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損害賠償請求控訴事件
事件番号令和2(ネ)123
事件名損害賠償請求控訴事件
裁判年月日令和3年1月26日
裁判所名・部仙台高等裁判所  第2民事部
原審裁判所名福島地方裁判所
原審事件番号平成28(ワ)94
裁判日:西暦2021-01-26
情報公開日2021-02-16 16:00:22
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令和3年1月26日判決言渡
令和2年(ネ)第123号

同日原本領収

裁判所書記官

損害賠償請求控訴事件

(原審・福島地方裁判所平成28年(ワ)第94号)
口頭弁論終結日

令和2年9月15日
判主1決文
原判決中、被控訴人A(番号7)、同B(番号8)、同C(番号31)及び同D(番号38)に関する部分を次のとおり変更する。


控訴人は、被控訴人A、同B、同C及び同Dに対し、それぞれ24万2000円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


2
上記被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
控訴人のその余の被控訴人らに対する控訴をいずれも棄却する。ただし、原
審原告番号22の原告Eが平成30年7月5日に死亡していたことから、原判決主文中、同原告に関する部分を次のとおり更正する。


控訴人は、被控訴人F(番号22-1、亡E承継人)に対し、24万2000円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。



被控訴人Fのその余の請求を棄却する。



被控訴人Fと控訴人との間に生じた第1審の訴訟費用は、100分の11を控訴人の負担とし、その余を同被控訴人の負担とする。



本項⑴は、仮に執行することができる。ただし、控訴人が被控訴人Fに対し12万円の担保を供するときは、仮執行を免れることができる。
3
訴訟費用は、控訴人と被控訴人A、同B、同C及び同Dとの間においては、第1、2審を通じ、5分の1を控訴人の負担とし、その余を同被控訴人らの負担とし、控訴人とその余の被控訴人らとの間においては、控訴費用を控訴人の
負担とする。
4
この判決の第1項⑴は、仮に執行することができる。ただし、控訴人が第1項⑴の各被控訴人に対し12万円の担保を供するときは、当該被控訴人による仮執行を免れることができる。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2
上記部分につき、被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

第2
1
事案の概要(以下用語は、原判決と同じ。)
本件控訴

本件は、福島県中通り地域に居住していた50名の原告が、平成23年3月11日の東日本大震災の津波の際、控訴人が設置していた東京電力福島第一原子力発電所において、原子炉の運転により生じた放射性物質の放出事故による損害につき、原子力損害の賠償に関する法律に基づき、合計9773万2896円の損害賠償と事故日からの遅延損害金の支払を控訴人に求めた事案である。
原告らが本件事故当時居住していた福島県中通りの福島市、国見町、郡山市、伊達市霊山町、田村市大越町又は二本松市は、避難指示等の対象地域ではない。原審は、原告49名と死亡した原告1名の相続人3名の52名に対し、合計1203万4000円(精神的損害に対する慰謝料1094万円、弁護士費用109万4000円)の損害賠償とこれに対する事故日である平成23年3月11日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を控訴人に命じたため、控訴人がその敗訴部分を不服として控訴した。
原判決が被控訴人らのその余の請求を棄却した部分、すなわち既払の賠償金額を超える財産的損害並びに精神的損害に対する上記認容額を超える慰謝料と弁護士費用の損害賠償請求を棄却した部分について、被控訴人らの控訴はない。原判決の当事者とされた原審原告番号22のEは、主文2項ただし書のとおり原
判決前に死亡しており、同原告の訴訟は、唯一の相続人である被控訴人Fが承継している。当審における被控訴人の番号は、原審の原告番号と同じであり、原審と同様、訴訟承継人に枝番を付けたほか、原判決で請求を全部棄却され控訴していない原告2名を欠番としたものである。
控訴審の審理の対象は、本件控訴に係る上記50名の原告について慰謝料及び弁護士費用の損害賠償義務が控訴人にあると認めた原判決の当否である。2
争点の骨子

本件事故による損害について、控訴人が原賠法3条1項に基づき損害賠償責任を負うことは争いがない。
争点は、避難指示等の対象地域ではない自主的避難等対象区域の住民であった原告らについて、慰謝料の支払により賠償すべき精神的損害(権利又は法律上保護される利益の侵害)があるといえるか、精神的損害の程度及び慰謝料の額、控訴人が自主賠償基準に基づく直接請求手続又はADR和解により支払った賠償金が本件で請求されている慰謝料の弁済として認められる範囲である。
3
争いのない事実



中間指針追補による自主的避難等対象者に対する賠償の指針

原賠法18条1項に基づき設置された原子力損害賠償紛争審査会は、本件事故による原子力損害の賠償に関する紛争について、原賠法18条2項2号に基づく原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的指針として、平成23年12月6日、

東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)

(別紙2)を定めた。中間指針追補(第1

はじめに)は、避難指示等の対象区域の周辺地域では、避

難指示等に基づかずに行った避難(自主的避難)をした者が相当数存在していることが確認され、自主的避難に至った主な類型としては、①本件事故発生当初の時期に、自らの置かれている状況について十分な情報がない中で、本件原発の原子炉建
屋において水素爆発が発生したことなどから、大量の放射性物質の放出による放射線被曝への恐怖や不安を抱き、
その危険を回避しようと考えて避難を選択した場合、
及び、②本件事故発生からしばらく経過した後、生活圏内の空間放射線量や放射線被曝による影響等に関する情報がある程度入手できるようになった状況下で、放射線被曝への恐怖や不安を抱き、その危険を回避しようと考えて避難を選択しようとした場合が考えられ、同時に当該地域の住民は、そのほとんどが自主的避難をせずにそれまでの住居に滞在し続けており、これら避難をしなかった者が抱き続けたであろう上記の恐怖や不安も無視することができないと考えられることから、このような自主的避難等
(当該地域の住民による自主的避難と滞在を併せたものをいう。

の現状を踏まえて、自主的避難等に係る損害について指針を示したものである。その上で、中間指針追補(第2

自主的避難等に係る損害について)は、原告ら

の居住地を含む地域を自主的避難等対象区域とし、当該地域の住民による自主的避難等に係る損害について、自主的避難等対象者(本件事故発生時に自主的避難等対象区域内に生活の本拠としての住居があった者をいい、本件事故発生後に当該住居から自主的避難を行った場合、当該住居に滞在を続けた場合等を問わない。)が受けた損害のうち一定の範囲で賠償すべき損害と認められるとして、要旨次のとおりの指針を示した([損害項目](指針))。
Ⅰ)自主的避難等対象者が受けた損害のうち、以下のものが一定の範囲で賠償すべき損害と認められる。


放射線被曝への恐怖や不安により自主的避難等対象区域内の住居から自主
的避難を行った場合における以下のもの。
i)自主的避難によって生じた生活費の増加費用
ⅱ)自主的避難により、正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛
ⅲ)避難及び帰宅に要した移動費用


放射線被曝への恐怖や不安を抱きながら自主的避難等対象区域に滞在を続
けた場合における以下のもの。
ⅰ)放射線被曝への恐怖や不安、これに伴う行動の自由の制限等により、正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛ⅱ)放射線被曝への恐怖や不安、これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば、その増加費用
Ⅱ)Ⅰ)の①のⅰ)ないしⅲ)に係る損害額並びに②のⅰ)及びⅱ)に係る損害額については、いずれもこれらを合算した額を同額として算定するのが、公平かつ合理的な算定方法と認められる。
Ⅲ)Ⅱ)の具体的な損害額の算定に当たっては、①自主的避難等対象者のうち子供及び妊婦については、本件事故発生から平成23年12月末までの損害として一人40万円を目安とし(原告らは、中間指針追補にいう子供及び妊婦には該当しない。)、②その他の自主的避難等対象者については、本件事故発生当初の時期の損害として一人8万円を目安とする。
原賠審が作成した中間指針追補に関するQ&A問11(乙A3)は、中間指針追補では、本件事故発生当初の時期(前記Ⅲ)②参照)がいつまでの時期を指すかは、明確にされていないが、①本件事故発生以降、原子力発電所の状況や放射線量に関する情報が行政機関等によって徐々に公表されたこと、②こうした情報をもとに本年4月22日には屋内退避区域が解除され、緊急時避難準備区域及び計画的避難区域の範囲が示され、これによって政府による避難指示等の対象区域が概ね確定したこと、③したがって、その頃以降は、自らの置かれている状況について十分な情報がない時期とは言い難いと考えられることから、概ね本件事故発生から本年(平成23年を指す。)4月22日頃までの時期が目安になると説明している。


自主賠償基準及びADR和解による賠償金支払

控訴人は、自主的避難等対象者に対し、中間指針追補を踏まえて控訴人が作成した自主賠償基準に従い直接請求手続により賠償金を支払っているほか、一部の原告
らについては、原賠審の下に設置された原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解仲介手続(ADR手続)での和解により賠償金を支払っている。控訴人が作成した自主的避難等対象者についての自主賠償基準は、控訴人の平成24年2月28日付けプレスリリース自主的避難等に係る損害に対する賠償の開始について(別紙3)及び平成24年12月5日付けプレスリリース自主的避難等に係る損害に対する追加賠償について(別紙4)のとおりである。この自主賠償基準において、控訴人は、自主的避難等対象者のうち妊婦や子供を除いた者(大人)について、平成23年3月11日から同年4月22日までに発生した損害に対して一人あたり一律8万円の定額賠償を支払うこととした(平成24年2月28日付けプレスリリース2⑴i)③)。この賠償金額の対象となる損害は、自主的避難を行った場合は、自主的避難によって生じた生活費の増加費用、自主的避難により、正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛、
避難及び帰宅に要した移動費用の損害のうち一定の範囲を賠償対象とし(同
2⑵a)、自主的避難等対象区域内に滞在を続けた場合は、放射線被曝への恐怖や不安、これに伴う行動の自由の制限等により、正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛、放射線被曝への恐怖や不安、これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば、その増加費用の損害のうち一定の範囲を賠償対象とするものとした(同2⑵b)。更に、追加的費用等に対する賠償として、一人あたり一律4万円を支払うこととし(平成24年12月5日付けプレスリリース1⑵)、その支払の対象となる損害は、自主的避難等対象区域での生活において負担した追加的費用(清掃業者への委託費用など)、平成24年2月28日付けプレスリリースによる賠償金額を超過して負担した生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用等の本件事故に起因して負担した費用のうち一定の範囲を賠償対象とするものと定められた。控訴人が、自主賠償基準に基づく直接請求による支払及びADR和解により原告らに支払った賠償金額は、別紙5の表及び和解契約書のとおりである(精神的損害
についてADR和解をした原告は、当該原告の表に和解契約書を添付した。)。なお、原告らの世帯についてみると、控訴人が支払った損害賠償額は、別紙6の一覧表のとおりとなる。
4
事実及び争点

前提事実(当事者、本件事故に至る経緯、避難指示等の経過)並びに本件事故前の原告らの居住地等、本件事故後の状況、賠償に関する各種基準の概要及び放射線と健康影響に関する知見等に関する認定事実は、
以上のほか原判決
事実及び理由
第2部第2章、第6部第1章のとおりである。
原審における争点及び当事者の主張は、同第3部ないし第5部のとおりである。第3
1
原判決の要旨(慰謝料請求を一部認容した理由)
自主的避難者等に係る精神的損害について

本件事故後、実際に避難した原告らについては、放射線被曝に対する恐怖や不安を基礎にした避難の相当性が認められる範囲内において、本件事故を原因として、住み慣れた自宅や地域から離れ又はそこに帰れないという苦痛を感じ、不便な避難生活を強いられるとともに、先の見通しが付かない不安を感じ、また、放射線被曝に対する恐怖や不安、これに伴う行動の制約、本件事故に起因して生じる生活環境の変化等により、
本件事故前の平穏な生活を喪失し、
精神的苦痛を被ったといえる。
実際に避難をしていない者についても、放射線被曝に対する恐怖と不安の中での生活を余儀なくされ、行動を制約されるとともに、先の見通しが付かない不安を感じ、生活環境に変化を生じている点は、避難をした者と同様であり、同程度の精神的苦痛を被ったと認められる。
いずれの場合にも、この状況がいつまで続くか分からないという先の見通しの付かない不安や、自らの生活の基盤となる生活環境が変質を来して精神的苦痛を受ける点は同様であるから、本件事故後直ちに避難した者、本件事故から一定程度期間を経過した後に避難をした者、避難をせずに自主的避難等対象区域に居住し続けた者のいずれについても、同程度の慰謝料額の賠償を認めるのが相当である。
自主的避難等対象区域に居住していた者の慰謝料額の目安は、下記2のとおり避難の相当性が認められる平成23年12月31日までの期間に対応する慰謝料額として、30万円と認めるのが相当である。
2
自主的避難者等の避難の相当性

原告らは、本件事故当時、自主的避難等対象区域に居住しており、避難指示等により避難を余儀なくされたものではない。
しかし、
自主的避難等対象区域において、
一時的に10μSv/時や20μSv/時を超える空間放射線量が測定された場所があり、本件事故直後においては、本件事故や自らが置かれている状況について十分な情報がなく、本件事故当日の平成23年3月11日から同月15日までの間に避難指示等の対象地域が3度にわたって拡大され、急速に放射線被曝のリスクが広がる様相を呈し、同年4月12日には本件事故がレベル7(深刻な事故)と評価され、自主的避難者数は平成23年5月頃から同年9月ころにかけて増加し、同月には福島県全体で5万人を超え、本件事故から数か月経過した時点でも放射線被曝に対して不安を抱いていた住民が相当数いたなどの事情がある。これらの事情から、本件事故後、自主的避難等対象区域に居住していた者としては、どの程度の放射線量で健康被害を生ずるのかについて十分な知識を有しておらず、しかも、今後自らの居住する地域の放射線量が上昇するリスクも否定できないという状況では、たとえ政府による避難指示が出ていなくても、放射線被曝に対して相当程度の恐怖や不安を抱いてもやむを得ないといえ、相当の期間が経過するまでの間、被曝を避けるために避難したことには合理性が認められる。
本件事故については、平成23年4月22日に屋内退避区域の指定が解除され、避難区域等の見直しが行われ、緊急時避難準備区域は同年9月30日に解除され、政府は、同年12月16日、放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられていると判断し、本件事故そのものは終息に至ったとの判断を公表し、これを受けて、同月26日、警戒区域及び計画的避難区域の見直しの方針が公表されたことからすれば、
本件事故当時、
自主的避難等対象区域に居住していた者については、

平成23年12月31日までには、放射線被曝に対する恐怖や不安も相当程度解消されていたものと認められるから、同時点までを限度として、放射線被曝を避けるために避難又は避難継続の相当性を認める。
3
各原告の損害額



精神的損害についてADR和解をしていない原告ら

原告番号1~3、5、6、9~14、16、17、19~23、25~30、32、35~37、39、42~52(合計40名)
損害額合計24万2000円
内訳

慰謝料22万円(慰謝料30万円-既払金8万円)
弁護士費用2万2000円

各原告の認定事実に基づき、本件事故と相当因果関係があると認められる平成23年12月31日までの期間に被った精神的苦痛について、本件に係る一切の事情を考慮し、上記期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上で、各原告の慰謝料を30万円と認める。
直接請求手続により本件事故発生当初の時期の生活費の増加費用、移動費用を考慮した包括慰謝料として8万円の賠償金の支払を受けており、この包括慰謝料は、中間指針追補に基づくもので生活費増加費用が慰謝料増額事由として加味されているところ、上記原告らの慰謝料についても生活費増加費用が慰謝料増額事由として加味されているから、上記原告らについては、包括慰謝料の全額を原告らの被った精神的損害に対する慰謝料額から控除しても、原告らの利益を不当に害するものとはいえない。したがって、上記原告らについては、精神的損害に対する弁済額として、包括慰謝料の全額に相当する8万円を認める。


精神的損害についてADR和解をした原告ら


ADR和解において平成23年3月11日から同年12月31日までの期間
に係る精神的損害を4万円と合意し、その点で清算合意をしていない原告ら原告番号4、7、8、31、38、40、41(合計7名)

損害額合計28万6000円
内訳

慰謝料26万円(慰謝料30万円-既払金4万円)
弁護士費用2万6000円

⑴と同様に、平成23年12月31日までの期間に被った精神的苦痛について、本件に係る一切の事情を考慮し、上記期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上で、各原告の慰謝料を30万円と認める。
各原告は、控訴人との間で、平成23年3月11日から同年12月31日までの期間に係る精神的損害の額を4万円とする合意をしたから、その合意に従い、精神的損害に対する弁済額として4万円を認める。

ADR和解において平成23年3月11日から同年4月22日までの期間に
係る精神的損害を4万円とする合意をした原告ら
原告番号15、24(合計2名)
損害額合計16万5000円
内訳

平成23年4月23日から同年12月31日までの慰謝料15万円弁護士費用1万5000円

⑴と同様に、平成23年12月31日までの期間に被った精神的苦痛について、本件に係る一切の事情を考慮し、上記期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上で、各原告の慰謝料を30万円と認めるが、各原告と控訴人との間では、平成23年3月11日から同年4月22日までの期間に係る精神的損害については4万円とすることとし、他に債権債務がないとの和解合意がされたから、当該合意の効力により、各原告は、控訴人に対し、当該期間に係る精神的損害については、4万円を超えて請求することはできず、その慰謝料4万円は、弁済済みである。上記の清算合意で清算されていない平成23年4月23日から同年12月31日までの慰謝料として15万円を認める。

ADR和解において平成23年3月11日から同年11月30日までの期間
に係る精神的損害を8万円とする合意をした原告(原告番号18)
損害額合計2万2000円
内訳

平成23年12月1日から同月31日までの慰謝料2万円
弁護士費用2000円

⑴と同様に、平成23年12月31日までの期間に被った精神的苦痛について、本件に係る一切の事情を考慮し、上記期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上で、同原告の慰謝料を30万円と認めるが、同原告と控訴人との間では、平成23年3月11日から同年11月30日までの期間に係る精神的損害については、8万円とすることとし、他に債権債務がないとの和解合意がされたから、当該合意の効力により、同原告は、控訴人に対し、当該期間に係る精神的損害については、8万円を超えて請求することはできず、その慰謝料8万円は、弁済済みである。上記の清算合意で清算されていない平成23年12月1日から同月31日までの慰謝料として2万円を認める。
第4

控訴理由の要旨(当審における控訴人の主張)

1
自主的避難者等に係る精神的損害の認定についての原判決の誤り



原判決の誤りの概要

原判決が、自主的避難等対象区域に居住していた者について、一般論として平成23年12月31日までの期間に対応する慰謝料の発生を認めた点は誤りである。また、本件の個々の原告らの精神的苦痛を示す事実として原判決が認定した内容は、既に自主賠償基準によって賠償済みである本件事故当初の被曝による不安のほかには、そもそも原告らの慰謝料を生じさせる根拠とならない事情であるか、仮に精神的な不安があったとしても平成23年4月22日頃を超えて平成23年12月31日まで認めることが必要とも相当ともいえない内容であって、平成23年12月31日までの慰謝料発生を相当とする内容とはいえない。
原判決は、一部の原告(原告番号24、42、43、47及び50)については、被侵害利益の認定に必要な具体的事実を認定しておらず、また、慰謝料額の考慮要素として、本件事故との間の相当因果関係がなく、原告ら自身の慰謝料を生じさせ
る根拠とならない事情等を認定している等、事実認定に誤りがある。⑵

本件事故発生当初の時期に生じた不安について

控訴人は、自主的避難等対象区域に居住していた者が、本件事故発生当初の十分な情報がない中で放射線被曝に対する恐怖や不安を抱くことはやむを得ないと考えられることから、中間指針追補を踏まえ、自主的避難を行った者に対しては自主的避難によって生じた生活費の増加費用、正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及び避難及び帰宅に要した移動費用を合算した金額として、また、自主的避難等対象区域に滞在し続けた者に対しては正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛、

放射線被曝への恐怖や不安、これに伴う行動の制限等により生活費が増加した分があれば、その増加費用

を合算した金額として、実際に避難を行った者であるか、避難をせずに滞在を続けた者であるかにかかわらず、8万円の包括慰謝料を支払っており、原判決が、放射線被曝に対する恐怖や不安が解消されるために、現在の放射線量が、健康に被害が及ぶ程度ではないという情報が提供されることが必要であると判示した点は争わない。しかし、自主的避難等対象区域において、少なくとも、現在の放射線量が健康に被害が及ぶ程度ではないとの情報が、社会一般に提供されていた平成23年4月22日頃には、不安を解消するのに相応しい社会的情勢の変化と時間の経過があったといえる。
本件事故発生当初の時期に放出された放射性物質に起因する放射線の作用による影響は、自主的避難等対象区域においては、空間放射線量の数値が年間20ミリシーベルト(mSv)に遠く達しておらず、社会通念上受容可能な程度であり健康に影響を与えるとは認められない。本件事故後に観測された空間放射線量の状況に鑑みれば、自主的避難等対象区域の居住者に健康への影響が及ぶ放射線量ではなく、現に大部分の住民が従来の居住地での生活を継続していた実情にあるほか、本件事故後も正常な社会生活が営まれていた。また、遅くとも本件事故後約1か月半を経た平成23年4月22日頃までには、放射性物質の情報について客観的に判断する
ための情報が提供され、同区域での生活に客観的な危険性が存しないことが明らかになるとともに、社会活動も正常化したものであり、当初の時期に放出された放射性物質に起因する不安を解消するのに相応しい社会的情勢の変化と時間の経過が満たされており、原告らの法律上保護される利益の侵害に当たるような不安は解消され、平穏な日常生活を送ることに支障のない状況に至っていた。
これらの事実から、自主的避難等対象区域では、平成23年4月22日頃には、法律上保護される利益の侵害に当たるような不安は既に解消されていたといえる。自主的避難等対象区域において、少なくとも、現在の放射線量が健康に被害が及ぶ程度ではないという情報が社会一般に提供されていた平成23年4月22日頃以降には、本件事故による放射線の影響により、平穏な日常生活が相当程度阻害された事実もなければ、本件事故発生直後の客観的な状況の下でそれが阻害される程度の不安を生じさせるものであったとも認められない。
したがって、少なくとも平成23年4月22日頃以降、本件事故発生当初の時期に放出された放射性物質の作用の影響により、受忍限度を超えて法律上保護される利益の侵害が生じたとはいえない。
なお、原判決が説示するこれ以上放射性物質が拡散することはないであろうという安心が形成される必要に対応する不安は、将来発生するかもしれない想像上の放射線の作用から生じる不安であって原子力損害ではないし、漠然とした不安感は、法律上保護される利益の侵害にあたらない。2
中間指針等による賠償額を超える損害は認められないこと

自主的避難等対象区域に居住していた者について、仮に何らかの法律上保護される利益の侵害が観念できるとしても、本件事故後の当該区域内の客観的実情に照らせば、その程度は控訴人が中間指針等を踏まえて策定した自主賠償基準による賠償額を超えるとはいえず、原判決が認定した慰謝料額は、裁判所の裁量権の限界を超えて過大である。
前記1において述べた原判決の認定の誤り及び自主的避難等対象区域の事情に鑑
みると、中間指針等に基づき策定した自主賠償基準による賠償額を超える慰謝料の認定は、①過去の裁判例で示された慰謝料額の水準を踏まえた裁量権の限界を超えるものであるほか、②原賠法18条2項2号に定める自主的な解決に資する一般的な指針として策定され、実際にそのような指針として機能している中間指針等の正当性に疑念を抱かせかねないものであり、原判決における慰謝料の認定は控訴審において是正されなければならない。
裁判所は、その裁量により慰謝料額を算定・評価できると解されているものの、その裁量権の行使は、社会通念により相当と認められるものでなければならない。原判決が自主的避難等対象区域に居住していた者に対する慰謝料額として認定した額(30万円)は、過去の裁判例で示された慰謝料額の水準から大きく掛け離れたものであって、裁判所の裁量権の限界を超えている。
騒音に加えて、排ガスなどの有害物質の拡散により健康影響への不安感が生じ得るケースであっても、裁判所が平穏生活権の侵害として認容した慰謝料の額は、概ね月額数千円から1万円程度である。
原賠法18条2項2号は、原賠審が行う事務の一つとして、原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めることを掲げ、この当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針として、法学者及び放射線の専門家等で構成された原陪審が、過去の裁判例で示された慰謝料額の水準も踏まえて定めたものが、中間指針等である。
中間指針等は、まさに原賠法が目的とする原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度の一つであって、被害者の保護を図るものであり、原賠法に従って自主的な解決に資する一般的な指針として定めたものである。中間指針等は、損害賠償の一般法理に照らして説明でき、裁判で認められるであろう賠償を意識しながら、過去の裁判例の水準を上回る額を定めたものである。中間指針等を踏まえた自主賠償基準が、過去の裁判例の賠償水準を踏まえたもの
であったこともあり、自主賠償基準による控訴人への直接請求の件数は約293万7000件、賠償総額約9兆5118億円(仮払金を含む。)にも上り、また、ADR手続においても平成23年から令和元年までに個人による申立件数は累計で1万9922件であって、中間指針等に基づいて多数の個々の紛争解決が行われている実情にある。
このように、中間指針等を踏まえた自主賠償基準は、策定後7年以上にわたって直接請求やADR手続を含む多数の紛争解決において用いられ、中間指針等は、紛争解決規範として実際に機能している。
もし仮に、裁判所がこうした原賠法の立法趣旨や原賠審の意図、実際の運用状況に反して、特段の個別事情等をあげることなく、中間指針等を何ら尊重しないならば、現状の中間指針等を中心にした法的安定性が大きく損なわれるだけでなく、かえって被害の迅速かつ適正な賠償の実現という原賠法の目的が没却され、被害救済を大きく後退させることにもなりかねない。
このような我が国の原子力損害賠償の法体系とその運用を踏まえれば、原賠法に基づき策定された中間指針等は、実質的に、主に原子力事業者と被害者との紛争を解決する基準として原子力損害の有無、損害の性質から導かれる妥当な賠償水準などを被害者それぞれの具体的な状況に照らして実質的に判断する際の拠り所として機能することが社会的にも期待され、現にその役割を果たしているのであり、指針に定める賠償基準及び指針を踏まえた自主賠償基準は、その内容自体が被害者の損害を慰謝するに著しく不十分でない限り、裁判手続においても社会通念上相当な範囲を検討するにあたって十分に尊重されるべきものである。
3
弁済の抗弁について



ADR和解をした原告への弁済を4万円しか認めなかった原判決の誤り
原審は、ADRの和解において、精神的損害に対する弁済額を4万円と合意したと認定した上で、ADR和解をした原告ら(前記第3の3⑵ア、イ)に対する弁済の充当額を4万円に限定した。しかし、原判決が、ADRで精神的損害に対する弁
済額を4万円と合意したと認定して、慰謝料への充当額を4万円に限定したことは誤りであり、少なくとも、控訴人が原審で主張したとおり、包括慰謝料として支払った8万円を充当しなければならない。
そもそも本件事故という同一の不法行為により生じた財産上の損害と精神上の損害とは、その賠償の請求権は一個であり、財産上の損害と精神的損害は、同一の請求権を構成するものであって、その細目ごとに独立の損害としてそれぞれに損害賠償請求権が成立するという扱いは取られておらず、費目相互間の融通も認められている。即ち、費目の分類や損害の各費目への振り分けは、法的には一個の請求権についての損害額の算定のための便宜上のものであって、費目の分類や各費目への振り分け自体が、一義的でも明確でもない。
そして、控訴人は、一貫して、自主的避難等対象区域に居住していた者に対しては、中間指針等に基づき、生活費増加分・移動費用を考慮した包括慰謝料として8万円及び追加的費用として4万円の合計12万円を支払ってきた。ADRでの和解契約書において包括慰謝料を分解して記載したことは、原告ごとに個別具体的な検討をして相互が合意した結果ではなく、単に原子力損害賠償紛争解決センターの方針で便宜上行われたにすぎない。実際、控訴人がADRで実費等も含め賠償する場合においては、その賠償の総額には、包括慰謝料である8万円が含まれるものとされているから、和解契約書の記載にかかわらず、和解契約書に基づき支払われた賠償総額のうち8万円分は包括慰謝料として支払われているのである。したがって、当事者の合理的意思に鑑みて、控訴人が一貫して行ってきた包括慰謝料としての弁済としての趣旨を積極的に否定する趣旨はない。
本件において、原告らは、精神的損害の一つとして生活費が増加した旨の主張をし、実際に原判決は、財産的損害(生活費用の増加)について慰謝料額の算定で考慮している。原判決が認めた慰謝料額は、包括慰謝料に含まれる生活費の増加についても考慮して算定しているのであるから、当該慰謝料額に対する弁済として、生活費の増加を考慮した包括慰謝料としての8万円を充当できることは当然である。


控訴審での弁済の抗弁に係る金額の拡張


追加的費用の4万円その他各原告に対する一切の支払が弁済として充当され
るべきであること
控訴人は、原審においては、包括慰謝料として支払った8万円についてのみ弁済の抗弁として主張した。しかし、原判決が財産的損害(生活費用の増加)について慰謝料額で考慮したことを踏まえて、包括慰謝料8万円に加えて、生活費用の増加に対して支払った追加的費用4万円その他の控訴人から当該原告に対する一切の既払金(当該原告に対するADR和解金を含む。)を別紙6の一覧表のとおり、原告らの請求に対する弁済として充当する旨を主張する。

世帯構成員に対する支払額も弁済として充当されるべきであること
仮に、上記アで主張する弁済の充当をしてもなお原告らに認められる慰謝料額が存在する場合には、控訴人は、当該原告に対する弁済額として、別紙6の一覧表のとおり、世帯の構成員に対する支払分も含めて主張する。
弁済の充当方法は、当事者の合理的意思によって判断される(民法490条)。そして、中間指針等では、妊婦・子供への支払額は同伴者や保護者分も含めた生活費の増加費用等を一定程度勘案され、生計を共通にしている世帯単位での支払総額の妥当性についても考慮されている。また、ADR手続においても、家族等のグループ全体に生じた財産的損害について、グループ単位での損害額を算定することが認められており、実際の和解においても、世帯構成員のうち誰に生じた損害であるかを問わず、あたかも家団のように、世帯単位で生じた損害として和解合意書を締結することが一般に行われている。また、同一世帯は生計を共通にし、生活基盤をなす財産的損害や慰謝料のうち生活費増加部分も世帯で共通する部分があると解されることから、既払金の充当に際して、同一世帯内では、名目上うち一人に対する既払金であっても、その性質上は世帯の構成員全員に対する損害の
補として支払

われているものがあることから、当事者の合理的意思にかんがみれば、世帯の構成員全員の損害に

補されるべきである。

原告らによる賠償請求は世帯の代表者が一括して行い、弁済も世帯の代表者が世帯の他の構成員を代表しているもので、弁済の代理受領権も認められ、事実として同一世帯を構成する複数人の各債権に対する弁済の受領を一括して行っているものといえる。こうした請求及び受領の態様から、形式上・外観上は世帯の代表者に対してのみなされている賠償金の支払であっても、かかる代表者に対する賠償金の支補するものと考えられ、この意味に
おいて世帯内部における構成員同士の弁済の融通が認められなければならない。更に、原告の世帯構成員に子供(18歳以下)が含まれていて、当該子供に対して控訴人から追加的費用が支払われている場合には、当該24万円は、当該子供の親たる原告に対する弁済として充当されるべきである。即ち、控訴人は、18歳以下であった子供を含む世帯は、
避難生活に伴う支出が大きいと考えられることから、
当該子供に対する包括慰謝料40万円に追加して24万円を支払っているところ、18歳以下であった子供がいたことによって世帯において増加する支出は、実際には子供の扶養義務を負う親が負担していると考えられ、法的には親に対して賠償がされるべきものであるからである。
第5

当裁判所の判断

1
要旨



判断の骨子

当裁判所は、東京電力福島第一原子力発電所からほど近い福島県中通りの自主的避難等対象区域に居住していた原告らが、安全であるはずの原子炉が炉心溶融を起こして原子力発電所が爆発し、突然大量の放射性物質が放出され、居住地域の環境放射能が急激に上昇するという未曽有の大事故に直面したことからすれば、事故当初の十分な情報がない中で、放射線被曝に対する強い恐怖や不安を抱くことはやむを得ないものと考えられ、本件事故によって原告らがこのような強い恐怖や不安という精神的苦痛を受けたことは、民法709条にいう法律上保護される利益の侵害にあたり、原子炉を運転していた原子力事業者である控訴人が原賠法3条1項に基
づき損害賠償すべき原子力損害(原賠法2条2項)にあたるものと判断する。原審同様、本件事故の日である平成23年3月11日から同年12月31日までの期間に被った精神的苦痛について、社会生活上の受忍限度を超えて法律上保護される利益が侵害されたものと評価し、上記期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上で、30万円の慰謝料の損害を認めるのが相当である。各原告の個別の事情を検討しても、これと異なる慰謝料を認めるべき事情はない。控訴人の自主賠償基準に基づく直接請求及びADR和解による賠償金の支払による弁済の抗弁についても、基本的には、原審同様、①精神的損害についてADR和解をしていない原告40名については、直接請求手続による包括慰謝料8万円の支払に限り、②ADR和解において平成23年3月11日から同年12月31日までの精神的損害を4万円と合意し、
その点で清算合意をしなかった原告らについては、
その4万円の支払に限り、それぞれ上記慰謝料の損害賠償の弁済として控除し、③ADR和解においてこれと異なる期間の精神的損害を合意した上で、その賠償金の支払でその期間の精神的損害を清算する合意をした原告3名については、平成23年12月31日までの期間のうち合意に含まれない期間に対応する精神的損害に限って、原審認定と同額の慰謝料を認めるのが相当である。
ただし、②の原告らのうち、ADR和解において、生活費増加費用として一人あたり4万円の損害賠償を支払う合意をした主文1項記載の被控訴人4名については、原審とは異なり、合意の趣旨に照らし、精神的損害の4万円のほかに生活費増加費用としての4万円の支払も弁済として控除するのが相当であると判断する。控訴人は、控訴理由において、①少なくとも平成23年4月22日頃以降、本件事故発生当初の時期に放出された放射性物質の作用の影響により、受忍限度を超えて法律上保護される利益の侵害が生じたとはいえないと主張し、また、②直接請求手続及びADR和解による原告ら及びその世帯に対する賠償金の支払について、上記認定の弁済充当額を超えて弁済充当をすべきであると主張するが、これらの控訴理由は、いずれも採用できない。

したがって、控訴人は、主文1項記載の被控訴人4名(番号7、8、31、38)については、原賠法3条1項に基づき、それぞれ前記慰謝料30万円から既払金8万円を控除した残額22万円と相当額の弁護士費用2万2000円の合計24万2000円の損害賠償とこれに対する事故日である平成23年3月11日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。原判決中、上記被控訴人らについて、これを超える請求を認容した部分は不当であるから、同被控訴人らに関する部分を主文1項のとおり変更する。その余の被控訴人らについては、前記のとおり既払金を控除した慰謝料の残額とその1割の弁護士費用を損害と認め、原賠法3条1項に基づき、原告ら又は死亡した原告の訴訟承継人らに対し、これらの賠償(訴訟承継人らについては各相続分の賠償)とこれに対する同様の遅延損害金の支払を控訴人に命じた原判決は相当であり、これらの被控訴人らに対する控訴は理由がない。
よって、その余の被控訴人らに対する控訴をいずれも棄却し(主文2項本文)、原判決前に死亡していた原告1名について、原判決の主文を訴訟承継人に対する主文に更正する(主文2項ただし書、2項⑴ないし⑷)。以上の判断の理由は、控訴理由に鑑みて以下のとおり補足整理し、一部補正するほかは、原判決事実及び理由第6部第2章ないし第4章の説示のとおりである。ただし、第3章第8の7⑴、9、10、第31の6、8、9、第33、第34、第38の6、8、9を除く。
なお、控訴人は、被控訴人G(番号47)が、本件訴えの提起後、本件事故に起因する損害賠償請求の訴えを東京地方裁判所に提起しているから、同被控訴人の請求は、重複起訴の禁止(民事訴訟法142条)の趣旨に反すると主張する。しかし、民事訴訟法142条は、裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができないと定めた規定であり、同じ訴えを後で提起したことにより先に提起した本件訴えを不適法とする趣旨を定めたものではない。⑵

自主的避難者等に係る精神的損害の認定について

本件事故は、法令で一般公衆に対する放射線量の限度を年間1mSvとしていた日本の放射線防護体制の下において、原子炉の安全性を立地の最重要の前提としていた原子力発電所が、突然、平成23年3月11日の東日本大震災の津波による浸水により冷却機能を失った原子炉が炉心溶融(メルトダウン)を起こし、炉心溶融とこれによる水素爆発により、原子炉格納容器が損傷し原子炉建屋が爆発して大量の放射性物質が放出されたものであり、地域住民にとって全く予期しない未曽有の大事故であった。
放射線量の限度とされていた年間1mSvは、
1日のうち屋外に8時間、(遮
屋内
蔽効果(0.4倍)のある木造家屋)に16時間滞在するという生活パターンを仮定すると、0.19μSv/時となる(0.19μSv/時×(8時間+0.4×16時間)×365日=1mSv)。更に、これに自然界の放射線量である0.04μSv/時を加えると、0.23μSv/時の環境放射能の値となる。福島県中通りの自主的避難等対象区域にある原告らの居住地域では、本件事故前は概ね0.
04μSv/時程度で推移していた環境放射能の値が、
本件事故により、
特に平成23年3月15日朝に2号機から大量の放射性物質が放出された後、いずれも急激に上昇し、福島市で平成23年3月15日に24.24μSv/時、郡山市で同日に8.26μSv/時、伊達市で同月18日に7.98μSv/時、二本松市で同月17日に13.60μSv/時、田村市大越町で同月19日に1.31μSv/時、国見町で同月18日に4.91μSv/時を記録した。これらの地域では、本件事故後4か月間の外部被曝の積算線量が、従来放射線量の限度とされていた年間1mSvをも超える被曝をした住民も相当多数に上った。我が国における長年の放射線防護体制の取組みの下で、安全性への信頼の上に立地していた東京電力福島第一原子力発電所において、地域住民にとって全く予想もしない原子炉の炉心溶融による水素爆発という重大な事故が発生し、その結果として原子力発電所からほど近い福島県中通りの自主的避難等対象区域に居住していた原告らは、従来の一般的想定をはるかに超える放射能に現に曝されたといえる。
一方で、未曽有の大事故に際し、これによる放射線被曝の危険性について、原子力発電所を設置していた控訴人からも政府からも、事故直後、地域住民に対し、的確かつ具体的な情報提供がされたとは必ずしもいえない。
平成23年3月15日朝の2号機の原子炉損傷で大量の放射性物質が放出され、その直後に自主的避難等対象区域を含む幅広い地域に相当高い放射能が観測され、その日の福島民報は、

冷却機能が喪失し、炉心の燃料が水面から完全に露出した福島第一原発2号機は、炉心溶融が進んで核燃料の大半が溶ける「メルトダウン

が懸念される状況になってきた。」と報じていた。
他方で、同紙は、内閣官房長官が前日14日夜の記者会見で、福島第一原発の事故に関し、

炉心溶融を起こしている可能性は高いとの状況は(1~3号機)三つとも一緒だ。

と述べる一方で、同原発周辺の放射線量に関しては

しっかりモニタリングを続けており、人体に影響を及ぼす可能性はない

と述べたと伝えており、
既に2号機の炉心溶融が進んでいた前夜の段階でも、控訴人や政府から翌朝に起こる2号機からの大量の放射性物質の放出による放射能被曝の危険性について、十分な情報が提供されていた形跡はない。
政府が、屋内退避指示区域を原発から半径20km圏内から半径30km圏内に拡大指定したのは、2号機から大量の放射性物質が放出された後である平成23年3月15日午前11時になってからである。
控訴人は、事故の当事者であるにもかかわらず、本件事故後2か月以上たった平成23年5月15日になるまで、炉心溶融の事実すら認めなかった。放射線量の限度については、従来年間1mSvを限度とする放射線防護体制をとっていたが、本件事故のような重大事故の後になって緊急時被曝状況に適用される基準を参照して年間20mSvの基準を採用し、この基準に基づいて平成23年4月22日に避難区域の再編を行い、結局、福島県中通りの原告らの居住地は、屋内退避指示区域や避難区域に含まれることはなかった。
しかし、低線量被曝の影響については、専門家の間でさえ多様な意見が存在して
いることも考えると、事故後になって緊急時被曝状況に適用される基準に基づき放射線防護の基準が緩められ、避難区域の見直しもされたといって、本件事故発生からわずか約40日後にすぎないその段階において、突然の重大な原発事故により全く予想しない程の急激な環境放射能の上昇に見舞われた原告ら自主的避難等対象区域の住民の安全安心が確保されるような状態にあったとは評価できない。本件事故によって急激に上昇した環境放射能により、自主的避難等対象区域の住民であった原告らが被った放射線被曝の被害は、本件事故当時の我が国の放射線防護体制を始めとする社会通念に照らせば、それ自体、極めて重大かつ深刻なものであり、しかも安全性を立地の前提としていた原子力発電所における未曽有の大事故によって突然生じたという被害の態様も併せて考慮すれば、この放射線被曝そのものをみても、それが一般社会生活上の受忍限度の範囲内のものであったとは到底評価できず、法律上保護される利益の侵害にあたるといえる。
原告らは、このような実際の放射線被曝の経験の下に、本件事故による放射線被害の実情や危険についての十分な情報が提供されないまま、また、低線量被曝の危険性については多様な見解がある中で、本件事故によって放出された大量の放射性物質による放射線被曝による生命や身体の安全への影響について、具体的な恐怖や不安を持つに至ったと認められるのであり、
このような放射線被曝の恐怖や不安は、
一般人を基準として考えても合理的な根拠に基づくものと評価することができる。このように侵害行為の態様、
侵害の程度、
被侵害利益の性質と内容を考慮すると、
このような原告らの恐怖や不安が、一般社会通念上の受忍限度の範囲内のものとして、法律上保護される利益の侵害にあたらない程度にまで軽減されたと判断するには、原判決説示のとおり、一旦生じた恐怖や不安を解消するのに相応しい社会的情勢の変化と時間の経過が必要であるというべきであり、放射線被曝の限度について年間20mSvの基準を採用して避難区域の再編がされた平成23年4月22日をもって十分であるという控訴人の主張は相当でない。
低線量被曝の健康への影響について、政府に置かれた専門家による低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループが平成23年12月22日に公表した報告書において、年間20mSvの基準を用いることが適当であるとの結論が示され、この検討結果を踏まえて、同月26日の原子力災害対策本部において、政府が、年間積算線量20mSv以下となることが確実であることが確認された地域を避難指示解除準備区域に設定することなどを内容とする新たな避難指示区域に関する基本的考え方を示したことも考慮すれば、少なくとも、

放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている

というステップ2の目標達成と完了が確認され、本件事故そのものは終息に至ったと判断されたことが公表された上で、低線量被曝の健康影響についての専門家の議論を経て、年間20mSvの基準を参考にして避難区域の見直しの方針も公表された平成23年12月までは、十分な社会的情勢の変化と時間の経過があったとはいえないと考えるのが相当である。したがって、本件事故によって原告らがこのような放射線被曝に対する強い恐怖や不安により、本件事故の日である平成23年3月11日から同年12月31日までの期間に被った精神的苦痛について、社会生活上の受忍限度を超えて法律上保護される利益が侵害されたものと評価するのが相当であり、上記期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上で、30万円の慰謝料の損害を認めるのが相当である。
2
自主的避難等対象者に係る精神的損害について



控訴人の主張の要旨

控訴人は、自主的避難等対象区域において、少なくとも、現在の放射線量が健康に被害が及ぶ程度ではないという情報が、社会一般に提供されていた平成23年4月22日頃以降には、本件事故による放射線の影響により、平穏な日常生活が相当程度阻害された事実もなければ、本件事故発生直後の客観的な状況の下でそれが阻害される程度の不安を生じさせるものでもなく、本件事故発生当初の時期に放出された放射性物質の作用の影響により、受忍限度を超えて法律上保護される利益の侵害が生じたとはいえないと主張する。



本件事故による被害と低線量被曝による健康影響の社会的評価について
本件事故当時、国際放射線保護委員会(ICRP)が2007年に勧告した実用的な放射線防護体系において、計画被曝状況の線量限度(計画被曝状況において個人がそれを超えて受けてはならない公衆被曝線量)が年間1mSvと定められ(原判決事実及び理由第6部第1章第4の1)、原子炉の規制等に係る法令で一般公衆に対する放射線量の限度を年間1mSvとする放射線防護体制を定め(同2⑴)、我が国の原子力発電所は、このような放射線防護体制の下で、厳しい法規制に基づき、原子炉の安全性を最重要の前提として立地していたものである。本件事故は、このような厳格な安全性を前提とする原子力発電所が、突然、平成23年3月11日の地震の津波による浸水により、冷却機能を失った原子炉が炉心溶融(メルトダウン)を起こし、炉心溶融とこれによる水素爆発により、原子炉格納容器が損傷し原子炉建屋が爆発して大量の放射性物質が放出されたもので、とりわけ2号機では、同月14日午後0時30分頃に炉心の冷却系統が故障し、午後9時18分頃までに原子炉格納容器が破損し、翌15日午前7時38分頃より大量の放射性物質が2号機から放出されたものであって(甲A79の1・2、乙A35)、地域住民にとって全く予期しない未曽有の大事故が起こったものである。しかも、その放射能被曝の被害の実情は、前記

に要約したとおり、原告らの

居住地である原発からほど近い自主的避難等対象区域においては、平成23年3月15日に2号機から大量の放射性物質が放出された後、
顕著に環境放射能が増加し、
その後の外部被曝の積算線量も著しく高い値となったのであり(原判決事実及び理由第6部第1章第1、第2の1、3)、従来の放射線防護体制の基準である年間1mSvが、0.23μSv/時の環境放射能に相当することに照らしても(同第2の4⑴、乙A186)、原告ら地域住民は、本件事故により突然、従来全く予期しないレベルで、著しく高い放射能に曝されたといえる。
このように、我が国における長年の放射線防護体制の取組みの下で、安全性への信頼の上に立地していた東京電力福島第一原子力発電所において、地域住民にとっ
て全く予想もしない原子炉の炉心溶融による水素爆発という重大な事故が発生し、大量の放射性物質が放出された結果として、原子力発電所からほど近い福島県中通りの自主的避難等対象区域に居住していた原告らは、従来の一般的想定をはるかに超える放射能に現に曝された。
に摘示した福島民報の記事(乙A206)によれば、このよう
な未曽有の大事故に際し、これによる放射線被曝の危険性について、とりわけ炉心溶融が進んで既に危険な状態となっていた2号機からの放射性物質の大量放出の危険について、原子力発電所を設置していた控訴人からも政府からも、事故直後、地域住民に対し、的確かつ具体的な情報提供がされたとは必ずしも認められない。政府が、屋内退避指示区域を原発から半径20km圏内から半径30km圏内に拡大指定したのは、大量の放射性物質が2号機から放出された平成23年3月15日午前7時38分頃より後である同日午前11時になる(乙A168)。事故の当事者である控訴人は、本件事故後2か月以上たった平成23年5月15日になるまで、炉心溶融の事実すら認めなかった(甲A12)。
このような状況の下で、自主的避難等対象区域の少なからぬ住民が、自主的避難をしたことは(原判決事実及び理由第6部第1章第2の2⑴イ)、放射線被曝の恐怖や不安から、安全、安心を求める行動として、一般的、社会的にみて、やむを得ない面があり、その合理性を否定することはできない。
もっとも、放射線量の限度については、本件事故の後になって、緊急時被曝状況に適用される基準を参照して年間20mSvの基準を採用し(乙A25)、この基準に基づいて平成23年4月22日に避難区域の再編を行い(乙A184、乙A221)、原告らの居住地は、結局、避難指示等の対象とされることはなかった。しかし、
低線量被曝の健康への影響については、
政府に置かれた専門家による
低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループにおいても、平成23年11月9日から議論して平成23年12月22日に公表した低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書(別紙7、乙A11)において、

低線量被ばくの影響については専門家の間でさえ、多様な意見が存在している。

(1頁)と認めているように、なお国民の理解を得なければならない課題であった。この報告書は、政府は年間20mSvを一つの基準として避難指示を判断してきたが、この年間20mSvという基準について低線量被曝による健康影響をどのように考えるかについて、4.まとめにおいて、国際的な合意に基づく科学的知見によれば、放射線による発がんリスクの増加は、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく、放射線による発がんのリスクの明らかな増加を証明することは難しい。しかしながら、放射線防護の観点からは、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくであっても、被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという安全サイドに立った考え方に基づき、被ばくによるリスクを低減するための措置を採用するべきである。現在の避難指示の基準である年間20ミリシーベルトの被ばくによる健康リスクは、他の発がん要因によるリスクと比べても十分に低い水準である。(19頁)との見解をまとめる一方で、長期的に追加被ばく線量を年間1ミリシーベルト以下とすることを目指すことを提言している(20~21頁)。その上で、政府は、平成23年12月26日、原子力災害対策本部において、ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について(別紙8、乙A184)と題するとりまとめを行い、
前記ワーキンググループにおいて、年間20mSvは、除染や食品の安全管理の継続的な実施など適切な放射線防護措置を講ずることにより十分リスクを回避出来る水準であることから、今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートとして用いることが適当であるとの評価が得られ、こうした議論も経て、避難区域の見直しに当たっても、年間20mSv基準を用いることが適当であるとの結論に達したとして(別紙8の3~4頁)、年間積算線量20mSv以下となることが確実であることが確認された地域を避難指示解除準備区域に設定することなどを内容とする新たな避難指示区域に関する基本的考え方と今後の課題に対する対応方針を
示したのである(別紙8の8頁)。


法律上保護される利益の侵害について

自主的避難等対象区域の住民であった原告らが、本件事故によって被った放射線被曝の被害の内容は、原子炉の炉心溶融による原子力発電所の爆発という突然生じた未曽有の大事故により、大量の放射性物質が放出されて急激に上昇した環境放射能に曝されたというものであって、それ自体をとっても、事故当時の我が国の放射線防護体制を始めとする社会通念に照らしてみれば、極めて重大かつ深刻な放射能被曝の被害であったということができる。
このような放射線被曝そのものをみても、
それが一般社会生活上の受忍限度の範囲内のものであったとは到底評価できるものではなく、法律上保護される利益の侵害にあたることは明らかである。原告らは、このような実際の放射線被曝の経験の下に、本件事故による放射線被害の実情や危険についての十分な情報が提供されないまま、また、低線量被曝の健康影響の危険性について多様な見解がある中で、本件事故によって放出された大量の放射性物質による放射線被曝がもたらす生命や身体の安全安心への影響について、具体的な恐怖や不安を持つに至ったことは、優に認められる。このような放射線被曝の恐怖や不安は、一般人を基準として考えても合理的な根拠に基づくものであると評価することができる。
本件事故直後の状況に鑑みれば、自主的避難等対象区域に居住し続けることによる健康被害のリスクをどのように考えるのが科学的に正しいかはともかく、自主的避難等対象区域に居住し、放射能に対する専門的知見を有しない住民が、従前より大幅に増加した環境放射能の下で居住し続けざるを得なくなったこと自体に対して強い恐怖や不安を抱き、自衛手段として自主的避難を実行し、あるいは、これが不可能であるとしても、生活様式を見直し、変更することにより身を守る術をとらざるを得なくなることは当然のことといえる。
このような恐怖や不安、又は、従前の生活様式の変更を余儀なくされたことにより生じた精神的苦痛は、突然、自宅が所在する区域が放射能で汚染されたこと自体
によって、地域住民に等しく発生する精神的苦痛であって、まさに原賠法2条2項にいう核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害、すなわち原子炉を運転していた控訴人が原賠法3条1項に基づき賠償をすべき原子力損害そのものである。
本件事故による放射線被曝に対する恐怖や不安という原告らの受けた被害は、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容を考慮し、また加害者である控訴人から事故の危険についての情報の提供が的確にされたとはいえないことも含む侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況等の諸般の事情を総合的に考察すれば、被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものであると当然に評価することができるものであり、法律上保護される利益の侵害にあたるといえる。すなわち、前記認定判断のとおり、本件事故による放射線被曝による健康被害についての原告らの恐怖や不安は、具体的な危険を前提とした不安であり、平均的・一般的な人を基準として、本件事故発生後の客観的な状況の下で抱くことが不合理ではないと考えられる程度の不安によって、平穏な日常生活が相当程度阻害されたものと評価できるからである。
控訴人は、本件事故発生当初の時期に放出された放射性物質に起因する放射線の作用による影響は、自主的避難等対象区域においては、空間放射線量の数値が年間20mSvに遠く達しておらず、社会通念上受容可能な程度であり健康に影響を与えるものではないと主張するが、本件事故を前提として事故後に採用された基準に照らして社会通念上受容可能なものであるという主張は採用できない。⑷

平成23年4月22日以降の損害について

控訴人は、自主的避難等対象区域における放射線の作用の影響に鑑みると、中間指針追補が認めた包括慰謝料の対象期間の終期である平成23年4月22日以降は、受忍限度を超えて法律上保護される利益の侵害が生じたとはいえないとも主張する。
しかし、前記認定によれば、平成23年4月22日に緊急時被曝状況に適用され
る基準を参照して年間20mSvの基準を採用して避難区域の再編を行った後も、低線量被曝の健康への影響については、専門家の間でさえ多様な意見が存在していることから、政府においては、避難の基準とした年間20mSvの放射線被曝による健康影響について、平成23年12月22日まで専門家のワーキンググループにおいて検討評価を行い(別紙7の報告書)、その結果を踏まえ、同月26日に改めて年間20mSvの基準による避難区域の再編を行ったのである(別紙8)。低線量被曝の健康影響についての専門家の多様な意見の存在や、政府における検討状況を総合考慮すれば、事故の後になって緊急時被曝状況に適用される基準に基づき放射線防護の基準が緩められ、その基準に基づき平成23年4月22日に避難区域の見直しがされたからといって、突然の重大な原発事故により全く予想しない程の急激な環境放射能の上昇という深刻な被害を受けた原告ら自主的避難等対象区域の住民にとって、直ちに安全安心が確保される状態になったとは評価できない。実際に、原子力発電所の状況についての情報提供の程度についてみると、平成23年4月22日の段階では、各原子炉の安定した冷却が不可能な状態にあることが明らかとなっていたように、未だ危険な状態にあったといえるし(乙A181)、炉心溶融の事実の公表も平成23年5月まで行われなかったように、原子力発電所の状況が正確に公表されているかについての疑念を抱かせる事情もあった。汚染状況についての情報提供の程度についてみても、本件事故直後、速やかに空間放射線量は公表されていたが、これは特定の限られた地点における数値にすぎない。土壌への放射性物質の蓄積状況を含む県内全域の汚染状況が面的に明らかになったのは、政府の原子力災害対策本部が環境モニタリング強化計画(乙A174)を平成23年4月22日に作成し、この計画を受けて環境モニタリングが強化され(乙A176)、平成23年5月から12月にかけて航空機モニタリング調査の結果が公表されて以降のことである(甲A6、乙A175)。また、住民が従前と同様の生活を安心して送るためには、除染作業が最低限の前提となるが、各市町村が除染実施計画を策定したのは、原子力災害対策本部が除染に関する緊急実施基本方針を決定した平成23年8月26日以降のことである(乙A77)。控訴人は、自主的避難等対象区域においては、平成23年4月22日以降の環境放射能や健康調査の結果が事故後に定めた放射線防護の基準に照らせば相当低い水準にとどまり、地域住民の社会生活が比較的平穏に営まれ、正常な社会生活が営まれていたと主張するが、そのような事実は、低線量被曝に対する地域住民の恐怖や不安が払拭されたとまで認めるに足るものでなく、一般的、平均的な人を基準として、事故による放射線被曝に対する不安が既に解消され、平穏な日常生活を送ることに支障のない状況に至ったと評価できるものではない。この不安は、低線量被曝の健康影響について政府での検討が続けられたことからも明らかなように、控訴人が主張する漠然とした不安感というような軽いものでもない。
原告らは、いずれも放射能に対する専門的知見を有するものではなく、本件事故により、突然、放射性物質で汚染された地域での居住を強いられるという異常事態に遭遇した。このことに着目すれば、低線量被曝が健康に与える影響が少ないという見解が紹介されたことや、年間20mSvの放射線被曝を基準として、避難区域が再編されたという事実経過があったからといって、そのことによって、本件事故からわずか約40日後にすぎない平成23年4月22日において、低線量被曝が健康に悪影響を与えないという見解が自主的避難者等対象区域の住民に何の疑問もなく受け入れられ、
放射能に対する恐怖や不安が解消したと考えることは妥当でない。放射能に対する恐怖や不安は、従前より著しく高くなった放射線に曝される環境下での生活を強いられることによって生じる。住民はそのような恐怖や不安を抱くからこそ、行動の自由が制約され、平穏な日常生活の維持・継続が阻害され、自主的避難やこれに代わる措置を強いられるのである。その恐怖や不安は、平均的・一般的な人を基準としても、低線量被曝が健康に与える影響について十分な情報が与えられ、更に、事故が収束し、安心して生活するに足りる環境が整うまで続くものと考えるのが妥当である。
また、低線量被曝が健康に与える悪影響については、これを否定する見解がある
一方、これを肯定するLNTモデル(低線量被曝でも被曝線量に対して直線的にリスクが増加するという考え方)が有力な見解として存在する。そのような中で、年間20mSvの被曝による健康リスクは、他の発がん要因によるリスクと比べても十分に低い水準であるとみるべきであるとする内容の前記ワーキンググループの報告書が平成23年12月に公表されたのであるから、その頃までは、自主的避難等対象者の恐怖や不安は、合理的な根拠に基づくものと考えるのが自然である。このように見ると、放射性被曝による健康影響に対する原告らの恐怖や不安が、一般社会通念上の受忍限度の範囲内のものとして、法律上保護される利益の侵害にあたらない程度にまで軽減されたと判断するには、一旦生じた恐怖や不安を解消するのに相応しい社会的情勢の変化と時間の経過が必要であるというべきであり、その観点から、政府において、避難の基準とした年間20mSvの放射線被曝による健康影響について、平成23年12月22日まで専門家のワーキンググループにおいて検討評価を行い、その結果を踏まえ、同月26日に改めて年間20mSvの基準による避難区域の再編を行ったことなど、事故後の政府における検討状況等を考慮し、少なくとも平成23年12月31日までは、十分な社会的情勢の変化と時間の経過があったとはいえないと考えるのが相当である。
したがって、自主的避難等対象区域に居住していた原告らが、本件事故による放射線被曝に対する強い恐怖や不安により、事故日である平成23年3月11日から同年12月31日までの期間に被った精神的苦痛については、社会生活上の受忍限度を超えて法律上保護される利益が侵害されたものと評価するのが相当である。3
慰謝料額の算定及び原賠審の中間指針の位置付けについて



慰謝料額の基準を30万円とすることについて

前記2の認定判断によれば、本件事故により自主的避難等対象区域に居住していた原告らが放射線被曝に対する強い恐怖や不安という精神的苦痛を受けたことは、実際に自主避難をしたか否か、あるいは原告らの生活状況等の個別の事情の如何にかかわらず、基本的に原告らが自主的避難等対象区域に居住していること自体によ
って、そもそも深刻な損害を被ったものといえる。各自の生活状況等により、精神的苦痛や生活費の増大などの損害の生じる態様に差異があるとしても、放射能への恐怖や不安、更には、これにより行動の自由が制限され、正常な日常生活の維持・継続が阻害されるという原告らに生じた精神的損害の根幹部分は共通するものであって、生活状況等の違いにより大きな差が生ずるものとは評価できない。上記のような不安から生じた現実的な生活の支障の内容は、原告ごとに様々であるとしても、その支障は、いずれも低線量被曝の環境下での生活が強いられることにより生じるものであって、性質上、自主避難をし、あるいは、自主的避難等対象区域にとどまったことによって、等しく住民に生じるものといえるからである。このような前提に立てば、損害が基本的に共通するという性質を考慮した上でもなお異なる損害を算定すべきであるといえるような特別の事情が、各原告の被害状況において認められない限り、本件事故の日である平成23年3月11日から同年12月31日までの期間に被った精神的苦痛による慰謝料について、上記期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上で、原告一人あたり30万円の慰謝料の損害を認めるのが相当である。
ちなみに、中間指針追補(別紙2、前記第2の3⑴)は、放射能への恐怖や不安から、正常な日常生活が阻害されたことに対する精神的損害それ自体に加え、行動の自由に対する制限等から生じた生活費増加分を慰謝料の補完要素として考慮することを原則とし、本件事故発生当初(平成23年4月22日迄󠄀)の包括慰謝料として、合算して一律8万円の賠償金を基準として定めている。中間指針追補が、このような一律の賠償基準を定めた理由としては、本件事故による影響が広範な地域に及ぶ深刻なものであり、被害の性質上、精神的苦痛は、自主的避難等対象区域に居住していたこと自体によって地域住民に等しく発生するといえること、行動の自由に対する制限等から生じた生活費増加分は、自主的避難等対象者ごとに様々であるが、特別の出費以外の出費については、一律に慰謝料の補完要素として算定することがかえって公平かつ合理的であるといえることなどの諸事情を考慮したと考えら
れ、金額はともかく、中間指針追補と同様に、生活費の増加費用も考慮した上で、基本的に一律の慰謝料を算定することは、公平な損害賠償に資すると考えられる。控訴人は、騒音や排ガス等の有害物質の拡散による健康影響への不安感が生じた事例の裁判例を挙げて、裁判所が平穏生活権の侵害として認容した慰謝料の額は、概ね月額数千円から1万円程度であると主張し、約10か月の期間について30万円の慰謝料を認めることは、過去の裁判例で示された慰謝料額の水準から大きく掛け離れたものであって、裁判所の裁量権の限界を超えていると主張する。しかし、前記1⑵及び2において説示したとおり、原告らが本件事故によって被った被害は、突然の原子炉の爆発事故による放射能被曝の恐怖と不安という重大かつ深刻な被害であって、一般的な健康影響への不安感というものとは被害の性質が著しく異なるものであるから、慰謝料の算定について、控訴人の主張する裁判例がそのままあてはまるものではない。控訴人の主張は採用できない。⑵

各原告の慰謝料額について

控訴人は、原告らは、一時避難を除き、1名を除き、実際には避難をしておらず、原判決が、原告らの全員について、漫然と、一般論として避難の相当性を認めた平成23年12月31日までの慰謝料額の目安である30万円を慰謝料として認めたとして、原判決が認定した慰謝料額は過大であると主張する。
しかし、前記⑴に説示したとおり、損害が基本的に共通するという性質を考慮してもなお異なる損害を算定すべき特別の事情が、各原告の被害状況に認められない限り、事故の日である平成23年3月11日から同年12月31日までの期間に被った精神的苦痛による慰謝料について期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上で原告一人あたり30万円の慰謝料の損害を認めるのが相当であって、原判決事実及び理由第6部第3章の各認定事実によっても(ただし、原告番号1につき、原判決199頁14行目

除去土壌は敷地で地上保管された。

除去土壌は庭の隅に埋められた。

に改める。)、その他本件の一切の主張立証を勘案しても、各原告の被害状況について、損害が基本的に共通するという性質を考慮し
てもなお異なる損害を算定すべき特別の事情は認められない。
したがって、各原告につき、上記のとおり事故の日である平成23年3月11日から同年12月31日までの期間に被った精神的苦痛による慰謝料について、上記期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上で、一律30万円の慰謝料を認めるのが相当である。


中間指針追補に基づく自主賠償基準及びADR和解の水準について
控訴人は、中間指針追補を踏まえた自主賠償基準(別紙3、4の各プレスリリースのとおり。)による控訴人への直接請求に基づく賠償や、ADR和解において、多数の紛争解決が行われている実情にあり、中間指針等は、紛争解決規範として実際に機能していることから、指針に定める賠償基準及び指針を踏まえた自主賠償基準は、妥当な賠償水準として尊重されるべきであると主張する。
しかし、中間指針等は、あくまで原子力損害の賠償に関する紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的指針(原賠法18条2項2号)を定めたものであり、あくまでその趣旨にとどまるものである。本件訴訟における個別具体的な紛争解決において、前記1⑵、2のとおり、被害の実情についての当事者の主張立証を踏まえた司法判断に基づき、損害の範囲や慰謝料額について、中間指針追補やこれに基づく控訴人の自主賠償基準あるいはADR和解の賠償水準と異なる損害や慰謝料額を認めることは、
憲法76条1項に定める司法制度の役割として当然のことであり、そのことが原賠法の立法趣旨に反するものでもなく、中間指針等を定めた趣旨、あるいは自主賠償基準に基づく賠償やADR和解において多数の紛争が解決されてきた意義を失わせるものではない。控訴人の主張は、司法制度や原賠法及びこれに基づく中間指針の趣旨を正しく理解しないものであり、採用できない。4
直接請求及びADR和解による賠償金支払の弁済充当について



ADR和解をした原告への弁済を4万円とすることについて

控訴人は、原審が、ADRの和解において精神的損害に対する弁済額を4万円と合意したと認定した上で、ADR和解をした原告ら(原告番号4、7、8、15、
24、31、38、40、41)に対する弁済の充当額を4万円に限定したことについて、ADR和解で精神的損害に対する弁済額を4万円と合意したと認定したことは誤りであると主張し、控訴人が直接請求により自主賠償基準に従って包括慰謝料として支払った8万円と同額を充当すべきであると主張する。
各原告の和解契約書(別紙5)によれば、ADR和解をした上記各原告は、控訴人との間で、平成23年3月11日から同年4月22日まで(本件事故発生当初の時期とあるのも同趣旨)又は平成23年3月11日から同年12月31日までの期間を対象期間として、精神的苦痛に対する慰謝料4万円を控訴人が支払う内容の和解をしている。このことから、基本的には、このADR和解の合意の解釈として、精神的苦痛に対する慰謝料として明記された4万円に限って、当裁判所の認定した平成23年3月11日から同年12月31日までの期間に被った精神的苦痛による慰謝料について期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上での原告一人あたり30万円の慰謝料の損害の賠償として、弁済充当するのが相当である。⑵

ADR和解による生活費増加費用4万円の支払の控除について

上記和解契約書及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人A(番号7)及び同B(番号8)は、子1人を加えた3名と控訴人との間で、平成23年3月11日から同年12月末日までの生活費増加費用(二重生活費用)という損害項目について、12万円の和解金の支払義務が控訴人にあることを確認した上で、他の損害項目を含む和解金から既払金を控除した額の支払を控訴人から受けていることが認められ、これは、上記3名について、一人4万円の生活費増加費用の損害賠償がされたものと認められる。
被控訴人C(番号31)も、控訴人との間で、平成23年3月11日から同年12月末日までの生活費増加費用という損害項目について、4万円の和解金の支払義務が控訴人にあることを確認した上で、他の損害項目を含む和解金から中間指針追補に基づく既払金8万円を控除した額の支払を控訴人から受けていることが認められる。

被控訴人D(番号38)も、他の世帯員4名を加えた5名と控訴人との間で、平成23年3月11日から同年12月末日までの生活費増加費用及び移動費用という損害項目について、合計128万円の和解金の支払義務が控訴人にあることを確認し、別紙6の一覧表のとおり、そのうち4万円は同被控訴人の損害項目として合意した上で、他の損害項目を含む和解金から中間指針追補に基づく既払金8万円を控除した額の支払を控訴人から受けていることが認められる。
上記認定事実によれば、上記被控訴人4名は、合意の趣旨に照らし、中間指針追補による包括慰謝料8万円に生活費増加費用を含めたことと同じ趣旨のものとして、精神的損害に対する慰謝料4万円のほかに、生活費増加費用ないし生活費増加費用及び移動費用の損害項目で各自4万円の支払を受けているものと評価するのが相当であるから、この生活費増加費用としての4万円の支払も、当裁判所が認定した平成23年3月11日から同年12月31日までの期間に被った精神的苦痛による慰謝料について期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上での原告一人30万円の慰謝料の損害についての弁済として控除するのが相当である。なお、被控訴人H(番号15)は、本件事故発生当初の時期(平成23年4月22日まで)を対象期間とする精神的損害4万円のほかに、他の2名の世帯構成員と合わせた損害項目として、平成23年3月11日から同年12月31日までの生活費増加分5万2248円、同期間の帰宅費用20万0136円の和解金の支払義務があることを確認した上で、
他の損害項目を加えた和解金の支払を控訴人から受け、
これらの損害項目については、和解に定めるもののほか、債権債務がないことを確認している。しかし、被控訴人Hが他の世帯構成員を合わせて上記の生活費増加分や帰宅費用の和解金の支払を受けたことを考慮しても、原審と同様、精神的損害について清算されていない平成23年4月23日から同年12月31日までの精神的苦痛に対する慰謝料として15万円を認めるのが相当である。
同様に、被控訴人I(番号24)は、本件事故発生当初の時期(平成23年4月22日まで)の精神的損害4万円のほかに、同期間の生活費増加費用4万円を損害
項目として和解金の支払義務があることを確認した上で、他の損害項目を加えた和解金の支払を控訴人から受け、これらの損害項目については、和解に定めるもののほか、債権債務がないことを確認している。しかし、被控訴人Iが、上記生活費増加費用4万円の和解金の支払を受けたことを考慮しても、原審と同様に、和解により清算されていない平成23年4月23日から同年12月31日までの精神的苦痛に対する慰謝料として15万円を認めるのが相当である。


追加的費用4万円及びその他の支払の弁済充当の主張について

控訴人は、
生活費用の増加に対して支払った追加的費用4万円の支払についても、弁済に充当すべきであると主張する。前記第2の3⑵のとおり別紙4の平成24年12月5日付けプレスリリース1⑵の自主賠償基準に基づく支払である。しかし、前記認定事実並びに上記プレスリリースの内容及び弁論の全趣旨(控訴人の主張に係る別紙6の一覧表参照)によれば、追加的費用4万円の支払は、中間指針追補による平成23年4月22日までの生活費増加費用やADR和解による同日又は平成23年12月31日までの生活費増加費用とは別に、控訴人が、原告らについて、平成23年3月11日から平成24年8月31日までの生活費用の増加による損害賠償義務があることを認めた上で、その損害賠償に充当するために支払ったものと認められる。
この事実からすれば、当裁判所が認定した平成23年3月11日から同年12月31日までの期間に被った精神的苦痛による慰謝料について期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌した上での原告一人あたり30万円の慰謝料の損害とは別に、平成24年8月31日までの生活費用の増加による損害が本件事故によって原告らに発生し、控訴人は、その損害賠償義務を認めた上で、その義務の履行として追加的費用4万円を支払ったものと認めるのが相当である。
したがって、追加的費用4万円の支払を当裁判所が認定した30万円の慰謝料の損害の賠償として弁済充当することは、支払の趣旨についての当事者の合理的な意思解釈とはいえないから、追加的費用4万円の弁済充当の主張は採用できない。
控訴人は、控訴人から原告らに対するその他の一切の既払金についても、原告らの請求に対する弁済として充当する旨の主張もするが、前記同様、当裁判所の認定した30万円の慰謝料の損害とは別に、別紙6の一覧表のとおり、他の支払の損害項目に相当する損害が本件事故により原告らに発生し、控訴人は、その損害賠償義務を認めた上で、
その義務の履行として各支払をしたものと認めるのが相当である。これら他の既払金を当裁判所が認定した30万円の慰謝料の損害の賠償として弁済充当することは、支払の趣旨についての当事者の合理的な意思解釈とはいえないから、それらの弁済充当の主張は採用できない。
控訴人は、各原告の世帯構成員に対する支払分も当該原告の請求に対する弁済として充当する旨の主張もするが、同様に、当裁判所の認定した30万円の慰謝料の損害とは別に、別紙6の一覧表のとおり他の支払の損害項目に相当する損害が本件事故により世帯構成員に発生し、控訴人は、その損害賠償義務を認めた上で、その義務の履行として各支払をしたものと認めるのが相当である。世帯構成員に対する支払分を当裁判所が認定した原告らの30万円の慰謝料の損害の賠償として弁済充当することは、支払の趣旨についての当事者の合理的な意思解釈とはいえない。世帯構成員に対する支払分についての弁済充当の主張は採用できない。
仙台高等裁判所第2民事部

裁判長裁判官

小林久起
裁判官

鈴木桂子
裁判官

本多幸嗣
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