判例検索β > 平成31年(う)第159号
逮捕監禁致傷、逮捕監禁致傷(変更後の訴因 生命身体加害略取、逮捕監禁致傷)、生命身体加害略取、逮捕監禁、殺人、逮捕監禁致死
事件番号平成31(う)159
事件名逮捕監禁致傷,逮捕監禁致傷(変更後の訴因 生命身体加害略取,逮捕監禁致傷),生命身体加害略取,逮捕監禁,殺人,逮捕監禁致死
裁判年月日令和3年1月28日
裁判所名・部大阪高等裁判所  第1刑事部
結果棄却
判示事項の要旨被告人がXら配下の者を使い,殺人2件(Vc第2の2,Va第2),生命身体加害略取・逮捕監禁1件(Vc第2の1),同致死1件(Vd),同致傷1件(Vc第1),逮捕監禁2件(Va第1,Ve),同致傷1件(Vb第2)に及んだとして起訴され,原判決(裁判員裁判)は,殺人1件(Va第2)以外は,被告人が首謀者として犯行を主導したと認定して,被告人を無期懲役に処し,Va第2事件については死亡原因が確定できないために無罪とし,検察官,被告人の双方が控訴した。控訴審判決において,①弁護人の訴訟手続の法令違反の主張及び事実誤認の主張に対し,原審の訴訟手続には違法はなく,原判決による間接事実等からの有罪認定に誤りがないなどと説示して論旨を排斥し,②㋐検察官の事実誤認の主張に対し,Vaが死亡に至った経緯を推測できる手掛かりはなく,Xにより殺害された以外の可能性を排斥することは困難である旨,㋑検察官の量刑不当の主張に対し,有罪となった殺人の事案は,これまでに殺害被害者1名で死刑に処された事案に類する悪質性や厳しく非難すべき事情があるとはいえず,死刑の選択がやむを得ないとはいえない旨などを説示し,原判決の判断を是認して検察官の論旨も排斥し,双方の控訴を棄却した事例
裁判日:西暦2021-01-28
情報公開日2021-03-11 12:00:23
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平成31年(う)第159号
逮捕監禁致傷,逮捕監禁致傷(変更後の訴因

生命身体加害略取,逮捕監禁致傷)


生命身体加害略取,逮捕監禁,殺人,逮捕監禁致死被告事件
令和3年1月28日宣告
(原判決

大阪高等裁判所第1刑事部判決

神戸地方裁判所姫路支部

平成30年11月8日宣告)

主文
本件各控訴を棄却する
理由
弁護人の論旨は,訴訟手続の法令違反及び原判示各事実に対する事実誤認の主張であり,
検察官の論旨は,
Va第2事件に対する事実誤認と量刑不当の主張である。
第1

弁護人の控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張について

1
Va第2事件の訴因の不適法の主張(控訴趣意第1)



論旨は,Va第2事件の訴因(被告人が,Xと共謀の上,平成22年6月中
旬頃,兵庫県内又はその周辺において,Vaに対し,殺意をもって,けん銃を用いて弾丸を発射するなど何らかの方法により同人を死亡させて殺害したというもの)は,訴因特定に関する憲法及び刑訴法の要請を満たさない上,けん銃を用いたなどとの予断を抱かせる治癒不能な余事記載があるから,原審はVa第2事件について実体審理をせずに公訴棄却判決(刑訴法338条4号)をすべきであり,実体の審理・判決をした原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼす法令違反があるというもの
である。


しかし,原判決はVa第2事件につき被告人を無罪とし,他の事件につき被
告人を有罪とするものであり(有罪部分と無罪部分は可分である。,原判決に対す)
る被告人作成の控訴申立書は,一審で無期懲役の判決を受けたがこれに対して控訴を申し立てるとの内容であるから(原審弁護人からの控訴申立てはない。,原判決)
の無罪部分については被告人側の控訴申立てによる当審への移審の効果は生じていない。そもそもVa第2事件については無罪判決がなされており,再訴の危険があり不利益な公訴棄却判決を求めて被告人が控訴する利益はない。したがって,Va第2事件について被告人から原判決への適法な控訴がなく,かつ,その利益もないから上記控訴趣意は不適法である。
所論は,判例(最高裁昭和23年5月26日判決)によれば免訴の原判決に対して無罪を求めて上訴することができず,その趣旨は,免訴事由があるため実体審理が禁じられるということにあるから,本件で実体審理を行った原審に対してその是正を求めることは認められるはずだと主張する。しかし,所論の判例からそのような解釈を導き出すことはできない上に,本件では控訴申立て自体が存在しないのであるから,所論には理由がない。
2
証人C1の公判供述に関する伝聞法則等違反の主張(控訴趣意第2)


論旨は,原審でのC1の証言のうち,C1がXから被害者Vcや被害者Vd
拉致や殺害の計画を聞いたなどとする部分は,XがC1に話した時点でのXの心理状態(考えや計画)の立証ではなく,その考えや計画を持つに至ったXが体験した事実(被告人とXの間の話し合い等)を立証するものであるから,原審がこのようなC1の供述を許容したことは,伝聞法則(刑訴法320条1項)に違反するとともに,被告人の反対尋問権(憲法37条2項)を侵害し,違法であり,その違法は判決に影響を及ぼす,というものである。


ところで,刑訴法320条1項が原則として書面や伝聞供述に証拠能力を付
与しない趣旨は,供述における知覚・記憶・表現・叙述の各過程に誤りや虚偽が入り込むおそれがあり,
これらのおそれの有無を原供述者の尋問
(とりわけ反対尋問)
により点検する必要があるから,その点検を経ない書面や伝聞供述を原則として排斥するというものと解される。しかし,①本件で主に問題となっているのは,証人(C1)が直接体験したとされる原供述者(X)の言動をもとにその意図を推し量り,さらには,これを一つの間接事実として,被告人との共謀等が推認できるかと
いうことである。要するに,原供述者の言動が真実あったか,それから原供述者の意図や計画等を推認することの合理性,さらには,これを一つの間接事実として,他の事実を推認することの合理性等が問題になるに過ぎず,このような範囲で原供述者の言動が使われる限りは,
伝聞法則違反や証人尋問権の侵害は問題とはならず,
上記推認過程の合理性について事実誤認の問題が生じるに過ぎない。②もとより,証人(C1)が原供述者(X)から特定の話を聞いたことが,証人自身の行動の原因,理由等になることも考えられるが,そのような場面でも,原供述者から聞いた話や情報の中身が問題になるのではなく,証人が原供述者から当該話を聞いたことが事実か否かが問題になるのであるから,伝聞法則違反や証人尋問権の侵害は問題とはならない。


そこで,記録を調査し,本件において上記⑵に反する手続がとられていない
かを検討する。

証人の採用決定の手続

検察官は,C1につき,①被告人及びXとの関係,②Xによる三木倉庫及び焼却炉の準備状況等,③Vc第1事件の準備状況等,④Xから聞いたVa殺害計画の内容等の趣旨で,証人尋問を請求した。弁護人は,②の三木倉庫及び焼却炉の準備状況,
Vcの殺害計画について,
③のXの計画内容について,
④のXの計画について,
いずれも伝聞であるとの異議を述べたが,裁判所は,これらの証人尋問の採用を決定し,採用決定に対する弁護人の異議申立て(伝聞法則の解釈を誤った違法をいうもの)を棄却した。
裁判所は,証人尋問請求等に先立ち,Xの公判外供述に言及する予定であるC1
供述の許容性について,既に双方から示された意見を踏まえ,以下のような見解を示した。㋐XがC1に対する供述時点で有している考えや将来の計画等を告げたことについてC1が証言する場合,Xの供述は,内容の真実性立証に用いるものであっても,知覚・記憶の過程を欠くいわゆる心理状態の供述と捉えることができるから,その供述に関して真摯性が認められる限り,非伝聞供述(刑訴法320条1項
の規制を受けない供述)として扱う。ただし,要証事実との関連性が認められる事項に限って証言を許容する。㋑X自身の過去の体験事実については,その内容の真実性立証のためにC1が証言することは許容しない。㋒個々具体的な証言の証拠能力については,公判において異議申立てがなされた場合に,その都度異議申立てに対する判断によって示す。
上記のとおり,原審裁判所は,C1に,実際に体験したXの言動に限って,それが伝聞の潜脱との批判を受けることがないように立証趣旨等についても最大限の注意を払って証人採用しているもので,証人採用決定の手続に誤りはない。イ
そして,実際に行われたC1の証人尋問の中でも,原審裁判所は,弁護人か
らの伝聞である旨の異議申立てに対し,幅広に証拠排除決定をする等したほか,C1の供述内容を実際に体験したことに限定し,かつ,その供述の信用性を判断する上で必要な事項に限定して検察官に質問させるなど,
適切な訴訟指揮を行っており,
違法不当な点は見当たらない。
所論は,裁判所が証拠排除すべき点について,排除していない点があるとか,C1が証言したXの計画は,計画が形成された経緯やその結果であり,伝聞法則違背を犯しているなどと主張する。しかし,原審裁判所が証拠排除しなかった点は,上
記⑵①の観点から尋問が許容されるもののほか,上記⑵②の観点から尋問が許容されるもの(すなわち,自身の行動の端緒となったXの話に関するC1の証言で,Xの話の真実性が問題とならないもの)
等であって,
いずれも当を得た主張ではない。
3


面会表の取調べに関する刑訴法323条2号違反の主張(控訴趣意第3)論旨は,原審は,Y1及びY2の刑務所における面会表以下本件面会表
という。
)を刑訴法323条2号の業務の通常の過程において作成された書面として証拠採用したが,本件面会表は同号の要件を欠く上,証拠としての許容性や必要性もないから,
この証拠採用決定は違法であり,
その違法は判決に影響を及ぼす,
というものである。


検察官は,当時受刑者であったY1の面会表(3回分)Y2の面会表(7回
分)を刑訴法323条2号により証拠請求をし,原審裁判所は,関係者の証人尋問を行った上,本件面会表のうち,㋐談話の要旨欄以外の部分,㋑Y2の平成30年3月22日の面会(面会者Y1)に関する談話の要旨欄の一部をそれぞれ採用して(その余は必要性なしとして却下)取り調べた。


原審のこのような証拠採用決定には誤りはない。

すなわち,本件面会表は,刑事施設における面会において不当な行為が行われることを防止し,面会の適正な運用を図るため,発言の制止や面会の一時停止等の判断を目的に業務上作成されるものである。談話の要旨欄以外の部分(上記㋐)は,その記載事項(年月日,面会の目的,受付及び面会の時間,面会の相手方の身上及び本人との関係等)自体から,その都度,正確に記録されたことが客観的に推認できるものである。一方,談話の要旨欄の記載(上記㋑)は,刑務官が立ち会う面会
の際,上記㋐の部分と書式上一体として結び付けられ,継続的かつ規則的に記載されることが予定されており,また,すべての会話を逐語的に記録するものではないが,面会の制限をするかを判断する上で問題となり得る具体的な発言を特段の解釈を施すことなく記録しなければ,その作成目的を達し得ないし,これに反した記載をする理由も類型的に考えがたいから,原審裁判所において,本件面会表の上記㋐
の部分だけでなく上記㋑の部分も刑訴法323条2号の要件があると判断して,必要な部分を証拠採用したことは相当で,訴訟手続の法令違反は認められない。4
Y2の検察官調書の取調べに関する刑訴法321条1項2号違反の主張(控
訴趣意第4)

論旨は,原審は,Y2の検察官調書(
本件Y2検察官調書という。
)の一

部を刑訴法321条1項2号により証拠採用し(Va第1事件につき甲732,甲949。Vb第2事件につき甲830。,これら事件につき被告人の有罪認定に供)
したが,この証拠採用決定は要件を欠き違法であり,その違法は判決に影響を及ぼす,というものである。


審理経過等


検察官は,Y2④の証人尋問(Va第1事件等)及びY2⑤の証人尋問(V
b第2事件)の後,本件Y2検察官調書(相反部分に限る。
)について,刑訴法32
1条1項2号後段に定める公判供述との相反性及び特信情況があるとして証拠請求した。原審裁判所は,本件Y2検察官調書の取調官であるP2検察官の証人尋問を行い,弁護人の意見を聴くなどした上,本件Y2検察官調書(相反部分)を証拠採用する決定をし(甲732については一部を却下した。,取り調べた。)

Va第1事件についての本件Y2検察官調書の採用部分の内容は,Y2がf
マンションで檻を完成させた後,被告人にその旨電話で報告し,その後,檻を撮影した写真を被告人に見せて改めて報告したなどというものである。ウ
Vb第2事件について採用された本件Y2検察官調書の内容は,同事件の2
日前の平成21年8月15日,被告人から,Xと連絡を取り合ってXと2人でVbを姫路まで連れて帰るよう指示された,などというものである。


本件Y2検察官調書の証拠採用決定には誤りはない。


すなわち,Y2は,平成21年末頃まで被告人が運営するパチンコ店の従業
員をしていたもので,Y2の父のY1も同様であった上,Y2の供述は当該事件に関する被告人の関与や共謀等の認定に影響し得るもので,記憶違い等をするような内容でもなく,Y2において,実際には存しない被告人の関与を殊更供述するとは通常考え難い。

ところで,Y2は原審公判で,警察官や検察官から被告人の関与を供述する
よう脅迫や利益誘導があったとして,以下のように供述する。①Y2は平成26年3月にVd事件について逮捕勾留された際,その被疑事実が逮捕監禁に止まらず致死まで付いていたため,弁解録取の際にP3検察官に相談すると,供述した人間には全力でバックアップすると言われたことなどから,保身のために被告人の関与について事実でないことを含めて話をした。②その際,Y1も一緒に助けてもらおうと,当時両名の弁護人であったL6弁護士を通じて,Y1と話し合い,被告人が関与している旨話を合わせた。③平成26年7月11日以後,Y2を取り調べたP2
検察官から,何も話さないとVaへの殺人罪で再逮捕される,ダム決壊寸前だと言われるなどしたため,Va第1事件について供述することを決意し,被告人の関与についても事実と異なる話も含めて供述することにした。
しかし,①については,Y2自身が原審公判で,P3検察官から,すべてを被告人のせいにしないように丁寧に注意されたと供述しているばかりか,弁解録取の際の録音録画によれば,Y2が正直に話していくんで助けてくださいと発言したのに対して,
P3検察官が,
心の整理がついていないかもしれないが起きたことはできるだけ正確に記憶のとおりに話してほしい旨などを伝えていることが認められるから,P3検察官の発言が,被告人の関与を殊更大きく述べることの動機付けになったなどとは考えられない。②については,Y2はVd事件の被疑者として勾留及び接見等禁止となっており,Y2の説明は,弁護人が自ら担当する被疑者(Y
2)から,自身の認識と異なる内容をあえて供述するという話を聞き,その事情を分かった上で,別の件で担当する被告人(Y1)にそのまま伝え,当該被告人も賛同し,その旨を弁護人が被疑者に伝えたなどという,弁護人の職責に明白に反する行為を内容とするもので,直ちに信用することなどできない。③については,P2検察官は平成26年7月11日にY2の取調べをしているところ,Y2はその2日前
にVd事件で実刑判決を受けたばかりで,Y2の原審公判供述によると,Vd事件の公判に立ち会ったP2検察官が話を聞きに来てくれ,その際にY2が,警察官から殺人で再逮捕等と言われていることを相談したなどというのであるが,そのような機会に,P2検察官がダム決壊などと切迫した様子でVa第1事件の供述を迫るというのはいかにも唐突で不自然である。しかも,そのような発言は,あからさま
に利益誘導や黙秘権侵害に当たるもので,仮にこのような発言があったのなら,Y2が弁護人に相談等しないというのも不自然である。そもそも,Y2が原審公判において,Va第1事件につき供述できない状況をP2検察官が解きほぐしてくれて供述に至ったので感謝していると述べていることとも矛盾する。これらの点から,Y2の原審公判供述は容易に信用することはできず,このような形でP2検察官が
Y2に供述を迫ったとは考えられない。
Y2は,上記①~③に至った経緯として,平成24年頃に警察官から取調室で頭をぶつけろと言われるなどしたと述べており,確かにこの点については,P2検察官もY2からその話を聞き,その話を前提とした取調べをしており,相応の信ぴょう性があるといえる。しかし,Y2は,警察官と検察官の違いを理解していたからこそ,P2検察官に警察での出来事について話したものと解されるし,上記のように平成26年3月のVd事件における検察官の弁解録取の時点では,検察官から被告人の関与を誇張して供述しないよう注意も受けているのであるから,その後の本件Y2検察官調書に,上記のような警察官による不当な取調べが影響したとは考えられない。

他方,Y2は,被告人の公判が近付いていた平成30年3月22日,Y1と
の面会の際に,Y1から,被告人との和解をちゃんとしてくれな,被告人が無罪を取るような裁判をしているから協力してやらな,Vd事件での被告人の関与については,よく考えたらそんなことはなかったと述べればよい,などと言われ,同人からの働きかけを受けたことが認められる。Y2は,一連の事件で処罰されて服役したことについて,被告人から迷惑をかけられたと考え,被告人から和解金をもらう
ための交渉を父であるY1に任せていたのであるから,
上記のようなY1の発言は,
公判において被告人の関与をあえて供述しないことの十分な誘因になり得るものである。

以上から,本件Y2検察官調書における被告人の関与を示す具体的事実を述
べている部分について,刑訴法321条1項2号後段に定められた公判供述よりも検察官調書を信用すべき特別の情況が肯定される。また,同号後段の要件が肯定される以上,その採用が公判中心主義に反して違法となることはないし,刑事訴訟法325条の供述の任意性その他の証拠能力の要件にも欠けるところはない。所論は,Y2は検察官調書で,Vc第2事件に関し,被告人がプリウスを運転しているのを見た旨をP4検察官に供述したが,検察官は当初その主張立証をしたの
に撤回しており,このことはY2がP4検察官からの利益誘導のために虚偽の供述をしたことを示すと主張する。しかし,Y2は,当該検察官調書作成(平成25年11月)の後,Vd事件の弁解録取において検察官から,被告人の関与を誇張しないようにとの注意を改めて受けているから,所論がいう利益誘導等が本件Y2検察官調書の特信情況等に影響し得るものとは言えない。また,Y2はVd事件での取調べの際にP4検察官とのやり取りについて所論とは全く異なる説明をしているし,そもそも被告人がプリウスを運転していたことは原審において争いがなかったのであり,Y2がP4検察官の誘導により虚偽の供述をしたことを前提とすることもできない。
所論は,①本件Y2検察官調書に係る取調べの録音録画がされていないから特信情況がない,②本件Y2検察官調書に係る取調べは受忍義務のない,いわゆる任意
の取調べであったが,受忍義務がないことの告知がないから,このような取調べは違法であるなどとして,本件Y2検察官調書にも証拠能力がないと主張する。しかし,①は独自の見解であって採用できず(録音録画が特信情況等の判断の有力な資料となることは当然である。,②についても,Y2は,既にVc第1事件,Vc第)
2事件,Vb第2事件(これらの併合審理)及びVd事件の刑事裁判を経験し,警
察官の任意取調べを拒否してもいるのであり,Y2の原審公判供述からも,同人が任意の取調べであることを理解した上でP2検察官の取調べを受けていたことが明らかである上,P2検察官の原審供述によれば,平成26年7月以後のY2の任意の取調べにおいては,毎回ではなかったとしても受忍義務がないことの告知をしていたから,所論は採用の限りではない。


その他,所論が種々指摘するところを検討しても,原審が本件Y2検察官調
書を証拠採用したことの当否を左右するものはない。
5
Y2及びY1の裁判官調書の取調べに関する刑訴法321条1項1号違反
の主張(控訴趣意第4,第5)

論旨は,原審裁判所は,Y2の裁判官面前調書(甲937,甲938。これ
らを本件Y2裁判官調書という。
)及びY1の裁判官面前調書(甲805,甲8
84。これらを本件Y1裁判官調書という。
)のそれぞれ一部を刑訴法321条
1項1号により証拠採用し,Vd事件につき被告人の有罪認定に供したが,この証拠採用決定は要件を欠き違法であり,その違法は判決に影響を及ぼす,というものである。

審理経過等


検察官は,Y2①の証人尋問(Vd事件)の後,本件Y2裁判官調書(いず
れも相反部分に限る。について,

刑訴法321条1項1号に定める公判供述との相
反性があるとして証拠請求した。
また,検察官は,Y1①の証人尋問(Vd事件その他)の後,平成30年6月28日,本件Y1裁判官調書(いずれも相反部分に限る。
)について,刑訴法321条
1項1号に定める公判供述との相反性があるとして証拠請求した。原審裁判所は,弁護人の意見を聴くなどした上,本件Y2裁判官調書及び本件Y1裁判官調書(相反部分)を証拠採用する決定をし(甲884については一部を却下した。,取り調べた。


本件Y2裁判官調書は,平成26年6月23日のY2自身に対するVd事件
の裁判での被告人質問の調書(甲937)及び平成27年1月29日のY3に対する裁判での証人尋問の調書(甲938)である。Y2は,Vd事件に関して甲937の被告人質問の後の平成26年7月9日に実刑判決を受け,甲938の供述当時は上告中であった。本件Y2裁判官調書の採用部分の主要な内容は,㋐Vd事件の後,Y2がY1と合流した際,Y1から,b(Vdを拉致したパチンコ店)が騒ぎ
になっていないか一緒に見に行ってほしいと頼まれ,Y1と一緒に見に行ったところ,異変がなく,Y1がその旨を被告人に報告したなどというものである。ウ
本件Y1裁判官調書は,平成27年1月29日のY3に対する裁判での証人
尋問の調書(甲805)及び平成29年8月31日の本件に関する第1回公判期日前の証人尋問の調書(甲884)である。Y1は,Vd事件に関して平成26年10月に実刑判決を受け,甲805の供述当時は控訴中であった。Y1は,甲884の証人尋問直後の平成29年9月7日に出所した。本件Y1裁判官調書の採用部分の内容は,㋑Y1は,平成22年3月終わり頃,被告人からXの仕事を手伝うように言われ,その約2日後,Xから,大金を貸し付けたのに返さない悪いやくざを捕まえてけじめを取らせることに協力してほしいと求められ,了承した,㋒Y1は,Vdをエルグランドに押し込んだ後,被告人に電話で,Xの仕事が終わったのでどうすればよいか聞いた,㋓Y1は,その後Y2と合流して一緒にいた際,被告人から電話で,bが騒ぎになっていないか見てきてほしいと言われ,Y2と共に見に行き,
騒ぎになっていないことを確認し,
被告人に報告した,
などというものである。


本件Y2裁判官調書及び本件Y1裁判官調書には,公判供述との相反性が明
らかに肯定されるから,これら相反部分を刑訴法321条1項1号により採用した原審裁判所の判断に誤りはない。
所論は,①刑訴法321条1項1号の書面であっても,例外的に信用性の情況的保障が欠ける疑いがある場合には証拠能力を肯定できない,②本件Y2裁判官調書については,審理に被告人やその弁護人が立ち会っていないだけでなく,被告人の立場に立って実質的に反対尋問を行っている者もいないから,証拠能力を認めるの
は被告人の反対尋問権を害し違憲であるなどと主張する。
しかし,
刑訴法321条1項1号が裁判官面前調書に証拠能力を付与する趣旨は,公平な第三者である裁判官の面前で質問及び供述がされたことに信用性の情況的保障を認め,証人尋問権の確保を主な趣旨とする伝聞法則(刑訴法320条)の例外を定めたものである。そもそも,本件においては,Y2,Y1両名の証人尋問が原
審公判で実施されており,反対尋問権の侵害が問題になるとは考えられず,所論の指摘する点は,信用性を判断する上で考慮すれば足りることで,証拠能力に影響を与えるものではないから,所論②の見解は採用できない。また,所論①が主張するように裁判官面前調書でありながら例外的に証拠能力が否定される場合が考えられるとしても,本件Y2裁判官調書及び本件Y1裁判官調書のいずれについても,捜
査官による利益誘導や脅迫によりなされた疑いが生じるとはいえない。すなわち,両名は,原審公判において,捜査官から不当な働きかけを受けて,平成26年3月のVd事件の捜査段階で虚偽の供述をし,これを維持して本件各裁判官調書の供述に至ったかのように述べるところ,Y2,Y1の両名に対して違法な捜査や取調べがあったとしても,これら裁判官調書に係る供述がされた場面は,別件での証人尋問,Y2自身の裁判での被告人質問,あるいは本件の第1回公判期日前の証人尋問であり,捜査官らが直接的な影響を及ぼすことができない状況下のものである。捜査官による不当な働きかけについてのY2の原審公判供述が,一部を除いて信用できず,Vd事件の裁判官調書での供述にも影響していないことについては,上記4で検討したのと同様であるし,Y1についても,その原審公判での説明(Vb第2事件に関して無実であるのに起訴されて有罪とされたことへの恐怖があった上,警
察官から,Y1が被告人をかばうからこのようなことになるのだと脅されて,捜査段階で述べた実際にはない被告人の関与を,
その後も維持したなどというもの)
は,
Y1が自身の裁判でVb第2事件を争っていたことなどと整合せず,信用することはできない。そうすると,捜査官らがY2,Y1の両名に対し,裁判官の面前における供述をコントロールできるほどの影響力を行使し得たなどとは考えられないし,
本件各裁判官調書において採用された相反部分の内容は,Y1が被告人やXから事前にVd事件の計画の全容を聞かされていないことを前提とする(上記⑵㋑㋒)など,捜査官の利益誘導等によりなされたにしては,いかにも中途半端な内容にとどまっており,このことからも,捜査官の利益誘導や脅迫の影響は否定される。したがって,本件Y2・Y1の裁判官調書の任意性に疑いが生じるとはいえないし,他
に証拠能力を否定すべき事情も見出せない。
6
チョモランマUSBの取調べに関する刑訴法323条3号違反の主張(控訴
趣意第6)


論旨は,原審は,p3の元従業員であるE1が作成しチョモランマと名
付けていた経理関係のデータを格納したとされるUSBメモリ(以下,原判決と同様にチョモランマUSBという。
)内の裏帳簿データのうち金庫出金の欄を
刑訴法323条3号により証拠採用したが,これらデータは,証拠の同一性・真正の立証がされておらず,かつ,同号の要件を欠くから,この証拠採用決定は違法であり,その違法は判決に影響を及ぼす,というものである。


審理経過等

原審裁判所は,第2回公判において,平成24年2月にp3の2階**ルームの天井裏でチョモランマUSBを発見して差し押さえたとするVa警察官の証人尋問及びチョモランマUSB内のデータを印刷したとするP1検察官の証人尋問を行い,チョモランマUSB内のデータの作成・保管状況等に関するE1の証人尋問を行った上,チョモランマUSB内のデータのうち,月ごとにシートとなったエクセルファイルで,左側に日計表,右側に金庫出金と記載された項目がある帳簿(原判
決と同様に
裏帳簿
という。を印刷したもの

(甲929の資料1)金庫出金

欄部分を刑訴法323条3号により採用し,取り調べた(なお,日計表部分及び同USB内の支払明細表(甲929の資料2)
,決裁書(甲929の資料3)を印刷し
たものについても,刑訴法323条2号により採用し取り調べた。。)


判断

以下のとおり,原審の訴訟手続には法令違反はない。

証拠の同一性について

(ア)証拠によれば,①E1は,被告人が経営するパチンコ店の経理関係のデータを格納していたチョモランマUSB(詳細は後記イのとおり)を,警察によるp3の捜索(平成22年5月26日)の後,p3の2階**ルームの天井裏の配線受けの下に隠し,平成22年10月,チョモランマUSBを放置したまま被告人のもとから離れたこと,②E1は,警察官に対してチョモランマUSBの存在や所在場所に関する情報を伝え,K1警察官は,平成24年2月1日から同月2日のp3の捜索差押えの際に,上記①の場所からチョモランマUSBを発見し押収したこと,③チョモランマUSBは,平成29年に検察庁に送付され,P1検察官は,チョモラ
ンマUSBのデータを複写したDVD-Rを開き,当該データ等を印刷するなどして,甲929号証の各資料を作成したこと,などの事実が認められる。(イ)すなわち,E1は,上記(ア)①のように,自身が保存していたパチンコ店の経理関係のデータを内容とするチョモランマUSBを隠匿し,それが警察官に発見された旨を述べているところ,①チョモランマUSBが発見された場所・状況は,店舗における従業員のみが出入りしていた部屋の,天井裏に通じる点検口を開け,その付近にある配線の裏にあったというものであり,E1が供述する以外の状況(店舗の営業や事務処理等)において第三者の故意や過失により当該USBが入り込むという可能性は極めて低い。②また,平成22年5月にp3は捜索の対象となっており,E1が,警察に把握されることを見越して被告人を陥れる,捜査を混乱させるなどのために虚偽のデータを作出するのであれば,もっと見つかりやすい場所に
保管するはずで,警察から容易に発見されないと想定される場所に,自身が保存していたものとは異なるデータをあえて作成・保存する必要性は考えられない。しかも,E1は平成22年10月にp3を離れており,その後にはp3に当該USBを遺留すること自体が困難であり,そのような可能性は現実的とは言えない。以上からすれば,自身が保存していた経理関係のデータが入ったチョモランマUSBをそ
のまま隠匿したとのE1の供述は十分信用でき,同供述などから,証拠の同一性・真正が認められる。
(ウ)所論は,押収されたとするUSBメモリと甲929号証の印刷物の間の同一性の立証がないと主張するが,p3の**ルームにおける差押えにおいては他に混同を生じ得るようなUSBメモリはなく,押収の後に証拠物として警察又は検察庁
による保管が継続していること,E1の公判での説明を見ても両者のデータの食い違いを疑わせるような事情はないことなどからすれば,
同一性には何ら問題がない。
所論は,USBメモリを自宅等でなく捜索が行われた店舗の天井裏に隠匿したことの不自然性を指摘するが,店舗運営に関する裏金などの情報について,押収を防ぎつつ一定範囲の関係者が把握する必要があることも想定され,店舗内に隠匿する
ことが特に不自然とは言えず,E1の供述の信用性に疑問が生じることにもならない。
所論は,E1が警察官にチョモランマUSBに関する情報を早い段階から提供していたというのに,その旨の供述調書等がないから,E1が警察官にそのような情報を提供したというのは疑問であるなどと主張する。しかし,E1からの情報提供があったことを供述調書等として証拠化するかは,当時その情報の重要性を警察官がどのように考えていたか等の事情によると考えられるが,本件でのチョモランマUSBの位置付けに鑑みても,警察官らにおいて,これが後に重要な意味を持つと予想することは困難であったと考えられるから,供述調書等の不存在が,弁護人の指摘するような疑問を生じさせるとはいえない。
所論は,チョモランマUSB内の裏帳簿データのファイルのプロパティは作成日
時と更新日時が同一である(平成22年5月30日)が,データが逐次追加・編集された場合にはそのようなプロパティとはならず,このようなプロパティとなる場合は,プロパティの人為的変更といった不正な意図・操作が想定される場合か,E1が裏帳簿データを自ら作成して逐次入力したというのとは全く異なる取扱いがされていた場合であって,同一性・真正が認められないと主張する。しかし,弁護人
が開示を受けて保管するデータファイルのプロパティに記録された作成日時と更新日時が所論のように同じだからといって,所論の可能性に限られるとは言えない。そもそも上記(イ)のように,E1が元々保管していた裏帳簿のデータと異なるデータを保存してp3店内に残しておく理由がなく,そのようなことをしていないというE1の供述は信用すべきものといえるところ,所論が前提とする裏帳簿データの
プロパティに記録された最終更新日時
(上記)p3の別件での捜索の4日後で,
は,
チョモランマUSBが警察に発見されるより約1年8か月前というのであり,このような時点で捜査機関はもとよりE1その他の者が偽のUSBメモリやデータの作成等をすることは考えられず(なお,当該最終更新日時以後にデータの修正があったと仮定すれば,併せて更新日時等のプロパティ情報も人為的に変更されたことに
なるが,E1や第三者が最終更新日時をあえて別件捜索の後の日時に変更する理由がないから,当該最終更新日時以後のデータ修正の可能性は合理的なものとはいえない。,むしろ,捜索後間もなくチョモランマUSBを隠匿したというE1の供述)
に沿うもので,当該最終更新日時の記録はその際の操作によるものとみるのが自然である。結局,弁護人の主張は,E1の供述の信用性あるいはデータの同一性・真正に対して的確な疑問を提起するものではなく,採用し得ない。
(エ)以上のとおりであるから,甲929号証資料1について,p3で押収されたUSBメモリに格納されていたデータとの同一性が優に認められる。イ
刑訴法323条3号の該当性について

(ア)E1は,裏帳簿の記載について,以下のように供述する。㋐E1は,被告人から,被告人が経営するパチンコ店の各店舗の実際の売上額が分かる資料を作成するよう指示を受け,裏帳簿の日計表の欄に,各店舗の毎日の実際の売上額等を記録し,それをもとに月末に残存する現金と誤差がないかすり合わせをしていた。㋑E1は,被告人から,被告人の指示で各月に金庫から出金した額と実際の残金に誤差がないかを確認できる資料を作成するよう指示を受け,
そのすり合わせをするため,
裏帳簿の金庫出金の欄に記録していた。㋒上記㋑の金庫出金をするものに
ついては,すべて被告人から決裁を得ており,被告人の決裁なしにE1が支払いをすることはなかった。㋓金庫出金の際に作成された決裁書や出金伝票は,金庫に保管していたが,事後に処分することがあり,平成22年5月26日のp3の捜索時には処分されたはずである。
(イ)上記(ア)のE1の供述の信用性について検討する。原判決も概ね適切に説示
するように,①裏帳簿や金庫内の金銭の管理状況等の全般に関するE1の説明は,被告人が姫路に戻った時に金銭支出に関する決裁を受けた旨のY2の供述,被告人に同行していた際にE2等がパイプ役となって被告人が出金の決裁をしていた旨のE2の供述などとの整合性が高いほか,被告人も認める従前の経緯(各店舗の売上げ等に関して裏金が存したこと,少なくとも東京に行くようになる前には各店舗の
売り上げ状況を毎日自ら点検等して厳格に管理していたことなど)からしても自然で説得力のある内容である。②本件では,後記(第2の4参照)のように,とりわけxすなわちX宛ての支出の有無が問題となるところ,
金庫出金欄の平成2
1年7月分から平成22年5月分に,
x又はx給の費目で毎月40万円又は
30万円の記載がされている。平成21年3月又は4月頃以後に被告人からXに毎月40万円が支払われていたことは争いのない事実であり(Xや被告人も同旨の供述をしている。,このことは,

金庫出金欄に毎月の現実の支払いに対応した正確
な記載がされていることを裏付けている。③そして,Xは,パチンコ店の通常の従業員としての勤務実態はなく(E1はXにつき,C1とともにいる場面やゴト師を捕まえている時に被告人とともにいた場面を見ているものの,パチンコ店の仕事をしているのを見たことがない旨供述している。,パチンコ店の経理担当者に過ぎな)

いE1が,上記②のようなXへの毎月の支払いを被告人の指示なしに行うことは到底考えられず,このことは,被告人の指示を受けて出金をして金庫出金欄に記録した旨のE1の供述の信用性を支えている。④弁護人は,E1が自身の使い込みを隠す目的で裏帳簿データを作成していた可能性を指摘するが,
金庫出金
として
記載された費目を検討すると,ⓐ上記のxすなわちX宛の支出については,E
1が自身の利益のためにX宛の支出を偽装した場合,後日その支払いの存否が問題となった時にE1がその問題をごまかすことができず,追及を招くことが必至であり,E1がそのような偽装をすることはおよそ考え難く,ⓑその他の費目(当時の被告人の東京の自宅の家賃,従業員の給料の支払い,被告人やその関係者への交付や送金等)についても,被告人がその内容を容易に把握し得るもので,ⓐと同様に
E1による偽装を想定することが現実的ではなく,結局,E1が自身の使い込みを隠すなどの目的で金庫出金欄の記載をした可能性は極めて乏しい。⑤確かに,チョモランマUSBの裏帳簿の金庫出金に対応する決裁書,出金伝票や領収書等の資料は残されていないが,正規に明らかにすることができない金銭の支出という性質や,平成22年5月に警察の捜索が行われたことなどにかんがみると,決裁
書等の資料が残されていないことにも合理的な理由があると言え,金庫出金
欄に
毎月逐次の記載がされていたとのE1の供述の信用性を損なうものではないし,E1が使い込みを隠すなどの目的で記載をしたとの疑いが生じることにもならない。なお,所論は,決裁書等の資料を廃棄した時期(各月の翌月初め頃かp3の捜索後か)に関するE1の供述の変遷を主張するが,当該金庫出金に関して被告人の確認や了承が得られた後であるという限りでは終始一貫しており,目的を達した資料の廃棄の時期の記憶が曖昧になることは不自然なことではないから,この点に変遷があるからといって,E1の供述の信用性を左右しない。
所論は,
原判決が三木倉庫に関係して支出されたと認定する
金庫出金
欄の
x契約料の費目での28万円の記載(平成21年10月分)及びxの費目での147万3000円の記載(平成21年11月分)について,三木倉庫の契約や工
事,焼却炉設置等を行ったY3は,原審公判で述べなかったが実際にはXから400万円程度を前金で受け取っていたから,
金庫出金
欄の記載は現実の金の動きで
はなく,契約書類の記載に合わせて後から記入された疑いが残ると主張する。しかし,上記主張はY3の原審公判供述(Xが支払原資をその都度準備した旨)に積極的に反する内容であり,XからY3に前払いがされたことをにわかに前提にはでき
ないし,仮にXがY3に前払いをしたと想定しても,被告人からXへの支払原資の提供についてまで,一括して前払いされるはずだとは言えず,後付けで記載がされたとの疑いが生じることにはならない。
(ウ)そうすると,チョモランマUSBの裏帳簿の金庫出金欄の記載については,E1の供述のとおり,被告人の指示に基づく出金に関して,確認や被告人への
報告等を行うために,逐次正確な記載がされたことが認められ,そもそも,当該裏帳簿データの作成経緯等に照らしても,そのような記載がされたものでなければ裏帳簿としての意味もなく,類型的に高い信頼性を持つといえるから,刑訴法323条3号の要件が肯定される。
7
カーナビゲーションデータの解析結果の証拠採用手続の法令違反の主張(控
訴趣意第7)


論旨は,Vc第2事件に関し,レンタカーであるプリウスとダイナに装着されていたカーナビゲーション(以下カーナビともいう。
)システムに記録されて
いた走行データを抽出してそのデータを科捜研の技官が解析して地図ソフト上に転記したとされるデータファイルを証拠採用したこと等に関する原審の訴訟手続に,判決に影響を及ぼす法令違反があるというものである。これらカーナビから抽出されたデータは,Vc第2事件の事実認定に不可欠なものではないため,これらの主張は判決に影響を及ぼすものとはいえないが,この点をさておくとしても,以下のとおり,この点に関する主張は,採用し得ない。


適正な令状に基づかない違法な手続であるとの主張について

所論は,いわゆるGPS捜査に関する最高裁平成29年3月15日判決を引用するなどして,
カーナビシステムから走行データを抽出して解析する捜査については,法的利益の主体や保存されたデータの広汎さ等から,期間や地域,人による限定が必要であるのに,本件ではそのような令状は発せられていないとする。しかし,同判決で問題となったように無断で車両にGPS端末を取り付ける捜査を行う場合は別として,本件のように車両の管理者自身が設置したカーナビシステ
ムに記録された走行記録を抽出分析する捜査は,

証拠物の差押え及び必要な処分,
あるいは,検証として許容されるから,それに対応した令状を要するだけで,所論がいうような限定が付された令状が必要であるとは考えられない。そして,関係証拠によれば,本件では,①プリウスについては,カーナビシステムに対する差押許可状によってこれを差し押さえて捜査本部に持ち込み,事件関係

(C5)
がプリウスを借り受けてから事件後に発見されるまでの期間に限定して,照会先の会社に走行軌跡等の抽出等を依頼したこと,②ダイナについては,カーナビシステムに対する検証許可状により,警察官及び作業補助者が,カーナビシステムを操作して外部記憶媒体(メモリースティック)に記録を保存し(日時等による限定はできなかった。,その日のうちにCD-Rに保存して捜査本部に持参したこ)

となどの事実が認められる。
このように,プリウス,ダイナのいずれについても,令状に基づいて適法に情報の抽出が行われたもので,所論の指摘を検討しても,違法な点は認められない。⑶

データの同一性・真正を争う主張について

所論は,科捜研の技官が解析したデータとカーナビシステムに記録されていたデータとの間の同一性・真正を争うものである。
本件各カーナビからの走行軌跡等の抽出は,上記⑵のとおり行われたものであるところ,所論が問題視するP5検察官を除いた原審関係証拠によっても,プリウスについては,照会先会社とカーナビシステム本体の授受をするに当たりシリアル番号等による特定がされ,
科捜研に照会先会社から戻って来たCD-Rを渡す際には,
複製と明示した上で授受されたこと,ダイナについても,抽出したCD-Rに管理
番号を付して同一性に遺漏がないよう配慮していたことが認められ,同一性に疑義を抱かせる事情は認められない。


P5検察官の証人採用等を争う主張について

所論は,原審裁判所が上記⑶の同一性の立証のために職権でP5検察官を証人採用した
(その尋問後,
同一性があるとして上記データを証拠採用した。ことにつき,

公平な裁判所の判断を受ける被告人の憲法上の権利を害したと主張するものである。当事者主義を基調とする刑事訴訟手続において,
職権証拠調べはもとより二次的,
補充的なものであるが,真実発見の見地から,裁判所が必要と認める場合にこれを行うことは刑訴法298条2項,316条の32第2項が明文で認めるところで,そのような必要性に基づく限り,その内容や効果が検察官の立証を補うものであっ
たからといって,一概に不公正であるとはいえない。本件では,上記⑶のとおり,P5検察官の証人尋問の有無にかかわらずデータの同一性が肯定できるもので,原審裁判所の証人採用も,原審弁護人らの主張にかんがみ正確を期して念のために行ったという程度の位置付けと解され,証拠調べの必要性が肯定されるし,そもそも所論がいうような有罪立証の不足を補うといった内容のものではない。裁判所がそ
の分析結果のCD-Rを取り調べたことが違法となる余地はなく,いずれにせよ所論は採用できない。
8
S1准教授の公判供述の採用に関する法令違反の主張(控訴趣意第8)


論旨は,原審は,兵庫県三木市所在の倉庫(三木倉庫)に設置されていた焼
却炉(本件焼却炉)から発見されたとされる骨ようのものの人獣識別鑑定の結果・内容について,当該鑑定をしたS1准教授(以下,S1准教授が行った鑑定をS1鑑定という。)を証人として採用し,原判決は,S1准教授の公判供述に依拠して,骨ようのもの3点が人骨であると認定したが,①S1鑑定の対象物である骨ようのものが,三木倉庫を警察が管理するようになった平成22年9月29日までに本件焼却炉内に存在したことは立証されていないから,鑑定資料の同一性・真正が認められないこと,②S1鑑定には科学的信頼性がないこと,③仮にS1鑑定に何
らかの証拠価値があっても,その証拠価値よりも,事実認定者にもたらす不公正な偏見等の弊害の方が大きいから,S1鑑定に関する供述には法律的関連性がないこと,などから,S1准教授の公判供述には証拠能力がなく,原審がそのような証拠を採用した違法は判決に影響を及ぼす,というものである。
記録を調査して検討すると,原判決は,証拠の標目において,S1鑑定に関する
証拠を,Vd事件及びVc第1事件の証拠として挙げている。しかし,Vd事件及びVc第1事件に関する原判決の説示や,公判前整理手続での証拠調べの必要性に関する整理(下記⑶参照)の趣旨に照らすと,S1鑑定は,三木倉庫において遺体処分が可能であったことの根拠の一つとされている。そして,㋐Vd事件に関しては,C1の述べるXの計画(Vdを三木倉庫に略取して殺害する計画)が,三木倉
庫の性状に即していて信用性が高く,当該計画が実現可能なもので,遺留されたVdの血痕の状況等と併せて,Vdが三木倉庫内等で死亡して遺体が三木倉庫内で処分されたと認定できるとし,他の間接事実等も併せて,逮捕監禁致死罪の成立を肯定し,
㋑Vc第1事件に関しては,
上記㋐の認定を引用し,
他の間接事実と併せて,
略取における被告人の生命加害目的を認定したというものである。しかし,本件焼
却炉で遺体を焼却でき上記計画が実現できることは,その焼却炉の能力からもいえることで,三木倉庫の客観的構造等も併せれば,三木倉庫が人を監禁して遺体の処分を可能とする性状を有することは,S1鑑定を除いても十分にいえるから,この点の原審の訴訟手続についての法令違反の主張や下記第2の1の事実誤認の主張は,原判決に影響を及ぼさないということができる。しかし,論旨が上記③のように事実認定者に弊害をもたらした等と主張していることにもかんがみ,以下,判決への影響の有無の問題をひとまず措いて検討することとする(下記第2の1の事実誤認の論旨も同様とする。。



論旨①について


前提として認定される事実経過

(ア)警察は,Vc第1事件の発生直後,被害者Vcの案内等により三木倉庫の所在を特定し,平成22年9月29日から同年10月2日にかけて三木倉庫内の検証や捜索差押えをした(第1検証)
。その際,K1警察官等は,本件焼却炉の燃焼室底
面に灰等の残渣物が堆積しているのを発見し,残渣物を,手袋等をしてつかみ,あるいは本件焼却炉付近に立て掛けられていた灰かき棒を灰出口から挿入してかき出すなどして採取し(底面に堆積している残渣物以外の物の採取はされなかった。,)

倉庫管理者から任意提出を受けた。また,警察は,平成22年10月5日から同月11日にかけて,三木倉庫の検証等を行い(第2検証)
,その際,同月6日から同月
8日にかけて,本件焼却炉の検証をし,K11警察官等は,燃焼室内の残渣物の大部分を,付近に立て掛けられていた灰かき棒で採取して差し押さえ,焼却炉の内面や煙突の内側からすすを採取した。これらの第1検証及び第2検証の際の残渣物か
らは,骨の成分(リン及びカルシウム)は検出されなかった。
(イ)警察は,平成22年10月8日,本件焼却炉を差し押さえ,K1警察官,K12警察官等は,本件焼却炉の煙突等を取り外し,本件焼却炉をクレーンでつり上げて車両(ユニック車)の荷台に載せ,ブルーシートをかぶせるなどして,姫路警察署敷地内の車庫(本件保管庫)に搬入した。搬入の際,ブルーシートが敷かれ,
搬入後,新品のブルーシートがかぶせられ,
触るな組対課と記載された貼り紙

が貼り付けられた。その後も,下記(エ)(オ)の検証時及びその前の確認のためにブルーシートを取り外したほかは,ブルーシートをかぶせての保管が継続された。(ウ)本件保管庫は,3区画に区分された車庫の1つ(中央)であり,正面出入口のシャッターに施錠がされ,平成22年12月頃までは他の課の証拠品が保管されることがあったが,それ以後は本件の証拠品のみが保管されており,施錠の鍵は姫路警察署の警務課で管理され,捜査本部要員が本件保管庫に立ち入る必要がある時は,証拠品保管の責任者(帳場長)の了承を得た上で鍵を受け取って立ち入り,それ以外には立ち入りが許されておらず,また,証拠品を出し入れする際には帳簿がつけられ,証拠品の保存状況を姫路警察署の組織犯罪対策課長が月1回点検をして証拠品点検簿に記録していた。また,上記の3区画は,最も奥の部分を除いては各
境界にコンクリートの壁があり(なお,各境界には手前にも開口部があるが,板で封鎖されている。,最も奥の部分についても,高さ約180センチメートルの板や)
棚が置かれ,人の出入りはできないようになっていた。
(エ)警察は,その後,VdやVaを被害者とする事件を捜査する過程で,焼却炉の内部が清掃されるなどの罪証隠滅が行われているのではないかとの疑いを強め,
本件焼却炉における確認未了の部位(集じんボックス,空気孔,四隅のエアチャンバー等)を中心に更なる証拠収集を行うこととし,平成27年4月27日,本件保管庫内において本件焼却炉の検証を実施した。K13警察官,K14警察官等は,本件焼却炉を分解し,K15警察官,K16警察官等は,集じんボックスや同ボックスへの接続口,送風機の鉄板や送風機への接続口,再燃バーナー,助燃バーナー
やその接続口,煙突,天板からすすようのものを,焼却炉本体の底面からボルトようのものを含む残渣物を採取したほか,焼却炉燃焼室に付された空気孔12個のうち,最も低い位置のもの(右前面の最も下のもの,記号シ
)及びその次に低い位
置のもの(右後面の最も下のもの,記号エ
)をファイバースコープで観察し,記
号シの空気孔に白色固形物があるのを発見し,綿棒でかき出して採取し,さら
に,
これらの空気孔が通じる先となっている焼却炉の四隅の空間
(エアチャンバー)
について,それぞれの最下端の開口部の縁に堆積した残渣物等を直接採取し,これらの縁に堆積した油ようのものを綿棒で採取し,エアチャンバーの側面の微物をブラシでこすり落として採取した。
警察は,これら28点の資料のうち23点について,骨の成分(リン及びカルシウム)の含有の有無の鑑定を科捜研に嘱託し,科捜研では,空気孔シの固形物から,リン及びカルシウムを主成分とする白色個体が3片検出された。科捜研研究員は平成27年5月25日,このような検出結果を記載し,鑑定資料の写真や分析結果,当該3片の物の拡大写真などを添付した鑑定書を作成して回答した。(オ)警察は,上記(エ)でリン及びカルシウムが検出されたのが2ないし数ミリメートルの小さい物であったことから,本件焼却炉内になお残存する同程度の大きさ
の物を採取して分析することとし,平成27年6月18日,本件保管庫内において本件焼却炉の検証を実施した。K14警察官,K17警察官等は,本件焼却炉の天板を取り外し,灰出口底面及び灰出口底面と燃焼室底面との継ぎ目にあった燃焼残渣物をブラシでかき出して採取し,燃焼室底面の残渣物をブラシで寄せ集め,ピンセットで採取するとともに掃除機で採取し,燃焼室底面の4か所の焦げ付きをへら
で削り落とし,ピンセットで採取するとともにシリコンシートで採取した。K14警察官等は,4つのエアチャンバーの最下端の開口部の縁に残っていた残渣物を,ガーゼを巻き付けたL字型金属棒を上から差し込んで採取した。さらに,K14警察官等は,焼却炉燃焼室に付された12個の空気孔のすべてにつき,ファイバースコープで確認した上,外側への空気噴射,シリコンシートへの粘着,歯ブラシでの
こすり取りの3つの方法で固形物を採取した。
警察は,これら22点の資料について,骨の成分(リン及びカルシウム)の含有の有無の鑑定を科捜研に嘱託し,科捜研では,燃焼室底面の残渣物から6片の,右前エアチャンバーの残渣物から1片の,空気孔サの固形物から1片の,空気孔シの固形物から7片の,リン及びカルシウムを主成分とする白色個体が検出さ
れた。科捜研研究員は平成27年7月6日,このような検出結果を記載し,鑑定資料の写真や分析結果,当該合計15片の物の拡大写真などを添付した鑑定書を作成して回答した。

判断

原審裁判所は,上記アの事実経過等に関する証拠調べを経た上,第37回公判期日において,上記ア(エ)の3点,(オ)の15点(合計18点)の固形物(以下,骨ようのものというときは,特に断らない限り,これら合計18点の固形物を指す。)
を鑑定したS1准教授の証人尋問を採用し,第38回公判期日にその証人尋問を実施した。
以下のとおり,これらの骨ようのものは,平成22年9月29日に三木倉庫が警察の管理下に置かれた時点で,本件焼却炉内にあったものと認められるから,原審
の訴訟手続には鑑定資料の同一性・真正に関する違法な点はない。(ア)三木倉庫内における検証及び三木倉庫からの取外し,運搬(上記ア(ア)(イ))においては,①燃焼室底面の残渣物の採取に当たり,付近に立て掛けてあった灰かき棒を使用した点は,燃焼室内に異物を混入させないという観点から慎重を欠いたと考えられる。しかし,当該灰かき棒は,その置かれていた場所等から,本件焼却
炉の灰のかき出し用の物品であったことが明らかであり,当該灰かき棒を用いたことによって,元々燃焼室内に存在しなかった骨ようのものが本件焼却炉内に入り込んだという可能性は考え難い(特に,S1准教授により人骨の可能性が高いと鑑定された3点は,下記第2の1のように空気孔シに存したものであるから,検証の際の灰かき棒の使用により骨ようのものがそこに入り込んだ可能性はより強く否
定される。。②そのほか,検証及び取外し,運搬においては,そのすべての過程が)
写真等の客観的な証拠になっているわけではないが,運搬の前に,取り外された煙突への接続口にシートがかけられ,全体にブルーシートがかぶせられるなどして異物混入防止の措置が取られている。エアチャンバー最下端の開口部からの異物混入等を想定するとしても,
本件焼却炉の検証や保管の過程においては焼却炉の運転
(燃

焼)やこれに伴う空気の取入れはされておらず,そのような状況で,本件焼却炉の下の狭いすき間からエアチャンバーの最下端の開口部を通って異物が混入したなどの可能性は現実的ではない
(まして,
上記①と同様に,
そのような異物が空気孔

にまで入り込むことは想定し難い。。

(イ)本件保管庫での保管(上記ア(ウ))においても,本件焼却炉の下にブルーシートが敷かれ,上からブルーシートがかぶせられており,もとより焼却炉としての運転やそれに伴う空気の取入れはされていなかったこと,
本件保管庫は車庫であるが,
大型証拠品の保管のみに用いられ,シャッターには施錠がされ,証拠品に職務上関係のある警察官以外の者が立ち入ることはなく,帳簿への記録なしに持ち出されることもない状態であったこと,本件保管庫はその隣の区画との間で構造上開口部があるが,板の仕切り等がされて人の出入りはないこと,などからすると,平成27
年の2度の検証における証拠採取までの保管が5年弱に及んでいるが,その間に,異物(骨ようのもの)が風に乗るなどしてエアチャンバーの最下端の開口部などを通って本件焼却炉内に混入したという可能性は想定し難く,そのような異物混入の可能性は現実的なものではない。
所論は,平成22年の第1検証,第2検証等の際に鑑定された相当の量の物件か
ら骨の成分が発見されなかったのに,その5年後に骨の成分が発見された謎は何一つ解明されていないと主張するが,上記アに認定したように平成27年には平成22年に証拠収集されなかった部位や対象物をも収集対象としたこと,平成22年の鑑定時には資料が多量であったため,捜査本部と科捜研側が協議した上で,外見上骨と見えるもの23点のみが鑑定されたことなども踏まえると,平成27年に至っ
て骨の成分が検出されたこと自体が疑問であるとは言えず,証拠品の同一性に疑義を生じることにもならない。
(ウ)平成27年の2度の検証(上記ア(エ)(オ))においても,検証は本件保管庫の右奥に置かれた本件焼却炉に対して行われており,天候による風等の影響を受ける可能性が乏しく,検証の支障となるような風はなかったと認められること,各部位
からの微物等の採取においては,
混同が生じないよう,
各種の採取道具が用いられ,
採取された物が瓶や袋に入れられ,科捜研での鑑定に供されていることなどからすれば,検証等の機会に,本件焼却炉外から骨ようのものが鑑定対象物に混入したという可能性は想定し難く,そのような可能性は現実的とはいえない。(エ)以上から,本件で鑑定に供されて骨の成分が検出された骨ようのもの18点(とりわけ,そのうちS1鑑定により人骨の可能性が高いと判定された3点)は,平成22年9月29日に三木倉庫が警察の管理下に置かれた時点で,本件焼却炉内にあったものと認められる。


論旨②③について


原審の審理経過

(ア)検察官は,平成28年12月2日,S1鑑定に係る鑑定書(以下S1鑑定書という。及び本件焼却炉内からの微物採取の経過等に関する証拠を証拠請求し)
た。原審裁判所は,弁護人の意見や検察官の意見を聴き,S1鑑定書の提示命令をかけた上,以下のような判断を示した。①S1鑑定書の鑑定意見が導出される上で主要な位置づけが与えられている骨組織の形態観察においては,㋐光学顕微鏡及び大型放射線施設SPring-8のX線CT画像による各資料の骨組織形態の観察
(定性的観察)
,㋑それらで計測された骨組織中の特定の部位(ハバース管〔H〕及びオステオン〔On〕
)に係る数値(ⓐHの面積,ⓑOnの面積〔ⓐ,ⓑとも,実測
値に焼成による縮小を織り込んだ推計値〕ⓒH,

On両者の面積比
〔H-On示数〕

を基礎とした統計学的検討がなされている。
②これらの骨組織の形態に関する観察,
検討は,生物種ごとの骨組織構造の特徴,取り分け陸生中大型哺乳類中でのヒトと
他種との判定指標について,全体としておおむね20世紀末までに確立され,教科書類にも記述されている比較解剖学的知見を基礎としているものと見られ,S1鑑定は最低限度の証明力を有する。③弁護人は,①㋑の科学的有効性等への疑問(H-On示数を特に有力とする点の根拠の薄弱さ,焼成による縮小を織り込んだ推計値の算出過程の疑問
(縮小率の妥当性)比較動物に係る参照数値のサンプル数の少


なさなど)を指摘するが,それらの疑問はS1鑑定の証拠価値ないし証明力の問題として公判審理で吟味・検討すべきものであり,最低限度の証明力の有無を左右しない。④したがって,S1鑑定は証拠能力(最低限度の証明力)が認められる。(イ)弁護人は,上記(ア)の原審裁判所の判断を踏まえ,S1鑑定について,訴因との関連性が乏しく,事実認定者への不当なインパクトを与えるという法律的関連性(相当性)の問題についても判断されるべきであるとの意見を述べた。原審裁判所は,弁護人の更なる意見を聴き,関係する訴因(Vc第1事件,Vd事件,Va第2事件)について検察官がS1鑑定の位置付けを改めて示した証明予定事実を踏まえ,
以下のような判断を示した。
①S1鑑定の立証の位置付けとしては,
検察官は,
その証明予定事実によれば,S1鑑定によって人骨の可能性が高い微物が本件焼却炉から現実に発見されたことを立証し,この事実と三木倉庫や本件焼却炉の構造等
の他の事実とを併せて,三木倉庫が人を監禁しその死体を処分することが可能な施設であったことを立証しようとしているものと考えられる。②①の立証は,それが功を奏すれば,その内容の証明力次第では,Va第2事件の殺害計画やVd事件,Vc第1事件の監禁・殺害計画,生命加害目的等の立証を補強し得るものと考えられ,現段階においてその証拠価値が極めて低いなどと断じることはできない。③弁
護人は,証拠価値以上の不当なインパクトを与える危険を主張するが,公判では①の立証上の位置付けや立証構造を踏まえた立証・反証や論告・弁論等の意見陳述がされ,その中で証拠決定の時期や証拠調べの順序等を工夫する余地があり,裁判所はそれらを踏まえてその証拠価値を吟味することになるのであり,弁護人の懸念にはそのような審理の組み立てによって対処すべきである。④よって,弁護人の主張
は採用できず,S1鑑定の法律的関連性は認められる。
(ウ)原審裁判所は,鑑定資料の同一性・真正性に関しては公判期日で審理をし,S1鑑定の内容に関する証拠の採否を公判期日まで留保し,鑑定資料の同一性・真正性に関する立証の成否の判断如何により採否を決することとし,上記⑵アの事実経過等に関する証拠調べを経た上,上記⑵イのとおり,S1准教授の証人尋問等を
採用した。

判断
上記アのような原審の訴訟手続の適否につき検討する。
(ア)科学的証拠を事実認定に用いる場合,当該証拠の科学的信頼性に関する事項は,当該科学的証拠の信用性や証拠価値などといった,裁判員と裁判官の評議により判断されるべき事項と密接不可分なものである。公判前整理手続は,充実した公判審理を実現するため,主張及び証拠を整理して審理計画を策定する場であることなどからすれば,公判前整理手続において当該科学的証拠に関する採否を判断する際に,当該証拠の科学的信頼性に関して審査を行い尽くすことは予定されていないというべきであるから,公判前整理手続においては,検査及び判定の方法の信頼性に重大な欠陥や大きな疑問がない限り,必要最小限の証明力があるとして,証拠能
力の一要件である自然的関連性を肯定すべきである。
もっとも,自然的関連性が肯定される場合であっても,当該科学的証拠が持つ立証上の価値が高いとは言えず,あるいは,当該科学的証拠のそれ自体の性質の問題又は他の証拠も含む審理全体の中での位置付けの問題により,裁判体の判断に混乱をもたらすなどの弊害がある場合には,証拠調べの必要性ないし相当性がないとし
て証拠調べ請求を却下すべきであり(原審で法律的関連性の問題として扱われた点もこれと同じと解される。,公判前整理手続でその判断を行うに当たっては,当事)
者の主張に基づき,当該科学的証拠が持つ立証上の価値を中心として判断することが相当である。
(イ)自然的関連性について

S1鑑定(実際に公判供述で見解が示された部分を中心とする。以下(イ)(ウ)において同様である。
)における分析は,原審の証拠の採否に関する上記ア(ア)の整理のうち,①㋐の各資料の骨組織形態の定性的観察を中心とするものである。また,補助的な分析として,
鑑定資料中の計測が可能であったオステオン及びハバース管
(1
2か所)の各面積及び面積比を,すでに種別が判明している資料の分布と比較して
検討しており,①㋑の統計学的な検討も補助的に用いている。このうち,上記ア(ア)の①㋐の定性的観察については,確かに,ヒトのハバース管が他の陸生中大型哺乳類のそれと比べて大きいのがなぜかなど未解明な点もあるが,ヒトのハバース管が大きいなどの特徴は,20世紀の前半から指摘され,法医学の教科書等で人獣鑑別(種族鑑別)の項目における基礎的な事項として,ヒトのハバース管が他の動物より大きく,ハバース管を顕微鏡等で観察することがヒトと他の動物を区別する上で重要であることなどが説明されているから,このような基本的な考え方は専門家等による十分な検証を経ていると言える。また,本件で観察対象となったSPring-8によるX線CT写真は記録化され,光学顕微鏡による観察結果も必要部分が撮影・記録化され,他の者による検証が可能であり,CT写真の観察や顕微鏡下の観察という方法にも疑問はない。また,S1准教授が観察の結
果,ヒトの特徴があると判定した点については,確かに,ヒトか他の動物かが判別できる数値等による一義的な基準はなく,多数のヒトや動物等の骨の構造を観察してきたS1准教授の経験に依拠するところが大きいが,観察において,ハバース管やその周りのバームクーヘン状の構造(オステオン)
,その輪郭(セメントライン)
などを検討するものであり,観察対象となる写真等の記録と併せることで,判断の
根拠が明らかになっており,他の者による批判的検討が可能である。また,上記ア(ア)の①㋑の統計学的検討については,S1准教授は,形態観察が重要であって統計的な検討は二次的な手段であると繰り返し説明しており,統計的な検討を人獣鑑別の決め手にしているわけではなく,補助的な検討手段として用いることに問題は見当たらない。

以上から,S1鑑定にはその検査及び判定の方法の信頼性に重大な欠陥や大きな疑問はなく,自然的関連性が肯定される。
(ウ)証拠調べの必要性・相当性について
上記ア(イ)のとおり,原審の公判前整理手続では,検察官は公判で,㋐S1鑑定を用いて,三木倉庫が人の監禁や人の死体処分が可能な施設であったことを主張・立
証するものと予定され,
㋑これにより,
Va第2事件の殺害計画,
Vd事件の監禁,
殺害計画や生命加害目的,Vc第1事件の監禁・殺害計画や生命加害目的等の立証を補強し得るものと整理されている。このように,検察官がS1鑑定により立証する事項の位置付けは明確になっていたところ,㋐㋑の推認ができるとの主張にはいずれも不合理な点はない(当該骨が誰のものかが判明しないから証拠価値や推認力が極めて乏しいという所論の指摘は失当である。また,判断者がS1鑑定を過大に評価し,S1鑑定により鑑定資料がVd又はVaの骨であったことが示されたなどと判断するおそれがあったとはいえず,原判決においてもそのような過大な評価がされた形跡はうかがえない。。また,上記のような主張の構造である以上,所論が)
指摘する,前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合に問題となるような,根拠の乏しい人格評価を介在させるなどといった疑義はなく,その他,判断者
を混乱させ誤解させるなどの審理上の弊害が生じるおそれがあったともいえない。その他,弁護人の主張を検討しても,S1鑑定について証拠調べの必要性や相当性が否定されることはない。


結論

以上から,S1証人の採否に関する訴訟手続は適法なものであり,その法令違反の主張には理由がない。
第2
1
弁護人の控訴趣意中,事実誤認の主張について
S1鑑定により骨ようのもの3点を人骨と認定したことの誤りをいう主張
(控訴趣意第9)
論旨は,①原判決は,上記第1の8の骨ようのもの18点のうち3点(以下本件骨片という。)について,人骨である可能性がかなり高く,他の動物の骨である可能性が極めて低いとの結論を導いたS1鑑定が信頼できると判断したが,その方法自体,S1准教授の鑑定能力,判定根拠のいずれにも誤りや問題があるほか,統計学的分析との矛盾もあり,信用することができない,②原判決は,三木倉庫や本件焼却炉の使用状況に関する事実を挙げ,これらを上記のS1鑑定とともに根拠と
して,本件骨片が人骨であると認定したが,S1鑑定以外の認定根拠にも誤りがあるから,原判決が本件骨片を人骨であると認定したことには誤りがあり,その誤認は判決に影響を及ぼす,というものである。


原審記録によれば,以下の事実が認められる。

S1准教授は,本件鑑定資料18点を肉眼・ルーペにより観察し,そのうち16点が焼けた骨であり,さらにそのうち7点が緻密骨であると判定した。鑑定資料について,光学顕微鏡での観察及びマイクロX線CT画像の観察を行ったところ,鑑定資料2について数十個のオステオン及びハバース管を,鑑定資料3について15個程度のオステオン及びハバース管を,鑑定資料12について数十個のオステオン及びハバース管を観察した。そして,これらのハバース管が大きく,オステオンに占めるハバース管の面積割合も大きく,S1准教授がこれまでに観察したヒトの骨
組織の画像と類似し,他の動物の骨組織の画像と類似するものがなく,他の動物に見られる葉状骨やオステオンの構造も見られないことなどから,鑑定資料2,3,12はヒトの骨である可能性がかなり高く,他の動物の骨である可能性は極めて低いと判断した。また,本件鑑定資料が焼けた骨であることから,焼成前の骨構造を推定するに当たり,オステオンとハバース管は同じ割合で縮むとの見解を採り,そ
の収縮率は,色合いから判明する焼けの度合いなどから,長さにおいて15パーセントないし30パーセント縮んでいるものと判断した。その上で,オステオン及びハバース管のうち,完全な形のもの(鑑定資料2につき7個,鑑定資料3につき2個,鑑定資料12につき3個)について,ハバース管面積(H)
,オステオン面積の
うちでハバース管面積が占める割合
(H-On示数)
等を計測し,
対比資料として,

自身が有するヒトや他の動物の骨標本で,
これらの割合を示す分布グラフを作成し,
これと鑑定資料2,3,12の数値を比較した。なお,その際,焼成に関する上記の所見を前提に,
ハバース管面積の縮みを補正しないグラフと,
15パーセント
(長
さ)補正後・30パーセント(長さ)補正後の各グラフを作成した。そして,S1准教授は,鑑定資料2,3,12について,ヒト以外の動物の分布とは重なり合い
が乏しく,分布の範囲がヒトの分布の範囲と最もよく一致し,このことは,これらの資料がヒトのものであるとの所見を支持すると判断した。


上記を前提に,原判決がS1鑑定について科学的信頼性を肯定したことが論
理則・経験則に違反しないかを検討する。

骨の人獣鑑定は,法医学の教科書等で説明されるなど,専門的研究の分野と
して確立していると考えられる。
その観察手段として,本件では,従前用いられていた骨の切片を作成して光学顕微鏡で観察する方法のほか,SPring-8のマイクロX線CT画像における多数の断層写真画像を活用する方法をも用い,これにより対象資料の状況を立体的に把握し,多数のオステオン等を観察しており,これらにより観察されたオステオンやハバース管の状況を判定の根拠とすることに疑問はない。


S1准教授は,継続的に骨の人獣鑑定に従事し,骨の組織観察に関する豊富
な経験を有している上,先行研究についても十分に把握した上で鑑定に反映させており,専門家としての資質・能力や公正性に疑いを生じさせる事情はない。ウ
S1鑑定において鑑定資料18点のうち3点をヒトの骨との判定をした主た
る根拠は,ハバース管の大きさに着目した組織観察の結果である。S1准教授は,組織観察において,
各資料について確認された約15個以上のオステオンについて,
その大きさを検討しているが,その作業は,顕微鏡での拡大画像やマイクロX線CT画像に基づく視覚による判定であり,その画像の内容等に照らして説得力を有する上,基礎資料である当該画像にさかのぼって批判的検討を加えることも可能である。
また,
S1准教授が判定の前提とした焼成に関する見解も,
骨の組織の特徴(後

記⑶イ)
を踏まえており,
合理的で説得力を有し,
基本的に依拠し得るものである。

S1准教授が補助的な分析として行った数値(H及びH-On示数)の計測
及び比較については,現実に存したサンプルとの比較に止まることから,もとよりその意義に限界が伴うことは否定できないものの,合理性を持ったものである。焼成による縮小率もこのように一義的に特定し得るか疑問もあるが,幅を持った特定にとどめており,ヒト及び他の動物の骨標本における分布傾向との整合性を把握する際に上記の縮小率を想定した補正を行うという限りでは有益なものと考えられる。いずれにせよ,これらは,S1准教授の観察による分析を支える事情になり得ると評価できる。


上記⑵に反する所論は採用の限りではなく,S1鑑定にはその信頼性を疑わ
せる事情はない。以下,所論にかんがみ補足して説明する。

所論は,S1准教授が判定基準として挙げる,ハバース管の面積,ハバース
管とオステオンの面積比,二次オステオンの密集度などは,いずれも数値による客観的な基準がなく,判定者の個人的経験に基づく判断(原判決の言う名人芸)で
行われており,
判定者が有する経験則や鑑定資料を経験則に当てはめるプロセスを,第三者が検証できないから,信用性は極めて低いと主張する。
しかし,上記⑵ウのとおり,S1鑑定での判定の主たる根拠は拡大画像の視覚による判定であり,その判定に疑問がある場合には当該基礎資料にさかのぼって批判的検討をすることも可能であるから,第三者が検証できないとの批判は失当であるし,判定基準となる数値はないものの,その基本となる考え自体は広く支持されたものであるから,判断手法の科学性や信頼性が否定されることにはならない。

所論は,焼成による縮小に関し,先行研究によれば,焼成によってオステオ
ンが縮む一方でハバース管が拡張するという結果が得られているのであり,これらによれば骨が焼けることでHやH-On示数が大きくなるのだから,①S1准教授が観察に当たって,焼成により拡張した動物のハバース管をヒトのものと見誤った可能性を否定できないし,②上記統計的分析においても,H,H-On示数の双方において生骨推計値の測定に誤りがあり,正しく計算すれば,本件鑑定資料の数値はいずれも動物に近いものとなり,まして,ヒト以外の動物の可能性が排除されることはない,と主張して,S1准教授が先行研究に現れた数値を採用しなかったのは誤りであると主張する。
しかし,S1准教授の原審公判供述のほか,ウシの骨の焼成状況の温度及び時間
による相違の研究に従事した科学警察研究所のK19技官の供述等の関係証拠によると,骨の基本的な構造は,タンパク質(コラーゲン)の表面にリン酸カルシウムが密着しており,骨を高温で焼くと,水分がなくなった後,コラーゲンが焼失し,さらに,リン酸カルシウムが高温により溶けてコラーゲンがあった隙間に入り込むという過程により,骨が収縮すること,このような骨の基本構造は,ヒトを含む哺乳動物においてほぼ同様であること,などが明らかである。このような骨の性質や焼成行為の性質に加え,骨の構造の一部であるオステオンが縮む一方で,その一部を構成する血管等の軟部組織が通る穴であるハバース管が広がるというのは不合理であること,所論指摘の先行研究では,焼成前の軟部構造の部分が誤って骨として計測されたために焼成前のハバース管が過小に計測された可能性等も指摘されていること,その後の研究ではオステオンとハバース管が同じ率で収縮するとの実験結
果や見解が示されており,このように解するのが合理的と考えられることなどからすると,S1准教授が判定に当たり,所論指摘の先行研究等によらず,オステオンとハバース管が同様の率で収縮することを前提としたことは正当であって,S1准教授の判定に所論のような誤りはない。

所論は,S1准教授が,焼成による縮小率を長さにして15パーセントない
し30パーセントと推定したことにつき,①S1准教授は,自身が参加した共同研究で,7.1パーセントから16.9パーセントという結果を公表しており,縮小率の違いの原因について,部位の違いや肉の付着の有無等を指摘しているから,部位や焼け方が不明である本件鑑定資料については,より幅広い前提を取る必要があった,②S1准教授は,骨の部位により焼成による変化率が異なることを認めてい
るが,大腿骨と肋骨以外には知見がないのに,部位による面積比の相違がないとの科学的根拠を欠く前提をとっている,③各動物についても,焼成による変化率やその種ごとの相違を解明する必要があるのに,ヒトと動物が同じであるとの科学的根拠を欠く前提を取っている,などと主張する。
しかしながら,S1准教授は,既述のとおり,ハバース管の大きさや,そのオス
テオンに占める面積割合,さらには,骨組織の構成を根拠に人骨という結論を導き出したものであり,上記イのとおり,ハバース管の大きさが縮小するほかには,焼成による有意な影響が生じるとは考えられないから,所論はいずれも失当である。エ
所論は,S1准教授は,ヒトとヒト以外の動物の差として,ハバース管が大
きく,それがオステオンの面積比においても高いことを当然の前提としているが,部位や個体差等への配慮に欠けている,S1准教授が用いた統計学的な手法は不正確なものであるなどと主張する。
しかし,ヒトとヒト以外の動物で骨の組織的な差異が見られることは,広く認められているところであって,その特徴として挙げられる点がS1准教授の指摘する点であることは,弁護側証人も否定しないところであり,S1准教授がこれらの点をヒトの骨と判断する根拠としたことは,合理的といえる。そして,その合理性は
S1准教授が示したサンプルの組織構造の写真からも裏付けられている。S1准教授が副次的な根拠とした統計的手法については,上記⑵エのとおり現実に存するサンプルとの比較にとどまるなどの限界があるが,一定の傾向の把握という限りでは有益なものであり,所論指摘の点を踏まえても,上記判断を支えるものとしては,十分といえる
(なお,
所論が根拠とするS3教授のベイズ統計学による分析検討は,

計測値以外の事項からの情報がないことを前提としており,計測値による分析を補助的な根拠としてしか用いないS1准教授の判定に対する的確な批判とならない。)
のであって,所論の主張はいずれも理由がない。

所論は,原判決は,三木倉庫や本件焼却炉について,㋐三木倉庫がシャッタ
ーで施錠されていたことや,本件焼却炉の形状等の諸事情に鑑みると,人の手を介さずに陸生の中大型哺乳類(シカ,ウマ,サル等)やその骨片が本件焼却炉内に入り込むとは考えられないこと,㋑本件焼却炉を唯一使用していたXがシカ等を燃やしていたことをうかがわせる証拠もないことなどの事実を認定し,これらの事実をS1鑑定の結論と併せて考慮することにより,
本件骨片が人骨であると認定したが,
中大型哺乳類であるブタ,ウシ,ヒツジ等の骨(誤って混入した骨を含む。)が入っ

た食事の残飯等が本件焼却炉で燃やされたことによりその骨片が本件焼却炉に入ったという可能性は現実的であるのに,原判決はその可能性を一切検討しておらず,論理則・経験則に反すると主張する。
この点について,三木倉庫の改装工事をしたY3は,工事作業をしている際に三木倉庫に弁当を持ち込み,弁当箱や残飯をXかY3が本件焼却炉で焼いたことはあるが,その弁当は弁当屋やコンビニで買ったものであり,工事が終わった後は,Vd事件及びVc事件の時以外には三木倉庫に立ち入っていないなどと供述しており,また,Xにより三木倉庫に監禁されていたVeは,Xが3日に一度くらいパンやおにぎりなどの食料を持ってきてくれたが,Xが1週間くらい来ずに餓死しそうになったなどと供述している。これらの証拠を踏まえ,検察官の中間意見では,弁当がらが燃やされたとしてもニワトリであれば骨組織像はヒトと顕著に異なる旨が指摘
されている。
そうすると,①所論が指摘する,三木倉庫に持ち込まれた弁当箱や残飯にヒト以外の中大型哺乳動物の骨が含まれていた可能性については,上記の審理経過にかんがみ,原審で十分に検討されている。原判決は当該可能性を排斥したものと解されるところ,上記のY3,Veの供述等に照らすと,その判断に不合理な点は見受け
られない。②また,原判決は,結論として,ヒト以外の中大型哺乳動物の骨が本件焼却炉内に入った可能性
(所論がいう可能性を含む。を否定したものと解されるが,

上記㋐㋑等の理由の説示に不合理な点はない。
したがって,原判決には所論が言うような事実誤認はない。


結論

その他所論の指摘を検討しても,上記⑵の認定判断を左右するものはなく,原判決には所論のような事実誤認はない。
2
Va第1事件(原判示第1)に関する事実誤認の主張(控訴趣意第10)


論旨は,
原判決は,
①Va第1事件に関する本件Y2検察官調書
(甲732,

949。第1の4〔控訴趣意第4〕参照)を全面的に信用し,Y2の公判供述のうち検察官調書と相反する部分を排斥し,
②平成22年6月13日
(判示第1の終期)
にVaが監禁されているのを目撃したなどとするC1の公判供述を信用できるとしたが,この①②の判断はいずれも論理則経験則に違反し,原判決がVa第1事件につき被告人を有罪と認定したことには誤りがあり,
その誤認は判決に影響を及ぼす,
というものである。そこで,記録を調査して検討する。

原判決の認定判断の要旨

原判示第1の要旨は,被告人が,金銭を貸し付けていたRの代表取締役であったVa(当時49歳)の逮捕監禁を企て,Xと共謀の上,平成21年4月20日頃,兵庫県姫路市内のマンションの一室(fマンション)で,同室内に設置した檻内にVaを入れて閉じ込めるなどし,その動静監視を開始し,その頃から平成22年6月13日頃までの間,
fマンション内の前記檻内及び引き続いて同市内の事務所
(g

事務所)内に設置した檻内にVaを閉じ込めるなどし,その動静監視を継続し,さらに,平成22年6月13日,Vaに目隠し,両手錠をするなどして,自動車に乗せて,兵庫県姫路市内の店舗(a店)駐車場まで走行させるなどし,Vaをこれらfマンション,g事務所,自動車内から脱出できないようにして逮捕監禁したというものである。

原審では,XがVaを逮捕監禁したか否か及び被告人とXの共謀の有無が争点となり,原判決は要旨以下のように認定判断した。

XがVaを監禁したことについて

(ア)①Xが平成21年4月20日までにY2に指示してfマンション内に鉄パイプ檻を製作させ,同月下旬頃から平成21年5月中旬頃までVaは同檻内に入れられていたこと(Y2の供述)
,②Vaが平成21年4月13日以後,携帯電話を取り上げられ,家族と自由に電話できず,警察対策のための発信地偽装工作がXらによって頻繁にされていたこと,から,Vaが平成21年4月20日以後,XがVaをfマンション内で鉄パイプ檻に入れるなどして監禁していたことが認められる。(イ)①Y2がfマンションに戻りたいとの希望を被告人に伝えた直後に,Xの指
示でY2及びその依頼を受けたE6がg事務所内で二重檻を製作し,二重檻が完成した平成21年5月末から同年6月初め頃,Y2はfマンションに戻ることを許され,その時Vaはfマンションからいなくなっていたこと(Y2の供述),②その約
1年後の平成22年6月13日未明頃,VaはXによりg事務所内の二重檻から連れ出されて手足を拘束され,a店駐車場まで車で連行されたこと(C1の供述),③
①と②の間にVaが妻に電話した際の携帯電話機や妻への電話内容に合致するメモ(予想される妻の反応への対策の記載やVa以外の者による添削を含むもの)が,Y2の妻名義の自動車やfマンションから発見されており,これら電話機やメモが使われた平成21年9月ないし12月末頃までVaがXの支配下にあったと認められる上,その頃までの状況(携帯電話を取り上げられ,家族と自由に連絡できず,警察対策のための発信地偽装工作がなされている等の状況)が平成22年6月にVa
から妻になされた電話の際まで継続していたと推認されること,
から,
上記(ア)に引
き続いて平成22年6月13日未明まで,XがVaを監禁していたことが認められる。

被告人とXの間の共謀について

①被告人がY2に対し,㋐鉄パイプ檻の製作を承諾し,㋑その完成等の報告を受け,㋒箱(二重檻の一部となるもの)の製作を指示するなど,監禁用設備の準備を指示したこと
(①につきY2の供述。
ただし,
そのうち㋑は本件Y2検察官調書。,

②被告人が,発信地偽装工作の実演を受けた上,VaとGの間の通話に係るICレコーダーの内容を確認し,ノイズ消去等を指示するなど,捜査を免れるための工作を指示したこと,③被告人が,Vaの檻や食費に関する金銭の決裁や支出に関与し
たこと(Y2の供述等の関係証拠),④被告人には,当初,Dらからの妨害を排除してRに対する融資金の回収を円滑に進めるためにVaを監禁する動機があり,回収が一段落した後も,
それまでの犯行発覚を恐れてVaの監禁を継続する動機があり,
他方,
XにはVaを監禁する固有の動機は見当たらないこと,
などの間接事実から,
被告人がVaの監禁を主導したことが推認され(Xに融資金回収を委ねていた旨の
被告人供述は信用できない。,共謀が認められる。



当裁判所の判断

本件では,証拠上認められる間接事実等から本件公訴事実が認められるかど
うかが問題となるところ,以下のとおり,当該間接事実等の認定に関する原判決の判断には誤りがなく,また,原判決がXによるVaの監禁の事実及びこれについての被告人との共謀を認定したことも正当であり,原判決には所論がいうような事実誤認はない。

XがVaを監禁したか否かについて

(ア)XがVaを監禁したか否かについては,原判決(上記⑵ア)でも挙げられているように,①平成21年4月のfマンションでの鉄パイプ檻の製作等に関するY2の供述(上記⑵ア(ア)①)
,②平成21年5月頃のg事務所での二重檻の製作等に関するY2の供述(上記⑵ア(イ)①),③平成22年6月13日頃にVaがg事務所
からa店まで自動車で連行された旨を目撃したC1の供述
(上記⑵ア(イ)②)
が重要
な証拠となっている。
(イ)Y2の供述の信用性について検討すると(なお,監禁の成否自体に関するY2の供述には,
所論が信用性を争っている本件Y2検察官調書は含まれていない。,)

Y2の携帯電話機内の鉄パイプ檻の写真,箱の設計図を描いた旨のE4の供述などの他の証拠により裏付けられているし,その供述内容(監禁の道具となる設備を作成したなどとのY2自身に不利な内容である上,X等とのやり取り等に関して自己の認識等を述べるなどしている。にかんがみても,

Y2が自らあえて虚偽の供述を
している可能性や,捜査官等の誘導を受けて述べた虚偽の内容を公判で維持してい
るという可能性は考え難い。これらのY2の供述の信用性に疑いはない。(ウ)次に,C1の供述(上記⑵ア(イ)②)の信用性について検討する。C1は,平成22年6月13日未明にXがVaをg事務所から連れ出すのを手伝ったことや,それに至る経緯などを,自らの体験として供述している。C1がこのようなVaに関する事件に関与した旨の供述を始めた時点(C1は,平成23年2月7日(Vc
第2事件の発生前)の警察官調書において,Xから聞いたとするVaに対する殺人やその処分方法について供述し,その後,平成23年6月の供述調書では,自身がVaをg事務所から運び出すのを手伝った旨を述べるとともに,Xから事前にVaを殺害する話を聞いていたと述べていた。では,

Vaに関する事件の全容はほぼ未
解明であり,捜査官が特定の供述内容を示唆したり利益誘導をしたりすることは実質上不可能であったと考えられるし,C1が自身にも不利益となる虚偽の事項を殊更述べる理由があったとも考え難い(なお,下記4(控訴趣意第12)の⑶エなどのとおり,C1は,平成23年2月から同年6月まで,同じく三木倉庫が利用されたVc第1事件に関し捜査及び裁判を受け,Vcの殺害計画があったことなどを供述し,それを前提とした処罰を受けた。。C1がこの供述を始めた後,g事務所で)
の二重檻の作成に関するY2の供述(平成26年7月以後)により,二重檻の中の
Vaを見たなどとのC1の供述が裏付けられるに至っているほか,C1の供述は,g事務所の廃材や鉄パイプの撤去等に関するY3の供述とも整合している。このようなC1の供述は,虚偽の供述である疑いを生じさせる事情がなく,その信用性は高いというべきである。
(エ)したがって,Y2の供述,C1の供述や他の関係証拠から,原判決が上記⑵
アで挙げる事実が認められ,これらによれば,Vaが原判示第1のとおりXにより監禁されていたことが十分に認められる。

被告人とXの共謀について

(ア)原判決(上記⑵イ)でも挙げられているように,Y2は,公判で,ⓐ被告人がY2に対して鉄パイプ檻の製作を承諾し,箱(g事務所の二重檻の一部となるもの)の製作を指示するなどしたこと,ⓑ被告人が,Vaの檻や食費に関してY2が立て替えた費用の支払いに関して決裁し,84万円をY2に支払ったことなどを供述する。また,Y2は,本件Y2検察官調書において,ⓒY2が被告人に鉄パイプ檻完成の報告をしたことを供述する。
まず,公判でも現れているⓐⓑの点の信用性について検討すると,ⓐの点は,箱
等に関するE4の供述(上記イ(イ)の箱の設計図を書いたのは被告人の指示によるなどというもの)やE1の供述(被告人に言われて日曜大工が得意な者としてE6を推薦し,その後に被告人が,E6がええ仕事をしたと言ったのを聞いたなどというもの)と整合し,Y2がXから依頼された檻や箱の製作作業(Y2が従事していたパチンコ店の業務に通常含まれるとは言えず,Xは,被告人の了解なしにその作業にY2を使える立場にはなかった。をした理由等をよく説明するものであり,)

た,ⓑの点は,チョモランマUSBの金庫出金欄の△立替の記載によって裏付けられている。また,Y2は,第1の4(控訴趣意第4)において検討したとおり,遅くとも平成26年3月に取調べ検察官等から,被告人の関与を誇張しないように注意された上で,取調べ等を受け,原審公判で被告人の立場からの反対尋問をも受けているのであり,これらⓐⓑの供述が捜査官等の誘導に影響されたものとは到底
考えられない。以上から,これらⓐⓑの供述の信用性は高い。
また,本件Y2検察官調書(甲732〔平成26年8月〕
,甲949〔平成26年
9月〕のみに現れているⓒの点についても,

Y2の携帯電話機内の写真により裏付
けられているし,被告人が上記ⓐⓑのような関与をしたこととの整合性が高い。また,Y2は,第1の4(控訴趣意第4)において検討したとおり,これらの検察官調
書作成に先立ち,遅くとも平成26年3月に取調べ検察官等から,被告人の関与を誇張しないように注意されているから,ⓒの供述が捜査官等の誘導によるものとは考えられない。以上から,ⓒの供述の信用性も高いと言うべきである。(イ)上記(ア)のY2の供述等を踏まえて検討すると,①Vaが現に監禁されていた鉄パイプ檻や二重檻に関して,被告人がY2にその作成を指示するなどし,その
費用を負担していることは,これら檻を用いたVaの監禁行為への被告人の関与や共謀がなければ説明が極めて困難な事実である。②原判決が指摘する電話の発信地の偽装工作(上記⑵イ②)については,捜査機関以外の者は発信地まで探知できない以上,債権回収に関する対立する立場の関係者(D等)への対策のためのものと見ることはできず,むしろ捜査機関への発覚防止以外の目的を想定することが困難
であり,その発信地偽装工作に被告人が関与していることは,被告人において,Vaの真の所在を捜査機関から隠匿する必要があると認識していたことを示している。③Vaの監禁を実行したXは,Rからの債権回収等の案件について,被告人からの依頼に基づき,報酬等を目的に関与しているにすぎないところ,Vaを監禁することは債権回収の成否に影響し得る事柄であり,Xが被告人の了承や指示なしにVaを監禁するという可能性も合理的なものとは言えない。そうすると,このような間接事実から,Vaの監禁につき被告人とXの間に共謀があったことが優に認められるというべきである。


所論に関する検討

以上の検討に照らし,原判決が関係証拠によりVa第1事件について被告人を有罪と認定したことには誤りがないというべきであるが,以下,所論にかんがみ補足して説明する。

所論は,Y2が原審公判で供述した,①Xの被告人に対する,これから先は
わし1人にやらせてくださいとの発言,②Vaが居間でくつろぐなどしていたことは,Vaの監禁の事実や被告人との共謀を否定するものであると主張するが,仮にそれら事実があるとしても,①については,当該発言は,被告人からの逐一の指示は不要であることを告げる程度のものと解するのが相当で,被告人が以後Vaの逮捕監禁に関与しないというような趣旨のやり取りとはいえず,現に,被告人は当該発言の後もg事務所での二重檻の製作等に関与しているし,②についても,Vaは遅くとも鉄パイプ檻が設置された後,Xが在室しない時に鉄パイプ檻に入れられ監視されていた以上,Xの在室時に鉄パイプ檻から出ていたとしても,Xの監視下か
ら外れることが許容されてはおらず,Vaが監禁されていたとの推認を妨げるものとはいえない。

所論は,C1の原審公判供述は,供述が目まぐるしく変遷し,捜査官の期待
に呼応するように次々と細部が補強され,その場で思いついたもっともらしい説明をするなど,虚偽の供述であることが明らかであるのに,これを信用できるとした原判決の判断は誤っているとして,①C1の公判供述によればC1に成り立つはずの罪につきC1が訴追されていないことなどから,C1と捜査訴追機関との間で非公式な司法取引が行われていたことが明らかである,②C1が述べるVa連れ出しの日を平成22年6月13日未明と特定する出来事(兄と飲酒した日の夜である,兄と飲酒した日がワールドカップ韓国戦の日である,当日(夜明け後)にディナーショーの予約をキャンセルしたなど)が,殺人のターゲットを三木倉庫まで運ぶ予定があるのに多量に酒を飲むなどという不合理で場当たり的な内容である上,これらの出来事は,当初は述べられていなかったから,あとから作られた記憶である,③C1は,fからg事務所に2台の車に分乗して向かったという,公判供述と全く違う内容を,警察官に対して述べた上,再現見分でもそのように再現している,④C1は,g事務所からa店に向かう途中で給油したとの事実を公判で付け加えてお
り,これは,警察がガソリンスタンドの当日のそれらしい伝票を選んでC1にぶつけ,C1が警察の意を受けて給油した話を作り上げたことを示している,⑤g事務所にはシャッターは存在しないのに,C1は警察官調書で,Xがシャッターを開け閉めしたなどと言っていた,⑥C1は,g事務所で見たという木の箱に関し,平成26年11月頃の検察官調書で,木と鉄格子のどちらが外側かについて,公判供述
と異なる供述をしていた,⑦C1は,捜査の当初には自己が男性(Va)の手を引いて1階に降ろしたと述べていたのに,再現見分で間違いに気付いたとして供述を変えている,
⑧㋐C1は,
Xから聞いたとするVaをけん銃で殺害する等の計画を,
平成23年2月や同年6月の警察官調書や検察官調書で述べておらず,けん銃を見たという話も平成23年2月の警察官調書等には出ておらず,㋑C1がけん銃を見
たとする時期や試射したとする時期にも変遷があり,それに関するC1の説明も後付けや誘導が十分可能なものである,などと主張する。
しかし,
いずれの所論も,
C1の供述の信用性を肯定すべき上記⑶イ(ウ)等の根拠を左右するものではない。
すなわち,①については,そもそも上記⑶イ(ウ)のとおり,C1が供述を始めた時
点で捜査官が誘導して特定の内容の供述をさせることが不可能な状況にあった上,他の関係者に対する捜査・処分の状況を勘案しても,C1が特に有利に取り扱われたとは言えない。②については,飲酒に関するC1の説明(当時飲酒運転に対する抵抗が乏しく,また,相手(Va)に話したり触れたりする必要はないと言われており,見張るだけのように考え,酒を飲んでいても大丈夫だと考えていたなどというもの)が,作り話(捜査官の誘導によるものを含む。
)のおそれをうかがわせるよ
うな不合理な内容とは言えない。また,平成23年6月の供述調書に日付特定に関する出来事がないとしても,C1が同月22日に自身の判決を受けるなどした後にこれらの出来事を思い出すことも考えられるし,その内容からも,警察官等による作出が困難というべきである。③については,C1がfからg事務所にエルグランドを運転して行き,その際同乗者がなかったという点では,供述の変化がなく,変
化した点は,Xが同時に別の車で行ったのか既に先に行っていたのかにとどまっており,作り話の疑いが生じるとは言えない。④については,途中で給油したという点は,移動の状況の全体の中でそれほど重要な事項とは言えず,取調べや実況見分の後に思い出すことも考えられ,その変遷が作り話のおそれをうかがわせるものではない。もとより,警察官等が犯行供用車両(エルグランド)と関係のない給油履
歴等の証拠をC1に押し付けて供述を変えさせる理由や,C1がこれに応じる理由は全く見当たらない。
⑤については,
g事務所に初めて行ったというC1にとって,
シャッターの有無自体はそれほど重要な事柄とは思われず,記憶違いが生じても不思議ではない。そして,C1の当初の警察官調書(1階車庫部分にエルグランドがすっぽり入り,シャッターを閉めると倉庫の中で何が行われているか全くわからな
い状態になったなどというもの)は,1階車庫部分の全般的な様子という限りではg事務所の客観的な状況と概ね符合しているし,C1は,実況見分の際にシャッターがないのに気付いたとして自ら当該警察官調書の訂正を申し出ているのだから,当初シャッターがあるという供述をしたことが作り話のおそれをうかがわせるとはいえない。⑥については,所論が指摘するC1の公判供述と供述調書(平成26年
11月の検察官調書)は,いずれも木と鉄格子の内外がどちらかの記憶が曖昧だというのであり,両者が食い違っているとは言えないし,C1の説明(木の箱にVaが入っていると思っており,現実にVaが出てきたので,木の箱を直視できなかったなどというもの。に不自然なところはなく,

作り話のおそれをうかがわせるとは
いえない。⑦については,C1が自ら手を引いてやったのであれ,Xが手を引くのを間近で見守って待機していたのであれ,C1がXの依頼により協力して,1人で階段を降りられないVaに階段を下りさせたという大筋に変わりはなく,実際に行った行為の分担といった細部について勘違いがあっても不思議ではない上,C1は実況見分の際に記憶違いに気付いたとして自ら訂正を申し出ているから,作り話のおそれをうかがわせる,虚偽の供述を意に介していないという指摘は失当である。⑧㋐については,所論がいうような原審公判で供述されたが当初(平成23年)の
供述調書には記載されていない事項(Vaの殺害等の計画内容,けん銃を見たり試射したりしたこと等)があるとしても,当初の供述調書の後の裏付捜査や更なる取調べを経て,
より詳細な供述がされることなども考えられ,
上記⑶イ(ウ)に見た原審
公判供述の信用性に疑いを生じさせるものではない。
⑧㋑については,
公判供述
(平
成22年4月か5月頃にXから見せられ,その1週間後頃に試射した)と捜査段階
(平成25年4月)の供述(平成22年1月初旬頃にXから見せられ,平成22年1月か2月に試射した)の間に相違があるが,C1の説明(元々,寒かったという記憶があったが,p3の捜索に近い時期にけん銃を返却したことを思い出し,試射の時期はその一,二か月前である平成22年4,5月頃だと証言した。)に特に不自
然なところはなく,供述内容がC1自身にも不利益をもたらし得るものであること
を踏まえると,作り話のおそれをうかがわせるものとは言えない。⑸

結論

その他,所論の指摘を検討しても,Va第1事件につき被告人を有罪とした原判決の認定判断を左右するものはなく,論旨は理由がない。
3
Vb第2事件(原判示第2)に関する事実誤認の主張(控訴趣意第11)


論旨は,Vb第2事件につき,①被告人の関与を示す唯一の証拠である本件
Y2検察官調書(甲830)は信用できず,②原判決の間接事実による被告人の共謀の推認過程には誤りがあり,最高裁判例(最高裁第一小法廷平成29年12月25日決定・最高裁判所裁判集刑事322号127頁)に反した抽象的な総合評価になっているから,原判決がVb第2事件につき被告人とXらの間の共謀を認めて被告人を有罪と認定したことには誤りがあり,その誤認は判決に影響を及ぼす,というものである。


原判示第2の要旨は,被告人が,X及びY2と共謀の上,Vbを逮捕監禁し
ようと企て,平成21年8月17日,神奈川県鎌倉市内の駐車場で,駐車していた普通乗用自動車に乗車しようしていたVbに対し,殴打し,首を締め上げるなどの暴行を加えたほか,顔面にナイフを突きつけて

騒ぐな。殺すぞ。

などと脅迫し,同車の後部座席に押し込み,そこでも手錠を掛けたり,抵抗する同人に対し,複数回殴打したりするなどした上,同車を走行させて脱出できないようにして約1時間にわたり監禁して,その際,同人に全治約2週間を要する傷害を負わせたというものであり,原審における争点は,被告人の共謀の有無であった。
原判決は,概略以下のとおり説示して被告人の共謀を認定した。①Vbの関与に
よる週刊誌やブログ記事は,R側に一方的に都合の良い等の内容で,被告人によるVbへの報復の動機となり得るものであり,一方,X及びY2には,Vbとの間の直接的な利害関係は認められず,固有の動機はない。②被告人は,事件の際にY2が負傷したことを聞き,Y2に偽名で受診させるために配下のE2を名古屋まで派遣してその費用も負担し,翌日の姫路での受診の際も,配下のE1を派遣して偽名
に差し替えさせているが,
これは,
被告人において,
Y2の本件への関与を把握し,
本件が発覚することを恐れていたための行動と考えるのが合理的である。③被告人は,Vb第2事件に関して,X,Y2や関係者の供述内容の把握に努め,弁護士等を介して,X及びY2の供述内容をコントロールしようとしたことは,被告人がVb第2事件の共犯として自身の利害のために行動していたことを推認させる。④本
件Y2検察官調書(平成27年3月25日付・甲830)におけるY2の供述(平成21年8月15日頃,p3で被告人から,Xと合流してVbを姫路まで連れて帰って来いと指示された旨)は,被告人が事後に取った行動とも整合することから信用性が高い。


当裁判所の判断
原判決が共謀を推認させるとして掲げる間接事実について検討すると,下記
イ,ウ,エのとおりである。確かに,特に各事実を単体で捉えると,被告人の関与や共謀がないと説明が不可能又は著しく困難な事実関係とまではいえないが,各事実は,少なくとも被告人の関与や共謀がないと説明が付きにくいものと言える。そして,被告人の指示で本件に関与した旨の本件Y2検察官調書における供述が存在し,同供述は,これらの事実関係(すなわち,Y2が本件犯行で負傷して治療を受
けた際に,被告人が配下の者に命じてY2に偽名で治療を受けさせて治療費を負担したこと,XとY2には本件犯行を行う固有の動機がないこと,被告人とX,Y2の人間関係など)と整合し,パチンコ店の従業員であったY2が,同店舗のある姫路を数日間離れ,神奈川県内でVbの待ち伏せや拉致等に従事した理由等をよく説明するものであるし,内容にも特に不自然なところはない(所論が主張するように
突飛な内容とは言えず,むしろ,目をつぶして来いなどとの内容は,実際にY2がVbの顔面の眼の付近を執拗に殴打したことなどの加害行為の態様と整合している。。そして,第1の4(控訴趣意第4)及び第2の2(控訴趣意第10)におい)
て検討したとおり,Y2は遅くとも平成26年3月の時点で被告人の関与を誇張して供述しないよう注意を受けているなどの経過から,被告人の関与を誇張した虚偽
供述のおそれはなく,その信用性は極めて高い。Y2の上記供述や証拠上明らかな被告人とXの関係性からすると,被告人が背後者としてX,Y2の両名を使い,本件を実行させたことは明らかであるから,被告人とXらとの本件共謀を認定した原判決に誤りはない。また,原判決は,その説示から,間接事実だけでなく上記のようなY2の供述をも重視していることが明らかであるから,間接事実からの推認過
程自体の問題を挙げる所論の批判は当たらない。

X及びY2が本件を起こした理由等について
X及びY2は,Vbを駐車場付近の洞穴で待ち伏せた上,Vbが駐車場に現れて自動車に乗り込もうとするや否や,
何らの会話もなく逮捕監禁に着手しているから,
X及びY2においては,
Vbとの間の話し合いや交渉を予定していたものではなく,
Vbを発見すれば直ちに逮捕監禁に着手するという計画によりVb第2事件に及んだと認められる(このようなVbに対する行為を,債権回収行為の一部と見る余地はない。。そして,本件以前の被告人,X,Y2らとRあるいはVbの間の経緯や)
関係を検討すると,被告人が出資してRに融資した10億円について,平成21年1月末に支払いの遅滞が生じるなどした際,
Rが資力を偽装したことなどが判明し,
被告人は,自ら又は配下のY1等に指示するなどしてその債権回収を行っていた。
そして,Xは,被告人から依頼されて,被告人からの報酬を目的に,Rの債権回収等に関する事柄に従事していた。また,Vbによると,Xを初めて見たのは平成21年3月30日で,
この時Y2もおり,
被告人及びXにホテルに連れて行かれたが,
平成21年4月2日にDの元に戻り,その後,平成21年4月11日に弁護士と相談中にXとY1が来て,警察署に行くことになり,警察署から出てすぐにX等のそ
ばを離れ,以後もD等と行動を共にし,X等が来るのを恐れて家にはあまり帰らないようにしていたというのであり,Y1も,週末にVbの自宅に行ったが本人には会えず,Vbから連絡がほしいと妻に伝えたが連絡はなく,Vbが逃げ回っていると受け止めていた。
そうすると,上記の債権回収に最大の利害関係を有していたのは被告人であり,
Xは,被告人からの報酬を求めていたにすぎず,被告人の承諾なしに,債権回収の関係者であるVbの拉致監禁といった法に触れる手荒な行為をすれば,債権回収に失敗し又は回収に支障を来すことも十分考えられ,被告人から期待していた報酬が得られないことにつながるし,Y2も被告人に雇われてパチンコ店の業務に従事していた者で,Vbの拉致監禁を自らの職責だと考えるような事情はなく,むしろ,
被告人の承諾なしにVbの拉致監禁といった行為に関与すれば,被告人から叱責されるなど,Y2自身が不利益を受ける立場にあり,X,Y2の両名とも,被告人の指示や了承なしにVbの拉致監禁を決意するような状況にはなかったといえる。また,XやY2とVbとの間の接点は乏しく,XやY2がVbとの間でRの債権回収を離れた利害関係を生じる可能性を想定し難いし,仮に何らかの利害関係を想定するとしても,その利害関係のために,債権回収の関係者であるVbを,被告人の指示や了承なしに拉致監禁するということは通常考えられない。原判決は,実行犯であるX及びY2が本件を実行する固有の動機あるいは理由がないと説示しており(上記⑵①)
,その結論に誤りはない。

本件でY2が負傷した後の偽名での受診について

原判決が上記⑵②で説示するように,①被告人は,Vb第2事件でY2が負傷したとの報告を姫路で聞くや,Y2に病院で偽名を使用させるため,名古屋在住でY2と同年齢のパチンコ店会員の情報をE1らに調べさせるとともに,E2に対して,
名古屋方面でY2らと合流してY2に病院で偽名を使用させるよう指示し,E2は,
搬送先病院で,Y2に当該会員情報による偽名を名乗らせ,被告人から渡された金員で治療費5万円弱を支払った。②Y2は,①の後,E2に連れられ,途中の岐阜
県まで迎えに来たE6運転の車両に乗るなどして姫路に戻ったが,翌日の平成21年8月17日夕方救急搬送され,当初実名で受診していたところ,被告人から指示を受けて病院を訪れたE1が偽名に差し替えた。
Y2は,上記①について自分が被告人に偽名の準備を依頼したと述べているが,仮にそれを前提としても,被告人は,連絡を受けた直後に受診の名義人となるに適
した実在の人物を探させるなどしており,あれこれと詮索するまでもなく,偽名使用の必要性を理解できたと認めるのが合理的である。
病院を偽名で受診することは,
勝手に名義を使われたパチンコ店の顧客等との間でトラブルを生じる可能性や,社会保険が利用できず自費で治療費を支払うなどの負担があり,そのような問題や負担を押してまで偽名受診を選択する事情としては,警察からの追及を遅らせること
以外の目的を想定することは困難である。したがって,被告人は,Y2から詳細な事情を聴くまでもなく,同人が警察から追及される行為をしたことをあらかじめ認識していたことが推認される。

勾留中のY2やXに対する働きかけ等について

原判決が上記⑵③で説示するように,被告人の逃亡生活を支援していたNが平成23年11月に所持していたメモ3通やNの裁判官調書(甲831。各メモの由来を的確に説明し,N自身やその弁護人であったL4弁護士に不利な内容をL4弁護士もいる場で供述しており,信用性が高く,他方,Nの原審証言は,各メモの由来の説明が不自然であるなど信用できない。
)等により,①被告人が,N及び弁護士を
通じて,勾留中のXに対して,自ら作成したメモ及びこれをNに書き写させたメモにより,Vb第2事件に関し,Y2の関与を薄めVbに責任を転嫁する供述をする
よう提案することを試み,②被告人が,N及び弁護士を通じて,勾留中のY2に対して,自ら作成したメモ及びこれをNに書き写させたメモにより,Vb第2事件に関し,Xの供述内容が変更される予定である旨やY2の供述内容に関する提案(E1が捜査機関のストーリーに合わせて嘘を言っていると言い切るようになどとの内容を含む。を伝えようと試みたことなどが認められる。

このようなXやY2への連

絡は,相手の真の記憶を喚起するという趣旨を超え,特定の供述内容を指摘してそれに沿う供述をするよう促し働きかけるものと言わざるを得ず(また,例えば,Y2がXから遊びに行くつもりと聞いており何も知らないとの記載もあり,この点は被告人の関与を否定し被告人に有利となる内容であることが明らかである。,当該)
事件に関与していない者がそのような促しや働きかけを試みることは,通常考え難
いというべきである。


所論に対する検討

以上の検討に照らし,原判決が関係証拠により被告人とX,Y2との間の共謀を認定したことには誤りがないというべきであるが,以下,所論にかんがみ補足して説明する。

所論は,原判決は,被告人がVbに立腹したことから,被告人がVbに報復
するため拉致監禁する動機を有していたと認定するが,他人から詐欺,名誉棄損等の被害を受けた者が加害者に腹を立てたとしても,加害者への報復を決意するとは限らず,むしろ決意しないのが通常であるから,被告人がVbに腹を立てたことを根拠に被告人がVbの拉致監禁を決意したことを推認する原判決の論理は飛躍があり,被告人への予断偏見を示していると主張する。
しかし,本件では実行犯であるY2が被告人の指示を供述しているのであって,その信用性を判断する上で,被告人や実行犯に犯行を行う固有の動機・理由があるかを検討するのは当然のことであって,それが論理の飛躍になる,予断偏見に当たるなどとは到底いえない。

所論は,被告人においては,Rに関する紛争発生後の問題の解決やR宛の債
権の回収のため,種々の方策を講じ又は予定していたのであり,これらの方策の支障となるVbの拉致を決意するはずがないなどと主張するが,上記⑶イの経過等から,方策の前提となるVbをD等から離れさせる見込みが立っていなかったこと,Vbの自宅及び動産に対する強制執行をしても債権回収が完了しておらず,更なる強制執行の見通しは乏しかったことなどがうかがえるし,週刊新潮の記事に対して
被告人が知人に対応を依頼したのだとしても,E2にインターネット上での反論をさせた後もVb等によるブログ記事(実名入りのもの)が更新されるなど,対応が順調に進んでいなかったことがうかがわれ,被告人が所論指摘の方策を実行するためにVbへの拉致監禁を思いとどまるはずであったとは言えない。ウ
所論は,Xが本件を起こす固有の理由があるとして,当時の関係者らは,R
が有していたワンセグ事業に期待しており,Xは,VaやVbを利用してワンセグ事業の譲渡等で金策を行い被告人から成功報酬を得ようとしていたなどと主張するが,
当該ワンセグ事業の売却等については,
Rの取締役であったGが担当しており,
Gは平成21年4月11日以後もY1等と連絡を取り得る状況にあったから,Xが,
Gと何ら連絡調整を取らないまま,Vbを手元に置いてワンセグ事業による債権回
収を目指すことはあり得ないし,被告人がそのようなXの方針に賛同して報酬を約束することもあり得ない。

所論は,①Y2の平成24年2月頃以後の被告人に不利な内容を述べる供述
調書において,Vb第2事件での被告人の事前指示の話が出ていないことが,本件Y2検察官調書の信用性を損なうとの見解を前提として,当該供述調書や本件Y2検察官調書に関する原判決の説示を争う主張,②Va第1事件(上記2(控訴趣意第10)参照)に関し,携帯電話の発信地を偽装した理由となる発信地を隠匿する相手方は,警察ではなくDらであったとの見解を前提に,同相手方が警察であることをVb第2事件の共謀が否定されない根拠とする原判決の説示を争う主張をしているが,いずれもその前提とする見解に誤りがあり採用し得ない。⑸

結論

その他,所論を検討しても,原判決がVb第2事件について被告人を有罪としたことの当否を左右するに足りるものはない。
4
Vd事件(原判示第3)に関する事実誤認の主張(控訴趣意第12)


論旨は,原判決は,Vd事件につき被告人とXらとの間の共謀を認定し,か
つ,VdがXらの逮捕監禁により死亡したと認定して,Vd事件につき被告人を有罪としたが,①原判決が信用できると判断した,三木倉庫の費用支出に関連するE1の供述は信用できず,
②原判決が信用できると判断し,
共謀の認定の根拠とした,
本件Y2裁判官調書(甲937,甲938)及び本件Y1裁判官調書(甲805,甲884)はいずれも信用できず,③Vd等の拉致殺害計画,六角レンチの持参等について供述し,原判決が信用できると判断したC1の公判供述は信用できず,④
Vdの死因は立証されておらず,Vdが逮捕監禁と因果関係を有しない事由で死亡した可能性は排除されず,Vdが逮捕監禁行為によって死亡したことは証明されていないから,
原判決がVd事件につき被告人を有罪と認定したことには誤りがあり,その誤認は判決に影響を及ぼす,というものである。そこで,記録を調査して検討する。

原判示第3の要旨は,被告人が,X,Y1,Y2及びY3と共謀の上,被告人及びXにおいては生命加害の目的で,Y3においては身体加害目的で,平成22年4月13日,兵庫県姫路市内のパチンコ店(b店)駐車場において,Vdを駐車中の自動車内に押し込み,粘着テープを巻き付けるなどして緊縛するなどして,Vdを三木倉庫まで連行し,Vdが死亡するまでの間,Vdを自動車内,三木倉庫内等から脱出できないようにし,同日頃,一連の逮捕監禁行為によりVdを死亡させたというものである。
原審関係証拠上,実行犯であるX,Y1,Y2及びY3がVdの略取,監禁等を行ったことは明らかであり,これに対する被告人の関与の有無・程度,その目的,Vdが当該逮捕監禁により死亡したか否かが実質的争点であった。⑵

共謀及び生命加害目的(論旨①~③)に関連する原判決の判断

被告人と実行犯らの共謀の有無について

(ア)Y1は,XからVdの名を伏せてその拉致監禁の手伝いを求められてこれに応じているが,それに先立ち,被告人はY1に,Xの仕事を手伝うように指示しており,その指示の前後の状況やXとY1の関係などからすれば,被告人は,XによるVdの拉致監禁を手伝わせることを意図してY1に上記指示をしたことが強く推認される。また,被告人は犯行後にY1にb店を見に行くよう指示しており,被告人が実行犯による実行計画を事前に把握していなければ,このような発言をすることは考えられない。
なお,このような被告人からY1への事前や事後の指示があった旨を供述する本件Y1裁判官調書及び本件Y2裁判官調書は,Y1がVdの拉致に自ら関与し息子
のY2をも関与させたこととの整合性などから,信用することができ,当該調書に関するY1の説明
(捜査段階の供述を改めることへの恐怖感があったなどとのもの)等は採用することができず,Y1及びY2の公判供述のうちこれらの裁判官調書と反する部分は信用できない。
(イ)被告人,X及びY1は,Vd事件当時,他人名義のプリペイド携帯電話(合計
3台)を使用しており(原判決と同様に,被告人使用分を右携帯
,X使用分を上携帯
,Y1使用分を左携帯という。,それらの準備・通話状況等からすれば,)
上携帯と左携帯は,Vd事件の前後頃,犯行に関する専用電話として使用されていたと認められ,また,右携帯と上携帯及び左携帯との間の通話回数がVd事件の犯行着手前後頃から一気に増加していることを踏まえれば,右携帯は,当時,Vd事件に関する上携帯及び左携帯との専用電話として使用されていたものと推認され,被告人とXらとの共謀があったことが推認される。
(ウ)被告人にはVdを監禁等する動機があり得る一方,Xは,他者(被告人と考えられる。からの報酬を目的にVdの拉致監禁等を行ったもので,)
固有の拉致監禁
等の動機がなかった。
(エ)チョモランマUSBの裏帳簿データ,
E1の供述その他の関係証拠によれば,

三木倉庫賃借の初期費用(平成21年10月末頃・25万円)及び三木倉庫の工事費用及び焼却炉関係費用等(平成21年10月末頃から平成21年12月1日頃・合計147万5000円ないし157万5000円)の各支払の時期と符合する平成21年10月(
x契約料との費目・28万円)及び同年11月(
xとの

費目・147万3000円)に,被告人の決裁に基づきp3の金庫出金としてXへの支払いがされているから,これらの金庫からの出金は三木倉庫の諸費用に充てられたと認められる。そして,これらの出費が非定型的なもので,かつ,金額も大きいから,被告人がその費目等について認識せずに決裁をしたとは考えられず,被告人は焼却炉等も含めた三木倉庫の設備の概要や使用目的をも認識した上でその支払を決裁したことが認められ,このことは被告人が本件に関与していたことを推認さ
せる。

X及び被告人の生命加害目的

C1の供述するXがVdを拉致監禁する目的(Vdから被告人の父親の死亡の真相を聞き出した上で殺害するというもの)及びこれに符合する三木倉庫(Vdの連行先)の客観的状況等から,Xの略取がVdの生命加害目的を伴うものであったことは明らかであるところ,Vdの拉致監禁は,専ら被告人の関心のため,被告人がその費用を支出した三木倉庫を使用して,
共謀・実行されたものと認められ,
また,
Vdから被告人の父親に関する話を聞き出した上で解放等すれば,まずもって被告人が疑われ,ひいては暴力団からの報復の対象ともなり得ることなどから,被告人自身のVdに対する生命加害目的も肯定される。

上記⑵に関する当裁判所の判断

上記⑵に見た原判決の説示には,以下のとおり,証拠の評価や推認の過程に不合理な点はなく,Vd事件について被告人に実行犯との共謀及び生命加害目的を認定した結論も正当なものとして是認でき,原判決の認定判断に所論のような論理則・経験則違反はない。

原判決もおおむね説示しているとおり,①本件の実行犯らは,b店内で,車
を見に来てほしいなどとVdに声をかけた上,平成22年4月13日午後6時47分にVdの略取,逮捕監禁に着手し,その後,Vdを三木倉庫に連行しているが,右携帯を所持していた被告人は,端末機にデータが残っていた限りでも,同日午後6時25分以後の同日中に,14回にわたって,実行犯であるXの上携帯あるいは同じく実行犯であるY1の左携帯に電話を発信し又はこれらから電話
を受信している(当日の被告人(右携帯)の発着信履歴が4件しかないという所論には誤りがある。
)のであり,これらの準備・通話状況等から当該携帯電話が犯行に関する専用電話と認められることも踏まえると,被告人がVd事件に関与していないのに右携帯を所持した上で犯行遂行の時間帯に頻繁な電話のやり取りを行うことは考え難く,このような電話のやり取り自体が被告人の犯行への関与を推認さ
せる。②XがVdを略取監禁等する固有の利益や動機は考えられず,C1がXから聞いたとおり,Vdから被告人の父の死に関する真相を聞き出すなどした上で殺害し,報酬を得るという目的での犯行と考えるほかないが,Xにその依頼をした者は当該依頼内容の実現に強い動機を持つ被告人以外には考えられない上,Vdを連行した三木倉庫の確保や改築に費用を出したのも被告人であることからすれば,Xに
報酬を約束するなどして本件犯行を主導したのは被告人であることが明らかである。③XはY1に対し,本件を暴力団員の拉致監禁であると説明して,Y1及びその息子のY2が参加するよう依頼し,Y1はこれに応じ,自ら参加するとともにY2を参加させている。このようなXの依頼に応じることはY1及びY2に相当の危険をもたらし得る(現に,平成21年8月,Y2はXの依頼によりVbを拉致等するVb第2事件に関与して負傷している。上,
)Y1は当時,
Xとは特段の関係にはなく,
被告人の経営するパチンコ店の仕事に従事し,パチンコ店や被告人から提供されたマンションに寝泊まりし,毎月30万円程度を受け取る関係にあった。そのような立場のY1が,被告人の指示や了承なしに,本件に自ら参加した上にY2を参加させることは考え難い。現にY1は,供述を後退させた公判でも,本件に参加した理由につき,Xの仕事を手伝うよう被告人から指示されていたからだと述べている。
Y1が事件後にXの仕事が終わった旨の事後報告をしていることも,被告人の事前の指示や了承があったことと整合する。被告人からVd事件に関する事前・事後の指示があった旨などをいう本件Y1裁判官調書や本件Y2裁判官調書は,このような考察に沿う合理的な内容である。
そうすると,被告人とXとの間の共謀はもとより,XのもとでVd事件の実行役
を担ったY1,Y2及びY3と被告人との間の共謀も認められる。また,上記のような被告人とXの関係等に照らすと,Xが被告人の意図に反してVdの殺害の目的を持つことなど考えられないから,被告人がVdに対して生命加害目的を有していたことも明らかである。

上記ア②の被告人が三木倉庫の費用を支出したことについては,その認定の
根拠となるパチンコ店の金庫出金に関するE1の供述の信用性が争われている。上記第1の6において検討したとおり,E1の供述は,取り分け本件で問題となるX(Va第1事件ではY2)へのパチンコ店金庫からの支払いに関して,被告人の指示に基づいて行い,チョモランマUSBに記録していたなどというものであり,E1のパチンコ店従業員としての立場に符合し説得力があるほか,E1が自身の横領
の隠匿その他自身の利益のための偽装としてXやY2宛の支出の費目を用いてチョモランマUSBに記録しておくことは現実的ではなく(他の費目も同様である。また,被告人がE1の横領に関して被告人の代理人としてE1の父と話をしたというY1は,E1の父にE1との連絡を取ってほしいとの話をしたにとどまっており,E1が横領行為をしたという前提も認められない。,十分信用性を肯定し得る上,)
チョモランマUSBのデータ(支出の費目,時期等においてE1の供述と符合する上,
x
(X)への支払いのほか,
g
(被告人方家賃)ボスへ

(被告人への送
金)などといった具体的な記載内容は,E1や第三者が殊更事実と異なる記載をした可能性を現実的に想定することが困難である。
)によって裏付けられている。
金庫出金の記載に符合する客観的資料(領収書等)や被告人が関与したことが明らかな資料(決裁書等)は残されていないが,金銭支出の性質や平成22年5月に警
察の捜索を受けたことなどにかんがみ,資料が残っていないことにも合理的理由があり,E1の供述の信用性を損なわない。また,
金庫出金欄の本件に関連する記
載は
x
x契約料
(Va第1事件では
△立替などといった断片的なもので,

E1の説明もX
(Va第1事件ではY2)
宛てにその支出をしたというにとどまり,
特定の支出について被告人の認識等が現れているなどといった捜査官に都合が良い
内容ではなく,捜査官が金庫出金欄の内容をねつ造したりE1に働きかけて虚偽の供述をさせたりしたなどの可能性はおよそ想定できない。原判決がE1の供述の信用性を肯定したことは当然であって,何ら誤りはない。

上記ア③の本件Y1裁判官調書及び本件Y2裁判官調書については,捜査官
の利益誘導や脅迫等を承継したものであるとして,証拠能力のほか信用性が争われている。Vd事件については,上記ア③のとおり,Y1及びY2が本件に関与したこと自体が,Y1の当時の立場等にかんがみ,被告人の指示や了承なくしては考え難く,被告人の本件への関与を相当程度示すものと言える。被告人の関与について述べるY1やY2の裁判官調書(公判供述との相反部分)は,この考察と符合するとの位置付けにとどまるとも言い得るが,Y1の当時の立場等に照らし,関与に至
った事情等を整合的に説明している(弁護人は,本件Y1裁判官調書相互の相違,更に前の供述との相違,
Y1とY2の裁判官調書の相違等を指摘するが,
いずれも,
相違と言えないものや,その相違が信用性に影響を及ぼさないものである。)上,上
記第1の5において検討したとおり,これらの裁判官調書は,捜査官が直接的な影響を及ぼし得ない裁判所での手続での供述を録取したもので,両名に対する過去の違法又は不当な捜査の影響も遮断されており,捜査官による利益誘導や脅迫によりなされた疑いは残らず,被告人の関与について供述するこれら調書の相反部分は,基本的に信用できるものといえる。

C1は,上記ア②や上記⑵イのとおり,XからVcやVdの殺害計画を有し
ている旨やその内容を聞いたこと,Xの依頼でチェーンソー修理のための六角レンチを届けたことなどを供述しており,その信用性が争われている。原判決も説示するように,①Xが計画実現のための倉庫や焼却炉を探していた点,血液反応への対策のためサンポールを準備する予定であったとする点,計画の対象がVcからVdに変更になった点などにおいて,三木倉庫や本件焼却炉の客観的状況,サンポールの遺留状況などの客観的証拠や他の関係者の供述とよく整合している。②六角レンチの持参などといったC1自身に不利益をもたらし得る内容を含んでおり,C1が
殊更虚偽の供述をする理由を見いだし難い。③C1は,平成23年2月7日,六角レンチの持参について供述したほか,Vd事件の実行犯がX,Y3,Y1,Y2であったことをも供述した。平成23年2月7日の時点では,後記のVc第2事件はまだ発生しておらず,Vdは所在不明として所在捜査等がされていたにとどまり,三木倉庫の血痕が誰のものかも特定されておらず,そのような状況で,警察官がC
1を誘導して,Vd事件の実行犯が誰であるか,チェーンソーの修理道具として六角レンチを届けたことなどを供述させることができるとは到底考えられない。④そして,C1は,その直後の平成23年2月18日,Vd事件と同じく三木倉庫を用いたVc第1事件で逮捕され,その後起訴されて同年6月に実刑判決(他の事件と併合)
を受けているところ,
C1は,
その捜査段階
(同年2月20日の弁解録取書,

同年3月2日の検察官調書)で,Vcを三木倉庫にしばらく監禁した後に殺害する計画がある旨を聞いたと供述し,公判では,三木倉庫連行後にXがVcをどうするか聞いていなかったと述べつつ,取り調べられた上記検察官調書では正直に話したと述べていた。
すなわち,
C1は,
自身がVc第1事件での処罰を受けるに当たり,
XからVcを三木倉庫で殺害する等の計画を聞いていた旨の,自身に不利な供述をしていたのであり,その内容が作り話等の虚偽ではないことが示されている。⑤以上から,Xから聞いたVcやVdの殺害計画やXに六角レンチを届けたことに関するC1の供述は,嘘・勘違いや警察官の誘導によるものではなく,C1の記憶や認識に沿って述べられたものといえる。⑥そして,これらのC1の供述の内容が,後日に実行犯の供述や血痕の鑑定により裏付けられるに至っている。これらからすれば,C1の供述の信用性が肯定されるのは当然であり,同旨の原判決の判断に何ら
誤りはない。


共謀及び生命加害目的の成否に関する所論の検討

以上の検討に照らし,共謀及び生命加害目的を認定した原判決の判断には誤りがないというべきであるが,以下,所論にかんがみ補足して説明する。ア
論旨①(E1の供述の信用性等)に関する所論について
すでに検討したもののほか,所論は,①チョモランマUSB内には裏帳簿データが記録されたとされる平成21年7月から平成22年5月に対応する支払明細表等のデータがないし,支払明細表に関するE1の説明は不合理で,他の従業員のデータをコピーしたことがうかがわれ,日計表部分もコピーしたものと考えるのが自然である,②E1がチョモランマUSBの隠し場所を被告人に報告していないなどと
しており,報告していれば回収されたはずで警察に発見されたはずがないことをごまかすため中途半端な供述をしている,③東京にいる被告人に決裁してもらうために書類をメールや郵便で送ったというE2の供述は,E1の話とも符合しないもので,虚偽である,などと主張する。
しかし,①については,支払明細表は,その内容等から銀行口座,小切手支払い
等に関するデータであることが明らかであり,裏帳簿やその中の金庫出金とは別のデータであるから,チョモランマUSB内に裏帳簿に対応する時期の支払明細表が無いことや,支払明細表を他の従業員が作成していたことは,裏帳簿(とりわけその金庫出金)のデータやこれに関するE1の供述の信用性には関係がない。②については,E1は,チョモランマUSBを隠した旨を被告人に報告したが,場所の細かい話の報告については記憶がないとしており,隠し場所を被告人に伝えたことを否定しているわけではない。また,当該隠し場所の状況に加え,チョモランマUSBが裏金等の情報が記載されたものであること,その後の警察の捜索の状況,関係店舗の営業状況等にかんがみると,被告人や店舗関係者において,その所在を把握した上で,これを回収しないままになったとしても特に不合理とは言えない。③については,E2が被告人による金銭支出の決裁に関してあえて虚偽の供述をする動
機に乏しいし,E1の供述(被告人自身からの出先からの送金依頼に対し,送金するとともに伝票を準備し,被告人が戻った際にサインしてもらうことがあった旨など)はE2の供述と矛盾するわけではなく,E1の供述の信用性が低まることにもならない。

論旨②(Y1及びY2の公判供述及び裁判官調書)に関する所論について
(ア)所論は,各裁判官調書の信用性等について,すでに検討したもののほか,①Y1の左携帯の通話記録(原審公判には不提出)に依拠して,本件Y1裁判官調書(甲884)がいう㋐被告人からの指示等の時期,㋑指示後犯行前に被告人とのやりとりがなかったことは,同不提出通話記録における平成22年3月23日以後のXとの頻繁な通話や平成22年4月9日と同月10日の被告人との通話と矛盾する
と主張し,②事件後のY1からの報告に対する被告人の応答(甲884。なぜこちらに電話をかけてきたのかなどというもの)は,被告人がVd事件を手伝うよう指示したという話と矛盾し,被告人が当日午後6時50分から午後7時4分までの間にY1に2回電話をかけていることとも矛盾するなどと主張する。しかし,①については,所論の挙げる通話記録を一応前提としても,Y1の供述
(甲884)は,㋐の指示があった時期等について幅があるなど,通話記録と矛盾するものとはいえず(なお,㋑については甲884及び弁99〔弾劾証拠〕の採用部分には所論が挙げる供述は見当たらない。,②についても,通話記録をできるだ)
け残したくないなどの理由で事後の連絡を嫌うことや,事後の連絡を嫌いつつも事件遂行上の必要性等からやむなくY1に電話をかけるということは特に不合理ではない。いずれの所論も,各裁判官調書の信用性を左右しない。
(イ)所論は,Y1やY2の公判供述につき,すでに検討したもののほか,①原判決は,Y1やY2が被告人と示談交渉中であることを虚偽供述の誘因だと説示するが,Y1が平成26年6月頃に請求額の半分である2500万円を受領した後も被告人に不利な供述をし,本件公判でも被告人に不利な事項を多数証言したこと(原判決もその信用性を認めた。
)などに整合しない,②原判決が,Y1①(弁護人も尋
問請求していた。の反対尋問前の弁護人との打合せや反対尋問での供述の追加)
(X
の仕事関係)を挙げて,Y1が被告人や弁護人に迎合しているとするのは,Y1や弁護人に対する予断偏見に基づいており,反対尋問制度をもないがしろにする不当な判断である,などと主張する。
しかし,①については,Y1が平成26年に被告人から2500万円を受け取っ
たことを前提としても,Y1は自身及びY2への更なる賠償を求め,その後,L2弁護士との話し合いにおいて,本件裁判が終わるまで示談交渉は完結しないこととなったというのであり,原審公判での証言時には,本件裁判の帰趨が当該示談や賠償に影響し得る状況にあったから,Y1やY2において,証言を被告人に有利に変更することが可能な箇所では,そのように供述を変更する動機付けが生じる可能性
を否定できず,②についても,所論が言うXの仕事の関係をひとまず措いても,Y1の公判供述のうち裁判官調書から変化した点は,原判決も指摘するとおり,被告人からの事前の指示等に関して,日頃からの手伝いの指示があったに過ぎないとするなど不自然さを否定できない。①②いずれも,原判決の指摘に誤りはない。ウ
論旨③(C1の供述)に関する所論について

すでに検討したもののほか,所論は,C1の供述は信用できないとして,①Xが多数の共犯者に詳しい動機や計画を伝えていないのに,C1にだけ詳細な拉致監禁計画を語るというのは不自然であり,Xが友人のY3(Vc第1事件やVd事件の時も一緒に三木倉庫に行っている。
)に拉致監禁計画を隠していることとも整合し
ない,
②Xにチェーンソーを修理するための六角レンチを届けたとのC1の供述が,そのサイズ,本数,入手先,保管場所などについて次々と変遷しているのは,捜査官のストーリーに迎合して細部を創作したことを示す,などと主張する。しかし,①については,共犯者であっても犯行に関する計画の全てを伝えるとは限らない上,友人といっても親疎の程度は様々であり,特に,C1とXはパチンコ店で同僚だった等の被告人にも関連する接点がある一方,Y3は被告人との面識がなかったことなども踏まえれば,当該拉致監禁等の計画(被告人の父の死に関する
事情聴取等を含んでいる。について,

Xが他の者に話さずにC1に話したとしても,
特に不自然とは言えない。②については,六角レンチの本数については,変遷はうかがえない(平成23年6月21日の警察官調書において,五,六本が束ねられたものと述べており,この点は公判供述と同様である。
)し,サイズ,入手先や保管場
所については,C1はXから頼まれて届けたに過ぎず,他のレンチとの混同などに
よる勘違いが生じても不思議ではなく,所論の指摘する供述の変遷が,C1が六角レンチを届けたこと自体に疑義を生じさせるものとは考えられない。⑸

逮捕監禁致死罪の成否(論旨④)に関連する原判決の判断

原判決は,Vd(平成22年4月13日に三木倉庫に連行されて以降の生存
痕跡が全く見当たらない。
)につき,失踪等の理由がなく,解放され又は逃亡した可
能性が極めて乏しいことに加え,Xの計画(三木倉庫で,被告人の父親死亡に関する事情を聞き出した上で,Vdを殺害し,その遺体をチェーンソーで解体して焼却炉で処分するというもの)は,実現可能なものとして構想されており(三木倉庫の焼却炉から人骨の骨片が発見されている。,
)Vdの血痕が,
三木倉庫内の壁や扉
(特
に焼却炉があった南側倉庫の扉部分)に広範囲に付着していた状況から,この計画
が実現されたことが強く推認され,他の原因でこのような血痕が付着することは考え難いことなどを挙げて,Xらに拉致されたVdが,三木倉庫に至るまで又は三木倉庫内で死亡し,その遺体が三木倉庫内で処分されたことは,常識に照らして間違いないと認定し,Vdの死亡結果については,三木倉庫に至るまでの間に生じた可能性と三木倉庫到着後に生じた可能性があるとした。
そして,原判決は,Vdが逮捕監禁行為と無関係に持病等で死亡した可能性はないとした上,逮捕監禁致死罪の成否につき,Xが三木倉庫への連行後に逮捕監禁の維持・継続とは無関係な別の理由でVdを殺害するなどした疑いを中心に,下記イ~エのように認定判断した。

Xは,Vdの殺害に先立ち,まず,被告人の父親死亡に係る背景事情を聞き
出すため,Vdを一定期間三木倉庫内に監禁することを予定していたものと認められるが,①Xが,そろそろ犯行に着手する旨C1に告げてから二,三日以内に,遺体解体に使用を予定していたチェーンソーやその修理道具を求めていること,②Xは,被害者を監禁した他の事件において,監禁した被害者本人から家族に電話させる等の偽装工作を行っているのに,Vd事件では,犯行翌日の午後3時12分に電話を使った偽装工作をした際及びそれ以降に,Vd本人を利用した形跡がなく,利
用したくてもできない状況にあったとの可能性が考えられること,③そのほか,監禁態様や搬送時のVdの状況等も踏まえれば,Vdは,逮捕監禁の着手後,比較的早い時期に死亡していたことが強く推認される。

①Vd事件後に,被告人の父親死亡との関係で,Vc以外の者が新たにター
ゲットとして狙われるなどした形跡はなく,むしろ,Vd事件前に元々ターゲットであったVcが再びターゲットとされ,Vcから被告人の父親を死亡させた指示役を聞き出すことが主たる目的とされていたこと,②その後のVc第1事件におけるXからVcに対する追及内容も,Vd事件以前からXが名前を挙げていた人物に関する追及が中心であり,Vdから得た新たな情報が反映されている様子もうかがわれないことを踏まえると,XがVdから有益な情報を聞き出すことができて目的を
達したがゆえに早期に殺害したとは考えられない。

上記イ,ウを踏まえれば,Xが三木倉庫到着時に生存していたVdから,被告人の父親死亡に関する事情を聞き出した上で殺害したとは考えられず,また,それ以外の理由でXがVdを殺害するなどしたと疑うべき具体的な事情は見当たらないから,Xが,専ら逮捕監禁の維持・継続とは別の理由でVdを殺害するなどした可能性は否定され,VdはXらの逮捕監禁によって死亡したと認められる。⑹

上記⑸に関する当裁判所の判断

原判決が,Vdが実行犯らの逮捕監禁行為により死亡したと認定した結論は正当であり,その理由として上記⑸のように説示するところも概ね正当なものとして是認でき,原判決の認定判断に所論のような論理則・経験則違反はない。以下,所論にかんがみ補足して説明する。

所論は,Vdが逮捕監禁の着手後早期に死亡したとの原判決の論理(上記⑸
イ)は成り立たないとして,①上記⑸イ①のC1の供述は,8年も前の出来事の間隔について,二,三日との日数を具体的な根拠なく述べる点において,信用できない,②上記⑸イ②の偽装工作の点も,Vdが生存していながら偽装工作に協力しなかったなどの可能性がある,と主張する。
しかし,①については,C1は,自身が六角レンチを急いで届けた理由として,当該二,三日前にそろそろ拉致を実行すると聞いていたことのほか,拉致に関連するものを含む車(エルグランド,セルシオ)の出入りがあったことなどの具体的な事情を述べており,これらの経過に関する供述は基本的に信用できる。②については,X等は,被害者の監禁等を伴う3件の事案で,被害者に指示して,家族等に電
話で会話させ,その際,家や勤務先にいない理由等について嘘を言わせ,一部の事案では発信地も偽装するなどといった周到な偽装をしているから,Vd事件でもX等は可能であれば同様の偽装への協力の指示をしたと考えられ,被害者のVdにおいても,そのような指示があれば,犯人らの指示に応じつつ家族に健在である旨を伝えることができるなどと考えて指示に従うのが通常であると考えられる。そうす
ると,本件ではその形跡がないことは,本人を用いた偽装工作ができない事情が生じたことをある程度うかがわせるのであり,この事実をVdの早期の死亡を推認させる事情の一つと位置付けた原判決の判断に誤りはない。加えて,原判決が挙げる監禁態様や搬送時のVdの状況に関する具体的な事実関係(すなわち,Y3の供述等によれば,Vdは,拉致された際,ガムテープで手足を拘束されて口を塞がれ,少なくとも下半身を寝袋に入れられ,自動車の2列目シートに乗せられていたが,その後,弁当店の駐車場で40分前後停車していた際,Xが誰かに電話し,誰かが来るなどし,同行していたY3はVdを見張らずに下車していたこと,三木倉庫においては,Y3がVdの上半身側の寝袋を持ち,Xが足の方を持って,Vdを自動車から降ろしたが,Vdは体を動かしたり暴れたりはしていなかったことなど)からすれば,Vdは,三木倉庫への連行の際の状況の変化に対し,無理矢理に拘束さ
れた直後の被害者が通常とると思われるような,抵抗,逃走の試み,話合いの試みなどの行動をとっておらず,このことは,Vdが三木倉庫到着の時点で,これらの行動をとり得ない状況,すなわち意識がないなどの異常な状況にあったことを推認させる。原判決の上記⑸イの認定判断には誤りがない。イ
所論は,原判決はVcの生前の警察官調書に依拠して上記⑸ウ②のように認
定するが,Xが当時(Vc第1事件時)に有していた知識は証拠上詳しく明らかになっていないし,XがVcへの追及の際に情報を小出しにしたためVcが逃げるまでにXが持つ情報を聞かなかった可能性もあるから,原判決のようには認定できないと主張する。
しかし,
所論が指摘するVcの警察官調書によれば,
Vc第1事件の際,
Vcは,

自身の感覚で三木倉庫に二,三時間あるいはもっと長い時間監禁され,その間,男(Xと認められる。
)が定期的にVcを監禁している部屋に来て見張りをしていた
こと,男は,自動車での連行の途中から,T会の会長等のシノギの内容や居場所,家族等を質問し,三木倉庫においても見張りに来るたびに同様の質問をし,あと5分だけ時間をやるなどと言っていたというのであるから(これらの警察官調書は事
件後間もなく録取されており,Vcが追及内容を間違えたり忘れたりしているとは到底考えられない。,Xが情報を小出しにしているような状況ではなく,XがVc)
の追及に資するような情報を有していなかったことが推認される。このようなVc第1事件に関して証拠上明らかな事実等に基づく原判決の上記⑸ウの認定判断は正当であり,何ら誤りはない。

所論は,本件の証拠関係及び原判決の論理によるならば,以下のような逮捕
監禁致死罪とはなり得ない死亡に至る経緯もあり得るとして,①平成22年4月13日から数日以上経った時期に,XがVdを用済みだと考えて殺害した可能性,②4月13日から数日以上経った時期に,XがVdに情報を聞き出すための拷問等を加え,Vdがこれにより死亡した可能性(現にXは,その後のVe事件でのVe供述によれば,Veを水が入ったごみ箱に押し付ける水責めをしている。,③4月1)

3日から数日以上経った時期に,Xが,Vdに恐怖を与えて情報を得ようと考え,あるいは,Vdが情報を提供しないことに腹を立てて,暴力を振るい,その結果死亡させた可能性(故意に殺害したことも排除されない),等を主張する。しかし,①については,Vdを殺害する前に行うべき事情の聞き出しは,被告人の関心に基づいて計画され,Xは報酬を目的にVdからの情報取得や殺害を計画し
ていたが,上記イのように,XはVdから被告人の父親死亡に関する事情を聞き出せていなかったものと認められるから,Vdが用済みとなることはない。むしろ,Xが何らの事情変更もなくVdを殺害し,そのことが被告人に判明すれば,報酬を得られないのみならず,
被告人から責任追及を受けることは容易に想定されるから,
XがVdの殺害を決意して実行に移したということはおよそ考えられない。②③に
ついては,Xは,逮捕監禁の継続に必要な暴行を加える意図を有していたと考えられるが,他方,Vdからなお被告人の父親に関する情報を聞き出す必要があり,Vdを意図的に殺害するのでなくとも,事情聴取が不能となるような傷害(死亡を含む。
)を生じさせれば,①と同様に,報酬を得られず被告人から責任追及を受けることとなる。また,Xは,Vdを負傷させた場合に病院受診等による回復が困難なこ
とも理解していたと考えられるから,逮捕監禁を継続する上で必要のない暴力を加えようとあえて決意するような状況にはなかったと考えられる。現に,Xは,Ve事件の際には監禁中の不自由な点を聞いて対応し,Veに愚痴を言うなどし,Vc第1事件の際には,手錠が食い込んで痛いというVcに対し,クリッパーで手錠を切断して外してやるなどしており,無用に乱暴な言動はなく自制していたことがうかがえる。そうすると,XがVdに対して逮捕監禁に必要がない暴力(拷問,畏怖のための暴力,
腹を立てたことによる暴力など)
を加えたという可能性は考え難く,
Vdがそれにより死に至ったという可能性もまた合理的なものとは考えられない。原判決の上記⑸エの認定判断には誤りはない。

その他,所論を検討しても,原判決が逮捕監禁致死罪の成立を肯定したこと
に誤りはない。
5
Ve事件(原判示第4)に関する事実誤認の主張(控訴趣意第13)


論旨は,原判決は,Ve事件につき被告人とXの間の共謀を認定し,被告人
を有罪としたが,その判断には誤りがあり,その誤認は判決に影響を及ぼす,というものである。そこで,記録を調査して検討する。

原判決の判断

原判示第4の要旨は,被告人が,Xと共謀の上,被告人が実質的に経営するパチンコ店(p3)の元従業員であった被害者Veに対し,平成22年8月30日,兵庫県姫路市内の公園駐車場に駐車した自動車内で,目隠し及び両手錠をし,Veを三木倉庫に連行し,三木倉庫内の密閉された箱様の小室に押し入れ,外からかんぬきで施錠して閉じ込め,その動静監視を開始し,同年9月28日までの間,同小室
内等においてその動静を継続して監視し,Veを脱出できないようにしたというものであり,原審での実質的争点は,被告人とXの間の共謀の有無であった。原判決は,Veの供述の信用性を肯定した上,要旨,以下のような間接事実により共謀が認定できると説示した。
①X(パチンコ店の営業に関与していない。
)は,平成22年7月中旬頃p3から

逃亡したVeに対し,逮捕監禁の当初から,パチンコ店の違法営業や被告人のことを警察等に話していないか追及し,Veの妻(監禁中の平成22年8月31日にVeと電話で会話した。が,
)p3の再オープン日に言及した直後に,
XがVeに対し,
本当に誰にもパチンコ店のことを話していないか追及を強めており,Veの監禁に際して被告人の意向に沿う行動をとっている。②被告人は,上記①のVeとVeの妻の通話内容を把握するとともに,Veがしばらく家に帰れない口実を妻に告げて説得できるかを確認しようとしており,被告人において,XがVeの監禁に及び,引き続き監禁することを把握していたと考えるのが自然かつ合理的である。③被告人には,パチンコ店への捜索等を受けるなどしていたことから,Veに対し,パチンコ店の違法営業等に関する機密事項を漏らしていないか追及し,あるいは今後機密事項を漏らさないよう屈服させるため,監禁する動機があり,他方,XにはVe
を監禁する固有の動機はなかった。④被告人は,Veの監禁場所となった三木倉庫の改装工事等の費用を自ら支出している。


当裁判所の判断

上記⑵の原判決の説示には,以下のとおり,証拠の評価や推認の過程に不合理な点はなく,被告人につきXとの共謀を認定した結論も正当なものとして是認でき,原判決の認定判断には論理則・経験則違反はない。以下,所論にかんがみ補足して説明する。

原判決も指摘しているように,①Xは,㋐Veを三木倉庫に連行した当日,
Veがp3の営業に関する不正行為や被告人の関与について警察等に話していないかを追及し,㋑その翌日にVeが妻と電話で会話した際,Veの妻がp3(捜索等を受け,
営業休止中であった。の再オープン日に言及したところ,

XはVeに対し,
Veが嘘をついていた,本当のことを言うまで家には帰せないと追及しているのであるから,XがVeを逮捕監禁した理由が,p3の営業に関して外部の者が把握すると都合が悪い事項をVeが漏らしていないかを追及することなどにあったことが明らかである。そして,②Xはp3の営業には関与しておらず,Xが上記①の追及
等の目的でVeを逮捕監禁することは,p3の経営に関与する者からの指示や依頼なくしては考えられないところ,被告人は,p3を実質的に経営しており,Xを雇っていたのも被告人であること,③Veが連行された三木倉庫の確保や改築に費用を支出したのも被告人であること,などからすると,XにVeの監禁を指示したのが被告人であることは明白である。また,④Veが妻との電話(上記①㋑)の際,自宅に帰らなかった事情等を説明するに当たって,被告人がスピーカーフォン機能で聞き取って確認していたことや,その電話の際にパチンコ店の従業員であったY1(当時は負傷して退院した直後であった。
)がE1の依頼で関与していることも,
被告人が本件を指示していたことに沿うものといえる。

上記アの①の㋐㋑等の事実については,これらの事実を供述するVeの供述
の信用性が争われている。Veの供述は,スピーカーフォン等で電話をさせられた状況について,通話履歴と整合するほか,Veが目撃したとするXが投棄した携帯電話等が,Veの案内により警察官に発見されており,また,平成22年8月31日にXがVeへの追及を強めたこと(Xにより水を入れた黄色いごみ箱に顔を押し付けられたと供述する。については,

三木倉庫から水の入った黄色い容器が発見さ
れたこととも整合している。そうすると,Veが殊更に何者かを陥れるために虚偽
の供述をしているという可能性は考え難く,その信用性は高いと言うべきである。ウ
所論は,平成22年8月31日の妻との電話に関するVeの供述(上記ア①
㋑,④。Veの妻がp3の再オープン日(9月9日)を口にしたことにXとY1が驚く様子をし,
被告人がY1に電話をかけてきて怒ったなどというもの)
について,
①再オープン日は何千枚ものチラシ等で明らかになるなど公開情報であったこととの不整合性,②Veが事件の2年後の平成24年には供述せず,平成27年に初めて供述したことの不自然性などを指摘する。
しかし,いずれも原判決が正当に説示するとおり,これら所論は採用できない。すなわち,①については,Y1が驚いたという点はY1の供述とも一致している。チラシの配布時期(イベントの1週間くらい前)を踏まえても,再オープンの日が
公開の情報であったとは必ずしも言えないし,従業員の求人に当たって再オープン日が明らかにされていたとも言えず,むしろ,被告人や従業員らは,警察の捜索後休業していたp3の営業再開のため種々の工夫等をしており,再オープンの時期が営業上機微を要する情報であったと推察される。②についても,Veは平成24年の事情聴取時には本件での処罰を求めておらず,被害を申告することを決意した後に状況を詳細に思い出して供述を加えたとしても特に不合理とは言えない。いずれの指摘も,Veの供述の信用性を低めるものとはいえない。

所論は,①被告人としては,パチンコ店の従業員であったVeを逮捕監禁し
ても同店の事業上のメリットはなく,逮捕監禁する理由がない,②Xが当初Veを自動車に乗せた際は,暴行脅迫を加えておらず,このような態様は,Veを平穏にp3に同行するという元々の被告人からXへの依頼に合致する,③Xにおいて,㋐Veを若い衆にする,㋑Veが警察等に情報を漏らしていないか被告人が知りたがっているだろうと忖度して,Veから事情を聞き出そうとする,㋒Vcに対する監禁計画の予行演習をする,などといった,Veを監禁する固有の動機を有した可能性がある,と主張する。
しかし,①については,現にVeは,パチンコ店の違法営業やそれに対する被告
人の関与を外部の者に漏らしていないか追及されているところ,Veがこれらの事実を外部の者に漏らさないことが被告人の利益となることが明白であるから,被告人に動機がないとは言えない。②については,Xは,幼い子を伴っていたVeに対し,車に乗るよう求め,Veが子を自宅に戻らせた後,公園駐車場で自動車を乗り換えた際には,目隠しと手錠をさせているのであるから,平穏な同行という前提が
欠けている。③については,㋐㋒の主張は,上記ア①のようなXのVeに対する追及内容と全く整合しない(㋐㋒のような理由で監禁するのならば,p3の機密情報に関する追及を行う必然性が全くない。
)し,㋑の主張は被告人の弁解(Veを発見
したというXに対し,Veにはもう用がないと伝えたなどというもの)とも整合しない。また,そもそも,X独自の逮捕監禁の動機を想定するとしても,当時p3は
その営業再開に向けて多数の従業員らが多忙にしており,Xが,元々p3の従業員であったVeを,被告人に相談することもなく逮捕監禁すれば,被告人からかえって迷惑を受けたなどと追及されるおそれも残るから,Xがその固有の動機により被告人の了承なくVeを逮捕監禁することは到底考えられない。


結論

その他,弁護人の所論を見ても採用すべきものはなく,原判決が,Veの供述の信用性を肯定し,共謀が推認できるとしたことには,何ら誤りがない。6
Vc第1事件(原判示第5)に関する事実誤認の主張(控訴趣意第14)


論旨は,Vc第1事件につき,被告人はX等によるVcの略取及び逮捕監禁
を知らず,原判決がVc第1事件につき被告人とXらとの間の共謀及び被告人の生命加害目的を肯定し,被告人を有罪と認定したことには誤りがあり,その誤認は判決に影響を及ぼす,というものである。そこで,記録を調査して検討する。⑵

原判決の内容等

原判示第5の要旨は,被告人が,X及びY2,Y3と共謀の上,被告人及びXにおいては,
生命加害の目的で,
Y2及びY3においては,
身体に対する加害目的で,
平成22年9月28日早朝,兵庫県姫路市内の路上で,Vcを停車中の普通乗用自動車の後部座席に無理やり引きずり込むなどして三木倉庫に連行し,その間,約9時間にわたって同人を脱出できない状況において,略取するとともに監禁し,全治約10日間の傷害を負わせたというものである。
原審関係証拠上,実行部隊であるX,Y2,Y3が上記の拉致・監禁等を行ったことは明らかで,これに対する被告人の関与の有無・程度,その目的が原審におけ
る実質的な争点であった。
原判決は,要旨以下のように認定判断した。①被告人がXとの間の専用の携帯電話で,拉致実行の直後頃から頻繁に連絡を取り合い,被告人は,当日わざわざ東京から新幹線で姫路方面に戻り,西明石駅前でレンタカーを借りる等していること,②Vcは,Xの隙をつき三木倉庫から逃げ出し,警察の保護を受けたが,その頃,
Xは,被告人からの電話に対し,Vcに逃げられたことを報告するとともに,

絶対捕まえます。死んで償います

などと謝罪しているのを側にいたVeが聞いていること,③三木倉庫の改装工事等の費用を支出したのは被告人であること,④Xは,Vcを監禁している間,被告人が関心を抱くT会幹部のしのぎや関係性を聞きただそうとしていることなどからすると,被告人は,Vcの略取・逮捕監禁についてXと共謀していたもの(他の共犯者らとはXを介した順次共謀)と認められる。そして,Xの略取の目的は,Vcから被告人の父親死亡の真相を聞き出して殺害するというものであるところ,被告人も,XがVcから話を聞き出して解放等した場合には疑われ,暴力団の報復対象ともなり得ることが容易に予想されたことなどからすると,Xと同様にVcに対する生命加害目的を有していたものと認められる。⑶

当裁判所の判断

原判決の説示に証拠の評価や推認の過程に不合理な点はなく,被告人とXらとの共謀及び生命加害目的を認定した結論も正当なものとして是認でき,原判決の認定判断に所論のような論理則・経験則違反はない。以下,所論にかんがみ補足して説明する。

原判決も説示するとおり,被告人とXは,Vcを拉致した直後から専用の携
帯電話で頻繁に連絡を取り,Xは,Vcに逃げられた際,被告人に対して,自分の責任である旨詫びる等していたというのであるから,これらの事実のみからでも,被告人が本件犯行の黒幕で,その意に基づき本件犯行が行われたことが強く推認される。しかも,XにはVcを拉致する固有の理由は考えられず,C1がXから聞いたとおり,報酬を目的とした犯行と考えるほかないところ,Xにその依頼をした者
は当該依頼内容の実現に強い動機を持つ被告人以外には考えられず,現に被告人は,
Vcが拉致された後に東京から急遽姫路に戻って来ていること,Vcが拉致された三木倉庫の確保や改築に費用を出したのも被告人であることからすると,Xに報酬を約束するなどして本件犯行を主導したのは,
被告人であると間違いなくいえる
(所
論は,被告人はXに父親の死に関する情報収集を依頼したが,Vcとの接触は禁じ
ていたのに,Xが,情報さえ聞き出せれば被告人から報酬を得られると考え,独走してVc第1事件を起こしたと主張するが,その状況で仮にVcから情報を得たとしても,Xが禁止行為を行ったと被告人に判明した場合や,被告人がその情報に納得しなかった場合には,報酬を受け取れないことが容易に予想されるから,Xが独断でVcの拉致に及ぶことは到底考えられない。。そうすると,被告人とXの間の)
共謀はもとより,Xのもとで,本件犯行の実行役を担ったY2,Y3との間でも,被告人との共謀が認められる。そして,上記のような被告人とXとの関係に照らすと,Xが被告人の意図に反する目的を持つことなど考えられないのであるから,被告人が生命加害の目的を有していたことも明らかといえる。

所論は,事件当日を中心とした被告人とXの電話のやり取りは,Vcの拉致
から15分以上経っており,拉致行為とのタイミングの一致という原判決の指摘は当たらない,被告人は前日にXから,情報提供者に会わせられるかもしれないと聞いていたのであるから,早朝に関係者に電話することは特異なことではない,そもそも,拉致の計画を事前に知りながらこのように頻繁に電話すること自体が不自然で,拉致の計画を知らずに情報提供者に会わせるように何回も頼んだという被告人の供述の方がはるかに合理的であるなどと主張する。

しかし,上記主張は,いかにもこじつけというほかない。本件では午前6時発の電車に乗って出勤するVcがその直前(駅までの歩行中)にX等により拉致されているところ,当該電話は,拉致が成功したか否かの概況を聞くに適した時期の電話といえる。被告人は,Xの携帯が不在着信になった後にもなお電話をかける等しているのであり,拉致の計画を知った上でその報告を受けるためにこのように頻繁に
なされたとみるのが自然で,被告人が述べるような情報提供者が面談を受け入れるか難渋している状況にあったということとそぐわない。

所論は,被告人が事件当日に東京から姫路・西明石方面に向かったことにつ
き,
原判決は特異な出来事と評価するが,
姫路は地元で帰ってもおかしくないから,
原判決の評価は偏見に基づく不当なものだと主張する。
しかし,被告人の説明によっても,前日は姫路・西明石方面に向かう予定がなかったというのに,急遽,姫路方面に向かうというのは特異な出来事というべきであり,被告人において,Vcが拉致された本件犯行のまさに当日に急遽そのように行動したことの合理的な説明ができない以上,本件犯行に関連したものと見て当然である。被告人は,XからVc以外の情報提供者と話ができると聞いたからだと原審公判で述べるが,Xらが当時本件犯行に及んでいたことは間違いがなく,被告人が会えばVcであると分かることなのに,Xがそのような見え透いた嘘をつくとは考えられず,被告人の述べるところは不合理といわざるを得ない。

所論は,原判決がVeの供述に依拠して,Xの被告人に対する謝罪の発言を
認定し,共謀の有力な間接事実としているが,Veは,監禁されていた旨の供述を始めるまでに事件から約2年の期間があり,警察官等の説得により供述を変更している疑いがある上,Xの会話の内容はVe自身が監禁された事実とは関係がなく,正確に聞き取れたか疑問であり,また,XはVeから離れて電話に出ているのだから,これを正確に聞き取れたかも疑問であるなどとして,Veの供述は信用できないと主張する。
しかし,所論が指摘するVeの供述は,自身がXに解放されるとともに人を探す
ように言われ,三木倉庫を出てXに付いて行く途中にXに電話がかかってきたとしてその内容を述べるもので,Veとしては,解放されたとはいえ,衰弱するとともに場所もわからず,Xに付いて行くしかない状況にあったのだから,Xの電話に対し,自身の安否と関連付けて強い関心を有していたことは容易に推察される。したがって,VeがXの発言内容について勘違いしていることは考えにくいし,多少の
距離(2,3メートル程度であったと認められる)があっても山中のことでもあるし聞き取れないなどとは考えられない。また,VeがX,被告人などの特定の者を陥れるためにXの会話内容について殊更虚偽の供述をする理由も見いだされない。Veは,解放後,被告人のもとに戻って働くようになり,自己の逮捕監禁についても被害申告していなかったのであるから,約2年後になって被告人の影響から脱し
て供述するようになったとしても特に不合理とはいえない。原判決が,Veの供述に信用性を認めたのは当然である。

所論は,原判決が三木倉庫の改装工事の費用を被告人が支出していたと認定
した根拠となったE1の供述やチョモランマUSBの信用性等を争うが,その主張が採用できないことは,Vd事件(上記4・控訴趣意第12)に関して検討したとおりである。

所論は,以下の被告人の言動はXがVcを拉致監禁することを事前に知らな
かったことを示すとして,①被告人が事件当日午前に,拉致監禁事件に関与していないことが明白なE2を連れて東京を出発していること,②出発時は姫路に向かっていたこと,③西明石駅でE2がレンタカーの契約をする際に当初大型車を希望していること,④西明石駅付近で携帯電話のチャージをする際,店内に貼ってあったポスターを店員の了承を得て写真撮影していること,⑤㋐事件後にXと連絡が取れなくなった際,Y2やVeを呼んでXの状況を確認しようとしたこと,㋑事件の翌日早朝でのp3の会議で,やくざ等が来たらすぐ警察に通報するように言っていることなどを指摘する。
しかし,これらの言動は,被告人が本件犯行について事前に知っていたとしても
必ずしも矛盾しない事実ばかりである。①については,E2は被告人の秘書的仕事をしていたのであるから,同道させない方がむしろ不自然であるし,レンタカーを借りる上でも必要な存在で,現にレンタカーを借りた後に行動を別にしている。②についても,状況の変化により,行き先が変わってもおかしくはないし,③については,三木倉庫付近の道路の幅員から考えて,ある程度大型の乗用自動車であって
も通行が特に困難ではない(現にエルグランドが犯行供用車両となっている。。④)
については,携帯電話店でプリペイドカードを購入する際にE2が携帯電話店の従業員の了解を得て当該ポスターを撮影したからといって,それ自体が携帯電話店に不審を抱かせるなどの目立つ言動とまでは言えない。⑤については,被告人の説明によっても,VcがいったんXに拉致・監禁された後に逃走し,Xとの連絡が取れ
ないという状況にあったから,従前の経緯等に照らして,p3等でT会等の暴力団関係者とのトラブルが起きる可能性を念頭に置いて対応を検討する必要があったと考えられる。そうすると,被告人がp3従業員に対して,Vc第1事件に無関係だと装うことも特に不合理とは言えないし,警察への通報(⑤㋑)についても,暴力団関係者とのトラブルについて警察に通報しないのはむしろ不自然で,被告人の関与を隠して警察に通報することも選択肢として十分に考えられる。また,現に被告人は,Xと連絡が取れなくなった時点で,携帯電話のチャージ等に関して警察を気にする発言をした(E2の供述)ほか,Vc第1事件当日の日中に直通電話の解約を指示し,店に警察ややくざが乗り込んでくる可能性があるので監視することなども指示した(E1の供述)というのであり,被告人が警察の追及等を懸念していなかったとも言えない。



結論

その他,
所論の指摘を見ても,
原判決の認定判断を左右するに足りるものはなく,
原判決には所論が言うような事実誤認はない。
7

Vc第2事件(原判示第6)に関する事実誤認の主張(控訴趣意第15)論旨は,Vc第2事件につき,①XにはVcに対する殺人の故意(原判示第
6の2)が認められず,②被告人にはXとの間の殺人の共謀(原判示第6の2)及び生命加害目的
(原判示第6の1)
がなく,
逮捕監禁罪が成立するに過ぎないのに,
原判決が被告人について生命加害目的(原判示第6の1)及び殺人の共謀(原判示第6の2)を認定して被告人を有罪と認定したことには誤りがあり,その誤認は判決に影響を及ぼす,というものである。そこで,記録を調査して検討する。
原判示第6の要旨は,被告人が,①X,Y1,Y2及びY4と共謀の上,被告人及びXにおいては,生命加害の目的で,Y1,Y2及びY4においては身体に対する加害の目的で,平成23年2月10日,姫路市内のマンション敷地内で,帰宅してきたVcに対し,後方から首に腕を回して締め上げるなどし,停車中の普通乗用自動車の後部座席に無理やり押し込み,両目の周りに粘着テープを巻き付け,両手
足を結束バンドで緊縛した上で寝袋に入れるなどして同車を走行させ,その後,普通貨物自動車の荷台コンテナ内に移し替えて閉じ込め,□倉庫まで走行させて,生命又は身体に対する加害目的で略取するとともに約45分間にわたって不法に逮捕監禁した,②Xと共謀の上,□倉庫内又は同所からe公園付近に至るいずれかの場所で駐車中の上記普通貨物自動車の荷台コンテナ内において,Vcに対し,殺意をもって,その頸部を帯状のものや手指で圧迫し,その頃,同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害したというものである。
被告人と共謀したX,
Y1,
Y2及びY4が,
Vcを略取して逮捕監禁したこと,
Y1,Y2及びY4にはVcに対する身体加害目的があったことは原審証拠上明らかで,被告人も強く争っていない。


論旨①(Xの殺人の故意)について


原判決の認定判断の要旨

原判決は,Xが殺人の故意をもってVcを殺害したと認められると判断し,その理由として,要旨以下のとおり説示した。
Vcの遺体の司法解剖を担当したS4医師は,Vcの遺体には,前頸部から側頸部にかけて,まだらに不鮮明で一様でないうっ血や,これに一致する小さな表皮剥脱,点状ないし線状の皮内出血が認められるほか,左右側頸部から後頸部にかけて幅広い柔らかい物体(帯状のもの)による圧迫痕の下端と考えられる皮下出血が認められ,また,甲状軟骨の左外側部分の皮下出血や,右側頸部後ろの表皮剥脱が限局的に認められたこと,頸部圧迫による窒息死以外に死因とするに足りる形態的ないし中毒学的な異常がないことから,Vcの死因を,頸部圧迫による窒息死と判断
した。
また,
頸部圧迫の態様については,
幅広い柔らかい物体を用いた頸部圧迫
(絞
頸)と,手指を用いた頸部圧迫(扼頸)の両方がなされたと判断した。Xは,Vcが叫んだので,柔道技を用いて気絶させようと,前腕部を首の正中付近に5分あるいはそれより短時間押し当て圧迫し,その後,右手で喉輪を作って首前面を5分あるいはそれより短時間つかんでいたところ,Vcが動かなくなったな
どと述べるが,Vcの遺体に圧迫痕の下端と考えられる痕跡が認められることと整合せず,信用できない。
客観的な遺体の状況等からVcの死因,Xの加害態様及び殺意について検討すると,S4医師の解剖所見から,Xが,Vcの頸部を幅広い柔らかい物体及び手指を用いて,4分から5分ほど圧迫して窒息死させたものと認められ,その頸部圧迫の態様に照らせば,Xが殺意を有していたことが優に推認される。
以上から,Xが殺意をもってVcを窒息死させ,殺害したことが認められる。イ
当裁判所の判断

原判決の説示に,証拠の評価や推認の過程に不合理な点はなく,原判示第6の2におけるXの行為態様の認定や殺意を肯定した結論も正当なものとして是認でき,原判決の認定判断に所論のような論理則・経験則違反はない。以下,所論にかんがみ補足して説明する。
(ア)所論は,S4医師の所見は誤っており,Xの公判供述はVcの死因や遺体の損傷と矛盾しないなどとして,①遺体の前頸部左側には5条のうっ血部があり,その間の4条の蒼白部が死亡に至るまで圧迫されていたことを示しており,この部分に4本の指が作用していたと考えることができ,また,右側頸部上部の表皮剥脱に
拇指が作用した可能性があるため,右手である可能性が高い,②S4医師はうっ血下縁があることから絞頸の可能性を考えたと推察されるが,頸部を一周するうっ血下縁部を追えないことが疑問であり,右後頭部から右側頭部にかけて着衣の上縁が作用した可能性を検討する必要がある,③左右の甲状軟骨の上角骨折は,絞頸では扼頸よりも起こりにくく,顔面うっ血も高度ではないことから,絞頸よりも扼頸の
方が考えやすい,④本件では,Vcが逮捕監禁されるプロセスにおいて,Y2がVcの首を絞めて気絶させる,Y4が気絶したVcを引きずる,自動車内でY2とY1に挟まれた状態で抵抗するなどの場面があり,これらの場面で犯人の身体やVcの着衣によりVcの左側頸部から右後頭部の痕跡が生じた可能性がある,などと主張する。

しかし,①については,所論が指摘する痕跡について,それが指の痕跡と判定できるものであれば,扼頸も行われたとするS4医師が気付かないはずがないのに,そのような指摘はなく,弁護側証人であるS5医師からも指摘されていないことからすると,所論が指摘する痕跡を指の痕跡であると考えることはできない。②については,所論は,絞頸の意義をひも等で頸部を一周させるものと解することを前提にしているが,S4医師の公判供述等に照らすと,そのように一周させなくとも頸部静脈さえ締まれば窒息死等の結果を生じ得ることが明らかであるから,所論はその前提に誤りがあり,S4医師において絞頸やこれを含む頸部圧迫があったと判定した根拠に対して的確な疑問を指摘できていない。③については,S4医師は,遺体の損傷等から,絞頸と扼頸の両方が行われたと判断しているところ,確実に殺害するために双方が行われることは何ら不自然ではなく,扼頸が行われたからといっ
て絞頸が否定されることにはならず,S4医師が絞頸を肯定した根拠に対する的確な反論ともならない。④については,S4医師は,顔面と頸部に軽度ではあるが広範囲のうっ血があることを含む,頸部の圧迫を示す複数の所見を指摘しているところ,うっ血や溢血の発生機序に関するS4医師の説明(頸部が圧迫されることで静脈が閉塞され,血液が心臓に戻れず,血管内にたまり,あるいは血管が圧力に耐え
られず破れて出血するというもの)によれば,所論がいうようなY2,Y4,Y1等による行為(すなわちXがVcの頸部に力を加え始める前の行為)によりうっ血や溢血が遺体に残ることは到底考えられない。
(イ)所論は,Xの供述は不自然ではなくその信用性は否定されないとして種々の主張をするが,原判決が正当に説示するように,Vcに対しては絞頸と扼頸の両方
がなされたと認められ,Xが述べる行為態様では絞頸が生じないことから,Xの供述はS4医師の見解と矛盾し,信用性を肯定できないところ,所論のいずれの指摘もこの判断を左右するに足りない。
(ウ)その他,所論を検討しても,Xの行為態様及び殺意に関する原判示第6の2の認定判断を左右するに足りるものはない。



論旨②(殺人の共謀及び生命加害目的)について


本件略取・逮捕監禁に着手した時点での共謀,生命加害目的について(ア)原判決も説示するとおり,Vc第1事件において,被告人及びXは,Vcから被告人の父親の死亡事件の真相や背景といった事情を聞き出すことを目的として,Vcの拉致監禁に及んでいるが,Vc第2事件について,Xが同様の事情聴取の目的でVcを拉致監禁することを被告人に提案し被告人が了承したことは,被告人も認めるところである。
そして,
Vc第1事件については,
原判決が説示するとおり,
㋐XがVcから事情を聴取した上で解放等すれば,直ちに被告人が疑われ,暴力団からの報復対象ともなり得ることは容易に想定されること,㋑現実にVcの監禁・殺害・遺体処分等に使用する施設(三木倉庫)が準備され,Vcが当該施設に連行されていること,などから,被告人及びXがVcを事情聴取後に殺害する目的でV
cを拉致監禁したことが十分に認められるところ,Vc第2事件当時においても,㋐の状況は変化がなく,㋑についても,□倉庫,トラックや焼却器具の準備がなされており,
これらは,
監禁,
殺害,
遺体処分等を秘密裏に行えるという効果があり,
又はその効果を想定し得るものであることなどにかんがみれば,Vc第2事件においても,X及び被告人において,Vcの拉致監禁に着手した時点で,事情聴取後に
Vcを殺害する目的があり,その旨の合意があったことが推認されるというべきである。
(イ)所論は,①X,Y1,Y2,Y4らは,平成23年2月6日にXの拉致を実行しようとしていたが,その時点では,□倉庫は準備されておらず(契約は2月9日)
,遺体が発見されたトラック(ダイナ)も準備されておらず,X等が使用してい
た自動車(セレナ)には人を殺すような道具はなく,焼却器具もまだ購入されておらず,これらの事実は,Vcの殺害計画があったことと明らかに矛盾する,②拉致を実行した2月10日においても,□倉庫には人を殺す道具は何もなく,焼却器具も倉庫には到着していないし,そもそも当該焼却器具は枯れ草等を燃やす簡単な器具で,時と場所を選べば遺体を燃やせるという原判決の認定は常識に反する,など
と主張する。
しかし,①については,現実にVc第1事件で事情聴取が未了のままであり,X等が殺害に先立つ事情聴取に時間を要すると考えても不思議ではないこと,当面Vcを監禁するためのトラック
(本件ではダイナが利用された。等の道具は比較的容

易に手配し得ること,Xは平成23年2月6日や10日の時点で一日も早くというように急いでいる様子だったこと(Y1の供述)などによれば,同年2月6日の時点で倉庫の準備や殺害・死体処分の道具が整っていなかったことが殺害計画と矛盾するとは言えない。②については,被害者の手足を緊縛するなどして身体を拘束するのであれば,事前にその監禁等の現場に殺害の凶器等まで準備しておく必要はない(殺害を直ちに行わないのであればなおさらである。。焼却器具についても,監)
禁等の現場に備え置いておく必要はないし,Xは,2月10日にXの義弟のC5が
同焼却器具を受領したことから,届けてくれていると思っており,準備未了と知っていたわけではない。なお,同焼却器具は,摂氏900度での燃焼ができるとされており,実際にどの程度の焼却が可能であったかは別として,Xがこれを遺体の焼却処分に適した道具と考えることが不自然とは思われない。

本件Vcの殺害についての共謀の成否

(ア)原判決も説示するように,被告人及びXの計画は,Vcから事情を聞き出すために一定期間Vcを監禁し,その後に殺害することを想定していたものと推認され,
焼却器具によるVcの遺体の処分も予定していたことがうかがわれる。しかし,
実際には,Xは,拉致後10時間足らずで焼却器具が□倉庫に到着しないうちに,Vcを殺害し,その遺体や犯行用具等を放置して逃亡生活に入り,被告人も姫路を
立ち去り逃亡生活に入っていることから,Vcの殺害が当初の予定とは違った形で実行されたことがうかがわれる(その背景として,Vcの略取が判明した直後から警察が緊急配備等を施して拉致実行犯であるY1,Y4への職務質問等を行い,その情報が被告人やXにもたらされたことが指摘できる。。

確かに,本件証拠関係上,被告人とXの間で,そのような事情の変化をあらかじ
め見越した指示,あるいは,当初の予定を変えてVcを直ちに殺害する旨の指示の存在をうかがわせる直接的な証拠は見当たらない。しかし,Xは,主として報酬欲しさから,被告人のために本件犯行に及んでいるのであって,Vcに対するX独自の遺恨等があるわけではない。X自身が捜査機関に捕まる危険や,その後に問われる刑事責任を考えた場合,Vcを生かしたまま放置するのと殺害するのでは,X自身が捜査機関に捕まる危険性は大きく変わらないと思われるのに対して,負うことになる刑事責任に格段の差を生じることは明らかで,X自身にはVcを殺害しなければならない理由は見いだしがたい。本件は元々,Xが被告人から請け負って行ったことで,被告人がXの上位者であることは,Vc第1事件におけるXの被告人に対する言動などから明らかなところであるから,Xが被告人と連絡を取れない状況にあったというのであれば格別,Xと被告人は専用の携帯電話(犯行用直通)で自
由に連絡を取り合える状況にあったのに,Xが依頼主である被告人の意向を確認せずに,Vcを殺害することなどおよそ考え難いし,Vcが当時身体の自由を奪われて抵抗も逃走もできない状況にあったことからすると,被告人の意思を確認することなく,Vcを殺害する必要性も考えられない。そして,Vcの殺害が,被告人の意向に沿ったものであることは,被告人及びXが事件後逃走生活に入った後も,被
告人がXに対して支援の態度を示していることからも裏付けられる。以上述べたところから,Vcの殺害は,Xが被告人の意を受けて行ったもので,被告人とXの共謀が認められることは明らかといえる。
(イ)所論は,Vc殺害に関する共謀を認定した原判決を批判して,①原判決が挙げる可能性の1つ
(当初から警察の捜査が迫った場合に殺害するよう指示していた)
は,被告人がプリウスを運転してダイナを追走し,警察の捜査を知った後も直ちに逃走していない点で不合理であり,他の可能性(警察捜査が迫るのを知って最後の機会と考えて殺害を指示した)は,被告人が現場付近に居てVcの拉致の容疑で捕まるかもしれないのに殺害を指示したという点で不合理であり,
更に他の可能性
(X
と直接会って殺害や遺体放置を指示した)も,検挙の可能性が高いVcがいる現場
に自ら出向くという自殺的行為をしたという点で不合理である,②原判決の認定のとおりであれば,被告人の事件後の行動(Xが姫路を離れてから2時間以上も姫路市内に滞在していた。
)の説明がつかず,むしろ,被告人がXの様子が分からず心配
になって□倉庫等を見に行ったという被告人の供述の方がはるかに整合的である,③被告人が事件後にXの宿泊代を出すなどしたのは,Xを警察に出頭させるためXの希望に対応していたにすぎず,Xの逃走を支援していたものではない,などと主張する。
しかし,①については,被告人がプリウスでダイナを追走するなどしてVcや実行犯の近辺にいたのは,Vcの状況に対する強い関心の故であることが明らかであり,また,被告人は,レンタカーであるプリウスを用い,プリウスを放棄した場所に他の車を準備させるほか,携帯電話についても犯行用直通を準備するなど,自身
の関与や自身の所在が容易に発覚しない配慮をしているから,被告人の行動が無益な危険を選んだなどの不合理なものとは言えない。②については,逃走生活に入ることによる不利益などを懸念し,数時間程度様子を見ていたとしても不合理ではないし,③については,Xへの経済的支援等をやめた方が早い出頭につながり,自身の意に沿わない行動をしているXのために出費をする理由はないのであり,そのよ
うな出費をしていることから,原判示第6の2のXの行為等が被告人の意思に合致していたことが推認されるとすることに何ら誤りはない。

小括

以上のとおりであるから,原判決が,本件で行われたVcの殺害について被告人とXの間の共謀を認定したことは正当であり,事実誤認はない。


結論

その他,所論を検討しても,Vc第2事件について被告人を有罪としたことの当否を左右するに足りるものはなく,論旨は理由がない。
第3

検察官の控訴趣意について

1
Va第2事件に関する事実誤認の主張



論旨は,原判決は,Va第2事件につき,XによるVaの殺害が常識に照ら
して間違いないといえる程度に立証されているとはいい難いと判断して,被告人を無罪としたが,その判断は,間接事実の総合評価の手法に誤りがある上,個々の間接事実の評価等にも誤りがあり,これらを正当に評価すれば,XによるVaの殺害及びその殺害に関する被告人とXの共謀が認められることが明らかであるから,原判決の認定判断には誤りがあり,その誤認は判決に影響を及ぼす,というものである(なお,本件検察官控訴は,憲法39条の二重の危険の禁止等に反するものではなく,もとより適法である。。そこで,記録を調査して検討する。)


公訴事実の要旨及び原判決の認定判断の要旨

Va第2事件に係る公訴事実の要旨は,被告人がXと共謀の上,平成22年6月中旬頃,兵庫県内又はその周辺において,Vaに対し,殺意をもって,けん銃を用いて弾丸を発射するなど何らかの方法によりVaを死亡させて殺害したというものである。
原判決は,要旨以下のとおり説示して,共犯者XがVaを殺害した事実を認めるには足りないと判断し,被告人を無罪とした。

検察官が主張し関係証拠上も認められる間接事実(すなわち,①平成22年
4月ないし5月頃,Xが,C1にけん銃2丁を見せ,C1がこれを預かってf事務所内で保管し,その約1週間後,そのけん銃を持ち出してXとともに試射し,引き続き預かっていたが,平成22年5月末頃,Xが引き取ったこと,②Xは,平成22年6月初め頃,C1に対し,Vaを三木倉庫に連れて行き,上記①の試射したけん銃を用いて殺害し,その遺体を焼却炉で処分するとの計画を打ち明けて協力を依
頼し,C1が了承したこと,③三木倉庫は人里離れた山中にあり,その屋内には焼却炉が設置されており,三木倉庫を利用すれば,人知れず人を殺害してその死体を解体するなどした上で焼却処分することが可能であること,④Xは,平成22年6月13日未明,C1が見守る中,Vaをg事務所の二重檻内から連れ出し,手足を拘束した状態で車に乗せ,
a店駐車場でC1と別れ,
北方向
(三木倉庫と同じ方向)

に走り去ったこと,Xは同日夕方頃,C1に対して,Vaに最後に酒でも飲ませてやりたい旨を言っていたこと,⑤平成22年6月9日になされたVaと妻の電話を最後に,Vaと家族との連絡は一切なく,平成30年4月現在,発見された変死体でVaのDNA型と一致するものはなく,公的機関・金融機関・ライフライン関係の契約・取引等は確認されていないことなど)は,XがVaの殺害計画を実現しその遺体を処分したとの検察官主張と矛盾せず整合しているが,XがVaを殺害したとの事実を認定するためには,各認定事実やそれらの意味するところの中に,XがVaを殺害したと考えなければ合理的に説明することができない又は説明が極めて困難である事実関係が存在することが必要である。

VaがXに殺害された以外の可能性について検討すると,
XがVaを解放し,

あるいはVaが逃亡した上,家族や警察と連絡を絶って生存している等の可能性は実際上かなり低く,VaがXの支配下で死亡した可能性はかなり高いとも考えられる。しかし,Vaの遺体は発見されておらず,その死因は不明である。Vaの生活状況の詳細は不明であるものの,約1年2か月もの長期間にわたり檻の中等で監禁され過酷な環境下に置かれていたのであり,かなり衰弱していてもおかしくない。Vaが三木倉庫その他でXの支配下にある間,Xが殺害行為に及ぶ前に死亡するな
どした可能性もなお否定し難く,これを単なる抽象論などはいえない。⑶

当裁判所の判断

原判決が,
証拠上認められる事実
(その認定に誤りは認められない。に基づいて,

XがVaを殺害したと考えなければ合理的な説明が不可能又は極めて困難な事実関係の有無を検討した上,本件ではそのような事実関係を認めるに足りないと判断して,被告人を無罪としたことに,誤りはなく,また,その理由の説示にも,以下のとおり,論理則・経験則違反があるとは言えず,原判決には事実誤認はない。ア
本件では,検察官は原審以来,XがVaを殺害したと主張しているところ,
原審で検察官が請求したC1の検察官調書,裁判官面前調書の立証趣旨等に照らすと,C1は,Va殺害の状況等をXから聞いた旨を供述していたことがうかがえるが,これらは不同意とされたため,本件の証拠とはなっていない。そして,C1の証人尋問においても,その尋問事項は,間接事実(上記⑵アの①,②,④)に係る部分のみで,Vaの殺害状況に関してXから聞いたとする部分は,本件では伝聞として証拠能力がないから
(下記⑷ウ④参照)尋問内容に含まれていない,
(この点で,
Xの訴訟とは証拠関係が異なるものとうかがわれる
(下記2⑶オ参照))もとより,
。。
本件(Va第2事件)ではXの証人尋問の請求はされていない。したがって,本件では,Vaの殺害行為に関する直接証拠はなく,間接事実からXによるVaの殺害行為が推認できるかが問題となる。

このような観点から,証拠上認められる間接事実(上記⑵アの①~⑤。以下
①の事実のように言う。
)を検討すると,①~④の事実から,Vaが三木倉庫に搬送された時点で,被告人の指示の下,Vaを三木倉庫で殺害するというXの計画の実行が目前に迫っていたと認められるが,その計画が実行されたことをうかがわせる証拠は乏しい。
この点につき検察官は,Vaの監禁事実を知るY2が平成22年6月12日に風適法の容疑で逮捕されたことが,Vaの監禁を継続できないひっ迫した事情となった旨指摘するが,Vaの拘束場所は平成21年5月ないし6月にfマンション(Y
2の元住居)からg事務所に移されていたし,Xは,平成22年6月12日から翌日にかけての夜に,C1の協力を得てVaをg事務所から三木倉庫に移しており,X等において,ひとまずVaの所在等につき警察等への発覚を免れたと受け止めたことが推察される。したがって,検察官が挙げるY2の逮捕の事実から,Vaの殺害計画が特定の日時までに実行されたはずだということはできない。
むしろ,三木倉庫は,人の殺害や遺体処分が可能な施設である一方,他人に発覚することなく人を長期間監禁することも可能な施設であり,三木倉庫の存在が警察等に発覚することが直ちに懸念されるような状況にもなかったと考えられるから,本件の証拠関係上,X等が,Vaを三木倉庫に連行した後,その殺害計画の実行を保留して三木倉庫に監禁し続けた可能性が十分残るといわざるを得ない。
このように,本件証拠上,殺害計画が実行されずに保留されていた期間があった可能性が否定できない以上,⑤の事実により,Vaが解放や逃亡により監禁を逃れたという可能性は現実的とは思われず,Vaが三木倉庫などのXの支配下で死亡したことは常識的に見て間違いないといえるとしても,死因や死亡時期など死亡に至った経緯を推測できる手掛かりまではなく,VaがXにより殺害された以外の可能性を合理的でないなどとして排斥することも困難であり,Vaが衰弱等の結果として死亡した可能性を否定できないとした原判決の認定が,論理則・経験則等に照らして不合理であるとはいえない。

よって,本件では,Va第2事件の殺人の訴因につき有罪と認定することは
できないし,死亡に至る経緯や原因が分からない以上,本件訴因の範囲内で,殺人未遂あるいは傷害致死等のより軽い犯罪事実を認定すること(いわゆる縮小認定)もできないから,Va第2事件については無罪とするほかない。


所論に対する検討

以上のとおりであるから,
原判決の認定判断には誤りがないというべきであるが,
なお,所論にかんがみ補足して説明する。

所論は,原判決は,殺害事実を直接裏付ける客観的証拠がないから無罪だと
しており,単体で主要事実を推認する決め手となるような事実を要求するに等しいが,最高裁判所平成22年4月27日判決(刑集64巻3号233頁)及びその後の判例は,間接事実の中に,単体で主要事実を推認できる決め手となる事実や推認力が相当程度強い事実を要求するものではなく,積み重ねた間接事実を総合判断した評価として主要事実を推認するという手法も当然許容されるから,原判決の認定
判断は,このような総合評価の視点を欠き,誤っていると主張する。確かに,原判決は,殺害事実を直接裏付ける客観的証拠がないことを指摘しているが,そこから直ちに無罪との判断を導いたものではなく,むしろ,上記⑵イのように,VaがXにより殺害された以外の可能性が,合理的な説明が不可能又は著しく困難なものとして排斥されるのかどうかを検討した上,その排斥ができないとし
て無罪との判断を導いたことが,その説示から明らかであるから,所論の指摘は当を得ない。

所論は,
原判決は,
Vaの殺害を直接裏付ける客観的証拠が何もないことを,

無罪とする理由として重視しているが,誤っているとして,①X等には三木倉庫等に関して罪証隠滅を行う機会が十分にあり,遺体の処分に関する客観的な証拠が発見されなかったことは,
徹底した罪証隠滅工作の結果である可能性が相当程度あり,
犯行の不存在を推認させる証明力はないのであり,原判決の判断は,現実にVd事件やVa第1事件で徹底した罪証隠滅が行われていることを不当に低く評価し,X等が罪証隠滅に及んだ可能性を単なる一般的な可能性と捉えている,②三木倉庫の北側倉庫には,
合計8つ
(東側壁面に3つ,
西側壁面に3つ,
北側壁面に2つ)
のフックがそれぞれ高さ約2メートルの位置に取り付けられており,これらは,V
d事件の罪証隠滅に苦労したものと明らかに認められるXが,壁面に血痕等が付着しないように幕ようのものを吊り下げるために設置したものとしか考えられず,しかも,その間隔が等間隔ではなく多少ずれた位置に設置されていることは,Xがブルーシートを吊り下げたことを強くうかがわせ,このような事実は,原判決が,Vaの殺害の痕跡を残さないための措置が容易なものとは思われず
,そのような

措置がとられたことをうかがわせる具体的証拠がなく,殺害方法や遺体の解体方法を工夫するなどしたとの推論が単なる一般的な可能性にとどまるなどと説示したことの誤りを示す,③三木倉庫の形状等に照らすと,仮に三木倉庫内でけん銃を用いてVaを殺害しても,けん銃に関する痕跡(空薬きょう,弾丸,弾痕等)を隠滅することは容易であるところ,特に,Xは先端がへこんだ等の特徴のある弾
丸を使用することやクッションを挟んで弾丸を撃つことを予定しており,そのような場合には弾丸の威力が弱まり弾丸や弾痕が遺留されない可能性も高まるのであり,原判決はそのような罪証隠滅の容易性を無視している,などと主張する。しかし,①については,確かに所論が言うように,X等がVaを殺害した上で,罪証隠滅等を行ったことにより,三木倉庫等から血痕,弾痕等の客観的証拠が発見
されなかった可能性も否定できないものの,
遺体処分等の罪証隠滅工作に及ぶのは,
殺害以外でVaが死亡した場合でも同じと考えられる(Vd事件をみてもこのことは明らかである。
)から,上記⑶イの認定判断は左右されない。②については,確かに,三木倉庫に遺留されていたフックやブルーシートが原審証拠である検証調書等にも記録されており,このような物品等により血痕等の付着防止に成功した可能性も相当程度あるとうかがわれるから,これらの実現が容易でなくその具体的証拠もないなどとの原判決の説示は正確さに欠ける面もみられるが,このような事実があるからといって,XがVaを殺害したことが推認されるものでないことは既に述べたとおりである。③については,けん銃が見付からず,これを使った痕跡も残っていないことに関して,所論のようにVaを殺害した上で罪証隠滅をした結果である可能性があるとしても,
けん銃が使用されなかったために痕跡が残らない可能性や,

けん銃の使用に至る前に所持に伴うリスクを避けるために隠匿・処分された可能性も十分に考えられるため,所論指摘の事実から,XがVaを殺害の上,証拠隠滅をしたことが推認されるものではない。

所論は,本件ではXがVaを殺害したと考えなければ説明がつかない事実関
係があることが明らかであるとして,①㋐約1年2か月にわたって監禁されていたVaが,Xが実現可能性の高い殺害計画を実行に移したタイミングで消息を絶った事実は,
Xが殺害計画を実行しVaを殺害したのでなければ合理的な説明がつかず,XがVaを殺害したことを強く推認させる上,㋑前後の経緯等にかんがみ,Vaが逃亡して殺害計画が失敗したりXがVaを解放して殺害計画を中止したりした可能性は考えられないから,これらの間接事実を総合することで,XがVaを殺害した
ことは優に認定できる,②Vaは,平成22年6月9日には直実と電話で会話できていたし,同月13日に三木倉庫に移される際にはXに対してきびきびした声で返事し,自力歩行のみならず階段の降下もできており,加えて,XがC1に監視を頼み,目隠しや両手錠をさせ,車内で両足を粘着テープで縛るなどしたことも,Vaが衰弱していなかったことを示しており,原判決はこのようなVaの具体的な状況
を考慮しておらず,誤っている,③医学的な視点から考察しても,長期間の逮捕監禁による健康被害として考えられる拘縮
(関節の可動域の制限)
や低栄養について,
Vaには過度な拘縮や重度の低栄養は認められなかった(自力で歩行できており,また,低栄養により生じる肺炎,褥瘡,低血糖,筋力低下といった症状も認められていなかった。
)ことなどからすれば,原判決が挙げる根拠だけで,Vaが衰弱により死亡する具体的な可能性は到底認められない,④㋐Xは自身の裁判で,Vaが衰弱など殺害以外の原因で死亡したと供述したことはないし,㋑C1も,XからVaが衰弱など殺害以外の原因で死亡したという話を聞いたことがなく,むしろ,Xが計画どおりにVaを殺害したと聞いており,これらのことは,Vaが衰弱など殺害以外の原因で死亡したという可能性がないことを示す,などと主張する。しかし,①については,上記⑶イのとおり,確かに,Vaが三木倉庫に移された
時点で,Vaの殺害計画の実行が近々に予定されていたことが認められ,Vaが三木倉庫から逃れた可能性は考え難いものの,X等においてしばらく様子を見る等の選択をした可能性が否定できない以上,その間の体調悪化等によりVaが死亡した可能性がなお残り,VaがXにより殺害された以外の可能性を合理的でないなどとして排斥することは困難である。②③についても,①と同様であり,Vaが三木倉
庫に運ばれた時点で,発声による応答や自力での階段降下などができ,その時点で低栄養,炎症等による死の危険が迫っていなかったということは言えるとしても,Vaがその後三木倉庫等でどの程度の期間生存していたか,その間どのような取扱いを受けたかなどは不明であり,Vaが殺害以外の原因で死亡したという可能性が合理的でないと断定するには至らない。④は,いずれも別件でのXやC1の供述あ
るいは供述態度等を根拠とするものであるが,これらは本件において,証拠になっておらず,伝聞法則に抵触する等の理由から証拠となる余地がない。所論④はいずれも前提たる証拠を欠き,かつ,憲法や刑訴法にも抵触するおそれのある主張であって,到底採用できない。


結論

その他,所論を検討しても,原判決がVa第2事件について被告人を無罪としたことの当否を左右するに足りるものはなく,論旨は理由がない。
2
量刑不当の主張



論旨は,原判決は,被告人を原判示第1ないし第6につき有罪と認定して被
告人を無期懲役に処したが,当該認定を前提としても,原判決の判断は死刑適用に関する考慮要素の評価を誤った結果,死刑を選択せずに回避したもので,軽きに失し不当である,というものである。


本件は,
被告人がXら配下の者を使い,
殺人2件
(Vc第2の2,
Va第2)


生命身体加害略取・逮捕監禁1件(Vc第2の1)
,同致死1件(Vd)
,同致傷1
件(Vc第1)
,逮捕監禁2件(Va第1,Ve)
,同致傷1件(Vb第2)に及ん
だとして起訴され,殺人1件(Va第2)以外は,被告人が首謀者として犯行を主導したと認定されたものの,同事件については死亡原因が確定できないために無罪とされた裁判員裁判の事案である。
本件の量刑事情に関する原判決の量刑の理由の項の説示は,以下のとおり,正当なものとして是認でき,量刑事情の見落としや見誤りは認められない。ア
本件殺人等のVcに対する一連の犯行は,被告人がXらに指示し,父親の死
の真相を聞き出した上で殺害するため,監禁に適し遺体の処理もできる施設を準備した上,Vcを略取監禁し,さらに,VcがXのもとを逃れて警察に保護されたのに,なおも目的を遂げるためにXらに命じて再びVcを略取監禁した上,Xと共謀してVcの殺害に至ったもので,執拗かつ冷酷で,計画性が高く,極めて悪質な犯行といえる。しかし,殺害の態様は,強固な殺意があるとはいえ,特に残忍といえ
るものではなく,Vcが父親を死に至らしめたこと等を恨み許せないなどといった殺害等の動機も,身勝手で強い非難に値するとはいえ,殺人の動機として特に悪質なものとはいえない。

被告人は,上記アのVcに対する一連の犯行のほかにも,Xらに命じ,Vc
の代わりの標的として,Vdから父親の死の真相を聞き出そうと略取監禁し,その機会に死亡させているほか,10億円の融資金をだまし取られたとして融資先の代表者のVaを長期間監禁し続け,その役員であったVbについても監禁した際に負傷させ,自己の経営するパチンコ店の店員であるVeに対しても情報を外部に漏らしたことを疑って監禁している。これらの犯行も,上記アの施設や檻を用いるなど周到な犯行であり,被告人がXらを使って,他人の生命や身体の自由を無視した傍若無人な犯罪行為を重ねたものと言わざるを得ない。


上記⑵のような事情を踏まえ,死刑を選択すべきとの検察官の主張について
検討すると,これまでの判例の趣旨からも明らかなように,死刑は被告人の生命を奪う究極の刑罰であって,その適用は慎重に行われるべきである上,公平性の確保にも十分に意を払う必要があるから,同様の観点で慎重な検討を行った結果である裁判例の集積から見いだされる諸要素及びその重みの程度・根拠を踏まえて総合的な評価を行い,死刑の選択が真にやむを得ないと認められるかどうかについて十分に検討される必要がある。

従前の裁判例における考慮要素について検討すると,原判決も指摘するとお
り,殺人の被害者が1名で死刑が選択された事例は,同種前科がある場合や,強盗殺人等の罪質・動機等が極めて悪質な場合など,ごく少数に限られている。このことは,検察官が当審で指摘する,殺人の被害者が1名で死刑の科刑が是認された事案(20件)の内容が,①法定刑が重い強盗殺人罪の事案,②殺害の動機・目的において,
身代金・保険金,
性犯罪の隠蔽,
前科事件の被害者への報復などのような,
強盗殺人罪に類する悪質性がある事案又は③殺人罪等での無期懲役刑の仮釈放中に起こした事案であることからも明らかである(また,殺害被害者1名の強盗殺人の
事案においても,大半の事案では死刑が選択されていない。。


本件殺人に関する情状は上記⑵のようなものであり,原判決も説示している
ように,本件殺人の動機は,これまでに死刑に処された事案に見られるような最も悪質な動機等とは性質を異にするし,本件殺人の態様等を見ても,そのような事案に類する極めて厳しく非難すべき事情があるとは言えない。

被告人は,上記⑵のとおり,本件殺人のほかにも身勝手で悪質な犯行を多数
繰り返しているものの,これらの犯罪に定められた法定刑は殺人罪に比べると格段に軽いものであるから,この点を併せ考えても,死刑の選択がやむを得ないとはいえない。

以上のとおりであるから,原判決が,死刑を選択することがやむを得ない場
合であるとまではいえないとして,被告人を無期懲役に処したことは,公平性の要請等に照らしてこれまでの裁判例を十分に検討した上での適切な判断であって,その量刑判断に誤りはない。

所論は,被告人の指示で一連の犯行を実行したXが一審で死刑判決を宣告さ
れていることとの不均衡を主張する。確かに,Xは被告人の指示により一連の犯行を実行した者で,個々の事案における刑責を見る限り,被告人の方が重いことはそのとおりである。しかし,XはVa第2事件でも有罪となり,殺人2件で処断されたことがうかがえ,証拠関係の違いから殺人1件で処断される被告人とは,その基礎とされる量刑事情が全く異なるため,刑の不均衡があるとはいえない。⑷

結論

すでに見たところのほか,所論を検討しても,原判決の量刑の当否を左右するものはなく,論旨は理由がない。
第4

結論

以上の次第で,本件控訴はいずれも理由がないから,刑訴法396条によりこれらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
令和3年1月28日
大阪高等裁判所第1刑事部

裁判長裁判官

和田真
裁判官

田中伸一
裁判官坪井祐子は転任のため署名押印できない。
裁判長裁判官

和田真
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