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損害賠償請求事件
事件番号平成30(ワ)1913
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和2年11月27日
裁判所名・部札幌地方裁判所
判示事項の要旨被告国が,くろまぐろの小型魚につき,平成29年7月1日から平成30年6月30日までの期間(第3管理期間)における北海道の沿岸漁業での漁獲可能な数量を「111.81トン」としていたところ,実際にはこれを大幅に超過する漁獲がされてしまったため,当該超過分を差し引き,同年7月1日から平成31年3月31日までの期間(第4管理期間)における北海道の沿岸漁業での漁獲可能な数量をわずか「8.3トン」としたことについて,北海道内の漁業者である原告らが,被告国及び被告北海道は漁業者への法的措置を講じず,漫然と漁業者の自主管理に委ねた結果,第3管理期間において上限を大幅に超過する漁獲を招き,もって第4管理期間以降のくろまぐろ漁が事実上できなくなったなどと主張して,被告国及び被告北海道に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償を請求した事案につき,①被告国について,法令に基づく法的措置の行使については,被告国(農林水産大臣)の広範な裁量に委ねられているところ,原告らの主張する時点において法令に基づく法的措置を行わなかったことが,著しく不合理なものであったとはいえない,②被告北海道について,法令に基づく法的措置の行使については,被告北海道(都道府県知事)の広範な裁量に委ねられているところ,法令に基づく法的措置を行わなかったことが,著しく不合理なものであったとはいえないとして,原告らの請求がいずれも棄却された事例
裁判日:西暦2020-11-27
情報公開日2021-02-02 18:00:25
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令和2年11月27日判決言渡

同日原本領収

平成30年(ワ)第1913号

損害賠償請求事件

口頭弁論終結日

裁判所書記官

令和2年9月14日
判主決文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。

第1
1実及び理由
請求
被告国は,別紙2請求債権目録の原告氏名欄記載の各原告に対し,それぞれ同目録請求額欄記載の金額の2分の1の金員及びこれに対する平成30年7月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
被告北海道は,別紙2請求債権目録の原告氏名欄記載の各原告に対し,それぞれ同目録請求額欄記載の金額の2分の1の金員及びこれに対する平成30年7月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要
被告国は,太平洋くろまぐろ(以下単にくろまぐろという。
)のうち30

キログラム未満の小型魚(以下単に小型魚という。
)につき,平成29年7
月1日から平成30年6月30日までの期間(第3管理期間)における北海道の沿岸漁業での漁獲可能な数量を111.81トンとしていた。しかるに,実際にはこれを大幅に超過する漁獲がされてしまったため,被告国は,当該超過分を差し引き,同年7月1日から平成31年3月31日までの期間(第4管理期間)における北海道の沿岸漁業での漁獲可能な数量をわずか8.3トンとした。本件は,北海道内の漁業者である原告らが,被告国及び被告北海道は漁業者へ
の法的措置を講じず,漫然と漁業者の自主管理に委ねた結果,第3管理期間において上限を大幅に超過する漁獲を招き,もって第4管理期間以降のくろまぐろ漁が事実上できなくなったなどと主張して,被告国及び被告北海道に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金及びこれに対する第4管理期間の始期である平成30年7月1日から各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
1
関係法令等の定め
(1)海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成8年法律第77号。以下資源管理法という。

資源管理法は,政令により第1種特定海洋生物資源(同法2条6項)に指
定された海洋生物資源につき,農林水産大臣において,基本計画(同法3条1項)により海洋生物資源ごとの漁獲可能な数量を定めるものとしている(同法3条2項6号。以下,同法に基づく漁獲可能数量を漁獲可能量といい,単なる行政指導等による漁獲可能数量を漁獲上限という。。)
そして,同法は,基本計画を達成するための措置として,農林水産大臣に
おいて,指導,助言又は勧告(同法9条)
,採捕停止命令(同法10条)
,停
泊命令(同法12条)
,報告及び立入検査(同法17条,18条)その他の
措置(同法7条1項)を採ることができる旨定めるとともに,違反者に対する罰則(同法22条以下)を定めている。
(2)漁業法(昭和24年法律第267号)

漁業法は,農林水産大臣及び都道府県知事において,①水産動植物の採捕制限(同法65条2項1号)
,②漁業調整委員会による採捕制限に関する指
示(農林水産大臣につき同法67条5項,11条6項,68条3項。都道府県知事につき同法67条3項)をすることができる旨定めるとともに,必要な罰則の設置(同法65条3項)をすることができる旨定めている。
(3)水産資源保護法(昭和26年法律第313号)
水産資源保護法は,農林水産大臣及び都道府県知事において,水産動植物の採捕制限(同法4条2項)をすることができる旨定めるとともに,必要な罰則の設置(同条3項)をすることができる旨定めている。
(4)西部及び中部太平洋における高度回遊性魚類資源の保存及び管理に関する条約(平成17年条約第9号。以下中西部太平洋まぐろ類条約という。)
中西部太平洋まぐろ類条約は,中西部太平洋におけるまぐろ類の長期的な
保存及び持続可能な利用の確保を目的として成立した条約であり,同条約9条1項の規定に基づき,中西部太平洋まぐろ類委員会(WesternCentralPacificFisheriesCommission。以下WCPFCという。)が設置されて
いる。
2
前提事実(当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば容易に認められる事実)
(1)原告ら
原告らは,沿岸漁業によるくろまぐろの漁獲に従事する漁業者らである(弁論の全趣旨)


(2)中西部太平洋まぐろ類条約への加入
被告国は,平成17年7月8日,中西部太平洋まぐろ類条約へ加入し,同年8月7日,その効力が発生した(乙イ19)

(3)WCPFCの決定
WCPFCは,平成26年12月,
太平洋クロマグロ複数年回復計画設立のための保存管理措置を決定した(乙イ30の1,30の2。以下平成26年WCPFC決定という。。)
平成26年WCPFC決定においては,くろまぐろの資源量を回復させるため,平成27年以降の小型魚の漁獲上限を過去(平成14年~16年)の平均漁獲量の50%まで削減するとともに,超過した場合にはその超過分を
翌年の漁獲上限から差し引くものとされた。
日本の場合,上記平均漁獲量の50%に相当する数量は,4007トンであった(乙イ29〔11頁〕。

(4)第1管理期間(平成27年1月1日~平成28年6月30日)ア
漁獲上限の設定
水産庁の資源管理部長は,平成26年WCPFC決定を踏まえ,平成27年1月5日,
太平洋クロマグロに係る資源管理の実施についてと題

する通知(乙イ32。以下第1管理期間部長通知という。
)を発出し
た。
第1管理期間部長通知においては,小型魚の漁獲上限が4007トンと定められた上,これを①大中型まき網漁業に2000トン,②沿岸漁業に1901トン,③近海竿釣り漁業等に106トンに配分するものとされた。
そして,このうち沿岸漁業については,平成27年1月1日から平成28年6月30日までの1年6か月間を第1管理期間とした上,全国を6ブロックに分け,ブロック別に漁獲上限を設けるとともに,上限を超過したブロックにおいては翌管理年の漁獲上限から超過分を差し引くものとされた。

なお,これらは資源管理法に基づく数量管理ではなく,飽くまで行政指導による自主管理の形で行うものであった。

実際の漁獲量
第1管理期間における小型魚の漁獲量は,実際には3096.1トンにとどまり,漁獲上限である4007トンを相当下回った。もっとも,沿岸
漁業についてみると,全国6ブロックのうち1ブロック(太平洋北部ブロック)において漁獲量が漁獲上限を上回り,1ブロック(日本海北部ブロック)において漁獲量がその漁獲上限近くまで達した(乙イ34)。
(5)第2管理期間(平成28年7月1日~平成29年6月30日)ア
漁獲上限の設定
水産庁の資源管理部長は,平成28年1月4日,
太平洋クロマグロに係る第2管理期間の資源管理の実施についてと題する通知(乙イ39。以下第2管理期間部長通知という。
)を発出した。
第2管理期間部長通知においても,小型魚の漁獲上限が4007トンと定められ,大中型まき網漁業,沿岸漁業及び近海竿釣り漁業等に対して第1管理期間と同様の配分がされた。

そして,このうち沿岸漁業については,平成28年7月1日から平成29年6月30日までの1年間を第2管理期間とした上,第1管理期間と同様,全国を6ブロックに分け,ブロック別に漁獲上限を設けるとともに,上限を超過したブロックにおいては翌管理年の漁獲上限から超過分を差し引くものとされた。

なお,これらも資源管理法に基づく数量管理ではなく,行政指導による自主管理の形で行うものであった。
おって,第2管理期間においては,都道府県ごとの沿岸漁業の漁獲上限も別途定められ,このうち北海道の漁獲上限は113トンとされた(甲8,乙イ52,弁論の全趣旨)



実際の漁獲量
第2管理期間における小型魚の漁獲量は,実際には4335.1トンとなり,漁獲上限である4007トンを超過した。このうち沿岸漁業については,複数のブロックで漁獲量が漁獲上限を超過したほか,都道府県別にみても25道府県で漁獲上限を超過した。

北海道の実際の漁獲量は114.2トンとなり,漁獲上限である113トンをわずかに超過した(乙イ34,51,52)

(6)第3管理期間(平成29年7月1日~平成30年6月30日)ア
漁獲上限の設定
水産庁の資源管理部長は,平成29年6月30日,
太平洋クロマグロに係る第3管理期間の資源管理の実施についてと題する通知(乙イ56。以下第3管理期間部長通知という。
)を発出した。
第3管理期間部長通知においても,小型魚の漁獲上限が4007トンと定められ(ただし,後に3423.5トンと改められた。乙イ57),大
中型まき網漁業,沿岸漁業及び近海竿釣り漁業等に対して第1管理期間及び第2管理期間と同様の配分がされた。

そして,このうち沿岸漁業については,平成29年7月1日から平成30年6月30日までの1年間を第3管理期間とした上,ブロック別での数量管理から都道府県別への数量管理に移行することとし,都道府県ごとに漁獲上限を設けるとともに,上限を超過した都道府県においては翌管理年の漁獲上限から超過分を差し引くものとされた。

なお,これらも資源管理法に基づく数量管理ではなく,行政指導による自主管理の形で行うものとされた。
おって,北海道の漁獲上限は当初113トンと定められたが,その後,第2管理期間における漁獲量の超過(上記(5)イ)を反映し,111.81トンと改められた(乙イ57)



実際の漁獲量
第3管理期間における小型魚の漁獲量は,実際には3406.8トンとなり,漁獲上限である3423.5トンを下回った。もっとも,沿岸漁業についてみると,9道県で漁獲量が漁獲上限を超過した。

北海道の実際の漁獲量は769.5トンにも及び,漁獲上限である111.81トンを大幅に超過した。これは,特定の漁協管内(北海道南かやべ漁協管内)の漁業者において,平成29年9月28日から同年10月2日までのわずか5日間の間に約356トンもの小型魚を漁獲したことなどが原因であった(乙イ74,弁論の全趣旨)


(7)資源管理法に基づく数量管理の開始-第4管理期間(平成30年7月1日~平成31年3月31日)

資源管理法に基づく数量管理
内閣は,平成29年4月21日,資源管理法施行令を改正し,資源管理法にいう第1種特定海洋生物資源にくろまぐろを加えた(乙イ50)。
これを受けて,農林水産大臣は,同年12月28日,資源管理法3条1項の基本計画にくろまぐろに係る項目を新設するとともに,
海洋生物資源の保存及び管理に関する基本計画第1の別に定める『くろまぐろ』について(乙イ69。以下第4管理期間基本計画という。
)を発表した。

第4管理期間における漁獲可能量
農林水産大臣は,平成30年6月22日,第4管理期間基本計画の改正
版(乙イ77。以下第4管理期間改正基本計画という。
)を発表した。
第4管理期間改正基本計画においては,小型魚の漁獲可能量が3138.7トンと定められ,これを大中型まき網漁業,沿岸漁業及び近海竿釣り漁業等に対して配分するものとされた。
そして,このうち沿岸漁業については,平成30年7月1日から平成3
1年3月31日までの9か月間を第4管理期間とした上,都道府県ごとに漁獲可能量を設けるものとした。その際,第3管理期間における漁獲可能量を超過して採捕を行った都道府県においては,第4管理期間における漁獲可能量から第3管理期間における超過量を原則として一括で差し引くものとし,超過量の全量を一括で差し引くことができない場合には,将
来にわたって超過量を分割して差し引くものとした(以下,第4管理期間改正基本計画に基づくこのような差引きを超過差引きということがある。。

その結果,北海道の漁獲可能量は8.3トンと定められた。
(8)本訴における原告らの主張

原告らは,令和2年1月17日の第2回弁論準備手続期日において,原告らの主張する被告らの違法な公権力の行使は以下のとおりであり,その余の従前の主張は撤回する旨陳述した(当裁判所に顕著な事実)


被告国について
(ア)くろまぐろの小型魚について資源管理法,漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を採るべきであったのに,これを怠ったこと
(イ)くろまぐろの小型魚の漁獲管理において零細漁業者の利益に配慮すべ
きであったのに,これを怠ったこと
(ウ)法律上の明文規定がないのに,超過差引きを行ったこと

被告北海道について
くろまぐろの小型魚について漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を採るべきであったのに,これを怠ったこと

3
争点
(1)被告国の違法性
アイ
零細漁業者への配慮を怠ったこと


資源管理法,漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を怠ったこと
法律上の明文規定がないのに超過差引きを行ったこと

(2)被告北海道の違法性
漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を怠ったこと
(3)原告らの損害
アイ
第3
1
法律上保護された利益の有無
損害発生の有無及びその額

当事者の主張
争点(1)ア(被告国の違法性①-資源管理法,漁業法及び水産資源保護法に
基づく法的措置を怠ったこと)について
(原告らの主張)
被告国は,くろまぐろの小型魚につき,平成26年WCPFC決定によって日本の漁獲上限が4007トンとなったのであるから(前提事実(3)),同決定
の対象期間である平成27年1月(第1管理期間の始期)までに,同決定に従い,中西部太平洋まぐろ類条約の趣旨・目的に沿って,現に存在する国内法を適用して,法的拘束力のある漁獲制限をするという作為義務が生じた。具体的には,①資源管理法に基づく強制力のある数量管理を行い,②漁業法65条,67条,68条に基づく罰則を伴う採捕制限措置を行い,③水産資源保護法4条に基づく罰則を伴う採捕制限措置を行う義務が生じた。
仮にそうでないとしても,被告国は,第2管理期間において25道府県で漁獲上限を超過した事態を重視し,遅くとも平成29年7月1日(第3管理期間の始期)において,上記①ないし③の法的措置を行う義務があった。
しかるに,被告国はこれらを怠り,漫然と漁業者の自主管理に委ねた結果,第3管理期間における漁獲上限の超過を招いたものである。
このような被告国の行為は,憲法98条2項並びに中西部太平洋まぐろ類条約5条,6条,23条,24条及び25条に反し,国家賠償法1条1項の適用上,違法となる。

(被告国の主張)
(1)中西部太平洋まぐろ類条約は,平成26年WCPFC決定を遵守するために国内においてどのような措置を採るべきかについては各構成国に委ねているのであって,被告国に対して,同決定を遵守するための措置及び執行等の方法について,具体的な行為規範を示しているとはいえない。

したがって,中西部太平洋まぐろ類条約及び平成26年WCPFC決定は,被告国の公務員が個別の国民との関係で負うべき行為規範を示したものと解する余地はない。
(2)また,被告国が,平成29年7月1日(第3管理期間の始期)において,資源管理法上の基本計画による漁獲可能量等を定めなかったことについても,
国家賠償法上の違法性はない。
そもそも,農林水産大臣は,基本計画において漁獲可能量等をいつの時点で定めるかについて相当広範な裁量を有しているのであって,農林水産大臣が特定の時期までに基本計画において漁獲可能量等を定めなかったことが,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背したものとして国家賠償法上違法と評価されるのは,農林水産大臣が上記裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した場合に限られるというべきである。

そして,第3管理期間の始期である平成29年7月1日時点においては,資源管理法に基づく基本計画を定めるための制度設計をしていた段階にあり,罰則を伴う厳格な資源管理の前提となる漁業者の理解の醸成を図っていた段階にあった上,その後の北海道内における大量漁獲を具体的に予見することはできなかったのであって,同日までに漁獲可能量等を定めた基本計画を実
施しなかったことは合理性を欠くものではなく,農林水産大臣において裁量権の逸脱又は濫用があったとはいえない。
2
争点(1)イ(被告国の違法性②-零細漁業者への配慮を怠ったこと)について
(原告らの主張)
被告国は,海洋法に関する国際連合条約(平成8年条約第6号)61条,中西部太平洋まぐろ類条約5条及び資源管理法3条3項に基づき,くろまぐろの漁獲管理において零細漁業者の利益に配慮すべき義務を負っていた。しかるに,被告国は,第1管理期間においては,沖合漁業(大中型まき網漁
業)と沿岸漁業による漁獲上限を同程度とし,第2管理期間及び第3管理期間においてもこれを踏襲したものであるが(前提事実(4)ないし(6)),沿岸漁業
は零細漁業者が大多数を占めているため,このような配分量の決定は明らかに不平等であった。
また,被告国は,第4管理期間において,第3管理期間における各都道府県
の超過分をそのまま当該都道府県の漁獲可能量から差し引いており,零細漁業者の漁業の経営について一切考慮しなかった。
したがって,被告国におけるこれらの措置はいずれも零細業者への配慮を怠ったものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
(被告国の主張)
(1)中西部太平洋まぐろ類条約5条の規定の趣旨を考慮すると,資源管理法上,基本計画を検討するに当たって勘案すべき特定海洋生物資源に係る漁業の経営その他の事情(資源管理法3条3項,7項)には零細漁業者の経営状態が含まれ得るといえるものの,零細漁業者の経営状態とは一義的
に定まるものではなく,公務員において,個別の国民との関係でなすべき注意義務が明確に導き出されるとはいえないから,争点(1)アと同様,原告ら
の主張する義務が,国家賠償法上の法的義務となる余地はない。
(2)また,この点を措くとしても,農林水産大臣は,資源管理法の基本計画において漁獲可能量等を定めるに当たり,水産政策審議会の意見を聴かなければならないとされているところ(同法3条4項,8項,9項)
,漁獲可能量
に係る基本計画の定立,検討又は変更については,水産政策審議会の科学的,
専門技術的知見や政策的観点に基づく意見を尊重してなされる農林水産大臣の合理的な判断に委ねられているから,国家賠償法上違法の評価を受けるのは,水産政策審議会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤や欠落があり,農林水産大臣の判断がこれに依拠してなされたとして,当該判断が裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものといえる場合に限られるという
べきである。
そして,第4管理期間基本計画及び第4管理期間改正基本計画の策定に当たっては,水産政策審議会において,漁獲上限の低下による漁業者の減収対策としての漁業収入安定対策事業等による漁業の経営をも勘案した上で,農林水産大臣の諮問内容を承認する旨の答申を行い,これをもとに農林水産大
臣が第4管理期間の基本計画を策定したものである。そうすると,水産政策審議会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤や欠落はなく,農林水産大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱や濫用はないから,当該判断が国家賠償法上違法の評価を受けるものではない。
3
争点(1)ウ(被告国の違法性③-法律上の明文規定がないのに超過差引きを行ったこと)について

(原告らの主張)
被告国は,第4管理期間から資源管理法に基づく数量管理を開始するに当たり,第3管理期間における各都道府県の超過量を第4管理期間以降の漁獲可能量から差し引くものとした(前提事実(7)イ)
。その結果,原告らは,第4管理
期間以降において事実上の禁漁を強いられることになった。

このような不利益処分を課すに当たっては,法律上の明文規定が不可欠であるところ,当時の資源管理法には,こうした超過差引きを許容する規定は存在しなかった。
すなわち,資源管理法は,基本計画において漁獲可能量に関する事項等を定めるに当たり,
漁業の経営その他の事情を勘案して定める
(同法3条3項)

と規定する一方,前の管理期間の超過量というものは勘案事項とはしていなかった。そして,資源管理法が廃止され,同法の規定が漁業法に組み込まれた際,超過差引きを許容する規定が新たに設けられたのであって(改正後の漁業法28条)
,これは資源管理法下では超過差引きが許容されていなかったことの証左である。

したがって,第4管理期間以降における超過差引きは,国家賠償法1条1項の適用上,違法である。
(被告国の主張)
資源管理法は,基本計画において都道府県別の漁獲可能量をどのように定めるのかについて,農林水産大臣の広範な専門技術的裁量,政策的裁量に委ねて
いる。
そして,農林水産大臣が上記漁獲可能量を定めるに当たって,前の管理期間での漁獲可能量の超過量を考慮することは禁じられていない。むしろ,前の管理期間に,ある都道府県がその漁獲可能量を超過した場合に,その超過を是正しないままにしておくと,都道府県間の公平を害する上,水産資源の減少傾向に拍車がかかり,それによる負担を将来の漁業者が負うこととなるのであって,こうした点からすれば,前の管理期間での漁獲可能量の超過量も含めた諸事情
を適切に考慮することが要請されているといえる。
したがって,農林水産大臣が都道府県別の漁獲可能量を定める際に,その裁量権を行使するに当たっては,前の管理期間における都道府県別の漁獲可能量の超過量を考慮することが禁じられているとは解されず,裁量権の行使につき違法はない。

4
争点(2)(被告北海道の違法性-漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を怠ったこと)について

(原告らの主張)
被告北海道は,被告国による中西部太平洋まぐろ類条約の締結及び平成26年WCPFC決定により,第1管理期間の始期である平成27年1月の時点で,①漁業法65条,67条に基づく罰則を伴う採捕制限措置を行い,②水産資源保護法4条に基づく罰則を伴う採捕制限措置を行う義務を負った。しかるに,被告北海道は,上記各法的措置を採らず,漫然と強制力のない自主管理を継続した結果,大幅な漁獲量超過を生じさせた。

特に,平成28年7月1日からの第2管理期間においては,北海道を含む25道府県で漁獲量の超過が発生していたのであるから,被告北海道は,平成29年7月1日からの第3管理期間においては,上記各法的措置を行うべきであった。しかるに,被告北海道はこれを怠り,第3管理期間において漁獲上限の大幅な超過を招いたものである。

したがって,被告北海道が上記各法的措置を怠ったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法である。
(被告北海道の主張)
(1)そもそも条約とは国家間において文書の形式により締結される国際的な合意をいうのであり,条約上の義務に拘束され,当該条約を誠実に履行すべき義務を負うのは当該条約を締結した当事国であって,直接に地方公共団体を拘束するものではない。

また,争点(1)アにおいて被告国も主張するとおり,中西部太平洋まぐろ類条約は,平成26年WCPFC決定を遵守するために国内においてどのような措置を採るべきかについては各構成国に委ねているのであって,被告国に対して,同決定を遵守するための措置及び執行等の方法について,具体的な行為規範を示しているとはいえない。

したがって,中西部太平洋まぐろ類条約及び平成26年WCPFC決定により,被告北海道が漁業法及び水産資源保護法に基づく義務を負うとの原告らの主張は,失当である。
(2)この点を措くとしても,被告北海道は,第1管理期間及び第2管理期間において,被告国からの通知等に基づき,くろまぐろの資源管理措置に係る取
扱いを定め,操業自粛について通知するなど,適切な措置を採っていたものである。
また,くろまぐろの漁獲量の予測は極めて困難である上,その資源管理については,被告国の指導監督の下で都道府県が共同して行っているものであり,北海道独自に厳しい措置を講じるのは不可能であった。

したがって,被告北海道において,漁業法又は水産資源保護法に基づく法的措置を行う義務は生じていなかったものである。
5
争点(3)ア(原告らの損害①-法律上保護された利益の有無)について
(原告らの主張)
被告らが,漁業者への法的措置を講じず,漫然と漁業者の自主管理に委ねた結果,北海道では第3管理期間において漁獲上限を大幅に超過する漁獲を招いた。そして,被告国が第3管理期間における各都道府県の超過量を第4管理期間以降の漁獲可能量から差し引くものとしたことにより,原告らは,平成30年7月1日(第4管理期間の始期)から6年間もの間,くろまぐろ漁を行うことが事実上できなくなったものである。
この点につき被告らは,原告らが主張する被侵害利益は法的に保護されるも
のではない旨主張するが,漁業者である原告らが魚を捕獲する権利を有することは当然であって,被告らの主張は前提を誤ったものである。
(被告らの主張)
漁業者が有する権利は,水産資源管理の観点からの内在的制約に服し,特定の水産動植物について一定の漁獲高や漁獲量が保障されているものでもないの
であり,第1種特定海洋生物資源としてのくろまぐろを漁獲可能量又は都道府県別の漁獲上限を超えて採捕する権利又は利益は存在しない。また,都道府県別の漁獲上限が定められたことによって,個別の漁業者に第1種特定海洋生物資源を採捕する権利が付与されるわけでもない。かえって,資源管理法は,漁業者による海洋生物資源の採捕を規制することを目的としており,漁獲可能量
又は都道府県別の漁獲上限の変動によって第1種特定海洋生物資源を採捕できなくなることにつき,漁業者が当然受忍すべきものであることを前提としている。
したがって,原告らが主張する被侵害利益は,法的に保護されるものではないものというべきである。

6
争点(3)イ(原告らの損害②-損害発生の有無及びその額)について
(原告らの主張)
(1)得べかりし収入を得られないことによる損害
争点(3)アにおいて主張したとおり,原告らは,平成30年7月1日(第4管理期間の始期)から6年間もの間,くろまぐろ漁を行うことが事実上できなくなったものである。
そして,平成23年から25年の原告らの収入を基準とすると,各原告につき,別紙3損害額算定表の年平均(a)欄のとおりの収入を得ることができたものであるところ,これが6年間にわたり得られなくなったのであるから,同表6年間の損失((a)×6年)欄記載のとおりの損害が生じたことになる。
(2)精神的損害
原告らは,6年間もの間,くろまぐろ漁を休漁することとなったのであり,その精神的苦痛を慰謝する慰謝料として,1人当たり60万円を請求する。(3)結論

以上を合計すると,各原告につき,別紙3損害額算定表の合計欄
記載の額の損害が生じたことになる。
(被告らの主張)
損害の発生は,国家賠償請求権の成立要件であり,将来得べかりし収入を得られなくなったことにより金銭的不利益を損害として主張する場合には,口頭
弁論終結時において,当該不利益が具体的な金額として確定していなければならない。
この点,基本計画における漁獲可能量は,1年単位の漁獲可能量として定められるものであり,しかも毎年少なくとも1回は検討を加えることが義務付けられているものである。そして,現に第5管理期間(平成31年4月1日~令
和2年3月31日)においては,都道府県間及び都道府県の配分量と大臣管理量との間での融通が成立し,これに伴って各都道府県の漁獲可能量を定めた基本計画の改正がされているのであって,原告らは,第5管理期間以降,くろまぐろの採捕を再開することができる可能性がある。
したがって,現時点で,第4管理期間における原告らの収入減は別として,
将来くろまぐろを採捕することができなくなることによる収入減が生じるか否かや,具体的にどの程度の金額の収入源が生じるかについては,まだ確定していないというほかなく,原告らが損害として主張するもののうち,第5管理期間以降の損害が発生したとはいえない。
第4
1
当裁判所の判断
認定事実
前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)第1管理期間(平成27年1月1日~平成28年6月30日)に向けた検討状況

水産庁は,平成26年WCPFC決定を受け,くろまぐろの資源管理方法について検討した。もっとも,次のような事情から,当初から法律に基づく強制力を持った数量管理を実施することは,適切ではないとされた(乙イ3,11の1〔62頁〕
,11の2〔12頁〕
,31,91〔7,8
頁〕。

(ア)これまで日本においては,さんま,すけとうだら,まあじ,まいわし,
さば類,するめいか及びずわいがにの7種類に対してのみ資源管理法に基づく数量管理を行ってきたが,このうち採捕停止命令及び罰則適用の対象となる魚種は,さんまとすけとうだらのみであり,これらの魚種における数量管理は,漁業実態に応じて一部の都道府県に漁獲可能量を配分しているのみであった。

(イ)他方で,くろまぐろについては,一部の漁法は許可等を得ることなく操業することができ,採捕数量の報告義務も課せられていなかった。また,くろまぐろにつき数量管理を実施する場合,その対象となる漁業者は,日本全国に存在する沿岸業者全てに及ぶことになるのであって,こうした全国一律の厳格な数量管理というものは,日本の水産資源管理史
上,これまで経験したことがなかった。
(ウ)そもそも,日本の漁業には,各地の地域制を踏まえて歴史的に形成されてきた慣習やルールが多く存在し,浜単位の漁業者間の取決めや漁業協同組合の内部規定,各浜間の協定など,法令に基づく公的管理の前段階として漁業や地域の特性に応じた多様な手法が取られてきた。
(エ)全国的な資源管理を行うに当たっては,資源管理法に基づく規制のほか,漁業法に基づく規制(同法34条1項の漁業権の制限又は条件,同
法63条において準用する同法34条の制限又は条件,同法65条1項及び同条2項の漁業調整に関する命令,同法68条1項の広域漁業調整委員会による指示等)や,水産資源保護法に基づく規制(同法4条による水産動植物の採捕制限,同法13条の漁獲限度勧告)など他の漁業法令に基づく規制をそれぞれ比較した上で,どの法律の体系に基づく管理
を行うことが適切かといった検討も必要であった。
(オ)日本においては,当時のくろまぐろの小型魚の漁獲実績は3815トンであり(平成24年度のもの)
,平成26年WCPFC決定に基づく
小型魚の漁獲上限4007トンを下回っていた。

水産庁においては,これらの各事情を踏まえ,当初から法律に基づく強制力を持った数量管理を実施するのではなく,まずは中軽度の政策手法によりその効果を見極めつつ資源管理に取り組むことが適切であるとした。そして,平成26年WCPFC決定を達成するための国内措置としては,飽くまで行政指導による自主管理という形で開始することとし,平成27年1月5日,第1管理期間部長通知(前提事実(4)ア)を発出し
た(乙91〔7,8頁〕。

(2)第2管理期間(平成28年7月1日~平成29年6月30日)に向けた検討状況

水産庁は,平成27年11月26日の水産政策審議会において,資源管理の取組状況を注視しながら,くろまぐろの特性等に適合した数量管理の在り方の検討を,都道府県等と共に開始する旨報告した(乙イ38の1〔35,36頁〕
,38の2〔18頁〕。


水産庁は,平成28年1月4日に発出した第2管理期間部長通知(前提事実(5)ア)において,日本の漁獲上限の遵守を図るため,くろまぐろの特性等に適合した数量管理の検討を進めるものとし,平成28年7月(第2管理期間の始期)から試行する旨を明記した(乙イ39)



水産庁は,平成28年2月23日の水産政策審議会資源管理分科会において,資源管理法に基づかない基本計画及び都道府県計画によるくろまぐろの数量管理を予定している旨を報告し,同年3月11日,各都道府県に対し,都道府県計画の作成等の協力を依頼した(乙イ37〔37頁〕,4
2)


そして,水産庁は,同年4月20日及び同年5月24日の水産政策審議会資源管理分科会における議論を踏まえ,同年7月1日,

くろまぐろ型の数量管理に関する基本計画(試行)(乙イ43)を公表した。同計画は,

将来的にくろまぐろを資源管理法に基づく第1種特定海洋生物としての数量管理に移行することを見据えて制定されたものであった。

(3)第3管理期間(平成29年7月1日~平成30年6月30日)に向けた検討状況

水産庁は,平成29年2月23日,水産政策審議会資源管理分科会において,同年4月にくろまぐろを第1種特定海洋生物資源に指定すること,資源管理法上の基本計画に基づく資源管理の対象とする時期は平成30年
1月を目途とすることなどを説明した(乙46の1〔35頁〕
,46の2
〔8頁〕。


水産庁は,平成29年2月から3月の間に,くろまぐろの第1種特定海洋生物資源の指定についてのパブリックコメントを実施した。このうち指
定そのものについての賛成意見は1件,条件付き賛成意見は5件(賛成だが改善が必要,現状のままだと反対,時期が早いのではないか,漁獲量の把握を行うことができるようになるまでは控えるべき等)であり,他に沿岸漁業への配慮を求める旨の意見が3件あった(乙イ47の1〔8頁〕。)

農林水産大臣は,平成29年4月6日,資源管理法2条8項の規定に基づき,水産政策審議会に対し,くろまぐろを第1種特定海洋生物資源に指定する旨の資源管理法施行令の改正を行うことにつき諮問した。

水産政策審議会は,同日,諮問のとおり実施することが適当であると認める旨の答申をした(乙イ47の1〔13,16頁〕
,47の2)


内閣は,平成29年4月21日,資源管理法施行令を改正し,第1種特定海洋生物資源にくろまぐろを加えた(前提事実(7)ア)
。ただし,農林水
産大臣又は都道府県知事が資源管理法に基づく採捕停止命令(同法10条)
等を実施するためには,基本計画又は都道府県計画を作成する必要があった。

水産庁は,平成29年5月30日,水産政策審議会資源管理分科会において,国内の資源管理の実施状況や国際交渉の状況等を踏まえた資源管理の状況について報告したところ,委員から,漁獲上限の削減に伴う経営へ
の悪影響が指摘された(乙イ63の1〔30頁〕
,63の2)


水産庁は,平成29年6月30日,第3管理期間部長通知を発出した(前提事実(6)ア)


2
争点(1)ア(被告国の違法性①-資源管理法,漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を怠ったこと)について
(1)原告らの主張について

原告らは,資源管理法,漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を怠り,漫然と漁業者の自主管理に委ねた結果,第3管理期間における漁獲上限の超過を招いたものであって,このような被告国の行為は憲法98条
2項並びに中西部太平洋まぐろ類条約5条,6条,23条,24条及び25条に反する違法な行為であると主張する。
しかし,そもそも中西部太平洋まぐろ類条約5条(保存及び管理の原則及び措置)の規定は,各構成国が条約区域における高度回遊性魚類資源の長期的な持続可能性を確保し,及び高度回遊性魚類資源の最適利用の目的を促進するための措置をとる(同条(a))などという包括的・抽象的な
ものにとどまるものであるし,6条(予防的な取組方法の適用)
,23条

(委員会の構成国の義務)
,24条(旗国の義務)及び25条(遵守及び
取締り)の各規定も同様に抽象的な文言にとどまるものであって,各構成国に対し,実際に採るべき措置の内容・程度等について具体的に義務付けた規定というものは何ら見当たらない(乙イ18)

したがって,構成国である被告国において何らかの個別具体的な措置を
採らなかったことが,直ちに中西部太平洋まぐろ類条約5条,6条,23条ないし25条に反し,憲法98条2項に反するとか,これにより国民である原告らとの関係における何らかの具体的義務に反するということはできないのであって,原告らの主張は,この限りで失当であるといわざるを得ない。


もっとも,原告らの上記主張は,要するに,単に被告国における規制権限の不行使の違法をいうものとも解される。そこで,以下,被告国に規制権限の不行使による違法があるかどうかを検討する。

(2)判断枠組み
国又は地方公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,その不行使が著しく不合理と認められるときに,その不行使により被害を受けた者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799頁参
照)

本件において,原告らの主張する具体的な規制権限は,①資源管理法に基づく強制力のある数量管理,②漁業法65条,67条,68条に基づく罰則を伴う採捕制限措置,③水産資源保護法4条に基づく罰則を伴う採捕制限措置というものであるから,以下,順次検討する。
(3)資源管理法に基づく規制について

資源管理法の定め
資源管理法は,海洋生物資源の保存及び管理のため,農林水産大臣において基本計画を定めるものとしており(同法3条1項)
,政令で第1種特
定海洋生物資源に指定された海洋生物資源については,基本計画において漁獲可能量及びこれに関して実施すべき施策に関する事項が定められ(同
法3条2項)
,農林水産大臣は,指導,助言又は勧告(同法9条)
,採捕停
止命令(同法10条)
,停泊命令(同法12条)
,報告及び立入検査(同法
17条,18条)その他の措置(同法7条1項)を通じて,基本計画の履行を確保するものとされている。
ところで,海洋生物資源は,水温や餌生物等の海洋環境の影響を大きく
受け,その多くは回遊し生息場所が常に変化するなど不確実な性格を持つために,その状況を正確に観測・予測することが困難であって(乙イ5〔13,14頁〕,資源保全に当たっては,科学的根拠に基づく専門技術)
的な判断が必要とされる。また,海洋生物資源の保全のために漁獲可能量の制限等を行うに当たっては,漁業従事者や,関係する業界,地域社会な
どに大きな経済的影響が生じるほか,消費者を含めた国民生活にも影響が生じ得ることから,このような社会経済的な要因も広く考慮した資源管理を行う必要がある。
そして,資源管理法は,第1種特定海洋生物資源への指定の要件として漁獲可能量を決定すること等により保存及び管理を行うことが適当で
あることのみを定め,具体的な海洋生物資源の指定は政令に委ねており(同法2条6項)
,また,基本計画についても,その策定及び計画に定め
るべき事項のみを規定していて,その具体的な内容については農林水産大臣に委ねている(同法3条1項,2項)
。さらに,第1種特定海洋生物資
源への指定の際には水産政策審議会の意見を聴くものとしており(同法2条8項)
,基本計画の策定及び変更の際にも水産政策審議会の意見を聴く
ほか(同法3条4項,8項,9項)
,その内容によっては都道府県知事の

意見を聴くものとしている(同法3条5項)

このような海洋生物資源の管理の特徴及び資源管理法の定めに照らすと,同法に基づく農林水産大臣の規制権限の行使は,漁業の発展や水産物の供給の安定といった観点から,農林水産大臣の広範な裁量に委ねられているものというべきである。


平成27年1月1日(第1管理期間の始期)時点における違法性
まず,原告らは,被告国が平成27年1月1日(第1管理期間の始期)までに資源管理法に基づく強制力のある漁獲上限の数量管理を行わなかったことにつき,国家賠償法1条1項の適用上の違法があると主張する。
確かに,被告国は,第1管理期間においては,法律に基づく強制力を持った数量管理を実施するのではなく,飽くまで行政指導による自主管理という形で行っていたところである(前提事実(4)ア)

しかし,これは,前記認定のとおり,①当時,資源管理法に基づいて採捕停止命令や罰則適用を含む規制を行っていたのは,さんまとすけとうだ
らのみであって,その方法も,漁業実態に応じて一部の都道府県に漁獲可能量を配分しているのみであり,全国一律での数量管理が実施されたことはなかったこと,②くろまぐろには採捕数量の報告義務はない上,数量管理を実施しようとした場合,その対象は,全国に存在する沿岸漁業者全てに及ぶこと,③日本の漁業は,各地の地域制を踏まえて歴史的に形成され
てきた慣習やルールが多く存在し,浜単位の漁業者間の取決めや漁業協同組合の内部規定,各浜間の協定など,法令に基づく公的管理の前段階として漁業や地域の特性に応じた多様な手法がとられてきたこと,④資源管理の方法として複数の法令に基づく規制手段が存在し,その選択に検討を要すること,⑤当時の最新の漁獲実績は3815トンであり,平成26年WCPFC決定に基づく漁獲上限4007トンを下回っていたことなど,諸般の事情を総合考慮したものである(認定事実(1)ア,イ)


このように,平成27年1月1日の時点においては,くろまぐろにつき強制力を持った数量管理を直ちに実施することには困難な事情があり(上記①ないし④)
,他方で,当時の漁獲実績は平成26年WCPFC決定に
基づく漁獲上限を下回っていたのであって(上記⑤),農林水産大臣がこ
れらの各事情を踏まえた上,第1管理期間においてくろまぐろにつき資源
管理法に基づく数量管理を実施しなかったことについては,法令の趣旨,目的やその権限の性質等に照らして著しく不合理なものであったとまではいうことができない。

平成29年7月1日(第3管理期間の始期)時点における違法性
次に,原告らは,被告国が平成29年7月1日(第3管理期間の始期)までに資源管理法に基づく強制力のある漁獲上限の数量管理を行わなかったことにつき,国家賠償法1条1項の適用上の違法があると主張する。確かに,被告国は,第3管理期間においても,法律に基づく強制力を持った数量管理を実施するのではなく,行政指導による自主管理という形を
継続していたところである(認定事実(6)ア)

しかし,上記イにおいて説示したとおり,①全国一律での数量管理が実施されたことはなく,②くろまぐろには採捕数量の報告義務はない上,数量管理を実施しようとした場合,その対象は,全国に存在する沿岸漁業者全てに及び,③日本の漁業は,各地の地域制を踏まえて歴史的に形成され
てきた慣習やルールが多く存在し,④資源管理の方法として複数の法令に基づく規制手段が存在し,その選択に検討を要するのであって,平成29年7月1日時点においても,くろまぐろにつき強制力を持った数量管理を直ちに実施することには困難な事情があることに変わりはなかったものというべきである。
そして,被告国においては,資源管理法に基づく数量管理に向けた準備を何ら行っていなかったわけではなく,かえって,同年2月23日の水産政策審議会資源管理分科会において,くろまぐろを資源管理法の基本計画に基づく資源管理の対象としたい旨の説明が水産庁の担当者から行われ(認定事実(3)ア)
,同年4月6日には農林水産大臣から水産政策審議会に
対してくろまぐろを第1種特定海洋生物資源に指定する旨の諮問がされる
とともに,同審議会からその旨の答申がされ(同ウ)
,同月21日には内
閣がくろまぐろを第1種特定海洋生物資源に指定したものであって(同エ)
,資源管理法に基づく数量管理に向けた準備が進められていたものである。
他方で,水産庁では,同年2月から3月までの間に,くろまぐろを第1
種特定海洋生物資源に指定することにつきパブリックコメントを実施したところ,慎重な意見も一定数あったというのであり(認定事実(3)イ),同
年5月30日に開かれた水産政策審議会資源管理分科会においても,委員から,漁獲上限の削減に伴う経営への悪影響が指摘されていたのであって(同オ)
,同年7月1日の時点では,資源管理法に基づく数量管理につき,
なお慎重な意見も少なくなかったところである。
以上の諸点に加え,特定の海洋生物資源について資源管理法に基づく規制を開始するには,当該海洋生物資源を第1種特定海洋生物資源に指定した上で,水産政策審議会の意見を聴いて基本計画を変更するなどの各種手続が必要であって,その過程で相当の期間を要することは否定し難いこと
も併せ考慮すると,農林水産大臣が同年7月1日からの第3管理期間においてくろまぐろにつき資源管理法に基づく数量管理を実施しなかったことについては,法令の趣旨,目的やその権限の性質等に照らし著しく不合理なものであったとまではいうことができない。

原告らの主張に対する判断
(ア)この点につき原告らは,第1管理期間においては全国6ブロックのう
ち1ブロックにおいて漁獲量が漁獲上限を上回っており(前提事実(4)イ)
,第2管理期間においても複数のブロックで漁獲量が漁獲上限を上回ったほか,都道府県別にみても25道府県で漁獲上限を超過したのであるから(同(5)イ)
,平成29年7月1日の第3管理期間の開始時点に
おいては,自主管理による限界が明白になっていた旨主張する。

しかし,第1管理期間においては,日本全体の漁獲量は3096.1トンにとどまり,漁獲上限の4007トンを大幅に下回っていたものであるし,ブロック別にみても,超過したブロックは1ブロックのみであったところである(前提事実(4)イ)
。また,第2管理期間における実際
の漁獲量が確定・判明するのは,当然ながら同期間の終了時点(平成2
9年6月30日)以降であって,第2管理期間における実際の漁獲量を前提に,第3準備期間(同年7月1日)の開始時点から直ちに資源管理法に基づく数量管理を実施すべきというのは,困難であるものといわざるを得ない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

(イ)また,原告らは,第2管理期間中の平成29年4月21日にはくろまぐろが第1種特定海洋生物資源に指定されていたから,同年7月1日時点において直ちに資源管理法に基づく規制を開始することは容易であった旨主張する。
しかし,上記ウにおいて説示したとおり,くろまぐろについて資源管
理法に基づく規制を行うためには,第1種特定海洋生物資源の指定だけではなく,水産政策審議会の意見を聴いて基本計画を定めることなどの各種手続を要するのであって,直ちに法的規制を行うことが容易であったとまでは断じ難い。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

小括
以上によれば,資源管理法に基づく規制についての原告らの主張は,い
ずれも理由がない。
(4)漁業法及び水産資源保護法に基づく規制について

漁業法は,農林水産大臣において,①水産動植物の採捕制限(同法65条2項1号)
,②漁業調整委員会による採捕制限に関する指示(同法67
条5項,11条6項,68条3項)をすることができる旨定めるとともに,必要な罰則の設置(同法65条3項)をすることができる旨定めている。また,水産資源保護法は,農林水産大臣において,水産動植物の採捕制限(同法4条2項)をすることができる旨定めるとともに,必要な罰則の設置(同条3項)をすることができる旨定めている。

しかし,これらの採捕制限措置を採る要件としては,漁業法上は漁業取締りその他漁業調整のため(同法65条2項)
,水産資源保護法は水産資源の保護培養のために必要があると認めるとき(同法4条2項)と
いった極めて抽象的な規定しか設けられていない上,その時期,対象,内容等は全て農林水産省令に委ねられているとともに(上記各条項),農林

水産省令の制定に当たっては,水産政策審議会から意見を聴くものとされている(漁業法65条6項,水産資源保護法4条6項)

そして,これらの採捕制限措置という規制権限の行使に当たっても,上記(3)アにおいて説示したのと同様に,水産資源の特徴を踏まえた専門技術的な判断が必要とされるとともに,社会経済的な要因を広く考慮する必
要があるというべきであって,このことからすれば,漁業法及び水産資源保護法に基づく規制権限である採捕制限措置の行使についても,農林水産大臣の広範な裁量に委ねられているものというべきである。

本件においてこれをみるに,被告国においては,平成26年WCPFC決定を踏まえ,第1管理期間から第3管理期間に至るまで自主管理という形での国内措置を行うとともに,並行して資源管理法に基づく数量管理の準備を進めていたものであるが,前記(3)イ及びウにおいて説示したとお
り,第1管理期間の始期である平成27年1月1日の時点や,第3管理期間の始期である平成29年7月1日の時点において,農林水産大臣が資源管理法に基づく数量管理を実施しなかったこと自体は,法令の趣旨,目的やその権限の性質等に照らし著しく不合理なものであったとまではいえないところである。そして,そこで認定判断したところにも照らすと,資源
管理法に基づく数量管理と同様,上記各時点において漁業法及び水産資源保護法に基づく採捕制限措置を行わなかったことについても,これが農林水産大臣の広範な裁量に委ねられていることを考慮すると,やはりその法令の趣旨,目的やその権限の性質に照らし著しく不合理なものであったとはいえないというべきである。

したがって,漁業法及び水産資源保護法に基づく規制についての原告らの主張は,いずれも理由がない。
(5)結論
以上によれば,被告国が資源管理法,漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を怠り,この点に国家賠償法1条1項の適用上違法があるとの原告
らの主張は,いずれも理由がない。
3
争点(1)イ(被告国の違法性②-零細漁業者への配慮を怠ったこと)について
原告らは,被告国が,①第1管理期間において沖合漁業と沿岸漁業による漁
獲上限を同程度とし,第2管理期間及び第3管理期間においてもこれを踏襲したこと,②第4管理期間において第3管理期間での各都道府県の超過分をそのまま当該都道府県の漁獲上限から差し引いたことにつき,これら①及び②の措置はいずれも零細漁業者への配慮義務に違反したものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法となる旨主張する。
しかし,原告らの主張する零細漁業者への配慮義務というものは,抽象的・観念的なものにとどまるものといわざるを得ない。
また,この点を措くとしても,上記2(3)において説示したとおり,特定の海洋水産資源を資源管理法による規制の対象とするか否か,仮に対象とするとしてどのような規制の内容とするかについては,農林水産大臣の広範な裁量に委ねられているというべきところ,原告らの上記①及び②の主張はいずれも農
林水産大臣の裁量判断の当不当をいうものにすぎないし(このうち上記①は行政指導の内容の当不当をいうものでしかない。,その根拠とするところも,沿)
岸漁業は零細漁業者が大多数を占めているなどというにとどまるのであって,結局,原告らの主張は漁獲上限の配分等についての包括的・抽象的な不当をいうものにすぎない。

もっとも,このうち上記②については,このような超過差引きの結果,第4管理期間においては,北海道の沿岸漁業における漁獲可能量がわずか8.3トンとなったところではある(前提事実(7)イ)
。しかし,証拠(乙イ58の1
〔26,27頁〕
,58の2〔20~23枚目〕
,65の1〔1~12頁〕
,7
0の1〔26,29頁〕
,70の2〔9枚目〕
,76の1〔14~20頁〕
)に

よれば,水産政策審議会は,漁獲上限の低下による漁業者の減収対策として,漁業共済事業による補償等(漁業災害補償法78条1項)及び各種の漁業収入安定対策事業が存在することなどを勘案した上で,第4管理期間基本計画及び第4管理期間改正基本計画に関する諮問内容をいずれも相当である旨答申していたことが認められる。そして,ここにいう漁業収入安定対策事業の内容は,
多数の漁業者が加入する漁業共済事業に伴う共済限度額を積み増す形で,資源管理に伴い減収が生じた場合に,基準収入(個々の漁業者の直近5年の収入をもとに算定した収入額)の8割以上を補填するというものであり,その加入率及び加入資格に照らしても,比較的小規模の漁業者の収入の安定が図られているものといえるのであって(乙イ103ないし109)
,これらの諸事情に照
らせば,被告国において,零細漁業者への配慮を何ら行わなかったとまではいうことができない。

したがって,いずれにせよ,原告らの上記主張はいずれも理由がない。4
争点(1)ウ(被告国の違法性③-法律上の明文規定がないのに超過差引きを行ったこと)について
(1)原告らは,第4管理期間改正基本計画において,第3管理期間における超
過量を第4管理期間以降の獲得上限から差し引くものとしたこと(前提事実(7)イ)により,第4管理期間以降,事実上の禁漁を強いられることになったところ,このような超過差引きは法令の規定に基づくものではないから,国家賠償法1条1項の適用上違法である旨主張する。
(2)しかし,資源管理法に基づく規制権限の行使が,水産政策審議会の意見を
踏まえた農林水産大臣の広範な裁量に委ねられていることは既に説示したとおりであり,このような広範な裁量は,基本計画を定めるに当たって漁獲可能量及び都道府県別の配分をどのように定めるかについても及ぶものと解される。
そして,基本計画は,管理期間ごとに都道府県別に漁獲可能量を定めるも
のであり,管理期間ごと,都道府県ごとの漁獲可能量の超過を次の管理期間における漁獲可能量において考慮しないとすれば,都道府県間の公平や現在の漁業者と将来の漁業者との間の公平を害するのみならず,漁獲可能量の超過を是正することが困難となり,かえって基本計画の履行の実効性を損なうおそれがあるというべきである。

そうすると,特定の管理期間での特定の都道府県における漁獲可能量の超過を,次の管理期間における当該都道府県の漁獲可能量を定めるに当たって考慮することは,上記のような農林水産大臣の合理的裁量に基づく漁獲可能量の設定として,資源管理法上も想定されているものと解される。そして,第4管理期間は,資源管理法上の数量管理が行われた初めての期間であるが,第3管理期間においても,行政指導によって全国的な自主管理が行われていたことを踏まえれば,上記の趣旨は,第4管理期間の漁獲可能量を定めるに当たっても同様に妥当するものというべきである。
以上によれば,第4管理期間改正基本計画において,第3管理期間における超過量を第4管理期間以降の漁獲可能量から差し引くものとしたことは,資源管理法に基づく農林水産大臣の裁量の範囲内の措置というべきであって,
法令上の根拠を欠くものではない。
(3)この点につき原告らは,①資源管理法は,基本計画において漁獲可能量に関する事項等を定めるに当たり,
漁業の経営その他の事情を勘案して定める
(同法3条3項)と規定する一方,前の管理期間の超過量というものは勘案事項とはしていない,②資源管理法が廃止され,同法の規定が漁業法に
組み込まれた際(平成30年法律第95号による廃止及び改正。なお施行日は令和2年12月1日である。,超過差引きを許容する規定が新たに設けら)
れたのであって(改正後の漁業法28条)
,これは資源管理法下では超過差
引きが許容されていなかったことの証左であるなどと主張する。
しかし,上記(2)で説示したとおり,そもそも本件における超過差引きは
資源管理法に基づく農林水産大臣の裁量の範囲内の措置というべきであって,明文規定の有無はこの判断を左右するものではない。そして,上記①については,資源管理法3条3項は最大持続生産量を実現することができる水準に特定海洋生物資源を維持し又は回復させることを目的として,同項〔判決注:同条2項〕第二号に掲げる事項及び他の海洋生物資源との関係等を基礎とし,特定海洋生物資源に係る漁業の経営その他の事情を勘案して定めるものとすると広く規定しているのであって,本件のような超過差引きを一切除外する趣旨とは解されない。また,上記②についても,改正後の漁業法28条の規定は,単に資源管理法下において許容されてきた運用を明文化したものにすぎないと解されるところである。
したがって,原告らの上記主張はいずれも採用することができない。(4)以上によれば,第4管理期間以降における超過差引きが国家賠償法1条1
項の適用上違法であるとの原告らの主張は,理由がない。
5
争点(2)(被告北海道の違法性-漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を怠ったこと)について
(1)原告らの主張について


原告らは,被告北海道が中西部太平洋まぐろ類条約及び平成26年WCPFC決定により,平成27年1月の時点で漁業法65条,67条及び水産資源保護法4条に基づく各法的措置を採るべき義務を負ったのに,これを怠ったと主張する。
しかし,前記2(1)アにおいて説示したとおり,中西部太平洋まぐろ類
条約の各規定は包括的・抽象的なものにとどまるのであり,また平成26年WCPFC決定も平成27年以降の小型魚の漁獲上限を50%にまで削減するということなどを定めるのみであって(前提事実(3))
,いずれも各
構成国に対し,具体的に採るべき措置の内容・程度等について規定するものではない。
したがって,被告北海道において漁業法65条,67条及び水産資源保
護法4条に基づく各法的措置を採らなかったことが,直ちに中西部太平洋まぐろ類条約及び平成26年WCPFC決定に違反するとか,これが国家賠償法1条1項の適用上違法になるということはできず,原告らの主張はこの限りで失当であるといわざるを得ない。

もっとも,原告らの主張は,争点(1)アにおける主張と同様に,単に被
告北海道における規制権限の不行使の違法をいうものとも解される。そこで,以下,被告北海道に規制権限の不行使による違法があるかどうかを検討する。
(2)判断枠組み
争点(1)アにおいて説示したとおり,国又は地方公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,その不行使が著しく不合理と認められるときに,その不行使により被害を受けた者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(前記2(2))

そして,原告らの主張する具体的な規制権限は,漁業法65条及び67条
に基づく罰則を伴う採捕制限措置並びに水産資源保護法4条に基づく罰則を伴う採捕制限措置であるところ,前記2(4)アにおいて説示したところに照らせば,都道府県知事による上記各採捕制限措置の行使についても,当該都道府県知事の広範な裁量に委ねられるものというべきである。
(3)原告らの主張に対する検討

原告らは,被告北海道が上記各採捕制限措置を行うべきであった時期として,①主位的に平成27年1月1日(第1管理期間の始期),②予備的に平
成29年7月1日(第3管理期間の始期)を主張しているものと解される。しかし,争点(1)アにおいて説示したとおり,被告国(農林水産大臣)が上記①及び②の各時点において漁業法及び水産資源保護法に基づく採捕制限
措置を行わなかったこと自体,法令の趣旨,目的やその権限の性質に照らし著しく不合理なものであったとはいえないところである(前記2(4)イ)。そ
して,くろまぐろの資源管理は,第1管理期間から第3管理期間を通じて,水産庁の資源管理部長の通知等を通じて全国的に行われていたものであって(前提事実(4)ないし(6))
,被告北海道だけが独自に採捕制限措置を採ると

いうのは困難な状況にあったといわざるを得ない。
かえって,証拠(乙ロ22ないし25)によれば,被告北海道は,①第1管理期間においては,水産庁の資源管理部長の通知等に基づき,平成27年5月27日,振興局別の小型魚の漁獲目安の配分,漁業種類別の漁獲努力量の削減方法等,北海道におけるくろまぐろの資源管理措置に係る取扱いを定めて関係機関等に通知し(乙ロ22)
,同年11月13日には北海道を含む
太平洋北部ブロックに係る操業自粛について通知し(乙ロ23)
,②第2管

理期間においても,水産庁の資源管理部長の通知等に基づき,平成28年6月21日,振興局別の小型魚の漁獲目安の配分,漁業種類別の漁獲量の抑制のための対応等,北海道におけるくろまぐろの資源管理措置に係る取扱いを定めて関係機関等に通知し(乙ロ24)
,同年7月1日,
くろまぐろ型の数量管理に関する道計画(試行)を策定・提出するなど(乙ロ25),各種の

対応をしていたことが認められる。
したがって,被告北海道において,第1管理期間の始期である平成27年1月1日の時点や,第3管理期間の始期である平成29年7月1日の時点で,漁業法及び水産資源保護法に基づく採捕制限措置を行わなかったことが,法令の趣旨,目的やその権限の性質に照らし著しく不合理なものであったとは
いえないというべきである。
(4)小括
以上によれば,被告北海道が漁業法及び水産資源保護法に基づく法的措置を怠り,この点に国家賠償法1条1項の適用上違法があるとの原告らの主張は,いずれも理由がない。

6
結論
以上のとおり,被告国及び被告北海道の公権力の行使につき,国家賠償法1条1項の適用上違法があるとの原告らの主張は,いずれも理由がない。よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれ
も理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。札幌地方裁判所民事第5部

裁判長裁判官


裁判官

河野文彦
裁判官

佐藤克

(別紙1)
原告目
省略

(別紙2)
請求債権目録

原告氏名

請求額

A
1057万4610円

B
682万1076円

C
529万0764円

D
365万3796円

E
222万0210円

F
154万6098円

G
131万5284円

H
155万0568円

I
402万4482円
(別紙3)
損害額算定表

原告

平成23年

平成24年

平成25年

年平均(a)

6年間の損失
((a)×6年)

精神的苦痛に対す
る慰謝料
(10万円×6年)

合計

A
645,2932,656,4971,685,5151,662,4359,974,610
600,000

10,574,610

B
713,2372,081,725

600,000

6,821,076

C
667,122

896,466

781,7944,690,764

600,000

5,290,764

D
297,137

988,848

240,915

508,9663,053,796

600,000

3,653,796

E
306,449

452,266

51,392

270,0351,620,210

600,000

2,220,210

F
48,540

212,808

211,703

157,683

946,098

600,000

1,546,098

G
9,146

49,424

299,073

119,214

715,284

600,000

1,315,284

H
56,165

173,246

245,873

158,428

950,568

600,000

1,550,568

I
442,483

657,955

611,804

570,7473,424,482

600,000

4,024,482

315,5761,036,8466,221,076
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