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特許権持分一部移転登録手続等請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号令和2(ネ)10052
事件名特許権持分一部移転登録手続等請求控訴事件
裁判年月日令和3年3月17日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別特許権
訴訟類型民事訴訟
裁判日:西暦2021-03-17
情報公開日2021-03-24 12:02:03
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令和3年3月17日判決言渡
令和2年(ネ)第10052号

特許権持分一部移転登録手続等請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所平成29年(ワ)第27378号)
口頭弁論終結日

令和2年12月24日
判控決人X
訴訟代理人弁護士

町田健一牧野知彦被訴控訴人
小野薬品工業株式会社

訴訟代理人弁護士

重冨貴光古庄俊哉辻居幸一田中伸
補佐人弁理士

小松邦被人Y
訴訟代理人弁護士

岩瀬ひ葛西陽湯村石井将介井垣太介控訴主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。

第1
1実及び理由
控訴の趣旨
原判決中主文第2,3項を取り消す。

一郎光とみ子暁2
被控訴人らは,控訴人に対し,原判決別紙特許権目録記載の特許権につき,それぞれ持分4分の1の移転登録手続をせよ。

3
被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,1000万円及びこれに対する被控訴人小野薬品工業株式会社(以下被控訴人小野薬品という。
)について平
成29年9月5日から,被控訴人Y(以下被控訴人Yという。
)について同
月3日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要(略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。

事案の要旨
本件は,控訴人が,特許権者を被控訴人ら両名として設定登録された,発明の名称を
癌治療剤
とする特許
(特許第5885764号。
請求項の数18。
以下,この特許を本件特許といい,本件特許に係る特許権を本件特許権という。
)に係る発明(以下本件発明という。
)の共同発明者であり,本件
特許は,共同出願違反によりされた旨主張して,被控訴人らに対し,控訴人が本件発明の発明者であることの確認及び特許法74条1項に基づく本件特許権の持分各4分の1の移転登録手続を求めるとともに,被控訴人らによる上記共同出願違反の特許出願が控訴人に対する不法行為を構成する旨主張して,共同不法行為に基づく損害賠償として1000万円及びこれに対する不法行為の後の訴状送達の日の翌日(被控訴人小野薬品につき平成29年9月5日,被控訴人Yにつき同月3日)から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下,単に民法という。
)所定の年5分の割合による遅延損害金
の連帯支払を求める事案である。
原判決は,本件訴えのうち,発明者確認請求に係る部分について,訴えの利益を欠くものとして,訴えを却下し,特許権一部移転登録手続請求及び損害賠償請求に係る部分について,控訴人は本件発明の発明者であるとは認められないとして,いずれも棄却した。
控訴人は,原判決中,特許権一部移転登録手続請求及び損害賠償請求を棄却
した部分のみを不服として,本件控訴を提起した。
2
前提事実
以下のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理由の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決3頁末行末尾に
A教授は,平成14年に京都大学の副学長に就任した後,令和2年10月1日,同大学の学長に就任した(甲110)を加。
える。
(2)

原判決5頁13行目の筆頭著者の次に「equalcontributionとし(

て明示されていれば,複数名でも可)
」を加える。
(3)

原判決5頁16行目から6頁13行目までを次のとおり改める。

(3)本件特許権等ア(ア)被控訴人らは,平成15年7月2日(優先日平成14年7月3日及び平成15年2月6日,優先権主張国日本)を国際出願日とする特許出願(特願2004-519238号。以下「原出願1

という。甲3)の一部を分割して出願した特許出願(特願2009-203514号。以下原出願2という。甲4)の一部を更に分
割して出願した特許出願
(特願2012-197861号。原以下出願3
という。
甲5)
の一部を分割して,
平成26年1月20日,
新たに本件特許の特許出願(特願2014-7941号。以下本件出願という場合がある。)をし,平成28年2月19日,本件特
許権の設定登録(請求項の数18)を受けた(甲6,126)

(イ)

原出願1については,平成21年11月20日に特許第440

9430号(以下,この特許に係る特許権を関連特許権1とい
う。
)として,原出願2については,平成24年12月21日に特許
第5159730号(以下,この特許に係る特許権を関連特許権2という。)として,原出願3については,平成27年2月27日

に特許第5701266号(以下,この特許に係る特許権を関連特許権3という。)としてそれぞれ設定登録がされた(甲3ないし
5)

(ウ)

本件特許権及び関連特許権1ないし3に係る特許公報(甲3な

いし6)の発明者欄には,発明者としてY
(被控訴人Y)

A
(A教授)B

(B氏)及びC
(被控訴人小野薬品の従業
員(当時)
)の4名が記載されている。

本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし18の記載は,次のとおりである。
【請求項1】
PD-1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD-L1抗体を有効成分として含む癌治療剤。
【請求項2】
抗PD-L1抗体が,PD-1およびPD-L1の相互作用を阻害する請求項1記載の癌治療剤。
【請求項3】
抗PD-L1抗体が,キメラ抗体,ヒト化抗体または完全ヒト型抗体である請求項1または2記載の癌治療剤。
【請求項4】
癌が,癌腫,扁平上皮癌,腺癌,肉腫,白血病,神経腫,メラノーマ,リンパ腫および骨髄腫から選択されるいずれかの癌である請求項1~3のいずれか1項記載の癌治療剤。
【請求項5】
扁平上皮癌が,子宮頚管,瞼,結膜,膣,肺,口腔,皮膚,膀胱,舌,喉頭または食道の癌である請求項4記載の癌治療剤。
【請求項6】

腺癌が,前立腺,小腸,子宮内膜,子宮頚管,大腸,肺,膵,食道,直腸,
子宮,乳房または卵巣の癌である請求項4記載の癌治療剤。
胃,
【請求項7】
癌が,肺癌,大腸癌,食道癌,卵巣癌,メラノーマまたはリンパ腫である請求項1~3のいずれか1項記載の癌治療剤。
【請求項8】
肺癌が,
肺扁平上皮癌または肺腺癌である請求項7記載の癌治療剤。
【請求項9】
癌が,PD-L1を発現する癌である請求項1~3のいずれか1項記載の癌治療剤。
【請求項10】
さらに,免疫賦活剤と組み合わせることを特徴とする請求項1記載の癌治療剤。
【請求項11】
免疫賦活剤が,サイトカインまたは癌抗原である請求項10記載の癌治療剤。
【請求項12】
サイトカインが,GM-CSF,M-CSF,G-CSF,インターフェロン-α,インターフェロン-β,インターフェロン-γ,IL-1,IL-2,IL-3またはIL-12である請求項11記載の癌治療剤。
【請求項13】
癌抗原が,MAGE-1もしくはMAGE-3由来のHLA-A1またはHLA-A2拘束ペプチド,MART-1,gp100,HER2/neuペプチド,MUC-1ペプチドおよびNY-ESO-1から選択される一または二以上の癌抗原である請求項11記載の癌治
療剤。
【請求項14】
免疫賦活剤が,抗CTLA-4抗体である請求項10記載の癌治療剤。
【請求項15】
さらに,化学療法剤と組み合わせることを特徴とする請求項1記載の癌治療剤。
【請求項16】
化学療法剤が,アルキル化剤,ニトロソウレア剤,代謝拮抗剤,抗癌性抗生物質,植物由来アルカロイド,トポイソメラーゼ阻害剤,ホルモン療法剤,ホルモン拮抗剤,アロマターゼ阻害剤,P糖蛋白阻害剤および白金錯体誘導体から選択される一または二以上の化学療法剤である請求項15記載の癌治療剤。
【請求項17】
さらに,白血球減少症治療薬,血小板減少症治療薬,制吐剤または癌性疼痛治療薬から選択される一または二以上と組み合わせることを特徴とする請求項1記載の癌治療剤。
【請求項18】
インビボにおいて癌細胞の増殖を抑制する作用を有する請求項1記載の癌治療剤。

被控訴人小野薬品が製造及び販売している医薬品
オプジーボ
は,
関連特許権1及び2に係る発明の実施品である。


(4)

原判決8頁14行目冒頭からから15行目の誘導されることまでを
同論文には,抗原受容体を介したTリンパ球及びBリンパ球の刺激によりPD-1の発現が誘導されること,PD-1の発現はアポトーシスの一般的経路には必要でないことと改める。
(5)

原判決9頁1行目末尾にまた,同論文には,感作されたT細胞上のPD-1は,特定の抗原提示細胞の刺激によるTCR介在の増殖反応を負に調節することが強く示唆されること,PD-1は,免疫応答の負の調節遺伝子として,末梢性自己寛容の維持に示唆されたことなどの記載がある(乙B6)。
を加え,同頁6行目のPD-1のから7行目のところ,までを削り,同頁9行目のPD-L1遺伝子を譲り受けた上で,をPD-L1遺伝子情報の提供を受けた上で,と,同頁21行目から22行目にかけての

1-111抗体及び1-167抗体を得た。を

1-111抗体及び1-167抗体を産生するハイブリドーマを得た。

と改める。(6)

原判決10頁8行目の同論文には,から9行目の記載があるまでを
JEM論文には,「ヒト卵巣腫瘍から3つのESTがみられるように,PD-L1は,いくつかの癌において発現されている。このことは,腫瘍が,抗腫瘍免疫応答を阻害するために,PD-L1を使用している可能性を提起する。との記載がある」と,同頁25行目の確認作業を確認実験と改める。
(7)

原判決11頁7行目から8行目にかけてのランダムに多数のがん細胞
をA研に保存されていた複数の細胞株(甲83(7-1頁〔H12.9.29〕))と改め,同頁21行目から末行までを次のとおり改める。
控訴人は,平成12年9月頃,D助手から,「1.ピロリン酸モノエステル系抗原のヒトγδ型T細胞に及ぼす影響の検討(1)ヒトγδ型T細胞をピロリン酸モノエステル系抗原で刺激した際のシグナル解析,(2)ヒトγδ型T細胞を腫瘍細胞株にパルスしたピロリン酸モノエステル系抗原で刺激した際のシグナル解析2.PD-1遺伝子のヒトγδ型T細胞,に及ぼす影響(1)ヒトγδ型T細胞上のPD-1分子の発現の解析,(2)PD-L1によるヒトγδ型T細胞の調節機構の解析3.マウスPD,-L1のNK細胞に及ぼす影響(1)マウスPD-L1を発現するYAC細胞株の樹立,(2)マウスNK細胞上のPD-1分子の発現の解析,(3)マウスPD-L1によるマウスNK細胞の調節機構の解析(甲28)
を控
訴人の研究テーマとして与えられた。控訴人は,その頃から,ヒトγδ型T細胞及びNK細胞を使用した具体的な実験に従事するようになった。」
(8)

原判決12頁2行目のまた,の次にNK細胞においても,PD-1の発現を観察することができず,を加え,同頁8行目から9行目にかけての(実施例1関係)を(本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書等という。甲6)記載の実施例1関係(以下実施例
と表記する場合は,本件明細書等記載の実施例を意味する。)
)」と改め,
同頁10行目から13頁5行目までを次のとおり改める。
(ア)2C細胞におけるPD-1の発現の確認控訴人は,ヒトγδ型T細胞上のPD-1分子の発現及びマウスNK細胞上のPD-1分子の発現をいずれも観察できなかった後,平成12年10月から11月にかけての頃,2C細胞にP815細胞で刺激を与えるなどしてPD-1分子が発現していることを確認する実験を開始し,同月17日,A研のグループミーティングで2C細胞にPD-1が発現したことを報告した(甲50,甲83(7-12頁〔H12.11.17〕))。2C細胞は,遅くとも1999年(平成11年)までに,A教授がE教授から入手し,A研に所属するF氏によって維持されていた(乙B13(10頁),証人A)。
(9)
原判決13頁7行目から12行目までを次のとおり改める。A教授は,平成12年11月17日,A研のグループミーティングで,控訴人から,2C細胞にPD-1分子が発現したことを確認したとの報告を受けたこと,P815細胞にはPD-L1を発現していないことが確認されていたことから,PD-1/PD-L1の相互作用について確認する実験を行うには,P815細胞にPD-L1を遺伝子導入した細胞(以下「P815/PD-L1細胞という。)を作製した上で,PD-L1を発
現していない野生型のP815細胞との対比を行うことが必要であると考え,控訴人に対し,P815/PD-L1細胞の作製をするよう助言,指導した。
(甲83(7-12頁〔H12.11.17〕)

2C細胞は,
B6系マウスに,
主要組織適合抗原遺伝子複合体
(MHC)
クラスI分子のH-2Ldを認識するT細胞受容体
(TCR)
をコードする
遺伝子を導入した2Cマウスに由来するキラーT細胞であり,その細胞表面に発現したH-2Ldを認識するTCRを介して,異系のマウス由来の細胞上に発現するH-2Ldを認識し,本来免疫応答する同系のB6系マウス由来の細胞のみならず,異系のマウス由来の細胞にも免疫応答する。P815細胞は,DBA/2マウス由来のがん細胞であり,PD-L1を発現していないことは,上記ア(イ)の実験により確認されていた。P815細胞は,2C細胞が認識するH-2Ldを発現し,かつ,NK抵抗性でT細胞感受性という性質を備えたがん細胞であるため,NK細胞による影響を考慮する必要がなく,キラーT細胞の解析に適していた。
上記のとおり,B6系マウスに由来する2C細胞とDBA/2マウスに由来するP815細胞とは,その由来するマウスの系が異なり,この2つの細胞を組み合わせた実験は,異なるMHCを有する細胞を標的細胞とする異系の細胞の組合せによる実験である。
(以上,
乙B13
(10~16頁)

乙B14(25~26頁)
,証人A)

(10)

原判決13頁18行目から19行目にかけてのバリアナンスをバリアンスと改める。(11)

原判決16頁4行目の

必要がある。

必要があることについて,控訴人は,A教授から助言を受けた。

と改める。(12)

原判決17頁2行目から3行目にかけてのPNAS論文Fig.3Bに掲載され,本件明細書等の実施例3に関する【図3】(B)にもを本件明細書等の実施例3に関する【図3】(B)にと改める。⒀
原判決18頁20行目の「開始した。」を

開始した。(甲83(7-44[H13.6.8])

と改める。)


原判決19頁25行目の上記実験の結果から末行の「得られた。」までを控訴人は,J558L細胞にPD-L1を強く発現していることを確認し,J558L細胞を皮下移植したBalb/Cマウスにおいて,F[(ab’)2型の]抗PD-L1抗体によって腫瘍が大きくなるのが阻害されることを示すデータを得た。と改める。⒂
原判決20頁11行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
⑽本件訴訟に至る経緯等ア米国法人のダナ・ファーバー・キャンサー・インスティテュート社(以下「ダナ・ファーバー癌研究所という。及びジェネティックス・

インスチチュート社(以下GI社という。
)は,発明の名称をPD-1,B7―4の受容体,およびその使用とする発明について,平成12年8月23日(優先日平成11年8月23日及び同年11月10日,優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願2001-518870号。ダナ・ファーバー癌研究所等の特許出願
以下
という。
)をした(甲60,61)

上記特許出願に係る公表特許公報(甲61)の発明者欄には,
発明者としてG(以下G博士という。
)及びH(以下H博士と
いう。
)の2名が記載されている。

イ(ア)

ダナ・ファーバー癌研究所は,2015年(平成27年)9月2

5日頃,米国マサチューセッツ州地区連邦地方裁判所(以下マサチューセッツ州連邦地裁という。において,

被控訴人ら,R.
E.
スクイブ社及びサンズブリストル・マイヤーズスクイブ社を被告として,ダナ・ファーバー癌研究所に所属していたH博士及びGI社
に所属していたG博士が,被控訴人らが保有する関連特許権1ないし3及び本件特許権の米国対応特許(以下米国特許という。
)に
係る発明の共同発明者である旨主張して,米国特許の発明者名の訂正を求める訴訟(以下別件米国訴訟という。
)を提起した(甲1
00・訳文甲100の2)

(イ)

京都大学の代理人弁護士は,平成28年4月,控訴人に対し,

別件米国訴訟に関し,被控訴人らのために本件発明に関連する実験ノートを提出すること及びデポジションを受けることを依頼した
(甲16,68の1)

控訴人の代理人弁護士は,同年8月22日到達の内容証明郵便
(甲16の1,2)で,被控訴人小野薬品に対し,控訴人は,京都大学の代理人弁護士からの上記依頼を受けて,本件特許権及び関連特許権1ないし3の存在を知ったが,これらの特許権に係る発明は,いずれも控訴人が京都大学大学院に在籍中に発明したものであり,控訴人は少なくとも共同発明者としての権利を有しているので,この点について協議をしたい旨の申入れをした。
その後,同年10月7日頃から,控訴人の代理人弁護士と被控訴
人らの代理人弁護士との間で,交渉を行ったが,合意に至らなかった(甲18の1,2,19,22の1ないし3等)

控訴人は,平成29年8月14日,本件訴訟を提起した。
(ウ)

マサチューセッツ州連邦地裁は,2019年(令和元年)5月,

別件米国訴訟について,G博士及びH博士によるPD-L1の発見,G博士によるPD-1/PD-L1結合が免疫応答を阻害するこ
との発見,G博士及びH博士による抗PD-1抗体及び抗PD-L1抗体が阻害経路のシグナルを阻害できることの発見,H博士による腫瘍細胞におけるPD-L1の発現の確認実験を通じて,米国特
許に係る特許発明の着想に多大な貢献をしたから,G博士及びH博士は共同発明者である旨判断して,ダナ・ファーバー癌研究所の請求を認容する判決(甲100・訳文甲100の2,甲108・訳文甲108の2)をした。
被控訴人ら,E.R.スクイブ社及びサンズブリストル・マイヤ
ーズスクイブ社は,上記判決を不服として控訴したが,米国連邦巡回区控訴裁判所は,2020年(令和2年)7月14日,上記判決を維持する旨の判決(甲108・訳文甲108の2)をした。

3
争点



1
本件特許権の持分移転登録手続請求の可否(争点2)


第3

控訴人の共同発明者性(争点1)

被控訴人らの不法行為の成否及び控訴人の損害額(争点3)
争点に関する当事者の主張
争点1(控訴人の共同発明者性)について
以下のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほか,原判決の
事実及び理由の第3の2記載のとおりであるから,これを引用する。【当審における当事者の補充主張】
(1)

控訴人の主張
原判決は,本件発明の発明者を認定するに当たっては,①抗PD-L1抗
体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの技術的思想の着想における貢献,②PD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害する抗PD-L1抗体の作製・選択における貢献,③仮説の実証のために必要となる実験系の設計・構築における貢献及び個別の実験の遂行過程における創作的関与の程度などを総合的に考慮し,認定されるべきであるとした上で,①について,本件発明の技術的思想を着想したのは,被控訴人Y及びA教授であって,控訴人は関与していない,②
について,抗PD-L1抗体の作製・選択に貢献した主体は,A教授及びD助手である,③について,本件発明を構成する個々の実験の設計及び構築をしたのはA教授であったものと認められ,控訴人は,本件発明において,実験の実施を含め一定の貢献をしたと認められるものの,その貢献の度合いは限られたものであり,本件発明の発明者として認定するに十分なものであったということはできないとして,控訴人が本件発明の発明者であると認めることはできない旨判断した。
しかしながら,以下に述べるとおり,抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの知見ないし着想は,本件出願当時,公知であったことに照らせば,本件発明の技術的思想の特徴的部分は,具体的な免疫細胞と標的となるがん細胞を用いた実験によってがん免疫の効果を実証し,上記着想を具体化した点にあり,かかる実験の着想及び遂行に貢献した控訴人は,本件発明の発明者であるというべきであるから,原判決の判断は誤りである。ア
抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの知見ないし着想は,
公知であったこと
①2000年(平成12年)10月2日に公表された新しいB7ファミリーメンバーによるPD-1免疫抑制性受容体の関与が,リンパ球活性化の負の制御を導くと題するJEM論文(甲66)には,ヒト卵巣腫瘍から3つのESTがみられるように,PD-L1は,いくつかの癌において発現されている。このことは,腫瘍が,抗腫瘍免疫応答を阻害するために,PD-L1を使用している可能性を提起する。との記載があること,②ダナ・ファーバー癌研究所等の特許出願の優先権主張の基礎出願は,1999(平成11)年9月に出願され,この出願に係る明細書には,PD-1を介するシグナリングを阻害する作用剤を対象の免疫細胞に投与して,免疫応答のアップレギュレーションから利益を受けるであろう症状を治療することを特徴とする…1の具体例において,該症状は,腫瘍…からなる群より選択される。(甲61の【0009】参照)との記載があることからすると,抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの知見ないし着想は,本件出願前に公知であったといえる。
そうすると,抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの着想は,本件発明の技術的思想の特徴部分となるものではないから,控訴人が上記着想に関与していないことは,控訴人が本件発明の発明者であることの認定判断において重要ではない。
そして,本件発明の技術的思想の特徴部分は,具体的な免疫細胞と標的となるがん細胞を用いた実験によってがん免疫の効果を実証し,上記着想を具体化した点にあるというべきである。

抗PD-L1抗体の作製・選択における控訴人の貢献
本件発明の完成には抗PD-L1抗体の樹立とその機能を実証することが必要であるところ,
控訴人は,
抗PD-L1抗体の作製に貢献している。


本件発明を構成する個々の実験の構想及び具体化における控訴人の貢献学生が行う研究室での活動において,研究の基となる実験を実際に担当し,着想を具体化した者は,その具体化することが当業者にとって見れば自明のことである場合など特段の事情がない限り,単なる補助にとどまるものとはいえない。
控訴人が,A研に所属する学生であった以上,指導教官であるA教授から,一定程度の技術的な指導があったことは当然であるが,これを受けて控訴人は,種々の試行錯誤を重ねて本件発明に係る実験系を構築し,主要な実験のほぼすべてを単独で行ったのであり,特に2C細胞とP815細
胞の組合せ実験の着想に関しては,以下に述べるとおり,A教授からの指示はなく,この実験の成功により,本件発明は具体化したのであって,これに対する控訴人の貢献の度合いは大きいというべきである。
(ア)

控訴人は,A研のF氏から,F氏が2C細胞を活性化するためにP
815細胞との組合せを利用している旨を聞いて,2C細胞とP815細胞を組み合わせてPD-1/PD-L1の相互作用を検証する実験系を着想した。これは,控訴人は,①A研に入る前にA教授から渡されたJEM論文のアブストラクト(概要)の部分から,活性化されたT細胞にPD-1が発現することを学んでおり,T細胞を活性化すると,PD-1が発現することを知っていたこと,②P815細胞にはPD-L1が発現していないことを知っていたことから,2C細胞がT細胞の一種である以上,2C細胞とP815細胞を組み合わせれば,2C細胞にもPD-1が発現するのではないかと考えたことによるものである。また,2C細胞を培養する際,そのキラー活性を維持するために,限界稀釈法でクローニングして一部を廃棄することになるが,廃棄する分については,特段分量を記録するようなことはなく,控訴人がF氏から自由に譲り受けられる状況にあった。
そして,2C細胞を含むキラーT細胞を用いた実験はD助手の課題メモ(甲28)に記載されていないこと,平成12年11月17日より前のグループミーティングメモに2C細胞を用いた実験に関する記載がみられないことは,A教授やD助手が,2C細胞とP815細胞とを用いた実験の指示をしておらず,控訴人が独自にこの組合せを着想して2C細胞におけるPD-1の発現を確認する実験を行ったことを裏付ける重要な事実である。
(イ)

控訴人が平成12年11月17日のグループミーティングメモに

YAC-1,YAC-1/PD-L1と通常の細胞と遺伝子導入し
た細胞を連記していることからもうかがえるとおり,控訴人は,同日のグループミーティングで2C細胞とP815細胞を用いた実験を提案した際,PD-L1を遺伝子導入した細胞と比較することも視野に入れていたが,グループミーティングメモに明記していなかったため,A教授から,P815細胞にPD-L1を遺伝子導入した細胞(P815/PD-L1細胞)との比較をするよう助言されたものである。このような助言がされたことから,2C細胞とP815細胞の組合せ実験が控訴人の着想であることを否定されるものではない。
また,控訴人が2C細胞とP815細胞の組合せ実験を着想した時点では,その後の展望を有していなかったとしても,本来,発明に至る過程は試行錯誤の連続であるから,上記着想の具体化に関する控訴人の創作的な関与が否定されるものではない。
そして,本件発明は,2C細胞とP815細胞の組合せ実験を行ったことがブレークスルーになって実際に抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の賦活化の効果を実証したことに価値があるから,控訴人による上記組合せ実験の着想及び遂行の重要性は十分に評価されるべきである。

PNAS論文の共同第一著者であること等
(ア)

科学者の世界では,論文の筆頭著者がその研究において重要な貢献
をしたものと推認されるという経験則がある。
しかるところ,控訴人は,本件発明と同内容のPNAS論文の共同第一著者(筆頭著者)であり,同論文を根拠論文として京都大学から博士号を授与されている。これらの事実だけでも控訴人が本件発明の発明者であることを認められるべきである。
(イ)

被控訴人Y及びA教授は,
PNAS論文の共著者である。
A教授は本

件訴訟の当事者ではないが,被控訴人Yに代わって原審で人証の取調べ
を受けるなど,実質的には被控訴人Yと一体となる立場の者である。そして,被控訴人Y及びA教授は,控訴人をPNAS論文の筆頭著者として認め,京都大学において博士号を授与できる根拠となる文書を作成して,論文公聴会では主査として博士論文を審査したこと,研究科会議における採決により,京都大学が控訴人に博士号を授与していること(甲102)からすれば,被控訴人Yが,控訴人が本件発明の発明者であることを否定し,
これと相反する主張をすることは信義則に違反する。

小括
以上のとおり,①抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの知見ないし着想は,本件出願当時,公知であったから,本件発明の技術的思想の特徴的部分は,上記公知の課題について具体的な免疫細胞と標的となるがん細胞を用いて抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の賦活化の効果を実証した点にあること,②控訴人は,抗PD-L1抗体の作製に貢献し,指導教官であるA教授から指導を受けながら,試行錯誤を重ねて本件発明を構成する個々の実験系を構築し,主要な実験のほぼすべてを単独で行い,特に2C細胞とP815細胞の組合せ実験に関しては,A教授から指示を受けることなく着想して,遂行し,この点に関する控訴人の貢献の程度は大きいこと,③控訴人が本件発明と同内容のPNAS論文の筆頭著者(共同第一著者)であること等からすると,控訴人は,本件発明の具体化に創作的に関与したものといえるから,本件発明の発明者であるというべきである。これを否定した原判決の判断は誤りである。



被控訴人Yの主張

抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの知見ないし着想が公

知であったとの主張に対し
JEM論文における単にPD-L1ががん免疫応答に関与する可能性を抽象的に示唆するのみの記載をもって,具体的かつ論理的に実証可能な抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの技術的思想の着想が公知であったといえないことは明らかである。
これと異なる控訴人の主張は失当である。

抗PD-L1抗体の作製・選択における控訴人の貢献の主張に対しモノクローナル抗体は,クローン化された(単一の細胞由来の)抗体産生細胞
(ハイブリドーマ)
が産生する抗体のことをいい,
限界希釈を経て,
このようなハイブリドーマが得られた時点で,モノクローナル抗体が樹立できたものといえるところ,遅くとも平成12年(2000年)4月22日の時点までには,A研において,実際に機能を満たす抗PD-L1抗体(1-111抗体,1-167抗体)が樹立されていた。
この樹立までの過程に控訴人の関与は一切なかったから,抗PD-L1抗体の作製に控訴人が創作的に関与したとはいえない。


本件発明を構成する個々の実験の構想及び具体化における控訴人の貢献の主張に対し
(ア)

控訴人は,A教授から指示を受けることなく,2C細胞とP815
細胞の組合せ実験を着想して,遂行したこと,本件発明は,2C細胞とP815細胞の組合せ実験を行ったことがブレークスルーになって実際に抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の賦活化の効果を実証したことに価値があること等からすると,控訴人は,2C細胞とP815細胞の組合せ実験に創作的に関与した旨主張する。
しかしながら,2C細胞とP815細胞を用いた実験を構築したのは
A教授であり,実験目的にふさわしい細胞の組合せとして2C細胞とP815細胞を採用したのもA教授である。A教授が2C細胞とP815細胞の組合せを採用した理由は,①活性化したキラーT細胞上のPD-1の発現が既に確認されていたこと(乙B5・Int.Immunol論文)
,②Immunity論文(乙B6)に報告したPD-1遺伝子欠失マウスを用いた実験において,
既に2Cマウスが使用されていたこと,
③P815細胞は,A教授が1970年代から研究に使用してきた経験からその性状を熟知していたがん細胞であったこと,④P815細胞は代表的なNK細胞抵抗性がん細胞であって,細胞傷害性T細胞の解析に最適であったこと,⑤当時A研で維持されていたP815細胞はPD-L1を発現していないことが確認されたこと,⑥当時既に2C細胞とP815細胞の組合せによる細胞傷害性アッセイが標準的な実験系であったこと等によるものである。
他方,控訴人は,2C細胞及びP815細胞の性状に関する知識を欠いており,P815/PD-L1細胞と組み合わせた実験等のその後の一連の実験についても,具体的なプランはなかった上,ADCC効果による可能性を除外するための抗体の断片化実験の必要性もA教授が説明したものであること等からすると,控訴人が2C細胞とP815細胞を用いた実験について創作的に関与したとはいえない。
また,2C細胞とP815細胞を用いた実験系は,PD-1/PD-L1相互作用によりT細胞の細胞傷害性活性機能自体が抑制されることを証明するための手段の1つにすぎないし,2C細胞とP815細胞を組み合わせた実験系は,当時既にT細胞による細胞傷害性を検証するための標準的な実験系であり,
当該検証に非常に適したモデルではあるが,
この実験系でなければならなかったわけではないから,当該細胞を実験系に採用したことそれ自体はブレークスルーと評されるべきもので
はない。
したがって,控訴人の上記主張は失当である。
(イ)

控訴人は,指導教官であるA教授から指導を受けながら,試行錯誤
を重ねて本件発明を構成する個々の実験系を構築し,主要な実験のほぼすべてを単独で行ったから,本件発明の具体化に創作的に関与した旨主張する。
しかしながら,控訴人が行ったと主張する試行錯誤とは,研究室
において既に用意されていた試料・サンプルを用いて行う標準的な実験の手順の範囲内において,細部の条件を至適化しながら実験作業を行ったということであり,本件発明に対する創作的な関与と評価できるものではないから,控訴人の上記主張は失当である。

PNAS論文の共同第一著者であること等の主張に対し
A教授が,控訴人をPNAS論文の筆頭著者(共同第一著者)としたのは,控訴人が実際に多くの実験作業を行ったからであるにすぎないし,博士論文の審査に際してA教授が提出した文書(甲1の2)の

equalcontributionとして,分担担当した。

との記載も,控訴人がPNAS論文の共同の筆頭筆者であるということを説明するものにすぎず,学位の取得は,学位授与に関する所定の要件を満たしているかという点を判断するものであって,当該研究を行うに当たって創作的な関与があったかを審査するものではない。
したがって,控訴人がPNAS論文の筆頭著者(共同第一著者)であるからといって,控訴人が本件発明の発明者であるということはできない。

小括
以上のとおり,控訴人は,本件発明の発明者であるとはいえない。


被控訴人小野薬品の主張

抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害す
ることによりがん免疫の賦活をもたらすとの知見ないし着想が公
知であったとの主張に対し
JEM論文は,
腫瘍が,抗腫瘍免疫応答を阻害するために,PD-L1を使用している可能性について言及しているにすぎず,PD-1とPD-L1の相互作用の阻害によって治療に有効ながん免疫を誘導する可能性については何ら言及がなく,しかも,JEM論文では,抗腫瘍免疫応答からの逃避機構が現実に存在することについて実証されていない。したがって,JEM論文の記載をもって,抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの知見が公知であったということはできない。

本件発明を構成する個々の実験の構想及び具体化における控訴人の貢献の主張に対し
(ア)

平成12年(2000年)4月に京都大学生命科学研究科に修士課
程の学生として入学した控訴人は,同年11月頃に2C細胞とP815細胞の組合せ実験に関与しているが,その当時,控訴人は,2C細胞とP815細胞に関する基本的な知識・理解すら有しておらず,2C細胞とP815細胞の組合せ実験を適切に策定し,その実験結果を適切に評価することはおよそ不可能であったことからすると,2C細胞とP815細胞との組合せ実験の実験計画を適切に策定し,同実験の結果を適切に評価したのは,控訴人ではなく,がん免疫の分野において圧倒的な経験,
知見を有していたA教授であり,
控訴人は,
D助手の実技指導の下,
A教授の補助者として同実験の作業を行ったにすぎないから,本件発明の技術的思想の創作行為に現実的な加担をしたとはいえない。
この点に関し控訴人は,2C細胞とP815細胞を組み合わせることを発案したのは控訴人である旨主張するが,そのような発案をしただけでは本件発明に係る科学的知見を実証するための2C細胞とP815
細胞の組合せ実験の計画を策定したといえない。
また,控訴人は自らが実験を繰り返したと縷々主張するが,本件発明の技術的思想の創作行為に現実的な加担をしたといえるためには,明らかにすべき科学的知見(発明)を確認するに当たり,その前提として適切かつ具体的な実験系を構築し,当該実験を遂行した結果を適切に評価することが必要であるところ,控訴人はそのような知識・理解を備えていなかったから,控訴人が実験作業を繰り返し行ったとしても本件発明の技術的思想の創作行為に現実的な加担をしたとはいえない。
その他の実験(DBA/2マウスへのP815/PD-L1細胞移植実験
(実施例2関係)P815特異的細胞傷害性T細胞及びP815移,
植DBA/2マウスに対する抗PD-L1抗体の投与実験(実施例3関係)
,J558L細胞を使用した実験(実施例5関係)
)に関しても,控
訴人は,これらの実験について,具体的にどのように策定し,遂行し,その結果を評価したのかについて具体的な主張立証をしていない。したがって,控訴人は,本件発明の発明者ではない。
(イ)

なお,別件米国訴訟の控訴審判決(甲108・訳文甲108の2)
は,共同発明者になるには,①発明の着想又は実用化に何らかの重要な貢献をすること,②発明に対する貢献が発明全体の規模に比して,質的にみて些細とはいえないものであること及び③実際の発明者に周知の概念及び/又は先行技術を単に説明する以上のことを行うことが必要であると判示しているが,このような発明者性の判断基準は,我が国における発明者性の判断基準とは異なるものである。
また,
別件米国訴訟では,
共同発明者であることを主張するH博士とG博士が発明の着想において重要な貢献をしたか否かが主に争われているのに対し,本件では,本件発明の着想に基づく効果の確認において控訴人が貢献したか否かが主な争点であり,争点となっているポイントも異なる。

したがって,別件米国訴訟の判決は,控訴人の本件発明の発明者性を検討するに当たって,およそ考慮する必要のないものである。
2
争点2(本件特許権の持分移転登録手続請求の可否)について
原判決の事実及び理由の第3の3記載のとおりであるから,これを引用する。

3
争点3(被控訴人らの不法行為の成否及び控訴人の損害額)について以下のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理由の第3の4記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決82頁10行目から11行目にかけての
この被告らによる特許出願をこの被控訴人らによる共同出願違反の特許出願と改める。(2)

原判決82頁20行目末尾に行を改めて次のとおり加える。

⑶したがって,控訴人は,被控訴人らに対し,共同不法行為に基づく損害賠償として1000万円及びこれに対する不法行為の後の訴状送達の日の翌日(被控訴人小野薬品につき平成29年9月5日,被控訴人Yにつき同月3日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
第4

当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人が本件発明の発明者に該当するものと認めることはできず,控訴人の特許権一部移転登録手続請求及び損害賠償請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1
本件明細書等の記載事項等について
以下のとおり訂正するほか,原判決事実及び理由第4の1記載のとおりであるからこれを引用する。
(1)

原判決82頁25行目の

本件特許の請求の範囲の記載に加え,を削る。


(2)

原判決86頁8行目末尾に行を改めて次のとおり加える。

「本発明中のPD-1,PD-L1,またはPD-L2による免疫抑制シグナルは,少なくともPD-1とPD-L1またはPD-1とPD-L2との相互作用,PD-1の細胞内シグナルから構成される。さらに,PD-1,PD-L1,またはPD-L2分子自身の産生もこれに含まれる。(
【0017】

本発明中のPD-1,PD-L1,またはPD-L2による免疫抑制シグナルは,PD-1とPD-L1またはPD-1とPD-L2との相互作用またはPD-1の細胞内シグナルの直接的あるいは間接的な阻害によって阻害される。これらの阻害活性を有する物質として,PD-1,PD-L1,またはPD-L2にそれぞれ選択的に結合する物質が挙げられる。好ましくは,例えば,タンパク質,ポリペプチド若しくはペプチド,ポリヌクレオチド若しくはポリヌクレオシド,抗体若しくはそれら誘導体,有機合成化合物,無機化合物,または天然物が挙げられる。特に,特異性に優れた物質として,PD-1,PD-L1,またはPD-L2に対する抗体が挙げられる。(【0018】)
PD-1,PD-L1,またはPD-L2に対する抗体は,PD-1,PD-L1,またはPD-L2による免疫抑制シグナルを阻害するものであれば,ヒト由来抗体,マウス由来抗体,ラット由来抗体,ウサギ由来抗体またはヤギ由来抗体のいずれの抗体でもよく,さらにそれらのポリクローナル若しくはモノクローナル抗体,完全型若しくは短縮型(例えば,F(ab')2,Fab',FabまたはFv断片)抗体,キメラ化抗体,ヒト化抗体または完全ヒト型抗体のいずれのものでもよい。(【0020】)
そのような抗体は,PD-1,PD-L1,またはPD-L2の細胞外領域の部分タンパク質を抗原として,公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。細胞外領域の部分タンパク質は,公知のタンパク質発現ならびに精製法によって調製することができる。(【0021】


抗体製剤としては,モノクローナル抗体あるいはその修飾体がより好ましい。モノクローナル抗体産生細胞の作製は,抗原で免疫された動物から抗体価の認められた個体を選択し,最終免疫の2~5日後に脾臓またはリンパ節を採取し,それらに含まれる抗体産生細胞を同種または異種動物の骨髄腫細胞と融合させることにより,継代培養可能なモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作製することにより行なうことができる。抗原タンパク質の投与は,抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体,希釈剤と共に行なう。投与には,抗体産生能を高めるため,完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与するのが一般的である。また,“DNA免疫”と呼ばれる方法によっても,動物を免疫することができる。この方法は,免疫動物の後足前脛骨筋にカルジオトキシン(Cardiotoxin)を処置し,さらに抗原タンパク質を発現するベクターを導入した後,組織修復の過程でベクターが筋細胞に取りこまれ,タンパク質を発現する現象を利用した方法である(NatureImmunology,2001年,第2巻,第3号,p.261~267)【0023】。(

免疫される動物としては,マウス,ラット,ヒツジ,ヤギ,ウサギまたはモルモットが可能であるが,好ましくはマウスまたはラットが用いられる。融合操作は,コーラー(Kohler)とミルシュタイン(Milstein)の方法(Nature,1975年,第256巻,第5517号,p.495~497)で実施することができ,融合促進剤としては,ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが用いられる。骨髄腫細胞としては,P3U1,NS1,SP2/0,AP1などの骨髄腫細胞が挙げられるが,通常P3U1がよく利用される。モノクローナル抗体産生細胞の選別は,例えば,抗原タンパク質を直接あるいは担体と共に吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加することによるELISA法などにより検出して行なうことができる。さらに,ハイブリドーマ培養上清の抗体価は,ELISA法によって測定できる。モノクローナル抗体の分離精製は,上記のポリクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。具体的には,国際受託番号FERMBP-8392で識別されるハイブリドーマが産生する抗ヒトPD-1抗体あるいは国際受託番号FERMBP-8396で識別されるハイブリドーマが産生する抗マウスPD-L1抗体である。(【0024】)

抗体断片とは,F(ab')2,Fab',FabまたはscFv抗体フラグメントであり,プロテアーゼ酵素により処理し,場合により還元して得ることができる。(

【0026】)
F(ab')2抗体フラグメントは,精製されたモノクローナル抗体をペプシンで完全に消化し,イオン交換クロマトグラフィー,ゲルろ過,プロテインAあるいはプロテインGカラムなどのアフィニティークロマトグラフィーのいずれかの方法により精製することができる。ペプシンの消化時間は,Igサブタイプにより異なるため,適当に調製することが必要である。Fab'抗体フラグメントは,調製したF(ab')2を2-メルカプトエチルアミンで部分還元することによって作製することができる。また,Fab抗体フラグメントは,システイン存在下で消化酵素パパインで直接消化し,精製して作製することができる。(【0027】)
本発明のスクリーニング法で使用されるリンパ球細胞としては,T細胞またはB細胞であり,好ましくは,細胞傷害性Tリンパ球細胞(CTL)である。また,本発明のスクリーニング法におけるリンパ球細胞の免疫反応は,細胞傷害反応(例えば,腫瘍免疫反応),混合リンパ球反応,サイトカイン,抗体,補体若しくはその他細胞表面抗原の産生,または細胞増殖が挙げられる。(【0041】)
本発明の免疫賦活または癌治療組成物の有効成分のスクリーニング法は,具体的には,細胞傷害性Tリンパ球の対象細胞に対する細胞傷害活性を測定し,その活性に対する被験物質の効果を定量することによって行なうことができる。この方法は,PD-1を自然に発現する細胞傷害性Tリンパ球細胞(CTL)あるいは細胞株(例えば,2C細胞)および同系マウス由来であってPD-L1またはPD-L2を自然に発現するもしくは強制的に発現させた細胞の混合培養に対して,被験物質を添加することによる細胞傷害活性の回復あるいは増強を定量するものである。本法の特徴は,PD-L1またはPD-L2を発現していない細胞に対する細胞傷害活性に比べ,PD-L1またはPD-L2を発現している細胞に対する細胞傷害活性が低く,被験物質による細胞傷害活性の回復(上昇幅)をより明確に測定できるところにある。被験物質による細胞傷害性の回復は,本発明の特徴とするPD-L1またはPD-L2による細胞傷害性の抑制の阻害に相当するものとして評価することができる。さらに,被験物質による細胞毒性を任意に測定することがより望ましい。これに使用される細胞としては,自然にPD-L1またはPD-L2を発現する腫瘍細胞株または癌細胞株(NatureImmunology,2001年,第2巻,第3号,p.261~267),例えば,P38D1細胞,P815細胞,NB41A3細胞,MDA-231細胞,SKBR-3細胞,MCF-7細胞,BT474細胞,J558L細胞,P3U1細胞,PAI細胞,X63細胞,またはSP2/0細胞を用いることができるが,PD-L1またはPD-L2を安定的にあるいは一過的に発現するように形質転換させた腫瘍細胞株または癌細胞株も使用することができる。(【0042】」)
(3)

原判決96頁5行目から97頁1行目までを次のとおり改める。

(2)本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載及び前記(1)の本件明細書等の記載事項を総合すれば,本件発明(請求項1に係るもの。以下,特に断りのない限り同じ。)の技術的思想は,従来,PD-1による抑制シグナルを誘導する分子の1つであるPD-L1リガンド刺激は,PD-1を発現しているTリンパ球細胞の活性化(細胞増殖,各種サイトカイン産生誘導)を抑制することが示されており,また,PD-1に代表される共役抑制分子からの抑制シグナルは,抗原レセプター(TCR)及び共役刺激分子によるポジティブなシグナルを適性に制御するメカニズムによって,リンパ球発生又は成熟過程での免疫寛容や自己抗原に対する異常な免疫反応を制御していると考えられていたところ,本件発明は,PD-1,PD-L1による抑制シグナルを阻害して,免疫賦活させる組成物及びこの機構を介した癌治療のための組成物を提供することを課題とし,この課題を解決するための手段として,抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすことを見出した点にあること【0007】0009】(,【,【0012】【0013】【0046】,,)が認められる。2
本件明細書等の実施例1ないし3及び5の記載とPNAS論文の記載の対比について
原判決の事実及び理由第4の2記載のとおりであるから,これを引用する。

3
争点1(控訴人の共同発明者性)について
以下のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理由第4の4記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決108頁12行目から21行目までを次のとおり改める。特許法2条1項は,「発明

とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうと規定し,同法70条1項は,

特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。

と規定している。これらの規定によれば,特許発明の発明者といえるためには,特許請求の範囲の記載によって具体化された特許
発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し,又は,その着想を具体化することに創作的に関与したことを要するものと解するのが相当であり,その具体化に至る過程の個々の実験の遂行に研究者として現実に関与した者であっても,その関与が,特許発明の技術的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認められないときは,発明者に該当するものということはできない。

(2)

原判決111頁14行目から20行目までを削り,同頁21行目のオ
をエと,112頁9行目のカをオと改める。
(3)

原判決113頁18行目のその程度は,から19行目末尾まで,同頁
22行目のその貢献のから23行目末尾までをいずれも

その貢献は創作的な関与に当たるものと認めることはできない。

と改める。⑷

原判決114頁3行目から115頁3行目までを次のとおり改める。(ア)a控訴人は,平成12年11月17日のグループミーティングで,2C細胞にPD-1が発現したことを報告した際,2C細胞とP815細胞を用いた実験を行うことを提案した旨主張する。これに沿うように控訴人は,原審の本人尋問において,控訴人が2C細胞とP815細胞を用いた実験を思いついた点に関し,2000年(平成12年)10月頃,当時の控訴人の研究課題であったヒトγδ型T細胞及びマウスNK細胞に関する実験はいずれの細胞にもPD-1分子が発現してこないため,行き詰っていたところ,A研のF氏と雑談をしていたときに,F氏から2C細胞を活性化するのにP815細胞を使って増やしており,2C細胞はP815細胞を殺して増えると聞いた際,活性化したT細胞にはPD-1が発現するというJEM論文があったこともあり,もしかしたら2C細胞がP815細胞を殺すときにPD-1,PD-L1が関係しているのではないか,2C細胞においても活性化をするとPD-1が発現してくるのではないかと思い,2C細胞にPD-1が発現しているかを調べることにした旨を供述する。しかるところ,控訴人作成の平成12年11月17日付けグループミーティングメモの「今後の計画に2CとP815,FBL3,YAC-1,YAC-1/PD-L1細胞を使って細胞障害性を調べるとの記載があること(甲83(7-12頁〔H12.11.17〕)),D助手が
同年9月頃に控訴人に与えた研究テーマ(甲28)には,2C細胞におけるPD-1の発現の解析は含まれておらず,同年11月17日以前にA教授又はD助手が,
控訴人に対し,
2C細胞におけるPD-1の
発現を確認する実験を行うことを指導,助言したことを客観的にうかがわせる証拠もないことに鑑みると,控訴人の上記供述はおおむね信用できるというべきであるから,ヒトγδ型T細胞及びマウスNK細胞に関する実験に行き詰っていた控訴人は,
A教授又はD助手の指導,
助言に基づかずに,2C細胞にPD-1分子が発現していることを確認する実験を行い,同日のグループミーティングにおいて,2C細胞にPD-1が発現したことを報告し,2C細胞とP815細胞を用いた実験を行うことを提案したものと認めるのが相当である。
b
これに対し被控訴人Yは,①活性化したキラーT細胞上へのPD-1発現が既に確認されていたこと(乙B5・Int.Immunol論文)
,②Immunity論文(乙B6)に報告したPD-1遺伝子欠失マウスを用いた実験において,既に2Cマウスが使用されていたこと,③P815細胞は,A教授が1970年代から研究に使用してきた経験からその性状を熟知していたがん細胞であったこと,④P815細胞は代表的なNK細胞抵抗性がん細胞であって,細胞傷害性T細胞の解析に最適であったこと,⑤当時A研で維持されていたP815細胞はPD-L1を発現していないことが確認されたこと,⑥当時
既に2C細胞とP815細胞の組合せによる細胞傷害性アッセイが標準的な実験系であったこと等から,A教授が2C細胞とP815細胞の組合せ実験を採用したものであり,2C細胞とP815細胞を用いた実験を行うことを提案したのは控訴人ではない旨主張する。
しかしながら,
被控訴人Yが挙げる①ないし⑥の事情は,控訴人が,
A教授又はD助手の指導,助言に基づかずに,2C細胞にPD-1分子が発現していることを確認する実験を行い,上記グループミーティングにおいて,2C細胞とP815細胞を用いた実験を行うことを提案したことと相反するものではなく,控訴人が,2C細胞とP815細胞を用いた実験を行うことを提案したこと自体を否定すべき事情に当たらない。
もっとも,
証人Aの供述中には,
A教授が,
おそらく2000年
(平
成12年)の夏ぐらいには,控訴人に対し,2CにPD-1が発現しているかどうかの確認をするよう指示を出した旨の供述部分があり,また,証人Dの供述中には,2CにPD-1が出ていることは,もうかなり前から論文に出ているので,A教授が,控訴人に対し,それを再確認してくださいということを指示したと思う旨の供述部分があるが,A教授が2CにPD-1が発現しているかどうかの確認をするよう指示を出したという具体的な時期はもとより,その具体的な経緯等については,証人A及び証人Dの供述全体をみても明確に述べるものではないこと,本件で証拠として提出されたグループミーティングメモ(甲83)にも上記各供述部分に対応する記載はなく,他に上記各供述部分を裏付ける証拠はないことに鑑みると,上記各供述部分は措信することはできないというべきである。
したがって,被控訴人Yの上記主張は採用することができない。
他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。


(5)

原判決115頁4行目の2C細胞とを(イ)a2C細胞とと,同

頁8行目の前提とした上でから10行目末尾までを

前提とするものと考えられる。

と改め,同頁18行目から24行目までを次のとおり改める。しかるところ,控訴人の供述中には,①A研に入る前に2C細胞及びP815細胞を使用した経験はなかった,②2C細胞にPD-1が発現していることは知らなかった,③P815細胞がH-2Ldを発現しているという認識はなかった,④2C細胞とP815細胞の組合せがキラーT細胞の活性を検証するために以前から使用されていたことは知らなかった,⑤2C細胞とP815細胞の組合せ実験が移植免疫系であるとの認識はなかった,⑥2C細胞とP815細胞との組合せを思い付いたときにはPD-L1を導入する実験のことは想定しておらず,A教授からP815細胞にPD-L1を導入してみてはどうかとの助言を受けた,⑦2C細胞とP815細胞との組合せの実験でうまくいっても,その先における具体的なプランはなかった旨の供述部分があることに照らすと,控訴人は,2C細胞とP815細胞を使用してどのような実験を実施するかというアイデアや,2C細胞とP815細胞の組合せ実験の後の展望を有していなかったものと認められるから,控訴人が2C細胞とP815細胞を用いた実験を行うことを提案したことは,本件明細書等の実施例1に係る2C細胞とP815細胞の組合せ実験の出発点となったものと認められるが,そのことのみから,控訴人が上記組合せ実験の策定又は構築について創作的に関与したものと評価することはできない。
(6)


原判決115頁25行目の(イ)をbと改める。
原判決116頁末行の以上のとおり,から117頁1行目の原告であるとしても,までを以上によれば,2C細胞とP815細胞との組合せ自体を最初に提案したのが控訴人であるからといって,と改める。⑻

原判決119頁9行目の原告の貢献はから10行目末尾までを

控訴人の貢献は,本件発明の技術的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認めることはできない。

と改める。⑼

原判決120頁14行目の原告の貢献はから15行目末尾まで,122頁2行目の原告の貢献はから3行目末尾まで及び同頁22行目の原告の貢献はから23行目末尾までを,いずれも

控訴人の貢献は創作的な関与に当たるものと認めることはできない。

と改める。

原判決123頁1行目から2行目までを

控訴人の関与は創作的な関与に当たるものと認めることはできない。と,

同頁8行目から9行目にかけての
その貢献の度合いは限られたものであり,を控訴人の貢献は創作的な関与に当たるものと認めることはできず,と改める。

原判決123頁18行目から124頁2行目までを次のとおり改める。しかしながら,前記⑷の認定事実及び控訴人が第一共同著者として執筆したPNAS論文には,本件明細書等の実施例1ないし3及び5に係る実験データと概ね同一の実験データが記載されていること(前記2⑸)に照らすと,控訴人は,A教授の指導,助言を受けながら,自らの研究として本件発明を構成する個々の実験を現実に行ったものと認められるから,A教授の単なる補助者にとどまるものとはいえないが,一方で,前記⑸認定のとおり,上記実験の遂行に係る控訴人の関与は,本件発明の技術的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認めることはできないから,控訴人の上記主張は採用することができない。

原判決128頁13行目から15行目までを次のとおり改める。
以上のとおり,控訴人は,本件発明の発明者に該当するものと認めることはできない。(8)控訴人の当審における補充主張について控訴人は,①抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの「知見な
いし着想は,本件出願当時,公知であったから,本件発明の技術的思想の特徴的部分は,上記公知の課題について具体的な免疫細胞と標的となるがん細胞を用いて抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の賦活化の効果を実証した点にあること,②控訴人は,抗PD-L1抗体の作製に貢献し,指導教官であるA教授から指導を受けながら,試行錯誤を重ねて本件発明を構成する個々の実験系を構築し,
主要な実験のほぼすべてを単独で行い,
特に2C細胞とP815細胞の組合せ実験に関しては,A教授から指示を受けることなく着想して,遂行し,この点に関する控訴人の貢献の程度は大きいこと,③控訴人が本件発明と同内容のPNAS論文の筆頭著者(共同第一著者)であること等からすると,控訴人は,本件発明の具体化に創作的に関与したものといえるから,本件発明の発明者であるというべきである旨主張する。
しかしながら,以下のとおり,控訴人の主張は,理由がない。

①について
控訴人は,抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの知見
ないし着想が,本件出願当時(原出願1の優先日平成14年7月
3日及び平成15年2月6日)公知であったことについて,

JEM論
文及び1999(平成11)年9月に出願されたダナ・ファーバー癌研究所等の特許出願の優先権主張の基礎出願に係る明細書の記載を根拠として挙げる。
しかしながら,JEM論文(甲66)は,
新しいB7ファミリーメンバーによるPD-1免疫抑制性受容体の関与が,リンパ球活性化の負の制御を導くことに関する論文であり,JEM論文中には,

ヒト卵巣腫瘍から3つのESTがみられるように,PD-L1は,いくつかの癌において発現されている。このことは,腫瘍が,抗腫瘍免疫応答を阻害するために,PD-L1を使用している可能性を提起する。

との記載部分があるが,一方で,JEM論文には,腫瘍に発現したPD-L1が抗腫瘍免疫応答を阻害することを実際に実証する実験データやその分析結果等の記載がないことに照らすと,JEM論文の上記記載部分は,腫瘍が抗腫瘍免疫応答を阻害するためにPD-L1を使用している可能性があることの仮説を述べたものにとどまるというべきである。
次に,控訴人提出の甲60は,ダナ・ファーバー癌研究所等を出願人,2000年(平成12年)8月23日を国際出願日,2001年(平成13年)
3月1日を国際公開日とする国際出願(PCT/US

/23347)の国際公開公報,甲61は,その公表特許公報であって,本件においては,上記国際出願の優先権主張の基礎出願に係る明細書の提出はないし,また,控訴人の指摘する甲61のPD-1を介するシグナリングを阻害する作用剤を対象の免疫細胞に投与して,免疫応答のアップレギュレーションから利益を受けるであろう症状を治療することを特徴とする…1の具体例において,該症状は,腫瘍…からなる群より選択される。(段落【0009】)との記載から直ちに
抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの知見を導出するこ
とはできない。
したがって,控訴人の①の主張のうち,抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによるがん免疫の賦活化の効果が,本件出願当時,公知であったとの点は,採用することはできない。
そして,前記1(2)認定のとおり,本件発明の技術的思想は,PD-
1,PD-L1による抑制シグナルを阻害して,免疫賦活させる組成物及びこの機構を介した癌治療のための組成物を提供するという課題を解決するための手段として,抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすことを見出した点にあるものと認められ,本件発明の発明者であるというために,上記技術的思想を着想し,又は,その着想を具体化することに創作的に関与したことを要するものと解されるところ(前記(1))
,控訴人が上記技術的思想の着想に関与していないことは,前
記(2)オで説示したとおりである。

②について
(ア)

前記(3)認定のとおり,D助手は平成12年4月22日までに抗
PD-L1抗体である1-111抗体及び1-167抗体の作製
を完了したこと,控訴人は,同月にA研に入室した後,抗PD-L1抗体の性状確認及び性能のより良い抗体の探索のための実験を
行ったが,1-111抗体及び1-167抗体以外の有望な抗体を見出すことはできなかったことに照らすと,控訴人の上記実験による抗PD-L1抗体の作製・選択における貢献は本件発明の技術的思想の着想の具体化の創作的な関与に当たるものと認めることは
できない。
(イ)

次に,前記(4)ア(ア)認定のとおり,控訴人は,平成12年10月
頃ないし11月頃,A教授又はD助手の指導,助言に基づかずに,2C細胞にPD-1分子が発現していることを確認する実験を行
い,同月17日のグループミーティングにおいて,2C細胞にPD-1が発現したことを報告し,2C細胞とP815細胞を用いた実験を行うことを提案したことは,本件明細書等の実施例1に係る2C細胞とP815細胞の組合せ実験の出発点となったことが認め

られる。
しかしながら,他方で,前記(4)ア(イ)認定のとおり,当時P815細胞はPD-L1を発現していないことは既に確認されていた
のであるから,PD-L1の機能を確認・解析するには,PD-L1遺伝子をP815細胞に導入するなどして,PD-L1を発現する細胞を予め作製することが必要となり,また,実験結果を評価する方法を選択したり,抗PD-L1抗体を投与した場合の効果がADCC効果によるものではないことを確認する実験を行うなど,必要となる一連の実験を想起した上で,その具体的な設計・構築をする必要があるが,控訴人は,2C細胞とP815細胞を使用してどのような実験を実施するかというアイデアや,2C細胞とP815細胞の組合せ実験の後の展望を有していなかったのであるから,2C細胞とP815細胞との組合せ自体を最初に提案したのが控訴
人であるからといって,控訴人が上記組合せ実験に創作的な関与をしたということはできず,上記組合せ実験を設計及び構築したのはA教授であるものと認められる。
また,前記(4)ア(イ)ないし(キ)認定のとおり,控訴人は,2C細胞とP815細胞との組合せ実験を構成する個々の実験について,A教授から指導,助言を受け,実際の作業についても,A教授から指導,助言を受けながら進めたこと,クロミウムリリースによる細胞傷害性アッセイの前にLDHキットを用いたことなど,控訴人が主張する個々の実験における試行錯誤は,標準的な実験の手順の範囲内の実験手技上の工夫にすぎないことに鑑みると,控訴人が本件発明を構成する個々の実験を実際に行ったことは,本件発明の技術的思想の関係において,創作的な関与に当たるものと認めることはできない。

(ウ)

したがって,控訴人の②の主張は採用することができない。
③について
(ア)

前記第2の2(2)認定のとおり,
PNAS論文
(甲13の1,
2)

は,米国科学アカデミー紀要(PNAS)の2002年(平成14年)9月17日号に掲載された腫瘍細胞中のPD-L1と宿主免疫システムからの回避との関係及びPD-L1をブロックすることによるがん免疫治療についてと題する論文であり,
PD-L1の発現が,潜在的に免疫原性のある腫瘍が宿主の免疫反応から免れるための強力なメカニズムとして機能し得ることを示唆し,また,PD-1とPD-L1間の相互作用を遮断することが,特定のがん免疫療法のための有望な戦略を提供することを示唆していることを要旨とするものである。
そして,PNAS論文には,著者として,B氏,控訴人,D助手,被控訴人Y及びA教授の順に記載され,B氏及び控訴人は,共同第一著者であること,B氏及び控訴人は,研究に等しく貢献した旨の記載(1293頁の脚注のY.I.andM.I.contributedequallytothisworkとの記載)があること,本件明細書等の実施例1ないし3及び5に係る実験データと概ね同一の実験データが記載さ
れていることは,前記認定のとおりである。
一方で,本件明細書等の【0013】には,
本発明者らは,癌治療または感染症治療における新たな標的として,PD-1,PD-L1,またはPD-L2に注目し,PD-1,PD-L1,またはPD-L2による抑制シグナルを阻害する物質が,免疫機能の回復,さらには賦活機構を介して癌の増殖を阻害することを見出した。さらに,感染したウイルスの排除にPD-1シグナル,具体的にはPD-1とPD-L1またはPD-1とPD-L2の相互作用が関与していることを見出した。これら事実に基づいて,PD-1,PD-L1,またはPD-L2による抑制シグナルを阻害する物質が,癌または感染症に対して治療効果を有することを見出し,本発明を完成した。との記載があり,かかる記載は,PNAS論文の上記要旨と異なること等からすると,PNAS論文の研究内容は,PD-1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD-L1抗体を有効成分と
して含む癌治療剤である本件発明の内容と必ずしも同一であると
いうことはできない。
加えて,先に説示したとおり,特許発明の発明者といえるた
めには,特許請求の範囲の記載によって具体化された特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し,又は,その着想を具体化することに創作的に関与したことを要するものと解さ
れ,本件発明の発明者に該当するかどうかは,この観点からの検討が必要であることに鑑みると,控訴人がPNAS論文に共同第一著者として記載されていることから直ちに本件発明の発明者に該当
するものと認めることはできない。なお,本件特許権及び関連特許権1ないし3に係る特許公報
(甲3ないし6)発明者

欄には,
発明者として,PNAS論文の共同第一著者であるB氏の記載もあるが,このことから直ちに控訴人が本件発明の発明者に該当するものと認めることもできない。
(イ)

次に,控訴人は,PNAS論文の共著者である被控訴人Y及び

A教授は,控訴人をPNAS論文の筆頭著者として認め,京都大学において博士号を授与できる根拠となる文書を作成し,論文公聴会で主査として博士論文を審査し,研究科会議における採決により,京都大学が控訴人に博士号を授与していることからすれば,被控訴人Yが,控訴人が本件発明の発明者であることを否定し,これと相
反する主張をすることは信義則に違反する旨主張する。
しかしながら,
前記(ア)で説示したのと同様の理由により,
控訴人
が挙げる事情から直ちに本件発明の発明者に該当するものと認め
ることはできないし,また,かかる事情から被控訴人Yが控訴人が本件発明の発明者であることを認めていたものということもでき
ないから,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ)

したがって,控訴人の③の主張は理由がない。

まとめ
以上によれば,控訴人は,A教授の指導,助言を受けながら,自らの研究として本件発明を具体化する個々の実験を現実に行ったものと認められるから,A教授の単なる補助者にとどまるものとはいえないが,一方で,上記実験の遂行に係る控訴人の関与は,本件発明の技術的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認めることはできないから,控訴人は,本件発明の発明者に該当するものと認めることはできない。
したがって,控訴人の前記主張は理由がない。


4
結論
以上のとおり,控訴人が,本件発明の発明者に該当するものと認められないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の特許権一部移転登録手続請求及び損害賠償請求はいずれも理由がない。
したがって,これらの請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

大鷹一郎
裁判官

小林
裁判官

高橋康彦彩
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