判例検索β > 令和2年(行ケ)第10088号
審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
事件番号令和2(行ケ)10088
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和3年2月22日
裁判所名知的財産高等裁判所
権利種別商標権
訴訟類型行政訴訟
裁判日:西暦2021-02-22
情報公開日2021-03-01 14:02:16
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令和3年2月22日判決言渡

令和2年(行ケ)第10088号

審決取消請求事件

口頭弁論終結日令和2年12月15日
判原決告
株式会社LIFULL

訴訟代理人弁理士

橘同藤同佐被哲男本正紀藤大輔告特
指定代理人

山根ま同小松里美同石塚利恵
被告補助参加人

株式会社インテグラル

訴訟代理人弁護士

杉村同岡本同深津同時井同野崎智
訴訟代理人弁理士

村松由同藤本主許文庁長官り光子嗣岳拓寛真裕布子一1
原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は,補助参加によって生じたものを含め,原告の負担とする。事実及び理由

第1請求
特許庁が不服2020-1579号事件について令和2年6月10日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1
特許庁における手続の経緯等
原告は,ホームズくんの文字を横書きしてなる商標(以下本願商標という。)を,商願2017-155806(平成29年11月27日登録出願)からの分割出願として,令和元年5月15日に登録出願した(商願2019-69010)。その指定商品及び指定役務(査定手続中の同年7月17日付け手続補正書による補正後のもの)は,別紙審決書写しの別掲1のとおりである。
原告は,拒絶査定を受けたので不服審判(不服2020-1579号)を請求した。令和2年6月10日,別紙審決書写しのとおり請求不成立の審決がなされ,その謄本は同月26日に原告に送達された。
原告は,令和2年7月22日,本件訴訟を提起した。

2
審決の理由の要旨
審決の理由の要旨は,本願商標は下掲の引用商標1(登録第5125935号商標)に類似し,引用商標1の指定役務と同一又は類似の役務について使用するものなので,商標法4条1項11号に該当する,というものである。引用商標1の構成要素のうち,ホームズ君の文字部分(以下『ホームズ君』部分という。)は水色で表され,耐震フォーラムの文字部分(以下『耐震フォーラム』部分という。)は1文字ずつ水色正方形の内側に白抜きで表されている。また,虫眼鏡を手に持つキャラクター化した人物の絵柄部分(以下キャラクター絵柄部分という。)のうち,帽子と上衣が黄色に,虫眼鏡のレンズ部分が水色に着色されている。なお,以下,家の骨組みと思しき図形部分とキャラクター絵柄部分とを併せて引用図形部分ということがある。
3
被告補助参加人(以下参加人という。)は,引用商標1の商標権者である。また,参加人は,ホームズ君の文字を横書きしてなる商標を平成29年12月22日に登録出願したが(商願2017-167787),本願商標が登録されたときにこれとの関係で商標法4条1項11号に該当することとなる旨の拒絶理由通知を受けた。

第3原告の主張(審決取消事由)
本願商標と引用商標1との類否についての審決の判断は,以下のとおり誤りである。
1
本願商標から生ずる観念についての認定の誤り
審決は,本願商標からは(愛称としての)ホームズ君の観念が生じると認定したが,誤りである。


本願商標は原告キャラクターの愛称であること
本願商標により表されるホームズくんは,下掲のキャラクター(以下原告キャラクターという。原本は彩色されている。)の愛称である。
平成9年(1997年)当時のホームズくん
現在のホームズくん

原告キャラクターは,平成9年以来,ウェブサイト,テレビCM,雑誌広告などにおいて,原告の企業イメージキャラクターとして使用され,現在のものについては商標登録もなされている(平成30年9月14日登録6081496号)。そのため,ホームズくんという文字に接する取引者・需要者は,原告キャラクター,ひいては原告及び原告が提供する不動産情報サービスを容易に想起する。


原告キャラクターの周知・著名性
原告キャラクター及びその愛称ホームズくんは,原告の業務に係る役務を表すものとして,取引者・需要者の間で,周知性のみならず著名性をも獲得している。
特に,原告キャラクターと密接不可分の関係にあるのが,原告が管理,運営する不動産総合ポータルサイトLIFULLHOME'S(以下原告ウェブサイトという。)である。原告ウェブサイトは,物件掲載数第1位(平成31年1月7日)として,我が国で最も取引者・需要者に閲覧されている不動産ポータルサイトであり,その存在は際立っている。そのため,不動産情報を取得しあるいは取り扱う利用者の間では原告ウェブサイトは深く浸透している。そして,原告ウェブサイト上において,原告キャラクターは,常時,多数の箇所で掲載されている。
また,原告は,日本全国の放送局において継続してテレビCMを放映し,ユニークで訴求力の高いテレビCMとして好評を博しているところ,その中においても原告キャラクターが頻繁に登場している。
このように,原告キャラクターは,我が国における不動産総合ポータルサイト上のイメージキャラクターとしての確固たる地位を築いている。そのため,原告キャラクターの愛称として使用され,現に業務上の信用が表象されている本願商標ホームズくんは,原告による各種不動産情報の提供の役務を表示するものとして,我が国の取引者・需要者の間で周知性・著名性を獲得している。その結果,本願商標に接する取引者・需要者は,本願商標から原告イメージキャラクターとして採用する(愛称としての)ホームズくんとの観念を想起・把握する。⑶

不動産業界の取引の実情
イメージキャラクターを用いて企業活動を行うことは近年の一般的な傾向である。特に,不動産業界は,一般の顧客にとっては,馴染みが薄く,かつ,敷居が高いとみられる業界であるため,イメージキャラクターを採用することによって商品やサービスの親しみやすさ等を顧客に対して訴求する効果が高く,原告と同業の不動産総合ポータルサイト管理事業者や大手ハウスメーカーでは広くイメージキャラクターが採用されている。



以上のとおり,原告キャラクターと本願商標との密接不可分的なつながり,原告キャラクター及び原告ウェブサイトの周知著名性,不動産業界の取引の実情を考慮すると,本願商標からは,原告キャラクターの観念,さらには原告による各種不動産情報の提供の役務という観念が生じる。
したがって,審決が,本願商標から生じる観念として(愛称としての)ホームズ君のみを認定したことは,誤りである。
2
引用商標1から生じる称呼・観念・外観についての認定の誤り


耐震フォーラム部分に識別力がないとしたことの誤り
審決は,『耐震フォーラム』の文字は,・・・フォーラムやセミナーの企画・運営等を行う役務又はそれに関連する商品・役務を取り扱う業界においては,「耐震に関するフォーラム程の意味合いを認識させるにすぎないことから,引用下段部分は,自他役務の識別力を有しないか,又はそれが極めて弱い」などと認定したが,誤りである。
引用商標1の耐震フォーラム部分は,引用商標1の構成の大部分を占め,特異なデザインで強調して表示されているため,引用商標1に接する取引者・需要者に対して強い印象を与え,その記憶に残る。審決は,耐震フォーラム部分の文字の大きさ,色,デザインを軽視又は無視し,耐震フォーラムの語がインターネット上で使用されている事実のみを理由に上記認定をしており,著しく妥当性を欠く。
また,引用商標1の指定役務のうち,41類の建築に関する知識の教授や建築に関するセミナーの企画・運営又は開催等に限っていえば,耐震フォーラム部分の自他役務の識別力が弱いといえる余地があるが,その他の指定役務との関係では,耐震フォーラム部分は役務の内容を記述的に表示するものではないから,自他役務の識別力を否定すべき理由はない。⑵

ホームズ君部分を分離観察したことの誤り
審決は,引用商標1の構成中,左上の『ホームズ君』の文字部分(「ホームズ君部分),引用図形部分及び引用下段部分(耐震フォーラム部分)とは,それぞれが視覚的に分離して観察されることに加え,観念的な関連性も見いだすことはできないから,これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいい難く,『ホームズ君』の文字部分と引用図形部分がそれぞれ自他役務の識別力を有する」などと認定したが,失当である。
判例によれば,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者・需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されない。
引用商標1は,ホームズ君部分,耐震フォーラム部分及び引用図
形部分という複数の構成要素が不可分一体的に表されているものである。その構成中の一部分にすぎないホームズ君部分は出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではなく,耐震フォーラム部分及び引用図形部分が出所識別標識としての機能を果たさないとみるべき特別な事情も見当たらない。そうすると,引用商標1に接する取引者・需要者が,ホームズ君部分のみに着目するとは到底考え難く,審決の認定は現実の取引の実情を全く考慮していない。現実の取引においては,取引者・需要者はあくまで商標全体を認識,把握し取引に資するものであるため,原則的には,商標は全体観察を基本とすべきであり,いたずらに分離判断をすべきではない。したがって,引用商標1からホームズ君部分のみを抽出して本願商標と比較することによって類否を判断することは許されず,あくまで商標全体の構成をもってその類否を判断すべきである。


引用商標1から生じる称呼・観念・外観についての認定の誤り
審決は,引用商標1は,その要部の一である『ホームズ君』の文字部分に相応して,『ホームズクン』の称呼及び『(愛称としての)ホームズ君』程の観念を生じる旨認定したが,誤りである。称呼について,上記⑴のとおり,引用商標1のうち耐震フォーラム部分も識別力を有するから,引用商標1からはタイシンフォーラムの称呼も生じる。また,ホームズクンタイシンフォーラムの称呼も格別冗長とはいえず一気一連に淀みなく称呼しうるものであり称呼上の一体性があること,ホームズ君部分と耐震フォーラム部分とは近接して配置されており外観上の一体性があること,ホームズ君ブランドの耐震性に関するフォーラムとの意味合いが生じ観念的な一体性があることから,ホームズ君及び耐震フォーラムの各文字部分は,構成上一体不可分のものといわなければならず,これより生ずる称呼は構成文字全体に相応するホームズクンタイシンフォーラムとするのが自然である。観念について,上記⑴のとおり,引用商標1のうち耐震フォーラム部分も識別力を有するから,引用商標1からは耐震性に関するフォーラムの観念及びホームズ君ブランドの耐震性に関するフォーラムの観念も生ずる。また,ホームズ君部分からも,単なる(愛称としての)ホームズ君ではなく,キャラクター絵柄部分に表示されたキャラクターの観念も生ずる。
外観については,引用商標1は,図形要素と文字要素とが複雑に入り組んだ構成よりなり,これらの要素は密接不可分の関係にあるから,引用商標1に接する取引者・需要者は,その構成中の一部分にすぎないホームズ君の文字部分のみに着目するのではなく,あくまで図形要素と文字要素とが複雑に入り組んだ構成よりなる商標全体を認識し,把握する。
3
類否判断の誤り
以上によれば,引用商標1と本願商標とは,称呼が一部共通するとしても,観念・外観において顕著に相違し,また,称呼の共通性が観念・外観における顕著な相違を凌駕するものではない。よって,両商標は,外観・称呼・観念のいずれの観点からも互いに相紛れるおそれはなく,取引者・需要者に与える印象・記憶・連想等を総合して全体的に考察すれば,非類似の商標である。したがって,両商標が類似するとした審決の判断は誤りである。

第4被告の主張
1
本願商標から生ずる観念についての認定に誤りがないこと
商標の類否判断に当たり,引用商標1と対比されるべきは,あくまでも文字のみからなる本願商標それ自体である。原告が原告キャラクターを商標登録していることや,原告キャラクターを企業イメージキャラクターとして使用していることが,直ちに類否判断に影響するとはいえず,原告の主張は,その前提において誤りがある。
また,原告キャラクターが,本願商標の指定役務の分野において,原告の事業を表示するものとして,取引者・需要者の間に広く知られていると認めるに足りる証拠もない。

2
引用商標1から生じる称呼・観念・外観についての認定に誤りがないこと⑴

耐震フォーラム部分には識別力がないこと
引用商標1の耐震フォーラム部分の図形,書体及び表記方法は,特異な表示ではない。
また,フォーラムやセミナーの開催を告知するにあたって,その内容を表す文字を,主催者名や実施日時等の記載に比して大きく表示することが取引上普通に行われている実情に照らすと,引用商標1の構成中で耐震フォーラム部分が大きく表示されていても,それは,提供する役務(フォーラム)の内容を表す部分として,取引者・需要者に認識されるというべきであるから,自他役務の識別機能を有するものではない。



ホームズ君部分を分離観察するのは相当であること
引用商標1は,外観上,ホームズ君部分,耐震フォーラム部分及
び引用図形部分の三つが分離されないような態様で構成されているものではなく,また,各構成部分が不可分のものとして一つの称呼・観念を形成しているものでもない。そうすると,引用商標1は,各構成部分を分離して観察することが,取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえない。
そして,耐震フォーラム部分及び引用図形部分からは,出所識別標識としての独立した称呼及び観念は生じないのに対し,ホームズ君部分は,役務の出所識別標識として,取引者・需要者の注意をひきやすい部分であり,引用商標1の要部といえる。したがって,ホームズ君部分を取り出して類否判断に供するのが相当である。



全体観察における差異が重要な意味を有しないこと
引用商標1は,三つの構成部分を分離して観察することが,取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているというものではない。加えて,商標の構成部分の一部が出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼・観念が生じない場合などには,要部観察をもって両商標を対比することも許されるというべきであり,全体観察における差異,すなわち,引用商標1がホームズ君部分のほかに耐震フォーラム部分及び引用図形部分を有する点は,本願商標との対比において必ずしも重要な意味を有するものとはいえない。
3
類否判断に誤りがないこと
本願商標と,引用商標1の要部であるホームズ君部分とは,外観上類似した印象を与えるものであって,称呼及び観念を同一にするものであるから,取引者・需要者に与える印象・記憶・連想等を総合して全体的に考察すれば,本願商標と引用商標1とを同一又は類似する役務に使用したときは,両商標は,役務の出所について誤認混同を生じるおそれのある,互いに類似する商標というべきである。

第5参加人の主張
1
本願商標から生ずる観念についての認定に誤りがないこと
単なる文字商標でしかない本願商標について,原告の主張のように,その構成に含まれない別の図形(別の登録商標)を考慮に加え,さらにその図形から連想される観念を根拠に類否を検討することは許されない。

2
引用商標1から生じる称呼・観念・外観についての認定に誤りがないこと⑴

耐震フォーラム部分には識別力がないこと
商標を構成する文字等を囲む背景,輪郭線の構成について,様々なデザイン化が行われていることは顕著な事実であるから,引用商標1の耐震フォーラム部分の構成は,単に文字部分のありふれた装飾や背景として意識されるにすぎず,格別の識別力を発揮するものではない。また,耐震の文字が比較的大きいとはいえ,例えば耐震以外の文字が読めない程度に文字の大きさが異なるわけでもないから,このこと自体によって取引者・需要者に対して強い印象を与えてその記憶に残るものとは考えられない。


ホームズ君部分を分離観察するのは相当であること
結合商標において一部のみ抽出して比較できる場合としては,①商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合,②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合,のほかに,③商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは認められない場合,がある。
引用商標1について,各構成部分それぞれの表現態様や,相互の位置関係を総合すると,③の場合に当たるものとして,ホームズ君部分を分離観察することが許される。
また,参加人のブランドホームズ君は,それを冠した名称のソフトウェアの販売,セミナー等の開催,専門誌等への宣伝広告を通じて,需要者に広く知られているから,ホームズ君部分は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるといえるので,①の場合にも当たる。さらに,耐震フォーラム部分は,普通名詞を重ねた語にすぎず役務との関係において識別力を発揮しないし,引用図形部分は,一見して特定の事物を表したものと認識するのは困難であり,直接かつ一義的に,需要者をして特定の称呼ないし観念を想起せしめるものではなく,仮に,引用図形部分から何らかの観念が出るとしても,引用図形部分自体は,あくまで私立探偵の域を出るものではないため,いずれにせよ(愛称としての)ホームズ君の観念を補充的に表示しているとの印象の域を出るものではない。したがって,②の場合にも当たる。
したがって,引用商標1の要部であるホームズ君部分を分離抽出して類否判断に供するのが相当である。


全体観察した場合にもホームズ君部分が要部抽出されるべきこと
仮に,引用商標1を全体的に観察した場合であっても,引用商標1からはホームズ君部分を要部抽出し,これを類否判断に供するのが相当である。3
類否判断に誤りがないこと
本願商標と,引用商標1から分離抽出又は要部抽出されたホームズ君部分とは,平仮名と漢字との違いという外観上の微差を除いては,外観・称呼・観念において同一であり,指定役務も同一又は類似であるから,互いに類似する。

第6当裁判所の判断
1
商標の類否判断の手法について


商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。



複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,①商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許されないが,その場合であっても,②商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには,商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。原告の主張中には,分離観察が許されるのは②に該当する場合に限られるという趣旨に受け取れる部分があるが,上記のとおり,①に該当しないといえる場合にも分離観察は可能であるというべきであるから,上記主張は失当である。
2
本願商標の外観・観念・称呼について


本願商標は,ホームズくんの文字のみを横書きしてなる文字商標である。
本願商標の構成中,前半のホームズは,それ自体としてみると,家を表す英語の単語homeの複数形等を示すものとも受け取れ,そのような用語例も多数みられるところであるが(甲49,50),その一方で,Aの推理小説シリーズの主人公である私立探偵(シャーロック・ホームズ)の名としても著名である(乙5(大辞林第三版))。そして,後半のくんが,名に続けて付加されたときには,親しみや軽い敬意を表すくん(君)を平仮名表記したものと理解される(乙6(同))ことを併せ考えると,この両者を合わせたホームズくんは,家に関連する語ではなく,個人名ホームズに親しみを込めて君を付した語であると理解するのが自然である。そうすると,本願商標は,全体として,著名な名探偵ホームズに親しみを込めて言及した語であると認識されるとみるのが相当である。したがって,本願商標からは,ホームズクンの称呼を生ずるほか,近しい存在の名探偵ホームズといった観念を生じるものと理解すべきである。


原告の主張について
原告は,①原告キャラクターと本願商標との密接不可分的なつながり,②原告キャラクター及び原告ウェブサイトの周知著名性,③不動産業界の取引の実情を考慮すると,本願商標からは,原告キャラクターの観念,さらには原告による各種不動産情報の提供の役務という観念が生じる旨主張する。この主張は,取引の実情を考慮すると,本願商標から,上記の各観念が生じると主張しているものと解される。
しかしながら,証拠(甲34~39,41)によれば,原告が,原告キャラクターを利用した宣伝広告活動や営業活動を展開しており,原告キャラクターやその愛称であるホームズくんがそれなりの知名度を有するに至っていることは認められるものの,他方で,参加人も,引用商標1やそれに類似した標章,ホームズ君という名称等を利用して宣伝広告活動や営業活動を行っており,相応の知名度を得るに至っていること(丙20~323)等の事情に照らしてみると,本願商標の指定役務に係る取引分野において,ホームズくんといえば原告キャラクター,ひいては原告の営業を表すと取引者,需要者の誰もが理解するといえるほどの一般的,普遍的な観念が成立するに至っているとまで認めることはできない。そして,単に,原告がホームズくんという愛称の原告キャラクターを利用しており,それが,一定程度の知名度を有しているという程度のことであれば,それは,せいぜい本願商標に係る個別的な事情であるにとどまり,取引の実情として考慮することが許される,指定商品・役務全般についての一般的・恒常的事情(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小法廷判決・審決取消訴訟判決集昭和49年443頁参照)には当たらない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
3
引用商標1の外観・観念・称呼について


引用商標1は,別紙審決書写しの別掲2のとおり,ホームズ君部分,耐震フォーラム部分,引用図形部分から成る結合商標である。

引用商標1は,外観上,ホームズ君部分,耐震フォーラム部分
及び引用図形部分の三つが分離されないような態様で構成されているものではない。そして,ホームズ君部分及び耐震フォーラム部分と引
用図形部分とは,文字と図形との違いに加え,色彩においても大きく異なっており,外観上密接不可分な関係にないことは明らかである。他方,ホームズ君部分と耐震フォーラム部分とは,色彩が青色で統一されており,字体も共通するようにみられるものの,改行により二列になっていて一体性に乏しい上,前者は文字が青であるのに対し,後者は,青の背景に白抜きで文字が表されている点でも異なり,更に文字の大きさも異なるため,やはり外観上密接不可分な関係にあるとはいい難い。
また,ホームズ君部分,耐震フォーラム部分,引用図形部分の
三者が,称呼,観念において密接不可分の関係性を有していると認めるだけの根拠を見出すこともできない(なお,後のイで述べるとおり,ホームズ君部分と引用図形部分には,観念において一定の関係があると理解することも可能であるが,そうであるとしても,ホームズ君部分を要部として抽出し得るという結論に変わりがないことは,後に述べるとおりである。)。
したがって,引用商標1は,各構成部分を分離して観察することが,取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえないから,各部分を分離して観察することも許されるものというべきである。イ
そして,ホームズ君の文字は,それ自体としてみれば,商品・役務の出所識別標識としての機能を十分に果たし得るものであるといえること,ホームズ君部分は,引用商標1の他の部分に比べると小さいとはいえ,十分に認識可能な形で記載されており,出所識別標識としての機能を果たし得ないほどに他の部分に埋没してしまっているとはいえないこと等の事情に照らしてみると,ホームズ君部分を,引用商標1の要部として抽出することは十分に可能であるということができる。
他方耐震フォーラム部分を構成する耐震及びフォーラムは
いずれも普通名詞であって(乙7・8(大辞林第三版)),これらを結合した耐震フォーラムの語は,建築物等の耐震性に関する講演会・討論会を指称するためしばしば使用されていること(乙9~19(各種の専門新聞・一般日刊新聞))に照らすと,引用商標1が例えば不動産に関するセミナーの企画・運営に用いられた場合には,耐震フォーラム部分は,建物の耐震性に関する講演会・討論会程度の意味合いを認識させるにすぎず,出所識別標識としての称呼・観念を生じさせるとはいえない。
また,引用図形部分は,全体としてみると,探偵風の装束をした人物が家を観察している場面を描いたものと受け取れ,横にあるホームズ君部分を併せ見ることにより,家を観察する名探偵ホームズといった観念を生ずる余地があるが,仮にそうであるとしても,それは,ホームズ君のイメージを視覚的に描き出したものであって,ホームズ君部分を補完するものにすぎないと理解すべきであるから,独立して出所識別機能を果たすとまで見ることはできない。
以上によれば,本件においては,引用商標1から抽出したホームズ君部分と本願商標との比較によって類否を判断すべきである。⑵

原告の主張について

原告は,引用商標1の各構成部分が外観上密接不可分に入り組んでいることや,耐震フォーラム部分がそれ自体で出所識別標識となり得ること等を根拠に,ホームズ君部分を引用商標1から抽出した上で類否判断に供することは許されない旨主張するが,上記⑴に説示したところに照らして採用できない。


原告は,耐震フォーラム部分がそれ自体で出所識別標識となり得ないのは,引用商標1の指定役務のうち41類の建築に関する知識の教授や建築に関するセミナーの企画・運営又は開催等に限ってのことであるから,それを指定役務全般に一般化することはできない旨主張するが,本願商標の指定役務には不動産に関するセミナーの企画・運営が含まれており,本願商標の指定役務の中に一つでも引用商標1の指定役務と同一又は類似するものがあれば本願商標の出願は拒絶されるべきことに照らして,原告の上記主張は結論を左右するものでない。
4
類否判断について


本願商標であるホームズくんと,引用商標1から抽出されたホームズ君部分とは,くん(又は君)の部分が平仮名か漢字かという外観上の微差を除いては,外観・称呼・観念において同一であり,指定役務も同一又は類似であるから,互いに類似する。



原告は,本願商標と引用商標1とは,称呼が一部共通するとしても,観念・外観において顕著に相違し,また,称呼の共通性が観念・外観における顕著な相違を凌駕するものではない旨主張する。
しかしながら,原告の主張は,引用商標1からホームズ君部分のみを分離抽出して類否判断に供することができないことを前提にする主張であり,上記3で説示したところに照らして前提を欠く。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

5
結論
以上のとおり,審決の判断に誤りはなく,原告の請求には理由がない。知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

鶴岡稔彦
裁判官

上田卓哉都野道紀
裁判官
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