判例検索β > 平成28年(ワ)第12269号
損害賠償等請求事件
事件番号平成28(ワ)12269
事件名損害賠償等請求事件
裁判年月日令和3年1月29日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第19民事部
判示事項の要旨軽自動車の売買契約において,カタログの表示又は販売店の従業員の説明により重要事項である車両の燃費値について不実告知があったとして,消費者契約法4条1項による取消しが認められた事例
裁判日:西暦2021-01-29
情報公開日2021-03-18 12:01:07
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主1文
別紙2-1②被告欄記載の各被告は,それぞれ,当該各被告に対応する同別紙①原告欄記載の各原告から,同別紙④車両,⑤車台番号欄記載の各車両の引渡しを受けるのと引換えに,同各原告らに対し,同別紙⑫合計額欄記載の各金員及びこれに対する令和2年8月1日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
2
別紙2-2②被告欄記載の神奈川日産自動車株式会社及び日産プリンス神奈川販売株式会社は,それぞれ,当該各被告に対応する同別紙①原告欄記載の各原告(原告60,75番)から,同別紙④車両,⑤車台番号欄記載の各車両の引渡しを受けるのと引換えに,同各原告らに対し,同別紙⑭認容額欄記載の各金員及びこれに対する令和2年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
被告帯広日産自動車株式会社は,原告58番に対し,44万0882円及びこれに対する令和2年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4
原告3,5,8の1~8の5,9~11,13,14,16,22,38,39,41,42,47,61,62,71番の当該各原告に対応する別紙2-2②被告欄記載の各被告に対する請求をいずれも棄却する。
5
原告33,46,58,60,63,74,75,77番の当該各原告に対応する別紙2-1~2-3②被告欄記載の各被告に対するその余の請求をいず
れも棄却する。
6
原告らの被告三菱自動車工業株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
7
訴訟費用は,別紙2-5(訴訟費用負担一覧表)記載のとおりの負担とする。
8
この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由

第1章

当事者の求めた裁判
第1
1
請求の趣旨
被告三菱自動車工業株式会社(以下被告三菱自動車という。)は,別紙3-1①原告欄記載の各原告に対し,同別紙⑪合計請求額欄記載の金員及びこれに対する同別紙③売買契約日欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(以下本件請求1という。以下同様にし
て,原告らの各請求については第1請求の趣旨の各項番号を付して本件請求○などという。)。2
別紙3-1②被告欄記載の各被告は,それぞれ,当該被告に対応する同別紙①原告欄記載の各原告に対し,同別紙⑥購入代金欄記載の各金員及びこれに対する同別紙③’売買代金支払日欄記載の各日の翌日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え(本件請求2)。
3
被告三菱自動車は,別紙3-2①原告欄記載の各原告に対し,同別紙⑪合計請求額欄記載の各金員及びこれに対する同別紙③売買契約日欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(本件請求3)。

4
別紙3-2②被告欄記載の各被告は,それぞれ,当該被告に対応する同別紙①原告欄記載の各原告に対し,同別紙⑦支払済額欄記載の各金員及びこれに対する同別紙⑧取消日欄記載の各日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(本件請求4)。

5
被告三菱自動車は,別紙3-3①原告欄記載の原告に対し,同⑮残損害額(不法行為)欄記載の各金員及びこれに対する同別紙⑫車両売却日欄記載の各日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(本件請求5)。

6
別紙3-3②被告欄記載の被告は,それぞれ,当該被告に対応する同別紙①原告欄記載の原告に対し,同別紙⑱残損害額(不当利得)欄記載の各金員及びこれに対する同別紙⑫車両売却日欄記載の各日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(本件請求6)。
7
被告日産大阪販売株式会社は,原告22番に対し,16万8000円及びこれに対する平成30年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(本件請求7)。

8
訴訟費用は,被告らの負担とする。

9
第1項から第7項につき,仮執行宣言申立て

第2

請求の趣旨に対する答弁(被告ら共通)

1
2
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。

第2章
第1

事案の概要等
事案の概要
原告らは,平成25年~平成28年に,eKワゴン・eKスペース・eKカスタム・eKスペースカスタム・デイズ・デイズルークスの各車両(以下,eKワゴン・eKスペース・eKカスタム・eKスペースカスタムを併せてeKシリーズといい,デイズ・デイズルークスを併せてデイズシリーズという。)を,被告三菱自動車を除く被告ら(以下被告販売店らという。)から購入した。本件は,(1)

原告らが,①被告三菱自動車に対し,被告三菱自動車が,㋐
原告らに対してeKシリーズのカタログ等に国土交通省が定める測定条件と測定方法により算出される燃費消費率(燃費性能)(以下国交省の定める測定方法等による燃費性能という。)よりも優れた燃費性能を表示し,又は㋑日産自動車株式会社(以下日産自動車という。)をして,原告らに対してデイズシリーズのカタログ等に国交省の定める測定方法等による燃費性能よりも優れた燃費性能を表示させた上で,被告販売店らをして,原告らに
対して別紙3-1~3-3④車両欄記載の各車両(以下本件車両という。なお,特定の原告と対応させて本件車両の語を用いる場合には当該原告が購入した車両を指すものとする。)を販売させたなどと主張して,不法行為に基づき,損害賠償金(支払済額(ただし,本件車両を売却済みの原告らについては,本件車両の売却代金を控除した残額),補償額,弁護士費用の合計)及びこれに対する不法行為日(売買契約日)から支払済みまで,平成29年法律第44号による改正前の民法(以下民法という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(本件請求1,本件請求3,本件請求5)とともに,②被告販売店らに対し,本件車両に係る各売買契約を消費者契約法(断りのない限り,平成28年法律第61号による改正前のもの。以下同じ。)4条1項1号(不実告知)に基づいて取り消したなどと主張して,不当
利得返還請求権に基づき,㋐本件車両を現金で購入した原告らについては購入代金額及びこれに対する代金支払の翌日から,㋑購入代金につきクレジット契約を締結した原告らについては支払済額及びこれに対する契約取消日の翌日から,㋒本件車両を売却済みの原告らについては,購入代金から売却代金を控除した額及びこれに対する車両売却日の翌日から,それぞれ支払済みまで,民法
所定の年5分の割合による利息の支払を求め(㋐につき本件請求2,㋑につき本件請求4,㋒につき本件請求6),(2)

上記(1)に加え,原告22番が,被

告日産大阪販売株式会社(以下被告日産大阪販売という。)に対し,消費者契約法4条1項1号に基づく取消後,被告日産大阪販売が本件車両の引取りに応じなかったことが不法行為に該当すると主張して,不法行為に基づき,損害賠償金及びこれに対する車両の引取りを求めた日の後(平成30年7月27日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(本件請求7)事案である。
第2

前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)

1
当事者等
(1)

別紙2-1~2-3の各原告は,平成28年4月20日より前に,被告販売店らからeKシリーズ又はデイズシリーズを購入した者又はその相続人である。
(2)

被告三菱自動車は,自動車の製造及び販売を主な目的とする株式会社で
ある。被告販売店らは,自動車等の販売を主な目的とする事業者である。日産自動車は,自動車の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
被告販売店らのうち,別紙1-3被告目録の被告1~4番の各被告は(以下被告三菱系販売店らという。)は被告三菱自動車の系列販売店であり,同目録の被告9~12,17,19~22,30,33,34,36番の各被告(以下被告日産系販売店らという。)は日産自動車の系列販売店である。

(3)

被告関東三菱自動車販売株式会社は,平成31年4月1日,被告東日本
三菱自動車販売株式会社に商号変更した(本判決において同被告を表示するときは,商号変更の前後を問わず,被告東日本三菱自動車販売株式会社と表示する。)。
(4)

本件の原告は,88名であったが,うち1名については訴えの取下げに
より,うち61名については裁判上の和解により,いずれも訴訟が終局した。また,原告8番であった亡Jが平成30年11月10日に死亡したことにより,その妻である原告8の1番,その子である原告8の2~8の5番が訴訟を承継した。これにより,本件の原告は30名となった。
2
eKシリーズ又はデイズシリーズの製造・販売
被告三菱自動車は,平成25年6月以降,eKシリーズを製造し,被告三菱系販売店らを通じて消費者に販売している。
被告三菱自動車は,平成25年6月以降,日産自動車に対し,eKシリーズと基本仕様を同じくする車両を供給している。日産自動車は,同月以降,
それらの車両を,デイズ・デイズルークスという名称で,被告日産系販売店らを通じて消費者に販売している。
3
原告らのeKシリーズ又はデイズシリーズの購入等
(1)

別紙2-1の原告らについて


売買契約の締結
別紙2-1の各原告は,それぞれ,当該各原告に対応する同別紙③売買契約日欄記載の日,同別紙②被告欄記載の各被告から,同別紙
④車両,⑤車台番号欄記載の各車両(本件車両)を購入した。イ
購入代金及び支払済額
別紙2-1の各原告は,それぞれ,当該各原告に対応する同別紙②被告欄記載の各被告に対し,本件車両の購入に当たり,同別紙⑥購入代金欄記載の各金員について,同別紙⑦支払済額欄記載の各金員
を全額現金で支払った。
(2)

別紙2-2の各原告について


売買契約の締結
別紙2-2の各原告(原告8の1~8の5番については購入者は亡J)
は,それぞれ,当該各原告に対応する同別紙③売買契約日欄記載の各日,同別紙②被告欄記載の各被告から,同別紙④車両,⑤車台番号欄記載の各車両(本件車両)を購入した(乙⑩-1,⑭-3)。イ
購入代金及び支払済額
別紙2-2の各原告は,それぞれ,本件車両の購入に当たり,同別紙
⑥購入代金欄記載の各金員の支払債務を負った。なお,同別紙⑥購入代金欄記載の各金員には,当該車両の本体価格,付属品価格のほか,税金(自動車重量税,自動車取得税),自動車賠償責任保険料,車庫証明手続及び検査登録手続の手続代行費用,納車費用,クレジット手数料等が含まれている。

別紙2-2の各原告は,それぞれ,クレジット会社との間でクレジット契約を締結し,当該各原告に対応する同別紙②被告欄記載の各被告に対し,各原告の支払又はクレジット会社からの立替払いにより,別紙2-2⑦支払済額欄記載の各金員が支払われた(ただし,原告13番の支払済額には争いがある。)。

残価設定型クレジット契約の方法
クレジット契約のうち,残価設定型クレジット(日産ビッグバリューク
レジット)とは,あらかじめ数年先の車両の残価を設定し,その額を差し引いた分について,分割で支払をし,最終回支払時に新車買替え,車両の返却及び車両の買取りのいずれかを購入者が選択できるという内容のクレジット契約である(甲㉒-3)。
(3)

別紙2-3の原告58番について


売買契約の締結
別紙2-3の原告58番は,同別紙③売買契約日欄記載の日,被告帯広日産自動車株式会社(以下被告帯広日産という。)から,本件車両を購入した。


購入代金,支払済額及び本件車両の売却
別紙2-3の原告58番は,当該各原告に対応する同被告帯広日産に対し,本件車両の購入に当たり,同別紙⑥購入代金欄記載の金員について,同別紙⑦支払済額欄記載の金員の全額を支払った。別紙2-3の原告58番は,同別紙2-3⑩車両売却日欄記載の
日,同別紙⑪車両売却代金欄記載の金額で,本件車両を売却した。
(甲○-4)
(4)

消費者(消費者契約法2条1項)該当性
別紙2-1~2-3の各原告(ただし,原告8の1~8の5番についての
本件車両の購入者である亡Jを除く。)は,本件車両の売買契約において,消費者(消費者契約法2条1項)に該当する。
(5)

eKシリーズ又はデイズシリーズの燃費偽装等

カタログやウェブサイトにおける表示
被告三菱自動車は,遅くとも平成28年4月20日までに,eKシリーズについて,カタログやウェブサイトにおいて,国交省の定める測定方法等による燃費性能よりも優れた燃費性能を表示した。また,日産自動車は,遅くとも同日までに,デイズシリーズについて,カタログやウェブ
サイトにおいて,国交省の定める測定方法等による燃費性能よりも優れた燃費性能を表示した(甲②-1,④-1,⑥-2,⑪-1,⑭-1,⑮-1,⑲-1,㉒-1,㉖-1,㉗-1,㊹-1,㊻-1,㊽-1,㊿-1,○-1,○-1,○-1,○-1,○-1,○-1,○-1,○-70741,○-1,○-1・2,○-1,○-1,○-1,○-1,○-1,○79838588
-1,乙共7の1~7の12,丙共4の1~4の13,5の1~5の8)。

損害賠償金支払の公表(被告三菱自動車)
被告三菱自動車は,平成28年6月23日,同年4月21日までにeK
シリーズを使用していた者に対して1台当たり10万円(ただし,残価設
定型クレジットを利用した者については契約年数に1万円を乗じた額)を損害賠償金として支払う旨公表した(甲共1,弁論の全趣旨)。

補償金支払の公表(日産自動車)
日産自動車は,平成28年6月23日,デイズシリーズについて,上記イと同内容の金額を補償金として支払う旨公表した(甲共19の5,弁
論の全趣旨)。
(6)

取消しの意思表示
別紙3-1~3-3①原告欄記載の各原告は,それぞれ,当該各原告
に対応する同別紙⑧取消日欄記載の各日,同別紙②被告欄記載の各被告に対し,eKシリーズ又はデイズシリーズの売買契約を取り消すとの意思表示をした。
(7)

同時履行の抗弁権
被告三菱系販売店らは,当該各被告に対応する別紙3-1~3-2①原告欄記載の各原告が本件車両を引き渡すまで,原告らの上記(6)の取消しに係る不当利得相当額の支払を拒絶するとの権利主張をした。

被告日産系販売店らは,当該各被告に対応する別紙3-1~3-2①原告欄記載の各原告が本件車両を引き渡すまで,原告らの上記(6)の取消しに係る不当利得相当額の支払を拒絶するとの権利主張をした。
(8)

相殺の意思表示
被告三菱系販売店らは,令和2年7月31日の本件口頭弁論期日において,本件車両に係る使用利益の不当利得返還請求権(レンタカー代金を基
準とする別紙4の1又はリース料金を基準とする別紙4の2)をもって,各原告の本件車両の売買契約の取消しに係る不当利得返還請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。

被告日産系販売店らは,令和2年7月31日の本件口頭弁論期日において,本件車両に係る使用利益の不当利得返還請求権(レンタカー代金を基準とする別紙4の3又はリース料金を基準とする別紙4の4)をもって,各原告の本件車両の売買契約の取消しに係る不当利得返還請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。

ウ(ア)別紙3-3①原告欄記載の原告58番は,令和2年6月19日の本件口頭弁論期日において,被告帯広日産に対し,同別紙⑯確定利息金欄記載の各金員に係る不当利得返還請求権をもって,被告帯広日産の原告58番に対する同別紙⑬車両売却代金欄記載の各金員に係る不当利得返還請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。

(イ)また,別紙3-3①原告欄記載の原告58番は,同期日において,被告帯広日産に対し,同別紙⑥購入代金欄記載の各金員に係る不当利得返還請求権をもって,同各被告の同各原告に対する同別紙⑰代償金残金欄記載の各金員に係る不当利得返還請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。
第3
1
争点及びこれに対する当事者の主張
争点
(1)
(2)

被告三菱自動車に使用者責任が成立するか否か

(3)

(上記(1)及び(2)に係る)損害額

(4)

亡Jが消費者(消費者契約法2条1項)に当たるか否か

(5)

被告三菱自動車に故意不法行為が成立するか否か

消費者契約法4条1項1号に基づき本件車両に係る売買契約を取り消す
ことができるか否か
(6)

(上記(5)について)被告販売店らに対して返還を請求することができる

(7)

(上記(5)について)被告販売店らが使用利益の不当利得返還請求権を取
得するか否か

(8)
2
被告日産大阪販売に,原告22番に対する不法行為が成立するか否か
争点に対する当事者の主張
(1)

争点(1)(被告三菱自動車に故意不法行為が成立するか否か)について
(原告らの主張)

被告三菱自動車の原告らに対する加害行為
(ア)被告三菱系販売店らの関係
被告三菱自動車は,国交省の定める測定方法等による燃費性能よ
りも優れた虚偽の燃費性能が記載されたeKシリーズのカタログやウェブサイト等を作成した上で,別紙3-1~3-3③売買契約日欄記
載の日,同別紙②被告欄記載の被告三菱系販売店らをして,当該同別紙①原告欄記載の各原告に対し,これらを交付等させ,本件車両を販売させた。
(イ)被告日産系販売店らの関係
被告三菱自動車は,国交省の定める測定方法等による燃費性能よ
りも優れた虚偽の燃費性能が記載されたデイズシリーズのカタログやウェブサイト等を日産自動車に作成させた上で,別紙3-1~3-3③売買契約日欄記載の日,同別紙②被告欄記載の被告日産系販売店らをして,同別紙①原告欄記載の各原告に対し,これらを交付等させ,本件車両を販売させた。

故意
(ア)次のa~cの事実等に照らせば,被告三菱自動車は上記の加害行為について故意があった。
a
一般に,不特定多数の被用者の行為が,企業活動の一環として行われ,その行為が故意により行われた場合には,企業自身に故意があるとして直接民法709条による責任があると解すべきである。

b
本件においては,被告三菱自動車は,企業活動の一環として燃費偽装を行っており,その行為が故意により行われていた。

c
平成25年5月28日放送のテレビ番組ガイアの夜明けにおい
て,軽自動車ウォーズと題して各社の取組みが放送され,その中
で,eKシリーズ又はデイズシリーズの開発過程及び業界最高の燃費値が達成された旨が紹介された(甲共27の1・2)。

(イ)次のa,bの事実に照らせば,平成26年6月~平成28年6月に被告三菱自動車の代表取締役であったKは,平成26年6月時点で,被告三菱自動車において燃費偽装が行われていることを認識していた。また,同月以前は,Kを通じて,被告三菱自動車内において,燃費偽装についての情報が共有されていた。
a
被告三菱自動車内部において,平成16年,経営再建を目的とし
て,CFT(部門横断型のプロジェクトチーム)が編成され,K(当時は常務執行役員であった。)は,開発・生産プロセスの最適化
を担当した。CFTは,被告三菱自動車の社員約300名に対するインタビューを実施したが,同インタビューにおいて,実験パターンを減らしている,基準にダブルスタンダードがあるといったコ
メントがあった。
b
Kは,平成13年に発売された初代eKワゴンの開発責任者であ

る。また,被告三菱自動車においては,平成3年12月以降,法規に適合する方法で走行抵抗を測定せず,高速惰行法によって測定した走行抵抗を型式指定審査の際に使用することが常態化していた。


権利侵害
原告らは被告三菱自動車の燃費偽装を知らずにカタログ等に記載されていた燃費性能が正確なものであると誤信した上で本件車両を購入したのであるから,被告三菱自動車は,前記前提事実3(1)~(3)のとおり,別紙3-1~3-3の③売買契約日欄記載の各日において,各原告らに対
し,原告らの財産権を故意に侵害した。
(被告三菱自動車の主張)

加害行為の不特定等
原告らは,被告三菱自動車が本件車両を販売させたとする行為及
び日産自動車にカタログやウェブサイト等を作成させたとする行為
について,原告ごとに具体的な意味・内容を主張すべきであるところ,そのような主張を行っておらず,加害行為が十分に特定されていない。イ
加害行為についての反論
次の(ア)~(エ)の事実に照らせば,原告らがeKシリーズ又はデイズシリ
ーズのカタログやウェブサイト等に記載されていた燃費性能を決め手として本件車両の購入を決めたとはいえず,被告三菱自動車のカタログやウェブサイト等の作成及び提示は,原告らに対する加害行為を構成しない。(ア)一般に,新たに自動車を購入しようとする者が,車両の購入を決める前に,当該車両のカタログや製造元のウェブサイト等を見るとは限らない。
(イ)仮に,新たに自動車を購入しようとする者が当該車両のカタログや製造元のウェブサイト等を見ていたとしても,それだけでカタログやウェブサイト等に記載された燃費値を見ていたとは限らない。
また,仮に,カタログやウェブサイト等に記載された燃費値を見ていたとしても,次の①~③の各点からして,原告らがそこに記載された燃
費性能を理由に購入を決めたとはいえない。このことは,本件で証拠提出されたカタログについて,燃費値と無関係な車両の性能・特徴等を紹介するページが大半を占める一方,燃費値の記載は,その記載場所やカタログ全体に占める割合からして,その比重が必ずしも大きいものではなく,カタログによっては燃費値が記載されていないものさえ存在する
ことからも明らかである。


燃費をそもそも車両購入の際の考慮要素としない者が少なからず存在する。



燃費よりも他の考慮要素をより重視する者が少なからず存在する。追加費用の額は1年当たり5000円に満たず,旧届出燃費値が新届出燃費値を下回っていた事実は経済的にみて本件車両の購入に決定的な意味を有しない。実際,eKシリーズは新届出燃費値公表後も公表前と大差なく販売されており,新届出燃費値を分かった上でeKシリーズを購入する者は多数存在する。

(ウ)カタログやウェブサイト等に記載されていたeKシリーズ又はデイズシリーズの燃費性能は,あらかじめ定められた試験条件の下でのものであり,参考値にすぎず,カタログにも同旨の説明が記載されている。(エ)実際,eKシリーズは合計約15万7000台(平成28年4月21日登録までの台数)販売されたが,そのうち本件について被告三菱自動車に対して提訴に及んだのは原告らのみであり,大多数の車両購入者は,被告三菱自動車からの任意の賠償金(最大で10万円)以上の請求を行っていない。


故意についての反論
本件は,被告三菱自動車の一部門の従業員が,車両の走行抵抗測定という専門的・技術的事項において,法令と異なる方法をとったという事案であり,被告三菱自動車の代表取締役は,原告ら主張の加害行為を認識していなかった。また,本件は公害被害等が問題になっている事案ではなく,
組織体である被告三菱自動車に故意は認められない。したがって,被告三菱自動車に故意があったとはいえない。
(2)

争点(2)(被告三菱自動車に使用者責任が成立するか否か)について
(原告らの主張)

被告三菱自動車の被用者らによる故意による加害行為
被告三菱自動車の被用者らは,燃費偽装に関連して,次の(ア)~(エ)の故
意による加害行為に及んだ。
(ア)法定の走行抵抗測定方法である惰行法と異なる方法で走行抵抗測定が行われていたこと(不正行為A)
被告三菱自動車の性能実験部の担当者らは,平成3年12月頃以降,走行抵抗測定方法について,法定の走行抵抗測定方法である惰行法で測定せず,高速惰行法によって測定した走行抵抗を型式指定審査の際に使用することを常態化させており,この状態が約25年間にわたって続いていた。

(イ)法定の成績書(負荷設定記録)に虚偽の記載をしたこと(不正行為B)
被告三菱自動車の認証試験グループの担当者らは,型式指定審査の際に提出する成績書(負荷設定記録)に,法定の走行抵抗測定方法である惰行法によって走行抵抗を測定したかのような虚偽の情報を記載した。
(ウ)走行抵抗を恣意的に改ざんしたこと(不正行為C)

被告三菱自動車の認証試験グループの担当者らは,型式指定審査における排出ガス・燃費試験において不合格とならないようにするため,走行抵抗を故意に引き下げた。
(エ)机上計算で算出された数値のみを用いて走行抵抗としたこと(不正行為D)

被告三菱自動車の性能実験部の担当者らは,燃費目標を達成したことにするため,又はその他の理由により,走行抵抗を実走実験で測定せず,あるいは高速惰行法で測定した走行抵抗を使用することもせずに,単に机上計算で算出した数値を走行抵抗として使用した。

上記アの各加害行為は,いずれも,被告三菱自動車の事業の執行につい
て行われており,上記各加害行為により原告らに別紙3-1,3-2⑪合計請求額欄及び別紙3-3⑮残損害額(不法行為)欄記載の各損害額が発生した。
(被告三菱自動車の主張)
原告らの主張は否認し,又は争う。具体的な主張は,前記争点(1)の被告三菱自動車の主張欄のとおりである。
また,不正行為A,B及びDは,燃費値を良く算定する効果を持つものではなく,そもそも原告らに対する不法行為法上の違法行為とはいえない。そして,原告らの主張する不正行為A~Dの主体は,性能実験部又は認証
試験グループの担当者であるが,当該担当者が被告販売店に,原告らに本件車両を販売させたということはできない。また,この点以外にも,性能実験部又は認証試験グループの担当者が被告販売店に,原告らに本件車両を販売させたとの行為を自ら行ったことによる故意・過失は認められないし,当該行為による権利侵害もこれにより生ずる損害も認められないなど,不法行為の各要件が満たされない。したがって,被告三菱自動車の被用者である性能実験部又は認証試験グループの担当者の行為が不法行為の要件を備えているということはできない。
(3)

争点(3)(〔争点(1)及び(2)に係る〕損害額)について

(原告らの主張)
被告三菱自動車の加害行為によって原告らが被った損害は,次のア~ウのとおりでありこれらを合計した金額が別紙3-1,3-2⑪合計請求額欄及び別紙3-3⑮残損害額(不法行為)欄記載のとおりである。ア
本件車両を購入するために支払った代金(車両購入代金等)(別紙3-1~3-3⑦支払済額)
原告らは,eKシリーズ又はデイズシリーズのカタログ等に国交省の定める測定方法等による燃費性能よりも優れた燃費性能が表示されてい
ることを知っていたならば,本件車両を購入することはなかった。このことに照らせば,別紙3-1~3⑦支払済額欄記載の金額は,被告三菱自動車の加害行為によって被った損害額である。

燃料代金差額,自動車関連諸税の追加負担額(別紙3-1~3-3⑨補償額)原告らは,被告三菱自動車の加害行為によって,燃料代金差額,自動車関連諸税の追加負担額の損害を被った。被告三菱自動車及び日産自動車は,上記損害について,車両1台当たり10万円の損害賠償金(ただし,残価設定型クレジットを利用した者については契約年数に1万円を
乗じた額の損害賠償金)を支払うこととしており(前記前提事実(5)イ及びウ),上記損害を金銭評価すると,車両1台当たり10万円の損害賠償金(ただし,残価設定型クレジットを利用した者については契約年数に1万円を乗じた額の損害賠償金)とすべきである。

弁護士費用(別紙3-1~3-3⑩弁護士費用)
原告らが請求することができる弁護士費用は,別紙3-1~3-3⑩弁護士費用欄記載の金額が相当である。エ
不法行為目的論を踏まえた損害論の主張
(ア)不法行為制度の目的論
不法行為制度の目的は,伝統的には損害の公平な分担と考えられ
てきたが,近年,このような制度目的を再考又は再編すべきとし,不法
行為の制度目的を個人の権利の保護又は権利の法実現と捉える
学説が有力に主張されている。不法行為制度の目的をこのように理解すると,不法行為の機能は,損害の塡補だけではなく,加害行為の抑止的機能及び制裁的機能がより重視されることになる。不法行為制度の目的として,損害の塡補とともに,将来の違法行為の抑止を掲げる見解は増
加しつつある。
(イ)被告三菱自動車による加害行為とこれに対する制裁及び将来的な抑止の必要性
被告三菱自動車が燃費偽装を行い販売した車両は,62万5000台にものぼり,社会的にも大きな影響を与えた。今後,同様の消費者被害
を防ぐことの必要性は高く,また,利益を追求して本件燃費偽装を行った巨大自動車メーカーに対する制裁の必要が高いことはいうまでもない。
また,被告三菱自動車は,過去に複数回にわたりリコール隠しを行ってきたにもかかわらず,今回,多くの被害者を出すような燃費偽装を行
ったものであり,その悪質性は高い。
さらに,本件車両の使用利益について,損益相殺を認めれば,被告三菱自動車としては責任を認めずに訴訟を長期化させることによって,賠償額を低くすることができることになるところ,これは不法行為の制裁的機能を没却させる行為である。また,本件燃費偽装のように,利益を追求するために不正を行っても,解決を遅らせることによって賠償額を低く抑えることができる(すなわち,不正に得た利益を吐き出さなくて
すむ)ことになれば,不正を抑止することができず,不法行為の抑止的機能も没却されるといえる。
以上のことに照らせば,本件車両に係る原告らの使用利益について損益相殺を認めることは,不法行為制度の制裁的機能や抑止的機能という不法行為制度の制度目的を没却させるものであり,裁判手続を含めた司
法制度の機能を失わせることになり,許されるべきではない。
(被告三菱自動車の主張)

原告ら主張の加害行為と相当因果関係のある損害
原告ら主張の加害行為は『国交省の定める測定方法等による燃費性能』よりも優れた虚偽の燃費性能が記載されたカタログを作成し,被告販売店らに本件車両を販売させたこと等であるところ,当該加害行為により原告らが受け得る不利益は当該車両の国交省の定める測定方法等による燃費性能がカタログの記載よりも低かったというものにとどまる。本件車両は,その安全性や走行性能には何ら問題はなく,原告ら
はそれ以外の全ての部分についてカタログに記載したとおりの性能の車両を取得しているのであるから,被告三菱自動車が国交省の定める測定方法等による燃費性能よりも優れた数値をカタログやウェブサイトで表示したことにより生じ得る原告らの損害は,カタログやウェブサイト等に記載された燃費値と国交省の定める測定方法等による燃費性能との差から生ずる燃料代金差額,自動車関係諸税の追加負担額のみ(すなわち,カタログに記載された燃費値と正しい燃費値〔新届出燃費値〕との差により生じた追加負担額のみ)であって,当該車両購入代金相当額ではない。
また,原告らはいずれにせよ車両を購入する必要性があったものであるから,他の同等の車両を購入するのが通常といえる。したがって,仮に,カタログに新届出燃費値が記載されていた場合は原告らが本件車両
を購入しなかったとしても,当該車両の購入代金相当額を支出して他の車両を取得したと考えられるのであるから,当該車両購入代金相当額は,原告らの損害と認められない。

加害行為と車両購入代金相当額の損害との間の事実的因果関係もないこと
前記争点(1)の被告三菱自動車の主張欄イ(ア)~(エ)の事実に照らせば,原告らがeKシリーズ又はデイズシリーズのカタログやウェブサイト等に記載されていた燃費性能を決め手として本件車両の購入を決めたことが立証されているとはいえず,仮に,カタログに新届出燃費値が記載されていたとしても,原告らが本件車両を購入しなかったとはいえない。


本件車両の購入代金について(損益相殺又は損益相殺的調整)

(ア)仮に,原告らに本件車両購入代金相当額の損害額の発生が認められるとしても,次のa~cのとおり,次のそれぞれの金額が損害額から差し引かれるべきである(損益相殺又は損益相殺的調整)。その結果,原告らの請求は全て認められない。
a
本件車両の時価相当額
原告らは現に本件車両を保有しており,当該車両に係る売買契約締
結時における,当該車両の時価相当額すなわち車両購入代金相当額は,損害額から差し引かれるべきである。
b
本件車両の使用利益相当額
原告らは本件車両の引渡しを受けてから当該車両の使用利益を得ており,使用利益相当額は損害額から差し引かれるべきであり,この使用利益相当額は,レンタカー代金等に基づき算出されるべきである。c
車両本体価格及び付属品価格以外の費目に要した費用
原告らは,車両本体価格及び付属品価格以外の費用(自動車重量

税,自動車取得税,自動車賠償責任保険料,車庫証明手続や検査登録
手続の手続代行費用,納車費用,下取車査定料,リサイクル預託金,リサイクル資金管理料金,希望ナンバーの指定料,預り法定費用,ロードサービス関連費用,収入印紙代,つくつく保証〔メーカー保
証を2年間延長するプログラム〕,自家用自動車協会の会費,クレジット手数料,消費税・地方消費税等を支出することで,各費用項目に
対応する便益を得ているか,又は原告らに損害がないため,これらの費用は損害額から差し引かれるべきである。
(イ)仮に,原告らの被告三菱自動車に対する不法行為に基づく損害賠償請求が認められ,かつ,原告らの被告三菱販売店らに対する本件車両の売買契約の取消しが認められる場合において,少なくとも原告らが被告
三菱販売店らから既払車両購入代金の返還を受けた場合には,返還の範囲で損害の補てんを受けたこととなり,損害が認められない。そして,被告三菱系販売店らは,原告らの本件車両の売買契約取消しを前提とする不当利得返還請求について,本件車両の使用利益相当額の不当利得返還請求権を自働債権として相殺の意思表示をしているため,この相殺が
認められる場合には,相殺の範囲で損害の補てんがあったこととなる。エ
燃料代金差額,自動車関係諸税の追加負担額
(ア)原告らは燃料代金差額,自動車関係諸税の追加負担額の損害の発生及びその額を個別具体的に立証すべきところ,そのような立証がされてい
ない。なお,被告三菱自動車は,eKワゴン・eKカスタム・

eKスペース(カスタム類別を含む。)

を使用していた者に対して1台当たり10万円の損害賠償金(ただし,残価設定型クレジットを利用した者については契約年数に1万円を乗じた額の損害賠償金)を支払うこととしているが,これは,被告三菱自動車の任意の支払を受領して本件の解決を図る意思のある車両購入者に対して一律の支払をすることとしたものであって,本件訴訟において,燃料代金差額,自動車関係諸
税の追加負担額の損害額が10万円であることを認めたわけではない。また,追加負担額は,年間5000円に満たない。
(イ)また,仮に,原告らに本件車両の購入費用分の損害が発生しているとすれば,当該車両購入による原告らの損害は完全に塡補されるのであるから,燃料代金差額,自動車関係諸税の追加負担額の損害額が発生する
ことはない。

不法行為目的論を踏まえた損害論の主張
(ア)不法行為制度の目的
不法行為制度の目的は,被害者に生じた現実の損害を塡補することに
より,被害者を不法行為がなかった状態に回復させることにあり,加害者に対する制裁や違法抑止は,被害者に生じた現実の損害が塡補されることによる反射的な効果にすぎない。加害者に対する制裁や違法抑止は,刑事上又は行政上の法令によって達成されるべきものである。不法行為の目的として,損害の塡補のみならず,制裁や違法抑止の目
的も重視すべきであるという立場もある。しかし,通説は,不法行為の目的は損害の塡補であり,制裁や抑止の作用は損害の塡補に伴う事実上の機能にすぎないとしており,上記の立場は少数説にとどまる。また,不法行為の目的として,制裁や違法抑止の目的を含むとする学説も,不法行為の主目的が損害の塡補にあることを否定するものではなく,制裁
や違法抑止といった目的を二次的な目的と位置付けている。
このように,学説上も,不法行為の目的は損害の塡補にあるとされており,制裁や違法抑止が不法行為制度の目的であることを前提とし,加害者に懲罰的に実損を超える損害賠償を課すことや,被害者に被った損害以上の利益を移転させる立場は,支持を得ていない。
(イ)不法行為の目的に照らし,使用利益が損害から控除されるべきこと不法行為の目的に照らせば,被害者が不法行為により利益を得た場合は,損益相殺又は損益相殺的調整として,その利益の額を損失から控除すべきである。
その上で,本件車両は,安全性や走行性能に何ら問題はなく,追加費用負担が発生する以外は,原告らが本件車両を購入した際に期待した性
能(安全性,走行性能,外観,内装等)を全て備えていたのであって,安全性等に重大な瑕疵があるとか,社会経済的な価値を有さないといったものではない。原告らは,追加費用負担という経済的な点を除き,何ら支障なく当初想定した態様で本件車両を使用することができた。したがって,原告らは,本件車両を使用することにより使用利益を得たとい
える。
(ウ)制裁や違法抑止の観点等を考慮したとしても,使用利益が損害から控除されるべきこと
仮に,加害者に対する制裁や違法抑止等の観点から,損害から適正に算定された使用利益を控除することを否定又は制限することができると
いう立場に立ったとしても,①本件車両が,追加の燃費代等が生ずることを除き,何ら問題なく使用することが可能な車両であること,追加の燃費代等も僅かな額にとどまること,②原告らが正しい燃費値を知っていれば,本件車両を購入しなかったとはいえないこと,③被告三菱自動車は任意の賠償金の支払をしており,被害回復がされていないとはいえ
ないこと,④本件が,被告三菱自動車の経営陣の関与・主導の下で行われたものではないこと,⑤被告三菱自動車が既に法律上及び事実上の制裁を受けたこと,⑥被告三菱自動車が本件を受けて真しに再発防止策を実施していること,⑦被告三菱自動車が,過去のリコール隠しの問題について反省し,再発防止策を実施してきたこと等に照らせば,本件訴訟を通じて被告三菱自動車に対する制裁や違法抑止を実現すべきであるとはいえない。

(4)

争点(4)(亡Jが消費者(消費者契約法2条1項)に当たるか否か)
について
(原告らの主張)
亡Jは,自宅住所においてカイロプラクティック施術所を経営する個人事業主である。しかし,亡Jは,別紙3-2の8の1~8の5番の④車両欄記載の車両であるeKワゴンについて,原告8の1番が家事に使用するために購入したのであって,当該車両に係る売買契約において,消費者に該当する。
(被告三菱系販売店らの主張)
原告8の1番はL株式会社の代理店として,同社から自動車の貸与を受
け,車両を用いて訪問販売事業を営んでいたが,貸与期間満了に伴い,本件車両を購入したものである。すなわち,亡Jは,本件車両を,原告8の1番が事業として行う訪問販売に使用する目的で購入したのであるから,消費者に該当しない。(5)

争点(5)(消費者契約法4条1項1号に基づき本件車両に係る売買契約を
取り消すことができるか否か)について
(原告らの主張)

勧誘をするに際し,不実告知,因果関係,意思表示
被告販売店らは,原告らとの間で本件車両の売買契約の締結について勧
誘をするに際し,原告らに対し,車両の燃費性能について,国交省の定める測定方法等による燃費性能よりも優れた虚偽の燃費性能が記載されたカタログを原告らに交付・提示し,又は虚偽の燃費性能を口頭で述べるなどした。これにより,原告らは,被告販売店らから伝えられた燃費性能が事実であると誤信し,本件車両を購入した。

重要事項,通常影響を及ぼす
次の(ア)~(オ)の事実に照らせば,燃費性能は,軽自動車を購入する際の
重要な要素であり,軽自動車の売買契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすものといえる。
(ア)各種調査において,多くの人が,燃費の良さを車選びの際の考慮要素としているという結果が存在する。
(イ)一般社団法人自動車公正取引協議会が定める自主規制のルールにお
いて,虚偽又は誇大な燃費性能を表示することが禁止されている。(ウ)被告三菱自動車が,燃費性能において競合他社の商品に勝るために,燃費性能を偽装した。
(エ)被告三菱自動車と日産自動車は,eKシリーズとデイズシリーズのカタログにおいて,eKシリーズとデイズシリーズの燃費性能の良さ
(低燃費であること)を強調していた。
(オ)テレビ番組ガイアの夜明けにおいて,eKシリーズとデイズシリーズの燃費性能についての紹介がされた。

被告販売店らの主張に対する反論
(ア)不実告知の特定について
被告販売店らは,原告らに提示されたカタログを特定する必要がある旨主張する。しかし,原告らが提示されたカタログにはいずれも国交省の定める測定方法等による燃費性能よりも優れた虚偽の燃費性能が記載されていたのであるから,カタログの特定は不要である。

(イ)原告らがカタログを見たこと
被告販売店らは,原告らが本件車両の購入を決定する前に当該車両のカタログを見たかどうかが明らかでない旨主張する。しかし,一般の消費者が高額かつ長期にわたり使用することになる自動車の購入を決める前に当該車両のカタログを被告販売店らから提示されていないとするのは不自然である。
(ウ)重要事項該当性

被告販売店らは,①当該消費者契約を維持しつつ損害賠償請求をすれば契約の目的を達成することができるような事項は重要事項には該当しない,②新届出燃費値が公表された後もeKシリーズ又はデイズシリーズが公表前と大差なく販売されていることから,燃費性能の差は重要事項に該当しない旨主張する。しかし,上記①の主張は,被告
販売店ら独自の見解にすぎない。また,上記②の主張は,燃費偽装発覚後に法令で定められた方式で算定された燃費値に基づいて勧誘された者と燃費値を誤認した状態でeKシリーズ又はデイズシリーズを購入した原告らとではその立場が異なることに照らせば,理由がない。
(エ)因果関係

被告販売店らは,原告らが本件車両を購入するに当たり,燃費性能が決め手になったとは限らない旨主張する。しかし,被告販売店らの主張は,抽象的な可能性を指摘するものにすぎず,原告らがあえて訴訟を提起した経緯を無視するものである。
(被告三菱系販売店らの主張)

勧誘をするに際し,不実告知の特定について
原告らは,車両の燃費性能という重要事項について,『国交省の定める測定方法等による燃費性能』よりも優れた虚偽の燃費性能が記載されたカタログを原告らに交付・提示し,又は虚偽の燃費性能を口頭で述べるなどしたことが,被告三菱系販売店らが消費者契約の締結について勧誘をするに際し,重要事項について事実と異なることを告げる行為に当たるとする。しかし,原告らの主張では,個々の原告らが実際に提示又は交付されたカタログの種類が十分に特定されておらず,口頭説明の具体的内容も明らかではない。また,個々の原告らが実際にカタログの交付・提示又は燃費性能についての口頭説明を受けたことが立証されていない(単に,カタログの交付を受けた旨の原告ら実施のアンケートに対する回答のみでは,立証として不十分である。)。

重要事項該当性について
(ア)重要事項とは,物品等の消費者契約の目的となるものの質,用途,その他の内容に関するものであって,当該消費者契約を締結する
か否かの消費者の判断に影響を及ぼすものをいい,当該消費者契約を維持しつつ損害賠償請求をすれば契約の目的を達成することができるような事項は重要事項には該当しないというべきである。
(イ)そして,次のa~cの事実に照らせば,本件車両の燃費性能は,重要事項には該当しない。

a
本件車両であるeKシリーズは,その安全性や走行性能には何ら
問題はなく,少なくとも本件のように1年間で5000円に満たない負担増が生ずるにすぎない事案においては,燃費性能は結局費用の問題でしかないから,燃料費と自動車関連諸税の追加負担額の塡補を受ければ,経済的にみれば,原告らが国交省の定める測定方法等による燃費性能を前提として本件車両を購入した場合と変わ
りがなく,契約の目的を達成することができるといえる。
b
eKシリーズは,新届出燃費値が公表された平成28年6月21
日以降も新届出燃費値が公表される前と大差なく販売されている。
c
一般に,届出燃費値は一応の参考値にすぎず,車両購入時に考慮
される要素としての重みは大きくない。

(ウ)車両を購入する際の考慮要素は燃費以外にも多岐にわたり,どの事情をどの程度考慮するかは人により千差万別であって,中には,車両を購入する際にそもそも燃費を考慮要素としない者,考慮しても他の考慮要素をより重視する者が少なからず存在する。原告らの挙げる調査結果をもって,本件において燃費性能が重要事項に該当すると
いうことはできない。

(エ)景品表示法は,行政処分等により公正かつ自由な競争を促進することを直接の目的としており,それにより保護される一般消費者
(同法1条等)の利益は反射的ないし事実上のものにとどまる。他方,消費者契約法は,個々の具体的な消費者の私法上の権利関係を規律するものであり,両者は趣旨を異にしている。したがって,景品表
示法に基づく処分がされたことや,景品表示法に基づく自主規制ルールに燃費の虚偽記載の禁止が記載されているからといって消費者契約法上も重要事項性が認められるというものではない。

因果関係について
次の(ア)~(ウ)の事実に照らせば,原告らがカタログに記載されていた燃費性能を決め手として本件車両の購入を決めたことが立証されているとはいえず,被告三菱系販売店らの不実告知行為によって原告らが当該車両についての売買契約を締結したとはいえない。
(ア)一般に,新たに自動車を購入しようとする者のなかには,商品のカ
タログの内容を見る以前に車両の購入を決定していることがある。(イ)一般に,新たに自動車を購入しようとする者が商品カタログを見た場合であっても,そこに記載された燃費性能を確認したとは限らない。(ウ)仮に,原告らが,車両の購入を決定する過程で,カタログに記載された燃費性能を見たり,口頭での説明を受けたりしたとしても,当該燃費
性能が購入の決め手になった(すなわち,仮に,カタログ等に記載されるべき燃費性能が記載されていた場合,原告らが別紙3-1~3-3④車両欄記載の車両を購入しなかった)とは限らない(本件アンケートの内容に照らしても,当該燃費性能が購入の決め手になったとはいえない。)。
(被告日産系販売店らの主張)

具体的な主張の欠如について
原告らの主張は,消費者契約法4条1項1号の各要件に該当する具体的事実について,具体的な主張を欠いている。


不実告知に関する主張の変遷について
原告らは,当初不実告知に関して,実際の燃費性能よりも優れた虚偽の燃費性能が記載されたカタログを原告らに交付・提示したことをそ
の内容として主張していたが,その後国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出される燃費性能よりも優れた虚偽の燃費性能がカタログ等に記載されたことであると主張を変遷させた。このような原告らの主張の変遷は,消費者契約法に基づく取消しの要件に関する基本的な主張自体に疑義を生じさせる事情である。


勧誘をするに際し,不実告知の特定について
(ア)契約の締結について勧誘をするに際し,不実告知が行われたというためには,個別の消費者の意思形成に直接影響を与えるような働きかけが認められることが必要である。原告らが,カタログの交付・提示に
より,売買契約の締結について勧誘をするに際し不実告知が行われたと主張するのであれば,実際に提示・交付されたカタログを特定し,その記載内容を斟酌する必要がある。
したがって,カタログに虚偽の届出燃費値が記載されていること
のみでは個別の消費者の意思形成に直接影響を与えるような働きかけがされたとはいえず,カタログの交付・提示をもって一律に契約の締結について勧誘をするに際し不実告知が行われたということはできないというべきである(最高裁平成28年(受)第1050号同29年1月24日第三小法廷判決・集71巻1号1頁参照)。
また,口頭説明により,売買契約の締結について勧誘をするに際し不実告知が行われたと主張するのであれば,当該説明が個別の消費者の意思形成に直接影響を与えるような働きかけがあったといえるかを判断するに足りる個別具体的な事実を主張する必要がある。
しかし,原告らの主張では,個々の原告らが実際に提示・交付されたカタログの種類が十分に特定されておらず,口頭説明の具体的内容も明らかではない。また,原告らのうち,自ら交付を受けたとするカタログ
を証拠として提出した者は一部の原告のみであって,少なくともこれを証拠として提出していない原告らについては,カタログの交付を受けたという事実の立証がない(単に,カタログの交付を受けた旨の原告ら実施のアンケートに対する回答のみでは,立証として不十分である。)。(イ)そもそも,一般に,自動車の販売においては,カタログだけでな
く,車両を実見し,販売担当者との種々の商談・折衝を経て購入に至るという特徴があることに照らせば,勧誘をするに際し不実告知が行われたというためには,カタログの交付を受けた事実に加え,交付を受けたとするカタログの具体的な内容,原告らが売買契約を締結するまでの間にされた販売担当者による口頭説明の内容,当該説明が行われた際
の具体的な状況を考慮した上で,これらが相まって形成された表示の内容を検討する必要があるというべきである。
そして,①本件車両のカタログ上の記載をもって,燃費値に関し,個別の消費者の意思形成に直接影響を与えるような働きかけがされたとはいえないこと,②販売担当者によっては,顧客に対する説明の際,顧客
から質問を受けない限り,カタログに記載された燃費値について口頭説明しない方針をとっていたこと,③販売担当者が顧客に対し,燃費値について説明した場合であっても,カタログ値が国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出されたものである旨を説明することはなかったことなどに照らせば,売買契約の取消しを基礎付けるような不実告知は行われていないといえる。
(ウ)被告日産系販売店らが当時一般に使用していたデイズシリーズのカタログの記載内容に照らしても,燃費値に関し個別の消費者の意思形成に直接影響を与えるような働きかけがされていたとは認められない。原告らは,単にいずれのカタログにおいても燃費値が記載されていることを理由に,低燃費であることを重要な訴求要素としている旨主張する。し
かし,上記のいずれのカタログにおいても,低燃費を訴求要素として強調しているということはできず,消費者の意思形成に直接影響を与えるような働きかけがされているとはいえない。
(エ)そもそも,燃費値の記載は乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等(平成25年3月1日経済産業省・国土交通省告示第2号)に沿ったものであり,カタログにおいて燃費値に係る記載が存在し,かつ,それが目立つ方法で記載されていたとしても,これらの記載をもって,低燃費を訴求要素として強調していることにはならない。
(オ)また,不実告知の特定として,原告らは,各原告が購入した車両に
ついて,少なくともグレード及び駆動方式をもって車種を特定し,それについて被告日産系販売店らから告げられた燃費値及び実際の燃費値を具体的に主張しなければならないが,そのような主張はされていない。(カ)国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出される燃費性能よりも優れた虚偽の燃費性能が記載されたカタログを原告らに交付・提示したことが不実告知であるという原告らの主張を前提にしても,デイズシリーズのカタログにおいて,国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出される燃費性能であることが訴求されているとはいえず,消費者の意思形成に直接影響を与えるような働きかけがされているともいえない。

重要事項該当性について
(ア)重要事項とは,物品等の消費者契約の目的となるものの質,量,用途その他の内容に関するものであって,消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。(イ)一般に,当該消費者契約を維持しつつ損害賠償請求をすれば契約の
目的を達成することができるような事項は重要事項には該当しな
い。本件において,自動車の安全性や走行性能には何ら問題はなく,燃料費と自動車関連諸税の追加負担分額の補てんを受ければ,経済的にみれば,原告らが実際の燃費性能を前提として車両を購入した場合と変わりがなく,契約の目的を達成することができるといえるから,
本件車両の燃費値の差異は,重要事項には該当しない。
(ウ)本件で,告知の内容が重要事項に該当するか否かは,旧届出燃費値と新届出燃費値の差異を具体的に検討した上で,上記の判断に通常影響を及ぼすべきものであるか否かによって個別に判断されるべきである。なぜなら,その差異が限定的であれば限定的損失の程度も僅
かであり,また,カタログ上の燃費値は1つの目安であって実走行燃費と一致するものではなく,その差異により経済的損失が当然に生ずるものではないことに照らせば,それが直ちに上記の判断に通常影響を及ぼすべきものとはいえないからである。
(エ)次のa,bの事実に照らせば,本件車両の燃費値の差異は,重要事項には該当しない。a
本件車両のうち,デイズシリーズに属する車両の燃費値の差異は最大で4.6㎞/Lであるが,これは,カタログ上同じ燃費値の車両における実走行燃費として容易に変動し得る範囲内の数値である。
b
上記燃費値の差異は,通常の使用を前提とすれば,最大でも1年
当たり5000円程度の差額を生じさせるにとどまるが,これは,車両自体の価格や車両の維持費の総額に比して決して大きなもので
はなく,そのような経済的負担の差が存在することを理由として一般平均的な消費者が車両の購入を取りやめるとはいえない。
(オ)また,国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出される燃費性能よりも優れた虚偽の燃費性能が記載されたカタログを原告らに交付・提示したことが不実告知であるという原告らの主張を前提にす
ると,カタログ記載の燃費性能が国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出される燃費性能であることが重要事項に該当することが必要となる。しかし,カタログに記載された燃費値が国土交通省の定める測定条件と測定方法に則ったものであるか否か自体が,実走行燃費にかかわらず,消費者の契約締結の判断に通常影響を及ぼすべき
重要事項に該当するとはいえない。

因果関係について
(ア)原告らは,因果関係に関して,被告日産系販売店らにより告げられた内容が事実であると誤認し(不実告知と誤認との間の因果関係),
それにより本件車両についての売買契約を締結したこと(誤認と契約申込みの意思表示との間の因果関係)を,それぞれ具体的に主張することを要する。
(イ)原告らは,不実告知と誤認との間の因果関係として,カタログの交付・提示を受けたことを主張するのみならず,交付・提示を受けたカ
タログを特定した上で,その交付・提示を受けたカタログのうち,いずれのページのいかなる記載を見て,事実と異なる燃費値が実際の燃費値であると誤認したのかという点を具体的に主張する必要がある。しかし,原告らは,そのような主張をしていない。
また,原告らは,不実告知の内容が,実際は法令で定められた方式で算定された燃費値でないにもかかわらず,その方式で算定された燃費値であるとしたことであるとも主張する。しかし,カタログ上のいかなる記載をもって法令に定められた方式で算定された燃費に関する記載(不実記載)であると原告らが主張するのか明らかでない上に,カタログの記載を見て法令に定められた方式で算定された燃費であるという具体的な認識を個々の原告らが実際に有するに至ったとは認められな
い。
このことは,原告らの主張する不実告知の内容を,国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出される燃費性能よりも優れた虚偽の燃費性能が記載されたカタログを原告らに交付・提示したこととしても,同様に当てはまる。

(ウ)原告らは,誤認と契約申込みの意思表示との間の因果関係として,実際の燃費値(新届出燃費値)が表示されており,それを認識していれば,本件車両についての売買契約を締結しなかったという点を具体的に主張する必要がある。その判断に際しては,個々の原告が売買契約の申込みに当たって何を考慮要素として重視していたか,という点
が重要である。この点は,原告らがカタログを見て法令に定められた方式で算定された燃費,又は国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出される燃費性能であると誤認したという原告らの主張を前提にしても変わりはない。しかし,次のa~gの事実等に照らせば,誤認と申込みの意思表示との間の因果関係は認められず,被告
日産系販売店らの不実告知行為によって原告らが当該車両についての売買契約を締結したとはいえない。
a
一般に,新たに自動車を購入しようとする者の中には,商品のカタログの内容を見る以前に車両の購入を決定していることがある。

b
一般に,新たに自動車を購入しようとする者がカタログを見た場
合であっても,そこに記載された燃費値(国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出されたものであるという点を含む。)を
確認したとは限らない。
仮に,販売担当者が原告らに対して燃費値の説明を行っていたと
しても,①一般に,販売担当者は,顧客に対し,カタログ値が実走行燃費と異なることについて説明していること,②一般に,顧客は,実走行燃費を重視することに照らせば,原告らがカタログ値が国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出されたものという点を誤認した結果,本件車両の購入に至ったとは考えられない。
c
自動車を購入するに当たって通常考慮される要素は,燃費以外に
も多岐にわたって存在し,仮に,カタログ上の燃費値を見ていたと
しても,あるいは,口頭の説明を受けていたとしても,原告らがその燃費値(国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出されたものであるという点を含む。)を理由として車両を購入したとはいえない。現に,原告らが提出したカタログには,燃費値に関する記載に印等がされているものはない。

d
本件で燃費値の差異がもたらす負担増は,最大でも1年当たり5
000円程度のものであるから,原告らに誤認がなかったとして
も,本件車両の売買契約の申込みをしていた可能性は十分に存在する。

e
新届出燃費値が公表された後においても,引き続きデイズシリー
ズは販売されており,これを購入する一般消費者は多数存在する。f
被告日産系販売店らが顧客に配布していたカタログにおいては,
多岐にわたる訴求要素が掲載されており,カタログ全体に占める燃費値(国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出されたものであるという点を含む。)に関する記載の割合は非常に小さく,燃費性能が訴求要素として強調されているわけではなかった(特

に,特別仕様車であるVセレクションのカタログ〔丙共4の1
1~13,5の7・8〕における燃費性能についての記載は非常に少ない。)。
g
国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出される燃費性能よりも優れた虚偽の燃費性能が記載されたカタログを原告らに交付・提示したことが不実告知であるという原告らの主張を前提とした場合,原告ら各自の個別な事情として,カタログ記載の燃費値が国土交通省の定める測定条件と測定方法により算出される燃費値でないと知っていたならば,実走行燃費にかかわらず,売買契約を締結しなかったといえることが必要であるところ,そのような事実は認められ
ない。
(6)

争点(6)(〔争点(5)について〕被告販売店らに対して返還を請求するこ
とができる額)について
(原告らの主張)

別紙3-1①原告欄記載の各原告は同別紙⑥購入代金欄記載
の,別紙3-2①原告欄記載の各原告は同別紙⑦支払済額欄記載の,別紙3-3①原告欄記載の原告58番は同別紙⑱残損害額(不当利得)欄記載の各金額の損失を被っており,被告販売店らは各欄記載の金額の利益を得た。

被告販売店らは,原告らが本件車両の購入に伴って引き受けた種々の費用について,利得がない又は現存利益が存在しないと主張するが,そもそも契約が無効であれば負担する必要のなかった諸費用を利得がないというのは失当であるし,不当利得を類型論で説明する立場からは,双務契約の無効又は取消しの場合は原則として原状回復を要することになるところ,現存利益の不存在を主張する被告販売店らの主張は矛盾している。

(被告三菱系販売店らの主張)

原告らの主張する金額のうち,車両本体価格及び付属品価格以外の費目に要した費用(自動車重量税,自動車取得税,自動車賠償責任保険料,車庫証明手続や検査登録手続の手続代行費用,納車費用,下取車諸手続費用,リサイクル預託金,リサイクル資金管理料金,希望ナンバーの指
定料,預り法定費用,ロードサービス関連費用,収入印紙代,つくつく保証〔メーカー保証を2年間延長するプログラム〕,自家用自動車協会の会費,割賦手数料,消費税・地方消費税等)については,被告三菱系販売店らに利得がないか,又は原告らに損失がない。控除されるべき具体的な項目及びこれに対応する金額は,別紙5-1の①原告欄
記載の各原告につき,⑮諸費目計記載の各金額のとおりである。

仮に,本件車両の売買契約の取消しが有効である場合には,被告三菱系販売店らは,令和2年6月19日の本件弁論準備手続期日において,別紙5-1,5-2の⑮-4~⑮-8,⑮-11,⑮-17,⑮-18の金額に相当する額の不当利得返還請求権をもって,各原告の本件車両の
売買契約の取消しに係る不当利得返還請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。

原告らは,別紙3-1,3-2①原告欄欄記載の各原告につき売買代金支払日の翌日を起算日とした利息を請求し,別紙3-3①原告欄欄記載の原告につき,売買代金支払日の翌日から車両売却日までの確定利息金の支払を請求に含めるが,売買契約の取消しが有効である場合に被告三菱系販売店らが利息を負担するのは,悪意の場合に限られるところ,被告日産系販売店らが悪意となったのは,早くともの原告らが売買契約の取消しを主張した日であるから,それ以前の利息を負担しない。
(被告日産系販売店らの主張)

原告らの主張は,別紙3-1①原告欄欄記載の各原告については,別紙3-1⑥購入代金欄記載の金員,別紙3-2記載の原告らについては別紙3-2⑦支払済額欄記載の金員を,別紙3-3①原告欄欄記載の原告については別紙3-3⑱残損害額(不当利得)欄記載の
金員をそれぞれ支払うよう請求するものである。
ところが,原告らが主張するこれらの請求金額には,車両本体価格のほか,自動車重量税,自動車取得税,自動車賠償責任保険料,検査登録(届出〕手続代行費用,車庫証明手続代行費用,納車費用,下取車手続代行費用,下取車査定料,リサイクル預託金,リサイクル資金管理料
金,希望ナンバー申込手続代行料,ロードサービス関連費用,収入印紙代,メンテプロパック,追加保証,自家用自動車協会の会費,割賦手数料,消費税・地方消費税等が含まれている。これらの金額は,仮に,被告日産系販売店らが不当利得返還義務を負うことがあるとしても,その義務の範囲から除外されるべきであり,控除されるべき具体的な金額
は,別紙5-2の①原告欄記載の各原告につき,⑮諸費目計記載の各金額のとおりである。
イ(ア)仮に,本件車両の売買契約の取消しが有効である場合には,被告日産系販売店らは,平成30年1月17日の本件口頭弁論期日において,別紙5-1,5-2の⑮-4~⑮-8,⑮-11欄の各金額

に相当する額の不当利得返還請求権をもって,各原告の本件車両の売買契約の取消しに係る不当利得返還請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。
(イ)仮に,本件車両の売買契約の取消しが有効である場合には,被告日産系販売店らは,平成30年4月20日の本件口頭弁論期日において,別紙5-2の⑮-22欄の各金額に相当する額の不当利得返還請求権をもって,各原告の本件車両の売買契約の取消しに係る不当利得返還請
求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。

原告らは,別紙2-1の原告らにつき売買代金支払日の翌日を起算日とした利息を請求し,別紙2-3の原告につき,売買代金支払日の翌日から車両売却日までの確定利息金の支払を請求に含めるが,売買契約の取消しが有効である場合に被告日産系販売店らが利息を負担するのは,悪意の場
合に限られるところ,被告日産系販売店らが悪意となったのは,早くともの原告らが売買契約の取消しを主張した日であるから,それ以前の利息を負担しない。
(7)
争点(7)(〔争点(5)について〕被告販売店らが使用利益の不当利得返還
請求権を取得するか否か)について
(被告三菱系販売店らの主張)

原告らは,本件車両に係る売買契約に基づいて当該車両の引渡しを受けた後,当該車両の使用利益を得ている。仮に,上記売買契約が取り消された場合,被告三菱系販売店らは,原告らに対し,上記使用利益についての
不当利得返還請求権を取得する。そして,その使用利益は,レンタカー代金等に基づき算出されるべきである。仮に,レンタカー代金等に基づき算出されないとしても,長期利用を前提としたリース代金を基準とすべきである。
すなわち,契約の無効・取消しに関して,使用利益の返還義務を肯定
するのは一般的な見解である。民法189条又は575条の類推適用により使用利益の返還義務を否定する見解は実務上採用されていない。実際には,被告三菱系販売店らが,受領した車両代金から年5分又は年6分といった高い利率での利息を得ることなど全くあり得ず(現在の日本における預金金利はほぼゼロであり,利息はないに等しい。),このような現実的でない利率を持ち出して使用利益と比較することに意味はない。仮に,原告らが車両代金の返還を受けた上,本件車両の使用利益については代金利息に見合うものとして,その返還の必要がないとすれば,原告らは,車両代金とともに,本件車両の使用利益を二重取りすることとなる。原告らの主張によれば,原告らは,取消し主張の時期を遅らせたり,事実上車両の返還を拒んだりすること等により,車両の返
還を遅らせれば遅らせるだけ,本件車両を無償で使用し続けられることになってしまうが,そのような結果が著しく不当であることも明らかである。原告らが,消費者契約法に基づく取消しにおいては使用利益の返還を否定する見解として主張する見解も,受け取った商品を既に消費してしまっている場合等において,訪問販売法(特定商取引に関する法
律)の扱いを参考にして処理すべきことを示唆するにとどまり,使用利益の返還を否定する説ではなく,また,独自の少数見解にすぎない。また,物の使用による利得を占有の対価である賃料によって把握すべきことは,複数の判例が判示するところである(大審院昭和10年(オ)第2670号同11年5月26日判決・民集15巻998頁,大
審院昭和17年(オ)第1009号同18年2月18日判決・民集22巻91頁,最高裁昭和33年(オ)第518号同35年9月20日第三小法廷判決・民集14巻11号2227頁)。一般に,無権原占有の事案における占有者に対する不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得返還請求においては,物の使用による利得は占有の対価である賃料相当額
を基準に算定されており,その際,物の利用態様が考慮されることはなく,貸主の利益分等が控除されることもない。
原告らは,取消後の使用利益について被告らが返還を要求することは,信義則に反し許されないと主張するが,原告らには,本件車両を返還するか否かにかかわらず,車両を使用する必要性があることを前提とすると,取消しの前後で原告らが得られた利益が質的に異なるものではない。また,原告らの主張を前提とすると,原告らは取消後の期間につ
いても車両購入代金の5%の利息を受領できる反面,取消しの意思表示後は無償で本件車両を使用し続けられることになり,販売店らとの間で大きな不均衡を生じることとなる。

不当利得目的論を踏まえた利得論の主張
(ア)不当利得制度の目的
不当利得制度の目的は,形式的・一般的には正当視される財産的価値の移転が,実質的・相対的には正当視されない場合に,衡平の理念に従ってその矛盾の調整をすることにあるとされていた。仮に,売買契約が無効となり,売買契約に基づく給付が法律上の原因を欠く状態となった
にもかかわらず,給付によって得た適正に算定された使用利益の返還を要さないとすれば,使用利益の返還を受けられない当事者の一方の損失の下に,他方を利することとなり,当事者の財産的均衡を欠き,衡平を失することになる。
近年,不当利得の目的及び要件・効果は,財貨の移転や帰属の基礎と
なった法律関係に照らして判断されるべきであるとされている。この立場からは,給付利得における不当利得制度の目的は,法律上の原因があるものとして行われた給付とは逆向きの財貨の移転を認めることにより,給付がなかった状態を回復することにあると解される。したがって,給付利得の一類型である双務契約の清算の場面における不当利得に
おいては,この給付利得における不当利得の目的に従い,当事者に契約に基づく給付がなかった状態と同一の財産状態を回復するのが原則となる。そして,契約が取り消された場面では,契約に基づく給付がなければ使用利益を得られなかったのであるから,上記原則に従い,適正に算定された使用利益が返還されるべきである。
(イ)原告らが得た使用利益が返還されるべきこと
本件車両は,安全性や走行性能に何ら問題はなく,追加費用負担が発
生する以外は,原告らが本件車両を購入した際に期待した性能(安全性,走行性能,外観,内装等)を全て備えていた。すなわち,原告らは,追加費用負担という経済的な点を除き,何ら支障なく当初想定した態様で本件車両を使用することができ,本件車両を使用することにより使用利益を得たといえる。したがって,当事者に契約に基づく給付がな
かった状態と同一の財産状態を回復させるという不当利得制度の目的に従い,原告らは,原告らが得た適正に算定された使用利益を被告三菱自動車販売店らに対して返還すべきである。
仮に,加害者に対する制裁や違法抑止,当事者の過責を考慮して
使用利益の返還を否定又は制限できるとの前提に立ったとしても,被告
三菱系販売店らは,燃費偽装の主体である被告三菱自動車とは異なる法人であり,被告三菱自動車とは何ら資本関係等の利害関係を有しない者も含まれるのであって,加害者に対する制裁等を理由に使用利益の返還を否定することは不当である。
(被告日産系販売店らの主張)

原告らは,本件車両に係る売買契約に基づいて当該車両の引渡しを受けた後,当該車両の使用利益を得ている。仮に,上記売買契約が取り消された場合,被告日産系販売店らは,原告らに対し,上記使用利益についての不当利得返還請求権を取得する。一般に,物の使用による経済的価
値とは物の占有から生じた収益(占有の対価)をいい,占有の対価は,市場における賃料又は使用料に相当する金額によって算定されることが先例に照らし明らかであるところ(大審院昭和17年(オ)第1009号同18年2月18日判決・民集22巻91頁,最高裁昭和33年(オ)第518号同35年9月20日第三小法廷判決・民集14巻11号2227頁等),自動車の使用利益は,レンタカー代金がこれに当たるというべきである。したがって,自動車の使用に対する一般的・標準的
対価として,デイズシリーズと同型ないし同類型の自動車を賃借した場合のレンタカー代金に基づき算出されるべきである。

仮に,レンタカー代金を基準とすることが相当でない場合は,カーリース代金を基準とすべきである。一般に,カーリースは,特定の顧客に対し,比較的長期間にわたって自動車を賃貸することが想定されており,
それを踏まえた料金体系が設定されているところ,カーリース代金も自動車の使用による経済的価値を示す市場における自動車の賃料又は使用料としての性質を有するものであり,これを基準に使用利益を算定することは合理的といえる。

これに対し,原告らは,双務契約の取消しに民法189条又は575条の適用がある旨主張する。しかし,双務契約が取り消された場合の原状回復に関して同法189条や575条は適用・類推適用されないというべきである。
また,原告らは,使用利益の返還義務を認めると,不当勧誘行為による
給付の押し付けや,事業者のやり得を認めてしまうことになる旨主張する。しかし,不当利得制度は,受益者の利得の保持を否定的に評価し,これを正常化するための制度であり,特に契約の取消しによる不当利得返還請求権については,原状回復によって当事者間の客観的な財産状態を回復させることを目的としているから,使用利益の返還義務を認
めたとしても,何ら公平の理念に反するものではないし,消費者契約法に基づく取消しにおける使用利益の返還義務を一律に否定するとなれば,事業者の故意・過失を問わず,事業者の負担において消費者を利する結果となり,かえって不当な結論となる。特に,本件では,原告らは全く利用価値のない物を押し付けられたわけではなく,燃費値は劣るとしても,通常の目的に沿った使用が可能な乗用車を現に占有・使用しているのであるから,消費者契約法に基づく取消しであることを理由とし
て,使用利益の返還義務を否定すべき事案ではない。

不当利得目的論を踏まえた利得論の主張
(ア)不当利得の目的論
不当利得の目的論について,利得の発生原因からその態様を観察する
と,①社会生活関係の中で他人の財貨の侵害として不当利得が生ずる場合と②契約などの一定の法律関係に基づいてされた給付自体が法律上の原因を欠くに至った場合の2つに大別することができる(類型論)。そして,契約の取消しによる不当利得返還請求権は,給付の基礎となった法律関係の清算のために与えられるものであり,法律上の原因があるこ
とを前提に行われた給付とは逆向きの客観的な財貨の移転を認めることによって,給付による財貨移転が生ずる前の原状に回復させることを目的とするものである。このような給付不当利得(②)における不当利得返還請求権の目的に鑑みれば,売買契約が取り消された場合,給付による財貨移転が生ずる前の原状に回復させるため,法律上の原因があるこ
とを前提に行われた給付とは逆向きの客観的な財貨の移転として,売主が買主に対して目的物の代金に利息を付して返還する義務を負う一方で,買主は売主に対し,目的物とともに,目的物を使用することによって得た使用利益に相当する金銭の全額について,これを当然に返還する義務を負うことは明らかである。

(イ)財貨移転以外の要素を考慮して不当利得の利得額を決することが相当でないこと
不当利得の返還義務の範囲を決するに当たり,当事者双方の過責
(悪意,過失や社会的に非難される行為等)を考慮する見解がある。この見解によれば,公平の理念の下,企業の社会的責任や違法行為の抑止といった要素を考慮して使用利益の返還義務の範囲を縮減することも想定される。しかし,不当利得制度は,受益者による財産的価値の保持を否定的に評価し,これを正常化するための制度であること,取り消された契約を原状回復することによって買主に損害が生じた場合には,不法行為に基づく損害賠償請求を行使することで損害の塡補が可能であること,不法な原因に基づいてされた給付は民法708条によって返還請求
権が否定され,不当利得に該当する場合であっても,財貨の移転の原因が不法なものであるときは,その法律上の原因のないことを理由として利得の返還を請求することができないとされており,現行法の不当利得制度の下でも必要な限度で違法行為の抑止を図る規定が定められているといえることに照らせば,利得額の決定に当たって,客観的な財産的価
値を超えた企業の社会的責任や違法行為の抑止といった規範的要素を考慮すべきではない。公平の理念は,飽くまで契約当事者間における財産的価値の矛盾の調整によって果たされると解すべきである。
(ウ)本件において使用利益の返還義務を否定又は縮減する余地がないこと仮に,一般論として財貨移転以外の要素を考慮して不当利得の利得額
を決する余地があるとしても,本件の場合,①原告らは,燃費値以外は通常の目的に沿った使用が可能な本件車両を占有,使用している上,本件車両の燃費値の差によって生ずる経済的価値の損失についても実質的に回復しており,表意者保護の要請が働かないこと,②被告日産販売会社らは,不実告知について故意・過失が全く認められず,社会的に非難
されるべき行為,容態も認められない以上,違法行為の抑止や企業の社会的責任を問う前提を欠いていることに鑑みれば,少なくとも本件において,原告らの被告日産販売会社らに対する使用利益返還義務を否定し,又は縮減する余地を認めることはできない。
(原告らの主張)

使用利益の返還請求・損益相殺は認められないこと
被告販売店らは,仮に,本件車両に係る売買契約が消費者契約法に基づ
いて取り消された場合,被告販売店らは,原告らに対し,当該車両の使用利益についての不当利得返還請求権を取得する旨主張する。
しかし,消費者契約法は,消費者と事業者の双方契約を規律するものであるところ,①双方契約の無効又は取消しに関しては,民法189条の適用又は民法575条の類推適用により,使用・収益の返還義務を否定すべきである(最高裁判所昭和49年(オ)第1152号同51年2月13日第二小法廷判決・民集30巻1号1頁の射程は,本件には及ばない。特に,本件において取り消された契約は,賃貸借契約等のように物の利用利益を目的とするものではないのであるから,使用・収益の返還義務は否定
されるべきである。)。②軽自動車協会が公表している統計資料によれば,自家用軽自動車の平均使用年数は約14年間であり,1年間当たりの使用対価は購入代金の約7.14%となり,民法所定の年5分の利率や年6分の商事法定利率と比較してそれほど不均衡ではなく,このことからも上記①の結論が肯定されるべきである。③また,特に消費者契約法に基づ
く取消しについては,仮に,使用利益の返還義務を認めると,不当勧誘行為による給付の押し付けや,事業者のやり得を認めてしまうことになり,消費者契約法が取消権を認めた意義を失わせるし,違法行為を助長することになるため,クーリングオフについての規定(特定商取引に関する法律9条等)の類推適用又は信義則により,使用利益の返還が否定される
べきである。

被告販売店らの主張する使用利益の算定方法が不合理であること
被告販売店らは,上記使用利益について,レンタカー代金等に基づき算出すべきである旨主張する。
しかし,使用利益が現存利益に含まれるのは,受益者が目的物を取得したことにより出費が節約されたことが理由とされており,受益者の現在の財産と受益者が目的物を取得しなければ有したであろう財産との差額が使用利益とされるべきである。そして,レンタカーは,一般に,一時的な利用に用いられ,その代金はレンタカー業者の諸経費及び利益を見込んで高額に設定されているところ,原告らが,本件車両を取得しなかった場合に,その代替手段としてレンタカーを利用したと考えることは経験則や社
会通念に反しており,レンタカー業者の諸経費及び利益が含まれたレンタカー代金を車両の使用利益とすることが相当であるとはいえない。また,原告らの車両の購入価格の平均は約172万円であり,軽自動車の平均使用年数は,約14年である。これに対し,レンタカー代を基準として算定した使用利益は,年間147万3140円(4036円×365
日)にも及ぶところ,購入額等との対比からしても,レンタカー代相当額が原告らの利益であるというのはおよそ常識からかけ離れた主張である。被告らは,リース料金を基準とする使用利益も主張するが,被告らの主張するリース契約は,いわゆるファイナンス・リース契約であって,リース料はそもそも占有や使用の対価ではない。


売買契約取消後の使用利益
仮に,本件において使用利益の返還義務があるとしても,売買契約の取消後に生じた使用利益について,被告らが返還を要求することは,信義則に反し許されない。


不当利得目的論を踏まえた利得論の主張
(ア)不当利得制度の趣旨
不当利得制度は,伝統的に,形式的・一般的には正当視される財産的価値の移動が,実質的・相対的には正当視できない場合に,公平の理念に従って調整する制度であるとされているところ,判例は,一貫してこの考えによっている。
これに対し,近時,公平の理念があいまいなどとして,不当利得
の類型かを試みる,いわゆる類型論が主張されている。これは,不当利
得が問題となる局面を,利得を生じさせた原因に応じて類型化して処理しようとするものである。この考え方は,利得を生じさせた原因に応じた適切な処理を目指すものであるから,類型論の立場からも,双務契約の取消しの場合には売買における民法575条を類推適用して使用利益の返還を否定する学説が有力であるし,裁判例にも同様に判断したもの
がある。
(イ)本件で使用利益の返還が否定されるべきであること
原告らは,被告三菱自動車による偽装された燃費を信じて本件車両を購入した消費者であり,消費者紛争の被害者であるといえること,本件で使用利益の返還を認めることは,実質的に原告らの被害救済を否
定するもので,消費者保護という消費者契約法の目的に反すること,不実告知等を行った事業者のやり得となり,違法行為を抑止することもできなくなることに照らせば,類型論を踏まえても,本件における使用利益の返還は認められない。
(8)

争点(8)(被告日産大阪販売株式会社に,原告22番に対する不法行為が
成立するか否か)について
(原告らの主張)
ア原告22番は,別紙3-2のとおり,平成25年6月2日,被告日産大阪販売から,本件車両を購入したところ,その支払方法として,いわゆる残価設定型クレジット(日産ビッグバリュークレジット)を利用した。その後,原告22番は,平成28年8月25日,被告日産大阪販売に対し,本件車両の売買契約を取り消し,平成20年7月頃,被告日産大阪販売に対し,残価設定型クレジットの約定に基づき本件車両を返還する旨伝えたが,被告日産大阪販売が本件車両の受領を拒絶した。イ被告日産大阪販売が,本件車両の売買契約取消し後も車両の引取りに応じず,また,残価設定型クレジットの満了時点(平成30年7月27
日)においても引取りに応じない行為は,違法行為である。原告は,同年8月~令和2年7月,被告日産大阪販売の不法行為により,毎月7000円の駐車場代を負担する損害を被り,その合計額は,16万8000円となった。
(被告日産系販売店らの主張)

原告22番の主張は,売買契約の取消しが有効であることを前提とするが,売買契約の取消しは認められない。
仮にその点を措いたとしても,本件車両の売買契約につき取消しの効力が生じることにより,原告22番に本件車両を被告日産大阪販売に返還する義務が生じるものの,被告日産大阪販売に本件車両の引取義務が生じるわけで
はない。
また,原告22番は,残価設定型クレジットを利用しているところ,残価設定型クレジットにおいて車両の引取りを申し出ることができるのは,据置額を除く分割支払部分全額について,クレジット契約に基づき約束通り履行した場合にのみ適用されるものであるから,分割支払債務の履行を停止し
ている原告22番に適用されるものではない。
第3章
第1

当裁判所の判断
認定事実
後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
1
被告三菱自動車による燃費偽装
(1)

燃費試験データを取り巻く法規制等

道路運送車両法上の規制(甲共7・25~35頁)
(ア)型式指定制度
道路運送車両法上,登録を受けていない自動車を運行の用に供するためには,国土交通大臣に対し,新規登録を,新規検査の申請と同時に申
請しなければならないところ,このうち新規検査の合理化を目的として,自動車の型式認証制度が設けられている。この型式認証制度のうち,型式指定制度とは,保安基準適合性審査及び品質管理(均一性)の審査を経て交付される完成検査終了証を国土交通大臣に提出することにより,指定された型式の自動車について,新規検査時の現物提示の
省略を認める制度である。(同法7条3項2号,75条1項)
保安基準適合性審査は,国土交通大臣からの授権を受けて,平成28年4月1日より前は独立行政法人交通安全研究所,同日以降は独立行政法人自動車技術総合機構(以下機構という。)が実施主体として行っている(以下においては,組織変更の前後を問わず機構とい

う。)。
型式指定審査の判定方法については,①型式指定の申請の対象となった自動車の構造,装置及び性能が保安基準に適合し,②その自動車が均一性を有するものであるかどうかによって判定されるところ(同法75条3項),上記①の保安基準については,同法第3章の規定に基づき定
められた道路運送車両の保安基準(昭和26年7月28日運輸省令第67号)31条及びこれを受けた道路運送車両の保安基準の細目を定める告示(平成14年国土交通省告示第619号)(以下細目告示という。)に定められている独立行政法人自動車技術総合機構法(平成27年法律第44号による改正前は自動車検査独立行政法人法)
13条1項により制定が要求される審査事務規程(以下審査事務規程という。)の試験規程により,排出ガスの量や燃費を測定する試験方法につき,平成23年4月以降に型式指定を受ける自動車については,JC08モード法により排出ガスや燃費を測定しなければならないこととなった。
このように,排出ガスは,保安基準適合性審査の対象となっており,排出ガス試験を実施する際に,上述の試験方法を遵守しなかったり,排出ガス試験に不正があったりした場合には,保安基準適合性を再検討する必要があるし,保安基準適合性が認められなかった場合には,型式指定が取り消される(道路運送車両法75条7項)可能性がある。
他方,燃費についても,審査事務規程上,JC08モードが定められ
ているが,排出ガスと異なり,道路運送車両の保安基準において燃費に関する基準が設けられていないことから,保安基準適合性審査の対象とはならない。
したがって,型式指定との関係では,燃費が保安基準適合性審査の対象とされていないことから,型式指定の申請書やその添付書面に虚偽の
情報を記載したり,恣意的に走行抵抗を引き下げることで燃費を良くし,その試験結果を記載したとしても,保安基準適合性が失われたことを理由に型式指定を取り消されることはない。
(イ)提出書類
国土交通省及び保安基準適合性審査を行う機構に対し,型式指定の申
請書を提出する際には,申請書と共に添付書類を提出しなければならない。この添付書類のうち,自動車の構造,装置及び性能を記載した書面(以下諸元表という。)には,排出ガス重量欄及び燃料消費率(km/L)欄が設けられており,排出ガスについては細目告示において定められた試験方法により測定した数値を,燃料消費率(燃費)につ
いては機構の定めた審査事務規定により定められた試験方法により測定した数値を記載する必要があるところ,いずれの試験方法も基本的に同一である。また,申請者は,この試験記録及び成績についても提出する必要がある。

エネルギーの使用の合理化等に関する法律(平成30年6月13日号外法律第45号による改正前のものをいい,以下省エネ法という。)
との関係(甲共7・35~37頁)
省エネ法77条1項及び78条1項は,特定エネルギー消費機器については,経済産業大臣及び国土交通大臣が,特定エネルギー消費機器ごとに製造事業者の判断基準となるべき事項を定め,これを公表することとしており,これを受けて,経済産業大臣が定めた乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等によれば,省エネ法施行令が定めるガソリン乗用自動車又はディーゼル乗用自動車については,JC08モード法によって測定したエネルギー消費効率(燃費)が,エネルギー判断基準の定める基準燃費を下回らないようにするものとされた。ただし,エネルギー判断基準で
示された事項について,法規上の遵守義務が課されているわけではなく,製造事業者は,エネルギー判断基準で示された燃費を下回る自動車を製作することが可能であるものの,その場合,ユーザーが減税などの利益を享受できないこととなる。
省エネ法80条は,特定エネルギー消費機器である自動車について,エ
ネルギー消費効率(燃費)を表示しなければならないこととしており,具体的表示方法は,そのカタログに,車名及び型式,車両重量,乗車定員のほか,エネルギー消費効率(燃費)を記載することとされており,これが燃費のカタログ値と呼ばれるものである。
エネルギー消費機器製造事業者等が,特定エネルギー消費機器に関する
消費効率(燃費)を法定の方法で表示していない場合,経済産業大臣は,適法な表示をすべき旨の勧告をすることができ,事業者等がこれに従わなかったときは,その旨を公表することができるほか,勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる場合もある(省エネ法81条)。

排出ガス・燃費に関する自動車関係税制と減税・免税措置(甲共7・37~41頁)

自動車を取得または保有することに対しては,取得時に自動車取得税が課され,自動車を保有し続けている期間,新規検査や継続検査等(車検)を受けるごとに課される自動車重量税のほか,毎年,自動車税又は軽自動車税が課される。
これらの自動車関連税のうち,自動車取得税及び自動車重量税につい
て,国土交通省が定める排出ガスと燃費の基準値を満たす環境性能に優れた自動車について,非課税措置又は減税措置を認める制度が導入されており(いわゆるエコカー減税),自動車税及び軽自動車税については,排出ガス性能及び燃費性能に優れ,環境負荷の小さい自動車(低公害車)について減税を認める一方,新規登録から一定の年数を経過した
自動車の税率を重課するもの(いわゆるグリーン化特例)が導入されている。これらの減税措置は,燃費基準値の達成度合いにより減税率が定められていることから,燃費不正により排出ガス・燃費を新たに測定した結果,納税義務発生時に定められた基準を満たしていなかったことが判明した場合には,本来は自動車関連税の減税を受けることができなか
ったことになり,納付不足額が発生することとなる。
(2)

JC08モードによる燃費試験(甲共7・42~44頁)
排出ガス及び燃費試験は,試験室内に設置されたシャシダイナモメータの
上で試験自動車を走行させ,試験自動車の排気管開口部に排出ガスを測定する装置を接続することにより,試験自動車から排出されたガスを採取し,排出ガス及び燃費を測定する方法で行う。このとき,実際の道路で走行したときの環境を再現するために,シャシダイナモメータに負荷を設定しなければならないところ,この負荷は,細目告示等が定める惰行法によって算出された目標走行抵抗を算出して設定する。
惰行法による走行抵抗の測定は,時速20㎞,時速30㎞,時速40㎞,時速50㎞,時速60㎞,時速70㎞,時速80㎞及び時速90㎞を指定速度とし,試験自動車を指定速度から時速5㎞超える速度から変速機を中立(ニュートラル)にして惰行させ,指定速度から時速5㎞遅くなるまでの時間(惰行時間)を0.1秒以下の単位で測定することにより実施する。各指定速度の惰行時間の測定は,往路及び復路について最低各3回ずつ行い,そ
の平均値を求める。往路ごと又は復路ごとの惰行時間は,それぞれの最大値と最小値の比が1.1以下であることが必要とされる。
机上計算した走行抵抗を使用して負荷設定することは認められていない。なお,走行抵抗は,転がり抵抗と空力抵抗の和により算出される。(3)

被告三菱自動車による走行抵抗測定方法(甲共7・47,58,61~
64頁)

被告三菱自動車の性能実験部においては,自動車の動力性能を確認する試験方法に関する試験標準として動力性能試験方法が作成され,この試験方法の一つとして,高速惰行試験が定められている。高速惰行試験とは,自動車を最高車速又は計測テストコースの走行限度車速から惰行させて,転がり抵抗係数及び空力抵抗係数を測定するものである。


型式指定審査の際の排出ガス・燃費試験におけるシャシダイナモメータへの負荷設定方法として惰行法が採用されたのは,ディーゼル車については昭和60年,ガソリン車については平成2年であった。しかし,被告三菱自動車は,遅くとも平成3年頃から,型式指定審査のために惰行法によ
って走行抵抗を測定することなく,開発段階における動力性能試験に付随する高速惰行法によって測定済みの走行抵抗のデータを流用し,惰行法によって走行抵抗を測定したかのような体裁を有する負荷設定記録を作成して運輸省(当時)に提出し,型式指定審査を受けるようになった。その後,被告三菱自動車は,本件の問題が発覚するまでの約25年にわたり,ほぼ全ての車種について,同様の方法で負荷設定記録を作成して型式指定審査を受けていた。これは,惰行法においては,測定の都度,気温,大気
圧,風速を計測して気象条件補正を行わなければならない上,目標となる走行抵抗となるように,また,往路ごと又は復路ごとの惰行時間の比が1.1以内に収まるデータを得るまでに,かつ,定められた風速条件を満たすために,繰り返し走行抵抗を測定しなければならなかったことなどから,被告三菱自動車の性能実験部において,非常に手間のかかる面倒な測
定方法であると認識されていたためである。
(4)

被告三菱自動車によるその他の不正行為(甲共7・67~78頁)被告三菱自動車の性能実験部では,厳しい燃費目標を課せられていたこともあり,燃費目標を達成したことにするため,又はその他の理由により,走行抵抗を実走実験で測定せず,あるいは高速惰行法によって測定
した走行抵抗を使用することもせず,単に机上計算で算出した数値を走行抵抗として使用することもあった。

また,被告三菱自動車の性能実験部は,開発過程で燃費目標を達成できなかった場合,燃費目標を達成するために,走行抵抗を恣意的に引き下げた上で,これを型式指定審査の際に使用するなどしていた。


被告三菱自動車の認証試験グループは,本来であれば,性能実験部が開発段階で測定した走行抵抗について,型式指定審査に先立ち,試験自動車が同じ走行抵抗を出すことができるかどうかをチェックする役割を担っていたが,そのために必要な実験や試験を行うことはなく,型式指定
審査の際,性能実験部等が開発段階で測定した走行抵抗を使用していた。

また,被告三菱自動車の認証試験グループは,型式指定審査の際に提出する負荷設定記録に,逆算プログラムに入力することで算出された惰行時間,平均惰行時間及び走行抵抗を記載し,惰行法によって走行抵抗を測定したかのようなつじつまの合う虚偽情報を記載した。


被告三菱自動車の認証試験グループは,性能実験部から燃費目標を達成して開発を完了したと報告を受けた自動車について,事前試験を実施した際,性能実験部が達成したとする燃費を測定できないことがあり,このような場合,性能実験部から連絡を受けていた走行抵抗の数値を,特段の技術的根拠なく引き下げ,型式指定審査の際の走行抵抗の届出値として負荷設定記録に記載することがあった。

(5)

株式会社NMKV(以下NMKVという。)の設立(甲共7・1

頁,丙共21・70~71頁)
被告三菱自動車と日産自動車は,平成23年6月,合弁事業を行うためNMKVを設立して軽自動車の共同開発を行うこととし,平成25年6月に発売された14年型eKワゴンを皮切りに,平成26年2月に発売された14年型eKスペース,これらの年式変更車である15年型eKワゴン,15年型eKスペース及び16年型eKワゴンが販売された。これらの開発は,NMKVから委託を受けた被告三菱自動車が担当し,被告三菱自動車と日産自動車との間で締結された製品供給契約に基づき,eKワゴン及びeKカスタ
ムは日産自動車のブランド車であるデイズとして,eKスペース及びeKスペースカスタムは,日産自動車のブランド車であるデイズルークスとして,被告三菱自動車から日産自動車に継続的に供給されていた。(6)

eKシリーズにおける燃費偽装(以下本件燃費偽装という。)(甲
共6・11~25頁,7・90~167頁)
NMKVによる共同開発によって販売された軽自動車は,16年型eKワゴンまでは,NMKVから委託を受けた被告三菱自動車が開発及び製造を担当しており,被告三菱自動車における通常の開発とほぼ同様の体制が採られた。
このうち,14年型eKワゴンにおいて用いられた走行抵抗は,タイで高速惰行法により行われた走行抵抗の測定において,得られたデータのうち,目標とする低い数値の走行抵抗の算出に都合の良い下限データ群のみを抽出して導き出したものであり,極めて恣意的に行われたものであった。14年型eKスペースについては,14年型eKワゴンにおいて用いられた転がり抵抗係数の数値が流用されたが,そもそもこの数値自体が恣意的に算出されたものであった。
15年型eKワゴンについては,燃費目標が引き上げられたことから,走
行抵抗の測定を行わなかったばかりか,14年型eKワゴンのデータをもとに引いた二次曲線を合理的根拠なく更に下方にずらし,転がり抵抗係数を5%引き下げることで走行抵抗を引き下げた。
15年型eKスペースについては,燃費目標を達成するため,14年型eKスペースの走行抵抗のデータをもとに恣意的に引き下げられた走行抵抗が算出され,16年型eKワゴンについても,15年型eKワゴンの転がり抵抗係数から,タイヤの改良分の2%に加え,何ら根拠もなく更に10%引き下げて走行抵抗を引き下げた。
(7)

本件燃費偽装発覚の経緯(甲共7・1~2頁,丙共21・71~77
頁)
被告三菱自動車と日産自動車による軽自動車の共同開発において,16年型eKワゴン以降の後継モデルについては日産自動車が開発を行うことになっていたところ,日産自動車は,平成27年秋ころ,後継モデル開発の参考にするため,日産自動車の設備を使用して,15年型eKワゴンの燃費を測
定した。その結果,測定された燃費と,型式指定審査時に届け出られた燃費との間に大きなかい離が認められた。被告三菱自動車は,日産自動車からかい離の原因について調査するよう依頼を受け,日産自動車と共同で調査を実施したところ,燃費のかい離の原因は,型式指定審査の際に届け出た走行抵抗の不正な操作にあったこと,この不正な操作は,14年型eKワゴンから始まっていたことなどが判明した。また,この燃費問題の調査において,被告三菱自動車において,平成3年頃から,法規に準拠していない方法で走行抵抗を測定していたことが確認された。
(8)

本件燃費偽装の公表
被告三菱自動車は,平成28年4月20日,被告三菱自動車が平成25年
6月以降製造・販売しているeKシリーズ及び日産自動車向けに供給しているデイズシリーズの軽自動車について,国土交通省に型式指定審査の申請をした際,燃費試験データについて,燃費を実際よりも良く見せるため,不正な操作が行われていたこと及び型式指定審査の一環として実施される排出ガス・燃費試験に使用する走行抵抗を,国内法規で定められた方法(惰行法)とは異なる独自の方法(高速惰行法)によって測定していたことを公表し
た。また,被告三菱自動車は,平成28年4月26日及び同年5月11日,被告三菱自動車が製造・販売している上記軽自動車について,同月18日,被告三菱自動車が製造・販売しているその他の自動車について,同年6月17日,被告三菱自動車が過去10年間に製造・販売した自動車について,いずれも燃費試験における不正行為が認められたとして,その事実をそれぞれ
国土交通省に報告するとともに,その内容を公表した。(甲共7・1頁)(9)

新届出燃費値の公表
被告三菱自動車は,平成28年6月21日,eKシリーズについて,国土交通省に新燃費値を別紙6のとおり届け出たことを公表した(甲共19の1~4)。


日産自動車は,平成28年6月23日,デイズシリーズについて,新届出燃費値が別紙7のとおりであることを公表した(甲共19の5)。(10)

国土交通省による立入検査等
被告三菱自動車は,本件燃費偽装の発覚を受けて行った,eKシリーズ及
びデイズシリーズを除く9車種の再測定において,国土交通省より,走行抵抗値の測定方法に不正な取扱いがあったことの指摘及びこの点についての是正指示を受け,平成28年9月2日,国土交通省による立入検査を受けた。国土交通省自動車局は,同月15日,立入検査結果を公表し,本件燃費偽装問題が明らかになった後の再測定において,再測定結果をかさ上げし,諸元値に近づけようとした意図が疑われ,常軌を逸する事態であると評価した。(甲共16,17)

(11)

消費者庁による措置命令及び課徴金納付命令
消費者庁は,平成29年1月27日,被告三菱自動車に対し,不当景品類及び不当表示防止法(以下景品表示法という。)7条1項の規定に基づく措置命令を行った。これは,被告三菱自動車が,eKシリーズ(38商品)などについて,カタログ及び自社ウェブサイトにおいて,
遅くとも平成28年4月1日~同月20日の間,燃費消費率JC08モード(国土交通省審査値)(km/L),燃費基準達成状況の記載において,あたかも国が定める試験方法に基づく燃費性能が,カタログ及び自社ウェブサイトにおいて記載のとおりであるかのように示す表示をしていたが,実際には国が定める試験方法に基づくものとはいえない
ものであること,国土交通省の確認試験結果によれば,いずれも記載値を下回ることなどが景品表示法5条1号(優良誤認表示の禁止)に違反する行為とされたものである。
措置命令の概要は,eKシリーズについては,対象商品の内容について,一般消費者に対し,実際のものよりも著しく優良であると示すもの
である旨を確認するとともに,再発防止策を講じて,これを役員及び従業員に周知徹底すること及び今後,同様の表示を行わないことである。(甲共4)

消費者庁は,平成29年1月27日,日産自動車に対し,景品表示法7条1項の規定に基づく措置命令を行った。これは,日産自動車が,デイズシリーズ(27商品)について,カタログ及び自社ウェブサイトにおいて,遅くとも平成28年4月1日~同月20日の間,上記アと同様の
表示をしたことが違反行為とされたものであり,その措置命令の概要も上記アと同様である。(甲共4)

なお,消費者庁は,平成29年1月27日,被告三菱自動車に対し,景品表示法8条1項の規定に基づく課徴金納付命令を行ったが,これは,本件訴訟で対象とはなっていない普通常用自動車等を対象とするもので
あった。(甲共4)

消費者庁は,平成29年6月14日,被告三菱自動車に対し,景品表示法8条1項の規定に基づく課徴金納付命令を行った。これは,被告三菱自動車が,eKシリーズ(8商品)について,上記アの表示をしたことにつき,合計453万円を支払わなければならないとしたものである。消費者
庁は,同年7月21日,被告三菱自動車からの指摘を踏まえ,同処分を撤回し,合計368万円の支払を命ずる新たな課徴金納付命令を行った。(甲共18,乙共31)

消費者庁は,平成29年6月14日,日産自動車に対し,日産自動車がデイズシリーズ(6商品)について,上記イの表示をしたことにつ
き,同項の規定に基づき,合計317万円の課徴金納付命令を行った。日産自動車は,同年9月13日,消費者庁長官に対し,同課徴金納付命令に対し,審査請求をしたところ,消費者庁長官は,平成30年12月21日,同課徴金納付命令を取り消すとの裁決をした。(甲共18,丙共21)

2
カタログやウェブサイトにおける表示
(1)

被告三菱自動車は,平成25年6月以降製造・販売しているeKシリー
ズについて,平成28年4月20日までの間,カタログ及びウェブサイトにおいて,別紙6旧届出燃費値(km/L),燃費基準ラベル(旧)の表示をした。
例えば,eKスペースの一つのカタログ(甲②-1)においては,@earthTECHNOLOGYの欄に

燃料消費率(国土交通省審査値)JC08モード26.0km/L(E/G2WDのみ。E4WDは25.4km/L,4WDは24.6km/L)

との表示があり,その下部に,

燃料消費率は定められた試験条件での値です。お客様の使用環境(気象,渋滞等)や運転方法(急発進,エアコン使用等)に応じて燃料消費率は異なります。

との記載がある。また,同じカタログの主要諸元欄及び環境仕様欄にも,同様の燃料消費率の記載がある。
他のeKスペース,ekワゴン,eKスペースカスタム,eKカスタムの各カタログにおいても,主要諸元欄,環境仕様欄等の複数の箇所

に,燃料消費率(国土交通省審査値)JC08モードの記載がある(前記前提事実3(5)ア)。
(2)

日産自動車は,平成25年6月以降製造・販売しているデイズシリーズ
について,平成28年4月20日までの間,カタログ及びウェブサイトにおいて,別紙7旧届出燃費値(km/L),燃費基準(旧届出燃費値)の表示をした。
例えば,デイズの一つのカタログ(甲㉒-1)においては,エンジン進化型エコカーとして,燃料消費率(国土交通省審査値)JC08モード29.2km/Lとの表示があり,その下部にS(2WD),X(2WD)との注意書き及び

燃料消費率は定められた試験条件での値です。お客さまの使用環境(気象,渋滞等)や運転方法(急発進,エアコン使用等),整備状況(タイヤの空気圧等)に応じて値は異なります。

との記載がある。また,同じカタログの主要諸元欄及び環境仕様書欄にも,同様の燃料消費率の記載がある。
他のデイズ(デイズハイウェイスターを含む。),デイズルークス等のカタログにおいても,主要諸元欄,ニッサン・グリーンプログラム欄等の箇所に,燃料消費率(国土交通省審査値)JC08モードの記載が
ある(前記前提事実3(5)ア)。ただし,デイズルークス等のライダーシリーズのカタログの主要緒元欄には上記燃料消費率の記載はない。
(3)

一般社団法人自動車公正取引協議会は,自動車の取引に関する自主規制
のルールとして,自動車業における表示に関する公正競争規約を策定しているところ,同規約には,事業者による新車の表示に関し,燃料消費率につい
て,

燃費の表示に使用できるデータは,公式テスト値又は公的第三者によるテスト値に限るものとし,必ずその旨を付記するものとする。

(同規約5条5号)と定められているほか,事業者は同規約5条に規定する事項について,虚偽又は誇大な表示をしてはならない旨が定められている(同規約7条1号)。この公式テスト値とは,道路運送車両法75条の規定に基づ
き国土交通大臣の指定を受けた数値をいう(自動車業における表示に関する公正競争規約についての新車に関する施行規則19条2項)。(甲共25)3
テレビ番組における紹介
テレビ番組ガイアの夜明けにおいて,平成25年5月28日,軽自動車
に関する特集が組まれ,飽くなき燃費競争の舞台裏と題し,平成24年(2012年)の軽自動車の販売シェアが7.7%の日産自動車及び3.7%の被告三菱自動車において,他社に対抗するためNMKV(日産・三菱・軽・ビークルの意味)を設立して軽自動車の共同開発を行ったことが紹介された。ここで,開発車の最大の武器は燃費であること,燃費は,経済性が魅力の軽自
動車において最も重要な数値であること,当初の燃費目標は28.2km/Lであったこと,他社の軽自動車において,28.8km/Lの燃費を実現するものが出現したため,燃費目標が29.0km/Lと変更されたこと,結果として,開発車において業界最高の29.2km/Lの燃費値を実現したことが紹介された。(甲共27)
4
原告らによる本件車両の購入等
(1)

本件車両の購入


別紙2-1の①原告欄の各原告は,それぞれ,当該原告に対応する同別紙③売買契約日欄記載の各日,同別紙②被告欄記載の各被告から,同別紙④車両,⑤車台番号欄記載の各車両(本件車両)を⑥購入代金欄記載の各金額で購入した。
別紙2-1の①原告欄の各原告の支払済額は,同別紙⑦支払済額欄の各金額記載のとおりである。イ
別紙2-2の①原告欄記載の各原告(原告8の1~8の5番については亡J)は,それぞれ,当該各原告に対応する同別紙③売買契約日欄記載の各日,同別紙②被告欄記載の各被告から,同別紙④車両,⑤車台番号欄記載の各車両(本件車両)を⑥購入代金
欄記載の各金額で購入した。
別紙2-2の①原告欄記載の各原告(原告8の1~8の5番については亡J)の支払済額は,同別紙⑦支払済額欄記載の各金額のとおりである(原告13番については,被告東日本三菱自動車販売株式会社の認める支払済額が原告13番の主張する額を上回るが,同原告の主張
の限度で認める。)。

別紙2-3の①原告欄記載の原告58番は,同別紙③売買契約日欄記載の日,被告帯広日産から,本件車両を⑥購入代金欄記載の金額で購入した。
(2)

原告らに対するカタログ交付等
原告ら(原告16,71番を除く。)は,本件車両の購入に当たり,別紙8-1~8-3のカタログ交付の有無欄記載のとおり,カタログの交付を受け,カタログによる燃費値確認の有無欄記載のとおり,カタログに記載された燃費値を確認し,購入に当たり燃費値を重視したか欄記載のとおり,購入に際し,燃費値を考慮した(甲③-1,⑤-1,⑧-3,⑨-1,⑩-1,⑪-1・2,⑬-1,㉝-1,㊳-1,㊴-1・
2,㊶-1・2,㊷-1,㊻-1・3・4・5,㊼-1,○-1~3,○60-1,○-1,○-1,○-1・2,○-1・2,○-1・2,○-1,627477原告14番本人,原告22番本人,弁論の全趣旨)。

原告16番については,カタログの交付を受けたこと,被告岩手三菱自動車販売株式会社の従業員から燃費値についての説明を受けたことについ
ての立証はなく,これらの事実があったものとは認められない。

原告71番については,原告71番が購入した車両は,デイズルークスのライダーシリーズであって,ライダーシリーズのカタログ中の主要諸元欄には燃費値の記載がなく,本件車両についての燃費値の記載のあるカタログの交付を受けたこと,被告日産プリンス福島販売株式会社の従業
員から燃費値についての説明を受けたことについての立証はなく,これらの事実があったものとは認められない(丙○-1,丙共4の2・34頁,丙共20・2頁,丙共26,証人M)。(3)

被告販売店らの従業員の認識
被告販売店らの従業員は,本件燃費偽装の公表とほぼ同時期に至るまで,
本件燃費偽装の存在を知らなかった(証人E,証人F,弁論の全趣旨)。(4)

別紙2-1~2-3⑥購入代金欄の内訳
原告らが被告販売店らとの間で合意した本件車両の購入代金は,いずれも車両本体価格及び付属品価格に加え,自動車重量税等の税金,検査登録
手続代行費用等の手続代行費用,自動車賠償責任保険料,追加の保証サービス等の価格を含んだものであり(以下,総称して諸費用とい
う。),各原告らが支払った諸費用の内訳及び諸費用合計額は,別紙5-1,5-2記載のとおりである(甲⑧-2,○-2,乙③-1,⑤-1,⑧-2,⑨-1,⑩-1,⑪-1,⑬-1,⑭-2・3,丙㉒-3,㊶-1,㊻-1,○-1,○-1)。77

被告三菱系販売店らは,令和2年6月19日の本件弁論準備手続期日において,別紙5-1,5-2の⑮-4~⑮-8,⑮-11,⑮-17,⑮-18の各金額に相当する額の不当利得返還請求権をもって,各原告の本件車両の売買契約の取消しに係る不当利得返還請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。


被告日産系販売店らは,平成30年1月17日の本件口頭弁論期日において,別紙5-1,5-2の⑮-4~⑮-8,⑮-11の金額に相当する額の不当利得返還請求権をもって,各原告の本件車両の売買契約の取消しに係る不当利得返還請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。


被告日産系販売店らは,平成30年4月20日の本件口頭弁論期日において,別紙5-1,5-2の⑮-22の金額に相当する額の不当利得返還請求権をもって,各原告の本件車両の売買契約の取消しに係る不当利得返還請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。


諸費用のうち,メンテプロパックとは,車両の販売に際し日産自動車が紹介し,日産フィナンシャルが提供するサービスであり,メンテプロパックの定額料金を支払うことにより,同料金で定期点検等を受けることができるというものである。
また,追加保証とは,車両の販売に際し日産自動車が紹介し,顧客の車両を構成する部品に不具合が生じた場合に,所定の条件に従って無料で
修理することを保証する契約であり,原告らが支払う追加保証の保証料には,販売事務手数料と,被告販売店らが保険会社に支払う保険料が含まれる。この保険においては,契約者が日産自動車,被保険者が被告日産系販売店ら,保険者が損害保険ジャパン日本興亜とされている。(甲共31,丙共14,24,25)
5
カタログ等に記載された燃費値と新届出燃費値から生じる燃料代差額及び自動車関係諸税の追加負担
(1)

被告三菱自動車及び日産自動車がカタログ等に記載した届出燃費値(旧
届出燃費値)及び燃費基準と,新届出燃費値及び燃費基準は別紙6,7のとおりであるところ,いずれも旧届出燃費値の方が,新届出燃費値より1リットル当たりの走行距離が長い(すなわち燃費の良い)値である。例えば,16型eKワゴン(2WD,グレードM/M【e-Assist】,G/G【Safety

Package】)においては,旧届出燃費値(30.4

km/L)と新届出燃費値(25.8km/L)の差は4.6km/Lある。(甲共19の1~19の5)
また,一般社団法人日本自動車工業会が行った軽自動車の使用実態調査報告書によれば,平成27年度における軽自動車使用者の月間平均走行距離は,473kmであり,400km未満との回答が61%を占める一方,1000km以上との回答が8%存在し(乙共2),軽自動車検査協会が公表した軽自動車の平均使用年数は,平成27年の自家用乗用車について,14.03年であるとされた(甲共20の1・2)。

さらに,ガソリン1リットル当たりの価格は,平成27年~令和2年6月の間,東京都区部において,110円程度~150円台後半で推移している(甲共32)。
ただし,乗用自動車において,カタログに表示が義務付けられているエネルギー消費効率(燃費)は,JC08モードによって測定された値であると
ころ,これは,あらかじめ設定された試験条件に従った下で測定されたものであり,使用環境(季節,気温,道路の勾配,渋滞等),電装品(エアコン,カーナビゲーション,オーディオ機器等)の使用状況,運転方法(平均速度,アクセルの使い方等),整備状況(タイヤの空気圧等)により,実際の燃費とは異なり得るものである(乙共1)。
(2)

燃料費差額の試算(甲共19の2,20の1・2,32,乙共2)16型eKワゴン(2WD,グレードM/M【e-Assist】,G/
G【Safety

Package】)について,軽自動車の平均使用年数

である14.03年間,月間平均走行距離である473kmを走行した場合であって,ガソリン1リットル当たりの価格が130円であるとした場合の旧届出燃費値における価格と新届出燃費値における価格の差は,次のとおり,6万0710円(1年当たり約4327円)となる。
(計算式)
473km×12箇月×14.03年=7万9634km(小数点以下切捨て,以下同じ。)
7万9634km÷30.4km/L=2619L(旧届出燃費値)2619L×130円=34万0470円

7万9634km÷25.8km/L=3086L(新届出燃費値)3086L×130円=40万1180円
40万1180円-34万0470円=6万0710円
(3)
自動車関連税について
本件燃費偽装により生じた旧届出燃費値と新届出燃費値の差から生じるエ
コカー減税率の相違は,別紙6,7のとおりであり,自動車取得税及び自動車重量税の減税率に相違が生じているものが多数存在する。このうち,自動車取得税は,自動車の取得時に,自動車重量税は,検査(いわゆる車検)時に課されるものであり,これらの税金の減税率が,別紙6,7のエコカー減税率において新と記載された割合で減税されることとなる。(甲共19の1~19の5)
第2
1
争点に対する判断
争点(1)(被告三菱自動車に故意不法行為が成立するか否か)について(1)

原告らは,被告三菱自動車が,虚偽の燃費性能の記載されたカタログや
ウェブサイトを作成し,又は日産自動車に作成させた上で,被告三菱系販売店ら及び被告日産系販売店らをして,原告らに対し,これらを交付等させ,
本件車両を販売させた行為につき,故意の加害行為による不法行為が成立すると主張する。
(2)

しかし,本件において,そもそも被告三菱自動車が原告らが主張する不
法行為について,法人自らが行為主体となり組織的にこれを行ったものと認めることはできないというべきである。

原告らは,被告三菱自動車の代表者による故意があるとも主張するが,代表者に故意がある場合に法人が直ちに民法709条による責任を負うものではない。また,前記認定事実1(3),(4),(6),(7)によれば,本件燃費偽装は,被告三菱自動車の性能実験部及び認証試験グループの一部において行われたものであり,被告三菱自動車が法人自らが組織的に燃費偽装を推進して
いたとの事情がうかがわれないことからすると,被告三菱自動車の代表者に本件燃費偽装につき故意があるということはできない。その他,原告らの主張する事実(第2章の第3の2(1)イ(イ)a,b)を前提としても,被告三菱自動車の代表者において,本件燃費偽装につき故意があったということはできない。

したがって,原告らの,被告三菱自動車の故意の加害行為の主張については理由がない。
2
争点(2)(被告三菱自動車に使用者責任が成立するか否か)について(1)

原告らは,被告三菱自動車の被用者らが,事業の執行につき,燃費偽装
に関連して故意による加害行為に及んだと主張し,これにより原告らが損害を被ったと主張する。
(2)

原告らは,被告三菱自動車の被用者が法定の走行抵抗測定方法である
惰行法と異なる方法により走行抵抗測定を行い,法定の成績書(負荷設定記録)に虚偽の記載をし,走行抵抗を恣意的に改ざんし,机上計算で算出された数値のみを用いて走行抵抗とした各不正行為を行ったことにより,eKシリーズ,デイズシリーズのカタログ及びウェブサイトに虚偽の燃費性能
が記載され,これを国交省の定める測定方法等による燃費性能であると信じて原告らが本件車両を購入したことが損害であると主張するものである。
しかし,被告三菱自動車の被用者が走行抵抗を恣意的に改ざんするなどしたことが出発点となって,本件燃費偽装が行われたものであるとしても,こ
れらの被用者が被告三菱系販売店ら及び被告日産系販売店らの販売担当者らをして,原告らに対し,本件車両を販売させたということはできず,原告らの主張する被用者の加害行為と原告らの損害との間に相当因果関係があるとまではいえない。
したがって,被告三菱自動車が使用者責任を負うとの原告らの主張には理
由がない。
3
争点(4)(亡Jが消費者(消費者契約法2条1項)に当たるか否か)について
(1)

消費者契約法2条1項の消費者とは,個人(事業として又は事業の
ために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいい,個人事業者であっても,事業としてでもなく,事業のためではない目的のために契約の当事者となる場合には,消費者となり得るものである。
(2)

証拠(甲⑧-4,5)によれば,亡Jは,妻である原告8の1番が,主
に日常の家事に使用するため,本件車両(サクラピンクメタリック色)を購入したことが認められる。
以上によれば,亡Jは,主に妻の日常の家事に使用するため,本件車両を購入したことが認められ,亡Jの自らの事業として又は自らの事業のために本件車両を購入したものとは認められないから,亡Jは,本件車両の売買契約において,消費者に該当するというべきである。
4
争点(5)(消費者契約法4条1項1号に基づき本件車両に係る売買契約を取り消すことができるか否か)について
(1)

消費者契約法4条1項1号の不実告知による取消しの要件
消費者契約法4条1項1号は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,重要事項について,事実と異なることを告げたこと(不実告知)により,消費者が告知された内容を事実であると誤認し,それによって消費者契約の申込みの意思表示をしたときは,これを取り消すことが
できると規定する。

前記3において判断のとおり,亡Jは,消費者契約法2条1項にいう消費者に該当するものと認められ,その余の原告らについていずれも消費者契約法2条1項にいう消費者に該当すること及び被告販売店らは,いずれも同条2項にいう事業者に該当することについては,当事
者間に争いがない。そうすると,原告らと,各原告に対応する被告販売店らとの間の本件車両の売買契約は,いずれも消費者契約(同条3項)に該当するものと認められる。

上記イのほか,本件で問題となる同号の要件は,①事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,不実告知をしたか(勧誘及び不実告知
該当性)
,②告知された内容は,重要事項に当たるか(重要事項該当性),
③消費者が告知された内容を真実であると誤認したか,不実告知と誤認,誤認と消費者契約の申込みの意思表示との各間に因果関係があるか(因果関係の有無)であることから,以下,各要件の該当性について検討する。(2)

勧誘及び不実告知
消費者契約法4条1項1号の勧誘とは,事業者が消費者に対し,消費者契約の締結に際し,消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の消費者契約の締結に向けた働きかけを行うことをいい,事業者が,その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような媒体により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合もこれに含まれる。

前記認定事実4(2)イのとおり,原告16番については,カタログの交付を受けたこと,被告岩手三菱自動車販売株式会社の従業員から燃費値についての説明を受けたことについての立証はなく,これらの事実があったものとは認められず,消費者契約法4条1項1号の勧誘及び不実告知があ
ったとは認められない。

前記認定事実4(2)ウ及び証拠(丙○-1,丙共4の2・34頁,丙共20・2頁,丙共26,証人M)によれば,原告71番が購入した車両は,デイズルークスのライダーシリーズであること,一般の自動車は,型式指定制度を利用することにより,新規登録時の運輸支局への自動車の持
込みが省略されているが,ライダーシリーズは,いわゆる持込み車両であって,新規登録時に運輸支局に改造した車両を持ち込み,個別の検査を受けて新規登録を受けることが必要とされていること,そのため,ライダーシリーズのカタログ中の主要諸元欄には燃費値の記載はないことが認められる。

原告71番のアンケート(甲○-・1)には,原告71番は,被告販売店からカタログに記載された本件車両(デイズルークスのライダーシリーズ)の燃費値を確認し,燃費値を重視して本件自動車を購入したとの記載があるけれども,上記のとおりのライダーシリーズのカタログの記載内容に反し,採用できない。

以上によれば,原告71番は,被告販売店から,燃費値が表示されたカタログの交付を受けたものとは認められず,本件車両の売買契約の締結に際し,消費者契約法4条1項1号の勧誘及び不実告知があったとは認められない。

原告16,71番を除く原告らについては,前記認定事実2,4(2),(4),5(1)において認定のとおり,被告三菱自動車及び日産自動車は,国
土交通省の定める測定方法(J08モード)による算出値ではないにもかかわらず,同測定方法による算出値であるかのように表示として,カタログ及びウェブサイト(以下カタログ等という。)において,燃料消費率(国土交通省審査値)として,実際に国土交通省の定める測定方法により得られる燃費値より燃費率の優れた値を記載したこと,同原告ら
は,本件車両の売買契約締結までの間に,いずれも被告販売店らからカタログの交付を受け,又は被告販売店らの従業員の説明を受けることにより燃料消費率(国土交通省審査値)を認識したことが認められる。そして,被告販売店らの従業員から燃費値についての説明を受けた場合はもちろん,カタログの交付を受けたのみで本件車両の説明において燃費値の説
明を受けなかった場合であっても,消費者にとってはカタログ等の記載が唯一の情報源であり,カタログ等において具体的な燃費値が記載されていることからすると(前記認定事実2),その内容からして,通常の消費者であれば,カタログに内容は正しい数値であること,すなわち,国土交通省の定める測定方法による算出である燃費値が記載されているものと信頼
して売買契約を締結するか否かの意思決定の参考にするものと解される。以上によれば,原告16,71番を除く原告らについては,被告販売店らによるカタログの交付または被告販売店らの従業員による説明は,消費者契約法4条1項1号の勧誘に当たるものと認められる。
また,これらの事実を前提とすると,被告三菱自動車及び日産自動車の
カタログ等の燃料消費率(国土交通省審査値)の表示は,国土交通省の定める測定方法による算出値であるということを意味するものであるところ,国土交通省の定める測定方法による算出値ではないのに同測定方法による算出値であるかのように表示し,かつ,実際の国土交通省の定める測定方法による算出値よりも優良な数値を表示した点において,事実と異なるものであり,カタログ等の表示並びにこれを前提とした被告販売店らの従業員による説明を確認又は理解した者は,表示された値が国土交通省
の定める測定方法による算出値であり,かつ,実際の算出値よりも優良な数値であることについて,事実であるとの誤認を生じさせるものというべきである。
以上によれば,原告16,71番を除く原告らについては,被告販売店らによる燃費値が表示されたカタログの交付またはカタログ等の表示され
た燃費値を前提とした被告販売店らの従業員による燃費値の説明は,消費者契約法4条1項1号の不実告知に当たるものと認められる。
(3)

重要事項


消費者契約法4条1項1号の重要事項とは,消費者契約に係る
物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質,用途その他の内容(同条4項1号)等であって消費者の当該消費者契約を
締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの(同項柱書)をいう。ここで消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものとは,契約締結の時点における社会通念に照らし,当該消費者契約を締結しようとする一般的・平均的な消
費者が当該消費者契約を締結するか否かについて,その判断を左右すると客観的に認められるような当該消費者契約についての基本的事項をいうものと解される。

前記認定事実等によれば,本件燃費偽装の発覚後,国土交通省が被告三菱自動車に対し立入検査を実施し,また,消費者庁が,被告三菱自動車に対しては,ekシリーズなどについて,カタログ及びウェブサイトにおける燃費値の記載につき,景品表示法違反があるとして措置命令及び課徴金納付命令を行い,日産自動車に対しては,デイズシリーズについて,同様にして景品表示法違反があるとして措置命令を行う事態となったこと(前記認定事実1(10),(11)),軽自動車は,普通自動車に比べ,自動車税等の課税額が低額であることなどの理由により,車両の維持費を低額に抑えられることが一般に購入の一要素となり得るところ,燃料消費率が高いことは,車両の維持費を抑える要素となること(前記認定事実3,弁論の全趣旨),被告三菱自動車は,14年型eKワゴンの開発にあたり,燃費目標を達成するために恣意的な走行抵抗を算出し
たこと(前記認定事実1(6)),自動車公正競争規約においても,燃費につき公式テスト値を記載し,虚偽又は誇大な表示をすることが禁じられていること(前記認定事実2(3)),型式指定の申請書の添付書類の一つである諸元表において燃費について記載する必要があり,また,自動車のカタログに燃費を表示しなければならないこと(前記認定事実1
(1)),燃費が良いことは,経済的な観点のみならず,環境問題への配慮がされた車両であるという観点から購入の一要素となり得ること(証人G4頁,元原告43番H本人4,24頁)が認められる。
本件の不実告知の対象事項は,本件車両において,本件車両の燃費値という質に関わるものであるところ,前記事実のとおり,車両の燃費値
は,軽自動車を購入しようとする消費者にとって,経済的な観点のみならず,環境問題への配慮がされた車両か否かという売買において購入の一つの重要な要素であり,事業者である被告三菱自動車おいても,目標燃費値を達成することが車両の売上げ増に直結するものであるとして,車両の開発が行われていたことが認められる。これらの事情からすると本件車両の
燃費値は,本件車両の売買契約を締結しようとする一般的・平均的な消費者が本件車両の売買契約を締結するか否かの判断に通常影響を左右すると客観的に認められるような車両の売買契約についての基本的事項に当たるものといえる。
以上によれば,本件車両の燃費値に係る不実の告知表示は,消費者契約法4条1項1号の重要事項に当たるものと認められる。
(4)

因果関係
前記認定事実4(1),(2)によれば,原告ら(原告16,71番を除く。)は,被告販売店らから交付されたカタログ等又は被告販売店らの従業員の説明により,本件車両の燃費値が,国土交通省の定める測定方法による算出値であり,かつ,実際の算出値よりも優良な数値であるこ
とについて不実告知を受け,この内容を真実であると誤認したことが認められ,これによって本件車両の売買契約を締結したものと認められる。個別の原告らに対する因果関係等の認定は,別紙2-4(因果関係等に関する認定一覧表)記載のとおりである。
(5)ア

これに対し,被告販売店らは,カタログの交付・提示をもって一律に
契約の締結について勧誘をするに際し不実告知が行われたということはできないこと,カタログの交付や口頭説明についての主張立証が十分でないこと,本件車両は自動車の安全性や走行性能に問題がなく,燃費代差額と税金の追加負担分の補てんを受ければ契約の目的を達すること,燃料代差額は大きな金額ではないこと,カタログ上の燃費値は目安にすぎない
ことから重要事項に該当しないこと,原告らの不実告知と誤認,誤認と契約申込みのいずれの間の因果関係も立証されていないことなどを主張する。

しかし,前記認定事実4(2)によれば,原告ら(原告16,71番を除
く。)に対するカタログの交付や口頭説明についての事実が認められ,口頭説明のない原告らに対しても,カタログ等の記載によって勧誘をしたものと認められることは前記(2)において判断のとおりである。被告らは,原告らのアンケート回答(別紙8-1~8-3)では立証として不十分であると主張する。しかし,アンケートの質問事項のうち,カタログ交付の有無については,そもそも,販売店にカタログが存在すれば,車両を購入する顧客に対してこれを交付することが通常であると考えられること,本件訴訟提起時には,本件車両の売買から一定期間が
経過しており,交付を受けたカタログを保管していないとしてもやむを得ないと考えられ,カタログの提出がないからといって,カタログの交付がないということはできないこと,本件車両の購入にあたり重視した事情や燃費値を確認したかといった質問事項については,当該車両を購入した本人の能動的な思考又は動作であって,印象に残りやすい出来事
といえることから,アンケートへの回答についても,反証のない限り,相応の信用性が認められるというべきである。

重要事項について
実際の燃費値とカタログ値の違いによる経済的な損失として想定される
金額については,前記認定事実5のとおりであって,本件車両の本体価格と比較して多額とはいえないものの,具体的な金額の差異のみが重要事項の判断を基礎づけるものでないことは前記(3)において判断のとおりである。そして,金額の補てんによって契約の目的を達することができるかという点についても,燃費値が経済的な観点からのみ関心を持
たれるものではなく,環境面への配慮という面を有すること,国土交通省の定める測定方法により算出されたことに対する信頼された値であるという点においては,いずれも金額の補てんによって修復される問題ではない。
また,国土交通省の定める測定方法により算出された燃費値が実走燃費
値でないことは,カタログに記載されているとおりである(前記認定事実2)ものの,カタログ等によって燃費値を確認する消費者としては,国土交通省の定める測定方法により算出された燃費値が正確に記載されていることを前提として,実走の燃費値を想定したり,他車との比較を行ったりするものであることから,カタログ上の燃費値が実走の燃費値と異なることをもって,重要事項に該当しないということはできない。


因果関係について
被告販売店らは,本件において,不実告知と消費者の誤認及び誤認と本件車両の売買契約の締結のいずれにおいても因果関係の主張立証が不十分であり,個々の原告らがカタログの燃費値を見たかどうかが明らかでない
ことや,見たとしてこれにより本件車両の購入に至ったとは考えられないことなどを主張する。
しかし,国土交通省の定める測定方法により測定された燃費値との不実告知により消費者がこれを誤認したことが認められるのは,前記(2)において判断のとおりである。また,誤認と本件車両の売買契約締結との間の
因果関係については,前記認定事実4(2)のとおり,原告ら(原告16,71番を除く。)が燃費値を購入の考慮要素としたことが認められ,これが重要事項に該当する(前記(3))ことを踏まえると,誤認によって本件車両の売買契約締結に至ったものというべきである。被告販売店らは,原告らが燃費値以外の考慮要素を重視し,燃費値が契約締結に影響を与えて
いないことなどを主張するが,原告ら(原告16,71番を除く。)が燃費値以外の購入の考慮要素を併せて検討していた場合であっても,国土交通省の定める測定方法により算出された燃費値が重要事項に当たり,売買契約締結の判断に影響を及ぼすものといえることからすると,これが契約締結に与えた影響は大きいというべきであって,本件車両の購入に当
たり,燃費値以外の考慮要素があったことをもって因果関係が否定されることにはならない。
(6)

したがって,原告ら(原告16,71番を除く。)は,消費者契約法4
条1項1号により,本件車両に係る売買契約を取り消すことができる。5
争点(6)(被告販売店らに対して返還を請求することができる額)について(1)

前記4において判断のとおり,原告ら(原告16,71番を除く。以下
同じ。)は,被告販売店らに対し,消費者契約法4条1項1号に基づき,本件車両の売買契約を取り消すことができ,原告らは,被告販売店らに対し,不当利得返還請求権に基づき,既払金の返還を求めることができる。ただし,原告らが支払った金額は,前記認定事実4(4)のとおり,諸費用を含むものであるところ,諸費用には,原告らが被告販売店らに納付代行を
依頼し,既に履行が終了したものや,本件車両の保証サービスに関連する契約について支払われた費用等,様々な性質のものが存在する。このように,本件車両の売買契約に付随するものの売買契約とは異なる義務の履行のために給付された金銭については,その性質に応じ,被告販売店らに利得の存する限度で返還すべきものか否かを検討することが相当である。

(2)ア

自動車重量税(別紙9-1,9-2の⑮-1欄〔以下⑮-1

などと表記する。〕)及び自動車取得税(⑮-2)
被告販売店らは,自動車重量税及び自動車取得税の納税義務を負う原告らに代わって納税手続を行うために原告らから金銭を一時的に預かり,納税手続を行ったものである。したがって,被告販売店らは,自動車重量税及び自動車取得税の納税手続のために受領した金銭につき,利得が
なく,原告らは,被告販売店らに対し,これらの金銭の返還請求をすることができない。

自動車賠償責任保険料(⑮-3),検査登録(届出)手続費用(⑮-12),車庫証明手続費用(⑮-13),下取車諸手続費用(⑮-14),
ロードサービス関連費用(⑮-15),自家用自動車協会の会費(⑮-19),登録代行センターに支払う手数料(⑮-22のその他費目の一部)
被告販売店らは,本件車両の検査登録(届出)手続,車庫証明手続,下取車諸手続,一般社団法人日本自動車連盟(JAF)又は自家用自動車協会の入会手続,日本自動車販売協会連合会宮城県支部登録代行センターへの車両ナンバー登録代行依頼を行うにあたり,国その他の第三者に
対して納付又は支払をするため,原告らから一時的に金銭を預かり,手続を行ったものである。また,自動車賠償責任保険料については,原告らが保険会社に対して支払うべき保険料を被告販売店らが一時的に預かり,これを支払ったものである。したがって,被告販売店らは,これらの手続のために受領した金銭につき,利得がなく,原告らは,被告販売
店らに対し,これらの金銭の返還請求をすることができない。

収入印紙代
収入印紙代とは,本件車両の注文書が,検査登録(届出)手続代行等の役務提供に関する契約書を兼ねていることから,印紙税法上印紙税を課されたものであり,被告販売店らは,原告らから受領した印紙税を納税
により支出した。したがって,被告販売店らは,収入印紙代として受領した金銭につき,利得がなく,原告らは,被告販売店らに対し,これらの金銭の返還請求をすることができない。

リサイクル預託金及びリサイクル資金管理料金
使用済自動車の再資源化等に関する法律73条に基づき,自動車の所有者は,新車の購入時(最初の自動車登録ファイルへの登録時)等に,資産管理法人に対し,再資源化等預託金及び預託管理料金を支払うこととされており,被告販売店らは,本件車両の購入時に原告らから一時的に預かった預託金等を資産管理法人に支払った。したがって,被告販売
店らは,この手続のために受領した金銭につき,利得がなく,原告らは,被告販売店らに対し,これらの金銭の返還請求をすることができない。

消費税・地方消費税及び割賦手数料
被告販売店らは,原告らから受領した消費税・地方消費税(以下消費税等という。)を納税し,割賦手数料をクレジットカード会社に支払ったものであるが,消費税等及び割賦手数料は,主に本件車両の売買に
対して課され,又は売買代金の支払方法に関して生じるものであって,本件車両の売買代金と同一視できるものであり,また,消費税等については契約の取消しによる還付等の手続があり得ることからすると,これらの名目で受領した金銭については,原状回復の対象となるものと解するのが相当である。


検査登録(届出)手続代行費用(⑮-4),車庫証明手続代行費用(⑮-5),納車費用(⑮-6),下取車手続代行費用(⑮-7),下取車査定料(⑮-8),希望ナンバー申込手続代行料(⑮-11)
被告販売店らは,原告らとの間で,検査登録(届出)手続等の代行,納
車手続,下取車の査定,下取手続,希望ナンバー申込手続といった一定の役務を提供することの対価としてこれらの費用を受領し,役務を提供した。したがって,本件車両の売買契約の取消しにより,契約が遡及的に無効となった場合,被告販売店らは,原告らの支払った各費用を不当に利得したものとして,その返還義務を負い,原告らは,被告販売店ら
の提供した役務を不当に利得したものとして,その対価相当額について返還すべき義務を負うことになるが,その金銭評価額は,原告らの支払った各費用の代金となる。そして,前記認定事実4(4)イ,ウのとおり,被告販売店らの原告らに対する不当利得返還請求権と,原告らの被告販売店らに対する不当利得返還請求権は,対当額において相殺されたこと
から,原告らは,諸費用のうち検査登録(届出)手続代行費用,車庫証明手続代行費用,納車費用,下取車手続代行費用,下取車査定料,希望ナンバー申込手続代行料について,返還を請求することができない。キ
あんしんアップる保証保証料,持込登録手数料,ETC費(⑮-22のその他の費用の一部)
被告長野日産株式会社は,原告62番からあんしんアップる保証の保証料を受領し,車両取付商品及び無償修理サービスを提供した(丙○-1~3)。
被告日産プリンス福島販売株式会社は,原告71番から,陸運支局へ車両を持ち込んで検査登録を受ける手続を代行するため,持ち込み登録手数料を受領して手続を代行した(丙○-1)。本件車両の売買契約の取消しにより,契約が遡及的に無効となった場
合,上記各被告販売店らは,原告の支払った各費用を不当に利得したものとしてその返還義務を負い,原告らは,被告販売店らの提供した役務を不当に利得したものとして,その対価相当額について返還すべき義務を負うことになるが,その金銭評価額は,原告らの支払った各費用の代金となる。そして,前記認定事実4(4)エのとおり,被告販売店らの原告
らに対する不当利得返還請求権と,原告らの被告販売店らに対する不当利得返還請求権は,対当額において相殺されたことから,原告らは,諸費用のうちあんしんアップる保証保証料,持込登録手数料,ETC費について,返還を請求することができない。

メンテプロパック,追加保証
前記認定事実4(4)オによれば,被告販売店らは,原告らからメンテプロパック又は追加保証の費用として受領した金銭を,日産フィナンシャル又は日産自動車を通じて保険会社に支払ったものである。そうすると,被告販売店らは,メンテプロパック又は追加保証の費用について,原告らと
日産フィナンシャルの間又は原告らと日産自動車との間の合意によって支払われる金銭を一時的に預かり,支払を行ったものということができ,被告販売店らは,これらの費用として受領した金銭につき利得がない。したがって,原告らは,これらの金銭について返還請求をすることができない。
(3)

以上の認定判断によれば,原告らが被告販売店らに対して返還を請求す
ることができる金額のうち,諸費用の控除分は,別紙9-1,9-2の諸費合計欄記載のとおりとなる。(4)

利息の請求について
被告販売店らは,本件車両の売買契約取消日までは善意であるから,この
日までの利息の請求には理由がないと主張する。
しかし,そもそも,被告らは,売買契約の取消しにより,受領した代金に
ついて不当利得返還義務を負うところ,対価である商品に使用利益分の返還義務が課され,代金については利息が付加されることにより,原状回復が実現すると考えられる。そうすると,原告らは,売買代金支払日の翌日からの利息を請求できるというべきであり,この点についての原告らの主張には理由がある。

6
争点(7)(被告販売店らが使用利益の不当利得返還請求権を取得するか否か)について
(1)

使用利益を返還すべきか否かについて
売買契約により,一方に商品が,他方に代金(金銭)が交付されてそれぞれが移転したところ,売買契約が取り消された場合,取消しにより給付前の原状に回復させることを請求できるというのが各不当利得返還請求権の内容となる。そして,給付前の原状に回復させるためには,既に行われた給付とは逆向きの商品及び代金(金銭)の移転のみならず,商品及び代金(金銭)を保持している間に得られた利益を返還する必要がある。すな
わち,給付を受けてから契約が取り消されるまでの間,商品を保持していた者は使用利益を得,代金(金銭)を得た者はこれを運用する機会を得られたのであり,各自,給付を受けた商品又は代金(金銭)に,使用利益又は利息を付して返還すべきこととなる。

本件においては,契約取消後,原告らは本件車両を返還せず,被告販売店らは代金を返還していないところ,これは,原告らが占有権原なく本件車両を使用し,被告販売店らが代金相当額を支払う義務を負いつつこれを
保持するものといえる。このような契約取消後の状態からすると,原告らは使用利益につき,被告販売店らは利息につき,それぞれ法律上原因なく利益を得ていることから,それぞれ不当利得返還義務を負う。
(2)
使用利益の算定について


原告らは,いずれも自己又はその家族が日常生活に使用するものとして本件車両を購入し,使用しているところ,本件において,使用利益(対象物を通常の用法によれば収受できる利益)をどのように算定すべきかが問題となる。


この点,レンタカー代は,レンタカー会社が,利用者から,一定期間の自動車の使用の対価として収受するものであり,基本的には短期間の使用
が想定される上,車両維持費や営業利益など,使用の対価以外の要素を多く含んで高めに料金が設定されていることから,原告らの使用利益を算定する上で基準とすることは相当でない。

これに対し,カーリース代は,車両本体価格からリース期間満了後の車両価格を控除した額と,自動車税等の諸費用を足した総額を,リース月数で割った金額によって算出されるものであり(甲共30),使用の対価以外の要素を含んで設定されるものの,特定の顧客に対し,比較的長期間にわたって自動車を賃貸することが想定され,それを踏まえた料金体系が設定されている(車両リース契約である日産マイスリープランにおいては,
契約期間が3年又は5年とされている。乙共44の4)。このような点を踏まえると,原告らの使用利益の算定としては,カーリース代を基準としつつ,カーリース代の算定において使用利益以外の要素が含まれることを考慮し,カーリース代の7割をもって使用利益とすることが相当である。エ
証拠(乙共15~22,36,丙共29)によれば,原告らの購入した車両に対応した月額カーリース料金(5年契約,契約走行距離3万km)は,別紙10-1,10-2⑭リース料金(31日)欄記載のとおり
であり,1日当たりのリース料金は,これを31で除した額(小数点以下切捨て)である同別紙⑮リース料金(日)欄記載のとおりである。また,原告らの使用期間は,同別紙⑫車両引渡日欄から,本件口頭弁論終結時である令和2年7月31日まで(本件車両を売却済みの原告については,車両売却日まで)の日数として,同別紙⑬使用期間(日)欄に
記載した日数となる。

そうすると,各原告の使用利益の算定額は,別紙10-1,10-2の⑮リース料金(日)に,同別紙⑬使用期間(日)欄記載の日数を
乗じた金額である同別紙⑯カーリース料金に基づく使用利益額の7割に当たる同別紙⑰使用利益(認定)欄記載の金額となる。

(3)

原告らの主張について
これに対し,原告らは,本件車両に係る売買契約が取り消された場合であっても,被告販売店らが本件車両の使用利益の不当利得返還請求権を有しないと主張し,その理由として,民法189条又同法575条の類推適
用がされるべきこと,特に消費者契約法に基づく取消しについては,使用利益の返還義務を認めると,不当勧誘行為による給付の押し付けや事業者のやり得を認めることになり,違法行為を助長するなどと主張する。また,原告らは,仮に被告販売店らが使用利益について不当利得返還請求権を有するとしても,これをレンタカー代又はリース料を基準に算定する
ことは失当であることや,契約取消後の使用利益については,信義則上返還義務を認めるべきではないことを主張する。

しかし,民法189条は,契約関係のない所有者と占有者の関係において果実(使用利益)の収受に関する調整を図る規定であって,契約関係に基づき給付がされた場合における原状回復とは利益状況を異にすることから,同条により使用利益の返還義務がないということはできない。また,民法575条は,売買契約の履行が未了の場合に関して,代金と売買目的
物に主観的な等価関係があることを基礎として,利息請求権や果実償還請求権などの複雑な関係が生じることを避けるための規定であって,契約が取り消された場合の原状回復という,客観的な利益を返還すべき場面に妥当するものではない。したがって,同条を類推適用することはできない。(甲共29・5頁,乙共40・9頁参照)


次に,消費者契約法に基づく取消しについては,同法が,消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しについて,この法律の規定によるほか,民法及び商法の規定による(消費者契約法11条1項)ものとしていることからすると,消費者契約法に基づく取消しの効果について
は,同法の規定によるほかは,民法等の規定に委ねたものと解される。そうすると,使用利益の返還については,消費者契約法に特段の定めがないことからすると,民法の不当利得制度の規定によって解釈すべきであって,消費者契約法に基づく取消しであることをもって,直ちに消費者による使用利益の返還を否定することは妥当ではない。

また,売買契約の目的物の給付を受けた者は,目的物の使用を受ける利益を享受しているのであるから,売買契約の意思表示が,後に消費者契約法上の取消事由に該当するものとして取り消された場合であっても,そのこと自体によって,一律に,客観的に発生している使用利益の返還を信義則上否定すべきとまではいえないことから,使用利益の返還を認
めることが違法行為を助長するとの原告らの主張を採用することはできない。
このことは,平成28年法律第61条による改正後の消費者契約法6条の2において,取消権を行使した消費者の返還義務として,意思表示を取り消すことができることを知らずに事業者から給付を受けていた場合には,当該消費者契約によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負うものとされたことからも明らかである。すなわち,同条
は,消費者契約法による取消しの効力として,現存利益のみの返還義務を負うこととしたことによって消費者保護を図ったものであり,使用利益の返還までも否定したものではないからである。

使用利益の算定について,原告らは,レンタカー代やリース代を基準に算定することが失当であることを主張するが,車両の使用による対価とし
て,本件においてリース代の7割と算定する理由については,前記(2)ウにおいて述べたとおりであり,このような算定方法によることが,本件における客観的な使用利益の算定方法として適切である。

原告らは,不当利得の目的である公平の理念からすると,類型論によっても,消費者紛争の被害者である原告らに使用利益の返還を認めるべきではないとも主張する。
しかし,いわゆる給付利得の場合における不当利得返還は,契約における給付とは逆向きの給付をさせることにより原状回復を行うものであるから,この場合の利得について,当事者の帰責性,消費者保護,社会的
制裁等の要素を盛り込むことは相当ではなく,利得については客観的な財産的価値により判断すべきであり,これにつき返還を相当としない場合には,信義則上返還が制限されるかどうかを検討することが相当である。
これを本件についてみると,原告らは,被告三菱自動車による本件燃費
偽装の行われた車両を購入した者又はその相続人であり,本件燃費偽装により被害を被った者であるものの,不当利得返還請求権を行使する相手方は,被告販売店らであって,被告三菱自動車ではない。そして,被告販売店らは,本件燃費偽装が発覚するまでの間,本件燃費偽装の存在すら知らなかったのであるから(前記認定事実4(3)),当事者の帰責性や社会的制裁といった要素を考慮しても,被告販売店らによる使用利益の不当利得返還請求を制限することはできないというべきである。

7
争点(8)(被告日産大阪販売に,原告22番に対する不法行為が成立するか否か)について
(1)

後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。原告22番は,平成25年6月2日,被告日産大阪販売からデイズを1
84万2844円で購入し,その支払方法として,日産フィナンシャルとの間でいわゆる残価設定型クレジット(日産ビッグバリュークレジット)契約を締結し,最終の支払日を平成30年7月27日と設定した。原告22番は,平成28年5月25日,被告日産大阪販売に対し,本件燃費偽装を受けて本件車両の売買契約を取り消し,同年8月,日産フィナンシャル
に対して,ローンの支払を停止した。平成30年7月頃,被告日産大阪販売に対し,本件車両の引取りを要求した。ところが,被告日産大阪販売が本件車両の引取りに応じなかったことから,原告22番は,平成30年8月以降,本件車両につき月額7000円で駐車場を賃借して保管している。(甲㉒-4~7,丙㉒-1~3,証人I,原告22番本人)

(2)

原告22番は,被告日産大阪販売が本件車両の売買契約取消後に本件車
両の引取りに応じないことが不法行為に当たると主張する。
しかし,本件車両の売買契約の取消しにより,不当利得返還請求権として,原告22番に売買代金及び利息の返還請求権が,被告日産大阪販売に本件車両及び使用利益の返還請求権が発生するところ,原告22番は本件車両の返還を申し出たのみであって,同時履行の関係に立つ債務につき履行の提供をしたとはいえないことから,車両の引取りをしないことが違法とはいえない。
また,原告22番は,日産フィナンシャルとの間の残価設定型クレジット契約に基づき,被告日産大阪販売に車両の引取義務が生じ,これに応じないことが違法であるとも主張する。しかし,残価設定型クレジット契約において,被告販売店らが車両の引取りに応じるのは,据置額を除く分割支払部分
全額について,契約の約定どおり履行した場合である(丙㉒-1)ところ,原告22番は,平成28年8月以降,クレジット契約に基づく支払を停止したというのであるから,被告日産大阪販売に残価設定型クレジット契約に基づく本件車両の引取義務が発生するとはいえない。
したがって,原告22番の被告日産大阪販売に対する不法行為による損害
賠償請求については,理由がない。
8
まとめ
原告ら(ただし,原告16,71番を除く。)の被告販売店らに対する,消費者契約法4条1項1号に基づく本件車両の売買契約の取消しによる不当利得
返還請求は,次の範囲で認められる。
(1)

原告らの不当利得返還請求権
原告らは,被告販売店らに対し,本件車両の売買契約の取消しにより,既払金の返還を請求できる。具体的には,別紙2-1~2-3⑦支払済額欄記載の金員が,返還の対象となる。ただし,別紙2-3の原告58番は,本件車両を売却済みであることから,支払済額から売却代金額を控
除した金額が返還対象となる。

前記5(1)~(3)において判断のとおり,既払金のうち,利得のないもの及び役務相当額との相殺により消滅したものについては,各既払金から控除されることとなる。控除額は,別紙2-1~2-3⑧諸費用欄記載のとおりである。


また,前記5(4)において判断のとおり,各原告は,既払金から諸費用を控除した額につき,売買代金支払日の翌日から支払済みまでの利息の返還を請求することができる。ただし,別紙2-2①原告欄記載の各原告については,代金支払がクレジット会社との立替払契約により行われていることから,起算日を各原告の主張する同⑩取消日欄記載の各日の翌日とする。また,別紙2-3①原告欄記載の原告58番について
は,支払済額から諸費用を控除した額に対する売買代金支払日翌日から車両売却日までの利息及び,支払済額から諸費用及び車両売却代金を控除した額に対する,車両売却日翌日から支払済みまでの利息の返還を請求できる。
各原告の請求できる,口頭弁論終結時までの利息額は,別紙2-1⑩確定利息(代金支払日翌日~口頭弁論終結時)欄,別紙2-2⑪確定利息(取消日翌日~口頭弁論終結時)欄,別紙2-3⑫車両売却時までの確定利息欄及び⑭確定利息(⑬に対する⑩翌日~口頭弁論終結時)欄記載のとおりである。(2)

被告販売店らの不当利得返還請求権
被告販売店らは,原告らに対し,本件車両の売買契約の取消しにより,不当利得返還請求権として,引渡し済みの本件車両又は本件車両が売却済みの場合には代償金としての車両売却代金の返還を請求することができる(ただし,車両売却代金については原告58番において請求額から控除済みである。)。


また,前記6において判断のとおり,被告販売店らは,原告らに対し,原告らが本件車両の引渡しを受けた日から本件口頭弁論終結時まで(車両売却済みの場合は売却日まで)の本件車両の使用利益を請求することができる。その金額は,別紙2-1~2-3⑪使用利益欄記載のとおりである。


前記前提事実3(8)のとおり,被告販売店らは,令和2年7月31日の本件口頭弁論期日において,本件車両に係る使用利益の不当利得返還請求権をもって,各原告の本件車両の売買契約の取消しに係る既払金についての不当利得返還請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。自働債権の債権額は,前記6において判断のとおりであって,別紙2-1~2-3⑪使用利益欄記載の金額であり,受働債権の債権額は,
別紙2-1については⑨+⑩欄,別紙2-2については⑨+⑪欄記載の金額であり,別紙2-3については⑫車両売却時までの確定利息,⑬車両売却代控除,⑭確定利息(⑬に対する⑩翌日~口頭弁論終結時)の各欄記載の合計金額であり,その相殺適状時は,本件口頭弁論終結時(令和2年7月31日)と認められる。


そうすると,別紙2-1①原告欄記載の各原告については,⑦支払済額から⑧諸費用を控除した各金額(⑨小計)に,これに対する⑩確定利息を合算した金額から,⑪使用利益を控除した額
(⑫合計額)及びこれに対する令和2年8月1日から支払済みまで年
5分の割合による利息の支払が認められることになる。ただし,上記各原告の本件車両の返還義務と各被告販売店の金員の返還義務とは,民法533条の類推適用により同時履行の関係にあると解すべきであるから,各被告販売店は,本件車両の引渡しを受けるのと引換えに上記金員の支払義務を負うこととなる。

別紙2-2の①原告欄記載の各原告については,⑦支払済額から⑧諸費用を控除した金額(⑨小計)に,これに対する⑪確定利息を合算した金額から,⑫使用利益を控除した額(⑬合計額)がプラスとなる各原告60,75番について⑭認容額欄記載の各金額及びこれに対する令和2年8月1日から支払済みまで年5分の割合
による利息の支払が認められることになる。ただし,その余の原告3,5,8の1~8の5,9~11,13,14,22,38,39,41,42,47,61,62番については,原状回復による不当利得返還請求権の金額が使用利益を下回ることから,被告販売店らに請求できる金員はないことになる。また,上記と同様にして,上記各原告の本件車両の返還義務と各被告販売店の金員の返還義務とは,同時履行の関係にあると解すべきであるから,各被告販売店は,本件車両の引渡しを受けるのと引換え
に上記金員の支払義務を負うこととなる。
別紙2-3の原告58番については,⑦支払済額から⑧諸費用を控除した金額(⑨小計)に対する⑫車両売却時までの確定利息に,⑨小計から⑪車両売却代金を控除した額及びこれに対する車両売却日の翌日からの確定利息(⑭確定利息)を加え,ここから⑮使用利益を控除した額(⑯合計額)及びこれに対する令和2年8月1日から支払済みまで年5分の割合による利息の支払が認められることになる。
第3

結論
以上によれば,原告らの請求についての結論は,以下のとおりとなる。
1
被告三菱自動車に対する請求
原告らの被告三菱自動車に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。

2
被告販売店らに対する請求
(1)

別紙2-1①原告欄記載の各原告の当該各原告に対応する同別紙
②被告欄記載の各被告に対する請求は,本件車両の引渡しを受けるのと引換えに,同別紙⑫合計額記載の金員及びこれに対する令和2年8月1日から支払済みまで年5分の割合による利息の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却する
(2)

別紙2-2の原告60,75番の当該各原告に対応する同別紙②被告欄記載の各被告(神奈川日産自動車株式会社及び日産プリンス神奈川販売株式会社)に対する請求は,本件車両の引渡しを受けるのと引換えに,同別紙⑭認容額記載の金員及びこれに対する令和2年8月1日から支払済みまで年5分の割合による利息の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却する。
(3)

別紙2-3の原告58番の被告帯広日産自動車株式会社に対する請求
は,44万0882円及びこれに対する令和2年8月1日から支払済みまで年5分の割合による利息の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却する。
(4)

その余の原告ら(原告3,5,8の1~8の5,9~11,13,1
4,16,22,38,39,41,42,47,61,62,71番)の
当該各原告に対応する別紙2-2②被告欄記載の各被告に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。
3
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第19民事部

裁判長裁判官

田口治美
裁判官

甲元依子
裁判官

丸林裕矢
(別紙はいずれも掲載省略)

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