以上より,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第1要件を充足する。(3)

第2要件(置換可能性)について


本件発明の作用効果は,楽しみを感じながら知らず知らずに特定の国家や自治体,行政単位に関連する地域の地図上の形状,又は該地域を象徴する国旗,シンボルマーク等の模様,等の記憶対象が憶えられる(本件明細書【0059】)ことである。
原告製品を使用したコンピューターにおいては,地方単位ではあるもののユーザーの行う選択に従い,各都道府県の形状及び名称を,都道府県単位で,当該形状を含めた関連する画像の表示と,名称を含んだ対応する語句の音声再生とを同期させ
た出力を順次行っており,ユーザーは,都道府県の形状をその名称とともに記憶することが可能となる。
したがって,本件発明の一の組画の画像データを選択する画像選択手段(構成要件B2)を,原告製品を使用したコンピューターにおける選択手段に置き換えても,なお本件発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏するものと
いえる。

原告の主張について

これに対し,原告は,本件発明においては,画像の選択が課題である学習能率の向上に寄与するものであること,原告製品は,個別の都道府県とその形状を結び付けて覚えるのみならず,地方単位で当該地方に属する都道府県の名称及びその個数と,当該地方における都道府県の位置関係を合わせて記憶することをも目的とすることなどを指摘して,原告製品は均等の第2要件を充足しない旨主張する。しかし,前記アのとおり,原告製品を使用したコンピューターにおいても,地方単位とはいえユーザーによる選択が行われることなどから,本件発明と同一の作用効果を奏するものといってよい。これに,当該地方における都道府県の位置関係を合わせて記憶するという目的ないし効果が付加されたとしても,その点が異なるものではない。
その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用できない。

小括

以上より,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第2要件を充足する。(4)

第3要件(置換容易性)について

学習用具の記録媒体に複数の記憶対象のデータが記録されている場合に,学習方法として,1の記憶対象ごとに選択することなく,複数の記憶対象をまとめて選択するようにすることは,技術常識であり,原告製品の製造等の時点においても,当業者が容易に想到し得たといえる。例えば,乙6文献には,前記(2)ア(エ)bのとおり,例として,10個の英単語を含む1セクションの全ての完全文字を表示することを全てのセクションについて終了することによって,学習カリキュラムを終了したものとすることが示されている。その過程での画面の切替えは,適宜の入力装置の操作によって行うようにしてもよく,この場合,学習を行う者のペースに合わせてカリキュラムを実行することができるとされている。ここで,その一環として,
学習を行う者のペースに合わせてカリキュラムを実行する観点から,あらかじめ決められた順にセクションを移ることに代えて,学習を行う者がそれぞれ異なる10個の英単語を含む所望のセクションを選択できるようにすることは,当業者が容易に想到し得たことといえる。
以上より,原告製品の製造等の時点において,本件発明の一の組画の画像データを選択する画像選択手段(構成要件B2)を,原告製品を使用したコンピューターにおける選択手段に置き換えること,すなわち,本件発明のように1つの記憶対象を選択するか,乙6文献に示唆されるような技術常識に基づき複数の記憶対象から成る1セットを選択するかは,当業者が容易に想到することができたものである。
したがって,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第3要件を充足する。これに反する原告の主張は採用できない。
(5)

第4要件(非容易推考性)について

原告は,甲11文献及び乙6文献に鑑みれば,本件特許出願時に,コンピューターを備え,記憶対象とする原画とこれに関連する複数の画からなる組画の画像を逐次表示することによって記憶対象を記憶させる物の発明は,当業者が容易に推考でき,また,組画を原画とこれに関連する2つの画に限定することなく構成すること,選択できる範囲を1つの組画ではなく複数のまとまりで構成することも,当業者が容易に推考できたものであると主張する。
しかし,前記(2)ア(オ)のとおり,本件発明は,組画の1単位として,原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第
一の関連画,並びに該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画から成る組画を組画記録媒体に記録する点,画像表示手段に表示するに際し,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する点,第一の関連画に対応する語句,第二の関連画に対応する語句,原画に対応する語句から成る語句の音声データを,
音声記録媒体に記録し,音声再生手段で再生し,前記画像表示手段が前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を対応する語句の再生と同期して表示する点において,甲11発明及び乙6発明と相違する。また,上記各点につき,本件特許出願時に自明ないし設計的事項であったことをうかがわせる事情はない。したがって,原告製品の構成は,本件特許出願時における公知技術と同一又は当
業者が容易に遂行できたものとはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
以上より,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第4要件を充足する。(6)

第5要件(意識的除外のないこと)について


対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許発明の範囲から意識的に
除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するときは,均等の主張は許されないものと解されるところ,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象商品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示し
ていたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである(最高裁平成29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁参照)。

原告は,組画の逐次又は一斉の表示をして記憶する人の作業となる部分
を削除しつつ,組画の表示を構成要件B2の選択手段に限定して,明確性の欠如に係る拒絶理由を補正すると共に,組画を逐次又は一斉に表示してとする構成を削除し,かつ,一の組画の画像データを選択する画像選択手段を付加したという本件補正の経緯から,被告は,特許請求の範囲につき,一の組画の画像データを選択する画像選択手段に客観的,外形的に限定し,これを備えない発明を本件
発明の技術的範囲から意識的に除外したなどと主張する。
しかし,本件通知書及び本件意見書の各記載を踏まえると,それぞれの前記記憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対象を記憶するのは人間が行う作業であって,物の発明としての学習用具の構成をなしていないなどといった明確性要件に係る本件通知書の指摘に対し,被告は,本件補正におい
て,作業の主体につき,画像選択手段,画像表示手段,音声選択手段,音声再生手段といった手段とし,人が行う作業を示す部分を削除することで,これらの手段を含むコンピューターであることを明確にしたものと理解される。それと共に,進歩性に係る本件通知書の指摘に対しては,上記のように作業の主体を明確にしたことに加え,組画記録媒体に記録される画像データを,1又は複数種の記憶対象から成る記憶対象群に含まれる個別の記憶対象を表現する原画及び該原画に関連する関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から成る組画の画像(当初の請求項1)から原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画の画像データに限定すると共に,画像表示手段
が第一の関連画,第二の関連画,及び原画をその順に表示することとし,さらに,その表示を,これらに対応する語句の再生と同期させることとして,情報の提示方法を限定したものである。
このような出願経過を客観的,外形的に見ると,被告は,本件補正により,人為的作業を示す部分としての逐次又は一斉に表示という行為態様は意識的に除外
しているものの,物及び方法の構成として,逐次又は一斉に表示する構成を一般的に除外する旨を表示したとはいえない。また,一の組画の画像データを選択する画像選択手段との構成を付加した点は,本件明細書に一の組画の画像データの選択,表示を念頭に置いた記載があることを踏まえたものと理解されるものの(例えば【0057】),これをもって直ちに,客観的,外形的に見て,複数の組画を
選択する構成を意識的に除外する旨を表示したものとは見られない。そうすると,原告指摘に係る本件補正の経緯をもって,被告は,特許請求の範囲につき,一の組画の画像データを選択する画像選択手段に客観的,外形的に限定し,これを備えない発明を本件発明の技術的範囲から意識的に除外したと見ることはできない。この点に関する原告の主張は採用できない。


小括

以上より,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第5要件を充足する。(7)まとめ
以上のとおり,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第1~第5要件をいずれも充足する。したがって,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属する。
3
間接侵害の成否(争点3)について

前記2のとおり,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の技術的範囲に属する。また,原告製品は,DVDであり,DVD再生装置等のコンピューターにより再生されて使用されるものであって(前記第2の2(4)),それ以外の用途があるとは考え難く,また,そのような用途の存在をうかがわせる具体的な事情も見当たらない。
そうである以上,原告製品は,本件発明の技術的範囲に属するものである原告製品を使用したコンピューターの生産にのみ用いる物(特許法101条1号)に当たる。原告は,このような原告製品を業として制作,販売していることから(前
記第2の2(1)イ),このような原告の行為は,本件特許権を侵害するものと見なされる(同条柱書)。
したがって,本件特許に係る他の請求項記載の発明について論ずるまでもなく,被告は,原告に対し,本件特許権に基づき,原告製品の生産等の差止請求権(同法100条1項)を有する。

4
結論

以上より,被告が原告に対し本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官

杉浦正樹杉浦一輝布目真
裁判官
裁判官
利子
(別紙)
物件目録
歌って覚えるゴロゴロイメージ都道府県という名称のDVD-ROM(別紙)
セット画目録
1
北海道・東北地方

(1)北海道,(2)青森県,(3)岩手県,(4)宮城県,(5)秋田県,(6)山形県,(7)福島県2
関東地方

(8)茨城県,(9)栃木県,(10)群馬県,(11)埼玉県,(12)千葉県,(13)東京都,(14)神奈川県
3
中部地方

(15)新潟県,(16)富山県,(17)石川県,(18)福井県,(19)山梨県,(20)長野県,(21)岐阜県,(22)静岡県,(23)愛知県
4
近畿地方

(24)三重県,(25)滋賀県,(26)京都府,(27)大阪府,(28)兵庫県,(29)奈良県,(30)和歌山県
5
中国・四国地方

(31)鳥取県,(32)島根県,(33)岡山県,(34)広島県,(35)山口県,(36)徳島県,(37)香川県,(38)愛媛県,(39)高知県
6
九州地方

(40)福岡県,(41)佐賀県,(42)長崎県,(43)熊本県,(44)大分県,(45)宮崎県,(46)鹿児島県,(47)沖縄県
(別紙)
セット画一部抜粋表
都道府県

イラスト画

形状・イラスト画

1北海道

2青森県

※別紙特許公報は添付省略
都道府県形状画

都道府県位置画

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