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豊洲市場違法建築物除却命令等義務付請求事件
事件番号平成30(行ウ)261
事件名豊洲市場違法建築物除却命令等義務付請求事件
裁判年月日令和2年9月17日
裁判所名東京地方裁判所
判示事項建築基準法18条25項に基づき特定行政庁が建築物又はその敷地を管理する国の機関の長等に対して行う通知及び要請は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるか
裁判要旨建築基準法18条25項に基づき特定行政庁が建築物又はその敷地を管理する国の機関の長等に対して行う通知は,当該建築物が建築基準法令の規定に違反する旨を知らせる事実行為にすぎず,また,同項に基づき特定行政庁が上記の長等に対して行う要請も,任意の是正措置を促す行為にとどまるものであるから,いずれも,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。
裁判日:西暦2020-09-17
情報公開日2021-03-23 16:00:48
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令和2年9月17日判決言渡
平成30年(行ウ)第261号豊洲市場違法建築物除却命令等義務付請求事件主文12
本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。

第1

実及び理由
請求
東京都知事は,建築基準法18条25項に基づき,東京都知事に対し,別紙2物件目録記載の建築物が建築基準法令の規定に違反する旨を通知し,同建築物全部を直ちに使用停止とし,
相当の猶予期限を付けてこれを除却するよう要請せよ。

第2

事案の概要

1
原告らは,東京都中央卸売市場築地市場(以下築地市場という。
)におけ

る仲卸業務の許可を受けて市場内の店舗において水産仲卸業を営み,又はその会社の役員として業務に従事していた者であり,同市場の機能の移転に伴い開設された東京都中央卸売市場豊洲市場(以下豊洲市場という。
)内に建築された

別紙2物件目録記載の建築物(以下本件建築物という。
)において営業し,
又は勤務している者であるところ,建築基準法(以下法という。
)2条35
号の特定行政庁である東京都知事において,本件建築物を管理する東京都の長である東京都知事に対し,法18条25項に基づき,本件建築物が建築基準法令に違反し法9条1項に該当する旨の通知をすべきであり,また,本件建築物の
使用禁止及び除却の措置をとることを要請すべきであるのに,
これらの通知及び
要請がされていないとして,被告を相手に,その義務付けを求める事案である。2
関係法令の定め
本件に関する法の規定は別紙3-1記載のとおりであり,建築基準法施行令(以下施行令という。
)の規定は別紙3-2のとおりである。

3
前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)
(1)

本件建築物は,東京都が卸売市場法及び東京都中央卸売市場条例(昭和4
6年東京都条例第144号。以下本件市場条例という。
)に基づき開設す
る豊洲市場内に水産仲卸売場棟として建築され,
東京都が所有し管理する建築
物である。
本件建築物は,鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)の建築物であり,高さ22.655メートル(最高29.025メートル)
,延床面積23万16
87.73平方メートルの地上5階建て建物である(乙3)

東京都建築主事は,平成28年12月28日,法7条4項の規定による検査
の結果,本件建築物は建築基準法令の規定に適合しているとして,検査済証を交付した(乙5)

(2)

原告有限会社A,同有限会社B,同C株式会社は,いずれも,本件市場条
例に基づく仲卸業務の許可を受け,
築地市場内の店舗の使用指定を受けて水産
仲卸業を営んでいたものである。
原告Dは,
上記各社と同様に築地市場内において水産仲卸業を営んでいたE

株式会社の役員であり,原告Fは,同じく築地市場内において水産仲卸業を営んでいた有限会社Gの代表取締役である。
(3)

東京都は,築地市場の機能を,新たに設置する豊洲市場に移転することと
して,
東京都中央卸売市場条例の一部を改正する条例
(平成28年東京都条
例第53号,乙4参照)を制定した。同条例附則3条により,同条例の施行の際,現に改正前の本件市場条例に基づく築地市場水産物部の仲卸業者となっている者は,豊洲市場水産物部の仲卸業者とみなされる。
(4)

平成30年10月,築地市場は閉鎖されて豊洲市場が開場した。これに伴
い,原告らは,豊洲市場内の本件建築物において水産仲卸業を営み,又はその会社の役員として業務に従事している(甲12,弁論の全趣旨)

(5)

原告らは,平成30年6月29日,本件訴えを提起し,これを本案とする仮の義務付けを申し立てた(当庁平成30年(行ク)第276号)が,同年10月5日,義務付けを求める対象が行政処分に該当しないとの理由で申立て却下の決定を受け,同年11月7日,同決定に対する抗告につき棄却決定を受け(乙16)
,さらに,これに対する特別抗告及び許可抗告の申立てをしたものの,平成31年3月5日,最高裁判所第三小法廷により抗告棄却決定を受けた
(甲20~25,乙17)
。なお,同決定は,許可抗告に係る抗告理由につい
て,

所論の点に関する原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

としている。4
争点
(1)

本案前の争点


法18条25項に基づく通知及び要請は抗告訴訟の対象となるか(争点
(1))

(2)

重大な損害を生ずるおそれの有無(争点(2))
本案の争点
本件建築物は建築基準法令の規定に違反するか(争点(3))

5
当事者の主張
争点に関する当事者の主張の要旨は別紙4記載のとおりである。なお,同別紙で定義した略称は,本文においても用いる。

第3
当裁判所の判断

1
当裁判所は,原告らが義務付けを求めている法18条25項に基づく通知及び要請は抗告訴訟の対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当せず,
本件訴えはいずれも不適法なものであるから却下すべきものと判断する。その理由の詳細は,以下のとおりである。

2
争点(1)(法18条25項に基づく通知及び要請は抗告訴訟の対象となるか)
について
(1)

行訴法3条6項に規定する義務付けの訴えは,同条2項に規定する処分又は同条3項に規定する
裁決
を対象とする抗告訴訟であり,
ここでいう
処分又は裁決とは,
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為
,す
なわち,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為であって,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。
(2)

そこで,原告らが義務付けを求めている法18条25項に基づく通知及び
要請が,上記の行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当するかを検討する。
法は,建築基準法令の規定に違反した建築物について,特定行政庁が,当該建築物の建築主等に対し,相当の猶予期限を付して,当該建築物の除却や使用禁止などその違反を是正するために必要な措置をとることを命ずること(是正命令)ができる旨を定める(9条1項)とともに,当該措置を命ぜられた者がこれを履行しない場合等には,行政代執行法の定めるところに従ってそのなす
べき行為をすることができる(同条12項)ほか,是正命令に違反した者には罰則(3年以下の懲役又は300万円以下の罰金)を課す旨を定めている(98条1項1号)

一方,国又は都道府県等が所有し又は管理する建築物に関しては,法は,9条1項の適用を排除し(18条1項)
,特定行政庁において,当該建築物が建

築基準法令の規定に違反し9条1項に該当すると認めても,
当該建築物につい
て是正命令をすることはできないものとした上で,その該当の旨を当該建築物又はその敷地を管理する国の機関の長等に通知し,
同項に掲げる必要な措置を
とるべきことを要請しなければならないとするにとどめている(18条25項)
。このように法が定めているのは,国や都道府県等のように自ら建築行政
の主体たる地位を有する者を建築基準法令違反を理由とする命令や勧告の対象とすることは相当ではなく,むしろこれらの者については,自ら当該建築物の法9条1項該当性を判断し,これに該当すると判断した場合には,その違反を是正するための措置をとるべきか否か,
またこれをとるとした場合の具体的
な措置の内容等を決定すべき立場に置かれていることに鑑み,特定行政庁から当該建築物又はその敷地を管理する国の機関の長等に対して当該建築物が法9条1項に該当する旨を通知し,是正措置をとるべきことを要請することをもって足りるとしたものと解される。なお,これらのことは,特定行政庁が建築主等に対し是正命令をする場合について,命令対象者に意見を述べる機会を与えることを要するものとされ,その意見聴取の結果に基づいて是正命令が不当でないと認める場合に是正命令をすることができるものとされている(法9条
2項から9項まで)のに対し,特定行政庁が法18条25項に基づく通知及び要請をする場合についてはこのような手続が置かれていないことからも,裏付けられているものといえる。
以上のような法の規定及び趣旨によれば,
国又は都道府県等が所有し又は管
理する建築物について,
特定行政庁が法18条25項に基づき当該建築物又は

その敷地を管理する国の機関の長等に対して行う通知は,当該建築物が建築基準法令の規定に違反する旨を知らせる事実行為にすぎず,また,法9条1項に掲げる是正措置をとるべきことの要請についても,任意の是正措置を促す行為にとどまるものであって,国又は都道府県等(あるいは,当該建築物又はその敷地を管理する国の機関の長等)
に対し是正措置をとることを義務付

ける法的効果を有するものとは認められない。そうすると,これらの通知又は要請を契機として是正措置がとられた場合にその影響を受けることになる者との関係でも,法18条25項に基づき特定行政庁が行う通知又は要請による法的効果としてその権利義務に関する直接的な影響が及ぶものということはできない。

したがって,法18条25項に基づき特定行政庁が行う通知及び要請は,いずれも,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものには当たらないから,抗告訴訟の対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当しないというべきである。
(3)

原告らの主張について
原告らは,国又は都道府県等(あるいは,当該建築物又はその敷地を管理する国の機関の長等)は,その所有し又は管理する建築物につき特定行政庁から違法建築物である旨の通知を受け,
法9条1項に掲げる必要な措置をと
るべきことを要請されたならば,
速やかに要請された措置をとることが当然
に期待される立場にあり,当該要請に従う法的義務を有する旨を主張する。しかしながら,上記(2)に説示したとおり,国又は都道府県等は,自ら建
築行政の主体として当該建築物に係る建築基準法令適合性や是正の要否等について判断すべき立場にあるところ,当該建築物が建築基準法令の規定に違反すると判断した場合に必要な是正措置を行うべき義務を一般的な法令遵守義務として負うからといって,
その判断が特定行政庁の通知又は要請に
係るものと同じでなければならないとする合理的根拠はなく,要請されたと
おりの措置をとることが当然に期待されるものとはいえない。むしろ,法が建築行政の主体である国又は都道府県等の判断を尊重するべく特定行政庁からの通知及び要請を規定するにとどめていることに照らせば,国又は都道府県等(あるいは,当該建築物又はその敷地を管理する国の機関の長等)において法18条25項に基づく特定行政庁の通知又は要請に従った是正措
置をとる法的義務を有するものと解することは,
困難であるといわざるを得
ない。

また,原告らは,最高裁平成17年判決を援用し,同判決に示された考え方によれば,
法18条25項に基づく通知及び要請についても抗告訴訟の対

象となる行政処分に当たると解すべきである旨を主張する。

しかしながら,最高裁平成17年判決は,都道府県知事が医療法の規定に基づいて行う病院開設中止の勧告について,同法上は行政指導として定められているけれども,当該勧告を受けた者がこれに従わない場合には,相当程度の確実さをもって保険医療機関の指定が受けられず,
実際上病院の開設を
断念せざるを得ないことになるなど,
上記勧告が保険医療機関の指定に及ぼ

す効果及び病院経営における保険医療機関の指定の持つ意義を併せ考慮した結果,上記勧告が行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当するとしたものである。
これに対し,
本件で問題とされている法18条25項に基づく通知及び要
請については,上記(2)及び(3)アに説示したとおり,あくまでも当該建築物
が建築基準法令の規定に違反する旨を知らせる事実行為,あるいは,任意の是正措置を促す行為にとどまるものであって,これに従わなかったときに是正措置をとることを義務付ける法的効果を有するものではないのであるから,最高裁平成17年判決は,本件とは事案を異にするというべきである。ウ
第4

したがって,原告らの上記主張はいずれも採用することができない。
結論
以上によれば,争点(2)及び(3)について判断するまでもなく,本件訴えはいずれも不適法であるから,これらを却下することとして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第51部

裁判長裁判官

清水
知恵子

裁判官進藤壮一郎及び裁判官伊藤愉理子は,いずれも転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官


(別紙1省略)
(別紙2省略)

水知恵子
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