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課徴金納付命令処分取消請求事件
事件番号平成31(行ウ)30
事件名課徴金納付命令処分取消請求事件
裁判年月日令和3年1月26日
裁判所名・部東京地方裁判所
裁判日:西暦2021-01-26
情報公開日2021-02-26 16:00:41
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令和3年1月26日判決言渡

同日原本領収

平成31年(行ウ)第30号

課徴金納付命令処分取消請求事件

口頭弁論終結日

裁判所書記官

令和2年10月20日
判主1決文
金融庁長官が平成30年12月20日付けで原告に対してした
課徴金133万円を国庫に納付することを命ずる旨の処分を取り
消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
主文1項と同旨

第2

事案の概要等
本件は,株式会社モルフォ(以下モルフォという。)の取締役である
原告が,その職務に関し,モルフォの業務執行を決定する機関が,モルフォと株式会社デンソー(以下デンソーという。)との業務上の提携(以下本件提携という。)を行うことについての決定をした旨の重要事実(以下本件重要事実という。)を知りながら,法定の除外事由がないのに,本件重要事実の公表(以下本件公表という。)がされた平成27年12
月11日より前に,自己の計算において,モルフォ株式(以下本件株式という。)合計400株を159万5000円で買い付けたとして,金融庁長官(以下処分行政庁という。)から,金融商品取引法(以下金商法という。)185条の7第1項に基づき,課徴金として133万円を国庫に納付することを命ずる旨の決定(以下本件納付命令という。)を受けた
ことに対し,本件納付命令が違法であると主張して,その取消しを求める事案である。
1
関係法令の定め


金商法の定め
金商法166条1項は,同項各号に掲げる者であって,上場会社等に係る業務等に関する重要事実を当該各号に定めるところにより知ったものは,当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ,当該
上場会社等の特定有価証券等(株券を含む。)に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け,合併若しくは分割による承継又はデリバティブ取引をしてはならない旨規定しているところ,同項1号は,当該上場会社等の役員等を掲げた上で,その者の職務に関し知ったときと定めている。


金商法166条2項は,同条1項に規定する業務等に関する重要事実とは,同条2項各号に掲げる事実(ただし,同項1号等に掲げる事実にあっては,投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定める基準に該当するものを除く。)をいう旨規定しているところ,同項1号は,当該上場会社等の業務執行を決定する機関が同号イないし
ヨに掲げる事項を行うことについての決定をしたこと又は当該機関が当該決定(公表がされたものに限る。)に係る事項を行わないことを決定したことをいう旨規定し,同号ヨは,業務上の提携その他の同号イからカまでに掲げる事項に準ずる事項として政令で定める事項を掲げている。ウ
金商法166条4項は,同条1項の公表がされたとは,同条4項各号に掲げる事項について,当該各号に定める者により多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこと又は当該各号に定める者が提出した同法25条1項に規定する書類にこれらの事項が記載されている場合において,当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に
供されたことをいう旨規定しているところ,同法166条4項1号は,上場会社等に係る同条1項に規定する業務等に関する重要事実であって同条2項1号から8号までに規定するものを掲げた上で,当該上場会社等又は当該上場会社等の子会社と定めている。

金商法175条1項は,同法166条1項又は3項の規定に違反して,同条1項に規定する売買等をした者があるときは,内閣総理大臣は,同法第6章の2第2節に定める手続に従い,その者に対し,同法175条
1項各号に掲げる場合の区分に応じ,当該各号に定める額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない旨規定しているところ,同項2号は,同法166条1項又は3項の規定に違反して,自己の計算において有価証券の買付け等(同条1項に規定する業務等に関する重要事実の公表がされた日以前6月以内に行われたもの(当該公表
がされた日については,当該公表がされた後に行われたものを除く。)に限る。)をした場合を掲げた上で,当該有価証券の買付け等について業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も高い価格に当該有価証券の買付け等の数量を乗じて得た額から当該有価証券の買付け等について当該有価証券の買付け等をした価格にその数量を乗じて
得た額を控除した額と定めている。

金商法176条2項は,同法172条から175条までの規定により計算した課徴金の額に1万円未満の端数があるときは,その端数は,切り捨てる旨規定している。


金商法178条1項柱書は,内閣総理大臣は,同項各号に掲げる事実のいずれかがあると認めるときは,当該事実に係る事件について審判手続開始の決定をしなければならない旨規定しているところ,同項16号は,同法175条1項又は2項に該当する事実を掲げている。


金商法185条の7第1項は,内閣総理大臣は,審判手続を経た後,同法178条1項各号に掲げる事実のいずれかがあると認めるときは,被審人に対し,課徴金を国庫に納付することを命ずる旨の決定をしなければならない旨規定している。

金商法194条の7第1項は,内閣総理大臣は,同法による権限(政令で定めるものを除く。)を処分行政庁に委任する旨規定している。


金融商品取引法施行令(以下金商法施行令という。)の定め
金商法施行令28条柱書は,金商法166条2項1号ヨに規定する政令
で定める事項について,金商法施行令28条各号に掲げるものとする旨規定しているところ,同条1号は,業務上の提携又は業務上の提携の解消を掲げている。
2
前提事実
以下の事実は,掲記の各証拠又は弁論の全趣旨により,容易に認められる。


当事者等

モルフォについて
モルフォは,平成16年5月に設立された画像処理技術の研究開発及び製品開発等を目的とする会社であり,平成23年7月に東京証券
取引所マザーズ市場に株式を上場した(甲3・2及び3頁,乙A5・3頁)。
平成27年9月当時,モルフォには,DeepLearning(人間の脳の仕組みを模した機械学習の新たな手法。以下ディープラーニングと
いう。)の研究開発を担当していたCTO室,スマートフォンなどの
組込み機器において画像処理を行うソフトウェアの開発やライセンス販売等を担当していたエンベデッドIP事業部(以下EIP事業部という。),サーバーなどにおいて画像処理や画像認識を行うソフトウェアの開発やライセンス販売及びディープラーニングを用いた画像認識技術の営業等を担当していたネットワークサービス事業部及びそ
の他技術開発を担当していたプロダクト開発部等の部署が存在していた(甲3・3及び4頁,甲6・2頁,乙A7・2及び3頁,乙A8・2及び3頁,乙10,弁論の全趣旨)。
Aは,平成16年5月にモルフォを設立し,以降,モルフォの代表取締役を務めていた(乙A5・2頁)。

原告について
原告は,B株式会社の代表取締役を退職後,平成26年10月にモル
フォに入社し,平成27年1月以降,モルフォの取締役を務め,EIP事業部及びネットワークサービス事業部を担当していた(甲8・2頁,乙A9・2及び3頁)。

デンソーについて
デンソーは,昭和24年に設立された自動車部品の研究・開発・製造
・販売といった事業を国内外で展開する会社である(甲3・4頁)。⑵

本件決定に至る経緯について

原告は,本件株式につき,平成27年8月24日に1株4120円で100株及び1株4125円で100株,同月26日に1株3850円で100株及び1株3855円で100株をそれぞれ買い付けた(乙B
3)。

モルフォは,同年12月11日,取締役会において,デンソーとの間で,①ディープラーニングによる画像認識技術の車載機器への適用に関する基礎的研究,②画像認識技術を始めとする各種画像処理技術を応用した,電子ミラー等の車載機器に関する研究開発・製品化及び③上記研
究開発の成果に基づく製品・サービスのマーケティングにおける連携を内容とする業務提携を行うこと並びに第三者割当増資により,デンソーに対しモルフォの普通株式26万1800株を割り当てることを内容とする資本提携を行うこと(本件提携)を決議し,同日,これを公表した(本件公表。甲1,乙A5・17ないし19頁及び資料5)。



審判手続開始の決定
処分行政庁は,平成29年2月27日,原告に対し,遅くとも平成27年8月10日までに,その職務に関し,モルフォの業務執行を決定する機関が,デンソーとの業務上の提携を行うことについての決定をした旨の重要事実(本件重要事実)を知りながら,法定の除外事由がないのに,本件公表がされた同年12月11日より前の同年8月24日及び同月26日,
本件株式合計400株を買付価額合計159万5000円で買い付けたことが金商法178条1項16号に該当するとして,同項に基づき,審判手続(以下本件審判手続という。)を開始する旨の決定をした。なお,課徴金の計算については,別紙2のとおりである。(以上につき,乙B1)。



本件納付命令
処分行政庁は,本件審判手続を経た上で,平成30年12月20日,原告に対し,要旨,金商法178条1項16号に該当する別紙3記載の違反事実があるとして,同法185条の7第1項に基づき,課徴金133万円を国庫に納付することを命ずる決定(本件納付命令)をした(甲3)。


本件訴訟の提起
原告は,平成31年1月22日,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著)。

3
争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,Aが金商法166条2項1号所定の業務執行を決定する機関に該当するか否か(争点1)及びモルフォの業務執行を決定する機関がデンソーとの間で同項1号ヨ及び金商法施行令28条1号所定の業務上の提携を行うことについての決定をした時期が遅くとも平成27年8月4日であるか否か(争点2)である。当事者の主張の要旨は以下のとおりである


争点1(Aが金商法166条2項1号所定の業務執行を決定する機関に該当するか否か)について
(被告の主張の要旨)

業務執行を決定する機関の意義
金商法166条2項1号の業務執行を決定する機関とは,会社法
所定の決定権限のある機関には限られず,実質的に会社の意思決定と同
視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足り,具体的にいかなる機関を業務執行を決定する機関と捉えるかは,会社や決定の対象となる事項によって異なるため,その実情に照らして判断しなければならない。

モルフォにおけるAの立場等について
Aは,モルフォの創業者であり,モルフォの設立以降,代表取締役を務めている。モルフォにおいては,Aが協業の検討・準備を進めるか否かについて判断しており,Aが異議を述べなければ,相手方と秘密保持契約(以下NDAという。)を締結し,具体的に協業の実

現に向けて検討・準備を進めていた。
本件においても,平成27年6月15日,デンソーとの間でディープラーニングを使用した画像認識技術及び画像処理技術を車載カメラに活用する協業を検討していくため,Aが,モルフォからデンソーに対してこれらの技術に関するより詳細な情報を提供することを決めた
ことにより,モルフォは,デンソーとの間でNDAを締結し,同年8月4日以降,本件提携の実現に向けて具体的な検討や準備及びデンソーとの協議や交渉等を進めていった。
この間,Aは,平成27年8月4日のモルフォとデンソーの打合せ(以下8月4日の打合せという。)において,NDAの契約書の

授受及び今後の委託・共同開発案件に関する具体的なご相談が行
われ,デンソーとしての課題や希望が伝えらえる予定であること並びに同月26日にはデンソーの本社において実務者も交えた具体案の議論が行われる予定であることを把握していた。
Aが,ネットワークサービス事業部部長のCに対し,デンソーとの協業について,具体的な相談に進むことを中止するよう指示したことはなく,Aは,同月4日には,デンソーとの打合せに出席したCから,
デンソーとのNDAの締結手続が完了したこと及び次回から具体的な技術に関する協議に進むことなどについて報告を受け,分かりましたなどと言って,本件提携の実現に向けた具体的な検討や準備等を進めていくことを明示的に了承したのであり,その後,モルフォにおいては具体的な検討や準備等が進められた。

以上のようなモルフォにおけるAの立場,本件提携の検討や準備等の進め方,本件公表に至るまでの経緯等を併せ考えれば,モルフォにおいて,Aは,本件提携について,実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことができる機関であったといえる。

モルフォの有価証券報告書の記載について
平成27年1月29日に関東財務局長に提出されたモルフォの第11期有価証券報告書(平成25年11月1日から平成26年10月31日まで。以下モルフォ第11期有価証券報告書という。)にお
いて,Aは,モルフォグループの最高責任者として,経営方針及び事
業戦略等を決定するとされており,同記載からはAに業務執行に関する決定権があったことが認められる。
上場会社は,各事業年度の経過から3か月以内に,法令等によって定められた当該上場会社に係る重要な事項を記載した書面である有価証券報告書を提出する義務を追っているところ(金商法24条1項1
号),有価証券報告書の事業等のリスク欄の記載については,法
令上,役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等,投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を一括して具体的に,分かりやすく,かつ,簡潔に記載することが求められている(当時の企業内容等の開示に関する内閣府令15条1号イ,第三号様式注記(13)において準用される第二号様式注記(33))。したがって,当該項目に記載されている事項は,有価証券報告書を提出する義務を負う発行会社において,役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等,投資者の判断に重要な影響を及ぼす事項と認識した事項である。また,実務上,有価証券報告書の提出に際しては,事前に,当該会社の顧問弁護士等の専門家がその内容を事前に確認した上で,EDINET(金商法に
基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)を通じて提出され,かつ,公衆の縦覧に供されていることを踏まえると,一般的には,当該記載内容の信用性は高いといえるが,モルフォ第11期有価証券報告書の提出当時,モルフォにおいては,弁護士資格を有する監査役が存在しており,当該有価証券報告書の内容の正確性等
について十分な検討が行われた上で,当該有価証券報告書が提出されたと考えられる。
そして,前述した法令等の定めを踏まえると,モルフォは,当該時点で,会社としてAがモルフォグループの最高責任者として経営方針及び事業戦略等を決定していたと認識していたからこそ,投資者等に
公衆縦覧されることが想定されている有価証券報告書に,このような内容を記載したといえるのであり,これは,モルフォの内部でAが意思決定を行う最高責任者であることが認識されていたことや,社内における意思決定の実情をそのまま反映したものにほかならない。
このように,モルフォが作成義務を負っている有価証券報告書の記
載内容からは,Aが,モルフォにおいて,多大な影響力を持ち,重要事項を単独で決定でし得る存在であったことは明らかである。
業務執行を決定する機関については,その機関による決定が投
資者の投資判断に影響を及ぼし得る性質のものであるか否かという観点からして,実質的な会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りると解されるが,モルフォ第11期有価証券報告書の投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項の該当箇所において,Aが経営方針及び事業戦略等を決定する旨が明記されていることを踏まえると,一般投資者等,会社の外部の者は,Aが経営方針及び事業戦略等を決定していると理解するのは当然といえ,モルフォにおいては,Aによる決定が投資者の判断に影響を及ぼし得る性質のものであることもまた明らかである。


Aが,自らの判断で,デンソーに対して,エクスクルーシブの権利を
付与する旨の発言をしたこと
共同研究開発契約において,共同研究開発に関する独占権(エクスクルーシブの権利)は,いずれの当事者にとっても,極めて重要な条項である。ソフトウェア事業を営む会社においては,他の業種等に比較して,他の研究開発等の禁止義務が当該会社の事業・経営方針を大きく左右するところ,モルフォは,当時,ソフトウェア事業を単一のセグメントとしていた会社であり,また,車載といった組込分野を戦略的に重要なターゲットと位置付け,画像データ等から得られる各種
情報を活用した新たな分野への事業領域の拡大を意図していたのであり,モルフォにおいて,かかる義務を負担するか否か,どのような企業との間でどのような内容の共同研究開発等について業務上の提携を行うか否かは極めて重要な経営判断であった。
Aは,平成27年6月15日のモルフォ

とデンソーの打合せ(以下6月15日の打合せという。)におい
て,デンソーの走行安全技術企画室担当次長のDから,モルフォがデンソーに対してエクスクルーシブの権利を付与することが可能か否かを訪ねられた際に,原告に相談等をすることなく,自らの考え,判断のみに基づいて,エクスクルーシブの権利を付与することが可能である旨を回答した。

その他の事情
Aは,モルフォの唯一の主要株主であったところ,株式会社における意思決定において,当該株主が保有する議決権の個数及びその発行済株式総数に占める割合は重大な意味を有し,総株主の議決権の100分の3以上を保有する株主は,株主による株主総会の招集ができる
等の特別な権限が付与され(会社法297条,303条),一定数の議決権を有する株主は,株主提案権や株主総会における自らの議決権の行使を通じて,役員の選解任(同法329条1項,339条1項)等について,大きな影響力を有する。そうすると,Aは,平成27年8月4日の金商法166条2項1号の機関による決定当時において,
モルフォの最高責任者として経営方針及び事業戦略等を決定していたこと及び代表取締役社長としてモルフォの事業執行を担っていたことに加え,モルフォにおいてA以外の主要株主が存在しなかったという事実も踏まえれば,上記決定当時,Aはモルフォ内において支配的な立場にあり,Aの意思決定が実質的にはモルフォの意思決定となりや
すい状況にあったと認められる。
また,平成27年5月29日のAと原告の間のメール(乙A17・資料2)からは,Aがデンソーとの交渉についての対応部署をネットワークサービス事業部と決定しつつ,Cと共に,自ら,6月15日の打合せに出席し,デンソーに対し,積極的に,EIP事業部が担当し
ていた携帯電話向けの画像処理技術の車載カメラへの応用を提案していることが認められる。このようなAの行為は,対外的な事業の提案やそれに対応する会社内部への指示等につき,原告又は常務取締役Eに相談することなく,A単独で行ったことの証左であるとともに,モルフォの有価証券報告書の記載内容にも符合するものであり,Aが,業務執行全般について,単独で実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関であることを裏付けるもので
ある。

小括
以上からすれば,Aが金商法166条2項1号所定の業務執行を決定する機関に該当するといえる。
(原告の主張の要旨)

業務執行を決定する機関の意義と認定の在り方
業務執行を決定する機関とは,実質的に会社の意思決定と同視さ
れるような意思決定を行うことができる機関であれば足りると解されるが,その判断は実質的に行われるべきものである以上,当該企業における普段の意思決定の実情に即した判断が求められるべきである。


モルフォの業務執行を決定する機関に係る事実関係
原告がモルフォの取締役に就任した経緯及び従前の意思決定の方法原告は,Aが原告の企業経営の手腕を高く評価し,モルフォの事業部門の責任者として取締役に就任することを打診したことを契機とし
て,平成27年1月にモルフォの取締役に就任した。また,Aは,原告が取締役に就任する以前から,前任の取締役と合議して事業面の業務執行を決定していた。
原告がモルフォの取締役に就任した後の意思決定の方法
原告が取締役に就任して以降,Aと原告は,新規事業部門の立ち上
げ,業務プロセスの大幅改善,米国の著名企業との取引継続是非の判断及び技術流出の懸念があった外国企業との契約関係の判断など,事業面の重要な業務方針について合議してモルフォの方針を決定していたが,これらの事例においては,Aの発案について原告が相談に乗って是認するだけではなく,原告が提案したり,Aの考えと異なる意見を原告が述べるなどして原告の意見どおりの方針に決まっていたものもあった。また,その他にも,Aと原告の合議で,原告が反対したこ
とにより,契約締結に至らなかった事例もあった。
モルフォの社員の認識等
モルフォのEIP事業部副部長のFは,デンソーとの交渉において,デンソーの社員に対し,Aは技術面,原告は経営面を見ている旨発言しており,モルフォの社員においても,モルフォの事業面の業務執行
についてはAと原告が決めていると認識されていた。

小括
以上からすれば,モルフォにおいて,事業面の業務執行を決定するのは,Aと原告の合議体であったというべきであり,Aが金商法166条2項1号所定の業務執行を決定する機関に該当するとはいえない。


争点2(モルフォの業務執行を決定する機関がデンソーとの間で金商法166条2項1号ヨ及び金商法施行令28条1号所定の業務上の提携を行うことについての決定をした時期が遅くとも平成27年8月4日であるか否か)について

(被告の主張の要旨)

業務上の提携を行うことについての決定の意義
金商法166条2項1号ヨ及び金商法施行令28条1号所定の業務上の提携とは,会社が他の企業と協力して一定の業務を遂行することをいい,協力して行う業務の内容に限定はなく,協力の形式も問わない
とされ,いわゆる仕入れ・販売提携,生産提携,技術提携,開発提携等のほか共同出資により新会社を設立して新たな事業を行うことなどが典型であると解される。また行うことについての決定とは,金商法166条2項1号イないしヨ所定の事項そのものの決定に限らず,当該事項の実施に向けた調査,準備及び交渉等の作業を会社の業務として行うことの決定を含むと解すべきであり,それが投資者の投資判断に影響を及ぼすべきものであるという観点から,ある程度具体的な内容を持つも
のでなければならないが,当該事項が確実に実現するとの予測が成り立つことは要しないと解される。

本件提携が業務上の提携に該当すること
本件提携は,モルフォが,車載カメラに関するデンソーの課題や要望に応えるため,デンソーの車載カメラに,画像処理技術やディープラー
ニングを使用した画像認識技術を活用するものであり,車載カメラを開発しているデンソーと画像処理技術及び画像認識技術を保有しているモルフォのいずれにとっても,相互の協力が不可欠なものである。
しがって,本件提携が業務上の提携に該当することは明らかであ
る。


遅くとも平成27年8月4日時点で業務上の提携を行うことについての決定をしたといえることモルフォ第11期有価証券報告書の記載によれば,モルフォは,6月15日の打合せ以前において,車載といった組込分野を戦略的に重
要なターゲットと位置付けた上で,新規ハードウェアへの対応に向けた事業者等との連携強化による技術開発の検討をしていたといえるところ,このような事情の下,モルフォの最高責任者であるAは,デンソーが当該時点においてモルフォの事業・経営方針と合致する相手先として適切な会社と考えたからこそ,本件提携に前向きな意向を示し,
デンソーとの最初の面談である6月15日の打合せにわざわざ出席したのである。そして,その後両社のやりとりは緊密になっていき,本件提携の核心部分である事項については,遅くとも平成27年8月4日までの時点において,具体的な検討や準備等が開始されていたといえる。
Aは,6月15日の打合せの前の時点において,モルフォが戦略的に重要なターゲットと位置付けた車載といった組込分野において,世界でも有数の自動車部品の研究・開発・製造・販売事業を行っているデンソーとの間で取引ができることを大いに期待していたといえる。また,6月15日の打合せに出席したAは,同打合せが終了した時点において,モルフォの技術がデンソーの要望する水準に達することを
理解してもらえれば,デンソーがモルフォとの間でデンソーの3年後の車載危険検知ユニット新機種に,モルフォのディープラーニングを利用した画像認識技術及びモルフォの画像処理技術を活用することに関する合意を成立させる考えがあることを知って,その合意の成立に対する期待が現実化する可能性があることを理解した。さらに,Aは
6月15日の打合せ以降のCとDの電子メールのやり取りを把握していたことなどからすれば,Aは,8月4日の打合せにおいて,上記技術活用に向けた具体的な検討について協議がなされることを予想していた。そして,モルフォとして,上記技術活用に向けた検討を引き続き進めていくというのは,具体的には,上記技術活用という技術提携
等に向けた調査,準備及び交渉等の作業をモルフォの業務として引き続き行っていくことにほかならない。
以上のような一連の経過及び状況において,Aは,8月4日の打合せの後,すぐに,同打合せに出席したCから打合せの具体的な内容や経緯及びこれらの結果について報告を受けていたところ,これらの報
告の内容は,上記技術活用に関する合意の成立に対する期待を現実化するための作業が今後進められていく旨の報告であり,Aは,Cに対し,分かりましたと答えることによって,上記技術活用に向けた
調査,準備及び交渉等の作業を引き続き行っていくことを明示的に了承したといえる。
これらに加え,前記⑴(被告の主張の要旨)で述べたモルフォにおけるAの立場を踏まえ,本件提携の検討や準備等の進め方,本件公表
に至るまでの経緯等を併せ考慮すれば,平成27年8月4日にAが本件提携の実現に向けた具体的な準備等を進めていくことを了承した時点をもって,業務上の提携を行うことについての決定をした
といえる。

小括
以上からすれば,業務執行を決定する機関であるAが業務上の提携を行うことについての決定をしたのは,遅くとも平成27年8月4日である。

(原告の主張の要旨)

モルフォのビジネスモデル及び営業活動について
モルフォのビジネスモデルは,画像処理技術や画像認識技術を研究開発した上で,これを用いたソフトウェアを製品化し,顧客に提供して報酬を得るものである。モルフォの技術を顧客の用意するプラットフォームに組み込むため,顧客からも情報を提供してもらうなど一定の協力関
係が必要となる。すなわち,モルフォの典型的なビジネスモデルである携帯電話に搭載されるカメラに組み込む画像処理技術のライセンス提供でも,携帯電話又はカメラの性能に関する技術情報を得たり,モルフォの製品を組み込んだ後も顧客の要望を受けてカスタマイズするなどの協業を伴うものであって,モルフォの業務そのものがすべからく顧客との
協業を伴うのであるから,モルフォがデンソーに対し技術情報の提供を決めたことをもって,業務上の提携に該当するとはいえない。
モルフォでは,通常のビジネスモデルであるライセンス提供又は受託研究開発に限らず,日々の顧客との活動を広く協業と呼んでいるが,協業に向けた営業活動を行うに当たり,Aの判断は要せず,一定の工数(作業量)を超えない限り,現場の裁量で協業の検討・準備を進めることが認められている。したがって,A及び原告が協業に向けた営業活動
について何らかの判断を求められることはなく,異議を述べる余地もない。

6月15日の打合せについて
Aは,モルフォの事業を紹介する程度の理解で6月15日の打合せに出席したものであり,Dもモルフォについて先行きに不安のある会社と
いう程度の認識しか持っていなかったのであるから,同打合せにおいて,モルフォとデンソーが業務上の提携について検討を進めるはずがない。6月15日の打合せでは,デンソーの持つ車載器にモルフォの画像技術を用いることができないかを議論したものであり,モルフォ及びデンソーの議事録等を見ても,業務上の提携に当たるような提携の提案が
された旨の記載はない。
以上からすれば,6月15日の打合せの内容が業務上の提携に当
たるとはいえず,モルフォとデンソーがその検討及び準備を進めることで合意したともいえない。

NDAについて
モルフォの営業活動は,自社の技術力を評価してもらい,顧客との取引につなげていく方法であり,そのためにはモルフォの技術を一定限度で開示せざるを得ないことから,営業活動を始める際の取り掛かりとしてNDAを締結することが必要となる。モルフォにおけるNDAの締結
は,営業活動の取り掛かりとしての意味しかなく,決裁についても,各部長の権限と裁量で手続を進めており,Aが取り交わしに関与することはなく,Aは,デンソーとのNDAの締結についても交渉経緯や内容を把握していない。
平成27年6月から10月までの5か月間だけ見ても,モルフォは,延べ31社とNDAを締結しているが,その中には新規顧客も相当数あり,それらは,デンソーとの交渉と同様に,どのような取引ができるか
分からない初期の段階でモルフォが営業活動を始めるに当たって締結したものである。しかも,これら新規契約の大半は具体的な進展が得られなかった。
以上からすれば,モルフォがデンソーとの間でNDAを締結したことが,業務上の提携に向けて話合いを始めたことの根拠となるものではな
く,Aが業務上の提携を行うことについての決定をしたとする
根拠にはなり得ない。

8月4日の打合せについて
デンソーは,平成27年7月29日,他社との間で小プロジェクトの
検討開始について合意していたことからすれば,デンソーは,この時点では,モルフォを含む数社に対し,対応と実力を見るために課題を出そうとしていたにすぎなかったといえ,8月4日の打合せ以前において,デンソーが,協業先をモルフォに絞り込んでいたとはいえない。
8月4日の打合せに係る議事録等からすれば,8月4日の打合せでは,
モルフォがどのような技術を持っているのかを見るために,デンソーから出された課題をモルフォがこなす旨が話し合われたにすぎず,業務上の提携に当たるような提案及び協議はされておらず,同打合せに出席したF及びDもその旨述べている。
以上からすれば,8月4日の打合せでは,デンソーが複数の会社の素
性や技術の基礎力を見るために課題を出し,モルフォにデモンストレーションを求めたにすぎないのであって,8月4日の打合せの内容が業務上の提携に当たるとはいえず,モルフォとデンソーがその検討及び準備を進めることで合意したともいえない。
また,Aが,Cから8月4日の打合せの報告を受け,

分かりました。

と発言したことについても,その報告内容等を踏まえれば,現状報告を理解した以上の意味はなく,業務上の提携を行うことについ
て,モルフォの方針を外部に分かる形で表明したものと解する余地はない。

モルフォとデンソーの平成27年8月26日の打合せ(以下8月26日の打合せという。)について8月26日の打合せに係るモルフォの議事録によれば,同打合せでは,
デンソーから出された課題に対してモルフォが画像処理技術を用いてデモンストレーションを行ったが,デンソーにおいては,モルフォの画像処理技術をどのように使うかについてこれから社内で議論をする程度の状況であり,ディープラーニング技術についても,デンソーは漠然とした構想しか持っていなかった。

8月26日の打合せの時点でさえ,デンソーは,モルフォの技術をどのように使うか決めていない状況だったのであるから,それより20日以上前の8月4日の打合せの時点で業務上の提携の準備・検討が行われ,それらを進めることをデンソーとモルフォが議論し,合意したとはいえない。


小括
以上からすれば,業務執行を決定する機関が業務上の提携を
行うことについての決定をしたのは,遅くとも平成27年8月4日であるとはいえない。

第3
1
当裁判所の判断
認定事実
前提事実,文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。


モルフォについて

ビジネスモデルについて
モルフォのビジネスモデルは,手ブレ補正技術等の画像処理技術を研
究・開発した上で,これを用いたソフトウェアを製品化し,顧客に提供して報酬を得るというものであるが,取引の種類としては,主に,①モルフォが既に保有している画像処理のソフトウェアを顧客のプラットフォーム等に合わせてカスタマイズし,顧客に対してライセンスを提供するもの(ソフトウェアライセンス),②顧客からの要望を受け,研究開
発を行い,ソフトウェア等を納品するもの(受託研究・開発)及び③顧客と共に研究テーマを検討し,エンジニア等のリソースを融通し合い,新しい技術(ソフトウェア等)を開発するもの(共同研究・開発)の3つがあった(甲5・20ないし24頁,甲6・1ないし3頁)。

株式数について
平成26年10月31日現在のモルフォの発行済株式数は,162万4600株であったが,うち,Aは16万4600株(発行済株式総数の10.13%)を所有しており,Aを除くモルフォの取締役及び監査役の持ち株数の合計は,2万株に満たないものであった(乙A15・資料1・27,31及び32頁)。



6月15日の打合せに至る経緯

モルフォは,平成27年3月頃,半導体チップメーカーであるNVIDIAJapan(以下NVIDIAという。)からディープラーニングに関する講演を行って欲しい旨の依頼を受けたため,Aは,CTO室のシニア
リサーチャーであったGに講演を行うよう指示し,同年5月26日,Gは,NVIDIAが開催するセミナー(以下本件セミナーという。)で講演を行った。なお,本件セミナーには,モルフォの他に株式会社PreferredNetWorks(以下PFNという。),株式会社クロスコンパス(以下クロスコンパスという。)及び株式会社システム計画研究所(以下システム計画研究所という。)も講演者として参加していた。(以上につき,乙A5・4頁,乙A14・3頁及び資料1)


デンソーは,車載カメラにディープラーニングを用いた画像認識技術を組み込み,新たな車載カメラや車載カメラを組み込んだ車載危険検知ユニット等(以下車載カメラ等という。)を自動車メーカーに販売することを考えていたが,ディープラーニングに関する研究が遅れていたこともあり,平成27年春頃には,Dを中心に,ディープラーニング
を用いた画像認識技術の研究が進んでいる会社と,共同開発やディープラーニングを用いた画像認識技術などを組み込んだ車載カメラ等の製品化を行うことを検討していた(乙A14・1及び2頁)。

Dは,平成27年5月頃,NVIDIAが本件セミナーを開催することを知り,これに参加した。Dは,講演内容から,ディープラーニング
を用いた画像認識技術について,モルフォが他社より優位に立っており,共同開発先として適切であると感じたものの,講演内容だけでは技術の詳細が不明であると考え,本件セミナーで講演をした各社から直接話を聞くこととし,その後,NVIDIAに依頼してモルフォのAを紹介してもらい,同年6月15日にモルフォと打合せをすることとなった。
(以上につき,甲11,甲22,甲23,乙A14・3及び4頁並びに資料2及び3)


6月15日の打合せ
6月15日の打合せはモルフォの事務所で行われ,モルフォからはA,
G及びCが出席し,デンソーからはDらが出席した。同打合せでは,モルフォ及びデンソーの双方が自社の業務内容等を紹介した後,デンソー側が,車載カメラ等の開発に向けてモルフォの画像認識技術に興味を持っている旨の話をしたため,Aが,ディープラーニングを利用した画像認識技術や画像処理技術を紹介したところ,デンソー側が,モルフォの画像処理技術について一般的な車載カメラにも活用できるのではないかとの見解を示した。6月15日の打合せの結果,デンソーとモルフォは,
NDAを締結することした。(以上につき,甲6・8頁,甲12,甲20・資料1,乙A5・4ないし6頁,乙A6・2及び3頁,乙A11,乙A14・5ないし7頁及び資料5-2)

6月15日の打合せの報告及び8月4日の打合せに至る経緯

Cは,6月15日の打合せの内容を原告に報告した上,その概要を記載した客先議事録を作成し,平成27年6月16日,モルフォ
内で使用されている共有フォルダに投稿し,その内容はAを含むモルフォの技術者全員等に電子メールで送信された(甲20・資料1,乙A5・6及び7頁,乙A6・4及び5頁,乙A9・4頁,乙A11)。

Cは,デンソーとの交渉を行う部門について原告に相談したところ,原告は,今後の交渉についてEIP事業部に担当させることとし,以後は,既にやり取りが進んでいたNDAの締結を除き,EIP事業部のH及びFがデンソーとの交渉を行うこととなった(乙A5・7及び8頁,乙A6・5及び6頁,乙A7・3頁,乙A8・2及び3頁,乙A9・5頁)。


CとDは,平成27年6月16日以降,NDAの内容について交渉を重ね,同年7月29日,モルフォとデンソーはNDA(以下本件NDAという。)を締結した。なお,モルフォにおいては,NDAの締結に当たりAの決裁は必要ではなく,部門の長の決裁で足りるた
め,本件NDAはCが決裁した。(以上につき,甲5・13頁,甲6・7,9及び10頁,乙A6・6及び7頁,乙A14・7及び8頁並びに資料6及び7)

Dは,前記⑵ウのとおり,モルフォ以外の会社の技術の詳細を知るため,本件セミナーに参加した各社から話を聞く必要があると考えていたことから,PFN,クロスコンパス及びシステム計画研究所を関係者から紹介してもらうこととした。Dは,平成27年7月頃,PF
Nと打合せをしたところ,他社との共同開発を行う予定であるとして共同開発を断られたため,同月下旬の時点で共同開発先の候補から外した。また,Dは,同月29日にクロスコンパス及びシステム計画研究所と打合せをしたところ,クロスコンパスについては小プロジェクトを通じてエンジニアの技術力を見定めることとなったが,クロスコ
ンパスにおける作業人員等の都合から,当該プロジェクトは実施されなかった。(以上につき,甲13,甲14,乙A14・9ないし11頁並びに資料9-1ないし資料9-3)

8月4日の打合せ
8月4日の打合せはモルフォの事務所で行われ,モルフォからはG,C,F,H及びネットワークサービス事業部のIが出席し,デンソーからはDらが出席した。同打合せでは,デンソー側から,画像処理と画像認識の分野でモルフォと共同開発の検討を進めたいと考えているため,2,3か月で終了するような小規模のプロジェクトを複数行い,その結果によって技
術的に共同開発が実現できるか否かを平成27年の年末までに判断したい旨の要望が出された。また,デンソー側から,車載カメラの高画質化に関連して,①前方カメラによる先端運転支援システムの認識向上のためノイズ除去・ブレ除去・ダイナミックレンジ補正による画像処理を行うこと及び②周辺カメラの画質向上のため歪み補正・ダイナミックレンジ補正・合
成などによる画像処理を行うこと,ディープラーニング関連として,①車載カメラの映像から場面や起こり得るリスクの認識の可否及び②安全運転指導のためのドライブレコーダーの自動分析化などについて開発の検討を進めたいとの要望が出された。8月4日の打合せの結果,モルフォとデンソーは,平成27年8月26日に次回の打合せを行うこととし,次回の打合せでは,モルフォが,デンソーから提供されたサンプル動画に画像処理を行った結果を提示するとともに,デンソーから出された課題や要望に対
する提案を行うこととなった。(以上につき,甲15,甲20資料2,甲24・3ないし9頁,乙A7・3及び4頁,乙A8・5ないし9頁並びに資料2及び3,乙A14・11ないし14頁並びに資料10及び11)⑹

8月4日の打合せの報告

Cは,平成27年8月4日,A及び原告に対し,本件NDAを締結したこと及び次回の打合せはデンソーに行き技術者同士で技術に関する話し合いを行う旨を報告したところ,Aは

分かりました。

などと言い(以下本件回答という。),原告も今後の方針に異議を述べなかった(甲6・12頁,乙A5・10ないし12頁,乙A6・7及び8頁)。

Hは,平成27年8月10日,原告,E及びEIP事業部に所属する部員が出席したEIP事業部の定例会議において,8月4日の打合せの内容を報告した。また,Hは,同打合せの概要を記載した客先議事録を作成し,これを同月11日にモルフォ内で使用されている共有フォルダに投稿し,その内容はAを含むモルフォの技術者全員等に電子メールで送信された。(以上につき,乙A5・8ないし10頁,乙A8・7な
いし12頁,資料3及び資料4,乙A39)


8月26日の打合せ
8月26日の打合せは愛知県刈谷市にあるデンソーの事務所で行われ,
モルフォからはG,F及びHが出席し,デンソーからはDらが出席した。同打合せでは,モルフォ側が,事前にデンソーから提供されたサンプル動画にワイドダイナミックレンジ(明るさを適正化する機能を持つソフトウェア),ディヘイザー(もやを除去する機能を持つソフトウェア)及びムービーソリッド(手ぶれを補正する機能を持つソフトウェア)を使用して画像処理した動画を提示しつつ,画像処理の手法等につき説明した。これに対し,デンソー側は,モルフォの画像処理技術を高く評価し,モルフォの持つソフトウェアをどのように利用するかについてデンソー内部で協議・検討し,モルフォに連絡することとなった。(以上につき,甲24・9ないし12頁及び資料5,乙A7・9及び10頁並びに資料1-2,乙A14・14ないし16頁及び資料12-2)。


8月26日の打合せの報告
Hは,8月26日の打合せの概要を記載した客先議事録を作成し,
これを平成27年9月1日にモルフォ内で使用されている共有フォルダに投稿し,その内容はAを含むモルフォの技術者全員等に電子メールで送信された。また,Fは,平成27年8月31日,原告,E及びEIP事業部に所属する部員が出席した定例会議において,8月26日の打合せの内容を報告した。(以上につき,甲20・資料3,乙A5・12頁及び資料3,
乙A7・5,8ないし11頁及び資料1-2,乙A8・資料6,乙A39)⑼

モルフォとデンソーの平成27年9月11日の打合せ(以下9月11日の打合せについて)及びその後の会食9月11日の打合せはモルフォの事務所で行われ,モルフォからはF及び
Hが出席し,デンソーからはDらが出席した。同打合せでは,デンソー側からワイドダイナミックレンジ等を組み込んだシステムを自動車に搭載し,走行テストを行いたい旨の要望があった。同打合せの後,F,H及びDらは,会食を行い(以下本件会食という。),その席上,Dらは,F及びHに対し,デンソーがモルフォの技術について大きな興味と期待を持っており,
モルフォに対し,出資及び中長期的な協業を検討している旨を述べたところ,Fらは,出資の規模については持ち帰って相談する旨述べた。(以上につき,甲16,乙A7・12,13,15ないし17頁並びに資料1-4及び2,乙A14・16ないし18頁及び資料13)

9月11日の打合せの報告等

Fは,平成27年9月14日,原告及びEに対し,9月11日の打合せ及び本件会食の概要を記載した電子メールを送信した(甲4,甲8・
3頁,甲18・資料1,乙A7・15ないし17頁及び資料2)。イ
Eは,前記アの後,Aに対し,デンソーがモルフォに出資及び中長期的な協業を検討している旨を報告した(甲5・1及び2頁,甲6・13及び14頁,乙A5・14頁)。


A,原告,F及びHは,平成27年9月18日,デンソーからの資本提携に関する提案について回答をするための打合せを行い,デンソーに出資をしてもらうことは構わないが,Aの持分比率を超えないようにすることを条件として提示することを決めた(甲5・4ないし6頁,甲6・14頁,乙A5・15頁)。


モルフォとデンソーの平成27年9月24日の打合せ(以下9月24日の打合せという。)9月24日の打合せは,モルフォの事務所で行われ,モルフォからは,A,E,原告,F及びHが出席し,デンソーからは,常務役員であるJ及びDらが出席した。同打合せでは,デンソー側から改めて出資及び中長期的な協業の提案がされるとともに,画像処理技術及びディープラーニング
について,平成28年初頭から共同開発を行いたい旨の提案がされ,モルフォ側もこれを了承した(甲17,乙A14・18ないし20頁並びに資料14及び15)。

9月24日の打合せ以後の経緯について
モルフォとデンソーは,9月24日の打合せ以後も打合せを重ね,その結果,デンソーがモルフォからの第三者割当増資によって出資をすること,デンソーが取得する株式数を発行済み株式総数の5パーセントとなる26万1800株とすること及び本件提携を平成27年12月11日に開示することなどが合意され,モルフォは,同日,本件提携を公表した(本件公表)(甲1,甲18・資料2ないし5,甲20・資料4,乙A5・16ないし19頁,前提事実⑵イ)。

2
争点1(Aが金商法166条2項1号所定の業務執行を決定する機関に該当するか否か)について


判断枠組み
金商法166条2項1号所定の業務執行を決定する機関は,会社法所定の決定権限のある機関には限られず,実質的に会社の意思決定と同視
されるような意思決定を行うことのできる機関であれば足りると解される(最高裁平成11年6月10日第一小法廷判決・刑集53巻5号415頁参照)。

検討

Aは,モルフォの創業者であり,モルフォ
設立以降,代表取締役を務めていたこと及び認定事実⑴イのとおり,Aは,モルフォの発行済み株式総数の約1割を保有する筆頭株主であったことからすれば,Aは,他の取締役と比較してモルフォの意思決定について大きな影響力を有していたということができる。

また,認定事実⑷ア,⑹ア,⑻及び⑽イのとおり,モルフォの担当者は,本件提携におけるデンソーとの間の交渉経過や,デンソーがモルフォに出資及び中長期的な協業を検討している旨を逐一Aに報告しているほか,認定事実⑽ウのとおり,Aは,本件提携に係るデンソーからの資本提携に関する提案への回答を検討するに当たり,取締役会を招集した
り,取締役全員を集めたりすることなく,原告並びにデンソーとの交渉担当者であったF及びHと打合せを行い,デンソーに対する回答内容を決めている。他方で,モルフォの内部規定等によってAの権限が限定されていたことはうかがわれない。

以上からすれば,モルフォにおいて,Aは,本件提携について,実質
的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことができる機関であったといえる。



原告の主張について

原告は,Aは,原告がモルフォの取締役に就任する前から他の取締役と合議して事業面の業務執行を決定しており,原告がモルフォの取締役に就任した後も,合議して業務執行の方針を決定していたのであって,原告の従業員もそのような認識であったことからすれば,モルフォにお
いて事業面の業務執行を決定する機関は,Aと原告の合議体であると主張する。

しかし,仮に,Aが,原告が就任する前から他の取締役と合議して事業面の業務執行を決定し,原告がモルフォの取締役に就任した後も合議して業務執行の方針を決定していたとしても,前記⑵アで説示したとお
り,Aは他の取締役と比較してモルフォの意思決定について大きな影響力を有しており,本件提携においても,取締役会を招集したり,取締役全員を集めたりすることなく,重要な意思決定を行っているといえるのであり,原告の主張する上記事情は,Aが,業務執行に関し,適宜原告と相談しつつ,その助言を踏まえ,意思決定をしていたにすぎないもの
と評価すべきである。
以上からすれば,この点に係る原告の主張には理由がない。


小括
よって,本件提携において,Aは,金商法166条2項1号所定の業務執行を決定する機関に該当する。
3
争点2(モルフォの業務執行を決定する機関がデンソーとの間で金商法166条2項1号ヨ及び金商法施行令28条1号所定の業務上の提携を行うことについての決定をした時期が遅くとも平成27年8月4日であるか否か)について


判断枠組み
金商法166条1項が,上場会社等の役員等につき,同条2項1号所定
の上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知った者が,当該重要事実の公表がされた後でなければ当該上場会社等の特定有価証券等の売買等をしてはならない旨規定しているのは,同号所定の重要事実が投資家の投資判断に影響を及ぼすものであることを踏まえ,上場会社等の内部情報を一般投資家より早く,よりよく知ることができる立場にある者が,一般投資
家の知り得ない内部情報を不当に利用して当該上場会社等の特定有価証券等の売買等をすることは,証券取引市場における公平性,公正性を著しく害し,一般投資家の利益と証券取引市場に対する信頼を著しく損なうことになることとなるからであると解される。
このような趣旨に鑑みると,金商法166条2項1号ヨ所定の業務上の提携を行うことについて決定をしたとは,業務執行を決定する機関において,業務上の提携,すなわち,仕入れ・販売提携,生産提携,技術提携及び開発提携等,会社が他の企業と協力して一定の業務を遂行することの実現を意図して,業務上の提携又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされることが必要であり,業務上の提携
の実現可能性があることが具体的に認められることは要しないものの,業務上の提携として一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度に具体的な内容を持つものでなければならないと解すべきである(前掲最高裁平成11年6月10日第一小法廷判決,最高裁平成23年6月6日第一小法廷判決・刑集65巻4号385頁参照)。



検討

前提事実⑵イのとおり,本件提携は,①ディープラーニングによる画像認識技術の車載機器への適用に関する基礎的研究,②画像認識技術を始めとする各種画像処理技術を応用した,電子ミラー等の車載機器に関する研究開発及び③上記研究開発の成果に基づく製品・サービスのマーケティングにおける連携を内容とする業務提携を行うこと並びに第三者
割当増資により,デンソーに対しモルフォの普通株式26万1800株を割り当てることを内容とする資本提携を行うことを内容とするものであるから,本件提携は同号ヨ所定の業務上の提携に該当する。
以下,本件提携を行うことについての決定をした時期が,遅くと
も平成27年8月4日であるか否かについて,前記⑴で説示したところ
を踏まえ,検討する。

6月15日の打合せ及び本件NDAの締結について
6月15日の打合せについてみると,同打合せは,モルフォ及びデンソーの関係者が初めて会う機会であるから,モルフォ及びデンソー
の事業内容及び事業規模からすれば,同打合せにおいて,取引について具体的な協議が行われることはそもそも考え難い。また,モルフォからすれば,デンソーは,自社の技術に興味を持っている会社としてNVIDIAから紹介された会社にすぎず,認定事実⑶のとおり,6月15日の打合せの内容も,各自が自社の業務内容等を紹介し,デン
ソーがモルフォの持つ技術を車載カメラ等に応用できるのではないかと述べたのみである。
そして,認定事実⑵ウのとおり,6月15日の打合せの前の時点において,Dは,モルフォ以外の会社の技術の詳細を知るため,本件セミナーに参加した各社から話を聞く必要があると考えていたこと,D
は,6月15日の打合せの前に,デンソーの社員に対して,

すぐに何かをするというわけではないのですが,15日(月)に先方社長と懇談する機会がありますので,腹積もりとして知っておきたく。

と電子メールに記載してモルフォについての調査を依頼していること(乙A14・資料3)及びDは,6月15日の打合せについて,何かしらの取引関係が築けないかとの思いで行ったもので,双方の事業方針や技術内容を簡単に紹介し合い,考え方や方向性,技術内容に親和性があるかどうかの感触を確かめるためのものであったと述べていること(甲25)からすれば,6月15日の打合せ以前の時点においては,デンソーは,モルフォについて,将来的に何らかの取引を行う可能性のある複数の会社のうちの一つとして検討していたにすぎないと
いうべきである。
このように,6月15日の打合せは,新たな車載カメラ等の販売を実施したいと考えたデンソーが,モルフォの技術について直接話を聞きたいとして,その求めに応じて実施されたものであるところ,この時点で,デンソーにおいても,複数の協業の候補先が検討され,モル
フォとの業務提携の規模や内容について具体的に検討された形跡はなく,6月15日の打合せのやり取りでも,デンソーからモルフォに対して業務提携の規模や内容に関する話がされた形跡はないことを踏まえると,同日時点で,モルフォにおいて,業務上の提携について,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容の決定がされ
たということはできない。
なお,6月15日の打合せにおいて,モルフォ側から,スマートフォンの分野での実績やその際のライセンスフィーについて発言があり,車両分野でライセンスとする場合には,年間200万台から300万台と仮定した場合,1台あたり100円をもらえると嬉しい旨の発言
があったと認められるが(甲12,乙A14・資料5-2),上記のとおり,6月15日の打合せはモルフォ及びデンソーの関係者が初めて会う機会であり,そのような段階で双方が具体的な契約を前提として報酬の交渉をすることは考え難いことなどからすれば,上記発言は,モルフォ側が,モルフォと契約した場合の一般的なライセンスフィーの相場を説明したにすぎず,上記発言をもって,6月15日の打合せの内容が,一般投資家の投資判断に影響を及ぼすような具体的内容を
有していたと評価することはできない。
本件NDAの締結についてみると,モルフォにおいては,自らが開発したソフトウェアが他社に無償で流出することを防ぐため,営業活動に伴って自らの技術を顧客に詳細に説明する前に顧客との間で必ずNDAを締結していたと認められること(原告本人・7,38,4
4),平成27年6月から10月までのわずか5か月の間だけでも延べ31社との間でNDAを締結していたが,新規にNDAを締結した顧客であっても取引に係る交渉が進展しない場合も多々あること(甲21・資料2)及び認定事実⑷ウのとおり,モルフォにおいては,NDAの締結に当たり,Aの決裁は必要なかったことからすれば,本件
NDAの締結は,モルフォがデンソーに対し自社の技術を開示する条件を整えたものにすぎないと評価すべきである。
このように,本件NDAは,6月15日の打合せを踏まえ,モルフォが自らの技術を顧客に詳細に説明する際に必要なものとして締結されたものであって,本件NDAの締結時点では,モルフォにおいて,
業務上の提携について,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容の決定がされたということはできない。

8月4日の打合せについて
認定事実⑸のとおり,8月4日の打合せでは,デンソー側から,画
像処理と画像認識の分野でモルフォと共同開発の検討を進めたいと考えているため,2,3か月で終了するような小規模のプロジェクトを複数行い,その結果によって技術的に共同開発が実現できるか否かを平成27年の年末までに判断したい等といった要望が出され,これを受けて,モルフォは,次回の打合せまでに,デンソーから提供されたサンプル動画に画像処理を行った結果を提示するとともに,デンソーから出された課題や要望に対する提案を行うことを決めた。
もっとも,認定事実⑴アのとおり,モルフォのビジネスモデルは,手ブレ補正技術等の画像処理技術を研究・開発した上で,これを用いたソフトウェアを製品化し,顧客に提供して報酬を得るというものであるから,認定事実⑴アで摘示した①ソフトウェアライセンス,②受
託研究・開発及び③共同研究・開発のいずれの種類の取引であったとしても,取引に当たっては,多くの場合において,自社の技術力を顧客に説明する必要があると思われ,本件NDAもそのために締結されたものであると解される。
また,認定事実⑹イのとおり,Hは,平成27年8月10日のEI
P事業部の定例会議において,8月4日の打合せの内容を報告しているところ,その週報を見ると,Hの担当する顧客であるクリューシステムズ及びCasioについては見出しに社名を記載して詳細に営業活動等について報告が記載されているのに対し,8月4日の打合せについては,その他活動①ないしその他活動④として
合計11社に対する営業活動等が記載されているうちの1つとして記載され,その内容も認定事実⑸の概要が記載されているのみであり,他の会社に対する営業活動等の記載とほぼ同様の記載がなされているにすぎない(乙A39)。
さらに,デンソーが8月4日の打合せで用いた資料には,

まずは技術的な成立性を早急に見極めさせて頂けないでしょうか。

複数の小プロジェクト(2,3ヶ月完結程度)をスタートし,その結果を用いて,年末までに本協業への移行判断を行いたいです。

と記載されていたこと(乙A14・資料10-2)及び認定事実⑷エのとおり,デンソーは,平成27年7月29日の時点においても,クロスコンパスの技術力を見定めようとしていたことなどからすれば,8月4日の打合せの時点では,デンソーとしても,モルフォと業務提携を行うか
否かについてすら決定していなかったといえる。

まとめ
このように,8月4日の打合せは,本件NDAが締結されたことを踏まえ,デンソーがモルフォに車載カメラの高画質化やディープラーニン
グに関するより具体的な要望を述べるとともに,モルフォにデモンストレーションを求め,モルフォがこれに応じることとされたものであるところ,この時点でも,デンソーにおいては,技術的な成立性を見極めたい等とする程度で,モルフォとの業務提携の規模や内容について具体的に検討された形跡はなく,8月4日の打合せのやり取りでも,デンソー
からモルフォに対して業務提携の規模や内容に関する話がされた形跡はないこと,また,モルフォにおいても,平成27年8月10日の定例会議で,それほど詳細な報告がされていなかったことを踏まえると,同日時点で,モルフォにおいて,業務上の提携について,一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容の決定がされたということはで
きない。
そして,認定事実⑹アのとおり,Aは,平成27年8月4日,本件回答をしているところ,その内容は,8月4日の打合せを受け,その内容を了承したにすぎないものであるから,Aが本件回答をしたことをもって,本件提携を行うことについての決定をしたとは認められない。
認定事実⑼のとおり,9月11日の打合せ後の本件会食において初めて,デンソーの側から,資本業務提携の提案がされたものであって,それまでの間,モルフォにおいては,デンソーの案件について,①ソフトウェアライセンス,②受託研究・開発又は③共同研究・開発といったモルフォの通常のビジネスモデル(認定事実⑴ア参照)として業務を進めていたものであるところ,仮に,そのような業務が,技術提携や開発提携として業務上の提携に当たり得るのだとしても,それは,9月1
1日の打合せ以降,モルフォとデンソーとの間で検討がされた資本業務提携とは質的に異なるものであり,8月4日の打合せの時点においては,いまだ一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度のものであったとはいい難い。


被告の主張について

被告は,モルフォ第11期有価証券報告書によれば,モルフォは,6月15日の打合せ以前から車載といった組込分野を重要視しており,そのような状況の下で,Aは,モルフォの事業・経営方針と合致する相手としてデンソーを適切と考え,わざわざ6月15日の打合せに出席した
ことなどからすれば,Aは,6月15日の打合せの以前から,デンソーとの取引に強い関心を持っていたと主張する。
しかし,認定事実⑵ウのとおり,Aは,NVIDIAの紹介でDから連絡を受けているところ,その際,Aは,NVIDIAの担当者から,デンソーの担当者と会うことは可能であるかとの問合せを受けているこ
と(甲22)並びに認定事実⑸,⑺及び⑼のとおり,Aは,8月4日の打合せ,8月26日の打合せ及び9月11日の打合せのいずれにも出席していないことなどを踏まえると,Aは,上記問合せの内容や6月15日の打合せに至る経緯を踏まえ,6月15日の打合せに出席したに過ぎないというべきであり,Aが6月15日の打合せに出席したことをもっ
て,モルフォの事業・経営方針と合致する相手としてデンソーを適切と考え,デンソーとの取引に強い関心を持っていたことを裏付ける事情と評価することはできない。
以上からすれば,この点に係る被告の主張は理由がない。

被告は,6月15日の打合せに係るモルフォの客先議事録の記載(甲20・資料1,乙A5・資料1,乙A6・資料1,乙A9・資料2,乙
A11)及びこれに関するAの供述からすれば,モルフォとデンソーは,6月15日の打合せにおいて,NDAの締結後に,デンソーの車載危険検知ユニットにモルフォのディープラーニングを使用した画像認識技術及び画像処理技術を活用することの初期検討を協力して進めていくことを合意しており,8月4日の打合せを経て,上記技術の活用に向けた調
査,準備及び交渉を行うことを決めているのであって,上記技術の開発に関する事項が本件提携の概要に結実したといえることからすれば,本件回答は,本件提携を行うことについての決定といえると主張する。確かに,6月15日の打合せに係る上記モルフォの客先議事録には,被告の主張する内容が記載されていると認められる。しかし,同日は,
デンソーがモルフォの技術の詳細について知る前であって,この段階で本件提携に向けた具体的合意がなされたとは考え難く,前記⑵イ
の説

示を踏まえると,上記客先議事録の記載は,モルフォとデンソーが,モルフォの持つ技術をデンソーの車載カメラ等に応用することの可否について引き続き検討していくことを確認した旨を記載したにすぎないものというべきである。
また,前記⑵ウで説示したとおり,モルフォのビジネスモデルは,手ブレ補正技術等の画像処理技術を研究・開発した上で,これを用いたソフトウェアを製品化し,顧客に提供して報酬を得るというものであって,多くの取引において,画像認識技術及び画像処理技術の活用に向けた調
査,準備及び交渉を伴うものであるといえるから,上記技術の開発に関する事項が本件提携の内容となったことをもって,直ちに,上記技術の開発に関する事項が本件提携の概要に結実したと評価できるとはいえない。
以上からすれば,この点に係る被告の主張は理由がない。


小括
以上からすれば,Aが,金商法166条2項1号ヨ所定の業務上の提携を行うことについての決定をした時期が遅くとも平成27年8月4日であるとは認められない。
4
小括
以上のとおり,モルフォの業務執行を決定する機関であるAが,金商法166条2項1号ヨ所定の業務上の提携を行うことについての決定を
した時期が遅くとも平成27年8月4日であるとは認められず,他の証拠によっても,Aが同月10日までに,上記決定をしたとは認められない。そうすると,原告が,同月10日までに,モルフォの業務執行を決定する機関が上記業務上の提携を行うことについての決定をしたことを知りながら本件株式を買い付けたとは認められない。

したがって,本件納付命令は違法である。
第4

結論
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用
の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部

裁判長裁判官

鎌野真敬
裁判官

網田圭亮
裁判官

野村昌

(別紙2)
金商法175条1項2号の規定により,当該有価証券の買付けについて業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も高い価格に当該有価証券の買付けの数量を乗じて得た額から当該有価証券の買付けをした価格にその数量を乗じて得た額を控除した額
7320円×400株-(3850円×100株+3855円×100株+4120円×100株+4125円×100株)=133万3000円金商法176条2項の規定により,上記で計算した額の1万円未満の端数を切り捨て,133万円
(別紙3)
原告は,画像処理技術の研究開発等を目的とし,その発行する株式が東京証券取引所マザーズ市場に上場されているモルフォの取締役であるが,遅くとも平成27年8月10日までに,同人がその職務に関し,モルフォの業務執行を決定する機関が,デンソーとの業務上の提携を行うことについての決定をした旨の重要事実を知りながら,法定の除外事由がないのに,上記重要事実の公表がされた平成27年12月11日より前の同年8月24日及び同月26日,大和証券株式会社を介し,東京都中央区日本橋兜町2番1号所在の株式会社東京証券取引所において,自己の計算において,モルフォ株式合計400株を買付価額合計159万
5000円で買い付けた。
別紙1指定代理人目録については,記載を省略。
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