事件番号 | 令和2(行ケ)10007 |
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事件名 | 審決取消請求事件 |
裁判年月日 | 令和3年1月25日 |
裁判所名 | 知的財産高等裁判所 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
裁判日:西暦 | 2021-01-25 |
情報公開日 | 2021-02-04 14:01:00 |
令和2年(行ケ)第10007号 口頭弁論終結日 審決取消請求事件 令和2年11月17日 判原決告松 同訴訟代理人弁理士 樺澤同山田被告山株式会社聡哲也 小橋工業株式会社 同訴訟代理人弁護士 高橋雄一郎同阿部実佑季同北島志主保文1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が無効2017-800153号事件について令和元年12月17日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 被告は,名称をロータリ作業機とする発明に係る特許(特許第5996033号。平成23年5月24日を出願日とする特願2011-115679号(原出願)の一部を平成27年4月8日に分割出願した特願2015-79549号に係る特許。 設定登録日平成28年9月2日。 請求項の数5。 以下本件特許という。 )の特許権者である。 ⑵ 原告は,平成29年12月20日,特許庁に請求項1~5に係る発明の特許につき無効審判請求をし,特許庁は上記請求を無効2017-800153号事件として審理した(以下本件無効審判という。。被告は,令和元) 年7月31日付けで訂正請求をした(甲60) 。なお,この訂正請求がされた ことによって,それより先に請求されていた平成31年4月16日付け訂正請求は取り下げられたものとみなされた(特許法134条の2第6項)。 特許庁は,令和元年12月17日,結論を特許第5996033号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。とする審決(以下本件審決といい,本件審決によって認められた訂正を本件訂正という。)を し,その謄本は同月26日に原告へ送達された。 ⑶ 原告は,令和2年1月23日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項の記載は,次のとおりである(以下,本件訂正後の請求項1~5記載の発明を, 請求項の番号に応じて, それぞれ 本件発明1~5という。)。 【請求項1】 (本件発明1) 作業ロータと, 前記作業ロータの上方を覆うシールドカバー本体部と, 前記シールドカバー本体部の左右側側面に配設されたサイドシールドと,前記シールドカバー本体部に対して上下回動可能に連結されて前記作業ロータの後側を覆うエプロン本体部と, 前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に両持ち状態で接合された,弾性力を有するカバー材と, 前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に配置された整地部材と,前記エプロン本体部の左右側側面に接続されたエプロンサイドプレートと,前記作業ロータのロータリー軸に動力を伝達するチェーンを覆うチェーンケースであって,前記チェーンケースは前記サイドシールドよりもさらに前記シールドカバー本体部の左右いずれかの外側に位置し,前記チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するように前記耕耘地面を深い位置まで耕耘する場合には,前記チェーンケースによって前記耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されるように固定されたチェーンケースと,を有し,前記カバー材と前記整地部材とは,前記作業ロータ側からこの順で前記エプロン本体部に接合され,前記カバー材の後側は前記整地部材の前側と重畳し,前記エプロンサイドプレートは,前記サイドシールド側の端部がエプロン本体部側方向に折れ曲がった屈曲部を有し,かつ,前記エプロン本体部との接続状態を第1の状態から第2の状態へ変化させることで,前記エプロンサイドプレートの下側方向位置に,耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部を形成可能なロータリ作業機。 【請求項2】 (本件発明2) 作業ロータと, 前記作業ロータの上方を覆うシールドカバー本体部と, 前記シールドカバー本体部の左右側側面に配設されたサイドシールドと,前記シールドカバー本体部に対して上下回動可能に連結されて前記作業ロータの後側を覆うエプロン本体部と, 前記エプロン本体部の左右側側面に接続されたエプロンサイドプレートと,前記作業ロータのロータリー軸に動力を伝達するチェーンを覆うチェーンケースであって,前記チェーンケースは前記サイドシールドよりもさらに前記シールドカバー本体部の左右いずれかの外側に位置し,前記チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するように前記耕耘地面を深い位置まで耕耘する場合には,前記チェーンケースによって前記耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されるように固定されたチェーンケースと,を有し,前記エプロンサイドプレートは,前記サイドシールド側の端部がエプロン本体部側方向に折れ曲がった屈曲部を有し,かつ,前記エプロン本体部との接続状態を第1の状態から第2の状態へ変化させることで,前記エプロンサイドプレートの下側方向位置に,耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部を形成可能であり, 前記エプロンサイドプレートは,上下を逆にして接続することによって,前記エプロン本体部との接続状態を前記第1の状態から第2の状態へ変化させるロータリ作業機。 【請求項3】 (本件発明3) 前記エプロンサイドプレートには,第1の接続部及び第2の接続部が形成され, 前記エプロン本体部の左右側側面には,第1の被接続部及び第2の被接続部が形成され, 前記第1の状態においては,前記第1の接続部と前記第1の被接続部とが接続され,前記第2の接続部と前記第2の被接続部とが接続され, 前記第2の状態においては,前記第1の接続部と前記第2の被接続部とが接続され,前記第2の接続部と前記第1の被接続部とが接続される請求項2に記載のロータリ作業機。 【請求項4】 (本件発明4) 前記屈曲部は,前記エプロン本体部及び前記整地部材が整地可能な状態において,前記シールドカバー本体部に接続されたサイドシールドと前記エプロンサイドプレートとが重畳状態になる部分を少なくとも含むように形成される請求項1に記載のロータリ作業機。 【請求項5】 (本件発明5) 前記エプロンサイドプレートの後側方向に位置する部分は,前記第1の状態においても前記第2の状態においても,前記エプロン本体部よりも突出する部分を有しない請求項1~4いずれか1項に記載のロータリ作業機。3 本件審決の理由の要旨 ⑴ 本件無効審判において,原告は,次のような無効理由を主張した(本件審決14~16頁)。 ア 無効理由1 本件発明1~5は,検甲1(KJL180型のコバシローター,製造番号43171127)に示される,本件特許の出願前に公然実施をされた発明(以下検甲1発明という。 )と同一であるから,特許法29条1項 2号に該当し,特許を受けることができないものであり,仮に同一でないとしても,本件特許の出願前に公然実施をされた検甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 イ 無効理由2 本件発明1~5は,甲10に記載された発明(以下甲10発明という。,甲11に記載された技術事項,及び周知技術又は先行技術(甲3,) 甲12,甲13,検甲1)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 ウ 無効理由3 本件発明1~5は,甲3に記載された発明(以下甲3発明という。) 及び甲11に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 エ 無効理由4 本件発明1, 4及び5は, 甲14に記載された発明 (以下 甲14発明 という。 )と同一であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであり,仮に同一でないとしても,本件発明1,4及び5は,甲14発明及び検甲1に示された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 本件発明2及び3は,甲14発明,甲11に記載された技術事項及び検甲1に示された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 オ 無効理由5 本件発明1, 4及び5は, 甲15に記載された発明 (以下 甲15発明 という。及び検甲1に示された技術事項に基づいて, ) 当業者が容易に発明 をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件発明2及び3は,甲15発明,甲11に記載された技術事項及び検甲1に示された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 カ 無効理由6 本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に規定する明確性要件を満たしていない。 ⑵ 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりであり,各無効理由に対する本件審決の判断の要旨は次のとおりである。 ア 無効理由1について(本件審決83~85頁) 本件発明1~5は検甲1発明と同一ではなく,また検甲1発明並びに甲11,甲14及び甲15に記載されている周知技術又は公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 無効理由2について(本件審決87~90頁) 本件発明1~5は,甲10発明,甲11に記載された技術事項及び周知技術(甲3,検甲1)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 無効理由3について(本件審決92~93頁) 本件発明1~5は,甲3発明,甲11に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 無効理由4について(本件審決95~98頁) 本件発明1,4及び5は,甲14発明と同一ではなく,また,甲14発明及び検甲1で示される技術事項,甲11,甲22,甲24,甲25に記載の公知技術又は周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 本件発明2, 3は, 甲14発明及び検甲1で示される技術事項, 甲11, 甲22,甲24,甲25に記載の公知技術又は周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 無効理由5について(本件審決100~101頁) 本件発明1~5は, 甲15発明及び検甲1で示される技術事項, 甲11, 甲22,甲24,甲25に記載の公知技術又は周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 カ 無効理由6について(本件審決101~102頁) 本件特許の請求項1~5は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしている。 ⑶ 本件審決が認定した甲14発明の内容,本件発明1と甲14発明の一致点・相違点, 甲15発明の内容, 本件発明1と甲15発明の一致点・相違点, 検甲1発明の内容,本件発明1と検甲1発明の一致点・相違点は,次のとおりである。 ア 甲14発明の関係 (ア) 甲14発明の内容(本件審決66~67頁) 複数の耕うん爪と耕耘軸の上方を覆う耕うん部カバーと, 前記耕うん部カバーの左右側側面に配設された側板(右) (左)と, 前記耕うん部カバーに対して上下回動可能に連結されて前記複数の耕 うん爪と耕耘軸の後側を覆う均平板と, 前記均平板の左右側側面に接続された補助側板と, 前記側板(左)より外側であって,かつ,前記耕うん部カバーの左の外側に位置するチェーンケースと,を有し, 前記補助側板には, 4つの接続部が形成され, 各接続部は, 後方上側, 後方下側,中程上側,中程下側のものを,それぞれ第1~第4の接続部とし, 前記均平板の左右側側面には,上下方向に4つの被接続部が形成されており,各被接続部は,それぞれ上から順番に第1~第4の被接続部とし, 前記第1の接続部と前記第2の被接続部とが接続され,前記第2の接続部と前記第4の被接続部とが接続された水田用・下の取付位置と,前記第3の接続部と前記第1の被接続部とが接続され,前記第4の接続部と前記第3の被接続部とが接続された畑地用・上の取付位置とがあり, 前記畑地用・上の取付位置での補助側板の下端は,前記水田用・下の取付位置での補助側板の下端よりも,上方に位置しており, 補助側板の後側方向に位置する部分は,前記水田用・下の取付位置では,均平板よりも突出する部分を有しておらず,前記畑地用・上の取付位置では,均平板よりも突出する部分を有しているロータリ作業機(イ) 本件発明1と甲14発明の一致点(本件審決95頁) 作業ロータと, 前記作業ロータの上方を覆うシールドカバー本体部と, 前記シールドカバー本体部の左右側側面に配設されたサイドシールド と, 前記シールドカバー本体部に対して上下回動可能に連結されて前記作業ロータの後側を覆うエプロン本体部と, 前記エプロン本体部の左右側側面に接続されたエプロンサイドプレートと, 前記サイドシールドよりもさらに前記シールドカバー本体部の左の外側に位置するチェーンケース,を有し, 前記エプロンサイドプレートは,前記エプロン本体部との接続状態を第1の状態から第2の状態に変化させることで,前記エプロンサイドプレートの下側方向位置に開口部を形成可能なロータリ作業機。 (ウ) a 本件発明1と甲14発明の相違点(本件審決95頁) 相違点a 本件発明1は,前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に両持ち状 態で接合された,弾性力を有するカバー材と,前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に配置された整地部材と,を有し,前記カバー材と前記整地部材とは,前記作業ロータ側からこの順で前記エプロン本体部に接合され,前記カバー材の後側は前記整地部材の前側と重畳するのに対し,甲14発明は,そのような特定がない点。 b 相違点b チェーンケースについて,本件発明1は,前記チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するように前記耕耘地面を深い位置まで耕耘する場合には,前記チェーンケースによって前記耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されるように固定されているのに対し,甲14発明は,そのような特定がない点。 c 相違点c エプロンサイドプレートについて,本件発明1は,サイドシールド側の端部がエプロン本体部側方向に折れ曲がった屈曲部を有するのに対し,甲14発明は,そのような特定がない点。 d 相違点d 開口部について,本件発明1は,耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すためのものであるのに対し,甲14発明は,そのような特定がない点。 イ 甲15発明の関係 (ア) 甲15発明の内容(本件審決69~70頁) 複数の耕うん爪と耕耘軸の上方を覆う耕うん部カバーと, 前記耕うん部カバーの左右側側面に配設された側板と, 前記耕うん部カバーに対して上下回動可能に連結されて前記複数の耕 うん爪と耕耘軸の後側を覆う均平板と, 前記均平板の左右側側面に接続された補助側板と, 前記左側の側板の外側であって,かつ,前記耕うん部カバーの左の外側に位置するチェーンケースと,を有し, 前記補助側板には, 2つの接続部が形成され, 各接続部は, 後方上側, 後方下側のものを,それぞれ第1~第2の接続部とし, 前記均平板の左右側側面には,上下方向に4つの被接続部が形成されており,各被接続部は,上から順番に第1~第4の被接続部とし,前記第1の接続部と前記第2の被接続部とが接続され,前記第2の接続部と前記第4の被接続部とが接続された水田用の取付位置と, 前記第1の接続部と前記第1の被接続部とが接続され,前記第2の接続部と前記第3の被接続部とが接続された畑用の取付位置とがあり,前記畑用の取付位置での補助側板の下端は,前記水田用の取付位置での補助側板の下端よりも,上方に位置しており, 補助側板の後側方向に位置する部分は,前記水田用及び前記畑用の両取付位置において,均平板よりも突出する部分を有しないロータリ作業機 (イ) 本件発明1と甲15発明の一致点(本件審決99~100頁) 作業ロータと, 前記作業ロータの上方を覆うシールドカバー本体部と, 前記シールドカバー本体部の左右側側面に配設されたサイドシールドと, 前記シールドカバー本体部に対して上下回動可能に連結されて前記作業ロータの後側を覆うエプロン本体部と, 前記エプロン本体部の左右側側面に接続されたエプロンサイドプレートと, 前記サイドシールドよりもさらに前記シールドカバー本体部の左の外側に位置するチェーンケースと,を有し, 前記エプロンサイドプレートは,前記エプロン本体部との接続状態を第1の状態から第2の状態に変化させることで,前記エプロンサイドプレートの下側方向位置に開口部を形成可能なロータリ作業機。 (ウ) a 本件発明1と甲15発明の相違点(本件審決100頁) 相違点α 本件発明1は,前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に両持ち状態で接合された,弾性力を有するカバー材と,前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に配置された整地部材と,を有し,前記カバー材と前記整地部材とは,前記作業ロータ側からこの順で前記エプロン本体部に接合され,前記カバー材の後側は前記整地部材の前側と重畳するのに対し,甲15発明は,そのような特定がない点。 b 相違点β チェーンケースについて,本件発明1は,前記チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するように前記耕耘地面を深い位置まで耕耘する場合には,前記チェーンケースによって前記耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されるように固定されているのに対し,甲15発明は,そのような特定がない点。 c 相違点γ エプロンサイドプレートについて,本件発明1は,サイドシールド側の端部がエプロン本体部側方向に折れ曲がった屈曲部を有するのに対し,甲15発明は,そのような特定がない点。 d 相違点δ 開口部について,本件発明1は,耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すためのものであるのに対し,甲15発明は,そのような特定がない点。 ウ 検甲1発明の関係 (ア) a 検甲1発明の内容(本件審決46~48頁) ロータ軸に設けたフランジに耕耘爪を取り付けた作業ロータと, b この作業ロータの上方を覆うシールドカバー本体部と, c このシールドカバー本体部の左側側面に配設されたチェーンケースと左側サイドシールドと,同じく右側側面に配設されたサポートアームと右側サイドシールドと, d シールドカバー本体部に対して上下回動可能に連結されて作業ロータの後側を覆うエプロン部材と, e このエプロン部材の左右側側面にそれぞれ接続された左側エプロンサイドプレート及び右側エプロンサイドプレートと,を有し, f 左側エプロンサイドプレートは,左側サイドシールド側の端部が,その端部に沿ってエプロン部材側方向に折れ曲がった左側屈曲部を有し,かつ,右側エプロンサイドプレートは,右側サイドシールド側の端部が,その端部に沿ってエプロン部材側方向に折れ曲がった右側屈曲部を有し, g1 左側エプロンサイドプレートには,上端後側に左側第1のボルト 孔が,中段後側に左側第2のボルト孔が形成され,かつ,右側エプロンサイドプレートには,上端後側に右側第1のボルト孔が,中段後側に右側第2のボルト孔が形成され,左側及び右側第1のボルト孔の外面側の周囲には,逆円錐面が形成され,左側及び右側第2のボルト孔の外面側の周囲には,逆円錐面が形成されておらず, g2 エプロン部材の左右側端部には,該端部に沿って左フランジ及び 右フランジが立ち上がって形成され,左フランジの上部に左側第1のボルト孔が形成され,下部に左側第2のボルト孔が形成され,右フランジの上部に右側第1のボルト孔が形成され,下部に右側第2のボルト孔が形成されており, g3 左側エプロンサイドプレートをエプロン部材の左フランジの外側 に重ねて,左側エプロンサイドプレートの左側第1のボルト孔と左フランジの左側第1のボルト孔とを貫通する六角穴付皿ボルトと六角ナットで,左側エプロンサイドプレートの左側第2のボルト孔と左フランジの左側第2のボルト孔とを貫通する六角ボルトと六角ナットで,締結され,右側エプロンサイドプレートをエプロン部材の右フランジの外側に重ねて,右側エプロンサイドプレートの右側第1のボルト孔と右フランジの右側第1のボルト孔とを貫通する六角穴付皿ボルトと六角ナットで,右側エプロンサイドプレートの右側第2のボルト孔と右フランジの右側第2のボルト孔とを貫通する六角ボルトと六角ナットで,締結されており, g4 シールドカバー本体部に対するエプロン部材の特定の回動角度で は,左側サイドシールの下縁と左側エプロンサイドプレートの下縁とが,略同じ高さとなり,右側サイドシールドの下縁と右側エプロンサイドプレートの下縁とが,略同じ高さとなる, h ロータリ作業機。 (イ) 本件発明1と検甲1発明の一致点(本件審決82頁) 作業ロータと, 前記作業ロータの上方を覆うシールドカバー本体部と, 前記シールドカバー本体部の左右側側面に配設されたサイドシールド と, 前記シールドカバー本体部に対して上下回動可能に連結されて前記作業ロータの後側を覆うエプロン本体部と, 前記エプロン本体部の左右側側面に接続されたエプロンサイドプレートと, 前記シールドカバー本体部の左の外側に位置するチェーンケースと,を有し, 前記エプロンサイドプレートは,前記サイドシールド側の端部がエプロン部材側方向に折れ曲がった屈曲部を有するロータリ作業機 (ウ) a 本件発明1と検甲1発明の相違点(本件審決82~83頁) 相違点1 本件発明1は,前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に両持ち状態で接合された,弾性力を有するカバー材と,前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に配置された整地部材と,を有し,前記カバー材と前記整地部材とは,前記作業ロータ側からこの順で前記エプロン本体部に接合され,前記カバー材の後側は前記整地部材の前側と重畳しているのに対し,検甲1発明は,そのような特定がない点。 b 相違点2 チェーンケースについて,本件発明1は,サイドシールドの外側に位置し,前記チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するように前記耕耘地面を深い位置まで耕耘する場合には,前記チェーンケースによって前記耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されるように固定されているのに対し,検甲1発明は,そのような特定がない点。 c 相違点3 本件発明1は,エプロン本体部との接続状態を第1の状態から第2の状態へ変化させることで,エプロンサイドプレートの下側方向位置に,耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部を形成可能であるのに対し,検甲1発明は,そのような特定がない点。 第3 原告主張の取消事由 1 取消事由1(甲14を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由4関係) ⑴ 取消事由1-1(甲14発明の認定の誤り) ア 甲14に記載された発明の認定 本件審決の甲14発明の認定は誤りであり,甲14に記載された発明は,次のとおり,下線を付した構成①及び②を備えるものとして認定すべきである。 複数の耕うん爪及び耕うん軸を有する耕うん部と, 前記耕うん部の上方を覆う耕うん部カバーと, 前記耕うん部カバーの左右側側面に配設された側板と, 前記耕うん部カバーに対して上下回動可能に連結されて前記耕うん部の後側を覆う均平板と, 前記均平板の左右側側面に接続された補助側板と, 前記耕うん部の耕うん軸に動力を伝達するチェーンを覆うチェーンケースであって,前記チェーンケースは前記側板よりもさらに前記耕うん部カバーの左の外側に位置し,前記チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するように前記耕耘地面を深い位置まで耕耘する場合には前記チェーンケースによって前記耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されるように固定されたチェーンケース(以下構成①という)と,を有し, 前記補助側板は,前記均平板との接続状態を水田用・下の取付位置に取り付けられた状態から畑地用・上の取付位置に取り付けられた状態へ変化させることで,前記補助側板の下側方向位置に,耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部(以下構成②という)を形成可能なロータリ作業機。 イ 認定の根拠 甲14に記載された発明を前記アのとおり認定すべき理由は,次のとおりである。 (ア) a 甲14の記載 甲14の21頁の作業姿勢等を示す図及び25頁の補助側板の調整の図 (a) 甲14の21頁には, 作業姿勢という項の中に, 「下図を参考に,各項目確認をしてください。」 という記載の下に,作業姿勢を示すとともに,補助側板の取付位置(畑,水田)やスプリングエンドの位置等についての説明を加えた, 以下の図が示されている (以 下,この図を甲14作業姿勢図という。。 ) (甲14作業姿勢図) 甲14作業姿勢図は,耕耘深さ(作業深さと同義である。 )が12 cmである場合の作業姿勢を示しており,12cmの耕耘深さは,甲14記載のロータリ作業機での標準耕深 (標準的な耕耘深さ) (甲 14の7,8頁の主要諸元中の標準耕深の項目)である。 しかし, 甲14の22頁には耕耘深さの調整について, 「ゲージ輪止めピンを引き出し,ゲージ輪アームを上下して調整します。・・・」 などの説明が記載されており,甲14作業姿勢図によれば,ゲージ輪アームには間隔をおいて複数の穴が形成されており,甲15(カタログ)の主要緒元緒の文字は諸とすべきところの誤( 植と考えられる。 )には耕深cmとして12~15 (甲15 の3枚目の主要緒元中の耕深cmの項目)と記載されてい ることから明かなとおり,ゲージ輪アームの上方への位置調整により,耕耘深さを,標準耕深12cmよりも深い例えば15cmに変更することができる。そして,甲14の21頁には, 作業姿勢と いう項の中の⑷補助側板という項目中に,補助側板の取付位置について①畑地用・上の取付位置②水田用・下の取付位置, との記載がある。 そこで,耕耘深さを標準耕深12cmよりも深い例えば15cm に変更するとともに,補助側板の位置を水田用・下の取付位置 から畑地用・上の取付位置に変更し,かつ,押えばねの付勢力 で均平板が耕耘地面を押えるようにした場合の作業姿勢を示す図を作成すると,次の深耕作業姿勢図 (以下深耕作業姿勢図❶と いう。 )のとおりである。なお,耕耘地面の状態は,本件特許の特許 出願の願書に添付された図8(以下本件特許の図8という。 )に 合わせた。 (深耕作業姿勢図❶) この深耕作業姿勢図❶の図示内容は,当業者であれば,甲14の 記載(特に甲14作業姿勢図)から当然に導き出せるものであり,甲14に実質的に記載された内容であるところ,深耕作業姿勢図❶から明らかなように,補助側板の下方にはチェーンケース跡の溝を埋め戻すための開口部が存在する。 (b) また,甲14の25頁には,補助側板の調整に関し,次の図が示 されている(以下,この図を甲14補助側板調整図という。。 ) 補助側板の形状が甲14作業姿勢図に示された補助側板と若干異なるのは,平成16年の発売当初は甲14作業姿勢図に示す形状であったが,平成18年に甲14補助側板調整図に示す形状に変更したからである。 (甲14補助側板調整図) 深耕作業姿勢図❶において,補助側板の形状を甲14補助側板調 整図に示す形状に変更すると次の図(以下深耕作業姿勢図❷と いう。のようになり, ) それによっても補助側板の下方にはチェーン ケース跡の溝を埋め戻すための開口部が存在する。 (深耕作業姿勢図❷) (c)① 被告は,甲15の耕深cm 12~15という記載を, 当時の技術常識を参酌するために利用できるとしても,甲14作 業姿勢図の深さ12cmという記載を深さ15cmと読 み替える根拠に用いることはできないと主張するが,甲14と甲 15は同じ製品に係る取扱説明書とカタログであるから,読み替 える根拠になる。 ② また,被告は,甲14作業姿勢図でいうこの穴位置 (ゲージ 輪アームの上端のニギリの下に穴が7個見える位置)よりも下の 穴位置が存在するという前提に立つとしても,下の穴位置にゲー ジ輪止ピンを差し込んでホルダーを固定することによって耕耘深 さがどの程度深くなるのかは必ずしも明らかではないと主張する。しかし,甲14の22頁の作業深さの調整の項目には, 「ゲージ輪止めピンを引き出し,ゲージ輪アームを上下して調整します。ホルダーには上下2ヶ所の止めピン穴があります。図のようにU字枠を反転させると,15mm間隔で調節ができます。との」 記載があり,この「U字枠を反転させると,15mm間隔で調節ができます。という記載は,」 ゲージ輪アームには複数のピン穴が30mm間隔で形成されているが,U字枠の反転を利用する ことによりピン穴間隔よりも細かな15mm間隔で耕耘深さ を調整できるという意味である。そのため,例えば,U字枠を反 転させることなく,1個下のピン穴に止めピンを差し替えた場合 には耕耘深さは30mm(=3cm)深くなり,2個下のピン 穴に差し替えれば耕耘深さは60mm(=6cm)深くなる。 また,本件特許の明細書の 「・・・耕耘地面Gが柔らかく深く耕耘してしまう場合・・・溝が形成される。(」 【0068】)との記載からみて,柔らかい土では甲14作業姿勢図よりも耕耘深さが 深くなる場合があり,その場合には,本件特許の図8のように, より深い溝が形成されることになる。なお,ゲージ輪はトラクタ 車輪の後にくるように組み付けられているので(甲14の10頁 左欄⑵ゲージ輪の組付け,耕耘地面が柔らかい場合にはゲー) ジ輪がトラクタの車輪跡を走行し,ゲージ輪の位置も低くなり, 耕耘深さが深くなる。 b 甲14の21頁の補助側板に関する記載 (a) 甲14の21頁の作業姿勢という項の中の⑷補助側板と いう項目中には, 「補助側板の位置を変更すると,より一層きれいな仕上がりになります。(出荷時には,水田用位置に組付けてあります。」 との記載がある。この記載によれば,甲14に記載された発)明を前記アのとおり認定すべきである。 (b)① 被告は,甲14の21頁の 「補助側板の位置を変更すると,より一層きれいな仕上がりになります。(出荷時には,水田用位置に組付けてあります。」 との記載は,畑のときは補助側板を上に付)けるときれいな仕上がりになり,水田のときは補助側板を下 に付けるときれいな仕上がりになるという意味であり,畑か 田かという圃場の目的に応じて適切な補助側板の位置があると いう意味であると主張する。 しかし,甲15にも 「補助側板は水田・畑と作業状態により位置が変えられ,より一層隣接部均平性が向上しました。(全シリーズ)甲15の2枚目下段中央)(」 と記載されていることからして,構成①及び②が甲14に記載されていることは明らかである。甲14の21頁の補助側板に関する上記記載は, 出荷時 には補助 側板が水田用位置(水田用・下の取付位置)に取り付けられてい るため,畑で作業する際には補助側板の位置を畑地用位置(畑地 用・上の取付位置)に変更すると,当該畑地用位置に取り付けた 補助側板の下方の開口部から流れ出る耕耘土によってチェーンケ ース跡の溝及びブラケット跡の筋が埋め戻され,より一層きれい な仕上がりになる,という意味である。なお,畑では当該溝及び 筋が後作業(例えば播種作業)の支障となり問題になるが,水田 では後作業として水を引き入れた状態で行う代掻きの際に当該溝 及び筋が低減されるため,そのような問題が生じない。 被告は,甲15のより一層隣接部均平性が向上 (甲15の2 枚目下段中央)という記載を当時の技術常識を参酌するために利 用することが可能であるとしても,甲14の21頁のきれいな仕上がりをより一層隣接部均平性が向上と読み替える根拠として用いることはできないと主張するが,甲14と甲15は同 じ製品に係る取扱説明書とカタログであるから,読み替える根拠 として用いることはできる。 ② また,被告は,畑の場合は,均平板が,後方に回転した,より 寝かした状態で用いられるので,圃場の凹凸を考えれば補助 側板はあまり下の方までカバーすべきではないが, 水田の場合は, 均平板が,より立った状態で用いられるので,下のほうの空 間まで補助側板がカバーしている必要があり,このことから,畑 のときは補助側板を上に付け,水田のときは補助側板を下に付け る必要があると主張する。 しかし,均平板の状態(寝た状態,立った状態)は,主として 耕耘深さに応じて変化するものであり,畑か水田かで予め決まっ ているものではない。例えば水田の場合であっても,耕耘深さが 深いときには, 均平板は構造上必然的に寝た状態になる。 そして, 水田の場合は, 畑の場合とは異なり, 補助側板は下の取付位置 (水 田用位置)に取り付けられているため,当該補助側板の下方には ほとんど開口部が存在せず,耕耘土が流れ出ないから,チェーン ケース跡の溝やブラケット跡の筋が残ってしまう。ところが,水 田の場合は,次工程の作業として,代掻作業,すなわち水田に水 を引き入れた状態で行う耕耘作業が行われるため,隣接部の溝や 筋が次工程の播種作業の障害になる畑とは異なり,水田において は,前工程で隣接部の溝や筋(チェーンケース跡の溝やブラケッ ト跡の筋)が残ったとしても,次工程の代掻作業の障害にはなら ない。 c 甲14の22頁,24頁の記載 甲14の22頁右欄には,均平板の調整に関し, ・・・均平板の上下,および押えばねの調整は,砕土性能,土の反転性能,表面の仕上がりに大きく影響します。・・・⑵畑地の砕土スプリングエンドを下げて押えばねをきかせ,ばねの力で表面を押えます。との記載がある。これは,畑では均平板が押えばねによる下向きの付勢力を受けて耕耘地面に押圧接地しながら整地作業(均し作業)をするため,耕耘土は補助側板の下方の開口部を通って左右の外側方へ強制的に吐き出され,その吐き出された土が左右の延長均平板によって均され,その結果,チェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋が埋め戻されてより一層きれいな仕上がりとなることを示している。これによれば,補助側板の下方の開口部が当該溝及び筋に耕耘土を供給するための空間であることは明らかである。このことは,甲14の24頁右欄に畑地などで継目をならす延長均平板との記載があることからも裏付けられる。 d 甲14の30頁等の記載 (a) 甲14の30頁右欄には,消耗部品の交換に関して, ⑴チェーンケースガードの交換交換が遅れるとチェーンケースカバーが削れ,穴があきオイルがもれます。日常点検を行い,早めに交換してください。⑵ブラケットガードの交換スリ減るとブラケットカバーが削れてしまいます。日常点検をおこない,早めに交換してください。との記載があり,チェーンケースの下部に位置するチェーン ケースガードや, ブラケットの下部に位置するブラケットガードが, 耕耘地面の土との接触によってすり減る消耗部品であることが示されている。このことは,甲15の2枚目下段左の次の記載からも明らかである。 チェーンケースの下部に位置するチェーンケースガードや,ブラ ケットの下部に位置するブラケットガードが消耗部品であること から,チェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋が耕耘地面に形成されることは明らかである。 (b) 被告は,前記(a)の甲14の30頁右欄の記載には,耕耘地面と の接触について一切言及がないから,上記の記載により,チェーンケースガードやブラケットガードが,耕耘地面の土との接触によってすり減る消耗部品であることが示されているとはいえない旨主張し,甲63の10頁右欄の 「チェーンケース下部や,ブラケット部は磨耗しやすい部分です。特にコンクリート畦畔などでは著しく磨耗が激しい経験をなさった方も多いと思います。との記載をその文」 言に忠実に理解すれば,チェーンケース下部が削れる理由は,垂直に切り立ったコンクリート等の硬い畦の側壁に接触することである旨主張し,甲15の2枚目下段左の耐磨耗性が向上という記載は,コンクリート等の堅い畦の側壁に接触して磨耗することを念頭においた記載である旨主張する。しかし,甲63の10頁右欄の上記記載は, 特にとの文言があり,磨耗が激しい特別な一例として 単にコンクリート畦畔を挙げているに過ぎない。畦畔は水田に おいて土を盛って形成されるのが一般的であり,コンクリート畦畔は,水田では存在することがあっても,畑では存在せず,畑での作業の際にコンクリート畦畔に接触することはない。 e 構成①及び②の記載 前記a~dによれば,深耕作業姿勢図❶及び❷に示されるように,畑で12cmよりも深い例えば15cmの耕耘深さで耕耘する場合には,チェーンケースによって耕耘地面にチェーンケース跡の溝が一旦形成される。 畑地用・上の取付位置に取り付けた補助側板の下方に 開口部が存在すれば,その開口部から外側方に耕耘土が流れ出ることは当業者の技術常識であって,当該開口部が耕耘土を外側方に流し出し,チェーンケース跡の溝に供給してその溝を埋め戻すためのものであることは,当業者にとって自明である。そのため,チェーンケース跡の溝は, 畑地用・上の取付位置に取り付けた補助側板の下方の開 口部から外側方に流れ出る耕耘土によって埋め戻される。 したがって, 甲14には,構成①及び②が記載されている。(イ) a 甲63の10頁上段の記載 本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲63の10頁上段には,甲14,甲15と同じ10シリーズのロータリ作業機に関 して,次の記載がある。 上記記載のうち, 「補助側板を2段階に位置を変えられ,土の吐き出しを調節できます。特に畑で目立つ,隣接部の溝,筋が低減され」 との記載でいう隣接部の溝はチェーンケース跡の溝を意味し,隣接部の筋はブラケット跡の筋を意味する。また, 土の吐き出しは,補助側板の下方の開口部からの耕耘土の外側方への吐き出し(流出)を意味する。甲63の上記記載からすると,甲14に構成①及び②が記載されていることは明らかである。甲14, 甲15に掲載された 10シリーズ のロータリ作業機 (型 式CBX1610)による圃場での作業を撮影した動画1~4(甲64の1~4)を見ると,甲14に構成①及び②が記載されていることは明らかである(4つの動画とも同じ圃場で,耕耘深さは略15cmである。。 ) b 被告は, 前記aの甲63の10頁上段の記載中の 隣接部の溝,筋 について,補助側板による溝や筋であると理解される旨主張するが,畑用の位置に補助側板を取り付けた場合には,補助側板の下方には開口部が存在するため,補助側板による溝や筋は形成されない。また,被告は,補助側板を水田用の位置に取り付けると補助側板で溝や筋が形成されるので,畑用の位置に取り付けて溝や筋の形成を防ぐ趣旨であると主張するが,前記aの甲63の10頁上段の記載中には 「補助側板を2段階に位置を変えられ,土の吐き出しを調節できます。との」 記載があり,被告の主張は当該記載と矛盾する。仮に補助側板が耕耘地面に接触したとしても,補助側板は板状であって,左右とも筋が形成されるため, 補助側板による溝は形成されず, 溝という 表現は用いられないはずである。 被告は,前記aの甲63の10頁上段の記載中の隣接部の溝,筋が低減されとは,ロータリ爪で耕耘された土が左右に飛び散るのを防ぐことができるということを意味していると主張する。しかし,被告が主張するように,畑での作業時において,畑用の位置に付けられた補助側板が耕耘土の左右への飛散を防止するならば,補助側板の下方から耕耘土が側方へ吐き出されないため,隣接部の溝及び筋は埋め戻されずにそのまま残り, 低減されない。しかも,前記aの甲63 の10頁上段の記載中には 「補助側板を2段階に位置を変えられ,土の吐き出しを調節できます。との記載があり,」 補助側板の位置変更により土の吐き出し量を調節できることが明記されているが,被告の主張は土の吐き出し量は常にゼロであるとするものであって,当該記載と明らかに矛盾する。 (ウ) 甲29の28頁の記載 甲29(被告の製品の取扱説明書)の28頁には, 「畑で深耕を行う場合,イラストのようにエプロンシールドのLとRを組み替えることで,土掛け合わせ部分をきれいに仕上げることができます。と記載されてい」 るだけで,甲14の構成①及び②の内容は具体的に何ら明記されていない。しかし,この種のロータリ作業機に関して,甲14の構成①及び②の内容は当業者にとって技術常識であり自明な技術事項であるから,わざわざ詳しく説明する必要がないため,甲29(取扱説明書)に記載されていないのである。そのため,甲14の21頁の補助側板に関する記載「補助側板の位置を変更すると,(より一層きれいな仕上がりになります。(出荷時には,水田用位置に組付けてあります。」 ),前記(ア)b(a))に接した当業者は,詳しい説明がなくても,それは,補助側板を畑地用位置に変更すればその下方の開口部から外側方に流れ出る土でチェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋を埋め戻すことができ,より一層きれいな仕上がりになるという趣旨であると理解する。 (エ) 甲11,甲22,甲24,甲25,甲65の記載 甲11,甲22,甲24,甲25からも明かなとおり,そもそも,サ イドドライブ形式のロータリ作業機で耕耘作業をする際に,耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されることは,本件特許の原出願時における当業者の技術常識であった。甲65(実願昭47-25437号(実開昭48-100713号)のマイクロフィルム)の明細書1頁15行目~2頁6行目にも,耕耘地面(ロータリ耕耘面)にチェーンケース跡の溝(隣接部の溝)が形成されることが明記されている。 ⑵ 取消事由1-2(本件発明1と甲14に記載された発明の一致点及び相違点の認定の誤り) 本件審決の甲14発明の認定は誤りであり,甲14に記載された発明は構成①及び②を備えるから,本件審決が本件発明1と甲14発明との相違点と認定した相違点b,dは一致点とすべきであり,本件発明1と甲14に記載された発明との相違点は,相違点a,cのみである。したがって,本件審決には,本件発明1と甲14に記載された発明との一致点及び相違点の認定に誤りがある。 ⑶ 取消事由1-3(本件発明1と甲14に記載された発明の相違点の判断の誤り) 本件審決は,本件発明1と甲14発明との間に相違点a~dがあることを前提として,相違点dに係る本件発明1の構成は容易想到でないと判断し,前記第2の3⑵エのとおり,本件発明1~5は容易想到でないと判断した。しかし,相違点dは,本件発明1と甲14に記載された発明との相違点ではなく一致点であるから,このような本件審決の判断は誤りである。本件発明1と甲14に記載された発明との相違点は相違点a,cのみであり,相違点aに係る本件発明1の構成(カバー材,整地部材に関するもの)は,周知技術又は公知技術(甲18~20)に基づいて容易想到であるし,相違点cに係る本件発明1の構成(屈曲部に関するもの)は,周知技術又は公知技術(甲3及び検甲1)に基づいて容易想到であるから,本件発明1は当業者が容易に発明できたものであり,本件発明2~5も当業者が容易に発明できたものである。 ⑷ 取消事由1-4(審決の一致点及び相違点の認定を前提とした場合の相違点の判断の誤り) ア 仮に, 本件審決の一致点及び相違点の認定を前提とした場合であっても,本件審決の相違点dに係る容易想到性の判断には誤りがある。 その理由は, 次のとおりである。 イ(ア) 本件審決は,相違点dに関し,甲14が取扱説明書であることから すると, 甲14の記載に基づいて認定した甲14発明の補助側板は, 畑地用・上の取付位置と水田用・下の取付位置に取り付けるように製品として最適化されたものであるから,これら以外の取付位置を新たに設定するには, 補助側板の形状や, 均平板に対する取付位置, そして, 深耕時のチェーンケース,均平板に対する配置等を新たに検討する必要があり,そのため,深耕時において,補助側板を,それら以外の位置,すなわちその下方に開口部が形成されるような取付位置に設けることは,当業者が容易になし得たこととはいえない旨判断した(以下判断①という。本件審決96頁) 。 (イ) しかし,判断①は,甲14に記載された畑地用・上の取付位置 及び水田用・下の取付位置以外の新たな取付位置を設定するこ とを前提としているところ,畑で作業する際に補助側板を畑地用の取付位置(畑地用・上の取付位置)に取り付ければその下方にチェーンケース跡の溝(畑で目立つ隣接部の溝)を埋め戻すための開口部が形成されるため, 新たな取付位置は不要である。 また,本件審決は,判断①において,耕耘深さが深い場合(深耕時)には畑地用位置の補助側板の下方に開口部が形成されないから,耕耘深さが深い場合(深耕時)においても補助側板の下方に開口部が形成されるような 新たな取付位置 が必要になると判断していると解されるが, 深耕時の耕耘深さに関して,本件特許の請求項1には深い位置とあるのみで,耕耘深さは何ら規定されていない。また,本件特許の明細書の【0072】の記載からみて,本件発明1の深い位置には本件特許の図8に図示された耕耘深さが含まれるところ,その深さに合わせた下記のような深耕作業姿勢図 (図8の耕耘深さ) (以下深耕作業姿勢図❸という。 )から明らかなとおり,深耕時においても,畑地用位置 に取り付けた補助側板の下方には開口部が存在するため,補助側板の下方に開口部が形成されるような新たな取付位置は不要である。 したがって,本件審決の判断①は誤りである。 (深耕作業姿勢図❸) ウ(ア) 本件審決は,甲11に記載されたギヤケース(2),サポートアーム,伝動ケース(3)及びサイドフレーム等で形成された機枠(7)に対して固着された上部カバー(17)と,上部カバー(17)の後縁に上下揺動自在に枢支されている後部カバー(18)とを有し,爪(4)及び回転自在な耕耘爪軸(5)等で形成される耕耘部(16)を覆つている耕耘カバー(15)であって,後部カバー(8)(判決注:(18)「の誤記)の両側部には,耕耘部(16)から外側方へ飛散する土泥を遮蔽すべくサイドカバー(22)が配置され,サイドカバー(22)は,第1カバー(23)と第2カバー(24)とから成り,第1カバー(23)は伝動ケース(3)及びサイドフレームの後方で,それらに設けられたブラケツト(25)にボルト固定され,第2カバー(24)は,下部(D)と,下部より小面積の上部(C)とからなり,第1カバー(23)は伝動ケース(3)と後部カバー(18)とで形成される側面間隙(A)の半分以上を遮蔽しており,第2カバー(24)は側面間隙(A)に残部を遮蔽しており,第1カバー(23)の後縁部と第2カバー(24)の前縁部には夫々対向可能な多数のボルト孔(23a) (24a)が 形成されており, 対向するボルト孔 (23a) (24a) にボルト (26) を挿入して締結することによつて, 第2カバー (24) は第1カバー (2 3)に固着され,対向するボルト孔(23a) (24a)を変えてボルト (26)を挿入して締結することによつて,第2カバー(24)の上下位置を調整し,また,第2カバーを上下反転して表裏を逆に第1カバー(23)に取り付けることにより,大面積の下部(D)は小面積の上部(C)より上方となり,飛散土遮蔽状態が変更でき,側面隙間(A)からはみ出ようとする飛散土を略完全に遮蔽し,また,意図的に飛散土を遮蔽しないことが可能な,耕耘カバー(15)」を甲11技術事項。 とし(本件審決59~60頁) ,相違点dに関し, 甲11技術事項において,第2カバー(24)は,第1カバー(23)とでサイドカバー(22)を構成し,その第1カバー(23)は,伝動ケース(3)及びサイドフレームの後方で,それらに設けられたブラケット(25)にボルト固定され,第2カバー(24)は第1カバー(23)に固着されており,上部カバー(17)の後縁に上下揺動自在に枢支されている後部カバー(18)に接続されるものではないから,後部カバー(18)に接続されていない第1カバー(23)(判決注:「第2カバー(24)の誤記)の構成を,甲14発明の補助側板に適用することは,当業者が容易に気付くことではない。さらに,甲11技術事項の後部カバー(18)に設けられるものではない第1カバー (23) (判決注: 第2カバー(24) の誤記)の取付態様を,上下回動可能な均平板に取り付けられた甲14発明の補助側板に適用したとしても,深耕時において,補助側板の下方に開口部が形成されるようになるものともいえない。と判断した 」 (以下 判断②という。本件審決97頁) 。 (イ) しかし,甲11技術事項の第2カバー(24)は,甲14発明の補 助側板と対比すると,均平板に対して上下位置調整可能でかつ均平板と側板との間の空間を開閉するという共通の作用及び機能を有するので,甲14発明の補助側板に相当するものであるから,甲11技術事項の第2カバー(24)を甲14発明の補助側板に適用することは,当業者であれば容易に気付くことであり,仮に甲14発明では補助側板の下方にチェーンケース跡の溝を埋め戻すための開口部が形成されないとした場合であっても,甲11技術事項の第2カバー(24)を甲14発明の補助側板に適用すると,深耕時に当該開口部が形成されることになる。したがって,本件審決の判断②は誤りである。 エ 本件審決は,相違点dに関し,甲14発明に,甲11,甲22,甲24,甲25に記載の公知技術又は周知技術を適用することによって,相違点dに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことではない旨判断した(以下判断③という。本件審決97頁)。 しかし,甲63の10頁上段(前記⑴イ(イ)a)には,ロータリ作業機に関し, 補助側板を水田用の取付位置から畑用の取付位置に変えることで,その下方に耕耘土を外側方に流し出しチェーンケース跡の溝(畑で目立つ隣接部の溝)に供給して当該溝を埋め戻す開口部を形成可能なこと(以下甲63技術事項という)が記載されているから,甲11,甲22, 甲24, 甲25に記載の公知技術又は周知技術を適用するまでもなく, 甲63技術事項を甲14発明に適用すれば,当業者は,相違点dに係る本件発明1の構成を容易に想到し得る。したがって,本件審決の判断③は誤りである。 2 取消事由2 (甲15を主引用例とする進歩性の判断の誤り)無効理由5関係)( ⑴ 取消事由2-1(甲15発明の認定の誤り) ア 甲15に記載された発明の認定 本件審決の甲15発明の認定は誤りであり,甲15に記載された発明は,次のとおり,下線を付した構成①及び②を備えるものとして認定すべきである。 複数の耕うん爪及び耕うん軸を有する耕うん部と, 前記耕うん部の上方を覆う耕うん部カバーと, 前記耕うん部カバーの左右側側面に配設された側板と, 前記耕うん部カバーに対して上下回動可能に連結されて前記耕うん部の後側を覆う均平板と, 前記均平板の左右側側面に接続された補助側板と, 前記耕うん部の耕うん軸に動力を伝達するチェーンを覆うチェーンケースであって,前記チェーンケースは前記側板よりもさらに前記耕うん部カバーの左の外側に位置し,前記チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するように前記耕耘地面を深い位置まで耕耘する場合には前記チェーンケースによって前記耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されるように固定されたチェーンケース(構成①)と,を有し,前記補助側板は,前記均平板との接続状態を水田用の取付位置に取り付けられた状態から畑用の取付位置に取り付けられた状態へ変化させることで,前記補助側板の下側方向位置に,耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部(構成②)を形成可能なロータリ作業機。 イ 認定の根拠 甲15に記載された発明を前記アのとおり認定すべき理由は,次のとおりである。 (ア) 甲15の2枚目下段中央にはワイド延長均平板の写真及び可変式補助側板の図面が掲載されているが,これらは甲63の10頁上段に掲載されたもの(前記1⑴イ(イ)a)と同じである(下図参照)。 そして,甲63の10頁上段には, 可変式補助側板について, 「補助側板を2段階に位置を変えられ,土の吐き出しを調節できます。特に畑で目立つ,隣接部の溝,筋が低減され,播種・植え付けなどの後作業が容易になりました。」 との記載があり,この記載からすると,甲15に構成①及び②が記載されていることは明らかである。被告は,甲15の2枚目下段中央のより一層隣接部均平性が向上との記載について,ロータリ爪で耕耘された土が左右に飛び散るのを防 「ぐという意味にしか読めない。」 と主張するが,この被告の主張は,土の吐き出し量は常にゼロであるとするものであって,甲63の10頁上段の「土の吐き出しを調節できます。」 という記載と矛盾するから,誤っている。(イ) 熱処理加工ガードについては,甲15の2枚目下段左及び甲6 310頁下段にそれぞれ次の記載がある(甲15の2枚目下段左の記載は,前記1⑴イ(ア)d(a)で示した甲15の記載と同じである。。) [甲第15号証の2枚目下段左] [甲第63号証の10頁下段] そして,甲63の10頁下段の 「チェーンケース下部や,ブラケット部は磨耗しやすい部分です。との記載からみて,」 チェーンケース及びブラケットによって耕耘地面にチェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋が形成されることは明らかである。 ⑵ 取消事由2-2(本件発明1と甲15に記載された発明の一致点及び相違点の認定の誤り) 本件審決の甲15発明の認定は誤りであり,甲15に記載された発明は構成①及び②を備えるから,本件審決が本件発明1と甲15発明との相違点と認定した相違点β,δは一致点とすべきであり,本件発明1と甲15に記載された発明との相違点は,相違点α,γのみである。したがって,本件審決には,本件発明1と甲15に記載された発明との一致点及び相違点の認定に誤りがある。 ⑶ 取消事由2-3(本件発明1と甲15に記載された発明の相違点の判断の誤り) 本件審決は,本件発明1と甲15発明との間に相違点α~δがあることを前提として,相違点δに係る本件発明1の構成は容易想到でないと判断し,前記第2の3⑵オのとおり,本件発明1~5は容易想到でないと判断した。しかし,相違点δは,本件発明1と甲15に記載された発明との相違点ではなく一致点であるから,このような本件審決の判断は誤りである。本件発明1と甲15に記載された発明との相違点は相違点α,γのみであり,相違点αに係る本件発明1の構成(カバー材,整地部材に関するもの)は,周知技術又は公知技術(甲18~20)に基づいて容易想到であるし,相違点γに係る本件発明1の構成(屈曲部に関するもの)は,周知技術又は公知技術(甲3及び検甲1)に基づいて容易想到であるから,本件発明1は当業者が容易に発明できたものであり,本件発明2~5も当業者が容易に発明できたものである。 ⑷ 取消事由2-4(審決の一致点及び相違点の認定を前提とした場合の相違点の判断の誤り) 仮に,本件審決の一致点・相違点の認定を前提とした場合であっても,本件発明1と甲14発明の相違点dに係る容易想到性の判断に誤りがあるのと同様の理由により,本件発明1と甲15発明の相違点δに係る容易想到性の判断には誤りがある。特に,甲63技術事項を甲15発明に適用すれば,当業者は, 相違点δに係る本件発明1の構成を容易に想到し得る。 したがって, 相違点δに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことではない旨の本件審決の判断は誤りである。 3 取消事由3 (検甲1を主引用例とする進歩性の判断の誤り)無効理由1関係)( 本件審決は,検甲1発明に甲11,甲14,甲15等に記載された周知技術又は公知技術を適用しても相違点3に係る本件発明1の構成は容易想到ではない旨判断する。 しかし,甲14,甲15及び甲63等には,ロータリ作業機に関し,補助側板(エプロンサイドプレート)と均平板(エプロン本体部)との接続状態を水田用状態である第1の状態から畑用状態である第2の状態へ変化させることで,補助側板の下側方向位置に,耕耘された土砂を外側方に流し出しチェーンケース跡の溝に供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部を形成可能なこと(以下甲14等技術事項という)が記載されている。そして,検甲1発明に対する甲14等技術事項の適用に関しては,いずれも同じロータリ作業機の技術分野に属するものであり,甲14等技術事項におけるチェーンケース跡の溝を埋め戻して,より一層きれいな仕上がりにする(隣接部均平性の向上)との課題は当該技術分野において周知の課題であり,検甲1発明におい ても内在している課題である。また,検甲1発明において,エプロンサイドプレートを,適切な開口部を形成する位置に設置するために,エプロン部材のフランジに2つのボルト孔を追加して形成することには,何ら困難性はなく,それを阻害する要因はない。したがって,検甲1発明に甲14等技術事項を適用することによって相違点3に係る本件発明1の構成は容易想到であり,本件発明1は進歩性を有しないから,本件審決の上記判断は誤りである。第4 被告の主張 1 取消事由1(甲14を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由4関係) ⑴ 取消事由1-1~1-4が主張自体失当かについて 原告が主張する取消事由1-1~1-4は,いずれも一部の相違点が相違点ではないとか容易想到であるというのにとどまり,すべての相違点の容易想到性を論証するものではないから,本件審決の結論に影響を及ぼさず,主張自体失当である。 ⑵ 取消事由1-1(甲14発明の認定の誤り) ア 甲14に記載された発明の認定 本件審決の甲14発明の認定に誤りはなく,甲14に記載された発明は,原告主張の構成①及び②を備えるものとして認定することはできない。 イ 認定の根拠 甲14に記載された発明を,原告主張の構成①及び②を備えるものとして認定する根拠はない。その理由は,次のとおりである。 (ア) a 甲14の記載 甲14作業姿勢図及び甲14補助側板調整図 甲14作業姿勢図を考慮に入れても,甲14には,耕耘深さを12cmよりも深くできることは記載されていない。 甲15の 耕深cm 12~15という記載を,当時の技術常識を参酌するために利用 できるとしても,甲14作業姿勢図の深さ12cmを深さ15cmと読み替える根拠に用いることはできない。甲14作業姿勢図でいう この穴位置 (ゲージ輪アームの上端のニギリの下に穴が7個 見える位置) よりも下の穴位置が存在するという前提に立つとしても, 下の穴位置にゲージ輪止ピンを差し込んでホルダーを固定することによって耕耘深さがどの程度深くなるのかは必ずしも明らかではない。甲14作業姿勢図は,個々の部材の正確な位置関係を示すものではないし,原告作成の深耕作業姿勢図❶及び❷は,甲14作業姿勢図にない穴位置にゲージ輪アームが固定されていることを前提とするものであり,耕耘地面と作業機との相対的な位置関係が本件特許の図8と同じになるように恣意的に作成されたものであるから,これらに基づいて甲14発明の構成を判断することはできない。 b 甲14の21頁の補助側板に関する記載 甲14の21頁の 「補助側板の位置を変更すると,より一層きれいな仕上がりになります。(出荷時には,水田用位置に組付けてあります。」 との記載は,畑のときは補助側板を上に付けるときれいな仕)上がりになり,水田のときは補助側板を下に付けるときれいな仕上がりになるという意味であり,畑か田かという圃場の目的に応じて適切な補助側板の位置があるという意味である。甲15の より一層隣接部均平性が向上甲15の2枚目下段中央) ( という記載を当時の技術常識を参酌するために利用することが可能であるとしても,甲14の21頁のきれいな仕上がりをより一層隣接部均平性が向上と読み替える根拠として用いることはできない。 畑の場合は,均平板が,後方に回転した,より寝かした状態で 用いられるので,圃場の凹凸を考えれば補助側板はあまり下の方までカバーすべきではないが,水田の場合は,均平板が,より立った 状態で用いられるので,下のほうの空間まで補助側板がカバーしている必要があり,このことから,畑のときは補助側板を上に付け,水田のときは補助側板を下に付ける必要がある。 c 甲14の22頁,24頁の記載 甲14の22頁右欄の ばねの力で表面を押さえます との記載は, 均平板がばねの力によって下向きの付勢力を受けて耕耘地面に押圧接地して砕土をすることを意味するとまでは理解できるとしても,原告主張のように,耕耘土が補助側板の下方の開口部を通って左右の外側方へ強制的に吐き出され,その吐き出された土が左右の延長均平板によって均され,その結果,チェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋が埋め戻されてより一層きれいな仕上がりとなることを示していると読むことはできない。 d 甲14の30頁等の記載 甲14の30頁右欄には, 消耗部品の交換に関して, ⑴チェーンケースガードの交換交換が遅れるとチェーンケースカバーが削れ,穴があきオイルがもれます。日常点検を行い,早めに交換してください。⑵ブラケットガードの交換スリ減るとブラケットカバーが削れてしまいます。日常点検をおこない,早めに交換してください。との記載があるが,そこには,耕耘地面との接触については一切言及がないから, 上記の記載により, チェーンケースガードやブラケットガードが, 耕耘地面の土との接触によってすり減る消耗部品であることが示されているとはいえない。甲63の10頁右欄には 「チェーンケース下部や,ブラケット部は磨耗しやすい部分です。特にコンクリート畦畔などでは著しく磨耗が激しい経験をなさった方も多いと思います。との」 記載があり,この文言に忠実に理解すれば,チェーンケース下部が削れる理由は,垂直に切り立ったコンクリート等の硬い畦の側壁に接触することである。甲15の2頁下段左の耐磨耗性が向上という記載は,コンクリート等の堅い畦の側壁に接触して磨耗することを念頭においた記載である。 e 構成①及び②の記載 以上によれば,甲14の記載によっても,甲14に構成①及び②が記載されていると認めることはできない。 (イ) 甲63の10頁上段の記載 甲63の10頁上段の記載(前記第3の1⑴イ(イ)a)中の隣接部の溝,筋は,チェーンケース跡の溝であるとは述べられておらず,補助側板による溝や筋であると理解される。補助側板を水田用の位置に取り付けると補助側板で溝や筋が形成されるので,畑用の位置に取り付けて溝や筋の形成を防ぐ趣旨である。10シリーズ」 「のロータリ作業機(型式CBX1610)による発明の公然実施が無効理由とされているのではないから,その動画(甲64の1~4)は証拠としての意味はない。甲63の10頁上段の「隣接部の溝,筋が低減され」 という記載が,流れ出る耕耘土でチェーンケース跡の溝を埋め戻すという意味であるならば,わざわざ手間をかけて上下の位置を変更するのは,左右にある補助側板のうちチェーンケースのある側(進行方向左側)のみのはずであるが,甲63には,左側の補助側板のみ上下の位置を変更することは書かれていない。甲63の10頁上段の記載中の隣接部の溝,筋が低減されとは,ロータリ爪で耕耘された土が左右に飛び散るのを防ぐことができるということを意味している。(ウ) 甲29の28頁の記載 甲29の28頁には, 「畑で深耕を行う場合,イラストのようにエプロンシールドのLとRを組み替えることで,土掛け合わせ部分をきれいに仕上げることができます。と記載されているだけで,」 甲14の構成①及び②の内容が具体的に何ら明記されていないことからすれば,構成①及び②の内容が当業者にとって技術常識であり自明な技術事項であるということはできない。当業者が,甲14の21頁の補助側板に関する記載( 「補助側板の位置を変更すると,より一層きれいな仕上がりになります。(出荷時には,水田用位置に組付けてあります。」 ))に接したとしても,補助側板を畑地用位置に変更すればその下方の開口部から外側方に流れ出る土でチェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋を埋め戻すことができ, より一層きれいな仕上がりになる趣旨と理解することはできない。(エ) 甲11,甲22,甲24,甲25,甲65の記載 仮に,甲11,甲22,甲24,甲25,甲65に,サイドドライブ 形式のロータリ作業機で耕耘作業をする際,耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されることが記載されていたとしても,甲14に構成①が記載されていると認めることはできないし,まして,甲14の構成②は何ら記載されていない。 ⑶ 取消事由1-2(本件発明1と甲14に記載された発明の一致点及び相違点の認定の誤り) 本件審決の甲14発明の認定に誤りはなく,本件発明1と甲14発明の一致点及び相違点は,本件審決の認定したとおりであり,相違点は相違点a~dであると認められるから,本件審決には,本件発明1と甲14に記載された発明との一致点及び相違点の認定に誤りはない。 ⑷ 取消事由1-3(本件発明1と甲14に記載された発明の相違点の判断の誤り) 前記⑶のとおり,本件発明1と甲14発明の相違点は相違点a~dであると認められ,後記⑸のとおり,相違点dに係る本件発明1の構成は容易想到ではないから,本件審決には,本件発明1と甲14発明の相違点の判断に誤りはない。 ⑸ 取消事由1-4(審決の一致点及び相違点の認定を前提とした場合の相違点の判断の誤り) ア 相違点dに係る本件発明1の構成は容易想到ではないとした本件審決の判断は相当であり,誤りはない。その理由は,次のとおりである。 イ(ア) 本件発明1と甲14発明は, 相違点dにおいて相違するものであり, 甲14には,開口部について,耕耘された土砂を外側方に流し出しチェーンケース跡の溝に供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻すためのものであるとの特定がないから,甲14発明にそのような開口部を設けるのであれば, 畑地用・上の取付位置及び水田用・下の取付位置以 外に,補助側板の下方にそのような開口部が形成されるような取付位置を新たに設定する必要があるところ,補助側板をそのような新たな取付位置に設けることは当業者が容易になし得たこととはいえず,同旨の本件審決の判断(判断①)に誤りはない。 (イ) また,甲11技術事項の第2カバー(24)は,第1カバー(23) に固着されており,後部カバー(18)に接続されていないから,第2カバー(24)の構成を,上下回動可能な均平板に接続された甲14発明の補助側板に適用することは容易に想到できるとはいえないから,これに当業者が容易に気付くことはないとした本件審決の判断に誤りはないし,仮に適用したとしても,深耕時に補助側板の下方に開口部が形成されるようになると認めるに足りる証拠はないから,深耕時において,補助側板の下方に開口部が形成されるようになるともいえないとした本件審決の判断(判断②)に誤りはない。 (ウ) 原告は,甲63技術事項を甲14発明に適用すれば相違点dに係る 本件発明1の構成は容易想到である旨主張するが,原告が甲63技術事項と主張する技術事項は,甲63には記載されていないし,甲14発明と甲63技術事項の組合せによる無効理由は本件無効審判の審理の対象でなかったから,本件訴訟の審理の対象ではない。したがって,相違点dに係る本件発明1の構成は容易想到でないとした本件審決の判断(判断③)に誤りはない。 2 取消事由2(甲15を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由5関係) ⑴ 取消事由2-1~2-4が主張自体失当かについて 原告が主張する取消事由2-1~2-4は,いずれも一部の相違点が相違点ではないとか容易想到であるというのにとどまり,すべての相違点の容易想到性を論証するものではないから,本件審決の結論に影響を及ぼさず,主張自体失当である。 ⑵ 取消事由2-1(甲15発明の認定の誤り) ア 甲15に記載された発明の認定 本件審決の甲15発明の認定に誤りはなく,甲15に記載された発明は,原告主張の構成①及び②を備えるものとして認定することはできない。イ 認定の根拠 甲15に記載された発明を,原告主張の構成①及び②を備えるものとして認定する根拠はない。その理由は,次のとおりである。 (ア) 甲15はごく簡単なパンフレットで製品の写真を並べたに過ぎない ものであり, 甲15を精査しても, 耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されるかどうかや, 開口部によって耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すかどうかは判然としない。甲15の2枚目下段中央にはより一層隣接部均平性が向上という記載があるが,補助側板が左右にある以上,ロータリ爪で耕耘された土が左右に飛び散るのを防ぐという意味にしか読めず, その記載からは, 隣接部におけるチェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋を消すということまで導き出すことはできない。 甲63の10頁上段の記載については,前記1⑵イ(イ)のとおりである。 (イ) 原告は, 熱処理加工ガード についての甲15の2枚目下段左及び 甲63の10頁下段の記載により,チェーンケース及びブラケットによって耕耘地面にチェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋が形成されることは明らかであると主張するが,原告の指摘する甲15,甲63の上記箇所には,耕耘地面の土との接触に対する言及が一切存在しない。甲63の10頁下段の 「チェーンケース下部や,ブラケット部は磨耗しやすい部分です。特にコンクリート畦畔などでは著しく磨耗が激しい経験をなさった方も多いと思います。との記載は,」 その文言に忠実に理解すれば,チェーンケース下部が削れる理由は,垂直に切り立ったコンクリート等の硬い畦の側壁に接触することであると解される。甲15の2頁下段左の耐磨耗性が向上という記載は,コンクリート等の堅い畦の側壁に接触して磨耗することを念頭においた記載である。 ⑶ 取消事由2-2(本件発明1と甲15に記載された発明の一致点及び相違点の認定の誤り) 本件審決の甲15発明の認定に誤りはなく,本件発明1と甲15発明の一致点及び相違点は,本件審決の認定したとおりであり,相違点は相違点α~δであると認められるから,本件審決には,本件発明1と甲15に記載された発明との一致点及び相違点の認定に誤りはない。 ⑷ 取消事由2-3(本件発明1と甲15に記載された発明の相違点の判断の誤り) 前記⑶のとおり,本件発明1と甲15発明の相違点は相違点α~δであると認められ,後記⑸のとおり,相違点δに係る本件発明1の構成は容易想到ではないから,本件審決には,本件発明1と甲15発明の相違点の判断に誤りはない。 ⑸ 取消事由2-4(審決の一致点及び相違点の認定を前提とした場合の相違点の判断の誤り) 前記1⑸のとおり,相違点dに係る本件発明1の構成は容易想到ではないとした本件審決の判断は相当であり,誤りはなく,同様の理由により,相違点δに係る本件発明1の構成は容易想到ではないとした本件審決の判断に誤りはない。 原告は,甲15発明に甲63に記載された技術事項を適用することによって相違点δに係る本件発明1の構成は容易想到であると主張するが,甲15発明に甲63に記載された技術事項を適用することによって相違点δに係る本件発明1の構成が容易想到であることは,本件無効審判では主張されず,審理されなかったから,審決取消訴訟においてこれを審理の対象とすることはできない。 3 取消事由3 (検甲1を主引用例とする進歩性の判断の誤り)無効理由1関係)( 検甲1発明に甲11,甲14,甲15等に記載された周知技術又は公知技術を適用しても相違点3に係る本件発明1の構成は容易想到ではない旨の本件審決の判断に誤りはない。 原告が主張する甲14等技術事項は,甲14,甲15及び甲63に記載されておらず,公知技術でも周知技術でもない。仮に甲14,甲15及び甲63に原告主張の甲14等技術事項が記載されているとしても,検甲1発明においては,エプロンサイドプレートを取り外して別の部分に取り付けることは想定されていないから,エプロンサイドプレートを新たな位置に設置するためにエプロン部材のフランジに2つのボルト孔を追加して形成することには動機づけがなく阻害理由がある。 原告が本件無効審判の検甲1の検証において,エプロンサイドプレートを取り付けるボルトを出荷当時のものとは別のものにすり替えていたことから,取消事由3を主張すること自体,訴訟法上の信義則違反である。 第5 当裁判所の判断 1 本件特許に係る発明について ⑴ 本件特許の願書に添付した明細書,図面の内容は,別紙特許公報記載のとおりである。 ⑵ 本件特許の願書に添付した明細書,図面の内容に照らすと,本件特許に係る発明の意義は次のとおり認められる。 ア 本件発明1~5は,トラクタの後部に昇降可能に装着され,作業ロータを備えるロータリ作業機に関する( 【0001】。 ) 周りに複数の耕耘爪が突設された作業ロータを備えるロータリ作業機では,爪により土塊を撹拌・反転させながら,ワラ等をスキ込み,後方の整地板(エプロン)にて表面を整地していく必要がある。また,このようなロータリ作業機で耕耘性能(特に砕土性・均平性)の向上を図る必要もある( 【0002】。 ) イ ロータリ作業機において,深く耕耘しようとする場合には,チェーンケースが耕耘地面内に侵入してしまい,チェーンケースによって溝が形成されてしまう。しかも,チェーンケースの部分はエプロン部材の幅よりも外側位置に形成されているため,チェーンケースによって形成された溝を消すことが困難であるという問題がある( 【0008】。 ) 本発明の目的は,チェーンケースによって形成された溝を埋めることが可能なロータリ作業機を提供することにある( 【0009】。 ) ウ 本発明のロータリ作業機は,作業ロータと,前記作業ロータの上方を覆うシールドカバー本体部と,前記シールドカバー本体部の左右側側面に配設されたサイドシールドと,前記シールドカバー本体部に対して上下回動可能に連結されて前記作業ロータの後側を覆うエプロン部材と,前記エプロン部材の左右側側面に接続されたエプロンサイドプレートと,を有し,前記エプロンサイドプレートは,前記エプロン部材との接続状態を第1の状態(通常の耕耘状態)から第2の状態(深耕耘状態)へ変化させることで,前記エプロンサイドプレートの下側方向位置に開口部を形成可能としたことから( 【0010】,本発明のロータリ作業機は,深耕耘状態時にチ ) ェーンケースによって形成されてしまう溝を埋めることが可能となる【0( 015】【0074】。 , ) エ 好適には,前記エプロンサイドプレートは,上下を逆にして接続することによって,前記エプロン部材との接続状態を前記第1の状態から第2の状態へ変化させるので【0011】, ( )容易な構成によって開口部を形成す ることが可能となり( 【0075】,さらに,前記エプロンサイドプレート ) には,第1の接続部及び第2の接続部が形成され,前記エプロン部材の左右側側面には,第1の被接続部及び第2の被接続部が形成され,前記第1の状態においては, 前記第1の接続部と前記第1の被接続部とが接続され, 前記第2の接続部と前記第2の被接続部とが接続され,前記第2の状態においては,前記第1の接続部と前記第2の被接続部とが接続され,前記第2の接続部と前記第1の被接続部とが接続されるので【0012】,( )単に, ボルト等の接合手段(締結手段)を外し,エプロンサイドプレート19の天地逆とすることによって,開口部を設けることが可能になる( 【007 6】。 ) オ また,エプロンサイドプレートは,前記エプロン部材側に折れ曲がった屈曲部を有し,前記屈曲部は,前記エプロン部材が整地可能な状態において,前記シールドカバー本体部に接続されたサイドシールドと前記エプロンサイドプレートとが重畳状態になる部分を少なくとも含むように形成されるので( 【0013】,ボルト等の接合手段(締結手段)を外し,エプロ ) ンサイドプレートの天地逆とするという容易な方法によって開口部を設けることが可能となることに加え,容易な構成で,エプロン部材を,上側方向位置に持ち上げられた状態から整地可能な状態に確実にすることが可能となる( 【0077】。 ) カ さらに,前記エプロンサイドプレートの後側方向に位置する部分は,前記第1の状態においても前記第2の状態においても,前記エプロン部材よりも突出する部分を有しないので( 【0014】,怪我の原因,外観の悪化 ) とならないという利点がある( 【0078】。 ) 2 取消事由1(甲14を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由4関係) ⑴ 取消事由1-1~1-4が主張自体失当かについて 被告は,原告が主張する取消事由1-1~1-4は,いずれも一部の相違点が相違点ではないとか容易想到であるというのにとどまり,すべての相違点の容易想到性を論証するものではないから,本件審決の結論に影響を及ぼさず,主張自体失当である旨主張する(前記第4の1⑴)。 しかし,原告は,本件審決による甲14に記載された発明の認定に誤りがあり(取消事由1-1) ,その結果,本件発明1と甲14発明との一致点及び 相違点の認定にも誤りがあり,相違点b,dは一致点であり,相違点は相違点a,cのみとすべきであり(取消事由1-2) ,相違点a,cに係る本件発 明1の構成は容易想到である(取消事由1-3)とするものであるから,原告の主張する取消事由1-1~1-3は,本件発明1を無効とする主張であり,本件審決の結論に影響を及ぼすものと認められる。 また,本件審決は,相違点dに係る本件発明1の構成が容易想到でないことを理由にその余の相違点について容易想到性の判断をすることなく無効理由4(前記第2の3⑴エ)には理由がない旨判断しているところ(本件審決95~98頁)原告は, , 本件審決の一致点及び相違点の認定を前提とした場 合であっても,相違点dに係る本件発明1の構成は容易想到であると主張するから (取消事由1-4)仮に原告主張のとおり相違点dに係る本件発明1, の構成が容易想到であるとすれば,その余の相違点について容易想到性の判断をすることなく無効理由4には理由がないとした本件審決の判断を維持することができなくなり,本件審決の結論に影響を及ぼすものと認められる。したがって,原告が主張する取消事由1-1~1-4は主張自体失当ではない。 ⑵ 取消事由1-1(甲14発明の認定の誤り) ア 甲14に記載された発明の認定 (ア) a 甲14には次のとおりの記載がある。 9頁の図 b 11頁右欄 「トラクタの準備・・・●作業機の上がり量,下がり量が不足する場合は,リフトロッドの取付穴位置を上下の穴に移して調整してください。上にすると上がり量が増え,下にすると下がり量が増えます。」 c 12頁左欄 「装着姿勢・・・カプラで装着できるように,ロータリの姿勢を調整します。⑴ゲージ輪の止めピンは,ホルダーの上の穴を使い,ゲージ輪アームの上から8番目の穴にセットします。・・・」 d21頁左欄 作業姿勢下図を参考に,各項目確認をしてください。⑴トップリンクの長さ作業姿勢は,所定の耕深時にチェーンケースカバーの上側のラインが水平になるように,トップリンクを調整します。・・・⑷補助側板補助側板の位置を変更すると,より一層きれいな仕上がりになります。(出荷時には,水田用位置に組付けてあります。)①畑地用・上の取付位置②水田用・下の取付位置25ページ□5補助側板の調整を参照してください。(四角囲み数字は, □数字と表記する。以下同じ。 ) e 21頁右欄 作業方法下に記した耕法は,一般的におこなわれている耕法です。ほ場の形や条件に合った方法で使用してください。⑴トラクタ旋回用の枕地として,ロータリ耕うんの約3行程分を残し,側方にも枕地と同じ幅を残し,ほ場の長辺をまっすぐ耕うんします。⑵①から⑥の順に側方の未耕地が枕地と同じ幅になるまで,往復耕をおこないます。⑶⑦から⑩の枕地と側方の未耕地を回り耕うんします。⑷⑪から⑭であぜ際を回り耕うんします。ブラケット側をあぜ際に合わせる方が(左回り),残耕が少なくてすみます。⑸f⑮から⑱で間に残ったところを回り,耕うんして終了です。 22頁左欄 上手な作業のしかた□1作業速度と爪軸回転速度(PTO速度)トラクタの作業速度とロータリの爪軸回転速度は相関関係にありますので,下表をめやすに作業目的や土地条件に合わせて選択ください。⑴水田の荒起し作業は,一番遅いPTO回転の1速でおこないます。・・・⑷畑地の砕土作業は,PTO回転を2速にします。⑸細砕土耕は,PTO回転を3速と速くします。・・・g 22頁左欄~右欄 □2作業深さの調整ゲージ輪止めピンを引き出し,ゲージ輪アームを上下して調整します。ホルダーには上下2ケ所の止めピン穴があります。図のようにU字枠を反転させると,15mm間隔で調節ができます。左右のゲージ輪は同一穴にセットします。トラクタ油圧は,ポジションコントロールレバーを使い,最下げの位置で使います。ポジションコントロールレバーは途中で止めないでください。h 22頁右欄 □3均平板の調整均平板の上下,および押えばねの調整は,砕土性能,土の反転性能,表面の仕上がりに大きく影響します。連結ロットの上のスプリングエンドをスライドさせ調整してください。⑴一般耕うんスプリングエンドを上げて押えばねをフリーにし,均平板の重量だけで表面を押えます。⑵畑地の砕土スプリングエンドを下げて押えばねをきかせ,ばねの力で表面を押えます。CBX10はRピンを差し変えてください。i 23頁左欄 ⑶石の多いほ場や粘湿田石の多いほ場や粘湿田では,押えばねをフリーにし,ローターピンを下から2~4番目の穴に挿して均平板を表面から浮かせ,均平板の損傷や土溜りを少なくして使用します。⑷均平板のはね上げ均平板は2段階に上げることができます。①メンテナンス作業時(CBX10にはこの装備は付いていません。)ロータリの爪交換などのメンテナンス作業時に,均平板をはね上げて自動的にロックすることができます。・・・ j 23頁右欄 3)均平板を持ち上げると,ストッパーピンで自動的にロックします。4)均平板をおろす時は,2ヶ所のストッパーピンのレバーの上のボタンを押し,レバーを(前側)解除の位置にセットします。均平板を少し持ち上げると,ストッパーピンのピンが自動的に抜けてから,均平板をゆっくりおろしてください。・・・②ハイリフト時・・・メンテナンス時よりもっと上げたい,均平板を上げた状態で作業を行いたい時に使用します。・・・k 25頁 l 26頁 □1爪の種類耕うん爪には用途に応じて次の種類があります。・・・(呼称)汎用(刻印)(回転径)(用途)爪A231φ490標準セット爪S15Gφ500石の多いほ場爪B4φ460プラウ耕跡地砕土用畑用ナタ爪E2φ440抵抗少く軽量な畑砕土用L爪L4φ510固い土塊や茎の裁断用M爪M4φ510固い土地の砕土用S花形ホルダー爪H121CBXφ490ホルダー耕うん軸用・H仕様セットH131CXフォーク爪φ490ホルダー耕うん軸用H仕様セット・φ510ホルダー用フォーク爪 (イ) 前記(ア)の甲14の記載によれば,甲14に記載された発明は,本 件審決の認定(前記第2の3⑶ア(ア))のとおりであると認められる。イ 原告の主張の検討 (ア) 原告は, 甲14に記載された発明は, 前記チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するように前記耕耘地面を深い位置まで耕耘する場合には前記チェーンケースによって前記耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されるように固定されたチェーンケース(構成①) 及び耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部(構成②) という 構成を備えると主張するので (前記第3の1⑴)この点について検討す , る。 (イ) a 甲14の記載について 甲14の21頁の甲14作業姿勢図及び25頁の甲14補助側板調整図 (a) 甲14作業姿勢図は, ロータリ作業機全体を側方からみた図であ るところ,この図には,チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも上部に位置することが示されており,下部に位置することは示されていない。甲14の9頁には,ロータリ作業機全体を前方斜め及び後方斜めからみた写真が掲載されているところ(前記ア(ア)a), これらの写真によれば,チェーンケースカバーの下側部分は,ゲージ輪及び均平板の下端部よりも上部に位置することが認められ,そのため,チェーンケースカバーの下側部分が耕耘地面よりも上部に位置することが示されているものと認められる。 甲14作業姿勢図の左側の吹き出しには,トラクタとの着脱時は 「ニギリの下に穴が7個見える位置でゲージ輪止ピンをホルダーの上穴に差し込んで下さい。〈参考〉この穴位置で,深さ12cmの耕耘が出来ます。」 との記載があり,甲14の21頁左欄の⑴トップリンクの長さ所定の深耕時にとの記載があり (前記ア(ア)d) , 22頁左欄から右欄にかけては□2作業深さの調整の表題の 下に耕耘深さ(作業深さ)の調整の仕方が記載されている(前記ア(ア)g)これらの記載によれば, 。 耕耘深さを12cm以外の深さと することができることは窺われるとしても,チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置する深さとすることは示されて いない。 (b) この点に関し, 原告は, 12cmは甲14記載のロータリ作業機 での標準耕深であって,甲14の22頁には耕耘深さ(作業深さ)の調整について説明が記載されており,甲15には耕深cm 12~15と記載されていることからして,耕耘深さを15cmに変更することができるところ,耕耘深さを15cmに変更するとともに,補助側板の位置を水田用・下の取付位置から畑地用・上の取付位置に変更し,かつ,押えばねの付勢力で均平板が耕耘地面を押えるようにした場合の作業姿勢を示す図を作成すると,深耕作業姿勢図❶のとおりとなり,この深耕作業姿勢図❶によれば,補助側板の下方にはチェーンケース跡の溝を埋め戻すために開口部が存在すると主張する(前記第3の1⑴イ(ア)a(a))。また,原告 は,深耕作業姿勢図❶において,補助側板の形状を甲14補助側板調整図に示す形状に変更すると深耕作業姿勢図❷のようになり,それによっても補助側板の下方にはチェーンケース跡の溝を埋め戻すための開口部が存在すると主張する (前記第3の1⑴イ(ア)a(b)) 。 甲14作業姿勢図は, 甲14の21頁左欄の記載 (前記ア(ア)d) によれば,耕耘深さが12cmである場合を例に,各項目の確認をするための参考として示されたものであり,ロータリ作業機のチェーンケース,均平板,補助側板,耕うん爪の外径等を一応踏まえたものとは推測される。 しかし, その図面の目的に照らしても, また, 図面上で深さ12cmとして示された寸法から窺われる図面の精 度に照らしても,耕耘深さが12cmから15cmになったときにチェーンケースの下側部分と耕耘地面が同じ高さになるのか,いずれかが上又は下に位置するのかを判別できるほどに正確な図であ るとは認められない。そのため,甲14作業姿勢図をもとに作図した深耕作業姿勢図❶及び❷によって,補助側板の下方にチェーンケース跡の溝を埋め戻すための開口部が存在すると認めることはで きない。 (c) 原告は, 甲14と甲15は同じ製品に係る取扱説明書とカタログ であるから,甲15の耕深cm 12~15という記載は,甲 14作業姿勢図の深さ12cmという記載を深さ15cm と読み替える根拠になると主張する(前記第3の1⑴イ(ア)a(c)①) 。また,原告は,甲14の22頁の 「U字枠を反転させると,15mm間隔で調節ができます。との記載は,」 ゲージ輪アームには複数のピン穴が30mm間隔で形成されているが,U字枠の反転 を利用することよりピン穴間隔よりも細かな15mm間隔で耕 耘深さを調整できるという意味であり,例えば,U字枠を反転させることなく,1個下のピン穴に止ピンを差し替えた場合には耕耘深さは30mm(=3cm),2個下のピン穴に差し替えれば「6 0mm(=6cm) 」深くなると主張し,また,本件特許の明細書の 「・・・耕耘地面Gが柔らかく深く耕耘してしまう場合・・・溝が形成される。(」 【0068】)との記載からみて,柔らかい土では甲14作業姿勢図よりも耕耘深さが深くなる場合があり,その場合には,本件特許の図8のようにより深い溝が形成されることになると主張する(前記第3の1⑴イ(ア)a(c)②)。 甲14(平成19年4月作成)は,原告のニプロロータリー 製品のうち特にCBX/CX-10シリーズの製品(甲14表 紙)に添付される取扱説明書であり,同製品にかかる取扱方法 と使用上の注意事項について記載したものである(甲14の2枚目はじめに。甲15(平成16年11月作成)は,甲14よりも ) 前に公開された, CBX/CX を含む 10シリーズ 全ての ニプロロータリー製品を対象とするカタログであり,その主要諸元(甲15の3枚目)には, CBX/CX製品も含まれており,甲 14の主要諸元 (甲14の7, 8頁) と数値も概ね共通しているが, 甲14の主要諸元では標準耕深(cm)「12と記載されてい 」 るのに対し(甲14の7頁) ,甲15の主要諸元では耕深cmと して12~15と記載されている(甲15の3枚目) 。なお,甲 15の主要諸元から, CBX/CXは, 10シリーズの中で 中小型のものであると認められる。上記のとおり,甲15には, 耕深cmとして12~15と記載されているから,原告主張の ように15cmを超えて,12cmより6cm深い18cmの耕耘深さで耕耘作業を行うことが予定されているとは認められない。また,本件特許の明細書に 「・・・耕耘地面Gが柔らかく深く耕耘してしまう場合・・・溝が形成される。」 (【0068】)との記載があるとしても,そのことから,甲14に,チェーンケースにより溝が形成されること(構成①)が記載されていると認めることはできない。したがって,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。b 甲14の21頁の補助側板に関する記載 甲14の21頁左欄には, 補助側板に関して, 「補助側板の位置を変更すると,より一層きれいな仕上がりになります。(出荷時には,水田用位置に組付けてあります。」 との記載があり(前記ア(ア)d)),25 頁の甲14補助側板調整図には, 「水田用として使用する場合は,水田用の位置に組替えてください。」 との記載がある。したがって,畑で耕耘作業をするか水田で耕耘作業をするかに応じて,補助側板の均平板への取付位置を畑用の取付位置としたり水田用の取付位置としたりすることは記載されているものの,畑の耕耘深さに応じて取付位置を切り替えることは記載されていない。また,甲14の22頁左欄の□1作業速度と爪軸回転速度(PTO速度)には,トラクタの作業速度とロータリの爪軸回転速度を作業目的や土地条件に合わせて選択することが記載され (前記ア(ア)f)22頁右欄から23頁右欄にかけ , ての□3均平板の調整には,砕土性能,土の反転性能,表面の 仕上がりに大きく影響する均平板の上下,押えばねの状態を調整することが記載され(前記ア(ア)h~j) ,26頁の□1爪の種類に は,用途に応じて爪の種類(畑砕土用や固い土地の砕土用など)を変えることが記載されており(前記ア(ア)l) ,作業目的や畑(圃場)の 条件等に応じて適切な作業を行うために必要な事項が詳しく書かれているにもかかわらず, 補助側板を作業深さとの関連で調整する ことは記載されていない。 甲14の上記記載からすると,甲14(取扱説明書)に接した当業者は,甲14の補助側板は,どのような耕耘深さで作業するかにかかわらず,畑で作業する場合には畑用の取付け位置に,水田で作業する場合には水田用の取付け位置に取り付けて作業し, そうすることで より一層きれいな仕上がりにするとの効果を奏するものと理解すると認められ,補助側板の下側方向位置に形成される開口部から耕耘された土砂を外側方に流し出し,チェーンケース跡の溝に供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻すという構成②にかかる補助側板が記載されていると認識するものとは認められない。 甲15には,補助側板は水田畑と作業状態により位置が変えられ, 「・より一層隣接部均平性が向上しました。(全シリーズ)」 (2枚目下段中央)との記載があり,このより一層隣接部均平性が向上しました との記載を参酌するとしても,単に隣接部としか記載されていな いこと,水田での作業か畑での作業かに応じて補助側板の位置を変えることが記載されているにとどまり,耕耘深さに応じて補助側板の位置を変えることは記載されていないことからすると,甲15のより一層隣接部均平性が向上しましたとの記載は,隣接部におけるチェーンケース跡の溝又はブラケット跡の筋を消すことを意味すると認めることはできない。かえって,甲14の21頁右欄の作業方法 (前 記ア(ア)e)に,既耕地と隣接するように未耕地部分を耕耘していく際の手順が記載されており,甲25(実願昭61-5586号(実開昭62-116609号)のマイクロフィルム)に,従来のサイドドライブ式耕耘具では,耕耘具で飛散した飛散泥土が常に動力ケースの後方未耕地部分に溜まっていたため次に隣接耕を行う場合の未耕地と既耕地の境界がはっきりせず隣接部に残耕を生じる場合があったとの記載(甲25,3枚目)があることを踏まえると,甲15のより一層隣接部均平性が向上しましたとの記載は,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぎ,隣接する既耕地の境界部分の均平性を高めることを意味しているのであって,隣接部におけるチェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋を消すことを意味すると解することはできない。したがって,甲14,甲15に記載された補助側板は,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐ役割を果たしているものと認められる。 そして,補助側板が,左右に飛び散る耕耘飛散土を遮蔽するためのものであると解するならば,被告の主張するとおり,畑の耕耘のときは均平板を後方に回転して,より寝かした状態で用いるので,圃 場の凹凸を考えれば, 補助側板は下の方までカバーする必要はないが, 水田の耕耘のときは均平板が,立った より 状態で用いられるので, 下のほうの空間まで補助側板がカバーしている必要があることとなり,畑のときは補助側板を高い位置に取り付け,水田のときは補助側板を低い位置に取り付けることと整合的に理解することができる。この点に関し,原告は,均平板の状態(寝た状態,立った状態)は,主として耕耘深さに応じて変化するものであり,畑か水田かで予め決まっているものではないこと,水田においてはチェーンケース跡の溝やブラケット跡の筋が残ったとしても,次工程の代掻作業の障害にならないことなどを主張するが(前記第3の1⑴イ(ア)b(b)②),甲14,1 5では,補助側板の取付位置は畑か水田かによってのみ変えることとされる一方で,畑か水田かを区別することなく 「より一層きれいな仕上がりになります。(甲14の21頁左欄,前記ア(ア)d)「より一」 ,層隣接部均平性が向上しました」 (甲15の2枚目下段中央) と記載さ れていることに照らして,原告の上記主張は採用することができず,補助側板が左右に飛び散る耕耘飛散土を遮蔽するためのものであると解することは妨げられない。 したがって, 甲15の 「補助側板は水田・畑と作業状態により位置が変えられ,より一層隣接部均平性が向上しました。(全シリーズ)(甲15の2枚目下段中央)との記載を参酌し」 ても,甲14の「補助側板の位置を変更すると,より一層きれいな仕上がりになります。との記載が,」 隣接部におけるチェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋を消すことを意味しているとはいえず,甲14に原告が主張する構成②に係る補助側板の構成が記載されているとはいえない。 c 甲14の22頁,24頁の記載 原告は,甲14の22頁に均平板の調整に関して・・・均平板の上下,および押えばねの調整は,砕土性能,土の反転性能,表面の仕上がりに大きく影響します。・・・⑵畑地の砕土スプリングエンドを下げて押えばねをきかせ,ばねの力で表面を押えます。との記載があること,甲14の24頁に畑地などで継目をならす延長均平板と の記載があることから,補助側板の下方の開口部が当該溝及び筋に耕耘土を供給するための空間であることは明らかである旨主張する(前記第3の1⑴イ(ア)c) 。 しかし,甲14の22頁,24頁の上記の記載は,その文言からして,均平板が地面を押さえることによって地面を平らにすることを示しているものであり,耕耘地面にチェーンケース溝が形成されてその溝に土が供給されるか否かにかかわらず,地面を平らにするとの機能を発揮することが記載されているものと認められ,補助側板の下方の開口部が当該溝及び筋に耕耘土を供給することによって地面を平らにすることが記載されていると認めることはできず, 原告の上記主張は, 採用することができない。 d 甲14の30頁等の記載 原告は,甲14の30頁右欄の記載や甲15の2枚目下段左の記載に基づき, チェーンケースの下部に位置するチェーンケースガードや, ブラケットの下部に位置するブラケットガードが消耗部品であることから,チェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋が耕耘地面に形成されることは明らかであると主張する(前記第3の1⑴イ(ア)d)。 しかし,チェーンケースガードやブラケットガードが消耗部品であるとしても,それらのすり減り等の原因や地面との接触態様は様々なものが考えられ,チェーンケースガードやブラケットガードが消耗部品であることから直ちに,チェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋が耕耘地面に形成されるとはいえない。 (ウ) 甲63の10頁上段の記載について 原告は,甲63の10頁上段には,甲14,甲15と同じ10シリーズのロータリ作業機に関する記載があるとして, その記載からして, 甲14に構成①及び②が記載されている旨主張する(前記第3の1⑴イ(イ))しかし, 。 甲63は本件無効審判に提出されなかった証拠であるか ら,審決取消訴訟において,その記載事項を主引用例又は副引用例として特許の無効を主張することはできない。 また, 刊行物に記載された発明 (特許法29条1項3号)の認定に当たり,特定の刊行物の記載事項とこれとは別個独立の刊行物の記載事項を組み合わせて認定することは,新規性の判断に進歩性の判断を持ち込むことに等しく,新規性と進歩性とを分けて判断する構造を採用している特許法の趣旨に反し,原則として許されず,本件においてその例外を認める理由はないから,甲14の記載事項と甲63の記載事項を組み合わせて甲14に記載された発明を認定することはできない。したがって,原告の上記主張は,採用することはできない。また,仮に原告の主張が,あくまでも甲14の解釈をするために甲63の記載を参酌しているのにとどまるという趣旨であるとしても,甲63にいう隣接部の溝,筋が,チェーンケース跡の溝やブラケット跡の筋であると断定するだけの根拠はないというべきであるから,結局,原告の主張は失当である。 (エ) 甲29の28頁の記載について 原告は,被告の商品の取扱説明書である甲29の28頁には 「畑で深耕を行う場合,イラストのようにエプロンシールドのLとRを組み替えることで,土掛け合わせ部分をきれいに仕上げることができます。と記」 載されているだけで,構成①及び②の内容が具体的に何ら明記されていないことから,構成①及び②の内容は当業者にとって技術常識であり自明な技術事項であるとし,甲14の21頁の補助側板に関する記載 「補(助側板の位置を変更すると,より一層きれいな仕上がりになります。(出荷時には,水田用位置に組付けてあります。」 ))に接した当業者は,詳しい説明がなくても,補助側板の下方の開口部から外側方に流れ出る土でチェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋を埋め戻すことができ,より一層きれいな仕上がりになる趣旨と理解する旨主張する(前記第3の1⑴イ(ウ)) 。 しかし,甲29の28頁に構成①及び②の内容が具体的に明記されなかったとしても,そのことから,構成①及び②の内容が当業者にとって技術常識であり自明な技術事項であったと認めることはできない。甲14の21頁の補助側板に関する記載,甲29の28頁の上記記載のいずれにも,補助側板の下方の開口部から外側方に土が流れ出ることや,それによってチェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋を埋め戻すことは記載されていないから,甲14の21頁の補助側板に関する記載に接した当業者が,甲29の28頁の上記記載に接しても,補助側板の下方の開口部から外側方に流れ出る土でチェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋を埋め戻すことができ,より一層きれいな仕上がりになる趣旨と理解するとは認められない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 (オ) 甲11,甲22,甲24,甲25の記載について 原告は,甲11,甲22,甲24,甲25に基づいて,サイドドライ ブ形式のロータリ作業機で耕耘作業をする際に,耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されることは,本件特許の原出願時における当業者の技術常識であったと主張する(前記第3の1⑴イ(エ))。しかし,仮に, サイドドライブ形式のロータリ作業機で耕耘作業をする際に,耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されることが,本件特許の原出願時における当業者の技術常識であったとしても,そのことのみを根拠として,構成①が甲14に記載されていたと認めることはできない。また,構成②に係る開口部(耕耘された土砂を外側方に流し出しチェーンケース跡の溝に供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部)は,原告の主張によれば,補助側板と均平板との接続状態を変化させることによって,補助側板の下側方向位置に設けられるものであるところ(前記第3の2⑴ア)後記⑷イ(イ)のとおり,, 甲11, 甲22, 甲24, 甲25に,飛散土を一部遮蔽しないようにして前記チェーンケース跡の溝に土を供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すという技術事項が記載されていたとしても,その手法が,補助側板と均平板との接続状態を変化させることによって補助側板の下側方向位置に開口部を設けるというものであったと断定することはできないから,構成②に係る開口部が本件特許の原出願時における当業者の技術常識であったとは認められない。 (カ) 以上によれば,甲14に記載された発明に構成①及び②のいずれも 記載されていたとは認められない。 ⑶ 取消事由1-2(本件発明1と甲14に記載された発明の一致点及び相違点の認定の誤り) 本件審決の甲14発明の認定に誤りはないから,本件審決が本件発明1と甲14発明との相違点を相違点a~dと認定したことに誤りはない。したがって,取消事由1-2(本件発明1と甲14に記載された発明の一致点及び相違点の認定の誤り)は理由がない。 ⑷ 取消事由1-3(本件発明1と甲14に記載された発明の相違点の判断の誤り)取消事由1-4 , (審決の一致点及び相違点の認定を前提とした場合の 相違点の判断の誤り) ア 本件審決の甲14発明の認定に誤りはないから,本件発明1と甲14発明の相違点は,相違点a~dであると認められる。以下では,相違点dの容易想到性について検討する。 イ(ア) 前記⑵イ(イ)bのとおり,甲14の記載からすると,甲14(取扱 説明書)に接した当業者は,甲14の補助側板は,どのような耕耘深さで作業するかにかかわらず, 畑で作業する場合には畑用の取付け位置に, 水田で作業する場合には水田用の取付け位置に取り付けて作業し,そうすることでより一層きれいな仕上がりにするとの効果を奏するもので,具体的には,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐことによって,隣接する既耕地の境界部分の均平性を高めるものと認識するものと認められる。 (イ) 他方,甲11には,次の記載がある。 前記第2カバー(24)においては,ロータリ耕耘装置(1)の耕深が浅いときは,第1カバー(23)に対して低位置に取付け,耕深が深いときには,第1カバー(23)に対して高位置又は上下反転して取付けたりして,側面間隙(A)からはみ出ようとする飛散土を略完全に遮蔽することができる。また,第2カバー(24)は上下位置調整及び上下反転自在であるので,例えば伝動ケース(3)跡をなくすためにその後方に土を供給する等,意図的に飛散土を遮蔽しないことも可能であり,またはみ出る飛散土量を調整することも可能であり,そのように伝動ケース(3)跡を消すことによって,均平状態も良好となる。(明細書6頁3~14行) 甲22には,次の記載がある。 【0012】前記チェン伝動ケース7には,その下端部に接地保護カバー9,また,下部外側面に側面保護カバー10が設けられ,チェン伝動ケース7の下端部が接地した際に土壌によるチェン伝動ケース7自体の摩耗を防止し,保護するようにしている。・・・該エプロン12の後端部左右両側には,図7にも示すように,回動支持部材13を介して延長エプロン14を作業位置と収納位置とに折り畳み(起倒)可能に設けている。・・・,【0017】ロータリ耕耘部8による耕深は,図1及び図8で明らかなように,チェン伝動ケース7の下端部が耕耘土壌中に入り込む深さであり,耕耘土壌に連続した溝が形成されることになる。一方,耕耘された土壌は,チェン伝動ケース7の後方のサイドシールド17に対して機体の進行と共に支持部材18と側板20の間に形成された袋状部に流れ込み,この流れ込んだ土壌は,サイドシールド17から後方に排出されて,チェン伝動ケース7によって土壌面に形成された溝を埋め戻していく。溝を埋め戻した土壌は,他の耕耘された土壌と共にエプロン12及び延長エプロン14により均平される。甲24には次の記載がある。 「伝動ケース(8)の後部と後部カバー(11)の伝動ケース側の一側部との間の上記側部カバー(12)下方には耕耘爪(3)により耕起された土が自由に食み出るよう食出し口(16)を開放状に形成してある。」 (明細書3頁3~7頁)ゲ-ジホイール(22)を相対的に上昇させ,ると,耕耘爪(3)により耕耘される深さが深くなる。・・・耕深が深いために伝動ケース(8)の下部は圃場面に侵入し,従来では凹溝(B)の跡形を残して行く。しかし,本実施例では伝動ケース(8)の後部とこれに対向する後部カバー(11)一側部との間には食出し口(16)を形成しており,この食出し口(16)より耕耘爪(3)にて耕耘された土が食み出て行って伝動ケース(8)跡の凹溝(B)を埋め尽くし,埋めた跡の盛土は延長カバー(17)により均平されて行き,従って伝動ケース(8)の跡形は完全に消されるのである。(明細書3頁20行~4頁14行)甲25には次の記載がある。 この考案は耕耘具の動力ケース溝跡消し装置に関する。この考案は,サイドドライブ式耕耘具において,耕耘具側方に動力ケース溝跡が残る場合にはこの溝跡に耕耘土を飛散させて溝跡を消し,溝跡が残らない場合には耕耘土の飛散を防止して耕耘具の耕耘済の泥土が動力ケース後方に飛散しないようにしたものに関する。明細書1頁17行~2頁4行)( , この考案は,上記の構成により,次のような技術的効果を奏する。即ち,この耕耘具で動力ケース(4)が既耕地側と未耕地側と交互に接しながら作業をしていく隣接耕を行なう時,既耕地側に動力ケース(4)が位置しさらに耕耘爪(1)(1)・・・が深く耕耘する場合には,動力ケ・ース(4)の下端が既耕地表面に喰い込んで溝跡をつけるが,動力ケース(4)前方に取付けた土感知体(5)が動力ケース(4)前方の泥土を感知して動力ケース(4)後方のサイドカバー(3)を動力ケース(4)の略外側端面まで突出移動するので,耕耘爪(1)(1)で耕起した泥・土がこの動力ケース(4)後方に飛散して溝跡を消す。(明細書3頁11行~4頁2行) 上記の甲11,甲22,甲24,甲25の記載によれば,これらの文献には,チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するような深い位置で耕耘すると,前記チェーンケースによって前記耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されてしまい,次工程の播種作業の障害になることから,飛散土を一部遮蔽しないようにして前記チェーンケース跡の溝に土を供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すという技術事項が記載されていたことが認められる。 (ウ) そこで,甲14発明に,飛散土を一部遮蔽しないようにしてチェー ンケース跡の溝に土を供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻すという甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項を適用して,相違点d(開口部について,本件発明1は,耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すためのものであるのに対し,甲14発明は,そのような特定がない点。に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたかが) 問題となる。しかし,前記(ア)のとおり,甲14の補助側板は,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接する既耕地の境界部分の均平性を高めるものであり,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐものであるのに対し,甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項は,一部といえども泥土の飛散を遮断せずに,かえって泥土の飛散によって溝に土を供給するというものであり,両者は,泥土の飛散を防ぐのかそれともそれを利用するのかという点で対極の技術思想に基づくものであり,したがって,甲14の補助側板に,甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項を適用することについては阻害事由があるものと認められる。そうすると,甲14発明に甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項を適用して相違点dに係る本件発明1の構成を容易に想到することはできなかったものと認められる。ウ(ア) 原告は,本件審決は,補助側板の新たな取付位置を設定してい るが(判断①)新たな取付位置は不要であると主張する(前記第3, の1⑷イ) 。 しかし,前記イ(ア)のとおり,甲14の補助側板は,どのような耕耘深さで作業するかにかかわらず,畑で作業する場合には畑用の取付け位置に,水田で作業する場合には水田用の取付け位置に取り付けて作業するものであり,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接する既耕地の境界部分の均平性を高めるものであるから,チェーンケース跡の溝を埋め戻すための開口部を設置するためには,耕耘深さに応じて補助側板の取付位置を設定する必要があり,本件審決の上記判断(判断①)に誤りがあるとは認められない。 (イ) 原告は,本件審決が,甲11の第2カバー(24)の取付態様を甲 14発明の補助側板に適用することは,当業者が容易に気付くことではないとし,また,第2カバー(24)の取付態様を,上下回動可能な均平板に取り付けられた甲14発明の補助側板に適用したとしても,深耕時において補助側板の下方に開口部が形成されるようになるともいえないとした判断(判断②)は誤りであると主張する(前記第3の1⑷ウ)。 しかし,前記イ(ウ)のとおり,甲14の補助側板に甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項を適用することについては阻害事由があるし,甲11の第2カバー(24)は第1カバー(23)に固着されており,上下揺動自在に枢支されている後部カバー(18)に接続されているものでないから,甲11の第2カバー(24)の取付態様を甲14発明の補助側板に適用することは容易想到であるとは認められず,仮にこれを適用したとしても,深耕時において補助側板の下方に開口部が形成されるようになるとも認められない。したがって,本件審決の上記判断(判断②)に誤りがあるとは認められない。(ウ) 原告は,本件審決が,甲14発明に,甲11,甲22,甲24,甲 25に記載の公知技術又は周知技術を適用することによって相違点dに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことではないと判断(判断③)したことは誤りであると主張する(前記第3の1⑷エ) 。 しかし, 前記イ(ウ)のとおり, 甲14の補助側板に, 甲11, 甲22, 甲24,甲25に記載された技術事項を適用することについては阻害事由があるから,甲14発明に,甲11,甲22,甲24,甲25に記載の公知技術又は周知技術を適用することによって相違点dに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことではなく,同旨の本件審決の判断(判断③)に誤りはない。 エ そうすると,本件発明1と甲14発明の相違点dに係る本件発明1の構成は容易想到であったとは認められず,本件発明1は甲14発明を主引用例として進歩性に欠けるとは認められない。 オ 本件発明2は, 本件発明1から, 前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に両持ち状態で接合された,弾性力を有するカバー材と,前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に配置された整地部材と,及び前記カバー材と前記整地部材とは,前記作業ロータ側からこの順で前記エプロン本体部に接合され,前記カバー材の後側は前記整地部材の前側と重畳し,という構成(相違点aに係る構成)を省き, 前記エプロンサイドプレートは,上下を逆にして接続することによって,前記エプロン本体部との接続状態を前記第1の状態から第2の状態へ変化させるという構成を加えたものであり,本件発明2と甲14発明は,相違点b,c,dにおいて相違していると認められる。そして,前記ア~エと同様に,上記相違点dに係る本件発明2の構成は容易想到であったとは認められないから,本件発明2は甲14発明を主引用例として進歩性に欠けるとは認められない。 本件発明3~5は,本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を全て含み,更に限定を加えたものであって,これまで述べたとおり本件発明1及び本件発明2は甲14発明を主引用例として進歩性に欠けるとは認められないから,本件発明3~5も,甲14発明を主引用例として進歩性に欠けるとは認められない。 以上によれば,取消事由1-3(本件発明1と甲14に記載された発明の相違点の判断の誤り)取消事由1-4 , (審決の一致点及び相違点の認定 を前提とした場合の相違点の判断の誤り)は,いずれも理由がない。 3 取消事由2(甲15を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由5関係) ⑴ 取消事由2-1~2-4が主張自体失当かについて 被告は,原告が主張する取消事由2-1~2-4は,いずれも一部の相違点が相違点ではないとか容易想到であるというのにとどまり,すべての相違点の容易想到性を論証するものではないから,本件審決の結論に影響を及ぼさず,主張自体失当である旨主張する(前記第4の2⑴)。 しかし,原告は,本件審決による甲15に記載された発明の認定に誤りがあり(取消事由2-1) ,その結果,本件発明1と甲15発明との一致点及び 相違点の認定にも誤りがあり,相違点β,δは一致点であり,相違点は相違点α,γのみとすべきであり(取消事由2-2) ,相違点α,γに係る本件発 明1の構成は容易想到である(取消事由2-3)とするものであるから,取消事由2-1~2-3の主張は,本件発明1を無効とする主張であり,本件審決の結論に影響を及ぼすものと認められる。 また,本件審決は,相違点δに係る本件発明1の構成が容易想到でないことを理由にその余の相違点について容易想到性の判断をすることなく無効理由5(前記第2の3⑴オ)には理由がない旨判断しているところ(本件審決100~101頁)原告は, , 本件審決の一致点及び相違点の認定を前提とし た場合であっても,相違点δに係る本件発明1の構成は容易想到であると主張するから (取消事由2-4)仮に原告主張のとおり相違点δに係る本件発 , 明1の構成が容易想到であるとすれば,その余の相違点について容易想到性の判断をすることなく無効理由5には理由がないとした本件審決の判断を維持することができなくなり,本件審決の結論に影響を及ぼすものと認められる。 したがって,原告が主張する取消事由2-1~2-4は主張自体失当ではない。 ⑵ 取消事由2-1(甲15発明の認定の誤り) ア 甲15に記載された発明の認定 (ア) 甲15には次のとおりの記載がある。 a 1枚目の写真 b 2枚目上段中央の記載 -基本性能UP-ステンレスカバー耕うん部カバー,側板内側にステンレスカバーを付けました。土の付着が少なく,馬力のロス,爪の磨耗が軽減されます。また,均平板下部にもステンレスを装備し,より均平性が向上しました。(SX/SXR/SXM/SXL/AXSシリーズ)新型爪,新配列新形状の爪と,新配列により砕土性,埋没性が向上しました。静かで安定した作業がおこなえます。耕うん爪は耐久性の高いフランジタイプと,軽負荷耕うんで湿田でも土つまりが少ないホルダータイプ(H)から選択できます。c 2枚目中段~下段の記載 -使いやすさUP-・・・ワンタッチハイリフト機構均平板の最上げ時のロック⇔解除がワンタッチでおこなえます。(CX/SX/SXR/SXM/SXL/AXC/AXSシリーズ)・・・ワラ巻付き防止ピン耕うん軸両端へのワラ・草巻付き防止(全シリーズ) d (イ) 2枚目下段中央の図と記載 前記(ア)の甲15の記載によれば,甲15に記載された発明は,本 件審決の認定(前記第2の3⑶イ(ア))のとおりであると認められる。イ 原告の主張の検討 (ア) 原告は, 甲15に記載された発明は, 前記チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するように前記耕耘地面を深い位置まで耕耘する場合には前記チェーンケースによって前記耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されるように固定されたチェーンケース(構成①) 及び耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部(構成②) という 構成を備えると主張するので (前記第3の2⑴)このような原告の主張 , について検討する。 (イ) 甲15に示されるいずれの写真及び図をみても,チェーンケースの 下側部分が,耕耘地面よりも上部か,せいぜい耕耘地面に接して位置することは示されているものの,耕耘地面よりも下部に位置することは示されていない。そのため,甲15には,チェーンケースによって耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されること(構成①)が記載されているとは認められない。 甲15には, 「補助側板は水田・畑と作業状態により位置が変えられ,より一層隣接部均平性が向上しました。全シリーズ)2枚目下段中央)((」 との記載があるが,このより一層隣接部均平性が向上しましたとの記載を参酌するとしても,隣接部単に としか記載されていないこと, 水田での作業か畑での作業かに応じて補助側板の位置を変えることが記載されているにとどまり,耕耘深さに応じて補助側板の位置を変えることは記載されていないことからすると,甲15のより一層隣接部均平性が向上しましたとの記載は,補助側板を,畑で作業する場合には畑用の取付け位置に,水田で作業する場合には水田用の取付け位置に取付けて作業し,そうすることでより一層隣接部均平性が向上するとの効果を奏するものと理解されるものと認められ,隣接部におけるチェーンケース跡の溝又はブラケット跡の筋を消すことを意味するものと認めることはできない。甲25(実願昭61-5586号(実開昭62-116609号)のマイクロフィルム)に,従来のサイドドライブ式耕耘具では,耕耘具で飛散した飛散泥土が常に動力ケースの後方未耕地部分に溜まっていたため次に隣接耕を行う場合の未耕地と既耕地の境界がはっきりせず隣接部に残耕を生じる場合があったとの記載(甲25,3枚目)があることを踏まえると,甲15のより一層隣接部均平性が向上しましたとの記載は,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぎ,隣接する既耕地の境界部分の均平性を高めることを意味していると認められ,隣接部におけるチェーンケース跡の溝及びブラケット跡の筋を消すことを意味すると解することはできず,補助側板は,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐ役割を果たしているものと認められる。 原告は,甲63の10頁上段の記載に基づいて,甲15に構成①及び②が記載されている旨主張する(前記第3の2⑴イ(ア))。しかし,甲6 3は本件無効審判に提出されなかった証拠であるから,審決取消訴訟において,その記載事項を主引用例又は副引用例として特許の無効を主張することはできない。また, 刊行物に記載された発明 (特許法29条 1項3号)の認定に当たり,特定の刊行物の記載事項とこれとは別個独立の刊行物の記載事項を組み合わせて認定することは,新規性の判断に進歩性の判断を持ち込むことに等しく,新規性と進歩性とを分けて判断する構造を採用している特許法の趣旨に反し,原則として許されず,本件においてその例外を認める理由はないから,甲15の記載事項と甲63の記載事項を組み合わせて甲15に記載された発明を認定することはできない。したがって,原告の上記主張は,採用することはできない。さらに,原告の主張を,甲15の解釈のために甲63を参酌するという趣旨に理解するとしても,その主張を採用することができないことは,2(2)イ(ウ)に記載したとおりである。 したがって,甲15に,チェーンケースによって耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されること (構成①) が記載されているとはいえず, チェーンケース跡の溝の存在を前提として,耕耘された土砂を外側方に流し出しチェーンケース跡の溝に供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻すこと(構成②)についても記載されているとは認められない。⑶ 取消事由2-2(本件発明1と甲15に記載された発明の一致点及び相違点の認定の誤り) 本件審決の甲15発明の認定に誤りはないから,本件審決が本件発明1と甲15発明との相違点を相違点α~δと認定したことに誤りはない。したがって,取消事由2-2(本件発明1と甲15に記載された発明の一致点及び相違点の認定の誤り)は理由がない。 ⑷ 取消事由2-3(本件発明1と甲15に記載された発明の相違点の判断の誤り)取消事由2-4 , (審決の一致点及び相違点の認定を前提とした場合の 相違点の判断の誤り) ア 本件審決の甲15発明の認定に誤りはないから,本件発明1と甲15発明の相違点は,相違点α~δであると認められる。以下では,相違点δの容易想到性について検討する。 イ(ア) 前記⑵イ(イ)のとおり,甲15の記載からすると,甲15に接した 当業者は,甲15の補助側板は,どのような耕耘深さで作業するかにかかわらず,畑で作業する場合には畑用の取付け位置に,水田で作業する場合には水田用の取付け位置に取付けて作業し,そうすることでより一層隣接部均平性が向上するとの効果を奏するものと理解すると認められ,補助側板は,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接する既耕地の境界部分の均平性を高めるものであると認められる。(イ) 他方,前記2⑷イ(イ)のとおり,甲11,甲22,甲24,甲25 の記載によれば,これらの文献には,チェーンケースの下側部分が耕耘地面よりも下部に位置するような深い位置で耕耘すると,前記チェーンケースによって前記耕耘地面にチェーンケース跡の溝が形成されてしまい,次工程の播種作業の障害になることから,飛散土を一部遮蔽しないようにして前記チェーンケース跡の溝に土を供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すという技術事項が記載されていたことが認められる。(ウ) そこで,甲15発明に,飛散土を一部遮蔽しないようにしてチェー ンケース跡の溝に土を供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻すという甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項を適用して,相違点δ(開口部について,本件発明1は,耕耘された土砂を外側方に流し出し前記チェーンケース跡の溝に供給して前記チェーンケース跡の溝を埋め戻すためのものであるのに対し,甲15発明は,そのような特定がない点。に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたか問) 題となる。しかし,前記(ア)のとおり,甲15の補助側板は,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接する既耕地の境界部分の均平性を高めるものであり,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐものであるのに対し,甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項は,一部といえども泥土の飛散を遮断せずに,かえって泥土の飛散によって溝に土を供給するというものであり,両者は,泥土の飛散を防ぐのかそれともそれを利用するのかという点で対極の技術思想に基づくものであり,したがって,甲15の補助側板に,甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項を適用するについては阻害事由があるものと認められる。そうすると,甲15発明に甲11,甲22,甲24,甲25に記載された技術事項を適用して相違点δに係る本件発明1の構成を容易に想到することはできなかったと認められる。 ウ 本件発明2は, 本件発明1から, 前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に両持ち状態で接合された,弾性力を有するカバー材と,前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に配置された整地部材と,及び前記カバー材と前記整地部材とは,前記作業ロータ側からこの順で前記エプロン本体部に接合され,前記カバー材の後側は前記整地部材の前側と重畳し,という構成(相違点αに係る構成)を省き, 前記エプロンサイドプレートは,上下を逆にして接続することによって,前記エプロン本体部との接続状態を前記第1の状態から第2の状態へ変化させるという構成を加えたものであり,本件発明2と甲15発明は,相違点β,γ,δにおいて相違していると認められる。そして,前記イ(ウ)と同様に,上記相違点δに係る本件発明2の構成は容易想到であったとは認められないから,本件発明2は甲15発明を主引用例として進歩性に欠けるとは認められない。 本件発明3~5は,本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を全て含み,更に限定を加えたものであって,これまで述べたとおり本件発明1及び本件発明2は甲15発明を主引用例として進歩性に欠けるとは認められないから,本件発明3~5も,甲15発明を主引用例として進歩性に欠けるとは認められない。 以上によれば,取消事由2-3(本件発明1と甲15に記載された発明の相違点の判断の誤り)取消事由2-4 , (審決の一致点及び相違点の認定 を前提とした場合の相違点の判断の誤り)は,いずれも理由がない。4 取消事由3(検甲1を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由1関係) ⑴ 相違点3に関する進歩性の判断の誤り ア 原告は,甲14,甲15及び甲63等には,ロータリ作業機に関し,補助側板(エプロンサイドプレート)と均平板(エプロン本体部)との接続状態を水田用状態である第1の状態から畑用状態である第2の状態へ変化させることで,補助側板の下側方向位置に,耕耘された土砂を外側方に流し出しチェーンケース跡の溝に供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部を形成可能なこと甲14等技術事項)( が記載されていると主張し, 検甲1発明に甲14等技術事項を適用することによって相違点3に係る本件発明1の構成は容易想到であり,本件発明1は進歩性を有しないから,本件審決の相違点3に関する進歩性の判断は誤りであると主張する。イ 前記2⑵イ(イ)bのとおり,甲14の記載からすると,甲14(取扱説明書)に接した当業者は,甲14の補助側板は,どのような耕耘深さで作業するかにかかわらず,畑で作業する場合には畑用の取付け位置に,水田で作業する場合には水田用の取付け位置に取り付けて作業し,そうすることでより一層きれいな仕上がりにするとの効果を奏するものと理解すると認められ,補助側板は,耕耘具により泥土が飛散するのを防ぐことによって隣接する既耕地の境界部分の均平性を高めるものであると認められる。また,前記3⑵イ(イ)のとおり,甲15の記載からすると,甲15に接した当業者も,甲15の補助側板の技術的意義について同様に認識すると認められる。他方,原告の主張する甲14等技術事項(補助側板(エプロンサイドプレート)と均平板(エプロン本体部)との接続状態を水田用状態である第1の状態から畑用状態である第2の状態へ変化させることで,補助側板の下側方向位置に,耕耘された土砂を外側方に流し出しチェーンケース跡の溝に供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部を形成可能なこと)は,耕耘された土砂を外側方に流し出しチェーンケース跡の溝に供給してチェーンケース跡の溝を埋め戻す開口部を形成可能とするものであり,一部といえども泥土の飛散を遮断せずに,かえって泥土の飛散によって溝に土を供給するというものである。そのため,原告主張の甲14等技術事項は,甲14,甲15に基づいて認められる補助側板が泥土の飛散を防ぐという役割を果たしていることとは,泥土の飛散を防ぐのかそれともそれを利用するのかという点で対極の技術思想に基づくものである。そうすると,甲14,甲15に原告の主張する甲14等技術事項が記載されているとは認められない。 なお,前記2⑵イ(ウ)及び3⑵イ(イ)のとおり,甲14,甲15の記載事項と甲63の記載事項を組み合わせて甲14,甲15に記載された発明を認定することもできない。また,甲11,甲22,甲24,甲25において,甲14発明の補助側板に相当し,下部に土が流れ出る開口部が設けられる部材は,第2カバー(24) (甲11) ,サイドシールド(17)の 側板(20) (甲22) ,側部カバー(12) (甲24) ,サイドカバー(3) (甲25)であり(以下,これらを併せて補助側板相当部材という。,) 甲14発明の均平板に相当するのは,後部カバー(18) (甲11) ,エプ ロン(12) (甲22) ,後部カバー(11) (甲24) ,リヤカバー(17) (甲25)である(以下,これらを併せて均平板相当部材という。)と 認められるところ,甲11,甲22,甲24,甲25には,補助側板相当部材の均平板相当部材への取付位置を変えることによって,補助側板相当部材の下方に開口部を設けて土を流し出し,畑で目立つ隣接部の溝,筋を低減させることは,記載されておらず,そのようなことが本件特許の原出願時に技術常識又は周知技術であったとは認められない。したがって,これらの点からしても,甲14,甲15及び甲63等には甲14等技術事項が記載されていたとは認められない。 そうすると,検甲1発明に甲14等技術事項を適用することによって相違点3に係る本件発明1の構成は容易想到であったとは認められず,相違点3の容易想到性を否定した本件審決の判断に誤りはない。 ウ 本件発明2は, 本件発明1から, 前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に両持ち状態で接合された,弾性力を有するカバー材と,前記エプロン本体部の前記作業ロータ側に配置された整地部材と,及び前記カバー材と前記整地部材とは,前記作業ロータ側からこの順で前記エプロン本体部に接合され,前記カバー材の後側は前記整地部材の前側と重畳し,という構成(相違点1に係る構成)を省き, 前記エプロンサイドプレートは,上下を逆にして接続することによって,前記エプロン本体部との接続状態を前記第1の状態から第2の状態へ変化させるという構成を加えたものであり,本件発明2と検甲1発明は,相違点2,3において相違していると認められる。そして,前記イのとおり,相違点3に係る本件発明1の構成は容易想到であったとは認められないから,本件発明2は検甲1発明を主引用例として進歩性に欠けるとは認められない。 本件発明3~5は,本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を全て含み,更に限定を加えたものであって,これまで述べたとおり本件発明1及び本件発明2が検甲1発明を主引用例として進歩性に欠けるとは認められないことから,本件発明3~5も,検甲1発明を主引用例として進歩性に欠けるとは認められない。 以上によれば,取消事由3(検甲1を主引用例とする進歩性の判断の誤り)は理由がない。 5 結論 以上によれば,原告主張の取消事由はいすれも理由がなく,本件審決に,これを取り消すべき違法はない。 よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 上田中平卓哉 裁判官 健 |