事件番号 | 平成30(行コ)276 |
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事件名 | 法人文書開示決定の不開示処分取消請求控訴事件 |
裁判年月日 | 令和2年6月30日 |
裁判所名 | 東京高等裁判所 |
裁判日:西暦 | 2020-06-30 |
情報公開日 | 2021-03-16 14:00:41 |
平成30年(行コ)第276号法人文書開示決定の不開示処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成29年(行ウ)第411号) 主1 本件控訴を棄却する。 2文 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人が平成29年3月3日付けで控訴人に対してした法人文書一部開示決定(年機構発第〇号)のうち原判決別紙2障害認定医一覧表の認定医氏名欄及び勤務先(所属)欄を不開示とした部分を取り消す。 3 被控訴人は,控訴人に対し,原判決別紙2障害認定医一覧表の認定医氏名欄及び勤務先(所属)欄を開示する旨の決定をせよ。 第2 事案の概要(略語は,特に断りのない限り,原判決の例による。以下同じ。) 1 本件は,社会保険労務士である控訴人が,日本年金機構法に基づいて設立された特殊法人である被控訴人に対し,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律 (平成28年法律第51号による改正前のもの。 法人等情報公開法) 3条に基づき, 埼玉事務センターが行う障害基礎年金の認定,審査に係る医師の名簿及び各医師の診療科,所属医療機関についても記載されたものを対象文書(本件対象文書)とする法人文書の開示請求(本件開示請求)をし,平成25年12月2日付けで全部不開示とする旨の決定(以下本件全面不開示決定という。)を受けた後,同決定に対し異議申立てをしたところ,平成2 9年3月3日付けで同決定が取り消され,同日付けで改めて一部開示決定(本件一部開示決定) を受けたことから, 本件一部開示決定のうち原判決別紙2 障害認定医一覧表 (本件一覧表)の認定医氏名欄及び勤務先(所属)欄 の部分(本件部分)を不開示とした部分の取消し及び本件部分の開示決定の義務付けを求める事案である。 原審は,本件訴えのうち,本件部分の開示決定の義務付けを求める部分を却下し,本件一部開示決定のうち本件部分を不開示とした部分の取消しを求める請求を棄却したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。 2 関係法令等の定め 本件に関係する法令等の定めは,別紙関係法令等の定めに記載のとおりである。 3 前提事実及び争点 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)及び争点は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決の事実及び理由中の第2事案の概要 (以下原判決第2という。 )の 2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決2頁21行目末尾の次に改行して次のとおり加える。 (1)被控訴人は,平成22年1月1日に日本年金機構法(以下「機構法 という。 )の施行により成立した法人であり(機構法附則1条,7条) , 従来は国(厚生労働省の外局であった社会保険庁)が行っていた事業のうち,政府が管掌する厚生年金保険事業及び国民年金事業に関し,厚生労働大臣の監督の下に,厚生労働大臣と密接な連携を図りながら,厚生年金保険法及び国民年金法の規定に基づく業務等を行うものとされている(機構法1条) 。 (2) 障害認定審査医員(以下障害認定医といい,文脈に応じて当該認定医ともいう。)は,国民年金,厚生年金保険及び船員保険に係る給 付並びに特別障害給付金の裁定等に係る障害の程度の認定事務 (以下 障害認定に係る業務という。 )のうち,医学的事項に係る審査(以下障害認定医の業務ともいう。)を行う医師であって,被控訴人との間で業 務委託契約を締結しているものであるが,その地位等について法令の定めはなく,現在の障害認定医の名簿は官報又は被控訴人のウェブサイト等において公表されていない。 (3) 国の各府省によって構成される 情報公開に関する連絡会議 におい て,平成17年8月3日付けで各行政機関における公務員の氏名の取扱いについてと題する次の申合せ (以下 平成17年申合せ という。 ) がされた(乙1) 。 ア 各行政機関における公務員の氏名については,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下行政機関情報公開法という。 )の適 正かつ円滑な運用を図る観点から,以下の統一方針にのっとって取り扱うものとする。 イ 各行政機関は,その所属する職員(補助的業務に従事する非常勤 職員を除く。)の職務遂行に係る情報に含まれる当該職員の氏名については,特段の支障の生ずるおそれがある場合を除き,公にするものとする。なお,特段の支障の生ずるおそれがある場合とは,①氏名を公にすることにより, 行政機関情報公開法5条2号から6号ま でに掲げる不開示情報を公にすることとなるような場合,②氏名を公にすることにより,個人の権利利益を害することとなるような場合をいう。 ウ 上記取扱方針に基づき行政機関が公にするものとした職務遂行に係る公務員の氏名については,今後は,行政機関情報公開法に基づく開示請求がされた場合には, 慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報 (行政機関情報公開法5条1号ただし書イ) に該 当することとなり,開示されることとなる。 (4) 控訴人が平成21年に障害認定医の名簿の開示請求を行ったところ, 埼玉社会保険事務所において,同年10月5日付けの行政文書開示決定 により,氏名,勤務先・所属(所属の役職を含む。以下同じ。 )及び専門 分野を記載した 国民年金障害認定審査医員名簿 が開示された (甲9, 10)」 。 (2) 原判決2頁22行目冒頭の(1)を(5)に,3頁1行目冒頭の(2) を(6)に,同頁5行目の(3)を(7)に,同頁12行目の障害認定審査医員(国民年金から同頁15行目の締結しているもの)までを障害認定医に,同頁19行目の(4)を(8)にそれぞれ改める。(3) 原判決3頁22行目の本件部分に記録されている情報の次に(以下「本件情報という。」を加え,同頁24行目の本件部分に記録されてい)る情報を本件情報に改める。4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(本件情報の法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報 該当性)について (被控訴人の主張) ア(ア) 障害認定医の氏名や勤務先・所属 (以下 氏名や勤務先等 という。 ) が開示された場合には,これらを知った障害年金の裁定請求者又はその家族や代理人等が,当該認定医に対して当該裁定請求者に有利な意見を出すよう働き掛けたり,当該裁定請求者に不利な意見を出した障害認定医に対して有利な意見を出すよう働き掛けたり,いわれのない誹謗中傷を行ったりすることも十分に考えられる。 現在も,障害年金の裁定請求者又はその家族や代理人の社会保険労務士から医師に対し診断書の記載等に関する働き掛けが現に行われており,障害認定医の氏名や勤務先等が公表されると,障害認定医を兼務する医師に対する診断書作成に対する働き掛けがこれまで以上に強くなり,その結果,公正な診断書の作成を阻害することにもなりかねない。また,実際に,障害認定医の氏名を知った某医師が,特定の勤務医で ある障害認定医の氏名を明らかにして誹謗中傷し,当該認定医の診療等について情報提供を求める呼び掛けを行い,被控訴人における障害認定に係る業務に支障を来すという事態が発生したことがあった。 障害認定医でもある医師が,本来業務としての診療行為とは別に,被控訴人からの要請に応じて,本来業務の傍らで障害認定医の業務を受託している場合において,本来業務の診療行為に対する批判や苦情を甘受することは許容できるとしても,氏名や勤務先等の開示によって,本来業務でない障害認定医の業務に関する批判や苦情までも受けることになるのであれば,そのような批判や苦情を受けてまで障害認定に係る業務に協力する意味がないとの考えに至ることは至極当然であり,その結果障害認定医を辞退するという者が一定数存在する蓋然性につながる。(イ) また,障害認定医の氏名を開示したことにより,障害認定医から業 務委託契約を解除したいとの要請があったことや,被控訴人の業務や障害認定医の本来業務である診療に支障を及ぼす事態になったこともある。 現状においても,障害認定に係る業務の業務量に見合った障害認定医が十分に確保できているわけではない中で,被控訴人が実施した調査によれば,障害認定医の氏名や勤務先等が開示されることによって一定数の障害認定医が同時期に辞任を申し出ることが確実に見込まれ,他方で,前任者からの紹介や関係団体からの推薦を得られず,後任の障害認定医を速やかに確保することが困難となり,本来必要な障害認定医の人数を下回るようなことになれば,障害認定に係る業務が滞るなど,当該業務の継続的な遂行に支障が生ずることは明らかである。一部の者に対する調査であっても,氏名や勤務先等が開示されることによって辞退を申し出る障害認定医が一定数存在するのであれば,調査をしていない障害認定医の中にも同様の意見を持つものが一定数存在する蓋然性は否 定できない。 (ウ) これらの状況や障害認定医からの要請等を踏まえ,被控訴人と障害 認定医との間の業務委託契約には,障害認定医の特定につながる情報を明らかにしてはならない旨の定めが置かれている。 イ したがって,本件部分に記録されている障害認定医に係る情報は,それを公にすることにより,障害認定医個人に対し,認定結果に係る判断理由を強く問いただす等の不当な働き掛けが行われる可能性が極めて高くなり,障害認定医の公正中立な業務の遂行に支障が生ずるだけでなく,不当な働き掛けを受けることを憂慮した障害認定医が辞退を申し出ること等により,障害認定医の確保にすら支障が生ずるおそれも高くなることは明らかである。 よって,本件情報は,法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報に該当する。 ウ(ア) 以上に対し,控訴人は,石綿確定診断委員会の委員(厚生労働省が 独立行政法人労働者健康福祉機構に委託している石綿確定診断等事業を所掌する委員会の構成員である医師)の氏名及び地方労災医員(労災医員規程(平成13年厚生労働省訓第36号)により,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病等に係る診断・治療等に関し,都道府県労働局長が委嘱する医師)の氏名が開示されているのは,これらを開示しても業務に支障が生ずるおそれが認められないからであると主張するが,石綿確定診断委員会の委員の氏名は,開示しない扱いをする都道府県労働局も多く,統一的に開示される扱いとはなっておらず,また,地方労災医員は,障害認定医と異なり非常勤の国家公務員という立場であることからその氏名を開示しているのであって,控訴人が主張するように氏名の公表によって働き掛けや誹謗中傷がされる事態になっているにもかかわらず氏名を開示しているものではなく,地方労災医員と障害認 定医とではその職務権限や地位も異なる。 (イ) また,控訴人は,過去に障害認定医の氏名等を開示した事例が存在 し,開示による弊害があったとは認められない旨を主張するが,社会保険庁時代や被控訴人成立当初とそれ以降とでは,障害年金に対する社会的関心の度合いに違いがあり,障害等級の認定等に関しても様々な報道がされ,厳しい意見もある昨今の社会情勢においては,障害年金を取り巻く環境は一変していると言っても過言ではない。 このように, その時々 の事情が変われば,障害認定医の氏名や勤務先等の開示に関する判断も変わることはあり得る。 社会保険庁時代及び被控訴人成立後平成25年6月頃までの間においては障害認定医の氏名等は開示されていたが,被控訴人において,開示請求に際し,障害認定医に対してその氏名を開示していることを周知していなかったため,その当時において障害認定に係る業務に支障を来すかどうかについての障害認定医の意見は把握していなかった。 ところが,その後,個別の開示請求に際してその氏名が開示されていることを知った障害認定医から早急にその職を辞任したい旨の申出を受けたことや,障害年金を不支給とされた者が,自身の不支給決定に係る見解を尋ねるべく,開示されている情報を基に,厚生労働省の検討会の委員に就任した障害認定医を特定して,当該認定医が勤務している医療機関を直接訪問し,当該認定医から今後の契約更新の際には受託を辞退したい旨の申出を受けたことがあったため,被控訴人は,障害認定医の氏名等を開示することは的確な障害認定に係る業務の継続的な遂行に支障を生ずる要因となり得ることを認識するようになったものであり,併せて,被控訴人成立後に障害認定医の氏名等を開示していた取扱いが法令の解釈を誤っており,その氏名等は不開示情報として扱うべきことを認識するに至ったことから(後記(2)イ(被控訴人の主張)(イ)参照), その取扱いを改め,平成25年12月2日の本件全面不開示決定において氏名等を不開示とすることとしたものである。 エ なお,控訴人は,法人等情報公開法5条4号柱書きは,行政機関情報公開法5条6号柱書きの趣旨に準じて解釈すべきであるとして,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるか否かの判断においては,人の生命,健康,生活又は財産の各利益を保護するために当該情報を公にする必要があるか否かを考慮要素の一つとして勘案すべきである旨を主張するが,障害認定医の氏名や勤務先等の開示の有無が障害年金の請求方法やそれを通じて障害年金の支給の可否の判断に影響が及ぶとする控訴人の主張は,それを裏付ける根拠が不明であり,本件情報は,「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」には該当しないから, そもそも公益的な開示の必要性 (利 益)は認められない。 オ また,控訴人は,法人等情報公開法7条について,開示されるべき情報を独立行政法人等の裁量によって不開示とすることは裁量権の範囲の逸脱となる旨を主張するが,同条の適用に際して問題となるのは,独立行政法人等が不開示事由に該当する情報をその裁量により公益上の必要性があるとして開示した場合に,その開示したことに裁量権の範囲の逸脱があるかどうかであるから,控訴人の上記主張はその前提を誤っている。 (控訴人の主張) ア(ア) 被控訴人の前身である社会保険庁は障害認定医の名簿を開示請求 により開示するなど,本件情報は,かつては慣行として開示請求がされれば開示されていた情報であったほか,平成22年1月1日時点の障害認定医の名簿(甲11)や平成25年4月1日時点の障害認定医の名簿(甲12)は,現在もインターネット上で公表されている。そうである以上,被控訴人が主張するような弊害があったとは認められないし,専 門性と経験が共に備わった医師が障害認定医として判断している限りにおいては,有形無形の働き掛けが行われる余地はない。 (イ) そして,審査を担当する医師の氏名を公表することにより業務に支 障が生ずるとすれば,そのような支障が生ずるのは障害認定医に限られるものではないというべきであるが,石綿確定診断委員会の委員や地方労災医員の氏名は開示されているから,障害認定医のような審査を担当する医師の氏名を公表したとしても当該事務又は業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認め難い。被控訴人は,障害認定医の氏名や勤務先等を開示する取扱いが誤りであったなどと主張するが, そのような開示の取扱いは何ら誤っておらず, そのような開示による弊害も生じていなかった。また,被控訴人は,地方労災医員と障害認定医は職務権限が異なる旨も主張するが,実質的に障害年金の受給要件の存否を判断するのは障害認定医であるから,被控訴人の立論は単なる形式論にすぎない。 (ウ) さらに,被控訴人は,障害認定医に対する誹謗中傷の事例があった と主張するが,当該事例の具体的内容に照らせば,誹謗中傷に当たるものではない。また,障害認定医から業務委託契約の解除の申入れが1件あったと主張するが,全国で8万件程度ある裁定請求の審査を障害認定医が行っていて,僅かに1,2件だけ障害認定医に面会を求めた者がいたからといって,それをもって当該事務又は業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるものではないし,そのような事象が生ずるのは,裁定請求に対する処分として請求を認めない場合の被控訴人の通知書に問題があるからであり,そもそも専門家であれば第三者からの批判にさらされることは当然に甘受すべきものである。 イ(ア) 加えて,被控訴人と障害認定医との契約において,障害認定医の特 定につながる情報を明らかにしてはならない旨の条項が加えられたのは 平成29年2月3日であるから,同条項をもって,それ以前にされた本件開示請求に対する不開示の理由にすることはできない。 (イ) しかも,障害認定医の中に名簿を開示するのであれば障害認定医を 辞するとの意見を述べた者がいるとしても,少なくとも平成25年当時に203名はいた障害認定医の中の何人かが,反対の意見を述べ,場合によっては障害認定医を辞退するとしているにすぎず,その理由すら明らかではないから,これをもって,障害認定医に就任することを応諾する者が減少するとも,障害認定に係る業務の継続的な遂行に支障が生ずるともいえない。 ウ また,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるか否かの判断においては,人の生命,健康,生活又は財産の各利益を保護するために当該情報を公にする必要があるか否かを考慮要素の一つとして勘案すべきであるところ,厚生労働大臣は,被控訴人に障害等級認定業務を委託しており,実際の障害等級認定業務のうち,専門的知見を有することとなる初診日及び障害の程度の判断は,障害認定医の意見に より,他の要件が認められれば,被控訴人において障害等級認定業務の結果としてこれを厚生労働省に報告することになるのであり,年金受給権者の生存権の保障にも等しい年金受給権の得喪については,認定医が誰でどのような専門分野のどれほどの経験のある医師であるかということは極めて重要な意味を有することとなり,障害認定医の判断は,障害年金を受給しようとする者やその認定を更新しようとする者にとっては,年金を受給できるか,どの程度の障害と認定され,年金が幾ら支給されるかという問題,すなわち障害者の財産と生命に関わる問題である。 他方,現状の被控訴人の運用においては,障害年金申請者の裁定請求に対し,当該申請者から提出された診断書等の問題点がどこにあるのかを示すことなく,極めて簡単な理由のみを付して請求を却下する又は等級を下げるという判断が行われている。そのため,何が争点であるかが明らかでないまま審査請求や再審査請求を行わざるを得ず,特に従前は2級の認定がされていたのに何一つ障害の状態が変更されていないにもかかわらず等級を下げられる場合は深刻であり,そのような認定の根拠を障害認定医に確認したいと考えることは何ら不相当なことではない。このような事情に照らせば,障害認定医の氏名等の開示につき当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると解することはできない。 エ なお,厚生労働大臣には,行政の長として,障害年金の裁定請求に対する処分権者としての説明責任があるから,その判断の根拠となった資料や意見があるのであれば,これらをも明らかにするのは当然のことである。厚生労働大臣が意見を求める相手方である障害認定医の氏名や勤務先等の情報については, 法人等情報公開法7条にいう 公益上特に必要がある と認められる場合に当たるというべきであり,実際に障害認定医を採用し,その意見を徴求しているのが被控訴人である以上,これを開示しないことは裁量権の範囲を逸脱したものというべきである。 (2) 争点(2)本件情報の法人等情報公開法5条1号所定の不開示情報該当性)( について ア 法人等情報公開法5条1号本文該当性について (被控訴人の主張) (ア) 本件一覧表に記録されている情報のうち認定医氏名,契約書住所及び生年月日の各欄に係るものは,それ自体が特定の障害認定医個人を識別することができる情報であるし,勤務先(所属)及び連絡先電話番号の各欄に係るものは,他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができることとなる情報であるから,本件情報は法人等情報公開法5条1号所定の個人識別情報に当たる。(イ) 控訴人は,本件情報は法人等情報公開法5条1号の個人識別情報か ら除かれる事業を営む個人の当該事業に関する情報に該当するから同条1号の適用はないと主張する。しかし,仮に障害認定医が個人開業医である場合,その医師にとっての当該事業とは自らが開設する医療機関における診療であり,障害認定医の業務についての情報である本件情報は, 事業を営む個人の当該事業に関する情報には当たらない。 なお,障害認定医が勤務医である場合,本件情報は,法人等の代表者又はこれに準ずる地位にある者に関する情報ではなく,当該法人のために行う契約の締結等に関する情報でもないから, 同条2号の対象である 法人その他の団体に関する情報には当たらない。したがって,本件情報は, 法人等情報公開法5条1号所定の個人識別情報に当たるものである。(控訴人の主張) 医師は,専門職としての資格を有し,病院に勤務することもあれば,自身で医院等を経営することもできる者であり,その意味では事業を営む個人という側面を有しており,障害認定医は,被控訴人が主張する業務委託契約を締結する契約主体となって,医師として業務を行い,報酬を得ている。本件の業務委託契約書(乙7)の記載も,勤務形態によらず,医師という国家資格に基づいて,業務を行い,報酬を得ていることを示すものである。したがって,本件情報は,事業を営む個人の当該事業に関する情報(法人等情報公開法5条1号本文括弧書き)に当たり,法人等情報公開法5条1号本文所定の不開示情報に該当しない。 なお,本件情報は,同条2号本文の事業を営む個人の当該事業に関する情報に該当することになるが,同号本文イ及びロの要件を満たさず,同号ただし書の人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報でもあるから,同条2号所定の不開示情報にも該当しない。 イ 法人等情報公開法5条1号ただし書イ該当性について (被控訴人の主張) (ア) 障害認定医は,国家公務員ではなく,業務委託契約に基づき被控訴 人から業務の委託を受けている受託者にすぎない(なお,医療専門役である障害認定医は被控訴人の職員であるが本件対象文書には含まれていない。)から,平成17年申合せの適用はなく,また,被控訴人が障害認定医の氏名や勤務先等を官報や被控訴人のウェブサイト等において公表している事実はないから,本件情報(障害認定医の氏名や勤務先等)は,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報とはいえない。 (イ) 控訴人は,過去の開示請求に対して国民年金障害認定医員名簿が氏 名や勤務先等及び専門分野が記録された形で開示されていたことから,本件情報は慣行として公にされている情報であると主張する。 しかし,①社会保険庁時代には,障害認定医が平成17年申合せの対象となる各行政機関の公務員であることを前提に,同申合せに基づき,障害認定医の氏名や勤務先等は慣行として…公にすることが予定されている情報に該当するとの理解の下で開示がされてきたが,被控訴人の成立後においては,障害認定医は業務委託の委託先となり各行政機関の公務員に該当しなくなったことから,開示の根拠となっていた慣行の前提が失われている。また,②被控訴人の成立後平成25年6月頃までの間,障害認定医の氏名が開示されていたが,これは,障害認定医が公務員等に含まれる者として平成17年申合せの適用を受けるという誤った認識を前提に法の適用を誤ったことによるものであり,法の適用に誤りのある取扱いで事後的に修正されたものについて,修正される前の誤った取扱いが存在したことのみを捉えてその取扱いが慣習化していたとはいえない。さらに,③社会保険庁の時代に障害認定医の氏名や勤務先等が開示されていたとしても,現在ではこれらは誰でも知り得る状態に置かれている情報ではない。 そして,被控訴人がかつて障害認定医の氏名を開示していたのは,当時は障害認定医の氏名を公にしても障害年金の認定事務等に支障が及ぶような事態は生じないと考えられていたからであるところ,前記(1)(被 控訴人の主張)のとおり,障害認定医の氏名を開示したことにより被控訴人の障害認定に係る業務や障害認定医の本来業務である診療に支障が生じた事案があったことや,個別に開示請求に際して自らの氏名が開示されていることを知った障害認定医から早急にその職を辞任したい旨の申出を受けたことなどを踏まえ,その後はこのような取扱いをしていない。なお,障害認定医がいかなる受託業務を担っているかは,上記慣行が存するか否かとは関連しない。したがって,本件情報は,法人等情報公開法5条1号ただし書イ所定の法令の規定により又は慣行として公にすることが予定されている情報には当たらない。(ウ) 以上に加え,控訴人は,石綿確定診断委員会の委員の氏名や地方労 災医員の氏名が開示されていると主張するが,石綿確定診断委員会意見書における委員の氏名は, 開示しない扱いをする都道府県労働局も多く, 統一的に開示される扱いとはなっておらず,また,地方労災医員は,障害認定医と異なり非常勤の国家公務員という立場であることからその氏名を開示しているものであるから, いずれも障害認定医について上記 慣行が存在することの根拠となるものではない。 (控訴人の主張) (ア) 障害認定医の氏名については,被控訴人の前身である社会保険庁が 平成17年申合せに基づき慣行として公にされ,または公にすることが予定されている情報として障害認定医の名簿を開示請求により開示した事例があるなど,慣行として開示請求がされれば開示されていた情報であったほか,平成22年1月1日時点の障害認定医の名簿や平成25年4月1日時点の障害認定医の名簿は現時点においてもインターネット上で公表されていることからすれば,本件情報は,法人等情報公開5条1号ただし書イ所定の慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報に該当する。(イ) 被控訴人は,障害認定医が社会保険庁時代は国家公務員であったが 被控訴人の成立後は非公務員となったことを強調して,開示の慣行の存続を否定するが,障害認定医の業務の有する権限と責任は極めて重大なものであり,その業務内容に変更がない以上,社会保険庁時代の慣行は維持・継続されるものと解すべきである。また,仮に被控訴人の主張するように社会保険庁時代に障害認定医の氏名や勤務先等を開示していた取扱いが誤ったものであったとしても,平成17年申合せに基づいて開示されてきた情報である以上,本件情報を公にすることは慣行として成立していると解するべきである。さらに,機構法が,公的年金制度に対する国民の信頼を確保するために社会保険庁を廃止し改組するものとして定められている以上,公的年金制度の運営業務の一部を受託している被控訴人の業務についても,国民の信頼の確保が求められており,説明責任を果たすための情報公開は,広く求められることこそあれ,従前の取扱いを狭められるというのは被控訴人が創設された趣旨に反するものである。したがって,運営主体が国家機関から独立行政法人に変わったという一事をもって,慣行としてされてきた取扱いを変更することが認められると解すべきではない。 (ウ) 加えて,石綿確定診断委員会の委員の氏名及び地方労災医員の氏名 が開示されている。また,情報公開・個人情報保護審査会の過去の答申において,社会保険診療報酬支払基金審査委員会の審査委員の氏名については, 審査委員が社会的責任の大きい高度な専門職の地位にあること, 診療報酬請求について直接にその審査を担当してその適否等を公正中立に判断すべきことが求められていること,重要な地位を占める存在であり公的性格の強い立場にあること等を理由に,法令の規定により又は慣行として公にすることが予定されている情報に該当するとされており,これは障害認定医にも共通する。 (エ) したがって,本件情報は,法人等情報公開法5条1号ただし書イ所 定の情報に該当する。 ウ 法人等情報公開法5条1号ただし書ロ該当性 (被控訴人の主張) 法人等情報公開法5条1項ただし書ロに該当する情報は,当該情報を公にしないことにより,人の生命,健康,生活又は財産に直接影響の及ぶ情報であることが想定されているところ,本件情報は,仮に開示されたとしても,それにより障害年金を受給すべき者に対する年金の支給に何ら影響が及ぶわけではないから,法人等情報公開法5条1号ただし書ロ所定の人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報に該当しない。一般に,医師の専門領域や経験年数等の情報は,職務の遂行能力の程度を判断するために有用であることは事実であると思われるが,控訴人の請求は,氏名等の障害認定医個人を特定する事項を内容としており,その部分は当該法益を超えた無関係な情報である。また,障害認定に係る業務の実施体制の確保は,その方針を決定する国(厚生労働省)及びそれを執行する被控訴人の責務であるところ,障害認定医の氏名等の個人情報を含む情報を第三者に開示することが直接そのことに結び付くという因果関係にないことは明らかである。 (控訴人の主張) 障害認定医の判断一つで障害年金を受給できるか否かが決せられ,他方,障害者の疾患について専門的知見を有しない障害認定医が誤った判断をしているのではないかと疑義を抱かせる事案が複数ある現実を踏まえると,被控訴人が選任する障害認定医が,いかなる経歴を有し,いかなる専門的知見を有しているかは,障害年金申請者が人として生活を営んでいくために必要な資金を年金という形で受給できるか否かという障害年金申請者の生活全般に関わるものであり,国民共通の利害と関心の対象といわざるを得ない。したがって,本件情報(障害認定医の氏名や勤務先等)は,障害者の生活を保護するために公にすることが必要である情報というべきであり,法人等情報公開法5条1号ただし書ロ所定の情報に該当する。 エ 法人等情報公開法5条1号ただし書ハ該当性 (被控訴人の主張) 障害認定医は,業務の受託者にすぎず,被控訴人との間に雇用関係はなく被控訴人の非常勤職員ではないから,公務員等とはいえない上,そこで行われる職務は被控訴人における職務ではないから,本件情報は法人等情報公開法5条1号ただし書ハ所定の 当該個人が公務員等…である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分には該当しない。 障害認定医は,厚生労働大臣からその裁定に必要な事務(障害認定に係る業務)の委託を受けた被控訴人から更に医学的事項の審査に係る業務を委託されているにすぎず,障害年金請求の裁定等(障害年金の支給・不支給の決定や障害等級の決定等)は厚生労働大臣が行っているので,障害認定医が障害等級の決定権限を有しているわけでもない。さらに,控訴人の開示請求は,障害認定医の業務の遂行に係る情報の開示請求ではなく,専ら当該認定医を特定することを目的として,その氏名等の開示を求めるものであるから,この点からも,本件情報は法人等情報公開法5条1項ただし書ハ所定の情報に該当しない。 (控訴人の主張) 障害認定医について,仮に被控訴人との関係が業務委託契約に基づく受託者にすぎないとしても,受託者については,当該業務に係る守秘義務を負うほか(機構法31条2項), 「機構の役員及び職員…は,刑法…その他の罰則の適用については,法令により公務に従事する職員とみなす。」 と定める同法20条が準用され(同法31条3項),罰則に係る規定においても公務に従事する職員とされている。このような被控訴人の業務受託者の地位からすれば,障害認定医は被控訴人の職員とみなすべきであり,障害認定医は独立行政法人等の職員に該当するというべきである。また,障害認定医の情報それ自体が,障害認定医である非常勤公務員について個々の障害年金の裁定請求に係る処分の要件である障害の程度・状況の判断をする専門家としての専門分野を証するものであり,この専門分野に従って社会保険庁ないし被控訴人は個々の障害年金の裁定請求における判断を任せているのであるから,当該公務員が行政機関の一員としてその担当する任務を遂行する場合における当該活動についての情報と解されるべきである。(3) 争点(3)(義務付けの訴えの適法性)について (被控訴人の主張) 本件一部開示決定は適法であり,取り消されるべきものではないから,本件部分の開示を求める義務付けの訴えは不適法である。 (控訴人の主張) 本件不開示決定は違法であり,取り消されるべきものであるから,本件部分の開示を求める義務付けの訴えは適法である。 第3 1 当裁判所の判断 認定事実 前記第2の3(補正後の引用に係る原判決第2の2)の前提事実(以下単に前提事実という。)に加え,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) ア 障害年金制度の概要と障害認定医の地位・役割 障害年金は,疾病又は負傷に起因する障害によって生活や仕事などが制限されるようになった場合に,若年の世代を含めて支給を受けることができる年金を指し,その一つとして国民年金法に基づく障害基礎年金がある(厚生年金保険法にも同様の制度として障害厚生年金があり,これらを併せて障害年金という。)。そして,障害基礎年金は,障害の原因となった疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(傷病)について初診日(初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日)において被保険者であることなどを支給要件とするいわゆる拠出制の障害基礎年金(国民年金法30条1項)と,初診日において20歳未満であったことなどを支給要件とするいわゆる無拠出制の障害基礎年金(同法30条の4)に区別される。厚生労働大臣は,受給権者の請求に基づき,障害基礎年金の給付を受ける権利について裁定を行う(同法16条)。受給権者が裁定の請求を行う際は,障害の状態に関する医師又は歯科医師の診断書や障害の状態を示すレントゲンフィルム(平成27年厚生労働省令第144号及び第153号による改正前の国民年金法施行規則31条2項4号,5号)等を添付しなければならず,厚生労働大臣は,必要があると認めるときは,受給権者に対し,障害の状態に関する書類等の提出を命じたり,医師又は歯科医師の診断を受けるべきことを命じたりすることもできる(国民年金法107条1項,2項)。 各障害等級の障害の状態は,同法30条2項の委任を受けた国民年金法施行令4条の6及び別表に定められているところ,上記の方法により得た情報を基に,厚生労働大臣が適正な障害等級を認定し,所定の障害等級に該当しないときは不認定と判断するものとされており,障害等級によって支給される年金額は異なる。 各障害等級の障害の状態は,例えば両上肢の機能に著しい障害を有するもの(国民年金法施行令別表1級3),身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの(同9) など,医学的な知見を基に判断することが求められるものが多い。イ 厚生労働大臣は,裁定に係る請求の受理の権限及び受給権者に関する調査の権限を被控訴人に委任し(国民年金法109条の4第1項5号,29号),裁定に係る事務(裁定の請求の受理及び当該裁定を除く。障害認定に係る業務) を被控訴人に委託しており (同法109条の10第1項3号) , さらに,被控訴人は,業務委託契約に基づき,裁定に係る障害の程度の認定事務のうち,医学的事項の審査に係る業務(障害認定医の業務)を障害認定医に委託している(乙7)。厚生労働大臣が障害の程度に応じた障害等級を認定し,裁定を行うに当たっては,医師(障害認定医)の意見が医学的な知見に基づく資料として参考とされており,その意見の内容には障害年金の裁定請求者にとって有利なものも不利なものも含まれる。厚生労働省障害年金業務改革室の策定に係る障害年金給付業務における事務取扱要領(甲20)においても,障害年金給付に係る審査事務において障害認定医に障害認定を受けるべき旨が記載され, 被控訴人の作成に係る 国民年金厚生年金保険障害認定基準診断書・・一部改正Q&A(情報提供) (甲22)においても,疾病等の状態の確認結果をどのように障害の程度の認定の参考とするかについて個々の事例ごとに障害認定医に判断してもらうべきことが記載されている。 ウ 他方で,障害認定医の地位について法令に定めはなく,障害認定医は,障害給付を受ける権利の裁定等に係る障害の程度の認定事務(障害認定に係る業務)のうち医学的事項に係る審査等(障害認定医業務)を行う医師として,被控訴人との間で業務委託契約を締結しており(前提事実(2)),勤務先又は自身の経営する医療機関で診療を行う傍ら,上記の業務委託を受けて障害認定に係る事務のうち医学的事項に係る審査を行っている(甲14の5,弁論の全趣旨)。 (2) ア 被控訴人の成立前(社会保険庁時代)の状況 被控訴人の前身である社会保険庁は,障害認定審査医員の設置要綱に従い,社会保険庁社会保険業務センター長が,厚生年金保険,国民年金及び船員保険における障害給付を受ける権利の裁定に係る障害の程度に関する医学的事項に係る審査を行う医師として,障害認定医を非常勤職員(非常勤の国家公務員)として委嘱していた(乙8,9) 。 イ 社会保険庁は,障害認定医の氏名や勤務先等の開示を求める行政機関情報公開法に基づく請求に対し,障害認定医が非常勤の国家公務員として行政機関の職員に当たることを前提に,平成17年申合せに従って障害認定医の名簿 (障害認定医の氏名や勤務先等の情報を含む。を開示して ) いた(前提事実(4),甲10,11,弁論の全趣旨) 。 平成21年に控訴人から行政機関情報公開法に基づく開示請求があったときも,埼玉社会保険事務所において,同年10月5日付けの行政文書開示決定により,国民年金障害認定員医員名簿が開示された(前提事実(4)) 。 ウ 社会保険庁は,この当時,障害認定医の名簿を開示していることを障害認定医に周知しておらず,その開示によって障害認定に係る業務等に支障を来した実例を特に把握していなかった(弁論の全趣旨)。 (3) 平成22年1月の被控訴人の成立から平成25年6月頃までの状況ア 平成21年12月31日に社会保険庁が廃止され,平成22年1月1日に被控訴人が成立して社会保険庁の年金関係業務を引き継いだ後,障害認定医の業務は,委嘱ではなく,業務委託契約に基づく業務委託によって行われることとなった。委嘱から業務委託への移行期に作成された被控訴人内部における事務連絡(乙9)によれば,業務委託期間は1年間,業務委託料は1日当たり2万3400円 (社会保険庁時代の報酬と同額)1日当 , たりの基準件数(40件)を超えて処理した場合には超える件数に590円を乗じた額を加算することなどが予定されていた。 その結果,障害認定医は,国家公務員ではなく,被控訴人の本部に設置される1名ないし2名の高度専門職(医療専門役。常勤の被控訴人職員)を除き,全て被控訴人から業務委託契約に基づき審査事務の委託を受ける受託者となった(なお,関東・信越ブロックの障害認定審査医員の名簿である本件対象文書には上記医療専門役は含まれていない。平成23年4月当時の年金機構組織細則の別表中の非常勤の障害認定医は業務委託契約の受託者である医師らを指すものと解される。)(甲37,乙7,9,弁論の全趣旨)。 イ 被控訴人は,上記アのとおり障害認定医が公務員ではなくなったにもかかわらず,障害認定医が法人等情報公開法5条1号ただし書ハ所定の公務員等に含まれ, 平成17年申合せの適用を受けるものと誤って認識し, 同法に基づく開示請求に対してその認識の下に障害認定医の氏名を開示しており, 平成25年6月には, 開示請求に応じて, 障害認定医一覧表 (ただし, 氏名及び専門分野に限り, 契約書住所及び勤務先・所属を除く。 ) 及び医療専門役・障害認定審査医員名簿(氏名及び専門分野を記載したもの)を開示していた(前提事実(4),甲34,35,弁論の全趣旨)。 ウ この当時,被控訴人が開示請求を受けた際に障害認定医の氏名を開示していることは障害認定医には周知されておらず,被控訴人は,開示の当否についての障害認定医の意見を把握していなかった。また,その当時,被控訴人は,障害認定医の氏名を開示することにより障害認定に係る業務等に支障を来した事態の実例やその発生の可能性についてまだ把握していなかった(弁論の全趣旨)。 (4) ア 平成25年6月以降の状況等 被控訴人は, 上記(3)のとおり開示請求に対して障害認定医の氏名等を開 示していたところ,平成25年6月頃までに,個別の開示案件で自らの氏名等が開示されていることを知った障害認定医から,そのことを理由に辞任の申出を受けた事例や,障害年金を不支給とされた者が,自身の不支給決定に係る見解を尋ねるため,公開されている情報を基に,厚生労働省の検討会の委員に就任した障害認定医を特定して,当該認定医が勤務している医療機関を直接訪問し,当該認定医から今後の契約更新の際には受託を辞退したい旨の申出を受けた事例などがあったことを知り,この頃から,障害認定医の氏名等を開示することが障害認定に係る業務の適正かつ継続的な遂行に支障を生ずる要因となり得るものと認識するに至った。また,被控訴人は,この頃,法人等情報公開法5条1号ただし書ハ所定の公務員等ではなくなった障害認定医について平成17年申合せの適用はなく,平成17年申合せを根拠としてその氏名等を開示する取扱いが誤りであることを認識するに至った(弁論の全趣旨) 。 イ 被控訴人は,上記アの経緯を踏まえ,本件開示請求を受けた際に,従前の取扱いを変更し,障害認定医の氏名や勤務先等を不開示とする対応を採った(前提事実(5)) 。 ウ 被控訴人は, 平成26年9月から10月頃にかけて, 障害認定医に対し, 障害認定に係る業務に支障を生ずる具体的な事例の存否について調査を行ったところ,障害認定医の中に,その名簿を開示することに反対の意見を述べる医師や,名簿を開示するのであれば認定医を辞することを検討するとの意見を述べる医師がいたほか,子の障害基礎年金に係る再審査請求の準備のためにその父親が当該事案の審査を行った障害認定医の意見を直接聞くことを希望し,被控訴人の事務センターに度々電話をかけ訪問して当該認定医の氏名を教えるよう要求した事例があった旨が報告された(乙5, 6,弁論の全趣旨)。 エ 平成26年8月頃からは,障害年金の障害認定の運用につき,地域によるばらつきがあることや障害認定医の審査内容について批判的な報道や投稿がされるようになり(甲14の1ないし18,同15) ,上記の報道の中 には,障害認定医は自身の診療と並行して担当する任務で負担が重いためになかなかなり手がいないことに言及するものもあった(甲14の5)。 オ 平成28年には,障害認定医の氏名を知った医師が,そのブログ記事や関係団体に送付した文書により,当該認定医の氏名や勤務先を明らかにした上で,当該認定医の審査の内容等を批判し非難するなどしたため,被控訴人は,当該認定医から,当該医師が診断書を作成するなどしている案件については他の障害認定医に審査してもらうよう求められることがあった(甲38,乙2ないし5)。 カ 上記ウないしオのような一連の状況及び障害認定医から示された懸念や意見等を踏まえ,平成29年度(平成29年4月1日から平成30年3月31日まで)の被控訴人と障害認定医との間の業務委託契約の契約書に,被控訴人が障害認定医の特定につながる情報を明らかにしてはならない旨の条項(8条3項)が追加された(甲36)。 キ 被控訴人が平成31年1月15日から25日にかけて実施した障害認定医に対する追加調査に対し,33名中11名が回答し,障害認定医の氏名や勤務先が開示されることによる支障につき,10名が障害認定医の業務に支障を来すと思う旨,9名が障害認定医の氏名や勤務先が開示されることによって開業医又は勤務医としての本務である診療業務や在籍している病院での立場等に支障を来すと思う旨を回答し(その理由としては,障害年金の裁定請求者又はその代理人等によるクレーム・苦情・面会要求等への対応の負担及び圧力や本人による逆恨み・妄想の対象となる危険等により,本来の診療業務に支障が生じ,勤務先に迷惑がかかり,家族に危険が及ぶこと等が指摘されていた。),障害認定医の氏名や勤務先が開示されるとした場合,4名が業務委託契約を解除するか又は次期契約の更新は行わない旨の意向を表明し,5名が次期契約を更新するかどうかの判断に影響する旨を回答した(乙12の1ないし12)。 また,令和元年8月19日から同月22日にかけて,埼玉県の障害認定医5名のうち上記期間中に接触できた4名に対して実施した上記と同様の調査に対し,障害認定医の氏名や勤務先が開示されることによる支障につき,3名が障害認定医の業務に支障を来すと思う旨,1名が開業医又は勤務医としての本務である診療業務や在籍している病院での立場等に支障を来すと思う旨を回答し,障害認定医の氏名や勤務先が開示されるとした場合,1名が業務委託契約を解除するか又は次期契約の更新は行わない旨の意向を表明し,2名が次期契約を更新するかどうかの判断に影響する旨を回答した(乙19の1ないし5)。 ク そして,被控訴人が平成31年1月15日から25日にかけて行った調査によれば,障害年金の裁定請求者又はその家族や代理人の社会保険労務士から傷病名やその重症度等につき希望する内容の診断書の記載又はその変更を求め又は指示する働き掛けを受けた障害認定医は相当数存在し,そのような働き掛けをしてきた者の中には,希望する内容どおりの記載を強要し,従わないと威嚇し又は脅したり嫌がらせや診療の邪魔をする者や,記載内容が不満であるとして怒鳴り込んでくる者もあったとされている(乙13の1ないし15) 。また,厚生労働省においても,障害年金におけ る社会保険労務士の業務の適正さが疑われる具体的な事例として,平成24年に,患者や社会保険労務士から主治医に対し診断書の内容を患者や社会保険労務士の希望する内容のものに作成・変更するよう求める働き掛けがされた事例や,社会保険労務士が主治医に面会し,診断書の内容等について単なる情報提供を超えて事実上の交渉を執拗に求めた事例等があったことが把握されていた(乙14) 。 ケ 被控訴人が障害認定医を確保するために協力を受けている病院関係団体の役員によれば,自らの氏名が開示されないことを当然の前提と考えている障害認定医が多く,仮に被控訴人が障害認定医の氏名を開示するとすれば,開示されないことを希望する医師を推薦できなくなるため,障害認定医の推薦に支障が生ずることが見込まれるほか,精神の障害については,氏名を開示された障害認定医が,障害年金の裁定請求者の妄想着想の対象となる可能性があり,例えば,裁定結果に不満を抱いた患者が,たまたま目にとまった特定の医師が自分に不利な意見を述べたと思い込んで当該医師を切り付けるなどの危害が及ぶ可能性などが懸念されている(乙15)。 (5) ア 石綿確定診断委員会の委員及び地方労災医員の氏名の取扱い 石綿確定診断委員会は,特に法令の定めはないが,複数の医師により構成され,肺等の疾患と石綿との関係等につき,合議により意見を形成し,これを意見書として表明するものとされている(甲16)。石綿確定診断等事業の委託を受けている独立行政法人労働者健康安全機構は,石綿確定診断委員会の意見書の開示請求を受けた各都道府県労働局から当該意見書の開示について意見を求められた際には,委員の氏名は不開示との意見を添えて回答しているが,実際に不開示とするか否かは各都道府県労働局が判断しており,委員の氏名につき,東京,埼玉,静岡,愛知,大阪,兵庫及び宮城の各労働局では自署か否かを問わず印影を含めて全て不開示とし,千葉及び群馬の労働局では自署と印影は不開示であるが自署でない場合は開示し,福岡労働局では委員の同意の有無を確認した上で開示・不開示を判断し,神奈川労働局では印影以外は開示する取扱いが採られている(甲16,乙16,17) 。 イ 地方労災医員は,特に法令の定めはないが,労災医員規程(平成13年厚生労働省訓第36号)により,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病等に係る診断・治療等に関し,学識経験を有する医師のうちから都道府県労働局長が委嘱した非常勤の国家公務員であり,その氏名は,平成17年申合せに従って開示請求があれば開示されている。 同規程により, 地方労災医員は,高度の医学に関する専門的知識を要する労働者の業務上の疾病の認定等に関する事務について意見を述べる場合には, 必要に応じ, あらかじめ他の地方労災医員と協議しなければならないとされ,また,都道府県労働局長又は労働基準監督署長の指示を受けて労働者災害補償保険法の規定により同法の適用を受ける事業の行われる場所に臨検し,関係者に対し質問し,又は帳簿書類や物件を検査することができるとされている(乙11)。 2 争点(1)(本件情報の法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報該当性)について (1) 被控訴人は, 法人等情報公開法2条1項の 独立行政法人等 に該当し (同 項,別表第1) ,本件一覧表は,独立行政法人等である被控訴人が国(厚生労 働大臣)から委託された公的年金に関する業務のうち,障害年金の裁定等に必要な事務(障害認定に係る業務)について,医学的事項に係る審査(障害認定医の業務) を委託するために業務委託契約を締結した医師 (障害認定医) の氏名や勤務先等その他の情報を一覧にしたものであるから,同条2項所定の法人文書(独立行政法人等の役員又は職員が職務上作成した文書であって,当該独立行政法人等の役員又は職員が組織的に用いるものとして,当該独立行政法人等が保有しているもの)に該当する。したがって,被控訴人は,本件一覧表に同法5条各号のいずれかに該当する不開示情報が記録されている場合を除き,その開示請求を行った控訴人に対し,本件一覧表を開示しなければならない(同法5条柱書き)。 (2) 被控訴人は,上記(1)のとおり独立行政法人等に該当し,国(厚生労 働大臣)から委託を受けて公的年金に係る一連の運用事務を担うことをその業務とし,当該業務の一環として,障害認定医との間で業務委託契約を締結しているのであるから(前提事実(1),(2),前記1(1)),本件一覧表の本件情報が法人等情報公開法5条4号柱書きに規定する 独立行政法人等(中略)が行う事務又は事業に関する情報に該当することは明らかである。(3) 法人等情報公開法5条4号柱書きは, 公にすることにより,…当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものを不開示情報とすると規定しているところ,当該事務又は事業の性質上とは,当該事務又は事業の本質的な性格,具体的には,当該事務又は事業の目的,その目的達成のための手法等に照らして,その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるかどうかを判断する趣旨であり,適正な遂行に支障を及ぼすおそれに係るその支障の程度は, 名目的なものでは足りず, 実質的なものであることが必要であり,そのおそれの程度も,抽象的な可能性では足りず,法的保護に値する程度の蓋然性が必要であると解される。そして,被控訴人は,厚生労働大臣から障害年金の裁定に係る障害の程度の認定事務(障害認定に係る業務)の委託を受けているところ,このうち医学的事項の審査に係る業務を障害認定医に委託して行わせていること及び上記業務委託の下で障害認定医が審査を行って作成する意見は厚生労働大臣が障害等級を認定し裁定を行う際に医学的な知見に基づく資料として参考にされていること(前記1(1)ア,イ)に照らせば,被控訴人に対する本件開示請求に関して本件対象文書に記録されている情報が法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報に当たるか否かは,これを公にすることにより,厚生労働大臣が適切に障害等級を認定するための参考とするために障害認定医からの適正な意見の徴求を確保するなどの被控訴人の業務の適切な遂行に実質的な支障を及ぼすおそれがあり,そのおそれの程度が法的保護に値する程度の蓋然性のあるものであるか否かによって判断するのが相当であると解される。 (4) 以上の見地から, 本件情報を開示することにつき, 障害等級の認定に係る 事務又は事業の性質上,被控訴人の当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれの有無及び程度について検討する。 ア 前記1(1)のとおり, 障害年金の額は障害等級によって異なり, 障害等級 の認定においては医師(障害認定医)の意見が医学的な知見に基づく資料として参考とされることに照らせば,障害等級の認定について意見を述べる立場にある障害認定医の氏名や勤務先等が開示された場合,これらの情報を知った障害年金の裁定請求者又はその家族や代理人等(社会保険労務士等)が,当該裁定請求者の事案を担当する障害認定医を特定し,当該認定医に対して当該裁定請求者に有利な意見を出すように働き掛けることにより,あるいは,裁定の内容に不服のある障害年金の裁定請求者又はその家族や代理人等が, 当該裁定請求者の事案を担当した障害認定医を特定し, 審査の内容等について苦情・クレームを述べたり非難・糾弾等をしたりすることにより,また,これらの過程で当該認定医が電話や訪問等による執拗ないし威迫的な要求や苦情等を受けることなどによって,障害認定医において客観的な審査結果のいかんにかかわらず裁定請求者の側に不利になる意見を述べることが事実上困難になり又は強く躊躇される状況を招来するなどして,障害認定医の業務及び障害認定に係る業務の適正な遂行に支障が生ずることが現実的な蓋然性として十分に想定されるものということができる。 現に,本件一部開示決定以前の時点において,①平成25年6月頃までに,障害年金の裁定の請求を行ったが不支給の決定を受けた者が厚生労働省の検討会の委員に就任した障害認定医を特定して当該認定医の勤務先の医療機関を直接訪問し,当該認定医から今後の契約更新の際には委託を辞退したい旨の申出がされた事例が生じていた(前記1(4)ア)ほか,②平成26年頃,障害基礎年金の再審査請求を予定していた者が審査を担当した障害認定医の意見を直接聞くことを希望して被控訴人の事務センターに障害認定医の氏名を教えるよう求めて電話及び訪問を繰り返した事例も報告されていたものであり(前記1(4)ウ) ,③平成28年には,障害認定医の 氏名を知った医師がそのブログ記事や関係団体に送付した文書において当該認定医の氏名や勤務先を明示した上で当該認定医の審査の内容等を批判し非難するなどし,当該認定医から当該医師が診断書を作成するなどした案件の審査を辞退する旨の申出がされた事例も生じていたものである(前記1(4)オ。 なお, 当該事例が誹謗中傷事例であるか否かについては当事者 間に争いがあるが,当該記事や文書の内容が誹謗中傷に当たるか否かはおくとしても,障害認定医の審査の内容等につき,不特定多数人の閲覧可能なインターネット上のブログ記事及び当該認定医の評価や立場に影響の及び得る関係団体に送付された文書において,当該認定医の氏名や勤務先を明示した上で批判し非難する記載がされている以上,そのこと自体が障害認定医の障害認定に係る業務及びその継続に支障を及ぼすおそれのある事象であるというべきである。。さらに,④平成24年の時点で,患者や社) 会保険労務士が主治医に対し診断書の内容を患者や社会保険労務士の希望する内容のものに作成・変更するよう求める働き掛けがされた事例や,社会保険労務士が主治医に面会して診断書の内容等につき情報提供の範囲を超えて事実上の交渉を執拗に求めた事例も現れていたものであり(前記1(4)ク) ,これらの事象は,障害年金の裁定請求者又はその家族や代理人等が,障害認定医の氏名や勤務先等を知れば当該認定医に対して上記①及び②と同様の行動をとる蓋然性が一般に想定されることを示しているものといえる。 そのほか, ⑤本件一部開示決定の約10か月後 (平成31年1月) の調査結果であるため事例の発生した時期が同決定の前後のいずれかは必ずしも明らかではないものの,障害年金の裁定請求者又はその家族や代理人の社会保険労務士から障害の等級や傷病名等につき希望する内容の意見の提出又はその変更を求め又は指示する働き掛けを受けた障害認定医は相当数存在し,その中には希望する内容どおりの記載を強要し,従わないと威嚇し又は脅したり嫌がらせや診療の邪魔をする者や,記載内容が不満であるとして怒鳴り込んでくる者もあったとされており(前記1(4)ク),こ れらの事象は,仮に事例の発生自体は同決定後であるとしても,同決定前に生じた上記①及び②の各事例や事柄の一般的な性質等に照らせば,同決定時において既に同様の事態の発生の危険があったことを推認させる事情であるということができる。 イ また,障害認定医の中には,障害年金の裁定請求者又はその代理人等によるクレーム・苦情・面会要求等への対応の負担及び圧力や本人による逆恨み・妄想の対象となること等により本来業務である診療業務に支障が生ずる危険等を懸念して,障害認定医として氏名や勤務先を開示されることに反対の意見を述べ,氏名や勤務先を開示するのであれば障害認定医を辞する旨又は業務委託契約を更新しない旨の意見を述べる医師が相当数存在するところ,そのような意見を述べる医師は平成26年の時点にも既に複数存在することが確認されていること(前記1(4)ウ,キ),大多数の障害認定医にとって障害認定に係る業務は本来業務である診療業務の傍ら引き受けている業務にとどまること(前記1(1)ウ),被控訴人においても平成29年2月(本件一部不開示決定の前月)には上記のような障害認定医の懸念等を踏まえて障害認定医との業務委託契約の契約書に障害認定医の特定につながる情報を明らかにしてはならない旨の条項を追加するに至ったこと(前記1(4)カ)等に照らせば,障害認定医の氏名や勤務先等が開示された場合,障害認定医の業務に係る業務委託契約の締結又は更新を応諾する者が減少することによって,障害認定医の業務及び障害認定に係る業務それ自体の継続に支障が生ずることも現実的な蓋然性として十分に想定されるものということができ,障害認定医の負担の重さに照らし,この場合に後任の障害認定医を確保できない蓋然性も相当程度見込まれるところである(前記1(4)エ,ケ参照)。 ウ 以上の諸事情を総合考慮すれば,障害等級の認定について意見を述べる立場にある障害認定医の氏名や勤務先等を開示することは, それによって, 障害認定医の業務及び障害認定に係る業務に上記ア及びイのような支障を及ぼすおそれがあり,その支障の程度は名目的なものではなく,業務の適正な遂行を阻害するとともに業務の継続自体も困難ならしめる危険が十分に想定される実質的なものであって,そのおそれの程度も法的な保護に値する程度の蓋然性を有するものと認めるのが相当である。 したがって,障害認定医の氏名や勤務先等を内容とする情報である本件情報は,法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報に該当するものというべきである。 (5)ア これに対し,控訴人は,本件情報は,かつては開示請求がされれば開示 された情報であったことや,過去の障害認定医の名簿がインターネット上に公表されていることから,開示による弊害があったとは認められず,専門性と経験が共に備わった医師が障害認定医として判断している限りにおいて,有形無形の働き掛けが行われる余地はない旨を主張する。 この点につき,被控訴人の前身である社会保険庁時代及び被控訴人の成立後の平成25年6月頃までは,社会保険庁及び被控訴人において開示請求に対して障害認定医の氏名等が開示されていたことが認められる。しかしながら,社会保険庁時代の障害認定医は,平成17年申合せの適用を受ける行政機関の職員に当たる非常勤の国家公務員であったため,その氏名等の開示請求があると平成17年申合せに従って開示がされており,また,被控訴人は,その成立後も平成25年6月頃までは,国家公務員ではなく業務委託契約の受託者となった障害認定医について,なお法人等情報公開法5条1号ただし書ハ所定の公務員等に該当するものと誤信して, 従前と同様の運用を続けていたものであり, 平成25年6月頃までは, 障害認定医においても自らの氏名が開示されていることを知らず,社会保険庁ないし被控訴人においてもそれによって現に障害認定に係る業務等に支障を来した事例が生じていたことを把握していなかったことが認められる(前記1(2),(3))。他方で,被控訴人は,その発足後次第に,障害認定医の氏名や勤務先等の開示による弊害(当該認定医からの辞任の申出,障害年金の裁定請求者又はその家族や代理人等によるクレーム等の電話や訪問,当該認定医に対する批判や非難を掲記したブログ記事等の事例の出現等)を認識し,障害認定医の審査に対する批判的な報道等も現れてくる中で,氏名や勤務先等の開示に関する障害認定医の意向や業務への支障等についての調査を行った結果を踏まえ,また,障害認定医への平成17年申合せの適用が誤信による誤りであることを認識したことなどから,障害認定医の氏名や勤務先等について不開示とする方向に方針を転換し,情報公開・個人情報保護審査会の答申を受けて本件一部開示決定をするに至ったことが認められる(前提事実(5),(6),前記1(2)ないし(4))。以上の経緯等に照らせば, かつては開示請求に対し本件情報が開示され, その結果として過去の障害認定医の名簿が公表されていたとしても,その後に有意な事情の変化があったものというべきであり,少なくとも本件一部開示決定の時点では, 前記(4)のとおり, 本件情報を開示することにより 障害認定に係る業務の適切な遂行に実質的な支障を及ぼすおそれがあり,そのおそれの程度は法的保護に値する程度の蓋然性のあるものであったということができ,障害認定医が専門性と経験の共に備わった医師であることをもって直ちに障害認定医に対する有形無形の働き掛けが行われる余地がないということはできないから,控訴人の上記主張に係る過去の経緯を踏まえても,前記(4)の判断が左右されるものではない。 イ また,控訴人は,石綿確定診断委員会の委員や地方労災医員である医師の氏名は開示されているから,審査を担当する医師である障害認定医に係る本件情報は法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報には当たらない旨を主張する。 しかしながら,石綿確定診断委員会は,複数の医師により構成され,その合議により意見を形成し,これを意見書として表明するものであり(前記1(5)ア),その業務の在り方は,個々の障害認定医がそれぞれ単独で審査をして厚生労働大臣の裁定における判断の資料となる意見を自らの名で提出する障害認定医の業務の在り方 (前記1(1)) とは大きく異なること がうかがわれる上,石綿確定診断委員会の意見書における委員の氏名の開示の有無は,各都道府県労働局ごとに対応が異なり統一されておらず,むしろ相当数の都府県労働局において開示しない運用が採られていることが認められる(前記1(5)ア)。また,地方労災医員についても,その地位は, 社会保険庁時代の障害認定医と同様に, 非常勤の国家公務員であって, 臨検して関係者に対し質問をしたり,帳簿書類や物件を検査することもできるなど,障害認定医よりも強い権限が訓令によって付与されており(前記(5)イ)障害認定医とはその地位の性質や権限が本質的に異なるものと, いうことができる。また,氏名等が開示された場合に辞職を検討すると述べた医師が存在するか否かなど,その開示による支障の有無に係る判断の基礎となる事情が同一であるとも認められない。そうすると,石綿確定診断委員会の委員や地方労災医員である医師の氏名の開示の有無に関する取扱いをもって,障害認定医についてその氏名や勤務先等の開示によってその業務の遂行や継続に支障が生ずるおそれがあることを否定する根拠となり得るものとはいえず,控訴人の上記主張は,その前提となる事情を異にするものであって,障害認定医に係る本件情報に関する前記(4)の判断を左右するものとはいえない。 ウ さらに,控訴人は,全国で8万件程度ある裁定請求の審査を200名余りの障害認定医が行っている中で,(ア)僅かに1,2件だけ障害認定医に面会を求めた裁定請求者がいたり,(イ)氏名等の情報の開示を理由とする障害認定医からの業務委託契約の解除の申入れが僅か1件あったり,名簿が開示されることについて反対の意見を述べ又は障害認定医を辞するとの意見を述べた医師が何人かいたりしたからといって,当該事務又は業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるものではない旨を主張する。 しかしながら, 前記1(4)アないしケの認定に係る経緯等を 踏まえて前記(4)ア及びイにおいて説示したところによれば,(ア)(a)裁定請求者が障害認定医に面会を求めた事案につき被控訴人が平成26年当時に把握していた件数は2件程度であったとしても,その事案の内容は,①平成25年6月頃以前に,障害年金の不支給決定を受けた裁定請求者が当該障害認定医を特定してその勤務先の医療機関を直接訪問し,当該認定医から今後の契約更新の際には委託を辞退したい旨の申出がされたという事例や,②平成26年頃,障害基礎年金の再審査請求を予定していた者が審査を担当した障害認定医の意見を直接聞くことを希望し,被控訴人の事務センターに障害認定医の氏名を教えるよう求めて電話及び訪問を繰り返したという事例であったこと, (b)平成28年には, 障害認定医の氏名 を知った医師がそのブログ記事や関係団体に送付した文書において当該認定医の氏名や勤務先を明示した上で当該認定医の審査の内容等を批判し非難するなどし,当該認定医から当該医師が診断書を作成するなどした案件の審査を辞退する旨の申出がされた事例も生じていたこと,(c)平成24年の時点で,患者や社会保険労務士が主治医に対し診断書の内容を患者や社会保険労務士の希望する内容のものに作成・変更するよう求める働き掛けがされた事例や,社会保険労務士が主治医に面会して診断書の内容等につき情報提供の範囲を超えて事実上の交渉を執拗に求めた事例も現れていたものであり,これらの事象は,障害年金の裁定請求者又はその家族や代理人等が,障害認定医の氏名や勤務先等を知れば当該認定医に対して上記(a)①及び②と同様の行動をとる蓋然性が一般に想定されることを示しているものといえること, (d)加えて, 本件一部開示決定の約10か月 後の調査結果においても,障害年金の裁定請求者又はその家族や代理人の社会保険労務士から障害の等級や傷病名等につき希望する内容の意見の提出又はその変更を求め又は指示する働き掛けを受けた障害認定医は相当数存在し,そのような働き掛けをしてきた者の中には希望する内容どおりの記載を強要し,従わないと威嚇し又は脅したり嫌がらせや診療の邪魔をする者や,記載内容が不満であるとして怒鳴り込んでくる者もあったとされており,これらの事象は,仮に事例の発生自体は同決定後であるとしても,同決定前に生じた上記(a)①及び②の各事例や事柄の一般的な性質等に照らし,同決定時において既に同様の事態の発生の危険があったことを推認させる事情であるといえること,また,(イ)障害認定医の業務は自身の診療と並行して担当する任務で負担が重いために担い手の確保が容易ではないところ,平成26年後半以降には障害認定医の業務に対する批判的な報道等もされるようになる中で,障害認定医の中には,障害年金の裁定請求者又はその代理人等によるクレーム・苦情・面会要求等への対応の負担及び圧力や本人による逆恨み・妄想の対象となること等により本来業務である診療業務に支障が生ずる危険等を懸念して,障害認定医として氏名や勤務先を開示されることに反対の意見を述べ,氏名や勤務先が開示されるのであれば障害認定医を辞する旨又は業務委託契約を解除する旨の意見を述べる医師が相当数存在し,平成26年の時点でもそのような意見を述べる医師の複数の存在が確認されていること(前記1(4)ウ,キ。同キの調査結果については上記(ア)(d)において説示したところと同様である。)等に照らし,障害認定医の氏名や勤務先等の開示によって,障害認定医の業務に係る業務委託契約の締結又は更新に応諾する医師が減少し,後任者の確保も困難になることも現実的な蓋然性として十分に想定されることなどの諸事情を総合考慮すれば,少なくとも本件一部開示決定の当時(平成29年3月の時点)において,前示(前記(4)ウ)のとおり,障害認定医の氏名や勤務先等を開示することについては,それによって障害認定医の業務及び障害認定に係る業務の適正な遂行及びその継続に支障を生ずるおそれがあり,その支障の程度は実質的なものであって,そのおそれの程度も法的な保護に値する程度の蓋然性を有するものであったと認めるのが相当である。したがって,控訴人の主張する点を踏まえても,本件情報に係る法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報該当性に関する前記(4)の判断が左右されるものではないというべきである。エ 加えて,控訴人は,専門家であれば第三者からの批判にさらされることは当然に甘受すべきものである旨を主張する。しかしながら,本件において,医学の専門家である障害認定医は,厚生労働大臣の裁定における判断の参考資料を提供するために被控訴人から業務委託を受けて審査事務(障害認定医の業務)を行っているにとどまり,裁定請求者等に対して説明責任を負うのは裁定権者である厚生労働大臣及びその裁定に必要な各般の事務を行う被控訴人であること,裁定内容に不服がある裁定請求者は国民年金法や厚生年金保険法の枠組みの中で不服申立ての制度が用意されていること等を踏まえると,個々の障害認定医が審査内容に不服のある裁定請求者又はその家族や代理人等から電話や訪問等により審査内容について事後に苦情・クレームや非難・糾弾等を受けるなどし(これらの過程で電話や訪問等による執拗ないし威迫的な要求や苦情等を受けることも想定され,現にそのような実例もあったとされている。),本来の診療業務に受託の範囲を超えた支障が生ずること(それによって所属先の医療機関等の診療体制にも支障が生じ得ること)は,障害認定医の受託業務の遂行上許容し得る範囲を超えた過大な負担というべきであり,これをもって専門家として当然に甘受すべきものであるとはいえず,控訴人の上記主張は採用することができない。 オ 以上のほか,控訴人は,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるか否かの判断においては,人の生命,健康,生活又は財産の各利益を保護するために当該情報を公にする必要があるか否かを考慮要素の一つとして勘案すべきであり,これに関連する事情として,障害認定医の資質(専門性の適否)が障害年金申請者の生活資金である年金の受給の可否という生活全般に関わる事柄であることや,障害認定医による審査の内容や裁定結果の通知の記載内容に問題があることなどを主張する。しかしながら,そもそも障害認定医の氏名や勤務先等を内容とする本件情報の開示それ自体が障害年金を受給すべき者に対する年金の支給の有無に具体的な影響を及ぼすものとは認められず,その開示が人の生命,健康,生活又は財産を保護するため公にすることが必要であるとは認め難いから,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであって理由がないといわざるを得ず,本件情報に係る法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報該当性に関する前記(4)の判断を左右するものではない。 カ したがって,控訴人の主張はいずれも採用することができず,本件情報は,独立行政法人等が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものといえるから,法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報に該当するものというべきである。 (6) また, 控訴人は, 仮に本件情報が法人等情報公開法5条4号柱書き所定の 不開示情報に該当するとしても,厚生労働大臣が意見を求める相手方である障害認定医の氏名や勤務先等の情報である以上,厚生労働大臣の障害年金の裁定請求に対する処分権者としての説明責任を理由に,同法7条にいう公益上特に必要があると認められる場合に当たり,開示されなければならない旨を主張する。しかしながら,同条の規定に基づいて開示するか否かは,開示請求を受けた独立行政法人等の裁量的判断に委ねられているものと解されるところ,厚生労働大臣が障害年金の裁定請求に対する裁定に係る判断について説明責任を負うとしても,そのことをもって直ちに,その裁定に際して被控訴人からの業務委託に応じて参考の意見を求めたにとどまる障害認定医の氏名や勤務先等を開示しなければならない公益上の特別の必要性があるとはいえず,法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開示情報に該当する本件情報が記載された本件部分について同法7条に基づく開示をしなかった被控訴人の判断につき,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したことをうかがわせる事情があるとは認められない。 したがって,本件情報が記載された本件部分について被控訴人が同法7条に基づく開示をしなかったことに所論の違法はないというべきである。(7) なお,控訴人は,障害認定医による障害認定に係る業務につき,障害の程 度の認定にばらつきがあり不合理な認定がされているなどの問題点があると主張し,障害年金の裁定における認定を左右する重大な権能を有する障害認定医について本来の専門分野が何であり,障害年金申請者の障害について適切に判断し得る医学的知見を有しているかどうかの情報を入手するために本件開示請求をした旨を主張するが,仮に障害認定に係る業務及びその一環としての障害認定医の業務の在り方に改善を要する点があるのであれば,それは障害年金に係る障害認定制度の枠組みの中で検討されるべき問題であり,また,仮に個別の事案における障害認定の内容に問題があるのであれば,国民年金法101条(障害厚生年金の場合は厚生年金法90条)の不服申立てにより争うことが予定されているものであって,控訴人の主張に係る上記の事情は本件情報が不開示情報に該当するか否か及び本件部分を不開示とした本件一部開示決定が適法であるか否かの判断に直接の影響を及ぼすものとはいえないといわざるを得ない。 以上のほか,控訴人のその余の主張も,不開示情報該当性の法律問題との直接の関連性が認められず,又はその前提を欠くものであるなど,争点(1)に関する前示の認定判断を左右するに足りるものとは認められない。(8) 小括 以上のとおり,本件情報は,法人等情報公開法5条4号柱書き所定の不開 示情報に該当するものであり,同法7条による公益上の理由による裁量的開示をしなかったことにつき被控訴人の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるともいえないから,その余の点(争点(2)(本件情報の法人等情報公開法5条1号所定の不開示情報該当性))について判断するまでもなく,本件情報が記載された本件部分を不開示とした本件一部開示決定は適法である。3 争点(3)(義務付けの訴えの適法性)について 本件訴えのうち,本件部分を開示する旨の決定の義務付けを求める部分は,行政事件訴訟法3条6項2号所定のいわゆる申請型の処分の義務付けの訴えであるところ,同訴えは,法令に基づく申請を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において, 当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり, 又は無効若しくは不存在であるときに限り,提起することができるとされている(同法37条の3第1項2号)。 そして,上記2のとおり,本件一部開示決定は適法であり,その取消しを求める控訴人の請求は理由がないから,本件訴えのうち,上記義務付けを求める部分は,同法37条の3第1項2号の要件を欠き,不適法である。 4 結論 以上のとおり,本件訴えのうち本件部分を開示する旨の決定の義務付けを求める部分は不適法であるから却下すべきであり,控訴人のその余の請求(本件一部開示決定のうち本件部分を不開示とした部分の取消しを求める請求)は理由がないから棄却すべきであるところ,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから, これを棄却することとして, 主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第16民事部 裁判長裁判官 岩井伸晃 裁判官 西森政一 裁判官矢向孝子は,転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官 岩井伸晃 (別紙) 関係法令等の定め 第1 法人等情報公開法(抄) (目的) 第1条 この法律は,国民主権の理念にのっとり,法人文書の開示を請求す る権利及び独立行政法人等の諸活動に関する情報の提供につき定めること等により,独立行政法人等の保有する情報の一層の公開を図り,もって独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。 (定義) 第2条 この法律において独立行政法人等とは,独立行政法人通則法(平 成10年法律第103号)第2条第1項に規定する独立行政法人及び別表第1に掲げる法人をいう。 2 この法律において法人文書とは,独立行政法人等の役員又は職員が職 務上作成し,又は取得した文書,図画及び電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって,当該独立行政法人等の役員又は職員が組織的に用いるものとして,当該独立行政法人等が保有しているものをいう。ただし,次に掲げるものを除く。 一~四 (略) (法人文書の開示義務) 第5条 独立行政法人等は,開示請求があったときは,開示請求に係る法人 文書に次の各号に掲げる情報(以下不開示情報という。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該法人文書を開示しなければならない。 一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。 イ 法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報 ロ 人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報 ハ 当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法第2条第4項に規定する行政執行法人の役員及び職員を除く。),独立行政法人等の役員及び職員(中略)をいう。)である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分 二 法人その他の団体(国,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下法人等という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって, 次に掲げるもの。 ただし, 人の生命, 健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報を除く。 イ 公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの ロ 独立行政法人等の要請を受けて,公にしないとの条件で任意に提供されたものであって,法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質,当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの 三 (略) 四 国の機関,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの イ 国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ ロ 犯罪の予防,鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ ハ 監査,検査,取締り,試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ ニ 契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ ホ 調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ ヘ 人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ ト 独立行政法人等,地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し,その企業経営上の正当な利益を害するおそれ (公益上の理由による裁量的開示) 第7条 独立行政法人等は,開示請求に係る法人文書に不開示情報が記録され ている場合であっても,公益上特に必要があると認めるときは,開示請求者に対し,当該法人文書を開示することができる。 第2 日本年金機構法(抄) (目的) 第1条 日本年金機構は,この法律に定める業務運営の基本理念に従い,厚生 労働大臣の監督の下に,厚生労働大臣と密接な連携を図りながら,政府が管掌する厚生年金保険事業及び国民年金事業(以下政府管掌年金事業という。)に関し,厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)及び国民年金法(昭和34年法律第141号)の規定に基づく業務等を行うことにより,政府管掌年金事業の適正な運営並びに厚生年金保険制度及び国民年金制度(以下政府管掌年金という。)に対する国民の信頼の確保を図り,もって国民生活の安定に寄与することを目的とする。 (役員及び職員の地位) 第20条 機構の役員及び職員(以下役職員という。)は,刑法(明治40 年法律第45号) その他の罰則の適用については, 法令により公務に従事する 職員とみなす。 (業務の範囲) 第27条 一 機構は,第1条の目的を達成するため,次の業務を行う。 厚生年金保険法第100条の4第1項に規定する権限に係る事務,同法第100条の10第1項に規定する事務(中略)を行うこと。 二 国民年金法第109条の4第1項に規定する権限に係る事務,同法第109条の10第1項に規定する事務(中略)を行うこと。 三2 前二号に掲げる業務に附帯する業務を行うこと。 機構は,前項の業務のほか,次の業務を行う。 一~六 (略) (業務の委託等) 第31条 機構は,厚生労働大臣の定める基準に従って,第27条に規定する 業務の一部を委託することができる。 2 前項の規定により委託を受けた者(その者が法人である場合にあっては,その役員)若しくはその職員その他の当該委託を受けた業務に従事する者(次項において受託者等という。)又はこれらの者であった者は,当該業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。 3 第20条の規定は,受託者等について準用する。 附則 (施行期日) 第1条 この法律は, 平成22年4月1日までの間において政令で定める日 (判 決注・同年1月1日)から施行する。(以下略) (機構の成立) 第7条 第3 機構は,この法律の施行の時に成立する。 国民年金法(抄) (裁定) 第16条 給付を受ける権利は,その権利を有する者(以下受給権者とい う。)の請求に基いて,厚生労働大臣が裁定する。 (受給権者に関する調査) 第107条 厚生労働大臣は, 必要があると認めるときは, 受給権者に対して, その者の身分関係,障害の状態その他受給権の消滅,年金額の改定若しくは支給の停止に係る事項に関する書類その他の物件を提出すべきことを命じ,又は当該職員をしてこれらの事項に関し受給権者に質問させることができる。 2 厚生労働大臣は,必要があると認めるときは,障害基礎年金の受給権者若しくは障害等級に該当する障害の状態にあることによりその額が加算されている子又は障害等級に該当する障害の状態にあることにより遺族基礎年金の受給権を有し,若しくは遺族基礎年金が支給され,若しくはその額が加算されている子に対して,その指定する医師若しくは歯科医師の診断を受けるべきことを命じ,又は当該職員をしてこれらの者の障害の状態を診断させることができる。 3 (略) (機構への厚生労働大臣の権限に係る事務の委任) 第109条の4 次に掲げる厚生労働大臣の権限に係る事務(括弧内略)は, 機構に行わせるものとする。ただし,第21号,第26号,第28号から第30号まで,第31号,第32号及び第35号に掲げる権限は,厚生労働大臣が自ら行うことを妨げない。 一~四の二 五 (略) 第16条(括弧内略)の規定による請求の受理 六~二十八 二十九 (略) 第107条第1項(括弧内略)の規定による命令及び質問並びに第 107条第2項の規定による命令及び診断 三十~三十七の四 2~7 (略) (略) (機構への事務の委託) 第109条の10 厚生労働大臣は,機構に,次に掲げる事務(括弧内略)を 行わせるものとする。 一,二 三 (略) 第16条(括弧内略)の規定による裁定に係る事務(第109条の4第1項第5号に掲げる請求の受理及び当該裁定を除く。) 四~四十二 2,3 (略) (略) 第4 国民年金法施行令別表(第4条の6関係) 障害の程度 障害の状態 1級 1 両眼の視力の和が0.04以下のもの 2 両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの 3 両上肢の機能に著しい障害を有するもの 4 両上肢のすべての指を欠くもの 5 両上肢のすべての指の機能に著しい障害を有するもの 6 両下肢の機能に著しい障害を有するもの 7 両下肢を足関節以上で欠くもの 8 体幹の機能に座つていることができない程度又は立ち上が ることができない程度の障害を有するもの 9 前各号に掲げるもののほか, 身体の機能の障害又は長期にわ たる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認めら れる状態であって, 日常生活の用を弁ずることを不能ならし める程度のもの 10 精神の障害であって, 前各号と同程度以上と認められる程度 のもの 11 身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する 場合であって, その状態が前各号と同程度以上と認められる 程度のもの 2級 1 両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの 2 両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの 3 平衡機能に著しい障害を有するもの 4 そしやくの機能を欠くもの 5 音声又は言語機能に著しい障害を有するもの 6 両上肢のおや指及びひとさし指又は中指を欠くもの 7 両上肢のおや指及びひとさし指又は中指の機能に著しい障 害を有するもの 8 一上肢の機能に著しい障害を有するもの 9 一上肢のすべての指を欠くもの 10 一上肢のすべての指の機能に著しい障害を有するもの 11 両下肢のすべての指を欠くもの 12 一下肢の機能に著しい障害を有するもの 13 一下肢を足関節以上で欠くもの 14 体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの 15 前各号に掲げるもののほか, 身体の機能の障害又は長期にわ たる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認めら れる状態であって, 日常生活が著しい制限を受けるか, 又は 日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のも の 16 精神の障害であって, 前各号と同程度以上と認められる程度 のもの 17 身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する 場合であって, その状態が前各号と同程度以上と認められる 程度のもの 備考 視力の測定は,万国式試視力表によるものとし,屈折異常があるものについては,矯正視力によって測定する。 第5 国民年金法施行規則 (平成27年厚生労働省令第144号及び第153号によ る改正前のもの)(抄) (裁定の請求) 第31条 法第16条の規定による障害基礎年金についての裁定の請求は, 次の各 号に掲げる事項を記載した請求書を機構に提出することによって行わなければならない。 一~三 四 (略) 障害の原因である疾病又は負傷 (2以上の疾病又は負傷が障害の原因となっ ているときは,それぞれの疾病又は負傷とする。以下同じ。)の傷病名,当該疾病又は負傷に係る初診日, 当該疾病又は負傷が治っているときはその旨及び その治った年月日並びに当該疾病又は負傷が昭和61年4月1日前に発したものであるときはその発した年月日 五~十一 2 (略) 前項の請求書には,次の各号に掲げる書類等を添えなければならない。一ないし三 (略) 四 障害の状態に関する医師又は歯科医師の診断書 五 前号の障害が別表に掲げる疾病又は負傷によるものであるときは,その障害 の状態を示すレントゲンフィルム 六 障害の原因となった疾病又は負傷に係る初診日(括弧内略)を明らかにすることができる書類 3~9 (略) |