判例検索β > 令和2年(行ケ)第1号
事件番号令和2(行ケ)1
裁判年月日令和3年2月3日
裁判所名・部福岡高等裁判所  那覇支部
裁判日:西暦2021-02-03
情報公開日2021-03-09 10:00:19
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主文1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求の趣旨
被告が令和2年2月28日付け農林水産省指令元水漁第1564号をもって行った地方自治法245条の7第1項に基づく是正の指示を取り消す。
第2
1
事案の概要
沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場の代替施設を同県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋立て(以下本件事業という。
)について,原
告(沖縄県知事A)から公有水面埋立法42条1項の承認(以下本件承認という。
)を受けていた沖縄防衛局は,平成31年4月26日付け及び令和元年7月22日付けで,それぞれ,原告(沖縄県知事B)に対し,本件事業の環境保全措置の一環として,同事業の実施によりその生息場所を失う造礁サンゴ
類を周辺海域に移植して避難させる等の目的で,同サンゴ類について,漁業法及び水産資源保護法等の関係法令である沖縄県漁業調整規則41条に基づく特別採捕許可の申請をした(以下,これらの申請を併せて本件各申請という。。原告が,本件各申請について,沖縄県の定めた標準処理期間を経過した)
後も何らの処分もしていなかったところ,漁業法及び水産資源保護法の所管大
臣である被告(農林水産大臣)は,令和2年2月28日付けで,本件各申請について許可処分をしないという原告の事務の遂行は,法令の規定に違反し,また,著しく適正を欠き,かつ,明らかに公益を害しているとして,地方自治法245条の7第1項に基づき,本件各申請について許可処分をすることを求める是正の指示をした(以下本件指示という。。原告は,本件指示は違法な)

国の関与に当たると主張して,同法250条の13第1項に基づき,国地方係争処理委員会に対し,被告を相手方として審査の申出をしたが,同委員会の審査の結果は,本件指示は違法ではないとするものであった。
本件は,上記審査の結果を不服とする原告が,本件指示は違法な国の関与に当たると主張して,同法251条の5第1項に基づき,被告を相手に,本件指示の取消しを求める事案である。
2
関係法令の概要


地方自治法
各大臣は,その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき,又は著しく適正を欠き,かつ,明らかに公益を害していると認めるときは,当該都道府県に対し,当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき
措置に関し,必要な指示をすることができる(245条の7第1項)。


漁業法(平成30年法律第95号による改正前のもの。以下同じ)ア
農林水産大臣又は都道府県知事は,漁業取締りその他漁業調整のため,水産動植物の採捕又は処理に関する制限又は禁止(65条1項の規定により漁業を営むことを禁止すること及び農林水産大臣又は都道府県知事の許
可を受けなければならないこととすることを除く。
)に関して必要な農林
水産省令又は規則を定めることができる(65条2項1号)


65条2項の規定により都道府県が処理することとされている事務は,地方自治法2条9項1号に規定する第一号法定受託事務とする(137条の3第1項1号)




水産資源保護法(平成30年法律第95号による改正前のもの。以下同じ)ア
農林水産大臣又は都道府県知事は,水産資源の保護培養のために必要があると認めるときは,水産動植物の採捕に関する制限又は禁止(4条1項の規定により漁業を営むことを禁止すること及び農林水産大臣又は都道府
県知事の許可を受けなければならないこととすることを除く。
)に関して
農林水産省令又は規則を定めることができる(4条2項1号)


4条2項の規定により都道府県が処理することとされている事務は,地方自治法2条9項1号に規定する第一号法定受託事務とする(35条)。



沖縄県漁業調整規則(令和2年規則第53号による改正前のもの。以下本件規則という。


本件規則は,漁業法及び水産資源保護法その他漁業に関する法令とあいまって,沖縄県における水産資源の保護培養,漁業取締りその他漁業調整を図り,併せて漁業秩序の確立を期することを目的とする(1条)。


造礁さんご類(刺胞動物のうち,いしさんご目,あなさんごもどき目,やぎ目,くださんご科及びあおさんご目をいう。以下,単にサンゴ類という。
)は,これを採捕してはならない(33条2項)



33条2項等の規定は,試験研究,教育実習又は増養殖用の種苗(種卵を含む。
)の供給(自給を含む。(以下試験研究等という。

)のための
水産動植物の採捕について知事の許可(以下特別採捕許可という。)
を受けた者が行う当該試験研究等については,適用しない(41条1項)。


41条1項の許可を受けようとする者は,第10号様式による申請書を知事に提出しなければならず(41条2項)
,知事は,同許可をしたとき
は,第11号様式による許可証を交付する(同条3項)


3
前提事実(当事者間に争いのない事実並びに弁論の全趣旨及び後掲証拠によって容易に認められる事実)



本件承認について

国は,アメリカ合衆国との間で,同国軍隊が使用する沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場について,国が一定の措置を講じた後に返還される旨を合意し,その後,同飛行場の代替施設を同県名護市辺野古沿岸域に設置する方針を決めた(乙3)



沖縄防衛局は,沖縄県名護市辺野古の辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に上記代替施設を設置するため,平成25年3月22日,原告(当時の沖縄県知事はAである。
)に対し,公有水面埋立法42条1項に基づき,
辺野古崎に隣接する水域(その範囲は概ね別紙2図面及び別紙3図面の黒色実線で囲まれた範囲。以下本件区域という。
)等の埋立て(本件事
業)の承認を求める公有水面埋立承認願書を提出した(乙2。以下本件出願という。。)


沖縄防衛局が本件出願に際して添付資料として提出した環境保全に関し講じる措置を記載した図書(以下本件図書という。
)には,①事前
調査の結果,本件区域にサンゴ類が生息していることが判明している旨,②本件事業に伴う環境保全措置の一つとして上記サンゴ類を適切な場所に移植し,避難させる方針である旨などが記載されていた(甲61)。


A知事は,平成25年12月27日,本件出願について,本件図書の内容も踏まえ,公有水面埋立法4条1項各号の要件に適合すると判断して,同法42条1項による承認をした(本件承認)
。本件承認に際しては,工
事中の環境保全対策等について,①実施設計に基づき環境保全対策,環境監視調査及び事後調査等につき詳細検討し,沖縄県と協議を行うこと,②
詳細検討及び対策等の実施に当たっては,各分野の専門家・有識者から構成される環境監視等委員会(仮称)を設置し助言を受けるとともに,特に,外来生物の侵入防止対策,海生生物の保護対策の実施に万全を期すこと,③これらの実施状況につき沖縄県及び関係市町村に報告することが留意事項として付された。
(乙4)



本件承認の取消しに関する経緯について

沖縄防衛局が本件承認後に本件区域等で実施した土質調査によって,平成30年頃までには,同区域のうち辺野古崎の東側(大浦湾側)の海域の大半がいわゆる軟弱地盤であり(その概ねの範囲は別紙図面4のピンク色
及び緑色着色部分並びに赤線で囲まれた部分である。以下本件軟弱地盤部分という。,同地盤については,本件承認を受けた設計ノ概要)
(公有水面埋立法2条2項4号。以下本件設計概要という。
)に記載
のない地盤改良工事を施工しなければ,所定の安全性を確保できないことが明らかとなった。
そこで,沖縄防衛局は,本件設計概要の変更承認申請(公有水面埋立法13条の2,同法42条3項)を行うため,追加する必要のある地盤改
良工事等の内容の検討を進めることとした。
(弁論の全趣旨)

当時のC沖縄県知事の死亡に伴う同知事職務代理者から事務の委任を受けたD沖縄県副知事は,平成30年8月31日,本件承認後に判明した上記アなどの事情によれば本件事業は公有水面埋立法の要件を満たしておらず,また,沖縄防衛局が本件承認の留意事項に違反しているとし
て,本件承認を取り消した(乙5。以下本件取消処分という。)。ウ
沖縄防衛局は,本件取消処分に不服があるとして,平成30年10月16日,行政不服審査法2条及び地方自治法255条の2に基づき,公有水面埋立法の所管大臣である国土交通大臣に対し,審査請求をしたところ,国土交通大臣は,平成31年4月5日,本件取消処分を取り消す旨の裁決
(以下本件裁決という。
)をした(乙6,9)


原告は,本件裁決に不服があるとして,平成31年4月22日,地方自治法250条の13第1項に基づき,国地方係争処理委員会に対し,審査申出をしたところ,同委員会は,令和元年6月17日,本件裁決は同項の
審査申出の対象となる国の関与に当たらないとして,同申出を却下する決定をした。
原告は,これを不服として,同年7月17日,地方自治法251条の5第1項に基づき,本件裁決の取消しを求める訴訟を提起したが(以下別件訴訟という。,福岡高等裁判所那覇支部は,同年10月23日,)

本件裁決は同項の訴えの対象となる国の関与に当たらないとして,原告の訴えを却下する判決をした。その後,上告受理の申立てを受けた最高裁判所第一小法廷も,令和2年3月26日,受理した上告受理申立て理由について上告を棄却する旨の判決をしたため,別件訴訟について,上記訴え却下の判決が確定した。
(甲62,乙10~13)


本件各申請について

沖縄防衛局は,本件事業によりその生息場所を失うサンゴ類について,本件図書に記載した避難措置としての移植(前記⑴ウ)を実施するため,平成31年4月26日,原告に対し,本件規則41条に基づき,
普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書に基づく環境保全措置を目的とした造礁サンゴ類の移植技術に関する試験研究をその目的として,本件区域内のJ地区及びP地区並びに同区域に間近いK地区(別紙2図面
でそれぞれJ地区
P地区
K地区と示された地区)に生息する小
型サンゴ類合計約3万8760群体を,大浦湾の湾口中央部にあるS1地区(同図面でS1と示された地区)に移植するための特別採捕許可を申請した(甲3。以下本件申請1という。。


沖縄防衛局は,同様に,令和元年7月22日,原告に対し,本件規則41条に基づき,本件申請1と同じ目的で,本件区域内のI地区(別紙3図面でI地区と示された地区)に生息する小型サンゴ類約830群体(以下,本件申請1の対象となるサンゴ類と併せて本件サンゴ類という。
)を,辺野古崎南側の海域にあるS5地区(同図面でS5と示さ
れた地区)に移植するための特別採捕許可を申請した(甲4。以下本件申請2という。また,以下,J,P,K及びI地区を併せて本件移植元と,S1及びS5地区を併せて本件移植先という。。)


沖縄県における特別採捕許可に関する審査基準等の定め

沖縄県は,本件規則41条に基づく特別採捕許可申請の標準処理期間を45日と定め,これを公にしている(甲57,乙69)。


沖縄県は,本件規則41条に基づく特別採捕許可申請について,以下の内容の審査基準(以下本件審査基準という。)を定め,これを公にしている(甲6,乙69)。
<形式審査>1申請書は規則にある第10号様式を用い,全ての記載事項に必要な記載があること。2実施計画書が添付されていること。3採捕予定海域の図面等が添付されていること。<内容審査>1申請者は試験研究,教育実習及び増殖用種苗の供給のいずれかを目的としていること。2申請者及び採捕従事者に,採捕行為を行う上での適格性が認められること。3申請内容に,必要性と妥当性が認められること。4採捕行為の実施により,漁業調整上又は水産資源の保護培養上,問題が生じるおそれがないと認められること。

沖縄県知事は,従前,特別採捕許可申請を審査するに当たり,公共事業により影響を受けるサンゴ類を環境保全措置等として移植をする場合には,移植後の観察・評価等の結果を移植技術の研究発展に生かすことを前提に,本件規則41条1項及び上記内容審査1項の試験研究に当たるものとして取り扱っている(甲59,76,弁論の全趣旨)。


本件指示に至る経緯

沖縄防衛局は,本件各申請について,標準処理期間を経過しても何らの処分もされないことから,原告に対し,審査の進行状況や処分時期の見通しなどを問い合わせたところ,原告は,令和元年10月21日付け及
び同年11月29日付けで,本件各申請については,係争中の別件訴訟に対する司法の最終判断を受けた後,その内容を確認した上で対応する方針である旨回答した(甲18~23)


漁業法及び水産資源保護法の所管大臣である被告は,令和元年11月14日付け及び同月28日付けで沖縄県知事宛ての文書を送付し,同各法に係る沖縄県の事務の遂行に関して事実関係の確認をする必要があるとして,地方自治法245条の4第1項に基づき,本件各申請に対する審査
状況や本件各申請につき許否の判断をしない理由が分かる資料などの提出を求めた。
これに対し,原告は,被告が求めた資料の一部を提出するとともに,同年12月9日付けで,本件各申請に関する許否の判断をしていない理由について,①本件各申請に係る移植は不可逆的で漁場への影響が大きい
行為であるから慎重に審査する必要がある旨,②沖縄防衛局は本件事業につき地盤改良工事を追加する必要があるとしながら,未だ本件設計概要の変更承認申請すらしておらず,それに伴う環境保全措置の変更も明らかではないから,本件各申請について判断することができない旨,③原告は本件裁決が違法無効であると判断しており,その取消しを求める
別件訴訟の係属中は本件各申請の必要性について判断することはできない旨回答した。
(甲7,9,10)

被告は,令和2年1月31日付けで沖縄県知事宛ての文書を送付し,本件各申請について許可処分をしない原告の事務の遂行は法令の規定に違反するとして,地方自治法245条の4第1項に基づき,同年2月10日
までに許可処分を行うことを求める勧告をしたが,これに対し,原告は,本件各申請についての対応は法令の規定に違反するものではなく,勧告に従う考えはない旨回答した(甲14,16)


被告は,令和2年2月28日付けで沖縄県知事宛ての文書(以下
本件指示文書という。
)を送付し,本件各申請について許可処分をし
ない原告の事務の遂行は,漁業法65条2項1号及び水産資源保護法4条2項1号に違反し,また,著しく適正を欠き,かつ,明らかに公益を害するものであるとして,地方自治法245条の7第1項に基づき,文書到着の日の翌日から起算して7日以内に本件各申請について許可処分をするよう求める指示をした(甲1。本件指示)

なお,本件指示の時点では,別件訴訟の上告審が係属しており,沖縄防
衛局は,原告に対して,本件設計概要について前記⑵アの地盤改良工事等を追加するための変更承認申請をしていなかった。

原告は,本件指示に不服があるとして,令和2年3月30日付けで,地方自治法250条の13第1項に基づき,国地方係争処理委員会に対し,被告を相手方とする審査の申出をしたところ,同委員会は,同年6月19
日付けで,原告に対し,本件指示が違法ではないと認める旨の通知をし,原告は同月22日にこれを受領した(甲2)


原告は,上記審査の結果に不服があるとして,令和2年7月22日,地方自治法251条の5第1項に基づき,被告を相手に,本件指示の取消しを求めて本件訴えを提起した。

4
争点及びこれに対する当事者の主張


本件各申請について許可処分をしない原告の事務の遂行に法令の規定違反等があるといえるか否か

(被告の主張)

本件指示の時点までに本件各申請につき許可処分をしなかった原告の事務の遂行(以下本件事務遂行という。
)は,次のとおり,法令の規定
に違反し,また,著しく適正を欠き,かつ,明らかに公益を害しているものであるから,本件指示は,地方自治法245条の7第1項所定の要件を満たすものとして適法である。

漁業法及び水産資源保護法は,漁業調整及び水産資源の保護培養のために必要な水産動植物の採捕の制限等を規則に委任するものであるから,本件規則41条に基づく原告の事務の遂行が,かかる趣旨・目的に反する場合には,上記各法が示す権限行使の基準に違背する裁量権の行使として違法となる。後記イのとおり,本件各申請は,本件事業の実施により死滅等することを免れないサンゴ類を移植により避難させ,これを保護・保全するために必要な行為であり,水産資源の保護を直接の目的とするものといえる。このような性格の特別採捕許可申請については,移植の具体的内容・方法等に避難措置という趣旨・目的に照らして明らかに不適当な点がない限り,許可されるべきであるところ,後記ウのとおり,本件各申請に係る移植の具体的内容・方法等は適切なものであり,
何ら不適当な点はないから,これを不許可とすることは水産資源の保護培養という水産資源保護法の趣旨に反するものである。
したがって,本件各申請について,その標準処理期間を大幅に超過する期間にわたり,許可処分をしない本件事務遂行は,本件審査基準を満たすか否かを逐一検討するまでもなく,上記各法に反する違法なもので
ある。
また,本件審査基準に則してみても,本件各申請は,後記イのとおり,
申請内容に必要性が認められることという基準(内容審査第3
項。以下必要性基準という。
)に適合し,後記ウのとおり,
申請内容に妥当性が認められること
(内容審査第3項)及び採捕行為の実施により,漁業調整上又は水産資源の保護培養上,問題が生じるおそれがないと認められること(内容審査第4項)という各基準(以下,併
せて妥当性等基準という。
)に適合するものであって,本件審査基
準を全て充足するものであることが明らかである。そして,本件各申請について,本件審査基準と異なる扱いをすべき合理的な理由はないから,
本件各申請について,その標準処理期間を大幅に超過する期間にわたり,許可処分をしないことはその裁量権の逸脱又は濫用に当たり,違法である。
加えて,沖縄県においては,本件事業に関するものを除き,事業の実施により失われるサンゴ類の移植を内容とする特別採捕許可申請についてその全件を速やかに許可しているのであって,本件各申請についてのみ様々な理由をつけて許可しない本件事務遂行は,偏頗で公正を欠くも
のであり,その裁量権を著しく逸脱又は濫用するものといわざるを得ず,この点でも違法である。
仮に本件事務遂行が法令の規定の違反に当たらないとしても,上記の諸点等に照らせば,本件事務遂行は著しく適正を欠くものであり,かつ,水産資源保護等の公益を害するものである。


本件各申請に係る移植の必要性があること
沖縄防衛局は,本件区域の埋立てについてA知事から公有水面埋立法42条1項の承認(本件承認)を受けているところ,本件サンゴ類は,同区域内又はこれに間近い地区に生息し,そのままでは本件事業の実施
により死滅することが免れないものである。本件各申請は,このような本件サンゴ類を周辺海域に移植して避難させ,併せて移植技術の試験研究を行う目的で採捕を求めるものであるから,本件サンゴ類の保護・保全のために不可欠な行為であり,水産資源の保護を直接の目的とするものといえる。このような性質の特別採捕許可申請は,当該申請に係る移
植の具体的内容・方法等に避難措置として行うという移植の趣旨・目的に照らして明らかに不適当な点がない限り,許可されるべきものといえ,また,当然に本件審査基準の必要性基準に適合するものといえる。本件事業については,本件軟弱地盤部分につき本件設計概要に記載されていない地盤改良工事を施工しなければ所定の安定性を満足させる
ことができないことが判明しているが,本件承認自体は未だ効力を有し,本件区域の埋立てが法的に確定している状況に何ら変わりはない。そして,同事業については,本件設計概要に地盤改良工事を追加する内容の変更承認を得て地盤改良工事を施工し,埋立てを完成させることが可能であり,現に沖縄防衛局はそのような意向を示しているのであるから,本件区域の埋立ての予定・計画に変わりはなく,本件サンゴ類の移植の必要性は何ら失われるものではない。

また,沖縄防衛局は,変更承認を得る前であっても,本件設計概要に記載のある工事のうち,地盤改良工事に関わらない部分については施工することができる。K8護岸及びN2護岸(別紙図面4でそれぞれK8護岸及びN2護岸と示されている護岸)の造成工事は,地盤改良工事と関わりなく施工することが可能であり,沖縄防衛局も変更承認
を得る前に施工する意思を有している工事であるから,本件指示の時点で,その実施が具体的に見込まれるものであったといえる。そして,同工事が実施されれば,本件サンゴ類はいずれも死滅せざるを得ないのであるから,この点からも,本件指示の時点で,本件サンゴ類を移植する必要性があったことは明白である。


本件各申請に係る移植の具体的内容・方法等が適切であることについて本件各申請では,①移植対象については,埋立てによってその生息場所を失うサンゴ類が可能な限り移植されるよう選定され,②移植先については,本件図書において示された移植先候補地を前提とした上で,
周辺海域の特徴を把握するために作成したハビタットマップにおける場が元の生息環境と一致していること,同様のサンゴ類が生息し,サンゴ群生の種別生息状況,群体数及び生息環境等により環境が類似していることなどを考慮して適切に決定されている。③移植方法についても,サンゴ類へのダメージやストレスが最小限となる方法が採られており,④
移植後の事後調査も,頻繁かつ長期にわたる潜水目視観察を行い,移植したサンゴ類だけでなく,その周辺に生息するサンゴ類の状況等についても観察し,移植したサンゴ類の生存率等の評価に供するとされているなど適切な内容となっている。
これらの内容は,本件図書に記載された内容を履践するものとして十分なものといえる。また,本件承認の留意事項に基づき,サンゴ類の専門家を含む学識経験者からなる環境監視等委員会の指導・助言を踏ま
えて定められたもので,その内容が環境保全措置として適正なものであることが客観的にも担保されている。加えて,沖縄県では,これまで公共事業等の実施により失われるサンゴ類の避難のための移植を内容とする特別採捕許可申請について,本件事業に関するものを除き,いずれも短期間の審査で許可している上,本件各申請における移植の具体的内
容・方法等は,これらの許可事例と比較して,同等以上に手厚いものとなっている。
以上によれば,本件各申請に係る移植の具体的内容・方法等は,移植の目的を達するのに十分適切なものであるから,避難措置という趣旨・目的に照らして何ら不適当なものとはいえず,また,本件各申請が本件
審査基準の妥当性等基準に適合することも明らかといえる。
(原告の主張)

本件事務遂行は,法令の規定に違反するものではなく,また,著しく適正を欠き,かつ,明らかに公益を害するものでもないから,本件指示は,
地方自治法245条の7第1項の要件を欠き,違法である。
特別採捕許可の要件該当性及び許可をなすか否かの判断については,沖縄県知事の合理的な裁量に委ねられており,その裁量権の逸脱又は濫用がある場合に限り違法となる。本件各申請については,本件指示の時点で,後記イのとおり,本件審査基準の必要性基準に適合すると判断でき
るものではなく,また,後記ウのとおり,同妥当性等基準に適合すると判断できるものでもなかったのであるから,同時点において,許可処分をしなかったことが沖縄県知事の裁量権の逸脱又は濫用に当たるものではない。

本件各申請に係る移植の必要性があるとはいえないこと
本件各申請は,本件事業により死滅するサンゴ類の避難のための移植
を目的とする特別採捕許可申請であるが,同事業については,本件区域に軟弱地盤が存在することにより,本件設計概要で特定された埋立工事の完成が不可能であることが客観的に明白となっている。工事を完成させるためには,本件設計概要に地盤改良工事を追加する内容の変更承認を受ける必要があるが,本件指示の時点では,沖縄防衛局はその申請す
らしておらず,最終的にこの変更承認を受けることができるかはおよそ不明な状況であった。
そうすると,本件指示の時点では,本件各申請は,本件設計概要に従った埋立事業という完成不可能な事業の環境保全措置のためになされたものと評価されるべきであり,一般に移植されたサンゴ類の生残率が低
いことも考えると,水産資源保護の立場からは,同時点において,本件各申請の必要性を認めることができないのは当然といえる。本件指示の時点で本件各申請が必要性基準に適合しているとはいえないとした原告の判断は正当であり,裁量権の逸脱又は濫用には当たらない。
被告は,本件設計概要をもって特定された工事のうちK8護岸及びN
2護岸の造成工事などは,変更承認を受ける前でも施工が可能であるから,本件サンゴ類についてこれらの工事による影響を避けるために移植の必要があると主張する。しかし,そもそも,
設計ノ概要は,その
全体が一体のものとしてその要件充足性を審査され,免許・承認を受けているものである。K8及びN2護岸の造成工事などのごく一部分のみ
工事を行っても,その工事に独立した用途・価値を見い出すことはできず,本件事業の目的を達成できないことは明らかなのであるから,かかる工事施工の必要性をもって,本件サンゴ類の移植の必要性を根拠付けることはできないというべきである。

本件各申請に係る移植の具体的内容・方法等が適切なものとはいえないこと

サンゴ類の移植は,対象となった相当数のサンゴ類の死滅を伴うものであるとともに,移植先の環境を消失させ,移植先の生態系への負の影響を生じさせる可能性のある行為である。サンゴ類の移植のための特別採捕許可をするに当たっては,このような点を考慮し,移植したサンゴ類の生残率が十分に高く,移植先の環境を消失させることを踏ま
えても,なお水産資源の保護培養に資するといえる内容・方法であることが認められなければならないが,本件各申請はこのような点を十分に考慮せずになされているものである。
また,環境監視等委員会は,事業者が設置する私的機関にすぎない上,同委員会の審議自体十分になされているものとはいえないから,沖縄防
衛局が本件各申請に係る移植の具体的内容・方法等を定めるに当たりその指導・助言を受けていたとしても,そのことをもって,原告の特別採捕許可の判断における裁量権が拘束・制限されるということはあり得ず,また,その内容・方法等の適切性が客観的に担保されるなどということもできない。

そして,本件各申請は,前例のない極めて多数の群体・種類のサンゴ類の移植を行うものであり,標準処理期間で想定されている他の一般的な許可事例とは全く異なるものであるから,妥当性等基準の適合性も慎重になされなければならないといえる。
上記のような点も踏まえ,本件各申請における移植の具体的内容・
方法等についてみると,①移植対象の選定については,その選定理由が十分明らかにされているとはいえず,②移植先の選定については,移植先と移植元との環境比較のみがされており,移植先候補地間の比較検討はされていない。移植元と移植先では底面流速や塩分濃度などにも違いがみられ,環境条件が一致しているとはいえないし,各地区に生息するサンゴ類の種類(属)も異なっている。また,移植先で生じ得る負の影響も十分に検討されていない。③移植方法についても,サンゴ類の
種類ごとの特性に照らした移植方法や場所の検討もなく,単なる一般的な手法を示しているのみであって,④事後調査も,生残率などの定量的な数値目標が設定されず,統計的手法による評価も取り入れられていないなど,サンゴ類の移植技術の発展に寄与する計画とはなっていない。これらの事情からすれば,本件各申請における移植の具体的内容・
方法等は,適切なものとはいえず,水産資源の保護培養に資する内容になっているとはいえない。また,本件指示の時点では,地盤改良工事の追加を前提とした変更後の埋立工事及びそれに伴う環境保全措置の内容が確定しておらず,これらが明らかではない状況のもとでは,本件各申請の妥当性等基準の適合性を判断することはできない。

以上によれば,原告において,本件指示の時点で,本件各申請について妥当性等基準に適合するとの判断ができなったことは当然であり,その裁量権を逸脱又は濫用するものではない。

本件指示にその他の違法事由があるか否か

(原告の主張)

本件指示にはその名宛人となるべき沖縄県ではなく,機関である知事に対してされたという違法があること
地方自治法245条の7第1項に基づく是正の指示は,対象となる法定受託事務が帰属する普通地方公共団体に対してなされなければならない。
本件指示文書が沖縄県知事に宛てられていることなどからすれば,本件指示は,沖縄県ではなく,その機関である知事に対してされたものであって,関与の法定主義(地方自治法245条の2)に反し,違法である。

本件指示は関与の制度趣旨を逸脱する違法なものであること
本件指示は,本件各申請について,何らかの処分をするよう求めるのではなく,特別採捕許可という特定の処分をするよう求めるものであ
るが,地方自治法245条の3第1項等からすれば,
関与は目的達
成のために必要最小限度で地方公共団体の自主性及び自立性に配慮してされなければならず,本件指示のように,個別の申請等について地方公共団体が判断する前に特定の処分をなすよう求める指示をすることは,地方公共団体の第一次的判断権を無視するものとして許されず,違法で
ある。
仮に特定の処分を求める是正の指示が例外的に許される場合があるとしても,本件指示については,沖縄防衛局において審理の長期化が見込まれる義務付け訴訟を提起することを回避するために,沖縄防衛局と被告が一体となって行ったものであり,関与の制度趣旨を逸脱した違法
なものである。
(被告の主張)

本件指示が沖縄県の機関である知事に対してされたとの点について本件指示文書では,地方自治法245条の7第1項の規定に基づき,沖縄県の法定受託事務である特別採捕許可に関する事務についての指示で
ある旨が明示されており,本件指示が,原告ではなく,沖縄県に対してされているものであることは明らかである。本件指示にその名宛人を誤っているという違法はない。

本件指示に関与の制度趣旨を逸脱した違法があるとの点
地方自治法245条の3は,
国の関与制度を法律等で設けるに当
たっての基本理念を定めたものであるから,同条の違反・抵触を理由に本件指示が違法になることはない。また,是正の指示の内容は,法律上何ら制限されておらず,本件各申請を許可しない事務の遂行が違法である以上,この状況を是正又は改善するためには本件各申請を許可するほかないのであるから,本件各申請を許可するよう指示することは何ら違法ではない。

被告は,本件指示に至るまでに,沖縄県に対し,資料提供等を求めるなどして事実関係の把握に努めるとともに,理由を付した勧告をするなどして随時被告の問題意識を示してきたものであるが,沖縄県から十分な説明や根拠資料などの提供がされることはなく,違法等の状況を是正するために必要な指示として,やむなく本件指示をするに至ったもので
ある。このような経緯からすれば,本件指示は必要最小限度のものであり,これを沖縄県の自主性及び自立性に対する配慮に欠けたものと解する余地はない。
第3
当裁判所の判断

1
認定事実(前記前提事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実)


サンゴ類及びその移植に関する知見について

サンゴ類について
造礁サンゴ類(サンゴ類)は,浅海に棲み,硬い石灰質の骨格をもつ
硬質サンゴのうち,褐虫藻という渦鞭毛藻の一種を体内に共生させているもので,生物分類学的には刺胞動物門に属する生物である。サンゴ類は,共生させている褐虫藻による光合成産物(有機物)と自らの触手で捉えた動物プランクトン等から栄養を獲得する。
サンゴ礁とは,主にサンゴ類,有孔虫,石灰藻などの石灰質の遺骸が
長い年月をかけて積み重なり作られた地形をいい,サンゴ類はサンゴ礁の形成に不可欠な役割を果たす。サンゴ礁は,一般に高い生物多様性を有し,海岸を波浪による浸食から護り,漁業生物を育てるなどの機能を有する。(甲60,64,65,弁論の全趣旨)

サンゴ類に影響を与える環境条件等
サンゴ類は強い日射,海水の高い透明度と高い水温という状況下で生育する。サンゴ類の生育に影響を与える環境条件には,水温・塩
分・栄養塩,光環境(水中照度,水深,濁り),波・流れ,基盤の有無,基盤の傾度等の物理化学的環境と,魚類や無脊椎動物による食害の有無などがある。(甲60,65)
水の濁りは,水中の照度低下を生じさせて褐虫藻の光合成を妨げ,サンゴ類の栄養不足や成長阻害をもたらし,懸濁粒子との摩耗により
サンゴ類の組織に損傷を与えるなどの悪影響を生じさせる(甲61)。過度な高水温が継続するとサンゴ類に共生している褐虫藻が体内から失われ,サンゴ類の骨格が透けて白く見える現象(白化現象)が起こる。この状態が長く続くとサンゴ類は褐虫藻から栄養を受け取ることができずに死滅する。(甲65)


沖縄県におけるサンゴ礁について
沖縄県周辺の海はサンゴ礁が発達しており,その大半は,島の周囲を取り巻く形で発達する裾礁と呼ばれる分類のものである。裾礁の地形は,陸から海に向かって,大まかに礁池(干潮時に干上がって現れ
る礁嶺によって沖合の海と仕切られる範囲),礁嶺(礁池の沖側にある高く盛り上がった部分),礁斜面(礁嶺から沖側に向けて急傾斜で落ち込んだ部分)などに区分される。(甲46委員提供資料,60,65)
沖縄周辺海域に発達するサンゴ礁には,自然の魚巣として沿岸の魚
介類が棲息しており,サンゴ類は,漁業対象となる生物の生息場となることで漁場を形成するとともに,産卵場,餌場,幼稚仔の保育場としても機能し,周辺の水産資源の保護や漁場形成などの点で重要な役割を果たしている(弁論の全趣旨)。

辺野古崎周辺のサンゴ礁・サンゴ類の分布状況
S5地区が存在する辺野古崎の南側の裾礁(以下辺野古前面海域

という。)には,陸から海に向かって,礁池,礁嶺,礁斜面が顕著に表れている一方で,辺野古崎の東側(大浦湾側)では内湾のため顕著な礁嶺が発達していない。大浦湾の湾口中央部には,中干瀬と呼ばれる背後に陸を持たないサンゴ礁(台礁)が存在し,S1地区は中干瀬の一部に存在する。(甲46委員提供資料,甲47参考資料,乙41)
辺野古崎周辺における過去のサンゴ類の分布状況をみると,平成9年度には,辺野古前面海域の礁斜面及び中干瀬から大浦湾奥側にかけての海域において,被度(一定の大きさの海底を覆う生物の割合)25%以上の生息域が広く分布し,被度50%以上や75%以上の生息域も相当程度の範囲で分布していた。しかし,平成10年以降に生じ
た世界的な白化現象に伴って生息域の被度が全体的に低下し,その後も従前の被度が回復したという状況は観察されていない。(甲60,61の6-14-20~23,6-14-84)
現在の辺野古崎周辺におけるサンゴ類の主な生息域は,辺野古前面海域では,礁嶺に沿って礁斜面に広がっており(礁池にもS5地区な
ど部分的に生息域がみられる。),大浦湾側では,S1地区を含む中干瀬周辺に広く存在するほか,湾奥部及び湾東側にも存在する。その大半は被度5~25%程度であるが,部分的に被度25%以上や50%以上の生息域もあり,これらの中には比較的規模の大きいサンゴ群生も存在する(平成19年度から平成28年度にかけての生息域の
具体的な分布状況は甲43資料3-3のとおり)。
本件区域については,辺野古崎の南側の海域には被度5%以上の小型サンゴ類の生息域は存在しないが,同東側(大浦湾側)の海域にはその規模は小さいものの,JPK地区及びI地区を初めとする被度5~25%程度の小型サンゴ類の生息域が複数箇所存在する(平成27年頃の小型サンゴ類の分布状況については甲42資料4のとおり)。(甲42,43,61,乙41)


サンゴ類の移植について
サンゴ類の増殖過程には,成熟した親サンゴが産卵し,卵と精子が受精した後にプラヌラ幼生を経て基盤に着底して一つのポリプとなる有性生殖と,ポリプが次々とクローンを作って群体を形成していく無
性生殖がある。波浪などによる衝撃でサンゴ群体が折れ,周辺に散らばった断片が基盤に再び固着して成長するということが起きるが,これは無性生殖によるものである。(甲60,64,65)
サンゴ類の移植方法には,①天然のサンゴ断片を採取してそのまま移植先に固定する方法(直接移植),②天然のサンゴ断片を採取し,
育成施設で移植片に育てた後に移植先に植え込む方法(無性生殖法),③卵や幼生を採取して移植片に育てた後に移植先に植え込む方法(有性生殖法),④事業等のために破壊される予定のサンゴ群体をそのまま別の場所に移動して固定する方法(移設)が存在する(甲64)。なお,本件各申請に係る移植は,上記④の方法によるものである。
サンゴ類の移植後の生残率は高くなく,沖縄県で移植されたサンゴ群体の多くは植込み4年後の生残率が20%以下であったというデータも存在する。移植に当たっては,移植後3年時点での生残率40%以上を目標とするべきであるという考えも提唱されている。
また,サンゴ類の移植方法は未だ知見が十分に確立しておらず,特
に移植の際の基盤の選択,植込み方法,種や適地の選択,植込みの距離間隔,耐波性,遺伝子の多様性を保持した種苗の組み合わせ,幼生加入の促進などの多くの課題が手つかずに残っている状況である。(甲64,乙40)


本件図書の内容と本件承認に至る経緯

沖縄防衛局は,平成25年3月22日付けの本件出願に先立ち,環境影響評価法及び沖縄県環境影響評価条例に基づき,普天間飛行場代替施
設建設事業について,環境の構成要素に係る項目ごとの調査を行った上,その調査結果,予測及び評価並びに環境保全措置などを記載した環境影響評価書を作成し,A知事に送付した(甲61,弁論の全趣旨)。イ
沖縄防衛局は,上記環境影響評価書の内容を踏まえて本件図書を作成し,本件出願に際して提出した。本件図書には,本件事業の実施がサンゴ類に及ぼす影響の予測及びこれに対する評価(環境保全措置の内容)について,主に次の内容が記載されている。(甲61。以下,本項の括弧内の数字は甲61の頁数を示す。)
本件事業の実施がサンゴ類に及ぼす影響の予測

a
工事中の水の濁りによる影響の予測(6-14-98~105)
平成20年度の水質調査の結果によれば,周辺海域の浮遊物質量
(SS)は概ね1mg/L未満を示している。このような現況と既往知見などから,サンゴ類の生息場所におけるSSを2mg/L以下に留めることをその保全のための目標とするべきであり,同値を
評価基準として工事による影響を予測・評価する。
SS発生量の多い施工時期(1年次10か月目,4年次4か月目)の濁りの拡散状況の予測によれば,評価基準を上回る濃度は,1年次10か月目ではサンゴ類の高被度生息範囲(被度25%以上)等に拡散しないが,4年次4か月目では中干瀬等の生息範囲に相当程
度拡散するという結果になったため,濁りの拡散防止対策(汚濁防止膜の追加展張)を講じるものとした。同対策を講じた場合,評価基準を上回る濃度は4年次4か月目にも高被度生息範囲等に拡散しないと予測され(以下,この予測結果を変更前工事予測結果と
いう。),サンゴ類の生息環境が保全されるものと推察される。工事中は濁りの拡散状況の監視を行い,評価基準を上回る濁りがみられる場合は,施工方法の見直しなどの対策を講じるものとし,サン
ゴ類の生息環境の保全に努める。
b
海面の消失による影響の予測(6-14-117~119)
本件区域における被度5%以上のサンゴ類の生息域は,辺野古崎

の南側には存在しないものの,同東側(大浦湾側)には複数箇所
(合計約6.9ha)確認され,これらの生息域は,本件事業の実
施により消失することになる。
c
海岸地形の変化に伴う環境変化による影響の予測(6-14-1
20~149)
海岸地形の変化に伴って生じる①波浪・流れの変化,②浮遊砂の移動状況の変化,③水温・塩分分布の変化,④台風による海水温上
昇の低減効果及び懸濁物質の掃流効果の変化などの面では,周辺のサンゴ類の生息域への影響はないものと予測される。
海面の消失によるサンゴ類への影響

b)に関する評価(環

境保全措置)(6-14-162~165)
a
本件区域に生息するサンゴ類について,避難措置として適切な場
所に移植を行う。サンゴ類の移植は,技術が十分に確立・評価されたものではなく,完全な代償措置には至らないが,これまでに得られた現地調査結果の情報や,沖縄県サンゴ移植マニュアル等の既往資料の情報を踏まえながら,①環境が類似し,同様なサンゴ種が生
息するとともに,移植先のサンゴ群生への影響が少ないと予測される場所を選定し(実施に際しては,移植対象となるサンゴ類の種や群生規模を勘案し,事前に踏査して,生息環境の適否や移植先での影響等を検討して具体的な移植箇所を決定する。),②最も適切と考えられる手法による移植を行い,③さらにその後の生育状況を事後調査することとする。また,これらの検討は有識者の指導・助言を踏まえて行うこととし,その検討は下記bに示す事項に関して行
う。
(なお,上記記載部分には移植先(案)を示す図面が添付され,サンゴ類の生息ポテンシャル域(平成10年以降断続的に発生した白化現象により分布範囲,被度が大きく低下しているものの,流動環境・透明度などの水質条件は良好であるため,条件が整えば回復す
る可能性があると考えられる海域)のうち,大浦湾口中央部の中干瀬におけるS1地区を含む海域と,辺野古前面海域におけるS5地区を含む海域が示されている(上記海域を,以下本件候補海域
という。)。)
b
サンゴの移植に関する検討は次の事項に関して行う。


既存資料の整理並びに移植元及び移植先の踏査により詳細な情
報を整理する事項
①移植元の海域内のサンゴ群生の種別生息状況,群体数,群生被度(サイズ),生息環境(地形,水深,生息基盤,水質,波当

たり・流れの状況)等,②移植先の海域のサンゴ群生の種別生息状況,群体数,生息環境(地形,水深,生息基盤,水質,波当た
り・流れの状況,食害生物,付着藻類,移植可能スペースの有無)等


移植すべきサンゴ群生の決定,移植方法,移植後のモニタリン
グ内容の検討に当たっての具体検討内容(案)
移植の対象とする群生,群体数,対象群生別移植箇所,群生の
採取方法,運搬方法,移植先での設置,移植先でのサンゴ類生息
阻害要因対策,モニタリング手法(頻度,方法,管理)など

A知事は,本件図書の上記イの記載内容等も踏まえ,本件出願が公有水面埋立法4条1項各号の要件を満たすものと判断し,平成25年12月27日,沖縄防衛局に対し,本件承認をした。

本件承認に際して,工事の施工,工事中の環境保全対策等及び供用後の環境保全対策等について,それぞれ留意事項が付されているが,このうち工事中の環境保全対策等についての留意事項は,①実施設計に基づき環境保全対策,環境監視調査及び事後調査などについて詳細検討し,沖縄県と協議を行うこと,②詳細検討及び対策等の実施に当たっては,
各分野の専門家・有識者から構成される環境監視等委員会(仮称)を設置し助言を受けるとともに,特に,外来生物の侵入防止対策,海生生物の保護対策の実施について万全を期すこと,③これらの実施状況について沖縄県及び関係市町村に報告することであった。(乙4)


本件各申請に至る経緯

沖縄防衛局は,本件承認を受けた後,同承認における上記⑵ウ②の留意事項を踏まえ,普天間飛行場代替施設建設事業を円滑にかつ適正に行うため,環境保全措置及び事後調査等に関する検討内容の合理性・客観性を確保するため,科学的・専門的助言を行うことを目的とする環
境監視等委員会を設置した。
同委員会の業務は,上記目的を達成するために事後調査等の計画策定,結果の評価及び環境保全措置に関して指導・助言等を行うものとされており,その構成員である委員は沖縄防衛局長が委嘱した13名の学識経験者である。同委員会では,委員長が招集し,委員が出席する会議が開
催されており,会議の資料及び議事録は,各会議の終了後速やかに沖縄県にも提供されている(なお,後記のとおり会議は複数回開催されており,規約上は会議とされているが,委員会と通称されているので,以下では,第1回委員会などという。)。
同委員会の委員のうちE委員は,日本サンゴ礁学会の理事等を務め,サンゴ礁学等を専門分野としており,F委員(第15回委員会から委員となっている。)は,日本サンゴ礁学会に所属し,サンゴ礁生物学等を
専門分野としている。両委員はサンゴ類の移植等に関する手引きの作成にも関与するなどサンゴ類の移植についての高度な専門的知見を有している。(甲47,乙14~16,弁論の全趣旨)

沖縄防衛局は,本件図書の記載を踏まえ,本件事業によりその生息場所を失うサンゴ類の移植計画の検討を進めた。沖縄防衛局は,平成26
年4月開催の第1回委員会で,サンゴ類の移植元で予定している調査の内容・方法や,移植先についてサンゴ類の生息ポテンシャル域(本件候補海域を含む。)から選定する方針であることなどを示し,平成27年1月開催の第3回委員会では,同ポテンシャル域から移植先を選定するに当たっての検討方法などを示したところ,委員からこれらの内容自体
への異論は示されなかった。(甲40,41)

沖縄防衛局は,従前から実施していた調査に加え,上記委員会で示した方針に従って,本件区域全域で改めてサンゴ類の分布状況を調査するとともに,生息ポテンシャル域の深浅測量・潜水目視観察を行った結果
から移植先候補地の絞り込みを行うなどして,サンゴ類の移植の基本計画案を作成した。平成27年4月開催の第4回委員会において,沖縄防衛局が上記計画案を提示したところ,委員からその内容自体に対する異論は示されなかった。
同計画案では,移植対象となる小型サンゴ類は,被度5%以上で0.
2ha以上の規模の分布域にある長径10cm以上のサンゴ類とされ,調査の結果,本件各申請の対象であるJPK地区・I地区と,E地区(約440群体),D地区(約8100群体),N地区(約2400群体)及びH地区(約2万4400群体)の合計8地区に生息するサンゴ類(合計16科60属。約7万4300群体)がこれに当たるものとされた。
また,これらのサンゴ類の移植先候補地としては,底質が岩盤である
ことが望ましいとして本件候補海域のうち中干瀬周辺の海域から絞り込みを行い,S1地区,S2地区,S3地区及びS4地区の4つの地区が挙げられた。(甲42)

沖縄防衛局は,平成30年2月開催の第12回委員会において,移植対象となる小型サンゴ類のうちI地区に生息するものの移植先をS1地
区とする移植計画を諮った。これに対し,委員から,①I地区は中干瀬にあるS1地区よりも陸地からの距離が近く,I地区と中干瀬とでは環境が類似するとはいえないから,移植先は,中干瀬ではなく,辺野古前面海域などからの選定を検討するべきである旨,②I地区とS1地区とで比較されている水温,塩分,浮遊懸濁物質量(SS)などは特定の地
点のものであり,これだけでは環境の類似性を適切に把握できないから,周辺海域全体について生息域としての場を面で把握できるよう,ハビタットマップを作成して移植先の選定に生かすべきである旨などの指導・助言がされた。
(甲45)

沖縄防衛局は,上記指導・助言を受けて,辺野古崎周辺海域全体について,①サンゴ類・海草藻類等の生物相,②岩盤・礫・砂礫・砂等の底質,③通常時と高波浪時のシールズ数(砂を動かそうとする力とそれに抵抗する力との比)及び④サンゴ礁の地形の各分布状況を示したハビタットマップを作成し(甲46参考資料1~5。甲47参考資料。なお,これらは本
件各申請に係る申請書(甲3,4)にも添付されている。,移植元とサン)
ゴ類の生息域としての場が一致しているかどうかという点も含めて移植先を検討した。
沖縄防衛局は,このような検討も踏まえ,移植対象となる小型サンゴ類のうち,I地区に生息するサンゴ類については,従前の中干瀬ではなく,新たに辺野古前面海域のS5地区を移植先として選定し,JPK地区に生息するサンゴ類については中干瀬のS1地区を移植先として選定する
こととした。
(甲46,47,弁論の全趣旨)

本件各申請に先立つ一度目の特別採捕許可申請
沖縄防衛局は,平成30年4月9日開催の第14回委員会において,I地区に生息する小型サンゴ類について,本件申請2と概ね同じ内容でS5地区に移植する計画を諮ったところ,その内容について委員から異
論は示されなかった。そこで,沖縄防衛局は,同月24日付けで,本件規則41条に基づき,本件申請2と概ね同じ内容のサンゴ類の特別採捕許可を申請した。
(甲46,乙17)
沖縄防衛局は,平成30年5月28日開催の第15回委員会において,JPK地区に生息するサンゴ類の移植について,本件申請1と概ね
同じ内容でS1地区に移植する計画を諮ったところ,その内容について委員から異論は示されなかった。そこで,沖縄防衛局は,同年6月19日付けで,本件規則41条に基づき,本件申請1と概ね同じ内容のサンゴ類の特別採捕許可を申請した。
(甲47,乙18)
沖縄県知事職務代理者から事務の委任を受けたD副知事は,平成3
0年8月31日付けで,本件承認を取り消す旨の処分(本件取消処分)を行い,

各申請について,本件取

消処分によって本件承認に基づく環境保全措置を実施する事由が消滅し,採捕の必要性が認められないとして,いずれも不許可とする処分をした(乙19,20)



本件各申請に先立つ二度目の特別採捕許可申請
沖縄防衛局が,本件取消処分を不服として,国土交通大臣に対し,審査請求(以下本件審査請求という。
)及び同処分の執行停止の申
立てをしたところ,国土交通大臣は,平成30年10月30日付けで,本件審査請求に対する裁決があるまでの間,本件取消処分の効力を停止する旨の決定をした(乙6~8,弁論の全趣旨)


沖縄防衛局は,平成30年11月28日開催の第17回委員会で,I地区及びJPK地区に生息する小型サンゴ類の状況には変化がないことを説明した上で,改めて
容(本件各申請とも同じ内容である。
)の移植計画を諮ったところ,委
員から異論は示されなかった。そこで,沖縄防衛局は,同年12月6日
付けで,本件規則41条に基づき,本件各申請と概ね同じ内容で本件サンゴ類の特別採捕許可をそれぞれ申請した。
(甲48,乙21,22)
各申請に対し,原告は,平成31年1月16日付けで,国土
交通大臣が行った上記

執行停止決定は違法かつ無効であり,本件承

認は取り消されたままであるとして,これらの申請をいずれも不許可と
する処分をした(乙23,24)


本件各申請について
国土交通大臣は,本件審査請求について,平成31年4月5日付けで,地盤改良工事を施工しなければ工事を完成させることができないとして
も,本件事業は公有水面埋立法4条1項1号及び2号の要件を欠くに至ったとは認められないなどとして,本件取消処分を取り消す旨の裁決をした(乙9。本件裁決)

沖縄防衛局は,これを受けて,環境監視等委員会の委員に対して,従前と同内容の申請をすることを個別に報告した上で,平成31年4
月26日に本件申請1をし,令和元年7月22日に本件申請2をした(甲3,4,49,50)。


本件各申請の内容
本件各申請は,いずれも普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書に基づく環境保全措置を目的とした造礁サンゴ類の移植技術に関する試験研究を目的として申請されたものである。移植の具体的内容・方法は
次のとおりである。
(甲3,4,29,弁論の全趣旨)

移植対象の選定
本件申請1の採捕の対象はJPK地区に生息する小型サンゴ類合計約3万8760群体である。その内訳はJ地区(約0.5ha)に生息する約7910群体,P地区(約0.6ha)に生息する約1万8810群体及びK地区(約0.4ha)に生息する約1万2040群
体である。本件申請2の採捕の対象はI地区(約0.2ha)に生息する小型サンゴ類約830群体である。
これらのサンゴ類(本件サンゴ類)は合計16科57属からなり,いわゆるレッドリストサンゴなどの希少なサンゴ類は含まれていない。本件事業において移植対象となる小型サンゴ類は,本件区域等にお
ける被度5%以上で0.2ha以上の規模を持つ分布域の中にある長径10cm以上のものとされており,本件サンゴ類もかかる基準に従って選定された。
沖縄防衛局は,移植対象を選定する前提として,本件区域全域について,複数年度にわたり,ライン調査(調査測線に沿って幅10m,
距離10mを1単位とした潜水目視観察を連続して実施するもの)を32測線,スポット調査(特定の地点の潜水目視観察を実施するもの)を15地点行い,サンゴ類の分布状況を確認した(甲45)。

移植先の選定
JPK地区に生息するサンゴ類の移植先は,同地区の約1.3km東側にあるS1地区であり,I地区に生息するサンゴ類の移植先は,同地区の約2km南西側にあるS5地区である。
本件移植先(S1地区,S5地区)の選定に当たっては,①本件候補海域から,移植元と同様の地形・地質と考えられる地点を選定し,②定点調査でサンゴ類の分布状況を確認した上で,移植元と移植先の波,潮流,塩分濃度,水温,濁度,基盤の状態といった物理・化学的な環境について長期的・定量的なデータを記録するためモニタリングを行い,③さらにハビタットマップにおいて,サンゴ類の生息場として環境が類似しているか否かを検討したとされている。
上記②の調査で確認された移植元と移植先の環境条件は次のとおり
である。
【JPK地区】
a
地形:いずれも岩盤
水深(D.L.):(J地区)-3~-6m程度,(P地区)-
3~-11m程度,(K地区)-3~-14m程度

b
サンゴ被度:いずれも5~25%
海藻類被度:(J・P地区)50%未満,(K地区)5~25%
海草類被度:いずれも5%未満

c
主な出現種:(J地区)コモンサンゴ属,キクメイシ属,アナサ
ンゴ属,(P地区)キクメイシ属,ハマサンゴ属,コモンサンゴ属,(K地区)ハマサンゴ属,キクメイシ属,アナサンゴ属

d
水温:いずれも20.7~30.1℃,塩分濃度:いずれも32.4~34.9psu(観測日:平成30年2月28日~平成31年3月31日)

e
波当たり:いずれも通常時は静穏~0.5m程度であり,砕波す
るような波当たりが強い状況は確認されていない。

f
流れの状況:いずれも通常時は弱い流れを感じる程度であり,底
面流速(海底面上1m)は0.0~177.5cm/sec(観測日:平成30年2月28日~平成31年3月31日)
g
h
食害生物・付着藻類:いずれも確認なし
浮遊懸濁物質量(SS):いずれも1mg/L以下

【S1地区】
a
地形:岩盤
水深(D.L.):-2~-15m程度

b
サンゴ被度:5~25%。小型サンゴ類は約2300群体
海藻類被度:5~25%,海草類被度:5%未満

c
主な出現種:ハマサンゴ属,ハナヤサイサンゴ属,キクメイシ属

d
水温:20.5~29.8℃,塩分濃度:33.3~34.9p
su(観測日:平成30年1月6日~平成31年3月31日)

e
波当たり:通常時は静穏~0.5m程度であり,砕波するような
波当たりが強い状況は確認されていない。

f
流れの状況:通常時は弱い流れを感じる程度であり,底面流速
(海底面上1m)は0.0~12.5cm/sec(観測日:平成30年1月6日~平成31年3月31日)

g
h
食害生物・付着藻類:確認なし
浮遊懸濁物質量(SS):1mg/L以下

i
移植可能スペース:約1.9ha

【I地区】
a
地形:岩盤/砂礫
水深(D.L.):-1~-2m程度

b
サンゴ被度:5%未満
海藻類被度:5~25%,海草類被度:5%未満

c
主な出現種:キクメイシ属,カメノコキクメイシ属,トゲキクメ
イシ属
d
水温:19.1~30.3℃,塩分濃度:32.8~35.0p
su(観測日:平成30年1月6日~令和元年5月23日)

e
波当たり:通常時は静穏~0.5m程度であり,砕波するような
波当たりが強い状況は確認されていない。

波高:0.1m(観測日:令和元年7月8日)
f
流れの状況:通常時は弱い流れを感じる程度であり,底面流速
(海底面上1m)は0.0~27.1cm/sec(観測日:平成30年1月6日~令和元年5月23日)

g
食害生物・付着藻類:確認なし

h
浮遊懸濁物質量(SS):1mg/L以下

【S5地区】
a
地形:岩盤/礫,
水深(D.L.):-2~-3m程度

b
サンゴ被度:50%未満。小型サンゴ類は約8500群体
海藻類被度:50%未満,海草類被度:5~25%

c
主な出現種:ハマサンゴ属,キクメイシ属,トゲキクメイシ属

d
水温:20.3~30.3℃,塩分濃度:33.7~35.0p
su(観測日:平成30年4月9日~令和元年5月23日)

e
波当たり:通常時は静穏~0.5m程度であり,砕波するような
波当たりが強い状況は確認されていない。
波高:0.2m(観測日:令和元年7月8日)

f
流れの状況:通常時は弱い流れを感じる程度であり,底面流速
(海底面上1m)は1.4~12.4cm/sec(観測日:平成
30年4月9日~令和元年5月23日)
g
食害生物・付着藻類:確認なし
hiウ
浮遊懸濁物質量(SS):1mg/L以下
移植可能スペース:約3.0ha

移植の方法等
採取については,潜水士が人力で行うことを基本とする。サンゴ類
に与えるダメージを少なくするように,できるだけポリプ部分ではなく,サンゴ類が着生している基盤(基部)にタガネを入れ,できる限り元の群体形を壊さないように慎重に採取する。
散房花状,塊状,葉状のサンゴ類は,群体の基部にタガネを当てて,ハンマーで叩くことで基部から採取する。岩盤表面を薄く覆うように
固着している被覆状のサンゴ類は,エアドリル等の器具を用いて群体周辺の岩盤ごと採取する。面的に分布している樹枝状サンゴ類は,タガネとハンマーを用いて,取り扱いやすい適切なサイズ(10~30cm程度)に分割して採取する。岩盤に固着していない非固着性のサンゴ類は手で拾い集める。

運搬については,採捕したサンゴ類のストレスを最小限に抑えるため,運搬時間の短縮に努めながら,できるだけ空気に触れないようにして行う。船上水槽に収容する場合は,海中で収集カゴ等に収容し船上に揚げ,できるだけ空気に触れないように収容する。収容後は,換水又は海水を流し,サンゴ類が分泌する粘液を除去するとともに,酸
素を補給することで水質の悪化を防止する。晴天時は遮光ネット等を利用することで強い紫外線からサンゴ類を守るとともに,日射による水温の上昇を防止する。
固定及び静置については,移植経験が豊富な潜水士が従事し,作業時間の短縮に努める。固定方法は,同種事業で使用事例の多い充填目地
材(水中ボンド)を用いる。非固着性サンゴ類は移植先の海底面に固定せず静置する。
固定等に当たっては,できる限り分散させ食害や病気等によるリスクの軽減に努める。那覇空港滑走路増設事業(以下那覇空港事業という。
)において,海底から0.5~1m未満程度の場所に移植したサンゴ類は波浪で移動した礫や転石により被災した一方で,海底から1~2m程度の高台に移植したサンゴ類はこのような被災を免れたことが確認
されているため,できる限り,窪地ではなく,周囲の海底よりも1~2m程度高い場所に固定・静置する。そのほか,移植場所を事前に確認した上で,移植元と海藻草類の被度が類似した環境に移植するものとし,移植するサンゴ類の大きさや形状に対して固定に適した微地形を選定し配置する(甲29)


採捕期間については,本件申請1については許可の日から11か月間,本件申請2については許可の日から2か月間とする。
移植時期は,夏期の高水温が確認された場合は,本件サンゴ類及び周辺のサンゴ類の状況を確認し,専門家に相談の上で判断する。また,沖縄県サンゴ移植マニュアル等によれば,移植サンゴの生残率を高め
るため,冬季風浪期等における移植は避けることが望ましいとされていることから,移植時の波浪に留意し,平穏な海象条件時にサンゴ類へのストレスを軽減しつつ移植する予定である。サンゴ類の多くが繁殖活動を夜間に行うことから,移植も夜間を避けて行うこととするが,作業前に対象サンゴ類の状況を十分に観察し,繁殖活動を行っている
ことが確認された場合には,その終了を待って移植することとする。エ
事後調査
移植したサンゴ類の移植先での生息状況・成長度合いについてモニタリング調査を行うため,潜水目視観察を実施する。調査項目として,
サイズ,生残状況,食害生物などの状況を観察し,評価基準に基づき評価を行う。移植したサンゴ類だけでなく,周辺の自然環境及びサンゴ類等の状況も観察し,移植したサンゴ類の生残率等の評価に供する。評価基準は,①移植したサンゴ群集の総被度・種類数が移植直後の状況に比べて著しく減少していないか,②移植したサンゴ群集に集まる魚類・大型底生生物の種類数・個体数が,事前調査で調査した移植前(移植元)の状況に比べて著しく減少していないか,③移植したサ
ンゴ類の骨格中に成熟したバンドル(ミドリイシ属等),プラヌラ幼生(ハナヤサイサンゴ属等)がみられるかとする。
調査頻度は,移植後,当分の間は概ね1週間ごとに経過観察を行うこととし,その後,沖縄県と協議して,概ね3か月ごとを基本(突発的な環境変化(大規模白化等)等が確認された場合はこの限りでな
い。)として実施する。
移植及びモニタリングの結果は,環境監視等委員会に報告した上で,事後調査報告書として沖縄県に報告し,公表するとともに,当該調査結果を基に,サンゴ移植技術の向上を検討する。


本件各申請がされてから本件指示に至るまでの経緯

本件各申請に関する原告と沖縄防衛局とのやりとりについて
原告は,令和元年7月19日,本件各申請について,本件裁決の効力に関して別件訴訟で係争中であることを理由として,司法の最終判断が示されるまで処分を行わない方針である旨を公表した(甲63,
乙25,26)。
沖縄防衛局は,本件各申請について,標準処理期間を経過しても何らの処分もされなかったことから,令和元年8月8日付け及び同年10月4日付けで,原告に対し,処分時期の見通しや,本件各申請の内容に関する問題点などを教示するよう求めた。

これに対し,原告は,同月21日付けで,本件各申請については,別件訴訟に係る司法の最終判断を受け,その内容を確認した上で対応することとしている旨などを回答し,本件各申請の内容に関する問題点の有無等については言及しなかった。(甲18~20)
これを受けて沖縄防衛局は,令和元年10月28日付け及び同年11月18日付けで,原告に対し,本件各申請の内容が環境監視等委員会の意見を踏まえたものであり,他の許可事例と比較して問題があるとは思われず,本件各申請は許可されるべきであるとした上で,本件各申請に対する審査の具体的な進行状況や許可されていない具体的な理由について再度情報の提供を求めた。
これに対し,原告は,同月29日付けで,沖縄防衛局に対し,本件
裁決の効力に関して別件訴訟で係争中であることから,同訴訟が係属している間は本件各申請について採捕の必要性等の判断の観点から処分を行わない旨回答するとともに,本件移植先に工事の影響が及ぶか否かを確認する必要があるとして,地盤改良工事を追加する内容の変更承認申請をする予定の有無について照会した。(甲21~24)
沖縄防衛局は,上記照会に対し,令和元年12月13日付けで,地盤改良工事の追加に伴い変更承認申請をすることは,同年1月以降伝えてきたとおりである旨,サンゴ類の移植先に工事による影響が及ぶような変更承認申請を行うことはない旨回答した(甲25)。
原告は,令和元年12月23日付けで,沖縄防衛局に対し,上記変
更承認申請の時期・内容を明らかにするよう求めるとともに,①本件移植先の検討経緯,本件移植先が移植先として最も優れているという根拠を示すこと,②試験的移植をした上で移植先を選定する必要がないか説明すること,③本件移植先における個別のサンゴ類それぞれの配置及び作業手順を示すこと,④事後調査の具体的な手法,移植の成
功の定義・その判断時期を示すことなどを求めた(甲26,27)。沖縄防衛局は,原告に対し,令和2年1月15日付けで,変更承認申請の内容は,従前から説明しているとおりであり,変更後の工事に伴う環境保全措置も,環境監視等委員会で検討して速やかに説明する予定であると回答し,同月17日付けで,上記①ないし④の照会に対する回答をした上で,本件各申請について直ちに許可処分をするよう求めた。(甲28,29)。

沖縄防衛局は,令和2年2月12日付けで,原告に対し,本件各申請については,既に標準処理期間を大幅に徒過している中で原告からの照会にも回答しているとの考えを示した上で,原告が本件各申請について未だ何らの処分もしていないことを問題視し,本件各申請について,速やかに許可処分をするよう求めた(甲30)。


本件各申請に関する原告ないし沖縄県と被告とのやりとりについて沖縄防衛局は,原告との上記やりとりと並行して,令和元年11月8日付けで,水産庁資源管理部管理調整課に対し,

原告の

対応を報告し,沖縄防衛局としては本件各申請への許可処分をしないことは違法であると考えているとして,本件各申請について適正な事務処理が行われるよう関係部局において適切な対応をとるよう求める旨通知した(乙27)。
被告は,令和元年11月14日付けで,沖縄県知事宛ての文書
を送付し,地方自治法245条の4第1項に基づき,①過去10年間
の試験研究によるサンゴ類の特別採捕の許可・不許可事例に関す
る資料,②特別採捕許可の審査に関する資料,③本件各申請に関する資料(具体的な審査の状況及び経過,処分時期の見通し,許否の判断をしていない理由が分かる資料等)などの提出を求める旨通知した。原告は,上記通知に対し,同月25日付けで,沖縄県と国とで本件
取消処分の効力に関する見解を異にしており,本件各申請については,別件訴訟に対する司法の最終判断が示されるまで処分を見合わせるという方針を説明し,資料要求については,その根拠,趣旨・必要性を説明するよう求めた。(甲7,8)
被告は,令和元年11月28日付けで,沖縄県知事宛ての文書
を送付し,資料要求をした根拠・趣旨等の説明をした上で,
提出を求めた資料に加え,原告の上記


方針の妥当性を裏付ける資

料の提出を求めるとともに,原告の対応が違法であると確認された場合は,地方自治法245条の4第1項に基づく勧告等も検討する旨通知した。
これに対し,原告は,同年12月9日付けで,本件各申請に対する処分に至っていない理由について,①本件各申請に係る移植は不可逆的で漁場への影響が大きい行為であるから慎重に審査する必要がある旨,②沖縄防衛局は未だ本件設計概要の変更承認申請すらしておらず,それに伴う環境保全措置の変更も明らかではないから,本件各申請について判断することができない旨,③原告は本件裁決が違法無効であ
ると判断しており,その取消しを求める別件訴訟の係属中は本件各申請の必要性について判断することができない旨回答し,被告が求めた資料の一部を提出した。(甲9,10)
被告が,令和元年12月24日付けで,原告に対し,未提出の資料に加え,移植したサンゴ類が設計変更後の工事の影響を受けることに
なるとする根拠資料の提出を求めたところ,原告は,令和2年1月9日付けで,資料の追加提出に応じ,変更後の工事の影響については,本件出願時に予定のなかった工事が大浦湾の海底で実施されることになれば周辺の海域の環境に影響が生じる可能性があるとの見解を示した(甲11,12)。

被告は,令和2年1月31日付けで,
沖縄県知事宛ての文書を送
付し,本件各申請について許可処分をしない原告の事務の遂行(本件事務遂行)は,漁業法等の規定に違反するとして,地方自治法245条の4第1項に基づき,同年2月10日までに許可処分を行うことを求める勧告をしたが,原告は,同日付けで,本件事務遂行に法令違反はなく,同勧告に従う考えはない旨回答した(甲14,16)

被告は,令和2年2月28日付けで,
沖縄県知事宛てに本件指示

文書を送付し,本件各申請について許可処分をしない原告の事務の遂行(本件事務遂行)は,漁業法65条2項1号及び水産資源保護法4条2項1号に違反し,また,著しく適正を欠き,かつ,明らかに公益を害するものであるとして,地方自治法245条の7第1項に基づき,文書到着の日の翌日から起算して7日以内に本件各申請について許可処分をす
るよう求める指示(本件指示)をした(甲1)



本件軟弱地盤部分の存在とそれについての沖縄防衛局の対応

本件出願では,本件区域の地盤の土質・N値等につき問題となる内容
は示されておらず,本件設計概要でも地盤改良工事等の施工は予定されていなかった。ところが,沖縄防衛局が本件承認後に本件区域等で実施
した土質調査によって,平成30年頃までには,同区域のうち辺野古崎の東側(大浦湾側)の海域の大半がいわゆる軟弱地盤であり(本件軟弱地盤部分),同地盤については,本件設計概要に記載のない地盤改良工事を施工しなければ,所定の安全性を確保できないことが明らかとなった。(甲30,32~34,弁論の全趣旨)


沖縄防衛局は,本件軟弱地盤部分の地盤改良・設計等についての助言を得るため,地盤の専門家を含む有識者によって構成される普天間飛行場代替施設建設事業に係る技術検討会(以下技術検討会という。)を設置し,令和元年以降,技術検討会の助言を受けながら,追加
する必要のある地盤改良工事の内容等の検討を進めた(甲35,弁論の全趣旨)。

令和2年1月20日開催の第23回委員会において,沖縄防衛局から,上記イの検討結果を踏まえた変更計画の概要(甲52資料3-1。以下本件変更計画という。)と,同計画を前提とした場合の環境への影響の予測結果が示された。

本件変更計画で追加される地盤改良工事等の
とおりである。また,上記環境への影響の予測結果の中で,本件変更計画を前提とした水の濁りの拡散予測も示されており(甲52資料3-6),それによれば,工事の全期間を通じて,周辺のサンゴ類高被度分布域等(本件移植先も含まれる。)に評価基準(2mg/L以下)を超
えるSSが拡散することはないとの予測が示されている(以下変更後工事予測結果という。)。第23回委員会において,上記予測について,委員から想定外の事態が十分起こり得ることを念頭におき,工事中のモニタリングが必要であることなどの指導,助言がされたが,上記予測内容自体に異論が示されることはなかった。(甲35~37,52,
乙63,弁論の全趣旨)
地盤改良工事として,本件区域の大浦湾側の海域のうち,別紙図面4のピンク色に着色された部分(C1~C3護岸,係船機能付護岸直下の部分)にサンドコンパクションパイル工法(SCP工法)を,同図面の赤色線で囲まれた部分にサンドドレーン工法(SD工法)を,
同図面の緑色に着色された部分にペーパードレーン工法(PD工法)を施工するとされている。施工面積でみると,大浦湾側の埋立区域約112万㎡のうち66万2000㎡で地盤改良が必要となる。
SCP工法は,地盤にケーシングパイプを打ち込み,同パイプから改良材である砂を排出するとともに,排出した砂を上下に振動させて
拡径・締固めを行い,所定の高さまで砂杭を造成し,同砂杭と軟弱な粘土層とを強制的に置き換えることで,地盤強度の増加と圧密の促進を図るものである。本件変更計画によれば,地盤のうち砂杭に置き換える割合は,深度50mまでが70%,深度70メートルまでが45%とされている。同工法によると,砂杭に置き換えられた軟弱な粘土層の移動によって地盤面が盛り上がる現象が生じるが,盛上部の地盤にも同等のSCP工法による改良を行うほか,施工上撤去が必要な箇所において浚渫作業を行うものとされている。
SD工法は,地盤にケーシングパイプを打ち込み,砂を排出しながら引き抜くことで水の通り道となる砂杭を造成し,地盤の圧密の促進を図るものであり,本件変更計画では改良深度は70メートルと予定
されている。SD工法のための地盤改良船の喫水確保のための浚渫作業なども追加が予定されている。
PD工法は,所定の高さまで埋立てを進めた後,オーガーモーターなどにより埋立層を掘削し,水の通り道となる鉛直ドレーン材と水平ドレーン材(PD材)を設置し,圧密の促進を図るものである。

本件変更計画では,SCP工法とSD工法による地盤改良工事に用いられる砂の量は,本件設計概要で示された本件事業全体で使う砂の量の約6倍に当たる合計約353㎥と予想されている。
地盤改良工事の追加とは別に,①別紙図面4の埋立区域③の大部分に,地盤改良工事の完了後,外周護岸閉合前に汚濁拡散低減効果
のあるトレミー船による先行埋立てを実施するという埋立方法の変更や,②閉鎖性水域での埋立工事の範囲を増加させるための中仕切護岸の配置の変更及び追加など,濁りの発生の抑制を目的とする変更も予定されている。
本件事業の施行に要する期間は,本件承認における計画では5年間
とされていたところ,本件変更計画を前提とした場合には,9年3か月間とされている。

沖縄防衛局は,令和2年4月21日付けで,公有水面埋立法13条の2,42条3項に基づき,原告に対し,本件設計概要に地盤改良工事等を追加する内容の変更承認申請を行い,原告は,現在,かかる申請を審査中である(弁論の全趣旨)。



他の公共事業等により失われる造礁サンゴ類の移植について

沖縄県では,平成18年から平成31年までの間,本件事業以外の5つの公共事業に関して,事業の実施により影響を受ける小型サンゴ類を他の海域に移植等するため,合計57件の特別採捕許可申請(変更申請を含む。)がされている。これらの申請については,申請から40日で
許可処分がされた1件を除くと,いずれも申請から数日ないし十数日の間に許可処分がされており,不許可処分の事例はない。(甲1,弁論の全趣旨)

上記アの許可事例のうち,那覇空港事業に関するもの(合計19件)は,同事業の実施により海域が改変する区域内に生息する小型サンゴ類等を他の海域に移植して避難させるための採捕を申請するものである。
同事業では,平成25年度から平成26年度までに小型サンゴ類合計3万6682群体(主にミドリイシ属が1万9506群体,主にアオサンゴが1万7176群体)の移植がされている。また,同時期に枝サンゴ群集合計1042㎡,希少サンゴ類合計242群体の移植がされている。

特別採捕許可申請は複数回に分けてされており,申請ごとに採捕の対象とされている群体数は,概ね数千から一万数千群体以内とされ,最も多いものでは1万6000群体以内とされている。(甲1,68,乙30~32,34,36)

上記アの許可事例のうち,竹富南航路整備事業(石西礁湖における航路を整備する事業,以下竹富航路事業という。)に関するもの(合計21件)は,航路の浚渫作業を実施する区域内に生息する小型サンゴ類等を他の海域に移植して避難させるための採捕を申請するものである。同事業では,平成23年度から平成28年度までに,小型サンゴ類合計2万9583群体(その種類は合計2万6242群体を移植した時点までで13科33属126種)の移植がされるとともに,サンゴ群集合
計4504㎡の移植がされている。
特別採捕許可申請は複数回に分けてされており,申請ごとに採捕の対象とされている群体数は,概ね数千群体以内とされ,最も多いものでは1万群体以内とされている。(甲1,乙30,33,35,37,38)2
争点⑴(本件各申請について許可処分をしない原告の事務の遂行に法令の規定違反等があるといえるか否か)について


判断枠組みについて

漁業法65条2項1号及び水産資源保護法4条2項1号は,都道府県知事は,漁業調整等及び水産資源の保護培養のために水産動植物の採捕
の制限又は禁止に関して規則を定めることができる旨規定し,これを受けて定められた本件規則は,このような採捕の制限等として,サンゴ類の採捕を一般的に禁止しつつ(33条2項),試験研究等のための採捕については,沖縄県知事の特別採捕許可を受けてこれを行うことができる(41条)旨規定するものである。このように本件規則41条は,漁
業法65条2項及び水産資源保護法4条2項の委任を受けて定められた規定であるから,本件規則41条に基づく沖縄県知事の特別採捕許可に係る事務は,漁業法65条2項の規定により都道府県が処理することとされている事務及び水産資源保護法4条2項の規定により都道府県が処理することとされている事務として法定受託事務に当たる(漁
業法137条の3第1項1号,水産資源保護法35条)。
そして,各大臣は,その所管する法律に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反しているか,又は著しく適正を欠き,かつ,明らかに公益を害しているときは,当該都道府県に対し,当該事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し,必要な指示をすることができるから(地方自治法245条の7第1項),漁業法及び水産資源保護法の所管大臣である被告は,本件指示の時点までに本件
各申請について許可処分をしないという原告の事務の遂行(本件事務遂行)が,①漁業法及び水産資源保護法等の法令の規定に違反するといえる場合,あるいは,②法令の規定に違反するとまではいえなくても,著しく適正を欠き,かつ,明らかに公益を害するものといえる場合には,その違反の是正又は改善のために講ずべき措置として,同項に基づき,
沖縄県に対し,本件各申請について許可処分をすることを求める指示(本件指示)をなし得るものといえる。

ところで,漁業法65条2項1号及び水産資源保護法4条2項1号が,漁業調整等及び水産資源の保護培養のために必要な水産動植物の採捕に
関する禁止又は制限を省令と並んで規則にも委任したのは,このような目的のために定めるべき採捕の制限等の内容には,専門技術的な知見に加え,地域の実情も踏まえた政策的な判断によって定めるべきものもあるためである。そうすると,かかる規則により定めるべき採捕の制限等の内容は,都道府県知事がその権限を付与された趣旨を踏まえて行う裁
量的判断に委ねられているものと解するのが相当である。そして,かかる委任を受けて設けられた本件規則41条に基づく特別採捕許可に関する判断についても,漁業法等による上記委任の趣旨に加え,同条が試験研究等以外に許可の要件を定めていないことからすれば,同様に沖縄県知事の裁量的判断に委ねられているというべきである。

そうすると,本件事務遂行が漁業法及び水産資源保護法に違反するというためには,本件指示の時点で,本件各申請について許可処分をしないことがこれらの法によって委ねられた裁量権の範囲を超え又はその濫用に当たるといえることが必要である(行政事件訴訟法37条の3第5項参照)。

また,本件規則41条の規定に照らせば,特別採捕許可は法令に基づく申請に対してされる処分であるというべきであるが,行政庁は,法令
に基づく申請についても,その審査のために必要な相当の期間が経過するまではこれに対する処分をする義務を負わないものと解されるから(行政事件訴訟法3条5項参照),本件事務遂行が,上記イのとおり違法となるためには,その前提として,まず,本件各申請について何らかの処分をすべき相当の期間が経過しており,何らの処分もしない
原告の不作為が違法であるといえることが必要になる。

以上によれば,本件事務遂行が漁業法及び水産資源保護法等の法令の規定に違反するというためには,①本件指示の時点までに,本件各申請について何らかの処分をすべき相当の期間が経過しており,かつ,
②本件指示の時点で,本件各申請について許可処分をしないことが,漁業法及び水産資源保護法により委ねられた裁量権の逸脱又は濫用に当たるといえることが必要である。
そして,本件事務遂行に著しい不適正等があるというためには,当該事務処理が,上記①及び②の要件を満たさず,違法とまではいえないと
しても,著しく不当であり,かつ,明らかに公益を害する場合であることが必要である。
なお,上記の点について,原告は,水産資源保護法4条2項1号は,特定の水産動植物の採捕に関する制限又は禁止を規則に委任するものであり,採捕の禁止を解除することはその委任の範囲に含まれないか
ら,特別採捕許可をしないという判断が同法の趣旨・目的に反するということはあり得ないなどと主張するが,同法が規則に委任する採捕の制限の中には,採捕を原則として禁止しつつ,これを例外的に許容する制度を設けることも当然に含まれ,特別採捕許可に係る判断も同法の委任の趣旨に反しないように行使されるべきことは明らかであるから,この点についての原告の主張は採用できない。


本件各申請について何らかの処分をすべき相当の期間が経過しているか否か

行政庁は,法令に基づく申請を受けた場合には,相当の期間内に
何らかの処分をすべき義務を負う。この相当の期間経過の有無は,対象となる処分の種類,性質,内容などに照らし,当該処分をするために通常必要な期間が経過したか否かを基準として判断するべきであり,
かかる期間が経過したにもかかわらず,何らの処分もされない場合は,これを正当化するような特段の事情がない限り,相当の期間が経過したものとして,行政庁の不作為は違法になるものと解するのが相当である。なお,当該処分について行政手続法6条に基づき標準処理期間が定められている場合,当該標準処理期間は,上記で述べた処分をするために通常必要な期間と当然に一致するものではないが,同期間の経過を判断するに当たり重要な考慮要素になるものというべきである。イ
これを本件についてみると,沖縄県は,本件規則41条の特別採捕許可について,行政手続法6条に基づき,標準処理期間を45日間と定め
ているところ,本件指示がされた時点では,既に本件申請1から199日,本件申請2から145日(いずれも土日及び休日を含まない。)が経過していたものである(なお,行政手続法6条は,地方公共団体の機関がする処分のうちその根拠となる規定が規則に置かれているものには適用されないが(同法3条3項),漁業法65条2項及び水産資源保護
法4条2項は,地域の特性に応じた配慮を可能とするために省令と並んで規則による規制を行わせるとしたものにすぎず,同規則に基づく処分はあくまでこれらの法律を根拠規定とするものであると解されるから,行政手続法6条の適用は除外されない。)。
本件各申請の内容をみると,採捕の対象とされているサンゴ類の群体数は合計3万9590群体,その種類は合計16科57属であり,公共事業等に伴う環境保全措置等ではなく,試験研究等のみを目的とする一般的な申請と比べると,大規模なものであるということはできる。もっとも,前記認定事実⑺のとおり,沖縄県では,平成18年から平成31年までの間に,本件事業以外の5つの公共事業に関して,事業の実施により影響を受けるサンゴ類を他の海域に移植すること等を目的として,
合計57件の特別採捕許可申請がされているところ,このうち申請から40日で許可された1件のほかは,全ての申請について数日ないし十数日の間に許可処分がされており,これらの申請の中には,その移植対象を1万6000群体以内とする大規模なものも含まれている。これらの同種事例における審査期間を踏まえると,本件各申請の採捕の規模を考
慮しても,本件各申請について,標準処理期間を大幅に超えるような審査期間が必要になるものとは考え難い。
また,本件各申請については,本件承認後に本件軟弱地盤部分の問題が判明し,別件訴訟等で本件承認の有効性が争われていたなどの事情もあるが,その性質上,これらの事情を踏まえた判断をするため,多数か
つ複雑な事実関係の確認が必要になるようなものではなく,前記認定事実⑶カ・キのとおり,これらの事情は,本件各申請に先立つ平成30年4月から同年12月までにされた本件各申請と同内容の特別採捕許可申請の時点でも生じており,既に数次にわたって審査の対象となってもいるのであるから,上記事情をもって,標準処理期間を大幅に超えるよう
な審査期間の必要性を根拠付けることはできない。
これらの事情を踏まえると,上記のとおり,本件規則41条の特別採捕許可に係る標準処理期間を大幅に超過した本件指示の時点においては,既に本件各申請について何らかの処分をするために通常必要な期間が経過していたものというべきである。

そこで,上記期間の経過を正当化するような特段の事情の有無について検討すると,前記認定事実⑸アのとおり,原告は,本件各申請がされ
た後,その審査に必要があるとして,沖縄防衛局に対して様々な照会をするなどの行政指導を行っており,沖縄防衛局もこれらの照会への対応等を続けていたものである。
もっとも,

沖縄防衛局は,令和2年2

月12日付けで,原告に対し,照会には全て回答しているとの前提に立
ち,原告が本件各申請について未だ何らの処分もしていないことを問題視し,速やかに許可処分をするよう求めているのであるから,遅くともこれ以降については,行政指導の必要性等を理由に処分を留保する根拠はなく,これをもって上記期間の経過を正当化することはできないといえる。

そのほか,上記特段の事情を認めるに足りる証拠はないから,本件指示の時点までに,本件各申請について何らかの処分をすべき相当の期間は経過していたというべきであり,何らの処分もしない原告の不作為は違法である。


本件各申請について許可処分をしないことが裁量権の逸脱又は濫用に当たるか否かについての判断枠組み

本件規則41条に基づく特別採捕許可申請については,沖縄県が行政手続法5条1項に基づいて審査基準(本件審査基準)を定め,これを公にしているところ,原告は,本件各申請について,本件指示の時点で,
本件審査基準に適合するとの判断ができないため,これを許可しなかった旨主張する。
本件規則33条2項は,周辺の水産資源の保護や漁場形成などの点で重要な役割を果たすサンゴ類を保護培養し,サンゴ類によって形成される漁場環境を保全するためにその採捕を禁止するものである。そして,本件規則41条は,このように漁業調整等及び水産資源の保護培養の観点から採捕を禁止等している水産動植物についても,試験研究等を
目的とする採捕には水産資源保護にも資する等の公益的な意義があることから,沖縄県知事において,採捕の目的の公益的な必要性と,当該採捕が漁業や水産動植物に与える影響の内容・程度等とを較量して,採捕を許容することが相当と判断する場合には,これを認めることができるとしたものであると解されるところ,本件審査基準の内容は,かかる趣
旨に合致し,一般的な合理性を有するものといえる。
前述のとおり,沖縄県知事は,漁業法及び水産資源保護法の委任を受けて本件規則41条に基づく特別採捕許可の制度を設けたものであり,同制度に関して上記のような審査基準が定められているにもかかわらず,当該基準に適合する申請を許可しないことは,それを正当化する特段の
事情がない限り,漁業法及び水産資源保護法により委ねられた裁量権の行使を誤るものであり,その裁量権の逸脱又は濫用に当たる行為というべきである。
そこで,以下では,本件各申請が本件審査基準に適合するか否かという点から検討するものとする。


本件各申請が本件審査基準のうち形式審査第1項から第3項まで並びに内容審査第1項及び第2項に適合することについては,当事者間で争いがなく,これを認めることができる。
そこで,本件各申請については,①内容審査第3項の申請内容に必要性が認められること(必要性基準),②同項の申請内容に妥当性が認められること及び内容審査第4項の採捕行為の実施により,漁業調整上又は水産資源の保護培養上,問題が生じるおそれがないと認められること(妥当性等基準)の適合性が問題となる。前述のとおり,本件規則41条に基づく特別採捕許可に関する判断は沖縄県知事の裁量に委ねられているところ,必要性基準,妥当性等基準の内容が上記のとおり抽象的,概括的なものに留まることからすれば,
沖縄県知事は,これら各基準の適合性の判断についても裁量権を有しているというべきである。そこで,上記検討に当たっては,本件各申請について上記各基準に適合しないと判断することがその裁量権の逸脱又は濫用に当たるかという観点から検討がされるべきであるといえる。⑷

申請内容に必要性が認められること
(必要性基準)について

前述のとおり,本件規則41条は,漁業調整等又は水産資源の保護培養の必要性から採捕を禁止等している水産動植物であっても,沖縄県知事において,採捕の目的の公益的な必要性と,当該採捕が漁業や水産動植物に与える影響の内容・程度等を較量して,採捕を許容することが相
当と判断する場合には,これを認めることができるものとした規定であるから,本件審査基準における申請内容に必要性が認められること(必要性基準)とは,このような公益的な必要性があることを許可の要件とするものであると解される。
また,本件規則41条及び本件審査基準は,その文言上は特別採捕許
可の対象を試験研究等を目的とする採捕に限定しているが,本件規則41条は漁業法65条2項及び水産資源保護法4条2項を受けて定められたものであるから,漁業調整等及び水産資源の保護培養を図るというこれらの規定の趣旨・目的に則して解釈されるべきである。そこで,採捕それ自体が当該水産動植物の保護培養を図るために必要なものであ
る場合等には,試験研究等のための採捕でなくても,これに準じるものとして,必要性基準における公益的な必要性を肯定することができ,特別採捕許可の対象にもなり得るものと解するべきである。

そこで検討すると,前記認定のとおり,沖縄防衛局は,本件出願に際し,環境保全措置の一環として,本件事業によりその生息場所を失うサンゴ類を他の海域に移植して避難させる方針を示し,当時原告の地位に
あったA知事は,かかる環境保全措置が実施されることも踏まえて本件承認をしたものである。本件各申請は,このように本件承認の前提とされている環境保全措置を履践するため,本件サンゴ類を他の海域に移植して避難させるとともに,移植後の調査・評価を通じてサンゴ類の移植技術の向上を図ることをその目的とするものである。

そして,沖縄防衛局は,本件承認を受けたことにより本件区域について本件設計概要に記載された埋立工事を適法に実施し得る地位を得ているから,通常は,かかる地位に基づく本件区域の埋立てが実施されることが確実に見込まれる状況にあるといえる。本件サンゴ類は,本件区域又はこれに間近い海域に生息しており,現に本件区域の埋立てが実施さ
れる場合には,その生息場所を失い,死滅等することが避けられず,本件サンゴ類の保護培養を図るためにはこれらを他の海域に移植して避難させることが不可欠な行為となる。前述のとおり,沖縄県知事は,サンゴ類を保護培養し,サンゴ類によって形成される漁場環境を保全する観点からその採捕を禁止しているのであるから,上記のようにサンゴ類の
保護培養のために不可欠な移植のための採捕について,その必要性を否定してこれを許可しないことは,水産資源の保護培養等の必要性から採捕の制限等を規則に委任した水産資源保護法4条2項等の趣旨・目的に反するものというべきである。
したがって,このような事情の下で,本件各申請について必要性基準
に適合しないと判断することは,特段の事情がない限り,その前提とする事実に重大な誤認があるか,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものといわざるを得ず,漁業法及び水産資源保護法により委ねられた裁量権を逸脱又は濫用するものとして許されないというべきである。ウ
もっとも,本件事業については,本件承認がされた後,本件区域の大浦湾側の海域の大半が軟弱地盤であり(本件軟弱地盤部分),本件設計概要に記載されていない地盤改良工事を施工しなければ工事を完成させることができないことが判明しており,本件指示の時点では,同地盤改良工事を実施するために必要な本件設計概要の変更承認の申請すらされていない段階であった。そこで,このような事情を前提としても,なお
本件各申請の必要性を否定する余地がないか問題となる。
まず,前述のとおり,沖縄防衛局は,本件承認によって本件設計概要に記載された埋立工事を適法に実施し得る地位を得ている。そして,本件設計概要に記載されていない地盤改良工事を施工しなければ工事を完成させられないことが事後的に判明したとしても,本件設計概要
に同地盤改良工事を追加する内容の変更承認(公有水面埋立法13条の2,42条3項)を受けて工事を完成させることが不可能ではない以上,上記事情をもって,本件承認の効力自体が消滅するものではない。
また,本件承認については,D副知事が,事後的にその要件を満た
さなくなったなどとして,これを取り消す処分(本件取消処分)をしているが,同処分については,国土交通大臣が,沖縄防衛局からの審査請求を受け,これを取り消す旨の裁決(本件裁決)をしている。本件裁決については,本件指示の時点で,別件訴訟等でその効力が争われていたが,同訴訟の提起に本件裁決の執行停止の効力はなく,また,
行政処分は,何らかの瑕疵があるものであっても,権限ある者によって取り消されるか,取消訴訟等で取り消されるまでは,その効力を否定することは許されないものと解されるから,原告においても,同時点では,本件裁決の効力を否定することはできないものというべきである。
そうすると,上記地盤改良工事の必要性という事情を前提としても,沖縄防衛局は,本件指示の時点で,本件承認に基づき,依然として本件設計概要どおりの埋立工事を適法に実施し得る地位を有しており,原告は,そのことを前提として本件各申請の許否を判断する必要がある。
もっとも,このように沖縄防衛局が本件設計概要に記載された工事
を適法に実施し得る地位を有していたとしても,前記認定のとおり,本件事業については,本件設計概要に記載のない地盤改良工事を経た上でなければ,本件軟弱地盤部分に埋立工事を施工することが技術的に不可能な状況であるから,沖縄防衛局としては,本件設計概要の変更承認を得た上で同部分の工事を施工することを予定していたものと
解される。そして,本件指示の時点では,沖縄防衛局は,上記変更承認の申請すらしておらず,今後,同承認を受けて本件軟弱地盤部分の埋立工事を実施できるかどうかは未だ不確定な状況にあったといえる。これらの事情に加え,移植後のサンゴ類の生残率は高くなく,移植は対象となる相当な割合のサンゴ類の死滅を伴うものであること(認定
事実⑴オ

)を踏まえると,少なくとも本件軟弱地盤部分の工事によ

って影響を受けることを理由とするサンゴ類の移植については,その実施が未だ不確定である以上,原告の裁量判断として,移植の必要性を否定することも許されるというべきである。
他方で,本件設計概要に記載された工事のうち,本件軟弱地盤部分上で施工されないものについては,上記地盤改良工事と関わりなく,本件設計概要どおりの内容で施工することが技術的に可能なものも含まれると考えられる。前述のとおり,本件指示の時点で,沖縄防衛局が依然として本件設計概要に記載された埋立工事を実施し得る法的地位を有していることからすれば,工事全体の中に本件設計概要どおりの内容で施工できない部分が含まれていたとしても,沖縄防衛局において,かかる部分は将来的に本件設計概要の変更承認を受けて実施する予定とした上で,その他の本件設計概要どおりの内容で施工できる部分に限り,変更承認に先立って施工するということも法律上は可能であると解される。そうすると,このような工事について,沖縄防衛局が変更承認に先立って直ちに施工する意向を有している場合には,
本件指示の時点で,それを妨げる法律上の根拠は何ら存在しないのであるから,原告としては,かかる工事が実施されるものであることを前提として,本件各申請の許否について判断する必要があるというべきである。
本件設計概要に記載された工事のうちK8護岸及びN2護岸の造成
工事は,本件軟弱地盤部分上で施工されるものではなく,上記地盤改良工事と関わりなく,本件設計概要どおりの内容で施工することが技術的に可能なものである(別紙4参照。甲53,乙2,60,弁論の全趣旨)。また,沖縄防衛局も,これらの護岸の造成工事について,変更承認申請等に先立って施工する方針であることを原告に示し,現
にそのうちの一部をサンゴ類等に影響を及ぼさない範囲で既に施工していたものである(甲45資料3,乙51,60,弁論の全趣旨)。そして,本件サンゴ類は,いずれもこれらK8護岸及びN2護岸の造成予定場所又はこれに間近い場所に生息しているから,これらの護岸の造成工事が実施される場合には,他の海域への移植がされない限り,
死滅等することを免れない(乙60)。
そうすると,前記ウの事情を踏まえても,本件指示の時点で,本件サンゴ類の生息場所を失わせる上記K8護岸及びN2護岸の造成工事が実施されることは確実な状況にあったといえ,本件各申請による本件サンゴ類の採捕は,これを保護・保全するための唯一の方法として,公益的な必要性があることは明らかである。
この点について,原告は設計ノ概要はその全体が一体ものであ
り,上記護岸の造成工事などに独立した用途・価値は存在せず,全体の完成が不可能な中で当該部分のみを施工しても本件事業の目的を達成することはできないのであるから,このような工事を施工する必要性をもって,本件サンゴ類の移植の必要性を根拠付けることはできな
い旨主張する。しかし,証拠上,沖縄防衛局において,本件設計概要の変更承認を得た上で,本件事業に係る工事全体を完成させる可能性があることは否定できない(法律上,上記可能性がなくなったといえるのは,沖縄防衛局による本件設計概要の変更承認申請に対して,原告がこれを不承認とする処分をし,この処分が確定したときであ

る。)。また,沖縄防衛局が変更承認申請に先行して上記護岸の造成工事を施工しようとしているのは,本件事業をできる限り早く完成させるために,着手することが可能な工事から順次実施していくという方針によるものであって(乙60),沖縄防衛局において,本件サンゴ類の移植の必要性を根拠付けるためだけに上記工事を施工しようと
しているなど,本件承認で付与された法的地位を濫用するものであることをうかがわせる事情もない。そうすると,たとえ上記護岸の造成工事などに独立した用途・価値がなく,結果的に変更承認を得ることができなかった場合はそれが無益な工事になるものであるとしても,本件指示の時点で,沖縄防衛局が変更承認申請に先行して上記護岸の
造成工事を施工することを妨げる法律上の根拠は存在しないといえる。したがって,原告としては,かかる工事が施工されることを前提に本件各申請の許否の判断をしなければならないというべきであり,この点に関する原告の主張は採用できない。
以上によれば,本件各申請についての必要性を否定することは,水産資源保護法4条2項等の趣旨・目的に反するものであり,これを正当化する特段の事情は認められない。本件指示の時点において,本件
各申請が必要性基準に適合しないという判断をすることは,その前提とする事実に重大な誤認があるか,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものといわざるを得ず,その裁量権の逸脱又は濫用に当たるというべきである。



申請内容に妥当性が認められること
採捕行為の実施により,漁業調整上又は水産資源の保護培養上,問題が生じるおそれがないと認められること(妥当性等基準)について

妥当性等基準の適合性判断の枠組みについて
本件規則41条の前記趣旨からすれば,申請内容に妥当性が認められること及び採捕行為の実施により,漁業調整上又は水産資源の保護培養上,問題が生じるおそれがないと認められることとは,採捕の目的の公益的な必要性と,当該採捕が漁業や水産動植物に与える影響の内容・程度等とを較量して,当該採捕を許容することが相当
といえることを許可の要件とするものであると解される。
前述のとおり,本件規則33条2項がサンゴ類の採捕を禁止する趣旨は,サンゴ類を保護培養し,サンゴ類によって形成される漁場環境を保全する点にあるところ,本件各申請は,そのままでは埋立工事により死滅することを免れない本件サンゴ類を他の海域に移植して避難
させるためにその採捕の許可を求めるものであり,本件規則により保護の対象とされるサンゴ類を保護培養するために不可欠な行為をその目的とするものである。このような採捕の目的の公益的な必要性を考えると,本件各申請に係る移植の具体的な内容・方法等がその目的に照らして適切なものであるといえる場合には,それによる漁業や水産動植物に与える影響の内容・程度を考慮しても,当該採捕が水産資源の保護培養等に資するものであることは明らかというべきであるから,これを許容することが相当である。このような場合にまで本件各申請が妥当性等基準に適合しないとしてこれを不許可とすることは,水産資源の保護培養の必要性から採捕の制限等を規則に委任した水産資源保護法4条2項等の趣旨・目的に反するものであり,法により委ねら
れた裁量権の逸脱又は濫用に当たるものとして許されない。
そこで,どのような場合に移植の具体的な内容・方法等がその目的に照らして適切なものといえるかについて検討すると,沖縄防衛局は,本件図書において,環境保全措置として行うべきサンゴ類の移植の内容・方法等についての方針等を示しており,当時原告の地位にあった
A知事は,かかる内容も踏まえて,本件出願が公有水面埋立法4条1項2号所定の其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコトに適合すると判断し,本件承認をしたものである。このような経緯からすれば,上記適切性も,まずは,その内容が本件図書に明示された方針に則したものとなっているかという点から判断
されるべきである。
ところで,本件図書は,移植の内容・方法等についての大まかな方針を示しているにすぎず,かかる方針に則する移植の内容・方法等には様々なものが考えられる。したがって,本件図書も,かかる方針を前提として,埋立承認を受けた後に移植の内容・方法の具体的な検討
がされることを予定しているものというべきであるから,本件各申請における移植の内容・方法等が,上記方針に則するものの中でも,更に具体的・実質的にみて避難措置として適切なものといえるかが問題となる。一般にサンゴ類の移植は,その移植後の生残率が高いものではないとされている上,大規模な移植は,移植先の環境を変化させる度合いも大きく,移植先の生態系に悪影響を及ぼす可能性がある。そうすると,本件各申請に係る移植の内容・方法等も,できる限り,本件サンゴ類の生残可能性が高くなり,かつ,移植先の生態系に及ぼす悪影響が少なくなるものであることが望ましいといえる。
もっとも,サンゴ類の移植技術は未だ十分に確立・評価されておらず,移植内容・方法等の違いによって,サンゴ類の生残率や移植先の
生態系への影響の度合いがどの程度変化するのかについては十分な科学的・客観的な裏付けのある研究結果や知見が示されてはいない状況にある(認定事実⑴オ

,弁論の全趣旨)。また,本件各申請のよう

に公共事業により影響を受ける多数の群体・種類のサンゴ類を周辺海域に避難させるために行う移植については,試験研究等のみを目的とする小規模な移植と比べて,採用できる移植の内容・方法等も限定されると考えられる上,本件事業についてはその必要性・公益性を前提にA知事から埋立承認を得ているのであるから,同事業に伴う環境保全措置としてのサンゴ類の移植の方法・内容を検討するに当たっては,同事業に係る予算や施行期間による制約があることについても考慮す
る必要があるといえる。これらの事情に照らせば,前述のとおり本件サンゴ類の保護培養に不可欠といえる本件各申請において,同種の許可事例でも実施されておらず,かつ,その実施によって具体的にサンゴ類の生残可能性を高めたり,移植先への悪影響を低減させたりすることが知見として確立されているとはいえない移植内容・方法の実施
を要求することは,事業者に過度な負担を課して本件サンゴ類を保全するための移植自体を困難にするものであり,かえって水産資源の保護培養という水産資源保護法の趣旨に反することにもなりかねないというべきである。
これらの点にかんがみると,妥当性等基準の適合性の判断における沖縄県知事の裁量権を考慮しても,本件各申請における具体的な移植の内容・方法等が,少なくとも,①本件図書に明示された方針に則しており,②同種の許可事例と比べて同等ないしそれ以上に手厚いものであり,かつ,③移植サンゴ類の生残可能性を低下させたり,移植先の生態系に特に悪影響を与えたりする具体的なおそれがあるとはいえないなど,その時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見
に照らし不合理といえない場合には,本件サンゴ類の避難措置という目的に照らして適切なものであると判断されるべきである。このような場合にまで,本件各申請が妥当性等基準に適合しないと判断することは,上記のとおり,水産資源の保護培養等を目的とする水産資源保護法4条2項等の趣旨に反するとともに,同種の許可事例との関係で
本件各申請のみを不合理に差別するものというべきであるから,その前提とする事実に重大な誤認があるか,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものといわざるを得ず,原告の有する裁量権の逸脱又は濫用に当たるものといえる。

この点について,原告は,本件各申請の目的には移植技術の試験研究も含まれるのであるから,同種の許可事例で採用されていない試験的な手法も積極的に用いるべきである旨主張する。しかしながら,本件各申請の目的は,主として本件事業の実施によりその生息場所を失う本件サンゴ類を周辺海域に移植して避難させ,その生残可能性をで
きる限り高める点にあり,前記⑷のとおり,本件各申請の必要性もその点をもって根拠付けられているものである。同種の許可事例で実施されておらず,かつ,サンゴ類の生残可能性を高めたり,移植先への悪影響を低減させたりすることが知見として確立されているとはいえない手法を試験的に実施することは,かえって移植するサンゴ類の生残率や移植先への影響の点で問題を生じさせる可能性も否定できない。本件各申請の上記目的に照らせば,事業者である沖縄防衛局が実施する意向を有していないにもかかわらず,原告において,このような試験的な手法を要求し,これが実施されないことを理由に本件各申請を許可しないとすることは,水産資源の保護培養を目的とする水産資源保護法の趣旨に反し,許されないというべきである。

なお,前記認定のとおり,本件各申請に係る移植の内容・方法等は,本件承認の留意事項を踏まえて設置された環境監視等委員会からの指導・助言を受けて定められたものであるが,同委員会が事業者である沖縄防衛局の設置した機関にすぎないことからすれば,その指導・助言を受けているからといって,原告において直ちにその内容を尊重す
るべき義務を負うものではない。もっとも,後記カで述べるとおり,環境監視等委員会は,サンゴ類の移植等に関する高度な専門的知見を有し,本件サンゴ類の移植計画に関しても十分な審議を行ったものと認められるから,同委員会の指導・助言を踏まえ,その異論を示されることなく定められた移植の内容・方法等は,その内容に特段不合理
な点がないのであれば,専門的知見の裏付けを伴う具体的・合理的な内容の反証が示されない限り,その時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に合致するものであることが裏付けられるというべきである。
以上で述べた観点から,以下,具体的な移植の内容・方法等として,
本件各申請における①移植対象の選定,②移植先の選定,③移植の方法,④事後調査の方法の適切性を検討し,⑤原告の主張する本件各申請が妥当性等基準を満たさないとする理由についても検討する。

移植対象の選定について
前記認定事実⑷アのとおり,本件各申請で移植対象となっている小型サンゴ類は,
被度5%以上で0.2ha以上の規模を持つ分布域の中にある長径10cm以上のサンゴ類という基準に従って選定されたものであり,本件事業においては,本件区域全域でライン調査を32測線,スポット調査を15地点実施するなどして,上記選定基準に該当するサンゴ類を調査している。
このような移植対象の選定方法の適否について検討すると,本件図
書では移植対象の選定基準・方法は明示されていないものの,被度5%未満の分布域内の小型サンゴ類の存在及びその保全については何ら言及されていない(甲61)
。そして,上記のような選定基準及び調査の範
囲は,その内容に照らし,本件事業に伴って生息場所を失う小型サンゴ類をできる限り幅広く避難させようとするものと評価できるから,本件
図書で明示された方針に則したものということができる。
また,前記認定事実⑺によれば,本件各申請は,那覇空港事業及び竹富航路事業におけるサンゴ類の特別採捕許可申請と,その目的・規模等が共通又は類似しており,これらと同種の許可申請というべきものである。そこで,これらの事業における移植対象の選定方法についてみると,
那覇空港事業において移植対象となる小型サンゴ類の選定基準は,被度10%以上の高被度分布域に生息するサンゴ類と本件事業よりも対象となるサンゴ類の被度が限定されたものである上,その調査範囲も,改変区域の一部についてのライン調査5測線,スポット調査3地点の実施に留まり,本件事業よりも調査の密度が低いものとなっている(甲4
5,乙30,31)
。竹富航路事業の選定基準は,

事業実施区域でも生存被度が10%以上と比較的高い群集とする。「生存被度10%未満の

区域でもサンゴ類がパッチ状に分布する場所では,可能な限り移植対象とする。
」などとされ(乙30,33)
,少なくとも本件事業における選
定基準が上記事業の基準よりも対象を限定する内容になっているということはできない。
前記認定事実⑶のとおり,環境監視等委員会の審議においても,上記
選定基準や調査の範囲については何らの異論も示されていない。そして,上記で述べた事情に照らせば上記選定基準や調査範囲の内容に特段不合理な点はなく,これらの点についての具体的な問題点をうかがわせる証拠もないから,かかる選定基準や調査範囲の内容はその時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に合致するものと認められる。
以上によれば,本件各申請における移植対象の範囲は,本件図書に記載された方針に合致し,同種の許可事例と比べて同等ないしそれ以上に手厚いものであり,かつ,その時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に照らし不合理といえないものである。

移植先の選定について
まず,本件図書におけるサンゴ類の移植先の選定方針等をみると,前記認定事実⑵

のとおり,同図書は,移植先については,①移植

元と環境が類似し,②同様なサンゴ種が生息し,③移植による移植先のサンゴ群生への影響が少ないと予測される場所を選定するものとしており,移植先候補地として,本件候補海域を示している。
また,本件図書は,既存資料並びに移植元及び移植先の踏査により整理すべき情報として,移植元の海域内のサンゴ群生の種別生息状況,群体数,群生被度,生息環境(地形,水深,生息基盤,水質,波当たり・流れの状況)等,移植先の海域のサンゴ群生の種別生息状況,群
体数,生息環境(地形,水深,生息基盤,水質,波当たり・流れの状況,食害生物,付着藻類,移植可能スペースの有無)等を挙げるほか,サンゴ類の移植を検討するに当たっては,沖縄県サンゴ移植マニュアル等も参照するとしている。
a
これを前提に本件各申請における移植先の選定についてみると,
S1地区及びS5地区はいずれも,本件図書が移植先候補地として例示する本件候補海域内にある。そして,本件候補海域は,平成9
年頃まではサンゴ類が高被度(被度50%以上)に分布しており,平成10年以降発生した白化現象によりその被度が低下したものの,水質条件等は良好であるため,地形・波浪条件にも照らして,条件が整えば今後回復する可能性がある海域(生息ポテンシャル域)に当たるところ(甲61),かかる事実自体から,本件移植先は,一
定の範囲で,①本件移植元と環境が類似し,②同様なサンゴ種が生息し,③移植によっても移植先のサンゴ群生に悪影響を及ぼさない可能性が高い海域であることが裏付けられているものといえる。
b
①本件移植先と本件移植元との環境の類似性について具体的にみると,前記認定事実⑷

のとおり,JPK地区とS1地区,及び

I地区とS5地区とでは,それぞれ,地形・水深が概ね一致するのみならず,一年間以上にわたり計測した数値の比較によれば,底面流速(海底面上1m)の最大値には違いがみられるが,水温,塩分濃度,波当たり,通常時の流れの状況,浮遊懸濁物質量(SS)などはいずれも一致ないし類似する。食害生物や付着藻類が確認されていない点でも同様であり,本件図書で挙げられている環境条件等の一致ないし類似性が認められる。
また,これらは主に本件移植元と本件移植先の特定の一地点のみ
の計測結果を比較したものであるが,前記認定事実⑶オのとおり,
本件移植先の選定に当たっては,環境監視等委員会からの指導を受け,周辺海域全体における生物相,底質,シールズ数,サンゴ礁の地形の各分布状況を示したハビタットマップ(甲46参考資料1~5。甲47参考資料)が作成され,海域全体の中での位置づけという観点からの検討もされている。これによれば,JPK地区とS1地区,及びI地区とS5地区とでは,それぞれ,周辺海域の中でも,生物相,底質,シールズ数,サンゴ礁の地形などが一致し,生物生
息場としての特性が類似する海域に存在することが認められる。
加えて,サンゴ類の固定・静置作業においては,移植元と海藻草
類の被度が類似した場所で,かつ,サンゴ類の大きさ・形状に応じた微地形を選定して配置するなどの方針が示されており(甲29),本件移植先の中でも,移植元との環境・状況が具体的に類似した場
所に固定・静置されることが予定されている。
c
②本件移植元と本件移植先に生息するサンゴ類の類似性についてみても,前記認定事実⑷

並びに証拠(甲3,4)及び弁論の全

趣旨によれば,JPK地区(これらの地区はその距離や環境の類似性に照らし一体のものとしてみるのが相当である。)に生息する主
なサンゴ類は,キクメイシ属,ハマサンゴ属,コモンサンゴ属及びアナサンゴ属などであるのに対し,S1地区に生息する主なサンゴ類は,JPK地区には少ないハナヤサイサンゴ属も含まれるものの,それ以外ではJPK地区に共通して多く生息するコモンサンゴ属,キクメイシ属及びハマサンゴ属などであることが認められ,類似性
があるといえる。I地区についても,その主な生息種は,カメノコキクメイシ属,キクメイシ属,トゲキクメイシ属,ハマサンゴ属などであるのに対し,S5地区では,ハマサンゴ属,キクメイシ属及びトゲキクメイシ属などであることが認められ,同様に類似性があるといえる。

d
上記aないしcで述べた事情からすれば,本件移植先は,いずれ
も,①移植元と環境が類似し,②同様なサンゴ種が生息する地域であるということができる。そして,このような環境条件やサンゴ類の種別生息状況の類似性からは,移植先の生態系に対しても,これまでおよそ生息していなかった動植物が移入するものでないという意味で移植の影響が相対的に少ないといえる。加えて,本件移植先
は,移植先のサンゴ類への影響を低減させるため,サンゴ類の被度がそれほど高くなく,移植可能なスペースが十分にあること(前記も考慮して選定されており,本件図書が求める③
移植先のサンゴ群生への影響も少ないという条件にも合致するものということができる。

また,本件図書で参照資料として挙げられている沖縄県サンゴ移
植マニュアルでは,移植先の選定に当たり注意すべき点として,
元々サンゴ類が生息していなかった場所は避けること,赤土・汚れが過剰に流れ込む場所は適地でないこと,極端に浅く流れの弱い場所を避けること,できるだけ移植元の海域の環境に近い場所にする
こと,サンゴの残骸,砂,泥が多い海域は一般に移植の適地とはいえないこと,遠隔地への移植を避けることなどが挙げられているが(甲60),前記認定事実によれば,本件移植先はこれらの点にも反しないものであることが認められる。
以上によれば,本件移植先の選定は,本件図書に明示された方針

に則したものということができる。
e
次に同種の許可事例と比較してみても,那覇空港事業や竹富航路事業では,移植先の選定について,移植元との環境の類似性,生息するサンゴ類の類似性,移植先の生態系への影響などの点で,上記で述べ
た以上に厳密な検討をしているという事情はない(乙30)
。むしろ,
これらの事業においては,単に特定の地点のみの環境条件を比較して移植先を決定している一方で,本件各申請では,ハビタットマップを踏まえたより包括的な観点からの検討も踏まえて移植先を選定しているものであり,同種の許可事例と比べて同等ないしそれ以上に手厚い検討がなされているといえる。
f
また,前記認定事実⑶エ・オのとおり,本件各申請に係る移植先は,環境監視等委員会からの具体的な指導・助言を受けて選定されており,実際に選定された本件移植先については委員から何ら異論は示されていない。そして,上記で述べた事情からすれば,本件移植先の選定それ自体やその選定過程などに特段不合理な点はなく,現に原告からも本件移植先よりも適切であるとする具体的な移植先の指摘などはされ
ていない。原告が提出する専門家の意見書(甲77~80)も,本件サンゴ類の移植先を本件移植先とすることによって生じ得る問題を指摘してはいるものの,これによって移植後のサンゴ類の生残可能性が低くなったり,移植先に特段の悪影響を与えたりする具体的なおそれがあることを裏付けるに足りる研究結果や確立した知見を示している
とはいえない。これらの事情を考慮すれば,本件移植先の選定は,その時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に照らし不合理なものではないといえる。
g
以上によれば,本件各申請における移植先(本件移植先)の選定は,本件図書に明示された方針に則しており,同種の許可事例と比べて同等ないしそれ以上に手厚いものであり,かつ,移植サンゴ類の生残可能性を低下させたり,移植先の生態系に特に悪影響を与えたりする具体的なおそれがあるとはいえず,その時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に照らし不合理といえないものであるというべ
きである。
原告の主張について
a
原告は,本件移植先を選定する過程で,本件移植先とその他の移
植先候補地(S2ないしS4地区)とを比較した上での検討がされておらず,本件移植先が他の候補地よりも移植先として適切であるという合理的説明がない旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本件移植先の選定に当たって

作成されたハビタットマップには,他の移植先候補地を含めた周辺海域全体の環境条件が示されており,かかるハビタットマップに基づく検討を通じて,本件移植先が他の移植先候補地との関係で優位性を欠くものではないことの検証もされているというべきである。具体的にみても,JPK地区との環境の類似性に関し,S2地区及
びS3地区はサンゴ類の被度や水深の点で,S4地区は地形等の点でそれぞれS1地区よりも劣るというべきであり(甲47参考資料,乙66),S1地区はこれらの地区と比べても移植先として適切であるといえる。また,I地区との環境の類似性に関し,S2ないしS4地区がそれぞれS5地区よりも劣ることは,前記認定事実から
明らかである。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
b
原告は,本件移植元と本件移植先の環境の類似性について,JP
K地区とS1地区とでは,底面流速の最大値や塩分濃度の最低値が
大きく異なっており,環境条件が類似しているということはできない旨主張する。
しかしながら,流速については,前記認定事実⑷

のとおり,

いずれの地区でも,通常時は弱い流れを感じる程度の場所であり,データ上もその最頻値(その環境で最も多く出現している流速)はJPK地区で毎秒1.8cm,S1地区が毎秒2.6cmと類似している(乙66)。塩分濃度についても,前記認定事実のとおり,JPK地区では32.4~34.9psu,S1地区では33.3~34.9psuと最低値が0.9psu異なるというものにすぎない上,S1地区の数値の方がサンゴ類の成育に最適な範囲である34ないし37psu(乙67)との乖離も小さい。原告の提出する専門家の意見書(甲77~80)をみても,移植元と移植先にお
ける上記のような程度の底面流速や塩分濃度の違いの有無によって,移植後のサンゴ類の生残率に有意な差が生じることを裏付ける研究結果などが示されているものではない。これらの事情に照らせば,原告の指摘する底面流速の最大値や塩分濃度の最低値の違いによって移植後のサンゴ類の生残可能性等に影響を与える具体的なおそれ
があるなどということはできず,これを理由に本件移植先が移植先として適切でないということはできない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
c
原告は,移植元と移植先に生息するサンゴ類の類似性について,
JPK地区の最優占種(最も多く生息している種(属))はキクメイシ属,次にハマサンゴ属であるのに対し,S1地区の最優占種はコモンサンゴ属であり,キクメイシ属は第4位にすぎないから,各地区に生息するサンゴ類が類似しているとは評価できない旨主張する。

しかしながら,本件移植元と本件移植先とでは,前述のとおり主
なサンゴ類の出現種(属)が全体として類似している上,サンゴ類の生育に影響を与える環境条件やハビタットマップから把握できる生物生息場としての特性も類似していることが認められる。そして,本件移植先が移植後のサンゴ類の生残率や移植先の生態系への影響
といった点で問題がないものである可能性が高いことは,これらの事情をもって十分に裏付けられているというべきである。原告の提出する専門家の意見書(甲77~80)などをみても,これらの事情に加えて,更にサンゴ類の最優占種や優占順位の一致までなければ,移植後の生残率や移植先の生態系への影響の点で問題が生じる具体的な危険があることを裏付けるに足りる研究結果や確立した知見は示されていない。本件各申請が多数の種類のサンゴ類が混在す
る生息域を移植元及び移植先とするものであることを考えると,上記のような状況で,移植先との最優占種や優占順位の一致まで求めることは,事業者に過度な負担を課すものといえる。
同種の許可事例のうち,本件各申請と同様に多数の種類のサンゴ
類が混在する生息域を移植元及び移植先とした竹富航路事業におい
ても,移植先と移植元とで最優占種や優占順位が一致することまでは求められておらず,また,そのことが原因となって,実際にサンゴ類の生残率の低下や移植先の環境への特段の悪影響が生じたなどの事情もうかがわれないのであるから(乙30,35,38),本件事業についてのみこれを求める合理的な理由は存しない。

以上によれば,原告の指摘する点を考慮しても,本件移植先の選
定がその時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に照らし不合理といえるものではなく,これを理由に本件各申請が妥当性等基準に適合しないと判断することは許されないというべきである。

d
原告は,本件各申請は多くの群体及び種類のサンゴ類を移植する
ためのものであるから,移植先の選定に当たっては,移植により移植先の環境を変化させ,魚類や底生生物等も含めた移植先の生態系に負の影響を生じさせないかについて,具体的な検討が必要で

あるにもかかわらず,本件各申請ではそのような検討がされていない旨主張する。
しかしながら,前記⑷判示のとおり,本件サンゴ類の保護培養のためにはこれを周辺海域に移植することが不可欠であり,かかる移植の実施は本件承認でもその前提とされているところ,このように多数かつ多種類のサンゴ類を移植する以上,一定の範囲で移植先の環境を変化させ,その生態系に影響を与えることは避けられないものである。
そして,前述のとおり,本件移植先は,平成10年頃に世界的な
白化現象が発生するまで,サンゴ類が高被度に分布していた海域にあり,本件サンゴ類を移植することで本件移植先周辺のサンゴ類の
被度が再度高まったとしても,そのことによる周辺の生態系全体への不利益は,他の海域に移植する場合と比べて小さいものと考えられる。また,本件移植先は,移植先のサンゴ類への影響を低減させるため,サンゴ類の被度が高くないことも考慮されて選定されている上,前述のとおり,本件サンゴ類には本件移植先に生息している
種類(属)のものも多く含まれており,移植によってこれまでおよそ生息していなかった動植物が移入するものでもない点で,本件移植先への負の影響が生じる可能性は他の海域に移植する場合に
比べて相対的に低いといえる。
環境監視等委員会においても,本件各申請に係る移植が移植先へ

の負の影響を与える具体的可能性については何ら指摘されてい
ない。また,那覇空港事業や竹富航路事業等の同種の許可事例をみても,移植先の選定に当たり,移植先への負の影響について,
本件各申請におけるもの以上に厳密な検討をしたという事情はなく,また,そのことが原因となって,実際に移植先の生態系に特段の悪
影響が生じた等の事情もうかがわれないのであるから(乙30,32,35,38),本件事業についてのみこれを求める合理的な理由は存しない。
そのほかに,本件サンゴ類の移植が本件移植先の生態系に悪影響
を与える具体的なおそれがあることを裏付ける証拠もないから,原告の指摘する点をもって,本件移植先の選定がその時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に照らし不合理といえるもの
ではなく,これを理由に本件各申請が妥当性等基準に適合しないと判断することは許されないというべきである。
e
原告は,本件各申請に係る移植が大規模なものであることから,
複数の移植先候補地にサンゴ類の一部を試験的に移植し,試験移植
後のサンゴ類の状態を基に最も優れた移植先を選定するなど,自然環境における移植の不確実性を考慮した慎重な選定方法が採用されるべきである旨主張する。
しかしながら,前述のとおり,本件各申請においては,各種の環
境条件等の一致ないし類似性に加え,ハビタットマップを踏まえた
より包括的な観点からの検討も踏まえて移植先を選定しており,移植後のサンゴ類の生残率や移植先の生態系への悪影響の点での問題が生じない可能性が高いことが十分な根拠をもって裏付けられているものといえる。また,本件各申請は,本件事業に伴う環境保全措置をその目的とするものであるところ,原告の主張する試験的移植
を採用した場合,各試験移植先のサンゴ類の状態の有意差を確認するためには相応の期間を要するものと考えられ,本件事業の施行期間に大きな影響を与える点でも相当とはいい難い。
那覇空港事業や竹富航路事業等の同種の許可事例においても,原
告の主張するような試験的移植は実施されておらず,また,そのこ
とが原因となって,実際にサンゴ類の生残率の低下や移植先の環境への特段の悪影響が生じた等の事情もうかがわれないのであるから(乙30,32,38),本件事業についてのみこのような試験的移植の実施を求める合理的な理由は存しない。
以上によれば,原告の主張する試験的移植を採用しないことをも
って,本件移植先の選定が,その時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に照らし不合理といえるものではなく,これを
理由に本件各申請が妥当性等基準に適合しないと判断することは許されないというべきである。
f
以上のとおり,本件移植先の選定に関する原告の主張は,いずれ
も妥当性等基準への適合性を否定するべき事情に当たらず,これらを理由として,本件各申請について妥当性等基準に適合するとはい
えないとすることは,その前提とする事実に重大な誤認があるか,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものといわざるを得ない。

移植の方法
前記認定事実⑷ウのとおり,本件各申請では,サンゴ類の移植の方法について,潜水士による人力での採取を基本とするとされている上,元の群体形を壊さないようにするため,移植するサンゴ類の形態に応じて用いるべき採取方法が具体的に定められている。また,移植先へ
の運搬は,採捕したサンゴ類へのストレスを最小限に抑えるため,運搬時間の短縮に努めながら,できる限り空気に触れない方法が定められている。固定方法については,同種事業で使用事例の多い充填目地材(水中ボンド)を用いるとともに,波浪により礫や転石が衝突する可能性を低下させるため,できる限り,窪地ではなく,周囲の海底よ
りも1~2m程度高い場所に固定・静置するものとされている。移植時期についても,高水温が確認された場合は,専門家に相談の上,実施の有無を判断するとされているほか,平穏な海象条件時に移植するとともに,作業前に繁殖活動の有無を確認し,繁殖活動が確認された場合はその終了を待って行うものとされている。
このような移植の方法の適否について検討すると,前記認定事実⑵本件図書では,サンゴ類の移植の方法に関し,最も適
切と考えられる手法により行うと記載され,検討すべき内容としては群生の採取方法,運搬方法,移植先での設置,移植先でのサンゴ類生息阻害要因対策などが挙げられているほか,沖縄県サンゴ移植マニュアル等も参照すると記載されている。

採取方法,運搬方法,移植先での設置,移植
先でのサンゴ類生息阻害要因対策などの点で,それぞれ,沖縄県サンゴ移植マニュアルで指摘されている注意点や紹介されている方法に則したものとなっている(甲60)。また,可能な限りサンゴ類の生残可能性が高くなるように配慮された方法が採られていると評価するこ
とができ,本件図書に明示された方針に則したものといえる。
同種の許可事例との比較でみても,上記

移植方法は,那覇空港

事業や竹富航路事業における小型サンゴ類の群体移植に関する方法と概ね一致しており(乙30),むしろ本件事業ではサンゴ類の群体形に応じた採取方法が具体的に定められていたり,那覇空港事業において窪地に配置されたサンゴ類が波浪により被災したという知見を踏まえ,できる限り周囲の海底よりも1~2m程度高い場所に固定・静置するとされていたりする(甲3,4,乙39)点で,これらの事業よりも一層適切な内容になっているというべきである。
前記認定のとおり,環境監視等委員会の審議においても,上記移植の
方法自体については,何らの異論も示されていない

の方法を採

用することによって,移植後のサンゴ類の生残可能性が低くなったり,移植先に特段の悪影響を与えたりする具体的な危険性があることをうかがわせる証拠はなく,上記で述べた事情に照らせば,

の内容に特

段不合理な点はないというべきであるから,かかる移植方法の内容は,その時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に合致するものといえる。
以上によれば,本件各申請における移植の方法は,本件図書に明示された方針に則しており,同種の許可事例と比べて同等ないしそれ以上に手厚いものであり,かつ,移植サンゴ類の生残可能性を低下させたり,移植先の生態系に特に悪影響を与えたりする具体的なおそれがあるとは
いえず,その時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に照らし不合理といえないものであるというべきである。
これに対し,原告は,本件各申請は多数の種類のサンゴ類を移植するものであり,サンゴ類はその種類によって特性が異なるのであるから,移植するサンゴ類の種類ごとに移植方法(採取・運搬・固定)や
配置場所の決定方針等を示すべきである旨主張する。
そこで検討すると,サンゴ類は,同じ種類であっても生育環境により群体形(塊状,被覆状,樹枝状などのサンゴ類の形態)が異なり,群体形によってその特性も異なってくるものであるところ(甲65),本件各申請では,移植するサンゴ類の群体形ごとに用いるべき採取方
法を定めたり,移植するサンゴ類の大きさや形状に適した微地形を選定して配置する方針を示したりするなど,移植するサンゴ類の特性にも一定程度配慮した移植方法を定めている。このような事情に加え,本件各申請が多数の群体及び種類のサンゴ類を対象とするものであること,サンゴ類の種類ごとの特性に適した移植方法や固定場所などに
ついての確立した知見が存在せず(甲64,弁論の全趣旨),そのような状況で何らかの方針を定めたとしても,必ずしも生残率の上昇や移植先の生態系への悪影響の低下などの効果をもたらすものではないと考えられること,環境監視等委員会も,サンゴ類の種類ごとの特性に応じた移植方法・配置場所等の方針を設定することまで求めているとはいえないことを考慮すれば,本件各申請において,このような方針の設定まで求めるのは,事業者に過度な負担・困難を課すものとい
うべきである。
那覇空港事業や竹富航路事業等の同種の許可事例をみても,申請書に記載された移植方法は,極めて簡潔なものであったり,群集特性に合わせた移植をするといった包括的な方針が示されたりしている程度であって,サンゴ類の種ごとの移植方法や配置場所の決定方針等を示
すことは求められていない(乙30)。また,これらの事業において,原告の主張する方法が採られなかったために,実際に移植後の生残率が低下したり,移植先の生態系への具体的な悪影響が生じたりしたなどの事情もうかがわれないのであるから(乙33,38),本件事業についてのみ上記のような方法を求める合理的な理由は存しない。
これらの事情を踏まえると,原告の主張は,同種の許可事例でも実施されておらず,かつ,その実施によって具体的に本件サンゴ類の生残可能性を高めたり,移植先の生態系への悪影響を低減させたりすることが知見として確立されているとはいえない方法を要求するものであり,本件各申請についての判断の過程において考慮すべき事情とは
いえない。これを理由に本件各申請が妥当性等基準に適合しないと判断することは許されず,この点に関する原告の主張は採用できない。オ
移植後の事後調査について
前記認定事実⑷エのとおり,本件各申請では,移植したサンゴ類の
モニタリング調査として,当分の間は概ね1週間ごと,その後は沖縄県と協議して概ね3か月ごとに,潜水目視観察によって,サンゴ類の生息状況・成長度合い(サイズ,生残状況,食害生物の状況など)を観察し,評価基準に従って評価するとされている。また,移植したサンゴ類だけでなく,周辺の自然環境及び元々生息していたサンゴ類等の状況についても観察し,移植したサンゴ類の生残率等の評価に供するとされている。
そして,上記評価基準としては,①移植したサンゴ群集の総被度・種類数が移植直後から著しく減少していないか,②移植したサンゴ群集に集まる魚類・大型底生生物の種類数・個体数が事前調査時点から著しく減少していないか,③移植したサンゴ類の骨格中に成熟したバ
ンドル・プラヌラ幼生がみられるかという点が挙げられている。
このような事後調査の内容の適否を検討すると,前記認定事実⑵イのとおり,本件図書では,移植後の事後調査に関し,サンゴ類の生育状況を調査すると記載され,具体的検討内容としてモニタリング手法(頻度,方法,管理)が挙げられている。上記のとおり,本件
各申請に係る事後調査では,移植後のサンゴ類の成育状況(サイズ,生残状況,食害生物等の状況など)について,当分の間は概ね1週間ごとに潜水目視観察を行うとされており,移植されたサンゴ類に異常や成長阻害要因等が生じた場合にも,これを直ちに認識して対策を講じ得る内容になっているといえる。また,移植したサンゴ類だけでな
く,周辺の自然環境及び元々生息するサンゴ類等の状況をも観察の対象とするものであり,多数のデータを集積することが予想され,試験研究としての意義も期待できる。これらの内容は沖縄県サンゴ移植マニュアル記載のモニタリング手法等にも概ね則したものであり(甲60),本件図書に明示された方針に則したものというべきである。
同種の許可事例と比較してみても,

事後調査におけるモニ

タリングの方法・評価基準などは那覇空港事業及び竹富航路事業におけるものと概ね同じ内容である(乙30)。むしろ調査頻度の点では,那覇空港事業では移植後1,3,6か月及び1年後に実施された後は年2回とされ,竹富航路事業ではサンゴ群集が安定するまでの数か月は月1回程度,その後は年1回程度とされているなど,本件各申請におけるものよりも少なく,また,これらの事業では移植先の周辺環境や元々生息していたサンゴ類は明示的には観察の対象とされておらず(乙30,33,38),

事後調査は同種の許可事例よりも

手厚い内容になっているといえる。
環境監視等委員会の審議においても,上記
事後評価の内容につ

いては,明確な異論は示されておらず,上記で述べた事情に照らせば,その内容に特段不合理な点もないから,その時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に合致するものといえる。
以上によれば,本件各申請における事後調査の内容は,本件図書に明示された方針に則しているとともに,同種の許可事例と比べて同等
ないしそれ以上に手厚いものであり,かつ,その時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に照らし不合理といえないものであるというべきである。
これに対し,原告は,移植後の事後評価について,移植技術の研
究・発展という面から,①移植されたサンゴ類の生残率などの定量的
な数値を目標として設定するべきである旨,②移植の妥当性を評価するために,移植したサンゴ類と移植先に元々生息していたサンゴ類の成長度合いや白化・食害状況等を比較し,生育環境と相関関係があるかどうか等を統計的手法によって評価するべきである旨主張する。そこで検討すると,本件各申請は,本件事業の実施によりその生息
場所を失う本件サンゴ類を周辺海域に移植して避難させるとともに,移植技術の試験研究を行うことをその目的とするものであるが,前記⑷判示のとおり,本件各申請の必要性は,主に本件サンゴ類の避難措置としての移植を行う点をもって根拠付けられている。事後評価に関し,移植技術の試験研究という面から申請内容よりも望ましいといえる方法があるとしても,そのことのみをもって,直ちに本件サンゴ類の保護・保全のために不可欠な本件各申請を不許可とすることは,水産資源の保護培養を目的とする水産資源保護法の趣旨に沿わないものであり,相当とはいい難い。
また,上記①の点をみると,サンゴ類の移植後の生残率は種類や大型台風などの外的要因の有無によっても大きく異なり(乙39,弁論
の全趣旨),本件各申請のように多数かつ多種のサンゴ類の移植をする場合に,特定の生残率を目標として設定しなければ試験研究として不適切といえるかは疑問である。本件各申請における評価基準は,移植前後におけるサンゴ群集の総被度・種類数やサンゴ群集に集まる魚類や大型底生生物の種類数・個体数の相違など,客観的な数値を基礎
とするものであり,このような数値と,一般的な生残率,移植後に生じた外的要因の有無,同種許可事例での数値などの諸事情を総合考慮して移植を評価・分析するという方法も,試験研究としての意義は十分に認められるというべきである。
上記②の点についても,原告の指摘する統計的分析を実施するため
には,分析の前提となる移植先の周辺状況等に関する詳細なデータを取得するために相当の費用・期間を要し,事業者に相応の負担を課すことになるところ,本件事業について予算や施行期間による制約が存することは前記説示のとおりである。一方で,本件各申請における事後調査でも,周辺の自然環境及び元々生息するサンゴ類等の状況を観
察の対象としているから,移植したサンゴ類と元々生育していたサンゴ類との生育状況の相違や傾向をつかむことは十分に可能であり,それ自体で試験研究としての一定の意義はあるといえる。
これらの事情を踏まえると,本件各申請の事後評価の内容は,試験研究という側面からも十分な意義を有するものといえる。那覇空港事業や竹富航路事業などの同種の許可事例においても,原告の主張する方法は採用されておらず,これを本件事業においてのみ求める合理的
な理由は見当たらない。
原告は,環境監視等委員会において,委員から,統計的手法による評価を取り入れることを求める発言や(第20回委員会),サンゴ類の生残率などの定量的な数値を目標として設定することを求める発言(第22回委員会)があった旨主張する。しかし,いずれの発言の内
容も本件各申請にこれらの方法を取り入れることを明確に求めるものとまではいえず(甲49,51),特別採捕許可の申請をするに当たって,本件各申請又はこれと同内容の移植計画が諮られた際には,いずれの委員からも上記

事後評価の内容につき異論は示されていな

い。そうすると,原告の指摘する委員の発言も,参考とするべき一般
的な生残率や統計的手法などを紹介・提案したに留まり,これらを取り入れなければ,試験研究としての意義を欠く,あるいは移植計画自体が不適切になるという趣旨のものではないと解すべきである。
以上によれば,原告の主張する上記①及び②の点が取り入れられなければ,当該事後評価の方法が,その時点でのサンゴ類の移植に関す
る専門的・技術的知見に照らし不合理といえるものではなく,これを理由に本件各申請が妥当性等基準に適合しないと判断することは許されない。

原告において本件各申請が妥当性等基準を満たさないとするその他の理由について
原告は,①環境監視等委員会による指導・助言は十分な数の専門家の意見を踏まえたものではなく,また,本件各申請に係る移植の内容・方法等については,②同委員会で実質的な審議がされておらず,③審議の中で委員からされた指導・助言が十分に反映されていないとして,同委員会による指導・助言を受けていることをもって,本件各申請に係る移植の内容・方法等の適切性を担保することはできない旨主張する。
しかしながら,上記①についてみると,前記認定事実⑶アのとおり,環境監視等委員会は13名にも及ぶ各分野の学識経験者で構成されており,その中でもサンゴ礁学等を専門分野とするE委員と,サンゴ礁
生物学等を専門分野とするF委員は,いずれもサンゴ類の移植に関する手引き等の作成に関与しているなど,サンゴ類の移植に関する高度な専門的知見を有していると認められる。これらの事情によれば,環境監視等委員会は,本件各申請の適切性を客観的に担保し得る専門的知見を有しているものと評価できる。

また,上記②の点についても,前記認定事実⑶イないしカのとおり,本件各申請に係る移植の内容・方法等の確定に至るまでには,環境監視等委員会で同内容・方針等に関して複数回にわたる会議が開催されており,相応の時間をかけて審議されている。その中では,委員から,移植先の選定について,新たにハビタットマップを作成して従前と異
なる観点での検討をするよう求められたり,I地区に生息するサンゴ類の移植先について,候補地とされていなかった辺野古前面海域での選定を検討するよう求められたりしており,沖縄防衛局も,これらの指導・助言を踏まえた検討を行って移植先の選定に至っているものである。このように環境監視等委員会では,沖縄防衛局からの提案を単
に是認するのではなく,その抜本的変更を含む検討をも求めるなどしているのであって,このような審議経過からすれば,本件各申請に係る移植の内容・方法等は,同委員会における十分な審議を経て定められたものと評価できる。仮に本件各申請に係る移植の内容・方法等について,委員からの指摘・発言の数が少なかったという事情があったとしても,上記審議経過に照らせば,指摘・発言がされなかった部分については沖縄防衛局の提案内容に特段の問題がなかったことを意味するものにすぎないとみるべきであり,そのことをもって同委員会での審議が不十分であったということにはならない。
上記③の点についても,これまで環境監視等委員会及び同委員から,その指導・助言等に沖縄防衛局が適切に対応しなかったなどといった
注意ないし指摘がされた事実はなく(弁論の全趣旨),実際にも,沖縄防衛局は,ハビタットマップの作成やI地区に生息するサンゴ類の移植先の再検討といった抜本的変更を含む委員からの指導・助言を計画に反映させている。そして,最終的に本件各申請又はこれと同内容の移植計画が諮られた際には,委員からその内容について異論が示さ
れることなく了承されるに至っていることも考えると,移植の内容・方法等の検討段階で委員から様々な意見が出されたことがあったとしても,それらはいずれも沖縄防衛局において対応しているか,対応していないものがあるとしても,委員としてはそれをもって直ちに移植計画が不適切になるという趣旨で意見を述べたものではないと解する
のが相当である。原告の指摘する点をもって,環境監視等委員会の指導・助言が移植の内容・方法等に反映されていないと評価することはできない。
以上によれば,環境監視等委員会の指導・助言を受けていることは,本件各申請に係る移植の内容・方法等がその当時のサンゴ類の移植に
関する専門的・技術的知見に合致することを裏付けるに足りるものといえ,この点に関する原告の主張は採用できない。
原告は,本件各申請について,①その対象区域である辺野古大浦湾海域(以下本件海域という。
)が自然海岸の多く残る環境であるこ
と,②移植対象となるサンゴ類の群体数及び種類が膨大であり,その中には移植の実績が乏しかったり,個々の種によって特性が異なったりするものも含まれることなどから,那覇空港事業や竹富航路事業などにおける許可事例とは質的にも量的にも根本的に異なり,これらの事例での取扱いを理由に本件各申請を許可するべきということはできない旨主張する。
a
そこで上記①の点についてみると,原告の主張するとおり,本件海域は自然海岸の多く残る環境であり,多様な生物種で構成される生態系を有しているのに対し,那覇空港事業の対象海域は,都市地区沿岸の環境にあり,海岸線は概ね護岸で一部に自然海岸が残る程度である。もっとも,同海域も,種類数では本件海域に及ばないものの,貴重な種を含む多様な生物種の生息が確認されている点では変わりがない上,
同事業における移植元は,沖縄県沿岸域における自然環境の保全に関する指針において,本件移植元と同様に自然環境の厳正な保護を図る区域として指定されている。(甲61,68,乙50)
また,竹富航路事業の対象海域は,本件海域と同様,その大半が自然海岸である上,その周辺海域(石西礁湖)は,400種を超えるサ
ンゴ類が分布する我が国最大のサンゴ礁であり,沖縄本島等へのサンゴ幼生の供給源として重要な役割を果たしていると評価される地域である。周辺には国立公園,海中公園地区などに指定されている地域もあるほか,前記指針上も,その大半が自然環境の厳正な保護を図る区域と指定されており(乙30,33,50),環境の貴重性,保

護の必要性は本件海域に優るものといえる。
これらの事情によれば,事業の対象海域における自然環境の違いをもって,各事業における取扱いを異ならしめる合理的な理由にはならないというべきである。
b
次に上記②の点についてみると,前記認定事実⑷アのとおり,本件各申請で移植対象となるサンゴ類の群体数は合計約3万9590群体,
その種類は合計16科57属であり,本件事業全体でみると,移植対象となる小型サンゴ類の群体数は約7万4000群体,その種類は16科60属にも及ぶことが想定されている(甲3,4)

これに対し,那覇空港事業では,移植対象となる小型サンゴ類の種類(属)については,主にアオサンゴ,ミドリイシ属とされ,それ以
外のサンゴ類の種類は申請書等で明確に記載されていない。もっとも,申請対象となるサンゴ類の群体数は,申請当たり概ね数千から一万数千群体以内とされ(最も多いものでは1万6000群体以内)
,平成
25年度から平成26年度までに合計3万6682群体もの移植が実施されているほか,同時期に合計約1042㎡もの枝サンゴ群集の移
植もされており(甲1,乙30~32)
,少なくとも移植規模の面で
本件各申請及び本件事業に大きく劣るものではない。
また,竹富航路事業でも,平成23年度から平成28年度にかけて,合計2万9583群体が移植されている。採捕許可申請は複数回にわけてされ,申請ごとの群体数は概ね数千群体以内にとどまるが,最も
多いものでは1万群体以内というものもある上,同時期に多数の群集サンゴ類(合計約4504㎡。なお,同事業では4057㎡の群集サンゴ類が約8万2800の群体サンゴ類の面積に相当するとの換算結果が示されている。
)の移植も実施されている(甲1,乙30,38)

また,移植された群体の種類も,合計2万6242群体を移植した時
点までで13科33属126種に及んでおり(乙35)
,個々の特性
が異なる多数の種類のサンゴ類が移植されているという点では本件各申請と同様である。
このように本件各申請又は本件事業は,小型サンゴ類の群体移植
という範囲でみれば,その群体数及び種類数は那覇空港事業や竹富航路事業などの同種の許可事例よりも多いものの,上記事情に照らせば,その差が原告の主張するように質的にも量的にも根本的に異
なるといえるほど大きいものとはいえない。このような違いをもって,各事業における取扱いを異ならしめる合理的な理由に当たるということはできないというべきである。
c
原告は,上記に加えて,本件事業と竹富航路事業との相違点とし
て,同事業が実施された石西礁湖は,ある程度同一の環境が面的に存在する海域であり,同事業における移植はサンゴ類を近傍の同一環境の海域に移植するものであるのに対し,本件海域は異なる環境条件のもとに多様な生態系が形成されており,より複雑困難な移植活動が求められるなどとも主張する。

しかしながら,石西礁湖にも,多種多様なサンゴ類が混生する岩
礁域とある特定の種が優占する砂礫域など,環境条件の大きく異なる地域が混在している上(乙33),サンゴ類に限っても上記aのとおり400種を超える極めて多数の種類が生息しているのであるから,必ずしも本件海域と比べて環境条件や生態系の多様性が劣っ
ているなどと認めることはできない。加えて,竹富航路事業では,移植元から約3~4キロメートル程度離れた場所への移植等も含まれているのであって(乙30),移植活動の複雑性の程度が本件事業によるものと大きく異なるとは考えられず,原告が指摘する点をもって,本件事業と竹富航路事業の取扱いを異なるものとする合理
的理由には当たらない。
また,原告は,竹富航路事業では,サンゴ群集造成法という新た
な手法を開発し,試験移植を実施するなど様々な検討をしながら移植を行っているなどと指摘するが,同事業で採用されたサンゴ群集移設法は,礫底に固着していないサンゴ群集の移植に用いられたものであって,試験移植も,かかる方法が新たな移植法であることからその有効性を確認したものにすぎない。竹富航路事業においても,
本件各申請で対象とされるサンゴ群体の移植については,本件各申請と同様の方法で移植が行われているものであるから(乙33),上記の点についても,本件事業と竹富航路事業の取扱いを異ならしめる合理的理由には当たらないというべきである。
d
以上によれば,原告が,本件各申請の特殊性として挙げる点は,
いずれも本件事業と那覇空港事業及び竹富航路事業との取扱いを異ならしめる合理的理由にはなり得ず,この点についての原告の主張は採用できない。
原告は,本件指示の時点では,沖縄防衛局が将来的に施工すること
を予定する地盤改良工事等を追加した上での埋立工事(以下変更後工事という。)及びそれに伴う環境保全措置の内容が確定しておらず,
これらが明らかではない状況のもとでは,本件各申請の妥当性等基準の適合性を判断することはできない旨主張する。
a
前記のとおり,本件事業については,本件承認がされた後,本件埋立区域の大浦湾側の海域の大半が軟弱地盤(本件軟弱地盤部分)であり,本件設計概要に記載されていない地盤改良工事を施工しなければ埋立工事を完成させることができないことが判明しているが,本件指示の時点では,同地盤改良工事を実施するために必要な本件設計概要の変更承認の申請すらされておらず,変更後工事やそれに伴う環境保
全措置の内容は未だ確定していなかったものといえる。
地盤改良工事等の追加によって新たに本件移植先に生じる可能性のある影響としては,主に工事によって発生する水の濁りによるものが考えられるところ,上記のとおり変更後工事の内容が確定していない段階であっても,本件移植先にサンゴ類への悪影響を及ぼす程の水の濁りが拡がる具体的なおそれがなく,本件移植先の選定が移植の目的に照らして適切なものであると判断できるかどうかが問題となる。
b
前記認定事実⑵イ

のとおり,本件図書は,サンゴ類の保全のため

にはその生息場所に及ぶ水の濁り(SS)を2mg/L以下に留
める必要があるとした上で,本件設計概要記載の工事(以下変更前工事という)を前提とすれば,サンゴ類の高被度分布域(本件移植先を含む。
)に及ぶ工事中のSSが上記評価基準を超えることはない

との予測結果を示し(変更前工事予測結果)
,かかる予測結果などを
根拠として,変更前工事による水の濁りは周辺のサンゴ類に悪影響を及ぼすものではないとの評価をしている。そして,このような本件図書の記載を前提として本件承認がされており,その判断に特段不合理な点もうかがわれないことからすれば,本件各申請の審査の中で,変
更後工事に伴う水の濁りによる影響を検討するに当たっても,本件移植先に2mg/Lを超えるSSが及ぶ具体的なおそれがないといえるか否かという観点から判断するのが相当である。
c
そこで検討すると,埋立工事等に伴って発生する水の濁り(SS)は,主に浚渫工事,土砂投入工事及び地盤改良工事により水底土砂や工事用材などの土砂が海水中を浮遊することで発生するから(乙43)
,地盤改良工事の追加は,工事により発生するSSの量を増加さ
せる原因になり得るものである。もっとも,変更前工事により本件移植先に及ぶと予測される水の濁りは,全工事期間を通じて1mg/L
にも満たないとされているところ(甲61,乙42)
,上記地盤改良
工事等が追加されたとしても,濁りの拡散に影響を与える海象等の環境条件を大きく異ならしめるものではないと考えられ,その場合,工事の変更に伴う本件移植先への濁りの拡散の変化量は,概ね工事により発生するSSの量の変化量に比例するものといえるから(乙44),
変更後工事において,変更前工事の2倍を超える量のSSが発生する工法・工程等を採用するのでない限り,本件移植先に2mg/Lを上回るSSが及ぶ事態は生じないことになる。
そして,港湾工事では,工事により発生するSSの量を抑える汚濁対策として,護岸等で囲った閉鎖的な水域で埋立てを行うよう工程を組む方法,濁りの発生量の少ない工法・埋立用材を使用する方法,施
工期間を延ばして1日当たりの施工量を少なくして各時期に発生する濁りの量を抑制する方法,汚濁防止膜等の汚濁防止装置を用いて濁りの沈降を促進する方法など,一般的に確立され,広く行われている手法が存在している(乙43,44)
。現に変更前工事でも,中仕切護
岸等を造成して閉鎖性水域を作った上で埋立てを行ったり,汚濁防止
膜を設置したりするなどの汚濁対策が採用されており(乙71,72)
,変更後工事においても,上記のような一般的に確立されている
手法を用いることによって,SSの発生量等を抑制することは十分に可能である。
本件指示の時点では,変更後工事の内容は確定していなかったもの
の,沖縄防衛局が同時点で想定していた内容(本件変更計画)をみても,濁りの発生原因を増加させる工事として地盤改良工事が追加されている一方で,①周辺海域に汚濁防止膜を設置するほか,②中仕切護岸の位置を変更して閉鎖性水域での埋立工事の範囲を増加させ,③非閉鎖性水域においても,汚濁拡散低減効果のあるトレミー船での先行
埋立てを実施するとし,④地盤改良工事に際しては汚濁防止効果のある敷砂をトレミー船で投入するなど,濁りの発生を抑制する措置が取り入れられ,変更後工事によって本件移植先に及ぶSSは全工程を通じて2mg/L未満であるとの予測結果(変更後工事予測結果)も示されている(甲37,52資料3-6,乙63)
。かかる予測結果は,
本件図書の変更工事前予測結果でも用いられた一般的に確立した手法を用いているものである上,地盤改良工事の追加等に伴うSS発生負
荷量について,一部で環境に厳しい条件(SSの発生をより多く見込む条件)を設定して実施しているものでもあり(乙43,63,弁論の全趣旨)
,あくまで予測にすぎず,その内容を全面的に是認するこ
とはできないものの,ある程度の合理性は肯定できるというべきである。

d
上記cで述べた事情によれば,変更後工事に伴って発生する水の濁りによる影響について,工事内容が確定していない以上,厳密かつ具体的な検討はできないとしても,少なくとも,同工事について本件移植先に2mg/Lを超えるSSが拡散しない措置を採ることが,客観
的に見て不可能であったり,著しく困難であったりするものではないことが認められる。
そして,沖縄防衛局は,本件各申請に関する原告からの照会に対し,変更承認申請について本件移植先に悪影響を及ぼすようなものとはしない旨の方針を明確に示しており(前記認定事実⑸ア),実際にも,

本件出願から現在に至る経過の中で一貫して,本件移植先を含む周辺のサンゴ類の高被度分布域に2mg/Lを超えるSSが及ぶことがないように必要な監視措置等をとっている(甲61,乙45,60)。
また,沖縄防衛局は,本件事業の実施に伴う環境保全措置として,希少性のあるオキナワハマサンゴ9群体について,平成30年7月に特
別採捕許可を得て,本件移植先の近傍に既に移植してもいるのであって(甲48,弁論の全趣旨)
,これに加えて,本件各申請に伴って本
件サンゴ類が本件移植先に移植されることになれば,沖縄防衛局が,その後の変更承認申請や変更後工事の施工に際し,本件移植先に2mg/Lを超えるSSを確実に拡散させない措置を講じるであろうことは合理的な根拠をもって推認できるものといえる。また,これらの事情からすれば,沖縄防衛局が本件設計概要の変更承認を受けるために
は,変更後工事が本件移植先に悪影響を及ぼすものでないことが当然の前提になると解され,仮に変更後工事により本件移植先に2mg/Lを超えるSSが拡散することが想定される場合には,そもそも当該変更承認自体を受けることもできないものと考えられる。
これらの事情に照らせば,本件指示の時点を基準としてみても,沖
縄防衛局が将来的に施工する可能性のある変更後工事によって,本件移植先に2mg/Lを超えるSSが及ぶという事態はおよそ考え難い状況にあったものといえ,変更後工事及び環境保全措置の内容が確定していなかったことを踏まえても,本件移植先のサンゴ類に悪影響を及ぼす水の濁りが拡がる具体的なおそれはなかったものと認められる。
また,証拠上,変更後工事によって本件移植先に及ぶ可能性のあるその他の悪影響もうかがわれないから,変更後工事及びそれに伴う環境保全措置の内容が確定していないことをもって,本件各申請の妥当性等基準の適合性についても判断できないとすることは許されないというべきであり,この点に関する原告の主張は採用できない。


以上のとおり,本件各申請に係る移植の内容・方法等は,本件図書に記載された方針に合致し,同種の許可事例と比べて同等ないしそれ以上に手厚いものであり,かつ,移植サンゴ類の生残可能性を低下させたり,移植先の生態系に特に悪影響を与えたりする具体的なおそれがあるとはいえず,
その時点でのサンゴ類の移植に関する専門的・技術的知見に照らし不合理といえないものである。
したがって,かかる移植の具体的内容・方法は本件サンゴ類の避難措置という目的に照らし適切なものであるといえ,本件指示の時点で,本件各申請は妥当性等基準に適合しないと判断することは,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものといわざるを得ず,その裁量権の逸脱
又は濫用に当たる。


小括
上記⑵判示のとおり,本件指示の時点までに,本件各申請について何らかの処分をすべき相当の期間は経過している。
また,上記⑶ないし⑸判示のとおり,本件各申請は,本件指示の時点で,
原告の裁量権を踏まえてみても本件審査基準に適合すると判断されるべきものである。そして,本件全証拠をみても,原告において,本件各申請について同基準と異なる取扱いをすることを正当化できる特段の事情はうかがわれないから,本件指示の時点で本件各申請について許可処分をしないことは,漁業法及び水産資源保護法により委ねられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれ
を濫用するものといえる。
以上によれば,本件事務遂行は,漁業法及び水産資源保護法の規定に違反するものといえ,本件指示は,地方自治法245条の7第1項の定める要件を満たすものである。
3
争点⑵(本件指示にその他の違法事由があるか否か)について⑴

本件指示が沖縄県の機関である知事に対してされたという点についてア
地方自治法245条の7第1項に基づく是正の指示は,
都道府県に
対してなされるべきものであるところ,原告は,本件指示文書の宛名が沖縄県知事とされていることなどから,本件指示は,沖縄県ではなく,
沖縄県知事という行政機関に対してされたものであり,関与の法定主義に反し違法である旨主張する。

しかしながら,サンゴ類の特別採捕許可に係る事務はあくまで沖縄県の法定受託事務であり,地方自治法245条の7第1項に基づく是正の指示は,法定受託事務を担当した個々の執行機関ではなく,その事務の帰属する都道府県に対してのみなされるべきものであるところ,本件指示文書には,本件指示の対象となるのが上記特別採捕許可に係る事務であること,
同事務について地方自治法245条の7第1項を根拠として是正の指示をすることが明記されている(甲1)
。これらを含めた本件指示文書全体の
記載をみれば,本件指示文書をもって行われた本件指示は,あくまで沖縄県に対してなされているものであることが明らかであり,同文書の宛名が沖縄県知事とされていたとしても,それは沖縄県の代表機関としての
沖縄県知事を指す趣旨で記載されたものと解するのが相当である。したがって,本件指示は沖縄県に対してされたものであり,関与の法定主義に反するものではないから,この点に関する原告の主張は採用できない。


本件指示に国の関与の制度趣旨を逸脱した違法があるとの点についてア
原告は,地方自治法245条の3第1項等によれば関与は目的達成のために必要最小限度で地方公共団体の自主性及び自立性に配慮してされなければならず,個別の申請等について,地方公共団体が判断をする前に特定の処分をするよう求める指示をすることは,必要最小限度の範囲を超
え,地方公共団体の第一次的判断権を無視するもので,地方自治法245条の7第1項の是正の指示として行うことは許されない旨主張する。そこで検討すると,同項は,各大臣は,その所管する法律等に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき,又は著しく適正を欠き,かつ,明らかに公益を害していると認めるとき
は,当該都道府県に対し,当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し,必要な指示をすることができる旨規定する。その趣旨は,法定受託事務の適正な処理を確保することにあると解されるところ,法定受託事務の処理について,何らの処分もしないという点のみならず,特定の処分をしないという点でも違法な状態にある場合には,当該特定の処分をすることまで指示しなければ,当該法定受託事務の適正な処理を十分に確保することはできない。加えて,同
項が違反の是正等のため講ずべき措置の内容について何らの限定もしていないことを考慮すれば,違反の是正等のために必要なのであれば,同項に基づく是正の指示として,都道府県に対し,特定の処分をすることを求めることも許容されると解するべきである。
前記2で判示したとおり,本件各申請に係る原告の事務遂行(本件事務
遂行)については,本件指示の時点までに何らの処分もしないという不作為が違法であるというのみならず,許可処分をしないという点においても違法な状態にあったものである。そして,このような状態にあったにもかかわらず,原告としては,本件指示の時点で,本件各申請はその要件を満たさず,許可処分をすることはできないという考えを示してい
たのであるから,上記違法状態を是正するためには,本件各申請に対して何らかの処分をするよう求めるのみならず,許可処分をすることを求める必要があったということができる。被告において,上記のような事情の下で,本件指示をすることは適法であり,この点に関する原告の主張は採用できない。


また,原告は,被告が沖縄防衛局から入手したであろう検討中の資料を参照し,沖縄防衛局の意向のみを根拠に変更後の工事による濁りなどが本件移植先に及ぶものではないと判断していること,原告が第一次的判断を行使する以前に本件指示に至っていることなどから,本件指示は,
沖縄防衛局において審理の長期化が見込まれる義務付け訴訟を提起する事態を回避するために,沖縄防衛局と被告が一体となって行ったものであり,関与の制度趣旨を逸脱した違法なものである旨主張する。
しかしながら,前記認定事実⑸イによれば,被告は,本件各申請についての法定受託事務の処理について,独自に沖縄県ないし原告に対し,資料請求等を行い,勧告などを経て本件指示に至っており,その判断の前提となっているものは,基本的にこれらのやりとりによって取得した資
料であると認められる。そして,これらの資料等によれば,原告の本件事務遂行が違法であるとの判断を是認できることは前述のとおりであり,原告が指摘する上記事情をもって,本件指示が関与の制度趣旨を逸脱したものと認めることはできない。そのほか,本件指示について,関与の制度趣旨を逸脱したものであることを裏付ける事情は認められず,この
点に関する原告の主張は採用できない。
4
まとめ
以上のとおり,被告が,沖縄県に対し,本件各申請について許可処分をすることを求めた本件指示は,その要件を満たすものであり,その他にこれを違法とする事由も存しない。

第4

結論
以上によれば,本件指示が違法であるということはできず,原告の請求には理由がない。
よって,原告の請求を棄却するものとし,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所那覇支部民事部

裁判長裁判官


裁判官

本久保正道多智子
裁判官

平山俊輔
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