判例検索β > 令和2年(わ)第2451号
殺人
事件番号令和2(わ)2451
事件名殺人
裁判年月日令和3年2月18日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第14刑事部
裁判日:西暦2021-02-18
情報公開日2021-03-12 16:00:24
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主文
被告人を懲役3年に処する
未決勾留日数中210日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,中度知的障害を有するものであり,夫と義母,3人の実子(そのうち2人に障害がある。)と共に生活し,主婦として家事や育児をしてきたが,令和元年6月,4人目の子であるA(以下被害者という。)が生まれ,一時的に施設に預けていた二女が同年8月に帰宅した後は,不眠などによる身体的,精神的な負担が増していった。被告人は,行政機関に相談したが具体的な支援は得られず,被害者を施設に預けることを夫や義母に相談しても反対され,引き続き家事や育児の多くを担い,不眠も続くなどしたため,ますます疲弊し,体重も大幅に減少した。さらに,令和2年1月9日以降,夫や義母を含む家族4人がインフルエンザにかかり,その世話にも追われることになって,これまで以上に追い詰められた。このような状況の中,被告人は,同月18日,被害者を預けることに再び反対した義母と言い合いになり,その際,被害者さえいなければこのような思いをしなくて済んだなどと述べたが,
その夜,
被害者を夜通しあやしながら,
自分のその発言で頭がいっ
ぱいになり,適応障害の状態に陥った。そして,被告人は,ほとんど寝ないまま翌19日の朝を迎え,出かける長男を玄関で見送ると,そのまま被害者を抱いて自宅を出た。
(犯罪事実)
被告人は,被害者(当時生後7か月)を殺害しようと考え,令和2年1月19日午前9時46分頃から同日午前9時53分頃までの間に,大阪市(住所省略)B住宅C館東側階段4階から5階に至る階段踊り場において,殺意をもって,被害者を
同所から同館1階東側地面に落下させたが,同所の植込み上に落下したことから殺害するには至らず,さらに,同日午前10時5分頃,同館西側階段9階から10階に至る階段踊り場において,殺意をもって,被害者を同所から同館1階西側地面に落下させ,よって,その頃,同所において,被害者を脳挫滅により死亡させて殺害した。
なお,被告人は,本件犯行当時,中度知的障害及び適応障害のため心神耗弱の状態にあった。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
省略
(責任能力の判断についての補足説明)
関係証拠によれば,被告人には中度知的障害があったが,被告人は,犯行直前には被害者を落とすのを誰かに止めてもらいたいと思っており,犯行後には被害者の受傷原因に関し家族等に嘘をついたことも認められるから,善悪についての判断能力はあったといえる。また,前記の犯行に至る経緯から考えると,被告人は,本件前から適応障害の状態にあり,知的障害の影響も相まって,子供に対する普段の態度とは大きく異なる突発的な行動として本件犯行に及んだと認められるから,犯行当時,
自分の行動をコントロールする能力は著しく低下していたといえる。もっ
とも,被告人が,被害者を落とすのを誰かに止めてもらいたいと思い,1回目に落とした後には被害者が生きていてよかったと思うなど,自分の行動とは矛盾した感情を抱いていたことや,被害者を落とすために1回目よりも更に高い11階まで上がった後,
被害者を投げ落とすまでに7分も時間を要していることからすると,被害者を殺すことへの迷いや葛藤があったと考えられ,自分の行動をコントロールする能力が完全には失われていなかったといえる。したがって,被告人は,本件犯行当時,心神耗弱の状態であったと認められる。

(量刑の理由)
1
被告人は,集合住宅の階段の踊り場から,2回にわたって生後7か月の被害者を落下させている。高さ11mからの1回目の落下行為も十分危険なものであるが,これにとどまらず,より危険な25mの高さからの2回目の落下行為にも及び,1回目には幸運にも死を免れていた被害者を確実に死に至らしめている。これらの点からすると,本件犯行は,強い殺意に基づくものということができ,犯行態様も,非常に危険で悪質である。
一方,被告人は,中度知的障害を抱えながら,被害者や障害のある子を含む4人の育児や家事を担い,睡眠不足や疲労が蓄積する中で家族や行政機関に何度も助けを求めていたのに,適切なサポートを得られないまま,適応障害を発症するに至り,心神耗弱の状態で本件犯行に及んでいる。このように犯行に至る経緯には,被告人にとって気の毒な面が多分にあり,強い殺意に基づく点も,適応障害等の影響によるところが大きいため,被告人の意思決定を強く非難することはできない。これに対し,検察官は,乳児院から翌週には空きが出る旨連絡を受けており,育児の負担が軽減される見通しがあったのに犯行に至った点を刑を重くする事情として主張する。しかし,被告人が適応障害の状態に陥っていたことからすると,将来の見通しを冷静に考えることができたとはいい難いし,家計を管理していた義母が被害者を施設に預けることに反対していたこと等からすると,育児の負担が軽減される確実な見通しがあったともいえないから,検察官の主張は採用できない。
以上によれば,
本件は,
子を被害者とし家族問題を動機その他の家族関係


とする前科のない殺人1件の事案の中では,軽い部類に位置付けられる。
2
そして,被告人が反省していることや,夫,義母及び行政機関の今後のサポートもある程度期待できること,養育すべき3人の子がいることも踏まえると,被告人に対しては,場合によっては刑務所に入る可能性があることも意識させながら,社会内で更生に向けた努力をする機会を与えるのが相当といえる。そこで,
被告人を主文の刑に処し,執行猶予期間を最長とした上,被告人が,今後,残された3人の子の育児を行いながら立ち直りを図っていく上で適切な指導や援助を受けられるよう,その猶予期間中,保護観察に付することが相当であると判断した。
(求刑-懲役5年)
令和3年2月18日
大阪地方裁判所第14刑事部

裁判長裁判官

坂口
裁判官

湯川
裁判官

重田裕俊亮裕之
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