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不当利得返還請求事件
事件番号令和2(受)763
事件名不当利得返還請求事件
裁判年月日令和3年3月2日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号平成31(ネ)1777
原審裁判年月日令和元年12月5日
判示事項補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律22条に基づくものとしてされた財産の処分の承認が同法7条3項による条件に基づいてされたものとして適法であるとされた事例
裁判日:西暦2021-03-02
情報公開日2021-03-02 18:00:04
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令和2年(受)第763号
令和3年3月2日

不当利得返還請求事件

第三小法廷判決

主文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人舘内比佐志ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1
(1)

原審が適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
宇都宮市(以下市という。)は,平成17年度に,事業系生ごみの再
資源化システムを構築し,再資源化の確実な普及・定着を図ることを目的に,株式会社エコシティ宇都宮(以下エコシティという。)を事業実施主体として,高速堆肥化施設の整備,設置等を内容とするバイオマス利活用地区計画を策定した。(2)

農林水産大臣から権限の委任を受けた関東農政局長は,平成18年1月1
8日までに,被上告人に対し,平成17年度バイオマスの環づくり交付金のうちのバイオマス利活用整備交付金として,合計2億6113万8000円の交付決定(以下本件交付決定という。)をした。本件交付決定には,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下法という。)7条3項により,交付事業者である被上告人は,間接交付事業者に対し事業により取得し,又は効用の増加した財産の処分についての承認をしようとするときは,あらかじめ関東農政局長の承認を受けなければならないとの条件(以下本件交付決定条件という。)が附されていた。
同日までに,栃木県知事(以下県知事という。)は間接交付事業者である市に対して平成17年度バイオマスの環づくり事業費補助金として,市長は間接交付事業者であるエコシティに対して宇都宮市バイオマス利活用補助金として,それぞれ本件交付決定と同額の交付決定をした。
被上告人は上告人から本件交付決定による補助金が交付された都度,市に対して補助金を交付し,市はその都度,エコシティに対して補助金を交付した。(3)

エコシティは,上記の補助金を主要な財源として堆肥化施設を整備し,設
置した(以下,この堆肥化施設を本件施設という。)。平成18年6月8日,関東農政局長は被上告人に対し,県知事は市に対し,市長はエコシティに対し,それぞれ申請を受けて本件施設を担保に供することを承認した。エコシティは,同年8月10日,本件施設に根抵当権を設定した。
(4)

エコシティは,平成20年10月,本件施設における操業を停止した。本
件施設について,平成21年12月25日,担保不動産競売の申立てがされ,同22年1月20日,同開始決定がされた。本件施設について,平成23年5月13日までに,エコシティは市長に対し,市は県知事に対し,被上告人は関東農政局長に対し,それぞれ財産処分に係る承認の申請をした。同日にされた被上告人による申請(以下本件申請という。)に係る申請書には,冒頭に本件申請が法22条に基づくものである旨の記載があり,本件施設の処分区分として目的外使用(補助事業を中止する場合)との記載がある。関東農政局長は,同月17日,本件施設の処分価格に係る国庫補助金相当額の納付を条件として,本件申請を承認した(以下,この承認を本件承認といい,これに附された上記条件を本件附款という。)。県知事は,同月18日,上記の市による申請を承認し,市長は,上記のエコシティによる申請を承認した。本件施設は,同年9月29日,担保不動産競売手続により売却された。(5)

被上告人は,平成24年1月27日付けで,関東農政局長から上記の国庫
補助金相当額として1億9659万0956円を納付するよう求められ,同年2月15日,上告人に対し,同金額の納付(以下本件返納という。)をした。2
本件は,被上告人が,本件承認は法令上の根拠を欠き,本件附款も法的効力が認められないから,上告人は本件返納により法律上の原因なく1億9659万0956円を利得したとして,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,同額の支払を求める事案である。
3
原審は,前記事実関係等の下において,本件承認は,法7条3項による本件
交付決定条件ではなく,法22条を根拠としてされたものというべきところ,同条は国から補助金等の交付を受けた補助事業者等(法2条3項)による財産の処分について規律するものであって,間接補助事業者等(同条6項)に該当するエコシティによる財産の処分が問題となる本件には適用されず,根拠法条を誤ったものであるとした上,要旨次のとおり判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。いわゆる違法行為の転換の理論により,本件承認が法7条3項による本件交付決定条件を根拠としてされたものとして法的根拠のある行政行為とすることはできない。また,本件交付決定条件において,担保権設定者の意思が介在しない担保権の実行は承認の対象とならないと解されるところ,本件承認は本件施設の担保権の実行による所有権移転を対象としてされた法的根拠を欠く無効なものであって,これに附された本件附款も無効であるから,いずれにしても本件返納は法律上の原因なくされたものといえる。
4
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)

関東農政局長が被上告人に対して当初の本件施設への担保権設定について
承認するに際し,その後に担保権が実行され,エコシティが補助金の交付の目的に沿ってこれを使用することができなくなり,目的外使用の状態に至ることについてまで承認していたとはうかがわれないから,本件交付決定条件により,上記目的外使用についても改めてその承認を得ることが必要であったというべきである。そして,本件承認は,処分区分を目的外使用(補助事業を中止する場合)とする本件申請に対してされたものであって,本件施設の目的外使用を対象としてされたものと解される。したがって,本件承認は,法7条3項による本件交付決定条件を根拠としてされたものとすることができるのであれば,法的根拠を欠くものということはできない。
(2)

法は,補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止その
他補助金等に係る予算の執行並びに補助金等の交付の決定の適正化を図ることを目的とする(1条)。法22条は,補助事業者等が補助事業等により取得した財産について,各省各庁の長の承認を受けないで,補助金等の交付の目的に反して使用し,譲渡し,交換し,貸し付け,又は担保に供してはならない旨を定め,もって財産の処分を制限しているところ,これは,補助事業等により取得された財産が処分され,補助事業者等により補助金等の交付の目的に沿って使用されなくなる事態となっては,当該目的が達成し得なくなるために設けられたものと解され,当該承認は,これを得ることなく上記の事態に至ることを防止することを目的とするものである。そして,法7条3項による本件交付決定条件も,間接補助事業等により取得された財産が補助金の交付の目的に反して処分されることを制限するためのものと解され,交付事業者である被上告人が当該財産の処分に係る承認をするに際して関東農政局長がする承認は,これを得ることなく当該目的が達成し得なくなる事態に至ることを防止することを目的とするものである。このように,法22条に基づく承認と法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認は,その目的を共通にするものということができる。
また,法22条に基づく各省各庁の長の承認を得た上での補助事業者等による財産の処分であれば,法17条1項により補助金等の交付の決定が取り消されることはないのと同様に,法7条3項による本件交付決定条件に基づく関東農政局長の承認を得た上での間接交付事業者による財産の処分についても,これにより本件交付決定が取り消されることはない。そして,法22条に基づく承認に際しては,補助事業者等において補助金等の全部又は一部に相当する金額を納付する旨の条件を附すことができると解されるのと同様に,法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認に際しても,仮に当該承認を得ていなければ本件交付決定の全部が取り消され得ることなどからすると,被上告人において交付された補助金の範囲内の金額を納付する旨の条件を附すことができると解される。そうすると,法22条に基づいてされた本件承認を法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとすることは,被上告人にとって不利益になるものでもない。
さらに,被上告人及び関東農政局長において,仮に法22条に基づいて本件承認をすることができないという認識であった場合に,これと目的を共通にする法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認の申請及び承認をしなかったであろうことをうかがわせる事情は見当たらない。
(3)

以上に検討したところによれば,本件承認は,法7条3項による本件交付
決定条件に基づいてされたものとして適法であるということができる。そして,上記のとおり,法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認に際しては,被上告人において交付された補助金の範囲内の金額を納付する旨の条件を附すことができると解されることからすると,本件承認に際し,交付された2億6113万8000円の範囲内である国庫補助金相当額の納付を条件とする旨の本件附款を附すことができるのであり,その他これを附すことができないことを根拠付ける事情はうかがわれないから,本件附款も無効であるとはいえない。そうすると,本件返納は,本件附款に基づく納付義務の履行としてされたものであるから,法律上の原因を欠くものということはできない。
5
以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決を取り消し,同請求を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宇賀克也の補足意見がある。
裁判官宇賀克也の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛成するものであるが,上告受理の申立ての理由中,当審が排除しなかった2点,すなわち,本件承認の対象と違法行為の転換について補足して意見を述べることとしたい。
第1点については,本件申請に係る申請書の処分区分に目的外使用(補助事業を中止する場合)と記載されていること,本件承認を得ずに間接補助金等により取得した財産が処分されたとしても,その民事上の効力には影響がなく,本件交付決定条件等に違反したものとして法17条の規定に基づき交付決定が取り消され得ることに鑑みると,本件承認は,結局のところ,間接補助事業等により取得した財産を補助金等の交付の目的に従って管理する義務を免除することを意図するものと考えられる。したがって,本件承認は,担保権の実行により,間接補助事業者等が補助金等・間接補助金等により取得した財産を補助金等の交付の目的に従って使用することができなくなることを対象としてされたものと解される。もっとも,担保権設定の承認の際に担保権の実行の際の目的外使用を含めて承認していると解することができれば,改めて担保権の実行の際に承認を得る意味はないことになる。そして,担保権設定の際に,担保権実行時における補助金相当額の返納を条件として承認することは可能であり,そのような運用をしている行政機関も存在するようである。しかし,担保権が設定されたからといって,それを実行しなければならない事態になるとは限らないので,担保権設定の承認が上記のような条件を附さずに行われた本件のような場合,担保権設定の承認が当然に担保権の実行の際の目的外使用に対する承認も含意しているとまではいえないと思われる。第2点については,法律による行政の原理を空洞化させないために,違法行為の転換が認められる場合は厳格に限定する必要がある。法廷意見が述べるように,本件においては,①転換前の行政行為(法22条に基づく承認)と転換後の行政行為(法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認)は,その目的を共通にすること,②転換後の行政行為の法効果が転換前の行政行為の法効果より,関係人に不利益に働くことになっていないこと,③転換前の行政行為の瑕疵を知った場合に,その代わりに転換後の行政行為を行わなかったであろうと考えられる場合ではないこと(そもそも,栃木県補助金等交付規則6条3項においては,同規則における補助金等の交付の決定をするに当たり,

知事は,適正化法に規定する間接補助金等に該当する場合において,同法第7条の規定に基づき各省各庁の長が当該間接補助金等に関して条件を附したときは,これと同一の条件を附するものとする。

と定められており,被上告人としては,本件交付決定条件が法7条3項の規定によるものであることを認識できてしかるべきであったといえ,本件承認が本件交付決定条件を根拠としてされるべきものであったと認識できたと考えられる。)といった事情を勘案して,違法行為の転換が認められている。違法行為の転換を認めた当審の判例(最高裁昭和25年(オ)第236号同29年7月19日大法廷判決・民集8巻7号1387頁)も,上記①~③の要件を全て満たす場合であったといえる。他方,違法行為の転換を認めなかった当審の判例(最高裁昭和25年(オ)第383号同28年12月28日第一小法廷判決・民集7巻13号1696頁,最高裁昭和25年(オ)第212号同29年1月14日第一小法廷判決・民集8巻1号1頁,最高裁昭和39年(行ツ)第33号同42年4月21日第二小法廷判決・裁判集民事87号237頁)は,上記①~③の要件のいずれかを満たさない事案であったといえる。このように,法廷意見は,従前の当審の判例と整合するものであり,違法行為の転換が認められる場合を拡大するものでは全くない。
なお,上記①~③の要件は違法行為の転換が認められるための必要条件であるが,それが必要十分条件であるわけでは必ずしもないと思われる。例えば,いわゆる行政審判手続において審理されなかった事実を訴訟手続において援用して違法行為を転換することは,行政審判手続を採用した趣旨に反し,かかる場合に訴訟手続において違法行為の転換を認めることの可否は慎重に検討すべきではないかと思われる。また,処分の相手方のみならず,第三者にも効果が及ぶいわゆる二重効果的行政処分の場合,違法行為の転換を認めることにより,第三者の権利利益を侵害することにならないかを検討する必要があるであろう。このように,あらゆる場合に,上記①~③の要件を満たせば,必ず違法行為の転換が認められるとはいえないが,本件においては,違法行為の転換を否定すべき特段の事情の存在は認められず,その点について論ずる必要はない。法廷意見も,また,過去に違法行為の転換を認めた当審判例も,そのような特段の事情が存在しない事案であったため,あえて上記①~③以外の要件について言及しなかったものと考えられる。(裁判長裁判官
宮崎裕子


裁判官

道晴

裁判官

戸倉三郎

宇賀克也)
裁判官


景一

裁判官

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