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不当利得返還請求事件 その他 民事訴訟
事件番号平成30(ワ)6015
事件名不当利得返還請求事件
裁判年月日令和3年3月11日
裁判所名大阪地方裁判所
権利種別その他
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2021-03-11
情報公開日2021-03-29 12:01:15
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令和3年3月11日判決言渡

同日原本領収

平成30年(ワ)第6015号
口頭弁論終結日

裁判所書記官

不当利得返還請求事件

令和3年1月14日
判決
原告

株式会社ヤマゼン

同訴訟代理人弁護士

辻井

一成


青木

裕太


松井

佑樹

被告

株式会社アクトリー

同訴訟代理人弁護士

小田

耕平

主1文
被告は,原告に対し,8857万1347円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,これを25分し,うち11を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。

4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1
1
請求
被告は,原告に対し,9187万5000円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告は,原告に対し,1億5750万円及びこれに対する平成18年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,選択的に,①特許実施許諾契約(以下本件許諾契約という。)の債務不履行による解除に基づく原状回復請求として,支払済みの実施料(以下本件実施料という。)1億5750万円の一部である9187万5000円の返還及びこれに対する本件実施料の最終支払日である平成22年1月13日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による利息の支払(以下請求1という。),又は②本件許諾契約締結に際し虚偽の説明により原告を誤信させるなどして本件実施料を支払わせた不法行為に基づく1億5750万円の損害賠償及びこれに対する不法行為後の日である平成18年3月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の支払(以下請求2という。)を求める事案である。1
前提事実(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。なお,枝番
号のある証拠で枝番号の記載のないものは全ての枝番号を含む。)(1)当事者等
原告は,再生資源回収業,一般・産業廃棄物の収集運搬,中間処理,リサイクル及び処分等を業とする株式会社である。株式会社埼玉ヤマゼン(以下埼玉ヤマゼンという。)は,原告の関連会社である。被告は,産業廃棄物及び一般廃棄物の処理装置の製造,据付,販売,焼成炉の製造,据付,販売等を業とする株式会社である(甲2)。
日本リサイクル技術株式会社(以下JRTという。)は,別紙特許一覧表(以
下本件一覧表という。)記載の各特許につき,自ら出願して特許権の設定登録を受け,又は第三者が設定登録を受けた特許権を譲り受けた者である(以下,本件一覧表記載の各特許及び各特許権につき,同表の番号欄の記載に従い本件特許1ないし本件特許権1などという。また,これらを総称して本件各特許ないし本件各特許権というと共に,これらに係る発明を併せて本件各発明
という。)。(甲14の1~14の8,15の1~15の8)
(2)焼却灰リサイクルプラントの建設に至る経緯等

埼玉ヤマゼンは,平成15年12月22日,被告に対し,彩の国資源循環工場焼却灰リサイクルプラント(以下本件プラントという。)に係る契約Ⅰ(詳細設計業務及び焼却灰リサイクルプラント第1次製作品),契約Ⅱ(焼却灰リサイクルプラント第2次製作品)及び契約Ⅲ(焼却灰リサイクルプラント現地工事)を代金30億5000万円(税別),受渡し期限を平成16年3月31日(契約Ⅰ),平成17年3月31日(契約Ⅱ)及び平成18年3月31日(契約Ⅲ)として発注し,被告はこれを受注した(以下,上記プラントを本件プラントといい,本件プラントに係る上記各契約を併せて本件プラント契約という。)。また,原告は,これに基づく埼玉ヤマゼンの被告に対する債務につき,被告に対して
連帯保証した。(甲11の1)
なお,本件プラント契約には,同契約に係る注文請書(甲11の1)にアクトリー社書類(仕様書他)についてと題する書面が添付されているとともに,本件プラント設置工事に係る被告作成の平成15年12月付け仕様書(甲11の2。以下本件仕様書という。)が存在する。


被告とJRTは,平成15年12月24日,被告の本件プラント契約受注に
つき,JRTによる販売協力の結果であるとして,被告がJRTに対し販売手数料名目で1億5250万円(消費税別)を支払う旨の覚書(乙11)を作成した。なお,その支払等に関しては,金額の変更及び支払方法等に関する被告とJRTとの間の平成21年3月13日付け合意書(乙13)が存在する。(3)本件プラントの引渡し等
被告は,遅くとも平成18年3月末頃,埼玉ヤマゼンに対して本件プラントを引き渡し,埼玉ヤマゼンは,その頃,本件プラントの操業を開始した(証人P1,証人P2,弁論の全趣旨)。
その後の平成20年2月12日,被告と埼玉ヤマゼンは,本件プラント契約に基
づく設備検収の取扱いに関する設備検収に関する覚書(乙21)を締結し,同日付けで埼玉ヤマゼンが被告から本件プラントの引渡しを受けたことを確認した。もっとも,被告と埼玉ヤマゼンは,同年4月14日,上記覚書の細部取扱い等に関する設備検収に関する追加変更覚書(乙22)を締結すると共に,本件プラント契約及び上記2つの覚書に関する同日付け確認書(乙23)を作成した。(4)
特許実施許諾契約の締結等


JRTと原告は,平成18年3月31日,当時設定登録済み又は出願公開がさ
れていた本件各特許権について,権利者であるJRTが,原告に対し,通常実施権(以下本件実施権という。)を許諾する旨の特許実施許諾契約(本件許諾契約。また,その契約書(甲4)を本件許諾契約書という。)を締結した(ただし,本件許諾契約の効力については,後記のとおり当事者間に争いがある。)。本件許諾契約書には,以下の定めがある(なお,その1条には本件許諾契約の対象となる特許権3件及び出願公開に係る特許出願7件の記載があるが,特許出願公開欄記載の特許出願のうち2件は設定登録済みの特許権に係るものであり,本件許諾契約の対象とされるものは,本件各特許権である。)。
・実施権の範囲につき,地域は日本国内,期間は平成18年4月1日~平成33
年3月31日(2条)
・JRTは,本件各発明の実施を原告以外の者にも許諾することができる。ただし,事前にJRTは原告の事業計画を確認の上,協議をすることとする(3条)。・原告は,原告の関係会社に本件各発明の実施を許諾(再許諾)することができる(4条)。

・原告は,埼玉ヤマゼンの設置した本件プラント(300トン/日)に係る実施料として,処理能力1トン当たり50万円,合計1億5750万円(消費税込)をJRTに対して支払う(5条1項)。
・許諾特許の維持義務として,JRTは,許諾出願特許につき特許権の設定登録がなされた後は,特許料を特許庁に納付するものとする(8条2項)。その手続
に要する費用は,すべてJRTの負担とする(同条3項)。

原告と埼玉ヤマゼンは,同じく平成18年3月31日,本件各特許権について,原告が埼玉ヤマゼンに対して通常実施権を許諾する旨の再実施許諾契約(以下本件再実施許諾契約といい,同契約に係る契約書(乙29)を本件再実施許諾契約書という。)を締結した。その対象及び実施権の範囲は,本件許諾契約と同じである(本件再実施許諾契約書1条,2条)。また,その対価として,埼玉ヤマゼンは,原告に対し,年間1000万円(消費税別)を2回に分割し,上半期分及び下半期分として各500万円を支払うこととされている(同3条)。ウ
原告のJRTに対する実施料支払

JRTと原告は,平成19年2月13日,本件許諾契約に基づく実施料の支払につき,1億4175万円を同月19日に支払い,その余の支払時期については別途定める旨の覚書(乙40)を締結した。
これに基づき,JRTは,同月19日,再実施許諾付き特許実施許諾契約金1億5000万円及び消費税750万円,合計1億5750万円の支払を請求した(甲5)。これを受け,原告は,JRTに対し,同日に1億4175万円を,平成22年1月13日に1575万円を,それぞれ支払った(ただし,JRTの原告に対す
る債務との相殺により処理された分を含む。)。
(以上につき,上記各証拠のほか,甲6~8)。
(5)本件特許権1~4の消滅
本件特許権1~4は,いずれも特許料不納付により,別紙特許権一覧表の消滅日欄記載の日にそれぞれ消滅した。

(6)被告とJRTとの特許権譲渡契約
JRTと被告は,平成22年6月1日,本件特許権5~8に係る特許権譲渡契約(以下本件譲渡契約といい,同契約に係る契約書(乙14)を本件譲渡契約書という。)を締結し,その移転登録手続を行った。これにより,被告は,JRTから本件特許権5~8を譲り受けた(甲14の3,14の5~7。なお,本件譲渡
契約の締結に伴い本件許諾契約の許諾者たる地位の移転があったか否かについては,後記のとおり当事者間に争いがある。)。
(7)本件特許権5~8の消滅
被告は,本件特許権5~8の特許料を納付期限及び追納可能な期間内に納付しなかった。そのため,本件特許権5~8は,いずれも特許料不納付により,別紙特許権一覧表の消滅日欄記載の日にそれぞれ消滅した。
(8)原告とツネイシカムテックス株式会社の間の契約
原告とツネイシカムテックス株式会社(以下ツネイシという。)は,平成23年9月20日,本件許諾契約(なお,平成22年6月1日付けの被告によるJRTからの契約上の地位の承継を含むものとされている(特許実施許諾契約の地位の承継に関する契約書(乙34。以下本件承継契約書という。)前文)。)に
基づく原告の権利義務及び契約上の地位を原告からツネイシに譲渡する旨の契約(以下本件承継契約という。)を締結した。同契約においては,契約締結時点での本件許諾契約所定の特許権が本件特許権5~8であることが確認されると共に(本件承継契約書1条),その譲渡の対価は1億0500万円(消費税別)とされている(同2条2項)。

(9)本件承継契約の効力等に係る紛争の経緯
ツネイシは,平成28年9月21日,原告に対し,本件特許権5~8が本件承継契約締結の時点で消滅していたことなどによる同契約の債務不履行を理由とする解除に基づく原状回復請求又は錯誤無効による不当利得返還請求等を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(東京地方裁判所平成28年(ワ)第31950号。以
下,この訴訟を別件訴訟という。乙36)。
原告とツネイシは,平成30年3月12日,別件訴訟において,本件承継契約の締結に係る原告及びツネイシの各意思表示に錯誤があったことにより無効であることを確認することなどを内容とする訴訟上の和解をした(乙39)。(10)本件許諾契約解除の意思表示

原告は,同年5月22日,被告に対し,特許料不納付により本件特許5~8を消滅させた被告の行為は本件許諾契約上の特許維持義務に反するとして,本件許諾契約の解除の意思表示を行うと共に,原状回復請求権に基づき本件実施料1億5750万円の返還を請求した(甲10の1)。当該意思表示は,同月24日,被告に到達した(甲10の2)。
2
争点

(1)請求1について
アイ
本件許諾契約の効力(通謀虚偽表示の成否。争点2)


本件承継契約に係る原告の無効主張の可否(争点3)


本件許諾契約上の許諾者たる地位の被告への移転の有無(争点1)
原状回復請求が認められる範囲(争点4)

(2)請求2について

被告による不法行為の成否(争点5)


消滅時効の成否(争点6)

3
争点に関する当事者の主張

(1)本件許諾契約上の許諾者たる地位の被告への移転の有無(争点1)〔原告の主張〕

被告は,本件譲渡契約に合わせ,JRTから,本件許諾契約上の許諾者たる地
位を承継した。このことは,以下の事情等から裏付けられる。
(ア)本件譲渡契約書の前文には,同契約書にいう特許権には特許法上特許権者に認められる権利の一切を含み,特許原簿上確認できない特許権者(JRT)による実施権の使用許諾や再実施許諾等を含む一切が譲渡される旨明記されている。(イ)被告は,平成15年以来,JRT及び原告と共に本件プラントの開発に取り組んでおり,JRTと原告との間の本件許諾契約の存在を熟知していた。また,本件譲渡契約締結後である平成22年9月10日付けで,JRTは,原告に対し,本件許諾契約上の許諾者たる地位をJRTから被告が承継することについて
被告に確認を得ている旨を書面で通知した。しかも,同通知を受けて,原告が,平成22年12月20日付けの書面にて,埼玉ヤマゼンが本件特許権5~8に係る各発明を従前どおり実施することを承認するように被告に申し出たのに対し,被告は,同月22日付けの文書で,原告に対し,上記申し出を了解する旨返答した。さらに,被告は,平成23年9月14日,本件承継契約に基づき原告がツネイシに対し本件許諾契約上の原告の権利義務及び契約上の地位を譲渡すること並びにツネイシが本件許諾契約の許諾対象となっている全ての発明の実施を埼玉ヤマゼンに対して再許諾することについて,文書により異議無く承諾した。同文書には,本件許諾契約上の許諾者たる地位をJRTから被告が承継した旨が記載されている。イ
被告の主張について

本件譲渡契約によってJRTが本件特許権5~8を失いながら本件許諾契約上の特許維持義務のみ負担するという合意は,JRTにとっておよそ経済的合理性がなく,あり得ない。
〔被告の主張〕

否認ないし争う。

被告は,本件譲渡契約により,JRTから本件特許権5~8を譲り受けたものの,本件許諾契約上の許諾者たる地位に伴う義務については,JRTから承継していない。すなわち,特許権の譲渡契約と,その譲渡人である前特許権者が第三者との間で締結した当該特許権の実施許諾契約は無関係であり,特許権の譲受人が譲渡人の当該実施許諾契約に基づく権利義務を承継するには,譲受人が当該第三者との間で当該地位の承継を確認するか,当該第三者に対し当該地位の承継(特許維持義務の
履行の引受け)を表明することが別途必要である。しかるに,被告は,本件譲渡契約の際,原告との間で,上記のような確認等をしていない。

原告の主張について

(ア)本件譲渡契約に当たり,被告は,JRTから,本件特許権5~8には再許諾付き通常実施権等の第三者の権利が設定されていないことを保証するとの約定の下に特許権の譲渡を受けたものであり,JRTが原告との間で本件許諾契約を締結していることすら認識していなかった。
また,原告が指摘する本件譲渡契約書前文の記載は,譲渡を受ける特許権の権利者たる効果が全てに及ぶことを明記したものである。すなわち,本件譲渡契約により被告がJRTから譲り受けた権利は,特許法上特許権者に認められる権利の一切のほか,JRTが第三者との間に締結した特許権実施許諾契約及び再実施許諾契約における権利の全てを含む。他方,本件譲渡契約は,譲渡人が個別に締結していた実施許諾契約に基づき第三者に負担していた個々の債務には当然に及ぶものではく,前記のとおり,譲受人が個別に契約上の地位の移転を承認するか,譲渡人の債務を引き受ける旨の意思表示を要するところ,被告は,これをしていない。さらに,JRTは,本件譲渡契約により代金8600万円を得ており,引き続き特許維持義務
を負担することにはなお経済的な合理性がある。
(イ)本件譲渡契約を知った原告が,被告に対し本件特許権5~8に係る発明を埼玉ヤマゼンが実施することについて承諾を求めた目的は,被告から本件許諾契約の存在を否認されたり,これらの特許権に基づき埼玉ヤマゼンの本件プラントに係る事業の操業差止等の請求がされたりしないことを確認するだけのものである。これ
に対する被告の対応は,特許権に基づく本件プラントの操業差止等を請求する意思のないことを表明したに過ぎない。
(ウ)被告が本件承継契約の締結に際しツネイシに対して承諾書を交付したのは,原告ともツネイシとも取引関係にあり,JRTから譲り受けた特許権に基づく権利主張の予定がなく,また,原告,埼玉ヤマゼン及びツネイシの懇願を受けたことか
ら,原告がツネイシに対し本件許諾契約上の地位を譲渡し,ツネイシが本件プラントを操業することについて,異議を唱えない旨をツネイシに対してのみ表明したに過ぎない。上記承諾書の交付は,本件許諾契約におけるJRTの特許維持義務の引受けの意思表示をしたものではない。
しかも,本件承継契約は,後にその締結に係る原告及びツネイシの各意思表示に
錯誤があったことにより無効となっていることから,被告による上記承諾の意思表示も無効であって,これを原因として何らかの権利義務が生じることはない。(2)本件許諾契約の効力(通謀虚偽表示の成否。争点2)
〔被告の主張〕

本件プラントの建設及び操業において,本件各発明はいずれも実施されてお
らず,JRT及び原告は,そのことを本件許諾契約締結当時いずれも認識していた。にもかかわらず本件許諾契約が締結されたのは,単に,JRTやその関係者が原告又は埼玉ヤマゼンに対し本件各特許権の侵害を口実に本件プラントの操業や商品の販売への妨害をしないことを約束させたものである。このように,原告とJRTとは,いずれも,真実は本件各特許権について実施許諾の合意をする意思はなく,権利不行使の合意をする意思があったに過ぎないため,本件許諾契約は,通謀虚偽表
示により無効である。
そうである以上,仮に本件許諾契約上の許諾者たる地位がJRTから被告に承継されたとしても,被告は,原告に対し,本件許諾契約に基づく特許維持義務を負担しない。

このことは,以下の各事情等によっても裏付けられる。

(ア)本件プラントの設計,建築に当たり,JRTは被告に対し本件各特許権に基づく特段の指示を与えなかった。
(イ)被告は,JRTとの間で,本件プラントを含む設備につき,JRTから本件各特許権を根拠とする妨害的行動等を防止するべく覚書を作成した。
(ウ)原告も,遅くとも本件プラントの試験操業段階では本件各発明が実施されて
いないことを認識した。
(エ)本件許諾契約に基づく本件実施料の支払は,JRTの原告に対する債務との相殺を行い,実際に支払われたのは6228万5194円のみである。(オ)本件許諾契約において,その契約期間は本件各特許権の存続期間を超えて合意されている。

(カ)原告は,本件許諾契約の後,JRTが本件特許権1~4をいずれも消滅させたことについて,同社に対し,本件許諾契約の債務不履行責任を追及したり,本件実施料の返還を求めたりしなかった。
(キ)原告は,別件訴訟において,本件承継契約の際,原告及びツネイシが本件特許権5~8の内容や本件許諾契約上の通常実施権の有効性に着目していなかった事実を自認する内容の主張立証を行うなど,本件承継契約の前提となる本件許諾契約が通謀虚偽表示であったことを前提とする行動を取っている。

原告の主張について

原告指摘に係る本件仕様書の記載は,被告が本件プラントの設計,建設をJRTの紹介により受注した経過に照らし,同社の主張に沿った事業概要の文書とすることによって,それまでのJRTと原告の合意を表現したものに過ぎない。〔原告の主張〕

否認ないし争う。

本件各発明はいずれも高い技術的価値を有するものであることから,本件各特許権はいずれも有用性・実用性が高い。本件許諾契約は,本件プラントにおいてこのような本件各特許権に係る発明(本件各発明)が使用されている前提のもとに締結されたものである。被告も,本件仕様書において,本件プラントにつき,JRTの特許技術により被告がプラント設備の製作,施工を行い,原告がその特許権につき許諾を得て焼却灰のリサイクル製品を生産する旨明記している。そして,本件プラントを用いたアークサンドの製造に当たり,本件各発明は実施されている。イ
被告の主張について

(ア)本件許諾契約の契約期間は,本件プラントを用いたリサイクル事業の計画に合わせて定めたものであり,本件各特許権の存続期間よりも長くなっているのは,原告及びJRTにおける認識ないし確認不足等が原因であるに過ぎない。(イ)JRTが本件特許権1~4を消滅させたことについて原告が苦情を申し入れなかったのは,これらの特許権に係る発明が本件プラントにおいて実施されていない
というJRTの説明を信じたためである。
(ウ)別件訴訟における原告の主張立証は,あくまで原告とツネイシとの関係における本件各特許権の位置付けを主張しているに過ぎず,本件許諾契約時点における原告の認識等とは無関係である。
(3)本件承継契約に係る原告の無効主張の可否(争点3)
〔被告の主張〕
仮に,本件許諾契約上の許諾者たる地位がJRTから被告に移転しているとしても,本件承継契約により,原告は,本件許諾契約上の被許諾者の地位をツネイシに承継させ,これを被告が承諾したことにより,本件許諾契約から離脱した。その際,被告は,原告に対し,本件許諾契約に基づく何らの債務も負担する意思のないことを表明していたが,原告が懇願することから上記承諾をしたものであり,その
承諾の趣旨には,被告が本件許諾契約に基づくJRTの地位を承継したり,債務を引き受けたり,本件許諾契約に被告が関わることは含まれていない。にもかかわらず,その後7年以上が経過した時点において,原告とツネイシとの間で本件承継契約が錯誤による意思表示であることを理由に無効であることが確認されたとして,原告が,本件許諾契約上の地位への復帰等を主張した上,上記承諾
を根拠として,被告によるJRTからの本件許諾契約上の許諾者たる地位の承継ないし債務の引受けを主張することは,信義則上許されない。
(なお,被告は,上記主張に関連して,本件承継契約が意思表示の錯誤により無効であることから,被告がツネイシに対して行った承諾の意思表示も無効であり,これを原因としていかなる権利義務も生じる余地がない旨の主張を再々抗弁と位置
付けて主張する。しかし,上記承諾は原告ではなくツネイシに対して行われたものであるから,本件許諾契約上の許諾者たる地位の移転の有無との関係では,これに関する間接事実として意味を持ち得るにとどまる。また,この主張は,再抗弁である本件承継契約の錯誤による無効という効果発生を妨げるものでも,消滅させるものでもないことから,この再抗弁に対する再々抗弁と位置付けられるものではな
く,要するに,本件許諾契約上の許諾者たる地位の移転につき,理由付きで否認するものと理解される。このため,この主張については,被告の再々抗弁として取り上げないこととする。)
〔原告の主張〕
争う。本件承継契約締結当時,原告は,同契約の錯誤原因,すなわち本件特許権5~8が消滅していることを認識していなかった。したがって,原告には,被告に対して錯誤無効の主張を制限されるような主観的な問題ないし悪性はない。また,被告は,本件承継契約を信じて自己の利益関係を変更したわけではなく,信義則違反を認めることによって保護される利益を有しない。
(4)原状回復請求が認められる範囲(争点4)
〔原告の主張〕


本件各特許権のうち存続期間の終期が最も遅いものは,本件特許権8の平成
30年4月11日である。そうすると,本件許諾契約は,その始期である平成18年4月1日~平成30年3月31日までの12年間は本来有効であったところ,原告は,実際には,年単位で見ればこのうち5年間のみライセンシーとしての利益を享受できたことになる。
そこで,支払済みである本件実施料1億5750万円から,実際に利用できた5年間に相当する金額を控除した9187万5000円(=―157,500,000―157,500,000*5/12)につき,債務不履行による解除に基づく原状回復として返還を求めると共に,これに対する本件実施料の最終支払日からの利息の支払を求める。


本件実施料は,本件プラントにおける焼却灰のリサイクル品生産に関係のあ
る特許権の実施権に対する対価として支払われたものであり,特許権の個数は本件実施料とは関連しない。また,被告は,本件許諾契約上の許諾者たる地位を承継している。したがって,被告自身が消滅させた特許権が本件特許権5~8のみであることは,請求額に影響しない。
〔被告の主張〕
否認ないし争う。
本件実施料は,そもそも実質的には本件各特許権の実施に係る許諾料ではない。仮に本件許諾契約に何らかの意味があるとしても,原告ないし埼玉ヤマゼンが被告から本件プラントの引渡しを受け,本件プラントが本稼働を開始した平成18年4月時点で,その目的は既に達成されている。また,被告が本件特許権5~8を消滅させたとしても,本件プラントにおいて本件各発明が実施されていない以上,原告に損害は発生しておらず,債務不履行となるべき事実自体がない。また,本件譲渡契約により被告がJRTから本件特許権5~8を譲り受けた時点で,他の特許権(本件特許権1~4)は既に消滅していた。そうである以上,仮に被告が本件許諾契約上の許諾者たる地位を承継していたとしても,その義務は,譲
渡時点に存在した本件特許権5~8に係る義務である。
しかも,本件許諾契約締結の時点で,本件各特許権の存続期間はいずれも短く,原告が本件各特許権の実施許諾により享受した利益の額は,本件実施料×5/12にとどまらない。(5)被告による不法行為の成否(争点5)

〔原告の主張〕
被告は,本件各特許権を利用した本件プラントの開発を請け負った者であるところ,本件プラントに本件各特許権が用いられる旨の記載がある本件仕様書を原告に交付してその旨を説明した。仮にこの時点で本件プラントにおいて本件各発明が実施される予定がなかったのであれば,被告の説明は積極的な欺罔行為に当たる。
また,被告は,原告に本件仕様書を交付し,JRTや原告と共同して本件プラントに係る事業を進めていたのであるから,その後本件プラントを製造する過程で本件各発明を実施しないことになったのであれば,被告は,原告に対し,その旨を説明する義務を負う。しかし,被告は,そのような説明をしなかった。他方,原告は,被告が本件プラントを完成させた後,本件プラントにおいて本件
各発明が実施されているものと信じてJRTとの間で本件許諾契約を締結し,その対価として本件実施料を支払った。仮に本件プラントにおいて本件各発明が実施されていなければ,原告は,本件許諾契約を締結して本件実施料を支払う必要はなかった。
以上のとおり,被告は,原告に対し,虚偽の説明をし,又は故意ないし過失により上記説明義務に違反し,原告をして,本件プラントにおいて本件各発明が実施されていると誤信させ,その対価を支払わせたものであり,これは,不法行為に当たるところ,これにより原告は1億5750万円の損害を被った。
したがって,原告は,被告に対し,上記不法行為に基づき,1億5750万円の損害賠償及びこれに対する損害発生日である平成18年3月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

〔被告の主張〕
否認ないし争う。
被告は,プラントメーカーとして本件プラントの設計,建設等を請け負ったものの,本件各発明を実施したプラントの開発を請け負ったことはない。また,被告が原告に対して虚偽の説明をしたことはないし,説明義務を負ってもいない。
さらに,原告は,遅くとも本件許諾契約締結時において,本件プラントの設計,建設,操業につき本件各発明が実施されていないことを認識していた。原告指摘に係る本件仕様書の記載は,被告が,プラントメーカーとして,発注者(原告,JRT,埼玉ヤマゼン)の発注内容(指示内容)を記載したに過ぎない。(6)消滅時効の成否(争点6)

〔被告の主張〕
仮に被告の不法行為が成立するとしても,本件プラントの建設工事は遅くとも平成18年3月29日には完了し,原告とJRTは同月31日に本件許諾契約を締結したことから,不法行為に基づく損害賠償請求権は,遅くとも平成21年3月31日の経過をもって消滅時効期間を経過している。被告は,この消滅時効を援用す
る。
〔原告の主張〕
争う。
第3
1
当裁判所の判断
認定事実

前提事実(前記第2の1),証拠(各項に掲げたもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件プラント契約等の締結に至る経緯等

原告,被告及びJRTは,平成14年4月7日に打合せを実施した。その
際,以下のような発言等があった。(乙4)
・JRTから,その前日のJRT及び原告の会談内容の確認として,特許再実施権を200T規模に対して1億円,ローヤルティーは別等の発言・原告から,

我々は3社が一体となって競合相手に立ち向かっていくことが重要である。

プラントはアクトリー,事業化はヤマゼン…でやる。

との補足
・JRTのP3から,

S社特許を今月中にJRTに譲渡することが決まった。


との説明
・原告から,

再実施権の実施料はトン当たり50万円とする。

等の発言・各社の役割分担として,被告は焼成炉から出た造粒前の製品が土壌基準をクリアしたものであることを保証すること,JRTは人工砂の製品保証をすること,原告は事業化に責任を持つこと,この体制で不具合発生の場合は3社が協議して
決めること等の確認

JRTは,同月18日,本件特許権1の前特許権者の一人である株式会社サ
ンコーポレーション(以下サンコーポレーションという。)との間で締結した平成13年7月7日付け実施権許諾契約書に基づく通常実施権の登録を請求し,平成14年5月1日,その登録を受けた。
また,JRTは,同年4月30日,サンコーポレーションとの間で,上記実施権許諾契約書の改訂に係る覚書(乙5②)を締結した。他方,同日,原告とJRTは,本件各特許権(当時出願中のものを含む。)を含む特許権及び出願中の発明について,JRTが同日現在の権利者から特許権及び出願人名義の変更を受けるための取得費用に当てることを目的として,原告がJRTに5000万円を貸し付けること,契約に際し,JRTは原告に対しこれらの特許権等の再実施権を付与することに合意することなどを内容とする金銭消費貸借契約を締結した(乙5③)。
さらに,同年5月17日,JRTは,本件特許権1に係るサンコーポレーションの持分移転の登録を請求し,同月29日,その登録を受けた。
(以上につき,上記各証拠のほか,甲14の8)


原告,被告及びJRTは,同年11月19日,彩の国案件を含めた焼成事業に関し3者間で問題となっている事項について会議を行い,以下の確認等が行われた。(乙6)
・契約関係につき,プラント契約は原告と被告との間で,特許権実施許諾契約については原告とJRTとの間で締結することの確認
・JRTの有する特許権に係る原告の優先的通常実施権の確保等に関し,契約の項目の確認
・技術的実用性につき,被告による問題点の指摘及び説明,

焼成品で保証するなら実験が必要。現状ではアークサンドでは保証はできる。

との被告の発言,及び

結論としては,アークサンドで保証をお願いする。焼成品については,今後YZ・AC間で共同研究をしていく。

等の原告の発言(なお,YZは原告,ACは被告を示す。)
・人工砂フィールド実験用サンプル作成における費用分担について,負担割合については3社分割で支払うこと,JRT分については原告が貸し付けること,分担に対する成果については,3社及び東京鋪装工業株式会社(以下東京鋪装
という。)で権利を持つことの確認
・被告によるJRTの会社存続に対する懸念の表明及び同社が解散したときの特許の名義移転の問題等の指摘
当時JRTの顧問であったP4は,同年12月12日,被告の役員であったP

5に対し,以下の内容を含むメール(乙2①)を送付した。・本年5月29日付けで基本特許…に関して,…正式にJRTが特許権者になりました。これにより,今後は再実施権が通常実施権になります。また,実施権契約とは,ユーザーY社に対しては特許内容の実施に関する実施権を,メーカの貴社には製品の製造に使用する装置の製造に関する実施権を付与する事が出来ると言うのがJRTの見解です。・

特許の実施権はユーザーにもメーカーにも付与するものであると言うのがJRTの見解です。勿論,現時点でJRTはY社に発注権利付きの通常実施権を付与しているものではない事を申し添えます。

また,上記メールで言及されているJRTとサンコーポレーションとの平成13年10月11日付け覚書(乙2②)には,平成13年7月7日付け実施許諾契約書により,JRTがサンコーポレーションの有する特許の唯一の再実施権
者であることを確認する旨及び将来サンコーポレーションはJRTに対する特許権の譲渡を検討する旨が記載されている。

P5は,平成15年3月5日,被告代表者に対し,同月3日のJRTの面談
結果につき,以下のような報告をした。(乙8)
・JRTの現状につき,運転資金は全く底をついた状況にあり,資金調達の最も近道は,被告と原告との設計契約の締結とその支払促進を図り,被告が原告から入金され次第,その5%をJRTに支払うことであること
・懸念事項として,税金及び保険料の滞納により国に強制執行をかけられる恐れがあるところ,JRTには財産は特許権しかないため,これを対象とされる恐れがあること,JRTの保有する特許はサンコーポレーション破綻の2,3か月前に
JRTに譲渡されたものであり,これが無効となる恐れがあることカ
原告と被告は,同年10月15日,本件プラントに係る契約条件について打合せを行い,事務レベルの合意事項として,以下のような取決めをした。(乙9)
・契約は3分割とするが,契約方式として,注文書-注文請書の形を取り,書類は1件とすること
・契約締結時期を同年10月とし,契約金額は合計32億円とすることキ
原告及び被告の各代表者は,同年11月13日の会談において,以下のよ
うな確認を行った。(乙10)
・トン当たり標準価格は被告案を採用すること
・本件プラントの価格は30.5億円とすること,ただし,直ちに契約締結すること,仕様は当時の時点での被告が原告に提出している内容のとおりとし,そこからのプラスもマイナスもないこと

東京鋪装は,同年12月12日,(NPO)リサイクル技術振興会アークサンド活用道路の試験施工結果報告と題する報告書(甲22)を作成した。なお,同報告書を添付資料の1つとして,平成16年2月16日頃,本件プラントにおいて生産される人工砂(アークサンド)が国土交通省の“NETIS”に登録されたが,登録事項のうち概要において,アークサンドは,加工処理プラントに一般焼却灰を受け入れ,不溶化剤を添加し,ロータリーキルンで1000℃以上かつ溶融しないように焼成を行い,ロータリークーラで冷却後,焼成灰をセメント粒子と同程度までに粉砕します。その粉砕灰に固化材と水,重金属安定剤を加え,造粒機で造粒したのち一週間程度養生してアークサンドとします。と記載されると共に,上記報告書により実用性が確認された旨の記載がされている。(甲20~23,25)

埼玉ヤマゼンと被告とは,平成15年12月22日,本件プラント契約を
締結したところ,本件プラント契約に係る注文請書添付のアクトリー社書類(仕様書他)についてと題する書面及び本件仕様書には,それぞれ以下の記載がある。
(ア)アクトリー社書類(仕様書他)について
・右上部に,平成15年11月25日株式会社ヤマゼン(平成15年12月18日㈱アクトリー訂正)との記載・仕様書に関するYZコメント欄記載の日本リサイクル技術の特許技術のメインは,不溶化剤の使用にあるが,還元剤の使用など,「ネオアーク工法以外の部分もあるので,条件を整理のこと。」とのコメントに対し,

仕様書第1節1項(2)に条件を明示します。

との被告の回答・仕様書に関するYZコメント欄記載の

焼成品ならびに人工砂の溶出基準は,平成3年環境庁告示第46号とする。

等のコメントに対し,

人工砂の溶出基準は,社長同士の合意の仕様書には含まれておらず,当社の保証範囲外となります。また,JRTの特許内容でもありました。しかしながら今回は,JRTとの共同での保証とさせて頂きます。

等との被告の回答(イ)本件仕様書
・本設備は,日本リサイクル技術株式会社の特許技術により株式会社アクトリーがプラント設備を製作,施工を行い,株式会社ヤマゼンが特許許諾を得て焼却灰のリサイクル製品(アークサンド)を生産するものです。/本プラントは,…両者が一致協力して研究開発を行いプラントを完成させるものです。(第1節
計画概要

1.一般概要

(1)基本理念」。なお,/は改行部分を示す。以

下同じ。)
・本設備は,一般廃棄物焼却炉より排出される焼却灰を“ネオアーク工法”で処理し,焼却灰のリサイクル製品(アークサンド)を製造する為の設備です。/※ネオアーク工法とは,焼却灰焼成時に不溶化剤を添加し,造粒時に安定剤を添加し,セメントと混合して人工砂(アークサンド)を製造する工法で,日本リサイクル技術の特許となっています。(同(2)目的)・納期本稼働据付開始平成16年11月頃/試運転開始平成18年4月(5.全体計画)平成17年10月/

・焼成品及び人工砂の溶出基準,含有基準の保証は下記の通りとします。/人工砂の溶出基準は,社長同士の合意の仕様書には含まれておらず,当社の保証範囲外となります。また,JRTの特許内容でもありました。しかしながら今回は,JRTとの共同での保証とさせて頂きます。(第6節保証期間,保証内容,保証事項,保証の除外,施工外工事,予備品・消耗品3.保証事項(11))(2)本件プラントの試運転段階での状況等
被告は,平成17年11月頃から本件プラントの試運転を開始し,平成18年3月末頃に本件プラントを埼玉ヤマゼンに引き渡した(前記第2の1(3))後も,平成19年11月頃まで試運転を継続した。その結果を踏まえ,埼玉ヤマゼンと被告は,平成20年2月12日,同日付けで埼玉ヤマゼンが被告から本件プラントの引渡しを受けたことを確認した(前記第2の1(3))。(乙48,証人P2)その間である平成19年8月23日頃,埼玉ヤマゼンは,被告に対し,同日付けプラント検収に関する件と題する文書(甲19の1)を送付し,プラント検収
に関する質問についての回答を求めた。これに対し,被告は,同年9月18日頃,埼玉ヤマゼンに対し,同日付けプラント検収に関する件と題する文書(甲19の2)を送付した。同文書には,以下の記載がある。

後者(製品化利用)については契約時点では商用運転時の入荷物の物性…等多くの事項が未知であったので契約の定めるメーカー保証事項には含まれておらず,仕様書冒頭の貴我共同開発理念の対象領域となります。

(1.細粒品回収器について/貴質問1)・本プラントの契約は,弊社が仕様書で保証値として明記しお約束した性能数値以外の未知領域については,貴社・弊社の共同技術開発領域として扱うとの基本理念が仕様書冒頭にも明記してある通りです。…共同技術開発のパートナーとして細粒品の量・無害化について今後も真摯に貴社と共同技術開発努力を継続する所存です。(同貴質問2)・アークサンドの試験結果はNETISの登録用として東京舗装で試験施工をしてもらう為に,ヤマゼン,日本リサイクル技術,アクトリーで費用を分担してアークサンドを製造して得たものです。…/先の(平成19年8月31日)検収条件すり合わせ会議時御同意頂いた通り,アークサンドの製造はJRTの特許技術の許諾を受けて貴社が操業される領域であり,その溶出・含有性能はJRTと弊社が共同で保証すると規定されている領域です。/量産操業の要領もようやく徐々に蓄積が始まった段階と了解しております。/例えば,特許に基づき硫酸第一鉄を造粒原料に混合するとまったく強度が出ないとか,6時間の初期養生を行えば表面が固化し少々重ねてもくっつき難い状態になるなど,セメント混合造粒についての困難さやコツも判ってきたところです。/契約が求めるアークサンド製品物性数値は未知領域であった為に契約仕様書にも一切明記されておりません。正に契約基本理念「両者が一致協力して研究開発を行い,プラントを完成させるものに該当するところであるので,…」(2.アークサンドの粒度,強度について)
(3)本件譲渡契約締結に至る経緯等


被告とJRTは,平成22年6月1日,本件譲渡契約を締結した(前記第2
の1(6))が,本件譲渡契約書(乙14)には,以下の記載がある。・日本リサイクル技術株式会社(以下「甲という)と,株式会社アクトリー(以下乙という)とは,甲の保有する特許に関し,特許を保有することに伴い甲が享受できる権利(以下特許権という)を甲が乙に譲渡する…ことに関し,次のとおり特許譲渡契約を締結する…。なお,本契約書にいう特許権には,特許法上特許権者に認められる権利の一切を含み,特許原簿上で確認できない甲による実施権の使用許諾や再実施許諾等を含むものとする。」(前文)・第3条(瑕疵担保責任)/(1)本件契約締結にあたり,甲は,第1条に記載した本特許について,本件契約にて乙に譲渡する本特許の特許権がすべて甲に属すること,特許原簿への記載の有無にかかわらず質権,専用実施権,再許諾付き通常実施権等の乙の利益を害する第三者の権利が設定されていないこと,第三者との紛争が生じていないことおよび将来に亘って紛争が生じないことを保証する。イ
本件譲渡契約は,被告の関与する焼成炉(本件プラントとは別のもの)に
つき,JRTの有する特許権を侵害するものである旨を主張する者と被告との間の紛争を解決する目的で,P3の提案を受けて締結されたものである。(乙15~18,証人P3,同P5)
なお,上記紛争の具体的な内容については,原告と被告とでその主張に食い違いがあるものの,そのいずれであるかを認定するに足りる的確な証拠はない。また,そのいずれであるかが本件における結論を左右するものとも考えられない。

JRTは,平成22年9月10日頃,原告に対し,同日付けお詫び/焼却灰リサイクル技術関連特許についてと題する書面(甲12)を送付した。同書面には,以下の記載がある。
・この度は弊社所有の焼却灰のリサイクル技術に関する特許等の移転等につきまして事前に貴社に協議をしなかったことは誠に申し訳なくお詫び申し上げます。/貴社との当該特許等に係わる契約に関しましては,移転先の株式会社アクトリーが地位承継する旨,確認しておりますが,本件に関しまして別途書類等で確認が必要でしたら責任をもって対応いたしますのでご安心いただければと存じます。・閉鎖された特許,およびまもなく閉鎖される特許として本件特許1~4
を挙げた上,出願年…,特許登録年…と長期が経過致しましたので,弊社は平成21年より他の弊社所有特許及び埼玉ヤマゼン㈱の現事業実態への影響等を検討した結果,当該特許出願内容と現環境は異なると判断して閉鎖いたしました。・移転した特許として本件特許5~8を挙げた上,埼玉ヤマゼン㈱に続く第2号焼却灰資源化事業の遅れや税金支払いに資金調達の必要があり,㈱アクトリーに特許所有権を譲渡致しました。/なお,㈱アクトリーとは移転後の御社地位継承については確認と了解を得ております。エ
P5は,同年11月4日,被告代表者に対し,地位継承覚書の締結に
関して同日実施された原告側との打合せの結果として,以下のような報告をした。(乙19,46,53,証人P5)
・被告が機械を販売したのは埼玉ヤマゼンであり,同社は自動的に本件特許権5~8を使用する立場にあるが,原告はこれらの特許権については当事者ではない,したがって,被告は,原告と特許に関するいかなる契約,覚書を交わす理由や根拠がないことを説明したのに対し,原告側は,困ってはいたが,その理由は納得したと思う。

・原告は,被告と地位継承を含む何らかの契約を交わさないと今後埼玉ヤマゼンから特許料を受領する根拠がなくなり,原告は1億円の損害を被るのが困るとの説明であった。
・原告側から,被告に対して,兄弟会社である埼玉ヤマゼンが被告保有の特許を使用することに異存ないかとの質問状を出し,それにYESと答えることは
可能かとの質問があったのに対しては,その程度なら可能と思うと回答した。・原告は,無断で特許移転がされたことについてJRTに文書で抗議を申し入れ,JRTから文書で回答をもらったところ,その文書には,被告には地位継承を申し入れ,了承をもらっているので問題ない旨の記載があった模様であるとのことであった。これについては,被告からJRTにはそのような了承をしていない旨
を原告側に伝えた。

原告は,同年12月20日頃,被告に対し,同日付け特許権の使用についてと題する書面(甲13の1,乙42)を送付した。同書面には,被告が本件譲渡契約により本件特許権5~8を譲り受けたことを確認した旨,及び,原告のグループ会社の株式会社埼玉ヤマゼンは,当該特許を利用して焼却灰のリサイクル事業を運営しておりますところ,今後も同社が事業継続のために当該特許を利用することについてご承認いただくようお願い申し上げます。との記載がある。
これを受け,被告は,同月22日頃,原告に対し,同日付け特許権の使用についてと題する書面(甲13の2,乙43)を送付した。同書面には,

標記に係わる平成22年12月20日付け貴信にてお申し越し事項は,了解致しました。

との記載がある。(4)本件承継契約に至る経緯
本件承継契約は,以下の経緯を経て締結されたものである。

ツネイシは,平成23年6月17日頃,原告の持株会社であり,埼玉ヤマ
ゼンの株式を100%保有する株式会社ヤマゼンホールディングス(以下ヤマゼンHDという。)その他に対し,同日付け株式会社埼玉ヤマゼンの再生支援に関する意向表明書と題する書面(乙28)を送付した。同書面には,埼玉ヤマゼンの全事業を対象として,株式100%を譲り受けるスキームにより,同社の事業再生に係るスポンサーとして支援するツネイシの意向が表明されているが,付帯条件の1つとして,本件再実施許諾契約につき,当該契約と同様の経済
的条件にて特許権者から直接に特許実施許諾契約を締結できることが挙げられている(同書面(9)②)。

ヤマゼンHDとツネイシは,同月30日頃,同日付け最終契約書(乙
27)により,ヤマゼンHDの保有する埼玉ヤマゼンの株式の譲渡に関する契約を締結した。同契約書には,実行前提条件(2条)として,以下の事項が記載されている。
・原告と被告との間の平成18年3月31日付け特許実施許諾契約(平成22年6月1日に株式会社アクトリーが日本リサイクル技術株式会社から契約上の地位を承継したもの)における原告の契約上の地位を,埼玉ヤマゼンの株式譲渡の実行を停止条件として,ツネイシ又は埼玉ヤマゼンが承継する内容の当該承
継者,原告及び被告間の契約が締結されていること(2.(8))・本件再実施許諾契約について,当事者間で,上記最終契約書に係る契約で企図される取引の完了に加え,上記2.(8)所定の承継に係る契約が締結され,かつ当該承継の効力が生じていることを条件として,解約する旨の合意がされており,当該解約の効力発生後,埼玉ヤマゼンが,ヤマゼンHD及び原告等に対し契約に基づく何らの債務も負わないこと(2.(14))

ツネイシ,埼玉ヤマゼン及びヤマゼンHD等の各担当者は,平成23年8
月4日,ツネイシによる埼玉ヤマゼンの事業再生支援に関し,打合せを行った。その打合せメモ(乙32)には,以下の記載がある。
(ア)被告訪問前の事前打合せ時のやり取り

インドからアクトリーのP6氏…経由で,アクトリーへ連絡しているはず。「特許権の使用料を支払ってくれるのか

との嫌味な事を言われたとの返信メールがあった。」とのツネイシ担当者の説明
(イ)被告との打合せ時のやり取り(なお,被告からはP5ほかが出席)・YZとSYZの契約が残ったまま譲渡を受けて,仮に,新YZがSYZへ特許の使用をやめるとかなって事業が止まるのも困る。本件全体を成就させるために,カムテックスが残債の100MをYZへ支払うスキームを関係者で考えた。何とか協力してほしい。とのツネイシ担当者からの依頼(なお,SYZは埼玉ヤマゼンを指すものと理解される。また,残債の100Mとは,本件再実施許諾契約に基づき原告が埼玉ヤマゼンから受領することが予定されていた再実施料総額から当時までの支払済み分を控除した残額1億0500万円(税込)の支払
債務を意味するものと理解される。乙30,31)
・法律論は分からないが。そもそも,アクトリーは,SYZが特許を使用されることは了解しているが…,YZへ使用許諾を与えているかは不明。JRTとYZとの契約の問題で,YZからJRTへ契約解除と残債の返還請求を申し入れたら済むのでは。/アクトリーは,今後もSYZで使用されることは了解するだろうし,…とのP5のコメント・SYZ⇒YZへ支払っている10M/年が,SYZ⇒カムテックスになる。本件スキームが進めば,アクトリーは無償でカムテックスへ使用許諾させ,SYZ⇒カムテックスへ10M/年の使用料が支払われることは,アクトリーが利益供与していると判断されないか。また,YZが100Mでカムテックスへ譲渡することについても同様で,アクトリー側に問題はないのか。との意見もある。とのP5のコメント

P5は,同月23日,被告代表者に対し,同月22日に埼玉ヤマゼンから
受けた問合せに対して行った回答として,以下の内容を報告した。(乙20)・ツネイシの社長より,埼玉ヤマゼンがツネイシの傘下になった場合には4件の特許を使わせていただきたいとの要請を受け,被告は異存ない旨を伝えて,ツネイシの社長は謝意の気持ちを表された。
・現在提示を受けている契約案は被告に関係ない条項等に被告が将来にわたって拘束される部分があり,同意できないこと,必要なら原告の埼玉ヤマゼンに対する地位をツネイシが承継することに被告は異議を唱えない旨の手紙を発行する用意があることをツネイシの社長に伝え,同社長より了解を得た。

P5は,同月24日,被告代表者に対し,ツネイシ側弁護士とのやり取り
の内容につき,以下のように報告した。(乙54)
・原告から提示のあった三社契約は被告にとって関係のない事項が多く含まれており,被告の将来にわたっての営業活動に支障をきたす恐れがあるので同意できない,ただし,原告の埼玉ヤマゼンに対する当該特許に関する地位をツネイシが承継することに異議は唱えないし,その旨の文書を発行する用意がある旨を,同弁護士に対して伝えた。
・同弁護士からは,ツネイシが原告の地位を承継し特許を使えればそれでよいので,被告の申し出を了解する,被告に発行してほしい文書案を作成して提示する,その他の部分はツネイシと原告にて契約することにする,との回答を得た。

被告は,同年9月14日頃,原告に対し,同日付け承諾書と題する書
面(乙35。なお,これには,同月20日の確定日付が付されている。)を送付した。同書面には,以下の記載がある。
・当社は,株式会社ヤマゼン(…「譲渡人…)が,ツネイシカムテックス株式会社(…譲受人…)に対し,平成23年9月22日付けで,譲渡人と日本リサイクル技術株式会社との間の平成18年3月31日付け特許実施許諾契約(その後の変更(平成22年6月1日付けの当社による日本リサイクル技術株式会社からの契約上の地位の承継を含みます。)を含み,以下本件実施許諾契約といいます。)における譲渡人の権利義務及び契約上の地位を譲渡(…本件譲渡…)することにつき,異議なく承諾いたします。/また,当社は,本件譲渡の効力の発生後に,譲受人が,本件実施許諾契約において許諾の対象となっ
ている全ての発明の実施を,株式会社埼玉ヤマゼンに再許諾することについても,併せて承諾いたします。」
(5)本件プラントにおける本件各発明の実施の有無について

被告の埼玉ヤマゼンに対する本件プラント引渡時(平成18年3月末頃)
から現在に至るまでの間,本件プラントにおいて本件各発明の全部又は一部が実施されていることを直接的に裏付けるに足りる客観的な証拠はない。他方,同期間中,本件プラントにおいてこれが実施されていないことを直接的に裏付けるに足りる客観的な証拠もない。被告は,被告が製造,販売等を行っている焼却灰等の処理装置及び処理方法が本件各発明の技術的範囲に属しないことを裏付ける証拠として平成22年9月30日付け鑑定書(乙56)を提出し
ている。しかし,当該鑑定書は,あくまでその作成者の見解を示したものに過ぎない。その点を置くとしても,当該鑑定書で対象とされた上記処理装置及び処理方法が本件プラントにおいて実施されているものであることをうかがわせる記載は,当該鑑定書には見当たらない。また,その作成時期を考慮しても,当該鑑定書がいかなる必要性に基づき行われた鑑定依頼に対するものであるかは判然とし
ない。これらの事情等を考慮すると,当該鑑定書をもって,本件プラントにおいて本件各発明が実施されていないことを裏付けるものということはできない。イ
もっとも,JRT,原告及び被告は,遅くとも平成14年4月以降,いずれ
も,本件各発明を実施することを前提として,プラントの設計,建設は被告,事業化は原告,プラントの建設,事業化に必要となる発明を実施可能とすること(特許権ないし通常実施権の確保)はJRTとする三者間の役割分担の合意の下,プラントの完成に向けた研究開発は被告及び原告(埼玉ヤマゼンを含む。)が共同で行うこととして,本件プラントに係る事業を進めたものであり,本件プラント契約,本件許諾契約及び本件再実施許諾契約は,いずれもその一環として締結されたものと理解される(前記第2の1(2),第3の1(1))。また,被告は,平成18年3月末頃に埼玉ヤマゼンに対し本件プラントを引き渡した後も,本件各発
明を実施することを基本理念として掲げている本件仕様書に沿った設備等とするべく研究開発に努めていることがうかがわれる(前記1(2))。さらに,本件譲渡契約及び本件承継契約に関連する経緯において,原告及びJRTは,本件各発明の実施を前提とした対応を行っている(前記(3)ウ,オ,(4)イ,ウ)。被告においても,本件プラントで本件各発明が実施されていないこと
を被告が指摘したことをうかがわせる事情はなく,むしろ,埼玉ヤマゼンが本件プラントにおいて本件各発明を実施していることを前提とするものと理解し得る対応をしている(前記(3)エ,オ,(4)ウ~カ)。
加えて,ツネイシも,本件承継契約に至る経緯の中で,本件プラントにおいては本件各発明が実施されていることを前提とした対応を取っているものと理解さ
れる(前記(4)ア~オ)。
しかも,本件プラントに関しては,平成18年11月6日~令和元年7月1日の間に埼玉ヤマゼンないしツネイシにより作成された産業廃棄物処理施設軽微変更届出書,産業廃棄物処分業許可申請書ないし産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書(甲26~34)のいずれにおいても,例えば造粒工程でセメント,
水及び安定剤を添加することなど,処理工程において本件各発明を実施することを前提とするものと理解し得る記載が一貫して維持されている。

これらの事情等を総合的に考慮すると,現に本件プラントにおいて本件各
発明が実施されたか否かは判然としないとしても,少なくとも,原告,被告及びJRT(並びにツネイシ)は,いずれも,本件プラントの事業構想段階から引渡時,更には本件承継契約を経て現在に至るまで,本件プラントにおいて本件各発明が実施されていることを前提としているものと見るのが相当である。エ
これに対し,被告は,本件許諾契約締結当時,JRT及び原告は,本件各発
明が本件プラントの建設及び操業において実施されていないことをいずれも認識していた旨主張し,P5(乙46,証人P5)及びP2(乙47,証人P2)もこれに沿う陳述をする。しかし,これを裏付けるに足りる客観的な証拠は見当たらない。被告が本件プラントの詳細設計及び設備製造等を担当したことをも踏まえて考えると,本件プラントにおいて本件各発明が実施されておらず,関係者がその認識を共有していたのであれば,これを裏付けるに足りる客観的な資料が全く存在しないとは考え難い。そうである以上,この点に関する被告の主張を採用することはできない。

2
本件許諾契約の効力(通謀虚偽表示の成否。争点2)及び被告による不法行
為の成否(争点5)について
(1)前記1(5)のとおり,少なくとも,原告,被告及びJRTは,いずれも,本件プラントの事業構想段階から現在に至るまで,本件プラントにおいて本件各発明が実施されていることを前提としているものと見られる。
そうすると,JRT及び原告は,本件プラントの建設及び操業において,本件各発明が実施されていないことを本件許諾契約締結当時いずれも認識していたとはいえない。したがって,本件許諾契約につき,JRTと原告との通謀虚偽表示により無効とすることはできない。
これに対し,被告は,本件許諾契約に係る意思表示がJRTと原告との通謀虚偽
表示であることを裏付ける事情を縷々主張する。
しかし,本件プラントにおける本件各発明の実施及びそのことに関する原告の認識については,前記認定のとおりである。また,そもそも,通常実施権は,特許権者に対し特許に係る発明の実施を容認することを請求する権利,すなわち,権利侵害を主張しないことを特許権者に対して求める不作為請求権をその内容とする。そうすると,被告が主張するとおり,本件許諾契約がJRTによる権利不行使の趣旨で締結されたものであったとしても,そのような合意はなお通常実施権の上記性質に即するものであるから,本件許諾契約に係る意思表示をもって虚偽表示ということは必ずしもできない。本件許諾契約の契約期間が本件各特許権の存続期間を超える点も,本件プラントが本件各特許権の存続期間経過後も継続して操業することが想定されていたものと考えれば,必ずしも不自然でない。そもそも,契約期間と特
許権の存続期間との齟齬をもって,本件許諾契約締結の意思表示が虚偽であることを裏付ける事情とは必ずしもいえない。原告がJRTに対し本件特許権1~4を消滅させた責任の追及等をしていない点については,その時点で本件特許権5~8はなお存続していることや,JRTの説明(前記1(3)ウ)を受けて間もなく,被告に対し本件許諾契約上の地位の承継に係る覚書を原告と締結することを求め,最終的
に被告から了解を取り付けていること(前記1(3)エ,オ)に照らせば,本件許諾契約がJRTと原告との通謀虚偽表示であることを裏付けるものと見ることは必ずしもできない。別件訴訟における原告の主張立証活動についても,前記1(4)ア~オの各認定事実及び証拠(乙30,31,37)によれば,本件承継契約は,将来的に原告が埼玉ヤマゼンから得られたはずの本件再実施許諾契約に基づく実施料相
当額を対価とすることによって実質的に埼玉ヤマゼンの原告に対する債務を清算しつつ,本件許諾契約における原告の地位をツネイシが承継することにより,その後原告の事業を何者が承継してもツネイシによる本件プラントでの事業遂行に影響がないようにして,本件プラントの設備等の買収という主目的を実現する方法として行われたものと理解される。別件訴訟における主張立証活動も,本件承継契約のそ
のような位置付けに基づき行われたものと理解される。そうである以上,このような別件訴訟における原告の主張立証活動をもって,本件特許権5~8の内容及び本件許諾契約上の通常実施権の有効性に着目していないことを自認する内容のものと見ることはできない。
その他被告が指摘する事情を考慮しても,この点に関する被告の主張は採用できない。
(2)同様の事情から,本件許諾契約の締結に先立ち,被告は,原告に対し,本件各発明が実施されないにもかかわらず実施される旨記載した本件仕様書を交付したということはできず,積極的な欺罔行為をしたとは認められないし,本件プラントの製造過程で本件各発明を実施しなくなったことを説明すべき義務が生じたともいえない。したがって,その余の点を論ずるまでもなく,被告の原告に対する不法行
為の成立は認められない。この点に関する原告の主張は採用できない。よって,請求2については,消滅時効の成否(争点6)も含め,原告の請求は理由がない。
3
本件許諾契約上の許諾者たる地位の被告への移転の有無(争点1)について
(1)前記1(5)イのとおり,被告は,遅くとも平成14年4月には本件プラントに関する事業にプラントメーカーとして関与し,JRTが特許権(ないし通常実施権)の確保,原告が本件プラントの事業化を担うという三者の役割分担を認識していた。JRTと原告との特許権実施許諾契約締結についても,明示的に三者間ないしJRTと被告との間において,これが行われることが確認されている(前記1(1)ア,ウ,エ)。

そうである以上,被告は,具体的な契約条件等までは把握していなかったとしても,本件プラントの事業化を担当する原告がJRTとの間で本件プラントにおいて実施される発明に係る特許権につき実施許諾契約を締結することは,三者間の役割分担の一環として認識していたと見られる。
また,被告は,本件譲渡契約を受けて,埼玉ヤマゼンによる本件特許権5~8に
係る各発明の実施につき承諾を求められたのに対し,

了解致しました。

などと回答したが(前記1(3)オ),上記役割分担に加え,その一環として本件プラントの実際の操業に当たる事業者が本件プラント契約の発注者である埼玉ヤマゼンであることも被告が認識していたことを踏まえると,上記回答は,単に埼玉ヤマゼンによる本件特許権5~8に係る発明の実施につき特許権者として許容するといった趣旨にとどまらず,埼玉ヤマゼンの実施権の根拠である本件再実施許諾契約の裏付けとなる本件許諾契約につき,許諾者としての地位をJRTから承継したことを前提として行われたものと理解するのが最も合理的である。
さらに,被告は,本件承継契約に至る経緯において,原告及びツネイシから,本件譲渡契約に伴い本件許諾契約上の許諾者たる地位をJRTから承継したことを前提とした対応を求められ,これに応じている(前記1(4)カ)。
これらの事情を総合的に考慮すると,被告は,本件譲渡契約に伴い,本件許諾契約上の許諾者たる地位をJRTから承継したものと認められる。
(2)被告の主張について
これに対し,被告は,本件譲渡契約書3条の記載等に基づき,本件許諾契約上の許諾者たる地位を承継していない旨を主張する。

しかし,本件譲渡契約書3条の記載については,本件プラントに関する事業における三者の役割分担を被告が認識していたことを踏まえつつ,同契約書前文の記載と併せ理解するならば,本件許諾契約(ないしJRTと原告との本件各特許権に係る実施許諾契約)の存在を前提としたものと理解するのが相当であり,少なくとも,同条を理由に,被告が本件許諾契約上の許諾者たる地位を承継していないこと
が裏付けられるとはいえない。また,本件譲渡契約書前文の記載に基づき,本件譲渡契約により,被告は,JRTから,本件特許権5~8のほか,これらの特許権につき第三者との間に締結した実施許諾契約及び再実施許諾契約における権利全てを承継しながら,他方で,個別の実施許諾契約に基づく義務は当然には承継しないとすることは,理論的には可能であるとしても,当事者間の合理的意思には必ずしも合
致しない。本件許諾契約に関し,このような形で権利と義務の承継がされた(されなかった)ことをうかがわせる具体的な事情も見当たらない。さらに,被告は,上記回答に先立つ原告側とのやり取りにおいて,本件許諾契約上の許諾者たる地位をJRTから承継した旨の覚書の締結につき否定的な反応を示したことがうかがわれるものの(前記1(3)エ),P5による報告内容が真実であることを裏付けるに足りる証拠はない。仮に真実であったとしても,原告の要請の法律的な意義等をP5がどの程度理解した上での対応であったかは不明であり,本件譲渡契約に伴う本件許諾契約上の地位の移転がないことを必ずしも裏付けるものとまではいえない。その点を措くとしても,本件プラントについては,その操業は埼玉ヤマゼンが担当するものの,その前提とされる本件各特許権の実施権については,原告が特許権者であるJRTと本件許諾契約を締結し,その原告と埼玉ヤマゼンとが本件再実施許諾契
約を締結するというスキームが採用されており,被告もこれを知悉していたことや,本件譲渡契約がJRTと被告との間に当時存在した紛争解決手段として締結されたものであることから,本件プラントを含む設備に係る被告とJRTとの関係を解消するという側面をも併せ持つと見られることに鑑みると,本件譲渡契約に合わせて本件許諾契約上の地位の移転に係る合意も行われたものと見るのがむしろ合理
的である。これらの事情に鑑みると,上記否定的な反応は,本件譲渡契約に伴い本件許諾契約上の許諾者たる地位の移転がなかったことを裏付けるものとは必ずしもいえない。
なお,被告は,本件承継契約に係る被告のツネイシに対する承諾の意思表示の効力に言及するけれども,ここでは承諾の意思表示の効力の有無は問題ではない。す
なわち,被告のツネイシに対する承諾書の送付という事情は,本件許諾契約上の許諾者たる地位の承継に係る被告の意思を推認させるものであり,別件訴訟において意思表示の錯誤により本件承継契約が無効であることを確認する内容の訴訟上の和解が成立したことによってその推認が妨げられるものではない。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する被告の主張は採用
できない。
(3)小括
以上より,被告は,本件譲渡契約に伴い,本件許諾契約上の許諾者たる地位をJRTから承継し,原告に対し,本件許諾契約に基づく特許維持義務を負っていたものと認められる。
4
本件承継契約に係る原告の無効主張の可否(争点3)

被告は,仮に本件許諾契約上の許諾者たる地位がJRTから被告に移転しているとしても,本件承継契約及びこれに対する被告の承諾により原告は本件許諾契約から離脱しており,その際,被告は,原告から懇願されて承諾したものであって,同承諾には,被告が本件許諾契約に基づくJRTの地位を承継したり債務を引き受けたりする趣旨は含まれていないにもかかわらず,原告が,本件承継契約が錯誤によ
る意思表示として無効であることが確認されたとして,被告による本件許諾契約上の許諾者たる地位の承継等を主張することは信義則上許されない旨を主張する。しかし,前記3のとおり,被告は,本件許諾契約上の許諾者たる地位をJRTから承継していると認められる。また,本件承継契約が原告とツネイシとの間で無効であることが訴訟上の和解により確認された以上,原告が,本件許諾契約における
被許諾者及び本件再実施許諾契約における許諾者の地位にある者として主張を行うことは,何ら不当でも不合理でもない。上記被告の承諾を得るに当たり原告が懇願していたとしても,そのような事情の存在は上記評価に影響しない。したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
5
原状回復請求が認められる範囲(争点4)

(1)以上より,被告が特許料不納付により本件特許権5~8を消滅させたことは,本件許諾契約上の特許維持義務(本件許諾契約書8条2項)の不履行に当たる。したがって,本件許諾契約は,原告の解除の意思表示(前記第2の1(10))により解除されたこととなるから,被告は,原告に対し,原状回復義務(民法545条)として,本件許諾契約に基づき原告が支払った実施料の返還義務及び利息支払
義務を負う。
(2)本件許諾契約書において,実施料の額は本件プラントの処理能力に基づき算定されており(5条1項。前記第2の1(4)),本件各特許権の実施料を個別に算定し,これを合算した額をもって実施料とするといった定め方はされていない。本件各特許権の存続期間終了に応じて実施料を減額するといった規定も存在しない。また,本件仕様書において,本件プラントにおいて本件各発明が実施される設備ないし方法及びそこで実施される発明を特定しているわけでもない。これらの事情に鑑みると,本件許諾契約は,本件プラントの建設,操業及びリサイクル品の製造,販売等において,本件各発明に係る技術のどれがどのように使用されるかを具体的に特定して実施料を算定したものではなく,本件各特許権を一体的なものとして取り扱い,本件許諾契約書記載のとおり,本件プラントの処理能力
に基づき実施料を算定したものと理解される。
そうすると,本件許諾契約は,出願日の最も遅い本件特許権8(出願日平成10年4月11日)の存続期間が終了する平成30年4月11日までは,契約として意義を有していた可能性が高く,同契約に基づく本件実施料は,平成18年4月1日~平成30年4月11日の期間中,本件各特許権のいずれかの通常実施権を許諾さ
れることの対価として一体的に定められたものと見られる。
もっとも,本件各特許権のうち最もその消滅が遅かったのは本件特許権6(平成23年7月6日)であり,それまでは,原告は,本件許諾契約に基づく通常実施権者としての地位を享受していた。このため,本件許諾契約の解除により,原告も,その間に享受した利益を返還すべき地位にある。

そこで,本件実施料として支払われた1億5750万円から,原告が実際に通常実施権者としての地位を享受していた期間に相当する部分を控除すると,8857万1347円となる。
―157,500,000-(―157,500,000*1923日/4394日)=―88,571,347(日数は実日数,小数点以下切捨て)

(3)被告の主張について
被告は,本件実施料はそもそも実質的には本件各特許権の実施に係る許諾料ではない,本件許諾契約の目的は本件プラントが本稼働を開始した平成18年4月時点で既に達成されている,本件プラントにおいて本件各特許権が実施されていないことから,被告が本件特許5~8を消滅させたことによって原告に損害が発生しておらず,債務不履行となるべき事実自体がないなどと主張する。
しかし,本件許諾契約に至る経緯等(前記1(1))に鑑みれば,本件実施料が実質的に本件各特許権の実施に係る許諾料でないと見るべき事情はない。また,本件許諾契約は,本件プラントの操業を埼玉ヤマゼンが担うことを前提としたものであることから(前記第2の1(2),第3の1(1)ケ,(2)),その目的が本件プラントの本稼働開始により既に達成されたと見ることもできない。

さらに,そもそも,本件では本件許諾契約の債務不履行による解除に基づく原状回復請求がされているのであって,損害賠償請求はされていないことから,損害の発生の有無は問題とならない。その点は措くとしても,本件プラントにおける本件各発明の実施の有無は必ずしも判然とせず(前記1(5)),また,本件許諾契約により原告が認められるのは通常実施権にとどまるものの,本件許諾契約には,JRT
が原告以外の者にも本件各発明の実施を許諾する場合は,事前に原告との協議を要することが定められていること(本件許諾契約書3条。前記第2の1(4)ア)などに鑑みると,なお本件特許権5~8が権利として維持されることには意味があったものといえる。しかも,前記(2)のとおり,本件許諾契約においては,本件実施料を定めるに当たり本件各特許権は個別にではなく一体的に取り扱われていることか
ら,本件特許権1~4が本件譲渡契約の時点で既に消滅していたことは,原状回復が認められる範囲を定めるに当たり考慮すべき事情とはいえない。その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する被告の主張は採用できない。6
小括

以上より,原告は,被告に対し,本件許諾契約の法定解除に基づき,8857万1347円の原状回復請求権及びこれに対する平成22年1月13日(本件実施料の最終支払日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息支払請求権を有する。
第4

結論

よって,原告の請求のうち請求1は主文の限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,その余は棄却し,請求2は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部

裁判長裁判官
杉浦正樹杉浦一輝布目
裁判官
裁判官

真利子
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