判例検索β > 令和2年(ネ)第61号
事件番号令和2(ネ)61
裁判年月日令和3年2月18日
裁判所名・部福岡高等裁判所  那覇支部
原審裁判所名那覇地方裁判所
原審事件番号平成29(ワ)412
裁判日:西暦2021-02-18
情報公開日2021-03-08 18:00:39
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主文1
本件控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ1万円及びこれに対する平成27年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要等(以下,略称については原判決のとおり。ただし,原判決中,原告は控訴人と,
被告は被控訴人と,
別紙は原判決別紙

とそれぞれ読み替える。

1
内閣は,平成26年7月1日,
国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備についてと題する新たな安全保障法制の整備のための基本方針を閣議決定し(平成26年閣議決定)
,平成27年5月14日,

自衛隊法を始めとする10の法律の改正を主な内容とする平和安全法制整備法及び新設の国際平和支援法(安保法)に係る各法律案(安保法案)を閣議決定し(平成27年閣議決定)
,翌15日,これを衆議院に提出した。安保法案は,
その後両議院で可決され,同年9月19日に成立した。
本件は,控訴人らが,内閣による平成26年閣議決定,平成27年閣議決定
及び安保法案の国会提出並びに国会による同法案の可決と制定(本件各行為)によって,控訴人らの平和的生存権,人格権及び憲法改正・制定権が侵害されたと主張して,被控訴人に対し,それぞれ,国賠法1条1項に基づき,慰謝料各1万円及びこれに対する安保法成立の日である平成27年9月19日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審が控訴人らの請求をいずれも棄却したところ,控訴人らがこれを不服として控訴した。なお,原審においては,控訴人らのほかに2名が,それぞれ上記と同様の損害賠償請求をしており,原審はこれらの請求についても棄却したが,同人らは控訴しなかったため,同人らに関する原判決は確定した。2
前提となる事実等,争点及びこれについての当事者の主張は,次のとおり訂正するほかは,原判決の事実及び理由第2の1及び2のとおりであるから,これを引用する。


原判決3頁26行目の同法案の内容は,概ね以下のとおりであるを
同法案には,以下の内容が含まれるに改める。

原判決4頁1行目冒頭から同3行目末尾までを次のとおり改める。
①自衛隊法95条の2を新設して,自衛官は,米軍その他の外国の軍隊その他これに類する組織の部隊であって自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動(共同訓練を含み,現に戦闘行為が行われている現場で行われているものを除く。)に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり,人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には,その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用できるものとする。⑶

原判決4頁7行目末尾のあわせから同11行目末尾までを次のとおり改める。

重要影響事態に対処し,日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行う米軍等に対する物品及び役務の提供等の支援措置(後方支援活動。改正前は含まれていなかった自衛隊による弾薬の提供及び戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油・整備も含まれる。)などが,現に戦闘行為が行われている現場でなければ,実施できるものとする(改正前は後方地域(我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず,かつ,そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空の範囲)に限り実施できるものとしていた。。)⑷

原判決4頁24行目冒頭から同5頁4行目末尾までを次のとおり改める。
④国際平和支援法を新設し,「国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって,その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い,かつ,我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの(国際平和共同対処事態)

に際し,上記事態に対処するための活動を行う外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供(協力支援活動。自衛隊による弾薬の提供及び戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油・整備も含まれる。
)などが,
現に戦闘行為が行われている現場でなければ,実施できるものとする。⑤

国際平和協力法を改正し,国際連合(以下国連という。
)の統治下
での国際連合平和維持活動に加え,国連の統括しない国際連携平和安全活動への協力活動についても定めるものとし,その業務内容についても,いわゆる安全確保業務(住民・被災民の危害の防止等特定の区域の保安維持・警護などの業務)と駆け付け警護(PKO等の活動関係者について,生命又は身体に対する不測の侵害又は危難が生じ,又は生じるおそ
れがある場合に,緊急の要請に対応して行う当該活動関係者の保護業務)を追加する。

第3

当裁判所の判断

1
当裁判所も,原審同様,控訴人らの請求はいずれも棄却されるべきものと判断する。その理由は,次のとおり訂正するほかは,原判決の事実及び理由第3のとおりであるから,これを引用する。



原判決31頁18行目の2を1に改める。


原判決30頁25行目冒頭から同31頁17行目末尾までを削除する。
原判決32頁21行目の困難であるをできないに改める。



原判決33頁14行目の3を2に改める。



原判決33頁19行目冒頭から同35頁3行目末尾までを次のとおり改める。
ア①生命・身体に直結する人格権について控訴人らは,安保法に基づく集団的自衛権の行使及び後方支援活動等の実施は,日本が戦争当事国となったり,戦争に巻き込まれたりする危険と機会を大幅に増大させるものであるから,本件各行為は,戦争に伴って日本の国土が敵対国から攻撃を受け,あるいは,テロリズムの対象となることで控訴人らの生命,身体,財産等が侵害される具体的な危険を生じさせ,控訴人らの生命,身体に直結する人格権を侵害するものである旨主張する。そこで検討すると,本件各行為は閣議決定及び立法行為であり,かかる行為によって成立した安保法も,あくまで,控訴人らが日本を戦争に巻き込むものであると主張とする集団的自衛権の行使や後方支援活動等の実施のための要件を定めるものにすぎないから,同法が成立したことそれ自体で,直ちに日本が戦争に巻き込まれ,国土が敵対国から攻撃を受けたり,テロリズムの対象となったりする具体的危険が生じるということはできない。そして,本件全証拠によっても,安保法が成立してから当審における口頭弁論終結時までに,現に安保法に基づき集団的自衛権の行使や後方支援活動等の実施がされ,これに起因して我が国が戦争に巻き込まれたり,テロリズムの対象になったりしたという事実も認められないのであるから,本件各行為及びこれによって成立した安保法の存在によって,控訴人らの生命・身体の安全が侵害される具体的な危険が発生しているものとは認められない。そうすると,本件各行為によって,控訴人らの生命・身体に対する具体的な危険が生じ,控訴人らの生命・身体に直結する人格権が侵害されているものということはできない。イ②平和のうちに平穏に生きる権利としての人格権について控訴人らは,本件各行為によって,精神,生活等全般にわたって危険に直面し,又は,憲法に導かれ戦後築いていた平和な生活が否定,破壊されたと感じ,生命,身体が侵害されるのではないかという不安,恐怖に苛まれ,平和のうちに平穏に生きる権利としての人格権を侵害されている旨主張する。証拠(控訴人A本人,同B本人,同C本人,同D本人)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人らは,それぞれの経歴,境遇,職業,生活状況等を背景として,本件各行為によって日本が戦争当事国やテロの標的になる事態が引き起こされるものと認識し,戦争やテロに巻き込まれることにより自身や家族等の生命・身体が侵害されることへの恐怖や不安を抱き,精神的苦痛を感じていることが認められる。特に,控訴人らの居住する沖縄県では,先の大戦において連合国軍が上陸して凄惨な地上戦が行われた末,戦後も長く米軍統治下に留め置かれたものであること,現在も米軍基地をはじめとする多数の米軍専用施設に加え,複数の自衛隊の駐屯地も設置されており,これらの施設等は,日本が戦争に巻き込まれた場合に敵対勢力からの標的になり得るものであること(弁論の全趣旨)なども踏まえると,控訴人らの上記恐怖や不安は切実なものであることが認められる。しかしながら,国民はそれぞれ異なる環境や価値観を有しており,憲法においては多数決原理を基礎とする代表民主制が採られていることにかんがみると,一部の国民が反対しているにもかかわらず,内閣において閣議決定がされたり,国会において立法がされたりすることは,憲法自体が予定しているところであると解される。このような場合に,上記閣議決定や立法に反対する一部の国民が不安や憂慮といった精神的苦痛を受けることがあったとしても,これを被侵害利益として,直ちに損害賠償を求めることはできないものというべきである。前記アのとおり,本件各行為及びこれによって成立した安保法の存在によって,控訴人らの主張する戦争やテロリストによる攻撃のおそれが切迫し,控訴人らの生命・身体の安全が侵害される具体的な危険が発生しているとは認められないことを考慮すれば,控訴人らの上記恐怖や不安及び精神的苦痛は,何らかの閣議決定や立法行為がされた場合に伴って,これらに反対している国民一般に広く生じる得るものとして,社会通念上受忍すべき範囲を超えるものではなく,これをもって法律上保護された利益が侵害されたということはできない。⑹


原判決35頁15行目の4を3に改める。
原判決35頁21行目冒頭から同37頁15行目までを次のとおり改める。
⑵しかしながら,安保法は,憲法ではなく,あくまで法律を改正又は制定するものである。仮に安保法又は新安保法制が憲法に適合しないものだとすれば,安保法等が違憲無効となるにすぎず,安保法の制定によって,憲法の効力に影響を与える余地はないのであるから,これをもって憲法の実質的な改正に当たるということはできない。また,憲法の各条文に照らしても,憲法が,個々の国民に対し,その個人的な権利や利益の侵害と関わりなく,憲法に違反する閣議決定をされない権利ないし利益及び憲法に違反する法律を制定されない権利ないし利益を具体的に保障しているものと解することはできない。したがって,控訴人らの主張は,その前提となる安保法が憲法の実質的な改正であるという点を認めることができない以上,これを採用することはできない。⑻
2
原判決37頁16行目の5を4に改める。
結論
以上によれば,争点2及び3について判断するまでもなく,控訴人らの請求
にはいずれも理由がない。
したがって,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は正当であり,本件控訴にはいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所那覇支部民事部
裁判長裁判官


裁判官

裁判官

久保正道本多智子平山俊輔
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