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偽造通貨行使
事件番号令和2(う)127
事件名偽造通貨行使
裁判年月日令和3年1月13日
裁判所名・部東京高等裁判所  第3刑事部
結果破棄差戻
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成31合(わ)86
裁判日:西暦2021-01-13
情報公開日2021-01-27 16:00:20
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令和3年1月13日宣告
令和2年

127号

東京高等裁判所第3刑事部判決
偽造通貨行使被告事件

主文
原判決を破棄する
本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由
検察官の控訴趣意は,事実誤認及び訴訟手続の法令違反の主張であり,弁護人大熊裕起の答弁は,原判決に事実誤認はなく,原審の訴訟手続に法令違反はない,というのである。
第1公訴事実及び論旨
1
本件各公訴事実の要旨は,

被告人が,平成30年8月16日,東京都江東

区亀戸所在のコンビニエンスストアにおいて,同店従業員に対し,商品購入代金の支払として,偽造の1万円札1枚を真正なもののように装って行使した(以下亀戸事件という。),被告人が,情を知らない女性(以下Aという。)をし

て,偽造の1万円札を行使させようと考え,いずれも同月21日,商品購入代金の支払として,①千葉県勝浦市内の釣り餌店において,同店経営者に対し,Aが偽造の1万円札1枚を真正なもののように装って行使し,②同県夷隅郡(以下省略)内の店舗(道の駅)において,同店従業員に対し,Aが偽造の1万円札2枚を真正なもののように装って行使し,③同県市原市内の雑貨店において,同店経営者に対し,
Aが偽造の1万円札1枚を真正なもののように装って行使した(以下千葉事件と総称する。)というものである。
2
論旨は,要するに,①亀戸事件及び千葉事件(併せて両事件ともいう。)
のいずれについても,偽造通貨行使罪の証明がされたとはいえないとして,被告人を無罪とした原判決には事実の誤認がある,②原審の訴訟手続には,偽造1万円札の入手時点における偽造の認識に関する釈明義務違反(審理不尽)の違法があるとして,これらが判決に影響を及ぼすことは明らかである,というのである。第2原判決の判断概要
原審の公判前整理手続において,原審弁護人は,

造1万円札をそれぞれ使用したが,被告人が偽造紙幣であることを認識して,これをAに使用させたことはない(千葉事件)と主張し,本件の争点は,被告人が,自分で又はAを介し,偽造の1万円札であると認識した上で,行使したかであると整理されたところ,原判決は,概要,以下のとおり説示して,両事件について,被告人を無罪とした。
1亀戸事件について

被告人は,亀戸事件の約13時間前に,江東区江東橋所在のコンビニエンスストアで,連れの男性とそれぞれ1万円札を使用し,店外で乗用車の後部座席に乗り込んだ際,2回にわたって同車のところに来た同店従業員が,偽札であると指摘したことを認識していたことや,亀戸事件で使用された1万円札の外観等の特徴などからすると,遅くとも亀戸事件の時までには,被告人が1万円札は偽造であると認識
していたことは明らかであるが,刑法上,偽造通貨行使罪(刑法148条2項)のほかに,偽造通貨収得後知情行使罪(同法152条)が規定されていることを踏まえると,被告人が,いつの時点から偽造1万円札であると認識していたかについても検討する必要があるところ,被告人が偽造1万円札を受け取った具体的な状況は解明されておらず,生活実態や交際範囲が明らかでない被告人に対し,偽造犯又は
その関係者が,何らかの支払等として,偽造1万円札を本物として受け取らせた可能性は否定できない。偽造1万円札の入手状況に関する被告人の供述は不合理で,虚偽の疑いがあるが,被告人と偽造1万円札を受け取らせた人物との関係によっては,被告人が,報復を恐れるなどして虚偽を述べる可能性も否定できず,供述の不合理性を根拠として受取時点からの認識を推認することはできない。以上によれば,
被告人が偽造1万円札を受け取った時点から,偽造紙幣かもしれないと認識していたとは認められず,被告人には偽造通貨収得後知情行使罪が成立する可能性はあるものの,偽造通貨行使罪の成立は認められない。
2千葉事件について
Aは,被告人運転の乗用車のフロントガラスの下のダッシュボード上に,20枚以上の1万円札がむき出しの状態で置いてあり,千葉事件の3店舗で商品を購入した際は,その都度,車内等で被告人の内妻から,ダッシュボード上の1万円札を渡され,釣銭は内妻に渡したこと,内妻にはお金はないはずなので,乗用車内の1万円札は被告人のものだと思ったことなどを証言するが,Aの証言は,偽造1万円札が置かれていた状況について,不可解な点や捜査段階の供述から変遷している点があること,道の駅や雑貨店で購入したという商品の種類や数量が客観証拠と矛盾す
ること,当時,Aは統合失調症を患い,公判廷でも,興奮すると意味不明なことをつぶやくなどの証言状況にあったことなどに照らすと,Aは,被告人が偽札の所有者であるとの思い込みに基づいて,事実と異なる証言をした疑いがあるから,Aの証言は信用できない。そして,偽造1万円札の所有・管理の状況や,Aが偽造1万円札を渡されるに至る経緯等については,Aの証言以外には証拠がないが,Aの証
言は信用できないから,これらの状況に関する被告人の具体的な関与行為を認定することはできない。したがって,各偽造1万円札は,被告人が亀戸事件の後に内妻に与えたものを,内妻が自分の所有物として上記乗用車に持ち込み,被告人の気付かない状況下で,Aに渡すことにより,内妻がAに使用させ,釣銭を取得した可能性が否定できない。その余の事情を検討しても,内妻が単独で,Aを介して偽造1
万円札を行使したと見る余地があり,被告人自身が,Aを介して偽造1万円札を行使したとは認められない。
3結論
亀戸事件については,偽造通貨収得後知情行使罪が成立する可能性があるものの,偽造通貨行使罪の訴因をはみ出す事実がないとはいい切れないから,縮小認定をし
た上で,管轄違いの判決を言い渡すのは相当ではない。また,検察官に対し,偽造通貨収得後知情行使罪の予備的な訴因及び罰条の変更請求を勧告することは,管轄のない不適法な訴因への変更請求を求めることになること,検察官が受取時点からの偽造の認識を推認することが可能である旨主張して,予備的訴因の設定の必要はないと判断していると解されること,同罪の法定刑が相当に軽く,簡易裁判所で科し得る罰金刑の額もわずかであること,千葉事件については無罪の心証を得ていることも考慮すると,弁論を再開して上記勧告をする必要性は乏しく,偽造通貨行使罪の成否のみを判断するのが相当であり,千葉事件だけでなく亀戸事件についても,同罪の証明がされたとはいえない。
第3訴訟手続の法令違反の主張について
1
所論は,刑法上,偽造通貨行使罪のほかに偽造通貨収得後知情行使罪が規定
されている結果として,偽造通貨を行使した時点における偽造の認識(以下行使時の知情性という。)が認められても,これを収得した時点における偽造の認識(以下収得時の知情性という。)が認められなければ,偽造通貨行使罪ではなく,法定刑に格段の差異があり,事物管轄も異なる偽造通貨収得後知情行使罪が成立するにとどまるから,この点が重要な争点となることがあり得るところ,原審の
公判前整理手続において,原審弁護人は,両事件について行使時の知情性を争ったが,収得時の知情性を欠くとして,偽造通貨収得後知情行使罪の存在を理由に,偽造通貨行使罪の成立を否定する主張を全くしておらず,結局,知情性については行使時のものだけが争点とされているが,このような経過に照らすと,原審の両当事者が,偽造通貨収得後知情行使罪との関係を意識せず,収得時の知情性に関する主
張・立証を不注意により看過しているおそれが否定できない状況にあったといえるのであり,そのような場合,行使時の知情性が立証されたとしても,改めて収得時の知情性について審理を尽くさなければならない事態に至るおそれがあるから,原裁判所としては,収得時の知情性を争点として顕在化させるため,両当事者に釈明を求めて,収得時の知情性に関する主張・立証の予定等を明らかにさせるなどの措
置を講じる義務(釈明義務)を負っていたというべきであり,また,原審の公判審理においても,両当事者は,収得時の知情性に関する主張・立証をしていないのであるから,原裁判所としては,公判審理の段階でも(弁論を終結していた場合は,弁論を再開した上で),上記の求釈明をした上,必要があれば期日間整理手続に移行するなどの措置を講じる義務を負っていたというべきであるのに,原裁判所は,それらの措置を講じることなく,亀戸事件については収得時の知情性が認められないなどとして,被告人を無罪としているから,原審の訴訟手続には釈明義務に違反した違法があり,原裁判所が上記の釈明義務を尽くしていれば,原審検察官が,補充捜査をすることを含め,被告人の収得時の知情性について立証を遂げることにより,原判決とは異なる判決がされた蓋然性が優に認められるから,上記の釈明義務違反(審理不尽)の違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである,と主張する。
2
そこで検討すると,原審記録によれば,所論に関係する原審の訴訟経過は,
おおむね以下のとおりである。
被告人は,亀戸事件で起訴され,その後,千葉事件で追起訴されたが,原審の公判前整理手続において,原審検察官が提出した両事件に関する各証明予定事実記載書には,ほぼ両事件当日の状況(亀戸事件で被告人が偽造1万円札を行使した状況や,千葉事件で被告人がAに偽造1万円札を行使させた状況)だけが記載され,被告人がこれらの偽造1万円札を収得した状況については,何ら記載されていない。その後の打合せ期日において,原裁判所は,原審検察官に対し,証拠構造型の証明予定事実記載書の提出を求め,これを受けて,原審検察官が提出した証明予定事実記載書には,知情性(行使に係る1万円紙幣が偽造であると被告人が認識していたこと)を基礎付ける事実が記載されているが,その内容は,両事件に係る各犯行時の事実として,偽造1万円札を行使した状況や各偽造1万円札の外観が記載されているほかは,本件各犯行前の事実として,

被告人やその関係者は,本件各犯行に先立ち,コンビニエンスストア店員に対し,たばこ1箱の購入代金の支払として,偽造1万円紙幣様のものを差し出した際,同店員らから,それが偽札だと言われて返された。

と記載されているだけで,被告人が偽造1万円札を収得した状況については,何らの主張もされていない(なお,上記の証明予定事実記載書で主張された事実は,収得時の知情性を推認させるものとはいえない。)。その後,原審弁護人は,予定主張記載書面において,上記第2の冒頭部分のとおり,行使時の知情性を争う予定主張を明らかにしたが,収得時の知情性については何ら触れておらず,その後の打合せ期日において,偽造通貨の具体的入手先について,被告人質問で明らかにする予定はない旨述べた(原審弁護人は,行使時の知情性が認められたとしても,収得時の知情性がないから,偽造通貨収得後知情行使罪が成立するにとどまるという予備的な主張はしていない。)。その上で,原裁判所は,本件の争点について,被告人が,自分で又はAを介し,偽造の1万円札であると認識した上で,これを行使したかであると整理した。なお,
原審の公判前整理手続において,原審検察官が請求した証拠の立証趣旨の中には,当該証拠によって収得時の知情性を立証することをうかがわせるようなものはない。原審公判における各冒頭陳述及び論告・弁論においても,原審検察官及び原審弁護人は,行使時の知情性を巡る主張・立証をしており,偽造通貨収得後知情行使罪との関係で問題となる収得時の知情性を意識した主張・立証はされていない。
なお,原判決は,検察官は,論告において,5枚の偽造1万円札は記番号が同一であるため同一犯が偽造し,被告人は,偽造犯又はその関係者から受け取ったと考えられるところ,偽札が事情を知らない人へと流通していくことは通常はないから,具体的な受取状況が不明であっても,受取時点からの偽造の認識が推認可能であると主張するものと解されるなどとして,原審検察官が,収得時の知情性を意
識した主張・立証をしていたかのような説示をしているが,原審記録中の論告メモに照らすと,所論が指摘するとおり,原審検察官の上記主張は,千葉事件で偽造1万円札を行使したのは,亀戸事件同様に被告人であるということの論拠として述べられたものであることが明らかであって,上記説示のような見方はできない。以上のような原審の公判前整理手続及び公判審理を経て,原判決は,遅くと
も亀戸事件の時までには,被告人が1万円札は偽造であると認識していたことは明らかであるが,被告人が偽造1万円札を受け取った具体的な状況は解明されておらず,被告人が偽造1万円札を受け取った時点から,偽造紙幣かもしれないと認識していたとは認められないとしている。
3
偽造通貨収得

後知情行使罪との関係で問題となる収得時の知情性について,原審の両当事者,特に,偽造通貨行使に係る本件各公訴事実の立証責任を負う原審検察官が意識していた形跡はなく,少なくとも原審検察官が,収得時の知情性に関する主張・立証の必要性を見落としている可能性が高いと考えられる状況にあったと認められる(なお,原審記録を検討しても,原裁判所が,偽造通貨収得後知情行使罪との関係で,収得時の知情性の有無も問題となることを意識した発言をした形跡はなく,上記2
ような争点整理の結果にも照らすと,公判前整理手続の段階において,原裁判所も,この点についても審理を尽くす必要性があることを見落としていた可能性が否定できない。)。
そして,自ら通貨を偽造し,これを行使したとして,通貨偽造・同行使の罪で起訴された場合は,上記のような点が問題となることはないが,偽造通貨行使罪だけ
で起訴された場合は,偽造通貨収得後知情行使罪との関係で,収得時の知情性の有無が重要な争点となり得るのであり,行使時の知情性を争いながら,収得時の知情性を争わないということは論理的には考え難いことに照らすと,本件のように偽造通貨行使罪だけで起訴され,行使時の知情性が争われた場合には,収得時の知情性の有無についても審理を尽くさなければ,偽造通貨行使罪の成否について適切な判
断ができないことは明らかであって,原審の公判前整理手続で示された原審検察官の主張・立証方針は,それ自体,偽造通貨行使罪の成立を主張・立証するものとして,明らかに欠けるところがある。この点は,偽造通貨行使罪のほかに偽造通貨収得後知情行使罪が規定されていることの帰結であって,証拠に触れなければ気付くことが困難であるという性質のものではないから,原審の公判前整理手続の中で,
原裁判所において,原審検察官が収得時の知情性に関する主張・立証の必要性を見落としている可能性が高いということを認識することができたと考えられる。もとより当事者追行主義の下において,裁判所が釈明義務を負うのは例外的な場合であるが,上記のとおり,本件においては,行使時の知情性だけではなく,収得時の知情性の有無についても審理を尽くさなければ,偽造通貨行使罪の成否について適切な判断ができないことは明らかであり,偽造通貨収得後知情行使罪との関係で問題となる収得時の知情性の有無は,審理の重要なポイントであるといえる(なお,原判決は,千葉事件については,被告人自身が,Aを介して偽造1万円札を行使したとは認められないことを無罪の理由としているが,原判決自体が,被告人が亀戸事件の後に,内妻に上記の偽造1万円札を与えた可能性を指摘しているのであって,被告人が上記の偽造1万円札を収得した状況に関する主張・立証の結果
は,被告人がAを介して,偽造1万円札を行使したといえるかという,行使の主体に関する千葉事件の争点に対する判断も左右し得るものと考えられる。)ところ,上記のような重要なポイントに関する主張・立証が欠落した審理は,国民の視点や感覚を裁判に適正に反映させるという裁判員裁判の基礎を欠き,改めて収得時の知情性の有無について審理をしなければならない事態を招くものである。このような
瑕疵の重大性に加え,偽造通貨行使罪と偽造通貨収得後知情行使罪では法定刑に格段の差異があること(前者は無期又は三年以上の懲役,後者は

その額面価格の三倍以下の罰金又は科料(ただし,二千円以下にすることはできない。)

)などにも照らすと,原審検察官が収得時の知情性に関する主張・立証の必要性を見落としている可能性が高いと考えられる状況にある以上,原裁判所としては,原審検
察官に釈明を求め,収得時の知情性に関する主張・立証の必要性に関する認識や,その予定等を確認するなどして,この点についても審理が尽くされるような措置を講じる義務があったというべきである。
さらに,

,原審の公判審理においても,原審検察官は専ら

行使時の知情性に関する主張・立証をしており,原審弁護人を含め,偽造通貨収得後知情行使罪との関係で問題となる収得時の知情性を意識した主張・立証はされていない(なお,控訴趣意中の事実誤認の主張において,検察官は,原審証拠により認められる事実について,適切な総合評価をすれば,収得時の知情性を推認できるとして,るる主張するが,その主張の当否はともかくとして,原審の公判審理では,そのような観点からの主張は一切されていない。)のであって,原審の両当事者,特に原審検察官が収得時の知情性に関する主張・立証の必要性を見落としていることが明らかな状況になったといえる(なお,原判決の説示に照らすと,原審裁判官は,遅くとも評議の段階では,本件において偽造通貨行使罪の成立が認められるためには,収得時の知情性も立証される必要があることを認識していたことが明らかである。)。そして,原裁判所が証拠に触れていない公判前整理手続の段階においても,審理の重要なポイントであること自体は明らかであった収得時の知情性の有
無に関する主張・立証が現に欠落し,国民の視点や感覚を裁判に適正に反映させるという裁判員裁判の基礎を欠く審理になっているという瑕疵の重大性等に照らすと,時機を逸しているとの感を免れないとはいえ,原裁判所(裁判官)としては,上記,原審検察官に釈明を求めるなどして,収得時の知情性の有無についても審理が尽くされるような措置を講じる義務があったというべきである(なお,原
判決は,亀戸事件について,被告人が偽造1万円札を受け取った具体的な状況は解明されておらず,被告人が偽造1万円札を受け取った時点から,偽造紙幣かもしれないと認識していたとは認められない旨説示しているが,被告人が偽造1万円札を入手した状況が解明されていないのは,そもそも,この点を意識した主張・立証がされていないからであり,この点を巡る主張・立証がされたが,原審検察官におい
て収得時の知情性を立証できなかった場合とは異なる。)。
もっとも,原審検察官に釈明を求めるなどして,収得時の知情性の有無についても審理が尽くされるような措置を講じた場合,期日間整理手続において,この点に関する主張及び証拠の整理をすることなどが必要となり,審理計画・日程の大きな変更を余儀なくされて,裁判員にも大きな負担となることは明らかであるから,そ
もそも,そのような事態に陥ることを厳に避けるべきであるが,本件のように重要なポイントに関する主張・立証が欠落した審理のままで判決をしても,偽造通貨行使罪の成否について適切な判断ができないことは明らかであるから,上記の判断は動かない。
以上のとおり,原裁判所としては,原審検察官に釈明を求め,収得時の知情性に関する主張・立証の必要性に関する認識や,その予定等を確認するなどして,この点についても審理が尽くされるような措置を講じる義務があったのに,原審の公判前整理手続及び公判審理を通じて,原裁判所はそのような措置を講じておらず,その結果,原判決は,亀戸事件について,被告人が偽造1万円札を受け取った具体的な状況は解明されておらず,被告人が偽造1万円札を受け取った時点から,偽造紙幣かもしれないと認識していたとは認められないなどとして,無罪を言い渡して
いるのであるから,原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反(釈明義務違反)があり,原判決は破棄を免れない。そうすると,改めて裁判員の参加する合議体によって,収得時の知情性の有無を含めて審理・評議を尽くすことが相当である。
第4破棄差戻し

以上のとおり,原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるから,その余の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。
よって,刑訴法397条1項,379条により原判決を破棄し,更に審理・評議を尽くさせるため,同法400条本文により,本件を原裁判所である東京地方裁判
所に差し戻すこととして,主文のとおり判決する。
令和3年1月15日
東京高等裁判所第3刑事部

裁判長裁判官

中里智美
裁判官

國井恒志
裁判官

下山洋

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